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戦略的税務のススメ - Deloitte

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戦略的税務のススメ - Deloitte
2013
ISSUE 02
戦略的税務のススメ
ア
メ
リ
カ
合
衆
国
第
30
代
大
統
領
カ
ル
ビ
ン
・
ク
ー
リ
ッ
ジ
必
要
以
上
の
税
を
集
め
る
の
は
合
法
的
強
盗
で
あ
る
ご挨拶
2012年はロンドン五輪でのメダルラッシュや山中伸弥京
大教授のノーベル医学生理学賞受賞が多くの日本人に夢
と希望をもたらしました。
2013年は、日本企業が競争力を発揮し、活力を取り戻す
「再生の年」となることが期待されます。
政治が経済の足もとを揺るがすのではなく、企業の後押
しをする方向に転換すれば、再生は決して不可能ではな
戦略的税務のススメ
いはずです。
本号のテーマは「税務」です。
多くの企業は、「正しく納税する」義務意識を強く持って
いますが、一方で、その適切性について議論したり、考
察することは少ないのではないでしょうか。
政府は法人税の緩和・優遇策を導入し、日本企業の国際競争力の回復、維持に動き始めた。
グローバル化によって、多くの海外拠点を持ち、国際的
な分業体制を構築している企業も増えています。企業グ
ループ全体の機能配置とともに、利益配分(税負担)の
あり方もグローバルに最適化を図る必要があると考えま
す。企業が利益を確保し、競争力を持つことこそが、国
の活力の源となるからです。
本号が、「経営戦略の一環としての税務」のあり方につい
て考え、議論するきっかけとなれば幸いです。
2013年1 月
CFOプログラム
本号の表紙
ジョン・カルビン・クーリッジ・ジュニア John Calvin Coolidge, Jr.
アメリカ合衆国第30代大統領(1923年8月3日∼ 1929年3月4日)。「重税は経済の勢い
を削ぐ」として減税を断行する一方、無駄な財政支出を抑制して国債残高を圧縮し、
財政健全化に努めた。外交面で大きな実績を残した大統領と比べると陰が薄いが、
「経
済の大統領」として足跡を残した。
あだ名はサイレント・カル。無口で無愛想な一面もあったようだが、表紙にある「必
要以上の税を集めるのは合法的強盗である」の他にも「その国の文明の発展は国民が
めいめい立派に仕事を果たせるかどうかにかかっている」などの言葉を残しており、
実直で清廉潔白な人柄がうかがえる。
しかし、日本企業の多くは税務に対しては受け身的な立場で、
「戦略的」に取り組む事例が少ないのが実態である。
企業利益に直結する税にいかに向き合うか、CFOとしての真価が問われる。
Issue
戦略なき税務が企業価値を毀損する
見劣りする日本企業の実効税率
各国の法人税実効税率 (2012年4月現在)
世界の法人税の法定実効税率を概観すると、30%台の欧州、20%台のアジア諸国と比べて、日本と
日本
アメリカ
フランス
ドイツ
中国
韓国
イギリス
シンガポール
米国は高い水準にあります。ところが、連結の実効税率を見ると、米系企業の中には18%や20%台
38%
39.5%
36.1%
30-33%
25%
24.5%
24%
17%
前半と欧州系企業と同水準に抑えているところもあり、日本企業の高さが目立ちます。国により制
(出所)Deloitte
度が異なり、本拠地をどこに構えるかにも影響を受けるため、一概には比較できませんが、グロー
バル化が進み、海外投資家も増える中で、「日本の法人税率が高いから」という説明だけで株主を
納得させることをできるでしょうか?
各社(日・米・英)の連結実効税率
50%
税務コストは企業利益に直結する
現状
日経225銘柄(日系企業:外需型)
40%
ケース1
(売上10%増)
ケース2
(実効税率5%削減)
売上高
2,000
2,200
2,000
売上原価及び販管費
1,900
2,090
1,900
営業利益(利益率5%)
主要企業の連結実効税率(2011年度)
100
110
100
法人税(実効税率40% or 35%)
40
44
35
税引後利益
60
66
65
30%
では、税務を経営戦略の1つとして位置づけている企業は30%程度にとどまっています。売上を10%
増やすことと、実効税率を5%下げることで得られる効果はほとんど変わらないにも関わらず、事業
48%
精密機器メーカC
32%
化学メーカD
28%
日経225
化学メーカE
18%
日経225(外需型企業のみ)
精密機器メーカF
27%
S&P500
製薬・医療機器メーカG
22%
FTSE100
消費財メーカH
22%
0%
税務に対してどの程度の関心を払って、取り組んでいるでしょうか。トップマネジメントへの調査
40%
製造業B
S&P500銘柄(米系企業)
20%
10%
輸送機器メーカA
2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011
注1)日経225、S&P500、FTSE100登録企業を対象にBloombergよりデータを取得し、計算
注2)連結実効税率=連結法人税費用/連結税前利益として計算
注3)連結実効税率が100%以上または0%以下を除き、各年の平均値を計算
注4)外需型企業は、2002年度から2011年度の間で、海外売上比率が40%を超える企業群として定義
FTSE100銘柄(英系企業)
製薬メーカI
29%
飲料メーカJ
29%
消費財メーカK
26%
情報通信会社L
19%
戦略と同様に税務戦略に取組み、税務コストの適正化を積極的に進める企業は少ないのが実態です。
トップマネジメントの意識 (税務戦略を経営戦略の1つとして位置づけているか)
株主への説明責任は果たせるか?
ROE = 税引後当期純利益/資本
20%
PER = 税引後当期純利益/発行済株式総数
FCF = 営業利益 (1−実効税率)+減価償却費−設備投資
運転資本の増減額
企業価値を計るROEやPERなどの指標はいずれも税引後利益で算出されます。投資家は設備投資や
研究開発など資金使途と同様に、税務戦略にも目を光らせています。株主と向き合うCFOにとって
は、自社がどのような税務戦略を持ち、税負担が利益にどのような影響を及ぼしているか説明責任
が問われる重要な課題です。
2
32%
位置づけている
今後そうする予定
位置づけていない
24%
24%
わからない・無回答
*無作為に抽出された上場企業CFO500名を対象。回答数は96社。調査対象機関2010年2月1日∼ 12日 (出所)日本CFO協会 サーベイ「財務部門は戦略部門か」
3
Case Study
企業経営を支える重要戦 略
機能として位置づけられる税務部門
組織は戦略に従う
税務はビジネスと共に
グローバル企業では、税務部門を利益やキャッシュフロー、株主価値に影響を及ぼす重要な戦略部
グローバル化が進み、
【A国で生産し、B国で販売】
【C国の研究開発成果を、D国・E国で商品化】など、
門として位置づけています。このため、税務部門にはエキスパートを採用し、グローバルベースで
国をまたがるビジネス展開は今や珍しくなくなりました。先進企業では、ビジネススキームの検
税務コストの最適化とコンプライアンスの遵守に取り組む体制を整えています。
討段階で税務の観点を取り込み、整合性を図っています。
∼税務戦略の実現に向けグローバルベースで体制を確立
事例1
組
織
体
制
税務エキスパート集団がビジネスをサポート
グローバルベースで税務チームを組成(ここ数年で規模を拡大)
「税務コンプライアンス」と「税務コスト削減」の両方が目標として課せられる
様々なプロジェクトにメンバーとして参画し、税務上の観点からサポート
以下のようなエキスパートで構成される
人
材
元IRS(米国歳入庁)職員
∼事業部門と一体化した税務スキームの検討
事例2
税務コストの観点を取り入れ、サプライチェーン再構築
事業運営上の理由から、サプライチェーンに
おける機能及びリスクを、統括会社に集約
日本
内国法人
アジア
統括会社は、商業上・社会インフラストラク
チャーの整備等の観点から、立地を選定
A国
統括
サービス
(*シンガポール・香港・イギリス・オランダ・スイス等に設立される
ことが一般的。これらの国では、統括会社の進出による経済の発展
を目指しており、政策的に税務及び非税務において複数の恩恵が提
供される)
タックスヘイブン対策税制及び現地の間接税
も考慮し、最終的にスキームを決定
B国
統括会社
製品
製品
販売会社
部品
統括
サービス
C国
部品
製造会社
議会の税務起草委員会の元メンバー
Big4等の会計事務所に在籍していた専門家
上記はグローバルエクセレントカンパニーにおける究極的な姿ですが、一部の日系企業でも税務体
制の強化に向けてグローバルベースでの人材確保や体制作りの動きが始まっています。
事例3
チェックリストにより、事業活動の中で税務リスクを最小化
グローバルで共通の税務ポリシーを整備し、
文書化
GROUP TAX CODE OF CONDUCT
税務行動規範
税務マネジメントチェックリスト
以下の確認を徹底し、問題がある際は
税務担当者へ相談を行うこと。
税務担当者の責任と役割
税務担当者は以下の実現に向けて行動する
日系企業における税務体制強化に向けた取り組み
税務ポリシーに適合する形で、価格設定や
グループ内取引におけるチェック項目をリ
スト化
税務戦略を適用し、効用を最大化する
適用される全ての法制度を理解し、それを遵守する
より合理的な結論を得られるように最善を尽くす
全ての決定が、それぞれにおいて適切であることを確保し、
根拠となる事実や結論関連するリスクについてドキュメン
トを整備する
・・・
価格設定
海外関連会社との取引価格が、独立第三者との取引価格と
同等である
・・・・
損益配分
本社、製造拠点、販売会社の各社の連結損益の配分は各々
の機能及びリスクに鑑みて適正である
・・・・
販売会社の費用負担ならびに為替変動の取扱い
海外に国際的な税務の専門家や弁護士が多数存在していることから、国際税務の対応を考え、ヘッド
を日本から海外に移した
経理部の中の税務担当部門を「国際税務企画部」として独立させる組織改革案を発表。上海・米国に
専門家を配置したほか、今後、新興国にも人材を送り、税務のグローバル化を図る計画
4
チェック項目に該当する場合は、税務担当に
事前相談の上、対応方針を決定するようプロ
セス整備
適用する税務ポリシー
・・・
販売会社の費用のうち、本社で負担する費用について、合
理的な根拠がないものが含まれていない
関連会社との為替変動にかかる負担は、一定の継続的なルー
ルに従い、行われている
・・・・
文書の保管
上記にあげた各項目について合理的根拠を説明できる資料
を保管している
・・・・
5
Insight
グローバルで戦える強い
「税務」
を目指して
「戦略的」税務を実現するには
貴社は自信を持って「戦略的に税務に取り組んでいる」と言えますか?実際には、税務担当が戦略
部門として機能している企業はそれほど多くはありません。以下のチェックリストを参考に現状を
戦略的「税務」実現に向けた成功のカギ
問い直してみて下さい。
成功のカギ1
戦略的税務 レディネス チェックリスト
税務を経営戦略の 1 つとして認識し、経営トップから現場に至るまで、社内にその考えが
浸透している
日本企業では、税は払うべくして払うという考えが根強くありますが、グローバルでは、税は
事業戦略等とも関連した具体的な税務コスト最適化のためのタックスマネジメントポリ
削減余地があり、リスクをいかに最小化していくか、CFO自らがコミットメントを持ち、その
マネージされるコストであり、経営トップの重要課題の1つです。税務を理解し、どの程度の
シーを整備し、遵守を徹底している
実行にむけて必要な体制を整えていくことが必要です。
(チェックリストや事前協議スキームなど遵守する仕組みがある)
大型投資や事業再編などの重要案件のプロジェクトには、税務部門が初期段階からメン
バーとして参画している
織体制やネットワークがある
ての利益の拡大の重要性を説き、常に連結ベースの利益を意識させ、協力を引き出さなければ
なりません。名目上の売上高や利益でグループ内の企業が競い合うことのないよう、各社の利
害を調整し、業績評価制度の見直しを含めた検討を行っていくことが重要です。
「戦略的」税務の実現に向けたカギは3つありま
す。いずれも、現場レベルで対応するものでは
までの延長ではなく、税務を戦略的に捉え、そ
税務を戦略的に捉えると、グループ全体の利益とリスクの再分配が必要となり、グループ内企
業や事業部門から反発が出ることも予想されます。CFOは各事業のトップにグループ全体とし
国際税務や当局対応に精通した人材を確保している
なく、CFOとしての行動が求められます。これ
成功のカギ2
連結ベースの利益概念を浸透させる
本社・地域・各社・事業側などに税務に関する専門家を配置したグローバルベースでの組
経営陣の
コミットメント
連結ベースの目標設定
れを実現するために何が必要か、これを機に検
成功のカギ3
ビジネスと税務を共に考える体制を確保する
税務の性質上、ビジネスストラクチャーを確立させた後では、その結果を税法に照らして適正
討してはいかがでしょうか。
に処理を進めていくことしかできません。税務コストを最適化するには、事業戦略と共に税務
ビジネスとの連携
6
CFO自ら税務を「戦略」として捉え、アクションを起こす
戦略を立案することが重要です。検討の初期段階において、オプションを提示できる優秀な人
材を確保し、ビジネスと税務をあわせて検討を進めていくことが大切です。
7
北米地域のCFOの動向
左の調査結果にあるように、北米地域のCFOは、収益環境に対して、第2四半期よりもさらに悲観的な見方を
しています。その結果、財務体質の強化や支出の削減といった「内向き」な項目への関心が高まっています。
関心は成長からコスト削減、財務体質強化へシフト
デロイトでは世界各国のCFOに対して、四半期ごとにサーベイを行って、CFOが経済や自社の動向
関心を寄せる領域について北米地域のCFOへ調査したところ、景気悪化を背景に、利益成長への関心は低く、
既存市場、新興市場ともに前四半期よりも低い数値となっております。また、長引く景気低迷の影響を受けて、
についてどのように考えているのかを調査しています。今回は2012年の第3四半期(7月∼ 9月)に
コスト削減や資産効率の向上(特に固定資産)に対する関心が高まっており、不景気に耐えうる財務体質の強
ついて実施したサーベイの結果を共有します。
化へとシフトしていることがうかがえます。
今回のサーベイ対象期間については、依然としてマクロ経済の動向が不透明であることから、第2
四半期同様に悲観的な回答が多く見られました。
※これらのサーベイはデロイトがコンタクトのあるCFOに対して行っているもので、統計学的なアプローチに基づくものではありません
今後、関心を寄せる領域
2012 3Q
収益成長/維持 - 既存市場
2012 2Q
2012 1Q
収益成長/維持 - 新興国市場
2011 4Q
コスト削減 - 直接費
CFO の収益環境に対する認識の変化
コスト削減 - 間接費
More Optimistic
収益環境について、3 ヶ月前と比較して「楽観的である (Optimistic)」と回答した CFO の割合
資産効率 - 固定資産
60%
アメリカ
40%
北米
ヨーロッパ
20%
オーストリア
資産効率 - 流動資産
その他
0%
5%
10%
15%
20%
ベルギー
0%
イギリス
-20%
30%
35%
40%
(サーベイ対象:アメリカ・カナダ・メキシコ85企業のCFO)
オランダ
スイス
25%
資本的支出は急激に減少
Less Optimistic
ドイツ
-40%
アジア
オーストラリア
-60%
-80%
主な支出項目について対前年度比の伸び率をみ
ると、売上・利益ともに伸び悩む中で、全般に
低い水準に抑えられています。特に資本的支出
2010 Q3
2010 Q4
2011 Q1
2011 Q2
2011 Q3
2011 Q4
2012 Q1
2012 Q2
2012 Q3
グローバル全体では引き続き悲観的な見方が続く
世界各国のCFOに収益環境に対して質問したところ、ヨーロッパの一部の国を除いて、「楽観的」と回答した
は抑制され、第2四半期では前年度比11.4%増で
あったところ、第3四半期では、前年度比4.7%増
にとどまる結果となりました。特にエネルギー・
支出動向(対前年度伸び率の推移)
14%
2012 2Q
2012 1Q
10%
資源産業業界では、他産業に比べ最も低い、前
8%
年度比4%減となっています。
6%
人の割合は、第2四半期に引き続いて低い水準となっています。その要因として、ユーロ危機、米国における「財
4%
政の崖」問題、そして中国やドイツに見られる景気の減速など、マクロ経済の動向に悪影響を及ぼす不確実性
2%
が依然として残っていることが挙げられます。世界各国のCFOの多くが将来に対して暗い見通しを持っており、
0%
設備投資やM&A、雇用に慎重な姿勢をとっています。
2012 3Q
12%
2011 4Q
配当
資本的支出
研究開発費
広告宣伝費
(サーベイ対象:アメリカ・カナダ・メキシコ85企業のCFO)
8
9
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