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新しいワカメの種苗生産マニュアル
新しいワカメの種苗生産マニュアル フリー配偶体を使った種苗生産 藻体の測定 一 度 行 えば よい行 程 遊走子の採取 雌雄配偶体の単離 配偶体の保存 配偶体の拡大培養 配偶体の成熟促進 毎 年 行 う行 程 フリー配 偶 体 の 細 断 及 び基 質 へ の 着 生 受 精 及 び芽 胞 体 の 培 養 仮 沖 だし 平 成 12 年 7 月 徳 島 県 水 産 試 験 場 新しいワカメの種苗生産法(フリー配偶体からの種苗生産) は じ め に 徳島県でのワカメ養殖は昭和 30 年代の中頃からはじまり、昭和 40 年頃には 県内各地で養殖が普及しました。ワカメの人工採苗(種付け)及び種の陸上水 槽での管理の方法は漁業者の方々の努力により改良が重ねられ、現在では遊走 子付けから陸上水槽での種の管理までワカメ種苗生産の方法は完成したといっ てもよいかと思います。 さて、今回、まったく新しい種苗生産の方法をご紹介するのは、一番大きな 理由としては品種の問題があるからです。中国産ワカメを中心とした安い外国 産ワカメが多く出回っており、養殖漁家経営を圧迫しております。(参考 1{32 ページ})。これら外国産ワカメに対抗するには、良い品質のワカメを作り、差 別化を図ってゆくことが重要なことと考えます。そのための手助けとなる方法 としてフリー配偶体からの種苗生産法を提案することになりました。この方法 は、よい品種を確実に採苗でき、かつ何年もその種を保存できる方法と思って いただいて良いと思います。 このマニュアルでは、ワカメの種を自分で作っている漁業者の方を対象とし て説明しておりますが、現在は自分で種を作っていなくとも、これから自分で 作ろうと思っている人たちにも参考になるものと思います。内容としては、写 真をできるだけ多く使い、理解し易いものにしましたので、多くの方々に活用 していただけるようになれば幸いです。 平成 12 年 7 月 徳島県水産試験場長 喜内 浩 新しいワカメの種苗生産法 目 次 はじめに 1. 種苗生産の概要 1 2. 新しい種苗生産の特徴 1 3. 新しい種苗生産の方法 {実技編} 5 ● 実験規模少量生産 1. 藻体の測定 2. 遊走子の採取 3. 雌雄配偶体の単離 4. 配偶体の保存及び拡大培養 5. フリー配偶体の細断及び基質への着生 6. 仮沖出し 7 7 13 13 17 21 ● 実用規模管理生産方式 5. フリー配偶体の細断及び基質への着生 6. 仮沖出し 23 23 ● 実用規模粗放生産方式 5. フリー配偶体の細断及び基質への着生 6. 仮沖出し 29 31 参考 1 塩蔵ワカメの輸入実績 32 参考 2 毛細管の作り方 33 参考 3 PESI培地の作り方 34 参考 4 酸化ゲルマニウム溶液の作り方 37 参考 5 市販培地 39 参考 6 試験場汲み上げ海水温(鳴門) 40 参考 7 試験場汲み上げ海水温(日和佐) 42 1 種苗生産の概要 図 1 にワカメの生活史を示しました。ワカメの生活史、つまりワカメの一生は、普段 私たちがワカメと呼んでいる人間の目に見える時期と、肉眼視できないほどの小さい時 期があります。目にみえない時期は配偶体期と呼ばれていますが、この時期は春にメカ ブから放出された遊走子が成長し、配偶体となり秋になって受精するまでの期間のこと です。皆さんは、ワカメの採苗枠に巻かれた糸に付いている茶色いものを見ていると思 いますが、それが配偶体期のワカメです。写真 1∼2 は糸に付いているワカメの配偶体 とスライドガラス上の配偶体です。遊走子を糸に付けずにガラスなどに付けると、この ように美しい形で成長するのですが、糸に付けるとその形が分からなくなります。配偶 体には雌雄があります。配偶体は写真では太くて丸い方が雌、細い方が雄です。 この方法の概要を図 2{4 ページ}に示しました。まず、配偶体を 1 尾づつに分離、 培養するところから始まります。1 尾づつ分けるといっても、大きさが 10 分の 1 ミリ 程度ですから、顕微鏡を使った細かい作業になります。この配偶体は、栄養を与え適度 な条件で培養してやると、どんどん増殖します。この方法では 1 尾の雌雄配偶体から増 やしたものを種苗生産に使うので、できあがったワカメは遺伝的に相当均質なものがで きるはずです。その後、秋になって配偶体の塊を細かく砕き、糸に付けて受精させ幼葉 まで培養します。後は、通常の養殖方法と同じです。 2. 新しい種苗生産の特徴 1) 種苗生産の期間の短縮と簡略化 この方法ですと、仮養殖の日から逆算して、1 ヶ月前が種付けの日となります。 種付けは、保存培養しておいた配偶体の塊をミキサーで細かく砕き、これを採苗用 の糸に付けるだけです。 期間の短縮:一度、春に遊走子を採取し配偶体として保存しておくと、4∼5 月のメ カブからの採苗と夏場の配偶体培養水槽の管理までが不要になります。秋になって、 水槽内に光りを当て、受精させる作業からとなり、作業期間が短縮されます。 簡略化:4∼5 月のメカブからの採苗作業が不用です。一度、良い種(配偶体)を持 っと、配偶体は自己増殖するので何年間もそれを使い続けられます。 2) 種苗生産を一漁期中に複数回行うことができる。(一度、失敗しても取り返しが効く) 海水温にもよりますが、鳴門では年内であれば仮沖だしを行うことは可能な水温 です。ですから、ミキサーで配偶体を砕き糸に付け培養し、仮沖だしするまでに 1 ヶ月かかるわけですから、11 月の下旬までは秋の採苗は可能というわけです。 例えば、鳴門では早く種苗を作りたいために、仮沖だしを早く行い水温が 22∼ 若い藻体 幼体 成熟葉体 冬季 造胞体期(2n) 春季 遊走子 夏季 配偶体期(n) 秋季 芽胞体 精虫 雌性配偶体 卵細胞 図1 ワカメの生活史(海藻養殖資源学より改変) ← ● 写真 1 スライドグラス上の配偶体。 丸いのが雌、細い方が雄の 配偶体です。 ← ● 写真 2 糸の上で成長した配偶体。 皆さん方の陸上水槽で管理 している時の配偶体の姿で す。 ずいぶん、スライドグラス上 のものと形が違います。 23℃より高い時期に出し、種苗生産に失敗することがあります。失敗したことが分 かるのは、だいたい 10 月下旬から 11 月上旬にかけてですから、そのような時の保 険として上記手法を併用することも一つの方法であると思います。 3) 良い種の特徴を維持できる。 漁業者の方が一般に行っているワカメの種の作り方は、春になるとワカメの根元 付近に出来るメカブを切り取って、水槽に入れ、遊走子を放出させて、それを糸に 付着させます。糸に付いた遊走子は、発芽成長し配偶体になります。この方法では、 通常、何十個ものメカブを使い遊走子付けするので、非常に多くの配偶体が付いた 種糸から養殖することになり、出来たワカメは親のワカメと違ったものになること があります。また、せっかく苦労して手に入れた良い品質のワカメでも、他のワカ メのメカブと混ぜなくとも、導入して 2∼3 年たつと地元のワカメと同じになった という話もあります。これは、同じワカメから出た種(遊走子)でも、地場の海に 適合し易いものが残るはずですから、それを繰り返すうちに、地場のワカメに似て くるわけです。しかし、1 尾づつの雄と雌をもとに増やした配偶体を使って、種糸 を作り養殖すると、遺伝的に非常に均質なワカメが出来上がるはずです。1 尾遊走 子起源の雌雄の配偶体を組み合わせて受精させ、よいワカメが出来たなら、その組 み合わせの雌雄配偶体を保存培養しておくと、今後ずっと遺伝的には同じワカメを 作り続けられるはずです。また、初代と同じ配偶体を使っているので、何年かする と地場と同じワカメになることもありません。 しかし、この方法で行うと毎年同じワカメができるというわけではありません。 ワカメの姿は、次の 3 つの要素により形作られます(図 3) 。 遺伝的要素は、今まで説明してきたようにワカメ自身がもつ形質であり、東北系 統のワカメとか鳴門系統のワカメとか呼ばれるものです。 次に、生産技術的要素ですが、生産方法によって出来てくるワカメも違ってきま す。例えば、種糸を挟み込む間隔とか、養殖水深、刈り取りの方法(間引きと総刈 り)などにより、出来てくるワカメは当然、違ってきます。 あと一つ、環境的要素ですが、海の条件ということで水温、塩分、潮流、栄養塩、 濁度などがあります。これらは、養殖する場所、年により変動するもので、我々人 間の手ではなかなかコントロールできるものではありません。また、海藻養殖は陸 上で栽培される野菜などと違い、遙かにこれらの環境的要素の影響を受けやすいと いえます。ですから、いままで説明してきた方法で作られたワカメも環境の影響を 同じように受けます。しかし、だからといって、やっても意味がないと考えずに、 少なくとも環境の変動による影響を除けば品質的に安定したワカメ生産ができると 考えていただきたいと思います。 メカブ 遊走子 1尾遊走子起 源の♂配偶体 1尾遊走子起 源の♀配偶体 容器の中で 増殖させる。 保存培養中 の♂配偶体 次の年も、この配偶 体が使える。 保存培養中 の♀配偶体 ♂♀配偶体を混合し、細かく 砕き、糸に付け受精させる。 次の年も、この配偶 体が使える。 1ヶ月ほど、水槽中で培養して海 に仮沖だしする。 図2 新しいワカメの種苗生産法の概要 生産技術的要素 環境的要素 ワカメの姿 遺伝的要素 図3 ワカメの形態を形作る要素 4) 良い種を作り出すことが容易である。 この方法により、雌雄 1 尾起源の配偶体として多くのワカメの配偶体を持つこと により、選抜や交配がより確実に行えます。 1 尾起源の雌雄配偶体を使い、目的とするワカメの形質(例えば、肉厚など)を 定め、何代も選抜を繰り返すことにより、遺伝形質が固定されます。 また、このようなワカメの雌雄配偶体を掛け合わせることにより交配試験を行う ことができます。 3. 新しい種苗生産の方法 {実技編} フリー配偶体からの種苗生産は次の 9 つの行程に分かれます(図 4) 。このうち、 一度持てば今後のその作業は必要なくなるのは、藻体の測定から雌雄配偶体の単離 までで、後は保存してある配偶体を拡大培養して必要な量だけ増やせばその年の種 苗生産を行うことができます。フリー配偶体の細断及び基質への着生からは、生産 する種糸の長さにより、使用する器具、施設が変わってきます。およそ、次の 3 つ に分けられると思われます。 ① 実験規模少量生産:少量の種糸を作る場合(1 ㍑ビーカー1 個で生産できる規模)。 本養殖規模で 10mロープ分程度あるので、個人でいろいろな種を試験養殖してみ る場合に適当です。ちなみに、試験場ではこの程度の規模で研究を行っています。 ② 実用規模管理生産:細断後の濃厚配偶体液に採苗枠を入れ、乾いた糸が水を吸収す る力を利用して配偶体を糸に吸着させる方法で、仮沖だしまでは温度、照度をコン トロールできる施設の中で培養する方式。このため、培養中にはワカメ以外の藻類 (珪藻など)が混入しないので、非常に効率的に(小さな施設内で密殖状態にして 培養)種苗を生産することができます。勿論、施設を大きくすればその分生産量は 増えることになります。 ③ 実用規模粗放生産:通常の種苗生産用の採苗枠を使い、細断後の配偶体を糸に吸着 させた後、通常行う屋外の陸上水槽で培養を行う方式。通常の水槽管理で種苗生産 が行える利点があり、今まで種苗生産を行っている漁業者の方ですと、施設もその まま使え、現実的な方法といえます。しかし、屋外水槽であるので珪藻とかアオサ の発生により、種苗生産が失敗することもあります。 それでは、実技編に入っていきますが、藻体の測定から雌雄配偶体の単離までは、倒 立顕微鏡、毛細管作成機、など高価な機材が必要となり、そう頻繁に使うこともないので、 その都度お近くの水産試験場へ材料を持ってきて作業をすることが現実的であると思いま ← ● 写真 3 ← ● 写真 4 スライドグラス上 で成長した配偶 体。黒いつぶ、一 つずつが1個の配 偶体から大きく成 長した配偶体の塊 です。 スライドグラスか ら削り落とし、培 養水中で浮遊さ せて成長させた 配偶体。これを、 フリー配偶体と呼 びます。 藻体の測定 一度行えばよい行程 遊走子の採取 雌雄配偶体の単離 配偶体の拡大培養 配偶体の成熟促進 毎年行う行程 フリー配偶体の細断 及び基質への着生 受精及び芽胞体の培養 仮沖だし 図4 新しいワカメ種苗生産法の行程 配偶体の保存 す。 それでは、具体的な技術に移ります。 ● 実験規模少量生産 1. 藻体の測定 1) 目的とするワカメの外部形態(葉長、葉幅、葉重など)を測定し、写真撮影を行 います。場合によっては、葉厚とか皺の有無など、目的に応じて測定します。頭の 中だけで覚えておくのは、やめましょう。参考までに、水産試験場で測定している、 外部形態の測定場所は図 5 のとおりです。 2) メカブ(胞子葉)は、測定後速やかにビニール袋に入れ、15∼20℃の冷暗所に保 存します(写真 5) 。15℃より低温では、海水に戻した場合、遊走子の放出が悪くな ります。胞子葉を海水から出して冷暗所に保存した場合、2∼3 日間は遊走子の放出 は可能ですので、あわてて遊走子採取をする必要はありません。この方法では、ご く僅かの遊走子が得られればそれから増やせるので、皆さんが通常行っている遊走 子付けほど大量の胞子量はいらないのです。 2. 遊走子の採取 1) 遊走子を放出させる部屋の温度は 15∼20℃がよく、高温では遊走子の遊泳時間が 短くなるためよくありません。5 月頃では、気温が高くなるのでクーラーの効いた 部屋で行うのがよいでしょう。 2) 胞子葉を 3∼4cm角程度に切ります(写真 6)。根株(仮根)に近い部分が胞子 の放出が良好ですが、胞子葉表面のなるべく汚れの少ない部分を切り取ります。切 り取った葉片はキムタオル等で軽く汚れをふき取ります。 3) 100 ㍉㍑の滅菌海水の入ったビーカー(紙コップ)を 3 ケ用意し、葉片を順に洗 浄した後、 50 ㍉㍑の滅菌海水の入った直径 90mm 高さ 20mm のシャーレに入れます (写 真 7) 。 4) 葉片の入ったシャーレを実体顕微鏡ステージ上にのせ、シャーレの上から光を照 射します(写真 8) 。実体顕微鏡は暗視野状態(ちょうど、暗い部屋に居て、戸の隙 間から入ってくる光により室内の埃がよく見える状態をいう)に調整しておくと、 遊走子の放出を観察しやすいです。光ファイバー等で照射して 10 分程度で、遊走子 は充分放出されます。皆さんの家には、実体顕微鏡とか光ファイバーは無いと思い ③ ② ① ④ ⑤ ①:葉幅長、②:列葉幅長、③:葉長、④:茎長、⑤:芽株長 以上の測定とそれぞれの重量測定を行う。 図5 外部形態の測定場所 ← ● 写真 5 メカブは測定後、速やかにビ ニール袋い入れ、15∼20℃ の冷暗所で保存します。 ← ● 写真 6 メカブを3∼4cm角に切り取 ります。 ますので、水産試験場へ来られない人は、葉片の入ったシャーレを蛍光灯スタンド などで上から照らし、胞子液を普通の顕微鏡で確認すればよいでしょう。 5) 毛細管を用意します。毛細管はヘマトクリプト管を加熱し、引き延ばしたものか、 パスツールピペット先端を充分に細長く引き延ばしたものを用います(毛細管の作 り方は参考 2{33 ページ}を見る) 。 6) PESI培地を 50 ㍉㍑満たしたシャーレ(直径 90mm 高さ 20mm)を用意します(P ESI培地の作り方は参考 3{34 ページ}を見る) 。 7) 実体顕微鏡下で遊走子を適量吸引して、シャーレに滴下します(写真 9∼11) 。吸 引時に、毛細管がシャーレの底とか葉片に触れないように注意します(珪藻を吸引 することが多い) (写真 10) 。滴下後、シャーレを手で充分に振とうし、遊走子密度 を均一にします(写真 12{11 ページ} ) 。 8) それぞれ遊走子液の吸引量を違えた 4 種類程度のシャーレを作成しておきます。 遊走子量が多いと配偶体の密度が高くなり、配偶体どおしが接近しすぎて単離しに くくなります(図 6{11 ページ} ) 。 9) 遊走子採取後のシャーレは、20℃、14∼12 時間明期(1000∼1500lux)で培養し ます(写真 13∼15{12 ページ})。14 時間明期というのは、14 時間明かりを点けて おき、残り 10 時間は消しておくということです。人工気象器に入れたほうが温度が 一定となり、配偶体の成長がよいです。配偶体は、条件が悪い(温度の変動、高温、 高照度)と雌雄が似た形となり、判別が難しくなります。(クーラーの効いた室内に 置いて置く場合でも雌雄の判別はやりにくいものです。 )また、種によっては雌雄の 形が明らかに異なるものと似たものがあります。 10) 2 週間で配偶体は雌雄判別できる大きさとなります。受精の恐れがあるため、な るべく早めに配偶体の雌雄判別を行い、単離する必要があります。 11) この段階で、珪藻による汚染はほとんど無いですが、もし珪藻が発生したならば そのシャーレは廃棄するのがよいでしょう。廃棄できない場合は、二酸化ゲルマニ ウムで珪藻の増殖を押さえることができるので、珪藻に汚染されていない配偶体を 選んで単離することになります。 (二酸化ゲルマニウム液の作り方は参考 4{37 ペー ジ}を見る) 。 3. 1) 雌雄配偶体の単離 倒立顕微鏡のステージに配偶体を培養しているシャーレをのせ、単離に適した配 偶体をさがします。配偶体どおしが充分に離れており、雌雄がはっきりしているも のを単離します。パスツールピペットにチュウーブを付け(写真 16) 、パスツール ピペットの先端で配偶体をシャーレから分離し、吸引します。チューブの端を口に ● 実験規模少量生産 2. 遊走子の採取 ← ● 写真 7 メカブ片を100㍉㍑の滅菌海 水の入った紙コップで洗浄 し、後、シャーレに入れる。 ← ● 写真 8 メカブ片を100㍉㍑の滅菌海 水の入った紙コップで洗浄 し、後、シャーレに入れる。 ← ● 写真 9 毛細管で遊走子を吸引する。 ← ● 写真 10 遊走子を吸引する毛細管の 先端部。 (顕微鏡テレビモニター画像) ● 実験規模少量生産 2. 遊走子の採取 ← ● 写真 11 吸引した遊走子液をPESI培 地の入ったシャーレに滴下す る。 ← ● 写真 12 遊走子液滴下後、シャーレを 充分振とうする。 遊走子液を多く入れすぎると、配偶体が成長するにつれ、配偶 体どおしが重なり、単離しにくくなります。 図6 顕微鏡で配偶体の入ったシャーレを見た時の模式図。 ● 実験規模少量生産 2. 遊走子の採取 ← ● 写真 13 遊走子が入ったシャーレは温 度、照度が一定になるように 人工気象器に入れる。 ← ● 写真 14 人工気象器内のシャーレを 置く場所の照度を測定する。 ← ● 写真 15 人工気象器内の照明時間を 調節するため、タイマーの時 間を設定する。 くわえ、配偶体をはがす時は息を止め、吸引するときに吸います。吸引した配偶体 は、PESI培地を満たした 48 穴マイクロプレートに 1 尾づつ入れます(写真 17 ∼19) 。 2) 配偶体は、雌配偶体を雄配偶体より 1.5 倍程度多く採取しておきます。 3) 1 ケ月間、20℃、14∼12 時間明期(1500∼2000lux)で培養します。 4. 1) 配偶体の保存及び拡大培養 マイクロプレートで培養後の配偶体を取り出します。通常、配偶体は肉眼視でき る大きさとなっているので、眼科用ピンセットでマイクロプレートからつまみ上げ て取り出します(写真 20∼22{15 ページ} )。充分な大きさに育っていない場合は、 倒立顕微鏡下でパスツールピペットを使い吸引してもよいです(写真 24{16 ペー ジ} ) 。この際、ピペットの先端は細く加工しなくてもよいでしょう。 2) 保存する場合は、ねじ口試験管に入れて 20℃、14 時間明期(1000∼1500lux) で保存します。徳島水試では、1 株につき雌配偶体 3 尾、雄配偶体 2 尾を保存して います(写真 25{16 ページ} )。保存後の培地の交換は、2 ヶ月に 1 回PESI培 地を交換します。 3) 種苗生産に用いるために拡大培養する場合は、PESI培地を満たした直径 30mm の試験管に入れ通気培養を開始します。20℃、14∼12 時間明期(1500∼2000lux) で培養します。培地の交換は、2 週間に 1 回行います。その間も、蒸発に気を付け てください。蒸発分は蒸留水を加えてください。配偶体の増殖速度は大きく、配偶 体が大きく増殖してきたら、3 回目くらいから容器をフラスコに変え、培養を継続 します(写真 26{16 ページ} ) 。 ● 実験規模少量生産 3. 雌雄配偶体の単離 ← ● 写真 16 シャーレ内で成長した配偶体 を底から分離し、吸引するた めの器具。パスツールピペッ トの先端部を細く引き延ば し、シリコンチュウーブをつな いだもの。 ← ● 写真 17 倒立顕微鏡で見ながら、 シャーレ底に付着している配 偶体を分離しているところ。 ← ● 写真 18 吸引した配偶体をマイクロプ レートへ移す作業。 ← ● 写真 19 吸引した配偶体をマイクロプ レートへ移す作業。軽く吹き 込んでやる。 ● 実験規模少量生産 4. 配偶体の保存及び拡大培養 ← ● 写真 20 マイクロプレート内で成長し た配偶体をピンセットでつま み上げる。 ← ● 写真 21 つまみ上げた配偶体をネジ 口試験管内に入れる。 ← ● 写真 22 つまみ上げた配偶体をネジ 口試験管内に入れる。 ← ● 写真 23 アルコールランプ、眼科用ハ サミ、眼科用ピンセット大、小 など。 ● 実験規模少量生産 4. 配偶体の保存及び拡大培養 ← ● 写真 24 配偶体がピンセットでつまみ 上げられる大きさでない場合 は、写真16のパスツールピ ペットで吸引する。 ← ● 写真 25 ネジ口試験管内に雌配偶体3 尾、雄配偶体2尾を入れてあ る。このようにして、人工気象 器内に入れて保存する。 ← ● 写真 26 配偶体の拡大培養。 それぞれの品種ごとに、雌雄 1尾づつの配偶体を拡大培養 する。配偶体コロニーが大き くなれば、細かく分けてやると 成長速度が大きくなる。 5. フリー配偶体の細断及び基質への着生 1) フリー配偶体を細断し、糸に吸着させてから、約 1 ケ月で 2∼5mm の藻体になり、 鳴門海域では天然海水中での仮沖だし(中間育成)を開始するサイズとなります。 仮沖だしは、海水温が 22∼23℃以下にならないとワカメにとって危険ですので、フ リー配偶体の細断は、その海水温になる頃から逆算して 1 ヶ月前に行います。通常 のワカメ種苗生産は、屋外のタンク内でワカメ配偶体の付いた採苗枠を培養してお り、水温、光量は変動し易く、計画的種苗生産が行い難いものです。しかし、この 方法の実用規模粗放生産法以外ですと、鳴門ワカメは、ほぼ 1 ヶ月で 2∼5mm サイ ズになることが分かっているため、生産計画が立てやすいという利点があります。 2) フリー配偶体を細断する 2 週間前に、配偶体の成熟促進を行います。15℃、照度 1000∼1500lux での低温、10 時間明期の短日処理を行います。 3) 水産試験場での実験規模少量生産法では、直径 2mm のクレモナ糸 120cm に配偶 体を付けて種苗生産を行っています。写真 27 に示したように、ビニール被覆した 針金を使い糸を巻き付ける枠を作成します。これは、糸を巻き付けて 1 ㍑のビーカ ーに入る大きさであり、枠から長く上方へ伸びた取っ手により枠全体をビーカーか ら簡単に取り出すことができる構造となっています。 4) クレモナ糸は、約 30 分間煮沸し、あく抜きを行い、乾燥しておきます。これを、 枠に隙間無く巻き付けます。 5) 使用するフリー配偶体は、ごく少量でよく、雌雄 1 ㍉㍑づつもあれば充分です(写 真 28) 。雌雄配偶体を混合して、100 ㍉㍑ PESI 培地を満たしたミキサーに入れ、4 ∼5 細胞になるまで細断します(写真 29∼30) 。ホモジナイザーを使っても可能で すが、ミキサーの方が、その後の芽胞体までの成長が速いことが経験的に分かって います。細断後の配偶体液は写真 31{19 ページ}のように、ほとんど色も付かな い薄いものです。 6) 1 ㍑のビーカーに糸を巻き付けた枠を入れ、PESI 培地 500 ㍉㍑を満たしておき ます。細断後の配偶体懸濁液を糸の上に均一になるようにまきます(写真 32∼33 {19 ページ} ) 。この状態で、配偶体は糸の上に乗っているだけですが、雌配偶体は 受精後、糸上に仮根を伸ばし、固着するようになります。 7) 1 ヶ月間の培養条件は、表 1{20 ページ}のとおりです。1 週間後から、通気を 開始し、同時に照度を上げ、日長を長くして行きます。1 週間ごとに培地を交換し ますが、1 日前にビーカーに 500 ㍉㍑の新しい培地を入れ、同じ場所に置き、温度 を合わせておきます。充分に温度を合わせずに、温度の高い培地に移し替えるとワ カメは弱ります。東北系統の低水温型のワカメであると死亡することもあります。 ● 実験規模少量生産 5. フリー配偶体の細断及び基質への着生 ← ● 写真 27 実験規模少量生産では、6× 7cmの枠に、密にクレモナ糸 を巻き付ける。これで、10m 養殖ロープ分程度の種苗が 生産出来る。 ← ● 写真 28 使用する雌雄フリー配偶体。 このように、ごく少量でよい (200㍉㍑ビーカー)。 ← ● 写真 29 雌雄フリー配偶体を混合し、 ミキサーで細断する。細断途 中で止め、細断状況を顕微 鏡で確認する。 ← ● 写真 30 細断後の配偶体細胞が4∼5 細胞になるまで細断する。 ミキサーから配偶体液をと り、倒立顕微鏡で確認してい る。 ● 実験規模少量生産 5. フリー配偶体の細断及び基質への着生 ← ● 写真 31 細断後の配偶体液。 このように非常に薄い茶色で ある(100㍉㍑)。 配偶体液が濃いと思えば、 使用する量を減らして調整す る。 ← ● 写真 32 1㍑ビーカーにPESI培地を 500㍉㍑を満たし、その中に 基質枠を入れておく。そこ へ、配偶体液を駒込ピペット を使い、静かに滴下する。 ← ● 写真 33 配偶体液滴下後の基質(クレ モナ糸)上は、ほとんど色は 付いていない。このように、 滴下する配偶体はごく少量で よい。 ● 実験規模少量生産 5. フリー配偶体の細断及び基質への着生 表1 ワカメ配偶体及び芽胞体培養条件 培養条件 日長(明期/暗期時間) 照度(lux) 温度(℃) 通気 培地交換(PESI) 備考 第1週 11/13 2000 20 無通気 有り 受精期 第2週 11/13 2500 20 微通気 有り 芽胞体期 第3週 12/12 3000 20 通気 有り 幼葉期 第4週 12/12 3500 20 強通気 有り 第5週以降 12/12 4000 20 強通気 有り 仮沖出し ← ● 写真 34 通気培養中。 基質上はワカメ幼葉に被わ れて茶色く色づいている。 ← ● 写真 35 通気培養中。 ビーカーの上から見た写真。 基質上はワカメ幼葉に被わ れて茶色く色づいている。 ← ● 写真 36 写真35を拡大して見ると無数 のワカメ幼葉が成長してい る。 このことは、皆さんも秋口の陸上水槽での水替え時に経験したことがあると思いま す。最初の培地交換時に、取っ手を持って枠を培地中で振とうし、糸上の余分な配 偶体を落とし、新しい培地の入ったビーカーへ移します。糸上に仮根を張っていな いワカメ幼葉は、いくらあっても意味がないからです。写真 34∼36{20 ページ} は培養開始 3∼4 週目のものです。2 週目くらいには、糸が茶色に色づいてくるのが 肉眼視できるようになります。その後、どんどん色が濃くなって行きます。 6. 1) 仮沖だし 1 ヶ月間培養し、2∼5mm になった種苗を海況が良ければ、このまま養殖用ロー プに挟み込んで、本養殖を行うこともできますが、芽数が多くなりすぎるなど後の 養殖上の問題があるため、仮沖出しを行い、1cm程度の藻体まで成長させます。 2) 枠の裏側になった糸は、幼葉が付いておらず、当然、糸は真っ白です。ワカメ種 枠に再度巻き直しをします(写真 37) 。 3) 仮養殖の水深は 20∼50cm になるように、ブイと錘で調整します(写真 38) 。 4) 水温にもよりますが、20∼30 日で葉長 1cm のワカメ種苗ができます。 ● 実験規模少量生産 6. 仮沖だし ← ● 写真 37 仮沖だしする前に、種糸をワ カメ種苗用金枠にまき直す。 日陰で行うなど、水温の上昇 に気をつけることが重要。 ← ● 写真 38 水面下20∼50cmになるよう にして、仮養殖し1cm程度の 幼葉になるまで養殖する。 フロート 水面 養殖ロープ 20∼50cm 錘 ワカメ種糸をまき直した枠