...

シリカガラスブロックの熱処理による構造変化 - 分子科学講座

by user

on
Category: Documents
6

views

Report

Comments

Transcript

シリカガラスブロックの熱処理による構造変化 - 分子科学講座
シリカガラスブロックの熱処理による構造変化
福井大学工学研究科博士前期過程
物理工学専攻
03780161
分子科学講座
藤井
謙次
目次
第1章
序章
1
1.1
シリカガラス
1
1.2
シリカガラスの特性
4
1.3
シリカガラスの種類と名称
6
1.4
各種シリカガラスの製法と性質
8
1.4.1
溶融石英ガラス
8
1.4.2
合成シリカガラス
9
1.5
シリカガラスの性質
12
1.5.1
仮想温度
12
1.5.2
OH 基 な ど の 末 端 構 造
19
1.5.3
光吸収帯
20
1.5.3.1
紫外線吸収
22
1.5.3.2
赤外吸収
23
1.5.4
屈折率分布
24
1.5.5
歪量分布
25
1.6
本研究の背景及び目的
第2章
熱処理による構造変化に対する従来の研究
26
28
2.1
酸水素火炎による球状成型に伴う構造変化
28
2.2
シ リ カ ガ ラ ス ブ ロ ッ ク の 熱 処 理 に 伴 う OH 含 有 量 変 化
31
2.3
シリカガラスの熱処理による構造変化
33
第3章
3.1
実験方法
試料
36
36
3.1.1
熱処理試験
37
3.1.2
未成型インゴットの評価
38
3.1.3
成型試験
39
実験方法
3.2
40
3.2.1
仮想温度
40
3.2.2
OH 含 有 量
44
第4章
熱処理試験
46
4.1
OH 含 有 量
46
4.2
仮想温度
48
4.3
屈折率分布
50
4.4
歪量分布
52
4.5
熱処理に伴う歪量分布及び屈折率分布との相互関係
53
4.5.1
熱処理に伴う歪量分布との相互関係
53
4.5.2
熱処理に伴う屈折率分布との相互関係
56
第5章
成型試験
59
5.1
OH 含 有 量 分 布
59
5.2
仮想温度
63
第6章
まとめ及び今後の課題
66
参考文献
68
発表文献
69
謝辞
70
第1章
1.1
序
章
シリカガラス
シリカガラスはほとんど純粋な非晶質SiO 2 (二酸化ケイ素)である。石英
ガラスともいわれる。石英ガラスという名称は、水晶などの石英の結晶を粉
末にして溶融することにより作成されていたため名づけられたものである。
シリカとはSiO 2 からなる物質の総称である。地殻の約 60 パーセントがシ
リカである 1) (表 1.1.1)。このことは、シリカが岩石の主要な構成成分である
ことを示している。このようにシリカは地上でもっともありふれた物質の一
つである。岩石中のシリカは通常、結晶の形で存在する。表 1.1.2
2)
に主な
シリカ結晶の例を示す。このほかにもシリカには多くの結晶種類が存在する。
20 数種類以上が天然に存在するか実験で合成されている。計算機シミュレ
ーションにより存在が予想されたものを含めると四十数種類以上になる。水
晶に代表される石英と、ガラス表面が結晶化したとき生じるクリストバライ
トが身近なシリカ結晶である。
天然のシリカガラスとして、黒曜石がある。これは、石器として刃物代わ
りに使われていた。黒色になる原因が不純物によるものなのか、欠陥構造に
よるものであるかは不明である。黒色に輝いているので、黒曜石とよばれる。
シリカガラスは石英などの結晶とは異なり周期構造がない。このように周
期構造の無い物質を非晶質という。シリカガラスの特徴は、金属不純物が極
めて少ないということである。窓ガラスなどは金属成分を多く含む。金属成
分の含有により、融点が低下し、ガラス加工がしやすくなる。
1
表 1.1.1
地殻の主成分
1)
成分
組成 (%)
SiO 2
55.2
TiO 2
1.6
Al 2 O 3
15.3
Fe 2 O 3
2.8
FeO
5.8
MnO
0.18
MgO
5.2
CaO
8.8
Na 2 O
2.9
K2O
1.9
P2O5
0.3
2
表 1.1.2
シリカの種類
2)
シリカ相
多像
晶系
密度(g/cm 3 )
石英
低温型
中間型
高温型
三方晶
不整合構造
六方晶
2.65
クリストバライト
低温型
高温型
正方晶
立方晶
2.33
室温出現型
MC 型
PO 型(PO-10)
PO 型(PO-5)
PO 型(PO-2)
MX 型
単斜晶
三斜晶
斜方晶
斜方晶
2.33
高温
PO-1
OP
OS(OS`)
OC
HP
斜方晶
斜方晶
不整合構造
斜方晶
六方晶
2.27
トリディマイト
コーサイト
高圧型
単斜晶
2.92
ステイショバイト
高圧型
正方晶
4.30
キータイト
高水蒸気圧下
正方晶
2.50
シリカW
気体状SiO 2 冷却凝集
斜方晶
1.96∼1.98
シリカガラス
―
―
2.21
高圧下ガラス
―
―
―
3
1.2
シリカガラスの特性
シリカガラスは、窓ガラスなどの多成分ガラスとは違い金属成分をほとん
ど含まない。そのため、多成分ガラスとは違う特有の性質を示す。シリカガ
ラスの特徴の一つは広い波長範囲に亘って光透過特性に優れていることで
ある。シリカガラスは、数キロメートルから数十キロメートルの長さになっ
ても透明である。このことを利用して通信用光ファイバー母材として用いら
れる。シリカガラスは 300 nm未満の紫外線をよく通す唯一のガラスである。
そのため、遠紫外リソグラフィー用レンズ材料として用いられる。シリカガ
ラスは原子が共有結合でつながった巨大な網目構造から出来ており、シリカ
ガラスの一つの塊がいわば分子なのである。そのため、1,000℃以上の温度
でも構造が壊れにくく変形しにくい。さらに、線膨張係数が 5×10 -7 K -1 程
度と低い(表 1.2.1)。そのために高温で変形しにくいだけではなく、急な温度
変化に対しても強い。このように、シリカガラスは耐熱性に優れている。こ
れらの性質を利用して高温で不純物汚染を極度に嫌う半導体製造プロセス
用の炉芯間やボードなどの材料として用いられている。
このようにシリカガラスは極めて優れた性質を持っている。しかしながら、
シリカガラスの種類・製造方法によって多少性質に違いが見られる。シリカ
ガラスの性質の違いとしては、
(1)
金属不純物量の違い(0.1 ppm 以下∼数十 ppm 程度)
(2)
水(OH 基)の有無
(3)
光学的均一性の違い
(4)
光吸収帯の原因となる欠陥構造の有無
などがあげられる。
4
表 1.2.1
様々な材料の線膨張係数
熱膨張係数
(10 -7 K -1 )
石英ガラス
窓板ガラス
鉄
アルミニウム
銅
5.5
100
135
230
167
1)
石 英 ガ ラ ス を 25m の棒が 50℃の温
1 とした値
度変化で伸びる量
(mm)
0.68
1
12.5
18
17.9
25
28.8
45
20.9
30
5
1.3
シリカガラスの種類と名称
シリカガラスはその製造方法によって「溶融石英ガラス」と「合成シリカ
ガラス」に大別できる(図 1.3.1)。溶融石英ガラスは天然の石英粉を高温
で溶融したものである。
合成シリカガラスは液体原料を用いて化学的に合成したものである。溶融
石英ガラスは合成シリカガラスに比べて不純物が多い。一方、溶融石英ガラ
スは製造時の粒子の痕跡が残っており、泡や異物などが比較的多い。そのた
め、光学的性質は合成シリカガラスに比べて劣っている。そこで、光学材料
としてはほぼ合成シリカガラスが用いられている。
シリカガラス関連の名称は、様々なものがある。非晶質シリカという名称
は、総称名である。主にシリコン上に形成されたSiO 2 薄膜を指す。シリカガ
ラスに対応する名称は、 vitreous silica またはsilica glass である。後者はシ
リカ系ガラスの名称と紛らわしい。各種シリカガラスの名称の違い
1.3.2 に示す。
溶融
電気溶融 ( I 型)
火炎溶融 ( II 型)
直接法 ( III 型)
気相
合成
MCVD法
OVD法
VAD法
PCVD法
スート再溶融法
プラズマ法 ( IV 型)
ゾル・ゲル法
液相
LPD 法
図 1.3.1
シリカガラスの分類
6
3)
3)
を表
表 1.3.2
英語名
日本語名
Amorphous Silica
非晶質シリカ
シリカガラスの名称
3)
すべての非晶質シリカに対する総称名。非晶
アモルファスシリカ 質シリカ薄膜をさす場合が多い。
Vitreous Silica
Silica Glass
シリカガラス
すべての種類のシリカガラスに対する総称
(ガラス状シリカ)
名。
シリカガラス
すべての種類のシリカガラスに対する総称名
であるが,シリカ系ガラスの名称と紛らわし
い。
Fused Silica
(溶融シリカ)
本来は溶融法で作られるすべてのシリカガラ
スを示す。合成シリカガラスのことをさす場
合が多い。不透明なシリカガラスをさす場合
もある。
Synthetic Fused Silica 合成シリカガラス
合成シリカガラス
Fused Quartz
石英粉を溶融して作ったシリカガラス。
溶融石英ガラス
溶融石英
Quartz Glass
石英ガラス
Fused Quartz と同義。
Quartz
石英
シリカの結晶形の一つ。俗にシリカガラスの
ことを言う場合もある。
7
1.4
各種シリカガラスの製法と性質
1.4.1 溶融石英ガラス
溶融石英ガラスは電気溶融法、プラズマ溶融法、酸水素火炎溶融法などに
分けられる。酸水素火炎溶融石英ガラスは水素と酸素の反応を利用して水晶
を溶かすので多くの水(OH 基)を含む。電気溶融法やプラズマ溶融法の溶融
石英ガラスは内部にほとんど水を含まない。溶融石英ガラス全体の特徴とし
ては、石英粉を溶かすので粉粒の痕跡が残っており、金属不純物も比較的多
い。長所として、熱に強い、製造コストが安いことなどが上げられる。光学
的性質としては、紫外線の透過率が合成シリカガラスに比べてやや悪いとい
う欠点がある。この原因として、内部に含まれる金属不純物の影響による光
吸収があげられる。また固有の欠陥構造により、240∼245 nm 付近 (≈5 eV)
に光吸収帯を持っている。
電気溶融法、プラズマ溶融法はI型、酸水素火炎溶融法はⅡ型と
Hetherington
4)
によって名付けられた。
溶融石英ガラスの用途としては、半導体製造に用いる加熱処理用の容器や
半導体へのウェハを乗せる台(ボード)などの治工具類等にあげられる。また
電気溶融法やプラズマ溶融法により作られた溶融石英ガラスは、OH 基をほ
とんど含まない。石英粉を電気溶融後、直接ガラス管を菅引きする方法によ
り、低コストの材料が大量生産されている。この方法は、半導体製造用材料
のみならず、ハロゲンランプや水銀ランプなどの管球材料として用いられる。
8
1.4.2
合成シリカガラス
合成シリカガラスとして直接法合成シリカガラス、スート法合成シリカガ
ラス、プラズマ法合成シリカガラス、ゾルゲル法合成シリカガラスなどがあ
げられる。
(1) 直接法
直接法合成シリカガラスは四塩化ケイ素(SiCl 4 )などのケイ素化合物を水素
と酸素を反応させた火炎の中で加水分解し、直接堆積ガラス化することによ
り合成するものである。500∼1000 ppmのOH基が残る。この量は、火炎溶
融石英ガラスのOH含有量よりも 1 桁多い。このOH基は 2700, 2200, 1440 nm
付近の赤外域と 180 nm未満の紫外域で光吸収の原因となる。
OH 量が多いために高温で溶融石英ガラスに比べて変形しやすくなる。そ
のため、耐熱性は溶融石英ガラスに比べて劣る。一方、OH 量が多いため、
強い紫外線や X 線、γ線などの放射線に対しても耐久性に優れている。その
ため、紫外線レーザーエキシマレーザー用のレンズやプリズムなどの光学材
料として使われている。
この方法で作られたシリカガラスはⅢ型と呼ばれる。
(2) スート法
スート法は、合成シリカガラスの中の OH 基を除去するために開発された
方法である。光ファイバーの伝送効率はレーリー散乱や、骨格振動による吸
収との兼ね合いから 1.55 μm が最も高い。OH 基が存在すると SiOH の振動
の倍音の吸収が 1.4 μm にあるため、伝送効率が著しく低下する。スート法
では、比較的低温で四塩化ケイ素を酸水素火炎中で加水分解してシリカの多
孔質体を合成したのち、塩素などの雰囲気中で加熱することにより OH 除去
する。さらに、比較的高温(1,500∼1,600℃程度)で焼結ガラス化する。この
方法は少なくとも、二つのプロセスからなるため物性を制御しやすい。その
9
ため、耐熱性の良い材料として OH も Cl も含まないスート法合成シリカガ
ラスも作られている。このような石英ガラスは耐熱性に優れており、電気溶
融石英ガラスに近い耐熱性を示すものである。液晶表示装置に用いられる薄
膜トランジスタ(TFT)の基板として使われている。
(3) プラズマ法
プラズマ法合成シリカガラスは、OH を含まない合成シリカガラスの製法
としてスート法より古くから用いられてきた方法である。プラズマ法はアル
ゴンや酸素などの高周波誘導プラズマを用いて製造する。プラズマ法で合成
したシリカガラスは、酸素過多や酸素欠乏のシリカガラスを容易に製造でき
る。また、酸素や塩素が残存しやすい。そのため、放射線や紫外線を照射す
ると欠陥構造が生じ、光吸収帯が生じやすい。
この方法で作られたシリカガラスはⅣ型と呼ばれている。
(4) ゾルゲル法
ゾルーゲル法合成シリカガラスは、液体中でゲル体を作り乾燥させて高温
で焼き固めてガラスにする製法である。実際には乾燥に時間がかかる、焼結
時に割れるなどのため、塊状のガラスとしての商品化はされていない。ただ
し、ガラスや金属表面のコーティングの様な薄膜形成の方法として用いられ
ている。
表 1.4.1 1) に各種シリカガラスの製造法、性質及び用途をまとめた。
10
表 1.4.1
分類
種類
原料
製造法
不純物
溶融
電気溶融
水晶
合成
火炎溶融
直接法
プラズ
マ法
スート法
ゾルゲ
ル法
水晶
四塩化ケ
イ素
四塩化
ケイ素
四塩化ケ
イ素
アルキ
シルケ
ート
アークプラズマ電 酸水素火
気炉
炎溶融
酸水素火
炎溶融・加
水分解に
よる直接
堆積ガラ
ス化
高周波
プラズ
マ
スート合
成(電気
炉)
ゾルー
ゲル化
→乾燥
(電気
炉)
OH[ppm]
∼10
100∼
300
500∼
1500
<5
<1∼200
<2
金属
[ppm]
10∼
100
<100
<1
<1
<0.1
<1
あり
あり
なし
あり
低 OH で
のみあり
なし
小
やや大
大
なし
なし∼や
や大
なし
光ファ
イバー
光ファイ
バー
光学材料
(真空紫外
∼近赤外)
TFT 基盤
フォトマ
スク
シリカ
ガラス
繊維
光 学 的 性 紫外線吸
質
収帯
赤外線吸
収帯
用途
各種シリカガラスの比較表 1)
半導体製造用(炉
芯管、治具)
ランプ材
半導体製
造用(炉
芯管、治
具、洗浄
槽)
シリカガ
ラス繊維
フォトマ
スク
光学材料
11
1.5 シリカガラスの性質
シリカガラスを光学材料として使用する場合に、屈折率の均質性などが問
題になる。熱処理によって歪みが入る場合もある。これらの要因として「仮
想温度」と呼ばれる量の変化、OH 基の変化、光欠陥構造の生成および変化
があげられる。
1.5.1
仮想温度
一般に十分高い温度T F で安定状態にあるシリカガラスを急冷却すると、こ
の シ リ カ ガ ラ ス の 構 造 が 凍 結 さ れ る 。 こ の 温 度 T F を 仮 想 温 度 (fictive
temperature)という。すなわち、温度T F に十分長時間保持した後、急冷した
ガラスの仮想温度はT F である。仮想温度は概念的な量であり厳密な意味での
物理量とはいえない。しかしながらガラスに関する多くの性質をT F によって
整理することができる。このように、仮想温度はガラスを理解する上で便利
な概念である。
Brückner 5) は 、 シ リ カ ガ ラ ス の 密 度 の 仮 想 温 度 依 存 性 を 測 定 し た 。 図
1.5.1.1 5) にその結果を示す。横軸は仮想温度を、縦軸は密度を表している。
当時の製造法は限られていたため、溶融石英ガラス及び直接法合成シリカガ
ラスのみのデータしか示されていない。
12
図 1.5.1.1
各種シリカガラスに対する密度の仮想温度依存性 5
13
)
仮想温度はラマンスペクトルから求めることができることが知られている。
シリカガラスのラマン散乱スペクトルを図 5.1.1.3
28)
に示す。Galeenerは図
5.1.1.3 8) に示す 495 cm -1 に見られるD 1 バンド、600 cm -1 付近のD 2 バンドと呼
ばれるピークの面積強度を仮想温度に対しアレニウスプロット(温度の逆数
に対して強度の対数をプロット)すると直線となることを示した。それぞれ
図 5.1.1.2 7) に示すような平面 8 員環構造および平面 6 員環構造に対応してい
る。図 5.1.1.4 7) に示す関係から仮想温度を求めることができる。但し、絶対
強度を求められないためキャリブレーションを行う必要がある。さらに、面
積強度を求める際の精度はよくない。そのため、今回はこの方法を用いなか
った。
⇔ D2
●
○
Si
O
⇔ D1
図 5.1.1.2
平面 6 員環構造・平面 8 員環構造
14
7)
図 5.1.1.3
ラマン散乱スペクトル
15
8)
図 5.1.1.4
D 1 ,D 2 の強度の仮想温度に対するアレニウスプロット 7)
16
シリカガラスの仮想温度は赤外吸収スペクトルの 2200cm -1 付近のピーク
位置 (図 5.1.1.4 (b)) から求められることが知られている。図 5.1.1.5 (b)
6)
示
す 2260cm -1 にある吸収ピークがそれである。このピークは、1120 cm -1 付近
に存在するSi-Oの伸縮振動によるピークの倍音である。1120cm -1 付近のピー
クは、吸収が大きすぎるため、吸収スペクトルの測定には困難である。但し、
図 5.1.1.5 (a)
6)
に示すように反射スペクトルによりピークが観測される。こ
のピーク位置からも仮想温度を求めることができる。それぞれ、ピーク波数
と仮想温度の間にはそれぞれ図 5.1.1.6 9) に示すような関係が成り立つ。式で
表す 6) とそれぞれ
43809.21cm −1 [K ]
ν = 2228.64 cm +
Tf
−1
(5.1.1.1)
および
ν = 1114.51cm −1 +
11603.51cm −1 [K ]
Tf
となる。
17
(5.1.1.2)
図 5.1.1.5 シリカガラスの赤外反射及び吸収スペクトル
図 5.1.1.6
赤外反射及び吸収ピーク位置の仮想温度依存性
18
9)
8)
1.5.2
OH 基などの末端構造
シリカガラス中には Si-OH, Si-H, Si-Cl, Si-F などの末端構造が存在する 2) 。
末端構造は製造方法、その後の使用環境によって濃度や存在形態が大きく変
化する。
シリカガラスの構造は、近距離構造、中距離構造、長距離構造に分けられ
る。近距離構造として正四面体構造からのずれがみられる Si-OH, Si-Cl, Si-H,
などの末端構造などが存在する。中距離構造としては、Si-O-Si 構造を基本と
した多員環構造 (6 員環構造、8 員環構造 ) があげられる。長距離構造は SiO 4 正
四面体が長距離にわたってどのようにつながっているかという構造をあら
わす。
シリカガラスでは、 OH による基本吸収が 2.7 μ m 付近にある。 OH の存
在形態によって吸収波長がわずかに変化するが、シリカガラス中では、
(1) 孤立した Si-OH
(2) 隣接して水素結合した OH
(3) 表面に吸着した H 2 O
等が存在する。
OH 濃度の低いシリカガラスでは孤立した Si-OH が 3776 cm − 1 付近に鋭い吸
収ピークを持つ。OH 濃度が高く、隣接 Si-OH 同士が水素結合しているような
場合に吸収ピークはやや長波長側に移動する。また、吸収スペクトルもブロ
ードになる。そのため、短波長側で高調波による吸収が現れる。なお、表面
には H 2 O が吸着するが、これは 1620 cm − 1 に吸収が現れる。
19
1.5.3
光吸収帯
シリカガラスの材質固有の光吸収には、電子遷移による紫外吸収(波長∼
0.1 μ m )と格子振動による赤外吸収(波長∼ 10 μ m )が存在する。図 1.5.3.1
に示すように、これらの吸収帯の間に透明領域がある。真空紫外側からはア
ーバックの裾( Urbach tail )、赤外側からは多音子吸収による光吸収領域に
挟まれている 3) 。
アーバックの裾は、エキシトン ( 励起子 ) とフォノンとの相互作用により広
がったバンドによる吸収で、基本吸収の低エネルギー側で生じ、10 1 ∼ 10 4 cm
−1
の波数領域に対応する。エキシトンとは、半導体または絶縁体中で励起状
態の電子や正孔の対が、クーロン力によって束縛状態になったものである。
このように、励起子は分極の素励起である。
シリカガラスの透明領域は 0.2 ∼ 3.5 μ m の領域にわたり、最も吸収が少な
い波長帯は近赤外領域 1.55 μ m にある。これは、レーリー散乱による影響
が少なく、ガラス骨格振動による影響が最も少ない波長のためである。紫外
領域にはガラス構造欠陥や溶存分子の吸収があり、赤外領域では OH による
吸収が現れる。なお、 OH による吸収は 1.5.2 で述べた通りである。
このように、シリカガラスには様々な紫外線領域の光吸収帯が存在するが、
異なる構造による光吸収帯がほぼ同じ位置もしくは近い位置に存在するこ
とが多い。そのため、吸収帯を一義的に区別することは出来ない。そのため、
欠陥構造と似た部分構造を持つ気体分子の吸収スペクトルとの比較や、様々
な雰囲気中での熱処理に伴う吸収帯と SiOH や SiH などの濃度変化と比較す
ることで光吸収の原因となる構造を推定している。
表 1.5.3.1
10)
に現在知られている光吸収帯の例を示す。電子スピン共鳴
(ESR) のデータと対応付けられている吸収帯として E ′ センター(≡ Si ・)があ
る。固有の欠陥による吸収としては, OH 基の無水シリカガラスや溶融石英
ガラス中に存在する B 2 α帯、 B 2 β帯がある。 B 2 α帯は酸素空孔 ≡Si ・・・ Si≡ に
よるものであり、 7.6 eV (163 nm) の吸収帯の原因となる ≡Si-Si とともに存在
20
する。欠陥構造の他に、溶存オゾンや溶存酸素分子による吸収も知られてい
る。
図 1.5.3.1 シリカガラスの光吸収の波長依存性
21
10 )
表 1.5.3.1 欠陥構造および溶存分子による光吸収の例 10)
欠陥種
構造
吸収ピーク
半値幅
エネルギー[ eV ] eV
( 波長 [nm])
5.8 (215)
0.8,
E’ センター
≡ S ・ (Si ≡ )
0.62
5.4
(230)
0.62
E’ β センター
≡ Si ・ ≡ SiH
6.0—6.3
0.8
E’ センター表面 ≡ Si
(207—197)
0.35
ODC(II)
≡ Si ・・・ Si ≡
5.02 ( 247 )
7.6 (163)
0.5
ODC(I)
≡ Si-Si ≡
6.7 (185)
≡ Si-Si-Si ≡
?
4.8 (258)
1.05
NBOHC
≡ Si-O ・
2.0 (620)
0.18
〃
〃
4.8 (258)
0.8
POR
≡ Si-O-O ・
4.8 (257)
1.0
溶存オゾン分子 O 3
Cl 2
3.8 (326)
0.7
溶存塩素分子
1.5.3.1
紫外吸収
紫外領域ではガラスでは、化学結合によって形成された分子軌道の集合が
エネルギーバンドとなる。
シリカガラスを構成する SiO 2 では陰イオンの O 2p が価電子帯を形成し、陽
イオンの Si sp3 が伝導電子帯を形成する。 SiO 2 のバンドギャップ ( 電子が励起
するために必要最低限のエネルギー ) は 9 eV 以上である。吸収波長領域は 9
eV 以上の高いエネルギー領域(波長 0.1 μ m 以下)にあり、吸収ピークが 10.2,
11.7, 14.3, 17.2 eV に現れる。電子遷移による吸収は非常に大きく 10 5 ∼ 10 6
cm -1 になる。
吸収端付近では,励起子とフォノンの相互作用にできるアーバックの裾が
みられる。光透過するエネルギー領域でも欠陥構造,末端構造,溶存分子な
どによる光吸収が生じる場合もある。
22
1.5.3.2
赤外吸収
赤外吸収は分子を構成する原子が平衡位置からずれたときに生成される双
極子によって生じる 2) (赤外活性)。紫外吸収が質量の軽い電子の運動によ
って生じるため共鳴が高い周波数領域(∼ 10 16 Hz )で起こるのに比べて、
極めて質量の大きい原子が変位振動するため共鳴周波数は低くなり(∼ 10 13
Hz )、基本吸収波長域は 10 μ m かそれ以上の波長帯にある。シリカガラス
は SiO 4 の四面体によって構成されているため、 Si と O との相対的変位によっ
て双極子モーメントが生じる振動形態がある。それらの振動形態としては、
ストレッチ、変角、はさみ振動がある。これらの振動による基本吸収は 9.1,
12.5, 21 μ m に現れ、それぞれ非対称伸縮振動、対象伸縮振動、変角振動に
対応する。吸収は 9.1 μ m で最も大きく、吸収係数は 10 4 cm − 1 となる。
23
1.5.4
屈折率分布
屈折率 (refractive index) は、光学材料として最も基本的な性質である。シ
リカガラスブロックでは、熱処理時に冷却過程で温度分布が生じるため、仮
想温度の分布が生じる。図 1.5.4.1
11)
にシリカガラスの屈折率の波長依存性
を示す。屈折率変動の要因として、仮想温度、 Si-OH 濃度、 SiCl 濃度などが
あげられる。
図 1.5.4.1
シリカガラスの屈折率の波長依存性
24
11)
1.5.5
歪量分布
シリカガラスは生成時及び熱処理時の温度分布によって歪が生じる。光は
進行方向と垂直な方向に電場と磁場が振動している。進行方向から見たとき
の電場の振動の仕方により、直線偏光、円偏光、楕円偏光に分けられる(図
1.5.5.1 2 ) )。光学的な異方性のある物体では、一般に直線偏光を入射すると
円偏光となって通り抜けていく。この現象を複屈折という。歪が生じると結
合の分布が等方的ではなくなるため、光学的異方性が生じる。
歪量の観察や測定方法には、直交ニコル法、セナルモン法、円偏光法、鋭
敏式色板法などがある。
このような複屈折の原因となる応力には、脈理付近や機械加工、熱処理に
よって生じるものがある。
電場の回転方向
電場の回転方向
r
E
直線偏光
r
E
r
E
円偏光
図 1.5.5.1
偏光の種類
25
楕円偏光
2)
1.6
本研究の背景及び目的
シリカガラスは、その製造工程および使用時に高温に曝されることが多い。
溶融石英ガラスは, 1800 ∼ 2000 ℃程度の温度で平均粒径が 100 μ m 程度
の石英粉を溶融することにより製造する。
直性法合成シリカガラスの場合、合成時の温度は 1600 ∼ 1800 ℃程度にな
る。スート法シリカガラスは,スート合成時の温度は 1100 ∼ 1200 ℃程度で
あるが、 1500 ∼ 1600 ℃で集結ガラス化を行う。
シリカガラスに歪みが生じると破損しやすくなる。そのため、ほとんどの
シリカガラス製品に対して歪み取りのための熱処理がほどこされる。歪みは
複屈折の原因ともなるのでフォトマスク、分光光度計のセル材料などに対し
ては光学特性としても歪みのない材料が要求される。除歪のための熱処理は
1150 ℃程度で行われる。
シリカガラスは高純度で耐熱性が高く、真空紫外から近赤外領域までの光
に対して透明である。半導体プロセス用炉心管、リソグラフィー用フォトマ
スク材、各種材料やガラスファイバの母材、ランプ管球材料などの製造時に
は電気炉や火炎などにより成型加工される。または使用時に高温に曝される
ことが多い。半導体プロセス用炉心管やランプ管球は,使用時に長期間に亘
って高温に曝される。
シリカガラスブロックやシリカガラス管は熱処理により表面付近から構
造が変化し、屈折率分布が変化する。その様子は、熱処理時間、熱処理温度、
シリカガラスの種類によって異なる。シリカガラスを光学材料として使用す
る場合には、屈折率の均質性などが要求される。熱処理によって均質性や歪
みが変化する場合もある。これらの変化は、熱処理条件、雰囲気のみならず
材質、形状、表面仕上げ状態の影響をうける。そこで本研究では熱処理によ
ってシリカガラスの構造および均質性がどのように変化するかを調べた。熱
処理に伴う屈折率分布変化及び成型に伴う構造変化のメカニズムを解析す
るために、つぎの2点をおこなった。
26
(1) OH 含有量の異なる 2 種類のシリカガラスブロックを歪み取りのため
の熱処理温度 1150 ℃で長時間熱処理したときの構造解析
(2) 合成シリカガラスを高温で成型した、成型前後のブロックの構造解析
27
第 2 章 熱処理による構造変化に対する従来の研究
シリカガラスは、製造工程及び使用状況時に高温に曝されることの多い材
料である。シリカガラスブロックやシリカガラス管を熱処理すると表面付近
から OH 含有量分布、仮想温度分布、歪量分布変化、屈折率分布変化が起き
る。この変化の様子は、シリカガラスの種類、熱処理条件により異なる。
この変化のメカニズムを解析するためにいくつかの研究が報告されている。
それらの研究を報告する。
酸水素火炎による球状成型に伴う構造変化
2.1
図 2.1.1 に示す様に、OH 含有量分布変化はシリカガラス管を酸水素火炎に
よって球状に成型したときにもみられる。図 2.1.1 右側に示すリソグラフィ
ー光源として使われるショートアーク水銀ランプである。この管球は、図
2.1.1 左側に示す様に酸水素火炎によって球状に成型している。この成型に
よって、シリカガラス管の内部で構造が変化する。
Measured
A
Hydrogen-Oxygen
Fl
Measured
A
φ
8
0
図 2.1.1 酸水素火炎による球状成型に伴う構造変化
28
図 2.1.2 12) は、OH 含有量の異なるシリカガラスを成型したときの管断面の
OH 含有量分布の変化を示したものである。図 2.1.2 で白抜きの三角は熱処理
前を、黒丸が熱処理後を示している。
この図から OH 含有量の違いにより、表面付近で OH 含有量が増大する場合
と減少する場合があることが分かる。図 2.1.3 12) 右図に各サンプルの仮想温
度分布の変化を示す。それぞれ、白抜きは熱処理前を示す。無水の溶融石英
ガラス管 (Sample Ⅰ ) のみ熱処理前後で大きな変化が認められる。これは、
OH 濃度が低いほど緩和時間が長くなるため、より高い温度で構造緩和が事
実上起こらなくなり構造が固定されるためである。このため、同じ温度から
冷却しても OH 基濃度の低い材質ほど仮想温度が高くなる。これを熱処理す
ると仮想温度は低下した。これは冷却過程で緩和したためと考えられる。こ
のため、図 2.1.3 に三角印で示す無水の溶融石英ガラス管でのみ熱処理前後
で仮想温度に明らかな差が現れた。
400
S a m p le I
B lo w n
A s - r e c e iv e d
300
200
OH Content (ppm)
100
0
400
S a m p le I I
300
200
100
0
1400
1300
1200
1100
S a m p le I I I
1000
1 .0
0 .8
0 .6
0 .4
0 .2
0
D is t a n c e f r o m o u t s id e s u r f a c e , x / d T
図 2.1.2
ガス加工によるシリカガラス管断面のOH濃度変化 12)
29
1800
Fictive Temperature (K)
1600
1400
1200
1000
800
As-recieved Blown
Sample I
Sample II
Sample III
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
Distance from outside surface, x / dT
図 2.1.3
ガス加工によるシリカガラス管断面の仮想温度変化 12)
30
2.2
シリカガラスブロックの熱処理に伴うOH含有量分布変化
シリカガラスブロックを熱処理すると表面付近から構造の変化が起こる。
この変化の様子は、 OH 含有量、熱処理時間、熱処理温度、ブロック体の形
状により異なる。
図 2.2.2 は、以前 Kuzuu
13)
らが熱処理に伴うシリカガラスブロック表面付
近の構造変化について報告したものである。図 2.2.1 に示すような、OH 基を
1400 ppm 程度含む直径 15 cm 、厚さ 7 cm のシリカガラスブロックを 1160 ℃
で 150 h 熱処理を行った。その結果、図 2.2.2 に示すように動径方向、軸方向
ともに表面付近で OH 基濃度が低下している。これは表面に近いほど OH 基同
士が
≡ Si − OH − OH − Si ≡
→
≡ Si − O − Si ≡ + H 2 O
(2.2.1)
のように縮合して、水がとれるためと考えられる。ブロック内部でも同様に
この反応は起こるが、生じた水がさらに別の Si-O-Si 結合と反応するため、
OH 量は低下しない。ここで、表面付近での OH 含有量の変化は動径方向で
特に顕著である。
z
1160 ゚C, 150 h
7 cm
r
15 cm
図 2.2.1
熱処理試験用サンプル
13)
31
OH content (ppm)
Before
1500
After
1400
動径方向 r
OH content (ppm)
1300
0
6
4
2
Distance from Surface (cm)
8
Before
1500
After
1400
軸方向z
1300
0
2
1
Distance from Surface (cm)
図 2.2.2
熱処理に伴うOH分布変化
32
13)
3
シリカガラスの熱処理による構造変化
2.3
熱処理時間を確定するにあたり、我々のグループが以前測定を行った結果
を参考にしている。図 2.3.2 、 2.3.4 は以前徳永ら
ES,
14)
が測定した結果である。
ED-H はそれぞれ、東ソー(株)の商品名である。サンプル名は、 ppm
単位で表した OH 量を添え字につけて S 1200 、 S 50 と呼ぶ事にする。表 2.3.1 に
それぞれの OH 含有量及び製造方法について示す。
図から OH 含有量の多い材質ほど短時間の熱処理で仮想温度が熱処理温度
に達する時間が短いことが分かる。仮想温度が熱処理温度に一致する時間よ
りも十分長い時間熱処理すれば、系の構造は安定するものと考えられる。曽
の測定によると、 1150 ℃以上で HR の吸収スペクトルの変化がみられる。こ
のことから、構造変化が顕著になる熱処理温度を 1150 ℃以上とした。さら
に、図 2.3.1 15) から 5 時間の熱処理でほぼ仮想温度が熱処理温度に一致した。
この 20 倍程度の 100 時間を熱処理時間とした。
サンプル名
S 1200
S 50
表 2.3.1 OH 含有量及び製造方法
製造方法
OH 含有量
1200 ppm
直接法合成シリカガラス
スート法合成シリカガラス
33
50 ppm
商品名
ES
ED-H
1600
仮想温度TF ( K )
ES 1150℃
1500
1400
1300
1200
0
1
図 2.3.1
2
3
熱処理時間 t ( h )
4
5
ESの仮想温度の熱処理依存性
15)
1500
仮想温度 TF (K)
ES 900℃
1400
1300
1200
1100
1000
0
1
図 2.3.2
2
3
4
熱処理時間 t ( h )
ESの仮想温度の熱処理依存性
34
5
14)
仮想温度 TF (K)
1600
ED-H 1150℃
1500
1400
1300
1200
0
1
3
2
熱処理時間 t ( h )
5
4
布
図 2.3.3
ED-Hの仮想温度の熱処理依存性
15)
1500
ED-H 900℃
仮想温度 TF (K)
1400
1300
1200
1100
1000
0
1
2
3
4
熱処理時間 t ( h )
図 2.3.4 ED-Hの仮想温度の熱処理依存性
35
5
14)
第3章
実験方法
この章では、実験に用いた試料および実験方法について述べる。
3.1
試料
表に示すように、試料として OH, Cl 含有量の異なる 2 種類のシリカガラス
ブロック ( 東ソー製 ES (S 1200 ) , ED-H(S 50 ) ) を用いた。それぞれのサンプルの
不純物濃度を表 3.1.1 に示す。 ES (S 1200 ) , ED-H(S 50 ) 共に合成シリカガラス
である。測定サンプルの切り出し方法および製造の違いにより、サンプルイ
ンゴットを熱処理試験用、未成型、成型と区別する。
表 3.1.1
各種シリカガラスの不純物含有量 (ppm)
サンプル
S1200 (直接法)
S50 (スート法)
OH
1200
<80
Cl
40
<1
Al
<0.1
<0.01
Na
<0.05
<0.01
K
<0.05
<0.01
Ca
<0.05
<0.01
Fe
<0.05
<0.01
Cu
<0.05
<0.01
36
3.1.1
熱処理試験
図 3.1.1 (A) のような直径 100 mm 、厚さ 30 mm の状態に切り出した、 OH
量をそれぞれ 1200ppm, 50 ppm 程度含む種類の異なるブロック体を、電気マ
ッフル炉( ADVANTEC 社 KM-1300 )にて 1150 ℃で 100 時間熱処理を行い
炉冷した。
測定には、熱処理前及び熱処理後のシリカガラスブロック体の中心付近か
ら、図 3.1.1 (B) のように厚さ 1 mm , 30 mm 程度に切り出したものを使用し
た。
図中に表記する光研材とは、厚さ方向に互いに向かい合った平面を透明に
光学研磨した材料のことを示している。
20
上下ロータリー
100
10
厚さ10
30
側面円筒研削
図A
30x10x0.7t
光研材
13枚
30x20x10t
光研材
この部分を図Bと
同様に切り出す
30
UV測定用
図B
図3.1.1
熱処理試験用サンプル
37
外周残す
3.1.2
未成型インゴットの評価
次節に示す成型試験の評価を行うために、成型前と同じ条件で製造したイ
ンゴット ( シリカガラスの製造された塊 ) の評価を行った。
図 3.1.3 に示すような、OH を 50 ppm 程度含むシリカガラスインゴット ( 直
径約 16 cm ,長さ約 1.5 m) の種棒部、中間部、頭部を円柱状に切り出したも
のをそれぞれ、図 3.1.3 右図に示す様に厚さ 6mm 程度に切断し OH 含有量測
定に使用した。
・種棒側板材:Sample A
種棒側
・中間部板材:Sample B
・頭部側板材:Sample C
に切り出し
頭部側
図3.1.3
未成型インゴット
38
それぞれを
30×30×6(mm)
に切断
3.1.3
成型試験
図 3.1.3 に示すような、 OH 基を 50 ppm 程度含むシリカガラスインゴット
(直径約 16 cm )を切り出し、 N 2 中、 130 kPa, 1800 ℃で 3 時間熱処理するこ
とにより、直径 357 mm 、厚さ 183 mm の形状に成型した。成型後、大気中
1200 ℃で 24 時間除歪のためにアニールしたのち円柱状に切り出した。
図 3.1.4 のようにサンプルの上部 5 mm を切り捨て次の 15 mm の部分を中
心付近から厚さ 4.5 mm 、幅 30 mm 程度で上下に切り出したものを測定用サ
ンプルとして使用した。今後、上側のサンプルを Outer Part 、下側のサンプ
ルを Inner Part と呼ぶ。
357mm
5mm
15mm
163mm
上部5mmを切り捨
て、次の15mmを上
下に2枚切り出し
図3.1.4
成型後
39
中心付近から厚さ4.5mm、
幅30mm程度で上下に切
り出し
実験方法
3.2
3.2.1
仮想温度
シリカガラスの仮想温度は赤外吸収スペクトルの 2200cm -1 付近のピーク
位置 ( 図 3.2.1.1) から
43809.21cm −1 [K ]
ν = 2228.64 cm +
Tf
−1
(3.2.1)
を用いて求められることが知られている。
仮想温度はピーク位置に対して敏感なので、図 3.2.1.2 に示す様に 2240 ∼
2280cm -1 付近のピークを中心として 30 ∼ 50cm -1 程度の幅の範囲を 2 次曲線
でフィッティングし、ピーク位置を求めた。
Absorbance
2
S1200
1
0
2500
3000
3500
Wavenumber(cm-1)
図 3.2.1.1
FT-IR 吸収スペクトル
40
4000
Absorbance
0.416
S 1200
0.415
0.414
0.413
0.412
2270
図 3.2.1.2
2268 2266 2264
Wavenumber (cm-1)
2262
2200cm -1 付近ピークの 2 次曲線フィッティング例
41
シリカガラスの仮想温度は IR 反射スペクトルの 1122cm -1 付近のピーク位置
( 図 3.2.1.3 ) から
ν = 1114.51cm −1 +
11603.51cm −1 [K ]
Tf
(3.2.2)
を用いて求められることが知られている。
仮想温度はピーク位置に対して敏感なので、図 3.2.1.4 に示す様に 2240 ∼
2280cm -1 付近のピークを中心として 30 ∼ 50cm -1 程度の幅の範囲を 2 次曲線
でフィッティングし、ピーク位置を求めた。
Reflectance
80
S50
60
40
20
0
2000 1800 1600 1400 1200 1000
Wave Number (cm-1)
図 3.2.1.3
IR 反射スペクトル
42
Reflectance
66
S50
65
64
63
図 3.2.1.4
1120
1130
Wave Number (cm-1)
反射ピークに対する 2 次曲線フィッティング例
赤外吸収及び反射スペクトルの測定には、顕微 FT-IR 分光光度計 ( 日本分
光製フーリエ変換赤外分光光度計 FT-IR-600Plus に赤外顕微鏡 IRT − 30 型が
附属 ) を使用した。
43
3.2.2
OH 含有量
OH 含有量は、吸収スペクトルから求めることができる。3200 ∼ 4000cm -1 付
近の赤外吸収スペクトルを測定し、図 3.2.2.1 に示すような 3600 cm -1 付近の
ピーク強度から式に従って OH 含有量を求めた。
OH 濃度 C OH は、
C OH [ppm] =
1
apeak ×1000
t [cm]
(1.5.2.1)
から求められる。ただし a peak は図のピーク位置、t はサンプルの厚みである。
測定には顕微 FT-IR 分光光度計(日本分光製フーリエ変換赤外分光光度計
FT-IR-600Plus に赤外顕微鏡 IRT − 30 型が附属)を用いた。一般に FT-IR での
吸収帯強度の絶対値は、あまり信頼性が無いと言われているので、通常の分
光光度計(島津 UV3001PC 紫外可視近赤外分光光度計)を使用して測定した
値を比較し、両者が一致することを確認した(図 3.2.2.2 )。
Absorbance
0.2 S 50
a peak
0.1
Inner Part
Outer Part
0
3000
3200
図 3.2.2.1
3400 3600 3800
Wavelength(nm)
FT-IR 吸収スペクトル
44
4000
OH Contents (ppm)
50
FT-IR
UV3001
40
30
20
10
0
4209HUP OH Contents
50
100
150
Distance From Center (mm)
図 3.2.2.2
OH 含有量測定結果比較
45
4章
熱処理試験
この章では、シリカガラスブロックを 1150 ℃で,100 時間の熱処理に伴う
構造の変化及び熱処理と屈折率分布についての相互関係について、 OH 含有
量、仮想温度、屈折率分布、歪量分布、熱処理に伴う屈折率分布との相互関
係の順に述べる。
4.1
OH 含有量
図 4.1.1 、 4.1.2 に熱処理前後の OH 含有量分布を示す。 S 1200 , S 50 共に熱
処理前後で OH 濃度分布の変化は見られなかった。OH 基を多く含む直接法合
成シリカガラスでは、ブロック、ガラス管ともに熱処理により OH 基が減少
し、逆に OH 含有量の低いスート法合成シリカガラスでは OH 基がわずかに増
加する現象が起こることが知られている。しかしながら、本測定では OH 含
有量変化を確認できなかった。また、図 4.1.3 に示すように顕微 FT-IR 分光光
度計と島津 UV3001PC 紫外可視近赤外分光光度計により求めた OH 含有量は、
両者ともに一致した。
OH Contents (ppm)
1400
S1200
1200
1000
800
600
0
Before
After
10
20
30
40
Distance From Center(mm)
図 4.1.1 S 1200 のOH含有量分
46
50
OH Contents (ppm)
60
50
S50
40
30
20
10
0
0
Before
After
10
20
30
40
Distance From Center (mm)
図 4.1.2
S 50 のOH含有量分布
47
50
4.2
仮想温度
本来、十分熱処理時間を行うと仮想温度 T F は熱処理温度に近づくはずであ
る。以前行った結果に基づき、仮想温度が熱処理温度に十分近づく時間( 24
時間)よりも十分長い 100 h の熱処理を行った。
各サンプルの仮想温度分布変化を、図 4.2.1 、 4.2.2 に示す。図の黒の破線
は熱処理温度である 1423 K を示している。
S 1200 では、熱処理後に全体的に熱処理温度に近づいているが、熱処理後で
は表面付近で仮想温度が若干低くなった。これは、マッフル炉で 100 時間熱
処理後、急冷を行うことが出来なかったため、一端 1150 ℃の構造になった
が、OH 含有量を 1200 ppm 含むために緩和時間が短く、冷却過程で緩和され
たため熱処理温度よりも低い仮想温度になったものと考えられる。
また、熱処理後外周で若干仮想温度が下がっているようにも見える。これ
は,外周付近で緩和時間が短いことが関係している。
S 50 では、 S 1200 の場合と逆に全体的に仮想温度が下がった。これはもとも
と OH 基濃度の低い材質ほど仮想温度が高いことによる。なぜなら、OH 濃度
が低いほど緩和時間が短くなるため、より高い温度で構造が固定されるから
である。これを熱処理すると仮想温度は熱処理温度よりも低下したが、これ
は S 1200 と同様冷却過程での構造が緩和したためである。但し、S 1200 より熱処
理後の仮想温度が高くなっている。これは、 S 50 の OH 量が少ないために構造
の緩和時間が長くなるためである。
熱処理後の仮想温度はわずかに外周部の方が中心部よりも低くなってい
るように見えるが、これは冷却時に外周部の温度が中心部より低くなるよう
な分布したことによる可能性が考えられる。
48
1500
S1200
TF (K)
1400
1300
1200
1100
1000
0
Before
1423K
After
10
20
30
40
50
Distance From Center (mm)
図 4.2.1
TF (K)
1500
S 1200 の仮想温度分布
S50
1400
1300
1200
0
Before
1423K
After
10
20
30
40
50
Distance From Center (mm)
図 4.2.2
S 50 の仮想温度分布
49
4.3
屈折率分布
図 4.3.1 に S 1200 の屈折率分布、図 4.3.2 に S 50 の屈折率分布を示す。測定は、
東ソー・エスジーエム株式会社に依頼した。
S 1200 、 S 50 ともに熱処理前後で屈折率が変化していることが確認出来る。
屈折率分布は、仮想温度分布、 OH や Cl 量分布変化が要因として考えられて
いるため、表面付近で OH 含有量、仮想温度変化において変化が認められる
はずであるが、仮想温度については若干表面付近で熱処理前後での差が認め
られるが OH 含有量変化では差が認められない。これは、表面付近での厳密
な測定が測定器の都合上できなかったことが要因であると考えられる。
10
∆n/10-6
8
6
4
S1200
Before (x-direction)
Before (y-direction)
After (x-direction)
After (y-direction)
2
0
0
1
2
3
4
5
Distance From Center (cm)
図 4.3.1
S 1200 の屈折率分布
50
10
S50
∆n/10-6
8
6
Before (x-direction)
Before (y-direction)
After (x-direction)
After (y-direction)
4
2
0
0
1
2
3
4
Distance From Center (cm)
図 4.3.2
S 50 の屈折率分布
51
4.4
歪量分布
図 4.4.1 は熱処理による歪量分布変化を示したものである。
測定は、東ソーエス・ジー・エム株式会社に依頼した。
OH 含有量の多い S 1200 の方でのみ熱処理前後での歪量の変化が確認できる。
このことから OH 基の多いものほど歪量が多い点、仮想温度が変化する事が
歪量の変化に影響を与えるのではないかと考える。
10
Retardation
S1200 Before
S1200 After
S50 Before
S50 After
Retardation (nm/cm)
8
6
4
2
0
0
10
20
30
40
Distance From Center (mm)
図 4.4.1
歪量分布
52
50
4.5
熱処理に伴う歪量分布及び屈折率分布との相互関係
4.5.1 熱処理に伴う歪量分布との相互関係
図 4.5.1.1 ∼ 4.5.1.4 に熱処理前後での OH 含有量に対する歪量、仮想温度 T f
に対する歪量について示す。
OH を多く含む S 1200 の場合 ( 図 4.5.1.1, 4.5.1.3 )、熱処理によって OH 含有
量は均質化し、仮想温度及び歪量は増大した。 OH 含有量が少ない S 50 の場合
( 図 4.5.1.2, 4.5.1.4) 、熱処理前後で OH 含有量は変化しなかった。歪量は外周
付近で増大、仮想温度は減少した。図 4.5.1.1 及び図 4.5.1.2 に示す OH 含有
量変化は、両サンプルともに誤差の範囲内で一定である。
歪量は、熱処理前後の表面付近に変化がみられる。従って、 OH 含有量に
ついて表面付近で数μ m 単位での測定を複数サンプルに対して行うことで
歪量との関連を得られるものと考えられる。本研究では、表面付近での仮想
温度及び OH 含有量を測定する機器である、顕微 FT-IR の導入前に測定した
ため具体的な関連性を示すデータは得られなかった。
Retardation (nm/cm)
S1200
20
10
0
0
Before S1200
After S1200
500
1000
OH Contents (ppm)
図 4.5.1.1
1500
S 1200 のOH含有量と歪量変化との関係
53
Retardation (nm/cm)
50
S50
Before S50
After S50
40
30
20
10
0
0
20
図 4.5.1.2
Retardation (nm/cm)
30
40
60
80
OH Contents (ppm)
100
S 50 のOH含有量と歪量変化との関係
S1200
Before S1200
After S1200
20
10
0
1000
1200 1400 1600 1800
Fictive Temperature (K)
図 4.5.1.3
S 1200 の仮想温度と歪量変化の関係
54
2000
Retardation (nm/cm)
50
S50
Before S50
After S50
40
30
20
10
0
1000
1200 1400 1600 1800
Fictive Temperature (K)
図 4.5.1.4
S 50 の仮想温度と歪量変化の関係
55
2000
4.5.2
熱処理に伴う屈折率分布との相互関係
図 4.5.2.1 ∼ 4.5.2.4 に、熱処理前後での仮想温度及び OH 含有量と屈折率
の関係について示す。
図 4.5.2.1 ∼図 4.5.2. 4から、熱処理後で OH 含有量の多い S 1200 では屈折率
が増大し、OH 含有量の少ない S 50 では屈折率が減少した。OH 含有量の違いに
より、熱処理前後で仮想温度が増加する場合と減少する場合がある。仮想温
度は、 Si-O の伸縮運動と相互関係がある。図 4.5.2.1 では、熱処理後では傾
きがある。従って、屈折率と仮想温度には、ある程度の相関関係が存在する
ことを示している。従来の研究では、 OH 含有量は熱処理の前後で変化して
いたが、本実験では熱処理前後での OH 含有量の変化は得られなかった。仮
想温度変化のみに対する屈折率分布変化のデータを得られたことから、本実
験のような OH 含有量が変化しないサンプルについての熱処理前後での仮想
温度変化と屈折率分布の変化についてのデータを得ることで、仮想温度のみ
に因る屈折率分布との相互関係の式が得られるのではないかと予想される。
熱処理前後の OH 含有量と屈折率を比べると(図 4.5.2.3 ∼ 4.5.2.4 ) OH 含有
量の多い S 1200 では、熱処理前後で OH 含有量がほぼ一定である。しかし、S 50 で
は OH 分布が均一ではないため、ほぼ 2 次曲線状の変化がみられる。従って、
異なる OH 含有量のシリカガラスについて熱処理前後の OH 含有量と屈折率
の相関関係のデータを得ることで、相関関係の式を得られるのではないかと
予想される。
56
5
4
After
∆n/10-5
3
2
1
Before
0
1000
5
1100
1200 1300 1400 1500
Fictive Temperature (K)
S50
4
∆n/10-5
Before (x' direction)
Before (y' direction)
After (x' direction)
After (y' direction)
S1200
Before
3
1600
Before (x' direction)
Before (y' direction)
After (x' direction)
After (y' direction)
2
After
1
0
1200
図 4.5.2.2
1400
1600
1800
Fictive Temperature (K)
2000
S 50 の熱処理前後の仮想温度と屈折率の関係
57
5
Before (x' direction)
Before (y' direction)
After (x' direction)
After (y' direction)
S1200
∆n/10
-5
4
3
2
1
0
1200
図 4.5.2.3
5
1400
1600
1800
OH Contents (ppm)
S 1200 の熱処理前後のOH含有量と屈折率の関係
Before (x' direction)
Before (y' direction)
After (x' direction)
After (y' direction)
S50
4
∆n/10-5
2000
3
2
1
0
0
20
図 4.5.2.4
40
60
80
OH Contents (ppm)
100
S 50 の熱処理前後のOH含有量と屈折率の関係
58
第 5 章 成型試験
この章では、成型に伴う構造の変化及び屈折率分布との相互関係について
述べる。この試験は、メーカー(東ソーエス・ジー・エム株式会社)で成型
したものを測定したものである。成型前の材質は、 4 章で示した S 50 である。
結果及び考察はそれぞれの OH 含有量、仮想温度の順に記載する。
5.1
OH 含有量
図 5.1.1 に成型前のサンプル A ( 棒種側 ), B ( 中間部 ), C ( 頭部側 ) の中心付
近からの OH 含有量変化について、図 5.1.2 に成型後の上側 (Outer Part) 下
側 (Inner Part )の中心付近からの OH 含有量変化について、図 5.1.3 にそれぞ
れの比較の図を示す。
成型前では、サンプル中心付近では初期段階に形成される A(棒種側)が
若干低くみえるが、誤差の範囲内であると考える。表面付近ではいずれのサ
ンプルも急な OH 含有量の減少が確認出来た。
また、成型後でも、上側・下側の両サンプルともに、中心付近から外周に
かけて減少し、外周付近で成型前同様 OH 含有量の急な減少が確認出来た。
上側サンプルのほうが、下側サンプルよりも OH 量が低い値が出ているが、
これは、成型を不活性ガス雰囲気中で行っていることから、表面に近いほど
微量ではあるが、OH 基が空気中に拡散していくのではないかと考えられる。
≡ Si − OH − OH − Si ≡
→
≡ Si − O − Si ≡ + H 2 O
(5.1.1)
成型後では中心から 12 ∼ 150 mm の範囲で OH 分布が平坦になった。
成
型時に上下端が固定され、図 5.1.4 に示すように提灯のように膨らんでいく。
59
このように直径が広がる変形に伴い、中心部が最も広がるため、 OH 含有量
変化が一旦平坦になる。
OH Contents (ppm)
50
S50
40
30
20
10
0
0
SampleA
SampleB
SampleC
20
40
60
Distance From Center (mm)
80
図 5.1.1 未成型インゴット OH 含有量変化
OH Contents (ppm)
60
S50
Outer part
Inner part
50
40
30
20
10
0
50
100
150
Distance From Center (mm)
図 5.1.2
成型後 OH 含有量変化
60
60
After Inner Part
After Outer Part
Before SampleA
Before SampleB
Before SampleC
S50
OH Contents (ppm)
50
40
30
20
10
0
0
50
100
150
Distance From Center (mm)
図 5.1.3
成型前後の OH 含有量変化
61
炉に成型前イン
ゴットを入れる
全体的に動
径方向へ広
がる
上部から圧力を加え
成型
N2中、130Kpa,
1800℃で3時間
熱処理
図5.1.4 成型に伴うインゴット変形の様子
62
5.2
仮想温度
図 5.2.1 に成型後サンプル上側・下側それぞれの中心付近からの仮想温度
変化について示す。 厚さ 5 mm のサンプルを用いた為、透過スペクトルによ
る仮想温度の測定ができない。そこで、反射スペクトルによって仮想温度を
求めた。両サンプルでの差が僅かながら確認出来る。特に外周部で上側のサ
ンプルのほうが仮想温度は高い。
一般に反射スペクトルから求めた仮想温度は誤差が大きい。そこで、サン
プルを 0.5 mm の厚さに研磨しなおして透過スペクトルにより仮想温度を求
めた。図 5.2.2 に示すように、薄板の透過スペクトルから求めた仮想温度の
変化の様子は反射スペクトルの場合と異なる。但し、図 5.2.3 に示すように、
透過スペクトルから求めた仮想温度領域が、反射スペクトルから求めた仮想
温度のばらつきの範囲内に収まっている。透過スペクトルによる仮想温度測
定の方の精度がよいことから、透過測定によるデータを採用する。成型後の
サンプルは上側、下側ともに仮想温度にばらつきが大きい。図 5.1.4 に示し
たように成型に伴い、サンプルの各位置の Si-O 伸縮振動による吸収波長が、
通常の熱処理時には外周付近までほぼ連続的に増加、減少していくのに対し、
成型時には局所的な歪みのばらつきにより連続的変化ではなくなるためと
考えている。従って、成型に伴い、表面付近だけではなく全体的に歪量変化
及び屈折率分布との相互関係が得られるのではないかと予想される。
63
Fictive Temperature (K)
2000
S50
1500
1000
Outer Part
Inner Part
50
100
150
Distance From Center (mm)
500
0
図 5.2.1
反射スペクトルから求めた仮想温度
Fictive Temperature (K)
1600
1500
S50
1400
1300
1200
1100
1000
0
Inner Part
Outer Part
50
100
150
Distance From Center (mm)
図 5.2.2
吸収スペクトルから求めた仮想温度変化
64
Fictive Temperature (K)
2000
S50
1500
1000
500
0
図 5.2.3
Outer Part from Reflection
Inner Part from Reflection
Outer Part from Absorption
Inner Part from Absorption
50
100
150
Distance From Center (mm)
吸収スペクトル及び反射スペクトルから求めた仮想温度比較
65
第 6 章 まとめ及び今後の課題
OH 含有量が異なる 2 種類のシリカガラスに対して、1150 ℃で 100 時間熱
処理を行った。その結果、熱処理前後での OH 含有量の変化が認められなか
った。一方、仮想温度変化、表面付近での屈折率分布及び歪量には熱処理前
後で変化が認められた。仮想温度変化に対して屈折率分布との相関が認めら
れた。 OH 含有量が熱処理前後で変化しないサンプルに対して複数のデータ
を得ることで、仮想温度変化による屈折率分布との相互関係の式が得られる
ものと予想される。これについては,今後の研究課題である。
屈折率分布(∆ n )は、サンプルの OH 含有量が多い場合には熱処理後に増
加し、少ない場合には熱処理後に減少した。また、歪量は、 OH 含有量に関
わらず熱処理後に表面付近で増加傾向がみられた。屈折率分布及び歪量は、
特に表面付近で変化することから、顕微 FT-IR を用いて表面付近での仮想温
度及び OH 含有量変化について数μ m 単位で測定を行うことが、熱処理に伴
う屈折率分布及び歪量分布との相関関係を調べる上で最も有効な手段であ
る。
OH を 50ppm 程度含むシリカガラスに対して、 N 2 中 , 1800 ℃で 3 時間かけ
て成型し、その後大気中 1200 ℃で 24 時間アニールした結果、サンプル中心
付近で OH 含有量が一旦平坦になる現象が確認された。OH の変化が平坦にな
る要因として、サンプル内部の変形に伴う移動が考えられる。仮想温度測定
の結果、吸収スペクトルからの測定の精度が確認された。さらに、成型時で
は、仮想温度に全体的なばらつきがあることから、Si-O 伸縮吸収ピーク位置
が熱処理の場合とは異なり、連続的に移動しなくなると考えられる。従って、
成型時では、屈折率分布及び歪量変化は表面付近だけでなく全体的に分布し
ていると考えられる。
66
今後の課題として、
(1) 熱処理前後で OH 含有量が変化しないシリカガラスについての各種測
定
(2) 成型前後の歪量及び屈折率分布との相関関係の把握
があげられる。
67
参考文献
1) 葛生 伸 : 「 石英ガラスの世界」
工学調査会 (1995)
2) 貫井 照彦 : 「ニューセラミックス」 20 , 266 (1985)
3) 川福他編 : 「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999)
4) G. Hetherington and K. Jack : Phys. Chem. Glasses 3 , 129 (1962)
5) R. Brükner : J. Non-Cryst. Solids 5 , 123 (1970)
6) Agarwal, K. M. Davis, M. Tomozawa: J. Non-Crystal. Solids 185 , 191(1995)
7) F. L. Galeener : J. Non-Crystal. Solids 71 , 373 (1985)
8) A. G. Gessverger and F. L. Galeener: Phys. Rev. B 28 , 3266 (1983)
9) S. Sakaguchi. S. Todoroki, and T. Murata: J. Non-Cryst. Solids 220 , 178
(1997)
10) D. L. Griscom: J. Ceram. Soc. Jpn. 99 , 899 (1991)
11) 信越石英 , 石英ガラス総合カタログ QA-2 1996 年版 , 32
12) Y. Kokubo et al: J.Non. Crystal. Solids 349 , 39 (2004)
13) N. Kuzuu, J. W. foley, and N. Kamisugi: J. Ceram. Soc. Jpn 106 , 525 (1998)
14) 徳永 浩昭 : 「シリカガラス構造に及ぼす熱処理の効果」 福井大学工学部
物理工学科卒業論文 (2004)
15) 藤井 謙次 : 「シリカガラスの構造及び密度に及ぼす熱処理の効果」福井大
学工学部物理工学卒業論文 (2003)
68
成果発表リスト
1. 学術論文
(1) Structural change of OH-free fused quartz tube surface by blowing with
hydrogen-oxygen flame
N. Kuzuu, Y. Kokubo, I. Serizawa, L.-H. Zeng, K. Fujii, M. Yamaguchi, K. Saito,
A. J. Ikushima : J. Non-Crystal.Solids 333 (2004) 115 – 123
(2) Structural changes of various types of silica glass tube upon blowing with
hydrogen- oxygen flame
Y. Kokubo, N. Kuzuu, I. Serizawa, L.-H. Zeng and K. Fujii : J.Non-Crystal.
Solids 349 (2004) 38 – 45
2. 口頭発表
(1) シリカガラスブロックの熱処理による構造変化
藤井謙次,葛生 伸,堀越秀春,宰原健二
第 65 回応用物理学会学術講演会 1p-F-1 (2004.9.1) 予稿集 p.793
69
謝辞
修士論文作成にあたり、大勢の方々のご協力を頂いたことに感謝し、謝辞
を述べさせていただきたいと思います。
御指導下さった葛生伸助教授には多くの貴重な御時間を割いて頂き仔細
に渡り御指導を頂きました。岩田一良教授、玉井良則助教授には多岐に渡り
御指導頂きました。また、本研究室の堀井直宏氏、松倉亜喜弘氏、朝倉将太
氏、加藤裕之氏、加藤洋平氏、田中宏志氏、湊茂治氏、若山竜大氏には多方
面に渡り大変お世話になりました。ここに改めて感謝の意を表したいと思い
ます。
本研究を行うにあたり,サンプル提供および測定その他ご援助いただきま
した東ソー・エスジーエム株式会社に感謝いたします。
70
Fly UP