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セブ島・ロングスティ詐欺事件、ようやく送検 迫る公訢時効の期限
intelligence & investigation 情報と調査 速報・解説版 NO.93 2013年 10 月号 <フラッシュ> セブ島・ロングスティ詐欺事件、ようやく送検 迫る公訢時効の期限 事件のあらまし 今からおよそ7年前の2006年12月、本誌の前身である「リタイアメントジャーナル」 の告発を端緒として、テレビや新聞、雑誌などで大きく取り上げられたフィリピン・セブ島 を舞台にしたロングスティ詐欺という事件があった。記憶しておられる読者も少なくないだ ろう。シニアをターゲットに、介護スタッフを配した「安心の郷」なるパンフレットなどで 人を集め、長期の借地権を得て、セブ島の海に面したリゾート造成地で別荘が手に入るとい う、うたい文句だった。 しかし、この介護付き施設も 長期借地権付きの別荘も、全く のでたらめで、多額の代金を払 った人たちのほとんどが別荘は 取得できなかった。このため、 騙された人たちは被害者の会を 結成し、フィリピン政府やフィ リピン大使館などにとどまらず、 世論にもアピールするとともに、 民事、刑事でも訴えた。 マスコミでも大きくとりあげられたセブ島・ロングスティ詐欺 intelligence & investigation 情報と調査 速報・解説版 NO.93 2013年 10 月号 民事で勝訴から刑事告訴へ 民事訴訟では2008年11月、東京地裁で被害者の勝訴が確定したが、被告側が謝罪も 支払いも全くしてこなかったこともあり、被害者側は、刑事でも訴えた。 しかし刑事告訴の方は難行した。普通、よほど深刻或いは大きな事件でないと、特に詐欺 や横領などでは、当局側は「被害届」は受け付けても「告訴状」までは受けたがらないのが 実情だ。ぼう大な案件を拘えている現場からすると、詐欺や横領のように証拠を固めて立証 する事件はなるべくなら避けたいというのが本音だからだ。 しかし、被害者らは貼り強く交渉するなかで、ようやく、警視庁が刑事告訴を受理するに 至った。ちなみに「被害届け」は極論すれば「これこれの被害があった」という届け出にす ぎないが、「刑事告訴」を受理した案件については必ず起訴とか、しかるべき結論(送検) を出さなければならないから、その意味は大きいといえる。 架空のリゾートを売ったI.S.D社元副社長 告訴の相手となった者、つまり架空の別荘地を売りつけたのは都内渋谷区にあったアイ・ エス・デー社という会社で、被害者が告訴したのは、その実質的な経営者だった川下哲元副 社長。川下元副社長はセブ島にも同じ発音のI.S.D.社なる会社を設立し、日本から下見 に来たシニアらを案内するなどして、実際には存在しない長期借地権付別荘を「販売」した のだ。この分譲地というのは現地の大手デベロッパーが開発・販売した物件だが、契約元の I.S.D.社がその代金を払わなかったため、権利が得られなかったというのが実情だ。こ の間川下元副社長はまた、セブにある南フィリピン大学の「教授」の名刺を持ち歩いて、来 島した被害者らを信用させてきた。 警視庁は刑事告訴を受理した後、 被害者らへの事情聴取と前後して、 川下元副社長からも数回事情聴取 を行った。この間、被害者は今年 13年末に検察官が裁判所に対し 公訴を提起することが出来なくな るという「公訴時効」の期限が迫 っていることを訴えたが、逮捕も 検察への送検も進まず、被害者ら は、迅速な処理をと、再三にわた り当局側に要望してきた。 事件の舞台となったコロナデルマールセブ・分譲地 intelligence & investigation 情報と調査 速報・解説版 NO.93 2013年 10 月号 迫る公訴時効 そのためであろうか、或いは時間切れ直前を測ってのタイミングであろうか。今年9月4 日、ようやく警視庁から東京地検へ送検された。受理した当初、当局側は川下元副社長のセ ブ島滞在中の期間は時効の日数にはカウントされないという法律上のルールがあるから公 訴時効の期限まで余裕はある、とのニュアンスだった。しかし、実際には、時効まで実質2 ヶ月余というところでの送検となった。今度は警察ではなく検察があらためて起訴するか否 かの判断をすることになる。以前、オウム事件では主に裁判の長期化を避ける狙いから、あ またの事件の内から主謀者については「松本」と「地下鉄」に限って起訴した。あたかもこ れを模するかのように、被害者への事情聴取でも、何人もの被害者がありながら、送検段階 での容疑は1組の夫婦のケースに限定した。それも間際になってからである。 これで検察は本当に起訴する気があるのだろうか、もしギリギリの段階で万が一にも不起 訴とか起訴猶予などという結論を出されたらどうなるのだろう。今までの2年数ヶ月、いや 7年は何だったのか。検察審査会に訴えても間に合わないではないかと、被害者ならずとも 疑問が浮かんでくる。真偽のほどは定かでないが、警察からの送検を渋っていたのは検察だ ったなどといった情報も出てきたという。何か不都合か、圧力でもあったのだろうか。 懸念されるシニアの増加と詐欺話 1947年(昭22)~49年(昭24)生まれの、いわゆる団塊世代がいよいよ65歳 に達し出した。今後、順次シニアのリタイアが進む時期に入ってきた。現役世代が安定した 職に就くのがままならないなかで、相対的には余裕があると見られているこれらシニア層を 狙った詐欺事件は今も後を絶たない。今後は海外での中・長期滞在、いわゆるロングスティ を希求するシニアもまた増加すると見込みまれている。こうしたなかで最近も不動産や投資 を巡ってさまざまな詐欺話が相次いで起きている。 いわばこうした事件の元祖ともいえるのが、セブ島ロングスティ詐欺事件だと言っても 過言ではない。 日本は「起訴便宜主義」というルールがあり、2度の検察審査会の議決といった例外を除 いては、起訴するか否かはひとえに検察官の判断に委ねられている。本当にオレオレ・振込 め詐欺や不動産投資詐欺の撲滅を図ろうと思うなら、シニアを狙ったこうした事件への 毅然とした対応こそが、再発防止への警鐘という意味でも求められているといえよう。検察 の信頼が地に落ちたといわれている昨今だからこそ、こうした事件をどう処理するかといっ たところに鼎(かなえ)の軽重が問われているのである。 intelligence & investigation 情報と調査 速報・解説版 NO.93 2013年 10 月号 被害者らは言う。 「これまで騙されてから7年間も 戦ってきた。騙したものが野放しで、時間切れなど ということは絶対に許せない。悠長に構えている時 間はないが、絶対にあきらめない。」 最近もカンボシア等を対象にした投資 詐欺が後を絶たない