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第Ⅰ章 特集 東日本大震災 ~復興に向けた取組の中に

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第Ⅰ章 特集 東日本大震災 ~復興に向けた取組の中に
東日本大震災
∼復興に向けた取組の中に見いだす 我が国水産業の将来∼
東日本大震災は、我が国の水産に極めて広範囲かつ甚大な被害をもたらしました。被
災地の水産業の早期復興は、地域経済の復興に直結するだけでなく、国民に対する水産
物の安定供給を確保する観点からも極めて重要です。
この特集では、第1節において水産関係の被害の状況について説明します。第2節で
は、政府が講じた対策等を説明するとともに、被災地の現場で進められている復旧・復
興の取組の実例を紹介します。第3節では、輸入を含めた我が国全体の水産物の供給に
対する影響についてみていきます。第4節では、原発事故による水産業への影響と水産
物の安全確保等の対策について説明します。第5節では、全体のまとめとして、今回の
震災の経験をこれからの我が国の水産施策に活かしていくべきことを説明します。
第1 節
東日本大震災の地震と津波による甚大な被害
(1)被害の概要
第1部
第Ⅰ章
平成23(2011)年3月11日午後2時46分、三陸沖(北緯38.1度、東経142.9度、宮城県牡鹿
半島の東南東130㎞付近)を震源として「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」が発
生しました。この地震は、日本海溝沿いの北米プレートと太平洋プレートの境界部で発生し
た「プレート境界型地震」で、地震の規模は我が国の観測史上最大のマグニチュード9.0を
記録しました。
この巨大地震は、①広範囲な震源域(震源域は岩手県沖から茨城県沖に及ぶ長さ約500㎞、
幅約200㎞の海底)と②大きな滑り(海底が最大30m水平方向に移動)という2点に特徴が
あり、津波は、東北地方太平洋岸をはじめとして全国広範囲の沿岸に到達しました。震源に
近い岩手県、宮城県、福島県の3県には、特に大きな津波が押し寄せました。気象庁の観測
によると、津波観測地点における津波の高さ(津波観測施設で観測された最大の高さ、また
は、津波観測点付近の津波の痕跡等から推定した津波の高さ)は、岩手県の宮古で8.5m以上、
大船渡で11.8m、釜石で9.3m、宮城県の石巻市鮎川で8.6m以上、福島県の相馬で9.3m以上と
されています。
この地震・津波による死者は15,854人、行方不明者は3,089人(平成24(2012)年3月28日
※1
現在 )となっており、水産業に従事する方々も犠牲になりました。被災地の漁業協同組合
を通じた調査によると、漁業協同組合の組合員及び職員の犠牲者は、全体で死者768人、行
※2
方不明者111人 となっています。建造物の被害は、全壊約12万9千戸、半壊約25万5千戸、
※1
一部破損約69万7千戸(平成24(2012)年3月28日現在 )となっており、多くの人が家や
家財道具を失いました。
このほか、電気、ガス等のライフラインも大きな被害を受けました。震災発生直後には宮
城県、岩手県、福島県の3県での停電戸数は約258万戸、ガスの供給停止戸数は約208万戸(う
ち、都市ガス約42万戸、LPガス約166万戸)に上りました。震災直後から関係者が早期復旧
に取り組みましたが、震災から4か月を経た時点においても津波による家屋等流失地域を中
心に復旧を果たせない地域が残るという状況となりました。7月の時点で、電気は約8万戸、
ガスは約14万戸(うち都市ガス約6万戸、LPガス約8万戸)で供給が停止したままの状態
となりました。
また、この地震に伴う地殻変動により、東北地方から関東地方北部にかけての太平洋沿岸
の各地で地盤の沈降(地盤沈下)が観測されました。国土地理院の計測によると、岩手県の
宮古市で−44㎝、大船渡市で−67㎝、陸前高田市で−62㎝、宮城県の気仙沼市で−72㎝、南
三陸町で−67㎝、石巻市で−114㎝、
福島県のいわき市で−41㎝とされています。漁港や市場、
水産加工場等、沿岸地帯に立地していた水産生産基盤が浸水したり満潮時に冠水するなど、
事業の復旧・復興を図る上での支障となる深刻な被害をもたらしています。
※1 平成23(2011)年4月7日発生の宮城県沖を震源とする地震等の被害を含む。
※2 平成23(2011)年10月27日現在、漁船海難遺児を励ます全国協議会調べ。
第1節 東日本大震災の地震と津波による甚大な被害
図Ⅰ− 1 − 1 各地に押し寄せた津波
〈津波の高さ〉
八戸市
久慈市
普代村
田野畑村
宮古市
山田町
大槌町
釜石市
大船渡市
陸前高田市
気仙沼市
南三陸町
石巻市
東松島市
名取市
山元町
相馬市
南相馬市
いわき市
北茨城市
ひたちなか市
鹿嶋市
銚子市
一宮町
勝浦市
(m)
5.0 10.0 15.0
資料:気象庁調べ
注:値はm単位に統一。痕跡から推定した結果が含まれる。使用し
た観測データには、国土交通省港湾局の検潮所のデータを含む。
1
-29
-14
-23
-44
-54
-60
-64
-67
-62
-72
-67
-114
-50
-23
-23
-29
-37
-41
-36
-25
-12
-7
-12
-2
(cm)
20 0 -20 -40 -60 -80 -100 -120
資料:国土地理院「平成23年東北地方太平洋沖地震に伴う三角点及び
水準点の測量成果の改定値」
《明治三陸大津波、貞観大津波を上回る巨大津波》
東日本大震災後に行われた現地調査の結果、今回の津波の
浸水範囲等が明らかになってきています。三陸地方では、岩
東日本大震災における津波発生
のメカニズム(概念図)
手県宮古市重茂(姉吉地区)で40.4mの地点まで津波が駆け
東日本大震災(高くて波長が長い)
上がったことがわかっており、これは明治三陸地震(明治
た地点まで押し寄せており、貞観地震(貞観11(869)年)
の津波よりも内陸に達していることが明らかになっています。
東京大学地震研究所は、海底水圧計に記録された津波波形
の解析等により、今回の地震の発生メカニズムを研究してい
ます。それによると、今回の津波は、日本海溝付近の海底が
上下方向に大きく動いたことで引き起こされた、高くて波長
陸地
貞観津波
比較的低いが
波長が長い (
北米プレート
)
海面
明治三陸津波
す。また、仙台平野では、今回の津波は海岸から約5㎞入っ
︵高くて波長が短い︶
29(1896)年)の津波の最大遡上高38.2mを上回っていま
太平洋プレート
日本海溝
日本海溝付近で発
生した地殻変動
沿岸から約100㎞沖合まで
の海底で発生した地殻変動
の短い津波(明治三陸タイプの津波)と、陸地から沖合100
㎞程の浅い海底の地殻変動による比較的低くて波長の長い
資料:国立学校法人東京大学地震研究所の資料を
基に水産庁で作成
津波(貞観タイプの津波)が同時に発生したものであり、こ
れによって今回の津波は、明治三陸大津波と貞観大津波のいずれをも上回る巨大津波となり、広範囲
の地域に押し寄せたものと考えられています。
なお、平成23(2011)年11月、政府の地震調査委員会は、津波堆積物の調査等を踏まえ、宮城県
から福島県にかけての太平洋沿岸におよそ600年に1回の間隔で巨大津波が押し寄せているとの評価
結果を公表しています。
第Ⅰ章
0.0
〈太平洋沿岸上下変動量〉
2.9
2.6
2.1
2.8以上
3.5
2.8
2.5以上
2.3
1.8以上
1.7以上
0.9
1.6
2.4
2.8
6.2
8.6
8.5以上
9.3
11.8
8.6以上
7.2
9.3以上
3.3
4.0
2.5
1.7
第1部
根室市花咲
浜中町霧多布港
釧路
十勝港
えりも町庶野
浦河
苫小牧東港
苫小牧西港
白老港
室蘭港
渡島森港
函館
むつ市関根浜
八戸
久慈港
宮古
釜石
大船渡
M9.0
石巻市鮎川
仙台港
相馬
小名浜
大洗
銚子市
館山市布良
図Ⅰ− 1 − 2 上下方向の地殻変動
(地盤沈下等)の状況
(2)水産業に関連する被害
第1部
(全国の広範囲の地域が被災)
今回の地震により東北地方太平洋岸をはじめとする全国の沿岸に津波が到達するとともに
地盤沈下も発生しました。水産関係の被害は太平洋側では、北海道から沖縄までの広範囲に
及んでおり、さらには、日本海側に達した津波による漁船の被害(新潟県)や、地震の揺れ
による内水面養殖施設の被害(新潟県、栃木県及び茨城県)も報告されています。
特に全国の漁業・養殖業生産量の5割を占める三陸地域を中心とする北海道から千葉県ま
での沿岸で甚大な被害となりました。
第Ⅰ章
今回の地震・津波による水産関係施設の被害額(平成24(2012)年3月5日現在)は、総
額で1兆2,637億円となっています。このほか、民間企業が所有する水産加工施設や製氷冷
凍冷蔵施設等についても約1,600億円の被害が発生しています。
施設別の被害額をみると、漁港施設が最も多く8,230億円(全体の65.1%)
、次いで漁船
1,822億円(同14.4%)、養殖施設及び養殖物1,335億円(同10.6%)、共同利用施設1,249億円(同
9.9%)となっています。
都道府県別の被害額をみると、宮城県が最も多く6,680億円、次いで岩手県3,973億円、福
島県824億円となっており、これら3県で全体の被害額の91%を占めています。
表Ⅰ− 1 − 1 東日本大震災の地震・津波による水産関係の被害状況
(平成24(2012)年3月5日現在)
被害額合計: 1兆2,637億円(うち7道県:1兆2,544億円)
主な被害
全 国
被害数
うち7道県
被害額(億円)
被害数
被害額(億円)
漁 港 施 設
319漁港
8,230 319漁港
8,230 漁 船
28,612隻
1,822 28,479隻
1,812 養 殖 関 係
1,335 1,254 (うち養殖施設)
(738) (719) (うち養 殖 物)
(597) (534) 共同利用施設
合 計
1,725施設
1,249 12,637 1,714施設
1,247 12,544 注:1) 都道府県からの報告を平成24(2012)年3月5日現在で取りまとめたもの。
2)「7道県」とは、北海道、青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県及び千葉県をいう。
3) 本表に掲げた被害のほか、民間企業が所有する水産加工施設や製氷冷凍冷蔵施設等に約1,600億円の被害がある(水産加工団体等からの
聞き取り)
。
第1節 東日本大震災の地震と津波による甚大な被害
表Ⅰ− 1 − 2 都道府県別の被害状況
都道府県名
被 害 状 況
被害額計
(百万円)
青 森 県
620隻(5t未満:524隻、5t以上:96隻)の漁船が被害(被害額:11,378百万円)
。
18漁港が被害(被害額:4,617百万円)
。
コンブ、ホタテの養殖施設が被害(施設被害額:43百万円、養殖物被害額:19百万円)
。
73件の共同利用施設(産地市場施設、荷さばき所、給油施設、共同作業場、製氷冷凍冷蔵施
設等)が被害(被害額:3,403百万円)
。
八戸地区の水産加工施設が被害(全壊4、半壊14、浸水39)
(被害額:3,564百万円)
。
19,460
岩 手 県
県内の全漁船14,501隻※注2のうち13,271隻の漁船が被害(被害額:33,827百万円)。
県内の全111漁港のうち108漁港が被害(被害額:285,963百万円)。
県内のホタテ、カキ、コンブ、ワカメ等の養殖施設が被害(施設被害額:13,087百万円、
養殖物被害額:13,174百万円)
。
580件の共同利用施設(産地市場施設、荷さばき所、給油施設、共同作業場、製氷冷凍冷蔵
施設、種苗生産施設等)が被害(被害額:51,270百万円)
。
県内の全水産加工施設178工場 ※注3 の大半が施設流出・損壊(全壊128、半壊16)(被害
額:39,195百万円)
。
397,321
宮 城 県
県内の全漁船13,776隻※注2のうち12,029隻(5t未満:11,425隻、5t以上:604隻)の漁
船が被害(被害額:116,048百万円)
。
県内の全142漁港が被害(被害額:424,286百万円)
。
県内のギンザケ、ホタテ、カキ、ホヤ、コンブ、ワカメ、ノリ類等の養殖施設が被害(施設
被害額:48,700百万円、養殖物被害額:33,189百万円)。
495件の共同利用施設(産地市場施設、荷さばき所、給油施設、共同作業場、製氷冷凍冷蔵
施設、種苗生産施設等)が被害(被害額:45,767百万円)
。
県内の全水産加工施設439工場 ※注3 の半数以上が壊滅的な被害(全壊323、半壊17、浸水
38)
(被害額:108,137百万円)
。
667,990
福 島 県
県内の全漁船1,068隻※注2のうち873隻(5t未満:740隻、5t以上:133隻)が被害(被
害額:6,022百万円)
。
県内の全10漁港が被害(被害額:61,593百万円)
。
ノリ類等の養殖施設が被害(施設被害額:297百万円、養殖物被害額:536百万円)
。
233件の共同利用施設(産地市場施設、荷さばき所、給油施設、共同作業場、製氷冷凍冷蔵
施設等)が被害(被害額:13,915百万円)
。
県内の全水産加工施設135工場※注3のうち浜通りの水産加工施設が被害(全壊77、半壊16、
浸水12)
(被害額:6,819百万円)
82,363
栃 木 県
2件の共同利用施設(養殖施設)が被害(被害額:2百万円)
。
茨 城 県
488隻(5t未満:460隻、5t以上:28隻)の漁船が被害(被害額:4,363百万円)。
16漁港が被害(被害額:43,118百万円)
。
鯉、真珠等の養殖施設が被害(施設被害額:27百万円)
。
172件の共同利用施設(産地市場施設、荷さばき所、給油施設、共同作業場、製氷冷凍冷蔵
施設等)が被害(被害額:8,463百万円)
。
一部地域の水産加工施設が被害(全壊32、半壊33、浸水12)
(被害額:3,109百万円)
。
55,971
千 葉 県
405隻(5t未満:277隻、5t以上:66隻、不明:62隻)の漁船が被害(被害額:851百
万円)
。
13漁港が被害(被害額:2,204百万円)
。
ノリ類の養殖施設が被害(施設被害額:428百万円、養殖物被害額:737百万円)。
78件の共同利用施設(産地市場施設、荷さばき所、給油施設、共同作業場、製氷冷凍冷蔵施
設等)が被害(被害額:1,265百万円)
。
一部地域の水産加工施設が被害(全壊6、半壊13、浸水12)
(被害額:2,931百万円)
。
5,485
2
第Ⅰ章
25,743
第1部
北 海 道
793隻(5t未満:659隻、5t以上:134隻)の漁船が被害(被害額:8,723百万円)。
12漁港が被害(被害額:1,259百万円)
。
太平洋沿岸を中心にホタテ、カキ、ウニ、コンブ、ワカメ等の養殖施設が被害(施設被害
額:9,356百万円、養殖物被害額:5,771百万円)
。
83件の共同利用施設(産地市場施設、荷さばき所、給油施設、共同作業場、製氷冷凍冷蔵施
設等)が被害(被害額:634百万円)
。
一部地域の水産加工施設が被害(半壊4、浸水27)
(被害額:100百万円)。
都道府県名
被 害 状 況
被害額計
(百万円)
第1部
第Ⅰ章
東 京 都
3隻の漁船が被害。
−
神奈川県
ワカメ等の養殖施設が被害(施設被害額:33百万円、養殖物被害額:32百万円)
。
65
新 潟 県
5隻の漁船が被害(被害額:0.1百万円)
。
錦鯉の養殖施設が被害(施設被害額:4百万円)
。
富 山 県
8隻の漁船が被災地で係留、上架中に被害(被害額:839百万円)
。
石 川 県
1隻の漁船が被災地で係留中に被害。
静 岡 県
14隻の漁船が被害(被害額:5百万円)
。
5
愛 知 県
8隻の漁船が被害(被害額:6百万円)
。
ノリ類の養殖施設が被害(施設被害額:2百万円)
。
8
三 重 県
26隻の漁船が被害(被害額:22百万円)
。
マダイ、クロマグロ、カキ、ノリ類、真珠等の養殖施設が被害(施設被害額:1,274百万
円、養殖物被害額:2,355百万円)
。
4件の共同利用施設(養殖施設)が被害(被害額:96百万円)
。
3,747
和歌山県
6隻の漁船が被害(被害額:2百万円)
。
マダイ、クロマグロ等の養殖施設が被害(施設被害額:141百万円、養殖物被害額:834百
万円)
。
977
兵 庫 県
3件の共同利用施設(種苗生産施設、産地市場施設、養殖施設)が被害(被害額:5百万
円)
。
5
鳥 取 県
2隻の漁船が被災地で係留中に被害(被害額:10百万円)
。
徳 島 県
10隻の漁船が被害(被害額:5百万円)
。
カンパチ、ハマチ、シマアジ、ワカメ等の養殖施設が被害(施設被害額:65百万円、養殖
物被害額:508百万円)
。
578
高 知 県
25隻の漁船が被害(被害額:14百万円)
。
カンパチ、マダイ、ノリ類等の養殖施設が被害(施設被害額:228百万円、養殖物被害額:
2,377百万円)
。
2件の共同利用施設(養殖施設)が被害(被害額:55百万円)
。
2,674
大 分 県
2隻の漁船が被害(被害額:65百万円)
。
マダイ、ハマチ、シマアジ、ヒラメの養殖施設が被害(施設被害額:85百万円、養殖物被
害額:175百万円)
。
325
宮 崎 県
20隻の漁船が被害(被害額:29百万円)
。
ハマチ、アジ、オオニベ等の養殖施設が被害(施設被害額:0.28百万円、養殖物被害額:
6百万円)
。
35
鹿児島県
3隻の漁船が被害(被害額:5百万円)
。
沖 縄 県
モズク、スギの養殖施設が被害(施設被害額:6百万円、養殖物被害額:32百万円)。
合 計
4
839
−
10
5
38
1,263,650
注:1) 都道府県からの報告を平成24(2012)年3月5日現在で取りまとめたもの。なお、水産加工施設については、被害の大きかった7道県
の太平洋側の施設について水産加工団体または県庁からの聞き取り(平成24(2012)年3月5日現在)を取りまとめたもの。水産加工施
設の被害額には共同利用施設に係るものも含まれるため、被害額計には計上していない。
2) 県内漁船数は、岩手県及び宮城県については漁船統計表(平成22(2010)年)における漁船の総隻数、福島県については漁船保険加入
隻数。
3) 県内水産加工施設数は、漁業センサス(平成20(2008)年)による。
第1節 東日本大震災の地震と津波による甚大な被害
(施設別の被害状況)
ここでは、地震と津波による被害について、水産関連施設等の項目別に状況をみていきま
す。
表Ⅰ− 1 − 3 漁港施設の被害状況
被災漁港数
被害額(百万円)
北海道
12
1,259
282
青森県
18
4,617
92
岩手県
108
285,963
111
宮城県
142
424,286
142
福島県
10
61,593
10
茨城県
16
43,118
24
千葉県
13
2,204
69
319
823,040
730
計
(参考)全漁港数
注:1) 都道府県からの報告を平成24(2012)年3月5日現在で取りまとめたもの。
2) 被害額は、漁港施設、海岸保全施設、漁業集落環境施設及び漁業用施設の各被害額の合計。
倒壊した防波堤(岩手県山田町)
地震と津波によって崩壊した漁港岸壁(宮城県石巻市)
第Ⅰ章
被害を受けた漁港の数は全部で319港ですが、そのうち、岩手県(108港)及び宮城県(142
港)の2県で全体の78%を占めています。
第1部
①漁港施設の被害状況
漁港施設の被害としては、①防波堤の構造物(ケーソン)が津波の押し波、引き波に繰り
返しさらされることによって倒壊する、②津波の衝撃によって漁港岸壁が破損する、③地震
の揺れによって桟橋や陸揚げ場にひびが入る、④地盤沈下のために漁港岸壁や漁港区域内の
道路が水没したり高潮時に冠水し使用不可能となるといった事例が報告されています。
漁港施設の被害は、北海道から千葉県までの各道県で発生し、被害額は合計で8,230億円
に上っています。各道県の被害額をみると、宮城県(被害額4,243億円)
、岩手県(同2,860億
円)が突出しています。また、福島県及び茨城県の被害額もそれぞれ616億円、431億円と甚
大なものとなっています。
《深刻な被害を受けた石巻漁港》
宮城県牡鹿半島の付け根に位置する石巻漁港は、水揚げ岸壁の長さが1,200m、魚市場の上屋根の
長さが652mといずれも日本一であり、地元の親しみと誇りを込めて「東洋一の漁港」と呼ばれてき
第1部
ました。石巻漁港の水揚量は、13万5千トン(全国第3位)、水揚金額は216億円(第6位)に上っ
※
ています 。
東日本大震災では、石巻市鮎川で8.6m以上の津波が観測されており、石巻漁港にも大きな津波が押
し寄せました。この津波によって、石巻漁港の施設は、防波堤の倒壊や漁港岸壁の欠損といった被害
を受けました。また、漁港岸壁の後背地の地盤がおよそ1m沈下し、満潮時に海水面よりも低い状態
となったため、水揚げ作業が不可能となり、漁港機能が著しく損なわれました。さらに、漁港後背地
第Ⅰ章
にあった魚市場や水産加工団地、製氷場等、あらゆる水産関連施設が壊滅的な被害を受けました。
被災前の石巻漁港
被災後の石巻漁港
被災した水産加工団地
水産加工団地の冠水
被災前(平成16(2004)年)
水産加工団地
市場の倒壊、冠水
満潮時の海水流入
被災前(水揚げの様子)
※ 水産庁「漁港港勢」(平成20(2008)年)
②漁船の被害状況
今回の津波は、各地の漁船に、①係留・停泊中の漁船が漁港岸壁の上に乗り上げる、②陸
上(漁港岸壁や市街地等)へ流される、③津波にさらわれて流失する、④津波に流されてい
る間にがれきと衝突して船体が破損するといった被害をもたらしました。
被害を受けた漁船は全国で28,612隻、被害額は1,822億円に及びます。アワビ・ウニや刺し
網等の磯漁が盛んな岩手県、宮城県では、船外機を搭載した小型漁船が多く、被災漁船数は
これら2県で25,300隻と全国の88%を占めています。福島県の被害も大きく、同県内の漁船
保険加入隻数の82%に当たる873隻が被災しています。
漁船の被害状況は、漁船の規模によって大きく異なります。5トン未満の動力漁船(推進
第1節 東日本大震災の地震と津波による甚大な被害
第Ⅰ章
が震災発生時に沖合で操業していたため津
波の被害を逃れています。
漁船の被害は北海道から鹿児島県までの
広範囲に及んでいます。ただし、津波によ
って漁船が失われるという被害は、北海道
から千葉県にかけての各道県に限られてい
ます。
陸上に打ち上げられた漁船
(宮城県気仙沼市)
表Ⅰ− 1 − 4 漁船の被害状況
北海道(根釧、
日振勝、道南)
青 森 県
岩 手 県
被災漁船数(隻)
被害額(百万円)
(参考)漁船保険加入隻数
793 (5t未満659、5t以上134)
8,723
16,293
620 (5t未満524、5t以上96)
13,271 漁船総隻数※注214,501
12,029 (5t未満11,425、5t以上604)
宮 城 県
漁船総隻数※注213,776
11,378
6,990
33,827
10,522
116,048
9,717
福 島 県
873 (5t未満740、5t以上133)
6,022
1,068
茨 城 県
488 (5t未満460、5t以上28)
4,363
1,215
851
5,640
405
千 葉 県
(5t未満277、5t以上66、不明62)
東 京 都
3 (5t未満1、5t以上2)
−
897
新 潟 県
5 (5t未満4、5t以上1)
0.1
3,342
839
1,038
−
3,500
5
5,473
6
4,991
8 (5t以上8)
富 山 県
(被災地で係留、上架中に被害)
1 (5t以上1)
石 川 県
(被災地で係留中に被害)
静 岡 県
14 (5t未満13、5t以上1)
愛 知 県
8 (5t未満8)
三 重 県
26 (5t未満26)
和歌山県
6 (5t未満3、5t以上3)
2 (5t以上2)
鳥 取 県
(被災地で係留中に被害)
徳 島 県
10 (5t未満10)
高 知 県
25 (5t未満23、5t以上2)
大 分 県
宮 崎 県
鹿児島県
計
2 (5t以上2)
20 (5t未満16、5t以上4)
3 (5t未満3)
28,612
第1部
機関を備える漁船)と「磯船」や「サッパ船」と呼ばれる1トン未満の船外機船では、津波
による流失の被害が多数発生しました。一方、より大型で沖合・遠洋漁業に従事する漁船で
は、操業しながら複数日の「沖泊まり」を重ねて航海するため、東日本大震災発生当時、洋
上にあり、被災を逃れたものも多くありま
した。例えば、石巻を拠点とする宮城県沖
合底びき網漁業協同組合の所属船は全13隻
22
7,536
2
3,855
10
1,219
5
3,551
14
4,088
65
5,258
29
2,442
5
7,404
182,214
注:1) 都道府県からの報告を平成24(2012)年3月5日現在で取りまとめたもの。
2)「漁船総隻数」は漁船統計表(平成22(2010)年)における漁船の総隻数。
3)「漁船保険加入隻数」は、漁船総隻数の内数であり、実働動力漁船隻数を最もよく反映した数字。
4)「−」は、各県において調査中等。
③養殖施設及び養殖物の被害状況
養殖施設及び養殖物については、①いかだや浮き玉が流失する、②ロープが絡まって使用
不可能になる、③生簀が破損して中の魚類が逸散するといった被害が発生しました。全国の
第1部
被害総額は1,335億円、このうち養殖施設(いかだ、ロープ、浮き玉等)が738億円、養殖物(育
成途中の魚類、貝類、藻類等)が597億円となっています。
※1
養殖業の被害は、北海道から沖縄県までの太平洋岸の広範囲に及んでおり、被害額 は、
宮城県(819億円)、岩手県(263億円)、北海道(151億円)、三重県(36億円)
、高知県(26
億円)において特に大きなものとなっています。
第Ⅰ章
表Ⅰ− 1 − 5 養殖施設・養殖物の被害状況
被害を受けた養殖種類
北 海 道
ホタテ、カキ、ウニ、コンブ、ワカメ等
青 森 県
コンブ、ホタテ
岩 手 県
養殖物被害額
(百万円)
9,356
5,771
43
19
ホタテ、カキ、コンブ、ワカメ等
13,087
13,174
宮 城 県
ギンザケ、ホタテ、カキ、ホヤ、コンブ、ワカメ、ノリ類等
48,700
33,189
福 島 県
ノリ類等
297
536
茨 城 県
鯉、真珠等
27
−
千 葉 県
ノリ類
428
737
神奈川県
ワカメ等
33
32
新 潟 県
錦鯉
4
−
三 重 県
マダイ、クロマグロ、カキ、ノリ類、真珠等
1,274
2,355
愛 知 県
ノリ類
2
−
和歌山県
マダイ、クロマグロ等
141
834
徳 島 県
カンパチ、ハマチ、シマアジ、ワカメ等
65
508
高 知 県
カンパチ、マダイ、ノリ類等
228
2,377
大 分 県
マダイ、ハマチ、シマアジ、ヒラメ
85
175
宮 崎 県
ハマチ、アジ、オオニベ等
0.28
6
沖 縄 県
モズク、スギ
6
32
73,776
59,745
計
注:1) 都道府県からの報告を平成24(2012)年3月5日現在で取りまとめたもの。
2) 記載のない県は現在情報収集中。
3) 共同利用の養殖施設に係るものは含まない。
※1 養殖施設の被害額と養殖物の被害額の合計。
施設被害額
(百万円)
第1節 東日本大震災の地震と津波による甚大な被害
《養殖の被害が広範囲に及んだ理由》
養殖業は、湾や入り江等の静穏な海域にいかだや生簀等を設置して営まれるものであり、強い波浪
の影響を受けない海域の存在を前提条件として成立している水産業といえます。このため、養殖業は、
第1部
一般的に波浪や津波の被害に対して脆弱です。
平成22(2010)年2月にチリ中部沿岸で発生した地震に
よる津波は、東北地方太平洋岸の養殖業に62億円の被害を
もたらしましたが、この際に東北地方で観測された津波の高
さは最大(岩手県久慈港)で1.2mでした。
今回の津波は、東北、関東以外の地域にも広範囲に押し寄
第Ⅰ章
せ、各地の養殖業に大きな被害が発生しました。例えば、北
海道渡島森港で1.6m、三重県鳥羽で1.8m、高知県須崎港で
2.8mの津波が観測されたことから、これら3道県における
養殖業の被害は、極めて大きなものとなりました。
津波により流されたカキの養殖いかだ
(三重県鳥羽市)
④共同利用施設の被害状況
共同利用施設とは、漁業協同組合等が組合員による共同利用のために保有している沿海地
区等に立地する各種施設で、産地市場施設、荷さばき所、給油施設、共同作業場、製氷冷凍
冷蔵施設、生産資材倉庫、種苗生産施設等がこれに含まれます。一般に共同利用施設は、漁
業や流通・加工業の利便性を考慮し、漁港の周辺に集中して配置されています。このため、
津波と地盤沈下による被害を多く受けることとなりました。全国の被害総額は1,249億円と
なっており、岩手県(513億円)、宮城県(458億円)、福島県(139億円)の3県の被害が突
出しています(3県で全国の被害総額の89%)。共同利用施設の被害は、北海道から千葉県
にかけての各道県のほか、高知県、三重県、兵庫県等からも報告されています。
共同利用施設のうち、市場・荷さばき所の被
害額は北海道から千葉県までの7道県で328億
円となっており、県別では、岩手県(143億円)
及び宮城県(106億円)の被害額が特に大きな
ものとなっています。
なお、水産物の卸売市場で沿海地区に立地し
ていないものについても、地震の揺れによる施
設の損壊や停電による営業の制約等の被害が発
生し、水産物の流通に支障が生じました。
津波による被害を受けた荷さばき所
(岩手県宮古市)
表Ⅰ− 1 − 6 共同利用施設の被害状況
被災施設数
被害額
(百万円)
主な被災施設
第1部
第Ⅰ章
北 海 道
83
産地市場施設、荷さばき所、給油施設、共同作業場、製氷冷凍冷蔵施設、
種苗生産施設 等
634
青 森 県
73
産地市場施設、荷さばき所、給油施設、共同作業場、製氷冷凍冷蔵施設、
生産資材倉庫 等
3,403
岩 手 県
580
産地市場施設、荷さばき所、給油施設、共同作業場、製氷冷凍冷蔵施設、
種苗生産施設 等
51,270
宮 城 県
495
産地市場施設、荷さばき所、給油施設、共同作業場、製氷冷凍冷蔵施設、
種苗生産施設 等
45,767
福 島 県
233
産地市場施設、荷さばき所、給油施設、共同作業場、製氷冷凍冷蔵施設、
生産資材倉庫 等
13,915
栃 木 県
2
茨 城 県
172
産地市場施設、荷さばき所、給油施設、共同作業場、製氷冷凍冷蔵施設、
生産資材倉庫 等
8,463
千 葉 県
78
産地市場施設、荷さばき所、給油施設、共同作業場、製氷冷凍冷蔵施設、
生産資材倉庫 等
1,265
三 重 県
4
養殖施設
兵 庫 県
3
種苗生産施設、産地市場施設、養殖施設
高 知 県
2
養殖施設
計
1,725
養殖施設
2
96
5
55
計
124,875
注:都道府県からの報告を平成24(2012)年3月5日現在で取りまとめたもの。
表Ⅰ− 1 − 7 市場・荷さばき所の被害状況
被 災 状 況
被害額
(百万円)
(参考)
全市場数
北 海 道
被災15か所程度
(根釧、日振勝、道南) (浸水、設備破損等)
97
52
青 森 県
被災2∼3か所
(浸水、設備破損等)
2,503
7
岩 手 県
すべて被災
(全壊11、大半は壊滅的被害。宮古・久慈・大船渡は建屋等が残存)
14,266
13
宮 城 県
すべて被災
壊滅的被害(全壊9、浸水、設備破損等)
10,577
10
福 島 県
すべて被災
(半壊4、建屋・機器の流出5、原発避難地区2)
3,188
12
茨 城 県
大半が被災
(全壊2、水没1、浸水3等)
1,122
9
千 葉 県
一部で被害
1,000
2
32,753
105
計
注:1) 被害の大きかった7道県の太平洋側の施設について、都道府県からの報告を平成24(2012)年3月5日現在で取りまとめたもの。
2) 被害額は、共同利用施設に係るもののみで、表Ⅰー1ー6の共同利用施設の被害額の内数。
第1節 東日本大震災の地震と津波による甚大な被害
《水産物流通の出発点に深刻なダメージ:大船渡》
岩手県大船渡市では、リアス式海岸の深い入り江である大船渡湾の西岸の狭い平地部に魚市場や漁
港、製氷施設、水産加工場等が立地していました。
(2010)年)の魚介類が水揚げされており、岩手県南地域の水産物流通拠点として機能していました。
東日本大震災の津波は大船渡に約12mの高さで押し寄せ、大船渡魚市場は、津波による建物の破壊
や地盤沈下による冠水等の大きな被害を受けるととも
第1部
大船渡漁港には、岩手県内外の漁船が入港し、隣接する大船渡魚市場には、約5万トン(平成22
に、市場周辺の製氷施設等も使用できない状態となり
ました。また、大船渡魚市場の北側の埋立地に建設中
第Ⅰ章
であった新市場についても、津波や地盤沈下による被
害を受けました。
関係者の努力によって大船渡魚市場は、平成23
(2011)年6月1日に営業を再開していますが、魚の
取扱いに必要な氷が不足するなどの問題を抱えていま
す。岩手県及び大船渡市では、大船渡魚市場及びその
周辺の製氷施設等の復旧と併せ、新市場についても整
備を進めることとしています。
被災した製氷施設(大船渡魚市場周辺)
⑤さけ・ますふ化場及び放流用種苗生産施設の被害状況
シロザケ(秋さけ)には、放流後、北太平洋を回遊しながら成長し、3∼4年後に放流さ
れた河川に帰ってくる「母川回帰」と呼ばれる性質があります。この性質を利用して、北日
本の各地では、内水面漁業協同組合等が運営する多くのさけ・ますふ化場においてふ化放流
事業が実施され、資源の維持・増大に大きく貢献してきました。さけ・ますふ化場は、シロ
ザケが遡上する河川に面したところに設置されていますが、河口からあまり離れていない場
所にあったふ化場では、河川を遡って押し寄せた津波によって給排水施設や稚魚の飼育池が
破壊され、育成中の稚魚が流されるなどの被害を受けました。さけ・ますふ化場の被害は、
青森県から茨城県までの合計48か所から報告されています。
また、自治体や漁業協同組合によって運営されているアワビ、ウニ、ヒラメ等の放流用種
苗生産施設は、飼育のために新鮮な海水を取水する必要があったことから、すべてが海沿い
に立地していました。このため、今回の津波によって各地の種苗生産施設は、種苗生産棟の
全壊、生産途中の種苗の流失等、壊滅的な状況となりました。
表Ⅰ− 1 − 8 放流用種苗生産施設の被災施設数
〈サ ケ ・ マ ス〉 全 施 設 数
被災施設数
第1部
〈魚類・貝類等〉
被災施設数
青森県
9
5
北海道
4
岩手県
43
26
青森県
2
宮城県
20
13
岩手県
8
福島県
10
2
宮城県
3
茨城県
3
2
福島県
1
茨城県
5
合 計
85
48
合 計
23
注:1) 道県からの報告を平成24(2012)年3月5日現在で取りまとめたもの。
2) さけ・ますふ化場及び放流用種苗生産施設の被害額は、表Ⅰー1ー6の被害額の内数。
第Ⅰ章
⑥水産加工施設の被害状況
水産加工業者の多くは、地元の港に水揚げされる魚介類を加工し、付加価値をつけて出荷・
販売することを原点として、その事業を発展させてきました。このため、地域の拠点となる
漁港の後背地には、水産加工場が多く立地しています。東北地方から関東地方にかけての太
平洋側の拠点漁港のうち、八戸、気仙沼、石巻、銚子等では、共同の残さ処理施設、排水処
理施設等を有した大規模な水産加工団地が形成されています。
このように漁港の後背地に所在していた水産加工場では、押し寄せた津波によって工場建
屋の流失、浸水による加工機械の破損、冷凍保管されていた原料が停電のために腐敗すると
いった被害が発生しました。水産加工団体等の報告による水産加工施設の被害額は、北海道
から千葉県までの7道県で1,639億円となっています。そのうち、宮城県内の施設の被害額
が1,081億円、岩手県内の被害額が392億円と突出して高く、これら2県で全国の被害総額の
90%を占めています。
表Ⅰ− 1 − 9 水産加工施設の被害状況
主な被災状況
北 海 道
一部地域で被害
(半壊4、浸水27)
青 森 県
八戸地区で被害
(全壊4、半壊14、浸水39)
岩 手 県
大半が施設流出・損壊
(全壊128、半壊16)
宮 城 県
半数以上が壊滅的被害
(全壊323、半壊17、浸水38)
福 島 県
被害額
(百万円)
(参考)加工場数
(漁業センサス)
100
570
3,564
119
39,195
178
108,137
439
浜通りで被害
(全壊77、半壊16、浸水12)
6,819
135
茨 城 県
一部地域で被害
(全壊32、半壊33、浸水12)
3,109
247
千 葉 県
一部地域で被害
(全壊6、半壊13、浸水12)
2,931
420
計
全壊570、半壊113、浸水140
163,855
2,108
注:1) 被害の大きかった7道県の太平洋側の施設について取りまとめたもの。
2) 被害状況は北海道、青森県、宮城県、茨城県、千葉県は水産加工団体から、岩手県、福島県は県庁からの聞き取り(平成24(2012)年
3月5日現在)
。
3) 被害額は水産加工団体からの聞き取り。なお、共同利用施設に係るものも含まれる。
第1節 東日本大震災の地震と津波による甚大な被害
《漁村集落の被害を防止するために》
水産庁は、各県及び市町村との協力により、平成23(2011)年10月から平成24(2012)年3月
にかけて、岩手県、宮城県及び福島県の漁港背後集落(418集落)における東日本大震災の被災状況
第1部
調査を実施しました。この調査は、各県の市町村の担当者が漁村集落の訪問等により、漁港背後集落
の被災状況を把握したものです。
調査の結果、津波による集落の浸水状況では、全体の84%の集落において家屋のある範囲まで浸水
したことが確認されました。一方、16%の集落は高台や堤防の背後等に位置していたため、家屋があ
る範囲への浸水はありませんでした。また、家屋がある範囲まで浸水した集落(353集落)のうち、
59%に当たる207集落で全壊家屋の割合が8割以上を占めていることがわかりました。さらに、死者・
また、東日本大震災による道路の寸断やがれきによる海上航路の運航中止等によって、外部との交
通が途絶した「集落の孤立」については、49%(203集落)で発生していたことが明らかになりました。
水産庁では、この調査によって把握された漁村の被災状況等を踏まえ、漁業地域の防災力を向上さ
せることを目指して「災害に強い漁業地域づくりガイドライン」(平成18(2006)年3月策定)を改
訂し平成24(2012)年4月に公表しました。
〈家屋の浸水〉
浸水なし
65集落
(16%)
〈全壊家屋の割合別集落数〉
不明 1集落(0%)
浸水あり
353集落
(84%)
〈死者・行方不明者〉
不明
45集落
(11%)
死者・
死者・
行方不明者あり
行方不明者なし
259集落
114集落
(62%)
(27%)
全壊家屋なし 20集落(6%)
全壊家屋3割未満 30集落(8%)
全壊家屋3割以上5割未満 21集落(6%)
全壊家屋8割以上
207集落
(59%)
全壊家屋5割以上8割未満 74集落(21%)
〈集落の孤立発生の有無〉
不明 1集落(0%)
孤立発生なし
214集落
(51%)
孤立発生あり
203集落
(49%)
資料:水産庁調べ
注:岩手県、宮城県及び福島県の漁港背後集落(418集落)の調査結果。ただし「全壊家屋の割合別集落数」は浸水が発生した集落
(353集落)の調査結果。
第Ⅰ章
行方不明者が発生した集落は全体の62%(259集落)でした。
第1部
⑦がれきによる操業への支障の状況
今回の津波により、海に流れ込んだがれきは、漁業・養殖業の操業に様々な支障を及ぼし
ています。海面に浮かぶ家具や木材等のがれきは、漁港内の泊地を埋め、漁船の係留や港内
の航行を困難なものとしました。また、漁業・養殖業の再開に当たっても、漁場や養殖場に
多数のがれきが浮遊していたことから、まずは、それらを除去することが必要となりました。
一方、海中に沈んだ自動車や小型漁船、家電製品等のがれきも漁業・養殖業の再開に当た
第Ⅰ章
っての大きな障害となりました。特に底びき網の操業では、海底に沈んだがれきがかかって
網が破れるなどの被害を発生させるとともに、網に入った漁獲物を傷つけるといった深刻な
被害を引き起こしました。
なお、がれきには、潮流や潮の満ち引き等に
よって海中を動いているものが多く、一旦がれ
きを除去した海域でも時間が経てば再びがれき
が溜まるという状況が生じています。
このため、
漁場におけるがれきの除去のためには長期的な
対策が必要となっています。
これまでに漁業者及び専門業者が実施した回
収処理作業によって、岩手県、宮城県、福島県
の3県で71万トンのがれきが回収されています
(平成24(2012)年3月31日現在)。
漁場等から回収されたがれき(宮城県気仙沼市)
⑧津波による藻場・干潟の生態系への影響
津波は、海底から海面までのすべての海水が巨大な水の塊となって沿岸に押し寄せる現象
です。このため、今回の大津波によって各地の浅海域が物理的にかく乱されました。また、
地震による地盤沈下も著しいことから、藻場や干潟の生態系が大きな影響を受けた可能性が
あります。現在、(独)
水産総合研究センターと各県の水産関係の試験研究機関が共同で、藻
場・干潟の回復状況、沿岸漁場・養殖場の回復状況、有害物質による生態系への影響につい
ての調査を行うなど、関係機関が総合的な分析を行い、状況を把握しているところです。
これまでに各県の水産関係の試験研究機関や(独)水産総合研究センター等が実施した調
査では、津波等の影響は海底が砂泥質の場所で大きく、海底地形の変化による干潟の消失や
※1
海底の砂泥の流出等によるアマモ場 の消失等の事例が報告されています。また、岩礁域に
※2
発達した藻場(ガラモ場、アラメ・カジメ場 等)においても、場所によって海藻の消失や
アワビ稚貝やウニの減少といった被害が報告されています。
※1 アマモ場とは、海草(海中で一生を過ごす海産種子植物)であるアマモやコアマモが群生して繁茂している場所
をいう。波の静かな内海・内湾の砂泥域に形成される。
※2 ガラモ場とは、アカモク、シダモク等ホンダワラ類の海藻が、アラメ・カジメ場とはアラメやカジメ等の海藻が
群生して繁茂している場所をいう。沿岸の岩礁域に形成される。
第1節 東日本大震災の地震と津波による甚大な被害
《大槌湾における藻場の状況》
東京大学大気海洋研究所国際沿岸海洋研究センターは、岩手県大槌町に所在しており、大槌湾とそ
の周辺の海をフィールドとして活動しています。同研究センターは、東日本大震災の津波によって研
平成23(2011)年6月から調査活動を再開しました。水中カメラ等を用いて大槌湾の砂泥域に発達
していたアマモ群落の状況を確認したところ、津波によっ
て多くが泥や砂と一緒に流されてしまったものの、埋もれ
第1部
究棟が3階まで水没し、所属の船艇をはじめすべての研究施設・設備が壊滅的な状況となりましたが、
エゾノジモク
ホソメコンブ
ていたアマモの種から新しい株が発芽していることも観察
されており、大槌湾のアマモが既に自己再生を始めている
ー東北区水産研究所も東京大学大気海洋研究所国際沿岸海
洋研究センターと共同で実施していた大槌湾の岩礁域の調
アマモ
マクサ
アカバ
第Ⅰ章
ものと考えられています。また、(独)水産総合研究センタ
ホソメコンブ
ホソメコンブ
マクサ・アカバ
アマモ
査を平成23(2011)年6月から再開しました。この調査は、
東日本大震災の津波の前後における岩礁域の生物群集の状
大槌湾における主要海藻群落
況を比較することで、今回の大津波が大槌湾の海洋生態系
にどのような影響を及ぼしたのかを明らかにするものです。調
査の結果、大槌湾の岩礁域にはコンブやアカモク等の大型海藻
の多くが残存していることが判明しました。また、アワビにつ
いては、成貝には大きな減少はみられなかったものの、稚貝が
減少していました。さらに、ウニや小型の巻貝、甲殻類等も東
日本大震災以前と比べて減少しており、これらの生物は津波に
よって引き剥がされて沖合に運ばれたものと推測されていま
す。しかし、その後の調査では、大槌湾内の岩礁域でウニや稚
貝が観察されるなど津波によって大きな影響を受けた大槌湾の
海洋生態系に回復の兆しがみられています。
震災後に大槌湾内のホソメコンブ群
落で観察されたキタムラサキウニ (写真提供:(独)
水産総合研究センター)
⑨沿岸漁場への環境負荷の状況
東日本大震災に伴い東北地方の各地の下水処理場が被災し、その処理能力が低下したこと
や重油等が津波により海に流出したことから、沿岸漁場の水質、底質に環境負荷を与えてい
る可能性もあり、漁場環境の状況について今後とも注視していく必要があります。例えば、
東北地方の各地のし尿処理施設が被災し、処理能力が低下しています。また、津波によって
海に流入したがれきに含まれる有害物質が水質、底質の環境に負荷を与える可能性も否定で
きません。
環境省が平成23(2011)年6月3日から20日にかけて岩手県宮古市沖から福島県相馬市沖
に至る26か所の観測点で実施した水質及び底質の調査(「被災地の海洋環境のモニタリング
調査」
)の結果、環境基準が設定されている項目について基準値を上回る値は、すべての観
※1
測点において検出されませんでした。また、本調査の第2次調査 においても、第1次調査
と同様、環境基準が設定されている項目で問題となる値は検出されていません。
※1 平成23(2011)年8月30日から9月1日にかけて岩手県宮古市沖から福島県相馬市沖に至る9か所の観測点で実施。
《過去に我が国を襲った津波》
日本列島の周辺には、日本海溝や南海トラフ等、海溝型地震の震源地があるため、我が国は、その
地震によって発生する大津波の被害を数多く受けています。明治時代以降、東日本大震災までの間に
第1部
我が国を襲った津波のうち、100名以上の死者・行方不明者を出したものは8回にも上ります。
我が国の沿岸地域に住む人々は、これまで津波が来襲する度に大きな被害を受けてきましたが、そ
の都度、漁業をはじめとする生業を復活させ、生活を再建してきました。このような過去の津波から
の復興の取組の実例は、東日本大震災からの水産業の復興を考える上で貴重な示唆を与えるものと考
えられます。
平成5(1993)年7月の北海道南西沖地震で漁船の8割以上が被災するなど甚大な被害を受けた奥
第Ⅰ章
尻町では、まず第一に復旧・復興に向けて行政と住民との円滑な意思疎通が行われました。また、主
要産業である漁業の再建については、漁業協同組合が地域の漁業者の意見や要望をとりまとめ、漁船
の共同利用事業等の具体的な対策の実施を促進しました。これらの取組により、奥尻町は困難を乗り
越えて復興し、震災から5年目の平成10(1998)年3月、「完全復興」を宣言しています。
奥尻町の水産業の復旧・復興の経験は、東日本大震災の被害に対応する水産業の復旧・復興事業に
活かされており、例えば、平成23(2011)年5月2日に成立した平成23(2011)年度第1次補正
予算で措置された漁船等の復旧支援対策事業は、奥尻町の水産業の復旧・復興に当たって実施された
事業をモデルとして設計されています。
東日本大震災以前の主な津波被害(明治時代以降)
名 称
発 生 年
地震の震源地
地震の
規模※1
主な被災地域
明治三陸津波
明治29(1896)年 三陸沖
8.2
三陸地域沿岸
関東大地震津波
大正12(1923)年 相模湾北部
7.9
相模湾沿岸、伊豆半島東岸
昭和三陸津波
昭和 8 (1933)年 三陸沖
8.1
三陸地域沿岸
東南海地震津波
昭和19(1944)年 東海道沖(遠州灘) 7.9
熊野灘沿岸
南海地震津波
昭和21(1946)年 潮岬沖
8.0
和歌山県、高知県、徳島県
チリ地震津波
昭和35(1960)年 南米チリ沖
9.5
三陸地域沿岸
日本海中部地震津波
昭和58(1983)年 秋田県沖
7.7
秋田県、青森県、北海道(日本海沿岸)
7.8
北海道奥尻島
北海道南西沖地震津波 平成 5 (1993)年 北海道渡島半島沖
津波による死者・
行方不明者数
約22,000人
200∼300人
約3,000人
374人※2
約1,400人
142人
100人
約200人
資料:山下文男著「津波てんでんこ」
、内閣府「広報ぼうさい」
、気象庁資料
注:明治時代以降に我が国を襲った津波被害のうち死者・行方不明者100名以上のもの。
※1 地震の規模はマグニチュード、ただしチリ地震津波はモーメントマグニチュード。
。
※2 三重県の人数(他にも和歌山県等で被害者あり)
奥尻町の水揚げの回復状況
数量
トン
億円
7,000
16
北海道南西沖地震が発生
14
金額
6,000
12
5,000
10
4,000
8
3,000
6
2,000
4
1,000
2
0
0
平成4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 年
(1992)
(1993)
(1994)
(1995)
(1996)
(1997)
(1998)
(1999)
(2000)
(2001)
(2002)
(2003)
(2004)
(2005)
(2006)
資料:奥尻町資料に基づき水産庁で作成
奥尻町青苗地区に整備された
緊急避難用高台 人工地盤「望海橋」
第2節 水産業の復旧・復興に向けた取組
第2 節
水産業の復旧・復興に向けた取組
(1)被災直後の緊急対応
水産庁においても、同日中に被災地付近の海域で行動する水産庁漁業取締船を現場へ急行
させ、自衛隊や海上保安庁と連携の上、捜索活動に当たりました。また、農林水産省による
食料・生活物資の輸送の一環として、水産庁の漁業取締船・調査船、(独)水産総合研究セン
ターの調査船を活用して、民間漁船等とも協力の上、3月14日から4月6日にかけて、合わ
せて重油800㎘、軽油420㎘、カップ麺約18万食、缶詰約5万3千食、紙おむつ約390箱、下着・
肌着類約1万6千着等を被災地へ届けました。
《孤立した漁業集落を緊急支援した特命チーム》
宮城県牡鹿半島周辺では、東日本大震災による陸路の寸断や通信状態の悪化等から、多くの漁業集
落が孤立し、地元自治体等による物資の供給や被害の確認が困難な状況となりました。
水産庁は、漁港の損壊や港内・海上に漂流するがれきによって大型船での
対応が困難となっていた離島や沿岸の孤立集落を重点的に支援するため、民
間と協力し、水産庁漁業取締船2隻、調査捕鯨母船「日新丸」、(独)水産総
合研究センター調査船(単船型まき網漁船)
、海外まき網漁船2隻の合計6
隻からなる緊急支援の船団を構成しました。
日新丸の大規模運搬能力とまき網漁船の搭載艇の機動力を活用し、石巻、
女川、鮎川の港や網地島等の離島の漁業集落へ物資を供給しました。さらに
漁港・漁村の復興に向けた専門的な調査の前段階として、水産庁漁業取締船
の乗組員による漁港施設等の被害状況調査を実施するとともに、被災地の代
日新丸からまき網漁船搭載
表者等からの聞き取りによる被災地の要望確認、電気・ガス等のライフライ 艇への物資積込。
搭載艇は操業の際に網等が
ンの供給状況確認、住民の安否情報確認、被災者へのメッセージカードの伝 絡まないよう推進器にカバ
ーが施されており、がれき
達等、孤立集落等の状況に応じた支援を行いました。
が浮かぶ海上で機動力を発
揮した。
※1 「地方財政の負担を緩和し、又は被災者に対する特別の助成を行うことが特に必要と認められる災害」として政府
が中央防災会議の意見を聴いた上で指定する災害。「激甚災害」に指定されると、地方公共団体の行う災害復旧事業
等への国庫補助のかさ上げや中小企業者への保証の特例等、特別の財政措置が講じられる。根拠法は「激甚災害に
対処するための特別の財政援助等に関する法律」(昭和37年法律第150号)
。
第Ⅰ章
農林水産省においても、3月11日、農林水産大臣を本部長とする「農林水産省地震災害対
策本部」を設置し、様々な緊急対応を行いました。具体的には、被災地における食料等の供
給確保を図るため、関係団体等に対して食料等の提供を要請し、この要請に応じて提供され
た食料を被災県に輸送しました。
第1部
(政府による対応)
政府は、震災の発生を受けて、平成23(2011)年3月11日、直ちに内閣総理大臣を本部長
とする「東北地方太平洋沖地震緊急災害対策本部」を設置し、政府調査団を被災地に派遣し
ました。翌12日には、
「東北地方太平洋沖地震による災害」について全国を対象とした激甚
※1
災害 に指定するとともに、宮城県に緊急災害現地対策本部を設置しました。
金融関係では、農林水産省は、3月11日、地震・津波による被害を受けた漁業者等への資
金の円滑な融通及び既貸付金の償還猶予等について関係金融機関への要請を行いました。ま
た、水産庁は同日、漁業共済団体及び漁船保険団体に対して、被害の早期把握、迅速な損害
評価の実施及び共済金・保険金の早期支払を依頼しました。
第1部
(水産関係団体や企業等による被災地支援活動)
第Ⅰ章
全国の様々な水産関係団体も迅速に被災地支援に取り組みました。漁業者の全国団体であ
る全国漁業協同組合連合会と(社)大日本水産会は、それぞれ地震発生直後に対策本部を設
置し、被害状況の把握や被災地への支援の取組を開始しました。
全国漁業協同組合連合会では、被災地に向けて緊急車両トラックによる支援物資の輸送を
行ったほか、宮城県からの要請を受け、山形県に保管されていた漁業用A重油を宮城県内の
病院に搬入するなどの取組を行いました。(社)大日本水産会も大手水産会社と協力して支援
物資の提供を行うとともに、水産業界に向けて義援金の募集を行いました。この義援金募集
には、韓国や台湾等の海外の漁業団体からも寄付が集まりました。また、全国水産加工業協
同組合連合会は、3月12日、全国の会員に支援物資の提供を呼びかけました。この呼びかけ
に応え、全国の水産加工業者から支援物資が被災地に届けられました。
各漁業団体もそれぞれの能力を活かして支援活動に取り組みました。(社)
海外まき網漁業
協会所属のまき網漁船は、太平洋上での操業を切り上げて3月13日以降、計26隻が被災地へ
向かい、水産庁の漁業取締船等と協力し、船に搭載された小型艇を活用して、大型船が接岸
できない沿岸の集落等へ食料、軽油、毛布等を搬入しました。また、日本かつお・まぐろ漁
業協同組合は、所属の遠洋まぐろはえ縄漁船により神奈川県の三崎港から気仙沼へ向け支援
物資の運搬を行いました。
さらに、船員の全国団体である全日本海員組合は、小規模な港湾施設にも直接入港可能な
200トン弱のいか釣り漁船をチャーターし、被災地に水や食料を提供しました。
このほか、多くの水産関係団体や企業により、食料や各種生活物資の被災地への提供や義
援金の寄贈等の支援が行われました。この中には、自社が有する船舶を活用し、救援物資を
運搬するという取組もありました。
《水産関係者による様々な取組》
茨城県
埼玉県
銚子市漁協が開設する銚子漁港魚市場は、津波によって売場が泥に覆われ、事
務所1階が水浸しとなるなどの被害を受けました。しかし、東日本大震災の直後、
三陸から常磐にかけての各漁港が甚大な被害を受け、まぐろはえ縄やまき網等の
東京都
神奈川県
千葉県
○大型漁船の要望に対応し、いち早く市場業務を再開
銚子市
大型漁船が入港できない状態となったことから「何とか銚子だけでも開けてく
れ」との要請が多くの漁業者からありました。これを受け、銚子
市漁協では、職員総出で清掃・片付けを行い、被害が比較的軽微
であった第3市場の一部を利用し、平成23(2011)年3月15日
から市場業務を再開しました。
市場業務の再開を受けて
水揚げされたメカジキ 第2節 水産業の復旧・復興に向けた取組
○漁業実習船による支援活動
各地の水産系教育機関はその実習船を用いて被災地
の支援を行いました。(独)
水産大学校(山口県)所属の
「耕洋丸」
(2,352トン)は、航海実習の当初の予定を変
第1部
更して学生とともに被災地に向かい、岩手県の宮古港及
び釜石港へ支援物資を運搬するとともに、被災者を船内
に招いて食事や浴室を提供しました。また、長崎大学の
「長崎丸」
(842トン)、神奈川県立海洋科学高校の「湘
南丸」
(646トン)等も支援物資の運搬等に当たりました。
第Ⅰ章
被災者を船内に案内して食事や浴室を提供
(
(独)
水産大学校「耕洋丸」
)
○被災した漁業者を支援するための一日操業
島根県小型底曳船漁業協議会は、JF
しまねグループの義援金募金運動の一
環として、被災した漁業者を支援する
鳥取県
島根県
岡山県
ための1日操業に取り組みました。平
成23(2011)年3月22日未明に所属
広島県
山口県
の53隻が一斉に出漁し、帰港後、そ
の漁獲物の販売金額を全額義援金とし
て提供しました。この操業に対する燃
油、魚箱、氷等の経費は全額をJFしま
ねが負担しました。
1日操業を終え、被災地に向けてエ
ールを送る島根の漁業者の皆さん ○海外の水産関係団体から寄せられた義援金や励ましの言葉
東日本大震災によって我が国の水産業に甚大な被害がもたらされたことに対して、各国の水産関係
団体から義援金や励ましの言葉が寄せられました。
全国漁業協同組合連合会には、
韓国の水産業協同組合中央会や取引先の米国企業等から、また、
(社)
大日本水産会には、韓国や台湾の漁業団体等から、このほか(社)
責任あるまぐろ漁業推進機構には、
中国、フィリピンをはじめとする海外会員や米国の漁業団体等から、義援金と応援のメッセージが寄
せられました。このような海外の水産団体による心温まる対応は、海から糧を得て生活する漁業者同
士の国を越えた結び付きと共感の強さを改めて認識させるものとなりました。
《漁業関係者の遺児を奨学金で支援》
(財)
漁船海難遺児育英会は「水色の羽根募金」等を通じ、漁業従事中に海難等の災害により、死亡・
行方不明になられた方々の遺された子供達への奨学金支給等の育英事業を行っています。
同育英会では、平成23(2011)年5月に東日本大震災で犠牲となった漁業関係者の遺児について
育英事業の対象とすることを決定し、大津波によって死亡または行方不明となった漁業従事者及び漁
協職員等の子弟に対して、奨学金の支給を開始しました。
(2)本格的な復旧・復興対策の実施
第1部
(現地支援体制の整備)
水産庁は東日本大震災に対応した現地支援体制の充実を図るため、平成23(2011)年4月
「復興支援プロジェクトチーム」を設置し、チーム員を被災地に派遣して、被災地の漁業関
係者との直接の話合いを行うことで被災地の現状や復興支援のニーズを把握するとともに、
水産関係の復旧・復興対策の周知や各種の助言を行いました。
チーム員は、漁業者をはじめ漁業協同組合、産地卸売市場、水産加工団地等の関係者から、
第Ⅰ章
被災地の水産業の現状や事業の再開に当たって何が必要となっているのか等、具体的な聞き
取りを行い、また、国の支援事業についての説明や申請書類の作成上の留意点についてアド
バイスを行うなど、各被災地の状況に応じた対応を行いました。
(第1次補正予算及び第2次補正予算による対応)
平成23
(2011)
年5月2日、東日本大震災からの早期復旧に向けて編成された平成23(2011)
年度第1次補正予算が成立しました。このうち、水産関係予算は、総額2,153億円が計上さ
れました。さらに、東日本大震災の直近の復旧状況等を踏まえ、当面の復旧対策に万全を期
すための経費として7月25日に平成23(2011)年度第2次補正予算が成立し、水産関係の予
算として198億円が計上されました。
第1次補正予算により講じられた水産関係の対策としては、①漁港、漁場、漁村等の復旧、
②漁船保険・漁業共済支払への対応(東日本大震災により発生する多額の保険金支払に対
応)
、③海岸・海底清掃等漁場回復活動への支援(漁業者グループまたは専門業者による漁
場のがれき撤去)、④漁船建造、共同定置網再建に対する支援(共同利用小型漁船、共同計
画に基づく漁船・共同定置網の導入)、⑤養殖施設、種苗生産施設の再建に対する支援、⑥
産地市場、加工施設の再建に対する支援(漁協等が所有する施設の復旧)、⑦無利子資金、
無担保・無保証人融資等の金融対策、漁協再建支援が挙げられます。
また、第2次補正予算では、被災した漁業協同組合・水産加工業協同組合等の水産業共同
利用施設の早期復旧に必要な機器等の整備支援や水産物の放射性物質調査等の対策が講じら
れました。
表Ⅰ− 2 − 1 水産関係1次補正予算の概要【総額2,153億円】
Ⅰ 漁港、漁場、漁村等の復旧
①水産関係施設等被害状況調査事業
被災地域における漁港、漁船、養殖施設、定置網等の漁業関係施設等の被害状況の調査
②漁港関係等災害復旧事業(公共)
漁港、漁場、海岸等の災害復旧及びこれと併せて行う再度災害防止等のための災害関連事業
308億円
3億円
250億円
③災害復旧と連携した水産基盤復旧復興対策(公共)
55億円
漁港施設・海岸保全施設等設計条件見直し、漁業集落整備のための事業計画策定、災害復旧と連携した漁港
機能回復対策
第2節 水産業の復旧・復興に向けた取組
Ⅱ 漁船保険・漁業共済支払への対応
940億円
①漁船保険・漁業共済の再保険金等の支払
860億円(所要額968億円)
東日本大震災により発生する漁船保険の再保険金及び漁業共済の保険金の支払に充てるための特別会計への
繰入れ
80億円
Ⅲ 海岸・海底清掃等漁場回復活動への支援
123億円
漁場復旧対策支援事業
123億円
低下・喪失した漁場の機能や生産力の再生・回復を図るため漁業者等が行う漁場でのがれきの回収処理等の
取組を支援
Ⅳ 漁船建造、共同定置網再建に対する支援
274億円
274億円
Ⅴ 養殖施設、種苗生産施設の再建に対する支援
267億円
養殖施設復旧支援対策事業
激甚法に基づく被害を受けた養殖施設の復旧
さけ・ますふ化放流施設の緊急復旧
267億円
18億円+76億円の内数
①水産業共同利用施設復旧支援事業
被災した漁協等が所有する水産業共同利用施設の早期復旧に必要不可欠な機器等の整備
②農林水産業共同利用施設災害復旧事業〔農林水産省経営局計上〕
激甚法に基づく被災した漁協等が所有する水産業共同利用施設の復旧
18億円
(76億円の内数)
Ⅶ 無利子資金、無担保・無保証人融資等の金融対策、漁協再建支援
223億円
①漁業関係資金無利子化事業【融資枠380億円】
被災漁業者を対象として、漁業近代化資金、日本政策金融公庫資金の貸付金利を実質無利子化
4億円
②漁業関係公庫資金無担保・無保証人事業【融資枠60億円】
無担保・無保証人融資が可能となる融資制度の構築に必要な額を日本政策金融公庫に対し出資
22億円
③漁業者等緊急保証対策事業【保証枠630億円】
48億円
漁船建造資金や漁協の復旧資金等について、無担保・無保証人融資を推進するための緊急的な保証を支援
④保証保険資金等緊急支援事業
東日本大震災により急増が見込まれる保証保険機関の代位弁済経費等を助成
⑤漁協経営再建緊急支援事業【融資枠290億円】
漁協等が経営再建のために借り入れる資金の実質無利子化
145億円
4億円
表Ⅰ− 2 − 2 水産関係2次補正予算の概要【総額198億円】
Ⅰ 二重ローン問題対策
193億円
水産業共同利用施設復旧支援事業
被災した漁協・水産加工協等の水産業共同利用施設(製氷施設、市場、加工施設、冷凍冷蔵施設等)の早期
復旧に必要な機器等の整備を支援
Ⅱ 原子力被害対策
5億円
水産物の放射性測定調査委託事業
原発事故周辺海域の水産物の放射性物質調査、放射性物質の高精度分析に必要な機器・分析体制の強化
第Ⅰ章
共同利用漁船等復旧支援対策事業
被災した漁船・定置漁具の復旧のため、漁業協同組合等が行う以下の取組を支援
激甚法に基づく共同利用小型漁船の建造
共同計画に基づく漁船の導入
共同定置網の導入
Ⅵ 産地市場、加工施設の再建に対する支援
第1部
②漁船保険組合及び漁業共済組合支払保険金等補助事業
被災した地域の漁船保険組合及び漁業共済組合の保険金等の支払財源を支援
(東日本大震災復興基本法の成立)
平成23(2011)年6月20日、東日本大震災からの復興に向けた基本理念や基本的施策等を
※1
定めた「東日本大震災復興基本法 」
(以下「復興基本法」という。)が成立し、6月24日に
第1部
施行されました。
復興基本法では、政府が東日本大震災からの復興のための施策に関する基本的な方針を定
め、これに基づき復興に必要な措置を講ずることとされました。また、その際、復興に必要
な資金を確保するため、復興債を発行すること、地域における創意工夫を活かした復興への
取組を推進するため、規制の特例措置等を区域限定で適用する復興特別区域制度を活用する
こと等が規定されました。
第Ⅰ章
(東日本大震災復興構想会議の提言)
内閣に設置された「東日本大震災復興構想会議」(以下「復興構想会議」という。
)は、平
成23(2011)年4月14日以降、12回にわたる会議を経て、6月25日に「復興への提言」を取
りまとめました。復興構想会議では、本会議の開催と並行して、水産業をテーマとするワー
クショップ(少人数の専門委員による会合)が開催され、水産業特有の問題を踏まえた復興
の在り方について議論を深めました。
(水産復興マスタープランの策定)
水産庁は、平成23(2011)年6月28日、復興構想会議の提言を踏まえ、水産の復興につい
て、国や地方が講じる個々の具体的施策の指針となるよう、その全体的な方向性を示した「水
産復興マスタープラン」を策定しました。同マスタープランでは、水産復興に当たっての基
本理念を示すとともに、漁港、漁場、漁船、養殖、水産加工・流通等、水産を構成する各分
野の総合的・一体的な復興を推進するといった復興の基本的な方針が示されました。
図Ⅰ− 2 − 1 水産復興マスタープランの概要
我が国水産業における被災地域の重要性
○ 岩手県、宮城県、福島県では、ほぼ全域で壊滅的な被害。水産関係の被害額は1兆円を超える状況。
○ 被災地の水産業の早期復興は、地域経済や生活基盤の復興に直結するだけでなく、国民に対する水産物の安定供
給を確保するうえでも極めて重要。
復興に向けての基本的な考え方
【復興に当たっての基本理念】
① 地元の意向を踏まえて復興を
推進する
【復興の基本的方向】
(1)沿岸漁業・地域
漁業者による共同事業化等により、漁船・漁具等の生産基盤
の共同化・集約化を推進
② 被災地域における水産資源を
フル活用する
民間企業の資本等の導入に向けたマッチングの推進や、必要
な地域では地元漁業者が主体の法人が漁協に劣後しないで漁業
権を取得できる仕組み等の具体化
③ 消費者への安全な水産物の安
定的な供給を確保する
周辺漁港との機能の集約・役割分担等の検討を行い、復旧・
復興事業の必要性の高い漁港から着手
④ 漁期等に応じた適切な対応を
行う
⑤ 単なる現状復旧にとどまらな
い新たな復興の姿を目指す
※1 平成23年法律第76号
(2)沖合遠洋漁業・水産基地
漁船・船団の近代化・合理化による漁業の構造改革、漁業生
産と一体的な流通加工業の効率化・高度化
沖合・遠洋漁業の基盤となる拠点漁港については、緊急的に
復旧・復興事業を実施するとともに、さらなる流通機能・防災
機能の高度化等を推進
第2節 水産業の復旧・復興に向けた取組
図Ⅰ− 2 − 2 水産を構成する各分野を総合的・一体的に復興
1.漁港
原発事故への対応
2.漁場・資源
○ 早期再開に向けて優先
すべき漁場から、がれき
撤去を支援
○ 継続的に漁場環境調査
を実施
第1部
○ 放射性物質の調査等に対する国
の取組を強化
○ 食品の安全性に関する情報の海
外に向けた発信等
○ 漁港間で機能分担を図りつつ、地域一体とし
て必要な機能を早期に確保
① 全国的な水産物の生産・流通の拠点漁港
② 地域水産業の生産・流通の拠点となる漁港
③ その他の漁港
3.漁船・漁業管理
8.漁村
水産を構成する各分野を広く見渡し、
地元の意向を十分に踏まえ、
全体として我が国水産の復興を推進
4.養殖・栽培漁業
○ 生産性等の高い養殖経営体の育成
に向けた共同化・協業化・法人化
○ さけ・ます等の種苗生産・放流体
制を再構築
7.漁協
○ 地域の漁業を支える漁協系統組
織の再編・整備
○ 資本注入等を通じた信漁連等の
健全性の確保
○ 漁船・船団の近代化・
合理化の促進
○ 共同利用漁船の導入等
や共同化・協業化の推進
○ 燃油価格の高騰等への
対処等を通じ、水産物供
給を確保
6.漁業経営
○ がれきの撤去等を通じ
た被災漁業者の雇用機会
の確保
○ 地元漁業者と民間企業
との連携に向けた仲介・
マッチングの推進等
5.水産加工・流通
○ 地域の意向等に応じ、集積化・団地化や施設整備等を
推進
○ 6次産業化や品質・衛生管理の向上等を支援
○ 漁港の復興と整合をとりつつ、産地市場を再編
(復興基本方針の策定)
平成23(2011)年7月29日、復興基本法により内閣に設置された「東日本大震災復興対策
本部」は、
同法の規定に基づき「東日本大震災からの復興の基本方針」
(以下「復興基本方針」
という。
)を取りまとめました。復興基本方針では、復興期間を10年間、復興需要が高まる
最初の5年間を「集中復興期間」と位置付け、国は、被災した地方公共団体が行う復興の取
組をあらゆる施策を用いて支援することとしています。
復興基本方針では、各分野における復興施策が示されており、そのうち水産業については
次の施策が挙げられています。
「東日本大震災からの復興の基本方針」
(水産業に関する復興施策(抜粋))
① 漁船、漁具、養殖施設の復旧、冷凍冷蔵施設等共同利用施設の整備、被災漁業者等によるがれ
き撤去の取組に対する支援などにより、漁業経営再開、地域水産業の復旧のための支援を実施。
② さけ・ます等の種苗生産体制の再構築や藻場・干潟の整備、科学的知見も活かした漁場環境の
把握、適切な資源管理により漁場・資源を回復。
養殖業は生産開始から収入を得られるまでに一定期間が必要である等、個々の漁業の特性にき
め細かく対応しながら、安定した漁業経営の実現に向け、漁船・船団の近代化・合理化の促進、
経営の共同化や生産活動の協業化を進め、漁業を体質強化。
③ 水産加工・流通業は、6次産業化の取組も視野に、漁業生産と一体的な復興を推進。さらに、
造船業などの関連産業の復興を支援。
④ 漁港については、拠点漁港の流通機能等の高度化、漁港間での機能集約と役割分担の取組を図
りつつ、地域一体として必要な機能を早期に確保。
全国的な水産物の生産・流通の拠点となる漁港については、流通・加工機能の強化等を推進。
地域水産業の生産・流通の拠点となる漁港については、周辺漁港の機能の一部を補完すること
に留意しつつ、市場施設や増養殖関係施設等の集約・強化等を推進。
その他の漁港については、漁船の係留場所の確保など必要性の高い機能から事業を実施。
⑤ 地域の理解を基礎としつつ、漁業者が主体的に技術・ノウハウや資本を有する企業と連携でき
るよう仲介・マッチングに努めるとともに、必要な地域では、地元漁業者が主体の法人が漁協に
劣後しないで漁業権を取得できる特区制度を創設。
第Ⅰ章
○ 地元住民の意向を
尊重しつつ、災害に
強い漁村づくりを推
進
○ 漁村の状況に応じ
た 最善の防災力を
確保
○ エコ化や6次産業
化の取組を推進
第1部
(復興施策に係る工程表)
政府の東日本大震災復興対策本部は、復興基本方針に基づき、各府省の復興施策の事業計
画及び工程表を取りまとめ、平成23(2011)年8月26日に公表しました。また、この事業計
画及び工程表について見直しを行い、11月29日に再度公表しました。そのうち水産に関する
事項の概要は次のとおりです。
図Ⅰ− 2 − 3 復興施策の工程表(水産関係一部抜粋)
(平成23(2011)年8月26日、11月29日公表)
第Ⅰ章
○ 「東日本大震災からの復興の基本方針」に基づき、公共インフラ整備を中心に、
各復興施策の当面の工程表等を策定。
平成23(2011)年
4月
24(2012)年
7月 10月 1月
4月
7月 10月 1月
25(2013)年
4月
7月 10月 1月
26(2014)年
以降
6.漁港・漁場・養殖施設・大型定置網 (1)漁港
23年末までに
漁港内のがれき撤去
等の応急復旧
〔全国的拠点漁港〕
25年度末までに漁港施設等の復旧に目途
(一部被害の甚大な漁港については、一定の係留機能等の確保)
復旧にあわせて流通・加工機能の強化、防災機能の強化等復興施策を推進
被害の甚大な
漁港の復旧に目途
(27年度)
〔地域の拠点漁港〕
25年度末までに漁港施設等の復旧に目途
(一部被害の甚大な漁港については、一定の係留機能等の確保)
復旧にあわせて市場施設や増養殖関連施設等の集約・強化等復興施策を推進
被害の甚大な
漁港の復旧に目途
(27年度)
27年度末までに漁港施設等の復旧に目途
(漁船の係留場所の確保など必要性の高い機能から事業を実施)
〔そ の 他 の 漁 港〕
(2)漁場
がれき撤去の推
進及び漁場環境
調査の実施
23年秋から冬にかけて
再開が可能な漁場等を
優先して、がれき撤去を実施
24年度末までにより広域な漁場の
大型漂流物・堆積物の回収処理等
及び漁場環境調査の実施
漁場施設等の整
備
(3)養殖施設
(4)大型定置網
漂流物等の分布状況に応じて
25年度も実施
25年度までに消波堤等の復旧に目途をつけるとともに、27年度末までに
被災地の水産資源の回復等を図るため、
魚礁、水産生物の保護・育成礁、藻場・干潟等の整備を推進
23年度末までに養殖業
再開希望者の概ね5割の
養殖施設の整備を目標
23年度末までに
操業再開希望者の概ね
6割の整備を目標
24年度末までに養殖業
再開希望者の全員が養殖施設の
整備に目途をつけることを目標
24年度末までに操業再開
希望者全員が整備に目途を
つけることを目標
第2節 水産業の復旧・復興に向けた取組
表Ⅰ− 2 − 3 水産関係3次補正予算の概要【総額4,989億円】
Ⅰ 漁船・共同定置網の復旧と漁船漁業の経営再開に対する支援
①漁業・養殖業復興支援事業のうちがんばる漁業復興支援事業
818億円の内数
地域で策定した復興計画に基づき震災前以上の収益性確保を目指し、安定的な水産物生産体制の構築を行う
漁協等に対し、3年以内で必要な経費(操業費用、燃油代等)を支援
②共同利用漁船等復旧支援対策事業
121億円
漁協等が行う漁船の建造、中古船の導入、定置網等漁具の導入や漁業者グループによる省エネ機器整備の導
入を支援
Ⅱ 養殖施設の再建と養殖業の経営再開・安定化に向けた支援
①漁業・養殖業復興支援事業のうちがんばる養殖復興支援事業
818億円の内数
地域で策定した復興計画に基づき5年以内の自立を目標として、生産の共同化による経営の再建に必要な経
費(生産費用、資材費等)を支援
②養殖施設災害復旧事業
107億円
激甚法に基づく養殖施設の災害復旧事業を実施
③水産業共同利用施設復旧整備事業のうち養殖施設復旧・復興関係
731億円の内数
被災した漁協等が共同利用施設として養殖いかだ、はえ縄施設、採苗施設等を整備する取組を支援
④種苗発生状況等調査事業
2億円
震災後の海域環境下における種苗の発生状況や各地域の種苗特性を調査し、被災地に適した種苗の確保を促進
Ⅲ 種苗放流による水産資源の回復と種苗生産施設の整備に対する支援
①水産業共同利用施設復旧整備事業のうち種苗生産施設関係
731億円の内数
被災した放流用種苗生産施設のうち規模の適正化や種苗生産機能の効率化・高度化を図る施設の整備を支援
②被災海域における種苗放流支援事業
22億円
他海域の種苗生産施設等からの種苗の導入による放流種苗の確保や放流種苗の生息環境を整える取組を支援
Ⅳ 水産加工・流通業等の復興・機能強化に対する支援
①水産業共同利用施設復旧整備事業のうち漁協・水産加工協等共同利用施設復旧・復興関係
731億円の内数
被災した漁協、水産加工協等の水産業共同利用施設(荷さばき施設、加工処理施設、給油施設等)のうち、
規模の適正化や衛生機能の高度化等を図る施設の整備を支援
②水産業共同利用施設復旧支援事業
259億円
被災した漁協、水産加工協等の水産業共同利用施設(製氷施設、市場、加工施設、冷凍冷蔵施設等)の早期
復旧に必要な機器等の整備を支援
③加工原料等の安定確保取組支援事業
2億円
水揚げが本格的に再開されるまでの当面の間、緊急的に遠隔地から加工原料等を確保する際の掛かり増し経
費を支援
④農林水産業協同利用施設災害復旧事業〔農林水産省経営局計上〕
(14億円の内数)
激甚法に基づく被災した漁協等が所有する水産業共同利用施設の復旧
第Ⅰ章
支援、④水産加工・流通業等の復興・機能強化に対する支援、⑤漁港、漁村等の復旧・復興、
⑥がれきの撤去による漁場回復活動に対する支援、⑦燃油・配合飼料の価格高騰対策、担い
手確保対策、⑧漁業者・加工業者等への無利子・無担保・無保証人融資の推進等の対策が講
じられています。
さらに、平成24(2012)年度予算においても、東日本大震災からの復旧・復興に全力を尽
くす観点から、水産業の経営再開に向けた政策に重点を置いた各種予算事業を展開すること
としています。
第1部
(復興の基本方針及びマスタープランを踏まえた水産業復興対策)
平成23(2011)年11月21日、東日本大震災からの本格的な復興予算である平成23(2011)
年度第3次補正予算が成立しました。水産関係では、復興基本方針及び水産復興マスタープ
ランに沿った本格的な復興対策として、総額4,989億円の予算が計上されており、①漁船・
共同定置網の復旧と漁船漁業の経営再開に対する支援、②養殖施設の再建と養殖業の経営再
開・安定化に向けた支援、③種苗放流による水産資源の回復と種苗生産施設の整備に対する
Ⅴ 漁港、漁村等の復旧・復興
第1部
①漁港関係等災害復旧事業(公共)
2,346億円
地震や津波の被害を受けた漁港、海岸等の災害復旧及びこれと併せて行う再度災害防止のための災害関連事
業を実施
②水産基盤整備事業(公共)
202億円
拠点漁港の流通・防災機能の強化、水産加工場等用地のかさ上げ・排水対策、漁場生産力回復のための整備
等を実施するとともに、地震・津波の危険が高い地域での漁港の防災対策を強化
③水産業共同利用施設復旧整備事業のうち漁港施設復旧・復興関係
731億円の内数
被災した漁港の機能回復を図るための施設を整備
④農山漁村地域整備交付金(公共)
20億円の内数
被災地及び東海・東南海・南海地震に伴う津波が想定される地域に重点化し、早急に海岸保全施設の整備等
を実施
Ⅵ がれきの撤去による漁場回復活動に対する支援
第Ⅰ章
漁場復旧対策支援事業
168億円
漁業者等が行うがれき撤去、底びき網漁船等による広域的ながれき撤去の取組や操業中に回収したがれき処
理への支援、漁場の回復状況の調査を実施
Ⅶ 燃油・配合飼料の価格高騰対策、担い手確保対策
①漁業経営セーフティーネット構築事業
40億円
震災復興の阻害要因である燃油・配合飼料価格の高騰の影響を緩和するために、国と漁業者・養殖業者が積
み立てている基金の臨時積み増しを行い、補塡金の安定的な支払を確保
②漁業復興担い手確保支援事業
14億円
漁業関係の雇用の維持・確保のための若青年漁業者の技術習得の支援や漁家子弟の就業支援等の実施、漁協
を通じた経営再建指導等による被災地の担い手の経営を支援
Ⅷ 漁業者・加工業者等への無利子・無担保・無保証人融資の推進
①水産関係資金無利子化等事業
【融資枠221億円】17億円
災害復旧・復興に必要な日本政策金融公庫資金(水産加工資金を含む。
)、漁業近代化資金及び漁業経営維持
安定資金を実質無利子化するとともに、無利子化する公庫資金を無担保・無保証人化
②漁業者等緊急保証対策事業
【保証枠275億円】30億円
漁業者・漁協等の復旧・復興関係資金等について、無担保・無保証人融資を推進するための緊急的な保証を
支援
※ ほかに、東日本大震災復興交付金の活用が可能
○水産業共同利用施設復興整備事業
被災した市町村の共同利用施設や地域の復興方針等に沿った加工流通施設の整備
○農林水産関係試験研究機関緊急整備事業
被災県の基幹産業たる農林水産業を復興するための農林水産研究施設等の整備
○漁港施設機能強化事業
被災地域における市町村営漁港の漁港施設用地かさ上げ・排水対策等の整備
○漁業集落防災機能強化事業
被災地域における漁業集落の地盤のかさ上げや生活基盤等の整備
○農山漁村活性化プロジェクト支援交付金
被災した生産施設、生活環境施設、地域間交流拠点等の復興等を支援
○農山漁村地域復興基盤総合整備事業
被災地域における集落排水等の集落基盤、農地・農業用施設の生活基盤等の整備
第2節 水産業の復旧・復興に向けた取組
表Ⅰ−2−4 平成24(2012)年度水産関係予算(復旧・復興対策分)の概要【総額843億円】
○ 漁業・養殖業復興支援事業(がんばる漁業・養殖業) 106億円
収益性の高い操業体制への転換や養殖業の共同化による経営の再建
○ 養殖施設災害復旧事業 11億円
激甚災害法に基づく災害復旧事業への補助
○ 水産業共同利用施設復旧整備事業 100億円
漁業者等の共同利用施設(荷さばき所、加工施設、冷凍冷蔵施設、養殖施設、放流用種苗
生産施設等)のうち規模の適正化や衛生機能の高度化を図る施設等の整備
○ 水産業共同利用施設復旧支援事業 33億円
漁協・水産加工協等の共同利用施設の早期復旧に必要不可欠な機器等の整備に要する経費
の支援
○ 加工原料等の安定確保取組支援 1億円
緊急的に遠隔地から加工原料の確保等を行う際の掛かり増し経費の一部を支援
○ 漁場復旧対策支援事業 79億円
専門業者が行う漁場のがれき撤去、底びき網漁船等による広域的ながれき撤去の取組、操
業中に回収したがれき処理への支援
○ 放射性物質影響調査推進事業 3億円
水産物の放射性物質調査の実施
○ 金融対策 107億円
災害復旧・復興に必要な日本政策金融公庫資金(水産加工資金を含む。
)等の貸付金利の
実質無利子化、当該公庫資金の無担保・無保証人融資の推進等
○ 漁業復興担い手確保支援事業 11億円
漁家子弟等の就業や若青年漁業者による技術習得研修等の支援
○ 水産基盤整備事業 250億円
拠点漁港における流通・防災機能強化、水産加工場等漁港施設用地のかさ上げ・排水対
策等漁港の地盤沈下対策、漁場生産力回復のための整備等を実施
東海地震、東南海・南海地震の対策強化地域等において、漁港の防災対策を強化するため、
外郭施設等の機能強化や避難路等の緊急整備を実施
○ 漁港関係等災害復旧事業 77億円
地震や津波の被害を受けた漁港、海岸の災害復旧
第Ⅰ章
○ 被災海域における種苗放流支援事業 21億円
他海域の種苗生産施設等からの種苗の導入による放流種苗の確保や放流種苗の生息環境を
整える取組を支援
第1部
○ 漁船等復興対策 41億円
漁協等による漁船の建造等や漁業者グループ等による最新の省エネ機器設備の導入を支援
図Ⅰ− 2 − 4 水産に関する復旧・復興事業の実例
漁港関係等災害復旧事業
施工前
桟橋のかさ上げ
(宮城県気仙沼漁港)
堤防が
決壊
堤防の前面に
応急仮堤防を設置中
第1部
漁港海岸の
応急仮堤防の設置
(宮城県荒浜漁港海岸)
地盤沈下による冠水
施工後
桟橋のかさ上げ
第Ⅰ章
漁場復旧対策支援事業
漁業者による
漂流がれきの回収
(宮城県石巻市)
共同利用漁船等復旧支援対策事業
共同利用漁船の導入
(岩手県重茂漁協)
養殖施設復旧支援対策事業
ギンザケ養殖施設の復旧(宮城県女川町)
被災時
津軽石川さけ・ますふ化場の復旧(岩手県宮古漁協)
被災時
復旧後
復旧後
水産業共同利用施設復旧支援事業
フォークリフトや鮮魚用タンクを整備
(宮城県気仙沼魚市場)
製氷工場を修繕(岩手県宮古漁協)
施工前
がんばる漁業復興支援事業
施工後
漁業復興担い手確保支援事業
事業対象のさんま
棒受網漁船
(岩手県大船渡市)
復旧した養殖場での
ワカメの収獲
ベテラン漁師が若手
漁業者を受入れて指
導。若手の雇用機会
を確保し、養殖技術
も向上。
(岩手県重茂漁協)
左:研修生 右:指導者
第2節 水産業の復旧・復興に向けた取組
(東日本大震災復興特別区域法が成立)
※1
平成23(2011)年12月7日、
「東日本大震災復興特別区域法 」が成立し、12月26日に施
県知事が免許を付与することを可能とするものです。
また、被災地方公共団体が自らの復興プランの下に進める地域づくりを支援し、復興を加
速させるための措置として、被災地方公共団体による復興地域づくりに必要となる各種事業
の経費を手当てする「東日本大震災復興交付金」の制度が創設されました。
(水産基本計画における東日本大震災の位置付け)
平成24(2012)年3月に閣議決定された水産基本計画では、
「東日本大震災からの復興」
の取組を推進すべきことが基本方針の第1に掲げられました。このことにより、復興基本方
針、水産復興マスタープラン等で示し実施してきた水産復興の方針が、今後10年程度を見通
した水産施策の中に改めて位置付けられました。
(被災県における復興計画の策定)
被災県においては、それぞれ復旧・復興の計画や指針等を策定し、各県域内で発生した水
産関連の被害への対応の方針を明らかにしています。このうち、岩手県、宮城県、福島県の
3県の状況をみると、岩手県は平成23(2011)年8月11日に「岩手県東日本大震災津波復興
計画」を、宮城県は10月18日に「宮城県震災復興計画」をそれぞれ策定しています。また福
島県は、今後の復興に当たっての基本理念や主要な施策を定めた「福島県復興ビジョン」を
8月11日に策定した後、同ビジョンに基づき、今後10年間の具体的な取組や主要な事業を示
す「福島県復興計画(第1次)
」を12月28日に策定しました。
これら3県の復興計画等において示された水産復興の方向性は、各県が置かれている状況
に応じ、それぞれ特徴的なものとなっています。
岩手県、宮城県、福島県の復興計画のうち水産復興に関する記述の概要
(岩手県)
計画等の名称:
「岩手県東日本大震災津波復興計画」
策定日:平成23(2011)年8月11日
水産復興の方向性
①地域に根ざした水産業を再生するため、両輪である漁業と流通・加工業について、漁業協同組合を核とした漁業・
養殖業の構築と産地魚市場を核とした流通・加工体制の構築を一体的に推進。
②地域の防災対策や地域づくり、水産業再生の方向性を踏まえた漁港・漁場・漁村生活環境基盤や海岸保全施設の
復旧・整備を推進。
※1 平成23年法律第122号
第Ⅰ章
林等)の枠組みを越えて、迅速な土地利用再編を可能とする特例措置の創出、②漁業権免許
の優先順位の特例等が挙げられます。後者は、特定区画漁業権(いかだや生簀を使った養殖
の事業を営む権利)の免許の優先順位を定めている漁業法に特例を設け、被災地のうち、地
元漁業者のみでは養殖業の再開が困難な区域(浜)について、「地元漁業者主体の法人」に
第1部
行されました。この法律は、対象区域において、各種の規制緩和・手続の簡略化や土地利用
再編の特例、税制上の特例、財政・金融上の特例を設けることで、被災地の復興を後押しす
るものです。
水産業の復興に関連する主な特例措置としては、①既存の土地利用計画(都市、農地、森
第1部
(宮城県)
計画等の名称:
「宮城県震災復興計画」
策定日:平成23(2011)年10月18日
水産復興の方向性
水産業に関連する生産基盤や関連産業が壊滅的な被害を受け、また、漁業者の高齢化などが進む厳しい状況下に
おいては、これまでの水産業の「原状復旧」は極めて困難。
このため、水産業の復興と発展に向けて、法制度や経営形態、漁港の在り方等を見直し、新しい水産業の創造と
水産都市の再構築を推進。
第Ⅰ章
(福島県)
計画等の名称:
「福島県復興ビジョン」
策定日:平成23(2011)年8月11日
水産復興の方向性
①地震・津波により被害を受けた漁港、市場などの早期復旧に努め、漁業地域の再生を図るとともに、農林水産物
とその加工品の風評被害を払拭するため、安全性のPRと安全を確保する仕組みを検討。
②漁業に関しては、共同利用漁船の導入による経営の協業化や、低コスト生産による収益性の高い漁業経営を進め
るとともに、適切な資源管理と栽培漁業を再構築。
資料:各県のホームページに基づき水産庁で作成
(被災市町村における復興計画の策定)
被災県内の各市町村においても、県の復興計画等を踏まえ、市町村域内の水産業の復旧・
復興に向けた計画を策定しています。水産業の復旧・復興においては、漁業・養殖業と水産
加工業・流通業が車の両輪として機能することが重要であり、各市町村が策定した復興計画
についても、その多くが各地の拠点漁港の魚市場を核として、漁業・養殖業と水産加工業・
流通業の復旧・復興を図るとの方針を示すものとなっています。
表Ⅰ− 2 − 5 主な沿海市町における復興計画の内容(水産関係)
市町名 復興計画
(県名) 等の名称
策定時期
主な内容(水産関係)
八 戸 市 八戸市復 平成23
(青森県) 興計画 (2011)
年
9月
① 水産業を支える基盤(八戸漁港、魚市場、HACCP対応型荷さばき施設等)の早
期復旧。
② 漁業と水産加工業の再建。
③ 水産食料基地としての拠点性の強化。
宮 古 市 宮古市東 平成23
(岩手県) 日本大震 (2011)
年
災復興計 10月
画
① 漁港や漁業集落施設の被害は大規模なため短期間での全面復旧は困難。機能回復
から本復旧へと計画的に取り組む。
② 水産関係者の経営意欲が失われないよう継続的に支援。
③ 生産力の低下を防ぐため担い手対策を充実。
④ 生産部門と同時進行で流通加工部門の復旧を支援。
大船渡市 大船渡市 平成23
(岩手県) 復興計画 (2011)
年
10月
① 漁船や養殖施設の共有・共用化、漁業の共同経営化への支援。
② 新しい大船渡魚市場の整備。漁協の経営安定化。
③ 地域特産水産物のPRや地産地消の推進。
④ 水産関連施設の防災機能向上、集約化。
気仙沼市 気仙沼市 平成23
(宮城県) 震災復興 (2011)
年
計画
10月
① 基盤施設の復旧、とりわけ中核となる冷凍冷蔵施設等水産加工基盤の早期復旧に
取り組み、水産加工業の再開を図る。
② 魚市場は、高度衛生管理施設として再整備するとともに、漁船の受入れ体制と販
売体制を再構築。
③ 気仙沼地域HACCPの再構築により水産加工の気仙沼ブランドを確立。
④ 沿岸養殖漁業について、生産から加工・流通を含めた総合的な観点からの水産物
の付加価値化を推進。
第2節 水産業の復旧・復興に向けた取組
石 巻 市 石巻市震 平成23
(宮城県) 災復興基 (2011)
年
本計画
12月
① 漁港施設の復旧に当たっては、各漁港の機能の集約化等の考え方を整理した上で
優先順位に基づいた整備。
② 卸売市場については、仮設上屋で当面の業務。本復興に向け、国際水産都市を視
野に入れた新市場を建設。
③ 沿岸漁業、水産加工業の復旧・復興を支援。
いわき市 いわき市 平成23
(福島県) 復興事業 (2011)
年
計画
12月
① 水産業の拠点施設としての小名浜魚市場を再編整備(小名浜港周辺地域を復興の
シンボルとして整備を加速)
。
② 風評被害を打開し、水産物の消費・販売を拡大。
③ 市内の港への回遊性魚種(カツオ、サンマ、サバ、イワシ等)の水揚げを奨励。
銚 子 市 銚子市震 平成23
(千葉県) 災復旧・ (2011)
年
復興計画 5月
① 漁業者や水産加工業者の支援。
② 風評被害対策の実施。
③ 銚子漁港第一卸売市場の再生。
④ 地元産品の販売促進による地元経済の活性化。
第Ⅰ章
① 港町女川の基幹産業である水産業の復興を契機に、そのさらなる発展を目指す。
② 利用可能な漁港の緊急的な復旧や市場の代替施設を確保することで、当面の漁業
の操業を維持。
③ 漁港の本格復旧に向けた整備とともに、漁協・漁業者の再建を支援。
第1部
女 川 町 女川町復 平成23
(宮城県) 興計画 (2011)
年
9月
資料:各市町のホームページに基づき水産庁で作成
(3)被災地の現場における復旧・復興の動き
(水産業の復旧・復興に向けた様々な取組)
被災地においては、懸命な復旧・復興対策が実施されています。補正予算の活用による共
同利用漁船の建造や共同利用施設等の再開も軌道に乗りつつあります。また、東日本大震災
によって被害を受けた各地の水産関係者は、漁業・養殖業や加工・流通業の再開に必要な資
材・機材や資金の手当がままならない状況の中、様々な工夫をすることで、事業の再開に向
けて取り組んでいます。この取組の中には、漁業協同組合を中心とした共同操業の仕組みや
漁業・養殖業者が復興を支援する消費者と直接連携することで、新しい経営形態を目指す意
欲的な取組がみられます。
一方、企業が社会貢献の一環として、被災地の水産業の復興支援に取り組む動きがみられ
るほか、NPOやボランティアによる支援活動も盛んに行われています。さらに、全国の消
費者の間で、被災地域における水産業の復興に向けた取組に共感し、その活動を積極的に支
援しようという機運が高まっており、
消費者の側から支援の行動を起こす動きもみられます。
ここでは、このような水産業の復旧・復興に向けた様々な取組のいくつかを紹介します。
(ア)水産関係者の一致団結した地域再興の核となる取組
○共同操業で取り組むワカメ養殖の再開
※
秋田県
れ、最も力を入れていたワカメ養殖についても養殖施設や加工場等多くの施設
山形県
岩手県宮古市の田老町漁協では、963隻あった漁船のうち800隻以上が失わ
宮城県
第1部
後の生業再開の第一歩としてワカメ養殖に取り組む事例が各地でみられました。
宮古市田老
青森県
われます。このように比較的短期間で収入が得られることから、東日本大震災
岩手県
ワカメ養殖では、6月から7月頃に「採苗 」を行い、翌年の春に収獲が行
が失われました。同漁協では、次のシーズンの収獲に間に合
うよう、組合員が一丸となって養殖漁場のがれきを撤去し、
第Ⅰ章
新たな養殖施設を設置するとともに、仮施設を設置してワカ
メの採苗を行うことで、平成23(2011)年10月には新し
い養殖施設にワカメの養殖縄を設置することができました。
操業の再開に当たり、同漁協では、国の支援事業を活用して、
約250隻の小型漁船を確保しましたが、船は一人一人に行き
渡らないことから、複数の漁業者が同じ船に乗り込んで作業
し、得られた利益を分配することとしました。同漁協では、
平成24(2012)年3月に震災後初のワカメの収獲を行い「真
限られた数の漁船を共同で
利用して取り組むワカメ養殖
崎わかめ」のブランド復活に向けたスタートを切っています。
※ ワカメのメカブ(胞子葉)を水槽に入れ遊走子(胞子)を放出させた後、その水槽にシュロ糸や化学繊
維(種糸)を入れて遊走子を着生させる。
○全国有数のカキ産地の復活に向けた取組
秋田県
※
するカキの種苗 は宮城県全体の生産量の約半数を占め、北海道から九州まで
山形県
岩手県
宮城県
カキの養殖を行ってきました。同支所が万石浦の穏やかな海面を利用して生産
全国各地の養殖産地に出荷されていました。
同支所では、東日本大震災の津波によって石巻湾に設置した成貝の養殖いか
石巻市万石浦
宮城県漁協石巻湾支所では、石巻湾や同湾につながる内湾の万石浦において
福島県
だがほぼ壊滅した上、万石浦の稚貝の養成いかだも多くが流
失する被害を受け、一時はカキ養殖の再開が危ぶまれる状況
になりましたが、組合員が団結し、平成23(2011)年4月
頃から養殖場のがれき撤去や漁具の回収等、養殖業の再開に
向けた作業を開始しました。カキの稚貝(種苗)については、
津波により壊れてしまった万石浦のいかだに残っていたも
のを見つけ、震災前に育てていたもののおよそ2割を回収す
ることができました。これを52名の養殖業者で分け合い、
万石浦の漁場で養成した後、石巻湾の養殖漁場へ移して養殖
を再開しました。このほか、カキの殻むきや洗浄を行う加工
宮城県水産高校の生徒達も協力して
行われた万石浦での稚貝養成作業 場 に つ い て も 国 や 県 の 支 援 を 得 な が ら 修 復 し、 平 成23
(2011)年10月にはカキの出荷を再開しました。
同支所の丹野運営委員長は、「石巻は全国有数のカキの産地であり、種苗は全国に供給している。
長い年月をかけて先駆者達が築き上げたカキの灯を消すことのないよう復興に向けて取り組んでい
きたい。
」と話しています。
※ ホタテガイの貝殻を連ねた「原盤」にカキの幼生を付着させたもの。
第2節 水産業の復旧・復興に向けた取組
○秋さけ漁のシーズンに向けて定置網を復旧
す。岩手県の秋さけは漁獲量の8割程度が定置網によるものでしたが、東日本
第1部
宮城県
けました。しかし、9月から12月にかけての秋さけ漁のシーズンに間に合わ
山形県
大震災により県内の大型定置網(87か統)の大半が被災する甚大な被害を受
青森県
秋田県
漁業のみならず加工・流通業等の関連産業を支える重要な魚種となっていま
岩手県
岩手県では、秋さけ(シロザケ)が県内の漁獲金額の3割程度を占めており、
せようと定置網の復旧が急ピッチで進められました。
定置網を設置していた漁場には、がれきが堆積し、設置を
しようにも漁具がないという厳しい状況でしたが、関係者が
第Ⅰ章
団結して取り組み、国の支援事業を活用し、平成24(2012)
年1月末までに、全体の7割に当たる61か統が操業を再開
しています。
大型定置網を再開できた岩手県宮古市の漁業者は、
「サケ
が帰ってくるのに間に合ってよかった。残りの網も復旧して
町全体の活気を取り戻したい。
」と話しています。
再開された秋さけの水揚げ
(岩手県宮古漁協)
○津波で陸に打ち上げられた遠洋まぐろはえ縄漁船を復活
遠洋・沖合漁業の基地となっていた被災地の漁港等では、
津波によって、さんま棒受網、まぐろはえ縄等の比較的大き
な漁船が沈没、座礁したほか陸上にも打ち上げられました。
例えば気仙沼では、総トン数19トン以上の漁船17隻が陸上
に打ち上げられ、これをどう処理するかが水産業の復旧に当
たっての大きな問題となりました。処理に当たった漁船保険
中央会では、以前から付き合いのあったサルベージ会社に依
頼することで大型のクレーン船を手配し作業を円滑に進め
ました。
大型クレーン船で吊り上げるため
鎖が回された 「第3明神丸」 地震発生時に気仙沼港で出漁準備中であった遠洋まぐろ
はえ縄漁船「第3明神丸」
(379t、全長55m)は、海から30mほど離れた場所まで流されましたが、
重量を減らすために燃料を抜いたり、船の下に穴を開けて鎖を通すという準備作業を行い、平成23
(2011)年5月23日、大型クレーン船によって無事海に戻されました。その後、修理を経て8月
22日には、被災したまぐろはえ縄漁船の操業復帰第1号として、インド洋に向け出航しました。
第3明神丸の復活について船主は、
「自分の船というより、被災したみんなの思いを背負った船の
ように感じています。」と話しています。
○「生鮮カツオ水揚げ日本一」の座を守った気仙沼魚市場
気仙沼は、まき網や一本釣りで漁獲されるカツオ、はえ縄によるマグロやメ
秋田県
山形県
第1部
気仙沼市
って、岸壁が100㎝も沈下したほか、冷凍・冷蔵施設、加工場、燃油タンク等
岩手県
宮城県
カジキ、サメ等、様々な魚種が水揚げされる漁業基地です。東日本大震災によ
ほとんどの施設が失われました。魚市場を運営する気仙沼漁協では、そのよう
な状況の中、例年6月中旬に始まるカツオの水揚げに間に合うように市場を再
福島県
開したいとの思いから、荷さばき施設の片付けやカツオを入
れるポリタンクの洗浄等を行い、漁船の受け入れ体制を整え
ました。また、漁港岸壁のかさ上げ等の工事についても、国
第Ⅰ章
の支援を受け、県、市、気仙沼漁協が一丸となって取り組み、
平成23(2011)年6月23日の水揚げ再開へとこぎ着けま
した。さらに、気仙沼に入港するかつお一本釣り漁船に対し
て、餌用の生きたカタクチイワシを供給するため、それを漁
獲する定置網漁業の復旧・操業再開も進められました。この
ような関係者全員の努力によって、気仙沼への生鮮カツオの
水揚げは、11月末までのシーズン中の取扱量が1万4,513
カツオの水揚げが再開し
賑わう気仙沼魚市場
トンと、
昨年(3万9,751トン)の37%にとどまったものの、
15年連続で日本一の座を守りました。気仙沼漁協の熊谷浩幸魚市場部長は「東日本大震災で壊滅し
た魚市場がここまで回復し、日本一になったのは驚き。周辺加工施設の復旧が進めば、来年はさら
に水揚げが増えるはず。」と話しています。
○地元の力を結集して取り組む「みなとまち」再生
東日本大震災によって甚大な被害を受けた水産業の復旧・復興に向けて地元
秋田県
宮城県石巻市では、平成23(2011)年3月30日、「石巻水産復興会議」が
山形県
岩手県
宮城県
の水産関係者が知恵を出し合って対策を検討する動きが各地でみられました。
スタートしました。この会議には、仮設魚市場の建設による水揚げの早期再開
等について検討する「水揚部会」、水産加工団地の再整備について検討する「水
石巻市
福島県
産加工団地部会」が設けられ、水産関係者の視点から具体的
な対応策が検討されました。また、被災した水産加工場の倉
庫等に保管されていた魚の腐敗による衛生上の問題に対応
するために設けられた「倉庫内処理部会」では、水産加工場
の従業員達を中心とする2か月間に及ぶ作業により合計
5万トンの腐敗魚を処理しました。また、8月24日には、
若い人達の発想を活かして石巻の水産の将来像を考える「将
来構想ワーキンググループ」が発足し、
「国際水産都市石巻」
の発展に向けた様々なアイデアが検討されています。
石巻水産復興会議
(平成23
(2011)
年4月)
石巻漁港では、7月に西港の仮設テントで魚市場の営業が
再開した後、11月には衛生面に配慮した密閉型の荷さばき施設が本港に設けられています。また、
課題となっている加工団地の再建についても、地盤沈下した土地のかさ上げ工事が平成24(2012)
年4月に開始されるなど、地元の力を結集した「みなとまち」の再生が徐々に進みつつあります。
第2節 水産業の復旧・復興に向けた取組
○水産加工業者が結集し共同の冷凍冷蔵施設を建設
宮城県南三陸町は、東日本大震災によって、町全体が甚大な被害を受け、漁
秋田県
山形県
三陸冷凍水産物協同組合」を設立しました。
第1部
再建を目指そうと、平成23(2011)年9月1日、同町の水産加工業者10社が「南
南三陸町
様々な水産加工業者がその専門分野のノウハウを持ち寄ることで力を合わせて
岩手県
宮城県
港の後背地等に立地していた水産加工場も壊滅的な打撃を受けました。しかし、
福島県
この協同組合では、国、県の支援事業を活用して保管能力
5,000トン級の冷凍庫を整備し、それを10社が共同で使用
することで、地元に水揚げされる魚介類を加工原料として有
第Ⅰ章
効利用することとしています。また、製氷機の整備や共同で
の販路拡大事業に取り組むなど南三陸町の水産業の復興の
ため力を合わせて取り組んでいます。
建設中の共同利用冷凍庫
○牡鹿半島の水産拠点「鮎川」の復興に向けて
宮城県牡鹿半島の突端にある石巻市鮎川には、同半島で唯一の水産物卸売市
秋田県
山形県
また、鮎川は明治時代から我が国近代捕鯨の中心的捕鯨基地として発展し、
鯨の加工・販売業者が立地するなど日本有数の鯨の町です。
石巻市鮎川
います。
岩手県
宮城県
場があり、付近で行われる刺し網や定置網等の活魚を中心に水揚げが行われて
福島県
東日本大震災では、鮎川に高さ8.6m以上の津波が押し寄
せた上、110㎝を超える地盤沈下もあり、漁港施設、製氷冷
蔵施設のほか、卸売市場の施設も使用不能となりました。そ
のような中、平成23(2011)年11月には、鮎川港を基地
とする沿岸捕鯨が再開し、翌年2月には仮設の卸売市場が完
成するなど「牡鹿半島の水産拠点鮎川」の復興に向けた取組
が一歩ずつ進んでいます。
かさ上げした岸壁に完成した仮設市場
(イ)道県を越えた水産関係者の連携
○鳴門から三陸のワカメ産地を支援
徳島県は、ワカメ生産地ならではの被災地支援に県を挙げ
て取り組みました。
第1部
津波の被害によってワカメの種苗が不足した宮城県から
の要請に応え、徳島県鳴門市のワカメ生産者は、例年の2倍
の量の種糸を生産しました。また、徳島県としても、水産研
究所による種苗生産技術や研究用種苗の提供のほか、同県か
ら被災地に提供する種苗の輸送を支援するなど県下の生産
気仙沼湾において収獲されたワカメ
第Ⅰ章
者と行政が連携した取組が行われました。この取組により平
成23(2011)年10月から11月にかけて、ワカメの種糸(合計約53,000m)が宮城県の生産者に
届けられました。「徳島発」 のワカメ種苗は気仙沼湾をはじめとした宮城県沿岸で順調に生育し、平
成24(2012)年の2月末から始まった収獲作業により約3,500トンが水揚げされる見込みです。
○カキの種苗を岩手県へ無償提供
北海道の厚岸町は、同町のカキ種苗センターで生産したカキ
の種苗200万個を平成23(2011)年11月から翌年3月にかけ
て岩手県へ無償で提供しました。同センターのカキ種苗は、厚
岸町内のカキ養殖業者向けに限定して生産されており、養殖さ
れたカキは「カキえもん」というブランド名で出荷されていま
す。厚岸町のカキ養殖業者も東日本大震災の被害からの復旧の
途上にありましたが、同町では、岩手県からの要請に応じ、今
回特別に町外への種苗提供を行いました。提供されたカキ種苗
は、岩手県水産技術センターで中間育成されたのち、県内の4
漁協のカキ養殖業者に配布され、岩手県のカキ養殖業復興に向
厚岸町カキ種
苗センター
(上)
カキ種苗
(下)
けたかけがえのない支援となりました。
○漁師のネットワークを活かして漁船を被災地へ
全国の漁業者のネットワークからなるグループ 「ザ・漁
師's」 は、東北地方の漁業の復興のため、同業者の視点に立っ
た支援をしようと、「プロジェクト 舫 」 を立ち上げ、東日本大
震災発生直後の平成23(2011)年3月から活動を開始しまし
た。「 舫 」 の言葉には、船と船を繋ぐロープのように、東北地
方の漁業者と全国の漁業者とを絆で結ぼうという気持ちが込め
られています。漁業者自らがテレビ・ラジオ放送に出演したり、 同業者の視点で被災地の漁業支援に
ソーシャルネットワークへの情報掲載等を行うことにより、全 当たる「プロジェクト舫」のメンバー
国に向けてプロジェクトへの協力を求めたところ、多くの共感
を呼び、運送業者による漁船の運搬やIT事業者による漁船漁具支援データベースの開設等、漁業以
外の業種からも幅広い参加が得られました。
当プロジェクトにより、漁船42隻、船外機30台(平成24(2012)年3月現在)のほか、業務用
冷凍機器、漁具等が岩手県、宮城県の漁業者へ届けられました。今後は、漁業者同士の交流を深め
ながら、復興までの長期的な支援に取り組むこととしています。
第2節 水産業の復旧・復興に向けた取組
(ウ)民間企業・NPO等による支援
○被災した小型漁船の再生支援プロジェクト
東日本大震災により被災した小型漁船(船外機船)の中には、
比較的簡単な修理によって修復できるものもありましたが、沿岸
第1部
地域に立地する造船所等も多くが壊滅的な被害を受けたため、一
気に増大した修理の作業を処理することが困難な状況となりまし
た。このような中、漁業関係者の一刻も早い操業再開の要望に応
えるため平成23(2011)年6月、日本財団をはじめ、(社)海洋
水産システム協会、(社)日本舟艇工業会、全国漁業協同組合連合
岩手県の宮古仮設修理場で
修理される小型漁船 第Ⅰ章
会、関係省庁や自治体が連携して、被災地に設置した仮設修理場
において、集中的に小型漁船を修理するプロジェクトが始まりました。プロジェクトに必要な工具・
機材等の経費約1億8千万円は日本財団が拠出しました。
岩手県、宮城県に仮設修理場が各4か所ずつ設置され、造船関連業者からなる修理チームが被災
した技術者や漁業者を作業員として雇用しながら、12月のプロジェクト終了までの間に495隻の漁
船を修理しました。
なお、日本財団では、このプロジェクトのほか、被災地の漁協へのフォークリフトの提供や造船
業者への大型クレーン車の提供等、水産業の復興に向けた様々な支援に取り組んでいます。
○宅急便1個につき10円の寄付を水産業復興のために活用
ヤマトホールディングス(株)は、東日本大震災で被災した地域
の生活基盤の復興や水産業・農業の再生を支援することを目的とし
て、平成23(2011)年4月から宅急便1個につき10円を公益財団
法人ヤマト福祉財団の「東日本大震災 生活・産業基盤復興再生募
金」に寄付しています。この募金により被災地の生活基盤・産業基
盤の復興再生支援を行う地方公共団体や公的な団体への助成が行わ
宮城県志津川漁港の仮設魚市場
れ、助成総額約106億円の7割に当たる約72億円が水産業復興の
※
ための支援に充てられています 。平成23(2011)年9月には、この募金による第1次の助成先と
して9件が決定し、支援を受けた宮城県南三陸町志津川漁港では、11月から本番を迎える秋さけ漁
期を前に仮設魚市場が完成しています。 ※ 平成24(2012)年3月現在
○漁船取得資金と水産奨学金を提供
サントリーホールディングス
(株)は、被災地の復興・再生のた
めには長期的な視野に立った産業復興が不可欠であるという認識の
下、岩手県及び宮城県の沿岸地域の基幹産業である水産業への支援
を行っています。
同社は、平成23(2011)6月、漁業者が共同で利用する漁船を
建造または取得する際の負担を軽減するための資金として20億円、 支援を受けて建造された小型漁船
また、未来の水産業を担う水産高校及び水産学科の被災生徒に対す
(宮城県漁協寄磯支所)
る奨学金として約6億円の拠出を決定しました。漁船取得支援のための資金は、7月に岩手県及び
宮城県に対し10億円ずつ拠出され、両県を通じて広く配分・活用されています。また、同社は被災
地の漁業者の経済的負担が依然厳しい状況が続いていることから、平成24(2012)年2月、追加
の支援として両県に10億円ずつ、計20億円を拠出することを決定しました。
○約20社の企業が水産復興のための基金を創設
平成23(2011)年7月、民間企業約20社が約6億5千万円の
資金を拠出して被災地域の漁業再開を支援する「希望の烽 火プロ
ジェクト」(希望の烽火基金 岡本行夫代表理事)が立ち上がりま
第1部
した。たとえ小さな規模でも「のろし」が上がれば、東北沿岸の
希望になるとの思いから名付けられたこのプロジェクトでは、宮
城県女川漁港への凍結コンテナ寄贈を皮切りに、平成24(2012)
年3月までに岩手県宮古市、宮城県気仙沼市、福島県相馬市等、
※
18の漁港にコンテナ、フォークリフト等(金額約8億1千万円 )
水揚げされた魚介類を保管する
ために寄贈された冷凍コンテナ
(宮城県南三陸町)
第Ⅰ章
の無償供与を行っています。支援に当たっては、基金の担当者が
被災現場へ何度も足を運んで漁業関係者から直に要望を聞き取るなどきめ細やかな対応を行ってお
り、こうした努力と、被災地を支援したいとの民間企業の思いが相まった迅速かつ的確な支援が被
災地の復興を後押ししています。
※ 現物の供与額を含む。
○国際的NGOが被災地の基幹産業の復興を支援
特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパンは、国内外
からの募金を基に被災地を支援しています。東日本大震災発生直
後の90日間の緊急支援期は、避難所や仮設住宅への緊急物資支援、
子供の生活環境等の緊急支援に取り組みました。その後の期間は
復興期と位置付け、被災地の生活環境の改善や雇用確保を目指す
活動に重点を置いており、その一環として被災地沿岸部の漁業・
養殖業や水産加工業への支援(活動予算約3億6千万円)に取り
組んでいます。これまでに気仙沼漁協に対する超低温冷蔵庫の修
地元の女性達と一緒に取り
組むメカブのそぎ取り作業
復費用の一部支援や、宮城県漁協志津川支所及び歌津支所へのワ
カメのボイル加工用機材等、漁業関連機器の供与を通じた復旧支援を実施しました。また、被災地
の水産関係者とともに、地域で生産される水産加工品の知名度向上等にも取り組んでいます。
○ボランティアダイバーが活躍
岩手県出身のダイビングインストラクター佐藤寛志さんは、同じく海を愛す
る漁業者の人達がいち早く漁を再開できるよう、ダイバーならではの支援に取
り組みたいとの考えから「三陸ボランティアダイバーズ」を結成し、平成23
(2011)年5月に活動を開始しました。日本全国のダイバーに加え、世界各地
のダイバーの協力を得て、海底のがれき回収やサケの遡上を確保するための河
川清掃等幅広いボランティア活動を行っています。被災地の漁場でのがれき回
収に当たっては、地元漁協との綿密な打合せを通じて作業海域を決めるなど、
漁業再開に向けた漁業者のニーズに対応した活動を行っています。
また、横浜に拠点を置く「海をつくる会」でも、がれきが海の環境に悪影響
高度な潜水技術と
体力を要する海底
のがれき回収作業
を与えるのではないかとの懸念から、平成23(2011)年8月以降、遠く離れ
た岩手県釜石市周辺の海域でダイバーによる被災地の海底清掃作業を続けています。
このようなダイバー特有の技能を活かした支援活動は、被災地の漁業関係者を勇気づけるものと
なっています。
第2節 水産業の復旧・復興に向けた取組
(エ)消費者との直接的な結びつきによる事業再開や経営発展への支援 ○「オーナー制」で三陸カキ養殖を再生
カキのインターネット販売事業を営む株式会社アイリンク
(齋藤浩昭代表取締役、仙台市)は、
「従来から取引のあった三
第1部
陸のカキ生産者ができる限り早く出荷を再開できるように、お
金ではなく、生産者の売上げを上げる仕組みを提供したい。
」
との思いから、平成23(2011)年3月26日、「オーナー制」
に よ る カ キ 養 殖 業 者 の 支 援 プ ロ ジ ェ ク ト「Save Sanriku
Oysters」を開始しました。「オーナー」には、出荷再開後に三
支援を受けたカキむき作業場
(岩手県大船渡市)
第Ⅰ章
陸産殻付きカキ(1口当たり約20個)が届き、前払の代金(1
口1万円)は、その70%が生産者のカキ養殖のための資材・
設備資金や種苗代等に、30%がカキの販売代金や送料等に充てられる仕組みです。
「オーナー」の方々には、
「Save Sanriku Oysters」ホームページ上で支援の相手や内容が公開さ
れている点等が評価されており、
約20,900人、約28,500口の申込みがありました(平成24(2012)
年3月現在)。このプロジェクトにより、平成24(2012)年3月までに、ロープやアンカーブロッ
ク等の養殖資材やカキの種苗が341人の生産者に提供されています。
○被災地の復旧・復興をフードチェーンを挙げて支援
東日本大震災により多大な被害を受けた宮城県内の農業・漁業関係者や食品関連事業者が互いに
励まし合いながら地域振興を目指すことを目的として、平成23(2011)年7月、「食のみやぎ復興
ネットワーク」が結成されました。
このネットワークには、みやぎ生協、JFみやぎ、JA全農みやぎ、(株)仙台水産のほか、食品流通
業、食品製造業の企業等合わせて182団体(平成24(2012)年3月末現在)が参加しており、宮
城県産の農林水産物を原料とする新商品の開発や流通ルートの開拓、また、被災した生産者の復旧
を支援するボランティア活動等が行われています。
ネットワークでは支援の対象とする農林水産物の品目別に30を超えるプロジェクト活動を立ち上
げており、そのうち水産物に関しては、「宮城のかき復興プロ
ジェクト」
、「生魚・貝の復興プロジェクト」として、宮城県の
カキ養殖業者を招いての他県(広島県)産地の視察、みやぎ生
協の店舗における「雄勝うにまつり」等が行われています。ま
た、宮城県漁協志津川支所及び同戸倉出張所に対し、ネットワ
ーク参加団体からフォークリフトや収獲用コンテナ等の提供
が行われました。
ネットワークの事務局を担当するみやぎ生協は、今後とも被
みやぎ生協の紹介により、他県からも生
協職員や組合員のボランティアが宮城県
するとともに、生産された水産物を買い支えることで、消費者 入りし、被災地を支援。写真は養殖いか
だを漁場に固定するための「土俵」づく
と生産者が一体になった復興を目指していきたいとしています。 りに取組む「コープしが」の皆さん。
災地の生産者の心に寄り添った活動を続け、生産の回復を支援
以上に挙げた事例は、被災地の水産業の復旧・復興に向けた取組の一部に過ぎません。被
災地では水産関係者の方々により、その生業の再開と地域の復興に向けて日夜、懸命な努力
が続いています。また、被災地には、国内外の方々から多くの支援が寄せられており、水産
業の復旧・復興を進める上での大きな力となっています。
(4)復旧・復興の進捗状況
第1部
東日本大震災直後から始まった各地の水産関係者の絶え間ない努力と実務の積み重ねによ
って成し遂げられてきた各種水産関連施設等の復旧・復興の状況は次のとおりです(平成24
(2012)年4月18日現在)。政府としては、各項目に関する復興の取組をこれからも着実に進
めていくこととしています。
図Ⅰ− 2 − 5 東日本大震災からの水産の復旧・復興に向けた取組について
項目
被害状況
水揚げ
第Ⅰ章
岩手・宮城・福島各県の主
要な魚市場の水揚げ(平成
24(2012)年3月)の 被 災
前 同 月 比(平 成22(2010)
年3月)
漁
港
319漁港が被災
応急工事による航路・泊地
のがれき撤去が必要な漁港
(232漁港)
漁
船
約2万9千隻の漁船が被災
進捗状況
0
20
40
60
80
(%)
100
[岩手県]
久慈、宮古、釜石、大船渡
[宮城県]
気仙沼、女川、石巻、塩竈
[福島県]
小名浜(3月は水揚げなし)
岩手:65%(8.7千トン)
宮城:84%(8.7千トン)
福島: 0%( 0千トン)
水揚量78%
(17千トン)
岩手:72%( 5.8億円)
宮城:93%(16.7億円)
福島: 0%( 0億円)
水揚金額84%
(22億円)
97%
(311漁港で一部でも水産物の陸揚げ可能)
100%
(232漁港すべての漁港でがれき撤去完了)
今後、漁業の再開に伴い、順
次水揚げが回復する見込み。
岩手:100%(108漁港) 宮城: 96%(137漁港) 福島: 70%( 7漁港)
岩手:100%( 88漁港) 宮城:100%(106漁港) 福島:100%( 7漁港)
岩手:3,696隻
宮城:2,886隻
福島: 189隻
70%
(8,411隻が復旧)
今後の取組
平成24(2012)年度末まで
に被災した漁港のおおむね4
割において、陸揚げ岸壁の復
旧の完了を目指す。
拠点となる漁港については、
平成25(2013)年度末まで
(一部被害の甚大な漁港やそ
の他の漁港については平成
27(2015)年度末まで)に
復旧の目途。
平成24(2012)年度末まで
に漁船保険等による自力復旧
を含め1万2千隻の9割を復
旧予定。
平成25(2013)年度末まで
に少なくとも1万2千隻の復
旧を目途。
岩手県におけるワカメ養殖
施設。(被災前施設数約1
万2千台)
殖 施 設
宮城県におけるギンザケ養
殖施設。(被災前施設数約
300台)
宮城県におけるワカメ養殖
施設。(被災前施設数約2
万4千台)
宮城県におけるノリ養殖施
設。(被災前施設数約5万
1千台)
加工流通施設
被災3県で被害があった産
地市場(34施設)
被災3県で被害があった水
産加工施設(831施設)
が れ
がれきにより漁業活動に支
障のある定置漁場
(958か所)
がれきにより漁業活動に支
障のある養殖漁場
(804か所)
約5割(岩手県・ワカメ)
(復旧した養殖施設)
約7割(宮城県・ギンザケ)
(復旧した養殖施設)
平成24(2012)年度末まで
にすべての養殖業再開希望者
が養殖施設の整備を目途。
約6割(宮城県・ワカメ)
(復旧した養殖施設)
約4割(宮城県・ノリ)
(復旧した養殖施設)
岩手: 92%(12施設) 宮城:100%( 9施設) 福島: 8%( 1施設)
65%(被災3県)
(22施設が業務再開)
50%(被災3県)
(417施設が業務再開)
岩手:56%(125施設) 宮城:45%(223施設)
福島:60%( 69施設)
92%
(879か所の定置漁場でがれき撤去完了)
91%
(732か所の養殖漁場でがれき撤去完了)
岩手:97%(123か所) 宮城:91%(756か所) 福島: −
岩手:94%(134か所) 宮城:91%(596か所) 福島:33%( 2か所)
岩手県及び宮城県の産地市場
は、22施 設 す べ てが 平 成24
(2012)年 度 末 ま で に 再 開
見込み。
平成27(2015)年度末まで
に再開希望者全員の施設を復
旧・復興することを目途。
定置・養殖漁場のがれき撤去
に つ い て、平 成23(2011)
年度末までに撤去が終了しな
かった残りの漁場のがれき撤
去は平成24(2012)年度に
お い て も 実 施 し、平 成24
(2012)年度末までに終了さ
せる見込み。なお、がれきの
分布状況によっては平成25
(2013)年度においても実施。
第3節 震災が我が国の水産業にもたらしている影響
第3 節
震災が我が国の水産業にもたらしている影響
第1部
本節では、今回の地震・津波が漁業・養殖業にもたらした被害による水産物の供給能力の
低下、また、被災地の拠点漁港及び卸売市場における製氷・冷凍能力の低下等に起因する遠
洋・沖合漁業の水揚げ地の変更等に伴い、水産物の供給や流通に及んでいる現段階での主な
影響についてみていきます。
(1)被災地の水産業が果たしてきた役割
の62%(4万3千トン)
、マダラの50%(2万7千トン)、
スルメイカの41%(8万2千トン)、
サバ類の37%(18万1千トン)がこの地域の漁業者によって生産され、全国に供給されてい
ます。このほか、この地域に特徴的な魚種として、サメ類59%(2万3千トン)、メカジキ
41%(4千トン)等、全国の生産量において高いシェアを占めているものもあります。養殖
業収獲量では、ワカメ類74%(3万9千トン)、コンブ類37%(1万6千トン)、カキ類(殻
付き)26%(5万1千トン)等が高い割合を占めています。
さらに、養殖用種苗販売量についてみると、本地域が全国に占めるシェアは、カキ類種苗
で全国の81%、ワカメ類種苗で34%となっており、例えば、宮城県のカキは三重県、石川県、
福岡県をはじめとする各地の養殖産地に供給されています。
なお、この地域の漁業就業者数は34,280人と全国の15%を占めています。
表Ⅰ− 3 − 1 北海道から千葉県にかけての漁業・養殖業者による生産が全国に占める割合
(平成22(2010)年)
(単位:トン)
漁獲量計
養殖業収獲量計
合 計
141,922
90,478
51,434
123,323
1,459
x
15,497
1,403,770
218,969
187,850
347,911
80,398
183,918
178,131
7道県 計
2,176,834
424,113
2,600,947
53%
38%
50%
897,073
191,821
1,088,894
22%
17%
21%
4,121,038
1,111,338
5,232,376
全国に占める割合
青森県太平洋側∼千葉県 計
全国に占める割合
全 国
資料:農林水産省「漁業・養殖業生産統計」
注:1) 茨城県の養殖業収獲量については、統計調査の秘密保護の観点から「x」表示とする秘匿措置が施
されており、非公表のため合計には含まれていない。
2)「青森県太平洋側」とは、青森県下北郡佐井村とむつ市の境界から、青森県と岩手県の境界までの市
町村。
北海道
平成22年
(2010)
海面漁業 53%
漁獲量
412万トン
青森
岩手
千葉
1,261,848
128,491
136,416
224,588
78,939
183,918
162,634
宮城
福島
茨城
北海道
青森県
岩手県
宮城県
福島県
茨城県
千葉県
北海道
青森
平成22年
(2010) 38%
岩手
海面養殖業
収獲量
111万トン
宮城
千葉
第Ⅰ章
(全国の水産物供給に大きな役割)
北海道から千葉県までの漁業・養殖業生産量は全国の5割を占めています。中でも特に大
きな被害を受けた青森県太平洋側から千葉県にかけての地域について現状(平成22(2010)
年)をみると、全国の生産量の21%(108万9千トン)、生産額の15%(2,099億円)がこの
地域の漁業・養殖業者によって生産されています。魚種別にみると、漁獲量では、マイワシ
図Ⅰ− 3 − 1 青森県太平洋側から千葉県にかけての漁業・養殖業生産量が全国に占める割合
(魚種別)
岩手
44%
アワビ類
宮城
マダラ 50%
千葉
宮城
26%
カキ類
(殻付き)
岩手
74%
宮城
福島
第Ⅰ章
宮城
宮城
千葉
〈養殖用種苗〉
岩手
ワカメ類
福島
マイワシ
茨城
62%
サメ類 59%
宮城
茨城
〈養殖業〉
茨城
千葉
岩手
青森※
福島
千葉
宮城
41%
メカジキ
岩手
41%
スルメイカ
岩手
37%
カタクチ
千葉
イワシ
茨城
青森※
岩手
宮城
38%
福島
ヒラメ
岩手
青森※
サバ類
※森
青
千葉
37%
※森
青
第1部
福島
茨城
福島
宮城
37%
サンマ
宮城
宮城
岩手
※森
青
岩手
※森
青
〈漁業〉
岩手
ホヤ類
95%
宮城
岩手
37%
コンブ類
宮城
岩手
34%
ワカメ類
宮城
種苗
カキ類
種苗
81%
宮城
資料:農林水産省「漁業・養殖業生産統計」
(平成22(2010)年)
※:太平洋海区のみの生産量である。
(拠点漁港の経済的・社会的機能)
青森県から千葉県にかけての太平洋沿岸の地域には、八戸、釜石、大船渡、気仙沼、女川、
石巻、塩竈、銚子等、我が国の水産業にとって重要な漁港が位置しています。これらの漁港
は、沖合・遠洋漁業の水揚げ港として発展し、地元の漁船だけでなく、他地域の漁船が多数、
水揚げを行い、燃油、氷、水・食料等の補給拠点や船員の休養等のための拠点としています。
例えば、富山県、三重県、高知県、大分県、宮崎県等のかつお・まぐろ漁船は気仙沼及び
塩竈を、静岡県、石川県、三重県等の大中型まき網漁船は八戸、気仙沼、石巻、銚子等をそ
れぞれの活動拠点としています。これらの拠点漁港には、水産物の物流の出発点となる産地
市場があり、そこから供給される水産物を原料としてすり身、切り身加工、冷凍加工、魚粉
等の様々な加工品を製造する水産加工場が立地しています。さらに、拠点漁港の周辺には、
冷蔵庫、製氷、容器製造、物流に加え、造船、鉄工所、船舶機器、漁具資材の製造業等、水
産業とそれを支える関連産業が集積し、相互に支え合いながら地域を発展させてきました。
この地域に立地する水産加工場は全国の16%(1,627か所)、水産加工品の製造量は全国の
生産量(373万トン)の34%に及びます。また、全国の漁船関係の造船所の18%(50か所)
がこの地域に所在しており、全国の中・大型漁船のうち2割が当地域で建造されるなど、我
が国の漁業を支えています。
第3節 震災が我が国の水産業にもたらしている影響
表Ⅰ− 3 − 2 青森県から千葉県にかけての全国的な拠点漁港と水産加工業
漁港名
水揚量
(トン)
水産加工場数 水産加工場
(工場) 従業員数(人)
主 要 水 揚 げ 魚 種
88
釜 石
17,066 サバ類、サンマ、サケ類(生)
、スルメイカ(生)
、ブリ類
16
401
大船渡
49,575 サンマ、サバ類、カツオ(生)
、サケ類(生)
、スルメイカ(生)
31
1,202
98
3,417
気仙沼 104,069 カツオ(生)
、サンマ、サメ類、サバ類、ビンナガ(生)
女 川
53,985 サンマ、カタクチイワシ、サケ類(生)
、カツオ(冷)
、サバ類
3,872
32
1,199
石 巻 109,656 サバ類、カツオ(冷)
、スルメイカ(生)
、カタクチイワシ、サケ類(生)
115
3,868
塩 竈
108
2,554
107
2,708
6,921 ビンナガ(生)
、メバチ(生)
、キハダ(生)
、クロカワ類(生)
、カツオ(生)
銚 子 214,209 サバ類、カタクチイワシ、マイワシ、サンマ、ブリ類
《豊かな三陸の海》
青森県八戸から宮城県牡鹿半島南端にかけての三陸の沖合には世界有数ともいわれる好漁場が広が
っています。
三陸沖に好漁場が形成される理由として第1に挙げられるのは海流の存在です。カムチャッカ半島
沖から千島列島沿いを南下して流れてくる親潮(千島海流)は、オホーツク海から流れ出る海水
※1
と
混合して大量の栄養塩を含んでいるため、特に春期には大量の植物プランクトンが一斉に発生し、そ
れを食べる動物プランクトンも大増殖します。一方、フィリピン諸島の東から北上してくる黒潮(日
本海流)は、栄養塩濃度は低いものの、南の産卵域から多種類の回遊性魚種を運んできます。三陸沖
では、これら2つの海流が近接することで、複雑な構造をもつ「混合域」が形成され、これをカツオ、
マグロ、サバ、サンマ等、様々な回遊性魚種が餌場として利用することから、多数の魚群が形成され
ます。このため、三陸沖は、かつお・まぐろ漁業やまき網
漁業等、回遊性の魚を対象とする漁業の好漁場となってい
ます。
第2に、三陸沖の海底には、水深200m程度の陸棚が発
達し、タラやカレイ等の底魚が多く生息していることから、
三陸沖は、底びき網漁業や底はえ縄漁業にとっても好漁場
となっています。
さらに、三陸の南側(おおむね岩手県宮古市以南)の地
域には、リアス式海岸
※2
と呼ばれる海岸線の出入りが多
くて入り江が連なる海岸が続いており、ウニ、アワビ、ワ
カメ等の沿岸漁業やワカメ、ホタテ、ホヤ、ギンザケ等の
養殖業も盛んに行われています。
三陸沖の好漁場でカツオ
を漁獲するまき網漁船
※1 オホーツク海の海水は、アムール川等の流入河川から供給される陸水の影響により大量の栄養塩を含ん
でいる。
※2 起伏の多い山地が地盤の沈降または海面の上昇によって海面下に沈んでできた海岸。
第Ⅰ章
資料:農林水産省「漁業センサス」
(平成20(2008)年)
、水産庁調べ(平成22(2010)年)
注:1)「全国的な拠点漁港」は、
「東日本大震災からの復興の基本方針」
(平成23(2011)年7月29日決定)に基づく、農林水産省関連の復
興施策の事業計画及び工程表に記載されている8漁港。
2) 水産加工場数及び従業員数は、拠点漁港の所在市町の工場数及び人数。
第1部
八 戸 114,908 サバ類、スルメイカ(生)
、アカイカ(冷)
、スルメイカ(冷)
、スケトウダラ(生)
(2)水産物の国内流通への影響
第1部
(三陸を代表する沿岸漁業・養殖業による魚介類の供給が大きく減少)
三陸地方の沿岸漁業・養殖業によって生産されていた魚介類や海藻のうち、全国の生産量
に大きなシェアを占めていたものとしては、漁業では、ワカメ、アワビ、ウニ、養殖業では、
ワカメ、カキ、ホタテガイ、ホヤ、ギンザケ等があり、これらの魚介類は、東日本大震災に
よって全国的に供給量が減少しました。
なお、カキ、ホタテガイ、ホヤ等の養殖業では、養殖用の稚貝や稚魚が出荷サイズに成長
第Ⅰ章
するまでに通常2∼3年の期間を要するため、養殖施設が復旧した後にも、生産量減少の影
響が続く可能性があります。
表Ⅰ− 3 − 3 岩手県、宮城県における漁連共販実績
岩手県の共販実績(数量・金額)の前年比較(4∼12月)
数量(トン)
金額(万円)
対前年
対前年
取扱品目
22年
23年 増減率
22年
23年
増減率
(2010)
(2011)
(2010) (2011)
養殖生ワカメ
1,382
3 −100% 13,382
41 −100%
2,030 −98%
養殖湯通し塩蔵ワカメ 1,608
18 −99% 113,557
天然生ワカメ
312
342
9%
3,746
8,901 138%
370
217 −41%
天然湯通し塩蔵ワカメ
7
2 −69%
天然干コンブ
216
14 −94% 18,188
1,918 −89%
アワビ
354
148 −58% 318,180 181,878 −43%
カキ(むき身)
49
0 −100%
6,857
0 −100%
2,076
11 −99%
カキ(殻付き)
413
2 −99%
生ウニ
136
7 −95% 83,985
7,490 −91%
7,034
1,128 −84%
殻付きウニ
112
8 −93%
鮮魚類
−
−
2,791
257 −91%
共販総計
−
−
948,271 207,845
−78%
資料:岩手県漁連の資料を基に水産庁で作成
宮城県の共販実績(数量・金額)の前年比較(4∼12月)
取扱品目
カキ(むき身)
カキ(殻付き)
養殖干ワカメ
養殖塩蔵ワカメ
養殖生ワカメ
塩蔵コンブ
天然生ワカメ
ホタテガイ
殻付きホヤ
アワビ
殻付きウニ
アサリ
共販総計
数量(トン)
金額(万円)
対前年
22年
23年 増減率
22年
23年
(2010)(2011)
(2010) (2011)
2,398
70 −97%
327,872
11,010
90
1 −99%
1,461
14
2,059
0
14
0 −100%
1,737
0 −100%
93,679
0
919
0 −100%
7,571
0
291
0 −100%
7,966
0
2
7 250%
18
57
8,699
5 −100%
245,282
162
46
0 −100%
650
0
93
15 −84%
65,549
12,470
366
70 −81%
15,720
3,683
94
2 −97%
5,253
133
20,105
169 −99% 1,012,270
43,654
対前年
増減率
−97%
−99%
−100%
−100%
−100%
−100%
220%
−100%
−100%
−81%
−77%
−97%
−96%
資料:宮城県漁連の資料を基に水産庁で作成
図Ⅰ− 3 − 2 岩手県、宮城県の主要漁港への水揚量・金額の変化
平成22(2010)年度
平成23(2011)年度
岩 手 県
%
前年比
宮 城 県
水
揚
量
万トン
5
100
80
4
80
4
60
3
60
3
40
2
40
2
20
1
20
1
0
0
4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 月
0
0
4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 月
100
水
揚
金
額
%
%
万トン
5
%
100
80
40
80
80
60
30
60
60
40
20
40
40
20
10
20
20
0
0
0
4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 月
4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 月
資料:岩手県及び宮城県資料に基づき水産庁で作成
注:岩手県は久慈、宮古、釜石、大船渡の4漁港の合計、宮城県は気仙沼、女川、石巻、塩竈の4漁港の合計。速報値等を含む。
億円
100
億円
50
100
0
第3節 震災が我が国の水産業にもたらしている影響
(三陸地方の拠点漁港の機能低下により水揚げ地が変更)
被害の大きかった三陸地方の拠点漁港(宮古、釜石、大船渡、気仙沼、女川、石巻等)で
は、製氷・冷凍・冷蔵能力の低下や付近に集積していた水産加工場の復旧が十分でないこと
から、まき網漁業、底びき網漁業、かつお・まぐろ漁業等の沖合・遠洋漁業によって水揚げ
された漁獲物を従前のように冷凍・加工品として処理することが困難な状況となりました。
このため、沖合・遠洋漁業において、水揚げ地を三陸から他の地域に変更する動きがみられ
ました。
例えば、かつお一本釣り漁船には、気仙沼の魚市場が復旧するまでの間、千葉県の銚子や
勝浦に水揚げ地を変更するケースがみられました。また、さんま棒受網漁船には、製氷能力
が不足している三陸地方の漁港から、漁場にも近い北海道根室市の漁港へと水揚げ地を変更
するものがみられました。
なお、東北地方の拠点漁港の中でも、比較的被害が少なく、魚市場での取引再開も早かっ
た八戸(青森県)、塩竈(宮城県)では、他地域からの水揚げも加わり、これら2港への水
揚げ量は、八戸では前年と同程度、塩竈では前年を上回るものとなっています。
図Ⅰ− 3 − 3 銚子、勝浦、根室、八戸、塩竈の水揚げ実績
平成22(2010)年度
〈銚子〉
万トン
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3月
平成23(2011)年度
〈勝浦〉
万トン
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3月
〈八戸〉
万トン
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3月
〈根室〉
万トン
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3月
万トン
0.3
〈塩竈〉
0.2
0.1
0.0
4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3月
資料:
(社)
漁業情報サービスセンターの資料を基に水産庁で作成
注:根室の水揚げ実績には、花咲、歯舞及び落石の一部を含む。
※1 北海道漁業協同組合連合会調べ。
第Ⅰ章
程度(約2万2千トン)と低迷しました。噴火湾で生産されるホタテガイは、主に加工原料
向けに出荷されていたことから、全国の加工業者の原料調達に影響が及びました。なお、噴
火湾におけるホタテガイの生産量はその後回復しており、10月から翌年2月にかけての生産
※1
量は約2万3千トンと前年を3割上回っています 。
第1部
(各地の養殖産地の被害による供給への影響)
今回の津波は、各地の養殖産地にも被害をもたらしており、北海道噴火湾のホタテガイ養
殖業、高知県須崎市野見湾のカンパチ養殖業、三重県伊勢湾、英虞湾、五ヶ所湾のマダイ養
殖業、カキ養殖業等で大きな規模の被害が報告されています。
北海道噴火湾は、国内のホタテガイ生産量の2割のシェアを有する生産地ですが、湾奥を
中心とする被害によって、平成23(2011)年4月から9月にかけての生産量は、前年の6割
第1部
(東京都中央卸売市場の入荷量・価格)
以上に述べたような漁業・養殖業の生産量の減少、沖合・遠洋漁業の水揚げ地の変更によ
って、消費地の卸売市場への魚介類の入荷に影響が生じています。東京都中央卸売市場では
岩手県、宮城県、福島県からの入荷量(平成23(2011)年3月から12月)が前年同期の49%
に低下しました。また、入荷量が低下したカツオ、カキ、ホタテガイ等の魚介類において取
引価格の上昇がみられます。東京都中央卸売市場の全体の取引(平成23(2011)年3月から
12月)をみると、入荷量は前年の92%、平均価格は前年の105%となっています。
表Ⅰ− 3 − 4 東京都中央卸売市場の水産物取扱実績
第Ⅰ章
取扱量(トン)
平成22(2010)年 平成23(2011)年
3∼12月
3∼12月
全体
東北3県分
全体
東北3県分
483,737 48,520 446,001 23,760
総 計
(主な取扱品目)
生鮮魚 カツオ
13,383
サメ類
416
サケ・マス類(輸入除) 2,763
タラ類
3,682
サンマ
11,204
ホヤ
389
貝 類 カキ(殻付き)
1,870
カキ(むき身)
1,546
ホタテガイ
2,427
海藻類 生ワカメ
978
加工品 練り製品類
22,805
6,944
343
1,414
1,265
4,617
329
982
620
1,807
607
5,812
10,284
212
2,200
3,852
12,142
121
830
1,258
954
697
22,420
2,962
84
684
1,134
2,772
28
16
76
71
143
3,757
平均価格(円/kg)
平成22(2010)年 平成23(2011)年
対前年比
対前年比
3∼12月
3∼12月
全体 東北3県分 全体 東北3県分 全体 東北3県分 全体 東北3県分
92%
49%
823
667
864
722 105% 108%
77%
51%
80%
105%
108%
31%
44%
81%
39%
71%
98%
43%
24%
48%
90%
60%
9%
2%
12%
4%
23%
65%
484
424
742
738
437
288
582
1,247
321
360
555
394
404
721
807
311
270
487
1,547
301
349
515
537
507
827
731
442
426
817
1,325
466
445
565
477
491
753
818
331
263
734
1,722
370
333
502
111%
120%
111%
99%
101%
148%
140%
106%
145%
124%
102%
121%
121%
104%
101%
106%
97%
151%
111%
123%
95%
97%
資料:東京都中央卸売市場「市場統計情報」に基づき水産庁で作成
注:1) 東北3県とは、岩手県、宮城県、福島県をいう。
2) 福島県からの入荷は、福島県の卸売業者等から入荷した水産物(他地域で漁獲し福島県で水揚げされた水産物を含む。
)である。
(水産物の小売価格への影響)
水産物の小売価格への影響は、全般的なものではありませんが、一部の魚介類で価格の上
昇がみられます。総務省の小売物価統計の対象となっている水産物の各品目のうち、被災地
からの供給が多かったと思われるサンマ、カツオ、ワカメ、カキについて、東京都区部と大
阪市の2か所における小売価格の動きを過去3か年の平均と比較してみます。
サンマについては、東京都区部では、平成23(2011)年度漁期当初の7月、8月に過去3
か年を大きく上回る価格でしたが、10月以降は同水準となっており、大阪市では、いずれの
時期も過去3か年と同水準で推移しました。また、カツオについては、東京都区部では、過
去3か年とほぼ同水準の価格となる一方、大阪市では過去3か年を下回った価格で推移しま
した。このようにサンマ、カツオの小売価格については、東日本大震災の影響を大きく受け
たとみられる特徴的な変動はみられませんでした。これは、サンマ、カツオでは、水揚げ港
の変更はあったものの、全体的な水揚げ量については過去3か年と大きな違いがなかったた
めと考えられます。
一方、岩手県、宮城県の沿岸漁業・養殖業による供給が国内流通量の相当程度を占めてい
るワカメ及びカキについては、後述するように国内生産の減少を輸入品で代替する動きもあ
りましたが、全体的な供給量が減少したため、東京都区部、大阪市ともに過去3か年よりも
高価格で推移しました。
第3節 震災が我が国の水産業にもたらしている影響
図Ⅰ− 3 − 4 東日本大震災後の小売価格の推移
平成20(2008)∼ 22(2010)年度3か年平均
〈サンマ〉
円/100g
4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3月
大
阪
4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3月
円/100g
300
250
200
150
100
50
0
円/100g
350
300
250
200
150
100
50
0
円/100g
250
円/100g
250
200
200
150
150
100
100
50
50
4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3月
0
4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3月
〈カ キ〉
円/100g
400
350
300
250
200
150
100
50
0
4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3月
0
4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3月
4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3月
第Ⅰ章
円/100g
160
140
120
100
80
60
40
20
0
〈ワカメ〉
第1部
東京都区部
160
140
120
100
80
60
40
20
0
〈カツオ〉
平成23(2011)年度
円/100g
400
350
300
250
200
150
100
50
0
4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3月
資料:総務省「小売物価統計調査」
注:調査対象月は、カツオが3∼10月、カキが1∼3月・10月∼12月。
(3)水産加工業への影響
(三陸産の原料の供給減による全国の水産加工業者への影響)
三陸地域の漁業・養殖業によって水揚げされた水産物や水揚げ後に地元の水産加工業者に
よって一次加工された水産物は、全国の水産加工業の産地に原材料として供給されていまし
た。しかし、ワカメ等の養殖施設の壊滅的被害、三陸地域の拠点漁港から他地域の港への水
揚げ地の変更、多数の水産加工場の甚大な被害によって、三陸地域から各地への水産加工原
料の供給が大きく減少しました。
ワカメについては、国産の7割以上を岩手県、宮城県の2県で占めており、国産原料を使
※1
用した高品質のカットわかめ 等を生産していた全国の加工場が、国内の他産地産や輸入原
料への切替等の対応を余儀なくされました。また、気仙沼では、近海かつお・まぐろ漁業の
副産物として多く水揚げされるサメを地元の水産加工場ですり身に加工した後、はんぺんの
原料として関東地方の練り製品業者に出荷していましたが、東日本大震災によってサメが気
仙沼に水揚げされなくなったため、関東一円のはんぺん加工業者の原料調達が一時的に困難
な状況となりました。さらに、三陸地域の冷凍庫に保管されていたサンマの加工原料が津波
による被害で使用不可能となったことから、関西地方のサンマ干物の加工業者の原料調達が
一時的に困難となりました。
※1 湯通し塩蔵したワカメをいったん塩抜きしてから食べやすい大きさに切り、乾燥させたもの。スープ類の具等に
用いられる。
第1部
(被災地の現状に対応した事業再開の取組)
東北地方から関東地方にかけての水産加工場では、津波による被害に加え、地盤沈下が操
業再開に当たっての大きな問題となっています。水産加工場の多くは、漁港の後背地等の沿
岸地帯に立地しており、多くの工場で敷地の地盤が大きく沈下し、浸水や高潮時の冠水とい
った被害を受けています。工場の操業を再開するためには、まず、工場の敷地をかさ上げし、
その上に新たな施設を再建する必要があります。さらに、自治体による建築制限の対象地区
第Ⅰ章
に立地している水産加工場では、自治体による建築制限が解除されるまでの間、加工場の再
建に着手できないという状況が生じました。
被災地の水産加工業者の中には、このような状況から、元の敷地への工場再建は当面困難
と判断し、他の地域に工場を移転して事業再開を図る動きがみられます。また、これまでに
販売していた自社製品の販売ルートを維持・確保するため、自社ブランド商品の製造を他社
に委託して継続する動きもみられます。
《事例》
①新たな土地に新工場を構えて事業を再開
岩手県陸前高田市の(株)武蔵野フーズは、平成3(1991)年に創業し、東北地方や首都圏のス
ーパー等で販売する寿司ネタ等を製造しています。同社は、広田湾に面した長部漁港の近くに立地
していた工場で約40人を雇用していましたが、津波によって全壊の被害を受けました。地盤沈下の
影響もあり、工場の再建に目処がつかない中、同社では、社長の知人の紹介で北海道札幌市内の総
菜会社の工場を買い取り、平成23(2011)年6月、事業を再開しました。
札幌工場では、ホタテガイやタコ等、北海道産の水産物を主な原料とし、総菜の製造ラインを用
いて様々な加工品を製造しています。同社では、札幌の事業を軌道に乗せるとともに、平成24
(2012)年度内に陸前高田の工場を再建することとしており、陸前高田と札幌の両地域において、
これまで以上に高品質で多くの消費者に喜ばれる水産加工品の製造を目指しています。
②委託製造による自社ブランドの維持 宮城県石巻市の山徳平塚水産
(株)は、石巻の沿岸部に3つの工場を有し、地元に水揚げされる魚
介類を原料とした練り製品やレトルトパック製品を製造していました。津波によって、同社の本社
工場は、建物がかろうじて残ったものの、加工機械類が
すべて流失し、生産が不可能な状態となりました。しか
し、自社ブランド製品の販売を早期に再開して、事業の
本格的再開に向けた第一歩を踏み出すため、同社は、石
巻専修大学から紹介を受けた青森県八戸市の武輪水産
(株)にサバ味噌煮(レトルトパック)の製造を委託し
ました。この委託製造に際しては、加工設備の違いや原
料を八戸産のサバに変更したこと等により、満足できる
味付け等に到達するまで数か月を要しましたが、平成
23(2011)年9月から製造が開始され、同年内に2万
パックが出荷されました。
青森県八戸市内の工場で
行われる委託製造の様子
第3節 震災が我が国の水産業にもたらしている影響
(4)国内の供給減に対応する輸入の増加
サンマ(冷凍)は台湾からの輸入が、マダラ(冷凍)は米国からの輸入が主体となっていま
す。
図Ⅰ− 3 − 5 品目別の輸入金額及び輸入相手国・地域(前年との比較:4∼12月)
〈ワカメ〉
〈干ノリ〉
億円
120
億円
14
100
12
韓国
80
40
20
0
韓国
中国
10
6
中国
中国
平成22
23 年
(2010)
(2011)
4
2
0
〈サンマ〉
(冷凍)
億円
30
25
その他
その他
韓国
韓国
平成22
23 年
(2010)
(2011)
10
7
5
4
15
中国
億円
8
韓国
韓国
0
億円
40
(冷凍)
35
ロシア
25
中国
20
台湾
台湾
1
平成22
23 年
(2010)
(2011)
〈マダラ〉
30
3
2
5
0
韓国
6
20
8
60
〈カキ〉
(活・鮮・冷・凍)
ロシア
米国
15
10
米国
5
平成22
23 年
(2010)
(2011)
0
平成22
23 年
(2010)
(2011)
資料:財務省「貿易統計」
(5)漁業・養殖業の生産を支える資材等の需給への影響
(養殖用種苗の需給への影響)
三陸地域は、カキの養殖用種苗の産地として各地の養殖業を支えてきました。特に宮城県
産のカキ種苗は、大きく成長するのが特徴で、水温の暖かい地域に移入した場合、1年未満
で収獲できることから、三重県、石川県、福岡県、長崎県等の各産地で重用されていました。
しかし、東日本大震災によって宮城県のカキ種苗生産業者の施設が被害を受けたため、宮城
県内をはじめ全国各地へのカキ種苗の出荷量が減少しました。また、震災によって採苗に必
要な資材も失われたことから、宮城県のカキ種苗生産業者による今期(平成23(2011)年期)
の採苗実績は、例年の4割程度にとどまるなどの影響がありました。
このため、各地のカキ養殖産地では、広島県をはじめとする他産地からの種苗の入手や自
家採苗による種苗の確保を目指す取組が進められました。
※1 平成23(2011)年4∼12月における我が国の水産物輸入量は214万5千トン。前年同期比で0.2%減少。
第Ⅰ章
品目で輸入の増加がみられます。
例えば、ワカメ、干ノリ及びカキは、国内生産の減少を補う形で輸入が増加しました。主
な輸入相手国は、ワカメ、干ノリが中国及び韓国、カキが韓国となっています。また、サン
マ(冷凍)及びマダラ(冷凍)については、三陸地方の水産加工場で冷凍保管されていた加
工原料が津波の被害で使用できない状態となったため、それを補う形で輸入が急増しました。
第1部
(貿易統計からみえる輸入増の動き)
財務省の貿易統計によると、東日本大震災後における水産物の輸入量は、全体では前年と
※1
比べ、若干減少 しましたが、震災によって生産が減少した品目や保管在庫に被害があった
《カキの母貝確保に向けた取組》
○カキ養殖の復興に関する産学官連携プロジェクト
カキ(マガキ)の養殖は、主に養殖中のカキ(母貝)から生み出された浮遊幼生を採苗器に着底
第1部
させることで稚貝(種苗)を確保し、それを育てるものです。宮城県は、カキ養殖用種苗の供給で
は全国の8割のシェアをもつ産地でしたが、津波によって養殖中のマガキが壊滅的な被害を受けた
ことから種苗の確保に支障を来す事態が懸念されました。
そこで宮城県産の母貝から人工授精によって大量の種苗を生産し母貝まで育てることで、早期の
マガキ養殖の復興を支援する「東日本大震災マガキ復興支援プロジェクト」が企画されました。こ
のプロジェクトには、宮城県水産技術総合センター、ヤ
第Ⅰ章
ンマー
(株)、東北大学、(独)水産総合研究センター東北
区水産研究所が参加し、例えば、ヤンマー(株)が有す
る海産二枚貝の高密度飼育技術を応用してカキ幼生を育
成するなど、それぞれの専門分野を活用して約1,300万
個のマガキ種苗が生産されました。感染症に対する防疫
対策に十分配慮して飼育・搬送されたこのマガキ種苗は
現在、宮城県漁協に譲渡され、石巻湾万石浦と松島湾で
飼育管理されています。今後は母貝としての有効性を評
価するため、宮城県と東北区水産研究所による生育、生
残及び成熟に係る調査が予定されています。
カキ稚貝を付着させたホタテ原盤を
沖合の養殖場に移す作業 ○地元産のカキを用いた人工種苗生産技術の開発
三重県内のカキ(マガキ)養殖業者は、これまでマガキ種苗のほとんどを宮城県に依存してきま
したが、東日本大震災によって同県からのマガキ種苗の入手
が困難となることが懸念されました。
このため、三重県ではカキ養殖の生産を維持するため、平
成23(2011)年度から自前で種苗を生産する技術を確立す
ることとし、陸上水槽における人工種苗の生産や地元海域で
の天然種苗生産の技術開発に取り組んでいます。
また、長崎県佐世保市でも、三重県と同様の懸念から同市
水産センターの施設を利用したマガキ稚貝の生産実験が平成
23(2011)年8月から開始されています。
陸上水槽で生産されているマガキの
人工種苗(三重県水産研究所)
(網・ロープ等の生産資材の需給への影響)
三陸地域を中心に養殖業に使用するロープや定置網について復旧・復興のための需要が急
増しました。しかし、三陸の拠点漁港の後背地にあった漁具メーカーの工場や営業所が被災
したこともあり、供給は不足がちになっています。また、定置網は、設置海域の地形や潮流
等の特性を考慮して、一つ一つ異なる形に組み立てられることから網の組立て(仕立て)の
作業工程が機械化になじまず、手作業で行われており、急な増産が難しいという問題もあり
ます。このため、網を注文しても納期が通常より大幅に遅れるという状況が生じています。
また、船外機や漁船の部品等についても、復旧・復興のための需要が増大しており、全国
的に供給が不足がちになっています。
第4節 原発事故による水産業への影響と対応
第4 節
原発事故による水産業への影響と対応
(1)事故の概要と事故収束に向けた取組状況
(事故に伴う汚染水の海水中への放出)
平成23(2011)年4月1日から6日にかけて、東電福島第一原発の2号機から高濃度の放
射性物質を含む汚染水が流出しました。さらに、4月4日から10日にかけては、2号機の地
下にたまった高濃度汚染水を移送・保管するため、比較的低濃度の汚染水が海水中に放出さ
れました。
度重なる放射性物質による海洋汚染に対し、全国漁業協同組合連合会が国及び東京電力株
式会社(以下「東京電力」という。
)に強く抗議するなど、漁業関係者の憤りが高まりました。
(事故に伴う放射性物質の大気中への放出)
また、原子炉格納容器内の圧力を下げるためのベント作業や、その後の水素爆発による原
子炉建屋の損壊によって、
東電福島第一原発から大気中に大量の放射性物質が拡散しました。
その多くは風に乗って拡散し、広範囲にわたって海上に降り注いだものと考えられます。
(事故収束に向けた取組状況)
今回の東電福島第一原発の事故については、東京電力が平成23(2011)年4月17日に発表
した「福島第一原子力発電所・事故の収束に向けた道筋」に基づき、一刻も早く事態を収束
することが求められます。こうした中、12月16日には、政府の原子力災害対策本部において、
原子炉の「冷温停止状態」
、放射性物質の飛散抑制等の目標が達成され、「放射性物質の放出
が管理され、
放射線量が大幅に抑えられている」というステップ2の完了が確認されました。
今後は、12月21日に取りまとめられた「東京電力(株)福島第一原子力発電所1∼4号機
の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」に基づく取組が続けられることとなります。こ
うした中、政府・東京電力には、汚染水の流出等に対する漁業関係者の懸念を払拭するよう
な慎重な対応が引き続き求められています。
第Ⅰ章
東電福島第一原発に設置されている6基の原子炉のうち、1号機及び3号機において、炉
心の損傷により大量に発生した水素が原子炉建屋に充満したことによると思われる爆発が発
生しました。さらに、4号機においても水素が原因と思われる爆発があり、原子炉建屋の上
部が破壊されたほか、2号機では原子炉格納容器近辺で水素が原因と思われる爆発が生じた
とされています。
この事故によって高濃度の放射性物質を含む汚染水の海洋への流出をはじめ、大量の放射
性物質が環境中に拡散したことから、水産業にも深刻な影響を及ぼしています。
第1部
(事故の概要)
平成23(2011)年3月11日、東京電力株式会社福島第一原子力発電所(以下「東電福島第
一原発」という。)は、東北地方太平洋沖地震とこれに伴う津波に見舞われました。これに
より、外部電源及び発電所に備えられていたほぼすべての交流電源が失われ、原子炉や使用
済燃料プールが冷却不能に陥りました。
図Ⅰ− 4 − 1 中長期ロードマップの概要(平成23(2011)年12月21日)
現在(ステップ2完了)
2年以内
10年以内
30∼40年後
第1部
第1期
第2期
第3期
〈安定状態達成〉
冷温停止状態
放出の大幅抑制
使用済燃料プール内の燃料取り出し
が開始されるまでの期間(2年以内)
燃料デブリ取り出しが開始さ
れるまでの期間(10年以内)
廃止措置終了までの
期間(30 ∼ 40年後)
使用済燃料プール内の燃料の取り
出し開始(4号機、2年以内)
発電所全体からの追加的放出及び
事故後に発生した放射性廃棄物
(水 処 理 二 次 廃 棄 物、ガ レ キ 等)
による放射線の影響を低減し、こ
れらによる敷地境界における実効
線量1ミリシーベルト/年未満と
する。
原子炉冷却、滞留水処理の安定的
継続、信頼性向上
燃料デブリ取り出しに向けた研究
開発及び除染作業に着手
放射性廃棄物処理・処分に向けた
研究開発に着手
全号機の使用済み燃料プー
ル内の燃料の取り出しの終
了
建屋内の除染、格納容器の
修復及び水張り等、燃料デ
ブリ取り出しの準備を完了
し、燃料デブリ取り出し開
始(10年以内目標)
原子炉冷却の安定的な継続
滞留水処理の完了
放射性廃棄物処理・処分に
向けた研究開発の継続、原
子炉施設の解体に向けた研
究開発に着手
燃料デブリの取り
出し完了(20∼25
年後)
廃止措置の完了
(30 ∼ 40年後)
放射性廃棄物の処
理・処分の実施
第Ⅰ章
ステップ1、2
要員の計画的育成・配置、意欲向上策、作業安全確保に向けた取組(継続実施)
資料:政府・東京電力中長期対策会議において作成した資料
(2)海や河川・湖沼における放射性物質の状況
東電福島第一原発の事故により海や河川・湖沼に拡散した放射性物質は、海水や淡水中を
様々な経路で移動し、時間をかけて次第に海底・河床等に沈殿していきます。このため、海
水・淡水や底土等に含まれる放射性物質の濃度について動向を注視し、水産物に及ぼす影響
を見極めていくことが重要であり、このような水産物への影響等に関する様々な課題につい
て、適切に調査を進めていくこととしています。
(海域に係るモニタリングの実施状況)
海域を対象とする放射性物質のモニタリングについては、文部科学省を中心に関係機関の
連携の下、
「総合モニタリング計画」
(平成23(2011)年8月2日決定、平成24(2012)年3
月15日及び4月1日改定)に基づき、青森県(一部)、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、
千葉県(一部)沖にかけて海水、海底土及び水産物を対象に実施されています。
最近では、海水の放射能濃度については、東電福島第一原発の事故から間もない時期と比
べて低い値が続いています。一方、海底土の放射能濃度については、事故以前の水準に比べ、
全般的に、いまだに高い値となっており、また、距離、時間によるばらつきや広域にわたる
拡散がみられています。
こうした状況を踏まえ、平成24(2012)年4月以降においては、「総合モニタリング計画」
等に沿って、海水についてはセシウムを中心に分析精度を向上させた濃度の把握、海底土に
ついては時間的・距離的なばらつきや性状の把握、海洋生物については水産物の放射性物質
第4節 原発事故による水産業への影響と対応
の濃度の経時変化の把握等の観点から、測定を実施することとしています。さらに、東電福
島第一原発から海へ流出した放射性物質だけでなく、陸地から河川を通じて海へ流出した放
射性物質の経路も考慮し、モニタリングの充実・強化等を行うこととしています。
(水産物に係るモニタリングの実施状況)
水産庁では、平成23(2011)年5月2日に公表した「水産物の放射性物質検査に関する基
本方針」及び原子力災害対策本部が策定した「検査計画、出荷制限等の品目・区域の設定・
解除の考え方」
(平成24(2012)年3月12日改定)に基づき、関係都道府県や漁業者団体と
連携して、計画的な水産物の放射性物質の調査を推進しています。具体的には、主要な沿岸
性種や回遊性魚種等について、東電福島第一原発の事故による影響に留意しつつ漁期開始前
に調査を実施し、安全を確認した後に操業を開始することとしており、その後も、表層、中
層、
底層等の生息域や漁期を考慮し、
主要水揚港等において定期的な調査(原則週1回程度)
が行われています。
特に、福島・宮城・茨城・岩手・千葉の5県においては、過去に50ベクレル/㎏を超えた
ことのある水産物を対象に、主な食性、生息水深等を考慮した品目群ごとに調査を実施する
など、平成24(2012)年4月からの放射性物質の新たな基準値(放射性セシウムとして100
ベクレル/㎏)の施行を踏まえ、調査の充実を図っています。
調査の結果、基準値を上回るものが出た品目等については、関連する漁業の操業自粛や出
荷制限等の措置がとられています。なお、平成24(2012)年4月現在、福島県沖ではすべて
の沿岸漁業及び底びき網漁業の操業が自粛されており、東電福島第一原発周辺で漁獲された
水産物は市場に出回っていません。
第Ⅰ章
方、底質の放射能濃度については、数値のばらつきが大きく、比較的高い値の観測点もみら
れます。
第1部
(河川、湖沼等に係るモニタリングの実施状況)
河川、湖沼等の放射性物質に係る水質、底質等のモニタリングについては、「総合モニタ
リング計画」に基づき、環境省が中心となり、福島県、宮城県、山形県(一部)
、茨城県、
栃木県、群馬県及び千葉県(一部)において実施されています。
最近では、水質については、不検出または低い値の観測点がほとんどとなっています。一
図Ⅰ− 4 − 2 水産物に係る放射性物質調査の実施状況
平成24(2012)年1月から3月に行われた調査における検体のサンプリング海域
第1部
福島県
福島第1原発
北海道
福島第2原発
群馬県
第Ⅰ章
栃木県
青森県
茨城県
埼玉県
秋田県
岩手県
東京都
暫定規制値超過魚種
(1月以降)
アイナメ
ウスメバル
エゾイソアイナメ
キツネメバル
クロソイ
ケムシカジカ
コモンカスベ
サブロウ
シロメバル
スズキ
ヌマガレイ
ババガレイ
ヒラメ
マコガレイ
イワナ
ウグイ
ヤマメ
ワカサギ
神奈川県
千葉県
山形県
宮城県
【注】
・・・暫定規制値超過
・・・暫定規制値以下
放射性物質の暫定規制値(500ベクレル/kg)の下、平成23(2011)年3月24日から平成24(2012)年3月31
日までに結果が得られた調査の検体数は8,567件。うち暫定規制値超過件数は254件(全体の3.0%)
。
水産物に対する国民の不安を払拭するためには、計画的な放射性物質調査を適切に実施し、
その結果を速やかに、かつ、わかりやすく提供していくことが重要です。このため、関係都
道府県や漁業者団体等とも連携して、水産物に含まれる放射性物質のレベルが十分低下する
までの間、引き続き調査を推進していくこととしています。さらに、食物連鎖を通じた放射
性物質の濃縮の過程等、水生生物における放射性物質の挙動等を明らかにしていくための科
学的な調査等も実施することとしています。
《水産物中の放射性物質の測定方法》
魚介類は表層、中層、底層と様々な環境に生息しており、また、生活史の各段階で様々な回遊を行
っています。さらに、魚介類の食べ方についても丸ごと食べるものや切り身で食べるもの等、魚種に
よる違いがあります。
水産物中の放射性物質の測定に当たっては、このような点を考慮して、各海域や生息環境を代表す
る魚介類をまんべんなく選んで検体をサンプリングするとともに、魚の可食部(例えば、丸ごと食べ
る小魚は魚体全体)を試料として測定します。また、通常水戻しをして食べる干ワカメ等は水戻しし
た状態に換算して測定します。
第4節 原発事故による水産業への影響と対応
※
以下の手順は、(独)水産総合研究センターが、厚生労働省のマニュアル に基づき、都道府県等の
測定担当者のため、具体的な作業工程を示した資料を抜粋したものです。この資料は、可能な限り迅
速かつ正確な測定が可能となるよう配慮して作成されています。
第1部
水産物の放射性物質モニタリングの作業工程(例)
試料の採取、保管、輸送
検査担当者の安全確認
前処理
(分析機関)
冷蔵または冷凍保存
取得位置、時間等の情報メモ
同梱
ゲルマニウム半導体検出器での
測定
第Ⅰ章
試料受取、
内容確認
サーベイメーター等による
放射線量の簡易測定
複数個体の可食部を合
わせて細かく切り刻む
測定用試料の作成
直径10cm、高さ5cmの使い
捨て容器に隙間がないように
詰める
丸ごと食べる小魚は、魚体全
体を測定用試料として使用
測定結果の報告
容器をポリ袋に入れ、密封し、測定
放射性ヨウ素と放射性セシウムの濃度算定
関係
機関
※ 「緊急時における食品の放射能測定マニュアル」
(平成14(2002)年3月)
(3)水産物の安全の確保
(食品中の放射性物質の基準値の設定)
東電福島第一原発の事故を受けて、平成23(2011)年3月17日、厚生労働省は、食品中の
放射性物質に係る暫定規制値を設定しました(魚介類については、放射性セシウムが500ベ
クレル/㎏(3月17日設定)
、放射性ヨウ素が2,000ベクレル/㎏(4月5日設定)
)。この暫
定規制値は、事故後の緊急的な対応として食品からの被ばくに対して許容することができる
線量を、放射性セシウムについて実効線量として年間5ミリシーベルト、放射性ヨウ素につ
いて甲状腺等価線量として年間50ミリシーベルトとした上で設定されていました。
この暫定規制値に適合している食品については健康への影響はないと一般的に評価され、
安全は確保されていましたが、より一層、食品の安全と安心を確保するため、コーデックス
※1
委員会 のガイドライン等を踏まえ、長期的な状況に対応する新たな基準値を定めることと
なりました。放射線審議会及び薬事・食品衛生審議会における検討等を経て、食品からの被
※1 コーデックス委員会:消費者の健康の保護、
食品の公正な貿易の確保等を目的として、昭和38(1963)年にFAO(国
連食糧農業機関)及びWHO(世界保健機関)により設置された国際的な政府間機関。国際食品規格の策定等を行っ
ている。我が国は昭和41(1966)年より加盟。
第1部
ばくに対する年間の許容線量が年間1ミリシーベルトに引き下げられ、これに基づく新たな
基準値が平成24(2012)年4月1日から施行されました。
この放射性セシウムに係る新たな基準値は、4つの食品区分(飲料水、乳児用食品、牛乳、
一般食品)に応じて設定され、水産物は「一般食品」として、100ベクレル/㎏の基準値が
適用されています。なお、半減期が短く、既に検出が認められない放射性ヨウ素については、
基準値は設定されていません。
図Ⅰ− 4 − 3 食品中の放射性物質の新基準値
放射性セシウムの暫定規制値
第Ⅰ章
食品群
飲
食品群
規制値(ベクレル/kg)
水
200
飲 料 水
10
牛乳・乳製品
200
牛 乳
50
乳児用食品
50
一般食品
100
野
料
規制値(ベクレル/kg)
放射性セシウムの新基準値
菜
類
穀 類
肉・卵・魚・その他
500
資料:厚生労働省資料を基に水産庁で作成
(原子力災害対策特別措置法に基づく出荷制限・摂取制限)
基準値(放射性セシウムについて100ベクレル/㎏)を上回る放射性物質が検出された食
※1
品の販売や流通・加工等は、食品衛生法 に基づき禁止されています。また、原子力災害対
※2
策特別措置法 に基づき、必要に応じ、原子力災害対策本部長(内閣総理大臣)の指示によ
る出荷制限や摂取制限の対象となります。出荷制限・摂取制限の設定または解除の条件等に
ついては、同本部が平成23(2011)年4月4日に策定(その後、6月27日、8月4日改定)し、
さらに平成24(2012)年3月12日に改定した「検査計画、出荷制限等の品目・区域の設定・
解除の考え方」において、具体的な調査の頻度等が定められています。
(基準値を上回る水産物の流通防止措置)
水産物の安全と消費者の信頼を確保するため、水産物に含まれる放射性物質濃度の状況を
継続的に把握する「モニタリング」の強化を図ってきています。モニタリングに当たっては、
各地の主な水揚げ港において原則週1回、水揚げされる主な魚種の測定を行っており、特に
放射性セシウムの新基準値の施行(平成24(2012)年4月1日)を踏まえ、福島・宮城・茨
城・岩手・千葉の5県では、これまでに50ベクレル/㎏を超えたことのある水産物を対象に
主な食性、生息水深等を考慮した品目群ごとの調査が実施されています。
また、基準値を超える放射性物質を含む水産物が出荷されないよう、モニタリングの結果
に基づき、関係都道府県の要請、または漁業者団体の自主的な判断により、当該魚種の水揚
げを自粛する措置が取られています。この際、同じ海域で漁獲された同一魚種であっても放
射性セシウム濃度に振れがあること等を踏まえ、基準値を超える放射性物質を含む水産物が
出荷されないよう、100ベクレル/㎏よりも低い濃度において水揚げを自粛することとして
いる団体もあります。
※1 昭和22年法律第233号
※2 平成11年法律第156号
第4節 原発事故による水産業への影響と対応
(福島における漁業の再開)
福島県沖における全面的な操業自粛が長期化する中、福島県沿岸域の被災漁業者の方々が
元の生活を取り戻すためには、放射性物質に対する水産物の安全と消費者の信頼の確保に万
再建に対して支援を行っていくこととしています。
また、その間も、操業の自粛を余儀なくされている、特に福島県沿岸域の被災漁業者の方々
に対し、漁場のがれき撤去の取組等に関する支援を行うこととしています。
(4)水産物への被害と対応
(風評被害への対応)
東電福島第一原発の事故発生後、放射性物質による汚染の危険性への懸念から、福島県を
はじめ同原発の近隣の県で漁獲された水産物や水産加工品等に対する買い控えや取引停止等
のいわゆる風評被害がみられます。こうした風評被害をはじめとして、国内外で生じている
水産物の安全性に対する不安の解消が東日本大震災からの水産復興に当たっての喫緊の課題
となっています。
水産庁では、水産物に係る放射性物質調査を継続し、都道府県のモニタリング調査と併せ
て結果を公表するなど、消費者等に対して、水産物に含まれる放射性物質に関する正確でわ
かりやすい情報を発信しています。
(消費者への情報提供の充実)
また、水産庁では、平成23(2011)年10月5日に公表した「東日本太平洋における生鮮水
産物の産地表示方法について」に基づき、生鮮水産物に係る原産地表示の実施等を推進して
います。これは、東電福島第一原発の事故に伴い、生鮮水産物の生産水域の情報に対する消
費者の関心が高まったことを踏まえ、東日本太平洋で漁獲される水産物については、これま
でより明確な水域による表示を推奨することとしたものです。
具体的には、当該水域で漁獲された生鮮水産物につき、回遊性魚種については図Ⅰ−4−
4のとおり7つの水域区分を設定し、沿岸性魚種については「○○県沖」の原産地表示をす
ることとしています。
現在、大手小売店や卸売市場等において、この表示方法の導入が進められているところで
す。
※1 P29表Ⅰ−2−3参照。
第Ⅰ章
全を期した上で、一部の海域・漁業種類からでも、漁業再開に向けた取組を進めることが重
要です。このため、操業を自粛している海域の中でも、放射性物質の検出値が低い海域や検
出値の低い魚種に限定した形で操業再開が可能かどうか検討するため、水産物の放射性物質
調査を集中的に実施していくこととしています。
その結果、操業の再開が可能な場合には、漁業者の操業の安全性が確認された海域におい
※1
て、
「がんばる漁業復興支援事業 」の活用等を通じて漁業者や養殖業者の経営の合理化や
第1部
さらに、淡水魚については、海産魚に比べ、体内に取り込まれた放射性物質の排出に要す
る時間が長いため、淡水魚から基準値を超える放射性物質が検出された場合、その淡水魚が
生息する水系を対象として採補の自粛や出荷制限の措置がとられています。
各地の業界団体等による水揚げ等の自粛の状況については、水産庁及び関係都道府県のホ
ームページに最新の情報が掲載されています。
さらに、東日本大震災の被災地及びその周辺で生産・加工された食品の積極的な消費を通
じ、被災地の復興を応援する「食べて応援しよう!」の取組を推進しています。
図Ⅰ−4−4 生鮮水産物に係る原産地表示の区分(回遊性魚種)
第1部
①北海道・青森県沖太平洋
(北海道青森沖太平洋)
(北海道青森太平洋)
本土から200海里の線
青森県岩手県
境界正東線
②三陸北部沖
③三陸南部沖
⑦日
本
太
平洋沖
合北部
︵日本太
平洋沖
北部︶
第Ⅰ章
①北海道・青森県沖太平洋
(北海道青森沖太平洋)
(北海道青森太平洋)
②三陸北部沖
③三陸南部沖
④福島県沖
⑤日立・鹿島沖
⑥房総沖
⑦日本太平洋沖合北部
(日本太平洋沖北部)
岩手県宮城県
境界正東線
宮城県福島県
境界正東線
④福島県沖
福島県茨城県
境界正東線
⑤日立・鹿島沖
茨城県千葉県
境界正東線
⑥房総沖
千葉県
野島崎正東線
店頭での表示例
(海外に向けた取組等)
海外への水産物の輸出は、我が国の水産物市場の拡大に資するとともに、国内向けの水産
物の供給量を調整し、国内価格を安定させるなど、我が国の水産業にとって重要な役割を果
たしています。しかし、東電福島第一原発の事故に伴い、各国において水産物を含む日本産
食品の輸入規制が強化されました。また、海外の取引先等から、日本産食品に対して懸念が
表明されるといった事態も発生しました。このような状況に対応し、各国政府に対しては、
放射性物質に係る調査結果や安全確保のために我が国がとっている措置等を説明し、科学的
なデータに基づいた対応をとるよう働きかけを行っています。例えば、我が国水産物の主要
な輸出先である中国については、平成23(2011)年5月、放射性物質調査及び原産地証明に
係る日本政府による証明書の発行方法等について合意し、いち早く輸出の再開に至りました。
このように、今後とも在外公館や在京大使館、国際会議の場等を通じて、こうした働きか
けを続けていきます。また、相手国が求める放射性物質に係る検査証明や産地証明等につい
ても、都道府県や関係機関の協力を得て、引き続き円滑に発行していくこととしています。
さらに、地方公共団体や民間事業者等とも連携して、主要な輸出先国における展示会等の
イベントにおける広報活動を行うなど、我が国の水産物の輸出の回復に向けた取組を強化し
ていくこととしています。
第4節 原発事故による水産業への影響と対応
例
事
中国への輸出再開に向けた取組
第1部
【鮮魚の輸出再開:長崎魚市(株)】
平成23(2011)年5月27日に日中政府間で水産物の放射性
物質安全証明書の内容等について合意がなされたことを受け、5
月31日、長崎魚市(株)は上海向けの鮮魚輸出を再開しました。
これは、東電福島第一原発の事故後に停止していた中国向け食品
輸出が再開した最初のケースとなりました。
県は、放射性物質検査体制を迅速に整備するなど、全面的に支援
第Ⅰ章
長崎魚市(株)による中国向け鮮魚の輸出再開に当たり、長崎
北京で開催された
長崎県水産品中国普及促進会
しました。また、平成24(2012)年2月には、長崎県のほか、
関係機関の共催によって、北京及び上海で「長崎県水産品中国普及促進会」を開催し、長崎県産鮮魚
の安全性等の説明を行いました。長崎魚市(株)による中国向け鮮魚の輸出事業は、平成24(2012)
年に入り順調に回復しています。
【主要魚種の輸出回復:北海道】
北海道では、道産の主要魚種であるサケ、ホタテガイの輸出回復
に向けた取組が進められました。
平成23(2011)年7月には、(財)北海道薬剤師会公衆衛生検査セ
ンターに国の支援によって放射性物質検査機器が導入され、輸出水産
物の迅速な検査体制が整備されました。また、北海道漁連は、平成
24(2012)年3月、主要輸出先である大連において消費拡大懇談会
を開催し、現地の関係者に北海道産水産物の安全性を説明しました。
大連で開催された消費拡大
懇談会における試食展示 【中国国際漁業博覧会への日本ブース出展】
水産庁は、平成23(2011)年11月1日から3日にかけて中国・
青島で開催されたアジア最大級のシーフードショー「中国国際漁
業博覧会」に日本ブースを出展しました。ブース内では、
サンマ、
ホタテガイ、サケ等の水産物やその安全性を説明するパネルを展
示するとともに、来場者にリーフレットを配布しました。また、
展示会場内でセミナーを開催し、日本産水産物の安全性や品質の
高さを中国のバイヤー達にアピールしました。
来場者で賑わう日本ブース
(輸出への影響)
東日本大震災以降の平成23(2011)年4月から12月にかけての水産物の輸出金額は、多く
の国・地域で輸入規制が強化されたこと等により減少しました。スケトウダラ(生鮮・冷蔵・
冷凍)の輸出金額は、前年同期の49%(25億円)
、サケ・マス(生鮮・冷蔵・冷凍)の輸出
金額は同34%(52億円)となりました。ただし、サケ・マスの輸出減については、今漁期(平
成23(2011)年秋以降)におけるシロザケ(秋さけ)の漁獲が極めて低調であったことも影
響したものと考えられます。
第1部
国別にみると、輸入規制の強化等の影響が大きかった中国、韓国、ロシア等への輸出が大
幅に減少しており、特にこれらの国々における我が国の水産物の安全性に係る信頼の回復が
急務となっています。一方、水産物全体でみると、米国や台湾等、輸出額が減少しなかった
国や地域もみられ、平成23(2011)年4月から12月にかけての輸出金額は、前年同期比で16
%の減少となりました。
なお、水産物全体の輸出金額を暦年(1月から12月まで)でみると、平成23(2011)年は、
第Ⅰ章
前年と比べ11.0%の減少、前々年(平成21(2009)年)との比較では0.7%の増加となってい
ます。
東日本大震災後の各国・地域での輸入規制の強化に加え、平成23(2011)年には、為替相
場が大幅な円高となり、水産物の輸出環境が悪化しました。このような逆風の中でも、水産
物全体の輸出額がおおむね堅調に推移したのは、我が国の高品質な水産物に対する各国・地
域からの根強い需要を反映したものと考えられます。
表Ⅰ− 4 − 1 平成23(2011)年(4∼12月)における国・地域別の水産物輸出金額
香港
米国
中国
タイ
ベトナム
台湾
韓国
EU
ロシア
総計
輸出金額(億円)
442
183
118
98
95
88
69
29
5
1,265
対前年比
88%
103%
50%
89%
249%
113%
56%
80%
22%
84%
資料:財務省「貿易統計」
表Ⅰ−4−2 平成21(2009)年から平成23(2011)年における水産物輸出金額の推移(暦年)
(単位:億円)
平成21(2009)年
平成22(2010)年
1,728
1,955
輸出
金額
平成23(2011)年
1,741
22年比 11.0% 減
21年比
0.7% 増
資料:財務省「貿易統計」
図Ⅰ− 4 − 5 平成23(2011)年(4∼12月)における主な輸出品目の輸出金額
(前年同期との比較)
〈サケ・マス〉
〈スケトウダラ〉
〈ホタテガイ〉
(生・蔵・凍)
(生・蔵・凍)
(活・生・蔵・凍・塩・干)
億円
160
140
その他
タイ
億円
100
億円
60
ベトナム
40
80
60
20
中国
0
韓国
その他
資料:財務省「貿易統計」
23 年
(2011)
40
中国
20
10
韓国
ベトナム
韓国
その他
台湾
中国
香港
米国
中国
米国
香港
ベトナム
平成22
(2010)
23 年
(2011)
0
0
平成22
(2010)
その他
台湾
20
タイ
60
ロシア
その他 ベトナム
40
中国
30
中国
80
ロシア
120
100
シンガポール
その他
50
平成22
(2010)
23 年
(2011)
第4節 原発事故による水産業への影響と対応
表Ⅰ− 4 − 3 各国・地域が行っている輸入規制措置の例(平成24(2012)年4月現在)
国・地域
対象都道府県
品 目
上記10都県以外
輸入停止
野菜及びその製品、乳及び乳製品、茶
葉及びその製品、果物及びその製品、
薬用植物産品
政府作成の放射性物質の検査証明書及び産地
証明書(産出県)を要求
水産物
上記に加え、中国輸入業者に産地・輸送経路
を記した検疫許可申請を要求
その他の食品・飼料
政府作成の産地証明書(産出県)を要求
福島、群馬、栃木、茨城、
千葉、宮城、山形、新潟、 水産物を含むすべての食品
長野、埼玉、神奈川、
(上記7県の品目を除く)
静岡、東京
政府作成の放射性物質の検査証明書を要求
上記13都県以外
政府作成の産地証明書を要求
水産物を含むすべての食品
E
U
福島、群馬、栃木、茨城、
水産物を含むすべての食品、飼料(日
宮城、山梨、埼玉、東京、
本酒、焼酎、ウィスキーを除く)
千葉、神奈川、静岡
上記11都県以外
台
湾
水産物を含むすべての食品、飼料(日
本酒、焼酎、ウィスキーを除く)
政府作成の放射性物質の検査証明書を要求
輸入国にてサンプル検査
政府作成の産地証明(産出県)を要求
輸入国にてサンプル検査
福島、群馬、栃木、茨城、
水産物を含むすべての食品
千葉
輸入停止
上記5県以外
輸入国にて全ロット検査またはサンプル検査
野菜・果実、水産物、乳製品等
香
港
野菜・果実、牛乳、乳飲料、粉ミルク
福島、群馬、栃木、茨城、
食肉(卵を含む)
、水産物
千葉
加工食品
上記5県以外
水産物を含むすべての食品
輸入停止
政府作成の放射性物質の検査証明書を要求
輸入国にてサンプル検査
米
国
福島、栃木、宮城、岩手、 ほうれんそう、かきな、原乳、きのこ、
イカナゴの稚魚、牛肉製品等(県によ
茨城、神奈川、群馬、
輸入停止
り異なる)
千葉
福島、栃木、茨城
牛乳・乳製品、野菜・果実等
政府作成の放射性物質の検査証明書を要求
輸入国にてサンプル検査
上記3県以外
水産物を含むすべての食品、飼料
輸入国にてサンプル検査
資料:農林水産省
(漁業者等への賠償)
東電福島第一原発の事故により、漁業・養殖業者が長期間にわたり操業自粛を余儀なくさ
れ、収入の機会を逸失したり、水産加工業者が取引先から商品の取扱いを敬遠されるなど、
水産業においても多大な損害が生じています。
※1
原子力事故により生じる原子力損害については、「原子力損害の賠償に関する法律 」に
基づき賠償が行われます。平成23(2011)年8月5日に原子力損害賠償紛争審査会が策定し
た「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に
関する中間指針」において、現状において賠償すべき損害として類型化が可能な項目や範囲
等の考え方が示されました。現在、同指針に基づき東京電力による賠償金の支払が進められ
ています。農林水産省では、速やかな被害者救済の観点から、引き続き、適切に働きかけや
支援を行っていくこととしています。
※1 昭和36年法律第147号
第Ⅰ章
韓
国
輸入停止
福島、群馬、栃木、茨城、 ほうれんそう、かきな等、原乳、飼料、 (原乳は福島及び茨城が対象。飼料は福島、
茶等(県により異なる)
宮城、千葉、神奈川
栃木、群馬及び茨城が対象。茶は群馬、栃木、
茨城、千葉及び神奈川が対象)
第1部
中
国
福島、群馬、栃木、茨城、
宮城、新潟、長野、埼玉、 水産物を含むすべての食品、飼料
東京、千葉
規 制 内 容
第5 節
復旧・復興に向けた取組から考える我が国水産業の将来
第1部
第Ⅰ章
東日本大震災は、我が国の水産業に極めて広範囲かつ甚大な被害をもたらしました。この
ため、各地の水産業の復旧・復興においては、漁業・養殖業、流通業、加工業、造船業とい
った相互に支え合いながら漁場から消費者に水産物を供給してきた各地の「水産業のシステ
ム」が全般的に機能を奪われた状態となった後、一からの立て直しを強いられており、資材・
資金のみならず、マンパワーの不足もあり、その取組は、非常な困難を伴うものとなってい
ます。
しかし、そのような状況の中でも、これまでにみてきたように、東日本大震災の被災地に
おいて、水産業に関わる多くの関係者が復旧・復興に向けた力強い歩みを進めています。ま
た、こうした被災地の取組を積極的に支えようとする気運が地域を越えて高まっています。
被災地の水産業の復旧・復興に向けた様々な取組は、我が国の水産業全体が直面している
様々な課題を乗り越えていく上で貴重な示唆となるものであり、政府としても、以下のよう
な認識の下、引き続き被災地の経済社会の復興の鍵を握る水産復興の取組を全力で支援する
とともに、今回の震災の経験をこれからの水産施策にも活かしていくことが必要です。
(1)消費者と漁業者等との連携の強化
東日本大震災の被災地では、復旧・復興を支援するボランティア活動に多くの人々が参加
しました。水産分野においても、例えば、がれきの撤去や停電のため冷凍倉庫内で腐敗した
魚の処理作業、養殖いかだを固定するための土俵づくり等、現場のニーズに対応した様々な
支援活動が行われてきました。
こうした活動に参加した人々は、その後も折にふれて現地を訪れ、様々な支援・交流活動
を続けるなど、被災地の水産関係者との絆を保っています。さらに、被災地から離れた都市
に住む消費者の間でも、復旧・復興に取り組む水産関係者の姿に共感し、消費地で開催され
る販売会に出向いたり、被災地の水産物を取り寄せて購入するなどの動きもみられています。
また、小売業界が業界間及び地域間のネットワークを活用した販売網の構築等を通じて被災
地を支援する動きもみられます。
このように、国民が被災地の経済社会を支える水産業やその営みの場である漁村等に強い
関心をもち、漁業者等との間で「顔のみえる関係」を築き、これを継続していく取組は、被
災地にとどまらず、我が国の水産業全体の活性化にとっても大きな力になると考えられます。
《被災地の水産業と消費者との直接的な結びつき》
○オーナー制でカキ養殖を復興
た「つぶより牡蠣」(1年もののマガキ)をオーナーに届けるものです。同組
宮城県
の取組は、1口5千円で宮古湾のカキの「オーナー」を募集し、震災後に育て
山形県
いから、平成23(2011)年9月にカキの「オーナー制」を開始しました。こ
岩手県
をつくることによって、漁業をやめて地元を離れる人を少なくしたい」との思
秋田県
「組合の目標
た宮古湾かき養殖組合(飛鳥方克吉組合長、岩手県宮古市)は、
青森県
宮古市
東日本大震災の津波によって組合員の養殖施設や漁船のほぼすべてが失われ
第5節 復旧・復興に向けた取組から考える我が国水産業の将来
合はこれまで2∼3年もののカキを販売してきましたが、
できるだけ早期に組合員の収入を確保するため、小粒なが
らも味が濃厚な1年もののマガキを販売することを決め
ました。
第1部
同組合は、消費者からの直接受注に慣れていなかったた
め苦労もありましたが、手作りのオーナー証を発行し、オ
ーナーを宮古に招いての交流会も開催して、最終的に約
2,100口の申込みに対応しました。カキの購入費は、1口
当たり千円を組合員への支援金として活用することとし
オーナーを招いての
カキ漁場見学会(交流会)
第Ⅰ章
ており、養殖資材の購入費等に使われています。なお、オーナーの方々からは励ましの手紙や衣類
等が寄せられ、復旧・復興に取り組む組合員を元気づける貴重な支援となりました。
組合員全員の作業によって、平成23(2011)年7月に養殖いかだにつるされたカキは順調に生
育し、平成24(2012)年3月11日以降、順次、全国のオーナーに向けて発送されました。
青森県
宮城県
上に掲載し、消費者への直接販売の事業を再開しました。こうして販売された
山形県
越喜来漁港から震災後初めて出漁した地元漁船の漁獲物の写真をホームページ
大船渡市
陸とれたて市場は、東日本大震災から1か月後の平成23(2011)年4月11日、
秋田県
岩手県大船渡市で地元に水揚げされる魚介類のネット通販等を行う(有)三
岩手県
○被災地の漁業者と消費者をつなぐネット通販
魚介類の売れ行きは好調で、被災地の漁業者と被災地を支
援したいと願う消費者との間をいち早くつなぐ役割を果
たしました。
同社では、「復興には時間がかかるが、多くの方々の支
援を励みに新たな夢に向かってみんなと前進していきた
い。
」としており、地元の漁業者と一体になっての水産加
工品の開発や最新の冷凍技術で「とれたて」の鮮度を保持
した冷凍品の販売等、新たな取組を始めています。
震災後の漁場に出漁した漁船
の上で漁獲物を撮影する様子
(2)新たな操業形態の導入や高品質な水産物の供給に向けた取組等の推進
復興に向けた関係者の努力の中で、各種施設の利用における共同化や漁業生産組合の設立
等を通じた協業化、収益性の高い新たな体制への転換等の取組が始まっています。
また、被災地の水産復興に当たっては、単なる現状復旧にとどまらず、国際基準をクリア
する高度な衛生管理が可能な水産流通施設や加工施設等が一体となって高品質な水産物を供
給し、消費者の安全・安心志向や健康志向等に対応して、多様な付加価値を生み出す意欲的
な取組を加速していくことが必要です。
このような取組を継続的に支援するとともに、現場から課題をくみ上げつつ、水産業の活
性化に向けた挑戦を被災地以外の地域にも着実に拡げていくことが重要です。
《地域の水産業の復興に向けて新たな生産・販売体制を構築》
○養殖業者が生産から加工・販売までを担う会社を設立
秋田県
業、食堂の経営、IT関係等、様々な経歴を有しています。このようなメンバー
山形県
岩手県
宮城県
第1部
は、養殖生産から加工、販売まで行う合同会社です。同社のメンバーは、養殖
が力を合わせて新しい取組を進めています。
同社では、新しい形の養殖オーナー制度として「そだての住人」を募集して
石巻市雄勝地区
宮城県石巻市雄勝地区に平成23(2011)年8月に設立された「OHガッツ」
福島県
います。1口1万円の代金を前払いした購入者
には、カキ、ホタテガイ、ホヤ、ギンザケ等が
第Ⅰ章
届くだけでなく、
「そだての住民票」が交付され、
ワカメの収獲、ホヤの採苗器投入、ギンザケへ
の餌やり等、雄勝地区で実際の養殖業を体験す
ることができます。
「そだての住人」の登録口
数 は 平 成24(2012) 年 4 月 時 点 で2,619口
(2,269人)となっており、集まった資金は作
合同会社OHガッツのメンバーの皆さん
業場の建設等に利用されています。
さらに同社では、異業種の経歴を持つメンバ
ーのノウハウや人脈を活かすことで、自社のホームページの作成や、企業の社員食堂での「ワカメ
しゃぶしゃぶ」イベントの発案等、販売面にも積極的に取り組んでいます。今後、「雄勝ブランド」
の確立に向けて、平成25(2013)年7月末には「そだての住人」を2万口とすることを目標として
います。
《地域の水産資源を最大限に利用して地域経済の復興に貢献》
○地域資源を活用した水産加工業の新たな展開
(株)
阿部長商店は、気仙沼や大船渡に水揚げされるサン
マ、カツオ、マグロ、サケ等を買い付け、冷蔵・冷凍品と
して全国に出荷するとともに、これらの魚を原料とした
様々な水産加工品を製造・販売しています。同社及びグル
ープ会社が岩手、宮城両県に有していた9工場のうち8工
場で加工機器や在庫商品がほとんど流失するなど甚大な
被害を受けましたが、地元に密着した企業として地域の復
興に貢献しようと、平成23(2011)年9月に大船渡の工
操業の早期再開に向け、被災した工場の片付
場を再稼働させたのを皮切りに、南三陸町、気仙沼におい けに取り組む阿部長商店の就職内定者の皆さ
ても順次操業を再開させています。
操業再開に当たり同社は従業員を解雇せず、製造ライン
ん(平成23(2011)年3月撮影。その後、同
年4月には全員が阿部長商店に正社員として
就職)
や経理等を担っていた多くの女性従業員も含め社員全員
が一丸となって工場のがれきや冷蔵庫内に残る腐敗した冷凍品の片付け等、操業再開に必要な作業
に当たりました。
製造を再開した商品の販路を開拓するため、同社では、首都圏の小売店への直販等の「川下」へ
の取組や地域のかつお一本釣り漁船と連携した商品開発等に力を入れています。同社では、地元に
水揚げされる高品質な魚介類に加工品としての付加価値をつけることで、生産者と消費者をつなげ、
地域の水産業の復興に貢献したいとしています。
第5節 復旧・復興に向けた取組から考える我が国水産業の将来
小野食品(株)は、三陸産を中心とする旬の素材を使っ
た焼き魚や煮魚を急速凍結で真空パックした「つくりたて
の味」の水産加工品を製造し、首都圏を中心に通信販売を
行うほか、学校給食や病院食用の加工品を製造するなど、
第1部
多様な事業展開を図っていました。
同社が釜石市に有していた第1、第2工場は津波による
被害を受け、特に被害が大きかった第1工場は建物を解体
震災前に実施していた
消費者向け直売会
せざるを得ませんでした。また、平成23(2011)年2月
25日に開所したばかりの大槌町の新工場も全壊の被害を
第Ⅰ章
受けました。同社では、雇用を確保し、住民が生き生きと仕事ができる地域を取り戻すため、6月
20日に第2工場の操業を再開させ、7月からは首都圏を中心とする通販事業を再開しています。小
野食品では、地域に水揚げされる旬の魚の価値を最大限に活用した事業を展開することで、自社の
事業を再興し、ふるさとの再生に貢献したいとしています。
《漁港機能を高度化し、国内外の水産物ニーズに対応》
○国内外への安全で信頼できる水産物の供給に向けた高度衛生管理の取組
※
青森県の八戸漁港は、特定第三種漁港 に指定されている東日本最大級の漁
北海道
港であり、サバ、イカ、イワシ等が主に水揚げされています。八戸漁港では、
東北地方における水揚げ・流通拠点港としての役割を一層高めるため、平成
19(2007)年度から流通構造の改革と衛生管理対策の強化を進めています。
現在3か所に分散している魚市場機能を第3魚市場周辺(館鼻地区)に集約
八戸市
青森県
秋田県
岩手県
することにより、流通の効率化や運営コストの縮減等を進める一方、荷さばき
所等で使用する水や氷に清浄海水を導入するための施設整備や漁業種類ごとの陸揚げ、荷さばき、
搬出作業等の形態を踏まえた環境整備を行うことで、水産物の品質・衛生管理の高度化を図ること
としています。なお、この取組の中で建設が進められていたEUの衛生基準に対応した新市場は、
衛生的に水揚げを行うための最新鋭の機器が浸水するなど東日本大震災による被害を受けました
が、平成24(2012)年10月までに復旧する予定であり、完成後は、東北における水産物の輸出拠
点として機能することが期待されています。
※ 特定第三種漁港:第三種漁港(その利用範囲が全国的な漁港)のうち水産業の振興上特に重要なものと
して政令で定める漁港。八戸、塩竈、気仙沼、石巻、銚子、三崎、焼津、境、浜田、下関、博多、長崎、
枕崎の計13港。
EUの衛生基準に対応した新市場のイメージ図
改革型まき網漁船
(改革型さんま棒受網漁船)
(生鮮サバ、サンマ等)
フィッシュ
ポンプ
シャーベット氷給氷
仮置き 蓋付き
タンク
積込み
(3)漁業地域における防災機能の強化と減災対策の推進
第1部
今回の震災において、水産業の基盤である漁港施設、漁村地域等の漁業地域における防災
機能の強化や、被害の最小化を目指す「減災」の考え方に立った対策の重要性が認識されま
した。
こうした考え方に立ち、震災からの復興に当たっては、津波が来襲した場合でも、その施
設の機能・効果が粘り強く発揮できるような漁港施設や海岸保全施設の整備、災害発生後速
やかに水揚げが再開できるような産地市場の陸揚岸壁の耐震化等を推進していきます。また、
第Ⅰ章
災害発生時において地域住民・就労者・来訪者の安全を確保するため、避難路等の整備を進
めていくこととしています。
さらに、被災地以外の地域においても、それぞれの地域の特性を踏まえ、各種対策を組み
合わせた「災害に強い漁業地域づくり」を推進していきます。
図Ⅰ−5−1 地震・津波に対応した構造物の例
津波を考慮した
防波堤
押し波の越流
押し波等に
よる水平力
捨石のかさ上げ
洗掘防止及び
受働土圧による
滑動・転倒の抑制
土圧
洗掘
津波により防波堤が転倒・飛散
の防
(対策例)
耐震化した岸壁
地震・津波に対応した構造物の例①
(対策例)
止
地震動による
水平力
軽量材
土圧
被災した岸壁
本体幅の増大等に
よる抵抗力の増大
耐震化した岸壁
背後土砂の軽量化による
土圧の低減
(被災メカニズム)津波が堤防を越えた後、背後の地面等を洗掘。これをきっかけに堤防の
損壊、流失等を引き起こす。
押し波の作用
堤防裏法の法尻部を洗掘
裏法部の被履工の流出 天端部の被履工の流出
津波を考慮した海岸堤防
地震・津波に対応した構造物の例②
(対策)○堤防の高さの見直し
○堤防背後に保護工を設置すること等により被覆。さらに堤防の勾配を緩傾斜化
見直し後の海岸堤防
最大クラスの津波高さ
(かさ上げ)
従前の海岸堤防
見直し後の想定津波高さ
(数十年から数百年に一度程度発生する津波)
(緩勾配)
従前の想定津波高さ
(地域ごとに異なる考え方で設定)
(裏法尻の被覆)
第5節 復旧・復興に向けた取組から考える我が国水産業の将来
(4)放射性物質に対する水産物の安全と消費者の信頼の確保
市場への流通の防止を図っています。
加えて、適正な表示の推進やモニタリング結果の開示を積極的に行い、消費者の不安を解
消していく取組も重要です。
また、東電福島第一原発の事故以降、水産物を含む日本産食品の輸入について厳しい規制
を継続している国や地域があることに対応し、科学的根拠に基づく冷静な対応がとられるよ
う、あらゆる機会を捉え、粘り強く働きかけていく必要があります。
こうした認識の下、政府としては、水産業の活性化に向けた全国の関係者の取組を無にす
ることのないよう、その克服に向けて引き続き正面から取り組んでいきます。
図Ⅰ− 5 − 2 水産物のモニタリングによる基準値を超える水産物の流通防止
(
水
産
物
の
モ
漁 場
調 査
ニ
タ
リ
漁 場
ン グ
調
査
)
漁 場
〔水産物のモニタリング〕
実 施 体 制:国、都道府県、漁業団体が連携して実施
調査の頻度:原則週1回程度
調 査 対 象:沿岸性種(漁期ごとの主要魚種を選定)及び
広域回遊性魚種(カツオ、サバ、サンマ等)
※ 特に福島県、宮城県、茨城県、岩手県及び千葉県におい
ては、調査対象品目を詳細に設定
基準値以下の魚種の場合
通常の操業により市場に供給
基準値を超えた魚種の場合
該当魚種の水揚げを自粛
基準値を超える魚種が
地域的な広がりをもっ
て見つかった場合等
原子力災害対策
特別措置法に基
づく出荷制限、
摂取制限
※ なお、上記は基本的な考え方を模式図にしたものであり、例えば、水揚げ自粛の対象となる放射性物質の濃度を業
界団体独自に決めているところもある。
第Ⅰ章
生息域・回遊域に応じた主要漁獲物の放射性物質モニタリング調査を強化しています。
基準値(放射性セシウムについて100ベクレル/㎏)を上回る放射性物質が検出された食
品の販売や流通・加工等は、食品衛生法に基づき禁止されています。基準値を超える放射性
物質を含む水産物が出荷されないよう、モニタリングの結果に基づき、関係都道府県の要請、
または漁業者団体の自主的な判断により、当該魚種の水揚げを自粛する措置がとられていま
す。さらに、基準値を超える品目については、原子力災害対策特別措置法に基づき、原子力
災害対策本部長(内閣総理大臣)が必要に応じ関係知事に対し出荷制限や摂取制限を指示す
ることになります。このような仕組みによって、基準値を超える放射性物質を含む水産物の
第1部
東電福島第一原発の事故に伴い大量の放射性物質が環境中に放出されましたが、これによ
る水産業への被害は依然として終息せず、国内外において水産物の安全性に対する不安を惹
起している状況にあります。例えば、海底の状況は常に変化していること、放射性セシウム
の半減期が30年であること等を踏まえると、水産物の安全の確保は、今後長期間にわたり、
我が国の水産業が避けて通ることのできない主要な課題です。
水産物については、国、関係都道府県及び関係業界団体との連携により、魚介類の漁期や
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