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地方公共団体監査基準 (案)

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地方公共団体監査基準 (案)
平成23年度
日本監査研究学会 課題別研究部会
「地方自治体監査基準」
最終報告書
地方公共団体監査基準
(案)
平成23年9月12日
目
次
第Ⅰ部 課題別研究部会報告
「地方自治体監査基準」(最終報告)について
第Ⅱ部
地方公共団体監査基準(案)の設定について
地方公共団体監査基準(案)の設定について
地方公共団体監査基準(案)
第Ⅲ部
1
6
13
地方公共団体監査基準逐条解説
第1章
第2章
第3章
第4章
第5章
第6章
第7章
地方公共団体監査の目的および一般基準
実施基準 一 基本原則
実施基準 二 監査計画の策定
実施基準 三 監査の実施
実施基準 四 他の監査人等の利用
報告基準
内部統制の有効性
21
32
43
57
68
72
93
第Ⅳ部 資料編(議事録)
第6回 研究部会議事録
第7回 研究部会議事録
第8回 研究部会議事録
第9回 研究部会議事録
第10回 研究部会議事録
部会の構成
114
136
159
183
208
219
第Ⅰ部
(最終報告)について
課題別研究部会報告「地方自治体監査基準」
石川
恵子
(実践女子大学)
部会長
石原
俊彦
(関西学院大学)
副部会長
伊藤
龍峰
(西南学院大学)
遠藤
尚秀
(新日本有限責任監査法人)
髙原利栄子
(近畿大学)
西尾宇一郎
(関西学院大学)
藤岡
英治
(大阪産業大学)
吉見
宏
副部会長
1
(北海道大学)
地方自治体監査の現状と課題
政府と地方自治体を取り巻く財政状況の悪化は、日本経済の深刻で重要な課題となって
いる。従前から指摘されている長寿少子化社会への対応だけではなく、戦後65年を経過
したインフラ資産や公の施設の更新も目前の課題となっている。東日本大震災の復興に約
20兆円の財源が必要と予測されているが、その確保もままならない現状である。国も自
治体も財政は火の車であり、赤字国債(特例国債)の発行が国会で認められなければ、わ
が国の公共部門は、アメリカと同様に財政的に立ち行かなくなる。
こうした状況は日本やアメリカだけにとどまらず、欧米の経済先進国に一般的に見られ
る傾向である。特に英国では、昨年誕生した保守党と自由民主党との連立政権が、政府か
ら地方自治体への歳出を2011年度からの4財政年度で26%カットするという基本方
針を打ち出し、多くの地方公務員が職を失うという状況に直面している。本研究でも、本
調査研究で有益な示唆をいただいている英国バーミンガム市役所のデイビッド・ノート課
長が50歳代なかばで、希望退職に応じられた。英国勅許公共財務会計協会(CIPFA)
は、この7月に開催した年次カンファレンスで、野村総研のリチャード・クー首席研究員
を基調講演に招聘し、景気後退の局面での財政出動の削減に反対するキャンペーンを、エ
リック・ピクルス英国自治コミュニティ大臣の目前で行うなど、各方面から財政危機への
政府の対応に疑問を投げかける動きもある。
政府や地方自治体の歳出削減が重要な経済全体の課題となるなかで、歳出削減の可否に
いずれの立場をとろうとも共有すべき思考がある。それは、
「歳出削減の有無にかかわらず、
無駄を省き、税金を有効に活用する」という思考である。歳出削減の場合はもとよりであ
るが、財政出動を行う場合であっても、単にお金を使うという発想では不十分であり、有
効な方法でそれなりの財政出動を行うという発想が必要である。監査の研究領域では、こ
-1-
うした問題は業績監査(VFM 監査あるいは3E監査)の研究として取り上げられることに
なる。
また、税金の使途を適切に情報公開し、議会や市民の周知のもとで、そのあり方を監視
するためのパブリック・ガバナンスのシステムを構築する視点からは、地方自治体の決算
書の適正性に関する監査とそれに付随する情報提供(従来から監査の理論研究では、付記
事項、補足的説明事項、特記事項などとして言及されてきた内容)のあり方を吟味するこ
とも重要である。特に、政府や地方自治体には、単年度予算主義、出納閉鎖期間など、企
業会計とは大きく発想を異にする実態があり、そうした状況での決算書監査のありようと、
それを含めたアカウンタビリティやパブリック・ガバナンスのあり方を検討することは、
非常に重要な研究課題であると考えられる。
ところで、わが国の地方自治体監査制度は、ほとんどの自治体(人口25万人未満の市
町村)で、2名の監査委員(1名は議会選出の地方議員)とそれを支えるごく少数(人口
数万の自治体であれば多くて2人年 1))の監査委員事務局職員で実践されているという構造
にある。監査委員の報酬はごくわずか(町村にあっては年間数十万円)であり、事務局職
員の多くも監査の専門的知識が不足している。しかも監査の中心はコンプライアンスの確
認に重点を置いた財務監査であり、一般に VFM を検討するとされている(この考え方は誤
りではあるが)行政監査は、ほとんど実施されていない。さらに監査の中心となる決算審
査(民間企業の財務諸表監査に相当する)においては、たとえば、計算突合(Footing)と
いった基礎的な監査技術もまったく適用されていない。監査要点や監査証拠という発想も、
おそらく皆無に近い状態である。さらに、財務監査と決算審査を関連付けて展開するとい
う発想にも乏しい。
これでは、地方自治体監査に期待されるさまざまな役割を果たすことなどできない。業
績監査の実施や、適正な財務情報の公開(その前提としての決算審査の適正化)を通じた
歳出内容についてのガバナンスを機能させるためにも、諸般の切り口から地方自治体監査
制度の改革を検討しなければならないのである。
2
総務省地方行財政検討会議
民間企業と比較すればこうして脆弱と考えざるを得ない地方自治体監査制度に対して、
総務省は2010年1月に総務大臣の諮問機関として地方行財政検討会議を設置した。総
務大臣・副大臣・政務官、内閣総理大臣補佐官、地方六団体の関係者、それに6名の学識
者(憲法、行政法、財政法、行政学、財政学、会計学の6つの分野から)で構成されたこ
の会議体(総務大臣の諮問機関に相当)では、憲法第93条に規定される二元代表制のも
とでの地方議会改革と、自治体監査制度改革が積極的に議論されてきた。そして、その成
果は、平成23年1月に総務省から『地方自治法抜本改正についての考え方(平成22年)』
-2-
(以下『考え方』とする)に集約された。
『考え方』においては、地方自治法改正に向けての諸般の議論とともに、地方自治体監
査制度改革に向けた3つのパターンが例示されている。そこでは、①現在の包括外部監査
制度の廃止や、②全国あるいは都道府県単位の監査組織の設置とともに、③決算書類につ
いての外部監査を導入する思考が導入されている。その際、決算書類についての外部監査
の導入では、外部決算書監査人の行為規範としての監査基準の策定も重要な課題として列
挙されている。
地方行財政検討会議におけるこうした監査制度改革に向けての議論は、第30次地方制
度調査会(内閣総理大臣の諮問機関)における議論を経て、地方自治法改正に向けた審議
へと展開される予定となっている。
3
地方公共団体監査基準の体系
本研究部会は、地方行財政検討会議のこうした議論を斟酌しながら、決算書の外部監査
人(『考え方』では、必ずしも公認会計士を唯一の監査人と位置づけているわけではない)
の行為規範となる監査基準のありようについて、考察を重ねてきた。現行の地方自治体監
査制度では、決算書の適正性を吟味する決算審査や会計規則や契約規則に沿った財務会計
行為が実施されていること(=コンプライアンス)を確認する財務監査以外に、最少の経
費で最大の効果を発現する行政執行が行われているかどうかを確かめる行政監査(上述の
ように必ずしもこの考え方は理論的には正しくない)の実施が求められている。
しかも、これらそれぞれについてはすでに、全国の都道府県の監査委員で構成される全
国都道府県監査委員協議会連絡会(全監連)や、市役所の監査委員で構成される全国都市
監査委員会(全都監)が、監査基準に相当する指針(その多くは、監査の実務マニュアル
に相当すると考えられる)を公表し、会員自治体でその内容に沿った監査や審査、検査が
遂行されている。それにもかかわらず、現行の地方自治体監査の現状には、到底、自治体
監査制度に期待されている役割を果たし得ていないという批判が強いのである。本研究部
会では、このことの根本的な原因を、地方自治体監査における基礎概念やその連鎖である
思考のフレームワークが、地方自治体の監査関係者に欠如しているという点に求めている。
全監連や全都監の公表する監査基準は確かに、地方自治体で監査業務に従事する監査委員
やそれを補助する監査委員事務局職員に重用されている。しかしその重用の特徴は、こう
した監査基準に準拠することの意義を、手続主義的に理解してしまっていること、つまり、
列挙されている手続きの背景にあるより重要な理論や思考を理解することなく、手続きを
粛々と行うことでもって十分と考えがちな傾向に求めることができる。
地方自治体の監査基準は、監査実務の根底にある基本的な考え方や基礎概念、さらには、
それらの連鎖としての概念フレームワークを重視したものでなければならない。そして、
-3-
監査を実施する監査人にかかわる監査主体の論理から、監査実施と監査報告の論理へと、
その内容を展開すべきものである。本研究部会では、このような理解を原点に、地方公共
団体監査基準(案)を決算書監査の局面に限定して模索し考察を行った。
もとより、地方公共団体監査基準(案)策定の段階では、決算書監査に限定せず、業績
監査や地方財政健全化法に規定されている4つの財政健全化判断指標の監査なども基準案
のなかに組み込むべきではないかという議論が、幾度となく繰り返された。決算書監査の
基準ではなく、業績監査も含めた、基準を集約すべきではないかという議論があった。そ
れも、一旦決算書監査基準の策定を企図するとして動き出した本研究部会の議論のなかで、
再び問題提起されるなど、相当に議論を展開した研究項目ではあるが、本報告書に集約で
きていない仕掛部分が実はある。たとえば、下記はその一部であるが、非常に基本的な問
題もあり、地方公共団体監査基準設定の困難さを示唆するものと本部会では理解している。
本研究部会では引き続き、これらの点についても検討を続ける予定である。
①
地方自治体監査における内部統制監査の基準設定と業績監査の諸問題
②
監査意見に付記する補足的な説明事項のあり方
③
監査主体として公認会計士・監査法人以外の主体を想定できるか否か
④
地方自治体の決算書に監査を通じて信頼性を付与した場合の効果
⑤
決算書の監査人と監査委員の関係
本研究部会では、こうした事情から、地方公共団体監査基準を、地方自治体が現在策定
している歳入歳出決算書等(現行現金主義会計の決算書に加えて、それを補完する発生主
義決算書を含む)の決算書監査に関わる外部監査人の行動規範として重要な内容を取りま
とめることとした。ただ、行政監査や財務監査など自治体監査のその他の類型を将来包含
することが可能になるように、関連する監査の基礎概念の説明や言及にも可能な範囲で言
及を行うこととした。
もとより、現在の地方自治体決算書監査は監査委員が決算審査という形式で行っている
が、その内容は、会社法や金融商品取引法で実施されている会計監査や財務諸表監査とは、
まったく内容を異にするものである。たとえば、冒頭示唆したように決算書に計上された
数値の合計調べすら行われていないものを、現行では決算審査として言及しているのであ
る。このような状況で、制度としての決算書の外部監査を導入するには、いくつもの制度
的、実務的な障害を乗り越えていかなければならない。その際に重要なことは、企業会計
の会計監査の論理を、そのまま自治体の決算書監査に導入するだけでは、自治体の決算書
監査制度を構築することはできないであろうという点である。
4
地方自治体の内部統制と監査基準
さらに、地方自治体の財務報告でも看過できない重要な問題が、内部統制の構築の議論
-4-
である。総務省は平成21年3月に、地方公共団体における内部統制のあり方に関する最
終報告書を公表し、日本全国の地方自治体関係者に対して内部統制の整備と運用の重要性
をすでに啓蒙している。そこでは、内部統制の代表的な4つの目的が言及されており、財
務報告の信頼性もまた、地方自治体にとって重要な内部統制であると指摘されている。
本研究部会では、地方自治体監査に深い関係を有するこのような内部統制についての動
向にも注視を行ってきた。今回基準案として集約した『地方公共団体監査基準(案)』にお
いて、内部統制の構築に関する首長の自己評価やその内容についての監査人の監査をどの
ような論理で展開するかについても、研究部会では相当の議論が展開された(仔細は最終
報告書の参考資料の研究部会の議事録を参照されたい)。その上で、本最終報告書では、現
在の民間企業の内部統制監査と同様に、内部統制監査報告書を取りまとめる方向性で明示
することは、あえて避けることとした。この部分は、本研究部会でも非常に多くの議論を
重ね、決断した部分である。
5
今後の方向性
地方自治体の監査は、決算書の審査一つをとっても民間企業の監査とは大きく異なる。
本最終報告書は、諸般の課題を認識しつつも地方自治体監査制度を改革する布石として、
決算書の監査を標準化し短文式の監査報告書を作成することなどを企図している。これに
加えて、本研究部会では、監査人の公表する監査報告書が、首長(理事者側)と議会の積
極的な議論の素材として活用されるように、追記情報として相当分量の記述情報を監査人
が監査報告書に記載することで、憲法の規定する二元代表制の趣旨を完遂する非常に重要
な手立てになると認識している。
実際、短文式(標準文言による)監査報告書は、二元代表制を前提とする地方議会では、
有用な監査報告書としては機能し得ないという重要な指摘もある。周知のとおり、現行の
監査委員の決算審査報告書は、長文式監査報告書として機能している。普通会計や地方公
営企業会計の財務状況の分析や財務会計上の問題点、法令遵守上のさまざまな問題点や課
題を、決算審査報告書は指摘しているのである。この内容を決算書の適正性に関する監査
意見と追記情報(通常の企業監査において、監査覚書などを通じて指摘している事項)に
区分して記載するなどの工夫を行うことで、二元代表制で期待される監査の役割を果たす
ことができるのではないか、というのが本研究部会の将来に向けた地方自治体監査制度改
革の企図するベクトルである。
〈注〉
1)
常勤換算で2名を意味する。
-5-
第Ⅱ部
地方公共団体監査基準(案)の設定について
1
監査制度改革の現状と課題
近年、地方公共団体を取り巻く行財政環境は、厳しさを増している。長引く日本経済の
低迷や長寿少子化、生活保護世帯の増加等により、日本全国の地方公共団体の財政状況は、
悪化の一途をたどっている。なかでも夕張市役所の財政破綻は、日本全国に大きな衝撃を
もたらした。人口約1万人の団体で最終的に確認された債務の総額は645億円。これは
住民一人当たり645万円の債務が存在することを意味する。
2008年に制定された地方公共団体財政健全化法は、こうした地方公共団体の財政状
況の悪化に対して、早期に当該団体の財政健全化を推し進めるために、制度化されたもの
である。実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率、将来負担比率の4つの財政
健全化指標を用い、これらの数値が悪化した団体は、早期健全化団体や財政再生団体に指
定され、財政健全化のために住民にも一定の負担を求める諸策が講じられることになる。
また、地方公営企業会計については、資金不足比率を用いて、同様の措置が講じられてい
る。
近年多発する地方公務員による不祥事の発生や、地方公共団体による不適正な経理処理
は、地域住民の行政に対する信頼を大きく失墜させる結果となっている。地方分権や地域
主権は、住民協働参画やパートナーシップの存在を前提とした住民主体の都市経営を企図
するものであり、住民との信頼関係の再構築は、地方行政の重大な課題と認識されている。
新しい公共の創出、あるいは、公的関与のあり方や行政の守備範囲に関する議論は、いず
れも地方公共団体と住民との連携を意識し、補完性の原則に基づいて、公共の第一義的な
担い手は民(住民)であるという発想に基づいている。いまや、地域住民の理解と協力な
しに、いかなる地方分権も地域主権も実現し得ない状況にある。それゆえ、地方公務員や
地方公共団体に対する信頼の喪失や不信からの回復は、地方分権や地域主権の前提として、
欠くことのできない要件となっている。
こうした状況を受け総務省は2010年1月、地方行財政検討会議を発足させた。そこ
では、憲法第93条が規定する二元代表制に基づいた地方公共団体の基本構造のあり方を
議論するとともに、地域住民からの信頼を確保するために、地方公共団体における内部統
制のあり方や、地方公共団体における監査制度のあり方についての検討が進められている。
特に、第二分科会で集中した議論が展開されている監査制度の改革に関して、現行の監
査委員監査、包括外部監査人監査の現状と課題を踏まえた抜本的な改革方策が議論されて
いる。2011年1月に総務省が公表した『地方自治法抜本改正に向けての考え方』は、
これまでの地方行財政検討会議における議論の内容を整理したもので、2010年に公表
-6-
された『地方自治法の抜本改正に向けての基本的考え方』とこれに対するパブリック・コ
メントの内容を反映して公表されたものである。
『地方自治法改正に向けての考え方』では、
監査委員と包括外部監査人に代わる内部監査役と外部監査人による監査が提示されており、
合わせて、監査の前提としての内部統制の整備と運用の重要性について言及されている。
ところで、抜本改正の議論の対象となっている現行の監査委員監査は、例月現金出納検
査、財務監査(定期監査および随時監査)、行政監査(随時監査)、決算書審査、住民監査
請求監査、地方財政健全化法における財務指標の審査を中心に実施されている。また、包
括外部監査人監査は、都道府県や政令市、中核市を対象として財務監査に限定して実施さ
れてきた。これらの監査には今日まで、たとえば、次のような大きな問題点が指摘されて
いる。
第一に、地方公共団体の監査制度においては、監査、検査、審査という概念の定義が不
明確で、地方自治法においてもこれらをひとまとめにして「監査等」という文言が使用さ
れるなど、監査に関連する諸概念の整理が不十分である。その結果、たとえば監査という
概念ひとつとっても、その内容について地方公共団体の関係者の間において、その意味す
る内容について合意が形成されていない。また監査の一般的な概念フレームワークに基づ
いた監査制度の構築、監査実務の実践が行われていない。
第二に、地方公共団体が手元に保有する現金が少額となっている現状にもかかわらず、
多くの地方公共団体で例月現金出納検査が月末を中心に実施されている。この検査では、
地方公共団体の会計帳簿と指定金融機関が管理する地方公共団体の口座の残高突合の作業
(具体的には、読み合わせ)が儀式的に行われている。監査委員監査の効率性を向上する
ためにも、こうした儀式的な作業の見直しが求められる。その際、中小の地方公共団体で
は、例月現金出納検査と定期の財務監査を同時に行うなどの実務が展開されている点は、
有益な実務事例として認識することができる。
第三に、財務監査と行政監査における監査対象の識別が困難とされている点である。一部
の地方公共団体関係者の間では、行政監査を VFM(Value For Money : 支出に見合う価値)
監査と定義する考え方が広まっている。VFM 監査は、地方自治法第2条第14項が規定す
る「最少の経費で最大の効果」が発現されているかどうかを吟味する監査で、一般的な監
査要点は、経済性(economy)、効率性(efficiency)、有効性(effectiveness)であるとさ
れている(3E監査)。しかし、経済性や効率性の監査はそもそも、行政コストの計算など
の財務情報と密接に関連するものであり、財務監査を行わなければ、経済性や効率性とい
った監査要点の検証を行うことはできない。しかも地方自治法第199条第4項では、行
政監査は随時監査と規定されているため、行政監査を実施しない地方公共団体では、定期
財務監査のみが監査実務の中心となる傾向がある。この場合、監査委員監査としては結局
のところ、合規性や合法性に力点が置かれた財務事務の監査のみが定期監査として執行さ
れ、事実上、経済性や効率性に関する財務監査が十分に展開されないケースも見受けられ
-7-
る。
第四に、ある地方公共団体では、2008年に実施された会計検査院の会計検査において、
数十億円に上る不適正経理が指摘されたにもかかわらず、監査委員はその決算審査の結果
において、「計数は正確である」という表明を行った。この点に関しては、監査委員の決算
審査が実質的に機能していないのではないかという問題提起が行われている。また、当該
多額の不適正経理を看過した監査委員に対する責任を問う規定が地方自治法においては定
められていないという問題点もある。監査委員監査においてどのような監査要点が設定さ
れ、どのような監査手続が実施され、結果を表明する合理的な基礎として、いかなる監査
証拠が収集評価されたのか等について、これらの監査の失敗事例を考察し、その後の検証
が求められるべきである。
第五に、財政健全化の審査において、監査委員は、審査に付された健全化判断比率とその
算定の基礎となる事項を記載した書類が、適正に作成していることについて審査の結果を
表明しなければならない。この点に関して、算定の基礎となる事項を記載した書類を作成
するための内部統制が実質的に有効に機能していない可能性(たとえば、連結の対象とな
る外郭団体等の決算書に重要な誤謬や不正が存在するケース)が想定される。それにもか
かわらず、監査委員は、算定の基礎となる事項を記載した書類の表内・表間突合といった
内部証拠の収集に終始し、決算書等の作成の基礎になった財務数値に関する外部証拠に依
拠した審査の結果を表明できていない。
第六に、包括外部監査は、個人たる弁護士、公認会計士等との委託契約に基づいて実施さ
れている。しかしながら、大規模組織を対象とする監査はそもそも組織的に展開すること
が前提とされると考えられる。それゆえに、個人との委託契約に基づく監査の実施は、監
査組織全体の指揮命令系統が脆弱なものとなったり、監査調書の整備や監査結果の集約が
円滑に行われないなどの弊害が想定される。また、包括外部監査を財務監査にのみ限定し
ている一方で、包括外部監査人の監査報告書には、行政執行における経済性や効率性につ
いての言及が存在するなど、財務監査と行政監査の目的を明確に識別することが困難なこ
とによる混乱が生じている。さらに、包括外部監査のテーマ選定において、近年「新たな
監査テーマの選定が困難である」という指摘がなされるなど、包括外部監査の本質を保証
型ではなく指摘型と潜在的に認識する事例が数多く見受けられる。この点は、監査の本質
が一般的に保証と考えられている点と大きく齟齬する部分であり、地方公共団体の監査制
度において監査概念をどのように定義すべきか、という極めて重要な問題を提起している。
2
監査制度改革の方向性―決算書外部監査制度の構築―
現行の監査制度で認識されているこのような課題を解決するためには、まず、監査、検
査、審査といった諸概念の整理を行う必要がある。地方自治法においても、こうした異な
-8-
る概念が時には「監査等」というひと括りの概念で類似的に言及され、監査、検査、審査
という概念の理解をより困難なものとしている。三つの概念を明確に識別するためには、
監査等の行為が、保証型のプロセスであるか、指摘型のプロセスであるかに注目すること
が重要である。
すなわち、監査の一般理論において、監査は常に情報や行為の保証を伴うべきものと考
えられている。この点で、情報や行為についての問題点に言及し、その改善等を求める指
摘とは、本質を異にするものであるという点が理解されなければならない。情報や行為全
般について何らかの要証命題を設定し、その命題の確からしさについて、監査人が「意見」
の表明を行い、情報や行為の全体について何がしかの信頼性の付与を目的とする保証と、
信頼性の付与を目的とせず、検出された内容を基にして、一定の改善や改革を企図する指
摘は、まったく異なる行為である。
この点に関しては、わが国監査委員監査で用いられている監査という概念が必ずしも保
証と直結するものではなく、その一方で、審査という概念が、実質的な保証を伴う行為と
して利用されている点に注目する必要がある。しかも、監査委員の決算審査では、その保
証の表明を意見ではなく結果と言及している。他方、決算審査報告書では一般に、保証を
伴う機能にとどまらず、決算内容の分析やこれを受けた要改善事項などを周知するなど、
相当の分量をもって情報提供機能(監査の理論では指導機能という)が果たされている。
そして、この情報提供のことを決算審査報告書では、意見の表明とするなど、民間企業の
財務諸表監査の理論とはまったく異なった文言の使用が長く継続されている。同一の決算
審査意見書に保証機能と指導機能が混在する監査委員による決算書審査の制度には、こう
したいくつもの問題が存在している。
監査制度改革には、以上で考察した内容を含め、非常に多くの論点が存在する。もとよ
り、これらを全体として捉え、改革のための方向性と具体策を見出すことが今後の課題と
なる。その際、財務情報の正確性とその背景にある実態の合法性や合規性に焦点を当てて、
現行の決算書審査のあり方を再検討することにより、監査制度改革の根幹として決算書監
査のフレームワークを再構築しようとする認識が、近年、地方行財政検討会議での監査制
度改革の議論を踏まえて、広まりつつある。そこでは、現在、監査委員が決算審査として
実施している監査等の内容を、監査委員とは別個の外部監査人が担う可能性についても言
及されている。
地方公共団体における決算書審査の概念フレームワークにおいては、例月現金出納検査
や定期財務監査の結果は、本来、決算審査の内容と関連付けて評価されるべきものである。
また、地方財政健全化法の健全化判断比率の監査は、決算審査と直接関連付けて実施する
ことが重要であろう。すなわち、例月現金出納検査、財務監査、決算書審査、地方財政健
全化判断指標の監査という流れで、意見表明と情報提供のための証拠や情報の収集と評価
が繰り返されなければならない。
-9-
本地方公共団体監査基準はこのような認識に基づいて、監査委員監査において決算書審
査と言及されている審査の概念に代えて監査の概念を用い、地方公共団体の決算書の監査
を行う際の監査人の行為規範として機能することを企図して策定されたものである。これ
に関して、審査という概念を廃止することには、強い反対が存在すると考えられる。しか
しながら、現行の監査委員監査の実務において審査という概念を明確に定義できる根拠は
存在しないと考えられる。実務的には、決算書が正確に作成されていることと、決算数値
の内容を監査委員として分析し、所見として若干の要望事項を記載したものが、審査の結
果として表明されている。
ここにおいて重要なことは、審査の二面性を明確に識別すべきであるという点である。
すなわち、決算書が正確に作成されていることについての保証機能の伴う監査業務と、分
析や要望事項等の情報提供機能の伴う MAS 業務を分離し、情報提供機能は、監査とは別個
の長と議会に対する所見である追記的情報(後述の監査基準(案)の六)と位置づけるべ
きである、という点である。そしてその際、監査の結果として唯一表明されるのは決算書
の適正性に関する「意見」であることに留意しなければならない。現行の監査委員監査で
は、本来、この監査意見として言及すべきものを監査の結果とし、実質的は情報提供機能
に過ぎない内容を「意見」と表記している。こうした監査の基礎理論や概念フレームワー
クと乖離する地方自治法上の文言の整理もまた、監査制度改革で不可欠な作業となる。決
算書審査で分析や要望事項を意見と言及している点については、これをたとえば追記情報
として、意見とは異なる概念で整理すべきである。監査の一般理論では、意見という概念
を非常に緻密に定義しており、地方公共団体の監査制度においても、意見の概念を慎重に
用いる必要がある。
また、現行の決算審査意見書は、正確性の保証と分析や要望・所見といった内容を、一
つの意見書(正確には、報告書という言及のほうが適当と考えられる)として公表してい
る。本質の異なる二つの内容を、一つの意見書という書式で包括する以上、保証機能と情
報提供機能の明確な識別が意見書上において明瞭に行われなければならない。会社法や金
融商品取引法で制度化される民間企業に対する財務諸表監査制度においても、この点は特
段の意識をもって対処されている。そこでは、財務諸表の保証を行う監査をその他の業務
と明確に区別し、監査とその他が混同されないように、監査報告書は短文の標準的な様式
の監査報告書が用いられているという現状も存在する。ただし、現行の決算審査意見書は、
議会の決算特別委員会やその他の委員会、さらには、本会議において非常に重要な理事者
と議会の議論の素材として活用されており、この様式そのものを尊重する意義は非常に大
きいと考えられる。
ところで、地方公共団体の決算書監査(保証機能に限定)においては、長と監査人の間
の二重責任の原則についても、検討されなければならない。すなわち、長には、財務事務
の合規性と決算書の正確性を担保する責任がある。また、監査人には、決算書への信頼性
- 10 -
付与を目的として、長の作成した決算書の適正性に関する監査意見を表明する責任がある。
地方公共団体の決算書の開示を通じた住民や議会等への情報公開は、双方の責任が果たさ
れることで実現されることに留意しなければならない。地方公共団体の決算書利用者に適
正な財務情報が提供されるためには、二重責任の原則を徹底するという認識が、地方公共
団体の関係者の間で共有されることが重要である。
二重責任の原則に関して、地方公共団体の長には、財務事務の合規性と決算書の正確性
を担保する内部統制の整備と運用が求められる。たとえば、日常の出納において、長は財
務事務が合法的・合規的に遂行されるように職務分掌や事務分担を定める必要がある。そ
のなかには、たとえば、所管部署における作成証憑のダブルチェックや会計管理者による
支出命令書等の吟味が含まれよう。また、決算書が正確に作成されるような職務分掌と事
務分担には、諸般の計算突合や作成基礎資料との照合、外部金融機関からの残高証明書と
の照合作業などが含まれる。長がこうして慎重に作成した決算書を、今度は、監査人が監
査対象として位置づけ、決算書の正確性に関する意見を表明するための合理的な基礎を監
査手続の選択と評価を通じて形成することになる。
二重責任の原則に基づき長と監査人が連携して、決算書のあるべきディスクロージャー
制度を構築するためには、日本全国の地方公共団体が開示(ディスクロージャー)する決
算書の品質の均一化を目標に、長が構築する内部統制と監査人が実施する監査の品質管理
が課題となる。民間企業の財務諸表監査ではこれまで、すべての監査人(企業と独立した
外部の監査法人や公認会計士が就任する)が実施する監査の水準を均一化させるために、
監査行為を遂行する際の規範として『監査基準』(直近改定:平成21年4月9日、金融庁
企業会計審議会)が設定されている。また、日本公認会計士協会はこれに加えて、監査業
務に従事する協会会員の自主規制のルールとして、これまでも多くの品質管理のための基
準等を公表している。さらに、企業会計審議会は平成19年に『財務報告に係る内部統制
の実施』を策定し、長が構築する財務報告に係る内部統制についても一定の基準を示して
いる。
3
地方公共団体監査基準の構成
地方公共団体監査基準は、決算書の監査に従事する監査人が、決算書監査の行為規範と
して準拠すべきものであり、その内容は例月現金出納検査や定期財務監査を含む決算書監
査、財政健全化判断比率の監査、内部統制監査から構成される。その基本的性格は、昭和
25年にわが国で初めて監査基準が設けられたおりに、「監査基準は、監査実務の中に慣習
として発達したもののなかから、一般に公正妥当と認められたところを帰納要約した原則
であって、職業的監査人は、財務諸表の監査を行うに当たり、法令によって強制されなく
とも、常にこれを遵守しなければならない」と明示されており、今日においても、また、
- 11 -
地方公共団体の決算書監査においても変わるものではない。
しかし、その具体的内容については、地方公共団体の特性や地方公共団体が現在直面す
る状況を斟酌したものでなければならない。地方公共団体の決算書監査で必要とされる主
たる内容は、おおよそ次のように整理することができる。
第一
地方公共団体監査の目的
第二
一般基準
1
専門的能力の向上と知識の蓄積
2
公正普遍の態度と独立性の保持
3
正当な注意と職業的懐疑心
4
不正等に起因する虚偽の表示への対応
5
監査計画と監査調書の記録と保存
6
組織的監査
7
監査の品質管理
8
守秘義務
第三
実施基準
一
基本原則
二
監査計画の策定
三
監査の実施
四
他の監査人等の利用
第四
報告基準
一
一般原則
二
監査報告書の記載区分
三
無限定適正意見の記載事項
四
意見に関する除外
五
監査範囲の制約
六
追記情報
- 12 -
地方公共団体監査基準(案)
第一
地方公共団体監査の目的
地方公共団体監査の目的は、地方公共団体の長が作成した決算書が、一般に公正妥当
と認められる地方公会計の基準に準拠して作成され、地方公共団体の財政状態と純資産
の変動、収支およびキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示
しているかどうかについて、決算書作成の背景にある業務執行全般を含めて、監査人が
自ら入手した証拠に基づいて判断した結果を意見として表明することにある。
第二
1
一般基準
監査人は、地方公共団体の決算書監査の職業的専門家として、会計と監査にとどま
らず、地方行財政とその関連領域についての、専門能力の向上と実務経験等から得ら
れる知識の蓄積に常に努めなければならない。
2
監査人は、地方公共団体の決算書の監査を行うに当たって、常に公正普遍の態度を
保持し、当該地方公共団体の職員であった者等、独立の立場を損なう利害や独立の立
場に疑いを招く外観を有してはならない。
3
監査人は、地方公共団体の決算書監査の職業的専門家としての正当な注意を払い、
懐疑心を保持して監査を行わなければならない。
4
監査人は不正、誤謬、違法行為および法令違反、法規への非準拠及び資産の濫用の
結果、重要な虚偽の表示が決算書に含まれる可能性があることを考慮しなければなら
ない。また、これらを防止するための適切な内部統制の存在を確認しなければならな
い。
5
監査人は、地方公共団体の決算書監査に関わる監査計画及びこれに基づき実施した
監査の内容並びに判断の過程及び結果を記録し、監査調書として保存しなければなら
ない。
6
監査を実施する監査事務所は、監査業務の品質を確保するために、監査契約の締結・
更新から監査報告書の発行に至る監査の全過程において、品質管理のためのシステム
を整備し運用しなければならない。
7
監査実施の責任者は、監査事務所が設けた品質管理のためのシステムに従って、監
査業務を行わなければならない。
8
監査人は、監査の過程において知り得た事項を正当な理由なく第三者に漏らしては
- 13 -
ならない。
第三
実施基準
一
基本原則
1
監査人は、監査リスクを合理的に低い水準に抑えるために、地方公共団体の決算
書における重要な虚偽表示のリスクを評価し、発見リスクの水準を決定するととも
に、監査上の重要性を勘案して監査計画を策定し、これに基づき監査を実施しなけ
ればならない。
2
監査人は、監査の実施において、内部統制を含む、地方公共団体及びそれを取り
巻く環境を理解し、これらに内在する事業上のリスク等が決算書に重要な虚偽の表
示をもたらす可能性を考慮しなければならない。
3
監査人は、自己の意見を形成するに足る基礎を得るために、首長が提示する決算
書項目に対して、取引の実在性、網羅性、権利と義務の帰属、評価の妥当性、期間
配分の適切性及び表示の妥当性等の監査要点を設定し、これらに適合した十分かつ
適切な監査証拠を入手しなければならない。
4
監査人は、十分かつ適切な監査証拠を入手するに当たっては、地方公共団体の決
算書における重要な虚偽表示のリスクを暫定的に評価し、リスクに対応した監査手
続を、原則として試査に基づき実施しなければならない。
5
監査人は、決算書監査の職業的専門家としての懐疑心をもって、不正及び誤謬に
より地方公共団体の決算書に重要な虚偽の表示がもたらされる可能性に関して評価
を行い、その結果を監査計画に反映し、これに基づき監査を実施しなければならな
い。
二
1
監査計画の策定
監査人は、監査を効果的かつ効率的に実施するために、監査リスクと監査上の重
要性、ならびに個々の監査等の状況を勘案して、監査計画を策定しなければならな
い。
2
監査人は、監査計画の策定に当たり、地方公共団体を取り巻く状況(地域特性、
地域に特別に適用されている規制など)、地方公共団体内の組織、首長の理念、方針、
地方公共団体組織内の内部統制の整備状況(長の内部統制についての知識、地方公
- 14 -
共団体の行財政事業や財務報告に係る内部統制の最近の変更の有無、モニタリング
の実施状況など)、情報技術の利用状況その他地方公共団体の活動に関わる情報を入
手し、地方公共団体及びその環境に内在する行財政上のリスクがもたらす決算書に
おける重要な虚偽表示のリスクを暫定的に評価しなければならない。
3
監査人は、広く決算書全体に関係し特定の決算書項目のみに関連づけられない重
要な虚偽表示のリスクがあると判断した場合には、そのリスクの程度に応じて、補
助者の増員、専門家の配置、適切な監査時間の確保等の全般的な対応を監査計画に
反映させなければならない。
4
監査人は、決算書項目に関連して暫定的に評価した重要な虚偽表示のリスクに対
応する、内部統制の運用状況の評価手続及び発見リスクの水準に応じた実証手続に
係る監査計画を策定し、実施すべき監査手続、実施の時期及び範囲を決定しなけれ
ばならない。
5
監査人は、会計上の見積りや収益認識等の判断に関して決算書に重要な虚偽の表
示をもたらす可能性のある事項、不正の疑いのある状況、特異な状況等、特別な検
討を必要とするリスクがあると判断した場合には、そのリスクに対応する監査手続
に係る監査計画を策定しなければならない。
6
監査人は、地方公共団体が利用する情報技術が監査に及ぼす影響を検討し、その
利用状況に適合した監査計画を策定しなければならない。
7
監査人は、監査計画の策定に当たって、財務指標の悪化の傾向、財政の健全化を
はかる指標などに基づき、地方公共団体の健全化に重要な疑義を生じさせるような
事象または状況の有無を確かめなければならない。
8
監査人は、監査計画の前提として把握した事象や状況が変化した場合、あるいは
監査の実施過程で新たな事実を発見した場合には、適宜、監査計画を修正しなけれ
ばならない。
三
1
監査の実施
監査人は、実施した監査手続及び入手した監査証拠に基づき、暫定的に評価した
重要な虚偽表示のリスクの程度を変更する必要がないと判断した場合には、当初の
監査計画において策定した内部統制の運用状況の評価手続及び実証手続を実施しな
ければならない。また、重要な虚偽表示のリスクの程度が暫定的な評価よりも高い
と判断した場合には、発見リスクの水準を低くするために監査計画を修正し、十分
かつ適切な監査証拠を入手できるように監査手続を実施しなければならない。
2
監査人は、ある特定の監査要点について、内部統制が存在しないか、あるいは有
- 15 -
効に運用されていない可能性が高いと判断した場合には、内部統制に依拠すること
なく、実証手続により十分かつ適切な監査証拠を入手しなければならない。
3
監査人は、特別な検討を必要とするリスクがあると判断した場合には、それが決
算書における重要な虚偽の表示をもたらしていないかを確かめるための実証手続を
実施し、また、必要に応じて、内部統制の整備状況を調査し、その運用状況の評価
手続を実施しなければならない。
4
監査人は、監査の実施の過程において、広く決算書全体に関係し特定の決算書項
目のみに関連づけられない重要な虚偽表示のリスクを新たに発見した場合及び当初
の監査計画における全般的な対応が不十分であると判断した場合には、当初の監査
計画を修正し、全般的な対応を見直して監査を実施しなければならない。
5
監査人は、会計上の見積りの合理性を判断するために、首長等が行った見積りの
方法の評価、その見積りと監査人が行った見積りや実績との比較等により、十分か
つ適切な監査証拠を入手しなければならない。
6
監査人は、地方公共団体の決算書の監査の実施において不正、誤謬、違法行為お
よび法令違反、法規への非準拠および資産の濫用を発見した場合には、首長等に報
告して適切な対応を求めるとともに、適宜、監査手続を追加して十分かつ適切な監
査証拠を入手し、当該不正等が決算書に与える影響を評価しなければならない。
7
監査人は、適正な決算書を作成する責任は首長にあること、決算書の作成に関す
る基本的な事項、首長が採用した会計方針、首長は監査の実施に必要な資料を全て
提示したこと及び監査人が必要と判断した事項について、首長から書面をもって確
認しなければならない。
四
1
他の監査人等の利用
監査人は、他の監査人によって行われた監査の結果を利用する場合には、他の監
査人の品質管理の状況等に基づく信頼性の程度を勘案して、他の監査人の実施した
監査の結果を利用する程度及び方法を決定しなければならない。
2
監査人は、専門家の業務を利用する場合には、専門家としての能力及びその業務
の客観性を評価し、その業務の結果が監査証拠として十分かつ適切であるかどうか
を検討しなければならない。
3
監査人は、地方公共団体の内部監査の目的及び手続が監査人の監査の目的に適合
するかどうか、内部監査の方法及び結果が信頼できるかどうかを評価した上で、内
部監査の結果を利用できると判断した場合には、決算書の項目に与える影響等を勘
案して、その利用の程度を決定しなければならない。
- 16 -
第四
報告基準
一
基本原則
1
監査人は、地方公共団体の長の作成した決算書が、一般に公正妥当と認められる
地方公会計の基準に準拠して、地方公共団体の財政状態、経営成績及びキャッシュ・
フローの状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて意
見を表明しなければならない。
2
監査人は、決算書が一般に公正妥当と認められる地方公会計の基準に準拠して適
正に表示されているかどうかの判断に当たっては、地方公共団体の長が採用した会
計方針が、地方公会計の基準に準拠して継続的に適用されているかどうかのみなら
ず、その選択及び適用方法が会計事象や取引を適切に反映するものであるかどうか
並びに決算書の表示方法が適切であるかどうかについても評価しなければならない。
3
監査人は、監査意見の表明に当たっては、監査リスクを合理的に低い水準に抑え
た上で、自己の意見を形成するに足る基礎を得なければならない。
4
監査人は、重要な監査手続を実施できなかったことにより、自己の意見を形成す
るに足る基礎を得られないときは、意見を表明してはならない。
5
監査人は、意見の表明に先立ち、自らの意見が一般に公正妥当と認められる地方
公監査の基準に準拠して適切に形成されていることを確かめるため、意見表明に関
する審査を受けなければならない。この審査は、品質管理の方針及び手続に従った
適切なものでなければならない。
二
1
監査報告書の記載区分
監査人は、監査報告書において、監査の対象、地方公共団体の長の責任、監査人
の責任、監査人の意見を明瞭かつ簡潔にそれぞれを区分した上で、記載しなければ
ならない。ただし、意見を表明しない場合には、その旨を監査報告書に記載しなけ
ればならない。
2
監査人は、決算書の記載について強調する必要がある事項及び説明を付す必要が
ある事項を監査報告書において情報として追記する場合には、意見の表明とは明確
に区別しなければならない。
- 17 -
三
無限定適正意見の記載事項
監査人は、地方公共団体の長の作成した決算書が、一般に公正妥当と認められる地
方公会計の基準に準拠して、地方公共団体の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フ
ローの状況をすべての重要な点において適正に表示していると認められると判断した
ときは、その旨の意見(この場合の意見を「無限定適正意見」という。)を表明しなけ
ればならない。この場合には、監査報告書に次の記載を行うものとする。
(1) 監査の対象
監査対象とした決算書の範囲
(2) 地方公共団体の長の責任
決算書の作成責任は地方公共団体の長にあること、決算書に重要な虚偽の表示が
ないように内部統制を整備及び運用する責任は地方公共団体の長にあること
(3) 監査人の責任
監査人の責任は独立の立場から決算書に対する意見を表明することにあること
一般に公正妥当と認められる地方公監査の基準に準拠して監査を行ったこと、地
方公監査の基準は監査人に決算書に重要な虚偽の表示がないかどうかの合理的な保
証を得ることを求めていること、監査は決算書項目に関する監査証拠を得るための
手続を含むこと、監査は地方公共団体の長が採用した会計方針及びその適用方法並
びに地方公共団体の長によって行われた見積りの評価も含め全体としての決算書の
表示を検討していること、監査手続の選択及び適用は監査人の判断によること、決
算書監査の目的は、内部統制の有効性について意見表明するためのものではないこ
と、監査の結果として入手した監査証拠が意見表明の基礎を与える十分かつ適切な
ものであること
(4) 監査人の意見
地方公共団体の長の作成した決算書が、一般に公正妥当と認められる地方公会計
の基準に準拠して、地方公共団体の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの
状況をすべての重要な点において適正に表示していると認められること
四
1
意見に関する除外
監査人は、地方公共団体の長が採用した会計方針の選択及びその適用方法、決算
書の表示方法に関して不適切なものがあり、その影響が無限定適正意見を表明する
ことができない程度に重要ではあるものの、決算書を全体として虚偽の表示に当た
るとするほどではないと判断したときには、除外事項を付した限定付適正意見を表
- 18 -
明しなければならない。この場合には、別に区分を設けて、除外した不適切な事項
及び決算書に与えている影響を記載しなければならない。
2
監査人は、地方公共団体の長が採用した会計方針の選択及びその適用方法、決算
書の表示方法に関して不適切なものがあり、その影響が決算書全体として虚偽の表
示に当たるとするほどに重要であると判断した場合には、決算書が不適正である旨
の意見を表明しなければならない。この場合には、別に区分を設けて、決算書が不
適正であるとした理由を記載しなければならない。
五
1
監査範囲の制約
監査人は、重要な監査手続を実施できなかったことにより、無限定適正意見を表
明することができない場合において、その影響が決算書全体に対する意見表明がで
きないほどではないと判断したときには、除外事項を付した限定付適正意見を表明
しなければならない。この場合には、別に区分を設けて、実施できなかった監査手
続及び当該事実が影響する事項を記載しなければならない。
2
監査人は、重要な監査手続を実施できなかったことにより、決算書全体に対する
意見表明のための基礎を得ることができなかったときには、意見を表明してはなら
ない。この場合には、別に区分を設けて、決算書に対する意見を表明しない旨及び
その理由を記載しなければならない。
3
監査人は、他の監査人が実施した監査の重要な事項について、その監査の結果を
利用できないと判断したときに、更に当該事項について、重要な監査手続を追加し
て実施できなかった場合には、重要な監査手続を実施できなかった場合に準じて意
見の表明の適否を判断しなければならない。
4
監査人は、将来の帰結が予測し得ない事象または状況について、決算書に与える
当該事象または状況の影響が複合的かつ多岐にわたる場合には、重要な監査手続を
実施できなかった場合に準じて意見の表明ができるか否かを慎重に判断しなければ
ならない。
六
追記情報
監査人は、次に掲げる強調することまたはその他説明することが適当と判断した事項
は、監査報告書にそれらを区分した上で、情報として追記するものとする。なお、強調
事項のうち、重要な財務分析結果については、監査対象となった決算書やその作成の基
- 19 -
礎データに依拠し、当該地方公共団体の財務内容や直面する課題、および、その解決の
方策等について積極的な追記情報を行なわなければならない。
1
強調事項
(1)重要な財務分析結果
(2) 正当な理由による会計方針の変更
(3) 重要な偶発事象
(4) 重要な後発事象
2
その他の事項
(1) 財政健全化法の指標の悪化に関する事項
(2) 内部統制の有効性に関する事項
- 20 -
第Ⅲ部
地方公共団体監査基準逐条解説
第1章
地方公共団体監査の目的および一般基準
1-1
地方公共団体監査の目的
第一
地方公共団体監査の目的
地方公共団体監査の目的は、地方公共団体の長が作成した決算書が、一般に公正妥当と
認められる地方公会計の基準に準拠して作成され、地方公共団体の財政状態と純資産の変
動、収支およびキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示してい
るかどうかについて、決算書作成の背景にある業務執行全般を含めて、監査人が自ら入手
した証拠に基づいて判断した結果を意見として表明することにある。
1
趣旨
本基準における、地方公共団体監査の目的を明確化する必要がある。すなわち、ここで
は、監査人は財務監査を行い、地方公共団体が作成した決算書に対する意見表明を行うこ
とが目的とされる。以下に示される本基準は、この目的に従って策定されることになる。
2
解説
すべての監査は、その目的の設定から始まる。それは地方公共団体の監査においても同
様である。鈴木(2004)は、公会計監査の目的を類型化しているが
1)、このことは公的部門
の監査の目的が企業会計における監査と比べて多岐にわたる可能性があることを示してい
る。
まず、地方公共団体監査は、その目的から財務監査と業績監査に大別される。財務監査
は、私的部門(民間部門)における会計監査よりも広義である。すなわち、私的部門にお
ける会計監査は、一般に財務諸表の適正性監査(財務諸表監査)を意味するのに対し、こ
れに会計(会計に関連する内部統制を含む)に関する法規準拠性監査を加えた概念が公的
部門(政府部門)における財務監査概念と理解される。一方、業績監査は、経済性、効率
性、有効性の監査(いわゆる3E監査ないし VFM 監査)を典型に、業務に関する法規準拠
性監査を加えた概念と理解される。
周知のように、公的部門の監査、特に地方公共団体を含む政府部門の監査においては、
法規準拠性監査、3E監査等の他の目的を持った監査も重要であり、これらは政府部門の
監査を特徴づけるものともなっている。さらには政策評価および行政評価も、政策の妥当
性を検証する目的を持つ監査と位置づけることもできる。すなわち、財務監査のみならず、
- 21 -
業績監査もまた地方公共団体にとって重要な監査であることは明らかである。
以上を念頭に置いた上で、本基準においては、その目的を地方公共団体が作成した決算
書に対する監査人による意見表明としている。この結果、ここでの地方公共団体監査は決
算書の適正性監査であり、いわゆる「財務諸表監査」であることを明示している。それは、
監査人による意見表明型の適正性監査が、地方公共団体監査の中核に位置づけられるべき
であるとの考え方に基づいていることに他ならない。
しかし、決算書作成の背景に多くの業務執行があり、それらのアウトカムが必ずしも決
算書に現出しているとは限らないことは理解される必要がある。したがって、本基準によ
り地方公共団体の監査における業績監査の重要性を否定するものではない。
このことは、「決算書作成の背景にある業務執行全般を含めて」の決算書の監査という位
置づけに示されている。本基準においては、このように決算書の会計監査に関連する限り
で業務執行の監査も念頭に置かれている。一方、このような目的を示すことにより、以下
の基準本文は、主として会計監査の観点から策定されたものとなることになる。
1-2
職業的専門家としての能力と実務経験
第二 一般基準
1
監査人は、地方公共団体の決算書監査の職業的専門家として、会計と監査にとどまら
ず、地方行財政とその関連領域についての、専門能力の向上と実務経験等から得られる知
識の蓄積に常に努めなければならない。
1
趣旨
地方公共団体の監査は、何人でも行いうるものではなく、監査人は単に会計と監査の専
門家であるだけでは不十分であり、地方行財政とその関連領域についての専門的知識と実
務経験を有することが求められる。したがって、たとえ会計や監査の専門家として社会的
に認知されている公認会計士や監査法人であっても、それのみをもって地方公共団体の監
査人としての適格性を満たすものではない。
2
解説
(1)会計と監査の専門知識
地方公共団体の監査人は、会計と監査の専門家でなければならない。決算書の監査は、
判断規範としての会計基準と、行為規範としての監査基準の双方に準拠して、実施される
べきものである。その際、判断規範としての会計には、特段の注意が必要である。すなわ
ち、地方公共団体の会計は、地方財政法やそれに基づいてそれぞれの地方公共団体が作成
- 22 -
した会計規則ならびに契約規則等に則って遂行されている。一般の企業会計の専門家が、
こうした会計の行為規範について十分な専門的知識を有さずに、地方公共団体の監査に従
事することは望ましいことではない。
地方公共団体の歳出と歳入は、議会による予算の承認を受けて、単年度予算主義のもと
で執行されている。また、出納閉鎖期間といった企業会計に存在しない地方公共団体特有
の会計処理も存在する。予算制度があって、それに準拠する形で決算の制度が構築されて
いるという点にも留意が必要である。特に、単年度予算主義の思考を徹底するために設定
された諸手続を、地方公共団体の会計に熟知していない会計専門家は批判しがちである。
このことは、地方公共団体の監査に従事する監査人とその補助者が、絶えず意識しておか
なければならない重要な点である。
(2)地方行財政の専門知識
地方公共団体の監査人は、その業務の実態に関連する地方財政と地方行政、さらには、
地方税等に関する専門的知識を有さなければならない。特に、地方財政と地方行政に関す
る専門知識は、地方公共団体の監査人の必須の専門知識である。会計処理の適切性に関す
る監査判断を形成する際には、地方公共団体を取り巻く現況を十分に加味する必要がある。
地方財政や地方行政に関する専門知識は、このような現状を理解するうえで監査人にとっ
て非常に重要な素地となる。特に、地方債や地方交付税制度、地方自治法の改正は、監査
人が行う会計と監査に関する判断形成に、極めて大きな影響を与える。
(3)地方監査士資格の構想
総務省地方行財政検討会議では、地方公共団体の監査人としてふさわしい専門的知識を
有する人材育成を、地方監査士(仮称)という新たな資格制度の構築を通じて実現しよう
とする意見がある。そこではたとえば、地方財政と地方行政について、地方公共団体で実
施される係長昇任試験のレベル、簿記については日商簿記検定2級のレベル、会計学と監
査論については大学学部の講義レベルを想定した試験の実施が示唆されたことがある。
地方公共団体の監査は現在、監査委員と監査委員事務局の職員で行われている。監査委
員や監査委員事務局の職員の多くには、上記の簿記、会計学、監査論の専門的知識は必ず
しもない。他方で、公認会計士や監査法人が監査人となった場合にも、地方財政や地方行
政に関する専門的知識が不足している場合が多い。このように現状では、地方公共団体の
監査を遂行するに十分な専門的知識を持つ監査人は、非常に限られている。十分な適格性
を有する監査人によって地方公共団体の監査が遂行されるためにも、地方監査士構想は今
後の議論のテーマとなろう。なお、地方監査士資格は、国家資格ではなく、技能資格とし
て設定されることが望ましいと考えられる。
- 23 -
1-3
公正普遍の態度と独立性
第二 一般基準
2
監査人は、地方公共団体の決算書の監査を行うに当たって、常に公正普遍の態度を保
持し、当該地方公共団体の職員であった者等、独立の立場を損なう利害や独立の立場に疑
いを招く外観を有してはならない。
1
趣旨
監査人には、監査の実施に際しては、常に中立公平な精神的な態度、すなわち、精神的
(実質的)独立性を保持することが求められる。また、社会的制度としての地方公共団体
監査の信頼性を確保するためには、監査人の外見的(経済的)独立性も重要である。監査
人は当然のこととして精神的独立性を保持するとともに、監査の信頼性を担保するために、
外見的独立性も非常に重要な監査の要件となる。
2
解説
(1)精神的独立性と外見的独立性
地方公共団体の監査人は、絶えず公正普遍の態度を維持し、中立公平な視点からすべて
の監査業務に従事しなければならない。この精神的独立性は、すべての監査人とその補助
者に求められる必要要件である。精神的独立性を有しない監査人や監査補助者は、適切な
監査判断を行使することはできないからである。
しかし、監査人の求められる独立性は、この精神的独立性だけではない。たとえ監査人
が精神的な独立性を保持していたとして、その外観に問題が存在するケースでは、社会制
度としての地方公共団体監査制度が成り立たないことになる。つまり、精神的独立性は監
査人個人の属性で、努力等により改善することが可能である。しかし、外見的独立性は、
監査結果を活用する利用者の側から判断されるものであり、個々の監査人の努力ではいか
ようにもすることはできない。たとえ完全な精神的独立性を有する監査人であっても、外
見的独立性に問題点が存在する場合には、外部監査としての地方公共団体の決算書監査は
制度として成立し得ないのである。
(2)行政 OB 職員が監査人に就任するケース
外見的独立性で問題とされるのが、行政 OB 職員が監査人に就任するケースである。本
地方公共団体監査基準は、外部監査人として公認会計士や監査法人の就任を想定しつつ、
行政 OB 職員やそれらが中心となって組織化する地方監査組織(総務省『地方自治法抜本
改正に向けての考え方』平成23年1月)が、外部監査人となるケースも視野に入れてい
る。
- 24 -
現在、多くの地方公共団体で常勤監査委員が行政の OB 職員で構成されている、こうし
た監査委員は地方行財政の経験者であり、また、見識高く精神的独立性にまったく問題の
ない監査委員も非常に多いと推察される。しかも、本基準で考察の対象とする決算書の監
査は、決算審査という形式でこれら監査委員の手によって多くが適正に遂行されていると
考えられる。
こうした状況を総合的に斟酌したときに、はたして行政 OB 職員を外見的信頼性の問題
のみで排除して良いのかどうかは、今後の慎重な議論が必要である。たとえば、地方監査
機構に所属する行政 OB 職員が、勤務先とは異なる地方公共団体の監査人に就任するケー
スでは、当該行政 OB 職員の監査人には、一定の外見的信頼性が存在するのではないかと
考えられる。
(3)外見的独立性の担保
地方公共団体の監査人としての適格性をもつ主体をどのように想定するかという問題は、
この外見的独立性の担保の問題と直接に関係する。民間企業の財務諸表監査(外部監査)
の監査主体は、公認会計士もしくは監査法人とされており、もとより、地方公共団体の決
算書監査(外部監査)においても、監査主体として公認会計士や監査法人が第一の有力な
主体になるという点では異論は少なかろう。しかしながら、地方公共団体の決算書監査に
ついては、行政 OB や現職の地方公共団体の関係者が、監査人またはその補助者となる可
能性もある。外見的独立性の担保は、この場合に非常に重要な問題となる。
総務省地方行財政検討会議、あるいは、総務省『地方自治法抜本改正についての考え方』
(平成23年1月)では、地方監査組織(たとえば、大阪府地方公共団体監査機構などの
名称が考えられる)の設置についての言及が行われている。そこでは、OB 職員や現職の地
方公共団体職員の出向により、機構に一定数の監査スタッフ(監査人やその補助者となる)
を確保し、彼らが連帯してそれぞれの地方公共団体の監査を行う(巡回して監査を行う)
ことが検討されている。特に規模の小さな地方公共団体では、通常、監査委員事務局の職
員は1~2人年程度と考えられ、非常勤の監査委員とこれら監査事務局職員だけで、社会
が期待する監査・検査・審査を行うことは不可能である。しかし、そうした地方公共団体
が10団体結集し、機構を構成すれば、一定の規模の経済効果も生じて、効果的で効率的
な監査等を実施することが可能になる。
こうした方法は、専門的能力(特に地方財政や地方行政についての高い知見)と実務経
験を持つ OB 職員や現職の地方公共団体職員を、外部監査としての地方公共団体監査に活
用する有用な手立てである。しかも、出身団体の職員が当該団体の監査委員に就任しない
などの措置を講ずれば、監査人の外見的独立性の担保にも有効である。
- 25 -
1-4
職業的専門家としての正当な注意と懐疑心
第二 一般基準
3
監査人は、地方公共団体の決算書監査の職業的専門家としての正当な注意を払い、懐
疑心を保持して監査を行わなければならない。
1
趣旨
地方公共団体の監査に際して、監査人には監査の計画、実施、結果の集約等のすべての
プロセスにおいて、職業的な専門家としての正当な注意を行使することが求められる。正
当な注意の行使に際しては、職業的専門家としての懐疑心を維持し、監査のすべての局面
で慎重で適切な判断を行使しなければならない。
2
解説
(1)正当な注意と監査調書
地方公共団体の監査人は、職業的専門家として期待される水準の正当な注意をすべての
監査プロセスにおいて行使しなければならない。正当な注意の行使には、監査人としての
専門的知識と実務経験が大きく関連する。職業的専門家として期待される正当な注意の水
準とは、こうした専門的知識と実務経験に裏打ちされた諸局面での慎重な吟味を意味する。
なお、監査人が行使した諸般の判断は、一般に監査調書に記述される。監査人はそれゆ
えに、単に正当な注意の遂行に留意するだけではなく、その内容を適切に監査調書に文書
等として記載することにも留意しなければならない。監査調書におけるこうした記述は、
最終的には決算書の適正性に関する監査人の判断形成プロセスを検証可能なものとする側
面も有している。
(2)職業的専門家としての懐疑心
地方公共団体の監査人は、監査のあらゆる局面でさまざまな判断を形成しなければなら
ない。たとえば、監査手続を実施して入手された監査証拠もしくは証拠資料に対して判断
を形成する場合、監査人は専門的知識、実務経験などを背景に、職業的専門家として適切
な判断を形成しなければならない。この判断は専門知識や実務経験に乏しい者が行う判断
とは異なり、職業的専門家として正当な注意に基づくものでなければならない。職業的専
門家としての懐疑心とは、このような監査判断形成の諸局面で監査人に求められる専門
的・主観的な注意の行使を意味する。
(3)地方公共団体監査における懐疑心
地方公共団体の監査において、監査人に期待される懐疑心が、民間企業の財務諸表監査
- 26 -
において期待される懐疑心と同等のものなのか、そうではないのかという検討もここでは
重要である。民間企業の財務諸表監査では、企業の経営者と監査人に二重責任の原則が課
されている。すなわち、経営者は適正な財務諸表を作成するために内部統制を構築し、正
確な財務情報をディスクローズすべきとされ、監査人は経営者が作成した財務諸表の適正
性に関する監査意見の形成と表明に責任をもつことになる。
こうした企業内容開示制度においても時に、粉飾や逆粉飾の処理が行われて適正な企業
財務内容の開示が妨げられることがある。その際の一つの原因が、経営者による財務情報
の不実記載(不正)である。民間企業の監査人はこのような不正に対して、職業専門家と
しての懐疑心を行使することが求められている。これに対して、地方公共団体の決算書作
成においては、そもそも首長が不適正経理に関与する積極的な誘引が弱いのではないかと
いう見解がある。このことは、議会による予算統制の仕組み、さらには、単年度予算主義
の仕組みのなかで、首長にいわゆる経営者不正と言及されるような不実の経理記載を行い
うる余地が少ないことからも、一定の支持を得た見解であると考えられる。地方公共団体
における決算書監査では、こうした状況を斟酌した職業的専門家としての懐疑心の行使が
期待されているのである。
1-5
不正等に起因する虚偽の表示への対応
第二 一般基準
4
監査人は不正、誤謬、違法行為および法令違反、法規への非準拠および資産の濫用の
結果、重要な虚偽の表示が決算書に含まれる可能性があることを考慮しなければならな
い。また、これらを防止するための適切な内部統制の存在を確認しなければならない。
1
趣旨
監査人は、不正等に起因する決算書の重要な虚偽の表示の可能性を念頭に置いて監査を
実施しなければならない。ここで地方公共団体の監査の場合には、不正等には法規への非
準拠、無駄遣いを含む資産の濫用も包含されることに留意しなければならない。現代の監
査では、不正等に監査が対応するにあたっては、適切な内部統制の整備・運用が前提とな
り、これは地方公共団体の監査においても同様である。
2
解説
不正等により、決算書に重要な虚偽の表示が含まれる可能性を考慮しなければならない
ことは、民間部門の監査でも、公的部門の監査でも同様である。特に公的部門、なかんず
く政府監査においては、法規への非準拠や資産の濫用、無駄遣いが、決算書に重要な虚偽
- 27 -
の表示を含むリスクを増すことに留意する必要があろう。これらの監査は、国民・住民か
ら特に期待が大きいものでもある。しかしながら、本基準における地方公共団体監査の目
的は財務諸表監査であって不正摘発監査ではないことから、あくまでも決算書に対する重
要な虚偽の表示の可能性において監査が行われることが理解されねばならない。
不正等の防止には、内部統制の整備が前提となる。一般に地方公共団体の組織は堅牢で
あり、行政部門における日常的な業務も基本的には法規等に則って形式的に行われること
が多いことから、内部統制の整備、運用も適切に行われていることが多いと考えられる。
しかしながら、地方公共団体においてはかつていわゆる裏金の蓄積が全庁的に「組織的に」
行われた事例も見られたところであり、地方公共団体だから内部統制は整備されている、
と機械的に見なすことは適切ではない。また、地方公共団体の規模は大小様々であり、小
規模団体においては適切な内部統制組織の構築に困難性がある場合もある。したがって、
地方公共団体の監査にあっても、適切な内部統制の存在およびその運用を確認しなければ
ならない。
1-6
監査計画と監査調書
第二 一般基準
5
監査人は、地方公共団体の決算書監査に関わる監査計画及びこれに基づき実施した監
査の内容並びに判断の過程及び結果を記録し、監査調書として保存しなければならない。
1
趣旨
地方公共団体に監査において、監査人は監査意見形成のプロセスを検証可能なものとし
て、自己の監査の実施の適切性を明示できるように、監査計画から監査結果の集約までの
すべてのプロセスを、監査調書として保存しなければならない。監査調書は、監査人によ
る監査実施のプロセスを検証可能なものとするだけではなく、監査人が当該監査を組織的
に実施し、適切な監査結果を導出する際の業務管理にも有用な手立てとして機能する。
2
解説
(1)監査計画の必要性
地方公共団体の監査は一定の監査日数を要し、これに関わる監査人やその補助者の数も
多数になることが多い。監査計画は、こうした体制で実施される監査業務を適切に遂行す
るために、監査人が絶えず漸進的な修正に配慮しながら作成・管理しなければならない重要
な計画である。そもそも適切な監査計画が立案されない状況で、効果的・効率的な監査を
実施することは困難である。
- 28 -
(2)監査調書の必要性
現在、多くの地方公共団体で実施されている決算審査においては、監査委員の収集評価
した監査証拠を、決算書類の適正性に関する監査意見に集約するプロセスが、必ずしも体
系的に整理されているわけではない。特に、監査調書を秩序整然と整備し、たとえば、各
監査調書に体系的なインデックスを付すことで、合理的な監査業務の管理と、適切な監査
意見形成を実現するという考え方が、現行の決算審査では浸透していない。
地方公共団体における決算書の監査が外部監査として、社会からの信頼性に応える社会
制度であるためには、以上のような監査調書の現状についての改善を行うことが重要であ
る。また、こうした改善のためには、監査人やその補助者が、監査の基礎理論を確実に習
得し、監査の基本的な概念フレームワームに基づいて監査業務の推進に取り組むような啓
蒙啓発活動を積極的に推進する必要がある。
(3)監査調書の要件
監査調書が具備すべき要件として、完全性がある。完全性とは、監査人が監査意見を形
成するのに必要な合理的基礎をどのように収集評価したかを過不足なく記述することを求
める要件である。監査調書にはこの他に、秩序性、明瞭性、正確性が求められる。経済性
も重要な要件であり、監査調書には上記の4要件が充足されるという前提で、必要な事項
のみが記載されていれば良いと考えられている。監査調書はまた、次年度以降の監査計画
の立案や監査の実施においても有用な参照資料として活用されることがある。それゆえ、
監査調書の一部は、当該監査年度だけの利用にとどまらず「永久調書」としての性格を有
することとなる。監査調書としてどのような情報を記載し、その活用を行うかは、監査の
有効性と効率性に関係を有する非常に重要な課題として、監査人は認識する必要がある。
1-7
第二
6
組織における監査の品質管理および監査業務における品質管理
一般基準
監査を実施する監査事務所は、監査業務の品質を確保するために、監査契約の締結・
更新から監査報告書の発行に至る監査の全過程において、品質管理のためのシステムを整
備し運用しなければならない。
7
監査実施の責任者は、監査事務所が設けた品質管理のためのシステムに従って、監査
業務を行わなければならない。
- 29 -
1 趣旨
監査の品質を確保するために、その品質管理は監査の全過程において行われねばならな
い。品質管理は、監査事務所のレベルと、監査実施の責任者のレベルの双方で行われねば
ならない。
2
解説
民間部門における監査にあっては、監査の品質管理を監査人が自主規制として行うこと
が求められている。これは、監査事務所(監査法人等)の組織としてのレベルと、監査業務
を行う監査実施の責任者のレベルの双方において行われねばならない。これは、公的部門
の監査なかんずく地方公共団体の監査においても会計専門職が監査人として監査にあたる
以上は同様であると考えられる。
一方、いかなる監査の品質が保持されるべきかについては、地方公共団体と民間企業の
監査では異なる可能性がある。具体的な品質管理のシステムは、監査事務所がこれを整備
し、運用することになる。
1-8
第二
8
守秘義務
一般基準
監査人は、監査の過程において知り得た事項を正当な理由なく第三者に漏らしてはな
らない。
1
趣旨
守秘義務は、独立した監査人が行う監査においてその信頼性、ひいては監査人の独立性
を保持する観点から重要である。これは地方公共団体の監査においても同様であって、住
民の個人情報等を多く取り扱う地方公共団体においては、その監査の信頼性を保持するた
めにむしろより強調される必要がある。
2
解説
監査人、特に会計専門職が監査人となる場合には、監査についての守秘義務があること
はいうまでもない。
税収を主たる収入源とする地方公共団体では、広く住民に対する説明責任が求められる
ところであり、監査人はその監査の過程で知り得た事実について情報提供を求められる場
面が生起する可能性が高い。しかしながらそのような場合であっても、監査人には守秘義
務がある。また、警察部局のように必ずしもすべての会計情報が開示対象としてなじまな
- 30 -
い場合もある。また、公権力を持つ地方公共団体においては、住民の個人情報を多く保持
している。これらを含めて十分な監査を監査人が行うためには、監査人の守秘義務の遵守
はむしろ厳しく認識されなければならない。
〈注〉
1)
鈴木豊(2004)『政府・自治体・パブリックセクターの公監査基準』中央経済社、28 頁。
- 31 -
第2章
実施基準
2-1
第三
1
一
基本原則
リスク・アプローチの適用
実施基準
一
基本原則
監査人は、監査リスクを合理的に低い水準に抑えるために、地方公共団体の決算書に
おける重要な虚偽表示のリスクを評価し、発見リスクの水準を決定するとともに、監査上
の重要性を勘案して監査計画を策定し、これに基づき監査を実施しなければならない。
1
趣旨
本原則は、民間企業の財務諸表監査で行われているリスク・アプローチを準用して、決
算書の監査を実施することを求めている 1)。従前、地方公共団体の決算審査ではリスク・ア
プローチを適用する慣行は行われてこなかった。これは地方公共団体の決算書への虚偽表
示の可能性が低かったことによるものではない。
むしろ、ここ数年の傾向では、2009年に千葉県で不正経理が発覚したように、地方
公共団体における不適正な経理が顕在化し、問題を提起している 2)。これは地方公共団体お
よびそれを取り巻く環境が多様化し、リスク要因が増したことで、虚偽表示の可能性の誘
因が増えたことによるものと考えられる。このような状況に鑑みて、本原則では地方公共
団体を取り巻くリスクを理解し、評価することによって、リスク・アプローチに基づく監
査を実施することを求めている。
2
解説
リスク・アプローチとは、「重要な虚偽表示のリスク(Risk of Material Misstatement:
RMM)」と発見リスクを評価し、監査リスクを合理的に低い水準に抑え、監査を効率的か
つ効果的に実施する、という考えに基づく監査のアプローチである 3)。監査リスクとは、監
査人が重要な虚偽表示を見逃して、監査人が誤った結論を下す可能性をいう。そして、リ
スク・アプローチは次の式で表わされる。(リスク・アプローチにおける監査リスク構成要
素間の相互関係については、監査の実施4-1「リスク・アプローチによる決算書監査」
において、解説している)
AR(監査リスク)=IR(固有リスク)×CR(統制リスク)×DR(発見リスク)
RMM(重要な虚偽表示のリスク) =IR×CR
また、重要な虚偽表示のリスクとは、地方公共団体を取り巻く環境に内在する事業上の
リスク等が決算書に重要な虚偽の表示をもたらす可能性をいい、固有リスク(IR: Inherent
- 32 -
Risk)と統制リスク(CR: Control Risk)からなる 4)。
(1)固有リスク(IR: Inherent Risk)
固有リスクとは、内部統制が存在しないと仮定した場合に、決算書に重要な虚偽の表示
がなされる可能性をいう。地方公共団体における固有リスクの具体例としては、次のよう
なリスクがある。
①
人材に係わるリスク
→会計事務に精通していない職員の存在。
②
現金の取り扱いに係わるリスク
→口座振込でなく、職員が直接的に現金出納を行う業務。
例:住民からの地方税の集金等
③
関連法規への準拠性に係わるリスク
→新しい関連法規に対する理解の不十分。
(2)統制リスク
統制リスクとは、決算書の重要な虚偽表示が地方公共団体の内部統制によって、未然に
防ぐことができない可能性をいう。地方公共団体では民間企業における内部統制の概念が
必ずしも浸透しているわけではない 5)。とはいえ、地方公共団体には法令、条例および関連
諸規則等が設けられており、これらの関連法規を遵守しなければならないことから、統制
活動が強力に行われているという側面がある。
ただし、地方公共団体の統制環境については、不適正な経理処理を招くことが懸念され
る側面がある。例えば、組織内において内部けん制が十分に機能していない環境下にあっ
ては、不正および誤謬が起こりやすい。また、特定の期間(とりわけ、年度末)には、大
量の会計行為が集中することから、チェック機能が十分に機能しない状況がある。
また、国庫補助金の使用に関連して「交付金は使い切らなければならない」、あるいは
「返還すると翌年度の予算が減額される」といった誤った認識や職場風土が存在する場合
もあることから、不適正な経理処理が行われる可能性があることにも注意する必要がある
6)
。
したがって、統制リスクを評価するにあたっては、地方公共団体の統制環境について十
分に理解を得る必要がある。
- 33 -
2-2
第三
2
地方公共団体及び地方公共団体を取り巻く環境の理解と事業上のリスクの考慮
実施基準
一
基本原則
監査人は、監査の実施において、内部統制を含む、地方公共団体及びそれを取り巻く
環境を理解し、これらに内在する事業上のリスク等が決算書に重要な虚偽の表示をもたら
す可能性を考慮しなければならない。
1
趣旨
本原則は、内部統制を含む、地方公共団体および地方公共団体を取り巻く環境を理解し
た上で、事業上のリスク等が結果として決算書の重要な虚偽表示に結びつく可能性を考慮
することを求めている。
(内部統制については7-2「内部統制に関する基礎概念と諸原則」
において解説している)
2
解説
バブル経済崩壊後のわが国の地方公共団体およびそれを取り巻く環境は多様化しており、
これに伴い様々な事業上のリスクが増えている。例えば、夕張市の財政破たんに代表され
る地方公共団体の財政状況の悪化がある。また、少子高齢化に伴う介護福祉への財政支出
の増加がある。そして、東日本大震災にみられたような、災害に対する復興支援などがあ
る。
図表2-1は地方公共団体の事業上のリスクとなりうる外的要因を示している。また、
図表2-2は地方公共団体の事業上のリスクとなりうる内的要因を示している。
図表2-1
事業上のリスクの外的要因
事業上のリスクの外的要因
地 方 公 共 団 体 に 与 え る 影 響
景気の動向
・財政状況の悪化
少子高齢化
・介護福祉などへの財政支出の増加
地震等の災害
・復興に向けてのインフラ整備
・災害に対するリスク管理
ここに示したリスク要因は、地方公共団体の決算書に重要な虚偽表示を招く可能性があ
る誘因として、理解することができる。それゆえ、監査人は監査を実施するにあたっては、
これらの事業上のリスク要因を考慮して、監査を実施することが求められている。(具体的
な監査計画の策定については、監査計画の策定3-2「地方公共団体監査における計画上
の考慮事項」において解説している。また、具体的な監査手続については、監査の実施4
- 34 -
-2「内部統制が存在しない場合、あるいは有効に運営されていない場合の監査手続」に
おいて解説している)
図表2-2
事業上のリスクの内的要因
事業上のリスクの内的要因
地 方 公 共 団 体 に 与 え る 影 響
IT 化への対応
・市民情報の漏えい
・情報システムの管理運営の徹底
随意契約による特定の事業者
・効率性の欠如
の独占
・不適正な経理処理の誘因
法令・法規についての理解
・誤った解釈による不適正な経理処理
・マニュアルの不整備
2-3
第三
3
十分かつ適切な監査証拠と意見形成の基礎
実施基準
一
基本原則
監査人は、自己の意見を形成するに足る基礎を得るために、首長が提示する決算書項
目に対して、取引の実在性、網羅性、権利と義務の帰属、評価の妥当性、期間配分の適切
性及び表示の妥当性等の監査要点を設定し、これらに適合した十分かつ適切な監査証拠を
入手しなければならない。
1
趣旨
本原則は入手すべき監査証拠の内容について規定している。すなわち、監査実施の目標
(監査要点)が監査意見を形成するための基礎を得ることにあることを定めている。監査
を実施するに当たっては、決算書の信頼性に対する監査人の意見を形成するために十分か
つ適切な監査証拠を入手しなければならない。そして十分かつ適切な監査証拠については、
少なくとも6つの監査要点、すなわち実在性、網羅性、権利と義務の帰属、評価の妥当性、
期間配分の適切性、そして表示の妥当性に照らして判断されることが求められている。
2
解説
リスク・アプローチに基づく監査では、財務諸表の基礎となる取引や会計事象等の構成
要素について立証すべき目標を監査要点と称している。従前、地方公共団体における決算
審査においては監査要点という概念が適用されてこなかった。その代わりに「監査の着眼
点」という概念が用いられてきた 7)。「監査の着眼点」とは、監査を実施するに当たっての
注意点をまとめたもので、監査要点とは異なる概念である。
- 35 -
これに対して、監査要点とは、勘定残高や取引高レベルで細分化され、具体的な立証目
標となるものである。そして、財務諸表監査において監査要点を明確にしている理由は、
監査要点ごとに、どのような監査証拠を、どのような監査手続で入手するかを決定するた
めに必要不可欠になるからである。本原則では監査要点として以下の6つをあげている。
(監査人に更なる監査要点が求められた場合の具体例については、監査計画の策定3-3
「決算書全体レベルでの重要な虚偽表示のリスクと監査計画による全般的な対応」におい
て解説している)
①
実在性:監査対象の勘定残高や記録された取引群は実在しているか、あるいは実際
に発生しているか。
②
網羅性:監査対象の勘定残高はその項目の全てを漏れなく表しているか、あるいは
記録された取引群に記録されていない取引が存在しなかったか。
③
権利と義務の帰属:資産は地方公共団が所有するものであるか、負債は地方公共団
体が返済義務を負うものか。
④
評価の妥当性:資産および負債について妥当な価格で計上しているか。
⑤
期間配分の適切性:原価配分と期間帰属が適切なものか。
⑥
表示の妥当性:取引や会計事象を適切に表示しているか。
地方公共団体の決算審査の監査要点は原則として、民間企業の財務諸表監査と同じもの
と理解することができるが、地方公共団体では、単年度主義を採用していることから、こ
れに関連して異なる側面がある。例えば、「期間配分の適切性」では、単年度主義の観点か
ら、地方公共団体が年度内に予算を執行し、当該年度内の執行に基づいて物品を納入して
いるか否かを実査によって、立証することも求められている。(図表2-3を参照)
図表2-3 監査要点と監査証拠の入手方法 8)
監査要点
①
実在性
監査証拠の入手方法
年度予算に基づいて購入された物品が納入されたか否か
(期間配分の適切性とあわせて理解する必要がある)
→納品書および検査調書の突合
→現物の実査
管理している公有財産や物品が実在しているか
→現物の実査
→台帳の突合
- 36 -
② 網羅性
借入金が記録されていたか否か。
貸付金などの債権管理が記録されていたか否か
③
権利と義務の帰属
公有財産の権利
→不動産の保存登記・所有権登記の内容の確認
3月末までに物品が納入されていないにもかかわらず、委託料
の支払が行われていないか
④
評価の妥当性
公有財産の評価の妥当性
→定期的に財産評価を行っているか否か
→公有財産台帳システムの適切性についてのモニター
⑤
期間配分の適切性
地方公共団体の予算執行の適切性(単年度主義)
→年度末の取引が年度内に納入されているか否かについての
実査
⑥
表示の妥当性
地方公共団体の会計(節別などの表示の妥当性)
→例:消耗品費・備品購入費・工事請負費・修繕費。
款・項・目・節に係わる現金収支の表示の妥当性
なお、地方公共団体の公営企業の監査については、民間企業と同様の会計処理を行って
いることから、監査要点に関する考え方は民間企業における財務諸表監査とあてはめて考
えることができる 9)。(詳細な監査手続については、監査の実施4-2「内部統制が存在し
ない場合、あるいは有効に運営されていない場合の監査手続」および4-3「特別な検討
を必要とするリスクがあると判断した場合の監査手続」において解説している)
2-4
第三
4
リスク評価と試査に基づくリスク対応の監査手続の実施
実施基準
一
基本原則
監査人は、十分かつ適切な監査証拠を入手するに当たっては、地方公共団体の決算書
における重要な虚偽表示のリスクを暫定的に評価し、リスクに対応した監査手続を、原則
として試査に基づき実施しなければならない。
1
趣旨
本原則は、十分かつ適切な監査証拠を入手するための監査手続と適用方法を求めている。
すなわち、重要な虚偽表示のリスクを暫定的に評価し、これに基づいて監査手続を実施し
なければならないこと、そして監査手続の適用方法は試査に基づくことを求めている。
- 37 -
2 解説
従前、地方公共団体の決算審査においても、試査が行われてきた
10)。もっとも、従前の
決算審査においては、民間企業における財務諸表監査のように、重要な虚偽表示のリスク
を暫定的に評価して、リスクに対応した監査手続を実施してきたのではない。また、財務
諸表監査における監査計画の策定および実施にあたっては、「監査上の重要性」を基準値と
して設定し、監査手続の種類や範囲を決定するが、これについての概念も確立されてこな
かった。すなわち、従来の決算審査における試査の下でのサンプリングは、金額の重要性
あるいは情報の質的な影響を考慮して行われてきたのではない。
では、「監査上の重要性」が確立されていない現状において、決算書の監査を試査によっ
て行うためにはどのような方法が考えられるであろうか。周知のように、地方自治法にお
いては、監査委員に対して「例月現金出納検査」、「定例財務監査」、そして「決算審査」を
義務づけている
11)。これらの監査、検査、審査は個別に行われているのではなく、決算書
監査の実施に向けての一連の監査手続として捉えることができる。すなわち、決算書監査
の前提として、監査委員による「例月現金出納検査」および「定例財務監査」があること
を所与とするのであれば、監査委員がこれらの監査を厳密に行っていたか否かを確認する
ことが決算書監査にとって不可欠になる。言い換えれば、監査委員からのヒアリング等を
通じて、例月出納検査(地方自治法第235条の2第1項)および定期監査(地方自治法
第199条第1項)の結果を評価することによって、重要性の概念を決定し、試査に基づ
いて効率的に監査を進めることが可能になると考える。
監査委員は例月現金出納検査については、毎月の現金取引について異常がないか否か、
現金残高が指定金融機関の残高と一致しているか否かについて照合している。また、定期
監査については、全部局を対象に期中取引の合規性・合法性を主眼とした準拠性監査を実
施している。また、職員が直接行う現金出納については、不正および誤謬がないか否かを
監査している。
それゆえ、監査委員が行うこれらの一連の監査が適切に行われていることをヒアリング
等によって確認し、かつ内部統制の整備状況について確認することができるのであれば、
リスクの高い取引を抽出して、効率的な監査を実施することができる。
2-5
第三
5
不正・誤謬による重要な虚偽表示の可能性の評価
実施基準
一
基本原則
監査人は、決算書監査の職業的専門家としての懐疑心をもって、不正及び誤謬により
地方公共団体の決算書に重要な虚偽の表示がもたらされる可能性に関して評価を行い、そ
- 38 -
の結果を監査計画に反映し、これに基づき監査を実施しなければならない。
1
趣旨
本原則は一般基準の4に規定された「不正等に起因する虚偽表示への対応」を受けてお
り、監査計画の作成にあたっては、不正・誤謬に起因する決算書の重要な虚偽表示の可能
性を考慮し、それに基づく手続を適用すべきことを規定している。
2
解説
(1)地方公共団体の決算書における不正および誤謬の特性
地方公共団体の決算書に係わる不正および誤謬は、民間企業の財務諸表のそれと異なる
側面がある。
民間企業の財務諸表における不正および誤謬には資産の過大計上、負債の過少計上、収
益の過大計上、そして費用の過少計上といった手法があり、結果的に財務諸表に重要な虚
偽表示を施す行為である。そして、この場合の虚偽表示は金額的に重要性が高い、あるい
は社会的に重要な影響が高いものをいう。これに対して、地方公共団体の決算書における
不正および誤謬は、金額的に少額であっても、あるいは社会的に影響が低いものであって
も、決算書に虚偽表示がもたらされるのであれば、それらは不正および誤謬の対象とな
る。
また、前述したように地方公共団体を取り巻く環境は多様化していることから、虚偽表
示の手法も多様となる可能性もあり、地方公共団体の不正および誤謬を特定することは困
難になることも予想される。これに関連して、会計検査院は2010年12月に『都道府
県および政令指定都市における国庫補助事業に係る事務費等の不適正な経理処理等の事態、
発生の背景および再発防止策についての報告書(以下、報告書という)』と題する報告書を
公表している。本報告書は、地方公共団体における不正および誤謬が発生するメカニズム
を理解するうえで、有用な示唆を提供する。
本報告書は、地方公共団体の不適正な経理処理に係わる実地検査の結果をまとめたもの
で、不適正な経理処理の類型とその発生原因、そして不適正な経理処理への対応を分析し
ている。当該報告書によれば、地方公共団体の不適正な経理処理の類型とその発生原因に
は以下の状況がある。(図表2-4を参照)
- 39 -
図表2-4
内
容
類
不適正な経理処理の類型と発生原因
型
手
法
発
生
原
因
不適正な経理
・預け金
業者の協力を得て、実際 ・公金の取り扱いの重要性に
処理
・一括払い
に納入された物品とは
対する認識の欠如
・差替え
異なるものを購入
・補助金等は返還が生じない
ように全て使い切らなけれ
ばならないという意識
・翌年度納入
翌年度以降または前年
・前年度納入
度以前に納入された物 ・会計事務手続における問題
品を現年度に納入され
点
たこととして、現年度予
算から支払う
国 庫 補 助 金 の ・旅費の支払い
国庫補助金の補助の対 ・国庫補助金の範囲の拡大解
補 助 の 対 象 外 ・賃金の支払い
象とはならない用途へ
釈
への支出
の支払い
・使途の認識が不十分である
こと
・業務内容の把握が不十分で
あること
・事務処理の誤り
これらの不適正な経理処理、すなわち不正および誤謬に共通していることは、その発生
原因が「私的な流用」というよりもむしろ、会計機関における物品の購入手続に関連して
「内部統制が機能していなかったこと」によって生じていることである。
(2)不正および誤謬に対する手続
上述したように、地方公共団体の不正および誤謬の多くは内部統制が機能していなかっ
たことによって生じる可能性が高い。それゆえ、地方公共団体の不正および誤謬を未然に
防ぎ、発見するための手続としては、地方公共団体の内部統制の整備状況を確認すること
が必要不可欠となる。そして、内部統制が十分に整備されている状況としては、①内部け
ん制が十分に機能するよう会計手続が整備されていること、②内部けん制の状況を継続的
に監視する内部監査が存在していること、そして③監査委員監査および外部監査の役割が
強化されていることがある。
前述した報告書では、不正および誤謬と内部けん制機能との関係、不適正な経理処理に
対する内部監査の方法、そして不適正な経理処理に対する監査委員監査の方法を明らかに
している 12)。報告書によれば、不適正な経理処理がほとんど行われていなかった地方公共
団体では、職務の分担に係わる内部けん制が機能しやすい状況にあったこと、そして不適
- 40 -
正な経理処理が頻繁に行われていた地方公共団体では職務の分担による内部けん制が機能
しにくい状況であったことを明らかにしている。
また、内部監査の体制を整備している地方公共団体では、不適正な経理に対する監査手
法として、物品の納入業者に対してヒアリングをする、あるいは帳簿を取り寄せて納入物
品と納入日付の突合をする、といった手法が取り入れられていた。そして、不適正な経理
処理に対する監査委員監査の手法としては、物品の納入業者等へ関係人調査を行い、物品
納入業者等の事務所に出向き、売上伝票、納品書等の帳票を調査するなどの検証が行われ
ていた。
このような状況に鑑みるのであれば、監査人は被監査団体が内部統制を十分に整備して
いるか否かを判断するにあたり、内部けん制が機能している組織であるか否かを理解する
ことが求められる。そして、内部監査の体制を整備している地方公共団体であれば、監査
委員と連携を図り、情報を共有することで、不正および誤謬を未然に防ぐことができる。
また、監査委員監査については、そのチェック機能が有効に機能しているか否かについて
ヒアリング等を実施することによって、効率的に監査を実施することができる。(内部監
査については、5-3「内部監査の利用」において解説している)
また、不適正な経理処理の発生原因としては、公金の使途についての認識の欠如、業務
内容を十分に把握していなかったなども挙がっていたことから、地方公共団体がこれらに
関連する業務マニュアルを作成し、備えるなどして、職員の研修にあたっているかなどを
チェックする手続も有用になると考える。
〈注〉
1)
リスク・アプローチについては以下の文献を参照されたい。石原俊彦(1998)
『リスク・アプロー
チ監査論』中央経済社。山浦久司(2008)『会計監査論
2)
第 5 版』中央経済社。
会計検査院は不適正な経理処理についての検討を行い、以下の報告書を公表している。会計検査
院(2010)
『都道府県及び政令指定都市における国庫補助事業に係る事務費等の不適正な経理処理等
の事態、発生の背景及び再発防止策についての報告書』。当該報告書は、会計検査院法第 30 条の 2
に基づく国会および内閣への随時報告のために提出された。会計検査院法第 30 条の 2 によれば、第
34 条または第 36 条の規定により意見を表示し又は処置を要求した事項その他特に必要と認める事
項については、随時、国会および内閣に報告することができる、と規定している。
3)
リスク・アプローチの監査手法に依拠して、地方公共団体の監査リスクを整理した先行調査とし
ては、以下の報告書がある。静岡県(2006)『静岡県公会計監査研究会報告書』。
4)
地方公共団体の監査実務の現状およびリスクの整理にあたっては、谷川正嗣氏(前奈良県監査委
員)および丸山恭司氏(岐阜県監査委員事務局)の協力を得て、執筆している。
5)
地方公共団体の内部統制について整理した調査報告書として以下の報告書がある。地方公共団体
- 41 -
における内部統制のあり方に関する研究会(2009)
『内部統制による地方公共団体の組織マネジメン
ト改革~信頼される地方公共団体を目指して~』
6)
会計検査院、前掲報告書、16~17 頁。
7)
全国都市監査委員会では、
「一般会計と特別会計」に関連する決算審査の着眼点として、以下のも
のをあげている。全国都市監査委員会『都市監査基準準則
住民監査請求監査の実施手続』より抜
粋。
・決算書が法令で定める様式を基準として作成されているか。
・歳入・歳出が合法的に行われているか。
・予算執行が的確に行われているか。
8)
監査委員監査で行っている監査証拠の入手方法については以下の文献を参考にした。丸山恭司・
石原俊彦(2011)「地方自治体監査委員監査における監査技術の理論的フレームワーク」『ビジネス
&アカウンティングレビュー』第 7 号、77~93 頁。
9)
ただし、公営企業会計(病院事業)の「期間配分の適切性」に関連して、以下の特有な事例もあ
る。患者の増加に伴い、薬品・診療材料費を翌年度に先送りし、診療報酬も先送りすることにした
不適正な経理の事例。
10)
全国都市監査委員会は試査について、『都市監査基準準則』第 9 条において、以下の規定を設け
ている。
第9条
「監査等の実施手続の適用は、監査等の種類、対象、目的、管理点検体制及び内部監
査(内部考査)の信頼性の程度を勘案して、試査または精査による。試査による場合はその範
囲を合理的に決定しなければならない。」
すなわち、地方公共団体の監査においては、原則として試査を採用し、状況によって精査を採用
している。
また、各地方公共団体においても「監査基準」を定めており、当該監査基準のなかで、原則とし
て試査を行う旨の規定を設けている。例えば、岐阜県の監査の実施方法を定める監査実施要領では
下記の規定を設けている。(岐阜県『監査実施要領』より抜粋。)
第1
1
歳入について
監査の範囲及び方法
(1)調定決議書兼収入金調書、戻出金調書、振替金調書(収入)、更正調書、不納欠損整
理決議書、収入未済額繰越決議書兼通知書等歳入の調定及び収入の基本調書を調査する。
(2)税外収入個別表、収納状況一覧表、現金出納簿は通覧し、これと関連調書等との試査
照合を行い必要に応じ精査する。
11)
監査委員監査については以下の拙著を参照されたい。石川恵子(2011)第 9 章「監査委員制度の
3E 監査にかかわる現状と課題」『地方自治体の業績監査』中央経済社、135~146 頁。
12)
会計検査院、前掲報告書、49~52 頁。
- 42 -
第3章
実施基準
3-1
監査計画の策定 1)
第三
1
実施基準
二
二
監査計画の策定
監査計画の策定
監査人は、監査を効果的かつ効率的に実施するために、監査リスクと監査上の重要性、
ならびに個々の監査等の状況を勘案して、監査計画を策定しなければならない。
1
趣旨
地方公共団体監査(以下、監査とする。)は、地方公共団体により作成された決算書が一
般に公正妥当と認められる地方公会計基準に準拠して、財政状態と純資産の変動、収支お
よびキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうか
について、財務諸表作成の背景にある業務執行全般を含めて監査人が自ら入手した証拠に
基づいて判断した結果を意見として表明することを目的としている(『地方公共団体監査基
準(案)』第一 地方公共団体監査の目的)。
この監査の目的に関して、監査を効率的、効果的に実施するために、監査業務の予定と
して監査計画を策定する必要がある。上場企業を代表とする民間企業と比較して、地方公
共団体はその規模は小さく、かつその事業内容は複雑ではない。だが、地方公共団体に特
有の環境など考慮する点も多く、かつ限られた監査時間および監査報酬の中で監査を実施
するためには、民間企業と同様に綿密な監査計画を策定することが求められている。
なお、本基準から、これまでの地方公共団体に対する監査とは異なり、リスク・アプロ
ーチが採用されている。地方公共団体監査において、リスク・アプローチ的な監査の運用
は多少あったものの、本基準におけるように、リスク・アプローチを原則としたものはな
く、手続準拠型のアプローチがとられていた 2)。
2
解説
地方公共団体の監査にあっては、『地方公共団体監査基準(案)』第三 実施基準 一 基本
原則 1に「監査人は、監査リスクを合理的に低い水準に抑えるために、地方公共団体の決
算書における重要な虚偽表示のリスクを評価し、発見リスクの水準を決定するとともに、
監査上の重要性を勘案して監査計画を策定し、これに基づき監査を実施しなければならな
い。」との基準のとおり、地方公共団体の監査においても民間企業に対する監査におけるリ
スク・アプローチに基づく監査の踏襲が求められている。これは、これまでリスク・アプロ
ーチに基づく監査の実施が地方公共団体の監査では皆無に近かったものから、大きく発展
した点である。
したがって、リスク・アプローチに基づく監査の計画の策定に当たっても、監査リスク
- 43 -
を合理的に低い水準に抑えるために、決算書における重要な虚偽表示のリスクの評価、そ
れを受けての発見リスクの水準の決定および監査上の重要性を考慮する必要が出てくる。
以上から、リスク・アプローチに基づく地方公共団体に関する監査は、民間企業に対す
る財務諸表監査と同様に監査計画の策定が求められ、かつ、その監査計画は、単なる監査
を実施するための計画ではなく、監査業務の実施を管理統制する重要な意味を持っている。
なお、事業上のリスク等を重視したリスク・アプローチに基づく監査に関連する計画に
関して、本節の監査計画の策定では、まず、監査計画の策定の趣旨を本基準において明示
している。本基準の規定を受け、監査計画における地方公共団体を取り巻く環境などの考
慮事項に関して3-2、決算書全体および決算書項目という2つのレベルでのリスク評価
に関しては3-3および3-4、そのリスクの中で特別な検討を必要とするリスクを把握
した場合の対応については3-5、地方公共団体の監査計画における IT の影響に関しては
3-6、地方公共団体の健全性に疑義が生じる場合における監査計画に関しては3-7で
取り扱い、すべての監査計画の策定の基準に関して、その計画の修正に関して定めた基準
が3-8となっている。
3-2
第三
2
地方公共団体監査における計画上の考慮事項
実施基準
二
監査計画の策定
監査人は、監査計画の策定に当たり、地方公共団体を取り巻く状況(地域特性、地域
に特別に適用されている規制など)、地方公共団体内の組織、首長の理念、方針、地方公
共団体組織内の内部統制の整備状況(首長の内部統制についての知識、地方公共団体の行
財政事業や財務報告に係る内部統制の最近の変更の有無、モニタリングの実施状況など)、
情報技術の利用状況その他地方公共団体の活動に関わる情報を入手し、地方公共団体及び
その環境に内在する行財政上のリスクがもたらす決算書における重要な虚偽表示のリス
クを暫定的に評価しなければならない。
1
趣旨
有効かつ効率的な監査計画を策定する上で、監査対象である地方公共団体を取り巻く状
況や環境などを理解しておくことは重要である。地方公共団体の動向や首長の理念、方針
といった広範な情報を監査人が入手することにより、地方公共団体を十分に理解すること
ができ、ひいては地方公共団体の決算書における重要な虚偽表示のリスクの暫定的な評価
が可能となる。
なお、地方公共団体の監査における将来的な課題として、本基準は、地方公共団体の決
算書に対する監査が単なる決算書の適正性に関する意見表明を行っているだけでなく、地
- 44 -
方公共団体の運営そのものについての妥当性をも考慮に入れることにもつながりうるもの
である。すなわち、民間企業の利害関係者と異なり、住民などの地方公共団体の利害関係
者は、決算書の適正性への関心以上に、無駄や非効率、首長を始めとする地方公共団体の
関係者による不正に関心がある。今後、地方公共団体に対する監査の目的が業務監査や不
正摘発型の監査へと拡大される場合には、監査人はその監査計画の策定に当たって、単な
る過去情報的な決算書数値のみならず、広範かつ専門性の高い情報を入手するためにコー
ポレート・ガバナンスなどの組織管理に至る領域の考慮に関与し、地方公共団体の業務の
信頼性そのものにも関わることになることも想定される。
2
解説
監査人は、地方公共団体のより良い理解のために、首長をはじめとする関係者とのコミ
ュニケーションを図る必要がある。このコミュニケーションを通して、監査対象である地
方公共団体の状況を把握でき、決算書における重要な虚偽表示のリスクに影響を及ぼす可
能性のある地方公共団体に内在するリスクが考慮可能となる。
以下の図表3-1は、地方公共団体監査において監査計画を策定する上で監査人が考慮
すべき事項について、民間企業に対する例示を地方公共団体に対応させたものである。
図表3-1
地方公共団体監査における基本的な方針の策定上の考慮事項例
①監査業務の特徴
・地方自治法や関連法規ならびに総務省などの規制当局による規
制
・地方公共団体の属する公営企業の特性(例:専門知識の必要性)
・地方公共団体の職員の対応可能性やデータの利用可能性
・監査手続の実施におけるITの有効性
・地方公共団体に関わる他の監査の利用可能性
②報告の目的、監査の
など
・地方公共団体の報告に関する日程
実 施 時 期 お よ び コ ・監査実施期間において、監査業務の遂行状況に関して期待され
ミュニケーション
るコミュニケーションについての首長との協議
の内容
・監査チーム内のコミュニケーションで期待される内容とその実
施時期
・第三者に対して予想される報告の有無
③重要な要素、予備的
など
・監査計画段階での重要性の設定
な活動および他の
・監査の実施過程での重要性の基準値の見直し
業務からの情報
・重要な虚偽表示のリスクの程度が高い領域の予備的な識別
・地方公共団体が事業を円滑に遂行する上での内部統制の重要性
- 45 -
・適切な内部統制の構築および維持についての首長の責任
・地方公共団体の運営構成員が少数であり、広範囲な職務を担っ
ていること
・重要な地方公共団体を取り巻く情勢
・地方公共団体を巡る新しい会計基準の影響
④監査チームの編成
など
・監査チームの選定と監査チームのメンバーへの作業の割り当て
・重要な虚偽表示のリスクの程度が高い領域への監査時間の配分
など
出所:日本公認会計士協会監査基準委員会報告書第37号「監査計画」(中間報告)付録を加筆修正
なお、地方公共団体監査における計画上の考慮事項として地方公共団体の内部統制も大
きく関わってくる。詳細は、地方公共団体に対する監査における内部統制の章を参照され
たいが、特に、組織の気風や組織内の統制に対する意識に影響を与える統制環境も考慮事
項として注意する必要がある。統制環境としては、①誠実性および倫理観、②首長の意向
および姿勢、③経営方針および経営戦略、④執行役会および監査委員の有する機能、⑤組
織構造および慣行、⑥権限および職責、そして⑦人的資源に対する方針と管理などがあげ
られる。また、監査人が地方公共団体の監査委員、首長のそれぞれに注意を喚起する内部
統制の不備を認識した場合には、その不備について適切にコミュニケーションをとること
が必要であり、そのコミュニケーションにより地方公共団体を取り巻く環境がより認識で
きる 3)。
3-3
第三
3
決算書全体レベルでの重要な虚偽表示のリスクと監査計画による全般的な対応
実施基準
二
監査計画の策定
監査人は、広く決算書全体に関係し特定の決算書項目のみに関連づけられない重要な
虚偽表示のリスクがあると判断した場合には、そのリスクの程度に応じて、補助者の増員、
専門家の配置、適切な監査時間の確保等の全般的な対応を監査計画に反映させなければな
らない。
1
趣旨
本基準では、地方公共団体の監査にあっても民間企業に対する監査と同様に、決算書全
体レベルにおいて特定の項目に関連づけられない重要な虚偽表示のリスクが認められる場
合には、補助者の増員、専門家の配置、適切な監査時間の確保など全般的な対応が監査計
画の策定において盛り込まれ、監査リスクを一定水準に抑え込むことが求められている 4)。
- 46 -
2 解説
地方公共団体に関係するリスクは、その監査目的に応じて様々なものがある。以下の図
表3-2は、地方公共団体監査に関わるリスクの体系をまとめたものである 5)。監査人は、
以下で紹介する監査要点に応じて、図表におけるリスクを識別し、固有リスク、統制リス
ク、発見リスクを評価し、それに応じた監査計画の策定を行うことになる。
図表3-2
地方公共団体監査を巡るリスクの体系
リスクの類型区分
主要な公監査リスク例
①狭義の合法性リス
財務リスク
広義の合法性または準拠性
ク
ないしは法規準拠性リスク
②合規性・準拠性リス
違法・非合法取引
非合規性・非準拠性取引
ク
正確性または決算リスク
③財務諸表リスク
④財務関連リスク
(業績リスクの類型)
広義の効率性ま
リスク
たは生産性リス
ク
⑥効率性
リスク
広義の有効性リスク
業績(行政・3E〜5E・VFM)リスク
包括リスクまたは完全リスク
⑤経済性
狭義の有
⑦目標達
効性リス
成度のリ
ク
スク
⑧アウト
カムのリ
スク
政策評価
リスク
虚偽記載(粉飾・逆粉飾
決算)
予算・決算虚偽記載
(測度の類型)
インプット測度分析
高額購入、公共調達・談
アクティビティ測度
合リスク、経済性指標の
分析
虚偽記載
アウトプット測度分
低品質購入、公共調達リ
析
スク、効率性指標の虚偽
効率性測度分析
記載
有効性測度分析
アウトプット指標の虚偽
記載
アウトカム測度分析
当初目標成果の非達成、
インパクト測度分析
短・中・長期アウトカム・
説明測度分析
インパクト指標の虚偽記
載
⑨代替案
代替案決定の条件・プ
代替案選択プロセス指標
のリスク
ロセスの分析
の虚偽記載
⑩価値判
政策の功罪・政治的判
政策の必要性・価値判断
断のリス
断の分析
指標
ク
- 47 -
また、この基準は、実施基準 四 他の監査人等の利用の諸基準および地方自治法第25
2条の32に規定する外部監査人による包括外部監査契約および個別外部監査契約の実施
における補助者の規定に関連するものである。地方自治法上の規定は、比較的規模の大き
い団体に効果がもたらされることを想定し、複数人での監査の実施が規定されており、補
助者を加えた複数での監査の実施に向けた監査計画が必要であることを前提としている。
さらに、地方公共団体は民間企業とは異なる多くの特徴を有した組織である。したがっ
て、地方公共団体の事情に精通した専門家を配置することも必要である。しかしながら、
これらは、単に監査の実施に必要な頭数を揃えることを意味しているのではなく、あくま
で効率的な監査の実施のための組織的な監査を想定したものである 6)。なお、リスクの状況
に応じた補助者の増員や専門家の配置に関しては、①適切な職務分担の下、現場で作業を
行う者、②事件の内容により必要とされる特殊な専門的な知識・能力を持つ者、さらには
③監査人と同等な経験・知識をもって監査人を補助するものが想定されている 7)。これは、
実施基準 四 1「他の監査人の利用」の基準から想定される事例として、健全化判断比率
等の監査における他の監査人が監査を実施している場合、あるいは四 2「他の専門家の利
用」の基準から想定される事例として、健全化判断比率等の監査における不動産鑑定士の
業務の利用などが考えられる。
本基準において監査人が行う判断に関しての重要性の基準は、民間企業の場合と同じで
あり、決算書全体として重要な虚偽表示がないとの合理的な保証を得たと判断することと
なっている。だが、地方公共団体特有の公共的な性質から、質的重要性および量的重要性
の双方において、民間企業とは異なる判断、配慮が必要となる 8)。
なお、地方公共団体の監査に当たる監査人は、その要証命題によって、決算書全体の重
要な虚偽表示のリスクにも変化が生じることになる。したがって、監査人は、地方公共団
体に特有の監査要点(要証命題)が求められた場合には、その状況に応じて、決算書全体
レベルでの重要な虚偽表示リスクを低減するような監査計画の策定に努める必要がある。
以下の図表3-3は、地方公共団体の外部監査(包括外部監査、個別外部監査)に関する
監査要点(要証命題)例を日本公認会計士協会が示したものである 9)。地方公共団体の決算書
の監査に関連して、さらなる役割期待が求められた場合、このような地方公共団体に特有
の監査要点を含めた形での監査計画の策定が必要となる。
図表3-3
地方公共団体に関する監査における監査要点例
特定の事件
監査要点
事務事業の合理性、会計処理の適正性、公営企業・公益法人等の
共通
場合は各法令等への準拠性、金銭出納管理・債権管理・物品管理・
固定資産管理等の内部管理の適正性、委託事務の適正性、情報シ
- 48 -
ステムの整備運用状況の良否
住宅供給公社
道路公社
時価評価の観点からの保有資産の妥当性、分譲事業の販売状況の
良否、賃貸事業の効率性、遊休資産の有無
有料道路の採算性、債務の償還可能性
土地開発公社
財政援助団体
事業遂行の計画性、時価評価の観点からの保有資産の妥当性、遊
休資産の有無、債務の償還可能性
事業評価・財務評価・組織評価の観点からの適正性、対象団体が
公益法人である場合の指導監督体制の良否
利益管理の適正性、一般会計からの補助金・負担金の合理性、医
病院事業
業未収入金管理の適正性、医薬品購入事務の適正性
公の施設管理
運営の効率性、施設利用者の意見の反映度
独立採算原則の達成度、損益管理の妥当性、補助金繰入額の妥当
水道事業
性、環境問題に対する取り組みの妥当性、債務の償還可能性、受
益者負担の賦課・計上の適正性
補助対象事業の公益性、補助対象事業と交付団体独自の事業との
補助金
区分の明確性、実績報告内容の適正性、補助効果の観点からの整
理・見直しの必要性
貸付金等(債権管
理)
調定額算定の適正性、網羅性、収納事務の適正性、滞納整理事務
の適正性
契約(入札)事務
第三
4
性、償還免除・履行期間延長についての手続の適正性、貸付金残
高・延滞債権についてのディスクロージャーの適正性
徴収等事務
3-4
担保等の設定の妥当性、回収手続の適正性、延滞債権管理の適正
入札・契約制度の透明性・客観性・市場性、予定価格の妥当性、
契約履行の管理・確認検査の適正性
決算書項目レベルにおけるリスクに対応する監査計画の策定
実施基準
二
監査計画の策定
監査人は、決算書項目に関連して暫定的に評価した重要な虚偽表示のリスクに対応す
る、内部統制の運用状況の評価手続及び発見リスクの水準に応じた実証手続に係る監査計
画を策定し、実施すべき監査手続、実施の時期及び範囲を決定しなければならない。
1
趣旨
- 49 -
本基準は、首長が整備する内部統制については、その地方公共団体を取り巻く環境など
により複雑であり、その一定の評価は、監査人が監査を終了する最終局面に至るまで明確
にならないものである。言い換えるならば、監査を実施する過程において、内部統制の評
価は刻々と変わるものともいえる。したがって、決算書項目に関連して暫定的に評価した
重要な虚偽表示のリスクにおいても、様々な変化が監査過程において生じることから、内
部統制の運用状況の評価手続および発見リスクの水準に応じた監査計画を策定することが
求められている。
2
解説
本基準は、民間企業とは、地方公共団体を取り巻く環境の違いから生じる内部統制等の
状況および、地方公共団体に関連するリスクの内容に差があるものの、監査計画に当たっ
て行われる内部統制の暫定的な評価に基づく監査計画の策定およびその修正については、
何ら変わるものではない。内部統制に関連するリスク等は、監査手続の実施過程において
常に吟味され、最終的には、監査業務が完了した際にその評価が出てくることになる。し
たがって、本基準は、決算書全体レベルでの対応を示した3-3や3-5の特別な検討を
必要とするリスクを把握した場合の対応、3-8の監査計画の修正とも関連づけて理解す
べき基準である。
なお、以下の図表3-4は、3-3~3-4の基準に示される事業上のリスク等を重視
したリスク・アプローチに基づく地方公共団体監査の流れと監査計画の関係を示したもの
である。図3-4には、関連する3-5で検討する特別な検討を必要とするリスクおよび
3-8で検討する監査計画の修正も含めている。
- 50 -
図表3-4 事業上のリスク等を重視したリスク・アプローチに基づく地方公共団体監査
の流れと監査計画
地方公共団体および地方公共団体の環境の理解
(内部統制、ならびに事業上のリスクの理解)
決算書項目
決算書全体
重要な虚偽表示のリスク
重要な虚偽表示のリスク
暫定的評価
の存在の把握
特別な検討を必要とする
リスクを把握した場合
全般的な対応
・補助員の増員
・専門家の配置
・適切な監査時間の確保等
監査計画の修正
監査計画
リスク評価に対応する監査手続(内部統制の運用状況の評価と実証手続)の計画
リスク評価に対応する監査
特別な検討を必要とする
手続(内部統制の運用状況の
リスクに対応する監査手続
評価と実証手続)の実施
出所:以下で示されている図表を加筆修正している。
金融庁企業会計審議会「監査基準及び中間監査基準の改訂並びに監査に関する品質管理基準の設定につい
て(公開草案)」参考図表 事業上のリスクを重視したリスク・アプローチに基づく監査の流れ、2005年7
月20日、http://www.fsa.go.jp/news/newsj/17/singi/f-20050720-2/07.pdf
八田進二、ききて町田祥弘『逐条解説 改訂監査基準を考える(増補版)』同文舘出版、2009年、80頁。
これまでリスク・アプローチを前提としていなかった地方公共団体に対する監査が、本
「地方公共団体監査基準(案)」によって民間企業と同様のアプローチが前提となる。
- 51 -
3-5
第三
5
特別な検討を必要とするリスクと監査計画
実施基準
二
監査計画の策定
監査人は、会計上の見積りや収益認識等の判断に関して決算書に重要な虚偽の表示を
もたらす可能性のある事項、不正の疑いのある状況、特異な状況等、特別な検討を必要と
するリスクがあると判断した場合には、そのリスクに対応する監査手続に係る監査計画を
策定しなければならない。
1
趣旨
本地方公共団体監査基準は、一般会計、特別会計のみならず、公営企業も含めた基準と
なっている。したがって、会計上の見積りや収益認識等の判断の基準についても、民間企
業に対する「監査基準」と同様にその文言を残している。ただ、公営企業を除けば、会計
上の見積りや収益認識等の判断が介入することは少なくなることから、この基準は、地方
公共団体のどの決算書を対象としているかによって、監査人の判断により特別な検討を必
要とするリスクを取捨選択する必要がある。
2
解説
監査人は、決算書全体あるいは決算書項目に重要な虚偽表示をもたらす可能性のある特
別な検討を必要とするリスク(不正の疑いのある状況、予算の執行における著しい不正な
どの特異な状況)を把握した場合には、三 監査の実施 3「監査人は、特別な検討を必要
とするリスクがあると判断した場合には、それが決算書における重要な虚偽の表示をもた
らしていないかを確かめるための実証手続を実施し、また、必要に応じて、内部統制の整
備状況を調査し、その運用状況の評価手続を実施しなければならない。
」と規定するように、
重要な虚偽表示のリスクになっているか否かの確認のための実証手続(人員の追加や配置、
監査手続の追加)、さらには内部統制の整備状況、運用状況について遡って評価を行うこと
を求めており、それに対する監査計画の策定が求められている。
具体的には、首長の判断の一つである財政健全化判断比率等に関する将来負担比率から
の控除項目の問題があり、その見積りに関しては、首長の主観的な判断が多いに介入して
いることもある。また、公営企業において問題となっているものとして、民間企業と同様
な問題として退職給与引当金の見積り不足がある。さらに財政の効率化・適正化における
問題や説明責任の不履行などに関連した地方公共団体を巡る諸問題が不正の疑いのある状
況として挙げられることはいうまでもない。
- 52 -
3-6
第三
6
監査計画とIT
実施基準
二
監査計画の策定
監査人は、地方公共団体が利用する情報技術が監査に及ぼす影響を検討し、その利用
状況に適合した監査計画を策定しなければならない。
1
趣旨
株式会社を代表とする民間企業のみならず、地方公共団体においても様々な処理の過程
においてコンピュータを利用することが当然となっている。したがって、地方公共団体の
監査にあっても IT(情報技術)が及ぼす影響を検討する必要がある。言い換えるならば、
地方公共団体の決算書においても、その不正はコンピュータが介在した場合がほとんどで
あり、IT を意識した監査計画を策定することにより、重要な虚偽表示のリスクを適切に評
価できるものといえる。
2
解説
監査人は、監査対象である地方公共団体の決算書における IT の環境を確認する必要があ
る。つまり、多くの地方公共団体では、すでに IT を利用した情報システムによって業務処
理が行われ、その利用は、統制活動形態に大きな影響を及ぼしている。監査人は、地方公
共団体が有効な全般的統制や業務処理統制を整備することにより、IT 特有のリスクに地方
公共団体が対応しているか否かを検討する必要がある。
例えば、地方公共団体側の対応としては、データ入力に関わった者の使用履歴の自動的
保存、当該組織が定めた適切な方針や手続といった IT に関する諸規定の整備などがある。
また、監査人の側の対応としては、IT 化により監査証拠となる帳簿書類等の電子化が生じ、
電子的な監査証拠への対応、すなわちそれらの作成と保存に係る内部統制の有効性の十分
な検討、IT に関する諸規定、手続書、あるいはハードウェア、ネットワークの構成などの
確認を行うことにより電子的な監査証拠に関わる不正や誤謬の防止につながることになる
10)。
地方公共団体の監査に携わる監査人は、リスク・アプローチの下、監査上の重要性と監
査リスクとの関係の中で監査計画の策定を行う。こうしたプロセスの中で、IT 特有の監査
手続を適用する必要がある場合には、IT を含む内部統制の評価を行い、その結果により、
監査リスクを評価し、IT による業務処理に対して IT 特有の具体的な監査手続の選択・適用
がなされる。これに対して、地方公共団体内において IT の利用が限定的であり、安定度が
高く、情報システムに前年度との間で有用な変更がない場合には、IT 特有の監査手続を適
用する必要がなく、監査人は IT の利用状況の理解を行った後、リスク評価手続を実施する
際にその一部を省略することも可能であり 11)、IT が及ぼす影響を検討した上での監査計画
- 53 -
の策定が必要となる。
3-7
第三
7
地方公共団体の健全性と監査計画
実施基準
2
監査計画の策定
監査人は、監査計画の策定に当たって、財務指標の悪化の傾向、財政の健全化をはか
る指標などに基づき、地方公共団体の健全化に重要な疑義を生じさせるような事象又は状
況の有無を確かめなければならない。
1
趣旨
地方公共団体は、国民の暮らしを担うために健全な財政を維持する運営能力が求められ
ている。これに対して、地方公共団体の財政状況が深刻化する前に、統一的な指標でその
状況を明らかにするために、「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」において4つの
財政指標(実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率および将来負担比率)が規
定され(「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」第2条)、また、財政の早期健全化
や財政の再建、さらには公営企業の経営の健全化を図るための計画の策定を規定している
(第1条)。
これらの指標の結果から、地方公共団体が財政健全化団体等に陥る可能性もあり、また、
退職手当債や基金からの借入などの手法により指標の悪化の回避が恣意的に行われるなど
12)、決算書の数値そのものへの影響もあることから、監査人は、地方公共団体の健全化につ
いて注意を図るとともに、その状況に応じた監査計画の策定が求められている。
2
解説
民間企業におけるゴーイング・コンサーンに関わる規定である。地方公共団体といえど
も破綻する場合があり、監査人は、地方公共団体の財政健全化への姿勢を常に注視する必
要がある。その留意点としては、
・財政健全化法の趣旨による経営を行っているかの観点
・監査委員審査の妥当性
・健全化指標の悪化または改善されない場合の原因分析
・健全化指標の基準値との乖離の妥当性
・検証可能水準の判断の妥当性
・事務事業の PDCA サイクルからの適切性
が例として挙げることができ
13)、監査人は、上記の留意点に注意しながら地方公共団体の
継続性の前提を判断し、その上での監査計画の策定を行うべきである。仮に地方公共団体
- 54 -
の継続性に疑義が認められる状況がある場合には、
「地方公共団体の財政の健全化に関する
法律」に定める首長による対応などを検討し、必要に応じてその他の事項の区分において
監査人は追記情報としての注意喚起を住民等の利害関係者に行う必要がある。
3-8
第三
8
監査計画の修正
実施基準
2
監査計画の策定
監査人は、監査計画の前提として把握した事象や状況が変化した場合、あるいは監査
の実施過程で新たな事実を発見した場合には、適宜、監査計画を修正しなければならない。
1
趣旨
策定された監査計画の修正については、二 監査計画の策定8に加えて、三 監査の実施
においてもその対応が規定されている。これらの規定は、地方公共団体の状況や環境の理
解、決算書全体レベルでの評価、決算書項目レベルでの評価、特別な検討を必要とするリ
スクの評価、その結果策定されたリスク対応手続といった一連のリスク・アプローチにお
いて連続的、反復的に修正が行われるべきことを示している。
すなわち、当初策定された監査計画を確定的なものとして捉え、後の監査手続が形式的
なものに陥ることなく、発見リスクレベルでの監査計画の修正であれ、決算書全体レベル
の評価までも遡る監査計画の修正であれ、地方公共団体の監査目的の達成に当たっては、
その修正を積極的に行うべきことを求めている。
2
解説
地方公共団体監査基準 三 監査の実施1「監査人は、実施した監査手続及び入手した監
査証拠に基づき、暫定的に評価した重要な虚偽表示のリスクの程度を変更する必要がない
と判断した場合には、当初の監査計画において策定した内部統制の運用状況の評価手続及
び実証手続を実施しなければならない。また、重要な虚偽表示のリスクの程度が暫定的な
評価よりも高いと判断した場合には、発見リスクの水準を低くするために監査計画を修正
し、十分かつ適切な監査証拠を入手できるように監査手続を実施しなければならない」お
よび4「監査人は、監査の実施の過程において、広く決算書全体に関係し特定の決算書項
目のみに関連づけられない重要な虚偽表示のリスクを新たに発見した場合及び当初の監査
計画における全般的な対応が不十分であると判断した場合には、当初の監査計画を修正し、
全般的な対応を見直して監査を実施しなければならない」においても監査計画の修正が触
れられている。
これらの規定から、監査計画は、決算書全体に関係する重要な虚偽表示のリスクを発見
- 55 -
し、監査人による対応が求められる上での監査計画の修正が定められている。監査計画は、
その当初に策定されたものを踏襲するものではなく、地方公共団体の監査の状況に応じた
柔軟な修正が求められている。したがって、地方公共団体の決算書の監査の段階において、
当初想定していなかった問題(不正、不公正、無駄、予算の不当、不適切な執行等)が発見さ
れた場合には、地方公共団体を取り巻く利害関係者に重大な影響を及ぼす場合には、それ
らに対する監査手続を拡大するために監査計画の修正を行う場合もある。
〈注〉
1)
本節の内容については、民間企業を対象とした「監査基準」の逐条解説である以下の文献の内容
を参考にしている。
八田進二、ききて町田祥弘(2009)『逐条解説 改訂監査基準を考える(増補版)』同文舘出版、73~106
頁。
2)
丸山恭司・石原俊彦(2011)
「地方自治体監査委員監査における監査技術の理論的フレームワーク」
『ビジネス&アカウンティングレビュー』第 7 号、86 頁。
石原俊彦(2010)「地方自治法の改正と監査制度の抜本改革」『地方財務』673 号、5 頁。
3)
日本公認会計士協会監査基準委員会報告書第 53 号(2010)「内部統制の不備に関するコミュニケ
ーション(中間報告)」、4 項。
日本公認会計士協会監査基準委員会報告書第 52 号(2010)
「監査役等とのコミュニケーション(中
間報告)」。
4)
八田進二、ききて町田祥弘、上掲書、79 頁。
5)
日本監査研究学会、日本公認会計士協会公監査研究特別委員会研究報告(2009)「公監査を公認会
計士・監査法人が実施する場合に必要な制度要因の研究調査」、
http://www.hp.jicpa.or.jp/specialized_field/files/0-0-0-22a-20091127.pdf、7 頁。
6)
日本公認会計士協会地方公共団体監査特別委員会報告第 2 号(2001)
「地方公共団体の外部監査人
のための外部監査のガイドライン」、2-2。
7)
日本公認会計士協会地方公共団体監査特別委員会報告第 2 号、2-2-3。
8)
日本監査研究学会、日本公認会計士協会公監査研究特別委員会研究報告、123 頁。
9) 日本公認会計士協会公会計研究報告第 9 号(2003)「地方公共団体の外部監査 Q&A」、Q31。
10)
日本公認会計士協会 IT 委員会研究報告(2011)「IT に対応した監査手続事例~事例で学ぶよく
わかる IT に対応した監査~」(公開草案)、1 頁。
11)
同上公開草案、1~2 頁。
12)
日本監査研究学会、日本公認会計士協会公監査研究特別委員会研究報告、上掲報告書、118 頁。
13)
鈴木豊(2008)『自治体の会計・監査・連結経営ハンドブック―財政健全化法制の完全解説』中央
経済社、268 頁。
- 56 -
第4章
実施基準
4-1
第三
1
三
監査の実施 1)
リスク・アプローチによる決算書監査
実施基準
三
監査の実施
監査人は、実施した監査手続及び入手した監査証拠に基づき、暫定的に評価した重要
な虚偽表示のリスクの程度を変更する必要がないと判断した場合には、当初の監査計画に
おいて策定した内部統制の運用状況の評価手続及び実証手続を実施しなければならない。
また、重要な虚偽表示のリスクの程度が暫定的な評価よりも高いと判断した場合には、発
見リスクの水準を低くするために監査計画を修正し、十分かつ適切な監査証拠を入手でき
るように監査手続を実施しなければならない。
1
趣旨
リスク・アプローチでは、まず重要な虚偽表示のリスクを暫定的に評価する。その後、
重要な虚偽表示のリスクの暫定的な評価が、実施した監査手続や入手した監査証拠によっ
て変更する必要がない場合は、内部統制の運用状況の評価手続や実証手続を実施する。
一方、重要な虚偽表示のリスクの暫定的な評価を変更する必要がある場合は、監査計画
を修正し、十分かつ適切な監査証拠を入手できるような監査手続を実施しなければならな
い。
2
解説
現行の地方公共団体監査における監査委員監査は、都道府県、都市、町村の各監査委員
の全国的な協議会で、監査基準に相当するものが策定されており、そこでは手続準拠型の
アプローチ、すなわちマニュアル的に実施すべき監査手続が列挙され、監査対象の抱える
リスクを斟酌することなく、手続の執行が主目的化されるアプローチが採用されていると
いう 2)。
そこで、「地方公共団体監査基準」第三
実施基準一
基本原則1に規定するとおり、地
方公共団体の監査において民間企業の財務諸表監査における監査手法であるリスク・アプ
ローチに基づく監査を提案しているわけだが、本解説では当該リスク・アプローチにおけ
る各リスクの関係に焦点を当て説明する。
基本原則1で示されたように、リスク・アプローチでは、重要な虚偽表示が生じる可能
性の高い項目について重点的に監査の人員や時間を充てることにより、監査を効率的かつ
効果的なものとすることができる監査の実施方法をいう。
ここで監査リスク(Audit Risk : AR)とは、監査人が決算書の重要な虚偽の表示を看過
して誤った意見を形成する可能性であり、監査リスクを合理的に低い水準に抑えられるよ
- 57 -
うに監査が実施されなければならない。
監査リスクは、固有リスク(IR)、統制リスク(CR)および発見リスク(DR)の三つの
要素で構成され、固有リスクと統制リスクの二つの要素を結合したリスクを「重要な虚偽
表示のリスク(Risk of Material Misstatement: RMM)」として評価する。
リスク・アプローチに基づく監査リスク・モデルは以下のように示される。
AR=RMM(IR×CR)×DR
DR=
AR
RMM
監査人は、監査計画の策定にあたり、監査リスクの目標水準を決定し、その後に重要な
虚偽表示のリスクを評価して、許容される発見リスクの水準を決定する。
例えば、監査リスクの目標水準を5%とし、重要な虚偽表示のリスクが25%であるな
らば、下段のリスク・モデル式により発見リスクは20%となる。
監査リスクのうち固有リスクと統制リスク(その結合リスクとしての重要な虚偽表示の
リスク)は、決算書監査とは独立して存在するが、発見リスクは監査手続に関連する。
監査リスク・モデルでは、重要な虚偽表示のリスクが低ければ、高い発見リスクが許容
される。反対に、重要な虚偽表示のリスクが高ければ、発見リスクは低く抑えられなけれ
ばならない。
以上のような各リスクの相互関係については、下記の図表4-1のようになる。
図表4-1
監査リスク構成要素間の相互関係 3)
監査人が評価する CR
高い
中程度
低い
I
高い
最低にする
低めにする
中程度にする
R
中程度
低めにする
中程度にする
高めでもよい
低い
中程度にする
高めでもよい
最高でもよい
(太線内が受容可能な発見リスクの水準)
また民間企業の財務諸表監査におけるリスク・アプローチを地方公共団体の監査に踏襲
する場合は、監査上の重要性(materiality)も考慮しなければならない。
2002年改訂監査基準の「監査基準の改訂について」では、監査上の重要性について
次のように述べている。
「監査上の重要性は、監査計画の策定と監査の実施、監査証拠の評価ならびに意見形成
- 58 -
のすべてに関わる監査人の判断の規準であり、次のように適用される。
監査人は、監査計画の策定に当たり、財務諸表の重要な虚偽の表示を看過しないよ
①
うにするために、容認可能な重要性の基準値(通常は、金額的な数値が設けられる)
を決定し、これをもとに、達成すべき監査リスクの水準も勘案しながら、特定の勘定
や取引について実施すべき監査手続、その実施の時期および範囲を決定し、監査を実
施する。
②
監査人は、監査の実施の過程で判明した重要な虚偽の表示につながる可能性がある
事項については、その金額的影響および質的影響(例えば、少額であっても他の関連
項目や次年度以降に重要な影響を与える可能性がある)を検討し、必要であれば、監
査の実施の結果を見直したり、追加の監査手続を実施するが、このような金額的・質
的影響の評価に関わる判断の規準も監査上の重要性の一部となる。
③
監査人は、監査意見の形成に当たって、会計方針の選択やその適用方法、あるいは
財務諸表の表示方法について不適切な事項がある場合に、当該事項を除外した上で適
正とするかまたは財務諸表を不適正とするかを判断するが、この判断の規準も監査上
の重要性を構成する。
④
監査人は、監査を実施する上で一部の監査手続を実施できなかったり、必要な証拠
の提供を得られないなどの制約を受けた場合に、当該事実が影響する事項を除外した
上で意見を表明するかまたは意見の表明をしないかを判断するが、この場合の判断の
規準も監査上の重要性の一部となる。」4)
上記のように、リスク・アプローチでは監査上の重要性として、重要な虚偽表示につな
がる可能性のある事項について、金額的影響や質的影響を考慮しなければならない。
そこで監査人は、監査計画の策定にあたって、財務諸表全体において重要であると判断
する虚偽の表示の金額を重要性の基準値 5)として設定することになるが、地方公共団体の監
査においては、重要性も意識されず監査が実施され、1 円の誤謬についても指摘または指導
といわれる監査結果となる可能性が多い 6)ことから、監査上の重要性という概念についての
検討も当然必要であると思われる。
4-2
第三
2
内部統制が存在しない場合、あるいは有効に運営されていない場合の監査手続
実施基準
三
監査の実施
監査人は、ある特定の監査要点について、内部統制が存在しないか、あるいは有効に
運用されていない可能性が高いと判断した場合には、内部統制に依拠することなく、実証
手続により十分かつ適切な監査証拠を入手しなければならない。
- 59 -
1 趣旨
監査人は内部統制が存在しない、あるいは有効に運用されていない場合には、内部統制
に依拠することなく、実証手続により十分かつ適切な監査証拠を入手しなければならない
ことを留意すべきである。
2
解説
実証手続とは、決算書の各項目レベルの重要な虚偽表示を看過しないよう立案し、実施
する監査手続である。
実証手続には、取引、勘定残高、開示等に対する詳細テスト(以下、
「詳細テスト」とい
う)と、分析的実証手続とがある 7)。
(1)詳細テスト
詳細テストとは、実査、立会、確認といった監査技術のほかにも、証憑突合、帳簿突合、
勘定突合、分析などのほとんど全ての監査技術を適用して実施される監査手続である。
(2)分析的実証手続
分析的手続とは、財務データ相互間または財務データと非財務データとの間に存在する
と推定される関係を分析・検討することによって、財務情報を評価することをいう。
分析的手続には、他の関連情報と矛盾する、または監査人の推定値と大きく乖離する変
動や関係の必要な調査も含まれる 8)。
監査人が実証手続として分析的手続をおこなう場合、それは分析的実証手続という。分
析的実証手続は、一般的に取引量が多く予測可能な取引に対して適用される。
丸山・石原(2011)によれば、地方公共団体での監査実務と民間企業における財務諸表
監査で採用される監査技術との差異として、以下の四点を挙げている 9)。
①
地方公共団体の監査においても「質問」「実査」および「証憑突合」という手法が中
心的な監査技術として実施されている。「質問」は、「証憑突合」と的確に組み合わせ
て実施することで、十分かつ信頼できる監査証拠の入手が可能であるにもかかわらず、
実際には監査の担当職員には監査証拠の適格性(competence)や信頼性(reliability)
に関する認識が乏しく、比較的コストがかからないという理由で「質問」という監査
技術を選択している。
②
地方公共団体では近年、財務諸表の作成が求められるとともに、逼迫する財政状況
の影響から資産の有効活用が急務となっており、公有財産や物品の厳正な管理が求め
られている。それゆえ地方公共団体監査では、最近になって「実査」が重視されてい
る。
③
地方公共団体監査では、「立会」「再実施」といった監査技術はほとんど行われてい
ない。地方公共団体監査では、原則として監査実施日が受検機関に事前に通知されて
- 60 -
いること、また職員の定数が削減されていることなどから、監査に対応しながら通常
業務を並行して実施する余裕がなくなっている実情があるという。
④
地方公共団体監査では「計算突合」「確認」はほとんど実施されていない。地方公共
団体の財務会計行為のほとんどは、情報システムを活用して処理されており、その処
理結果を信用して計算突合が実施されることは少ないという。また「確認」には確認
状発送や内容確認に費用や手間がかかることから敬遠されているという。
以上のことからも、民間企業の財務諸表監査におけるリスク・アプローチが地方公共団
体監査基準に踏襲された場合には、監査技術等についても検討が必要であるといえよう。
4-3
第三
3
特別な検討を必要とするリスクがあると判断した場合の監査手続
実施基準
三
監査の実施
監査人は、特別な検討を必要とするリスクがあると判断した場合には、それが決算書
における重要な虚偽の表示をもたらしていないかを確かめるための実証手続を実施し、ま
た、必要に応じて、内部統制の整備状況を調査し、その運用状況の評価手続を実施しなけ
ればならない。
1
趣旨
会計上の見積りや収益認識等の重要な会計上の判断に関して決算書に重要な虚偽の表示
をもたらす可能性のある事項や不正の疑いのある取引、関連当事者で行われる通常ではな
い取引等の特異な取引等は、監査実施の過程において「特別な検討を必要とするリスク」
として、それが決算書における重要な虚偽の表示をもたらしていないかを確かめるための
実証手続の実施し、必要に応じて内部統制の整備状況の調査や運用状況の評価を実施する
ことを求めている 10)。
2
解説
特別な検討を必要とするリスクとは、金額的または質的に通常の取引とは異なる非定型
的取引や首長等の判断に依存している事項、例えば重要な測定の不確実性が存在する会計
上の見積りを含むことのある事項など、その質的側面により重要な虚偽表示のリスクの中
でも特別な監査上の検討が必要と考えられるリスクである 11)。
特別な検討を必要とするリスクかどうかを監査人が決定する際には、少なくとも以下の
事項を検討しなければならない。
①
不正リスクであるかどうか
②
特別の配慮を必要とするような最近の重要な経済、会計などの動向と関連している
- 61 -
かどうか
③ 取引が複雑であるかどうか
④
関連当事者との重要な取引に係るものであるかどうか
⑤
リスクに関連する財務情報の測定が主観的な判断によるものかどうか(特に広範囲
にわたって測定に不確実性がある場合)
⑥
地方公共団体の通常の運営活動の範囲を超えた取引または通例でない取引のうち、
重要な取引に係るものであるかどうか 12)
監査人は特別な検討を必要とするリスクがあると判断した場合には、そのリスクに個別
に対応するためのリスク対応手続を計画、実施しなければならない。
また、必要に応じて内部統制の整備状況の調査や運用状況の評価を実施することを求め
ている。
4-4
第三
4
決算書全体における重要な虚偽表示のリスクへの対応
実施基準
三
監査の実施
監査人は、監査の実施の過程において、広く決算書全体に関係し特定の決算書項目の
みに関連づけられない重要な虚偽表示のリスクを新たに発見した場合及び当初の監査計
画における全般的な対応が不十分であると判断した場合には、当初の監査計画を修正し、
全般的な対応を見直して監査を実施しなければならない。
1
趣旨
リスク・アプローチでは、決算書における個別の項目のみならず、広く決算書全体レベ
ルにおいて、重要な虚偽表示のリスクを新たに発見した場合、あるいは当初の監査計画に
おける全般的な対応が不十分であると判断した場合には、監査リスクを一定の合理的に低
い水準に抑えるための措置を講じなければならない。
2
解説
決算書全体レベルの重要な虚偽表示のリスクとは、決算書全般に広くかかわりがあるも
のであり、一つまたは複数の特定の監査要点に個別に関連づけてその大きさを評価するこ
とができないリスクである。
評価した決算書全体レベルの重要な虚偽表示のリスクに応じた全般的な対応には、以下
の事項を含む。
①
監査チームのメンバーが職業的懐疑心を保持すること
②
豊富な経験を有するまたは特定分野における専門的な知識や技能を持つ監査チーム
- 62 -
のメンバーの配置、専門家の利用
③ 監査チームのメンバーへの指導監督の強化
④
実施する監査手続の選択に当たっての地方公共団体が想定しない要素の組込み
⑤
実施すべき監査手続の種類、時期および範囲についての変更(例えば、実証手続を
実施する基準日を期末日前から期末日へ変更し、またはより確かな心証が得られる監
査証拠を入手するように監査手続を変更する。
)13)
監査人は、上記のような全般的な対応が不十分であると判断した場合には、当初の監査
計画を修正し、全般的な対応を見直して監査を実施しなければならない。
4-5
第三
5
会計上の見積りの監査
実施基準
三
監査の実施
監査人は、会計上の見積りの合理性を判断するために、首長等が行った見積りの方法
の評価、その見積りと監査人が行った見積りや実績との比較等により、十分かつ適切な監
査証拠を入手しなければならない。
1
趣旨
新たな会計基準の導入等によって、会計上の認識や測定の際に、従来にも増して首長等
による見積りに基づく要素が重要となっている。そこで、会計上の見積りの合理性につい
て、監査人は首長等が行った見積りの方法の評価だけでなく、その見積りと監査人自身の
見積りや決算日後に判明した実績とを比較したりすることによって、十分かつ適切な監査
証拠を入手し、判断しなければならないことを求めている。
2
解説
会計上の見積りとは、正確に測定することができないため、金額を概算することをいい、
見積りが要求される金額だけでなく、見積りの不確実性が存在する場合に時価によって測
定される金額に対しても使用される 14)。
監査人は、内部統制を含む地方公共団体およびそれを取り巻く環境を理解するためのリ
スク評価手続とそれに関連する活動を実施する際、会計上の見積りに関する重要な虚偽表
示のリスクを識別し評価するための基礎を得るため、以下の事項について理解しなければ
ならない。
(1)会計上の見積りに関連して一般に公正妥当と認められる地方公共団体会計の基準に
より要求される事項(関連する開示を含む。)
- 63 -
(2)首長等が、決算書に於いて認識または開示するために、会計上の見積りが必要とな
る取引、事象および状況を把握する方法
これらを理解するために、監査人は、新たな会計上の見積りの必要性または既存の
会計上の見積りに関する修正が必要となる状況の変化について、首長等に質問を行わ
なければならない
(3)以下の事項に関する首長等が会計上の見積りを行う方法およびその基礎データの理
解
①
会計上の見積りを行う際に使用する測定方法(測定モデルも含む。)
②
関連する内部統制
③
首長等による専門家の利用の有無
④
会計上の見積りに係る仮定
⑤
会計上の見積りを行う方法に前年度から変更があるかどうかまたは変更が必要であ
るかどうか、および変更があるまたは変更が必要な場合にはその理由
⑥
首長等が見積りの不確実性の影響を評価しているかどうか、および評価している場
合にはその方法 15)
そして、監査人は重要な虚偽表示のリスクの識別と評価において、会計上の見積りの不
確実性の程度を評価し、監査人自らの判断により、見積りの不確実性が高いと識別された
会計上の見積りが、特別な検討を必要とするリスクを生じさせているかどうかを決定しな
ければならない 16)。
4-6
不正、誤謬、違法行為および法令違反、法規への非準拠および資産の濫用を発見
した場合の監査手続
第三
6
実施基準
三
監査の実施
監査人は、地方公共団体の決算書の監査の実施において不正、誤謬、違法行為および
法令違反、法規への非準拠および資産の濫用を発見した場合には、首長等に報告して適切
な対応を求めるとともに、適宜、監査手続を追加して十分かつ適切な監査証拠を入手し、
当該不正等が決算書に与える影響を評価しなければならない。
1
趣旨
本基準は地方公共団体の決算書の監査の実施において、監査人が不正、誤謬、違法行為
および法令違反、法規への非準拠および資産の濫用を発見した場合の対応と具体的な監査
手続を規定している。
- 64 -
2 解説
一般基準4に規定された「不正等に起因する虚偽の表示への対応」および実施基準基本
原則5「不正・誤謬による重要な虚偽表示の可能性の評価」を受けて、監査を実施する際
の具体的な対応を規定したものである。
地方公共団体監査の目的は、「地方公共団体監査の目的」にも述べられたように、決算書
監査であり、不正摘発監査ではないわけだが、昨今の地方公共団体における不適正経理問
題に対応するためには、従前よりも積極的に不正、誤謬、違法行為および法令違反、法規
への非準拠や資産の濫用の発見が求められているといえよう。
4-7
第三
首長等による確認書
7
実施基準
三
監査の実施
監査人は、適正な決算書を作成する責任は首長にあること、決算書の作成に関する基
本的な事項、首長が採用した会計方針、首長は監査の実施に必要な資料を全て提示したこ
と及び監査人が必要と判断した事項について、首長から書面をもって確認しなければなら
ない。
1
趣旨
本基準では、地方公共団体の決算書監査においても首長と監査人の二重責任の原則を検
討すべきことを求めている。すなわち、首長等に対しては、財務事務の合規性と決算書の
正確性を担保する責任を、監査人には首長等の作成した決算書の適正性に関する監査意見
を表明する責任を明らかにするために、首長等による確認書を入手することを求めている。
2
解説
民間企業における財務諸表監査制度における経営者確認書は、従来「陳述書」として言
及されていた概念である。これが「確認書」として改められた背景は、1991年改訂監
査基準・準則の「監査基準、監査実施基準及び監査報告準則の改訂について」の三 2.(3)に
おいて、次のように説明されている。
すなわち、「財務諸表監査制度は、財務諸表の作成者とその監査人が協力して、真実かつ
公正な財務諸表を利害関係者に提供することを本来の目的としているものである。したが
って、両者はもともと対立関係にあるのではなく、財務諸表に関する責任を分担しながら、
相互に協力し合う関係にあるといわなければならない。かかる協力関係を示し、もって監
査制度に対する社会的信頼性を一層高めていくために、経営者による確認書を入手しなけ
- 65 -
ればならないことを定めた」のである。
このように、旧監査基準・準則では、真実かつ公正な財務諸表を利害関係者に提供する
ために、財務諸表の作成者である経営者と監査人の協力関係が重視されており、この協力
関係のもとで入手する書類の名称としては、「陳述書」よりも「確認書」という呼称の方が
適切と考えられたのである。
また従来、財務諸表監査制度においては経営者確認書の入手は監査手続であるか否か、
またその入手が監査終了時に限定されていたことから、経営者確認書が監査証拠であるか
どうかについての議論があった。
この点に関連して、2002年改訂監査基準の「監査基準の改訂について」では、経営
者確認書の入手は監査手続であることが明確に位置づけられ、このことによって、経営者
確認書の入手は必ずしも監査の終了時に限られるものではなく、監査人の判断により、適
宜・適切に行われることになった。
さて、地方公共団体の決算書監査においても同様に、首長等に対しては、財務事務の合
規性と決算書の正確性を担保する責任を、監査人には首長等の作成した決算書の適正性に
関する監査意見を表明する責任を明らかにするという、二重責任の原則を検討しなければ
ならない。
そこで監査人は、首長等に以下の事項について記載した確認書を提出するように要請し
なければならない。
①
監査契約書において合意したとおり首長等が決算書の作成に関連すると認識してい
るまたは監査に関連して監査人が依頼したすべての情報および情報を入手する機会を
監査人に提供した旨
②
すべての取引が記録され、決算書に反映されている旨 17)
〈注〉
1)
本実施基準(案)は、民間企業における財務諸表監査を参考に起案しており、各項目における基
準の解説については、日本公認会計士協会監査基準委員会報告書を参考としている。
3)
石原俊彦(2010)「地方自治法の改正と監査制度の抜本改革」『地方財務』第 673 号、5 頁。
3)
山浦久司(2008)『会計監査論(第 5 版)』中央経済社、219 頁。
4)
企業会計審議会(2002)「監査基準の改訂について」三・4。
5)
日本公認会計士協会監査基準委員会報告書第 42 号「監査の計画及び実施における重要性(中間報
告)」第 9 項。
6)
丸山恭司・石原俊彦(2011)「地方自治体監査委員監査における監査技術の理論的フレームワー
ク」『ビジネス&アカウンティングレビュー』第 7 号、87 頁。
7)
日本公認会計士協会監査基準委員会報告書第 39 号「評価したリスクに対応する監査人の手続(中
- 66 -
間報告)」(以下、「第 39 号」という)、A41 項。
8)
日本公認会計士協会監査基準委員会報告書第 55 号「分析的手続(中間報告)」、3 項。
9)
丸山恭司・石原俊彦(2011)、80~83 頁。
10)
企業会計審議会(2005)「監査基準の改訂について」。
11)
日本公認会計士協会監査基準委員会報告書第 38 号「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚
偽表示のリスクの識別と評価(中間報告)」(以下、「第 38 号」という)、第 25 項。
12)
「第 38 号」第 26 項。
13)
「第 39 号」Ⅲ適用指針 A1 項。
14)
日本公認会計士協会監査基準委員会報告書第 44 号「会計上の見積りの監査(中間報告)」
(以下、
「第 44 号」という)、第 6 項。
15)
「第 44 号」第 7 項。
16)
「第 44 号」第 9~10 項。
17)
日本公認会計士協会監査基準委員会報告書第 56 号「経営者確認書(中間報告)」第 10 項。
- 67 -
第5章
実施基準
5-1
他の監査人の監査結果の利用
第三
1
実施基準
四
四
他の監査人等の利用
他の監査人等の利用
監査人は、他の監査人によって行われた監査の結果を利用する場合には、他の監査
人の品質管理の状況等に基づく信頼性の程度を勘案して、他の監査人の実施した監査の
結果を利用する程度及び方法を決定しなければならない。
1
趣旨
他の監査人の監査結果を利用するケースは少ないと思われるが、利用する場合には、当
該他の監査人の信頼性を評価し、利用方法等を決定する必要がある。
2
解説
(1)他の監査人の監査結果を利用するケース
地方公共団体の決算書の監査において、監査人(本項で、以下「主たる監査人」という。)
が他の監査人の監査の結果を利用するケースとしては、健全化判断比率等の監査で、将来
負担比率の損失補償債務等に係る一般会計等負担見込額の算定に標準評価方式のうちの財
務諸表評価方式を採用したときに、対象となる法人等を他の監査人が監査している場合が
考えられる。また、地方公営企業の会計基準が変更され、貸倒引当金や債務保証引当金等
の計上が強制されることとなった場合、他の監査人の監査結果を利用するケースが生じる
可能性があると考えられる。
(2)他の監査人の監査結果を利用する場合の手続
他の監査人の監査結果を利用する場合でも、責任を分担するものではなく、監査に関わ
る責任は主たる監査人が負うことになる。したがって、主たる監査人は、他の監査人の品
質管理の状況等を検討し、監査が適切に実施されているかどうかを評価し、その結果に基
づき、他の監査人の監査結果を利用するかどうかの判断、および監査結果を利用する場合
に利用する程度の決定を行うこととなる。
- 68 -
5-2
第三
2
専門家の業務の利用
実施基準
四
他の監査人等の利用
監査人は、専門家の業務を利用する場合には、専門家としての能力及びその業務の
客観性を評価し、その業務の結果が監査証拠として十分かつ適切であるかどうかを検討
しなければならない。
1
趣旨
専門家の業務を利用するケースは少ないと思われるが、利用する場合には、専門家の能
力、客観性、業務の方法および結果を検討する必要がある。
2
解説
(1)専門家の業務を利用するケース
ここで、専門家とは、会計および監査以外の特定分野における専門的知識および実務能
力を有する者をいい、例えば、弁護士、不動産鑑定士、情報処理技術者等が該当する。
地方公共団体の決算書の監査において、監査人が専門家の業務を利用するケースとして
は、健全化判断比率等の監査における次の場合に、不動産鑑定士の業務の利用が考えられ
る。
①
連結実質赤字比率または将来負担比率の計算での、宅地造成事業(公営企業)にお
ける土地の売却による収入見込額の算定
②
将来負担比率の計算での、土地開発公社が保有する自主事業用地の時価の算定
③
将来負担比率の計算での、第3セクターの保有する土地の時価の算定
また、地方公営企業の会計基準が変更され、引当金の強制計上や減損会計の適用が行わ
れることとなった場合、弁護士や不動産鑑定士の業務を利用するケースが生じる可能性が
あると考えられる。
(2)専門家の業務を利用する場合の手続
監査人が専門家の業務を利用する場合には、専門家としての能力と業務の客観性を評価
することが必要である。
専門家としての能力については、専門職業団体への登録の有無、監査人が業務を利用し
ょうとする分野についての過去の実績、経験、評判等を調査し、その業務の利用によって、
必要な監査証拠が得られるかどうかを検討する必要がある。
業務の客観性については、客観性を損なう可能性があるかどうかを検討しなければなら
ない。例えば、その専門家が、被監査地方公共団体と顧問契約関係にある、被監査地方公
共団体から業務の委託を受けている、被監査地方公共団体の特別職に就任している等とい
- 69 -
った利害関係がある場合には、業務の客観性に影響を与える可能性があると考えられる。
なお、このような場合でも、業務の客観性を確保できると評価した場合には、その専門家
の業務を利用することができる。
専門家の業務を利用した場合には、その結果が、監査証拠として十分かつ適切であるか
どうかを評価しなければならない。そのためには、専門家の行った業務の方法、使用した
基礎資料、結論に至る過程等を検討する必要がある。
5-3
第三
3
内部監査の利用
実施基準
四
他の監査人等の利用
監査人は、地方公共団体の内部監査の目的及び手続が監査人の監査の目的に適合す
るかどうか、内部監査の方法及び結果が信頼できるかどうかを評価した上で、内部監査
の結果を利用できると判断した場合には、決算書の項目に与える影響等を勘案して、そ
の利用の程度を決定しなければならない。
1
趣旨
内部監査を利用することにより、監査を効率的に実施できることになるが、利用する場
合には、内部監査が信頼できるものかどうかを検討する必要がある。
2
解説
(1)内部監査利用の効果
内部監査は、内部統制の構成要素であるモニタリングにおける主要な機能である。監査
人は、監査計画の策定に際して、内部統制の理解の一部として内部監査の状況を理解する
必要がある。また、内部監査を利用して、監査の効率化を図ろうとする場合、内部監査の
実施状況を確かめなければならない。内部監査を利用することにより、次のとおり、監査
を効率的にすすめることが可能になる。
①
内部監査の有効性が高い場合、重要な虚偽表示のリスクが低減されるので、それに
応じた監査手続の種類、その実施時期および実施範囲を決定することにより、監査の
効率化を図ることができる。
②
特定の内部監査業務の結果を、実証手続の監査証拠の一部として採用することによ
り、監査手続の実施範囲を縮小できる。
(2)内部監査を利用する場合の手続
内部監査を利用するには、以下の項目を検討する必要がある。
- 70 -
① 内部監査の目的と実施範囲
内部監査の目的や実施範囲が、地方公共団体の決算書の監査に関連しているかどう
かを確かめる必要がある。現行の内部監査である監査委員監査で実施されている定期
財務監査や例月出納検査は、決算書の監査との関連性が強い場合が多いと考えられる。
②
内部監査人の地方公共団体での位置づけ
内部監査人の監査対象部署からの独立性の程度を確かめる必要がある。現行の監査
委員事務局職員の独立性は、人事権、人事評価、他の業務の兼任等によって程度が様々
であると考えられる。
③
内部監査人の専門的能力
内部監査を適切に実施し得るための知識(地方公共団体の業務、法律、財政、会計、
監査等に関する知識)と十分な経験を有する者が、内部監査人に就任しているかどう
か確かめることが必要である。また、研修に関する方針が確立されており、それにし
たがって必要な研修が実施されているかどうかについても確かめる必要がある。
④
内部監査の品質管理状況
内部監査が適切に、計画され、監督され、査閲されているかどうか、また、計画か
ら監査の結論・監査意見に至るまでの一連の業務が文書化され、保管されているかど
うかを確かめ、内部監査が一定の品質管理のルールにしたがい、適切に実施されてい
るかどうかを検討する必要がある。
- 71 -
第6章
報告基準
わが国の「監査基準」は、その前文で「監査報告基準は、およそ職業的監査人が行う正
規の財務諸表監査における監査報告に関する根本原則である」と述べるとともに、報告基
準の設定意義として、
「監査報告書は、監査人の監査意見の表明の手段として大切な役割を
果たすことになるため、その内容は簡潔明瞭に記載して報告するとともに、責任の範囲を
明確に記載して意見を表明することは、利害関係者ばかりではなく、監査人自身の利益を
擁護するためにも重要である」と規定しており、ここに、報告基準の設定の必要性を見出
すことができる。
職業的監査人による地方公共団体決算書監査に関する監査報告書においても、「監査基
準」における監査報告書と同様の役割が期待されるため、地方公共団体監査基準(案)・報
告基準についても、基本的には「監査基準」と大きく変わるところはないと考えられる。
職業的監査人による地方公共団体監査においては、監査人は地方公共団体の決算書に対
して監査を実施した結果得られた決算書の適正性に関する結論を監査意見として、監査報
告書に記載しなければならない。監査報告書は、地方公共団体の決算書に添付して公表さ
れることになり、監査報告書が決算書の信頼性を保証するとともに、決算書に対する利用
者の判断の拠り所ともなるのである。
地方公共団体監査基準(案)の第一「地方公共団体監査の目的」では、「地方公共団体監
査の目的は、地方公共団体が作成した決算書が、一般に公正妥当と認められる地方公会計
の基準に準拠して、財政状態と純資産の変動、収支およびキャッシュ・フローの状況をす
べての重要な点において適正に表示しているかどうかについて、決算書作成の背景にある
業務執行全般を含めて、監査人が自ら入手した証拠に基づいて判断した結果を意見として
表明することにある」と規定されているように、地方公共団体の長の作成した決算書が当
該地方公共団体の財政状態と純資産の変動、収支およびキャッシュ・フローの状況をすべ
ての重要な点において適正に表示しているかどうかについて、監査人が監査意見を表明す
るのが監査の目的である。
この目的基準を受けて、報告基準は、
「一
基本原則」、
「二
監査報告書の記載区分」、
「三
無限定適正意見の記載事項」、
「四 意見に関する除外」、
「五
監査範囲の制約」および「六
追記情報」に区分して規定されることになる。
基本原則とは、監査人が監査意見の表明に当たっての必要事項を採り上げるものであり、
次の5つがある。
- 72 -
6-1
第四
意見表明に関する原則
1
報告基準
一
基本原則
監査人は、地方公共団体の長の作成した決算書が、一般に公正妥当と認められる地方
公会計の基準に準拠して、地方公共団体財政状態と純資産の変動、収支およびキャッシ
ュ・フローの状況すべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて意見を
表明しなければならない。
1
趣旨
この原則は、監査人の意見表明に関して規定している。すなわち、目的基準との関係か
ら、監査人の監査意見の表明に関して規範的に規定される内容となっており、監査報告書
の具体的な記載に関して述べるものである。
2
解説
監査報告書は、監査の対象、実施した監査の概要および決算書に対する監査意見を記載
した報告書をいう。住民は、行政活動の適切性に関する判断を決算書を通して行うが、監
査報告書は、決算書が利用者である住民の判断にとって必要かつ十分な情報が適切な表示
方法に従って開示されているかどうかについての監査人に意見を記載している。
また、監査報告書は、監査人による監査意見の表明の手段であるとともに、監査人が表
明した監査意見に関する自己の責任を認める手段でもある。監査人が監査報告書に自己の
責任の範囲を明示的に記載することは、監査人自身の利益を擁護することはもちろん、住
民が決算書を利用して行政に対する適切な判断を行えるようにすることでもある。
6-2
第四
2
基準準拠性と意見表明の判断に関する原則
報告基準
一
基本原則
監査人は、決算書が一般に公正妥当と認められる地方公会計の基準に準拠して適正に
表示されているかどうかの判断に当たっては、地方公共団体の長が採用した会計方針が、
地方公会計の基準に準拠して継続的に適用されているかどうかのみならず、その選択及び
適用方法が会計事象や取引を適切に反映するものであるかどうか並びに決算書の表示方
法が適切であるかどうかについても評価しなければならない。
1
趣旨
この原則は、地方公会計基準への基準準拠性と意見表明の判断に関して、監査人の実質
- 73 -
的な判断を求めることを規定している。
2
解説
監査人は、決算書が地方公会計基準に準拠して適正に表示されているかどうかの判断に
あたって、次の3つの点について評価しなければならない。
①
地方公共団体の長が採用した会計方針が地方公会計の基準に準拠し、継続的に適用
されているかどうか
②
会計方針の選択および適用方法が会計事象や取引を適切に反映するものであるかど
うか
③
決算書の表示方法が適切であるかどうか
監査人によるこれら3点に関する評価結果が肯定される場合、監査人は無限定適正意見
を表明するのであり、いずれか、あるいはいくつかの点で否定される評価結果となった場
合は、それらの重要性の程度によって、限定付適正意見か不適正意見を表明する。
この基本原則で注意しなければならないのは、決算書が形式的に地方公会計の基準に準
拠性しているかどうかではなく、実質的な判断が監査人に求められるということである。
監査人の実質的な判断とは、地方公共団体の長が決算書の作成において、会計事象や取
引の実態に基づいた判断を行ったかどうかの検討を踏まえ、監査人が当該決算書の適正性
を判断しなければならないのであり、会計事象や取引を法律や規則への形式的な準拠だけ
で判断してはならないとするものである。
すなわち、監査人は、決算書の適正性に関する判断にあたり、長が採用した会計方針が
会計基準のいずれかに準拠し、かつ、当該会計方針が継続して適用されているかどうかだ
けではなく、当該会計方針の選択・適用が会計事象や取引に実態を適切に反映するもので
あるかどうかについての判断が求められているのであり、このような判断の上に、決算書
の表示が住民の理解可能な様式で適切に表示されているかどうかを判断するのである。
6-3
第四
3
監査リスクと合理的な基礎に関する原則
報告基準
一
基本原則
監査人は、監査意見の表明に当たっては、監査リスクを合理的に低い水準に抑えた上
で、自己の意見を形成するに足る基礎を得なければならない。
1
趣旨
この原則は、監査人が監査意見の表明にあたって、監査リスクと合理的な基礎との関係
についてどのように対応しなければならないかに関して規定している。
- 74 -
2 解説
監査がリスク・アプローチを前提としているため、監査リスクの水準と監査意見形成の
ための合理的な基礎との関係を明確にしておくことが必要とされるのである。
決算書に重要な虚偽表示が含まれる可能性は、低い水準に抑えているとの保証がなけれ
ばならない。そのためには、監査人は監査意見の形成に当たって、合理的な基礎を得なけ
ればならないのである。
合理的な基礎とは、監査人が決算書全体に関する自己の意見を形成するために、監査人
によって入手された、必要かつ十分な監査証拠について総合的に評価・吟味した結果得た
基礎のことである。
監査人は、監査の過程で入手した必要かつ十分な監査証拠に対して、決算書全体の観点
から総合的に評価・吟味することで、合理的な基礎を得る。そのため、合理的な基礎が得
られた場合に、無限定適正意見、限定付適正意見あるいは不適正意見を表明することが可
能となる。
6-4
第四
4
意見の不表明に関する原則
報告基準
一
基本原則
監査人は、重要な監査手続を実施できなかったことにより、自己の意見を形成するに
足る基礎を得られないときは、意見を表明してはならない。
1
趣旨
この原則は、合理的な基礎が形成できなかった場合、意見を表明してはならないことに
関して規定している。
2
解説
被監査公共団体による重要な監査手続の制約等によって、監査人は自己の意見を形成す
るに足る合理的な基礎が得られない場合がある。この場合は、監査人は合理的な基礎がな
いのであるから、監査意見を表明してはならず、意見不表明としなければならない。
必要な監査手続を実施することができたかどうか、あるいは、監査手続の中でも重要な
監査手続が実施できたかどうかに関しては、合理的な基礎の形成に重要な影響を与えるこ
とになる。そのため、目的基準にもあるように、監査人は決算書の適正性について監査意
見を表明することを目的としており、本原則にあるように、合理的な基礎が形成されなか
った場合には監査意見の表明をしないということは、本来的には認められるべきではない
であろう。
- 75 -
しかしながら、合理的な基礎の形成がなされなかったにもかかわらず監査意見が表明さ
れたとすれば、住民を中心とする利用者にとって、かかる監査意見は意味を有さないどこ
ろか、監査意見の信頼性を損なうとともに、ひいては、決算書監査全体に対する社会的信
頼性を大きく損なうことにもなる。
他方、このような場合に、監査人に監査意見の表明を強制するとしたら、監査人には過
重な責任を負わせる結果となることは言うまでもなく、したがって、監査人に監査意見を
表明しないという判断が認められるのである。
6-5
第四
5
意見表明の審査に関する原則
報告基準
一
基本原則
監査人は、意見の表明に先立ち、自らの意見が一般に公正妥当と認められる地方公監
査の基準に準拠して適切に形成されていることを確かめるため、意見表明に関する審査を
受けなければならない。この審査は、品質管理の方針及び手続に従った適切なものでなけ
ればならない。
1
趣旨
この原則は、監査人が監査意見を表明するに先立ち、当該監査が、一般に公正妥当と認
められる地方公監査の基準に準拠して適切に実施され、監査意見が形成されているかどう
かを確かめるために、監査意見の表明のための審査を受けなければならないこと関して規
定している。
2
解説
監査の品質管理に関して、一般基準6で、「監査を実施する監査事務所は、監査業務の品
質を確保するために、監査契約の締結・更新から監査報告書の発行に至る監査の全過程に
おいて、品質管理のためのシステムを整備し運用しなければならない。」としており、かか
る基準を受けて、報告基準においても本原則を設定するものである。
監査の品質は、監査が社会的に受容されるかどうかの重要な要因である。監査人が審査
を受けずに監査意見の表明を行うとした場合、不十分な状況で監査意見の表明が行われる
可能性があるため、かかる監査は、監査人が正当な注意を払って実施した結果としての監
査意見の表明とはならない。監査の社会的信頼性を獲得・維持するためには、審査機能を
とおして、監査意見の表明は行われなければならないのである。
以上が報告基準の基本原則における各原則に係る規定内容である。基本原則は、報告基
- 76 -
準全体に及ぶものであり、以下の個別原則に係る基準を規範的に制約することになる。
6-6
第四
監査報告書の記載区分に関する基準
1
報告基準
二
監査報告書の記載区分
監査人は、監査報告書において、監査の対象、地方公共団体の長の責任、監査人の責
任、監査人の意見を明瞭かつ簡潔にそれぞれを区分した上で、記載しなければならない。
ただし、意見を表明しない場合には、その旨を監査報告書に記載しなければならない。
1
趣旨
この基準は、監査報告書の記載区分に関して規定している。
2
解説
監査報告書は、基本的には、「監査の対象」、
「実施した監査の概要」および「決算書に対
する意見」の3つに区分される。各区分は、導入区分、範囲区分および意見区分と呼ぶが、
各区分は、明瞭かつ簡潔に記載されなければならない。なお、監査人が合理的な基礎の形
成ができずに監査意見を表明しない場合は、その旨を監査報告書に記載しなければならな
いことになる。
6-7
第四
2
追記情報と意見表明との区分に関する基準
報告基準
二
監査報告書の記載区分
監査人は、決算書の記載について強調する必要がある事項及び説明を付す必要がある
事項を監査報告書において情報として追記する場合には、意見の表明とは明確に区別しな
ければならない。
1
趣旨
この基準は、監査報告書に追記情報を記載する場合の区分に関して規定している。
2
解説
監査人は、監査報告書で監査意見の表明を行う。しかしながら、監査人が決算書に表示
または開示されている事項について、強調することが適当であると判断した場合、および
監査人がその他説明することが適当と判断した事項については、監査意見の表明の区分と
- 77 -
は明確に区別して、監査報告書には追記情報として区分して記載するとともに、さらに、
追記情報区分は「強調事項区分」と「その他の事項区分」に分けて記載しなければならな
い。
無限定適正意見の記載方法に関する基準
6-8
第四
報告基準
三
無限定適正意見の記載方法
監査人は、地方公共団体の長の作成した決算書が、一般に公正妥当と認められる地方公
会計の基準に準拠して、地方公共団体の財政状態と純資産の変動、収支およびキャッシ
ュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示していると認められると判断し
たときは、その旨の意見(この場合の意見を「無限定適正意見」という。)を表明しなけ
ればならない。この場合には、監査報告書に次の記載を行うものとする。
(1)監査の対象
監査対象とした決算書の範囲
(2)地方公共団体の長の責任
決算書の作成責任は地方公共団体の長にあること、決算書に重要な虚偽の表示がない
ように内部統制を整備及び運用する責任は地方公共団体の長にあること
(3)監査人の責任
監査人の責任は独立の立場から決算書に対する意見を表明することにあること
一般に公正妥当と認められる地方公監査の基準に準拠して監査を行ったこと、地方公
監査の基準は監査人に決算書に重要な虚偽の表示がないかどうかの合理的な保証を得
ることを求めていること、監査は決算書項目に関する監査証拠を得るための手続を含む
こと、監査は地方公共団体の長が採用した会計方針及びその適用方法並びに地方公共団
体の長によって行われた見積りの評価も含め全体としての決算書の表示を検討してい
ること、監査手続の選択及び適用は監査人の判断によること、決算書監査の目的は、内
部統制の有効性について意見表明するためのものではないこと、監査の結果として入手
した監査証拠が意見表明の基礎を与える十分かつ適切なものであること
(4)監査人の意見
地方公共団体の長の作成した決算書が、一般に公正妥当と認められる地方公会計の基
準に準拠して、地方公共団体の財政状態と純資産の変動、収支およびキャッシュ・フロ
ーの状況をすべての重要な点において適正に表示していると認められること
1
趣旨
この基準は、監査人が無限定適正意見を表明する際の監査報告書の記載方法に関して規
- 78 -
定している。
2 解説
監査報告書の記載区分に関する基準の1で規定される内容に関して、より具体的に記載
事項に関して規定するものであり、次のように、導入区分、範囲区分および意見区分の各
区分についての記載事項を取扱っている。
(1)導入区分の記載事項
導入区分は、
「監査の概要」について記載する区分であり、次の3つの事項が記載される。
①
監査の対象とした決算書の範囲
監査の対象となった決算書が当該地方公共団体の何年度の決算書であるかを明示にす
ることで、監査人が行う保証の範囲と監査人自身の責任の範囲を明確にしている。
②
決算書に対する地方公共団体の長の責任
監査は二重責任の原則の考え方を成立基盤としていること。すなわち、二重責任の原
則とは、地方公共団体の決算書の監査を前提にすれば、決算書の作成責任は当該地方公
共団体の長にあることを明示することで、利用者の理解を促すことになる。
③監査人の責任
②の二重責任の原則における他方の責任である、監査人の責任について記載する。監
査人の責任は、地方公共団体の長が作成した決算書に対して表明した監査意見にあり、
監査報告書で監査人の責任を明示することにより、利用者の理解を促すことになる。
(2)範囲区分の記載事項
範囲区分は、「実施した監査の概要」について記載する区分であり、次の5つの事項が記
載される。
①
一般に公正妥当と認められる地方公監査の基準に準拠して監査を行ったこと
監査報告書に監査人が監査の実施にあたって一般に公正妥当と認められる地方公監査
の基準に準拠したことを記載することは、当該決算書監査が地方公監査の基準で求めら
れている一定レベル以上の監査が実施されたことを決算書の利用者に保証することにな
る。また、一般に公正妥当と認められる地方公監査の基準に準拠することで、地方公監
査の基準が監査人に求める義務を当該監査人が履行したことを意味することになるため、
監査人の責任の範囲が明らかになる。
②
地方公監査の基準は、監査人に決算書に重要な虚偽の表示がないかどうかの合理的
な保証を得ることを求めていること
財務諸表監査と同様に、決算書監査においても固有の限界があるため、監査人による
保証は絶対的な保証を意味するのではなく、合理的な保証にとどまる。そのために、監
査人による無限定適正意見の表明においても、決算書には重要な虚偽の表示が存在しな
- 79 -
いことを保証するものではない。
③
監査は試査を基礎として行われること
決算書監査は、試査によって実施されること原則としており、試査による監査が地方
公監査の特徴的な性格である。
④
監査は地方公共団体の長が採用した会計方針およびその適用方法、ならびに地方公
共団体の長によって行われた見積りの評価も含め全体として決算書の表示を検討してい
ること
決算書には地方公共団体の長による見積りが多分に含まれており、このことが、決算
書の性格的な特徴であると認めることができる。
そのため監査人は、当該監査において、決算書が地方公会計の基準への形式的準拠性
を確認するのではなく、実質的判断が求められているのである。この場合の実質的判断
とは、地方公共団体の長が採用した会計方針やその適用方法、地方公共団体の長が行っ
た見積りを含めて、決算書が全体として適正に表示されているかどうかを検討すること
である。
⑤
監査の結果として、監査意見表明のための合理的な基礎を得たこと
監査が地方公監査の基準に準拠して行われ、監査意見を表明するための合理的な基礎
を得たことを明らかにすることで、決算書の利用者が監査意見の保証水準を理解可能と
なる。
(3)意見区分の記載事項
意見区分は、「決算書に対する意見」について記載する区分であり、次の事項が記載され
る。
地方公共団体の長が作成した決算書が、当該団体の財政状態と純資産の変動、収支およ
びキャッシュ・フローの状況について、①一般に公正妥当と認められる地方公会計の基準
に準拠していること、②すべての重要な点において適正に表示していると認められること
の2点ついて記載しなければならない。この記載により、決算書の適正性が明らかになり、
利用者が安心して当該決算書を利用することができることになるのである。
以上のような無限定意見の記載方法から無限定適正意見監査報告書の様式を提示すれば、
以下のようになる。
- 80 -
ひな型 1
決算書に対する監査報告書
(無限定適正意見の文例)
独立監査人の監査報告書
平成××年×月×日
○○県知事
○○○○
殿
○○○○ 監 査 法 人
指定社員
業務執行社員
指定社員
業務執行社員
公認会計士 ○○○○ 印
公認会計士 ○○○○ 印
当監査法人は、地方自治法第233条第2項及び第4項、ならびに地方公営企業法第30条第2項及び第3項
の規定に基づく監査証明を行うため、○○県の平成××年4月1日から平成××年3月31日までの会計年
度の決算書について監査を行った。
決算書に対する○○県知事の責任
○○県知事の責任は、我が国において一般に公正妥当と認められる地方公会計の基準に準拠して決算
書を作成し適正に表示することにある。これには、不正又は誤謬による重要な虚偽表示のない決算書を
作成し適正に表示するために知事が必要と判断した内部統制を整備及び運用することが含まれる。
監査人の責任
当監査法人の責任は、当監査法人が実施した監査に基づいて、独立の立場から決算書に対する意見を
表明することにある。当監査法人は、我が国において一般に公正妥当と認められる地方公監査の基準に
準拠して監査を行った。地方公監査の基準は、当監査法人に決算書に重要な虚偽表示がないかどうかに
ついて合理的な保証を得るために、監査計画を策定し、これに基づき監査を実施することを求めている。
監査においては、決算書の金額及び開示について監査証拠を入手するための手続が実施される。監査
手続は、当監査法人の判断により、不正又は誤謬による決算書の重要な虚偽表示のリスクの評価に基づ
いて選択及び適用される。決算書監査の目的は、内部統制の有効性について意見表明するためのもので
はないが、当監査法人は、リスク評価の実施に際して、状況に応じた適切な監査手続を立案するために、
決算書の作成と適正な表示に関連する内部統制を検討する。また、監査には、知事が採用した会計方針
及びその適用方法並びに知事によって行われた見積りの評価も含め全体としての決算書の表示を検討
することが含まれる。
当監査法人は、意見表明の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手したと判断している。
監査意見
当監査法人は、上記の決算書が、我が国において一般に公正妥当と認められる地方公会計の基準に準
拠して、○○県及び同県が経営する地方公営企業の平成××年3月31日現在の財政状態と純資産の変動、
収支およびキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示しているものと認める。
利害関係
○○県と当監査法人又は業務執行社員との間には、○○法の規定により記載すべき利害関係はない。
以上
- 81 -
6-9
第四
1
意見区分における除外事項と限定付適正意見に関する基準
報告基準
四
意見に関する除外
監査人は、地方公共団体の長が採用した会計方針の選択及びその適用方法、決算書の
表示方法に関して不適切なものがあり、その影響が無限定適正意見を表明することができ
ない程度に重要ではあるものの、決算書を全体として虚偽の表示に当たるとするほどでは
ないと判断したときには、除外事項を付した限定付適正意見を表明しなければならない。
この場合には、別に区分を設けて、除外した不適切な事項及び決算書に与えている影響を
記載しなければならない。
1
趣旨
この基準は、監査人が無限定適正意見を表明できないケースのうち、会計方針の選択や
その適用方法、決算書の表示方法が不適切ではあるが、決算書全体に対して、重要な虚偽
の表示が含まれているとまではいえないことを原因とする場合の監査意見の表明に関して
規定している。
2
解説
会計方針の選択やその適用方法、決算書の表示方法に不適切な事項を含まれており、そ
の結果、監査人によって無限定適正意見を表明できなくする事項を除外事項という。
監査人は、決算書に除外事項が含まれている場合、当該除外事項の重要性を判断しなけ
ればならない。もし、除外事項が重要であり、そのために無限定適正意見を表明すること
はできないが、その影響が決算書全体に対して重要な虚偽の表示に相当するほどの重要性
はないと判断した場合には、除外事項を付した限定付適正意見が表明される。
監査人は、除外事項を付した限定付適正意見を表明する場合は、意見区分とは別に区分
を設けて当該除外事項を記載するとともに、決算書に与えている影響を記載しなければな
らない。
- 82 -
ひな型 2
決算書に対する監査報告書
(意見区分の除外事項を付した限定付適正意見の文例)
当監査法人は、地方自治法第233条第2項及び第4項、ならびに地方公営企業法第30条第2項及び第3項
の規定に基づく監査証明を行うため、○○県の平成××年4月1日から平成××年3月31日までの会計年
度の決算書について監査を行った。
決算書に対する○○県知事の責任
(ひな型1に同じ)
監査人の責任
(ひな型1に同じ)
意見区分の除外事項を付した限定付適正意見の根拠
○○県は、………について、………ではなく、………により計上している。わが国において一般に公
正妥当と認められる地方公会計の基準に準拠していれば、………を計上することが必要である。
限定付適正意見
当監査法人は、上記の決算書が、「意見区分の除外事項を付した限定付適正意見の根拠」に記載した
事項の決算書の対する及ぼす影響を除き、我が国において一般に公正妥当と認められる地方公会計の基
準に準拠して、○○県及び同県が経営する地方公営企業の平成××年3月31日現在の財政状態と純資産
の変動、収支およびキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示しているものと
認める。
利害関係
(ひな型1に同じ)
以上
- 83 -
6-10 不適正意見に関する基準
第四
2
報告基準
四
意見に関する除外
監査人は、地方公共団体の長が採用した会計方針の選択及びその適用方法、決算書の
表示方法に関して不適切なものがあり、その影響が決算書全体として虚偽の表示に当たる
とするほどに重要であると判断した場合には、決算書が不適正である旨の意見を表明しな
ければならない。この場合には、別に区分を設けて、決算書が不適正であるとした理由を
記載しなければならない。
1
趣旨
この基準は、監査人が無限定適正意見を表明できないケースのうち、会計方針の選択や
その適用方法、決算書の表示方法が不適切であり、そのため、決算書全体に対して重要な
虚偽の表示が含まれていると判断した場合の監査意見の表明に関して規定している。
2
解説
会計方針の選択やその適用方法、決算書の表示方法に関する除外事項が著しく重要であ
り、監査人は決算書全体が重要な虚偽の表示にあたると判断した場合には、もはや除外事
項を付した限定付適正意見の表明では適切ではなく、不適正意見を表明しなければならな
い。
監査人は、不適正意見を表明する場合、意見区分の前に区分を設けて、決算書が不適正
である旨、その理由およびその影響を示したうえで、意見区分において不適正意見を表明
することになる。
- 84 -
ひな型 3
決算書に対する監査報告書
(不適正意見の文例)
当監査法人は、地方自治法第233条第2項及び第4項、ならびに地方公営企業法第30条第2項及び第3項
の規定に基づく監査証明を行うため、○○県の平成××年4月1日から平成××年3月31日までの会計年
度の決算書について監査を行った。
決算書に対する○○県知事の責任
(ひな型1に同じ)
監査人の責任
(ひな型1に同じ)
不適正意見の根拠
○○県は、………について、………ではなく、………により計上している。わが国において一般に公
正妥当と認められる地方公会計の基準に準拠していれば、………を計上することが必要である。
不適正意見
当監査法人は、上記の決算書が、「不適正意見の根拠」に記載した事項の決算書に及ぼす影響の重要
性に鑑み、我が国において一般に公正妥当と認められる地方公会計の基準に準拠して、○○県及び同県
が経営する地方公営企業の平成××年3月31日現在の財政状態と純資産の変動、収支およびキャッシ
ュ・フローの状況を適正に表示していないものと認める。
利害関係
(ひな型1に同じ)
以上
- 85 -
6-11 範囲区分における除外事項と限定付適正意見に関する基準
第四
1
報告基準
五
監査範囲の制約
監査人は、重要な監査手続を実施できなかったことにより、無限定適正意見を表明す
ることができない場合において、その影響が決算書全体に対する意見表明ができないほど
ではないと判断したときには、除外事項を付した限定付適正意見を表明しなければならな
い。この場合には、別に区分を設けて、実施できなかった監査手続及び当該事実が影響す
る事項を記載しなければならない。
1
趣旨
この基準は、監査人が無限定適正意見を表明できないケースのうち、監査人が、監査範
囲の制約のため、すなわち、重要な監査手続を実施できなかったことにより、十分かつ適
切な監査証拠が入手できなかったが、決算書全体に及ぼす可能性のある影響は重要ではあ
るが広範であるとまではいえないために、意見表明ができないほどではないと判断した場
合の監査意見の表明に関して規定している。
2
解説
監査人は、決算書に対する意見を形成するに足る合理的な基礎を得るために、監査計画
を策定し、監査手続を実施するが、状況によっては重要な監査手続が実施できない場合が
ある。このことを監査範囲の制約というが、監査人は、監査範囲の制約を受けた場合、当
該制約を除外事項としなければならず、除外事項の影響が決算書全体に対する意見の表明
ができないほどには著しく重要ではないと判断したときには、除外事項を付した限定付適
正意見を表明しなければならない。その場合は、範囲区分と意見区分との間に除外事項を
記載する区分を設け、当該区分に、実施できなかった監査手続および当該除外事項が及ぼ
す影響を記載しなければならない。
なお、監査範囲の制約となる要因としては、以下のものが挙げられる。
①
被監査公共団体の会計記録の整備の不十分性による制約
・被監査公共団体の内部統制に不備があり、必要な会計記録の保存がないこと
・災害等により、重要な事業所等の会計記録が消滅したこと
②
必要かつ十分な監査証拠の不入手による制約
・被監査公共団体の長による確認書が入手できなかったこと
・被監査公共団体が有している会計証拠の提供を拒否されたこと
- 86 -
ひな型 4
決算書に対する監査報告書
(範囲区分の除外事項を付した限定付適正意見の文例)
当監査法人は、地方自治法第233条第2項及び第4項、ならびに地方公営企業法第30条第2項及び第3項
の規定に基づく監査証明を行うため、○○県の平成××年4月1日から平成××年3月31日までの会計年
度の決算書について監査を行った。
決算書に対する○○県知事の責任
(ひな型1に同じ)
監査人の責任
(ひな型1に同じ)
範囲区分の除外事項を付した限定付適正意見の根拠
○○県は、………している。当監査法人は、………できなかったため、………について、十分かつ適
切な監査証拠を入手することができなかった。
したがって、当監査法人は、これらの金額に修正が必要となるかどうかについて判断することができ
なかった。
限定付適正意見
当監査法人は、上記の決算書が、「範囲区分の除外事項を付した限定付適正意見の根拠」に記載した
事項の決算書に及ぼす可能性のある場合を除き、我が国において一般に公正妥当と認められる地方公会
計の基準に準拠して、○○県及び同県が経営する地方公営企業の平成××年3月31日現在の財政状態と
純資産の変動、収支およびキャッシュ・フローの状況すべての重要な点において適正に表示しているも
のと認める。
利害関係
(ひな型1に同じ)
以上
- 87 -
6-12 意見不表明に関する基準
第四
2
報告基準
五
監査範囲の制約
監査人は、重要な監査手続を実施できなかったことにより、決算書全体に対する意見
表明のための基礎を得ることができなかったときには、意見を表明してはならない。この
場合には、別に区分を設けて、決算書に対する意見を表明しない旨及びその理由を記載し
なければならない。
1
趣旨
この基準は、監査人が無限定適正意見を表明できないケースのうち、監査人が、監査範
囲の制約のため、すなわち、重要な監査手続を実施できなかったことにより、十分かつ適
切な監査証拠が入手できなかったことを原因として、決算書全体に及ぼす影響が著しく重
要であり、意見表明ができないと判断した場合の監査意見の表明に関して規定している。
2
解説
監査人は、重要な監査範囲の制約により決算書に対する意見表明のための合理的な基礎
を得ることができなかった場合、監査意見を表明してはならない。その場合は、意見区分
の前に意見不表明の根拠となった理由を記載する区分を設けて、当該区分に合理的な基礎
を得ることができなかったこと、およびその理由を記載し、意見区分において意見不表明
の根拠に記載している内容を理由として、意見を表明しない旨の記載をしなければならな
い。
- 88 -
ひな型 5
決算書に対する監査報告書
(意見不表明の文例)
当監査法人は、地方自治法第233条第2項及び第4項、ならびに地方公営企業法第30条第2項及び第3項
の規定に基づく監査証明を行うため、○○県の平成××年4月1日から平成××年3月31日までの会計年
度の決算書について監査を行った。
決算書に対する○○県知事の責任
(ひな型1に同じ)
監査人の責任
当監査法人の責任は、当監査法人が、我が国において一般に公正妥当と認められる地方公監査の基準
に準拠して実施した監査に基づいて、独立の立場から決算書に対する意見を表明することにある。
しかしながら、「意見不表明の根拠」に記載した事項により、当監査法人は、意見表明の基礎となる
十分かつ適切な監査証拠を入手することができなかった。
意見不表明の根拠
当監査法人は、………(たとえば、立会を実施できなかった理由を記載する)………できず、他の監査
手続によっても十分かつ適切な監査証拠を入手することができなかった。
したがって、当監査法人は、決算書のこれらに関連する項目に関して、何らかの修正が必要かどうか
について判断することができなかった。
意見不表明
当監査法人は、上記の決算書が、「意見不表明の根拠」に記載した事項の決算書に及ぼす可能性のあ
る重要性に鑑み、監査意見の基礎を与える十分かつ適切な監査証拠を入手できなかったため、決算書に
対して意見を表明しない。
利害関係
(ひな型1に同じ)
以上
- 89 -
6-13 他の監査人と意見表明に関する基準
第四
3
報告基準
五
監査範囲の制約
監査人は、他の監査人が実施した監査の重要な事項について、その監査の結果を利用
できないと判断したときに、更に当該事項について、重要な監査手続を追加して実施でき
なかった場合には、重要な監査手続を実施できなかった場合に準じて意見の表明の適否を
判断しなければならない。
1
趣旨
この基準は、監査人が他の監査人が実施した監査の重要な事項の利用ができないと判断
したことに加え、監査人自らが判断した重要な監査手続を追加して実施できなかったこと
により、十分かつ適切な監査証拠が入手できなかったことを原因とする監査意見の表明に
関して規定している。
2
解説
監査人は、当該事項を監査範囲の制約に準じて検討し、当該除外事項の重要性の判断に
より、除外事項を付した限定付適正意見を表明するか、監査意見を表明してはならない。
6-14 未確定事項に関する基準
第四
4
報告基準
五
監査範囲の制約
監査人は、将来の帰結が予測し得ない事象又は状況について、決算書に与える当該事
象又は状況の影響が複合的かつ多岐にわたる場合には、重要な監査手続を実施できなかっ
た場合に準じて意見の表明ができるか否かを慎重に判断しなければならない。
1
趣旨
この基準は、将来の帰結が予測し得ない事象または状況の存在、いわゆる未確定事項の
存在が、決算書に与える当該事象または状況の影響が複合的かつ多岐にわたる場合は、十
分かつ適切な監査証拠が入手できなかったことを原因とする監査意見の表明に関して規定
している。
2
解説
未確定事項とは、たとえば、巨額な損害賠償請求訴訟や係争事件のように、将来に起こ
る事象の結果が監査人には判断できない事象や状況をいうが、監査人は、未確定事項が存
- 90 -
在する場合、監査範囲の制約に準じて、当該未確定事項の重要性を判断し、除外事項を付
した限定付適正意見を表明するか、監査意見を表明してはならない。
6-15 追記情報に関する基準
第四
報告基準
六
追記情報
監査人は、次に掲げる強調すること又はその他説明することが適当と判断した事項は、
監査報告書にそれらを区分した上で、情報として追記するものとする。なお、強調事項の
うち、重要な財務分析結果については、監査対象となった決算書やその作成の基礎データ
に依拠し、当該地方公共団体の財務内容や直面する課題、および、その解決の方策等につ
いて積極的な追記情報を行なわなければならない。
1
強調事項
(1)重要な財務分析結果
(2)正当な理由による会計方針の変更
(3)重要な偶発事象
(4)重要な後発事象
2
その他の事項
(1)財政健全化法の指標の悪化に関する事項
(2)内部統制の有効性に関する事項
1
趣旨
この基準は、追記情報に関する基準であり、報告基準二「監査報告書の記載区分」で規
定されているように、追記情報は、監査意見の表明とは明確に区別して記載することを求
めているとともに、意見区分の次に追記情報区分を設け、当該区分において「強調事項」
と「その他の事項」に区分して記載することに関して規定している。
2
解説
追記情報とは、監査人による事項の強調や説明であり、決算書の利用者への監査人から
の情報提供として監査報告書に記載される情報である。そのため、監査意見の表明や決算
書の信頼性の保証のために記載されるものではない。
追記情報には強調区分の追記情報とその他の事項の2種類からなる。
強調区分の追記情報とは、決算書に表示または開示されている事項について、利用者が
当該決算書を理解する基礎として重要であり、当該事項を強調して利用者の注意を喚起す
- 91 -
る必要があると判断し、かつ、当該事項について、決算書の重要な虚偽記載がないという
十分かつ適切な監査証拠を入手した場合に記載される情報である。強調区分に記載される
追記情報には以下のものが挙げられる。
(1)重要な財務分析結果
(2)正当な理由による会計方針の変更
(3)重要な偶発事象
(4)重要な後発事象
また、その他の事項の追記情報とは、決算書には表示または開示されていない事項につ
いて、監査人が監査人の責任または監査報告書について利用者の理解に関連するため監査
報告書で説明する必要があると判断した場合に記載される情報である。その他の事項の区
分に記載される追記情報には以下のものが挙げられる。
(1)財政健全化法の指標の悪化に関する事項
(2)内部統制の有効性に関する事項
【参考文献】
池田昭義(2000)『地方自治監査の実務:外部監査の仕方・受け方』一藝社。
沖倉強監修(2005)『図解よくわかる自治体監査のしくみ』学陽書房。
全国都市監査委員会(2005)『都市監査基準準則』全国都市監査委員会。
友杉芳正(2009)『新版
第 3 版』中央経済社。
スタンダード監査論
日本公認会計士協会「監査報告書の文例(監査・保証実務委員会実務指針第 85 号)」平成 23 年 7 月
8 日。
日本公認会計士協会「独立監査人の監査報告書における除外事項付意見(監査基準委員会報告書第 61
号)」平成 23 年 7 月 1 日。
日本公認会計士協会「独立監査人の監査報告書における強調事項区分とその他の事項区分(監査基準
委員会報告書第 62 号)」平成 23 年 7 月 1 日。
原典雄(2010)『全訂
監査委員監査実務マニュアル』ぎょうせい。
盛田良久他(2008)『スタンダードテキスト
山浦 久司(2008)『会計監査論
監査論』中央経済社。
第 5 版』中央経済社。
- 92 -
第7章
内部統制の有効性
7-1
財務諸表監査と地方公共団体における内部統制の評価と監査
1
地方公共団体における内部統制と監査の関係
内部統制と監査は密接な関係にある。とりわけ、一定の信頼性を具備する内部統制が整
備されかつ有効に運用されているということは、信頼し得る決算書作成の必要不可欠な条
件であると同時に、効果的かつ効率的な決算書監査実施の大前提となる。
地方公共団体に整備されている内部統制をベースとして、監査事務局職員や監査委員は、
日常の監査業務において精査という方法ではなく、試査(サンプリング)によって監査業
務が実施可能となる。現行の例月出納検査や財務監査は、一定の内部統制の信頼性を前提
として実施されるべきものであり、監査委員等が全数の検査や監査を行うわけではない。
理論上、内部統制に一定の信頼性が認められる地方公共団体では、その信頼性が監査業務
におけるサンプル数を減少する根拠となっている。現行の監査制度においても潜在的に、
こうした内部統制の信頼性の存在を前提としている。
一般基準4に記載のとおり、監査人は不正、誤謬、違法行為および法令違反、法規への
非準拠および資産の濫用の結果、重要な虚偽の表示が財務諸表に含まれる可能性があるこ
とを考慮し、また、これらを防止するための適切な内部統制の存在を確認しなければなら
ないとしている。ここで、不正とは、財務諸表の意図的な虚偽の表示であって、職員また
は第三者による意図的な行為をいい、通常、計上すべき金額を計上しないことまたは必要
な開示を行わないことを含む、決算書の利用者を欺くために決算書に意図的な虚偽の表示
を行う「不正な財務報告」と「資産の流用」のケースがある。地方公共団体では昨今、流
用や預けなどのいわゆる「不適正経理」問題が、都道府県等の会計検査で発見されクロー
ズアップされているが、その多くは、職員による不正な財務報告であるとされている。不
正は、不正に関与しようとする「動機・プレッシャー」、不正を実行する「機会」、不正行
為に対する「姿勢・正当化」に関係している。
監査人は、不正によるか誤謬によるかを問わず、全体としての財務諸表に重要な虚偽の
表示がないことについて合理的な保証を得る。監査における判断、試査、内部統制の固有
の限界等の要因、また、監査人に入手可能な監査証拠の多くは絶対的というより相当程度
の心証を得るものであるため、監査人は重要な虚偽の表示を発見することについて絶対的
な保証を得ることはできない。監査人は、合理的な保証を得るために、監査の全過程を通
じて、職業的懐疑心を保持し、経営者による内部統制の無視のリスクを考慮するとともに、
誤謬を発見するために有効な監査手続が、識別した不正による重要な虚偽表示のリスクと
の関係では適切ではない可能性があるということを認識する。
2009年3月に総務省は、地方公共団体における内部統制のあり方に関する研究会か
- 93 -
ら「内部統制による地方公共団体の組織マネジメント改革- 信頼される地方公共団体を目
指して -」1)を公表している。ここでは、内部統制を地方公共団体における組織マネジメ
ント全般を意味する概念として定義し、内部統制は業務の有効性および効率性、財務報告
の信頼性、資産の保全、法令等の遵守という4つの項目(目的)に関して組織が抱えるリ
スクを軽減するために構築された手続・規定・ルール等であると説明が加えられている。
端的に整理すれば、内部統制とは、地方公共団体が業務の有効性および効率性などの4つ
の目的の実現に関して、それらが達成できない可能性(リスク)を事前に合理的な水準に
まで引き下げるために設定された一連の手続等となる。予算制度はもとより、行政評価シ
ステムなど、これまで多くの地方公共団体が取り組んできた行政経営の手法はすべて、内
部統制を構成していると整理することができる。内部統制の概念は、こうした既存の手法
そのものを、リスクの予防・発見・修正という視点から見直したものにほかならない。
良好な内部統制というマネジメント・システムが構築され、地方公共団体から独立した
監査人が内部統制の信頼性を前提に外部監査というガバナンス行為によって、業務や会計
に関する地方公共団体の行為の正当性が担保されることになる。したがって、内部統制を
整備・運用する責任は、もとより、地方公共団体の首長にある。自治体経営に内部統制の
概念を浸透するには、まず内部統制の構築責任が首長にあるという点を、法令等において
明示する必要がある。首長が責任をもって内部統制の構築に取り組むことで、地方公共団
体のコンプライアンスやVFM(最少の経費で最大の効果)というマネジメント上の諸問題
はかなりの程度解決され、そのもとで監査人は効果的かつ効率的な監査の実施が可能とな
るのである。
2
内部統制監査制度の類型
民間企業では、不祥事とりわけ法令違反を防止するために、平成17年に国会で可決成
立した会社法により、コーポレート・ガバナンスの実行性を担保する目的で、大会社であ
る株式会社の取締役(会)による内部統制の構築を義務付けた。また内部統制に関する事
項等を決定または決議した場合にはその内容を事業報告の内容としなければならず(会社
法施行規則第118条第2号)、内部統制の内容が記載された事業報告およびその附属明細
書を監査役、監査役会あるいは監査委員会が受領したときには、当該内容を監査し、その
内容が相当でないと認めるときはその旨およびその理由を監査報告書に記載しなければな
らない(会社法施行規則第129条、第130条および第131条)
。
他方、米国でエンロンやワールドコムによる企業開示上の不祥事に対応してサーベン
ス・オクスリー法(以下、SOX法という)が制定される一方、わが国においても有価証券
報告書の開示内容など証券取引法上のディスクロージャーをめぐり不適正な事例が発生し
ていることを受け、金融商品取引法により、上場会社による開示の充実の一環として、適
正な財務・企業情報の開示を確保するため、上場会社に対して、事業年度ごとに財務報告
- 94 -
に関する内部統制(財務に関する情報の適正性を確保するための体制)の有効性を評価す
る内部統制報告書の提出を義務付け、公認会計士等による監査の対象とする内部統制監査
制度が設立された。併せて、上場会社に対して、有価証券報告書等の記載内容が法令に基
づき適正である旨の経営者の確認書の提出を義務付け、平成20年4月1日以降に開始す
る事業年度から適用されることとなった。
また、財務報告に係る内部統制の有効性に関する経営者の評価の基準および公認会計士
等による検証の基準については、日本公認会計士協会の監査・保証実務委員会報告第82
号「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」が平成19年10月24日
に公表されており、その後数次の改正がなされている。
なお、米国におけるSOX法に基づく内部統制監査制度は、監査人自らが企業に内部統制
の整備・運用状況を直接、監査し報告するいわゆる「ダイレクト・レポーティング」方式
を採用している。他方、わが国の金融商品取引法に基づく内部統制監査制度においては、
あくまでも企業自身が内部統制について評価した結果(内部統制報告書)をもとに、その
妥当性を監査するといういわゆる「インダイレクト・レポーティング」方式を採用してい
る点が特徴的である。
他方、英国の地方公共団体においては、民間における内部統制および財務報告制度ある
いはコーポレート・ガバナンスの枠組みの進展とともに、地方公共団体の内部統制の範囲
や報告書の内容が拡大・充実するとともに、内部統制監査制度の枠組みも実務規範の数次
の改訂に合わせて統合化され、効率的かつ効果的な監査制度が構築・運営されている。
具体的には、各地方公共団体は毎年、会計報告書(the statements of accounts)の一部を
構成する内部統制報告書(年次ガバナンス報告書)を作成し、外部監査人は、当該報告書
を基に内部統制をレビューし、課題があれば監査報告書に添えてその旨が報告される。な
お、英国の地方公共団体に対する監査には、財務諸表監査と同時に資源の利用に関する経
済性・効率性・有効性に関する監査(Value for Money Audit)も実践されており、この観
点からも内部統制の整備・有効をレビューすることとなる。
以上、民間企業および英国の地方公共団体における現状の内部統制の監査(レビュー)
制度を類型化すると以下のとおりとなる。
- 95 -
図表7-1
対 象
類
インダイレクト・レポーティング
ダイレクト・レポーティング
(経営者の評価結果)
(内部統制そのもの)
型
保証型
内部統制の監査・レビュー制度の類型
わが国の内部統制監査制度
米国SOX法に基づく内部統制
(民間)
監査制度
(民間)
指摘型(レビュー)
英国自治体監査委員会による監
会社法上の監査役の業務監査
査(地方公共団体)
(民間)
※ただし、財務報告の内部統制は
問題があれば財務諸表監査に添
えて報告
※VFM監査は、関連する内部統
制の指摘結果を監査報告書に記
載
3
わが国地方公共団体における内部統制の評価・監査における当面の取扱い
わが国の地方公共団体においても、将来的には民間型の財務報告に係る内部統制評価お
よび内部統制監査制度を導入していく必要があるとの意見もあるが、現状ではすべての地
方公共団体において、「内部統制」について共通の概念を共有することは時期尚早である。
また、一般に公正妥当と認められる内部統制評価の基準も制度化されていない。このため、
民間企業のように直ちに内部統制に係る監査を地方公共団体に導入することは困難である
一方、その前提としての一般に公正妥当と認められる内部統制評価の基準の設定とそれに
基づく各地方公共団体における内部統制整備・運用の準備期間が必要である。
これらの諸事情を勘案し、本基準では、民間企業における内部統制の監査・レビュー制
度を、地方公共団体の制度として利用することは当面見送り、内部統制に係る監査人の報
告は、決算書監査の過程で監査人が発見した内部統制上の重要な不備について、監査報告
書の「内部統制の有効性に関する追記情報(その他の事項)」等により取扱うものと整理し
ている。このような枠組みのもと、地方公共団体において内部統制の整備・運用・評価に
関する理解が定着し意識が高まることを期待し、近い将来において、内部統制監査の基準
を策定するとともに、地方公共団体自らが開示した内部統制報告書をもとに、外部監査人
がレビューあるいは保証型監査を実施する制度体制を構築する必要があるものと考える。
以下では、監査人による地方公共団体における決算書監査を有効かつ効率的に実施する
前提として、地方公共団体の内部統制評価のあり方について考察するとともに、今後、地
方公共団体が財務報告に係る内部統制を整備・運用し適切な評価をできるようにするため
の指針を示すことおよび監査人が決算書監査の過程で発見した場合に検討すべき内部統制
- 96 -
上の重要な不備に関する概念の整理とその方法を示すことを目的とする。
具体的には、
「7-2 内部統制に関する基礎概念と諸原則」において、外部監査人、監
査委員や各担当部局に内部統制の基礎的事項が理解できるように基礎概念や目的、その構
成要素ならびに基本原則等について整理する。また、「7-3 内部統制の有効性に関する
報告」では、決算書監査における監査人による内部統制評価の範囲や方法および監査人が
監査報告に際し検討すべき内部統制上の重要な不備に関して検討する。
なお、この検討にあたっては、主にわが国民間企業においてすでに実践されている内部
統制に関する基準・実務指針すなわち「財務報告に係る内部統制の評価および監査の基準
並びに財務報告に係る内部統制の評価および監査に関する実施基準の改訂について(意見
書)」2)および「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」3)をベースに、地
方公共団体固有の論点を加味していくものとし、内部統制評価に関する記述については、
監査人による内部統制評価に関する判断指針となることはもちろんのこと、今後、地方公
共団体が財務報告に係る内部統制を整備・運用し適切な自己評価をできるようにするため
の指針となるよう配慮するものとする。
7-2
1
内部統制に関する基礎概念と諸原則
内部統制の基礎概念
(1)定義
内部統制とは、基本的に、業務の有効性および効率性、財務報告の信頼性、事業活
動に関わる法令等の遵守ならびに資産の保全の4つの目的が達成されているとの合理
的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内のすべての者によって遂行される
プロセスをいい、統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリ
ング(監視活動)および IT(情報技術)への対応の6つの基本的要素から構成される。
(2)目的
①
業務の有効性および効率性とは、事業活動の目的の達成のため、業務の有効性およ
び効率性を高めることをいう。
②
財務報告の信頼性とは、決算書および決算書に重要な影響を及ぼす可能性のある情
報の信頼性を確保することをいう。
③
事業活動に関わる法令等の遵守とは、事業活動に関わる法令その他の規範の遵守を
促進することをいう。
④
資産の保全とは、資産の取得、使用および処分が正当な手続および承認の下に行わ
れるよう、資産の保全を図ることをいう。
- 97 -
内部統制の目的はそれぞれに独立しているが、相互に関連している。内部統制の目的を
達成するため、首長は、内部統制の基本的要素が組み込まれたプロセスを整備し、そのプ
ロセスを適切に運用していく必要がある。それぞれの目的を達成するには、すべての基本
的要素が有効に機能していることが必要であり、それぞれの基本的要素は、内部統制の目
的のすべてに必要となるという関係にある。
内部統制は、庁内規程等に示されることにより具体化されて、組織内のすべての者がそ
れぞれの立場で理解し遂行することになる。また、内部統制の整備および運用状況は、適
切に記録および保存される必要がある。
なお、具体的に内部統制をどのように整備し、運用するかについては、個々の組織が置か
れた環境や事業の特性等によって異なるものであり、一律に示すことはできないが、首長
をはじめとする組織内のすべての者が、ここに示した内部統制の機能と役割を効果的に達
成し得るよう工夫していくべきものである。
(3)構成要素
内部統制の基本的要素とは、内部統制の目的を達成するために必要とされる内部統制の
構成部分をいい、内部統制の有効性の判断の規準となる。
①
統制環境
統制環境とは、組織の気風を決定し、組織内のすべての者の統制に対する意識に影響
を与えるとともに、他の基本的要素の基礎をなし、リスクの評価と対応、統制活動、情
報と伝達、モニタリングおよびITへの対応に影響を及ぼす基盤をいう。
統制環境としては、例えば、次の事項が挙げられる。
1)
誠実性および倫理観
2)
首長の意向および姿勢
3)
行財政運営方針および基本構想
4)
議会および監査委員の有する機能
5)
組織構造および慣行
6)
権限および職責
7)
人的資源に対する方針と管理
財務報告の信頼性に関しては、例えば、アカウンタビリティに対する意識など財務報
告に対する姿勢がどのようになっているか、また、議会および監査委員が財務報告プロ
セスの合理性や内部統制の有効性に関して適切な監視を行っているか、さらに、財務報
告プロセスや内部統制に関する組織的、人的構成がどのようになっているかが挙げられ
る。
②
リスクの評価と対応
リスクの評価と対応とは、組織目標の達成に影響を与える事象について、組織目標の
- 98 -
達成を阻害する要因をリスクとして識別、分析および評価し、当該リスクへの適切な対
応を行う一連のプロセスをいう。
イ
リスクの評価
リスクの評価とは、組織目標の達成に影響を与える事象について、組織目標の達
成を阻害する要因をリスクとして識別、分析および評価するプロセスをいう。
リスクの評価に当たっては、組織の内外で発生するリスクを、組織全体の目標
に関わる組織全般レベルのリスクと組織の職能や活動単位の目標に関わる業務別
のリスクに分類し、その性質に応じて、識別されたリスクの大きさ、発生可能性、
頻度等を分析し、当該目標への影響を評価する。
ロ
リスクへの対応
リスクへの対応とは、リスクの評価を受けて、当該リスクへの適切な対応を選
択するプロセスをいう。
リスクへの対応に当たっては、評価されたリスクについて、その回避、低減、
移転または受容等、適切な対応を選択する。
財務報告の信頼性に関しては、例えば、物品・資材の調達契約、施設の建設・
保全契約、委託契約等各種の契約の締結等に伴って生ずるリスクは、組織目標の
達成を阻害するリスクのうち、基本的には、業務の有効性および効率性に関連す
るものではあるが、会計上の見積りおよび予測等、結果として、財務報告上の数
値に直接的な影響を及ぼす場合が多い。したがって、これらのリスクが財務報告
の信頼性に及ぼす影響等を適切に識別、分析および評価し、必要な対応を選択し
ていくことが重要になる。
③
統制活動
統制活動とは、首長の命令および指示が適切に実行されることを確保するために定め
る方針および手続をいう。統制活動には、権限および職責の付与、職務の分掌等の広範
な方針および手続が含まれる。このような方針および手続は、業務のプロセスに組み込
まれるべきものであり、組織内のすべての者において遂行されることにより機能するも
のである。
財務報告の信頼性に関しては、財務報告の内容に影響を及ぼす可能性のある方針およ
び手続が、首長の意向どおりに実行されていることを確保すべく、例えば、明確な職務
の分掌、内部牽制、ならびに継続記録の維持および適時の実地検査等の物理的な資産管
理の活動等を整備し、これを組織内の各レベルで適切に分析および監視していくことが
重要になる。
④
情報と伝達
情報と伝達とは、必要な情報が識別、把握および処理され、組織内外および関係者相
互に正しく伝えられることを確保することをいう。組織内のすべての者が各々の職務の
- 99 -
遂行に必要とする情報は、適時かつ適切に、識別、把握、処理および伝達されなければ
ならない。また、必要な情報が伝達されるだけでなく、それが受け手に正しく理解され、
その情報を必要とする組織内のすべての者に共有されることが重要である。一般に、情
報の識別、把握、処理および伝達は、人的および機械化された情報システムを通して行
われる。
イ
情報
組織内のすべての者は、組織目標を達成するためおよび内部統制の目的を達成
するため、適時かつ適切に各々の職務の遂行に必要な情報を識別し、情報の内容
および信頼性を十分に把握し、利用可能な形式に整えて処理することが求められ
る。
ロ
伝達
(内部伝達)
組織目標を達成するためおよび内部統制の目的を達成するため、必要な情報が
適時に組織内の適切な者に伝達される必要がある。首長は、組織内における情報
システムを通して、行財政運営方針等を組織内のすべての者に伝達するとともに、
重要な情報が、特に、組織の上層部に適時かつ適切に伝達される手段を確保する
必要がある。
(外部伝達)
法令による財務情報の開示等を含め、情報は組織の内部だけでなく、組織の外
部に対しても適時かつ適切に伝達される必要がある。また、住民など、組織の外部
から重要な情報が提供されることがあるため、組織は外部からの情報を適時かつ
適切に識別、把握および処理するプロセスを整備する必要がある。
財務報告の信頼性に関しては、例えば情報について、財務報告の中核をなす会
計情報につき、経済活動を適切に、認識、測定し、会計処理するための一連の会
計システムを構築することであり、また、伝達について、かかる会計情報を適時
かつ適切に、組織内外の関係者に報告するシステムを確保することが挙げられる。
⑤
モニタリング
モニタリングとは、内部統制が有効に機能していることを継続的に評価するプロセス
をいう。モニタリングにより、内部統制は常に監視、評価および是正されることになる。
モニタリングには、業務に組み込まれて行われる日常的モニタリングおよび業務から独
立した視点から実施される独立的評価がある。両者は個別にまたは組み合わせて行われ
る場合がある。
イ
日常的モニタリング
日常的モニタリングは、内部統制の有効性を監視するために、事業管理や業務
改善等の通常の業務に組み込まれて行われる活動をいう。
- 100 -
ロ
独立的評価
独立的評価は、日常的モニタリングとは別個に、通常の業務から独立した視点
で、定期的または随時に行われる内部統制の評価であり、首長、監査委員、内部
監査等を通じて実施されるものである。
ハ
評価プロセス
内部統制を評価することは、それ自体一つのプロセスである。内部統制を評価
する者は、組織の活動および評価の対象となる内部統制の各基本的要素を予め十
分に理解する必要がある。
ニ
内部統制上の問題についての報告
日常的モニタリングおよび独立的評価により明らかになった内部統制上の問題
に適切に対処するため、当該問題の程度に応じて組織内の適切な者に情報を報告
する仕組みを整備することが必要である。この仕組みには、首長、議会、監査委
員等に対する報告の手続が含まれる。
財務報告の信頼性に関しては、例えば、日常的モニタリングとして、各業務部
門において帳簿記録と契約書ないし領収書等との照合を行うことや、工事契約等
において検収内容等を関連業務担当者が監視することなどが挙げられる。また、
独立的評価としては、庁内での監視機関である内部統制担当部局および監査委員
等が、財務報告の一部ないし全体の信頼性を検証するために行う会計監査などが
挙げられる。
⑥
ITへの対応
ITへの対応とは、組織目標を達成するためにあらかじめ適切な方針および手続を定
め、それを踏まえて、業務の実施において組織の内外のITに対し適切に対応すること
をいう。ITへの対応は、内部統制の他の基本的要素と必ずしも独立に存在するもので
はないが、組織の業務内容がITに大きく依存している場合や組織の情報システムがIT
を高度に取り入れている場合等には、内部統制の目的を達成するために不可欠の要素と
して、内部統制の有効性に係る判断の規準となる。ITへの対応は、IT環境への対応とIT
の利用および統制からなる。
イ
IT環境への対応
IT環境とは、組織が活動する上で必然的に関わる内外のITの利用状況のことで
あり、社会および市場におけるITの浸透度、組織が行う取引等におけるITの利用
状況、および組織が選択的に依拠している一連の情報システムの状況等をいう。IT
環境に対しては、組織目標を達成するために、組織の管理が及ぶ範囲においてあ
らかじめ適切な方針と手続を定め、それを踏まえた適切な対応を行う必要がある。
IT環境への対応は、単に統制環境のみに関連づけられるものではなく、個々の
業務プロセスの段階において、内部統制の他の基本的要素と一体となって評価さ
- 101 -
れる。
ロ
ITの利用および統制
ITの利用および統制とは、組織内において、内部統制の他の基本的要素の有効
性を確保するためにITを有効かつ効率的に利用すること、ならびに組織内におい
て業務に体系的に組み込まれてさまざまな形で利用されているITに対して、組織
目標を達成するために、予め適切な方針および手続を定め、内部統制の他の基本
的要素をより有効に機能させることをいう。ITの利用および統制は、内部統制の
他の基本的要素と密接不可分の関係を有しており、これらと一体となって評価さ
れる。また、ITの利用および統制は、導入されているITの利便性とともにその脆
弱性および業務に与える影響の重要性等を十分に勘案した上で、評価されること
になる。
財務報告の信頼性に関しては、ITを度外視しては考えることのできない今日の
地方公共団体の環境を前提に、財務報告プロセスに重要な影響を及ぼすIT環境へ
の対応および財務報告プロセス自体に組み込まれたITの利用および統制を適切に
考慮し、財務報告の信頼性を担保するために必要な内部統制の基本的要素を整備
することが必要になる。例えば、統制活動について見ると、組織内全体にわたる
情報処理システムが財務報告に係るデータを適切に収集し処理するプロセスとな
っていることを確保すること、あるいは、各業務領域において利用されるコンピ
ュータ等のデータが適切に収集、処理され、財務報告に反映されるプロセスとな
っていることを確保すること等が挙げられる。
(4)内部統制の限界
内部統制は、いかに有効であっても、事業体の財務報告の信頼性を確保するという目的
の達成について事業体に合理的な保証を提供するに過ぎない。その目的を達成する可能性
は、内部統制の固有の限界により影響を受ける。これには、意思決定時の人的な判断の誤
りや、人的な過失により内部統制が機能しなくなる場合が含まれる。例えば、内部統制の
デザインや内部統制の変更に誤りがあることがある。
また、複数の人間による共謀や首長による内部統制の不当な無効化により、内部統制が
回避される場合がある。
さらに、内部統制のデザインおよび適用に際し、首長は、適用する内部統制の種類と程
度や前提となるリスクの種類と程度の選定に関し判断を行うことがある。
2
内部統制に係る基本原則
監査人にとって、リスク・アプローチに基づく地方公共団体の決算書監査を実施するに
際して、監査対象の地方公共団体の内部統制の整備状況を調査し、その運用状況を評価す
- 102 -
ることは、極めて重要である。
他方、本来、地方公共団体のマネジメント・システムとしての内部統制の最終的な構築
責任は、首長にある。しかし、すべての内部統制について、首長自らが調査し評価するこ
とは極めて困難であるため、首長が別途、内部監査人を配置して、各部署の内部統制の整
備・運用状況を調査し、その結果を首長および議会に報告することが必要となる。内部監
査人の監査が公正かつ有効に実施できるためには、各部署から独立しており、また倫理的
責任を十分に自覚する必要がある。
監査人は、地方公共団体の決算書監査を効率的かつ有効に実施するためには、以上のよ
うな内部監査の実態を十分に理解し、内部監査人とも適宜、コミュニケーションを図るこ
とが肝要である。
このような観点から内部統制に係る基本原則を以下、列挙する。
(1)決算書監査制度に関連する内部統制
「地方公共団体監査基準第三実施基準 一基本原則、二監査計画の策定および三監査の実
施」に記載のとおり、内部統制の理解は、監査人が、潜在的な虚偽表示の種類と重要な虚
偽表示のリスクに影響する要因を識別し、リスク対応手続の種類、時期および範囲を立案
することに役立つ。ただし、地方公共団体の目的と内部統制は、事業活動、財務報告、法
令遵守および資産保全に関係しているが、地方公共団体の目的や内部統制のすべてが監査
人のリスク評価に関連しているものではない。
(2)内部統制に関する責任
「地方公共団体監査基準(案)第四 報告基準 三 無限定適正意見の記載事項(2)経
営者の責任」に記載のとおり、財務報告に関連して、首長は適用される財務報告の枠組み
に準拠して決算書を作成する責任を有するのみならず、重要な虚偽表示のない決算書を作
成するために必要と判断する内部統制を整備・運用し、文章化することに対する責任も含
まれる。なお、決算書監査において、監査人はリスク評価の過程で内部統制の評価を実施
するものの、内部統制の有効性について意見表明するものではない。
(3)内部監査人の役割と責任 4)
首長は、内部統制の有効性をモニタリングするために、内部監査人を設置する。内部監
査人は、試査による内部統制の評価を通じて、内部統制の継続的な有効性に貢献している。
なお、内部統制の整備、運用、文章化する第一義的な責任はあくまでも首長にあり、内部
監査人にはない。
(4)内部監査人の独立性と倫理 5)
- 103 -
内部監査人は、公正かつ有効な専門的判断と勧告を行うことにより内部監査人の職務を
遂行するため、監査対象である業務および担当部署から独立していなければならない。ま
た、内部監査を行うにあたって、常に公正不偏の態度を保持するように、特に内部監査責
任者は内部監査従事者に対して、定期的にその倫理的責任について想起させなければなら
ない。
(5)内部監査の利用 6)
監査人は、内部監査の利用の可否について、以下の事項を判断しなければならない。
①
内部監査人の作業が決算書監査の目的に照らして適切かどうか。
②
内部監査人の作業が適切な場合には、内部監査人の作業が監査人の監査手続の種類、
時期または範囲に及ぼし得る影響
なお、内部監査人は、首長に対して、内部統制の評価の結果について独立した客観的な
意見あるいは勧告を表明し、合意された措置を講ずるよう首長に促すことが必要である。
また、内部監査人は、議会(監査委員等)に対して適切に説明責任を果たして、議会が有
効に機能するように支援する。
7-3
1
内部統制の有効性に関する報告
決算書監査におけるリスク・アプローチと内部統制評価の関係
第三
実施基準一
基本原則4では、「監査人は、十分かつ適切な監査証拠を入手するに
当たっては、地方公共団体の決算書における重要な虚偽表示のリスクを暫定的に評価し、
リスクに対応した監査手続を、原則として試査に基づき実施しなければならない。」と規定
されている。重要な虚偽の表示が生じる可能性が高い事項について重点的に監査の人員や
時間を充てることにより、監査を効果的かつ効率的に実施する観点から、リスク・アプロ
ーチに基づき監査を実施することが要請されている。このリスク・アプローチに基づく監
査の実施過程において、監査人は、被監査団体のおかれた事業上のリスクを評価し、組織
全般レベルの内部統制および重要な業務プロセスに係る内部統制の評価を行い、決算書に
重要な虚偽表示が発生する可能性を吟味の上、実施する監査手続、その実施時期および試
査の範囲を計画し、手続を実施する必要がある。したがって、監査人が決算書監査を実施
する上で、被監査団体の内部統制の整備・運用状況を評価することは必須の監査手続であ
り、決算書監査の過程で、被監査団体の内部統制上の不備が明らかになることも十分考え
られる。既述のとおり、本報告書において、地方公共団体の内部統制に関しては、それ自
体を監査報告の対象とすることは見送っているが、監査人が決算書監査の過程で発見した
内部統制上の不備については、これを追記情報(その他の事項)等の方法により監査報告
- 104 -
書上記載すべきものとしている。以上を踏まえ以下では、監査人による内部統制の整備・
運用状況の評価方法および発見した内部統制上の不備に対する監査意見への反映方法につ
いて言及するものとする。
なお、本節における主な関連用語の内容は、以下のとおりである。
① 「財務報告」とは、決算書および決算書の信頼性に重要な影響を及ぼす開示事項等に
係る外部報告のことを意味する。
② 「決算書」とは、現金主義をベースとした官公庁会計における一般会計および特別会
計における決算書のみならず、地方公共団体財政健全化法と関連する財務書類4表(貸
借対照表、行政コスト計算書、資金収支計算書、純資産変動計算書)
、連結財務書類4
表(連結貸借対照表、連結行政コスト計算書、連結資金収支計算書、連結純資産変動
計算書)およびその基礎となる公営企業会計における決算書や財政援助団体等の決算
書を含む広い概念として捉えている。
③ 「決算書の信頼性に重要な影響を及ぼす開示事項等」とは、決算書等における決算書
以外の開示事項等で、決算書に記載された金額、数値、注記を要約、抜粋、分解また
は利用して記載すべき開示事項や関係団体の判定、連結の範囲の決定その他決算書作
成における判断に密接に関わる事項を意味している。
④ 「内部統制の不備」とは、内部統制が存在しない、または規定されている内部統制で
は内部統制の目的を十分に果たすことができない等の整備上の不備と、整備段階で意
図したように内部統制が運用されていない、または運用上の誤りが多い、あるいは内
部統制を実施する者が統制内容や目的を正しく理解していない等の運用上の不備をい
う。
2
内部統制の評価
(1)組織全般レベルの内部統制の評価
監査人は、まず、組織全般に関わり連結ベースでの財務報告全体に重要な影響を及ぼす
内部統制(組織全般レベルの内部統制という)について評価する。この検討に当たっては、
監査委員あるいは内部統制担当部局等、組織全般レベルにおける内部統制の整備および運
用状況について十分に考慮しなければならず、内部統制の基本要素ごとに、監査委員ある
いは内部統制担当部局の監視機能等も考慮の上、評価を実施する必要がある。また、その
際、組織の内外で発生するリスク等を十分に評価するとともに、財務報告全体に重要な影
響を及ぼす事項を検討する。例えば、以下のような評価項目を設け、関係者への質問や記
録の検証などの手続を実施することにより、組織全般での会計方針および財務方針、組織
の構築および運用等に関する判断、組織全般レベルにおける意思決定のプロセス等の評価
を実施する。
- 105 -
図表7-2
財務報告に係る全社的な内部統制に関する評価項目の例7)
統制環境
Q101
首長は、内部統制(①業務の有効性および効率性、②財務報告の信頼性、③法令等
の遵守、④資産の保全)に関わる基本方針・原則等を設定していますか
Q102
内部統制に関わる方針等を適切に整備・運用するため、適切な組織構造を構築して
いますか
Q103
内部統制に関わる方針等について、
適切な運用を図ることができる仕組みとなって
いますか
Q104
首長は、管理職・職員等に対して、責任に見合った限度で権限を委譲していますか
リスクの評価と対応
Q201
当該団体を取り巻くリスクについて、発見・評価を行っていますか
Q202
評価されたリスクについて、適切な対応を行う仕組みがありますか
Q203
社会情勢の変化や組織の変更等の要因を踏まえ、リスクの再評価を適切に行ってい
ますか
統制活動
Q301
現場の業務において、担当者の職務の分掌および権限・職責の分担等が適切に図ら
れていますか
Q302
リスクに対処して、これを十分に軽減する統制活動を確保するための方針と手続を
定めていますか
Q303
上記の取組(Q301,Q302)について、その実施状況を踏まえ、必要な改善を行って
いますか
情報と伝達
Q401
首長の方針や指示が、全ての職員に適切に伝達される体制が整備されていますか
Q402
内部統制に関わる重要な情報(整備した統制の欠陥やリスクに関するもの等)は、
首長および適切な管理職に伝達される体制が整備されていますか
Q403
職員が匿名で不適切な業務の実態や役職員の行為等を首長に通報する仕組みなど、
通常の報告経路から独立した伝達経路が利用できるように設定されていますか
Q404
住民・関係団体・国の機関・その他の外部者からもたらされた情報に対し、内容に
応じ首長や管理職に適切に伝達するための仕組みがありますか
Q405
決算処理や契約など、会計および財務に関する情報について、関連する業務プロセ
スから適切に情報システムに伝達され、権限ある者が適切に利用可能となるような
体制が整備されていますか
モニタリング
Q501
モニタリング(内部統制の整備・運用を、業務内または上司、あるいは独立部署に
- 106 -
よってチェックすること)が、組織の業務活動に適切に組み込まれていますか
Q502
モニタリングによって得られた内部統制の不備に関する情報は、当該実施過程に係
る上位の管理職ならびに当該実施過程および関連する内部統制を管理し是正措置
を実施すべき地位にある者に適切に報告されていますか
Q503
首長はモニタリングの結果を適時に受領し、適切な検討を行っていますか
ITへの対応
Q601
首長を補佐する立場として、最高情報責任者(CIO)を設置していますか
Q602
首長等は、IT環境を踏まえ、ITに関する適切な戦略、計画等を定めていますか
Q603
首長等は、組織のIT利用状況や外部委託等の状況を適切に理解していますか
Q604
IT利用に伴うリスク(アクセス管理、システムの保守・維持の方針および手続の
整備、システムダウンの際の対応策等)について、評価・分析を行い、適切な対応
策を定めていますか
その他
Q701
業務の有効性および効率性を図るために、行政評価(事務事業評価・施策評価)の
システムを導入していますか
Q702
行政評価の結果について、首長に適切に報告するとともに、広く公表していますか
Q703
行政評価の結果を踏まえて、翌年度の業務執行や予算編成に反映していますか
Q704
行政評価について、業務プロセスレベルにおけるリスクの発見・分析・評価を行う
視点が設けられていますか
Q705
業務上のコンプライアンス違反等に対して、適切に対処する方針および手続を定め
ていますか
Q706
普段、法令および規程等を遵守することの重要性について、首長や職員の注意を喚
起する方策または仕組みがありますか
組織全般レベルの内部統制に不備がある場合には、業務プロセスに係る内部統制にどの
ような影響を及ぼすかも含め、財務報告に重要な虚偽記載をもたらす可能性について慎重
に検討する必要がある。また、組織全般レベルの内部統制の不備は、業務プロセスに係る
内部統制にも直接または間接に広範な影響を及ぼし、最終的な財務報告の内容に広範な影
響を及ぼすことになる。したがって、監査人は、組織全般レベルの内部統制の評価結果を
踏まえて、業務プロセスに係る内部統制の評価の範囲、方法等を決定する。例えば、組織
全般レベルの内部統制の評価結果が有効でない場合には、当該内部統制の影響を受ける業
務プロセスに係る内部統制の評価について、評価範囲の拡大や評価手続を追加するなどの
措置が必要となる。一方、組織全般レベルの内部統制の評価結果が有効である場合につい
ては、業務プロセスに係る内部統制の評価に際して、サンプリングの範囲を縮小するなど
- 107 -
簡易な評価手続を取る等の対応が考えられる。
(2)業務プロセスに係る内部統制の評価
次に、監査人は、業務プロセスに係る内部統制の評価を行う。この検討に当たっては、
通常、以下に掲げる方法により、業務プロセスを十分に理解した上で、財務報告の信頼性
に重要な影響を及ぼす統制上の要点(以下「統制上の要点」という)を選定し、当該統制
上の要点について内部統制の基本的要素が適切に整備され運用されているかを評価する必
要がある。
①
評価対象となる業務プロセスにおける取引の開始、承認、記録、処理、報告を含め、
取引の流れを把握し、取引の発生から集計、記帳といった会計処理の過程を理解する。
②
各会計処理の過程において、不正または誤謬により、虚偽記載が発生するリスクを
識別する。その際、当該不正または誤謬が発生した場合に、実在性、網羅性、権利と
義務の帰属、評価の妥当性、期間配分の適切性、表示の妥当性といった適切な財務情
報を作成するための要件のうち、どの要件に影響を及ぼすかについて関連付けて識別
する。
③
リスクを低減するための内部統制を識別する。その際、特に取引の開始、承認、記
録、処理、報告に関する内部統制を対象に、実在性、網羅性、権利と義務の帰属、評
価の妥当性、期間配分の適切性、表示の妥当性といった適切な財務情報を作成するた
めの要件を確保するために、どのような内部統制が必要かという観点から識別する。
④
識別した個々の統制上の要点が適切に整備され、実在性、網羅性、権利と義務の帰
属、評価の妥当性、期間配分の適切性、表示の妥当性といった適切な財務情報を作成
するための要件を確保する合理的な保証を提供できているかについて、関連文書の閲
覧、従業員等への質問、観察等を通じて判断する。その際、内部統制が規程や方針に
従って運用された場合に、財務報告の重要な事項に虚偽記載が発生するリスクを十分
に低減できるものとなっているかという観点から有効性を評価する。
⑤
これらの統制上の要点が適切に運用されているかを判断するため、原則としてサン
プリングにより内部統制の実施記録の検証を行う。その際、期中に評価を実施した場
合には、期末日までの内部統制に関する重要な変更の有無を確認し、重要な変更があ
ったときには、変更に伴う業務プロセスにおける虚偽記載の発生するリスクとこれを
低減する統制の識別を含む変更後の内部統制の整備および運用状況の有効性の評価を
再度行う必要がある。
(3)ITを利用した内部統制の評価
情報システムにITが利用されている場合は、通常、情報は種々の業務システムで処理、
作成され、その情報が会計システムに反映される。したがって、監査人は、こうした業務
- 108 -
システムや会計システムによって作成される財務情報の信頼性を確保するための内部統制
を評価する必要がある。この内部統制には、コンピュータ・プログラムに組み込まれて自
動化されている内部統制や人手とコンピュータ処理が一体となって機能している内部統制
がある。また、ITの統制は、全般統制と業務処理統制に分けられるが、この両者を評価す
る必要がある。
ITに係る全般統制の評価においては、システムの開発、保守、運用に関する管理手法や、
内外からのアクセス管理などのシステムの安全性の確保、システム開発等に係る外部委託
に関する契約の管理といったITに係る組織全般レベルの統制の整備および運用の状況を評
価する。一方、ITに係る業務処理統制の評価は、業務プロセスとシステムとの関係を理解
し、入力情報の完全性、正確性、正当性や、システムの利用に関する認証・操作範囲の限
定など適切なアクセス管理がなされているか等について評価する。評価の結果、ITに係る
全般統制に不備があっても、それが財務報告の重要な虚偽表示のリスクに直接繋がるもの
ではないが、ITに係る業務処理統制の有効な運用を継続的に維持できない可能性があり、
決算書に虚偽表示が発生するリスクは高まることとなる。また、ITに係る業務処理統制に
不備がある場合には、同じ種類の誤りが繰り返されている可能性があり、一般的に、決算
書の重要な虚偽表示につながる可能性は高いと考えられる。
3
内部統制上の重要な不備
内部統制上の重要な不備とは、上記の手続により識別された内部統制の不備のうち、一
定の金額を上回る虚偽記載、または質的に重要な虚偽記載をもたらす可能性が高いものを
いう。一般に、財務報告に係る内部統制に重要な不備があり有効でない場合、決算書監査
において、監査基準の定める内部統制に依拠した通常の試査による監査は実施できないも
のと考えられている。よって、内部統制の重要な不備とは、通常の決算書監査の実施が困
難となるような極めて限定的な状況である。
(1)組織全般レベルの内部統制の重要な不備
組織全般レベルの内部統制に不備がある場合、内部統制の有効性に重要な影響を及ぼす
可能性が高い。内部統制の重要な不備となる組織全般レベルの内部統制の不備として、例
えば、以下のものが考えられる。
①
首長が財務報告の信頼性に関するリスクの評価と対応を実施していない。
②
監査委員や内部統制担当部局が財務報告の信頼性を確保するための内部統制の整備
および運用を監督、監視、検証していない。
③
財務報告に係る内部統制の整備・運用に関するする責任部署が明確でない。
④
財務報告に係る IT に関する内部統制に不備があり、それが改善されずに放置されて
いる。
- 109 -
⑤
首長に報告された組織全般レベルの内部統制の不備が合理的な期間内に改善されな
い。
⑥
必要な会計記録が保存されていないまたは会計記録を裏付ける重要な証憑書類が保
管されていない等、監査委員や内部統制担当部局が、財務報告に係る内部統制の有効
性を監督、監視、検証することができない。
なお、組織全般レベルの内部統制に不備がある場合でも、業務プロセスに係る内部統制
が単独で有効に機能することもあり得る。ただし、組織全般レベルの内部統制に不備があ
るという状況は、基本的な内部統制の整備に不備があることを意味しており、全体として
の内部統制が有効に機能する可能性は限定されると考えられる。
図表7-3
年
組織全般レベルの内部統制の重要な不備に該当すると考えられる事例8)
度
平成13年度
指
特定検
査での指摘
摘
内
容
・会計監査機構は、その権限および業務について一定の独立性
を確保し、または監査計画、監査マニュアル等の作成等によ
る監査内容の標準化、監査結果の有効活用等により監査の実
効性の向上を図り、もって会計監査が本来備えるべき機能を
十分に発揮することができるよう会計監査の実施体制につい
て一層の整備を図ることが望まれる
平成17年度
査での指摘
特定検
・内部監査組織を監査対象部署署から独立させるとともに、内
部監査規程等において監査権限等について明確化すること
・内部監査職員が、現在兼任する業務等に対する内部監査には
携わらない等の配慮をし、監事監査業務を実質的に補助する
場合などには、両監査の役割等の相違に留意すること
(2)業務プロセスに係る内部統制の重要な不備
業務プロセスに係る内部統制の不備が重要な不備に該当するか否かを評価するために、
内部統制の不備により勘定科目等に虚偽記載が発生する場合、その影響が及ぶ範囲を推定
し、虚偽記載の発生可能性を考慮のうえ影響額を推定する。内部統制の不備が複数存在す
る場合には、それらの内部統制の不備が単独で、または複数合わさって重要な不備に該当
していないかを評価する。すなわち、重要な不備に該当するか否かは、同じ勘定科目に関
係する不備をすべて合わせて、当該不備のもたらす影響が財務報告の重要な事項の虚偽記
載に該当する可能性があるか否かによって判断する必要がある。また、集計した不備の影
響が勘定科目ごとに見れば決算書レベルの重要な虚偽記載に該当しない場合でも、複数の
勘定科目に係る影響を合わせると重要な虚偽記載に該当する場合があり、このような場合
にも重要な不備と判断する必要がある。一方で、ある内部統制の不備を補う内部統制(補
- 110 -
完統制)がある場合には、それが勘定科目等に虚偽記載が発生する可能性と金額的影響を
どの程度低減しているかについても検討の上、影響額を推定する必要がある。
業務プロセスレベルの内部統制の重要な不備に該当すると考えられる事例9)
図表7-4
年
度
平成19年度 措置要求
指
摘
内
容
・福祉事務所における保護費の支給等の事務処理に関して、管
事項としての指摘
理者、出納担当、査察指導員および現業員が自ら行うべき事
(生活保護事業におけ
務の範囲、決裁権者等を内部規定等の文書により明確にして
る現業員等による生活
徹底を図ること。また、福祉事務所において、現業員の現金
保護費の詐取等の事態
取り扱いに関する事項、現業活動の把握等の各点検項目を明
に関連して)
確にすること
平成19年度 不当事項
・現金収納事務に従事していた出納員に国の会計経理は会計法
としての指摘
令等に従って適正に行わなければならないとの認識が著しく
(診療収入の出納に当
欠けていたこと、収入官吏が日々の現金収納事務の現状を把
たり、不正に医事会計シ
握しておらず、また、関係書類の点検を十分に行っていなか
ステムのデータが削除
ったこと、歳入徴収官等の監督者の指導監督が十分でなかっ
され、当該収入が国庫に
たこと、内部監査が十分でなかったことなど、内部統制が機
納付されなかった事態
能していなかった
に関連して)
4
(この事例では加えてITへの対応に関する重要な不備がある)
内部統制の不備の報告
監査人は、決算書監査の過程において、上記に掲げたような内部統制の重要な不備を発
見した場合には、その内容を首長に報告して是正を求めなければならない。また、監査人
は、当該重要な不備の内容を首長に報告した旨を、議会、監査委員あるいは内部統制担当
部局等に報告しなければならない。これらの対応を図った上で、監査人は当該内部統制の
重要な不備に応じた監査手続を実施することとなるが、その実施した監査手続結果および
当該内部統制の重要な不備の内容に応じて、監査報告書において以下のとおり取り扱う。
①
内部統制の重要な不備の存在により、監査人の監査手続きに重要な制約が生じる場
合には、監査人は、自己の意見を形成するに足る合理的な基礎が得られないため、決
算書に対する意見を表明しない旨を表明し、その根拠として当該内部統制の重要な不
備の存在について記載することとなる。
②
内部統制の重要な不備の存在により、監査人の監査手続きの一部に制約が生じる場
合には、監査人は、当該制約を除外事項としなければならないが、除外事項の影響が
決算書全体に対する意見の表明ができないほどには著しく重要ではないと判断したと
きには、除外事項を付した限定付適正意見を表明し、その根拠として当該内部統制の
- 111 -
重要な不備の存在について記載することとなる。
③
内部統制の重要な不備の存在により、決算書に関して虚偽の表示が発生し、その影
響が決算書全体として虚偽の表示に当たるほどに重要な場合には、監査人は、不適正
意見を表明し、その根拠として当該内部統制の重要な不備の存在についても記載する
こととなる。
④
内部統制の重要な不備の存在により、決算書に関して虚偽の表示が発生しているが、
その影響が決算書全体として虚偽の表示に当たるほどに重要とはいえない場合には、
監査人は、除外事項を付した限定付適正意見を表明し、その根拠として当該内部統制
の重要な不備の存在についても記載することとなる。
⑤
内部統制の重要な不備は存在するが、監査人の監査手続きによって、自己の意見を
形成するに足る合理的な基礎が得られた場合には、監査人は、無限定適正意見を表明
し、当該内部統制の重要な不備に関して追記情報として記載する。ただし、このよう
な例は極めて限定的であると考えられる。
なお、監査人は、監査の過程において財務報告に係る内部統制の不備を発見した場合に
は、それが重要な不備に該当しない場合であっても、適切な管理責任者に適時に報告しな
ければならない。しかしながら、これらの重要な不備以外の内部統制の不備を発見した場
合にも必ず監査報告書において追記情報として記載するよう監査人に求めることは、監査
人の責任があまりに加重になるうえ、監査報告書の明瞭性といった観点からも妥当ではな
いと考えられるため、このような場合には、あくまで監査人の判断に基づき記載の要否を
検討すべきものとした。ただし、本報告書における内部統制に係る監査上の対応は、当面
の取り扱いとして検討されるべきものであり、本来は、全ての地方公共団体において内部
統制に関する共通の概念が共有され、外部監査人による内部統制監査制度が導入されるべ
きであることからすれば、決算書監査上発見された内部統制の不備のうち、重要な不備に
該当しないものであっても、内部統制の整備・運用に関するその他の意見等として監査意
見とは切り離した形で報告し、地方公共団体の内部統制の適切な整備・運用に向けた指導
的役割を発揮していくことが、監査人には求められているものと考える。
- 112 -
図表7-5 内部統制の不備に係る監査報告書の記載パターン
内部統制上の
不備
重要な不備
その他の不備
決算書監査の意見
決算書監査報告書における記載箇所
①意見不表明
5-2
意見不表明の根拠
②限定付適正意見
5-1
限定付適正意見の根拠
③不適正意見
4-2
不適正意見の根拠
④限定付適正意見
4-1
限定付適正意見の根拠
⑤無限定適正意見
6
追記情報(その他の事項区分)
無限定適正意見
6
追記情報(その他の事項区分)
記載の
要否
必須
任意
* 表中の①から⑤の番号は本項における番号を表し、4-1から6の番号は、第6章報告
区分における番号を表している。
〈注〉
1)
総務省 地方公共団体における内部統制のあり方に関する研究会「内部統制による地方公共団体の
組織マネジメント改革~信頼される地方公共団体を目指して~」平成 21 年 4 月。
2)
企業会計審議会「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制
の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」平成 23 年 3 月。
3)
日本公認会計士協会「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い(監査・保証実務
委員会第 82 号)」平成 21 年 3 月。
4)
International Standards of Supreme Audit Institutions, Guidelines for Internal Control
Standards for the Public Sector, 2004,p.43.
5)
Ibid., pp. 44-45.
6)
日本公認会計士協会「内部監査の利用
中間報告(監査基準委員会報告書第 49 号)」平成 22 年 6
月を参照。
7)
総務省 地方公共団体における内部統制のあり方に関する研究会「前掲稿」より抜粋した。
8)
三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社「欧米主要国政府における内部統制の状況及び
それに対する会計検査院の関与・検査(平成 21 年度会計検査院委託業務報告書)」平成 22 年 2 月か
ら抜粋。
9)
「同上稿」から抜粋。
- 113 -
第Ⅳ部
資料編(議事録)
資料1
第6回
議事録
日時
2011年12月11日(土)13時~17時
場所
北海道大学
経済学部研究棟
113室
<参加者>
出席
12名
<次第>
研究部会長挨拶
協議事項
1 最終報告書作成に向けての原稿執筆分担
2 その他
<議事内容>
○
石原 「地方自治体監査基準中間報告書」を何冊か自治体職員などに送り、HP にもリ
ンクを貼らせていただいた。15名の方々からメールでご連絡をいただき、特に、第1
回の議事録は論点整理が大変よくできていて、非常に役立つとの意見であった。最終報
告までの期間が1年をきっているので、来年1月、石川部会員にイギリスのインスペク
ションの話をしていただき、今回と次回で最終報告に向けて、ある程度まとめていきた
い。最終報告には、各法人の意見なども含めていただけたらと思っている。トーマツの
森田部会員からは、独立行政法人の監査、あるいは、地方自治体の監査などを比較検討
しながら、地方自治体の監査全般が抱える問題について、F氏とG氏の3人でまとめた
いと聞いている。内部統制が専門の髙原部会員については、内部統制と監査の概念フレ
ームワークを監査の目的や監査の種別といったさまざまな概念を整理していただけると
聞いている。本日は、この中間報告書に記載されているさまざまな課題に関連して、地
方自治体監査基準という書物をまとめ上げることによって、最終報告にしたいと思う。
協議願いたいのは、今までの議事録にもあったように、アメリカのSASのようなイ
メージで作成すると私自身も発言してきたが、そこまで踏み込めなくても、いわゆる基
準のレベルで整理していけないものかと考えている。たとえば、地方自治体の監査の調
書には、一般的に体系的なインデックスがうたれていない。
「秩序や明瞭性などを考えて
作成していかなければならない」という文言が、民間企業の監査基準にあることを解説
- 114 -
していくことで、地方自治体監査の実務にさまざまな影響を与えていけるのではないか
と考えている。監査基準を作成する際にこの辺りも意識しながら、一つずつの逐条解説
になるかもしれないが、最終報告書の後ろ2/3ぐらいに記載できればと思う。前半部
分は、森田部会員ほかの地方自治体における監査全般的な問題提起と髙原部会員、藤岡
部会員、石原の地方自治体監査の概念フレームワークを整理させていただいく。異論が
なければ、一般基準、実施基準、報告基準の構成で整理していくのが提案である。
もう一つに、地方自治体の監査委員監査が、内部監査なのか、あるいは、外部監査な
のかさまざまな議論をしてきた。そのなかで監査と VFM 監査、業績監査をどのように
整理していくかがあった。地方自治体の決算書の監査に加えて、検査の基準もできるだ
け出していきたい。11月に吉見副部会長、石川部会員、M氏、N氏などのメンバーで
イギリスに視察した。日本では「インスペクション」を「検査」と訳しているが、その
インスペクションは、イギリスでは指摘型監査で VFM をチェックしていた。
「インスペ
クション」
「VFM」
「3E」といった用語について、ハワード・デービス氏やスティーブ
ン・マーチン氏は、
「インスペクション」が一番広い概念で、そのなかの形態として VFM
監査、3E監査、CPA・CAA があると整理されており、最少の経費・最大の効果が目的
であると話されていた。その目的の実現ために諸々の指摘をしていくとも話されていた。
地方行財政検討会議でも、おそらく、決算書の審査は健全化法の4指標ないし5指標
のチェックと併せて、外部で監査という方向である。3Eのチェックは内部で、コンプ
ライアンスは内部統制で行うという整理ができている。仮に再来年の3月にうまく自治
法改正がなされたら、全国組織の監査組織ができる。そこでは、監査制度の見直しの1
案・2案・3案のすべてに全国組織の監査組織を作ることが掲げられているので、決算
監査のための監査の基準と3Eを指摘していくための検査の基準を本研究部会でまとめ
ていくという方向で考えている。そこで、インスペクションを検査としたとき、内部の
人間だけに任せておいていいのかという問題がある。この点について、総務省は外部の
3Eという考えをあげていないが、地方行財政検討会議(第7回)の議事では、内部監
査として VFM 監査をやっていくことは、さらに議論する必要があるとしている。地方
行財政検討会議では、さまざまな可能性を残し、前に進められている。
このことに関連して、イギリスのウォーリック・ビジネススクールの自治体専門のセ
ンター所長であるハワード・デービス氏がインスペクションに関する書物をたくさん書
かれている。ウォーリック・ビジネススクールと関西学院大学の経営戦略研究科がイン
スペクションに関して提携する予定である。カーディフ・ビジネススクールのスティー
ブ・マーチン氏とも提携する予定で、内部で事務処理を進めている。日本では、監査の
研究者はいるが、検査の研究者が少なく、イギリスの研究が一つの切り口になればと思
っている。
先日、会計検査院の山浦先生とお話する機会があり、関東地区では、明治大学で会計
- 115 -
検査院の職員による公会計検査論という講義を開講している。国民に会計検査を啓蒙啓
発していくという趣旨で、来年度から関西地区でも、関西大学が会計監査院の講義を開
講することになった。関西学院大学においても、来年度、年2回程度の特別講義という
形で、現役の会計検査院の局長を客員教授として招き、お話をしていただく機会を設け
た。山浦先生は、会計検査を学問的に体系化していく時期が来ていると話されている。
国では会計検査院や非常に独立した機関が検査を行っているが、地方自治体ではそうな
っていないという意見も本部会であった。今後は、会計検査院とも連携を図って、監査
の基準に加えて、検査の基準にも取り組んでいきたい。監査は保証型、検査は指摘型、
そして、監査は外部、検査は内部(外部という可能性もあるが)、内部統制で基本的にコ
ンプライアンスの問題という整理をしていきたい。
あとは、地方行財政検討会議でも議論されている住民訴訟の問題では、地方自治体の
長が住民訴訟の判決で負けた例がある。具体的には、神戸市が外郭団体への人件費補助
の問題で、大阪高等裁判所で不適正処理として55億円の判決が出されている。しかし、
自治法では、首長に対する損害賠償請求権を議会が過半数の決議で請求権を放棄できる
という規定があり、神戸市はその請求権を放棄している。住民の立場からは、請求でき
た55億円がとれなかったわけで、今後、住民訴訟が多くなると考えられるなか、決算
の適正性というものをどこかの独立した機関に担保してもらうことが重要になってくる
と思う。この議論をしていると東京大学の斎藤先生に間違えていると言われ、住民訴訟
の対象になっている案件は、会計マターではないということだった。企業の監査で、財
務諸表に重要な影響を及ぼす違法行為については、会計士が当然のごとく監査対象とし
ているが、財務諸表に金額的に重要な影響は与えないけれども質的に非常に重要なもの
があったときには、会計士は黙っていていいとは教えられていない。住民訴訟の対象に
なるものが、どのような法令に違反するのかを総務省に問い合わせている。それを類型
に分けることができるかもしれない。裁判所が違法支出と判断したことを行っていて、
会計士が決算書の監査をしていたら、何らかの情報を持っていただろうし、会計士はそ
のことについて、除外事項としていたかもしれない。除外事項としていなくても、いろ
いろな相談をしていると思う。一般的に適正性の判断の一環として、会計士が、企業に
対して果たしている責任を地方自治体の決算審査のなかに組み込んでいくと、会計士は、
重い責任を負うことになる。よって、今のような低い監査報酬では駄目である。それを
地方自治体が払えるか、払えないかという問題もある。払えなければ交付税措置という
考え方もある。企業の違法行為に対して会計士がどのように対応してきたかという歴史
と地方自治体の外部での監査は、住民訴訟の対象になるような違法行為に対して、どの
ように対応していくべきなのかということと重なっていると思う。ここをもう少し踏み
込むと、地方自治体の監査にはベネフィットがあると判断してもらえるのではないかと
思う。
- 116 -
複式簿記に基づかない貸借対照表でも、そこから行政コスト計算書を作る過程で生み
出されたさまざまなデータを加工・編集することによって、さまざまな意思決定ができ
る。これが管理会計や経営分析なので、その有用性を発揮しないといけない。貸借対照
表や行政コスト計算書だけの評価では、ベンチマーキングでもしない限りわからない。
まだ国会がどのようになるかわからないが、監査制度改革をして、地方自治体の監査
の基準と検査の基準を作成するところまで、本部会で役割分担をして進めていきたいと
思っている。
本日の部会では、中間報告書に記載されていることも含めて、決算書の監査、インス
ペクション、内部統制のあり方について、フリー・ディスカッションを行う。公認会計
士監査と同じように例月出納検査や定期の財務監査は期中監査であるという整理をする
か。あるいは、公認会計士の外部監査は決算書の監査としては重要であるが、中間報告
の記載には、市民が求めているのは不正や違法支出の指摘ではないかという意見もあっ
て、内部統制をきちんと行っているということを保証する方法で外部の監査人が関与す
ると整理することもできる。会計士の職域拡大の議論になっているが、会計士だけでな
く、税理士や自治体職員の OB などさまざまな方々が関心をもってやっていただけると
いいと思っている。この領域を取り組んでいる研究書物は現在ない。実情が異なるので、
諸外国の制度を調査しても仕方がない。そのような領域なので、本部会では、多くの方々
に意見していただき、議論を進めてきた。
○
吉見
我々、学者が書くと論文チックになってしまうのではないか。
○
石原
いや、そういうイメージではない。
○
吉見
基準案を提示していくに際して、IPSAS のようなイメージでもなくて、かつ、
監査基準案みたいなものを作っていくのか。
○
石原
私のイメージは、監査全般の課題の整理、概念フレームワークの整理で、その
後に地方自治体監査の基準案、地方自治体検査の基準案、逐条解説である。基本的に書
く内容は論文チックなものになる。
○
吉見
逐条解説と基準案で論文チックと結びつかないと思うが。
○
石原
たとえば、監査調書を秩序整然と作成されなければならないというのが実施基
準の何番と書いたとすると、それが見出しにあって、説明していくという流れになる。
保証型監査の必要性や、監査意見を形成するときの意見集約、監査人の責任への担保な
- 117 -
どである。
○
吉見
ということは、その基礎としての基準がないと書けない。好きに書くわけでは
ないので、一般基準ぐらいは必要ではないか。
○
石原
検査の基準は、来月の石川部会員の報告を聞いてからになる。監査の基準は、
現行ある監査基準をベースにして、これを内部統制の J-SOX のコピーのようになるかも
しれないが、現行の監査基準を意識しながら地方自治体の決算書、健全化4指標にのせ
ていくように置き換えたらどうなるか。あるいは、置き換える作業のなかで過不足があ
れば、その過不足を補う提案を部会員からいただき、次回の部会までに集約作業を行っ
てはどうか。
○
吉見
全体的にどのようになるかはわからないが、イメージとして、一般基準のよう
なものが最終報告書の一番はじめにくる。一般基準は、石原部会長が今おっしゃられた
ようにしていただく。最終報告書の冒頭に一般基準案を石原部会長に書いていただき、
その後に、他の部会員で基準のそれぞれの項目について、解説していくと非常にいいの
ではないか。それでいいのであれば、いくつかの項目を提示していただき、場合によっ
ては他の部会員で付け加える作業を行っていく方が進めやすい。
○
石原
同時並行になるかもしれないが、吉見副部会長がおっしゃたようにしつつ、一
方で私が次回までに今の監査基準を見ながら一般基準部分を書くので、提案をメールで
いただきたい。それらを組み入れて、次回部会の前に皆さんに配る。再度、ご意見をい
ただいて、できれば1回、2回程度で案を固めるという段取りでよろしいか。
三者比較ではなくて、企業の監査基準よりも、独立行政法人の監査基準の方が、これ
から作る地方自治体の監査基準により近いと考えている。そのようなイメージで、企業
と地方自治体、あるいは、独立行政法人と地方自治体という視点で書いてもいいと思う。
○
遠藤
独立行政法人では、会計検査院の検査報告書が出され、会計士監査のことが批
判的に書かれているようである。
○
石原
会計検査院による独立行政法人のチェックと会計士による監査基準に基づく独
立行政法人のチェックとは、どこが違うのか。基本的にしていることが違うのではない
か。
○
遠藤
後者は、独立行政法人に対する会計士監査がどうであるかを検査している。
- 118 -
○
石原
国費が投入されているからか。
○
遠藤
そのとおりだ。会計検査院は、その報告書で独立行政法人の VFM が指摘できて
いないとも書かれている。
○
石原
○
F
そこには、どのように書かれているのか。
究極的には独立行政法人に会計士監査はいらないのではないか、会計検査院で監
査をすると書かれている。
○
遠藤
そのとおりだ。そもそも会計検査院で監査をするデェフォルト・リスクの問題
は、バランスシートの問題ではなく、制度の問題である。将来税収や将来収入を見越し
たうえでの投資・判断が行われているので、そのために役に立つ財務書類とは何か、そ
のために役に立つ監査とは何か、と言われると少し違う方向の話になる。
○
石原
独立行政法人の監査基準は、独立行政法人が決算書を作ったからできたのはな
いのか。それまでの独立行政法人の監査は、会計検査院がやっていなかったのか。
○
吉見
独立行政法人の法人格を取得する前はやっていた。
○
石原
決算書のチェック自体はやらないのか。
○
F
○
石原
保証型としてやっていない。
では、そこの違いである。そもそも目的が違うところを監査している。会計検
査院が副次的に VFM を目的としている。地方自治体で監査基準を作成する際には、その
辺りを留意しなければいけない。可能な範囲内で決算審査をする際に VFM を監査すると
書いてしまうと同じ問題が起こる。
○
遠藤
公金なので不適正会計については、そこが目的として重要である。
○
石原
金額的に重要なものは、会計士が監査をしないといけない。重要な虚偽記載に
あたるものは、会計士が監査をしないといけない。会計検査院の報告書を見ればわかる
ように、単位が「円」で監査がなされており、会計士は円単位の監査をしていない。そ
- 119 -
こが会計士の保証型と会計検査院の指摘型の根本的な違いになる。先月末、会計検査院
「保証型の監査」の違いをはじめて認識したとある
で講義をしたとき、「指摘型の検査」
審議官に言われた。会計検査院には、
「指摘型の検査」という発想が今までなかった。そ
のことを聞いて、監査基準の設定が今まで間違えていたのではないかと思った。
○
吉見
仮に外部監査で入ったとしても、「指摘型の検査」を会計士がやらないというの
は、地方自治体や公会計が難しいということになる。それなら、そもそもなぜ会計士を
入れないといけないのかという議論になる。ここは公会計の特徴的なところであって、
「保証型の監査」をやれるように基準を作成していかないといけない。他の国では、ど
のように「保証型の監査」を入れるかを検討している。会計検査院も VFM と言っている
が、従来どおりの無駄やルール違反を指摘しているのに過ぎない。しかし、地方自治体
の VFM を会計士が監査しろと言われても、今までのノウハウがない。
○
石原
独立行政法人の監査基準はどのような目的か。
○
遠藤
「独立行政法人に対する会計監査人の監査に係る報告書」第1章の法規準拠性
の考え方には、
「独立行政法人に対する監査においては、会計監査人は、財務諸表等が独
立行政法人の財務情報等を適切に表示しているかどうかを判断する手続の一環として、
法規準拠性の観点を踏まえた会計監査を実施しなければならない。通則法第39条によ
る独立行政法人に対する監査は、あくまで財務諸表等の監査であることから、法規準拠
性とは、財務諸表等に重要な影響を与える法令に準拠するということであると考える。
公共性の高い事務・事業を行う独立行政法人は、民商法等の私法のみならず、公法体系
の法令が適用される局面も多く、準拠すべき法令やその内容を網羅的に列挙することは
極めて困難であり、実務上も現実的ではないと考える。独立行政法人の会計監査は、企
業の会計監査と同様に、財務諸表等の正確性の証明、すべての違法行為等の発見を目的
としているわけではない。しかしながら、財務諸表等に重要な影響を与える違法行為等
については、会計監査人が積極的に発見するよう努めていかなければならない。また、
財務諸表等に重要な影響を与えるには至らない違法行為等を発見した場合であっても、
独立行政法人の会計監査人は、必要な報告を行うなど、適切に対応しなければならない」
と書かれている。
○
石原
言葉が不正確かもしれないが、違法行為や不正の列挙があり、そのなかに重要
なものがないことを保証しているのが監査であると以前聞いたことがある。これであれ
ば会計士協会と会計検査院としていることは重ならない。
- 120 -
○ 吉見
他にも重なるところがある。会計士協会でしている監査基準の実務指針や報告
書案や様式を見ると、明らかに重なっているところがある。
○
石原
独立行政法人の会計基準は、どこが作成したものか。
○
吉見
総務省の独立行政法人会計基準研究会と財務省の財政制度等審議会が作成して
いる。
○
F
独立行政法人の会計基準を始めたのは、国立大学のときに資産の評価額に誤りが
あるとの指摘を受けたことにある。
○
石原
○
F
資産の評価額の誤りは、見解の相違によるものか。
見解の相違である。資産評価は誰も責任をもてないので、資産委員会を開催して
有識者で決定している。監査もしていない。
○
遠藤
国立大学のときは資本的支出の基準がなかったので、後から作られた指針が基
準となった。
○
吉見
4月から独立行政法人がスタートするのに、独立行政法人の監査基準がなかな
か出てこなかった。郵政公社のときも同じだったが、出資していないから資本が確定し
ないので、資本を確定するために資産から負債を引くしか方法がなかった。国立大学が
独立行政法人になるときに、資産を膨らまさないように重要物品をなかったことにして
除却することが認められるなどさまざまな問題があった。
○
J
○
石原
インスペクションが内部限定というところは、我々と意見が違うと思う。
検査で外部の人間がお金の使い方を見る、というところまで聞いているがいか
がか。たとえば10円のクリアーファイルを3万枚購入し、30万円の伝票があり、不
正もしておらず、在庫もある。でも、いつ使うのかとなると有効性は低いことになる。
その辺りを内部の人間だけでなく、外部の人間も見たらいいと思うがいかがか。
○
J
それはそのとおりと思う。
○
M
イギリスでスティーブ・マーチン氏は、内部でするのはレビューだと話されてい
- 121 -
た。そのレビューに対してインスペクションするというロジックを持っていた。そこか
らも、内部でするのは、レビューであるべきだと思う。日本ではインスペクションは内
部で行うということだが、内部者が検査をするのは限界があり、外部が検査を行うべき
であると思う。
○
F
根本的に二元代表制に近いわけで、議会の監視機能がより重要になってくる。議
会の統治が監査機能であって、監査事務局の位置づけやガバナンスからすると内部の人
間というよりも、外部の人間がするのが監査だと思う。
○
石原
この中間報告書のなかでも、C氏が、議会は監視機関ではなく決定機関である
と発言されている。でも、決定したら監視する責任もある。監査も検査も外部の人間が
地方自治体から離れた会計検査院のような立場で、検査や監査をし、そこから出される
意見や検査結果報告書を執行部門の長も監視機関の議会も議場で互いに議論すればいい
と思う。地方自治体は執行機関なので、やったことに対して何らかのチェックを受けな
ければならない。そのチェックをしなければならない議会に専門的な知識や能力がない
ので、監査人が意見や結果報告書のようなペーパーを出す。首長と議会が監査人の出し
た意見や結果報告書を用いて、議場で議論するようにすればいいのではないかと思う。
外部の検査が、総務省の見直し案になぜ入っていないかは、議会が本来あるべき機能
を発揮していないという問題意識が総務省にある。議会にもっとしっかり執行機関を監
視してほしいという考えがある。自治法上、規定されているので議会が機能してもらわ
ないと困ると総務省では考えられている。
○
E
インスペクションがないのは大きな問題だが、今行っている行政監査に比較的近
いものと考える。実際、どのようにやっているかと言うと、財務監査の場合は、業務プ
ロセスがきちっと決まっており、上部組織が決まっているので、外部の人が突然監査を
しても比較的対応しやすい。行政監査は、何をテーマにするか、どのような切り口で監
査していくのかを考えないといけないので、突然外部の人が来て監査をするのは難しい
のではないかと思う。イギリスのように地方自治体のやり方がきちっと決まっていて、
他の自治体と比較ができる可能性があれば、外部の人が監査をしても、ルール化できる。
行政監査は、内部の人間がある程度いろいろな仕事をやりながら、チェックを繰り返す
ことで問題意識を見つけて、育てるようなやり方をしている。内部の監査人の利用とセ
ットで外部の人間が監査をすることを監査基準のなかに盛り込んで、監査委員事務局の
使命を何らかの形で残しつつ、外部と連携したやり方が現実的ではないかと考える。地
方自治体側としては、行政監査を外部の人間だけでするのは抵抗がある。
- 122 -
○ 石原
検査の基準を作るときに、内部検査の基準か外部検査の基準か、どの立場で書
くかは難しい問題である。
【休憩】
○
石原
中間報告書で気づいた論点を順番にお伺いする。まず、私から申し上げると、
32ページの議論で、財務諸表の重要な虚偽記載につながる不正と財務諸表の重要な虚
偽記載につながらないが、質的に重要な不正を整理しなければならないと思う。役所で
いうと、決算書の不適正経理にはつながらないが、コンプライアンス違反である。住民
訴訟では、住民が地方自治体を訴えてきているわけなので、地方自治体は住民に損をさ
せている。損はお金なので、経済的な損失になる。住民訴訟の対象になるような不法行
為やコンプライアンス違反は、金額が大きければ会計士の監査の対象になるのではない
かと思う。お金に関係ない違法行為も住民訴訟の対象になるのか。
○
E
基本的には、財務会計行為について住民訴訟の対象となる。会計士監査でもオー
バーラップしてくるところが多い。しかし、実際に住民訴訟されているのは、政教分離
の問題、公害の問題、開発などの問題である。住民訴訟は、財務会計行為しか対象にな
らないので、何らかのお金が絡ませて訴訟されることがある。オンブズマンは、そのよ
うな方法でしか住民訴訟することができないし、住民訴訟は、前置しなければならない
ので、どうしても財務会計行為になるようにお金を絡ませることになる。
○
石原
○
I
監査法人でこのような事態ではどのように対処されるのか。
大阪府では、府職員と監査法人が一緒に監査に行っている。監査法人は財務監査
をして、府職員は行政監査を行う。一つの事象を金銭的な側面と行政的な側面で監査を
している。たとえば、公有財産使用許可については、監査法人は支払いについてどのよ
うになっているかを監査し、府職員はそもそも使用許可が行政目的に合致しているのか
を監査している。住民訴訟についても同じで、一つの事象であり、どちらの側面からも
見られるし、現場では線引きできない。
○
石原
政教分離などの主義主張や物事の考え方で訴訟しているのであれば、地方自治
体は大変かもしれないが、実際に経済的に実害を被って、裁判でも有罪判決が出ている
のに、損害賠償できないというのは住民として困る。そこを財務諸表監査で会計士が担
保できればと考える。
- 123 -
○ I
○
石原
実際は、グレーゾーンが非常に多い。
難しいことだが、裁判で問わないといけないことを会計士が担保する過程で意
見するということである。グレーゾーンではあるが、会計士の監査では、違法行為で経
済的損失を被るとき、職業的専門家としての正当な注意を払い、懐疑心を保持して監査
を行わなければならないとしている。
○
吉見
会計士が監査をする場合、独立行政法人では、基本的に監査人勧告書を念頭に
してやるしかない。
○
石原
会計士が監査をする場合は、そのようになる。重要な虚偽記載の定義は難しく
ないが、地方自治体を監査する外部監査人にとって、違法行為や不当の定義は難しいか
もしれない。
○
吉見
会計士協会が、地方自治体の包括外部監査がコンサルテーションであって、監
査でないとしているので、地方自治体では、監査人勧告書を念頭においてするのは難し
いかもしれない。ISAの原文では非営利部門に関する記載があるが、重要な虚偽記載、
不当、不正の定義を日本の地方自治体に当てはめるのは難しいかもしれない。
内部統制の関係で、民間部門は財務諸表監査に係るところで内部統制監査が行われて
いる。内部統制監査が極めて広範になっていて、何でも財務諸表監査に関係あるような
ことになっている。財務諸表への虚偽記載につながらないものでも、内部統制の問題と
してかかってくる可能性がある。内部統制をどこに任せるか、会計監査のなかに民間と
同じような位置づけにするのか、あるいは、内部統制についてはまったく別枠にしてし
まうのか。実際、内部統制の責任を負うものについて、あるいは、監査の責任を負うも
のについて、さまざまな問題、不当・ルール違反が、コンプライアンスやガバナンスと
いった関係で問題として出てくる可能性もある。
○
石原
総務省案の見直し案1のところで、外部監査人が行う監査の下のところに内部
統制の監査が入っている。これは、民間企業の内部統制監査をイメージしている。内部
統制監査をする前にちゃんと内部統制をやっていますという首長の言明を出すことが、
この見直し案では抜けている。それをどこかに入れなければいけない。11月29日に
行われた地方行財政検討会議(第8回)の資料で、首長が果たさなければいけない内部
統制についての役割が HP に掲載されている。そこには、
「地方公共団体は条例等により、
次の体制を構築するものとする」と書いて、その4つ目の項目に「内部統制の整備・運
用の状況に関する報告及び公表」と書いてある。この公表があってはじめて、外部の監
- 124 -
査人が内部統制監査をすることができる。首長自らが、内部統制できていることを言明
し、それを外部から監査を受けるという仕組みが見直し案に入っている。
○
吉見
民間企業の内部統制報告書のようなイメージなのか、あるいは、首長が内部統
制の整備・運用をちゃんとしているということを単に言明するものなのか。
○
石原
会計士が、直接的に内部統制がちゃんとできていると保証するものではない。
内部統制報告書である。
○
吉見
そうなると、虚偽記載や不当などの問題が入ってくる可能性がある。民間企業
で内部統制が導入された経緯の一つに、西武鉄道事件がある。西武鉄道の問題は持ち株
比率の問題で、ワンマンな社長のやり方を監査するために内部統制ができた。内部統制
をしていれば、西武鉄道の株主構成がおかしいとわかったはずであるという考えである。
それが地方自治体に入ってくると大変である。
○
石原
しかし、そこは、民間企業以上に役所のなかにあるお金が大事、あるいは役所
でしている仕事自体が大事であるという論が通る。地方行財政検討会議においても、内
部統制が必要という意見には異論はない。
○ J 小さな市町村には、少し難しいかもしれない。
○
石原
これは次のステップである。スモール・オーディットといって、極端に言うと
方法は2つ、3つあってもいいが、最終的に達成しなければならないものには、差をつ
けてはいけない。監査でいうと保証水準のようなものである。民間でも小さな企業であ
れば、緻密な内部統制を作らなくても、親方がいれば十分できるだろうという考え方で、
中小企業のスモール・ビジネスの監査基準を考えたことがある。大きな地方自治体と小
さな地方自治体が同じ方法・手続きでやる必要はないと思う。結果としての内部統制の
信頼性は同じで、そこで差をつけてはいけない。小さな地方自治体が内部統制をするの
に大きな地方自治体と同じことをやる必要はないと思う。
会計士の責任に関することで、監査と検査は違うが、不正を発見できなかった決算審
査の不審査にかかる責任と VFM をきちんと指摘できなかった責任に違いはあるのか。検
査に責任がないとすると非常に難しいことになる。以前、森田部会員が、イギリスの例
として監査に要した金額の6~7倍の改善提案を検査はしないといけないと発言してい
る。検査には、責任はないがノルマがある。その議論が本部会の第1回の議事に出てい
る。監査・検査の基準を作るとき、当然として責任の問題が出てくる。どう考えるか。
- 125 -
○ 吉見
会計士の責任は、一般的に民事上の責任である。会計士の監査人責任の話をす
るときは、経費関係のこと、ノルマ関係のことを除くのが一般的である。
○
石原
包括外部監査が呑気な監査だと言われているが、包括外部監査は指摘型監査な
ので、吉見副部会長の言われるように、通常の考え方ではもともと責任は出てこない。
しかし、コンプライアンスも VFM なので、コンプライアンス違反の発見ミスはあるかも
しれないが、VFM の指摘を行っているので責任がとれない。
○
F
責任というのは、監査の対象範囲と関係があると思う。何を検査の対象としてい
る範囲かを決めないといけない。
○
たとえば、前年度の大阪府土木部の支出の VFM、特に経済性に限定して見ると
石原
すると、ほとんど検査になる。
○
E
法律的な考え方で責任論は、過失責任の原則なので、故意か過失がどのようなと
きにあるかの判断である。一定の注意義務が課されていて、それを果たさなかったとな
ると、注意義務の範囲をどのように固めて、本来どのようにやるべきであって、そこま
で至らなかったということになる。その注意義務をどう固めるかは、量的・質的・やり
方などを監査基準に定めることである。そして、その裏返しとして、必然と責任が発生
する。不正を見逃したときの対処、不正を発見するためにどこまでの監査証拠を収集す
べきか、監査基準にどこまで規定するかになる。
○
吉見
経済性や効率性は、責任を負うようなところはないと思うが、有効性は、責任
を負うことはあるかもしれない。
○
石原
監査が1個、検査が2個といった具合に会計士協会で言い切ってしまう方がい
いかもしれない。そうすると責任問題が整理できる。基準と責任はセットなので難しい
問題である。
○
F
ACのインスペクションは、責任があるのか。
○
石原
監査の責任はどうなのか。
○
遠藤
Code of Practice に記載されている。
- 126 -
○ 石原
○
J
しかし、コンサルティングの視点で基準が必要か。
今の総務省案から言うと内部がインスペクションであり、外部がアウトソースで
ある。
○
石原
全国監査組織ができたとしたら、そこに地方自治体の監査・検査をどのように
するかのベースの基準をもっていきたい。監査は、民間企業の監査基準を参考にするこ
とができるが、検査の場合、内部が基本だが、外部で検査する可能性もある。
○
F
○
吉見
事業仕訳で指摘できなかったことについてもインスペクションすべきか。
これは行政評価と政策評価の関係みたいなものであり、この事業をそもそも中
止すべきだということは、政策評価の問題であって、行政評価は極めて監査的なもので
ある。
○
F
○
吉見
インスペクションの対象は、行政執行手続のなかの過失か。
そのとおりだ。政策そのものは、議会で決めることなので、議会をひっくり返
すか、あるいは、事業仕訳のように別の仕組みで政策評価をしている。しかし、国会が
決定したことを各省庁が事業仕訳でひっくり返すことは、本来、制度としておかしい。
国会が政策を決めているので、各省庁は政策評価の実施に踏み込めないし、監査でさえ
踏み込めないという実態になっている。しかし、今後、行政部局でもなく、議会部局で
もない独立した機関として、監査やインスペクションを入れていくこともあり得る。今
の枠組みなかでは、会計検査院も国会の予算決定が誤りであると言えないのはないか。
○
石原
基本的に政策評価は、議会しかできない。
○
吉見
政策を議会が決めてしまっているので、議会しかできない。
○
F
その考え方からすると、政策としての有効性と行政手続きとしての有効性が重な
るところがある。
○
石原
そのとおりだ。それは、検査対象の把握の仕方になると思う。事業でするのか、
施策でするのかで全然違ってくる。
- 127 -
○ 吉見
内部監査の概念のなかにコンサルティングは含むのか。企業会計の監査をその
まま当てはめるのであればインスペクションは内部の監査であって、それがコンサルテ
ィングを含んで行うのであれば整理することができる。地方自治体の監査で、インスペ
クションが外部から行われるとしても、その外部の監査が、内部監査と同様にコンサル
ティングを含んではいけないという論にはならない。地方自治体であるので、外部のイ
ンスペクションに関して、コンサルティング要素を含めたものだと理論を立てることが
できると思う。
○
石原
会計検査院は、会計検査基準を持っていない。会計監査のマニュアルは多くあ
るが会計監査の基準はない。基準とは何か。
○
F
○
石原
マニュアルがあれば、基準などいらないと主張する地方自治体もある。
ただ、基準の一つの効果は、強制的な役割を基準に持たすと、すべて基準に従
うことになる。制度は法律で決まるが、その制度のもとで、さまざまな実務慣行をどの
ようにするかは基準による。誰もが理解できるシンプルで短い基準が、社会変革に役立
つ。
○
L
○
石原
基準とは、準拠できるもの、比較ができるものと考える。
会計基準は比較ができる。監査基準はレベルを整える。だから、監査基準は、
責任論にも展開できる。準拠すべきもの以外は、なかなか言いにくい。
○
L
○
石原
監査基準は、到達していることが前提になるのか。
いや違う。監査基準に準拠すれば、到達する水準は想定される。その意味では、
基準を変えると到達する水準は変わる。基準には2つの意味があり、基本的に白か黒を
判断する判断基準と白か黒かを決めるための行為基準がある。監査基準とは、監査とい
う行為であって、会計基準は作るときは行為であるが、監査人にとっては判断する基準
に変わる。
責任論などの一般原則を監査人のところで書かなければいけないところが多くなる。
○
吉見
準拠性の問題など、基準をどのようなイメージで捉えられているかは、作り方
によって広範なものになる。
- 128 -
○ 石原
私のイメージは、SAS の一番はじめのところである。
○
一般基準をイメージして監査基準で作るとき、規範や指導性といったものが出
吉見
てくる。
○
F
準拠性を考えるとあまり意味のない基準になる。
○
石原
公準・基準・原則・規範とは何か。
○
吉見
現在、公準は破たんしている。しかし、3つの会計公準を未だに指導している
先生もいる。現在、概念フレームワークから書き出して、原則論を導きだす先生はいな
い。一応生きているが、協会原則自体を見ることがない。
○
石原
会計管理者は内部管理者なのか、それとも内部監査以外のモニタリング者なの
か。総務省案にも、会計管理者に内部管理者を任せるというものがある。会計管理者は、
担当セクション以外の財務伝票を審査している。それが内部監査かどうかという論点が
ある。総務省の内部統制報告書では、会計管理者をできるだけ内部管理者的に位置づけ
しようとするイメージがある。
○
N
○
石原
会計管理者には、牽制機能はあると思う。
牽制機能であれば、監査の定義になる。会計管理者は監査ではない。そうすれ
ば、現場セクションがあって、会計管理者で伝票をチェックしているけれども、総務部
監査室で監査を見ないといけないという理論になる。そうなると役所から、3回もチェ
ックをするのかと言われる。だから、総務省の内部統制報告書には、会計管理者に内部
の会計監査の大部分を委ねようというスタンスで書いてある。
○
N
○
石原
それであれば、現行と何も変わらない。
会計管理者が内部の会計監査であるとするなら、会計管理者にもっと権限を付
与していかなければならない。
○
L
会計管理者に工事監査をさせるというのは以前議論されたことがある。
- 129 -
○ 石原
○
N
それでいくと、会計課に技術者が必要になる。
本市の場合、支出の内容が適正かをチェックするのは、どちらかというと会計管
理者ではなくて、財政課である。
○
石原
でも、財政課は、すべての伝票をチェックしない。
○
N
本市では、すべての伝票が財政課のチェックを受ける。
○
M
本市では、100万円以上の伝票だけ財政課のチェックを受ける。
○
N
執行する前に財政課長の決裁を得て、支出する際に会計課のチェックを受ける。
起票の段階で、財政課のチェックを受ける。会計管理者は、どちらかというと支出先や
金額に誤謬がないかをチェックするレベルである。
○
石原
部課別に予算が配当され、事業課が起票しているのに、なぜ財政課が止めるこ
とができるのか。
○
N
○
石原
○
N
財務行為であれば、財政課は止めることができる。
根拠上、なぜ財政課は止めることができるのか。
財政課長の権限が、財務規則に規定されている。財政課長は、配当した予算が適
正に執行されているかをチェックしている。財政課長の決裁がないと事業はできない。
○
石原
役所では、そのような内部統制をとっているということか。
○
伊藤
今まで会計管理者は、内部統制官だと思っていた。財政課が行ってきた設計図
を会計管理者がチェックしてはじめて、支出命令が有効になるのではないかと思ってい
た。
○
石原
いや、そのとおりで、会計管理者が内部統制を行っているのは間違いないが、
内部監査という観点でみるとどうか。
○
N
会計管理者が振り替えてチェックすることもない。
- 130 -
○ 石原
では、監査委員局が財務監査を会計管理者にしてもらうのは無理となる。して
いることが違うので、牽制行為を監査とは言えない。
○
I
東京都の公会計シンポジウムで決算に関する保証型監査の議論が出たが、実際の
決算に対して保証型の監査を入れることは、どのような利害関係者が、どのような要請
で、どのようなニーズがあるのか。監査という限りは、何らかの利害対立があるはずで、
自治体の決算には、現状からどのような利害対立があるのか。
○
ASOBAC で監査の成立要件が4つあがっており、そのなかの一つに利害の対立
石原
があるが、はたして本当に地方自治体の場合、この4つの成立要件が該当するかは、誰
もチェックしていない。ASOBAC を翻訳した鳥羽先生は、あれは情報監査の基準だけで
実体監査の側面に言及できていないので、監査の基準ではないとしている。4つの成立
要件は、一般的な企業の財務諸表監査の要件なので、地方自治体の場合は、住民、首長、
議会の間に利害の対立があるという理屈は立てられない。地方自治体では、基本的に利
害の対立はない。不適正経理の問題がたくさん出てきたというのは、現実的な一つの理
由だが、それが大きな問題ではなく、地域主権をやっていくために、お金の使い方や透
明性を高めていこうというのが理由である。あえて言えば、税金を納めた人と税金を使
った人の間に利害の対立があると思う。タックスペイヤーとタックスイーターの理屈で、
地方自治体は、自分たちの理屈でタックスイーターを利用していく。当然、それぞれ考
え方や立場は違う。しかし、自治体監査の成立要件を実際に ASOBAC の4つの成立要件
に照らし合わせて考えていくことは、重要なことかもしれない。
○
I
現在の地方債は、暗黙の政府保証が付いている状態で、仮にその政府保証が外れ
た場合、金融機関からこの財務情報が正しいかどうかの監査をしてほしいと要請される
ことがあるかもしれない。
○
石原
地方債の議論は以前からある。実際に政府保証が付いていて、若干スプレッド
が違う。仮に100億円借りてもわずかな差しかないので、ここで監査が必要だと主張
しても相手にされない。他のロジックを考えなければならない。そこで地域主権が主張
できる。小さな自治体でも権限とお金はある。そのお金は、地域の人が拠出したお金で
あって、お互いの説明責任を果たさなければならないという視点で監査が必要である。
○ J 東京都で、ある議員が都の不正支出を監査請求し、裁判に勝訴し、都に返還させて
いる事例がいくつかある。東京都ですら体制ができていないのが現状である。
- 131 -
○ 石原
そこは、インスペクションを外部でやらないといけないところである。内部で
はできない。外部からのインスペクションの有効性や必要性がある。やはり独立した会
計検査院みたいな組織が地方自治体には必要である。会計士も必要だが、地方自治体に
熟知した方も必要である。支出伝票や職員の配置を見るとなんとなく不正を見抜ける人
が必要である。それがリスク・アプローチになる。
○
伊藤
独立した地方自治体の監査組織は、ACみたいな概念の組織か。
○
石原
いや、まったく白紙の状態だ。
○
伊藤
一番いいと考えられるものを作ろうとしているのか。
○
石原
総務省の見直し案にもあがっているが、監査基準を作る、技能資格を作る、内
部を含めた研修ぐらいである。ACと比較すると小さい組織である。できれば、外部監
査人の選任権限が全国組織にはあるといい。誰かが外部監査人を選任するとなると新た
な議論が起こる。それに総務省の見直し案1、2、3では、議選の監査委員がいなくな
る。
○
藤岡
ASOBAC の関係の議論をきっちり作っていかければならないと思う。
○
遠藤
リサーチシリーズを出そうと思っているか。予算が1年前倒しになっている。
○
J
○
吉見
会計管理者の件は、じっくり考えないといけない。
今の会計管理者にまったく新たな機能を追加しようとしているということであ
る。
○
石原
総務省の会計管理者に対する見解は、支出負担行為のチェックをしていると思
っている。口座があるか、領収書があるのかだけをチェックしているのなら違う。
○
N
ルール上と実情の差かもしれない。ルール上はそこまでしないといけないかもし
れないが、実情は膨大な事務量と銀行への支払い処理を考えるとできない。
○
石原
財政課の職員が、会計課でしないといけない仕事をしているかもしれない。各
- 132 -
地方自治体の会計管理者の実体を見れば、現状がわかるかもしれない。退職前の部長級
が会計管理者として配属されている地方自治体が多い。
この中間報告書のなかには、監査委員が外部監査か、あるいは、内部監査かという議
論がある。監査委員の選任は、首長が選出して、議会が同意する。首長の選出に注目す
ると内部監査の議論になり、議会の同意に注目すると外部監査の議論も出てくる。議会
は選出ではなく、同意なので、議会が同意しているので監査委員は外部監査であるとい
う議論を入れてはいけないという意見がA氏、B氏からあった。選出ではなくて、退く
ときに監査委員と選挙管理委員は退くための委員会を開催しなければならない。他の委
員と比べると解任するときのハードルが高くなっている。仮に監査委員が内部監査とし
ても、通常の内部監査だけでなくて、首長に対して進言する期待があると思うので、す
ぐに退くことができない。本部会で、監査委員が内部監査か外部監査かという議論をし
てきたが、結論として、どちらでもない。内部か外部かという議論をするのではなく、
あるべき姿として、監査委員の役割は、基本的に内部監査であるという決めつけをした
方がいいのではないかと思う。なぜ、監査委員を内部監査と決めるかは、あるべき姿と
しては外部監査をしなければならないが、今の制度的な縛りのなかでは内部監査である
とB氏、C氏が話されていた。監査委員が内部か外部かは、監査基準を作る際にはあま
り大きな問題ではないかもしれない。
○
吉見
監査基準との関係で言うと、独立性の問題がある。内部か外部かというよりも、
監査委員がどこから独立しているかということの内部か外部かである。監査基準を作る
ときには、どこかで言及しなければならない。監査委員がどこの部署に対して独立性を
もっているのか、あるいは持っていないのかを整理した方がいいのではないか。
○
石原
そうすると総務省の整理がひとつの整理になる。現行の監査役、見直し案2に
記載されている内部監査役は、首長を含めた首長部局に対して、独立的立場にある内部
監査という位置づけで図が描かれている。任命の形態や組織の構造などさまざまな事柄
を考えると、形式的には内部監査であるが、解任の議論もあるので首長に対する独立性
が期待されている。実質的に外部監査として頑張ってもらわないと困る。あるべき姿と
して監査委員は、外部監査として期待されていると整理できる。解任の規定のところは
重い。
○
吉見
一般会計や特別会計、第3セクターを含めて、連結財務諸表を作成した場合に
監査上の問題は出てこないか。
○
石原
たくさん外郭団体をもっている地方自治体では、内部監査であっても健全化4
- 133 -
指標をチェックできる体制を整えることが重要であるとB氏が話されていた。
○ 吉見
監査基準を考える場合、地方自治体単体に対する財務諸表監査と連結したとき
の財務諸表監査での違いは、今回は考えないという議論もあるし、そこまで考えておこ
うとする議論もある。健全化指標も監査の対象になるが、特に取り上げる必要はないの
か。民間で言えば継続性の監査に近いものになると思うが、ゴーイング・コンサーンと
しての健全化指標に対する監査である。指標にストレートに書くか、あるいは、書かず
に地方自治体におけるゴーイング・コンサーンというイメージで基準を作成し、実際は
指標のなかに入ってくるようにするかは基準の書き方による。地方自治体の財政悪化等
に対する監査は、入れなくていいのか。
○
石原
基本的に二重責任の原則という前提をやってもらわないと、決算書を突然渡さ
れても困る。内部統制のなかにも「財務報告の信頼性」という文言が一度削除されたが、
再び記載されているので、内部統制の問題としてきちんと内部統制報告書と関連付けて
整理していかなければならない。
○
吉見
監査証拠に関する問題で、インフラや文化資産を対象としたときに、監査証拠
はいるものなのか、いらないものなのか。地方自治体の場合、特殊な文化資産が入って
くる。文化資産の実在性は、ただ存在することを確認すればいいのか。特段の手続きは
いらないのか。
○
遠藤
国立大学の会計基準でも、固定資産で分かれているはず。
○
吉見
地方自治体会計特有の財務諸表項目についての監査手続や監査証拠の収集は、
何かあるか。
○
E
美術品は、台帳整理して、他と同じ扱いになっている。文化財的なもので県が所
有しているものはあまりない。建物は公有財産の管理になるし、特別な評価を要するも
のもあまりない。
○
吉見
○
E
都道府県では警察の監査がある。どのようにしているのか。
財産も財務会計システムで管理しているので、他の部局と同じようにしている。
警察の場合、監査事務局の上司が監査にあたるなど、監査から情報が漏えいしないよう
な配慮はしている。財務行為しか見ないので、監査証拠の取り方は、警察であっても同
- 134 -
じである。
○ 吉見
警察は他の部局と違って、ディスクローズされる情報の幅が小さい。つまり、
ディスクローズされる情報が少ないなかで、監査証拠を集めることが可能なのか。警察
がすべての情報をディスクローズすることはない。オープンになっていない情報が多く
あるものに対して、監査することができるのか。監査証拠が集められるのか。政府の会
計の特徴的な会計項目なので、特徴的な会計項目のある監査に対して、特段の基準的な
問題点があると考える。
○
伊藤
美術品の件は、現金の実査はするが、評価はしない。
○
吉見
そのとおりだ。評価をするのは非常に危険である。もし、台帳に載ったときに
その評価をどう判断するのか、その証拠をどのように集めるか、思いつかない。そうい
った地方自治体会計特有の監査証拠の集め方を何か考えないといけない。
○
伊藤
会計士監査で、そういった美術品を所有している企業もある。その際の評価は、
美術品鑑定士などの専門家によって評価していた。
○
F
○
石原
今は取得原価のままである。
本日はかなり煮詰まったので、監査の方は学者の部会員にアメリカの SAS の一
番前にある GAAS のイメージでリストアップしたいと思う。実務家の部会員も含めて、
何かこんなものが監査の根本原則として入れるべきだというものを提案いただきたい。
次回の研究会では、これらについて議論しつつ、石川部会員に報告をいただき、インス
ペクションをどのように設定するかを議論していきたいと思う。
(第6回
- 135 -
研究部会
以上)
資料2
第7回
議事録
日時
2011年1月29日(土)14時30分~17時
場所
関西学院大学
全学共用棟4階
402室
<参加者>
出席
16名
<次第>
研究部会長挨拶
協議事項
1 報告
Code of Audit Practice の概要(英国地方自治体監査基準) 石川部会員
2 最終報告書原稿の分担割りについて
3 その他
<議事内容>
○
石原
本日は、石川部会員の報告、そして、地方自治体監査基準作成の最終報告原稿
の分担割りを決めたいと思う。
○
石川
「Code of Audit Practice の概要」について説明する。これがどのような使われ
方をしているのか、どのような権限が与えられているのか、誰が作っているのか、どの
ような会計であったのか、どこが具体的に改定されたのかの観点から説明する。
「Code of Audit Practice」とは、イギリスにおける地方自治体の監査基準に相当する
ものであり、一般基準・実施基準・報告基準で構成されている。資料1で確認すると「1
一般原則」が、一般基準に相当するところであり、会計士の独立性や守秘義務など、一
般的な事柄が記載されている。次に「2
財務諸表監査」
「3
責務」が、実施基準に相当するところである。
「4
資源の利用状況に係わる
監査結果の報告」が、報告基準に相
当するところである。「Code of Audit Practice」は、1982年地方財政法によって作
成されたものである。現行法では1998年地方自治体監査委員会法(AC Act)にあた
る。
スライドの3、4でイギリスの地方自治体監査と業績管理に必要な用語整理を行って
いる。この「Code of Audit Practice」は、英国地方自治体監査委員会(AC)によって
作られた。しかし、ACは 2012 年に廃止することが決定されている。
「資源の利用状況」
は、VFM 監査として考えられる。具体的には、経済性、効率性および有効性を確保した
- 136 -
体制を整備した状況として「Code of Audit Practice」に謳われている。
「資源の利用状
況」は、コードの中に資源の利用状況の責務として記載されており、それとは別に CPA・
CAA の評価項目の1つとなっている。
Code of Audit Practice の概要を「コードの法的な位置付け」「コードの設定主体」「コ
ードの内容(特色)」の3つの観点から説明する。通常、監査基準は監査人の行為規範で
あるが、Code of Audit Practice は監査基準であって、その中に地方自治体がどのような
ことをすべきであるかという作成基準に相当するものが含まれている。このことが、イ
ギリスの監査基準で最も顕著な特色である。前々回の部会で、日本の地方自治体監査基
準を作成する際に、まず作成基準として GAAP を作らなければならないという意見があ
ったが、イギリスでは Code of Audit Practice が作成基準と監査基準の両方を兼ねてい
る。Code of Audit Practice が単に監査人の行為規範としての位置付けではなく、「地方
自治体の責務」と「監査人の責務」を明示している。本部会が地方自治体監査基準作成
を目的にしているので、Code of Audit Practice のこの辺りは参考にできると考える。そ
して、個別のガイダンスとして、地方自治体が個別に作成しなければいけないものが書
かれている。監査結果が非常にうまく活用されている(資料4・5・6)。
まず、
「コードの位置付け」として、コードが5年ごとに見直しされなければならない、
監査人はどのような人から任免されなければならない、監査人の責務として VFM 監査
をしなければならない、監査報告書をどのように書かなければならない、監査人の資格
が1998年 AC Act のはじめの部分に謳われている。上位に AC Act あり、その下位
Code of Audit Practice、さらにその下位に詳細な実務指針が位置づけられるピラミッド
型のイメージで説明することができる。日本の地方自治法を改正する際に、この辺りを
参考にすれば強制力が発揮できると考える。後から出てくる事柄については、実務指針
で修正していくことができる。
次に「コード設定主体」はACである。2012年までにACが廃止されることが決
定されている。ACが廃止された後、誰がコードの設定主体を担うのか検討されている。
ACが廃止されると、AC Act が改正される可能性がある。コードが実務に合っていても
5年ごとに改訂されなければならいこととなっており、今回の報告では、2002年、
2005年、2008年、2010年の直近の4回の改訂を見てみる。この期間の改訂
では、BV、CPA,CAA に係わる改訂が多く、詳しく見てみると資源の利用状況につい
て改訂しており、一般基準はあまり改訂されていない。
「コードの内容(特色)
」の1つに Code of Audit Practice に「地方自治体の責務」と
「監査人の責務」が明示されていることを先ほど説明したが、
「財務諸表監査の責務」と
「資源の利用状況の責務」で具体的にやらなければいけないことを整理している。地方
自治体としての「財務諸表監査の責務」は、資料1の9ページパラグラフ13・14に、
「資源の利用状況の責務」は11ページパラグラフ21・22にそれぞれ謳われている。
- 137 -
「資源の利用状況の責務」のパラグラフ21で、自治体の経済性、効率性および有効性
を確保した体制を整備した状況を謳っており、パラグラフ22で、改訂されるにあたっ
て何が必要かを謳っている。しかし、このパラグラフ21・22だけだと、どのように
してその責務を果たしていかなければならないのか分からない。具体的にどのようにす
るかは、資料2・3になる。資料2は CPA や CAA で資源の利用状況を評価していたガ
イドラインであるが、基本的に評価は地方自治体任せとなっている。表を見てみると、
まず「よい VFM を達成しなければならない」とし、
「他の地方自治体とコストを比較さ
れていなければならない」されている。そして、絶対しておかないといけないレベル2、
そのより上位を求めるレベル3、レベル4がある。しかし、このレベルは地方自治体自
らで立証している。これが作成基準である。どのようにしてコストを比較することが可
能かは、資料6の VFM ツールを利用する。比較したい地方自治体をデータベースから
選択することで、視覚的にコスト比較を可能とする。資料6の4ページ目のグラフでは、
タンドリッジを選択して比較をしている図である。他の地方自治体よりもコストが多く
かかっているのなら、理由づけをする必要がある。コードのパラグラフ21で大まかに
謳われているが、実務指針で細かく規定している。あくまでも監査人は地方自治体の自
己評価した結果について、監査しており、結果によってはアドバイスをしている。
監査結果の活用として、監査結果の改善事例集が資料4になる。監査報告書が資料5で
ある。その中で財務諸表監査と資源の利用状況の監査の報告がなされている。成果の指
標として、ベストバリュー・パフォーマンス・インディケーターを公表している。以上
である。
○
石原
○
C
○
石川
石川部会員の報告について、いかがか。
日本の地方自治体と比べると、イギリスの地方自治体は非常に規模が小さい。
バーミンガムのような大きな地方自治体でもタンドリッジのような小さい地方
自治体も同じように比較している。
○
西尾
一般にいう「監査」とは違うのか。
○
石川
財務諸表監査については、一般にいう監査であるが、少し違うかもしれない。
○
西尾
作成基準が入っているのは日本の内部統制と同じように感じるが、監査結果に
対してアドバイスをするのか。
- 138 -
○ 石川
比較することで優良事例が分かるので、研修のようなアドバイスを行っている。
○
西尾
しかし、それがオーディットなのか。
○
石川
イギリスではオーディットと言っているが、内容を聞いているとコンサルティ
ングである。
○
西尾
日本では、どうなのか。
○
石原
私のイメージでは、狭義のオーディットは財務諸表監査で、広義のオーディッ
トはパフォーマンス・オーディットも含む監査である。パフォーマンス・オーディット
の手法は保証ではなく、指摘になる。本部会の今までの議事で、監査基準の対象を財務
諸表監査までとするのか、あるいは、VFM 監査まで含むものにするのかを議論してきた。
イギリスの Code of Audit Practice を見ると、一般基準・実施基準・報告基準となって
おり、そこに use of resource として VFM 監査までが含まれている。1つの方法として、
イギリスの Code of Audit Practice の前提である AC Act を参考にして、大きな枠組みを
作っていくことができる。本部会では Code of Audit Practice と AC Act の研究までとし
て、後のガイドラインは、地方自治体監査機構のようなところで取り組んでいただきた
いと考える。
C
○
石原
この Code of Audit Practice であれば、全国都市監査委員会の基準と変わらない。
○
Code of Audit Practice で監査人の責任が法的に縛られることになる。Code of
Audit Practice に書いてあることを遵守していないと、監査人は AC Act によって責任を
負わなければならない。内容の違いもあるが、位置付けの違いがある。監査要覧やマニ
ュアルは法的な縛りがないが、基準はもう少し上位の概念で、法的な縛りを受ける。Code
of Audit Practice は、監査要覧やマニュアルよりも原理原則的なものであるので、内容
についても少し違いがある。Code of Audit Practice の方が分量的にも少ない。この下位
になる実務指針は沢山ある。
○
西尾
ACが廃止になった理由は何か。
○
石原
それはスペンディングカット、つまり公務員削減である。
○
西尾
そうすると、ACはスペンディングカットを理由に廃止される程度の組織だっ
- 139 -
たのか。
○
石原
先日の朝日新聞にマンチェスターを例として、イギリスでどの程度のスペンデ
ィングカットがあったのかを示す記事が掲載されていた。その内容は、4年間で公務員
を4分の1に削減し、75%の人員で従来どおりの仕事を行わなければならない状況を
地方自治体が求められているとのことであった。また、政府もそれに相当する削減が求
められており、医療・福祉・義務教育の費用削減できないところや、受益者負担を求め
なければならないところ、費用削減できるところなどを考えていくと、最後は公務員削
減になっている。マンチェスターでは、1万人の公務員のうち2千人がリストラされて
いる。ACでも2千人のリストラが決まっている。
○
西尾
ACに代わるものはあるのか。
○
石原
ACでは、3分の1の職員が財務諸表監査を担当している。3分の1がインス
ペクションを担当している。残りの3分の1がリサーチとしてさまざまなデータを提供
するために CPA や CAA の分析を担当している。財務諸表監査担当者は昨年の 11 月ま
でに全員が自ら退職し、インスペクション担当者はもうしばらく継続し、CPA・CAA 分
析担当者は今年中に解雇することになっている。昨年 11 月に退職した職員は、ディスト
リクトオーディットプラクティスという監査法人を設立して、今までACが行っていた
3分の2ほどの監査を引き受けようとしている。残りの3分の1はもともとKPMGな
どの民間の監査機関に委託していたので民間で行う。AC Act では、有資格者による財務
諸表監査が規定されているため、ACで監査を行っていた職員はCIPFAの資格や
CIA を有している。そのため、資格を持っている職員は、ディストリクトオーディット
プラクティスに再雇用されている。
○
西尾
監査の報酬はでるのか。
○
石原
ACは廃止になるが、監査自体は廃止ではない。
○
西尾
監査自身が縮小されることになるのか。
○
石原
少なくとも財務諸表監査は残る。インスペクションはACが廃止されるまでは
残るが、その後は決まっていない。
○
西尾
インスペクションも大事である。
- 140 -
○ 石原
私も大事であると考える。
○
西尾
ACが無くなってしまうとどうなるのか。
○
石原
ACの代わりをしようと考えている任意団体は沢山ある。ACが今まで行って
いた Code of Audit Practice の作成は、LGAが担当することになっている。他にもイ
ギリスには、COSLA、LGCなどの任意団体が多くある。
○
西尾
必要性が高いので、結局は民間部門が行って、今までと同じように継続してい
くことになるのか。
○
石原
今のイギリス政権が望んでいるのはスペンディングカットである。地方自治体
が負担してACが行っていたことをディストリクトオーディットプラクティスが代わり
に行うことになるので、カットしたことになっていない。現在、イギリスでは CPA・CAA
の廃止やACの廃止に反対するレポートが多く出てきている。CIPFAもACの廃止
には反対しているので、今年の3月にセレモニーを行うことになっている。
○
西尾
予定どおりにACが無くなったとしても、見かけだけ無くすのだから、安心で
ある。監査をやるよりも、やらない方が安くなったという話では、意味がない。
○
石原
今のところ、そのとおりである。イギリスの風土で監査をやめようというのは
ない。
○
A
資源の利用状況に関する監査は、3E監査であって、効率性に焦点を当てた監査
である。効率性であるということから数値比較によるベンチマーキングのようなイメー
ジと考える。日本の地方自治体は非常に多くの業務をこなしており、その業務の多くは、
国がすべての制度設計を行い、地方自治体は国の下請けとなっている。社会保障制度な
ど国が決めた制度を地方自治体が執行部隊として行っているので、効率性まで監査する
のは難しいと考える。たとえば、地方交付税の自己財源が25%なので、極端に言うと
25%しか自由に使える資金がない。現実の行政運営において、有効性まで広げた監査
をどのように行うのか分からない。
○
L
行政評価制度が各地方自治体で異なっているので、統一性がないのが問題点の1
つと考えられる。しかし、行政評価自体はアウトカムベースで行っているので、全国的
- 141 -
に統一された指標を作ることができれば可能であると考える。地方自治体の規模で、行
政評価の対象が異なることになるが可能である。
○
C
イギリスのベストバリューで横断的な比較が容易にできるのは、地方自治体自体
が小さいためである。イギリスの地方自治体が小さく規模が揃っているので、コストな
どの比較がしやすい。さらに、イギリスの地方自治体は、日本と違ってやることが決ま
っているところが特徴的である。だから、やることが決まっているのでベストバリュー
で効率性が測れる。政策について地方自治体の職員が有効性を監査すること自体に問題
があると思う。民主的な選挙で選ばれた主権者の意思によって、判断されるべきもので
ある。有効性については、価値観の問題であるので首長と議会に決めてもらう以外にな
いと考える。
○
石原
有効性の議論は、CPA・CAA、あるいは、ナショナル・インディケーターの問
題である。有効性はコストの問題でなく、多くのアウトカム指標があるので、政治家が
決めるレベルよりも下位の問題である。CPA・CAA は、use of resource との関係で整理
すべきという考え方を日本に普及させないといけない。それがインスペクションと関係
していく。インスペクションとパフォーマンス・オーディット、あるいは VFM 監査、
use of resource をどのように整理するかの問題、そして、インスペクションと財務諸表
監査をどうように関連づけるかの問題を議論する必要がある。現在の日本では、その辺
りの基礎的な理解がほとんど啓蒙できていない。CPA や CAA はまさに有効性の監査に
なる。
C
○
石原
CPA・CAA では、どのようなインディケーターを使っているのか。
○
詳しくはトーマツの本に記載されている。このようなインディケーターは、政
治家が判断するものか、あるいは、権限委譲を受けた役所の職員で判断するものなのか
議論してもいいかもしれない。政治レベルの非常に大きな有効性については二元代表制
の議論になるが、事務事業レベルや施策レベルでの有効性もある。
○
A
地方自治体のなかで、事務事業レベルや施策レベルのコストパフォーマンスの議
論はよくある。地方自治体の職員は行政評価を行っていると言いながら、有効性につい
ては定性的なものとなっている。そこを乗り越えられるようなものあればいいと考える。
PDCA サイクルを回しながら、行政評価担当部門、事業部門、監査部門が同じことをや
っているようでは役所の中で事務が錯綜するだけなので、どのように監査を行うのかと
いう手掛かりになるようなものが必要である。
- 142 -
○ C
明確な基準がないといけない。非常に高いパフォーマンスでなくとも、最低限行
うべきパフォーマンスの基準があれば少し違ってくる。
○
石原
学者の問題意識では、監査にはクライテリアが必要である。しかし、インスペ
クションではクライテリアがない。インスペクションの延長線上に VFM 監査があると
イギリスでインスペクションを研究している学者は理解している。日本で会計検査院の
会計検査論の研究に取り組んでいるのは早稲田のアカウンティングスクールだけである。
会計検査論や財務諸表監査論の研究者はわずかだが、一定数はいる。しかし、インスペ
クションの理論の研究者は現在の日本にいない。会計検査院の官房審議官は、会計士と
話をしても監査の話しかしない、会計検査院としては会計士と検査の話がしたいと話さ
れていた。そこの溝が埋まらないとも話されていた。私の問題意識では、インスペクシ
ョンも監査の一部であって、インスペクションで出された結果を他団体と比較するとこ
ろに業務改善やインプルーブメント・アクティビティーを活用することでうまくいくと
考えている。インスペクションやベンチマーキングを活用し、他団体比較を行ない、地
方自治体が進展していくことが、パフォーマンス・オーディットで目指しているところ
と重なると考える。インスペクションと監査の関係をどのように整理していくかが、こ
の議論の終着点になるのではないか。
○
吉見
会計検査院が行っていることを、会計検査院はオーディットと言っているのか。
○
石原
検査をしていると言っている。会計検査院がしているのは、Code of Audit
Practice である。
○
吉見
会計検査院は自ら行っていることをインスペクションと見ていない。日本の公
式な立場では、会計検査院だけがオーディットを検査している。
○
C
○
吉見
○
C
用語の定義が混乱している。どのように違うのか分からない。
今回の石川部会員が報告された概念をきちんと整理していく必要がある。
英語で「インスペクション」と「オーディット」はもちろん違うが、日本語で「監
査」と「検査」が違うというのは、少し分かりにくい。
○
吉見
「検査」が何かというと「公的な監査」という位置づけである。
- 143 -
○ 遠藤
実務的なイメージでは、監査は全体的な保証を与えるものである。責任問題と
も絡む。
○
C
保証型の監査が「監査」で、実体監査が「検査」とざっくりと理解してもいいの
か。
○
石原
いや、違う。その意味で言うと、たとえば大学で教える監査論のなかで会計監
査に加えて、業務監査という言い方がある。業務監査はざっくり見るのではなく、むし
ろ個々を見る。そして、情報ではなく、実体を見る。しかし、業務監査が「監査」とい
うのは、監査をするときの判断基準と行為規範があるからである。判断基準と行為規範
が明確にされているのが「監査」であって、特に判断基準を明確に決めづらいのが「検
査」である。そうでないと VFM でどこが最少の経費で最大の効果をあげているのか理
屈で決めることができないと理解している。
○
西尾
業務監査が個々を見るのではないと思う。会計士の会計監査は当然として全般
的な不適正を見るが、業務監査も取締役の職務執行を全体として見ている。監査役の監
査は、行為規範を前提として監査している。会計検査院の責任はどこにあるのか。会計
検査院に責任があるか、あるいは責任がないかで、検査と監査が区分できるのはないか。
間違いを指摘するだけで税務帳票の検査と同じように責任がないのではないか。その意
味で言うと、オーディットはきちんと責任を負う必要がある。
○
吉見
会計検査院の場合、憲法に守られている。そのため会計検査院に責任がない。
監査と監査を概念的に区分すると、法律上の責任の問題になる。
○
石原
責任論は出したオピニオンなり、公表したことに対してどう責任をとるかであ
る。会計検査院も千葉県で37億円の不適正経理があったと公表したら、それには責任
を持たなければいけない。しかし、それ以外に不適正経理がないとは言っていないので、
対外的に発言したことに対して、会計検査院は責任を持つだけである。監査は全体的な
保証である。
○
西尾
そこで、地方自治体のパフォーマンスが他団体と比べて良いというときの責任
はどうなるのか。
○
石原
それは事実に基づいて行う。そのためにインディケーターが必要である。
- 144 -
○ 西尾
事実に基づいて行うということは、客観的に判断するのか。そのためには数値
的な判断しかない。
○
石原
その数値的な判断に加えて、質の議論も出てくる。
○
吉見
インスペクションとオーディットを整理しなければいけないことは理解できる
が、それをそのまま検査と監査に置き換えて表現するのは、実際との間にズレが生じる
と思う。
○
C
○
吉見
地方自治体では、監査と言いながら、インスペクションをしている場合もある。
会計検査院の検査報告書や HP を見ると、有効性の監査を会計検査院は行って
いると言っており、それが特徴的なことであると主張している。
○
西尾
どこに無駄遣いがあるとは言えるが、責任との問題で有効性が低いとは言えな
い。
○
吉見
独立行政法人の検査結果報告書を見ると、会計士が行っている外部監査人の
VFM 監査は不十分であると会計検査院が指摘している。独立行政法人の監査をするのは
会計検査院であると主張している。これに従うのなら、会計士はもっと積極的に VFM
監査をして、独立行政法人監査報告書に書かないといけないことになる。
○
西尾
それは危険なことである。
○
吉見
会計検査院がしっかり監査をしてくれればいいのだが、最大の理由は数値化が
望ましいと言われている数値でないといけない。今回の石川部会員の報告も、いかに数
値化するかが問題であって、有効性の監査ではなるべく数値化する方法をもってやらな
ければいけないと昔から言われている。
○ 石原
○
L
有効性の数値化について、どのように考えるか。
イギリスのベストバリューから考えると数値化の歴史とも言える。数値化するこ
とは、誰の目にも理解しやすい。
- 145 -
○ 吉見
数値化できるのであれば、数値化するための作成方法が必ずあるので、それに
対しては監査することができる。
○
西尾
数値化は、利用者と監査人のどちらのためにあるのか。
○
石原
CPA や CAA の数値化での評価を考えるときに、吉見副部会長のおっしゃられた
議論は押さえておかなければならない。それに加えてよく出る議論として、評価を数値
で表すときにその数値を悪用することがある。CPA や CAA で数値化することを反対し
ている地方自治体は多くあるが、CPA という評価ツールがあるのなら、その数値だけを
上げようと地方自治体もある。それは、ある意味すごく楽なことであるとして CPA や
CAA を批判する新聞記事もある。
○
C
数値を上げるために、CPA を上げる裏道マニュアルが作成される。
○
石原
ある意味、制度は一定期間の賞味期限のようなものがあって、その後をどのよ
うに考えるかという難しさがある。
○
C
向かうべきリソースが違う方向に向かってしまう作用があると有害である。
○
A
行政監査と行政評価の明確な違いはあるのか。
○
吉見
あまり違わない。いろいろな理解があるかもしれないが、実際に行っている行
政評価はバラバラである。評価の方法や VFM の考え方から言えば、総務省行政評価局
の HP と会計検査院の HP は似ている。しかし、政策評価では少し異なってくる。政策
評価は行政部門が行うことなのか、それとも行政とは違う部門で行うのかという線引き
は難しいかもしれない。
ACが2012年に廃止予定なので、Act がなくなるのではないか、監査自体はやるの
か、監査人の資格要件は変わらないのか。
○
石川
おそらく、その辺りは変わらないようである。
○
石原
イギリスの法律は、SAS と同様に何号何年でフォローしないといけない。昔か
らある法律は改正されない限り永遠に存在しており、当初の法律に加えられている。
○
吉見
ACが廃止されるので、イギリスの財務諸表監査における監査人の資格要件は
- 146 -
変わるのか。
○ 石原
今は AC Act で監査人を「5団体その他」と指定している。
○
石川
時限立法のように期限を定める別の法律を出すのはないか。
○
吉見
その時限立法に資格要件を盛り込むのではないか。
○
石川
AC Act が地方財政法からそのまま来ている感じがする。資格要件はそのまま使
うと思う。
○
吉見
AC Act が生きているのに、ACが廃止されてもいいのか。
○
石原
もちろん現段階での案である。
○
吉見
AC Act に基づく監査は現在も行っているのか。
○
石原
現在も行わなければならない。監査、インスペクションは続くが、CPA や CAA
は法律で義務づけられていないはずなので廃止される。
○ 吉見
ACで監査を行っている職員は、民間法人にいくので、ACが地方自治体の監査
を管理することができないのはないか。
○
石原
ACがすべての地方自治体の監査をしなければならないというルールはない。
○
吉見
法律は生きているけれども、ACの廃止という方針が出たので見切り発車した
のか。
○
石原
ACでは、財務諸表監査をする監査人を決める。2012年にACがなくなる
と、監査制度が残っているのに任命する機関がなくなる。誰が監査人を任命するかが問
題になる。
○
吉見
それを新しい法律の枠組みに入れていかざるを得ない。
○
石原
LGAは、自分たちが行うとロビー活動を行っている。ACで言うと、チャー
- 147 -
タード・アカウンタント、CIPFAのアカウンタント、サーティファイド・チャータ
ード・アカウンタントという資格を持った職員がいる事務所でないと監査ができない。
○ 吉見
それは、そのまま受け継がれるだろうという世論かもしれない。
○ 石川
そこが崩れるとコストがかなりかかるので、そのまま受け継がれると思う。
○
C
地方自治体が監査を受けなければならないことは、法律に書いているのか。
○
吉見
今は書いてある。
○
石原
地方自治体が監査を受けなければいけないと LG Act に書いている。
【休憩】
○
石原
役割分担だが、石川部会員の報告にあった Code of Audit Practice のイメージで
いいのではないかと考えている。資料1にあるように、一般原則、財務諸表監査、use of
resource あるいは VFM、監査結果の報告として分ける。前の方には、なぜこのように
しないといけないのかという視点で民間の監査・包括外部監査の実務経験を有する森田
部会員・G氏・F氏で、地方自治体監査基準の必要性として1章をまとめていただきた
い。その上で、一般原則の前までに基礎概念の整理と概念フレームワークを西尾部会員・
髙原部会員・藤岡部会員・私で、次の1章としてまとめさせていただきたい。
そして、一般原則は、大きなところであるが分量も少ないので私の方でやらせていただ
きたい。財務諸表監査は、不正や違法行為をどのように対処していくかが地方自治体に
とって極めて大きな問題であるので、その視点を中心に吉見副部会長にお願いしたい。
内部統制は、内部統制報告書や Code of Audit Practice を使っていただいて、髙原部会
員・藤岡部会員にお願いしたい。use of resource は、石川部会員にお願いしたい。監査
結果の報告は、伊藤部会員でお願いしたい。それに加えて、今後の展開は、遠藤部会員
を中心にI氏・H氏でお願いしたい。これでいくと各部会員の意見を尊重したものにな
るのではないかと思う。この最終報告書が学会の理論研究ではあるが、A氏・B氏・C
氏の実務的な意見を踏まえて、この研究が実務と乖離するのは避けたい。
○
吉見
地方自治体監査基準の最終報告書の枠組みを話されたが、基準案を作るイメー
ジよりも論文チックなものを書くイメージなのか。
- 148 -
○ 石原
もちろん、基準案の解説である。
○
中間報告の際には、地方自治体監査の基準案を作ることが目的となっていたが、
吉見
日本における地方自治体監査基準案というものを先ほどおっしゃられた分担で作成する
のか、それとも、論文チックなものを作成するのか。
○
石原
基本は、ACの内容を積極的に使う考えは、総務省の地方行財政検討会議の意
向に沿ったものになる。ACの内容を参考にしつつ、文章だけでは分からないと思うの
で、それらを解説する意味のペーパーを加える。どのような構成にするかは、基準のレ
ベルでセンテンスを入れて、それについて背景・必要性・実務的な内容を書いていくイ
メージである。
○
吉見
もし基準のような形で書いていくのであれば、各章や節のフォーマットをあら
かじめ決めていく方がいいのではないか。盛り込むべき内容もバラバラになることもあ
り得るので、ある程度決めるべきではないか。基準案というスタンスを守りたいのであ
れば、ACや Code of Audit Practice を参考にして、節ぐらいまでは決めてもいいので
はないか。しかし、枠を決めてしまい、統一的な形式だと解説書のようになってしまっ
て、論文のようにはならない。
○
石原
むしろ、私のイメージでは解説書である。
○
吉見
それを監査研究学会の叢書として出すと、おそらくクレームが出る。監査研究
学会には2つの研究会があって、1年で1つの叢書しか出せないため、採択されないこ
ともあり得る。そのときは、監査研究学会としてコストをみてくれないので、自分たち
で出すことになる。これまでの叢書から判断すると研究書的なものの方が採択される可
能性が高い。基準案が第1章で、第2章以降に解説を書いていくのであれば、学会のイ
メージに合う。
○
石原
吉見副部会長のそのサジェスションは大変ありがたい。その方向でやってみる。
今のフレームワークで各部会員の了解をいただけたら、数週間の作業で項目をリストア
ップする。フォーマットについては、基準案を前に出して、その後はペーパーにする。
今年中に最終入稿を行い、翌年3月までにまとめたい。
○
C
用語の定義のところに期待している。地方自治法には、監査をするとしか書かれ
ていないので、何をどのように監査をするのか分からない。
- 149 -
AC Act には、パラグラフ13と14の間の見出しに監査やインスペクションの
○ 石原
概念定義ではないが、監査人が行うインスペクションと整理している。何が何をすると
いう書き方ではなく、監査人が行うインスペクションという書き方をしている。これも
AC Act の上手なテクニックなので、この辺りも参考すると、C氏が持っている問題意識
が整理できると思う。監査や検査以外に審査や住民訴訟についても整理できると思う。
しかし、なぜ住民訴訟の窓口が監査委員になっているのか。
○
C
タックスペイヤーのチェックなので、監査委員の仕事であるからだと思う。
○
石原
○
C
監査委員事務局はかなり異質性の高いところである。
○
A
会計管理者の部門は補助的機関である。定例監査と現金出納検査を毎月行ってい
タックスペイヤーのチェックであれば、会計管理者が行うのは駄目なのか。
る。これらを踏まえて決算審査を行っている。定例検査は取引方法の監査であり、現金
出納検査はそれに付随する監査である。最終的に全体としての決算審査がある。決算審
査も本来監査に入れるべきであるが、地方自治法上ではそのようになっていない。その
決算審査を踏まえて、健全化法に4指標の監査ある。決算審査が終わっているので、4
指標の監査で保証を与えることができる。この大きな体系が監査であるという位置づけ
があればいいと考える。
○
C
昨年度の決算に対して概ね適正という保証を出しておいて、なぜ監査で昨年度の
事務を監査することができるのかと疑問を持つ監査事務局職員もいる。それに対して私
は、大きな間違いであると指摘している。金銭勘定が合っているということだけであっ
て、業務コストが適正であるとは保証してない。だから決算に問題がなくても、執行に
問題があるとして説明している。そのような微妙な誤解もある。決算審査よりも実体監
査が大事であると考えている。現金主義なので決算は基本的に合っており、大きな間違
いが起こることはない。現金主義で粉飾が起こっている可能性は非常に低い。現実の執
行のなかにある業務リスクを探していく方が大事である。
○
A
一般会計の決算審査ではそのとおりであるが、特別会計では相当慎重にしないと
いけない。決算整理仕訳を誤っていると誤った決算書が作成されることもある。監査の
体系として、決算審査・定例監査・現金出納検査がバラバラで行われているところに問
題がある。
- 150 -
○
石原
決算審査で適正としているものを、再度掘り返して不適正というのは言いづら
いと言っている監査委員事務局職員がいるのか。行政監査でローテーションをする際に、
過去3年分の監査をすることもあるのか。
○
C
あり得る。
○
石原
○
A
前年度分である。
○
C
地方自治体の監査は実態監査を行っており、どちらかと言うと監察的な監査を行
財務監査は定期なのですべての事業を監査するが、当該年度分なのか。
っている気がする。
○
石原
行政監査は3年分遡って行うことはいいと思うが、例月検査・出納検査・定期
の財務監査・決算審査というローテーションを意識すれば、定期の財務監査は当該年度
の決算審査の期中の監査と理解する。
○
A
決算審査は、前年度の決算を審査している。たとえば、平成23年8月に決算審
査をするとすれば、それは平成22年度分の決算が対象になる。しかし、定期の財務監
査は平成22年度分である。
○
石原
ローテーションの組み方が誤っているような気がする。
○
I
○
石原
厳密に言うと、9月までにはすべて終わらないといけない。
定期の財務監査が9月に終わっているのに、3月までどのようにするのかとい
う議論は、基本的な内部統制の議論である。地方自治体に内部統制の考え方を定着され
ようとするときには、内部監査の監査計画のプランニングについても監査基準のなかに
盛り込む必要がある。
○
I
監査委員の立場で言うと、期中監査の概念がない。現金出納だけは、期中の監査
に入れるが、基本的には決算期間が閉まった後である。定期の財務監査は翌年度に行っ
ている。
- 151 -
○ C
地方自治体では、財務諸表のチェックをするために定期監査をしているのではな
い。
○
石原
それは理解している。理論としては、例月出納検査、財務監査、決算審査とい
う流れである。平成22年9月に行った財務監査はいつの年度のものか。
○
I
平成21年度分である。9月の議会までに財務監査をしていれば、それが期中監
査になる。
○
A
○
石原
基本的には8月までに決算対象年度の定期監査は終える。
それを先ほどの監査委員事務局職員の話では、昨年度分の事業に対して今年度
の財務監査で指摘していいか疑問を持っているというのか。
○
C
所属ベースで見ると、2年に1度、あるいは3年に1度のペースで財務監査を行
っている。前回に財務監査した時から、今回までの期間が財務監査の対象となる。
○
石原
監査委員の決算審査報告書はいつに出されるのか。
○
C
○
石原
○
I
地方自治体では、会計士でいう期中監査の概念はない。
○
C
会計課で現金を取り扱うリスクが集中してしまうので、金庫の現金残高と通帳残
8月末あたりである。
それであれば、ローテーションは理論的に説明がつく。
高を監査委員がチェックするのが例月現金出納検査である。
○
A
○
石原
○
M
○
石原
今は、帳簿の残高があっていれば十分である。
インスペクションと検査は違うか。
違うと思う。検査とインスペクションは、感覚的には違う。
ハワード・デービス氏もスティーブ・マーチン氏もインスペクションのことは
- 152 -
分かっているが、オーディットのことは知らない。会計士は監査のことは分かっている
が、検査のことは知らない。さらに日本には監察という言葉もある。
○
C
監察は検査に含まれる。経費の使い込みをしてはいけないというのが監察である。
○
石原
○
C
特に倫理と服務規律にあるコンプライアンスが監察になる。
○
M
監察はC氏がおっしゃられたように服務のことである。取り締まりといった機能
それは合規性の監査である。
がある。正しく行っているかを基本的に現状で確認している。
○ 石原 それでは監査になる。
○
吉見
日本で行っているのは、それほど明確に区分がなされていないと思う。
○
A
大阪府の決算審査は、今年から四半期レビューを行っている。
○
I
一定の手続きを行った限りにおいて、不適正がなかったといった意見を出してい
る。
○
E
用語の混乱があり、それを整理しようとすると実務との乖離がかなりあるので、
悩ましい問題である。あまり実務に引き寄せられるのもいけないとも思う。
○
C
○
吉見
しかし、現状、実務で行っていることが意味のないこととも思えない。
最終報告書の用語のところで整理しないといけない。一般的に「監査」という
用語自体も多くの場面で使われている。
○
C
「公監査」「自治体監査」などの企業の監査と違う用語を使った方がいいのではな
いか。地方自治体が行っている監査は、会計士が行っている監査とは少し異なっている。
○
石原
神戸での住民訴訟において55億円の高裁判決が出され、自治法上の債権放棄
議決がなされた。もちろん、首長に55億円の支払いを求めることは無理があるが、決
議で55億円が免除されるのもおかしい。55億円があれば、どれだけの福祉政策が行
- 153 -
うことができると考えると、一番痛みを伴うのは住民である。現行の自治法では合法で
あるが、どのように考えるか。
○
C
神戸市の法務政策の誤りである。その55億円の判決は、外郭団体の人件費を神
戸市が負担しているのが手続き的におかしいと言っているだけで、公金を無駄に使って
いるのではない。手続きの誤りがあったので、返還が求められているだけである。実際
に外郭団体に対して負担した公金が、まったく公益性のないものとは言えない。
○
石原
それは住民にどのように説明するのか。このようなことが起きないように、ど
のような制度設計をすべきかを考えないといけない。私自身、そこに監査を絡めたいと
考えている。
○
C
55億円の件は、形式的に手続きが誤ったから出された判決であって、外郭団体
へ負担することに対して、公益性がなかったという認定はなされていない。
○
石原
首長に55億円の支払いを求める判決が出されたが、普通決議で請求を放棄し
ている。これは自治法の瑕疵のように思える。会計士は、判断基準と行為基準があれば、
監査することができるので、金額的に重要性のある違法支出をチェックすることができ
る。会計士が監査しており、将来的に地方自治体に大きな損害が発生したときに、株主
代表訴訟であれば、取締役側に代わって会計士側に請求できることが、3年前に会社法・
企業法で改正されている。その法理を地方自治体の住民訴訟にも適用できないかという
議論をしている。株主代表訴訟と同じように会計士は、地方自治体にも適用できると言
っている。民間では、株主代表訴訟が適用されるなかで監査を行っている。現金主義の
地方自治体でも内部統制をきちんと整備し、監査基準を作成し、二重責任の原則を明確
に記述すれば、ほとんど会計士が行っている民間の監査と同じであると考えている。
○
C
もう少し地方自治体の現状を確認されてから、判断されてもいいのではないか。
55億円の件を例としても、問題なく何十年も外郭団体への負担を行っていたことが、
ある日突然、不適正と判断されている。それだけ地方自治体では不安定な法的リスクを
背負って仕事を行っている。
○
石原
○
C
それは保身的ではないか。
地方自治体が有している責任を会計士が持ってくれるのなら、ありがたい話では
ある。55億円を補償してくれる会計士がいるのなら、大賛成である。
- 154 -
○ 石原
55億円のリスクの話をしているのではなく、55億円の不正が起こったとき
のことの話をしている。起こったら今の法理で補償することができないかと話している。
○
C
55億円が使い込まれたわけではない。支出の手続が法律に違反していたため住
民訴訟の判決としてはカネを返せとしか言えない。法制度の不備だと思う。
○
石原
55億円の件では住民が怒っている。住民のために仕事をしていると地方自治
体は言うが、その住民が怒っている。それを改善する法理ができていない。誰が55億
円を負担するかを考えると、監査委員は負担できないし、地方自治体の職員も負担しな
い。だから、会計士が監査を行うと、民間と同レベルの厳しい監査と責任が求められる
ので、それに相当する報酬が必要であるという論理を考えている。
○
C
地方自治体は民間と違い広範囲のリスクを抱えており、リスクを限定することは
できない。もともとリスクが限定できないための、民間ではなく政府が負うことになっ
ている。民間企業は、事業領域を自ら決めることができるが、政府はそれはできない。
○
石原
もちろん民間企業には事業領域の選択権はあるが、外部のビジネス環境やグロ
ーバルな環境に適合して存続していくために、さまざまなことを考慮して意思決定して
いる。
○
C
たしかに100年、1000年の責任を負って存続している民間企業もあるが、
地方自治体は天災などのリスクにも対処しないといけない。
○
石原
それは、税金で賄っているのはないか。
民間企業と地方自治体がどうかという議論をするのではなく、頑張っている民間企業
もあり、地方自治体も頑張っているなかで、誰がどのような役割を担って、どのような
責任を持てば、一番うまく回るかという観点で考えないといけない。そうすると55億
円の住民訴訟の問題は、会計士に任せてもいいのではないか。財務諸表の監査を会計士
に任せてもいいのではと考えている。
○
C
地方自治体が最終的なアンダーライターだと社会は認識している。規模が大きい
か小さいか、あるいは、倒産するかしないかの話をするわけではないが、事業のリスク
を限定しやすい民間企業と法的な制約・社会全般のリスクを負う地方自治体とは少し違
うと思う。
- 155 -
○ 石原
C氏の言うように、最終の基盤となるのは地方自治体である。しかし、その手
前にあることは民間に任せてもいいのではないか。会計士にとって大きなリスクを負う
ことになるが、内部統制の整備・二重責任の原則・監査基準・そのガイドラインなど一
定の条件が整った上で、見抜けなかった不正に対する会計士の責任は免責されるという
整理は可能と認識している。複式簿記・発生主義を地方自治体に導入しようとする会計
士協会の議論は10年、20年の議論であるが、現行の現金主義のままでも、監査制度
改革を行うこともできると考えている。法理的に住民訴訟でも株主代表訴訟のように監
査人に間接的な責任を持たすことができると話す商法の学者もいる。
○
C
すぐにはできないと思うが、二重責任の原則や内部統制の整備は非常に大事であ
る。地方自治体には、あまりにも雑然とした仕事が多い。監査事務局で執行の監視を行
っていても、財務行為以外についてのコントロール、業務プロセスのチェックはあまり
できていないという自覚がある。生活保護の認定プロセスや介護保険などのコアな部分、
つまりお金の流れ以外のところを見ている余裕がない。お金の流れがないプロセスにも
沢山の問題が潜んでいる。生活保護で沢山の不正があることは、内部統制が効いていな
いことが理由の1つである。やたらに仕事の範囲が広いでの、内部統制が効いていない。
地方自治体は、そのような強烈な脆弱性を有しているので、それを外部の監査人に保証
していただくことはかなり無理があるように思う。
○
石原
もちろん保証するのは決算書だけである。勘定科目とお金が合っているかだけ
である。神戸市の外郭団体への単年度の支出は、多額だったと思われるので、内部統制
の整備を前提とすると、小さな不正を会計士が監査することはないが、大きな支出であ
れば、それがコンプライアンスに基づいたものであるかを他の専門家を利用することで
会計士が監査することができる。会計士は、他の専門家を利用しなければならないと監
査基準で求められている。
○
C
地方自治体は、グレーゾーンで仕事をしていることが多い。神戸市の55億円の
件も、結論からすると法令違反だった。しかし、同様なことを日本中の地方自治体で、
ごく当たり前のように行っている。たまたま神戸市で住民訴訟がなされた。
○ 石原 神戸市では、きっかけは住民だが、金額が大きかったから住民訴訟となったのか。
○
C
累積すれば他の地方自治体でも多額になるかもしれない。地方自治体のプロセス
運営自体が法令と微妙に違反しているという話はよくある。
- 156 -
○ 吉見
一定条件と報酬が整えば、会計士はきちんリスクを負う。本来、監査すること
自体がリスクである。会計士もリスクの高い仕事をしている。そのリスクをいかにして
下げるかのノウハウを会計士は持っている。しかし、今の C 氏の話にもあるように地方
自治体の仕事はグレーゾーンなところが多いので、監査をするとき、監査対象である地
方自治体自身が監査の判断基準を変える権利を持っている。これは民間企業にないリス
クかもしれない。つまり、民間企業の場合は外部に基準があって、その基準自体が外部
の機関が作っている。地方自治体では、監査を行う判断基準を地方自治体が持っている。
そこに外部の監査人がその判断基準で監査したにもかかわらず、地方自治体の都合で判
断基準が変わることがあるかもしれない。そうすれば監査人は孤立してしまう。監査人
が孤立しないように、監査人が判断したことを尊重するように担保しなければならない。
ライブドアの件がいい例で、監査対象も会計士も明らかに疑念を抱いていたにもかかわ
らず、ギリギリのグレーゾーンであると思っていた。ところが、年明けに検察庁が黒で
あると判断した。結局は、判断するのは会計士でもなく、監査対象でもなく、検察庁で
あった。そのような事態が起こると、監査の仕組み自体が揺らいでしまう。地方自治体
の監査をするときに、グレーゾーンかどうかをきちんと判断できるか疑問である。
○
C
○
吉見
地方自治体の場合、準拠法令が非常に多い。
準拠法令を解釈して仕事を行っているところが多いので、特認とされているこ
ともある。特認という脱法行為が成り立っているところもある。なぜ、法律に違反する
ことを実際に行っているのかと訊いても、特認でしていることだと地方自治体は言う。
監査人は、法令に違反していたとしても特認として行っていることを認めていいのか。
○
C
○
吉見
地方自治体では、わざとルールを緩く作ってあることがある。
たとえば、札幌市で夏に行っている大とおり公園のビアガーデンは、都市公園
法の違反である。大正の時代から都市公園法が改正されずにいるので、時代に沿ったも
のとなっていない。しかし、法律が変わらないので解釈で行っている。このような事業
に地方自治体が補助金を出していれば違法となるはずだが、監査で不適正支出と指摘を
しても住民の理解を得ることはできない。そのようにC氏がおっしゃるような解釈の問
題が現実には沢山あるので、その辺りの適切性や合法性を理解し、良識をもって監査人
が判断しないといけない。しかし、その監査人の判断の結果を後で別の機関によって違
法であると判断されることもあり得る。
- 157 -
○ C
○
住民がどう思うかを考えるべきかもしれない。
吉見
ある程度は監査人が判断できるとしても、その判断がきちんと尊重されないと
いけないと考える。
○
C
ルールが時代に合っていないのなら、ルールを時代に合わせていくことが大事で
ある。
○
吉見
日本の文化では、法律がなかなか改正されることはない。すでに感染症死亡患
者がいなく、その法律を利用する人がいなくても、その法律が残されている。法律をな
くすためには廃止する法律を作らないといけない。時代に合わない法律が改正されずに
残ったままになっていることが多くある。だから、法律に違反するけども、特認するこ
とになっている。
○
C
法律とは、そのようなものである。だから、法律を知らずに地方自治体で職務に
当たっている職員も多くいる。
○
吉見
違法であっても特認で実情に合わせることを地方自治体自身で行っている。そ
こが問題かもしれない。
本日の石川部会員の報告にもあったように、ACの作成基準に相当するような地方自
治体の責務を、これから作成する監査基準のなかに盛り込むのか。たとえば、財務諸表
監査に関して言えば、総務省や東京都の作成基準に相当するものがあるが、それらを無
視して新たに作成するのか、それとも現行ある作成基準をモデルにして作成するのか。
一方で、VFM については、明確な作成基準は現行ないので、新たに盛り込まざるを得な
いか、あるいは監査基準だけに絞るのか。今、ここで議論することはできないが、VFM
を盛り込むべきと思う。ただ、単純にACの作成基準のようにできるかは分からない。
○ 石原
作成主体のことも記載されているので、二重責任の原則と同じと考えてはいけな
いのか。
○ 石川
二重責任の原則でいいと思う。
○
本日の研究部会はここまでとするが、2、3週間の間に吉見副部会長に示唆い
石原
ただいたところを踏まえて、部会員の皆さんへの提案を事務局からメールさせていただ
く。
(第7回
- 158 -
研究部会
以上)
資料3
第8回
議事録
日時
2011年4月2日(土)13時00分~17時
場所
関西学院大学
全学共用棟3階
301室
<参加者>
出席
16名
<次第>
研究部会長挨拶
協議事項
1 『地方自治体監査基準』素案の検討
ドクター院生提供データの検討
2 その他
<議事内容>
○
石原
本日は、各部会員から提出していただいていた資料をもとに地方自治体の決算
書監査を意識して、監査基準素案を作り込む。また、各部会員の方々の研究に役立つよ
うなデータを資料として準備しました。K氏に準備していただいたのは、英国地方自治
体の内部統制に関する事例です。L氏に準備していただいたのが、英国地方自治体の決
算書を記載されている文言を中心にまとめていただいております。N氏にわが国の歳入
歳出決算書についてまとめていただきました。E氏にも資料を準備していただいており
ます。まず、院生から各資料の説明をしていただきます。
○
K
今回準備させていただいた資料は「英国地方自治体の内部統制報告書例」「STA-
TEMENT ON INTERNAL CONTROL」
「FINANCIAL REPORTING MANUAL」の3
点です。まず、
「英国地方自治体の内部統制報告書例」から説明させていただきます。英
国地方自治体において、内部統制報告書を作成しなければならない法的根拠を示してい
ます。2003年会計監査規則に少なくとも年に1回は内部統制システムの有効性を評
価し、財務諸表と併せて内部統制報告書を発行しなければならない旨の規定があります。
2004年にCIPFAより発行された「自治体における内部統制報告書:2003年
会計監査規則における要件の充足」のなかに、具体的な内部統制報告書の様式が記載さ
れています。その様式は資料の別添1です。次に内部統制報告書の構成は、
「責任の範囲」
「内部統制システムの目的」
「統制環境」
「有効性のレビュー結果」
「重要な内部統制上の
- 159 -
問題」
「著名・日付」が記載すべき項目となっています。補足として、2007年4月か
ら始まる会計年度以降、内部統制報告書は、年次ガバナンス報告書の一部に含まれるよ
うになっています。
英国地方自治体であるサウス・レークランド・カウンシルの標準的な内部統制報告書
として、
「STATEMENT ON INTERNAL CONTROL」を準備させていただいています。
「責任の範囲」
「内部統制システムの目的」は、比較的簡潔にまとめられています。
「統
制環境」は、各自治体の重点的な取り組みなど、さまざまな特色が記載されており、各
自治体で記載内容が異なっている。
「STATEMENT ON INTERNAL CONTROL」の5
2ページには、「重要な内部統制上の問題」がまとめられています。英国地方自治体の
内部統制報告書についての説明は以上です。
次に「FINANCIAL REPORTING MANUAL」の資料は、中央政府で利用されてい
る内部統制報告書の様式です。英国地方自治体の内部統制報告書の様式とほぼ同様で、
ベースとなっていると考えられます。英国の内部統制報告書に関する説明は以上です。
○
石原
今の説明について、何か質問はないか。
○
石川
もともとは英国の企業会計の内部統制報告書があって、そこから地方自治体の
内部統制報告書が作られたのか、あるいは、CIPFAなどの団体によって作られたも
のなのか。
○
K
基本は企業会計をベースに作られたものと考えられるが、調べた段階では、企業
ベースをもとにして作成を義務づけする規定を見つけることはできなかった。
○
石原
わが国の地方自治体監査基準を策定するときにも、内部統制報告書を盛り込む
ことがポイントになる。その際に企業会計ベースにするのか、あるいは別のものを作成
するのか、その辺りをどのように考えるのか。
○
遠藤
私の方で準備したのが、わが国の民間企業における内部統制の構築基準と実施
基準に関する資料です。英国民間企業の内部統制の場合、ターンバル・ガイダンスによ
ってガバナンスの流れとして出てきたものあるが、英国の民間企業と地方自治体では、
内部統制に関して、どのような関連があるのか。
○
K
○
遠藤
英国の民間企業と地方自治体における内部統制に関連する規定は見当たらない。
わが国の民間企業では、財務諸表監査の後に内部統制の監査基準を作成するが、
- 160 -
英国ではそのような形式をとっていない。
○
石原
年次ガバナンス報告書の一部に内部統制報告書が入っている。年次ガバナンス
報告書の作成目的は何か。
○
遠藤
①内部統制システムを含む健全なガバナンスのシステムが存在することを確保
する責任の範囲の明示、②地方自治体のガバナンスを構成するシステムとプロセスの保
証水準の指摘、③ガバナンスのフレームワークに関する主要な要素の簡潔な記述、④ガ
バナンスの取り決めの有効性をレビューする際に適用されているプロセスについての簡
潔な記述、⑤重要なガバナンス上の諸課題に対して、採択され、あるいは提案された行
動に関する概要および承認済みのアクション・プランの5つの項目が英国の会計基準の
中に記載されている。
○
石原
K氏の先ほどの説明で、内部統制報告書の内容がバージョンアップされて、年
次ガバナンス報告書になったという理解と年次ガバナンス報告書のなかに内部統制報告
書が入っているという理解とでは意味が異なる。どちらが正しいのか。
○
遠藤
内部統制報告書は出さないで、もう少し大きな概念としてガバナンスの原則が
実務規範として出ている。この流れを受けて、年次ガバナンス報告書のなかに内部統制
報告書も盛り込むことになった。ただし、内部統制報告書の法的要請はあるが、法的な
変更はない。内部統制からバージョンアップした年次ガバナンス報告書が、大きなガバ
ナンスの枠の中でアウトプットすることを求めているもので、法令の趣旨を引き継いだ
ものである。
○
石原
2003年の AAR のなかで内部統制報告書を提出する旨の記載が書かれており、
年次ガバナンス報告書が2007年4月からバージョンアップしていることになるが、
このバージョンアップの背景には、どのようなことがあったのか。
○
遠藤
内部統制が大きなガバナンス・フレームワークのなかに吸い込まれた形で、
CIPFA/SOLACEのガイダンスが2007年に出された。
○
石原
CIPFAには、勧告実務書を作成する権限が与えられている。英国では、
CIPFAの自治体会計基準や BV アカウンティング・プラクティスなどをもとに各自
治体が会計基準を作成している。CIPFAは、草案基準を作成する団体である。
遠藤部会員に内部統制の基本的枠組みとして作成していただいた資料は、日本版 SOX
- 161 -
である。この日本版 SOX をベースに総務省の「地方公共団体における内部統制のあり方
に関する研究会報告書」が作成されている。その中で、今回配布させていただいた最終
報告書の執筆案で、民間企業での財務諸表の監査基準については、
「第一」、
「第二」、
「第
三」、
「第四」の項目までですが、地方自治体の財務諸表の監査基準案では、
「第五」とし
て、
「内部統制報告基準」を意図的に盛り込んでいる。この内部統制報告基準の位置づけ
は、日本版 SOX 諸項目のなかで、特に財務諸表に関連する部分だけを特化して執筆する
ことができるところにある。その際にK氏に用意していただいた英国地方自治体の内部
統制報告書の標準様式が活用できる。
○
K
今回、用意させていただいた標準様式は、2004年4月「自治体における内部
統制報告書:2003年会計規則における要件の充足」に規定されている標準監査報告
書である。参考事例として、サウス・レークランド・カウンシルの内部統制報告書を用
意させていただいた。
○
石原
2004年4月の標準監査報告書に記載されている項目よりも、サウス・レー
クランド・カウンシルの内部統制報告書の方が多くの項目が記載されている。ここから
英国地方自治体における内部統制報告書では、標準監査報告書は最低限記載すべき項目
が記載されていて、内部統制報告書を作成するにあたっての趣旨を記載しているものと
理解できる。日本の地方自治体監査基準を作成する際に、日本の実務で行われている財
務監査や例月出納検査などの監査や検査の仕組みをきちんと整理し、その上で、財務諸
表に特化した内部統制報告基準を盛り込む。
現行地方自治体で行われている財務監査や定期監査は、取引業務の監査としてイメー
ジでき、年度末に行っている決算審査は、財務諸表項目の監査としてイメージできる。
そうすると、これらの監査を1つの枠組みとして考えることができ、既存の財務諸表監
査の論理と同じである。総務省の制度改正に係る報告書では、決算審査だけを別枠とし
て外部に監査してもらうような形になっているが、既存の財務監査や例月出納検査は、
内部で監査を行うことになる。内部で行った監査結果を活用しないで、決算審査だけを
外部の監査人が行うことはできない。民間企業の監査においても、内部統制に依拠して
いる。内部統制あるいは内部統制報告基準に考慮して、既存の財務監査や例月出納検査
のバージョンをうまく置き換えるべきである。既存で行われる内部の監査と外部で行わ
れる監査をうまく連携させる。これが「第五
基準」の「四
○
西尾
「第三
内部統制報告基準」であり、
「第三
実施
他の監査人等の利用」の執筆箇所にあたる。
実施基準」「四 他の監査人等の利用」についての素案について説明す
る。
「1」は他の監査人が行った監査結果の利用、
「2」は専門家の業務の利用、
「3」は
- 162 -
内部監査の利用である。この「1」から「3」については、行うか行わないか任意であ
「1」の場合は、地方自治体の出資団体
る。これらを地方自治体に置き換えて考えると、
を外部の監査人が監査をしていて、その際に監査結果を利用する場合しか該当しない。
○
石原
みなさんにご意見いただきたいのは、日本の地方自治体における歳入歳出決算
書監査の範囲で考えれば、この「1」はあまり重要ではない。2年ほど前から地方自治
体財政健全化法で財務指標のチェックを決算審査の際に行っている。
○
A
財務指標のチェックと決算審査は別物であるが、財務指標のチェックは決算審査
を終えていないとできない。
○
石原
その財務指標のチェックをきちんと行うことが、2年ほど前から重要な課題と
なっている。大都市では、沢山の外部団体を有しており、その外部団体の決算書がきち
んとできているかが重要な問題となる。B氏が監査委員となって、決算資料の監査をし
たときに、その辺りの問題意識を持たれていた。信頼性が低い外部団体の決算書を前提
に財務指標のチェックをするのは難しい。一般会計や特別会計の決算書チェックのほか
にも外部団体の決算書チェックもしないといけない。この辺りに関することが「1」の
他の監査人に相当する。比較的小規模の自治体であれば、商法の監査の基準に引っかか
らないところも沢山ある。大きな論点として、
「1」の他の監査人、「2」の専門家の能
力などが活用できる。
○
西尾
他の監査人については、そのとおりである。大きい自治体でも他の監査人が行
う監査はあまりないように思うが、いかがか。あまりないと考えるので、重要性が低い
と考えている。
○
石原
企業会計の場合、「他の監査人によって行われた監査の結果を利用する」と記載
されているが、自治体の場合、
「他の監査人によって監査が行われる以外、監査のない結
果を利用する」としないといけない。外部団体の場合、実質的な監査がなされていない
こともあり、その決算書を使わないといけないことになる。
○
西尾
この条項は、
「他の監査人によって行われた監査の結果」を「利用する場合」と
記載されているので、利用されない場合はこの記載に限らない。次に「2」についての
専門家を利用するのは、どのような場合が考えられるのか。
○
石原
監査事務局では、どのような人材が必要か。たとえば、民間企業の監査で、生
- 163 -
命保険会社の監査を行うとき、会計士にとって生命保険商品の評価はとても難しい。生
命保険商品のリスクなどの数理にかかわるところは、会計士も他の専門家を活用し、そ
の結果に依拠する。これからの自治体の内部監査で、このような場合は想定されるか。
○
C
大いに想定される。他の専門家の活用が今までできなかったので、素人判断とな
っていたこともある。監査事務局では、生活保護や介護認定が適正なのかどうかなど、
詳細な部分が分からないところもある。専門家に支援していただくことは必要だと考え
る。現状では、生活保護費の支出や旅費の支出などしか監査できていない。
○
石原
ただそこで、今回は決算書の監査を前提にしているので、たとえば、住民監査
請求が出てくるような VFM は想定していない。コンプライアンスについても想定しに
くい。それ以外の例で、何か示唆いただけると最終報告書に記載できる。
○
C
外部団体を監査するときに、簿記の資格が必要である。簿記の基本的な知識がな
いと、まったく分からないことになる。自治体では、土地を除いて、財務的なリスクが
比較的少ないのが現状である。だから、今までノーチェック、ノー監査の状態が問題に
ならなかった。
○
石原
会計士が自治体の監査を行うとき、専門家を活用できるような場面はほかにな
いか。
○
H
自治体の保有する固定資産の時価評価を行うとき、不動産鑑定士は活用できない
か。
○
A
将来負担比率の含み損、含み益を含めて、活用できるかもしれない。
○
C
将来負担比率における事業用資産は、確か売れ残りを確定させないと赤字と認識
しないはずである。起債での借金は全額償還できるものと考えて、負債を「0円」で認
識する。売れ残ったことを認識してから負債として計上する仕組みとなっている。
○
西尾
他の監査人については、その辺りしかないと考えられる。
○
石原
市町村合併した際の決算書は、どのようになるのか。
○
M
合併期日までで打ち切り決算をする。5月1日が合併期日とすると、4月1日か
- 164 -
ら30日までの打ち切り決算をし、1ヶ月決算と11ヶ月決算となる。旧団体での未収
金は、新団体に引き継ぐことになる。
○
西尾
民間企業の監査では、連結決算や見積もりがあるので「1」、
」「2」は重要であ
るが、自治体ではあまり重要な事項ではない。逆に「3」については、民間企業の監査
では、あまり利用されない。内部統制を見るときに利用するが、それ以外のときに利用
するのは責任問題も関係し、リスクが高い。内部監査の結果をそのまま利用することは
まず少ない。
○
遠藤
少ないが、IFACの国際監査基準では、徐々に利用する傾向がある。
○
西尾
IFACでは、法律に準拠して行おうとしている。ただし、内部監査の結果を
そのまま利用するかどうかは、会計士自らの責任のもとで決定することになっている。
自治体の監査では、財務監査や例月出納検査のような内部監査と決算審査のような外部
監査として2つに分けられてしまうので、残高だけの監査になって、内部監査と外部監
査がつながらなくなってしまう。本来は外部監査人がすべてを行うべきで、2つに分か
れて監査を行うことになるので、自治体監査基準の記載の仕方で異なってくる。
○
石川
どの項目についても、同じことが言える。ゴーイング・コンサーン、不正の取
扱い、リスク・アプローチは、実施基準の範囲が対象となっている執筆者が持っていな
いといけない概念であり、その先にある正当な注意義務、職業的懐疑心、重要な虚偽表
示などにも関係するので、一般基準を先に書いていただかないと書きにくい。あくまで
も実施基準の範囲は、手続的な内容になるので、
「リスク・アプローチ」が何か、あるい
は「虚偽表示」が何かを先に一般基準である程度、目的や概念を固めていただかないと
書きにくい。
○
伊藤
これから作成しようとしている自治体監査基準の大きな枠組みの理解が不足し
ている。適正基準としての監査意見の枠組みを作成しようとしているのか、あるいは準
拠性の枠組みの監査基準を作ろうとしているのか。現在の民間企業の監査基準は、その
両方を跨るような枠組みになっているので、「経営者」を「首長」に、
「企業」を「自治
体」に読み替えて基準を作成することも考えられるが、自治体の監査基準の場合、それ
だけで満たされるのかどうか分からない。このようなことを考えていくと、どのような
枠組みで自治体の監査基準を作るのかは、一般基準の記載によって左右される。
○
石原
各部会員のみなさんにご指摘を受けたところを「地方自治体監査基準の設定に
- 165 -
ついて」で各部会員のみなさんの執筆に先だって取りまとめようと思う。
私の方で、今回準備させていただいたのは、一般基準に関する素案で、下線部が民間
企業の一般基準に追加したところである。追加した意図は、公認会計士だけなく、自治
体職員の OB が自治体の監査に関与するというイメージである。公認会計士のみが関与
するのではないかというのは分かるが、離島の自治体などで必ずしも公認会計士がいる
とは限らない。自治体の OB が監査人として監査を行うのは、批判も多く変えていけば
いいと思うが、自治体職員の OB や出向を排除して決算書の監査ができないとも思って
いる。自治体の監査を行うときには、現行の公認会計士が中心となり、監査の行為規範
となっている会計基準が大前提になる。ただ、決算書の監査のベースとなる保証基準の
監査基準を地方自治体に展開していく、この際に既存の一般に認められた監査基準の理
念や考え方については、基本的に変更しない。IFRSの原則主義の考え方と同じで、
既存の監査基準が大原則である。それを自治体に展開していくときに、全国都市監査委
員会や都道府県・市町村が作っている監査基準の非常に実務的・手続的なマニュアルと
既存の GAAS とを結びつけるワンクッション的な地方自治体に援用されるようなもの
と考える。既存の監査基準を前提に追加いくような形で素案を作成している。「2」で
は、
「当該地方公共団体の OB 職員である等、」とし、
「等」を入れている。
「当該地方公
共団体」がポイントであり、当該地方公共団体でなければ、奈良県の元代表監査人が(仮)
地方公共団体監査機構に入られて、大阪府の監査をして、監査人の署名をすることもあ
り得る。自治体職員の OB などの協力がないとできない。
「3」については、
「地方公共
団体の決算書監査の職業的専門家」でないと監査できない。地方自治体財政健全化法を
分からない人は監査人にはなれない。
「5」の監査計画の立案については、
「地方公共団
体の決算書監査に関わる監査計画」として考えていくべきである。監査計画とは、予備
調査、取引記録、財務諸表項目、期中の取引項目、期末財務諸表項目が、一般的な民間
の財務諸表監査であるが、自治体の場合、内部統制として依拠しなければならない定期
監査などは、企業の決算で会計士がイメージできるような時系列的な流れで必ずしも行
われているわけではない。その辺りを会計士が考慮して、監査計画を立案しないといけ
ない。既存の会計基準をベースに自治体において考慮しなければいけない点を下線部と
して追加し、追加した部分に補足説明を重ねるような形で作成することを考えている。
○
C
「OB 職員」という表現は、
「かつて当該団体の職員であった職員」のような表現
の方がいいのはないか。
○ 西尾
このような流れで監査が行われ、それぞれの項目が監査のなかでどのような意味
を持っているのかを説明するようなフレームワークがあれば執筆作業に入りやすい。流
れの中で、どこに何が記載されていて、どのような結論につないでいくのかを各部会員
- 166 -
○ 石原
○
A
では、A氏に自治体の監査の流れの説明をお願いする。
実際の監査の流れをまとめたものが「例月出納検査・財務監査・決算審査及び健
全化判断比率等審査の流れを意識した監査業務」である。先ほどもおっしゃられたよう
に一連の流れのなかの最終目的として決算審査や財務指標の審査がある。例月出納検査
については、毎月行っており、ここでは銀行残高、一時借入金・基金の運用状況を管理
している。出納整理期間内における会計課での資金移動を整理しておかないと、夕張市
のような問題も発生することがある。次に財務監査については、基本的に4月から始ま
るが、リスク・アプローチの考え方に基づいて、監査を実施することを期待しているが、
現実には基準があって、重要性の判断などが伴っている監査になっているかは分からな
い。監査報告書には、誤りの指摘だけでなく、その誤りが起きた原因がどこにあるのか
まで追求して記載すべきと考える。合規性、準拠性監査に加えて、業績監査、3E監査
まで踏み込み、それらを決算審査に結び付けていくことになる。決算審査では、期中取
引はすでに終わっているという前提で分析し、適正性の審査を行う。しかし、この際の
適正性については、真の適正性の審査かと言われるとレビューのレベルである。
○
C
そこは、財務分析に近いものだと考える。
○
A
特に大きな誤りがなかったという程度の審査である。現実の決算審査意見書には
「適正」という言葉を用いているが、胸を張って適正と言えるかどうかは分からない。
適正性の審査という保証型の監査である。これを受けて、財政健全法の健全化判断比率
の審査を行うことになる。この健全化判断比率の審査を行うに先立って、先ほど問題に
なっていた健全化判断比率に影響を及ぼす外郭団体には、財務諸表監査を行っている。
併せて、公営企業の監査も行っている。公営企業決算審査を終え、それらを合わせて財
政健全化判断比率に集約していく流れである。
○
西尾
自治体では B/S がない。民間企業の監査の場合、費用の監査は P/L についての
監査である。P/L の監査は、実証手続きであって、最後に現金残高を確認する手続きは
ない。そのためどうしても分析的な手続になってしまう。そのもとになっている内部統
制の整備状況の評価や損益項目の実証手続を期中に行うが、自治体の場合では、定例財
務監査と例月出納検査に該当すると考えてもいいのか。つまり、定例財務監査や例月出
納検査では、領収書をチェックしたり、支出伝票をチェックしたりするのか。
- 167 -
○ C
○
そのとおりだ。
西尾
定例財務監査や例月出納検査で支出科目が正しいかなどをチェックし、決算審
査でその合計額を比率分析したり、比較したりしているという理解でいいか。
○
石原
定例財務監査や例月出納検査は、内部監査である。当然として役所のなかで行
う。
○
西尾
つまり、決算審査以外は内部監査という理解でいいか。
○
石原
定例財務監査や例月出納検査は、役所のなかで内部統制として会計士や地方自
治体監査士が、その一定の信頼性に依拠して行う。自治体には B/S がないので、
「残高」
という用語は使えないかもしれないが、P/L があるので「計上額」は使える。会計士は
その金額の累計額を分析することができる。自治体に内部統制が整備されていたとして
も会計士は実証テストを行う。定例財務監査や例月出納検査を会計士が行うか、という
と役所の場合、出納整理期間があるため3月31日の現金実査はできない。そのような
事柄を想定して、やっていかなければならない。あるいは、監査をするときに経営者の
主張や監査要点をどのように勘定科目から展開しているか、という整理をしていかなけ
ればならない。自治体には B/S 項目がほとんどないので、たいていは取引の正確性にな
ってくると思う。そこで、その辺りの事柄をN氏に整理していただいている。標準的な
歳入歳出決算書をN氏に説明いただく。
○
N
「わが国自治体の歳入歳出決算書」の資料に基づき説明する。自治体の歳入歳出
決算書は地方自治法によって定められている。地方自治法を見る限りでは、会計管理者
が政令の定めるところにより決算を調製し、首長に提出することになっている。資料の
3ページ目に決算書作成の流れを掲載している。この資料の要点は、自治体の決算書の
様式は、地方自治法施行規則によって別記として定められているところである。民間企
業の決算書の付属明細に相当すると考えられるが、別記として「歳入歳出決算事項別明
細」も規則で定められている。基準として省令で様式を定められているが、実際作成さ
れている自治体の歳入歳出決算書を調べた限りでは、様式はすべて同じである。財産に
関する調書については、若干の自治体で異なる様式があった。
○
石原
N氏の資料の後半に、大阪府の歳入歳出決算書の例が掲載されている。これか
ら分かるように自治体の場合、「款」「項」「目」と3段階で決算の項目が決まっている。
ここで問題なのは、
「項」あるいは「目」レベルで、どのように首長の主張をおとしてい
- 168 -
くかである。この決算書をアサーションや内部統制目的に展開するとき、現金主義なの
で P/L 項目がすべて使えるかどうかを整理しないといけない。たとえば、府民税、事業
税などの項目があって、その事業税の正確性を判断するとか、期間帰属を見るなど、整
理しないといけない。ここは、会計基準作成の論点になりうる。
○
A
特に歳入の場合、「款」「項」の項目については、たいていの自治体では同じ名称
が使われている。しかし、歳出の場合、さまざまな名称を設定している自治体もある。
たとえば、「衛生費」や「民生費」という名称の代わりに「医療政策費」「健康安全費」
などの名称の自治体もある。
○
石原
この「款」「項」「目」などの名称を自由に決めていいと、どこで取り決めてい
るのか。
○
C
地方自治法施行規則に例示が記載されているので、今まではそれらを見習ってい
た。しかし、別の名称を設定しても特に問題が生じなかったので、その規則に記載され
ているのは、あくでも例示であるという理解である。
○
A
○
西尾
昔は、部局の数も法令等で決められていた。
決算審査をする際、例月出納検査や定例財務監査で行っている事柄と同じこと
を行ってもいい、決算書が正しいかどうかをチェックするためにはあらゆることができ
るという解釈でいいのか。二重になる事柄もあるが構わないのか。
○
石原
その解釈でいい。
○
西尾
内部監査と外部監査がそれぞれ別に監査することになっているので、最終の決
算審査において、再び同じようなチェックをしていいのであれば、問題なく通常の監査
基準と同じように流れる。
○
石原
要は、そこが証拠の議論になる。
○
西尾
そうなってくると、執筆に際しては、それぞれの項目を通常の流れに沿って並
べる形で執筆していけばいい。
外部監査である最終の決算書のチェックがすべての責任を負うことになる。内部監査
でのミスが、最終の外部監査につながることもあり得るので、内部監査もきちんとして
- 169 -
いただかなければならない。
○
石原
そのため、最終の報告書では、英国のような問題点を列挙する方式を採用する
方がいいと考える。たとえば、報告書の様式を法定の枠組みの基準に入れてしまうと、
その枠組みに縛られることになる。それを制度的な枠組みとして行っていくと、やらな
ければならなくなる。
○
C
会計管理者は金庫番として現金を取り扱う役目を担っている。現金にかかるリス
クが会計管理者に集中するため、月末に監査委員が現金残高のチェックを行うというの
が、もともとの例月出納検査の地方自治法上の趣旨である。現金取引がなくなった現在
では、あまり例月出納検査の意味がなくなっている。監査委員は、決算書のチェックの
先行チェックの意味として例月出納検査を行っている。
○
石原
自治体で行っている例月出納検査は、指定金融機関が現金残高を管理している
ので、内部の管理残高と通帳残高が合っているかを確認しているだけある。
○
C
収入役から会計管理者になったのも、以前よりもはるかに収入役の重要性がなく
なったからである。
○
A
監査委員の立場で見ると、現金出納のチェック機能とともに、会計管理者がもっ
としっかりチェックしてくれることを期待する。内部統制の状況を本来は会計管理者が
チェックすべきである。
○
C
役所では、民間企業と比べものにならないぐらい歳出のチェックが厳しい。非常
に細かなことまでチェックされる。支出に関する意識は厳格で、収入に関する意識は弱
く、まして、債権を認識しない、というのが役所の欠陥である。
○
伊藤
ここで作ろうとしている監査基準は、決算書の信頼性の保証という意味は理解
できるが、「適正」という用語を使うかどうか、あるいは、
「一定の基準に従って準拠し
ている」というところでストップするのか、あるいは、
「一定の基準に従って準拠し、適
正である」とするのかで、報告基準の全体としての方向性が変わってくる。
【休憩】
○
石原
監査報告書での意見表明において、適正であるとするパターン、一般に認めら
- 170 -
れた会計基準に準拠し作成されているとする準拠性で留めるパターン、準拠して適正で
あるとするパターンの3パターンが考えられる。みなさんいかがか。
○
西尾
「準拠性」とは何に準拠しているのか。
○
石原
そこは難しい。自治体の財務規則や会計規則が考えられる。
○
西尾
そこに準拠しているという意見表明はできるのか。
○
石原
できる。しかし、それだけであれば、従来とおりである。リスク・アプローチ
などの考え方を取り入れないといけない。
○
西尾
準拠して適正であると意見表明できるのか。
○
石原
準拠して適正であるとすると、準拠性は必要条件なのか、必要十分なのかとい
う議論になる。
○
西尾
ではなぜ適正なのか。適正性は準拠性を意味する。準拠しているから適正であ
る。
○
伊藤
このことは、日本会計士協会で議論されている。
○
遠藤
IFACには国際監査基準があり、日本の監査基準でも次年度から適用しよう
としている基準がある。つまり、民間企業の監査報告書に適正性についての意見を述べ
ることが通常であるが、IFACでは「適正の意見」と「準拠の意見」という2種類の
報告書がある。これらでマトリクスを描くと「適正性」と「準拠性」があって、それぞ
れに「無限定適正意見」
「限定付適正意見」「不適正意見」、
「意見不表明」がある。日本
公認会計士協会もIFACの加盟団体であることから、この基準を次年度から日本でも
国際監査基準に準拠し適用することになった。たとえば、民間企業において、通常、財
務諸表として B/S、P/L、キャッシュ・フロー計算書がアウトプットとして作成されてい
る。財務諸表を介して適正な会計行為をアウトプットするためには、B/S、P/L、キャッ
シュ・フロー計算書が必要と考えられる。しかし、会社法ではキャッシュ・フロー計算
書の作成が求められていない。キャッシュ・フロー計算書がなくても適正意見として、
会計実体に合わした財務報告書であることを保証している。そもそもキャッシュ・フロ
ー計算書もないのに、適正という意見を出していいのかという議論がある。会社法には
- 171 -
準拠しているので準拠性意見と言えるが、民間企業で一般に認められた会計基準でキャ
ッシュ・フロー計算書を作成するのが当然であると考えられているため、準拠している
と言えても、適正意見と言えるのかという議論がある。これを自治体の監査報告書に置
き換えて考えてみると、自治体の場合、準拠性意見と言えるのか、適正性意見と言える
のか。民間企業が次年度からIFACの基準に準拠して監査報告書を作成することにな
るので、自治体の監査報告書でも考慮して考えてはいかがか。
○
伊藤
遠藤部会員が説明されたように、準拠性は、
「GAAP に準拠していることは間違
いないが、ある程度 GAAP から外れても広い意味で GAAP に従っている」なら適正と
言える。しかし、
「GAAP に必ず従っていなければいけない」
「GAAP から外れてはいけ
ない」は適正ではなく、準拠である。日本会計士協会は、
「適正」と「準拠」を「適正」
の方が広い意味で捉えていると考えている。自治体が最終的に「適正」という意見表明
をしているけれども、果して「適正」と言っていいのかというA氏の意見は、
「適正」と
いう領域ではなく、
「準拠」の領域で現行の自治体監査報告書が作成されていると考える。
では、これから作成しようとしている自治体の監査基準はどちらの方向でいけばいいの
か。
○
石原
監査論の講義では、「適正性」をどのように教えているか。
○
石川
講義のなかでは、単純に会計基準に準拠している「単純準拠説」と会計基準に
準拠していなくても、不正や違法行為を含むこともあるとする「独立意見説」で説明し
ている。単純準拠説は、会計士の責任問題が明確になるけれども、どちらも一長一短あ
る。
○
石原
「適正」とは、基本的に「fairly」である。つまり、「大体」である。監査をす
るときの重要性の概念の方法的側面というのが分かりやすい説明である。
「適正」は、1
00%ではないけれども、重要性の概念に入っている。会計士はサブスタンス・オーバ
ー・フォームが基本なので、ルールに従うことで悪くなると予想されるルールに従うか
どうかを議論するのは問題外である。その辺りの概念を加味したものが「適正」である。
GAAP に準拠していて、重要なところはきちんと出来ている、というのが「適正」、
GAAP に準拠しない方がいいところもあるけれども、それを含めてきちんとできている、
というのが「含めて適正」である。
○
西尾
GAAP に準拠していなくても「適正」なのか。
- 172 -
○ 石原
重要ではないところは、準拠していないケースもある。
○
西尾
GAAP に準拠しているから「適正」ではないのか。
○
石原
もちろん、そのとおりであるが、サブスタンス・オーバー・フォームの考え方
が会計原理にあるので、人が作ったルールに従って、反って間違えるようなときには、
毅然としてルールを逸脱することもある。
自治体の場合、歳入歳出決算書ではパターンが決まっているので、それらをチェック
するためのルールは沢山ある。
○
C
財務規則など沢山あるが、詰めが甘いかもしれない。自治体では、同じ物を違う
勘定科目で購入していることもある。
○
石原
私が素案として考えているのは、自治体で既存に持っているルールを活用する
ことである。異なった勘定科目で同じ物を購入しても、どちらの勘定科目で支出しても
間違いだと指摘されないのであれば、どちらも勘定科目として認められる。自治体では、
その意味での従わなければならないルールは既にできている。
○
A
財務規則などの関係法令があって、それに違反して支出をしていたら、それは指
摘事項になる。
○
石原
重要性の枠内で、財務規則などの関係法令に大体準拠していれば、「適正」であ
る。
○
遠藤
それは出納整理期間を含めた修正現金主義で出されたアウトプットも、期末の
決算のキャッシュ・フローもきちんと表しているということでいいのか。
○
石原
もちろん、それが前提である。現金主義や発生主義の議論は外して、外部監査
をとりあえず行うのが主眼である。良いか悪いかと言えば、悪いかもしれないが、監査
は監査で議論して、その議論に会計基準の議論を持ってこられると少し難しくなる。遠
藤部会員の先ほどの話は、平成10年ごろに商取引でキャッシュ・フローが導入された
ときに、議論されているはずである。その際にも、監査基準は若干の変更がなされてい
る。その議論と重ね合わせて、会計士協会の議論はやらなければならないのに、国際監
査基準をもとにして議論している。
- 173 -
○ 西尾
会計基準云々というよりも、準拠性は適正性より現行の会計基準に合っている。
○
石原
では、次に遠藤部会員の方より内部統制についての論点整理をお願いする。
○
遠藤
内部統制報告基準ということで、1枚目の資料が J-SOX の民間の内部統制報告
書の基準であり、「Ⅰ 内部統制の基本的枠組み」「Ⅱ
及び報告」
「Ⅲ
財務報告に係る内部統制の評価
財務報告に係る内部統制の監査」である。
「Ⅱ」は組織の問題、
「Ⅲ」は
その監査の問題になる。自治体の監査基準の「第五」で内部統制報告基準では、
「Ⅲ」の
内部統制の監査を切り口にする。次ページに内部統制報告書では、どのような報告をす
るのか、日本の上場企業と英国自治体の例をあげてまとめている。どのようなアウトプ
ットを出すかというと、財務諸表監査と内部統制監査報告書である。内部統制報告書は
自己の責任のもとに作成する。そして、その内部統制報告書を受けて監査を行う。レビ
ューをして、何か問題があれば報告することになる。監査人がどのようなアウトプット
を出すかはさまざまなものがあり、日本の自治体の内部統制報告基準を設定するにあた
って、どの項目を選択するかが問題である。
○
石原
日本の監査基準と J-SOX の内部統制報告基準の関係を簡潔に述べるとどのよう
に整理できるか。私のイメージでは、「Ⅲ」である。「Ⅲ」が「第五」にあたる。総務省
の内部統制研究会報告書で、監査報告書についてどのように記載されているのか。
○
C
○
石原
特に記載がなかったように思う。
内部統制報告基準が自治体監査基準に盛り込まれている方がいいと思うが、内
部統制報告書を作成しないのなら、
「第五」は削除となる。
○
西尾
ダイレクト・レポーティングするのか。
○
石原
いや、インダイレクトである。
○
西尾
そうすると基準をすべて作成しないといけない。
○
石原
総務省の内部統制研究会最終報告書の78ページに「確かに、民間企業におけ
る内部統制報告制度は、まさに本格化されたばかりであり、手探りの中で行われている、
いわば未完の取組であるが、一部の地方公共団体において、先行して内部統制に取り組
もうとしているように」と記載されており、自治法改正でも、監査制度改革よりも内部
- 174 -
統制制度改革の方が、先行するぐらいなので、そのときには既存の内部統制の整備・運
用の問題もあるが、できていないところがどこにあるのかなど、首長が内部統制報告書
に書くようなミッション・ステートメントがあった方がいいのではないか。会計士が外
部監査するときに、経営者の確認のようなものがあればいいと考える。
○
西尾
第1部の「第五」が、内部統制報告基準なので、第2部の「第5章」の解説は、
内部統制評価基準や内部統制報告書作成基準などを書かないといけないのではないか。
○
石原
いや、あくまでも第1部が監査基準で、第2部が逐条解説である。
○
西尾
内部監査をするので、その逐条解説の第5章に、何に準拠しているかなどを内
部統制報告書作成基準の辺りから記載しないといけない。
○
石原
そこは作成基準でなくて、作成される内部統制報告書のイメージ的なものにな
る。内部統制の作成基準を記載しても理解するのが難しい。
○
西尾
それでは、「内部統制として、このような事柄を考える、そして、それに対して
首長は、このように評価して、このような報告書を作成する、作成された報告書を監査
する」、このような流れか。
○
石原
そうしないと読むのが困難になる。いきなり基準が出てきても、理解しにくい。
このような仕組みのなかで、このような内部統制報告基準あって、民間企業と同じよう
に内部統制を行っているという理解になる。民間企業の監査基準は、J-SOX の基準で行
っているという理解になる。J-SOX の前段にはかなりの分量の文書が記載されているが、
会計士協会として J-SOX と監査基準の関係を整理した記載はあるのか。
○
西尾
そのような記載はないと思う。
○
石原
内部統制の執筆については、以上のようなイメージでお願いする。
○
髙原
私は実施基準の執筆を担当することになるが、どのような監査を想定されてい
るか具体的に大きな枠組みを提示していただければと思う。私のなかにある監査基準
(案)に向けた問題意識を2枚の資料でまとめている。実施基準の担当箇所として、関
係する3つの事項をあげているので、全体の方向性を教えていただけたらと思う。まず、
1点目として、自治体の監査基準を民間企業の監査基準を参考にして作成するにあたり、
- 175 -
特にリスク・アプローチに関して、準備した資料の四角枠のなかの「1」「3」
「4」が
関係してくるので、そのまま民間企業の監査基準を自治体の監査基準に映し込んでいい
「不正」に対して、財務諸表監査は重要な虚偽表示につながる不正
のか。2点目として、
を前提としているが、以前の議事録を拝見する限りでは、
「不正」の範囲をどのように捉
えていくのか、分からない。3点目として、民間企業の実施基準の「7」のところで、
「継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる」場合も考えられるので、どのように自治体
の監査基準に反映させたらいいのか。それぞれについての共通認識を伺いたい。
○
石原
○
C
1点目は、髙原部会員のおっしゃられるとおりで結構である。
3点目のゴーイング・コンサーンの考え方を自治体自体に取り込むのはナンセン
スだと思うが、外郭団体ではゴーイング・コンサーンが関係してくる。外郭団体では、
倒産することもありうる。しかし、文脈が少し異なるような気がする。
○
西尾
ゴーイング・コンサーンは、企業会計の公準なので、自治体では外すべきかも
しれない。自治体では、ゴーイング・コンサーンは関係ないように思う。
○
遠藤
英国自治体の監査基準では、ゴーイング・コンサーンは入っている。SORP
に入っている。
○
西尾
自治体の監査では、ゴーイング・コンサーンの考え方はそぐわない。自治体の
歳入歳出決算書には P/L もないので、そぐわない。
○
C
日本の政府機関は破産することができないので、潰れることはない。
○
西尾
ゴーイング・コンサーンは省いてもいいのではないか。
○
髙原
しかし、ゴーイング・コンサーンは基本原則に関わってくる。
○
西尾
何のために書くのか。その理由に合理性があるのなら、記載すべきであるが、
考えにくい。
○
石原
言葉を変えても、「継続企業の・・・」という民間企業の公準をそのまま使うの
は難しいと思う。これと類似するものに、健全化指標の監査がある。健全化指標のチェ
ックは、当然として行わなければならないが、その健全化指標に関わる実施基準がどこ
- 176 -
にもない。この公準を健全化指標の監査と置き換えることができないかという議論にな
る。さらに、自治体は健全化指標の4指標で財政破綻を黄色信号、赤信号と形式的に取
り決めしている。もし、健全化指標の監査や歳入歳出決算書の監査で監査人が自治体の
財政破綻を評価できるのであれば、監査報告書の特記事項として記載することも考えら
れる。
○
西尾
監査人の責任が重くなる。
○
石原
特記事項である。
○
伊藤
特記事項と考えた場合、報告基準に入ってくるのか。
○
石原
そうなる。
○
西尾
実施基準としては書けないのか。
○
石原
その論点もある。
○
遠藤
民間企業の二重責任の原則と異なり、読み手に倒産する可能性があるという情
報を加える形になるのか。
○
石原
そのため、特記事項になる。監査人が意見したことに責任が問われない無責任
情報である。
○
西尾
監査人が気づいたから記載したという無責任情報になる。
○
伊藤
追記情報でもない、ということか。
○
石原
追記情報の前段階になる。
では、ここで提案ですが、ゴーイング・コンサーンとしては、自治体の監査基準に盛
り込むことは省く、その代わりに実施基準のどこかに健全化指標の監査に関する実施基
準を盛り込まなければならない。省いたゴーイング・コンサーンを報告基準で付記事項、
追記事項、特記事項などで扱う、というのでどうか。もちろん、歳入歳出決算書の監査
をするときには、いろいろな情報をみるので、その際の情報提供になる。
たとえば、自治体の財政職員の話を聞くと、大震災があったので今年度の交付税はど
- 177 -
うなるのか、心配している。特別交付税として国税の30%を割り当てる理屈から考え
ると、赤字国債などを発行しない限り、普通交付税として割り当てられる金額が減額さ
れる。尼崎市は120億円ほどの普通交付税があるが、仮に半分の60億円になると、
実質赤字比率でおそらく3年で地方自治体財政健全化法の早期健全化団体に転落する
ことになる。このようなことを追記事項として記載するのはどうか。
○
C
○
石原
○
C
○
石原
そうなれば、地方が臨時財政特例債を発行し、国が地方交付税に算入する。
そのことも追記事項として記載する。
地方自治体の赤字が、中央政府にいってしまうような仕組みになっている。
大震災があって、保険を支払うために円が必要とされ、ものすごい円高になっ
ている。1ドル84円のところまできている。ひょっとすると、もう少しで円安になる
かもしれない。そうなると円が国際的に信用力を失って、国債の金利が上がり、資金調
達のための日本国債ができなくなる。その結果、再生破綻を迎えることになる。今、危
険なことは円安である。
○
C
わが国のナショナル・リスクであって、経営者の責任ではないと考える。
○
石原
ゴーイング・コンサーンは省くことにする。
○
石川
継続企業の前提に「経営者が作成する財務諸表の適切性を検討しなければなら
ない」とあり、実施基準でゴーイング・コンサーンをやらないで、代わりに健全化指標
の監査をするなら、健全化指標の監査をどこで設定するのか。
○
石原
健全化については、基本原則のどこかで入れて、私が執筆を担当する。
2点目について、
「虚偽表示」は、財務諸表上で扱う金額の誤りである。
「不正」につ
いては、歳入歳出決算書を作成していて、不正はあるのか。
○
C
どうすれば不正ができるのか。歳入歳出決算書では不正はできないと思う。誤り
はあると思うが。
○
石原
「不正」だけでなく、「不正および誤謬」としなければいけない。
- 178 -
○ C
入ってきたお金を数えるだけなので、決算書でどのようにしたら間違えられるの
か、分からない。あったとしても、年度間のとり誤りが一番大きいことかもしれない。
○
石原
「虚偽記載につながる表示」は沢山ある。「虚偽記載につながる不正」はあるの
か。
○
石川
千葉県の不正事件がどのような仕組みで行われたのか分かれば、執筆しやすい。
○
C
○
石川
それこそ、不正行為である。
○
石原
つまり、「虚偽記載につながる不正」である。
○
石川
自治体で、資金をプールできる手段はあるのか。
○
伊藤
昨年、会計検査院が都道府県を対象に不正のやり方を6つに分類して調査を行
千葉県の不正は、架空の発注をして、業者にお金を預けていた。
っている。
石川
○
C
HP で公表されているのか。
○
「預け金」「一括払い」「差替え」「翌年度納入」「前年度納入」「補助の対象外」の
分類である。
○
H
「差替え」は財務諸表の重要な虚偽表示につながるのか。
○
C
たとえば、250万円の青写真を焼くとして、実際には色画用紙を使って冊子を
作成しているような場合である。
○
伊藤
金額的な重要性として取り上げるとすれば、それほど大きくないが、質的な面
から捉えると、財務諸表は、重要な虚偽表示に他のところでも、つながっているのでは
ないかとう疑いをもつ。
○
西尾
一般基準の重要性とは、おおむね適正になるが、予算との関係ではどのように
考えるのか。わずかな金額の予算オーバーはどのように考えるのか。
- 179 -
○ 石原
企業会計と同じで全然問題ない。
○
西尾
あまり細かなことを言われると監査ができなくなる。
○
石原
利益がないので、歳入で計上すればいい。
財務諸表につながらない不正はあるか。あれば、内部統制で行えばいい。もし、その
不正を首長が行っていいたら、どのようにするのか。
○
西尾
それは、統制環境の問題になる。
○
石原
首長が不正をしていたら、ガバナンス、二元代表制が機能していない。
次に L 氏に英国自治体の決算書監査の監査報告文面について説明いただく。
○
L
英国自治体の決算書監査をした際の監査人の報告書が、自治体の規模や監査人の
母体によって、どのような相違点があるのかを調査した。
1ページに調査した団体の監査報告書の概要を記載している。規模別に見ると、ディ
ストリクト(1団体)、ロンドンバラ(3団体)
、ユニタリー(7団体)
、カウンティー
(3団体)、スコットランド(1団体)、その他(1団体)を調査した。監査人の出身母
体では、AC(10団体)、民間監査法人(5団体)である。決算監査報告書の分量を
単純に比較すると、エセックスが7ページで最も多い。少ないところでは、2ページの
団体もあり、文字サイズが小さいこともあり、ページ分量はあくまでも目安としてご覧
いただきたい。
2ページでは、監査報告書の構成を記載している。
「財務報告の意見」
「財務管理者と
監査人の役割」「監査意見の基礎」「意見」「証明」の5項目から構成されている。多く
の団体で「意見」と「証明」の間に VFM 追求の結論を併せて行っているパターンが多
く、「use of resource における経済性・効率性・有効性への結論」「自治体の責任」
「監
査人の責任」
「結論」の4項目が入った形になっている。併せて年金基金会計を発表し
ている場合は、「年金基金会計報告の意見」「財務管理者と監査人の責任」「監査意見の
基礎」「意見」が別途項目に設定されている。基本的に監査報告書には、図表2に記載
している5項目で構成されていることが分かった。監査報告書のタイトルには3種類あ
り、ほとんどの団体が「Independent auditor’s report to the Members of 自治体名」
が使われており、この「Members」とは「議員」を意味している。その他に「Independent
auditor's report to 自治体名」「Audit Report」があった。このようにどのようなタイ
トルを使うかは、各自治体に裁量があるようである。
- 180 -
3ページでは、文面について記載している。代表して、リーズとシティ・オブ・リン
カーンの2団体をあげている。文頭の主語が「We」であるか「I」であるかの違いで、
監査人が1人か、複数人かで分けられていると考えられる。内容については、会計報告
書を監査したこと、どのような書類を見たか、自治体の会計方針に基づいて作られてい
ること、が記載されている。段落が2つに分かれており、後段に「監査人と非監査組織
の責任報告書」の49段落がある。
○
石原
ACの3分の2ぐらいが、従前のとおり自ら監査を行っているが、残りの3分
の1は他の団体に任せているので、KPMG、Delloite、PWCとバランスよ
く分けている。民間の監査事務所が自治体の監査を行っているので、監査報告書の相違
点を調べていただいた。
次に、E氏に作成していただいた資料で、わが国自治体の監査基準です。監査意見書
のページの分析が7ページにあり、特徴別分析が8ページにある。最後の15ページに
民間企業の監査報告書との比較がある。本日は論点になっていないが、責任問題の論点
がある。二重責任の原則への言及が、自治体の決算審査にはないので、どこかに二重責
任の原則を盛り込まないといけない。
執筆に際して、自治法改正に伴うかもしれないので、「地方公共団体」で用語の統一
をお願いする。
○
髙原
民間企業では、実施基準の「8」に経営者確認書があるが、自治体に経営者確
認書はあるのか。
○
石原
実務ではない。
○
西尾
二重責任の原則から言えば、大事なので、入れてはどうか。
○
石原
経営者確認書は、会計士が監査をする前に経営者が決算書をきちんと見ている
ことを確認するために、経営者が捺印した書類である。
○
西尾
もう少し詳しく言うと、
「正しい決算書を作成する責任は私にあります」として、
首長が捺印をする。自治体でも、もらっておくべきである。首長に認識してもらう必要
もある。
○
C
外部監査の目的を達成するためにも必要ではないか。
- 181 -
○ 石原
○
A
では、経営者確認書は盛り込む形で執筆をお願いする。
地方独立行政法人の監査基準のなかの報告基準に、違法と不当行為が記載されて
いる。民間企業の監査基準には記載ないが、地方独立行政法人の監査基準には記載され
ている。どうされるか。
○
西尾
違法と不当行為があるのか、あるいは、ないのかを決算書と結び付けないとい
けない。そこまで、できるのか。
○
A
地方独立行政法人の監査意見書で、適正という意見も出しているということは、
そこまでやっているということである。
○
西尾
自治体の場合、会計監査なので、会計に結びつかない違法行為は対象外になる。
そこを入れてしまうと、どこまで責任を負うことになるのか分からない。
○
C
地方公務員法に違法な事案を見つけたら、通報しなければならないという一般通
報義務がある。そのような意味合いで地方独立行政法人には入っているのではないか。
一般的通報義務は理解できるが、監査基準に盛り込むのは、難しいと思う。
○
西尾
「違法」は分かりやすいが、「不当」は分かりにくい。
○
石原
論点として以後、解決していければと思う。
(第8回
- 182 -
研究部会
以上)
資料4
第9回
議事録
日時
2011年5月28日(土)13時30分~16時30分
場所
関西学院大学梅田キャンパス
1004室
<参加者>
出席
15名
<次第>
研究部会長挨拶
協議事項
1 地方自治体監査基準の検討
2 その他
<議事内容>
○
石原
本日配布した資料のなかに、地方自治体の監査基準草案があり、各部会員の先
生方に多くの資料を作成いただいた。
「地方自治体監査基準」の8ページ以降は、内部統制報告基準が記載されており、そ
の前段までと比較すると、内部統制報告基準の分量が多い。日本の民間企業における監
査基準の構造は、監査基準があって、別に内部統制の実施と監査の基準があり、今回の
地方自治体の監査基準では、そのなかに内部統制報告基準を入れようとしている。この
内部統制報告基準の扱いをどのようにするかをご提案いただきたい。
今回、この研究部会で扱うのが地方自治体の監査基準である。J-SOX では経営者が内
部統制を構築するときの基準があって、それを踏まえた形で監査の基準がある。地方自
治体の内部統制報告書については、今年1月に公表された「地方自治体の抜本的改正の
考え方」をベースにして、地方自治法改正(案)の案が作成されると考えられる。その総
務省の考え方のなかで、
「地方公共団体の長は、条例の定めるところにより法令等の遵守
等の目的を達成するための体制の整備等必要な措置を講ずる義務と、内部統制の実施状
況を議会及び住民に報告・公表する義務があるものとし、その旨を地方自治法に規定す
る」と見直しの方針が示されている。この考え方の「地方公共団体の内部統制の整備」
を除くところでは、「必要である」「検討すべき」
「求められる」「考えられる」といった
表現がされているが、地方自治法に規定する旨が記載されている。地方六団体と監査制
度改革に関するところでは反対意見も多くあるが、内部統制に関するところでは、反対
意見がないようである。内部統制を構築する責任と報告する責任を地方自治法に規定す
ることが、改正法案の前の段階で整理がされている。その内部統制の整備や運用の具体
- 183 -
的な方針まで、この研究部会で検討することは範囲が広くなりすぎる。内部統制を構築
する指針もないなかで、内部統制監査のルールができるのかという問題は、どのように
整理すべきか考えなければならない。
本日は、J-SOX をベースにした地方自治体の監査基準案を作成していただいているの
で、民間企業の監査基準との関係をどの程度まで記載するか検討する。J-SOX は、あく
までも実施基準なので、基本原則と比べると少し細かすぎる。伊藤部会員の報告、監査
基準素案の設定、各部会員の先生方の資料を踏まえて、議論を進めていく。では、まず、
報告基準、準則のところを伊藤部会員に説明いただく。
○
伊藤
「監査基準案(報告基準)作成のスタンス」から説明する。(1)から(5)ま
では文言の問題であり、(6)の「継続企業の前提」をどのように扱うかが問題である。
「地方自治体監査基準」の7ページ「六
継続企業の前提」は、民間企業の監査基準か
ら文言を修正したものである。そこにも記載しているが、継続企業の前提については、
財政健全化判断比率の審査との関係で議論の必要性がある。
「継続企業の前提」は、直接
的に実施基準とも関係してくると考えるので、この辺りの議論をしていただけたらと思
う。
○
藤岡
3ページの「7」の監査計画の策定のところに関係してくる。民間企業の監査
計画の策定では、
「監査人は、監査計画の策定に当たって、財務指標の悪化の傾向、財政
破綻の可能性その他継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事実または状況の有無をた
しかめなければならない」と民間企業の監査基準にあったものを「地方公共団体の健全
化に重要な疑義」として修正している。
○
石川
2ページの基本原則で「継続企業の前提」に触れずに「6」をとばしている。
○
西尾 「継続企業の前提」は企業会計の問題なので、地方自治体には関係がないので、
今回の地方自治体監査基準の策定あたっては、削除してもいいのではないか。
「継続企業
の前提」をもとに財務諸表を作成することが求められており、企業自体が継続するかど
うかを監査人が判断するのではない。自治体の決算書が「継続企業の前提」をもとに作
成されているわけではない。倒産するかしないかで、民間企業と自治体の決算書はどこ
が違うのか。歳入・歳出の収支があることからも、何も異なることはない。
「継続企業の
前提」を外すべきである。
○
石原
「継続企業の前提」の論点は、財政健全化判断比率と「継続企業の前提」との
関係、
「継続企業の前提」が崩れてしまうと決算書の作成の前提が崩れてしまうことの2
- 184 -
点がある。自治体で「継続企業の前提」の議論をする場合、企業会計と違い、現金主義
の出入の記帳をどのように整理するか重要である。
○
伊藤
地方自治体に「継続企業の前提」という概念を持ち込むのは難しいと思う。し
かし、ここできちんと議論しておかなければならない。
○
石原
企業会計で、なぜ「継続企業の前提」があるかは、監査人が追記情報を出すこ
とになったからである。
○
西尾
継続企業の前提が入った理由は、前年度の決算書で債務超過でなかった企業が
倒産して、そのとき監査人は何を監査していたのかが問題となったことにある。さらに、
国際的な動向が理由であった。平成14年の監査基準の改定に伴い、その前文に記載さ
れていたと思う。要するに、一般的に債務超過でない企業が次年度すぐに倒産してしま
うのはおかしく、監査人にその企業の継続性を判断してほしいと思うのだが、監査人は
そこまで責任を持つことがないため、会計情報の範疇で処理をして、その「継続企業の
前提」で決算書が作成されているのかどうかを判断する。取得原価主義で決算書を作成
しているのだから、決算書が正しいかを監査人が判断しているのは正しいことであり、
「継続企業の前提」がクローズアップされ過ぎている。
○
伊藤
「継続企業の前提」に関する監査では、監査人が意見表明する限り、1年以上
は倒産しないという保証を適正意見の範疇に含めるべきと認識している。
「継続企業の前
提」が備わっているかどうかのチェックの仕方は、監査人から意見表明するのではなく、
まず、経営者が弁明して、その弁明に対して監査人が「適切」と判断するような内部統
制の仕方と情報監査の枠組みで行うのが「継続企業の前提」と認識している。
○
西尾
監査人は、その企業が1年間倒産しないことを保証することはできない。しか
し、次の決算までは、企業が存続することを前提に財務諸表を作成することが妥当であ
ることを監査人が判断することになるかもしれない。
○
遠藤
継続企業の前提に関する注記さえ行わないなら、測定に大きな影響を及ぼすこ
とになる。注記は会計士の範疇にあり、測定にも関係する。
○
西尾
現行の監査基準の考え方は、財務諸表の話であって、ゴーイング・コンサーン
を前提とした会計基準に基づいて決算書を作成することでいいと判断している。要する
に企業が継続するかしないかは、まったく言っていない。地方自治体監査基準にゴーイ
- 185 -
ング・コンサーンを入れてしまうと、ゴーイング・コンサーンと決算書がはじめからリ
ンクしないことから、地方自治体が継続するかしないかの監査になってしまう。そうし
てしまうと現状から逸脱してしまい、監査人の責任が重くなる。
○
伊藤
自治体の会計基準がどのように整理されるか分からないが、会計基準のなかに
自治体の将来に対する疑義が生じるときに注記を付すといった規定が盛り込まれた場合
には、ゴーイング・コンサーンを考慮していく必要があるのではないか。自治体の会計
基準がはっきりしないので、現時点ではゴーイング・コンサーンを含めるべきと考える。
○
石川
財政健全化の4指標との関連性はどのようになるのか。決算審査をするにあた
り、4つの指標を関連づけて審査はしているのか。
○
石原
財政健全化の指標は、ある一定基準を超えたら、その自治体は早期健全化団体
や財政再生団体と決められる。
○
石川
決算審査と財政健全化の指標はリンクしないのか。
○
石原
歳入歳出決算書の審査と財政健全化の指標の審査は別々である。意見書も別々
である。リンクはしていない。
○
石川
全国都市監査委員会の基準では、決算審査のなかに実質公債費比率などを見る
という内容が盛り込んである。その基準に基づいて監査を行っている自治体では、歳入
歳出決算書と財政健全化の指標の審査がリンクしていると考えられるが、実務ではどう
なのか。リンクしていないのであれば、ゴーイング・コンサーンは入れる必要はないと
思う。
○
石原
大きな論点なので諦めるにしても、諦めた理由を記載すべきである。
「第四
告基準」に「一
基本原則」「二 監査報告書の記載区分」
「三
報
無限定適正意見の記載
事項」「四 意見に関する除外」「五 監査範囲の制約」と続いた次に「六
継続企業の
前提」となっている。自治体で継続企業の前提を議論するとき、自治体が形式的な倒産
があっても実質的には倒産しない。継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事
象や状況は、実質赤字比率などの財政健全化指標の審査で自治体の財政状況が非常に悪
化しているときが考えられる。自治体の場合、実質公債費比率が24.9%であり、さら
に起債を発行しようとするときには、重要な疑義が生じる行為になる。企業が倒産する
かしないかの議論ではなく、自治体監査基準を財務諸表監査や内部統制の監査に加え、
- 186 -
財政健全化指標の審査があり、そして、内部統制監査があるという流れで整理できたら
いいと考えている。継続企業の前提は、会計の前提から考えるとナンセンスであり、特
記事項、追記情報、付記事項、補足的説明事項から考えると保証があって、そのなかで
適正かどうかを判断すべきである。しかし、それでは期待ギャップがあるので、ゴーイ
ング・コンサーンや内部統制監査が関連してきている。実質公債費比率が25%になっ
たから駄目という意見ではなく、今年度は24.9%に留まって、次年度はこの状態では
いけないという意見が、追記情報や付記事項のようなものに当たるのではないか考える。
○
西尾
財務諸表監査と別に考えるのであれば、ここで入れるのは追記情報である。追
記情報を入れるとしたら、追記情報がこの監査基準でどのようにするのか規定されてい
ないため、責任があるようでないようなものである。監査人に追記情報の責任を負わす
ことになると難しい問題が生じてくる。現行の追記情報のような曖昧な形で盛り込むこ
とはあり得る。
○
石原
重要な後発事象は、監査報告書を作成する前段階で分かることだが、後発事象
を監査報告書に載せると裁判になったとき、監査人にとって分が悪い。
○
西尾
後発事象は財務諸表には載せるが、監査報告書に載せるか載せないかは判断が
入る。しかし、監査報告書には、おそらく載らない。財務諸表ではさまざまな後発事象
が載せられるが、監査報告書には重要なものしか載せない。
○
石原
たとえば、4月10日に会社が倒産して、その際に貸倒引当金を1億円持って
いて、税法基準しか計上していなかったとき、注記だけになるのか。
○
西尾
いや、倒産の原因による。原因がなければ注記になる。
○
石原
私が考えるには、財務諸表を作成して監査役会に提出した以降に発生した後発
事象については「七
○
西尾
追記情報」の(3)に該当すると思う。
金融商品取引法の場合は注記として書ける。会社法の場合は、書けないので株
主総会で報告する。
○
石原
8週間前までの後発事象については、なぜ監査報告書に載せなかった原因を追
究することはできるが、偶発事象は困難かもしれない。自治体の場合、健全化指標を踏
まえて、現状起こっている事象については、どこに該当するのか。自治体は、偶発事象
- 187 -
でも後発事象でもない事象で倒産することがある。
○
西尾
正当な理由がないのであれば、後発事象や偶発事象も外して、自治体の場合は
企業会計とまったく別の扱いにしてはどうか。
○
石原
追記情報は、どのように説明できるか。
○
西尾
保証ではなく、情報提供機能である。
○
石原
一般的に「批判」に対して「指導」があり、「批判」は「保証」である。教科書
的に言うと批判的機能があって、指導的機能がある。保証的機能に対しては、監査なの
で、それ以上の機能はない。
○
西尾
そのとおりである。
○
石原
監査に指導的機能があるのか。
○
西尾
監査の機能と監査報告書の機能は、分けて考えた方がいい。今の石原部会長の
話は重要なことであるが、追記情報に入れていいのではないのか。
○
伊藤
「継続企業の前提」の全体を削除して、追記情報のなかに「財政健全化判断比
率の悪化の状況」というような表記を入れておけば、決算書と違う別の報告書に注意を
促すことができる。自治体にゴーイング・コンサーンという概念があるかどうかを別に
して、直接監査人が自治体のゴーイング・コンサーンに立ち入ることがいいのだろうか。
立ち入るのであれば、自治体の監査報告書に取り込むことになるので、財政健全化判断
比率の審査報告書は必要でなくなる。追記情報のなかで、情報提供の一つとして、
「継続
企業の前提」を盛り込む方がいいのではないか。
○
H
○
石原
財政健全化判断比率の監査は、今回の自治体監査基準とは別になるのか。
今回、私が作成させていただいた資料「地方公共団体監査基準素案の設定につ
いて」なかで、自治体監査基準を「決算書の監査に従事する外部監査人が、決算書監査
の行為範囲として準拠すべきものであり、その内容は決算書監査、財政健全化判断比率
の監査、内部統制監査から構成される」と記載した。民間企業では、財務諸表監査と内
部統制監査と2つに分けて監査を行っている。私のイメージでは、財務諸表監査の下に
- 188 -
財政健全化判断比率の監査と内部統制監査を位置づけるというやり方していたが、その
一方で、財務諸表監査の追記情報とするやり方もある。ただ、財務諸表監査の追記情報
とするやり方では、財政健全化の4指標の審査・監査をきちんとしていると記載しない
といけなく、そのなかで実質公債費比率を実際に計算して間違いないと正確性も保証し
ないといけない。一般的に監査が非常に事務的と言われたり、監査委員のなかには監査
を非常に狭い範囲で認識されている方もおられる。しかし、監査の期待ギャップを考え
ると、この実質公債費比率が将来どのようになっていくかという情報を盛り込めたらい
いと考える。追記情報でする方法と決算審査でする方法とあるが、決算審査の方では、
監査した後、一般会計であれば数十ページを使って、財務数値の分析から今後どのよう
にしなければならないかを積極的に意見している。監査委員が行っている非常に前向き
なこの作業を決算審査報告書の監査結果等の後の方に、むしろもっと盛り込むべきだと
考えている。そのようなことを実際に監査委員が行っているので、自治体監査基準のフ
レームワークにその辺りをうまく盛り込むべきではないかと考える。
○
西尾
監査意見のところでは、決算書は「適正」、財政健全化判断比率も「適正」と表
記して、追記情報のところでは、
「財政健全化判断比率に関して、特に説明を要すること
があれば記載する」とあればいいと考える。そこでは、比率の数値を示すだけでなく、
この数値が示すような状態であれば、今後想定される事態を記載することができると考
える。しかし、その辺りの責任との兼ね合いで、どの程度記載するかが問題となる。
○
石原
監査報告書論の言葉では、どのような文言が適切か。
○
西尾
追記情報になる。
○
石原
追記情報はいつの改正で規定されたのか。
○
石川
平成14年の改正である。
○
石原
追記情報に記載した内容について、会計士は責任をとるのか。
○
遠藤
追記情報は、基本的に二重責任の原則にあたるので、首長の意見表明のなかで
重要なものを追記する。
○
西尾
現行の監査基準はそのとおりだが、それを少し逸脱している。
- 189 -
○ 石原
監査報告書で、注記情報と追記情報はどのように違うのか。
○
経営者が財務諸表に意見表明したことに対して会計士の視点で注意を監査報告
遠藤
書だけに記載したものが注記情報である。
○
西尾
では、追記情報は、特別記載事項としてやるということなのか。
○
石原
以前、付記事項には、何を書いてもよかった。
○
西尾
付記事項のイメージは、あまりにもいい加減だった。追記情報にしたのは、二
重責任の原則のなか、企業の監査では企業が意見表明しなかったことを会計士が記載す
ることになるので、自治体の監査では適していると考えた。しかし、今までないことで
ある。
○
石原
監査基準の大前提は、二重責任の原則で成り立っている。二重責任の一方で、
きちんとした決算書を作成するために内部統制の論理があり、他方で、外部監査人の均
一性の観点があり、監査基準と繋がってきている。特記事項は、後発事象のなかで何か。
○
西尾
民間企業で使われている追記情報と異なるので、自治体の監査基準で「追記情
報」という文言を使うのをやめて、全然違う文言を作成してもいいのではないか。
○
石原
いや、民間企業の監査で使われている文言を使う方がいいと考える。この一つ
の軸として、監査・検査・審査の概念が入り混じっているところに問題意識がある。
○
西尾
今まであった補足的説明事項、特記情報、追記情報、付記事項などのなかで、
一番適している文言を使うことになる。それであれば付記事項になるが、付記事項はあ
まりにもインパクトが弱い。
○
遠藤
国際的な動向では、ナラティブ・レポートがあり、日本公認会計士協会の方で
も監査の対象になるか議論されているところである。今後、自治体でも出てくるかもし
れない。
○
石原
具体的には遠藤部会員の言うとおりであるが、まだ日本では検討段階である。
○
西尾
付記事項は監査基準にはない。勝手に書いているだけである。
- 190 -
○ 石原
文言はいろいろあるが、実質公債費比率がちゃんと計算されているというだけ
でなくて、住民にこの監査報告書を読んでもらうということが大事である。つまり、実
質公債費比率が現在24.9%となっていても、25%を超えると早期健全化団体になる
ということを住民に知らせないといけない。民間企業のディスクロージャー制度がきち
んと知識をもった個人投資家が読んでわかるレベルで書かれているが、自治体のナラテ
ィブ・レポートが民間企業と違う点として、自治体のナラティブ・レポートや監査の補
足的説明は、地域住民に分かるようにしておかなければならない。
○
西尾
この監査報告書の利用者はだれか。
○
石原
住民、行財政の基本的な知識のない議員である。
○
西尾
住民が決算書を見ることはあるのか。
○
石原
決算書を見ることはないが、決算書がきちんとできていることに言及する必要
はある。住民が知りたいのは、決算書が正確に作成されるベースになった、日々の支出
命令や支出行為がコンプライアンスに違反していないか、不適正経理になっていないか
である。そのような不正がないことを監査人が監査報告書に記載してくれれば分かりや
すいというイメージである。悪いことはしていないが、下手な財政運営を行って自治体
が潰れてしまっては仕方がない。それを財政健全化判断比率の監査・審査で、会計士が
責任のとれる範囲で、住民に自治体の置かれている状態を記載できるようにしておけば
いい。
○
西尾
先ほど私が「誰が見るのか」と尋ねたのは、誰が見るかで監査報告書の全体的
なイメージが変わってくる。
○
石原
地方自治体は、住民と役所が連携して市民協働参画で地域づくりをしていかな
いといけない。そのときに住民を引っ張っていく立場であるのが公務員である。最近そ
の公務員が不正を行って、住民から信用されなくなっていることが総務省の内部統制研
究会では問題となっていた。財務諸表の合規・合法の面で、ルールや法律に矛盾するよ
うなことをしていないことに対して、外部監査人がお墨付きを与えることは、住民に公
務員が不正を行っていないというメッセージ与えることになる。このことが今の役所に
とって重要なことである。
- 191 -
○ 西尾
自治体監査報告書の文言は、民間企業の監査で使われている文言と同じものに
なるのか。住民が監査報告書の利用者であるなら、使われている文言が示す意味を説明
しないといけない。一般の社会人でも文言の意味は難しいことがある。そして、報告書
の最後に注意すべき事柄を記載するという形になるのか。
○
石原
自治体では、実質的に倒産するまで、国に止められることになる。住民にとっ
て必要な情報は、公務員の業務上の横領や不適正支出などの住民にとって大きな損失に
なるものの有無である。そこを監査が保証する。
そして、住民にとって、地方財政健全化法が適用され、早期健全化団体になると、公
共料金が上がったり、標準税率が上がったりするなど、住民にとって不利益なことが起
こる。そのような不利益なことが生じようとしているときに、その状態を住民に知らせ
ることが大事である。
○
西尾
しかし、現行の民間企業の監査報告書の文言では、今、石原部会長が言われた
「誰かが悪いことをしていない」ということを保証することはない、という文言になっ
ている。つまり、多少の悪いことは残ることになる。監査のお墨付きがあると住民は預
入などの不正がまったくないと思い込み、悪いことが一つもないと思うことになる。そ
の文言からすると、そのような監査しかできないことになる。
○
石原
ただ、監査としては、試査・ティスティングの話で重要性の概念が入るが、一
方で、内部統制の信頼性があるから試査をするというロジックだけでなく、最近では経
営者が真摯に不適正支出や違法行為が起こらないように内部統制を作っているといった
ことを内部統制監査のところで言及する。J-SOX では、基本的に財務諸表の信頼性から
入っていくが、自治体では、VFM や資産の保全も難しいかもしれないが、法令等の遵守
については、もっと踏み込む必要がある。自治体の首長が作成する内部統制報告書では、
財務諸表の信頼性だけでなく、法令等の違反を最大限に予防・発見できるように、内部
統制報告書を作っている。
○
西尾
最大限に内部統制をきちんとやっていても、内部統制から漏れるものもある。
あまり住民に「適正」と言ってしまうと、住民は不正がまったくないと思ってしまう。
何が不正のようなものが出てきたときに、問題が大きくならないか。
○
石原
奈良市では、年間20万件の支出命令書を監査事務局でチェックしている。こ
のなかで、本来、会計管理者でチェックしなければならないはずのミスを監査で発見す
ることができたミスは、年間でおおよそ60件、多い年度でも80件ほどしかない。重
- 192 -
要性を加味しない些細なミスを含めて、0.03%しかない。
○
西尾
住民とか、報告書の利用者をあまり明確に決めない方がいいかもしれない。
○
石原
住民と議会と既に書いている。
○
西尾
それであれば、監査人が「適正」としても、「一切不正がない」ことを意味する
ものではないことを住民に理解してもらわないといけない。
○
石原
リスク・アプローチについて、石川部会員に説明いただく。
○
石川
基本原則のところでリスク・アプローチとは何かを明記することになり、リス
ク・アプローチは重要なところなので、他の担当者と連携を図る必要がある。その辺り
をどのようにするのか検討していただきたい。
資料「第二部
基本原則の逐条解説(案)」を説明する。第二部の逐条解説を作成する
にあたっての検討課題と文言についての各担当さとの調整の必要性を基本原則ごとに挙
げている。
○
石原
「3」では、自治体の決算書をどのように監査要点は落とし込んでいくかは難
しい問題である。監査要点の設定は非常に困難である。現金主義なので、評価や配分が
なくなる。
○
石川
4ページ目に監査要点を列挙している。監査要点のなかで、実在性は削除する
項目と考えている。会計検査院の調査では、架空取引が多くあったとの結果が出ており、
支出をし、納品がなされているのかを確認しているのかが気になっている。
○
石原
監査要点には、残高の監査要点と取引記録だけの監査要点があり、これらを全
部しなければならない。だから、実在性もやらなければいけない。
○
西尾
実在性、網羅性もすべてやらないといけない。なくなるとすれば、評価の妥当
性ぐらいである。
○
石原
内部統制的な監査要点や取引記録的な監査要点というのは、今の監査基準の考
え方からは出て行っていて、残高ベースの財務諸表項目ベースのものが書かれていると
認識している。ロイベッキー、ロバートソン、アンダーソンたちも、トランザクション
- 193 -
で監査要点を記載している。そのトランザクションの監査要点と財務諸表項目ベースの
監査要点の関係はすでに整理できている。結局、現金主義は、財務諸表項目で現金以外
の項目の残高を把握しないといけないだけである。たとえば、普通建設事業費で150
万円支出すると、150万円分ぐらいの成果物のようなものがある。
○
石川
その150万円のものは何かを実際に見に行くのか。
○
西尾
実際に見に行くかということでなく、実際に取引があるかどうかである。取引
の実在性、網羅性になる。
○
石原
取引の実在性である。
○
石川
そのため、資料の4ページでは「取引の正確性」と入れた。
○
石原
実在性は、入れなければならない。
○
石川
実在性、網羅性、権利と義務の帰属など、すべてを入れることになるのか。
○
石原
それは、すべて財務諸表項目の文言である。
○
西尾
もし、その文言のなかで入れないとしたら、評価の妥当性である。
○
石原
権利と義務の帰属は、取引記録でやる。
○
H
○
西尾
すべて、そのまま盛り込む形でいいかもしれない。
○
石原
そのままでいいが、「歳入歳出項目に対しての実在性」など、どこかで文言を整
測定から言うと、評価の妥当性も入るのではないか。
理すればいい。
○
遠藤
期間配分の適切性はどうか。
○
西尾
期間配分とは、どこまでが期間配分に該当するのか。資産の配分のことを言う
のか。期間の帰属は、期間配分にはいらないのか。
- 194 -
○
石原
期間配分は、基本的に費用の配分である。
○
西尾
資産の費用配分なのか。3月の経費を4月にまわすのは、期間配分なのか。つ
まり、期間帰属の問題であり、4月の売上を3月に計上するような場合である。
○
H
○
西尾
期間配分には期間帰属も入る。
それであれば、権利と義務の帰属も入る。期間配分のなかに期間帰属も入るの
ではないか。逆に言うと自治体では大事かもしれない。
○
石原
石川部会員は、基本原則のところで、藤岡部会員は、監査計画の策定と監査の
実施のところで、関係してくるので連携が難しいかもしれない。
○
石川
今回、その辺りの検討をするために提出資料を作成した。
○
石原
原則のところは、あくまでも基本原則なので、深くは踏み込むことはない。
○
石川
文言を統一しておかないと書けない。
○
石原
一般的な監査基準の逐条解説書を参考して、文言を統一してはどうか。
○
伊藤
話が少し戻るが、今回作る自治体の監査基準が、決算書の監査、財政健全化判
断比率の監査、内部統制監査の3つから構成されることになっているので、資料「地方
自治体監査基準」の「第一
地方公共団体監査の目的」のところは次のように修正しな
いといけない。
「財政状態と純資産の変動、収支およびキャッシュ・フローの状態、財政
健全化判断比率をすべての重要な点において」と「財政健全化判断比率」の文言を追加
しないといけない。財政健全化判断比率をこの監査基準に含めるのであれば、継続企業
の前提のところで「継続企業の前提」の文言を省くとしても、財政健全化判断比率の見
方のような説明が必要になってくると考える。少なくとも、早期健全化団体と財政再生
団体の2項目は記載しないといけない。
○
石原
○
H
目的のところは修正する。
重要な疑義が生じるか、生じていないかどうかで、重要な疑義が生じているとき
- 195 -
に注記をしていなかったら、不適正的な取扱いになる。注記してから、その妥当性につ
いて判断していくような流れを作っていかないと、監査人は、やり難く、責任も負い難
い。民間企業の場合、売上や借入のような兆候を表すような指標があって、それが重要
な疑義にあたるかどうかを監査人が判断して、監査するというプロセスがあるが、財政
健全化判断比率において、まず、その指標的なものを首長が重要な疑義があるか妥当性
を判断し、監査人がそれに対応するようなプロセスが必要でないか。
○
石原
○
I
○
石原
財政健全化判断比率は、どこでディスクローズされているのか。
議会にてディスクロージャーされている。
その報告書の名称は何か。法で義務づけられているものではなくて、単なる議
案資料なのか。
○
I
様式は任意だったと思う。指標を議会に報告する。
○
石原
それを内部統制でどのように扱うのか。
○
伊藤
「六
継続企業の前提」の表題を「財政健全化判断比率の数値と追記」のよう
な文言に変えて、早期健全化団体に近づいているとかを記載すればいいと考え、
「六
続企業の前提」をすべて削除し、
「七
下に「七
○
西尾
追記情報」を「六
継
追記情報」と繰り上げ、その
付記事項」を加え、そこで財政健全化判断比率の数値と付記をしてはどうか。
それなら、「七
追記情報」自体がいらないのではないか。たとえば、重要な後
発事象は決算書に記載しない。追記情報自体があったら記載しなさい程度のものである。
○
石原
「七
追記情報」に記載されている「監査人は、」で始まる2行は、財政健全化
判断比率と表題を変えても使うことになる。
「六
財政健全化判断比率の数値と追記」として、
「六
継続企業の前提」の1から4
は削除、「七 追記情報」に記載されている文言は若干修正を加え、「六
財政健全化判
断比率の数値と追記」のところに記載する。表題は1つに集約して、自治体の場合、追
記になるような事項は、ほとんどないと思うので、本当は「六
追記情報」としてもい
いところを、唯一極めて重要な財政健全化判断比率の数値とする。
○
西尾
そこには、監査人の感想みたいな意見を書くことも可能でいいと考える。「追記
- 196 -
情報」ではなく、「追記」になるのか。もし、「追記情報」とするなら、今の監査論で使
われている追記情報と意味合いが変わってくる。
○
石原
それか「六
財政健全化判断比率の数値」としてはどうか。おそらく自治体で
は追記はでてこない。
○
西尾
それでは、先ほど話されていた監査人の感想のような意見は記載できないが、
かまわないか。
○
石原
では、「六 財政健全化判断比率の数値と追記」にする。
○
石川
先ほどの奈良市の監査事務局の例を石原部会長がお話されたが、「一 基本原
則」の「4」で、
「リスクに対応した監査手続きを、原則として試査に基づき実施しなけ
ればならない」としており、ここでは、精査でなく、試査でいいのか。
○
石原
ここは外部監査人なので試査で構わない。20万件の支出命令や支出行為を確
認しているのは、内部監査人によるものである。
○
石川
その次の「ただし、内部統制の評価の結果によって、精査の場合もありうる」
の記載はどうか。
○
西尾
それは民間企業の監査基準でもあり得る。
○
石川
自治体の逐条解説でここまで盛り込むべきか。
○
西尾
あまり書きすぎると、精査をやらないといけないと理解される。監査人の負担
になるのか。
○
石原
今、この監査は誰がやるかが問題になってくる。公認会計士がこの監査を行う
のは、規模の大きな自治体の場合である。地域主権や地方分権を考えると、比較的規模
の小さな自治体でも、東京や大阪、横浜の自治体に相応する程度の監査をやらなければ
ならない。しかし、そのような監査をするのは、自治体職員の OB しかいない。
そのため、この自治体監査基準に記載する内容は、自治体職員の OB や監査事務局職
員が大学の監査論の授業を受ける時間の研修で身に着けていただくレベルに抑えないと
いけない。
- 197 -
○ 西尾
この「4」は、民間企業の監査基準と同じ記載でかまわない。財務諸表に基づ
いてリスク・アプローチで監査を行うので、基本的に民間企業の監査と同じである。
○
石川
「ただし、内部統制の評価の結果」とあるので、内部統制を前提にしている。
○
西尾
企業の監査でも、ものによっては、内部統制の評価の結果で精査するものであ
る。ここでは、原則として試査でする旨を記載しているのではない。民間企業と比べて
特に自治体の方が精査する可能性が高いなら、検討しなければならないが、そうでない
と思う。監査基準を見ていて、企業会計の監査基準をそのまま自治体に残す方がいいの
ではないかと考えている。
○
石原
SAP33では、内部統制を見て、試査を行わなければならないと記載されてい
る。SAP54や SAS1になったときには、内部統制の前の予備的評価をして、内部統制
の評価を省略して、サブスタンスティブテストをやることが SAP54で認められている。
内部統制の評価という意味でなく、その前の内部統制の評価をするかどうかの監査計画
の上でサブスタンティブテストを行うことを意味する。ここでは「内部統制の評価の結
果によって、精査」と記載してあるが、内部統制の評価の結果によって、試査の場合も
ある。
○
藤岡
私の方は、「二
○
石原
ここは「六
監査計画の策定」の「7」をどのようにするかで迷っている。
財政健全化判断比率の数値と追記」のところが後にでてくるので、
記載していただいているとおりで大丈夫である。
○
西尾
すべての項目が自治体に該当する。
○
石川
不正および誤謬はどうか。
○
石原
重要な虚偽表示のリスクを具体的に考えていくと分類するが難しいかもしれな
い。情報監査であれば、基本的に該当するはずである。
○
石川
変えなかったとしても、重要な虚偽表示のリスクや不正および誤謬はどうなる
のか。
- 198 -
○ 石原
不正および誤謬も情報監査なので、同じである。重要な虚偽表示のリスクは難
しいかもしれない。
○
石川
会計検査院の報告書が挙げていた7つの不正の項目と同じになるかもしれない。
そのレジュメの6ページに不正および誤謬を整理するときの項目が記載されている。
○
石原
ここは逐条解説のところで言及していただくことができる。このレジュメでは、
需要費だけの不正および誤謬なのでほかにもある。
○
石川
では、ほかにはどのようなものがあるのか。
○
石原
自治体の決算書の監査で、リスク要因と記載されているが、自治体の場合、監
査要点の議論をいれていない。民間企業の監査の場合、実在性とはどのようなものかを
示すことができる。自治体の場合、実在性は、預入や一括払い、差し替えなどを考えら
れる。
○
西尾
実在性とは、架空の取引があるかどうかである。
○
石川
実在性にはどのようなものがあるのか。
○
石原
実務を研究している院生が事務局をしているので、その都度尋ねられるといい。
○
I
○
石原
もちろん入るが、とりあえず一般会計を前提に進めている。
○
西尾
公営企業や特別会計も入るべきである。
○
石原
そのとおりである。
○
I
ここでの決算書は、一般会計だけのものか。それとも公営企業も入るのか。
決算統計が間違っていたら、財政健全化判断比率も間違ってくる。では、決算統
計を監査するようなイメージか。
○
伊藤
今の監査委員のやり方では、決算審査のストック情報までやっていない。
- 199 -
○ I
しかし、大阪府ではやっている。
○
伊藤
監査人は数字の四則計算をしているだけでは、監査する意味がない。
○
西尾
根拠資料はすべて入るのか。
○
石原
根拠資料はすべて入る。私の作成した資料の3ページに「第五に、財政健全化
の審査において、監査委員は、審査に付された財政健全化判断比率とその算定の基礎と
なる事項を記載した書類が、適正に作成していることについて審査の結果を表明しなけ
ればならない。この点に関して、算定の基礎となる事項を記載した書類を作成するため
の内部統制が実質的に有効に機能していない可能性がある。それにもかかわらず、監査
委員は、算定の基礎となる事項を記載した書類の表内・表間突合といった内部証拠の収
集に終始し、外部証拠に依拠した審査の結果を表明できない」としている。
I氏が先ほど話されたように、財務諸表の監査と財政健全化判断比率の審査を分ける
という考え方もある。イメージとしては、決算書の正確性と財政健全化判断比率の正確
性も、監査としては同じロジックになる。その数値を検証するための基礎資料を監査計
画に基づいて、手続きを行う。
○
伊藤
そうであるなら、「第一 地方公共団体監査の目的」をもう少し確定したいこと
がある。
「財務状況と純資産の変動、収支およびキャッシュ・フローの状況をすべての重
要な点において適正に表示しているかどうかについて」と書かれている文言をどのよう
に整理すべきか。そこをもう少しきちんと整理できたら、この研究部会が目指す自治体
監査基準が明確になるのではないかと思う。
先ほどの点から言うと「財務状況と純資産の変動、収支、キャッシュ・フローの状況
および財政健全化判断比率の数値をすべての重要な点において適正に表示しているかど
うかについて」にしてもいいのか。
○
石原
それは、まさに先ほどの公営企業をどうするかという問題であるが、自治体の
監査基準と位置付ける以上は、現金主義に限定すべきでないかもしれない。
○
西尾
しかし、歳入歳出決算書が出てくる。
○
石原
一般会計では、そのとおりである。先ほどの話とは違うが、むしろ一般会計だ
けを前提にするのではなく、特別会計や公営企業の決算審査も含めて、広く考えてはど
うか。
- 200 -
○ 西尾
しかし、公営企業を入れてしまうと、公営企業と一般会計とまったく異なると
ころも出てくる。内部統制を別に考えるのであれば、公営企業を別に扱うことも可能で
ある。
○
伊藤
私の作成した資料「監査基準案(報告基準)作成のスタンス」の「3」に記載
しているが、決算計数と予算執行の状況について監査をするのかと思っていた。ただし、
問題がありとして「?」をつけている。
○
西尾
公営企業を含めたとしたら、少し文言が違うかもしれない。
○
石原
継続企業の前提が復活してしまうが、公営企業も含めていかないと、使えない
監査基準になる。
○
西尾
それであれば、複雑に入り混じってしまう。
○
石原
見出しで分けていく必要がある。
○
西尾
見出しを分けるとして、全体的な流れがリスク・アプローチであることは変わ
らないので、問題ないかもしれない。それであれば、公営企業は民間の企業と変わらな
い。
○
石原
財務諸表、GAAP、財政状況、適正といった文言は、一般的な文言に修正しない
といけない。そのうえで、たとえば、石川部会員のところでは、監査要点が公営企業で
は B/S、残高項目を意識して解説することもできるが、一般会計であれば歳入歳出のフ
ローと計上額で監査要点を説明しないといけないという区分けが必要になる。
【休憩】
○
石原
今までのところを整理すると、今回の自治体監査基準については公営企業も含
めて行う。追記情報やゴーイング・コンサーンも残す。
「七
全化判断比率の数値と追記」とする。吉見副部会長の「第一
追記情報」を「六
財政健
地方公共団体監査の目的」
のところは、お時間をいただき、本日議論した内容で調整を図っていきたいと思う。各
部会員で重複する箇所についてどの程度記載するかは、民間企業の逐条解説があるので、
先行研究を参考にしていただけたらと思う。あと残っている重要なところが、内部統制
- 201 -
であり、ここでの問題意識は一般原則的なもので留めるのか、あるいはもう少し詳細な
実施基準・報告基準のところまでするのかである。この辺りを遠藤部会員から説明いた
だく。
○
遠藤
資料「自治体版
内部統制の監査制度に係る課題」は、J-SOX の監査基準を自
治体版に修正したものである。その資料には内部統制を導入するにあたっての課題を記
載しており、9つあげている。資料「第5
内部統制監査基準」は、J-SOX の枠組みを
できるだけ取り込む形で自治体の監査基準を保証型、インダイレクトにしたものである。
時間の関係で内容の説明は省略する。
○
石原
資料を沢山準備していただいたが、みなさんいかがか。
まず、監査基準の第五として、J-SOX をもとにした内部統制報告基準があるが、現在
の自治体では、内部統制をどのように実施していくかという実施基準に相当するものが
ない。J-SOX のものをそのまま自治体に使うという方法もある。自治体の監査基準を自
治体職員や関係する省庁の方にも理解していただこうと、第2部として詳細な解説を加
えるにしても、理解していただくことが少し厳しいかもしれない。何らかの工夫が必要
である。この研究部会では、地方自治体の監査基準を作成しているので、内部統制をど
のようにすべきかまで踏み込んでいない。それについては、自治体の内部統制研究会も
あり、J-SOX の半分は内部統制をどうするかという基準なので、将来的に自治体でも
J-SOX のような基準が作成されるだろうということで留めておき、他方で、内部統制が
どのような状況にあっても、外部監査人の立場から何らかの内部統制監査みたいなもの
ができないかと考えている。
遠藤部会員にご説明いただいた資料「自治体版
内部統制の監査制度に係る課題」の
①では、内部統制の枠組みをどのように作っていくかというルールがない。自治体の内
部統制報告書を作成しようというところまではきているが、どのような枠組みが作られ
るが分からないなかで、この4パターンがある。保証型-インダイレクトのパターンで
あれば、J-SOX と同じになるのでやりやすい。しかし、わが国で経営者の評価の実務指
針がまったくない状況で、どのようにしていくかを考えていかなければならない。英国
ACの個別指摘型-ダイレクトはどのようにされているか。
○
遠藤
英国ACでは、レビューであり、必ず意見することはない。問題があれば、財
務諸表監査に添えて報告するに留まる。
○
石川
それとは別に英国では内部統制報告書を作成している。その内部統制報告書が
全体の財務諸表監査と関係しているのではないか。
- 202 -
○ 石原
米-SOX 型とは、どのようなものか。日本はインダイレクトであるが、ダイレ
クトになればどうなるのか。内部統制がきちんとできているという意見表明をするのか。
○
遠藤
そのとおりだ。
○
石原
それができるなら、ダイレクトがいい。
○
I
○
遠藤
何が違うのか。
二重責任である。ダイレクトでは、経営者がどのように考えようとも、監査人
自らが直接的に見ることによって意見を表明する。
○
石原
ルールどおりできているかのベストバリュー・パフォーマンスプランと同じで
ある。内部統制のところはどのように整理するか。
○
藤岡
どのように整理するかは難しい問題である。
○
石原
どこからか基本原則を導き出すことができないか。たとえば、決算書監査と内
部統制監査の関係、内部統制監査の監査計画、内部統制監査の実施方針、内部統制監査
の評価結果の報告など、重要な原則を5つぐらいに絞ることができればいいと考える。
○
遠藤
資料「第5 内部統制監査基準」の3ページ以降に PDS の実施論が書いてある。
内部統制の目的とは何か、財務報告との関係、原理原則なども書かれている。PDS に合
して、実際に監査をするときのそれぞれの局面で何が重要かの範囲を定め、全般的な内
部統制とプロセス的な内部統制をどのように運用させるかなど、順番に記載してある。
ただ、この3ページ以降に書いてある項目は、少し濃淡がある。重要なところとして、
内部監査と内部統制との連携は20ページの(7)に、不正等の報告は同ページの(6)
に記載している。
○
石原
「第四
報告基準」に合うところが内部統制報告基準になり、「一 基本原則」
のところに遠藤部会員が今おっしゃられたような内容を盛り込み、それ以降の「二」~
「六」では実施の細かな文言を定めているというよりも、基本原則を補完する詳細な説
明というイメージと考える。このような感じで内部統制のところも作成できると全体的
なバランスがとれる。「第三
実施基準」が3ページ弱で、
「第四
- 203 -
報告基準」が3ペー
ジなので、内部統制基準もこのような感じになる。たとえば、2ページの「第三
基準」を参考にすると、
「第五
「二
内部統制実施基準」とし、そのなかに「一
内部統制監査計画の策定」「三
内部統制監査の実施」「四
実施
基本原則」
内部統制報告書の記
載区分」を記載するような感じで作成できれば、かなり分かりやすいと思う。実施論と
報告書論の2つがきちんと入るし、何とか作成できないか。
○
H
○
石原
2ページぐらいでまとめればいいのか。
もう少しだけ多いページ数でお願いする。他とのバランスで、報告基準、実施
基準のほかに基本原則があると分かりやすい。
○
伊藤
8ページの「第五
内部統制報告基準」になっているが、
「第五
内部統制監査
基準」の間違いではないか。
○
石原
訂正する。
○
伊藤
内部統制監査基準を第五に盛り込むので、「第一
地方公共団体監査の目的」の
ところで少し触れておく必要がある。
○
石原
内部統制のところは非常に難しいので、そのたたき台を思い切って作成してい
ただきたい。
○
石川
そこでは、内部統制とは何かを具体的に定義していただけるのか。キュービッ
ク見たいなものを説明するのか。
○
I
決算であれば、歳入歳出決算書や財政健全化判断比率などのターゲッティングが
あるが、内部統制の評価に関して対象物がない。そのため、決算書の基準とは少し違う
のではないか。
○
伊藤
それは、自治体の内部統制監査について、ダイレクト・レポーティングであれ
ば、まだ何とか可能であるということか。内部統制の評価の基準があれば、民間企業の
ように内部統制監査ができるのか。
○
I
ダイレクトでもインダイレクトでも、保証をしていくことになると、その保証を
出す基準がないとできない。なぜ、日本はインダイレクトなのか。監査人がしているこ
- 204 -
とは同じであると思う。
○
H
インダイレクトでは、事業拠点の設定や重要度の高いリスクの設定を経営者に委
ねている。
○
I
極端に言うと、企業側のリスク負担の軽減なのか。もし、ダイレクトであれば、
監査人自身が判断して監査することになるのか。
○
伊藤
包括外部監査のように、ダイレクトでは「そこについては適正だった」「適正で
なかった」という程度でしかできないように感じている。自治体の内部統制の評価基準
のようなものがあれば、J-SOX の経営者評価型の内部統制ができると考える。
○
遠藤
保証型であると、客体がないと保証しようがないので、レビューしかないと考
えるしかない。
○
藤岡
悩ましい問題である。
○
石川
内部統制の整備状況まで示していただけたら、基本原則で財務諸表監査がリス
ク・アプローチをとっているので、どうしても内部統制の評価が不可欠になってくる。
○
遠藤
監査については、自治体固有の事象があるが、内部統制については、やり方は
いろいろあるかもしれないが、概念は民間企業と同じである。J-SOX の概念をベースに
しているとしてもいいかもしれない。自治体と民間企業では、技術的な違いがあるが、
概念ところは同じである。
○
石川
会計検査院の報告書では、自治体で不正が起きてしまう背景として、自治体の
内部統制自体に問題があり、そこが追究されている。
○
遠藤
予算との絡みで民間企業との不正は異なるかもしれないが、内部統制の概念は
変わらない。
○
I
住民ニーズや要望からすると、決算書の正確性よりも、不正に対する内部のチェ
ック体制ができているかを外部監査人の監査に期待している。そのため、民間企業をベ
ースにした内部統制にあまりにも偏ってしまうと、社会的な意義あるものにならないよ
うな気がする。
- 205 -
○ 石川
ある程度、その辺りを示していただければいいのだが。
○
遠藤
民間企業の内部統制の評価の基準を参考にすることになる。
○
I
英国の取り組みを参考にして基準を作成するのも1つの方法である。今、自治法
の改正が想定されているが、そこでは会社法ベースのような内部統制も考慮しているの
か。
○
石原
一般に公正妥当と認められる内部統制評価の基準がなく、内部統制報告書作成
の実務勧告もないが、内部統制という切り口に合して、市民ニーズに対応していこうと
したら、「内部統制の有効性に関する追記」を盛り込むべきである。
○
石川
それはどこに入れ込むのか。
○
石原
財政健全化判断比率の次である。
○
I
○
石原
○
I
○
石原
主産物にするのか、副産物にするのか。
副産物になる。最大1ページの分量になる。
マネジメントレターのようなものか。
実際に行政監査の報告書や決算審査の意見書で、そのようなものを既にやって
いる。けれども、それを外部の目で内部統制が有効に機能しているかどうかに関するも
のは非常に重要と思う。これまでは、監査委員が意見を出してもなかなか措置が取られ
なかった。
「なぜ、J-SOX みたいにできないのか」から始めていただいて、
「内部統制の
有効性に関する追記」に繋げていただくように記載していただく。外部監査人に対する
住民のニーズでは、
「何ができていないか」を示すことが求められている。内部統制報告
書作成は、自治法で規定する方向にあるので、その法改正がなされたら、インダイレク
トを目指して進めていけばいいと思う。自治体の場合、住民との目的の合致をするため
には、保証だけなく、追記をやらないといけない。役人が悪いことをしていないと外部
の監査人が認めることは大きな意味がある。
○
石川
リスク・アプローチの説明はできるが、具体的な中身をどのように説明するの
- 206 -
か。
○
石原
統制リスクが具体的にどのようなリスクなのかは、文献を調べないといけない。
自治体の支出であったり、契約であったりするが、決算審査だけが単独であるのでなく、
例月現金出納検査と定期財務監査が、内部統制の有効性を吟味するようなイメージがあ
り、定期財務監査でどのような勧告や改善がなされているかを調べていくと統制リスク
を伴う事象が分かってくると思う。自治体職員に固有リスクを説明するのは難しいと思
う。
お盆の前までに入稿したいので、8月6日に研究部会があるので、最終意見を調整し
て、8月10日ぐらいまでには原稿をいただきたい。それまでに、みなさんの原稿の締
切を7月末とし、整形した原稿をもって、再度、みなさんと議論をする。
○
伊藤
全体的なページ数はどうなるのか。
○
石原
トータルで最低でも100ページにしたい。40×35の書式設定でお願いす
る。
○
E
○
石原
小規模団体を対象として、おまけ的でも何か記載があればいいと考える。
マンパワーの問題でなく、外部監査の問題としているので、イメージでは共同
監査組織を作って、規模の小さな団体が集まる。オーディット・スモール・ビジネスで
ある。民間企業では、大きな会社と小さな会社で基準を変えることが従前もある。基本
的に地域主権であるので、基礎自治体の監査の保証水準が統一されている必要がある。
どの規模の自治体でも適用する
「歳入歳出」や「地方自治体」などの文言は原稿ができた後に統一する。
7月2日までにできるだけ、原稿を持参していただけるようお願いする。
(第9回
- 207 -
研究部会
以上)
資料5
第10回
議事録
日時
2011年7月2日(土)16時00分~18時00分
場所
関西学院大学上ヶ原キャンパス全学共用棟303教室
<参加者>
出席
15名
<次第>
研究部会長挨拶
協議事項
1 地方自治体監査基準・解説の検討
2 その他
<議事内容>
○
石原
本日は、今後の研究の方向性を確認するとともに、各部会員から提出のあった
原稿の報告をお願いする。また、最終報告書については、最近の日本監査研究学会リサ
ーチシリーズある山崎秀彦先生の『財務諸表外情報の開示と保証-ナラティブ・レポー
ティングの保証』に倣い、様式を統一させていただき、最終的には200ページ程度の
書物としてまとめる。まず、今回の配布資料について事務局から説明いただく。
○
M
今回、配布させていただいている資料は、前回の議事録、前回の地方公共団体監
査基準(案)を修正したもの、各部会員から提出いただいた逐条解説の原稿である。
○
石原
本日は、各部会員からご提出いただいた原稿の中身をご確認いただき、自由に
議論を進めていきたい。まず、各部会員に執筆いただいた原稿を説明していただく。
○
石川
基本原則の逐条解説を執筆した。今回提出したものは、リスク・アプローチと
は何かをまとめる途中段階の原稿である。髙原部会員の担当箇所と重なるところもある
ので、どのように分担すべきか調整が必要である。
○
石原
最終報告書では、多少の重複があっても構わないと考えている。最終報告書を、
9月11日から開催される日本監査研究学会の全国大会に届けなければならない。その
ために、すべての原稿をお盆までに出版社に入稿する必要がある。また、学会後の年内
- 208 -
にリサーチシリーズとして製本しないといけない。
○
吉見
製本に係る予算は、1部会だったか。
○
藤岡
2部会になった。
○
髙原
執筆に関する分担で重複するところがあるので、調整が必要である。
○
石原
すべての原稿が出揃ってからでないと、調整は難しいかもしれない。製本する
までには、きちんと調整をするが、どのような箇所が重複しているのか。
○
髙原
財務諸表監査における事業上のリスクを考慮したリスク・アプローチの箇所で、
石川部会員は基本原則を担当し、私は具体的な実施の段階を担当している。細かな基準
をそのまま活かしているので、語句説明が重複してしまう。
○
石原
現段階では構わない。
○
石川
基本原則と実務の箇所で、同じ語句になればいいが、異なった語句や記載をす
ることも考えられるので、調整が必要ではないか。
○
吉見
語句の定義のような語句説明は、どちらの箇所でするかは決めておいてもいい
かもしれない。おそらく、実務のところで記載するのは、民間企業でいう実務指針に相
当するものと考える。
○
髙原
そうなると、実際に自治体でどのような実務がなされているか分からないし、
民間企業と同じように記載していいのかも分からない。
○
吉見
むしろ、自治体の監査基準なので、民間企業と同じようにしているかというよ
りも、民間の監査基準のこの部分は参考にした方がいいのではないかという視点で記載
してはどうか。自治体の場合でも、この民間企業の監査基準のこの部分は使えるといっ
たやり方である。
○
髙原
自治体の監査の実施基準となると、自治体における実務レベルでの監査の現状
が分からないので、民間企業の監査基準から提案を行うとしても、細かいところが分か
らないので、どのように記載すべきか困っている。
- 209 -
○ 吉見
逆に自治体の場合は、何も基準がない。
○
だから、吉見副部会長がおっしゃられたように、民間企業の監査基準から参考
石原
となるべき箇所を今回の自治体の監査基準に盛り込めばいい。
○
吉見
髙原部会員の目から見ても明らかに、自治体では参考にできないようなところ
もあるかもしれないし、参考にすべきところもある。実務指針のレベルで解説されては
どうか。語句はIFRSの対応版でいくのか、新しいものいくのか調整がいるかもしれ
ない。
○
髙原
「地方公共団体監査基準(案)」の「三
監査の実施」は、民間企業の監査基準
を参考にして記載した。その「5」のところで「会計上の見積りの合理性を判断するた
めに、経営者が行った見積りの方法の評価」を手直しするのを忘れていたが、自治体の
実務でこの箇所の「経営者」を単に「首長」として修正してもいいのか。むしろ、ここ
は削除すべきなのか。
○
石原
特段、「首長」としても違和感はない。退職給与引当金など、さまざまなところ
で首長の判断や見積りを伴うことがある。
○
A
公営企業にも適用されるのであれば、実務上ではここは「首長」に変えるだけで
いい。特に問題になるのは、退職給与引当金や修繕引当金をどのように計上するかは、
見積りになる。財政健全化判断比率で、将来負担比率を考えるときに、将来負担比率か
ら控除される項目があるが、控除する項目に首長の判断が入る。
○
髙原
では、「首長」として修正し、この箇所は残す。
また、経営者確認書として二重責任の原則が前回の研究部会でも議論されていたが、
「三
監査の実施」の「7」に盛り込んでいいのか。もし、他の部会員が記載されるの
なら、重複することになるので、確認したい。各部会員がどこに焦点を当てて執筆する
かの分担があればいい。
○
石原
共著になるので、重複しても構わない。
送りがなや接続詞の表記などは、事務局に任せていただきたい。
○
A
教えていただきたいが、「第一
地方公共団体監査の目的」では、「財務諸表」と
- 210 -
いう語句が使われていて、「第二 一般基準」以降では、「決算書監査」という語句が使
われている。自治体の公会計における総務省基準モデルでは、
「財務諸表」という語句が
使われており、それは通達行政によるものであるが、法令等によると「決算書」が使わ
れている。どちらがいいのか。
「財政状態と純資産の変動、収支およびキャッシュ・フロ
ーの状況」とあるが、一般会計に B/S があることを前提にしているところが気になる。
そして、もう1点教えていただきたいのは、
「第二
一般基準」の「4」で、「不正、
誤謬、違法行為および法令違反、法規への準拠性および資産の濫用」という表記がある
が、「第三 実施基準」「一
基本原則」「5」のところでは、
「不正および誤謬」になっ
ている。
「違法行為」という語句をどのように捉えるのか。地方独立行政法人の監査基準
では、不正、誤謬に加えて、違法行為までを含んでいる。
○
吉見
おっしゃるとおりだ。「財務諸表」と「決算書監査」の語句のどちらを使うかは
どこかで決めればいい。この自治体監査基準の全体に関わることであるが、現行の法令
や実務に合わせて、語句を使うようにしていくか、あるいは、規範性や指導性を考慮し
て語句を使うかのどちらかの方針をとるかである。私個人としては、後者のイメージ記
載している。しかし、現行の法令や実務を前提として、法令に準拠すれば、すぐにでも
使える基準になる。財政状態の件についても、そこに依拠することになる。
違法行為の件は、自治体の公会計改革を念頭において、多少、準拠性でなくとも規範
性や指導性を優先したいと考える。その上で、違法行為ないし法令違反を入れている。
ここは、民間企業で行っている形を取り入れつつ、自治体も考慮しているが、削除すべ
きであれば、それも構わないと思う。
○
A
地方独立行政法人の監査基準を作成したときの解説では、公共団体における違法
行為や法令の準拠性を強調したものとなっていた。吉見副部会長がおっしゃられるよう
に、違法行為は盛り込んでおく方がいいと考える。
○
吉見
表現の仕方も考えないといけない。どうしても、浪費やムダなどの表現の仕方
が、結果的に使わないといけないかもしれない。そのような表現も含めた意味合いで記
載している。ここは一般基準なので、詳細な表現をせずに、
「準拠性」や「法令違反」と
いう語句を使っている。
○
石原 「違法行為」という語句を使うかどうかは別として、
「第二
一般基準」の「4」
は、このままでいいと思う。その後段では、「資産の濫用」も盛り込んでいるところは、
今後、自治体の内部統制を考える重要な箇所になる。
地方制度調査会が 7 月中旬から再開されるので、今の会計制度を前提に、すぐに使え
- 211 -
る「決算書」でいいと思う。
○
吉見
では、「決算書」でいく。
○
藤岡
私の担当箇所も、石川部会員、髙原部会員と重複する箇所がある。今回、提出
させていただいた原稿は、八田進二氏の『逐条解説
改訂監査基準を考える(改訂版)』
などを参考にして執筆した。各部会員と重複している箇所も含めた形で原稿を執筆して
いるが、重複箇所を削除しようか迷っている。
○
石原
最終報告書と製本の2つの段階がある。最終報告書の作成以降も、学会報告で
のコメントを盛り込むなど、リサーチシリーズの出版に向けて研究会を続けていくので、
今回の最終報告書では、まえがきに進化の途中である旨を記載するつもりである。最終
報告書における少々の重複は気にしなくてもいい。
○
遠藤
「地方公共団体監査基準(案)」の「第五
内部統制監査基準」は今回盛り込ま
ないということで、8ページ以降は削除する。前回の研究部会の同意事項として、7ペ
ージの「七
追記情報」に「強調する事項」と「その他説明することが適当と判断した
事項」のなかに、内部統制で発見した事柄を書くことになっていた。今回の原稿に(1)
から(4)まで追記する情報の内容があるが、(5)として内部統制の内容を記載するので
はないかと考える。
内部統制の評価基準がないなかで、内部統制の監査基準を作っても意味がないという
議論に前回の研究部会で結論づけた。そのため、
「第五」以降はすべて削除し、追記情報
の逐条解説で補うことになる。
○
吉見
内部統制報告書作成基準がないのに、内部統制監査基準があっていいのかとい
うことを意味しているのか。
○
遠藤
○
E
そのとおりである。
内部統制の基準がないところで内部統制の監査はできないけれども、記載すべき
事項があれば追記で記載する、最終報告書を作成する段階では、内部統制を盛り込まな
い理由を記載する、と前回の研究部会で議論された。
○
遠藤
今回提出させていただいた原稿は、それに従い作成しており、時期を見て作成
しないといけない旨も提言している。
- 212 -
○ 石原
7ページの(5)として追加し、今後の方向性として、内部統制の評価基準に
関する議論をしていくが大事であるとするのは、いいかもしれない。
○
遠藤
そのため、少し分量の多い原稿を執筆した。1ページでは、財務諸表監査と内
部統制監査について記載しており、2~3ページで内部統制監査の実際の制度や英国の
制度を記載している。4ページでは、当面の取扱いを記載している。この当面の取扱い
は 3 ステップで考えている。第1のステップでは、首長や自治体職員に内部統制の基礎
概念を理解していただき、第2ステップでは、実際にどのように自己評価するのかを示
し、最後のステップでは、監査基準とともに内部統制監査の必要性を示す。今回の原稿
は、第2段階までの内容である。
○
石原
遠藤部会員の解説で内部統制の論点が出てくるため、石川部会員と髙原部会員
が担当する内部統制に関する箇所と関連するところも出てくる。そのため、調整が必要
になってくる。
○
石川
「一
基本原則」「2」の説明は、遠藤部会員にパートに任せてもいいのか。
○
石原
この箇所の説明は、ここなりの説明をしていただきたい。各部会員のみなさん
の了解をいただけるなら、内部統制の詳細な説明は、遠藤部会員のパートに任せてもい
い。
○
遠藤
私の原稿の5ページもINTOSAIなどを参考に記載した。
○
石原
追記の議論はどうするのか。評価の議論が多いように感じる。
○
H
○
石原
報告の内容は、伊藤副部会長が執筆することになっている。
遠藤部会員の箇所を整理すると、
「1
財務諸表監査と地方公共団体における内
部統制の評価と監査について」「2 内部統制に関する基礎概念と諸原則」「3 地方公
共団体による内部統制の評価の意義と範囲」「4
財務報告に係る内部統制の評価手順」
となっている。「1」の「財務諸表監査」は「決算書監査」にする。
○
遠藤
「4」の「財務報告」は、財務報告に限定しない方がいいのか。
- 213 -
○ 石原
いや、財務報告でいい。最後の追記の説明のところで、重要な内部統制上の欠
陥を監査報告書の最後に記載することになるのか。本当は内部統制監査の基準を盛り込
みたかったが、自己評価の基準もないことから盛り込めなかった旨を解説のところで記
載する。また、解説のところでは、自己評価の基準がないけれども、さまざまなものを
ベースにして、内部統制の作成側の自己評価の基準にこのようなものがあると記載する。
○
遠藤
それらを見て、内部統制の整備・運用を評価されていくと、最初は追記情報に
多くの記載があるかもしれないが、次第にその追記情報も減ってきて、それなりに定着
していくのではないかと考えている。そのタイミングをみて、最後のステップである内
部統制監査を自治体の構築しながら、その報告書も作成していく方向で考える。
○
石原
難しいところだが、監査基準の書物なので、読むのは経営者ではく監査人にな
る。しかし、監査人は監査をしようとしても、自己評価の基準がないところで監査する
ことはできないという前回の整理である。
○
遠藤
内部統制監査は、財務諸表監査の前提となるところもあり、統制をしっかりす
れば当然として、財務諸表監査も効率的かつ有効的にできる。
○
石原
「第五
内部統制監査基準」を盛り込むのが困難であれば、「内部統制の有効性
に関する追記」の追記情報として盛り込むのはいいと思う。しかし、その際には、どの
ようなものが内部統制の有効性に関する追記に該当し、監査人はこのような観点で内部
統制を評価すべきというのがあればいい。そこに今、各部会員に執筆していただいてい
る原稿の内容が自己評価の基準になっているが、監査人の評価の基準のようにして記載
していただいてもいいのではないか。なぜかと言うと、皆さんは会計士が読むことを想
定しているが、自治体で監査をする立場である監査委員が読むかもしれない。監査基準
なので、監査人の行為基準になる。会計士であっても、自治体職員であっても、内部統
制の有効性に関する追記を行うためには、この基準に記載している内容に留意すること
になり、逐条解説で説明される事柄が「内部統制に関する追記」として記載されるとい
ったイメージである。この辺りについては、伊藤副部会長と調整していただいてもいい
かもしれない。
遠藤部会員が作成していただいた「地方公共団体監査基準逐条解説(案)」の最後に2
ページほどの具体的な事例がある方がいいかもしれない。
○
髙原
原稿の書式設定は40×35となっているが、目安として各担当箇所の最低限
のページ数を示していただけたらと思う。
- 214 -
○ 石原
報告書も作成するので、監査基準が10ページ、逐条解説が90ページ、議事
録が100ページで、合計200ページぐらいになる。遠藤部会員の箇所でおおよそ3
0ページ、伊藤副部会長20ページ、吉見副部会長20ページでどうか。
○
吉見
今の分担だけで逐条解説を記載するのなら、分量が多いかもしれない。いろい
ろな参考文献を用いれば、分量を膨らますことは可能だが、あまり望ましいことではな
いように思う。たとえば、監査の目的のところで、そもそもの監査基準の目的を書けば、
いくらでも分量を増やすことができる。
○
石原
いや、入れていただいた方がいい。この書物は自治体関係者の期待は高い。あ
まりにも逐条解説の分量が増えれば、議事録は製本しないという方法もある。
○
吉見
一般基準のところで、後に続く実施基準と重なるところがある。解説なので、
参考文献を多く用いない方がいいように感じているが、その辺りをどのようにするか。
企業会計の基準は分かるが、遠藤部会員のように英国の監査基準を引用するなど、他の
さまざまな基準を引用しながら、関係するところも盛り込んで膨らましていくことはで
きる。
○
石原
200ページとすると、第一法規の書式の場合は、35×28で、今回、各部
会員に依頼している書式は40×35なので、書かれた原稿の1.5倍程度のページ数に
なる。たとえば、各部会員の研究業績という視点で考えると、20ページぐらいないと
論文としてカウントされない。各部会員にページ数を設定するのは本意ではないが、努
力目標として石川部会員、髙原部会員、藤岡部会員は40×35の書式で各15ページ
程度をお願いしたい。
○
吉見
石川部会員、髙原部会員、藤岡部会員の箇所は、それぞれまとまっているので、
論文というイメージまでいかないが、論文を作成するイメージで執筆できるのではない
かと思う。しかし、最初の監査の目的のところをあまり膨らましてしまうと、後ろの解
説に影響を与えてしまうのではないかと懸念する。監査の目的の箇所に研究者の参考文
献を引用して執筆するのであれば、理論的なものになってしまうが、それでも構わない
のであればそのようにする。
○
石原
負担にならない範囲で、引用してもらう方がいい。
- 215 -
○ 吉見
参考文献を多く引用してしまうと基準解説にならないので、少し控えていたが、
研究者にとっての研究業績とするなら、参考文献の引用は必要になる。
○
石原
位置づけとして読者を意識するが、研究者の業績として通用する最低ラインは
クリアする。
○
吉見
基準の解説にも関わらず、注記があることに違和感があったので、少し控えて
いた。
○
石原
注記も多すぎる、少なすぎるのバランスもあるので、1ページ1箇所程度でい
いのではないかと思うが、あまり注記が多すぎないようにお願いする。
参考文献については、各章で説明していただく程度に留めて、章末の参考文献はペー
ジ数がもったいないのでやめる。しかし、索引はちゃんと付けないといけない。
○
吉見
参考文献だけのページを省くということか。つまり、必要であれば、参考文献
は注記で処理することになるのか。
○
石原
そのとおりだ。しかし、索引はきちんと作った方がいい。
【休憩】
○
石原
山崎先生の日本監査研究学会リサーチシリーズは、220ページほどの書物で
あり、2部構成になっている。今回の作成する書物は、少しアンバランスになるが、1
部に基準、2部に逐条解説の構成になり、1章、2章というような形で構成していただ
けたら思う。項目のつけ方や図表のキャプションは、山崎先生の書物を参考にしていた
だきたい。山崎先生の書物は2010年10月に出版している。今回は1月出版を目標
にしてはどうか。
原稿の締切は、いつにするか。
○
吉見
前回の研究部会では、8月10日ぐらいまでとしていた。
○
石原
原稿を、8月8日までにいただいて、お盆前の8月11日に出版社に入稿して、
出来上がったものを明治大学に送ってもらおうと考えている。様式の校正は事務局の方
でお願いする。
- 216 -
○ 吉見
様式の体裁は、1部に基準、2部に逐条解説となるので、逐条解説の原稿だけ
を章立て、節立てで、さしあたって提出することになるのか。
○
石原
そのとおりだ。1部の基準は、事務局の方で担当する。
○
吉見
基準を逐条解説のなかで適宜引用してもいいのか。
○
石原
ケースバイケースである。
○
吉見
他では、引用されている書物もある。基準の引用だけを枠を囲んでいる場合も
ある。
○
石原
では、基準は引用した方がいい。
○
吉見
できれば、そのフォーマットを決めていただけると助かる。後でフォーマット
を決めるよりも、先にフォーマットを提示していただけると校正作業が軽減できる。A
4版1枚程度でフォーマットを準備していただいて、揃えていただくと助かる。
○
石原
次回の研究部会が8月6日にあり、その際に完成原稿を持参していただきたい。
○
吉見
では、8月6日が原稿の締切日になるのか。
○
石原
いや、8月6日の研究部会で再度、議論したうえで、若干の修正作業を行って
いただき、最終原稿を8月8日にいただきたい。8月11日までに事務局の方で校正作
業を行い、PDF にして出版社に入稿する。
9月に全国大会があるのが、9月12日の10時に明治大学で研究部会を行う。
○
吉見
この全国大会の日程はどのようになっているのか。
○
石原
例年どおりであれば、11日に監査研究奨励賞審査委員会、理事会、12日に
会員総会、課題別研究部会報告、統一論題報告、13日に自由論題報告、統一論題検討
会になる。
つぎに、リサーチシリーズの原稿の締切については、9月末にするがいかがか。
○
吉見
最終報告書と製本とどれだけ違わなければならないのか。違わなくても構わな
- 217 -
いと思うが、分量の問題がある。製本にする場合は、多すぎても少なすぎても困るので、
分量を気にしないといけない。多くても250ページぐらいだと思う。
○
石原
では、製本の締切は9月30日でお願いする。
他に何かご質問はないか。
○
石川
予定では、次回の研究部会を7月18日に開催することになっている。
○
石原
7月18日は中止にし、次回の研究部会を8月6日に開催する。
○
吉見
次回を中止にするのなら、原稿執筆に関して、各部会員で若干のばらつきが見
られるので、今回欠席されている部会員との調整も必要となる。少なくとも石原部会長
の方で原稿の確認作業をしていただかないといけない。
○
石原
伊藤副部会長、髙原部会員、石原は 7 月末に一度原稿を提出することにする。
○
藤岡
本日の研究部会を踏まえて、基準の文言が若干、修正する箇所があるが、基準
の確定版はいただけるのか。
○
石原
7月15日ぐらいに各部会員に送る。
○
吉見
各部会員は、自分が担当する基準の箇所を確認して、石原部会長まで連絡して
はどうか。
○
石原
では、7月10日までに各部会員の担当する基準の箇所の確認をして、私まで
ご連絡をいただき、各部会員に7月15日までに基準の確定版をフィードバックする。
最終原稿は、伊藤副部会長、髙原部会員、石原は、7月末までに提出、他の部会員は、
8月6日に提出していただく。
次回の研究部会は、関西学院大学梅田キャンパスで開催する。
(第10回
- 218 -
研究部会
以上)
部会の構成
■
■
部会構成員
石川
恵子
(実践女子大学准教授)
石原
俊彦
(関西学院大学教授・奈良市監査委員・日本公認会計士協会理事)
伊藤
龍峰
(西南学院大学教授・福岡県監査委員)
遠藤
尚秀
(新日本有限責任監査法人パートナー・公認会計士・日本公認会計士協会常務理事<公会計委員会所管>)
髙原
利栄子
(近畿大学准教授)
西尾
宇一郎
(関西学院大学教授・公認会計士)
藤岡
英治
吉見
宏
(大阪産業大学准教授)
(北海道大学教授)
意見交換の場に参加された地方自治体関係者 <謝辞>
本研究部会では、部会構成員による意見交換の場(研究会等)に、次の地方自治体関係
者等(順不同・敬称略・肩書きは当時)を招聘、相当の時間を費やして議論を行った。こ
の議論からは、部会構成員が本調査研究を進め、本最終報告書を集約する上で、非常に多
くの有益な示唆をいただいた。ここに記して深く謝意を表すものである。
新田
一郎
(総務省自治行政局行政課行政企画官)
谷川
正嗣
(前奈良県代表監査委員)
吉井
信雄
(名古屋市代表監査委員)
磯道
真
守谷
義広
(日本経済新聞社編集委員)
(新日本有限責任監査法人パートナー・公認会計士)
長 谷 川 太 一
(新日本有限責任監査法人シニアマネージャ・公認会計士)
馬場
伸一
(福岡市監査事務局監査第二課長)
丸山
恭司
(岐阜県監査委員事務局監査第二課主査)
井上
直樹
(独立行政法人中小企業基盤整備機構近畿支部経営支援部マーケティング支援課コーディネーター)
木村
成志
(丹波市建設部下水道課主査)
酒井
大策
(摂津市市長公室人事課主査)
関下
弘樹
(田辺市市民環境部保険課主査)
澤田
晋治
(京都府秘書課主査)
木村
昭興
(柏原市経済環境部環境保全課主事)
- 219 -
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