Comments
Description
Transcript
ドイツ語の発話行為 「謝罪」と「同情」にみられる共通性
Shared characteristics of apologizing and sympathizing in German 『ドイツ語の発話行為「謝罪」と「同情」にみられる共通性』 Yui Hama ドイツ語の発話行為 「謝罪」と「同情」にみられる共通性 Reference data: Hama, Yui (2010) Shared characteristics of apologizing and sympathizing in German 『ドイツ語の発話行為「謝罪」と「同情」に みられる共通性』. In Reinelt, R.(ed.) OLE at JALT 2010 Compendium. Other Language Educators, JALT, Matsuyama, p. 123-126. 2010年11月21日(日)JALT 関西大学大学院 博士課程後期課程 浜 由依 アウトライン • 理論的背景 • 研究目的 • 調査対象 理論的背景:ドイツ語では (例)“Es tut mir leid.”(私はそれが残念だ。) “Es tut mir leid, wenn ich Sie gekränkt habe.” (もし、お気を悪くしたとしたら申し訳ありません。) 独和大辞典(2000) • 調査方法 • 結果 • まとめと今後の課題 • 参考文献 これまでのドイツ語における「謝罪」と「同情」の研究では、 個別の発話行為に限定して調査されている(Ratmayr, 1996; Röder, 2001; Meyer, 2007; 浜, 2010 etc.)。 • “Es tut mir leid.”が、発話行為「同情」と「謝罪」で使用される のはなぜか? 理論的背景:日本語では • (例)「すみません。」(Es tut mir leid.) 「これを僕にくれるのかい?すみませんね。」 (Das schenkst du mir? Danke schön.) (新コンサイス和独 辞典より) • 「すみません」が、「感謝」として使用されるのはなぜか (1)感謝と謝罪の際に抱く感情が共通(佐久間, 1983) (2)話し手が利益を得た際、それは「聞き手の負担」によって得たのか、 あるいはそうでないのかを判断する(金田一, 1987) (3)”Indebtness”(借り)の概念があるか(Coulmas, 1981) 実証的な調査へ (三宅, 1993a, 1994; 山本, 2003, ロング, 2004 etc.) 理論的背景:日本語を対象とした先行研究 「感謝」の発話行為を遂行する際に、感謝表現ではなく、謝罪表 現を選択する決定要素: 場面認識:聞き手の負担、話し手の利益(三宅, 1994; 岡本, 1992) 話し手の感情:自責の念、詫びの感情(三宅, 1994; 山本, 2003) 聞き手との距離(三宅,1993a; 高田,1998; 山本, 2003) 1 研究目的 調査対象者 (2) 日本人大学生(以下、日 本人)とドイツ人大学生(以下、 ドイツ人)が各場面でどのよう な感情を抱き、またいかなる異 同があるか。 (1) 「感謝」と「同情」の発話 行為において、日本語とドイツ 語ではどのような言語表現が 使用され、両言語にいかなる 異同があるか。 日本人 ドイツ人 男性 50名 57名 女性 55名 48名 合計 105名 105名 • いずれも、日本語母語話者、ドイツ語母語話者で20代の大学 生である。 (3) 言語表現と感情にどのよう な関係があるか。 • 実施時期:日本(2009年10月)、ドイツ(2009年8月) 調査方法 質問事項:感情の種類 • 質問紙(DCT)合計8場面(感謝、同情) 【場面設定】 場面の種類 参考にした質問紙 留意点 感謝 三宅(1993) 自発的・依頼 同情 関山(1998)、浜(2010) 深刻さの程度 感謝 a.やや感謝の気持ち b. 強い感謝の気持ち 謝罪 c. やや詫びの気持ち d. 強い詫びの気持ち 同情 e. やや残念な気持ち f. 強い残念な気持ち 形式的 g. 特に感謝、詫び、残念な気持ちはないが、形式 的に何か言いたい その他 h. 自由記述 (三宅, 1993) *資料1 • 複数選択可 (1)出来るだけ自然な発話の自由記述 (2)感情の選択あるいは自由記述 (3)場面の評価(5段階のリカートスケール) • (h)その他を選択した場合は、具体的にどのような感情を抱いたかを 記述する。 結果:【感謝場面】言語表現の日独比較 感謝表現 場面5(コーヒー) 61.5% 20.2% 11.5% 6.7% 話し手の利益 場面4(道を聞く) 3.8%3.8% 1.9% 90.4% 結果:【感謝場面】言語表現の日独比較 ドイツ語 聞き手の負担 場面 日本語 ドイツ語 さらなる要求 場面3(エレベータ) 87.5% 12.5% 聞き手の好意 場面2(お金を拾う) 90.5% 場面1(レポートの締切) 謝罪型感謝表現+感謝表現 9.5% 3.8% 13.3% 10.5% 64.8% 謝罪型感謝表現 7.6% 断り 0% 20% 40% 60% 80% 100% 日本語 場面5(コーヒー) 12.7% 69.6% 2 その他 (お金を拾う) 4.9%3.9% 8.8% 感謝表現 話し手の利益 場面4(道を聞く) 50.0% 場面3(エレベータ) Vielen Dank, ohne die ありがとうございます。今後は締 Verschiebung hätte ich es (レポートの締切) 切日を必ず守るようにします。 nicht geschafft. 1 5.9% 4.9% 38.2% 2.9% 3.9% 82.4% 聞き手の負担 さらなる要求 10.8% 3 (エレベータ) 4 (道を聞く) 聞き手の好意 場面2(お金を拾う) 42.2% 場面1(レポートの締切) 12.7% 49.0% 0% 10% 20% 30% 13.7% 40% 50% 2.0% 42.2% 60% 15.7% 70% 2.9% 6.9% 10.8% 80% 90% 100% 謝罪型感謝表現+感謝表現 謝罪型感謝表現 断り 5 (コーヒー) すみません、ありがとうございま Vielen Dank. す。 ありがとうございます。 Vielen Dank. ありがとうございました。助かり Vielen Dank und schönen Tag noch! ました。 すみません、ありがとうございま Danke, mit Milch bitte. す。 その他 2 結果:【同情場面】言語表現の日独比較 5.0% 場面8(リストラ) 7.9% 共感 2.0% 9.9% 6.9% 9.9% 36.6% 12.9% 共感+励まし 8.9% 結果:【同情場面】言語表現の日独比較 ドイツ語 励まし 怒り 場面 質問 場面7(お釣りを忘れる) 42.3% 9.6%1.9% 42.3% 日本語 ドイツ語 2.9% 謝罪型同情表現 Es tut mir leid für dich. Aber 残念だったね。次があるよ。 kopf hoch! Beim nächsten Mal wird es klappen. 謝罪型同情表現+励まし 6 コメント 8.7% 場面6(面接に落ちる) 53.8% 2.9% 11.5% 19.2% (面接に落ちる) 助言 助け 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% その他 共感 日本語 共感+励まし 場面8(リストラ) 10.0% 14.4% 21.1% 5.6% 13.3% 17.8% 励まし 16.7% 7 (お釣りを忘れる) うわー、残念やな。 Das ist schade. Dumme Sache. これからどうするの? Es tut mir leid. 怒り 5.3% 場面7(お釣りを忘れ る) 35.1% 36.2% 質問 18.1% 3.2% 謝罪型同情表現 謝罪型同情表現+励まし 3.0% 場面6(面接に落ちる) 16.0% 17.0% コメント 3.0% 58.0% 8 (リストラ) 助言 助け 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% その他 結果:【感謝場面】話し手の感情(日独比較) 結果:話し手の感情(日独比較) 3.0% 場面5(コーヒー) 感謝場面 X2 [df] p 1(レポートの締切) 41.950 [5] 0.00* 2(お金を拾う) 27.424 [5] 0.00* 73.3% 22.8% 93.1% 場面3(エレベータ) 3(エレベータ) 37.049 [4] 0.00* 4(道を聞く) 4.012 [4] 0.40 22.481[5] 0.00 * 52.0% X2 [df] p 7(お釣りを忘れる) 気の毒(e,f) 詫び+感謝 4.0% 形式的(g) 2.9% 96.2% その他 0% 6(面接に落ちる) 詫び(c,d) 44.9% 93.0% 場面1(レポートの締切) 同情場面 5.9% 3.1% 場面2(お金を拾う) 5(コーヒー) ドイツ人 感謝(a,b) 場面4(道を聞く) 日本人 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 場面5(コーヒー) 80% 90% 100% 6.2%3.1% 84.5% 5.2% 感謝(a,b) 3.1% 詫び(c,d) 2.1% 37.684 [4] 0.00* 場面4(道を聞く) 37.761 [4] 0.00 * 場面3(エレベータ) 0.00 * 場面2(お金を拾う) 92.8% 84.7% 気の毒(e,f) 4.1%10.2% 詫び+感謝 56.887 [4] 8(リストラ) (P<.01) 場面1(レポートの締切) 感謝(a,b) 場面8(リストラ) 24.5% 53.1% 2.9% 7.8% 65.7% 16.2% 形式的(g) 21.6% 2.0% その他 0% 結果:【同情場面】話者の感情(日独比較) 7.1% 75.8% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 結果:日本人の言語表現と感情 ドイツ人 21.4% 詫び(c,d) 気の毒(e,f) 場面7(おつりを忘れる) 28.7% 47.5% 4.0% 14.9% 5.0% 19.8% 61.4% 15.8% 3.0% 例:残念だね。 例:すみません。 詫び+気の毒 場面6(面接に落ちる) 形式的(g) その他 0% 日本人 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 感謝 場面8(リストラ) 5.3% 5.3% 88.3% 謝罪 同情 感謝(a,b) 詫び(c,d) 場面7(おつりを忘れる) 気の毒(e,f) 70.8% 22.9% 6.3% 詫び+気の毒 感謝 詫び 気の毒 形式的(g) 場面6(面接に落ちる) 70.8% 22.9% 6.3% その他 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 3 結果:ドイツ人の言語表現と感情 まとめと今後の課題 • 言語表現と感情【日独比較】:日本人は、発話行為「 例:Vielen Dank. 例:Es tut mir leid. 感謝 謝罪 感謝」において、ドイツ人は発話行為「同情」において 、「詫び」の感情を抱き、また謝罪型表現を使用して いた。ドイツ人は、感謝の場面においてより形式的で 、日本人は同情の場面においてより形式的である。 同情 • 他の調査方法の併用 感謝 詫び 気の毒 • 地域性の問題 参考文献 Coulmas, F. (1981). Poison to your Soul: Thanks and Apologies Contrastively Viewed. In F. Coulmas (Ed.), Conversational Routine, Hague: Mouton, 69-91. Meyer, K. (2007). Interkulturelle Pragmatik: Aufforderungen, Entschuldigungen und Beschwerden. Unpublished doctoral dissertation. Universität Hamburg, Deutschland. Rathmayr, R. (1996). Pragmatik der Entschuldigungen: vergleichende Untersuchung am Beispiel der russischen Sprahce und Kultur. Köln: Böhlau Verlag. Röder, B. (2001). Das Sich-Entschuldigen: Theoretische Ansätze und Forschungsergebnisse der Sozialpsychologie. Unpublished Magisterarbeit. Universität Passau, Deutschland. Searle, J. R. (1969) Speech acts: An essay in the philosophy of language. Cambridge: Cambridge University Press. 岡本真一郎(1992)「感謝表現の使い分けに関与する(2)―「ありがとうタイプ」と「すみませんタイプ」はどのように使い分けられ るか―」『愛知学院大学文学部紀要』22, 35-44. 金田一秀穂(1987)「お礼とお詫びのことば」『言語』16, 75-83. 佐久間勝彦(1983)「感謝と詫び」水谷修 編著『話しことばの表現』(pp. 54-65), 筑摩書房. 関山健治 (1998)「日本語の「慰め・激励」表現にみられるPoliteness Strategy―話者の性別と社会変数による影響―」 『白馬 夏季言語学会論文集』 9, 11-17. 高田久美子(1998)「詫び表現からみた日本人の言語行動―詫びと感謝の心理的接点―」『福岡YWCA日本語教育論文集』8, 87-113. 浜由依(2010) 「発話行為「慰め」の日独対照研究―性別と深刻さが発話に及ぼす影響―」、 『関西大学大学院外国語教育 学研究科』 、8、39-64 三宅和子(1993)「感謝の意味で使われる詫び表現の選択メカニズム―Coulmas(1981)のindebtedness「借り」の概念からの 社会言語的展開―」『筑波大学留学生教育センター日本語教育論集』8, 19-38. 三宅和子(1994)「「詫び」以外で使われる詫び表現―その多用化の実態とウチ・ソト・ヨソの関係―」『日本語教育』82, 134146. 山本もと子(2003)「感謝の謝罪表現「すみません」―「すみません」が感謝と謝罪の両方の意味を持つわけ―」『信州大学留学 生センター紀要』4, 1-13. ロング・クリストファー(2004)「日本語の「感謝」における謝罪表現とそれを規定する要因」『Lingua』15, 3-21. 4