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A Re-examination of the Theory for the Grounds of Existence of Wholesalers
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経営論集
第75号(2010年3月)
「卸売商存立根拠論の再検討」
1
「卸売商存立根拠論の再検討」
住
谷
宏
はじめに
1、問屋無用論
(1)流通革命論の中での問屋無用論
(2)『情報武装型卸売業ビジョン』での問屋無用論
(3)平成の問屋無用論
2、卸売商存立根拠論
(1)ホールの卸売商存立根拠論
(2)田村の商業介在理論
おわりに―今後の研究課題―
はじめに
「流通論」は日本で誕生したものであって、お手本が海外にあるわけではないので、その知識体
系には不十分な点が多々ある。その上、流通現象は変化が激しいため、その変化を正しく理解する
ことに研究者のエネルギーが使われる傾向にある。そのため、知識体系の整備は遅れがちである。
また、時代の急速な変化は既存の有力仮説やモデルの再検討をも迫ることになる。
そのため、流通に関する有力仮説やモデルの再検討をすることが急務なのである。その一環とし
て、ここでは、卸売商排除論とか問屋無用論という仮説が何度も展開されてきている一方で、卸売
商存立根拠論という仮説が近年、補強されていることに注目し、卸売商存立根拠論の再検討をした
い。
そのために、何度となく展開されてきている問屋無用論を最初に整理し、次に、卸売商存立根拠
論とその批判を検討し、卸売商存立根拠論に関する研究課題を明らかにしたい。
1、問屋無用論
(1)流通革命論の中での問屋無用論
「問屋無用論」という用語がマスコミで使用されるきっかけとなったいわゆる「流通革命論」に
ついて最初に検討する。
流通革命論が登場した1960年代初頭のわが国経済は、高度成長期に突入しており、生産規模は拡
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大し、生産性は向上して、大量生産体制ができていた。また、個人消費は1950年から1960年の10年
間で3倍になり、消費革命が叫ばれて、三種の神器(白黒テレビ、電気冷蔵庫、電気洗濯機)ブー
ムで大量消費の時代になっていた。
このように、大量生産、大量消費の時代になっていたが、零細な卸売業者と小売業者が多く、効
率よく商品を消費者に流通できない状況が続いていた。そのため、流通は農業、中小企業とともに
低生産性3部門と呼ばれ、政府も流通が経済発展の足かせの1つとなっていると認識していた。つ
まり、大量生産と大量消費を結ぶ太いパイプである大量流通の仕組みの出現が政府からも消費者か
らも望まれていたのである。
この時、出現したのが、スーパーであった。1957年にダイエーが、1958年に西友が誕生し、成長
し始めていた。この状況をとらえ、1962年の春、日本経済新聞社は「燃えさかる流通革命」という
特集を掲載している。そして、この年の暮れには、林周二『流通革命』が出版されている。この当
時を回顧して、
「『流通革命』という言葉をタイトルに使えば本が飛ぶように売れた時代1」であると
いわれているように、いろいろな本が出版されている。一方、マスコミが「問屋無用論」という言
葉を作り、多用するようになって、悲観した卸売商が自殺をする事件もあり、社会的関心事になっ
た。
1)流通革命における見解
『流通革命』から、多少長くなるが最も強い影響を与えたであろう記述をそのまま2ヶ所引用す
る。
「わが国のスーパー・マーケットのうち、現在最大規模のものは、単独で店舗面積2千5百平方
メートル、年間売上百億円に達する。昭和36年度わが国の国民総消費は約9兆円であるが、そのう
ち小売店舗を通じて消費者の手許に送られる部分を5兆円とすれば、仮に百億クラスの超スーパー
が全国に250軒できさえすれば、それだけで130万小売商の売上の半分をそっくり吸収してしまうこ
とになる。スーパーがいかに大きな存在であり、小売商の革命児であるかが知られよう。
もっとも、1軒単独で百億円というのは超スーパーの場合である。標準スーパー1軒当りの売上
を仮に5億円とみなすとして、
(5億円)×(5千軒)=(2兆5千億円)だから、もし全国に現在5千
軒のスーパーができさえすれば、全国小売店売上高の半分近くは、スーパーの手にさらわれる勘定
になる。そして、恐らくこの2兆ないし3兆の数字が5年後の小売機構においてスーパーが占める
シェアであろう2」
「チェーン本部はその傘下に巨大な流通機構を擁することによって、大小メーカーと直接有利に
交渉することができるようになる。ナショナル・ブランドをもつメーカーでさえ、特定チェーンの
指示によって当該チェーン専用品を製造するような場合もあらわれよう。その結果、ある種のメー
「卸売商存立根拠論の再検討」
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カーは新興経路の下請産業と化し、問屋はもちろん排除され、大衆向け日用品は続々超廉価マージ
ンで巨大店頭へ現れることになろう3」
つまり、スーパーマーケットが急速に成長するだろうということと、それに伴ってスーパー・チ
ェーンがメーカーと直接取引をするようになるため、卸売商は排除されるという、
「問屋無用論」が
主張されているのである。
以上のように、大量生産と大量消費を結ぶべき流通が脆弱であるため効率が悪く、生産部門での
コスト低減が消費者に還元されないという状態で、消費者からも政府からも大量流通の仕組みが求
められた時、スーパーマーケットが出現し、成長し始めた。これが流通革命の担い手であると期待
され、その成長により流通は革命的に変化すると予想された。これが流通革命の骨子である。
ここでの主な関心ごとは、スーパーマーケットの成長によって卸売商が排除されたのかどうかで
ある。この点を確認するために、その当時の卸売事業所数の変化を検討する。
2)卸売事業所数の推移
『流通革命』で予想されたように、1961年から5年後の66年には、セルフ・サービス店(売場面
積100㎡以上で、その50%以上についてセルフ・サービス販売方式をとる小売店舗、その多くはスー
パーマーケットまたは総合スーパー)は、4790店に増加している。ただし、販売額は5814億円で一
店舗あたり販売額は約1、2億円となり、予想された規模よりも小さかった。
このセルフ・サービス店チェーンの成長によって、排除されるだろうとされた卸売商は、図表1
の通りで、その事業所数を逆に増加させている。なお、1966年から68年にかけての減少は、ガソリ
ン・スタンドと自動車販売業が卸売業から小売業へ業種変更されたためである。
しかし、卸売事業所数には産業用品(産業財)を取り扱うものの含まれているため、生活用品(消
費財)卸売商が減少し、その減少分以上に産業財卸売商が増加したのかもしれない。その点をみた
のが、図表2である。1960年から70年の10年間で事業所数が減少したのは、繊維品卸売業、鉱物・
金属材料卸売業、代理商・仲立業の3業種である。繊維品卸売業は、生糸、繊維原料、糸、織物な
図表1
卸売事業所数の変化
年度
事業所数
1960年
225,993
1962年
223,409
1964年
229,248
1966年
287,208
1968年
239,507
1970年
255,974
注)各年の『商業統計表』による。
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図表2
業種別卸売業所数の変化
1960年
卸売業計
225,993
各種商品卸売業
―
1970年
255,974
105
繊維品卸売業
10,916
9,909
衣服・身の回り品卸売業
16,320
21,809
農畜産物・水産物卸売業
21,609
27,251
食料・飲料卸売業
33,492
38,655
医薬品・化粧品卸売業
6,245
7,939
化学製品卸売業
7,270
8,647
鉱物・金属材料卸売業
18,431
12,583
機械器具卸売業
32,153
40,892
建築材料卸売業
26,185
34,829
家具・建具・じゅう器等卸売業
9,792
11,908
再生資源卸売業
9,874
11,621
その他の卸売業
23,605
25,642
代理商・仲立業
10,101
4,184
注)商業統計表による。
どを主として取り扱う卸売業である。鉱物・金属材料卸売業は、石炭、石油、金属鉱物、砂・ジャ
リ、鉄鋼、アルミニウムなどを主として取り扱う卸売業である。つまり、わずかに事業所数が減少
した卸売商は、いずれもチェーンストアの成長の影響を受けないものばかりであった。
したがって、予想に反して、チェーンストアの成長によって卸売業は排除されなかったことにな
る。「問屋無用論」は該当しなかったのである。
では、なぜ、卸売商は排除されるという仮説が現実には起こらなかったのだろうか。この理由と
して、以下の2点が指摘される。
①セルフ・サービス店チェーンの成長にもかかわらず、中小小売商が減少せず、増加したこと・・・
1960年に約128万店あった小売店舗は、66年には約137万店と増加している。中小小売商は卸売商を
必要としているので、この増加は卸売商を増加させるように作用しても、減少させるようには作用
しない。
②セルフ・サービス店チェーンは急激な成長のため自社配送システムを形成できなかったこと・・・
流通革命論では当然図表3の取引・物流を想定していたものと考えられる。スーパー・チェーンの
本部がメーカーと取引をし、メーカーは工場からスーパー・チェーンの配送センターに商品を納品
し、配送センターが自社の各店舗に商品を配送するという姿を想定していたはずである。しかし、
スーパー・チェーンは、配送センターを各地に設立するだけの資金の余裕もなかっただろうし、配
送センター内での在庫管理、ピッキング・システム、効率的配送スケジュールの作成などの技術蓄
「卸売商存立根拠論の再検討」
図表3
メーカーとスーパー・チェーンの取引
M1
店舗1
注)Mはメーカー,
5
M2
M3
チェーン
配送
本部
センター
店舗2
は所有権移転経路,
店舗3
店舗4
は物流経路をあらわしている。
積もなかったと思われる。そのため、このような自社配送システムを作ることができず、もちろん
メーカーは各店配送というのはコスト上からもできないので、この役割を卸売商が代替してきてい
るである。そのため、スーパー・チェーンの各地への出店に伴って取引のある卸売商が支店を出す
という事態も生じたのである。そのため、スーパー・チェーンの成長は卸売商を排除せず、逆に、
事業所数を若干増加させたのである。
以上のように、流通革命論における問屋無用論は空論であったようにみえる。しかし、それから
20年以上経った1985年に当時の通産省は『情報武装型卸売業ビジョン4』の中で「問屋無用論」を新
たに展開した。
(2)『情報武装型卸売業ビジョン』での問屋無用論
旧通産省の『情報武装型卸売業ビジョン』は、流通情報化が進展する中で、個々の卸売商が今後
どのような姿になるように努力すべきかを,提示しているものである。
このビジョンでは、高度情報化社会になり,VAN などの企業間情報ネットワークが進展してきた
ために,企業間の正確・迅速な情報伝達が可能になってきたことを,卸売商にとっての重要な環境
変化としてとらえている。このような環境の下では卸売機能そのものの重要性はますます高まって
くるが,それをより効率よく遂行する他の担当機関が登場し,卸売商に代わって卸売機能を行う可
能性がある。つまり,現在のままでは卸売商はその機能を奪われ,排除される可能性があるとして,
新たに「問屋無用論」を展開しているのである。そのため,そのようにならないためには,情報武
装をしなければならないと主張している。
このビジョンで主張している情報武装型卸売業とは,「コンピュータを高度に使いこなし,企業
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内および取引先小売店との間でオンライン・ネットワークを構築し,『モノ』を販売するとともに,
ネットワークを通じて収集・蓄積される『情報』や補充発注・在庫管理・販売促進等の『システム』
を小売店に販売する卸売業」である。より具体的な情報武装型卸売業への基本方向は,次の4点に
集約される。
①品揃えの総合化・・・基本的には小売商の品揃え幅の拡大に対応していこうとするものである。
こうすることによって,小売商が求めている一括受注へ近づくことができる。また,品揃え幅を拡
大して小売商と取引することによって,小売店における自己のシェア(インストア・シェア)を高め
ることができる可能性があり,売上高の増加,主導権の強化の実現が期待される。
②オンライン受発注化・・・バーコードやコンピュータの普及などオンライン受発注ができる体
制は整ってきている。この受発注データを他の卸売活動に結びつけていくところに情報武装化の基
本的狙いがあるだけに,多くの卸売商にとっては小売商との受発注方法を効率化して,最終的には
オンライン受発注化することが必要となる。
③ローコスト・オペレーション化・・・これは主として物流活動を一層効率化しなければならな
いことを意味している。そのために求められているのが「徹底した単品在庫管理」である。これが
実現すれば小売商に対する納品時における欠品率をより小さくすることができるし,倉庫内作業も
効率的になる。単品管理とともに求められているのが「効率的ピースピッキングシステムの確立」
である。多頻度少量配送に対応するために,小分け作業,ピッキング作業,配送にかかる費用など
が増加しているが,リードタイムを縮小し,コストを減少させるために,ピースピッキングの効率
化が求められている。
④高付加価値情報の提供・・・基本的には,受注データあるいは納品実績データを加工分析して,
小売商の必要とするデータを制度的に提供していこうとするものである。従来からも小売商に対し
て新製品情報,売れ筋情報,効果的 SP についての情報などを提供してきているところもあるが,
セールスマンによって提供する情報の質が異なることが問題にされてきている。そのため,どのセ
ールスマンでも同じ質の情報を提供できる体制の整備が望まれている。この課題が受注データの加
工・分析レポートによってかなり解決される。加工・分析レポートとは,顧客ごとの納入実績レポ
ートや商品別売上ベストテン・レポートなどである。
なお,従来から行われている各種の小売店指導の高度化も重要となる。この中には,経理の指導
や代行,小売立地の評価,店舗設計,棚割り表の提案,売場作りの指導,POP やチラシ広告の作成
代行などがある。
以上のことを実現した姿が情報武装型卸売業で,こうなれば卸売商の価値は高まり,存続,成長
の余地が拡大すると考えられている。なお,消費財卸売業では,RS(Retail Support System)の重要
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性が叫ばれているが,RS とは「取引先小売業の繁栄こそが自社の成長につながる」という理念のも
とに行う小売店支援活動のことであって,その内容はここでいう高付加価値情報の提供や各種の小
売店指導の高度化とほとんど一致している。
このように、ビジョンでは新問屋無用論をちらつかせて卸売商の危機感を煽ったというのが真実
である。確かに、このビジョンの後、運送業者と VAN 会社が組んで、卸売業務を代行する企業も
誕生したが、メーカーと卸売商との間の代理店・特約店契約という壁を乗り越えられず、結局、そ
の会社は卸売商から商品を仕入れなければならず、流通情報化の進展による卸売商排除の構想は企
業レベルでは無理があった。
(3)平成の問屋無用論
しかし、卸売商排除の発想はいつの時代にもある。平成になると、メーカーや大手小売企業の間
でしばしば卸売商排除の話題が出るようになった。
その背景として次の①と②が指摘される。
① 大手スーパー・チェーンの一部が、物流に投資し、自社配送システムを構築してきていること。
② 消費財メーカーも卸売業から多品種少量多頻度配送を要請され、それに応えているうちに物流
力が高まってきていたこと。
お互いに物流投資をしているから、メーカーと小売業が直接取引をすることも可能になってきて
いるのである。そうであれば、メーカーと小売業が直接取引をして、卸売商のマージンを分け合う
方が合理的ではないだろうかという発想である。実際、イオンはメーカーとの直接取引を進めてき
ている。しかし、計画通りには進展していないのが現状である。
やはり卸売商は必要なのであろうか?卸売商は必要であるという有力な仮説が「卸売商存立根拠
論」である。
2、卸売商存立根拠論
卸売商を含めた商業者の存立根拠論としては、マーガレット・ホールの「卸売商の存立根拠論5」
と田村の「商業介在理論6」が指摘される。ここでは両理論の内容要旨を踏まえた上で疑問点などを
議論していく。
(1)ホールの卸売商存立根拠論
1)内容要旨
卸売商の存立根拠論は,取引総数極小化の原理(principle of minimum total transaction)と不確実
性プールの原理(principle of pooling uncertainty)あるいは集中貯蔵の原理(principle of massed
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reserves)に分かれる。
a.取引総数極小化の原理
いま,メーカーが5社,小売商が10社あり,小売商がすべてのメーカーから1回ずつ仕入れると
すると,必要な取引回数は5×10=50回である。
この説明だけでは、不十分な点がある。それは以下の点である。
①
メーカーは、単一の商品の生産をしていると考えるのか?それとも何種類かの商品を生産して
いると考えるのか?
②
この「仕入れ」というのは、1種類の商品を購入することを意味しているのか?それとも発注
とほぼ同意と解釈するのか?つまり、後者の解釈で、1メーカーが何種類かの商品を生産して
いるのなら、小売商はいろいろな商品の種類・量の組み合わせで1メーカーに対して発注でき
るのである。
③
もしも、メーカーがそれぞれ異なる商品を生産しているとして、単一の商品しか生産していな
いのなら、小売商の品揃えはすべて同じになろう。しかし、メーカーがそれぞれ異なる商品を
生産しているとして、何種類かの商品を生産していると考えて、仕入れは発注だと考えるのな
ら、小売商の品揃えはそれぞれ異なると考えることができるのである。
ここでは、メーカーがそれぞれ異なる商品を生産おり、それぞれ何種類かの商品を生産している
と考えている。また、仕入れは発注と同意(あるいは取引は受発注)と考えて議論を進める。
同様の条件でメーカーが m 社,小売商が n 社あるとすれば,必要な取引回数は,mn 回となる。
これに対し,メーカーと小売商の間に卸売商が1社介在し,この卸売商がすべてのメーカーの商品
を品揃えしているとすれば,メーカーと卸売商間の取引回数は m 回,卸売商と小売商間の取引回数
は n 回となり,全体として必要な取引回数は m+n 回となる。mn>m+n であるから,卸売商が介
在した方が取引回数は少なくてすむ。既述の議論から、この取引という言葉も1回の取引でひとつ
の商品の売買とは限定していないことに注意する必要がある。
1回の取引が行われると卸売商は、少なくとも受注、ピッキングリストの作成、ピッキング、受
注商品をまとめること、検品、納品書・請求書の作成、配送、代金決済などの活動を行っている。
また、その活動をスムーズに行うために事前に商品の品揃え、保管などを行っている。
つまり,卸売商が介在することによって,それが介在しない場合に比べ,取引総数が減少され,
社会的にみると,発注から代金決済にいたる取引上の費用が節減される。
b.不確実性プールの原理(集中貯蔵の原理)
いま,卸売商が介在せず小売商が10社あり,不安定な供給や需要に備え各社ともある商品の在庫
を100個保有していたとする。そうすると全体の在庫量は,100個×10社=1,000個である。
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ここに卸売商が介在し,いつでも注文に応ずるとすれば,小売商は100個の在庫を持つ必要がな
くなり,例えば30個の在庫で十分である。これに対し卸売商は予期しない需要増加などに備え,(100
個-30個)×10社=700個の在庫を保有する必要があるだろうか。700個の在庫が必要なのは,小売商
10社に同時に不測の事態が生じた場合だけである。小売商に不測の需要が生じる確率を2分の1と
すれば,10社に同時にこれが生じる確率は(1/2)10である。つまり,小売商に同時に不測の事態が生
じる確率は極めて低いので,卸売商は700個の在庫を保有する必要はなく,例えば,300個で十分で
ある。そのため,流通段階に必要な在庫量は,100個×10社=1,000個から,30個×10社+300個=600
個に減少する。
このように,卸売商が介在して,必要な在庫量を集中的に貯蔵することによって全体としての在
庫量が節約される。
メーカーと小売商との間に卸売商が介在する方が、経済的メリットがあるように、メーカーと消
費者の間に小売商が介在する方が経済的メリットがあることが予想される。そのため、卸売商の存
立根拠論は、商業者の存立根拠論といわれることもある。
2)疑問点・議論
①「mn>m+n といえるのか」
これが第一の疑問点である。これが否定されないので、これは理論だといわれてきているのであ
る。この式が成立するためには、少なくても「m と n の一方が2以上で他方が3以上の整数である
とすれば7」という条件をつける必要がある。m と n が共に2であれば、2×2=2+2であって、
mn>m+n という方程式は成立しない。原書にはこのような注釈はない。
②「取引総数極小化の原理については,
(a)卸売商に固有の存立根拠ではない,
(b)
「すべてのメ
ーカーと取引をする」という前提を満たさない卸売商(メーカーの支店,販売会社,代理店)がいる,
(c)介入する卸売商の数を明らかにしていない」といった指摘がある8。
(a)の意見は、既述したように小売商にも適応されるという意味である。
(b)の意見に関していえば、極端な言い方をすれば「すべてのメーカーと取引する」卸売商は存
在しない。異なる言い方をすれば、小売商が必要とする商品を生産・製造しているすべての生産者・
製造者と取引していることが必要となるのであるが、そのような卸売商も存在しない。
(c)に関しては、未だに誰もわかっていない。介在する卸売商が1社であれば、最も効率的であ
ろうが、正にそれは非現実的である。マーガレット・ホールが挙げている例でも、100社の小売商に
対して介在する卸売商は2社となっている。介在する卸売商が少ないほど効率的になるかもしれな
いが、現実的にはどの程度の卸売商が介在するのが望ましいのかは誰もわかっていないのである。
③「取引総数極小化の原理は,取引頻度によってその重要性が異なる9」。
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取引が年に1回行われるのと毎週1回行われるのでは、どちらが「卸売商が介在することによっ
て,それが介在しない場合に比べ,取引総数が減少され,社会的にみると,発注から代金決済にい
たる取引上の費用が節減される」効果が高いかは明らかであろう。そのため、取引頻度が多い最寄
品の卸売商の方が、取引頻度の少ない車や家電製品の卸売商よりも社会的な存立基盤が強いといえ
る。
④「不確実性プールの原理は納品リードタイムによってその効果が異なってくる10」。
不確実性プールの原理についての見解はほとんどないが、この原理の有効性は納品リードタイム
によって異なる。納品リードタイムが24時間の場合と、1週間の場合を小売商の立場で考えてみよ
う。納品リードタイムが1週間であれば、小売商は相当多くの在庫量を用意しておくことが必要と
なろう。しかし、24時間であれば1日分の安全在庫を見込めばいいのであるから必要とする在庫量
は少なくて済む。それだけ、それぞれの小売商が必要とする在庫量が少なくなるのであるから、
「卸
売商が介在して,
必要な在庫量を集中的に貯蔵することによって全体としての在庫量が節約される」
効果はより高くなる。
この在庫と納品リードタイムは、流通における重要な需給調整手段でもある。たとえば、「大量
流通は多品種少量流通へと変化し、小売業が在庫を持たなくなり、卸売業もメーカーも在庫量を少
なくしようとしたため、需給調整手段は在庫中心から素早い受発注情報の授受と素早い配送中心へ
と変化してきている11」と記述されているように、流通における需給調整手段は主に在庫であるが、
メーカーの製品多様化戦略の進展と流通情報化の進展は、
「素早い受発注情報の授受と素早い配送」
を有力な需給調整手段とするようになってきた。そのため、卸売商は、常に納品リードタイムを短
くするように努めることが自らの存立根拠を高めるように作用する。
⑤「非現実的であるという見解12」
石原は、取引総数極小化の原理については非現実的であると述べている。石原は、生産者数を P、
消費者数を C、商業者数を M とする。そして、次の2つの前提が暗黙のうちに置かれているという。
第1に、P 人の生産者はすべて異なる商品を生産している。第2に、C 人の消費者はすべて P 種類
の商品すべてを購入する。このような前提を置いた上で、1人の商業者と C 人の消費者との取引数
が C だというのは、すべての消費者は P 種類の商品を一度に購買するという仮定がおかれているこ
とを意味する。だが、これは明らかに現実的ではないと述べている。そして、結論として「通常信
じられている取引総数最小化の原理はすべての商業者が同じ品揃えをもち、消費者が一度にすべて
の商品を購買するということを前提に成り立っていたのであり、したがって業種構成を考慮に入れ
た瞬間に重大な修正を迫られることになる」と述べている。
石原の見解のうち、「すべての商業者が同じ品揃えをもち、消費者が一度にすべての商品を購買
「卸売商存立根拠論の再検討」
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するということを前提に成り立っていた」というのは明らかに、ここでの取引総数極小化の原理の
説明と異なる。つまり、生産者の生産している商品は各々異なるだろうが、その商品の種類数がい
くらなのかは前提条件に入っていない。生産者と商業者の取引は、いわゆる受発注であるから、そ
れぞれの商業者がそれぞれの生産者のどの商品をどれだけ発注しているかはわからないわけである。
したがって商業者が同じ品揃えを持つとは限らない。同様に消費者は商業者のところで一度にすべ
ての商品を購入するとは限らず、その品揃えの中で必要なものを購入すればよいのである。
そのため、田村は石原の見解について、
「しかし、取引数単純化の原理での取引は、売買(交換)
と同じものではないし、またこの原理は間接販売を直接販売と比較したものではない。それは潜在
的取引相手の探索、
交渉に焦点を置いて取引過程の構造的効率性を、
直接取引と間接取引について、
比較しようとしたものである13」と述べている。
このように取引をどのように考えるかによって、見解は異なってくる。
(2)田村の商業介在理論
1)内容要旨14
a、取引量の経済原理
生産者と消費者によって構成されている流通システムに、中間業者が介在するためには、生産者
と消費者に対して、取引費用優位性を持つと共に、生産者と消費者に対して取引費用節約効果をも
たらさなければならないと田村は主張している。それを実現するための秘密は、中間業者の社会的
品揃え形成を目指した商業モードによる取引であると述べている。
社会的品揃え物とは、複数の生産者の商品を含んでいるという意味である。そして、商業モード
の取引を行う中間業者を商業者と呼んでいる。
この時点で、ホールの「すべてのメーカーと取引をする」という条件は解消され、単に複数の生
産者の商品を品揃えすればよいことになっている。ただし、花王販社もトヨタのディーラーも商業
者ではなくなるので、それらは今後の議論の対象外となる。
取引量の経済とは、取引量の増加にともなう平均取引費用の減少のことであり、これは、商業者
が取引活動の専門化によって、取引量を拡大できるので、取引量の最小最適規模に到達することが
できることから生まれる。
それは、生産者と消費者に対する商業者の取引費用優位性の基盤になる。
なお、取引量の最小最適規模は、商品特性、流通技術、および生産と消費の隔たりによって規定さ
れている。
取引量の最小最適規模に到達する方法は、規模の経済と範囲の経済による。規模の経済とは、同
種商品の取引量の増加にともなう平均取引費用の低下であり、範囲の経済とは、複数の製品の取引
経営論集 第75号(2010年3月)
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に同じ経営資源を使うことによって生じる平均取引費用の低下である。
b、情報縮約・整合の経済原理
情報縮約・整合の経済とは、商業者の介在によって市場の情報条件が改善され、それにともなう
取引の効率化によって、平均取引費用が直接取引の場合よりも節約されることである。
田村は、取引を、①取引相手の探索、②取引条件の交渉、③取引契約の履行、の三つの段階から
なる一連の活動であると表現する。そして、生産者と消費者が直接取引きするよりも、商業者が介
在して間接取引したほうが三つの段階のそれぞれのコストが節約できると述べている。
①
取引相手の探索・・・探索にはコストがかかる。商業者が介在すると、社会的品揃え物を商品
展示場や売場に実物展示する。これによって、消費者は多くの生産者の商品の情報を取得する
ことができる。また、商業者の品揃えは、その商業者の周辺市場にいる生産者の商品情報を縮
約している。商業者は、また、投機型在庫をしているため、なるべく早く販売するために多く
の買手と接触する。商業者は、生産者よりも消費者の情報をより収集できる立場にいる。その
ため、商業者の介在は探索コストを削減する可能性が高い。
②
取引条件の交渉・・・商業者は生産者の販売代理人であり、消費者の購買代理人である。この
二重の役割を持つことによって、商業者それ自体が、縮約され内部化された一種のミニチュア
市場になる。このように商業者の仲介は、擬似的なミニチュア市場を内部組織的に形成する。
これによって価格形成を行い、生産者と消費者の価格探索を、直接取引の場合よりもはるかに
円滑にし、両者の取引費用の削減に貢献する。また、商業者は品質保証者の役割を果たすとき
がある。特に、継続的取引の場合にはこの役割が交渉コストを削減する。
③
取引契約の履行・・・履行では物流機能の遂行が重要であると指摘している。商業者は、多数
取引媒介によって、商品の物流活動の編成様式の知識を想像蓄積できる立場にあるので、物流
を生産者や消費者よりも低コストで履行できるだろうと考えている。
c、多数連結の経済原理
これは取引総数極小化の原理と集中貯蔵の原理と同じ内容である。
2)疑問点・議論
a、「取引量の経済原理」について
この議論では、商業者と比較するのは常に生産者と消費者である。この商業者には、卸売商と小
売商が含まれていると思われるが、そのような記述は一切ない。もしも、複数の生産者の商品を品
揃えする卸売商が含まれているとしたら、かつての『情報武装型卸売ビジョン』のひとつの主張が
そのまま該当するのではないだろうか。
既述したように「卸売業以上にこの機能を果たすことのできる他産業が登場することによって問
「卸売商存立根拠論の再検討」
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屋が無用になるという議論15」である。つまり、商業者のひとつである複数の生産者の商品を品揃え
している卸売商は、他産業によって代替される可能性があるのである。
同様に、商業者でなければ取引量の経済は得られないという論理であるが、各メーカーの販社も、
自動車のメーカー毎のディーラーも流通機能を果たしているのではないだろうか。つまり、田村の
言う商業者でなくても中間業者として存立し、流通機能を果たしているのである。彼らには取引量
の経済はないのだろうか。少なくても規模の経済は同様に作用しているはずである。とすれば、取
引量の経済は、田村のいう商業者に固有の介在原理であろうか。議論の余地がある。
b、「情報縮約・整合の経済原理」について
①「取引契約の履行」については、商業者よりもたとえば物流業者の方が物流機能を低コストで遂
行できる可能性が高く、
商業者が取引契約の履行コストを最も低下できると経済主体とは限らない。
②情報の縮約・整合というのは、重要な指摘だが、今後も卸売商に該当するのだろうか。たとえば、
イオンが e-マーケットプレイスで消耗品や生鮮の冷凍食品の一部などを調達しているが、あのよう
な取引が増えれば(もちろん、ブランド品は調達不可能だが)その商品に関する卸売商は必要なく
なるかもしれない。e-マーケットプレイスの登場は、買手の探索コストを非常に低下させたのであ
る。この例のように、ユビキタス社会の到来は、卸売商の情報の縮約・整合機能の価値を著しく低
下させているのではないだろうか。
おわりに―今後の研究課題―
卸売商存立根拠論は非現実的であるという石原の主張や、田村の新たな商業介在理論の提唱は、
流通論の研究者なら誰でもが知っている知識である卸売商存立根拠論にも大いに議論の余地がある
ことを知らしめている。
流通論は整備された知識体系になっているわけではない。また、急速な環境変化及び卸売商や小
売商の変化は、既存の有力仮説やモデルをも再検討するように迫っている。我々にとっては、現実
の変化の理解も重要であるが、
それ以上にこのような既知と思われている仮説やモデルを再検討し、
流通の知識体系を整備していかなければならない。
ここで再検討した卸売商の存立根拠論にしても、まだまだ研究課題があることが明らかになった。
それはたとえば次の項目である。
①取引総数極小化の原理のところで議論したように、メーカーは、単一の商品の生産をしていると
考えるのか?
それとも何種類かの商品を生産していると考えるのか?
買と考えるのか、それとも受発注とほぼ同意と解釈するのか?
前提の議論が不十分である。
取引を1種類の商品の売
このように、卸売商存立根拠論の
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②「すべてのメーカーと取引をする」という前提を満たさない卸売商ばかりなのに、それでも「取
引総数極小化の原理」は成立するのか?
③「介入する卸売商の数を明らかにしていない」のであるから、小売商店の数、生産者、製造業者
の数がわかれば、必要な、あるいは適正な卸売商の数はわかるのであろうか?
④直接取引と間接取引では、各連結の取引費用はどう変わるのだろうか?16
⑤間接取引によって得られる利得は、売手、買手、商業者間でどう配分されるか?
⑥取引数の増加につれて、商業者自身の平均取引費用曲線はどのような形状を描くか?
⑦商業者間の競争はどのように展開されるか?
了
(2010年1月4日受理)
1 堤
清二「流通産業の課題と進路」『流通政策』No.12、1982年、21ページ
2 林
周二『流通革命』1962年、94~95ページ。
3 同書、151ページ。
4 通商産業省産業政策局商政課編『情報武装型卸売業ビジョン』1985年。
5 マーガレット・ホール著、片岡一郎訳『商業の経済理論―商業の経済学的分析―』1957年、108~111ページ。
6 田村正紀『流通原理』2001年、第3章。
7 住谷宏「卸売機構」久保村隆祐編著『商学通論[新訂版]』
、1991年、81ページ
8 風呂
勉「卸商存立根拠論」『季刊
消費と流通』Vol.2,No.1,1978年,86~91ページ。
9 住谷宏「卸売機構」久保村隆祐『商学通論』、1987年、80ページ
10 同書、80ページ。
11 住谷宏「卸売機構」、久保村隆祐編著『商学通論[四訂版]』1999年、110ページ。
12 石原武政『商業組織の内部編成』2000年、122~125ページ。
13 田村正紀『流通原理』2001年、114ページ、脚注5.
14 同書、66~114ページ。
15 通商産業省産業政策局商政課編、前掲書、87ページ。
16 田村正紀、前掲書、89ページ。課題の④から⑦はすべてこのページに記述されている。
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