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求められるオムニチャネル時代への 対応とその仕組みづくり
特 集 求められるオムニチャネル時代への 対応とその仕組みづくり 日本オラクル株式会社 流通・サービス・公益・メディア営業統括本部 オムニチャネルスペシャリスト 担当ディレクター おおしま まこと 大島 誠 小売業大手がオムニチャネル戦略を表明し 必ずしもそうではない。筆者は「接点」と解 始めてから約半年、2014 年はオムニチャネ 釈している。お客さまと接点を持つときや方 ル元年と言ってもよいくらい、各社が真剣に 法そのものを「チャネル」として捉えている。 向き合い始めた。小売業と取引のある、卸売 モノを販売する「チャネル」として考え 業や消費財メーカー、ロジスティックスを担 れば―小売業と生活者との接点は、もとも う物流業者、 さらには金融サービス、住民サー と1対1の関係にある「シングルチャネル」 ビスを担う自治体までもが「オムニチャネル」 だった。ここに、カタログ通販やテレビ通販 に対応する必要に迫られている。 などの新しいシングルチャネルが加わると、 筆者は、3 年以上前から、小売業の革新で 「マルチチャネル」と呼ばれるようになる。 もある「オムニチャネル戦略」を業界内に伝 1990 年代には、インターネット通販という 道者として伝えてきた。その役目はほぼ達成 新たなチャネルが現れ、リアル店舗と E コ したと考えられるが、多くの企業が、ちょっ マースサイトの両方を運営する「クリック とした誤解や異なった解釈で推し進めようと & モルタル」が流行語となった。 しているように感じられてならない。今回は、 マルチチャネルが高度化するにつれて、 オムニチャネルの基本と本質を再度解説し、 インターネットで購入した商品を店頭で受 オムニチャネル時代にどう向き合うか、その け取れたり、返品できたりするチャネル横 指針を挙げたい。 断型のサービスも生まれた。生活者から見 れば、各チャネルがクロスしているように オムニチャネルは EC を強化させることだけ ではない 見える。これが「クロスチャネル」である。 「オムニチャネル」は、クロスチャネルの もうすでに「オムニチャネル」という言葉 ようなお客さまと小売業の間に接点の矢印が はバズワードとして業界内を駆け巡っている なく、「シームレス」(縫い目がない)な関係 ので、概要はご存じであろう。ここでは詳し にある。スマホの普及が、オムニチャネル化 い解説は必要ないものの、基本に忠実にとい を加速させた。生活者はリアル店舗かネット う意味で「おさらい」をしておきたい。 通販かといったチャネルの違いを意識するこ まず「チャネル」という言葉であるが、販 となく、商品を探したり購入したりできる。 売の方法や手段と取られるケースが多いが、 この「いつでも、どこでも」が当てはまらな 2014年7・8月号 No.727 13 特 集 .1 図1 ħŌģʼnō ĮńĶʼn ŀʼnĮ ĮńĶʼn Ģŋĩ ĮńĶʼn ğłĵ ĮńĶʼn å?ïċ ¾?[{Û ![{ C3ă BR !ă¦3 ĮńĶʼnăČ U ][{ ÷øñÜā ]ă¦3Įń ĶʼnęU ][{ ÷øñĢŋĩ ĮńĶʼno_ ă¾?ō,+ }çP ĮńĶʼno_0ă,+ō ¾?ŏ¨§FqŐō¦ }ęâ ŏŐĝŃŎĨ.ĄÜNRF Mobile Retail INITIATIVEÜÞMobile Retailing Blueprint V2.0.0ßĒĔL いときは、それは単なるクロスチャネルにす 動を図式化してみた(図 2) 。ごくごく簡単に ぎないのである(図 1)。 まずはこの OL のオムニチャネル生活をのぞ 今、どちらかというと、「オムニチャネル」 いてみよう。朝、起きてから夜眠るまで、彼 戦略は、リアル店舗に対して、ネットという 女はスマートフォン(スマホ)を使っている。 新しいチャネルで売り上げ増を目指すもの 朝の情報収集に始まり、通勤途中にはスマホ だという EC ビジネスの強化をうたっている を使って買い物をする。スマホに届いた情報 専門家が大変多い。そのため、ネットの仕 で欲しい商品をチェックし、昼休みに買い物 組みやそのフルフィルメントに力を入れな を済ませる。ここで購入した商品は、 アフター いと手遅れだと説かれているケースも多く 5 のデート場所近くの店舗で受け取り、その 見受けられる。ぜひその考えをお持ちであ まま出掛ける。夜はあらかじめスマホから注 ればこの機会に改めていただきたい。チャ 文しておいた商品をコンビニエンスストアの ネルとはお客さまとの接点であり、その接 店頭で受け取り帰宅する―。 点を生活者の生活レベルで抜け目なく接す 生活そのものを考えた場合、小売業だけで ることを考えようということである。言い なく、レストラン、銀行、役所、病院等、実 方を変えれば、ネットやリアルという分け はそれら全てがチャネルなのである。つまり、 方の既成概念は取り払い、生活者が生活す これらがオムニチャネルなのである。 る場面場面をそれぞれチャネルとして捉え この OL は、普段の暮らしの中で、知らず ることなのである。今や、生活者自身はネッ 知らずのうちに多くの小売業やサービス業を トだから、リアルだからというそれぞれの 利用している。ただ一つの業態や店舗の接点 チャネルを意識していない。 だけを考えると、実は単にマルチチャネルに すぎない。分かりやすくコンビニエンススト オムニチャネルとは生活者そのもの アを例にとる。読者は 1 日に何回コンビニに オムニチャネルの本質を理解いただくため 行くであろうか。この OL は 2 回だけである。 に、ここでは、とある OL の 1 日の生活の行 日本国内に 5 万店以上あるのに、わずか 2 回、 14 日本貿易会 月報 図2 ? Checkin !! ? My (my !! ) !! SNS !! !! !! !! !! SNS ? ! 4 ? !! 1 1 !! !! !! 求められるオムニチャネル時代への対応とその仕組みづくり 2014年7・8月号 No.727 15 特 集 多分それは家の近くの同一店舗のケースが多 図3 いかもしれない。たった 1 日 2 度しか接点が ないのである。 ËÓęv 時代といえる。リアル店舗だけでなく、イン ターネットの世界だけでもない。つまり、生 活シーンの一部だけに対応するのではなく、 ËÓęv いつでも、どこでも生活者との接点が持てる mñïōĘêĘê オムニチャネル時代を企業視点で見ると、 ă ğłĵĮń ĶʼnV2 サービスを連携させることが重要なので あ る。 生 活 の 一 場 面、 一 場 面 を つ な ぐ こ と が で き れ ば、 顧 客 と の 接 点 は も っ と 増 [?ōåďüĀñ える。OL の場合、さまざまな接点がある は ず で あ り、 そ の 接 点 を 有 機 的 に 連 携 さ ロスチャネルもリアルタイム性を追求した。 せることで、「いつでも、どこでも」がさ その結果、ネットでの注文品の店舗での受 ら に つ な が っ て い く こ と に な る。 さ ら に け取りは多くなるものの、受け取りに来店し 言えば「振り向けば、いつもそばに○○○」 たお客さまへの対応が、今までと同じような という概念になる。 無機質なものであったため、お客さまは来な 逆に、一日の生活シーンを描いてみて、 くなってしまうのである。わざわざ来店した そこに顧客との接点を持たない領域がある お客さまにどう接客するのか。実は米国の小 のであれば注意が必要だ。今や新規参入組 売業は、今まさに、接客をどうしていくかに がオムニチャネルの接点のホワイトスペー 悩んでいるのである。つまり、本来日本が得 スを着実に、確実に狙っているからだ。 意としてきた「接客、おもてなし」が必要で あることは分かったが、その力不足が真のオ 米国と日本のオムニチャネルの変遷の違い 米国のオムニチャネル成熟度はどれくら ムニチャネルの姿への到達を足踏みさせてい るのだ。 いか。よく尋ねられる質問であるが、私は 図 3 は、日米のオムニチャネルの変遷の違 「足踏み状態」と答えている。そもそもクロ いを図式化したものである。日本は、本来得 スチャネルを早く実現してきた米国が、ス 意とする「接客技術」を武器に、場合によっ マートフォンの進出で「いつでも、どこでも」 ては米国より先に真のオムニチャネルの実現 という概念でオムニチャネルを推進してき に近づいていると考えている。 たのは事実である。ただし、それはどちら さらに、先に解説したようにオムニチャネ かといえば「IT(情報技術)」を駆使する ルは単にネットとリアルといったチャネル間の ことで、リアル店舗に来店を促したり、販 融合だけでなく、生活者の生活の場面場面で 売機会ロス削減のためのリアルタイム・ク の接点を考えなければならない。その点では、 ロスチャネル戦略(リアルタイム在庫管理) 多くの米国小売業のオムニチャネル戦略は百 を拡充してきた。ネット専業といかに対抗 貨店のネットとリアルといった単一業態からス するか、実店舗という武器をいかに活用す タートしている。一方日本では、 コングロマリッ るかというところに力点を置いてきたので トの流通・小売グループがグループ企業内を あり、ネットで注文して店舗で受け取るク 横断的にオムニチャネルとしての接点を考え 16 日本貿易会 月報 求められるオムニチャネル時代への対応とその仕組みづくり ている。その点では米国よりも 1 歩も 2 歩も 進んでいるといえよう。 の場合購入した店舗にするからである。 ラストワンマイルとは単に商品を渡すこと だけを考えればよいのであろうか。商品の受 オムニチャネルへの対応は、実は「人」、そして け渡しだけであれば、その専門業者(宅配業 リアル店舗 者あるいは、店頭では受け渡しの専任者)に 最近は「ラストワンマイル」という単語が 任せればよい。しかし、オムニチャネル時代 業界をにぎわせている。ラストワンマイルを のラストワンマイルを考えれば、それは必ず 積極的に発言しているのは、どちらかといえ しもそうではない。 ば配送業者側が多いのではないだろうか。 お客さまに商品を渡したり、サービスを ラストワンマイルの本質をひもとくた 提供するといった最終接点こそ、さまざま め に、 ネ ッ ト で 注 文 し た 商 品 の 受 け 取 り な接点の中で一番重要なのだ。お客さまの 時の接点について考えてみたい。通常多く 小売業や業者側への評価がそこで決まるの の 場 合 は、 自 宅 に 配 達 を す る だ ろ う。 そ である。商品をお渡しする時「ありがとう の 場 合 の、 ほ と ん ど は 配 送 業 者 に 委 託 す ございました」、「またお越しください。お る。 つ ま り、 玄 関 先 で 商 品 を 手 渡 す の は 待ちしています」等のあいさつができる。 配 送 業 者 の 従 業 員 で あ る。 お 客 さ ま が 何 単にあいさつだけではなく、世間話から、 を 注 文 し た か と か、 ど れ く ら い 心 待 ち に 商品の話等もできる。通りすがりであれば、 していたかとか等を気にすることはなく、 商品の受け渡しだけでなく、あいさつだけ 単 に 配 達 を 完 了 し、 受 領 印 を も ら う こ と でもよい。つまり、いかにお客さまと接点 だ け に 使 命 を 感 じ て い る。 不 在 の 場 合 は を持つかということが重要なのである。最 も う 一 度 配 達 に 来 な け れ ば な ら ず、 配 達 高のおもてなしとは、お客さまを最後にお 員 の 心 は 和 や か に は な ら な い。 宅 配 便 に 見送りすることである。 時 間 帯 指 定 制 度 を 導 入 し た の は、 そ れ に つまり、「人」なのである。そして、生活 より在宅率が上がることを狙ったものだ。 者との多くの接点を持てる「リアル店舗」な し か し、 何 事 も な く 配 達 が 完 了 す れ ば そ のである。オムニチャネルの本質はお客さま れ で 配 達 員 と お 客 さ ま の 関 係 は 終 わ る。 とシームレスな接点をどう持っていけるか。 宅 配 の 場 合、 ト ラ ブ ル が あ る 場 合 は 多 く そしてその接点こそが、人と人とのつながり の場合買ったお店に連絡するからだ。 となる。 一 方、 店 舗 で 受 け 取 る 方 法 は ど う だ ろ うか。店頭で商品を渡すのは店員である。 ま さ に こ の 接 点 を 小 売 業、 店 舗 と し て 大 オムニチャネル時代に何をすべきか このようにオムニチャネルとは今までの小 きく活用できるのだ。単に渡すだけでなく、 売業やサービス業の固定概念を壊すイノベー 時 に は 商 品 の 説 明 や、 ク ロ ス セ ル、 ア ッ ションである。今までの商品や、商流、既成 プ セ ル を 推 進 す る こ と が で き る。 顧 客 の 概念を、いま一度、生活者の生活レベル視点 側 も、 受 け 取 り 時 に 何 か 尋 ね る こ と が で で捉え、生活者の立場で何ができるかを考え き る し、 お 店 の 人 か ら 受 け 取 れ る と い う るべきである。今までのビジネスモデルで何 安 心 感 が あ る。 し か し、 そ の 半 面、 何 か を残し、何にイノベーションを起こすか。今 トラブルになると店で対応しなければな こそ考えなければならない。なぜなら、生活 ら な い。 お 客 さ ま の 問 い 合 わ せ は、 多 く 者は常に変化しているのだから。 JF TC 2014年7・8月号 No.727 17