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2013年度懸賞論文審査結果
平成25年度懸賞論文受賞者について(報告) (公財)九州運輸振興センター (公財)九州運輸振興センターでは、日本財団の支援と助成を受け、平成 25 年度から大学や民 間の研究機関等における交通経済及び観光に関する研究を促進するとともに、その研究成果を交 通運輸・観光産業に活かすことにより、九州圏内の交通運輸・観光並びに地域社会の活性化に寄 与することを目的として、懸賞論文の募集を開始しました。 今回の募集には、九州内外の大学から 8 編の応募があり、当センターに設置した懸賞論文審査 委員会において厳正に審査した結果、最優秀賞 1 編と優秀賞 2 編を以下の通り決定いたしました。 ○ 最優秀賞 1 編 ・長崎県立大学 4 年(経済学部流通・経営学科) 工藤勇歩様 テーマ 災害物流 ~東日本大震災を例に~ ○ 優秀賞 2 編 ・大分大学 4 年(工学部福祉環境工学科) 水田拓希様 テーマ 大分市におけるバス停留所の整備状況の把握と整備基準に関する研究 ・西南学院大学 3 年(商学部商学科) 黒瀬葉月様 テーマ 国管理空港の経営課題 また、平成 26 年 4 月 19 日福岡市において授賞式を行いました。 授賞式では、田中会長から受賞者 3 名の方々に賞状と副賞が手渡され、また、受賞者を代表し て最優秀賞受賞者の工藤氏から謝辞が行われました。その後、田中会長を囲んで和やかな雰囲気 の中、記念写真撮影を行い、また、会長と各受賞者との懇談が行われました。。 受賞者記念撮影 (左から黒瀬様・工藤様・田中会長・水田様) 最優秀賞受賞者 工藤様代表謝辞 優秀賞受賞者 水田様 なお、受賞した 3 編につきましては、以下に掲載いたします。 優秀賞受賞者 黒瀬様 災害物流 -東日本大震災を例に- 長崎県立大学経済学部 流通・経営学科 工藤勇歩 序論 東日本大震災からの復興は、現在の日本において最重要課題の一つである。しかし震災 から3年近く経過した現在も、放射線や生活の再建など未だに多くの問題を抱えている。 今後もさまざまな災害が考えられる日本では、それらの問題の解決策を全国的な視点で模 索すると同時に、これまで行ってきた復興支援活動の見直しも必要となってくる。 災害発生後、救出活動と同時に物的支援の準備も進められた。多くの物的援助や義援金 が日本各地や世界各地から集められたに関わらず、それらの援助を効率的かつ迅速に配分 するという点ではいくつかの課題が残ったと言われている。支援物資はあるのに被災者に 支援物資が届かない、あるいは被災地の小売店舗に商品が届かない、被災地外の小売店舗 から商品がなくなる、自動車産業等の製造業で部品が調達できず生産が止まってしまうと いう事態が発生した。自動車産業の集積が進む九州にあっても他人ごとではない。平常時 であれば、我々は小売店に行けばほしいものをほしいだけ手に入れることが可能である。 また、製造業の生産が止まってしまうという事態もまず起こらない。これは、物流が正常 に働いているため実現されることである。有事の際、物流が滞り不便な生活を強いられる ことによって改めて物流が我々の生活、経済の根幹を支えていることが認識された。この ように東日本大震災において災害時の物流について様々な問題と課題が浮かびあがり震災 後に物流の重要性が注目された。 そこで本論文では、東日本大震災の支援物資物流について執筆された文献や統計に基づ き復興支援活動のひとつである物的支援に的を絞って論じていく。まず、第 1 章において は、東日本大震災がいかに大きな被害を与えたかを明確にするために、警察庁および復興 庁のデータから人的被害とインフラの被害に分けてその程度を示していく。そしてその原 因となった経済的な災害特性、高齢化や過疎化などの地域特性についても触れていく。第 2 章において平常時の物流と有事の際の物流の仕組みの違いについて考察し、災害発生時 においてどのような過程で有事の際の物流から平常時の物流にシフトしていくかの流れを 1 明確にし、東日本大震災における①支援物資物流の物資の流れ、②避難所の情報の把握、 ③ライフラインの外部環境、④支援物資の調達、⑤支援物資の問題といった 5 つの問題点 について指摘を行う。そのうえで以上 5 つの問題点に対する改善策の提案を行う。 第1章 東日本大震災における被害状況 2011 年 3 月 11 日、東日本大震災が発生した。日本は過去 100 年ほどの間に 1923 年の 関東大震災1)や 1995 年の阪神淡路大震災2)を経験してきたが、今回の東日本大震災は、 以下の点に代表される近年類を見ない大災害であった。まず第1にマグニチュード 9.0 と いう観測史上国内最大の地震であったこと。マグニチュードが1上昇するたびに約 30 倍 地震のエネルギーは強くなると言われていることからいかに大きな地震であったことがう かがえる。第 2 に大津波により青森県から千葉県までの浸水区域面積が推計 561km²に及 ぶほど被災地が広域に及んだこと。第 3 に太平洋プレートに押されていた陸側のプレート が跳ね上がって発生し断層面が 30mほどずれ、その結果最大 38.9mもの高さに達した大 津波が東北地方の沿岸部地域を襲い、死者 15,854 人、行方不明者 3,089 人3)、避難者数約 47 万人4)に及ぶ甚大な人的被害を与えたこと。そして第 4 に、震災発生から 7 か月を経 た 2011 年 10 月 6 日時点においても、被災者が約 2 万 1,900 人にのぼるなど、避難生活が 長期化したことである。なお、阪神淡路大震災においては、震災発生後 7 か月目における 避難者は 0 人であった。これらの被害による経済損失は 2,100 億ドルにも及ぶと見積もら れており、これは 20 世紀に入ってから記録された自然災害の中では世界最大の損失額で ある。 東日本大震災がこのような大災害になった要因として、地震規模が大きかったことに加 え、2 つの災害特性が考えられる。第1に、地震だけでなく福島第一原子力発電所の事故 や津波が同時に発生した複合災害であったこと。第2に、数カ月にわたって全国各地で大 規模余震が続いたことである。これによって復旧作業が妨げられるとともに、被災範囲も 広範囲におよび、11 道府県 227 市町村もの区域が特定被災区域に認定された。 さらに上記の災害特性に加え、以下にあげる深刻な被害を受けた岩手、宮城、福島の地域 特性も問題となっている。第 1 に、3県の沿岸部地域は元々、過疎化・高齢化の問題が深 刻であった。第2に被災地企業は自己資本比率や収益率が震災以前から低かった。そのた め被災地企業は借入制約に直面しやすく、災害被害に対して脆弱であった。第3に、被災 2 地企業は地方銀行との取引量が高いため、信用市場が地理的に分断されていた。第4に各 都市で産業構造が異なる上に、沿岸部の地形は複雑なリアス式海岸となっていたために県 内や近隣であっても被害程度に地域差が生じた。このような被災地間での被害内容の格差 や地理的・経済的・社会的多様性は、支援内容に地域差を生じさせる。 表 1-1 東日本大震災の人的・物的被害概要 『災害復興とその課題に関する経済的考察』101 ページより筆者作成。 表 1-1 は、被災から 1 年経過した時点での主な被害概要である。3 県における死者・行 方不明者は、被災 1 週間後時点での避難者数を合計すると約 39 万人にのぼり、これは総 人口の約 6.8%を占める。これら 3 県の中でも宮城県が死者を最も多く出しており、全国 の死亡者の 6 割を占めた。同様に家屋の被害においても宮城県が最も深刻であった。 避難者数に関しては福島県も、福島第1原子力発電所の事故の影響で比較的多い傾向がみ られる。 表 1-2 インフラの被害状況 前掲『災害復興とその課題に関する経済的考察』103 ページより筆者作成。 3 表 1-2 はインフラの被害をまとめたものである。東日本大震災における地震そしてそ れに伴う津波はインフラに大きな被害を与えた。電気・ガス・水道・などのライフライン 供給が難しく被災者は苦しい生活を余儀なくされ、通信が寸断されたことにより被災者や 避難所の正確な情報がわからず、必要なものを届けることができなかった。また先に述べ たように、地域特性により必要な支援に地域差が生じた。例えば、救済活動や避難所の運 営において支援者は高齢のため体力の衰えを考慮しなければならない。また、避難所に滞 在する高齢者は容易に健康障害や生活障害を起こすという生活全般における脆弱性が予想 されるため物的支援や医療支援の需要が異なる。本章で述べたこれらの特性をふまえた上 で次章では東日本大震災における支援物資物流に触れていく 第 2 章 東日本大震災における支援物資物流 小売店に行き、お金を払えば買いたいものを買いたいときに購入することが可能である。 これは、物流が正常に働いているためであるといえる。我々の生活において、「作る人間」 がいて(生産)、 「売る人間」(販売)がいる。そしてそれらをつなぐ「運ぶ人間」(物流)がいて、 必要な時にいつでも商品が手に入ることができる生活が実現する。これが平常時の物流シ ステムである。こういった平常時の物流システムと有事の際の物流システムは大きく異な る。物流システムを動かすうえで前提となるライフライン障害と言った外部環境に地域ご との差異があり、また物資を供給する使命にも最低限の物資を運ぶことや、必要な物資を 適量運ぶなどの差異がある。同時に災害時の対応は、時間経過とともに求められるものが 変化していく。本章においてはまず平常時と災害時の物流システムの違いを明らかにし、 東日本大震災における物流の問題点を考察し改善点を指摘する。 第1節 平常時の物流と災害時の物流 1.平常時の物流 物流とは、物的流通の略である。生産者から消費者に至るまでの商品の移動を指し、そ の際に必要になる、包装、輸送、保管、荷役および情報などの諸活動を包括する概念であ る。生産者から最終消費者への最も大きな移動だけでなく、原料生産地から工場へ、工場 4 から別の工場へ、工場から小売店へ、そして小売店から消費者にと言った移動すべてが物 流である。 我々の必要とするもの、食糧や日用品などを毎日同じように購入できるように産地から 市場に流れ続けさせる。そのための、その商品における最適なルートの選択、商品を切ら さないための在庫の管理、必要な時に必要なだけ商品を動かすための保管そして輸送を行 うことが平常時の物流と言える。 物流を実現するためには、道路や輸送機関等のインフラ、 消費者のニーズを基にした情報の管理が必要である。実際にこれらが行われているため、 必要なもの必要な時に購入できているのである。生産や販売などのように我々消費者から は見えづらい活動であるが、物流は我々の生活を根幹から支える経済活動と言える。 2.災害時の物流 東日本大震災におけるインフラの被害は第 2 章の表 1-2 のとおりである。表を見れば わかるように、ライフラインに大きな被害を受けている。平常時とは違い、大規模な災害 時には通信が寸断される。そのことにより支援者は被災者、避難所の正確な情報を得るこ とが困難になり物流ネットワークの寸断が起こる。そのため災害発生時における支援物資 物流の初動対応はプッシュシステム5)により物資を供給することが求められる。通信が寸 断された状態で、どのような物資がどれだけ必要かを避難所ごとに把握することは極めて 困難である。特に東日本大震災のように被災地が広域である場合には、地域によって人口 程度や被災状況が異なることが予想されるが把握に時間がかかってしまう。まずは、必要 と想定される最低限の支援物資をすべての被災地に供給することが使命として求められる。 そしてこの物流の使命は時間経過とともに変化する。被災地に必要最低限の支援物資がい きわたり、物流ネットワークの復旧に伴い被災者・避難所の正確な情報を把握できるよう になると順次それぞれの細かい需要に対応したプルシステム6)による物資の供給に切り替 えられる。このような段階を踏み必要なものを必要な時に手に入れることのできる通常時 の物流システムにシフトしていくのである。 第2節 東日本大震災における支援物資供給の問題点 1.支援物資のロジスティクス 支援物資7)の提供元としては、被災地地方自治体、支援地方自治体、国、日本赤十字社、 5 民間企業・団体、個人、海外等があげられる。国、地方自治体といった公的主体が行う支 援物資の供給方法は以下の通りになる。 第1に、市町村の災害対策本部8)が、被災地、避難者の状況に応じて支援物資を被災者 に供給する。市町村は自らが備蓄していた物資や自らが発注した物資をまず供給する。そ れだけで対応できない場合、市町村は都道府県に支援を要請することになる。第2に都道府 県は市町村からの要請に基づき備蓄物資や調達物資を市町村に供給する。東日本大震災の ような大規模災害で都道府県だけでは必要な物資を確保できない場合、都道府県は国の支 援を要請することになる。第3に国は都道府県の要請に基づき物資の調達を行い都道府県に 供給する。なお地方自治体間の支援協定等9)に基づき、被災していない市町村・都道府県 から支援物資が供給される場合もある。 また支援物資物流の基本的な流れは以下のとおりである。支援物資はまず、都道府県に 設置される1次物資集積所に輸送される。1次物資集積所では、市町村に設置される2次物資 集積所毎の物資の仕分けが行われ、支援物資は2次物資集積所に輸送される。2次物資集積 所で物資は避難所毎に仕分けされ、最終的に被災者のもとに届けられる10)。 このような各流れが連動して支援物資のロジスティクスは機能する。各ルートを通じて、 都道府県の1次集積所までの供給は比較的順調に機能したとされている。しかし、避難所 に向けての集積所での仕分け、端末輸送が大きな問題となった。本来は、この部分の物資 供給は、県、市町村の各役所がオペレーションを行うことになっているが、先に述べたよ うに役所も壊滅的な被害を受けたため対応が困難となった。また、地方自治体にロジステ ィクスに精通した人材がいなかったため、発注の方式が通常の商取引慣習によっておらず、 事業者側に必要な情報が伝達されず、情報の再確認等による遅延やオペレーションの混乱 などの問題が生じた。 震災発生直後に世界各国から物的支援が行われた。そのため集積所には大量の支援物資 が到着したが、壊滅的な被害を受けていた役所はそれを処理できず、出庫量に対して集荷 量がはるかに上回る状況が当初続いた。また、届けられる物資の一部は、箱の中身が明け ないとわからないものや一つの箱に複数品目のモノが積み合わせられている等、仕分け作 業が混乱することになった。 市町村の集積所からの端末輸送もスムーズにはいかなかった。先に述べたように、市町 村役所の被害は甚大であり対応は困難となっていた。そのため、自衛隊や民間物流事業者 が、物資供給を長期にわたり担うことになった地域もあった。 6 2.避難所の状況と情報の把握 東日本大震災は未曽有の被害をもたらし、多くの被災者が避難したために、指定された 避難所以外にも多くの場所が使用された。避難所の数は多い時期には2000か所以上に及ん だ。 表2-2 災害における避難所数 前掲『東日本大震災での緊急救援物資供給の問題点と課題』より作成 。 通信の寸断と言ったライフラインの被害と避難所の多さが原因で、避難所の数、各避難 所の避難者数の実態の把握に時間がかかった。図表の2‐2を見れば東日本大震災の避難所 数が近年の震災と比べいかに多かったかがわかる。それらに伴い物資需要の把握に手間取 ることとなった。さらに、避難所以外にも自宅に避難している人がおり、物資供給自体に も時間がかかった。また、災害時の支援物資の収集、管理を行うのは本来役所であるが、 市町村が被災したために、役所の職員の手が回らず、需要情報の収集、把握、伝達が遅れ たことが、当初の供給不足に大きな影響をもたらした。当初は輸送用トラックがあり、待 機していても輸送指示が出せない状況であった。 3.ライフラインの外部環境 有事の際に発生するライフライン障害と言った外部環境が、物流システムに大きく影響 する。被害状況は図表1-2にまとめたとおりである。今回の震災ではガソリン等の燃料の 途絶が、多くの影響をもたらした。被災地外からタンクローリーでの供給には限界があり、 鉄道を利用する方策もとられた。大手物流業者ではインタンク11)を持っている場合が多 いものの、その備蓄量は2,3日分しかなく、不足した場合が多い。支援物資を輸送する 7 事業者については、優先的に燃料が供給されたものの、多くの事業者は確保に困難した。 幹線道路はくしの歯作戦12)により、海側の東に向けて道路を確保したため比較的早期に 確保できた。阪神淡路大震災では、通行制限が緩やかであったために、被災地への幹線道 路が大渋滞を引き起こすという問題が発生したが、今回は東北自動車について厳しく通行 制限したことから、緊急車両は渋滞に巻き込まれることもなく、輸送が可能であった。 港湾については、津波により甚大な被害を受け、被災地内では海上輸送ができなかった 場合が多い。埠頭等は利用できても防波堤が破壊されていたり、がれきが海底に堆積して いる等の理由で、被災地内では供給ルートとして使用できないところが多かった。 被災による市町村の業務機能の喪失やそう至らないまでも自治体施設や自治体職員の被 災によって、被災地や避難所の状況等の情報集約、伝達業務遂行に支障が生じたさらに行 政施設や避難所、物資集積所における情報手段の途絶、電源の喪失により、支援物資の種 類、物資の届け先の場所状況等の円滑な支援物資物流の実施に必要な情報が入手できない 状況が続いた。支援物資を調達・輸送した後についても、物資の避難所までの輸送状況や 到着状況を把握し関係者間で共有することが、二重供給などの物資の滞留を防止するため 必要になる。しかし、震災発生後数週間にわたり、物資の輸送等の情報を関係者間で共有 することは不可能であった。また、支援物資物流において被災者の必要物資に関する情報 は不可欠になるが、情報の途絶と被災者の避難生活が長期化したことによって支援物資ニ ーズが多様化したことに伴いニーズ把握が困難になった。 4.支援物資の調達 調達は被災地外で行われるが、隣接する地域から供給することが想定される。しかし、 今回震災は2章でふれたように想定外の規模で起こり、 隣接する関東においても多くの工場 が被災し、また電力不足で生産量が減少し、震災直後は供給が難しかった。そのため物資 は中部以西からの供給が中心であった。ゆえに輸送距離が長くなり、どうしても時間がか かることとなった。また、先に述べたようにガソリンなどの燃料不足があり長距離輸送を 行うと、被災地からの帰路の燃料確保が大きな問題となった。そのため被災地周辺地域に 1度輸送し、周辺地域の事業者が被災地に向けて輸送する場合も多かった。通信が寸断さ れたことによって被災地からの情報が混乱不足し、的確な供給ができない場合もあった。 5.支援物資の品目 8 過去の被災の経験により多くの自治体が地震や津波で被害を受けた際、通信が寸断さて 効率的支援の妨げになることが知らされており、支援物資が十分に届かないことも想定さ れていた。 そのため一般的にはどの自治体でも最低3日間は各家計で非常食常備することを 呼び掛けている。しかし、「有事の際には支援物資が送られてくるので備蓄は不要」とい った楽観的な期待を持つため、実際の家計の食料備蓄率は低かった。さらにその食料支援 も内容が炭水化物中心となり、そのため必要な栄養が不足する事態になった。また、賞味 期限の制約のもとで食料が分配されるために、個々の需要に関わらず配給され短い期限内 に消費されなければならなかったことも課題として考えられる。 表2-4 主要支援物資の国による支援実績 前掲 『災害復興とその課題に関する経済的考察』107ページより筆者作成。 図表2-4は国の支援実績をまとめたものであるが、炭水化物への偏りが明らかである。 また、東日本大震災においては、震災発生から数日経過した後も、国からの支援物資でさ え、量や到着時間に関する情報が関係者間で十分に共有されなかっただけでなく、企業、 団体、NPO、個人等様々な主体から支援物資が、事前の調整なく物資の内容についての情報 も明示されないまま被災地に送られてくる事例が多数発生した。ニーズに合わない物資の 停留に伴う物資集積所の処理機能が低下してしまった。各県の1次集積所では、このような ニーズに合わない物資のために支援物資の仕分け、荷捌き等の活動に支障が生じ、ニーズ に合わない物資を管理するためのバックヤードを県外に確保しなければならない事態も生 じた。各個人や企業の善意を無駄にしないためにも、このような物資の取り扱いについて 9 事前に検討する必要がある。 第3節 問題点の改善 前節においては東日本大震災で問題となった課題について述べた。これらの課題は早急 に改善策を検討し、今後の大震災に備えることが必要である。東日本大震災からの復興の 基本方針においても国として「類似災害に備えての倉庫、トラック、外航、内航海運等の 事業者などみんなンのノウハウや施設の活用などソフト面を重視した災害ロジスティクス の構築」を実施することとした。 1.ロジスティクス人材の活用 国・地方自治体の災害物流オペレーションがうまく機能しなかったことから、震災発生 後早期の段階から国・地方自治体が実施する災害物流オペレーションに物流事業者、事業 団体が参加できるようにし、その能力を活用することが必要である。能力を最大限活用す るためには以下のような環境整備が必要であると考えられる。それは災害時支援協定の見 直しと協定締結の推進である。平常時から、地方自治体と物流事業者、事業者団体との間 で支援物資物流業務に関する協定を締結しておくことで、震災発生時に協定に基づいて官 民協力して円滑な支援物資物流を実施することが可能になる。協定の内容としては、物資 の輸送に関するものだけでなく、支援物資輸送業者に対する優先的な燃料の補給、物資の 保管、物資集積所へのロジスティクス人材の派遣に関することが考えられる。物資輸送に 関する協定については広く関係者間で締結されているが、保管に関する協定については比 較的少なく、新規協定締結や見直しにより事前の備えをさらに強化していくことが求めら れる。 2.円滑な情報伝達と確実な情報共有 支援物資物流システムが適切に機能するためには、被災地・避難所・物資集積拠点・支 援物資の動き等に関する情報が関係者間で共有される必要がある。東日本大震災において は、情報の途絶によって様々な問題が生じた。そのためまず、避難所、地方自治体および 公共施設において情報が途絶しないよう、衛星通信機器や自家発電機能等を配備すること が必要である。さらに物資集積拠点においても通信設備、自家発電設備を整え、支援物資 10 物流に関する円滑な情報伝達・共有が可能にすることが重要である。国土交通省としては、 大規模災害の発生が懸念されている地域からブロックごとに国・地方自治体・物流事業者 等の関係者による協議会を設置し、支援物資物流を円滑に実施するための検討を行い、物 資集積拠点となりうる施設の一部について、災害時の情報手段の確保のため、衛星通信機 器や自家発電機の導入に関して助成措置を講じることとしている。 次に物資調達・発注様式の改良・統一が求められる。国・地方自治体・物流業者等の関 係者間において、物資調達や輸送発注の際必要な情報や単位を整理し、発注様式を統一す ることにより、物資に関する情報を関係者間で円滑に共有することが可能である。 そして最後に、被災者・避難所に関する情報の把握が求められる。各地方自治体におい て被災者や避難所の状況や時間の経過とともに変化する被災者の支援物資に関するニーズ を把握する手段として、避難所等に配送を行う物流業者が物資を届けた際にあわせて被災 者が必要としている物資の情報を収集し、その情報を国・地方自治体と共有する仕組みを 整えることが有効だと考えられる。 3.物資集積拠点の円滑な運営 物資集積拠点13)は支援物資物流システムの円滑な運営に必要不可欠なものであり、こ れが適切に運営されなければ被災者への物資供給に支障が生じることになる。物流事業者 の能力を最大限に活用しつつ、物資集積拠点の円滑な運営に努めることが重要であり、平 常時から災害協力協定の締結等について関係者間で検討を進めていく必要がある。物流事 業者の協力を得て、物資集積拠点の運営を行うこと以外には以下のことに留意する必要が ある。 まず挙げられるのは、施設のリストアップである。物資集積拠点となるためには、建物 自体に一定のスペースが必要であるとともに、大型トラックが直接施設内に入ることがで きることやフォークリフト等の機材が使用できるといった条件が満たされなければならな い。ゆえに、災害が発生する前にあらかじめこのような施設をリストアップすると、緊急 時に使用できるように都道府県のみならず、市町村においても物流事業者等との間で災害 時の施設使用協定の締結を進めるとともに機材の確保が必要である。地方自治体の公共施 設は避難所として使用されることが考えられることから、倉庫やトラックにさばき施設と 言った物流事業者等の施設を活用することが望ましいと考えられる。しかし、物流事業者 等の倉庫施設の場合、営業用の貨物が保管されていることが前提であり、物資集積拠点と 11 してスペースを確保できないことがあるということも考えなくてはならない。また、災害 時に使用できるかどうかは、施設の使用状況、被災状況等に左右されることを想定して施 設を選定しておくことが必要である。 次に、事前の調整、明示のない物資の取り扱いについてである。受け入れ地方自治体と の事前調整や、情報の明示のない物資の送付は、その内容に関わらず被災者のニーズに合 致しないケースが多い。これらの物資は個人・団体等からの善意により送られたものであ り、尊いものである。しかし、このような物資が大量に送られると、開封して整理を行う 等の業務が増大し、物資集積拠点における作業に支障を与え、作業効率を大幅に低下させ、 支援物資物流全体に影響を与えかねない。こういった事態を防止するために、物資供給者 は原則として物資を送る前に受け入れ地方自治体と事前調整を行い、受け入れ地方自治体 でも大量の物資等が混乱を生じさせている場合、そう言った情報を明らかにする必要があ る。 4.災害に備えた物資の備蓄 いままでの災害を踏まえると、大規模災害時には、物流・流通機能等が麻痺し、災害発 生から3日間程度は、被災地外からの支援が行き届かないことや、被災地のニーズを的確 に収集することが困難な状況が続くことを想定しておかなければならず、この間は備蓄や 区域内における民間協定事業者等からの調達を中心とした物資の供給体制を整備すること により、被災地域内で自立することが求められる。 災害発生直後には、 流通機能が麻痺し必要な物資の購入ができない可能性が高く、また、 市町村からの物資がすぐには届かないこと等も想定される。そのため、家庭において買い 置きや冷蔵庫等での貯蔵を含め、飲料水や食料など避難生活に必要となる物資の3日分以 上の備蓄に努めることが必要である。さらに高齢者や乳幼児、障害者などの災害時要援護 者が必要とする紙おむつや医薬品、粉ミルク、哺乳びんなどの物資は、介護者等がその確 保に努める。また、アレルギーをもつ家族等がいる場合等については、食物アレルギーに 対応した食料品の確保等に努めることが重要になる。また家庭のみならず各事業所等でも 備蓄に努めなくてはならない。災害発生後における事業所等としてのサービスの継続や逸 早い復旧を図るため、また、発災直後における一斉帰宅の抑制を図るためには、従業員等 を一定期間事業所内に留め置く必要がある。このため、従業員等の3日分以上の飲料水や 食料、生活必需品の備蓄に努める。なお、集客施設を有する事業所等においては、来場者 12 の一時的な滞留等を想定した備蓄を検討する必要がある。市町村においても発災直後の生 命維持や生活に最低限必要な食料・飲料水・生活必需品等の物資や避難所運営に必要な資 機材を中心とした備蓄に努めるものとし、地域特性等も考慮した上で、住民が避難所に持 参する物資や民間協定事業者等からの調達を含めて、発災から3日間に必要とする物資を 賄うことができるような備蓄目標をたて、計画的な備蓄を進めることが求められる。 結論 物流は、目には見えないが現代の社会生活の根幹を支えるものである。しかし、普段の 生活の中で物流の重要性を感じることは少ない。お金を払えばほしいものをすぐに購入す ることが可能であるということは今や当たり前のことだからだ。 今回の東日本大震災では第1章で示したような甚大な被害により、 皮肉にも我々が恩恵を 受けている物流システムが寸断されることでその重要性が再認識されることとなった。電 気・ガス・水道・通信などのライフラインが寸断され、避難所の情報を得ることができず に必要なものを必要な時に運ぶことが困難であった。被災者は場所によって支援物資にも 偏りがあり物資の少ない、もしくは必要な物資がないまま避難所での生活を余儀なくされ た。他にも、被災者の中でも避難所にいない人には、物資が回ってこない等の問題が生じ た。 東日本大震災は想定外の大規模災害であり、地震や津波による問題も生じた。本論文で はそれらの問題を明らかにし、その改善策について考察してきた。日本は大陸プレートの 関係上地震が非常に多い国であるため、今回の東日本大震災における物流システムの問題 点や失敗から学ばなければならないのである。第2章で述べたように物流業者と国、地方公 共団体が互いに協力をして災害時の物流のシステムを作っていかなければならない。生活 の根幹を支えるものであるために、想定外という言い訳は通用しない。官民の協力協定の 締結など着実にシステム構築に向かっているがまだ支援物資輸送車両の燃料の優先的補給 の体制の整備や各自治体の地域特性に即した対策など盛り込まねばならないことは多い。 例えば、今回の東日本大震災の被災地のように、高齢化・過疎化などの人口問題を抱えて いる地域では体力の衰えを考慮したうえでの避難所の運営や様々な活動を行わなくてはな らない。また高齢者の多い避難所では、糖尿病などの慢性疾患をわずらう避難者も多いこ とが予想されるためターゲティングが重要になる。このような地域の特性に即した対策は 13 まだ少ないように本論文の資料を集めていながら感じた。地方公共団体は一般的な対策の みに力を入れるだけでなく、その地域が元々抱える問題をふまえた上での対策も民間物流 業者とともに話し合い、今後さらに災害に強い物流システムの構築に向かうために民間は 協力協定の推進を行っていく必要があるのである。 本論文においては、可能な限り改善策について提言を行った。平常時の物流の効率化が あだとなり、このたびの東日本大震災において災害物流がうまくいかなかったともいわれ ている。しかし、今まで述べてきたことをすべて実現するとなると、平常時の物流の効率 化との兼ね合いが難しくなる。本研究においてはこの問題点が残ってしまった。我々はこ の2つのどちらか1つだけを選ぶことはできない。なぜなら、物流とは我々の生活の根幹を 担うものであり必要不可欠な経済活動であるからだ。ゆえに平常時システムと有事の際の 対策のバランスを考えていくことが今後の研究課題である。 1 1923 年 9 月 1 日 11 時 58 分 32 秒、神奈川県相模湾北西沖 80 ㎞を震源として発生したマグニチュード 7.9 の地震災害である。 2 1995 年 1 月 17 日 5 時 46 分 52 秒、淡路島北部沖の明石海峡を震源として発生したマグニチュード 7.3 の地震災害である。 3 http://www.npa.go.jp/ 警察庁 平成 24 年 3 月 28 日現在。 4 http://www.reconstruction.go.jp/ 復興庁 平成 24 年 4 月 4 日現在。 5 倉庫の在庫補充を中央で決定するもの。 6 倉庫の在庫補充を倉庫自身で決定するもの、実際の需要によって減少した在庫分を補充する方式となり、 現在の主流の方式となっている。 7 8 災害発生時において被災者に対して供給される食料・生活用品のこと。 災害が発生し、又は災害が発生するおそれがある場合に国または地方自治体に臨時に設置される機関、 及びそれが置かれる会議室。 9 災害発生時における各種応急復旧活動に関する人的・物的支援について、地方公共団体と民間事業者や 関係機関との間で、または自治体間で締結される協定。 10 馬場崎靖「東日本大震災をふまえた支援物資物システムのあり方について」 『運輸と経済』第 72 巻 3 号 財団法人運輸調査局 2012 年 33 ページ。 11 運送事業者や協同組合が保有する自家用給油設備。 14 12 国土交通省東北地方整備局が東日本大震災に伴う大津波が沿岸部を襲い、甚大な被害が発生したこと から、県や自衛隊と協力して緊急輸送道路を「くしの歯型」として啓開することを決め名付けたもの。 13 災害時に防災活動の拠点となる施設や場所のこと。平常時には防災講習・訓練や地域住民の憩いの場 として活用される。 参考文献 川邉信雄『東日本大震災とコンビニ』株式会社早稲田大学出版部 2011 年 11 月 25 日発 行。 庄司匡宏『災害復興とその課題に関する経済学的考察』公益財団法人 三菱経済研究所 2013 年 3 月 11 日発行。 馬場崎靖「東日本大震災を踏まえた支援物資物流システムのあり方について」 『運輸と経済』 第72巻3号 財団法人運輸調査局 2012 年。 国土交通省 http://www.mlit.go.jp/common/000184634.pdf 「支援物資物流システムの 基本的な考え方」2013 年 11 月 15 日確認。 矢野裕児 http://www.rku.ac.jp/distribution/doc/distribution03_03.pdf 「東日本大 震災での緊急救援物資供給の問題点と課題」2013 年 11 月 15 日確認。 日本興亜損保 http://www.nipponkoa.co.jp/corporation/logistics/pdf/b-news095.pdf 「災害時のロジスティクス(続編)~東日本大震災の教訓」2013 年 11 月 15 日確認。 国土交通 http://www.bousai.go.jp/oukyu/higashinihon/3/pdf/kokudokoutu1.pdf 「東 日本大 震災と物流における対応」2013 年 11 月 20 日確認。 国土交通省 http://www.kagawa-u.ac.jp/files/1313/6376/7451/4unyukyoku.pdf 「緊急 救援物資のロジスティクスネットワーク」2013 年 11 月 20 日確認。 洪京和 http://www.rku.ac.jp/distribution/doc/distribution04_09.pdf 「緊急救援物 資の調達、供給ルート別にみた供給状況と需給バランスからみた課題」2013 年 11 月 21 日確認。 警察庁 http://www.npa.go.jp/archive/keibi/biki/index.htm 2013 年 4 月 30 日確認。 15 大分市におけるバス停留所の整備状況の把握と整備基準に関する研究 水田 拓希 大分市におけるバス停留所の整備状況の把握と 整備基準に関する研究 水田 拓希 大分市におけるバス停留所の整備状況の把握と整備基準に関する研究 水田 拓希 第1章 序論 1-1.研究の背景 現在の地方都市では、過度なマイカーへの依存から慢性的な渋滞や交通事故,大気汚染 といった多くの問題を抱えている。そのため、排出ガスの削減や渋滞を緩和するために、 公共交通の利用増加が望まれている。 本研究の対象地域である大分市では、市民の足として主にバスが利用されている。しか し、路線図の分かりにくさ、運行本数の少なさ、運賃の高さなど利用者は様々な不満を抱 えている。現在大分市では、バスの利用者数は減少傾向にある。一方で、大分市の自動車 保有台数は増加しており、マイカーへの依存はさらに高まっている。そのため、マイカー への依存を減らし公共交通の利用者を増やしていくためにも、サービスの改善が求められ る。 1-2.研究の目的 本研究では、バス停設備に関する整備ガイドライン等からバス停設備の評価基準を設定 し、研究対象地域全域の傾向分析と評価を行った。また、バス停設備の評価といくつかの 各バス停の指標との関連性を明らかにするための分析を行った。関連性が明らかになるこ とで、各バス停の状況による整備目標水準をつくる。本研究で設定した整備目標水準と実 際の整備状況を比較することで、整備を必要とするバス停を明らかにすることを目的とす る。 1-3 研究の方法と流れ 本研究では、まず各バス停の設備充実度を点数で評価するためにバス停留所に関する整 備ガイドラインを整理していく。次に、現地調査からバス停設備の設置状況と道路情報を 収集する。その集計結果より各バス停の設備充実度の評価を点数化する。その設備評価と 道路状況や利用者数などの数値を用いて回帰分析を行い、設備評価の点数に関する回帰式 を求める。その回帰式で求められる値を本研究でのバス停整備目標水準として、実際の整 備状況と比較することで整備が必要なバス停留所を抽出する。 大分市におけるバス停留所の整備状況の把握と整備基準に関する研究 水田 拓希 第2 章 調査対象地とバス停留所に関する整備ガイドライン 2-1.調査対象地 全バス停の中からいくつかのサンプルを抽出して行う調査では、本研究の目的を果たす ことは難しい。そこで、旧大分市内を走るバス路線に含まれる 711 のバス停すべてを調査 対象とする。 2-2.バス停留所・歩道に関する整備ガイドライン また、大分市内では「道路の移動円滑化整備ガイドライン」に沿った整備が必要である と認められる地区として、重点整備地区、特定経路図を設定しています。 バス停留所について 第 4 章 乗合自動車停留所 4 - 2 乗合自動車停留所の構造 バスが停留所から離れずにぴったり停車できるよう配慮することが望ましい。 4 - 3 乗合自動車停留所を設ける歩道等の高さ 高さは 15cm を標準とするものとする。 4 – 4 ベンチ及びその上屋の設置 ベンチ及びその上屋はバスへの乗降及び歩道等の利用者の支障とならないよう設置するも のとする。 道路の移動円滑化整備ガイドラインより引用 また、大分市内では「道路の移動円滑化整備ガイドライン」に沿った整備が必要である と認められる地区として、重点整備地区、特定経路図を設定しています。 図 2-1 調査対象バス停 図 2-2 大分市内特定経路図 大分市におけるバス停留所の整備状況の把握と整備基準に関する研究 水田 拓希 第3章 3-1 バス停整備状況の把握 調査概要と方法 本研究では現地調査による実測データを元に分析を進めていく。調査方法は、バス停留 所全体が収まる写真を撮影していき、その撮影した写真を見ながらデータを整理していっ た。 整理していくデータの項目をあげていくと、 「バス停設備」については、「表示柱」、「表 示柱付ライト」、「上屋」、「ベンチ」、「広告パネル」、 「風除けパネル」、「バスベイ」の 7 項 目について、設置されているかいないかを、また、バス停が設置されている道路の片側の 車線数を撮影した写真を見ながら整理した。ただし、「ライト付表示柱」とは、通常金属製 の表示柱に照明機能が付随したものを指す。また、 「広告パネル」とは、広告収入によって 設置されている「風除けパネル」のことを指す。 表 3-1-1 各指標の内訳 指標 内訳 評価方法 表示柱 指標 評価方法 片側車線数 4 段階 ライト付表示柱 上屋 バス停設備 ベンチ 有無 広告パネル 風除けパネル バスベイ 3-2 調査対象地における傾向と課題 ここでは、「バス停設備」について現地調査で得られたデータをまとめていく。表 3-3-1 はそのデータから各要素のバス停設備設置率をまとめたものである。 表 3-2-1 バス停設備設置率 割合(サンプル) 割合(サンプル) 表示柱 表示柱ライト 上屋 ベンチ 100%(1237) 16%(204) 15%(190) 17%(216) 広告パネル 風除けパネル バスベイ 1%(13) 1%(17) 29%(355) 大分市におけるバス停留所の整備状況の把握と整備基準に関する研究 水田 拓希 a) 表示柱 今回の調査で表示柱は、1237 カ所中 1237 カ所のすべてのバス停に設置されていることが 確認できた。 また、表示柱の中にはいくつか種類があり、金属製の枠組みをコンクリートの重りで固 定したタイプ、地下から電力を供給し内部から発光するライトと一体となったタイプ、上 屋と一体になっているタイプなどが存在する。本研究では、それらすべてを含めた結果を 集計している。 b) ライト付表示柱 今回の調査では、1237 カ所中 204 カ所でライト付き表示柱が設置されていることが確認で きた。 ライト付き表示柱の設置率は、表示柱が全てのバス停で設置されているのに対して設置 率が 16%と低い値になっている。設置されているものの多くは、国道 10 号線、197 号線 442 号線などの交通量の多い大分県の主要な道路沿いに集中している。ライト付き表示柱は、 地下や電線からの電気供給や歩道への固定が必要なため、コンクリートで重しをするタイ プの表示柱よりもコストが必要になる。このことが設置率の低下の理由になっていると考 えられる。 また、ライト付き表示柱は、地下から電気を供給するもの、電線から電気を供給するも の、上屋と一体となっているものなどが存在する。本研究では、その全てのタイプを集計 している。 c) 上屋、ベンチ 上屋・ベンチの設置率は、15%・17%と低く利用者の大半が日射を受けながらまたは立っ たままバスを待たなければならない。設置率が低い原因として、設置にかかるコストの問 題もあるが、歩行者の歩行スペースを確保できる十分な歩道幅員が足りない場所が多いこ とが挙げられる。 d) 広告パネル、風除けパネル 広告パネル、風除けパネルは上屋と供に設置される。しかし、上屋が設置されているバス 停が 190 か所あるのに対して、広告パネルが 13 か所、風除けパネルが 17 か所とかなり低 い値になっている。 e) バスベイ バスベイは他の設備の設置率に比べると、29%と高い設置率を示している。設置されて いないものの中には、一番歩道に近い左側の車線をバス専用レーンとしているものもあり バスベイがなくてもその役割を果たしているものもある。反対に郊外のあまり交通量の多 くない地域ほどバスベイの設置が多くみられる傾向もあり、渋滞を緩和する役割をあまり 発揮できていない面もみられる。 大分市におけるバス停留所の整備状況の把握と整備基準に関する研究 水田 拓希 N N 図 3-2-1 表示柱の有無 図 3-2-2 ライト付表示柱の有無 N N 図 3-2-3 3-2-4 ベンチの有無 上屋の有無図 N N 図 3-2-5 広告パネルの有無 図 3-2-6 風除けパネルの有無 大分市におけるバス停留所の整備状況の把握と整備基準に関する研究 水田 拓希 N 図 3-2-7 バスベイの有無 3-3 まとめ 今回の調査結果から全体的にバス停の設備整備の水準は低いことが明らかになった。し かし、設備整備を進める前に十分な歩道幅員を確保する必要がある場所もまた多く存在す る。整備水準の向上のためには、施設整備のルール作りと供に歩道幅員を確保するための ルール作りも必要である。 大分市におけるバス停留所の整備状況の把握と整備基準に関する研究 水田 拓希 第4章 バス停整備評価の点数化と分析 4-1.バス停整備評価の点数化 今回の調査結果を基に各バス停の設備の整備水準を点数化していく。調査項目は、「表示 柱付ライト」 、「上屋」 、「ベンチ」、「風除けパネル」、 「バスベイ」の 5 項目で、設置されて いるかいないかで点数を付ける。道路の移動円滑化整備ガイドラインや利用者の利便性を 考慮して点数を設定する(表 4-1)。また、各バス停の評価点数をまとめた(図 4-1)。 表 4-1 点数表 バス停設備名 上屋 ベンチ 風除けパネル バスベイ 表示柱ライト 合計 点数 4点 4点 3点 2点 1点 14 点 図 4-2 バス停評価一覧 何もバス停設備が設置されていない評価点数が 0 点のバス停が半数を占めている。整備 が整っている個所として、大分駅、鶴崎駅周辺、住宅地団地内のまとまった整備が目立つ。 戸次方面は広い歩道幅員を生かし、上屋・ベンチなどの整備が進んでいる。大在方面では、 寄付によりベンチが設置されているバス停が多く、評価が高くなっている。また、周囲に 比べ評価が高くなっているバス停は、ほとんどが病院や学校などの施設の利用者のために 整備が行われたと考えられる。 大分市におけるバス停留所の整備状況の把握と整備基準に関する研究 水田 拓希 4-2.独立変数の決定 本章では、本研究で行ったバス停設備整備水準の点数を従属変数として、「道路管理者」 、 「片道車線数」、「特定経路図」 、「利用者数」、「運行本数」の 5 つの変数を独立変数として 重回帰分析を行う(表 4-2)。この 5 つの変数のうち「道路管理者」、「片道車線数」の 2 つの 変数はダミー変数の振り分けを行う(表 4-3)。この分析を行うことで、現在の設備整備の進 め方がどの変数の影響を受けているのかを明らかにする。また、求めた回帰式から得られ た値を、本研究でのバス停設備整備目標水準とする。この分析を行うにあたり、有効な独 立変数を選択する必要がある。そこで、変数減少法を用いて適切な変数を選択する。 「利用者数」は平日一日の各バス停で集計した乗り降り者数を、「運行本数」では、各バ ス停での一日の運行本数を用いる。 表 4-2 変数一覧 従属変数 整備水準 道路管理者 片道車線数 独立変数 特定経路図 利用者数 運行本数 分析に有効ではない変数を取り除くために、まずすべての説明変数を用いて重回帰分析 を行う。以下が分析結果である。(表 4-5) 表 4-5 全説明変数分析結果 モデル要約 モデル dimension0 R R2 乗 a 1 .499 調整済み R2 乗 .249 標準偏差推定値の誤差 .234 2.62669 a. 予測値: (定数)、運行本数, 特定経路図, 管理者, 車線, 利用者。 分散分析 b モデル 平方和 (分散成 分) 1 回帰 自由度 平均平方 580.409 5 116.082 残差 (分散分析) 1752.472 254 6.899 合計 (ピボットテーブル) 2332.882 259 a. 予測値: (定数)、運行本数, 特定経路図, 管理者, 車線, 利用者。 b. 従属変数 評価 F 値 16.825 有意確率 .000a 大分市におけるバス停留所の整備状況の把握と整備基準に関する研究 水田 拓希 係数 a モデル 標準化されていない係数 B 1 標準化係数 標準偏差誤差 ベータ (定数) .731 .417 管理者 .201 .222 1.368 特定経路図 利用者 車線 運行本数 t 値 有意確率 1.751 .081 .058 .903 .368 .274 .344 4.991 .000 .630 .722 .062 .872 .384 .004 .001 .349 3.945 .000 -.004 .001 -.253 -2.924 .004 a. 従属変数 評価 以上の分析結果から、「道路管理者」、 「特定経路図」の二つの変数は優位確立が 0.368、 0.384 と 5%以上の値を示し、分析に有効な変数とは言い切れない。よって、 「道路管理者」、 「特定経路図」の二つの変数を分析対象変数から除外する。 表 4-6 相関係数 従属変数 独立変数 評価点数 道路管理者 車線数 特定経路図 利用者数 運行本数 従属 変数 評価点数 1 道路管理者 0.1760334 1 車線数 0.3372211 0.3435762 1 特定経路図 0.2651957 -0.014163 0.4564243 1 利用者数 0.3176768 0.1593734 0.3608062 0.4235932 1 運行本数 0.2279505 0.4190641 0.3751854 0.2346604 0.7206315 独立 変数 また、「運行本数」は係数と「評価点数」との単純相関係数が異符号になっている。また、 「運行本数」と「利用者数」との単純相関係数は高い数値を示している。このことから、 「運 行本数」には多重共線性の疑いがあり分析に用いる変数には適さない。 以上の結果から、使用する従属変数、独立変数を以下のように決定する。(表 4-7) 表 4-7 使用する変数 従属変数 独立変数 評価点数 車線数 利用者数 1 大分市におけるバス停留所の整備状況の把握と整備基準に関する研究 水田 拓希 4-3.重回帰分析 本研究では、目標となる整備水準を設定するため、分析対象は大分市を走る大分バス・ 大分交通のバス路線から「バス運行本数」「バス利用者数」「主要道路」「集客施設」「集合住宅 地」を考慮し選定した、計 256 のバス停留所を含むバス路線を選定した。 以下が分析結果である。(表 4-8) 表 4-8 分析結果 モデル要約 モデル 標準偏差推定値 R dimension0 1 .467a R2 乗 調整済み R2 乗 .218 a. 予測値: (定数)、利用者, 車線。 .212 の誤差 2.66423 大分市におけるバス停留所の整備状況の把握と整備基準に関する研究 水田 拓希 分散分析 b モデル 平方和 (分散成 分) 1 回帰 自由度 平均平方 508.665 2 254.332 残差 (分散分析) 1824.217 257 7.098 合計 (ピボットテーブル) 2332.882 259 F 値 有意確率 35.831 .000a a. 予測値: (定数)、利用者, 車線。 b. 従属変数 評価 係数 a モデル 標準化されていない係数 B 1 (定数) 車線 利用者 標準偏差誤差 .634 .395 1.403 .238 .002 .001 標準化係数 ベータ t 値 有意確率 1.603 .110 .353 5.882 .000 .197 3.293 .001 a. 従属変数 評価 以上の評価結果から、 バス停整備目標水準=1.403×(車線数)+0.002×(利用者数)+0.634 という回帰式が得られた。 現在のバス停整備状況は、道路の車線数、バス停利用者数の二つの指標の影響を受けてお り、最も整備状況を左右しているのは、車線数である。このことは、バス停整備がバス停 の利用状況よりもバス停設備を設置するスペースの大きさで進んでいることを示している。 この回帰式で求められた値をバス停設備整備目標水準とし、実際の整備状況と比較するこ とで整備が必要なバス停を抽出し、これからのバス停設備整備の方針を探っていく。 大分市におけるバス停留所の整備状況の把握と整備基準に関する研究 水田 拓希 4-4.改善が必要なバス停留所の抽出 上で得られた回帰式を用いて得られた値を本研究での整備目標水準とし、現状の整備水 準の点数から整備目標の点数を引くことで改善が必要なバス停留所を抽出する。正の値の ものは、目標水準を上回っているバス停留所。負の値のものは、目標水準を下回っている バス停留所を示す。 図 4-3 各バス停評価目標水準 大分市におけるバス停留所の整備状況の把握と整備基準に関する研究 水田 拓希 図 4-4 整備状況と目標水準との差 4-5.まとめ 今回行った整備が必要なバス停の抽出では、先に行ったバス停設備評価で受けた印象と 同じような結果を得られた。747 か所中 553 か所が整備の必要なバス停である。整備が整 っている箇所として、大分駅、鶴崎駅周辺、住宅地団地内のまとまった整備がなされてい るもの、戸次方面の広い歩道幅員を生かし上屋・ベンチなどの整備が進んでいるもの、大 在方面の寄付によりベンチが設置されているバス停、病院や学校などの施設の利用者のた めに整備が行われたと考えられるバス停があげられる。 大分市のバス停設備整備は駅周辺や住宅地内など面的な整備が進んでいるが、その面を つなぐ線の部分の整備が不十分になっている。設備を設置するスペースのことを考えると、 同じ道路では同様な整備が可能なはずである。道路ごとにバス停整備水準を定めて設備整 備を進めていくことが、現状に沿った設備改善の方法だと考えられる。 大分市におけるバス停留所の整備状況の把握と整備基準に関する研究 水田 拓希 第5章 バス停設備改善に向けて 今回の調査から、表示柱ライト・上屋・ベンチの設置率は全体の 2 割ほど、風除けパネ ルは1%、バスベイの設置は 3 割ほどととても設備整備が進んでいるとは言えない現状が 明らかになった。このことから利用者のほとんどが雨にぬれ、夏は日差し、冬は冷たい風 にさらされながらバスの到着を待っているということになる。大分市内のバス停設備整備 が進んでいる箇所として大分駅周辺、住宅地団地内のまとまった整備、病院や学校などの 施設の利用者のために整備が行われたと考えられるバス停が目立つ。 道路の管理者と停留所設備の管理者が別に存在するというところにも問題がある。国 道の場合は、まず国土交通省が管理している歩道にバス事業者が占用の許可を申請した後 にバス停留所設備の設置を行う。このような手順で設備設置が行われているので、スペー スが足りないために、設備設置が不十分なもの、停留所が車道に接近しすぎ、利用者が危 険にさらされているものが存在する。こういったことを防ぐためにも、道路を建設計画段 階から、自治体とバス事業者が共同で行っていくべきである。 また、車線数が多く設備設置に必要な歩道幅員が十分確保されていても費用の関係で整 備がなされていないと考えられる箇所が多くみられた。今日、公共交通を主体としたネッ トワークの整備が強く求められるところである。とりわけ都市内公共交通としての位置づ けが大きいバスにおいては、交通弱者への移動手段の提供という意味においても重要であ る。このことから民間の企業としてではなく、公共事業としてバス交通を整備していく必 要がある。 最後に、本研究で得られた現在の設備整備状況の水準を求める回帰式では、車線数と利 用者数の二つの変数からのみ影響をうけており、より様々な視点から整備が必要であると 考えられる。本研究が今後の施策展開に役立つことを期待したい。 [参考文献] 増補 改訂版 道路の移動等円滑化整備ガイドライン 財団法人 国土技術研究センター [参考 URL] 大分市 HP (http://www.city.oita.oita.jp/) 政府統計の総合窓口 e-Stat (http://www.e-stat.go.jp/) 国管理空港の経営課題 西南学院大学 商学部商学科 3 年 黒瀬葉月 目次 はじめに 1. 国管理空港の現状 2. 経営課題 3. 新しい経営方法 4. 考察 おわりに はじめに 現在、わが国には 98 もの空港が存在する。これらは(1)拠点空港、(2)地方管理空港、(3) 共用空港、(4)その他の空港、この 4 つに分類される。 (1)拠点空港とは、国際航空輸送網又は国内航空輸送網の拠点となる空港、(2)地方管理空 港とは、拠点空港以外の地方公共団体が設置し管理する空港、(3)共用空港とは、自衛隊の 設置する飛行場もしくは在日米軍が使用している飛行場であり、民間の空港の機能も果た す空港、(4)その他の空港とは、拠点空港、地方管理空港、共用空港及び公共用ヘリポート を除く空港、と定義されている。 (1)拠点空港は 3 つに分類される。①会社管理空港、②国管理空港、③特定地方管理空港 である。①会社管理空港とは、株式会社が設置・管理を行っており自立採算を行うことが 前提とされる空港である。成田国際空港、関西国際空港、中部国際空港がこれに分類され、 利用者も空港規模も大きい。上記に加え、大阪国際空港も含め全国で 4 か所存在するが、 大阪国際空港が関西国際空港と経営統合したため経営主体は 3 つである。②国管理空港と は国土交通大臣が設置・管理を行っており、名の通り国が管理している空港である。東京 国際空港、新千歳空港、福岡空港などがこれに分類され、全国で 19 か所存在する。③特定 地方管理空港とは国と地方公共団体が設置・管理をする空港のことで、旭川空港、山口宇 部空港などがこれに分類される。全国で 5 か所存在する。 また、(2)地方管理空港、(3)共用空港、(4)その他の空港はそれぞれ 54 か所、12 か所、7 か所あり、(1)拠点空港と合わせると 98 か所ということになる。 近年の動向として注目を浴びているのが LCC(Low Cost Career: 格安航空会社)である。 LCC の就航により、今後の航空需要の増大が期待されるが、一方で、看過できない問題が ある。空港の経営赤字問題である。会社管理空港以外の空港、国管理空港・地方管理空港 の大部分が赤字を計上し続けている。このまま放置すれば、廃港になる空港が出てきても おかしくないだろう。そこで、本稿は以下の理由から、とくに国管理空港に着目し、経営 課題や問題点を挙げ、それに対する改善策を提言したい。 1.国管理空港の現状 大部分が赤字を計上し続けているのは国管理空港に限らず、地方管理空港についても同 じことが言えると思われる。しかしながら、地方管理空港は地域の実情に精通している地 方公共団体が管理しているため、国管理空港よりも経営改善に融通が利くと考えられる。 もちろん地方管理空港の経営改善にも努めなければならないが、本稿では国管理空港の経 営改善を阻害する要因を明らかにし、経営改善策を検討したい。 では、すべての国管理空港がこのような危機にさらされてしまうのかというと、そうで はない。福岡空港・羽田空港・新千歳空港・那覇空港(以下、主要 4 空港と略す)は、利 用者数・着陸回数も圧倒的に多く、活気もある。これらの赤字の原因は空港の借地料等に あると思われ、他の国管理空港とは経営課題が異なるため、本稿の研究対象からは除外す る。 主要 4 空港を除く国管理空港の現状における問題点としては、第 1 に利用者数が減少し ている点が挙げられる。国管理空港のある都道府県の人口も共に減少しているため、これ が利用者の減少の原因の1つであると言える。また、国管理空港の多くはいわゆる地方都 市にあり、その地域への訪問客が少ないことも関係していると考える。 第 2 に、着陸回数が減少している点が挙げられる。着陸回数が減少しているということ は、便数が減少していることを意味しており、空港の活気がなくなってきているというこ とである。 <表 1>主要 4 空港を除く国管理空港の年間乗降客数 単位:千人 『航空統計要覧』2011 年版 pp. 190-191 より作成。 <表 2>主要 4 空港を除く国管理空港の年間着陸回数推移 単位:回 空港名/年度 稚内 釧路 函館 仙台 新潟 広島 高松 松山 高知 北九州 長崎 熊本 大分 宮崎 鹿児島 2003 3,294 6,894 11,606 23,213 13,268 10,643 8,002 13,305 10,899 3,345 23,346 18,171 8,723 17,809 34,845 2004 1,827 6,842 10,473 23,670 15,536 10,643 7,686 14,046 11,877 3,618 22,280 17,874 8,887 18,245 33,477 2005 1,689 6,658 10,921 23,944 14,353 11,189 7,391 15,863 12,212 3,596 22,619 18,399 9,150 18,269 32,361 2006 1,651 6,479 10,404 23,931 14,798 10,949 7,127 15,893 11,760 9,047 23,062 18,660 8,652 18,973 33,271 2007 1,503 6,612 9,324 23,234 15,003 10,688 7,321 15,542 11,334 8,098 22,447 18,653 8,371 18,563 32,817 2008 1,476 6,292 8,926 23,381 12,846 10,526 7,293 15,747 9,703 7,877 21,311 17,646 8,711 18,947 32,625 2009 1,497 6,185 8,298 25,252 12,662 10,315 7,129 15,036 9,369 7,990 21,409 17,937 8,686 18,569 31,561 『航空統計要覧』2011 年版 pp. 200-203 より作成。 <表 3>国管理空港の所在する都道府県別人口推移 都道府県/年度 東京都 北海道 福岡県 広島県 新潟県 宮城県 熊本県 鹿児島県 愛媛県 沖縄県 長崎県 大分県 宮崎県 香川県 高知県 2000 12,064 5,683 5,016 2,879 2,476 2,365 1,859 1,786 1,493 1,318 1,517 1,221 1,170 1,023 814 2005 12,577 5,628 5,050 2,877 2,431 2,360 1,842 1,753 1,468 1,362 1,479 1,210 1,153 1,012 796 2010 13,159 5,506 5,072 2,861 2,374 2,348 1,817 1,706 1,431 1,393 1,427 1,197 1,135 996 764 単位:千人 2011 13,196 5,486 5,079 2,855 2,362 2,327 1,813 1,699 1,423 1,401 1,417 1,191 1,131 992 758 2012 13,230 5,460 5,085 2,848 2,347 2,325 1,807 1,690 1,415 1,409 1,408 1,185 1,126 989 752 http://www.stat.go.jp/data/jinsui/2012np/より作成。 利用者・都道府県人口・着陸回数の減少は、徐々に、空港を廃港の未来に近づけている と思われ、空港がなくなった地方都市は、重要な交通機関を失い、さらに活気を失うこと になるだろう。上記の表 1 および表 2 は主要 4 空港を除いた国管理空港の利用者数・着陸 回数の推移、表 3 は国管理空港の所在する都道府県別人口の推移を表したものである。 2.経営課題 先に述べたように、国管理空港のほとんどが赤字問題を抱えている。単純に経営方法が 悪いのであれば改善すれば良いが、国管理空港に関しては国の管理下にあるため、簡単に はそうできない。国管理空港の現状について、以下に説明する。 1)空港収支のプール管理 空港の収支を管理する空港整備特別会計という制度がある。この制度では、収入プール 制になっており、国管理空港で生じた収入は一括して空港整備特別会計に集められる。す なわち、新たな空港建設や空港の規模拡大にかかる費用のほとんどは国の一般財源からで はなく各空港の収入を一括した空港整備特別会計から捻出されているのである。空港整備 特別会計は元来、空港建設による負債を返済していくための会計制度であったが、多くの 空港では、建設に伴う減価償却は 10 年以上前に完了しており、現在では収益性の高い空港 がその他の空港の整備と運営を助けている状態である。 このような空港整備特別会計制度を採用している限り、空港の収支は不透明なままで地 域の実情に合った経営を行うことができない。この会計制度は見直しの必要性が高まり、 新たに社会資本整備事業特別会計が設けられたが、その仕組みは以前の会計制度とほとん ど変わっておらず、国管理空港の経営改善は期待できないだろう。 2)着陸料の全国一律設定 空港にとっての主要な収入は着陸料である。着陸料とは航空機が空港に着陸する対価と して支払う空港使用料のことで、航空会社は、空港ごとに定められた着陸料を支払うこと で、航空機を着陸させることができる。国管理空港では、この着陸料が全国一律設定とな っているために、収益性の高い空港とその他の空港の実情に合わせた着陸料の設定が行え ていない。自由設定化が行われれば、もっと効率的な経営が行えるのではないかと考える。 3)経営分離 国管理空港は、空港とターミナルビルの経営が分離している。空港の経営主体は国、タ ーミナルの経営主体は民間である。大部分のターミナルビルは黒字である一方、空港は大 部分が赤字であり、空港が存続しなければターミナルビルも存続できない存在であるため、 一体として経営改善を図る必要がある。国が管理するのは空港の収入に重要な滑走路や駐 車場などであり、その収入は空港整備特別会計に納められている1。空港収入のほとんどは 着陸料が占めているため、経営の一体化を行った場合、空港の収益力は現在よりも高いの 1駐車場経営に関しては空港環境整備協会が行っているが、これについては後に述べる。 ではないかと推測する。 そもそも、空港の存在によりターミナルビルは機能している。本来ならば両者は同じ方 向を向いて経営努力をするべきであるのに、経営分離のために、民間はターミナルビルの 経営努力に尽力することしかできない。空港本体は国の管理下にあるために、地元感覚や 経営感覚も不足してしまっている。経営主体をターミナルビルと一体化するほうが、より よい経営改善を行うことができるのではないだろうか。 3.新たな経営方法 1)空港着陸料設定の自由化 効率的な経営を可能にするために、空港着陸料の全国一律設定を改善しなくてはならない。 利用者の多い空港や比較的収益性の高い空港は着陸料の引き上げを行うことができず、ま た収益性の低い空港は着陸料の引き下げによって航空路線の誘致を行うことができず、戦 略的経営を行うことができないのが実情である。そこで、空港着陸料設定の自由化を図る。 空港着陸料の自由な意思決定が可能になれば、各空港の実情に合わせての着陸料設定を行 うことができ、収益力の向上が見込める。さらに、着陸料の引き下げで、地方に LCC など の新規就航が可能になり、空港の活性化も期待できる。空港が活性化すれば、空港利用者・ 発着回数の増加や地域への訪問者の増加に結びつくものと考えられる 2)空港収入のプール管理廃止と経営一体化 効率的で、自由な経営意思決定を可能にするために、社会資本整備事業特別会計は解体 すべきである。さらに空港経営をターミナルビルと一体化し、株式会社形態の民営化を行 う。これにより、会社法による財務諸表の開示を義務化し、監査役に経営に対する妥当性 と適法性を監査させる。そして、経営者も会計監査人の存在などにより、会社の利益に相 反することなく経営を行うようになる。これによって、社会資本整備事業特別会計での無 駄な投資をなくし、民間経営による効率的で、自由な経営意思決定を行うことが可能にな るため、空港収支の不透明性も改善されると考える。 また、経営一体化により、ターミナルビルの収入を空港経営に充てるなどの効率的な収 入運用や、ターミナルビルと空港の収入で地域活性化のための活動を行うことも可能にな る。宮崎空港を例に挙げると、宮崎空港は地域活性化のために様々なイベントを開催して いる。著名なアーティストによるナイトライブの開催、空港利用者への季節の花のプレゼ ントなどを実施しているが、その周知度は宮崎県民にもかなり低い。経営一体化をするこ とで、広告宣伝費も現在より捻出でき、イベントの周知度は向上するのではないだろうか。 周知度が上がれば、イベントによってはかなりの集客数が見込め、宮崎県への訪問者の増 加が期待でき、地域活性化に十分効果的であると考える。 3)新しい制度 ① 補助金制度 単に補助金制度を設けただけでは、これまでと変わらず経営努力が向上されるという期 待はできない。そこで、各空港が経営効率を上げるための動機づけと、空港の維持・整備 のために国が空港の規模に応じて一定額の補助金を支給する制度を作る。しかし、これは 空港運営を安定して行うことができるようになるまでの期間のみで、将来的に経営状況が 安定してきた時には、この制度を見直す。 ② 奨励金制度 発着回数・乗降客数・貨物の積載数の各値が前年よりも上回るような経営努力をした航 空会社には、その空港の収益額に応じて奨励金を支給する。これによって経営者の意識向 上につながり、経営努力の向上が期待できる。 4.考察 国管理空港の赤字改善とより良い空港経営のために、社会資本整備事業特別会計を解体 し、空港の民営化を行うべきである。先に述べた駐車場経営に関しては、空港環境整備協 会が行っており、国や官僚の既得権益となってしまっている。つまり、ターミナルビル・ 国・空港環境整備協会の三社で空港経営を行っており、このような複雑さが効率的な経営 から遠ざけているとも思われる。2012 年度の運用状況からわかるように、駐車場経営は大 幅な黒字であり、その収入の半分を国が徴収し、残りを環境整備事業にあてている。 < 図 1>2012 年度空港環境整備協会の運用状況 http://www.aeif.jp/html/gyomu/index.html より引用。 すなわち、国は空港の大きな収益源を奪っていることになるのである。さらに、空港環 境整備協会は、各空港の駐車場収支をプール管理し、それを各空港の環境整備事業にあて ており、空港整備特別会計のプール制と同じような機能を果たしていることになる。空港 に関する特別会計が2つも存在しているのである。したがって、社会資本整備事業特別会 計とともに空港環境整備協会を解体し、ターミナルビル・空港・駐車場の経営を一体化さ せて民営化するべきだと考える。これにより、空港全体の透明化を図り、効率性の向上が 期待できると考える。 一方、国としても駐車場を手放すことで大きな収益源を失うことになるが、駐車場を空 港会社に売却した際の大きな収入が見込める。さらに、駐車場の収益を得られるようにな った空港の経営が改善し、収益力が向上すれば、先に提言した各空港への補助金の額も少 なくて済むのである。 さらなる効率化を図るために、空港着陸料設定の自由化をする。経営一体化と着陸料自 由化により、物販や飲食などの収入をもとに着陸料の引き下げを行い、LCC の誘致や新規 就航を積極的に行うことができるようになる。これにより空港が活性化されれば、乗降客 数・発着回数・貨物積載数が増加し、奨励金も期待できる。空港が活性化されれば、地域 への訪問者数が増え、地域活性化にも効果的だと考える。また、LCC などの新規参入や増 便により、航空業界の活性化も期待でき、日本の空港・航空事情は多大な盛り上がりを見 せることになると予測する。 このように、ターミナルビル・空港・駐車場の経営一体化を行い、着陸料設定の自由化 を図り、補助金・奨励金制度を設けることで、国管理空港の経営を改善し、その効果は空 港だけでなく、地域にも広がり、相乗効果は多大なものになる。よって、上記 3 点を国管 理空港の経営改善策として提言する。 5.おわりに 空港は私たちにとって必要不可欠な交通機関である。特に、他の交通機関が乏しい地方 では、空港はその地域の心臓といっても過言ではないほど重要な存在である。だからこそ、 空港を廃港の道へ導かぬよう、赤字を解消し、元気な空港の姿を見せることで、あまり飛 行機に乗る機会がない人たちに空港に行こうと思ってもらうことが空港存続への第一歩だ と考える。 また、提言した経営改善策は、最終的には利用者にサービス向上という形で返ってくる。 着陸料の引き下げで LCC を誘致できたとすると、航空旅客はチケットを現在よりも安く購 入できるようになる。また、テナント料を下げて様々な種類の店をターミナルビルに誘致 すれば、空港の魅力が増すだけでなく、空港利用者および空港周辺の居住者の利便性向上 にもつながる。経営をより自由にすることで、空港の可能性はさらに大きく広がるのであ る。 参考文献 猪瀬直樹(2002)『一気にわかる!空港の内幕』PHP 研究所出版。 谷川一巳(2003)『日本の空港なるほど事情 国内空港の今がよくわかる!』山海堂出版。 森浩・太田成昭・渡邊信夫(2002)『空港民営化 日本再生と生まれるビジネスチャンス』東 洋経済新聞出版。 一般財団法人日本航空協会(2011)『航空統計要覧 2011 年版』日本航空協会。 国土交通省ホームページ、http://www.mlit.go.jp/(accessed 2013-09-06). 財団法人空港環境整備協会ホームページ、http://www.aeif.jp/(accessed 2013-09-06). 総務省統計局ホームページ、http://www.stat.go.jp/(accessed 2013-09-06). 宮城県ホームページ、http://www.pref.miyagi.jp/(accessed 2013-09-06).