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挫傷は何故トラブるの 島根県 宮川 重雄 どうしました? はじめに ずばり、負傷原因との整合性が求められる。 もっとも、「挫傷」といっても医科でいうそれと は異なり、私たち保険請求時の療養上算定 用負傷名「挫傷」のこと。俗語で「肉ばなれ」 のこと。 肉ばなれとは 「急激な筋の収縮により筋肉または骨格筋を構成する 筋線維が切れること」(広辞苑) また 「筋肉を構成している線維が切れたり、筋肉の表面を包 んでいる筋膜が破れたりするもので、筋肉の急激な 収縮やアンバランスな収縮が原因で起こる」 (家庭医学大事典) 他の参考書も大体同じ記述。 昭和60年 6月1日付けで「肉ばなれ」「筋ちがい」が 「挫傷」として容認。 ところが、6・7年も前から、保険者(特に各健保組合) は、肉ばなれ(挫傷)について、負傷原因との整合性 が強く求められて、トラブる事例が多くなった。 特殊性 −新鮮なる外傷 「急性または亜急性にして外傷性であるということ。 外傷性であるからには、負傷原因がある筈だ」 挫傷(肉ばなれ)の損傷程度 微小断裂(1度)「主に、筋の持続性または反復性の収縮により発生」(亜急性型) 不全断裂(2度)「主に、筋の急激な収縮により発生」(急性型) 完全断裂(3度)「 〃 」(急性型) 腓腹筋は、大臀筋、大腿四頭筋に次いで強力な筋であり、最大収縮で約4c m、ヒラメ筋は約4.5cm収縮する。腓腹筋は2関節筋で「距腿関節底屈作 用と膝 関節屈曲作用」に働く。膝関節屈曲位では腓腹筋は受動的に伸張さ れ、足の底屈位力は弱くなる。 左図は腓腹筋の不全断裂(受傷時の診断)が加療後1ヶ月目にギプス除 去後に完全断裂していた映像である。受傷後5年経過しているも多くの愁訴 障害を訴えている。足関節屈曲筋の他の動筋(長腓骨筋・足底筋)や補助動 筋が働くとしても屈筋力は極めて弱い。 日常生活動作の中には「爪先立ち動作」等、必要不可欠の動作は限りなく 発生するもので、その行動が全く出来ないとすれば、それは「あなたが動き すぎたため(柔整師の言訳)」と言う説明は納得できるものではない。柔道整 復師は「ギプス固定は容認」されていず、また固定状態で「筋力が劣るからと 受傷1週間から等尺性運動を実施させた」というが、その学習は-?、さらに 週3回通院したというが、如何なる後療法を施したのか疑問が多い 意外にも軽症がトラブる 肉ばなれの程度が2度または3度の場合は、身体にかなりの 衝撃を感じるものであるが、かかる問題は、挫傷が軽症の場合 (損傷程度が1度の微小断裂の時)その多くは「原因がよくわか らない」と、言っている。つまり原因がないのではなくて、「よくわ からない。記憶にとどまっていない」のである。 ということは、記憶にとどまらないくらいの、ささいな所作でもっ て、外傷を惹起しているのが偽らざる現状。 この軽症の1度は意外にも介達性外力(自家筋力)(自力)によ る受傷が多い。 挫傷の多発部位 頸部やその周辺 腰部 では、何故腰か? 脊柱のカーブや仙骨の上に乗っている腰椎との傾斜角度 (30°は負担が大きくて弱点)、あるいは2本の脚で歩く人 間の宿命等・ ・ ・何よりも現代を生きるライフスタイルや筋力 低下等によるもの。 腰部についてみますと <社団法人 日本家族計画協会発行(石田肇 日本医科大学教授監修)の資料> 意外なことに20∼30歳代に多発。 腰部についてみますと 腰痛症が多い!! 原因が少ない <社団法人 日本家族計画協会発行(石田肇 日本医科大学教授監修)の資料> 負傷原因がよくわからない挫傷(肉ばなれ) 原因不明の腰痛 腰痛に悩む現代人のほぼ2 人に1人が、この「原因がよ くわからない漠然とした腰痛」 です。 年齢、男女を問わず最近増 えているのも、こういう、病 名をつけられない、ほぼ慢 性化した、漠然とした腰痛な のです。 さまざまな要因が考えられ ますが、根本的には、現代 人のライフスタイルそのも のと言えるでしょう。 しかし、こういう原因不明の 腰痛は生活や行動パター ンに要因があるだけに、日 常生活や行動を工夫するこ とによって、ほとんど治せる のです。 負傷原因との整合性 保険請求する際、協定上は負傷原因が求められて、例え些細なことで も はっきり言える患者さんは助かりますが、「記憶にない、よくわからない」 はっきりしない患者さんが残念ながら少なくないのが現状でありましょう。 痛みが軽い時は負傷も軽い。ということは軽い受傷は、軽い(簡単な)原因 が存在する筈。ですから、原因がないのではなくて、軽いが故に「よくわから ない」のである。 そんな程度の所作でもって、何故簡単に不全断裂が起こるのか。 挫傷(肉ばなれ)の受傷メカニズム 身体の一つの動作が起こるメカニズムを考えてみますと、 そもそも筋の活動は運動性ノイロンの興奮伝導によって筋の収 縮が発生し、屈伸や回旋等すべての活動が起こるのであり。 この運動神経の刺激伝導の速度は、毎秒およそ1mから100m といわれているほど、その人により、同じその人でも、その時 の刺激の大小によって異なり、また一般的には神経線維が 太いほど刺激伝導の速度は速いとされています。 したがって、ささいな所作のような原因でもって、この現象が 何故に起こるのか、極めて分かりやすく考えるには・・・・・ 一つの筋活動を起こす時の神経伝達が遅れるか、あるいはその速い神経 伝達を受ける側の筋の方が遅れるかなど、遅速に時差を生じた場合、タ イミングやバランスにずれを生じた場合は、もともと筋の作用は収 縮であるが故に、その筋は瞬間的に突発的、あるいは急激に、し かも異常的に収縮する。その急激かつ異常収縮する際に関節または 軟部組織などの、それ自体の一部(関節包、靭帯、ヒダ等々、あるいは筋 の起始部、停止部)にひびのような、あるいは亀裂状の不全断裂や 弛緩あるいは過度伸長等、いわゆる捻挫や挫傷を惹起するものと考える。 当然、程度の差こそあれ、 正に もぎたての外傷といえましょう。 三つの事例 (人様の事例でありますので、頭だけ申します。) 事例1 実調のとき 患者「肩こりです」・・・ 先生「単なる肩こりではない、ことの説明ができなかった。」・・・ 事例2 実調のとき 患者「ギックリ腰です」・・・ 先生「捻転、転倒がなくて、どうして負傷したのか説明不能であった。」 事例3 実調のとき 患者「大腿部の筋肉痛です」・・・ 先生「介達性外力で・・・・・・自家筋力で・・・・・・自力でも起こることの 説明が不足だった。」 以上は、「原因不明」につき、慰安行為とみなされて不支給が 決定した。 保険者の物差しには、理解に苦しむ・・・ 「肉ばなれ(挫傷)」=「筋肉痛」=「筋肉疲労」= 頭から、負傷原 因はないものと決めているらしい。「筋肉が痛い」から筋肉痛だ と言って、何が悪いのか。 <*保険者は.介達外力で、自力でケガを起こす ことを知っていて、ボツにする力がある*> 《法第44条の2が出かねない。 もう一つ、審査会法施行令第2条・再審査請求の資格がある のも被保険者(患者)のみ。 ・・・<ここで、私の毎度のボヤキ> ・・・ なんとしても、日本の医療体系に参画できて、本物の医療人、本物の医 療にならないと(療養費では)将来はない。 ・・・もとより、審査等が厳しくなって、困る先生も出るでしょうが・・・ ・・・柔道整復師ではダメ・・・ 》 しかし一方、私たちにも責任がないとは言えない。保険診療には、協定 上負傷原因との整合性が約束されている関係上、「原因はわからな い」では、保険者として救いようもなく、「原因不明」で「不支給」とな る訳。ですから、私たちも患者に対して面倒でも、「肉ばなれ」のメカニズ ムにつながる誘因(原因のベースになっている)との因果関係を医学的に、 理論的に負傷名との整合性を明らかにして、患者さんのために努め てこそ適法となるのである。 ・・・・ウソはダメ。内緒も通用しない時代。同時に「したたかさ」が必要な時代。 その強さは知識です。研鑽以外にないでしょう。 ・・・・ ・・・・白羽の矢が立った・・・・運が悪かった・・・・ これが現実でありましょうから。 負傷原因には誘因が存在 原因のベースとなるそれなりの誘因があると思う。 (1)身体が健全な状態でないとき (2)習慣や不注意による労作性損傷及び酸化性損傷のあるとき (1)(2)のような条件下では、筋の異常的緊張や拘縮状態。または労作性 あるいは酸化性状態となり、乳酸(最近ではクエン酸とか)等の老廃 物の蓄積により、血行を阻害されて誘因となり、過剰な刺激となっ て、患部は脆くなるため、極めてささいな動作が負傷の原因となって、 筋線維や筋膜に不全的な亀裂状の損傷を受け入れやすい状態 になっていることが十分に考えられる。 原因を引き起こす誘因事項 痛みはシグナル。負傷した証し。痛みが軽い時は、負傷も軽い。というこ とは軽い受傷でも、必ずや軽い(簡単な)原因がある筈。それくらいです から、悪い環境下にある時は、記憶にとどまらないような、ささいな所 作でもって、ひびのような軽い受傷が十分に考えられる。 運動神経の伝達とそれを受ける筋とのタイミングにズレを生じた時は、筋 は異常収縮を起こして簡単に受傷することあり。また乳酸を生じ硬直 状態となり、血行障害となって、その部分は脆く壊れやすい状況 となっているところへ、一寸した所作で、記憶にとどまらないよう な、ささいなしぐさで不全断裂を起こすことなどは決して稀なことで はない。 例えば (釈迦に説法) ① ⃝⃝筋の反復性収縮による疲労蓄積と酸化的損傷状態のところへ、 ・・・・自家筋力により拮抗する筋のアンバランスによって筋膜を損傷する。 よって肉ばなれ1度(微小)と評価し、○○部挫傷と判断する。 ② ○○筋の持続的収縮による疲労蓄積状態にして・・・・タイミングにずれ を生じての異常収縮のため、引きひぎれたような・・・・ ③ 日常生活動作における軽い動きなるも、繰り返し(反復)の刺激によって、 なお持続されての患部は酸化により脆い状態となったところへ、介達外 力に(自力に)よる突発的な負荷が加わったとき、神経伝達と筋とのアン バランスが起こって、肉ばなれの微小損傷となった。 ④拮抗する○○筋と○○筋のバランスが崩れ・・・・筋緊張となり筋拘縮・・・・ ⑤ 筋、筋膜、靭帯等の軟部組織の損傷を引き起こす程度の急激な力の作用 により・・・・ ・・・・微小な・・・・微細な・・・・微弱な・・・・予想に反する軽さ(重さ)による 不適当な姿勢が誘因・・・・ ⑥ ○○筋の柔軟性が欠如し・・・・ ○○筋力の低下・・・・加齢現象による廃用 性の筋萎縮あり・・・・・・・・ 労作性の不均衡による状態のところへ・・・・、ADLの極めてささいな仕草 なれど突発的であったため、運動神経の伝達を受け入れる筋の方が遅 れ、急激な、しかも異常的な収縮を起こして不全断裂を受傷せり。 ⑦ 発育過程における筋力の異常的刺激が・・・・ ⑧ 瞬時に加わる負荷によって・・・・ ⑨ 例えばスポーツにおける過剰な訓練中・・・・ まとめ 挫傷(肉ばなれ)一覧 負傷名 症状 原因(誘因) 発生機転 程度・状態 挫傷(挫滅) 直達性外力 急性型 (挫創) (鈍的外力) 亜急性型 肉ばなれ 介達性外力 急性的発生 (筋ちがい) (自家筋力) 筋・腱の微小断裂・損傷1度 (腰痛) (自力) 〃 不全断裂・ 2度 例えば 挫傷 (脳挫傷) (心筋挫傷) 筋・腱の突発的収縮による損傷 〃 完全断裂・ 3度 (肩こり) (筋肉痛) (寝ちがい) 亜急性的発生 <この軽症がトラブる事多し> この軽症がトラブル多し 筋・腱の持続的・反復的収縮損傷 筋・腱の微小断裂・損傷1度 (疲労性・酸化性による受傷の誘因) (従って、筋・筋膜性疼痛を主訴) 微小断裂とは、 例えば 寒さのためにできる手足の細かい裂け目のような傷・・・・ また 陶器、ガラス等の細い割れ目のような傷・・・・ あるいは 軽い亀裂状の一部不全断裂等であって・・・・ クラック現象と思う 意外に多い5項目 ① 筋、筋膜性損傷(肉ばなれ)等による疼痛を主訴とする患者さんが・・・・。 ② 特に、腰部が・・・・。 ③ 20∼30歳代の若い人が・・・・。 ④ 外傷にも拘わらず、原因がよくわからない患者さんが・・・・。 (原因となる素地が、つまり誘因が原因のベースになっていること が・・・・)そして、1度の微小断裂患者が多し。 ⑤ ささいな動作であっても、運動神経の伝達と筋とのタイミングがずれると、 あるいは筋肉(筋膜)のアンバランスにより、突発的に、異常的な収縮が 起こって、組織の一部を微小断裂<肉ばなれを受傷>する・・・・。 トラブルの多くは意外にも微小断裂 (1度程度の軽症)の場合 ① 程度の軽い損傷は、負傷原因も軽い。つまり一寸した、ささいな動作 で簡単に負傷するので、どの時点の動きの時か詳細のところが「よく わからない」と患者さんは云う。しかし診ると外傷ですから、糸を手繰っ てゆけば、大ざっぱでも必ず見えてくる。原因のベースになっている誘因も 原因(負傷)の要因となっているので、見逃してはならない。 ② 保険診療の場合、どうしても協定上、原因との整合性が求められるが、 誘因が医学的に理論的に確かであれば、必ずや保険者も十分に理解される でありましょう。 ・・・・・・つまりインホームド・コンセントがいかに大切か。 私たちは、「肉ばなれ」「筋ちがい」「ギックリ腰」あるいは「筋肉痛」等が 軽症であっても医療行為です。慰安とは峻別している筈。しかし、その説 明が徹底されない限り、「原因不明」として「単なる肩こり」「単なる疲労性 の腰痛」等として、慰安行為とみなされて不支給が決定されても不思議 ではないのである。 では、トラブらないためにはどうしたらよいか。 インホームド・コンセント以外にはありえないと思う。不幸にして、白羽 の矢が立って、糸が絡み合うと、三竦み状態となって、いつまでもお互い が根に残ることであろう。 (ちなみに、私は幸運にもこれまで一度もトラブったことはありません) ① そのために患者さんと共に原因を引き起こした誘因から手繰ること。 ② 医療と慰安の峻別 ケジメの時代。当然のことながら、 ③ 単なる肩こりはダメ・・・・ということは、単なる肩こりでなければよろしいと いうことです。 ④ 単なる疲労性の腰痛はダメ・・・・ということは、単なる疲労性の腰痛でな ければよろしいということであります。 ⑤ スポーツなどによる単なる肉体疲労はダメ・・・・ということは、 単なる筋肉疲労でなければよろしいということなのであります。 したがって、そのときは「原因」(誘因)と併せて「単なる・・・・」ものでは ないことを、医学的に説明する必要があります。 内科的疾患とも棲み分けし、憂いのある場合は、躊躇するこ となく医科に託す・・・・。 わかりやすく説明することに よって患者さんの安心、安全は もとより、保険者も必ずや理解 されるであろう。 世は、情報化時代。満足を売る(買ってもらう)時代。各健保組合をはじめ とする各保険者からの療養費適正化対策の積極的な取り組みにより、不 支給決定が年次的に増加の傾向。これが解決には、またトラブルを未然 に防ぐためにも、避けて通れないインホームド・コンセントでありましょう。 (まさかの時、診る側の自己防衛のためにも・・・・) 再負傷予防 特に、腰部にお いては簡単に 再負傷が起こり やすい疾患で あるが故に、 日常生活にお ける注意点、 予防体操、及び 筋力強化等指 導。 再発を予防する体操 閉じるに当たり、いつも思うことながら・・・・ (1)一千年以上も、先達の歴史に支えられて (2)国家資格で、身分は法で守られて (3)開業は、何時でも何処でも自由にできて (4)自分の検査や判断で、手当ができて (5)しかも委任であれ、保険診療ができて ・・・・・・・・この素晴らしい境遇に感謝して、 「患者]と「医療保険」を大切にしたい、 と真剣に思う・・・・・・・・ ご清聴ありがとうございました。 参考文献 健康保険組合における柔道整復師の 施術に係る療養費適正化対策の実際 (健康保険組合連合会) 腰痛よさようなら <企画・発行>(社)日本家族計画協会 (監修・石田 肇) ストレイン・カルテマニュアル (菅原 勇勝著) 21世紀への提言(復活の条件) (宮川 重雄著)