...

博士論文 トルコの南東アナトリア地域における 綿花栽培導入による地域

by user

on
Category: Documents
2

views

Report

Comments

Transcript

博士論文 トルコの南東アナトリア地域における 綿花栽培導入による地域
博士論文
トルコの南東アナトリア地域における
綿花栽培導入による地域社会の変容
平成25年9月
姜
淑敬
岡山大学大学院
環境学研究科
目
次
第1章 序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
Ⅰ.研究の背景と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
Ⅱ.論文の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
第2章 シャンルウルファ県における綿花栽培による地域社会の変容・・・・(6)
Ⅰ.はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
Ⅱ.南東アナトリア開発計画と綿花生産の増加・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
1. 南東アナトリア開発計画・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
2. シャンルウルファ県の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)
3. 農業基盤整備事業と農業関連事業の推進・・・・・・・・・・・・・・・・・・(13)
4. シャンルウルファ県における綿花栽培の増加・・・・・・・・・・・・・・・・(15)
Ⅲ.綿花栽培による地域社会の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(18)
1. 人口構造および人口移動の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(18)
2. 水利組合による灌漑用水管理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(22)
3. 土地所有と土地利用形態の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(26)
Ⅳ.おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(29)
第3章 ハラン平原における灌漑用水供給以後の地域社会の変容・・・・・・(37)
Ⅰ.はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(37)
Ⅱ.ハラン平原における農業基盤整備事業の推進・・・・・・・・・・・・・・・・・(39)
1. 地域概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(39)
2. 農業基盤整備事業実施以前の地域概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(41)
I
3. 農業基盤整備事業の推進・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(44)
Ⅲ.農業基盤整備事業以後の地域社会の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(46)
1.灌漑地域の拡大と綿花農業の成長・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(46)
2.農業形態の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(49)
3.出稼ぎ労働の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(54)
Ⅳ.灌漑用水をめぐる地域社会の問題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(56)
Ⅴ.おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(57)
第4章 部族集団中心の伝統的な社会構造と綿花栽培による地域社会の変容
Ⅰ.はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(64)
Ⅱ.ハラン平原とアシレットの概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(65)
Ⅲ.綿花栽培による地域社会の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(69)
1. 農家の生活環境の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(69)
2. 農業水利の変化と問題点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(71)
Ⅳ.灌漑農業の展開に伴う住民意識の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(73)
Ⅴ.おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(78)
第5章 終章・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(82)
謝
辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(86)
付
録・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(87)
綿花農家に対するアンケートおよび聞き取り内容(日本語)・・・・・・・・・・・・・(87)
綿花農家に対するアンケートおよび聞き取り内容(トルコ語)・・・・・・・・・・・・(96)
II
図
第2章
目
次
シャンルウルファ県における綿花栽培による地域社会の変容
第 1 図 トルコの地域区分と南東アナトリア地域の位置 ・・・・・・・・・・・・・・(9)
第 2 図 シャンルウルファ県の灌漑地域および幹線用水路の位置・・・・・・・・・・・(11)
第 3 図 シャンルウルファ県の月平均気温と降水量(1970~2010)・・・・・・・・・・・(12)
第 4 図 シャンルウルファ県の耕地整理状況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(13)
第 5 図 トルコの主要綿花栽培地域 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(15)
第 6 図 トルコ主要綿花産地の年度別耕作面積の比較・・・・・・・・・・・・・・・・(16)
第 7 図 トルコ、南東アナトリア地域、シャンルウルファ県の綿花生産量の推移・・・・(18)
第 8 図 トルコ、南東アナトリア地域、シャンルウルファ県の年齢別の人口構造・・・・(19)
第 9 図 灌漑事業以前、シャンルウルファ県住民の出稼ぎのための主要流出先 ・・・・(20)
第 10 図 灌漑事業以後、出稼ぎ人口の地域内移動 ・・・・・・・・・・・・・・・・(21)
第 11 図 開水路形式の灌漑水路 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(23)
第 12 図 サイホン管による灌漑用水の利用(地表灌漑)・・・・・・・・・・・・・・・(23)
第 13 図 灌漑用水の利用過程と水利組合の役割・・・・・・・・・・・・・・・・・・(24)
第 14 図 水利組合の組織図 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(25)
第3章
ハラン平原における灌漑用水供給以後の地域社会の変容
第 1 図 ハラン平原の位置および地形 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(40)
第 2 図 調査地域の概況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(41)
第 3 図 ハラン平原の幹線灌漑用水路および耕地整理と灌漑地域の状況 ・・・・・・・(45)
第 4 図 NDVI 分析によるハラン平野の夏季作灌漑地域の空間分布の時系列的な変化 ・(47)
第 5 図 ハラン平原の綿花生産量および作付面積の推移 ・・・・・・・・・・・・・・(48)
III
第 6 図 トルコの地域による綿花生産量の推移 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・(48)
第7図 農家の主要所得源の変化(N=54)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(49)
第 8 図 調査地域における家畜飼養数の変化(N=54)
・・・・・・・・・・・・・・・・
(50)
第 9 図 農業形態および耕地経営の多角化を行う世帯の作物別作付面積の割合・・・・・(52)
第 10 図 作物別の栽培スケジュール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(53)
第 11 図 出稼ぎ労働者の耕地内の臨時宿所 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(55)
第 12 図 出稼ぎ労働者の臨時宿所(天幕)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(55)
第4章
部族集団中心の伝統的な社会構造と綿花栽培による地域社会の変容
第 1 図 調査地域と第一言語による区分 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(66)
第 2 図 アシレットの構造の事例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(68)
第 3 図 アシレット間の勢力争いの場になっている水利組合・・・・・・・・・・・・・(72)
第 4 図 灌漑事業による地域社会の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(75)
第 5 図 農民自治組合がない理由(N=45)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(76)
第 6 図 子供の教育に関する意識調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(77)
IV
表
第2章
目
次
シャンルウルファ県における綿花栽培による地域社会の変容
第 1 表 シャンルウルファ県の作物別の補助金内容(2011 年)・・・・・・・・・・・・・(14)
第 2 表 水利組合の運営内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(22)
第 3 表 水利組合による作物別の灌漑用水利用料金(2011 年)・・・・・・・・・・・・・(25)
第 4 表 水利組合に登録されている耕地面積別の農民数 ・・・・・・・・・・・・・・(27)
第 5 表 各水利組合に所属している町自治体または村落での上位 5 人の耕地所有面積・(27)
第3章
ハラン平原における灌漑用水供給以後の地域社会の変容
第 1 表 調査地域の水利用環境 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(42)
第4章
部族集団中心の伝統的な社会構造と綿花栽培による地域社会の変容
第 1 表 調査地域の概況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(67)
第 2 表 調査地域における基礎生活環境の調査(N=45)
・・・・・・・・・・・・・・・(70)
V
第1章 序
Ⅰ
論
研究の背景と目的
トルコ共和国(以下、トルコと略す)の南東アナトリア地域はチグリス・ユーフラテス川の
上流部にあたり、
「肥沃な三日月地帯(Fertile Crescent)
」として 古代メソポタミア文明
が栄えていた。しかし、かつて輝かしい文明を誇っていた地域は、交通と農業の中心が他
へ移動したことにより、現在はトルコの中でも、社会・経済開発が遅れており、相対的な
貧困地域に属する。また、歴史的に開放的な地理条件により外部地域との交流が多かった
ため、複雑な民族構成と独特な社会・文化的構造を持つ。
南東アナトリア地域の独特の構造として特筆すべきはアシレット(Aşiret;tribe;部族
集団)を中心とする社会構造である。アシレットとは、アラビア語を起源とする言葉で、
一人の指導者により管理・維持される地域社会において最も主要な一次組織を意味する
(Gokalp、1992;İçli、et al.、2012)。アシレットは経済・政治・社会・宗教および日常
生活まで影響を及ぼし、現在でも当地域にはアシレットの慣習法を重視する階層的な社会
構造が残っている。したがって、この地域の社会・経済的な開発と社会統合のためには、
他地域とは異なるアシレット中心の社会構造の理解に基づいた開発政策が必要である。
近年、トルコでは社会経済開発が相対的に遅れている南東アナトリア地域を対象に、地
域格差の緩和と社会統合を目的とする政府主導の大規模な開発計画が推進されている。南
東アナトリア開発計画(GAP; Güneydogu Anadolu Projesi;The Southeastern Anatolia
Project)は、1970 年代までは治水や水利、水力発電のための水資源開発を目的とした水資
源開発のみ焦点が当てられていたが、1980 年代に入ってからは、水資源開発のみならず、
農村地域の雇用拡大および農業生産性の向上、地域不均衡の緩和など、経済成長と社会の
安定をも目指す持続可能な地域開発へその内容が拡大された(Ünver、1997; DSİ、2009;
1
DSİ、2010; GAP-RDA、2010)。この大規模開発事業により、南東アナトリア地域では近代
化が進み、伝統社会が次第に変化している。しかし、アシレットを中心とする社会構造は
近代化の過程で様々な問題を起こしており、他の地域とは異なる様相を呈している。
「持続可能な開発」という用語は、1987 年に公表された「環境と開発に関する世界委員
会」の報告書「我々の共通の未来(Our Common Future)」の中心的な考え方で、近年の主
要な開発原理として広く受け入れられている。持続可能な開発において中核になる基本概
念は、経済、社会、環境という「三本柱」をともに考慮した開発である(OECD、2008)
。
南東アナトリア地域における独特な社会構造に起因する「地域性」の究明は、持続可能
な開発のための欠かせない部分であるだろう。しかし、南東アナトリア地域の社会組織に
関する研究はみられない(Kudat and Bayram、2000)。クダット・バイラムはトルコの東部
と南東部地域における不安定な政治状況と人類学分野での研究の蓄積が進んでいないこと
により、これらの地域の社会組織に関する研究が妨げられたと推測した。
また、南東アナトリア地域では、トルコ建国以来、最大規模の開発計画が推進され、拠
点開発によるインフラの構築および多方面での集中的な投資が行われた結果、南東アナト
リアの地域経済は画期的に変化している。とくに、開発計画以前(1985 年の統計)、経済活
動人口の約 70%が従事していた農業は、灌漑用水の供給により、
「第二の農業革命」と呼ば
れるほど、注目すべき成長を遂げた。天水に依存していた粗放的な乾燥農業から集約的な
灌漑農業へ変化したことにより、当地域における綿花の生産量はトルコ全体の綿花生産量
の 56.1%を占めるまでに至っている。しかし、綿花栽培により地域農民の農家収入は多く
なった一方で、綿花が国際市場の価格変動に大きな影響を受ける換金作物であるため、近
年、綿花価格の下落と肥料、燃料代の高騰にともなう栽培コストの上昇が発生し、綿花栽
培農家にとって大きな負担となっている。
さらに、人為的な水供給により半乾燥地域で灌漑農業を展開する際に、用水管理はきわ
めて重要な部分である。灌漑用水の合理的、効率的、公平的な分配は持続可能な農業発展
2
の た め に ま ず も っ て 優 先 す べ き 条 件 で あ る 。 1990 年 前 後 の 参 加 型 灌 漑 管 理 (PIM:
Participatory Irrigation Management) と 灌 漑 管 理 移 管 (IMT: Irrigation Management
Transfer) といった世界的な動向を背景に、トルコ政府の財政難と財政支援を行っていた
世界銀行からの圧力により、灌漑用水の管理権は国家水利事業局(DSİ)から民間へ移管され
始めた(荒井、2009;Özlü, H. et al.、2007)。灌漑管理移管は国家財政の負担緩和、利用
者の参加と自らのガバナンスによる効率的な管理運営を目指している。
しかし、南東アナトリア地域の水利組合(Sulama Birliği ; Water User Association)は、
アシレットを中心とする階層的な社会組織に基づいて運営されているため、用水管理に対
する地元住民への自律的な参加は妨げられている。また、水利組合は灌漑用水管理権をめ
ぐるアシレット間の勢力争いの場になっており、効率的な灌漑用水管理は行われていない。
それゆえ、水利組合の不十分な灌漑用水管理に対する農民の不満は高まっており、多くの
農家が灌漑用水管理への政府の関与を求めている。
そこで、本研究では、伝統的な社会構造が現在でも大きな影響を及ぼしている南東アナ
トリア地域を対象に、農村社会の「地域性」を究明し、近代化の過程で大規模開発事業が
伝統社会に及ぼした経済・社会的な影響を検討する。また、近代化の推進における他の地
域とは異なる「地域性」を持つ伝統社会で現れている問題点を明らかにすることを目的とす
る。さらに、近年の農業形態の変化動向と地域農業における問題点を検討することにより、
南東アナトリア地域の持続可能な農業発展のための在り方に関して考察する。
Ⅱ 本研究の構成
本研究は 5 章構成となっており、各々の章の概要は以下の通りである。
第 1 章は、序論であり、本研究の背景および目的を示す部分である。
第 2 章では、南東アナトリア開発計画の背景、過程、内容を検討し、南東アナトリア開
3
発計画の中心軸であるシャンルウルファ県の灌漑事業および農村基盤整備事業を取り上げ
る。灌漑事業以前、半乾燥気候下で乾燥農業と出稼ぎにより生計を営んでいた劣悪な農村
経済が、政府主導によるこれら事業の実施によりトルコの代表的な綿花産地へ変化したこ
とに注目し、綿花栽培が地域社会へ及ぼした影響を明らかにする。
第 3 章は、南東アナトリア開発計画の灌漑事業のモデル地域として政府の集中的な投資
が行われているハラン平原を対象にした事例研究である。灌漑事業以前と以後のハラン平
原の灌漑地域の変化をリモートセンシングを用いて分析し、灌漑用水供給による農業環境
と農業形態の変化を村落レベルで明らかにする。また、灌漑用水をめぐって現れる農民と
管理主体である水利組合のコンフリクト問題を取り上げ、各々の立場からの意見を把握し、
その解決方法と持続可能な農業のための在り方を考察する。
第 4 章は、アシレットの解明を目的とする。ハラン平原地域を対象に、地域社会におけ
るアシレットが持つ意味とその影響力を究明する。また、自給的な乾燥農業から綿花を中
心とする換金作物の栽培へ地域農業が変化したことに着目し、地域住民の経済的自立と開
放的な経済活動が伝統的な社会構造および地域住民の意識変化に及ぼした影響を明らかに
する。
最後の第 5 章は、本研究全体の結論に当たる部分である。ここでは、本研究の成果を要
約するとともに、トルコの南東アナトリア地域における持続可能な農業発展のために解決
すべき課題を提示する。
参考文献
荒井康一 (2009) : 現代トルコにおける水資源政策と国家‐社会関係:南東アナトリア開発
計画の事例から.
CIAS Discussion Paper, 11, pp. 17-41.
Gokalp, Z. (1992) : Sociological analysis on Kurdish Tribes, Sosyal, Istanbul.
4
Kudat, A. and Bayram M. (2000) : Social Assessment and Agricultural Reform in Central Asia and
Turkey. World Bank Technical Paper No. 461, Washington, D. C.,
302p.
Strange,T.、 Bayley, A. (2008) : Sustainable Development: Linking Economy, Society, Environmnet,
OECD inshights , Paris, 141p.
İçli, T. G., Ökten, Ş. Boyacıoğlu, A. Ö. (2012) : A Study on Hierarchical / Normative Order, Marriage
and Family Patterns in Bin Yousuf Tribe of Southeastern Turkey. Scientific Research, 1(2), pp.
19-29.
Özlü, H., Yorulmaz, Ö, Aytaç, Ş. A. (2007) : Irrigation Management Transfer to Water User
Organizations in Turkey.
The 4th Asian Regional Conference & 10th International Seminar on
Participatory Irrigation Management,
Tehran Iran, May 2-5, 2007, pp. 661-671.
5
第2章
Ⅰ.
シャンルウルファ県における綿花栽培による地域社会の変容
はじめに
トルコの東部地域と西部地域間の社会・経済的な地域格差は大きい。西部地域と比べ、
東部地域は相対的な貧困地域であり、社会経済開発の進展が遅れている(Kudat and Bayram、
2000;Ünver、1997b)。とくに、南東アナトリア地域は水資源として利用可能なチグリス・
ユーフラテス川と平原地帯を擁しているにも関わらず、農業の進展は見られなかった。こ
の地域が他の地域と比較して大きな地域格差を抱える理由として、独特の社会・文化構造
が挙げられる(Rusen and 加納、1990)。
南東アナトリア開発計画は地域不均衡の緩和と社会統合を目的に推進されている総合開
発計画である。この開発により、南東アナトリア地域は大きく変化し、とくに農業経済面で
目覚ましい成長を遂げた。開発以前には乾燥農業と牧畜が代表的な農業形態であったが、開
発以後には綿花を中心とする穀類、野菜、果物、堅果類などの灌漑農業が行われている。こ
の中で綿花は代表作物であり、トルコ全体の生産量の 56.1%を占めており、地域社会の変
化を加速化させる主要要因となっている。
南東アナトリア地域に関する研究は大きく4つに分けられる。第一は、クルド民族の分
離主義に関する研究 1)、第二は、水資源開発による周辺国家との利害関係に関する研究 2)、
第三は、南東アナトリア開発計画を中心とする地域研究 3)、最後には、灌漑農業の展開に伴
う環境問題に関する研究である 4)。この中で、南東アナトリア開発計画を中心とする地域研
究では、クダット・バイラム(Kudat and Bayram、2000)は南東アナトリア地域を紹介し、
開発による地域社会の変化を社会・経済的な観点から分析した。また、ハリス(Harris、2002
~2012)は水資源をめぐって顕在化したクルド民族との葛藤問題と開発事業に対する住民
意識を土地所有の有無、性別、民族に分けて調査した。しかし、これらの研究は開発初期
6
の現地調査に基づいており、近年の状況は十分把握されていない 5)。灌漑事業以後 17 年が
経過した南東アナトリア地域の綿花農家の土地利用では、開発計画初期とは異なる形態が
現れており、水資源を管理する水利組合が地域農業において重要な位置を占めるようにな
っている。しかし、既存研究は、水利組合の設立当時の内容のみを紹介しており、研究対
象地域もハラン平原(Harran Plain)に限定されている。ハラン平原は南東アナトリア開発
計画のうち、灌漑事業のモデル地域として政府の集中的な投資が行われたが、現在、シャ
ンルウルファ県(Şanlıurfa Prefecture)内の他の地域でも灌漑事業と耕地整理事業が大規
模に推進され、綿花の栽培が行われているため、綿花栽培に関する全体的な事業内容とそ
れによる地域の変化を調べるためには、シャンルウルファ県全体を対象にする研究が必要
である。
また、南東アナトリア地域には、複雑な民族構成と血縁・縁戚・氏を基盤に形成された
アシレット(Aşiret;tribe;部族集団)中心の社会構造が存在している。アシレットは一人
のリーダーにより管理される地域社会で最も重要な 1 次組織である(Gokalp、1992)。遊牧
民が定住生活に移行する過程で地縁関係までもアシレットに組み込まれた結果、政治や社
会、経済、宗教および日常生活までその影響力が強まるようになり、現在も地域社会の中
心組織となっている(中川、2003)。それゆえ、南東アナトリア地域の地域研究においては、
このような地域社会の構造と特徴に関する理解を前提としなければならない。
本研究は、半乾燥気候下で乾燥農業と牧畜に依存していた南東アナトリア地域の劣悪な農
業経済が政府主導の開発計画によりトルコの主要綿花産地へ変化したことに注目し、南東
アナトリア開発計画の背景、過程、内容とそれによる綿花栽培の増加、近年の灌漑農業の
変化および地域社会の変化を検討する。調査地域としては南東アナトリア開発計画の中核
6)
に選ばれ、農業基盤整備事業と政府の集中的な投資が優先的に行われているシャンルウル
ファ県を選定した。また、南東アナトリア開発計画の背景および地域農業の変化を明らか
にするために、政府投資の内容と役割、綿花生産性の変化などを検討する。
7
地域社会の変化については、かつての高い出生率と深刻な人口流出に特徴づけられる地
域社会の人口問題が、労働集約的な綿花栽培の展開によりどのように変化したかを検討す
る。
また、人口問題は土地所有と密接な関連を持つ。少数の有力者に集中していた土地所有
は、土地を持たない住民が出稼ぎのために他の地域へ移住する人口流出の主な原因であっ
た。そこで、近年の住民の土地所有内容を調べることにより、地域社会の土地所有の特徴
を明らかにする。さらに、灌漑農業の成長とともに地域社会の新たな中心組織として強い
影響力を行使している水利組合(Sulama Birliği)の役割と事業内容を調べ、水資源をめぐ
る政府、水利組合、農民間の相互関係を把握することにより、綿花栽培を中心とする地域
の灌漑農業展開の構造と特徴を明らかにする。最後に、持続可能な農業の発展のために当
地域で解決すべき問題点を考察する。
本研究の研究方法としては、文献調査、統計データの分析、資料の地図化、現地調査を
行った。文献調査を通じて、南東アナトリア開発計画の推進内容と地域に関する全般的な
内容を検討し、シャンルウルファ県の農業総局(Provincial Directorate of Agriculture)
と耕地整理事業部を訪問し、地域農業に関する報告書と統計データを入手した。また、そ
の資料に基づいて ArcGIS10 により調査地域を地図化した。最後に、2012 年 8 月から 10 月
にかけて3つの水利組合と 2 つの町自治体 7)、2 つの村落を訪問し、町自治体長と村長およ
び 23 世帯の綿花栽培農家の世帯主を対象に聞き取り調査を行った。これにより、農家が灌
漑用水を利用するまでの過程および水利組合の事業内容、組織、問題点を調べ、地域の土
地所有実態と土地利用変化に関する内容を検討する。
Ⅱ.
南東アナトリア開発計画と綿花生産の増加
1. 南東アナトリア開発計画
8
南東アナトリア地域はトルコ全体の人口と面積の約 10%8)に当たり、9 つの県 9)を含む。
また、南方にシリア、南東方にはイラクと国境を接しているため、社会・文化的に越境地
域の特徴が現れる(第 1 図)。
第 1 図 トルコの地域区分と南東アナトリア地域の位置
資料:トルコ統計局の地域区分により筆者が地図化した 10)。
チグリス・ユーフラテス川はトルコの東部地域を源流として、南東部アナトリア地域を
通ってペルシア湾へ注ぐ。トルコ政府は年平均流量がトルコの全体流量の 28%を占めるチ
グリス・ユーフラテス川の水源に注目し、この水源を利用するための地域開発計画を推進
した(DSİ、2009)。1936 年にユーフラテス川の水資源を利用するための調査・研究が始まり、
これによるケバンプロジェクト(Keban Project)11)が施行された。1954 年に国家水利事業局
(Devlet Su İşleri Genel Müdürlüğü ; The General Directorate of State Hydraulic Works,
以下 DSİ と略す)の設立により、トルコ全体の水資源に関する流域基礎調査及び研究・開発
が本格的に施行され、1980 年にはチグリス・ユーフラテス川に関連する開発計画が南東ア
9
ナトリア開発計画(GAP)と呼ばれるようになった。
トルコにおける地域開発は、1970 年代は灌漑と水力エネルギー開発のための水資源開発
計 画 に 焦 点 が 当 て ら れ て い た が 、 1986 年 か ら 国 家 開 発 機 関 (The State Planning
Organization) による総合的な地域開発が推進され、1989 年に設立された南東アナトリア
地域開発局(Southeastern Anatolia Regional Development Administration)が開発計画の
主軸となり、1980 年代以後は経済成長と社会的安定の両方を志向する持続可能な地域開発
計画へその内容が拡大された(Ünver、1997b ; DSİ、2009 ; DSİ、2010 ; GAP-RDA、2010)
南東アナトリア開発計画は、トルコの建国以来、最大規模の総合的な地域開発であり
12)
、
ア メ リ カ の テ ネ シ ー 川 流 域 開 発 計 画 (TVA) と イ タ リ ア の 南 部 開 発 計 画 (Mezzogiorno
Development)をモデルとした地域開発計画である(Kudat and Bayram、2000 ; GAP-RDA, 2008)。
開発計画の内容のうち、水資源と土地資源開発に関するものは、ユーフラテス川で7つ
13)
、チグリス川で6つ 14)で、合計 13 のプロジェクトである。これらの事業により、22 カ所
のダムと 19 カ所の水力発電所の建設と年間 270 億 kWh の電気の生産、1,822,000ha の土地
へ灌漑用水を供給する計画が推進されている。2010 年までに、すでに 308,000ha で灌漑用
水が供給され、現在、64,000ha で灌漑のための工事を進行している。また、15 カ所でダム
が建設され、2 カ所のダムが建設中であり、9カ所の水力発電所による電気の供給が実現さ
れた(DSİ、2010)。
しかし、トルコのチグリス・ユーフラテス川での大規模な水資源開発は、下流部に位置
するシリア・イラクとの葛藤を引き起こす原因となっている。すなわち、上流地域での水
資源開発と大規模灌漑事業は下流国への流量の減少をもたらし、灌漑過程で集積した塩類
が下流へ流入し、流量が確保されても水質の悪化により、飲料水と灌漑用水としては使わ
れない状況が発生しているからである(田中・中山, 2010)。
2. シャンルウルファ県の概要
10
南東アナトリア開発計画の中で最も規模が大きく総合的な開発プロジェクトはユーフラ
テス川下流開発プロジェクト(Lower Euphrates Project)である。このプロジェクトにより、
南東アナトリア開発計画の核心事業であるアタチュルクダム(Atatürk Dam)とシャンルウル
ファ灌漑用水トンネルが建設され、モデル地域として選定されたシャンルウルファ県のハ
ラン平原へ 1995 年から灌漑用水が供給された(第 2 図)。この事業により、シャンルウルフ
ァ県は南東アナトリア地域全体の綿花生産量の 67%(2011 年)を生産する代表的な綿花産地
に成長した。
第 2 図 シャンルウルファ県の灌漑地域および幹線用水路の位置
資料:シャンルウルファ県の農業総局からのデータと DSİ(2010)の資料により筆者作成。
シャンルウルファ県の面積は 19,336km2 であり、県内に 11 郡(District)、26 自治体
(Municipality)、1,152 村落(Village)がある。
ユーフラテス川は県の北西から西南に向かって流れており、県の南方はシリアと国境を
接している。 したがって、シャンルウルファ県では社会・文化的に越境地域の特性が現れ、
11
複雑な民族構成と他の地域とは異なる社会構造が現れる。住民の使用言語をみると、ハラ
ン平原を中心とする南部地域ではアラビア語が使われ、アラブ文化の社会構造と文化的な
特徴が強く現れる。一方、中心部ではトルコ語のみ使用する住民と他の民族的な背景を持
つ住民が混在し、それ以外の地域ではクルド語が使用され、クルド文化が現れる。このよ
うに複雑な民族的背景を持つ地域での社会統合は難しい課題であり、民族的な背景に起因
する社会・文化的な格差と葛藤は多くの社会問題を引き起こしている。
1985 年の南東アナトリア地域の識字率(トルコ語)は 55%で、人口の半分程度しかトルコ
語を使用しなかった。しかし、南東アナトリア開発計画が施行され、教育事業と灌漑農業
による社会・経済的需要の増加により、識字率は少しずつ高くなり、現在は 84.3%(2011
年)となっている。
南東アナトリア地域の農業におけるシャンルウルファ県は重要な位置を占めている。南
東アナトリア地域の耕作地の 41.5%はシャンルウルファ県に属している。また、シャンル
ウルファ県の面積の 65%は農耕地として利用されており、地域内総生産(GRDP ; Gross
Regional Domestic Product)の中で、農業が 46%を占めている。さらに、人口の 44.6%は
農村地域に居住している。
第3図 シャンルウルファ県の月平均気温と降水量(1970~2010)
12
資料:TSMS,トルコ気象局(http://www.dmi.gov.tr、2012 年 11 月 10 日検索)により作成。
気候は半乾燥気候(semi-arid)で、年平均気温 18℃、年平均降水量は 433mm であり、夏期
の降水量はほとんどない冬降水型である(第 3 図)。
3.農業基盤整備事業および農業関連事業の推進
シャンルウルファ県では、農業の効率性を高めるために耕地整理事業を 1988 年から始め
た。1988 年から 2012 年の 11 月までに整理された耕地面積は 100,897ha で、合計 832 村落
で耕地整理が施行された。また、2012 年から 2014 年までの完了を目標とする耕地整理事業
の面積は合計 12,645ha で、現在 54 村落で耕地整理が施行されている(第 4 図)。
第 4 図 シャンルウルファ県の耕地整理状況
資料:シャンルウルファ県の農業総局からのデータにより筆者作成。
耕地整理事業による耕地の区画整理、農道および灌漑用水路の整備、耕地平坦化(land
13
leveling)などは農業環境の改善において主導的な役割を果たし、これらによる営農の効率
化と機械化は農業生産性の向上に大きく寄与した。
灌漑事業は、現在まで約 320,000ha(2010 年基準)で行い、南東アナトリア開発計画が完
了すると、約 830,000ha で灌漑農業が可能となる(第 2 図)。これはトルコ全体の灌漑地域
の 8.94%がシャンルウルファ県で実現されることを意味し、このような集中的な投資はシ
ャンルウルファ県が綿花栽培の中心地域に成長することに決定的な役割を果たした。
また、政府は綿花栽培に関する補助金を 2001 年から綿花栽培農家に支給している。作物
別に支給される政府補助金の内容を比較すると、他の作物と比べ綿花に最も多額の補助金
が支給されている(第 1 表)。トルコは世界 4 番目の綿花消費国であり、繊維産業はトルコ
の主要産業の一つであるため、綿花生産は重要な意味を持つ。また、綿花は換金作物であ
るため、農家所得の向上に寄与する効果や加工工場および繊維工場などの地域産業の育成
につながる波及効果も期待されることから、政府の補助金は高く支給されている。最近は、
綿花の品質を向上させるために、政府認証種子の綿花と非認証種子の綿花を区別して、補
助金を支給する政策が施行されている(第 1 表)。
第1表
シャンルウルファ県の作物別の補助金内容(2011年)
(単位: TL/kg)
綿花
2011年
政府認証種子
0.42
非認証種子
0.35
トウモロコシ
小麦
大麦
レンズ豆
ヒヨコ豆
0.04
0.05
0.04
0.10
0.10
資料:シャンルウルファ県の農業総局データによる。
一方、シャンルウルファ県の農民のための農業関連教育は次の通りである。シャンルウ
ルファ県の農業総局(Provincial Directorate of Agriculture)が毎年農民教育を計画、実
施しており、2011 年には 17,099 人が農民関連教育を受けた。農民教育は現在2つの教育施
14
設で行われており、灌漑用水利用に関する教育、農業機械教育、農業後継者教育が行われ
ている。しかし、シャンルウルファ県全体の農業人口を勘案すると、農業施設および農業
教育は非常に不足している。また、村落レベルの実質的な農業教育は行われていない。地
域農民の低い営農知識と技術が地域農業および環境問題において主要原因であることを勘
案すると(Kudat and Bayram、2000 ; Çullu、 2003 ; Binici et al.、 2006 ; Aktas et al.、
2011)、村落レベルの実質的、効率的な農業教育が切実に必要である。
4. シャンルウルファ県における綿花栽培の増加
トルコの主要綿花産地は、イズミル(İzmir)県を中心とするエーゲ地域とアンタルヤ
(Antalya)県、アダナ(Adana)県を中心とするチュクロバ(Çukurova)地域、南東アナトリア
地域である(ICAC、2009;第 5 図)。
第 5 図 トルコの主要綿花栽培地域
資料:トルコ統計局の綿花栽培地域データ(1994~2011 年)を基に筆者が地図化した。
15
4つの地域の年度別綿花栽培面積の推移を調べると(第 6 図)、灌漑用水供給以前の 1995
年までは、エーゲ地域の綿花栽培面積が最も広かったが、1997 年以後、南東アナトリア地
域が最大となった。このように、灌漑事業以後、南東アナトリア地域で綿花栽培が広がり、
2011 年にはトルコの全体綿花栽培面積の 58%を占めた。
第6図 トルコ主要綿花産地の年度別耕作面積の比較
資料:トルコ統計局のウェブサイト(http://www.turkstat.gov.tr、2012 年 11 月 5 日
検索)により作成。
1986 年の南東アナトリア地域の主要作物は穀類と豆類であり、
作付面積の 33.9%が小麦、
大麦は 18.5%、豆類 19.7%、綿花はわずか 2.8%であった(Ünver, 1997b)。当時は河川と
井戸を水源として利用し、灌漑可能な地域のみで綿花が栽培されていたが、1992 年の南東
アナトリア地域全体の耕地面積に占める灌漑農業の割合はわずか 5%であったため、その生
産量は非常に少なかった(Ayse, K. and Mumtaz, B., 2000)。また、1994 年の調査では、作
16
付面積の 49%が小麦、大麦が 20%、綿花は 21%であったことから、灌漑事業以前の栽培作
物は主に穀類であったことがわかる(Ünver、1997b)。
綿花の栽培率が低かった南東アナトリア地域が現在のようにトルコの主要綿花産地に成
長した原因は、1992 年のアタチュルクダムの建設と 1995 年にシャンルウルファ灌漑用水ト
ンネルの一つの完成により、1995 年からシャンルウルファ県のハラン平原へ灌漑用水が供
給されたからである。ハラン平原は南東アナトリア地域の綿花生産量の 42.6%を生産する
大規模な綿花栽培地域であり、シャンルウルファ県の綿花生産の中心地である。
南東アナトリア開発計画の中で、地域開発のために採択された4つの基本戦略は、第一
に、灌漑・都市・産業用水のための水資源開発、第二に、最適な作物のパターンの選択と
農業実践による土地利用の改善、第三は、地域固有の資源を基盤とする農工産業およびそ
の他の産業の育成、最後には、人口流出の抑制と他の地域から人材を誘引するための社会
サービス・教育の改善および雇用機会の拡大である(Ünver, 1997b)。綿花は灌漑用水が供
給されると、南東アナトリア地域の気候、地形、土壌の条件により栽培可能な換金作物で
あるとともに、綿花を原料とする農工産業の育成につながることから注目された。また、
綿花栽培のためには集約的労働が必要であるため、高出生率と出稼ぎによる人口流出とい
う地域の問題を解決しうる灌漑作物でもあった。
シャンルウルファ県の綿花作付面積の変化に関して調べると、灌漑用水が供給される以
前である 1994 年には綿花作付面積が 67,329ha に過ぎなかったが、1995 年の灌漑用水供給
以後には、作付面積が大幅に拡大し、1998 年には 152,659ha、2011 年には 209,669ha まで
拡大した。
また、綿花生産量においては、1994 年にトルコ全体の綿花生産量の 11.5%がシャンルウ
ルファ県で生産されたが、2001 年には全体生産量の 24%を生産し、2011 年には、37.6%を
生産した(第 7 図)。
17
第7図 トルコ、南東アナトリア地域、シャンルウルファ県の綿花生産量の推移
資料:トルコ統計局のウェブサイト(http://www.turkstat.gov.tr、2012 年 11 月 5 日
検索)により作成。
シャンルウルファ県の綿花栽培の増加は、地域農業のみではなく、地域産業においても
影響を及ぼし、県内の綿花加工工場 15)が大幅に増加した。2010 年、県に登録された綿花加
工工場の数は 167 カ所であり、地域繊維産業の 78.8%を占めている。しかし、繊維産業の
中で織物関連工場は衣類工場が 4 カ所、綿糸関連工場は 31 カ所で、その比重が低い。また、
綿花加工工場は綿花収穫時期(4 カ月~6 カ月)に労働者を一時的に雇用しているため、雇用
の不安定と劣悪な労働環境が問題点として指摘されている。繊維産業を中心とする地域産
業を育成するためには、1 次加工工場のみではなく、付加価値を創出しうる織物関連工場お
よび衣類工場などに関する積極的な開発と投資が必要である(Basbag et al.、2010)。
Ⅲ.
綿花栽培による地域社会の変化
1. 人口構造および人口移動の変化
南東アナトリア地域の人口問題は大きく三つに分けられる。第一には、過剰出生率、第
18
二は、深刻な地域間・地域内の人口移動、第三は、定住に関する問題である 16)(Ünver, 1997b)。
シャンルウルファ県の年間人口成長率は 3.31%で、トルコ全体の人口成長率 1.35%と比
較すると、非常に高い。県の人口は 1,716,254 人で、出生率はトルコ全体の出生率の 4.3%、
南東アナトリア地域の出生率のうち、26%を占めている(2010 年)。年齢別の人口構造に関
して調べると、少年児童人口が全体人口の 41.8%を占めており、少年児童負担率は 76.3%
で非常に高い(第 8 図)。
第 8 図 トルコ、南東アナトリア地域、シャンルウルファ県の年齢別の人口構造
資料:トルコ統計年報(2011)
このような高い出生率と人口成長率は、他の地域とは異なる社会・文化的な特徴に起因
する。一夫多妻を禁止する民法が存在しているにも関わらず、特に農村地域で一夫多妻が
存在しており、近親または同族間の結婚が一般的に行われている。調査地域では、アラブ
文化が現れる村落で一夫多妻が存在することを確認した。また、調査世帯の 80%が親戚ま
たは同族と結婚しており、家族の間で結婚年齢となった女子を相互交換するベルデル
(Berdel)という慣習も確認した。このことから、地域社会の慣習と伝統が結婚において大
きな影響を及ぼしていることがわかる。
19
灌漑事業以前、南東アナトリア地域では出稼ぎのために周辺の農業地域へ一時的・季節
的に移住する住民が多かった。南東アナトリア地域から近距離に位置するアダナ県 17)には、
毎年約 12 万人の一時的・季節的労働者が雇用され、労働者の大部分は南東アナトリア地域
から流入した人口であった(Kudat and Bayram、2000 ; 星山、 2003)。シャンルウルファ
県の場合もアダナ県のような綿花栽培地への出稼ぎ人口流出が多く、ハタイ(Hatai)県とメ
ルスィン(Mersin)県などの近距離地域へ農業・商業・工業・建築業に従事するための出稼
ぎ人口流出が現れた 18)。また、周辺国家と国境を接している地理的な条件により、シリア、
イラクとの中継貿易のために短期間移住する出稼ぎ労働者もいた(第 9 図)。
第 9 図 灌漑事業以前、シャンルウルファ県住民の出稼ぎのための主要流出先
資料:参考文献と聞き取り調査を基に地図化した。
綿花栽培地域への出稼ぎ人口移動は、ほとんど家族単位で行われ 19)、短い場合は 2 カ月、
長い場合は 6 カ月から 9 カ月まで綿花栽培地域で居住しながら作業し、農閑期にはシャン
ルウルファへ戻る移動パターンであった 20)。
しかし、シャンルウルファ県に灌漑用水が供給された以後には、出稼ぎのための人口流
20
出が大幅に減少し、灌漑事業以前の出稼ぎ労働者の主要流出先から出稼ぎ労働者の流入先
へ変貌した。また、灌漑事業以前には、出稼ぎのための地域間人口移動が多かった反面、
灌漑事業以後には灌漑用水が供給される地域を中心とする県内の出稼ぎ人口移動パターン
となっている(第 10 図)。
第 10 図 灌漑事業以後、出稼ぎ人口の地域内移動
資料:参考文献と聞き取り調査を基に地図化した。
県内の出稼ぎ労働者では、灌漑事業が行われてない地域
21)
とシャンルウルファ県の中心
地から綿花栽培地へ移住する労働者が多い。また、中心地から移住する出稼ぎ労働者の場
合では、アタチュルクダムの建設による水没地域の住民が中心地へ移住したが、出稼ぎの
た め に 綿 花 栽 培 地 へ 一 時 的 に 移 住 す る 形 態 と 中 心 地 の 無 許 可 居 住 地 (Squatter
settlements)の居住者が出稼ぎのために綿花栽培地へ移住する形態がある(Kudat and
Bayram、2000 ; 星山、2003)。
最近は国際情勢により、シリア難民キャンプが位置するシャンルウルファ県のアクチャ
21
カレ郡
22)
で、シリア難民による綿花摘みが行われている。現地調査の際、シリア難民によ
り綿花摘みが行われていることを目撃した。また、地域農民によると、政府に許可を得て
シリア難民キャンプから労働者を雇用する場合、政府の労働基準価額(0.35TL/kg)より安い
賃金(0.29TL/kg)を支給するので、一部の農家はシリア人を雇用している 23)。
2.水利組合による灌漑用水管理
半乾燥気候であるシャンルウルファ県で綿花栽培が可能となったのは、灌漑事業により
灌漑用水が供給されたからである。地域農業において灌漑用水の供給とその管理はきわめ
て重要であり、効率的な灌漑用水管理は持続可能な農業のために欠かせない部分である。
シャンルウルファ県の灌漑用水は、自治体法により設立された非政府組織である水利組
合により管理されている。シャンルウルファ県には 28 個の水利組合があり、この中、19 個
の水利組合はハラン平原にある。
第2表 水利組合の運営内容
A
水利組合
B
水利組合
C
水利組合
設立年度
1995
1999
2008
灌漑用水の供給および管理面積(ha)
4,219
1,080
4,500
灌漑用水の供給および管理地域
水利組合の組合員数 (名)
灌漑形式
所有機械装備
(数)
2町自治体、10 村
1町自治体、25 村
13 村
1,050
1,853
514
地表灌漑 (%)
99
99
70
点滴灌漑 (%)
1
1
15
スプリンクラー(%)
0
0
15
掘削機
1
4
1
オートバイ
8
15
6
その他
ステーションワゴ
ン(1)
資料:水利組合での聞き取り調査を基に作成。
22
遠心揚水ポンプ
(6)、発電機 (3)
乗用車(2)
水利組合の事業内容と組織・運営に関する内容を調べるために、灌漑用水を供給し始め
た 1995 年に設立された A 水利組合と 1999 年に設立された B 水利組合、また、2008 年に設
立された C 水利組合を訪ね、聞き取り調査を行った(第 2 表)。
第11図
開水路形式の灌漑水路
資料:2012年9月9日に筆者撮影。
第 12 図 サイホン管による灌漑用水の利用(地表灌漑)
資料:2012 年 9 月 11 日に筆者撮影。
23
灌漑事業初期に設立された A と B 水利組合の管理地域内の灌漑水路
24)
の大部分が開水路
形式で、サイホン管を使う地表灌漑 25)が一般的に行われている(第 11 図、第 12 図)。近年、
新しく開設される灌漑水路の場合は管水路形式を採択し、スプリンクラー(sprinkler)や点
滴灌漑(trickle irrigation)26) が可能となっているが、圧力調節のような技術的な知識や
経験の不足により、その利用率は低い。第 2 表のように、C 水利組合の場合も、管水路形式
の灌漑水路が設置されているにも関わらず、灌漑管理面積の 70%は既存の伝統的な灌漑方
法である地表灌漑が行われている。
DSİ は、灌漑用水を 3 月から 9 月末まで水利組合を通じて農家に供給する。農民が灌漑用
水を利用するためには、該当地域の水利組合に加入しなければならない。農民は毎年、播
種以前に水利組合に作付作物の種類と面積を報告し、それによって算出された水利用金を
支払い、灌漑用水を利用する仕組みとなっている。また、水利組合は農民の報告内容を DSİ
に報告することと効率的な灌漑用水管理および用水路管理の義務を負う(第 13 図)
。
第 13 図 灌漑用水の利用過程と水利組合の役割
資料:水利組合での聞き取り調査を基に作成。
各々の水利組合には農民代表により選出された組合長と協議会、理事会、監査役会の三
つの役員会が構成されており、予算および水利料金の策定、施設管理、雇用などに関する
24
全般的な事項は農民代表の意見を収斂して役員会で決定する仕組みとなっている(第 14 図)。
したがって、
水利料金は水利組合ごとに差があり、
栽培作物の種類ごとにも異なる(第 3 表) 。
第 14 図 水利組合の組織図
資料:水利組合での聞き取りおよび水利組合内規を基に作成。
第 3 表 水利組合による作物別の灌漑用水利用料金(2011 年)
(単位: TL
作物
27)
/ decare)
綿花
トウモロコシ
小麦
野菜
A
20 TL
18 TL
12 TL
20 TL
B
16 TL
9.5 TL
8 TL
16 TL
C
22 TL
11 TL
10 TL
22 TL
水利組合
資料:水利組合での聞き取り調査を基に作成。
しかし、農民参加による効率的な灌漑用水管理を目標とした水利組合は、アシレットを
25
中心とする伝統的な社会組織を重視しており、農民のための効率的な管理が行われていな
い。そこで、A、B、C水利組合に所属している農民を対象に、水利組合に関する問題点を調
査した結果、A、B水利組合に対して所属農民は「不十分な灌漑用水路の掃除および管理」、
「灌漑用水の不公平な分配」、「高い料金」、「不十分な漏水管理による道路および農道の破
損」を指摘し、最近に設立されたC水利組合に対しては「高い料金」
、
「資金運営の不透明性」、
「組合長選挙における金品授受」を指摘した。また、「点滴灌漑およびスプリンクラーへの
灌漑用水の供給転換」と「用水利用量による差別的な料金策定が必要である」との意見があった。
実際、水利組合の灌漑用水路の管理は不十分であり、灌漑用水の不公平な分配により灌漑用水
路の下部地域では水不足問題が発生している。また、農民のための灌漑関連教育の不足と施設装
備の不足も問題点として指摘されている。灌漑関連教育を水利組合から受けたことがある世帯は、
20世帯のうち、わずか5世帯であった。しかし、水利組合の灌漑教育が必要であると考える農家
は20世帯のうち、17世帯であり、農民のための灌漑教育の不足とそれに関する農民の要求がある
ことがわかる。また、A、B、C水利組合が灌漑用水管理のために所有している機械装備は掘削機
と灌漑用水路の点検のためのオートバイ、乗用車程度であり、機械装備が非常に足りないことが
わかる(第2表)
。
3.土地所有と土地利用形態の変化
南東アナトリア地域は、歴史的にオスマン帝国の直接支配がなされず、君侯国などによ
る自治地域が多く、既存の支配層と封建的な社会構造が維持されてきた。また、1895 年の
土地法と遊牧民定住のための土地所有制度で、多くの土地が部族長(アシレット・レイシ;
Aşiret reisi) または地主(アー; Ağa)28) といった少数の有力者の名前で登記され、トルコ
の中で異例的に土地所有格差が顕著に現れる地域である(荒井、2009;2010)。
近年の当地域の土地所有格差に関する内容を調べるために、水利組合と村落で聞き取り
調査を行い、地域内の土地所有状況を調べた。農業のための灌漑用水を利用するためには、
26
耕地面積を水利組合に登録しなければならない。そこで、3つの水利組合から農家の耕地
面積に関する資料を得た後、各々の水利組合に属している村落と町自治体を訪ね、地域内
で最も広い土地を持っている上位 5 人の耕地面積を調査した(第 4 表、第 5 表)
。
第 4 表 水利組合に登録されている耕地面積別の農民数
(単位 : 人)
耕地面積
A 水利組合
B 水利組合
C 水利組合
750 - 501 decare
1
0
4
500 - 251 decare
1
3
12
250 - 101 decare
15
118
70
100 - 51 decare
50
401
300
50 decare 以下
983
133
128
資料:水利組合での聞き取り調査を基に作成。
第5表 各水利組合に所属している町自治体または村落での上位5人の耕地所有面積
(単位: decare)
A 水利組合
B 水利組合
C 水利組合
a 町自治体29)
b 町自治体30)
c 村31)
d 村32)
1
300
1,520
6,000
2,000
2
300
1,200
3,000
2,000
3
300
1,200
400
2,000
4
300
1,000
400
2,000
5
300
800
300
2,000
順位
資料:村長または町自治体長への聞き取り調査を基に作成。
その結果、3つの水利組合で 751decare 以上の耕地を所有している人はいなかったが、
村落での調査では、b町自治体のみ 4 人が 1,000decare 以上の耕地を家族所有形態で所有
27
しており、c村落では、一人が 6,000decare を直系家族の名前で所有していた。また、d
村落では 12 人が 2,000decare の耕地を家族名前で所有しており、水利組合に登録されてい
る耕地面積と実際的な所有面積は非常に相違することがわかる。ただし、a 町自治体は A 水
利組合内の村落の中で、唯一、民族・宗教的な背景が異なる地域である。それゆえ、この
地域では他の地域のような部族集団文化が形成されていない。また、耕地所有においても
最も広い面積を所有している人が 300decare であり、他の地域とは区別された。
一方、土地を持ってない農民の綿花栽培の形態は 3 つに分けられる。第一は、栽培農民
が綿花栽培費用を負担し、土地所有者に綿花収穫量の 30~40%を支払う形態であり、第二
は、土地賃貸料として年間 120~250 TL/decare を土地所有者に支払う形態で、第三には、
政府から土地を賃貸し、年間約 100 TL/decare の賃貸料を支払う形態である。この場合は、
対象土地が祖先から実際に所有されていたことは様々な状況により認められるが、土地台
帳がないため、その所有が証明できない場合、政府が対象農家に約 10 年間その土地を賃貸
し、後で、安い価格で販売する形態である 33)。
シャンルウルファ県の代表的な栽培作物となった綿花は、農家所得を創出し、それによ
り農村環境は急激に変化した。灌漑事業以後の農家の生活環境の変化に対して 23 世帯のう
ち、20 世帯が社会・経済的に生活環境が改善されたと答えた。また、灌漑事業以前には、
23 世帯のうち、わずか 2 世帯のみトラクターを所有していたが、灌漑事業以後には 22 世帯
が所有している。自動車の場合は、灌漑事業以前、9 世帯が所有していたが、灌漑事業以後
には 21 世帯が所有している。しかし、灌漑事業以後、農家所得の増加とともに農家借金も
増加しており、借金が必要であった主な理由は栽培費用と農業機械の購入のためであった。
2008 年後半、国際市場で綿花消費は前年対比で 3.3%下落し、トルコの綿紡績での消費は
16%下落した(USDA、2008)。このような綿花市場の動向は綿花価格の下落をもたらし、栽
培コストの増加
34)
とともに農家に大きな経済的負担となっている。かつては綿花栽培のみ
で収益性が保障され、ほとんどの農家が綿花のみを栽培していたが、近年では、栽培コス
28
トの増加、綿花価格の下落、綿花需要の減少、耕地の地力減少などにより、多くの農家が
耕地を分けて綿花と小麦、トウモロコシを栽培する耕地経営の多角化に転換しており、一
部では、綿花栽培を放棄する傾向も現れている。
Ⅳ.おわりに
トルコの西部と東部地域間の経済・文化的地域格差と東部地域の低開発や相対的な貧困
問題は、トルコ政府が国家均衡発展のために解決しなければならない問題である。南東ア
ナトリア開発計画はトルコ建国以来、最大規模で推進されている地域開発で、地域間不均
衡の緩和と社会・経済的不平等を解消し、社会安定と統合を目指している。開発初期には
水資源開発を中心とする開発であったが、近年では、水資源開発のみではなく、教育・社
会基盤施設・産業・交通・通信・住宅・保健・観光などの多分野(multi-sector)での社会・
経済的な開発計画に発展した。
本研究は、トルコの地域均衡開発のために施行されている南東アナトリア開発計画に関
する紹介と南東アナトリア地域の地域性に関して検討した。また、地域開発による地域社
会の変化を農業形態の変化と人口移動の変化、水利組合による灌漑用水の供給に焦点を当
てて検討した。
地域開発事業以後、シャンルウルファ県の綿花栽培は飛躍的に増加し、1997 年以後にト
ルコの綿花産地の中、最も多い生産量と栽培面積を達成している。灌漑事業以前、乾燥農
業と牧畜に依存していたシャンルウルファ県がトルコ全体の綿花生産量の 37.6%を占める
ほどの綿花生産地へ成長した背景は、下の通りである。第一に、シャンルウルファ県の北
西から西南に向かってユーフラテス川が流れており、水資源の開発と接近が容易である。
また、南部には平原が位置しており、作物栽培に有利な地理的な条件を持っている。第二
は、伝統的な社会構造から起因する高い出生率と人口成長率は労働集約的な綿花栽培にお
29
いて有利な条件として作用した。第三には、南東アナトリア開発計画の中心軸として選定
され、灌漑用水の供給を初め、耕地整理、道路および農道などの農業基盤整備事業が集中
的に行われたため、農業の機械化が推進され、営農の効率性が大きく向上した。第四は、
綿花が換金作物であるとともに、綿花栽培による政府補助金の支給は農家が綿花栽培を決
めた主要理由であった。最後には、灌漑事業以前、生計のためにアダナ県のような綿花栽
培地域で出稼ぎ労働をした経験は、灌漑事業以後、多くの農民が綿花栽培を選択した理由
であった。このような背景でシャンルウルファ県は綿花栽培の中心地として成長し、現在、
耕地面積の 17%で綿花が栽培されている(2011 年)。また、かつて小麦、大麦、豆類などの
制限的乾燥農業は、農業基盤整備事業により、綿花、トウモロコシ、果物、野菜、堅果類
を生産する灌漑農業へ変化した。
灌漑事業以前の出稼ぎ人口移動は、県外の綿花産地へ家族単位で移住する地域間の人口
移動であったが、灌漑事業以後には灌漑用水が供給される地域を中心とする県内の移動へ
変化し、出稼ぎ人口流出は大幅に減少した。
灌漑農業において最も重要な灌漑用水は、DSİ から水利組合へ灌漑用水管理権が移管され、
水利組合による灌漑用水の供給と管理が行われているが、伝統的な社会構造により、効率
的な管理が行われていない。不十分な用水路管理と不均等な用水分配、農民のための灌漑
教育の不在などは問題点として指摘されている。また、灌漑用水をめぐって新たな権力構
造が形成されることと水利組合がアシレット間の勢力争いの場になっていることは、大き
な問題である。
農民の低い営農技術と営農知識は地域農業において改善すべき問題であるが、農民の誤
った営農慣習を改善しうる農業教育が不十分である。水利組合では灌漑関連教育がほとん
ど実施されていないし、県レベルで実施される教育は少数の農民のみ受けている。また、
教育施設が非常に足りない状況である。少数の有力者を中心とする伝統的な社会構造が現
在でも維持されている地域の特徴を勘案すると、実際に農業を行っている一般農民が先進
30
的な営農教育を受けることは非常に難しいであろう。持続可能な農業発展のために農業を
行う農民の合理的な営農経営は必須条件であり、そのための営農教育は欠かせないもので
ある。
村落レベルの農家を対象にする実質的な営農教育と農民のための灌漑用水の管理、運営
は、持続可能な農業のために優先的に解決されねばならない。
注
1) Lee、1995; Harris、2002; Park、2002.
2) Biswas、1994; Bulloch et al.、1993; Dellapenna、1996; Tanaka and Nakayama、2010;
Lee, 2012.
3) Hoshiyama、2003; Buguk and Brorsen、2005; Ozdogan,M.et al.、2006; Basbag、2010;
Isgin, et al.、2010; Copur、2012; Harris、2006~2012.
4) Ayguney、2002; Çullu、2002; Yesilnacar, et al.、2008; Çullu、2012.
5) 地理学的な観点から地域調査を行ったハリス(Harris、2002~2012)の研究は、2001年の
現地調査を基にする内容であり、クダット・バイラム(Kudat and Bayram、2000)の研究
も1998年の現地調査に基づいた内容である。クダット・バイラムの現地調査の当時、水
利組合はハラン平原内で11個であったが、現在は19個の水利組合が運営されており、農
家の土地利用形態においてもかつては、ほとんどの農家が綿花の単作を行っていたが、
現在は、綿花・小麦・トウモロコシを栽培する耕地経営の多角化がみられる。また、既
存の研究では、女性と子供による綿花摘みを深刻な社会問題として取り上げたが、近年
の綿花摘みは出稼ぎ労働者または綿花収穫機械による作業へ変化している。
6) 南東アナトリア開発計画の初期段階で、南東部地域の空間開発のための開発中心軸とし
て、ガジアンテップ(Gaziantep)県、ディヤルバクル(Diyarbakır)県、シャンルウルファ
(Şanlıurfa)県の3つの県が選定され、これらの地域に社会基盤施設の改善および農工産
業の育成、雇用機会の拡大などの集中投資を行い、他の地域への波及効果と経済的な相
互作業を促進する計画案が施行された(Ünver、1997b)。
7) 町自治体(belde belediyesi): 町自治体は郡内の人口2,000人以上の人口密集地におけ
る最小レベルの自治体であり、民選による首長と議会を有する。
8) 南東アナトリア地域の人口は7,816,173人(2011基準)で、面積は76,509.08km2である。
9) アドゥヤマン(Adıyaman)、バトマン(Batman)、ディヤルバクル、ガジアンテップ、マル
31
ディン(Mardin)、キリス(Kilis)、シイルト(Siirt)、シャンルウルファ、シュルナク(Ş
ırnak)の9つの県が南東アナトリア地域に属する。
10) トルコの地理学的な地域区分は、一般的に1942年のトルコ第1回地理学大会で決められ
た7つの地域に区分される。しかし、当時の67県に基づいて作成された地域区分は、現
在の81県を基盤とする統計データの適用において不便な部分がある。そこで、統計デー
タによる地域区分を用いて地図化を行った。
11) ユーフラテス川の水資源を動力資源化するための調査・研究およびダム建設のための
開発計画である。
12) 投資予算は320億ドルで、2009年末まで投資金額の72.6%が実現された(GAP、2010)。
13) 14のダムと11の水力発電所の建設と1,000,000haの灌漑事業、200billion kWhのエネル
ギーの生産を目標にしている。
14) 8つのダムと8つの水力発電所の建設、700,000haの灌漑事業、7billion kWhのエネル
ギーの生産を目標にしている。
15) 収穫された綿花を繰り綿し、圧縮する1次加工工場である。
16) 水没地域住民の再定住問題、遊牧民の再定住問題、社会基盤施設の提供のために農村
地域を中央定住地へ再定住させる問題である。
17) 1992年の統計データによると、アダナ県の綿花栽培地は123,000haで、トルコの全体綿
花栽培地の19.24%を占めていた。
18) 1975年から1980年まで、南東アナトリア地域(ガジアンテップは除く)の流出人口の30.
1%がアダナ県とメルスィン(Mersin)県などの周辺地域へ移動した(Rusen, K. ・加納、1
990)。
19) 南東アナトリア地域の出稼ぎのための人口移動形態は、大別して成人男子の単身移動
と家族単位の移動に分けられる。エーゲ地域とチュクロバ地域へ出稼ぎ移動は家族単位
の移動が多く、その以外の地域では成人男子の単身移動が多かった。また、エーゲ地域
とチュクロバ地域の場合は、出稼ぎ労働者の3分の1が農村に居住し、その以外の地域で
は都市での居住が多かった(Rusen, K. and Hiromasa, K., 1990)。
20) 2カ月間の短期移住は綿花摘みのための移住であり、6カ月から9カ月間の移住は、綿花
の播種から収穫まで行う。
21) 調査地域では、まだ灌漑事業が行われていないシャンルウルファ県のスルチュウ(Suru
ç)郡から移住してきた出稼ぎ労働者か多く、労働者の居住環境および労働環境は劣悪で
あった。しかし、もうすぐスルチュウ郡でも灌漑事業が始まる予定であり、地元で農業
が可能となることに彼らは大きな期待をしていた。
22) アクチャカレ郡はハラン平原の南部に位置し、ハラン平原の綿花栽培地の32.9%を占
めており、ハラン平原の綿花生産量のうち、30.8%の綿花を生産している地域である。
23) シリア人を雇用する場合、言語はアラビア語を使用するので、作業において不便なこ
とはないという。ハラン平原の住民の80~90%はアラビア語を第1言語として使っている
32
(Kudat and Bayram、2000 ; Harris、2006)。
24) 灌漑水路の中で、開水路形式は川のように水の流れが見える自由水面を持つ水路形式
であり、管水路形式は自由水面をもたず、内水圧を受ける管水路(パイプライン)を主と
する水路形式である。
25) 地表灌漑は水が耕作地の地表を重力に従ってゆっくり流れ、地面を濡らし地中に浸透
する灌漑方法である。
26) 点滴灌漑は水が作物の根に近いところに点滴するように供給される灌漑方法である。
適切に管理すれば、水の効率が最も良い灌漑方法である。
27) 2012年10月の調査当時、1TLはおよそ0.54ドルに相当した。
28) 土地所有制度を背景に登場した地主はかつて封建領主の土地を耕したり、商取引に従
事していた。出自は商人、農民、牧人である(中川、2003)。
29) トルコ語を使用する地域で、宗教・文化的な背景が他の地域と異なる地域である。ま
た、アシレット中心の社会構造が現れない地域である。
30)アラブ文化が現れる地域で、アシレットの影響力は強い。
31)クルド文化が現れる地域で、アシレットの影響力は強い。
32)クルド文化が現れる地域で、アシレットの影響力は強い。
33)政府から土地を賃貸し、耕作している農民への聞き取り調査による内容である。
34) 農業の機械化が推進されたことにより、農業生産性が大きく向上したが、それととも
にディーゼルオイルの購入が農家支出において大きな比重を占めることになり、継続的
なディーゼルオイルの価格上昇は農家において経済的な負担となっている。
参考文献
荒井康一 (2009) : 現代トルコにおける水資源政策と国家‐社会関係:南東アナトリア開
発計画の事例から. CIAS Discussion Paper, 11, pp. 17-41.
荒井康一 (2010) :トルコ南東アナトリア開発計画と資源分配構造-大地主制から資本家的
農業経営へ-. 国際文化研究, 16, pp. 31-44.
田中幸夫、中山幹康
(2010):ディグリス・ユーフラテス川を巡る国家間紛争とその解決
の可能性-国際河川紛争解決要件に関する考察-、水文・水資源学会誌、23(2)、
pp.144-156.
中川喜与志 (2003) : 『クルド人とクルディスタンー拒否された民族―』南方新社,
508p.
星山幸子 (2003) : トルコ農村社会における女性の劣位性とジェンダー分業-アュップの
行為をとおして-. 国際開発研究ファーラム, 24,
33
pp. 95-111.
Rusen, K.、加納弘勝 (1990) :『トルコの都市と社会意識』アジア経済研究所,
332p.
Aktas, Y., Olgun, A., Demirdogen, A., Ocalkarara, F. (2011) : Analyzing Socio-Cultural Causes of
Excessive Irrigation in Tribal Societies and Extension Needs: A Case Study of Harran Planin,
Sanliurfa. 20th European Seminar of Extension Education, Proceedings of the 20th ESEE
Finland, pp.13-18.
Ayguney, N. (2002) : Burdens of development in Southeastern Turkey: Salinization and
Sociocultural Disruption, Lund University, Sweden.
Basbag, S., Ekinci, R., Akinci, C., Akin, S. and Ocalkara, F. (2010) : A project for the preparation
on inventory for cotton industry in Diyarbakir and Sanliurfa
Prefecture, Dicle University, Diyarbakir.
Binici, T., Zulaf, C., Kacira, O. and Karli, B. (2006) : Assessing the efficiency of cotton Production
in Harran Plain, Turkey. Outlook on Agriculture, 35(3), pp.227-233.
Biswas, A. k. (1994) : International waters of the Middle East: From Euphrates-Tigris to Nile.
Oxford University Press, New York.
Buguk, C. and Brorsen, B.W. (2005) : Is a futures market viable in Turkey? The case of a cotton
futures market. Journal of International Food and Agribusiness Marketing, 17(2),
pp.135-150.
Bulloch, John and Adel, D. (1993) : Water Wars: Coming conflicts in the Middle East, Victor
Gollancz, London.
Copur, O. (2012) : Cotton production problems in Southeastern Anatolia Project Area, National
cotton council, Sanliurfa.
Ç ullu, M. A. (2003) : Estimation of the effect of soil salinity on crop yield using remote sensing and
geographic information system. Turkish Journal of Agriculture and Forestry, 27(1), 23-28.
Ç ullu, M. A. (2011) : GAP Action Plan - Soil salinization. GAP-BKI (Southeastern Anatolia
Regional Development Administration),
Sanliurfa, 96p.
Dellapenna, J.W. (1996) : The two rivers and the lands between: Mesopotamia and the international
law of transboundary water. The BYU Journal of Public Law, 10, pp.213-261.
DSİ (General Directorate of State Hydraulic Works) (2009) : Turkey Water Report, Ankara.
DSİ (General Directorate of State Hydraulic Works) (2010) : GAP 2010, Ankara.
GAP Regional Development Administration(2008) : Southeastern Anatolia Project Action
Plan(2008-2012). Ankara, 84p.
34
GAP Regional Development Administration (2010) : Latest situation on Southeastern Anatolia
Project, Sanliurfa.
Harris, L. M. (2002) : Water and conflict geographies of the Southeastern Anatolia Project. Society
and Natural Resources, 15, pp.743-759.
Harris, L. M. (2006) : Irrigation, gender, and social geographies of the changing water-scapes of
southeastern Anatolia. Environment and planning D: Society and Space, 24, pp.187-213.
Harris, L. M. (2008) : Water Rich, Resource Poor: Intersections of Gender, Poverty, and
Vulnerability in Newly Irrigated Areas of Southeastern Turkey.
World Development,
36(12), pp. 2643-2662.
Harris, L. M. (2012) : State as Socionatural Effect: Variable and Emergent Geographies of the State
in Southeastern Turkey. Comparative Studies of South Asia, Africa and the Middle
East(CSSAME), 32(1), pp. 25-39.
Hatipoğlui, M. And Darama, Y. (2003) : Mornitoring of Irrigation Development in Şanlıurfa-Harran
Plain Using Remote Sensing and Geographic Information System.
Proceedings of the
International Colloquium Series on Land Use/Cover Science and Applications on Studying
Land Use Effects in Coastal Zones with Remote Sensing and GIS, August 13-16,
2003,
pp. 394-404.
ICAC(International Cotton Advisory Committee)( 2009) : Cotton Fact Sheet Turkey, Washington.
Isgin, T., Bilgic, A., Ipekcioglu, S. (2010) : An Analysis of Cotton Production Technology on the
Harran Plain, Journal of Agricultural Sciences, 16, 254-261.
Kang, S.
Area
48(1),
K. (2013) : Development of Cotton
in
Sanliurfa
Prefecture, Turkey.
Farming
and
Transformation
of Rural
Journal of the Korean Geographical Society,
pp. 87-111.
Kudat, A. and Bayram M. (2000) : Social Assessment and Agricultural Reform in Central Asia and
Turkey. World Bank Technical Paper No. 461, Washington, D. C., 302p.
Lee. H. S. (1995) : A study on the Kurdish minority. The journal of the institute of the middle east
studies, 14, pp.175-222.
Lee. H. S. (2012) : The influence of the GAP project to the Middle Eastern Economy and Culture,
World River Forum, Daegu.
Ozdogan, M., Woodcock, C. E., Salvucci, G. D. and Demir H. (2006) : Changes in Summer Irrigated
Crop Area and Water Use in Southeastern Turkey from 1993 to 2002-Implications for
35
Current and Future Water Resources.
Water Resources Management, 20, pp. 467-488.
Özlü, H., Yorulmaz, Ö, Aytaç, Ş. A. (2007) : Irrigation Management Transfer to Water User
Organizations in Turkey.
The 4th Asian Regional Conference & 10th International Seminar
on Participatory Irrigation Management, Tehran Iran, May 2-5, 2007,
Park, J. P. (2002)
pp. 661-671.
: A Study of the Kurdish and Conflict. The journal of the institute of the Middle
East studies, 20, pp.153-177.
Tanaka, Y., Nakayama, M. (2010) : Transboundary Water Dispute over the Euphrates and
Tigris River Basin: Historical Review and Assessment of Settlement Potential. Journal of Japan
Society of Hydrology & Water Resources, 23(2), pp.144-156.
Ü nver, I. H. O. (1997a) : Southeastern Anatolia Integrated Development Project (GAP), Turkey-An
overview of issues of sustainability.
Water Resources Development,
Ü nver, I. H. O. (1997b) : Southeastern Anatolia Project (GAP).
13(4),
pp. 453-483.
USDA, Cotton and Wool Situation Outlook Yearbook, 2008 .
1)
3)
4)
5)
6)
7)
8)
9)
10)
11)
12)
13)
15)
16)
17)
18)
19)
20)
21)
22)
23)
24)
25)
26)
27)
28)
29)
30)
31)
32)
33)
36
13(2), pp. 187-207.
Water Resources Development,
第3章
Ⅰ.
ハラン平原における灌漑用水供給以後の地域社会の変容
はじめに
南東アナトリア地域の中で、ハラン(Harran)平原は GAP のモデル地域に選定され、1995
年よりアタチュルクダムから灌漑用水が供給され、耕地整理とインフラ設備などへの政府
の集中的な投資が優先的に行われている地域である。このような政府主導の農業基盤整備
事業は半乾燥地域であるハラン平原を灌漑農業の中心地へ変化させ、トルコの代表的な綿
花生産地へと成長させた。
換金作物である綿花の栽培により地域住民の農家収入は高くなったが、ハリス(Harris、
2008)は集約的労働を要求する綿花栽培の特徴により、女性の労働負担が高くなったことを
指摘している。とくに、収穫期の女性と就学年齢の児童による綿摘みは改善するべき社会
問題であると述べている。しかし、近年、ハラン平原の綿花栽培の労働形態は出稼ぎ労働
者の雇用による綿花収穫、または収穫機械による綿花収穫へその内容が大きく変わってい
る。
また、灌漑農業における最も重要な水資源を管理する水利組合は、灌漑用水供給ととも
に、農村社会において大きな影響力を行使する有力組織として成長している。クダット・
バイラム(Kudat and Bayram、2000)は封建的、階層的な社会構造を特徴とするハラン平原
の地域社会が GAP により綿花生産地域に成長し、
自律的な水利組合の運営が実現されると、
次第に参加型の地域社会へ変化する可能性があると言及した。しかし、灌漑用水の供給よ
り約 17 年を経た現在のハラン平原の水利組合は、依然として伝統的な社会構造下で運営さ
れており、地元農民の運営への参加は妨げられている。水利組合の不公平な用水配分と不
十分な灌漑施設の維持管理は地域の効率的な農業展開のために解決すべき問題であり、現
在の水利組合に対する地元住民の不満は高まっている。したがって、近年のハラン平原の
37
灌漑農業展開に関する調査を行う際には、灌漑農業において重要な位置を占めている水利
組合の役割と運営内容および問題点、農民との葛藤問題を詳しく検討する必要がある。
ハラン平原を対象とした地域研究は、灌漑用水が供給された直後から 2006 年までの間に
活発に行われた 1)。しかし、近年のハラン平原の地域社会に関して取り上げたものは少ない。
綿花は国際市場の価格変動に大きな影響を受ける換金作物であり、近年のハラン平原の農
家は綿花価格の下落と、肥料、農業機械用のディーゼルオイル価格の高騰にともなう栽培
コストの上昇により、新たな局面に直面している。現在のハラン平原の農業形態は、灌漑
用水供給直後に現れた綿花の単作から綿花と小麦・トウモロコシ、野菜に分けて作付する
耕地経営の多角化の形態に変わっており、一部では綿花栽培の放棄傾向も表れている。し
たがって、ハラン平原の綿花栽培による地域社会の変化を調べる際には、このようなハラ
ン平原の農業形態の変化内容と綿花栽培に関する農民の意識変化も調べる必要がある。
以上のことから、本研究は、かつて灌漑作物の栽培が不可能であったハラン平原が、灌
漑用水供給と農業基盤整備事業の推進により、現在トルコの代表的な綿花産地に成長した
ことに注目し、ハラン平原の綿花栽培による地域社会の変化を、水資源利用と農業形態の
変化、出稼ぎ労働による綿花栽培の両面から検討する。また、灌漑用水の供給以後、急激
に綿花栽培農家が増加した理由と綿花栽培の増加状況、近年の農業形態を調べることによ
り、ハラン平原の綿花栽培の特徴を検討する。最後に、綿花栽培における問題点、綿花栽
培に関する計画などを検討し、今後のハラン平原における綿花栽培の変化動向を展望する。
また、灌漑用水をめぐって表れる農民と管理主体である水利組合の葛藤問題を取り上げ、
各々の立場での意見を把握し、その解決方法とハラン平原の持続可能な農業のためのあり
方に関して考察する。
本研究の研究方法としては、ハラン平原の綿花栽培による地域社会の変化を把握するた
め、定量的アプローチと定性的アプローチを併用して検討していく。定量的アプローチと
しては、第一に、リモートセンシングによる NDVI(正規化差分植生指標)2) の計測を通じて
38
ハラン平原の灌漑地域の変化を、灌漑用水供給以前と以後および最近に分けて把握する 3) 。
灌漑以前のデータとしてはアタチュルクダムの建設以前のハラン平原の状況を把握し得る
1984 年 8 月のランドサット TM データを用い、灌漑以後のデータとしては 1998 年 8 月のデ
ータを用いて NDVI 計測を行う。また、最近の灌漑地域の拡大状況と空間分布の変化を把握
するためには 2011 年 8 月のランドサット TM データの計測を行い、灌漑地域の分布の変化
と拡大状況を明らかにする。第二に、文献調査および統計データの分析により灌漑用水供
給以前のハラン平原の水資源利用実態と農業生産性、出稼ぎ移動の推移に関して検討する。
また、ハラン平原の灌漑農業の決定的なきっかけとなった農業基盤整備事業の内容と進行
状況を調べ、綿花生産量の推移を検討することによって農業基盤整備事業の影響力とハラ
ン平原での綿花栽培の重要性を検討する。定性的アプローチとしては、農業基盤整備事業
以後の農業環境および農業形態の変化を現地調査により村落レベルで把握する。また、農
民に対する意識調査を通じて綿花栽培の問題点と農業計画を調べ、今後のハラン平原の綿
花栽培に関して展望する。現地調査は 2012 年 8 月から 10 月にかけてハラン平原の 11 村落
で計 54 世帯の綿花栽培農家の世帯主を対象にアンケート調査と聞き取り調査を併用した 4)。
また、灌漑用水を管理する調査地域内の 3 カ所の水利組合を訪問し、農家への灌漑用水の
供給過程と事業内容、問題点などに関する調査を行った。
Ⅱ.
ハラン平原における農業基盤整備事業の推進
1. 地域概観
ハラン平原は南東アナトリア地域のシャンルウルファ県の南部に位置しており、南方は
シリアと国境を接している。また、ハラン平原は標高 247ⅿ~450ⅿの比較的に緩傾斜の広
い台地であり、周りは丘陵に囲まれている(第 1 図)。行政区分としては、シャンルウルフ
ァ県のシャンルウルファ中央郡とハラン郡、アクチャカレ郡の 3 郡の一部地域がハラン平
39
原に含まれており、ハラン平原の総面積は 225,000 ㏊である。
第 1 図 ハラン平原の位置および地形
注: USGS の SRTM データから ArcGIS を用いて等高線を作成した 5)。
年平均気温は 18℃、年平均降水量は 350 ㎜であり、降水の季節的な偏りが大きく、夏期
の降水量がほとんどない冬降水型である(Ozdogan,M.et al.、2006)。夏(6 月~8 月)の平
均気温は約 30.5℃で、降水は 11 月から 4 月にかけて集中しているため、夏季の農作物の栽
培はきわめて難しい。灌漑用水供給以前のハラン平原は、天水に依存する乾燥農業が一般
的であったため、農業生産性は低く、生計維持のために多くの住民が羊とヤギの放牧を併
行していた。また、出稼ぎのための人口流出は、この地域の深刻な社会問題の一つであっ
た。出稼ぎの主要先はアダナ県のような近距離の綿花栽培地域であり、綿花収穫期の家族
単位の季節的な移住が多かった(Rusen・加納、1990;星山、2003)。しかし、GAP による灌
漑用水の供給と農業基盤整備事業はハラン平原の農業環境を画期的に改善し、ハラン平原
の綿花栽培を中心的な存在にまで成長させた。2012 年現在、ハラン平原の綿花生産量はト
ルコ全体生産量の約 24%を占めている。このような綿花栽培の急速な増加は地域住民の農業
40
展開においても様々な影響を及ぼすと考えられ、本稿ではハラン平原の中で、綿花栽培が
盛んな村落を選定し、綿花栽培による地域社会の変化を調べる。
対象地域の選定においては、まず、シャンルウルファ県の農業総局を訪問し、ハラン平
原の中で 2011 年度の綿花栽培による政府補助金が最も多く支給された上位 25 村落の順位
情報を収集した。その中で、地理的な分布を考慮し、ランダムにシャンルウルファ中心郡
で 5 村落、ハラン郡で 4 村落、アクチャカレ郡で 2 村落の計 11 村落を選定した(第 2 図)。
第 2 図 調査地域の概況
資料:シャンルウルファ県の農業総局からのデータにより作成
2. 農業基盤整備事業実施以前の地域概要
第 2 章で説明したように、ハラン平原を含む南東アナトリア地域はトルコの中で異例的
に土地所有格差が顕著に現れる地域である。
土地とともに水も個人井戸の形で少数の有力者が多く所有しており、部族民と一般農民
の生活は少数の有力者に大きく依存してきた。土地を所有しない多くの農民は分益小作人
41
6)
(sharecropper)または借地人 7)(tenant)になって生計を維持し、半乾燥地域でも栽培可能
な小麦、大麦、レンズ豆を天水に依存して栽培していた。しかし、その収穫量は少なかっ
たため、生計安定のための羊、ヤギなどの牧畜を併行する生活を営んでいた。また、1960
年代のトルコ東部と南東部地域で推進された農業の機械化は労働力需要の減少をもたらし、
1980 年代まで土地を所有しない住民の経済状況は劣悪な状況であった。そこで、出稼ぎ労
働人口が増加し、出稼ぎによる深刻な人口流出はこの地域の大きな社会問題となった
(Kudat and Bayram、2000)。
調査地域における灌漑用水供給以前の水利用の状況は、深刻な水不足の状態で、共用井
戸の場合、村落内のわずか1つの共用井戸で生活していた村落が多く、共用井戸が多い村
落でもその数は5~6つ程度であった。共用井戸の数は足りず、一般住民においては飲料
水さえ不足する状況であった。一部地域では馬車を利用し、他の地域から水タンクを運搬
して飲料水を確保した村落もある。このような状況で一般農民が農業のために水を利用す
ることは難しいことであり、ほとんどの地域では、天水に依存した農業を行っていた(第 1
表)。
第1表 調査地域の水利用環境
村落
郡
調査
世帯数
(N=54)
灌漑用水供給以前の水利用
飲料水
農業用水
用水供給
開始年
A
中央郡
4
◎(60m)
×
2005
B
中央郡
6
△, ◎, ○(15m)
×
2005
C*
中央郡
9
△,◎(230m), ○(15m)
×
1995
D
中央郡
4
◎
×
1995
E
中央郡
5
△, ▲(馬車)
×
1997
F
ハラン郡
5
◎(320m):ポンプ利用
◎
1999
G*
ハラン郡
5
◎(80-100m)
◎
1999
H
ハラン郡
5
◎(60-70m), ▲(馬車)
×
1995
I
ハラン郡
4
△, ◎(150m), ▲(馬車、トラクター)
◎
2000
42
J
アクチャカレ郡
4
△, ◎(25m), ▲(馬車)
×
1995
K
アクチャカレ郡
3
◎(47-85m)
×
1995
注:(1) *は町自治体(belde belediyesi): 町自治体は郡内の人口 2,000 人以上の人口密
集地における最小レベルの自治体であり、民選による首長と議会を有する。
(2) △:泉、◎:共用井戸、(ⅿ)
:井戸の深さ、○:個人井戸(一般住民が多く所有し
た場合)、▲:他の地域から水タンク運搬、×:天水。
資料:村長との聞き取り調査およびアンケート調査により作成 (地主の個人井戸と農業用
水の使用は除く)。
一方、ポンプによる灌漑用水を使えた一部の地域と、広い土地を所有し個別灌漑により
灌漑用水を使えた地域内の有力者は灌漑農業を行い、綿花を主要灌漑作物として栽培して
いた。しかし、1986 年のハラン平原全体の作付面積のうち灌漑による綿花の作付面積はわ
ずか約 2.7%に過ぎなかった(Ünver、1997a;Harris、2008)8) 。
調査地域の 54 世帯の世帯主を対象に行った灌漑用水供給以前の農業と生計に関する調査
では、45 世帯が小麦と大麦、レンズ豆といった穀類と豆類を栽培し、43 世帯が牧畜を行っ
たと答えている。牧畜を行った 43 世帯のうち、40 世帯は 20 頭以上の羊またはヤギを飼養
していた(第 10 図)。また、28 世帯は出稼ぎにより生計費を調達しており、その内 24 世帯
の出稼ぎ先はアダナ県などの綿花栽培地域であった。さらに、個別灌漑により綿花栽培を
行っていた世帯は 9 世帯であった。
農家の主要所得源に関する調査では、20 世帯が穀類と豆類の栽培が主な所得源であった
と答え、16 世帯は牧畜であったと回答している。しかし、厳密にいうと穀物や豆類の栽培
と牧畜による所得は現金収入とは言えず、自給的な生計維持の意味が大きい。粗放的乾燥
農業により収穫量が充分でなかったため、収穫された穀類と豆類は主に自給用に利用され、
現金が必要な時は家畜を売って生計を営んでいたという。他方、綿花栽培を行っていた 9
世帯は綿花による現金収入が主要所得源であった(第 9 図)。また、出稼ぎ労働が主要所得
43
源であった世帯は 6 世帯であった。これらにより灌漑用水供給以前のハラン平原は半乾燥
気候下で粗放的乾燥農業が一般的で、多くの住民が牧畜と出稼ぎ農業の併行により生計を
維持していたことが確認できる。
3. 農業基盤整備事業の推進
南東アナトリア地域の高い人口成長率に対し、粗放的乾燥農業による低い農業生産性は
多くの出稼ぎ労働者を送り出し、深刻な人口流出をもたらした。また、低開発と貧困問題
とともに、複雑な民族的背景を持つ南東アナトリア地域の社会統合はトルコ政府が解決す
べき問題でもあった。地域の均衡発展と社会統合のために 1980 年から推進された GAP によ
り、農業開発のために耕地整理事業とユーフラテス川を利用する水資源開発が行われた。
ハラン平原の耕地整理事業は 1989 年から始まり、2012 年まで合計 255 村落で 169,757 ㏊
の耕地が整備された。耕地整理による農地区画整理と農道建設、耕地平坦化(land leveling)
などの事業はハラン平原の営農環境を画期的に変化させ、営農の効率化により農業生産性
が大きく向上した。
調査地域で耕地整理事業に対する農家の満足度を調査した結果、耕地整理が行われた 37
世帯のうち、31 世帯が耕地整理事業に関して満足しており、耕地整理により耕地面積が縮
小された 21 世帯の中でも 16 世帯が満足していた。満足の理由としては、
「小さい区画で断
片化されていた農地が一つにまとまったから」と答えた世帯が多く、かつて 75 区画に分け
られていた農地が耕地整備事業以後、6区画にまとまった事例もあった。
1995 年、DSİ はアタチュルクダムからシャンルウルファ灌漑用水トンネルを通じてハラ
ン平原へ灌漑用水を供給し始めた。この結果、1990 年に 29,950 ㏊であった灌漑面積は 2003
年に 106,100 ㏊まで拡大し、現在は 151,073 ㏊の耕地へ灌漑用水が供給されている
(Hatipoğlui and Darama、2003)9) 。
アタチュルクダムから灌漑用水が供給される以前、ハラン平原の灌漑用水源はポンプに
44
よる個別灌漑、または自噴井戸( artezyen;掘り抜き井戸)による制限的な灌漑であった。
しかし、アタチュルクダムから灌漑用水が供給されたことにより、かつて部族長と地主の
ような有力者に限られた水源へのアクセスが一般農家にも可能になった。
シャンルウルファ灌漑用水トンネルから供給される灌漑用水はウルファ幹線用水路とハ
ラン幹線用水路、マルディン幹線用水路の三つの幹線用水路に分けられ、ハラン平原に灌
漑用水を供給している。ウルファ幹線用水路からは 9 カ所の水利組合が各々の灌漑地域へ
用水を供給しており、ハラン幹線用水路を通じては 10 カ所の水利組合が灌漑用水を供給し
ている。また、マルディン幹線用水路は 3 カ所の水利組合が利用しており、合計 22 カ所の
水利組合がアタチュルクダムから供給される灌漑用水を各々の管理地域へ供給、管理して
いる(第 3 図)。
第 3 図 ハラン平原の幹線灌漑用水路および耕地整理と灌漑地域の状況
資料:シャンルウルファ県の農業総局からのデータと DSİ の「シャンルウルファとハラ
ン平原の水利組合ネットワーク計画」の地図を基に筆者が地図化した。
このような耕地整理と灌漑用水供給のような農業基盤整備事業は、ハラン平原をトルコ
45
の代表的な灌漑農業地域へ変化させた。灌漑作物の中でも換金作物である綿花はハラン平
原の代表的な作物として位置づけられ、2002 年において灌漑・天水作物を合わせた作付面
積の中で、綿花の作付面積は 85%を占めており、灌漑作物の作付面積の中では 96%に至っ
た(Ozdogan,M.et al.、2006)。
Ⅲ.
農業基盤整備事業以後の地域社会の変化
1. 灌漑地域の拡大と綿花栽培の増加
灌漑事業と耕地整理事業のような農業基盤整備事業がハラン平原の農業に及ぼした影響
を検討するため、リモートセンシングによる NDVI 計測と統計データの分析を行った。
ハラン平原の灌漑面積は各々の水利組合が灌漑用水を供給した耕地面積を DSİ に報告す
る形で把握されているが、オェズドーアンほか(Ozdogan,M. et al.、2006 )によると、1995
年から 2002 年まで水利組合が DSİ に報告した灌漑面積データはリモートセンシングにより
計測された灌漑面積と比べて過小評価されていることが確認されている 10)。
リモートセンシングによる NDVI 分析は単に灌漑面積の変化を数値で表わすことではなく、
灌漑用水供給によるハラン平原の変化とともに周辺地域の植生活性度の変化も空間的に把
握することができる。また、アタチュルクダムと農業基盤整備事業によって、その影響圏
に入る地域の灌漑農業の空間分布の変化を把握することができる。
NDVI 計測を通じて、灌漑事業以後、ハラン平原の耕作地が大幅に拡大していることを確
認した(第 4 図)。NDVI の値が負に現れる部分は植生がない部分で、正の大きい値になるほ
ど植生の活性度が高いことを示す。灌漑以前である 1984 年の NDVI 画像でハラン平原は、
南の一部地域を除くと植生活性度がほとんど現れない。しかし、1998 年の画像では、その
様相が一変し、ハラン平原を中心に植生活性度が高くなっていることがわかる。また、最
近はその空間分布がより拡大し、植生活性度も高くなっている。1998 年以後の画像で植生
46
活性度が高く現れる地域は灌漑事業と耕地整理事業が行われた地域と一致しており、農業
基盤整備事業がハラン平原の耕作地拡大と集約的農業経営に大きな影響を及ぼしたことが
考えられる。しかし、灌漑事業が行われていないハラン平原の周辺地域では、灌漑以前と
比べ、植生のない地域が増えており、その影響はシリアまで広がっていることも確認でき
る 11)。
第 4 図 NDVI 分析によるハラン平野の夏季作灌漑地域の空間分布の時系列的な変化
注 : (1) NIR(Near Infrared)は近赤外波長帯の反射率, RED は可視光(赤)波長帯の反射率
である。
(2) 分析に用いたランドサット TM の空間分解能は 30m である。
一方、統計データにより、ハラン平原の綿花の作付面積と生産量の推移に関して検討す
47
ると、灌漑以後の綿花生産量と作付面積は灌漑以前と比べ大幅に増加した。具体的には綿
花生産量の場合、1994 年に 129,010 トンであったことと比べ、2002 年には約 3 倍である
386,319 トンが生産された(第 5 図)。
第 5 図 ハラン平原の綿花生産量および作付面積の推移
資料:トルコ統計局のウェブサイト(http://www.turkstat.gov.tr、2013 年 1 月 24 日検索)
により作成。
第 6 図 トルコの地域による綿花生産量の推移
48
資料:トルコ統計局のウェブサイト(http://www.turkstat.gov.tr、2013 年 1 月 24 日検
索)により作成。
また、トルコ全体の綿花生産量と比較すると、1994 年のトルコ全体生産量の 8%を占め
ていたハラン平原の生産量が 2001 年には 14%に増加し、2011 年には 24%を占めるように
なっている(第 6 図)。綿花の作付面積は灌漑以後、次第に増加しており、1994 年の作付面
積が 45,867 ㏊であったのに対し、2004 年には 117,948 ㏊、2011 年には 130,455 ㏊まで拡
大し、綿花栽培がハラン平原で大幅に増加したことがわかる(第 5 図)。
2. 農業形態の変化
農業基盤整理事業による農業の変化を村レベルで検討するため、まず、調査地域の 54 世
帯の世帯主を対象に農家所得源の変化に関する調査を行った。第 7 図に示すように、灌漑
用水供給以後の農家所得は灌漑以前の小麦などの作物栽培と牧畜から綿花へ変化した。主
要所得源としては 45 世帯が綿花であると答え、綿花が農家の主な所得であることがわかる
が、灌漑事業以前、一般的に行われていた牧畜は所得源としてその意味を失った。
第 7 図 農家の主要所得源の変化(N=54)
49
注 : 小麦の場合、灌漑用水の供給以前には小麦と大麦が共に作付けられたが、灌漑用水の
供給以後は小麦の収穫後、トウモロコシを第二作物として作付けしている。
資料:聞き取り調査およびアンケートにより作成。
第 8 図 調査地域における家畜飼養数の変化(N=54)
注 : 家畜飼養数は羊、ヤギ、牛を合せた数である。
資料:聞き取り調査およびアンケートにより作成。
かつて、牧畜は主要所得源にはならなくても、地域住民の生活と密接な関係があったた
め
12)
、 調査世帯の約 8 割である 43 世帯が灌漑以前に牧畜を行っていた。しかし、灌漑用
水が供給された後、牧畜は次第になくなり、現在は大多数の農家が自給目的に 1~2 頭程度
の牛を飼養する形に変わっている。トルコの食文化でチーズとヨーグルトは欠かせない食
材であるにも関わらず、家畜を所有していない世帯は 19 世帯もあった(第 8 図)。灌漑事業
以前、牧畜を行っていた 43 世帯を対象に、現在、牧畜を行ってない理由を調査した結果、
31 世帯が「綿花栽培により放牧地が無くなったから」と答え、5 世帯は「綿花生産の方が
50
収益性が高いから」
、5 世帯は「家畜の面倒をみる牧童がいないから」と答えた。また、近
年、徐々に増加する綿花の栽培コストを勘案しても、32 世帯は「綿花生産による所得が以
前の牧畜から得られた所得より高く、経済的に豊かになった」と答えた反面、2 世帯は「綿
花栽培コストを考えると所得は以前とほとんど変ってない」
、5 世帯は「以前よりもっと悪
くなり、牧畜を行った時期がもっと生活が良かった」との意見があった。
灌漑事業を計画する際、
ハラン平原の作付割合は綿花 30.9%、穀物 36.7%、
テンサイ 5.0%、
果物 4.1%など多様な作物の作付が求められていた。しかし、実際に 2000 年から 2004 年ま
でハラン平原の灌漑地域で現れた作物の作付面積は、綿花が 81.6%、穀類が 17.6%で、綿
花栽培に偏っている。そこで、計画段階では栽培作物の多様性を求めていたにも関わらず、
ハラン平原が現在のような綿花産地に変化した理由を調べた。まず、綿花に対し支給され
る政府補助金に関して調べると、綿花栽培においては 2001 年から政府補助金が支給され始
め、2011 年には政府認証種子
13)
の綿花の場合、1 ㎏当たり 0.42TL、非認証種子の場合は
0.35TL の補助金が支給された。トルコは世界 6 番目の綿花生産国でありながら、世界 4 番
目の綿花消費国であり、トルコの主要産業である繊維産業において綿花の生産は重要な意
味を持つ
14)
。大量の綿花生産にも関わらず、綿花消費は輸入に依存しており、換金作物と
して農家所得の向上と綿繰り工場や織物工場のような中小産業の育成などの波及効果を期
待しうるため、政府は他の作物と比べ、綿花に高い補助金を支給している。
調査地域の 54 世帯の綿花農家を対象に綿花栽培の決定理由に関する調査を行った結果、
54 世帯の中 35 世帯(64.8%)が「政府から補助金を貰えるから」と回答し、19 世帯は「綿
花が収益性が高いから」と答えた。また、灌漑以前、出稼ぎ労働の経験がある 31 世帯の中
29 世帯の出稼ぎ先はアダナ県のような綿花産地であり、そこで経験した綿花栽培が灌漑以
後、栽培作物を決定する際、影響していたことがわかる 15)。次いで、
「もし、綿花栽培に関
する補助金が支給されない場合、綿花栽培を続ける意向があるか」の質問では 46 世帯が「綿
花作付をやめ、他の作物を栽培する」と答え、農家の綿花栽培決定において政府補助金が
51
大きな影響を及ぼしていることが明らかであった。また、39 世帯は綿花の代替作物として
小麦とトウモロコシを考えており、その理由としては、低い栽培コストや綿花と比べ労働
負担が少ないことを挙げた。
灌漑事業以前には、地力向上のために耕地の半分は休耕し、半分の耕地のみ利用する粗
放農業を行っていたが、灌漑事業以後には、灌漑用水の供給と耕地整理、農道整備、肥料
使用などによってハラン平原で集約農業が実現された。また、灌漑事業直後には綿花の単
作が集中的に行われていたが、近年では多様な農業形態が現れており、その形態は大きく
三つに分けられる(第 9 図)。
第 9 図 農業形態および耕地経営の多角化を行う世帯の作物別作付面積の割合
資料:聞き取り調査およびアンケートにより作成。
第一は単作で、綿花のみ作付する形態である。54 世帯の中 14 世帯が綿花の単作を行って
おり、その中では灌漑以後から現在まで綿花のみ栽培した農家もあった。また、最近の綿
花価格の下落で綿花栽培を放棄し、小麦・トウモロコシのみ栽培する農家も 1 世帯ある。
第二は、輪作であり、綿花の作付後、次の年には小麦・トウモロコシを栽培する形態で、
52
12 世帯が綿花と小麦・トウモロコシを交代に栽培していた。三番目は、耕地経営の多角化
であり、耕地を綿花と小麦・トウモロコシ、野菜などに分けて栽培する形態である。
綿花は 4 月に播種して 9 月中旬から 11 月まで収穫するため、綿花を栽培する間は他の作
物を栽培することができない。小麦と大麦の場合は 9 月中旬から播種して 5 月末から収穫
であり、トウモロコシは 6 月中旬から作付して 10 月中旬から収穫するため、小麦を栽培す
る農家では小麦を収穫した後、トウモロコシを作付して収穫するパターンで農業を行う(第
10 図)
。
第 10 図 作物別の栽培スケジュール
資料:シャンルウルファ県農業総局の資料(2011 年)
全体の農家のうち、19 世帯が耕地に綿花と小麦・トウモロコシに分け、耕地経営を多角
化していた。灌漑用水供給直後、ハラン平原の灌漑作物作付面積の 96%が綿花であったこ
とに対し、現在は小麦とトウモロコシの栽培比重が高くなっており、最近は野菜(トマト、
ナス、唐辛子など)の栽培割合も高くなっている。
また、今後、綿花栽培に関する計画としては 7 世帯が「綿花栽培を拡大する」、11 世帯は
「現状維持をする」と答えたが、18 世帯は「綿花栽培を縮小し、他の作物を栽培する」
、16
世帯は「綿花栽培を辞め、他の作物を栽培する」と回答した。さらに、「農業を辞め、他の
職業を探す」と答えた 2 世帯もある。綿花栽培の縮小または放棄に関する理由として、多
くの農家が綿花価格の下落と肥料、農機械用のディーゼルオイル価格の高騰などの栽培コ
53
ストの増加、人件費と労働負担が大きいことを挙げており、実際に多くの農家が綿花栽培
を縮小し、他の代替作物を栽培する傾向がみられた。
3. 出稼ぎ労働の変化
灌漑用水供給以前、調査地域の 54 世帯の中、31 世帯は生計のために他の地域で出稼ぎ労
働をした。主要出稼ぎ先はアダナ県を中心にするチュクロバ綿花産地 16)であり、31 世帯の
中、
27 世帯がチュクロバ綿花地域で家族単位の出稼ぎ労働の経験がある(第 12 図)。しかし、
灌漑用水供給以後、労働集約型である綿花栽培がハラン平原で急激に増加したことにより、
ハラン平原は出稼ぎ労働者の流出先から出稼ぎ労働者の流入先に変貌した。調査地域で灌
漑用水供給以後、出稼ぎをした世帯は 54 世帯のうち、6 世帯のみであったが、出稼ぎ労働
者を雇用している世帯は 33 世帯である。
近年、ハラン平原に流入する出稼ぎ労働者は、スルチュウ郡のように灌漑事業がまだ推
進されてないハラン平原の周辺地域、またはダム建設による水没地域とシャンルウルファ
中心地の無許可居住地域から主に流入している。また、最近はシリアと接しているアクチ
ャカレ郡のシリア難民キャンプからも綿花栽培のための労働者が雇用されている(Kang、
2013)。
綿花栽培における出稼ぎ労働者の労働形態は大きく 2 つに分けられる。第一は、除草か
ら播種、収穫まで全過程を労働者が行う形態で、賃金として収穫量の約 30%が支給される。
この場合は、出稼ぎ労働者が家族単位で移住してきて、4 月から 11 月まで耕作地内の臨時
宿泊施設で生活しながら綿花栽培をしているが、その生活環境と労働条件は劣悪である(第
11 図、第 12 図)。 第二は、約 2 カ月間の収穫時期に綿花摘みのために雇用される出稼ぎ労
働者で、綿花収穫 1 ㎏当たり 0.25TL~0.4TL が支給される。また、7~10 日程度の短期間雇
用の場合は、繁忙期のみ労働者を雇用し、一日あたり 20~30TL を支給している。 出稼ぎ
労働者の立場からみると、ハラン平原での人件費といった労働条件は劣悪であるが、雇用
54
する農家側においても出稼ぎ労働者による収穫は、労働者管理の難しさと人件費のような
経済的な負担を伴い綿花栽培をする際に最も難しい点とされる 17)。
第 11 図 出稼ぎ労働者の耕地内の臨時宿所
資料:2012 年 9 月 10 日に筆者撮影。
第12図 出稼ぎ労働者の臨時宿所(天幕)
資料:2012 年 9 月 27 日に筆者撮影。
55
実際に、54 世帯の調査農家の中で、16 世帯はすでに綿花摘みを機械化しており、機械へ
の転換意思を表した農家も多かった。 近年、綿花の収穫作業の機械化が進んでいることか
ら、今後、ハラン平原での綿花労働市場および出稼ぎ人口移動は変化すると考えられる。
Ⅳ.
灌漑用水をめぐる地域社会の問題
半乾燥地域で農業のための水資源の利用はきわめて重要である。とくに人為的な水資源
の供給により大規模な綿花栽培を行っているハラン平原の場合、効率的な灌漑用水の管理
および公平な水分配は、持続可能な農業のための必須条件である。政府は地域農民の参加
とガバナンスによる水資源の効率的な管理を誘導するために水利管理権を地域の水利組合
に移管したが、ハラン平原の場合、他の地域とは異なる伝統的な社会構造が現在も残って
いるため、水資源管理において効率的な運用が行われていない。
水利組合の組合長を初め、役員会のメンバーは農民代表により選出されているが、内部
に伝統的な権力構造があり、農民代表の自律的な選挙権の行使は難しい状況である。実際
に農民のために水利組合を運用し、事業内容を監視、牽制しうる仕組みがハラン平原の水
利組合には不在である(Kang、2013) 。
水利組合の必要性について本調査で、54 世帯の中 36 世帯は「水利組合は必要だ」と答え
たが、その理由として「水を得られるから」、「水利組合さえない場合、水資源の分配に関
して大きな争いが起こるから」の回答が中心であった。しかし、36 世帯の中 20 世帯は「水
利組合は必要であるが、その管理は政府がしてほしい」と答え、水利管理における政府の
関与を求めていた。
その理由としては、水利組合の不十分な用水路管理および水門管理、不公平な水分配、
資金運営の不透明性などが挙げられ、水利組合に対する農民の不満が高いことがわかる。
また、多くの農家が水利組合の不適切な水供給により排出水路の水を使っており、その場
56
合も水の利用料金、またはポンプ利用に伴う電気代名目の利用料金を払わなければならな
い状況であった。さらに、水利組合が実施した灌漑教育を受けたことがある世帯は 54 世帯
の中、わずか 14 世帯であったが、
「灌漑関連の教育が必要だ」と答えた世帯は 46 世帯であ
り、農民のための灌漑関連教育の不足とそれに対する農民の要求が高いことがわかる。
水利組合の問題とともに、ハラン平原の農民の低い営農知識と技術水準もこの地域農業
の大きな問題である。水利組合の技術者への聞き取り調査によると、農民による用水路の
破損は頻発しており、過度な灌漑用水の利用は最も深刻な問題であった。綿花栽培のため、
灌漑用水の供給は1カ月に 4~5 回が適切であるが、灌漑事業の直後、1 カ月に 24 回灌漑し
た農家もあったという。それにより地下水位の上昇と塩害などの環境被害が加速化してお
り、近年は 1 カ月に 6~7 回まで灌漑用水の供給を減らしているが、この回数もまだ多く、
さらに減らさなければならないとの意見があった。実際に、ハラン平原では半乾燥気候と
いう自然条件とともに不十分な排水施設と過度な灌漑による土壌の塩害が広がっている。
現在、ハラン平原の約 12%の耕地で塩害が現れており、35,000 ㏊が潜在的な塩害地域とし
て分類されている(Çullu、2011)。調査農家では 54 世帯の中 42 世帯の耕地で地下水が上昇
し、塩害も 31 世帯で確認された。
Ⅴ.
おわりに
本稿では、かつて灌漑作物の栽培が不可能であったハラン平原が GAP により、トルコの
代表的な綿花産地に成長したことに注目し、綿花栽培による地域社会の変化を定量的なア
プローチと定性的なアプローチを併用して検討した。まず、定量的なアプローチとしては
リモートセンシングによる NDVI 計測を通じて、灌漑用水供給によるハラン平原と周辺地域
の植生活性度の変化を空間的に把握した。
灌漑用水供給以前、ハラン平原では植生活性度がほとんど現れていなかったが、灌漑用
57
水の供給以後、ハラン平原はシャンルウルファ県の中で最も高い植生活性度が現れる地域
に変化し、近年までその空間分布は拡大している。また、統計データによると灌漑用水が
供給された 1995 年以後、ハラン平原の綿花生産量と作付面積は大幅に増加し、2011 年には
トルコ全体綿花生産量の 24%を占めるほど綿花栽培が急速に増加している。ハラン平原に
供給される灌漑用水はアタチュルクダムからシャンルウルファ灌漑用水トンネルを通じて、
三つの幹線用水路に分けられて供給される。各々の水利組合は幹線用水路を通じて供給さ
れる灌漑用水を該当管理地域へ供給しており、水利料金は水利組合と栽培作物の種類ごと
に異なる。
定性的なアプローチとしては地域レベルで綿花栽培による地域社会の変化を検討した。
その内容は農家の綿花栽培の決定理由から始め、生業形態と農業形態の変化および出稼ぎ
労働者による農業の展開など実際的に地域社会の変化を検討した。その結果、農家の綿花
栽培の決定理由は二つにまとめられる。まず、綿花栽培に支給される政府補助金が農家の
綿花栽培決定において最も大きな影響を及ぼした。また、綿花が換金作物であるため収益
性が高いことと、灌漑以前に他の綿花栽培地域で出稼ぎ労働をした経験があったことが、
大多数の農家が綿花栽培を選択した主要理由であった。また、灌漑用水供給以前の乾燥農
業と牧畜に依存した半農半牧の生業形態は、灌漑用水供給以後、綿花を中心にする集約的
な灌漑農業へ変化している。
近年のハラン平原の農業形態は大きく三つに分けられる。第一は、綿花の単作であり、
第二は、綿花栽培の後、翌年には小麦・トウモロコシを栽培する輪作である。第三は、綿
花と小麦・トウモロコシ、野菜に分けて作付する耕地経営の多角化形態である。近年の綿
花価格の下落と肥料、農機械用のディーゼルオイル価格の高騰などの栽培コストの上昇が
綿花栽培農家において大きな負担となり、多くの農家が栽培コストと労働負担が相対的に
低い小麦・トウモロコシの栽培へ転換しようとする傾向がみられた。しかしながら、綿花
価格が高くなると直ちに綿花栽培へ転換しようとする農家も多く、短期的な価格変動に敏
58
感に反応し、長期的な農業計画と価格変動に対する対処方法が十分に普及していない状況
が確認された。また、かつて出稼ぎ労働者の供給地であったハラン平原は綿花の栽培以降、
出稼ぎ労働者の主な需要地へ変貌し、多くの出稼ぎ労働者が周辺地域から流入している。
既存の研究では女性と子供による綿花摘みが改善すべき社会問題であると述べられていた
が、近年、ハラン平原の綿花収穫は出稼ぎ労働者の雇用による収穫、または収穫機械によ
る綿花摘みに変わっている。また、綿花の収穫作業の機械化が進んでいることから、今後、
ハラン平原での綿花労働市場および出稼ぎ人口移動は大きく変化すると考えられる。
灌漑用水の管理において国家水利事業局(DSİ)は非政府組織である水利組合へ灌漑管理
権を移管し、農民参加による効率的な灌漑管理を促そうとした。しかし、地域社会に残っ
ている伝統的な社会構造は水資源の不公平な分配と不十分な灌漑施設の維持管理という結
果を生み、農民の不満は高まっている。
半乾燥地域で人為的な水供給により灌漑農業を展開する際には、水資源の管理は重要で
あり、水資源の合理的、効率的、公平的な分配は持続可能な農業のための優先条件となる。
伝統的な社会構造と結びついてない合理的な水利組合の組織と地域農家のための水利組合
の運営、また、農民の誤った農業慣習を改善しうる農業教育の実施、さらに農業知識や情
報の交換とともに農家がお互いに協力しうる自治的農民組合が地域農業の発展のために必
要である。また、トルコ政府の政策決定においても他地域とは異なるこの地域の特徴を勘
案した政策施行が必要であるだろう。
注
1) ハラン平原に関する代表的な地域研究には、クダット・バイラム(Kudat and Bayram、
2000)とオェズドーアンほか(Ozdogan, M. et al.、 2006 )、ハリス(Harris、2002; 2006;
59
2008; 2012)の研究がある。しかし、ハリス研究の場合、近年の研究においても現地調査
の内容は 2001 年の調査内容を基にしている。(1) Harris, L. M. (2002) : Water and
conflict geographies of the Southeastern Anatolia Project. Society and Natural
Resources, 15, pp. 743-759. (2) Harris, L. M. (2006) : Irrigation, gender, and
social geographies of the changing waterscapes of southeastern Anatolia.
Environment and planning D: Society and Space, 24, pp. 187-213. (3) Harris, L. M.
(2012) : State as Socionatural Effect: Variable and Emergent Geographies of the
State in Southeastern Turkey. Comparative Studies of South Asia, Africa and the
Middle East(CSSAME), 32(1), pp. 25-39. (4) Binici, T., Zulaf, C. R., Kacira, O.
O., Karli,B.(2006) : Assessing the efficiency of cotton production on the Harran
Plain, Turkey. Outlook on Agriculture, 35(3), pp. 227-232. (5)Işgın, T.(2006),
Income and Land Distribution among Farm Households Operating Under the Irrigation
Conditions of the Harran Plain. Tarım Ekonomisi Dergisi, 12(2), pp.59-68.
2) NDVI(正規化差分植生指標)は、植生の緑葉が太陽放射エネルギーの赤領域波長を吸収し、
近赤外線領域の波長を反射する特徴を生かし、可視光(赤)波長帯の反射率と近赤外波長
帯の反射率の差分から植物の活性度を計測する方法である。植生の分布有無と量、活性
度などを示す植生指標であり、値は-1 から 1 の間に正規化した数値を示す。
3)オェズドーアンほか(Ozdogan, M. et al.、2006 )は灌漑地域の判読において NDVI 計測
が有効な方法であり、トルコの南東部地域の場合、灌漑地域の夏季作を他の土地利用パ
ターンから抽出しうる最も適切な時期は仲夏から晩夏まであると主張した。
4) 現地調査は、まず、村長から村落に関する全般的な情報と農業に関する聞き取り調査を
行った後、綿花栽培農家の世帯主に平均 2 時間の個別面談を通じて綿花栽培に関する聞
き取り調査とアンケート調査を行った。
5) トルコではテロリズムと関連し、とくにこの地域の地形図を手に入れることは困難であ
60
る。
6) 賃貸料として収穫物の一定割合を支払う場合。
7) 土地に対する賃貸料を払い、農業を行う場合。
8) 1986 年のハラン平原の主要農作物の作付面積は、小麦が 34%、大麦が 19%、レンズ豆が
20%を占めている。
9) 現在の灌漑面積は、DSİ 発行のシャンルウルファとハラン平原の灌漑組合ネットワーク
計画の地図を参考にして計算した。
10) 当時、灌漑用水の利用料金は灌漑面積により算出されたため、水利組合が実際灌漑面
積より縮小して報告する傾向があったと主張した。
11) チグリス・ユーフラテス川の上流部に位置したトルコの水資源開発事業は、下流部に
位置するシリア、イラクに影響を及ぼし、水資源をめぐる国家間の葛藤をもたらされて
いる。
12) 牧畜による肉や乳製品、羊毛、皮革などは自給自足され、余分は販売により農家所得
にもなったため、牧畜は地域住民の生活において重要な意味を持っていた。
13) 近年、綿花の生産量だけではなく、トルコ綿花の品質を向上させるため、政府が綿花
種子を認証し、その認証種子の使用を農家に推奨している。
14) Emeka Osakwe (2009) : Cotton fact sheet Turkey, ICAC (International Cotton
Advisory Committee), March 18.
15) 綿花の収穫のために毎年約 12 万の移動季節労働者がアダナ県で雇われ、移動季節労働
者のほとんどがハラン平原を含む南東アナトリア地域から一時的に移動した人々である
(星山、2003)
。
16) トルコの綿花産地は大きくエーゲ地域とアンタルヤ地域、チュクロバ地域、南東アナ
トリア地域の4つに分けられる。チュクロバ地域はアダナ県を中心にする地域であり、
ハタイ県、メルシン県などが属する。
61
17) 現地農家での聞き取り調査による。
参考文献
荒井康一 (2009) : 現代トルコにおける水資源政策と国家‐社会関係:南東アナトリア開
発計画の事例から. CIAS Discussion Paper, 11, pp. 17-41.
荒井康一 (2010) :トルコ南東アナトリア開発計画と資源分配構造-大地主制から資本家的
農業経営へ-. 国際文化研究, 16, pp. 31-44.
星山幸子 (2003) : トルコ農村社会における女性の劣位性とジェンダー分業-アュップの
行為をとおして-. 国際開発研究ファーラム, 24,
pp. 95-111.
中川喜与志 (2003) : 『クルド人とクルディスタンー拒否された民族―』南方新社,
508p.
Rusen, K.、加納弘勝 (1990) :『トルコの都市と社会意識』アジア経済研究所, 332p.
Ç ullu, M.A. (2011) : GAP Action Plan - Soil salinization. GAP-BKI (Southeastern Anatolia
Regional Development Administration),
Sanliurfa, 96p.
GAP Regional Development Administration(2008) : Southeastern Anatolia Project Action
Plan(2008-2012). Ankara, 84p.
Harris, L. M. (2008) : Water Rich, Resource Poor: Intersections of Gender, Poverty, and
Vulnerability in Newly Irrigated Areas of Southeastern Turkey.
World Development,
36(12),
pp. 2643-2662.
Hatipoğlui, M. And Darama, Y. (2003) : Mornitoring of Irrigation Development in Şanlıurfa-Harran
Plain Using Remote Sensing and Geographic Information System.
Proceedings of the
International Colloquium Series on Land Use/Cover Science and Applications on Studying Land
Use Effects in Coastal Zones with Remote Sensing and GIS,
62
August 13-16,
2003,
pp.
394-404.
Kang, S.
K. (2013) : Development of Cotton
Area
in
Sanliurfa
48(1),
pp. 87-111.
Prefecture, Turkey.
Farming
and
Transformation
of Rural
Journal of the Korean Geographical Society,
Kudat, A. and Bayram M. (2000) : Social Assessment and Agricultural Reform in Central Asia and
Turkey. World Bank Technical Paper No. 461, Washington, D. C.,
302p.
Ozdogan, M., Woodcock, C. E., Salvucci, G. D. and Demir H. (2006) : Changes in Summer Irrigated
Crop Area and Water Use in Southeastern Turkey from 1993 to 2002-Implications for Current
and Future Water Resources. Water Resources Management, 20, pp. 467-488.
Ö zlü, H., Yorulmaz, Ö , Aytaç, Ş. A. (2007) : Irrigation Management Transfer to Water User
Organizations in Turkey.
The 4th Asian Regional Conference & 10th International Seminar on
Participatory Irrigation Management,
Tehran Iran, May 2-5, 2007, pp. 661-671.
Ü nver, I. H. O. (1997a) : Southeastern Anatolia Integrated Development Project (GAP), Turkey-An
overview of issues of sustainability.
Water Resources Development,
Ü nver, I. H. O. (1997b) : Southeastern Anatolia Project (GAP).
13(4),
pp. 453-483.
1)
2)
3)
4)
5)
6)
7)
8)
9)
10)
11)
12)
13)
14)
15)
16)
17)
63
13(2), pp. 187-207.
Water Resources Development,
第4章
部族集団中心の伝統的な社会構造と綿花栽培による
地域社会の変容
Ⅰ.はじめに
ハラン平原が属している南東アナトリア地域は、歴史的にオスマン帝国の直接支配がな
されず、君侯国などによる自治地域が多かった(荒井、2009;2010)。強い影響力を及ぼす
政府機関の不在と、地域の安全保障を初めとする様々な問題の解決のために、中心的な社
会組織が必要とされ、血縁と地縁関係を中心とするアシレット(Aşiret;tribe ; 部族集団)
がこの地域の内在的な組織として形成された(İçli、et al.、2012)。
アシレット(Aşiret)とは、アラビア語を起源とする語彙で、部族を構成する小さいグル
ープの中で 1 次的かつ最も重要なコミュニティーを意味する(İçli、et al.、2012)。
また、ギョウカルプ(Gokalp、1992)は、アシレットとは、同じ先祖または血縁関係にあ
るメンバーが、彼らのリーダーにより統率されるコミュニティーであると定義し、ヴァン・
ブルイネセン(Van Bruinessen、2003)は、血縁または地縁関係を基盤とする社会・政治的、
経済(土地基盤)的な単位であると定義した。
アシレットには成文化されてない慣習法があり、メンバーの間で問題が発生した場合、
リーダー(Aşiret reisi)の判断により、問題を解決する。このようにメンバーは、リーダ
ーの決定に従う階層的な社会構造を持っている(Aktas、et al.、2011)。
現在、ハラン平原が属するシャンルウルファ県では、約 60 個のアシレットがあり、県の
人口の約 80.9%はいずれかのアシレットに属している。農村の場合、その割合は一層高く
なり、約 92.6%がアシレットに所属している(Sencer、1993 ; Aktas、et al.、2011 ; İçli、
et al.、2012)。
64
アシレットは結婚などの日常生活から社会・政治・経済面まで地域社会において大きな
影響を及ぼしており、とくに農村社会で、その影響力は強い。
しかし、南東アナトリア地域の代表的な社会構造であるアシレットに関する深層研究は
みられない(Kudat and Bayram、2000)。クダト・バイラムはトルコの東部と南東部地域の
政治的な不安定状況と人類学的な研究伝統の不在により、この地域の社会組織に関する研
究は妨げられたと推定した。
アシレットは名誉殺人、アシレット間の争いによる殺人事件など否定的な面が浮き彫り
されていることが現実である。しかし、地域社会の中心組織としてアシレットが持つ意味
とそれに関する住民意識を調べることは、南東アナトリア地域社会を理解するために欠か
せない部分であるだろう。
そこで、本研究では、ハラン平原の綿花農家を対象に、住民のアシレットに関する意識
調査を行う。また、自給的な乾燥農業から綿花を中心とする換金作物栽培への変化により、
地域経済が変化したことに着目し、経済的な発展が伝統的な社会構造に及ぼした影響を明
らかにすることを目的とする。
本研究の現地調査は 2012 年 8 月から 10 月の中旬にかけて、
ハラン平原の 11 村落の合計 45 世帯の世帯主を対象に行った。アシレットに属している住
民を対象に、アシレットに関する意見を聞き取り調査とアンケート調査により調べていく。
また、アシレットの構造と地域社会での役割および問題点を検討し、地域住民においてア
シレットが持つ意味と商業的な農業の発達による影響力の変化を考察する。
Ⅱ.ハラン平原とアシレットの概要
ハラン平原が属している南東アナトリア地域では、トルコの中でクルド語を第一言語と
して使う人々が多い(Harris、2008)1)。しかし、ハラン平原地域の場合は、平原を囲む丘
陵を境界に、内部の村落ではアラブ文化が強く、ほとんどの場合、アラビア語が第一言語
65
として使われている 2)。したがって、ハラン平原は、南東アナトリア地域の中で例外的にア
ラブ文化が強く現れる地域である。1998 年に行われた世界銀行によるハラン平原の農村地
域調査では、調査世帯 450 世帯中、90%がアラビア語を使用し、クルド語は 8%、トルコ語
は 2%の世帯のみ使っていることを明らかにした(Kudat and Bayram、2000)。
本研究の調査地域において合計 11 村落の中で、アラビア語が使用される村落は 7 村落、
クルド語使用村落は 3 村落、トルコ語は 1 村落である(第 1 図、第 1 表)。第 1 表より、ア
シレットを中心とする社会構造は、アラビア語とクルド語を使用する全村落では現れたが、
トルコ語を使う村落では全くみられなかった。アシレットは民族的な背景を基に現れる社
会組織と考えられる。
第 1 図 調査地域と第一言語による区分
資料:シャンルウルファ県の農業総局のデータと聞き取り調査により筆者作成
66
第 1 表 調査地域の概況
郡
シャンルウルファ中
央郡
調 査
世帯数
(N=53)
村落内の
アシレット数
426
4
1
クルド語
749
6
1
C*
トルコ語
5,609
9
―**
D
クルド語
832
4
5
E
アラビア語
1,960
5
1
F
アラビア語
901
4
3
G*
アラビア語
7,375
5
4
H
アラビア語
1,289
5
3
I
アラビア語
2,282
4
3
J
アラビア語
1,258
4
1
K
アラビア語
2,071
3
3
村落
第一言語
人口
(人)
A
クルド語
B
ハラン郡
アクチャカレ郡
注:(1) *は町自治体(belde belediyesi)
(2) **C 町自治体はハラン平原で例外的にトルコ語を使う村落で、部族集団による
社会構造は現れない。また、C 町自治体は宗教的に他の地域のスンニー派とは異
なるアレヴィー派が居住する地域である。
資料:村長と聞き取り調査による。
ハラン平原では、アシレットの下位構造として、カビレ(Kabile ; clan)という下位組織
が現れ、所属するカビレの数と規模により、アシレットの規模も変わる(İçli、et al.、2012;
Aktas、et al.、2011)(第 2 図)。
調査地域におけるアシレットの規模は多様であり、約 20 村、約 40 村で構成されるアシ
レットから約 220 村が所属するアシレットまで存在する。
第 2 図は、220 村が所属する A アシレットの事例でアシレットの構造を図示している。ア
67
シレットの下位組織として 60~70 のカビレが存在している。A アシレットのリーダーへの
聞き取り調査によると、アシレットのメンバー全員が血縁関係を持つのではなく、カビレ
内では血縁関係がある 3)。また、一つの村落を一人のリーダーが管理する場合もあるが、3
~4つの村落を一人のリーダーが管理する場合もある。アシレットのメンバーに問題が発
生した場合、アシレットのリーダーとカビレのリーダーが集まって、その問題を解決する
仕組みになっている。
第 2 図 アシレットの構造の事例
資料:アシレット・リーダーへの聞き取り調査による。
調査世帯においてクルド語を使用する A、B、D 村落とアラビア語を使用する E~K 村落の
調査世帯は全世帯がアシレットに属している。
政府から派遣された公務員(教師、医者、宗教人など)を除くと、大部分の住民が同一の
アシレットに属する村落がある反面(A, B, E, J)、異なるアシレットのメンバーが一緒に
居住する村落もある(D, F, G, H, I, K)。
C 町自治体の場合は、ハラン平原で例外的にトルコ語を使う地域であり、宗教的には他の
68
地域と異なる宗派 4)の住民が居住する地域である。しかし、周辺のアラビア語を使用する地
域から移住して来た世帯がある場合は、その世帯はアシレットに属している。
Ⅲ.綿花栽培による地域社会の変化
1. 農家の生活環境の変化
1995 年から灌漑用水が供給されたことにより、ハラン平原の農業は自給的な乾燥農業か
ら商業的な農業へ大きく変化した。灌漑用水の供給による農業生産性の増加と労働力の要
求は、ハラン平原において出稼ぎ人口移動の変化を及ぼした。現地調査の際、「灌漑用水が
供給されたことにより、出稼ぎに行かず、自分の土地で耕作し、自分の家で住めることが
嬉しい」と答えた農家が多かった。また、土地がない農民も「灌漑用水供給以前と比べ、
地元で仕事があり、出稼ぎに行かなくてもいいことは良い。
」と答える者が多かった。
農家所得については、45 世帯中、41 世帯が綿花を中心とする換金作物の栽培により所得
が増加したと答えた。農家所得の増加による農家の生活環境の変化を調べるために、所得
が増加すると購入および設置が予想される自動車、農業機械、生活家電、衛生施設(トイレ、
風呂)の項目を選定し、各々の項目を調査対象世帯が所有しているかどうかの基礎生活環境
調査を行った。その結果、第 2 表のように自動車所有世帯数は灌漑用水供給以前と比べて、
約 2 倍へ増加した。また、大部分の世帯が灌漑用水供給以後、多くの生活家電および衛生
施設を置いていることがわかる。
村長への聞き取り調査によると、
灌漑用水供給以前は、
自動車の所有者は 1~2 人程度で、
一般の農民は所有することが難しかったという。しかし、灌漑用水が供給され、綿花を栽
培した直後、農家の収入が大幅に増加し、多くの農家が自動車を購入した。自動車の普及
は一般農民が外部地域へ出かけるきっかけとなり、孤立的であった生活環境が、外部地域
から様々な情報を得られる開放的な環境へ変化した。
69
第 2 表 調査地域における基礎生活環境の調査(N=45)
分類
運送
手段
灌漑以前
灌漑以後
所有世帯数
所有世帯数
自動車
21
40
トラクター
20
35
種類
分類
灌漑以前
灌漑以後
所有世帯数
所有世帯数
冷蔵庫
35
45
エアコン
5
39
洗濯機
10
44
15
44
トイレ
14
39
風呂
19
45
種類
生活
農業
機械
プラウ
21
38
播種機械
15
34
家電
オーブン
(電気、ガス)
肥料分散
15
機械
37
衛生
施設
注:生活家電の項目はハラン平原が乾燥地域であることを考慮して選定した。また、オーブ
ンは、トルコの食文化に欠かせないものであり、高価品ではないトルコの一般家庭でみ
られる簡単な形式のものである。
資料:聞き取り調査およびアンケート調査による
しかし、農家収入が増加した一方で、機械化と栽培コストの増加により、借金も増加し
た。灌漑用水供給以前には、45 世帯のうち、8 世帯が借金をしていたのに対し、灌漑用水
供給以後は 28 世帯が借金をしている。借金の使用先として 20 世帯は農業機械の購入、7 世
帯は種子、肥料、農薬、農業用のディーゼルオイルなど栽培費用のためであったと答えた。
このことから、農業に関連する借金が増えたことがわかる。実際に、ハラン平原では農業
機械を初め、農薬、肥料などすべてが輸入品に依存しており、その価額が両替レート変動
により、高くなっている(Harris、2008)。また、それとともにディーゼルオイルの価格上
昇は地域の農家にとって大きな負担になっている。
70
2.農業水利の変化と問題点
かつて水不足と自給的な乾燥農業に依存していた地域社会は、灌漑用水の供給と換金作
物の栽培により、地域社会構成員の間の社会・経済的な関係が変化した。
灌漑用水が供給される以前には、限られた人のみ水へ接近することができた。すなわち、
大規模な土地を持つ地主(ağa;アー)が個人で井戸を持ち、個人で灌漑農業を行っていた。
個人灌漑により綿花を栽培した地主も多く、一般農民との経済格差は大きかった。一般農
家は、たとえ土地を所有していたとしても、水を使えないため、多くの場合は地主に依存
し、土地を持たない住民は地主の小作人になって生計を営んだ(Kudat and Bayram、2000)。
ここでの地主は広い面積の土地を所有する人を指し、アシレットのリーダーと同一ではな
い。しかし、1895 年の土地法と遊牧民定住のための土地所有制度の確立で、農民の多くの
土地がアシレットのリーダーまたは地主といった少数の有力者の名前で登記された(荒井、
2009;2010、Kudat and Bayram、2000)。それにより、ハラン平原はトルコの中でも、異例
的に土地所有格差が顕著に現れる地域となった。
しかし、灌漑事業により、一般農民も水源へのアクセスが可能になり、灌漑による綿花
栽培が一般的に行われている。灌漑用水管理権は、国家水利事業局(DSİ)から地域の水利組
合へ移管された。国家の財政負担の緩和、地域住民の参加による効率的な灌漑管理を目指
して移管されたが、ハラン平原では、水利組合の運営がアシレットを中心に行われている
ため、効率的な灌漑用水管理が行われていない。農家への聞き取り調査を通じて把握され
た水利組合の問題点は次の通りである。
第一に、水利組合がアシレット間の勢力争いの場になっている(第 3 図)。水利組合には
役員会が存在し、農民代表で構成される協議会が水利組合長を選出し、水利料金の決定お
よび全般的な事業運営を決定するが、水利組合長をめぐってアシレット間の競争が激しく、
金品による選挙が行なわれている。また、水利組合の職員への個別面談によると、選挙で
新たな組合長が選ばれると、職員全員が組合長と同じアシレットのメンバーと入れ替えら
71
れる。さらに、水利組合が組合長のアシレット地域へ灌漑用水を優先的に供給するなど、
灌漑用水の分配が公平に行われてないとの意見があった。
第 3 図 アシレット間の勢力争いの場になっている水利組合
第二には、農民代表者による水利組合長の選挙権は、本来、水利組合の運営を監視、牽
制する仕組みであるにも関わらず、アシレットにより、農民代表の自律的な選挙権の行使
が難しい状況である。水利組合の農民代表者への個別面談によると、水利組合長の選挙権
を持っているが、自分の意思で候補者を選択することは不可能である。農民代表はアシレ
ットのリーダーおよび長老が決定した候補者に投票しなければならず、その候補者に投票
しない場合は、選挙に参加しないことが強要されている。また、選挙後、誰がどの候補者
に投票したのかがわかるため、アシレットの決定と異なる候補者を選ぶことは不可能とな
っている。第三には、水利組合の不十分な用水路管理および水門管理、資金運営の不透明
性などである。農民への聞き取り調査によると、水利組合による灌漑用水路の漏水管理は
不十分であり、水路の破損について農民が水利組合に報告しても、組合は壊した人が直す
べきであると回答したため、破損された水路がそのまま放置されたという事例もある。ま
72
た、水門管理による灌漑用水の適期・適量供給が十分に行われていないため、農民自らが
水門の開閉操作をする場合もあった。
水利組合に対する地域住民の不満は高く、アシレットが水利組合を通じて地域社会へ悪
影響を及ぼすとの意見が多い。また、アシレット関連の問題を解決するためには政府関与
が必要であるとの意見が多かった。
Ⅳ.灌漑農業の展開に伴う住民意識の変化
調査地域でアシレットに関する住民意識を調べるために、まず、住民にアシレット所属
に対する満足度を調査した。45 世帯中 32 世帯がアシレットに所属していることに満足して
いると答え、13 世帯は満足していないと答えた。満足している理由として、
「メンバーは互
いに助け合うから」、
「家族のようだから」、「味方になってくれるから」、「アシレットに属
してないと寂しく、弱く感じられるから」、
「親戚だから」が挙げられた。 一方、満足して
いない理由は、
「自由がない」
、
「民主化されてない」
、「個人の意見を聞いてくれない」であ
った。また、
「アシレットに所属したことで、生活が楽になると思うか」という質問に対し
ては、45 世帯のうち 27 世帯が「楽になる」と答え、18 世帯はそうではないと答えた。そ
の理由として「メンバーが他のアシレットと問題を起こすと、自分は知り合いではなくと
も、同じアシレットのメンバーであることで、被害を受けるから」との意見があった。
他方、争いと問題が発生した場合の相談相手については、アシレットのリーダーを選択
した世帯が 28 世帯と最も多く、次いで軍人 5) (7 世帯)、親戚(6 世帯)、村長(4 世帯)であ
った。しかし、10 村落 6)中、7 村落の村長はアシレット(カビレ)のリーダーないしその直系
家族が兼ねている。そこで、アシレット(カビレ)のリーダーが村長を兼任してない村落で、
村長とアシレット(カビレ)のリーダーの役割に関して調べた。該当村落の村長への聞き取
り調査によると、村長は村落内の出生届、結婚届、人口報告などの行政関係の仕事を担当
73
し、アシレット(カビレ)のリーダーは、村落内の全般的な問題や他のアシレットとの問題
が発生した場合に、仲裁や解決を行っている。村落で問題が発生するとアシレットのリー
ダーを中心に長老が集まって問題を解決している。
住民がアシレット(カビレ)のリーダーや長老に相談する内容としては、アシレットと血
の復讐(Kan davalar ; Blood Feud)7) に関する問題が最も多く、次に、村落に関する問題、
土地、家族、政治的な問題の順であった。このことから、住民が生活全般にわたってリー
ダーと相談していることがわかる。
また、
「リーダーと長老の決定に従うか」との質問に対して、45 世帯のうち 35 世帯が「従
う」と答え、4 世帯は「参考にする」と答えたが、
「従わない」と答えた世帯も 6 世帯あっ
た。
このように、ハラン平原の調査地域では、アシレット(カビレ)のリーダーを中心とする
内在的な社会組織が存在しており、住民はアシレットに所属することで、安心感を持ち、
リーダーを中心とする長老の意思決定を尊重し、他のアシレットに対する防御的な連帯感
を持っていると考えられる。
アシレットによっては、メンバーを管理する方法と性格が違い、封建的・権威的にメン
バーを管理するアシレットがある反面、綿花栽培による住民の経済的な自立と開放的な経
済活動により、影響力が弱くなったアシレットもあった。現地調査の際、一部の村落では、
「アシレット」という言葉を筆者が言うだけで、住民からインタビューを断られた。一方、
かつてはアシレットの影響力が強かったが、近年は弱くなったという村落の住民もいる。
そこで、灌漑用水の供給以後、住民が感じるアシレットの影響力がどのように変化したか
に関して調査を行った。まず、間接的に、「もし、自分の土地を販売する場合、アシレット
のリーダーとメンバーではない金持ちが、同時にその土地を買う場合、どちらに売るか。
但し、金持ちの方が高い価格で購入する」と質問した。土地を媒介とし、経済的な利益と
内在的な組織の間で、住民の選択を調べ、そこからアシレットの影響力を判断しようとす
74
る意図であった。その結果、24 世帯は「リーダーに売る」と答えたものの、21 世帯は「お
金持ちに売る」と答えたことから、経済的な利益を求める世帯が多いことが伺える。さら
に、灌漑用水供給以後のアシレットの影響力に関して質問した。その結果、45 世帯のうち、
24 世帯は「アシレットの影響力は弱くなった」と答えたが、16 世帯は「変わらない」
、5 世
帯は「強くなった」と答えた。アシレットの影響力が強くなったと考える理由としては「灌
漑用水の権利を持っているから」と答えた世帯が多い。
第 4 図 灌漑事業による地域社会の変化
他方、一般農民の経済活動により、地域社会がいかに変化したかを社会面で調べるため
に村長への聞き取り調査を行った。村長は「10~20 年前は、アシレットのリーダーと長老
が言うことは、皆守っていた。それは、リーダーと長老に対する尊敬や愛情、恐ろしさが
あったためである。しかし、近年は、彼らに対する住民の感情が変わっている。皆、自分
75
がしたいことをしている。
」と答えた。また、「かつては皆が集まって話し合う機会は多か
ったが、近年は、忙しいため、話し合う機会が少なくなった。」という。
また、調査を行ったすべての村落で、農業のための農民自治組合はみられない。現在、
調査を行った全世帯は、個人で栽培材料を買い、収穫後は個人的に販売している。それに
より、綿花の栽培コストが高まり、販売価額は安くなっているが、二つの問題を解決しう
る農民自治組合は存在しない。農民自治組合の必要性に対しては、45 世帯のうち 39 世帯が
「必要である」と答えた。また、村落に農民自治組合がない理由に関しては、
「リーダーが
いないから」と答えた世帯が最も多く、次は、
「農民自治組合に関する知識と経験がないか
ら」と答えた世帯が多い(第 5 図)
。
第 5 図 農民自治組合がない理由(N=45)
資料:アンケート調査と聞き取り調査による。
調査地域では、農民が問題解決のために自発的・積極的な努力を行うよりは、受動的な
立場を取り、問題解決を政府に任せる傾向がみられる。これは、既存の伝統的な社会構造
の下で、一般農民がリーダーになり、問題解決のための積極的な活動をすることが妨げら
れてきたことによると考えられる。
76
また、低い教育水準も農民の消極性を助長する一つの原因であると考えられる。
調査世帯の世帯主の教育水準は、学校に進学しなかった世帯主が 2 人、最終学歴が小学
校である者が 22 人、中学校が 8 人であった。つまり、45 人中、32 人が最終学歴中学校以
下である。残る 12 人は高校卒業以上であるが、そのうち、9 人は兼業農業者であった。
第 6 図は、綿花栽培により経済的に豊かになったことが、子弟への教育に対する住民意
識にいかなる影響を与えたかを調べた結果である。
第 6 図 子供の教育に関する意識調査
資料:アンケート調査と聞き取り調査による。
子供がいる世帯を対象に、男子と女子に区分し、子供の教育に関する意識調査を行った
(第 6 図)。その結果、男子がいる 43 世帯の中、25 世帯は「男子が大学まで進学することを
望む」と答え、17 世帯は「男子が望むほどまで」と答えた。女子の場合は、41 世帯のうち、
「大学校まで」が 15 世帯、「女子が望むほどまで」は 16 世帯、
「高校まで」が 5 世帯、中
学校が 3 世帯、小学校が 2 世帯であった。女子の教育は中学校までで良いと考える理由と
しては、
「小・中学校は村落にあるが、高校からは他の地域まで行かなければならず、女子
77
を一人で他の地域へ送ることはできない。」との意見があった。また、女子を小学校まで教
育させると答えた世帯主は「女子は読み書きのみできたら十分である」と答えた。このこ
とから伝統的な考え方が依然として残っていることがわかる 8)。しかし、世帯主の配偶者の
教育水準と比べると、女子子弟の教育に対する考え方は多少改善されたと考えられる。世
帯主の配偶者の教育水準は、45 世帯中 24 世帯が学校に進学しておらず、そのうち 20 人は
読み書きができない状態であった。また、小学校まで卒業した人は 13 人、中学校は、3 人、
高校まで卒業した人はわずか 2 人であった。
また、子供の結婚に対する意識に関しては、既婚者である 43 世帯中 31 世帯の世帯主は、
同じアシレットのメンバーと結婚していたが、子供の結婚相手として同じアシレットのメ
ンバーまたは親族を望んでいる人はわずか 9 世帯であった。36 世帯は「子供が希望するな
ら、外部地域の人でも良い」と答えた。このことから、結婚に関する考え方が明確に変わ
ったことがわかる。
以上のようにアシレットを生活の中心として重視してきた住民の意識は、子供の教育と
結婚に対する意識からみられるように、換金作物の栽培による経済的な自立と外部地域と
の交流により、次第に変わってきている。
Ⅴ.おわりに
本研究は、南東アナトリア地域の内在的な社会組織であるアシレットが住民にとっての
意味や影響力、住民の意識に着目して検討した。
ハラン平原の地域においてアシレットは、民族的な背景を基にクルド語とアラビア語を
使用する地域で現れ、アシレットの規模は様々である。また、住民全体が一つのアシレッ
トに所属している村落があることに対し、異なるアシレット・メンバーが集まって居住す
る村落もある。
78
アシレットに関する満足度調査では、多くの世帯がアシレットへの所属により、共同体
意識や連帯感を感じ、満足を感じていたが、アシレットが個人の意見を収斂しないことと
民主化されてないことが反対意見として指摘された。
また、多くの世帯が生活全般にわたる問題をアシレットのリーダーまたは長老との相談
により解決策を求めていることが確認された。
しかし、近年、綿花栽培による住民の経済的な自立と開放的な経済活動により、アシレ
ットの影響力が弱くなったと感じている世帯が多い。一方、アシレットの影響力が従来と
同じ、または強くなったと答えた住民の大部分は、その原因として水利組合を媒介にする
灌漑用水管理権を持っているからであると答えた。
また、水利組合がアシレット間で、勢力争いの場になったことと、農民の自律的な参加
が妨げられること、不十分な灌漑用水管理と資金管理の不透明性などをあげ、政府が管理
してくれることを要求している。
他方、農家所得の増加による農家の生活環境は大きく改善されたが、農家借金も増加し
ている。近年、綿花価格の下落と栽培コストの増加により、農家の経済的負担は増えてい
るが、この問題を解決できるような農民自治組合はみられない。その理由として、リーダ
ーの不足や組合に関する知識と経験の不足が指摘された。また、政府が組織するべきと答
えた世帯もある。
アシレットを中心とする階層的な社会構造は現在も存在しているものの、その影響力は
次第に弱くなっていると考えられるが、一般農民が農業問題を解決するために新たな組織
を作り、そのリーダーになるには、大きな思考の転換が必要であるだろう。かつて封建的・
閉鎖的であった地域社会が開放的な農業経済社会へ変化することに伴い、一般農民も様々
な情報を得て、問題点を声に出しつつあるが、自らではなく政府による解決を望む受動的
な立場でしかない。問題解決のための知識の不足も一つの原因であるが、他の地域とは異
なる伝統的な社会構造が一般農民の行動に大きな影響を及ぼしたと考えられる。しかし、
79
子弟の結婚と教育に対する考え方は大きく変わっていることから、将来的にハラン平原の
アシレットを中心とした住民の生活は大きく変化すると予想される。
注
1) 民族による分類を行うことは、政治・社会的な問題をもたらす余地があるので、本研究
では、地域住民の分類を第一言語に基づいた分類を行う。
2) 現地調査と聞き取り調査により、この内容を確認した。
3) 人類学的にカビレ用語はあいまいであり、標準的な分類が難しい(İçli、et al.、2012)。
本研究でのカビレの内容は、調査地域のアシレットのリーダーへの聞き取り調査を基に
する。
4) トルコはイスラム教の中、90%以上がスンニー派であり、本研究調査地域の場合も C 町
自治体を除くと全村落がスンニー派である。しかし、C 町自治体の場合は宗派が異なる
アレヴィー派である。
5) トルコでは、都市部の治安は警察が担当するが、農村部の場合は、警察の役を軍人
(Jandarma)が担う。
6) トルコ語を使う 1 つの村落はアシレットによる社会構造が現れないため、調査対象から
除く。
7) 「ナムス(namus):名誉、貞節 」と関係がある殺人事件と、他のアシレット・メンバー
と戦いによる殺人事件が起きた場合、殺人により復讐すること。
8) トルコの義務教育は中学校までである。
参考文献
荒井康一 (2009) : 現代トルコにおける水資源政策と国家‐社会関係:南東アナトリア開
発計画の事例から. CIAS Discussion Paper, 11, pp. 17-41.
荒井康一 (2010) :トルコ南東アナトリア開発計画と資源分配構造-大地主制から資本家的
80
農業経営へ-. 国際文化研究, 16, pp. 31-44.
中川喜与志 (2003):
『クルド人とクルディスタンー拒否された民族-』南方新社, 508p.
Aktas, Y., Olgun, A., Demirdogen, A., Ocalkarara, F. (2011) : Analyzing Socio-Cultural Causes of
Excessive Irrigation in Tribal Societies and Extension Needs: A Case Study of Harran Plain,
Sanliurfa, 20th European Seminar of Extension Education, Proceedings of the 20th ESEE Finland,
pp.13-18.
Gokalp, Z, (1992) : Sociological analysis on Kurdish Tribes, Sosyal, Istanbul.
Harris, L. M. (2008) : Water Rich, Resource Poor: Intersections of Gender, Poverty, and
Vulnerability in Newly Irrigated Areas of Southeastern Turkey.
World Development,
36(12),
pp. 2643-2662.
İçli, T. G., Ökten, Ş. Boyacıoğlu, A. Ö. (2012) : A Study on Hierarchical / Normative Order,
Marriage and Family Patterns in Bin Yousuf Tribe of Southeastern Turkey. Scientific Research,
1(2), pp. 19-29.
Kudat, A. and Bayram M. (2000) : Social Assessment and Agricultural Reform in Central Asia and
Turkey. World Bank Technical Paper No. 461, Washington, D. C.,
302p.
Sencer, M. (1993) : Research on development trends in the region of southeastern Anatolia Project,
TMMOB, Ankara.
Van Bruinessen, M. (2003) : Agha, sheikh and state. İletişim, Istanbul.
81
第5章
終
章
本研究では、トルコの南東アナトリア地域の綿花栽培地域を対象に、南東アナトリア開
発計画の推進による地域社会の変化と問題点を検討した。また、農業基盤整備事業による
営農環境の改善と政府の農業政策が地域農業に及ぼした影響を明らかにし、南東アナトリ
ア地域の持続可能な農業発展のための在り方を考察した。さらに、アシレットを中心とす
る南東アナトリア地域の社会的な特徴を検討し、トルコの他の地域とは異なる南東アナト
リア地域の‘地域性’の究明に努めた。
本研究から明らかとなった主な内容を論文の構成に沿って要約すると、以下の通りであ
る。
まず、第 2 章では、南東アナトリア開発計画の中心軸として選定されたシャンルウルフ
ァ県を対象に、綿花栽培による地域社会の変化を検討した。シャンルウルファ県はトルコ
全体の綿花生産量の 37.6%を生産している。かつて乾燥農業と牧畜により生計を営んでい
た地域が綿花を中心とする灌漑農業地域へ変化する過程には、耕地整理、灌漑用水供給、
農路の整備などの農業基盤整備事業が大きな役割を果たしていた。また、綿花栽培は地域
農業のみではなく、綿花加工工場のような地域の綿花関連産業が成長するきっかけとなっ
た。さらに、灌漑事業以前には県外の綿花産地への出稼ぎ人口流出が多かったが、灌漑事
業以後には一変して、出稼ぎ流出が大きく減少し、出稼ぎ先においても県内の綿花栽培地
域を中心とする移動となっている。
一方、南東アナトリア地域の土地所有格差の実態を把握するため、シャンルウルファ県
の三つの水利組合に登録されている組合員の土地所有面積と村長への聞き取り調査による
地域住民の土地所有面積を比較し、当地域での土地所有が少数の人に集中していることを
明らかにした。
第 3 章では、南東アナトリア開発計画の灌漑事業モデル地域として選定されたハラン平
82
原を対象に灌漑用水供給以後の地域社会の変容について考察した。その結果、次のような
ことが明らかとなった。地域開発事業が推進される前のハラン平原は、地域住民のための
飲料水さえ不足する地域であったが、地域開発事業により、現在はトルコの代表的な灌漑
農業地域へ変貌した。国家水利事業局(DSİ)は民間である水利組合へ灌漑管理権を移管し、
農民参加による効率的な灌漑管理を促そうとした。しかし、アシレットの勢力が水利組合
の管理権に大きな影響を及ぼすこととなり、不公平な水資源の分配と不十分な灌漑施設の
管理という結果を生み、農民の不満は高まっている。一方、農業形態については、灌漑用
水の供給直後、ほとんどの農家で綿花の単作が行われていたものの、近年には綿花価格の
下落と栽培コストの上昇により、綿花と小麦・トウモロコシ、野菜に分けて作付する耕地
経営の多角化が現れている。また、ハラン平原は綿花栽培以降に出稼ぎ労働者の主要流入
先へ変貌しているが、近年では、綿花収穫の機械化が進んでいることから、今後、ハラン
平原での綿花労働市場および出稼ぎ人口移動は変化すると考えられる。
第 4 章では、ハラン平原の綿花栽培地域を対象に、南東アナトリア地域の代表的な社会
組織であるアシレットに関して検討した。その結果、アシレットはアラブ文化とクルド文
化が維持されている村落で現れ、民族的な背景を基にする社会構造であることが明らかと
なった。また、地域住民がアシレットに所属することは、共同体意識と連帯感を感じる肯
定的な面がある反面、組織内の階層的な構造により個人意見の収斂が難しいことと民主化
されてないことが問題点として指摘された。また、近年の綿花栽培により地域住民の基礎
生活環境は大きく改善され、経済的な自立と開放的な経済活動によりアシレットの影響力
は次第に弱くなっているが、地域農業において最も重要な水利組合の運営がアシレットを
中心に行われているため、近年のアシレットは新たな形態で地域社会に影響力を行使して
いる。さらに、農業問題を解決するために一般農民が自ら自治的な農民組合を組織、運営
することは、依然として社会中心組織として影響力を及ぼしているアシレットにより妨げ
られていると考えられる。しかし、かつて閉鎖的であった地域社会が開放的な農業経済社
83
会へ変化したことにより、従来の社会・文化的伝統に関する住民の意識構造が変わってい
るため、今後のハラン平原のアシレットを中心とする住民の考え方は大きく変化すると予
想される。
本研究では、トルコの南東アナトリア開発計画の中、水資源開発と農業基盤整備事業に
よる農村社会の変化を水資源利用と農業形態の変化、出稼ぎ労働による綿花栽培に分けて
検討した。また、アシレットを中心とする地域社会の特徴と地域社会において部族集団の
影響力を明らかにした。南東アナトリア開発による政府の集中的な投資は、地域社会を自
給的な農業社会から商業的な農業社会へ変化させ、経済的な面で目覚ましい成長を遂げた。
しかし、南東アナトリア地域は、従来の階層的な社会構造が現在にも残っている地域であ
る。半乾燥気候下の灌漑農業においてきわめて重要な灌漑用水管理は、アシレット中心の
階層的な社会構造により、農民の参加は妨げられており、アシレット間の勢力争いの場に
なっている。また、地域農業の持続可能な発展のために営農知識と情報を交換し、相互協
力しうる自治的な農民組合が必要であるが、従来の社会構造の中で、一般農民がリーダー
となり農民組合を組織、運営することは、実際には難しいことである。
近年、モータリゼーションと換金作物栽培による外部地域との交流は、地域住民の意識
構造の変化に大きな影響を及ぼした。かつて閉鎖的な農業社会から経済的実利を追求する
商業的農業経済社会へ次第に変化しており、一般農民も不合理なことには声を出している。
しかし、アシレットは依然として地域社会に大きな影響を及ぼしており、地域住民はアシ
レットと関係がある問題に対しては、自ら積極的な問題解決を追求するよりは、受動的な
立場で、その問題解決を政府に依存する傾向が大きい。それゆえ、政府がこの地域に関す
る政策を決定する際には、このような地域特徴を勘案する政策決定が必要である。また、
環境面において、綿花栽培のための過度な灌漑用水の使用は、地下水の上昇と塩害を加速
化させている。現在、地下水の上昇による被害を防ぐために排水施設を設置する新たなプ
ロジェクトが施行されているが、根本的な問題の解決のためには、農民に対する灌漑教育
84
と営農教育を優先し、誤った農業慣習を改善しなければならない。農民教育においても形
式的ではなく、地域社会の特徴を理解する上で、一般農民のための効率的な営農教育が計
画・推進される必要があるだろう。
85
謝 辞
本研究の取りまとめるにあたっては多くの方々にお世話になりました。ここに深く感謝
の意を表します。
まず、 岡山大学環境生命科学研究科の金枓哲先生には懇篤なるご指導とご激励を賜りま
した。終始変わらぬ先生の丁寧なご指導により、研究成果を上げることができました。深
甚なる謝意を捧げます。
また、同研究科の市南文一先生、守田秀則先生、生方史数先生、本田恭子先生からご指
導と貴重なご助言を賜りました。心から謝意を捧げます。
現地調査を行うにあたり、トルコのハラン大学(Harran University)農学部の Mehmet Ali
Çullu 学長をはじめとする先生方と、シャンルウルファ県農業総局の方々にご協力いただき
ました。また、ハラン平原の調査地域農民には筆者の調査を快く受け入れて下さいました。
ここに厚くお礼申し上げます。
最後に、筆者の研究生活を支えるとともに、励ましつづけてくれた家族、特に夫 Ahmet
と小姑 Nevin、姉 允淑、妹 美賢に深く感謝の意を表します。
86
私は日本の岡山大学環境研究科の博士後期課程の姜淑敬と申します。近年、ハラン平原の綿花栽
培による地域社会の変化に関する研究を行っております。このアンケートは研究以外の目的として
は使われません。お忙しいとは存じますが、本アンケートにご協力いただきますようお願い申し上
げます。ありがとうございます。
村落の名前
調査日日
/
/
2012
<Ⅰ.土地所有関係及び灌漑以前/以後の農業環境、経済状況の比較>
1. 現在、自分所有の土地がありますか。 ① ある (
decare)
(土地がある場合)
② ない
(土地がない場合)
1-1-1) 土地の法的所有者は誰ですか。
①本人 ②父親 ③兄弟 ④親戚 ⑤子女 ⑥その他(
)
1-1-2)
(本人のものではない場合), 土地賃貸料及び収穫の分配はど
のようになりますか。
①家族の土地だから、賃貸料はない。
②収穫の (
)%をあげる。
③賃貸料を払う (
decare
TL )
④その他 (
)
1-1-3) 灌漑以前 土地がありましたか。
①あった (
decare ) ②なかった
1-1-4) 土地は ①親からの遺産 (
decare )
②政府からの賃貸 (Hazine) (
decare )
③購入 (
decare )
④その他 (
)
1-2-1) 灌漑以前 自分所有の土地がありましたか。
①あった。(
decare ) ②なかった。
1-2-2) 現在, 綿花農業をする土地は誰から賃貸したも
のですか。
①地主(賃貸, 小作農) ②公有地の賃貸
③土地賃貸ではなく労働者 ④その他(
)
1-2-3)
もし、地主から賃貸した場合、 土地所有者にどの
くらい支払いますか。
①収穫量の(
% )を支払う
②(
TL/decare)を支払う
③( kg/decare)を支払う
④1 年で( TL)払う
1-2-4) もし、共有地の賃貸の場合、賃貸料の支払い方
法はどうなりますか
(収穫量の(
% )支払い)または
(
TL /decare)(1 年)
19. 灌漑以後, 新しい土地を買いましたか。
①はい (
decare )
②いいえ
1-1-5)
耕地整理後、それによる土地規模の変化がありましたか。
①あった.((
decare) 縮小、拡大)
②なかった.
1-1-6)
耕地整理された場合, 耕地整理に関して満足していますか。
①満足している(理由:
)
②満足してない (理由:
)
1-2-5) もし、労働者なら、 一カ月いくら貰いますか。
(
TL/1 カ月)
1-2-6)
灌漑以後、経済・社会的に生活が改善されたと思いま
すか。
①はい, 改善された。 ②いいえ, 改善されてない。
③もっと悪くなった。
1-1-7)灌漑以後、経済・社会的に生活が改善されたと思います
か。
①はい, 改善された。 ②いいえ, 改善されてない。
③もっと悪くなった。
2.(灌漑以前) 主な収入は何でしたか。①綿花農業 ②綿花以外の農作物の栽培、作物名(
2-1. 灌漑以前
綿花栽培の面積
小麦の栽培面積
麦
(
(
decare)
decare)
87
)③牧畜
④その他(
羊またはヤギの牧畜の可否
①はい
②いいえ
)
(
decare )
トウモロコシ
レンズ豆
その他
(作物名:
(
(
decare)
decare)
decare)
(
羊 (
),
牛 (
),
ヤギ (
),
), その他(
馬
)
3.(現在) 主な収入は何ですか。①綿花農業 ②綿花以外の農作物の栽培、作物名(
)③牧畜 ④その他(
小麦の栽培面積
(
decare)
羊またはヤギの放牧
麦
(
decare)
①はい
②いいえ
3-1 (現在)
トウモロコシ
(
decare)
綿花栽培の面積
レンズ豆
(
decare)
羊 ( ), ヤギ ( ), 馬(
(
decare )
その他
牛 (
), その他(
)
(作物名:
decare)
)
),
4.(灌漑以前 )羊またはヤギの放牧をしたが、現在、しない場合、その理由は何ですか。
① 耕地整理で放牧する牧草地がなくなったので ② 綿花生産の方がもっと受益性が高いので
③ 土地所有者が放牧を望まないので
④ その他 (
)
4-1.灌漑以前の チーズ、ヨーグルト、ウールなどの自給自足を考えても, 現在の綿花栽培による利益がもっと高い
と思われますか。
①はい, もっと高いと思う。②いいえ, 前と同じ程度である。 ③いいえ, 以前より悪くなったと思う。.
,
5. 綿花を栽培する理由は何ですか。
①政府から補助金を貰えるので。 ②綿花は商品作物で収益性が高いので。 ③部族リーダーから勧誘されたので。
④土地所有者が綿花栽培を望むので。⑤その他(
)
6. 政府補助金がない場合も 綿花農業を続けたいですか。
①はい, 補助金が無くても綿花作物を栽培する。(理由:
②いいえ, 他の作物を栽培する。 (作物名:
, 理由:
)
)
7. 綿花の収穫の後、綿花はどこへ売りますか。
①綿花加工工場(場所:
) ②専門商人(Tüccr) ③農業協同組合(Adana, Çuko birlik) ④その他 (
8. 移動する時の主な運送手段は何ですか。
① 自動車
②馬の車輪
③オートバイ
④その他(
)
)
8-1. 綿花の収穫の後、綿花をどんな方法で販売先まで運びますか。
①自分のトラック ②トラックの賃貸 ③トラックが加工工場から来る ④トラクター ⑤馬の車輪 ⑥その他(
)
9. 灌漑以前 と比較した場合、綿花栽培の後、農家の収入は増加したと思いますか(綿花生産に掛かった費用を考え
ること)
①はい( 何倍、増加したと思われますか。
倍 )
②いいえ
10. 灌漑以前と比較した場合、 綿花栽培の後、農家の支出は増加したと思いますか。
①はい( 何倍、増加したと思われますか。
)
②いいえ
11. 綿花栽培の時、最も費用がかかる部分は何ですか。
①種子、農薬、肥料など農業生産費用
②賃貸費
11-1. 肥料 (
TL/decare),
農薬 (
③労働者の雇用費
④その他(
TL/decare), ティーゼルオイル (
)
ℓ/decare→
TL )
12. 灌漑以後, 貧富の差がもっと高くなったと思いますか?
①はい
②いいえ
13. (灌漑以前) 年間の平均収入はいくらでしたか。
① 1,200 TL 未満 ② 1,200 – 2,500 TL ③ 2,501-5,000 TL ④5,001-7,500 TL ⑤7,501-10,000 TL
⑥10,001-15,000 TL ⑦15,001-20,000 TL ⑧20,001-30,000 TL ⑨30,001-40,000 TL ⑩40,001 TL 以上
綿花からの収入
(
) %
+
綿花以外の農業収入
(
)%
(種類:
)
88
+
農業以外の収入
(
)%
(種類:
= 100%
)
14. (灌漑以後) 年間の平均収入はどのぐらいになりますか。
① 1,200 TL 未満 ② 1,200 – 2,500 TL ③ 2,501-5,000 TL ④5,001-7,500 TL ⑤7,501-10,000 TL
⑥ 10,001-15,000 TL ⑦15,001-20,000 TL ⑧20,001-30,000 TL ⑨30,001-40,000 TL ⑩40,001 TL 以上
綿花からの収入
(
) %
+
綿花以外の農業収入
(
)%
(種類:
+
)
農業以外の収入
(
)%
(種類:
15. 今後の綿花栽培に関する計画はどうお考えですか。
① 綿花栽培をさらに拡大する
(理由:
② 綿花栽培を現在維持する
(理由:
③ 綿花栽培を縮小し、他の作物栽培をする。
(作物名:
④ 綿花栽培はやめて他の作物を栽培する。 (作物名:
⑤ 農業をやめてほかの職業をする。 (理由:
= 100%
)
)
)
,
理由:
、 理由:
)
)
)
16. オーガニック綿花の栽培に関する内容や方法を知っていますか。
①はい
②いいえ
17. オーガニック綿花へ転向する意向がありますか。
①はい(理由:
) ②いいえ(理由:
)
18. 世帯にあった物とある物に丸をつけて下さい。(該当するものには全部、○をつけて下さい)
灌漑以前
①自動車②トラック③トラクター ④プラウ(Plow) ⑤播種機 ⑥肥料散布機 ⑦収穫機
⑧冷蔵庫 ⑨エアコン ⑩洗濯機 ⑪電気オーブン ⑫トイレ ⑬お風呂
灌漑以後,
(現在)
①自動車②トラック③トラクター ④プラウ(Plow) ⑤播種機 ⑥肥料散布機 ⑦収穫機
⑧冷蔵庫 ⑨エアコン ⑩洗濯機 ⑪電気オーブン ⑫トイレ ⑬お風呂
19. (農業機械がない場合) 農業をする際、農業機械はどのような方法で利用しますか。
① 賃貸
(ⓐ地主 ⓑアシレット(Aşiret)のメンバー ⓒ近所の人 ⓓ親戚 ⓔ賃貸業者 ⓕその他(
② 親しい人から借りる(賃貸費は不要)
③ 機械を使わず、農業を行う
20.
灌漑以前
灌漑以後
借金がありましたか。
借金がありますか。
① あった.
① ある.
21. 借金がある場合、 借金はどこから借りましたか。
①銀行 ②信用協同組合 ③地主 ④アシレット(Aşiret)のメンバー
⑤親戚
② なかった.
② ない.
⑥高利貸し
⑦その他(
22. 借金がある場合、何のために借金を借りましたか。
①新しい農業機械を買うため
② 種子、農薬、肥料などを購入するため
③人件費を支払うため
④生活必需品を買うため
⑤自動車を買うため
⑥結婚資金のため
⑦借金を返済するため
⑧その他(
23. もし、余裕のお金がありましたら、何を買いたいですか。
①土地 ②家
③自動車
④農業機械 ⑤結婚 (再結婚、新しい配偶者)
24. 農業と農機械に関する教育を受けたことがありますか。①はい
24-1) はいと答えた場合: その教育はあなたに役に立ちましたか。 ⓐはい
⑥その他(
89
)
)
)
②いいえ
ⓑいいえ
24-2) いいえと答えた場合: なぜ、農業に関する教育を受けなかったですか。
ⅰ)時間がなかった
ⅱ)必要性を感じられなかった
ⅲ)教育に関する情報を貰えなかった
ⅳ)この地域では教育が行われてなかった ⅴ)農業に関して知っているから要らない vi)その他 (
25. もし、農業に関する教育が実施されると、その教育を受けたいですか。
①はい
②いいえ
26. 綿花収穫の時、綿花摘みはどのような方法で行いますか。
))
)
①家族労働力で行う
②労働者を雇用する
③収穫機械で行う
④その他(
27. 綿花栽培の時、一番困ることは何ですか。
①政府支援の不足.
②高い農業生産の費用(農薬, 肥料, 人件費など).
③綿花販売価格の下落
④土地の塩害
⑤病虫害など
⑥地下水の上昇
⑦労働の負担感が大きい
⑧収穫
28. 耕作地に塩害の被害がありますか。 ① ある.
29. 耕作地に地下水位の上昇の問題がありますか。
)
⑨その他 (
)
② ない
① ある.
② ない
30. 綿花農業に関する灌漑用水の供給回数及び供給量は誰の意見を参考して行いますか。
①本人の経験によって決定する ②アシレット(Aşiret)のリーダー ③政府の関係者 ④灌漑水組合 ⑤農業技術者
⑥その他(
)
31. 農業以外の他の仕事をしていますか。
① はい : その内容 (
)
② いいえ
<Ⅱ. コミュニティー>
1. 加入している組合を選んで下さい。
①灌漑用水組合 ②農業信用協同組合 ③農業販売組合 ④農業会議所
⑦その他(
) ⑧どこの組合にも加入していない
⑤農業指導者会
2. 組合の加入が農業をする時、役に立つと思いますか。
①はい (
) ②いいえ (理由?
⑥農村開発協同組合
)
3. 灌漑用水組合は必要な組合と思われますか。
①はい (理由?
) ②いいえ (理由?
)
4. 灌漑用水組合から灌漑用水に関する情報及び教育を受けたことがありますか。
①はい
②いいえ
4-1. 灌漑用水の利用に関する情報及び教育は必要だと思いますか。
①はい
②いいえ
5. 灌漑用水の料金は適当だと思いますか。
①適当である
②安い
③もっと安くなってほしい
⑥無料になってほしい
④高い
⑤もっと高くてもいい
6. 灌漑組合に望むことがありますか。ある場合、書いてください。
7. 灌漑以前 , 飲料水はどこから貰いましたか。
①井戸から(公共、個人) ②地主から ③水タンクから ④他の地域にある水源から村までパイプで連携した水道
管を利用 ⑤その他(
)
7-1 灌漑以前 , 農業用水はどこから貰いましたか。
①井戸から (公共、個人) ②地主から ③水タンクから ④雨に依存
⑤水供給機械の頻繁な故障
⑥その他(
8. 灌漑以前 , 水を使う時にどのようなことが難しかったですか。
①ポンプのための電気代や油代が高かった ②水を引き上げるために必要な機械が高かった
③水不足
④運搬
⑤その他(
)
9. 現在, 灌漑用水を利用する時、困ることがありますか。
①はい, 困ることがある.(内容:
) ②いいえ,
10. 灌漑用水は一年の間、ずっと供給するべきだと思いますか。
①はい(理由
) ②いいえ (理由
90
困ることはない
)
)
11. 村に種子、肥料、農薬などをもっと安く買い、生産された綿花を高く売ることができる農民組合が必要だと思い
ますか。 ①はい
②いいえ(理由:
)
12. この村にこのような農民組合がない理由は何だと思いますか。
① 農民組合を組織しようとするリーダーがいない
② 農民組合に関する知識や経験が不足
③ アシレット(Aşiret)があるから
④農民の協同意識の不足
⑤その他(
)
13. 自らこのような協同組合を組織してみようと思たことがありますか。
①はい
②いいえ (理由:
)
<Ⅲ. 人口移動>
1. GAP 灌漑以前
①ある.
出稼ぎのために他の地域へ移住したことがありますか。
②ない
1-1) あった場合:
ⓐ時期(農繁期 / 収穫時期 / 農閑期 ) ⓑ場所(
, この場所を選んだ理由: i)親戚がいたか
ら ii)知り合いがいたから iii)知り合いはいなかったが、仕事があったから iv)その他(
)) ⓒ職
業の種類(綿花関連農業、綿花以外の農業, 建設業, 商売, その他(
)) ⓓ期間(
カ月, 1 年, 2 年,
3 年 以上, その他(
)) ⓔ 月 平 均 収 入 (
TL) ⓕ 出 稼 ぎ の た め に 他 の 地 域 へ 行 っ た 理 由
(
)
1-2) 本人以外、家族の中で出稼ぎのため他の地域へ移住した人がいますか。
①ある (家族関係
(何人)
) ②ない
1-2-1) あった場合
ⓐ時期(農繁期 / 収穫時期 / 農閑期 ) ⓑ場所(
, この場所を選んだ理由: i)親戚がいたか
ら ii)知り合いがいたから iii)知り合いはいなかったが、仕事があったから iv)その他(
)) ⓒ職
業の種類(綿花関連農業、綿花以外の農業, 建設業, 商売, その他(
)) ⓓ期間(
カ月, 1 年, 2 年,
3 年 以上, その他(
)) ⓔ 月 平 均 収 入 (
TL) ⓕ 出 稼 ぎ の た め に 他 の 地 域 へ 行 っ た 理 由
(
)
2. GAP 灌漑以後
①ある.
出稼ぎのために他の地域へ移住したことがありますか。
②ない.
2-1) あった場合:
ⓐ時期(農繁期 / 収穫時期 / 農閑期 ) ⓑ場所(
, この場所を選んだ理由: i)親戚がいたか
ら ii)知り合いがいたから iii)知り合いはいなかったが、仕事があったから iv)その他(
)) ⓒ職
業の種類(綿花関連農業、綿花以外の農業, 建設業, 商売, 運送業、その他(
)) ⓓ期間(
カ月, 1
年, 2 年, 3 年 以上, その他(
)) ⓔ月平均収入(
TL) ⓕ出稼ぎのために他の地域へ行った理由
(
)
2-2) 本人以外、家族の中で出稼ぎのため他の地域へ移住した人がいますか。
①ある (家族関係
(何人)
) ②ない
2-2-1) あった場合
ⓐ時期(農繁期 / 収穫時期 / 農閑期 ) ⓑ場所(
, この場所を選んだ理由: i)親戚がいた
から ii)知り合いがいたから iii)知り合いはいなかったが、仕事があったから iv)その他(
)) ⓒ
職業の種類(綿花関連農業、綿花以外の農業, 建設業, 商売, 運送業、その他(
)) ⓓ期間(
カ月, 1
年, 2 年, 3 年 以上, その他(
)) ⓔ月平均収入(
TL) ⓕ出稼ぎのために他の地域へ行った理由
(
)
2-3) 家族の中で出稼ぎのため他の地域へ移住したが、灌漑以後、故郷に戻った人がいますか。
①ある(家族関係
(何人):
, 戻った理由 i:
, 現在の仕事
) ②ない
3. (賃金労働者を雇用する場合),
①何人 (
) ②雇用期間 i) 播種期間から収穫まで(
91
月から
月まで、何カ月:
)ii) 収穫期間(何カ
月:
), 何日:
) ③給料 i)収穫量の
% ii) kg 当たり
TL iii) 1日当たり
TL) ④労働者の
出身地域(
) ⑤労働者の性比及び構成 i(男性
% , 女性
%) ii (家族単位:世帯の数
) ⑥労働者
が使用する言語 i)アラブ語 ii)クルド語 iii)トルコ語 ⑦労働者は誰を通じて雇用しましたか i)知り合いを通じて
(
) ii)仲介者を通じて (
/
TL )
4. もし、機会があったら、もっと良い仕事や生活環境(医療、教育など)のために他の地域へ移住したいですか。
①はい
②いいえ
5. あなたは, あなたの子女が綿花農業を続けることを望みますか。
①はい
②いいえ
6. あなたの子女の中であなたに続いて綿花農業をすることを望んでいる子女がいますか。
①はい
②いいえ
③幼い子供で返事ができない
<Ⅳ. アシレット(Aşiret)>
1. 本人の社会的地位を教えてください。
①アシレット(Aşiret)のリーダー ② アーア③その他(例;灌漑組合の組合長など
2. アシレットに所属していますか。 ① はい (アシレットの名前:
2-1. 村に同じアシレットメンバーの世帯はどのぐらいありますか。
)④該当しない
) ② いいえ
世帯
3. あなたはアシレットのメンバーであることを満足していますか。
①はい (理由:
) ②いいえ(理由:
)
4. アシレットに所属したことによって、あなたの生活がもっと気楽に過ごされたと思いますか。
①はい
②いいえ
5. 論争や戦いがある場合、誰の意見を参照しますか。
①アシレット(Aşiret)のリーダー ②村長 ③軍人 ④親戚 ⑤宗教的な指導者 ⑥その他(
)
6. 灌漑用水が供給された以後、アシレットの影響力は弱くなったと考えますか。
①はい, 弱くなった
②いいえ, 弱くなってない (同じである).
③もっと強くなった
7. アシレット(Aşiret)のリーダーや長老などとどのような問題に関して相談しますか。
①村に関する問題
②政治的な問題 ③復讐に関する問題(Blood Feud) ④アシレットの内部または外部の葛藤
⑤土地に関する問題 ⑥家庭の問題
⑦相談しない ⑧その他(
)
7-1. アシレットのリーダーや長老の決定に従いますか。
①はい
②いいえ(理由:
)
8. 村で誰の意見が最も大きな影響力を持っていると思われますか。
①村長 ②アシレットのリーダー ③アーア ④宗教的な指導者 ⑤教師 ⑥政府関係者 ⑦その他(
)
9. もし、あなたに土地があり、その土地を販売しようとする場合、アシレットのリーダーと多くのお金を持ってい
る他の人が当時にその土地を購入しようとするなら、あなたは誰にその土地を販売しますか。
① アシレットのリーダーに販売する
② アシレットと関係なしにもっと良いお金を提示する人に販売する。
10. 選挙で最も重要な選択の決定要因は何ですか。
①政党の公約 ②アシレットのリーダーの意見 ③候補者の能力
11. あなたの考えで最も豊かな人は誰だと思いますか。
①土地が多い人 ②お金持ち
③夫人が多い人
④子供が多い人
92
④同じ宗教・宗派
⑤その他(
⑤息子が多い人
⑥その他(
)
)
<Ⅴ. 基礎環境の調査>
1. 年齢:
2. 職業 :
3. 結婚有無
① 既婚
(農業以外の仕事可否)
②独身
3-1) 現在、何人の夫人がいますか ①一人 ②二人 ③三人 ④四人 ⑤五人以上
3-2) (もし、既婚である場合) 何歳に結婚しましたか。(
歳),
3-3) あの時、夫人は何歳でしたか(①
歳 ②
歳 ③
歳 ④
歳)
3-4) (多数の夫人がいる場合) 一人以上の女性と結婚した理由は何ですか。
①子供がいなかったから
②息子がいなかったから
③伝統的な理由で
④夫人が面倒をみなければならないことが多かったから
⑤多くの子供がほしかったから
⑥夫人が年を取ったから
⑦その他(
)
4. 夫人の年齢及び関連情報
一番目の夫人: 年齢
, 親戚関係(ある/ない), アシレットとの関係(同じアシレット/同じではない),
結納金(bride price)の有無(あった(値段:
)/ なかった ), 出身地(
)
二番目の夫人: 年齢
, 親戚関係(ある/ない), アシレットとの関係(同じアシレット/同じではない),
結納金(bride price)の有無(あった(値段:
)/ なかった ), 出身地(
)
三番目の夫人: 年齢
, 親戚関係(ある/ない), アシレットとの関係(同じアシレット/同じではない),
結納金(bride price)の有無(あった(値段:
)/ なかった ), 出身地(
)
四番目の夫人:年齢
, 親戚関係(ある/ない), アシレットとの関係(同じアシレット/同じではない),
結納金(bride price)の有無(あった(値段:
)/ なかった ), 出身地(
)
5. 親戚との結婚は大事だと思いますか。 ①はい
②いいえ
5-1 (はいと答えた場合) 親戚との結婚がなぜ大事だと思いますか。
①親戚間の強化のために
②アシレットの成長と強化のために
③財政的な便宜上(結納金)
④親戚が分裂されることを防ぐために
⑤お互いによく知っているから(理解するから) ⑥その他(
6. 子女の数
一番目の夫人との子女の数
二番目の夫人との子女の数
三番目の夫人との子女の数
四番目の夫人との子女の数
:
:
:
:
①ある
①ある
①ある
①ある
(息子:
(息子:
(息子:
(息子:
人,
人,
人,
人,
娘
娘
娘
娘
6-1. 理想的な子女の数は何人だと思いますか。
①1~2 人 ②3~4 人 ③5~6 人 ④7~8 人 ⑤9~10 人
:
:
:
:
人)
人)
人)
人)
⑥11 人以上
)
②ない
②ない
②ない
②ない
⑦神様が決定する
6-2. (5 人より多い場合) その理由はなんですか。(一つ選んで下さい)
①農家において家族労働力は大事だから ②子供が小さい時に病気や事故で命を奪われる場合が多いから
③伝統的に多い子供を願ったから
④多い子供がいる人がお金持ちだから
⑤宗教的な理由で
⑥その他(
)
6-3. 灌漑以前と比べて灌漑以後、農業のためにもっと多い子女が必要だと思いましたか。
①はい
②いいえ
7.< 家族の職業>
7-1. 配偶者の職業(経済活動の可否) :
①家庭主婦
②農畜産品の生産またはその販売 (例: チーズ, ヨーグルト,羊毛など)
③販売のための手作り工芸品の生産
④賃金労働 (例: 農産物の収穫など) ⑤その他(
)
7-2. 子女の仕事(農業以外の仕事がある場合)
子女
性比
1
2
3
男/女
男/女
男/女
年齢
結婚可否
既婚
既婚
既婚
/ 独身
/ 独身
/ 独身
居住地
村内
村内
村内
/ 村外(
/ 村外(
/ 村外(
93
職場
)
)
)
村内
村内
村内
/ 村外(
/ 村外(
/ 村外(
)
)
)
4
5
男/女
男/女
既婚
既婚
/ 独身
/ 独身
村内
村内
/ 村外(
/ 村外(
)
)
村内
村内
/ 村外(
/ 村外(
)
)
8. (世帯主) 学校教育はどこまで受けましたか。
①学校に行ったことがない(読む、書くことができない / 読む、書くことができる) ②小学校の卒業
③中学校の卒業
④高校の卒業
⑤大学の卒業
8-1)(夫人の教育水準)
一番目の夫人: ①学校に行ったことがない(読む、書くことができない / 読む、書くことができる)
業 ③中学校の卒業
④高校の卒業
⑤大学の卒業
二番目の夫人: ①学校に行ったことがない(読む、書くことができない / 読む、書くことができる)
業 ③中学校の卒業
④高校の卒業
⑤大学の卒業
三番目の夫人:①学校に行ったことがない(読む、書くことができない / 読む、書くことができる)
業
③中学校の卒業
④高校の卒業
⑤大学の卒業
四番目の夫人:①学校に行ったことがない(読む、書くことができない / 読む、書くことができる)
業
③中学校の卒業
④高校の卒業
⑤大学の卒業
9. (世帯主) 話せる言語を選んで下さい。
①アラブ語
②クルド語
③トルコ語
9-1)
(夫人) 話せる言語を選んで下さい。
一番目の夫人:①アラブ語
②クルド語
二番目の夫人:①アラブ語
②クルド語
三番目の夫人:①アラブ語
②クルド語
四番目の夫人:①アラブ語
②クルド語
10.(子女) 話せる言語を選んで下さい。①アラブ語
④その他(
③トルコ語
③トルコ語
③トルコ語
③トルコ語
②クルド語
②小学校の卒
②小学校の卒
②小学校の卒
②小学校の卒
)
④その他(
④その他(
④その他(
④その他(
)
③トルコ語
④その他(
)
)
)
)
11.(もし、子女がトルコ語以外の他の言語を話す場合) 子女に第1言語を必ず教えるべきだと思いますか。
①はい.
②いいえ
11-1 (はいと答えた場合), その理由は何ですか。
①民族アイデンティティーの維持は大事であるから ②民族言語が意志疎通がもっとうまくできるから
③民族言語をわからないと村内での生活が不便であるから ④伝統的に教えて来たから
⑤その他(
)
12.現在、幾つの世帯が一緒に住んでいますか
①1世帯
②2世帯
③3世帯
④4世帯
12-1)もし、二つ以上の世帯が同居している場合、その関係を教えてください。
13. 就学児童の中で (7 歳∼14 歳) 学校に行かない子供がいますか。 (現在、娘も含む)
13-1. 子女の中で、小・中学校の教育を受けてない人がいますか。
(過去)①いる
②いない
小学校
①いる(息子:
娘:
②いない
人、
人、
歳,
歳 )
中学校
①いる(息子:
娘:
②いない
人、
人、
歳,
歳 )
14. (ある場合) 学校に送れない理由は何ですか。
①財政的に余裕がないから ②農作業を手伝わなければならないから ③あまり学
息子
校教育は有用ではないから ④学校が遠いから ⑤その他(
)
小学校
娘
息子
中学校
娘
①財政的に余裕がないから
②家事や農作業を手伝わなければならないから
③女の子は教育が要らないから ④伝統的に女の子は教育をさせていなかったから
⑤学校が遠いから
⑥その他(
)
①財政的に余裕がないから
②農作業を手伝わなければならないから
③あまり学校教育は有用ではないから
④学校が遠いから
⑤小学校の教育だけでも十分であるから ⑥その他(
)
①財政的に余裕がないから
②家事や農作業を手伝わなければならないから
③女の子は教育が要らないから ④統伝的に女の子は教育をさせていなかったから
⑤学校が遠いから
⑥小学校の教育だけでも十分であるから
⑦その他(
)
94
14-1. 子女の教育をどこまで考えていますか。
息子の場合 :
娘の場合:
15. 子女の結婚適齢期は何歳だと考えていますか。
息子の場合 :
歳
娘の場合:
歳
16. 子女の結婚に関してあなたの考え方を教えてください。
① 親戚との結婚を望んでいる
② 同じアシレットとの結婚を望んでいる
③ 他のアシレットとの結婚も問題ない。
④ 子女が願うと他の地域の人でも問題ない。
⑤ 同じ宗教(宗派)が大事である。
17. 娘が結婚する時、結納金(bride price)は要りますか。
① はい(理由:
)
② いいえ
<終わり>
-ありがとうございます-
95
Ben Japonyanın Okayama Üniversitesi Kırsal Çevre Yönetimi Bölümü Doktora Öğrencisiyim.
Bu anket, Pamuk tarımının gelişmesine bağlı olarak toplum dinamiklerinin nasıl değiştiğini
incelemek amacıyla hazırlanmıştır.
Bu anket, araştırma dışında başka amaçlar için kullanılamaz. Ayrıca, buradaki kişisel bilgiler,
kişinin rızası olmadan hiç bir şekilde kullanılamaz. Bu nedenle, soruların en doğru şekilde
cevaplandırılması çok önemlidir.
İlginiz ve yardımlarınız için çok Teşekkür ederim.
Köy adı
Araştırma tarihi
/
09/
2012
<Ⅰ.Arazi mülkiyeti ilişkileri ile sulama öncesi/sonrası tarımsal durum ve ekonomik durumun karşılaştırılması>
1. Şimdi kendinize ait araziniz var mı? ① Var (
dönü m)
② Yok
(Eğer araziniz varsa)
(Eğer araziniz yoksa)
1-1-1) Arazinin yasal sahipleri kim?
①Kendim ②Baba ③Kardeşler ④Akraba
⑤Diğerleri(
)
1-1-2)
(Kendi değilse), Arazi kirası ve ürünün paylaşımını
nasıl yapıyorsunuz?
①Kira yok, çü nkü aile toprak sahibi.
②Ü rü nü n % (
) vererek.
③Kira ödemesi (
dönü m
TL )
④Diğer (
)
1-2-1) Sulama öncesi size ait toprak var mıydı?
①Vardı (
dönü m ) ②Yoktu
1-1-3) Sulama öncesi toprağınız var mıydı?
①Vardı (
dönü m ) ②Yoktu
1-2-4) Eğer kamu arazisi kiralandıysa, Kira ödeme
yöntemi?
(Verim bölgesinin (%
)ödeme)veya
(
TL /
aylık ), (
TL /dönü m)
1-1-4) Arazi ①Ebeveynlerden mirastır (
dönü m )
②Devletten alınan (Hazine) (
dönü m )
③Satın alındı (
dönü m )
④Diğerleri (
)
1-2-2) Şu anda, pamuk tarımı yapılan araziyi kimden
kiraladınız?
①Ağa(kiracı, yarıcı) ②Kamu arazisi
③İşçi
④Diğer(
)
1-2-3)
Eğer yarıcı iseniz, arazi sahibine ne kadar ödemeniz
gerekiyor?(Verim bölgesinin (%
)ödenecek)
1-2-5) Eğer işçi iseniz, bir ay için ne kadar ü cret
alıyorsunuz?
(
TL/ay)
19. Sulama sonrası, yeni arazi aldınız mı?
①Evet (
dönü m ) ②Hayır
1-1-5)
Toplulaştırma sonrası, arazilerinizin büyüklüğünde,
bir değişme oldu mu?
①Oldu.((
dönü m) daraldı, genişledi)
②Olmadı.
1-1-6)
Eğer değiştiyse, toplulaştırmadan memnun musunuz?
①Memnunum(Neden:
)
②Memnun değilim (Neden:
)
1-2-6)
Sulama ile birlikte Ekonomik ve sosyal refahınız
arttı mı?
①Evet, arttı.
②hayır, artmadı.
③Daha kötü hale gelmistir.
1-1-7)Sulama ile birlikte ekonomik ve sosyal refahınız
arttı mı?
①Evet, arttı.
②hayır, artmadı.
③Daha kötü hale gelmistir.
2.( Sulama öncesi) ana geliriniz nedir? ①Pamuk
2-1.
Sulama öncesi
Pamuk ekimi alanı
(
dönü m )
②Diğer ürünler(
Buğday ekim alanı(
Arpa
(
Mısır
(
Mercimek
(
Diğerleri
(Ürünün adı:
dönü m)
dönü m)
dönü m)
dönü m)
dönü m)
96
)
③Otlama
④Diğerleri(
Koyun veya keçi otlatma
①Evet
②Hayır
Koyunlar (
),Keçiler (
),
Atlar( ), Sığırlar(
),
Diğerleri(
)
)
3.(Şimdi)
3-1
Ana gelir nedir? ①Pamuk
(Şimdi)
Pamuk ekim alanı
(
dönü m )
②Diğer ürünler(
Buğday ekimi alanı(
Arpa
(
Mısır
(
Mercimek
(
Diğerleri
(Ürünün adı:
)
③Otlatma
dönü m)
dönü m)
dönü m)
dönü m)
)
④Diğerler(
Koyun veya keçi otlatma
①Evet
②Hayır
Koyunlar (
),Keçiler (
),
Atlar(
), Sığırlar( ),
Diğerleri(
)
dönü m)
4.(Sulama öncesi ) koyun veya keçi otlatması vardı, ancak Şimdi otlatma yoksa, Neden?
①Arazi toplulaştırmasıyla otlatmada kullanılan mera gitti.
②Ç ü nkü , Pamuk ü retimi daha kazançlı.
③Arazi sahipleri otlatma istemiyor.
④Diğerleri (
)
4-1.(Sulama öncesi ) Eğer kendi kendine yeterlilik düşünülü rse, Otlatma nedeniyle peynir, yoğurt, et, yün, vb,
göre pamuk ü retimi daha kazançlı mı?
①Evet, Daha fazla kazanç getirdi. ②Hayır, Öncekine benzer. ③Hayır, Öncekinden daha kötü dü r.
,
5. Neden pamuk ekiyorsunuz?
①Ç ü nkü devlet sü bvansiyonu var.
②Pamuk nakit ü rünü dür, parası yüksek. ③Aşiret reisinin tavsiyesi.
④Ç ü nkü Arazi sahipleri Pamuk ekimi istedi. ⑤Diğerleri(
)
6.Eğer devlet Pamuk ekimini sü bvansiyonlu yapmazsa, diğer ürünleri yetiştirmek ister misiniz?
①Evet, Başka ürünleri yetiştireceğim. (Ü rü nlerin adı:
, Neden?
②Hayır, Devlet sübvansiyonu olmasa bile, pamuk ekimi yaparım. (Neden?
)
7. Pamuğu topladıktan sonra, nereye satıyorsunuz?
①Çırçır fabrikası(Nerede:
) ② Tü car
8. Ana ulaşım araçlarında ne kullanıyorsunuz?
① Taksi
②At arabası
③motosiklet
③ Ç uko birlik
)
④Diğerleri (
)
)
④Diğerleri(
8-1. Pamuk hasattın dan sonra, pamuğu nasıl taşıyorsunuz?
① Kamyon(kiralik. Fabrikadan geliyor)
② Traktör ③ At arabası
④ Diğerleri(
)
9. Sulama öncesi ile karşılaştırıldığında, Pamuk ekimiyle Tarım geliri sizce arttı mı?(Pamuk üretiminin
maliyetini de düşünün)
①Evet( Kaç kat Arttı?
)
②Hayır
10. Sulama öncesi ile karşılaştırıldığında, Pamuk ekimi sonrası, Tarım giderleri sizce arttı mı?
①Evet( Kaç kat Arttı?
)
②Hayır
11. Pamuk ü retiminden para en çok nereye gidiyor ?
①Temel ihtiyaçlar
②Tohum, ilaçlar, gübre, mazot vb tarımsal üretim maliyetleri
③Kiralık ücret
④İşçi
⑤Diğerleri(
)
11-1. Gü bre (
TL/dönüm),
İlaçlar (
TL/dönü m), Mazot (
ℓ/dönü m→
TL )
12. Sulama sonrası, genel olarak, zengin ve fakir arasındaki farkın genişlediğini düşünüyor musunuz?
①Evet
②Hayır
13. (Sulama öncesi) Yılık Ortalama geliriniz ne kadardır?
① 1,200 TL ve altı ② 1,200 – 2,500 TL ③ 2,501-5,000 TL ④5,001-7,500 TL ⑤7,501-10,000 TL
⑥10,001-15,000 TL ⑦15,001-20,000 TL ⑧20,001-30,000 TL ⑨30,001-40,000 TL ⑩40,001 TL veya daha
Pamuk geliri
(
)%
+
Pamuk hariç diğer tarımsal gelir
(
)%
(İçindekiler:
)
+
Tarım dışı gelir
(
)%
(İçindekiler:
)
= 100%
14. (Sulama sonrası) Yılık Ortalama geliriniz ne kadardır?
① 1,200 TL ve altı ② 1,200 – 2,500 TL ③ 2,501-5,000 TL ④5,001-7,500 TL ⑤7,501-10,000 TL
⑥ 10,001-15,000 TL ⑦15,001-20,000 TL ⑧20,001-30,000 TL ⑨30,001-40,000 TL ⑩40,001 TL veya daha
97
Pamuk geliri
(
)%
+
Pamuk hariç diğer tarımsal gelir
(
)%
(İçindekiler:
)
+
Tarım dışı gelir
(
)%
(İçindekiler:
)
= 100%
15. Pamuk ekiminin Geleceği üzerine planınız nedir?
① Pamuk ekimimi genişleteceğim.
(Neden:
② Pamuk ekimi Şimdiki gibi olacaktır .
(Neden:
③ Pamuk ekimini azaltıp, Başka bitkileri ekeceğim. (Bitkilerin adı: , Neden:
④ Pamuk yetiştirmeyeceğim, Başka bitkileri ekeceğim. (Bitkilerin adı: , Neden:
⑤ Pamuk yetiştirmeyeceğim, Başka bir iş yapacağım. (Neden:
)
)
)
)
)
16. (Eğer pamuk ekimine devam ederseniz) Organik pamuk ekimi nedir ve nasıl yapılır biliyor musunuz?
①Evet
②Hayır
17. Eğer pamuk ekimine devam ederseniz) Organik pamuk ekimine geçmeye istekli misiniz?
①Evet(Neden:
) ②Hayır(Neden:
)
18. Hanenizde aşağıdakilerden hangisi bulunmaktadır? (Birden çok seçenek işaretlenebilir)
Sulama
öncesi
①Araba ②Kamyon ③Traktör ④Pulluk ⑤Ekim makinası ⑥Gü bre yayma makinesi ⑦Hasat
makina ⑧Buzdolabı ⑨Klima ⑩Çamaşır makinesi ⑪Elektrikli fırın ⑫Tuvalet odası ⑬Banyo odası
Sulama
sonrası,
(Şu anda)
①Araba ②Kamyon ③Traktör ④Pulluk ⑤Ekim makinası ⑥Gü bre yayma makinesi ⑦Hasat
makina ⑧Buzdolabı ⑨Klima ⑩Çamaşır makinesi ⑪Elektrikli fırın ⑫Tuvalet odası ⑬Banyo odası
19. Eğer tarım makineleri yoksa, tarım sezonu için bu makineleri nereden alıyorsunuz?
①Kiralık
(ⓐAğa
ⓑAşiret ü yeleri ⓒKomşu
ⓓAkraba ⓔDiğerleri(
②Makine kullanmıyoruz.
20.
Sulama
öncesi
Sulama
sonrası
Krediler (borç) Var mıydı?
① Vardı.
Krediler (borç) Var mıydı?
① Var.
))
② Yoktu.
② Yok.
21. Kredi aldıysanız, nereden sağlıyorsunz?
①Banka ②Kredi kartı ③Kooperatifler ④Ağa ⑤Aşiret üyeleri ⑥Akrabalar ⑦Tefeci ⑧Diğerleri(
22. Krediyi hangi amaçla kullandınız?
①Tarım makineleri satın almak için.
② Tohumlar, ilaçlar, gübreler vb satın almak için.
③İşçi ücreti vermek için
④Günlük giderleri karşılamak için.
⑤Araba satın almak için.
⑥Evlilik finansmanı için (Başlık vb). ⑧Borç ödemek için.
⑨Diğerleri(
23. Eğer paranız olsa, Şimdi Ne almak istersiniz?
①Arazi ②Ev ③Araba
④Tarım makineleri
⑤Evlilik (yeni eş)
24. Tarımla ilgili herhangi bir eğitim veya öğretime katıldınız mı?
24-1) Evetse: Yararlı oldu mu? ⓐEvet
)
)
⑥Diğerleri(
①Evet
)
②Hayır
ⓑHayır
24-2) Hayırsa: Neden tarım eğitimi almadınız?
ⅰ)Zaman yoktu
ⅱ)Bunu zorunluluk olarak hissetmedim
ⅲ)Eğitim verildiği hakkında bilgim yoktu.
ⅳ)Bölgede tarım eğitimi yoktu
ⅴ)Diğerleri (
)
25. Tarım eğitimi olması/verilmesi halinde, tarımsal eğitim almak istiyor musunuz?
①Evet
②Hayır
26. Pamuk hasat mevsiminde, işgücü ihtiyacını nereden karşılıyorsunuz?
①Aile işgücü
②İşçi istihdamı
③Diğerleri(
)
27. Pamuk yetiştirdiğinizde, ne tür zorluluklarla karşılaşıyorsunuz?
①Hü kü metin destek eksikliği.
②Bir sü rü masraflar (İlaçlama, gü bre, işçi vb).
③Pamuk satış fiyatlarının düşüklüğü.
④Tuzlanma.
⑤Böcekler, haşereler, hastalıklar.
⑥Yükselen yeraltı suyu.
⑦Fiziksel olarak yorgunluk.
⑧Diğerleri (
)
98
28. Tarım arazisinde tuzlanma zararı var mı? ① Var.
② Yok
29. Arazide yükselen yeraltı suyu problemi var mı? ① Var.
② Yok
30. Pamuk ekiminde sulama suyu sayısı ve miktarını kimin görüşü belirler?
①Kendi deneyimimle belirliyorum. ②Aşiret reisi. ③Devlet görevlileri. ④Sulama birlikleri. ⑤Diğerleri(
)
31. Tarım dışında başka işleriniz var mı?
① Evet : ⓐAçık pazarda tarımsal ürünlerin satışı (Ne:
).
ⓑEl sanatları ve Bölgesel ürünlerin üretim ve satışı.
ⓒYaşam İhtiyaçları Üretim ve satışı (Ö rnek: Peynir, yoğurt, yün vb).
ⓓDiğerleri (
)
② Hayır
<Ⅱ. Topluluk>
1. Herhangi bir dernek, kooperatif ya da kuruluşa üye misiniz?
①Sulama birlikleri ②TKK 1 ③TSK2 ④Ziraat Odası ⑤ÖÇ Derneği 3 ⑥KKK 4 ⑦Diğerleri(
⑧Herhangi bir örgüt üyesi değil.
2. Sizce bu toplum etkinlikleri size yararlı olur mu?
①Evet (Neden?
) ②Hayır (Neden?
)
3. Sulama birliklerine ihtiyacınız olduğunu düşünüyor musunuz?
①Evet (Neden?
) ②Hayır (Neden?
4.
)
)
Sulama birliklerinden, sulama suyu ile ilgili bilgi ve eğitim aldınız mı?
①Evet
②Hayır
4-1. Sulama suyu ile ilgili bilgi ve eğitimin gerekli olduğunu düşünüyor musunuz?
①Evet
②Hayır
5. Sulama suyu kullanım ücretinin uygun olduğunu düşünüyor musunuz?
①Uygundur. ②Ucuz. ③Daha ucuz olmak zorundadır. ④Pahalı. ⑤Daha pahalı olmak zorundadır.
⑥Ücretsiz olmak zorundadır.
6. Sulama birliklerinden bir şey istiyor musunuz?
7. Sulama öncesi , İçme suyu için nasıl su kullandınız?
①Kuyu suyunda (Devlet veya Ö zel)
③Tankerden(Kaç para? TL /
ℓ veya
tank )
②Ağa’dan (Kullanılan su için ödenek neydi?)
④Diğerleri(
)
7-1 Sulama öncesi , Tarım için nasıl su kullandınız?
①Kuyu suyunda (Devlet veya Ö zel)
③Tankerden(Kaç para? TL /
ℓ veya
tank )
②Ağa’dan (Kullanılan su için ödenek neydi?)
④Diğerleri(
)
8. Sulama öncesi , Su kullanımında herhangi bir zorluk oldu mu?
①Elektrikli pompa için elektrik ücreti pahalı. ②Suyu pompalamak için gerekli makine pahalı.
③Susuzluk.
④Diğerleri(
)
9. Şu anda, sulama suyu kullanılırken, herhangi bir zorluk var?
①Evet, Zorluklar Var.(Ne tü r zorluk var?
) ②Hayır, Zorluklar Yok.
10. Sulama suyunun kanalda yıl boyunca sağlanması gerektiğini düşünüyor musunuz?
①Evet(Neden
) ②Hayır (Neden
)
11. Sizin köyde çiftçilerin tohumlarını, gübre ve tarımsal ilaçlarını daha ucuza alabileceği ve ürünlerini daha
1 Tarım Kredi Kooperatifleri
2
3
4
Tarım Satış Kooperatifleri
Önder Çiftçi Derneği
Kırsal Kalkınma Kooperatifleri
99
uygun bir fiyata satmayı sağlayacak bir kooperatife ihtiyacınız olduğunu düşünüyor musunuz?
①Evet
②Hayır(Neden:
)
12. Bu köyde böyle kooperatifler neden yok, ne düşünüyorsunuz?
① Kooperatif kurmak için heyecanlı önder yok.
② Kooperatif kurmak için bilgimiz ve tecrü bemiz yok.
③ Ç ü nkü Aşiret var.
④Diğerleri(
13. Kendiniz böyle kooperatifler kurmayı hiç düşünür müsünüz?
①Evet
②Hayır (Neden:
)
)
<Ⅲ. Nü fus hareketleri>
1. GAP Sulama öncesi
①Var.
1-1)
Hiç iş için başka bir bölgeye göç var mıydı?
②Yok
Varsa:
ⓐNe zaman(Tarım dışı sezon/Hasat sezonu) ⓑNereye(
, Neden: i)Akrabalar var, ii)Bir tanıdık
vardı iii)Tanıdık yok, ama işleri olan bir yer vardı iv)Diğerleri(
)) ⓒNe tür işler
yaptın?(Pamuk ekimi, Tarım, İnsaat, Satış, Diğerleri(
)) ⓓdönem( ay, 1yıl, 2yıl, 3yıl üzerinde,
Diğerleri(
)) ⓔOrtalama aylık gelir(
TL) ⓕNeden başka bölgelere gittiniz?(
)
1-2) Kendinizin dışında, aile içinde iş için başka bölgelere taşınmış olanlar var mı?
①Varsa (Kim
(Kaç kişi)
) ②Yok
1-2-1) Varsa :
ⓐNe zaman(Tarım dışı sezon/Hasat sezonu) ⓑNereye(
, Neden: i)Akrabalar var, ii)Bir tanıdık
vardı iii)Tanıdık yok, ama işleri olan bir yer vardı iv)Diğerleri(
)) ⓒNe tür işler
yaptılar?(Pamuk ekimi, Tarım, İnşaat, Satış, Diğerleri(
)) ⓓdönem( ay, 1yıl, 2yıl, 3yıl üzerinde,
Diğerleri(
)) ⓔOrtalama aylık gelir(
TL) ⓕNeden başka bölgelere gitti?(
)
2. GAP Sulama sonrası
①Var.
Hiç iş için başka bir bölgeye göç var mıdır?
②Yok.
2-1) Varsa:
ⓐNe zaman(Tarım dışı sezon/Hasat sezon) ⓑNereye(
, Neden: i)Akrabalar var, ii)Bir tanıdık
vardı iii)Tanıdık yok, ama işleri bir yeri vardı iv)Diğerleri(
)) ⓒNe tür işler yaptın?(Pamuk
ekimi, Tarım, İnşaat, Satış, Diğerleri(
)) ⓓdönem( ay, 1yıl, 2yıl, 3yıl üzerinde, Diğerleri(
))
ⓔOrtalama aylık gelir(
TL) ⓕNeden başka bölgelere gittiniz?(
)
2-2) Kendiniz dışında, aile içinde iş için başka bölgelere taşınmış olanlar var mı?
①Var (Kim
(Kaç kişi)
) ②Yok
2-2-1) Varsa:
ⓐNe zaman(Tarım dışı sezon/Hasat sezon) ⓑNereye(
, Neden: i)Akrabalar var, ii)Bir tanıdık
vardı iii)Tanıdık yok, ama işleri olan bir yer vardı iv)Diğerleri(
)) ⓒNe tür işler yaptın?(Pamuk
ekimi, Tarım, İnşaat, Satış, Diğerleri(
)) ⓓdönem( ay, 1yıl, 2yıl, 3yıl üzerinde, Diğerleri(
))
ⓔOrtalama aylık gelir(
TL) ⓕNeden başka bölgelere gitti?(
)
2-3) Ailenizde, İş için başka bölgeye taşınmış, Ama Sulama Sonrası, tekrar köye geri dönmüş olanlar var mı?
①Var (Kim
(Kaç kişi):
, Dönüş nedeni:
, Şimdiki işi
) ②Yok
3. (Eğer ücretli işçi kiralıyorsanız),
①Kaç kişi (
) ②Birkaç gün için(Ekim zamanı(Hangi ay
), Kaç gü n
/ Hasat zamanı(Hangi ay
),
Kaç gü n
) ③Ü cret(Bir gü nde
TL) ④Ö ncelikle hangi bölgeden gelir? (
) ⑤Ü cretli
işçilerinin cinsiyeti(Erkekler %
, Kadınlar %
) ⑥Kaç yaşlarında(
) ⑦ Özellikle İşçiler hangi
dillerde konuşuyorlar (Arapça,Kü rtçe,Tü rkçe, Diğerleri(
) ) ⑧Nasıl buldun? (
/
TL )
4. Eğer bir fırsat çıkarsa, Daha iyi işiler ve yaşam ortamı için başka bölgelere taşınmak ister misiniz?
①Evet
②Hayır
5. Siz, Çocuklarınızın pamuk tarımına devam etmesini istiyor musunuz?
100
①Evet
②Hayır
6. Sizin çocuklarınızın arasında, pamuk tarımına devam etmek isteyenler var mı?
①Evet
②Hayır
<Ⅳ. Aşiret>
1. Katılımcıların sosyal statüsü :
①Aşiret(qabilah) reisi ② Ağa ③Diğerleri(Ö rnek:Sulama birliklernin Başkan vb,
2. Bağlı olduğunz bir Aşiret var mı? ① Evet (Aşiret adı:
2-1. Köyde aynı qabilah hane sayısı?
Hane
)
)
② Hayır
3. Bir aşirete(qabilah) mensup olmaktan memnun musunuz?
①Evet (Neden?
) ②Hayır(Neden?
4. Aşirete(qabilah) bağlılık, yaşamınızı kolaylaştırıyor mu? ①Evet
)
②Hayır
5. Anlaşmazlık ya da kavga durumunda kime başvurursunuz?
①Aşiret(qabilah) reisine/ağa) ②Muhtar ③Adli makamlara ④Akrabalarımıza ⑤Hoca-imam ⑥Diğerleri(
)
6. Sulama suyu ile birlikte aşiret(qabilah) ilişkileri zayıfladı mı?
①Evet, Zayıfladı
②Hayır, Zayıflamadı (Aynı). ③Tersine daha gü çlendi.
7. Aşiret(qabilah) büyüklerine hangi konularda başvurursunuz?
①Köy ile ilgili sorunlarda
②Siyasi konularda
④Aşiret içi ve dışı anlaşmazlıklarda ⑤Toprak alıp satarken
⑦Diğerleri(
)
③Kan davaları vb. konularda
⑥Ailevi konularda
7-1. Aşiret büyüklerinın tavsiyelerini dinlermisiniz?
①Evet
②Hayır(Neden:
)
8. Köyde en çok kimin sözü geçerlidir?
①Muhtar ②Aşiret(qabilah) reisi ③Ağa ④Hoca-İmam ⑤Öğretmen ⑥Devlet görevlilerine ⑦Diğerleri(
)
9. Eğer bir araziyi hem aşiret reisi hem de bir köylü satın almak isterse, bu durum sizce nasıl çözülür?
① Aşiret(qabilah) reisinin istediği olur.
② Aşiret(qabilah) reisinin ne dediği farketmez, parası olan araziyi alır.
10. Sizin seçimlerde karar vermenizde en önemli faktör nedir?
①Partinin görüşü ②Aşiret(qabilah) reisinin görüşü ③Aday yeteneği
11. Sizce zengin kime denir?
①Toprağı olana
⑤Ç ok erkek çocuğu olana
②Çok parası olana
⑥Diğerleri(
④Aynı Din
③Çok eşi olana
)
)
⑤Diğerleri(
④Çok çocuğu olana
<Ⅴ. Temel çevre araştırması>
1. Yaşnız?:
2. İşiniz ? (Eğer Pamuk tarımı dışında başka bir iş varsa):
3. Medeni durumunuz? ① Evli
② Bekar
3-1) Şu anda kaç eşiniz var? ①Bir ②İki ③Üç kişi veya daha fazla(
kişi)
3-2) (Eğer evliyseniz) evlenirken kaç yaşındaydınız?(Yaş ), O zaman eşinin yaşı?(①Yaş ②Yaş
3-2) (Birden fazla eşi varsa sor) Başka bir eşe neden ihtiyaç duydunuz?
①Çocuğum olmadı.
②Erkek çocuğum olmadı.
③Gelenek-adet olduğu için.
④Bakıma ihtiyacım vardı.
⑤Fazla çocuk yapmak için.
⑥İlk eşim yaşlanmıştı.
⑦Diğerleri(
)
101
③Yaş
)
4. Eşinizin yaşı
(Qabilahlık ? Var/Yok)
İlk :Yaşı , Akrabalık Var/Yok, Aşiretlik? Var/Yok, Başlık vardı/Yoktu (Kaç para?
İkinci:Yaşı , Akrabalık Var/Yok, Aşiretlik? Var/Yok, Başlık vardı/Yoktu (Kaç para?
Ü çü ncü :Yaşı ,Akrabalık Var/Yok, Aşiretlik? Var/Yok, Başlık vardı/Yoktu (Kaç para?
5. Akraba evliliği gerekli/önemli midir? ①Evet
), Memleketi(
), Memleketi(
), Memleketi(
)
)
)
②Hayır
5-1 (Evetse) Akraba evlilikleri neden önemlidir?
①Akrabalık bağlarının güçlenmesini sağlar
③Maddi kolaylık sağlar (Başlık parası)
⑤ Diğerleri(
)
②Aşiret(qabilah)in büyümesi/güçlenmesini sağlar
④Aile varlığının bölünmemesini sağlar
6. Çocuk sayısı
İlk
eşinizden çocuk sayısı : ①Var (Oğunuz:
İkinci eşinizden çocuk sayısı : ①Var (Oğunuz:
Üçüncü eşinizden çocuk sayısı : ①Var (Oğunuz:
kişi, Kızınız :
kişi, Kızınız :
kişi, Kızınız :
kişi)
kişi)
kişi)
②Yok
②Yok
②Yok
6-1. Sizce en ideal çocuk sayısı kaçtır?
①1~2 kişi ②3~4 kişi ③5~6 kişi ④7~8 kişi ⑤9~10 kişi ⑥11 kişi daha fazla(
kişi)
6-2. (5 kişi veya daha fazla) Neden? (Sadece bir tane seçin.)
①Çünkü çiftliklerde aile işgücü önemlidir ②Çünkü çocukken hastalık veya kazayla vefat ihtimali vardır.
③Ç ü nkü gelenek/görenek/adetler çok çocuk ister ④Ç ok çocuk zenginliktir ⑤Diğerleri(
)
6-3. Sulama öncesiyle karşılaştırıldığında, Sulama sonrası tarım için Size daha çok ihtiyaç olduğunu
düşünüyor musunuz?
①Evet
②Hayır
7.< Aile işleri>
7-1. Eşinizin işi (Ekonomik faaliyeti) :
①Ev hanımı ②Satılık tarımsal ve hayvansal ürünlerin üretimi (Örnek: Peynir, yoğurt, yün vb)
③Satılık el sanatları üretim
④Ücretli işçi (Örnek: Tarımsal hasat vb.)
⑤Diğerleri(
7-2. Çocukların işi(tarım dışında meslek)
Medeni
Ç ocu
Cinsiyet
Yaş
Yaşadığı yer
klar
durumu
1
E/K
Evli/Bekar Köy içinde/Köy dışında(
2
E/K
Evli/Bekar Köy içinde/Köy dışında(
3
E/K
Evli/Bekar Köy içinde/Köy dışında(
4
E/K
Evli/Bekar Köy içinde/Köy dışında(
5
E/K
Evli/Bekar Köy içinde/Köy dışında(
)
Aylık
geliri
İşyeri
)
)
)
)
)
Köy içinde/Köy dışında(
Köy içinde/Köy dışında(
Köy içinde/Köy dışında(
Köy içinde/Köy dışında(
Köy içinde/Köy dışında(
)
)
)
)
)
TL
TL
TL
TL
TL
8. (Aile reisi) Öğrenim Durumunuz?
①Okula gitmedi (Okur-yazar değil / Okur-yazar) ②İlkokul ③Ortaokul ④Lise ⑤Ü niversite
8-1)İlk eşi :①Okula gitmedi (Okur-yazar değil/Okur-yazar) ②İlkokul ③Ortaokul ④Lise ⑤Ü niversite
İkinci eşi : ①Okula gitmedi (Okur-yazar değil/ Okur-yazar) ②İlkokul ③Ortaokul ④Lise ⑤Ü niversite
Üçüncü eşi: ①Okula gitmedi(Okur-yazar değil/Okur-yazar) ②İlkokul ③Ortaokul ④Lise ⑤Ü niversite
9. (Aile reisi) hangi dillerde konuşabiliyorsunuz?
①Arapça
②Kü rtçe
③Tü rkçe
④Diğerleri(
9-1) (Eşiniz) hangi dillerde konuşabiliyorsunuz?
İlk eşi
: ①Arapça
②Kü rtçe
③Tü rkçe
④Diğerleri(
İkinci eşi : ①Arapça
②Kü rtçe
③Tü rkçe
④Diğerleri(
Üçüncü eşi : ①Arapça
②Kü rtçe
③Tü rkçe
④Diğerleri(
10.(Ç ocuklar) hangi dillerde konuşabiliyor? ①Arapça
②Kü rtçe
③Tü rkçe
)
)
)
)
④Diğerleri(
)
11.(Eğer çocuk Türkçe dışında başka dil kullanıyorsa) Ç ocuklar için ana dili öğretmek gerektiğini düşünüyor
musunuz?
①Evet.
②Hayır
11-1 (Evetse), Nedeni nedir?
102
①Etnik kimlik bakımından önemlidir
②Çünkü etnik dil, daha iyi iletişim sağlar
③Eğer etnik dil bilmiyorsanız, köyde rahat bir hayat süremezsiniz ④Geleneksel olarak öğretilmektedir
⑤Diğerleri(
)
12.Şu anda hanenizde kaç aile birlikte yaşıyorsunuz?
①Bir
②İki
③Ü ç
④Dört
12-1)Eğer ikiden fazla aile ise, yakınlık ilişkisi nedir?
13. Okul çağında olupta (7 yaş∼14 yaş) okula gitmeyen çoçuğunuz var mıdır? (Kızlar dahil)
İlkokul
①Var(Erkekler:
Kızlar:
②Yok
kişi、Yaş
kişi、Yaş
,
)
Ortaokul
①Var(Erkekler:
Kızlar:
②Yok
kişi、Yaş
kişi、Yaş
,
)
14. (Varsa) Okula gitmemesinin nedeni?
①Maddi gücüm olmadığı için.
②Tarlada/İşte yardımcı olduğu için.
Erkekler ③Okumasının bir faydası olmadığı için. ④Okulun çok uzakta olması.
⑤Diğerleri(
)
İlkokul
①Maddi gücüm olmadığı için. ②Evde-tarlada çalıştığı için. ③Kızların
okumasına gerek yoktur. ④Geleneklere aykırı olduğu için.
Kızlar
⑤Okulunda çok uzakta olması. ⑥Diğerleri(
)
①Maddi gücüm olmadığı için.
②Tarlada/İşte yardımcı olduğu için.
Erkekler ③Okumasının bir faydası olmadığı için. ④Okulun çok uzakta olması.
⑤İlkokul yeterlidir
⑥Diğerleri(
)
Ortaokul
①Maddi gücüm olmadığı için. ②Evde-tarlada çalıştığı için. ③Kızların
okumasına gerek yoktur. ④Geleneklere aykırı olduğu için.
Kızlar
⑤Okulun çok uzakta olması. ⑥İlkokul yeterlidir. ⑦Diğerleri(
)
14-1. Çocukların eğitiminin nekadar düşünüyor musunuz?
Erkekse :
Kızsa:
15. Çocuklarınızın evlenmesi için en uygun yaş sizce kaçtır?
Erkekse : Yaş
Kızsa: Yaş
16. Çocuklarınızın evliliği hakkındaki düşünceniz nedir?
① Yakın akrabalarla evlenmesini istiyorum.
② Aynı Aşiretle evlenmesini istiyorum.
③ Başka Aşiret üyeleriyle evlilik olabilir
④ Ç ocuklar isterse, yabancı evlilik ortağı olabilir.
17. Kızınız evlenirken, başlık ödeneceğini düşünüyor musunuz?
① Evet(Neden:
)
② Hayır
<Sonunda>
-Teşekkür ederim.-
103
Fly UP