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夏型過敏性肺臓炎における血清 KL

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夏型過敏性肺臓炎における血清 KL
日呼吸会誌
●原
36(9)
,1998.
763
著
夏型過敏性肺臓炎における血清 KL-6 値の検討
中島 正光1)
真鍋 俊明2)
吉田耕一郎1)
二木 芳人1)
松島 敏春1)
要旨:夏型過敏性肺臓炎(夏型 HP)と肺感染症としてマイコプラズマ肺炎,クラミジア・シッタシ肺炎,
クラミジア・ニューモニエ肺炎,および細菌性肺炎で血清 KL-6 値を比較検討した.夏型 HP では全 6 症例,
7 エピソードで血清 KL-6 値が 500 U ml 以上,平均 2,996 U ml の高値を示した.一方,感染性肺炎の血清
KL-6 値は 2 例を除き全例 500 U ml 以下で,平均 302 U ml であった.この 2 例はマイコプラズマ肺炎およ
びクラミジア・ニューモニエ肺炎例で,血清 KL-6 値は 588 U ml,794 U ml であった.夏型 HP の血清 KL6 値は感染性肺炎の値より有意な差をもって上昇していた.さらに,夏型 HP の重症度の一つの指標となる
血清 LDH 値,血清 CRP 値,PaO2 値を血清 KL-6 値と比較した.血清 KL-6 値のみが血清 CRP 値と相関,
血清 LDH 値と相関傾向を示し,重症度をより良く反映していると考えられた.組織学的検討では夏型 HP
において肺胞 II 型上皮の腫大,過形成を認め,この肺胞 II 型上皮から KL-6 が産生されると考えられた.
キ−ワ−ド:KL-6,肺胞 II 型上皮,過敏性肺臓炎,マイコプラズマ肺炎,クラミジア肺炎
KL-6,Hypersensitivity pneumonitis,Pulmonary type II pneumocyte,Mycoplasma pneumonia,Chlamydia pneumonia
清 KL-6 値との関連を比較検討した.
はじめに
対象および材料
夏型過敏性肺臓炎(夏型 HP)症例において臨床症状
などから鑑別しなければならない疾患としてはマイコプ
1)対象症例
ラズマ肺炎,クラミジア・シッタシ肺炎,クラミジア・
夏型 HP は 6 症例(7 エピソード)
,肺感染症はマイ
ニューモニエ肺炎などが挙げられる.これらの感染症の
コプラズマ肺炎 16 症例,クラミジア・シッタシ肺炎 3
確定診断は症状と血清抗体値,さらに培養や免疫染色,
例,クラミジア・ニューモニエ 9 例,細菌性肺炎 12 例
遺伝子的診断などを組み合わせて行われる.また,夏型
を対象とした.男:女はそれぞれ 2 : 4,12 : 4,2 : 1,6 :
HP の確定診断は主に原因抗原の血清抗体値,再度の原
3,7 : 5 であった.年齢(平均年齢)はそれぞれ 17 歳∼
因抗原の吸入による検査異常,症状の出現などにより行
61 歳(50 歳)
,23 歳∼91 歳(55 歳),18 歳∼60 歳(42
われている.夏型 HP はこれらの感染症と臨床症状,臨
歳),13 歳∼75 歳(41 歳),40 歳∼78 歳(70 歳)であっ
床経過,画像検査などから,ある程度の鑑別診断が可能
た.肺の基礎疾患はクラミジア・ニューモニエ肺炎症例
であるが,一回の外来での診療のみで確実に鑑別は出来
において diffuse panbronchiolitis,肺気腫がそれぞれ 1
ず,さらに夏型 HP と感染症では治療が全く異なり,鑑
例存在した.いずれの症例にも血清 KL-6 値が高値とな
別点となる血清検査があれば有用と考えられる.
る肺の間質性病変,線維化病変は認められなかった.
私達は以前よりアレルギー性肺疾患である薬剤性肺
対照は症状が全く無く,以下の項目において正常また
炎, 夏型 HP 症例において主に肺胞 II 型上皮から産生,
基準値以内であった健康成人とした:既往歴,胸部 X
分泌されるムチン様糖蛋白抗原である KL-6 値1)2)が血清
線写真,末梢血液検査(白血球数,白血球分類,赤血球
3)
∼6)
.この血清
数,ヘモグロビン,ヘマトクリット,血小板数)
,末梢
KL-6 値がこれらの肺感染症と夏型 HP において鑑別点
血液生化学的検査(TP,ALP,T-Bil,T-Cho,γ-GTP,
となるか否かを検討し,さらに夏型 HP において重症度
LDH,Alb,Glb,ChE,GPT,GOT,Crn,BUN,UA,
において高値になることを報告してきた
の指標である血清 CRP 値,PaO2 値,血清 LDH 値と血
〒710―0192 倉敷市松島 577
1)
川崎医科大学呼吸器内科
2)
同 病理
(受付日平成 9 年 11 月 14 日)
Amy),上部消化管造影,もしくは胃内視鏡検査,肺機
能検査(FEV1.0,FEV1.0%,VC,%VC,DLco,動脈血
液ガス検査)
,便潜血.健康成人は 343 例,平均 45.4±14.9
歳で男性 202 例,女性 141 例であった.
2)対象症例の診断方法
764
日呼吸会誌
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,1998.
夏型 HP 症例は全例が厚生省の診断基準に基づき7)8),
もしくは高度であれば
とした.
血清トリコスポロン抗体価高値,帰宅テスト陽性,病理
組織学的に夏型 HP に一致する組織像が認められる急性
,この中間を示す場合を中等度
5)統計学的検討はそれぞれの疾患群で血清 KL-6 値,
血 清 LDH 値,血 清 CRP 値,PaO2 値 に つ い て Mann-
夏型 HP 確実例であった.
Whitney
マイコプラズマ肺炎の診断は症状,検査所見がマイコ
U 検定を用い検討した.また,それぞれの疾
プラズマ肺炎に一致し,胸部 X 線写真上肺炎を認め,
患群で相関を血清 KL-6 値,血清 LDH 値,血清 CRP 値,
血清マイコプラズマ抗体価(CF)が 64 倍以上か,IHA
PaO2 値について Spearman の順位相関係数を用いて検
で 320 倍以上,またはペア血清で 4 倍以上を示した症例
定した.夏型 HP において血清 KL-6 値の感度(真陽性
とした.これらの症例中,2 症例で喀痰,咽頭培養でマ
数 真陽性数+偽陰性数)
,特異度(真陰性数 偽陽性数
イコプラズマが分離された.クラミジア・シッタシ肺炎,
+真陰性数)を調べた.
クラミジア・ニューモニエ肺炎の診断は MFA 法で血清
結
IgG 抗体価が 1,024 倍以上,かつ血清 IgA 抗体価 32 倍
果
以上か,またはペア血清で 4 倍以上を呈する事を基本と
1)健常成人における血清 KL-6 値
した9).
血清 KL-6 値は年齢と共に軽度上昇を示したが,6 例
3
細菌性肺炎は末梢血白血球数が 9,000 mm 以上,膿
を除き 500 U ml 以下であった(Fig. 1)
.
性痰を認め,CRP 陽性,胸部 X 線写真上細菌性肺炎に
2)夏型 HP 症例および血清 KL-6 値
一致する陰影を認めた.さらにペニシリン系,セフェム
夏型 HP では全例において胸部 X 線写真上両側びま
系,イミペネム系抗菌薬で臨床的に効果を示し,血清学
ん性粒状陰影を認めた.さらに,全例で 37.5℃∼38.5℃
的にマイコプラズマ感染,クラミジア感染を否定できる
の発熱,労作時の呼吸困難を認めた(Table 1)
.PaO2
症例とした.
は 42 mmHg∼75 mmHg,平 均 59.4 mmHg と 低 下 を 認
3)血清 KL-6 の測定
めた.血清 KL-6 値は 7 エピソード全てで高値を示し,
血清 KL-6 値は抗マウス抗体 IgG を用い,河野らの方
648∼5,373 U ml,2,996±2,016.6 U ml であった(Fig. 2)
.
1)
法 と同様のサンドイッチ enzyme immunoassay(EIA)
Cut off 値を 500 U ml とした時,夏型 HP では全例陽性
法で測定した.また,一部の血清は既に−80℃ で保存
で感度は 100% であった.健常成人 343 人では 6 人が陽
していた血清を用い測定した.夏型 HP における血清
KL-6 測定のための採血時期は,全例で入院日から 2 日
以内であった.
4)夏型 HP 症例における経気管支肺生検の病理組織
像
経気管支肺生検を入院後 3 日以内に施行し,生検組織
はホルマリン固定,パラフィン包埋を行い,Hematoxylin
eosin 染色,Masson trichrome 染色,Elastica van Gieson
染色を行った.組織所見ではリンパ球,好酸球,好中球
の浸潤,また器質化肺炎,血管周囲のリンパ球の浸潤,
肺胞腔内のマクロファージの存在,肺胞 II 型上皮の腫
大,フィブリン,肉芽腫の存在を検討した.組織所見の
Fig. 1 Serum KL-6 levels in the healthy adults.
グレードは存在,もしくは軽度認めれば+,著明な浸潤,
Table 1 Clinical data of the patients
n
Hypersensitivity pneumonitis
(summer-type)
Mycoplasma pneumoniae pneumonia
Chlamydia pneumoniae pneumonia
Chlymydia psittaci pneumonia
Bacterial pneumonia
n=6
(7 episodes)
n = 16
n=9
n=3
n = 12
Age
(Year, mean)
Sex
Fever
(male/female) (≧ 37℃)
Cough
Dyspnea
50
2/4
7/7
6/7
7/7
55
42
41
70
12/4
6/3
2/1
7/5
16/16
9/9
3/3
12/12
16/16
9/9
3/3
12/12
13/16
7/9
2/3
12/12
n : number of patients or episodes
夏型過敏性肺臓炎における血清 KL-6 値の検討
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Fig. 2 Serum KL-6 levels in the patients with bacterial pneumonia, Mycoplasma pneumoniae, Chlamydia psittaci, Chlamydia pneumoniae pneumonia and summer-type hypersensitivity pneumonitis.
性を示し,特異度は 98.2% であった(Fig. 1)
.Cut off
肺水腫パターン陰影を示し,マイコプラズマ肺炎による
値を 500 U ml とした.
ARDS(成人呼吸促迫症候群)と診断した症例であった.
3)マイコプラズマ肺炎,クラミジア肺炎,細菌性肺
炎症例および血清 KL-6 値
血清 KL-6 値が 794 U ml を示したクラミジア・ニュー
モニエ肺炎症例は抗菌薬治療により短期間に炎症反応は
全例において胸部 X 線写真上肺病変を認め,37.3℃∼
軽快,正常になったが,胸部 X 線上陰影が残存した.
38.5℃ の発熱,咳嗽を全例に,ほとんどの症例で労作時
この症例は組織学的診断は行っていないが,臨床的に肺
の呼吸困難を認めた(Table 1)
.PaO2 は 92.0 mmHg∼
炎後の器質化肺炎と診断し,Prednisolone 30 mg の 10
42.0 mmHg,平均 60.8 mmHg であった.
日間の投与により陰影は消失した症例であった.
血清 KL-6 値はマイコプラズマ肺炎,クラミジア・シ
5)夏型 HP 症例と各疾患群間での血清 KL-6 値,血清
であった.この内 500 U
ml 以上の 794 U
ml,588 U
ml
を示した 2 症例を除き,500 U
ml 以下の基準値以内で
LDH 値,血清 CRP 値,PaO2 値の比較
あった(Fig. 2)
.
炎群との間で p<0.001 の有意な差を認め,クラミジア
ッタシ肺炎,クラミジア・ニューモニエ肺炎,細菌性肺
炎 に お い て 107 U ml か ら 794 U ml,302±126.4 U ml
血清 KL-6 値は夏型 HP 群で高値を示し,すべての感
染性肺炎症例との間で有意な差を認めた.マイコプラズ
マ肺炎群,クラミジア・ニューモニエ肺炎群,細菌性肺
4)血清 KL-6 値が高値を示した感染性肺炎症例
・シッタシ肺炎群との間では p<0.05 の有意な差を認め
血清 KL-6 値が 588 U ml を示したマイコプラズマ肺
た(Fig. 2)
.これに反して,血清 LDH は夏型 HP 群と
炎症例は著明な低酸素血症を認め,胸部 X 線写真上,
いずれの疾患群とも有意な差は認められなかった(Fig.
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,1998.
Fig. 3 Serum lactate dehydrogenase levels (LDH) in the patients with bacterial pneumonia, Mycoplasma
pneumoniae, Chlamydia psittaci, Chlamydia pneumoniae pneumonia and summer-type hypersensitivity pneumonitis.
3)
.血清 CRP は夏型 HP 群で低値を示し,細菌性肺炎
夏型 HP 症例では全例で経気管支肺生検を施行した.
群(p<0.01)
,マイコプ ラ ズ マ 肺 炎 群(p<0.001)
,ク
組織像は肺胞 II 型上皮の腫大,リンパ球性胞隔炎が全
ラミジア・シッタシ肺炎群(p<0.05)間で有意な差を
例で認められた.肺胞腔内のポリープ状の線維化巣,い
4)
.PaO2 は夏型 HP 群と細菌性肺炎群間
わゆる器質化肺炎は 6 症例中 5 例で,また肉芽腫性病変
認めた(Fig.
で有意な差(p<0.01)を認めた(Fig. 5)
.
6)
各疾患群における血清 KL-6,血清 LDH,血清 CRP,
PaO2 各値の相関
が存在する症例が 6 例中 3 例に認めた(Table 2)
.
考
察
夏型 HP 群で血清 KL-6 値と血清 LDH 値,血清 CRP
発熱,乾性咳嗽などが認められるマイコプラズマ,ク
値,PaO2 値との間で は,そ れ ぞ れ r=0.61,0.88,0.07
ラミジア・ニューモニエ,クラミジア・シッタシによる
で,血清 LDH 値と相関傾向を,血清 CRP と相関を示
上気道炎・肺炎は臨床症状から見れば夏型 HP の鑑別疾
した(Fig. 6)
.しかし,血清 LDH 値,血清 CRP 値,PaO2
患としてあげられる7)∼10).また,種々の原因で発症する
値などの各検査間では相関を示さなかった.つまり,夏
過敏性肺炎は胸部 X 線写真上陰影を示さなかったり,
型 HP 群では血清 KL-6 値が最も多くの検査データと相
感染性肺炎と鑑別が困難なこともある10).さらに,夏型
関したことになる.細菌性肺炎群,マイコプラズマ肺炎
HP 症例で細菌性肺炎の合併例も存在する.早期に夏型
群,クラミジア・ニューモニエ肺炎群では血性 KL-6 値
HP の診断ができれば,早期に処置,治療が開始でき,
を含めた全ての検査間で相関を認めなかった.
補助診断となる血清検査があれば有用と考えられる.
7)夏型 HP 症例における経気管支肺生検の病理組織
所見
KL-6 は河野ら1)により発見されたムチン様糖蛋白抗原
である.血清 KL-6 値は肺線維症2)11)∼13),肺結核14),肺サ
夏型過敏性肺臓炎における血清 KL-6 値の検討
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Fig. 4 Serum C-reactive protein levels in the patients with bacterial pneumonia, Mycoplasma pneumoniae,
Chlamydia psittaci, and Chlamydia pneumoniae pneumonia and summer-type hypersensitivity pneumonitis.
ルコイドーシス11)12),さらに薬剤性肺炎3)6),過敏性肺
清 LDH 値などの検査値と相関,相関傾向を示し,これ
炎3)∼5),放射線肺臓炎15),肺胞蛋白症16)で高値になること
らの検査の中で肺内病変の重症度と最もよく相関してい
が報告されている.肺胞 II 型上皮は種々の糖蛋白抗原
ると考えられた.以上より,血清 KL-6 値は夏型 HP に
を産生しているが
16)
17)
,その中でも KL-6 は早期に血清
に入り,血清中で高値となる.
おいて,重症度を反映し,さらにマイコプラズマ肺炎,
クラミジア・シッタシ肺炎,クラミジア・ニューモニエ
今回の検討では血清 KL-6 値はマイコプラズマ肺炎,
肺炎と鑑別が必要な場合に有用な検査と考えられる.ま
クラミジア肺炎症例では 800 U ml 以上の上昇例はな
た,血清 KL-6 値は夏型 HP に細菌性肺炎が合併した場
く,夏型 HP 症例では著明な高値を示した.また,夏型
合などに,夏型 HP の存在を気付かせる助けになると考
HP 症例と他の感染性肺炎症例の値間には有意な差が見
えられた.
られた.このことは血清 KL-6 値が夏型 HP と感染性肺
過敏性肺炎は様々な抗原により発症するが,夏型 HP
炎との鑑別において補助検査としての有用性を持つこと
は主に Trichosporon asahii,Trichosporon mucoides を抗原
を示している.また,血清 CRP 値も夏型 HP 症例と他
として発症する過敏性肺臓炎である7)18).発症機序は他
の感染性肺炎症例と比較して有意に低値を示した.しか
の過敏性肺炎と基本的には同じと考えられている.今回
し,血清 CRP 値は血清 KL-6 値と異なり,非特異的に
検討した夏型 HP の経気管支肺生検では全例において本
上昇するので鑑別のパラメーターとしては難点がある.
症の特徴的病理像の一つである腫大,過形成を示す肺胞
一般的に過敏性肺炎の肺内病変の強さを見る上で血清
II 型上皮が存在しており,KL-6 が主にこの肺胞 II 型上
CRP 値,血清 LDH 値,また,PaO2 値などが一つの指
皮より産生,分泌され,早期に血清中に入ったと考えら
標となり得る.しかし,これらの検査値間で相関は認め
れる.しかし,どのようにして肺胞 II 型上皮より産生
られなかった.一方,血清 KL-6 値は血清 CRP 値,血
されるか,さらに,産生のみだけではなく,いかに KL-
768
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,1998.
Fig. 5 PaO2 levels in the patients with bacterial pneumonia, Mycoplasma pneumoniae, Chlamydia psittaci,
Chlamydia pneumoniae pneumonia and summer-type hypersensitivity pneumonitis.
Fig. 6 Serum KL-6, CRP, LDH, and PaO2 levels in the patients with summer-type hypersensitivity pneumonitis.
6 が肺胞壁,血管壁を通過し,血清中に入るか今後検討
免疫の関与,宿主組織との共通抗原の存在などがあり,
する必要がある.
細菌感染と異なり感染したマイコプラズマに対する宿主
感染性肺炎の 2 例において血清 KL-6 値が軽度の高値
の免疫反応性, アレルギー機序が II 型肺胞上皮に働き,
を示した.1 例は血清 KL-6 値は 588 U ml で,マイコプ
血清 KL-6 値が上昇したとも考えられた.もう 1 例はク
ラズマ肺炎による ARDS(成人呼吸促迫症候群)を呈
ラミジア・ニューモニエ肺炎で KL-6 値が 794 µ ml を
した症例であった.肺胞上皮の広範な障害,再生により
示し,肺炎は軽症であるが,肺炎後の器質化肺炎と診断
高値となった可能性がある.また,マイコプラズマ肺炎
した症例であった.器質化肺炎において肺胞 II 型上皮
の発症機序には不明な点が多いが,病態の形成に細胞性
の増生が見られることは多く,さらに我々は器質化肺炎
夏型過敏性肺臓炎における血清 KL-6 値の検討
769
Table 2 Transbronchial lung biopsy specimens obtained from summer-type
hypersensitivity pneumonitis patients
Case
1
2
3
4
5
6
Infiltration of lymphocyte
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
Infiltration of eosinophil
−
−
−
−
−
−
Infiltration of neutrophil
−
−
−
−
−
−
Organizing pneumonia
−
+
+
+
+
+
+
+
+
+
Desquamation of macrophage in
alveolar lumina
+
+
+
+
+
+
+
+
+
Infiltration of lymphocyte around
vesseles
+
+
+
+
+
+
+
+
+
Swelling of type À pneumocyte
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
Fibrin
−
−
−
−
−
−
Granuloma
+
+
−
+
−
−
Pathological findings
症例において血清 KL-6 値が高値になることを経験して
J Crit Care Med 1996 ; 153 : A 731.
いるので本例もクラミジア・ニューモニエ肺炎による器
4)北 村 諭,日 和 田 邦 夫,小 林 淳,他:ED 046 に
質化肺炎で血清 KL-6 値が高値を示していたと推測され
よる間質性肺炎症例の血清 KL-6 値の検討.日胸疾
た.従って,典型的なマイコプラズマ肺炎,クラミジア
誌 1996 ; 34 : 639―645.
・シッタシ肺炎,クラミジア・ニューモニエ肺炎,細菌
性肺炎では血清 KL-6 値は基準値以下を示すと考えられ
る.しかし,肺炎後の器質化肺炎,重症肺炎,異なる病
原微生物による肺感染症など,病態の異なる肺疾患で血
清 KL-6 値の検討を今後行わなければならない.
謝辞:稿を終えるにあたり,本研究に御協力頂きました川
5)小林 淳,塚越正章,荻原真一,他:間質性肺炎の
血清マーカー KL-6 値を追跡しえた夏型過敏性肺臓
炎の 1 例.日胸疾誌 1996 ; 34 : 837―842.
6)中島正光,真鍋俊明,見手倉久治,他:血清 KL-6
が高値を示し,病勢に一致し変動した薬剤性肺炎の
1 例.日胸疾会誌
1997 ; 36 : 813―817.
7)中川和子:Trichosporon による過敏性肺炎の診断と
崎医科大学臨床検査部見手倉久治氏,川崎医科大学呼吸器内
治療.化学療法の領域 1996 ; 121 : 1465―1471.
科橋口浩二先生,河端 聡先生,黒木昌幸先生に深謝いたし
8)Ando M, Arima K, Yoneda R, et al : Japanese
ます.また,血清トリコスポロン抗体の測定を行って頂いた
summer-type hypersensitivity pneumonitis. Am
熊本大学 II 内科,安藤正幸先生,中川和子先生,松永由里
Rev Respir Dis 1991 ; 144 : 765―769.
9)副島林造,岸本寿男,中島正光,他:クラミジア感
子先生に深く感謝いたします.
本研究の一部は川崎医科大学プロジェクト研究費「10―
染症.化学療法の領域 1994 ; 168 : 596―601.
10)Fraser RS, Pare JAP, Fraser RG, et al : Disease of al-
606」の援助によって行われた.
tered immunology activity. Synopsis of disease of
文
献
1)Kohno N, Aoki M, Kyoizumi S, et al : Detection of
soluble tumor-associated antigen in sera and effusion using novel monoclonal antibodies, KL-3 and Kl6 antigen lung adenocarcinoma. Jpn J Clin Oncol
1988 ; 18 : 203―216.
2)Nakajima M, Yoshida Y, Miyashita N, et al : Correlation between KL-6 positive Type II pneumocytes
and serum KL-6 levels in pulmonary fibrosis. Am
Rev Respir Disease 1995 ; 87 : A 72.
3)Nakajima M, Manabe T, Miyashita N, et al : High serum KL-6 level in drug-induced pneumonia : An adjunct in differentiation from other pneumonias. Am
the chest, second ed, W.B. Saunders company. Philadelphia 1994 ; 417―426.
11)Kohno N, Awaya Y, Oyama T, et al : KL-6 antigen : a
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13)Kobayashi J, Kitamura S : KL-6 antigen : a serum
marker for interstital pneumonia. Chest 1995 ; 108 :
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14)Inoue Y, Nishimura K, Shiode M, et al : Evaluation of
770
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17)中島正光,玉田貞夫,吉田耕一郎,他:肺胞洗浄液
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中複数の腫瘍マーカーが高値を示した肺胞蛋白症の
berculosis. Tubercle lung Dis 1995 ; 76 : 230―233.
1 例.日胸疾誌 1994 ; 32 : 1109―1114.
15)Hamada H, Kohno N, Akiyama M, et al : Monitaring
18)中島正光,真鍋俊明,二木芳人,他:血清 IgE 高値,
of serum KL-6 antigen in a patient with radiation
Trichosporon mucoides に対する即時型皮内反応が陽
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性を示した夏型過敏性肺臓炎の 1 例.日胸疾会誌
16)Nakajima M, Manabe T, Niki Y, et al : Serum Kl-6 as
1996 ; 34 : 1168―1173.
a monitoring marker in a patient with pulmonary alveolar proteinosis. Thorax 1998 ; 53 : 809―811.
Abstract
Evaluation of Serum KL-6 Levels in Summer-Type Hypersensitivity Pneumonitis
Masamitsu Nakajima1), Manabe Toshiaki2), Kouichirou Yoshida1),
Yoshihito Niki1)and Toshiharu Matsushima1)
1)
Division of Respiratory Diseases, Department of Medicine and the 2)Department of Pathology,
Kawasaki Medical School, 577 Matsushima, Kurashiki 701―0192, Japan
A high level of serum KL-6 is a known feature of active pulmonary fibrosis. Some researchers have suggested
that KL-6 is produced and secreted by type II pneumocytes. The present study evaluated serum KL-6 levels in
patients with summer-type hypersensitivity pneumonitis (summer-type HP) (n=6, 7 episodes), Mycoplasma pneumoniae pneumonia (n=16), Chlamydia psittaci pneumonia (n=3), Chlamydia pneumoniae pneumonia (n=9), and bacterial pneumonia (n=12). In addition, transbronchial lung biopsy (TBLB) specimens were examined pathologically in
order to identify the site of production and secretion of KL-6. In patients with summer-type HP, the serum KL-6
levels exceeded 500 U ml (2,996±2,016 U ml), but was below 500 U ml (302±126 U ml, p<0.001) in the patients
with other infectious pneumonias, with the exception of two. One of these two patients with a high serum KL-6
level had adult respiratory distress syndrome due to Mycoplasma pneumoniae. The other had organizing pneumonia due to Chlamydia pneumoniae. TBLB specimens showed proliferative type II pneumocytes in all summer-type
HP cases. We believe that the high serum KL-6 levels were produced by type II pneumocytes, and may provide a
useful indicating serum marker for HP. Although serum LDH, serum CRP and PaO2 are known as monitoring
markers in summer-type HP, our findings demonstrated no manifest correlations among these markers. However,
serum KL-6 levels showed a strong positive correlation with serum LDH levels and an inverse correlation with serum CRP levels. These results suggest that serum KL-6 may be a better marker of the degree of disease activity
than serum LDH, CRP, or PaO2 in summer-type HP.
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