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平成 23 年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活

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平成 23 年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活
平成 23 年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)
日本人の食事摂取基準の改定と活用に資する総合的研究
主任研究者
徳留信寛 国立健康・栄養研究所 理事長
Ⅱ. 研究分担者の報告書
1. 日本人の肥満予防に最適な脂肪/炭水化物摂取比率
研究分担者
江崎 治
国立健康・栄養研究所基礎栄養研究部
研究要旨
肥満は糖尿病罹患の強い危険因子であるため、肥満予防の対策は極めて重要である。集団を対
象とした場合、肥満を予防する最適な脂肪/炭水化物摂取比率が存在する。日本人の食事摂取基準
2010 年版では、肥満のみならずその他の疾患リスクを考慮し、1-26 歳の脂肪エネルギー比は
20-30%、30 歳以上では 20-25%に策定されている。この上限値は日本人の中央値が用いられた。
この基準が適当かどうか、新規の論文も含めて再度検証するため、PubMed を用いたキーワード
検索で選択した文献を基にレビューを行った。その結果、肥満を予防する場合と治療する場合と
では至適な脂肪エネルギー比が異なり、一般人を対象に肥満を予防するには 25-30 エネルギー%
未満が良いこと、高インスリン血症を示すインスリン抵抗性の強い肥満者(肥満者の半数以上)
の治療には脂肪エネルギー比を少し高めの 30-35%に、炭水化物比率は 40%に低く設定した低グ
リセミック食が良いことが示された。しかし、高インスリン血症を示さない、インスリン抵抗性
のみられない肥満者に対しては、低脂肪食(脂肪エネルギー比 20%)の方が抗肥満効果は強かっ
た。
機序の面からも高インスリン血症は肥満を助長することが示されている。肥満者においては、
糖代謝にはインスリン抵抗性が存在しても、インスリンの肝臓での脂肪合成亢進作用、脂肪組織
でのリポタンパク質リパーゼ(LPL)活性亢進作用、脂肪組織での脂肪分解抑制作用は障害され
ず、むしろ高インスリン血症により亢進される。このように、集団での肥満を予防する最適な脂
肪/炭水化物摂取比率は集団での肥満罹患率により異なる。
日本人成人の過体重/肥満者(BMI  25)
は男性 30%、女性 20%であり、米国に比べ半数以下であり、肥満予防を目的とした場合、脂肪エ
ネルギー比の上限は食事摂取基準で示されている 25-30%で良いと思われる。将来的には、遺伝的
背景、代謝状態を考慮した個人別の最適な脂肪/炭水化物摂取比率の策定が望まれる。
A. 目的
脂肪/炭水化物摂取比率が存在する。日本人の
肥満は糖尿病罹患の強い危険因子であるた
食事摂取基準 2010 年版では、肥満のみならず
め、肥満予防の対策は極めて重要である。集
その他の疾患リスクを考慮し、1-26 歳の脂肪
団を対象とした場合、肥満を予防する最適な
エネルギー比は 20-30%、30 歳以上では
13
20-25%に策定されている 1)。この上限値は日
C.D. 結果および考察
本人の中央値が用いられた。この基準が適当
1.
かどうか、新規の論文も含めて再度検証する
では低脂肪食が望ましい。
一般人を対象とした介入研究(肥満予防)
自由摂取の場合、肥満者を対象としない集
ため、PubMed を用いたキーワード検索で選
団に於いては、脂肪エネルギー比を少なくす
択した文献を基にレビューを行った。
る程、体重が低下することが幾つかのメタア
ナリシスで示されている 2-4)。図 1 に示すよう
B.方法
2011 年 6 月 1 日までの人を対象とした栄養
に、1%脂肪エネルギー比が減少すると、0.28
kg の体重減少が認められる。
関連文献は PubMed を用いて、limitation を
48835 人の更年期女性を対象とした無作為
human にして、(Diet, Fat-Restricted [MESH])
AND (dietary OR intake OR consumption) AND
介入研究(The Women’s Health Initiative
((randomized controlled trial [PTYP] OR random
dietary Modification Trial)で、摂取エネルギー
[WORD]) OR (cohort studies [MESH] OR risk
を減らすことには言及しないで、脂肪の摂取
[MESH] OR (odds [WORD] AND ratio
量を減少することのみを推奨した場合の 7.5
[WORD]) OR (relative [WORD] AND risk
年間にも及ぶ体重変動が示されている 5)。
[WORD]) OR case control [WORD] OR
BMI < 25 の介入群では、脂肪エネルギー比
case-control studies [MESH]))のキーワードで
38.8%から 29.8%に減少し、炭水化物エネルギ
検索し、1004 の論文を得た。これらの中から、
ー比 44.5%から 52.7%に増加し、体重の増加
肥満に関連する論文を読みレビューを行った。
がコントロール群に比べて少なく、3 年後 2 kg、
肥満は非常に多くの従属因子(環境因子や
7 年後 1 kg の差が認められている。何もしな
遺伝的背景)により影響を受けるので、疫学
かったコントロール群では徐々に体重の増加
研究(観察研究や横断研究)で肥満発症に係
が認められている。
る因子を同定することは非常に困難である。
低脂肪食による体脂肪減少は脂肪摂取量減
特に食事に関しては、肥満に最も関係するエ
少によるエネルギー摂取量減少によるかもし
ネルギー摂取量(マクロニュートリエント摂
れない。コントロール群に於いてもエネルギ
取量)を長期的に把握することは難しく、交
ー摂取量を同程度制限した場合には低脂肪食
絡因子(既知や未知の独立因子)の影響を外
の体重減少効果ははっきり認められなくなる
すことができないので疫学研究の信頼性は低
ためである 3)。
い。また、因果の逆転もありうる(例、肥満
肥満者を対象にした介入研究(肥満治療)
の人は間食をひかえるようになり、間食の少
2.
ない人ほど肥満になりやすいといった間違っ
では低炭水化物食の方が低脂肪食よりも体重
た結果が見いだされる)
。
コントロール群を思
減少は強い。
慮深く設定した無作為介入研究が、唯一の信
低炭水化物食には 2 つの種類があり、極め
頼できる方法である。このため無作為介入研
て炭水化物量を減らした超低炭水化物食と軽
究に絞って議論する。
度炭水化物量を減らした通常食に近い低炭水
化物食がある。この 2 種類の低炭化物食摂取
14
時の病態は異なるので、
それぞれ別に扱った。
油)を摂取させると摂取脂肪のエネルギー比
A) 超低炭水化物食(ケトジェニックダイエ
10-60%の範囲で用量依存性に肥満を生じる
ットを含む)の場合
21)
。しかし、食事中の脂肪量を非常に多くし
低炭水化物食の定義ははっきりしていない
、炭水化物が殆ど含まれて
て(95 en%脂肪)
が、欧米では肥満の治療に用いる場合、炭水
いない超低炭水化物/超高脂肪食(ケトジェニ
化物食 100 g/日以下か 10-20 en%炭水化物、
ックダイエット)にすると、通常食(17 en%
25-35 en%蛋白質、55-65 en%脂質の超低炭水
脂質)や高脂肪食(45 en%脂質)に比べて、
6)
化物食を意味する 。脂質の内容は飽和脂肪
摂取エネルギー量は 3 群間で変わらないのに
酸より、不飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸の
ケトジェニックダイエットで著明な体重減少
増加が強調されている。摂取エネルギーにか
が認められた 22)。34%のカロリー制限(CR)
かわらず、炭水化物 40 g/日以下はケトジェニ
を行った場合とも比較しても、ケトジェニッ
ックダイエットと呼ばれている。ちなみに日
クダイエット群では CR 群に比べて、同様な
本人の平成 19 年度国民健康・栄養調査による
体重減少量であったが、15%の全身酸素消費
と 20 歳以上(男女合わせて)でエネルギー摂
量亢進、血中インスリン値の低下、血中ケト
取量の中央値は 1856 kcal/日, 蛋白質は 68 g/
ン体の増加が認められた。
肝臓では SREBP-1c
日(14.6 en%)
、脂質は 51 g/日(24.8 en%)
、
活性の低下を示したが、脂肪酸流入に反応し
炭水化物は 258 g/日(56 en%)である 7)。
CD36 が増加し脂肪肝を生じた。また、ケト
注目を浴びている研究分野であり、欧米か
ら多くのレビューやメタアナリシスが報告さ
れている
8-11)
ン体合成に関する酵素 hydroxy-butylate
dehydrogenase 発現量の増加が見られた。骨格
筋では AMPK 活性の亢進、ACC 活性の低下
。最近のメタアナリシスでは、
超低炭水化物食の方が体重減少は強い 10)。
が認められたが、脂肪酸 β 酸化が亢進してい
2009 年のメタアナリシスでは、エネルギー制
たかどうかは明らかでない。褐色脂肪細胞で
限を行なった低脂肪食(30 en%脂質以下で
UCP1 蛋白量の増加も認めた。
600 kcal の摂取エネルギー減少)と超低炭水
これらの病態を推定してみると、多量のキ
化物食(炭水化物 60 g/日以下)を比較し、6
ロミクロンが体内に入ると、食後 LPL により
月以上観察した研究 9 つ中、6 つの研究で超
キロミクロン中のトリグリセライドが分解さ
低炭水化物食の方が低脂肪食よりも体重低下
れ、遊離脂肪酸が増加し、肝臓、筋肉、脂肪
効果が強く
12-17)
、他の 3 つの研究では 2 群間
に差は認められていない 18-20)。
組織、褐色脂肪組織に供給される。肝臓に流
入した脂肪酸はトリグリセライドとして蓄積
機序についても幾つか報告がある。低炭水
され脂肪肝になり、多量のアセチル Co-A は
化物食ではエネルギー制限をしないでも、摂
一部は TCA サイクルで使用されるが、残り
取エネルギーが減少することが知られている
は β-hydroxybutylate などのケトン体となり、
ことも理由の1つである 12-17)。動物実験から
筋肉、脳で使用されるか、尿から排泄される
も低炭水化物食の体脂肪減少機序推定するこ
と思われる。脂肪酸が多くの組織に沢山流入
とができる。マウス(C57BL/6J を使うことが
してくるので、体内で脂肪酸を合成する必要
多い)に高脂肪食(n-6 系の多いサフラワー
はなく、脂肪酸を熱として放散する系がない
15
と脂肪がどこかに多量に蓄積する可能性があ
グリセミックインデックス(又はロード)の
る。
マウスでは褐色細胞が発達しているため、
低い食事の方が、高い食事(低脂肪/高炭水化
熱としての放散が可能であるのかもしれない。
物食)より体重(または体脂肪)の減少量が
UCP1 は交感神経の活性化により増加するが、
多かった 25)。しかしながら、摂取エネルギー
ケトジェニックダイエットにより交感神経が
の 750 kcal/日減少を目指した最近の研究では、
活性化されている可能性がある。糖代謝に関
20 en%脂質/ 65 en%炭水化物群と 40 en%脂質
しては、血糖値の低下が見られている。糖新
/ 45 en%炭水化物群の間に 2 年間の体重減少
生を介して血糖値を維持している状態であろ
量に差は認められていない(2 年間にわたる
う。グリコーゲンは不足していることが推定
摂取エネルギーを調べることは困難であった
される。
可能性もある)32)。しかし、以下のように肥
人での研究でも炭水化物 40 g/日以下では
満者の病態をインスリン抵抗性(又は血中イ
尿中のケトン体が検出される(ケトアシドー
ンスリン濃度)で区別すると明確な結果が得
シスではない)17)。ケトン体の蓄積は、高尿
られる。
酸血症、立位低血圧を生じ、好ましくない 23)。
肥満者の中でも、インスリン抵抗性が強く
また、安定同位体を用いた研究で、ケトジェ
血中インスリン濃度の高い群で低炭水化物食
ニックダイエットの糖新生は乳酸/アミノ酸
の方が低脂肪食よりも体重低下効果が強いこ
由来で、グリセロール由来でないことが示さ
とがいくつかの研究で示されている 33-35)。こ
れている 24)。糖新生のためのアミノ酸供給源
れらの研究では、20 en%脂質/ 55-60 en%炭水
として、高蛋白質食が必要とされる。
化物食群と 40 en%脂質/ 40en%炭水化物食群
とを比較した研究が多い。図 2 にインスリン
B) 軽度の高脂肪/低炭水化物食(低グリセミ
抵抗性の強弱で肥満者を区別すると、低炭水
ックロード食)
化物食と低脂肪食の体重減少効果が大きく異
欧米人は日常食の脂肪エネルギー比が高い
なることを示した 34)。逆にメタボリック症候
ので、欧米の低脂肪食は日本人の通常の脂肪
群でない人(おそらくインスリン抵抗性の少
摂取比率である。また、ケトジェニックダイ
ない人)は低脂肪食の方が腹周の減少効果が
エットの炭水化物量は極めて少なく現実的で
強い 36)。
ない。10-20 en%程度炭水化物摂取量を減少さ
インスリン抵抗性はインスリンの肝臓での糖
せ、そのかわり脂質や蛋白質摂取量を軽度増
新生抑制作用、グリコーゲン分解抑制作用の
加させた研究のメタアナリシスも行われてい
減弱と骨格筋での糖の取り込み亢進作用の低
る。2007 年のコクランレビューではグリセミ
下により生じ、高血糖、高インスリン血症を
ックインデックス(又はロード)の低い食事
生じるが、インスリン抵抗性を生じる病態で、
と多い食事の体脂肪の変化を比べた研究がま
インスリンの脂肪蓄積作用は障害されないこ
とめられ、グリセミックロードの低い食事は
とが知られている 37, 38)。このため、肥満者で
炭水化物摂取量を 10-20 en%減少させている
は高インスリン血症を来しやすく、低炭水化
25)
物食の方が血中インスリン濃度をより減少し
。これらの研究ではエネルギー摂取量は制
限していない。6 つの研究
26-31)
をまとめると、
16
やすいことが、低炭水化物食が肥満をより改
善しやすい理由の1つであろう。
低く設定した低グリセミック食が良いことが
示された。しかし、高インスリン血症を示さ
3) 低炭水化物/高脂肪食の副作用
ない、インスリン抵抗性のみられない肥満者
炭水化物摂取が減少すると VLDL が減少
に対しては、低脂肪食
(脂肪エネルギー比 20%)
し、血中中性脂肪値が減少する。また、HDL
の方が抗肥満効果は強かった。機序の面から
-コレステロール値も増加する良い効果が認
も高インスリン血症は肥満を助長することが
められるが、高脂肪食のため LDL -コレステ
示されている。肥満者においては、糖代謝に
ロール値が増加する悪い効果も認められるた
はインスリン抵抗性が存在しても、インスリ
め、リポタンパクの変動から動脈硬化症に対
ンの肝臓での脂肪合成亢進作用、脂肪組織で
して良い効果をもたらすか、悪い効果をもた
のリポタンパク質リパーゼ(LPL)活性亢進
らすかどうか推定できない。最近、エネルギ
作用、脂肪組織での脂肪分解抑制作用は障害
ー制限下でも、高脂肪食(60 en%脂質/ 5%炭
されず、むしろ高インスリン血症により亢進
水化物)を 6 週間 39)、又は(60 en%脂質/ 4%
される。このように、集団での肥満を予防す
炭水化物)を 1 年摂取すると 40)、内皮細胞に
る最適な脂肪/炭水化物摂取比率は集団での
よる血管拡張能(FMD, endothelium-dependent
肥満罹患率により異なる。日本人成人の過体
flow-mediated dilation)が減少すること、また、
重/肥満者(BMI  25)は男性 30%、女性 20%
高脂肪食(60 en%脂質/ 20%炭水化物)で動脈
であり、米国に比べ半数以下であり、肥満予
の機能 AI (aortic augmentation index)が悪化
防を目的とした場合、脂肪エネルギー比の上
することが示され
41)
、60 en%の高脂肪食は動
限は食事摂取基準で示されている 25-30%で
脈硬化症のリスクとなる可能性が示されてい
良いと思われる。将来的には、遺伝的背景、
る。
代謝状態を考慮した個人別の最適な脂肪/炭
水化物摂取比率の策定が望まれる。
E.結論
糖尿病罹患予防のため、肥満の予防は極め
F.研究発表
て重要である。このため、2010 年、2005 年版
1.発表論文
日本人の食事摂取基準の策定で用いた文献、
Ezaki O. The optimal dietary fat to
さらにその後発表された文献を用いて、肥満
carbohydrate ratio to prevent obesity in
予防、治療に最適な脂質/炭水化物摂取比率に
Japanese population: a review of the
ついてレビューを行った。
epidemiological, physiological and
肥満を予防する場合と治療する場合とでは
至適な脂肪エネルギー比が異なり、一般人を
molecular evidence. J Nutr Sci Vitaminol
(2011) 57, 383-393.
対象に肥満を予防するには 25-30 エネルギ
2.学会発表
ー%未満が良いこと、高インスリン血症を示
なし
すインスリン抵抗性の強い肥満者(肥満者の
半数以上)の治療には脂肪エネルギー比を少
G.知的財産権の出願・登録状況(予定を含
し高めの 30-35%に、炭水化物比率は 40%に
む)
17
1.特許取得
6.
なし
diets: a scientific review. Obes Res (2001)
2.実用新案登録
9, 1S-40S.
なし
7.
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Saltzman E, Stark PC, Greenberg AS,
low-insulin-response, energy-restricted diet
Roberts SB. A low-glycemic load diet
20
facilitates greater weight loss in overweight
reduction diets: effects on weight loss,
adults with high insulin secretion but not in
insulin resistance, and cardiovascular risk: a
overweight adults with low insulin secretion
randomized control trial. Diabetes (2009)
in the CALERIE Trial. Diabetes Care
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41. Bradley U, Spence M, Courtney CH,
McKinley MC, Ennis CN, McCance DR,
McEneny J, Bell PM, Young IS, Hunter SJ.
Low-fat versus low-carbohydrate weight
21
図1
脂肪エネルギー比率の低下は体重減少をもたらす。
ナリシスの結果を示す 4)。
22
多くの介入研究を集めたメタ・ア
図2
肥満者(BMI > 30)の最適な脂肪エネルギー比率はインスリン抵抗性の程度によって異
なる 34)。
糖尿病でない肥満者 18-35 歳の男女 56 人を対象に、75 gGTT の血中インスリン 30 分値 57.5
μIU/ mL 以下(インスリン非抵抗性群)と以上(インスリン抵抗性群)の 2 群に対し、それぞ
れ低脂肪食(高グリセミック食;55 en%炭水化物/ 20 en%脂質/ 25 en%蛋白質)と低炭水化物食
(低グリセミック食;40 en%炭水化物/ 35 en%脂質/ 25 en%蛋白質)を 6 ヶ月間介入し(図中点
線部分)
、その後 1 年間フォローした 34)。どちらもエネルギー摂取量は約 400 kcal 減少したが、
体重減少量では極端な差が認められた。インスリン抵抗性群では低炭水化物食(低グリセミッ
ク食)で強い体重減少が認められた。
23
平成 23 年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)
日本人の食事摂取基準の改定と活用に資する総合的研究
研究代表者
徳留 信寛 国立健康・栄養研究所 理事長
Ⅱ.研究分担者の報告書
2.妊娠・授乳期におけるカルシウム摂取量と骨量の変動
研究分担者
上西 一弘
女子栄養大学栄養生理学研究室
研究要旨
現在使用されている日本人の食事摂取基準 2010 年版では、妊娠期にはカルシウム付加は必
要ないとされている。この是非を確認するために、妊娠・授乳期の骨量の変動を縦断的に測定
し、カルシウム摂取量と合わせて検討した。その結果、踵骨骨量は妊娠が進むにつれて低下し
ていたが、産後 1 ヶ月では回復傾向にあった。現在、踵骨骨量の測定を継続中であり、出産後
では橈骨の DXA 測定も行っている。
象に妊娠初期(登録時、妊娠 5~12 週)、中
A.目的
現在使用されている日本人の食事摂取基
期(妊娠 24 週)、末期(妊娠 34 週)出産時
準 2010 年版では、妊娠期にはカルシウム付
(出産後 2~3 日)
産後 1 ヶ月に、
身長、
体重、
加は必要ないとされている。これは推奨量
踵骨骨量、食物摂取頻度調査(出産時を除く)
を摂取できていれば、妊娠・授乳期に腸管
を実施した。妊娠初期、中期、末期は秤量又
からのカルシウム吸収率が増加し、必要量
は目安量記録法および写真記録法による食事
を取り入れていると考えられること、また、
調査を行った。
妊娠・授乳期には骨量は低下するものの、
踵骨骨量は超音波式骨量測定装置アキレス
授乳終了後 6 ヶ月で骨量は妊娠前の値に回
A-1000InSight(GE ヘルスケア社)を用いて
復することから、決められたものである。
測定し、ステフネス値を骨量とした。
しかし、日本人を対象として妊娠・授乳
期の骨量を縦断的に測定した報告は少ない。
C.結果
本研究は妊娠・授乳期の骨量の変動を縦断
登録時の平均年齢は 31.7±3.7 歳、身長は
的に測定し、カルシウム摂取量と合わせて
158.9±4.6cm、体重は 51.5±6.4 kg であった。
検討することを目的とした。
BMI が 18.5 未満の者が 23.3%、25 以上の者が
4.9%存在した。
カルシウム摂取量は妊娠初期 409±128 mg
B.方法
(平均値±標準偏差)、中期 465±128 mg、
横浜市の産科に通院する妊婦 160 名を対
24
末期 443±123 mg、
出産後 1 ヶ月 443±134 mg
変動についても検討する予定である。
であった。
図 1 に調査期間中の踵骨骨量(ステフネス
E.結論
値)の変動を示した。初期から出産時にかけ
妊娠・授乳期の骨量の変動を検討した。
て低下したが、産後 1 ヶ月目には回復傾向に
踵骨骨量(ステフネス値)は妊娠が進むに
あった。
つれて低下したが、産後 1 ヶ月目には回復傾
向にあった。
D.考察
対象となった妊婦・授乳婦のカルシウム
F.研究発表
摂取水準は低く、推奨量に達していない者
1.発表論文
が大部分であった。
なし
踵骨骨量は妊娠が進行するに伴い低下し、
出産時に最も低値となっていたが、産後 1
2.学会発表
なし
ヶ月目には回復傾向がみられた。この間の
カルシウム摂取量はほとんど同水準であっ
G.知的財産権の出願・登録状況(予定を含
た。
む)
今回の対象者のカルシウム摂取量はほと
1.特許取得
んど同じ水準であり、個人差が少ない集団
なし
であった。その中でのカルシウム摂取量の
2.実用新案登録
レベルによる、骨量の変動について検討す
なし
る予定である、さらに出産後には DXA 法に
3.その他
よる橈骨骨密度の測定を行っており、その
なし
25
図1 妊娠・授乳期の踵骨骨量の変動
ステフネス値
110
105
100
95
90
85
80
75
70
初期
中期
末期
出産時
26
産後1ヶ月
平成 23 年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)
日本人の食事摂取基準の改定と活用に資する総合的研究
研究代表者
徳留 信寛 国立健康・栄養研究所 理事長
Ⅱ.研究分担者の報告書
3.たんぱく質の出納と生活習慣病関連の検討解析
研究分担者
木戸 康博
京都府立大学大学院生命環境科学研究科
研究要旨
【目的】現行のたんぱく質必要量は、窒素出納法により算定されている。窒素出納法は、たんぱ
く質代謝研究に有用な手段であるが、被験者と測定者への負担が大きく、たんぱく質必要量が低
く算出されるなどの問題点も指摘されている。本研究では、近年新しく開発された指標アミノ酸
酸化 (IAAO)法を用い、鶏卵たんぱく質をたんぱく質源とした日本人成人男性のたんぱく質代
謝要求量を算出した。
【方法】被験者は健康な成人男子大学生 6 名 (延べ 36 名)とし、平均年齢は 23 ± 0.6 歳、平均
体重および平均 BMI はそれぞれ 61.5 ± 1.4 kg および 20.5 ± 0.4 kg/m2 であった。自記式食事歴法質
問票(DHQ)による食事調査を行った結果、被験者のたんぱく質摂取量および主要栄養素エネル
ギー比率は、それぞれ平成 21 年国民健康・栄養調査における 20〜29 歳男性の摂取中央値と同程
度であった。被験者は、実験前日より調整された食事 (エネルギー量: 2240〜2360 kcal/day、た
んぱく質量: 1.1〜1.4 g/kg 体重/day)を摂取した。実験日の 9:00 から 18:00 までは 1 時間ごとに、
基礎代謝量×1.5 kcal/day の 1/12 量のエネルギーおよび 1 日摂取量の 1/12 量のたんぱく質を含む
実験食を摂取した。実験食は、たんぱく質摂取量が 0.2、0.4、0.6、0.8、1.0 あるいは 1.2 g/kg 体重
/日となるように調整した。実験食は、たんぱく質源として、玉子焼きを用い、たんぱく質摂取量
が 1.0 g/kg 体重/day 以下の場合、1.0 g/kg 体重/day での Phe と Tyr 摂取量に達するまで Phe と Tyr
をアミノ酸として追加摂取した。指標アミノ酸として、[1-13C]標識 Phe (13C-Phe)を用いた。13C
標識物質として 13:00 に 13C-Phe、NaH13CO3 を経口摂取し、14:00 から 13C-Phe を 1 時間ごとに 5
回経口摂取した。13C 標識物質経口摂取開始より 30 分間隔で食事終了 1 時間後までの呼気中 13CO2
量を赤外線分光分析装置により測定した。加えて、13C-Phe 摂取開始後 330 分に被験者の末梢静脈
より採血し、血漿アミノ酸濃度を分析した。
【結果】13C-Phe 摂取により、呼気中 13CO2 量は上昇し、摂取開始後 330 分では、たんぱく質摂取
量が最も尐ない 0.2 g/kg 体重/day の時に最大となり、たんぱく質の摂取量に依存して減尐した。
しかし、1.0 g/kg 体重/day 以上の摂取量では呼気中 13CO2 量がほぼ一定となった。ME-CPRM によ
り変曲点を算出したところ、0.89 g/kg 体重/day であった。また、たんぱく質摂取量が 0.2 g/kg 体
27
重/day および 1.2 g/kg 体重/day の被験者の血漿 Phe と Tyr 濃度に有意な差はなく、血漿中のアミ
ノ酸プールの大きさは、たんぱく質摂取量によって変化しなかった。
【結論】IAAO 法を用いた日本人成人男性のたんぱく質代謝要求量は、0.89 g/kg 体重/day と算出
された。本方法は、簡便性に優れた方法であり、傷病者や妊婦、高齢者にも小さな負担で試験を
実施することが可能であると考えられた。
への排出量も減尐する。IAAO 法は、このア
A.目的
ミノ酸代謝の反応を利用し、13C で標識され
たんぱく質必要量の算出には、これまで窒
素出納法が用いられてきた
1-2)
た指標アミノ酸を経口摂取し、発生する
。窒素出納法
13
CO2 量を測定するものである 4)。
は、食事等からの摂取窒素量と、皮膚表面や
尿、糞等からの排出窒素量を調べ、それらの
IAAO 法は、現在までにブタやヒトにおい
出納に基づき窒素平衡を維持できる量をもっ
て、不可欠アミノ酸の必要量算出に用いられ
てたんぱく質必要量としている。窒素出納法
てきた 5-6)。2007 年に Humayun ら 7)は、成
はたんぱく質栄養研究に最も標準的かつ有効
人男性のたんぱく質必要量の測定に IAAO 法
な方法として用いられているが、摂取窒素量
を応用した。その結果、たんぱく質必要量を
を過大評価し、排泄窒素量を過小評価するこ
0.93 g/kg 体重/day と算出し、現行の値より高
とから、出納値が正に傾きやすいこと
3)
値であったと報告した。IAAO 法は、適応期
や、
被験者および測定者への負担が大きいことが
間を設けず、習慣的なたんぱく質摂取量にお
指摘され、より簡便な測定法の確立が望まれ
けるたんぱく質代謝応答でのたんぱく質必要
てきた。
量の算出が可能であるため、各ライフステー
指標アミノ酸酸化 (Indicator Amino Acid
ジでの必要量だけでなく、急性期の傷病者に
Oxidation; IAAO)法は、近年新しく開発され
対しても試験の実施が可能である。しかし、
13
た C 標識アミノ酸法の 1 つである。体内で
Humayun ら 7)が行った成人男性を対象とした
必要とするたんぱく質が、過不足なく合成さ
IAAO 法では、たんぱく質源としてアミノ酸
れるためには、
たんぱく質の構成アミノ酸が、
混合物を用いていた。アミノ酸混合の消化・
全て揃っていることが必要である。体内で必
吸収機構はたんぱく質とは異なると考えられ
要とするたんぱく質の合成は、第一制限アミ
るので、たんぱく質をたんぱく質源とした
ノ酸量に依存しているため、摂取する第一制
IAAO 法を行うことが必要である。しかし、
限アミノ酸量が尐なければ、たんぱく質合成
成人男性において、たんぱく質源としてアミ
に利用されなかった他のアミノ酸の余剰分が
ノ酸混合物ではなくたんぱく質を用いた研究
エネルギーとして利用され、二酸化炭素
は未だ報告されておらず、そのための基礎研
(CO2)として呼気中へ排出される。一方、
究も十分に行われていない。さらに、IAAO
第一制限アミノ酸の摂取量が増すと、他のア
法で算出された値の解釈や、指標アミノ酸の
ミノ酸のたんぱく質合成への利用量も増加し、
選択など、依然として検討すべき課題は山積
アミノ酸の酸化により発生する CO2 の呼気中
している。
28
そこで本研究では、鶏卵たんぱく質をたん
3) 実験プロトコール
ぱく質源とする IAAO 法において、日本人成
実験は試験日前日と試験日の計 2 日間とし
人男性のたんぱく質代謝要求量を算出した。
た。試験日前日には、被験者は 3 食の調整食
を摂取した。調整食は、全ての被験者におい
て基礎代謝量×1.5 で算出したエネルギー摂
B.方法
本研究は、京都府立大学倫理委員会の承認
取量を満たしており (2240〜2360 kcal/day)、
を得て行った。
たんぱく質摂取量は平成 21 年国民健康・栄養
調査での同年齢区分の平均中央値と同程度で
1) 被験者
あった (1.1〜1.4 g/kg BW/day)。また、試
健康な成人男性 6 名 (延べ 36 名)を被験
験日前日の 22 時以降より水、
お茶および紅茶
者とした。各被験者の特徴および DHQ によ
以外は摂取せず、
試験開始まで 11 時間絶食と
る食事調査結果は表 1 に示した。被験者は、
した。試験日は 9 時より試験を開始し、19 時
試験前日および試験中の激しい運動およびア
までとした。実験食は試験開始から 1 時間毎
ルコールの摂取を避けた。また、試験前日の
に同量ずつ計 10 回摂取した。
安定同位体の摂
22 時以降は水、お茶および紅茶以外は摂取せ
取は、5 回目の食事より開始し、5 回目の食事
ず、試験開始まで 11 時間絶食とした。
では、NaH13CO3 を 0.176 mg/kg 体重、
L-[1-13C]phenylalanine (13C-Phe) (99 atom
2) 実験食
percent excess; Cambridge Isotope
実験食 1 回の摂取量は、1 日のエネルギー
Laboratories)を 0.66 mg/kg 体重 摂取した。
摂取量およびたんぱく質摂取量の 1/12 とし
それ以降では、実験食の摂取終了まで、実験
た。エネルギー摂取量は、18 歳から 29 歳男
食とともに 13C-Phe を 1.20 mg/kg 体重摂取し
性の基礎代謝基準値 (24.0 kcal/kg 体重
た。そして、安定同位体の摂取開始と同時に
/day)に個人の体重および身体活動レベルⅠ
呼気バッグにて呼気回収を開始し、全ての実
(1.50)を乗じて算出した
8)
。たんぱく質摂
験食の摂取終了1時間後まで30分毎に呼気を
取量は、0.2、0.4、0.6、0.8、1.0 あるいは 1.2 g/kg
回収した。回収した呼気は赤外線分光分析装
体重/day とした。食事は、たんぱく質源とし
置 POCone (大塚電子株式会社)にて呼気中
て鶏卵たんぱく質、エネルギー源として、う
13
CO2 量を測定した。
いろう、粉あめを用いた。各たんぱく質摂取
また、安定同位体の摂取が終了した後の 18
量時の鶏卵たんぱく質の栄養成分組成を表 2
時 30 分の呼気回収と同時に末梢静脈より採
に示した。たんぱく質摂取量が 1.0 g/kg 体重
血した。採取した血液の血漿画分は、血漿ア
/day 以下の場合、1.0 g/kg 体重/day での Phe
ミノ酸分析に供した。
と Tyr 摂取量 (54.7 mg/kg 体重および 40.7
mg/kg 体重)に達するまで Phe と Tyr をアミ
4) 血漿中アミノ酸分析
ノ酸として追加摂取した (表 3)。
被験者より採取した血液は、直ちに遠心分
離し (12,000 rpm、15 min、4°C、血漿画分と
29
血球画分に分け、血漿画分を− 80°C で使用す
した。サンプルには、20 mM HCl を 20 µL、
るまで保存した。使用時には、自然解凍した
ホウ酸緩衝液を 60 µL、AQC 試薬を 20 µL 添
血漿画分に、エタノールを添加、75%エタノ
加した。それぞれボルテックスミキサーで撹
ールとし、除タンパク処理を行った。これを
拌し、55℃のブロックヒーターで 10 分反応さ
再び遠心分離し (12,000 rpm、15 min、4°C)、
せ、誘導化した。
誘導化の完了したアミノ酸混合溶液H型お
上清をエタノール可溶画分として以後の実験
よびサンプルを、RP-HPLC にて分析した。
に用いた。
次に、血液中の Phe および Tyr のキャプチ
HPLC 装置および蛍光、UV-VIS 検出器には資
ャリングのため、H+型強カチオン交換樹脂を
生堂(株)の NANOSPACE SI-2 を用いた。
充填したスピンカラムによる固相抽出を行っ
測定は、蛍光検出器 (励起波長 295 nm、蛍
た。この分画は Aito-Inoue ら
9)
光波長 350 nm)、UV-VIS 検出器 (測定波長
の方法を用い
254 nm)で行った。分析カラムには、COSMIL
た。
H+型の強カチオン交換樹脂 (AG50W×8)
5C18-MS-Ⅱ Packed Colum (4.6 mmi.d.×250
をビーカーに適量とり、50%メタノールで数
nm, ナカライテスク(株))を使用した。移
回洗浄した。そして、ミニスピンカラム
動相には、0.1%ギ酸緩衝液-60%アセトニトリ
( Ultrafree-MC, Durapore PVDF 5.0 mm,
ルを用い、流速は毎分 1.0 mL、カラム温度は
MILLIPORE)に 50%メタノールとともに充填
43°C、注入量は 10 µL で行った。Phe および
後、メタノールに溶出させるため、数秒間遠
Tyr 溶出画分の溶出液は分取し、エレクトロ
心分離した。さらに、200 µL の 50%メタノー
スプレーイオニゼーションマススペクトロメ
ルをカラムに 3 回添加し洗浄した後、200 µL
トリー(ESI-MS)
により 13C/12C 比を求めた。
の 10 mM HCl で 3 回カラムを平衡化し、400
ESI-MS による分析では、Phe 溶出画分では
µL の 7.5 N アンモニア 50%メタノールで 2 回
336 (12C-Phe)および 337 (13C-Phe) m/z、
抽出を行った。これらの溶出液をサンプルご
Tyr 溶出画分では 352 (12C-Tyr)および 353
とにまとめ、吸着画分とした。分画終了後、
(13C-Tyr) m/z にピークが出現する。このピ
直ちに吸着画分を水流ポンプにて遠心真空乾
ークに He ガスを用いた衝突誘起解離を行い、
固した。
ピークが AQC 誘導化試薬とアミノ酸由来の
次に、6-aminoquinoly-N-hydroxysuccinimidyl
ものであることを確認した。その後、アミノ
carbamate (AQC)による誘導化を行った。5
酸量の相対値を 100 とし、12C-Phe と 13C-Phe
倍希釈したアミノ酸混合溶液 H 型を 1.5 mL
および 12C-Tyr と
マイクロチューブに 10 µL 注入した。サンプ
13
ルは目的の濃度まで希釈したものを 1.5 mL
た。
13
C-Tyr の相対値を求め
C-Phe および 13C-Tyr の占める割合を算出し
マイクロチューブに 10 µL 注入し、遠心濃縮
器にて遠心真空乾固した。その後、アミノ酸
C.結果
混合溶液 H 型には、20 mM HCl を 20 µL、ホ
結果は、13 時の呼気中 13CO2 量を Pre 値と
ウ酸緩衝液を 70 µL、AQC 試薬を 10 µL 添加
し、測定値から Pre 値 (‰/kg 体重)を差し
30
引きΔ13CO2 (‰/kg 体重)として算出した。
D.考察
たんぱく質摂取量が 0.2 g/kg 体重/day および
鶏卵たんぱく質を 0.2 g/kg 体重/day あるい
13
1.2 g/kg 体重/day での呼気中 CO2 量の経時
は 1.2 g/kg 体重/day 摂取した際の血漿 Phe 濃
的変化を示した (図 1)。
度および Phe 濃度全体に占める 13C-Phe の割
13 時の安定同位体の摂取後、すべてのたん
合は、ほぼ同じであり、血漿 Tyr 濃度および
ぱく質摂取量において急速に呼気中 13CO2 量
Tyr 濃度全体に占める 13C-Tyr の割合も、ほぼ
が上昇した。たんぱく質摂取量が 0.2 g/kg 体
同程度であった (表 4)。小川ら 11)は、ラ
重/day および 1.2 g/kg 体重/day での呼気中
ットを用いて IAAO 法の基礎研究を行い,血
13
漿、肝臓および腓腹筋における Phe 濃度およ
の尐ない 0.2 g/kg 体重/day では 1.2 g/kg 体重
び Phe 濃度全体に占める 13C-Phe の割合なら
/day に比べ高い値で推移した。
びに Tyr 濃度および Tyr 濃度全体に占める
CO2 量は、15 時 30 分以降たんぱく質摂取量
13
C-Tyr の割合がほぼ同程度でることを報告
たんぱく質摂取用が 0.2、0.4、0.6、0.8、1.0
あるいは 1.2g/kg/dayとなるように調整した食
している。成人男性を被験者とした本研究に
事を摂取し、各たんぱく質摂取量での 18 時
おいても、血漿 Phe 濃度および Tyr 濃度が一
13
定であることを確認し,鶏卵たんぱく質をた
13
た。その結果、呼気中 CO2 量は、たんぱく
んぱく質源として用いたアミノ酸プールなら
質摂取量が 1.0 g/kg 体重/day までではたんぱ
びにアミノ酸代謝速度は、本研究プロトコー
く質摂取量を増すにつれ、減尐していった。
ルにおいて定常状態であると考えられた。
30 分で採取した呼気中 CO2 量の比較を行っ
たんぱく質摂取量が 1.0 g/kg 体重/day および
本研究で、
摂取たんぱく質レベルを 0.2 g/kg
1.2 g/kg 体重/day では、たんぱく質摂取量に
体重/day から 1.2 g/kg 体重/day と変化させて
依存せず呼気中 13CO2 量はほぼ一定であった
変曲点を解析した結果、
変曲点は 0.89 g/kg 体
(図 2)。
重/day、その 95%信頼値は 1.11 g/kg 体重/day
となった。本研究で、鶏卵たんぱく質を用い
全てのたんぱく質摂取量での 18 時 30 分に
13
おける呼気中 CO2 量を、ME-CPRM
10)
て算出された 0.89 g/kg 体重/day という値は、
用い
て比較したところ、変曲点は 0.89 g/kg 体重
現行のたんぱく質必要量である 0.72 g/kg 体
/day と算出された (図 3)。本結果より、鶏
重/day 8)と比較した場合、高値となった。現
卵たんぱく質をたんぱく質源とした際の日本
行のたんぱく質必要量は、窒素出納法で算出
人成人男性のたんぱく質代謝要求量は 0.89
されており、窒素出納法で算出される値は最
g/kg 体重/day、
その 95%信頼値は 1.11 g/kg 体
小たんぱく質必要量であるのに対し、IAAO
重/day であった。
法で算出される値がたんぱく質代謝要求量で
あり、それぞれの算出値の意味するところが
18 時 30 分での血漿アミノ酸分析を行った
13
12
結果、Phe と Tyr 濃度および C/ C 比はたん
異なるため、本研究結果で高値を示したと考
ぱく質摂取量 0.2 g/kg 体重/day と 1.2 g/kg 体
えられた。
窒素出納法で算出される最小たんぱく質必
重/day において有意な差を認めなかった(図
要量は、たんぱく質代謝状態を低たんぱく質
4, 表 4)。
31
状態に適応させた状態での窒素平衡維持に必
習慣的なたんぱく質摂取量でのたんぱく質代
要なたんぱく質摂取量である。したがって、
謝を維持するために必要なたんぱく質摂取量
このたんぱく質必要量を下回るたんぱく質量
である。したがって、実験食として摂取する
を継続的に摂取すると、たんぱく質欠乏症が
たんぱく質レベルごとに、そのたんぱく質摂
発症すると考えられる。一方、IAAO 法は、
取状態への適応を必要としないので、代謝変
実験毎にそのたんぱく質摂取状態での適応を
動の激しい傷病者や、経時的に代謝の変化す
必要とせず、普通に生活している人が摂取し
る妊婦などでも IAAO 法によるたんぱく質代
ている習慣的なたんぱく質摂取量でのたんぱ
謝要求量の算出方法を適用することが可能と
く質代謝を維持するために必要なたんぱく質
考えられた。
摂取量を推定することが出来る。
以上の結果から、各種病態やそれぞれのラ
習慣的なたんぱく質摂取量でのたんぱく質
イフステージにおいてたんぱく質代謝要求量
代謝状態を変化させるためには、5〜7 日間を
の推定が可能となり、今後、さらなるたんぱ
要する
12)
ので、たんぱく質摂取量を一時的
く質代謝に関する研究の進展に貢献出来るも
に尐ない摂取量に変化させても、習慣的なた
のと考えた。
んぱく質摂取量でのたんぱく質代謝応答とな
る。そのため、習慣的に十分量のたんぱく質
F.研究発表
を摂取している状態で、IAAO 法により算出
1.発表論文
した値は、習慣的なたんぱく質摂取量でのた
1) Ogawa A, Naruse Y, Shigemura Y,
んぱく質代謝に必要なたんぱく質代謝要求量
Kobayashi Y, Suzuki I, Wada S, Hayamizu
と考えられる。したがって、このたんぱく質
K, Kuwahata M, Kido Y. An evaluation of
摂取量を下回るたんぱく質量を継続的に摂取
protein intake for metabolic demands and the
してもたんぱく質欠乏症は発症しないと考え
quality of dietary protein in rats using an
られる。
indicator amino acid oxidation method. J
本研究において、食事調査により被験者の
Nutr Sci Vitaminol (2011)57, 418-425.
2) 木戸康博. たんぱく質・アミノ酸の必要
習慣的なたんぱく質摂取量は 1.1 g/kg 体重
/day と算出され (表 1)、平成 21 年国民健
量に関する研究.栄養学雑誌(2011)69,
康・栄養調査の 20〜29 歳男性におけるたんぱ
285-293.
く質摂取量の平均中央値 (1.0 g/kg 体重
2.学会発表
/day)と比較して同程度であった。そのため、
1) Hirose T, Araki N, Ogawa A, Kobayashi Y,
本研究で算出したたんぱく質代謝要求量は、
Wada S, Kuwahata M, Kido Y. Estimation of
20〜29 歳日本人男性が習慣的に摂取してい
protein requirement for young Japanese men
るたんぱく質状態における代謝要求量である
using the indicatior amino acid axidation
と考えられた。
method. 11th Asian Congress of Nutrition,
IAAO 法で算出されるたんぱく質代謝要求
Singapore.(2011)p. 236.
2) Ogawa A, Hirose T, Kobayashi Y, Hayamizu
量は、普通に生活している人が摂取している
32
K, Kuwahata M, Kido Y. An evaluation of
requirement in healthy men. J Nutr (2002)
the quality of dietary protein in rats using an
132, 2251-2257.
IAAO method. 11th Asian Congress of
7. Humayun M A, Elango R, Ball R O, Pencharz
Nutrition, Singapore.(2011)p.155.
P B. Reevaluation of the protein requirement
in young men with the indicator amino acid
G.知的財産権の出願・登録状況(予定を含
oxidation technique. Am J Clin (2007) 86,
む)
995-1002.
8. 厚生労働省.日本人の食事摂取基準 2010
1.特許取得
年版. (2009).
なし
9. Aito-Inoue M, Ohtsuki K, Nakamura Y, Park Y,
2.実用新案登録
なし
Iwai K, Morimitsu F, Sato K. Improvement in
isolation and identification of food-derived
3.その他
なし
peptides in human plasma based on precolumn
derivatization of peptides with
H.引用文献
phenylisothiocyanete. J Agric Food Chem
1. Rose W C. The amino acid requirements of
(2006)54, 5261-5266.
adult man. Nutr Abst Rev (1957) 27,
10. Hayzmizu K, Kato M, Hattori S. Determining
amino acid requirements from repeated
631-647.
observations on indicator amino acid oxidation
2. Rand W M, Pellet P L, Young V R.
Meta-analysis of nitrogen balance studies for
method by mixed-effect change-point
estimating protein requirements in healthy
regression models. J Clin Biochem Nutr
adults. Am J Clin Nutr(2007)77, 109-127.
(2011)49, 115-120.
3. Hegsted D M. Balance studies. J Nutr (1976)
11. Ogawa A, Naruse Y, Shigemura Y,
Kobayashi Y, Suzuki I, Wada S, Hayamizu K,
106, 307-311.
4. 岸恭一, 木戸康博. タンパク質・アミノ酸
Kuwahata M, Kido Y. An evaluation of
の新栄養学. 講談社 2007.
protein intake for metabolic demands and the
quality of dietary protein in rats using an
5. Ball R O, Bayley H S. Influence of dietary
protein concentration on the oxidation of
indicator amino acid oxidation method. J Nutr
phenylalanine by the young pig. Br J Nutr
Sci Vitaminol (2011)57, 418-425.
(1986)55, 651-658.
12. Uauy R, Scrimshaw N S, Rand W M, Young
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V R. Human protein requirements: Obligatory
Pencharz P B. Oral and intravenous tracer
urinary and fecal nitrogen losses and the
protocols of the indicator amino acid oxidation
factorial estimation of protein needs in elderly
mehod provide the same estimate of the lysine
males. J Nutr (1978)108, 97-103.
33
表 1 被験者の特徴 (Protein intake および PFC 比率は DHQ より算出した)
年齢
体重
身長
BMI*
2
Protein intake
PFC 比率
(歳)
(kg)
(cm)
(kg/m )
(g/kg BW/day)
(%)
A
23
66
178
20.8
0.9
14.6 : 27.0 : 58.4
B
24
57
170
19.7
1.2
13.4 : 27.5 : 59.0
C
22
59
175
19.3
1.0
11.4 : 28.9 : 59.7
D
20
60
172
20.3
1.2
12.2 : 27.3: 60.4
E
23
64
172
21.6
1.2
13.5 : 30.9 : 55.6
F
23
63
173
21.0
1.3
15.0 : 32.2 : 52.8
1.1 ± 0.1
13.4 : 29.0 : 57.7
平均値 22 ± 0.6 61.5 ± 1.4 173 ± 1.1 20.5 ± 1.4
BMI: body mass index
結果は mean ± SE で示した。
表 2 各たんぱく質摂取量での 1 回の玉子焼き栄養成分組成 (体重 60 kg)
たんぱく質摂取量 (g/kg BW/day)
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
8.1
16.3
24.4
32.5
40.7
48.8
52.3
64.6
76.8
89.1
101.4
113.7
たんぱく質量 (g)
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
6.0
脂質 (g)
0.8
1.7
2.5
3.3
4.2
5.0
炭水化物 (g)
0.0
0.0
0.1
0.1
0.1
0.1
鶏卵重量 (g)
玉子焼き
カロリー (kcal)
34
表 3 各たんぱく質摂取量のアミノ酸組成
たんぱく質摂取量(g/kg BW/day)
評定パターン
(全卵パターン)
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
mg/g
Ala
61.4
12.3
24.6
36.8
49.1
61.4
73.7
Arg
75.1
15.0
30.0
45.1
60.1
75.1
90.1
Asn
33.3
6.7
13.3
20.0
26.6
33.3
40.0
Asp
33.3
6.7
13.3
20.0
26.6
33.3
40.0
Cys
22.1
4.4
8.8
13.3
17.7
22.1
26.5
Gln
56.6
11.3
22.6
34.0
45.3
56.6
67.9
Glu
56.6
11.3
22.6
34.0
45.3
56.6
67.9
Gly
33.3
6.7
13.3
20.0
26.6
33.3
40.0
His
22.7
4.5
9.1
13.6
18.2
22.7
27.2
Ile
62.8
12.6
25.1
37.7
50.2
62.8
75.4
Leu
83.3
16.7
33.3
50.0
66.6
83.3
100.0
Lys
75.7
15.1
30.3
45.4
60.6
75.7
90.8
Met
29.6
5.9
11.8
17.8
23.7
29.6
35.5
Phe
54.7
54.7
54.7
54.7
54.7
54.7
65.6
Pro
41.9
8.4
16.8
25.1
33.5
41.9
50.3
Ser
83.9
16.8
33.6
50.3
67.1
83.9
100.7
Thr
47.1
9.4
18.8
28.3
37.7
47.1
56.5
Trp
15.6
3.1
6.2
9.4
12.5
15.6
18.7
Tyr
40.7
40.7
40.7
40.7
40.7
40.7
48.8
Val
70.3
14.1
28.1
42.2
56.2
70.3
84.4
表 4
血漿中 12C、13C-Phe および Tyr 濃度と 13C/12C 比
たんぱく質摂取量
(g/kg BW/day)
0.2 (n=6)
1.2 (n=6)
フェニルアラニン
チロシン
(nmol/mL)
(nmol/mL)
13
C-Phe
13.6 ± 1.9
12
合計
C-Phe
50.2 ± 5.8
63.9 ± 7.5
13
C-Tyr
9.2 ± 0.7
12
C-Tyr
合計
66.7 ± 5.7
75.9 ± 6.4
(21.2%) (78.8%) (100%) (12.2%) (87.8%) (100%)
12.5 ± 1.5
51.8 ± 4.9
64.3 ± 6.3
9.9 ± 1.5
59.3 ± 5.6
69.2 ± 7.1
(19.3%) (80.7%) (100%) (13.8%) (86.2%) (100%)
結果は mean ± SE で示した。
35
0.2 g/kg BW/day (n=6)
1.2 g/kg BW/day (n=6)
図1
たんぱく質摂取量が 0.2 g/kg BW/day、1.2 g/kg BW/day での
IAAO 法による呼気中 13CO2 量の経時的変化
結果は mean ± SE で示した。
図 2 たんぱく質摂取量と呼気中 13CO2 量の相関
値は 18 時 30 分の Δ13CO2 (‰/kg BW)を用いた。結果は mean ± SE で示した。
36
変曲点 = 0.89 g/kg BW/day
95%信頼区間 = 1.11 g/kg BW/day
図 3 各個人でのたんぱく質摂取量と呼気中 13CO2 量の相関
V 値は 18 時 30 分の Δ13CO2 (‰/kg BW)を用い、変曲点の算出には ME-CPRM を用いた。
37
チロシン
フェニルアラニン
N.S.
N.S.
図 4 たんぱく質 0.2 g/kg BW/day、1.2 g/kg BW/day 摂取時の血漿中 Phe、Tyr 濃度および 13 C/12C 比
結果は mean ± SE で示した。全てのデータにおいて 0.2 g/kg BW/day および 1.2 g/kg
BW/day との間に Student’s t-test において有意な差を認めなかった。
38
平成 23 年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)
日本人の食事摂取基準の改定と活用に資する総合的研究
研究代表者
徳留 信寛 国立健康・栄養研究所 理事長
Ⅱ.研究分担者の報告書
4.妊婦におけるビタミン B6 と葉酸の摂取量と血中濃度
研究分担者
柴田 克己
滋賀県立大学人間文化学部
研究協力者
福渡 努
滋賀県立大学人間文化学部
研究要旨
日本人の食事摂取基準(2015 年版)を策定するうえで,精度の高い妊婦におけるビタミン B6
と葉酸の付加量の策定に必要な科学的根拠を得ることを目的として,日本人妊婦を対象とした横
断研究を行い,ビタミン B6 と葉酸の摂取量および血中濃度について調べた.滋賀県の産科に受診
した日本人妊婦 235 名および産後 1 か月の女性 40 名を対象として,
採血および自記式食事歴法質
問票を用いた食事調査を行った.サプリメント摂取の有無にかかわらず血漿 PLP 濃度は妊娠の進
行にともなって低下し,妊娠末期においては食事摂取基準(2010 年版)の EAR の策定に用いた
基準値 30 nmol/L を維持することができなかった.ビタミン B6 欠乏時に現れる特徴は認められな
いことから,妊娠中の血漿 PLP 濃度の低下はビタミン B6 栄養状態を反映せず,妊娠特有の生理
状態である可能性が示された.平均 220~250 μg/日の葉酸を摂取している集団において,赤血球
葉酸濃度は食事摂取基準(2010 年版)の EAR の策定に用いた基準値 300 nmol/L を維持していた.
これは,日本人においては妊娠時に葉酸栄養状態の指標である赤血球葉酸濃度が低下しないこと
を示している.以上の結果より,ビタミン B6 の付加量の策定には血漿 PLP 濃度以外の生体指標
を利用する必要性があること,葉酸の付加量の策定には本研究結果を始めとする新たな科学的根
拠を利用できる可能性が示された.
根拠が少ないため,通常の食事からは摂取の
A.目的
妊娠期の食生活は,本人に加えて児のライ
難しい値を策定せざるを得なかったという事
フステージの最も初期段階での栄養状態を形
情がある 1).妊娠末期にはビタミン B6 栄養状
づくるものとして重要である.このため,日
態の指標として用いられる血漿 PLP 濃度が低
本人の食事摂取基準(2010 年版)1)では,妊
下するが,妊婦のビタミン B6 付加量策定に必
婦に対して水溶性ビタミンの付加量が設定さ
要な実験結果および調査結果が乏しい.この
れた.しかし,日本人の食事摂取基準(2010
ため,ビタミン B6 の付加量は,米国 DRIs に
年版)の策定において,妊婦におけるビタミ
ならって要因加算法を用いて策定された.葉
ン B6 と葉酸の付加量の策定に必要な科学的
酸の付加量については,中長期的な葉酸栄養
39
状態の指標として用いられる赤血球葉酸濃度
ンプルが得られた者,DHQ の回答が得られた
が妊娠末期で低下し,100 μg/日のプテロイル
者,採血時から 1 か月前の間に葉酸あるいは
グルタミン酸摂取によって赤血球葉酸濃度の
ビタミン B6 を含むサプリメント等を摂取し
低下を予防できたというエビデンスから策定
なかった者を選んだ(図 1,2).妊婦は,妊
された.しかし,100 μg/日以下のプテロイル
娠週数に応じて妊娠初期(妊娠 16 週未満),
グルタミン酸については調べられておらず,
妊娠中期(妊娠 16~30 週),妊娠末期(妊娠
付加量よりも少ない摂取量で赤血球葉酸濃度
31 週以降)に分類した.
本研究は滋賀県立大学倫理審査委員会に
を維持できる可能性がある.
策定された水溶性ビタミンの付加量の妥当
おいて承認を得ており、対象者には調査の目
性を検討するために,日本人妊婦を対象とし
的、検査内容、個人情報の保護などについて
た調査を行ったところ,ビタミン B6 と葉酸の
説明を行い、インフォームド・コンセントを
平均摂取量は推定平均必要量(EAR)に対し
得た。
てそれぞれ 60%と 70%であった 2).この摂取
2. 食事調査
量は健康な非妊娠女性の平均摂取量と等しく,
食事調査にはすでに妥当性が確立されて
当該ビタミンの尿中排泄量も同等であった.
いる DHQ3-5)を用い,対象者には採血後に自
この結果は,ビタミン B6 と葉酸の摂取量が必
宅で DHQ に回答してもらった。これを五訂
ずしも EAR でなくても,ビタミン B6 と葉酸
日本食品標準成分表 6)に基づいて解析し、エ
の栄養状態を良好に維持できる可能性を示し
ネルギーおよび栄養素摂取量を算出した.
ている.
3. 分析
本研究では,日本人の食事摂取基準(2015
血液サンプルは血漿と赤血球に分離した.
年版)の策定において,精度の高い妊婦にお
血漿PLP濃度はHPLC法によって測定した 7).
けるビタミン B6 と葉酸の付加量の策定に必
血 漿葉 酸濃度 は Lactobacillus casei ATCC
要な科学的根拠を得ることを目的とした.具
27773 を用いた微生物学的定量法によって測
体的には,日本人妊婦を対象とした横断研究
定した 8).赤血球葉酸濃度の測定については,
を行い,ビタミン B6 と葉酸の摂取量および血
赤血球画分をプロテアーゼおよびコンジュガ
中濃度を明らかにすることを目的とした.
ーゼ処理し,得られたモノグルタミン酸型葉
酸を上記の微生物学的定量法に供した 8).
4. 統計処理
B.方法
1. 対象者
値は平均 ± 標準偏差として示した.妊娠
2011 年 5~12 月に滋賀県彦根市の産科を受
期による違いを比較するには,まず一元配置
診した日本人妊婦および産後 1 か月の女性か
分散分析を行い,有意差が認められた場合は
ら参加者を募集した.研究の参加に同意した
Tukey 法による多重比較検定を行った.各妊
妊婦235名および産後女性40名を対象者とし
娠期におけるサプリメント摂取の有無による
た.受診時に採血を行い,帰宅後に自記式食
違いを比較するには,まず二元配置分散分析
事歴法質問票(DHQ)に記入してもらった.
を行い,
有意差が認められた場合は Bonferroni
参加者のうち血漿サンプルあるいは赤血球サ
法による多重比較検定を行った.p 値が 0.05
40
以下のとき,統計学的有意差があるものとし
ベルであった(図 3C).産後 1 か月では,血
た.計算には,GraphPad Prism(GraphPad
漿 PLP 濃度は妊娠初期には至らないが,妊娠
Software,Inc,San Diego,California,USA)
末期の約 3.5 倍に回復した.
を用いた.
3. 赤血球葉酸濃度および血漿葉酸濃度
DHQ の回答,サプリメント摂取の有無にか
C.結果
かわらず,得られたすべての赤血球葉酸濃度
1. 対象者の特徴
を妊娠期別に図 4A に示した.サプリメント
血漿サンプルおよび DHQ の回答が得られ,
摂取の有無にかかわらず赤血球葉酸濃度は妊
採血前 1 か月間にサプリメントを摂取してい
娠期間中には変動せず,妊娠末期においては
ない対象者を妊娠初期(妊娠 16 週未満)、妊
日本人の食事摂取基準(2010 年版)1)の EAR
娠中期(妊娠 16~30 週)、妊娠末期(妊娠
の策定に用いた基準値 300 nmol/L を維持して
31 週以降)、出産後 1 か月に分類し,身体的
いた.サプリメントを摂取せず,葉酸摂取量
特徴と栄養素等摂取量を表 1 に示した。
の平均が 220~250 μg/日である妊婦において
妊娠期間中の総エネルギー摂取量は日本人
も,赤血球葉酸濃度は妊娠期を通じて 300
1)
の食事摂取基準(2010 年版) の推定エネル
nmol/L を維持していた(図 4B).サプリメ
ギー必要量の 60~70%であった.妊娠初期の
ントを摂取した妊婦の赤血球葉酸濃度は非摂
総エネルギー摂取量は妊娠末期および産後 1
取者の値と同レベルであった(図 4C).
か月よりも低値を示した.妊娠期間中のビタ
DHQ の回答,サプリメント摂取の有無にか
ミン B6 および葉酸摂取量は,それぞれ日本人
かわらず,得られたすべての血漿葉酸濃度を
1)
の食事摂取基準(2010 年版) の EAR の約
妊娠期別に図 5A に示した.サプリメント摂
50%,約 60%であった.ビタミン B6 および葉
取の有無にかかわらず血漿葉酸濃度は妊娠中
酸摂取量には妊娠期による違いは認められな
期以降に低下したが,日本人の食事摂取基準
かった.
(2005 年版)9)の EAR の策定に用いた基準値
2. 血漿 PLP 濃度
7 nmol/L を維持していた.サプリメントを摂
DHQ の回答,サプリメント摂取の有無にか
取せず,葉酸摂取量の平均が 220~250 μg/日
かわらず,得られたすべての血漿 PLP 濃度を
である妊婦においては,血漿葉酸濃度は妊娠
妊娠期別に図 3A に示した.サプリメント摂
中期に低下したが,妊娠期を通じて 7 nmol/L
取の有無にかかわらず血漿 PLP 濃度は妊娠中
を維持していた(図 5B).サプリメントを摂
期以降に低下し,妊娠末期においては日本人
取した妊婦の血漿葉酸濃度は非摂取者より高
の食事摂取基準(2010 年版)1)の EAR の策定
値を示した(図 5C).
に用いた基準値 30 nmol/L を維持することが
できなかった.サプリメントを摂取せず,ビ
D.考察
タミン B6 摂取量の平均が 0.8~0.9 mg/日であ
本研究では、235 名の妊婦および 40 名の産
る妊婦においても血漿 PLP 濃度は妊娠中期以
後女性を対象として、採血および DHQ を用
降に低下し(図 3B),サプリメントを摂取し
いた食事調査を行い、ビタミン B6 と葉酸の摂
た妊婦の血漿 PLP 濃度は非摂取者の値と同レ
取量および血中濃度を求めた。妊婦は妊娠時
41
期に応じて初期、中期、末期に分類した。各
娠期と同じレベルに維持できる 13-15).しかし,
時期における平均摂取量を日本人の食事摂取
一般女性のビタミン B6 摂取量は 1 mg/日程度
基準(2010 年版)に記載された EAR と比較
であり,5~10 mg/日を食事から摂取すること
するとともに,各時期間の比較も行った。ま
は不可能であるため,米国の DRIs では胎児
た、血中濃度については,各時期における値
と胎盤への蓄積量,妊娠末期に胎児が成長す
を日本人の食事摂取基準策定で用いた基準値
ることなどを考慮した要因加算法によって妊
と比較するとともに,各時期間の比較,サプ
婦の EAR が策定された
リメント摂取の有無による比較も行った。
取基準(2010 年版)では,米国の DRIs が算
11)
.日本人の食事摂
本研究における日本人妊婦のビタミン B6
定した付加量 0.5 mg/日に相対生体利用率を
摂取量の平均は 0.8~0.9 mg/日と妊婦の EAR
考慮して 0.7 mg/日が付加量として策定され
である 1.7 mg/日の約 50%であった.この摂取
た 1).要因加算法は精度が低いこと,要因加
量は,尿中ビタミン B6 代謝産物排泄量を指標
算法を用いて策定した EAR の 50%しかビタ
としてビタミン B6 栄養状態が良好であると
ミン B6 を摂取していない妊婦にはビタミン
判断された日本人妊婦の集団と同じものであ
B6 欠乏に起因する障害が観察されないこと,
2)
る .本研究では,血漿 PLP 濃度は妊娠中期
妊娠時の血漿 PLP 濃度はビタミン B6 栄養状
以降に 30 nmol/L 以下に低下した.サプリメ
態を表す指標としては不適切である可能性が
ント摂取者においても妊娠中期以降の血漿
あることを併せると,妊婦のビタミン B6 栄養
PLP 濃度は低下し,その値はサプリメント非
状態を判定する他の生体指標を利用する必要
摂取者と等しかった.血漿 PLP 濃度はビタミ
性があると考えられる.
ン B6 栄養状態を表す指標として一般に用い
本研究における日本人妊婦の葉酸摂取量の
られている.上記の 30 nmol/L とは,ビタミ
平均は 220~250 μg/日と妊婦の EAR である
ン B6 欠乏に起因する障害が観察されなくな
400 μg/日の約 60%であった.この摂取量は,
10,11)
,日本人の食事摂取基準(2010
尿中葉酸排泄量を指標として葉酸栄養状態が
年版)では成人,小児におけるビタミン B6
良好であると判断された日本人妊婦の集団と
の EAR を策定する際に基準値として利用さ
同じものである 2).本研究では,赤血球葉酸
れた 1).本研究の対象者にはビタミン B6 欠乏
濃度は妊娠期を通じて 300 nmol/L を維持して
に起因する障害は一切観察されず,出産児に
した.赤血球葉酸濃度は中・長期的な葉酸栄
も問題はまったく認められなかった.妊婦の
養状態を表す指標として一般に用いられてい
血漿 PLP 濃度の低下は妊娠時特有の生理状態
る.上記の 300 nmol/L とは,葉酸欠乏に起因
によって生じるという考え方もあることと併
する障害が観察されなくなる値であり
せると,妊娠時の血漿 PLP 濃度はビタミン
日本人の食事摂取基準(2010 年版)では成人,
B6 栄養状態を表してはいないと推察される.
小児におけるビタミン B6 の EAR を策定する
る値であり
オーストリア人妊婦を対象とした調査では,
血漿 PLP 濃度は妊娠末期に 30 nmol/L 以下に
16,17)
,
際に基準値として利用された 1).本研究の対
象者およびその出産児には葉酸欠乏に起因す
12)
.妊娠末期に 4~10 mg/日のピリ
る障害は一切観察されなかった.また,血漿
ドキシンを摂取すれば,血漿 PLP 濃度を非妊
葉酸濃度は妊娠中期以降に低下したが,7
低下する
42
nmol/L を維持していた.以上の結果は,葉酸
1.特許取得
摂取量の平均が 220~250 μg/日である日本人
なし
妊婦の集団において,葉酸栄養状態は良好に
2.実用新案登録
保たれていることを示唆するものである.
なし
英国人妊婦を対象とした調査では,赤血球
3.その他
なし
葉酸濃度は妊娠末期に 300 nmol/L 以下に低下
した
18)
.しかし,妊娠 20 週以降に 100 μg/日
のプテロイルモノグルタミン酸を補足すると,
H.引用文献
赤血球葉酸濃度を 300 nmol/L 以上に維持する
1.
ことが可能であった 18).日本人の食事摂取基
厚生労働省.日本人の食事摂取基準
(2010 年版),2009.
準(2010 年版)では,このデータに基づき,
2.
柴田克己,福渡努.平成 22 年度厚生労
プテロイルモノグルタミン酸を食事性葉酸に
働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿
換算した 200 μg/日が付加量(EAR)として策
病等生活習慣病対策総合研究事業),日
定された 1).先の英国人妊婦に 100 μg/日のプ
本人の食事摂取基準の改定と活用に資
テロイルモノグルタミン酸を補足した介入試
する総合的研究,平成 19 年度総括・分
験では,妊娠末期における赤血球葉酸濃度は
担研究報告書(研究代表者,徳留信寛).
約 420 nmol/L であった 18).100 μg/日以下の補
2011.
足量でも赤血球葉酸濃度を 300 nmol/L に維持
3.
Sasaki S, Yanagibori R, Amano K. Validity
できる可能性があるが,100 μg/日以下の量に
of a self-administered diet history
ついては検討されていない.本研究に参加し
questionnaire for assessment of sodium and
た日本人妊婦においては,
英国人とは異なり,
potassium: comparison with single 24-hour
妊娠末期の赤血球葉酸濃度の平均値は 300
urinary excretion. Jpn Circ J (1998) 62,
nmol/L を維持していた.この結果は限られた
431-435.
人数から得られたものであるため,対象者数
4.
Sasaki S, Yanagibori R, Amano K.
を増やす必要があるが,葉酸の付加量の策定
Self-administered diet history questionnaire
には本研究結果を始めとする新たな科学的根
developed for health education: a relative
拠を利用できる可能性が示された.
validation of the test-version by comparison
with 3-day diet record in women. J
Epidemiol (1998) 8, 203-215.
F.研究発表
5.
1.発表論文
なし
Sasaki S, Ushio F, Amano K, Morihara M,
Todoriki O, Uehara Y, Toyooka E. Serum
biomarker-based validation of a
2.学会発表
なし
self-administered diet history questionnaire
for Japanese subjects. J Nutr Sci Vitaminol
G.知的財産権の出願・登録状況(予定を含
(2000) 46, 285-296.
む)
6.
43
科学技術庁資源調査会編.日本食品成分
表の改定に関する調査報告-五訂増補
activity during pregnancy. Clin Chim Acta
日本標準食品成分表-大蔵印刷局,東京,
(1972) 41, 287-298.
2005.
7.
15. Lumeng L, Cleary RE, Li TK. Effect of oral
Rybak ME, Pfeiffer CM. Clinical analysis of
contraceptives on the plasma concentration
vitamin B6: determination of pyridoxal
of pyridoxal phosphate. Am J Clin Nutr
5-phosphate and 4-pyridoxic acid in human
(1974) 27, 326-333.
serum by reversed-phase high-performance
16. Herbert V. Experimental nutritional folate
liquid chromatography with chlorite
deficiency in man. Trans Assoc Am
postcolumn derivatization. Anal Biochem
Physicians (1962) 75, 307-320.
(2004) 333, 336-344.
8.
17. Milne DB, Johnson LK, Mahalko JR,
Aiso K, Tamura T. Trienzyme treatment for
Sandstead HH. Folate status of adult males
food folate analysis. Optimal pH and
living in a metabolic unit: possible
incubation time for alpha-amylase and
relationships with iron nutriture. Am J Clin
protease treatment. J Nutr Sci Vitaminol
Nutr (1983) 37, 768-773.
18. Chanarin I, Rothman D, Ward A, Perry J.
(1998) 44, 361-370.
9.
厚生労働省.日本人の食事摂取基準
Folate status and requirement in pregnancy.
(2005 年版),2004.
Br Med J (1968) 2, 390-394.
10. Leklem JE. Vitamin B6: A status report. J
Nutr (1990) 120, 1503-1507.
11. Food and Nutrition Board, Institute of
Medicine. Dietary Reference Intakes for
Thiamin, Riboflavin, Niacin, Vitamin B6,
Folate, Vitamin B12, Pantothenic Acid,
Biotin, and Choline. Washington, DC:
National Academy Press, 1998.
12. Reinken L, Dapunt O. Vitamin B6 nutriture
during pregnancy. Int J Vitminol Nutr Res
(1978) 48, 341-347.
13. Cleary RE, Lumeng L, Li TK. Maternal and
fetal plasma levels of pyridoxal phosphate at
term: adequacy of vitamin B6
supplementation during pregnancy. Am J
Obstet Gynecol (1975) 121, 25-28.
14. Hamfelt A, Tuvemo T. Pyridoxal phosphate
and folic acid concentration in blood and
erythrocyte aspartate aminotransferase
44
表1
サプリメントを摂取していない 152 名の身体的特徴および栄養素等摂取量
妊娠初期
妊娠中期
妊娠末期
産後 1 か月
39
48
37
28
年齢 (歳)
30.1 ± 5.1
29.4 ± 4.4
30.1 ± 4.4
32.3 ± 5.3
妊娠週数 (週)
10.8 ± 1.5a
27.6 ± 3.1b
36.4 ± 0.8c
―
159 ± 6
160 ± 5
160 ± 6
159 ± 7
人数
身長 (cm)
a
bc
b
54.3 ± 6.0ac
体重 (kg)
53.2 ± 10.4
BMI (kg/m2)
21.0 ± 4.3a
22.6 ± 2.1ab
24.0 ± 2.5b
21.5 ± 2.2a
エネルギー摂取量 (kcal/d)
1418 ± 552a
1591 ± 393ab
1770 ± 374bc
1939 ± 370c
たんぱく質摂取量 (%E 比)
12.5 ± 2.2
12.9 ± 1.7
12.7 ± 1.9
12.8 ± 1.6
a
b
b
28.4 ± 5.7ab
57.9 ± 7.0
61.5 ± 8.1
脂質摂取量 (%E 比)
25.3 ± 6.0
炭水化物摂取量 (%E 比)
61.5 ± 7.3a
56.3 ± 6.3b
56.0 ± 6.3b
57.8 ± 6.3ab
ビタミン B6 摂取量 (mg/d)
0.83 ± 0.73
0.82 ± 0.30
0.87 ± 0.24
1.02 ± 0.30
葉酸摂取量 (μg/d)
229 ± 161
231 ± 85
257 ± 82
296 ± 108
29.7 ± 5.9
30.3 ± 5.5
値は平均 ± 標準誤差として示した.
右肩の異なるアルファベット間において有意差がある(p < 0.05).検定は,一元配置分散
分析の後,Tukey-Kramer 法による多重比較を行った.
45
参加者数
275 名 (83, 91, 61, 40)
血漿 PLP,血漿葉酸濃度分析数
275 名 (83, 91, 61, 40)
食事調査なし
66 名 (20, 25, 13, 8)
食事調査あり
209 名 (63, 66, 48, 32)
サプリメント摂取
57 名 (24, 18, 11, 4)
サプリメント非摂取
152 名 (39, 48, 37, 28)
図1
血漿 PLP 濃度,血漿葉酸濃度の分析に関するデータ数の内訳
括弧内は左から妊娠初期,妊娠中期,妊娠末期,産後 1 か月の対象者数を示す.
46
参加者数
275 名 (83, 91, 61, 40)
赤血球サンプルなし
51 名 (15, 15, 12, 9)
赤血球葉酸濃度分析数
224 名 (68, 76, 49, 31)
食事調査なし
59 名 (19, 22, 12, 6)
食事調査あり
165 名 (49, 54, 37, 25)
葉酸サプリメント摂取
49 名 (19, 17, 9, 4)
葉酸サプリメント非摂取
116 名 (30, 37, 28, 21)
図2
血漿 PLP 濃度,血漿葉酸濃度の分析に関するデータ数の内訳
括弧内は左から妊娠初期,妊娠中期,妊娠末期,産後 1 か月の対象者数を示す.
47
図3
日本人妊婦および産後 1 か月の日本人女性における血漿 PLP 濃度.
(A) 血漿サンプルを得たすべての対象者,(B) サプリメントを摂取していない対象者,(C) サ
プリメント非摂取者 (白) および摂取者 (黒) を示した.対象者数は,妊娠初期,妊娠中期,妊
娠末期,産後 1 か月の順に,血漿サンプルを得たすべての対象者では 83,91,61,40,サプリ
メントを摂取していない対象者では 39,48,37,28,サプリメントを摂取した対象者では 24,
18,11,4 である.数値は平均±標準偏差として示した.(A),(B)において,一元配置分散分
析および Tukey 法による多重比較検定の結果,異なるアルファベット間で有意差がある (p <
0.05).(C) において,同時期のサプリメント摂取の有無による比較を二元配置分散分析により
行ったが,いずれに時期においても有意差は認められなかった.
48
図4
日本人妊婦および産後 1 か月の日本人女性における赤血球葉酸濃度.
(A) 血漿サンプルを得たすべての対象者,(B) サプリメントを摂取していない対象者,(C) サ
プリメント非摂取者 (白) および摂取者 (黒) を示した.対象者数は,妊娠初期,妊娠中期,妊
娠末期,産後 1 か月の順に,赤血球サンプルを得たすべての対象者では 68,76,49,31,サプ
リメントを摂取していない対象者では 30,37,28,21,サプリメントを摂取した対象者では
19,17,9,4 である.数値は平均±標準偏差として示した.(A),(B)において,一元配置分散
分析を行ったが,各時期間に有意差は認められなかった.(C) において,同時期のサプリメン
ト摂取の有無による比較を二元配置分散分析により行ったが,いずれに時期においても有意差
は認められなかった.
49
図5
日本人妊婦および産後 1 か月の日本人女性における血漿葉酸濃度.
(A) 血漿サンプルを得たすべての対象者,(B) サプリメントを摂取していない対象者,(C) サ
プリメント非摂取者 (白) および摂取者 (黒) を示した.対象者数は,妊娠初期,妊娠中期,妊
娠末期,産後 1 か月の順に,血漿サンプルを得たすべての対象者では 83,91,61,40,サプリ
メントを摂取していない対象者では 39,48,37,28,サプリメントを摂取した対象者では 24,
18,11,4 である.数値は平均±標準偏差として示した.(A),(B)において,一元配置分散分
析および Tukey 法による多重比較検定の結果,異なるアルファベット間で有意差がある (p <
0.05).(C) において,*は二元配置分散分析および Bonferroni 法による多重比較検定の結果,同
時期のサプリメント非摂取者との間に有無に有意差があることを示す (p < 0.05).
50
平成 23 年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)
日本人の食事摂取基準の改定と活用に資する総合的研究
研究代表者
徳留 信寛 国立健康・栄養研究所 理事長
Ⅱ.研究分担者の報告書
5.乳児のトリプトファン-ニコチンアミド転換率に関する課題
研究分担者
柴田 克己
滋賀県立大学人間文化学部
研究要旨
日本人の食事摂取基準 2010 年版では,0~5 ヵ月児においてはトリプトファンからニコチンア
ミドへの合成は無いとしてナイアシンの必要量が策定されている.これはラットにおいて生後週
齢が進むに従ってナイアシンの代謝産物の尿中排泄量が増加し,同様に肝臓中の Tryptophan
2,3-dioxygenase,Quinolinate phosphoribosyltransferase, Kynureninase といったトリプトファン-ナイ
アシン転換経路に関わる酵素の活性も増加することが報告されていることに基づいている.しか
しナイアシンの代謝産物の尿中排泄量には生物種による差異が報告されていることからも,ヒト
における乳児の成長を追ったトリプトファン-ナイアシン代謝産物排泄量を明らかにする必要が
ある.そこで 0 カ月~1 歳前後までの乳児の尿を集めトリプトファン代謝産物の尿中排泄量を測
定することで,
トリプトファンからニコチンアミドへの転換経路が 0~5 カ月児においても存在す
るかどうかを調査した.
本年度は 3 カ月~1 歳 4 カ月までの乳児の随時尿を 11 名分集め,トリプトファンとトリプトフ
ァン-ナイアシン転換経路の途中に位置する代謝産物の測定を行った.その結果,3 ヵ月齢の乳児
においてもトリプトファン-ナイアシン転換経路の中間代謝産物が検出され,0~5 ヵ月児におい
てもトリプトファンからナイアシンが合成されていることが示唆された.しかし今回集めた 11
名の対象者の中で,5 カ月齢以下の子供は 2 名だけであり,また随時尿であるため,0~5 カ月の
年齢層を中心にサンプルを集めて分析する必要がある.
51
は調査の目的,検査内容,個人情報の保護な
A.目的
日本人の食事摂取基準 2010 年版において,
どについて十分な説明を行い,インフォーム
0~5 ヵ月児のライフステージではトリプト
ド・コンセントを得ている.
ファンから作られるニコチンアミドは無い
2.分析
ものとしてナイアシンの必要量が策定され
ている.これは,ラットにおいて生後週齢が
進むに従ってナイアシンの代謝産物の尿中
排泄量が増加すること
1)
,肝臓中の
Tryptophan 2,3-dioxygenase ( TDO )
,
3,4)
Quinolinate
Kynureninase
2,3)
phosphoribosyltransferase
3,5)
,
といったトリプトファン-ナ
イアシン転換経路に関わる酵素の活性も週
乳児尿のトリプトファン-ナイアシン転換
経路に関係する代謝産物とトリプトファン
の含量を HPLC 法により測定した.測定物質
はトリプトファン(Trp)7),アンスラニル酸
(AnA)8),キヌレン酸(KA)9),キヌレニ
ン(Kyn)10),3-ヒドロキシキヌレニン(3-HK)
11)
,キサンツレン酸(XA)12),3-ヒドロキシ
アンスラニル酸(3-HA)12),キノリン酸(QA)
13)
,ニコチンアミド(Nam)14),N1-メチルニ
齢の増加に従って増加すること,更に TDO
コチンアミド(MNA)15),N1-メチル‐4‐ピ
活性が出産直後でほとんど検出されないこ
リドン‐3‐カルボキシアミド(4‐Py)14) ,
とに基づいている.しかしナイアシンの代謝
N1-メチル‐2‐ピリドン‐5‐カルボキシア
産物の尿中排泄量には生物種による差異が
ミド(2‐Py)14)の 12 種類である.
報告されていることからも 5)6),ヒトにおける
乳児の成長を追ったトリプトファン-ナイア
C.結果
シン代謝産物排泄量を明らかにする必要が
1.対象者の特徴
ある.そこで 0 カ月~1 歳前後までの乳児の
対象者の特徴を表 1 に示す.現段階での対
尿を集め,トリプトファン代謝産物の尿中排
象者の年齢層は 0~5 カ月 2 名,6~11 カ月 6
泄量を測定することで,トリプトファンから
名,12~17 カ月 3 名であった.0~5 カ月児
ニコチンアミドへの転換経路が 0~5 ヵ月児
は全て離乳食なし,6~11 カ月児は離乳食な
においても存在するかどうかを調査した.
し 1 名,あり 5 名,12~17 カ月児は離乳食な
し 1 名,経管栄養 2 名であった.男女比は 0
~5,6~11 カ月の年齢区分では半々であった
B.方法
が,12 カ月~17 カ月では男児のみであった.
1.対象者及びサンプルの採取
S 県 S 病院来院および入院中の乳児(0~17
本対象者は小児科の来院者と入院患者であ
カ月齢)のうち,保護者の同意の得られた子
るため,重症心身障害児 3 名を含む(0~5 ヵ
供を対象者とし,随時尿を採尿した.採取し
月 1 名,12~17 カ月 2 名).
た尿は分析までの間,-20℃で冷凍保存した.
2.分析結果
対象者の月齢,離乳食の有無,疾患の有無は
トリプトファン‐ニコチンアミド転換経
路の鍵物質であるキノリン酸(QA)は 0~5
カルテデータから抽出した.
なお,本研究は滋賀県立大学倫理審査委員
カ月児で 36.0 ± 37.7nmol/ml の濃度で検出さ
会において承認を得ており,対象者の両親に
れた(表 2).また,QA より上流に位置する
52
代謝産物も検出された.サンプル数が少ない
なし
ために有意差検定は行っていないが,トリプ
トファン-ナイアシン転換経路の特に上流に
H.知的財産権の出願・登録状況(予定を含
位置する代謝産物の尿中排泄量が,月齢の進
む)
行に従って一律に上昇することは無かった.
1.特許取得
参考として、トリプトファン-ニコチンアミ
ド経路を図 1 に示した.なお、この経路上の酵
なし
2.実用案登録
素活性がすべて検出されるのは肝臓のみで
ある.
なし
3.その他
なし
D.考察
これまで 0~5 カ月の乳児においては,トリ
プトファンからのナイアシンの合成は無い
と考えられてきた 1).しかし本研究ではトリ
I.引用文献
1.
Shibata K. Effects of ethanol feeding and
growth on the tryptophan-niacin metabolism
プトファン‐ニコチンアミド転換経路の鍵
物質であるキノリン酸を含む他の中間代謝
in rats. Agric Biol Chem (1990) 54,
産物が 3 カ月児において尿中に検出されたこ
2953-2959.
とから,5 カ月未満の乳児においてもトリプ
2.
Greengard O, Dewey HK. The prematurely
トファンからナイアシンが合成される可能
evoked synthesis of liver tryptophan
性が示唆された.
oxygenase. Proc Natl Acad Sci USA (1971)
68, 1698-1701.
3.
E.結論
和田英子,福渡努,木村尚子,北村潤子,
佐々木隆造,柴田克己. トリプトファン-
これまで 0~5 ヵ月の乳児においては,ト
リプトファンからのナイアシンの合成は無
ナイアシン代謝に関与する酵素活性か
いと考えられてきたが,本研究によって 5 ヵ
ら推定したラット乳児のトリプトファ
月未満の乳児においてもトリプトファンか
ン-ナイアシン転換率.ビタミン (2005)
らナイアシンが合成される可能性が示唆さ
79, 391-393.
4.
れた.
NishizukaY. Metabolic regulation and its
abnormalities in cancer cells, Tanpakushitsu
Kakusan Koso (in Japanese) (1970) 15,
F.健康危険情報
なし
370-388.
5.
Kawai J, Okuno E, Kido R. Organ
G.研究発表
distribution of rat kynureninase and changes
1.発表論文
of its activity during development. Enzyme
なし
(1988) 39, 181-189.
6.
2.学会発表
53
柴田克己,田口寛,榊原義之. 種々の哺
乳動物の尿中ナイアシン及びその代謝
3-Hydroxyanthranilic Acid in Urine. Biosci
産物の比較,ビタミン (1989) 63,
Biotechnol Biochem (1992) 56, 974.
369-372.
7.
13. Mawatari K, Oshida K, Iinuma F, Watanabe
Shibata K, Onodera M, Aihara S. High-
W. Determination of quinolinic acid by
performance liquid chromatographic
liquid chromatography with fluorimetric
measurement of tryptophan in blood, tissues,
detection. (1995) 302, 179-183.
14. Shibata K, Kawada T, Iwai K. Simultaneous
urine, and foodstuffs with electrochemical
8.
and fluorometric detections. Agric Biol
micro-determination of nicotinamide and its
Chem (1991) 55, 1475-1481.
major metabolites,
Shibata K, Onodera M. Measurement of
N1-methyl-2-pyridone-5-carboxamide and
3-hydroxyanthranilic acid and anthranilic
N1-methyl-4-pyridone-3-carboxamide, by
acid in urine by high-performance liquid
high-performance liquid chromatography. J
chromatography. Agric Biol Chem (1991)
Chromatogr (1988) 424, 23-28.
55: 143-148.
9.
15. Shibata K. Ultramicro-determination of
Shibata K. Fluorimetric micro-
N1-Methylnicotinamide in Urine by
determination of kynurenic acid, an
High-performance Liquid Chromatography
endogenous blocker of neurotoxicity, by
[in Japanese]. Vitamins (1987) 61, 599-604.
high-performance liquid chromatography. J
Chromatogr (1988) 430, 376-380.
10. Fukuwatari T, Ohta M, Sugimoto E, Sasaki
R, Shibata K. Effects of dietary
di(2-ethylhexyl)phthalate, a putative
endocrine disrupter, on enzyme activities
involved in the metabolism of tryptophan to
niacin in rats. Biochim Biophys Acta (2004)
1672, 67-75.
11. Shibata K, Onodera M. High-performance
liquid chromatographic determination of
3-hydroxykynurenine with fluorimetric
detection; comparison of preovulatory phase
and postovulatory phase urinary excretion. J
Chromatogr (1991) 570, 13-18.
12. Shibata K, Onodera M. Simultaneous
High-performance Liquid Chromatographic
Measurement of Xanthurenic Acid and
54
表 1. 対象者情報
月齢
人数
性別
0~5
2
男 1:女 1
6~11
6
男 3:女 3
12~17
3
男 3:女 0
*2 名は「ケトンフォーミュラ」を経管栄養により摂取
55
食事
離乳食なし:2
離乳食有:0
離乳食なし:1
離乳食有:5
離乳食なし:3*
表 2. トリプトファン-ニコチンアミド転換経路に関わる代謝産物の尿中含量
トリプトファン
アンスラニル酸
キヌレン酸
キヌレニン
3-ヒドロキシキヌレニン
キノリン酸
キサンツレン酸
3-ヒドロキシアンスラニル酸
ニコチンアミド
N1-メチルニコチンアミド
N1-メチル-2-ピリドン-5-カルボキサミド
N1-メチル-4-ピリドン-3-カルボキサミド
SUM*1
0~5 カ月
40.3±47.5
0.61±0.52
0.064±0.058
4.71±5.20
0.11±0.10
36.0±37.7
1.17±0.97
2.40±2.79
0.00±0.00
43.5±12.3
34.6±44.8
4.40±6.00
82.5±63.1
6~11 カ月
35.4±25.5
0.59±0.26
0.044±0.029
2.57±2.07
0.066±0.05
31.2±24.9
0.36±0.73
2.69±2.06
0.00±0.00
51.2±29.6
47.8±24.8
6.23±3.78
105.1±57.1
12~17 カ月
26.5±23.8
1.50±1.76
0.036±0.022
2.66±2.38
0.018±0.030
15.0±11.6
0.10±0.13
0.67±0.95
0.37±0.64
37.3±29.9
49.9±30.4
6.24±3.94
93.8±64.5
値は nmol/mL 尿で表し,平均値 ± 標準偏差で示した.
*1SUM はニコチンアミド,
N1-メチルニコチンアミド,
N1-メチル-2-ピリドン-5-カルボキサミ
ドおよび N1-メチル-4-ピリドン-3-カルボキサミドの合計値.
56
図 1.
トリプトファン-ニコチンアミド経路を中心としたトリプトファン代謝経路
5-HIAA=5-ヒドロキシインドール-3-酢酸,ACMS=α-アミノ-β-カルボキシムコン酸-ε-セミアル
デヒド,AMS=α-アミノムコン酸-ε-セミアルデヒド,MNA=N1-メチルニコチンアミド, 2-Py
=N1-メチル-2-ピリドン-5-カルボキサミド,4-Py=N1-メチル-4-ピリドン-3-カルボキサミド,
NMN=ニコチンアミドモノヌクレオチド.
57
平成 23 年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)
日本人の食事摂取基準の改定と活用に資する総合的研究
研究代表者
徳留 信寛 国立健康・栄養研究所 理事長
Ⅱ.研究分担者の報告書
6.妊娠期の鉄必要量を再考するための鉄栄養状態の検討
研究分担者
上西 一弘
女子栄養大学栄養生理学研究室
研究要旨
現在使用されている日本人の食事摂取基準 2010 年版では、妊娠期の鉄付加量は初期 2.5 mg、
中期・末期 15.0 mg とされており、中期・末期の付加量を摂取することは難しい。本研究では
妊婦の鉄摂取量の実態と、妊娠期間中の鉄栄養状態を縦断的に検討した。その結果、妊婦の鉄
摂取量は全期間を通して約 7 mg であり、付加量を含む推奨量よりも少ない値であった。ヘモ
グロビンや赤血球数、フェリチンは初期から中期、末期にかけて低下するものの、MCV や MCH
は低下せず、循環血液量が増加することによる血液の希釈の影響が大きいと考えられた。
骨骨量、血液検査、食物摂取頻度調査(出産
A.目的
現在使用されている日本人の食事摂取基
時を除く)を実施した。妊娠初期、中期、末
準 2010 年版では、妊娠期の鉄付加量は初期
期は秤量又は目安量記録法および写真記録法
2.5 mg、中期・末期 15.0 mg とされており、
による食事調査を行った。
中期・末期には 21.0 mg(18~29 歳)、21.5 mg
(30~49 歳)の鉄摂取が必要となる。この値
C.結果
は、日本人の食生活から考えて実現すること
登録時の平均年齢は 31.7±3.7 歳、身長は
が難しい値である。
158.9±4.6 cm、体重は 51.5±6.4 であった。
本研究では妊婦の鉄の必要量を再考する
BMI が 18.5 未満の者が 23.3%、25 以上の者が
ために、妊婦の鉄摂取量の実態と、妊娠期
4.9%存在した。
間中の鉄栄養状態を縦断的に検討した。
鉄摂取量は妊娠初期 6.6 mg[5.4~9.5 mg]
(中央値[25~75 パーセンタイル])、中期
B.方法
6.8 mg[5.9~9.4 mg]、末期 6.7 mg[5.7~8.5
横浜市の産科に通院する妊婦 160 名を対象
mg]、産後 1 ヶ月 7.0 mg[6.0~8.7 mg]であ
に妊娠初期(登録時、妊娠 5~12 週)、中期
った。
(妊娠 24 週)、末期(妊娠 34 週)出産時(出
表 1 に調査期間中の血液検査データと鉄剤
産後 2~3 日)産後 1 ヶ月に、身長、体重、踵
の処方率を示した。
58
鉄剤の処方率は妊娠初期から中期にかけ
て 2.9%、中期から末期にかけて 25.2%、末期
から出産時にかけて 41.7%、出産後から産後
E.結論
妊娠期の鉄栄養状態を鉄摂取量、血液中の
1 ヶ月にかけて 7.8%であった。
鉄関連項目を用いて検討した。
図 1 に調査期間中の鉄剤の服用別のヘモグ
ロビン濃度の変動を示した。初期から出産時
ヘモグロビンや赤血球数、フェリチンは
にかけて低下したが、産後 1 ヶ月目には初期
初期から中期、末期にかけて低下するもの
の値に回復していた。
の、MCV や MCH は低下せず、循環血液量
が増加することによる血液の希釈の影響が
図 2 に鉄剤の服用別のフェリチン値の変動
大きいと考えられた。
を示した。ヘモグロビン同様の変動を示して
いたが、産後 1 ヶ月目では初期の値までは回
復していなかった。
F.研究発表
図 3 に妊娠初期から産後 1 ヵ月の MCV・
1.発表論文
なし
MCH の変動を示した。ヘモグロビンやフェ
リチンのような有意な低下はみられなかった。
2.学会発表
渡辺優奈、上西一弘、石田裕美、善方裕美.
妊娠初期の鉄摂取量と鉄栄養状態の実態
D.考察
ヘモグロビンや赤血球数、フェリチンは
第 58 回日本栄養改善学会学術総会、広島.
初期から中期、末期にかけて低下するもの
2011. 9. 9
の、MCV や MCH は低下せず、循環血液量
が増加することによる血液の希釈の影響が
G.知的財産権の出願・登録状況(予定を含
大きいと考えられた。
む)
現在、可溶性トランスフェリンレセプター
1.特許取得
の測定を実施中であり、その結果とフェリチ
なし
ンの結果を用いることによって、体内の総鉄
2.実用新案登録
含量を推定できるとされている。妊娠期間中
なし
の総鉄含量の推移を見ることで、妊娠期の鉄
3.その他
必要量の妥当性を検討できると考えられる。
なし
59
60
7900
423
12.5
38.1
90.1
29.7
32.8
4
(×10 /μL) 24.6
(g/dL)
4.4
(μg/dL)
96
(ng/mL) 30.9
(×104/μL)
(g/dL)
(%)
(fL)
(pg)
(%)
(/μL)
[
±
±
±
±
[
[
±
[
[
[
6300
31
0.9
2.6
3.9
28.7
32.3
4.7
4.2
72
14.5
~ 4.5
~ 119
~ 48.9
a
~ 30.6
~ 33.3
a
a,b,c,d
a,b,c
a,b,c,d
]
]
]
]
]
~ 8800 ]
妊娠初期
a,b,c,d
a,b,c
a,b,c
a,b,c,d
a,b,c,d
a,b,c
[ 7000 ~ 9700
±
30 a,e
± 0.7 a,d,e,f
± 2.2 a,e
± 4.3 a,b,c,d
[ 29.5 ~ 31.5
[ 31.7 ~ 32.8
± 4.4 b
[ 3.5 ~ 3.8
[
50 ~ 102
[ 4.6 ~ 12.8
a,b
妊娠初期~妊娠中期
8400
369
11.2
34.6
94.0
30.4
32.2
24.6
3.7
79
6.0
妊娠中期
(n(%))
3 ( 2.9 )
鉄剤の処方率
平均±標準偏差
中央値[25~75パーセンタイル]
1)
妊娠初期,中期,末期,出産時,産後1ヵ月の期間差
2)
期間差:Friedmanの検定,多重比較:Wilcoxonの符号付き順位検定(Bonferroniの補正)
3)
期間差:反復測定による分散分析,多重比較:Bonferroniの検定
4)
期間差:χ2検定,多重比較:χ2検定(Bonferroniの補正)
a-j 同一記号間に有意差あり(p <0.05)
4)
白血球数(WBC)
赤血球数(RBC)3)
ヘモグロビン(Hb)3)
3)
ヘマトクリット(Ht)
MCV3)
MCH2)
2)
MCHC
3)
血小板数
アルブミン(Alb)2)
血清鉄2)
2)
フェリチン
2)
表1.妊娠期および産後1ヵ月までの血液検査データと鉄剤の処方率
]
]
]
]
]
]
a,e,f,g
a,d,e,f
a,d,e,f
a,e,f,g
a,e,f,g
a,d,e
[ 6600 ~ 9300
±
30 b,f
± 0.9 b,d,g
± 2.5 b,f
± 5.5 b,e
[ 27.9 ~ 30.2
[ 31.4 ~ 32.5
± 4.9 c
[ 3.4 ~ 3.6
[
35 ~ 62
[ 4.0 ~ 6.8
26
( 25.2 )
a,c
妊娠中期~妊娠末期
8000
375
10.8
33.9
90.7
29.2
32.0
23.8
3.5
47
5.0
妊娠末期
]
]
]
]
]
]
b,e,h,i
b,d,g
b,d,g,h
b,e,h,i
b,e,h,i
d,f,g
[ 7000 ~ 10500
±
41 c,g
± 1.1 c,e,h
± 3.7 c,g
± 4.8 c,f
[ 27.2 ~ 29.9
[ 30.9 ~ 32.2
± 4.7 d
[ 3.1 ~ 3.4
[
42 ~ 71
[ 7.0 ~ 19.6
43
( 41.7 )
b,d
妊娠末期~出産時
8700
374
10.7
33.8
90.4
28.5
31.6
24.7
3.3
57
11.1
出産時
]
]
]
]
]
]
c,f,h,j
c,e,h
c,e,g,i
c,f,h
c,f,h,j
b,f,h
[ 4500 ~ 5600
±
33 d,e,f,g
± 0.9 f,g,h
± 2.4 d,e,f,g
± 4.6 d,e,f
[ 27.1 ~ 29.5
[ 31.0 ~ 32.1
± 5.2 a,b,c,d
[ 4.2 ~ 4.5
[
68 ~ 124
[ 8.2 ~ 29.1
8
(
7.8 )
c,d
出産後~産後1ヵ月
5000
441
12.4
39.3
89.2
28.4
31.6
25.9
4.4
97
16.6
産後1ヵ月
]
]
]
]
]
]
図1 鉄剤の服用別のヘモグロビン濃度の変動
14.0
処方0回
中期・末期に1回
13.0
末期・出産時に1回
12.0
全期間を通し2-3回
11.0
10.0
9.0
8.0
初期
中期
末期
出産時
産後 1ヵ月
図2 鉄剤の服用別のフェリチン値の変動
60.0
処方0回
中期・末期に1回
50.0
末期・出産時に1回
40.0
全期間を通し2-3回
30.0
20.0
10.0
0.0
初期
中期
末期
出産時
61
産後 1ヵ月
図3.妊娠初期から産後1ヵ月のMCV・MCHの変動
100
35
33
95
31
90
29
MCH
85
27
80
25
初期
中期
末期
出産時
[基準範囲]MCV:79.0~100.0fL,MCH:26.3~34.3pg(SRLの値)
62
産後1ヶ月
MCH(pg)
MCV(fL)
MCV
平成 23 年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)
日本人の食事摂取基準の改定と活用に資する総合的研究
研究代表者
徳留 信寛 国立健康・栄養研究所 理事長
Ⅱ.研究分担者の報告書
7.妊産婦における栄養摂取と骨密度に関する研究
研究分担者
森田 明美
国立健康・栄養研究所栄養疫学研究部
研究協力者
今井 絵理
国立健康・栄養研究所栄養疫学研究部
研究協力者
上西 一弘
女子栄養大学栄養生理学研究室
研究協力者
五関 正江
日本女子大学
研究協力者
田辺 里枝子 日本女子大学
研究要旨
日本人の食事摂取基準(2010 年版)において、カルシウムは妊娠・授乳期の付加量の必要がな
いとされている。妊娠・授乳期に女性の骨代謝動態は大きく変化するが、基本的にはカルシウム
を付加しなくとも、妊娠前の状態に復帰すると言われているためである。しかしながら、もとも
とカルシウムやビタミン D などの摂取量が低い日本女性において、このような回復傾向が見られ
るかは確認されていない。したがって、本研究では妊娠・授乳期の骨代謝動態と栄養摂取状況や
妊娠・出産などとの関連を調査分析し、現在の妊婦・授乳婦に対する食事摂取基準が適切かどう
かを検証することを目的とした。本年度 7 月より、池袋保健所管内在住の妊婦・授乳婦で、保健
所での健診等受診者に参加を呼びかけ、池袋保健所および国立健康・栄養研究所で調査を実施し、
12 月末までに 276 名の参加者を得た。池袋保健所での乳児健診・3 歳児健診受診者中の本研究参
加者の分析結果では、踵骨の骨量は両健診受診者間で差はなく、若年女性平均よりやや低い値で
ある可能性が示された。現在、調査・分析とも継続実施中である。
A.目的
かどうかについても、明らかな日本人でのエ
妊娠・授乳期に女性の骨代謝動態は大きく
ビデンスは存在しない。本研究では、これら
変化するが、基本的には必要な栄養などを十
を明らかにし、将来の骨粗鬆症予防も含めた
分に摂取しておれば妊娠前の状態に復帰する、
女性の骨の健康を保つための、妊娠・授乳期
と言われている。しかしながら、もともとカ
の適切な栄養摂取のあり方を検討する。
ルシウムやビタミンDなどの摂取量が低い日
以上のような事を踏まえ、本研究では、
本女性において、このような回復傾向が見ら
① 池袋保健所における、乳児健診・3 歳児健
れるかは確認されていない。したがって、現
診受診者の母親に対する、超音波骨量測定
在の妊娠・授乳期の各栄養素摂取量が適当
と栄養摂取および妊娠・出産状況調査
63
② 国立健康・栄養研究所における、池袋保健
3.問診
所管内および周辺在住の妊産婦に対する、
アンケートによる産科婦人科既往歴、月経
超音波および DXA による骨密度測定と最
状況、
授乳状況、
サプリメントや薬剤の服用、
近 1 か月間の栄養摂取状況および妊娠・出
基本的生活習慣(食事、運動、飲酒、喫煙)
産状況調査を実施する。
などの把握
これらの調査により、妊産婦の骨密度の変
化と栄養摂取状況、栄養摂取や妊娠・出産状
4.血液・尿検査(健康・栄養研実施調査の参
況が骨密度にどう関連するのかを明らかにし、
加者のみ)
基本的生化学指標および骨代謝関連指標を
妊産婦に対する現在の食事摂取基準が適切で
実施
あるかどうかを検討することを目的とした。
なお、本研究は日本女子大学食物学科栄養
B.方法
学研究室五関正江教授および研究室メンバー
妊娠前若年女性、妊娠初期、出産後・授乳
との共同研究である。
期(1 か月、3 か月、6 か月、12 か月)、授乳
終了後(1 歳 6 か月)の女性の、骨密度(超
音波・DXA)と、栄養摂取状況を横断的・縦
C.結果
調査は、2011 年 7 月から開始した。2011
断的に調査する。
年 12 月末現在で、保健所調査 264 名、健康・
栄養研究所調査 12 名の参加を得た。
参加者に
対象者の募集:池袋保健所で実施されてい
ついて表 1 に示す。
る、若年女性骨密度健診、母子手帳交付、妊
調査結果については、
現在分析中であるが、
婦教室、妊婦健診、乳児健診、3 歳児健診の
時点で、本研究に関するパンフレットを配布
池袋保健所での調査について、2011 年 12 月
し、参加者を募集した。
末までの現状を以下に述べる。
1.骨密度測定
1.参加者の基本的特性
超音波法(A-1000InSight)による踵の骨量
年齢は乳児健診・3 歳児健診受診者とも、
(スティフネス値)(池袋保健所もしくは健
平均で 30 歳を越えていたが、
乳児健診受診者
康・栄養研で実施)
の方が若年であった。身長・体重・BMI 等に
は差がなかった(表 2)。
DXA 法(QDR4500)による腰椎および大
腿骨頸部の骨密度(健康・栄養研で実施)
2.超音波骨密度調査
スティフネス値は、乳児健診より 3 歳時健
2.栄養調査
診受診者が平均ではわずかに高値であったが、
上西らの開発した食物摂取頻度調査票を
用いた、最近 1 カ月間のカルシウム・ビタミ
有意な差はなかった(表 2)。また若年成人
ンDなど骨代謝関連栄養素の摂取量を推定し
女性の平均と比べると、およそ 90%程度であ
た。
りやや低い値が示された。
3.妊娠・出産状況等調査
64
月経については、乳児健診受診者はまだ出
F.研究発表
産直後であり、授乳中のものも多く、8 割以
1.発表論文
上が出産後再開していなかった。また、乳児
なし
健診受診者の方が、3 歳時健診受診者に比べ、
2.学会発表
健診対象児が第 1 子である者が多かった。児
なし
の栄養法については、乳児健診受診者で「主
に母乳」という回答が多かったが、これはま
G.知的財産権の出願・登録状況(予定を含
だ出産後間もないため、今後栄養法が変化し
む)
ていく可能性も考えねばならない。骨折歴や
1.特許取得
産婦人科手術歴には、乳児健診・3 歳時健診
なし
受診者で差がなかった(表 3)。
2.実用新案登録
なし
4.生活習慣等調査
3.その他
この項目は栄養摂取状況調査と同時に解
なし
析しているため、まだ 100 名程度の解析結果
にとどまる(表 3)。飲酒・喫煙・欠食の習
慣のある者は少なく、サプリメントの服用は
7~8 割程度の者に見られた。
5.栄養摂取状況調査
栄養摂取については、まだ解析が 100 名程
度しか進んでおらず、明らかな傾向は不明で
あるが、カルシウムの摂取量は平均で 400 mg
台、鉄も 7~8 mg とやや低い可能性が示され
た。今後分析を続ける予定である。
D.考察
本年度途中から調査を開始したため、まだ
十分な結果を示せるような状態ではなく、ま
た縦断的な調査・分析も開始していない状況
である。今後の調査の継続・分析が必要不可
欠であるが、踵骨骨量が果たして回復するの
か、栄養摂取量が食事摂取基準よりかなり少
ない状況であっても問題がないのか、といっ
た部分に着目し、分析しなければならないと
考えられる。
65
表 1 妊産婦調査参加人数
乳児健診
池袋保健所
3 歳児健診
194
妊娠中
健康・栄養研究所
70
出産後
5
若年女性
6
1
表 2 参加者の基本特性
乳児健診
3 歳児健診
年齢(歳)
32.3 ±
4.7
36.2 ±
4.5
身長 (cm)
158.9 ±
5.7
158.4 ±
4.8
体重(kg)
52.3 ±
6.2
52.1 ±
7
BMI (kg/m2)
20.7 ±
2.4
20.7 ±
2.5
踵骨骨量(スティフネス値)
82.5 ±
15.0
84.3 ±
14.4
(平均±標準偏差)
表 3 参加者の問診調査結果
乳児健診
3 歳児健診
人数
%
人数
%
あり
32
16.5
64
91.4
なし
162
83.5
5
7.1
初産
164
84.5
46
65.7
経産
30
15.5
23
32.9
児の栄養法
母乳
158
81.4
45
64.3
(主な物)
人工乳
17
8.8
13
18.6
両方同等
19
9.8
11
15.7
あり
49
25.5
16
22.9
なし
143
74.5
54
77.1
あり
27
13.9
8
11.4
なし
167
86.1
62
88.6
あり
66
93.0
15
62.5
なし
5
7.0
9
37.5
吸わない
56
78.9
17
70.8
以前吸っていた
12
16.9
6
25.0
吸う
3
4.2
1
4.2
あり
18
25.4
5
20.8
なし
53
74.6
19
79.2
はい
57
80.3
21
87.5
いいえ
14
19.7
3
12.5
現在の月経
初産
骨折経験
産婦人科手術歴
飲酒
喫煙
サプリメント使用
3 食食べる
66
平成 23 年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)
日本人の食事摂取基準の改定と活用に資する総合的研究
研究代表者
徳留 信寛 国立健康・栄養研究所 理事長
Ⅱ.研究分担者の報告書
8. わが国の地域在住後期高齢者の食事摂取基準の検討
-介護予防:二次予防事業対象者の特性把握-
研究分担者
吉田 英世
東京都健康長寿医療センター研究所
研究分担者
森田 明美
国立健康・栄養研究所栄養疫学研究部
研究要旨
本研究は、わが国の食事摂取基準(高齢者)の後期高齢者における妥当性の検討
と、併せて、介護予防事業下での二次予防事業対象者の栄養摂取状況を明らかにす
ることを目的とした。
対象者は、群馬県 T 村の住民健診受診者(平成 23 年 4 月中旬)のうち、75 歳以
上の高齢者に対して同年 6 月上旬に実施した健診結果説明の参加者である。栄養調
査は、健診説明会会場にて、管理栄養士、栄養士による面接聞き取り方式より、
BDHQ(簡易型自記式食事歴法質問票)を用いて行った。また、介護予防事業にお
ける二次予防事業対象者の把握として「基本チェックリスト」を実施した。
その結果、地域在住の後期高齢者における摂取栄養素は、三大栄養素のみならず、
ビタミンやミネラルにおいても、一部の栄養素を除き、食事摂取基準に示されてい
る各栄養素の「必要量・推奨量・目安量・目標量」をほぼ満たし、75 歳以上の高
齢者においても 2010 年版の日本人高齢者の食事摂取基準が支持される結果であっ
た。また、介護予防事業における「二次予防事業対象者」の摂取栄養素の特性とし
て、特に男性においては、
「植物性たんぱく質」
、「ビタミン K」、
「カルシウム」の
栄養素が、非対象者に比べて少ないことが明らかとなった。
この基準の設定が妥当であるかどうか検討す
A.目的
わが国の高齢者の食事摂取基準は、70 歳以
る必要性が問われている。
上の高齢者を対象として、男女ごと各栄養素
また、わが国の介護予防事業は、要支援状
別に、
「必要量・推奨量・目安量・目標量」が
態・要介護状態ではないがその可能性がある
示されている。
と考えられる高齢者を対象に「二次予防事業
しかしながら、今後、75 歳以上の高齢者が
増加していくなかで、後期高齢者においても
67
(介護予防プログラム)
」が行われている。こ
の二次予防対象者は、生活機能低下(虚弱)、
運動機能低下、低栄養、口腔機能低下に該当
動物性脂質(g/日)、植物性脂質(g/日)
、飽
した高齢者であり、75 歳以上ではその対象者
和脂肪酸(g/日)
、飽和脂肪酸(%エネルギー)、
がより多い。そして、この二次予防対象者に
n-6 系脂肪酸(g/日)
、n-6 系脂肪酸(%エネル
対しては、運動機器の向上プログラム、栄養
、n-3 系脂肪酸(g/日)
、コレステロール
ギー)
改善プログラムや口腔機能の向上プログラム
(mg/日)
、炭水化物(g/日)
、炭水化物(%エ
などが用意されている。これらの各プログラ
、ビタミン A(μg/
ネルギー)
、食物繊維(g/日)
ム参加者の特性把握として、運動、栄養面の
日)
、ビタミン D(μg/日)
、ビタミン E(mg/
状況把握は必要不可欠であると考えられるが、
日)
、ビタミン K(μg/日)
、ビタミン B1(mg/
目下のところ運動機能はかなり把握されてい
日)
、ビタミン B(mg/日)
、ナイアシン(mgNE/
2
るが、日常の食事摂取状況にあまり捉えられ
、ビタミン B6(mg/日)
、ビタミン B12(μg/
日)
ていない現状がある。
日)、葉酸(μg/日)、パンテノン酸(mg/日)、
そこで、本研究の目的は、第一にわが国の
ビタミン C(mg/日)
、食塩相当量(g/日)
、カ
食事摂取基準(高齢者)の設定が後期高齢者
リウム(mg/日)
、カルシウム(mg/日)
、マグ
において妥当であるかを検討すること、第二
ネシウム(mg/日)、リン(mg/日)、鉄(mg/
に、介護予防事業下での二次予防事業対象者
日)、亜鉛(mg/日)、銅(mg/日)、マンガン
の栄養摂取状況を明らかにすることである。
(mg/日)
この他の健診調査項目は、身長、体重、血
B. 方法
圧、現症、既往歴、血液検査;貧血(RBC、
1.対象者
Hb、Ht)、肝機能、血清脂質(HDL、LDL、
群馬県 T 村の住民健診受診者(平成 23 年 4
月中旬)のうち、75 歳以上の高齢者に対して
同年 6 月上旬に実施した健診結果説明の参加
者である。
TG)
、糖(随時血糖、HbA1c)
、アルブミン、クレアチ
ニン、尿酸、尿検査(蛋白、糖)である。
介護予防事業における二次予防事業対象者
の把握として「基本チェックリスト(25 項
目)
」を実施した。
2.調査項目
健診説明会会場にて、管理栄養士、栄養士
3.解析方法
による面接聞き取り方式より、BDHQ(簡易
解析対象者は、栄養調査実施者のうち、要
型自記式食事歴法質問票)を用いて栄養調査
介護保険に認定されていない者で、健診での
を実施した。
基本チェックリストが完全回答されている
わが国の食事摂取基準(高齢者)に記され
323 名である。このうち男性は 147 名、平均
ている栄養素のうち、BDHQ で把握された栄
年齢 80.1±4.3 歳であり、女性は 176 名、平均
養摂取量(栄養素;38 項目)である。
年齢 80.2±4.3 歳であった。
<栄養素;38 項目一覧>
1)栄養摂取量の検討
エネルギー(kcal/日)
、たんぱく質(g/日)
、
男女別に、BDHQ 法によって把握された栄
動物性たんぱく質(g/日)
、植物性たんぱく質
養摂取量(栄養素)を、わが国の高齢者(70
(g/日)
、脂質(g/日)
、脂質(%エネルギー)
、
歳以上)の食事摂取基準(2010 年版)と比較
68
した。
目標量(10 未満)の範囲内であった。
2)介護予防事業における二次予防事業の対象
⑤n-3 系脂肪酸(g/日)は、3.7 g/日で、
者の栄養摂取量の検討
目標量(2.2 以上)の範囲内であった。
基本チェックリストによって把握され「二
⑥コレステロール(mg/日)は、492 mg/日で、
次予防事業の対象者」の栄養摂取量の特性を
目標量(750 mg/日未満)の範囲内であった。
探るために、二次予防事業の非対象者と比較
◆炭水化物
検討した。
①炭水化物(%エネルギー)は、54.8%
統計学的検討として、分散分析により、特
で、目標量(50 以上、70 未満)の範囲内であ
定高齢者の有無を固定因子として、従属変数
った。
に各栄養素、共変量に年齢を投入したモデル
②食物繊維(g/日)は、16.5 g/日で、目標量
を用いた。
(19 以上)を下回っていた。
◆ビタミン(脂溶性)
①ビタミン A(μg/日)は、1036 μg/日で、推
(倫理面への配慮)
調査参加者の個人情報保護のために、デー
奨量(800 μg/日)を上回っていた。
タには個人名はなく、データ解析用に設定さ
②ビタミン D(μg/日)は、22.2 μg/日で、目
れた番号のみを用いてデータの連結ならびに
安量(5.5 μg/日)をかなり上回っていた。
統計解析を行った。
③ビタミン E(mg/日)は、9.4 mg/日で、
目安量(7.0 mg/日)を上回っていた。
C.結果
④ビタミン K(μg/日)は、394 μg/日で、目安
1)栄養摂取量の検討
量(75μg/日)をかなり上回っていた。
(1)男性・・・表 1-1
◆ビタミン(水溶性)
◆エネルギー
①ビタミン B1(mg/日)は、1.0 mg/日で、推
エネルギー摂取量は、2210 kcal/日で、必要
奨量(1.2 mg/日)を下回っていた。
推奨量 2200 kcal/日を満たしていた。
②ビタミン B2(mg/日)は、1.7 mg/日で、推
◆たんぱく質
奨量(1.3 mg/日)を上回っていた。
たんぱく質(g/日)は、89.6 g/日で、推奨
③ナイアシン(mgNE/日)は、21 mgNE/日で、
量(60 g/日)をかなり上回っていた。
推奨量(13 mgNE/日)を上回っていた。
◆脂質
④ビタミン B6(mg/日)は、1.7 mg/日で、推
①脂質(%エネルギー)は、25.6%で、目標量
奨量(1.4 mg/日)を上回っていた。
(20 以上、25 未満)の範囲を越えていた。
⑤ビタミン B12(μg/日)は、14.1 μg/日で、推
②飽和脂肪酸(%エネルギー)は、6.5%
奨量(2.4 μg/日)をかなり上回っていた。
で、目標量(4.5 以上、7.0 未満)の範囲内で
⑥葉酸(μg/日)は、491 μg/日で、推奨量(240
あった。
μg/日)をかなり上回っていた。
③n-6 系脂肪酸(g/日)は、12.6 g/日で、目安
⑦パンテノン酸(mg/日)は、8.3 mg/日で、
量(8 g/日)を上回っていた。
目安量(6 mg/日)を上回っていた。
④n-6 系脂肪酸(%エネルギー)は、5.1%で、
⑧ビタミン C(mg/日)は、168 mg/日で、推
69
奨量(100 mg/日)を上回っていた。
(20 以上、25 未満)の範囲を越えていた。
◆ミネラル(多量)
②飽和脂肪酸(%エネルギー)は、7.0%
①食塩相当量(g/日)は、13.6 g/日で、目標
で、目標量(4.5 以上、7.0 未満)をわずかに
量(9.0 g/日未満)の範囲を越えていた。
越えていた。
②カリウム(mg/日)は、3381 mg/日で、
③n-6 系脂肪酸(g/日)は、10.8 g/日で、目安
目安量(2500 mg/日)を越えていた。
量(7 g/日)を上回っていた。
③カルシウム(mg/日)は、698 mg/日で、
④n-6 系脂肪酸(%エネルギー)は、5.3%で、
推奨量付近(700 mg/日)であった。
目標量(10 未満)の範囲内であった。
④マグネシウム(mg/日)は、334 mg/日で、
⑤n-3 系脂肪酸(g/日)は、3.2 g/日で、
推奨量(320 mg/日)を上回っていた。
目標量(1.8 以上)の範囲内であった。
⑤リン(mg/日)は、1377 mg/日で、目安量(1000
⑥コレステロール(mg/日)は、437 mg/日で、
mg/日)を上回っていた。
目標量(600 mg/日未満)の範囲内であった。
◆ミネラル(微量)
◆炭水化物
①鉄(mg/日)は、10.8 mg/日で、推奨量(7.0
①炭水化物(%エネルギー)は、55.2%
mg/日)を上回っていた。
で、目標量(50 以上、70 未満)の範囲内であ
②亜鉛(mg/日)は、10.3 mg/日で、推奨量(11
った。
mg/日)をやや下回っていた。
②食物繊維(g/日)は、15.3 g/日で、目標量
③銅(mg/日)は、1.6 mg/日で、推奨量(0.8 mg/
(17 以上)を下回っていた。
日)を上回っていた。
◆ビタミン(脂溶性)
④マンガン(mg/日)は、4.8 mg/日で、目安
①ビタミン A(μg/日)は、921 μg/日で、推奨
量(4.0 mg/日)を上回っていた。
量(650 μg/日)を上回っていた。
以上より、
推奨量を下回っていた栄養素は、
②ビタミン D(μg/日)は、20.2 μg/日で、目
「ビタミン B1」と「亜鉛」であった。また、
安量(5.5 μg/日)をかなり上回っていた。
目標量(上限)を超えていた栄養素は、
「脂質
③ビタミン E(mg/日)は、8.7 mg/日で、
(%エネルギー)
」と「食塩相当量」であり、
目安量(6.5 mg/日)を上回っていた。
一方、目標量を下回っていた栄養素は、
「食物
④ビタミン K(μg/日)は、353 μg/日で、目安
繊維」であった。
量(65 μg/日)をかなり上回っていた。
(2)女性・・・表 1-2
◆ビタミン(水溶性)
◆エネルギー
①ビタミン B1(mg/日)は、0.9 mg/日で、推
エネルギー摂取量は、1834 kcal/日で、必要
奨量付近(0.9 mg/日)であった。
推奨量 1700 kcal/日を十分に満たしていた。
②ビタミン B2(mg/日)は、1.5 mg/日で、推
◆たんぱく質
奨量(1.0 mg/日)を上回っていた。
たんぱく質(g/日)は、78.3 g/日で、推奨
③ナイアシン(mgNE/日)は、18 mgNE/日で、
量(50 g/日)をかなり上回っていた。
推奨量(10 mgNE/日)を上回っていた。
◆脂質
④ビタミン B6(mg/日)は、1.5 mg/日で、推
①脂質(%エネルギー)は、26.9%で、目標量
奨量(1.1 mg/日)を上回っていた。
70
⑤ビタミン B12(μg/日)は、11.9 μg/日で、推
二次予防事業対象者は、二次予防事業非対
奨量(2.4 μg/日)をかなり上回っていた。
象者に比べて、すべての栄養素の摂取量が少
⑥葉酸(μg/日)は、441 μg/日で、推奨量(240
なかった。なかでも、
「植物性たんぱく質」、
μg/日)をかなり上回っていた。
「ビタミン K」、
「カルシウム」の二次予防事
⑦パンテノン酸(mg/日)は、7.5 mg/日で、
業対象者の摂取量が、二次予防事業非対象者
目安量(5 mg/日)を上回っていた。
「植物性脂
に比べて有意に少なく(p < 0.05)、
⑧ビタミン C(mg/日)は、163 mg/日で、推
質」、
「n-6 系脂肪酸」、
「n-3 系脂肪酸」、
「マグ
奨量(100 mg/日)を上回っていた。
ネシウム」、
「リン」、
「鉄」
、
「亜鉛」および「銅」
◆ミネラル(多量)
の二次予防事業対象者の摂取量が、二次予防
①食塩相当量(g/日)は、11.6 g/日で、目標
事業非対象者に比べて少ない傾向にあった(p
量(7.5 g/日未満)の範囲を越えていた。
< 0.1)
。
②カリウム(mg/日)は、3106 mg/日で、
また、
二次予防事業対象者の摂取栄養素で、
目安量(2000 mg/日)を越えていた。
「必要量・推奨量・目安量・目標量」を満た
③カルシウム(mg/日)は、643 mg/日で、
していないのは、男性全体でも摂取が少ない
推奨量(600 mg/日)を上回っていた。
「食物繊維:15.7 g/日」、「ビタミン B1:0.95
④マグネシウム(mg/日)は、295 mg/日で、
mg/日」、
「亜鉛:9.7 mg/日」に加えて、
「エネ
推奨量(260 mg/日)を上回っていた。
ルギー:2119.8 kcal/日」、
「カルシウム:644.3
⑤リン(mg/日)は、1228 mg/日で、目安量(900
mg/日」、「マグネシウム:312.7 mg/日」であ
mg/日)を上回っていた。
った。
◆ミネラル(微量)
(2)女性・・・表 2-2
①鉄(mg/日)は、9.4 mg/日で、推奨量(6.0 mg/
二次予防事業対象者は、二次予防事業非対
日)を上回っていた。
象者に比べて、炭水化物を除くすべての栄養
②亜鉛(mg/日)は、8.9 mg/日で、推奨量付
素において、その摂取量が少なかった。しか
近(9mg/日)であった。
し、統計学的に有意に少ない栄養素は認めら
③銅(mg/日)は、1.4 mg/日で、推奨量(0.7 mg/
れなかった。
日)を上回っていた。
また、
二次予防事業対象者の摂取栄養素で、
④マンガン(mg/日)は、4.0 mg/日で、目安
「必要量・推奨量・目安量・目標量」を満た
量(3.5 mg/日)を上回っていた。
していないのは、女性全体でも摂取が少ない
以上より、目標量(上限)を超えていた栄
養素は、
「脂質(%エネルギー)
」と「食塩相
「食物繊維:15.0 g/日」、
「ビタミン B1:0.88 mg/
日」、「亜鉛:8.7 mg/日」であった。
当量」であり、一方、目標量を下回っていた
栄養素は、
「食物繊維」であった。
D.考察
本研究の対象者は、75 歳以上の後期高齢者
2)介護予防事業における二次予防事業の対象
で、平均年齢が 80 歳と高齢ではあるが、要介
者の栄養摂取量の検討
護・要支援の状態ではなく、在宅で自立した
(1)男性・・・表 2-1
日常生活を営み、また、健診受診者であるこ
71
とから、移動能力も保たれている高齢者と推
の向上プログラム参加者においても、本研究
察される。よって、本研究の対象者は、一般
で示された「二次予防事業対象者」の摂取栄
高齢者の食事摂取量を評価する対象者として
養素の現状を踏まえた上で、個々の事業を進
妥当であると言える。
めることが望ましい。
現在の日本人の食事摂取基準
(高齢者)
を、
本調査結果に照らしてみても、男女ともに、
E.結論
三大栄養素のみならず、ビタミンやミネラル
地域在住の後期高齢者における摂取栄養素
においても、一部の栄養素を除き、食事摂取
は、三大栄養素のみならず、ビタミンやミネ
機基準に示されている各栄養素の「必要量・
ラルにおいても、一部の栄養素を除き、食事
推奨量・目安量・目標量」をほぼ満たしてい
摂取基準に示されている各栄養素の「必要
た。このことは、高齢者のうち本研究の対象
量・推奨量・目安量・目標量」をほぼ満たし、
であった 75 歳以上の高齢者においても、2010
75 歳以上の高齢者においても 2010 年版の日
年版の日本人高齢者の食事摂取基準が概ね支
本人高齢者の食事摂取基準が支持される結果
持される結果であると言える。
であった。
次に、要支援・要介護状態ではないが、そ
また、介護予防事業における「二次予防事
の可能性がある「二次予防事業対象者」では、
業対象者」の摂取栄養素の特性として、特に
男女ともに「二次予防事業非対象者」に比べ
男性においては、
「植物性たんぱく質」、
「ビタ
て栄養摂取量が少ないという結果であった。
ミン K」、「カルシウム」の栄養素が、非対象
この「二次予防事業対象者」は、生活機能が
者に比べて少ないことが明らかとなった。
低下し、虚弱の可能性が高い高齢者である。
特に、男性では、
「二次予防事業対象者」対
F.研究発表
して相対的に少なかった栄養素は、
「植物性た
1.論文発表
んぱく質」
、
「ビタミン K」
、
「カルシウム」で
1)
Saito K, Yokoyama T, Yoshida H, Kim H,
あり、これらの栄養素の不足を疾患や病態に
Shimada H, Yoshida Y, Iwasa H, Shimizu Y,
関連づけするならば、骨粗鬆症の背景要因に
Yoshitaka K, Handa S, Maruyama N,
相当するとも考えられる。さらに、この二次
Ishigami A, Suzuki T. A Significant
予防事業対象者では、二次予防事業非対象者
Relationship between Plasma Vitamin C
に比べて、特に「必要量・推奨量・目安量・
Concentration and Physical Performance
目標量」を満たしていない栄養素として、エ
among Japanese Elderly Women. J Gerontol
ネルギー、カルシウム、マグネシウムが挙げ
A Biol Sci Med Sci ( 2012 ) 67, 295-301.
られ、この点においても筋・骨格系の虚弱像
2.学会発表
がうかがえる。
1)
今日わが国の各自治体で行われている二次
吉田英世、吉田祐子、熊谷修、木村美佳、
岩佐一、鈴木隆雄:地域在住高齢者の
予防事業(介護予防プログラム)において、
QOL に影響をもたらす要因の解明 -
栄養改善プログラムは言うまでもなく、この
WHO-5 による評価-.第 70 回日本公衆
他の運動機器の向上プログラムや、口腔機能
衛生学会、秋田.2011.10.19-21
72
2)
Yuko Yoshida、 Hajime Iwasa、 Shu
Kumagai、 Takao Suzuki、 Hideyo Yoshida.
Association between C-reactive protein level
and depression among community-dwelling
older adults in Japan. 9th Asia Oceania
regional congress of Gerontology and
Geriatrics、 Melbourne Australia.
2011.10.23-27.
G.知的財産権の出願・登録状況(予定を含
む)
1.特許取得
なし
2.実用新案登録
なし
3.その他
なし
73
表1-1 地域在住高齢者の食事摂取量(栄養素)と栄養摂取基準 【男性】
食事摂取量
栄養摂取基準(2010年)
No
栄養素
平均
標準偏差 必要量/推奨量/目安量/目標量
1
エネルギー(kcal/日)
2210 ±
530
2200
必要量
2
3
たんぱく質(g/日)
動物性たんぱく質(g/日)
89.6
51.2
±
±
26.0
20.2
60
-
推奨量
-
4
植物性たんぱく質(g/日)
38.4
±
9.8
-
-
5
6
脂質(g/日)
脂質(%エネルギー)
63.8
25.6%
±
±
21.7
4.7%
-
20以上、25未満
-
目標量
7
動物性脂質(g/日)
30.4
±
11.8
-
-
8
9
10
11
植物性脂質(g/日)
飽和脂肪酸(g/日)
飽和脂肪酸(%エネルギー)
n-6系脂肪酸(g/日)
33.4
16.2
6.5%
12.6
±
±
±
±
13.0
5.8
1.5%
4.4
-
-
4.5以上、7.0未満
8
-
-
目標量
目安量
12
13
14
n-6系脂肪酸(%エネルギー)
n-3系脂肪酸(g/日)
コレステロール(mg/日)
5.1%
3.7
492
±
±
±
1.1%
1.4
210
10未満
2.2以上
750未満
目標量
目標量
目標量
15
炭水化物(g/日)
300
±
69
-
-
16
17
18
炭水化物(%エネルギー)
食物繊維(g/日)
ビタミンA(μ g/日)
54.8%
16.5
1036
±
±
±
6.7%
5.1
625
50以上、70未満
19以上
800
目標量
目標量
推奨量
19
ビタミンD(μ g/日)
22.2
±
12.3
5.5
目安量
20
ビタミンE(mg/日)
9.4
±
3.2
7.0
目安量
21
22
23
24
ビタミンK(μ g/日)
ビタミンB1(mg/日)
ビタミンB2(mg/日)
ナイアシン(mgNE/日)
394
1.0
1.7
21
±
±
±
±
195
0.3
0.5
7
75
1.2
1.3
13
目安量
推奨量
推奨量
推奨量
25
26
27
28
ビタミンB6(mg/日)
ビタミンB12(μ g/日)
葉酸(μ g/日)
パントテン酸(mg/日)
1.7
14.1
491
8.3
±
±
±
±
0.5
7.3
160
2.3
1.4
2.4
240
6
推奨量
推奨量
推奨量
目安量
29
30
31
32
ビタミンC(mg/日)
食塩相当量(g/日)
カリウム(mg/日)
カルシウム(mg/日)
168
13.6
3381
698
±
±
±
±
59
3.7
1053
229
100
9.0未満
2500
700
推奨量
目標量
目安量
推奨量
33
34
35
36
マグネシウム(mg/日)
リン(mg/日)
鉄(mg/日)
亜鉛(mg/日)
334
1377
10.8
10.3
±
±
±
±
98
406
3.3
2.8
320
1000
7.0
11
推奨量
目安量
推奨量
推奨量
37
銅(mg/日)
1.6
±
0.4
0.8
推奨量
38
マンガン(mg/日)
4.8
±
1.2
4.0
目安量
74
表1-2 地域在住高齢者の食事摂取量(栄養素)と栄養摂取基準 【女性】
食事摂取量
栄養摂取基準(2010年)
No 栄養素
平均 ± 標準偏差 必要量/推奨量/目安量/目標量
1
エネルギー(kcal/日)
1834 ±
429
1700
必要量
2
3
たんぱく質(g/日)
動物性たんぱく質(g/日)
78.3
46.1
±
±
23.8
19.0
50
-
推奨量
-
4
植物性たんぱく質(g/日)
32.3
±
7.5
-
-
5
6
脂質(g/日)
脂質(%エネルギー)
55.8
26.9%
±
±
19.5
4.8%
-
20以上、25未満
-
目標量
7
動物性脂質(g/日)
27.3
±
11.0
-
-
8
9
10
11
植物性脂質(g/日)
飽和脂肪酸(g/日)
飽和脂肪酸(%エネルギー)
n-6系脂肪酸(g/日)
28.5
14.6
7.0%
10.8
±
±
±
±
10.3
5.6
1.6%
3.7
-
-
4.5以上、7.0未満
7
-
-
目標量
目安量
12
13
14
n-6系脂肪酸(%エネルギー)
n-3系脂肪酸(g/日)
コレステロール(mg/日)
5.3%
3.2
437
±
±
±
1.1%
1.3
186
10未満
1.8以上
600未満
目標量
目標量
目標量
15
炭水化物(g/日)
250
±
51
-
-
16
17
18
19
炭水化物(%エネルギー)
食物繊維(g/日)
ビタミンA(μ gRE/日)
ビタミンD(μ g/日)
55.2%
15.3
921
20.2
±
±
±
±
6.2%
4.6
492
11.1
50以上、70未満
17以上
650
5.5
目標量
目標量
推奨量
目安量
20
21
22
23
24
ビタミンE(mg/日)
ビタミンK(μ g/日)
ビタミンB1(mg/日)
8.7
353
0.9
1.5
18
±
±
±
±
±
3.0
155
0.3
0.4
6
6.5
65
0.9
1.0
10
目安量
目安量
推奨量
推奨量
推奨量
葉酸(μ g/日)
パントテン酸(mg/日)
1.5
11.9
441
7.5
±
±
±
±
0.5
6.3
132
2.1
1.1
2.4
240
5
推奨量
推奨量
推奨量
目安量
29
30
31
32
ビタミンC(mg/日)
食塩相当量(g/日)
カリウム(mg/日)
カルシウム(mg/日)
163
11.6
3106
643
±
±
±
±
55
3.3
911
209
100
7.5未満
2000
600
推奨量
目標量
目安量
推奨量
33
34
35
36
マグネシウム(mg/日)
リン(mg/日)
鉄(mg/日)
亜鉛(mg/日)
295
1228
9.4
8.9
±
±
±
±
81
371
2.7
2.4
260
900
6.0
9
推奨量
目安量
推奨量
推奨量
37
銅(mg/日)
1.4
±
0.3
0.7
推奨量
38
マンガン(mg/日)
4.0
±
0.9
3.5
目安量
25
26
27
28
ビタミンB2(mg/日)
ナイアシン(mgNE/日)
ビタミンB6(mg/日)
ビタミンB12(μ g/日)
75
表2-1 二次予防事業対象者と二次予防事業非対象者の食事摂取量の比較 【男性】
食事摂取量
No
栄養素
二次予防事業対象者
二次予防事業非対象者
有意確率
1
2
エネルギー(kcal/日)
たんぱく質(g/日)
平均 ± 標準偏差 平均 ± 標準偏差
2119.8 ± 527.6
2254.7 ± 528.3
84.1 ± 24.6
92.3 ± 26.4
3
4
5
6
7
動物性たんぱく質(g/日)
植物性たんぱく質(g/日)
脂質(g/日)
脂質(%エネルギー)
動物性脂質(g/日)
48.1
36.0
60.3
25.1%
29.6
±
±
±
±
±
17.9
9.0
23.1
5.3%
12.3
52.7
39.6
65.6
25.9%
30.8
±
±
±
±
±
21.1
9.9
20.9
4.4%
11.6
0.197
0.034
0.166
0.304
0.559
n.s.
*
n.s.
n.s.
n.s.
8
植物性脂質(g/日)
30.7
±
12.7
34.8
±
13.0
0.073
+
9
10
11
飽和脂肪酸(g/日)
飽和脂肪酸(%エネルギー)
n-6系脂肪酸(g/日)
15.6
6.5%
11.7
±
±
±
6.5
1.6%
4.7
16.5
6.6%
13.1
±
±
±
5.5
1.4%
4.3
0.376
0.855
0.090
n.s.
n.s.
+
12
13
n-6系脂肪酸(%エネルギー)
n-3系脂肪酸(g/日)
4.9%
3.4
±
±
1.2%
1.4
5.2%
3.9
±
±
1.0%
1.4
0.118
0.095
n.s.
+
14
15
コレステロール(mg/日)
炭水化物(g/日)
464.4
291.9
±
±
193.0
66.9
506.5
303.5
±
±
218.1
70.0
0.260
0.343
n.s.
n.s.
16
17
炭水化物(%エネルギー)
食物繊維(g/日)
55.7%
15.7
±
±
6.4%
5.3
54.4%
17.0
±
±
6.8%
5.0
0.239
0.167
n.s.
n.s.
18
19
20
ビタミンA(μ g/日)
ビタミンD(μ g/日)
ビタミンE(mg/日)
1015.9 ±
20.0 ±
8.9
±
750.7
11.0
3.5
1046.6 ±
23.3 ±
9.6
±
555.9
12.8
3.0
0.787
0.123
0.225
n.s.
n.s.
n.s.
21
22
ビタミンK(μ g/日)
ビタミンB1(mg/日)
ビタミンB2(mg/日)
346.3
0.95
±
±
182.2
0.32
418.3
1.03
±
±
198.3
0.29
0.035
0.115
*
n.s.
1.65
20.3
±
±
0.52
7.6
1.73
21.3
±
±
0.49
6.6
0.363
0.405
n.s.
n.s.
葉酸(μ g/日)
パントテン酸(mg/日)
ビタミンC(mg/日)
1.60
12.89
463.8
7.9
162.4
±
±
±
±
±
0.53
6.85
173.7
2.4
59.8
1.73
14.73
504.7
8.5
170.9
±
±
±
±
±
0.52
7.51
151.6
2.3
58.4
0.156
0.153
0.147
0.168
0.411
n.s.
n.s.
n.s.
n.s.
n.s.
30
31
32
33
食塩相当量(g/日)
カリウム(mg/日)
カルシウム(mg/日)
マグネシウム(mg/日)
13.3
3222.9
644.3
312.7
±
3.7
± 1135.4
± 225.6
± 100.7
13.7
3459.7
725.5
344.8
±
3.7
± 1006.3
± 227.5
± 95.6
0.499
0.202
0.042
0.062
n.s.
n.s.
*
+
34
35
36
37
リン(mg/日)
鉄(mg/日)
亜鉛(mg/日)
銅(mg/日)
1291.4
10.2
9.7
1.5
±
±
±
±
397.2
3.5
2.7
0.4
1420.5
11.2
10.6
1.6
±
±
±
±
406.0
3.2
2.8
0.4
0.070
0.086
0.071
0.055
+
+
+
+
38
マンガン(mg/日)
4.8
±
1.1
4.8
±
1.2
0.713
n.s.
23
24
25
26
27
28
29
ナイアシン(mgNE/日)
ビタミンB6(mg/日)
ビタミンB12(μ g/日)
注)*;p<0.05、+;p<0.1、n.s.;n.s.: not significant
76
0.150
0.730
n.s.
n.s.
表2-2 二次予防事業対象者と二次予防事業非対象者の食事摂取量の比較 【女性】
食事摂取量
No
栄養素
二次予防事業対象者
平均
± 標準偏差
エネルギー(kcal/日)
たんぱく質(g/日)
3
動物性たんぱく質(g/日)
44.4
±
19.1
47.9
4
5
6
7
植物性たんぱく質(g/日)
脂質(g/日)
脂質(%エネルギー)
動物性脂質(g/日)
31.8
54.3
26.4%
26.6
±
±
±
±
7.8
20.0
4.8%
11.1
8
植物性脂質(g/日)
27.7
±
9
10
11
飽和脂肪酸(g/日)
飽和脂肪酸(%エネルギー)
n-6系脂肪酸(g/日)
14.3
7.0%
10.4
12
13
14
15
n-6系脂肪酸(%エネルギー)
n-3系脂肪酸(g/日)
コレステロール(mg/日)
炭水化物(g/日)
16
17
18
19
20
21
22
23
24
有意確率
± 標準偏差
392.0
22.5
0.521
0.234
n.s.
n.s.
±
18.9
0.266
n.s.
32.8
57.6
27.4%
28.1
±
±
±
±
7.2
18.8
4.9%
10.9
0.337
0.316
0.215
0.466
n.s.
n.s.
n.s.
n.s.
10.6
29.5
±
10.0
0.266
n.s.
±
±
±
5.7
1.5%
3.6
14.8
7.1%
11.3
±
±
±
5.4
1.6%
3.8
0.604
0.755
0.167
n.s.
n.s.
n.s.
5.1%
3.1
430.3
250.3
±
±
±
±
1.1%
1.3
192.5
54.8
5.4%
3.3
444.2
249.5
±
±
±
±
1.1%
1.2
178.4
47.2
0.143
0.202
0.618
0.964
n.s.
n.s.
n.s.
n.s.
炭水化物(%エネルギー)
食物繊維(g/日)
ビタミンA(μ gRE/日)
ビタミンD(μ g/日)
ビタミンE(mg/日)
55.9%
15.0
897.6
18.8
8.3
±
±
±
±
±
6.1%
4.5
539.5
11.1
3.1
54.3%
15.6
945.6
21.7
9.0
±
±
±
±
±
6.3%
4.7
436.8
10.9
2.9
0.122
0.335
0.451
0.113
0.173
n.s.
n.s.
n.s.
n.s.
n.s.
ビタミンK(μ g/日)
ビタミンB1(mg/日)
ビタミンB2(mg/日)
346.3
0.88
1.49
17.7
±
±
±
±
149.9
0.28
0.46
6.4
361.2
0.94
1.54
19.2
±
±
±
±
161.8
0.24
0.38
5.9
0.491
0.128
0.478
0.145
n.s.
n.s.
n.s.
n.s.
ビタミンB12(μ g/日)
1.46
11.57
±
±
0.47
6.44
1.54
12.31
±
±
0.44
6.08
0.212
0.418
n.s.
n.s.
27
28
葉酸(μ g/日)
パントテン酸(mg/日)
429.1
7.4
±
±
131.6
2.2
454.8
7.6
±
±
131.3
2.0
0.160
0.467
n.s.
n.s.
29
ビタミンC(mg/日)
159.0
±
53.5
166.8
±
56.7
0.319
n.s.
30
31
食塩相当量(g/日)
カリウム(mg/日)
11.3 ±
3029.7 ±
3.4
936.4
11.9 ±
3190.1 ±
3.1
881.2
0.241
0.234
n.s.
n.s.
32
33
カルシウム(mg/日)
マグネシウム(mg/日)
623.9
287.6
±
±
216.2
85.1
664.8
304.2
±
±
200.2
75.5
0.213
0.172
n.s.
n.s.
34
35
36
リン(mg/日)
鉄(mg/日)
亜鉛(mg/日)
1191.3 ±
9.2
±
8.7
±
388.2
2.8
2.5
1267.4 ±
9.7
±
9.1
±
348.1
2.5
2.2
0.192
0.225
0.356
n.s.
n.s.
n.s.
37
銅(mg/日)
1.4
±
0.4
1.4
±
0.3
0.535
n.s.
38
マンガン(mg/日)
4.0
±
0.9
4.1
±
0.8
0.238
n.s.
25
26
注)*;p<0.05、+;p<0.1、n.s.;n.s.: not significant
77
461.2
24.9
平均
1
2
ナイアシン(mgNE/日)
ビタミンB6(mg/日)
1812.5 ±
76.2 ±
二次予防事業非対象者
1857.1 ±
80.7 ±
平成 23 年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事
業)
日本人の食事摂取基準の改定と活用に資する総合的研究
研究代表者
徳留
信寛
国立健康・栄養研究所
理事長
Ⅱ.研究分担者の報告書
9.大学生の 1 日尿中水溶性ビタミン排泄量
研究分担者
柴田
克己
滋賀県立大学人間文化学部生活栄養学科
研究協力者
福渡
努
滋賀県立大学人間文化学部生活栄養学科
研究要旨
食事摂取基準にしたがった栄養素量を含む半合成食を投与した健康な男女学生を被験者
とした実験結果を基にして,
「健康を維持するために必要な水溶性ビタミンの目標排泄量(=
水溶性ビタミン目標排泄量)」を設定した.本報告では,健康な若年成人(大学生)の 24 時
間尿中に排泄されたビタミン B1(709 名),ビタミン B2(708 名),ビタミン B6(710 名),
ビタミン B12(686 名),ナイアシン(709 名)
,パントテン酸(706 名),葉酸(705 名),ビ
オチン(708 名),ビタミン C(708 名)の各排泄量を,「水溶性ビタミン目標排泄量」を利
用して評価した.
め,たとえ,悪い評価を受けても,真摯に
A.目的
現在行われている個人の栄養状態の評
受け止めない,という点である.
価方法の中で,最も活用されている方法は,
我々は,2005 年版の食事摂取基準にした
摂取した栄養素量を「日本人の食事摂取基
がった栄養素量を含む半合成食を投与した
準」に示された「推奨量」あるいは「目安
実験結果 1) を基にして,
「健康を維持するた
量」と比較して,
「充足している可能性が高
めに必要な水溶性ビタミンの目標排泄量」
い」あるいは「不足している可能性がある」
を設定した 2,3) .また,この新規水溶性ビタ
という方法論である.この方法の限界は,
ミン評価方法は,過剰摂取による健康障害
①摂取した栄養素量のもととなる食事調査
の予防方法としても活用できることも明ら
は,対象者となる「いわゆる素人」がおこ
かにした.これらの成果の活用として,我
なうことが多いため精度が低い,②栄養素
が国の自由に生活している人々のビタミン
摂取量の計算は「日本食品標準成分表」に
栄養状態の評価を行い,かつ栄養指導を行
頼らざるをえないため微量栄養素であるビ
っている.このような生体情報に基づいた
タミンは概数的な数値となる,③自分自身
栄養評価を示しつつ行う栄養指導は説得力
の調査結果の「いいかげんさ」がわかるた
があり,食生活行動の変容につながりやす
78
産物の 2,3-ジケトグロン酸の合計量を測定
い.
した.
本報告では,今までに測定してきた健康
尿中チアミン量を測定するために,
な若年成人(大学生)の 24 時間尿中に排泄
3-1.
された 9 種類の水溶性ビタミン排泄量をま
尿 9 mL に 1 mol/L HCl を 1 mL 加えて安定
とめた.
化した.この尿を HPLC による分析に供し
た 4) .
3-2.
B.方法
1.
尿中リボフラビン量を測定するため
に,尿 9 mL に 1 mol/L HCl を 1 mL 加えて
対象者
安定化した.この尿を HPLC による分析に
日本国内の栄養関連学科に通う大学生を
対象とした.なお,男女一緒に解析を行っ
供した 5) .
た.
3-3.
尿中 4-PIC 量を測定するために,尿 9
なお,本研究は独立法人国立健康・栄養
mL に 1 mol/L HCl を 1 mL 加えて安定化し
研究所倫理審査委員会,滋賀県立大学倫理
た.この尿を HPLC による分析に供した 6) .
研究委員会において承認を受けたものであ
3-4.
る.
尿 900 µL に 180 µL の 100 mmol/L 酢酸緩衝
2.
尿中ビタミン B12 量を求めるために,
液 (pH 4.8),水 680 µL,0.025%シアン化カ
24 時間尿の蓄尿
対象者には,日常と同様の飲食行動およ
リウム溶液 20 µL を加え,120℃で 5 分間オ
び生活行動を採尿日に取るように依頼した.
ートクレーブ処理した.氷冷後,20 µL の
起床後の 2 回目の尿から翌朝起床後の 1 回
10%メタりん酸溶液を加え,遠心分離によ
目の尿までを採尿し,24 時間尿とした.対
っ て 上 清 を 得 た . Lactobacillus leichmanii
象者は,採尿開始時刻,終了時刻,尿の取
ATCC 7830 を用いた微生物学的定量法にこ
りこぼしおよび取り忘れの有無を記録した.
の上清を供した 7) .
24 時間尿の容量を測定し,測定するビタミ
3-5.
ン毎に安定化処理し(後述)
,使用するまで
MNA,2-Py,4-Py の合計とした.尿中総ニ
-20℃で保存した.
コチンアミド代謝産物量を測定するために,
3.
尿中のナイアシンは異化代謝産物の
尿 9 mL に 1 mol/L HCl を 1 mL 加えて安定
分析
ビタミン B1 はチアミン量,ビタミン B2
化した.この尿を HPLC 法に供し,尿中 2-Py,
8)
はリボフラビン量,ビタミン B 6 は異化代謝
4-Py 各含量を測定とした
産物の 4-ピリドキシン酸量,ナイアシンは
MNA 含量を HPLC 法で測定した 9) .
異化代謝産物の N1-メチルニコチンアミド
3-6.
1
.また,尿中
尿中パントテン酸量を測定するため
に,Lactobacillus plantarum ATCC 8014 を用
(MNA),N -メチル-2-ピリドン-5-カルボキ
1
10)
サミド(2-Py)および,N -メチル-4-ピリド
いた微生物学的定量法に尿を供した
ン-3-カルボキサミド(4-Py の合計量,パン
3-7.
トテン酸はパントテン酸量,葉酸は広義の
mL に 1 mol/l アスコルビン酸溶液を 1 mL
定義の葉酸量,ビオチンはビオチン量,ビ
加えて安定化した.Lactobacillus rhamnosus
タミン C は還元型,酸化型とその異化代謝
ATCC 27773 を用いた微生物学的定量法に
79
.
尿中葉酸量を測定するために,尿 9
この尿を供した 11) .
溶性ビタミンが不足していることはないと
尿中ビオチン量を測定するために,
我々は考えている.今回の調査において,
Lactobacillus plantarum ATCC 8014 を用いた
すべての水溶性ビタミンの排泄量が検出限
3-8.
微生物学的定量法に尿を供した
12)
界以下の対象者は一人もいなかった.
.
尿中アスコルビン酸量はアスコル
「水溶性ビタミン目標排泄量」は食事摂取
ビン酸,デヒドロアスコルビン酸,2,3-ジ
基準に示されたエネルギー・各種栄養素を
ケトグロン酸の合計とした.尿中アスコル
摂取した時の値を基にして算定した値であ
ビン酸量を測定するために,尿 5 mL に 10%
る.この値を基にして評価すると,
「水溶性
メタりん酸溶液 5 mL を加えて安定化した.
ビタミン目標排泄量」以下のパーセンテー
この尿を HPLC による分析に供した 13) .
ジが 高か った 水溶 性ビ タ ミン は, 葉酸 の
3-9.
45.8%,次いでビタミン C の 42.9%,ビタミ
ン B1 の 34.8%であった.逆に「水溶性ビタ
C. D. 結果および考察
健康な若年成人(大学生)の 24 時間尿中
ミン目標排泄量」以下のパーセンテージが
に排泄されたビタミン B1(709 名)
,ビタミ
低かったビタミンはナイアシンの 13.0%,
ン B 2(708 名)
,ビタミン B 6(710 名),ビ
パントテン酸の 13.2%,ビオチンの 15.5%
タミン B 12(686 名)
,ナイアシン(709 名),
であった.
「水溶性ビタミン目標排泄量」以
パントテン酸(706 名),葉酸(705 名),ビ
上のパーセンテージが高かった水溶性ビタ
オチン(708 名),ビタミン C(708 名)の
ミンは,ビタミン C の 19.2%,ビタミン B 2
各排泄量の度数分布図を図 1 に示した.図
の 16.5%,ビタミン B1 の 11.7%であった.
2 には「健康を維持するために必要な水溶
ナイアシン,ビタミン B6,パントテン酸,
性ビタミンの目標排泄量(=水溶性ビタミ
葉酸,ビオチンにおいては,数%に過ぎな
ン目標排泄量)
」付近の値の度数分布が見や
かった.
すい図を示した.図 3 には「健康を維持す
この調査においては,ビタミン剤の摂取が
るために必要な水溶性ビタミンの目標排泄
1 か月以上無いと自己主張した集団を対象
量(=水溶性ビタミン目標排泄量」を超え
にした.ところが,尿中の排泄量を指標に
た値の度数分布が見やすい図を示した.
すると,明らかに生物系の食糧からでは摂
表 1 には,今回調査した各水溶性ビタミン
取できない量のビタミンを摂取していた対
の 1 日尿中排泄量の最大値,最小値,平均
象者がいた.言い換えれば,対象者の中に
値,中央値,ならびに「水溶性ビタミン目
は,本人の認識なしに水溶性ビタミンが含
標排泄量」以下・以内・以上のパーセンテ
まれている食品を摂取していたことを意味
ージをまとめた.
する.尿中のビタミン排泄量を測定するこ
ラット実験およびヒトを用いた介入試験
の成果
14-25)
とは,不足を予知するにとどまらず,知ら
から,尿中への水溶性ビタミン
ず知らずのうちに摂取しているビタミン量
排泄量は,余剰摂取量を反映していること
を知ることにもなり,未然に水溶性ビタミ
を明らかにした.したがって,尿中にビタ
ンの過剰摂取を予防する手段にもなり得る
ミンの排泄量が認められる限り,体中の水
ことを示している.
80
尿中の水溶性ビタミン排泄量は,数日間の
平均摂取量を反映することから
26-28)
む)
1.特許取得
, 個々
人の栄養指導においては,尿中の水溶性ビ
なし
2.実用新案登録
タミンによる評価は,採尿前 1 週間程度の
水溶性ビタミンの摂取量を反映していると
なし
考えてさしつかえない.水溶性ビタミンの
3.その他
供給源を考えると
29)
,パントテン酸とビタ
なし
ミン B2 は生物系の食品にはまんべんなく
含まれているので,エネルギー量の摂取量
H .引用文献
をも反映している.また,ナイアシンの主
1.
Shibata K, Fukuwatari T, Ohta M,
要な給源は筋肉系の食品である獣肉,鶏肉,
Okamoto H, Watanabe T, Fukui T,
魚肉であるので,これらの食品摂取量をも
Nishimuta M, Totani M, Kimura M,
反映している.葉酸の排泄量は緑色の葉野
Ohishi N, Nakashima M, Watanabe F,
類の摂取量を反映している.
Miyamoto E, Shigeoka S, Takeda T,
なお,我々は,水溶性ビタミン排泄量の測
Murakami M, Ihara H, Hashizume N.
定結果の活用として,図 4 に示した概念図
Values of water-soluble vitamins in blood
で尿を用いた水溶性ビタミン栄養状態の評
and urine of Japanese young men and
価方法を教育したのち,表 2 と図 5 に示し
women consuming a semi-purified diet
たデーターを個々人に示し,栄養指導を行
based on the Japanese Dietary Reference
っている.
Intakes. J Nutr Sci Vitamin
(2005)
51,
319-328.
2. 柴田克己.日本人の食事摂取基準(栄
E.結論
尿中に排泄される水溶性ビタミン量に基
養所要量)の策定に関する研究.平成
づく栄養評価は,自由に生活している人々
18 年度
に適用できる.このような生体情報に基づ
活習慣病対策総合研究
いた栄養評価を示しつつ行う栄養指導は説
会(研究者向け)報告書.
(2006)55-58.
厚生労研究,循環器疾患等生
研究成果発表
3. 柴田克己,福渡努,吉田宗弘.ビタミ
得力があり,食生活行動の変容につながり
ンと微量ミネラル. 栄養-評価と治療
やすい.
(2011)
28, 143-147.
F.研究発表
4. 福渡努,鈴浦千絵,佐々木隆造,柴田
1.発表論文
克己.代謝攪乱物質ビスフェノール A
のトリプトファン-ニコチンアミド転
なし
換経路の攪乱作用部位, 食品衛生学雑
2.学会発表
誌
なし
(2004) 45, 231-238.
5. Ohkawa H, Ohishi N, Yagi, K. New
G.知的財産権の出願・登録状況(予定を含
metabolites of riboflavin appear in human
81
urine. J Biol Chem
plate methodusing Lactobacillus
(1983) 258,
plantarum for biotin determination in
5623-5628.
rd
serum and urine. J Nutr Sci Vitaminol
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Simultaneous micro-determination of
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1333-1336.
N1-methyl-2-pyridone-5- carboxamide
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carboxamide, by high-performance liquid
metabolites contents as nutritional
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1
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タミン排泄量.ビタミン (2008) 82,
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metabolites of the tryptophan-niacin
82
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Effects of excess biotin administration on
Twenty-four-hour urinary water-soluble
growth and urinary excretion of
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water-soluble vitamins in young rats.
free-living Japanese university students.
Biosci Biotechnol Biochem
Eur J Clin Nutr
(2007) 71,
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Twenty-four-hour urinary water-soluble
幼若ラットの成長と水溶性ビタミン排
vitamin levels correlate with their intakes
泄におよぼす影響. 日本食品衛生学会
in free-living Japanese school children.
誌
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衛生学会誌
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23. 福渡努,伊藤景子,柴田克己.ラット
へのピリドキシンの過剰投与が B 群ビ
タミンの尿中排泄量におよぼす影響.
日本食品衛生学会誌 (2009) 50, 75-79.
24. 福渡努,倉田華織,柴田克己.ラット
へのニコチン酸の過剰投与がB群ビタ
ミンとトリプトファン-ニコチンアミ
ド代謝物の尿中排泄量におよぼす影
響. 日本食品衛生学会誌
(2009) 5,
80-84.
25. Fukuwatari T, Yoshida E, Takahashi K,
Shibata K. Effect of fasting on the urinary
excretion of water-soluble vitamins in
83
0
20
40
60
80
100
0
50
100
20000
0
D
Urinary excretion of 4-PIC
(mol/day)
100
Urinary excretion of folic acid
(nmol/day)
200
150
40000
Urinary excretion of vitamin B 1
(nmol/day)
200
0
300
20
400
G
Frequency
Frequency
(number)
0
20
40
60
5000
E
Urinary excretion of vitamin B 2
(nmol/day)
15000
Urinary excretion of biotin
(nmol/day)
H
Urinary excretion of vitamin B 12
(pmol/day)
0
10
20
30
40
0
50
0
0
0
0
400
600
1000
100
200
Frequency
(number)
Frequency
(number)
Frequency
(number)
60000
800
500
400
Frequency
(number)
0
10000
600
0
20
40
60
80
100
0
20
40
60
80
C
400
0
50
100
150
Urinary excretion of PaA
(mol/day)
F
Urinary excretion of Nam and the metabolites
(mol/day)
Frequency
(number)
Urinary excretion of AsA ( mol/day)
Frequency
(number)
B
0
40
800
100
100
A
1000
0
2000
1500
200
200
60
4000
25000
100
400
150
8000
20000
Frequency
(number)
300
300
6000
84
I
Fig. 1
10000
0
85
トテン酸量,葉酸は広義の定義の葉酸量,ビオチンはビオチン量,ビタミン C は還元型,酸化型とその異化代謝産物の 2,3-ジケトグロン酸の合計量を測定した.
コチンアミド(MNA)
,N1-メチル-2-ピリドン-5-カルボキサミド(2-Py)および,N1-メチル-4-ピリドン-3-カルボキサミド(4-Py の合計量,パントテン酸はパン
ビタミン B1 はチアミンン量,ビタミン B2 はリボフラビン量,ビタミン B6 は異化代謝産物の 4-ピリドキシン酸量,ナイアシンは異化代謝産物の N1-メチルニ
チン(,ビタミン C 各排泄量の度数分布図(全体図)
.
図 1.健康な若年成人(大学生)の 24 時間尿中に排泄されたビタミン B1,ビタミン B2(,ビタミン B6,ビタミン B12,ナイアシン,パントテン酸,葉酸,ビオ
0
20
40
60
80
100
0
50
100
1000
6
4
500
0
D
Urinary excretion of 4-PIC
(mol/day)
2
40
10
Urinary excretion of folic acid
(nmol/day)
10
150
1500
Urinary excretion of vitamin B 1
(nmol/day)
20
Frequency
(number)
Frequency
(number)
Frequency
(number)
G
2000
50
0
Frequency
(number)
20
0
20
40
60
1000
500
E
Urinary excretion of vitamin B 2
(nmol/day)
1500
Urinary excretion of biotin
(nmol/day)
H
Urinary excretion of vitamin B 12
(pmol/day)
0
10
20
30
40
0
50
0
20
40
60
80
100
0
20
40
150
50
C
0
50
100
150
Urinary excretion of PaA
(mol/day)
F
Urinary excretion of Nam and the metabolites
(mol/day)
100
0
0
Frequency
(number)
Frequency
(number)
200
Frequency
Frequency
(number)
0
60
Urinary excretion of AsA ( mol/day)
0
0
0
8
30
50
80
400
100
50
10
500
100
100
600
40
100
20
700
150
150
0
300
30
B
800
200
200
250
40
1000
A
1100
60
Frequency
(number)
200
900
2000
0
100
1200
150
I
Fig. 2
1400
86
1500
1300
87
チン(,ビタミン C 各排泄量の度数分布図(健康を維持するための水溶性ビタミン目標排泄量付近を中心とした抜粋図)
.
図 2.健康な若年成人(大学生)の 24 時間尿中に排泄されたビタミン B1,ビタミン B2(,ビタミン B6,ビタミン B12,ナイアシン,パントテン酸,葉酸,ビオ
0
2
4
6
8
10
0
1
2
3
22000
110
D
Urinary excretion of 4-PIC
(mol/day)
160
2000
4
12000
60
Urinary excretion of folic acid
(nmol/day)
140
5
52000
G
Urinary excretion of vitamin B 1
(nmol/day)
17000
240
0
27000
210
340
1
37000
310
2
47000
640
3
32000
260
440
Frequency
(number)
Frequency
(number)
Frequency
(number)
7000
10
40
42000
360
540
Frequency
Frequency
(number)
A
0
1
2
3
4
0
1
2
3
4
5
20000
16000
12000
8000
4000
E
H
Urinary excretion of vitamin B 12
(pmol/day)
0
1
2
3
4
5
22000
B
Urinary excretion of vitamin B 2
(nmol/day)
18000
Urinary excretion of biotin
(nmol/day)
200
0
5
10
15
0
1
2
3
4
280
C
0
1
2
3
4
5
Urinary excretion of PaA
(mol/day)
F
Urinary excretion of Nam and the metabolites
(mol/day)
Frequency
(number)
Urinary excretion of AsA ( mol/day)
Frequency
(number)
57000
740
2000
Frequency
(number)
260
90
6000
400
140
10000
600
300
240
14000
800
290
4
390
5
40
2500
190
4500
200
300
400
500
600
700
800
900
1000
1100
1200
1300
1400
1500
1000
340
5
8500
5
24000
Frequency
(number)
320
340
6500
88
500
I
Fig. 3
89
チン(,ビタミン C 各排泄量の度数分布図(過剰に摂取している付近を抜粋した図)
.
図 3.健康な若年成人(大学生)の 24 時間尿中に排泄されたビタミン B1,ビタミン B2(,ビタミン B6,ビタミン B12,ナイアシン,パントテン酸,葉酸,ビオ
90
図 4.
「健康を維持するための水溶性ビタミン目標排泄量」を用いた栄養指導に用いている図
91
0
1
2
3
0
2
摂取量(相対値 )
1
3
排
泄
量
目標排泄量に達するために必要な摂
取量を算定し,生体利用率を加味し
た補足すべき量を提言するという栄
養指導が可能
例えば・・・
尿中排泄量が目標排泄量に達していなければ
一方,尿中排泄量は,生体利用率を加味し
た個人の真の必要量を示す生体側の情報と
して利用可能.
摂取量という食品側の情報のみで
は,個人の真の必要量に対応する
指導はできないし,労働・環境変
目 化に応じて変動する必要量
標 にも対応できない.
図 5. 不足状態の人に対する B 群ビタミンサプリメント付加量算出の試みの概念図
尿中排泄量(相対値 )
92
トテン酸量,葉酸は広義の定義の葉酸量,ビオチンはビオチン量,ビタミン C は還元型,酸化型とその異化代謝産物の 2,3-ジケトグロン酸の合計量を測定した.
コチンアミド(MNA)
,N1-メチル-2-ピリドン-5-カルボキサミド(2-Py)および,N1-メチル-4-ピリドン-3-カルボキサミド(4-Py の合計量,パントテン酸はパン
ビタミン B1 はチアミンン量,ビタミン B2 はリボフラビン量,ビタミン B6 は異化代謝産物の 4-ピリドキシン酸量,ナイアシンは異化代謝産物の N1-メチルニ
表 1. 各水溶性ビタミンの 1 日尿中排泄量の最大値,最小値,平均値,中央値,ならびに「水溶性ビタミン目標排泄量」以下・以内・以上のパーセンテージ
ビタミン B1
ビタミン B2
ナイアシン
ビタミン B6
ビタミン B12 パントテン酸
葉酸
ビオチン
ビタミン C
(nmol/日)
(nmol/日)
(μmol/日)
(μmol/日)
(pmol/日)
(μmol/日)
(nmol/日)
(nmol/日)
(μmol/日)
最小値
10
5
13
1.0
7.6
0.3
2.6
3.5
6
最大値
54,933
20,969
325
326.2
1133.9
377.7
718.8
884.9
783
中央値
426
348
80
5.6
76.7
15.0
16.6
68.5
178
平均値
710
651
86
3.8
98.2
17.2
21.3
80.9
334
標準偏差
2,208
13,00
42
14.0
81.8
16.1
34.1
59.6
508
健康を維持す
300~1200
50~200
15~45
200~900
3~8
主要な排泄経
10~30
40~150
150~500
るための水溶 (チアミン塩
(ニコチンア
(プテロイル
(リボフラビ
(ピリドキシ 路が尿ではな (パントテン
(ビオチンと (アスコルビ
性ビタミン目 酸塩として
ミドとして
モノグルタミ
ンとして70~
ンとして 500 いため数値を 酸として 2.2
して 10~
ン酸として25
標排泄量
100~400 μg/
6.0~25.0 mg/
ン酸として 7
350 μg/日)
~1400 μg/日) 算定できない ~7.0mg/日)
40μg/日)
~90 mg/日)
日)
日)
~20 μg/日)
本研究の対象者である女子学生集団の「健康を維持するための水溶性ビタミン目標排泄量」に対する評価
排泄量が高い
34.8
28.8
13.0
27.9
13.2
45.8
15.5
42.9
(%)
排泄量が低い
11.7
16.5
2.3
6.5
4.1
3.7
5.4
19.2
(%)
排泄量が適切
53.5
54.7
84.8
65.6
82.7
50.5
79.1
37.9
(%)
93
25~90
10~40
7~20
2.2~7.0
6~25
500~1,400
70~350
100~400
健康を維持するための目標排泄量
(成人)
ビタミン C を十分に摂取できていない可能性があります。必要量
は 100mg/日です。
ビオチンの摂取に問題はありません。必要量は 50μg/日です。
葉酸を十分に摂取できていない可能性があります。必要量は
240μg/日です。
パントテン酸を摂取に問題はありません。必要量は 5mg/日です。
ナイアシンの摂取に問題はありません。必要量は 15mgNE/日で
す。
サプリメントからビタミン B6 を大量に摂取している可能性があ
ります。用量に気をつけてビタミン B6 を摂取してください。必要
量は 1.4mg/日です。
サプリメントからビタミン B1 を大量に摂取している可能性があ
ります。用量に気をつけてビタミン B1 を摂取してください。必要
量は 1.4mg/日です。
サプリメントからビタミン B2 を大量に摂取している可能性があ
ります。用量に気をつけてビタミン B2 を摂取してください。必要
量は 1.6mg/日です。
コメント
一部のビタミンを十分に摂取できていない可能性、一部のビタミンを大量に摂取している可能性があるので、一度、管理栄養士に
食事相談をしてください。
22.2
ビタミン C (mg/日)
総合コメント
12,2
ビオチン(μg/日)
21.7
ナイアシン(mgNE/日)
2.1
4,877
ビタミン B6 (μg/日)
葉酸(μg/日)
2,908
ビタミン B2(μg/日)
6.7
4,824
ビタミン B1(μg/日)
パントテン酸(mg/日)
測定結果
測定ビタミン
(単位)
表 2.
「健康を維持するための水溶性ビタミン目標排泄量」を用いた栄養指導に用いている表
平成 23 年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)
日本人の食事摂取基準の改定と活用に資する総合的研究
研究代表者
徳留 信寛 国立健康・栄養研究所 理事長
Ⅱ.研究分担者の報告書
10. 日本人成人におけるエネルギーならびに栄養素摂取量における個人内・個人間変動:
適切な食事アセスメントのために必要な対象者数と調査日数における年齢と性の影響
研究分担者
佐々木 敏
東京大学大学院医学系研究科
研究要旨
【背景ならびに目的】エネルギーならびに栄養素摂取量の個人内・個人間変動は、習慣的な摂
取量を適切に推定するためには不可欠の情報である。これは食事摂取基準で算定されている諸量
を正しく解釈するうえでも、また、正しく活用するためにも重要な情報である。しかしながら、
日本人ではこの課題に関する研究報告は極めてまれである。そこで、既存のデータを用いて、エ
ネルギーならびに 31 種類の栄養素について個人内・個人間変動に関する情報を性・年齢階級によ
るちがいを考慮して検討した。
【方法】解析対象者は各季節 4 日間(合計 16 日間)の半秤量式食事記録を完了した日本人の女
性(若年群:30~49 歳;58 人、高齢群:50~69 歳;63 人)と男性(若年群:30~49 歳;54 人、
高齢群:50~76 歳;67 人)である。
【結果】個人内変動係数(CVw)と個人間変動係数(CVb)は概ね高齢群よりも若年群で、女
性よりも男性で大きかった。集団平均値を推定するために必要な対象者数ならびに個人の習慣的
な摂取量を推定するために必要な調査日数は概ねともに高齢群よりも若年群で、女性よりも男性
で大きかった。摂取量によって集団内で個人を正しくランク付けするために必要な調査期間は若
年群よりも高齢群で、男性よりも女性で長い傾向が認められた。
してのエネルギーおよび栄養素の摂取
A.目的
実際の生活のなかで食するものは
量)は個人間でも異なる。したがって、
日々変化しており、けっして同じものを
エネルギーならびに栄養素摂取量の個
毎日同じ量だけ摂取しているわけでは
人内・個人間変動は、習慣的な摂取量を
ない。そのために、エネルギーおよび栄
適切に推定するためには不可欠の情報
養素の摂取量にも日々の変化、すなわち、
である。ところで、食事アセスメントは
日間変動が存在する。同時に、摂取する
通常次の 3 つの目的をもって実施 され
食品の種類と食品ごとの量(その結果と
る:
(1)集団摂取量を集団間で比較
する、(2)集団内で個人の摂取量をラ
94
ンク付けする、(3)個人の習慣的な摂
全に実施したため、今回の解析対象者と
取量を推定する。これらの推定精度には
した。このデータの使用にあたっては、
すべて摂取量の個人内・個人間変動が影
東京大学医学部研究倫理委員会の許可
響を与える。これは食事摂取基準で算定
を得た(No.3421)。
されている諸量を正しく解釈するうえ
解析対象者は各季節 4 日間(合計 16
でも、また、正しく活用するためにも重
日間)の半秤量式食事記録を完了した日
要な情報である。
本人の女性(若年群:30~49 歳;58 人、
しかしながら、日本人ではこの課題に関
高齢群:50~69 歳;63 人)と男性(若
する研究報告は極めてまれである。特に、
年群:30~49 歳;54 人、高齢群:50~
既報では、女性のみ、高齢者のみといっ
76 歳;67 人)である。
たように特定の集団だけを対象として
解析にあたって、元のデータを詳細にチ
おり、この問題に性・年齢階級が及ぼす
ェックし、重量や食品コードの入力誤り
影響についてはほとんど報告されてい
などの確認作業を行った。その結果、料
ない。そこで、既存のデータを用いて、
理から食材への展開内容や、調理におけ
エネルギーならびに 31 種類の栄養素に
る重量変化(海藻の水戻しによる重量の
ついて個人内・個人間変動に関する情報
変化など)における誤りが発見され、可
を性・年齢階級によるちがいを考慮して
能な限りそれらに修正を施したうえで
検討した。
解析を行った。
なお、今回の
解析方法
B.方法
解析対象とする変数は、エネルギーと
対象者
31 種類の栄養素とした。栄養素は水を除
この研究は長野県、大 阪府、鳥取県、
沖縄県で実施した。30~69 歳の健康な女
き、すべて食事摂取基準で言及している
性と同居していた人(主としてその夫)
ものである。一方、食事摂取基準で言及
に調査協力を依頼した。各地域で性なら
していても、今回用いた半秤量式食事記
びに 10 歳年齢階級ごとにほ ぼ同数(8
録法では摂取量の推定が困難であると
人)の対象者を得ることとし、結果とし
考えている栄養(たとえばヨウ素、ビオ
て全地域合計として男女 128 人ずつの参
チン)は解析から除外した。すべての解
加を得た。この中に栄養士は含まず、糖
析は、男女別、2 つの年齢階級別(50 歳
尿病の教育入院歴のある者や専門家に
未満、50 歳以上)に行った。解析 には
よる栄養指導を受けた経験を有する者
SAS 統 計 パ ッ ケ ー ジ バ ー ジ ョ ン 9.2
も含めなかった。2002 年の秋から 2003
(SAS Institute Inc., Cary, NC, USA)を用
年の夏までの 4 季節において、季節ごと
いた。平均値、個人内変動係数 (CV w)、
に連続しない 4 日間(合計 16 日間)を
個人間変動係数(CVb )、変動比(VR)、
選び、半秤量式の食事記録調査を実施し
必要な対象者数、ならびに、必要な調査
た。30~69 歳の女性 121 人と 30~76 歳
日数を性・年齢階級間で比較した。
の男性 121 人が 16 日間の食事記録を完
95
齢群で、また、両方の年齢階級で男性よ
C.結果
りも女性の方で大きかった。
表 1 に対象者特性を示す。
表 2 に 1 日あたりエネルギー・栄養素
食事記録法でエネルギーおよび栄養
摂取量の平均値、標準偏差、CVw、 CVb 、
素の平均摂取量を知るために必要な食
VR を示す。平均摂取量は男女ともに多
事記録日数:習慣的な(真の)平均摂取
くの栄養素で若年群よりも高齢群で多
量からの指定した偏差(すなわち 5%、
かった。年齢階級、性にかかわらず、CVb
10%、20%、30%)の範囲内に 95%信頼
よりも CVw のほうが大きい傾向にあっ
区間が入るようにする場合(性・年齢階
た。CVw は男女ともに高齢群よりも若年
級別の解析)の結果を表 5 に示す。個人
群で大きい傾向があった同様の傾向は
の習慣的な摂取量を得るために必要な
CV b でも認められた。加えて、CVw は両
日数は、多くの栄養素で、男女ともに高
方の年齢階級で女性よりも男性で大き
齢群よりも若年群で、また、両方の年齢
く、同様の傾向が CVb でも観察された。
階級で女性よりも男性の方で大きかっ
VR は水(若年群の男女ならびに高齢群
た。
の男性)と炭水化物(若年群の男性)を
除いてすべての栄養素で 1.0 よりも大き
D.考察
今回観察された結果は、概ね、国内で
かった。
1 日間の食事記録法でエネルギーおよ
報告されている他の結果に類似してい
び栄養素の集団の平均摂取量を知るた
た。しかしながら、今回の研究は、標準
めに必要な対象者数:習慣的な(真の)
化された方法で得られたデータを用い
平均摂取量からの指定した偏差(すなわ
て、男女間、年齢階級間における個人内
ち 2.5%、5%、 10%、 20%)の 範囲 内に
変動・個人間変動の状況、そして、それ
95 % 信 頼 区 間 が 入 る よ う に す る 場 合
らが食事アセスメントの誤差に与える
(性・年齢階級別の解析)の結果を表 3
影響、さらには、それらを考慮して目的
に示す。必要な対象者数は、多くの栄養
とする信頼度を確保したうえで調査を
素で、男女ともに高齢群よりも、また、
行うために必要となる対象者数と調査
両方の年齢階級で女性よりも男性の方
日数に関して、性と年齢階級を考慮して
で大きかった。
検討した日本人では初めての報告であ
習慣的な(真の)摂取量と観察される
ろう。これは、日本人の食事摂取基準を
摂取量とのあいだで指定したランク付
策定するためにも、また、それを適切に
け能力(相関係数として 0.75、0.80、0.85、
活用するためにも不可欠の情報である
0.90、0.95)を食事記録法でエネル ギー
と考えられる。
と栄養素摂取量について得るために必
しかしながら、数多くの限界を指摘し
要な観察日数(性・年齢階級別の解析)
ておかねばならない。第一に、対象者は
を表 4 に示す。要求されたランク付け能
健康な一般住民から無作為に抽出され
力を得るために必要な観察日数は、多く
た人たちではなく、おそらくはやや健康
の栄養素で、男女ともに若年群よりも高
志向の強い集団であったと考えられる。
96
第二に、対象者のほとんどは夫婦で参加
しくランク付けするために必要な調査
しており、夫婦は同じ食事をとる傾向に
期間は若年群よりも高齢群で、男性より
あるため、同じ研究を夫婦でない集団で
も女性で長い傾向が認められた。今回観
行えば、男女間で観察される結果が異な
察された結果は、概ね、国内で報告され
ったものになっていたかもしれない。第
ている他の結果に類似していた。しかし
三に、食習慣に影響を与えうると考えら
ながら、今回の研究は、標準化された方
れる各種の交絡要因を考慮していない。
法で得られたデータを用いて、男女間、
たとえば、収入や教育歴など、社会経済
年齢階級間における個人内変動・個人間
的な要因を考慮することができなかっ
変動の状況、そして、それらが食事アセ
た。第四に、食事記録を取ることが、食
スメントの誤差に与える影響、さらには、
習慣を変えてしまうという問題をもっ
それらを考慮して目的とする信頼度を
ている。最後に、男女・2 つの年齢階級
確保したうえで調査を行うために必要
に集団を分けると集団ご との人数は 54
となる対象者数と調査日数に関して、性
から 67 人となり、これ以上に多くの集
と年齢階級を考慮して検討した日本人
団に分けること(特に、年齢階級を増や
では初めての報告であろう。これは、日
すこと)ができなかった。しかしながら
本人の食事摂取基準を策定するために
16 日間にわたって半秤量式食事記 録を
も、また、それを適切に活用するために
取ることは非常に労力を要するため、こ
も不可欠の情報であると考えられる。
れ以上の対象者を得ることは現実的に
は非常に困難であると考えられる。
謝辞
E.結論
データ収集ならびデータ整理、データ解
既存のデータを用いて、エネルギーな
析を次の研究者等と共同で行いました。
ら び に 31 種 類 の 栄 養 素 に つ い て 個 人
深く謝辞を表します:(敬称略)福元梓
内・個人間変動に関する情報を性・年齢
(東京大学大学院医学系研究科)、朝倉
階級によるちがいを考慮して検討した。
敬子(慶應義塾大学医学部)、村上健太
解析対象者は各季節 4 日間(合計 16 日
郎(東京大学大学院医学系研究科)、大
間)の半秤量式食事記録を完了した日本
久保公美(東京大学大学院医学系研究
人の成人男女各 121 人である。個人内変
科)、廣田直子(松本大学)、野津あき
動係数(CVw)と個人間変動係数(CVb)
こ(鳥取短期大学)、等々力英美(琉球
は概ね高齢群よりも若年群で、女性より
大学医学部)、三浦綾子(浜松大学)、
も男性で大きかった。集団平均値を推定
福井充(大阪市立大学)、伊達ちぐさ(兵
するために必要な対象者数ならびに個
庫県立大学)。
人の習慣的な摂取量を推定するために
必要な調査日数は概ねともに高齢群よ
F.研究発表
りも若年群で、女性よりも男性で大きか
1.発表論文
った。摂取量によって集団内で個人を正
なし
97
なし
2.学会発表
なし
2.実用新案登録
なし
G.知的財産権の出願・登録状況(予定
3.その他
なし
を含む)
1.特許取得
98
表1 解析対象者の特性
女性 (n = 121)
a
男性 (n = 121)
若年 (n = 58)
高齢 (n = 63)
若年 (n = 54)
高齢a (n = 67)
SD
SD
SD
SD
平均
平均
平均
平均
39.0
5.0
58.9
5.7
40.5
5.2
61.5
6.5
年齢(歳)
身長 (cm)
156.6
5.7
152.8
6.1
170.3
6.1
165.1
6.0
体重 (kg)
52.9
6.9
53.8
7.2
67.9
11.1
65.2
9.6
2
21.6
2.8
23.0
2.7
23.4
3.2
23.8
2.7
BMI (kg/m )
推定基礎代謝量 (kcal/日)
1122
92
1046
111
1498
151
1368
145
1.67
0.13
1.65
0.13
1.73
0.22
1.68
0.17
身体活動レベル
EI/EER 比
0.97
0.15
1.08
0.18
0.94
0.21
1.03
0.18
略号: SD:標準偏差。EI=エネルギー摂取量(観察値)。EER=推定エネルギー必要量。
a
a
若年: 男女ともに30~49歳、高齢は女性50~69歳、女性50~76歳。
99
a
100
7.7
2891
608
6.0
6.9
203
1.1
6.4
(g)
(g)
(g)
(g)
(mg)
(mg)
(mg)
(mg)
(mg)
(mg)
(mg)
(μg)
(μgRE)
(μg)
(mg)
(μg)
(mg)
(mg)
(mg)
(mg)
(μg)
(mg)
(mg)
(g)
(g)
(g)
(g)
(mg)
(mg)
(mg)
総脂質
炭水化物
食物繊維
水
ナトリウム
カリウム
カルシウム
マグネシウム
リン
鉄
亜鉛
βカロチン当量e
ビタミンAf
ビタミンD
αトコフェロール
ビタミンK
ビタミンB1
ビタミンB2
ナイアシン
ビタミンB6
ビタミンB12
葉酸
ビタミンC
飽和脂肪酸
一価不飽和脂肪酸
多価不飽和脂肪酸
n-6系多価不飽和脂肪酸
n-3系多価不飽和脂肪酸
魚類由来n-3系多価不飽和脂肪酸g
コレステロール
若年 (n = 58)
83
289
0.5
2.1
2.4
5.0
4.3
29.7
82
2.6
0.2
3.6
0.3
0.2
75
1.5
2.2
402
1036
1.5
1.4
197
48
152
519
734
403
3.2
51
12.6
11.6
52.8
119.5
55.9
42.0
40.3
40.7
40.9
52.0
51.8
103.8
33.4
38.5
38.1
41.2
68.7
36.5
105.6
223.9
84.4
31.4
35.1
24.6
28.4
38.8
27.4
33.7
20.6
33.8
20.6
35.0
25.5
21.6
29.6
20.0
16.2
15.9
20.8
22.6
31.3
24.0
30.3
20.0
20.4
20.2
17.8
32.7
20.1
25.3
35.2
29.0
17.6
17.4
19.1
18.7
28.3
21.3
17.7
20.6
24.8
20.4
19.3
16.6
5.97
16.32
7.82
6.69
6.42
3.85
3.28
2.76
4.67
11.73
2.78
3.57
3.55
5.32
4.43
3.30
17.38
40.49
8.48
3.19
4.07
1.65
2.31
1.88
1.66
3.61
1.00
1.86
1.02
3.28
2.37
SD CVw (%)bCVb (%)c VRd
327
20.6
17.2
1.44
332
1030
2.6
10.2
12.8
18.8
15.1
136.7
411
8.7
1.4
18.3
1.4
0.9
269
7.9
9.4
702
4345
8.3
9.2
1138
306
628
2994
4315
2161
16.8
258
54.6
72.9
1845
平均
高齢 (n = 63)
79
392
0.6
1.9
2.3
3.7
3.2
34.8
97
3.0
0.3
3.7
0.3
0.2
90
1.5
3.7
324
1334
1.3
2.0
192
56
164
548
780
483
3.9
41
9.4
10.6
51.3
104.1
57.1
43.3
40.1
41.2
40.8
43.4
39.1
88.6
28.6
34.7
28.9
34.1
57.0
36.9
99.9
158.6
62.0
28.1
33.1
22.4
26.6
34.3
26.7
34.4
17.0
32.4
18.5
34.9
23.5
20.0
27.7
19.0
14.9
14.9
17.0
18.8
23.0
21.4
26.0
17.2
18.3
19.2
14.3
30.4
16.3
30.6
23.7
26.5
13.6
20.4
15.9
17.1
24.7
17.0
15.9
22.0
21.8
15.1
15.0
13.4
6.60
14.15
9.02
8.45
7.21
5.90
4.71
3.54
3.33
11.63
2.76
3.58
2.26
5.71
3.51
5.12
10.66
44.87
5.48
4.28
2.62
1.98
2.41
1.93
2.46
4.67
0.60
2.22
1.50
5.43
3.08
SD CVw (%)bCVb (%)c VRd
246
18.3
12.5
2.15
a
g
397
900
2.8
13.0
15.9
26.6
20.2
94.3
339
8.0
1.4
21.6
1.4
1.0
215
8.0
7.4
648
3252
9.8
8.4
1187
286
534
2676
4574
2356
13.3
311
71.6
81.0
2392
平均
若年 (n = 54)
103
411
0.7
2.9
3.5
7.0
6.4
36.8
96
3.6
0.4
5.8
0.4
0.2
78
2.0
2.7
450
1130
2.2
1.9
275
67
196
661
1008
615
3.7
69
18.2
16.9
49.0
123.9
57.0
42.8
40.7
42.5
45.1
53.1
53.6
96.1
34.9
39.4
36.3
44.9
60.7
39.9
106.0
221.9
80.0
32.4
35.1
24.0
27.0
40.0
26.0
35.7
23.3
34.1
20.9
37.0
25.4
23.0
33.6
22.3
19.5
19.2
24.2
29.7
36.7
25.0
38.5
24.8
24.8
24.2
21.0
32.8
23.0
24.4
41.9
28.4
21.2
21.3
22.4
22.4
35.4
23.8
20.2
25.5
26.5
21.6
23.6
19.8
4.54
13.57
6.51
4.80
4.47
3.09
2.31
2.10
4.58
6.23
1.97
2.51
2.26
4.57
3.43
3.01
18.82
28.02
7.91
2.34
2.71
1.15
1.45
1.28
1.19
3.13
0.84
1.65
0.93
2.45
1.64
398
1312
3.1
11.7
14.8
22.3
16.9
140.4
451
10.9
1.6
22.6
1.6
1.1
275
8.8
11.3
827
4475
10.0
10.1
1313
343
637
3207
5053
2476
17.4
312
63.1
86.8
2330
平均
男性 (n = 121)
SD CVw (%)bCVb (%)c VRd
473
21.1
19.0
1.23
a
βカロチン、αカロチン/2、クリプトキサンチン/2の合計。 レチノール、βカロチン/2、αカロチン/24、クリプトキサンチン/24の合計。 イコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸の合計。
f
CVw = [(個人内変動)0.5/平均]×100。 c CVb = [(個人間変動)0.5/平均]×100。 dVR = 個人内変動/個人間変動 比 (σw2/σb2)。
e
b
若年: 男女ともに30‐49歳、高齢は女性50-69歳、女性50-76歳。
a
略号: SD = 標準偏差、CVw = 個人内変動係数; CVb = 個人間変動係数; VR = 個人内係数個人間変動係数比; RE = レチノール当量。
330
687
2.2
10.7
12.9
21.6
17.3
87.7
300
15.9
1.2
0.8
7.2
983
240
507
2322
3742
1902
12.4
244
59.7
65.1
(g)
たんぱく質
1824
(kcal)
エネルギー
平均
a
表2 性・年齢階級別にみた、平均エネルギー・栄養素摂取量、変動係数、および個人内個人間変動比
女性 (n = 121)
a
高齢 (n = 67)
103
524
0.8
2.5
3.0
5.3
3.5
40.8
103
4.2
0.3
5.6
0.3
0.2
88
1.8
4.5
504
1377
1.6
1.8
219
62
166
571
860
498
4.1
52
12.3
13.6
47.6
99.0
57.8
42.6
39.7
42.4
41.3
50.4
49.6
96.4
30.0
36.4
33.0
36.5
63.0
38.1
93.3
209.4
65.9
30.3
31.3
22.7
25.6
34.7
23.9
34.1
18.6
30.5
19.9
35.9
23.7
23.0
31.4
21.2
18.6
17.8
21.1
18.2
26.2
19.2
29.7
18.8
23.2
17.4
14.6
27.9
17.7
32.0
31.2
26.0
13.8
16.2
15.7
17.0
24.6
16.8
14.7
19.6
22.1
15.9
17.3
14.5
4.28
9.94
7.47
5.26
5.00
4.02
5.16
3.70
6.69
10.54
2.55
2.47
3.59
6.30
5.12
4.65
8.52
45.08
6.44
4.86
3.74
2.10
2.28
2.00
2.03
5.35
0.90
1.90
1.57
4.30
2.67
SD CVw (%)bCVb (%)c VRd
370
18.5
15.2
1.49
101
(kcal)
(g)
(g)
(g)
(g)
(g)
(mg)
(mg)
(mg)
(mg)
(mg)
(mg)
(mg)
(μg)
(μgRE)
(μg)
(mg)
(μg)
(mg)
(mg)
(mg)
(mg)
(μg)
(mg)
(mg)
(g)
(g)
(g)
(g)
(mg)
(mg)
(mg)
2.5%
442
569
980
517
1081
520
889
741
1416
712
596
946
794
4889
31569
7246
1068
3558
1237
1141
1168
933
7191
2001
2261
1344
1284
1155
1244
2170
9315
2000
= 58)
10%
28
36
61
32
68
32
56
46
88
44
37
59
50
306
1973
453
67
222
77
71
73
58
449
125
141
84
80
72
78
136
582
125
20%
7
9
15
8
17
8
14
12
22
11
9
15
12
76
493
113
17
56
19
18
18
15
112
31
35
21
20
18
19
34
146
31
2.5%
302
448
884
352
937
473
881
618
1096
614
464
929
598
2793
15808
6715
1002
2568
842
738
946
687
5235
1219
1483
1243
1222
1127
1290
2224
7134
1862
女性 (n = 121)
高齢b (n = 63)
5%
10%
76
19
112
28
221
55
88
22
234
59
118
30
220
55
155
39
274
69
154
38
116
29
232
58
149
37
698
175
3952
988
1679
420
250
63
642
161
210
53
184
46
237
59
172
43
1309
327
305
76
371
93
311
78
305
76
282
70
323
81
556
139
1784
446
465
116
20%
5
7
14
5
15
7
14
10
17
10
7
15
9
44
247
105
16
40
13
12
15
11
82
19
23
19
19
18
20
35
111
29
2.5%
497
639
1186
556
1145
732
1032
764
1752
757
661
1038
921
4426
31332
7279
1303
2925
1511
1171
1331
1127
6585
2147
2564
1789
1471
1245
1362
2301
10124
1803
若年b (n = 54)
5%
10%
124
31
160
40
297
74
139
35
286
72
183
46
258
64
191
48
438
109
189
47
165
41
260
65
230
58
1106
277
7833
1958
1820
455
326
81
731
183
378
94
293
73
333
83
282
70
1646
412
537
134
641
160
447
112
368
92
311
78
341
85
575
144
2531
633
451
113
20%
8
10
19
9
18
11
16
12
27
12
10
16
14
69
490
114
20
46
24
18
21
18
103
34
40
28
23
19
21
36
158
28
c
若年: 男女ともに30‐49歳、高齢は女性50-69歳、女性50-76歳。
CVw = [(個人内変動)0.5 /平均]×100。 cCVb = [(個人間変動)0.5/平均]×100。 dVR = 個人内変動/個人間変動 比 (σw2/σb2)。
βカロチン、αカロチン/2、クリプトキサンチン/2の合計。 dレチノール、βカロチン/2、αカロチン/24、クリプトキサンチン/24の合計。 eイコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸の合計。
b
b
2.5%
353
476
976
400
872
448
846
524
1110
580
467
763
682
3085
27544
5977
1085
2919
951
854
1147
770
6254
1741
1980
1251
1378
1162
1326
2332
6624
1715
男性 (n = 121)
対象者ごとに1回の観察を行う食事記録における対象者数 = 1.962×[(CVb2+CVw2)/D02], ここで D0 = 集団の習慣的な(真の)平均摂取量からの指定した偏差(%)。
略号: SD = 標準偏差、CVw = 個人内変動係数; CVb = 個人間変動係数; VR = 個人内係数個人間変動係数比; RE = レチノール当量。
a
魚類由来n-3系多価不飽和脂肪酸g
コレステロール
葉酸
ビタミンC
飽和脂肪酸
一価不飽和脂肪酸
多価不飽和脂肪酸
n-6系多価不飽和脂肪酸
n-3系多価不飽和脂肪酸
ビタミンB12
ナイアシン
ビタミンB6
ビタミンB2
ビタミンB1
βカロチン当量e
ビタミンAf
ビタミンD
αトコフェロール
ビタミンK
D0
エネルギー
たんぱく質
総脂質
炭水化物
食物繊維
水
ナトリウム
カリウム
カルシウム
マグネシウム
リン
鉄
亜鉛
若年b (n
5%
111
142
245
129
270
130
222
185
354
178
149
236
198
1222
7892
1812
267
890
309
285
292
233
1798
500
565
336
321
289
311
543
2329
500
高齢b (n = 67)
5%
10%
88
22
119
30
244
61
100
25
218
54
112
28
212
53
131
33
278
69
145
36
117
29
191
48
170
43
771
193
6886
1722
1494
374
271
68
730
182
238
59
214
53
287
72
193
48
1563
391
435
109
495
124
313
78
344
86
291
73
332
83
583
146
1656
414
429
107
20%
6
7
15
6
14
7
13
8
17
9
7
12
11
48
430
93
17
46
15
13
18
12
98
27
31
20
22
18
21
36
103
27
表3 1日間の食事記録法でエネルギーおよび栄養素の集団の平均摂取量を知るために必要な対象者数:習慣的な(真の)平均摂取量からの指定した偏差(%)の範囲内に95%信頼区間が入るようにする場合
(性・年齢階級別の解析)
102
0.95
13
22
30
9
17
9
33
15
17
21
15
38
29
79
375
161
31
41
49
33
33
26
109
43
26
30
36
59
62
72
151
55
0.75
3
4
7
2
3
1
6
3
2
3
3
3
6
7
58
14
7
5
7
3
5
4
15
4
5
6
8
9
11
12
18
8
0.95
20
28
50
14
21
6
43
23
18
22
18
24
40
51
415
99
47
32
53
21
33
26
108
31
33
44
55
67
78
83
131
61
0.75
2
2
3
1
2
1
4
2
2
2
1
3
3
10
36
24
4
4
6
3
3
3
8
6
3
3
4
6
6
8
17
6
若年b (n = 54)
0.8
0.85
0.9
2
3
5
3
4
7
4
6
10
2
2
4
3
4
7
1
2
4
6
8
13
2
3
5
2
3
5
3
4
6
2
3
5
5
7
12
4
6
10
14
21
34
50
73
119
33
49
80
5
8
13
6
9
15
8
12
19
4
6
10
4
7
11
4
5
8
11
16
27
8
12
20
4
5
9
4
6
10
5
8
13
8
12
19
9
13
20
12
17
28
24
35
58
8
12
19
0.95
11
15
23
9
15
8
29
11
12
13
11
25
22
73
259
174
28
32
42
21
23
18
58
42
19
21
29
41
44
60
126
42
0.75
2
3
6
2
2
1
7
3
3
3
3
5
6
8
58
11
6
7
8
5
3
3
14
9
5
7
5
6
7
10
13
6
b
高齢b (n = 67)
0.8
0.85
0.9
3
4
6
5
7
11
8
11
18
3
4
7
3
5
8
2
2
4
10
14
23
4
5
9
4
5
9
4
6
10
4
5
9
7
10
16
9
13
21
11
17
27
80
117
192
15
22
36
8
12
20
9
13
22
11
16
27
6
9
15
4
6
11
5
7
11
19
27
45
12
17
29
7
10
16
9
13
22
7
10
17
9
13
21
9
14
22
13
19
32
18
26
42
8
11
18
食事記録の必要日数 = [r2/(1-r2)]×VR, ここで r = 個人の習慣的な(真の)平均摂取量と観察される摂取量とのあいだの観察できない相関係数 および VR = 個人内/個人間変動の比 (σw2/σb2)。
0.75
2
3
4
1
2
1
5
2
2
3
2
5
4
11
52
22
4
6
7
5
5
4
15
6
4
4
5
8
9
10
21
8
高齢b (n = 63)
0.8
0.85
0.9
4
6
9
5
8
13
10
14
23
3
4
6
4
6
9
1
2
3
8
12
20
4
6
10
3
5
8
4
6
10
4
5
8
5
7
11
8
11
18
10
14
23
80
117
191
19
28
45
9
13
22
6
9
15
10
15
24
4
6
10
6
9
15
5
7
12
21
30
50
6
9
14
6
9
15
8
12
20
10
15
25
13
19
31
15
22
36
16
23
38
25
37
60
12
17
28
若年: 男女ともに30‐49歳、高齢は女性50-69歳、女性50-76歳。
CVw = [(個人内変動)0.5 /平均]×100。 cCVb = [(個人間変動)0.5/平均]×100。 d VR = 個人内変動/個人間変動 比 (σw2/σb2)。
c
βカロチン、αカロチン/2、クリプトキサンチン/2の合計。 dレチノール、βカロチン/2、αカロチン/24、クリプトキサンチン/24の合計。 eイコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸の合計。
b
a
魚類由来n-3系多価不飽和脂肪酸g
コレステロール
葉酸
ビタミンC
飽和脂肪酸
一価不飽和脂肪酸
多価不飽和脂肪酸
n-6系多価不飽和脂肪酸
n-3系多価不飽和脂肪酸
ビタミンB12
ビタミンB6
ナイアシン
ビタミンB2
ビタミンB1
βカロチン当量e
ビタミンAf
ビタミンD
αトコフェロール
ビタミンK
r
エネルギー
たんぱく質
総脂質
炭水化物
食物繊維
水
ナトリウム
カリウム
カルシウム
マグネシウム
リン
鉄
亜鉛
若年b (n = 58)
0.8
0.85
0.9
3
4
6
4
6
10
6
9
14
2
3
4
3
5
8
2
3
4
6
9
15
3
4
7
3
5
8
4
6
10
3
4
7
7
11
17
6
8
14
15
22
36
72
105
173
31
45
74
6
9
14
8
12
19
9
14
23
6
9
15
6
9
15
5
7
12
21
31
50
8
12
20
5
7
12
6
9
14
7
10
16
11
17
27
12
17
29
14
20
33
29
42
70
11
16
25
表4 習慣的な(真の)摂取量と観察される摂取量とのあいだで指定したランク付け能力(相関係数)を食事記録法でエネルギーと栄養素摂取量について得るために必要な観察日数:性・年齢階級別の解析
女性 (n = 121)
男性 (n = 121)
0.95
14
25
40
15
18
8
49
19
18
21
19
35
45
60
417
79
43
47
58
33
23
24
98
62
34
48
37
46
49
69
92
40
103
5%
65
100
188
65
176
65
174
116
231
124
93
190
151
1093
7702
1713
205
726
260
222
228
172
1657
412
415
257
255
250
271
481
2194
428
30%
2
3
5
2
5
2
5
3
6
3
3
5
4
30
214
48
6
20
7
6
6
5
46
11
12
7
7
7
8
13
61
12
5%
52
85
187
53
161
44
181
110
181
109
77
168
121
591
3866
1535
210
500
179
128
185
126
1205
234
289
256
261
247
288
501
1666
404
女性 (n = 121)
高齢b (n
10%
13
21
47
13
40
11
45
27
45
27
19
42
30
148
966
384
52
125
45
32
46
32
301
59
72
64
65
62
72
125
416
101
= 63)
20%
3
5
12
3
10
3
11
7
11
7
5
11
8
37
242
96
13
31
11
8
12
8
75
15
18
16
16
15
18
31
104
25
30%
1
2
5
1
4
1
5
3
5
3
2
5
3
16
107
43
6
14
5
4
5
4
33
7
8
7
7
7
8
14
46
11
若年: 男女ともに30‐49歳、高齢は女性50-69歳、女性50-76歳。
CVw = [(個人内変動)0.5 /平均]×100。 cCVb = [(個人間変動)0.5/平均]×100。 d VR = 個人内変動/個人間変動 比 (σw2/σb2)。
5%
69
99
211
67
178
84
195
104
246
112
88
190
161
982
7563
1728
245
566
310
203
238
187
1418
441
434
312
278
254
282
499
2357
369
若年b (n = 54)
10%
20%
17
4
25
6
53
13
17
4
45
11
21
5
49
12
26
6
61
15
28
7
22
6
47
12
40
10
246
61
1891
473
432
108
61
15
142
35
77
19
51
13
60
15
47
12
355
89
110
28
108
27
78
20
69
17
64
16
70
18
125
31
589
147
92
23
30%
2
3
6
2
5
2
5
3
7
3
2
5
4
27
210
48
7
16
9
6
7
5
39
12
12
9
8
7
8
14
65
10
5%
53
87
198
61
143
53
178
88
185
101
79
150
141
667
6737
1337
223
610
205
167
204
138
1428
379
390
262
276
242
279
514
1505
348
男性 (n = 121)
βカロチン、αカロチン/2、クリプトキサンチン/2の合計。 dレチノール、βカロチン/2、αカロチン/24、クリプトキサンチン/24の合計。 eイコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸の合計。
c
b
b
魚類由来n-3系多価不飽和脂肪酸g
コレステロール
a
食事記録の必要日数 = (1.96×CVw/D1)2, ここで D1 = 個人の習慣的な(真の)平均摂取量からの指定した偏差(%)。
飽和脂肪酸
一価不飽和脂肪酸
多価不飽和脂肪酸
n-6系多価不飽和脂肪酸
n-3系多価不飽和脂肪酸
葉酸
ビタミンC
ビタミンB12
ビタミンB6
ナイアシン
ビタミンB2
ビタミンB1
βカロチン当量e
ビタミンAf
ビタミンD
αトコフェロール
ビタミンK
D1
エネルギー
たんぱく質
総脂質
炭水化物
食物繊維
水
ナトリウム
カリウム
カルシウム
マグネシウム
リン
鉄
亜鉛
若年b (n = 58)
10%
20%
16
4
25
6
47
12
16
4
44
11
16
4
44
11
29
7
58
14
31
8
23
6
47
12
38
9
273
68
1926
481
428
107
51
13
181
45
65
16
56
14
57
14
43
11
414
104
103
26
104
26
64
16
64
16
62
16
68
17
120
30
549
137
107
27
高齢b (n = 67)
10%
20%
13
3
22
5
49
12
15
4
36
9
13
3
45
11
22
5
46
12
25
6
20
5
38
9
35
9
167
42
1684
421
334
84
56
14
153
38
51
13
42
10
51
13
35
9
357
89
95
24
97
24
65
16
69
17
61
15
70
17
129
32
376
94
87
22
30%
1
2
5
2
4
1
5
2
5
3
2
4
4
19
187
37
6
17
6
5
6
4
40
11
11
7
8
7
8
14
42
10
表5 食事記録法でエネルギーおよび栄養素の平均摂取量を知るために必要な食事記録日数:習慣的な(真の)平均摂取量からの指定した偏差(%)の範囲内に95%信頼区間が入るようにする場合(性・年
齢階級別の解析)
平成 23 年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)
日本人の食事摂取基準の改定と活用に資する総合的研究
研究代表者
徳留 信寛 国立健康・栄養研究所 理事長
Ⅱ.研究分担者の報告書
11.小児期における食事摂取基準の活用に関する検討
研究分担者
吉池 信男
青森県立保健大学健康科学部栄養学科
研究協力者
吉岡 美子
青森県立保健大学健康科学部栄養学科
研究協力者
齋藤 長徳
青森県立保健大学健康科学部栄養学科
研究協力者
熊谷 貴子
青森県立保健大学健康科学部栄養学科
研究協力者
岩部万衣子
青森県立保健大学健康科学部栄養学科
研究協力者
岩岡 未佳
青森県立保健大学
研究要旨
小児期における食事摂取基準の活用の場としての保育所を選び、給食を通じた栄養ケアが食事
摂取基準の活用の考え方に基づいて行われているかを把握した。A 県の 440 施設を対象集団とし
た調査の結果、栄養士・管理栄養士ともに配置の無い施設が半数以上あり、PDCA サイクルに基
づいた給食実施がなされていない現状がわかった。そこで、栄養士等が配置されていない保育所
においても、子どもたちの身体状況や食事摂取状況などを踏まえ、給食の計画・実施を行うこと
ができるように、ツール(児の身体状況等の評価、給与栄養目標量の設定等)及び教材を作成し
た。より多くの施設に対して働きかけ(介入)ができるように、県内 6 ブロックにおいて系統的
に研修を計画し、開始した。このような地域を基盤とした介入の効果を評価するため、2011 年 11
月にベースラインの施設調査を行った。約 1 年後に、介入後の調査を実施する予定である。
A.目的
がなされており、食事摂取基準の活用の基本
「日本人の食事摂取基準(2010 年版)」では、
である PDCA サイクルの意義が理解され、有
厚生労働省母子保健課に設置された研究会に
効な形で実践されるかについては、大きな課
おいて、「児童福祉施設における食事の提供
題となっている。そのようなことから、本研
ガイド」(2010 年 3 月)がつくられ、各児童
究課題では、栄養士の配置率が低いとされて
福祉施設の給食管理における食事摂取基準の
いる A 県の保育所を対象として、現状を十分
活用の考え方が示された。しかし、児童福祉
に踏まえて、実行可能な食事摂取基準の活用
施設の大半を占める保育所では、栄養士・管
方策を検討することとした。
理栄養士の必置義務が無いことから、これら
の専門職が不在の状況で給食の計画・実施等
B.方法
104
② 講義と演習:給与栄養目標量設定のため
1.ツール及び教材の開発
のツールの活用
1)背景と目的
2010 年 11 月~2011 年 2 月に実施した A 県
③ 講義:モニタリングのための状況把握と
の保育所を対象とした調査
(平成 22 年度分担
計画の見直し
研究報告書)では、食事摂取基準 2010 年版も
なお、ツールの作成は、給食経営管理等を
しくは 2005 年版を「活用している」施設は
専門とする管理栄養士の資格を有する研究者
53%であり、給与栄養目標量を施設で決定す
が行い、保育所勤務の実務者からのフィード
る職種としては、調理師・調理員が約半数を
バックを得ながら改良を行った。
占めていた。
そして、
利用者の特性を踏まえ、
食事摂取基準を活用して給与栄養目標量を施
2.ベースライン調査
設自らが設定するというよりも、
「保育所給食
1)対象及びデータ収集の方法
の手引き」に掲載されている「給与栄養目標
青森県内保育所 440 施設を母集団とした。
量」、「加重平均食品構成表(例示)」、「食品
2011 年 11 月に全施設に対して、質問紙(A4
群別加重平均成分表」等の数値を、
そのまま使
で 2 枚の調査用紙)を郵送し、FAX にて回収
っていることが予想された。
した。
そこで、栄養士がいない保育所においても
食事摂取基準を活用した給食計画・実施・評
2) 調査項目
価が効果的に実施されることを目的に、児の
①
施設特性:給食従事者数・職種
身体状況等の評価、給与栄養目標量の設定を
②
給与栄養目標量の設定の有無、設定を行
中心としたツールと教材を開発した。
そして、
う職種、給与栄養目標量を設定する際に
より多くの施設に受け入れ可能な研修プログ
反映させている情報の種類(年齢、性別、
ラムを現場サイド(県保育連合会給食部会)
身長・体重、体重変化、身体活動量、保
との協働で計画・実施することとした。
育所での給食摂取量、家庭での食事摂取
量)
③
2)ツール及び教材の開発・改良の方法
給食献立の作成の職種、栄養計算方法、
参照資料
子どもたちの身体状況や摂取状況などを踏
まえて保育所給食の計画・実施を行うことの
④ 給食提供時の盛りつけ量の調整
重要性について、わかりやすく説明し、給食
⑤ 給食摂取量の把握方法
担当者のみならず、施設長の理解を促すよう
⑥ 栄養管理・給食管理を目的とした、身体
状況の考慮の有無と内容
な教材とした。子どもたちの身体状況(特に
成長)に合わせた給与栄養目標量を設定する
ためのツール(マイクロソフトエクセル)を
3.研修プログラムの実施(介入)
作成し、実習を行う内容とした。
今回開発したツール及び教材を用いて、県
全体を以下の 3 部で構成した。
内 6 ブロックのリーダーとなる実務者に対し
① 講義:保育所給食における栄養管理の大
て、予備的な研修を行い、リーダーの育成を
切さ
図るとともに、ツール・教材や研修内容の見
105
直し、改良の機会とした。
を理解している。
なお、個別的な教育目標及び参加者の自己
チェック項目を以下に示す。
C.結果
プログラム① 保育所における栄養管理の大切さ
1.ツール及び教材の開発
今回開発したツール及び教材の概略を附図
1)保育所給食の栄養管理の中で一番大事な部分がど
に示す。
こか理解している。
2)給与栄養目標量を設定する時「保育所給食の手引
き」の数値をそのまま使ってはダメな理由を理解し
2.ベースライン調査
2012 年 1 月末の時点で、261 施設から有効
ている。
3)給与栄養目標量を設定するための実際の流れを理
回答が得られた(回答率 59%)。そのうち、
解している
258 施設(99%)が施設内での調理を行って
プログラム② 給与栄養目標量設定のためのツール
いた。栄養士又は管理栄養士の配置は 48%の
の活用
施設(うち管理栄養士は 3%)であり、その
1)給与栄養目標量の計算方法と設定方法を理解し、
他の給食従事者としては、調理師 57%、調理
ツールとの関連性を理解している。
員 52%であった。給食従事者数は、1 施設当
2)実際にツールを使用し子ども個人の推定エネルギ
たり平均 2.5 名であった。
給与栄養目標量の設定は、96%の施設で行
ー必要量を計算する。
3)子ども個人の推定エネルギー必要量をもとに、年
っていた。栄養士・管理栄養士が配置されて
齢グループ別(1~2 歳、3~5 歳)の給与栄養目標量
いない施設(n = 129、以下、配置なし)では、
の設定方法を理解し、実際に設定する。
給与栄養目標量を設定する職種は、
栄養士 5%、
4)年齢グループ別の給与栄養目標量と個人の推定エ
主任保育士 10%、調理師 47%、調理員 28%で
ネルギー必要量の差などから、個人対応の必要な子
あった。
給与栄養目標量を設定する際の情報の必
どもを見つけ出す意義と方法を理解している。
5)1 日の給与栄養目標量から保育所給食(昼食+お
要性の認識と反映の有無について、栄養士・
やつ)の提供量を設定する方法を理解し、実際に設
管理栄養士が配置されている施設(n = 118、
定する。
以下、配置あり)と配置なし(n = 126)では、
6)米飯持参の場合の給与栄養目標量の計算方法を理
年齢の違い 85%、80%、保育所での給食摂取
解し、実際に計算する。
量 73%、79%で反映されていた。一方、身長・
体重については、それぞれ 23%、26%と、栄
7)設定した給与栄養目標量と食品構成との関係を理
養士等の配置がある場合でも、「必要性の認
解し、実際に食品構成の微調整を行える。
識」はあるものの、給与栄養目標量には実際
8)荷重平均成分表の位置づけを理解し、必要に応じ
には反映されていなかった。また、体重変化
て活用(さらには作成)する。
については、15%、19%とさらに反映されて
プログラム③ モニタリングのための状況把握と計
いる割合が少なかった(表 1、図 1)。
画の見直し
主体となって給食献立の作成と栄養計算
1)子ども個人の現状把握の方法を理解している。
する職種は、配置なしで、栄養士 4%、主任
2)栄養管理計画を見直す手順(観察→記録→評価)
保育士 8%、調理師 49%、調理員 30%であり、
106
給食献立の栄養計算方法は全体で、栄養計算
者で約 2 時間 30 分の研修会とした。
ソフト 48%、加重平均表からエクセル等で計
内容として、保育所における栄養管理の大
算 32%、手作業 18%であった。給食献立をた
切さとその目的・意義を理解すること、給与
てる際に参照しているもの(n = 261、複数回
栄養目標量に対する正しい理解を得ること、
答)
は、
過去の献立 87%、
市販のレシピ本 65%、
その数値設定の具体的な方法、子ども達の状
食品構成(保育所手引き)63%、インターネ
況把握の必要性と関連性、考え方のポイント
ット 43%、食品構成(その他)27%の順であ
を中心に講義を進めた(約 40 分)。その後、
った。
講義内容を踏まえ、ツールの使用方法と数値
3~5 歳児での給食盛付量の調整について、
の見方、その数値をどのように各施設に当て
配置ありと配置なしで、「年齢ごとに量を変
はめて実際の給与栄養目標量として活用・設
えている」がもっとも多く、それぞれ 87%、
定するか説明した(約 1 時間 30 分)。
92%、「給与栄養目標量の考慮はしていない
研修終了時、参加者とリーダーを含むスタ
が、食べ方・食欲により盛り付け量を調整し
ッフに対し、質問紙によるセルフチェックを
ている」58%、47%と続いた(表 2)。給食摂
行った(約 20 分)。参加者には、研修の前後
取量の把握方法は「園児全体あるいはクラス
における各プログラムに対する理解とその変
全体で、残食量を測定・記録している」がも
化について、スタッフには、研修会を行うに
っとも多く、配置ありと配置なしで、それぞ
あたり、準備等の経過と研修の運営状況につ
れ 81%、76%であった(表 3)。
いて答えてもらった。この質問紙による自己
栄養・給食管理の観点から身長・体重のデ
評価結果などを用いてプロセス評価を行い、
ータを考慮していると答えた施設は、配置あ
今後の課題と目標を決定し、継続的な研修会
りで 51%、配置なしで 56%であり、それぞれ
の開催やその内容を考慮し検討していく。今
の方法(複数回答)は、「定期的に見直し」
回の参加者は管理栄養士・栄養士をはじめ、
25%、18%、
「年度ごとに見直し」40%、22%、
その他の職種の方もいることから、栄養管理
「個別対応」57%、65%であった(表 4)。
の重要性についての十分な理解が重要となっ
た。
3.研修プログラムの実施(介入)
各ブロックの研修は、2012 年 2 月から開始
D.考察
食事摂取基準の活用の場としては給食施
したところである。研修方法の概略を以下に
設が重要であり、給食の計画・実施・評価に
まとめる。
各ブロックのリーダーと保育連合会のメ
おいては、利用者の身体状況や給食以外の食
ンバー(管理栄養士または栄養士を含む保育
事も含めた摂取量のアセスメントを行うこと
所関係者)が中心となり、そのブロックに所
が求められている。特に、小児期は発育・発
属する保育所の給食担当者を対象に、講義と
達段階にあり、保育所をはじめとする児童福
演習を含む研修会である。
祉施設における給食は大きな役割をもつ。乳
本報告時点で終了した、あるブロックにお
幼児においては、個人の体重増加等の身体状
ける 5 回の研修において、
同ブロック 91 施設
況の変化も著しく、また同じ月齢・年齢であ
のうち、75 施設(82%)が参加した。スタッ
っても、身長や体重などの個人差も大きい。
フ数や会場等を考慮し、1 回 15~20 名の参加
107
しかし、実際には栄養士等の配置義務もな
良とその提示を行いたい。
く、栄養管理の視点から給食の実務が行われ
ているとは言いがたい。そこで、本分担研究
(謝辞)本研究の実施にあたっては、社団法
課題では、A 県の保育所を母集団として、給
人青森県保育連合会給食部会の皆様方、青森
食管理に関する実態の把握、その結果を踏ま
県立保健大学健康科学部栄養学科の小畠文香
えた対策の検討と実施(=介入)、並びに介
さん、高橋智美さん、尾地麻奈美さん、佐藤
入効果の検証を行うこととした。本年度は、
美捺子さんの協力をいただきました。ここに
実態の把握を行い、その結果を踏まえ、児の
感謝申し上げます。
身体状況等の評価、給与栄養目標量の設定を
中心としたツールと教材を開発した。それら
F.研究発表
を用いて、実務者のリーダーによる研修プロ
1.発表論文
なし
グラムを 2012 年 2 月より開始し 2012 年 10
月ごろまでに、県内の地域をできるだけカバ
2.学会発表
なし
ーして行う予定である。このような介入の評
価として、2011 年 11 月にベースライン調査
を行った。そして、2012 年 11 月に介入後の
G.知的財産権の出願・登録状況(予定を含
調査を行う予定である。
本報告書においては、
む)
このベースライン調査結果の一部を示した。
1.特許取得
なし
今後、各ブロックにおいて、介入の強度や時
期が異なることから、そのバラつきと、介入
2.実用新案登録
なし
前後の変化の違いについて解析を行うことと
する。
3.その他
なし
E.結論
管理栄養士等が配置されていない保育所
においても、子どもたちの身体状況や食事摂
取状況などを踏まえ、給食の計画・実施を行
うことができるように、ツール(児の身体状
況等の評価、給与栄養目標量の設定等)及び
教材を作成した。県内 6 ブロックにおいて系
統的に研修を計画し、開始した。このような
介入の効果を評価するため、2011 年 11 月に
ベースラインの施設調査を行った。来年度に
おける、介入の継続実施と、約 1 年後の調査
結果を踏まえて、人的資源の乏しい地域にお
いても実効性の期待できるプログラムへの改
108
109
110
子ども達の成長に合わせた給食提供のための栄養管理の大切さを今
一度確認しましょう。
栄養管理に取り組む前に確認しておくべきこととは?
講義:保育所給食における栄養管理の大切さ
研修プログラムの内容
調理・給食の実施
給食献立を作成
第4ステップ
給食の評価と改善
子ども達一人一人の食べ方・成長を確認【モニタリング】
第3ステップ
第2ステップ
給与栄養目標量(給食で与える栄養量の基準値)を設定
子ども達の状況(身体状況、食事量など)を知る【アセスメント】
一人一人の
成長に合わせた
給食を提供する
ためには、
第1ステップが
大事!
栄養管理はどんなことをするの?
栄養管理計画を作ったら、モニタリングや計画の見直しはどうしたらいい
のか? について理解します。
講義:モニタリングのための状況把握と計画の見直し
栄養管理の第1ステップ「給与栄養目標量の設定」が簡単にできるツール
を使って、実際に設定の演習をします。
講義&演習:給与栄養目標量設定のためのツールの活用
第1ステップ
③
②
本日の重点ポイント!
①
附 図
栄養士
管理栄養士
兼任
3
( 0.9%)
62
(18.3%)
配置なし
329
(97.3%)
183
(54.1%)
がいない施設が過半数。
(栄養管理の専門知識を持つ人)
現状は管理栄養士・栄養士
全件調査
(N=338)
専任
6
( 1.8%)
93
(27.5%)
保育所の管理栄養士・栄養士の配置
昨年の保育所調査結果より
給与栄養目標量の設定は誰がするの?
一人一人の身体状況、食べ方、家庭での生活習慣・食事状
況なども把握した上で、個々の成長に合わせた適切な対応
が求められる!
一律に管理できるものではない。
食べる量や成長の早さなど個人差がとても大きい。
●保育園児
子ども達の健やかな成長のために、その責任は重大!
目安としては1日に必要な栄養量の1/2程度をまかなう。
1日1食(+おやつ)の施設が多い。
●保育所給食
心身の健やかな成長・発達を目的に、適切な栄養状態を確保すること。
なぜ栄養管理(給食管理)が大切なの?
111
0.0% 44
1
5
5
11
13
93.6% 2.1% 10.6% 10.6% 23.4% 27.7% 79
2
8
10
21
29
2.4% 9.8% 12.2% 25.6% 35.4% 96.3% 合計
(n=83)
「保育所給食の手引き」で示している数値をそのまま使ってしまっているのでは?
→ 年齢以外はあまり考えられていない。
0
特になし
8.3% 13.9% 5
3
体格
身体活動量
27.8% 10
性別
家庭の食事摂取状況
97.2% 44.4% 35
16
年齢
栄養士配置の有無
配置あり (n=36)
配置なし (n=47)
その保育所の子ども達に適した給与栄養目標量を出すことが大事!
ならば、保育所によって給与栄養目標量も違ってくる。
保育所によって子どもの成長の度合いは違う。
家庭での生活や食事状況も違う。
一人一人の成長に合わせた給食を提供することを考えると・・・
そのまま使ってはダメなの?
主催チームによる昨年の保育所調査結果より
(複数回答)
の数値(一律の基準)を
考えていることの現状は?
給与栄養目標量設定時に考慮している点
給与栄養目標量は「保育所給食の手引き」
給与栄養目標量(給食で与える栄養量の基準値)を設定
子ども達の状況(身体状況、食事量など)を知る【アセスメント】
第1ステップ
考えるポイントは?
給与栄養目標量を設定するときに
給与栄養目標量を設定するときに
栄養士以外の職種の人にも栄養管理について知ってもらい、さらに食育を推進してほしい
調理従事者が設定している施設が多い。
栄養士配置のない施設の給与栄養目標量の設定者(n=46)
昨年の保育所調査結果より
給与栄養目標量の設定は誰がするの?
112
4. 食品構成を考える
3. 給与栄養目標量を設定する
本日のプログラム②で
エクセルのツールを使って演習します!
成長の偏りなどの特徴を十分考えて、柔軟に使います。
★献立作成上の目安なので、個々の子どもに対しては、
使って施設独自の設定をする。
い。
他で作られた食品構成を満たすために献立を立ててはいけな
るうえでの「お助けツール」。
ただし!これは栄養面・食事としてのバランスの良い献立を立て
ずれることなく、栄養素量を摂取することができる便利なツール。
献立作成時に活用することで、「給与栄養目標量」から大きくは
給与栄養目標量を満たすために、どの食品をどれだけ(何g)
食べたらよいかを示すもの。
具体的に何をすればいい?
具体的に何をすればいい?
推定エネルギー必要量の算出結果と「食事摂取基準」を
給与栄養目標量を設定するための第1ステップ
本日のプログラム②で
エクセルのツールを使って演習します!
★肥満ややせなど成長に偏りのある子どもは、個別対応にするかどうか判断する。
何種類の食種を設定すればよいのか確認。
一人一人の推定エネルギー必要量を計算し、全体の分布をみて、
アセスメントした子どもの身長・体重などのデータを使って、
エネルギーのとりすぎ・とらなさすぎになってしまう危険が
一番小さくなるエネルギー摂取量のこと。(望ましい摂取量のこと)
給与栄養目標量を設定するための第1ステップ
⑥以上の情報を照らし合わせて、職員間で共有し、一人一人の保育
の目標・計画に合わせた食事の支援目標・計画を作る。
⑤家庭での食事内容や生活時間、生育歴、アレルギー等疾病の有無
について把握しておく。
④遊びの様子や身体の動かし方など活動量についても把握する。
③一人一人の身長と体重をそれぞれの成長曲線で判定する。
②出生時からこれまでの成長の動きを成長曲線で見る。
①子ども達一人一人の性別・年齢(月齢)・身長・体重を把握する。
2. 推定エネルギー必要量の分布をみる
具体的に何をすればいい?
具体的に何をすればいい?
1. 子ども達の状況を知る【アセスメント】
給与栄養目標量を設定するための第1ステップ
給与栄養目標量を設定するための第1ステップ
113
給与栄養目標量設定のためのツール(エクセル)
手順や考え方は本日のプログラム②で
エクセルのツールを使って演習します!
3.食品構成の作成
2.食品群別荷重平均成分表の算出
1.各食品群の構成比率の算出
作成手順
推定エネルギー必要量の分布から設定した食事の種
類・給与栄養目標量にもとづいて、保育所ごとに作成
するのが望ましい。
4. 食品構成を考える
具体的に何をすればいい?
給与栄養目標量を設定するための第1ステップ
食品構成は、
青森県独自の
食品構成比率
を用いて、
1~2歳児と、
3~5歳児の
2つで構成さ
れています。
食品構成の“微調整”のためのツール(エクセル)
年齢ごとに、推定エネルギー必要量を算出
年齢ごとの
カウプ指数判定による
身体状況の評価
給与栄養目標量や、
その値を参考とした
施設独自の給与栄養目標量の設定
給与栄養目標量設定のためのツール(エクセル)
平成 23 年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)
日本人の食事摂取基準の改定と活用に資する総合的研究
研究代表者
徳留 信寛 国立健康・栄養研究所 理事長
Ⅱ.研究分担者の報告書
12.高齢者施設における摂取量の実態
研究分担者
石田 裕美
女子栄養大学栄養学部
研究協力者
小林 奈穂
新潟医療福祉大学
研究協力者
村山 伸子
新潟医療福祉大学
研究協力者
神田 知子
同志社女子大学
研究協力者
高橋 孝子
神戸女子大学
研究協力者
久保田 恵
岡山県立大学
研究協力者
金光 秀子
くらしき作陽大学
研究協力者
伊藤 早苗
女子栄養大学
研究協力者
辻 ひろみ
女子栄養大学
研究要旨
京都市内の養護老人ホーム(施設 A)および新潟市内の特別養護老人ホーム(施設 B)にお
いて常食摂取者を対象として 4 日間の食事調査を実施した。食事調査は個人ごとに提供量と残
菜量を計量し両者の差を摂取量とし、この値と献立表ならびに写真に撮影した盛り付け状況お
よび残菜状況から食品ごとの摂取量を求め栄養計算に用いた。対象者は施設 A 男性 5 名、女性
4 名、施設 B 男性 5 名、女性 7 名である。両施設とも常食の基本となる給与栄養目標量を設定
していたが、個人ごとのエネルギー必要量に対応した食事計画を行っており、主食の量と種類
で調整を行っていた。栄養素の提供量の調整は行っていなかった。提供量が全て摂取されては
いなかったが、給食以外の食物摂取も認められた。しかし、推定平均必要量を下回る摂取量の
栄養素が多く認められた。BMI、血清アルブミン値、ヘモグロビン値などから評価・判定され
る栄養状態と、摂取量と食事摂取基準からの評価とは異なっていた。給食管理における食事摂
取基準の活用であっても、高齢者の場合には、BMI が適正範囲にあるものの割合や EAR を下
回るものの割合などの評価に基づく食事計画のみならず、個人ごとに摂取量と栄養状態を観察
し、給与栄養目標量の評価・改善に結びつけていく必要があると考えられた。
A. 目的
1 日に 3 食を提供する高齢者施設の栄養管
調査対象施設と調査時期
理を行うためには、入所者個人にあった食事
114
提供が求められる。しかし、入所者の身体状
給食以外に摂取したものについては、施設
況、栄養状態、年齢等の個人差は大きく、個
A では、調査員が聞き取りを行った。施設 B
人対応をきめ細かく実施していくには多様な
では、介護士の観察によって記録表に記入し
食事の種類が必要となる。限られた資源や条
てもらった。
件において効率的な給食運営が求められる中
対象者の身体の状況として、身長、体重、
で、食事摂取基準を適用した適切な栄養管理
血清アルブミン値、
ヘモグロビン値について、
の実施における問題点を明らかとすることを
施設で測定された値を閲覧した。
目的として食事調査を実施した。
2.倫理的配慮
調査については、文書により対象者または
その家族に説明し、本人もしくは家族から同
B.方法
調査対象施設は、京都市内の養護老人ホー
意が得られた者を対象者とした。なお本研究
ム(A)および新潟市内の老人保健施設(B)
は、香川栄養学園倫理委員会の承認を得て実
である。調査は A 施設 2012 年 8 月、9 月、B
施した。
施設 2012年 11月、
12月のいずれも平日 3日、
休日 1 日の合計 4 日間行った。
C.結果
1.調査の方法
1.調査施設の概要
調査方法は、調査対象日の献立を事前に入
施設概要を表 1 に示す。常食者摂取割合は
手し、給食の秤量方法について事前に検討し
施設 A30%、施設 B20%であった。施設 A は
た。摂取量調査は、施設長に許可を得、常食
コンベンショナルシステムによる給食運営で
を摂取している利用者のうち摂取量調査が可
あった。副食は調理場で調理員によって盛り
能と施設側で判断された者について依頼し、
付けたものを食堂に運搬し、主食と汁は食堂
同意を得て実施した。
で利用者自身が盛り付けを行っていた。膳組
み、配食、下膳は利用者本人が行い、食堂に
摂取量調査は次の手順で行った。
て喫食していた。
①「提供量」の測定:対象者に提供される食
施設 B はカミサリーシステムおよびクック
事を提供前に個別に秤量する。
②「残菜量」の測定:対象者が食べ残した量
チルシステムにより給食運営を行っており、
を個別に秤量する。
副食、汁はセントラルキッチンからチルドで
③「摂取量」の算出:「提供量」-「残菜量」
運搬し、施設の厨房で再加熱しユニット単位
として計算。
に配分し、各ユニットに設置したキッチンで
盛り付けていた。主食である飯はユニットで
提供量および残菜量は写真撮影を行った。
秤量値、献立表の値、写真から食品の摂取量
炊飯していた。盛り付け、膳組み、配食、下
を生ないし調理後の重量に換算した。成分表
膳は全て介護士が行っていた。
対象施設の常食の給与目標量は表 2 に示す。
に調理後の成分が収載されているものについ
ては、調理後重量と調理後の成分を用いてエ
施設 A は 1400 kcal を基準として 100 kcal 単
ネルギー及び栄養素摂取量を算出した。
位で主食量を調節することによって個別対応
115
していた。施設 B は 1450 kcal を基準として
た。
主食量の調節によって個別対応していた。両
表 4 に基本提供量の 4 日間の平均値を示す。
施設共にビタミン、食物繊維などは基準を設
出来上がり重量および盛り付け量によって重
定していなかった。
量の調整を行い、加熱後の成分値がある食品
2.対象者の特性
についてはそれを用いて計算した結果である。
調査対象者は、
施設 A 男性 5 名、
女性 4 名、
4.エネルギーおよび栄養素摂取量の分布
給食の摂取量に間食の摂取量を加えた 1 日
施設 B 男性 5 名、女性 7 名である。対象者の
あたりの摂取量の分布を図 3~14 に示す。
特性について表 3 に示す。BMI18.5 未満の者
は施設 B の女性 2 名に認められた。しかし、
図 3 のエネルギー摂取量の分布には、基本
この 2 名はアルブミン値で見た場合に低タン
提供量および 70 歳以上の推定エネルギー必
パク質栄養状態とは判定されなかった。ヘモ
要量(身体活動レベルⅠ)を同時に示した。
グロビン値は 12 g/dl 未満であった。アルブミ
図 1 にも示したとおり、施設 A では主食の形
ン値が 3.5 g/dl 未満でたんぱく質栄養状態が
態が飯から粥になることで米の提供量が大き
低下していると判定される 2 名の男性は、
く減ることから、
必要量が提供できていない。
BMI 値は 22 以上であった。
逆に 1500 kcal の対象者は、全員飯を選択して
3.給食の状況
おり、提供量が 1500 kcal を上回っていた。施
設 B では飯と粥の米の量を同量で計画してい
対象者に提供されている食事について図 1
たが、粥はその量を盛りきれておらず、提供
および図 2 に示す。
施設Aでは、1400 kcalを基準としていたが、
量が予定より少ない状況であった。いずれの
個別対応はエネルギー必要量に応じて展開、
施設も粥を選択している対象者の摂取量が少
朝食について嗜好による選択がなされていた。
ない傾向であった。給食を全て摂取した者は
朝食は主食(パン、飯)の選択、また飯の場
いなかった。その一方で、給食以外の食物を
合には、
飯ないしは粥の選択がなされていた。
摂取していた。
また、副食については刻みの形態で提供され
たんぱく質摂取量については、図 4 に 1 日
ている者もあり、食事は 8 種類に展開されて
あたりの摂取量、図 5 に体重 1 kg あたりの摂
いた。
取量を示した。EAR(推定平均必要量)を実
施設 Bでは、1450 kcal を基準としていたが、
線で、RDA(推奨量)を破線で示した。
エネルギー必要量がそれより多い者には
体重 1 kg あたりで EAR を下回る者も認めら
1600 kcalで対応されていた。
また施設A同様、
れた。
しかしこの対象者のアルブミン値は 3.5
朝食は嗜好によって和食と洋食の選択がなさ
g/dl 以上であり、たんぱく質栄養状態が低下
れており、また朝食の主食、飯の形態によっ
しているとは判定されなかった。
て展開がされていた。さらに乳類の種類とし
カルシウム(図 6)及び鉄(図 7)について
て牛乳、ヨーグルト、乳酸菌飲料の選択が可
は施設 A では給食の提供量が EAR を下回っ
能となっていた。副食の形態として刻みも提
ていることもあり、
女性のカルシウムを除き、
供されており、食事は 7 種類に展開されてい
全員が EAR 未満の摂取量であった。施設 B
116
では、給与栄養目標量に男女差がないことも
しかし、こうした高齢者の身体的状況等の特
あり、男性と女性とで摂取量の評価は異なる
徴をふまえた適切な栄養管理を実施するため
ものであった。
の給食管理のエビデンスが不足していること
ビタミン B1(図 8)およびビタミン B2(図
もあり、食事摂取基準の活用についてもどの
10)については、1000 kcal あたりの摂取量(図
ように対処すればよいかが明らかでない。今
9、図 11)でも検討した。エネルギー調整を
回は食事療法や食事制限の適用や推奨がなさ
主食の量で行い、
副食量には違いがないため、
れていない常食摂取対象者において、摂取量
基準より多い量に展開している場合に不足の
を調査した。
今回の調査施設では、利用者に対して個人
確率が高くなる。
ビタミン C(図 12)については、施設 A で
対応が実施されていた。しかし、それらは主
は提供量が 50 mg に至っていなかった。摂取
食によるエネルギー必要量の調整が目的であ
量は全体に少なかった。間食でビタミン C の
り、栄養素摂取量に対しての調整は行われて
添加された飲料を飲んでいる者 1 名の摂取量
いなかった。また、粥食になった場合に、エ
は RDA より多かった。
ネルギー必要量も提供できていなかった。ま
食物繊維摂取量(図 13)は目標量との乖離
た、主食の盛り付けは、施設 A では対象者自
は大きかった。しかし施設 B の給食提供量は
身が、施設 B では介護士が行っており、食べ
1000 kcal 10 g 程度が提供されていた。施設 A
る時に量の調整がなされる盛り付け方式がと
ではこれも下回った提供量であった。
られていた。計画した量を提供するのではな
食塩相当量(図 14)は施設 B において目標
く、最終段階での量調整が行われる場合に、
量より摂取量が多い者がほとんどであった。
この結果をどのように調理量や、提供量の計
画につなげるのか、給食管理上の課題が存在
する。
D.考察
高齢者の食事摂取基準は 70 歳以上が一つ
一方、粥食対象者の BMI および血液検査の
にまとめられている。また食事摂取基準の適
結果から、栄養状態には問題が認められてい
用対象は、健康な個人ならびに健康な人を中
ない。BMI が 16.6 ないし 17.7 とやせている
心として構成される集団であるため、今回の
対象者において、アルブミン値は 3.5 g/dl 以
養護老人ホームおよび特別養護老人ホーム入
上ではあったものの、ヘモグロビン値は 9.6
所者が適用対象であるとすることは難しいと
g/dl、11.0 g/dl と低かった。逆に、BMI 22.6
も考えられる。しかし、養護老人ホームであ
ないしは24.2と問題がないと思われる者であ
る施設 A の対象者は 7 名が要支援にも該当し
っても、アルブミン値 3.0 g/dl、3.4 g/dl と低
ていない。一方、特別養護老人ホームである
く、またヘモグロビン値も 10.9 g/dl、10.3 g/dl
施設 B の対象者は介護度がⅠ~Ⅴまでの間に
と低い者も見られた。エネルギー摂取量は体
該当していた。要支援や要介護の対象者が健
重ないしは BMI からその適正さを評価する
常者とは異なるエネルギーおよび栄養素必要
が、これらのことから高齢者の場合には、た
量である可能性はすでに指摘されている
1)
。
117
んぱく質栄養状態も含めて評価していく必要
性がある。従って対象者を注意深く観察し、
施設 A では 9 人が 8 種類に展開され、施設 B
食事摂取状況と栄養状態からエネルギー量の
では 12 名が 7 種類に展開されていた。
その効
設定、その評価の繰り返しによって対処する
率性から主食の種類や量の調整のみでの対応
ことが必要と考えられる。
であった。こうした方法が、微量栄養素にお
今回、両施設とも個人対応については、エ
いて適切であるか否かの判断には摂取量を食
ネルギー量の調整を主食で行うのみで、その
事摂取基準の値と比較して評価するだけでは
他の栄養素については対応していなかった。
なく、栄養状態の確認が必要と思われる。
摂取量が EAR に満たない栄養素も多く、食
給食管理における食事摂取基準の活用の
事摂取基準を適用して判定すれば、不足の可
基本的な考え方は、摂取量の評価には推定平
能性が高いと評価された。
栄養素によっては、
均必要量を下回る者の割合を算出し、必要量
提供量が推定平均必要量を下回っていた。高
を下回る者をできるだけ少なくなるように給
齢者施設では、食事の摂取量が低下すること
与栄養量を計画するとするものである。エネ
から、栄養素摂取の不足が起こりやすいと考
ルギー摂取量の過不足の回避については、
えられる。そのため栄養素密度の高い食事提
BMI の分布からの判断または体重の変化量
供が求められるが、特殊な食品を用いなけれ
からの判断である。今回の調査対象施設では
ば推定平均必要量を上回るような食事計画を
継続的な体重変化を観察しており、対象者の
実現しにくい。昨年度の調査結果では、食事
中には体重変動がない者、増加傾向の者、減
計画時に食事摂取基準との比較によって栄養
少傾向の者と多様であった。今回の対象者の
素調整のために特別食品を使用している施設
最高年齢は 102 歳であったが、70 歳以上の高
が 93.8%であった
2)
。カルシウム、鉄、食物
齢者においては個人差が大きく、BMI での評
繊維等、複数の栄養素について使用されてい
価の困難さ、あるいは目標とすべき体重の設
た。現状では、このように提供量を確保する
定についても不明である。
ことに注意が払われている。しかし、その効
給食は多数の特定される利用者が、同一の
果は検証されていない。給食の場合は、摂取
食事を摂取すると考えて食事摂取基準の活用
量が提供量の影響を受けやすい。提供量と摂
が考えられているが、食事提供の方法は多様
取量の関係を検証したうえで、摂取量と栄養
であり、一律の考え方で適用・活用していく
状態の関係についての知見の蓄積が必要であ
ことが難しくなっている。また対象者も乳幼
る。
児から高齢者まで様々なライフステージがあ
特定集団での給食は、とりわけ 3 食給食に
り、提供量の調節や工夫が行われており、給
おいては、個人の活用に近い方法での活用を
食管理における活用の基本的考え方からの展
検討する必要があると考えられる。しかし、
開が必要となる。また、大量調理や盛り付け
限られた人材、食費等のなかで、調理や配食
の工程のなかで、
多くの重量変化があり、
個々
のためには食事の種類をある程度の数に集約
人に提供される食事量や内容に計画値との誤
することも必要となる。今回の対象施設にお
差が生じる要因が存在する 2)。これらをどの
いても、
常食という一つの 1 食種であっても、
程度コントロールできているかによって食事
118
摂取基準の適用の意義は異なるものと予想さ
高橋孝子、金光秀子、辻ひろみ、石田裕美. 給
れる。
食施設における日本人の食事摂取基準の活用
の現状と栄養計画から摂取量把握に至るまで
の給食管理の実態 第58回日本栄養改善学会.
E.結論
高齢者施設の常食摂取者を対象として食
(2011).
事調査を実施した。
基準の食事から個別対応に展開され主食の
G.知的財産権の出願・登録状況(予定を含
量と形態によってエネルギー量のみで提供量
む)
が調整されていた。栄養素摂取量は推定平均
1.特許取得
なし
必要量を下回る者が多く、給食の提供量が低
い栄養素も認められた。
2.実用新案登録
なし
個人差の大きい高齢者施設の給食管理にお
ける食事摂取基準の活用については、個人の
3.その他
評価と計画を踏まえ、給食管理に展開してい
なし
くことが必要と考えられた。
F.研究発表
1.発表論文
H.引用文献
なし
1)厚生労働省策定 日本人の食事摂取基準
2.学会発表
2010 年版.(2009).
1)高橋孝子、小林奈穂、神田知子、久保田恵、
2)独立行政法人 国立健康・栄養研究所.日
村山伸子、石田裕美、齋藤陽子、増田利隆、
本人の食事摂取基準の改定と活用に資する総
河野美穂. 栄養管理報告書を用いた特定給食
合的研究 平成 22 年度 総括・分担研究報告書.
施設の食事摂取基準の活用の評価.第 58 回日
2011.
本栄養改善学会.(2011).
2)小林奈穂、村山伸子、久保田恵、神田知子、
119
表1 調査施設の概要
施設
A
養護老人ホーム
B
特別養護老人ホーム
60
30%
食堂
利用者
調理場
調理員
食堂
利用者
利用者
利用者
利用者
なし
100
20%
ユニットのキッチン
介護士
ユニットのキッチン
介護士
ユニットのキッチン
介護士
介護士
介護士
介護士
介護士による残菜量の確認
入所者定員
常食摂取者割合
給
食
の
提
供
方
法
主食の盛り 場所
付け
担当者
副食の盛り 場所
付け
担当者
汁の盛り付 場所
け
担当者
膳組み者
配食者
下膳者
摂取量の確認
表2 常 食の給 与 栄 養 目 標 量
施 設
A
B
1400を中心に
エ ネ ル ギ ー
k c a 100kcal単位で
l
1 4 5 0
主食で調節
タ ン パ質ク
g
タ ン パ質エ
ク ネ ル ギ比ー %
脂 質エ ネ ル ギ比ー %
炭 水 化 エ物ネ ル ギ比ー %
カ ル シ ウ ム
mg
鉄
mg
ビタミンA
μ g
ビタミンB1
mg
ビタミンB2
mg
ビタミンC
mg
食物繊維
g
食塩
g
無し
1 5 - 2 0
2 0 - 2 5
5 0 - 6 0
600
6
無し
無し
無し
無し
無し
7.5
*無しは設定していないことを意味する
120
6 0
無し
2 0 - 2 5
5 0 - 7 0
600
無し
無し
無し
無し
無し
無し
9
表3 対象者特性
A
施設
人数
年齢
身長
体重
BMI
男
5
cm
kg
kg/m2
18.5未満の者の人数
血清アルブミン
g/dl
血清アルブミン3.5g/dl
未満の者の人数
ヘモグロビン
B
g/dl
ヘモグロビン12g/dl未満
の者の人数
80.6
162.1
62.5
23.7
女
4
±
±
±
±
0
2.3
4.1
14
4.7
78.7
146.9
44.3
20.5
男
5
±
±
±
±
0
4.5
1.9
7.0
3.0
4.2 ± 0.2
4.2 ± 0.2
0
0
14.3 ± 1.1
12.6 ± 1.8
0
84.4
159.4
59.5
23.4
±
±
±
±
0
2名
1名
ビタミンC
食物繊維
食塩
kcal
g
g
%
g
%
mg
mg
μ g
mg
mg
mg
g
g
121
7.3
7.6
5.5
2.3
3.7 ± 0.5
12.7 ± 1.9
2名
表4 常食の基本提供量
施設
エネルギー
タンパク質
脂質
脂質エネルギー比
炭水化物エネルギー比
炭水化物エネルギー比
カルシウム
鉄
ビタミンA
ビタミンB1
ビタミンB2
女
7
A
1613
64.4
37.8
21.1
245.2
60.8
330
5.3
347
0.66
0.71
38
10.9
10.8
B
1395
57.1
36.4
23.4
205.9
59.0
567
6.0
550
0.67
0.88
64
13.3
9.9
89.7 ±
143.4 ±
44.7 ±
21.8 ±
2名
6.0
2.2
7.6
4.0
4 ± 0.3
0
11.4 ± 1.0
4名
基準
1400kcal
展開1
エネルギー必要
量による展開
展開2
嗜好によ
る展開
1300kcal
朝食洋
1400kcal
1500kcal
展開3
展開3
展開4
朝食の主食
主食の形態
副食の形態
食パン
粥 米25
常食
1
菓子パン
粥 米25
刻み
1
食パン
飯 米70
常食
1
粥 米25
常食
1
フラワーパン
飯 米70
常食
1
朝食和
飯 米70
飯 米90
常食
1
朝食洋
フラワーパン
飯 米90
常食
1
菓子パン
飯 米90
常食
2
朝食洋
対象者数
図 1.食事形態の展開図(施設 A)
展開1
基準
エネルギー必要量
による展開
1450kcal
展開2
嗜好によ
る展開
朝食和
展開3
展開3
展開5
朝食の主食
主食の形態
乳類の種類
飯 米50
飯 米50
1450kcal
1600kcal
朝食洋
朝食和
粥 米50
粥 米50
食パン
飯 米50
飯 米62.5
飯 米62.5
図 2.食事形態の展開図(施設 B)
122
展開4
副食の形
態
対象者数
牛乳
常食
3
ヨーグルト
常食
2
ヤクルト
常食
1
牛乳
刻み
1
牛乳
常食
1
ヨーグルト
常食
1
牛乳
常食
3
人数
人数
点線は該当の性・年齢階級の推定エネルギー必要量
矢印は基準の提供量
図 3.エネルギー摂取量の分布
123
人数
人数
図 4.たんぱく質摂取量の分布
図 5.たんぱく質摂取量(㎏体重当たり)の分布
124
人数
人数
図 6.カルシウム摂取量の分布
図 7.鉄摂取量の分布
125
人数
人数
図 8.ビタミンB1 摂取量の分布
図 9.ビタミン B1 摂取量(1000kcal 当たり)の分布
126
人数
人数
図 10.ビタミンB2 摂取量の分布
図 11.ビタミン B2 摂取量(1000kcal 当たり)の分布
127
人数
人数
図 12.ビタミンC摂取量の分布
図 4~12 まで
実線は推定平均推奨量、破線は推奨量、矢印は基準の提供量
128
人数
人数
図 13.食物繊維摂取量の分布
図 14.食塩相当量摂取量の分布
129
点線は目標量
実線は推定平均必要量
点線は目標量
130
研究分担者
坪田(宇津木) 恵
国立健康・栄養研究所栄養疫学研究部
食事記録からのヨウ素摂取量の評価~現状と問題点~
から来る過剰摂取が問題となっている.
ば,世界総人口の 30.6%がヨウ素欠乏症であ
ヨウ素の測定法としては,尿中のヨウ素濃
度を測定,陰膳方式などによって収集した食
事の分析,秤量法などの摂取量調査等種々の
方法があるが,通常の栄養業務では,食事記
録から,素摂取量,習慣的摂取量を推定,評
.欠乏症状として
は,甲状腺機能低下症,甲状腺腫,クレチン
病などがあげられ,中でも妊娠中や幼児期に
ヨウ素が欠乏することは,脳細胞へのダメー
ジによる精神発達遅滞につながる.欧米諸国
ることが報告されている
近年ではむしろ菓子類等食品そのものの摂取
栄養障害であり,世界保健機関の報告によれ
1)
に海産物等から摂取しており欠乏報告はなく,
では欠乏が問題となるが,日本では,日常的
ヨウ素欠乏は世界的にも最もポピュラーな
A.目的
が存在することが明らかとなった.
の評価ではヨウ素欠乏はほぼいないと考えられたが,ヨウ素過剰の摂取基準値を超える摂取者
高くなる,②連続摂取より間欠摂取で一時的に過剰となる,③食事摂取基準による欠乏・過剰
その結果,①測定日数が少なければ少ないほど左に凸の歪んだ分布を示し,平均値が非常に
推定,それぞれの算出から食事摂取基準を用いて評価する上での現状と問題点を報告する.
スタンダードとして用いられる秤量法による食事記録からヨウ素の租摂取量,習慣的摂取量を
ン,クロム,モリブデン,ビオチン―が収載された.今年度は,種々の栄養活動でもゴールド
日本食品標準成分表 2010 から,食事摂取基準に掲載されている栄養素 5 種―ヨウ素,セレ
検討を行っている.
びに測定誤差やそれら食事調査法を使用する上での問題点といった情報を提供することを目的に
れる.本研究では,日本人を対象とした種々の詳細な食事調査法から習慣的摂取量の推定,なら
いるが,唯一エビデンスがないまま策定されている項目として「食事摂取基準の活用」があげら
「日本人の食事摂取基準 2010 年度版」は,基本的には科学的根拠をベースとして作成されて
研究要旨
Ⅱ.研究分担者の報告書
徳留 信寛 国立健康・栄養研究所 理事長
13.日本人の食事摂取基準 実践的栄養アセスメント法に関する検討
研究代表者
日本人の食事摂取基準の改定と活用に資する総合的研究
平成 23 年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)
131
2)
均必要量(Estimated Average Requirement;
EAR)未満の割合を,過剰の評価には耐容上
食事摂取基準 2010 年版による欠乏,
過剰の割
合を検討した.
全対象者 12 日間におけるヨウ素摂取量の
うち最大値を示した対象者が摂取していた食
品は,昆布であり,昆布そのものを調理した
料理であった.また,ヨウ素摂取量最大値を
示した上位3名の12日間の推移を見たところ,
最大値を示したのは12日間中1日だけであり,
その他の日は概ね 100 μg/日前後の摂取量で
セミパラメトリックな変換方法により,摂取
量の分布を正規分布に近似,個人内変動が全
ての個体で共通という仮定は必要とせずに,
習慣的摂取量の分布を推定する.
本解析には,
SIDE(SAS / IML)や C-SIDE(X-Windows:
UNIX)などの特別な解析ソフトが必要とな
ヨウ素の摂取源
Intake Distribution Estimation)を用いた.
SIDE 法は Nusser らが開発した方法である.
C.結果
の割合を求めた.
ワ州立大学が開発した SIDE (Software for
習慣的摂取量推定プログラムには,アイオ
習慣的摂取量推定プログラム
ポイント法を用い,不足の評価には,推定平
よる習慣的摂取量の推定を行い,③日本人の
限量(Tolerable Upper Intake Leverl: UL)以上
ヨウ素摂取量不足・過剰の評価には,カット
データについては習慣的摂取量プログラムに
ステップ 4:逆変換により、もとのスケー
足・過剰の評価
秋 1 日・非連続 2 日間・連続 3 日間,全季節
ルに変換
「日本人の食事摂取基準
2010 年版」
を用いた
人差があるとおく。
日本人の食事摂取基準
2010 年版における不
による食事記録調査を実施した.評価には,
12 日間を用い,①素データ,②秋 1 日を除く
この際仮定としては、個人内分散にも個
定し、習慣的摂取量の分布を推定
ステップ 3:個人内分散、個人間分散を推
対象に,
各季節連続 3 日間計 12 日間の秤量法
地域在住の 40-59 歳の健康な男女 119 名を
B.方法
と、元のデータと関係式を作る。それに
検討を行った.
基づき、正規化を行う。
項三次回帰により、Blom 正規スコア
およその正規化を行った後、Grafted 多
まず、全データをプール、べき変換でお
ステップ 2:正規化
を用い、凡その正規化を行う。
プルの重みを考慮に入れたべき変換等
季節、週の何日めか等のバイアス、サン
ステップ 1:データの調整
る 3).
SIDE 法におけるステップは次の通りであ
ることから汎用には乏しい.
による不足・過剰の評価を行うことを目的に
b)「日本人の食事摂取基準 2010 年版」
a)素摂取量,習慣的摂取量を推定
ウ素の
本研究は,秤量法による食事記録から,ヨ
ながる恐れがある.
事・栄養素摂取量の評価では誤った評価につ
栄養業務で用いる種々の食事評価法からの食
多くの日数を要することから,通常,我々が
は大きく習慣的摂取量把握のためには非常に
価が行われる.ヨウ素の個人内・個人間変動
132
調査におけるヨウ素 UL 超えの割合が 16%だ
ったという報告を鑑みると,ほぼ妥当な数値
と考えられる.一方,標準偏差が非常に大き
いことからも,ヨウ素摂取は,日々の食品か
らの連続的摂取ではなくある特定の食品から
の間欠的多量摂取が伺えた.
習慣的摂取量の推定を行った結果を表 1 に示
す.特に素摂取量では,中央値より平均値は
遥かに高い値を示しており,すべてが左に凸
の偏った分布を示した.
一方,
習慣的摂取は,
平均値,中央値ともほぼ 1000 μg/日を超える
ことが判断された.
はないが,どのような調理方法,形態で,
摂取者がいることが確認された.
る。また、本研究は秤量法や 24 時間思い出し
法といった食事評価手法からの習慣的食事摂
取量の推定である.正確な食事摂取量把握法
ヨウ素欠乏はほぼいないと考えられたが,
ヨウ素過剰の摂取基準値を超える摂取者が
存在することが明らかとなった.
ルドスタンダードとして確立されている栄養
対象にした詳細な検討および比較が求められ
食事摂取基準による欠乏・過剰の評価では
通は超えることはない値と定義されている.
るためには,他の地区の性・年齢別の集団を
取より間欠摂取で一時的に過剰となる,③
としては,尿や血液といった生体指標でゴー
住民である.今後日本人における一般化を図
示し,平均値が非常に高くなる,②連続摂
UL は通常の食品を摂取している限り,普
本研究の対象は日本のある特定地域にすむ
ていくことが必要であると考えられる.
対象者個人および対象者集団を注意深く見
なければ少ないほど左に凸の歪んだ分布を
本研究から,①食事記録の測定日数が少
D.考察
らすると,1 日でも UL を超えるべきもので
した習慣的摂取量であっても 10%以上の過剰
どのくらいの頻度で摂っているかについて,
による過剰摂取が懸念される.UL の定義か
一方,過剰については,どの測定日数で推定
る対象者はもっと少ないと考えられるが,
がら存在することが認められたものの,日数
定できない.近年では,昆布などのお菓子
た使用をしている限り,実際の UL を超え
値である EAR 95 μg/日未満のものがわずかな
と不足は存在しないことが明らかとなった.
を受けることから,通常の調理方法を用い
に示す.測定日数が少ない場合,不足の基準
依然として UL を超える集団の可能性は否
理過程における調理損出,特に溶出の影響
準 2010 年版における不足・過剰の割合を図 1
が増えるに従い,すなわち長いスパンで見る
量を用いることが多い.ヨウ素の多くは調
り,生重量の値から算出された栄養素摂取
食事記録は,主として調理・加工後の値よ
これら習慣的摂取量と日本人の食事摂取基
による不足・過剰の評価
b)「日本人の食事摂取基準 2010 年版」
この結果は北海道のある地域で行われた学童
全季節 12 日間のそれぞれにおける,
素摂取量,
栄養調査や通常の栄養業務で使用される
考えられた.本研究の値は、先行研究である
UL を超えてしまう摂取者が存在することが
a)素摂取量,習慣的摂取量の推定
次に,秋 1 日・非連続 2 日間・連続 3 日間,
しかし,本検討の結果,ヨウ素に関しては,
あった.
133
theory. J Am Diet Assoc (2006) 106,
1640-1650.
の基準値を超える摂取者が存在することが確
認された.ヨウ素のような非常に偏ったデー
1.
WHO. Assessment of iodine deficiency
H.参考文献
なし
3.その他
なし
2.実用新案登録
なし
1.特許取得
む)
G.知的財産権の出願・登録状況(予定を含
なし
2.学会発表
科 (2011) 70, 607-614.
のための食事ガイドラインの現状. 循環器内
坪田(宇津木)恵. 欧米の循環器疾患予防
1.発表論文
F.研究発表
解釈に対する情報提供が必要と考えられる.
表に対する情報提供とともに,注意喚起や,
みを示すことは危険であり,栄養素の摂取上
養素について評価・報告をする際,平均値の
タや,習慣的摂取量の把握に日数を要する栄
intake of nutrients and foods: a review of the
欠乏・過剰の評価を行った結果,ヨウ素過剰
Dodd KW, Guenther PM, Freedman LS, et
al. Statistical methods for estimating usual
3.
年版),2009.
事記録から,ヨウ素の習慣的摂取量を推定し
日常の栄養業務や栄養評価で用いられる食
E.結論
Health Organization, UNICEF, ICCIDD.
あると考えられる.
厚生労働省.
日本人の食事摂取基準
(2010
guide for programme managers. World
データからの推定も併せて行っていく必要が
2.
disorders and monitoring their elimination. A
素もある.今後は,複数日における生体指標
134
表 1.ヨウ素の素摂取量、習慣的摂取量の推定
135
EAR 95
図1.ヨウ素の 習慣的摂取量 :それぞれの測定日数 における不足・過剰の割合(%)
UL 2200
平成 23 年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)
日本人の食事摂取基準の改定と活用に資する総合的研究
研究代表者
徳留 信寛 国立健康・栄養研究所 理事長
Ⅱ.研究分担者の報告書
14.活用の体系化に関する研究
研究分担者
笠岡(坪山) 宜代
国立健康・栄養研究所栄養疫学研究部
研究協力者
瀧沢 あす香
国立健康・栄養研究所栄養疫学研究部
研究要旨
「日本人の食事摂取基準」は、アメリカ・カナダの Dietary Reference Intakes(DRIs)の概念が導
入され策定されている。しかし、その活用理論や活用方法は諸外国でも確立されていない。本研
究では、日本における食事摂取基準の活用を体系化することを目的とし、食事摂取基準を活用す
る職種の代表的な存在である栄養士(日本においては管理栄養士)がどのような職域で活躍して
いるのか、諸外国の栄養士職種実態を調査した。
各国を代表する栄養士に関わる職能団体および関連の政府機関から出されている、通知文書、報
告書、ホームページ等から情報を収集した。
職域に関するデータが得られた 10 カ国では、多くの国で栄養士は医療スタッフとして勤務し
ていた。一方、日本の管理栄養士の卒業時の就職状況においては、工場・事業所が最も多く、
ついで福祉施設であり、病院は 3 番目であった。日本の管理栄養士は、諸外国の栄養士と比較
すると業務内容が異なる可能性が示唆された。業務における食事摂取基準の活用状況の違いに関
しては、今後さらなる検討が必要である。
て食事摂取基準を位置づけており、各施設な
A.目的
「日本人の食事摂取基準」は厚生労働省が 5
どの現場で直接活用することをあまり想定し
年毎に改定している、日本人のための栄養の
ていない。その他の諸外国においては、活用
基準である。従来、「日本人の栄養所用量」
実態の詳細な状況は十分に把握できていない。
として公表されてきたが、2005 年の適用から、
一方、日本においては、献立作成等の給食管
概念を大きく変えて食事摂取基準となった。
理の業務が存在することもあり、各施設等の
食事摂取基準の概念は、欧米諸国では以前か
現場で直接活用することを想定している。従
ら導入されてきたが、その活用理論や活用方
って、諸外国の事例では日本での活用システ
法は諸外国でも確立されていない。米国は、
ムを構築することは困難であることが推察さ
国が公表するガイドラインなどのベースとし
れる。しかし、日本と諸外国の活用実態を調
136
査した報告はない。
多数を占め、就業率が高いことが明らかとな
そこで、本研究では、日本における食事摂取
った。日本では、平成 21 年度管理栄養士課程
基準の活用を体系化することを目的とし、食
の卒業生のうち栄養士として就職した者の割
事摂取基準を活用する職種の代表的な存在で
合は約 55%であり、栄養士としての就業率は
ある栄養士(日本においては管理栄養士)が
半数程度だった。
諸外国の栄養士の職域分野は、臨床栄養が
どのような職域で活躍しているのか、諸外国
多く、医療スタッフとして医療現場で働く国
の栄養士職種実態を調査した。
が多かった(図 1)。アメリカでは約 55%、
イギリスでは約 60%、ドイツは約 90%が医療
B.方法
国際栄養士連盟(ICDA)の報告書 より栄
分野で勤務していた。一方日本においては、
養士制度を有する国を割り出し、その中から
栄養士として就職した者のうち、病院勤務者
職域に関するデータを保有する国を抽出した
の割合は約 20.3%であり、諸外国と比較する
(10カ国)。当該国を代表する栄養士に関わ
と尐ない事が明らかとなった。日本の就業先
る職能団体および関連の政府機関から出され
とし て最も多か ったのは、 工場 ・事業所
ている、通知文書、各種報告書およびホーム
(38%)、次いで福祉施設(20.7%)であり、
ページ等から諸外国の就職状況、職域等に関
病院は 3 番目であった。
する情報を収集し、実態を調査した。日本に
ついては、管理栄養士を対象とし、勤務状況
D.考察
諸外国の栄養士は主として医療職として臨
調査が実施されていないため卒業時点の就職
床に携わっていることが明らかとなった。日
状況を示した。
本の管理栄養士・栄養士の勤務実態調査は実
施されておらず、卒業時点での職域を示して
C.結果
国際栄養士連盟(ICDA)による国際的な栄
いるため、病院勤務管理栄養士の割合は実際
養士養成制度に関する調査によると、調査対
には多いことが推察される。しかしながら、
象 31 カ国のうち 3 カ国(キプロス、アイスラ
上記の点を考慮しても諸外国と比較して職域
ンド、ルクセンブルグ)は栄養士養成に関わ
が大きく異なることは明らかである。
る独自の教育制度を持っていなかった。公の
臨床現場においては、個別の栄養ケアが中心
報告書などで職域に関するデータが公表され
となるため、健康な個人及び集団を対象とし
ている国は、10 カ国であった。
ている食事摂取基準に比べ、診療ガイドライ
ン等を活用する機会が多いことが推察された。
日本のように栄養士と管理栄養士を明確に
制度化している国はなかったが、専門性によ
一方、日本においては、最も多い就職先は工
って異なる名称を用いている国は複数存在し
場・事業所であり、次いで福祉施設、病院であ
た。
った。諸外国と比較すると栄養士の業務内容
が異なる可能性が示唆された。
栄養士養成校を卒業した後の進路は、養成
校卒業生の多くが栄養士として勤務する国が
137
3.その他
E.結論
なし
食事摂取基準の活用者である栄養士の就
業状況から、日本の管理栄養士は、諸外国
の栄養士と業務内容が異なる可能性が示唆さ
れた。業務における食事摂取基準の活用状況
に関しては、
今後さらなる検討が必要である。
F.研究発表
1.発表論文
笠岡(坪山)宜代, 桑木泰子, 瀧沢あ
す香, 田中律子,藤生惠子, 斎藤トシ
子,恩田理恵,山岸博之,江田節子,
木村祐子,小谷一子,小田光子,田代
晶子,池本真二. 諸外国における栄養
士養成のための臨地・校外実習の現状
に関する調査研究. 日本栄養士会雑誌
(2011)54, 556-565.
2.学会発表
1)
Nobuyo Tsuboyama-Kasaoka, Asuka
Takizawa, Yasuko Kuwaki. Study on
Supervised Professional Practice for
Training of Dietitians in the World. XI
Asian Congress of Nutrition 2011. July
Singapore.
2)
瀧沢あす香,桑木泰子,細川裕子,笠
岡(坪山)宜代. 諸外国の栄養士制度と
健康リスクに関する研究. 第 58 回日本
栄養改善学会. 2011.9. 広島.
G.知的財産権の出願・登録状況(予定を含
む)
1.特許取得
なし
2.実用新案登録
なし
138
139
図 1. 各国栄養士の職域(日本は管理栄養士新卒の就職状況)
Fly UP