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情報 KIOSK による集客できる店舗づくり - PFU
情報 KIOSK による集客できる店舗づくり Creating Customer-Attracting Stores with Information KIOSK Terminals 潮地良明 * Yoshiaki Shiochi * ProDeS グループ 情報 KIOSK 事業部 チラシやフリーペーパーなどの紙媒体による集客,インストアプロモーションによる店舗づくり,優良顧客の優 遇による顧客の囲い込み.こうした従来型の集客が限界を見せ始めている.マーケティング・コミュニケーション を再考することによって,情報 KIOSK の活用による集客できる店舗づくりを提案する. Conventional ways of customer attraction (paper advertisements such as flyers and free newspapers, in-store promotions for customer attraction, and the preferential treatment of good customers for customer retention) are starting to reach the limits of their effect. We propose the creation of customer-attracting stores with Information KIOSK Terminals by reconsidering marketing communication. 1 まえがき スマートフォンの普及は,インターネットをいつでも とになるのかについて考えていくことにする. (1) 何をすれば集客したことになるのか どこでも使えるリアルタイムメディアとして活用できる 一般的には新聞にチラシを折り込むとか,テレビでC ようにした.消費者にとってインターネットは最も身近 Mを放送するとか,ダイレクトメールを送付するといっ な主メディアとしての地位を確立しつつあり,テレビや たことが「集客した」こと,とされており,とにかく顧 新聞などの従来メディアからインターネットへのメディ 客に情報を送りつけさえすれば集客したことになると考 アスイッチが急速に進んでいる. えられている傾向がある. 消費者の主メディアスイッチに伴って,これま しかしながら,従来メディアの訴求力が低下している で 集 客 を チ ラ シ や POP(Point Of Purchase 今日では,従来メディアを介して情報を発信したところ Advertising) ,ダイレクトメールといったセールスプ で,客足を伸ばしていくことは難しい.さらに,例え店 ロモーションメディア(以降 SP メディアと略す)に依 舗に人を集められたとして,肝心の商品を買ってもらえ 存してきた商業施設は,従来の集客方法では客足を伸ば なければ集客した意味がない.したがって「集客する」 すことが難しくなってきている. ということは,店舗をたくさんの商品を買ってくれる顧 その一方でインターネットによる集客が試み始められ ているものの,従来メディアの集客力の低下を補えるほ ど活用できるに至っていない. 客で満たすことであると言える. (2) 集客に求められる取組み では,商品をたくさん買ってくれる顧客で店舗を満た し,その状態を維持していくにはどうすればいいのだろ 2 集客するということ うか.店舗を顧客で満たすには,たくさんの顧客に来店 してもらい,たくさんの商品を買ってもらえるようにす 商業施設において集客は永遠の課題とされており, る.そしてさらにその状態を維持していく必要がある. 延々と試行錯誤が繰り返され続けている.しかしながら, つまり集客するといことは,第一により多くの顧客に 集客の本質が語られることは多くなく,その実態は明ら 来店を促せるようにする.第二に顧客により多くの商品 かにされていない.そこで,まず何をすれば集客したこ を購入してもらえるようにする.そして第三に顧客を他 PFU Tech. Rev., 23, 1,pp.45-49 (05,2012) 45 情報 KIOSK による集客できる店舗づくり れ始めている.インターネットを利用した情報サービス は,コンテンツを配送する際の物理的コストや時間的ロ スを省くことができるため,圧倒的に安価なコストで迅 来店客数UP 速に情報を配信できる.仮にインターネットを利用した 情報サービスによって,SP メディア並みの集客力を確 保できたとしたら,情報を配信する店舗のメリットは計 集客 来店頻度UP りしれない. 客単価UP しかし,インターネットやスマートフォンの利用者が 増加の一途を辿っているにもかかわらず,インターネッ トによる情報サービスを集客メディアとして活用できて いる店舗はそれほど多くない.来店客数を向上させてい ◆図 - 1 集客に求められる取組み◆ (Fig.1-Approaches required for customer attraction) 店に取られないようにすることである.すなわち,集客 くためには,インターネットを集客メディアとして活用 できるようにしていくことが課題となる. 3.2 客単価を向上させる取組み には来店客数を向上させる取組み,客単価を向上させる 客単価を向上させていくためには,来店した顧客によ 取組み,そして来店頻度を向上させる取組みの三つの取 り多くの商品を買ってもらうために, 「これ良いかもし 組みが求められることになる(図 - 1参照) . れない」とか「うっかり忘れるところだった」といった 気づきを与えることによって,衝動買いを促したり,買 3 集客の現状と課題 い忘れを防止したりしていく必要がある.これらの気づ きは,POP などの店内広告や商品の陳列に工夫を凝ら 集客に求められる方策を考えていく上で,来店客数の すなど,主に顧客の視覚に訴えかける方法が採られ,従 向上,客単価の向上,そして来店頻度の向上のそれぞれ 来,マーチャンダイジング(MD)におけるインストア について,現状の取組み状況と抱えている課題を整理す プロモーションがその役割を担ってきた. る. (1) インストアプロモーションの現状 インターネットの普及とともに,価格競争力を強みと 3.1 来店客数を向上させる取組み する電子店舗販売によるインターネット通販が大きな躍 来店客数を向上させるためには店舗の外にいる顧客 進を遂げている.当初,商品の配送にかかる費用と時間 に店舗を認知してもらえるようにする必要があり,これ を課題としてきたが,近年,宅配サービスの低料金化と まではチラシ,ビラ,DM(ダイレクトメール)などの スピード化により,実店舗の売上げを奪う勢いとなって SP メディアがその役割を担ってきた. いる.これまでのインストアプロモーションによる視覚 (1) SP メディアの現状 近年,スマートフォンを筆頭とする携帯情報端末の 爆発的な普及によって,インターネットがより身近なメ ディアとなり,顧客の紙離れが急速に加速している.こ に訴える店舗づくりは,どちらかと言えば価格訴求が中 心であり,オンライン通販と差別化していくことが難し くなっている. (2) スマートフォンがもたらしたもの のためチラシの発行枚数や発行回数を増やしたり,紙面 さらにスマートフォンの爆発的な普及によって,どこ を大きくしたりするなど SP メディアの強度を高めるこ でもインターネット通販を利用できるようになった.例 とによって,客足を維持していこうとしているが,応分 えば店舗で買い物している最中であっても,価格のより の集客効果が得られない状況にある.SP メディアによ 安いインターネット通販で購入されてしまうということ る集客の限界が見え始めていると言えよう. も現実に起き始めている.今後インターネット通販に対 (2) インターネットの活用 その一方で集客力が低下する SP メディアを補うもの 抗していくためには,実店舗の強みを生かした差別化施 策を提供していくことが課題となっている. としてメール,ホームページ,ソーシャルメディアなど, インターネットを利用した情報サービスの活用が試みら 46 PFU Tech. Rev., 23, 1, (05,2012) 情報 KIOSK による集客できる店舗づくり 3.3 来店頻度を向上させる取組み 集客の課題 来店頻度を向上させる取組みとして,航空会社が提供 するマイレージ・プログラム(フリークエント・フライ 来店客UP 客単価UP 来店頻度UP インターネット 実店舗ならでは 来店頻度向上 の集客メディア の差別化施策の 施策の根本的な 活用 提供 見直し ヤーズ・プログラム) ,店舗が提供するポイント・プロ グラム(フリークエント・ショッパーズ・プログラム) といった優良顧客を優遇するためのプログラムが提供さ れてきた. これらのプログラムは,上位 20% の顧客が店舗の売 ◆図 - 2 集客の課題◆ 上げの 80% をもたらすというパレードの法則(通称, にっぱちの法則)に則り,売上げの大半を占めるロイヤ (Fig.2-Challenges relating to customer attraction) ルティの高い顧客を優遇し囲い込もうとしたものであ る.ロイヤルティの高い顧客を優良顧客と位置付けて, るのに対し,インターネットが情報の受け手の意思で取 顧客一人一人のニーズに合わせたサービスを提供してい り込むプル型メディアであることに起因している.イン くことによって,顧客満足を獲得し,顧客がライバル店 ターネットを集客に活用しようとした場合には,まず, に流れるのを防ぎ,再来店を促そうとしたものである. メールアドレスを登録してもらうとか, URL やキーワー しかし,顧客一人一人のニーズに合わせたサービスを ドを入力してもらうなど,顧客にアクションを起こして 提供していくためには,莫大な顧客情報を収集して顧客 もらう必要がある. 一人一人ごとに分析し,それに対応したサービスを立案 例えばスマートフォンをイメージして欲しい.スマー していかなければならず,店舗は大きなコスト負担を強 トフォンのディスプレイに表示されるコンテンツは,イ いられることになる.このため,例え来店頻度を高めて ンターネットの中に広がる膨大なコンテンツのほんの一 売上げを伸ばせたとしても,得られた利益を食いつぶし 部分でしかない. スマートフォンは, 広大なインターネッ てしまうという問題を発生させている. ト空間を覗く天体望遠鏡の覗き穴のようなものであり, また,優良顧客向けの優遇プログラムを大胆に提供し た一部の店舗において,プログラムの目的とは裏腹に顧 客を大幅に減少させてしまうという事態を招いており, 天体望遠鏡を向けてもらわなければ絶対に見てもらうこ とはできないだろう. (2)集客に活用していくためには 優良顧客を優遇して来店頻度を高めるという考え方その これまでの集客用のプッシュ型のコンテンツは顧客の ものに抜本的かつ根本的な見直しを迫られている状況に 目に触れることを前提としており,いかに顧客の目を引 ある. くかということに注力されてきた.しかしながら,イン ターネットの世界では,どんなに顧客の目を引くことが 4 これからの集客に求められる方策 集客を促進していくためには,インターネットを集 できるコンテンツであったとしても,顧客がそのコンテ ンツのありかを知らなければメッセージを伝えることは できない. 客メディアとして活用できるようにしていくこと,実店 したがって,インターネットを集客メディアとして活 舗の強みを生かした実店舗ならではの差別化施策を提供 用していくためには,コンテンツをどうつくるのかとい していくこと,優良顧客向けの優遇施策の抜本的かつ根 うことよりも,どうしたら見つけもらえるのかというこ 本的な見直し,が求められることになる(図 - 2参照) . とに注力しなければならないことになる.そのためには, それぞれの課題について,原因を明らかにするとともに, 顧客の「知りたい」という欲求を高め,顧客自らがコン その打開策について考察する. テンツにアクセスしてもらえるようにするための方策が 求められることになる. 4.1 インターネットの集客メディア活用 (1) なぜ集客メディアとして活用できないのか インターネットを集客メディアとしてうまく活用でき 4.2 実店舗ならでは差別化施策の提供 (1) なぜ差別化できないのか ていない原因は,従来の SP メディアが情報の送り手の インターネット通販は,ディスプレイを介してしか顧 意思で受け手に一方的に送るプッシュ型のメディアであ 客とコミュニケーションすることができないため,顧客 PFU Tech. Rev., 23, 1, (05,2012) 47 情報 KIOSK による集客できる店舗づくり に気づきを与え,購買を促進していくにためには,視覚 (2) 来店頻度を向上させていくためには や聴覚に訴えかけるほか手段がない.このため,顧客の どんなに優良な顧客であっても長い目で見れば減少し パーソナルニーズや気づきを十分に引き出せているとは ていくものであり,現時点では購買の少ない顧客であっ 言い難い. ても,来店頻度を向上させていく努力が求められること ところが,これまでのマーチャンダイジングによる店 になる. 舗づくりも,POP,棚割といった,主に顧客の視覚に このためには,店舗の都合によって,顧客を優良また 訴えかける方法が取られてきたために,インターネット は不良と区別して優良顧客だけを優遇するサービスを提 通販との差別化を困難なものにしてしまっている.それ 供していくのではなく,顧客に「この店にもう一度来た どころか,価格を分りやすくしたために,インターネッ い」 , 「どうせ買うならこのお店で」といったような「こ ト通販との比較を容易にしてしまっており,店舗内であ の店舗との関係を続けたい」と思わせるサービスを提供 るにもかかわらず他店(インターネット通販)で購入さ していけるように, サービスの提供プロセスを再構築 (プ れてしまうという事態を招く要因をもつくりだしてし ロモーション・プロセス・リエンジニアリング)してい まっている. く必要がある. (2) 差別化施策を提供していくためには インターネット通販と差別化していくためには実在す る店舗の強みを活かして,視覚や聴覚から得られる情報 5 だけでは,気づきを与えることができない商品や,その 良し悪しを判断できない商品を,視覚や聴覚のみならず, 情報 KIOSK(キオスク)による集客 できる店舗づくり 集客できる店舗をつくりあげていくためには,顧客に 触覚,味覚,臭覚などの器官や,体型,体力,体調など 情報や優遇プログラムを一方的に押し付けるだけではな の身体機能に働き掛けることによって気づきを与え購買 く,顧客自らがインターネットにアクセスしてくれたり, につなげていくことほかない. 店舗に体験しに来てくれたり,関係を続けたいと思わせ 顧客に視覚と聴覚でしか気づきを与えられないイン る方策が求められることになる. ターネットと差別化していくためには,店舗で体験する そこで PFU では,店舗の集客力を向上させることを 場を提供し,パーソナルニーズや気づきを引き出せる店 目的として,情報 KIOSK によって顧客のアクション 舗づくりが必要と考える.そのためには,顧客自らが実 を引き出すサービスを長年にわたって提案してきた参 1). 店舗に体験しにくるような方策が求められることにな 今日に至っては,数多くの経験と実績にもとづき,従来 る. メディアに匹敵する集客効果を見込めるようになってい る. 4.3 来店頻度向上施策の根本的な見直し (1) なぜ顧客を減らしてしまったのか 図 - 3に情報 KIOSK による集客できる店舗づくりの 全体像を示し,以降にその概要を説明する. 優良顧客を優遇してきたにもかかわらず顧客を減少さ せてしまった原因は,優良顧客層が高齢者層とオーバー ラップしていたことにある.高齢者層は購買行動が固定 化する傾向にあるため,優遇プログラムによって囲い込 みやすい半面,時間の経過とともに減少していく傾向 がある.したがって,顧客を維持していくためには減少 していく顧客を若年層で補っていくことが不可欠とされ る. 知らないと損 試さないと損 続けないと損 来店客UP 客単価UP 来店頻度UP ところが,これまでの優良顧客向けのサービスは,購 買の多い顧客を優良顧客として優遇する一方で,購買の 少ない顧客をチェリーピッカーや渡り鳥などと位置付け て冷遇して来た.このため,減少する高齢者層を若年層 で補うことができなかったのである. ◆図 - 3 情報 KIOSK による集客できる店舗づくり◆ (Fig.3-Creating customer-attracting stores with Information KIOSK Terminals) 48 PFU Tech. Rev., 23, 1, (05,2012) 情報 KIOSK による集客できる店舗づくり 5.1 インターネットの集客メディア活用 舗では,これまで優良顧客にしか提供できなかった優遇 情報 KIOSK によって,ホームページやメールマガジ プログラムを幅広い顧客に提供できるようにして来店頻 ンを見て来店した顧客を優遇するサービスを提供し,店 度を高めるとともに,ダイレクトアクセスコストを低減 舗に「知らないと損する」という状態をつくりだすこと させている. によって,インターネットへのアクセスを促進すること ができる. 6 例えばメルマガでクイズを出題し,店頭で情報 むすび KIOSK にクイズの回答を入力し正解すると特典を貰え 情報 KIOSK による集客できる店舗づくりへの取組み るようにしておけば,メルマガを読んでいない人は損を について述べてきたが,詳細について興味を持たれた方 するという状態をつくりだすことができるので,メルマ は,ぜひ,中央経済社の「集客の教科書 M-In-D サイク ガの読者を増やすことができる. ル・マーケティングのすすめ」を御一読いただきたい参 2). 実際に情報 KIOSK を活用したサービスを導入した店 図 - 4にその表紙を載せている.集客のメカニズムを解 舗においては,店舗のホームページのアクセスやメルマ 説した上で,情報 KIOSK の活用方法を具体的な事例を ガ読者を増やせるようになったため,インターネットを 踏まえて紹介している.集客できる店舗づくりの一助と 集客メディアとして活用できるようになり,SP メディ していただければ幸いである. アに匹敵する集客効果が得られるようになっている. 5.2 体験型店舗づくり 情報 KIOSK にバイタルセンシング技術を組み込むこ とによって,本人すら知りえない情報を提供し,店舗 に「試さないと損する」という状態をつくりだすことで, 体験を促進させることができる. 例えば情報 KIOSK と圧力センサーを組み合わせて, 足裏に掛る圧力を測定して,足のトラブルの原因を特定 できるようにすれば,試さないと損するという状態をつ くりだすことができるので,最適な靴フットケア製品の 販売を促進することができる. 実際に情報 KIOSK を活用したサービスを導入した店 舗においては,体験を促進することによって,顧客の気 づきを喚起できるようになり,客単価の向上効果を確認 している. 5.3 プロモーション・プロセス・リエンジニアリ ング 情報 KIOSK によって幅広い顧客層に向けて顧客が継 続的に購買することに対する意欲を高めることができる 関係継続プログラムを提供し,店舗に「続けないと損」 ◆図 - 4 集客の教科書◆ するという状態をつくりだすことによって,来店頻度を (Fig.4-Attracting Textbook) 向上させることができる. 例えば,特定の商品を一定数以上購入した顧客に対し て特典を与えられるようにすれば,続けないと損をする 参考文献 参1)情報 KIOSK 端末紹介ホームページ という状態をつくりだすことができるので,リピートを 促進することができる. 参2)川村洋次,潮地良明:集客の教科書 M-In-D サイクル・マー ケティングのすすめ,( 株 ) 中央経済社,初版,東京,pp.75134(2012). 実際に情報 KISOK を活用したサービスを導入した店 PFU Tech. Rev., 23, 1, (05,2012) http://www.pfu.fujitsu.com/kiosk/ 49