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人口減少と持続的な都市の形
空間・物質環境学概論 2013年5月1日 人口減少と持続的な都市の形 名古屋大学環境学研究科 林 良嗣 1.人口減少と高齢化 将来人口予測(日本,アメリカ,ヨーロッパ) Population (Million Persons) 800 Europe United States 600 Japan 400 200 100 0 1600 1700 1800 1900 2000 2100 Year 境界条件の変化(人口減少) 万人 億人 1.4 5000 1.2 1 4000 0.8 3000 0.6 日本(中位推計) (低位推計) (高位推計) 名古屋市 0.4 0.2 2000 1000 年 2100 2080 2060 2040 2020 2000 1980 1960 1940 1920 1900 0 0 境界条件の変化(少子高齢化) 80歳 40歳 1999年 2041年 ・高齢化 ・少子化 人口構成の変化 オーストラリア(2003) タイ(1995) 70- 70- 60-69 50-59 40-49 60-69 30-39 20-29 10-19 30-39 0-9 0-9 50-59 40-49 20-29 10-19 0 2000 4000 0 6000 1000 2000 3000 4000 (‘000 persons) (‘000 persons) 日本(1960) 日本(2000) 7060-69 50-59 40-49 30-39 20-29 10-19 0-9 7060-69 50-59 40-49 30-39 20-29 10-19 0-9 0 10000 20000 30000 (‘000 persons) 0 10000 20000 30000 (‘000 persons) 2.経済成熟と財政持続性 境界条件の変化(経済の成熟化) ? 100 1 9 5 5 年 を 1 と し た 場 合 の 数 値 80 1.65倍 (1%成長) 60 40 GDP (名目) 56倍 (9%成長) GDP (実質) 20 0 1950 1970 1990 2010 年 2030 2050 政府投資の将来変化 就業者1人当たり政府投資額 兆円 政府投資額 万円 60 60 50 50 // 40 40 30 30 建設 20 20 補修 10 0 1980 1990 2000 維持更新 2010 2020 10 2030 // 2050 自然環境 持続可能な 国土 (a)環境持続性 人工環境 (b)経済・財政 持続性 市街地 農地、里 山、・・・ (現状) •郊外スプロール(一般にはハザード地区)の放置 •中心市街地の衰退 (方針) → (a)、(b)両方から見て •郊外(ハザード)地区からの「計画的撤退」 •中心市街地の「街区内再構築」 のツイン政策により、「人口が半減なら、市街地 も半減」を打ち出すべき 1.人口減少下における市街地拡大が自治体財政に与える 影響 •市街地維持コストの増大 •公共投資能力の減退 2.人口減少・経済成熟下での持続可能な発展にとって 「撤退」策は必然 •「撤退」が必要な理由 •国土の人工環境の持続化フレームワーク 3.撤退・再集積場所特定のための計量モデル •撤退に関するモデル -Social Hazard Map •再集結に関するモデル -Social Value Map 4.撤退のための政策手段 •国土計画・土地利用計画との関係 •経済インセンティブによる推進 3. 人口減少下における市街地拡大が 自治体財政に与える影響 1.1 マクロ・スプロールのコスト 地方中小都市: モータリゼーションを原動力に 都市域拡大が進行 ・農地転用を伴う 郊外立地 ・中心市街地衰退 都市魅力低下 A市(人口約10万人の地方都市)のDIDの推移 DID:人口集中地区(Densely Inhabited District) 1970 320ha 1985 380ha 1990 740ha 0 1980 950ha 3km (出典:国勢調査) 都市域拡大が自治体財政に与える 影響の定量分析 1)市町村レベル・普通会計を対象 2)都市域拡大・人口減少・少子高齢化・モータリゼーション・ 地方交付税の要因分析 3)都市域面積は宅地面積で表す 4)地方交付税は年2%ずつ逓減すると仮定 5)財政への影響に関しては、直線回帰モデルを適用 6)対象都市外からの経済的影響は考慮しない 都市域拡大・人口動態が自治体財政に与える影響 モータリゼー ションの進行 都市域拡大 現 象 自 治 体 財 政 自 動 車 数 増 加 軽 自 動 車 税 宅 地 増 加 固 定 資 産 税 都 市 計 画 税 歳入項目 イ ン フ ラ 維 持 費 増 大 土 木 費 ご み 処 理 区 域 拡 大 農 地 転 用 衛 生 費 農 林 水 産 業 費 歳出項目 少子高齢化 消 防 活 動 区 域 拡 大 消 防 費 市 町 村 民 税 税 収 減 少 料 金 徴 収 減 少 使 用 料 ・手 数 料 分 担 金 ・負 担 金 歳入項目 社 会 保 障 関 係 費 増 大 交 付 税 の 見 直 し 民 生 費 地 方 交 付 税 歳出項目 実際の都市における推計 対象都市:A市(人口約10万人の地方都市) •周囲を小さい町村に囲まれ、人口の流出入が少ない 外部とは経済的に孤立した都市 •地方交付税への依存度が比較的高く、 総人口に占める老年人口の割合は全国平均に比べ高い 12000 10000 12 DID面積 DID内人口密度 10 8000 8 6000 6 4000 4 2000 2 0 DID面積(km2) DID内人口密度(人/km2) A市における人口密度と面積の推移 0 西暦(年度) (出典:国勢調査) 経常収支(歳入-歳出)推計結果 2000年度の値 40 20 決算の値 交付税逓減カーブ 交付税逓減 億円 0 -20 -40 -60 -80 -100 -120 高齢化 ②面同人小 ④面同人同 人口減少 ①面大人小(BAU) ③面大人同 都市域拡大 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 年 交付税逓減・高齢化とともに、 都市域拡大が財政悪化の大きな要因 推計結果のまとめ • 都市域拡大は自治体歳出に対して、 交付税逓減や高齢化に匹敵する影 響を与える • 都市域拡大は、特に土木費・衛生 費の増大をもたらす • 人口減少は財政に目立った影響を 与えない 1.2 ミクロ・スプロールのコスト 市街地境界の明確な都市郊外 (ロンドン郊外:レッチワース) N レッチワースの街並み 市街地境界の不明確な大都市郊外 (名古屋郊外) 4. 撤退と再集結の背景 ー 将来世代の時間の使い方と クオリティ・オブ・ライフの要因変化 - QOLに着目する必要性 活動時間 年齢 1840年(イギリス型) 凡 例 0才 40才 余 暇 学 業 日本の生活時間変化を 英国の生活時間変化に内挿 労 働 学 習 1965年(日本型) リタイア(非労働) 160 年 30 年 1995年(日本型) 2000年(イギリス型) 0才 時間(年次) 80才 都市のインフラと建物への要請 • 20世紀 – 大量の拡大していく市街地を支えるシステム – 借金して無理して造っても、必ずQOL(経済機会)向 上に有用であり、また返済できた • 21世紀 – 縮小してスリムで美しく、優しく潤いのある都市を演 出するシステム – 財政制約:1人当りの市街地コスト – 撤退/放棄・集中/整備の節度ある選択による、 QOL(生活文化機会、快適性、安心安全性)の向上 【外的条件=持続可能性】 【目 標】 QOL(真の豊かさ) 経済(Economy) A.ビジネス B. 生 活 雇用機会 サービス機会 産業(中間 教育・文化 需要)集積 機会 人口(最終 健康・医療 需要)集積 機会 <国内> <国際> 少子化 アジアの成長 高齢化 経済のグローバル化 情報化 情報化 環境(Ecology) C.快適性 D. 安 心 安全性 住居 E . 環 産業起源 危険度 負荷低減 施設・建物 民生起源 災害危険度 自然度 境 持続性 自然災害 地区の景観 地域の ・ 負荷低減 物質汚染 買物・サービス 機会 娯楽・旅行 機会 地域の アイデンティティ 移動の快適性 危険度 交通起源 負荷低減 交通事故 危険度 ヒートアイランド 現象緩和 ・ 確実性 資源充足度 時間的ゆとり 治安維持度 6. 土地利用の2次元的プラニング ー 将来世代の時間の使い方と クオリティ・オブ・ライフに合わせて - Social Hazard: 水害による年間被害額分布の評価 水深分布 浸水深(m) 評価手法: 0.00 - 0.05 0.05 - 0.10 発生確率降雨毎の 氾濫解析=水深分布 ↓ 被害額分布(確率毎) ↓ 期待被害額分布 0.10 - 0.20 0.20 - 0.30 0.30 - 0.40 0.40 - 0.50 0.50 - 0.75 0.75 - 1.00 1.00 - 3.00 3.00 - 6.80 10年確率内水氾濫 100年確率内水氾濫 評価: 集結シナリオ毎の分布で評価 被害額分布 150年 矢作破堤 被害額 (百万円 ) 0-1 1-5 2500 5 - 10 2000 10 - 50 50 - 100 1500 100 - 150 1000 150 - 200 500 200 - 250 250 - 300 300 - 450 0 1.1年 5年 10年 30年 100年 150年 10年確率内水氾濫 100年確率内水氾濫 150年矢作川破堤 スプロール郊外からの計画的撤退 現状土地利用 家 家 家 Social-Value・ Hazard Level 家 Social-Value・Hazard 再集結 再集結 撤退 家 家 家 家 「Social-Hazard」 撤退・再集結ー地域の選定 Social Hazard 社会的費用 撤退地域分布 撤退 Social Value 生活質 撤退 撤退人口 再集結地域分布 撤退 再集結 再集結 撤退 7. 三次元土地利用のデザイン ー 将来世代の時間の使い方と クオリティ・オブ・ライフに合わせて - 放任的建築群(名古屋栄付近の街区) 組織的建築群(パリ・マドレーヌ寺院付近の街区) 成熟時代には、長期的に持続可能で、 価値の高い空間を形成する必要がある パリ 長期にわたり定型を保った街並み 名古屋 建替え数が多く、バラバラな街並み 将来世代のQOLに耐えうる都市国土景観か?… パリのアパートの窓から ロンドン (都心近傍住宅地) キングスロード ロンドンのテラスハウス(地上景観) 8.土地利用改革 ー戦略と政策メニュー 郊外撤退・駅周辺再集結のための日本モデル B A 駅 A 地 区 : 駅徒歩圏内部 • 都市計画ガイドライン • ガイドライン準拠開発(建物) →土地保有税減免 →集合住宅建設インセンティブ • 住民税減税 →住宅立地需要増 B 地 区: 駅徒歩圏外部 • 社会的コストの高い地区より撤退 • 環境保全地区への逆線引き →環境保全地主への開発利益還元 逆郊外化のメカニズム 街区計画+税優遇 既成市街地街区の Q.O.L.向上 ( vs. 郊外) 逆郊外化 交通量削減 (veh.km) 車利用のモビリティの抑制 アクセシビリティを向上 緑地 /LRT/…etcのための敷地 既成市街地街区の魅力向上 ポ ジ テ ィ ブ ・フ ィ ー ド バ ッ ク 撤退と再集結のためのツイン戦略 • 逆郊外化(De-suburbanisation) – 土地利用のソーシャルバリューとソーシャルコストの空間分 布把握 – マクロスプロールとミクロスプロールからの撤退 – ナチュラルハザードとソーシャルハザードからの撤退 • 市街地街区の再生(Gentrification of street block) – 居住環境保証街区形成のためのグリーン税制 • 街区計画の認証制度 • 26年間固定資産税半額 • 認証街区への居住者は、住民税半額 • 究極は、住民税の地区行政投資額の世帯割への移行 9.土地利用改革の試算 ー名古屋の実践ー 名古屋市での撤退・再集結シミュレーション:現況人口分布 総人口 : 2,152,213 結節駅徒歩圏人口: 285,767 都心部人口 : 73,000 都心集中:都心部人口が現在の3倍 ・総人口: 変わらず ・都心部夜間人口: 73,000人→215,000人 都心集中立地によるNOX排出量の減少 集中立地:2016年~2020年 BAU:2016年~2020年 NOX r o Ê (t)_ g h F 2036_2040 NOX r o Ê (t)_ W § n F 2016_2020 0.07 0.05 0.03 0.01 0 0.07 0.05 0.03 0.01 0 0 - 5.08 0.07 0.05 0.03 0.01 4.5 9 0 6.17 0.07 0.05 0.03 0.01 4.5 ·ÛÒ°À° ·ÛÒ°À° 129,943 [t・5年] - 80,060 [t・5年] 38.4%削減 9 都心集中立地によるNOX排出量の減少 集中立地:2016年~2020年 BAU:2016年~2020年 NOX r o Ê (t)_ g h F 2036_2040 NOX r o Ê (t)_ W § n F 2016_2020 0.07 0.05 0.03 0.01 0 0.07 0.05 0.03 0.01 0 0 - 5.08 0.07 0.05 0.03 0.01 4.5 9 0 6.17 0.07 0.05 0.03 0.01 4.5 ·ÛÒ°À° ·ÛÒ°À° 129,943 [t・5年] - 80,060 [t・5年] 38.4%削減 9 住宅費補助率と駅徒歩圏人口増加率の関係 120% 駅徒歩圏の人口増加率 100% 80% 60% 40% 20% 0% 0% 10% 20% 30% 1戸あたり住宅補助率 40% 全鉄道駅徒歩圏への集中のための 住宅費補助とインフラ軽減額 駅徒歩圏 への移住 者への住 宅費補助 率 駅徒歩圏: 非駅勢圏の 人口比 (現況 6.2:3.8) 必要な住宅補 助金の総額 上段:年間 下段:20年合 計 インフラ整備の 軽減額 上段:年間 下段:20年合計 10% 99.2億円 6.7 : 3.3 1,984億円 155億円 3,167億円 20% 592.1億円 7.6 : 2.4 11,842億 円 466億円 9,322億円 固定資産税 必要増収額 上段:年間 下段:20年合計 ()内は税率 (インフラ整備費 の節約分でカ バー可能) 125億円 2,519億円 (現行1.4%1.5%) 都心街路空間の活用 (交通系+ユーティリティ系) 名古屋型交通/ユーティリティ街路と民地土地利用 人口減少時代のまちづくりの方法(まとめ) 1)戦略と制度 ・ 「選択と集中」を実現する郊外‐駅徒歩圏ツイン戦略 ・ 土地・交通連携市場の整備 ・ 街区を基本とした中心市街地再構築 2)都市のかたちづくりの評価 ・ 生活質(市街地景観、交通と緑、生活文化機会等)の長期的評価 ・ 社会的費用(災害リスク等)の公開 3)市場原理の導入 ・ 生活質・社会的費用に基づく地区格付けと市場資金調達 ・ 「選択と集中」によって得られる社会的メリットの還元