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上腕骨近位端骨折

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上腕骨近位端骨折
上腕骨近位端骨折
担当
織田崇・土田芳彦
分類
Neer 分類と AO 分類の両者を骨折型の評価と治療法の決定に用いる。
<Neer 分類>
骨頭、大結節、小結節、骨幹の 4 つの部分の転位の有無と組み合わせによる分類である。
治療方針の決定に実用的で、骨頭への血流の予後に影響を与える因子を判定しやすい。評
価者により分類にばらつきが生じることがしばしば問題点となる。しかし、現在でも Neer
分類は世界中で頻用される分類法である。
(Neer 分類の図)
<AO 分類>
AO 分類は骨頭への血液供給を強調し、27 のサブグループに分けられる。骨折の複雑さや
治療、予後の困難さに基づき重症度の順に配列されている。Type B および Type C では骨
頭への血流障害が起こり得るとされる。骨幹部の嵌入にも目を向けている。
(AO 分類の図)
<画像検査>
原則として X 線写真は肩甲上腕関節の①AP 像、②側面像、③軸斜像を撮影する。CT は評
価者間での骨折分類のばらつきを減少することには寄与しない。しかし粉砕の程度、関節
内骨折の有無、亜脱臼の程度、関節の陥没、大結節の後方転位、小結節の骨折に関して貴
重な情報を提供し、ときには必須ともされる。
<3-part 骨折か 4-part 骨折か>
治療方針の決定において 3-part 骨折か 4-part 骨折かの違いが重要となる。この違いは
小結節の骨折の有無により決定される。小結節が骨折していなければ骨頭への血行は保た
れていると考えられ、骨頭と骨幹のアライメントを矯正し大結節の転位を整復することで
治療可能となる。小結節が骨折していると 4-part 骨折に分類され、骨頭壊死の可能性が高
くなる。
保存治療
<保存治療適応>
1. 転位の少ない大結節骨折
活動性の高い若年者:大結節の上方 5mm 未満、後方 10mm 未満の転位
高齢者:利き手側では同上、非利き手側では大結節の上方 10mm 未満の転位
2. 外科頚骨折
活動性の高い若年者:利き手側で骨幹幅の 50%未満の転位または 45 度未満の転位
高齢者:骨接触あり
3. 整復を要する骨折
肩関節の拘縮が生じることを容認した例のみ
4. 全身状態が悪い
手術または麻酔に耐えられないと判断された例
5. リハビリテーションに不都合
リハビリを行なうには弱っている、または術後の制限を理解できない記憶できない例
<保存治療>
治療のゴールは骨癒合が得られ、合併症なく肩関節機能が回復することにある。上腕骨
近位部骨折の多くは骨折部が嵌入し、転位がないと考えられるタイプである。これらの骨
折では短期間の三角巾固定により治療する。14 日以内に疼痛の許す限り早期に ROM 訓練を
開始する。Koval らは早期の治療が結果を改善することを示した。
転位のある骨折については転位の遺残が不良な結果につながると長く考えられてきた。
しかし、この考えを支持する研究の多くで、方法論的な不備が指摘されている。2-part 骨
折に対して保存治療を行なった 104 例の成績では、90%で疼痛がなく、しかも健側の 90%の
可動域が獲得されたとの報告もある。
2-part 骨折の治療
<手術適応と術式>
1. 転位を伴う大結節骨折(上方 5mm 以上または後方 10mm 以上)
キャニュレーテッドスクリューや interfragmentary suture (IFS)で固定する
粉砕例では eight figure suture で固定
2. 転位を伴う外科頚骨折(AO 11-A2;骨幹径 50%または 10mm 以上の側方転位、または
30-45°以上の角状変形:AO 11-A3 全例)
整復後安定:外固定
整復後不安定:経皮ピンニング、キャニュレーテッドスクリュー、逆行性 flexible nail
逆行性横止め式髄内釘(AO 11-A3.3 には最適)
整復不能:プレート固定、IFS(+髄内固定法)
3. 転位を伴う小結節骨折(5-10mm 以上の転位)
スクリュー and/or IFS で固定
4. 解剖頚骨折
経皮的もしくは観血的に整復しスクリュー固定、高齢者では骨頭置換
<手術治療>
典型的な 2-part 骨折は外科頚骨折または大結節骨折である。外科頚骨折は安定している
か、転位がある単純骨折か粉砕骨折かのいずれかである。
・外科頚骨折
適応に挙げた転位のある外科頚骨折は整復し内反を矯正すべきである。プレート固定や
経皮ピンニング、flexible nail(Ender 釘など)や横止め式髄内釘など種々の固定法が推
奨されている。固定法の適切な選択は、粉砕の程度や骨質、術者の経験による。高エネル
ギー外傷で受傷した、厚い皮質骨と密な海綿骨量を持つ患者は後療法が行ないやすく、粉
砕の程度と骨折部の嵌入を評価して固定法を選択する。一方、高齢者の場合には骨質が不
良なため強固な内固定が得られない場合がある。現状では決定的な固定法はない。外科頚
骨折に対する経皮ピンニング法は、Bohler が、骨質が良好で粉砕が軽度な小児例に対して
行なった報告が最初である。経皮ピンニング法を行なうためには麻酔下での徒手整復が可
能で粉砕が軽度であることが条件となる。典型的な前方凸型の転位に対しては軸方向の牽
引と前方からの圧迫で整復する。ピンの逸脱防止のため先端をネジ切りした K ワイヤーや
4.0mm のキャニュレーテッドスクリューを使用する。ピンはまず外側下方から骨頭へむけ
て 2 本刺入し、次いで前方で、より下方から骨頭後上方へ 1 本刺入する。
術後 4-6 週間の外固定を行なうが、振り子運動は可及的早期に開始する。ピンの突出に
よるトラブルがあった場合は再度ピンを皮下まで打ちこむことで対処する。術後 4-6 週間
でピンを抜去し自動運動を許可する。AO は外側より 2 本、前方より 1 本のキャニュレーテ
ッドスクリューを刺入し固定する方法を推奨している。外科頚骨折では髄内固定法を行な
うこともできるが、回旋に対する固定力と転位の進行、インプラントの突出によるインピ
ンジメントが問題となる場合がある。逆行性横止め式髄内釘によりこれらの問題の多くは
解決されるが、顆上骨折の発生に注意をはらう必要がある。高齢者の外科頚骨折では強固
な固定を行なうことができない。この解決策として Banco らが報告した heavy suture 法「パ
ラシュートテクニック」がある。5mm Dacron を腱板と骨幹の骨孔を通して骨折部を縫合す
る手技で、骨折部の嵌入と圧迫により安定を得ることができる。
アナトミカルロッキングスクリュープレートに期待が寄せられており、治療成績の報告
が待たれる。骨質が良好な転位を伴う粉砕骨折では特殊なブレードプレートを使用する。
・大結節骨折
大結節骨折は単独あるいは肩甲上腕関節の前方脱臼に合併して発生する。脱臼を伴う例
では骨片が小さく、脱臼整復後に骨片もおおむね整復されることが多い。骨片の大きさや
残存する転位の程度、腱板の完全断裂の合併の有無により手術の必要性を判断する。大結
節骨片は上方、後方に転位するが、いずれも肩峰とのインピンジメントに関与する。許容
される転位の程度には議論がある。頭上に手が届くことを要求する患者では上方 5mm 以上
または後方 10mm 以上の転位が手術適応とされている。上方ではより肩峰下インピンジメン
トを発症しやすく許容が小さい。スポーツ選手では 3mm の転位がインピンジメントに関与
することが示された。
小骨片の ORIF のためのアプローチは deltoid-splitting が理想的である。骨片が小さい
例や粉砕している例、骨質が不良な例では腱板を利用して 8 の字締結固定を行なうのが良
い。しかし、このアプローチの遠位への拡大は腋窩神経損傷の危険性のため 5cm 以内とす
べきであり、よって骨幹部へ連続する大きな骨片では整復や固定が困難となる場合が多い。
大きな大結節骨片の場合は、Deltpectral にて進入し TBW (tension band wiring)などの
IFS (interfragmentary suture)を行なう。粉砕が軽度で骨質が良好な例ではスクリュー固
定も可能である。大骨片は骨頭の後方まで転位することがあり、その場合はフックの使用
や腱板に牽引用に糸をかけることで整復位を維持できる。骨片が 10mm 未満の場合は骨片の
摘出を行なってもよいが、10mm 以上では腱板の修復が困難となるため摘出すべきでない。
・小結節骨折、解剖頚骨折
2-part の小結節骨折はまれで、後方脱臼に合併する。転位した小結節の大骨片は ORIF
が必要となる。転位した結節部の骨折には腱板損傷が関与していることがあり、骨折に対
して手術が行なわれる際に腱板修復も行なう。解剖頚での 2-part 骨折はより稀であり、若
年者ではスクリュー固定を行ない、高齢者では骨頭置換を行なう。
3-part 骨折の治療
<手術適応と術式>
転位を伴う大結節および外科頚骨折(転位の程度は 2-part 骨折に準じる)が手術の適応
である。
1、経皮的整復可能例では Percutaneous Reduction and Internal Fixation (PRIF)
2、骨質良好で骨幹端に粉砕がない例では IFS, スクリュー、髄内固定法
3、骨質良好で骨幹端部に粉砕がある例(AO 11-B2.3)では、プレート固定
4、骨質不良な高齢者では骨頭置換
<手術治療>
3-part 骨折は一般に外科頚骨折と大結節骨折の組み合わせで生じる。27%に骨頭壊死が
生じるが、骨頭のごく一部分に限局されるために通常は無症状である。ゆえに 3-part 骨折
の治療は骨頭の血行維持についてよりも、骨折の生体力学的重要性の評価に基づいて行な
われるべきである。患側上肢の機能回復を求める患者では転位した大結節の整復と骨頭の
内反の矯正が必要となる。前述した外科頚骨折の治療法と大結節のピンニングや IFS を組
み合わせて治療に用いる。嵌入した骨幹端部は通常安定しており、転位が容認できるもの
であれば保存治療を行なう。AAOS や AO は、K ワイヤーなどを用いた経皮的整復が可能な例
では、ピンニングまたはキャニュレーテッドスクリューで固定する方法(Percutaneous
Reduction and Ineternal Fixation; PRIF)を推奨している。この手技により、関節周囲
の瘢痕形成や骨頭関節部への血行障害の危険性を減少することが期待できる。この骨折の
治療成績には、大結節の転位や骨頭と骨幹の転位の程度が関連する。骨片に付着する筋に
よる牽引力を考慮することが術式の選択に重要となる。大結節は棘上筋、棘下筋および小
円筋により上方および後方へ転位する。この際、骨頭は肩甲下筋の作用により内旋し、骨
幹は大胸筋により内側前方へ偏位する。これらに三角筋による近位への牽引力が加わり骨
頭の後捻が生じる。小結節骨折では、骨片は肩甲下筋の作用で内側へ転位する。骨頭と大
結節は内転外旋位となる。骨幹は大胸筋により前内側へ、三角筋により近位へ偏位する。
これらの牽引力に耐え得る固定法を選択する必要がある。ほとんどの 3-part 骨折の展開に
は deltopectral approach が有用である。髄内固定法では deltoid-splitting を用いるこ
とができる。
・ PRIF (Percutaneous Reduction and Internal Fixation; 経皮的整復+内固定)法
3-part 骨折に対して PRIF 法を行なうためには、①熟練した技術、②良好な骨質、③粉
砕はないかあっても軽微、④治療に協力できる患者が条件となる。逆行性の外側、前方、
前外側ピンを使用する。前外側ピンが骨幹と骨頭の経皮的固定に最も一般的である。上外
側から順行性に刺入するピンを用いることもあるが、肩峰とのインピンジメントを生じる
ためにリハビリが遅滞することがある。すべてを経皮ピンニングで行なうには熟練を要す
る。Deltoid-splitting からまず結節を ORIF し、次いで直視下に外科頚を整復して経皮ピ
ンニングを行なうことで経験を積むとよい。
・ IFS (Interfragmentary suture; 非吸収糸による締結、TBW など)
IFS を併用した髄内固定法は 3-part 骨折に対する確立された治療法である。大結節の固
定に際しては骨頭にかける suture の位置を前後および上下の両方向で正確にすることが
肝要である。Suture が骨折面にかかると suture を締めこむ際に骨片が転位する原因とな
るため、骨折部の辺縁にかけるように留意する。上方への転位はインピンジメントの原因
となるため避けなければならない。骨折した結節の腱板付着部と骨折していない結節を通
して suture を通す。骨幹部の骨孔は骨折より 1-2cm 遠位で結節間溝の両側の隆起部に作製
する。Suture を 8 の字型として締めこんで締結することで、骨片への牽引力が中和される。
8 の字締結法での問題点として、締めこむ際に骨片の overlap が生じることが挙げられ
る。骨片の整復位を保持するために、骨片間の suture を骨折部を貫通して設置してもよい。
骨片側では骨孔を骨折のへりに作成し、骨折部で交差するように 8 の字締結する。これに
より締めこみの際の骨片の overlap を回避できる。
・ 髄内固定法
3-part 骨折に対する髄内固定法には、単独で行なう方法と IFS と Ender 釘を組み合わせ
る方法とがある。軸方向と回旋の安定性が得られるために後者がより好まれる。これらの
術式も熟練を要する。大結節の骨折線が関節面の辺縁にあるために骨片の転位が生じるか
もしれない。小結節骨折の場合には刺入孔の位置を変える必要はない。そのため 3-part 骨
折に対する髄内固定法は大結節骨折を伴う例よりも小結節骨折を合併する例でよい適応と
なる。Ender 釘を使用する場合には、大結節骨片と刺入孔の間に骨が存在する必要がある。
また、Ender 釘基部の穴(抜去器をつけるところ)のより基部に小さな孔を作製すること
が推奨される。この孔を通して interfragmentary suture を行なうことで外科頚骨折を固
定でき、釘の先端を大結節近位端より遠位側に保持しておくことも可能となる。
IFS と Ender 釘
髄内釘横止め
非吸収糸による骨片縫合+Ender 釘
・ プレート固定法
初期のプレートには広範囲の展開を要し、骨頭の血行障害が懸念される位置に設置され
る形状のものがあった。現在はアングルブレードプレートやアナトミカルロッキングスク
リュープレートが開発され、プレート固定が見直されている。プレート固定の適応は、粉
砕骨折例(AO 11-B2.3)で強固な固定を必要とする例である。Deltopectral にて進入し、
まず結節を interfragmentary suture 法で骨頭に固定する。アングルブロードプレートを
使用する場合には、まず透視下に骨頭へガイドピンを刺入しプレート長を決定する。ロッ
キングスクリュープレートを使用する場合には、大結節部にプレートを当て骨頭へロッキ
ングスクリューを刺入固定する。その後、骨頭を整復しプレートを骨幹部にスクリュー固
定する。骨質のよい例では、結節部の腱板付着よりプレートの suture hole の一つに suture
をかけ固定することができる。
アングルブレードプレート
4-Part 骨折の治療
<手術適応と術式>
1. Classic(AO 11-B2)
若く活動性の高い例では PRIF または ORIF(IFS、プレート固定)
他の例では骨頭置換
2. 外反嵌入型で骨質がよい、若年者、新鮮例
PRIF または ORIF(IFS、プレート固定)
3. 外反嵌入型で骨質不良、高齢者、陳旧例
骨頭置換
4. 骨頭骨折
骨頭置換
5. 骨頭陥没(>40%)
骨頭置換
<手術治療>
4-part 骨折では骨頭壊死がよく生じ、たいていは骨頭が完全に壊死して強い疼痛と関節
拘縮が生じる。さらに骨質が不良であったり、転位の程度が大きいと ORIF が失敗につなが
ることになる。そのために 4-part 骨折の治療は生体力学的原則ではなく生物学的原則に基
づいて行なわれる。しかし、PRIF の良好な成績もいくつか報告されており、この治療法は
より活動性の高い患者には考慮されるべきであろう。4-part 骨折では、骨頭の外方転位の
評価が必要となる。外方転位がある例では、関節部分に分散する内側骨膜の血管が破綻し、
結果的に骨頭壊死となる。
一方骨頭の外側への転位がなければ骨頭は生存する可能性が高い。4-part 骨折の中でも
外反嵌入型は予後がよいと考えられており、内固定のよい適応となる。骨幹と内側関節面
の間に転位がない場合には、内下方の骨膜と付随する血管は温存されている。それゆえ、
外側嵌入型での骨頭壊死の発生率は 5-10%であり、一般的な 4-part 骨折での発生率を大き
く下回る。さらに骨幹、結節、関節包、腱板に連続する組織が安定に寄与し、骨頭が整復
された時に結節の解剖学的整復を促進する。骨頭壊死に関連した症状は、骨頭の転位が大
きいときに最も強い。
・ 経皮的整復+内固定法(PRIF)
骨質が良好、粉砕が軽微、協力が得られる患者で受傷後 10 日以内の場合、PRIF が最も
よい選択となる。この術式を成功させるためには、①関節面を含む骨片の整復、②骨頭の
骨幹部への固定、③大結節の整復と固定、④小結節の整復と固定の順に操作を進める。両
方の結節の整復固定は必ずしも必要ではなく、骨頭の固定後に判断する。上腕を回旋中間
位で 30°外転位に保持し、透視下に結節の骨折を同定する。骨折部の前外側面に 1.5-2.0cm
の皮切を行なう。Cobb 骨膜剥離子を挿入して骨頭を整復する。Cobb により骨頭外側部を上
方へ押し上げる。過矯正に注意する。急性例では整復は容易で cobb を抜去しても整復位が
維持される。
上腕の前外側部より 2.5mm のネジきり K ワイヤーを刺入し、軟骨下骨の 1cm 以内まで刺
入する。刺入の際には腋窩神経損傷を予防するため、小皮切後に骨まで皮下および筋を鈍
的に分ける。典型例では、内方 45°後方 30°の角度でピンが刺入される。1 本目のピンの
1cm 上方か下方より平行にピンを刺入する。ピンの位置と整復位を 90°の範囲で上腕を回
旋して透視て確認する。骨頭が整復されると、大結節も整復されることがある。上腕の運
動で不安定性を認めない場合は固定を行なう必要はない。整復と固定が必要な場合は、肩
峰外側縁中央より 2-3cm 遠位部に 5mm の皮切を行ない、フックか骨膜剥離子を挿入し、大
結節を前方とわずかに遠位へ引いて整復を行なう。大結節骨片上縁より約 1cm 下方にキャ
ニュレーテッドスクリューのガイドピンを骨幹に対して 90°の角度で刺入し、骨頭の軟骨
下骨まで進める。ドリリングやタッピングを必要とすることはなく、適切な長さのスクリュ
ーで固定する。このスクリューと平行に、約 1.5cm 下方よりスクリュー固定を追加する。
小結節と関節面の非解剖学的な関係は、しばしば小結節の転位を誤認される。すなわち骨
頭の転位が残存する場合は、小結節と骨幹との位置関係は正常であるかもしれない。
0.5-1cm 程度の骨頭転位は容認してよいので再度整復しなおすことはない。小結節を整復
する場合は、前外側の皮切よりフックを挿入して行ない、前方皮切より 2 本のスクリュー
を平行に刺入して固定する。ワイヤー先端は皮下に埋没する。翌日より振り子運動を開始
し、術後 3 週で仰臥位での他動屈曲と外旋運動を開始する。3-4 週でワイヤーを抜去する。
6 週より積極的に運動を開始する。
・ ORIF
ORIF は経皮的整復が困難な例、骨質が不良な例、粉砕が著しい例、受傷後 10 日以上を
経過した例が適応となる。アプローチは Deltopectoral で行なう。受傷後 10 日以内で経皮
的整復が困難な例では、PRIF と同様のピンニングで骨頭を固定し、結節は suture 固定す
る。受傷後 10 日を過ぎた例では、まず結節間の骨折線を同定し、結節の骨片を持ち上げて
骨頭が外反嵌入している面に到達できるようにする。骨頭と骨幹で連続した内側皮質骨に
小さなノミで切りこみを入れる。この際、連続性を断たないように注意する。骨頭を持ち
上げて整復するが、保持されない場合には骨移植を行なう。ブレードプレートなどで固定
を行う。術後翌日より振り子運動を開始し、1 週間で臥位での他動屈曲外旋運動を行なう。
術後 6 週で積極的な運動を開始する。
・ 人工骨頭置換
骨頭置換は 4 ヶ月以上を経過した陳旧例、高齢者、活動性が低い例、重度の骨粗鬆症の
例が適応となる。人工骨頭の結果は一般に考えられているほど良くはない。しかし、初回
に人工骨頭が行なわれた成績は、内固定の失敗や保存治療後の変形治癒に対して行なわれ
た人工骨頭置換の成績よりも優れている。Bipolar 人工骨頭が人工骨頭置換の成績を改善
するかもしれない。結節部と骨頭の後捻の確実な修復と適切な上腕骨長の回復が上腕骨近
位骨折に対する人工骨頭置換の良好な術後成績にとって重要となる。
内固定法の生体力学的評価
上腕骨近位端骨折の固定には、ピン、プレート、TBW、髄内釘を含めた多くの方法が用い
られる。最近のいくつかの生体力学的研究により、これらの固定法の強度が比較検討され
ている。Blade-plate による固定は標準的な buttress plate よりも強度が高いとされる。
TBW に Ender 釘を追加固定すると強度が 1.5 倍に増加する。Koval らは上腕骨近位端骨折に
対する 10 通りの固定法の強度を新鮮凍結屍体と保存屍体の両者を用いて比較した。良好な
骨質をもつ患者を表す凍結屍体では T-Plate が最も高い強度を示した。骨粗鬆症の患者を
表す保存屍体では Ender 釘+TBW が最も高い強度を示した。両種の屍体標本において、TBW
単独での固定が最も低い強度を示した。
上腕骨近位端骨折の手術治療成績
①2-part 外科頚骨折
2-part 骨折に対する治療成績について prospective randomized study を行なった報告
はない。Williams らによると、骨質がよく粉砕が軽度な外科頚骨折の例では経皮ピンニン
グで良好な成績が得られる。48 例に経皮ピンニングを行なった報告では、65 歳以下で JOA
score が平均 98.9 点、65 歳以上で 80.3 点であった(宮沢ら 1997 年)。Ender 釘により固
定した 36 例(平均 70 歳)では、偽関節率が 5.6%で平均屈曲 130°、外旋 44.4°であった
(Ogiwara et al. 1996)。プレート固定は、広い展開を要することやプレートのインピン
ジメントが生じることがあるために行なわれなくなってきた(Dehners LE, 1995)。T プレ
ートと Rush ピンを比較した報告では、プレートによる固定では若年者では良い成績が報告
されているが、高エネルギー外傷例や骨粗鬆の強い高齢者で成績が不良であった。Rush ピ
ンでは、これらの高齢者においても良好な成績が得られた(Robinson CM et al. 1993)。
21 例に横止め式髄内釘を施行した報告では、全例で 14 ヶ月以内に骨癒合が得られ、86%で
Neer の機能評価で excellent または satisfactory であった(Lin J, et al. 1998)。近年
では Polarus ネイルによる固定でのよい成績が報告されている(Rajasekhar C et al. 2001)
。
各治療法の成績を安易に比較することは慎むべきで、粉砕の程度、骨質、術者の経験によ
り適切な固定法を選択する必要がある。
②2-part 大結節骨折
Flatow らが報告した大結節単独骨折に対して deltoid-splitting により進入し suture
fixation を行なった治療成績では、おおむね good または exellent の結果が得られた。こ
の報告でも、上方 5mm の転位を手術適応とすべきと結論づけられた。
③3-part 骨折と 4-part 骨折
3-part および 4-part 骨折では、種々の評価法を用いた治療の結果がいくつか報告され
ている。25 例の 3-part 骨折に対して suture fixation を行なった結果では、44%が excellent、
52%が satisfactory であり、平均屈曲が 140°であった。高齢者に対して骨頭置換を行な
った結果では、屈曲は平均 85°で excellent はなかった。後ろ向き研究では、3-part 骨折
治療後の機能評価では保存治療、手術治療を問わず良好な結果が得られている。ある研究
では、3-part 骨折を受傷した高齢者のうち 96%が受傷 3 年後の肩関節機能で acceptable で
あった。4-part 骨折の患者では 67%が肩関節機能を acceptable とせず、そのほとんどに X
線像上 OA 変化または骨頭壊死を認めた。Constant score は患者自身の意見とよく相関し
ており、Neer score はあまり信頼性がなかった。Zyto らによって行なわれたこれまでの唯
一の prospective randomized study では、保存治療または TBW による手術治療を受けた
3-または 4-part 骨折患者の間で機能的な差異は認められなかった。骨頭置換と内固定の結
果を比較することは困難である。骨頭置換術後では、疼痛は満足がいく結果のようである
が機能的な可動域が回復することはまれであった。これらの疑問に明快に回答するには、
より多くの randomized prospective comparative study が必要である。
結論
いずれの治療法においても prospective randomized study がほとんど行なわれておらず、
また対象や評価法がまちまちで、成績を比較検討することはできない。上腕骨近位骨折の
保存的治療および手術的治療の適応は、ほぼコンセンサスを得ている。この適応に基づき
治療することで 4-part 骨折の一部を除きおおむね良好な成績が得られている。
保存治療では早期に運動を開始して慎重に経過を観察し、転位が進行する場合には手術
治療に切替える。2-または 3-part 骨折は、骨頭の血行に関しても小侵襲の方法で信頼性を
もって治療される。術式を選択するにあたり、粉砕の程度、骨質、術者の経験により適切
な固定法を吟味する必要がある。外科頚骨折でピンニングやスクリュー固定で十分な固定
性が期待できない場合には、逆行性髄内固定法などを考慮する。現時点では、人工骨頭の
適応は高齢者の AO Type C 骨折や 4-part 骨折の一部の例に限定される。保存治療に対する
手術治療の相対的な役割や、人工骨頭術に対する内固定術の相対的な役割がより明確にさ
れるべきである。
参考文献
1) Iannotti JP. et al.: AAOS Instructional Course Lectures; Nonoprosthetic
management of proximal humeral fractures. J Bone Joint Surg 85-A: 1578-1593, 2003.
2) Orthopaedic Knowledge Update Trauma 2. American Academy of Orthopaedic Surgeons,
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3) Rockwood and Green’s Fractures in Adult. Lippincott Williams & Wilkins, forth
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4) AO 法骨折治療.医学書院、213-227、2003.
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