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世の中のお役に立つようなおカネの手放し方

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世の中のお役に立つようなおカネの手放し方
第 8 回 ヒトをひきつける WILL と SKILL @東京財団
2007 年 3 月 22 日 於 日本財団ビル
「世の中のお役に立つようなおカネの手放し方」
おらが町の身の丈ファンドで地域活性
∼「さわかみファンド」と「浪花おふくろファンド」の哲学と挑戦∼
講師
澤上
澤上 篤人
さわかみ投信株式会社 代表取締役
石津 史子
浪花おふくろ投信株式会社 代表取締役
に考え方が変わってきた。土壌が整ってきたというわけです。
皆さん、こんばんは。今日お話させていただく中で一
番大事なポイントは、グラミンバンクのケース同様、日本にも
地域活性のための資金ニーズがあるということ。と同時に、日
でも、預貯金では増えないし、年金もあてにならんし、やは
本の場合はお金が寝ている。莫大な預貯金があるということ
り運用かなと思う人が増えてきたが、その考えをどう具体化し
です。
たらいいかわからない人が多い。
要するに、地域経済活性化を考えた時、今まではいかに企
最近は、銀行や郵便局も投資信託を窓口で扱うようになっ
業を興し、誘致するか、観光誘致をどうするか、ということをや
てきました。良い流れですが、問題は手数料を高く設定して販
ってきましたが、それらはもう行き詰まっています。
売していることです。本来、投信は販売するものではないので
我々は、身近なところにお金がある、預貯金が寝ていると
す。なぜなら、運用の結果が出るのは3年、5年、10 年先。そ
いうことに注目しています。郵便局に預けたお金は全額が、
んなものを販売できるわけない。約束もできない。
国庫へ入る。つまり、東京へ行ってしまいます。
しかし、きちんと運用できる仕組みがあれば、それなりに結
銀行へ預けたお金もかなり東京へ来ています。その資金で
果が出る。結果が積み上がることによって、自然に買い手が
国債を買ったり、REIT(不動産投資信託)を買ったりします。あ
つく。だから運用商品というのは本来、売るものではなく、売
るいは、海外投資に向けられるわけです。
れてしまうものなのです。
地元のお金は全部東京や海外へ行ってしまっている。それ
信頼し安心して長期保有ができる投資信託をまずは作って、
では地元の経済は苦しくなるばかり。地域経済の活性化とい
その先に本物のファンドを買っていく仕組みを作れば、どうい
う思いの実現には、皆さんの身近なところにあるお金を身近
うことになるか。まず日本中で眠っていたものすごく大きなお
で動かしたらいいのです。これが一番大事なポイントです。
金、預貯金が動き出してくる。
そういう状況で現在、我々がやっていることは、地元の人
では、お金を動かすにはどうしたらいいか。
のために、地元の人たちが安心して、信頼して、長期の財産
最初にぶち当たる問題は、「預貯金は虎の子。これを減ら
作りを期待できるような仕組みを作るお手伝いをすること。そ
すわけにはいかない。自分のお金はとても出せないが、地域
れも、商売のため、儲けるためではなく地元の人たちの安心
活性化はやってほしい。国や自治体がお金出してくれるなら
と信頼のためにやるから、とことんコストの安い投信を作るお
大歓迎」という人々が大多数だということ。
手伝いを。
実はここが大きなブレークスルーになるわけです。なぜなら、
当然、販売手数料はゼロに設定する。信託報酬もギリギリ
預貯金を寝かせている人、今まで投資をやったことがない人
まで下げてしまう。そうして浮いた分は人々の利益につなが
が悩むのは、虎の子を減らしたくなはないけれど、このままで
る。
はお金は増えない。さらに、年金は当てにならないということ
ここで大事になのは、誰が運用するかということ。
なのですから。
地元の人たちであろうが、誰であろうが、日本全体を見渡し
何かしなくてはならない、自分で年金を作らないといけない、
ても、まともな長期運用ができる人はいない。これまでの日本
ではどうしたらいいか。今、地方の人はものすごく悩みながら
では本格的な運用をやったことがないから。
も、貯蓄一本槍ではあかん、運用を考えないかんという方向
ではどうしたらいいか。まともな運用がないならないで、世
1
第 8 回 ヒトをひきつける WILL と SKILL @東京財団
界の本物のファンドを持ってくればいい。よく ヒコーキ野郎 と
いうことです。
か言いますね。あれと同じで、世界には「運用が好きで好きで
例えば今、中国やインドという国々がものすごく伸びている。
たまらない。いい運用をして人に喜んでもらいたい。」という
そういうのを全部取りこむことができる。よく考えたら、トヨタや
運用野郎 たちがいる。それを日本へ呼び込んで、日本で投
ホンダの株式を買って行けば、自然とインドとか、色んな国の
信を設定させる。
成長に乗っかっていけるんですね。
こういうファンドがそれぞれ運用してがんばってくれる。その
そうやって、エマージング市場、ヨーロッパ株式、グローバ
成績をまとめたものを投信商品として、地元の人たちにお届
ル株式を専門にしたファンドを組み入れることで、世界の成長
けするという仕組みを現在作っているわけです。
を取り込んで運用していることになる。
これは大事なことですが、運用で得る 100 万円は、東京に
例えば、2年半前に我々が手伝って、「ありがとうファンド」
住もうが地方に住もうが同じ。100 万円は 100 万円。なのに、
(www.39asset.co.jp)というのを作りました。この母体は地方の
生活のインフラコストは東京だと 80、90 万円だけど、地方だと、
税理士事務所です。
30∼50 万円しかかからない。
地方の税理士は、これまで自分たちを育ててくれた地方に
同じ 100 万円でも、東京だと 10∼20 万円しか手元に残らな
元気がないので、自分たちで何ができるだろうと考えた。
いのに、地方だったら 50∼60 万円、もっと言えば 70 万円残る
今更、手数料を稼ぐようなことをやってはいけない。では何
場合もある。そうすると、地方のほうが東京に住むより、それ
ができるか。欧米に何度も赴きリサーチを重ね、出した結論
ほどお金自体要らないから、財産作りははるかに進むことに
が地元の人たちのためになる投信をやろうということ。
なるのです。
そうやってできた「ありがとうファンド」ですが、今では年率
話を戻して2つ目は、ある程度運用によってお金が増えだ
13%で回っています(注:2007 年 3 月現在)。悪くはないです
すと、気持ちに余裕ができてくるので、人々がお金を地元でち
よね。なぜなら、いいファンドを組み込んでいるから。それもタ
ょっとずつ使うようになる。
イミング良く。
地元でお金を使ったらどうなるか。地方の商店の売上げが
元々いいファンド、ピカピカのファンドを入れれば、約束は
上がるじゃないですか。これこそ日本の地域経済の活性化で
できないけど、時間が経てばそこそこの成績が積み上がる。
すよ。
0.3%とか、0.5%という預金よりもはるかにいい。しかも公募
勿論、増えたお金を抱え込む人いるかもしれないけど、み
投信だから、現状の成績が常に見える。
んながそれぞれ、ちょっとずつ使い出したら、あっという間に
「見える状態なら、安心できる」、「地元の人間がやるなら、
地元の商店は潤う。地域が動き出す。そういうようにお金がグ
私もちょっと試してみよう」となる。更に、1万円から投信を試
ルグル動き回れば、経済が活性化します。
せる。まずは1万円で試してみてもらって、ゆくゆく、「ああ、そ
先ほども言ったように、運用の手取り成果は都市より地方
ういうことだったらもっと買おう」となっていく。
であればあるほど多いのですから、地方では、意外にお金を
手放しやすくなるわけです。
こういう流れで、まずは預貯金に寝かせているお金に対し
以上のような形で、まずは運用によって財産作りができると
て、運用のおもしろさを知ってもらう。あるいは、運用のきちん
いう面白みと、その先でお金を使うことによって地域経済が自
とした仕組みがあればそんなに恐いことはなさそうだと知って
分たちのお金によって活性化するということを実感してもらう
もらう。
のです。それが、我々の支援している「おらが町の投信」なの
そのようにして、まず預貯金として凍り付いたツンドラを溶
です。
かして、お金の出し癖をつけてやる。その後、約束はできない
全都道府県で約 50 のその様な投信を作ろうとしています。
けど、それなりの成績が出て、お金が増え出してくると、皆さ
仕組みは全部同じで、地元の人たちが安心して、信頼してつ
ん、2つのことを実感します。
き合ってもらえるような仕組みにします。
1つ目は、まともな運用というのは、世界の成長を取りこん
それによってまずはお金の出し癖をつけてもらって、2、3
でいきます。つまり、世界の成長の成果を地元に取りこめると
年後には運用の良さを実感してもらう。
2
第 8 回 ヒトをひきつける WILL と SKILL @東京財団
その次の段階として、もう1つ別のファンドを設定する。1本
むとき大事になってくるのは、目利き役、監視役。こういう人た
目はここまでお話してきた、100%財産作り向けのファンド。で
ちを地元で育てたいわけです。
も結果的に地元経済の活性化になるというもの。
地元の税務事務所、会計事務所の人たちでもいい。誰か
2本目は、1本目と変わらず 90∼95%は財産作りしようねと。
が目利き役として育ち、地元の経済にとって、このパン屋さん
そうしないと人々のお金は動きませんから。でも、5∼10%ぐ
に頑張ってほしい、潰れてもらったら困るから支援しよう、とい
らいは直接地元の経済に放り込む仕組みにする。それでも全
う目利き、判断をする。
体の 90∼95%は世界の成長に乗って成績を出していて、そこ
と同時に、苦しい時期を超えた後、パン屋さんが贅沢しまく
そこの財産づくりが進んでるわけだから5∼10%ぐらいは地
ったり、酒飲みまくったら、これはあかんぜと、ある程度ブレー
元に還元してもいいじゃないのと。
キをかける、つまり監視役もする。
普通、地域経済活性ファンドだとか言っても、みんなイグジ
我々はそういう人材、つまり、直接金融の担い手、あるいは
ット(うまく投資収益を手にすること)を考えるわけです。上場
仲介役を地元で育てたいわけです。
させよう、リターンを求めようとか。大体が地方でそういう対象
いつまでも東京の専門家とやらがしゃしゃり出ちゃいけない。
になる会社があるわけない。もしあったら、すでに東京の資本
地元の経済のことなんて彼らにわかるわけがない。だから地
が動いているはずです。
元のことは地元で全部済ませてしまえばいい。
大事なことは、地元の町工場やパン屋さんやそば屋さんが
潰れずに雇用を守ってくれるということ。あるいは、美味しい
まとめると、1つ1つ順番を経て流れを作っていくこと。
パンを焼いてくれたり、うまい蕎麦を作ってくれればいい。潰
まずお金が預貯金に寝ている。寝ているお金を動かすため
れないで続けてくれたらいいわけです。
に、誰でもが1万円から参加できる投信という器を通して、
こういう蕎麦屋や町工場の資金繰りのお手伝いをすること
徐々に人々にお金の出し癖をつけ、運用のおもしろさと、運用
が目的であって、イグジットなんて別に考えないでもいい。ちょ
のすごさというのを実感してもらう。
っとマイナスがあっても構わない。
そのついでに、地元の人たちに、地元のお金を動かすプレ
そうやって金融機関や東京の資本が見捨てているような、
ーヤーとして育ってもらう。そうすると、全部が地元でできる。
でも地元の人たちにとっては大事なそば屋、饅頭屋、あるい
あと、さっき言い忘れましたが、この投信会社は地元の人
は雇用を確保してくれている地元企業の資金繰りをお手伝い
たちのために、ものすごくコストの安い投信を作るけど、それ
する。もちろん無担保で。
でもある程度規模が大きくなって行くと、お金が余ってくるよう
なぜなら 90∼95%の本格運用部分のほうでリターンはカバ
になる。
ーできるから。こちらはそこそこ運用がうまくいっているんだか
この投信会社そのものも地元経済のため地元の人間が作
ら、そうガツガツすることないし、イグジットを求める必要は何
っているわけだから、その余剰利益を地元経済へも還元でき
もない。
る、という仕組みを現在日本中に作っていこうという最中なの
このように第2段階が進めば、お金の出し癖がつくから、放
です。
っておいても第3段階として、「次は自分たちで直接投資して
これについては8年ほど前からずっと言ってきたのですが、
みよう」となる。
「頭ではわかるし、話は良さそうだけど、うちの地元では駄目
この3つのステップを踏むことによって、直接金融というの
だ」って皆さん言っていたんですね。
が日本中で根付いていくわけです。直接金融というのは、言
そしたら、この2年ぐらいで「やっぱり澤上さん、これやって
ってみれば簡単で、お金の出し手と受け手が握手したらいい
みるわ」という動きが急に出てきて、「じゃあ、やろうぜ」という
だけの話。
ことで動き出したところです。
その時、出し手が出し癖をつけていなかったら、永久にお
その流れの中で第1号は、大阪で立ち上がった「浪花おふ
金は出やしない。お金を抱え込むことしか知らない人にとって、
くろ投信」です。では、石津さんに代わります。
出してって言っても無理。
石津
地元の町工場やそば屋さんやパン屋さんにお金を放り込
3
「浪花おふくろ投信」を作りました石津と申します。よ
第 8 回 ヒトをひきつける WILL と SKILL @東京財団
ろしくお願いいたします。今日は大阪からまいりましたし、生ま
ックだった。
れも大阪で、言葉が少し訛りますがご容赦頂き、関西弁で話
なぜなら、残念ながらこのカードは日本では売られていな
をさせて頂きたいと思います。
いのです。でも、例えば日本人に身近なハワイでもグアムでも
私は、澤上さんみたいに金融出身でもなんでもないです。
売っているし、オーストラリア、ヨーロッパでも売っています。
普通の主婦とはちょっと言いがたいですが、社会保険労務士
「リタイアおめでとう」というのは、現役時代を終えて、しかも
として、昭和 60 年に大阪中央区で開業して以来 22 年ほど仕
ちょっと人よりも早い目に終えて、自分が以前からやりたかっ
事をしています。
たことなどを思い切りできる、人生の充実期、一番いい時期を
こんな私がなぜこういう金融のほうに来たかお話したいと
これから迎えられるということ、だから「おめでとう」とお祝いす
思います。私は 20 代で社労士の仕事に就き、最初ずっと年
るカードなのです。
金相談をやっていました。
私は社会保険労務士として退職される方に「年金がいくら
皆さんも、多かれ少なかれ、毎月保険料を払ってらっしゃる
出ますよ」、とか、「雇用保険とどっちが得か損か」とか、そん
わけですから年金に対する関心は高いと思うのですが、年金
な話をたくさんしてきました。でも退職される方って皆さん受け
の相談を受けていてすごく感じるのは、これまで5年に1回ず
身なんですよね。だから定年退職というとグレーなんですね。
つ、年金は大きく見直しをされてきましたよね。
バラ色で受け止める方はあまりいらっしゃらないなと思ってき
最近は平成 14 年にありましたが、改正を繰り返す度に、年
ました。
金は若い人たちにとってどんどん頼りないものになるんです。
だから「リタイアおめでとう」というカードを送る習慣を知って、
負担はどんどん増えるけど、貰える額はどんどん薄くなってい
ものすごく能動的だと思ったし、自分からリタイアの先にある
く。額が薄くなるだけでなく、支給開始も 60 歳やったのに 65
自由を得たい、経済的自立を到達したい、という前向きな気
歳に引き上がっていくとか。
概を感じて、「自分も、やらなあかんわ」と強く思ったのです。
若い人たちにとってみたら、「年金って何やろう。」って、ちょ
そこで勉強したのが、ファイナンシャル・プランナーという資
っと遠くに、1歩離れたような間隔で捉えてられているんじゃな
格でした。平成4年から勉強して、平成5年にファイナンシャ
いか。そういう思いが自分の中にも芽生えはじめたのです。
ル・プランナーとなり、かれこれ 14 年間ぐらい社会保険労務
そう思いながらも年金相談を続けてきましたから、60 歳、65
士と並列して仕事をしてきました。
歳の方にはすごく喜んで頂きました。例えば、遺族年金出ま
現在は郵政公社になっていますが、旧郵政省が「暮らしの
せんよって言われていた人が、30 数年前の遺族年金が出る
相談センター」というのを全国に展開していた頃があったので
ようになったり。
すが、そこで私、平成8年から貯蓄保障相談員(独立系の
年金相談をやればやるほどやり甲斐を感じ、仕事に没頭し
R が担当)を8年ぐらい地元でやりました。
CFP○
ていったのですが、それでも自分の中でどうしても「一所懸命
ちょうど平成8年は、金融の仕組みが大きく変わって、新し
法律を勉強しても、自分は絶対ハッピー・リタイアメントでけへ
くなる時で、例えば、生命保険に対する不安が助長された時
んわ」という、なんかちょっと自己中なのですけど、そういう思
でもあったし、自由化、ビッグバンだと言って、外為法が改正
いが大きくなっていったのです。
されたり色んなことが起こった。
ちょうど平成4年、「こんなことをしてたら、あかんわ」、「自
そんな中、私は貯蓄保証相談員として、ライフプランや生活
助努力の策を探っていかないと、あかんのとちゃうかしら」っ
設計のお手伝いをするために窓口に座っていたにもかかわら
て、そういうふうに思うようになったのです。
ず、相談に来られる方の悩みや不安の多くは、個人年金など
そのきっかけは、あるところで「リタイアメント・カード」という
が多かったです。
ものの存在を知ったこと。会社を退職される、現役を引退され
「個人年金に入っているのに、その保険会社がうまいことい
る方に対して、「リタイアおめでとう」というメッセージをしたた
かん。」「予定利率が下がって、思っていたような年金が出な
めたハッピー・リタイアメントのカードなんです。
い。」「自分が入っている年金は大丈夫か。」「外貨預金って、
この存在を知った時、「自分は年金に関わる仕事をしてき
すごく金利がいいようだが、貯金止めてこっちに行ったらいい
たのに、どうして今まで知らなかったんやろう」って、すごくショ
か。」「潰れかけたところの社債を引き受けてしまったがどうす
4
第 8 回 ヒトをひきつける WILL と SKILL @東京財団
ればいいか。」
した。
そういう様々な金融商品に対する不安を人々は相談センタ
それともう1つ。やっぱりこれやなと思ったのは、ハッピー・
ーで話される。本来は生活設計をサポートする場だったんで
リタイアメントするための手段としての投資信託の魅力です。
すけど。
プライベートバンクとか金融機関というのは、やはり大きな
結局、ハッピー・リタイアメントや経済的自立のために少し
お金を持ってはる人にはホイホイとつき合ってくれはります。
勉強はしてみたけれど、実際のところは本当に難しい。その
だけど小金しかなくて、毎月、毎月働いて、精一杯1万円、
手段が見つからないのです。
2万円の積み立てならできるわっていう私みたいな者には、な
「その手段さえ見つかれば、将来への不安もかき消され、
かなか金融機関はおつき合いしてくれない。
もっと自由に、心豊かに今を楽しむこともできるのに。ほんま
そういうような者にとって、投資信託って本当に魅力的です。
に、ええ手段ってないんやろか。」センターでの経験を積むこ
運用は専門家に任せられる上に、運用会社や販売窓口の金
とによって、さらに強く「どうすればいいのか」を意識するよう
融機関に何かあっても、ちゃんと資産は信託銀行で分別管理
になったんです。
されて保全されている。しかも小口で積み立てもできれば、と
そんなときに出会ったのが澤上さんでした。ちょうど平成 12
ても合理的。更に本格的な運用にも自分のお金を乗せられ
年にファイナンシャル・プランナーの勉強会で出会いました。
る。
澤上さんは、ちょっと変わってはりました。金融機関の大き
相談センターでは、中立をモットーとしてアドバイスしてきた
な組織を背負うてはる方々と違って。だから、ぜひ、お話聞き
ので、「ほんまは、はっきり言ってあげた方がいいけどな。こ
たいと思って大阪に来て頂いたんです。
れ、ちゃうけどな。」と思いながらも、それは言えなかったので
お話は明快で、「運用なんていうのは安い時に買って、高
す。「これはこういう商品です。ご自身でお考えになってくださ
い時に売ったらええ。それだけ」ということでした。それは当た
い」という調子だった。今から考えるとちょっと不親切です。
り前のことなのだから、すうっと頭に入ってきたし、しかし、新
そういう 中立の無責任 を感じていた頃に、長期投資とい
鮮で目から鱗でしたね。
うものを知り、それを少しずつ実践してみたのですが、しだい
当時は IT バブルで、株価も高くなっている時なのに、世間
に「こうすればいいんや」と、自分なりにわかってきた。そして
ではみんな IT がええと言うし、すでに高いのにおかしな話や
自分が投資したお金も、ちょっとずつ大きくなっていったんで
なと思っていた。最初の頃はもちろん良かったけど、どんどん
す。
IT 関連の株価が高くなり、様々な仕組み債や EB 債とかが販
そうすると今度は、「ハッピー・リタイアメントできる、経済的
売されるようになって、そういうのをつかまされてしまった、ど
自立を実現できる手段が見つかったのだから、地元で一緒に
うしましょう、という相談も多く寄せられるようになりました。
生活していく人たちにも、それを伝えたい。これは素晴らしい
それで、「おかしいな」と思っていた頃だったから、「安く買っ
んやということを、もっと周りの人々に啓蒙できるのと違うか
て、高く売ればいい」という澤上さんの言葉は、ほんまに当た
な」と思うようになった。
り前のことだったのですよね。
そして去年、自分は今まで金融なんてやってこなかったの
それなのに、金融機関もファイナンシャル・プランナーたち
に、「これをやらなあかん」という思いで作ってしまったのが、
も、時流に乗って「IT だ!」と言ったほうが世間から受け入れ
「浪花おふくろ投信」という会社なんです。
られるからやってきたけど、ほんまは違ったんだと。
ファンドという手段を利用し、時間を味方にして、少しずつで
それからは私も長期投資の魅力にとりつかれて、5回も 10
もいいから本格的な運用に自分のお金を乗せるようにする。
回も澤上さんのお話聞いてきたんですけど、澤上さんが言う
そして段々と成果がついてくれば、年金や医療や介護に不安
ことって、ほんとに変わらへんのです。いつのときもずっと同じ
があっても全然恐くないですよね。自分でやれるという自信が
ことを言わはります。ぶれないんです。
ついてきたら、今度は周りを見る余裕が出てくるんですよね、
最近になって澤上さんのこと、みんなが持ち上げるようにな
やっぱり。
りましたが、やっぱり昔と変わらないこと言うてはるし。そのぶ
「私、ほんまにこんなことをしていていいのだろうか。もっと
れない投資哲学に、私はすごく感動したし、これやなと思いま
違うことできるのと違うか」って。そういう気づきみたいなもの
5
第 8 回 ヒトをひきつける WILL と SKILL @東京財団
が、次には地域の活性化にもつながるんじゃないかと思いま
い。ファンドはお客さんのもの。自分たちが経営の中で節約し
す。
て余ったお金を使う。
自分自身がこんな風に考えられるようになったのは、やは
本来、そのお金は株主の利益になるものだけど、たまたま
り長期投資と出会ったお陰だと思うし、手段さえわかれば安
自分が 100%保有の株主で、別に配当金とか株式公開しての
心感が増し、周りを見渡したり、じっくりそのときの生活を味わ
大金とかは要らないから、世の中にお返ししよう。どんどんお
う余裕も生まれると思います。
役に立ててもらおう。そういう思いで、うちの会社の利益余剰、
配当金をベースにしたお金を社会に還元しようとしています。
私がなぜ「浪花おふくろ投信」を作ったかという経緯をお話
実は、ちょっとした魂胆がありまして、どういうことか言うと、
ししましたが、実際には会社を作ってから1年ぐらい経ってい
自分はたまたまこの世界で 36 年、それも長期運用の分野で
るんですけど、なかなか進みません…。
やってきてそれなりの実績を上げてきた。
実際、投信会社はこれまで東京 23 区以外に1社もないん
それなりの実績を持っているからこそ、運用は何の約束も
ですね。金融業界では大阪といっても地方の地方でしかない
できないけれど、自分自身はものすごい自信があるわけです。
んです。
なおかつ、資産が長期運用で成績が出だすと複利の効果が
だから金融業界の人たちって、みんな東京周辺に集まって
効いてきますから、雪だるま式にメチャクチャ大きくなるものな
るので、大阪でコンプライアンスの専門家やファンド・マネージ
のですよ。
ャーとか、キーになる人を集めようと思ったら、ほんと大変な
例えばさっきの「ありがとうファンド」は年率 13%(2007 年 3
ことで、なかなか思うように行かずに今に至っています。でも、
月現在)で回っている。すると、6年で倍です。100 万円が 200
絶対今年は頑張るでという気持ちでやっております。
万円、400 万円が 800 万円になるのも6年後。それが大きくな
ってくると 2,000 万円が 4,000 万円になるのも6年。4,000 万円
司会
が 8,000 万円になるのも6年。次の6年は、8,000 円万が1億
ありがとうございました。石津さんのお話を聞いて頂
6,000 万円になる。
いて、今日のタイトルにあります「おらが町の身の丈ファンド」
そういう長期運用の複利効果を雪だるま式効果と言ってい
の意図がわかって頂けたんではないかなと思います。
るんですが、それを何度も自分は実感してきている。そうする
次に澤上さん、 さわかみビレッジ構想 のお話をちょっとだ
と、いずれ日本でも長期運用が定着してくれば、その先端で
けして頂けますか。
はお金が余って困るぐらいの状態になる。信じられないかもし
澤上
れんけど。
じゃあビレッジのことでちょっとだけお話ししてから皆
さんの質問をお受けしたいと思います。
そうなってきたとき、うちのお客さんもそうだけど、最初は生
自分のところもこれまで運用してきて、おかげさまで、2,500
活基盤を固めようとか、年金代わりの資金準備しようとか言っ
億円寸前まで来ています。今後は、ほっといても大きくなりま
ているけど、そのうち増えだしたら生活は何とかなりそうだと
す。
感じてくる。お金はある程度あればええやろうと。そこから先
そうすると、うちの会社自身はトコトン経費節約しているか
は世の中のために使おうぜ、かっこよく使おうぜと。かっこい
ら、けっこうお金が余ってくる。でも、余ったお金を抱え込んで
いじいさん、ばあさんになればええやろうと。そういう思惑をう
いたらよくない。お金を抱え込むと、すぐ贅肉がつくんです。
ちは持っているわけです。
お腹周りに贅肉がつくぐらいだったらまだかわいいけど、心
そこで、自分の会社がまずは最初に、そのモデルを世の中
や頭に贅肉がついちゃうと、もう救いようがない。だから会社
にお見せしてしまえと。うちの社員たち全員、自分自身も含め
を設立したときから、質実剛健、余裕のある飢餓状態で行こう
て、「手前の贅沢はそこそこにしようぜ。でも世の中にとって良
と決めていた。
いことのための贅沢はとことんやろうぜ」と言っている。
会社に余剰が生まれてきたら、どんどん社会に還元してし
社員には、「今年3億円使ってこい」と言うこともある。それ
まえとずっと前から言っていた。いよいよその段階になってき
も世の中のためになるようなことに使う。つまり、かっこいいお
たから、やってしまえと。でも、ファンドの資産を使うのではな
金の使い方をやってこいと。
6
第 8 回 ヒトをひきつける WILL と SKILL @東京財団
そうすると、お金が増えないかんとか、リスクはどうだとか、
問をお願いいたします。
そんなチマチマしたことはどうでもよくなって、もっと大らかに、
質問 1
もっと大きくお金が動くようになる。
経済というのは、お金を手放すことで動くんですよ。抱え込
石津さんのファンクションというのは、ファンド・オ
ブ・ファンズをセレクションするという役割なのか、それとも地
んだら駄目。みんな抱え込むから、経済が動かない。手放し
域の目利き役という役割なのか、どちらでしょうか。
たお金がどんどん経済の現場で回るから、経済は動き、活性
石津
化するんです。だから我々は、ガバッと稼いで、ガバッと使う。
「浪花おふくろ投信」は、もちろん直販ですから、お金
お金の使い方も、目線が低く、卑しい気持ちだったらだめ。
を集めて、きちっとお預かりするという業務もしますし、ファン
経済というものは、より大きなお金が流れ込んだ方向で発展
ド・マネージャーがセレクトした世界のファンドで運用するとい
する。ということは、われわれの目線が低く、志が低かったら、
うこともいたします。
それなりの社会、それなりの経済ということになる。
澤上さんの先ほどの目利きの話は、ゆくゆく第2号ファンド
では目一杯目線を高め、志を高めて、美意識を持ってやっ
でということですから、それまでにきちんと研修して、目利きに
たらどうなるか。きっとすてきな社会や美しいものができるの
なれるような方に一緒に働いてもらえたらなと思いますが、ま
ではないか。それを子どもや孫たち、次の世代に残してあげ
ずは投信が、すばらしいものだとわかってもらい、安心感を持
るのが俺たちの責任じゃないか。
ってもらえるようにしたい。もちろん成果を出さないといけない
そういう思いでビレッジ構想というのを打ち立て、本社も全
のですが、そういう役割だと思っています。
部そこへ移して、世の中に対して俺たちができることをやろう、
なんでも試せる大いなる実験の場、挑戦の場にしようと思って
澤上
います。
探すことに関しては、悪いけど石津さんたち無理だから我々
ファンドの組み入れ対象となるピカピカのファンドを
色んな問題があって、それをどうしよう、こうしようと言いま
がやります。世界には名の通った名門の運用野郎がけっこう
すが、問題があるということは、その問題に対して既に色々な
いるわけ。大きな金融機関は、そういう名門の名前で買うわ
人が関与していることを意味します。そうすると、抜本的に解
けですよ。買って、その名前を使って営業をかけて、お金を集
決することはなかなかむずかしい。皆さん、コミットしているか
めて、儲けようとする。
ら。
だから昔からの名門というのは、どんどん大きな金融資本
だから、我々の考え方は、問題があるのなら、問題のない
の傘下になって、実情はガタガタになっている。そういう中で
まっさらのいいものを作ってしまう。それも自分たちのお金で。
も、本物の運用会社はいくつかある。自分は 36 年間やってき
つまり、問題を意識するのではなく、問題のないものを作れば
てわかるから、そういうファンドしか選ばない。
いい、どんどん新しいものを作ろうという考えなのです。既得
勿論、こういう仕組みを手伝っても、自分が儲けようという
権やら何やらはどうでもいい話。
気持ちは一切ないからね。大事なのは、いい運用の結果をお
そういう意味で我々のビレッジ構想というのは、余ったお金
届けするということ。運用の真似事をするんじゃない。結果を
を自分の贅沢に使うのも自由だけど、どうせ贅沢しきれない
出すためには、本物のピカピカの連中しか入れない。
から、世の中のために使っちゃえ。その代わり、使う以上はど
もうひとつ大事なことは、こうやって日本に呼び込んだ運用
れだけかっこいいお金の使い方をするか。できるだけ目線を
会社にとっても、ハッピーだということ。すごくまともな長期運
高め、美意識を持って、志を高くしてやっていこうというイメー
用資金を放り込んでもらえるというのは、ものすごくありがた
ジです。
いことなんです。
偉そうなこと言って、大したことないと言われたくないから、
長期と言っても3年ぐらいじゃない。10 年、20 年、好きに運
いかにかっこよくお金使うか勉強をしながら、実践していくの
用していい。ベンチマークなんて忘れていい。そんなもの関係
がビレッジです。
ないと言うと彼らも喜んで来る。
こうやって我々が日本に呼んできた「おらが町の投信」のた
司会
めの運用するファンドを、大金融資本がうちにも買わしてくれ
ありがとうございました。それでは皆さんからのご質
7
第 8 回 ヒトをひきつける WILL と SKILL @東京財団
と言ってきてもそうはさせない。「おらが町の投信」グループ以
い世界。
外は買えない。
運用の大衆化というのは、ヨーロッパやアメリカでもたかだ
なぜかと言ったら、これは本当にいい運用を地元の人たち
か 30 年。1980 年ぐらいから大衆化が始まったところ。金持ち
にお届けする仕組みなんだから、金融機関の儲け主義が入
の世界では当たり前だった運用が、徐々に大衆の中に染みこ
る余地はない。だから一切入れない。
んでいる最中なんです。欧米でもそんなもので、日本ではそ
れから 30 年遅れで始まるわけです。
質問 2
澤上さんがおっしゃった、お金を思い切って社会の
でもそういうアメリカの中で、ほとんど寄付で成り立っている
ために手放すから、経済が活性化する、志・美意識を持って
NPO は、13∼14 年前まで全雇用の6%を創出していたのが、
お金を使おうというお話には感動しました。日本を元気にする
今や9%を創出するようになった。
大きなポイントだなと感じました。
それはなぜか。少しずつ運用の大衆化が進み、その結果、
日本の経済、国民一人ひとりが元気になるには、一番どう
寄付する層が増えたのだ。アメリカ人の寄付行為は 15%が税
いうところにお金を活かしていけばいいと思いますか。
対策で、85%ぐらいはあまり節税と関係がない、気持ちのこも
った寄付なのです。だから運用の大衆化の結果、既に NPO
澤上
に見るような現象も出てきている。
まずお金を手放せばいいというのは、頭でわかった
でしょう。ただそんなにお金はないよね。でも気持ちはあるとし
日本では、現在、みんな必死になって預貯金を抱え込んで
たら、方法論として、まず長期運用でもやってお金増やそうぜ
いる。動かし方を知らない。だから地域経済を回すお金がな
と。
いわけです。それよりも、まずは運用で増やそうとする。そし
今すぐお金を手放せと言ってもまず無理。総論賛成、各論
て増えてきたら、地域のためにお金を手放すことができてくる。
反対じゃないけど、思いはあるけど金を出すのはちょっと、と
それを言いたいし、実践していきたい。それを身近なところで
いう人ばかりなんです。それはお金に余裕がないから。
やってしまおうと。
だから、まずは運用をしてみようと。ちゃんと運用すると増
えてくるのがわかる。増えだしてくると、気持ちが楽になる。初
質問 3
めは少しずつでも、時間と複利効果が働くと、ある時グイっと
用で失敗している。彼らは金融の専門家であったにもかかわ
増えるんです。
らず失敗した。勿論、不動産とか、特殊な事情があったかもし
そうすると増える前は、例えば東京に住む人だと、1億円ぐ
なんで保険会社が吹っ飛んだかというと、みんな運
れませんが。
らいほしいと言うかもしれん。地方だったら 5,000 万円とか。田
おっしゃったとおり、保証はできない。株式もアメリカでは非
舎だったら 3,000 万円ぐらいあればいいと言う。
常に浮き沈みが激しいですし、中国も今はいいかもしれない
そこまで増えれば安心だと言うけど、お金がある程度増え
が非常に危ない。そう考えると、投信での運用をあまりにも強
始めると、そのうち1億円も可能かと思えてきます。1億円を
調されるとちょっと違うかもしれない。
目標にしていた人が 4,000∼6,000 万円あたりからお金を使え
むしろ日本はお金をいっぱい持っていますから、お金を生
ちゃうんですよ。なぜなら、運用がしっかりしていれば、増える
かして経済を活性化するという意味で、お金儲けではなく、寄
ことはわかったから。地方だったらもっと早く行く。
付とか、自分たちで町づくりをやっていくような方向のほうが
とにかくまず自分のお金を増やす。増やしたら、気が楽に
いいような気がしますが。
なってお金を使える。ない中で出そうとすると、しんどい。だか
らまず増やす。そのステップを踏みながら、徐々にお金が増
澤上
えたら、何に使おうかを考えるのが大事なんです。
らない国。今までは運用が必要なかったから。運用をまったく
運用なんて、元々、金持ちの世界のものなんです。お金持
日本の保険会社を含め、悪いけど日本は運用を知
知らないから、まともな運用がない。
ちはお金が余るから運用するんですよ。世界的に見ても一部
海外はどうかと言うと、例えば私が 1970 年から5年間勉強
の高所得層と大多数の低所得層でしょ。低所得層は生まれ
させてもらったファンドがある。ここの看板商品は 10 兆円を超
て死ぬまで、お金が殆ど余らない。運用なんてまったく縁のな
える投信です。設定したのが 1933 年。で、2006 年までの 73
8
第 8 回 ヒトをひきつける WILL と SKILL @東京財団
年間の成績が年率 12.8%。1933 年ということは、1929 年 11
うのは、物が行き渡り、みんな物持ちになって、そんなに売れ
月の大恐慌の後の一番ひどい時に設定したファンド。
なくなる。やがて設備過剰になるから、みんな経営のスリム化
その後、世界恐慌に移り、第2次世界大戦が起こり、良きア
をする。
メリカの時代を経て、1960 年代の終わり頃にはベトナム戦争
そうすると、企業の利益率が下がってきて、運用の意味が
が悪化した。1973 年の 11 月には第1次石油ショック。1979 年、
出てくるわけです。工場を建てるのがいいのか、運用するの
80 年の年末年初に第2次石油ショック。1987 年にはブラック
がいいのか。だから発展段階の間は、どこの国も運用なんて
マンデー、2,000 年に IT バブル崩壊、2001 年に同時多発テ
必要ないし、存在しない。ところが成熟段階に入ったら、放っ
ロ。
ておいても運用が必要になってくる。
このように我々が生きている間には、何が起こるかわから
個人でも、今まで発展段階は真面目に働いていれば、給料
ないわけです。色々なことが起こった中で、そのファンドは年
がどんどん増えていってくれた。終身雇用だし、年功序列だし、
率 12.8%の成績を出している。なおかつ、おもしろいのは、そ
55 歳の定年になっても、会社が第2、第3の就職を世話してく
の間アメリカの平均株価の SP500 は、同じようなトレンドを作
れたから、64∼65 歳まで定収入があった。その間に子どもも
って、11.3%なんですよ。
独立し、家のローンも払い終わる。あと老夫婦の生活だけだ
株式投資も長い間に色々と起こるんですけど、長い目で見
から、支えは貯蓄で十分だったわけですよ。
たら大体どこの国の投資も平均9∼11%ぐらいで回っている。
そういう人生設計ができるような時代はどこかに行ってしま
でも 10 兆円を超えるファンドは、12.8%で回している。そういう
った。終身雇用はない、年功序列も全然ない。そうなると、給
のは今まで日本になかった。だから知らないだけなんです。
料は増えないし、やはり運用で自分のお金は自分で増やさな
どういうことかというと、今まで日本は世界史に例がないほ
いと。だから成熟段階になったら、どうしても運用に目が行く
ど右肩上がりで成長し、42 年にわたって成長し続け、それで
んです。
最後バブルが弾けてしまったんですが、もうしばらくしたらだ
もうひとつ大事なことは、こういう状況の中での貯蓄率の劇
んだん落ち着いてきます。
的低下です。1975 年に 23%の貯蓄率だったのが、バブル崩
我々が考えなくてはいけないのは、どこの国もものすごい
壊前は 15%。それが 2004 年で 4.2%、2005 年で 2.8%なんで
発展段階の後は、必ず成熟段階に入っていく。たまたま日本
すよ。日本は今や、アメリカに次いで貯蓄率の低い国になっ
は、42 年にわたってものすごく成長したから傲慢になってしま
てしまった。これも恐ろしい現実です。OECD の平均が 8.6%。
った。それで、はね上がってひっくり返っただけの話なんで
それよりもずっと低いんです。
す。
この低下現象から考えたとき、貯蓄をするどころか、貯蓄を
運用の話をすると、日本証券経済研究所という財団法人が
食いつぶし、生活水準さえ落とさなければいけないような状況。
出している数字で、日本株式市場のリターンは年率、1952 年
貯蓄率というのは家計所得から税金などを引いて、残ったお
から 89 年年末までで 20.2%。それから 2005 年までやると
金で生活しますわね。その中で車やテレビ、エアコンを買った
13.4%で回っている。あるいは、定期預金してると 4.6%ぐらい。
り、家のローン払ったり。消費した後にいくら残っているかの
昔は金利が高かった。それから債券買ってると 6.1%ぐらい。
比率なんです。昔は、毎年 10 何%から 20%ぐらい残ったんで
長い目で見て、株式投資は債券投資よりも安全で、かつ利
すよ。だから高齢者中心に貯蓄残高が多いわけです。
回りが高いんです。将来のことは誰にもわかりませんが、日
今、なぜ貯蓄率は下がり続けているのかを、考えてみます。
本の証券経済研究所や欧米でも、こういう過去の検証がなさ
まず、家計所得は3つあって、1つは給与収入。これは、発展
れているんです。
経済においてはどんどん上がり、成熟経済の現状では、頭打
問題は、日本全体が運用を必要としなかった。今の中国が
ちか下がっていく方向です。
そうでしょ。チマチマ運用するより、工場を建てて、機械を回し
2つ目は年金の受取額。これは先ほど石津さんの話にあっ
たほうがよっぽど儲かる。資金効率高いですよ。同じ分のお
たように、これから増えることはほとんど期待できない。そうす
金があったら、工場建てたほうがよっぽど賢い。だからそれで
ると、年金受取額も下がる。
みんなが拡大再生産にのめり込むわけですよ。成熟段階とい
3つ目は預貯金の利息収入。これも昔は企業が拡大の一
9
第 8 回 ヒトをひきつける WILL と SKILL @東京財団
本槍の経営で、土地でも人でも抱え込む経営をしたから高い
です。
わけですよ。ところが成熟段階になってくると、土地も人も抱
運用というのは、余った分を全部再投資することが大事な
え込まなくなるから、資金需要は低くなる。当然の預貯金の利
んです。可能な限り再投資します。これを今までみんな捨てて
息も低くなる。そうすると、家計所得が3つとも下がるわけで
きた。もったいない話です。
す。
もしやってたら、今頃とんでもないことになっていた。そうい
一方で、税金はどんどん高くなっていく。となると、貯蓄率
う意味で日本全体が運用を知らないということ。保険会社など
はさらに下がっていき、それが続くとどうなるか。当然、貯蓄
機関投資家がいい悪い関係なしに、今まで運用を知らなかっ
の食いつぶしか、あるいは生活水準を下げなくてはいけない。
た。それが突然、運用する必要がでたとき、日本に運用の専
現実的に去年の5月に出た日銀の統計で、貯蓄ゼロの世帯
門家がいないわけですよ。だから最初に言ったように、世界
が 23.8%ですよ。
の運用野郎たちを日本に呼び込んでやるというんです。
質問 4
質問 5
金融の専門家が言うには、例えば一部上場企業な
全都道府県に手数料無料の投信を作りたいとのこ
どの銘柄を選んで長期保有すれば、インフレで間違いなく上
とですが、実際、地域のあまり金融とかに詳しくない方の預金
がっていくから絶対損はしないと。先ほど 20.何%とおっしゃっ
を掘り起こすには、窓口とか、保険のお姉さんとか、アフラック
ていたのは、途中で配当分も入っているのか、それともインフ
の代理店みたいな窓口が必要なのかなとか思うんですけど、
レを差し引いても貯蓄と比べてそれだけの差があるのか。
販路みたいのをどういうふうにイメージされているのか。
澤上
澤上
付け加えさせていただくと、運用も生活も、何もかも
さっき言ったように、ガツガツと販売はやったらあか
インフレ込みなんです。すべてが名目値なんです。例えば、今
んです。やはり運用をわかってもらうには、売ったらあかん。
自動販売機で 120 円でしょ。昔は 100 円だった。100 円入れて、
運用商品というのは、結果で売れていく。別の言い方をすると、
待っていても絶対出ませんわ。あと 20 円入れなきゃ駄目。
世界の運用商品というのは、「小さく生まれて、大きく育ってし
つまり我々の生活は全部名目値なんです。名目値の中に
まう」、というのが一番適切な表現。
インフレも込みで表示されています。そうすると、考えなくては
なんで小さく生まれたか。誰も信用しないから。我々のとこ
いけないのは、成熟経済では長期でならしてみると、3%ぐら
ろはちょっと実績が上がってきたから 2,500 億円になった。あ
いの物価上昇を考えたほうがいい。
りがとう投信なら、13%で回ってすごいのだけど、まだそれほ
そうすると、我々が運用の際にやっているのは、3%物価
ど知られてないから、54∼55 億円(2007 年3月現在)。
上昇に2%とか、3%乗っけた5%とか、6%ぐらいはほしい、
もう少しのガマンで、どんなにしんどくても運用商品というの
ということなんです、気持ち的に。これ、全部名目値です。だ
は売っちゃいかん。でも 13%で回っていればそのうちわかる
から運用って、これ全部名目です。現実の生活は全部名目で
こと。
すから。
質問 5
そうすると今、生命保険の予定利率が 1.3%とかいうのもお
かしな話なんです。全然足りないんです。あるいは、もっと笑
ちょっとむずかしすぎてわからないですけど(笑)。
そんなんで広がるんですかね。
えてくるのは、本格的な株式投資をやっていたら、すごいリタ
ーンがあったのに、日本の年金運用は債券中心にやったわ
澤上
けですよ。債券投資では平均 6.8%で回っていたのが、日本
してない。買いたかったら、ホームページで名前と住所入れて、
の年金というのは、5.5%回ればいいとされていた。
資料請求する以外に何もない。
うちのところがそうでしょ。営業もしない。販売も何も
そうすると、6.8 マイナス 5.5 で 1.3%ぐらい余ったんです。こ
自分でそのぐらいの努力をしてもらう。普通、あれやこれや
の分を運用していたら、年金だってもっと安心できたかもしれ
の売り込みで、上げ膳、据え膳でサービスしてくれるけど、そ
ない。でも、全部保養施設にしてしまったわけです。5.5%を達
んなのうちはしない。そのサービス分の余分なお金は全部お
成したらいいだろう、というのが運用を知らん国の典型例なん
客さんが払わないかん。
10
第 8 回 ヒトをひきつける WILL と SKILL @東京財団
こちらは、運用会社である以上、運用成績を出すことが問
われる。そのためには、運用能力の向上に 120%のエネルギ
澤上
ーを使う。とにかく勉強せなあかんわけよ。
産作りですよね。運用というのは死ぬまでやらないかん。長
営業したら、一時お金が集まるかもしれんけど、結果は出
それは、視点を変えると簡単。要するに、目的は財
生きリスクがあるわけですから。若い人だと、これから 50、60
ないよ。運用は結果のビジネスだから、結果を出すために尽
年生きるわけだからね。その間運用せないかん。
力する。ちょっと時間はかかるけど、それがビジネスの王道。
その間に、世の中何が起こるかわからんのですよ。金利も
まして、地域で、大阪の女性たちが結果の出る運用をやっ
上がったり、下がったり、為替も変動する。そういう中でも生き
たら、みんな喜ぶよ。地元だもの。
ていくわけですよ。
一番大事なのは、あなたにしても、誰にしても、自分はどこ
質問 6
今、投信やなんか人気があって、非常にどれもい
で生きて、どこで死んでいくか。もし日本でずっと生きて、日本
い利回りを上げてますよね。澤上さんの略歴にピクテ銀行と
で死んでいくんだったら、やらないかんのは、円資産の最大
書いてあるから、そのピクテさんと同じなのかどうなのか。そ
化。日本がどれだけインフレになろうが、税金上がろうが、払
れとも名前だけピクテということですか。
えりゃいい。その円資産の最大化という座標軸を崩さない流
れの中で、ものを考えなきゃいかん。
澤上
そのときに、変動要因をできるだけ削ぎ落とす。その最たる
私はピクテの日本代表を 17 年半やって、だからゼロ
からある程度まで作り上げたのは自分なんですよ。
ものが為替の変動リスクなんです。あるいは金利上昇もある。
まあ、金利上昇やインフレはきちんと運用してれば、結果的に
質問 6
その流れに乗れる。為替だけは別の次元。だからそれを考え
投信会社の中にピクテもありますよね。それは
澤上先生が運用されているんですか。
ないかん。
このように色々あるわけだから、一番大事なのは根っこを
澤上
理解して、根っこは「円資産の最大化のためにはどうしたらい
違います。あまり詳しくは言えないですけど、私がピ
クテを辞めたのは、プライベート・バンキングもやったし、機関
いか」ということ。
投資家ビジネスも立ち上げたし、もうそろそろ投信をやりたい。
チマチマと海外のをやっていても、たかが知れている。狙っ
それも、一般のサラリーマンの財産作りをお手伝いするような
ても、せいぜい4%ぐらいあるだけの話でしょ。投信をやれば
投信をやりたいと言ったら、ピクテの方針に合わない。やるな
世の中には 13%で回ってるものもある。為替リスクも関係な
ら富裕層や高齢層対象の投信、それも販売会社に売ってもら
いし悪くない。
う、と言われた。
質問 8
こちらはそういうのをやる気はなかったので、それでも 6 年
以前、お話を伺った時は確か 1,000 億円ぐらいで、
間ぐらいは会社と交渉して、それ以上待てなかったから辞め
これから行きますよと仰っていたとおり、2,500 億を超えている
て、自分のファンドを作ったんです。だから今の経営陣がやっ
ということで、さすがだなと思いました。
その時、スイスのプライベートバンクのお話をお伺いしに上
ている投信で、私ではありません。
がったんですが、澤上さん側にも哲学があるけど、お客さん
質問 7
側にも哲学を求める、ところが日本の金持ちには哲学がない。
現在、日本では大変金利が低いが外国では非常
に高いですね。過去の日本では、投資というよりも定期預金
そして大事なのは、政府、公に頼るのではなく、自分で具体的
で、大体 10 年経たないで倍になりました。今は定期でも1割
に何をするか、といおうお話を伺いました。せっかくの機会で
にもならないという状態で、確かに非常に大金が投信に回っ
すので若い方に経済における哲学、世の中における哲学とい
ている。日本で金利が上がった時、特に今アメリカは金利を
うものを教えてくださいますか。
上げないで、逆に下げるんじゃないかという予想がある。
澤上
こういう時に投資家はどういう方針でやっているのか。簡単
には言えないのかもしれないんですが。
まず、私がなぜプライベート・バンキングを止めたか
を話します。一言で言えば、日本の金持ちの人たちに飽きた
11
第 8 回 ヒトをひきつける WILL と SKILL @東京財団
から。彼らはつまらない。でも欧米で私がつき合っていた人た
ら。
ちには、ものすごくかっこいい、「大」を付けたくなるようなお金
いくら土地を抱え込んだって、東京の一部の地価は上がる
持ちがいっぱいいるわけです。
かもしれんけど、日本全体では無理。人間も頭数減っていくし、
もちろん、これは自分自身の狭い経験の中だけの話です
日本経済のグローバル化で製品や農作物という形で海外の
が、日本人にはつまんない金持ちが多かった。だったら、そう
土地はどんどん輸入される。やはり、これからは運用のリスク
いう人とはつき合うのを止めちゃえと。逆に、日本でも「大」を
を取りたくなかったら、どうにもならない。時間の問題で、持っ
つけたくなるようなお金持ちを作っちまえばいいじゃんと。それ
ているものを食いつぶすだけ。資産家といって威張っている
を今やっているわけです。
人たち、好きにやったらええ、つき合っちゃおれんわと。
うちのお客さんも、当然最初は小さいかもしれんけど、一所
だけど運用をベースとした金持ちの場合、よく考えると、儲
懸命節約し、どんどん積み足していって、運用益も積み上が
けだけじゃないんですよ。株などを買うということは、経済の
っていけば、どこかでけっこう大きくなる。
現場に売りたい人がいっぱいいる中で、お金を放り込んであ
大事なことは、日本のこれまでの金持ちと、これからの金
げることによって、その人たちが売れるようにすることなんで
持ちは違うということ。どう違うかと言うと、今まで日本経済が
す。売って現金を手にする。手にした現金で次の行動へ入れ
右肩上がりで成長し、成熟過程になっていく中で、要領よく生
る。長期運用というのは経済を下支えする役割を果たすんで
きた人と、ちょっと要領が悪かった人がいる。
す。
暗記、暗記でいい大学へ行って、いい会社へ入って、ゴマ
これは、きれいごとの世界だとか、チマチマした儲けを追い
すっている内にいつの間にか専務になって、社長になって、
求めるだけじゃないんですよ。
高額の退職金もらって、いい生活できた。逆に、ちょっと遊ん
誰かが買わなきゃ売れないでしょうと。売れなかったら、い
でいて、なんか知らんけど、いい学校も行けんで町工場入っ
つまでもデフレがひどくなるし、経済が縮小する。買ってあげ
たけどそれなりに生活できたケース。これだけの違い。あるい
ることによって、売り手は次の行動へ入れるんですね。こうや
は土地持ちのところに生まれ、のんびりやってるうちに、いつ
って経済を下支えし、その結果として投資資産は積み上が
の間にか資産家になってしまった。
る。
全部に共通しているのは、一部の事業家以外は、殆どがな
お金というのは天下の回りもの。お金を回すことによって世
んだかんだいいながら、右肩上がりのものすごい成長に乗っ
の中の役に立って、経済の役に立って、その結果として富を
かっただけの金持ちなんですよ。
蓄積していく。そのようなお金持ちにもっと出てきてほしい。
これからは乗っかるものがなくなっていく。乗っかるだけで
それをわからん人たちには、なんぼ言ってもわからんから、
ジーッと抱え込んでいれば、資産が増えて行ったんですよ。
つき合っちゃおれん。さっき質問があったけど、うちは金持ち
抱え込むことしか知らない人たちにプライベート・バンキング
相手にはやっちゃいない。つまんないお金とつき合ったって仕
の運用で増やすということはわからん。お金を手放すことが
方ない。金持ちといっても資産のかなりが帳簿上の資産。土
わからん。リスクの取り方もわからんし、手放すこと自体恐い
地やらなんや言ったところで、実際社会に向けて動かせる資
わけ。
産はそれほどない。そんなのつき合ってもしゃあない。
ところがこれからは、資産を作るのにはどうしたらいいか言
今はそれほどお金がなくたって、頑張って長期運用をして
ったら、株などを安い時に買って、高い時に売るだけのこと。
いたら、お金は増える。そういう中で新しいお金持ちを作ろうと
これが運用なの。これをしなかったら、お金は増えようがない。
しているわけです。そうやってお金が増えてきたときに、お金
これからはこういう運用をベースとした資産形成ができるわけ
を手放しては回収するという繰り返しで、増えたお金を社会の
ですね。
ためにどんどん使う。そうすると学校やら、何やらができるわ
よく、下流社会といわれるけど、悪いけど、あんたらも時間
けですね。だから先ずはお金を手放すことに慣れることが大
の問題よ、と上流風を吹かせている人たちにも言いたい。こ
事なんです。
れから先、いままでの価値観、方法論では通用しないし、新
質問 9
たなる富の蓄積はない。方法論が変わってきているのだか
12
以前も、お金を手放すことで地域も人も育つんだと
第 8 回 ヒトをひきつける WILL と SKILL @東京財団
いうことを仰っていたと思うのですが、是川銀蔵という方、どう
信頼関係が築けていないから。今日初めてお会いしたら、や
も日本の経済史では違う形で紹介されているんですが、彼は
はり第三者に査定してもらったり監査してもらう。
非常に社会を育てた人。そういう意味で経済は血液ですので、
育てることの意味を捕捉して頂ければと思うんですが。
ところが市場には、それを遙かに超えた信頼の世界もある
んです。なんでかと言うたら、いちいち監査やったり契約書を
交わしていたら時間かかる。長い付き合いで信頼関係ができ
澤上
低いところで買って、高いところで売る。その差額が、
リターンなわけだけど、この間の時間がものすごくある。
たら安心だし、絶対嘘いわんから電話1本で「OK、やろか」と
なるのよ。瞬時に決める。そのほうがスピード上がるし、チャ
自分が蒔いた種が大きくなって、経済を拡大発展させリタ
ンスをつかめますね。
ーンにつながる。これは経済全体を育てることになる。実りだ
もちろん、リターンははるかに大きいんですよ。そうすると
けを刈り取って、いいとこどりしようとするんじゃないんです。
法律でガチガチと固めたり、契約なんかで時間をかけるなん
やはり経済を下支えして、結果として、自分のお金も育って
てアホらしくてやっちゃおれんわと。もっと上のレベルもあるん
いく。だから作物を育てるように、あるいは花を大きくするよう
です、実は。
に、そういう意識が大事なんです。
同時に、下の下ではものすごく低いレベルもあるわけです。
そうすることで運用を超えて、俺たち長期投資家が主役に
ご自分が嘘っぽい人間なら、その辺でやればいいんですよ。
なって経済をいくらでも大きくできる。自分のお金だけでなく経
嘘は苦手。真面目にやりたい。でもちょっと自信ないというな
済をも育てることができるわけです。
ら、一般的な法律や契約ベースでやればいい。
これは全部1つの流れなんです。それを一から一緒にやり
もっと大らかに、もっと信頼して行きたいと。その代わりつき
ながら覚えてもらうということです。
合いは限定するぞと。自分はやはりこの辺をやりたい。
繰り返しになるけど、大事なのは、市場や経済のどのレベ
質問 10
ルで自分は参加するかの意識をもつことです。
投信ファンドというと、どうしてもアメリカで潰れた
大きな投信会社や村上ファンドというように、なんとなくイメー
これこそが本当の意味での自己責任。自分で考えなさいと
ジが良くない。澤上さんはどうお考えになっておられるか。
いうこと。真面目な人間が、訳のわからん儲け話に引っかか
って泣いたってしゃあない。自己責任という言葉はあんまり好
澤上
今日のテーマからはずれてくるけど、これは大事な
きじゃないから、市場のどのレベルで参加するか自分で考え
話。これまでの日本の経済は、国やら、大蔵省ががんじがら
なさい。これがこれからの経済、市場での生き方なんです。い
めの規制と厳しい管理をしていた。彼らが全体の方向づけを
ままでは国やら、大蔵省ががんじがらめにやってくれた。もう
してくれたので、何も考えないで安心してやってこられた。
そういう時代ではない。
しかし今や、国が何もかもやる段階ではない。大蔵省も財
金融や市場がらみの詐欺は、これからもっともっと出ます
務省と金融庁に分かれて、どんどん市場経済の方向へシフト
からね。これは仕方がない。だって日本は運用を知らん国で、
していっている。
780 兆円という巨額の資金プールが、預貯金と現金であるん
理解してほしいのは、市場いうのは永久にピンキリの世界
ですよ。このお金がいま動こうとしている。「運用だ」、「貯蓄か
だということ。ピンキリというのは、上はほんとにすごい人たち
ら投資だ」、とか言って。
の信頼の世界がある一方で、下は初めからごまかしてやろう、
アメリカの預貯金は 500 兆円ないんですよ。3億も人間いる
詐欺をしてやろう、取ってやろうというひどい世界まで大きく広
のに。日本ははるかにでかい金額が寝ているんです。それが
がっている。
動こうとしているでしょ。こんなの、世界のそういう連中から見
市場って何でもありなんですよ。これから市場経済を生きて
たら、赤子の手をひねるより楽なはずです。
いく上において、何でもありありの世界で、自分はどのレベル
だから我々1人ひとりが考えないかんのは、自分はどういう
で市場に参加するか、どのレベルで経済に参加するか。そう
レベルで市場に参加するか。好きだったら適当にやったらえ
いう自分の参加のレベルを常に意識する必要があります。
え。その代わりやられることも覚悟して。でもその上の世界に
法律やなんかで固めたり、契約が必要だったりするのは、
もっともっと信じられんほど正直で、誠実で、嘘もごまかしもな
13
第 8 回 ヒトをひきつける WILL と SKILL @東京財団
い世界もあるのを覚えておいてください。
分たちの身近なところに投信会社があって、自分のニーズに
我々はそれをやろうとしているわけです。そうでなかったら、
合うなと思わはったら、そこに小金から少しずつ積み立ててみ
地元の人たちは安心してくれない。だから営業もしないし、販
て、慣れてみて、ああ、良かったと思えば、また少し入れても
売もしない。だから初めは赤字なんよ。
らう。そういうファンドであればいいと思ってるんです。時間か
うちのところも初めの7年半は赤字だった。それはしゃあな
かりますけど、そこまで頑張らなあかんなと思うてます。
い。だって誰も信用しないし、先行投資をどんどんやれば、お
金出ていくでしょ。自分で借金して増資、借金して増資の繰り
澤上
返し。
まで来れば採算に乗ります。
この仕組みだと、ファンドの純資産額が 100 億ぐらい
他人の資本を入れるのは簡単。入れちゃったら、その代わ
2 つ目の質問で、自分がいなくなったらという心配はいらな
りいろいろ言われる。だから赤字、赤字でどれだけ自分の借
い。自分がいなくても大丈夫な体制が、もう出来上がっていま
金が膨らんでもしゃあない。やらなしゃあない。その代わり、
す。今日は会場に社員が来ているから、ちょっとその辺りのと
絶対自分の目線、レベルは下げない。
ころ、話してみて。
もうひとつ、市場参加するときに、上の方へ行けば行くほど、
正直で信頼の世界だから、1回ごまかしたりして下がったら、
仲木
もう絶対上がれません。頑張って上がることもできるけど、1
していますが。
社員の仲木といいます。いきなり当てられてびっくり
回でも嘘を言ったら絶対戻れません。信頼の世界の人間には
「おらが町の投信」はどれもファンド・オブ・ファンズとなりま
そんなのでは危なくてつき合えないじゃない。そういうふうに
す。世界の運用野郎たちあの中から、選りすぐりのファンドを
考えてください。
見つけてきますので、そのファンドを澤上代表が運用するわ
けじゃないんですね。運用している運用会社そのものを海外
質問 11
からこっちに呼んできますから、彼ら各々が独立しているわけ
石津さんには、 おらが町の身の丈ファンド の身
の丈のレベルというのは、どのくらいでビジネスとして成立し
です。しかも長期投資という同じ哲学の下に。
得ると考えていらっしゃるか。出資者数、投資規模などお聞か
要は、先ほどの代表の話にあったように、信用と信頼の世
せいただきたい。
界で契約をしてしまう。実際、契約書は交わさないですから。
また、澤上さんのようなすばらしい能力者がいれば、地域
ほんとの信用の世界なんです。運用野郎たちにすごくいいお
活性化は成立し得ると思うんですけども、仮に澤上さんのよう
客さんたちいるから、あんたら長期投資の腕試ししてみって。
な方がいらっしゃらなくなった場合、受け皿としての投信がなく
よっしゃ、やらしてくれっていう、ほんと小気味の良いほど信頼
なってしまえば、東京一極集中に戻るんじゃないかという懸念
の世界。
がある。それならセカンド・ステップという地域の物件に地域
澤上代表に何かあったとしても、ここの信用の世界でビジ
市民が出資するというほうを先に築き上げたほうがいいので
ネスをやっていきますから、ずっと継続していくということです
はないかと単純に思ったんですけども。
ね。そう確信しています。
石津
澤上
澤上さんがおっしゃっているように、販売はしません
というようにご安心ください、社員みんなでやってい
し、実際にどれぐらいでトントンに行くかという収支を計算した
ますから。実際、おらが町とかの投資業務の認可申請から何
りしたらあかんとも言われてまして(笑)。
から何まで、今の仲木がやっています。「お前、頼む、まかし
自分がこれまで考えてきたこと、伝えたいこと、長期投資の
た」って。自分がいなくなったら駄目になる。それはあり得ない。
すばらしさといったものだけを真面目に伝えて行きなさいと言
そういう無責任はできない。
われていますし、私もそれが自分の使命だと思っています。
質問 12
地域にピカピカのファンドが入っていくわけですから、約束
はできませんが、そこそこの成果は上がるだろうと思います。
色んな金融のお話をうかがっていてわからないか
ら、澤上さんを信用するしかないと。それこそ信用かなと。お
こちらから入ってくださいというセミナーをする気もない。自
人柄と、もちろん結果も。
14
第 8 回 ヒトをひきつける WILL と SKILL @東京財団
石津
結局この形でやると、困ってる商店街とか、NPO とか、この
手応えというご質問ですが、別に私はファンドの話
ツールを使えばいいんじゃないのと思うわけです。ただ、今の
は一切地元でもやってないんです。ましてや、自分が投信を
お話でとても体力がいるということがわかったので、どこまで
立ち上げたという話も一切してない。色んな年金に絡むセミナ
応用できるかなと。
ー、生活設計セミナー、そういうのは各地でやっています。
いずれ地域活性化ということになるまでに、かなり長期スパ
その中で、皆さんが共通して持ってはるのは、将来に対す
ンで考えなければならないのであれば、その間に NPO やら商
るものすごい不安。どうしたらいいのか、皆さん知りたいんで
店街がバタバタ倒れて行っちゃうかなという気がしていますの
すよ。だから学ぶ意欲もすごくあるし、皆さん、お金をちょっと
で、そのあたりのお知恵を頂きたい。
ずつ出そうかなという状況にもあるわけです。
あと、石津さんが今やられていて感じる手応えをお聞きした
そこでほんとに信頼できるような金融商品と出会えて、しか
い。そして、商店街や NPO の人と一緒にやっていて、営業し
も自分のニーズとぴったり合うような商品だったら、たぶん一
ないのはもったいないなという気がします。その辺、澤上さん
生つき合えると思う。
に、もうひと工夫する方法があるかどうか教えていただきた
ましてや地方だと、好景気という実感もほとんどなく、大阪
い。
なんて、地元で生まれた企業のほんとの中核部分が全部東
京へ行って、もぬけの殻。そういう状況が長年続いています
澤上
皆さんもそれぞれ現場を持って、地域経済活性化に
から、自信も失っている。でも私たちみんな、着たいものは着
取り組んだり、社会、企業の中で色々と活動されていると思う
たいし食べるもんも食べますし、やはり何とかしてずっとこの
のですが、一所懸命やるわりにそれほど大きなお金が動かな
生活を続けていきたいと思ってるし、不安を取り消したいと思
いでしょ。それが現実なんです。
ってるわけです。
なぜなら、最初から何度も言っているように、日本全体がず
そういうところで真面目にファンドのすばらしさを伝えて生き
っとお金を抱え込んで来たわけです。まじめに預貯金に励み、
たい。時間かかると思いますが、焦らんと地道に王道を行こう
お金を手放すことにはまったく慣れていない。そういう中で、
と私は思っています。
地域経済への思いはあれど、金は動かずという状況なんでし
手応えというかわかりませんが、不安を抱えている人がど
ょう。
んどんセミナーや相談にもいらっしゃいますから、それが手応
だから、回りくどいかも知れんけど、お金を動かせるように、
えなのかもしれません。
まず出し癖をつけさすのが自分の元々の考え方。出し癖をつ
けたら、勝手にお金は動きはじめます。ある程度お金が増え
質問 13
出してくると、人間意外と気持ちが楽になる。
も疑問を持つわけです。お金を貸すときには利子を取るのだ
だから「おらが町」が、1つ、2つ認可が下りて動き出したら、
アメリカ人の友人が日本の銀行を見ていて、いつ
から、お金を預けた場合にもすごい利子は高いですね、アメリ
カは。どうして日本はゼロ金利とかやるんだと。
2年ぐらいで意外に大きなお金が動いてくると思う。思いだけ
それから、銀行が潰れそうになるとき、大銀行は補填だと
では動かないけど、やはりお金の出し癖をつけると、意外に
かなんとか言って、どうして潰さないで税金を投入するのか。
動くんですよ。
それからもう1つ大事なのは、地方ではびっくりするほど大
農業もそうですが、日本の銀行は、いろいろな面で保護され
きな預貯金が寝てる。たとえば、沖縄なんかでも、130 万人の
てきたので、それぞれの意思と判断でお金をうまく運用するこ
県民で、5兆円ぐらいの預貯金が寝ている。鹿児島が 160 万
とが下手。たくさん金利をとって、そしてじっとしていて、結局
人で6兆円を超える。ずいぶんと大きい。それがまったく動か
儲けもしないで何もしないで、土地持ちと同じような状況が日
ないのと、ほんのちょっとだけでも動くのとでは全然違うんで
本の銀行の問題点だと思う。
また、商工会議所というのは、中小企業のための団体なの
す。
に、また今回もどうしてか東芝の前会長がなっていますよね。
皆さんそれぞれの方法で頑張りながら、お互いに良い意味
結局ほんとの意味で中小企業を育てようとかなんじゃなくて、
で競争しましょう。俺らは俺らの方法でやるから。
大企業のやりやすいようにやっているだけ。どこまで中小企
15
第 8 回 ヒトをひきつける WILL と SKILL @東京財団
業を助けるような団体なんでしょう。
べて順ざやが間接金融で、直接金融になればなるほど逆ざ
1つ疑問な点は、僕は海外の NGO 活動をやってきたもので
やもなにもあり得る。そこに工夫やら、あるいはコスト削減や
すから、世界は結局資本がないから、みな遊んでるわけです
ら、いろいろなこと出てくるんです。
よね。日本国内で賢くやることも必要ですが、資本をどのよう
ところがこれ、銀行なんかの間接金融では、順ざやだから、
に運用したら世界全体がほんとにうまくいくか。グラミン銀行
みな食えるから、給料は高いし、でかいビルも持てるしってや
だって1つの試みだと思うんですが、そういう意味で、世界的
ってたわけ。でもそういう時代はもう終わった。これからは直
な視野でのお考えをお伺いしたい。
接金融へのシフトがどんどん進みます。
ちなみに、アメリカを見ると、経済全体の資金循環の中で、
澤上
結論だけ申しますと、発展段階の経済においては、
間接金融は振込から何から全部ありますね。そういった決済
間接金融というのはもっとも有効な方法論なんです。一銭の
部分は全体の4割。一方で直接金融は6割なんです。これが
無駄もなく、郵便局や銀行や保険会社の窓口を経由してお金
運用部分となったら、1:9とかで間接金融の果たす役割は限
が集まり、そのお金が産業資金に回って、その産業資金が企
りなくゼロに近い。
業強化だとか、経済を大きくしたり、国民の生活を豊かにす
これまでの日本は、間接金融主体の発展段階の経済運営
る。
なんですよ。それはもう我々の成熟経済にそぐわない。時代
このように間接金融が完璧に機能したのが、日本の成功な
適合性を失っている。だから金融機関も変わらざるを得ない
んですね。明治以来ずっとそれをやってきた。
のだけど、古い体質がしみついてしまってなかなか変えられ
経済がある程度成長し、成熟化してくれば、間接金融一本
ない。
槍だと危険なんですよ。国が豊かになってきたら、お金の流
明治以来、日本の経済政策には優先順位があった。第1
れを間接金融一本槍から、直接金融を含めてうんと広げてや
が産業強化、企業育成。第2が経済全体を大きくする。3番目
らなくてはいけない。間接金融もあり、直接金融もあるという
に国民の生活を豊かにする。
風に。
だから銀行の不良債権問題が終わらない限り、日本経済
これを 80 年代の前半にやっておくべきだったが、日本はや
の再生がないという論理で、ゼロ金利やらいろいろやって、家
らんかった。バブルも通り過ぎちゃった。そういう流れの中で、
計の利子所得は 300 兆円以上も奪ってきた。これが日本の政
今、直接金融にシフトしようとしてるけども、日本全体が間接
策なんです。相も変わらずの間接金融重視政策を変えようと
金融一本槍でやってきたから、みんな準備ができていないの
しない。しかも、権限は国が持っているし。
です。
どうして変わらないのか、変えたくない人がいっぱいいるか
間接金融と直接金融の一番大きな違いは何か。間接金融
ら。既得権を享受している人も含めて。では、我々生活者は
はお金の出し手と取り手の間に金融機関が入る。1で集めた
どうしたらいいかというと、自分のお金を増やしたらいい。そ
お金を4で貸したら3が抜ける。2で集めたお金を5で貸せば、
れだけの話。
また3が抜ける。それぞれの棲み分けが立つように、きちんと
そういうことなら、ともかくも自分のお金を増やしてやろう。
国やら、大蔵省が整然とお金が流れるようにしてきた。棲み
自分の意志と判断で、地元経済も自分たちのお金で活性化し
分けできるように規制監督するのが間接金融なんです。また、
ちゃえばいい。だって預貯金を解約するのは個人それぞれの
「銀行は一行たりとも潰させない」と言い切るほどの金融保護
自由ですからね。グチャグチャ言わずに解約しちゃえばいい。
行政で、銀行や保険会社を甘えさせて育ててきた。金融機関
なんで銀行救うために預金利子をゼロにするのか。それが
が潰れたらお金集まらないでしょ。だから、補填が必要なんで
いやだったら預金を解約して、そのお金で株を買って運用す
すよ。
ればいいんです。
ところが直接金融になってくると、間に金融機関を挟まずに、
お金の出し手と取り手が握手すればいいんです。その間に直
質問 14
接金融のプレーヤーたちが入ってきますが、そこでは競争が
形で、LLP を作り、商店の営業支援をやっています。
激しいから場合によっては、逆ざやになってもしゃあない。す
私ども、地方の商店の活性化を、従来とは違った
間接金融ではなく、事業者そのものが自分たちに投資して
16
第 8 回 ヒトをひきつける WILL と SKILL @東京財団
いくという形で、商店の活性化につながる様々なサービスを
ばいい。そう思ってます。
提供したりしています。
質問 15
また、 おらが店のこだわりチラシ ということで、集客のた
お金が手に入ったら、高いけど地球に優しいもの、
めのソフトを作っており、こういうものをもっと効果的に使って
地域に優しいものに手を出すようになるというお話、非常にい
いただくために、商工会議所と協働で販売促進のセミナーな
いなと思ったんですが、結局そのお金はどのようにして生ま
どをやっています。
れたかというと、投資先で運用された結果であると。使い方は
それで、団塊世代の人たちがこれからどうするのか、私は
いいとして、どういう増え方になっているのか。その先でどうい
団塊より上なんですけど、非常に関心があります。私ができる
う人たちがいて、どういうコンセプトで増やされているのか。
ことは、団塊世代の企業でのノウハウを商店街の活性化にう
まく利用すること。LLP を通じてそういう仲立ちをやっていきた
澤上
いと思っております。
のいいとこ取りしようとか、儲かりそうな投資だったら何でもえ
本日のお話で、投信によって長い目で見れば地方にお金
さっき言いましたように、「後は野となれ山となれ式」
えというわけじゃない。儲け方にものすごくこだわる。
を呼び戻し、プチお金持ちがいっぱい出てくるんじゃないかと
投資も、経済も全部そうなんですけど、より大きなお金が流
期待はしてますが、2 号ファンドのお話、5%か、10%は地方
れ込む方向に発展、拡大するんです。ということは、どういうこ
の経済振興に投資をしたいと仰いましたが、具体的にどんな
とか。我々はどういう社会を作っていきたいか。どういう社会
イメージで再投資して、地方の経済を盛り上げようと考えてい
に住みたいか。自分自身だけでなく子どもや孫たちを住ませ
らっしゃいますか。
たいか。
そういう社会を作るために、我々は生きているし、経済活動
澤上
もあるし、投資もあるんです。だからお金の放り込み先、目線
さっきも言いましたように、地元の人たちがどんどん
お金を使えば、そのお金が地元の商店に落ちます。それで十
にものすごくこだわります。
分じゃないかと考えます。わざわざ商店活性化とか言わんで
うちのレポートを見たらわかるけども、買ってないセクターっ
も、お金を使ってあげればいいわけです。
てめちゃあるはずですよ。政策に甘えてるようなところは一切
今はみんな郊外の大型店に行ったりする。安いからとか、
手を出さない。応援しよう、もっと頑張ってほしい、という会社
きれいだからとかいう理由で。だけど運用で余裕ができたら、
の株は積極果敢に買うけど、なんでこんな会社あるのか、早
ちょっと高いけど、地元の商店で買おうかなとか思うじゃない。
く潰れてよと言いたくなるようなのは、いくら儲かりそうでも絶
それが大事なの。
対買わない。
例えば、エネルギーもそう。石油をそのまま燃やすのは地
というように、運用サイドでもはっきり運用対象を絞りこみま
球資源としてももったいないし、環境的にもだめだとしたら、自
す。なんでかと言ったら、いい社会を作るのが目的で、それは
然の循環エネルギーを使ったらいい。でも高い。
運用においても、お金を使うことにおいても、日々の生活にお
ところが、自分で運用したり投信購入でお金が増えてくると、
いても同じなんです。これがなかったら嘘になっちゃう。
敢えて高くても自然エネルギーを使えばいいという人が増え
そのへんはものすごくこだわる。だから美意識を持ってなあ
るかもしれない。だから地元商店も、まず活性化じゃなくて、
かん。こういう青っぽいこと言うと笑う人もいっぱいいるけど、
お金使えば活性化するんです。
笑うのは笑ってくれと。結果出しゃええやろと。我々はやっち
そういう流れの中で、実はまだ詳細は言えないんですけど、
ゃうわいという感じで。超青っぽくやったろうかと考える。だか
西のほうでまさに商店街の連中が投信やろうとしてるんです
ら運用対象、ものすごくこだわってますよ。一度レポート見た
よ。それを主導してるのは、地元の 20 歳なんぼの若い男です。
らわかる。
そういう動きも出てきています。
質問 16
地元でこうしよう、ああしようというのは、それはそれでいい
んですが、なかなか意見がまとまらない。それよりも、地元に
「さわかみファンド」と「浪花おふくろファンド」。こ
れは投資する側からすると、どこが違うんでしょか。
住む大勢の人たちが自分たちのお金を増やし、どんどん使え
17
第 8 回 ヒトをひきつける WILL と SKILL @東京財団
澤上
たりした。塾もやめた子たちいっぱいいるよね。そういうのを
うちは自分のところが運用します。石津さんのところ
は、運用やったことないので、うちのファンドも含めてか、含め
身近に見ることによって、けっこうショックを受けた子も多い。
んでもかまわんけど、本格的に運用するファンドを組み込ん
5年ぐらい前に出てきた現象で、例えば親父が年収 1300 万
で運用する。
円もらっていたのが突然リストラ食らっちゃったわけ。それでも
うちは個別の銘柄とか、世界へ投資して運用します。「浪花
プライドあるから、1300 万円はともかくとして、1,000 万円ぐら
おふくろファンド」は世界の運用野郎たちが本格的に長期運
いなら再就職先があるだろうと探したが、全然だめ。段々下
用するファンドを、8つか、9つ、組み込んでいく運用です。
げて、800 万とか、700 万でもだめ。
でも目的は一緒。やはり、お客さんに安心して頂きたい、信
結局、500 万円ぐらいの給料で2年とか、2年半ぐらいの契
頼して頂きたい。できるだけ安いコストで、できるだけいい財
約で必死こいて働くことになった。食わないかんし、子どもの
産づくりをして頂きたい。でも、ただ儲けるだけじゃつまんない。
養育費もある。その過程で、段々と子どもたちもわかってきた。
せっかくだから、その先にいい世の中、いい社会を一緒に作
お父さんが大変、家が大変だから自分から塾やめるとか、受
っていこうよということでは完全に一緒です。
験も1校だけにするとかなって、家族全体がビシッとしいてる
という現象もけっこうあった。
質問 17
現在、大学生ですが、NPO をやらせてもらってい
て、お金をどう増やすかという本を結構好きで読んでいます
質問 18
が、大概の大学生、高校生は、お金はまだなんとかなるし、ア
ん来ているので、将来どうするとか、とりあえずいい企業で働
ルバイトしたり、株のデイトレやって、お金儲けている友人もい
いて、お金貯めたら国に帰って、投資してという話を外国の方
る。でも、お金についてあまりに知らないなと思うことがあって、
と結構話すんですが、日本人の学生になると、話してても緩
お二人に質問なのですが、石津さんのところに来られる方の
いなというような気がします。
大学には第3世界といわれている国からもたくさ
中に若い方はいますか。早い段階からお金の心配をされてい
澤上
る方がいるのかどうか。
また、澤上さんには、海外と比較して、僕らぐらいの年代で、
お金に対する意識はどれだけ違うのかお聞かせください。
確かに。だから私もいくつかの大学で講義を頼まれ
たけど、2年ぐらいやって辞めちゃった。アホらしくてやっとれ
んと。こんなボケの学生につき合っちゃおれん。感度が鈍す
ぎる。
石津
今、大学生の子どもがいます。色んな大学でファイナ
海外だったら、我々のような現場の人間がセミナー講師で
ンシャル・プランナー講座をやっているのですが、お金の心配
来たら、ものすごい。だって知りたいんだもん。学術世界の中
はあまりせずに育ってきた大学生を対象にしていると、あまり
にいたら、どうしても現場の声を聞きたいよね。そういうチャン
私の話はピンと来ないかもしれないと思います。
スを逃がすわけがなく、質問もめちゃくちゃ用意してくる。
でも彼らはバブルをあまり知らないので、物心ついた頃に
は、親から「大変や、大変や」と言われて育っているから、けっ
質問 19
こう現実主義。大学行ったって、実技や実務が身にならない
が印象に残っています。澤上さんが立ち上げてから7年半も
んだったらやめようかと、専門学校に行ったりとか、仕事と直
赤字だったよとサラッと仰ったのがすごくかっこいいなと思うん
結してるほうを重んじたりしてます。
ですけど、その7年半をどのような思いで過ごされたのかお聞
ですから、お金って稼ぐの大変で、頑張らないとあかんとい
お話の中で 小さく生んで大きく育つ という言葉
きしたい。
うことはわかってる学生が最近増えているとは思っています
澤上
が、どうでしょうか。
最近インキュベーションとかいって、ちょっと企業を甘
やかし過ぎ。やはり企業は苦労したほうがいい。育てるものじ
澤上
ゃなくて、育っちゃうもの、企業というのは。
はっきりわかってるのは、親や周りで一所懸命真面
目に働いてきた人が、ある日突然肩たたきにあったり、早期
そういう中で、企業経営やったらわかるけど、どんなに赤字
退職になったりとか。それを目撃して人生観がガラッと変わっ
で、ひどい決算しても、資金繰りが続いたら企業は潰れない。
18
第 8 回 ヒトをひきつける WILL と SKILL @東京財団
見映えは最悪でも、資金繰りさえ続けば企業は潰れない。
ろうがなんだろうが買います。
うちも認可基準に純資産1億円を下回らないこととあった。
ただ、グリーンシートやなんか、これはちょっと別の話。これ
でも赤字だから下回る。それで、3月、9月と半円毎増資して
はなぜかと言ったら、最近は国や自治体がやたらと企業を育
いった。その都度、個人借金が膨れ上がっていったというわ
てようと言う。けれども、企業なんて甘やかしたら育たない。
け。
当たり前やん。
そのときでも、いつかは結果が出て、大きくなる。なんとか
ましてや若い経営者が、IPO かなんかやって 100 億、200
なるわい。そこまで我慢しなしゃあねえわと。それまで潰れた
億の大金つかんでは頭狂っちまう。だから若い会社というの
ら話にならんと。だからどんだけ借金増やしても、資金繰りさ
は危なくて買っちゃおれん。言い方悪いけど、IPO のお祭り騒
えつきゃええやろと。
ぎなどは完全に無視。ほとぼり冷めて、みんな離れちゃって、
気がついたら、自分の借金 10 億円超えてたというだけの話。
株価も下がってから投資を考えるわけですよ。
でもそれは別にいつか返せばいいわけ。いざという時の保険
この過程でずっと本業に頑張って、本気で仕事やってる経
も入っていたから、誰に迷惑かけるわけじゃない。なんとかな
営者、これは安心できる。浮ついてひっくり返っていなくなるよ
るというのは、世の中には本格的な長期運用を必要としてる
うな経営者。こんなの話にならん。だからじっとわれわれは観
人が一杯いるし、自分たちは真面目にやっている。必ずどこ
察しています。それで上場の時の濡れてで銭を稼げ式のお祭
かで育ってくるだろうなという確信があって、おかげさまで、2
り騒ぎが終わった後、2、3年何をやってたか。それによって、
年半ぐらい前に会社の赤字体質は脱出した。
この会社が頑張ってるなと思ったら応援する。
だから、やりたいからやってるだけの話で、潰れなきゃいい
だろうと。潰れなかったら誰にも迷惑かけないし。うちのお客さ
質問 21
んにも迷惑かけない。借金ぐらい増やせばいいだろという格
べてが中心軸となる理念をお持ちで語られていると思うんで
好。企業経営ってそんなもんですよ。
すけども、それは今までの人生の中で、どの段階で自信を持
最近は、計算尽くでやってる人が多いけど、経営って本来
今色んな質問に全部即答されていましたが、す
って語ることができるようになったのかぜひ教えて頂きたい。
そういうもんですよ。どんな真っ赤な経営でも、資金繰りさえ
澤上
つけば潰れない。
世界の運用は、まさに結果が出てなんぼの世界。例
えば、10 年経つと、最初にいた 10 人のうち生き残っているの
質問 20
は1人か、2人。15 年経ったら1人残るかどうか。それほど脱
「さわかみファンド」は、要するに証券会社みたい
なところを通して株を売り買いするわけですか。
落が激しい。
競争はどんどん激化していく中で、たまたま 36 年間やって
澤上
生き残ってきたから、成績も悪かないんだろうね。でも大事な
運用はそうです。
のは、すべてのゲーム、すべての勝負で勝てるなんて思うな、
質問 20
ということ。それは甘い。やはり世の中には、もっとすごいが
そうしますと、上場企業のみということになりま
すよね。上場してないが応援したい企業、たとえばグリーンシ
人いる。
ートとかってありますでしょ。そういうことも考えたことあるんで
それに、どこで誰がどんな準備しているかわからんのが勝
しょうか。
負の世界。たぶんあの入口から入ってくるだろうという、そん
な予測は立たない。壁を突き破って入ってくるかもしれない。
澤上
天井からドーンと来るかもしれん。それでも勝負は勝負。そこ
機関投資家って、赤字会社とかは買わないけど、う
ちは関係ない。応援したかったら赤字だろうがなんだろうが買
で勝ち残っていかないかん。
います。「潰れんと頑張ってね」と願いながら買いますよ。
そんな世界で勝ち残っていくためには、自分のわからんこ
だから、5年前、4年前の鉄鋼会社とか、みんな頑張ったじ
とは全部捨てちゃうわけ。捨てて、捨てて、そぎ落としていった
ゃない。あの設備や技術や人材は、日本の宝だし、世界の成
ら、これっぽっちしか残らん。これしかなかったら、俺、これで
長に絶対必要。そういう会社を応援せなあかんわと、赤字だ
勝負するしかないじゃん。だから他の甘い幻想とか、訳のわ
19
第 8 回 ヒトをひきつける WILL と SKILL @東京財団
からんのとか、未消化のものって一切やらない。
から1年ぐらいかけてやって、だいたい1年半ぐらいで成果が
今日皆さんにお会いして、皆さんにいい評価をもらおうなん
出せるようにというので動いています。
て思ってない。もう今日で二度と会わなきゃいいんだもん。自
10 年後に 10 分の1とかになってもよくわからないので、1年
分は生き残るけれど、あんたはいなくなるかもしらん。市場っ
半ぐらいでそれはどのぐらい、生きるテクニックを身につける
てそんなもん。わざわざ評価もらわないかんとか、あるいは誉
ことで、自殺する人が減るのか。3分の1ぐらいになるといい
めてもらうとか、全然関係ない。自分がわからんことは1つも
なというふうに思ってるんですけど、もしできたらすごくないで
言ってない。実際にやっていることを言っているだけ。
すかということで、応援してください。よろしくお願いします。
司会
(注:話中の数字等の情報は、開催時時点のものになりま
澤上社長、石津社長、ありがとうございました。皆さ
んも長時間ほんとにお疲れ様でした。
す。)
(了)
意見交流会「ヒトを引きつける WILL と SKILL」は本日が最
終回ということで、これまで全部で 9 回行ってきましたが、講師
として参加くださった方も何人かいらっしゃって頂いています。
その中で第2回に出て頂いた、そのときはオキタリュウイチ
さんという、ポジメディアという会社をやっている方が宣伝をし
たいということで、お耳を拝借させてください。
オキタ
ポジメディアのオキタと申します。よろしくお願いし
ます。現在、日本で年間 35,000 人ぐらいいる自殺者がいるの
ですが、それは 24 時間以内に発見された人だけをカウントし
ているらしいんです。なので、ほんとは7万人から 10 万人ぐら
いいるんじゃないかと。
15 年ぐらい前、ウィーンである方法が開発され、自殺者数
が1年で4分の1ぐらい減ったということがあり、それを日本に
持ってきて、やろうと思って活動を始めたところ、朝日新聞と
かにも取り上げて頂いたりしています。
こういう活動は、結構暗くやるのが多い。ネットで検索する
と「死ぬ方法」というのがバーッと出てくるんですけど、「生きる
方法」って全然出てこない。どうやって生きていったらいいの
かよくわからないので、生きる方法や問題解決した実例を全
部集めて、オープンソースにするというのを今からやろうとし
ています。
とりあえず、わかりやすく、生きるテクニックを書いた小冊子
を作って、ゲリラ的に渋谷駅で配布します。月曜が一番自殺
する人が多いらしいので、来週の月曜もキツネのお面をかぶ
って、30 人ぐらいで配ります。ポジティブなテロリズムというこ
とで、自分たちを ポジテロリスト と言ってるんですけど、これ
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