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食中毒を防ごう!
食中毒を防ごう! 飲食物を介して引き起こされる健康被害を総称して食中毒といいます。 原因には、3 月に日本国中を震撼させた中国製冷凍餃子の農薬汚染のような化学物質による もの、微生物汚染を受けた食品によるもの、ふぐ毒や毒キノコなどの自然毒などが上げられま す。今回は微生物を原因とするものについて考えます。 Ⅰ 感染型食中毒 生きた微生物汚染を受けた食品を摂取することにより、体内に侵入して増殖し(感染)、その 結果、発熱、腹痛、下痢、嘔吐等の症状を呈するものを言います。体内で増殖することが必要 なため、食べてから症状が出るまでに時間(潜伏時間)がかかります(数時間から数日)。細菌 によるもの、ウイルスによるものなど、いくつか例を見てみましょう。いずれにしても、感染 型食中毒は十分な加熱により菌を死滅させることで防ぐことができます。 【腸炎ビブリオ】 夏場の食中毒原因の横綱級の細菌です。海水温の上昇とともに、海産魚介類が汚染されるた め、魚の生食文化を持つわが国では看過できない細菌です。その特徴は次のようなことがあげ られます。 ①増殖には塩分が不可欠です。食塩濃度3%(海水濃度と同じ)で非常によく増殖します。 逆に無塩の食品では増殖できませんので(ただし、同じビブリオでもコレラ菌は無塩でも 増殖します)、真水で塩分を洗い流せばその増殖を抑えることができます。魚介類を触った 手で、漬物を扱うとその塩気で急激に増殖し、思いもかけない食品が原因となって事故に つながります。 ②他の菌が増殖しない非常に強いアルカリ性(pH 8.6)でも増殖可能です。 逆に酸性下では増殖しません。食酢がその増殖を抑えますが、殺菌するわけではないので 注意しましょう。 ③非常に増殖スピードが早いということです。細菌は 2 倍、4 倍、8 倍と2nで分裂増殖しま すが、ビブリオの世代交代時間は、温度、塩分、養分の条件がよければ 10 分に 1 回程度分 裂します。発症する菌数を 100 万個として、10,000 個のビブリオが付着したお刺身を買っ て(この時点では食中毒になりません)帰り道で友人に出会い、1 時間立ち話すると、6 回分裂することになります。10,000×26 つまり 640,000 個、そろそろレッドゾーンの菌 数になるわけです。食品は食べるまでの温度と時間の管理を図りましょう。 3 腸炎ビブリオ 国立感染症研究所ホームページより(http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k04/k04_10/k04_10.html) 【サルモネラ】 自然界に広く分布し、動物の消化器にも見られるサルモネラには 2,000 種類以上ありま すが、中には人の健康を害するものがあります。 イタリア料理が流行り、デザートに出される生卵を使用するテイラミスや加熱不十分な 鶏卵料理など、サルモネラ エンテリテイデイスに汚染された鶏卵による大きな事故事例が 注意を引きました。 汚染の確率は 3/10,000 といわれていますが、一度にたくさんの鶏卵を使用するケーキや、 自家製マヨネーズなどの調整には注意を要します。家庭では卵の賞味期限を意識し、冷蔵 保存を徹底しましょう。 動物の腸内に存在することから、獣肉や卵は汚染されている可能性があります。生肉や 卵を触った手はしっかり洗ってから次の調理工程に移りましょう。 サルモネラ食中毒は非常に重篤で、高熱を出すことが多いのが特徴であり、死者を出し た事例もあります。このことは、サルモネラ ラ テイフイはチフス菌のことですし、サルモネ パラテイフイはパラチフス菌のことですから、サルモネラ食中毒の症状の重さにも納得 がいきます。 サルモネラ 国立感染症研究所ホームページより(http://idsc.nih.go.jp/yosoku/Jinju/others/salm-photo.html) 4 【病原大腸菌】 大腸菌は文字通り動物の腸内に普通に見られ、通常は無害の菌ですが、時に病原性を獲 得して健康被害を引き起こすものが現れます。その代表例が腸管出血性大腸菌O157で す。 O157は感染が成立するのに必要な菌数が非常に少なく(50∼100 個)、ベロ毒素(V T)を産生し、腸管出血、腎障害など、重篤な症状を呈し、当初、死亡例の多さが目を引 きました。また、感染していても無症状(不顕性感染といいます)な人も居ます。2007 年 には全国で 4,606 件の感染者報告がありました。 感染防止の観点から、肉の生食(患者さんに肉の生食の有無を聞くとたいてい無いと答 えますが、ユッケやレバ刺し、鳥刺しなどは立派な生肉です)を避けましょう。お父さん やお母さんがこれらを食べた結果、不顕性感染者となり、子どもにうつしたと思われる例 もあります。患者は 4 歳以下の幼児が最も多くなっています。また、70 歳以上の高齢者に も多く報告されています。 横浜市内で販売されている食肉の約 80%に何らかの病原細菌が検出されます(横浜市衛 生研究所)。食肉はO157やサルモネラ、カンピロバクターなどにより汚染される可能性 が高く、肉の生食はリスクが非常に大きいと言えます。 腸管出血性大腸菌 O157 国立感染症研究所ホームページより (http://www.nih.go.jp/niid/bac/O157em.html) 5 【カンピロバクター】 動物の腸内に存在する菌で、食肉処理時に汚染を受けることが知られています。特に市 販の鶏肉の汚染率は 20∼30%といわれています(横浜市衛生研究所)。加熱不十分な食肉 を介して健康被害を起こします。特に食鳥肉(焼き鳥やバーベキュー)による事故が多く 見られます。食べ盛りの中学生がバーベキュー大会で加熱不十分なまま喫食して事故につ ながった例、飲食店で加熱不十分な物を提供した事故事例などがあります。牛や豚などの 家畜や、犬・猫等のペットやネズミなどからも検出されます。 カンピロバクター 国立感染所研究所ホームページより(http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k05/k05_19/k05_19.html) 【ノロウイルス】 かつて小型球形ウイルスと呼ばれていたウイルスです。カキやアサリ、ハマグリ、ムー ル貝などの 2 枚貝が餌のプランクトンと一緒にノロウイルスを取り込み、それらの貝を生 で食べて引き起こされるパターンが主でしたが、最近では患者の吐物等の処理が不完全で、 人から人への感染が拡大する感染症としての側面がクローズアップされてきています。し たがって、カキのシーズンの冬季だけでなく、それ以外のシーズンにも遭遇することが多 くなりました。食材の加熱の徹底と、調理時や食前の手洗いの徹底などが望まれます。 ノロウイルス 国立感染症研究所ホームページより(http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k04/k04_11/k04_11.html) 6 【肝炎ウイルス】 時にA型肝炎ウイルスやE型肝炎ウイルスなどが、飲食を介して事故を引き起こす事例 があります。A型肝炎ウイルスは衛生状態のあまりよくない国への海外旅行時には注意が 必要です。国内では、すし屋で食事したあとに感染した事例もあります。 E型肝炎ウイルスは、豚レバーからの検出事例や鹿やイノシシ肉など、野生生物の肉の 生食が原因でE型肝炎を引き起こした報告があります。 E型肝炎ウイルス 国立感染症研究所ホームページより (http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k04/k04_13/k04_13.html) Ⅱ 毒素型食中毒 微生物が食品中で増殖する過程に、毒素を産生し、食品とともに食べることにより健康被 害を呈するものです。感染型食中毒のように、一度体内で増殖するという過程を要しないた め、発症までの時間(潜伏時間)が非常に短い(20 分∼30 分のこともあります)のが特徴で す。 【ボツリヌス菌】 土壌内に存在し、根菜類、穀物、果実等を介して事故に結びつき、日本ではイズシやカラ シレンコンなどの中毒事件で、死亡事例があります。また、蜂蜜が汚染されて乳幼児に乳児 ボツリヌス症を引き起こした報告もあります。 毒素は加熱により分解されますが、菌そのものは 100℃では死滅しない芽胞と呼ばれる形 態を呈し、抵抗します。無酸素状態で増殖しますので(偏性嫌気性菌)、野菜やジャムなど自 家製の缶・瓶詰め保存食品、真空パック、漬物など、空気を遮断した状態はうってつけの環 境となります。食品に「菌をつけない」、「増やさない」ことで対処しましょう。 7 ボツリヌス菌 東京都福祉保健局ホームページより (http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shokuhin/micro/boturinu.html) 【黄色ブドウ球菌】 化膿菌なので、化膿している傷、にきび、荒れた手指、口腔・鼻腔内、毛髪など、誰にで も、またどこにでも存在する菌です。培養すると葡萄の房状の形態を示します。 腸炎ビブリオは食塩が無ければ増殖できないと説明しましたが、この菌は食塩があっても、 無くても増えることができます。梅干と同程度の高濃度の食塩(8∼10%)でも増殖します ので、例えば、おにぎりは手塩したから大丈夫などということは言えなくなります。 一度産生された毒素は、加熱では壊れません。菌をつけない、増やさないことに留意しま しょう。 黄色ブドウ球菌 東京都福祉保健局ホームページより (http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shokuhin/micro/oushoku.html) 8 以上の例でお分かりのように、食塩の存在や 100℃程度の加熱は食品の安全、安心には絶 対的なものではありません。腸炎ビブリオのように増殖には食塩が不可欠なものや、黄色ブ ドウ球菌のように食塩があっても(なんと8%以上の高濃度でも)無くても増殖するもの、 また、100℃では死滅しない芽胞の存在など、細菌の生態は常識の及ばないことがあります。 最後に、もう一度確認です。「菌をつけない」、「ついていた菌を増やさない」、「加熱で殺 菌」に留意し、食中毒を防ぎましょう。衛生的な食品の入手、食べるまでの時間と温度のコ ントロールは私たちの自己防衛の手段です。 9