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多 ch 超音波センサを用いた ピストンリング油膜厚さ測定

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多 ch 超音波センサを用いた ピストンリング油膜厚さ測定
多 ch 超音波センサを用いた
ピストンリング油膜厚さ測定
高知工科大学
知能機械システム工学科
1050171
古川 由容
指導教員 竹内 彰敏
目 次
1. 緒 言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.3
2. ピストンリングの油膜厚さ測定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.4~6
2.1 油膜とエンジン性能の関係 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.4
2.2 従来の測定方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.5
2.3 パルス超音波法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.6
3. 超音波センサによる油膜厚さ測定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.7~14
3.1 測定原理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.7
3.2 実 験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.8~12
3.2.1 試験片 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.8
3.2.2 較 正 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.9
3.2.3 実験装置 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.11
3.2.4 円周方向における 1ch 測定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.12
3.2.5 結果と考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.12
3.3 ピストンリング追従性の解析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.13
3.4 1ch 測定の限界 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.14
4. 油膜厚さ測定装置の 8ch 化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.14~26
4.1 8ch 化における問題点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.14
4.2 新型探触子の開発 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.14
4.2.1 コンポジット探触子の試作と検証 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.15
4.2.2 PVDF 探触子の試作と検証 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.19
4.3 測定装置の改良 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.21~26
4.3.1 全体図 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.22
4.3.2 ch 切換スイッチの製作 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.23
4.3.3 ch 切換プログラムの製作 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.26
5. 結 言
5.1 実験結果のまとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.27
5.2 結論と今後の課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.27
5.3 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.27
6. 付 録
6.1 測定チャンネル切換プログラム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.27∼31
6.2 講演論文集原稿 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.32
2
1. 緒 言
自動車は身近な交通手段として人々の暮らしを支えているが,その動力の大半を占める
レシプロ機関は,石油資源の消費や CO2 の排出など,地球環境に及ぼす負荷の増大が問題
視されている。これらの環境負荷を可能な限り減少させつつ,今後も進化していく為には,
エンジンの燃費向上および摩擦抵抗の低減などの改良が欠かせない。ここで重要となるの
が,エンジン潤滑特性の解明である。
レシプロ機関を構成する要素の中で,特に重要な摺動部分として注目すべきなのがピス
トンリングである。レシプロ機関のピストンに装着されているピストンリングは,エンジ
ン出力,オイルや燃料の消費量,排気ガス,リングやシリンダの磨耗量などに影響を与え
ている。近年,エンジンの環境性能重視の流れから,ピストンリングも低張力化・軽量化・
薄幅化が進められている。通常,ピストンリングとシリンダの間には潤滑油の膜が存在し
ており,ピストンリングの潤滑特性を評価するためには,基準として油膜の厚さを知るこ
とが重要である。
油膜厚さを測定する方法として,従来は変位センサや光干渉が使用されてきた。しかし
これらはリング表面に加工を要したり,シリンダに透光性を要したりと,測定の正確さに
問題点があった。そこで本研究では,これらの問題点を持たない「パルス超音波法」に着
目し,超音波のエコー高さと油膜厚さを測定し関連性を調べることで,油膜厚さを測定で
きるか評価した。
油膜厚さ測定において注意すべきは,油膜はピストンリング外周面をぐるりと取り囲む
様に形成されるということである。ピストンリングには合い口という間隙があるため,ピ
ストンをシリンダに装着した時の摺動面圧は円周方向に一定ではない。またリング,シリ
ンダとも製造時の加工工程で生じた歪みがあるために,摺動面には絶えずうねりが存在す
る。これらを考慮すると,ピストンリング円周方向の油膜厚さは一定ではないことが予想
され,油膜厚さ測定はリング円周上の 1 箇所のみではなく,複数箇所で行うほうが良いこ
とが分かる。具体的手段としては測定チャンネルを増やすことが適当と考えられる。
本研究では,ピストンリングの油膜厚さ測定に超音波センサを取り入れ,より正確な油
膜厚さ測定を目指した。さらに測定チャンネルを増やし,円周方向の油膜厚さ分布が測定
できるようセンサの数を 8 つに増やした。8ch 化にともなうコスト,取り付け作業の手間,
超音波の干渉などの問題は,振動子に圧電樹脂を使用した新型探触子を開発して解決し,
測定には共通の変換器を使用するという条件と,各 ch のセンサごとに個体差があるとい
う問題点については,測定装置に ch を切り換えるスイッチ及びプログラムを追加し,克
服することとした。これらの改良の効果を検証するとともに,油膜厚さの多 ch 測定の実
現に向けて数種の実験を行った。
3
2. ピストンリングの油膜厚さ測定
2.1 油膜とエンジン性能の関係
レシプロ機関において,ピストンリングとシリンダの間には潤滑油の薄い膜が形成され
ていて,燃焼ガスの密封,ピストンからシリンダへの熱伝導,ピストンおよびシリンダの
磨耗防止などの役割を担っている(図 2)
。この油膜は,ピストンの摺動や個々の部品自体
の動き等によって厚さが約 2∼10μm の範囲で絶えず変化している。この油膜厚さの変化
を知ることが,ピストンリングの潤滑特性を評価するために重要である。
図 1.ディーゼルエンジン用ピストンリング
図 2.ピストンリング(トップリング)の油膜形成部位
4
2.2 従来の測定方法
これまで,ピストンリングの油膜厚さを測定する方法としては,変位センサや光干渉な
どが使用されてきた。しかし,変位センサはピストンリング表面にセンサを埋め込むため
の加工を要する(図 3)
,光干渉は試験材料に光透過性が必要で実際の材質と異なる(図 4)
などの問題があった。
図 3 変位センサ法 図 4 光干渉法
変位センサ法の問題点とされているピストンリングの穴については,3D-CAD でモデル
を作成しひずみ解析を行った(図 5)。穴の位置をリング合い口から 90°としたモデルと,
180°としたモデルの 2 つを検討した。
3mm
0
Φ1.5mm
180°
°
-1
90°
-2
穴
軸
0°
°
方
90°
°
180°
°
向
図 5. 穴あきピストンリングのひずみ解析
解析の結果,リングに穴あけを施すと,表面のひずみ具合が変化し,かつ穴あけ位置の
違いによるひずみ量の差が顕著であることが明らかとなった。リングのひずみ具合は,シ
リンダとの摺動面の面圧および油膜厚さに影響している。このことから,変位センサ法は
穴あけ加工がリングの変形に影響し,油膜厚さの正確な測定が出来ていない可能性が高い。
5
2.3 パルス超音波法
本研究では,より正確な油膜厚さ測定のため,従来型の問題点を持たないパルス超音波
法に着目した。この方法はピストンリング裏面に超音波センサを貼り付け(図 6)
,リング
外側に向けて超音波を照射し,反射波の音圧振幅から油膜厚さを推定するものである。
超音波センサ
シ リ ン ダ
リング
図 6.パルス超音波法
パルス超音波法で使用する超音波センサ(超音波探触子)は,一般には機械や建物内部
の非破壊検査に利用されている。一般的な超音波探触子が動作する様子を図 7 に示す。試
験体に貼り付けた探触子(灰色部分)の振動子(オレンジ色部分)に高圧パルスを印加するとパ
ルス超音波が発生し,底面に向けて伝播する(図 7 左)
。超音波は音響的性質が異なる 2
種の物質の境界面で一部が反射するため,パルスは底面で反射して振動子に戻り,その音
圧振幅がエコー高さ B として観測される(図 7 右)
。もし超音波の伝播経路にキズ等の欠
陥があった場合は,超音波は欠陥のある箇所で反射し,B よりも到達時間の短いエコー高
さ F が検出される。こうして,試験体内部の欠陥の位置を外側から確認することが出来る。
図 7.超音波探触子による内部診断(左)とエコー波形(右)
パルス超音波法では,試験リング表面の加工は不要で,リング・シリンダともに材質の
制限を受けない。パルス超音波法を活用すれば,従来のものと比較して,ピストンリング
の油膜厚さ分布を容易かつ正確に測定できる可能性がある。
6
3. 超音波センサによる油膜厚さ測定
3.1 測定原理
超音波の縦波を,ピストンリング内面からシリンダ方向に向けて照射すると,金属と油
の境界面で音波の透過と反射が起こる(図 8 参照)。これらの波のうち,リングの背面で反
射し,振動子まで戻って来たものを第一反射波とする。図 8 左上において,油膜の部分で
は,超音波の反射が繰り返し発生する。これを多重反射と呼び,反射が起こるたびに,入
射波と比べて発生が僅かに遅くかつ波形の似た波が発生し,第一反射波に干渉する(図 8 右
上)。この第一反射波の反射音圧振幅は,エコーの高さとして観測される。油膜厚さ測定は,
この第一反射エコー高さ[h]を使って行う。油膜の厚さが減少していくとき,多重反射波の
干渉の影響は大きくなり,第一反射波のエコー高さは低下する。この傾向は油膜が 0~20
μm 程度の領域で顕著であり,この領域ではエコー高さ h は油膜厚さ[L]の増減に合わせ
て上下する。この性質を利用して,油膜厚さが測定できる。
≒λ/ 2
エエエエ ココココ ーーーー 高高高高 ささささ
h0
第1反射エコー
ech
第2反射エコー
S第2反射エコー
d
h
伝 播 距 離
図 8.油膜厚さ測定の原理
7
3.2 実 験
超音波探触子 1 個を用いて,ピストンリング・シリンダ間の油膜厚さを,ピストンのス
トロークを再現した環境において測定する実験を行った。この実験により,ピストンの上
昇行程および下降行程における油膜厚さの変動が明らかになったほか,油膜厚さの円周方
向における分布を調べる実験も実施した。
3.2.1 試験片
実験に使用したピストンリング,シリンダの仕様を表1に示す。
表 1.ピストンリングおよびシリンダの仕様
外 径[㎜]
内 径[㎜]
幅[㎜]
材 質
張 力[N]
表 面 処 理
リング
86
82
3
SCM440
約 1.2N
全面無処理
シリンダ
96
86
− − −
S45C
− − −
− − −
ピストンリングに油膜厚さ測定用の超音波探触子センサを高分子接着剤にて貼り付けた。
探触子設置の様子を図 9 に示す。
図 9.探触子を設置したピストンリング
超音波探触子を測定面に貼り付ける際には,超音波が境界面を透過しやすいよう,測定
面に密着させなければならない。しかし,この探触子は先端部が平面で,何もしなければ
リング内周の曲面に密着させることが出来ない。そこで今回は,探触子を貼り付ける部分
の表面を僅かに削り,平坦な面としたのち探触子を接着した。
8
3.2.2 較正
油膜厚さとエコー高さの関係を明らかにするため,超音波探触子の較正値を測定した。
較正に使用した装置を図 10 に示す。実験は以下の手順で行った。(1)まず,リングに油膜
が形成されていないときの探傷器の波高を乾燥時エコー高さ[h0]として予め記録しておく。
(2)次にリングを固定治具にはめ込み,シリンダ内面を模したオイル槽との間に油膜を形成
する。(3)オイル槽をマイクロメータヘッドによって調整し,油膜厚さを 1μm ごとに変化
させながらエコー高さ h を記録する。(4)最後に油膜厚さ L とエコー高さ比[h/h0 ]との関係
を求める。
図 10. 油膜厚さ較正装置
9
図 11. 油膜厚さ較正器
以上の手順で,油膜厚さ 1μm ごとのエコー高さ比 H を 3 回測定し,グラフを作成した。
(図 12)
。グラフの縦軸は油膜厚さ,横軸はエコー高さ比をとっている。実験の結果,測
定波の膜厚変動に応じた定量的な変化がみられ,特に L が 0∼5μm の薄膜領域において
エコー高さ比の変化が大きかった。この結果から,探触子は膜厚変動に反応し,油膜厚さ
が測定できることが分かった。
油
膜
厚
さ
[μm]
エコー高さ比[h/h0]
図 12.油膜厚さ較正曲線
10
3.2.3 実験装置
油膜厚さ測定実験に使用した装置の概略図を図 13 に示す。
図 13. シリンダ摺動実験装置
超音波探触子を貼り付けたピストンリングを,実験装置のピストンにはめ込み,シリン
ダ内に挿入した。実験装置はピストンが固定され,シリンダがリニアモータによって上下
にスライドする構造となっている。ピストン内部には潤滑油を供給するための管が設けら
れ,摺動面に空けられた穴からオイルが湧出する。オイルは油膜を形成した後,徐々に下
降し,やがてシリンダから滴下し下部のオイル槽に溜まるが,潤滑油ポンプによってピス
トン上端の給油口まで揚げられる。こうしてオイルは循環し,油膜の供給源は維持される
仕組みとなっている。
超音波探触子が捉えた第一反射波の波高 h は,探触子が接続されている超音波探傷器に
より検出され,測定用 PC に入力される。測定用 PC は,エコー高さ h と,後述する乾燥
時エコー高さ h0 からエコー高さ比 h/h0 を求め,さらに多項式近似により油膜厚さ L に変
換し記録する。
11
3.2.4 円周方向における 1ch 測定
ピストンリングとシリンダ間の油膜は,リング円周方向の外周面を取り囲むように
形成される。そのため油膜厚さの測定は 1 ヵ所ではなく複数箇所で行うことが望まし
い。そこで,ピストンリングを円周方向にずらし,シリンダとの相対角度を 45°ずつ変
えながら計 8 回測定した(図 14)
。この実験でのシリンダの 1 ストローク周期は 0.5Hz,
最大摺動速度 Vmax は 0.157m/s である。
測定結果をもとに,円周方向の角度ごとの油膜厚さ変化を示したグラフ(図 15)を作成
した。縦軸はリングの角度,横軸はシリンダの行程を示し,油膜厚さは色で表している。
図 14.リングの角度条件
図 15.1ch 測定したリング円周方向の油膜厚さ
3.3.5 結果と考察
図 15 において,縦軸の角度ごとの油膜厚さの変動パターンを比較した。0°(=360°)付
近では,上昇行程より下降行程に大きな膜厚増加がみられる。180°付近では,逆に上昇
行程のほうに下降行程よりも大きな増加がみられ,全体的に油膜厚さ増減の幅が大きい。
実験の結果,ピストンリングの油膜厚さ変化は円周方向の角度ごとに異なることが明ら
かとなった。この違いの原因であるが,探触子のリング上での位置は変わらないため,リ
ングよりもむしろシリンダ側の表面が油膜形成状態に影響している可能性が高い。
12
3.3 ピストンリング追従性の解析
円周方向の油膜形成に影響する,シリンダ側の原因のひとつとして考えられるのが,シ
リンダ内側表面のうねりである。摺動中のシリンダ断面形状は真円ではなく,実際には
30~50μm の範囲で歪んだ形をしている。シリンダにピストンリングがはめ込まれ,内面
にリングが追従しようとする時,リングの変形はうねりのために偏りが生じ,0~20μm の
範囲での油膜厚さ分布に影響すると考えられる。
そこで,Pro-engineer によるピストンリング追従性の簡単な解析を行った。まず,内面
形状にうねりを再現したシリンダモデル(図 16)を作成し,内部に直径 86 ㎜×内径 82
㎜×幅 3 ㎜のピストンリングモデルを装着した。次にリングモデル内面に張力に相当する
面圧[0.036GPa]をかけ,円周方向におけるひずみ分布を解析した。(図 17)
基準円φ86 ㎜
30μm
φ86mm×2
図 16. 再現したシリンダ内面のうねり
実験結果から,シリンダ内面にうねりがあることによって,ピストンリングの円周方向
におけるひずみ分布が変化することが分かる。ひずみの偏りに伴ってリングの面圧分布も
変化し,円周方向の油膜厚さも影響を受ける可能性が高いと考えられる。
0
-1
-2
図 17.ピストンリングの追従性解析の結果 図 18.ピストンリングの面圧分布
13
3.4 1ch 測定の限界
今回のような,リングを回転させながら測定する方法では,探触子の取り付け位置
がリング円周上の 1 ヶ所に限られる。この方法では,探触子はリングに固定されたま
ま共に回転するため,シリンダ内面うねりの影響やリングの面圧分布(図 18)が膜厚
変化に与える影響を検証することが難しい。よってより実物に近い条件で測定するため
には探触子の数を増やす必要性があると考えられる。
そこで,研究の次の段階として測定チャンネルを増やした状態で油膜厚さ測定を行うこ
とにした。
4. 油膜厚さ測定装置の 8ch 化
多 ch 測定の最初の段階として,ピストンリング中心から 8 方向に超音波探触子を配し
た 8ch 測定を実施することにした。そこでまず,測定装置を 8ch 化すると生じる問題点に
ついて検討した。
4.1 8ch 化における問題点
これまで使用していた市販の超音波探触子では以下の 3 つの問題点が挙げられる。まず
個数が 8 倍となることによるコストの増加,次に本来平坦面で使用する探触子を,ピスト
ンリング内周の曲面に密着させるための加工の手間,そして,小型化に限界があり,リン
グの薄幅化に対応できない点である。これらを考慮した上で,今回の研究においては,ま
ずその準備段階として,多 ch 測定に対応した新たな探触子の開発を行った。
4.2 新型探触子の開発
新しい探触子の素材については,
(1)安価で(2)ピストンリング内周に密着でき(3)
ピストンリングの幅に収まる,という 3 つの条件を設定した。そしてこれらの条件に見合
う,コンポジット素子および PVDF 素子の 2 種を候補として検討した(表 2)
。両者とも
に超音波発振材として実績があり,振動子の変形,およびリング薄幅化への対応が可能な
ものである。本研究ではこれらの素子を使った探触子を試作し,従来型と同じように油膜
厚さ測定が可能か検証を行った。
表 2.超音波振動素子の種類
名 称
材 質
コンポジット
樹脂+圧電セラミックス
P V D F
ポリフッ化ビニリデン
用 途
非破壊検査,
医療超音波プローブ
触覚センサ,
水深測定器
14
変 形
薄幅化
可 能
○
可 能
◎
4.2.1 コンポジット探触子の試作と検証
超音波探触子の設計においては,ノイズの発生を可能な限り抑えなければならない。観
測されるノイズには,超音波の伝播する方向が関係している。振動子がむき出しの場合,
超音波の伝播は振動子の全ての面から発生する(図 19)。超音波の測定方向以外への伝播
はノイズの原因になるため,伝播を防ぐために振動子をエポキシ樹脂で包み込む「バッキ
ング」という処理をした(図 20)
。図 20 において,オレンジ色の部分がエポキシ樹脂であ
る。樹脂の中には鉛の粒子を混ぜ,超音波の散乱(図 21)による減衰が起こりやすくなる
効果を持たせている。
振 動 子
高分子絶縁膜
正 面 図
側 面 図
図 19. 超音波の伝播方向
図 20. 試作コンポジット探触子 図 21.超音波の散乱
バッキング処理を行うと,振動子背面への超音波伝播が抑えられ,ノイズを低減できる半
面,バッキング材の表面で反射が起こり,この反射波がリング表面側の反射波(観測波)
に干渉し,油膜厚さに悪影響を及ぼす可能性があった。そこでバッキング部の正面形にテ
ーパーをかけ,樹脂の表面を傾斜させることによって,反射波同士の干渉による減衰が起
こりやすい構造とした。(図 22 左)
15
コンポジット探触子に施したバッキング処理の効果を確認するため,探触子のエコー波
形を検証した。ここで,リング表面側のエコー波形を(a),背面側のエコー波形を(b)と
すると,(a)(b)間に十分な距離があれば干渉は起こらない(図 22)。
図 22.試作探触子の構造およびエコー波形
探触子のエコー高さにおいて,(a)および(b)が伝播する時間を予測した。超音波の伝
播時間Tは伝播距離Wと媒質中の音速Cから,以下の式を用いて求めることができる。
T = W/C・・・・・・・・・・・・・・・・・・(式 1)
(式 1)より,(a)の伝播時間 Ta は,
同様にして,
(b)の伝播時間 Tb は,
Ta
= Wa/Ca・・・・・・・・・・・・・・・・・・(式 2)
Tb
= Wb/Cb・・・・・・・・・・・・・・・・・・(式 3)
ここで,
(b)の伝播距離 Wb が,
(a)の伝播距離 Wa の 3 倍とすると,Wb = 3Wa
(式 3)は Tb = 3Wa/Cb となり,(式②)の Wa を代入して整理すると
Tb/Ta = 3(Ca/Cb)・・・・・・・・・・・・・・・・・・(式 4)となる。
式 4 の Ca に鉄の音速[5920m/s]を,Cb にエポキシ樹脂の音速[2650m/s]を代入する
と
Tb/Ta = 3 ・(5920/2650) = 3 × 2.233 ≒ 6.7 となる。
つまり,
(b)の伝播時間Tb は(a)の伝播時間Ta の約 6.7 倍となり,エコー波形にお
いては(a)の出現位置より約 6.7 倍の距離のところに(b)が出現すると予測される。
16
試作した探触子の実際の波形を図 に示す。縦軸がエコー高さ,横軸が伝播時間である。
このセンサにおける第一エコー(a)は伝播距離 3.0 ㎜付近にみられた(図 23)。この(a)
の伝播距離の約 6.7 倍,20 ㎜付近のエコー波形を見ると,観測波に比べ波高の低いエコー
がみられた(図 24)。このエコー高さが低くなっていることから,バッキングによる減衰
効果が起こり,背面反射波の影響が低減されていることが確認された。
3.0㎜
㎜
エ コ ー 高 さ hhhh
伝 播 距 離 w
距 離 図 23. コンポジット探触子のエコー波形(第一エコー周辺)
20㎜
㎜
hhhh
w
図 24. コンポジット探触子のエコー波形(w = 20 ㎜周辺)
17
背面反射に加えて,探触子側面の反射波の影響も調べるため,油面の高さを 3 段階に変
えて較正を行い,比較した(図 25)
。油面高さ A はリング側面中央付近までがオイルに浸
かった状態であり,同様に油面高さ B は振動子付近までが,油面高さ C はバッキング材上
部までがオイルに浸かった状態である。
図 25.各油面高さの概略図
油面高さごとに測定された結果を図 26 に示す。油面高さの違いによる較正値の大きな
変化はみられず,側面反射波の影響は少ないことが確認された。
探傷器設定
GAIN
47.5
33Ω
DAMPING
POWER
220pF
RECEIVE‐
4MHz
f
図 26.コンポジット探触子の較正曲線(油面高さ別)
一連の実験結果から,コンポジット振動子のノイズおよび側面・背面からの反射波に関
しては,振動子をバッキング処理することが対策として有効であることが分かった。
18
4.2.2 PVDF 探触子の試作と検証
コンポジット探触子と同様に,PVDF 素子についても探触子を試作し,ノイズの影響を
検証した。試作した探触子の仕様を図 27 に示す。
1.0×8.0[㎜]
3.5[㎜]
1.2[㎜]
振動子寸法
試験リング厚さ
試験リング幅
図 27.試作 PVDF 探触子の仕様
まず,探触子のエコー波形を調べた。エコーは全体的にノイズがみられ,油膜を形成し
た状態において金属棒でリング側面に触れると,エコー高さが変化した(図 28)。側面の
接触に最もよく反応したエコーは,伝播距離 2.1 ㎜付近に現れた。さらに,探触子のコー
ドや端子に手を触れたときもエコー高さの変化がみられた。
w = 2.1㎜
㎜
エ コ ー 高 さ hhhh
w = 2.1㎜
㎜
伝 播 距 離 [w]
伝 播 距 離 [w]
図 28. PVDF 探触子のエコー波形(左:リング側面の接触なし 右:接触あり)
この結果から,PVDF 振動子は,ノイズの影響が強いことが分かった。何らかの対策が
必要であるが,コンポジット探触子に施したバッキング処理は,PVDF 探触子の測定にお
いて想定しているリング幅[1.2 ㎜]では狭く,加工が難しい。そのため,バッキング以
外の方法でノイズの対策を検討した。
19
この実験においてノイズの発生源はリングと,探触子の電源コードであった。そこで,
振動子を含めた全体の電気的インピーダンスに問題があると考え,まず対策として振動子
のインピーダンス特性を見直すことにした。そして,電気的インピーダンスを低くする改
良をした PVDF 探触子(図 29)を製作し,再びエコー波形を調べた。すると,ノイズは
ほとんど見られなくなり,リング側面やコードに手で触れてもエコー高さは変化しなくな
った。
図 29. 改良型 PVDF 探触子
そこで,この探触子を用いて較正を行い,コンポジット探触子と同様に油膜厚さが測定
できるか検証した。改良型 PVDF 探触子の較正曲線を図 30 に示す。
探傷器設定
GAIN
DAMPING
POWER
RECEIVE‐f
70.5
75Ω
1000 ㎊
BB
図 30. 改良型 PVDF 探触子の較正曲線
20
また,側面反射の影響についても調べた。油面高さごとの油膜厚さ測定結果を図 31 に
示す。油面高さ A はリング下部が,油面高さ B は側面上部付近までがオイルに浸かった状
態である。2 つの較正曲線の薄膜領域における反応はともに大きく,油膜厚さ測定に十分
使用できることが確認された。
探傷器設定
GAIN
70.0
33Ω
DAMPING
1000 ㎊
POWER
RECEIVE‐f
BB
図 31.改良型 PVDF 探触子の較正曲線(油面高さ別)
4.3 測定装置の改良
油膜厚さ測定装置には 8ch に対応するための改良を行った。油膜形成サイクルは 1 スト
ローク毎にほぼ定常的であることを考慮し,より簡単に測定するため 1ch ずつ順次切り換
える方式とした。
21
4.3.1 全体図
改良後の測定装置の概要を図 32 に示す。
図 32. 8ch 油膜厚さ測定装置の概要
リニアモータ駆動のシリンダ摺動装置を基本に,ch切り換えスイッチと制御系を追加し
た。シリンダ摺動時は位置センサがスライド位置を検出し,それを得た切換用PCはシリン
ダの上死点からch切換時期を決定し,パルスを出力する(図33参照)
。切換えスイッチは,
パルス1回入力につき1chずつ順に切り替える(例:①→②,⑧→①)。 測定プログラムはパル
スをカウントし,各chごとの較正値を切り替えて油膜厚さを測定する。
これらの改良により,8ch分の油膜厚さデータの連続測定と記録が可能となった。
22
シリンダ変位情報
v
上死点を検出
上死点
t
0
1ストローク
v
t
0
パルス波形
図 33. シリンダのストローク波形(上)および切換信号用パルス波形(下)
4.3.2 ch 切換スイッチの製作
シリンダの上死点を検出して,測定チャンネルを1ストロークごとに切り換えるための
スイッチを,耐圧リードリレーと同軸リレーを組み合わせて製作した。スイッチの回路図
を図 34 に示す。
23
図 34. 切り換えスイッチ回路図
24
<スイッチ各部の機能>
・ 74LS123:ワンショットパルス発生器。外付けした抵抗とコンデンサによって決定さ
れた時間の長さだけ,入力パルスを引き伸ばして出力する。出力が途絶える前にパル
ス入力が連続して行われると,パルスを出力し続けるため,閾値付近の不安定な入力
電圧にも対応できる。
・ 74LS393:直結リセット付き非同期式カウンタ。入力されるパルス数を積算し,2 進
数で出力する。「high」と「low」の二つの安定状態を持ち,パルスが入力されるたび
に出力が Hi レベル→Lo レベル→Hi レベル→…と変化する。また,出力が 9 すなわち
1001 になると,リセットをかける。
・ 74LS138:3bit デコーダ。2 進数の入力信号(0∼111)を,16 進数の信号に変換
(デコード)して出力する。
・ 74LS540:出力バッファ。
・ ULN2803:トランジスタアレー。同軸リレーを駆動する出力を行う。
(耐圧 50V,出力電流 500mA,フライホイールダイオード内蔵)
図 35. チャンネル切り換えスイッチ
25
4.3.3
ch 切換プログラムの製作
切り換えスイッチを制御するプログラムは,CONTEC 製の visual basic プログラム
ActiveX Component ACX-PAC[W32]を使用して製作した。プログラムの流れを以下に示
す。
ch1の膜厚変換
位置センサ
上死点?
切り換え
プログラム
no
yes
パルス出力
ch切り換え
切り換え
スイッチ
ch1
↓
off
油膜厚さ測定
プログラム
ch2
↓
on
較正値①
↓
較正値②
ch2の膜厚変換
図 36. ch 切り換えのフローチャート
26
5. 結 言
5.1 実験結果のまとめ
・コンポジット素子は垂直探触子より感度は劣るが,油膜厚さ測定に使用できる。
・コンポジット探触子の側面および背面反射波の干渉対策として,高分子によるバッ
キング処理は有効である。
・ PVDF 素子はコンポジット素子と同様に,油膜厚さ測定に使用できる。
・ PVDF 探触子のノイズ対策として,振動子の音響インピーダンスを最適化した。
・油膜厚さ測定装置は,8ch 切換スイッチと簡単な制御用プログラムによって,1ch
の場合とほとんど変わらないコストでの測定が可能なよう改良を施した。
5.2 結論と今後の課題
本研究により,コンポジット素子を使用してピストンリング円周方向の油膜厚さを測定
できる可能性がみられた。また,8ch 分のデータを記録する準備も整った。
今後は実際に8ch 分の油膜厚さ分布を明らかにすることを目標とする。
5.3 参 考 文 献
岡本純三 中山景次 佐藤昌夫 共著 「トライボロジー入門」 幸書房 1990
6.付 録
6.1 測定チャンネル切換プログラム
Option Explicit
Dim Ret As Integer
Dim i As Integer
Dim ExeMode As Boolean
'True:開始 False:停止
Dim t As Double
'色の設定
Const LOW_COLOR = &H80&
Const HIGH_COLOR = &HFF&
Const OFF_COLOR = &H4000&
Const ON_COLOR = &HC000&
27
'制御ルーチン
Sub fncControl()
Dim Buffer(31) As Single 'アナログ入力値を取得する配列
Dim AOData As Single
'アナログ出力値用
Dim PosX As Long
'グラフ描画用カウンタ
Dim StartTime As Single '実行時間計測用
Dim StopTime As Single
'実行時間計測用
Dim ExeCount As Long
'実行回数(1 ループ当たりの実行時間の測定)
AcxXY1.ClearData
'グラフ削除
ExeCount = 0
PosX = 0
StartTime = Timer
'---------- 制御ループ ---------Do
'sin 波の出力
Dim v As Double
'電圧 v の宣言
t = t + 0.015
v = 5 + 3 * Sin(t)
AcxAio1.SingleAO 0, v, 1
'SingleAO チャネル, データ,
Gain(1 倍固定)
lblDisplay = ""
ExeCount = ExeCount + 1
lblDisplay = lblDisplay & "実行回数 = " & ExeCount & Chr(13)
'----- アナログ入力 ----Ret = AcxAio1.AcquireData(Buffer)
'データ取得
If Ret <> 0 Then
'エラー処理
ExeMode = False
lblDisplay = Ret & " : " & AcxAio1.GetErrorString(Ret)
Exit Sub
End If
'データをテキスト表示
lblDisplay = lblDisplay & "アナログ入力 0ch = " & Format(Buffer(0), "0.000") &
Chr(13)
28
lblDisplay = lblDisplay & "アナログ入力 1ch = " & Format(Buffer(1), "0.000") &
Chr(13)
'----- 入力データをグラフ表示 ----If chkDispGraph.Value = 1 Then
AcxXY1.DisplayDataY PosX, Buffer, AcxAio1.ChannelNumber
End If
'----- 0ch データによってアナログ(1ch)出力 ----If AcxAio1.NumOfAOChannel > 0 Then
'アナログ出力がないものは処理しま
せん。
'If Buffer(0) > Val(txtAOComp1.Text) Then
If Buffer(0) > Val(7) Then
'AOData = Val(txtAOHigh.Text)
AcxAio1.SingleAO 1, 5, 1
lblDispAO.BackColor = ON_COLOR
End If
'If Buffer(0) < Val(txtAOComp2.Text) Then
If Buffer(0) < Val(3) Then
'AOData = Val(txtAOLow.Text)
AcxAio1.SingleAO 1, 0, 1
lblDispAO.BackColor = OFF_COLOR
End If
lblDispAO.Caption = "出力値 = " & AOData
'AcxAio1.SingleAO 1, AOData, 1
'チャネル番号,出力データ,ゲイン
End If
'----- グラフの描画位置の変更 ----PosX = PosX + 1
If PosX >= AcxXY1.XMaximumRange Then
に戻す
PosX = 0
AcxXY1.ClearData
End If
DoEvents
Loop While ExeMode = True
'制御のループ時間を計算します。
29
'グラフの端まできたので最初
StopTime = Timer
lblDisplay = "実行時間 = " & Format((StopTime - StartTime), "0.0") & "秒" &
Chr(13)
lblDisplay = lblDisplay & "1 ループ当たりの平均実行時間 = " & Format(((StopTime StartTime) * 1000 / ExeCount), "0.000") & "ミリ秒"
End Sub
'エラー処理
Private Sub AcxAio1_OnError(ByVal Status As Integer)
lblDisplay.Caption = Status & " : " & AcxAio1.GetErrorString(Status)
AcxAio1.TimEnabled = False
End Sub
Private Sub cmdInit_Click()
lblDisplay = ""
Ret = AcxAio1.Open
If Ret = 0 Then
'初期化します。
'成功したらボード名,アドレス,割込みを表示します。
lblDisplay = "初期化成功" & Chr(13) & AcxAio1.BoardName & Chr(13) & _
"I/O アドレス " & Hex(AcxAio1.IoAddress) & " H" & Chr(13) & "IRQ
" & AcxAio1.IrqLevel
End If
End Sub
'プロパティページの表示
Private Sub cmdProperty_Click()
AcxAio1.ShowProperty
End Sub
'終了処理を行いプログラムを終了します。
Private Sub cmdClose_Click()
AcxAio1.Close
End
End Sub
'制御開始
30
Private Sub cmdStart_Click()
'実行開始
If ExeMode = False Then
'X-Y グラフの設定
Dim AIMaxRange As Single, AIMinRange As Single 'アナログ入力レンジ
AcxXY1.ArrayNumber = AcxAio1.ChannelNumber
'信号数
AcxAio1.GetInputRange AIMinRange, AIMaxRange
'入力レンジの取得
AcxXY1.YMinimumRange = AIMinRange
AcxXY1.YMaximumRange = AIMaxRange
'Y 軸の最小値
'Y 軸の最大値
ExeMode = True
cmdStart.Caption = "停止"
'制御ルーチン
fncControl
'停止
Else
ExeMode = False
'このフラグを False にすると fncControl 関数の
ループを抜けます
cmdStart.Caption = "開始"
End If
End Sub
Private Sub Form_Load()
ExeMode = False
End Sub
31
多 ch 超音波センサを用いたピストンリング油膜厚さ測定
トライボロジー研究室 古川 由容
油膜厚さ L を 1μm ごとに変化させ,膜厚 L とエコー高さ
比 H[=h/h0 ×100 ]との関係を求めた(図 2 参照)ただし h0
はリング表面が乾燥している状態での第 1 反射エコーの高さ
である。実験の結果,測定波の膜厚変動に応じた定量的な変
化がみられた。またバッキング材の減衰効果を調べるため油
面の高さを 3 段階に変えて測定したが,測定値に大きな差は
みられず背面反射の影響が低減されていることが確認された。
1.緒 言
内燃機関のピストンリング-シリンダ間には潤滑油の膜が
形成されており,エンジン性能に影響していると考えられて
いるため,その形成状態の基準として油膜の厚さを知ること
が重要である。この油膜はリング外周部を取り囲むように形
成されるため,測定は 1 ヵ所ではなく複数箇所で行うことが
望ましい。そのため本研究では,従来1ヶ所(1ch)で行われ
てきた油膜厚さ測定装置を,複数の ch で行えるよう改良し,
その妥当性を検証した。
2.多 ch 測定に適した超音波探触子の開発
現在,油膜厚さ測定に用いられている市販の超音波探触子
は,本来平坦な面で使用するもので曲面への密着性は低い。
また高価で,複数のセンサを使用する多 ch 測定には適さな
い。そこで今回の研究においては,まずその準備段階として,
安価で測定条件に合った専用の探触子を開発する必要があっ
た。
これら探触子の素材については,(1)安価で(2)ピストンリ
ング内周に密着可能(3)ピストンリングの幅に収まる,とい
う 3 つの条件を設定した。そして 2 種の素子を検討し(表 1),
これらの素材を使って探触子を試作して,実際に油膜厚さが
測定できるか実験を行った。
表 1.多 ch 超音波振動素子の種類
名 称
材 質
変 形
薄幅化
コンポジット
P V D F
樹脂+圧電セラミックス
ポリフッ化ビニリデン
可 能
可 能
図2.膜厚図2.膜厚-エコー高さ比グラフ
5.油膜厚さ測定装置の8ch
5.油膜厚さ測定装置の8ch 化
探触子と同様,油膜厚さ測定装置にも 8ch に対応するため
の改良を行った。油膜形成サイクルは1ストローク毎にほぼ
定常的であることを考慮し,より簡単に測定するため 1ch ず
つ順次切り換える方式とした。(図 3)リニアモータ駆動の
シリンダ摺動装置を基本に,ch 切り換えスイッチと制御系
を追加した。シリンダ摺動時は位置センサがスライド位置を
検出し,それを得た切換用 PC はシリンダの上・下死点から
切換時期を決定し,スイッチを差動させる。この改良により,
8ch 分の油膜厚さデータの連続測定と記録が可能となった。
○
◎
3.コンポジット探触子の試作と検証
3.コンポジット探触子の試作と検証
探触子の設計においては,振動子背面側の反射波がリング
表面側の反射波(観測波)に干渉しないことが重要である。
つまりエコー波形における(b)は(a)と十分な距離があり,か
つ波高が低ければ良い(図 1)。試作した探触子は,振動子背
面の超音波を拡散・減衰させるため,振動子を鉛粉入りの高
分子材によりバッキングし,その表面を傾斜させ背面反射の
対策とした。
図3.8ch
図3.8ch 切り換え式油膜厚さ測定装置
6. 結果と今後の課題
本研究により,コンポジット素子を使用してピストンリン
グ円周方向の油膜厚さを測定できる可能性がみられた。また,
8ch 分のデータを記録する準備も整った。
今後は PVDF 素子の較正も実施し,膜厚測定性能を確認
するほか,実際に 8ch 分の油膜厚さ分布を明らかにすること
を目標とする。
参 考 文 献
岡本純三ほか トライボロジー入門 幸書房 1990
図1.試作コンポジット探触子とエコー波形
4.油膜厚さ較正実験
試作した探触子が膜厚変動に反応するかどうか確認するた
め,較正実験を行った。まず,実験で使用したピストンリン
グ・シリンダ及びセンサの諸数値を表 2 に示す。
表 2 ピストンリング・シリンダの仕様
ピストンリング・シリンダの仕様
外 径
内 径
幅
材 質
リ ン グ
86 ㎜
82 ㎜
3㎜
SCM440
シリンダ
96 ㎜
86 ㎜
−−−
S45C
32
Fly UP