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石綿問題の現状と 中央環境審議会における議論について 京都大学 名誉教授 内山 巌雄 みんなで防止!!石綿飛散 キックオフ会議 2014.6.17 大阪 アスベストの種類 蛇紋石族 クリソタイル(白石綿・温石綿) Mg3Si2O5(OH)4 石綿 (Asbestos) 角閃石族 顕微鏡レベルで石綿繊維計数: 長さが5μm以上、 幅(直径)3μm未満、 アスペクト比(長さ/幅)3以上 (実際は直径0.02~0.15μm) (約90%) クロシドライト(青石綿) Na2Fe5Si8O22(OH)2 アモサイト(茶石綿) (Fe・Mg)7Si8O22(OH)2 アンソフィライト(直閃石) (Mg・Fe)7Si8O22(OH)2 トレモライト(透閃石) Ca2Mg2Si8O22(OH)2 アクチノライト(緑閃石) Ca2(Mg・Fe)5Si8O22(OH)2 青石綿(クロシドライト)の原石・顕微鏡写真 クロシドライト(青石綿)はクリソタイル(白石綿) より10倍程度毒性が強い 顕微鏡写真(針状の繊維) 青石綿 茶石綿 白石綿 クリソタイル の構造 D.M.Bernsteinら(2006)より引用 クロシドライト (角閃石)の構造 D.M.Bernsteinら(2006)より引用 わが国の石綿輸入量の推移と主な出来事 青・茶石綿の使用禁止 吹きつけアスベストの使用禁止(1975) 特化則(第2類) 1971 WHO/ILO 石綿はがん原物質(1972) じん肺法の制定 (1960) 大防法の改正(1989) 敷地境界基準10f/L 管理濃度の策定 (1988) 2f/cm3 阪神淡路大震災で 倒壊建築物から飛散 (1995) 大防法改正 解体作業等に 作業基準 (1996) 白石綿の 使用禁止 クボタショック ほとんどのアスベストが 建築材料として使用されてきた 大気環境学会アスベスト公開講座 関東地区 資料(H17.12.22)より 吹きつけアスベスト推定使用量 (環境省報告書、1996) 25000 20000 1971~1979:実績値 1975~:石綿を含むロックウール 推 定 使 15000 用 量 10000 ( ト ン ) 5000 0 1955 1960 1965 1970 1975 1980 年 法律上の石綿関連疾患とは ①石綿肺 ②肺がん(石綿肺の第Ⅰ型以上の所見のある 原発性肺がん) (肺がんのリスクが2倍になる条件) ③胸膜、腹膜、心膜又は精巣鞘膜の中皮腫 ④びまん性胸膜肥厚 ⑤良性石綿胸水 +石綿暴露指標として重要な「胸膜プラーク(胸膜肥厚斑) および「石綿小体又は石綿繊維」をそれぞれ独立 ①~⑤ 労災保険に係る認定基準(平成15年9月改正) ①~④ 救済法による認定基準 石綿粉じんばく露量、潜伏期間と関連疾患の 関係の模式図 Bohlig(1975) 低濃度曝露で発症し潜伏期間が長い 潜伏期間 アスベスト消費量と中皮腫死亡数の推移 1,400 450,000 消費量 400,000 350,000 胸膜中皮腫(ICD-9) 300,000 消費量(トン) 1,000 中皮腫 (ICD-10) 800 胸膜中皮腫(ICD-10) 250,000 600 200,000 150,000 400 100,000 200 50,000 0 0 1920 1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990 年 2000 2010 死亡数(人) 1,200 一般環境におけるアスベストの健康影響に 関する認識 *平成元年(1989):大気汚染防止法の改正 工場敷地境界の規制基準:10本/L 根拠:WHO環境保健クライテリア53(1986) *一般住民において石綿に起因するリスクを定量化するのは 困難。 *世界の都市部の大気中濃度は1本~10本/L *危険は検出不可能なほど低い。 工場敷地境界基準の意味 敷地境界基準:10本/L (定性評価のみ) 工場敷地境界と一般居住地には10~20mの空間を仮定 今後は毒性の強いクロシドライトの生産・使用は減少 1本/L 程度に減衰 X本/L ? 10本/L 一般居住地 (NHK資料より) 作業所内 2000本/L 10m~20m 室内濃度や環境中の安全性を10本/Lと比較するのは間違い 神戸淡路大震災: マスクもせずに粉じんの中 で作業する労働者 環境省通達: *現場の囲い込み *散水 *防じんマスク *石綿が付着しにくい作業着 NHK番組より 神戸淡路大震災: 倒壊建物の解体、がれきの撤去に よる粉じんの中を歩く市民 NHK番組より 東日本大震災の場合 南三陸町(2011.4.10) 道路脇に集積されたがれき がれきの中のアスベスト建材 石綿スレート・吹付アスベスト まだ湿っており、粉じんは 多くないが、これから注意 中皮腫・じん肺・アスベストセンター 永倉冬史氏提供 環境中アスベスト濃度の推移 (東京都、環境庁公表データより作製) L) 環 境 中 ア ス ベ ス ト 濃 度 ( 本 / 1.8 1.6 東京(江東区) 東京(新宿区) 事業所散在地域 1.4 1.2 敷地境界基準制定 10f/L 1 0.8 0.6 環境基準にリスクの 概念導入(生涯発がん リスクレベル10-5) 0.4 0.2 0 1981~83 1987 1990 1993 1996 年度 1999 大阪府の一般環境中アスベスト濃度の推移 最近は0.05本/L程度で推移 H7~16 豊中市役所、四條畷保健所、八尾保健所、泉佐野保健所のうち2地点又は4地点 H17~19 府内34地点 H20~25 四條畷保健所(平成7年度からの継続地点) 松原市役所(幹線道路沿線の調査地点) 泉南市役所、阪南市役所(過去に石綿製品製造事業所が存在した地域の調査地点) 中皮腫死亡者(兵庫県内・H14~16)の 石綿ばく露経路の概要(N=143) (2006,環境省) 80 70 死 亡 者 数 ( 人 ) 男 女 60 50 40 *職場以外では男女比はほぼ等しい *近隣を含むその他の曝露経路は約16% 30 20 10 0 労災 職域 家庭 内 入 立ち り む) 環境 含 内 屋 隣を 近 ( 他 その いき値の無い発がん物質のリスクの考え方 外挿域 ( が ん 発 生 率 ) 観察域 1 10-5 0 VSD 実質的に安全とみなす量:環境基準 (曝露量) 危険 一般環境におけるアスベストの健康影響に 関する現在の認識 *環境基準設定に際しての「リスク」の概念の導入(1996) *アスベストの発がん性にはいき値がない *米国環境保護庁(IRIS)(1993) (肺がん+中皮腫) ユニットリスク/(本/ml):2.3×10-1 0.1(本/L) : 2.3×10-5 *WHO 欧州事務局 (2000) (肺がん+中皮腫) 0.1(本/L) : 4×10-5 喫煙者 2.2×10-5 非喫煙者 現在の環境中アスベスト濃度の発がんリスクの推計 外挿域 ( が ん 発 生 率 ) 観察域 1 2.2×10-5 1.1×10-5 0 0.05本/L 0.1本/L (曝露量) 吹き付けアスベスト 消費量 一般市民の肺内の 含鉄小体・石綿小体 環境中アスベスト濃度の推移(推定及び実測) 1970年代がピークで、4~9本/L程度と推定 K. Azuma, I. Uchiyama et.al, IJEH, 2009 一般環境のリスク評価の妥当性 作業環境が2000~10000本/Lの時の疫学調査データを0.1 ~1本/Lという低い濃度まで外挿してよいか? 現在の中皮腫死亡数は約1000人/年。このうち一般環境 ばく露の中皮腫死亡の可能性が約20%と推計されている ので、 200人/年程度。 生涯リスク:200人/(1.3×108)人×75年=1.1×10-4 1970年代の一般環境中アスベスト濃度のピークが4~9本 /Lだったとすると現在の0.1本/Lの濃度のリスクがその 1/10の10-5オーダーになるとしても矛盾しない ただし,1本/L以下の測定精度の向上が課題 現在の環境中のアスベスト濃度は、環境基準とすべき値 と同じ程度なので、解体作業等によって、これ以上アスベ ストを飛散してはならない 解体工事や廃棄 物処理の情報の 共有が重要 (2006.12.22記事) 吹きつけアスベストのアスベスト排出量推定 (建築物の解体・撤去に係わるアスベスト飛散防止対策について、環境庁報告書、1996) 石綿スレートのアスベスト排出量推定 建築物の解体・撤去に係わるアスベスト飛散防止対策について、環境庁報告書、1996) 大気汚染防止法の改正の必要性 *建築物等の解体現場等から石綿が飛散する事例及び建築材料に 石綿が使用されているかどうかの事前調査が不十分である事例が 確認されるとともに、立入検査権限の強化、事前調査の義務づけ 大気濃度測定の義務化の必要性等について地方公共団体から 要望。 *東日本大震災の被災地においても、石綿を用いた建築材料が使用 されている建築物や煙突内部の石綿除去工事、解体工事において、 石綿の飛散事例が確認。 *昭和31年から平成18年までに施工された、石綿使用の可能性があ る鉄骨造や鉄筋コンクリート造の建築物の解体等工事は、平成40 年頃をピークに全国的に増加。 *平成18年の大気汚染防止法の改正法の附則において施行後5年を 経過した場合に検討を行うこととされているところ。 法改正にあたっての検討項目(H24.6.27) (1)立入検査権限の強化及び事前調査の義務付けについて (2)敷地境界等における大気濃度測定の義務化及び測定結果 の評価について (3)大気濃度測定に係る試料採取及び分析について (4)発注者による配慮について (5)法令の徹底と透明性の確保について (6)特定建築材料以外の石綿含有建材を除去するにあたっての 石綿飛散防止対策について (7)その他 法改正後の石綿飛散防止対策の強化に向けた検討事項 (H25.7.12) 大気濃度測定の義務付け(規模条件) 測定結果の評価方法(管理基準、一般大気環境濃度の状況 を考慮) 具体的な測定方法(測定場所、対象物質、簡便迅速) 事前調査を義務付ける対象建築物の範囲(明らかに該当しな い事例) レベル3建材の規制の必要性(飛散実態、規制の必要性) 事前調査の信頼性の確保 石綿除去後の完了検査 敷地境界 大気中の石綿濃度 測定地点と考えられる 地点 施工区域境界 セキュリティゾーン 入口 集じん・排気装置 排気口前 今後我々はどうしたら良いか 現在の環境中の石綿濃度はリスク評価の概念から は環境基準値に近いレベル。 製造,使用の禁止により,今後工場や新たな製品か らの飛散はないが、石綿は分解しないので今後長期 にわたってこのレベルが続く 既存の建築物,工作物に使用された飛散性アスベス トを新たに環境中に放出させない。 解体作業周辺の石綿濃度は敷地境界基準を満たし ていればよいとは言えない。1本/L以下が現実的 非飛散性石綿含有建材の廃棄物処理を適切に行う