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Nagasaki University`s Academic Output SITE
NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
Title
スイッチング電源における高調波低減と高効率化に関する研究
Author(s)
関根, 正興
Citation
(2007-03-20)
Issue Date
2007-03-20
URL
http://hdl.handle.net/10069/7271
Right
This document is downloaded at: 2017-03-30T17:38:47Z
http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp
第1章
1.1
緒論
緒言
電気機器、電子機器(以下単に電子機器とする)を動作させるためには
それらの機器を構成している要素;電子回路、動力用回路、表示素子等が
要求する電力を供給しなければならない。一例として図 1-1 に PDP テレ
ビの場合の電源構成例を示す。そして、それらを動かす動力源は電力会社
から供給される商用電力がほとんどである。携帯機器には電池が使用され
ているが、それらを充電するためには商用電力が使用される。商用電力や
蓄電池などの電力を必要な直流電力に変換するものがスイッチング電源で
ある。表 1-1 はスイッチング電源が用いられる用途分類 (1) であり、あらゆ
る電気・電子機器に用いられていることがわかる。
またIT・通信機器の場合、実際に仕事をするのは 5V 以下の低電圧で
作動する CPU や LSI であり、商用電力を受電し整流・電圧変換後直流電
圧(通信機器の場合は 48V が一般的で,コンピュータでは 200V 程度)を
給電し CPU や LSI の近傍で必要電圧に変換する方法 POL(Point of load)
がとられる。図 1-2 に IT 機器の場合の給電方法例 (1) を示す。
一方、今日では化石燃料の使用削減、環境保護の観点から太陽光発電や
風力発電といった自然エネルギーを利用した発電電力が一部で使用されて
おり、これらから効率良く電力を取り出すためにもスイッチング電源が用
いられている。
電子機器が必要とする電圧は今日の CPU や LSI 用の1∼2V と低電圧も
あれば、X線の電源のように 100kV を必要とする装置もあり、電力も数ワ
ットから数キロワットと多岐にわたっている。
スイッチング電源が利用されるようになってから約 40 年が経過し,こ
の間スイッチング電源は日々性能を向上させ電子機器の小型・高効率化に
寄与してきた。また、多くの電子機器に用いられるようになり、さまざま
な問題も発生してきており、それらに対する規制も強化されている。
本研究は多くの電子機器に使用されるスイッチング電源に要求される技
術的課題を明らかにし、その解決策について着目し、実用性に主眼をおい
1
て行ったものである。
この論文は全5章から構成されており、
第 1 章にてスイッチング電源の全般について記述し、スイッチング電源
の歴史、要求される課題について触れ、本研究の背景となる具体的技術課
題である高調波電流の規制内容と対策回路について述べる。次いで高効率
化策として用いられているソフトスイッチングやアクティブクランプにつ
いての概要を述べる。
第2章では高調波対策と電力変換を 1 つのスイッチング素子で行う低コ
ストを狙った回路提案であり,解析とシミュレーションおよび実験によっ
て有効性を確認するとともに実用化のための設計指針を示している。
第3章は電荷蓄積ダイオード CSD を用いたスナバ・エネルギー回収に
よる効率改善策の提案である。CSD は蓄積電荷が大きくなるよう製作され
ており、スイッチング素子のターン・オフ時に回路のインダクタンス成分
に溜まっているエネルギーをスナバ・コンデンサに蓄えた後,蓄積時間に
励磁インダクタンスとスナバ・コンデンサの共振を利用して入力に戻すこ
とができる。解析と実験によって有効性を証明し実用化のための設計指針
を示している。
第4章は三相交流入力に対し、高調波抑制を簡易的に行う回路と駆動手
段についての提案である。三相ブリッジ整流回路のローサイドの整流素子
と並列にスイッチング素子を接続し、三相入力の各ラインに昇圧用チョー
クを挿入する簡素な回路でスイッチング素子はローサイドのため駆動が単
純であり,制御信号も三相同一であり、従来の三相回路用高調波抑制回路
に比べ著しく簡単になり低コストになる。電流不連続で動作させるため
1kW 程度までの小容量の用途に適している。提案回路について実験により
有効性を確認している。
第5章は以上を総括した結論である。
2
1.2 スイッチング電源の概要
(1) スイッチング電源の歴史
今日では多くの電子機器にスイッチング電源があたりまえのように使用
されているが、スイッチング電源の誕生以来日夜技術開発が行なわれ,今
日に到っている。そしてスイッチング電源の歴史は半導体技術の発展とと
もに歩んできた、といえる。表 1-2 に半導体とスイッチング電源の歴史を
示す。
米国 Shockley が半導体の増幅作用を発見し、1948 年にトランジスタが
発明され (2) 、1958 年には GE 社によってサイリスタ(当時は SCR と呼ん
でいた)が商品化 (3) された.その後 GTO,パワーMOSFET,IGBT,SIT
といった電力用の半導体素子が次々と誕生してきた.
一方,1958 年に集積回路が発明され、アポロ計画によって電子計算機が
誕生・発達していった。IC の実用化当初は論理回路やフリップ・フロップ
といった単純なデジタル回路であったがオペアンプやコンパレータといっ
たアナログ回路に展開され、さらに電源の制御用 IC、CPU、LSI と集積密
度が飛躍的に高まり今日の LSI のデザインルールは 65nm を実現している
(4) 。
スイッチング電源の研究は NASA が始めた、とされており、初期はバイ
ポーラ・トランジスタが利用され、電力変換周波数も1kHz 程度であった。
フィルタやトランスを小型化するため変換周波数が年々上昇していき
1970 年代初期に 20kHz まで上昇し無音化を達成した。変換周波数の上昇
には半導体素子(トランジスタや整流素子の蓄積時間の短縮)の高速化、
オペアンプやフリップ・フロップなどの集積回路の登場によってフィード
バック制御や駆動の高速化が大きく寄与した。
スイッチング電源が登場した頃は変換周波数も低く動作音があり、ノイ
ズを放出するため利用は少なかった。1973 年のオイルショックにより、変
換効率の良さが見直され、無騒音化とあいまって次第に使われるようにな
った。
1970 年代後半には MOSFET が出現し高速スイッチングが可能となり、
駆動も容易なことから急速に普及していき、今日ではほとんどの電子機器
3
用のスイッチング電源に用いられている。
1980 年代中頃には変換周波数は数百ワットの容量で 100kHz を実現す
るようになった。また、バイポーラ・トランジスタと電界効果トランジス
タ(MOSFET)とを組み合わせた IGBT が実用化され、数 kW 以上の容量
の電力変換では GTO に代わって使われるようになった。
1990 年に入るとトレンチ構造の MOSFET が登場しオン抵抗の低下が図
られ、容量の大きな領域でも MOSFET が用いられるようになった。さら
に、1990 年代の終わり頃には耐電圧が 500V 以上でのオン抵抗が、従来の
半分以下になるスーパージャンクション構造の MOSFET (5) が登場し、一層
の大容量の用途にも用いられるようになった。
2000 年代になると SiC を使用したショット・ダイオードが実用化され、
電圧の高い回路での変換周波数アップの妨げとなっていた、整流ダイオー
ドの蓄積時間の問題が改善し、回路電圧 DC400V 程度以上での変換周波数
は 100kHz を越えることが可能となった。また,低電圧での MOSFET は
微細化が進みオン抵抗が低下し、低電圧出力回路の同期整流用に使われ、
1∼2V 出力においても高効率を実現できるようになった。
1980 年代中頃、大容量のスイッチング素子(サイリスタ、GTO、IGBT)
のスイッチング速度は遅く、電力変換周波数は 1kHz から数 kHz が限界で
あった。これらの素子を高周波で動作させ小型・高効率を実現させるため
にスイッチング損失の低減が可能な共振回路の研究が盛んに行われるよう
になった。そして、共振回路はスイッチングが緩やかになるため電磁雑音
の放出が少ない、という利点もあり大容量ばかりでなく小・中容量への利
用の研究が行われるようになった。
今後は SiC や GaN を利用した FET が出現し、小形・高効率、高速化が
進 み 、 一 方 制 御 面 に お い て は デ ジ タ ル 制 御 (6)(7) の 高 速 化 に よ り ス イ ッ チ ン
グ電源の高機能化が推進されていく、と推測される。
(2)
スイッチング電源に対する規格および求められる事項
スイッチング電源はあらゆる電子機器に用いられている、といっても過
言でない。スイッチング電源は機器が必要とする所定の電圧に変換するも
ので、多くは商用電源に接続される。そのため多くの規定;安全規格、EMC
4
規格、環境規定、省エネ規定等に適合するように開発・設計しなければな
らない。そして、電子機器は一般消費者に広く利用されるコンシュマー用
と特定ユーザーに使用されるプロフェショナル用とがあり、適用される規
格や限度値が異なり、それぞれに適した回路設計・開発が必要であるが、基
本的な考え方は同じである。
①安全規格
一番重要なのは安全規格であって機器の種別毎に規定されており、IT 装
置、AV 装置の場合、表 1-3 に示す各国の安全規格に適合しなければなら
ない。適合の証明には自己証明と第3者認証そして強制認証があるが、第
3者認証が一般的であり、適合が認められた製品には認証ラベルを外観か
ら認識できる位置に貼らなければならない。また、認証ラベルのない製品
の販売は原則として出来ない。
これらの規格は法律または法律に準じる規定となっており、消費者に対
して感電や火災といった人の生命や財産に影響を及ぼす事故を未然に防止
することが目的である。通常の使用ばかりでなく、日常まれに起こりえる
事柄;幼児が針金で触れた場合や異物の混入、日常発生することが想定さ
れる程度の衝撃等においても規定されるが、機器の破損や故障は許容され
る。破損した結果、感電や火災の発生がないばかりでなく充電部の露出に
よる感電の危険があってはならない。
これら規格への適合は製品に対して要求されているが、電子機器の場合
は事実上製品内にエネルギーを供給している電源がほとんどの責務を負う
事になる。したがって単に機能を満足させるだけでなく安全に配慮した設
計が求められる。特に故障時においては安全側にとどまるような設計でな
ければならない。
②EMI(Electro Magnetic Interference)規制
変換周波数の上昇に伴い、高速スイッチングによる無線周波障害が発生
し、IEC にて規制の検討が行われるようになった。IEC 国際無線障害特別
委員会(CISPR; 仏語 Comite International Special des Perturbations
Radioelectriques)は 1985 年 9 月に「情報処理装置および電子事務用機
器等から発生する妨害波の許容値と測定法」についての勧告(Publication
5
22)を行った。日本では、
「 情報処理装置等電波障害自主規制協議会」
( VCCI;
Voluntary Control Council for Interference by Information Technology
Equipment)が設立され,
自主規制規格 VCCI 規格を作成し、日本製電子機器のほとんどは適合する
ように製作されている。
③ 高調波規制
無線周波への妨害電波放出抑制とほぼ平行し、急増した電子機器が電力
系統に流す高調波電流によって起こる障害防止のため、IEC で規制が検討
され IEC555-2 (8) が発行された。この規格はかなり緩やかなもので、配電系
の電圧歪みの抑制効果はあまり見られなかった。そこで 1986 年より大幅
見 直 し 作 業 に 入 り 、 限 度 値 の 強化 と 対 象 機 器 の 拡 大 の 審 議 が 始 ま り 1994
年に全面改訂版 IEC1000-3-2(IEC ではその後規格番号を 60000 代に統一
し 61000-3-2 となる)が発行された (9)(10) 。この規格はその後修正・改定さ
れ現在の最新版は 61000-3-2Ed2 となっている。
電磁雑音妨害と高調波抑制に電子機器に対する外部からの電磁界の放射
に 対 す る 許 容 性 を ま と め て EMC( 電 磁 両 立 性 ) と し IEC の 技 術 委 員 会
TC77 にて審議されている。TC77 の下部組織 SC77A が低周波,SC77B が
高周波を扱っている。図 1-3 は IEC の EMC 審議組織を示したもので、表
1-4 に主な国の EMC 規格を示す。
日本においては 1979 年より(社)電気共同研究会において高圧配電系統
における高調波の発生・障害,対策について検討を開始し、その後「電力
利用基盤強化懇談会」において 1987 年に電圧歪みを特高系 3%、6.6kV 配
電系 5%を目標とすることが妥当、と提言された (9)(11) 。これを受けて 1989
年に資源エネルギー庁から高調波ガイドラインの検討要請が(社)日本電
気協会にあり 1990 年より検討が開始され、IEC 規格に準じた高調波限度
値を定め、高調波抑制ガイドライン (12) が 1994 年に発行された。強制力の
ない自主規制であったが、日本の工業会はガイドラインに沿った高調波抑
制に取り組み (13)3年後には新規販売の規制対象となるほとんどの製品に対
策が採られるようになった。ガイドラインは 2003 年 12 月に JIS 化(JIS
C1000-3-2)され、ガイドラインは 2004 年 9 月に廃止された。JIS も修正・
6
改訂が行なわれ現在の最新版は JIS C61000-3-2 ed2 (2005.03)であり、表
1-5 に高調波限度値を示す。クラス分類は下記のように製品別になってい
る。
クラスA 平衡 3 相機器および下記以外
クラスB 手持ち電動工具,プロ用でないアーク溶接機
クラスC 照明機器,
クラスD* パソコン、パソコンモニター,テレビ、
インバータ制御の圧縮機を搭載する冷蔵庫
* クラスDにおける特殊な電流波形の機器は削除され品目指定となっている。
インバータ制御冷蔵庫は日本のみとなっている。
これらの中で同時使用性の高い照明機器の限度値が厳しく、同時使用性
が低く長時間の使用が少ないクラスBが緩やかとなっている。
表 1-6 は日本とIECの高調波規制の動きを整理したものである。
④ 環境対策
地球温暖化防、環境汚染等の環境保護の観点からもさまざまな要求があ
る。それらの主なものを下記に示す。
・有害6物質の使用禁止
鉛、六価クロム、水銀、カドミウム、ポリ臭化ビフェニール類(PBB)
、ポリ臭化ジ
フェニルエーテル類(PBDE)
・フロン使用禁止
プリント基板の半田付け後のフラックス洗浄に使われていた。
・省エネルギー
有 害 6 物 質 の 使 用 禁 止 に つ い て は 欧 州 で の RoHS ; Restriction of
Hazardous Substances 規制があり、日本や中国においても同様の規制が
課せられる予定であり、日本の電子機器製造会社ではほぼ対応が完了して
いる。この規制はすべての使用部品や、生産時の使用材料、製品出荷時の
梱包材に至るまですべての工程において使用する材料を調査・検査し有害
物質が含まれていない事を確認・証明しなければならない。
最近では省エネルギーに対する要求が強まってきている。日本では改正
省 エ ネ 法 (14) が 施 行 さ れ ト ッ プ ラ ン ナ 方 式 (15) に よ る エ ネ ル ギ ー 消 費 の 抑 制
7
が求められている。米国ではエナジースター (16) 、カリフォルニア州の電気
機器のエネルギー効率に対する規制 (17) ,プラス 80 (18) といった規制・規格が
実施・発行されており、稼動時のみならず待機時までが対象となっており、
スイッチング電源が果たす役割が重大になってきている。そして,定格時
の損失だけでなく軽負荷時や待機時まで低損失が要求される。
⑤ 小型・高効率化
電子機器に限らず、すべての機器は小型化・高効率が常に求められてお
り、永遠のテーマでもある。電子機器において信号を扱う部分はデジタル
化によって年々小型化されてそのスピードは著しく、ムーアの法則*に代
表されるようにその集積度の向上は目を見張るものがある。図 1-4 は LSI
のプロセスルールの推移を示す (4) もので、小型化が進んでいることを示す。
*
ム ー ア の 法 則;米 国 イ ン テ ル 社 の 創 設 者 の 一 人 、Gordon Moore が 1965年 に 経 験 則 と し て 提 唱
し た 『 半 導 体 の 集 積 密 度 は 18∼ 24ヶ 月 で 倍 増 す る 』 と い う 法 則 。
一方スイッチング電源は電力を扱うため熱の発生・放熱、絶縁距離の確
保、安全規格適合といった課題から小形化の速度は LSI に比べると極めて
遅い、と指摘されている。しかしながら、地道な努力により少しずつであ
るが小型化は進んでいる。図 1-5 にスイッチング電源の小型化の推移を示
す (1) 。歴史の古い交流入力での 5V 出力では小型化の速度は緩やかである
が、直流入力で 2.5V 出力では小型化の速度は著しいものがある。
スイッチング電源の小形化の有効な手段として,変換周波数を上げフィ
ルタの小形化を図るのが一般的な方法だが、そのためには負荷の過渡変動
時の電圧変動を抑えるため高速応答が必要となる。最近の CPU 用の高速
化に応えるためマルチフェーズ制御が用いられている。通常のコンバータ
の 制 御 に 以 前 用 い ら れ て い た ヒ ス テ リ シ ス 制 御 (19) の 高 速 応 答 性 が 見 直 さ
れてきている。また、フィルタの小形化の手法としてリップルキャンセラ
の手法 (20) も提案されている。
以上述べてきたように、スイッチング電源は半導体素子の発展に引っ張
られて進化してきた。そして進化によって新たな問題が発生し、それらを
解決するために回路や制御などの発明・考案があり、世の中の要求に沿っ
た形で発達し今日に至っている。
8
1.3 高調波抑制対策
高 調 波 抑 制 対 策 と し て 多 く の 回 路 、 制 御 法 が 提 案 (21)(22)(23) さ れ て い る 。
図 1-6 はヒステリシスコンパレータを用いた方法 (24) で制御 IC が販売され
る前に用いられた。入力電流波形が基準波形の外側と内側に設けたヒステ
リシス幅内に入るよう制御する。
図 1-7 は 高 調 波 抑 制 制 御 用 と し て 最 初 に 発 売 さ れ た マ イ ク ロ リ ニ ア 社
製集積回路 (24) による動作説明図である。電流臨界モードで動作させるため
ピーク電流が平均値の2倍になり、容量の大きな用途では使用しにくい欠
点があった。電流ゼロでオンさせるため昇圧整流ダイオードの蓄積時間の
影響が少ないので小容量には今でも使用されている方法である。
今日では電流連続型の制御 IC が販売されており,一般に使用されてい
るが,昇圧用整流ダイオードの蓄積時間による影響が大きく、図 1-8 に示
すような補助スイッチを用いる対策回路が一部で使用されている。最近で
は SiC のショットキーダイオードが販売されるようになり,蓄積時間の問
題は解消されるが未だ高価なため利用は少ない。
以上はプリレギュレータ方式であるが後段に DC/DC コンバータを用い
る2段構成ため部品点数が増え、コストアップになる欠点があった。その
ため 1 段で高調波抑制と出電圧変換を行うシングルステージの AC/DC コ
ン バ ー タ な ど の 研 究 も 盛 ん に 行 わ れ 提 案 ・ 報 告 (23)(25)(26)(27)(28)(29) さ れ て い
る。図 1-9 は2章で詳述する、コンデンサバイパス共振リセット方式の回
路図 (23) と電流波形である。図 1-10 はディザー整流回路 (26) である。この二
つの方法は出力電圧制御用スイッチング素子のオン期間に入力を昇圧チョ
ークで短絡し電流を流す手法である。図 1-11 は MS スイッチ方式 (27) の回
路図であり、磁気結合を利用し、入力電圧の低い期間にも入力に電流を流
すことができる。これらの方法は軽負荷時の整流後の電圧が上昇するなど
の問題があり、設計も難しく実用化は限定されている。
高調波規格のクラスDが品目指定になり規制が緩和されたこともあり、
最近のテレビなどでは入力にチョークコイルを入れ電流の通流角を広げ、
規格をクリヤーする手法 (30) をとるケースも見られる。
9
1.4 ソフトスイッチング
スイッチング電源の小型化のためには変換周波数を上げ、電源の容積に
占める割合の大きなトランスやフィルタを小さくするのが有効であり、一
般に用いられている手段である。しかしながらスイッチング損失の増大や
1.2 項に記述したように、無線周波数帯に対 する妨害波の発生が問題に な
る。そこでインダクタンスとキャパシタンスによる共振回路を利用し、ス
イッチング時の電流または電圧をゼロ時にスイッチングを行う研究が盛ん
に 行 わ れ 、 数 多 く の 論 文 が 発 表 さ れ て い る (31)(32)(33) 。 共 振 回 路 で は 電 圧 ま
たは電流波形が正弦波状になるため電流または電圧のピーク値が大きくな
り、IGBT 等大容量素子を使用する用途やノイズを嫌うテレビ等の機器分
野以外での利用はあまり進まなかった。そのため、スイッチング時のみ共
振をさせる部分共振回路 (34)(35) が提案された。
部分共振回路が登場するまでは共振現象を利用してスイッチングさせる
回路を共振回路、と呼んでいたが、部分共振回路が登場してからは両者を
まとめてソフトスイッチングと呼ぶようになった。
部分共振回路の一種であるスナバ・エネルギーの回収を行うスイッチス
ナ バ (36) や ア ク テ ィ ブ ク ラ ン プ 回 路 (37) な ど も 提 案 さ れ て い る 。 補 助 ス イ ッ
チを用いて電圧をクランプさせる部分共振やスイッチスナバ回路、アクテ
ィブクランプ回路は米国特許 4,441,146 に抵触する可能性があり、実用化
は見送られる傾向にあったが、2002 年 2 月に特許が切れたため今後は使
用されていくものと推測する。
ソフトスイッチング回路はスイッチング損失を低減させる他に、トラン
スの漏れインダクタンスを共振に使用するので疎結合にできる利点がある。
一般に、トランスの漏れインダクタンスはサージ電圧やノイズの発生、
損失増大といった問題があり、できるだけ小さくする構造となっていた。
そのため 1 次−2 次間容量が大きくなり、漏れ電流が大きくなる問題があ
った。漏れ電流は感電の危険があり、安全規格で制限されている。特に医
療用機器や熱帯地方で使われる電子機器には厳しい制限がある。
トランスを疎結合にできると1次−2次コイル間を引き離すことで、静
電容量が減り漏れ電流を減らすことができる。図 1−12(a)は漏れ電流を
10
説明する図である。外部接続端子を人が触るとき、1 次側の交流電源から
1 次−2次間容量 C strage を介して電流が流れ、人体に電流が流れる。C strage
の容量が大きいほど流れる電流は大きくなるのでこの容量は小さいほど良
い。
図 1-12(b)にトランスの構造を示す.通常は①に示すようなトランスの漏
れインダクタンスを減らすため 1 次と 2 次を密接して巻き,巻数の少ない
(一般に 2 次側)コイルを巻数の多い(一般に 2 次側)コイルで挟み込む
サンドイッチ構造が用いられる。この構造では容量が増加する。②は 1 次
と 2 次を分割して巻く構造で,1 次−2 次間の距離を広げ対向長を減らし
ているので,静電容量が小さくなる,反面漏れインダクタンスが増加する。
図 1-13 はシュワルツ提案の回路 (31) 、図 1-14 は共振回路で直列共振回路
の欠点である軽負荷時に可聴周波数に入る問題を改善した回路 (33) で、並列
共振回路を設けることで,動作周波数が並列共振回路に近づくとインピー
ダンスが大きくなり,出力へ電力が伝わらなくなる。このため動作周波数
が並列共振周波数を可聴周波数限界付近とし,定常動作時は可聴周波数以
上となり動作音を無くすことができる。
図 1−15 は図 1-14 の回路を発展させた電源電圧クランプ回路で,スイ
ッチ素子の電圧を電源電圧でクランプさせる回路である。
図 1−16 は電流共振回路で、電流波形は正弦波になるが、スイッチ素子
のスイッチング時は ZVS となり部分共振動作となる。寄生容量の回収がで
き、ノイズの発生を抑制できテレビ等のAV機器に用いられている。この
電流共振回路を直列に接続した回路 (38) も提案されている。
図 1−17 はスイッチスナバ回路でスナバ・エネルギーを励磁インダクタ
ンスとスナバ・コンデンサの共振作用を利用して回収する。この回路の補
助スイッチを電荷蓄積ダイオードに置き換えると同様な効果が得られ、第
3 章にて詳述する。
11
1.5
結言
以上スイッチング電源の発達の歴史とそれに伴って発生する課題や規制、
使用者に対する安全対策や環境面からの要求事項などを明らかにし、本研
究の背景について述べ、その中から高調波対策と高効率対策の手法の一つ
として用いられるソフトスイッチングについて、提案されている回路・手
法について詳述した。
日本において新規に設計される電気・電子機器のほとんど(規制対象外を
除く)は高調波対策されたものとなっている。単相入力において,限度値が
緩やかなクラスA対象の数百ワットまでの機器やクラスD対象の小容量機
器にはチョークコイルによる電流の通流角を広めた方式が用いられ、クラ
スCや中容量(数百ワット)以上のクラスD対象の機器にはスイッチング
素子を利用した高調波抑制回路が用いられており、容量や使われる条件に
よって 1 段方式か、プリレギュレータと DC/DC コンバータの2段方式が
使い分けられている。
1 段方式は問題点も多く、用途は限られているのが現状である。2 段方
式も容量が大きくなると昇圧回路の整流ダイオードの逆回復電流による損
失やノイズの発生の問題があり、周波数を下げての設計や補助スイッチを
用いるなどの対策がとられている。
半導体による電力変換にソフトスイッチングが使用されたのはサイリス
タの転流からであり、半導体のスイッチングが登場した時から使われてい
る こ と に な る 。比 較 的 小 容 量 の ス イ ッ チ ン グ 電 源 に ソ フ ト ス イ ッ チ ン グ が
使用されるようになったのは、使用者側からの要求である小型,低コスト
化を目指す結果、変換周波数が 100kHz 程度に上昇した頃になる。電磁界
雑音やスイッチング損失の低減のため共振現象に注目されたが、電流また
は電圧が正弦波状になるため、半導体に対するストレスが大きく実用化の
妨げとなっていた。そのため、小容量においてはストレスが少なく、スイッ
チング損失を低減できる部分共振(アクティブクランプやスイッチスナバ
等を含む)が使用されている。
これからは SiC や GaN を用いた半導体素子の実用化、新しい回路や制
御方法等が考案され、スイッチング電源は進化していくものと推測する。
12
表 1-1
スイッチング電源の用途分類
汎用コンピュータ、サーバ、ワ ークステーション、パソコ
ン等各種コンピュータ機器
コ ン ピ ュ 記憶装置、ディスプレイ、プリ ンタ、ATM、POS等周
ータ機器
辺端末機器
電子交換機、伝送装置、宅内機器等有線通信機器
産 通信機器
移動体通信機器、送受信機器等無線通信機器
業
放送機器、テレメータ等通信応用機器
用
機
制御機器
器
計測機器
医療機器
その他
事務機器
民
体製造装置等制御機器
アナライザ、オシロスコープ、 半導体テスタ等各種計測機
器
CT、MRI、超音波診断装置 、血液分析器、心電図測定
器等各種医療機器
自動車用、LED表示装置、充 電器、遊技用機器、実験用
等その他機器
複写機、ファクシミリ等事務機器
テレビ(PDP,LCD 含む)、ビデオ等
生
用
FA制御機器、ロボット、NC 装置、電力制御装置、半導
AV機器
ゲーム機、カラオケ等
デジタルオーディオ、DVD プレーヤー、DVD・HDD レコー
機
ダー、電子楽器等
器 その他
アダプタ電源、住宅設備機器、他
事務機器は産業用機器と民生用機器の中間としている。
13
表1−2
年代
スイッチング電源の歴史
半導体のトピックス
スイッチング電源のトピックス
1948 トランジスタの発明
1950 年代 トランジスタ実用化
1958 サイリスタ実用化、集積回路発明
1960 年代 パワートランジスタ実用化
NASA スイッチング電源研究開始
集積回路実用化
サイリスタインバータ実用化
スイッチング電源実用化
1970 年代 パワートランジスタの大容量・高速化
スイッチング電源の変換周波数20kHz;無音化
CVCF普及
1973 オイルショック
スイッチング電源の普及始まる
MOS実用化
IGBT実用化
1980 年代
共振回路の研究盛んになる
IEC555−2発行
スイッチング電源の変換周波数100kHz
CISPR 電磁妨害波発生の抑制勧告
オンボード電源誕生
1990 年代 トレンチ構造MOSFET
部分共振回路の研究盛んになる
高調波ガイドライン発行
スーパージャンクション構造のFET実用化
IEC1000−3−2実行
制御のデジタル化始まる
2000 年代 SiC ショットキーダイオード実用化
ハイブリッドカー実用化
MOSFET微細化進む
GAN、SiC FET 実用化?
14
表 1-3 世界の主な国の主な安全規格(IT 機器,AV 機器用)
国名
国際基準
IEC
規格名
認証マーク
IEC60950
IEC60065
―
―
PSE
日本
電気用品安全法
中国
GB8898
GB4943
欧州
EN60950
EN60065
CE
米国
UL61950
UL
カナダ
CCC
CAN/CSA-C22.2 No.60950-1-03
CAN/CSA-C22.2 No.60065-03
CSA
中 国 国 家 基 準 GB(Guojia Biaozhun)規 格
表 1-4 主な国のEMC規格
規格 種
別
E
M
S
国名
欧州
日本
E
M
I
電源
高調波
規格番号
対象
EN61000-6-1(2001-10)
共 通 規 格:住 宅/商 業
/軽 工 業 環 境
EN61000-6-2(2001-10)
共 通 規 格:工 業 環 境
EN55024(1998-9)_A2(2003)
製 品 個 別 規 格:情 報
技術装置
製 品 個 別 規 格:情 報
技術装置
共 通 規 格:住 宅/商 業
/軽 工 業 環 境
VCCI
EN61000-6-3(2001-10)_A11(2004)
欧州
EN61000-6-4(2001-10)
共 通 規 格:工 業 環 境
EN55022(1994-8)_A2(1997)
製 品 個 別 規 格:情 報
技術装置
製 品 個 別 規 格:情 報
技術装置
共 通 規 格:入 力 電 流
16A 以 下
共 通 規 格:入 力 電 流
16A 以 下
米国
FCC Part 15
日本
JIC C-61000-3-2
欧州
EN61000-3-2(2000-12)_A2:2005
15
表1−5 JIS C 61000-3-2 限度値
(a) クラスA機器
高調波次数
最大許許容高調波電流* 〔A〕
n
3
2.3×(230/Vnom)
5
1.14×(230/Vnom)
7
0.77×(230/Vnom)
9
0.40×(230/Vnom)
11
0.33×(230/Vnom)
13
0.21×(230/Vnom)
15≦ n≦ 39
0.15×(15/n)×(230/Vnom)
2
1.08×( 230 /Vnom)
4
0.43×( 230 /Vnom)
6
0.3×( 230 /Vnom)
8≦ n≦ 40
0.23×(8/n) ×(230/Vnom)
奇数高調波
偶数高調波
220∼ 240V の 商 用 電 源 系 統 の 場 合 は Vnom= 230V 一 定 と す る 。
*
(b) クラスB機器
クラスA機器の 1.5 倍
(c) クラスC機器
高調波次数
基本波入力電流の百分率〔%〕
n
偶数高調波
2
2
奇数高調波
3
30×回 路 の 力 率
5
10
7
7
9
5
11≦ n≦ 39
3
(d) クラスD機器
高調波次数
電 力 比 例 値 mA/W
最大許容電流値*
3.4(230/Vnom)
2.3(230/Vnom)
5
1.9 (230/Vnom)
1.14 (230/Vnom)
7
1.0(230/Vnom)
0.77(230/Vnom)
9
0.5(230/Vnom)
0.4(230/Vnom)
11
0.35(230/Vnom)
0.33(230/Vnom)
15≦ n≦ 39
(3.85/n)×(230/Vnom)
表1
*
3
220∼ 240V の 商 用 電 源 系 統 の 場 合 は Vnom= 230V 一 定 と す る 。
16
表 1-6 高調波規制の推移
年
1981
日本
IEC
(社)電気共同研究会「配電系統の高調波障害防止
対策」報告書作成
1982
1983
IEC555-2
日本電設工業協会「低圧回路の高調波対策の調
査研究に関する中間報告」
1985
555-2A1
1987
通商産業省資源エネルギー庁長官の私的懇談会
「電力利用基盤強化懇談会(高調波問題専門委
員会)
」報告書作成
1988
(社)電気共同研究会「電力系統における高調波と 555-2A2
その対策」報告書作成
1990
高調波専門部会設置され審議開始
1991
1994
555-2A3
家電・汎用品高調波抑制ガイドライン発行
EN1000-3-2 法制化
1995
1997
IEC1000-3-2 採用
ガイドライン改訂
2000
EN1000-3-2A14
特殊波形廃止
2001
IEC61000-3-2A1Ed2
2003
JIS C1000-3-2:2003 発行
2004
9 月ガイドライン廃止
IEC61000-3-2Ed2.2
2005
JIS C61000-3-2 改定
IEC61000-3-2Ed3
17
スタンバイ
回路
∼
指令回路
AC/DC回 路
PFC回 路
フィルタ
回路
DC400
V
DC/DC
170V出 力
DC/DC
60V出 力
DC
12V
制御用
電源回路
DC/DC多 出 力
音声用
デ ジ タ ル 5V
デ ジ タ ル 3.3V
デ ジ タ ル 2V
アナログ用
±12V
図 1-1 PDPテレビの給電の例
AC/DC
コンバータ
DC48V
DC/DC
コンバータ
バスコンバータ
フロントエンド
コンバータ
中間バス
DC5∼ 12V
48V バ ス
DC/DC
コンバータ
DC/DC
コンバータ
DC1.2V 低 電 圧 大 電
流負荷
DC/DC
コンバータ
DC3.3V
POL コンバータ
(非絶縁型)
DC12V
図1−2 IT機器の給電の例
18
低電圧大電
流負荷
中電圧
負荷
TC77(第 77 専門委員会;電磁両立性担当)
SC77A 低 周 波 現 象 : ≦9kHz
WG1: 電 源 高 調 波
WG2: 電 圧 変 動
WG6: 低 周 波 イ ミ ュ ニ テ ィ 試 験 法
WG8: 電 源 周 波 数 関 連 妨 害
WG9: 電 力 品 質 の 測 定 法
SC77B 高 周 波 現 象: > 9kHz
WG10: 放射電磁界とそれによる伝導妨害イミュニティ
WG11: 伝 導 妨 害 イ ミ ュ ニ テ ィ 試 験
(WG10 の 伝 導 妨 害 を 除 く)
MT12: 静 電 気 放 電 イ ミ ュ ニ テ ィ 試 験
図 1-3 IEC での EMC 審議組織
19
LSI製造ルール(nm)
600
500
400
300
200
100
0
1990
1995
2000
2005
2010
西 暦
図 1-4 LSI プロセスルールの推移
1
出力容量体積比
0.8
0.6
0.4
0.2
AC入力5V出力
DC入力2.5V出力
0
1985
1990
1995
2000
西 暦
図 1-5
電源の小型化の推移
20
2005
2010
(A)回路図
基準値
上限値
下限値
(B)電流制御説明図
図 1-6 ヒステリシスコンパレータによる高調波抑制
21
昇圧チョーク電流
整流電圧波形
図1−7 臨界モード動作説明図
図1−8補助スイッチ付昇圧チョッパー回路
22
(A) 回路図
Voltage
50V/div
Current
1A/div
(B)シミュレーションによる電流波形
図 1-9
コンデンサバイパス共振リセット方式説明図
23
図 1-10 ディザー整流回路
図1−11
MS整流回路
24
人体に流れる電
流ルート
図1−12 漏れ電流の説明と測定方法図
計測器での
測定電流
1mm
1次
1次
2次
2次
100μ
磁気回路
磁気回路
①蜜結合トランス
②疎結合トランス
(b)トランスの巻線構造
図 1-12
漏れ電流の説明と測定方法図
25
以
T FW
Ton
図 1-13
直列共振コンバータ回路
26
変換周波数
可聴周波数限界
出力電力
図 1-14 2ポール形共振コンバータ回路図
27
(A)回路図
(B)動作波形
図 1-15 改良2ポール共振コンバータの回路図と動作波形
28
図 1−16 電流共振コンバータ回路図
図 1−17 スイッチスナバ回路図
29
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