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電子顕微鏡法その場観察による 高容量水素貯蔵物質の反応機構解析
水素エネルギーシステム Vo 1 .37, No. 4( 2 0 1 2 ) 特集 電子顕微鏡法その場観察による 高容量水素貯蔵物質の反応機構解 析 議部繁人 北海道大学創成研究機構兼工学研究院 干0648 628 北海道札幌市北区北 1 3条西 8丁目 凶 StudyonReactionMechanisminHydrogenStorageMaterialswithHighCapacityby In-situTransmissionElectronMicroscopy S h i g e h i t oI s o b e HokkaidoU n i v e r s i t y,C r e a t i v eResearchI n s t i t u t i o n N-13, W-8,8apporo,060・8628 I ti sq u i t eimportantt ounderstandt h er e a c t i o nmechanismi nnanos c a l ef o rt a i l o r i n gmuch 幽 s u p e r i o rhydrogens t o r a g em a t e r i a l s .80f a rwehavei n v e s t i g a t e dt h er e a c t i o nmechanismo f v a r i o u s hydrogen s t o r a g em a t e r i a l s withhighhydrogenc a p a c i t ybyi n s i t uTransmission E l e c t r o n Microscopy (TEM) with Environmental C e l l( E C ) . For example,a b s o r p t i o n and d e s o r p t i o nr e a c t i o n so fMgIMgH2c a t a l y z e dbyNb205havebeeno b s e r v e di nnano・s c a l e .From t h er e s u l t s,we proposedt h er e a c t i o nmodel duringhydrogen a b s o r p t i o na tt h ei n t e r f a c e betweenMgandc a t a l y s t .ThemodelshowsMgformsa tt h ei n t e r f a c eo fMgH2andc a t a l y s t withhydrogend i f f u s i o nthroughMgp h a s e .Moreover,wed i s c u s s e dt h er e a c t i o nmechanismo f t h eo t h e rsystems,sucha sNaH+NH3, Li2NH . ,NaAlH4,NH3BH3,andAIH3, i nt h i sr e p o r t . Keywords:TEM,Hydrogen8 t o r a g eM a t e r i a l s, R e a c t i o nMechanism,EnvironmentalC e l l 1.諸言 理するクローズ方式である。環境セルホルダは後者の試 料ホルダを指す[1]。我々の使用している環境セルホルダ 材料科学の分野において、電子顕微鏡法は有用な材料 は、上下2枚のカーボ、ン補強高分子膜によって、水素ガス 特性評価法の一つである。水素貯蔵材料、特に軽元素で 層と電子顕微鏡の鏡筒内の高真空雰囲気を隔てる。一般 構成される無機化合物を介した材料の水素化・ n 5 b k素化 に、鏡筒は電子ビームが通るため高真空状態を保たなけ 反応では、水素以外にも原子あるいはイオンの比較的長 ればならない。分解能はこの隔膜の厚さ、材質等に強く E 鴎住の移動を伴うと考えられる。最適な材料の設計指針 依存する。現在、より高圧のガス環境、温度可変、圧力 を得るには、その反応磯構を微視的に理解することが肝 の測定・制御、容易な操作性、高い堅牢性を保証する環 要である。本稿では、電子顕微克法その場観察による多 境セルを目指し、超高圧電子顕微鏡(JEOLARM-13 様な高容量水素貯蔵物質の反応機構解析結果を要約する。 1 2 5 0 k V)用の環境セルの開発を続けている 現在、超高 ∞ O 圧電顕用環境セルで、格子像レベルの高分解能を得るため 2 . 環境セルホルダの開発 には隔膜の改良が必要なことが判明し、窒化ケイ素8 i N 隔膜の応用も検討中である。なお、超高圧電子顕鮒亮は、 透過型電子顕微鏡による固相気相反応のその場観察方 法は二種類あり、差動排気によって試料雰囲気と電顕鏡 通常の電顕が加速電圧" " ' 4 0 0 k e V で、あるのに対し、加速電 圧が 1 2 5 0 k e V のため、透過能が高い。 筒内の差圧を管理するオープン方式と、隔膜によって管 3 1 4 (13) 水素エネルギーシステム V o1 .3 7,No. 4( 2 0 1 2 ) 特集 4 . マグネシウムと触媒界面における水素放出反応 [ 2 ] 触媒添加のM g l l iの脱水素化反応τEM その場観察から、 その触媒機構を検討した。均 H端末にNb心掛末を混合 した試料について、超高圧電子顕微鏡内で室温から 0 250Cまで加熱し、脱水素化反応過程をその場観察した。 図3(左)に室温と 2∞℃での高分解能の明視野像を示す。 図1 . 環境セルホルダ先端部の構造 フーリエ変換F F I ' と 逆フーリエ変換IFFrによると点線 部のMg の領域は加熱により拡大することがわかった。こ れは、加熱中にMg l l i が分解してMg になった直接的証明 3 . マグネシウムの水素吸蔵反応その場観察 である。すなわち、 乱i f g l l iの分解は触媒との接触界面か 2∞keV 汎用電顕と環境セルホルダを用いて、マグネシ ら開始し、水素が界面に移動することにより反応が刑務売 ウムMgの水素化における粒子の形状変化過程をその場 すると推定できる。図3(右)は母材と触媒の界面で起き 観察した。試料は、水素化マグネシウム均 胞に五酸化 る水素の挙動のモデ、ルで、 ある。 ニオブN防0 5を1mo 脱添み日し、水素圧1.0 l ¥ t I P a 雰囲気下・ 室温で2時間ミリング処理した後、 4 0 0Cで1 4 時間索ほι 理 0 し脱水素化したMg の微粉末である。図2 (上)に水素導 入前の明視野像と電子線回折パターンを示す。回折パタ c f g( 1 0 1 )( 1 0 3 )( 11 2 ),1 ¥ 匂0(2ω)が検出された。 ーンよりふi 。 Hltom 分後の明 図2 (下)は図 2 (上)と同一領域の水素導入 1 ト~m04ecl.lle 視野像と回折ノミターンを示す。微粒子の膨張が確認され、 Mg の回折スポットの強度が弱まったことから水素化反 応が進行したと推察できるが、 乱i f g I も相の回折スポット 図3 .Nb ρ5 上にあるMg Hあ¥末の分解過程(左、上下) は現れなかった o Mg昆相の検出に向けて、より透過能 の高い隔膜の開発が必要であると考えられるため、現在、 と反応胡封書のモデ、ル(右) iN カーボン補強高分子膜よりも高性能であるとされる S 隔膜の作製に取り組んでいる。 5 . ナトリウム水素化物とアンモニアの水素放出反応そ の場観察口] ナトリウム水素化物NaHとアンモニアN l l i の脱水素反 応を、透過電子顕微鏡によりその場観察した。試料は NaHの微粉末であり、真空とNlliガス雰囲気(O . l l ¥ t I P a) での変化を連続的に観察した。アンモニア導入前後の NaHの明視野像を図4に示す。アンモニアガスとの反応 の結果、粒子の明確な体積膨張が示された。この変化は、 N l l i+ NaH 二 今 Na N l l i+ l l i の反応によると判断した。備責膨張は、理論的には約 1 1 -1 2%増加することが予想され、実』聯吉果とよく 一致す る。今後は、より高分解能の像を解析することで生成物 と出発物質の界面について、その結晶方位依存性などを . Mg の観察前後での明視野像と回折パターン、水 図2 議論したいと考えている。 分後(下) 素導入前(上)水素導入1 3 1 5 (14) 水素エネルギーシステム Vo 1 .37,No. 4( 2 0 1 2 ) 特集 7 . アラネイト系材料の熱分解過程その場観察 [ 7 ] NaAllLの分解に伴うナノスケール構造変化をその場 観察から明らかにした。NaAlH 4は電子線に対して不安定 な物質である。このような物質の観察には、試料に照射 図4 . NaHのアンモニアガス導入前後で、の変化 される電子線の電流密度を出来るだけ下げて、熱が寵ら ない様に薄く小さい粒子を観察するなどの工夫を要する。 4を試料として、超高圧電子顕 方法として、市販のNaAlH 6 . リチウムイミド系材料の水素化過程観察 0 微鏡内で室温から 250Cまで分解過程をその場観察した。 アミド ・ イ ミド系材料はP . C h e nらによって水素貯蔵材 図6(上)に、分解によりナノレベルのポアが形成され ∞2 年に報告された材料系である [ 4 ] 。こ 料の候補として2 てポーラス構造になった明視野像を示す。体積は理論上 の材料系の水素放出反応メカニズムについてはし 1くつか 35% 程度減少するため、この変化は、粒子全体が収縮す 5 , 6 ]、その水素化反応メカニズムは未 の報告例があるが [ るのではなく、個々の結晶が収縮し、吸放出を繰り返す 解明である。目的は、 U剥 HおよびTi Cbを添加したU必f f i とナノ結晶化することを意味する。 2 ∞℃ではNaH およ の水素化過程で、L i H 、 U到 H、LiN也各相の生成位置とサ びAl であることが確認され、分解により結晶粒子径が減 イズを電子顕微鏡観察してそのメカニズ、ムを解明するこ 少した。図6(下)は分解過程のモデルで、ある。分解に伴 とである。これにより、アミド ・イミド系材料の高性能 ってポアが生成し、その付近でAl 粒子が生じている。 こ 化への設計指針を得ようと考えている。非金属系材料は の際、 NaA旧4とNね A l l もから生じる 2 種類のA l 粒子のサ 多段反応でフk素以外のガスを放出する場合があり、この イズは、 2白田1程度で、ほとんど差異が無い。 これらは 系ではLiHとU剥 HおよびLiN胞の三種類の固相が関与 NaAlH 4の分解反応がほとんど拡散を伴わずにナノクラ して微量のアンモニアガスが放出されると予想される。 スターごとに進むナノレベルの反応であることを示して 本実験では、 L i N l l iの熱処理による U到 Hを水素圧 いる。 1.0MPa 、2∞℃ で 、1 ' " ' ' 2 α泊分間水素化して得た水素化率の 異なる試料を観察に用いた。図5(左)はU企f f iの水素化 2∞分後の明視野像である。回折ノミターンと暗視野像か 仙 m 程度のL iH がU剥 HとL i N l l i の表面 ら、粒子サイズ1 に生成することが判明した。 この結果はLiH 粒子と微細 素化が進行するこ なL i N l l i 粒子が多数生成することでフk とを示している。 この結果をふまえ、水素化途中段階の 反応モデル図 5 (右)を提案した。LiH が表面に生成する には、 I i イオンが核である U剥 Hから表面へ拡散しなけ ればならない。相補的に Hイオンが核へ向けて拡散し 4の分解による紘織変化、 図6 NaAlH 1M 像(上)、反応モデル(下) 加熱前後のτ LiN昆を形成すると考えられる。 8 . アンモニアボランの熱分解過程 射しbNH L iNH2 アンモニアボ、ランNlliB fu は含有水素貯蔵密度の観 I も 点から最も有望視される材料系の一つで、ある。NlliB の分解は、 nNHsB f u ( s )→ [ N I もB H 2 1 n ( s ) + 副2 図5. Li2NHの水素化により形成される で進行し、種々のポリマーを生成することが知られてい 反応生成物の位置関係 l ¥ 在その場観察の結果 るが、その詳細は未解明である。TE 316 (15) 水素エネルギーシステム Vo1 .37, No. 4( 2 0 1 2 ) 特集 を図 7 に示す。 NHiB l l i→ 必任もB l l i ( s ) →[NlhBH2Ii s ) +4 T h の反応を捉えた。他の視野でも同 様の結果が得られたこ とから 、 倒H i l l l l i ) 4が優先的な反応生成物で、 あると判断 する。 また室温の観察で、は出発物質のNHiB l l iと少量の 例H i l l l l i ) 4 が確言忍された。これは、NHiB胞が電子線照射 により 一部分解反応したことを示す。 現在、出発物質と 生成物の結晶構造の相関性を精査しており、分解のダイ 図9 . . A l H 3 2 ∞℃、 1 時間加熱後のTEM 像 ナミクスをモデル化したいと考えている。 1 0 . おわりに 本稿では、透過電子顕微鏡を用 いたその場観察で数種 類の高容量水素貯蔵物質の水素 吸蔵放出反応についての 研究例を紹介した。 まだオミ解明な点も多々あるが、水素 の反応を視覚化することは、今後の材料開発に向けて、 図7 . NI 回 ,l l i の熱分解過程その場観察高分解 能像 あるいは「水素」科学の発展にお いて重要であると信じ ている。 9 . アルミニウム水素化物の熱分解 過程その場観察 謝辞 アルミニウム水素化物. A l H 3 は極めて高い水素貯蔵密 本研究の一部は、独立行政法人 新エネルギー ・産業技 度( 10 . 1 m a s s %,1 4 9 k g / m3)を有し、また 1 ∞e C " ' '2 ∞℃とし 1 術総合開発機構 (NED O)水素貯蔵材料先端基盤研究事 う比較的低い温度で泊 l l i→ Al+3I2 Hz の比較的単純な脱 業 ( HYDROSTAR ) の委託、および北海道大学基礎 融 水素化反応を起こすため、水素 貯蔵材料として注目され 合科学領域リーダー育成システ ムのサポートを受けて実 ているが、反応速度が遅い。 この原因として、AlH卦立子 施されました。 ここに感謝の意を表します。 r 周囲の必ρ胡莫の影響が考えられるため [ 8 ]、必ρ胡莫の脱 水素化反応に及ぼす影響を TEM 観察結果から検討した。 参考文献 図8は、.AlH3 のτ 1 E 1 f 像(左 :室温) 、 ( 右 :2 ∞e C ) を示 1 Ko yaO k u d e r ae ta l . , AdvanadMa t e r i a l sR間 紅 也 2 6 ・2 8 , 8 7 7 す。索杉消卒l こ伴って、 Al 粒子が凝集成長している様子が 似氾7 ) 観察された。 図9 は 、 2 ∞℃ 、 1 時間加熱後のτ 1 E 1 f 像であ 2 鉛i 伊h i 句協加 e ta l ., Ap p lP h y s .I . . e 比 96, 2 お1 ω 匂0 1 ω る。これは、繋ψ 尚卒後の必粒子とAhO胡莫を捉えたもので、 3 日r o k o回 r a s a w ae ta l ., p r c x : 政r l i n g s o f 2 α】91 ¥ 四SFallMa' 也1 9 Al 粒子が成長し、膜を突き破って成長したと推測できる。 ( 8 戸n p c 盟国n羽 乃 1216-W03 ・ 34 脱水素化反応の前後で、 Mρ胡莫の厚さに変化は見られな 4 P i n gαlene ta l . , Na 加r e4 2 0 , 3 0 2 3 0 4似))2) かったが、亀裂箇所は多々観察された。以上のことから、 5 p ingαlene ta l ., J .Phys. α l e m .B, 1 0 7 , 1 α渇7 ・1 ω70似刀3 ) 必ρ胡莫の亀裂から水素が放出されたと推察する。 6 S h i g e h i 白Ioo b ee ta l .,J .Phys. C h e m .B 1 ω 1 ,1 必5 5 ・1 必5 8 匂∞θ 7 白 jgB h i 加Ioo b ee ta l ., I n tJ .H~金司en En世gy35, 時 ω 1 ω 7回3・7567 8 Sh u n s u k eKa ωeta l ., Ap p lPh y s . I . . e 比 96, 0 5 1 9 1 2匂0 1 ω 図8 . . A l H 3 の索杉鴻卒過程その場観察(室温、 2 ∞r O C) 3 1 7 (16)