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光触媒脱臭装置
第 36 回 優秀環境装置 中小企業庁長官賞 東洋興商株式会社 1. 開発経緯 1.1 開発の趣旨 当社は業務用低公害洗剤メーカーとして創業し、学校給食向けの洗剤を販売するなど 環境と安全に配慮した経営を行ってきた。その中で、悪臭対策に対するニーズがあるこ とを見出し、平成 8 年に国家資格である臭気判定士を取得し、臭気コンサルタントを開 始した。 悪臭は感覚公害の一つであり、直接人間の五感に作用する性質上、古くから人々の生 活環境を損なうとして問題視されてきた。環境省の調査に基づく悪臭苦情件数は、平成 10 年度に昭和 44 年以降第 1 位であった騒音苦情件数を大幅に超え、現在に至るまで第 1 位を占めるなど、国民にとって身近で、改善要求が高い公害である。 近年では飲食店を含む大型商業施設などの発展により、住居地域のボーダレス化が進 み、快適環境を求める人が増加したことから、これまで悪臭とされてこなかったような サービス業からの苦情割合が高くなった。そこで、化学工業製品の開発力を活かし、飲 食厨房排気向けの光触媒を用いる悪臭・環境関連機器の開発に着手した。 苦情件数の推移 騒音苦情件数 悪臭苦情件数 サービス業、その他 (件) (% ) 100 30,000 25,000 80 20,000 60 15,000 40 10,000 20 5,000 0 0 H1 H3 H5 H7 H9 H 11 (年度) H 13 H 15 H 17 H 19 1.2 開発目標 平成 11 年に某大手ショッピングセンターにて、近隣住民より厨房排気による悪臭被害 が発生し、調査と解決策の提案を依頼され、開発中であった光触媒脱臭装置のフィール ドでの適応実験をすることになり、1 年半におよぶ実験と改良を繰り返し、顧客が満足す -31- る結果を得られるまでに達した。その後も顧客から「軽量化、省スペース化、低コスト 化」に応えるよう材質やフィルターの改良、装置設計の見直しを進め、現在では大手複 合商業施設の厨房排気や、除害施設、学校などにも導入され始め、2001 年 10 月の初回納 入から 8 年間で 53 施設、110 台(処理風量:2,850,000m3/h 以上)を超える納入実績と平 均脱臭効率 80%以上(第 3 社機関測定)の実績を持つ。 さらに近年では印刷工場、塗装工場、クリーニング設備などで排出される VOC(揮発性 有機化合物)の悪臭対策技術が求められており、応用製品の開発を開始。従来の吸着方式 とは異なり、フィルターは光触媒作用により長寿命であり、再生も容易であることから、 環境への負荷を大幅に低減できる装置として実用化に成功したものである。 2. 装置説明 2.1 光触媒脱臭装置の構造 申請の脱臭装置は、商業施設の厨房から発生する大風量の排気ガスに含まれる悪臭を 光触媒フィルターを通して酸化分解し、悪臭防止法などで定められているにおいの規制 基準値以下に抑え、快適な環境づくりを目的とする。 【装置全体フロー】 脱臭装置 ガラリ 排気ファン 排気ダクト 厨房(燃焼)設備 脱臭後の空気 油塵除去装置 or 油塵除去フィルター 整流板 脱臭装置断面図 臭気の流れ 光触媒カートリッジ グリスフィルター 光触媒フィルター 入 出 口 口 紫外線ランプ -32- 光触媒カートリッジ グリスフィルター の方向にフィルターの取り外し可 装置内 カートリッジ内紫外線ランプ 装置外観 2.2 光触媒の原理 光触媒フィルター表面の酸化チタンに紫外線を照射すると、電子と正孔が励起され、 この電子と正孔が酸化チタンの表面にある酸素や水と反応して、強力な酸化力を持った 活性酸素と水酸基ラジカル(・OH)が生成される。この働き(酸化・還元反応)により、酸化 チタン表面で接触した臭気成分である有機化合物(アルデヒド類)は水と二酸化炭素まで -33- 分解され、無機化合物(アンモニア等)は硝酸イオンといったような揮発しない成分まで 酸化させ、酸化チタン表面上に蓄積させ洗浄により除去することが出来る。 従来の光触媒技術を用いた製品は家庭用空気清浄機などがあるが、光や光触媒の量が 十分ではなく、室内空気を循環処理することで汚染物質を低減させていた。このため、 性能が不十分との評価が一部で生じた。厨房排気処理は、室内用空気清浄機と比較して 100 倍以上の排気ガスをワンパスで処理しなければならなく、また調理臭の主な原因とな るアルデヒド類や硫黄化合物、脂肪酸類の嗅覚閾値(においを感知できる最小濃度)が非 常に低いために悪臭問題が発生しやすいところが難しい点であった。 申請の装置はこれらを解決するべく必要な能力を与える設計となっており、最も稼働 時間の長い第 1 号機についても、これまで 8 年間に 1 回/半年のフィルター洗浄、1 回/2 年のランプ交換のメンテナンス方法(弊社推奨頻度)にて十分な脱臭能力を維持している。 3. 成果 3.1 性能 (1)フィルター性能 JIS 規格「JISR1701-2」の試験方法に準じ、愛知県産業技術研究所にて光触媒フィル ターのアセトアルデヒドの除去性能試験結果。 【試験条件】 除去率:94.3% 処理ガス流量:1.0L/min 紫外線照射強度:10W/m2 試験ガス量:約 5ppm 試験ガス温度:25℃ 相対湿度:50%相当 (2)装置能力 社団法人におい・かおり環境協会認定事業所である株式会社環境管理センターにて、申請 装置の脱臭性能試験結果(公定法・三点比較式臭袋試験法に基づく)。 【試験条件】 脱臭効率:87.41%(臭気指数による算出)、87.34%(臭気濃度による算出) 処理風量:53,200m3/h 対象臭気:統合飲食厨房臭(某大手ショッピングセンター) (3)安全性 ① 操作安全性 ・ 装置の運転はすべて自動化されており、24 時間停電タイムスイッチ使用。 ・ 出荷時に二次側(本体)電気の絶縁抵抗測定試験を実施確認。 -34- ・ 電源ボックス内に異常警報リレー(CR)及び異常警報用端子台(TB)を常設し中 央監視室と連結可能。 ・ 点灯中のランプは直接肉眼で見ないよう、△警告・△注意の説明ラベルを本装置 ! ! 本体に貼り付け義務。 ② 環境安全性 ・ 光触媒利用のため、薬品の使用がなく無害である。 ・ 光触媒フィルターは再生、再生加工が容易にできる(リユースの考え方)。 ・ 中小規模事業所においては、洗浄水は通常排水にて可能なレベルである。 ・ ランプの廃棄については水銀などの回収・適正処理に専門業者を配し、他ランプ 共々処理。 (4)耐久性 申請の装置全体として、2001 年 10 月の初回納入品以降、約 8 年の連続耐久ならびに安 全運転を確認している。光触媒フィルターは定期点検時に再生処理を施すことで、脱臭 性能の長期間(20 年以上)持続可能とされているが、実際の長期間の実績はない。 各装置部品の耐久性は下記の通りである(メーカー推奨による試験等の結果に基づく)。 ・ 光触媒脱臭装置本体には耐食性、耐塩害が高いガルバリウム材質のケーシング を使用。 (暴露年数は厳しい塩害地区にて 15 年、工業都市で 25 年以上) ・ 結露防止に優れたスタイロフォームをケーシング内部にサンド。 ・ 光触媒カートリッジは SUS304 材質のため、耐用年数は 20 年程度である。 ・ 安定器交換頻度 7~8 年毎(1200 円/個)。 ・ グリスフィルター(特注品)5~6 年で交換(12,000 円/個)。 ・ ブラックライト(20W)寿命 7500 時間(1,000 円/本)。 ・ 光触媒は光をエネルギーとして酸化分解するため、光が当たる限り半永久的に 使用可能(破損しない場合に限る)。 3.2 特許の有無 本申請装置に関し、以下の特許を出願予定である。 名 称:大風量用光触媒脱臭装置 出願人:生田 博美 発明者:生田 博美 概 要:光源ランプを取り囲める光触媒カートリッジの形状とし、高密度に光触媒カー トリッジと光源ランプを充填することにより、大風量の排気ガスの対応できる 省スペースな光触媒脱臭装置。 -35- 3.3 維持管理 ① メンテナンス性 構造がシンプルかつ容易であることから、定期的なメンテナンスは以下の通りである。 ・ グリスフィルターの汚染目視確認(汚染度により 1~2 ヶ月毎)。原臭側に設置され ているグリスフィルターは油脂の付着(汚れの状況)を見て適時中性洗剤等で浸漬 洗浄を行う(2 回/年)。 ・ 光触媒フィルターの反転作業。光触媒フィルターは、リバーシブルタイプになって おり、グリスフィルター交換時に、表面から裏面に返すことで排気ガスなどによっ て汚れた面を光に当て自己再生させ、繰り返し使用ができる(1 回/年)。 ・ ランプ交換作業。紫外線ランプの交換作業 1 台につき 5 本を交換(1 回/2 年)。電源 ランプの点灯目視確認(ランプ交換時)。 ② 維持管理コスト 本申請装置により、他の吸着方式の脱臭装置よりもランニングコストが低く、性能維 持効果も高い。 ・ リバーシブルタイプの光触媒フィルターのため、活性炭などのような廃棄処分 が不要。 ・ 光触媒セラミックフィルターが油分・粉塵等に汚染された場合は中性洗剤にて 洗浄後天日干しすると脱臭性能は回復する。 ・ 特に油分除去にグリスフィルター等の前処理及び定期洗浄を施せば光触媒フィ ルターの長期間使用が可能になり脱臭性能の持続が出来る。 ・ フィルターの材質はセラミックに酸化チタンを担持させている由、設置稼動後 5 年毎の定期点検により適した再生処理を施すことで脱臭性能の長期間(20 年以 上)持続可能と考える。 3.4 経済性 申請装置と他社装置の比較を下記の通り示す。 (風量:37,600m3/h 項目 脱臭方式 脱臭剤・形状 稼働時間:12h/日、365d/年) 弊社装置 他社装置 光触媒式 吸着式 発泡セラミック・酸化チタ 無機質系複合材/積層ユニッ ン・UV ランプ/カートリッジ式 ト式 フィルター表面の酸化チタン 無機質系複合材をハニカム構 に紫外線が当ると励起され、 造直方体ブロック状態にし 設備フロー 脱臭原理 -36- 電荷分解が起こり〔-〕の電荷 て、臭気成分を吸着し、脱着 を帯びた電子が飛び出し、抜 することによりピーク臭気を け出した穴は〔+〕の電荷を帯 平準化する。 びている。このため電気的に 中性になろうとする働きがあ り、有機物(臭気物質)の電 荷を奪う。奪われた臭気物質 は、分子結合が切断され分解 する。この酸化還元反応によ り悪臭が減少する。 脱臭剤の材質 数次積層多孔体セラミックフ 無機質系複合材 ィルター上に光触媒活性酸化 チタンを焼成成膜 通過面風速 1.5m~2m/sec ~4.0m/sec 初期圧力損失 120~140pa 300pa(5 層時推定) 排気ファン軸動力 3.48kW 5.26kW 使用電力 29,258kWh/年 38,281kWh/年 (紫外線ランプ電力込) 使用電力料金 (15 円 438,876 円/年 574,218 円/年 9,919kg 12,977kg 平 均 80 % 以 上 ( 実 測 最 大 値 68~87%(自社データ) /kWh) CO2 排出量 (CO2 排出係 数:0.339kg/kWh〔東京電 力例〕) 脱臭効率 94.5%) 脱臭剤の再生可否 可 不可 脱臭剤の寿命 半永久的(破損ない場合) 5~10 年(使用条件により変動 (汚染状況により再焼結再生 あり。目安とする) 可) 脱臭効果検証法 第三者機関測定(認定嗅覚測 自社測定(非認定嗅覚測定事 定事業所)による三点比較式 業所)による三点比較式臭袋 臭袋法(公定法) 法(公定法) イニシャルコスト 32,000 千円/台 34,100 千円/台 メンテナンス内容 (Ⅰ)専用グリスフィルター洗 ( Ⅰ ) 外 観 目 視 検 査 (1 回 / 浄 年)・・・160 千円/年 (2 回/年)・・・246 千円/年 (Ⅱ)ブロック定期点検費(5 年 (Ⅱ)紫外線灯交換(12h/日使 毎・・・72 千円/年 -37- 用時・2 年毎) ・・・140 千円/ (Ⅲ)ろ材交換費(2 層分:5 年 年 毎)・・・1,170 千円/年 (Ⅲ)光触媒フィルター清掃(1 回/年)・・・134 千円/年 (Ⅳ)電気使用料(12h/日使用 時)・・・432 千円/年 20 年間のランニングコス (Ⅰ)+(Ⅱ)+(Ⅲ)+(Ⅳ) (Ⅰ)+(Ⅱ)+(Ⅲ)= ト = 952 千円/年 1,402 千円/年 19,040 千円/20 年 28,044 千円/20 年 定期的なグリスフィルターの 数年前は 3 層タイプを標準と 点検・光触媒フィルターの清 していた。工事竣工後、臭気 掃(反転→自己再生)を実施 問題発生事故有り。リパーゼ することで MAX95%の脱臭効 (分解酵素)による自己再生に 率を実現。 は疑問符が多い。 コメント 臭気苦情対策実績多数有る。 3.5 将来性 現在のところ、光触媒技術を応用した厨房排気用脱臭装置の競合他社は存在せず、優 位性を有する。一般的な厨房排気の脱臭には活性炭を主体とした吸着方式が古くから存 在するが、吸着フィルター・ブロックの処理や吸着剤の交換頻度が高く、ランニングコス トが高い。このことからメンテナンスを怠ること、また、科学的根拠のない自己再生機 能が謳われている装置が実際に再生していないことから、設計された悪臭処理性能を発 揮していない場合が多く、弊社への問い合わせや、弊社装置への変更要望が増え始めて いる。 光触媒脱臭装置の光触媒フィルターは、適切な光量の紫外線を照射することにより半 永久的に使用が可能である。また、流体力学を駆使して設計した装置内構造に、におい の種類や濃度と排気量や設置スペースに適した独自の処理装置を設計・導入することで、 圧力損失を低減し、大風量でも追加の排気動力を必要としない。また、フィルターの交 換が不要なため、ランニングコストを抑え、必要最低限の資源導入で大きな効果を得ら れる。さらに装置内の圧力損失が低いことから吸着系方式と比べ排気ファンの軸動力は 小さく、紫外線ランプ電力を含めた装置の使用電力や CO2 排出量は約 20%低減できる。ま た、装置以外の設備(ダクトやフードなど)にかかる排風機のモーター容量も軽減が見込 まれる。これらのことから、長時間連続稼動しても省エネ運転を可能とし、省スペース かつ高い脱臭性能を有する製品として、市場の新規性および優位性が高い。さらに構造 の開発・改良(紫外線 LED との組合せなど)を行うことで、通常の紫外線ランプと比べ紫 外線 LED は①水銀などの有害物質を使わない②長寿命化(4~10 倍)③省エネ化(1/5~1/10 程度)と、環境負荷を低減できる装置としては画期的な脱臭装置の開発となり、全国的な 普及が予想される。 -38- 3.6 独創性と効果 顧客からの「省スペース化、低コスト、高性能、安易メンテナンス」に応えるべく、 下記の特長を持つ。 ① 装置内に整流板を用いて、排気ガスをフィルター面に平行に流す方式を取り入れる ことで、入口排気ガスを 2 方向に分流するため、各フィルター面の処理量が半分と なり、活性炭や吸着式のようにフィルター面に直角に排気ガスを流す方式のように 一面で処理する方法と比べ、装置を大幅にコンパクト化できる。また、ダクトから 入る空気流を一旦両側に均一に分流し、適切な流速でフィルター面に平行に空気を 導入することで圧力分布を均一化し、フィルターへのにおい分子の接触効率を高め る装置内構造を開発。 ② 表面が非常にポーラスで表面積が大きく、耐久性に優れ、多孔体構造なフィルター の使用により、高性能な脱臭装置の生産を可能とした。また、空孔率も最高 90%と 非常に高く、圧力損失が極めて低い。 ③ 光の利用効率を向上させて反応を促進させるため、 【光触媒フィルター+紫外線ラン プ(通常型 5 本)+光触媒フィルター】のサンドウィッチ型カートリッジ方式を導入。 ④ 光触媒は光をあてることで自己再生する機能を用いており、繰り返し使用できるこ とから、リバーシブルタイプの光触媒フィルターにし、反転させるだけの容易なメ ンテナンス方法を採用。 ⑤ 光触媒フィルターの前段にグリスフィルターを設置し、厨房からの油分や粉塵など によるフィルターの性能劣化対策を追加。 ⑥ メンテナンスには年 2 回のグリスフィルターの清掃、年 1 回の光触媒フィルター反 転(必要時には洗浄)、紫外線ランプを 2 年に 1 回(7,500h 寿命のため、10h/日使用 した際×365 日≒2 年/回)と、低ランニングコストを可能とした。 この結果、平均脱臭効率 80%以上(第 3 者機関実施による嗅覚測定試験の結果)を可能に し、高効率・省スペース化を実現した(商標登録 PCF)。2003 年には環境省が実施した脱臭 技術適正評価調査の実測調査(38 社 51 技術より選抜)において高い評価を受け、現在では、 大手複合商業施設や学校、食品加工工場などの厨房排気のほか、除害施設や解剖実験室 などの脱臭にも導入されている。 3.7 今後の規制に対する対応策 申請装置を設置することで、今後予想される規制強化に対しても対策が容易である。 ① リユースの考え方 従来の厨房排気の脱臭には活性炭などの吸着方式が一般的だが、廃棄処理費用が高額で あった。本装置の場合、光触媒反応で分解しきれず、フィルター表面に付着・吸着した 成分は洗浄や加熱処理により除去でき、酸化チタン膜の剥離などで機能低下した場合、 再焼結処理を施すなどリユースによる棄物処分量を激減や長寿命化を実現とした。 -39- ② 省エネ法の取り組み 臭気濃度に合わせて紫外線ランプのオン・オフと連動させることで約 20%の電気使用量 が削減できる。また、開発中の紫外線 LED ランプを導入することで、従来品より 5~10 倍の長寿命化、省エネ化を可能とするものである。 4. 応用分野 大型スーパーマーケット、複合商業施設、複合オフィスビルなどの飲食厨房、食品加工 工場、大学キャンパス食堂や解剖実験室、除害施設など。 -40-