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実験動物施設における デマンド・コントロール換気の実践研究

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実験動物施設における デマンド・コントロール換気の実践研究
日本実験動物学会 維持会員懇談会
【話題提供】
動物実験を取り巻く、施設、器材、技術の新潮流
実験動物施設における
デマンド・コントロール換気の実践研究
2015年11月27日(金)
アズビル(株)ビルシステムカンパニー
石原 正也
研究メンバー
公益財団法人 実験動物中央研究所
伊藤豊志雄、井上貴史、岡原則夫、小倉智幸、何裕遥、
齋藤宗雄、富山香代、日置恭司、水澤卓馬
千代田テクノエース株式会社
須藤芳彦、村木淳也
アズビル株式会社
石原正也、木原正裕、五所尾康博、三枝隆晴、
染谷博行、藤田俊二、藤田雄三
(敬称略、五十音順)
2
目次
A)
はじめに
B)
施設概要と研究方法
C)
空気質の計測
D)
換気回数と空気質の相関調査
E)
デマンド・コントロール換気の試行
3
A)
はじめに
B)
施設概要と研究方法
C)
空気質の計測
D)
換気回数と空気質の相関調査
E)
デマンド・コントロール換気の試行
4
1.実験動物施設の悩み
エネルギー使用量が大きく、ランニングコストが高い
 運転時間が長い(24時間運転)
 室内環境(温度・湿度・清浄度)要求が厳格
 換気回数(外気導入量)が多い
省エネルギー対策は、実験動物施設における重要な課題
5
2.換気回数に関する指針(1/2)
National Institute of Health
Design policy and guidelines (2003)
 小動物:15 ACH以上
ただし、換気式ケージラックなら 10 ACH以上
 大動物:15 ACH以上
日本建築学会
実験動物施設の建築および設備 (2007)

6 ~ 15 ACH
(給排気の方式によって適正値を選択)
ACH: air changes per hour
(換気回数の単位[回/h])
6
2.換気回数に関する指針(2/2)
National Research Council
Guide for the Care and Use of Laboratory
Animals 8th edition (2011)

10 ~ 15 ACH は無難な指針

VAV(可変風量装置)システムでは、
熱負荷やその他の変数に従って、
換気回数を変更できるようになっている。
このようなシステムでは、柔軟性や省エネルギーに
関して、大きな優位性をもたらす。
デマンド・コントロール換気(Demand Control Ventilation)
と呼ばれる手法が推奨されはじめている
7
3.デマンド・コントロール換気とは
Demand Control Ventilation (DCV)
部屋の使用状況や、空気の汚れ具合など、その時々の要求
(デマンド)に応じて、適切な量の換気を行う手法
例えば・・・
動物が多い時は換気量を増
やして、動物が少ない時は換
気量を減らす
床敷交換中や直後は換気
量を増やして、その他の時間
帯は換気量を減らす
換気量を「常時一定」から「状況に応じて柔軟に可変」させる方向へ・・・
8
4.本研究の目的
Guide for the Care and Use of Laboratory Animals
8th edition (2011) には、コンセプトのみが記載。
具体的手法については明かにされていない。
 「熱負荷やその他の変数」とは何か?
• 飼育室内の空気質(CO2, 粉塵, NH3)
• 動物収容数
• 飼育作業(観察、ケージ交換、室内清掃)
 どの程度の空気質なら十分なのか?
 どのように換気回数を決めればよいのか?
デマンド・コントロール換気の具体的手法の確立を目指す
9
A)
はじめに
B)
施設概要と研究方法
C)
空気質の計測
D)
換気回数と空気質の相関調査
E)
デマンド・コントロール換気の試行
10
1.建築データ
項目
データ
設計期間
2009年8月~2010年3月
施工期間
2010年4月~2011年2月
建築面積
2,800 m2
階数
地上5階
延床面積
11,500 m2
主な機能
実験動物飼育(マウス、マーモセット)
In vitro 実験
資料提供:千代田テクノエース(株)
11
2.動物飼育フロアの平面図
多目的廊下
Multipurpose Corridor
動物飼育エリア
Animal Holding Room
Clean Corridor
Auto
Auto
Auto
Auto
UP
UP
Support Area
DN
Auto
Auto
サポートエリア
DN
Auto
Auto
Auto
Auto
Auto
Auto
Auto
Auto
Auto
Clean Corridor
動物飼育エリア
Animal Holding Room
Multipurpose Corridor
資料提供:千代田テクノエース(株)12
3.動物飼育室の写真
給気口
マウス飼育室
換気式ラック
(微陽圧)
マーモセット飼育室
排気口
金網ケージ
資料提供:千代田テクノエース(株)13
4.動物飼育フロアの断面図
Lab.
Balcony
Corridor
Water Proof
VAV
Exhasut
Air Duct
Supply Air Duct
Reheat Coil
Maintenance Space
in the Ceiling
Walkable ceiling
多目的廊下
Thermal Break Metal panel Thermal Break Sash SA
Multipurpose
Corridor Out Side
Animal Cage
VA V L E
TAG
• VAV用の設備廊下
• 見学者および作業者の通路
• 外気に対する熱バッファー
VAV
A IR FL O W
Pair glass Animal Holding Room
Clean Corridor
EA
資料提供:千代田テクノエース(株)14
5.事前の準備と検証
デマンド・コントロール換気の実践を見据えて・・・
 各室の換気回数を自在に設定できる空調システムを導入
Communication
with BAS
Ventilation rates
Airflow
Room pressure
ON/OFF
Intercommunication
Pressure
sensor
Alarm
Supply VAV
Exhaust VAV
(Pressure control)
 換気回数を変更しても、以下を満足することを性能検証
 均一な温度分布
 安定した室圧の維持
上記は、2014年のASHRAE(米国暖房冷凍空調学会)ウィンターカンファレンス
(於:ニューヨーク)で発表済み。[文献番号:NY-14-C0009]
The First Step of Demand Control Ventilation in an Animal Facility in
Japan: Design and Commissioning for Flexible Ventilation
15
6.段階的なアプローチ
「マウス飼育室」と「マーモセット飼育室」、各1部屋を
選択して、以下のアプローチでDCVの試行を実施した。
空気質の計測
複数個所における複数項目(※)の空気質を、連続的に
計測できるシステムを導入して、長期の計測を実施
換気回数と空気質の相関調査
換気回数を手動で変更し、換気回数と空気質の相関を調査
デマンド・コントロール換気の試行実施
空気質の計測値による換気回数の自動制御を実施
※
・二酸化炭素
・粉塵
・総揮発性有機化合物(TVOC: Total Volatile Organic Compounds)
16
A)
はじめに
B)
施設概要と研究方法
C)
空気質の計測
D)
換気回数と空気質の相関調査
E)
デマンド・コントロール換気の試行
17
1.空気質に関する指針
日本建築学会編
実験動物施設の建築および設備 (2007)より
環境要因
塵埃
清浄度
環境条件の基準値
ISOクラス7(NASAクラス10,000)
(動物を飼育していないバリア区域)
落下細菌 3個以下※(動物を飼育していないバリア区域)
30個以下(動物を飼育していない通常の区域)
臭気
アンモニア濃度で20ppmを超えない
注)※9cm径シャーレ30分開放(血液寒天48時間培養)
18
2.システム構成
Supply
VAV
- CO2
- 粉塵
- TVOC
多目的廊下
換気回数
コントローラ
吸引
ポンプ
Exhaust
VAV
電気信号
詳細別図
マウス
空気
センサ
スイート
3F
Supply
VAV
エアデータ
ルーター
Exhaust
VAV
ISS
ISS
詳細別図
マーモセット
2F
 測定個所の空気を専用ケーブルとポンプで微量吸引して、センサーユニットで計測
 吸引先を周期的に自動切替して、1台のセンサーユニットで複数個所の空気を計測
19
3.飼育室内の計測箇所
飼育室内の詳細図
マーモセット飼育室
Nothing HEPA
b
a
Supply
・ ・ ・
Room Exhaust
a. Supply Air
b. Room Exhaust Air
 給気口の直下を計測
 室内の壁面とVCR排気ダクトを別々
に計測(排気が合流するため)
 給気口の直下を計測
 排気ダクトを計測
(室内空気の代表指標として)
20
4.計測内容
 動物搬入前の事前計測 【2011年11月~2012年1月】
 人(無塵衣に更衣)の入退室
 アルコール(70%エタノール)噴霧
 次亜塩素酸ナトリウム(300ppm)モップ清拭
 二酸化塩素(商品名:エクスポア)噴霧
→ 上記による、各計測値の変動の程度を事前に確認
 動物飼育状態での計測 【2012年2月~2012年12月】
 換気回数は12回/hで固定
 データ更新周期1分で連続計測を実施
 飼育動物の匹数・ケージ数を記録(by実中研)
 作業時刻および作業内容を記録(by実中研)
→ 各計測値の特性を把握するため、長期の計測を実施
21
5.計測データ(1/2)
マウス飼育室
マーモセット飼育室
CO2
ケージ交換
1week
1week
粉塵
ケージ交換
22
5.計測データ(2/2)
マウス飼育室
マーモセット飼育室
TVOC
アンモニア濃度:約5ppm
(別途計測データによる)
ケージ交換
 マウス飼育室の作業は計測値に顕著に表れる
CO2:作業者の呼吸による若干の上昇
粉塵:ケージ交換とアルコール噴霧による急激な上昇
TVOC:床敷交換による周期的なリセットと経時変化
 マーモセット飼育室の作業は計測値に表れにくい
 TVOC計測値は他チャンネルの影響を受ける
(アンモニア等成分のケーブル共通部への残留)
23
A)
はじめに
B)
施設概要と研究方法
C)
空気質の計測
D)
換気回数と空気質の相関調査
E)
デマンド・コントロール換気の試行
24
1.調査方法
 換気回数の手動変更 【2013年1月~2013年2月】
 2週間ごとに手動で換気回数を変更
 期間中の動物飼育匹数(居住率)を一定に維持
• マウス:50%(2/4ラック)
• マーモセット:100%(24/26ケージ)※2ケージは予備
マウス飼育室
マーモセット飼育室
15
換気回数
[ACH]
12
12
9
9
6
6
(注)マーモセットは空調設備の容量制約のため15ACHは実施できず
設計条件:各室は最大15ACH, 空調設備容量は全室12ACH相当分
当時運用:1/3の飼育室が14ACH, 2/3の飼育室が12ACH
25
2.計測データ(1/4)
マウス飼育室 【CO2】
15ACH
12ACH
9ACH
6ACH
1week
26
2.計測データ(2/4)
マウス飼育室 【粉塵】
15ACH
12ACH
9ACH
6ACH
27
2.計測データ(3/4)
マーモセット飼育室 【CO2】
12ACH
15ACHは未実施
9ACH
6ACH
28
2.計測データ(4/4)
マーモセット飼育室 【粉塵】
12ACH
15ACHは未実施
9ACH
6ACH
29
3.データの考察
 計測データのグラフからわかること
 一見しても換気回数による顕著な差異は見当たらない。
 換気回数以外の要因による変動が大きい。
(外気の変動、動物の活動、飼育作業、等々)
 知りたいこと
 部屋の換気回数とケージ内の空気質(ミクロ環境)あるいは
飼育室の空気質(マクロ環境)に、どんな相関があるか?
 原理的な推論
 換気式ケージラック(VCR)風量は不変なので、VCR排気濃
度には部屋の換気回数との相関は無いだろう。
 給気と室内(or室排気)の濃度の差分値は、ガス状・微粒
子状物質が希釈されずに滞留している程度を反映するため、
濃度差分値には部屋の換気回数との相関があるだろう。
30
4.VCR排気濃度との相関
(VCR: Ventilated Cage Rack)
マウスVCR排気
ヒストグラム
平均と標準偏差
CO2
粉塵
31
5.給排濃度差分との相関(1/2)
マウス飼育室(室内-給気)
マーモセット飼育室(室排気-給気)
CO2
ヒストグラム
粉塵
32
5.給排濃度差分との相関(2/2)
マウス飼育室(室内-給気)
マーモセット飼育室(室排気-給気)
CO2
平均と標準偏差
粉塵
33
6.相関調査の結果
 換気回数の手動変更でわかったこと
 VCR排気濃度と部屋の換気回数には、相関が無い。
⇒ 飼育室の換気回数を変えても、ケージ内の空気質
(ミクロ環境)には影響しない。
 給気と室内(or室排気)濃度の差分値と
部屋の換気回数には、有意な相関がある。
⇒ 給気と室内(or室排気)濃度の差分値を用いて、
その時々の状況に応じた適切な換気回数を決められる
可能性がある。
リアルタイムの空気質計測データによる、
デマンド・コントロール換気の試行へ
34
A)
はじめに
B)
施設概要と研究方法
C)
空気質の計測
D)
換気回数と空気質の相関調査
E)
デマンド・コントロール換気の試行
35
(再提示)システム構成
Supply
VAV
- CO2
- 粉塵
- TVOC
多目的廊下
換気回数
コントローラ
吸引
ポンプ
Exhaust
VAV
電気信号
詳細別図
マウス
空気
センサ
スイート
3F
Supply
VAV
エアデータ
ルーター
Exhaust
VAV
ISS
ISS
詳細別図
マーモセット
2F
 測定個所の空気を専用ケーブルとポンプで微量吸引して、センサーユニットで計測
 吸引先を周期的に自動切替して、1台のセンサーユニットで複数個所の空気を計測
36
1.制御ロジック
センサースイートより
Room Inside Air (マウス),
Room Exhaust Air (マーモセット)
換気回数コントローラ
CO2
[ppm]
Supply Air
 CO2と粉塵の各計測値から、
粉塵
[#/CF]
差分
換気回数 [ACH]
差分
・室排気と給気(マーモセット)
換気回数 [ACH]
12
の差分を演算
12
PI制御
6
・室内空気と給気(マウス)
PI制御
6
設定値
計測値差分 [ppm]
設定値
計測値差分 [ppm]
 上記差分値によるPI制御
 各PI制御のハイセレクタ演算
 給気VAVに対して、15分毎に
換気回数設定出力を更新
ハイセレクタ
15分毎更新
換気回数指令出力
給気VAVへ
37
2.実施方法
 デマンド・コントロール換気の試行 【2014年1月~2014年2月】
 2週間ごとに設定値(SP)を変更してDCVを実施
 各PI制御の設定値(SP)は、12ACH(実中研における
従来の換気回数)における計測データをもとに算出
DCVモード
設定値
SP low
μ+σ
SP middle
μ + 3σ
SP high
μ + 5σ
μ: 12ACHにおける測定データの平均値
σ: 12ACHにおける測定データの標準偏差
38
3.実施結果(1/2)
マウス飼育室
SP low
SP middle
真夜中
SP high
【結果と考察】
 夜間に換気回数が増える
 飼育作業中に換気回数が増える
 設定値によって、換気回数の振る
舞いが変わる
 「最適」な設定値については要検討
39
3.実施結果(2/2)
マーモセット飼育室
SP low
SP middle
真昼
SP high
【結果と考察】
 昼間に換気回数が増える
 飼育作業の影響はあまり無い
 設定値によって、換気回数の振る
舞いが変わる
 「最適」な設定値については要検討
40
4.換気回数削減効果
マウス飼育室
マーモセット飼育室
換気回数のヒストグラム
風量積算値の従来(12ACH)比
約20~50%(設定による)の
省エネルギー可能性が示された
41
5.DCV試行の結果
 結果のまとめ
 動物の概日リズム(生体リズム)やケージ交換等による
作業に応じて、自動制御により換気回数が増減した。
 DCV設定値を変えることで、換気回数の振る舞いは変化した。
 約20~50%の省エネルギー可能性があることが示された。
(なお、室温や室圧が正常に維持されていたことも確認済み。)
42
6.動物および人に対する影響(1/2)
 動物に対する影響(by実中研)
 対象動物(マウス)
・免疫不全系統:NOG/Jic【SPF】
・既存系統 :IQI/Jic【SPF】
 繁殖成績(オス1匹、メス1匹の連続交配)
系統
NOG/Jic
IQI/Jic
飼育
方式
経産回数
A
4産合計
B
出産数
(%)
産子数
(平均)
離乳数
(%)
400
275(68.8)
2094 (7.6)
2029(96.8)
5.1
4産合計
96
64(66.7)
456 (7.1)
418(91.7)
4.3
A
4産合計
652
432(66.3)
4949(12.2)
4549(91.9)
7.4
B
4産合計
160
101(63.1)
1061(10.5)
972(91.6)
6.1
飼育方式:A
アイソレータ
(従来方式)
♀親数
(匹)
生産
指数
飼育方式:B
換気式ラック
(DCV実践対象)
⇒ 飼育方式や換気回数による著しい変化は見られなかった。
43
6.動物および人に対する影響(2/2)
 動物に対する影響(by実中研)
 微生物モニタリング
2012年2月~2015年6月の期間中、合計40回実施
培養:ⅠⅡⅢⅣ、血清:ⅠⅡⅢ、鏡検:ⅠⅡ、PCR:H.h H.b
追加規格:Bordetella hinzii、Cornebacterium Bovis、Murine Norovirus他
⇒ 結果は全て陰性であった。
 人に対する影響(by実中研)
マウス飼育室:
 6ACH時に少しこもったような感じがしたが、著しい変化では無かった。
 15ACH時には爽やかさを期待したが、自覚できる変化は無かった。
マーモセット飼育室:
 臭いが常時部屋にしみついている。
ケージ清掃後の数日は若干臭いが減るが、数日でいつもの臭いに戻る。
 換気回数を減らした時には、臭いが減っている期間が普段よりも短かった。
ただし、普段の臭いに戻ってしまうと、その臭いの程度は普段通りであった。
44
ま と め
 共同研究の成果
 空気質の計測値を用いたデマンド・コントロール換気について、
ある一つの具体的なかたちを示すことができた。
 デマンド・コントロール換気によって、大きな省エネルギー
(風量ベースで20~50%)の可能性があることが示された。
 今後の展望
 最適なDCV設定値の検討(空気質 ⇔ 省エネ)
 異なる飼育方式(個別換気ケージ、陰圧ラック・・・)や、
異なる動物種における、適切な計測および制御方法の検討
 デマンド・コントロール換気の商品化
45
ご清聴ありがとうございました
実験動物施設の省エネルギー
推進のために、本講演が何らか
のご参考になれば幸いです。
46
Presented by
Fly UP