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世界の原油市場を取り巻く環境と価格形成 に影響を与える

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世界の原油市場を取り巻く環境と価格形成 に影響を与える
平成23年度石油産業体制等調査研究
世界の原油市場を取り巻く環境と価格形成
に影響を与える諸要因に関する調査報告書
平成24年2月
財団法人
日本エネルギー経済研究所
1
2
はじめに
堅調な途上国における石油需要の伸びや、リビアを始めとした中東・北アフリカの政情
不安の影響による供給途絶、そして今年に入ってからはイランの核開発をめぐる国際的な
緊張の高まりなどの要因を受け、世界の原油価格は高止まりの状態が続いている。特に、
リビアにおける供給途絶や今後のホルムズ海峡をめぐる不確実性の高まりといった要因を
考慮すると、一般的な需給の数値だけではなく、具体的な現物の原油の貿易フローについ
ても、十分な理解をしておく必要がある。
また、今後の原油市場を展望する上では、高い伸び率を維持し続ける途上国の石油需要
の動向や、米国で増産が続くタイトオイルやイラクにおける新規開発案件、そして近年そ
の影響力を強めつつある原油先物市場における金融的な要因など、価格形成に影響を及ぼ
す要因が非常に多種多様なものになってきており、世界の原油市場の動向に関する基礎的
な情報についても、改めて整理し直す必要性が出てきている。
本調査においてはかかる問題関心に基づき、世界の原油を取り巻く環境や諸要因につい
ての基礎的な情報をまとめ、その背景をふまえた上での原油価格決定メカニズムや世界の
原油需給に影響を与える要因を明確にすることで、原油市場安定化に向けた一助とすると
ともに我が国のエネルギー政策立案のための資料を作成した。
本報告の作成にあたっては、我が国を代表する国際原油市場の専門家からなる研究委員
会を立ち上げ、月1回のペースで研究委員会を開催した。研究委員会はいわゆる「チャタ
ムハウス・ルール」に基づいて行われたため、その議論の内容は本報告書中で個別には参
照されないものの、本調査報告書を作成する上で大いに参考にさせて頂いた。この場を借
りて、多忙なスケジュールの合間をぬって、委員会にご出席下さった以下の所外の委員の
皆様に厚く御礼を申し上げる。
【研究委員会所外メンバー(50 音順、敬称略)】
伊藤
敏憲
株式会社伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー
代表取締役兼アナリスト
宇佐美
洋
多摩大学大学院経営情報学研究科
小幡
健太郎
アストマックス株式会社
野神
隆之
石油天然ガス・金属鉱物資源機構
藤原
佳代
JX 日鉱日石エネルギー株式会社
教授
常務取締役
上席エコノミスト
海外調達部部長
なお、本調査報告書の内容は日本エネルギー経済研究所の責任の下に執筆・編集を行っ
3
たものであり、その中で示される見解および内容の誤謬などについては、いずれも日本エ
ネルギー経済研究所の責任によるものであることを付言しておく。
本報告書が我が国のエネルギー政策立案の一助となることがあれば、望外の幸せである。
平成24年2月
財団法人日本エネルギー経済研究所
4
目次
1.世界における原油フローの過去の実例................................ ................................ ............7
1-1 3大地域の原油フローの歴史と市場間の相互関係 ................................ .................... 7
1-2 チョークポイント ................................ ................................ ................................ .....26
1-3 供給インフラの状況................................ ................................ ................................ ..35
1-4 市場との相互関係 ................................ ................................ ................................ .....44
2.今後の原油フローに影響を与えうる潜在的な要因................................ ........................ 46
2-1 供給サイドから影響を与えうる要因 ................................ ................................ ........46
2-2 需要サイドから影響を与えうる要因 ................................ ................................ ........66
2-3 将来の原油フローの展望 ................................ ................................ .......................... 75
3.日本のエネルギー政策に係る論点 ................................ ................................ ............... 101
3-1 原油フローの動向が国際原油市場に与える影響について ................................ .....101
3-2 我が国の原油安定供給確保の方策について ................................ ........................... 103
4.世界の原油取引市場 ................................ ................................ ................................ .....106
4-1 3大先物取引市場における歴史 ................................ ................................ .............106
4-2 各市場の現状整理 ................................ ................................ ................................ ...121
4-3 各先物取引市場における主要プレイヤー ................................ ............................... 136
4-4 3大市場における価格フォーミュラについて................................ ........................ 140
5.国際原油市場における主要国の動向 ................................ ................................ ...........145
5-1 サウジアラビア ................................ ................................ ................................ .......145
5-2 イラン................................ ................................ ................................ ...................... 150
5-3 イラク................................ ................................ ................................ ...................... 152
5-4 クウェート ................................ ................................ ................................ ..............160
5-5
UAE ................................ ................................ ................................ ........................ 163
5-6 カタール ................................ ................................ ................................ .................. 169
5-7 オマーン ................................ ................................ ................................ .................. 174
5-8 ロシア................................ ................................ ................................ ...................... 176
5-9 インドネシア................................ ................................ ................................ ...........180
5-10
ナイジェリア................................ ................................ ................................ .........184
5-11
アルジェリア................................ ................................ ................................ .........187
5-12
ノルウェー ................................ ................................ ................................ ............191
5-13
米国 ................................ ................................ ................................ ....................... 194
5-14
ベネズエラ ................................ ................................ ................................ ............197
5-15
ブラジル ................................ ................................ ................................ ................ 202
5-16
OPEC................................ ................................ ................................ .................... 208
6.主要消費国の石油政策における基本方針 ................................ ................................ ....215
6-1 米国 ................................ ................................ ................................ ......................... 215
5
6-2 英国 ................................ ................................ ................................ ......................... 215
6-3 フランス ................................ ................................ ................................ .................. 216
6-4 ドイツ................................ ................................ ................................ ...................... 217
6-5 中国 ................................ ................................ ................................ ......................... 218
6-6 インド................................ ................................ ................................ ...................... 219
6-7 韓国 ................................ ................................ ................................ ......................... 220
7.
原油価格に影響を及ぼす諸要因について................................ ................................ .223
7-1 需給ファンダメンタルズ要因 ................................ ................................ ................. 223
7-2 リスク要因 ................................ ................................ ................................ ..............228
7-3 金融的要因 ................................ ................................ ................................ ..............235
8.原油調達・石油精製の基礎知識................................ ................................ ................... 246
8-1 原油調達の基礎知識................................ ................................ ................................ 246
8-2 石油精製の基礎知識................................ ................................ ................................ 250
9.専門用語集................................ ................................ ................................ .................... 261
9-1 石油開発 ................................ ................................ ................................ .................. 261
9-2 石油貿易 ................................ ................................ ................................ .................. 285
9-3 先物市場 ................................ ................................ ................................ .................. 295
6
1.世界における原油フローの過去の実例
本章では、世界の原油フローの今後を展望するに当たり、過去の国際石油市場において
どのような原油の貿易フローが見られたのか、またその貿易フローの形成にはどのような
要因が作用していたのかという点について、原油市場の構造との相互作用という側面にも
留意しながら整理する。まず、1-1 において過去の世界の原油フローの歴史を概観し、1-2
においてはいわゆるチョークポイントの観点から原油フローの歴史を振り返る。そして
1-3 でこれまでの原油フローに影響を及ぼしてきた供給インフラの動向について整理した
上で、1-4 において原油フローと市場との相互関係について述べる。
1-1 3大地域の原油フローの歴史と市場間の相互関係
1-1-1 世界の原油フローの動向
まず本項では、これまでの世界全体の原油の輸出入について俯瞰する。図 1-1 は 1960
年から 2010 年までの世界の地域別の原油輸出の動向を示したものである。中東地域はど
の時代であっても常に全体に対して大きなシェアを有しているが、近年はむしろそのシェ
アが下降気味であることがうかがえる。世界の原油需要が増大し、原油価格が上昇する中
で、
開発技術の進展によってそれまでは経済性を持ち得なかった油田での生産が増加する、
または中東産油国の多くが加盟する OPEC が需給バランスを見ながら生産量を調整して
いる、という要因がその背景にあると考えられる。また近年では、中東以外の他の産油地
域における生産量が増加してきており、原油輸出国がより多様化する傾向が見て取れる。
図 1-1 世界の地域別輸出国の推移
100万B/D
60
50
(旧)ソ連
アジア
40
アフリカ
30
中東
20
欧州
米州
10
米国
0
1960
1970
1980
1990
2000
2010
(出所)BP 統計各年版
一方、
同じく 1960 年代からの地域別の輸入動向を示したものが図 1-2 である。まず 1960
7
年代から 1970 年代にかけては欧州と日本で非常に大きな輸入の伸びが見られていたこと
が分かる。後述する通り、この輸入増加分の大半が中東からの輸出の増加によって賄われ
たものであった。その後、1980 年代から 1990 年代にかけて米国の輸入量が増加し始め、
1990 年には世界の輸入量全体の 30%近くを占めるようになった。もともと世界有数の産
油国であった米国が、名実ともに輸入国としての性格を強めるようになったのである。そ
して 2000 年代に入ると、東半球(日本・中国以外のアジア諸国)の輸入需要が急速に拡
大し、また、その一方では欧州や日本の輸入需要が停滞ないしは減退し始めるなど、輸出
国の動向と同様に、輸入国の動向においても、よりその構成が多様化する傾向が見られて
いる。
図 1-2 世界の地域別輸入国の推移
100万B/D
60
その他
中国
50
東半球
40
アフリカ
(旧)ソ連
30
豪州他
20
日本
10
欧州
米州
米国
0
1960
1970
1980
1990
2000
2010
(注)
「東半球」は日本・中国以外のアジア諸国、
「豪州他」は豪州、ニュージーランド、太平洋諸島、
「米
州」はブラジルやアルゼンチン等米国以外の米州国を指す。
(出所)BP 統計各年版
このような原油フローの多様化の傾向を示したのが図 1-3 と図 1-4 である。まず図 1-3
は 1960 年時点での原油フローであるが、最大の輸入地域である欧州に中東から大量に原
油が流れている様子が分かる。その他にも、米州域内でのフローやアジア向けのフローな
ど、主要な原油フローが限られており、非常にシンプルなフロー形態であったことが分か
る。これに対して図 1-4 は 2010 年時点での原油貿易フローを示したものであるが、輸出
国や輸入国の多様化が進み、非常に多様なフローが見られるようになってきている。今後
は中東からアジアに向けてのフローが大きくなっていくと考えられるものの、現在のよう
な多様なフロー形態は今後も維持され続けると考えられる。
8
図 1-3
1960 年時点での原油貿易フロー
図 1-4
2010 年時点での原油貿易フロー
(出所)BP 統計 1971 年版
(出所)BP 統計 2011 年版
1-1-2 米国市場
(1) 製品別・用途別石油需要の動向
次に、米国市場の需要動向について、その製品別需要と用途別需要の推移をそれぞれ図
1-5 と図 1-6 に示す。
まず戦後から 1960 年代までは、
全ての製品の需要の伸び率が大きく、
ガソリンや灯油・軽油はもちろんのこと、重油についても産業用・発電用などの用途で需
9
要が拡大していた。実際に、用途別の需要では、産業用、発電用の需要が共に伸びている
ことがうかがえる。1970 年代のオイルショック以降も、1973 年∼74 年は需要が減少して
いるものの、それ以降、第二次オイルショックまでは、同様の製品需要の伸びが続く。こ
の時期には油価が急激に上昇したものの、多くの産業ユーザーや発電所においては、依然
として燃料転換が進められていなかったことがうかがえる。
図 1-5 米国における製品別需要の推移
25
ナフサ・ガ
ソリ
ン
灯油・軽油
重油
その他
million b/d
20
15
10
5
2010
2007
2004
2001
1998
1995
1992
1989
1986
1983
1980
1977
1974
1971
1968
1965
0
(出所)BP 統計 2011 年版
図 1-6
米国における用途別石油需要の推移
1000
900
800
その他
million toe
700
発電用
600
石化用
500
商業用
家庭用
400
産業用
300
輸送用
200
100
(注)出所の統計が異なるため製品別の需要とは数値が異なる。
(出所)IEA、Energy Balances of OECD Countries 2011 年版
10
2009
2007
2005
2003
2001
1999
1997
1995
1993
1991
1989
1987
1985
1983
1981
1979
1977
1975
1973
1971
1969
1967
1965
0
戦後から続くこの需要の増加が一気に反転するのが 1980 年代である。二度のオイルシ
ョックによる油価の高騰が、いよいよ国内の石油需要にも影響を及ぼし、米国の石油需要
は一旦ピークを迎え、その後 1985 年に再び増加に転じるまでは急速に減少を続ける。し
かし、用途別の動向を見てみると、輸送部門については 1981 年には早々に底を打ち、そ
の後は 2000 年代後半に続く長い増加トレンドに入っていることが分かる。そしてこの輸
送部門における力強い伸びによって米国全体の石油需要も 1984 年には増加に転じ、それ
以降は持続的な増加を続けていくことになる。米国は数ある石油消費国の中でも特に製品
需要に占めるガソリンのシェアが高い国であるが、その構造は、1980 年代の初めから形成
されてきたものであることがわかる。一方、発電用に用いられていた重油はこの時期から
徐々に減少に転じ、その後、
米国における重油消費量の減少は今日に至るまで続いている。
ガソリン需要を中心とする米国の石油需要の伸びは 2000 年半ばまで続くが、2005 年に
は米国の石油消費が、また 2007 年には米国の輸送用の石油消費が二度目のピークを迎え
る。
これは、2004 年から続く油価上昇に伴うガソリン消費量の停滞がその主な要因である。
世界最大の石油市場である米国において、今後もこの需要の減少が続くのかどうかが注目
されるが、引き続き高止まりを続ける原油価格や現在のオバマ政権の下で厳格化される燃
費基準などの要因から、今後も米国の石油需要は減退を続けるという見方が優勢である 1。
(2) 国内生産量と輸入需要の推移
上記のような需要動態の下での米国の国内生産量と原油の輸入源の推移を図 1-7 に示す。
まず第二次大戦後、1979 年まで米国は世界最大の産油国であり続けた。ピーク時の 1970
年には 1,100 万 B/D 以上を生産し、今のサウジアラビアやロシアをも上回る大産油国であ
った。当時の世界の石油需要が現在の半分程度であったことから考えると、その影響力は
非常に大きかったものと想定される。しかし、その米国においても、国内需要が生産を上
回る高い伸び率で増えていたため、1960 年代から 1970 年代初めにかけては、ベネズエラ
やメキシコを中心とするラテンアメリカからの原油輸入が急増していた。
その後 1970 年代に入り、国内生産やカナダからの輸入が下落に転じる中、中東やアフ
リカ原油がその代替原油として米国市場に流入するようになった。米国の生産量はこの時
期から 2000 年代の後半に入るまでの長い減退トレンドに入り、米国が本格的に原油の輸
入国としての性格を強め始めたのがこの時期であった。
1980 年代に入り、国内の需要低迷によって輸入量が減少すると、輸送コストのかかる中
東原油やアフリカ原油の輸入が減少したが、1980 年代の後半に再び国内の需要が増加に転
じると、これらの地域からの輸入もまた増加するようになった。1980 年代の後半に入って
1
本庁の一環で実施した現地ヒアリング調査による。
11
から、サウジアラビアが原油の販売方法を変更し、自国の原油価格を米国の指標原油をリ
ンクさせて販売するという方式を採用したことも、この米国向けの輸出増加に寄与した。
また、原油価格の上昇で経済性が見合うようになり、開発が進んだ北海油田やメキシコの
油田からの輸入が増えたのもこの時期であった。
図 1-7 米国における国内生産量と輸入原油の構成
million b/d
16
その他
14
旧ソ連
12
アジア
10
西アフリカ
8
北アフリカ
6
中東
西欧
4
ラテンアメリカ
2
カナダ
0
2010
2007
2004
2001
1998
1995
1992
1989
1986
1983
1980
1977
1974
1971
1968
1965
国内生産
(出所)BP 統計 2011 年版
それ以降、米国では長らく各供給源からの輸入が増加し続ける傾向が続いていたが、
2000 年代後半に入り、
国内需要がピークを打つと、輸入源の構成にも変化が見られ始めた。
まず、資源ナショナリズム政策を掲げるベネズエラにおいては、上流部門に対する投資が
低迷し、生産量が減退を始めたため、米国への輸出も減少し始めた。またメキシコにおい
ても国営会社に対する十分な予算配分がなされないことから 2007 年をピークに生産量が
低下しており、ラテンアメリカからの輸入量は全体的に停滞し始めている。中東からの輸
入についても、
かつては米国における最大の原油輸出国であったサウジアラビアの輸出も、
2003 年に 170 万 B/D でピークを打ち、
ここ数年は 150 万 B/D 前後の水準を推移している。
その間隙を縫うように輸出を増やしているのが、カナダである。カナダは 1980 年代から
少しずつ米国への輸出を増加させてきているが、2010 年から 2011 年にかけては新たな輸
出パイプラインの完成でさらにその輸出増加を加速させてきている。
長らく減少を続けていた米国の国内生産も、2008 年に底を打ち、2009 年から 2010 年
にかけて再び増産し始めている。これは開発技術の進展によりメキシコ湾の深海油田やシ
ェール(頁岩層)に存在している原油の開発が低コストで行えるようになったためである。
今後も米国の国内生産は増産を続けることが期待されており、国内需要の低迷と併せて、
米国の原油輸入は減少していくという見方が優勢である。
12
1-1-3 欧州市場
(1) 製品別・用途別石油需要
次に欧州の動静を見ていく。図 1-8 と図 1-9 はそれぞれ欧州における製品別・用途別の
石油需要の推移を示したものである。まず 1960 年代については、各製品とも高い需要の
伸びが見られており、概ね米国と同様の傾向が指摘できる。欧州においては米国に比べて
重油の消費が大きい点が特徴的であるが、これは米国に比べて、天然ガス資源に乏しく、
産業用・発電用の燃料としての石油のシェアが大きかったことによる。その後、1970 年代
に入り、2度のオイルショックを経て油価が上昇すると、それまでの需要増加が停滞し始
める。この時期はとりわけ発電用の消費が年によって大きく変動しており、それによって
全体の消費量も増減を繰り返している。その時々の経済情勢によって特に重油を中心に需
要の変動が見られたのがこの時期であった。
図 1-8 欧州における製品別需要の推移
ナフサ・カ
゙
ソリ
ン
灯油・軽油
1977
18
1968
20
重油
その他
16
million b/d
14
12
10
8
6
4
2
(出所)BP 統計 2011 年版
13
2010
2007
2004
2001
1998
1995
1992
1989
1986
1983
1980
1974
1971
1965
0
図 1-9
欧州における用途別石油需要の推移
800
700
600
その他
発電用
million toe
500
石化用
商業用
400
家庭用
300
産業用
輸送用
200
100
2009
2007
2005
2003
2001
1999
1997
1995
1993
1991
1989
1987
1985
1983
1981
1979
1977
1975
1973
1971
0
(注)出所の統計の区分が異なるため製品別の需要とは数値が異なる。またデータの制約から部門別の需
要動向は 1971 年以降のものである。
(出所)IEA、Energy Balances of OECD Countries 2011 年版
1980 年を過ぎると、原油価格高騰の影響で欧州の石油需要は大きく減退する。1980 年
代初めには全ての部門において需要の減退が見られるが、その後、すぐに輸送用の需要が
伸びを回復し、その後も根強く伸びていった点は、米国と同じである。その中では、ガソ
リンと軽油の双方の需要が伸びていったが、後に欧州各国でよりエネルギー効率的な軽油
化(Dieselization)政策2が導入されると、軽油の需要は特に増加していくことになった。
また 1980 年代以降、ロッテルダムなどの石油化学プラントによる石油化学原料としての
石油需要の増加も見られた。
欧州域内の石油需要は 1990 年代後半から 2000 年代半ばまではプラトーの状態を維持し、
それ以降は減少を始めている。油種別ではガソリン、ナフサ、重油の需要の減退が本格化
する一方、上述の Dieselizaton 政策が継続される中で、軽油の需要は引き続き増加を続け
ており、
石油製品需要に占める軽油のシェアが急速に上昇してきている。
精製プロセス上、
ガソリンに比べて軽油を増産することは難しい。そのため、軽油需要のみが突出して増加
する中で、今後は軽油の増産が可能な高度化精製能力への投資や中間留分の得率が高い原
油のニーズが高まってくることが予想される。
欧州では地球温暖化問題に関連して、自動車の CO2 排出についても早い時期から高い関心を寄せてき
た。この動きに呼応して、欧州自動車工業会(ACEA)が CO2 の自主規制を導入し、2008 年度に自動車
走行 km あたりの CO2 排出量を 140g とする目標を定めた。この目標にはガソリン車、軽油車の区別が無
いことから、ガソリン車に比べて燃費に優れた軽油車が、加速性能・静粛性の向上等の性能向上とも相俟
って一挙に加速することとなった。
2
14
(2) 域内生産量と輸入需要の推移
次に、欧州域内の生産量と輸入源の推移を図 1-10 に示す。1960 年代の域内生産は低位
で推移しており、既述の通り、この時期の消費の増加は主として中東からの輸入の増加に
よって賄われていた。ピーク時の 1973 年時点での原油輸入に占める中東依存度は 68%と
なっており、日本同様、この時期の欧州は中東依存度が非常に高かったことが分かる。
図 1-10 欧州における域内生産量と輸入原油の構成
million b/d
18
その他
16
アジア
14
西アフリカ
12
北アフリカ
10
8
中東
6
旧ソ連
4
ラテンアメリカ
2
北米
2010
2007
2004
2001
1998
1995
1992
1989
1986
1983
1980
1977
1974
1971
1968
1965
0
域内生産
(出所)BP 統計 2011 年版
その後、1970 年代に入り原油価格が上昇すると、需要の減退と併せて高油価環境の下で
経済性を確保できるようになった北海油田の生産量が増加することで、欧州における中東
原油の輸入は激減することになる。また 1970 年代に入り、ソ連(当時)からの原油パイ
プラインを通じた輸入が増加したことも性状的にソ連原油に似通っていた中東原油のシェ
アが失われる要因となった。
2000 年代に入り、北海油田からの生産量が頭打ちになると、さらに旧ソ連地域からの輸
入が増加した。この時期には、冷戦崩壊後のロシアにおいて、既存油田に対する西側の最
新技術の適用が進んだことによって生産量が飛躍的に増加した。また、カザフスタンやア
ゼルバイジャンなどのカスピ海沿岸諸国において新規油田が生産を開始したことも、この
旧ソ連地域からの輸出増加に大きく寄与した。上述の通り、欧州においては 2005 年をピ
ークに石油需要が急速に減少し始めているが、その中では、ロシア、カスピ海諸国、アフ
リカ産油国が欧州市場をめぐって競合しており、その結果として中東からの輸出量は今後
も減少していくことが予想される。
1-1-4 アジア市場
15
(1) 製品別・用途別石油需要
アジアにおける製品別需要の推移と用途別需要の推移をそれぞれ図 1-11 と図 1-12 に示
す。アジアの石油需要の増減パターンは、特に 1980 年代以降は、米国・欧州の需要パタ
ーンと大きく異なっており 3、このことはこれまでの世界の石油市場の中心にあった欧米と
は全く異なる性格を持つ市場が、国際石油市場に登場しつつあるということを意味してい
る。欧米の石油需要パターンでは、1970 年代末と 2000 年代後半の 2 つのピークがあった
が、アジアの場合には 1970 年代に、日本の石油需要が大きく減少したことで、一時期需
要が減退するも、それ以降は一貫して高い需要の伸びを維持し続けている。製品別の需要
構成については、ナフサ、ガソリン、灯油、軽油のいずれも高い需要の増加が見られてい
るが、重油については、日本における産業用、発電用需要が伸びていた 1970 年代におい
ては大きな需要の伸びが見られているものの、それ以降は、中国など新興国などにおいて
も大きな需要の伸びは見られず、足元では徐々に減少している。
部門別の需要という観点では、1980 年代以降、発電用の需要が徐々に減少してきている
点は、米国や欧州などと共通しているが、産業用や石油化学原料用が引き続き、高い伸び
を示している点が注目される。ただし、これらの用途は、家庭用や輸送用等に比べて、そ
の時々の経済成長率によって大きく左右されるため、今後は域内の成長率の動向によって
これらの需要も変動することが予想される。
図 1-11 アジアにおける製品別需要の推移
ナフサ・ガ
ソリ
ン
灯油・軽油
1968
1977
30
重油
その他
25
million b/d
20
15
10
5
3
2010
2007
2004
2001
1998
1995
1992
1989
1986
1983
1980
1974
1971
1965
0
厳密には日本単独の需要構成は欧米のパターンとほぼ同様であるが、アジア全体にするとそのトレンド
が見えにくくなる。
16
(出所)BP 統計 2011 年版
図 1-12 アジアにおける用途別石油需要の推移
1,200
1,000
その他
million toe
800
発電用
石化用
600
商業用
家庭用
産業用
400
輸送用
200
2009
2007
2005
2003
2001
1999
1997
1995
1993
1991
1989
1987
1985
1983
1981
1979
1977
1975
1973
1971
0
(注)出所の統計の区分が異なるため製品別の需要とは数値が異なる。
(出所)IEA、Energy Balances of OECD Countries 2011 年版 及び IEA、Energy Balances of non-OECD
Countries 2011 年版
(2) 域内生産量と輸入需要の推移
アジア域内の生産量と輸入原油の構成を図 1-13 に示す。域内生産量の半分以上が中国で
の生産量であり、インドネシアやマレーシアの生産量が減退する中で、中国やタイの増産
がこれを埋め合わせているという状況にある。
17
図 1-13 アジアにおける域内生産量と輸入原油の構成
18
16
million b/d
14
ラテンアメリカ
12
北米
10
欧州
8
FSU
6
アフリカ
4
中東
2
域内生産
2010
2008
2006
2004
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
0
(注)データの入手可能性の制約で、時期は 1990 年からの数字となる。
(出所)Purvin & Gertz
生産量に大きな伸びが見られない中で、需要が急速に伸びているため、輸入量も高い伸
び率を示している。ここで欧州や米国と全く異なるのが、いうまでもなく、中東依存度が
非常に高いという点である。1990 年代の半ばからアフリカ原油の輸入が増加してきている
が、これは中国の製油所においてはまだ十分な高度化装置が設置されていないため、割高
ではあるが高品質の西アフリカ原油や北アフリカの原油の調達が進められていることによ
る。また 2000 年代の後半からは旧ソ連(FSU)の輸入も増加し始めているが、これは、
カザフスタンから中国へのパイプライン供給がなされていることと併せて、ESPO 原油の
輸出が開始されたことが大きい。
1-1-5 日本市場における原油フローの実績と今後の展望
(1) 日本市場における原油フローの実績
次に、日本をめぐる原油フローの実績を振り返る。図 1-14 は 1975 年から 5 年ごとに日
本の輸入原油の構成がどのように変化したかを示したものであり、その下の図 1-15 はそれ
ぞれの 5 年間でどのように原油の輸入構成が変化したかを示したものである。
18
図 1-14 日本の原油輸入源の構成変化(単年度)
5,500
100%
5,000
86%
78%
4,500
79%
73%
4,000
'000 b/d
90%
70%
71%
90%
87%
80%
その他
アフリカ
ラテンアメリカ
ロシア
70%
3,500
3,000
2,500
UAE
50%
カタール
40%
2,000
他中東
60%
クウェート
サウジアラビア
30%
1,500
イラク
1,000
20%
イラン
500
10%
東南アジア
0%
中国
0
1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2011
中東シェア
(出所)1975 年∼2005 年は日本貿易月表、2011 年は石油統計速報
'000 b/d
図 1-15 日本の原油輸入源の構成変化(期間別)
1,200
1,000
800
600
400
200
0
-200
-400
-600
-800
-1,000
-1,200
-1,400
-1,600
その他
アフリカ
ラテンアメリカ
ロシア
他中東
UAE
カタール
クウェート
サウジアラビア
イラク
イラン
東南アジア
1975-80
1980-85
1985-90
1990-95
19952000
2000-05
2005-11
中国
(出所)1975 年∼2005 年は日本貿易月表、2011 年は石油統計速報
まず 1975 年から 1985 年にかけての 10 年間は、国内の需要減退を反映して輸入量全体
が約 4 分の 3 に大きく減少する中、中東依存度も 78%から 70%にまで低下していることが
分かる。特に 1975 年から 1980 年にかけてはイラン革命の発生したイランからの輸入量が
大きく減少し、また 1980 年から 1985 年にかけては、世界的な石油需要の減退が見られた
中でスイングプロデューサーとして大きく減産を行ったサウジアラビアや、イラン・イラ
ク戦争に突入したイラクからの輸入量が大きく減少していることが分かる。他方この時期
には、一貫してラテンアメリカからの輸入が増加していることも見て取れる。これは、第
19
2次石油危機以降、日本政府がメキシコやペルー等との間で、政府間取引原油(いわゆる
GG 原油)を増加させたことによる。同様に、1975 年から 1980 年にかけて東南アジアか
らの原油の輸入が増加しているのも、日本政府がインドネシア政府との間で GG 原油の取
り決めを行ったからである。このように、この時期の中東依存度の低減は、まずは全体的
な需要の減少によって実現されたものであるが、その一方で、政府による GG 原油による
非中東産原油の確保も大きく功を奏していたと見ることができる 4。
その後、1990 年にかけても中東依存度は 70%前後を維持するが、1985 年から 1990 年
にかけては、中東からの輸入も増加しているものの、東南アジアや中国からの輸入も増加
したことによって、全体として中東依存度の上昇が抑制されていたことが分かる。この背
景には、中国やインドネシア、マレーシアなどにおいて原油生産量の増産が実現したこと
が大きく作用していた。一方、中東原油については、UAE 原油の輸入が増加しているが、
これは、この時期にスポット取引が拡大する中で、ドバイ原油やメジャー権益分のアブダ
ビ原油など転売が可能な UAE 原油の取引が活発化したことによって、我が国の石油会社
もそのような割安なスポット原油の調達を増加させたことによるものである。
1990 年代に入ると、一転して中東依存度が上昇し始める。これは、国内の石油需要が増
加する中で、豊富な埋蔵量とコスト競争力のある中東原油が大量に日本市場に流入し始め
たこと、上述の GG 原油の供給が停止されたことでメキシコを始めとする中南米原油の引
き取りが減少したこと、中国やインドネシアにおいて石油の増産ペースがひと段落するの
と併せて、特に中国においては国内需要が増加し始め、1993 年には石油の純輸入国に転落
したことといった理由による。
またこの時期、国際的な原油需給の緩和が見られたことで、
石油は市況商品であるとの認識が高まり、政策的に中東依存度を低減させるというインセ
ンティブが後退したことも、この中東依存度の上昇の背景にあったと見ることもできる。
その結果、1990 年から 2000 年にかけて日本の中東依存度は 71%から 86%へと実に 15%
も上昇した。
このような中東依存度の上昇傾向は、2005 年まで続いていく。この時期になるとさらに、
中国や東南アジアのような非中東現原油の輸出が、生産量の減退や国内需要増加によって
減少してくるため、さらに中東依存度が上昇を続けた。その中では、中東原油の構成にも
変化が見られ始め、昭和シェル石油への資本出資と共に同社への自国原油の供給を拡大さ
せたサウジアラビアの原油輸入が増加していることが分かる。この原油供給の増加をもっ
て、サウジアラビアは 2005 年以降、我が国によって最大の原油供給国であり続けている。
この時期は、国内の石油製品の硫黄分規制が厳しくなったこともあり、低硫黄のアフリカ
原油の輸入が増加していることも見て取れる。
4
ちなみにこの GG 原油は 1980 年代半ば以降、世界的な原油需給が進んだため、1990 年代には殆ど見ら
れなくなった。
20
その後、2011 年にかけては中東依存度が若干低下している。この背景にはサハリン原油
や ESPO 原油などの極東・東シベリア地域におけるロシア原油の生産・輸出が本格化した
という理由が挙げられる。2011 年実績では、ESPO 原油がドバイ原油に対し$5∼$6/bbl
程度割高という状況が続いたため、日本への輸入が減少したものの、前年 2010 年実績に
おいては、ロシア産原油はわが国の輸入原油の 7%を占め、我が国にとっての主力輸入源
の一つとなるに至った。その一方で、低硫黄で中間留分が多いロシア原油が大量に流入し
たため、同様の性状を持つ UAE 原油の輸入が減少していることも見て取れる。
この他には、2005 年から 2011 年にかけてはイラン原油の輸入量が大きく減っているこ
とが窺える。もともとこの期間は日本の石油需要全体が減少しているため、イラン原油の
輸入量そのものが減少すること自体には何の不思議もないものの、イラン原油の減少は、
2005 年から 2011 年にかけて年率平均で−9.6%となっており、日本全体の輸入量の減少率
である−3.0%を大きく上回る。この背景には、イランの核開発をめぐるイランと欧米との
対立があるとの見方もあるが、より直接的な原因としては、イラン側がイラン原油の販売
価格で強気な交渉姿勢を続けていることによるものとされている。
(2) 今後の日本をめぐる原油フロー
以上のような経緯をふまえ、今後の日本をめぐる原油フローは今後どのように展望され
るであろうか。定量的なモデルを用いた分析は、本報告書の 2-3 において検討するが、こ
こでは定性的な観点から、幾つか今後の日本をめぐる原油フローを展望する上での注目点
をまとめておく。
まずは、このまま特に大きな需要側・供給側での変動要因がなければ、日本に対する原
油供給の中心は中東原油であり続け、その時々の市況や需要状況によって若干の振れは生
じるものの、日本の中東依存度は少なくとも 80%以上の高いままで推移し続けるものと考
えられる。これはアジア市場においては、中東原油の生産量が圧倒的に大きいこと、既述
の通りアジア域内での原油供給が伸び悩んでいること、また日本の製油所の装置構成も中
東原油を処理する装置構成になっており、中東原油を輸入し続けることが、当面は最も経
済合理性に見合うという理由による。
しかしながら、今後の原油フローの展望として、現状の中東産原油を中心とするフロー
から大きく変化する展望が全く描けないというわけではない。1980 年代に見られた中東依
存度の低減は、国内需要の減少と非中東産原油の供給増加の二つの要因が合わさった結果
実現したものであった。今後の日本の石油需要も、自動車の燃費向上や人口減少、燃料転
換などの影響で、徐々に減少していくと考えられるが、その中で中東産原油と異なる原油
供給源が登場するようなことがあれば、そのフローも大きく変わる可能性がある。
21
そのような新規供給源の可能性として、まず挙げられるのがロシア産原油の存在である。
現状、ロシアの極東・東シベリア地域においては、サハリン原油の合計で約 30 万 B/D、
ESPO 原油で中国向けのパイプライン供給も含めると約 60 万 B/D の原油フローが登場し
てきている。今後も、ロシア国内での投資の進展度合いによっては、この生産・輸出量も
大きく増加することで、日本にとっても有力な供給源の一つとなる。現状ではまず、現在
建設中の東シベリア・太平洋原油(ESPO)パイプラインが 2012 年末を目途に完成する
ことによって、ロシア沿海州のコズミノから出荷される輸出量が 60 万 B/D まで倍増され
る計画がある。このため、価格さえ合えば、日本市場にもさらにロシア原油の流入が進む
ことが予想される。ただし、このロシア産原油は一般に UAE 産の Murban 原油やオマー
ンの Oman 原油と性状的に似通っていることから、ロシア産原油の輸入増加は、UAE や
オマーン原油の輸入減少に結びつく可能性が高い。
この他には、カナダからの原油フローの可能性も挙げられる。オイルサンド由来の原油
の生産が増加する中、カナダは米国への輸出増加を企てているが、米国内でもタイトオイ
ルの増産が進んでいること、また輸出増加のために不可欠なパイプラインの増設も環境問
題に対する反対運動があり滞っていることから、国内の増産ペースに合わせた輸出の増加
ができない状態に陥っている。これに対し、もしカナダ国内で産油地域にであるアルバー
タ州からカナダの太平洋岸までパイプラインが敷設されることになれば、カナダからアジ
ア市場に対する原油フローが実現する可能性もある。その際には、カナダ原油は、上述の
ロシア産原油と並んで日本をめぐる原油フローの姿を大きく変える要因となろう。
なお、足元では、原子力発電の稼働停止により、生焚原油の輸入量が増えているが、こ
れが恒常化するようになると、結果として中東依存度をある程度抑制する要因となるかも
しれない。これは、発電用に用いられるような原油は非常に低硫黄な原油であることが求
められるため、一般に高硫黄原油の多い中東産原油は用いられないためである。この点に
ついては、一部報道において現在ロシアの ESPO 原油を生焚きで用いる、ないしは ESPO
原油を原料に発電用の低硫黄原油を生産するという試みがなされているとの報道がなされ
ているが、もしこのような対応がより本格的に進められることになれば、日本の原油構成
にも変化が及ぶかもしれない。
最後に、いわゆる「シェールガス革命」も長期的な観点からは日本をめぐる原油フロー
にも影響を及ぼし得る。まず直接的には、米国におけるシェールガス開発のための技術を
用いて開発を行うことができるタイトオイルが増産することで、米国の原油輸入が減少し、
その分がアジア市場に向けられる可能性があるためである。その中では、特にサウジアラ
ビアなどが、よりアジアの買主が買いやすいような価格づけを行うことでアジアや日本の
中東依存が下がらず、そのまま高い水準で推移するというケースが考えられる。その他に
は、さらに長期的な観点から、相対的に安価は天然ガスを石油の代替として輸送用燃料に
本格的に導入されていくようなことがあれば、それはさらに欧米での石油の輸入需要を抑
22
制することで中東原油のアジア流入をさらに促進するような要因となろう。
1-1-6 性状別の原油フローの実績
本章の最後に、原油の性状別の原油フローの実績について、データの制約から 1990 年
以降のフローに限られるものの、簡単に振り返っておきたい。まず、ここでは原油を以下
の 3 つの区分に大きく分ける。
1)
軽質低硫黄(Light sweet):
API 比重が 30 以上で硫黄分が 1%未満
2)
重質高硫黄(Heavy sour):
API 比重が 28 未満で硫黄分が 1%以上
3)
軽質高硫黄(Light sour)
:
1)、2)以外の油種
軽質低硫黄原油はこの 3 つの区分においては、最も高品質な原油である。これは、現在
の石油需要の主流であるガソリンや軽油などの軽質石油製品の得率が高く、近年厳格化さ
れつつある石油製品の硫黄分規制を満たす上で、精製コストのかかる脱硫プロセス(8-2
で後述)を最小限に抑えることができた目である。一方、重質高硫黄原油は最も品質が悪
い原油であり、ガソリン、軽油などの石油製品を精製するには、脱硫プロセスと合わせて
分解プロセスという構成を経る必要がある。したがってその販売価格も相対的には低い。
軽質高硫黄原油は、硫黄分が高く脱硫プロセスは必要となるものの、元々軽質留分が多い
ため、分解プロセスも重質原油ほどは必要がない。
まず軽質低硫黄原油の 1990 年以降のフローを図 1-16 に示す。日本、米国、欧州を合わ
せて先進国への輸出合計は 2000 年前後にピークを打ち、その後は徐々に減退傾向にある。
全体的に欧州向けの輸出量が多いが、これは欧州に輸出されるアフリカ原油が一般的に軽
質で低硫黄であることによる。先進国への輸出量が頭打ちになる中で、輸出量が増えてい
るのが、中国と他アジア向けであり、これらの地域における比較的装置構成の簡素な製油
所が、特に 2000 年代以降は、高品質の軽質低硫黄原油の受け入れ先となっている傾向が
うかがえる。
23
図 1-16 軽質低硫黄原油のフロー(輸出先)
16
14
その他
CIS
10
ラテンアメリカ
2010
2008
米国
2006
-2
2004
欧州
2002
0
2000
日本
1998
中国
2
1996
他アジア
4
1994
アフリカ
6
1992
8
1990
milion b/d
12
(出所)Purvin & Gertz
図 1-17 軽質低硫黄原油生産(国・地域別)
30
CIS
milion b/d
25
欧州
中国
20
アジア
ラテンアメリカ
15
アフリカ
10
中東
カナダ
5
米国
2010
2008
2006
2004
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
-
(出所)Purvin & Gertz
次に重質高硫黄原油のフローを図 1-18 に示す。輸出量全体は、2005 年までは増え続け
ていたものの、それ以降はその伸びが止まっている。これはベネズエラやメキシコなどラ
テンアメリカにおける生産が停滞していることによる。重質高硫黄原油の輸出量の半分が
アメリカ向けに輸出されているが、近年はアジアにも輸出が増えている。これはインドに
おける Reliance や Essar といった最新鋭の輸出製油所が、中東の重質原油の引取りを増
やしていることによる。
24
図 1-18 重質高硫黄原油のフロー(輸出先)
milion b/d
7
6
その他
5
CIS
4
ラテンアメリカ
3
アフリカ
他アジア
2
中国
1
日本
2010
2008
2006
2004
2002
2000
1998
1996
1994
米国
1992
欧州
-1
1990
0
(出所)Purvin & Gertz
図 1-19 重質高硫黄原油生産(国・地域別)
12
CIS
10
milion b/d
欧州
8
中国
アジア
6
ラテンアメリカ
アフリカ
4
中東
2
カナダ
米国
2010
2008
2006
2004
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
-
(出所)Purvin & Gertz
最後に、軽質高硫黄原油のフローを図 1-20 に示す。軽質低硫黄原油では欧州、重質高硫
黄原油では米国向けが多かったが、
軽質高硫黄原油の最大の輸出先はアジアであり、日本、
中国、他アジアで全体の半分を占める。これは、軽質高硫黄原油の多くが中東産の原油で
あり、それらの中東原油の多くがアジア市場に輸出されているためである。
25
図 1-20 軽質高硫黄原油のフロー(輸出先)
25
その他
20
milion b/d
CIS
15
ラテンアメリカ
アフリカ
10
他アジア
5
中国
日本
0
欧州
-5
2010
2008
2006
2004
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
米国
(出所)Purvin & Gertz
図 1-21 軽質高硫黄原油生産(国・地域別)
40
CIS
35
欧州
中国
25
アジア
20
ラテンアメリカ
15
アフリカ
10
中東
2010
2008
2006
2004
2002
2000
1998
米国
1996
1994
カナダ
1992
5
1990
milion b/d
30
(出所)Purvin & Gertz
1-2 チョークポイント
次に本節では、多様な原油フローの航行が集中するチョークポイントの観点から過去の
原油フローの動向を概観する。
1-2-1 チョークポイントとは
海上交通におけるチョークポイントとは一般に、国際的な海上航行路において地形的に
26
狭くなっている海峡部分を指す5。そのようなチョークポイントとして良く上げられるのが、
イランとオマーンとの間に位置するホルムズ海峡やマレーシアとインドネシアの間に位置
するマラッカ海峡、トルコのボスポラス海峡、イエメンとソマリアの間にあるマンダブ海
峡などである。これらの世界の主要なチョークポイントの場所とその 2009 年時点の航行
量(原油及び石油製品)を図 1-22 に示す。
航行量が大きいチョークポイントであるホルムズ海峡及びマラッカ海峡の航行量につい
ては次項で触れられるため、その他のチョークポイント(スエズ運河、パナマ運河、マン
デブ海峡)について簡潔にまとめておく6。まず、紅海とスエズ湾(地中海)を結ぶスエズ
運河は、2010 年海上原油貿易のわずか 5%以下を占める規模であるが、欧米市場に輸出さ
れる中東やアフリカの原油にとっては、重要な運河である。なぜなら、もしスエズ運河が
閉鎖された場合、タンカーは南アフリカの喜望峰を迂回しなければならず、その際、航行
距離が 6,000 マイル追加されるため、コストや時間が大幅に引き上げられることになるか
らである。
次に、パナマ運河は、太平洋とカリブ海及び大西洋を結ぶチョークポイントである。年
間通過する 14,000 隻のうち、60%は米国発着となっているが、米国にとってパナマ運河を
使った石油貿易(ほとんどが石油製品)の重要性は低下しているようである。世界の原油
貿易においても、VLCC(Very Large Crude Oil Carrier)のような大型タンカーはパナマ
運河を通過できないため、原油フローに与える影響は限定的と考えられる7。
最後に、バブ・エル・マンデブ海峡はアフリカと中東の間に位置し、地中海とインド洋
を結ぶチョークポイントである。もしここが閉鎖されると、ペルシャ湾からのタンカーが
スエズ運河や SUMED パイプラインを利用できなくなり、迂回せざるをえない状況となる。
また最近ではソマリアを本拠地とする海賊が活発に活動を展開しており、この海賊の問題
の深刻化が懸念されている。
5
チョークポイントとは、元々は安全保障上の用語であり、軍事作戦を展開する際に兵力等を輸送させな
ければならないものの、その輸送路が地形的に非常に狭くなっているなどの理由から、相手側によって小
規模の兵力をもってその輸送が妨害されやすい場所を指す。
6 EIA(2011). “World Oil Transit Chokepoints.”
http://205.254.135.7/EMEU/cabs/World_Oil_Transit_Chokepoints/pdf.pdf
7 パナマ運河の拡張計画については 2-1-5(4)にて詳述。
27
図 1-22 世界の主要なチョークポイントとその航行量
ボスポラス海峡
290万B/D
デンマーク海峡
330万B/D
ホルムズ海峡
1,700万B/D
パナマ運河
80万B/D
スエズ運河
180万B/D
マンデブ海峡
320万B/D
マラッカ海峡
1,360万B/D
(注)パナマ運河及びホルムズ海峡の航行量は 2011 年時点。それ以外は 2009 年時点。
(出所)日本エネルギー経済研究所。航行量は米国エネルギー情報局
このうち、航行量が圧倒的に大きいホルムズ海峡やマラッカ海峡など現在原油を輸送す
るタンカーの船型としては最大の VLCC での航行が可能である。この他に VLCC が航行
可能なのはマンデブ海峡である。パナマ海峡では船の喫水(深さ)や幅などの制約で、ま
たスエズ運河についても船の喫水の制約で VLCC の高校はできない8。
1-2-2 航行量の推移
チョークポイントにおける過去の航行量について、まず、1960 年代半ば以降のホルムズ
海峡における航行量の推移を図 1-23 に示す。石油ショック前の 1960 年代に大きなピーク
があり、それ以降は航行量が減少したものの 1980 年代後半から再び増加に転じ、2000 年
代に入ってからはまた 1960 年台時点のピークを上回る規模での航行量の増加が見られて
いる。1960 年代から 1970 年代の半ばにかけては、日本向けの航行量もさることながら、
西欧向けの航行量の増加がホルムズ海峡の航行量の増加の主要因であったことが分かる。
これは、まだ 1960 年代時点では原油価格が低位で推移しており、石油メジャーによる需
給コントロールや価格調整がなされていたことから、中東地域から相対的に地理的にも近
い大市場である西欧において、低コストの中東原油が大量に輸送されていたことによる。
その後、1970 年代の後半に入ると、それまで航行量の増加をけん引していた西欧や日本
向けの航行量が急速に落ち込みを見せるようになる。日本については、石油危機以降、石
8
スエズ運河の場合には、満載でなければ喫水が浅くなるため、航行が可能である。
28
油代替の動きが強まり発電部門を中心に石油から石炭や天然ガス、原子力といった代替燃
料への燃料転換が進み、石油需要自体が縮小した。また、西欧においても同様の需要面で
の要因が指摘できるが、これに加えて供給面では、中東で油田利権を相次いで国有化され
た石油メジャーが北海油田での開発・生産を本格化させたこと、また 1970 年代の東西デ
タントの流れの中で、ソ連(当時)からの欧州への Drudhba 原油パイプラインによるソ
連原油の流入が増加し始めたという要因も指摘できる。
図 1-23 ホルムズ海峡における向け先別航行量の推移
その他
他アジア
中国
日本
アフリカ
西欧
ラテンアメリカ
2010
2007
2004
2001
1998
1995
1992
1989
1986
1983
1980
1977
1974
北米
1971
1968
1965
million b/d
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
(出所)日本エネルギー経済研究所
以上のような要因から 1980 年代の半ばにはホルムズ海峡の航行量は、ピーク時の半
分以下の 800 万 B/D 近くにまで落ち込む。その後、1980 年代の後半に反転して再び急速
に増加し始める。この増加をけん引したのが言うまでもなくアジアの石油需要の増加であ
る。日本向けの需要もさることながら、1990 年代初めに「東アジアの奇跡」とも言われた
経済成長を成し遂げた韓国や台湾、シンガポール等の新設製油所に対し、大量の中東原油
が供給されたため、ホルムズ海峡の航行量も増加を続けた。1990 年代末にはアジア経済危
機によって若干増加のペースが落ちるものの、その後も 2008 年のリーマンショックでア
ジア全体の景気と石油需要が低下するまでは、ほぼ毎年ホルムズ海峡の航行量は増加を続
けていた。2000 年代以降は中国向けの需要も増加しており、中国を始めとするアジアの中
東原油の輸入量はさらに増加を続けていくと予想されていることから、このホルムズ海峡
の航行量も引き続き増加を続けていくことが確実である。
次に、ホルムズ海峡に次いで航行量の大きいチョークポイントであるマラッカ海峡にお
29
ける航行量の推移を図 1-24 に示す。マラッカ海峡の航行量についても 1970 年代にピーク
が存在し、その後航行量は低下するも、1990 年代からは一貫して増加傾向を示している。
図 1-24 マラッカ海峡における向け先別航行量の推移
million b/d
18
100%
16
日本
中国
その他アジア
日本向けの シェア
90%
80%
14
70%
12
60%
10
50%
8
40%
6
30%
2010
2007
2004
2001
1998
1995
1992
1989
1986
1983
1980
0%
1977
0
1974
10%
1971
2
1968
20%
1965
4
(出所)日本エネルギー経済研究所
1970 年代までは主として日本向けの原油貿易が増加するのに伴ってマラッカ海峡の航
行量も増加を続けた。日本向けの航行量は 1960 年代末に大きく増加し、1968 年から 1971
年にかけてはマラッカ海峡を航行する航行量のうち、その 8 割が日本向けの航行量であっ
た。その後、1980 年代に入ると、ホルムズ海峡のケースと同じように、日本向けの原油貿
易量が減少した一方で、それ以外の貿易量の増加は見られなかった。
1990 年代に入ると日本向け以外の貿易量が急速に拡大し始め、1992 年には全体の航行
量に占める日本向けのシェアが 1960 年代以降、初めて 50%を下回った。この傾向は 2000
年代に入っても続き、日本の石油需要が減退傾向に入った一方で、中国や東南アジア諸国
においては原油の輸入が堅調に増加していることから、マラッカ海峡の航行量は日本向け
の貿易フローから日本以外の国への貿易フローへとその主役が変わりつつある。
1-2-3 チョークポイント回避パイプラインの建設
チョークポイントにおける船舶の航行制限を避けるためにチョークポイントを回避する
パイプラインが建設されることもある。ここでは、そのようなパイプラインの建設が実際
のフローにもたらした影響の有無について検討してみたい。そのようなパイプライン代表
例として挙げられるのが、スエズ運河を回避する SUMED パイプラインやボスポラス海峡
30
を回避する BTC パイプラインである。
図 1-25 SUMED パイプライン
(出所)IEA
まず SUMED パイプラインであるが、これはスエズ(Suez)と地中海(Mediterranean
Sea)の名前を取って名付けられたパイプラインであり、42 インチ口径で 200 万 B/D の輸
送能力を有するパイプラインが 320km にわたって建設されている。出資構成は、エジプ
ト国営石油会社の EGPC が 50%、サウジアラビアの国営石油会社 Saudi Aramco が 15%、
アブダビの国営石油会社 ADNOC が 15%、クウェート系企業3社が計 15%、そしてカタ
ールの国営石油会社 QP が 5%となっており、1977 年に運用が開始されている。
SUMED パイプラインが建設された目的は、スエズ運河を航行できる中型船で原油を輸
送するのではなく、パイプラインの起点の Ain Sukhna まで大型船の VLCC で輸送し、陸
地部分をパイプラインで輸送して、パイプライン終点の Sidi Kerir で再び大型船に積み替
えることで大量の原油を低コストで輸送する、ということにあった。しかし、既に見たよ
うに、欧州市場はこのパイプラインが建設された 1970 年代の後半から中東への依存度を
徐々に下げていった。図 1-26 は欧州における輸入源別の輸入量の推移を示したものである
が、1970 年代の後半から中東からの輸入が大きく減少していることが分かる。このため、
SUMED パイプラインが建設されたことによる原油貿易フローへの影響はさほど大きな
ものではなかった、ということができる。
なお、2011 年の 1 月から 2 月にかけて、前ムバラク政権に対する反政府運動の台頭に
よって、スエズ運河の航行や SUMED パイプラインの操業も影響を受けるのではないかと
の懸念が浮上したことがあったが、実際にはほとんど影響が生じなかった。仮にスエズ運
河の航行や SUMED パイプラインの操業ができなくなる場合、通常であれば、2 週間強で
航行可能な中東湾岸産油国から欧州への原油輸送を喜望峰経由で行う必要性が出てくるた
31
め、20 日程度の追加の航行日数がかかることになる9。
図 1-26 欧州の輸入源の推移(再掲)
million b/d
18
16
14
12
その他
アジア
西 アフリカ
10
8
6
4
2
0
北 アフリカ
中東
旧 ソ連
2010
2007
2004
2001
1998
1995
1992
1989
1986
1983
1980
1977
1974
1971
1968
1965
ラテンアメリカ
北米
(出所)BP 統計
もう一つの代表的なチョークポイント回避パイプラインは、アゼルバイジャンのバクー
(Baku)からグルジアの首都トビリシ(Tbilisi)を経由してトルコのジェイハン(Ceyhan)
にまで至る BTC パイプラインである。このパイプラインの全長は 1,776km、2009 年に稼
働を開始した比較的新しいパイプラインである。輸送能力は 100 万 B/D であるが、これは
120 万 B/D にまで増強される計画がある。このパイプラインは、従来は黒海沿いのノボロ
シスクまで輸送され、タンカーでボスポラス海峡を通って輸出されていたルートに代わる
ものとして 建設されたもので、特にアゼルバイジャン領カスピ海 における
Azeri-Chirag-Gunashli(ACG)油田の開発と併せて進められてきたものである。また、この
パイプラインの特徴の一つとされているのが、ロシアの領内を通過することなく、カスピ
海の原油を輸出できるという点にある。建設には米国政府や英国政府も外交的なバックア
ップを行っており、チョークポイントの回避と言う動機だけではなく、このような地政学
的な判断もその建設を実現させた大きな推進力の一つであったとされている。
9
Poten & Partners, Weekly Tanker Opinioin, February 2, 2011
32
図 1-27 BTC パイプライン
ノボロシスク
ACG 油田
ボスポラス海峡
BTC パイプライン
(出所)EIA
図 1-28 アゼルバイジャンの生産量の推移
million b/d
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
0.0
(出所)BP
この BTC パイプラインの開通は、旧ソ連地域から欧州向けの原油の輸出量の増加に大
きく貢献した。元々アゼルバイジャンからはロシアのノボロシスクまでのパイプラインを
用いて輸送され、その後、原油タンカーに積荷され黒海からボスポラス海峡を抜けて地中
海まで輸送されるという輸出形態がとられていた。しかし、BTC パイプラインが開通した
2006 年頃からはアゼルバイジャンにおける石油生産量が飛躍的に伸び始めていることが
33
うかがえる。この BTC パイプラインの建設とアゼルバイジャンの生産量の増加はいわば
セットとして進められてきたという側面があり、この生産量の増加を純粋にパイプライン
の建設によるものということはできない。しかし、このパイプラインによって量にして 100
万 B/D の原油が、ロシアを経由せず地中海市場にもたらされるようになったという原油フ
ロー面でのインパクトは非常に大きいことも事実であり、パイプラインと原油フローとの
相関という観点では、非常に重要な事例といえる。
この他に、今後稼働が予定されているチョークポイントの回避パイプラインとしては、
ホ ル ム ズ 海峡を 回避 す る Abu Dhabi 原 油 パ イプ ラ イ ン、及 び、 サ ウ ジア ラ ビ アの
East-West 原油パイプライン(Petroline)、マラッカ海峡を回避するミャンマー・中国パイ
プラインがある。まず、Abu Dhabi 原油パイプラインの輸送能力は 150 万 B/D ではある
が、ホルムズ海峡の航行量自体も今後さらに増加していくことが予想されているため、ホ
ルムズ海峡における有事の発生に備え、その能力が増強されていくことが期待される。既
にパイプラインそのものは完成しているが、予定されていた 2012 年内の稼働開始は技術
的な問題のため先送りされた。
図 1-29
Abu Dhabi 原油パイプライン
(出所)ekemeuroenergy
同じくホルムズ海峡を回避するパイプラインに、サウジアラビアの East-West 原油パイ
プラインがある。東部の油田地帯(Abqaiq)から紅海沿岸にある Yanbu の原油積み出し
港まで敷設されており、その輸送能力は 480 万 B/D である。ただし、サウジアラビアの全
油種が Yanbu から輸出可能であるか不明であるため、本格的な代替手段となりうるのか明
らかでない。
ミャンマー・中国パイプラインについては、今後さらにマラッカ海峡での航行待ちや船
34
舶事故の可能性が高まる中で、一定規模の原油が安定的に調達できるルートを確保できる
ことになり、中国にとってのメリットは非常に大きい。また、中国にとっては今後米国と
の政治対立が深まっていく可能性もあり、米軍が圧倒的な影響力を有するマラッカ海峡を
航行しないで原油を調達するルートを確保しておくという、地政学的な判断もその建設の
背景にあるとみられている。
図 1-30 ミャンマー・中国パイプライン
(出所)Bangkok Post
1-3 供給インフラの状況
1-3-1
パイプラインの建設
パイプラインや石油精製などの供給インフラの整備状況も、原油フローに影響を及ぼす
ことがある。まずパイプラインについて、そのような過去の事例として最も代表的なもの
がロシアから欧州に向けての Druzhba パイプライン網である。このパイプライン網の稼
働開始は冷戦真っただ中の 1960 年代と古く、全長 8,900km にも及ぶ世界でも有数の規模
を誇る大型パイプラインである 10。
このパイプラインの始点はロシア南部の石油集積地 Samara であり、西シベリア原油や
ウラル原油、中央アジア原油などがここに集積され、Druzhba パイプライン網によって欧
州各地に輸送されている。パイプライン網は大きく3つの支線に分かれており、1つはベ
10
塩原俊彦『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局、2007 年)p103
35
ラルーシに入ったところで北の方向に分かれ、ポーランドの Novopolotsk 製油所、リトア
ニアの Mazeikiu 製油所に原油を輸送している(ただし、2006 年 7 月以降はリトアニアへ
の原油供給はパイプライン事故のため停止されている)。もう一本は、ベラルーシの Mozil
製油所を経てポーランド、ドイツに向かい、最後の一本はウクライナを経てスロバキア、
チェコ、
ハンガリーに向かっている。最初の 2 つのパイプラインの輸送能力は約 70 万 B/D、
南方へ向かう3本目のルートの輸送能力は 50 万 B/D で合計 120 万 B/D の能力がある。
図 1-31 ロシアのからの石油パイプライン網
(注)図中の Brotherhood(Druzhba の英訳)とあるところが「Druzhba」パイプライン
(出所)EIA に日本エネルギー経済研究所加筆
このパイプラインの建設自体は 1960 年代に完成し、東欧諸国に対する石油供給が行わ
れていたが、その後 1970 年代に入ると Druzhba パイプラインを延長することによって西
36
欧諸国にもロシアからの原油の供給がなされるようになった。この Druzhba パイプライ
ンに加えて、2002 年には現在のウクライナにあるオデッサまでパイプラインが建設され、
オデッサから黒海経由で地中海の製油所への原油輸出も行うルートが確立したこと、また
2001 年にはバルティック・パイプライン・システム(Baltic Pipeline System)が完成し、
ロシアのプリモルスクからの輸出ルートが整備された。これらのパイプラインの能力拡大
が、1990 年代のロシア国内の石油生産量の増加とも相まって、欧州への大量のロシア産原
油輸出を可能にしたのであった。
同様のパイプラインの事例としては、ESPO(東シベリア・太平洋)パイプラインが挙
げられる。このパイプラインは現在はまだ建設中のパイプラインであり、東シベリアのタ
イシェットからロシア沿海州のコズミノおよび中国の大慶にまでつながるパイプラインで、
最終的にはコズミノ向け・中国向け併せて 160 万 B/D の輸送能力が計画されている。
図 1-32 ESPO パイプライン
ESPO パイプライン
(出所)JOGMEC
現状は、本線第一フェーズのタイシェットからスコボロディノまでと、スコボロディノ
から中国の大慶までの支線が開通しており、中国向けには 30 万 B/D、またスコボロディ
ノからコズミノまでは列車で 30 万 B/D の石油が輸送され、輸出されている。本線第二フ
ェーズ(コボロディノ∼コズミノ)のパイプラインの鋼管接続は 2011 年 9 月に完工した。
ただし、
これからパイプラインの非破壊検査や水圧テスト、埋設工事等が残っているため、
実際に稼動するのは 2012 年後半を予定している。当初は 2014 年に完成する予定であった
ため、予定を大幅に上回る速さで建設が進んでいることになる。
37
この ESPO パイプラインによる原油の輸出は北東アジアの原油フローに影響を及ぼし
てきている。図 1-33 は日本、韓国、中国、米国西海岸のロシア原油の輸入量を示したもの
であるが、2000 年代半ばからロシアから鉄道での原油輸入を行ってきた中国を除き、
ESPO パイプラインによる原油輸出が本格化した 2009 年以降、各国のロシア原油の輸入
量が全体的に増加してきていることが分かる。
図 1-33 主要国のロシア原油の輸入量
'000 b/d
350
日本
300
韓国
250
中国
200
米国西海岸
150
100
50
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
0
(出所)石油連盟、韓国石油公社、China OG&P、EIA
ただし、ESPO パイプラインの全線開通は上述の通り 2012 年が予定されているが、仮
にこのパイプラインが開通したとしても、このパイプラインに対して十分な原油の供給が
なされない可能性が指摘されている。この太平洋向けのパイプラインの他に、2012 年内に
ロシアでは欧州向けの既存のバルティック・パイプライン・システムが拡張され、欧州向
けの輸送能力が増強される。この増強パイプラインもその能力は 60 万 B/D であり、ESPO
パイプラインで増強された 60 万 B/D と併せて計 120 万 B/D もの輸出能力が追加されるこ
とになる。一方、ロシアでは今後、原油の供給が伸び悩むことが予想されており、このよ
うにパイプラインインフラの建設のみが先行して進められても、増強分のパイプライン能
力の増強分に見合うだけの生産量の増加は実現しない可能性が高い。このためロシア側と
しては、
アジア市場に対する輸出価格と欧州市場に対する輸出価格の双方をにらみながら、
より市況の良い方にロシア原油を流すということになる。ただし、近年の欧州市場におけ
る石油需要の落ち込みを考えると、相対的にはアジア市場により多くの原油が流れること
になると考えられ、この ESPO 原油の輸出は今後、アジアの主要な原油フローの一角を占
める可能性が高い。
38
原油フローのあり方に決定的に大きな変化を与えるインフラではないものの、原油価格
の相対的な水準に大きな影響を与えたパイプラインの整備事例として、2010 年から 2011
年にかけての Keystone パイプライン整備が挙げられる。Keystone パイプライン事業はカ
ナダのパイプライン事業者 TransCanada 社が進めている事業であり、カナダの石油集積
地 Hardisty から米国を縦断してオクラホマ州のクッシングまで続くパイプラインが整備
されている。パイプラインは 2011 年 2 月に完成しており、その輸送能力は 60 万 B/D で
ある。
図 1-34 Keystone パイプライン
(注)Keystone Pipelineは図中②を指す。
(出所)Canadian Petroleum Producers’ Association (CAPP)
39
図 1-35 メキシコ湾岸(PADD3)から中西部(PADD2)への間の原油輸送量
'000 bbls
70,000
60,000
50,000
40,000
30,000
20,000
10,000
2011年9 月
2011年5 月
2011年1 月
2010年9 月
2010年5 月
2010年1 月
2009年9 月
2009年5 月
2009年1 月
2008年9 月
2008年5 月
2008年1 月
2007年9 月
2007年5 月
2007年1 月
2006年9 月
2006年5 月
2006年1 月
2005年9 月
2005年5 月
2005年1 月
0
(出所)米国エネルギー情報局
図 1-36 米国の国別原油輸入状況
million b/d
5%
カナダ
0
0%
カナダのシェア
2011 年7 月
2,000
2011 年1 月
ナイジェリア
2010 年7 月
10%
2010 年1 月
4,000
2009 年7 月
15%
2009 年1 月
6,000
2008 年7 月
メキシコ
2008 年1 月
20%
2007 年7 月
8,000
2007 年1 月
他
2006 年7 月
25%
2006 年1 月
10,000
2005 年7 月
30%
2005 年1 月
12,000
ベネズエラ
サウジアラビア
(出所)米国エネルギー情報局
このパイプラインが開通したことで、カナダから米国への石油輸出が増加しており、そ
の帰結としてこれまで米国のメキシコ湾岸から米国中部に流れていた原油のフローも停滞
気味である。図 1-36 に示した米国の月次ベースの原油輸入状況から、2010 年以降、カナ
ダからの輸入が少しずつ増えてきていることが分かる。今後はカナダから米国オクラホマ
州クッシングに至る新たなルート(図 1-34 における③に相当)も計画されていること、ま
たカナダでは引き続きオイルサンドの開発投資が進められていることから、今後カナダか
ら米国に対する輸出圧力が高まっていくことは間違いない。そうした中で、このパイプラ
40
インの開通によってカナダからの輸入が増加することで、中東など他の産油国からの輸入
が減少していく可能性もある。
そして、上記のようなカナダからの大量の原油の流入で、米国の代表的な指標原油であ
る WTI 原油の受け渡し場所である米国オクラホマ州のクッシングにおける需給が緩和し、
その結果として WTI 原油価格が欧州の指標原油である Brent 原油価格と比べて非常に割
安な状態が続いている(図 1-37)。また、クッシングからメキシコ湾岸の製油所へ向かう
パイプラインが欠如しているため、クッシングにおける在庫が増加したこともクッシング
における需給緩和を促した。2011 年 10 月には WTI 原油と Brent 原油両者の価格差は一
時、$27/bbl にまで開いたものの、本稿執筆時点(2011 年 1 月時点)では$10/bbl 前後に
まで低下している11。しかし、元々両者の価格差は$1/bbl 程度であったことを考えると、
引き続き価格差が大きく開いたままの状態が続いている。
図 1-37 Brent – WTI 価格差の推移
30
25
20
$/bbl
15
10
5
0
-5
2011年11月
2011年9月
2011年7月
2011年5月
2011年3月
2011年1月
2010年11月
2010年9月
2010年7月
2010年5月
2010年3月
2010年1月
2009年11月
2009年9月
2009年7月
2009年5月
2009年3月
2009年1月
-10
(出所)米国エネルギー情報局
このような WTI と Brent 価格差が拡大した背景には、このパイプラインの開通だけで
はなく、Brent 原油の需給に関して言えば、リビア原油の輸出停止、北海油田での想定外
の生産停止などといった要因で Brent 原油の需給が引き締まり、一方の WTI 原油の需給
では、米国の景気低迷による国内の石油製品需要の低迷、非在来型のタイトオイルの増産
などといった要因によって WTI 原油需給が緩和したという事情がある。このため、
Keystone パイプラインの開通自体はあくまで価格差拡大の一つの要因に過ぎないが、既
11
両者の価格差が$10/bbl 前後にまで縮小したのは、現状メキシコ湾岸からクッシングまでの輸送に用い
られている Seaway Pipeline を逆送させる案件(2012 年第 2 四半期に 15 万 B/D、2013 年には 40 万 B/D
まで増強される予定)が浮上してきたことがきっかけとなっている。これは、このパイプラインの逆送に
よって、現状は鉄道などによって行われている安価な WTI 原油を用いた裁定取引がより容易にできるよ
うになるからである。
41
述 の 通 り 、カナ ダ か ら の供 給イ ン フラに は また 新 た なパイ プ ラ イン( Keystone XL
Pipeline)の建設計画があり、そのパイプラインの開通により、沿線の非在来型石油開発
にも弾みがつくと見られていることから、これらのパイプラインが、WTI 原油が相対的に
割安な状態を長引かせる可能性も出てきている12。
1-3-2 精製能力
精製能力、特に脱硫能力や分解能力への投資も原油フローに影響を及ぼし得る。その典
型的な事例が中国に対する原油のフローである。図 1-38 は中国の製油所における脱硫能力
の比率(脱硫能力÷原油処理能力)と地域別の原油供給の動向を示したものである。脱硫
能力の比率が 2000 年代の後半に入ってから急速に上昇しているのに合わせて、量は少な
いものの南米からの輸入量が増加していることが分かる。中国に対する南米からの輸入量
はベネズエラやブラジルからの輸入が多いが、これらの原油は一般に中東原油と比べても
硫黄分の高い原油が多い。中国の近年の脱硫能力の拡張は、中東の高硫黄原油と併せて、
より硫黄分の高い南米からの原油輸入を可能にしていると見ることもできる。
図 1-38 中国の原油供給源と脱硫能力比率の推移
300
250
40%
中東
アフリカ
旧ソ連
西半球
35%
アジア
脱硫装置比率
30%
200
m illion tons
25%
150
20%
15%
100
10%
50
5%
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
0%
1995
0
(出所)China OGP, Purvin & Gertz
米国においては、分解能力の増強と輸入原油性状との相関を確認することができる。ま
ず図 1-39 は米国における性状別の原油輸入の推移を示したものである。本図が拠っている
Purvin & Gertz のデータによると、米国に対する原油輸入は 2004 年をピークに近年は減
少傾向にあるが、図中の一番下に記載されている Heavy sour(重質高硫黄)原油の輸入
12
ただし、2012 年 1 月には、米国国務省が TransCanada 社によるこのパイプラインの建設申請を却下
しており、着工の目途はまだ立っていない。
42
量については減少せず、400 万 B/D 弱の水準を維持していることが分かる。全体の輸入原
油の比率で言うと、1990 年時点では 27%であったものが 2010 年には 40%にまで増加し
てきている。
図 1-39 米国における性状別原油輸入量の推移
12
45%
40%
10
'000 b/d
8
35%
Light sour
30%
Light sweer
25%
6
High TAN
20%
4
15%
10%
2
5%
Heavy sour
比率
2010
2008
2006
2004
2002
2000
1998
1996
1994
1992
0%
1990
0
Heavy sour
(出所)Purvin & Gertz
この背景にあるのが、米国内での分解装置能力、特にコーカーと水素化分解装置能力の
増強である。図 1-40 は米国内におけるそれぞれの装置能力と、その原油処理能力に対する
比率の推移を示したものである。米国では長らく製油所の新設はないものの、既存の製油
所における高度化装置への増強投資は継続的に行われている。特に、「精製業の黄金時代
(Golden Age of Refining)
」といわれた 2000 年代半ばには、原油の油種間価格差(重軽
価格差)が拡大したこと、また今後中南米を中心に重質原油の供給が増加するとの見通し
が合ったために、分解装置への投資が加速した。このような分解装置能力の増強が、米国
における輸入原油の重質化を可能にしていることが分かる。
43
図 1-40 米国におけるコーカー・水素化分解装置能力と比率の推移
5,000
16%
14%
'000 b/d
4,000
3,000
12%
コーカー
10%
水素化分解
8%
2,000
6%
4%
1,000
水素化分解
比率
コーカー比率
2%
2010
2008
2006
2004
2002
2000
1998
1996
1994
1992
0%
1990
0
(出所)Purvin & Gertz
1-4 市場との相互関係
過去、原油フローは様々な変遷を遂げてきたが、このような原油フローのありかたは、
その時々の需給バランスと共に、各時点での市場の構造、特に産業の構造とも密接な関係
を有している。
まず 1960 年代までの国際原油市場においては、石油メジャーが非常に強い影響力を有
しており、原油の貿易フローについても、各石油メジャーが操業する油田や製油所のネッ
トワークの中での運用によって形成される部分が大きかった。原油フローのあり方に大き
な影響を与える各原油の価格付けについても、石油メジャーが 1950 年代までは中東を起
点に世界各地までの輸送費を付加した価格を各地の原油価格に設定する「中東プラス方式」
を採用し、また 1960 年に OPEC が公示価格の設定権を奪取して以降も、実際の原油の販
売ネットワークを有する石油メジャーが原油価格の価格付けには大きな影響を及ぼし、コ
スト競争力に勝る中東原油が世界各地で最も競争力を持つような価格設定を行っていた。
上述の通り、この時期、特に欧州や日本においては中東原油が大量に流入する結果となっ
た背景には、このような石油メジャーの価格設定の仕組みも大きく作用していた。
また、1970 年代に石油利権が国有化されるまで、石油メジャーは世界各地に油田と製油
所の双方を保有する垂直統合体制を敷いていた。その体制の下では、現在のような流動性
の高いスポット市場が形成されていなかったこともあり、自社権益の石油は優先的に自社
の製油所に輸送され製品に精製されていた。このことから、この時期の主要な原油フロー
の多くは石油メジャー各社のシステム内において決定されていたともいえる。1980 年代以
降、世界規模で石油市場が統合されて以降は、世界の原油フローは主として市場メカニズ
44
ムによって決定されるようになったが、この時期の原油フローの中には、このような石油
メジャー各社の自社の収益最大化の結果として形成されるものも多く存在していた。
これに対し、1970 年代に OPEC 産油国が相次いで石油利権を国有化すると、これまで
石油メジャーが大きな影響力を有してきた世界の原油フロー・メカニズムの前提が大きく
崩れることになった。石油メジャーの有していた石油利権を国有化し、実質的な価格設定
を得た OPEC が年々その原油の販売価格を引き上げたことによって、米国や欧州、日本に
おいては需要の減退や石油からのエネルギー代替が進んだ。また、既述の通り、油価上昇
によってそれまでは採算に乗らなかった北海やアラスカ、メキシコなどの油田開発が進み、
新たな供給源が登場するようになった。本報告書において指摘したような供給源の分散化
は、このような価格要因によって引き起こされたという側面もある。すなわち、1970 年代
以降の油価上昇によって、中東を中心とした先進国への供給源が分散化され、世界の原油
フローのあり方が大きく変わり始めたのである。
この時期に、石油メジャーの垂直統合体制が崩壊したことで、OPEC 産油国が自ら各精
製事業者に対する原油の販売を行うようになったが、これが、1980 年代半ばの石油需給緩
和とも相まって結果的にスポット取引の活発化を生むこととなった点も、国際石油市場の
歴史を考える上では、非常に重要な事象である。これまでは石油メジャー各社が自社原油
供給の最適化を図る中で原油のフローが決まっていたが、そのような最適化の手段を持た
ない OPEC 産油国が、余剰となった自国の産出原油を販売する際に活用した手法がスポッ
ト販売であった。このスポット販売の拡大は、その後の国際原油市場において市場メカニ
ズムが支配的な原則となるきっかけとなったという意味において、国際石油市場において
は画期的な出来事であった。1980 年代の後半になると、このようなスポット取引が大きく
拡大したことで、OPEC 産油国の公示価格ではなく、市場におけるスポット価格の方がよ
り需給を反映し、的確な価格指標であるとの認識が定着し始めた。こうして市場価格によ
って世界の原油価格が決定される、今日まで続くシステムが出来上がったのであり、今日
の世界の原油フローも、この市場メカニズムによって決定される原油価格に基づいて形成
されるようになったのである。
45
2.今後の原油フローに影響を与えうる潜在的な要因
本章では、今後の原油フローに影響を及ぼしうる潜在的な要因について検討する。これ
らの要因は、大きく供給側の要因と需要側の要因に分けられるため、以下 2-1 で供給側、
2-2 において需要側の要因について、(若干1.の記載と重複する箇所が出てくるものの)
その概要をまとめる。そして、2-3 においてそのような要因も踏まえながら、線形計画モ
デルによる 2020 年時点の原油フローを展望する。
2-1 供給サイドから影響を与えうる要因
2-1-1 新規供給源
(1) ロシア ESPO 原油
今後の原油フローのあり方に影響を及ぼし得る供給サイドの要因として挙げられるのが
ロシア ESPO 原油やイラクの新規開発油田、カナダのオイルサンドといった新規供給源の
存在である。まず、ロシアからの原油供給では、本稿執筆時点(2012 年 1 月時点)で既
にロシア東部からの原油供給量はすべて合わせると 100 万 B/D 近くにも達しており、既に
述べたように、その影響は徐々にではあるがアジアの原油フローにも表れつつある。
図 2-1
ロシアからの原油生産見通し
1,000B/D
12,000
極東
東シベ
リ
ア
10,000
ト
ムスク
8,000
コ
ーカサス
カスヒ
゚
海
6,000
ウラル
4,000
ヴ
ォルガ
2,000
北西
チュメニ
2005
2008
2013-15
2020-22
2030
(出所)日本エネルギー経済研究所作成
この ESPO 原油の輸出開始は、日本を含むアジアの石油市場にも大きな影響を及ぼし得
る。特に、高い中東依存度に悩んできたアジア消費国にとっては、供給源の分散化オプシ
ョンが拡大したというメリットは大きい。もちろん、ESPO 原油は中東原油をそのまま代
46
替できるほどの規模は持ち得ないものの、中東依存度を低減させ、中東産油国に対する交
渉力を強化することにもつながるため、今後の増産への期待が高まっている。実際に、ロ
シア政府の見通しによると、今後東シベリアにおける原油生産は 2030 年に向けて大きく
増加していく見通しであり(図 2-1)、このような増産が確実に実現することが期待されて
いる。
(2) イラクでの増産
次に原油フローに影響を及ぼし得る新規供給源として挙げられるのがイラクでの増産で
ある。元々イラクは十分な投資がなされれば 600 万 B/D の生産能力を有することが可能と
いわれていた。2003 年のイラク戦争でサダム・フセイン政権が崩壊し、新政権が誕生して
以降、それまでは経済制裁によって投資が進まなかったイラクの上流部門にも、多くの外
資が関心を寄せるようになってきている。
表 2-1
油田名
Rumaila
イラクにおける主な新規油田開発案件
現状生産量
追加生産量
(‘000 B/D)
(‘000 B/D)
開発企業
1,050
1,800
Zubair
195
930
West-Qurna 1
260
1,840
Garraf
-
260
Petronas-石油資源開発
Qaiyarah
-
120
Sonangol
West-Qurna 2
-
1,800
Lukoil-Statoil
Majnoon
45.9
1,754
Shell-Petronas
Halfaya
3.1
532
CNPC-Petronas-Total
Badra
-
170
Gazprom-Kogas-Petronas-TPAO
Najmah
-
110
Sonangol
合計
BP-CNPC
Eni-Occidental-Kogas
ExxonMobil-Shell
9,316
(出所)各種報道資料をもとに日本エネルギー経済研究所作成
そのような中、イラクにおいては 2009 年以降、石油開発に関しては 2 回鉱区の入札が
行われている(その入札結果は表 2-1)13。単純に、これらの開発案件を通して増強される
生産能力を足合わせると 1,000 万 B/D 近くの水準となる。これらの油田はいずれも、既に
発見されているものの、これまで開発がなされてこなかった油田(既発見未開発油田)で
あることから、開発作業さえ進められる環境が整えば、確実に生産段階へと移行できる。
応札各社も、実際に経済性を検証しながら生産量を設定しているため、それぞれの案件に
おけるプラトー生産量の信憑性は高い。実際に、Zubair や Rumaila 等では既に 10 万 B/D
13
この他、ガス田の鉱区を対象に一回入札が実施されている。
47
程度の増産が見られており、2012 年内にはイラク全体で 300 万 B/D の生産を行うことが
出来るとの見通しもある。
図 2-2
イラクの油田の場所
(出所)Washington Institute
しかしながら、足元で見られている増産は今後も少しずつ進んでいくものの、実際には
これら一連の入札案件がすべて実現する可能性は低い。これは、増産を行うための圧入水
の確保や、産出された原油の輸送や輸出を行うためのインフラ不足 14、イラク国内で開発
業務を行うためのサービス事業者や人材不足、米軍撤退後の治安情勢など、今後の増産に
イラクでは輸出を拡大するため、インフラ整備を進めている。2012 年 1 月 9 日、イラク南部の油田地
帯からペルシャ湾岸を結ぶパイプライン(150 万 B/D)が完成し、10 万 B/D の増産と輸出増が実現する
と見られている。また 1 月 18 日には、ペルシア湾北部に 5 つの計画のうち最初の一点係留ブイ(SPM)
が設置され船積みが開始されることが発表された。ブイの能力は 85 万 B/D。2011 年 11 月時点のイラク
の原油輸出は、トルコ・セイハン経由で約 40 万 B/D、南部バスラ経由で 173 万 B/D であった。
14
48
向けて多くのボトルネックや制約要因が存在しているためである。実際に、各主要機関の
生産見通しでも、その生産量水準は 2020 年時点でも多くて 500 万 B/D 台とみられている
15 。今後のイラクにおける開発作業を進めていく上では、それを可能にするような治安の
安定化が実現されるかどうか、また仮に実際の開発作業が完了したとしても、OPEC によ
って生産枠が設定されるという制約も考えられる。
このため、表 2-1 に示した開発案件がすべて実現するとは限らないが、今後新興国を中
心に石油需要が大幅に増加していくことがあれば、そのような需要増加を満たすための供
給を行うことのできる産油国は、実質的にサウジアラビアなど極めて少数の国に限られる
のが現状である。仮に、今後も中国を初めとするアジアの新興国における石油需要の増産
が今後も高い伸び率で進んでいくようなことがあると、上記のような制約条件はあるもの
の、長期的にはイラクの生産量も結果として大幅に増加し、中東からの供給フローがさら
に拡大する可能性も十分にある。
(3) カナダのオイルサンド
カナダのオイルサンドについても今後の増産が期待されている。図 2-3 は最近のオイル
サンド生産量の推移と今後の生産量予測を示したものであるが、2025 年時点で 410 万 B/D
と現在の水準(161 万 B/D)から約 2.5 倍に増加することが見込まれている。
図 2-3
カナダのオイルサンドの生産量推移と見通し
5,000
m illion b/d
4,500
4,000
637
899
3,500
3,000
1,125
2,500
2,000
1,500
4,099
3,311
2,354
1,000
500
オイルサンド以外
オイルサンド
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
2021
2022
2023
2024
2025
0
(注)2011 年以降は見通し
(出所)Canadian Association of Petroleum Producers
オイルサンドの開発が現在活発に進められている背景には、昨今の油価上昇の他にも、
米国エネルギー情報局の見通しによると、2020年時点でのイラクの生産量は 360万 B/D
(International
Energy Outlook 2011)、国際エネルギー機関の見通しによると同じくイラクの 2020 年の生産量は 540
万 B/D となっている(World Energy Outlook 2011)。
15
49
既に豊富な埋蔵量が存在していることが分かっており探鉱リスクが小さいこと、産出国の
カナダは政情が安定しており法制度も確立していることから政治リスクが小さいこと、ま
た隣国に米国という世界最大の石油市場が存在しており販売リスクが少ないことなどが、
挙げられる。また米国にとっては、これまで主要な供給国であったメキシコやベネズエラ
などの産油国からの増産が短期的には期待できなくなってきていることもあり、代替供給
源としてのカナダのオイルサンドへの関心が高まってきている。このようなオイルサンド
の開発も、後述するパイプライン網の整備と相まって今後の北米を中心とする原油フロー
に影響を及ぼす可能性が高い。
(4) NGL
今後の増産が予想される新たな供給源の一つが Natural Gas Liquid(以下、NGL)の
増産である。NGL とは、天然ガスに随伴して生産される液体炭化水素であり、プロパン
やブタンといった LPG(液化石油ガス)やそれよりも比重の軽いコンデンセートなどを含
む。国際エネルギー機関の統計によると、2008 年時点で中東地域を含むアジア市場におけ
る NGL の生産量は 409 万 B/D であるが、今後この生産量は増加を続け、2015 年には 663
万 B/D に到達するとみられている。このうち、最も供給量が増加するとみられているのが
カタールであり、2008 年時点の 61 万 B/D から 2015 年には 140 万 B/D へ 79 万 B/D 増加
する見通しである。その次に、イランや UAE が続き、それぞれ同期間で 61 万 B/D、39
万 B/D の増加が見込まれている(図 2-4)。この NGL の中でも特にコンデンセートは原油
需給バランスにより直接的に効いてくると考えられ、たとえばカタールでは 79 万 B/D の
増加分のうち 49 万 B/D、イランでは 61 万 B/D の増加分の 30 万 B/D がコンデンセートで
の生産増となる。
この NGL の増産の背景にあるのが、アジア太平洋市場における天然ガス・LNG 開発の
進展である。特に 2009 年から 2015 年にかけて、中東を含むアジア太平洋地域における
LNG の生産能力は年間 1 億 5,100 万トンから同 2 億 1,400 万トンにまで増加する見通し
である。アジア太平洋市場で開発される天然ガス田は、その組成においてエタンや LPG、
コンデンセートなどといった比重の重い炭化水素留分の多い、いわゆる「ウエット(wet)」
なガス田が多い。そのため、LNG プロジェクトの原料確保のため天然ガス開発が進めば、
それに随伴して生産される NGL の生産量も増加するということになる。カタールや豪州
などで見られる増産は、この LNG 開発に伴って生産されるものがほとんどである。なお、
カタールや UAE、イランなどの OPEC 産油国にとって、NGL の一部であるコンデンセー
トは OPEC 生産枠の対象外ということもあり、自由に生産を行える。このため、OPEC
産油国にとっても、コンデンセートを増産することは大きなメリットがある。
このような NGL の増産によってもたらされる影響としては、まず比重が非常に軽いコ
ンデンセートが市場に大量に供給されることで、市場に供給される原油の軽質化を進める
50
要因となることが考えられる16。今後はアジア各地域において軽質石油製品の需要が増加
するため、そのような製品を多く精製することのできる軽質原油の需要が高まってくると
考えられる。今後中東においては、サウジアラビアやクウェート、イランなどで比重の重
い原油の増産が計画されているが 17、コンデンセートの増産は、これらの原油の重質化を
中和する効果をもたらすと考えられる。アジア域内での原油生産が減退する中で、このよ
うなコンデンセートの増産はアジアでの中東依存度をさらに高める要因となりうる。
図 2-4
2015 年までの NGL の生産見通し
6
5
million b/d
4
豪州
クウェ
ート
UAE
イラン
カタ
ール
サウジ
アラビ
ア
3
2
1
0
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
(出所)IEA、『Natural Gas Liquids - Supply Outlook 2008 -2015』をもとに筆者作成
(5)
タイトオイル(シェールオイル)
近年注目を集めている今後の原油フローに影響を及ぼしうる供給側の要因として挙げら
れるのがタイトオイル(シェールオイル)である。タイトオイルとは、相対的に深度の深
い頁岩層に賦存している液体炭化水素であり、深度の浅い頁岩層にケロジェンと呼ばれる
炭化水素を含む高分子化合物が含まれているオイルシェールとは異なる。オイルシェール
は産出後、乾留することで液体炭化水素を得ることができるが、タイトオイルの場合は通
常の石油生産と同様、地下に生産井を掘削して生産を行う。2000 年代に入り、水圧破砕や
水平掘削などといった生産技術が進歩したことによって生産が可能になった石油の一種で
16
代表的なコンデンセートとして、カタールの North Field ガス田から生産される Ras Gas Condensate
の性状は、硫黄分が API57 度、得率は、LPG(4%)、ライトナフサ(16%)、ヘビーナフサ(37%)、灯
油留分(24%)、軽油留分(15%)、重油留分(4%)となっている。(Energy Intelligence Group 編
『International Crude Oil Market Handbook 2008』)
17 例えば、サウジアラビアにおける Manifa 油田、オマーンにおける Mukhaizna 油田、バーレーンの
Awali 油田など。
51
ある。
現在、最も多くのタイトオイルが生産されているのが、米国ノースダコタ州にある
Bakken Shale である。Bakken Shale での生産量は足元で急速に拡大してきている。2010
年時点で 27 万 B/D であった生産量は、2011 年には 40 万 B/D にまで増加しており、2016
年には 88 万 B/D まで増加する見通しである。その生産コストは$50/bbl を下回るとみら
れており、本稿執筆時点(2012 年 1 月)での原油価格水準($100/bbl )では十分に採算が
確保できる。米国全体では 2011 年時点で 62 万 B/D のタイトオイルの生産があるが、今
後は生産量が増加を続け、米国エネルギー情報局の見通しによれば、2016 年までに 170
万 B/D を生産する見込みである(図 2-5)。
図 2-5 米国におけるタイトオイルの生産量見通し
'000 b/d
1,800
1,700
1,530
1,600
1,320
1,400
1,140
1,200
1,000
600
400
Utica
Niobrara
Monterey
870
800
Others
Eagle Ford
620
Barnett
380
Wilston (Bakken)
200
0
2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016
(出所)国際エネルギー機関
このようなタイトオイルの生産見通しは、今後さらに生産技術が進歩し、また開発対象
である頁岩層そのものに関する知見が蓄積されることによって、さらに上方修正されてい
く可能性がある。タイトオイルの生産は、ピーク時の生産期間が短いのが難点と言われて
いるが、ピーク時点での生産量を抑制することで、全体の生産期間を長くし、最終的には
より多くの生産量を確保できるような技術開発も現在進められている。シェールガスにお
いては、大きな制約要因になりうる環境問題についても、現在タイトオイルの増産が期待
されている地域は米国でも中部から南部にかけての人口密度が高くない地域であり、環境
問題やパブリックアクセプタンスの制約から生産量が伸び悩む可能性は低い。
このようなタイトオイルの増産が期待できることで、米国の原油輸入見通しの下方修正
がなされている。図 2-7 は 2006 年時点での米国の原油輸入見通しと 2011 年時点での見通
しとの比較を示したものであるが、輸入量のトレンドが大きく異なっている、すなわち今
52
後増加していくと見られていた石油輸入はむしろ減少していくと見られているのである。
2030 年時点での数値を比較すると、530 万 B/D もの輸入需要の下方修正がなされている。
このことが米国のエネルギー安全保障にもたらすインプリケーションは非常に大きく、ま
た当然のことながら米国をめぐる原油のフローにも影響を及ぼすことになる。
図 2-6
米国におけるタイトオイルの産出地域
Bakken
Niobara
Monterey
Barnett
Eagle Ford
(出所)Halliburton 社資料に日本エネルギー経済研究所加筆
図 2-7
米国における原油輸入需要見通しの変化
100万B/D
16
14
12
10
8
6
4
AEO2006
2
AEO2011
(出所)米国エネルギー情報
2-1-2 産出原油の性状変化
53
2030
2028
2026
2024
2022
2020
2018
2016
2014
2012
2010
2008
0
今後の世界の産出原油の性状も、各消費市場の需要構成や精製装置の構成等と併せて、
世界の原油フローに影響を及ぼす可能性がある要因である。まず、過去(1998 年、2005
年、2009 年)の性状別の原油生産量の推移を図 2-8 に示す18。生産量で見ると、中質かつ
高硫黄の原油(Medium & Sour)が最も大きい。これは油種でいえば、サウジアラビアの
アラビアン・ライトやイランのイラニアンライトなどが含まれており、合計の生産量で
2,500 万∼3,000 万 B/D、世界の石油生産量の約3分の1を占めていることが分かる。こ
の中質高硫黄原油の生産量は年によって変化しているが、これは地質学的な要因というよ
りは、OPEC の生産量コントロールによって生じている変化である。
図 2-8
世界の性状ごとの石油生産量実績
(出所)ENI
図 2-8 の具体的な性状区分は下記の通り。1-1-5 の区分とは異なる。
Ultra Light(API 50° 以上かつ硫黄分 0.5%以下)、
Light & Sweet(API35°∼50°かつ硫黄分 0.5%以下)、
Light & Medium Sour (API 35° ∼50°; 硫黄分 0.5%∼1.0%)、
Light & Sour (API 35° ∼50°; 硫黄分 1.0%以上)、
Medium & Sweet (API 26° ∼35°; 硫黄分 0.5%以下)、
Medium & Medium Sour (API 26°∼35°; 硫黄分 0.5% ∼1.0%)、
Medium & Sour (AP 26° ∼ 35°; 硫黄分 1.0%以上)
Heavy & Sweet (API 10°∼ 26°; 硫黄分 0.5%以下)、
Heavy & Medium Sour (API 10° ∼ 26°; 硫黄分 0.5%∼1.0%)
Heavy & Sour (API 10° ∼ 26°; 硫黄分 1.0%以上)
18
54
表 2-2
最近の世界の性状別原油生産量の推移
(出所)ENI
この他のトレンドとしては、軽質低硫黄原油(Light & Sweet)の生産量が減少し、中
質低硫黄原油の生産量が増加してきている。これは東南アジアやアフリカにおける軽質低
硫黄原油の生産量が低迷してきているのに対し、アフリカの深海での低硫黄原油の生産量
が増加してきていることがその背景にあると考えられる。
図 2-9
世界の各地域の平均原油性状
(出所)IEA(2011) Midterm Oil Market Report
原油性状は地域によっても一定の傾向がある。図 2-9 は各地域の平均原油性状を示す。
菱形の場所が世界の平均に比べた場合の各地域の平均性状、菱形の大きさが生産量の大き
さを示したものである。顕著な傾向でいえば、中東産原油は世界の平均値と比べて高硫黄
かつ軽質であり、旧ソ連はほぼ世界平均並み。アフリカは比較的低硫黄かつ軽質でラテン
55
アメリカは重質である。
今後の世界の性状別の原油生産について Purvin & Gertz 社の見通しを図 2-10 に示す
(原油の分類は 1-1-5 に同じ)
。今後の全体的な油種構成については、2010 年時点から、
そのシェア構成には殆ど変化が見られない見通しである。このため、今後供給される原油
の性状構成は原油フローに対し目立った影響を与えないと考えてよい。
図 2-10 世界の性状別の生産見通し
100
90
million b/d
80
70
高全酸価
60
重質高硫黄
50
軽質高硫黄
40
軽質低硫黄
30
コンデ
ンセート
20
10
2030
2029
2028
2027
2026
2025
2024
2023
2022
2021
2020
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012
2011
2010
0
(出所)Purvin & Gerts
(注) 本来であればコンデンセートの生産量が今後増加していくはずであるが、ここでは数値にはそれ
として表れていない。区分上、軽質低硫黄(API 比重が 30 以上で硫黄分が 1%未満)に含まれている可能
性がある。
2-1-3 中東における政治情勢の不安定化
供給サイドにおいて今後原油フローのあり方を変える可能性がある要因として、中東地
域における政治情勢の不安定化もあげられよう。元々、中東地域においてはほぼ 10 年間
に一度、大きな政治情勢の不安定化が起きるとされてきた。1973 年の第4次中東戦争とア
ラブ石油禁輸、1978 年から 79 年にかけてのイラン革命とその後の 1980 年以降のイラン・
イラク戦争、1990 年のイラクによるクウェート侵攻と湾岸戦争、2003 年のイラク戦争と、
2011 年のいわゆる「アラブの春」と呼ばれる反政府運動の台頭がそれである。これらの事
象が石油供給に与えた影響は、1973 年のアラブ石油禁輸や 2003 年のイラク戦争などのよ
うに短期的なものにとどまるケースもあれば、イラン・イラク戦争や湾岸戦争などある程
度中長期的な機関にわたって影響を及ぼすケースもある。特に、後者のような場合には、
原油の貿易フローにも構造的な影響を及ぼす要因となる。
その意味では、今後の動向としてまず注目されるのがイランの核開発をめぐる情勢であ
る。イランによる核関連技術の開発をめぐる欧米との政治的な対立は決して新しい問題で
56
はないものの、2011 年 12 月の米国における新たな対イラン制裁規定を含む法律(2012
年度国防授権法)の成立と 2012 年 1 月の EU によるイラン原油の禁輸決定と、欧米によ
るイランに対する制裁がここへきてさらに強化されつつある。一方のイラン側は、これら
の制裁が実施された場合には、ホルムズ海峡の封鎖も辞さないとする等、従来以上に両者
間の緊張関係が高まりを見せてきている。今後の展開は、欧米による制裁が実際のイラン
からの原油輸出にどの程度の影響を及ぼすか19、またイラン側によるその対応措置がどの
ようなものになるか(実際にホルムズ海峡封鎖という挙に出るかどうか)、によって大きく
異なってくる。しかし、この問題が短期的に解決される見込みは少なく、その意味では、
今後イランからの原油輸出が著しく減少することで、中東からの原油フローの動向にも何
らかの影響が出てくる可能性は十分にある。
また、これと併せて、昨年アラブ世界を席巻したいわゆる「アラブの春」がもたらす影
響も重要である。一連の反政府運動は現在、シリアなど一部の例外を除いて、鎮静化した
感がある。しかしながらその反政府運動の根幹にあった諸問題(政治的自由の欠如、所得
格差拡大に対する不満、若年層の失業など)は依然として解決されていないため、今後再
び同様の反政府運動が台頭する可能性は十分に存在している。仮に湾岸産油国や北アフリ
カ産油国において同様の反政府運動が発生し、その結果として現在の政治体制が打倒され
あらたな政治体制が構築されるようなことがあれば、そのプロセスにおいて、原油の生産
量も大きく減少する可能性もある。そのようなケースにおいては、やはりイランのケース
同様、中東からの原油フローにも大きな影響が及ぶ可能性もある。
2-1-4 原油輸送
今後の原油フローを考える上では、石油輸送面での新規インフラの可能性や輸送面での
制約要因の有無についても考慮する必要がある。
(1) 中国向けのパイプライン能力
まずパイプラインのインフラについては、今後は特に中国に向かうインフラの整備が進
むと考えられる。具体的には、既に開通しているロシアや中央アジアから中国に対するパ
イプラインの能力増強に加えて、新たにミャンマーから中国へのパイプラインが 2013 年
に開通する見通しである。
中央アジアから中国までの原油パイプラインは 2006 年に開通しており、2010 年実績で
20 万 B/D の原油が供給されている。今後は 2012 年内を目標に 40 万 B/D までの能力増強
が見込まれており、中国に対する原油フローの重要な一角を占めることになる。またロシ
19
例えばイラン原油の最大の輸入国である中国や第三の輸入国であるインドは、これらの一連の制裁に
もかかわらず、引き続きイランからの原油の購入を続けるとの姿勢を示している。
57
アからの原油パイプライン(ESPO パイプライン支線)も既に 2011 年に開通しており、
現在 30 万 B/D の原油が供給されている。このパイプラインについては、今後 60 万 B/D
までの能力増強が計画されている。
図 2-11 中国における輸入パイプライン網
(出所)石油エネルギー技術センター
なお、1-3-1 にて既に述べたとおり、現在ロシアの東シベリアから沿海州のコズミノ港
まで東シベリア太平洋石油パイプライン(ESPO パイプライン)の建設が進められている。
最終的な開通は 2012 年末になる見通しで、まだ全線は開通していないものの、途中を鉄
道輸送することで既にコズミノ港から 30 万 B/D の輸出がなされている。既述の通り、こ
のパイプラインは将来的には 100 万 B/D までの能力増強が計画されており、これが実現す
れば、今後の北東アジア市場に対する原油フローが大きく変わる可能性が高い。
(2) 北米に対するパイプライン輸送能力
今後の北米のパイプライン能力も、米国に対する原油フローに影響を及ぼしうる要因と
なる。2010 年 6 月から 2011 年 2 月にかけて整備された、カナダのパイプライン会社
TransCanada 社が操業する Keystone Pipeline の Phase 1 と Phase 2 パイプラインの開
通によってカナダおよび米国北西部からクッシングに対する原油の流入が進み、WTI 原油
の需給が大きく緩和したことは既に述べた。
58
図 2-12 Keystone Pipelineの開通状況
Phase-1は2010年 6月に完成。
59万B/D
Phase-3(51万B/D)が
完成すれば、カナダの
オイルサンドや沿線の
Shale Oilの 生産が増加
しCushingに大量に流
入する見込み
Phase-2は2011年2月に完成。
59万B/D
Phase-4(51万B/D)が
完成すれば、 Cushing
からメキシコ湾までのフ
ローが完成し、現在の
WTIとLLSないしは
Brentとの価格差が縮
小する見込み
(出所)TransCanada 社資料に日本エネルギー経済研究所加筆
このクッシングに至るパイプライン網については、TransCanada 社によって Keystone
Pipeline の Phase-3(Keystone XL)の建設計画も進められることになる。しかしながら、
この案件に対しては、米国国務省が 2012 年 1 月に建設申請を却下している。このため、
今後のカナダからの米国に対する原油フローについては、少なくともその増加のペースは
パイプラインが建設された場合と比べて滞ることになる。これに対し、2012 年 1 月、カ
ナダのハーパー首相はアジア太平洋市場向けに利用する太平洋向けパイプラインの建設可
能性に言及しており、今後のカナダからのパイプライン建設の動向が注目される。
また、カナダの Enbridge が、米国 ConocoPhillips から買収した Seaway Pipeline(メ
キシコ湾岸のヒューストン近郊からオクラホマ州クッシング地区まで原油を送るパイプ
ライン)の原油を湾岸に輸送する計画は、クッシングの原油在庫の解消を促すため、原油
フローに影響を及ぼすと考えられる。輸送能力は、2012 年第 2 四半期当初は 15 万 B/D
であるが、2013 年には 40 万 B/D まで増強される予定である。
(3) チョークポイントの航行量
パイプライン以外の原油輸送において、今後の原油フローの制約要因となりうる要因は、
現時点では顕著なものは存在していない。敢えて挙げるとすると、タンカー輸送における
所謂チョークポイントの航行量の動向が何らかの制約要因になる可能性もある。このよう
な具体的なチョークポイントの概要については、既に述べたとおりであるが、その中でも
特にホルムズ海峡とマラッカ海峡の航行量(原油及び石油製品)が重要となる。
まずホルムズ海峡の航行量であるが、日本エネルギー経済研究所の予測によると、2009
59
年実績の 1,700 万 B/D から 2030 年までに 720 万 B/D 増加し 2,420 万 B/D に達すると予
想される20。現在原油を輸送するタンカーとしては最大の船形である VLCC(Very Large
Crude oil Carrier)
に積載できる数量が 190 万∼200 万バレル程度であるので 1 日に VLCC
が最大で 4 隻航行量が増えることになる。しかし、ホルムズ海峡は安全保障上の懸念を除
けば、地形的にはさほど厳しい場所ではないため、このホルムズ海峡の混雑が原油フロー
に影響を及ぼす可能性は考えにくい。
図 2-13 ホルムズ海峡航行量の予測
2009年
2030年
720万B/Dの増加
2,420万B/D
1,700万B/D
(出所)日本エネルギー経済研究所
一方、マラッカ海峡の航行量の展望については、2009 年実績の 1,300 万 B/D から 2,400
万 B/D にまで 1,100 万 B/D もの増加が見込まれる。この増加量自体はホルムズの増加量
よりも大きく、またマラッカ海峡は地形的にホルムズ海峡に比べて幅が狭く水深も浅いた
め航行路が限られることから、今まで以上に船舶の輻輳状態が悪化することが避けられな
い。
しかしながら、このような状況下、航行に要する時間が若干延びることはあっても、マ
ラッカ海峡を通過する原油フローそのものが大きく変わる可能性は今のところ見られない。
むしろ、今後はこのような航行量の増加に対し、周辺海域の海賊対策や油濁事故発生時の
緊急時対策等の面で、周辺国との間で周到な準備を行っておくことが重要となる。
20
2009 年実績は米国エネルギー情報局発表値
60
図 2-14 マラッカ海峡航行量の予測
2009年
2030年
1,100万B/Dの増加
2,400万B/D
1,300万B/D
(出所)日本エネルギー経済研究所
(4) パナマ運河の拡張
航行インフラの増強という観点では、現在パナマ運河の拡張工事が進められている。パ
ナマ運河は、中米パナマ共和国のパナマ地峡を開削して太平洋とカリブ海を結んでいる運
河であり、全長約 80km、最小幅は 91m、水深は一番浅い場所で 12.5m となっている。パ
ナマ運河は閘門(こうもん)式運河と呼ばれる運河で、航行路の途中で水位を調整するた
めの装置が存在する運河である。世界の海上貿易が活発化する中で、その航行能力の限界
が認識されることとなり、2006 年から航行能力の拡張工事が開始されており、2014 年に
完成が予定されている。この拡張工事が完成すると、原油タンカーの場合には、17 万載貨
重量トン(dead weight tonnage, DWT:主に船舶が積載可能な貨物の重量を示す)、長さ
270m∼280m、幅 40m∼45m の船舶が航行可能となる。
ただ、このパナマ運河の拡張は原油のフローにはさほど大きな影響を及ぼさないものと
考えられる。運河の拡張によって航行できる船舶のサイズが大きくなるものの、いわゆる
VLCC と呼ばれるサイズのタンカーは航行ができないため、大量の原油輸送を行うことは
依然として出来ない。現在、南米のベネズエラが中国に原油を供給しているが、この事例
を除けばカリブ海から太平洋へ輸送するような原油のフローは現在存在していない21。こ
のため、このパナマ運河の拡張は現在の原油の貿易フローに大きな影響を及ぼすことはな
いと考えられる。
2-1-5 バイオ燃料の導入促進
石油供給サイドにおける新たな供給源という意味では、今後バイオ燃料の導入促進が予
想される。バイオ燃料の導入については、気候変動対策という観点だけではなく、国産の
液体燃料の増産を図ることを通してエネルギー安全保障の確保を図る、ないしはバイオ燃
料に対する補助金供与を通して政治的にも影響力のある国内農業の保護を行うことができ
日本では 2007 年、三井物産と丸紅がベネズエラ石油公社(PDVSA)との間で締結した「融資買油」契
約(15 年間)に基づいて、ベネズエラ産原油(サンタバーバラ)が 90 万バレル輸入された。
21
61
るという理由も、その導入促進の背景にある。
2009 年時点の世界のバイオ燃料需要は 110 万石油換算 B/D であり、世界全体の石油(液
体燃料)需要の 3%を占める。国際エネルギー機関の見通しによると、バイオ燃料の供給
は今後も増加を続け、2035 年には 440 万石油換算 B/D に達すると見られているが、同時
に世界の石油需要も増加を続けるため、2035 年時点でのバイオ燃料のシェアは現状の水準
のほぼ 2 倍の 6%程度に過ぎない 22。このため、マクロ的な観点からみれば、世界の原油フ
ローに対しては有意な影響をもたらさないと見ることもできるかもしれない。
図 2-15 は世界のバイオ燃料の貿易フロー図を示したものである。そのフローの中心には
ブラジルが位置しており、ブラジルが世界のバイオ燃料フローにおいては非常に大きな存
在感を有していることが分かる。わが国でも、今後のバイオ燃料導入に際してはブラジル
が重要な供給源として位置づけられている。しかしながら、上述の通り、バイオ燃料の規
模そのものが原油の貿易に比べれば、まだそのシェアは低く、世界全体の原油のフローに
及ぼす影響も限定的である。
図 2-15 バイオ燃料の貿易フロー
(出所)IEA、World Energy Outlook 2010
しかしながらこのバイオ燃料の動向をよりミクロ的に見てみると、現在のバイオ燃料消
費の多くが米国やブラジルなどごく少数の国に限られており、今後の生産・消費も米国や
ブラジルを中心に伸びていくことが予想されている23。今後のバイオ燃料の生産見通し(図
2-16)によると、今後は中国を始めとする途上国アジアの生産量が伸びては行くものの、
やはり絶対量では、現状と同じように米国とブラジルがその増産の原動力となっているこ
22
23
IEA、World Energy Outlook 2011
IEA、World Energy Outlook 2010
62
とが分かる。
図 2-16 今後のバイオ燃料の生産見通し
(出所)IEA、World Energy Outlook 2010
米国の今後の石油(=液体燃料)の需要見通しを見てみると、米国エネルギー情報局の
見通しによれば、2009 年時点で 76 万 B/D のバイオ燃料需要があり、これが 2035 年には
248 万 B/D にまで増加する見通しである。図 2-17 によると、今後の米国の石油需要自体
は今後も増加していくことが予想されているものの、その増加分はバイオ燃料の増加によ
って賄われ、天然ガス液(NGL)を含むいわゆる石油の需要は、今後は現状並みの需要を
維持する程度にとどまることがわかる。従って、バイオ燃料の需要自体は原油フローその
もののあり方に影響を及ぼすほどの規模にはなり得ないものの、米国における原油輸入の
減少の一つの要因にはなりうると考えられる。
図 2-17 米国における今後の液体燃料の需要見通し
(出所)米国エネルギー情報局、Annual Energy Outlook 2011
63
2-1-6 シェールガス
最後に、長期的な観点から原油フローに影響を及ぼしうる供給側の要因として挙げられ
るのがシェールガスである。シェールガスそのものは現在、米国内の天然ガス生産量の
14%を占めているが、今後は増産が続き、2030 年時点では 46%と全体の生産量の半分近
くにまで到達する見通しとなっている。
図 2-18 米国におけるシェールガスの生産見通し
30.0
25.0
TCF
20.0
その他
洋上
15.0
シェールガス
10.0
CBM
タイトガス
5.0
2029
2027
2025
2023
2021
2019
2017
2015
2013
2011
2009
0.0
(出所)米国エネルギー情報局
図 2-19 米国における主なシェールの開発コスト
8.0
7.0
6.0
$/mcf
5.0
4.0
3.0
2.0
64
Bakken
Hilliard
New Albany
Lewis
Niobrara
Horn River
NW Ohio
Palo Duro
Marcellus T-3
Utica
Haynesville T-3
Floyd/Chatanooga
Antrim
(出所)ライス大学ベーカー研究所資料
Woodford
Barnett T-2
Marcellus T-2
Woodford Arkoma
Montney
Eagle Ford
Faytetteville
Haynesville T-2
Mowry
Marcellus T-1
Barnett T-1
0.0
Haynesville T-1
1.0
足元では非在来型天然ガスのコスト低減も進んでいるが、そのコストの状況は開発対象
のシェールによって大きく異なる。図 2-19 は米国ライス大学のベーカー研究所が推定した
各主要シェールの開発コストであるが、対象となるシェールによってその水準は大きく異
なること、また同じシェールであってもその開発難易度によってそのコスト水準が異なる
ことが分かる。
今後のシェールガスの生産量が原油フローに影響を及ぼす可能性については、米国にお
ける石油需要への影響を介しての影響が考えられる。図 2-20 に示す通り、熱量換算をすれ
ば米国内のガス価格と原油価格との価格差は大きく、この価格差はさらに拡大していくと
の見通しすらある。しかしながら、今後両者間での価格差を活用した需要の代替が進めば、
米国ではさらに原油の輸入需要が抑制され、原油フローにも影響が及ぶ可能性は否定でき
ない。
この点では輸送部門における代替が鍵を握る。図 2-21 に示す通り、米国における石油需
要の過半は輸送部門であり、この部門における石油から天然ガスへの代替が進めば価格差
の収斂や石油需要の抑制効果が期待される。しかし、この分野では近年 CNG 自動車の導
入や、LNG トラックの導入、GTL プラントの建設等、様々な構想が持ち上がってきてい
るが、いずれも本格的に石油需要を代替する規模のものになるには時間がかかる可能性が
高い。従って、シェールガスが原油フローに目立った形で影響を及ぼすようになるケース
は、あくまで長期的なスパンでの事象になると考えられる。
図 2-20 米国の原油価格とガス価格の見通し
図 2-21 米国における石油ガス需要構造
million toe
ガス
業務用
900
石油
20
$/mmbtu
その他
1000
25
発電用
800
輸送用
700
産業用
家庭用
15
600
500
10
400
300
5
200
100
(出所)米国エネルギー情報局
0
2030
2027
2024
2021
2018
2015
2012
2009
0
石油
(出所)米国エネルギー情報局
65
天然ガス
2-2 需要サイドから影響を与えうる要因
今後の原油フローには、供給サイドだけではなく、需要サイドの要因も影響を及ぼす。
本節ではそのような需要サイドの要因として、中国やインド等のアジア諸国での旺盛な経
済成長に伴う化石燃料需要の急増、製品需要の軽質化および革新的技術の普及(次世代自
動車・省エネの進展等)による消費構造の変化についてまとめておく。
2-2-1 アジア・中東などの新興国における需要の拡大
世界の石油消費量は今後も増加を続ける。日本エネルギー経済研究所の予測によると、
世界の石油消費は 2009 年の 8,100 万 B/D から、2035 年には 1 億 100 万 B/D へと年率 1.2%
で増加する見通しである。地域別では、この増加分の約 6 割はアジアに起因し、部門別で
見ると増加分の約 6 割が運輸部門より生じる。アジアの運輸部門、すなわちアジアにおけ
るガソリン、軽油、灯油(ジェット燃料)がこれからの世界の消費を引っ張っていくこと
になる。
先進国の石油消費は 2005 年以降、減少を続けており、2009 年から 2035 年にかけても、
引き続き、年率マイナス 0.3%で減少するものと想定される。その一方で、途上国では年率
2.2%で増加することが予想されており、この結果、先進国が世界の石油消費に占めるシェ
アは、2009 年の 49%から 2035 年には 33%へ減少するが、途上国のシェアは、2035 年に
は 67%へ増加し、その中で特にアジアのシェアは、30%から 38%へ拡大する。
図 2-22 今後の世界石油需要見通し
5000
石油換算百万トン
14億トン
29%
4000
23%
その他
17%
3000
23%
欧州
16%
2000
24%
北米
1000
38%
30%
0
1971
1980
1990
2000
(出所)日本エネルギー経済研究所
66
2009
アジア
2020
2030 2035
アジアの石油消費は、2009 年の 2,270 万 B/D から、2035 年には 4,050 万 B/D へ年率
2.3%で増加する。地域別では、この増加分に対して中国が約 5 割、インドが約 3 割を占め、
部門別でみると、増加分の約 8 割が運輸部門に起因し、次いで民生(農業含む)が約 2 割
を占める。特に中国の石油需要は、急速なモータリゼーションの進展で 2009 年の 770 万
B/D から、2035 年には 1,630 万 B/D に拡大すると予想される。国内石油生産の増大が見
込めないことから、石油の輸入依存度は 2009 年の 49%から 2035 年には 76%へと上昇す
る。
図 2-23 今後のアジア石油需要見通し(国別)
年平均伸び率
1980-2009
2009-2035
中国
5.1%
3.0%
インド
5.6%
3.5%
日本
-0.5%
-1.2%
インドネシア マレーシア
フィリピン
0.7%
3.1%
4.1%
2.4%
3.8%
2.1%
韓国
4.3%
0.3%
台湾
2.4%
0.8%
シンガポール
2.8%
0.9%
タイ
ベトナム 他アジア
4.7%
7.8%
3.5%
1.6%
4.9%
4.5%
2000 石油換算百万 ト ン
1000
中国
日本
台湾
マレーシア
タイ
シンガポール
他アジア
インド
韓国
インドネシア
フィリピン
ベトナム
香港
技術進展
7%
20%
日本
インド
18%
15%
35%
0
1971
1980
1990
2000
2009
42%
中国
2020
2030
2035
(出所)日本エネルギー経済研究所が予測
また世界最大の原油輸出地域である中東においてもエネルギー需要は急増していく。例
えば、サウジアラビアにおいては 2009 年時点の生産量に対する国内消費の割合が 21%で
あるが、このまま目立った省エネ策が導入されなければ、2035 年にはこのシェアが 46%
にまで上昇すると予想される。中東産油国のような資源供給国における国内需要の増加は、
輸出量の停滞を通して資源国にとっての輸出収入確保がより困難になることも意味してお
67
り、輸出量を維持・拡大するための上流開発投資の加速化の必要性など、国際石油市場の
安定を考える上でも重要な問題を投げかけている。
以上のように、今後の世界の石油需要は途上国がけん引していくことになり、その中で
も特にアジアが今後の世界の石油需要の中心となっていく。原油フローへの影響という観
点では、地理的に近い中東はもちろんのこと、ロシアやアフリカなどといった産油国から
も多くの原油がアジア市場に流入してくることが確実である。
2-2-2 製品需要構成の変化
世界の石油需要が地理的な観点からは途上国、特にアジアに集中していくのに対し、世
界の石油需要はますます軽質の石油製品、特に軽油とガソリンの需要が今後拡大していく
ことが予想される。そのような軽質石油製品需要の増大をけん引するのがモータリゼーシ
ョンの進展である。世界の自動車保有台数は 2009 年の 10 億台から、2035 年には 19 億台
まで増加すると予想される。特にアジア途上国では、所得水準向上により、モータリゼー
ションが一層進展し、アジアの自動車保有台数は 2008 年の 2.2 億台から、2035 円には 6.8
億台へと増加し、世界の自動車保有台数増加量の約 4 割がアジアに集中する。一方、世界
の自動車保有台数に占める先進国のシェアは、2009 年の 69%から 2035 年には 47%へ減
少し、途上国のシェアは 31%から 53%へ増加し、2035 年までに途上国の保有台数が先進
国を上回る見通しである。
図 2-24 自動車保有台数(世界)
2000
100万台
19億台
9億台増
1500
その他
10億台
1000
17%
34%
500
21%
24%
欧州
19%
北米
27%
36%
22%
0
1971
1980
1990
2009
アジア
2020
2030 2035
(出所)日本エネルギー経済研究所
今後の石油需要の動向には、自動車における燃費の改善や、ガソリンの代わりに電気を
68
用いる次世代自動車の普及も大きな影響をもたらすと考えられる。このような燃費の改善
は今後の自動車部門における技術進展の度合いによって大きく左右される。そこで、ここ
では基準ケースとしてのレファレンスケースと利用可能な最新技術が最大限導入されると
仮定する技術進展ケースの2つのケースについて、燃費の想定を行い、石油需要の予想を
行ってみた。
その際の前提の数値として、次世代自動車の普及見通しと燃費の見通しの数値をそれぞ
れ図 2-25 と図 2-26 に示す。レファレンスケースでは、2035 年時点で保有台数の約 2 割
がハイブリッド車となり、プラグインハイブリッド自動車も 3%を占めると想定した。ま
た技術進展ケースでは、
保有台数の約 4 割がハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、
電気自動車、燃料電池自動車等が約 3 割を占め、クリーンエネルギー自動車が、保有台数
全体の 3 分の 2 を占めるとの前提を置いた。
図 2-25 省エネ・次世代自動車普及見通し
【自動車保有台数の構成】
100%
1%
3%
11%
【年間販売台数の構成】
100% 1%
5%
14%
20%
16%
80%
28%
80%
2%
23%
2%
60%
クリーンエネルギー
自動車
の導入シェア
(2035年)
電気自動車・
燃料電池自動車
25
60%
39%
99%
40%
゙
ハイブ
リッ
ト
自動車
99%
40%
75%
50%
1%
20%
64%
33%
20%
1%
11%
0%
0%
レファレンス
2005
技術進展
2035
レファレンス
2005
2035
技術進展
レファレンス
リッ
ト
゙
プ
ラグ
イン・ハイブ
%
自動車
技術進展
天然
ガス車
67 %
クリーンエネルギー
自動車の
年間販売シェア
(2035年)
内燃機関自動車
(ガソリン車、
ディーゼル車)
レファレンス
36 %
技術進展
89 %
(出所)日本エネルギー経済研究所
なお、乗用車の燃費の見通しについて、技術進展ケースにおける 2035 年の乗用車保有
燃費は、
プラグインハイブリッド自動車、電気自動車等の次世代自動車の普及拡大により、
レファレンスに比較して 24%改善すると置いた。
69
図 2-26 乗用車燃費の見通し
新車燃費
30
km/L
20
35%up
25
15
2005年
km/L
12 km/L
24
24%up
16
20
新車燃費
保有燃費
↓
2035年
16
レファレンス 技術進展
13
18
18 km/L 24 km/L
12
(1.4倍増) (2.0倍増)
9
12
保有燃費
8
10
2005年
5
0
レファレンス
2005
4
9.1
0
↓
2035年
技術進展
レファレンス 技術進展
2035
2005
km/L
レファレンス 技術進展
13 km/L 16 km/L
2035
(1.4倍増) (1.7倍増)
(出所)日本エネルギー経済研究所
図 2-27 今後の製品別需要見通し
レファレンスケース
技術進展ケース
2,500
ガソリン
ジェット燃料油
軽油
2,000
2,500
ナフサ
灯油
重油
ガソリン
ジェット燃料油
軽油
2,000
1,500
ナフサ
灯油
重油
m toe
m toe
1,500
1,000
1,000
500
500
2050 年
2035 年
2030 年
2020 年
2015 年
2009 年
1990 年
2000 年
0
2050 年
2035 年
2030 年
2020 年
2015 年
2009 年
2000 年
1990 年
0
(出所)(財)日本エネルギー経済研究所が予測
このような輸送部門における異なる前提を置いた2つのケースの下での今後の世界の石
油需要の見通しを示したのが、図 2-27 である。レファレンスケース、技術進展ケースとも
に今後は軽油、ガソリンの伸びが大きく、重油の伸びは小さいという点は共通している。
しかしながら2つのケースを比較すると、レファレンスケースにおいては石油需要が増加
を続けていくのに対し、技術進展ケースでは世界の石油需要が 2030 年時点でピークを打
つことになっている。特に軽油・ガソリンといった軽質の石油製品は、次世代自動車の浸
透によって徐々に需要が減退していくことが想定されている。他方、技術進展ケースにお
70
いては主に途上国における産業用で用いられる重油の消費自体は引き続き伸びていくこと
から、石油需要全体に占める重油の需要は再び高まっていくことが予想される。
以上の分析、特に技術進展ケースの見通しについては、前提条件が非常に厳しく、この
ケースそのものが実現する可能性はさほど高くないかもしれない。しかし、傾向としては
これと近い需要パターンになる可能性もあり、その場合には、原油のフローにも影響が及
ぶことになろう。特定の地域から特定の地域に対する原油の貿易量と併せて、軽質の石油
製品の比率構成が変わることで、生産・貿易される油種構成にも影響が出てくる可能性が
ある。
2-2-3 精製能力の増強動向
中国やインド等のアジア諸国での旺盛な経済成長に伴う石油需要の増加や、欧米先進各
国の燃料品質規制強化に対応する為、精製設備の増強計画が次々と発表されている。その
中では、特に中国 3 大石油会社(CNPC、SINOPEC、CNOOC)の増強計画が、世界の
増加見通しの中でも大きなシェアを占めている。具体的には、世界の原油常圧蒸留装置
(CDU)能力は、2011 年から 2016 年にかけて 960 万 B/D 増加すると見られているが、
そのうち中国は全体の3分の1に相当する 330 万 B/D(全部で 29 案件)を占め、特に 2015
年に 94 万 B/D、2016 年に 86 万 B/D の増強計画と一年で 100 万 B/D 近い処理能力の増強
計画を持っている。中国は石油製品の自給体制を確保することを国の基本方針に掲げてお
り、これらの能力増強により、中国国内の石油製品需要にほぼ対応できるものと予想され
ている。一方、今後中国と並んで石油需要の急速な増加が見込まれている中東においても
230 万 B/D(全部で 13 案件)の計画があり、2013 年には 50 万 B/D、2015 年には 80 万
B/D の増強を図る見通しである。
図 2-28 今後の地域別精製能力増減見通し
2,500
2,000
アフリカ
中東
'000 b/d
1,500
ラテンアメリカ
その他アジア
1,000
中国
非OECD欧州
500
FSU
0
OECD
-500
2010
2011
2012
2013
71
2014
2015
(出所)IEA 「Medium-Term Oil & Gas Markets 2011 」
分解装置としては、2011 年から 2016 年にかけて、世界全体で 690 万 B/D の増強計画
があり、中国が 170 万 B/D、その他アジアが 120 万 B/D、中東が 110 万 B/D となってい
る。同じく、脱硫装置としては、2011 年から 2016 年にかけて、730 万 B/D の増強計画が
あり、中国が 230 万 B/D、ラテンアメリカが 120 万 B/D、中東が 120 万 B/D、その他ア
ジアが 110 万 B/D となっている。
図 2-29 2 次装置種別精製能力増強計画
2,500
分解装置
脱硫装置
'000 b/d
2,000
1,500
1,000
500
0
OECD
FSU
非OECD
欧州
中国
その他
アジア
ラテン
アメリカ
中東
アフリカ
(出所)IEA 「Medium-Term Oil & Gas Markets 2011 」
今後は欧米や日本において精製能力の縮小が続く一方で、中東やインドにおいて大型の
輸出製油所の建設が計画されている。また石油製品需要が増大するアジアやアフリカにお
いては、製油所の建設が進まず、石油需要は製品輸入でまかなう国も増えてくると予想さ
れる。そうした中では、今後精製能力と石油製品需要の地理的なギャップが拡大していく
可能性があり、
原油のフローを考える上では、需要そのものが大きいところというよりは、
特定の精製センターのような国や地域に原油のフローが集中するというケースも考えられ、
今後の原油フローの姿にも大きく影響を及ぼす可能性がある。
2-2-4 消費国・産油国の国営石油会社の影響力拡大
数年前から石油メジャーを始めとする国際石油資本(International Oil Companies:
IOC)がより収益性の高い分野へのシフトを強め、下流部門の製油所経営や、燃料油販売
事業からの撤退を加速させて来ている。その一方で、産油国や消費国の国営石油会社
(National Oil Companies: NOC)は、最低限の採算性には留意しつつも、自国のエネル
72
ギー安全保障確保を考慮した、IOC とは異なる論理での投資や貿易を行うようになってき
ている。
その典型例としてよく指摘されるのが中国や韓国の NOC による海外の権益取得行動で
ある。これらの NOC の中には、部分的に株式を上場しているものもあるものの、基本的
には過半数の株式は本国政府が所有しており、四半期ごとに投資家に対する収益の報告責
任のある IOC と比べて投資回収の時間軸も長く、そのハードルレートも低いと考えられる
24 。
図 2-30 今後の NOC の生産量とシェアの動向
(出所)IEA、World Energy Outlook 2011
図 2-30 は将来の石油生産量における NOC の生産比率を示したものであるが、今後は
2035 年にかけて世界の石油生産量の3分の2が NOC からの生産によるものになっていく
ことが分かる。今後の世界の石油生産における NOC の影響度が拡大していくとともに、
今後の原油フローのあり方を考える上でも、この NOC が自社の産出原油をどのように販
売していくかという点は、非常に重要な要素となる。
また今後の原油フローという観点からは、産油国の NOC による消費国の下流資産への
投資、また消費国(特に中国)の NOC による特定の産油国に対する低利の融資との引き
換えの原油の引き取りが注目される。産油国の下流資産への投資は、その投資対象の下流
資産に対する原油の供給とパッケージになっていることが多く(Equity for Oil と呼ばれ
る)
、安定的な原油の供給先を確保するという意味で、産油国のエネルギー安全保障に資す
る(いわゆる需要セキュリティ)と考えられており、資金力のある中東の NOC が積極的
にこのような投資を行っている。また安定的に原油の供給がなされるという観点からは、
24
なお、中国の NOC による海外での資源権益買収が、曲がり角を迎えていることも指摘されている。
事前の調査不足などから、買収後の運営が不調に陥る案件が相次いで発覚し、収益性への懸念から、計画
を撤退する事例も出始めている。CNPC は、イランで仏石油大手 Total に代わって 47 億ドルで所得した
南パルスガス田の採掘を見合わせている。政情不安のリビアでは、CNPC が権益を取得した多くの油田
が、開発・生産中止に追い込まれ、多額損失発生のリスクを抱える。CNPC は、カナダでも天然ガス権
益の約 4,200 億円での買収計画を、採算が合わないとして撤回した。
73
消費国の側からも歓迎される投資でもある。
一方、消費国の NOC による低利融資と原油供給については、産油国に対し、特に中国
等資金力のある消費国が一度に低利のソフトローンを提供し、その返済を現物の石油で返
却するという取引となっており(Loan for Oil と呼ばれる)、資源はあるが資金がないとい
うベネズエラのような産油国との間で実施されている取引である。この際、現物で返却さ
れる原油や国際価格と比べて割安な価格で提供される内容になっていることが多く、消費
国にとってもメリットのある内容になっている。このような一連の取引の事例を表 2-2 に
まとめる。
表 2-2
NOC の事業動向
国名
1
事業動向
Saudi Aramco ・日本(昭和シェル)・中国(Sinopec福建)・韓国(S-Oil)の製油所権益を取得し、自国原油を販売
(サウジアラビ ・沖縄の備蓄基地 を借り上げ、アジア向け原油販売に活用
・石油トレーディング専業の子会社設立
ア)
2
IPIC
(アブダビ)
・日本(コスモ石油)、スペイン(CEPSA)の製油所権益を取得
・ホルムズ海峡をバイパスするパイプラインを建設
3
KPC
(クウェート)
・中国に製油所建設を行い、自国原油を販売する計画
4
CNPC
(中国)
5
Petrobras
(ブラジル)
6
Rosneft
(ロシア)
7
PDVSA
(ベネズエラ)
・JX大阪製油所 に資本参加し、製品を中国南部市場 へ輸出
・ブラジル、ベネズエラ、ロシアとLoan for Oil契約で原油を調達
・ミャンマー、中央アジア、ロシアからの原油輸入パイプラインを建設(ロシア・中央アジアは既に実現)
・沖縄・南西製油所を傘下に置き、自国原油とバイオ燃料を持ち込み、アジア製品市場を攻略する計画 →
その後計画見直しを表明
・ ドイツ製油所権益を取得し、自社原油の販売を行う計画
・イランへのガソリンを輸出
・リーマンショック後に米国に安価に製品を輸出
・中国・ベトナムで製油所を建設し、自国原油を販売する計画
(注)2.の IPIC は、アブダビ国営石油会社とアブダビ投資庁との合弁の投資ファンドであり、厳密には
国営石油会社ではなく、その投資形態も国営石油会社としての投資というよりは純粋な投資ファンドとし
ての性格が強いとも言われている。
(出所)日本エネルギー経済研究所
これらの取引の規模自体は、近年拡大傾向にあり、その意味では世界の原油フローに対
し一定の影響力を持つようになってきている。特に南米からアジアへの原油フローについ
ては、地球を約半分移動するような原油の輸送がなされていることになり、民間企業では
ない政治的な意思が伴う NOC という事業形態ならでは取引の賜物であるといえる。今後
NOC の存在感が高まっていくことが予想される中で、このような原油貿易における「政
府ビジネス」的な取引が増えていくことも考えられる。長期的に見れば、これらの取引の
中でも経済性に見合わないものについてはいずれ継続する可能性が難しくなっていくと考
えられるが 25、今後世界的にエネルギー安全保障に対する関心が高まっていけば、このよ
25
例えば、本文中の表にも記したように、南西石油を買収した Petrobras は、当初計画どおりの投資や
輸出を行うことが出来ず、同社の権益を売却する可能性を示唆している Reuters(電子版)2011 年 11 月
74
うな政治的な意図が働いている貿易フローがさらに増加する可能性も否定できない。
2-2-5 福島第一原子力発電所での事故の影響
最後に 2011 年 3 月に発生した福島第一原子力発電所での事故が今後の石油需要の構成
に影響を及ぼす可能性も否定はできない。今回の事故を契機としてドイツヤイタリア、ス
イスなどでは脱原子力政策が展開されており、このような政策が今後の発電用の石油需要
に影響を及ぼす可能性も考えられる。
しかしながら、これらの脱原子力政策を展開している国々において石油火力はほとんど
用いられていないないため、その影響はほとんどないといってよい。今後何らかの影響が
考えられるのは現時点で石油火力への依存度が高い日本や中東であり、特に中東において
は、今回の事故は原子力の導入が停滞することで、発電部門における石油需要を引き上げ
る効果を持つ可能性がある。特に、クウェートなどにおいては、今回の事故を契機に、原
子力の導入を見送ったという報道もなされており、今後も発電部門における石油依存が高
い状態が続くことが想定される。
2-3 将来の原油フローの展望
本節では、前述された様々な要因を踏まえ、定量的な方法を用いて中期的な(2020 年時
点)原油フローの分析を行う。また、単に将来のフロー分析の見通しを行うだけではなく、
今後起こり得る事象を考慮した異なるシナリオの下で、原油フローにどのような変化がも
たらされるかについても検討する。
2-3-1 モデルの概要
(1) モデルの概要
原油フローの分析には、
「世界エネルギー需給モデル」及び「世界石油精製・貿易フロー
モデル(Linear Programming Model:線形計画(LP)モデル)」
(以下「LP モデル」)を
使用する。
「世界エネルギー需要モデル」によって得られた石油製品別最終部門の需要量や
石油製品転換部門の需要量の見通しを、LP モデルの前提条件に用いて、各国の需給バラ
ンスに応じた貿易フローを導くことを目的とする(図 2-31)。
7 日、(http://www.reuters.com/article/2011/11/07/us-japan-petrobras-idUSTRE7A618K20111107)。
75
図 2-31 線形計画モデルを用いた原油フロー分析の概念図
世界エネルギー需要モデル
前提条件
GDP、人口、原油価格、
為替、インフレ率等
部門別エネルギー源別最終需要量 (最終消費部門)
発電量及び発電用各種燃料投入量 (転換部門)
一次エネルギー源別需要量(一次エネルギー部門)
石油製品別最終需要量
石油製品転換部門需要量
石油製品国内消費量 (最終消費+転換部門消費 +バンカー)
精製・輸送前提条件
油種別生産量、生産コス
ト、輸送コスト、パイプ
ライン建設計画、製油所
建設計画等
世界石油精製・貿易フローモデル
石油製品別生産量 ・貿易フロー
精製設備稼働状況
供給コスト構成
出所:日本エネルギー経済研究所
エネルギー需給モデルは、世界を 43 地域・国に区分し、人口や GDP などの前提条件及
び IEA の各国別エネルギーバランス表に基づいて、エネルギー源別、部門別の需要関数か
ら構成される計量経済モデルである。石油に関しては、製品別に需要を推計する。本モデ
ルは、エネルギーバランス表の最終エネルギー需要部門→転換部門→一次エネルギー供給
部門の順でエネルギー需要を推計し、需給がバランスするように算出される(図 2-32)。
最終エネルギー需要部門は、産業、運輸、民生、非エネルギー部門から構成される。転
換部門では、最終需要で推計された電力需要を満たすための総発電量が、最終電力需要量
の関数として推計される。さらに、その発電量から外生変数として与えられている原子力
発電、水力発電、地熱発電等を差し引いたものが化石燃料による火力発電として用いられ
る。化石燃料の投入量は、外生的に与えられる火力発電の平均効率によって推定される。
燃料別の内訳はシェア関数で推計するか、石油投入量のシェアの推定と天然ガスの外生化
によってそれぞれ求められる。最後に、エネルギー源別化石燃料の一次需要量が発電用投
入量と最終消費部門の需要量の合計として算出される 26。
26
日本エネルギー経済研究所(2006)「アジア地域を中心とする世界の原油及び石油製品需給分析」
76
図 2-32 エネルギー需要モデルのフローチャート
出所:日本エネルギー経済研究所
次に、LP モデルを用いて、エネルギー需給モデルによって推算された世界のエネルギ
ー需要及び石油製品需要を基に、石油の貿易フローを分析する。本モデルでは、図 2-33
のように、原油の選択から始まり、精製処理プロセスを経て石油製品の生産、輸出入に至
るまで、原油処理コストと製品貿易を合わせて、世界全体で総コストが最小になるような
最適解を求める。目的関数の概念は次の式の通り。
総コスト=(原油価格+精製コスト+貿易コスト)
77
図 2-33
原油選択
原油処理
地域
LP モデルの計算フロー
2次装置
ブレンダー
稼動量
(地域分割)
蒸留
(留分別)
原油種
(代表的油種)
脱硫
基材油調合
(比率)
分解
製品
地域
(オクタン価、
硫黄分)
(地域分割)
改質
数量
製品輸出入
品質規格
製品油種
(代表的油種)
生産量
数量
設備能力
価格
非化石燃料
(バイオなど)
自家燃他
フレート
需要量
フレート
(燃料、電力、蒸気、水素)
内生変数
外生変数(前提条件)
出所:日本エネルギー経済研究所
LP モデルでは、アメリカ、カナダ、中南米、西欧、ロシア・旧ソ連、アフリカ、中東、
中国、日本、台湾、韓国、アセアン諸国、南アジア、オセアニア、シベリアの 15 の地域・
国を対象としている。原油選択のため各地域の代表的な油種 30 種を選定し、原油毎に製
品の収率、硫黄分含有率を設定している。また、製油所に関しては、地域毎に常圧蒸留装
置並びに代表的な 2 次装置の能力と運転コストを設定している。
(2)主要な前提条件
当調査の LP モデル分析では、2020 年を試算の対象としている。まず、エネルギー需要
に影響を及ぼす重要な要因とされる人口と経済成長の見通しを前提条件として設定する必
要がある(表 2-3)
。世界の人口の想定については、最新の国連の予測等を参照している。
世界人口は 2020 年にかけて年平均 1.1%の増加基調で推移する。先進国では、人口の増加
率は緩やかなテンポになると考えられるが、途上国では人口が堅調に増加していく見通し
となっている。
表 2-3 人口及び経済成長の見通し(2009∼2020 年)
( 単位:年間伸び率%)
人口
GDP
中国
インド
日本
北米
中南米
0.4
7.8
1.7
9.1
-0.3
1.9
0.9
3.5
1.1
4.8
欧州
OECD
0.4
2.1
欧州 アフリ
カ
非OECD
0.1
2.3
4.9
4.2
中東
1.9
4.6
オセア
ニア
1.2
4.0
出所:日本エネルギー経済研究所
GDP 成長率についても、アジア開発銀行や IMF のような国際機関による予測や各国政
78
府発表の計画値等を参考に想定した。
中長期的には、
世界経済は堅調に推移すると想定し、
2020 年までに年平均 3.8%の成長を維持すると設定した。中国やインドのようなアジア経
済が世界経済の牽引役となる傾向は続くと考えられる。
本モデルで用いている原油については、世界の全ての算出原油を 30 の主要な油種及び
NGL で代表させている。この原油価格も原油フロー分析において重要な要因となるが、
これは、Petroleum Intelligence Weekly で発表された積荷港(FOB)における月毎の原
油価格を本稿執筆時点で該当油種すべてについて入手可能な 2010 年の平均値で参照して
いる(表 2-4)
。本モデルにおいて用いられている 30 油種の前提について下表に示す。
表 2-4 主要な油種の前提
WTI
アラスカノーススロープ
コールドレイク
シンクルードスウイート
イスマス
マヤ
ティアファーナライト
マーリム
ウラル
ESPO
ブレント
エコフィスク
イラニアンライト
イラニアンヘビー
クウエート
オマーン
アラビアンライト
アラビアンヘビー
マーバン
スエズブレンド
エスンダル
サハラブレンド
ボニーライト
ガビンダ
スマトラライト
デュリー
タピス
セリアライト
大慶
勝利
油価($/bbl)
76.1
78.9
70.5
78.3
77.2
70.5
79.0
74.4
78.1
79.0
79.5
80.4
78.3
76.8
76.4
API
38.7°
32.3°
19.6°
34.4°
32-33°
21.8°
31.9°
19.2°
31.8°
34.7°
38.5°
38.0°
33.4°
29.5°
30.5°
硫黄分
0.45%
0.88%
3.65%
0.18%
1.50%
3.33%
1.18%
0.78%
1.35%
0.54%
0.41%
0.21%
1.36%
1.99%
2.60%
80.4
78.0
75.7
79.2
76.2
79.0
80.0
81.2
78.9
81.4
75.1
79.5
79.5
78.9
67.7
33.0°
33.0°
27.6°
39.6°
31.3°
37.0°
45.7°
32.9°
32.6°
34.5°
21.3°
45.6°
34.5°
35.7°
24.2°
1.14%
1.83%
2.94%
0.79%
1.41%
0.39%
0.10%
0.16%
0.12%
0.08%
0.18%
0.03%
0.09%
0.11%
0.84%
出所:Petroleum Intelligence Weekly, The International Crude Oil Market Handbook
製油所については各地域・国に1ヶ所あると想定されている。精製能力は、各種資料に
79
基づき各地域・国の既存もしくは計画を考慮した最新のデータを使用し、建設計画のある
ものについては各装置別に増強される能力を推定している。
なお、2011 年 3 月に発生した福島第一原子力発電所がもたらした影響については、各国
でより厳格な原子力の発電所に対する安全管理が実施されるとの前提の下、事故前に計画
されていた原子力発電所の導入計画から5年程度、原子力の導入が遅延すると想定した 27。
(3)世界石油需要見通し(2020 年)
表 2-5 は、エネルギー需給モデルを用いて推定された世界の石油一次エネルギー需要で
ある。世界の石油需要は 2009 年の 8,051 万 B/D から 2020 年には 9,513 万 B/D へと年率
1.5%で増加する。この増加分のうち、約 3 分の 1 は中国に起因する。日本や北米のような
先進国の石油需要はマイナス成長となっており、今後石油需要が減少していくことが示さ
れている。この 2020 年における石油需要見通しの結果を LP モデルに投入し、原油フロ
ー分析を行う。
表 2-5
石油需要見通し(2020 年)
世界
日本
80,510
4,016
単位:1,000B/D
年平均
2020
伸び率(%)
95,129
1.5
3,595
-1.0
中国
韓国
台湾
インド
アセアン
オセアニア
米国
中南米
欧州(OECD)
欧州(Non-OECD)
中東
アフリカ
7,671
1,827
803
3,193
3,454
944
18,770
6,989
12,210
4,458
6,225
3,032
12,993
2,008
924
4,840
4,639
964
17,450
9,338
11,587
5,402
8,856
3,936
2009
4.9
0.9
1.2
3.8
2.7
0.2
-0.7
2.7
-0.5
1.8
3.2
2.4
出所:IEA、日本エネルギー経済研究所
2-3-2 基準ケース
(1) 主要消費国への貿易フロー
27
ただし、実際には発電部門で用いられている石油はさほど大きくはないため、この想定によって有意な
差が生じるのは中東などごく一部の地域である。
80
まず初めに、原油生産や石油製品需要などが、現在想定される中で最も実現する可能性
が高い現状維持シナリオを基準ケース(レファレンスケース)として設定した。原油輸入
国(米国・欧州(EU)・日本・中国・韓国・インド)の輸入量や供給元がどのように変化す
るか注目する。図 2-34 は、原油輸入国による輸入量を、供給地域別に、2010 年の実績値
と、LP モデルで導かれた結果を比較したものである。
図 2-34 レファレンスケース:輸入国における原油供給国の変化
1,000B/D
カナダ
中南米
欧州
旧ソ連
中東
アフリカ
アジア太平洋
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
米国
欧州
日本
中国
韓国
レファレンス
2010
レファレンス
2010
レファレンス
2010
レファレンス
2010
レファレンス
2010
2010
0
レファレンス
2,000
インド
(注):欧州(EU)の原油輸入において、EU 域内の貿易は除く。
(出所)2010 年実績値は各国・地域統計、中国のみ China Oil, Gas, and Petrochemicals。予測値は日
本エネルギー経済研究所推計
米国では、全体的な輸入需要は減退するものの、地理的に近くパイプラインインフラが
整備されているカナダからの輸入が増加するという結果となった。2010 年実績では 197
万 B/D のカナダからの原油輸入は 2020 年には 220 万 B/D にまで増加すると予想される。
その他には、中南米からの輸入も増加する。現状、メキシコやベネズエラ等の生産量は低
迷しているものの、今後はブラジルからの生産量が増加することもあり、南米全体での輸
出圧力が強まっていく。その結果として、域内では輸入余力のある米国市場にこれらの原
油が流入する。国産原油、カナダからの輸入と併せると米国では、国内需要の 8 割が米州
域内で自給されることになる。この他には旧ソ連地域からの輸入も若干増加するが、これ
は ESPO 原油の米国太平洋側の製油所への輸出が増えることによる。輸入量が減少するの
は中東・アフリカからの輸入であるが、その中でも特に中東の原油の輸入減少幅が大きく、
2010 年時点で 1,800 万 B/D であった中東からの輸入量は 2020 年時点には 1,000 万 B/D
81
にまで減少するという結果となった。
欧州では、域内の北海油田の生産の減退は輸入需要を増加させる要因となるが、欧州全
体の需要が減退していくため、全体の原油輸入需要は若干減少する。欧州市場は域内の生
産と併せて旧ソ連や北アフリカ、西アフリカ、中東など多様な供給者に恵まれており、引
き続きこれらの産油国間の競合が見られることになる。その中では、カスピ海周辺を中心
に増産が予想される旧ソ連地域からの輸入が最も大きく拡大するという結果となった。
2012 年に完成する予定のバルティック・パイプライン・システムのフェーズ2(60 万 B/D)
も、ロシアからの原油輸出を促進させる要因となりうる。旧ソ連に次いで欧州市場への輸
出量を伸ばすのが中東である。これは、北米市場でシェアを失った中東産原油が多く欧州
市場に流入するためである。これらの旧ソ連・中東の他には、地理的に近接している北ア
フリカ地域の油田からの輸入が現状程度を維持し、その結果として、中南米や西アフリカ
の原油は欧州市場へのシェアを失うこととなる。西アフリカ原油は今後、アンゴラを中心
にさらなる増産が期待されているため、この結果は意外であるが、後述する通り、西アフ
リカ原油は今後アジア市場の方により多くの輸出先を見出していくことになる。
経済成長に伴い石油需要が堅調に増加する中国では、輸入量も大きく増加し、2010 年の
実績値である 480 万 B/D の倍以上に相当する 980 万 B/D に達する。この時点で、中国は
米国を抜き、世界最大の輸入国になると予想される。供給源の構成では、やはり中東から
の輸入量の増大が大きく、2010 年時点の 220 万 B/D から 550 万 B/D へと 2.5 倍に拡大す
る。この結果、輸入原油に占める中東への依存度は、2010 年時点の 47%から 2020 年時点
では 62%へと高まる。アフリカ原油の輸入も拡大し、現状の 140 万 B/D から 210 万 B/D
へこちらも 1.5 倍に拡大する。その中では特に西アフリカからの原油の輸入の増加が見込
まれる。この他、旧ソ連からの原油輸入も増加し、旧ソ連からはパイプラインだけで、カ
ザフスタンからの供給(40 万 B/D)とロシアからの供給(60 万 B/D)で合計 100 万 B/D
の供給がなされる見通しである。また中南米からの供給も若干増加する。これは、エクア
ドルなどの大西洋側の産油国から供給が行われる可能性もあるし、またパナマ運河拡張に
よってベネズエラからも大型船を活用した供給がなされる可能性もあろう。また現在、中
国がベネズエラやブラジルとの間で行っている「Loan for Oil」供給のような政治的な合
意の下で実施されるものも含まれることも考えられる。
中国と同じく石油需要が増加するインドでは、2020 年時点で日本を抜き、中国、米国に
次ぐ原油輸入大国となる。インドでも中東原油の輸入増加が著しく、2020 年時点では 2010
年時点での輸入量の 40%増の 320 万 B/D 程度になると予想される。この他に、インドへ
の貿易フローとして特筆すべきは中南米からの輸出が増えることである。2010 年時点では
既に 30 万 B/D 超の輸出がなされているが、LP モデルの結果上はこれが 80 万 B/D にまで
増加するとの予測となった。実際にはこれほどの増加が実現するかどうかは、インド側の
精製能力の増強動向や個別の産油国側の供給能力の制約などもあり、不確実なところもあ
82
るが、今後の需要拡大が見込める中国や東南アジア市場に比べればインドは地理的にも近
く、今後の欧米市場への輸出動向次第では、インド市場にもその販路を拡大していく可能
性もあろう。
最後に、日本市場においては中東原油がその供給源の大宗を占める構造は変わらない 28。
2020 年時点での中東依存度は 2010 年の 85%から若干上昇して 87%になると予想される。
中東以外の原油の供給構成としては、旧ソ連原油の供給が若干減少し、その分、アジア地
域からの供給が増加するという結果になったが、これはロシア産原油の輸入が多かった
2010 年の数値に比べると、日本市場に輸入されているサハリン原油や ESPO 原油などと
いったロシア原油の輸入が減少し、その代替として東南アジアや豪州からの原油の供給が
なされることによるものである 29。
(2) 主要産油地域からの貿易フロー
次に、(1)のフローを輸出国の観点から示すと図 2-35 のようになる。中東からの輸出量
は米国、日本では減少するものの、欧州と中国で増加するとの予想となった。なかでも中
国向けの輸出量の伸びが顕著であることは(1)で述べたとおりである。
図 2-35 レファレンスケース:原油輸出国の輸出先地域
中東
旧ソ連
北アフリカ
西アフリカ
その他
レファレンス
他アジア太平洋
2010
インド
レファレンス
韓国
2010
中国
レファレンス
日本
2010
レファレンス
2010
欧州
レファレンス
米国
22,000
20,000
18,000
16,000
14,000
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
2,000
0
2010
1,000B/D
中南米
出所:日本エネルギー経済研究所
28
日本市場においては、2009 年に制定されたエネルギー供給構造高度化法への対応で、製油所の閉鎖な
ど全体的な精製能力の縮小が予想されるものの、本稿執筆時点では個別の製油所の操業状況がまだ不確定
な部分があることから、精製能力の前提には反映させていない。
29 東南アジアからの輸入の増加に関しては直近の発電用の原油需要の増加を考慮したものではない。
83
旧ソ連地域に関しては、米国、欧州、中国向けの供給が増加するという結果になった。
北米向けの増加は既述の通り、ESPO 原油の増産によるものである。また欧州と中国に対
しては、いずれもパイプラインの輸送能力が増強される計画があり、この増強計画の存在
が輸出増大を促す一因となっている。
アフリカについて、北アフリカについては、地理的にも近接している欧州市場における
輸出量はほぼ現状並みを維持する一方で、米国向けの輸出量が減少する。その一方で輸出
が増えるのが中国向けと他アジア太平洋地域向けである。他アジア太平洋地域においては、
比較的製油所の装置構成がシンプルな東南アジア地域の製油所への輸出量が増加するとの
計算結果となった。輸送コストなどを考えると実際に北アフリカ原油のアジアへの流入が
本格的に進むかどうかは、不明ではあるものの、需要が減退する欧州市場において、北ア
フリカが他の産油国との間で厳しい競合にさらされることは間違いがないものと考えられ
る。西アフリカについては、北アフリカほどではないものの米国向けの輸出量が減少し、
またそれ以上に欧州向けの輸出量が減少する。その一方で、これも北アフリカ同様、中国
と他アジア太平洋地域への輸出が増加し、輸出先に占めるアジア地域のシェアは 2010 年
の 32%から 2020 年時点では 63%にまで増加するという結果となった。実際にはここまで
の比率の上昇があるかどうかは不確実なところはあるものの、傾向としては西アフリカ産
油国の対アジア依存度が今後上昇していく可能性は高い。
最後に中南米については、輸出先構成には大きな変化は見られず、引き続き、米国向け
の輸出が全体の6割程度を占めるという状態を維持し続けるとの計算結果となった。その
他では、既述の通り、中国向けやインド向けについては、徐々に輸出が伸びていく傾向が
見られる。既に述べた「Loan for Oil」のようなスキームに加えて、PDVSA 等は中国で
CNPC と合弁での製油所建設の計画もあり、今後はそのような国営石油会社間での取引に
基づく輸出の増加も考えられる。
84
図 2-36 レファレンスケースのフロー図
450
115
1,001
5,171
598
68
1,000
236
3,114
2,200
190
2,040
2,040
1,732
92
238
1,862
260
5,541
186
500
300
340
854
400
2,775
3,106
1,405
2,294
850
242
2,140
131
3,149
435
113
600
(単位:1,000B/D)
(出所)日本エネルギー経済研究所
2-3-3 北米タイトオイル増産ケース
原油フローには様々な影響をもたらす要因が存在しており、そのような要因によって原
油フローがいかに変化するかを把握することは、原油市場動向を理解する上で有用である。
次に、将来生じる可能性が比較的高く影響度も大きいと考えられる事象を考慮した 3 つの
シナリオ分析を行う。そして、その結果をレファレンスケースと比較し、どのような変化
が生じたかを考察する。
まず、現在その生産量が急速に増加しつつある北米のタイトオイル(シェールオイル)
が増産するシナリオを検討する。元々基準ケースにおける米国の生産量は 690 万 B/D を想
定していたが、これが 200 万 B/D 増加し、890 万 B/D の生産を行うと想定する。そのシ
ナリオの下での LP モデルの計算結果を図 2-37 に示す。
85
カナダ
中南米
欧州
旧ソ連
中東
レファレンス
1,000B/D
12,000
タイト
オイル増産
図 2-37 タイトオイル増産ケースにおける輸入構成
アフリカ
アジア太平洋
10,000
8,000
6,000
4,000
米国
欧州
日本
中国
韓国
タイト
オイル増産
レファレンス
タイト
オイル増産
レファレンス
タイト
オイル増産
レファレンス
タイト
オイル増産
タイト
オイル増産
レファレンス
0
レファレンス
2,000
インド
(出所)日本エネルギー経済研究所
図 2-38 タイトオイル増産ケース:輸入構成の増減
1,000 B/D
1,000
アジア太平洋
アフリカ
500
中東
旧ソ連
0
欧州
-500
中南米
-1,000
カナダ
-1,500
-2,000
-2,500
米国
欧州
日本
中国
インド
(出所)日本エネルギー経済研究所
このケースの下では、米国で石油が増産されるため、米国の輸入量の減少が大きな変化
として現れる(図 2-38)
。特に中東から輸入される原油の減少は顕著で、レファレンスケ
ース比で 90 万 B/D 減少する。この結果、米国の輸入原油に占める中東産原油のシェアは、
レファレンスケースの 12%からさらに減少して 2%となる(ちなみに 2010 年実績は 19%)。
米国は実質的に中東依存度がゼロになるため、このことは世界の原油市場だけではなく、
国際政治の上でも米国の中東に対する関与という観点から大きな変化が現れる可能性もあ
る。その次に米国向けの輸入に影響が出てくるのがアフリカと旧ソ連であり、その減少幅
86
はそれぞれ 30 万 B/D、23 万 B/D となる。しかしこの減少幅は中東の比ではなく、タイト
オイル増産のインパクトを最も大きく受けるのは中東地域ということとなる。
タイトオイル増産は基本的には米国内での出来事であり、その影響は、当然のことなが
ら米国市場において最も顕著に表れるが、それ以外の市場にも波及効果が見られる。欧州
市場においては、米国市場に流れなくなった中東産原油とアフリカ産原油が部分的に欧州
に流れ込むため、これらの原油の欧州市場における輸入量が増加する。その結果として旧
ソ連からの原油の輸入が影響を受け、レファレンスケースと比べて欧州に対する旧ソ連原
油の輸出量は 53 万 B/D 減少する結果となった。旧ソ連産原油は米国市場でも 20 万 B/D
の輸出の減少があるため合計で 70 万 B/D 以上の欧米市場向けの減産を余儀なくされるこ
とになる 30。
アジア市場においては欧米市場ほどの大きな影響は出てこないが、中国や日本において
は中南米原油の流入が見られることになる。北米のタイトオイル増産で直接的に影響を受
けるカナダ原油と中南米原油のうち、カナダ原油についてはアジア向けの輸出ルートがま
だできていないため、米国市場に輸出しきれない部分は減産となるが、中南米原油につい
ては一部アジア市場へと流れるという計算結果となった。その結果として比較的性状の近
い中東産の中質・重質原油の輸入量が減退する。また中国に対しては、欧米市場への輸出
が大きく減少する旧ソ連地域からの増産が見られるようになり、レファレンスケースと比
べて 20 万 B/D の旧ソ連からの輸出増加が見られる。旧ソ連地域にしてみると、欧米市場
で失った輸出量の一部を中国への輸出増で相殺できることになる。なお、日本やインドで
はほとんど増加がみられず中国でのみ増加する理由は、ロシアとの間ではパイプラインが
存在しており、より低コストでの供給が可能になるからである。
産油国別の影響度合いを見てみると、最も影響が大きいのがやはり中東でレファレンス
ケースに比べて 77 万 B/D の減産、その次が旧ソ連で 63 万 B/D の減産、次いでアフリカ、
カナダ、中南米がそれぞれ 32 万 B/D、20 万 B/D、13 万 B/D の減産となる。
30
この点については、本調査における有識者委員会においては、実際には欧州における中東産原油の受
入には精製能力の制約上、これ以上の中東産原油の流入は考えにくいとの意見が示された。本節の分析で
用いたモデルにおける欧州の精製能力は「Oil & Gas Jounral」誌のデータを元に設定しているが、この
ような違いが出てきた理由としては、実際の原油取引や精製プロセスの実態と比べて、末端の製品規格の
厳格化がモデル上うまく反映されていない、ないしは精製能力のデータそのものに不具合があるなどの可
能性が考えられる。ただし、今回は、本節全体の分析の首尾一貫性を確保する意味で、このままの記載と
させて頂く。
87
図 2-39 タイトオイル増産ケースのフロー図
70
115
100
2,070
4,640
598
68
1,200
236
3,428
30
190
2,040
2,040
1,332
93
238
2,027
260
5,505
200
500
300
340
92
854
400
2,675
2,778
1,426
1,795
900
1,935
3,061
242
131
435
639
(単位:1,000B/D)
(出所)日本エネルギー経済研究所
2-3-4 需要減速ケース
次に、先進国だけではなく、中国やその他の新興国においても、先進的な技術が普及す
ることで省エネや代エネが進み、石油需要の伸びが当初の予想を大きく下回るようなシナ
リオを検討する。具体的には、次世代自動車の普及や燃費の改善によって大きく需要の伸
びが抑制されるようなケースであり、本報告書の 2-2-2 において用いられた需要の想定を
用いる。このケースの下での各地域の需要を表 2-6 に示す。このような技術が普及したと
仮定すると、2020 年における世界の石油需要は、レファレンスケースの 9,513 万 B/D よ
り 6.2%減少して 8,961 万 B/D となり、伸び率は 1.5%から 1.0%へとさらに緩やかになる
と考えられる。
88
表 2-6
需要減速ケースにおける世界の石油需要
2009
単位:1,000B/D
年平均
2020
伸び率(%)
89,607
1.0%
3,354
-1.6%
世界
日本
80,510
4,016
中国
韓国
7,671
1,827
12,110
1,928
4.2%
0.5%
台湾
インド
アセアン
オセアニア
803
3,193
3,454
944
904
4,378
4,398
884
1.1%
2.9%
2.2%
-0.6%
米国
中南米
18,770
6,989
14,861
8,716
-2.1%
2.0%
欧州(OECD)
12,210
10,885
-1.0%
4,458
6,225
3,032
5,161
8,254
3,735
1.3%
2.6%
1.9%
欧州(Non-OECD)
中東
アフリカ
(出所)日本エネルギー経済研究所
この需要減速ケースの下での主要消費国の輸入原油の構成とレファレンスケースと比較
した場合の増減をそれぞれ図 2-40 と図 2-41 に示す。まず、国・地域によってその程度は
異なるものの、全体としての需要の伸びが抑制されることから、おしなべて輸入需要が低
下していることが分かる。
図 2-40 需要減速ケースにおける輸入構成
カナダ
中東
1,000B/D
12,000
中南米
アフリカ
欧州
アジア太平洋
旧ソ連
10,000
8,000
6,000
4,000
米国
欧州
日本
(出所)日本エネルギー経済研究所
89
中国
韓国
需要減速
レファレンス
需要減速
レファレンス
需要減速
レファレンス
需要減速
レファレンス
需要減速
レファレンス
需要減速
0
レファレンス
2,000
インド
図 2-41 需要減速ケース:輸入構成の増減
'000 B/D
1,000
アジア太平洋
500
アフリカ
0
中東
-500
旧ソ連
欧州
-1,000
中南米
-1,500
カナダ
-2,000
-2,500
-3,000
米国
欧州
日本
中国
インド
(出所)日本エネルギー経済研究所
その中でも、各地域の増減について見てみると、まず米国においては、全体としての輸
入需要は 300 万 B/D 近く減少することとなり、その中でもやはり中東、アフリカ、旧ソ連
と大きく減少している。
欧州地域においても、需要が大きく減退することもあり、輸入需要もレファレンスケー
スに比べてほぼ 100 万 B/D の減少が見られている。欧州地域における輸入原油の構成増減
を見てみると、旧ソ連原油が増加し、中東産原油とアフリカ産原油が減少する結果となっ
た。この背景は、後述する通り、中国での需要の減速が大きく、旧ソ連原油の輸入が滞る
ため、欧州市場への流入が進み、その結果として中東産原油とアフリカ原油の欧州市場へ
の輸出量が減ることになったと考えられる。先のタイトオイル増産ケースにおいては、欧
州市場で競合した場合、中国への輸出増加が可能であったため、旧ソ連原油の欧州市場へ
の輸出量は減少したが、今回のケースでは中国への輸出増加ができないため、欧州市場に
しか活路を見出さざるをえなくなるということになる。
アジア市場においてはレファレンスケースと比較した場合、各供給源からの需要が減少
することになる。日本の場合には減少部分のほとんどすべてが中東産原油であるが、アジ
ア太平洋、旧ソ連原油もごくわずかであるが減少する。中国、インドにおいても同様に各
供給源からの輸出が減少することになるが、その中でも中南米産原油については、その相
対的な経済性が悪いことから、全体の減少幅に対する減少率は大きくなる。
90
図 2-42 需要減速ケースのフロー図
250
115
50
5,636
598
80068
236
2,019
1,850
170
2,040
2,040
920
238
1,500
260
5,383
186
500
440
270
340
855
400
2,680
2,450
1,264
1,680
745
1,997
3,000
238
122
448
113
500
(単位:1,000B/D)
(出所)日本エネルギー経済研究所
2-3-5 中東減産ケース
今後中東地域において、現状想定されている以上に域内需要が増加し、且つ生産能力の
増強が進まないというケースを考えてみる。現在、中東諸国は持続的な油価の高止まりで
非常に好調な経済を維持しており、今後も域内での需要が大きく増加していくことが予想
されており、現在の想定されている需要の伸びをはるかに上回るペースで需要が伸びてい
くことで、生産能力の増強が追いついていかないケースも十分に考えられる。ここでは
2020 年時点でレファレンスケースにおいては 2,300 万 B/D の輸出が想定されている中東
地域において、その輸出量が約4分の3にまで減ったケース、すなわち域内からの輸出量
が 1,700 万 B/D にまで低下してケースを想定する。その際の各地域における輸入構成を図
2-43、またレファレンスケースと比較した場合の主要消費国・地域の輸入源の構成の変化
を図 2-44 に示す。
91
図 2-43 中東減産ケースにおける輸入構成
1,000B/D
カナダ
中南米
欧州
旧ソ連
中東
アフリカ
アジア太平洋
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
米国
欧州
日本
中国
韓国
中東減産
レファレンス
中東減産
レファレンス
中東減産
レファレンス
中東減産
レファレンス
中東減産
レファレンス
中東減産
0
レファレンス
2,000
インド
(出所)日本エネルギー経済研究所
図 2-44 中東減産ケース:輸入構成の増減
1,000 B/D
2,500
2,000
1,500
アジア太平洋
1,000
アフリカ
500
中東
0
旧ソ連
-500
欧州
-1,000
中南米
-1,500
カナダ
-2,000
-2,500
米国
欧州
日本
中国
インド
(出所)日本エネルギー経済研究所
中東からの輸出量が減少した場合、中東原油の代替がより可能な消費国において最も大
きな輸入上の減少が見られることとなり、逆に代替が難しい消費国においてはそれが見ら
れないということになる。また代替がなされる際には、より地理的にも代替供給源によっ
て代替されることとなり、米国においてはカナダと中南米、欧州においては旧ソ連が主要
92
な代替供給源となり、中東からの輸出減少分の 81%が欧米市場で代替されると推定される。
残りはアジア市場において代替されるが、まず日本については仮に中東産原油の生産量が
減退してもその輸入原油の構成はほとんど変わりがないという結果となった。実際には、
旧ソ連からの供給も増加することが考えられるが、モデル分析では、旧ソ連からの原油の
多くは欧州に流れるため、その代わりとしてアフリカ原油が追加で流入する結果となった。
これは代替原油としての旧ソ連原油を各市場が取り合う際に、旧ソ連から欧州への供給が
より低コストでなされるために、モデルの中で旧ソ連原油の配分が決定される際に、まず
欧州向けが最優先で供給されることによる。
図 2-45 中東減産ケースのフロー図
450
115
7,171
598
68
1,000
236
1,046
2,350
190
2,040
2,040
1,907
238
1,915
260
4,933
200
500
300
340
93
954
400
2,675
3,630
1,407
1,794
850
242
2,748
3,149
131
435
113
600
(単位:1,000B/D)
(出所)日本エネルギー経済研究所
2-3-6 カナダからの輸入増加ケース
シナリオ分析の最後に、カナダから日本へ一定程度の原油が輸出された場合に、世界の
原油フローへどのような影響が起こるかを考察しておきたい。現在、カナダ原油の最大の
輸出先は米国市場であるが、今後米国ではタイトオイルの増産が続いていく一方、カナダ
からの米国向けパイプラインの能力拡張が、環境問題等の理由によって滞り、カナダ原油
の対米輸出も伸び悩むという事態も想定される。そうした中では、カナダとしても輸出先
93
の分散化を行う必要に迫られ、戦略的な見地から太平洋岸までの原油パイプラインを建設
し、日本を始めとするアジア市場に対し、大規模な原油輸出を開始するという可能性もあ
る。ここでは、2020 年時点でそのようなパイプライン建設が実現し、カナダから日本向け
の原油輸出が実現するようなケースを想定した。具体的には、カナダから日本に対し、オ
イルサンド由来の軽質低硫黄原油が 50 万 B/D 輸出されると想定して、その影響を LP モ
デルで分析した31。レファレンスケースと比較した場合の主要消費国・地域の輸入源の構
成の変化を図 2-46、また各地域における輸入構成の増減を図 2-47 に示す。
このケースでは、カナダからの原油輸入が行われた日本において変化が見られるのは明
らかである。日本では、カナダから 50 万 B/D の原油が輸入されるため、その分中東原油
の輸入が 50 万 B/D 減少することになる。その結果、中東産原油が日本の輸入原油に占め
るシェアは、レファレンスケースの 87%から 73%へと低下する。
このカナダ‐日本の2国間の貿易は、他の国・地域の原油フローに対しても、影響を及
ぼす。まず、カナダから原油輸入を行っていた米国では、日本に対する変化と同規模の増
減が生じる。即ち、米国ではレファレンスケースと比較して、軽質低硫黄のカナダ産原油
の輸入が減少するため、その代替原油としてアフリカ原油が選好され、その輸入が増加す
る。米国市場にアフリカ原油がより多く輸出され、またアジア市場では日本に対する中東
原油の輸出が減少することを受け、中国においては、アフリカ原油の輸入が減少し、中東
原油の輸入が増加する。日本で中東依存度が低減した分、中国で中東依存度が上昇すると
いう結果となった。また米国にアフリカ原油が吸収されることの余波を受け、欧州でもア
フリカ原油の輸入が減少し、それを旧ソ連と中東原油が補う形となった。
31
このシンクルードスィート原油は、オイルサンド由来の重質原油を分解・脱硫することで高品質の原
油にしたものである。オイルサンド由来の重質原油をそのまま輸出することも可能ではあるが、石油製品
の硫黄分規制の厳しい日本市場では、重質原油のまま輸出することは難しいため、ここでは高品質原油に
合成されたものが輸出されると想定した。
94
カナダ
中南米
欧州
旧ソ連
中東
レファレンス
1,000B/D
カナダ
輸入増
図 2-46 カナダからの輸入増加ケースにおける輸入構成
アフリカ
アジア太平洋
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
米国
欧州
日本
中国
韓国
カナダ
輸入増
レファレンス
カナダ
輸入増
レファレンス
カナダ
輸入増
レファレンス
カナダ
輸入増
レファレンス
カナダ
輸入増
0
レファレンス
2,000
インド
(出所)日本エネルギー経済研究所
図 2-47 カナダからの輸入増加ケース:輸入構成の増減
1,000 B/D
600
アジア太平洋
400
アフリカ
中東
200
旧ソ連
0
欧州
中南米
-200
北米
-400
-600
米国
欧州(EU)
日本
中国
(出所)日本エネルギー経済研究所
95
インド
図 2-48 カナダからの輸入増加ケースのフロー図
(単位:1,000B/D)
(出所)日本エネルギー経済研究所
2-3-7 まとめ
以上、レファレンスケースを含めて 2020 年時点での原油貿易フローに関する4つのケ
ースについて見てきた。これらのケースについては、あくまでもシンプルな費用最小化モ
デルによる分析結果であり、各ケースについては単純な結果が出がちである。しかし単純
であるが故に、何らかのインプリケーションを得るには有用であるともいえる、以下、そ
れらインプリケーションについていくつかあげておきたい。
(1) 欧米市場をめぐる原油フローは今後大きく変動する可能性がある
まず一連のケース分析における輸入源の変動からわかるように、今後欧米市場における
原油フローのあり方は大きく変わる可能性があるということが指摘できる。両市場ともそ
の石油需要はピークに達し、今後はその輸入量が減少していく方向にあると考えられる。
元々、米国・欧州両市場とも供給源が分散化されており、各産油国が競合する環境の下で、
今後さらにその需要の減少が加速していくようなことがあれば、その産油国間の競合関係
がさらに強まっていくことが予想される。また、タイトオイル増産ケースで見られたよう
に、サプライズ的な供給増加があるとその輸入構成も大きく変わることになる。
96
国際石油市場は世界的に統合されており、ひとつの市場で起きたことはその他の市場に
も影響を及ぼす。欧米市場をめぐる原油フローの変化も、その程度は場合によって異なる
ものの、アジア市場にも必ず何らかの変化をもたらすことになるため、そのフローの変化
のトレンドには絶えず関心を払っておく必要がある、また産油国の観点からは、欧米市場
の動態は非常に変動が激しく不確実性の高いものとして認識されるはずであり、今後より
需要の伸びが確実なアジア市場への輸出拡大を通して、輸出収入の安定化を志向していく
ものと考えられる。
(2) アジア市場をめぐる原油フローは今後大きな変動は予測されない
欧米市場において、ケースごとによって大きくその原油フローが異なることを見てきた
が、いずれのケースにおいてもアジア市場においては相対的にその変化は小規模なものに
とどまっている。これはいうまでもなく、アジアにおける供給源においては、中東が圧倒
的に大きく、少なくとも 2020 年時点までは、この中東に代わる供給源は登場しないと考
えられるからである。アジアの中では、比較的供給源の分散化を進めている中国において
はケースによってその輸入源の構成に変化が見られているが、日本の場合にはほとんどそ
のフロー構成は変化しない。
このような日本の高い中東依存度が変化しない理由としては、まず 1) 日本の製油所が
これまで中東産原油の処理を想定とした設備投資を行ってきており、中東産原油を処理し
続けることが最も経済的であること、2)
油供給源が中東しかないこと、3)
欧米市場とは異なり、地理的に近い場所での原
今後の日本の石油産業においては新規の設備投資は限
定的なものにとどまると考えられることから、個別の原油に対する精製部門の採算も変わ
らないこと、そうした中で 4)
今後の石油製品需要構成の白油化によって原油の選択肢自
体はさらに狭まっていくこと、などといった理由があげられる。
このことは、日本にとっては引き続き最も重要な石油供給源である中東との関係を重視
し続けていくことを意味しているし、他方では、その中東に対する交渉力をいかに確保し
ていくかという点についても真剣に考えていく必要があるということになる。2-3-2 の(2)
においてみたように、中東産油国にとって今後その輸出量が拡大していく市場は中国やそ
の他のアジア新興国であり、日本ではない。このような状況の下で、ロシアのような代替
供給源の確保など、中東産油国以外の供給源をいかに確保しながら、中東産油国に対する
交渉力を確保していくかという点についても、検討していかなければならない。
(3) 米国市場における変化がもたらすインパクトは大きい
3つめに指摘できる事項は、タイトオイル増産シナリオにおいて見たように、米国にお
97
ける原油フローの影響は世界的な波及効果をもたらし、そのインパクトは非常に大きいと
いう点である。元々米国は世界最大の原油市場にして最大の原油輸入国であり、その世界
の石油需給に対する影響力は非常に大きいとされてきた。今回のケース分析においても、
米国における国内生産の増加がその輸入構成に影響を及ぼし、それが欧州、アジアの市場
にも波及効果をもたらすことになり、米国市場の影響力の大きさが確認されたことになる。
米国は国土も大きくその資源ポテンシャルも非常に大きい。今回のタイトオイル増産ケ
ースにおいては、2020 年時点で国内の供給が 200 万 B/D 増加するとの想定を置いたが、
実際にはタイトオイルの供給ポテンシャルについてはまだ十分な知見が蓄積されておらず、
その生産見通しは、200 万 B/D をはるかに上回るものになる可能性もあるし、逆に現状の
水準(50 万 B/D 程度)からさほど大きく増加しない可能性もある。その中では、地質的
な要因ではなく、環境規制の厳格化によってその生産が抑制される可能性も指摘されてい
る。このため、タイトオイル一つとってみてもその将来には多くの不確実性が存在してい
ることも事実であり、その国際原油貿易フローへの影響の大きさからも、米国市場の最新
トレンドはたえず見極めていかなければならない。
(4) 中東産油国にとっては「需要セキュリティ」確保が重要となる。
今回得られた分析結果を産油国の観点からみた際に言えることは、中東産油国にとって
は、今後「需要セキュリティ」をいかに確保していくべきか、という事が非常に重要な課
題となるという点である。4 つのケースにおいては、その輸出量に最も大きな変化が見ら
れるのが中東産油国であった。特に、欧州市場、米国市場に対する供給量が将来考えられ
るケースによって大きく変動しており、今後この欧米市場を自国の原油輸出戦略において
どのように位置づけるか、という点が中東産油国においては非常に重要な課題となってく
るはずである。
その中では、今後成長が続くアジア市場への輸出に大きくその販売方針のかじを切るの
か、ないしはこれまでの安定的な輸出実績やその他、欧米諸国との政治経済的な関係全般
を重視するという観点から、中東産油国がこれまで通り欧米に対しても一定の輸出量を維
持しようとし続けるのかどうかが注目される。またこれは同時に、成長するアジア市場の
中で縮小を続ける日本市場を中東産油国がどう位置づけるかにも関わってくることであり、
今後こういった中東産油国の輸出戦略の動向にも関心を払っておくことが重要である。
(5) 注目される西アフリカ原油のフロー
供給源の動向という観点から興味深い動きを示すと考えられるのが、西アフリカ産油国
の動向である。既述の通り、これまでの主力市場であった欧米における需要のピークが顕
著となる中で、競合産油国と比べて相対的に地理的に離れているのが西アフリカであり、
98
今後その輸出先をその他の市場、特にアジアに分散させていく必要が出てくる。またアフ
リカ諸国においても今後経済成長によって国内需要が増加していくことが予想されている。
域内での需要を満たすためにその産出原油が用いられることも考えられるため、西アフリ
カ原油が国内外のどの需要家に供給されるのかは、今後の世界の原油フローを考える上で、
多様な可能性が存在する。
今後の西アフリカ産油国の生産見通しには不確実な部分もある。ナイジェリアやアンゴ
ラにおいては深海鉱区や岩塩層下の油田など、まだまだ増産のポテンシャルが存在してい
る。しかしながらナイジェリアなどでは現在審議中の石油産業法が制定された場合には、
外資企業の税負担が大きくなるなどの投資環境の悪化が懸念されている。またアンゴラに
ついては、現在開発されている油田がピーク生産に達した後、今後 2020 年時点では今の
生産量を維持することができず、減産に向かっていくという見通しもある。その中で、今
後西アフリカの生産量がどう変化していくのか、またその中でアジア市場に流入してくる
原油がどの程度の量になるのかという点については、今後アジア消費国が原油供給源の分
散化を図る上でも興味深いポイントであるように思われる。
(6) 旧ソ連地域にとってはアジア市場がますます重要になる
最後に旧ソ連産油国、特にロシアにとっては今後アジア市場への輸出がより重要になっ
てくるという点である。ロシアにとってこれまでパイプラインでつながれた欧州市場がよ
り重要な原油の供給先であった。しかし、タイトオイル増産ケースにおいて見たように、
今後欧州市場を巡る産油国間の競合が強まってくるにつれ、その活路を需要の増加が確実
なアジアに対して見出していく必要が出てくる。
既に述べたように、今後ロシアにおける石油供給源においては東部の生産量の比率が増
加していくことが予想されており、新規供給源の地理的な場所を考えても今後はさらにア
ジア市場への進出を求めてロシアが攻勢を強めてくることが確実である。その中では、(2)
で述べたような非中東産原油の供給源としてロシアが中長期的により重要な役割を果たす
ようになる可能性があり、今後関係強化や生産量・輸出量の増加に向けた税制改正や外資
導入等の対応を加速させるよう、日本としても働きかけていく必要があろう。
(7) LP モデルの限界
最後に今回分析に用いてきた LP モデルの限界について整理しておきたい。そのような
限界としてまず挙げられるのが、このモデルでは原油価格はすべて外生変数として前提条
件として与えられるものであり、原油フローが実際に動く中での価格変動をうまく織り込
めていないという点である。例えば、中東減産ケースのような場合には、数少ない中東原
油の需給がひっ迫することになり、中東原油の価格が他の原油価格に比べて割高になるこ
99
とが予想されるが、このモデルではそのようなフローの変化による原油価格へのフィード
バックがうまく反映されない。中東減産ケースにおいては、日本への中東原油の供給には
あまり変化がなかったが、実際には中東原油が割高になることで、アフリカ原油など他の
原油が流入して来ることが想定される。このような原油価格への影響がうまく反映できな
いという点がまずこの LP モデルの欠点として挙げられる。
次に、一か国で一つの製油所という構造を取っている関係上、実際のフローの変化が増
幅されて出てきている可能性がある。いずれのケーススタディにおいても、それぞれの前
提の変化に伴い原油のフローに変化が現れたが、実際には個別の製油所がその時々の状況
変化によってその処理原油を個別に決定していくため、すべての製油所がその環境変化の
下で同様の行動パターンを取るわけではない。たとえば中東減産ケースにおいては、欧州
では旧ソ連原油への代替が進むという結果になっているが、実際にはアジアの精製業者と
競合しても中東産原油を購入しようとする事業者もいるであろうし、旧ソ連原油ではなく
アフリカ原油を購入しようとする事業者もいると考えられる。このモデルでは、精製部門
を単純化してしまっているため、フローの変化がいわば大げさに表現されるという性格が
ある。
第三に、上にあげた欠点と重複するが、実際の産油国の行動パターンをうまく織り込め
ていないという点も挙げられる。例えば、需要減速ケースにおいては、中東産原油の輸出
が大きく影響を受けるという結果が得られたが、実際にこのような事態になった場合、中
東産油国はより割安な価格で自国の原油を販売したり、消費国の精製部門への投資を行う
ことで自国の原油のアウトレットを確保したりという行動に出るものと考えられる。しか
し、このモデルではそのような個別のプレイヤーの行動パターンの変化を織り込むことが
非常に難しいという欠点がある。従って、ケーススタディの結果は、ある意味で極端な結
果となっており、実際にはそれほどの変化が生じないという可能性が高い。
最後に、このモデルは 15 の地域と 31 の油種で世界の原油市場を代替させているが、実
際の原油フローを表すには、これだけではどうしても限界が生じざるを得ない。例えば、
このモデルでは、東シベリア原油と中央アジア原油を一つの原油で代表させているが、こ
のような前提では、特に中央アジア原油の輸出先を詳細に分析するには不十分である。ま
た消費側においても中国は一つの地域として区分されており、今後の石油需要の増加が見
込まれる内陸部の需要動態や精製能力の増強、中央アジアやミャンマーからのパイプライ
ン供給による原油処理動向などの中国の中でも原油のフローや処理動向がうまく反映され
ていない。この点は、分析の精緻さとモデル計算時の煩雑さとのトレードオフが常に発生
する分野であるが、本モデルの限界の一つであることには変わりはないため、ここで改め
て指摘をしておく。
100
3.日本のエネルギー政策に係る論点
3-1 原油フローの動向が国際原油市場に与える影響について
3-1-1 原油フローの動向が原油市場の価格決定構造に与える影響について
今後の原油フローの動向が原油市場における価格決定構造への与える影響として、まず
考えられることは、今後の世界の石油需要の中心がこれまでの先進国からアジアへと変わ
っていき、現物の需給に対して需要サイドからは最も影響を及ぼすのがアジア市場になる
ということである。このことは、今後需要が急速に伸びていくことから需給がひっ迫しア
ジアにおける価格が割高な水準で決定される可能性がある一方で、産油国の側からみれば、
成長市場としてのアジアにおいてできるだけ高いシェアを確保することがその石油収入の
拡大に不可欠な戦略となってくるため、産油国間でのアジア市場を巡る競争を誘引する可
能性もある。実際にはその時々の需給の状況でこの二つの力のバランスも変わりうるが、
いずれのケースにおいても原油価格の決定におけるアジア市場の重要性が高まっていくこ
とは確実である。
次に指摘できることは、今後の原油の性状別の供給構成における超軽質原油と重質原油
のシェアが高まっていく中で、需要構成の中では軽油の比率が高まっていくことから、中
間留分の多く採れる原油(西アフリカ原油など)の需給がひっ迫し、原油の油種間価格差
が拡大していくことが考えられる。この油種間価格差の動向は常に精製能力の投資と裏表
の関係にあり、今後の動向を見通すことは決して容易ではないが、新興国における軽質石
油製品の需要が増大するにつれ、この油種間価格差が広く開いた状況が一定期間続くとい
うようなシナリオも考えられる。
また、今後 ESPO 原油のアジア市場への浸透が進み、そのスポット取引の規模が拡大し
ていけば、アジア市場における透明性の高い新たな原油価格決定構造が誕生する可能性も
ゼロではない。現状は、まだ取引の規模も小さいものの(30 万 B/D)、今後はその輸出量
がさらに拡大することが期待されており、またこのような ESPO 原油に対する競争力を維
持するために、中東産油国の方でもより柔軟性の高い原油の販売方針を取り入れることが
あれば、アジアにおいてもより透明性の高い価格指標が登場する可能性も期待できる。
3-1-2 今後予想される主な原油市場の規模や位置づけの変化が原油価格に与える影響
今後予想される主な原油市場の規模や位置づけの変化については、上述の通り間違いな
くアジア市場が世界の原油市場においてその存在感を高めていくことになる。アジア市場
での動静が世界の原油需給に及ぼす影響は今後拡大していき、またその結果として原油価
格にもたらすインパクトも大きくなることは間違いない。
101
しかしながら原油「価格指標」の発信源としては、アジアは依然として欧米の市場ほど
の影響度は持ちえないのではないかと考えられる。これは、アジアにおいて、米国や欧州
のような流動性かつ透明性の高い原油市場が存在しないからである。アジア市場において
WTI 先物市場や Brent 市場のような市場が存在し、その市場における価格が広く現物の原
油の価格指標に採用されているようなシステムが出来上がっていれば、アジア市場におけ
る需給情勢が直接的にアジアの価格指標に反映され、それが世界の原油価格に波及する形
態が考えられるが、現状のままの価格決定メカニズムが維持される限りは、アジアの原油
価格はあくまで Brent 原油価格の相場にリンクしていわば従属的に動くという形式が維持
される。このため、需給の中心にありながら、価格指標の発信地にはなり得ないという、
非常にねじれた状態が今後も続くことになると考えられる。
3-1-3 その他に原油フローの変化が及ぼしうる影響
以上の他に原油フローの変化が及ぼしうる影響として考えられるのが、2-2-4 において
も述べたことであるが、今後世界の石油開発や原油貿易が「政府ビジネス化」していく可
能性があることである。産油国と消費国の NOC が現在、積極的に相互に投資を行ってい
ること、また原油貿易においても「Loan for Oil」や「Equity for Oil」スキームに基づい
た 2 国間取引が見られるようになってきていることは既にふれた。このような「政府ビジ
ネス」としての傾向は、世界の原油フローにおいて支配的な地位を占めることはないにし
ても、今後、世界の石油生産及び石油消費における NOC の存在感が高まるにつれ、これ
らの一連の原油貿易が石油の「囲い込み」を誘発するリスクが存在していること自体は認
識しておく必要がある。
3-1-4 世界の原油市場を取り巻く環境と価格形成に影響を与える諸要因の変化及び問題
の所在、並びに我が国への影響及び取るべき解決策
最初の論点として挙げられるのが、今後 NOC の存在感が高まり、また世界の石油貿易
において資源と消費の地理的なギャップが拡大し、物理的な貿易量が拡大を続けていく中
で、石油需要が減少に向かうわが国は世界の石油市場における存在感が低下し、埋没して
しまう可能性があるという点である。現時点では我が国は世界第三位の石油消費国である
ものの、一位の米国(約 1,900 万 B/D)、二位の中国(900 万 B/D)と比べると 450 万 B/D
の日本はやはり規模において両国にはるかに劣る。また今後はその規模の需要も維持され
ることなく減退を続け、2020 年には現在の需要の3分の2程度にまで落ち込むのではない
かという観測さえある。しかし、石油が日本の一次エネルギー供給全体に占める比率は、
今後も依然として最大であることには変わりなく、安定的かつ合理的な価格での原油の調
達もわが国のエネルギー安全保障の根幹であり続ける。このため、世界全体の石油需要の
中で埋没することなく、その原油調達における交渉力を今後さらに高めていくにはどうす
102
ればよいか考えていく必要がある。
そのための政策的な支援として、我が国政府もより競争力のある原油調達に対して、民
間会社の活動を側方支援を行う必要性が高くなってきているといえる。この分野について
は、特に産油国との経済協力関係の強化について政府経済産業省が既に多くの協力案件を
実施してきており、その中でもサウジアラビアとの産業協力案件については、2011 年に入
り、実際の日本企業の進出につながった案件もいくつか見られている等、順調に成果を上
げてきているところである。一方、我が国の政府財政状況は必ずしも芳しい状態にはなく、
消費税の引き上げとも絡んで今後もさらに支出の抑制が求められていく可能性がある。そ
の中でも、上述のような産油国との協力関係強化の重要性にかんがみ、現在の取り組みを
さらに維持拡充させていくことが重要である。
3点目に、上記の問題とも関連してくるが、中東が日本にとって最も重要な供給者であ
ることには今後も変わりがないものの、その一方で新たな供給源としてのロシアとの関係
強化を進めていくことの重要性も高い。2009 年 12 月の ESPO 原油の登場は、まだその規
模は限られているものの、アジアの石油市場に中東産原油以外の大規模な供給源が登場す
る可能性をもたらしたという意味で、非常に意義深い事象であったといえる。2012 年末に
は、ESPO パイプラインの全線開通が予定されている中で、今後はロシアに対してもさら
なる生産の拡充と輸出の増加、そしてそのための国内上流税制の整備や積極的な外資導入
の受け入れなどを政府サイドとしても積極的に働きかけていくことが重要であろう。
3-2 我が国の原油安定供給確保の方策について
原油フロー編の最後としてわが国の原油安定供給確保の方策について簡潔に述べる。
3-2-1 今後の原油の安定供給確保について
今後の原油の安定供給確保策については、まず、産油国に対して需要増加に見合う十分
な供給を確保するための投資を引き続き働きかけていくことが重要である。その中で、本
編で見た通り、今後は必要とされる原油の油種と実際の生産される油種とのギャップが生
じてくる可能性もある。このため、生産量そのものの引き上げと併せて、末端の製品需要
の現状にあった性状の原油の供給を拡充していくことも働きかけていく必要がある。
その一方で、消費国に対しては市場原理に基づいた原油取引・原油貿易の重要性を共有
するよう働きかけていくことが重要である。供給確保に際しては、過度に排他的な行動を
とることが結果的に原油市場を不安定化させるということを消費国全体で共有していかな
ければならない。また上述の産油国に対する供給・投資の増加についても、消費国間で連
103
携して働きかけることがより効果的であるし、また消費国間でもより信頼性の高い需要見
通しを産油国に提示することで、
産油国への投資を促進させる効果も高まると考えられる。
3-2-2 海外自主開発権益の確保について
自主開発資源獲得については、1)既に国際的に統合された市場が形成されていること、
2)中東などの産油国において政治情勢が不安定化した際には、その国における自主開発権
益の資源の輸出も同時に停止されてしまうことから安定供給確保には必ずしも寄与しない
可能性があること、3)新興国なども含めた資源獲得競争が熾烈となり資産価格が高騰して
いるため資産獲得に係る費用対効果に疑問が残ること、4)また今後化石燃料の消費が減少
していく日本において化石燃料の権益取得の必要性が薄れていること、などといった見直
し論も聞かれるところである。しかしながら、1)資源国に実際に投資を行うことによって
その国における政治情勢についての情報収集がより正確かつ容易になること、2)上流権益
を押さえておくことによって国際的な資源価格の変動のインパクトを相殺できること、3)
今後も我が国の一次エネルギー供給構成においては石油が最大のシェアを占め続ける状態
があと少なくとも 20 年は続くと見られていることなどから、自主開発権益の取得は引き
続き、日本のエネルギー安定供給にとって必要である。
今後はとりあえず現在日本企業が UAE に有している既存権益の更新に力を入れ、また
さらなる新規開発案件の獲得に向けた産油国への働き掛けを進めていくべきであろう。そ
の中では、次に述べるような存在感のある企業の育成や、国内や第三国における精製・販
売・石化事業に対する合弁の形成等といったアプローチも、産油国の関心にも合致した効
果的な取り組みになると考えられる。
3-2-3 国際協力(地域内協力、消費国間、産消対話)の強化について
上記の自主権益の取得と併せて重要なのが産油国と消費国との間の「産消対話」や、消
費国同士の「消消対話」である。産消対話においては、産油国側には適切な投資、消費国
側ではより正確な需要統計の整備や将来の需要予測を行うことで、資源価格安定化の相互
メリットの共有を追求していく必要がある。また、産油国からの安定的な輸出量の増加を
実現させるためにも、引き続き、産油国における省エネ協力を進めていく必要がある。
一方、消消対話の中では、今後の石油需給の緩和を実現させるための省エネ協力を図る
ことは言うまでもなく重要であり、その他にも、中国やインドを含め将来の大型消費国間
の連携による対産油国に対する交渉力の増強も図る必要があろう。新興国の輸入量が増加
する中で、新興国においても十分な石油備蓄を行うための協力も重要な協力案件となりう
るし、世界の石油市場における新興国の動向がもたらす影響力が拡大していく中で、タイ
ムリーかつ正確な石油需給に関する統計データの整備を進めていくべきであろう。また、
104
原油フローとの関連では、マラッカ海峡などのチョークポイント問題の解決のための航行
安全確保に向けた協力等も重要な協力アジェンダとして上がってこよう。
3-2-4 日本の石油産業に対するインプリケーションについて
最後に、日本の石油産業に対するインプリケーションについては、今後世界の原油フロ
ーの中心がアジアに移行していく中で、その中でも引き続き発言力のあるプレイヤーであ
り続ける必要がある。調達力・交渉力の強い企業を自国に有していることは、巡り巡って
日本全体の利益にもつながる。
このため、今後も中国企業や韓国企業にはない日本企業ならではの強みをもつ企業であ
り続ける必要がある。その中では、今後成長するアジア市場の一部を取り込むという意味
で、積極的な海外進出を図る、またはこれまで以上に上流部門における投資を活発に行っ
ていく、お互いにシナジーを発揮できる海外企業との間では連携を積極的に図っていく等
の対応も考えられよう。また個別の企業だけではその対応にも限界がある。その意味でも
3-2-1∼3 に述べたような政府によるサポートもますます重要となってこよう。
105
4.世界の原油取引市場
4-1 3大先物取引市場における歴史
本節では3大先物石油取引市場、すなわち、米国(NYMEX)、欧州(IPE/ICE)、アジ
ア(シンガポール相対市場)について、その歴史と現物の動きなどを整理する。その中で
は、1)1980 年代∼、2)1990 年代∼、3)2000 年代以降、3つの時代区分に分けて概説する。
4-1-1 市場黎明期(1980 年代)
1) 市場との相互関係
世界最初の先物原油は、1983 年 3 月にニューヨーク商品取引所(NYMEX)で上場され
た軽質低硫黄原油(通称 WTI 原油)である。この先物原油の創設の背景には、当時のい
くつかの要因が存在していた。その一つが、1970 年代の OPEC 産油国による国際石油会
社の石油利権の国有化である。この国有化によって、石油メジャーが石油の上流部門から
下流部門まで一貫操業体制をとっていた構造が崩壊し、上流部門と下流部門が分断されて
しまったため、それまでは一貫操業体制の下で、部門間で行われていた価格づけを何らか
の公開されたプロセスを経て行うというニーズが生まれたのである。
また 1980 年代に入ってからの原油需給の緩和とそれに伴うスポット取引の増加も、こ
の価格変動をヘッジするためのニーズを生み出した。スポット市場における原油価格はタ
ーム契約の価格より高い場合も低い場合もあるが、この時期は原油需給が緩和していたた
め、スポット原油が安価に調達することが可能であった。1970 年代の 2 度にわたる石油
ショックと石油価格の高騰によって、先進国を中心に石油需要が減少する一方、それまで
は経済性のなかった OPEC 以外の石油生産量が伸びるようになった。このため、消費国は
それまでの OPEC 産油国の公示価格による原油を購入するのではなく、より安価な価格で
調達できるスポット市場での原油調達を行うようになり、一方の産油国も特にイランなど
は原油市場に大量のスポット玉を放出するようになった。これらの要因によってスポット
取引が増加すると、その価格変動をヘッジするための手段として、先物取引のニーズが高
まってきたのである。
NYMEX の WTI 原油はこのようなニーズをうまくくみ取ることで、創設以降目覚しい
勢いでその出来高を増やしていった。特に 1985 年から 1986 年にかけては、サウジアラビ
アが自国の原油販売価格の価格フォーミュラをネットバック価格に変更したり32、スポッ
32
ネットバック価格とは、末端の石油製品価格から逆算される原油の理論的な価値であり、原油の得率
に応じて末端の製品価格(ガソリン、軽油など)を加重平均したものから運賃と精製コスト、マージンを
差し引いたもの。ネットバック価格によって原油価格が決定される場合、精製事業者は安定的なマージン
106
ト価格へのリンクとしたりと、その価格政策が混迷し、価格ヘッジニーズがさらに高まっ
たことも、この WTI 原油の取引活発化を促す要因となった。この結果、創設5年後の 1988
年には、年間の平均出来高が当時の世界の石油需要である 6,400 万 B/D を上回った。また
このような WTI 原油市場の活況にも後押しされて、1988 年の 6 月には、ロンドンの国際
石油取引所(IPE33、現在の ICE)においても Brent 原油の先物が上場された。
一方、1980 年代のアジアにおいてはこのような先物市場の創設に向けた動きは見られず、
米国の石油情報提供会社である Platts 社が発表する価格アセスメントを指標原油価格と
するシステムが出来上がり、現在もそのシステムが維持されている。
図 4-1
NYMEX WTI 原油の平均出来高の推移(1980 年代からのもの)
700
取引高
600
消費量
million b/d
500
400
300
200
100
0
83
85
87
89
91
93
95
97
99
01
03
05
07
09
(出所)WTI 先物取引量は CME ホームページ; 世界の石油需要 IEA 「Oil Market Report」より作成
2) 現物の動き
この時期の現物の貿易フローを図示したものを図 4-2 に示す。米国・欧州・日本が世界
の主な市場となっているが、米国や欧州における原油供給源が比較的分散しているのに対
し、既にこのころから、日本への供給源は圧倒的に中東への依存度が高いことが分かる。
後述する通り、これがアジアにおける原油価格のプライシングが硬直的である大きな理由
の一つとなっている。
を期待できるので、原油を買いやすくなる。
33 International Petroleum Exchange:国際石油取引所を指す。Brent 先物取引は、1988 年ロンドンの
IPE で開始された。IPE は、2005 年、米国電子取引所の Inter-Continental Exchange に買収されて、現
在は ICE という名称になっている。
107
図 4-2
1980 年代の世界の石油貿易フロー
(出所)BP 統計 1986 年版
このことを別の観点から示したものが図 4-3 である。北米では域内生産が非常に大きく、
またラテンアメリカを含めると、北米は9割近くを米州域内での供給で賄っていたことが
分かる。
米州という広域で考えた場合、ほぼ域内での自給ができていたということになる。
他方、欧州については、域内生産は域内需要の半分をまかなう水準にあり、また地理的に
も近いアフリカからの供給が大きかった。アジアについては、域内生産は域内需要の半分
強を生産しているものの、その多くが中国とインドネシアからの生産であった。
図 4-3 北米・欧州・アジアの石油供給バランス(1985 年時点)
アジア太平洋
西欧
北米
0
域内生産
北アフリカ
5,000
北米
西アフリカ
10,000
ラテンアメリカ
東南アジア
'000 B/D
108
15,000
西欧
旧ソ連
20,000
中東
その他
(出所)BP 統計 1986 年版
この時期の主な供給インフラの状況としては、北海やアラスカなどで新たな供給源が登
場するのに伴い、これらの油田地帯と主要消費国とを結ぶためのパイプラインやタンカー
への積荷のための港湾インフラなどが整備されるようになった。このようなインフラが整
備されることによって新規の油田開発がさらに容易になり、これらの欧米での石油生産量
は、
特に先進国の石油供給にとっては重要な供給源であり続けた。またこの間、VLCC(Very
Large Crude oil Carrier)と呼ばれる大型船の普及が進んだことも原油の世界貿易を拡大
させる一因となった。長さが 300m、横幅が 60m を超える巨大タンカーがより一般的に用
いられるようになったことで、原油価格に対する輸送コストが低減され、一度に大量の原
油を積荷することが出来る中東産油国の競争力が向上することとなった。
4-1-2 先物市場の定着期(1990 年代)
1) 市場との相互関係
創設以降、順調に出来高を伸ばし続けていた WTI 原油であるが、1990 年代に入るとそ
の価格指標としての位置づけがさらに強固なものとなった。1993 年に、それまではアラス
カ産の ANS 原油のスポット価格を価格指標としていたサウジアラビアが、WTI 原油を新
たな価格指標として採用したのである。これは、限られたプレイヤーが取引を行う ANS
原油のスポット取引よりも、より多様なプレイヤーが参加し取引の流動性の高い NYMEX
における WTI 原油先物の方が、より透明性が高いとサウジアラビアが判断したことによ
る 34。また、サウジアラビア原油の主たる販売先であるメキシコ湾岸の製油所向けの価格
付けにあたっては、アラスカ原油よりも、米国南部で産出される WTI 原油の方が、より
メキシコ湾岸での需給を反映した価格設定を行うことが出来るという判断もあった。さら
には実際には圧倒的に出来高の大きい WTI 原油の動向が米国内のスポット原油価格の形
成にも影響を及ぼしていていたという実情もその背景にあったものと考えられる。このサ
ウジアラビアによる WTI 原油の指標価格としての採用は、先物市場価格が現物価格を決
定するという、
現在まで続くメカニズムを確定させた画期的な決定であったといってよい。
欧州においては、サウジアラビアが 1986 年にネットバック価格フォーミュラを撤回し
て以降、Brent 原油のスポット価格指標である Dated Brent35が各種原油の価格決定に用
34
「多様なプレイヤー」とは具体的には石油生産事業者や石油精製事業者・商社や、石油取引を専門に
はしているものの、実際には石油を生産する資産を持たないトレーダーや、金融機関、燃料費をヘッジす
るために取引に参加する航空会社等を指す。
35 スポット市場で取引されるブレント原油の評価額。プラッツは、2002 年より、Dated Brent に Forties
原油(英国・北海)及び Oseberg 原油(ノルウェー)を含めて定義を拡大し、新しい指標は BFO
(Brent-Forties-Oseberg)となった。さらに 2007 年には Ekofisk 原油も含まれ、現在 BFOE と表記さ
れることもある。
109
いられる指標原油となっていた。北海では、Brent 原油のスポット価格が活発に商われて
おり、指標価格としても十分な流動性を維持していたことがその理由であった。しかし、
2000 年代に入り、Brent 原油の生産量が減退し始めると、指標価格の十分な流動性を確保
するという観点から、2003 年、サウジアラビアはその指標原油を Dated Brent から IPE
における Brent 先物価格(B-WAVE36)へと変更した。米国よりちょうど 10 年遅れる形
で、欧州でも先物価格が現物価格の指標として採用されるに至ったのである。
表 4-1
Brent 原油各市場
他の現物スポット市場の取引と同様に、日時や価格などの決
Dated Brent
スポット市場
められた契約条件のもと、実際に購入者に原油が供給され
る。
B-Wave
先物市場
21-day Brent
先渡し市場
Brent Weighted Averageの略称で、Brent の先物加重平均価
格指数。
将来の特定月における原油の供給あるいは引き取りの義務
を負う。通常、船積みの 3∼4 ヶ月前に取引が行われる。
(出所) 各種資料に基づき日本エネルギー経済研究所作成
NYMEX の WTI 原油や IPE の Brent 原油の先物が、国際原油市場における指標原油価
格として磐石な地位を固めつつある中、もう一つの主要石油市場であるアジア市場におい
ても同様に先物市場創設の動きが見られていた。1990 年にはシンガポールにおいてシンガ
ポール商品取引所(SIMEX)が開設され、Dubai 原油が上場された。しかしこの市場にお
いては取引参加者が少なく、その取引量も伸びなかった。その後、1995 年には IPE との
相互決済方式を導入したうえで Brent 原油の先物を導入したものの、これもやはり取引量
が伸びなかった。アジア市場においては、主な中東産油国が自国原油の転売を認めず、ス
ポット取引が欧米に比べて低調であること、またそのような中東産油国以外の産油国の供
給が限られていることなどが、原油の先物市場がアジアに根付かない理由であるとされて
いる。なお、東京工業品取引所には 2001 年に中東産原油先物が上場されているが、こち
らも取引量は現在減少気味であり、新たな参加者を誘引できるような仕組みが求められて
いる。
以上のような経緯を経て、1990 年代においては、図 4-4 に示すような世界の原油市場間
における相互関係が形成された。このような市場間の相互関係が確立されたことで、世界
の原油市場は文字通り一つに統合されたといえる。
36
Brent Weighted Average の略称で、Brent の先物加重平均価格指数。各限月について取引がなされた
金額を取引の数量で除して算出される。
110
図 4-4
世界の原油市場における原油取引の相互関係
ペーパー市場
相対(OTC)市場
現物市場
公設市場
OTC市場
Cash (Spot) WTI
Light sweet crude oil
(WTI)
北米・中南米産原油価
格
Argus Sour Crude
Index (ASCI)
OTC市場
Dated Brent
ICE Brent
欧州・ロシア・アフリカ産
原油価格
DME Oman
OTC市場
中東産原油価格
中東産原油
Platts Dubai/Oman
東南アジア産原油価格
Tapis Swap
(出所)日本エネルギー経済研究所作成
2) 現物の動き
1990 年代の現物の動きについて、1995 年時点での世界の貿易フローと主要国における
石油供給バランスをそれぞれ図 4-5 と図 4-6 に示す。米国・欧州・日本が世界の主な市場
となっている点は 1980 年代と大きく構造は変わらないが、全体の貿易量における北米の
輸入量が増加したことが目を引く。米国産の WTI が世界の指標原油として台頭してきた
のがまさにこの 1990 年代であったが、そのような WTI 原油の存在感の高まりは、この米
国市場の拡大と共に進んできたことがうかがえる。その他には、中東からの東方への貿易
フローは、日本だけではなく他のアジアへの輸出が増加したこと、また、中東への依存度
がますます上昇してきていることも確認できる。また欧州においてもロシアの輸入が増加
してきており、冷戦崩壊後のロシアの増産が本格的に進んだことがそのような欧州での輸
入増加の背景要因として指摘できる。
111
図 4-5
1990 年代の世界の石油貿易フロー(1995 年)
(出所)BP 統計 1996 年版
図 4-6 北米・欧州・アジアの石油供給バランス(1995 年時点)
アジア太平洋
西欧
北米
-5,000
域内生産
北アフリカ
0
北米
西アフリカ
5,000
ラテンアメリカ
東南アジア
10,000
西欧
旧ソ連
15,000
20,000
中東
その他
'000 B/D
(注)グラフ中、マイナスになっているところは、域内生産で輸出されている部分を指す。
(出所)BP 統計 1996 年版
4-1-3 金融マネー流入期(2000 年代以降)
1) 市場との相互関係
2000 年代に入ると、
原油先物市場に大量に金融マネーが流入するようになった。これは、
112
2001 年における IT バブルの崩壊で米国が低金利政策を実施したため、大量のマネーが金
融市場に供給された結果、その一部が原油を始めとする商品先物市場にも流入するように
なったためである。特に 2004 年に、中国や米国において石油需要が急激に伸び37、今後の
新興国における石油需要の増加と需給逼迫懸念が高まったことによって、多くの金融マネ
ーが新たな投資先として原油先物市場に注目するようになった。2007 年秋にサブプライム
問題が深刻化し、2008 年にリーマン・ショックが起きると、機関投資家の「リスク許容度」
が低下し、短期的な取引を行う投機筋の資金が原油先物市場から引き上げられたため、原
油価格は 2008 年末にかけ大きく下落したものの、2010 年 11 月以降、米国で実施された
第2次量的緩和政策(QE2)によって再び金融市場にマネーが供給されると、そのような
金融マネーの一部が再び原油先物市場にも流入してきていると見られている。
このような金融マネーがどの程度の規模で原油先物市場に流入しているかは分からない
ものの、もともとの運用規模が極めて大きいため、ごくわずかな量の資金が流入してきた
だけでも、原油先物市場にとっては大きな影響が生じる。図 4-7 は 2011 年時点での各市
場の規模を示したものであるが、金融マネーの主たる運用先である株式市場や債券市場に
比較すると原油先物市場の規模は微小といってよい。仮に現在世界の株式市場で運用され
ている資金の 0.1%の資金であっても、ニューヨークの原油先物市場の 4 割程度の規模に
相当する。このため全体に対する比率にするとごくわずかな量のマネーの流入であっても、
となるため、その原油先物市場へのインパクトは非常に大きなものとなる。
図 4-7
債券・株式市場とニューヨーク原油先物市場の規模(2011 年時点)
70
66.30
59.10
60
10億ドル
50
40
30
20
10
0.15
0
債券
株式
NY原油先物
(出所)日本経済新聞(2011 年 6 月 7 日付)
ちなみに、このように、WTI 原油が金融商品として大きく成長を遂げる一方、その価格
水準は、金融市場の要因や受け渡し場所であるオクラホマ州クッシングの局地的な需給要
因によって大きく左右されるという制約が、2000 年代の後半に入り、問題視されるように
2004 年に米国と中国で石油需要増が増加した理由は、米国においては好調な経済に伴うガソリンを中
心とした石油需要増が見られ、中国においても経済成長の拡大による石油需要の増大と電力需要の急増に
伴う自家発用の石油需要が増加したためである。
37
113
なってきた。このため、1993 年以来、自国の原油価格の指標を WTI 原油に置いてきたサ
ウジアラビアは 2009 年に、その指標を WTI 原油から ASCI(Argus Sour Crude Index)
へ変更している38。サウジアラビアが ASCI へ指標を変更した理由は、ASCI は高硫黄分の
サウジアラビア原油と直接競合する米国の高硫黄原油の指標であり、低硫黄原油の WTI
よりもより米国での高硫黄原油の需給を適切に反映しているためである。その一方で、
Brent 原油は、米国・欧州・アジアの世界各市場で販売される原油の指標として用いられ
ているという特質を有しており、WTI に変わる代表的な指標原油に成長する可能性を指摘
する見方も出てきている。
アジアにおいては、2000 年代に入ってからも、再び先物市場を創設しようという動きが
見られ始めている。2007 年にはドバイ商品取引所(DME)でオマーン原油先物が上場さ
れた。この先物市場がこれまでの市場とは異なった意味で有望なのは、DME の株主でも
あるオマーン政府が、自国の産出原油の現物価格をこのオマーン原油先物を基に設定する
ような価格フォーミュラにした点である。但し、この DME を指標原油とする価格設定方
式は今のところオマーンのみが採用しているにとどまり、中東産油国全般的に普及するに
は至っていない。
以上、最も新しい先物市場である DME も含めた各原油先物市場の一覧を下表に示す。
ASCI とは、米国の石油情報サービス会社 Argus Media 社が発表している米国の高硫黄原油価格の指
標であり、同国のメキシコ湾岸地域で取引される Mars 原油、Poseidon 原油および Southern Green
Canyon 原油の平均価格をもとに設定されている。
38
114
表 4-2 世界の原油先物市場の概要
取引時間
取引の種類
取引単位
市場の
運営に 最小変動
関する
情報 最終決済価格
受け渡し方法
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)
CME Globex (電子取引)
CME Clearport :18:00-翌日17:15
(日∼金NY時間)
オー
プ
ン・
アウ
トク
ライ:9:00-14:30(日∼金
NY時間)
現物先物取引
1,000バレル
0.01ドル/バレル
なし
Cushingで現物引渡し
ICE Futures Europe
1:00-23:00(日∼金ロンドン時
間)
*日曜日は23:00から取引開始
*電子取引のみ
現物決済先物取引
1,000バレル
0.01ドル/バレル
東京工業品取引所(TOCOM)
日中立会:9:00-15:30
夜間立会:17:00-翌日4:00
*電子取引のみ
現金決済先物取引
50キロリットル
1円/キロリットル
ドバイ商業取引所(DME)
18:00-翌日17:15(日∼金NY時
間)
*電子取引のみ
現物先物取引
1,000バレル
0.01ドル/バレル
19:27-18:00(ロンドン時間)の プラッツ社が発表する当該限月の 16:15-16:30(シンガポール時
間に約定した当月限の加重平均価 ドバイ原油とオマーン原油の平均 間)の間に約定した当月限の加重
格
価格
平均価格
現金決済オプション付きEFP(現
物との取替え)
現物の受け渡しなし
積み港(オマーンのミナ・アル・
ファハル港)で現物引渡し
参加者
石油需要家 、石油生産業者、トレー 石油需要家、石油生産業者、ト
ダー、機関投資家
レーダー、機関投資家
石油需要家、石油生産業者、ト
レーダー、機関投資家
種類:生産地
West Texas Intermediate (米国)
Low Sweet Mix (Scurry Snyder )(米
国)
New Mexican Sweet (米国)
North Texas Sweet (米国)
Oklahoma Sweet (米国)
South Texas Sweet (米国)
Brent Blend (英国)
Bonny Light(ナイジェリア)
Qua Iboe(ナイジェリア)
Oseberg(ノルウェー)
Cusiana(コロンビア)
ドバイ原油及びオマーン原油の平
均価格を指標とする中東産原油
オマーン原油
38.5°
ドバイ:30.4°
オマーン:33.0°
33.0°
0.42% or less by weight
0.41%
ドバイ:2.13%
オマーン:1.14%
1.14%
清算機関
168,652,141枚
CME Clearing
100,051,669枚
ICE Clear Europe
943,450枚
株式会社日本商品清算機構
309,182枚
NYMEX Inc.
証拠金額
(2012年1月時点)
USD7,560
(2011年12月∼2012年3月)
USD6,000
¥95,000
(2012年2月1日∼2012年2月15日)
USD5,750
取引対
象原油
API
硫黄分
出来高(2010年)
37°∼42°
Brent(英国)
Forties(英国)
Oseberg(ノルウェー)
Ekofisk(ノルウェー)
石油生産業者、トレーダー、機関
投資家
(注)ドバイ商業取引所では、末端の販売網を有している事業者がメンバーとして参加していないため、
「参加者」に「石油需要家」は含まれていない。
(出所)日本エネルギー経済研究所作成
このような先物市場への金融マネーの流入が進むにつれて、投資資金による商品価格へ
の影響が大きくなってきた。原油価格に影響を及ぼす商品先物市場の価格乱高下を防ぐた
め、米国や欧州では、市場規制当局によって、市場の透明性の向上や建玉制限など規制の
強化が行われている。
米国では、2010 年 7 月、
「ドッド=フランク・ウォールストリート改革及び消費者保護
法」
(ドッド=フランク法)が成立し包括的な金融制度改革が図られることとなった。同法
の 下 、 先 物 規 制 当 局 で あ る 商 品 先 物 取 引 委 員 会( Commodity Futures Trading
Commission、CFTC)は、市場の流動性を保ちつつ過度な投機を防ぐために、建玉制限規
制の導入を義務付けられた。また、同法は、証券取引委員会(SEC)及び CFTC に対する店
頭デリバティブの監督権限の付与や、特定の市場参加者によるスワップ取引について清算
機関を通じた清算を定めた。
建玉制限については、2011 年 10 月 18 日、CFTC は石油や穀物等 28 種類の商品を対象
にした投機規制案を可決し、これまで対象外だった相対取引を含む総括的な建玉の制限が
115
導入された39。建玉制限は 2 種類に分けられる。直近限月物建玉制限(spot-month position
limits)は、受け渡しができる現物量の 25%が上限となる。一方、その他の限月物建玉制限
(non-spot-month position limits)については、市場の未決済持ち高が 25,000 枚以下に
ついては 10%、同枚数を超える場合は 2.5%が上限となる。28 商品の中に、NYMEX の天
然ガス、原油、ガソリン、暖房用オイルが含まれている。
欧州でも金融規制強化が喫緊の問題となっている。2011 年 10 月 20 日、欧州連合(EU)
の行政執行機関である欧州委員会は、「金融商品市場指令(MiFID: Markets in Financial
Insturments Directive)」
(2007 年 11 月施行)の見直し(MiFID II)に関する法案(MiFID
II ドラフト)を公表した。同ドラフトの主要な柱の一つは、原油や穀物などの商品デリバ
ティブの規制強化である。例えば、商品デリバティブを扱う全ての取引所に、緊急時の取
引の規制や持ち高制限などを導入することを求める。金融機関や穀物などの取引業者から
持ち高に関する情報を収集し提供することで、透明性を高めて投機資金の流入を牽制する
狙いがある 40。また、同ドラフトでは、株価乱高下を招きかねないコンピューターを使っ
た超高速取引に対する初めての規制も導入されている。MiFID II ドラフトは、第 3 回 G20
ピッツバーグ・サミットで合意されたコミットメントのデッドラインに合わせて、2012
年末までに最終ルール化されることが想定されている 41。
日本では、経済産業省と農林水産省が、2008 年 10 月に CFTC と、2009 年 6 月に英国
の金融サービス機構 Financial Services Authority(FSA)と、取引所における原油先物取引
の建玉情報を共有するなど市場監視に関する枠組み合意に署名した。2011 年 1 月には、商
品先物取引法が施行され、一般投資家への勧誘規制が強化された。
ドバイ市場の規制については、特筆すべき動きは見られない。
2)現物の動き
2000 年代の現物の動きにつき、2005 年時点での世界の貿易フローと主要国における石
油供給バランスをそれぞれ図 4-8 と図 4-9 に示す。米国・欧州・日本と共に中国やその他
のアジアが、世界の主な市場として成長してきたことが、それまでの石油市場の姿との大
きな違いである。主な地域ごとの供給バランスでは、アジア太平洋地域がさらに需要を拡
大させ、米国、欧州をその需要規模で完全に凌駕することになった。北米、欧州、アジア
太平洋共に石油の輸入依存度が上昇し、原油の供給確保については、より国際的な市場取
39
日本経済新聞 2011 年 10 月 19 日
日本経済新聞 2011 年 10 月 20 日
41 Reuters 2012年 1 月 20 日。デリバティブ取引の規制強化に向け、2012 年 1 月 23 日に予定されてい
た EU 加盟国と欧州議会の最終協議は、交渉の立場をめぐり各国間の意見調整がつかず、取りやめとなっ
た。拘束力を持つ仲裁権限を欧州証券市場機構(ESMA)に委譲する案について、ドイツが難色を示して
いるため。
40
116
引を介しての調達の重要性が高まりつつある。
図 4-8
2000 年代の世界の石油貿易フロー(2000 及び 2010 年)
(2000 年)
(2010 年)
(出所)BP 統計 2001 年、2011 年版
117
図 4-9 北米・欧州・アジアの石油供給バランス(2005 年時点)
アジア太平洋
西欧
北米
-5,000
域内生産
北アフリカ
0
5,000
北米
西アフリカ
10,000
15,000
ラテンアメリカ
東南アジア
20,000
西欧
旧ソ連
25,000
30,000
中東
その他
'000 B/D
(出所)BP 統計 2006 年版
今後の供給インフラの動きとして注目されるのが、米国内の縦断パイプラインの建設動
向である。また現在東シベリアから ESPO パイプラインの建設が進められており、計画通
りでいけば、将来的には 160 万 B/D もの原油がアジア太平洋市場に供給されることになる。
この ESPO 原油は現在、Dubai 価格リンクで販売されているが将来的にこの ESPO 原油
が絶対値で商われるようになるとアジア石油市場における新たな指標原油へと成長する可
能性もあり、今後の増産動向とその取引形態に注目が集まる。
118
図 4-10 石油貿易フローの変遷(再掲)
(1980 年)
(1990 年)
119
(2000 年)
(2010 年)
(出所)BP 統計各年版版
120
4-2 各市場の現状整理
4-2-1 NYMEX 市場
(1) NYMEX 市場の現状
ニューヨーク商品取引所(New York Mercantile Exchange、略称:NYMEX)は、1978
年にエネルギー先物として No.2 Heating Oil を上場したエネルギー先物市場の先駆け的
な存在である。現在では「原油をはじめ、エネルギー取引では世界最大の取引所」である
ことを誇っており、その中でも 1983 年に取引が開始された軽質低硫黄原油先物(Light
Sweet Crude Oil)は主要な取引品の 1 つに挙げられている42。既に述べたように、一般に
「WTI 原油」と称される先物価格は、厳密にはこの軽質低硫黄原油先物のことを指す。
この軽質低硫黄原油先物の通称として「WTI 原油」という表現が使われるのは、実際の
原油の受け渡しに最も多く用いられるのがこの WTI 原油であるからである。WTI 原油は、
アメリカ合衆国南部のテキサス州を中心に産出される原油であり、硫黄分が少なく、軽質
(API38.7°、硫黄分 0.45%)であるため、ガソリンや軽油などの石油製品の製造に適した
原油である。この NYMEX の WTI 原油価格は世界最大の消費市場であるアメリカの国内
需給と緊密に関連しているため、先物市場での取引量は最も多く、また価格決定の透明性
も高いため、国際原油価格で最も有力な価格指標となっている。
実際の WTI 原油の生産量は 2010 年時点で約 30 万 B/D 弱であるが 43、NYMEX で取引
される軽質低硫黄原油先物の取引量は 7 億 2300 万 B/D にもなっている 44。先物取引量に
比べ現物の WTI 産出量はごくわずかであるため、先物取引の殆ど全ては現物の受け渡し
を伴わないペーパー取引である。なお、現物については WTI 原油に加えて北海の Brent
原油やナイジェリアの Bonny Light 原油などといった他の同質の軽質低硫黄原油での受け
渡しも認められている。先物取引の基本的な取引単位は 1,000 バレル(=1 枚)であり、
立会い取引は午前 9:00 から午後 2:30 までに行われている。現物受渡しはオクラホマ州ク
ッシングにて行われる。
(2) WTI 先物価格の推移
2000 年以降の WTI 原油先物価格の動向を見てみると、2001 年 9 月に米国における同
時多発テロの影響で、経済と石油需要の低迷が懸念される中、$17/bbl まで急落した後、
42
43
44
NYMEX の 2010 年のエネルギー先物取引量は 3 億 4938 万枚であり、このうち、WTI 原油先物は 1
億 6865 万枚(48.3%)で最も多くのシェアを占めている。また、天然ガスと暖房油のシェアは、それ
ぞれ 18%と 16%である。また、NYMEX は 2008 年にシカゴ商品取引所(CME)を運営する CME グ
ループにより買収され CME グループとなる。CME グループホームページ
http://www.cmegroup.com/CmeWeb/ftp.wrap/webmthly
The International Crude Oil Market Handbook 2010
CME グループホームページより NYMEX/COMEX Exchange ADV Report Monthly
http://www.cmegroup.com/CmeWeb/ftp.wrap/webmthly (2011 年 1~9 月の平均値)
121
上昇傾向に転じており、イラク戦争前の 2003 年 1 月には$35/bbl 付近まで上昇した。2004
年に入り更に高騰を続け、2005 年秋には、米国メキシコ湾岸を襲ったハリケーン・カトリ
ーナの影響で初めて$70/bbl 台を突破し、2006 年 7 月にはイラン情勢や中東情勢の流動化
といった地政学的リスクの高まりの中で、終値で$77/bbl 超という高値を記録した。この
時期までは、原油価格の変動には、短期的な需給ファンダメンタルズ、中国やインドなど
の新興国の石油需要の急激な拡大、中東を中心とした地政学的リスクに対する懸念などが
原油価格変動における支配的な要因と考えられていた。
2007 年に入ると、サブプライムローン問題の表面化以降、世界的な株式市場の低迷、国
債の利回りの低下から、新たな資産運用先として原油先物市場に大量の資金が流入した。
また、米国の連邦準備制度理事会(FRB)が実施した量的緩和政策(QE1、QE2)によって合
計約 2.3 兆ドルの資金供給が行われたことも資金流入を促したと考えられる。この結果と
して、先物原油相場の変動に対し、金融的な要因も大きなインパクトを与えるようになっ
た。WTI 価格は 2008 年 7 月には一時、$145/bbl を超えるまで高騰したが、リーマン・ブ
ラザースの経営破綻を契機とした金融危機や世界的経済の後退により、一転価格は暴落し
2009 年 1 月には$40/bbl を割込んだ。しかし、OPEC による減産や新興国による石油需要
の増大見込み、米国における金融緩和による投資マネーの流入などの要因により、再び原
油価格の上げ基調は続き、2009 年平均原油価格は$62/bbl 強、2010 年は$80/bbl 弱、更に
2011 年に入り、経済の先行き不透明感はあるものの中東・北アフリカの政情不安等により、
2012 年 1 月時点で$100/bbl 前後の水準を推移している(図 4-11)。
図 4-11 NYMEX の WTI 原油先物価格の推移 (月平均価格)
140
2006/7/14
$77.03/bbl
$/bbl
2008/7/3
$145.08/bbl
2005/9/19
$67.39/bbl
120
100
2003/1/21
$34.61/bbl
80
2001/11/15
$17.45/bbl
60
40
2009/1/15
$35.4/bbl
20
(出所)EIA
122
2011年7月
2011年1月
2010年7月
2010年1月
2009年7月
2009年1月
2008年7月
2008年1月
2007年7月
2007年1月
2006年7月
2006年1月
2005年7月
2005年1月
2004年7月
2004年1月
2003年7月
2003年1月
2002年7月
2002年1月
2001年7月
2001年1月
2000年7月
2000年1月
0
(3) WTI 先物取引量の動向
NYMEX の原油先物取引量は、総じて 90 年代後半から増加傾向にある。特に 2002 年以
降の取引量は大幅に拡大し、2011 年 1∼9 月の出来高は、平均日量 7 億 2301 万バレルで
あり、世界全体の原油需要の 8,769 万 B/D45の 8 倍超の規模となっている(図 4-12)。と
りわけ、2007 年以降の取引量の増加はそれ以前の増加幅に比べて目を見張るものがある。
同じく、同期間における NYMEX の WTI 原油先物の取組高(Open interest)も 2004 年
から増加する傾向を示しており(図 4-13)、2011 年 5 月には取組高は 160 万枚を超えたが、
2011 年 9 月末時点では 140 万枚を割込んでいる。それでも 2004 年の水準の 3 倍前後へと
拡大している。
NYMEX の WTI 原油先物の年平均出来高(再掲)
666.6
800
取引高
700
03
08
09
283.1
02
545.4
482.2
01
237.7
00
212.4
99
181.7
149.0
97
148.1
96
151.4
100
121.5
200
98.3
300
182.7
400
93.6
百万B/D
500
532.3
世界の石油需要
600
723.0
図 4-12
0
98
04
05
06
07
10
11
(出所)WTI 先物取引量は CME ホームページ; 世界の石油需要 IEA 「Oil Market Report」より作成
45
IEA 統計
123
図 4-13 NYMEX の WTI 原油先物の取組高の推移
180
160
140
万枚
120
100
80
60
40
20
2011年1月
2010年1月
2009年1月
2008年1月
2007年1月
2006年1月
2005年1月
2004年1月
2003年1月
2002年1月
2001年1月
2000年1月
1999年1月
1998年1月
1997年1月
1996年1月
1995年1月
1994年1月
1993年1月
1992年1月
1991年1月
1990年1月
1989年1月
1988年1月
1987年1月
1986年1月
0
(出所)CFTC ホームページ
4-2-2 ICE 市場
(1) ICE Futures Europe市場の現状
欧州の原油取引の中心として機能している市場が ICE(Interncontinental Exchange)
である。ICE の前身は 1980 年に創設されたロンドン国際石油取引所(International
Petroleum Exchange、略称:IPE)であり、IPE は石油先物としては初めてガスオイルを
上場し、1988 年に Brent 原油を上場した。先物取引の基本的な取引単位は 1,000 バレル
(=1 枚)であり、米ドルでの決済となっている。なお、NYMEX が今も立会市場を維持
しているのに対し、ICE は 2005 年 4 月に先物の取引を全面的に電子化した。
欧州の原油取引の基準となっている Brent 原油は、WTI 原油と並んで国際石油市場にお
ける主要な価格指標となっている原油の 1 つである。Brent 原油とは、イギリスの北海に
ある Brent 油田系統に属する 26 油田及びニニアン油田系統に属する 10 以上の油田から生
産される多種の原油をブレンドした軽質低硫黄原油(API38.5°、硫黄分 0.41%)を指す。
Brent 原油の生産量は、2010 年で 13.9 万 B/D(前年比▲4.6 万 B/D)であるが 46、現在そ
の生産量は低下傾向にあるため、世界的な商品市況情報会社 Platts は、2002 年に Brent
原油、Fourties 原油及び Oseberg 原油の代替受渡しを認めた BFO(Brent/ Forties/
Oseberg)、更に 2007 年には、これにノルウェーの Ekofisk 原油を加えた BFOE(Brent
46
International Crude Oil Market Handbook 2010
124
/Fourties/ Oseberg/ Ekofisk)条件の Brent 原油の取引を、その価格評価の対象に変更し
てきている。
Brent 原油市場は、北海におけるスポット取引の発展と共に成長してきた経緯があるた
め、スポット市場、先渡し市場(フォワード)、先物市場(フューチャーズ)という相互に
絡み合った 3 つの市場の複合体であるという性質も有している。
(2) Brent 先物価格の推移
Brent 先物価格は、2000 年代の半ばから、大幅な上昇基調と価格の乱高下が続いている
(図 4-14)
。これは WTI と同様、この時期の原油需給の逼迫化によって、機関投資家の間
で今後の原油市場が投資先として有望であるとの見方が広まったことがその要因である。
WTI 原油先物価格と ICE の Brent 原油先物価格は 2010 年までは連動して変動してい
た。ナイジェリアの不安定な政情等 ICE 市場及び Brent 原油の独自の要因で需給がひっ
迫すれば、Brent 原油先物価格が WTI 原油先物価格を上回ることもあったが、基本的には
WTI 原油先物価格が Brent 原油先物価格より若干上回る水準が続いていた。これは、米国
における原油の輸入需要の拡大に伴い、原油のフローは欧州から米国へと流れ、WTI 原油
とほぼ同一の油種とみなされる Bernt 原油がクッシング時点で WTI 原油と等価とみなさ
れるには、Breunt 原油が WTI 原油と比較してフレート分少なくてはならなかったためで
ある。しかし、2010 年後半に入ると WTI 原油先物価格と Brent 原油先物価格は価格逆転
現象が顕著となり、2011 年 2 月には両原油の価格差は Brent 原油の$10/bbl 高を超え、さ
らに同 6 月以降は$20/bbl を超える水準が継続した(図 4-15)。その後、2011 年末から後
述する要因によって価格差は$10/bbl 前後にまで縮まってきている。
125
図 4-14 ICE の Brent 原油先物価格47の推移 (月平均価格)
(出所)Oil Energy ホームページ
図 4-15 Brent 原油先物と WTI 原油先物の価格差の推移
30
25
$/Bbl
20
15
10
5
0
2011 年12月
2011 年11月
2011 年10月
2011 年9月
2011 年8月
2011 年7月
2011 年6月
2011 年5月
2011 年4月
2011 年3月
2011 年2月
2011 年1月
2010 年12月
2010 年11月
2010 年10月
2010 年9月
2010 年8月
2010 年7月
2010 年6月
2010 年5月
2010 年4月
2010 年3月
2010 年2月
2010 年1月
(5)
(出所)CME ホームページ、ICE ホームページより作成
このような価格差の逆転の背景にはいくつかの理由が指摘できる。まず、WTI 原油の価
格が下記のような要因によって上昇が抑制されているという点が挙げられる。
①
47
米国の景気回復の鈍化
WTI 原油先物、Cushing 渡し第 1 限月価格(Crude Oil Future Contract 1)
126
②
クッシングからメキシコ湾までの原油輸送インフラがないため、メキシコ湾岸地域
での他原油との裁定取引を行うことが困難
③
2010 年から 2011 年にかけてクッシング向けの新規パイプライン稼動に伴うクッシ
ングへの原油の流入が増加
一方、Brent 原油の価格は以下のような要因によって上昇圧力が強くかかっていること
も指摘できる。
④
北アフリカ最大の産油国リビアの原油供給途絶(欧州の指標原油である Brent 原油
と性状が似ているリビア原油は、2011 年 2 月から減少傾向が続き、約 160 万 B/D
あった原油の生産量がついに 6 月時点では 10 万 B/D を割ってしまっている)
⑤
Brent 原油の生産量減少による供給のタイト化
このうち、⑤の要因については、2011 年 11 月、カナダの Enbridge 社がヒューストン
からクッシングまで原油を輸送する Seaway Pipeline を ConocoPhillips から買収し、その
原油の輸送方向を逆送させる計画を明らかにしたため、割安なクッシングでの WTI 原油
をメキシコ湾まで輸送して裁定取引を行える環境が整う見込みが出てきた。このため、こ
の発表があった後、両者の価格は急速に縮小し、一時$27/bbl 台にまで拡大した価格差は、
本稿執筆時点の 2012 年 1 月では、$10/bbl 台にまで縮小している。
(3) Brent 先物取引量の動向
ICE の Brent 先物の取引量は、2000 年から拡大を続けており、特に 2006 年以降に取引
量の急増が見られ、2011 年は 9 ヶ月経過時点で既に前年実績に匹敵する勢いである(図
4-16)
。2010 年年間取引量は、前年比 35%増の 100,051,669 枚と初めて 1 億台を突破し、
史上最高の取引量を記録している。
127
図 4-16
ICE の Brent 原油先物の取引量(年平均)
274
300
164
47
50
59
66
2001年
2002年
2003年
50
2000年
100
203
83
121
150
70
million b/d
200
187
250
2010年
2009年
2008年
2007年
2006年
2005年
2004年
0
(出所)ICE ホームページ
4-2-3 東京工業品取引所
(1) TOCOM 市場の現状
現在、アジアにおける唯一の公設原油先物取引市場は東京工業品取引所(The Tokyo
Commodity Exchange:TOCOM 又は東工取)である。TOCOM は、現在、原油、ガソリ
ン、灯油、軽油、金、銀、白金、パラジウム、アルミニウム及びゴムなどの先物取引を行
っており、2001 年 9 月 10 日から中東原油先物の取引を開始した48。一般投資家に加えて、
投資銀行、商社、一部の元売り・流通業者などのプレイヤーが石油関連の商品取引を行っ
ている。TOCOM における原油先物取引の基本的な取引単位は 50 キロリットル(=1 枚)
であり、決済方法は円建ての現金決済となっている。また、取引の期限及び限月は発会日
の属する月から起算した 6 ヵ月以内の各限月となっている。取引方法はシステム売買によ
る個別競争売買で、立会時間は 2009 年 5 月より日中立会時間が 9:00∼15:30、夜間立会が
17:00∼翌日 4:00 となっている。なお、各限月につき 2,400 枚の建玉制限がある。
(2) TOCOM の原油先物の取引動向
2010 年、TOCOM の中東原油先物の出来高は 943,450 枚であり49、TOCOM 全体の出
来高の 3%にとどまった(図 4-17)
。一方、ガソリンと灯油の出来高はそれぞれ 9%と 4%
のシェアを占めている。原油及び各石油製品の出来高の推移は 2003 年に 4,000 万枚を越
える最高記録を達成したが、それ以降は減少傾向を示しており、2010 年には約 467 万枚
48
49
ドバイ原油及びオマーン原油の平均価格を指標とする中東産原油
取引単位:1 枚が 50 キロリットル(314.49 バレル)
128
と、2003 年比(石油関係取引合計)で約 89%も減少している。
図 4-17 TOCOM の 2010 年商品別出来高シェアと原油・石油製品先物の年間取引量の推移
銀
1%
白金
17%
ゴム
11%
その他 原油
1% 3% ガソリン
9%
灯油
4%
軽油
0%
金
54%
4,500
軽油
4,000
灯油
3,500
ガソリン
万枚
3,000
原油
2,500
2,000
1,500
1,000
500
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
(出所)TOCOM ホームページより作成
2010 年の TOCOM の原油取引量は約 3.0 億バレルと換算されるが、NYMEX での WTI
原油(約 1,686.5 億バレル)や ICE での Brent 原油(約 1,000.5 億バレル)の取引量の足
元にも及ばない。このような取引量の伸び悩みの理由としては、以下のような問題点が指
摘されている。
①
アジア向けの中東産原油は、産油国から仕向地限定、転売禁止条項という制限を課
せられているため、取引の自由度に制約がある。
②
TOCOM での先物取引の対象が「中東産原油」となっており具体的な油種に対応し
ていない。
③
NYMEX 市場や ICE Futures Europe 市場の 2 つの市場取引単位と違って、キロリ
ットル単位取引、また円決済取引となっており、為替レートなどによるリスクも発
生するため、海外の取引業者にとっての利便性が低い。
④
日本国内の一般投資家にとってなじみが薄く人気に乏しい。
129
⑤
日 本 国 内で の最 も主 要 な 当 業者で あ る 日 本の 石 油 元 売会 社の 利 用が少 ない 。
TOCOM の会員別出来高によると、原油及び石油製品の大口取引者は、総合商社お
よび証券会社等である(表 4-3)
。
表 4-3
TOCOM の原油先物売買高上位 10 位取引者
順位
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
売買高
ニューエッジ・ジャパン
岡地
住友商事
豊商事
クレディ・スイス
アストマックス
コムテックス
ドットコモディティ
岡安
岡藤
(枚数)
2,158
2,087
2,053
2,042
1,415
1,141
1,043
647
488
306
(注)2011 年 10 月 12 日時点
(出所)TOCOM ホームページ
4-2-4 シンガポール市場
シンガポールでは、アジアにおける石油取引の中心地として、OTC(Over the counter:
相対取引)が活発に行われている。公設の取引市場としては、シンガポール取引所 SGX
(Singapore Exchange、以下 SGX)と、2010 年に設立されたばかりのシンガポール商業
取引所 SMX(Singapore Mercantile Exchange、以下 SMX)とがあり、両取引所とも石
油の先物市場を開設している。
(1) OTC 市場
シンガポールでは、OTC と呼ばれる取引所を介さずに相対で行われる先物取引が活発に
商われている。シンガポール自体は石油を生産しておらず、現物の原油の引き渡し基地の
ようなものがあるわけではない。しかし、シンガポール自身がアジアの石油精製基地の一
つであり、世界各国から多種多様な原油が輸入されていること、また原油の引き渡し場所
が中東やシンガポール以外のアジアの産油国であっても、それらの原油を売買する事業者
やトレーダーの多くがシンガポールにオフィスを構え、多様なニーズを抱えてプレイヤー
がシンガポールに集中していることなどから、伝統的にシンガポールがアジアの原油取引
の中心となっている。なお、シンガポールにて OTC が好まれる理由としては、
①
取引関係者双方が合意すれば多様なニーズに対応が可能で、公設の先物取引所に比
べれば制約が少ないこと
②
アジアでは個別取引の透明化を嫌う傾向が強いこと
130
③
シンガポールには OTC を取扱うブローカーが多数存在すること、
等の要因が指摘されており、シンガポールでは先物取引の定着が難しいというのが定説
である。
このシンガポールにおける OTC 取引に関する公式な統計はないものの、OTC 市場にお
いて中心に行われているのは現物の動きを伴わない所謂ペーパー取引の占める割合が多い
と言われている。そのペーパー取引の中心はスワップ取引50で、スプレッド(所謂「鞘」)
を売買する。Crack Spread51など品目間スワップは少なく、殆どは Time Spread52である。
その中では欧米との Regional Spread53もある。この OTC 取引のにおける価格には、価格
情報機関である Platts 社が発表する FOB シンガポール渡しの高値と安値の平均値 MOPS
(Mean of Platts Singapore:MOPS)が用いられている。MOPS はスワップ取引だけで
なく石油製品の現物取引の指標としても広く利用されている。
(2) SGX 市場
SGX は、シンガポール証券取引所 SES(Stock Exchange of Singapore、以下 SGX)と
シンガポール国際金融取引所 SIMEX(Singapore International Monetary Exchange、以
下 SIMEX)の合併により、1999 年 12 月 1 月に設立された証券とデリバティブの取引所
である。SIMEX は 1989 年に重油、1990 年にはドバイ原油、1991 年にはガスオイルを上
場したが、期待に反して取引が低迷したため、いずれも上場廃止となり、現在は重油(粘
度 380cst)の先物取引を 2010 年の 2 月から始めているが、2010 年の年間出来高で 6,490
枚にとどまり、決して活況とは言えない。
(3) SMX 市場
SMX(Singapore Mercantile Exchange)はインド、ドバイ、シンガポール、アフリカ、
モーリシャス、バーレーンで 10 ヶ所の取引所を設立してきたインドのファイナンシャル・
テクノロジー・グループ(Financial Technologies Group)によって設立された取引所で、
2010 年 8 月 31 日よりドル建ての WTI 原油やユーロ建ての Brent 原油などの取引を開始
50
51
52
53
固定価格と変動価格の交換取引のこと。変動価格の取引を行ったプレイヤーが、その取引による価格
変動リスクを回避するため、別のプレイヤーとの間で固定価格と変動価格の相対取引を行い、固定価
格と変動価格の差額を清算する(支払いないし受取りを行う)取引のこと
原油と石油製品の価格差の取引である。すなわち、ペーパーの原油を買い(売り)
、同時にペーパーで
製品を売る(買う)ことで、原油と石油製品の価格差を固定(ロック)する取引のこと
同一の商品で、期近物と期先物の同時売買を行い、その差額でリスクヘッジや鞘取りを行おうとする
取引。例えば、先高(コンタンゴ)の場合は期近物を買い、期先物を売ることになり、先安(バックワ
ーデーション)の場合は期近物を売り、期先物を買うといった取引となる
同一の商品で、地域間で価格差が生じている場合にその差額でリスクヘッジや鞘取りを行おうとする
取引。
131
しているが、現段階では活発な取引は行われていない。
4-2-5 DME 市場
(1) DME 市場の現状
ドバイ商業取引所(Dubai Mercantile Exchange、略称:DME)は、Tatweer(ドバイ
の政府系持株会社 Dubai Holdings 傘下の投資・運用会社)とオマーン国営投資ファンド
OIF(Oman Investment Fund)
、NYMEX の親会社である CME グループの 3 社が主要
株主で、その他にも Goldman
Sachs、J.P. Morgan、Morgan Stanley などの金融機関や
Shell、Vital、Concord Energy などのエネルギー会社等が株主として名を連ねる。DME
は、主にエネルギーに特化した商品を取扱う取引所であり、その本部は、金融サービス促
進のために設置されたドバイの金融特区であるドバイ国際金融センターDIFC(Dubai
International Financial Center)内にある。DME のオマーン原油先物は 2007 年 6 月に
取引が開始され、この取引は NYMEX の精算機関で決済され、その履行が保証されている。
(2) DME 市場の出来高の動向
DME 市場でのオマーン原油先物の出来高は、2007 年 6 月に取引開始以来、着実に伸びて
きているが、やはり NYMEX や ICE の規模には遠く及ばない。市場規模が小さい原因の
一つとして、同市場には現物業者が積極的に参加しているため、通常の先物市場と比べる
と大量の現物の受け渡しが行われている点が挙げられる。これは、現物の受け渡しは、オ
マーンのミナ・アル・ファハル(Mina al-Fahal)港で行われるが、現物調達能力に乏し
い金融機関系の市場参加者は、現物受け渡しの当事者になるリスクを恐れて積極的にポジ
ションをとることができないため、全体の取引量が増えないためであるとされる。
なお、DME でのオマーン原油先物の上場に伴い、オマーン政府はオマーン原油の輸出
価格に関して、従来の遡及価格設定方式(産油国が船積み月の翌月に公式販売価格を一方
的に通知する方式)を変更して、DME の原油先物価格の月間平均価格を翌々月に船積み
されるオマーン原油の公式販売価格 OSP(Official Selling Price)として採用するように
なった。このため納会日は当月限の 2 カ月前の最終営業日に設定されている。また、取引
の方式については、DME 側は NYMEX の電子取引技術を採用しており54、取引単位は
1,000 バレル(=1 枚)
、取引時間は月曜 6:00 から土曜 5:15(シンガポール時間)、対象月
は 2 ヶ月先の先物としている。
54
具体的には、DME ダイレクトと呼ばれるプラットフォームは、NYMEX の相場表示システムを利用し
て、リアルタイムの注文・成約データを、データ販売会社などに提供するとしている。
132
図 4-18 DME 市場の出来高の推移
80
74.5
72.8
2010
2011
70
55.2
万枚
60
50
40
30
32.1
20.1
20
10
0
2007
2008
2009
(注)2011 年取扱高は 1∼10 月実績
(出所)DME ホームページ
ちなみにオマーン原油の OSP 設定方式と他の産油国が採用している遡及価格設定方式
との違いとは、一言でいえば、オマーン原油は実際の積荷の前にその価格が分かっている
ものの、他の中東原油はタンカーに積む前にはその価格は分かっていないということであ
る。例えば、10 月に積荷されるオマーン原油の価格は 2 か月前の 8 月が終了した時点で 8
月の DME でのオマーン原油先物の月中平均価格として確定しているのに対し、遡及価格
決定方式の場合には、10 月に積荷される原油の価格は 10 月が終わり、11 月にならないと
いくらになるのか判明しないという違いがある。
4-2-6 低硫黄原油の種類と価格決定方式
発電用生焚き原油として年間約 10,000kl 55を日本の電力会社は受け入れているが、その
内の 6 割以上が、インドネシア、マレーシアやベトナムなどから輸入する原油(通称、南
方原油)に依存している。原油の多様化を図るべくアフリカ、豪州、ロシアなどからも輸
入しているが、まだまだ少量である。日本の発電用生焚き原油の代表的な油種と性状、お
よび価格決定メカニズムを下表に記す。
55
経済産業省資源エネルギー庁編纂「電力需給の概要」(平成 21 年度)2007 年度、2008 年度のデータ
より。2009 年度、2010 年度の受入数力は、電力調査統計月報によると各約 380 万 kl、470 万 kl と激
減している。
133
表 4-4 生焚き原油の一覧
油種名
産出国
API
硫黄分
生産量
('000B/D)
価格決定メカニズム
ICP(Indonesia Crude Price)を基に調整。ICPは
毎月のPlattsとRIMの原油assessmentの平均価
格をベ
ースに決定。同国の価格決定方式は6ヶ月毎
に見直しされる
同上
同上
同上
Tapisを基に調整
PlattsとAPPI(Asian Petroleum Price Index)の
Minas原油価格の平均値±α、
APPIは香港の価格評価サービス会社。ただし
Dated Brentリンク採用を検討
電力会社
受入数量
(kl/年)
Minas
インドネシア
34.50
0.08%
198
Duri
Widuri
Cinta
Seria Light
インドネシア
インドネシア
インドネシア
ブルネイ
21.30
32.50
33.40
34.50
0.18%
0.09%
0.08%
0.09%
185
22
22
100
Su Tu Den
ベトナム
36.80
0.05%
93
Bach Ho
Kikeh
Enfield
Rabi Light
Nile Blend
Doba
ベトナム
マレーシア
オーストラリア
ガボン
スーダン
チャド
40.80
36.70
21.70
35.10
33.90
21.00
0.03%
0.06%
0.13%
0.12%
0.06%
0.10%
131
71
29
60
195
120
Vityaz
ロシア
38-40
0.18%
110
Tapis
マレーシア
45.60
0.03%
170
APPI(Asian Petroleum Price Index)を基に
Platts、Argusの価格も加味し決定
-
Espo
ロシア
34.70
0.54%
250
Dubai±α、主としてMurban(UAE)やOmanなどの
中東原油と競合となるため
Dubaiを利用
-
Dubai
ドバイ
30.4
2.13%
54
DME(Dubai Mercantile Exchange:ドバイ商業取
引所)先物価格リンク
-
同上
Tapisを基に調整
Dated Brentリンク
Dated Brentリンク
Minasリンク
Dated Brentリンク
Dubai±α、主としてMurban(UAE)やOmanなどの
中東原油と競合となるため
Dubaiを利用
1,951
1,925
365
401
71
954
562
31
54
369
1,563
223
14
【参考】
(出所)油種は経済産業省資源エネルギー庁編纂「電力需給の概要」
(平成 21 年度)より日本の電力会社
2007 年・2008 年度に受入れている油種で The International Crude Oil Market Handbook 2010に記載さ
れているものを記載。日本の電力会社受入数量は 2007 年度、2008 年度合計の年平均受入数量
また併せて、世界で生産されている低硫黄原油の生産量と性状、および価格決定メカニ
ズムを表 4-5 に示す。価格決定のメカニズムの指標原油として、ICP(Indonesia Crude
Price)、APPI(Asian Petroleum Price Index)、Brent、WTI、Dubai 等多岐に亘るが、
その中でも Brent 原油の価格が大きな影響力を持っていることがわかる。
134
表 4-5 世界の軽質低硫黄原油一覧
Saharan Blend
Algeria
Nemba
Angola
Palanca Blend
Angola
Medanito
Argentina
Cossack
Australia
Gippsland
Australia
Azeri (BTC )
Azerbaijan
Azeri Light
Azerbaijan
Seria Light
Brunei
Hibernia
Canada
Syncrude Sweet Premium
Canada
Cusiana
Colombia
N'Kossa
Congo
Alba
Equatorial Guinea
Rabi Light
Gabon
Jubilee
Ghana
45.7
38.7
37.2
34.9
47.7
52.3
36.6
34.8
34.5
35
34.4
44.1
41.3
53
35.1
37.6
0.10%
0.22%
0.18%
0.48%
0.05%
0.08%
0.16%
0.15%
0.09%
0.45%
0.18%
0.11%
0.18%
0.02%
0.12%
0.25%
生産量
(kbd)
1220
220
70
300
38
73
780
90
100
125
280
80
80
60
60
120
Belanak
Indonesia
47.8
0.02%
43
Handil Mix
Minas
West Seno
Kumkol
Abu Attifel
Amna
Brega
El-Sharara
Es Sider
Mellitah
Sarir
Sirtica
Zueitina
Kikeh
Indonesia
Indonesia
Indonesia
Kazakhstan
Libya
Libya
Libya
Libya
Libya
Libya
Libya
Libya
Libya
Malaysia
41.3
34.5
38
41.2
43.3
37.1
42.4
42.1
37
42
37.5
41.1
40.8
36.7
0.04%
0.08%
0.12%
0.11%
0.06%
0.17%
0.22%
0.07%
0.39%
0.10%
0.17%
0.42%
0.35%
0.06%
14
198
15
126
110
180
80
277
340
147
190
75
50
71
Tapis
Malaysia
45.6
0.03%
170
Maari
New Zealand
37.7
0.08%
18
Tui
New Zealand
42.3
0.07%
17
Agbami
Akpo
Amenam Blend
Brass River
Erha
Okono
Qua Iboe
Yoho
Kutubu
Nigeria
Nigeria
Nigeria
Nigeria
Nigeria
Nigeria
Nigeria
Nigeria
PNG
47.2
46.2
40.7
34.6
34.2
40.7
35.2
40.1
44.8
0.05%
0.07%
0.09%
0.22%
0.18%
0.07%
0.12%
0.10%
0.04%
200
160
127
150
165
58
300
97
38
Sokol
Russia
38.7
0.21%
165
Vityaz
Russia
油種名
産出国
硫黄分
API
38-40
Arab Super Light Saudi Arabia
0.18%
110
51.4
0.05%
230
35
0.15%
50
Cheleken
Turkmenistan
Bach Ho
Vietnam
40.8
0.03%
131
Rang Dong
Su Tu Den
Marib
Vietnam
Vietnam
Yemen
39.6
36.8
43.3
0.05%
0.05%
0.17%
37
93
87
価格フォーミ
ュラ
Dated Brent リンク
Dated Brent リンク
Dated Brent リンク
WTIリンク
Brentリンク
Dated Brent リンク
Brentリンク
Brentリンク
Tapisを基に調整
WTIとWTSを基に調整
WTIとWTSを基に調整
WTIを基に調整
Dated Brent リンク
Dated Brent リンク
Dated Brent リンク
Brentリンク
ICP(Indonesia Crude
Price)を基に調整。ICPは毎
月のPlattsとRIMの原油
assessmentの平均価格を
同上
同上
同上
Dated Brent リンク
Dated Brent リンク
Dated Brent リンク
Dated Brent リンク
Dated Brent リンク
Dated Brent リンク
Dated Brent リンク
Dated Brent リンク
Dated Brent リンク
Dated Brent リンク
Tapisを基に調整
APPI(Asian Petroleum
Price Index )を基にPlatts、
Argusの価格を加味し決定
Brentリンク
Tapisを基に調整。Dated
Brentリンクの検討を始めて
Dated Brent リンク
Dated Brent リンク
Dated Brent リンク
Dated Brent リンク
Dated Brent リンク
Dated Brent リンク
Dated Brent リンク
Dated Brent リンク
Dated Brent リンク
Dubai±α 、主として
Murban(UAE)やOmanなど
の中東原油と競合となるため
Dubaiを利用
同上
DubaiとOmanの平均値に調
整項を加算
Brentリンク
PlattsとAPPI(Asian
Petroleum Price Index )の
Minas原油価格の平均値±
α、APPIは香港の価格評価
サービス会社。ただし Dated
Brentリンク採用を検討
同上
同上
Brentリンク
主な輸出先
日本の権益保有企業
西欧、北米、一部アジ
ア太平洋
アジ
ア、特に中国
欧州、一部中国
ブ
ラジ
ル、米国
アジ
ア太平洋
Mimi(三菱商事、三井物産)
国内
INPEX10%、伊藤忠3.9%
ト
ルコ
グ
ルジ
ア
INPEX10%、伊藤忠3.9%
イント
゙
ネシア
東部カナタ
゙
、米国東海岸
カナタ
゙
、米国
米国
米国
地中海、ブ
ラジ
ル
米国
東南アジ
ア、日本、
INPEX35%
日本
国内、日本
国内、豪州、NZ、シンガ
ポ
ール
国内、中央アジ
ア
欧州、米国
独、伊
国内、伊、独、スイス
国内、地中海
伊、独、スイス
欧州
欧州
欧州
INPEX85%
タイ
国内、タイ
豪州
豪州
Mitsui E&P35%
ブ
ラジ
ル
ブ
ラジ
ル、地中海
米国
米国、欧州
米国、一部イント
゙
米国
米国、イント
゙
米国、イント
゙
豪州、日本、タイ、中国
日本パプアニューギニア石油
アジ
ア、特に日本、韓国
Sodeco30 %
アジ
ア太平洋、特に日本
三菱商事12.5%、三井物産10
アジ
ア太平洋、特に日本
イラン
国内、日本
日本、中国
日本、中国
日本、中国
JX日鉱日石開発46.5%
(注)API≧34、かつ硫黄分<0.5%にて油種を抽出
(出所)The International Crude Oil Market Handbook 2010
今後の低硫黄原油の生産見通しについて、2020 年時点での見通しを図 4-19 に示す。こ
こでの低硫黄原油とは 0.2%以下の原油を指す。2020 年時点では、世界全体で 2,108 万 B/D
の低硫黄原油が供給される見通しであり、うち中国、アルジェリア、ナイジェリアが上位
3 カ国の座を占める。
135
図 4-19
2020 年時点での低硫黄原油の生産見通し
中 国 , 2,985
その 他 ,
4,970
ナイジ ェリ ア ,
2,659
豪 州 , 415
スーダン , 683
インド , 778
2020年時点
21,082千B/D
ア ル ジ ェリ ア ,
1,524
ア ンゴ ラ ,
1,011
マレーシ ア ,
789
カナダ, 1,448
リ ビア , 1,367
インドネシ ア ,
1,018
ア ゼル バ イ
ジ ャン, 1,434
(出所)Purvin & Gertz
また今後低硫黄原油の増産が見込まれる国と減産が予想される国について、それぞれ上
位 10 社ずつを図 4-20 に示す。今後は特にアンゴラやナイジェリアにおいて大規模な増産
が見込まれており、その他にもガーナ、リビア、スーダン、アルジェリアなどアフリカ産
油国が名を連ねる。今後の低硫黄原油の調達先はアフリカが中心になることが分かる。
図 4-20 今後の低硫黄原油の増減産上位 10 カ国
減 産 上 位10カ国 ( 2010年 -2020年 )
増産上位 10カ国( 2010年 -2020年)
アンゴラ
784
ナイジェリア
519
アゼルバイジャン
463
カナダ
ルーマニア
-25
ブルネイ
-28
コロンビア
-33
ガボン
-34
453
中国
252
232
ガーナ
リビア
211
米国
-41
チャド
-45
タイ
-53
スーダン
193
ブラジル
-54
アルジェリア
192
カザフスタン
-57
マレーシア
179
ノルウェー
0
200
400
600
-400
800
-236
-300
-200
'000 b/d
'000 b/d
(出所)Purvin & Gertz
4-3 各先物取引市場における主要プレイヤー
136
-100
0
4-3-1 プレイヤーの概要と構成
(1) 実需取引者(Hedger、Producer/Merchant)
先物市場においては様々なプレイヤーがその取引に従事しているが、そのようなプレイ
ヤーとして最初に挙げられるのが、当然のことながら実需取引者である。この実需取引者
には、石油生産業者である石油メジャーや独立系石油会社、また石油の消費者である精製
業者、貯油施設(油槽所、貯蔵基地など)の運営業者、航空会社、鉄道会社などが含まれ
る。これらの事業者は現物の原油の生産資産や精製設備、最終消費のための資産・設備を
有しており、その事業を行う際の石油価格変動リスクをヘッジする目的で原油先物取引を
行う。NYMEX における事業者区分においては「Hedger」として区分され、ICE におい
ては「Producer/Merchant」として区分されている。
(2) 金融運用者(Money Manager、Managed Money)
次に、
原油先物市場には実需の裏付けを持つ事業者以外の事業者も取引に参画しており、
その典型例が金融運用者(Money Manager)である。この金融運用者に区分される事業
者としてはヘッジファンドや年金ファンド等、一定規模の資産を預かりそれを様々な資産
に投資して運用益を上げている事業者が挙げられる。NYMEX では「Money Manager」、
ICE では「Managed Money」と区分されている。この金融運用者の中でも特に規模の大
きいのが、年金ファンドであり、その資産規模は 2010 年時点で約 26 兆ドルとされる 56。
代表的な年金基金としては、米国のカリフォルニア州公務員退職年金基金(Calfornia
Public Employee’s Retirement System:CalPERS)、ノルウェーの政府年金基金等がある。
(3) スワップ取引者(Swap Dealer)
スワップ取引者とは、単純に Short、Long どちらかのポジションを取るのではなく、反
対側の取引を有する市場参加者を指す。スワップ取引者は先物取引に従事している実需取
引者や金融運用者などに対して、それぞれの取引における価格リスクを肩代わりするスワ
ップ取引を提供する。金融運用者と同じく、実需を扱わない事業者であるが、金融運用者
がいわゆる投資の目的で原油先物取引に参加するのに比べて、スワップ取引者は特定のポ
ジションを取ることなく、買いと売りをほぼ同時に立てている点に特徴がある。単純化を
恐れず言えば、金融運用者が買い持ちで先物取引に参加するのに比べて、スワップ取引者
は買いと売りのネットのポジションを常にゼロにしようとする。具体的な事業者としては、
投資銀行などの金融機関等がこの区分に含まれる。NYMEX、ICE 共に「Swap Dealer」
と区分されている。
4-3-2 プレイヤーの行動形態
56
ロイター通信、2011 年 2 月 15 日
(http://jp.reuters.com/article/financialCrisis/idJPJAPAN-19555220110215)
137
(1) 実需取引者
実需取引者の行動形態については、まず石油生産業者であれば、先物でショートポジシ
ョンをとることで原油の販売額を確定するというのが一般的な取引スタイルである。たと
えば現在、原油価格が$80/bbl で今後その価格が下がりそうだと考えられる場合には、
$80/bbl で先物を売っておいて、決済時期が来たときに自らの原油を直接ないしは間接的
に用いてこれを決済し、原油価格の下落による収入の落ち込みを回避するという具合であ
る。通常は、数年先までのヘッジにとどめるが、流動性がある場合はそれよりも長期間に
わたって売りポジションを取ることもある。典型的な生産業者の先物の利用形態としては、
2008 年の価格高騰時に、メキシコの国営石油会社である PEMEX が大量に先物の売り注
文を行い、2009 年の販売予定を全てカバーしたという事例もあった。PEMEX が実際にい
くらで先物を売っていたかは定かではないが、2008 年から 2009 年にかけては原油価格が
大きく下落した時期でもあり、PEMEX はこの取引によって他の生産事業者と比べて高い
収入をあげることができたものと考えられる。
一方、石油の精製事業者は、先物原油を買い持ちすることで調達費用を確定するという
目的で先物市場を利用しているのが一般的である。これは生産業者の反対の取引であり、
今後原油価格が上昇していくと考えられる場合には、先物原油を買っておいて、将来原油
が必要となる際にその先物を決済して原油を調達するという具合である、精製事業者も石
油生産者同様、短期的なヘッジにとどめるパターンがほとんどである。精製事業者の場合
には、価格の上昇に対するリスクヘッジを行うという観点からオプションを用いる場合も
ある。また、精製事業者の場合には、原油と石油製品化価格間のスプレッド(価格差)を
商うことで精製マージンの確定を行うという目的でも先物市場を利用するケースがある。
これは、例えば将来の原油先物を$80/bl で買い、石油製品のガソリンを$100/bbl 売ってお
く。その後、この先物の決済時点での原油価格が$85/bbl 、ガソリン価格が$95/bbl になっ
てしまった場合、本来であれば$95/bbl-$85/bbl=$10/bbl となるマージンを、先物の決済
を通じてそれよりも高い$100/bbl -$80/bbl=$20/bbl のマージンを確保することが可能と
なる(もちろんこのパターンの逆もあり、本来であればもっと高いマージンを確保できた
のに、それよりも少ないマージンを固定してしまう結果になることもある)。
この他には、ジェット燃料を大量に消費する航空会社のように石油製品価格の水準によ
ってその収益性が大きくされるような業種の場合には、製品価格と非常に高い相関関係を
有し、かつ非常に流動性の高い先物市場を持つ原油先物を買うことでその燃料調達費用を
ヘッジするというケースもある。さらには、企業間の M&A(合併・買収)が行われる際
には、その M&A の経済性を確保するために戦略的に先物市場を活用する場合もある。
このように、実需取引者と一口に言っても、その事業形態によってはポジションの取り
方は大きく異なる。実需取引者に区分される事業者は、ショートとロングの双方で先物市
場を利用しているが、全体的に見れば、生産事業者のようにショートポジションで参加す
138
るケースが多く、実需取引者のネットバランスは通常ネットショートになっている。
(2) 金融運用者
金融運用者の行動形態としては、まず「トレンド・フォロー」と呼ばれる手法で、全体
の値動きを見ながら売り買いどちらかが優勢な状況が見られたらその流れに乗って売り買
いを繰り返すことで利益を上げる手法を取っているものが多い。また、へッジファンドの
場合には、短期的に売りと買い双方の取引を行い、デリバティブ取引なども活用しながら
も積極的にリスクを取りながら利益を上げるという投資スタイルを取る形態も見られる。
他方、年金ファンドの場合はその運用資金の原資となっているのが加入者の年金積立金
であるという性質上、投資形態にも過度なリスクを取らないよう厳格なルールを有すると
ころも多く、全般的にはリスク回避的な投資姿勢を持つといわれる。また、年金ファンド
のような金融運用者の場合には、長期的な観点から投資を行うという観点からヘッジファ
ンドのように、短期の価格変動で売り買いを行うようなことはせず、長期的に買い持ちを
維持するような投資スタイルを持つ。その際には、後述するスワップ取引者が提供する商
品インデックスと呼ばれる金融商品を介して先物市場での運用を行うことが多いとみられ
ている(商品インデックスの運用手法については、6-5-3 で述べる)
(3) スワップ取引者
スワップ取引者の取引形態は、異なる投資ニーズと価格リスクを抱えた実需取引者や金
融運用者などの間に立ち、それぞれの取引のスワップを仲介するというものである。スワ
ップ取引者に含まれる事業者は、投資銀行をはじめとする金融機関が多いが、これは非常
に数多くの異なるニーズを抱えた事業者を相手に取引を行うため、市場全般の動向に対す
る情報収集機能を有していること、しかるべき与信リスクを取ることができることなどが
求められるためである。
スワップ取引のニーズには、スワップされるべき商品の価格や期間などさまざまなもの
があるため、それぞれのニーズに見合ったより柔軟な取引形態が好まれる。このためスワ
ップ取引者が取り扱うスワップ取引は、NYMEX などの公設市場での先物取引だけではな
く、より柔軟な相対での OTC 市場(相対取引)が多用される傾向がある。たとえば、航
空会社がジェット燃料の価格をヘッジしようとしても NYMEX にはジェット燃料の先物
がないため、原油や暖房油の先物を用いざるを得ないが、OTC 市場ではこのような取引ニ
ーズに対しても柔軟な取引形態が可能となる。
スワップ取引者は、様々なニーズを有する投資家の間に立って取引を仲介する者である
以上、その収益源はスワップ取引から得られるものである。従って、スワップ取引者の最
も単純な収益の上げ方の一つは、ある顧客が将来のある時点での価格変動リスクをヘッジ
したいというニーズを有している場合、例えば 1 月時点で半年後のガソリンを$100/bbl で
139
調達したいというニーズを持つ事業者がいた場合に、その顧客に対し、$100/bbl のジェッ
ト燃料の先物を売り、自らは OTC 市場においてそれによりも安い価格でのジェット燃料
を調達することで利鞘を抜くというパターンとなる。しかしながら、それだけではなく、
スワップ取引者に区分されているような投資銀行は、金融運用者などのファンドから出資
された資金の運用を代行することで、その手数料や自らも自己勘定で運用を行うことでよ
り大きな収益をあげているパターンが多い。
4-4 3大市場における価格フォーミュラについて
世界の石油市場は、域内の石油消費を背景に、北米、欧州、アジアの三大市場が形成さ
れている。その中で、米国と欧州で中心となっているのが先物市場で、北米では NYMEX、
欧州では ICE Futures Europe が石油価格の情報発信の役割を果たしている。アジアにお
いては、欧米のような公設の先物市場はあるものの、主導的な石油価格の情報発信機能を
果たしているとは言い難く、Platts 社の発表する価格アセスメントがその役割を果たして
いる。
4-4-1 米国市場
米国(北米)市場では NYMEX における WTI 原油価格が、北米における原油や石油製
品の価格指標となり、現物の価格指標にもなっている。米国(北米)市場においては、国
内ならびに周辺国(カナダ、メキシコなど)から供給される原油と、輸入原油(中南米、
中東など)が競合するため、各産油国は競争的環境におかれており、価格設定も競争的な
ものとなっている。
(1)主要産油国の価格フォーミュラ
米国市場向けの産油国別価格フォーミュラを表 4-6 に示す。米国向けの原油価格のフォ
ーミュラについては、サウジアラビアを初めとする中東の多くの産油国が 2010 年 1 月か
ら米国向け原油輸出価格を従来の WTI 原油価格連動から、ASCI57(Argus Sour Crude
Index:米国メキシコ湾岸地域で取引される Mars 原油、Poseidon 原油および Southern
Green Canyon 原油の加重平均価格)連動に変更した。他方、ナイジェリアは Brent 原油
のスポット価格(Dated Brent)を用い、メキシコは West Texas Sour(WTS)原油など
別の指標原油を用いている。なお、サウジアラビアはフォーミュラに運賃調整項を設定し
ている。
WTI⇒ASCI 変更への背景として、これらの油種は中東産原油同様、硫黄分の多い中質原油であり、硫
黄分の少ない WTI よりも近い性状であること、 また、これら 3 油種のスポット取引は日量 40∼60 万バ
レルと、米国で最も活発に取引されている原油であることから、より現物原油の需給を反映すると考えら
れたことなどが挙げられる。さらに、3 油種の生産地が分散していることから、局地的な自然災 害など
の影響が緩和されるという点も考慮されたものと思われる。
57
140
表 4-6 米国市場向け主要産油国における原油油種別価格フォーミュラ
販売地点
設定日
(積載後)
Extra Light-40
FOB
1ヶ月
〔ASCI〕±〔調整項〕−〔運賃割引項〕
Light-33
FOB
1ヶ月
〔ASCI〕±〔調整項〕−〔運賃割引項〕
Medium-31
FOB
1ヶ月
〔ASCI〕±〔調整項〕−〔運賃割引項〕
Heavy-28
FOB
1ヶ月
〔ASCI〕±〔調整項〕−〔運賃割引項〕
Extra Light-40
US Gulf
配送日
〔ASCI〕±〔調整項〕
Light-33
US Gulf
配送日
〔ASCI〕±〔調整項〕
Medium-31
US Gulf
配送日
〔ASCI〕±〔調整項〕
Heavy-28
US Gulf
配送日
〔ASCI〕±〔調整項〕
-31
US Gulf
配送日
〔ASCI〕±〔調整項〕
Kirkuk-34
Ceyhan
10
〔ASCI〕±〔調整項〕
Basarah-30
FOB
15
〔ASCI〕±〔調整項〕
Bonny Light-33
FOB
5
〔Dated Brent〕±〔調整項〕
Forcados-30
FOB
5
〔Dated Brent〕±〔調整項〕
Qua Iboe-35
FOB
5
〔Dated Brent〕±〔調整項〕
Brass River-35
FOB
5
〔Dated Brent〕±〔調整項〕
Escravos-34
FOB
5
〔Dated Brent〕±〔調整項〕
Isthmus-33
FOB
0
〔0.4×(WTS+LLS)+(0.2×DB)〕±〔調整項〕
Maya-22
FOB
0
〔0.4×(WTS+3%Fuel Oil)〕+〔0.1×
(LLS+DB)〕±〔調整項〕
Olmeca-39
FOB
0
(WTS+LLS+DB)/3
Ecuador
Oriente-24
FOB
0
〔WTI〕±〔調整項〕
Venezuera
Furrial-30
FOB
0
〔WTI〕±〔調整項〕
国名
Saudi Arabia
Kuwait
Iraq
Nigeria
Mexico
油種-API
価格フォーミュラ
(注 1)ASCI:Argus Sour Crude Index
(注 2)Brent および DB:Dated Brent(積載日確定後の Brent 原油のスポット取引)
(注 3)WTS:West Texas Sour Spot Price, LLS:Louisiana Light Sweet Spot Price
(注 4)Fuel Oil の%は硫黄分 (注 5)WTI:West Texas Intermediate spot price at Cushing
(注 6)配送日:仕向け地での荷揚日
(出所)Petroleum Intelligence Weekly(PIW)
上表に示されるように、米国市場向けの原油販売においては、販売地点に関してはその
多くが FOB(積み地での販売)である。価格設定日に関しては、米国市場への距離や指標
原油の選択に応じて違いが見られる。
4-4-2 欧州市場
欧州市場では ICE Futures Europe において、北海油田で生産される Brent 原油や天然
ガスやガスオイルなどの先物取引が行われている。欧州市場では供給側として域内産原油
141
(英国、ノルウェーなど)と輸入原油(ロシア、中東など)があり、お互いの原油は競合
関係にある。さらに、今後はカスピ海周辺諸国やアフリカ諸国などからの増産が期待され
ることから、各産油国には競争的な価格設定が求められている。
(1)主要産油国の価格フォーミュラ
欧州市場向け産油国別価格フォーミュラを表 4-7 に示す。欧州市場の主要な輸入相手国
は中東、アフリカ、ロシアなどで、ほとんどの国が指標原油として Brent 原油を用いてい
る。ICE Brent 先物平均価格(Brent Weighted Average: B-Wave)を用いる産油国と、
Brent のスポット価格(Dated Brent)を用いる産油国とに分かれる。前者は、サウジア
ラビア、クウェートおよびイランで、2000∼2001 年に B-Wave に移行した。Dated Brent
を用いる国は、イラク、イエメン、ナイジェリア、リビア、エジプト、メキシコなどがあ
げられる。
142
表 4-7 欧州市場向け主要産油国における原油油種別価格フォーミュラ
国名
Saudi Arabia
Kuwait
Iran
Iraq
Yemen
Nigeria
Libya
Egypt
販売地点
設定日
(積載後)
Extra Light-37
FOB
40
〔B-Wave〕±〔調整項〕−〔運賃割引項〕
Light-33
FOB
40
〔B-Wave〕±〔調整項〕−〔運賃割引項〕
Medium-31
FOB
40
〔B-Wave〕±〔調整項〕−〔運賃割引項〕
Heavy-28
FOB
40
〔B-Wave〕±〔調整項〕−〔運賃割引項〕
Extra Light-40
Sidi Kerir
0
〔B-Wave〕±〔調整項〕
Light-33
Sidi Kerir
0
〔B-Wave〕±〔調整項〕
Medium-31
Sidi Kerir
0
〔B-Wave〕±〔調整項〕
Heavy-28
Sidi Kerir
0
〔B-Wave〕±〔調整項〕
FOB
40
〔B-Wave〕±〔調整項〕
油種-API
-31
価格フォーミュラ
Light-33
Sidi Kerir
配送日
〔B-Wave〕±〔調整項〕
Heavy -30
Sidi Kerir
配送日
〔B-Wave〕±〔調整項〕
Kirkuk-34
Ceyhan
5
〔Dated Brent〕±〔調整項〕
Basarah-30
FOB
5
〔Dated Brent〕±〔調整項〕
Marib-43
FOB
0
〔Dated Brent〕±〔調整項〕
Masila-31
FOB
0
〔Dated Brent〕±〔調整項〕
Bonny Light-33
FOB
5
〔Dated Brent〕±〔調整項〕
Forcados-30
FOB
5
〔Dated Brent〕±〔調整項〕
Qua Iboe-35
FOB
5
〔Dated Brent〕±〔調整項〕
Brass River-35
FOB
5
〔Dated Brent〕±〔調整項〕
Escravos-34
FOB
5
〔Dated Brent〕±〔調整項〕
Es Sider-37
FOB
0
〔Dated Brent〕±〔調整項〕
Sarir-38
FOB
0
〔Dated Brent〕±〔調整項〕
Amna-37
FOB
0
〔Dated Brent〕±〔調整項〕
Brega-42
FOB
0
〔Dated Brent〕±〔調整項〕
Sirtica-41
FOB
0
〔Dated Brent〕±〔調整項〕
Zueitina-41
FOB
0
〔Dated Brent〕±〔調整項〕
Souedieh-23
FOB
5
〔Dated Brent〕±〔調整項〕
Suez Bl-31
FOB
0
〔Dated Brent〕±〔調整項〕
Gharib Bl-24
FOB
0
〔Dated Brent〕±〔調整項〕
Rasbudran-24
FOB
0
〔Dated Brent〕±〔調整項〕
(注 1)B−Wave:Brent 原油先物価格の加重平均
(注 2)Brent および DB:Dated Brent(積載日確定後の Brent 原油のスポット取引)
(注 3)Fuel Oil の%は硫黄分 (注 4)配送日:仕向地での荷揚げ日
(出所)Petroleum Intelligence Weekly(PIW)
上表に見られるとおり、欧州市場への原油販売においては、サウジアラビアの一部とイ
ランが地中海岸の Sidi Kerir を販売地点としている以外は 58、ほとんど FOB(積み地での
販売)となっている。価格設定日に関しては、サウジアラビア、クウェートが船積み後 40
58
Sidi Kerir は、エジプトにある地中海側の積み出し港であり、スエズ運河と並行して存在している
SUMED パイプラインの終点である。
143
日、イラク、ナイジェリアが船積み後 5 日を設定ポイントとしている59以外は、多くは船
積み日を価格設定ポイントとしている。
4-4-3 アジア市場
(1)主要産油国の価格フォーミュラ
アジア市場向けの産油国価格フォーミュラを表 4-8 に示す。サウジアラビア、クウェー
ト、イラン、イラク、メキシコは、Platts 社が発表する Dubai 原油、Oman 原油の月間平
均スポット価格を指標原油価格として用いている。他方、イエメンは欧州市場向けと同様
に Dated Brent を指標原油価格として用いている。
表 4-8
国名
Saudi Arabia
Kuwait
Iran
Neutral Zone
Iraq
Yemen
アジア市場向け主要産油国における原油油種別価格フォーミュラ
販売地点
設定日
(積載後)
Super Light-51
FOB
積載日
〔Oman+Dubai〕/2±〔調整項〕
Extra Light-40
FOB
積載日
〔Oman+Dubai〕/2±〔調整項〕
Light-33
FOB
積載日
〔Oman+Dubai〕/2±〔調整項〕
Medium-31
FOB
積載日
〔Oman+Dubai〕/2±〔調整項〕
Heavy-28
FOB
積載日
〔Oman+Dubai〕/2±〔調整項〕
Iran Light-33
FOB
積載日
〔Oman+Dubai〕/2±〔調整項〕
Heavy-30
FOB
積載日
〔Oman+Dubai〕/2±〔調整項〕
油種-API
価格フォーミュラ
-31
FOB
積載日
〔Oman+Dubai〕/2±〔調整項〕〕
Light-33
FOB
積載日
〔Oman+Dubai〕/2±〔調整項〕
Heavy -30
FOB
積載日
〔Oman+Dubai〕/2±〔調整項〕
Khafji-29
FOB
積載日
〔Oman+Dubai〕/2±〔調整項〕
Basarah-30
FOB
積載日
〔Oman+Dubai〕/2±〔調整項〕
Marib-43
FOB
積載日
〔Dated Brent〕±〔調整項〕
Masila-31
FOB
積載日
〔Dated Brent〕±〔調整項〕
(注 1)Oman:Oman Spot Price、Dubai:Dubai Spot Price
(注 2)Brent および DB:Dated Brent(積載日確定後の Brent 原油のスポット取引)
(出所)Petroleum Intelligence Weekly(PIW)
上表に示すとおり、アジア市場向けの原油販売において販売地点は基本的に FOB(積み
地での販売)となっている。また、価格設定日に関しても、基本的に船積みをした日の月平
均が最終的な価格に反映される。従って、現物の原油を積んだ時点では、オマーン原油な
どの例外を除き、多くの中東原油は積んだ時点では最終的な販売価格がいくらになるかは
わからない。
59
サウジアラビアから原油を購入する場合、欧州市場向けは積日から 40 日後の日を基準として前後 5 日
間の指標原油の平均価格をベンチマークとする。
144
5.国際原油市場における主要国の動向
5-1 サウジアラビア
5-1-1 エネルギー政策におけるスキーム、キーパーソン
サウジアラビアは、国家財政の大半を石油収入に依存しているため、国家財政の安定の
ため適切な水準に石油価格を維持することを目指している。特に急増する国内の人口と高
い失業率の問題を解決するためにも、安定的な石油収入を確保することと併せて、石油精
製や石油化学等、関連産業への分散化を積極的に推進している。
石油政策では増大する世界の石油需要を満たし 150 万∼200 万 B/D の余剰生産能力を確
保するための生産能力の維持・増強を主要な政策課題においている。また国内のガス需要
を満たすためのガス供給能力の拡張にも積極的に取り組んでいる。さらに、近年では増大
する国内エネルギー需要に対応するため、ガス、原子力、再生可能エネルギーの導入にも
関心を示している。外資導入政策については、石油の上流部門は中立地帯の油田開発を除
いて外資の参入が認められていないものの、ガスの上流部門においては欧州・アジアの企
業が参入し、現在探鉱作業が進められている。この他に、石油の下流部門や石油化学、電
力などにおいても外資の導入が進められている。
現在のサウジアラビアにおけるエネルギー政策分野での最高意思決定機関は、2000 年 1
月に設立された最高石油鉱物資源評議会(Supreme Council for Petroleum and Mineral
Affairs:SCPM)であり、国営石油会社サウジアラムコの 5 ヶ年経営計画・
投資計画の承
認を始め、国内の天然資源政策全般の最終決定権を有している。なお、2000 年 8 月、SCPM
はサウジアラビアの基本的な石油政策として以下の 4 点を確認しており、現在もこれらの
内容に変更はない。
①
石油市場の安定と石油消費国に対する安定供給を保証するため、OPEC 内外の産
油国と協力していく。
②
石油産業をサウジアラビア経済の発展に寄与させるとともに長期的に石油収入を
極大化する。
③
世界のエネルギー消費における石油の地位を維持するとともにサウジアラビアの
販売シェアを維持する。
④
いつでも適切な生産が行うことができるような余剰生産能力を維持する。
145
SCPM はアブダッラー国王が議長を務め、ナイーフ皇太子 60(副首相兼内相)、サウード
外相、ナイミ石油鉱物資源相、アル・ファラーハ
サウジアラムコ CEO などで構成され
ている。石油を除き天然ガスその他のすべての炭化水素資源上流部門における活動につい
ては SCPM が決定権を有する(当該部門の特定企業との協定、契約を含む)。
5-1-2 原油購入契約に関する基本情報
サウジアラビアは原則としてターム契約による販売を行いスポット販売は行っていない。
ターム契約では購入原油の転売が禁止されている。ターム契約の販売価格は後述するフォ
ーミュラで決定され、サウジアラビア原油の販売は国営石油会社のサウジアラムコが行っ
ている。
5-1-3 権益持分原油の扱い
2011 年7月現在、サウジアラビアにおける外資による石油上流開発は、分割地帯(旧中
立地帯)の油田開発を除いて認められていない 61。分割地帯の原油に関しては埋蔵量の計
上が認められている。
5-1-4 生産量・埋蔵量
BP 統計によると、2010 年末におけるサウジアラビアの確認埋蔵量は 2,645 億バレル(世
界に占めるシェアは 19.1%)で、世界最大の産油国である。2010 年時点での石油生産量
(NGL 含む)は 1,001 万 B/D であった。サウジアラビアは我が国の最大の原油輸入先で
ある(106.8 万 B/D、シェア 28.8%、2010 年)。
5-1-5 価格決定方式・販売方針
サウジアラビアの原油輸出価格は、「指標原油価格+/-調整項」というフォーミュラで決
定されている。この指標原油価格は市場連動方式で決定され、米国向けは 2010 年 1 月か
ら WTI 原油に代わり Argus Media 社が発表する The Argus Sour Crude Index(ASCI)
を採用されている。この ASCI は、具体的には、Mars、Poseidon、Southern Green Canyon
の 3 つの油種の加重平均価格からなっている。欧州向けは ICE 原油先物市場における
Brent 加重平均価格(Brent Weighted Average:B-Wave)、アジア市場向けは Platts 社が
発表する Dubai 原油と Oman 原油価格が指標原油価格として採用されている。
この指標原油価格に対して付け加えられる調整項は、国営石油会社サウジアラムコが市
60
61
スルタン皇太子の死去に伴い、2011 年 10 月 28 日新たに皇太子に任命された。
サウジとクウェートの旧中立地帯では、現在、Chevron のみが鉱区開発権を保有している。
146
況を見ながら毎月 5 日までに翌月積みのものを決定することになっている。調整項は当該
地域のスポット市場における競合原油の動向、ならびにその地域の製品市場におけるトレ
ンドを考慮して決定される。サウジアラビア以外の中東産油国はサウジアラビア産原油の
価格が決定されてから自国産原油の価格決定を行なっており、その意味でサウジアラビア
は中東産原油のプライス・リーダーと言える。
5-1-6 油種・生産能力
サウジアラビアから生産される原油にはアラビアン・エクストラ・ライト(Arabian
Extra Light:API 比重 39.5、硫黄分 1.07%)、アラビアン・ヘビー(Arabian Heavy:
API 比重 27.6、硫黄分 2.94%)」、
「アラビアン・ライト(Arabian Light:API 比重 33.0、
硫黄分 1.83%)」
、「アラビアン・ミディアム(Arabian Medium:API 比重 30.5、硫黄分
2.56%)」、
「アラビアン・スーパー・ライト(Arabian Super Light:API 比重 51.4、硫黄
分 0.05%)」の 5 種類がある。サウジアラビアは OPEC の生産枠の範囲内で可能な限り原
油輸出収入を獲得するために、相対的に高価格で販売可能な軽質および中質原油の生産・
販売を優先する傾向がある。従って、減産局面では主に重質原油(アラビアン・ヘビー)
の生産量を削減する。IEA によれば、2011 年 12 月時点でのサウジアラビアの原油生産能
力は 1,200 万 B/D であり、余剰生産能力は 215 万 B/D となっている 62。
5-1-7 輸出先・輸出量の見通しと輸出インフラ
サウジアラビアの 2010 年における原油輸出量は 664 万 B/D であった。輸出先別に見る
と北米向けが 121.2 万 B/D で全体の約 18%を占め、西欧向けが 65.8 万 B/D で約 10%、
アジア向けが 426 万 B/D で約 64%となっている。中でもアジア向け輸出は対 2009 年比
で 7%の高い伸びを示しており、2011 年以降も中国を始めとするアジア向け輸出が増大す
ると予想される。
輸出インフラとして、主要な原油積み出し港はペルシャ湾岸のラスタヌラ(Ras Tanura:
出荷能力 600 万 B/D、貯蔵能力 3,300 万 bbl、桟橋 18 基、ULCC 最大 500 千 DWT)と
ジュアイマ(Juaymah:出荷能力 300 万 B/D、貯蔵能力 1,750 万 bbl、ULCC 最大 700
千 DWT))、紅海沿岸のヤンブー(Yanbu:出荷能力 450∼500 万 B/D、貯蔵能力 1,100 万
bbl、ULCC 最大 500 千 DWT)の 3 箇所である。ヤンブーまでは東部の油田地帯から原油
パイプライン(Petroline)が敷設されており、その輸送能力は 480 万 B/D である。
5-1-8 日本企業の進出(権益)等
62
IEA、Oil Market Report、2012 年 1 月 18 日
147
サウジアラビアは、上流開発に関して中立地帯の油田開発を除いて外資の参入が認めら
れていないこともあり、石油上流部門における日本企業の権益取得はない。以前は日本の
アラビア石油がクウェートととの中立地帯に権益を有していたが、これは 2000 年に失効
している。
148
図 5-1 サウジアラビアの主要油田・石油関連インフラ
(出所)University of Texas
149
5-2 イラン
5-2-1 エネルギー政策におけるスキーム、キーパーソン
イランのエネルギー政策の中心は、国内に賦存する石油、天然ガスを海外に輸出・販売
し、獲得した外貨を基に以下の 3 点を速やかに実施することにある。
・老朽油田の改修、ガス圧入、新規探鉱開発による原油生産能力の増強
・国内石油精製設備の新・増設による国内向け石油製品供給能力の拡充
・天然ガス生産能力の増強、国内利用の推進による余剰原油の輸出振り向け
現在のイランにおけるエネルギー政策分野での最高意思決定機関は、2001 年 10 月に設
立された最高エネルギー評議会である。同評議会はマフムード・アフマディネジャード大
統領を議長とし、エネルギー資源の国益のための適正利用、石油・天然ガス生産・消費の適
正化、環境汚染防止策などエネルギー全般に関わる政策に関する協議、調整、決定を行う。
その下で、国会石油委員会が大規模石油・天然ガス事業提案や大型合弁投資案件を審議し、
必要な立法措置を取り、石油省他関係官庁が個々のエネルギー政策を立案、実施する責任
と権限を持つ。
また、イラン国営石油会社(NIOC)は、OPEC 閣僚会議対処方針や原油価
格政策など、枢要な国家石油戦略シナリオ策定の過程に石油省との緊密な連携の下に深く
関わっており、NIOC は実質的に石油省とほぼ一体化している。NIOC の戦略決定に大き
な影響を及ぼす人物の一人は大統領であるが、その他に大統領とは政治姿勢を異にする勢
力(聖職者・議会メンバーなど)も NIOC の戦略に影響を及ぼしていると見られている。
なお、2011 年 8 月、石油相には大統領の指名によりロスタム・ガセミ氏が就任している。
5-2-2 原油購入契約に関する基本情報
イランは原則としてターム契約による販売を行うが、一部欧州向けにスポット販売を行
っている。ターム契約は後述するフォーミュラでのプライシングがなされている。イラン
原油のマーケティングは、国営の NIOC が行っている。
5-2-3 権益持分原油の扱い
憲法によりイランの炭化水素資源に関する外国人による所有が禁じられているため、外
資による上流開発は、イランが憲法上の規定を回避するために考案したバイパック契約形
式によって行われている。その内容は、NIOC と契約を締結した開発企業が投資分(資本
費・銀行手数料・操業費)+リターンを自ら開発した生産物で限定期間内に受取る契約で
ある。主要な石油上流部門における契約形態の中では、その契約の性格は技術サービス契
約に近いといえる。
150
5-2-4 生産量・埋蔵量
BP 統計によると、イランの 2010 年末における原油確認埋蔵量は 1,370 億バレル(世界
に占めるシェアは 9.9%)で、サウジアラビア、ベネズエラに次いで依然として世界第 3
位の大産油国である。なお、2010 年の原油生産量は 426 万 B/D であった。
5-2-5 価格決定方式・販売方針
イランはイラン産原油の輸出価格に関して仕向地別に異なった指標原油を採用している。
アジア向けについては、イラニアン・ライト(Iranian Light)、イラニアン・ヘビー(Iranian
Heavy)とも、Platts 社が発表する Oman と Dubai の原油の平均価格を指標原油として
いる。この指標原油が 1 ヶ月に 0.10$/bbl を超えて変動する際には 1 ヶ月毎、変動幅が
0.10$/bbl 以内であれば 3 ヶ月毎に調整が行なわれる。なお、欧州向けに関してはイラニ
アン・ライト、イラニアン・ヘビーとも ICE の Brent 加重平均価格(Brent Weighted
Average:B-Wave)が指標原油として採用されている。
価格決定の流れは、サウジアラビアが月初めに翌月の価格調整項の額を発表し、それを
受けてイランは主として原油の品質格差をベースとした差額を調整して価格を決定する形
になっている。
1980 年代に始まるアメリカの対イラン経済制裁の結果、イランはアメリカ向けに原油を
販売することができなくなった。その結果、かつてアメリカ向けであったこの余剰分の多
くが、地中海の精製事業者との間でのターム契約で販売されている。その他には、主にア
ジアのバイヤーとの間でターム契約による販売が行われており、その中でも、特に日本、
韓国、そして最近は中国といった北東アジアの消費国への販売量が多い。イランの原油輸
出の多くはターム契約によるが、一定量(約 30 万 B/D)の原油が主に SUMED パイプラ
インの終点であるエジプトの Sidi Kerir 出しのスポット市場で販売されている。
原油はイランにとって主要な外貨獲得源であるために、原油価格の適切な水準での安定
は重要な課題である。そのため、イランは OPEC の中心メンバーとして生産調整にコミッ
トしている。従来からイランは原油高価格を支持する「タカ派」とされているが、これは、
サウジアラビアと比較すると原油埋蔵量が少ないこと、また余剰生産能力が小さいため増
産の余地が限られること等から、最大限の石油収入をあげるには増産よりも高価格が必要
とされるためである。
5-2-6 油種・生産能力
151
イランから生産される原油として代表的なものは、「イラニアン・ライト( Iranian
Light:API 比重 33.4、硫黄分 1.36%)」、
「イラニアン・ヘビー(Iranian Heavy:API 比
重 29.5、硫黄分 1.99%)」、
「シリー(Sirri:API 比重 33.3、硫黄分 1.79%)」、「フローザ
ン(Foroozan:API 比重 30.1、硫黄分 2.31%)」がある。2011 年 12 月時点の原油生産能
力は 351 万 B/D である。なお、2015 年までに 500 万 B/D に生産能力を増強する目標を掲
げているが、イラン国内の既存油田は年率約 10%の割合で生産能力が減退していると見ら
れており、また欧米諸国からの制裁の影響もあり新規投資も遅れがちであることから、そ
の実現は困難と見られている。
5-2-7 輸出先・輸出量の見通しと輸出インフラ
イランの 2010 年における原油輸出量は 258 万 B/D であった。輸出先別に見ると、アジ
ア向けが 157 万 B/D で全体の約 61%を占め、欧州向けが 88 万 B/D で約 34%、アフリカ
向けが 13 万 B/D で約 5%となっている。
輸出インフラとしては、世界最大級の原油積出港として知られているカーグ島がある。
現在有する原油桟橋は 10 基で、その内カーグ島の東部にある6基は VLCC(最大 275 千
DWT )による船積みが、また西部の3基は ULCC(最大 500 千 DWT)による船積みが
可能である。アフワーズ∼カーグ島(全長 236km、輸送能力 100 万 B/D)、ガッチサラ
ン∼カーグ島(全長 58km、輸送能力 150 万 B/D)の 2 本のパイプラインがイラン南部
の油田よりカーグ島まで結ばれ原油が送られている。イランの原油輸出の多くがこのカー
グ島を通じて行われている。
5-2-8 日本企業の進出(権益)等
2004 年 2 月、国際石油開発(当時)と NIOC 子会社 Naftiran Intertrade Co.との間で
Azadegan 油田開発に係る契約が締結された。しかし、イラン核開発問題を巡る国際的な
緊張が高まったこともあり、2010 年 9 月には同案件から撤退することを決定し、2011 年
10 月には完全撤退した。
5-3 イラク
5-3-1 エネルギー政策におけるスキーム、キーパーソン
イラクにおけるエネルギー政策分野での最高意思決定機関は、2005 年 4 月に発足した
エネルギー評議会である。同評議会は石油・ガス・電力に関する政策的な意思決定を行う。
その下で、石油省と電力省がそれぞれ石油・ガスと電力に関する行政を行う。本稿執筆時
152
点(2012 年 1 月)の石油相は Abdul Kareem Luaibi 氏である。
イラクのエネルギー政策において目下最も優先されている課題は、石油生産及び収入の
回復を加速させることである。それに加えて、近年イラク政府は、国内経済の復興や産業
の発展、
社会安定の確保に向けた電力供給の安定化についても重視する姿勢を見せている。
この他、随伴ガスの回収と活用を含む国内の天然ガス供給体制の強化、国内製油所の増設
による石油製品の安定供給確保等も重要性の高い政策アジェンダとして認識されている。
イラクのエネルギー政策に対して最も大きな影響力を有するキーパーソンは、マーリキ
首相である。その下のシャハリスタニ副首相(前石油相)も、イラクの石油・ガス・電力
政策を管掌しており、影響力が大きい。またガドバン首相顧問(元石油相)も、石油関連
政策の決定過程では一定の影響力を有するとみられている。しかし、2010 年 3 月の総選
挙以降、国内の政治情勢は混とんとしており、現在のエネルギー政策は、それぞれの役職
者や組織によって系統立てて決定されているというよりは、各有力政治家間の交渉(ボス
交)を通して場当たり的に決められているのが現状である。
5-3-2 原油購入契約に関する基本情報
イラクはターム契約とスポット販売の両方を行っている。ターム契約は後述するフォー
ミュラでのプライシングが設定されており、イラク原油のマーケティングは、国営の State
Oil Marketing Organization(SOMO)が行っている。
5-3-3 権益持分原油の扱い
現在のイラクにおける外資による上流開発は、技術サービス契約となっており、増産分
の数量に応じてそのコミッションを受け取る形態となっている。生産物分与契約の場合と
は異なり、開発対象油田の埋蔵量は計上できない。但し、北部のクルド自治区においては
同地区の自治政府が独自の石油法を制定し、生産物分与契約に基づいた開発契約を外資と
締結しており、この契約の下では開発を行う企業は埋蔵量を計上できる。しかし、イラク
連邦政府はこのクルド自治区における生産物分与契約を違法とみなしており、両者間での
対立が発生している。
5-3-4 生産量・埋蔵量
イラクは、石油・天然ガス資源を豊富に保有している純輸出国である。BP 統計による
と、2010 年末における原油確認埋蔵量は 1,150 億バレル(世界に占めるシェアは 8.3%)
153
で、サウジアラビア、ベネズエラ、イランに次いで世界第 4 位であった 63。しかし、これ
まで発見されている約 80 の油田のうち、開発・生産されているのは、Rumaila 油田や
Kirkuk 油田等 10 数油田に限られ、残りは殆どが開発初期か未開発である 64。イラク南部
には、Majnoon 油田、West Qurna 油田、Nahr Bin Umar 油田といった可採埋蔵量 50 億
バレル以上の未開発油田が存在している。イラクの原油生産量は、2005 年以降増加してお
り、2010 年時点での生産量は 246 万 B/D であった。
5-3-5 価格決定方式・販売方針
イラクのターム契約の原油輸出価格方式について、米国市場向けは「ASCI(Argus Sour
Crude Index)+/-調整項」
、 欧米市場向けは「Dated Brent+/-調整項」、アジア市場向けは
「(Oman+Dubai)÷2+/-調整項」と設定されている。イラクは北部のトルコ向けパイプラ
インと南部の Basra 港と Khor al-Amaya 港の 2 つの輸出インフラを有しており、欧米と
アジア双方に原油を輸出している。サダム・フセイン政権時には、国際政治的な観点から、
米国や欧州向けの輸出を重視してきたが、イラク戦争後は、需要が増大するアジア向けの
輸出をより重視する傾向が見られ始めている。
5-3-6 油種・生産能力
イラクから生産される原油として代表的なものは Rumaila 油田から生産される Basra
Light 原油と、Kirkuk 油田から生産される Kirkuk 原油がある。Basra Light は、ミシュ
リフ(Mishrif)層とズベイル(Zubair)層によって原油性状が異なる。2009 年時点での
生産能力は 160 万 B/D であるが、現在南部油田地域での既存油田の増産が相次いでいるこ
とから、この生産能力は現在増加基調にある。Basra Light の大部分は輸出されており、
重油の得率が 40%程度とやや重質であることから、重油の需要が相対的に高いアジア市場
向けに主として輸出される。一方、Kirkuk 原油の 2009 年時点での生産能力は 100 万 B/D
程度であり、Basra Light と同様、その大部分が輸出されている。中間留分の得率が高く、
軽油需要の旺盛な欧州市場で好まれる。
表 5-1
イラク産主要原油の品質
油種名
API 比重
硫黄分
Basra Light
30.2°
2.52%
Kirkuk
34.3°
2.28%
(出所)Energy Intelligence Group, The International Crude Oil Handbook 2010
-2011
63
64
BP (2011). Statistical Review of World Energy June 2011.
石油鉱業連盟(2010)「わが国石油・天然ガス開発の現状と課題」
154
表 5-2
イラクの各油田の生産能力(2011 年時点)
油田
埋蔵量(億バレル)
生産能力('000 B/D) API 比重
Rumaila
170.0
1,000-1,275
29-33
West Qurna-1
174.7
285
23
West Qurna-2
258.3
0
-
Majnoon
110.0
60
28-35
Zubair
78.0
201
35
East Baghdad
81.0
0-50
23
Kirkuk
100.0
600-750
32-37
Misan
25.0
110
24-30
Bai Hassan
23.0
75
34
Nahr Bin Umar
60.0
10
43-45
Halfaya
41.0
12
-
Khabbaz
20.0
30
-
Ajil
30.0
25
-
Nassiriya
26.0
10
-
Subha-Luhais
22.0
50
-
Al-Gharraf
8.6
0
-
Al-Rafidain
0.0
0
-
Al-Ahdab
0.1
60
-
他
232.7
100
-
合計
1,431.0
2,500-2,800
-
(出所)IHS Global Insight
155
表 5-3
第1
次入
札
イラク政府が開発を進める油田開発事業
目標生産量
油田名
落札企業
Rumaila
BP(英)
Zubair
Eni(伊) Occidental(米)
West Qurna-1
ExxonMobil(米)
Missan
CNOOC(中)
Majnoon
Shell(英)
Halfaya
CNPC ( 中 )
報酬額
(100 万 BD) (US$/bbl)
CNPC(中)
2.850
2.0
Kogas(韓) 1.125
2.0
Shell(英)
2.325
1.9
TPAO(トルコ)
0.450
2.3
Petronas(マレーシア)
1.800
1.39
0.535
1.4
Petronas( マ レ ー シ ア )
Total(仏)
第2
Qayarah
Sonangol(アンゴラ)
0.120
5.0
次入
West Qurna-2
Lukoil(露) Statoil(ノルウェー)
1.800
1.15
札
Gharraf
Petronas(マレーシア) JAPEX(日)
0.230
1.49
0.170
5.5
Gazprom(露) Kogas(韓) Petronas(マ
Badrah
随契
レーシア)
TPAO(トルコ)
Najmah
Sonangol(アンゴラ)
0.110
6.0
Al-Ahdab
CNPC(中)
0.115*
3.0*
目標生産量合計
11.630
(注)下線企業はオペレーター。*は推定値。
(出所)西村昇平(2011)
「石油大国イラク復権への道筋」JOGMEC 石油・天然ガスレビュー、2011.11 Vol.45
No.6。
表 5-4
イラク政府が開発を進めるガス田開発事業(第 3 次入札)
ガス田名
落札企業
Akkas
Kogas(韓)
*Kazmunaigas(カザフスタン)
目標生産量
報酬額
(MMscfd)
(USD/BOE)
400
5.50
100
7.50
320
7.00
は撤退
Siba
Kuwait Energy(クウェート) TPAO(トルコ)
*契約締結済み
Mansuriy
TPAO(トルコ)
Kuwait Energy(クウェート)
a
Kogas(韓) *契約締結済み
目標生産量合計
820
(出所)西村昇平(2011)
「石油大国イラク復権への道筋」JOGMEC 石油・天然ガスレビュー、2011.11 Vol.45
No.6。
156
図 5-2
イラクの開発契約済み油田・ガス田及びインフラ
(出所)西村昇平(2011)
「石油大国イラク復権への道筋」JOGMEC 石油・天然ガスレビュー、2011.11 Vol.45
No.6。
5-3-7 輸出先・輸出量の見通しと輸出インフラ
原油の輸出先動向をみると、中国向けを始めとするアジア向けが増加する一方、米国向
けが減少する傾向を示している(図 5-3)。2010 年にはアジア向けの原油輸出量合計に占
める割合が 50%と半分に達する一方、米国向けは 26%、欧州向けは 23%であった。
157
図 5-3
北米
中東
イラク原油輸出量(地域別)
中南米
アフリカ
東欧
アジア・太平洋
西欧
不特定
1,000 B/D
2500
2000
1500
1000
500
0
96
97
98
99
00
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
(出所)OPEC(2011) Annual Statistical Bulletin 2010/2011 Edition
今後、イラクの原油生産・輸出は上昇傾向が続くと考えられる。2009 年に行われた 2
回の入札案件がすべてが実現されれば、原油生産量は約 1,200 万 B/D に達する。図 5-4 に、
各機関による原油生産量の見通しを示すが65、その見通しには大きな差が見られる。生産
量の急増を示した IMF のベストケースシナリオやイラク石油省の 4ヵ年計画(2011∼2014
年)は、比較的楽観的な見通しを示しているが、イラク政府による陸上から海上までの原
油輸出インフラの増設・改修事業が遅れているため、既存の原油輸送能力はほぼ限界に達
しており、これが原油増産のボトルネックになることは否定できない。また、油田への圧
入水や人的資源の確保といった制限もあり、2014 年の生産量を 400 万 B/D 前後とする IMF
の保守的ケースシナリオ、IEA、イラク計画省の見通しがより現実的な見通しだと考えら
れる。
既存の原油輸出インフラでは、南部の Basrah 石油ターミナル(160 万 B/D)及び Khora
al-Amaya 石油ターミナル(30 万 B/D)、北部のトルコ向けパイプライン(60 万 B/D)、合
計 250 万 B/D が稼動している66。南部の輸出能力を拡大するため、一点係留式原油積込装
置(single-point mooring)が建設され、2013 年までに 360 万 B/D まで拡張される予定で
65
この図は下記資料にあるデータを基に作成された。
IMF(2011). “Second Review Under the Stand-By Arrangement, Requests for Waiver of Applicability,
Extension of the Arrangement, and Rephasing of Access.”
IEA (2011). Medium-Term Oil & Gas Markets.
Ministry of Planning, Republic of Iraq (2010). National Development Plan for the Years 2010-2014.
西村昇平(2011)
「石油大国イラク復権への道筋」JOGMEC 石油・天然ガスレビュー、2011.11 Vol.45 No.6
66 Petroleum Argus. “Iraq grapples with capacity plans.” 24 October 2011.
158
ある。図 5-5 にあるような 2014 年に石油輸出約 300 万 B/D を実現するには、このような
輸出インフラの整備が不可欠である。
図 5-4 イラク原油生産量見通し
14
図 5-5 イラク原油輸出量見通し
100万B/D
3.5
IMF(ベストケース )
IMF(保守的 ケース )
IEA
計画省 5ヵ年計画
石油省 4ヵ年計画
12
10
100万B/D
3
2.5
8
2
6
1.5
4
1
2
0.5
0
IMF(保守的ケース )
計画省 5ヵ年計画
0
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
2017
2010
(出所)各資料を基に筆者作成
2011
2012
2013
2014
(出所)各資料を基に筆者作成
5-3-8 日本企業の進出(権益)等
2009 年に実施されたイラク戦争後の第二次入札において、石油資源開発(JAPEX)が
マレーシアの Petronas ともに Gharaff 油田の開発契約を獲得している。ただし、報酬は
第一次入札でベンチマークとなった US$2/bbl を下回る US$1.49/bbl であった。
Nassiriya 油田では、イラク国営石油会社が開発中で外資を導入して増産を図ろうとし
ているため、日本企業が権益を獲得する可能性が出てきた。以前、同油田開発を巡り、日
本企業連合(JX ホールディングス、日揮、国際石油開発帝石)が随意契約で権益獲得を
目指してイラクと協議していたが、2010 年 1 月、資金調達面で折り合いがつかずに中断
する結果となっていた。しかし、2011 年 1 月、大畠経済産業相(当時)がイラク・バグダ
ッドを訪問した際、シャハリスタニ副首相が日本企業による入札への参加を期待する意向
を表明した。また、2011 年 11 月、マーリキ首相が来日した際には、日・イラク両首脳が
共同声明を発表し、エネルギー部門における二国間協力を更に強化するために Gharaff 油
田や Nassiriya 油田を含む上流ビジネスに関して、協力と対話を促進することの重要性を
再確認した。
2011 年 11 月、三菱商事は、Shell 及びイラク石油省傘下の South Gas Company(SGC)
とイラク国内で原油生産時に発生する天然ガスを回収・精製し、有効利用するプロジェク
トの合弁事業契約に最終合意した。これら 3 社による合弁会社 Basra Gas Company(出
資比率:SGC 51%、Shell 44%、三菱商事 5%)は、イラク南部の 3 つの油田(Rumaila,
Zubail, West Qurna-1)から産出される随伴天然ガスを回収するためのインフラを整備し、
159
回収したガスを天然ガス・液化石油ガス(LPG)などに精製するプラント 2 基を建設し、
2013 年に操業開始する予定である。さらに LNG 生産基地を新設し、2020 年を目処に日
本を含む世界に対し年間 400 万トンを輸出する計画もある。総事業費は約 1 兆 3,200 億円
(172 億ドル)で、ガスの回収・精製が 1 兆円弱、LNG 基地が約 3,500 億円とみられてい
る。
5-4 クウェート
5-4-1 エネルギー政策におけるスキーム、キーパーソン
クウェートは、豊富な石油・
天然ガス資源と莫大な石油収入を可能な限り長期に渡って、
国家の利益と国民の福祉に最大かつ効果的に活用することを目指しており、エネルギー政
策においては以下の 4 点をその基本方針として掲げている。
1) 上流部門では、先端技術を導入して原油生産能力を回復・拡大、新規開発を推進する
2) 天然ガス輸入による資源確保と国内利用及び原油代替を促進する
3) 石油収入の効果的活用と「次世代基金(Reserve Fund for Future Generation)」に
より保全・
温存を図る
4) 下流部門では、石油精製部門の能力を増強するとともに石油化学部門を育成する
現在のクウェートにおけるエネルギー政策分野での最高意思決定機関は、最高石油評議
会(Supreme Petroleum Council:SPC)である。同議会は、Jaber Al-Mubarak 首相を
議長とし Mohammad Al-Busairi 石油相以下 5 閣僚、9 人の民間有識者から構成され、石
油・天然ガス資源分野を監督し政策を決定している。その下で国民議会財政経済委員会
(Majlis Finance and Economy Committee)が大規模石油・天然ガス事業提案や大型合弁
投資案件を審議し、必要な立法措置を取る。また、石油省が個々のエネルギー政策を立案、
実施する責任と権限を持つ。政策案は首相を議長とする最高石油評議会が審議、裁可し、閣
僚会議の承認、国会による議決を経て、首長令により発効する仕組みとなっている。なお、
憲法では首長、内閣、議会による3者統治を規定しているが、実態は Sabah 首長の一族が
首相はじめ内閣の要職を独占し支配している。
管理面ではクウェート石油公社(KPC)が国内外の石油投資を管理し、KPC 子会社の
クウェート国営石油開発(KOC)が上流側事業、クウェート国営石油精製(KNPC)が下
流側事業をそれぞれ管理する。海外における上流開発と下流事業はクウェート石油インタ
ーナショナル(KPI)がコントロールしている。
5-4-2 原油購入契約に関する基本情報
160
クウェートはほぼ全量の原油をターム契約によって販売している。しかし、後述するよ
うに、クウェート原油は重質で硫黄分が多いため、販売単価が相対的に低く、販売自体も
決して容易とはいえない。この問題に対応するため、クウェートは石油製品輸出を強化す
る、または外国の精製・販売部門に投資するといった多様化政策を積極的に進めてきてい
る。なお、ターム契約は後述するフォーミュラでのプライシングがなされている。また、
クウェート原油のマーケティングは、国営の KOC が行っている。
5-4-3 権益持分原油の扱い
憲法により、クウェートの炭化水素資源に関する外国所有は禁じられているため、クウ
ェートにおける外資による上流開発は、操業サービス契約(OSA)のみとなっている。開
発会社が探鉱・開発を請負、一定の報酬を受け取る仕組みとなっている。
5-4-4 生産量・埋蔵量
クウェートの石油可採年数は 100 年以上であるといわれており、豊富な埋蔵量を有して
いる。BP 統計によると、クウェートの 2010 年末における原油確認埋蔵量は 1,015 億バレ
ル世界に占めるシェアは 7.3%で、世界第 5 位の産油国である。2010 年には、中立地帯を
含み約 230 万 B/D の原油を生産した。なお、クウェートはサウジアラビアと並んで常に余
剰の原油生産能力を保有する数少ない OPEC 産油国の一つである。
5-4-5 価格決定方式・販売方針
クウェートの原油輸出価格は「指標原油価格+/-調整項」というフォーミュラで決定され
ている。この指標原油価格は、アジア市場向けは Dubai 原油と Oman 原油の月間平均価
格、
欧州市場向けは ICE における Brent 加重平均価格(Brent weighted Average:B-Wave)、
米国向けは 2010 年 1 月から WTI に代わり、Argus Media 社が発表する The Argus Sour
Crude Index(ASCI)が採用されている。調整項については、サウジアラビアが自国の原
油価格の調整項を決定した後、それを参考にしながら決定している。
クウェートは、長期的に安定した石油収入の確保と長期的に見た石油収入の最大化を目
指していることから、基本的には極端に高い水準の原油価格は望ましくないとのスタンス
を取っている。財政収入のほとんどを石油収入に依存していること、石油収入の長期的な
最大化を果たすため、石油市場の安定化をサウジアラビアと共に追求しており、OPEC の
中心メンバーとして生産調整に参加している。
5-4-6 油種・生産能力
161
クウェートの輸出原油油種である Kuwait Export Blend は、同国の全てのタイプの原油
を混合した単一ブレンド原油である。その大部分は主力のブルガン油田からの産出原油で
構成されているため、API 比重 30.5、硫黄分 2.60%と中東の中でも重質高硫黄原油であ
る。2011 年 11 月時点での生産能力は 287 万 B/D であるが、クウェート政府は、4つの北
部油田(Rawdatayn、Sabiriyah、al-Ratqa、Abdali)の生産能力を増強して、2015 年ま
でに 350 万 B/D、2020 年までには 400 万 B/D まで引き上げたいとする意向を示してい
る。
5-4-7 輸出先・輸出量の見通しと輸出インフラ
クウェートは 2010 年に約 143 万 B/D の原油を輸出している。原油の輸出先は、アジア
太平洋地域向けが 120 万 B/D で全体の約 84%、北米向けが 13 万 B/D で約 9%、西欧向
けが 6 万 B/D で約 4%であった。輸出動向をみると、アジア太平洋地域が主であるが、中
でも近年は韓国向け輸出が伸びており、一方、日本向け、米国向けの輸出は減少傾向にあ
る。
輸出インフラとしては、クウェート原油を輸出する積出港としてミナ・アル・アマディ
(Mina al-Ahmadi)がある。同港は、VLCC(最大 300 千 DWT)による積荷(原油 340
万 B/D)が可能である。また、同港には、タンカー専用桟橋 12 基、アスファルト運搬船
用桟橋 1 基、液化ガス運搬船用桟橋 2 基、その他バンカー用設備などがある。
5-4-8 日本企業の進出(権益)等
サウジアラビアとクウェートとの中立地帯においては、アラビア石油が権益を保有して
いたが、サウジアラビア側の権益は 2000 年に、クウェート側の権益は 2003 年に失効して
いる。現在は日本企業のクウェートでの石油上流権益はない。
162
図 5-6 クウェートの主要油田・石油関連インフラ
(出所)University of Texas
5-5 UAE
5-5-1 エネルギー政策におけるスキーム、キーパーソン
UAE 連邦レベルでは各首長国が自国のエネルギー政策に関する責任と権限を有してい
るため、UAE 全体としてのエネルギー政策というものは存在していない。UAE にはエネ
ルギー省があり、エネルギー大臣も存在しているが、OPEC などの対外的窓口として機能
163
しているのみで、実質的な行政権限はない。UAE における殆どの原油生産を行っている
アブダビ首長国では、石油関連の決定は最高石油評議会(Supreme Petroleum Council:
SPC)によりなされている。SPC は政策の立案・推進、政府及び政府機関の所有する会社
の管理規則の策定、予算の審査・承認に関する全ての権限を有している。なお、アブダビ
首長国にはエネルギー省に相当する組織はなく、国営石油会社の ADNOC(Abu Dhabi
National Oil Company)がその機能を代替している。
UAE のエネルギー政策決定における最大のキーパーソンは言うまでもなく、ハリファ
大統領である。その他にはアブダビ首長国のムハンマド皇太子も次世代の指導者として大
きな影響力を有する。2011 年 6 月 25 日に ADNOC の総裁かつ SPC の事務局長であった
ユセフ・オメール氏に代わって ADNOC 総裁に就任したスウェディ氏(Abdulla Nasser
Al-Suwaidi)や、SPC の事務局長に就任したダヘリ氏(HH Dr. Juaan Salem Al -Dhaheri)
についても、今後の UAE のエネルギー政策におけるキーパーソンとなる確率が高い。
5-5-2 原油購入契約に関する基本情報
UAE の主要な油田が集中しているアブダビ首長国の国営石油会社 ADNOC は、ほぼ全
量をターム契約あるいは政府間売買で販売している。全体的にはアジア向け、特に日本向
けが多い。この ADNOC の原油販売には、サウジアラビア原油同様、仕向け地条項と転売
規制が課せられている。ADNOC 以外に、アブダビで操業する外国石油会社(エクイティ
ー生産者)も自社権益分の原油の販売を行っているが、ターム契約で販売される価格につ
いては、ADNOC のターム契約価格にリンクされている。一方、ドバイ首長国で生産され
る Dubai 原油は、その殆どがスポットで販売されている。
5-5-3 権益持分原油の扱い
アブダビは近年の産油国においては珍しく利権契約という形態を残している産油国であ
る。このため、アブダビで操業している外資企業は、自らの権益持ち分を自社埋蔵量とし
て財務諸表に計上することができ、
また自社の権益分原油は自由に販売することができる。
5-5-4 生産量・埋蔵量
UAE は、石油・天然ガス資源を豊富に保有している中東産油国の一つであり、2011 年
版 BP 統計によると、2010 年末における確認可採埋蔵量は 978 億バレル(世界に占める
シェアは 7.1%)で、サウジアラビア、ベネズエラ、イラン、イラク、クウェートに次い
で世界第 6 位であった67。2010 年での原油生産量は 231 万 B/D であった。UAE の中のア
67
BP Statistical Review of World Energy June 2011.
164
ブダビ首長国における原油生産能力を下表に示す。
表 5-5 アブダビ首長国の主要油田の原油生産能力
操業会社
ADCO
ADMA-OPCO*
ZADCO
権益比率
生産能力(万 B/D)
ADNOC
60.00%
BP
Total
9.50%
9.50%
140
R/DShell
9.50%
(40 万 B/D の増産計画あり)
ExxonMobil
Partex
9.50%
2.00%
ADNOC
60.00%
BP
14.67%
Total
ジャパン石油開発
13.33%
12.00%
ADNOC
60.00%
Upper Zakum 55
ExxonMobil
28.00%
(2015 年までに+20)
ジャパン石油開発
12.00%
Satah 1
(2013 年までに+1.5)68
60
(出所)Oil & Gas Directory Middle East
5-5-5 価格決定方式・販売方針
UAE の原油価格について、アブダビとドバイの首長国では異なった価格決定方式を採
用している。アブダビでは市場に連動した遡及価格決定方式が用いられており、前月に積
荷を行った原油の価格(の絶対水準そのもの)を当月に産油国側が発表・通告する方式で
ある。アブダビ産の原油は他の中東産原油に比べ、硫黄分が低く軽質であるため、原油価
格はその高い品質を反映して決定される。なお、アブダビの Upper Zakum 原油は Dubai
原油スポット価格の月次平均と密接に連動している。アブダビが産出する油種の中では、
もっとも生産量が多い Murban 原油が基準原油(Reference)となっている。
全体的な販売方針については、アブダビ首長国の場合には、国家収入に占める石油収入
の割合が高いため、OPEC の生産調整政策を通じて価格を安定化させることで、安定的な
石油収入の確保を図っている。アブダビ首長国は UAE が成立する 4 年前の 1967 年に
OPEC に加盟しているが、ドバイ首長国は自らを OPEC 加盟国とみなしておらず、OPEC
の生産枠を遵守する義務はないと考えている。
5-5-6 油種・生産能力
68
Middle East Economic Survey November 30 2009
165
UAE が生産および輸出している原油は 7 油種である。各油種の性状と生産能力は下表
に示す通りである。
表 5-6 UAE 産主要原油の品質と生産能力
油種名
API 比重
硫黄分
生産能力
('000b/d)
Abu Bukhoosh
31.5
1.90%
30
Murban
39.6
0.73%
1,000
Thamama Condensate
58.4
0.11%
200
Umm Shaif
36.5
1.39%
250
Lower Zakum
40.2
1.01%
220
Upper Zakum
32.9
1.78%
500
Dubai
30.4
2.13%
54
(出所)Energy Intelligence Group, The International Crude Oil Handbook 2010
5-5-7 輸出先・輸出量の見通しと輸出インフラ
UAE の輸出先は、豪州を含むアジアがほとんどである。1990 年代前半においては、欧
州に対しても輸出量全体の 10%前後が輸出されていたが、アジアの石油需要が伸びている
こと、アジア市場においては欧米市場での単価よりも高く販売できることもあり、欧州向
けの販売量は徐々に低下した。アブダビ産原油は、高品質の中間留分が多く得られること
から、今後白油化が進展していくアジア市場での需要拡大が見込まれる。
今後の輸出量については、IEA の Midterm Oil Market Report(2011 年版)は、UAE
の生産能力は 2015 年には 312 万 B/D にまで増加すると予測している。実際の生産量はそ
の時々の OPEC による生産方針に影響を受けるものの、2010 年時点での生産能力(271
万 B/D)から 40 万 B/D の能力増強が見込まれいる。
5-5-8 日本企業の進出(権益)等
現在、アブダビ首長国の石油上流部門には、我が国から 4 社の石油開発会社が参入して
いる。その他に、三井物産が LNG 事業(ADGAS)に参画している。我が国企業が参入し
ている石油上流部門の権益は、2012 年から順次終了期限を迎える。これら石油自主開発事
業の権益の更新は、わが国にとって極めて重要である。2011 年 2 月には、アブダビ石油が
持つ UAE アブダビ沖の油田権益の 30 年更新が決まった。同時に既存の 3 油田に加え、同
程度(2009 年実績で 24,000B/D )の生産量が見込める新鉱区(ヘイル油田)の権益も取
得した。ヘイル油田は 2017∼18 年頃の生産開始を目指すとしている。
166
表 5-7 UAE における我が国石油自主開発の状況
会社名及び出資比率
進出年
アブダビ石油
権益終了年
1968 年
(Abu Dhabi Oil Co. − ADOC)
コスモ石油
63.0%
JX日鉱日石開発
31.5%
その他
原油生産量
(b/d)
5.5%
ムハ
゙
ラス油田
(1973 年生産開始)
ウム
・アル
・
アンハ
゙ー
油田
2012
24,000
(1989 年生産開始)
(30 年間
延長決定)
ニーワット
・
アル・
ギ
ャラ
ン
油田
(1995 年生産開始)
合同石油開発
エル・
ブ
ンド
ク油田
(United Petroleum Development Co. (1970 年生産開始)
- UPD)
コスモ石油
JX日鉱日石開発
45.0%
45.0%
三井石油開発
10.0%
14,000
ジャパン石油開発
ウム・
シャイフ
、
他 4 油田
(Japan Oil Development Co.-JODCO)
国際石油開発帝石
100.0%
(1973 年生産開始)
2018
128,000
(引取量)
(ADMA-OPCO、ZADCO に出資)
(ADMA-OPCO)
2026
(ZADCO)
インペックスエービーケー 石油
(Inpex ABK Ltd.)
国際石油開発帝石
2018
1996 年
アフ
゙・アル
・
ブクーシュ
油田
100.0%
1,430
(2007 年度)
2018
(出所)石油鉱業連盟, わが国石油・
天然ガス開発の現状,2010 年 9 月等より。原油生産量は 2009 年。
167
図 5-7 UAE の主要なエネルギー関連インフラ
(出所)University of Texas
168
5-6 カタール
5-6-1 エネルギー政策におけるスキーム、キーパーソン
カタールのエネルギー政策は、行政機構上はエネルギー省によって所管されていること
になっている。しかし、エネルギー省は主に国内の産業開発政策を中心とする政策立案・
遂行を担当しており、実質的なエネルギー政策の立案・遂行は Qatar Petroleum(1974
年設立、以下 QP)が行っている。QP は 1998 年 7 月に制定された法律に基づいて、カタ
ールにおける炭化水素の探鉱・開発に関するすべての交渉・契約、石油・ガスの探鉱・掘
削事業の監督に関する任務を担っている。
カタールのエネルギー政策において最も影響力があるのは、ハマド首長である。それ以
外では、これまではアッティヤ副首相兼石油相が国内のエネルギーに関する意思決定に大
きな役割を果たしてきたが、現在同氏は退任しており、今後は同氏に変わって就任したサ
ダ氏の影響力に注目が集まる。サダ氏はテクノクラート出身であり、エネルギー相就任前
は、QP の技術部長、Rasgas の Managing Director を歴任し、2007 年からはエネルギー・
産業担当国務大臣として入閣していた。
5-6-2 原油購入契約に関する基本情報
カタール原油は、ターム、スポットの取引双方があるが、現状はほとんどがターム契約
で販売されている。
5-6-3 権益持分原油の扱い
カタールは自国油ガス田の開発契約として生産物分与契約を導入しており、カタールで
操業する外資企業はその開発対象の油田の埋蔵量を会計上の埋蔵量として計上することが
認められている。原油の販売も、QP だけではなく、自社権益分については、開発を行っ
ている各外資企業が行っている。
5-6-4 生産量・埋蔵量
カタールはその世界第 3 位の天然ガス埋蔵量が広く知られているが、石油の埋蔵量も決
して少なくなく、2011 年版 BP 統計によると、2010 年末における確認可採埋蔵量は 259
億バレルで、世界第 13 位の水準にある。2010 年の原油生産量は 82 万 B/D であった。カ
タールの主要油田における現状は表 5-8 に示すとおりである。外資が操業している油田に
ついては、全て生産物分与契約のもとで生産がおこなわれている。
169
表 5-8
油田
カタールの主要な油田における現在現況及び生産計画
オペレータ
現在生産量
生産計画
(2009.12)
(2011.12)
油田位置
Dukhan
QP
254,000
234,000
陸上
Bul Hanine
QP
54,000
49,000
洋上
Maydan Mahzam
QP
30,300
22,000
洋上
Occidental
106,600
114,400
洋上
Al-Shaheen
Maersk Oil
297,000
400,000
洋上
Al-Khaleej
TotalFinaElf
34,500
39,500
洋上
Al-Rayyan
Occidental
8,600
9,800
洋上
Al-Karkara
QPD
6,200
5,300
洋上
El-Bunduq
BOC
7,300
15,000
洋上
798,000
889,000
Idd Al-Shafgi
North&South
合計
(出所)QNB、「Qatar Economy Review」2010 年 7 月版
5-6-5 価格決定方式・販売方針
カタールで産出される原油は、アブダビ(UAE)と同様に他の中東地域の原油に比べ
軽質・
低硫黄の原油であるため、日本および韓国向けの販売量が非常に多い。しかし、西ア
フリカまたは北海の軽質原油に比べると硫黄分が高いため、同原油に比べてカタール原油
の価格は若干低めで推移する場合が多くなっている。「ドゥハン(Dukhan)」と「カター
ル・マリン(Qatar Marine)」の 2 油種については遡及価格決定方式が採用されており、
積み月の翌月に販売価格が通知される。価格設定の際の参照基準としては、Oman 原油の
公式販売価格(Official Selling Price)が用いられているとされる。なおこれら以外の原
油の輸出については、開発を行っている外資企業が販売を行っており、AL-Shaheen につ
いては、Dubai 原油にリンクさせた形で販売がなされている。
5-6-6 油種・生産能力
カタールが輸出している主な原油は、
「カタール・マリン(Qatar Marine:API∼36.2、
硫黄分 1.60%)」
、
「デュハン[カタール・ランド]
(Dukhan[Qatar Land]:API∼41.1、
硫黄分 1.22%)」
、
「アルシャヒーン(AL Shaheen): API∼28.0、硫黄分 2.37%」
、である
69 。生産能力が最も大きいのはデュハンであるが、近年
LNG プラントの大量稼動に伴い、
コンデンセートの生産能力の拡大が続いている。
69
“Arab Oil & Gas Directory 2002”, The Arab Petroleum Research Center, p.342.
170
表 5-9
油種名
カタール産主要原油の品質と生産能力
API 比重
硫黄分
生産能力
('000b/d)
Dukhan
41.1°
1.22%
330
Qatar Marine
33.8°
1.84%
270
Al-Shaheen
28.03°
2.37%
112
58°
0.23%
350
NFC Ⅱ
(出所)Energy Intelligence Group, The International Crude Oil Handbook 2010
5-6-7 輸出先・輸出量の見通しと輸出インフラ
カタールは自国で生産した原油をほぼ全てアジア向けに輸出している。OPEC 統計
(2011 年版)によると、2010 年のカタールの原油輸出量は 58.7 万 B/D で、仕向け地の
内訳はアジア向けが 57.7 万 B/D(総輸出量に占めるシェア 98.3%)となっており、総輸出
量に占めるアジアのシェアは OPEC 産油国の中で最も高い。
今後の輸出量については、IEA の Midterm Oil Market Report(2011 年版)は、カ
タールの生産能力は、2010 年の 93 万 B/D から 2015 年には 103 万 B/D にまで増加する
と予測している。この他に、同レポートによると、カタールは天然ガス生産の増加に伴う
NGL(LPG 及びコンデンセート)の生産能力も 40 万 B/D ほど増加する見られているこ
とから、実際には 2015 年にかけて 50 万 B/D の生産量の増加が見込まれる。カタール国
内の石油需要は非常に小さいことから、このような増産分の多くは輸出に回されると想定
される。
輸出インフラについては各原油ごとに積出インフラが整備されれており、デュハンにつ
いては Mesaieed、カタール・マリンについては Halul Island、Al Shaheen については同
原油の生産プラットフォーム、そしてコンデンセートについては Ras Laffan から輸出が
なされている。
5-6-8 日本企業の進出(権益)等
カタールにおける日本企業の権益は下表に示す通りである。上流から下流、LNG に至
るまで幅広い分野にわたって日本企業の進出が見られている。
171
表 5-10 カタールにおける日本企業の保有権益
石油上流
エル・
カ
ラカ
ラ
油田など
カタ
ール
石油開発(コスモ石油 75%、双
2005 年 に 生 産 開 始 。 現 在
日 25%100%)
6,000B/D から 1 万 B/D へ能力増
強中
石油下流
12・13 鉱区
丸紅 7.5%
探鉱段階
3 鉱区
コス
モ
石油 35%
探鉱段階
Ras Laffan 製油所
出光興産・コスモ石油各 10%、丸
2009 年運転開始。14.5 万 B/D
紅・三井物産各 4.5%(合計 29%)
LNG
Qatargas I
三井物産・丸紅各 7.5%
年産 1,020 万トン
Qatargas II
三井物産 1.5%
年産 780 万トン
Rasgas I
伊藤忠 4%、LNG Japan 3%
年産 660 万トン
(出所)日本エネルギー経済研究所中東研究センター調べ
172
図 5-8 カタールの主要なエネルギー関連インフラ
(出所)University of Texas
173
5-7 オマーン
5-7-1
(1)
エネルギー政策におけるスキーム、キーパーソン
意思決定機関
石油・ガス省(Ministry of Oil and Gas)の管轄下に、石油および天然ガスの探鉱・開発・
生産などの上流部門を担当する Petroleum Development Oman(PDO)、海外・国内での下
流部門に対する戦略的な投資を担当する Oman Oil Company(OOC)、石油精製部門を担当
する Oman Refineries and Petrochemical Company(ORPC)、国内のガスパイプラインの
運営を担当する Oman Gas Company(OGC)、LNG 生産・輸出を担当する Oman LNG
Company.(OLNGC)の 5 社がある。
PDO(1942 年設立)は、石油・ガス省管轄の事業体として、有望鉱区の利権のほとん
どを保有し、オマーン国内の石油埋蔵量の 90%と石油生産の 85%、天然ガスのほぼ全量
を担っている探鉱・生産会社である。PDO に対する出資比率はオマーン政府が 60%、Shell
が 34%、Total が 4%、Partex(ポルトガル)が 2%となっている。OOC(1992 年設立)
は、
国内外のエネルギー部門への戦略的な投資を行なう政府の 100%投資会社である。2011
年 12 月時点で OOC の会長は石油ガス省次官でもある Nasser bin Khamis Al Jashmi 氏
が兼任している。
(2)
キーパーソン
オマーンの石油部門におけるキーパーソンは最終意思決定権者としての Qaboos 国王が
大きな権限を持つ。その他は、石油・ガス大臣である Mohammed bin Hamad 博士、など
が大きな影響力を有している。また実務面でのキーパーソンとしては、PDO の社長である
Raoul Restucci 氏もその一人として挙げられる。
5-7-2 原油購入契約に関する基本情報
オマーンは Oman 原油1油種を販売しているが、オマーン原油の生産企業 Petroleum
Development Oman に 60%を出資しているオマーン石油省が全体の 60%の原油を販売し
ており、
34%の出資者である Shell が同じく 34%の販売を行っている(残りは Total が 4%、
Partex が 2%)
。オマーン石油省はその権益分のほとんどを 1 年更新のターム契約で販売
しているが、その購入者には転売を認めている。
5-7-3 権益持分原油の扱い
オマーンでは生産物分与契約が導入されており、外資企業は自社の持ち分の在庫を埋蔵
量として計上できる。
174
5-7-4 生産量・埋蔵量
オマーンは中東湾岸諸国の中では比較的埋蔵量の小さい国であり、2011 年版 BP 統計
によると、2010 年末における確認可採埋蔵量は 55 億バレルしかなく、アラビア半島の産
油国では、バハレーン、イエメンに次いで小さい水準である。2010 年時点での原油生産量
は 86 万 B/D であり、近年は外資の導入による増進回収法の適用が功を奏して、生産量が
増加基調にある。
5-7-5 価格決定方式・販売方針
オマーン原油の価格決定については、市場連動価格決定方式が採用されており、積み月
の 2 か月前の DME での Oman 原油の先物価格の月間平均価格が OSP として設定される。
オマーンも他の中東産油国の例にもれず、その経済は石油への依存度が高いため、安定的
な石油収入確保に対する関心は高い。そのような観点から、オマーンは OPEC には加盟し
ていないものの、国際原油価格の安定化のため協調減産等、OPEC などとの協調政策を採
っている。
5-7-6 油種・生産能力
オマーン原油の代表的な性状は、以前は API 度 35.2、硫黄分 0.89%であったが、最近
は生産油田の構成の変化にともない重質高硫黄化し、現在は API 度 33.4、硫黄分 1.04%
程度となっている。成熟油田に対する増進回収法の適用によって、生産能力は近年増加傾
向にあり、2010 年時点では 87 万 B/D となっている。
5-7-7 輸出先・輸出量の見通しと輸出インフラ
輸出先としては日本が最大であり、今後もこの傾向は続く見通しである。増進回収法の
適用によって生産量を増加に成功したオマーンであるが、その効果も長くは続かず、今後
は再び生産量が減少方向に向かうとみられている。IEA の Midterm Oil Market Report
(2011 年版)は、オマーンの生産能力は、2011 年に 93 万 B/D に達した後、2015 年には
再び 86.5 万 B/D にまで減退すると予測している。
5-7-8 日本企業の進出(権益)等
オマーンにおける日本企業の権益は下表に示す通りである。
175
表 5-10 オマーンにおける日本企業の保有権益
石油上流
LNG
9.27 鉱区
三井物産 35%
6.5 万 B/D
54 鉱区
同
15%
探鉱段階
3・4 鉱区
同
20%
探鉱段階
Oman LNG
三菱商事・三井物産各 2.77%、伊
年産 660 万トン
藤忠 0.92%
Qalhat LNG
Oman LNG36.8%、三菱商事・伊藤
年産 330 万トン
忠・大阪ガス各 3%
(出所)日本エネルギー経済研究所中東研究センター調べ
5-8 ロシア
5-8-1 エネルギー政策におけるスキーム、キーパーソン
ロシアのエネルギー政策に関する主轄省庁はエネルギー省である。エネルギー省は、石
油・ガス・石炭・電力の各産業、各企業を監督する権限を有し、エネルギー政策の策定な
らびに実行の他、天然資源開発に関する生産物分与契約(PSA)、エネルギー国際協力の枠
組みにおける二カ国間・複数国間のエネルギー対話等を所管する。
ロシアのエネルギー政策にかかわるもう一つの省庁が天然資源・環境省である。同省は、
炭化水素資源の地質調査と持続可能な利用、天然鉱物資源の保全、油田開発ならびに幹線
パイプラインの建設に際しての環境保護および安全確保を所管している。また、石油・ガ
ス企業に対して鉱区の開発・生産ライセンスを交付・取消を行う権限に加え、各企業によ
るライセンス協定の遵守を監督し、環境規制違反に対して罰金を課す権限を有している。
エネルギー省が他省および企業・研究機関と共同でまとめた「2030 年までのエネルギー
戦略」政府令(No.1715-r、2009 年 11 月 13 日承認)によると、産業高度化・エネルギー
効率改善(エネルギー消費量の減少、省エネ技術の活用)、同国経済のエネルギー依存度の
低減、がロシアのエネルギー政策における主要目標とされる。
ロシアのエネルギー政策における最高意思決定権者は大統領となっている。エネルギー
省作成のエネルギー政策文書「ロシア・エネルギー戦略」、エネルギーに関する多国間条約
などは、政府令として下院(Duma)での三度の読会を経て承認された後、上院(Federal
Assembly)審議を経て、政府に提出され、大統領の署名を得て成立する。ただし、2011
年 12 月 4 日に行われた下院選では、与党「統一ロシア」の獲得議席数が過半数割れとな
り、下院での与党絶対優位の体制が崩れることとなった。今後、各種政策決定などにおい
176
て、野党の反発や審議が混乱等で長引く恐れがあり、同国のエネルギー政策の行方は従来
よりも不透明になったといえる。
実際のロシアのエネルギー政策の立案・遂行に対して最も大きな影響力を有するキーパ
ーソンは、プーチン首相である。現状では、プーチン首相の同意なしに同国の重要なエネ
ルギー関連法の制定、エネルギーに関する二国間・多国間協定の調印などは実現しえない。
この他に、セーチン副首相(エネルギー担当)は、エネルギー分野の政策決定に大きな影
響を持っているとされる。
5-8-2 原油購入契約に関する基本情報
ロシアの原油販売は原則としてスポット契約でなされる。その契約内容は、売主と買主
が相対交渉で値決めされるものであり、その詳細は公表されていない。
5-8-3 権益持分原油の扱い
現在、ロシアにおける外資による上流開発は、鉱区入札(テンダー・オークション)が
主流で、法制上は生産物分与法に基づく生産物分与契約は鉱区入札を補完する位置付けと
なっている。実際には生産分与法改正(2003 年)以前に締結された 3 件の生産物分与契
約(Sakhalin 1、Sakhalin 2、Kharyaga)を最後に、新たな契約は締結されていない。
ロシア政府は戦略的鉱床を保護するとして、外資が参入可能な鉱区を埋蔵量 7,000 万ト
ン以下の油田、同 50Bcm のガス田に限定している。また、大陸棚の石油ガス開発権につ
いては、
「ロシア国内の海上鉱区における 5 年以上の開発経験を有し、政府による株式保
有比率 50%以上の企業」に付与すると規定され、事実上、Gazprom と Rosneft の国営 2
社が大陸棚の石油ガス開発権を分け合う形となっている。
5-8-4 生産量・埋蔵量
1999 年以降、国際原油価格の上昇とルーブル安によってもたらされた潤沢な外貨資金を
梃子に、外資の先進的探鉱・開発技術ならびにマネジメント技術の導入・活用によって、
ロシア石油企業は大幅な増産、さらなる上流開発投資を続けてきた。2008 年は対前年比減
少となったものの、2009 年以降は再び増産に転じた。1,058 万 B/D を生産した 2010 年に
続き、2011 年も 1,000 万 B/D を達成する見通しである。
177
図 5-9
石油企業別原油生産量の推移
(単位)1,000 B/D
(単位)%
12
10,000
10
8
8,000
6
6,000
4
2
4,000
0
2,000
-2
0
-4
95年
97年
99年
01年
03年
05年
07年
その他
Russneft
Bashneft
Slavneft
Tatneft
Gazpromneft
Surgutneftegaz
TNK-BP
Lukoil
Rosneft
Yukos
対前年比%(右軸)
09年
(出所)The Almanac of Russian and Caspian Petroleum, Energy Intelligence Group, Interfax Petroleum
Report, Interfax, Russia & CIS Oil and Gas Weekly, Interfaxから(財)日本エネルギー経済研究所
作成
ロシアには、原油・天然ガス資源が豊富に賦存し、2011 年現在、ロシアは世界最大の原
油・ガス純輸出国である。BP 統計によると、2010 年末における石油の確認埋蔵量は 774
億バレル、ガスは 44.8Tcm となっている。
表 5-11 ロシアの資源埋蔵量
(2010 年末時点)
確認埋蔵量
世界シェア(%)
可採年数
石油
(億バレル)
774
5.6
20.6
ガス
(兆立米)
44.8
23.9
76
(出所)
BP Statistical Review of World Energy, June 2011
5-8-5 価格決定方式・販売方針
Urals 原油は、スポット市場で取引されており、価格は Dated Brent リンクとなってい
る。また、ESPO 原油の価格は、Dubai リンクで決定される。販売方針については、基本
的に石油企業各社が自由に決められるが、原油パイプライン輸送による販売の場合は、国
営パイプライン企業 Transneft が決める輸出割り当ての範囲内において輸出が可能である。
5-8-6 油種・生産能力
ロシアの主要原油は Urals、Siberian Light、Sokol( Sakhalin 1)、Vityaz(Sakhalin 2)
178
YK(South Khylchuyu)
、ESPO の 6 種類がある。このうち、Urals はロシアの主力生産
地域である西シベリア油田群から産出される原油ブレンドであり、硫黄分が 0.8%を超える
高硫黄の原油となっている。Vityaz については、Sakhalin 2 Lunskoye 鉱区からの生産が
開始され、当初の API 比重 33.6、硫黄分 0.24%から品質が向上している。現在、西シベ
リアの油田は減退傾向にあり、今後は東シベリア、極東、北極圏などの環境の厳しく、イ
ンフラも未整備な地域での新規開発・生産を進め、同地域からの原油埋蔵量・生産量の追
加により、同国の原油生産量を維持・拡大していきたいとロシア政府は考えている。
表 5-12 ロシア産主要原油の品質
油種名
Urals
Siberian Light
Sokol(Sakhalin 1)
Vityaz(Sakhalin 2)
YK(South Khylchuyu)
Espo
API 比重
31.8
35.1
38.7
38.0-40.0
33.7
34.7
硫黄分
1.35%
0.57%
0.21%
0.18-0.19%
0.76%
0.54%
(出所)Energy Intelligence Group, The International Crude Oil Handbook 2010
図 5-13 ロシアの油田分布
(出所)IEA, Russian Energy Survey 2002
5-8-7 輸出先・輸出量の見通しと輸出インフラ
179
2010 年、ロシアの主要な原油輸出先は、オランダ(114 万 B/D)、イタリア(53 万 B/D)、
ポーランド(42 万 B/D)
、ドイツ(37 万 B/D)、中国(26 万 B/D)であった70。2009 年
11 月にロシア・エネルギー省が発表した「2030 年までのエネルギー戦略」によると、2030
年の原油輸出量は 446 万 B/D∼498 万 B/D と見込んでいる。
表 5-13 ロシア政府・各国際機関による原油生産見通し
(単位)百万B/D
ロシア政府
EIA(2010)
IEA(2010)
基準年
2008年
見通し
2013-2015年 2020-2022年
9.8
9.72-9.90
10.1-10.6
2008年
2015年
2020年
2025年
9.8
9.5
9.8
10.6
2015年
2009年
2020年
2025年
10.2
10.2
9.5
9.2
(出所)ロシア政府, 2030 年までのロシア・エネルギー戦略,
International Energy Outlook 2010.
2030年
10.6-10.7
2030年
11.8
2030年
9.2
IEA, World Energy Outlook 2010., EIA,
5-8-8 日本企業の進出(権益)等
わが国企業が権益を保有するプロジェクトには Sakhalin 1 と Sakhalin 2 がある。主な
内容は以下のとおり。
表 5-14
Sakhalin 1・Sakhalin 2プロジェクトの概要
Sakhalin 1
オペレーター ExxonMobil
ExxonMobil 30%
SODECO (Japan) 30%
権益保有者 ONGC (India) 20%
Sakhalinmorfneftegaz &
Rosneft (Russia) 20%
確認可採 原油: 約 23億 Bbl
埋蔵量
ガス: 約485 Bcm
原油:全量を輸出
ガス(随伴ガス):
供給
・2005年、国内供給を開始
→20%をGazpromが購入予定
Sakhalin 2
Sakhalin Energy
Gazprom (50% + 1 stock)
Shell (27.5% - 1 stock)
Mitsui (12.5%)
Mitsubishi (10%)
原油: 約 11億 Bbl
ガス: 約 480 Bcm
ガス:
・2009年3月、LNG生産を開始
・基地の液化能力は年間960万トン
・仕向け先:約5割が日本市場
(出所)各種資料より(財)エネルギー経済研究所作成
5-9 インドネシア
70
ロシア税関局, ロシア通関統計, 2011 年, p.61.
180
5-9-1 エネルギー政策におけるスキーム、キーパーソン
インドネシアのエネルギー鉱物資源政策の策定と実行の責任官庁は、エネルギー鉱物資
源省(Ministry of Energy and Mineral Resources:MEMRまたはESDM)。同省の下に、
石油・ガス産業全体を管轄する石油・天然ガス総局(Directorate General of Oil and Natural
Gas:MIGAS)、電力産業を管轄する電力・エネルギー利用総局(Directorate General of
Electricity and Energy Utilization: DGEEU)、鉱物・地熱を管轄する鉱物石炭地熱総局
(Directorate General of Mineral、Coal and Geothermal:DJMBP)など、いくつかの総
局がある。石油・天然ガス探鉱・開発に係る生産物分与契約(PSC)は、エネルギー鉱物
資源省が直接管轄し、上流部門に係る契約実施の監督は、石油・天然ガス上流部門の監督
機関として設立された上記MIGASの下部機関であるBP Migas (Bandan Pelaksana
Minyak dan Gas ) が行う。また、BP Migasはこのほか、政府取り分の生産物の販売促進、
販売者の選定と指名などを行う。上流部門のBP Migasに対応し、下流部門の監督機関とし
て同じくMIGASの下にてBPH Migas(Bandan Pelaksana Hilir Mi nyak dan Gas )が設立
されている。BPH Migasは、石油製品供給や石油・天然ガスパイプライン等を管轄する。
インドネシアのエネルギー政策において最も影響力があるのは、ユドヨノ大統領である。
2009年10月から新しいユドヨノ政権の下で、エネルギー鉱物資源大臣には、インドネシア
大学講師でエコノミストのDarwin Zahedy Saleh氏が就任していたが、同国の重要課題で
ある石油の国内生産量が順調に増産されなかったために、2011年10月の内閣改造でSaleh
氏は更迭、新たに文化観光相であったJero Wacik氏が起用され、更に新設ポストとして副
大臣を創設、Widjajono Partowidagdo氏が任命されている。
5-9-2 原油購入契約に関する基本情報
インドネシア原油は、ターム、スポット契約の双方で販売されている。しかし、原油生
産量の伸び悩みと国内消費量の増大により、近年、インドネシア原油のスポット販売は減
少傾向にある。
5-9-3 権益持分原油の扱い
インドネシアは自国油ガス田の開発契約として生産物分与契約(PSC)を導入しており、
政府と石油会社の利益配分シェアが決められている。通常地域の利益配分シェアは政府:
石油会社で 85:15(ガスは 70:30)、フロンティアエリアが 65:35(ガスは 60:40)と開
発 条 件の 厳 しいエリ ア の利 益配 分が高 くな っ てい る。 ま た、 同国 には 国内 供 給義 務
(Domestic Supply Obligation:DMO)があり、石油会社の利益配分シェアの内、25%
を国内市場に供給することが義務付けられている。DMO は生産開始 5 年後から適用され
る。
181
5-9-4 生産量・埋蔵量
インドネシアはアジアで唯一の OPEC 加盟国であったが、生産量の減少により 2004 年
から石油の純輸入国に転じたため、2008 年 12 月に OPEC を正式に脱退した。2011 年版
BP 統計によると、2010 年の原油生産量は 98.6 万万 B/D、埋蔵量については 42 億バレル
である。
5-9-5 価格決定方式・販売方針
インドネシア原油価格(ICP:Indonesia Crude Price)の現行の価格決定方式は 2007
年 7 月に導入され、毎月、Platts と RIM の原油価格アセスメントの平均価格をベースに
決定されている。また、6 ヶ月毎に価格決定方式は見直しされる仕組みとなっているが、
エネルギー資源鉱物省石油・ガス総局(Migas)は 2011 年 12 月末までは現行の価格決定
方式を維持することを発表している。ICP は Ardjuna、Attaka、Cinta、Duri、Widuri、
Minas、Belida、Senipah Condensate の 8 原油に対して設定される。
インドネシアは、国家収入に占める石油収入の割合が高かったが、2004 年から石油の純
輸入国に転じ、石油に関する貿易収支は赤字となっている。そのため、インドネシア政府
は、2020 年までに石油の純輸出国になることを目指し、石油の生産量を増やすべく鉱区の
入札ラウンドや積極的な外資導入を図ろうとしているが、期待すべく結果は現れていない。
5-9-6 油種・生産能力
インドネシアの主要原油は 8 種類あり、品質は下記のとおりである。
表 5-15 インドネシア産主要原油の品質
油種名
API 比重
硫黄分
Belank
47.8
0.015%
Cinta
31.1
0.09%
Duri
20.8
0.2%
Handil Mix
43.92
0.05%
Minas
35.3
0.09%
Senipah Condensate
53.42
0.003%
38
0.12%
33.2
0.07%
West Seno
Widuri
(出所)Energy Intelligence Group, The International Crude Oil Handbook2010
182
2010 年時点での生産能力はインドネシア合計で 98.6 万 B/D となっている。
5-9-7 輸出先・輸出量の見通し
インドネシアは自国で生産した原油の約 38%を輸出している71。World Oil Trade
( Wiley
BlackWell 2010 年版)によると、2009 年のインドネシアの原油輸出量は 18.6 万 B/D で、
仕向け地のトップはオーストラリアで 7.0 万 B/D、次いで日本で 5.8 万 B/D、韓国 5.6 万
B/D の順となる。IEA の Midterm Oil Market Report(2011 年版)は、インドネシアの
生産は、2010 年の 97 万 B/D から 2016 年には 81 万 B/D にまで減少すると予測されてい
る。生産量の減少傾向と国内需要の増加の中で、今後のインドネシアの輸出量はますます
減少することが見込まれる。
5-9-8 日本企業の進出(権益)など
インドネシアにおける日本企業の権益は下表に示す通りである。石油、ガス、LNG に
至るまで幅広い分野にわたって日本企業の進出が見られる。
表 5-16 インドネシアにおける日本企業の主要な保有権益
スマトラ
南東スマトラ沖
国際石油開発帝石 13.067444%
日産 4.1 万 B
北 スマトラ A 鉱区区
JAPEX16.67%
開発段階
MeranginⅠPSC 鉱区
モエコメランギン石油
探鉱段階
(三井石油開発 100%)20%
ジャワ
アルンLNG フ
゚ロ
シ
゙
ェク
ト
日本インド
ネシアエ
ルエヌシ
゙ー15%
年産
LNG650 万トン
カンゲアン鉱区
Energi Mega Pratama Incグ
ループ 日産 2,000B、ガ
ス25 百万 cf
( JAPEX25%、三菱商事 25%)
100%
カリマンタン
北西ジャワ鉱区
国際石油開発帝石 7.25%
日産 2.8 万 B、カ
゙ス2.2 億 cf
マハカム沖鉱区
国際石油開発帝石 50%
日産 7.2 万 B、カ
゙ス25.9 億 cf
アタカユニット
国際石油開発帝石 50%
日産 0.7 万 B、カ
゙ス1,600 万 cf
サンガサンガ鉱区
ユニバースガスアンドオイル
(い
日産 1.9 万 B、カ
゙ス5 億 cf
(JAPEX、大阪ガ
ス
、JX 日鉱日石
開発、エルエヌシ
゙ージャパンが出資)
4.375%
ボ
ンタンLNG フ
゚
ロ
ジ
ェク
ト 日本インド
ネシアエ
ルエヌシ
゙ー15%
71
IEA「Energy Balances of Non-OECD Countries」2011 Edition
183
年産
LNG2,250 万トン
スラウェシ
ブトン鉱区
JAPEX40%
掘削段階
西パプア
タン
グーLNG フ
゚
ロ
ジ
ェク
ト 日石ベ
ウラ
石油開発
MI Berau B.V.(三菱商事、国際
2009 年 6 月から生産開始
年産 LNG760 万トン
石油開発帝石)、三井物産、エルエヌ
ジー
シ
゙ャパ
ン等が出資し日本企業合
計 45.88%
ナトゥナ
南ナト
ゥナ
海 B 鉱区
国際石油開発帝石 35%
日産 6.3 万 B、カ
゙ス4.0 億 cf
アラフラ海
マセラ鉱区
国際石油開発帝石 100%
Floating LNGの FEED 準備中
(出所)石油鉱業連盟「わが国石油・天然ガス開発の現状と課題 2010 年」より
5-10 ナイジェリア
5-10-1 エネルギー政策におけるスキーム、キーパーソン
行政機関としては、2007 年 1 月の省庁再編時に創設されたエネルギー省(Federal
Ministry of Energy: FME)がナイジェリア国内のエネルギー全般の政策を所管していた
が、2009 年 8 月に再々編が行われエネルギーに関しては、石油資源省(Federal Ministry
of Petroleum Resources)が担うこととなった。この他、エネルギー政策の立案遂行にあ
たっては、立法機関としての議会の発言力も大きく、特に議会の石油委員会は現在審議中
の石油産業法の改正については大きな影響力を行使している。
ナイジェリアのエネルギー部門における主要人物としては、まずグッドラック・エベレ・
ジョナサン(Goodluck Ebele Jonathan)現大統領が挙げられる。同氏は国営 NNPC の戦
略決定や各プロジェクトの最終承認の権限を有する最も重要なキーパーソンである。次に
重要なのが、ディエザニ・アリソン-マドゥエケ(Diezani Allison-Madueke)石油資源大
臣であり、日々の石油関連政策における意思決定を行う。
5-10-2
原油購入契約に関する基本情報
ナイジェリアは多くの輸出を生産・
販売しているが、その多くはタームとスポット双方の
販売がなされている。原油の販売者は、ナイジェリアの国営石油会社 NNPC(Nigeria
National Oil Company)とその生産パートナーである国際石油会社である。
5-10-3
権益持分原油の扱い
ナイジェリアでは、国営 NNPC と国際石油会社との間で合弁形式と生産物分与形式双
184
方での開発契約が締結されているが、それぞれの契約では、国際石油会社が自社権益分を
埋蔵量として計上することが許容されている。また原油の販売についても各社が自社権益
分を自ら販売している。
5-10-4
生産量・埋蔵量
ナイジェリアはアフリカ最大の石油生産国であり、2010 年実績では 208 万 B/D の原油
を生産している。埋蔵量については、2011 年版 BP 統計によると、372 億バレルで世界第
10 位、アフリカではリビアに次いで二番目に大きい水準である。
表 5-17 ナイジェリアの主要油田の生産量
地域
West Delta
Offshore West Delta
East Delta
Offshore East Delta
油田
オペレーター
生産能力(千 B/D)
Escravos
Chevron
440
Forcados
RD/Shell
500
Ukpomami
Total
EA
RD/Shell
115
Pennington
Chevron
50
Ukpotiki
ConocoPhillips
20
Bonga
RD/Shell
225
Erha
ExxonMobil
150
Bonny Light
RD/Shell
500
Brass River
ENI
180
Qua Iboe
ExxonMobil
420
Amenam
Total
125
Yoho
ExxonMobil
160
Odudu
Total
70
Antan
Addax
60
Okwori
Addax
25
Okono
ENI
10
Abo
ENI
15
Akbami
Chevron
(出所)Global Insight
185
7
250
図 5-11 ナイジェリアの主な石油関連施設
(出所)EIA
5-10-5
価格決定方式・販売方針
ナイジェリア原油の価格は Brent 価格にリンクして販売される。欧州だけではなく、米
国、アジアにも輸出されているが、これらの市場に対しても Brent 価格リンクで販売され
る。ナイジェリア政府自身に明確な販売方針はなく、市場原理に基づいて、最も高く購入
する需要家に対し販売を行うという方針であると考えられる。
5-10-6
油種・生産能力
ナイジェリアの主要原油としては Bonny Light、Brass River、Forcados、Qua Iboe の
4 種類があげられるが、全て低硫黄の高品質原油である。全量が海上輸出であり、パイプ
ライン輸出はない。
表 5-18 ナイジェリア産主要原油の品質
油種名
生産量
API 比重
硫黄分
Bonny Light
500 kb/d
33.6
0.14%
Escravos
440 kb/d
36.0
0.15%
Forcados
500 kb/d
30.4
0.18%
186
Qua Iboe
420 kb/d
36.4
0.12%
(出所)Energy Intelligence Group The International Crude Oil Market Handbook
5-10-7
輸出先・輸出量の見通しと輸出インフラ
ナイジェリアにとって最大の原油輸出相手国は米国であり、2010 年には 102 万 B/D の
原油を輸出した。なお、近年はインドへの輸出が増加しているが、これはインド最大の石
油精製事業者である Indian Oil Company が Escravos 原油のターム契約を有しており、
その購入分が大きいことによる。
今後の輸出量については、IEA の Midterm Oil Market Report(2011 年版)は、ナイ
ジェリアの生産能力は、2010 年の 270 万 B/D から 2015 年には 256 万 B/D にまで減少す
ると予測している。これは、ナイジェリア国内の政治情勢が引き続き不安定であること、
また現在議会で審議中の石油産業法の内容が、外資企業の操業条件を悪化させる可能性が
高いことによる。ナイジェリアでは新規開発案件自体は多くあるものの、このような投資
環境の不透明化が今後の生産能力ならびに生産量の増加を抑制することになると見られて
いる。
5-10-8
日本企業の進出(権益)等
石油・ガス分野のプロジェクト関連では、LNG Japan が 2006 年 4 月に OKLNG プロ
ジェクトの事業会社株式の 3%を取得することで NNPC と基本合意している。また、川崎
汽船はナイジェリアで浮体式 LNG プロジェクトを進めるノルウェーの Flex LNG に 15%
を出資し、三菱商事がその事業化検討スタディに参画している。
5-11 アルジェリア
5-11-1
エネルギー政策におけるスキーム、キーパーソン
アルジェリアは、1986年に炭化水素法を制定し、油ガス田開発の上流分野を外資へ開放
した。1991年に採択された炭化水素法では、地下天然資源の採掘に関わる外国企業の資本
参 加 比 率 の上 限 を 49% と 規 定 し 、炭 化 水 素 資 源の 生 産 に つ い ては国 営炭 化 水 素 公 社
Sonatrachとの提携が義務付けられた。その後、2005年5月に新炭化水素法が制定されたが、
完全に実施されないまま、2006年7月に同法の改正令が発表され、2007年1月に施行された。
2005年5月の新炭化水素法では、Sonatrachの権限縮小が盛り込まれたことから72、外資企
72
外国企業の Sonatrach との提携義務が免除され、新規発見田・ガス田に対する先買権は 20%∼30%の
187
業による探鉱開発促進が期待されていた。しかし、2007年の改正令は2005年の新炭化水素
法から逆行する内容となっており、旧法どおりSonatrachの権益比率を51%以上に保証され
ている。その背景としては、原油価格の高騰により資源ナショナリズムの動きが活発にな
ったことや、十分な石油収入が得られるようになったことから外資導入を急ぐ必要性が薄
れたこと、将来のために石油資源を温存するほうが望ましいとの考え方が出てきたこと、
さらにはブーフテリカ大統領が大統領三選をにらんで労働組合との協調路線へと方針転換
したことなどがあると指摘されている73。
エネルギー政策担当機関はエネルギー鉱業省(Ministry of Energy and Mining )である。
2010年初頭に起きたSonatrach汚職事件の影響で74、2010年5月にユーセフ・ユスフィ氏が
新しいエネルギー大臣に任命されており、今後のエネルギー政策動向の変化が注目されて
いる。
5-11-2
原油購入契約に関する基本情報
アルジェリア原油は原則としてターム契約で販売されているが、中東産原油と異なり、
その原油は転売が可能となっている。またターム契約の販売価格は Dated Brent にリンク
して決定される。
5-11-3
権益持分原油の扱い
アルジェリアでは、契約時期に応じて生産物分与契約 75、利権契約 76の他、リスク・サー
ビス契約77によって石油開発が行われている。上流部門に関しては、2007 年の新炭化水素
法の改正で Sonatrach に最低 51%の権益付与が義務付けられている。なお、2005 年 5 月
の新炭化水素法の規定により、Brent 原油の月間平均価格が$30/bbl を超過する場合に、
石油・ガス事業者の超過利潤に対して税率 5∼50%の特別利潤税が課税される。これは新
規契約のみならず 1986 年の旧炭化水素法の下で締結された既存契約にも適用されること
となった。
5-11-4
生産量・埋蔵量
範囲で Sonatrach に保証されることになった。
73 JOGMEC ホームページ
74 石油基地のセキュリティ設備導入計画の契約(約 1.2 億ユーロ)に関し、ドイツ企業コンテルから
Meziane 前 Sonatrach 総裁の息子の一人が便宜を図ることと引き換えに、コンテル・アルジェリア株や
不動産を譲り受けた容疑、イタリアの Saipem と契約した天然ガスパイプライン建設契約に関し、別の息
子が、コミッション等を受け取った容疑、Sonatrach 本部改装に関してドイツの Impech に発注したプロ
セスの不透明性、の 3 件が挙げられている。(中東研究センター、「国別定期報告」、2010 年 4-6 月)
75 アルジェリアでの契約の大部分に適用されている。
76 新炭化水素法により規定
77 Ohanet 鉱区における BHP Bilit on を操業者とする事業他、計 2 事業に適用
188
BP 統計によれば、2010 年末におけるアルジェリアの確認埋蔵量は、122 億バレル(世
界に占めるシェアは 0.9%)である。IEA の「Oil Market Report」によれば、2010 年の
原油生産量は、125 万 B/D であった。
5-11-5
価格決定方式・販売方針
アルジェリアの高品質原油である Saharan Blend の場合、「Brent 原油価格+プレミア
ム」で取引されている。なお、2008 年の輸出価格は平均$98.96/bbl 、2009 年は$62.35/bbl
であった。Brent 原油に対するプレミアムは、2008 年は平均$1.59/bbl 、2009 年は$0.68/bbl
であった。販売先は主に西欧と北米である。
5-11-6
油種・生産能力
アルジェリアの代表的な油種は Saharan Blend である。比重は 45.7API、
硫黄分は 0.1%
であり、軽質低硫黄の高品質原油である。アルジェリア最大の油田は、Hassi Messaoud
油田である。Hassi Messaoud 油田は、1978 年 に 60 万 B/D のピーク生産量に達したが, そ
の後減退が始まり、1989 年には 30 万 B/D まで低下した。これに対し大規模なガス圧入
計画によって減退が抑えられ、2008 年は 40 万 B/D 、2009 年は 35 万 B/D の生産が行わ
れている。現在なお 59 億バレルの残存可採埋蔵量があり、周辺エリアまで考慮すると 64
億バレルと評価されている。Sonatrach は最新の油層技術を適用することによって、70∼
75 万 B/D まで増産する計画である。
5-11-7
輸出先・輸出量の見通しと輸出インフラ
Saharan Blend は、Arzew、Bejaja、Skikda の 3 港から輸出されている。いずれも 2005
年に拡張され、VLCC に対応した輸出港となった。アルジェリアの原油輸出量は、83.9 万
B/D(2008 年)
、74.7 万 B/D(2009 年)
。2009 年の主要輸出先としては、北米(39.3 万
B/D)、欧州(20.3 万 B/D)
、アジア(12.5 万 B/D)となっている。
5-11-8
日本企業の進出(権益)等
国際石油開発帝石(株)は、2001 年 11 月にアルジェリア東部陸域エル・オアールⅠ/
Ⅱ鉱区の 10.29%権益を取得している。エル・オアールⅠ鉱区では、1997 年に掘削した試
掘井およびその後に掘削した評価井にて、天然ガス・コンデンセートおよび原油の胚胎が、
またエル・オアールⅡ鉱区でも 2001 年に掘削した試掘井 にて天然ガスおよびコンデンセ
ートの胚胎がそれぞれ確認されており、現在、周辺油ガス田との共同開発検討作業を行っ
189
ている。78
表 5-19 国際石油開発帝石(株)のプロジェクト
契約地域(鉱区)
事業会社(設立)
権益比率
エル・オアールⅠ/Ⅱ 帝石エル・オアール石油(株) 同社:10.29%
(2001 年 12 月)
Sonatrach:67.33%
Eni:22.38%
日揮は 2011 年 8 月 30 日、アルジェリアで原油処理プラントを受注したと発表した。受
注金額は約 4 億ドル(約 300 億円)。日量 2 万 B/D 規模の処理設備について設計、調達、
建設すべてを請け負う EPC 契約で、2014 年前半の納入を予定している。同社は 1969 年
からアルジェリアで原油処理プラントを手がけており、これまでの実績が受注につながっ
たと見られる。日揮は現地の国営資源会社らが出資するグループモン・ビルセバ社から受
注。プラントは首都アルジェから南東に 550km 離れたビルセバ地区に建設。油井から原
油を取り出し不純物を除去する装置やパイプライン設備などを据え付ける。入札では現代
や三星グループなどの韓国勢のほか、イタリアのプラント大手と競ったが、40 年以上にわ
たるアルジェリアでのプラント建設経験が評価され競り勝った模様。79
78
79
国際石油開発帝石 ホームページ
日本経済新聞、2011 年 8 月 30 日
190
図 5-12 アルジェリアの主要エネルギー関連インフラ
(出所)University of Texas
5-12 ノルウェー
5-12-1
エネルギー政策におけるスキーム、キーパーソン
ノルウェーのエネルギー政策は、石油・ガス関連については石油エネルギー省(Ministry
of Petroleum and Energy)が所管している。現在の大臣は Ola Borten Moe 氏である。
191
同氏は弱冠 35 歳のノルウェー議会議員であり、ノルウェー科学技術大学を卒業後、農業
に従事したのち、1995 年から政治活動に従事。2011 年 3 月から現職に就いている。
石油エネルギー省は、
「Oil and Gas」
(石油・ガスの探鉱開発、油ガス田のライセンスの
供与、石油・ガス市場の監督、環境対策等)、「Energy and Water Resources」(発電部門
管理、国営電力会社の監視、水資源管理等)、「Administration, budgets and accounting 」
(一般管理)の部門からなる。
5-12-2
原油購入契約に関する基本情報
ノルウェー産原油は、それぞれの油田の権益保有者がその権益比率に応じて販売を行っ
ている。その中では、精製装置を有する石油メジャーであれば自社の製油所に輸送して精
製を行うこともあるが、一般にはスポット販売がなされる場合が多い。
5-12-3
権益持分原油の扱い
ノルウェーではライセンス契約に基づいた石油開発が進められている。ライセンス契約と
は、地下の鉱物に対する権利は、地表権者ではなく、もともとは国(政府)に帰属すると
の前提に立ち、政府が競争入札等の方法により石油会社に鉱区における独占的な石油探鉱
権を付与する形態の契約形式である。
5-12-4
生産量・埋蔵量
ノルウェー国内の石油資源の大部分は北海地域に賦存している 。大陸棚開発は北海・ノ
ルウェー海・バレンツ海の 3 ヶ所で行われており、これまでは比較的温暖な北海・ノルウ
ェー海に開発鉱区が集中していたが、既存油田の減退による生産量減少に直面している。
近年ではその開発対象地域が徐々に北上し、厳しい環境のバレンツ海でも開発が行われる
ようになってきている。2011 年版の BP 統計によると、ノルウェーの石油埋蔵量は 71 億
バレル、IEA の Oil Market Report によると、2010 年の石油生産量は 214 万 B/D であっ
た。
5-12-5
価格決定方式・販売方針
ノルウェー原油の多くはスポット契約にて販売されている。またその販売方針は、市場
原理に基づいた販売を行うということ以外には特に明確な方針は存在しない。
5-12-6
油種・生産能力
192
ノルウェー産原油の主要油種の性状は以下のとおりである。また 2011 年時点でのノル
ウェーの石油生産能力は約 200 万 B/D である。
表 5-20 ノルウェー産主要原油の品質と積荷ターミナル
油種
API 比重
硫黄分(%)
積荷ターミナル
Alvheim
36.9
0.15 Alvheim FPSO
Asgard Blend
50.5
0.07 Asgard Platform
Balder
30.1
0.48 Balder FPSO
Draugen
39.9
0.15 Draugen Terminal
Ekofisk Blend
38.0
0.21 Tees River, Teeside (英)
Grane
18.7
0.83 Sture
Gullfaks Blend
37.5
0.23 Gulfaks Platform
Heidrun
25.0
0.52 Mongstad
Norne
32.7
0.21 Norne FPSO
Oseberg Blend
37.8
0.27 Sture
Sleipner Condensate
63.2
0.02 Karsto
Statfjord Blend
39.5
0.22 Statfjord Platform
Troll
33.4
0.18 Mongstad
Volve
29.8
1.72 Navion Saga FSO
(出所)International Crude Oil Market Handbook 2010
5-13-7 輸出先・輸出量の見通しと輸出インフラ
ノルウェー原油の輸出先は下表のとおりである。
表 5-21 主要輸出相手国と輸出量
(単位:千トン)
英国
フランス
オランダ
ドイツ
米国
カナダ
2006
44,237
8,153
13,726
5,799
4,694
7,676
2007
34,154
12,332
12,571
10,739
5,444
6,721
2008
39,299
10,301
12,620
7,165
2,433
5,353
2009
35,399
7,928
15,584
6,413
3,242
5,047
2010
38,521
4,905
14,867
4,274
1,470
3,043
(出所)IEA,Oil Infomration 2011
ノルウェーでは、石油・ガス合計の推定可採埋蔵量の約 40%が 2009 年末までに生産済
であるとされている。石油生産は 2000 年にピーク・アウトしており、今後は天然ガス生
産で石油の減産分を補っていく方針だが、全体的な生産量は減少していく見込みである。
石油エネルギー省は 2011 年 1 月、石油生産量が 2010 年の 180 万 B/D から 2011 年には
193
170 万 B/D へ、2015 年には 153 万 B/D にまで落ち込むとの見通しを示している。また、
石油エネルギー省は、既存の油田ではまだ 50%以上の埋蔵量が残っているとして、企業に
原油回収率向上による石油の増産を促している。
ノルウェーの原油はその多くが北海洋上での生産プラットフォームや FPSO から輸出さ
れており、その輸出インフラ名は表 5-20 に示したとおりである。
5-12-8
日本企業の進出(権益)等
ノルウェー領近海では、ノルウェー石油開発(株)、出光スノーレ石油開発(株)が生産活
動を行っており、後者においては、2010 年平均で総量約 162,000B/D(同社権益分で約
14,800B/D)の油・
ガスを生産している。
5-13 米国
5-13-1
エネルギー政策におけるスキーム、キーパーソン
米国のエネルギー政策実施機関は、
エネルギー省(Department of Energy:DOE)である。
長官(Steven Chu)の下に、副長官(Daniel B. Poneman)、副長官補(Melvin G. Williams,
Jr.)および次官 3 名(Thomas P. D’Agostino 原子力安全担当、Dr. Steven E. Koonin エ
ネルギー資源・科学技術・環境担当、無任所<2011 年 12 月時点で空席>)がいる。無任所
次官の指揮系統下に、化石エネルギー担当次官補がいる。
エ ネ ル ギ ー 省 の 下 部 組 織 の 一 つ に 、 エ ネ ル ギ ー情 報 局 ( Energy Information
Administration)が設置されており、エネルギー関連の情報収集や公式発表、世界エネル
ギー需給展望の発表等を行っている。米国内における原油備蓄や石油製品の生産量および
在庫量、国内原油取引量・価格変動等、多岐に渡る情報が毎週更新されている。
5-13-2
原油購入契約に関する基本情報
かつて米国市場は国内の原油価格制のために、国際スポット市場との関連が限定的であ
った。1988 年にターム契約のスポット価格連動方式が導入され、Alaska North Slope
( ANS) 原 油 が ア ラ ス カ 向 け 指 標と な っ た 80 。 1984 年 に ニ ュ ー ヨ ー ク商 品取 引 所
(NYMEX)において、軽質低硫黄原油(通称 WTI 原油)が上場され、原油先物市場の指
標となった。その後、世界的な先物取引の発達にともない、WTI が国際的な原油指標とし
て認知されるようになった。
80
JX 日鉱日石エネルギー、席便覧(電子版)。
194
5-13-3
権益持分原油の扱い
米国では石油・天然ガス開発に対し、利権契約(Concession Agreement)形式を採用し
ている。利権契約とは、産油国政府(米国の場合該当)や国営石油会社等から契約もしく
は認可によって探鉱権が直接石油会社に付与される契約のことである。石油会社は、対象
鉱区に自ら投資し、そこから得られる石油・ガスの処分権を持つ一方、売上からロイヤリ
ティ、税金等の形で産油国へ還元しなければならない 81。
5-13-4
生産量・埋蔵量
2010 年時点で、米国は世界最大の原油輸入国であると同時に、世界第 3 位の原油生産
国である。BP 統計によると、2010 年末における原油確認埋蔵量は、309 億バレル(世界
に占めるシェアは 2.2%)である。2010 年の生産量は、751.3 万 B/D であった。
5-13-5
(1)
価格決定方式・販売方針
Alaska North Slope(ANS)
2000 年 5 月以降、The Trans-Alaskan Pipeline System 周辺に位置する精製業者が地元
消費目的で販売した残りが米国西海岸向けに出荷されている。1973 年に ANS の輸出は中
止されたが、1995 年に同規制が撤廃された。1990 年代末にかけて西海岸の原油市場が飽
和状態となったことを受け、約 30 万 B/D がパナマ運河を通過してメキシコ湾岸地域に供
給された。2000 年までに西海岸地域の原油生産低下や石油需要の上昇が生じたことにより、
カリフォルニア州及びワシントン州の西海岸の精製事業者が ANS の余剰生産量を吸収す
るようになった。
(2)
Heavy Louisiana Sweet
主な販売先は、St. Charles や Alliance のようなメキシコ湾岸地域の精製業者である。
2009 年初期には、在庫過剰となった WTI に対し過去 10 年間で最高のプレミア価格で販
売された。
(3)
Light Louisiana Sweet
主な販売先は、St. Charles や Alliance のようなメキシコ湾岸地域の精製業者である。
大部分はターム契約で販売されており、少量がスポット市場で販売されている。ターム契
約は、製油業者が設定する価格(井戸元価格−輸送コスト+ボーナス)で取引されている。
81
国際石油開発帝石ホームページ,
http://www.inpex.co.jp/glossary.html.
195
(4)
Mars Blend
Platts 社の発表する ACM(Americas Crude Marker)及び ASCI(Argus Sour Crude
Index)の対象原油の一つである。
(5)
West Texas Intermediate
スポット価格は翌月渡しで、NYMEX 市場の WTI 原油価格に準じて決められる。ター
ム契約は、製油業者が設定する価格(井戸元価格−輸送コスト+ボーナス又は割引)で取
引されている
(6)
West Texas Sour
スポット価格及びターム契約で取引されており、NYMEX における WTS 価格及びその
軽質スイート原油先物価格の差に基づき、先物価格が設定されている。
5-13-6
油種・生産能力
米国の主要原油の性状及び 2010 年の生産量を下表に示す。
表 5-22 国内主要原油の性状と生産量
API密度
硫黄分
生産量(2009年)
Alaska North Slope
Heavy Louisiana Sweet
Light Louisiana Sweet
32.3
31.1
36.0
0.88
0.36
0.34
67万B/D
n.a.
30万B/D
Mars Blend
Poseidon
Southern Green Canyon
Thunder Horse
West Texas Intermediate
West Texas Sour
28.9
29.7
29.2
34.5
38.7
2.05
1.65
2.30
0.61
0.45
33.2万B/D
11.4万B/D
20万B/D
20.7万B/D
30万B/D弱
31.7
1.28
70万B/D
油種名
(出所)International Crude Oil Market Handbook 2010
5-13-7 輸出先・輸出量の見通
2010 年の米国からの石油輸出は 4.0 万 B/D であり、全量がカナダへ輸出されている。
今後も同程度の輸出が継続されると考えられる。
5-13-8
82
日本企業の進出(権益)等82
別途注記なき項目に関しては、『わが国石油・天然ガス開発の現状と課題』、石油鉱業連盟より。
196
米国での日本企業の権益取得状況は以下の通り。
♦ 2007 年 3 月、伊藤忠石油開発は、米国 Range Resources の子会社 2 社の株式 100%
を取得し、米国メキシコ湾岸ウェスト・デルタ 30 油ガス田(オペレーターは Exxon
Mobil;取得権益 49%)を含む、15 箇所の海洋生産油ガス田権益を取得した。
♦ 2007 年 5 月、MCX Gulf of Mexico(三菱商事石油開発)は、新日本石油開発子会社
と共同で、入札を通じて Anadarko のメキシコ湾 K2 油田の権益(23.2%)(NOEX
USA と MCX が各々11.6%)を買収した。
♦ 2007 年 8 月、日揮は、ルイジアナ州南部に位置するリトルレイク油ガス田の権益
100%を取得し、オペレーターとなった。同年 11 月以降、開発井 5 抗を掘削し、3
千 B/D(原油換算)を生産している。
♦ 2008 年4月、双日は、メキシコ湾の深海フェニクス油田の権益 30%を取得した。
♦ 2008 年 4 月、丸紅の米国子会社 MOGUS は、メキシコ湾コディアック鉱区(11.25%
の権益を保有)で原油を発見し、埋蔵量評価作業に入った。
♦ 2010 年 10 月、丸紅は、米国子会社 Marubeni Oil & Gas Inc.を通じ、BP の米国子
会社 BP Exploration & Production Inc.との間で、BP が米国メキシコ湾に保有する
生産権益群を 6.5 億ドルで取得することに合意し、権益売買契約を締結した83。
♦ 2011 年 6 月、三井物産は、米子会社 Mitsui E & P Texas LP (MEPTX)を通じて、米
国 SM Energy Company(SME)がテキサス州 Eagle Ford のシェール・エリアで開
発・生産中のシェールオイル/ガス開発生産プロジェクトに参画することを発表し
た。MEPTX は、SME が対象地域に保有する権益の 12.5%を取得し、一部生産を開
始した84。
5-14 ベネズエラ
5-14-1
エネルギー政策におけるスキーム、キーパーソン
エネルギー政策は、かつてエネルギー・鉱業省が担当していたが、2005 年 1 月にチャベ
ス大統領が政府機関を改組し、鉱業部門は新設の基幹産業・鉱業省へ移管、エネルギー鉱
業省は石油エネルギー省に改称された。この改組に伴い、エネルギー鉱業大臣の Rafael
Darío Ramírez Carreño 氏(2002 年 6 月∼)が石油エネルギー相、石油・ガス部門を管轄
する炭化水素担当副大臣に Iván Orellana 氏、精製・石油化学担当副大臣に Asdrúbal
Chávez 氏が就任した。国営石油会社 PDVSA の総裁は Ramírez 氏が兼任している。石油
エネルギー省の傘下には、国内石油・
天然ガスの探鉱開発と石油精製・
供給を担う PDVSA
の他に、ガスの輸送・国内供給を行う Enagas といった国営エネルギー企業がある。
83
84
2010 年 10 月 25 日付、丸紅ホームページプレスリリース。
2011 年 6 月 30 日付、三井物産ホームページプレスリリース。
197
5-14-2
原油購入契約に関する基本情報
ベネズエラの原油販売は大部分を国営石油会社 PDVSA(Petroleos de Venezuela)が行
っている。しかし、Hamaca 原油は Chevron と、Monagas 18 原油は BP と共同販売して
いる。
5-14-3
権益持分原油の扱い85
炭化水素産業国有化法(1976 年施行)により、政府が炭化水素資源(原油等を含む)
に関する権利を独占している。同法の範囲内で、石油産業への民間企業や外資の参入が認
められてきた。外資の参入方法として、操業サービス契約(OSA)、戦略的提携、リスク・
利益分担採掘協定(RPSA)の 3 種類がある。OSA は限界油田(原油埋蔵量の可能性を
認めつつも、採掘の休止又は採掘量が減少している油田)を対象とし、1990 年代に国際入
札で 32 件のプロジェクトへの参入企業が決定した。RPSA は新規油田開発を対象とし、
1996 年に国際入札で 3 件のプロジェクトへの外資企業が決定した。戦略的提携とは、外
資と PDVSA との合弁契約であり、オリノコ超重質油プロジェクトが主な対象となってい
る。
2005 年 4 月、チャベス大統領は、新炭化水素法(2002 年から施行)に基づき全ての
OSA を PDVSA が権益の過半を有する合弁企業体に改組させる大統領令を出した。2006
年 3 月までに 32 件中 22 件の合弁企業設立の契約が成立したが、PDVSA の出資比率は 60%
以上となった。新炭化水素法は、ロイヤルティーを 16.67%から 30%に引き上げ、PDVSA
と新たに設立される合弁企業については、その所得税率は 34%から 50%(移行前は 34%)、
ロイヤルティーは 33.33%(3.33%上乗せ)されることになった。
2007 年以降(2006 年 12 月の大統領選挙で再選)、
同大統領による外資の制限が強まり、
それまで外資主導であったオリノコ超重質油の開発を、PDVSA 主導に転換することや、
RPSA による石油採掘も合弁企業形態への移行(PDVSA の平均持分は 40%から 78%へ)
が決定された。2007 年 5 月、ベネズエラ政府はオリノコ超重質油の国有化を宣言し外資
との交渉を開始したが、翌月、ExxonMobil や ConocoPhillips は撤退を表明した。
5-14-4
生産量・埋蔵量
ベネズエラは OPEC の構成国であり、世界第 10 位の原油生産国である。BP 統計によ
ると、
2010 年末における原油確認埋蔵量は、2,112 億バレル(世界に占めるシェアは 15.3%)
85
内田允「ベネズエラの国有化政策と選別的外資政策」、『国際貿易と投資』、Spring 2009、86∼98 頁を
参考とした。
198
である。2010 年の生産量は、247 万 B/D であった。
5-14-5
(1)
価格決定方式・販売方針
BCF-17
殆どの原油が米国又は PDVSA の下流部門に販売されている。販売は通常、ターム契約
であるが、顧客によって量や価格が多様である。販売者は PDVSA。
(2)
Boscan
PDVSA がほぼ全量の原油を有しており、通常、Chevron や他の米系製油所又は PDVSA
の下流部門に販売されている。販売は通常、ターム契約であるが、顧客によって量や価格
が多様である。販売者は PDVSA。
(3)
Hamaca
従来、米系製油所がメキシコ湾岸のサワー原油 Mars や Maya の割引価格で購入してい
たが、2009 年から Platts 社が新しい ACM(Americas Crude Maker)価格指標を導入し
たたため、現在この ACM リンクで販売されている。販売者は PDVSA 及び Chevron であ
る。ちなみに、ACM は米国の 4 油種(Mars、Poseidon、Southern Green Canyon、Thunder
Horse)で構成され、API は平均 29°、硫黄分 2%となっている。
(4)
Mesa-30
主に、米国及び欧州市場に販売されている。販売は通常、ターム契約であるが、顧客に
よって量や価格が多様である。米国向け販売価格は、WTI 価格にリンクしている。販売者
は PDVSA。
(5)Monagas 18
従来、全量が米国ルイジアナ州にある PDVSA と ExxonMobil の合弁 Chalmette 製油所
に販売されていたが、2008 年には PDVSA と ExxonMobil 間の対立により中断した際、
相当量が中国に輸出された。Chalmette 製油所への輸出は、2009 年初頭に OPEC が生産
量調整を行った際にも中断された。販売は通常、ターム契約であるが、顧客によって量や
価格が多様である。販売者は PDVSA。
(6)
Petrozuata
PDVSA の子会社 Petroanzoategui が全量を引き取っている。販売者は PDVSA。
(7)
Tia Juana Light
販売は通常、ターム契約であるが、顧客によって量や価格が多様である。販売者は
PDVSA。
199
(8)
Zuata Sweet
ターム契約及びスポット価格で販売されている。生産量の 80%がメキシコ湾岸、その他
がカリブ海諸国に輸出されている。米国の Valero 製油所が主たる購入者で、長期契約で購
入している。販売者は PetroCedeno SA。
5-14-6 油種・生産能力
ベネズエラ主要原油の性状及び 2009 年の生産量をは下表の通り。
表 5-23 ベネズエラ主要原油の性状と生産量
油種名
API密度
硫黄分
生産量(2009年)
BCF-17
16.5
2.53
10.5万B/D(max)
Boscan
10.1
4.80
9万B/D
Hamaca
26.0
1.55
12.5万B/D
Mesa
29.1
1.08
30万B/D
Monagas 18
18.0
3.34
10万B/D
Petrozuata
19-25
2.90
13.5万B/D
31.9
1.18
20万B/D(max)
30-32
0.13
17万B/D
Tia Juana Light
Zuata Sweet
(出所)International Crude Oil Market Handbook 2010
5-14-7
輸出先・輸出量の見通しと輸出インフラ
2010 年時点で、ベネズエラの原油は、北米向けに 119.2 万 B/D、カリブ海諸国に 20.6
万 B/D、中南米諸国向けに 4.6 万 B/D、欧州向けに 14.5 万 B/D、アジア諸国に 34.1 万 B/D
が輸出された86。国内原油生産の展望については87、PDVSA の 2010-2015 年計画では、
2015 年までに生産能力を 446 万 B/D とする目標を掲げた。内訳は PDVSA の直接事業が
253.6 万 B/D、中小 JV が 43.2 万 B/D、洋上 JV が 8.8 万 B/D、オリノコ JV が 65 万 B/D、
オリノコ新規 JV が 44.4 万 B/D、NGL が 26.5 万 B/D、エタンが 4.5 万 B/D となっている。
石油精製能力は 2015 年までに 390 万 B/D、原油および石油製品の輸出は同 390 万 B/D、
天然ガス生産は同 13.89Bcf/年にそれぞれ拡大する目標が立てられている。
(1)
積出港:La Salina
取扱い油種は BDF-17、Tia Juana Light 。ベネズエラ西部の Maracaibo 湖東岸に位置
し、4 つの原油積出桟橋を有する。各桟橋からは原油タンカー(総重量 11 万トン以下)に
86
87
PDVSA 年次報告書 2010 年版。
PDVSA 年次報告書 2009 年版。尚、同書 2010 年版には、同様の計画が未掲載である。
200
4 万バレル/時の積み出しが可能である。
(2)
積出港:Bajo Grande
取扱い油種は Boscan。Maracaibo 湖の北西岸に位置する Maracaibo の南 13km の地点
に位置し、3 つの積出プラットフォームを有する。Pier 1 には総重量 6 万 1,000 トン、Pier
2 には総重量 3 万 6,000 トン、Pier 3 には総重量 8 万 5,000 トン以下の船が接岸可能であ
る。
(3)
積出港:Terminal de Almacenamiento y Embarque Jose (TAEJ), Jose Platform
取扱い油種は Hamaca、Monagas 18、Petrozuata、Zuata Sweet。Puerto la Cruz の
西方 40km、Jose の製油所から 7km の沖合に位置し、2 つの原油積出桟橋を有し、それぞ
れ総重量 31 万トン以下、15 万トン以下の船が接岸可能である。
(4)
積出港:Puerto La Cruz
取扱い油種は Mesa-30。ベネズエラの北東岸部 Pozuelos 湾の Caracas 東部に位置し、5
つの原油積出桟橋及び 1 つの製品用桟橋を有する。原油桟橋 1∼3 には総重量 5 万トン以
下、原油桟橋 4∼5 には総重量 12 万トン以下の船が接岸可能である。
5-14-8
日本企業の進出(権益)等88
べネズエラにおける日本企業の権益取得状況は以下の通り。
z
国際石油開発帝石(当時、帝国石油)は、1992 年にベネズエラ中央部陸上のイースト・
グアリコ鉱区の 100%権益を取得して以来、操業サービス協定に基づき、オペレータ
ーとして油田・ガス田の再活性化事業、新規探鉱および開発事業に従事。2006 年にベ
ネズエラ政府の政策転換に従い、原油事業とガス事業それぞれのジョイントベンチャ
ー会社をベネズエラ国営石油会社 PDVSA と設立(2006 年 4 月契約発効)89。同年
10 月に原油 JV 会社 Petroguarico S.A.( 国際石油開発帝石が 30%、PDVSA の子会社
CVP 社が 70%)、同年 12 月にガス JV 会社 Gas Guarico S.A.(国際石油開発帝石が
70%、PDVSA Gas 社が 30%)を通じて、原油約 1,600 バレル/日 及び天然ガス約
8,200 万 cf/日が生産されている。
z
2005 年に国際石油開発帝石(当時、帝国石油)は、ベネズエラ湾探鉱公開入札におい
て、Petrobras と共同で Moruy II を落札。同年 11 月、Petrobras と折半で PT Moruy
II, S.A.を設立した。
z
2010 年 4 月、国際石油開発帝石と三菱商事は、英国法人 Japan Carabobo UK Ltd.
(JCU 社)(ベネズエラオリノコ重質油帯カラボボエリアプロジェクト 3 鉱区の開発
88
89
別途注記なき項目に関しては、『わが国石油・天然ガス開発の現状と課題』、石油鉱業連盟より。
Inpex, ホームページ, http://www.inpex.co.jp/business/america.html#amrc02
201
事業実施のために設立された合弁会社に 5%出資)の親会社として、日本カラボボ石
油を設立。JCU 社以外に合弁企業へ参加しているのは、PDVSA の子会社 CVP、
Chevron その他である。
5-15 ブラジル
5-15-1
エネルギー政策におけるスキーム、キーパーソン
ブラジルでエネルギーを管轄するのは鉱山エネルギー省90であり、2011 年 1 月から大臣
には Edison Lobão 氏が就いている。石油産業の監督機関は ANP91 にあり、トップは
Haroldo Borges Rodrigues Lima 氏である。なお、2011 年 1 月に就任した Dilma Vana
Rousseff 大統領は、2003 年 1 月から 2005 年 6 月まで、鉱山エネルギー大臣であった。
2007 年 1 月、鉱山エネルギー省は、2030 年までのエネルギー計画を定めた国家エネル
ギー計画「PNE 2030」を発表しており、この中で原油に関する項目としては、今後の国
内生産目標として今後 10∼15 年のうちに原油の生産量は 300 万 B/D とし、2006 年に達
成した石油自給 100%体制を維持する、という目標が設定されている。
5-15-2
原油購入契約に関する基本情報
ブラジルの原油輸出は国営石油会社 Petrobras が行っている。基本的にはスポットで
販売する場合が多いが、2000 年代に入ってからは、中国向けなどにターム契約を締結した
事例も見られている。
5-15-3
権益持分原油の扱い
ブラジルの上流部門はペトロブラスの影響力が大きく、2003 年までは同社がブラジルで
唯一の石油生産企業であり、現在もブラジルの生産量の 9 割が同社によるものである。
ブラジルにおける油田開発は利権契約の下で行われる。しかし、2007 年 11 月に深海鉱
区の岩塩層下で大規模な油田が発見されたことに伴い、石油投資法の改正が行なわれてお
り、岩塩層下および戦略的地域(エネルギー委員会 CNPE が決定)における石油・天然ガ
スの探鉱・開発に関しては、利権契約から生産物分与契約に基づいて開発がなされること
となった。新しい生産物分与契約には、コストと石油生産に関連する費用を控除した
「profit oil」、開発会社コストおよび投資に相当する「cost oil」という概念が導入された。
90
91
鉱山エネルギー省:Ministério de Minas e Energia
ANP:Agência Nacional do Petróleo, Gás Natural e Biocombustíveis
202
主な特徴は次のとおりである。
①
Petrobras が該当エリア全ての鉱区のオペレーターとなる。
②
政府は排他的に Petrobras を使用するか、入札により他の会社を参加させるか選
択できる。
③
入札のケースでは、Petrobras は最低 30%のシェアを持つ。
④
最も高い比率の「profit oil」を政府に提案した会社が落札する。この場合、Petrobras
は最低 30%の シ ェア に対 して 同額の提 案を 行わ なけ れば なら ない。 排他的 に
Petrobras を使用する場合、CNPE が政府に支払う「profit oil」の比率を決定する。
ボーナスの支払いは入札の要件とはされていないが、ケースに応じて CNPE が決定
⑤
する。ロイヤルティは 1997 年 8 月 6 日の法律の規定に従う。
この法改正と併せて、政府を代表して新契約を締結する新しい国営石油会社 Petrosal
が設立された。Petrosal は開発活動や投資を行わないが、コンソーシアムに対して権利を
与えたり、拒否したりする運営委員会には参加することとなっている。
5-15-4
生産量・埋蔵量
ブラジルは従来原油の輸入国であったが、積極的に探鉱を進めた結果 2006 年から純輸
出国となっている。特に国営石油会社 Petrobras が 2007 年 11 月に大西洋超深海岩塩層下
(プレソルト)で大規模な埋蔵を発見して以来、世界的に注目を集めている。BP 統計に
よると、2010 年末における原油確認埋蔵量は 142 億バレル(世界に占めるシェアは 1.0%)
であった 92。2010 年の生産量は 214 万 B/D であった。
5-15-5
価格決定・販売方針
ブラジルの原油輸出の多くは北米及び中南西に向けて輸出されており、他の中南西原油
同様、WTI リンクで販売されている。
表 5-24 ブラジル原油の輸出価格の推移($/bbl)
2001
2002
2003
2004
2005
2006
17.83
19.72
24.05
30.00
41.57
51.32 57.90 86.54 48.84 70.69
(出所)ANP 年報(2011)Tabela 2.48
5-15-6
92
油種・生産能力
BP. Statistical Review of World Energy June 2011.
203
2007
2008
2009
2010
ブラジルの主要原油の性状及び 2010 年の生産量を下表に示す。ブラジルの石油生産量
は 1970 年代以降一貫して増加傾向にある。
表 5-25 ブラジル産主要原油の品質(2010 年の生産量が 1,000 千 KL/年以上)
堆積盆名
Solimões
Potiguar
Sergipe
Recôncavo
Espírito Santo
Campos
Santos
原油名
Urucu
RGN Mistura
Sergipe Terra
Bahiano Mistura
Golfinho
Cachalote
Jubarte
Ostra
Albacora
Albacora Leste
Barracuda
Cabiunas Mistura
Caratinga
Espadarte
Frade
Marlim
Marlim Leste
Marlim Sul
Polvo
Roncador
Piloto de Tupi*
ブラジル産原油平均
API 密度
硫黄分
48.50
30.60
24.80
36.50
29.80
22.10
18.10
22.70
28.30
20.00
25.00
25.50
22.40
22,10
19.40
19.60
13.10
23.10
19.90
24.10
28.50
0.05%
0.29%
0.42%
0.06%
0.13%
0.48%
0.53%
0.26%
0.44%
0.59%
0.52%
0.47%
0.60%
0.45%
0.75%
0.67%
0.58%
0.67%
1.11%
0.62%
0.38%
25.13
0.53%
2010 年生産量
(千 KL/年)
2,072
3,257
1,905
2,361
2,914
1,522
2,957
4,295
4,548
5,262
6,154
10,269
2,882
2,335
2,897
14,319
8,317
14,562
1,132
19,042
1,001
(総生産量)119,233
(出所)ANP 年報(2011)Tabela 2.8 より作成
(注)*は岩塩層下
5-15-7
輸出先・輸出量の見通しと輸出インフラ
ブラジルは原油の輸出国であると同時に輸入国でもある。下図にブラジルの原油輸入量
(数値はマイナス)と主な輸出先別輸出量(数値はプラス)を示す。ブラジルは 2005 年
までは原油の純輸入国であったが 2006 年に純輸出国となり、2010 年の純輸出量は 29 万
B/D となった。一方、ブラジルの原油輸出量は 2001 年にはわずか 11 万 B/D であったが、
年平均 21%増加して 2010 年には 63 万 B/D となった。2010 年の輸出先のシェアは中南米
が 26%、中国が 25%、米国が 24%であった。中南米の中ではサンタルシアが 64%を占め
ている。
204
図 5-13 ブラジルの原油輸出入量の推移
800
輸入量
600
その他
'000 b/d
400
インド
200
中国
0
欧州
-200
中南米
-400
米国
2009年
2008年
2007年
2006年
2005年
2004年
2004年
2003年
2002年
2001年
-600
ネット輸出量
(出所)ANP 年報(2011)Table 2.9 および 2.47 より作成
2007 年 6 月に発表された 2030 年までのエネルギー計画を定めた国家エネルギー計画
2030(PNE 2030)では、原油生産量を現状の約 200 万 B/D から 10-15 年後に 300 万 b/d
とする計画となっている。しかし、同国では 2 ヶ所の輸出製油所(合計 90 万 B/D)建設
が計画されており、付加価値を高めた石油製品として輸出する方針であること、およびブ
ラジル国内の石油需要増加により、原油輸出量は短期的には増加することはあっても長期
的には大幅に増加しないと考えられる。
図 5-14 ブラジルの主要油田(ブラジル全体)
(出所)Oil Industry in Brazil(2009 年 5 月、ペトロブラス CEO による中国でのプレゼン)
205
図 5-15 ブラジル・プレソルトエリア
(出所)JOGMEC「プレソルト開発で大産油国への躍進を狙うブラジル」(石油天然ガスレビュー)
原油の積み出しは主に São Paulo 州 São Sebastião 港で行なわれており、Petrobras が
施設を所有している。
206
図 5-16 ブラジルの石油関連インフラ
(出所)ANP
5-15-8
日本企業の進出(権益)等
ブラジルでは国際石油開発帝石が中心となった以下の 2 プロジェクトがある。
(1) インペックス北カンポス沖石油
インペックス北カンポス沖石油は、2000 年 10 月、Campos Basin Frade 鉱区における
探鉱・開発事業に参加した。本事業は同社の子会社であるブラジル現地法人 Frade Japão
Patróleo Limitada(FJPL)を通じて実施している。Frade 油田は 2009 年 6 月から生産
を開始した。
207
図 5-17 Frade 油田プロジェクトの実施体制
(出所)国際石油開発帝石プレスリリース
(2) インペックス北東ブラジル沖石油
インペックス北東ブラジル沖石油は、2009 年 9 月に国際石油開発帝石により設立され、
2010 年 3 月に同社よりブラジル法人 INPEX Petróleo Santos Basin Ltda. (IPSL)の出資
持分 1 口を残して全て譲り受けたことから、現在、IPSL を通じてブラジル沖合い Santos
Basin BM-C-31 鉱区(IPSL が 2008 年 10 月に Shell から 20%権益を取得)
および Espírito
Santo Basin BM-ES-23 鉱区(IPSL が 2010 年 2 月に Shell から 15%権益を取得)の探鉱
事業に参加している。2010 年には BM-ES-23 鉱区で試掘井 1 抗を掘削した。現在 BM-C-31
鉱区では試掘井掘削準備作業を実施中である。なお、2010 年 2 月、JOGMEC はインペッ
クス北東ブラジル沖石油に 75%出資した。
表 5-26 鉱区の権益シェア
参加比率
権益保有者
BM-C-31
BM-ES-23
Petrobras(オペレーター)
60.00%
65.00%
Shell Brasil Ltda.
20.00%
20.00%
IPSL( 国 際 石 油 開 発 帝 石 25%、
20.00%
15.00%
JOGMEC 75%)
(出所)JOGMEC プレスリリース
5-16 OPEC
5-16-1 エネルギー政策におけるスキーム、キーパーソン
208
OPEC の意思決定機関としては年 2 回開催される総会があり、総会には通常、各国の石
油開発や生産を所管する大臣が出席する。この他に、各国の首脳が集まるサミット会合が
開催される場合もあり、最近では 2007 年 11 月に、サウジアラビアのリヤドで 3 回目の
OPEC 首脳会合が開催されている。
現在の OPEC 事務局長はリビア出身のアブドラ・サレーム・エルバドリ氏であり、2007
年 1 月にリビア国営石油会社の会長から OPEC 事務局長の座に就いている。この他には、
OPEC 総会の議長国は総会での議事運営をつかさどることが出来るため、総会での意思決
定に対して影響力を持つ。
このような OPEC の役職に加えて、OPEC の意思決定にはサウジアラビアの影響力が
大きい。これはサウジアラビアが世界最大の余剰生産能力を有しており、その余剰生産能
力の活用によって世界の原油価格に対し大きな影響を与えることが出来るからである。そ
の意味では、OPEC のキーパーソンとして、サウジアラビアの石油生産方針を立案するア
リ・アル・ナイミ石油鉱物資源相や、サウジアラビアの石油生産方針を最終的に決定する
権限を有するアブダッラーサウジアラビア国王も挙げることが出来る。
図 5-18 からわかるように、サウジアラビアが OPEC 全体の余剰生産能力の半分以上を
維持している。他の国も少なからず余剰生産能力を持っているが、ナイジェリアやイラク
の場合はは、政情不安等で生産が減少したことによる、意図せざる余剰生産能力であると
考えてよい。従って、OPEC 産油国ではサウジアラビアのみが、市場の安定化を図るため
に十分な規模の余剰生産能力を所有する産油国であるといえる。
209
図 5-18 OPEC 国別余剰生産能力
サウジアラビア
UAE
イラン
100万B/D
ナイジェリア
エクアドル
クウェート
アンゴラ
イラク
リビヤ
アルジェリア
カタール
ベネズエラ
7.0
6.0
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
2011年9月
2011年11月
2011年7月
2011年5月
2011年3月
2011年1月
2010年9月
2010年11月
2010年7月
2010年5月
2010年3月
2010年1月
2009年11月
2009年9月
2009年7月
2009年5月
2009年3月
2009年1月
2008年9月
2008年11月
2008年7月
2008年5月
2008年3月
2008年1月
2007年9月
2007年11月
2007年7月
2007年5月
2007年3月
2007年1月
-1.0
(出所)IEA. Oil Market Report.
5-16-2
加盟国
OPEC に加盟している国は 12 カ国であり、2012 年 2 月時点では、アラブ首長国連邦、
イラン、アルジェリア、イラク、カタール、クウェート、サウジアラビア、ナイジェリア、
ベネズエラ、リビア、アンゴラ、エクアドルが加盟している。この中でも、特にサウジア
ラビアとベネズエラは OPEC 創設を主導した国であり、OPEC の中でも存在感が大きい。
5-16-3
生産量・埋蔵量
OPEC の生産量は、その時々の需給バランスによって、生産調整を行うため、変動が大
きい。2010 年は合計で 3,483 万 B/D を生産している。OPEC 全体の埋蔵量は、BP 統計
(2011 年版)によると、1 億 684 万バレルであり、世界の石油埋蔵量(1 億 5,263 万バレ
ル)の 77%を占めている。
5-16-4
価格決定方式・販売方針
OPEC の組織としての公式な目的は、1)消費者に対する効率的、経済的、安定的な石油
製品の供給、2)産油国に対する安定的な石油収入、そして 3)石油産業における適正な投資
のリターン、の 3 点を確保するために加盟国間の意見調整を行うことにある。そのような
目的達成のための手段として、加盟国に対する生産上限の設定による生産調整を行ってい
210
る。OPEC 自身は、明示的な目標価格は有しておらず、あくまで在庫水準に着目した需給
バランスに応じて、生産量の調整を行うというのが公式のスタンスであるが、実際には油
価の状況に応じて生産量の調整を行うケースが多い。加盟国の閣僚が参加する総会は原則
として年 2 回(6 月、12 月)開催されるが、その時々の油価状況に応じて、臨時総会を開
催する場合もある。
OPEC 内には様々な政治的、経済的、社会的な要因を抱えた国があり、その中での意思
統一を行うことは容易ではない。また保有する埋蔵量の規模によって、その価格水準に対
する考え方も異なってくる。例えば、サウジアラビアのような膨大な埋蔵量を抱える国で
は、短期的な価格上昇を志向するよりも、安定的な価格が続くことにより、出来るだけ長
く石油の需要が続くことを志向する。またアフリカ産油国のように地理的に欧州に近い国
では、ユーロでの貿易量が大きいことから、ドルとユーロとの間の為替レートの水準も生
産方針を決める際の判断材料とされる場合もある。これらの各国の抱える諸要因と、油価
志向について図 5-19 にまとめる。
211
図 5-19 OPEC 産油国の特徴
短期的増産余力
あり=増産志向の素地
サウジアラビア・
クウェート・UAE
なし=減産志向の素地
アルジェリア・リビア
ナイジェリア・イラン・
ベネズエラ
石油埋蔵量
豊富=長期利益
(価格安定)を志向
クウェート・
UAE
稀少=短期利益
(高値志向)の素地
サウジアラビア・
リビア
ナイジェリア・アルジェリア・
カタール
国内の開発資金需要
小=穏健な価格政策
大=高値志向の素地
クウェート・UAE・
リビア・カタール
サウジアラビア・
アルジェリア・ベネズエラ
ナイジェリア・イラン
ドル減価による影響
小(輸入のEU比率低い)
=穏健な価格政策
大(輸入のEU比率高い)
=高値志向の素地
エクアドル・イラク・
ベネズエラ
ナイジェリア・
湾岸諸国・イラン
アルジェリア・
アンゴラ・リビア
産業構造の石油依存度
低い=穏健な価格政策
UAE・エクアドル
高い=高値志向の素地
アルジェリア・イラン・
ナイジェリア
アンゴラ・イラク・クウェート・
リビア・カタール・サウジアラビ
ア・ベネズエラ
(出所)日本エネルギー経済研究所作成
OPEC は OPEC バスケット価格という加盟国の産出原油価格の指標を公表している。
このバスケット価格は、Saharan Blend (アルジェリア)、Girassol (アンゴラ)、Oriente (エ
クアドル)、Iran Heavy (イラン)、Basra Light (イラク)、Kuwait Export (クウェート)、
Es Sider (リビア)、Bonny Light (ナイジェリア)、Qatar Marine (カタール)、Arab Light (サ
ウジアラビア)、Murban (UAE) 、Merey (ベネズエラ)の各油種の価格を生産量に応じて
加重平均したものである。以前はこのバスケット価格の水準が、OPEC による増減産の判
断を行うために用いられていたが、最近では先進国の在庫の方をより重視した意思決定を
行っている。
212
参考 1:価格決定方式のまとめ
産油国から原油を買う場合の価格決定方式は、主に、市場連動型決定方式と遡及価格決
定方式がある。前者は、原油供給者が市場ごとに指標原油を設定し、その価格に連動して
原油価格が決まる方式である。後者はアラブ首長国連邦やカタールが採用している方式で、
船積み時点では価格が未定で、後で価格が通知される方式である93。
表 5-27 産油国価格決定方式
国名
価格決定方式
国名
米国向け:ASCI±調整項
サウジアラビア 欧州向け:B-Wave±調整項
アジア向け:(Oman+Dubai)÷2±調整項
価格決定方式
イラン
欧州向け:B-Wave±調整項
アジア向け:(Oman+Dubai)÷2±調整項
イラク
米国向け:ASCI±調整項
欧州向け:Dated Brent±調整項
アジア向け:(Oman+Dubai)÷2±調整項
クウェート
米国向け:ASCI±調整項
欧州向け:B-Wave±調整項
アジア向け:(Oman+Dubai)÷2±調整項
UAE
【遡及価格決定方式 】
Dubai原油スポット価格の月次平均 と連動
カタール
【遡及価格決定方式 】
Oman原油の公式販売価格 ±調整項
オマーン
DME Oman
ロシア
Ural: Dated Brentリンク
ESPO: Dubaiリンク
インドネシア
PlattsとRIMの原油評価の平均価格 を基に
決定
ナイジェリア
Dated Brent
アルジェリア
Dated Brentリンク
ノルウェー
Dated Brentリンク
米国
スポット
ベネズエラ
WTIリンク
ブラジル
WTI±調整項
(出所)日本エネルギー経済研究所作成
参考 2:石油生産に関する契約形態
表 5-28 石油生産に関する契約形態
サービス契約
産油国が鉱業権を留保した上で、石油会社のリスク負担により作業を行わせ、生産に
応じた報酬を与える方式。
生産物分与契約
サービス契約の代表的形態。石油会社は、産油国政府の作業請負人として、必要資金
(Production
を負担して石油開発を行う。この契約形態では、産油国が石油開発事業の運営に関わ
Sharing
る重要な決定権を握るとともに、石油会社から投資だけでなく技術移転のメリットな
Contract:PSC)
ども享受することができる。また、事業不成功の場合、産油国にリスクは発生しない。
技術サービス契約
鉱業権とは切り離されて、油田の生産操業等サービスの提供分野を限定する方式。
バ イ バ ッ ク (Buy
石油会社は作業請負人と位置づけられ、投資見合い分と報酬分として生産物を一定期
Back)契約
間取得できる。
93
日本エネルギー経済研究所(2009) 「これが石油産業の全貌だ」 かんき出版。これらの他に、
「ネ
ットバック価格決定方式」という現在は採用している国はないが、中東産油国が一時的に採用していた方
式もある。この方式の下では、欧州の OTC 市場の中心地オランダのロッテルダムなど世界各地の石油製
品市況と輸送コスト・精製コストをベースに原油価格が決定されていた。
213
利権契約
石油会社は、産油国にロイヤルティを支払う代わりに、制約を受けずに長期間にわた
る石油開発・生産を行う排他的権利を獲得できる。
(出所)日本エネルギー経済研究所
214
6.主要消費国の石油政策における基本方針
6-1 米国
6-1-1 石油の位置づけ
米国において石油需要は停滞しているが、一次エネルギー供給で石油が占めるシェアは
未だ最大である(2010 年、36.1%)
。部門別でみると、7 割強が輸送用燃料の需要である。
オバマ政権は、環境と調和した形での国内石油・天然ガス開発を進める方針を明らかにし
ている。石油の国内生産は減少傾向にあったが、2009 年から回復しており、2010 年は前
年比 4.1%の増産が行われた。
6-1-2 国内の石油利用政策
石油消費抑制政策として、①自動車燃費基準の強化(毎年 4%の引き上げ)、②代替燃料、
特に食料と競合しない次世代バイオ燃料の開発促進(2030 年までに 600 億ガロンの導入)、
③プラグイン・
ハイブリッド自動車普及のための補助金(含、景気対策として実施された買
替え支援)制度と自動車会社支援、等を推進している。
6-1-3 輸入依存度低減政策
米国政府は、エネルギー安全保障政策の一環として、2025 年までに石油の輸入を 2/3 に
減らす目標を掲げている。上記の、石油消費抑制策と併せて、国内の原油供給を増加させ
るため、沖合い油田を含めて国内の油ガス田開発を推進している。
6-1-4 海外供給確保政策
米国の石油産業には、世界的に上下流部門事業を一貫して行うメジャー、準メジャーの
他に、
上流または下流専業の独立系の石油企業が多数活動しており、海外権益を保有してい
るが、持ち込み義務は課されていない。
6-2 英国
6-2-1 石油の位置づけ
英国の一次エネルギー供給において、石油は天然ガスに次ぐ規模(2010 年、31.9%)で
ある。部門別では、米国と同様、約 7 割が輸送用燃料の需要である。国内の石油需要は徐々
215
に減少している。また、石油の国内生産も減退傾向にあり、2010 年の政府予算報告書によ
ると、北海における原油生産量は、2010 年 4 月までの 12 ヶ月平均値である 136 万 B/D
から、
今後 5 年以内に油田老朽化により 100 万 B/D まで減少するとの見通しが発表されて
いる。
6-2-2 国内の石油利用政策
「
エネルギー白書 2003」
では、石油供給の安定性を確保するため、供給源、燃料種別およ
び取引経路の多様化に向けて、インフラへの投資を促進させるべく生産国や民間企業との
連携を図ることを掲げている。さらに「The Energy Challenge」
では、英国大陸棚への投資
を促進している。他方、2011 年 3 月、英国政府は、北海洋上における石油・ガス開発に対
して、所得税(利益に対する課税)を 20%から 30%に引上げることを発表した。引上げ後
の税率はその他の諸税と併せて 62%となる。この引き上げにより 20 億ドルと見られる税
収増は、燃料税の低減などによる減収分に充てられる。
6-2-3 輸入依存度低減政策
英国は、北海地域の石油・天然ガス資源開発の成功により、長らくエネルギーの純輸出
国であった。2004 年に輸入量が輸出量を上回り純輸入国に転じたが、現時点では石油輸入
依存度を低減するための特定の政策は存在していない。
6-2-4 海外供給確保政策
国内の石油生産量が漸減し、エネルギーセキュリティの低下が懸念されているため、英
国政府はエネルギーセキュリティの強化に向けて、資源国との結びつきを強めるための外
交戦略の強化を重視している。例えば、ロシア・ヤマル半島での開発プロジェクトのよう
な大型案件に対して、トップ外交の強化を通じて、国内企業の参画を支援していく方針を
明らかにした。米国同様、国内の石油会社は多数海外権益を保有しているが、現時点では、
持ち込みの義務は課されていない。
6-3 フランス
6-3-1 石油の位置づけ
フランスの一次エネルギー供給(2010 年)において、原子力が最大のシェアを占めてお
り(42.3%)、石油は 29.5%と原子力に続く規模である。石油需要を部門別にみると、輸送
部門における需要が 5 割強を占めており、次に民生部門(暖房用)で約 2 割が消費されて
216
いる。他の先進国同様に、石油需要は減退傾向にある。
6-3-2 国内の石油利用政策
エネルギー需要を抑制するため省エネルギーを推進しているが、石油利用に関する具体
的な政策は明示されていない。
6-3-3 輸入依存度低減政策
オイルショック以後、フランス政府は石油依存度を低減させるため、石油燃料の代替を
積極的に推進してきた。その結果、民生部門の暖房用途での消費、産業用および発電部門
における石油消費の低減が進められた。また、後述の通り、エネルギー外交を行い、フラ
ンス石油企業 Total の海外権益取得を全面的に支援している。
6-3-4 海外供給確保政策
フランスは、産油国およびエネルギー通過国との関係強化を重要視している。特に産油
国に対しては JV の設立やエネルギー技術の共同開発などを通じ、相互協力体制の構築に
努めている。Total 等による海外での権益獲得に関し、首脳自らが積極的に外交を進め支
援している。
6-4 ドイツ
6-4-1 石油の位置づけ
ドイツでは、石油が一次エネルギー供給の最大のシェア(31.8%、2010 年)を占めてい
るが、石油需要は減少傾向にある。部門別の石油需要では、輸送部門における需要が約 5
割を占めており、次に民生部門が約 2 割となっている。
6-4-2 国内の石油利用政策
ドイツは天然資源に乏しいため、エネルギー供給の安定性は重要な課題である。エネル
ギー利用効率の向上などによって、合理的なエネルギー利用を図り、エネルギー需要を抑
え、供給安定化を目指している。
6-4-3 輸入依存度低減政策
217
ドイツ政府は、石油の代替燃料としてバイオ燃料の普及を拡大するために、バイオ燃料
に対する免税政策を導入した。その結果、ドイツはヨーロッパ最大のバイオ燃料生産国と
なった。しかし、2006 年 8 月、バイオ燃料にも税金を賦課することが決定され需要が急
減し、既存プラントの遊休化や新しいプラント建設の中止という事態が発生している。
ドイツの原油輸入量は 2006 年以降、減少傾向にある。ただし、イギリスやノルウェー
に代わり、ロシアからの輸入量が増加しており、ロシアへの依存度が相対的に高まってい
る(2010 年輸入量の 36.3%)ため、輸入先の多角化を図っている。
6-4-4 海外供給確保政策
ドイツの石油・ガス企業は、海外エネルギー市場に進出し、海外での生産増加など活発
に展開しているが、政府としては自主開発に対する支援を特に行っておらず、民間企業の
自主性に委ねている。
6-5 中国
6-5-1 石油の位置づけ
中国の一次エネルギー供給の約 7 割を石炭が占めており、石油のシェアは、2009 年で
16.8%であった。しかし、経済成長に伴い、国内の石油需要は堅調に増加している。現時
点で、輸送部門が石油需要に占める割合は 5 割に満たない程度であるが、中国のモータリ
ゼーションは急速に進んでいるため、輸送用燃料の増加について注意を要すると考えられ
る。一方、石油の生産は需要の増加に追いついておらず、石油輸入は今後も増加する見通
しである。
6-5-2 国内の石油利用政策
2006 年に施行された「再生可能エネルギー法」の下、大手石油企業は再生可能エネルギ
ー液体燃料の割当を負担することになった。一部の地域において、エタノール 10%混合の
ガソリン(E10)が先行販売された。2007 年 8 月に発表された「再生可能エネルギー開発
計画」では、バイオエタノールの使用量を 2005 年末時点の 102 万トンから 2020 年時点
の 1,000 万トン、バイオディーゼルは 200 万トンに拡大し、石油製品 1,000 万トンに代替
する目標を設定している。また、石油需要の抑制策として、低燃費の小型車や次世代自動
車の促進が進められている。
6-5-3 輸入依存度低減政策
218
中国は、国内の油田開発を西部や海域へ拡大して増産を図っている。また、中東依存を
軽減するため、輸入パイプラインを建設して、輸入先の分散化を目指している。これは、
マラッカ海峡を迂回するという点で、エネルギーセキュリティの向上にもつながる。例え
ば、ロシアやカザフスタンからはすでにパイプラインで石油輸入を行っている。また、ミ
ャンマーとの石油パイプラインの建設も進められている。この他、非在来型資源の開発も
促進されているが、中国の石油対外依存度は 2010 年の 50%から 2020 年には 60%までに
拡大すると予想されている。
6-5-4 海外供給確保政策
中国は 1992 年から、中国石油天然気集団公司(CNPC)のカナダへの進出を皮切りに、
石油の海外自主開発を推進してきた。その後 CNPC を初めとする中国国営石油企業は、積
極的に海外資源の獲得に参加している。探鉱開発のほかに、資産買収、M&A も重要な手
段となっている。2008 年リーマン・ブラザーズ・ショック以降、中国の石油会社は、油価
と石油資産の大幅下落を海外資源獲得のチャンスとして捉え、政府の支援を背景として海
外進出戦略をさらに活発化している。しかし、経験不足と拙速に海外進出を図ったため、
失敗や赤字となっている案件も多いと言われている。
また、
エネルギー外交も積極的に行われている。
近年の原油輸入源の多様化政策により、
Loan for Oil を通じ、中東以外のアフリカ、中央アジア、中南米からの輸入を確保してい
る。
6-6 インド
6-6-1 石油の位置づけ
インドにおいて、石油が一次エネルギー供給を占めるシェアは 23.6%(2009 年)であっ
た。インドでは、石炭が最大であり(42.2%)、その次にバイオマス(24.5%)が続く。イ
ンドは国内の精製能力の拡大を図っていることもあって、石油需要は堅調に増加している。
これに伴い、石油輸入も増加する見通しである。現時点では、運輸部門による石油需要は
37.4%を占める程度であるが、IEA の見通しでは、輸送用の石油需要がエネルギー需要拡
大の主要な要因になると見ている。
6-6-2 国内の石油利用政策
石油需要の抑制策として、段階的な補助金撤廃とバイオ燃料の導入を推進している。補
219
助金撤廃の第一段階として、2010 年 6 月、印政府は、ガソリン・軽油に対する価格統制
の撤廃を決定した。ガソリン価格は自由化されたが、軽油については、インフレや貧困層
への影響を考慮し、現時点では実施されていない。また、増加する輸送用石油燃料需要へ
の対策としてエタノール混合ガソリン等の石油代替燃料の導入を進めている。2017 年まで
にバイオ燃料混合比率を 20%にすることを目標として掲げている。
6-6-3 輸入依存度低減政策
インド政府は、新規探鉱ライセンス政策(New Exploration & Licensing Policy:NELP)
によって外資導入を図り、国内の石油・天然ガス資源の探鉱・開発を推進している。それ
まで国内における上流事業は国営石油会社によって独占的に展開されてきた。NELP はそ
のような国営石油会社に対する優遇措置を撤廃し、外資企業や民間企業に対し広く国内の
探鉱開発部門を開放することを目的に制定された。外資導入に伴い、インド企業の探鉱開
発の技術力の向上も期待されている。
6-6-4 海外供給確保政策
インド政府は、海外の上流部門への進出を抑制していた時期もあったが、
「第 11 次 5 ヵ
年計画」(FY2007~2011 )では、探鉱の強化と海外石油開発権益の取得を基本課題の一つ
として掲げ、海外での自主開発原油の確保を重点政策と位置づけている。海外進出戦略の
中で重点地域としているのはロシア、イラク、イランおよび北アフリカ諸国である。アフ
リカ諸国との関係強化及び資源確保を目指して、インド・アフリカ炭化水素会議をニュー
デリーで定期的に開催している 94。
6-7 韓国
6-7-1 石油の位置づけ
韓国では、石油が一次エネルギー供給に占めるシェアは 38.2%(2010 年)と最大の供給
源なっている。部門別では、石油化学産業の原料としての利用が大きく(43.2%)、輸送部
門(35.1%)を上回っている。
「第 1 次国家エネルギー基本計画」によると、石油が一次エ
ネルギーに占める割合を 2030 年までに 33%減少させることを目標としており、石油の国内
需要の増加率は 0.6%に止まる見通しとなっている。併せて、石油の輸入の増加率も抑えら
れると考えられる。
94
第 1 回は 2007 年 11 月、第 2 回は 2009 年 12 月、第 3 回は 2011 年 12 月に開催された。
220
6-7-2 国内の石油利用政策
「第 1 次国家エネルギー基本計画」において、石油を含めた化石エネルギー全体の比率
を現在の 83%から 2030 年までに 61%へ縮小することが掲げられている。また、石油依
存度の軽減及び環境改善を図るため、軽油に混合するバイオディーゼルを 2012 年 3%、
2015 年 5%、2020 年 7%まで拡大していく方針である。
6-7-3 輸入依存度低減政策
韓国政府は、石油供給源の分散化によって中東輸入依存度を引き下げるため、石油会社
向けインセンティブとして、アフリカや中南米などから原油を輸入する場合、中東とのタ
ンカーの運賃差の 90%を補填するという原油輸入供給源多様化制度を設けている。しかし、
本制度は改正(2004 年 4 月)以降利用する石油企業がなく、政府は適用条件の再改正を
検討している。
6-7-4 海外供給確保政策
海外資源開発は、国家目標に取り上げられており、韓国政府は、2004 年以降、積極的に
海外資源確保を推進している。
「第 1 次国家エネルギー基本計画」では、自主権益比率を
2030 年までに 40%へ引き上げることを目標としている。海外石油・ガス開発投資の規模
は近年増加しており、2011 年は前年比 29%増の 78 億ドルに達する見込みである。
2008 年 6 月、韓国政府は、韓国石油公社(KNOC)に 2012 年まで政府と民間資金 19 兆
ウォン(184 億ドル)を投資して、同年まで石油の生産能力を 30 万 B/D(国内消費 15%相当)
に増強させる KNOC 大型化案を発表した。これによって KNOC は、探鉱作業よりも生産
中の油田及び外国石油企業自体を買収することに重点を置き、中国の国営石油企業と競合
しない規模の小さな会社や鉱区の獲得を目指す戦略を取っている。
さらに、積極的な資源外交も行われており、ロシアやアジアの産油・ガス国との間で上
流部門を中心としたエネルギー協力体制の構築に取り組んでいる。例えば、石油・ガス田
の権益を獲得する代わりにその相手国の復興プロジェクト(道路、空港や発電所などの建
設)を支援することで国家間協力及び資源確保を強化している。
221
表 6-1 各国の基本方針(まとめ)
国名
石油の位置づけ
国内の石油利用政策
輸入依存度低減政策
海外供給確保政策
米国
石油シェア:36.1%(10
年)
オバマ政権は、バイオ 左記の政策と合わせ
国内石油会社は多数
て、国内の油ガス田開 海外権益保有するも、
輸送用が主。需要は減 燃料導入や燃費規制
退傾向だが、国内生産 の厳格化を推進。
発を推進
持ち込み義務はなし。
が復調。
英国
石油シェア:31.9%
(10 年)
輸送用が主。内需は減
退だが、国内生産も減
退。
供給源、燃料種別およ
び取引経路を多様化
するため、インフラ投
資を重視。
2004 年まで純輸出国
であったため、現時点 エネルギー外交戦略
を強化。
では明確な政策は存
在しない。
フランス
石油シェア:29.5%(10
年)
輸送用が主。需要は減
退。
全般的な省エネを推
進する以外は、明示的
な石油利用に関する
政策はなし。
明示的な政策はなし。
但し右記の通り、
Total の海外権益取得
を全面的に支援。
Total 等による海外で
の権益獲得を首脳自
らが積極的に外交的
に支援。
ドイツ
石油シェア:31.8%(10
年)
輸送用が主。需要は減
退。
全般的な省エネを推
進する以外は、明示的
な石油利用に関する
政策はなし。
バイオ燃料を推進し
てきたが、2006 年以
降は優遇税制を見直
し。
政府としては自主開
発には支援をせず、民
間企業の自主性に委
ねている。
中国
石油シェア:16.8%(09
年)
一部地域におけるバ
国内需要増で輸入も
イオ燃料の導入。
増加する見通し。
国営石油会社が積極
国内油田開発の促進
的に海外進出。Loan
と合わせて、輸入パイ
for Oil による供給確
プライン建設で輸入
保で南米など中東以
先を分散化。
外からの供給を確保。
インド
石油シェア:23.6%(09
段階的な補助金撤廃
年)
とバイオ燃料の導入
国内需要増で輸入も
を推進。
増加する見通し。
国内の鉱区入札を通
じた外資導入で国内
生産の増加を計画。
一時、抑制していた
が、最近改めて進出意
欲高める。進出先はア
フリカを重視。
韓国
石油シェア:38.2%(10
化石エネ全体の比率
年)
を 30 年までに 61%へ
今後の内需・輸入はフ
引き下げ。
ラッ
ト。
供給源分散化政策と
して中東以外の供給
源からの運賃差額を
補填。
KNOC の規模拡大戦略
を通じて自主権益比
率を 30 年までに 40%
へ引き上げ。
出所:日本エネルギー経済研究所
222
7. 原油価格に影響を及ぼす諸要因について
原油価格は多岐に亘る様々な要因によって影響を受ける。いわゆる需給関係だけでなく、
国際的な政治状況や経済政策等も原油価格に変動をもたらす要因として作用している。本
章では、原油価格に影響を及ぼす要因を、「需給ファンダメンタルズ要因」「リスク要因」
「金融的要因」の 3 つの側面から整理し、原油価格の動向を考える上で重要は諸指標につ
いて概説する。
7-1 需給ファンダメンタルズ要因
7-1-1 石油需要に影響を及ぼす指標
(1) 経済成長率
石油需要に圧倒的に大きな影響を及ぼすのが経済成長率である。経済成長が石油需要に
影響を及ぼす経路を示したものを図 7-1 に示す。経済状況が好調であれば、工場の稼動が
上がり産業用や電力用の石油需要が増加する。また物流や人の往来が増えれば輸送用の石
油需要を増加させる要因となる。また経済成長によって国の発展段階が進むことによる石
油需要の増加もある。例えば、途上国の場合には、個人の所得が多くなればその分だけ薪
炭のような伝統的なエネルギー源から LPG や灯油などの石油燃料への転換が進むことに
なる。このように、将来の石油需要を予想する上で GDP は重要な外生要因として位置づ
けられており、IEA や EIA などが行う石油需要見通しでもこの GDP の前提によって大き
くその需要見通しが修正されることもある。
223
図 7-1
産業構造の変化:
農業から工業へ
経済成長
経済成長と石油需要
エネルギー集約型産業の発展
(鉄鋼・非鉄金属・石油化学等)
重油、軽油、ナフサ
貨物輸送増加
道路等のインフラ整備
個人所得の向上
自動車保有台数の増加
ガソリン、軽油
移動距離の延長
自動車・バス・航空機の利用増加
旅客輸送の増加
ガソリン、軽油、ジェット燃料
住居・商業施設建設
都市化
(鉄鋼、セメント等)
石油化学製品需要の増加
ライフスタイルの変化
厨房・暖房用の燃料転換
電力需要増加
LPG、軽油、灯油
発電用重油
(出所)日本エネルギー経済研究所作成
図 7-2 は、地域別に石油需要を前年と比較してその増減を表したものである。リーマン・
ショックに始まり世界的な金融危機に見舞われた 2008 年から 2009 年にかけて、北米、
OECD に加盟している欧州・アジアの諸国において、石油需要が著しく減少したことがわ
かる。他方、その他の地域においては、堅調な経済成長に伴い石油需要も増加している。
現在、先進国の石油需要が世界全体の石油需要の半分以上を占めている。しかし、今後は、
高い経済成長率が期待される途上国の石油需要の動向が重要になると考えられる 95。
IEA の見通しによると、先進国(OECD)の石油需要は、2010 年 1.1%で増加したが、2011 年は-0.8%、
2012 年は-0.5%とマイナス成長の予測となっている。しかし、Non-OECD 諸国の石油需要は、2010 年
5.5%、2011 年 3.3%、2012 年 3.8%と堅調な増加を示している。
95
224
図 7-2
3.5
地域別石油需要の前年比増減
100万B/D
北米
欧州(OECD)
2.5
アジア
(OECD)
FSU
1.5
欧州
(Non-OECD)
中国
0.5
-0.5
アジア
(Non-OECD)
中南米
-1.5
中東
-2.5
アフリカ
1995
1998
2001
2004
2007
2010
出所:IEA. Annual Statistical Supplement with 2010 Data. 2011 Edition.
(2) その他の石油需要に影響を及ぼす重要な指標
その他の石油需要に影響を及ぼす指標として挙げられるのが鉱工業生産指数である。鉱
工業生産指数が高いほど、産業活動が活発であることを意味し、その分だけ産業用の石油
需要が増加することになる。また自動車の販売台数も、石油需要を左右する要因として挙
げられる。自動車の販売が多ければ多いほど、ガソリンや軽油の需要も増加することにな
る。米国市場では輸入統計も重要な指標である。これは、国土の広い米国においては、輸
入量が多ければその輸入品を内陸へ輸送するためのトラックや鉄道の輸送需要が大きくな
るため石油需要も増加する。さらに、石油需要は気候の影響も受けやすい。例えば、民生
部門の暖房に関する石油需要には顕著に現れる。一般に、欧米市場では、冬場に気温が下
がると石油需要が増加し、暖冬であると石油需要が減少する傾向にある。この他、これら
の指標に比べれば直接的な関連性は低くなるものの、失業率や消費統計等の数字も、家計
の可処分所得の水準の変化を通して、ガソリンやジェット燃料の需要へ影響を及ぼす。
7-1-2 石油供給に影響を及ぼす指標
(1) OPEC 必要生産量(Call on OPEC)
OPEC 必要生産量は「Call on OPEC」と呼ばれ、世界全体の需給をバランスさせるた
めに OPEC が生産しなければならない数量を指す。具体的には、世界の石油需要から非
225
OPEC 生産量と OPEC の NGL 生産量を差し引いた数字となり、この数字が高くなればな
るほど、OPEC への依存度が高まることを意味し、OPEC の生産方針次第では、需給の逼
迫化要因となるとみなされている。
図 7-3
Call on OPECの実績と見通し
million b/d
34
Call on OPEC
33
OPEC生 産 量
(原油)
32
31
30
29
28
27
26
2012 3Q
2012 1Q
2011 3Q
2011 1Q
2010 3Q
2010 1Q
2009 3Q
2009 1Q
2008 3Q
2008 1Q
2007 3Q
2007 1Q
2006 3Q
2006 1Q
2005 3Q
2005 1Q
25
出所:IEA. Oil Market Report.
(2) OPEC 余剰生産能力
OPEC の生産能力から OPEC の生産量を差し引いたものが、OPEC の余剰生産能力で
ある。OPEC の余剰生産能力は、石油市場の需給の逼迫度を示すバロメーターとして、主
要な需給ファンダメンタルズ要因としてみなされている。これは、OPEC の余剰生産能力
が大きければ、予期せぬ供給途絶が発生しても、その緩衝材となる余剰能力が活用される
ことで需給バランスが保たれるのに対して、余剰生産能力が少ない場合には何らかの理由
で供給が減少した場合、供給不足の状態に陥りやすいからである。
過去の推移を見ると、概ね余剰生産能力の大小は原油価格の動向とほぼ反比例する形で
推移していることがうかがえる(図 7-4)。OPEC の余剰生産能力が高い場合は、石油価格
を引き下げ、逆に、余剰生産能力が低い場合は、石油価格を上昇させる作用があると考え
られる。
226
図 7-4
OPEC の余剰生産能力と原油価格
100万B/D
9.0
US$/バレル
140
OPEC余剰生産能力
8.0
120
WTI
7.0
6.0
100
5.0
80
4.0
3.0
60
2.0
40
1.0
2011/7
2011/1
2010/7
2010/1
2009/7
2009/1
2008/7
2008/1
2007/7
2007/1
2006/7
2006/1
2005/7
2005/1
2004/7
2004/1
2003/7
2003/1
2002/7
20
2002/1
0.0
出所:IEA. Oil Market Report.
実際に、2004 年から 2005 年にかけて国際石油市場において OPEC の余剰生産能力が
急速に低下した時期があった。2004 年に米国と中国において予想以上に石油需要が急増し、
これに対応するために OPEC が生産量を拡大させたため、余剰生産能力が 100 万 B/D 以
下の水準にまで大幅に縮小したのである。もともとの需給逼迫化の併せて、この余剰生産
能力の縮小も、ひとたび供給サイドにおける原油生産・輸出に問題が生じた場合に市場は
大きな影響を受けるとの認識が市場参加者の間で広まることで、この時期の原油価格高騰
の主要な要因の一つになった。
(3) 在庫水準
供給側の原油価格を左右する指標としては、在庫水準も挙げられる。元々、在庫水準と
原油価格には負の相関関係が存在していた。在庫水準が上昇するいうことは、供給が需要
を上回っていることの証であり、また在庫が減少しているということは逆に供給が需要を
下回っていることを示している。このため、在庫水準が上昇すると需給が緩んでいるとの
観測が広まることで原油価格が低下し、一方、在庫が低下すれば需給逼迫が進んでいると
の認識下、原油価格が上昇する。ただし、近年の米国の原油在庫及びガソリン在庫と原油
価格(WTI)の間では、この関係はもはや存在しないと見られている 96。これは後述する
通り、原油価格に影響を及ぼす要因がより金融的な要因によって左右されていることによ
96
2006 年 1 月から 2011 年 6 月までの WTI と原油在庫の相関係数は−0.15、同時期 WTI とガソリン在
庫の相関係数は 0.16 であった。
227
ると考えられる。
7-1-3 まとめ
近年の原油市場においては、次節で述べる突発的な「リスク要因」や 2000 年以降投機
マネーの流入に伴う「金融的要因」による影響が大きくなってきた。しかし、程度の差は
あるものの、石油需給が原油価格に短期・長期の影響を及ぼしていることに変わりはない。
特に、今後は中国やインドのような新興国による石油需要が拡大することが確実である。
これらの国の需給動向は原油価格形成に少なからず影響を及ぼすと考えられる。また、
OPEC の原油供給に関する政策も、今後長期的には世界の石油生産における OPEC のシ
ェアが上昇していくと見られていることから、当面原油価格の動向を左右する要因であり
続けることは間違いない。
「需給ファンダメンタルズ要因」を把握することは、今後も原油
価格を分析する上では不可欠な作業であり続ける。以下、表 7-1 に、需給要因がどのよう
に原油価格に影響を及ぼすか、そのパターンを簡単にまとめる。
表 7-1 主要な需給ファンダメンタルズ要因と油価への影響
ファンダメンタルズ指
価格上昇/下落
標
GDP 成長率見通し
影響度合い
参照先
(仮説)
GDP成長率の向上→経済活動の活性化→エ
○
IMF
ネルギー需要増加→価格上昇
UN Monthly
鉱工業生産指数
鉱工業生産指数高い→電力需要増加→発
○
電用燃料需要増加→価格上昇
Bulletin of
Statistics
自動車保有台数増加→輸送用燃料需要増
自動車保有台数
加→価格上昇
△
世界自動車統計
○
EIA、OMR
◎
IEA
○
EIA
Call on OPEC 見通し(世
Call on OPEC増加→OPEC 依存率上昇→価
界の石油需要−非 OPEC
格上昇
生産量)
OPEC 余剰生産能力
余剰生産能力高い→価格下落 (余剰生産
能力低い→価格上昇)
在庫水準高い→価格下落 (在庫水準低い
在庫水準
→価格上昇)
出所:日本エネルギー経済研究所作成
7-2 リスク要因
228
原油価格に変動をもたらす要因の一つに、突発的な事象による供給サイドの途絶が考え
られる。ここではそのようなリスクとして「地政学的リスク」及び「自然災害リスク」を
とりあげる。
7-2-1 地政学的リスク
地政学的リスクとは、特定地域における軍事・政治的緊張などが与える影響・リスクを
意味しており、石油市場においては産油国の治安・経済・社会情勢が石油の需給関係や市
況に及ぼす影響を指している97。以下、このような事象によって実際に石油供給が途絶し
た主要な事例を紹介する。
図 7-5
6.0
5.6
第4次
中東
5.0
戦争
4.3 $11.65
/bbl
4.0
過去の供給途絶事例とドバイ原油価格
イラン革命
$14.55/bbl
イラン・イラク戦争
$34.00/bbl
4.1
リ
ヒ
゙
ア・
イエメン政情
不安定化
$113.93/bbl
イラクのクウェ
ート
侵攻
$40.42/bbl
120.0
100.0
4.3
イラク戦争
$32.14/bbl
ベ
ネズ
エラの
スト
ライキ
$37.78/bbl
3.0
イラクの
輸出中断
80.0
60.0
2.6
2.3
2.1
2.0
1.7 40.0
1.0
20.0
0.0
0.0
73 75 77 79 81 83 85 87 89 91 93 95 97 99 01 03 05 07 09 11
途絶量(左軸)
ドバイ原油価格
(注)供給途絶事例の下に記される原油価格は上昇時のもの。
出所:日本エネルギー経済研究所
(1) 第 4 次中東戦争(1973 年 10 月∼1974 年 3 月):第 1 次石油危機
1973 年 10 月、エジプト・シリア両国とイスラエル間による第 4 次中東戦争勃発に端を
発した中東産油国の政策変更が第 1 次石油危機を招いた。OPEC は原油価格(原油公示価
格)の大幅な引き上げを実施する一方、アラブ石油輸出国機構(OAPEC)は原油生産の
97
JX 日鉱日石エネルギーホームページ「石油便覧」
229
削減及び一部「非友好国」への石油禁輸を行った。実際の石油供給は 1973 年 10 月以降、
大きく減少し、その状態が 1974 年 3 月にこの禁輸が解除されるまで続いた。第4次中東
戦争自体は短期決戦で停戦となったが、石油を武器とした OAPEC 諸国の政治戦略はその
後も継続され、それまであまり変動のなかった原油価格が急騰することとなった。このた
め、長らく安価な石油に依存していた先進諸国の経済は混乱し、輸入原油への依存度が高
かった日本経済も大きな衝撃を受けた。この第 1 次石油ショックによる供給途絶規模は、
一時 430 万 B/D(1973 年の世界全体の石油消費量 5,564 万 B/D のうち 7.7%)に達し、
石油価格は$3.01/bbl(1973 年 10 月)から$11.65/bbl(1974 年 1 月)へと 4 倍近くの上
昇を見た。
(2) イラン革命(1978 年 11 月∼1979 年 4 月):第 2 次石油危機、イラン・イラク戦争開戦
(1980 年 10 月∼1981 年 1 月)
石油市場はイランの政変をきっかけに再び石油価格高騰(第2次石油危機)を経験する。
1978 年 1 月に起きたイスラム教シーア派の聖地コムにおける暴動をきっかけに、イラン
では反政府デモが他の町へと次々と波及した。その後、同年 10 月にはアバダン製油所で
労働者のストライキによってイラン南部の原油生産が一時中断し、さらに、12 月末から翌
年 1979 年 3 月初めにかけては、イランの輸出が全面的に停止することとなった。イラン
は 1978 年時点で世界の石油供給量の 8.4%を占めていたため、このイランからの供給停止
によって石油需給は逼迫し、石油価格も高騰した。1979 年 2 月にホメイニ政権が誕生し、
イラン革命は収束したが、供給不足は解消されず、石油価格は上昇の一途を辿った。第 2
次石油危機による供給途絶は 560 万 B/D(1978 年石油消費量 6,257 万 B/D の 9.0%)と大
きく、原油価格は$12.70/bbl(1978 年 11 月)から$14.55/bbl(1979 年 4 月)へ上昇した。
この第 2 次石油危機を受け、IEA は、1979 年 3 月、約 200 万 B/D(OECD 加盟国の石
油消費量の 5%)の石油消費の節約を決めた。また、同年 6 月に行われた東京サミットに
おいて、1979 年及び 1980 年の国別輸入目標量が設定される一方、石油代替エネルギーの
開発促進でも合意し、第 2 次石油危機の克服を図った。しかし、1980 年 9 月にはイラン・
イラク戦争が開戦し、中東情勢は緊迫が続いた。OPEC は、基準石油価格を 1980 年 1 月
$26.00/bbl から 4 月、8 月に$2.00/bbl ずつ値上げを行い、 1981 年 1 月には$34.00/bbl
へと引き上げた。また、このイラン・イラク戦争による供給途絶量は最大で 410 万 B/D
(1980 年石油消費量 6,118 万 B/D の 6.7%)にも達した。
以後、消費国では、過度な石油依存の反省から、省エネルギー及び他のエネルギーへの
転換が進むとともに、石油価格高騰による石油需要減退と従来高コストで経済性の合わな
かった非 OPEC 諸国の新規油田開発が進んだ結果、石油の需給バランスは緩和した。第 1
次・2 次石油危機を経て、原油価格は$3/bbl 台から$30/bbl 台へと急上昇したが、その後
80 年代にかけて、今度は逆に原油価格が大きく値を下げることによって、原油市場は逆オ
230
イルショックとも言われる時代を経験することになる。
(3) イラクのクウェート侵攻(1990 年 8 月∼1991 年 1 月)
1990 年 8 月 2 日、イラクがクウェートに侵攻したのを機に湾岸戦争が始まり、石油価
格は急激に変動した。石油価格は、1990 年 7 月の WTI 原油先物平均価格は$18.64/bbl か
ら、開戦前の 8 月 1 日には$21.54/bbl 、10 月 11 日には$40.42/bbl まで上昇した。国際連
合による多国籍軍派遣が決定すると、価格は落ち着きを見せ始め、停戦時直前の 1991 年 3
月 1 日には$19.38/bbl まで下落し、先行きの安心感からか開戦前のレベルに戻った。
実際の石油供給については、イラクがクウェートに侵攻した 1990 年 8 月には急激に生
産量が低下し、国連の多国籍軍によるイラク攻撃が始まった 1991 年 1 月にはイラクとク
ウェートが全て停止し、430 万 B/D(1990 年消費量 6,650 万 B/D の 6.5%)の供給が失わ
れた。クウェートの石油生産施設は、イラクによって進行を受けた際にイラク軍による破
壊を受けたため、戦争終了後も回復には時間がかかり、クウェートがイラクによる侵攻前
の生産量を取り戻すことができたのは、侵攻後 3 年が経過した 1993 年であった。一方、
イラクの生産量については、戦争後、イラクに対し経済制裁が課されたことから、戦争後
も 50 万 B/D 前後という水準が続いた。1999 年に人道支援の観点から「Oil for Food
Program」が導入され、200 万 B/D の生産が可能になるまでは、この 50 万 B/D 前後の生
産量が 10 年近く続けられた。
(4) ベネズエラのストライキ(2002 年 12 月∼2003 年 3 月)
ベネズエラでは、チャベス大統領に対する反対派が 2002 年 12 月から基幹産業である石
油部門の国営石油公社(PDVSA)を含めた大規模なゼネストを決行し、原油生産・輸出・精
製の操業が全面的に停止した。
この供給途絶によって一時 260 万 B/D
(2002 年消費量 7,827
万 B/D の 3.3%)の石油供給が失われた。途絶量は世界の石油消費量の 3%強程度であった
が、将来の不安感から、原油価格は一時、大幅な上昇を見た。2002 年 11 月の WTI 原油
先物平均価格$26/bbl 台から同 12 月には$29/bbl 台へと上昇し、2003 年 3 月 7 日には
$37.78/bbl と最高値を付けた。しかし、2003 年 3 月にゼネストが解除されると共に供給
量は急速に回復し、価格も落ち着いたため、2003 年 4 月には原油価格は$28/bbl 程度にま
で下落した。
この時に原油市場が比較的短期で安定を取り戻した一つの理由は、OPEC がベネズエラ
のストライキを契機に増産に動いたためである。OPEC は、第 122 回総会(2002 年 12 月
12 日)において、2003 年 1 月から OPEC10 カ国の生産上限を 130 万 B/D 引き上げ 2,300
万 B/D とすることを決定し、さらに第 123 回総会(2003 年 1 月 12 日)では、2003 年 2
月から生産上限を 150 万 B/D 引き上げ、2,450 万 B/D とすることを決定した。先進国にお
231
いては冬の暖房油需要時でもあり、この OPEC の増産による価格安定化効果は非常に大き
かったといえる。
(5) イラク戦争(2003 年 3 月∼2003 年 12 月)
2003 年 3 月、イラクが湾岸戦争の停戦条件(大量破壊兵器の破棄)を違反したという
理由で、米国を主体とした有志連合軍がイラクに侵攻し、イラク戦争が勃発した。大規模
な戦闘は 2003 年 5 月に終結したが、イラク国内での戦闘はその後も治安悪化のため継続
し、米軍は 2011 年 12 月までイラクに駐留を続けた。イラク戦争による供給途絶は 230
万 B/D(2003 年石油消費量 7,982 万 B/D の 4.7%)であり、開戦後、1∼2 か月の間は、
生産量はほぼゼロの状態となったが、その後回復し、2003 年の 12 月には改選前の水準を
回復している。
上記ベネズエラのストライキに加え、2002 年後半から米国主導のイラクへの攻撃が懸念
され、WTI 原油先物価格は上昇し、2003 年 3 月 12 日に$37.83/bbl に達したが、その後は
下降し、2003 年 3 月から 11 月にかけて原油先物月平均価格は、$28 台/bbl∼$31 台/bbl
で推移し、同年 12 月は$32.14/bbl であった。
石油供給が途絶したにも関わらず、石油市場への影響は比較的小さかった。まず、OPEC
はすでにベネズエラのストライキに対して高水準の生産を行っていたが、サウジアラビア
とクウェートはイラク原油の不足が生じれば増産して補填すると公式に表明していた。他
方、IEA を始め消費国側も石油需給や市場の動向によって国家備蓄の早期放出があり得る
という立場を取っていた。国家備蓄を持っていない新興国も、2002 年秋にはイラク戦争は
不可避との判断に至り、供給途絶に先立って準備期間があったため、ある程度の備蓄体制
を整えることができたと考えられる。
(6) リビア・イエメンにおける政情不安定化(2010 年 12 月∼
)
2010 年 12 月、チュニジアにおけるジャスミン革命に始まり、中東・北アフリカに波及
した大規模な反政府デモや抗議活動は、同地域の原油輸出量に影響を及ぼした。リビア、
イエメンにおいて相次いで石油輸出が停止し、2011 年の 8 月にはその供給途絶量は合計
170 万 B/D に達したと推定される。
リビアの生産量については、2011 年 10 月にカダフィ大佐が死亡し、反政府運動側がリ
ビア国土を掌握してから徐々に回復し始め、内戦が本格的に広がった 2011 年 5 月以降、
ほぼゼロに落ち込んでいた生産量は 2011 年 12 月時点では 55 万/D にまで回復した。他方、
イエメンについては依然として 15 万 B/D 程度が生産停止であると見られている。
232
このときの供給途絶量は、前述のいずれのケースと比較してもと少ないが、2011 年上半
期、石油先物価格は大幅に高騰した。2011 年 1 月の WTI 原油先物平均価格は$89.58/bbl
であったが、2 月後半から上昇し、2011 年 4 月 29 日には$113.93/bbl にまで達した。しか
し、米国や欧州といった世界経済の悪化懸念、及び、中国のインフレ・資産バブル問題な
ど、先行き不安要因が顕在化してきたため、5 月以降は石油価格に対して下方圧力が作用
し、原油価格は落ち着きを取り戻した
リビアの石油供給が停止した際、サウジアラビアは、増産や新しい油種を輸出すること
で対応した。また、2011 年 6 月 23 日、IEA は、30 日間にわたって 200 万 B/D の石油備
蓄放出を決定した。その目的は、リビアの石油供給途絶への対応だとされたが、石油市場
における油価の安定を意図したものではないかとの見方もあった。このような一連の対応
は油価上昇を抑制する上で、一定の効果をもったものと考えられる。
7-2-2 自然災害リスク
自然災害リスクとは、ハリケーンや地震といった天災によって石油供給施設が被害を受
け、短期的に石油供給が減少する可能性が懸念されることを指す。この典型的な具体例と
しては、2005 年 8 月∼9 月に米国メキシコ湾岸を襲ったハリケーン「カトリーナ」と「リ
タ」の事例が挙げられる。
メキシコ湾地域はアメリカの主要な原油生産地であり、また製油所等の石油関連施設の
集積地であったため、2 つのハリケーンの直撃は、石油産業に多大の被害を与え、石油価
格が大きく変動する要因となった。2005 年 8 月 24 日、ハリケーン「カトリーナ」に起因
するメキシコ湾の石油関連施設の閉鎖懸念から WTI 価格は上昇し、前日比$1.61 高の
$67.32/bbl となった。8 月 29 日、
「カトリーナ」が通過したルイアジアナ・ミシシッピ州
において、原油・天然ガス生産施設、及び、製油所やパイプラインが沈没、浸水、停電と
いった被害を受け、原油生産 137.5 万 B/D(原油生産量 150 万 B/D の 91.7%)、ガス生産
8.2bcf/d(ガス生産量 10bcf/d の 82.99%)が停止した 98。
WTI 原油価格は、8 月 30 日には$69.81/bbl まで上昇したが、8 月 31 日、米国エネルギ
ー省(DOE)は戦略石油備蓄の貸し出しを決定し、品質規制の一時的緩和が決められたこ
とを受けて、石油製品不足が解消に向かうとの観測から、前日比$0.87 安の$68.94/bbl と
なった。しかし翌 9 月 1 日には、DOE が石油生産施設の早期復旧は困難との見方を示し
たことから、再び上昇した。9 月 2 日には、IEA が石油備蓄を 200 万 B/D、30 日間にわ
た っ て放 出す るこ とを 決定 した ため原油 価 格に 下方 圧力 が作 用し 、 9 月 16 日 には
$63.00/bbl まで下がった。
98
杉野綾子(2005)
「ハリケーン『カトリーナ』による米国石油供給及び市場への影響」日本エネルギー
経済研究所。8 月 30 日、石油・ガスの生産停止量は拡大したが、9 月 1 日以降、徐々に回復した。
233
この直後、また別のハリケーン「リタ」が襲来するとの情報により、2005 年 9 月 19 日
には WTI 原油価格は$67.39/bbl と再び急騰し、その後$65∼66 台/bbl で推移した。しか
し、10 月に入ってからは、アメリカのガソリン輸入量が増加し、石油製品価格高騰によっ
て需要が減退するとの見方が広がったため、10 月 6 日には WTI 石油先物価格は$61.36/bbl
へと下がった。また、OPEC が 9 月 19∼20 日に開催された弟 137 回総会で、必要であれ
ば 200 万 B/D の増産を打ち出したことも国際石油市場の安定に繋がったという見方もある。
図 7-6
2005 年米国ハリケーン襲来と原油価格
WTI($/bbl)
75
DOE、石油生産施設早期
復旧困難との見方
米政府、戦略石油
備蓄貸し出し決定
IEA加盟国、石油備蓄
放出決定
70
65
ハリケーン
「カトリーナ」
メキシコ湾直撃
ハリケーン「リタ」
05/9/22
05/9/20
05/9/18
05/9/16
05/9/14
05/9/12
05/9/8
05/9/10
05/9/6
05/9/4
05/9/2
05/8/31
05/8/29
05/8/27
05/8/25
05/8/23
05/8/21
05/8/19
05/8/17
05/8/15
60
出所:日本エネルギー経済研究所作成
7-2-3 まとめ
上述したケース以外にも、地政学的リスクでは、2003 年から 2004 年にかけて多発した
サウジアラビアにおけるテロ活動、2006 年 2 月に起きたナイジェリアの政情不安、同年 7
月のイスラエルとヒズボラの紛争等も、石油供給懸念をもたらした事例として挙げられる。
このように、地政学的リスクは産油国地域において絶えず潜在しており、石油供給途絶が
生じなくても、先行き不安感から石油需給そして石油価格への影響を及ぼす要因となりう
る。従って、石油市場への影響を考慮する際、産油国の政治動向・社会状況・治安を把握
し、地政学的リスクが顕在化する動きに注意する必要がある。また、本節で取り上げたリ
スクの他に、供給設備の運転・保守に従事する人による人為的事故によるリスクも忘れて
はならない。最近では、2010 年 4 月にメキシコ湾で生じた BP による原油流出事故は記憶
に新しい。このような人為ミスによるリスクも原油市場への影響が甚大になる可能性があ
ることも留意しておかなければならない。
234
7-3 金融的要因
上記のような需給ファンダメンタルズ要因とリスク要因は、長い原油市場の中でも伝統
的な価格変動要因ということができる。これらの要因に加えて、2000 年代の半ばからは、
金融的な要因も、原油市場の動きにも大きな影響を及ぼすようになってきている。ここで
は、そのような金融的な要因について簡単に整理しておく。
7-3-1 原油先物市場への資金の流入
近年、原油先物市場への資金流入が進んでいる。その背景には、世界的な金融緩和と伝
統的な資金運用の主体を担ってきた債券や株式に代わる投資手段として商品先物、特に流
動性の高い貴金属や原油先物への資金流入が加速したことがあげられる。NYMEX での
WTI 原油の出来高は 2000 年の 148,123 枚/日(1.48 億 B/D)から 2010 年には 666,609
枚/日(6.67 億 B/D)にまで拡大している。ニューヨークのほかに、ロンドンの ICE(Inter
Continental Exchange)での Brent 原油先物取引も 3.84 億 B/D の出来高があり、この2
つの市場を合わせるとその出来高は 10.5 億 B/D である。世界の石油需要の 10 倍以上の取
引がこれらの先物市場で行われていることになる。
2000 年代に入り商品投資への資金流入が拡大した要因として、まず株式・債券市場での
運用利益が低迷を続けた中で、リスクをとる積極運用を行なう投資家が、代替運用(オー
ルターナティブ投資)の投資先として、それまではどちらかというとリスクが高いとみな
されがちであった商品先物への投資に目を付けたことが挙げられる。このような動きを助
長した動きとしては、2004 年の中国における石油需要の急増、同じく 2004 年における米
国のガソリン需給のひっ迫といった需給面での要因と、2003 年以降のイラク戦争、2003
年から 2004 年にかけて断続的にサウジアラビアで発生したテロ活動なといった地政学的
リスク要因も、原油価格の先高期待を高めることで、原油先物市場に対する資金の流入を
加速させた可能性がある。
また、サブプライムローン問題が顕在化した 2007 年以降は、株式・債券の運用益低下
により、このような積極運用を行う投資マネーが商品先物市場へ流入した。また同じく、
サブプライム問題の顕在化以降は、ドル安が進んだことから、ドル建て資産の価値の減少
をヘッジするために商品への投資を行なうという、リスクヘッジやインフレヘッジを目的
とした利用も一段と活発になった。この時期は需給面では、原油価格の高騰により需要そ
のものは減速傾向を示していたが、イランの核開発をめぐる欧米諸国との緊張関係やイラ
クにおける治安情勢の悪化等といった地政学的な要因が、投資先としての原油先物の先高
観を高めることでさらなる金融マネーを誘引したという側面も指摘できる。
235
このような原油先物市場における新たな参加者の登場によって、それまでの米国の在庫
水準や OPEC の余剰生産能力、世界の産油国における政治情勢などといったいわば伝統的
な要因と併せて、株価や為替レートのような金融指標の動向も原油市場に対して大きな影
響を及ぼすようになってきた。それは、これらの新たな市場参加者は、あくまで株式や債
券のような金融資産全体の一つとして原油市場に投資を行っているのであり、その中では、
狭く石油需給に関する要因だけではなく、金融市場全体の動きの中で、原油市場に対しど
の程度の投資を行うのか、ないしは原油市場においてどの程度のリスクを許容するのかを
判断しながら、取引を行っているためである。このような新たな市場参加者の存在感や運
用資金の規模が大きくなるにつれ、金融市場の指標の推移が原油価格の動向により大きな
影響を及ぼすようになってきたのである。
7-3-2 株価と原油価格
このように新たな投資家の参入とそれに伴う資金流入に伴い、原油価格と金融市場との
相関が強まってきている。図 7-7 は 2007 年以降のニューヨーク証券取引市場のダウ工業
平均株価と WTI 価格の推移とを比較したものである。2008 年前半の油価上昇時には、株
価と原油価格の動きには相反する動きが見られるものの、同年の後半以降、現在に至るま
で原油価格と株価との間には強い正の相関がみられるようになってきている。元々、株価
が上昇するということは経済活動全般に対する期待が高まっているということの証であり、
石油需要についても同様に増加する見通しが強まることを意味しているため、株価と原油
価格は正の相関をもつはずである。過去の原油市場と株式相場においては、必ずしも常に
正の相関を有するわけではないものの、少なくとも 2008 年の後半から 2011 年にかけての
両者の間には強い正の相関が見られるようになってきている。この背景には、株価の動向
を見ながら原油市場において取引を行っている金融マネーの動きが大きく影響していると
見られている。
236
図 7-7 NY 株式相場(ダウ工業平均株価)と WTI 価格
160
15,000
WTI($/bbl)
140
14,000
Dow工業平均(右軸)
13,000
120
12,000
$/bbl
100
11,000
80
10,000
60
9,000
40
8,000
2011年5月
2011年3月
2010年9月
2010年11月
2011年1月
2010年5月
2010年7月
2010年1月
2010年3月
2009年9月
2009年11月
2009年7月
2009年5月
2009年1月
2009年3月
2008年9月
2008年11月
2008年5月
2008年7月
2008年1月
2008年3月
2007年9月
2007年11月
6,000
2007年7月
0
2007年3月
2007年5月
7,000
2007年1月
20
(出所)EIA、Yahoo! Finance
7-3-3 為替と原油価格
株価と並んで原油価格の動向と強い相関関係を持つようになってきているのが、為替レ
ートである。図 7-8 は WTI 価格と為替相場(ドル/ユーロ)との関係を示したものである。
為替がドル安に動く局面において原油が高く、逆にドル高に動く際には原油が安く商われ
ていることが分かる。これは、原油価格自体の建値がドルでなされており、複数の通貨で
の金融資産を運用している投資家にとって、ドルが安くなれば、原油価格の水準は同じで
あってもその相対的な価格が割安になるため、その割安な状態のうちに原油を買っておこ
うという意図が働くためである。同様にドルが高くなれば、建値がドルで商われている原
油が割高になるため、原油の買い圧力は抑制されることになる。このように、原油と為替
はいわばお互いの価格変動をヘッジしあう関係にあり、そのような観点からの売買が行わ
れているために、両者の価格が相関関係をもって動くようになっているのである。
237
図 7-8 為替レートと WTI 価格
160
140
1.80
WTI($/bbl)
1.70
$/Euro (右軸)
1.60
100
1.50
80
1.40
60
1.30
40
1.20
20
1.10
0
1.00
2007年1月
2007年3月
2007年5月
2007年7月
2007年9月
2007年11月
2008年1月
2008年3月
2008年5月
2008年7月
2008年9月
2008年11月
2009年1月
2009年3月
2009年5月
2009年7月
2009年9月
2009年11月
2010年1月
2010年3月
2010年5月
2010年7月
2010年9月
2010年11月
2011年1月
2011年3月
2011年5月
2011年7月
2011年9月
2011年11月
120
(出所)EIA、FRB
本来、為替市場の動向は石油の需給とは直接的な関係はない。しかし、このような両者
間の関係に強い相関が見られていることは、実需を中心に扱っている市場参加者よりは、
多くの金融資産の一つとして WTI 市場への投資を行っている市場参加者の影響力の方が
が強くなってきているということを意味している。
7-3-4 金融政策と原油価格
株価、為替と並んで原油価格の動向に影響を及ぼすのが金融政策であり、その中では特
に米国の金融政策のもたらす影響が大きい。米国における政策金利の水準と原油価格の動
向を図 7-9 に示す。NYMEX の原油相場がそれまでとは異なる規模で価格の上昇を始めた
のが 2004 年以降であるといわれているが、その背景には中国や米国における需要の増加
と併せて米国での金利の引き下げの影響もあったといわれている。即ち、米国では、2000
年代初めのいわゆる「IT バブル」の崩壊で景気の悪化が懸念された際に、政策金利を大き
く引き下げたが、この金融緩和政策によって金融市場に登場したマネーが原油先物市場に
も流入したことが当時の油価上昇の一因であるとも言われている。
238
図 7-9 米国の政策金利(FF レート)と WTI 価格
米国FFレート
WTI(右軸)
160
6.0
140
5.0
120
100
4.0
80
3.0
$/bbl
%
7.0
60
40
1.0
20
0.0
0
2000年1月
2000年7月
2001年1月
2001年7月
2002年1月
2002年7月
2003年1月
2003年7月
2004年1月
2004年7月
2005年1月
2005年7月
2006年1月
2006年7月
2007年1月
2007年7月
2008年1月
2008年7月
2009年1月
2009年7月
2010年1月
2010年7月
2011年1月
2011年7月
2.0
(出所)EIA、FRB
また、2008 年の乱高下以降、$80/bbl∼$90/bbl の水準で安定的に推移していた原油市場
が再び$100/bbl をうかがう展開を見せ始めた 2010 年末においても、その背景には、2010
年より始められた米国の第二次量的緩和政策(Quantitative Easing 2: QE2)による大量
のマネーの投入があったとも言われている。これらの一連の相関関係については、客観的
な論証がなされている訳ではない。しかしながらかような金融緩和政策によって機関投資
家などの金融資産への投資の際の「リスク許容度」が上がり、それによって相対的には価
格変動リスクが高いと見られている原油先物のような商品市場に対しても、より多くの資
金が流入しやすくなることは確かである。従って、金融政策とその帰結としての投資家の
「リスク許容度」は原油市場における一つの価格変動要因と言ってもよい。
7-3-5 機関投資家の運用形態
原油先物市場で運用を行う機関投資家は直接先物を売買する場合もあれば、商品インデ
クスなどを介して先物市場での運用を行うパターンもある。本報告書の 4-3-2 の区分に従
えば図 7-10 のようになろう。従って先物市場における運用といった場合には、その主体は
「Money Manager(金融運用者)」に区分されるような機関投資家である場合もあれば、
「Swap Dealer(スワップ取引者)
」に区分されるような投資銀行の場合もある。それらの
取引主体が採用している具体的な運用手法について以下にまとめることとする
239
図 7-10 先物市場での運用者
実需取引者
金融運用者
スワップ取引者
先物(公設)市場 / 先渡(OTC)市場
(出所)日本エネルギー経済研究所
(1) 一般的なロールオーバー取引
買い持ちであれ売り持ちであれ、先物市場でのポジションはいずれ決済期限が来れば清
算を行わなければならない。そこでもし一定期間原油先物を投資対象として保有しようと
する場合には決済期限がきた先物をいったん清算して再び次の同じ先物のポジションを組
むという作業を行う必要がある。これを同じポジションを繰り越すという意味でロールオ
ーバーを行うという。
先物市場において、決済期限が近い期近物の価格が高く、決済期限が遠い期先物の価格
が安くなっている場合には(バックワーデーション)、先物を買い持ちし、その買い持ちを
ロールオーバーしていけば、相対的に価格が高い期近物を売り、相対的に価格が安い期先
物を買う作業を同時に行うことになるので、その取引によって収益を上げることができる。
一方、期近物が安く期先物が安ければ(コンタンゴ)、同様の作業を行うことで損失が生じ
る。たとえば、1 月時点で、先物カーブがバックワーデーションの状態にある場合に、2
月限を$100/bbl で買ったとする。その後 1 月下旬になりこの原油を決済しなければならな
くなった際に、依然として先物カーブがバックワーデーションにあり、2 月限が$100/bbl
のまま、3 月限が$95/bbl であったとする。この場合、2 月限を$100/bbl で売り、3 月限を
$95/bbl で買うことになるので、先物原油を買い持ちしているという状態を変えることな
く$5/bbl の利益を上げることができる。従って、先物カーブがバックワーデーションの状
態を維持し続ける限りは、その期先物の絶対的な価格水準が$120/bbl になろうが、$80/bbl
になろうが、このロールオーバー取引を行うだけで安定的に毎月利益を得ることができる
ことになる。このようなロールオーバーは原油先物を金融資産の一つとして買い持ちを行
う機関投資家によって採用されることが多く、その場合には原油価格の絶対的な水準とい
うよりは、期近物と期先物の価格差によって上げることのできる収益の大小が、運用時の
大きな関心事となる。
(2) スワップを用いた取引
240
スワップを用いた先物取引は、主にスワップ取引者が中心となって行われる。スワップ取
引者は実需取引者や金融運用者などの取引ニーズに見合った取引を仲介・提供する役割を
果たしているが、その典型的な例を図 7-11 に示す。
図 7-11 航空会社とスワップ取引者の取引例
航空会社
固定額でのジェッ
ト燃料価格の支
払い
ジェット燃料(現物)の供給
スワップ取引者
固定価格ないし
は市況価格での
ジェット燃料(現
物)の供給依頼
先物市場ないしは
OTC市場において
価格ヘッジ
先物(公設市場)
石油会社
相対(OTC)市場
(出所)日本エネルギー経済研究所
この事例においては、航空会社が将来のジェット燃料価格の調達費用を確定するために
一定量のジェット燃料価格をヘッジしたいというニーズを有している場合、スワップ取引
者はこの航空会社に対し、将来の特定の時期におけるジェット燃料価格についての固定価
格での先物を販売する。航空会社はこの取引を介して、公設市場では不可能なジェット燃
料価格そのものをヘッジすることが可能となる。当然のことながら、この航空会社とスワ
ップ取引者との取引は両者の間でのみ行われる相対(OTC)取引となる。
スワップ取引者は、その後、この航空会社との間の取引で生じるジェット燃料の市況価
格と固定価格との差額リスクをヘッジする必要があるが、そのヘッジはこのスワップ取引
者が有するネットワークを介してそのような取引に関心を有するヘッジファンドのような
機関投資家や、公設市場における先物を購入することで行う。特に公設市場でのヘッジを
行う場合には、その購入が実現しなかった際にはこのスワップ取引者の購入の試みは取組
高として計上されることになるため、スワップ取引者が OTC 市場での取引を活発化させ
ればさせるほど、取組高の量も大きくなるという傾向がある。
(3) オプションを用いた取引
オプションとは、特定の商品を、あらかじめ定められた決済日までに、あらかじめ定めら
れた価格で、買ったり売ったりすることのできる権利を指す。商品先物取引は将来の時点
での商品の現物そのものを取り扱うのに対し、商品先物のオプション取引はその商品を売
241
買する「権利=オプション」を売買するという意味でその性質が異なる。つまり、取引さ
れるのはあくまで「権利」であるので、その権利を行使するかどうかはそのオプションの
保有者の判断による。商品を買う権利をコール・オプション、商品を売る権利をプット・
オプションという。
$100/bbl の商品先物を買い持ちした場合と$100/bbl の商品先物のコールオプション(買
いオプション)を保有した場合の、決済時点の原油価格の水準に応じた利得を図 7-12 に示
す(コール・オプションの取得価格は$10/bbl と想定する)商品先物の場合には、例えば、
決済時点での現物の原油価格が$80/bbl であった場合、それよりも高い($100/bbl )の先
物を購入してしまっているので、$20/bbl の損失が生じる。他方、決済時点での現物の価
格が$120/bbl であれば、先物を$100/bbl で調達しているので、$20/bbl の利益が生じる。
図 7-12 商品先物とコール・オプションの利得
利得
オプションの利得
先物契約の利得
40
30
20
10
0
-10
-20
-30
-40
60
70
80
90
100
110
120
130
140
原油価格
(出所)日本エネルギー経済研究所
これに対し、コール・オプションの場合に決済時点での原油価格がオプションの取得価
格を加えた$110/bbl 以下であった場合、オプションを行使して原油を購入すると、オプシ
ョンの取得価格に追加して損失が生じるので、このオプションは行使しない。従ってコー
ル・オプションを購入した場合には、その購入によって生じる損失は最低でも$10/bbl で
ある。商品先物の場合、例えば原油価格が下がれば下がるほどその損失が拡大していくの
に対し、オプションの場合は最悪でもオプションの取得費用のみの損失となる。他方、原
油価格が$110/bbl 以上に上昇した場合には、オプションを行使することでその収益を全て
得ることができる。このように、オプションのメリットは、損失のリスクがオプションの
取得費用に限定される一方で、価格上昇した際には上昇した分だけその利益を享受できる
242
点にある。通常はオプションの取得価格は商品そのもの価格よりも小さいので、少ない費
用でその商品取引と同様の利益を上げられる可能性がある。このようなオプション取引を
複数組み合わせたり、商品の先物取引を組み合わせたりすることによって、多様な運用を
行うことができる といったメリットがある。
(4) 商品インデクスによる取引手法
上記 (1)∼(3)で述べた取引はいずれも基本的且つ古典的なものであるが、現在の先物市
場においては、これらの手法を組み合わせながらより複雑な運用を行っている市場参加者
が増えてきている。具体的な運用方法については、個々の運用者が日々それぞれの方法を
開発し運用を行っているが、ここではその中でも比較的情報が公開されている商品インデ
クスの運用方法についてその概要をまとめておく。
商品インデクスとは、異なる商品先物市場のポジションを組み合わせて販売される金融
商品であり、誤解を恐れず単純化して言えば、株式市場における投資信託の商品版である
といえる。1991 年に、大手投資銀行 Goldman Sachs が商品先物市場に対する一般の投資
家の関心を引くために開発・販売されたものが最初の商品インデクスであり、その後 2000
年代に商品市場に対する投資家の関心が集まるようになってからは、急速にその規模を拡
大している。
商品インデクスによる運用手法は進化を続けており、大きく第一世代(1991 年∼)、第
二世代(2007 年~)、第三世代(2010 年~)と分けることが出来る。第一世代のものは、
主に(1)で述べたロールオーバーを決められたタイミングで行うというものである。その代
表的な商品が Goldman Sachs Commodity Index(GSCI)であり、これは当時の Goldman
Sachs が、商品先物の中でもエネルギー商品の先物カーブは過去 20 年間バックワーデー
ションの構造であったことに着目し、エネルギーの先物を中心に、決められたタイミング
(主に月の第 5∼9 日目)
)でロールオーバー取引を行うというものであった。その後、こ
の GSCI はあまりにエネルギー先物に偏りすぎているということで、1998 年には、その
他のエネルギー以外の商品先物も組み込んだ Dow Jones –AIG Commodity Index が開発
され、
より商品の種目別という意味ではバランスの取れた商品も販売されるようになった。
この第一世代の商品インデクスは、
「指標性」を重視するあまり、その運用が厳格にルー
ル化されていた。このため、どのタイミングでどれだけのポジションがロールオーバーさ
れるかが事前に市場参加者に知られることとなったため、その裏をかく取引が行われるよ
うになった。特定の時期に特定の規模の期近物が売られ、期先物が買われることが分かっ
ているため、予めその期近物を売り、期先物を買うことで利ざやを稼ぐ取引者が現れたの
である。また、単純なロールオーバーはあくまで先物カーブがバックワーデーション構造
であるときに安定的に収益を上げられる構造になっていることから、2007 年の夏ごろから
243
WTI 原油の先物カーブがコンタンゴになると逆にロールオーバーを行うことで損失を被
るようになった。
このため、これらの問題を解決する第二世代の商品インデクスが開発されることになっ
た。この第二世代の商品インデクスの代表的なものが大手投資銀行の UBS が 2007 年に開
発した UBS Bloomberg CMCI である。この第二世代の商品インデクスが第一世代と異な
る点は、まず先物カーブの形状によって損益が左右される第一世代の欠点を是正するため
に、期近だけではなく期先のポジションも組み合わせたことである。これによって、先物
カーブの構造の変化(コンタンゴ⇔バックワーデーション)に応じて、期近物と期先物の
ポジションを柔軟に組み替えることによって先物カーブがどのような形態であっても、そ
のロールオーバーで利益が上げられるようになる。もう一つの第一世代との違いは、特定
のタイミングでロールオーバーを行うのではなく、常時ロールオーバーを行うようにした
点である。これによって、定期的なロールオーバーの裏を書いた取引による損失を予防で
きるだけでなく、常時ロールオーバーを行うことでロールオーバーに伴う価格変動を平準
化することができるというメリットがある。このように、第二世代の商品インデクスは、
第一世代の商品インデクスの抱える問題を予防する「問題予防型」の商品であったという
ことが出来よう。
これに対し、単純に問題を予防するだけでなく、より積極的に商品先物から利益を上げ
ようとする商品が現れるようになった。これがいわゆる第三世代の商品インデクスと呼ば
れるものであり、代表的なものとしては、2010 年に創設された United States Commodity
Index がある。これは第一世代や第二世代の商品インデクスが、その各種商品先物の構成
比率を安定的に維持していたのに対し、その構成比率をより頻繁に収益性が高いものに変
えていく点が大きな違いである。原油が上がりそうであれば原油の買い持ちポジションを
増やし、
銅が下がりそうであればそのポジションを減らすといった運用を日々行うことで、
より積極的に商品先物市場から利益を上げていこうとするものである。先物カーブの形状
で利益を上げていた第一世代、第二世代の商品インデクスとは異なり、商品価格そのもの
の水準で利益を上げようとするのが第三世代のインデクスの特徴である。
このように商品先物市場における運用手法は日々進化を続けており、今後も新たな収益
機会を狙った取引手法が開発されていくことが予想される。
7-3-6 その他の金融的要因と原油価格
上記の他にも、最近であれば欧州各国の財政(ソブリン)危機問題や市場に対する規制
動向も原油価格に影響を及ぼし得る広義の金融的要因ということができる。そのような諸
要因も含めた各要因と原油価格との関係について、表 7-2 に示す。
244
表 7-2
各金融的要因と油価変動との関係
金融的要因
価格上昇/下落
為替レート
ドル安→ドル以外の通貨で見た場合の原油の割安感の上昇→価格上昇
金融政策
米国での金融緩和→ドル安→価格上昇
米国での金融緩和→マネー供給増大→投資家のリスク許容度増大→価格上昇
株価
2008 年 9 月以前:株価と価格は負の相関関係
2008 年 9 月以降:株価と価格は正の相関関係 【図③参照】
通常は、株価上昇→景気の先行きが良好→将来の績需要の高まり→価格上昇とい
う経路が働くが、市場に資金が大量に供給されており、且つ株価が一定期間下落
を続けている局面においては、株式に代替する投資先(オルタナティブ投資先)
として商品先物市場に資金が振り向けられ、価格が上昇するケースもあり。
インフレ率
インフレ率上昇→インフレヘッジの必要性の高まり→商品価格の買い持ちの必
要性→価格上昇。 但し、インフレについてはマクロ経済へもたらす悪影響懸念
から売り材料とみなされることもある。
機関投資家の運用方
投資資金に占める相対的な商品価格の上昇→商品に対する投資額を減額→価格
法
下落
保有資産総額において特定のシェアを商品に投資する機関投資家が、定期
的に資産ポートフォリオのバランスを見直して(リバランス)調整を行うため。
ソブリン・リスク問
欧州などでのソブリン・リスクの上昇→欧州経済の低迷→ユーロ売りによるユー
題
ロ安・ドル高→価格下落
市場に対する規制動
狭義の金融的要因には該当しないものの、取引内容の透明化や、取引従事の際の
向
証拠金の積み増しなどの制度変更が実施される、ないしはその実施が予測される
場合には、資金が流出して価格が下落する場合もある。
(出所)日本エネルギー経済研究所作成
245
8.原油調達・石油精製の基礎知識
8-1 原油調達の基礎知識99
本節は、日本の石油会社が原油調達を行う際の一般的な実務手順について、原油購入契
約からタンカーによる原油の輸送、原油価格決定の仕組み、代金決済に至るまでの流れを
概説する。本節では、8 月積の中東原油を購入し、VLCC(積載量が約 150∼220 万バレル
の大型タンカー)で日本へ搬送するケースを例示しながら説明する(図 8-1)。
図 8-1
原油調達に関わる一般的な業務の流れ
【例:8 月積中東原油を VLCC(スポット用船)にて日本まで輸送する。】
業務項目
購
入
段
階
7月
8月
9月
生産計画 ・原油購入計画 の策定
購入数量 ・油種・時期 ターム/スポット原油購入契約 の締
結
の確定
Date Range(船積日)
の確定
積
取
段
階
業務スケジュール
6月
セラー(産油国・メジャー)へ
ノミネーション提示(7月10日迄)
セラーとの交渉・調整
Date Range(船積日 )の決定
出荷港での積荷役
タンカー の傭船・配船
購入原油の船積
タンカー配船計画の策
定
海上輸送(約20日間)
受入港での揚荷役
L/C 開設依頼
購入原油代金 の決済
原油代金の支払い
(積切後30日以内)
注:上図はターム契約・スポット契約に共通
出所:梶原(2001)「わが国石油会社における原油調達の仕組み」に加筆
8-1-1 原油購入段階
石油会社は、まず最適生産計画を策定し、現状の原油在庫のバランスを考慮しながら、
具体的な原油購入必要量、油種、購入時期といった原油購入計画を決定する。その原油購
入計画に必要な情報として、多くの石油会社は、線形計画(LP)モデルを用いて最適生産
パターンを算出している100。石油会社の原油購入担当部門は、この最適生産計画に基づい
99
本節は、梶原茂樹「わが国石油会社における原油調達の仕組み」(2001 年、(財)日本エネルギー経済
研究所)に基づいて、日本の石油会社による原油選択及び調達方法を整理する。
100 LP モデルに用いられる外生変数:①需要予測に基づく販売計画数量、販売価格及び物流・販売コス
ト、②精製装置能力及び精製コスト、③処理原油の供給可能数量、油種/性状及び購入コスト等。
246
て、中長期(1 年以上)及び短期(当月ごと)の具体的な原油購入計画を策定し、必要と
される処理原油を適切なタイミングで調達して、各製油所へ供給する役割を担っている。
これらの計画は、実勢の変化にあわせて逐次修正される。
原油購入計画を策定する段階においては、購入原油についての評価が必要となる。その
際、当該原油を処理した際に得られる各石油製品の比率(得率)、当該原油の購入コスト、
物理的に購入可能な数量等を検討材料として評価を行う。また、原油を処理して生産され
る石油製品の性状が品質規格を満たすよう、処理原油選択の段階で調整もしなければなら
ない。通常、LP モデルによる最適生産計画によって示された原油評価を前提として、国
際原油市場において物理的に購入可能な原油を対象にネットバック方式による経済性評価
を行い、購入する油種及び数量を決定する方式を用いる場合が多い101。しかし、この方法
では評価に表れない原油性状面での問題が存在することも考えられるため、処理原油の調
整を行う必要が生じる。具体的には、品質規格を外れる可能性がある原油に対して処理原
油中の混入比率制限を設定することで対応している。
このようにして策定された原油購入計画に基づいて、石油会社は、セラー(Seller)である
産油国もしくはメジャーと原油購入契約を締結する。この段階で、購入原油の数量、油種、
価格、購入時期等について、両者は合意に至る。8 月積中東原油を購入する場合、7 月初
旬までに購入内容について合意していなければならない。契約形態としては、ターム(期
間)契約とスポット契約があり、日本の石油企業が購入する原油のうち、平均で約 70%が
ターム契約、残り約 30%がスポット契約となっている。ターム契約には毎年1月起こしの
ものと 4 月起こしのものとがあるが、一般的な日本の石油会社が購入する中東産原油のタ
ーム契約は 4 月起しである。ターム契約は原則として一年契約で毎年更新されていくが、
その交渉は契約が切れる3∼4か月前くらいから開始される。その際、全体の引取量のみ
がそこで決められるが、各月の価格については個別の契約に基づいたフォーミュラに基づ
いて月ごとに決定される。
8-1-2 原油積取段階
原油購入契約が締結された後、タンカーによる原油積取業務が行われる。基本的に当業
務のサイクルは月単位ベースとしている。当段階を、(1) Date Range(船積日)の確定、
(2) タンカーの用船・配船、購入原油の積荷、(3) 購入原油代金の決済に分けて整理する。
(1) Date Rangeの確定
101
ネットバック価値をベースとした原油価格の設定方式。ネットバック価値とは、精製装置体系の製品
収率と製品価格による加重平均によって算出された総製品価値から精製コストと輸送コストを控除した
値で、原油を精製する際の経済性評価指標となる(JX 日鉱日石エネルギー「石油便覧」より)。
247
まず、石油会社は、セラー(産油国もしくはメジャー)に対して希望する Date Range
(船積日:2∼3 日間の幅で指定)及び利用するタンカーの船名を提示する。この Date
Range を設定する際、購入原油を受け入れる予定の原油貯蔵タンクの在庫レベルの推移、
及び、購入原油を搬送するタンカーの動静等を考慮し、受入地における最適な入港(荷揚)
タイミングを予め設定する。そして、中東∼日本間の輸送日数を逆算して、中東地域の原
油出荷港における希望船積タイミングが設定される。
また、同時に、積月前月の 10 日までにセラー側に、ノミネーション(購入原油の積取
数量、油種、希望船名)を提示する(本節の例では、7 月 10 日まで)。ただし、この提示
内容については、調整を要する。例えば、船積数量及び油種に関しては、利用するタンカ
ーの原油積載能力やカーゴタンク数によって変更しなければならない場合も生じる。また、
航海中に複数港へ入港する場合はそのローテーションをどうするかも調整しなければなら
ない。さらには、原油の積荷港によっては喫水や乾舷などの制約がある港もあるため、そ
のような制約要因も考慮しながら船積スケジュールが決定される。
一方、セラー側(産油国もしくはメジャー)は、毎月 10 日までに、石油会社から直接、
或いは、商社やトレーダーから間接的に、ノミネーションを受け取る。セラーは、各バイ
ヤーから提示された希望購入数量、油種、Date Range とセラーの原油生産計画をあわせ
て検討し、積月の原油出荷スケジュールを策定する。各バイヤーに対しては、積月前月の
15∼20 日頃に通知を行う。通知されるタイミングは産油国によって異なるが、サウジアラ
ビアの場合は毎月 20 日ごろに通知がなされる。もし、このセラーからの通知内容がバイ
ヤーの希望条件と一致しない場合は、合意に至るまでやり取り(リノミネーション:リノ
ミ)が繰り返し行われる。従って、セラーの事情に応じて、石油会社も船積数量や油種の
変更、Date Range の変更に伴う配船・用船計画の組み直しといった対応を迫られること
も考えられる。最終的な出荷スケジュールは、積月前月末までには確定している場合が多
い。
以上のことを本節のケースで示すと、8 月積原油の場合、バイヤーによって 7 月 10 日ま
でに提示されたノミネーションを受けて、セラーは 8 月の原油生産計画を行い、具体的な
原油出荷スケジュールを策定し、7 月 15∼20 日頃に各バイヤーへ通知することになる。
(2) タンカーの用船・配船、購入原油の船積
Date Range やノミネーションの提示に伴い、石油会社は、購入原油の輸送手段である
タンカーを希望した Date Range に合わせて原油出荷港へ配船する必要がある。石油会社
は、まず、自社所有船や長期契約船の利用を考えるが、もしそれらの船舶が他の航海に使
用中である場合や、出荷港における Date Range に間に合わない場合は、国際タンカース
ポット市場から適切なタンカーをスポット用船する。
248
(i)配船・船積に係る制約条件
タンカーの配船・船積計画を策定する際(原油積月の前月)には、出荷港・受入港にお
ける様々な制約条件や、出荷港における荷役作業時間や航海中の天候の影響も考慮して、
航海全体で可能な限り時間面・コスト面からロスの少ない計画を立てることが重要である。
各国の港湾設備には入港タンカーのサイズや船齢、積載数量等に関する制約が存在するた
め、場合によっては入港が認められなかったり、積/揚数量に制限が生じたりすることも
考えられる。従って、出荷港・受入港における制約条件に関して、利用するタンカーの適
合性を予め確認しておく必要がある。また ExxonMobil や BP などメジャーの権益原油を
積荷する場合には、これらのメジャーの安全検査をパスしたタンカーでなければ積荷がで
きないという制約もある。
中東から日本へ原油を輸送する航路上にはマラッカ海峡が制約ともなりうる。同海峡で
は、満載時の喫水の問題のため、通過できるのは 30 万載貨重量トン(DWT:主に船舶が
積載可能な貨物の重量を示す)クラスの VLCC までに限定され、30 万 DWT 以上の大型
VLCC や ULCC(積載量が約 220 万バレル超)は、ジャワ島の東に位置するロンボク海峡
(水深 30m 以上)を通過しなければならず、航海日数を約 2 日間加算しなければならな
いため、輸送コストがかさむことになる。
(ii)タンカーのスポット用船
スポット用船のタイミングは、原油船積開始の 3∼4 週間前となる。まず、タンカーの
ブローカーから提供されるスポット・タンカーのポジション・リスト(スポット船の動静
に関する情報)
を参考にして、
中東において船積予定日にタイミングの合う候補船を絞る。
この時、候補船の運航を管理する会社が良質であるか、輸送の安定性や積/揚荷役作業に
おける安全性に対して信頼できるかどうかを確認しなければならない。
候補船が決まると、次は、ブローカーを通じて候補船の所有者である船主と用船条件に
関して交渉を行う。契約条件は、積載数量、航路、Lay/Can(積開始日/契約解除日)、運
賃、滞船量等を含む。運賃は、タンカーの基準運賃として最も一般的に使用されているワ
ールド・スケール・レートに基づいて決定される 102。滞船料が発生した場合は、タンカー
運賃に加算される103。
102
英国(ロンドン)と米国(ニューヨーク)にあるワールドスケール協会が算定している指標。正式名
称は、「New Worldwide Tanker Nominal Freight Scale」。実際の運賃率は、ワールドスケール協会が公
表するフラット・レート(flat rate)という名目運賃率のパーセンテージによって表示される(例えば、WS70
はフラット・レートの 70%を意味する)。従って、タンカー運賃は、輸送される貨物の重量にフラット・
レート及びワールド・スケール・レートを乗じて算出される。
103 VLCC の停泊時間には、積/揚荷役作業のために通常 72 時間の許容時間が設定されているが、一航
海中の荷役作業および着桟待ち等に要した停泊時間の合計が受入側の都合でこの許容時間を超過した場
合には、この超過時間に相当する滞船料を船主へ支払わなければならない。
249
(3) 原油購入価格の決定と代金決済
購入原油の価格の決定方法として、
「市場連動型決定方式(マーケットリンク)」では、
産油国の原油輸出価格は、原油供給者が各市場の指標(マーカー)原油を設定し、その価
格に連動して原油価格が決定する。
サウジアラビアなどの産油国は、この指標原油価格に、
各市場動向に基づいて決定された調整金(毎月初めに発表)を付加して確定する。本節の
例では、8 月積の中東原油の場合、購入原油の大半について、価格がアジア向け中東原油
の価格マーカーであるドバイ原油及びオマーン原油の 8 月 1 ヶ月間のスポット価格を基準
にして決められるため、最終的に価格が確定するのは、8 月終了時点から 9 月初めのタイ
ミングとなる。
「市場連動型決定方式」と基本的には同じだが、船積み時点では価格が未定
で、後で価格が通知される「遡及型価格決定方式」
(アラブ首長国連邦などが採用)や、オ
マーン原油などのように積荷 2 か月前の先物価格を用いて積荷前に価格を確定させる方式
もある。
最終的な価格が確定すると、セラー(産油国及びメジャー)は、各バイヤーに対し購入
原油代金の請求書(インボイス)を作成して送付する。その請求書に記載された内容に従
って購入原油の決済を行う。通常、決済期限は積切日(B/L Date)後 30 日というケース
が多い。
8-2 石油精製の基礎知識
本節では、原油市場の動向を見ていく上で、参考となる石油精製プロセスの基礎知識に
ついて簡単に整理しておく。
8-2-1 石油バリューチェーンにおける石油精製
本報告書の主たる調査対象は原油価格の動向であるが、原油そのものを消費する需要家
は一部の例外を除いて殆どおらず、通常は原油から精製された石油製品が需要家によって
消費されることになる。石油のバリューチェーンは大きく分けて上流部門(upstream)と
下流部門(dodownstream)とに分けられるが、下流部門の中でもその中心的なプロセス
に当たるのがこの石油精製のプロセスである。原油価格との関連では、原油を直接消費す
る部門として、石油精製部門におけるマージン環境やその稼働状況も、原油価格に大きく
影響を及ぼす要因となる104。
104
例えば、2004 年の原油価格高騰時には米国内の精製部門のボトルネックが、ガソリン価格の上昇を介
して、米国の WTI 原油価格の上昇の一因になったといわれている。
250
図 8-2 石油のバリューチェーンにおける石油精製
探鉱開発
生産
輸送
精製
物流
販売
(出所)日本エネルギー経済研究所
8-2-2 石油精製のプロセス
ガソリンや軽油といった石油製品は原油を精製して製造されるが、石油製品は連産品で
あることに注意する必要がある。つまり原油を精製すると様々な石油製品が同時に生産さ
れるため、特定の石油製品だけを製造することはできない。この点がふつうの製造業とは
異なる点である。石油精製のプロセスを代表的な精製プロセスを図 8-3 に示すが、原油か
ら同時に多くの石油製品が製造されることがわかる。
251
図 8-3
石油精製のプロセス
(出所)石油連盟
(1) 常圧蒸留
原油は炭素と水素の化合物(炭化水素)の集合体であり、炭化水素は炭素と水素の数と
組み合わせにより数多く物質が存在する。炭化水素は炭素の数が増えていくと、当然のこ
とながら比重が高くなっていくため、液体から気体になる温度(沸点)が上昇していく。
原油には様々な沸点を持つ炭化水素が混在しており、沸点の差を利用して小さな分子(軽
い)の炭化水素から大きな分子(重い)の炭化水素まで分けることができます。これを蒸
留プロセスと言う。
252
図 8-4
常圧蒸留装置のイメージ
(出所)JX 日鉱日石エネルギー 石油便覧
蒸留には常圧蒸留と減圧蒸留の 2 通りの蒸留方法があり、石油精製の最初のプロセスが
大気圧下(常圧)での蒸留である。この蒸留装置は、常圧蒸留装置またはトッパーと呼ば
れており、一般に石油精製能力という場合には、この常圧蒸留装置の能力を指す場合が多
い。
製油所に揚荷された原油は、前処理(塩分の除去、他原油との調合、ミキシングによる
タンク内性状の均一化)が終わった後、加熱されて常圧蒸留装置に送られる。加熱された
原油の中で、分子構造の小さい(沸点が低い)炭化水素は気体になっており、常圧蒸留装
置は上部になるほど冷たくなっている構造となっており、沸点の低い炭化水素は上部の方
で、沸点の高い炭化水素は下の方で分留される。分留される区分は製油所の常圧蒸留等の
構造によるが、一般的には LPG(プロパン・ブタン)より軽い留分、ナフサ、灯油、軽油
と分けられ、分留されなかったものが常圧残油として常圧上流装置の底部から抜き出され
る。各留分の沸点範囲は、ガソリン(ナフサ)留分が 35∼180℃、灯油留分が 170∼250℃、
軽油留分が 240∼350℃、常圧残油(重油の一種)が 350℃以上となっている。
この段階で装置上部から抜き出された LPG より軽い留分は、LPG の分離装置でプロパ
ンとブタンに分留された後、それよりも軽い留分は、製油所内の自家発の燃料として用い
253
られる。また灯油留分と軽油留分については、後述する水素化脱硫と呼ばれるプロセスを
経て、最終製品として出荷される。
(2) 減圧蒸留
常圧残油を大気圧下で 350℃以上に温度を上げて蒸留しようとすると炭化してしまう。
このため、装置内の圧力を下げ、減圧状態にして常圧残油の沸点を下げて蒸留を行うこと
を減圧蒸留という。このような減圧蒸留を経て常圧残油は減圧軽油(重油の一種)と減圧
残油に分けられる。減圧軽油は脱硫されて分解されたり、重油の品質調整用として使用さ
れる。一般に発電用や産業用の重油は、この減圧残油や常圧残油、減圧軽油などを調合し
て生産される。
(3)分解
分解とは熱や触媒を用いて分子構造を分断し、重たい炭化水素を軽い炭化水素に変える
プロセスである。言い方を変えれば、大きな分子の炭化水素を小さな分子の炭化水素にす
ることで重たい油を軽くするプロセスである。別の言い方をすると、といっても良い。分
解には触媒を使わない熱分解、触媒を使った接触分解、水素を使った水素化分解といった
ものがある。
触媒を使わない熱分解の代表的なものがコーカー(コーキング)プロセスである。これ
は残油を一定時間加熱して比較的軽い炭化水素と石油コークスを生成するものである。加
熱炉を用いて一度加熱したものをコークスドラムにおいて分解するディレード・コーキン
グ法や、比較的穏やかな温度で分解するビスブレーキング法などの種類がある。後述する
接触分解法などに比べて装置の建設コストが安いというメリットがあるものの、産出され
る軽質油のオクタン価が低く、特有の悪臭があるなどといったデメリットもある。ガソリ
ンの消費が多い米国の製油所などで多く活用されている分解プロセス装置である。
254
図 8-5 ディレード・コーキング法
(出所)JX 日鉱日石エネルギー 石油便覧
基本的には加熱することで炭化水素を分解する熱分解法に対し、触媒を利用することで
分解を行う方法を接触分解法という。この分解法で最もポピュラーなのが流動床型接触分
解(FCC)法である(図 8-6)。この方法は主に減圧蒸留装置で生成された減圧軽油を原
料として用い、図中、右の下部から原料油を注入し反応塔の中で触媒と反応させることで
分解を行い、その分解された油を精留塔でさらに沸点に応じて分留する。この流動床式プ
ロセスの優れているところは、反応を続けているとその機能が低下する触媒を常時再生塔
において再生させることで分解機能を低下させることなく、処理を継続することが出来る
点にある。
図 8-6
流動床式接触分解法
(出所)JX 日鉱日石エネルギー 石油便覧
このプロセスを経て分留されたガソリン成分は FCC ガソリンとして、自動車用ガソリ
255
ンの主たる原料となる。一般的には原料として減圧軽油を用いるものが多いが、常圧残油
をそのまま用いることが出来るものもある105。また最近では、このプロセスで副生され
る LPG 留分の一つであるプロピレンの需要が高まっているため、最新の流動床式接触分
解装置では、このプロピレンの得率を 10%以上にまで高めることの出来るものも現れて
いる。
分解装置のもう一つの種類に水素化分解装置がある。これは重質油を高温・高圧の水素
の気流中で触媒を使用し、原料の油を分解するものである。分解を行うのと同時に、硫黄
分や窒素分の除去も行うことが出来るため、一度に高品質のガソリン、灯油、軽油といっ
た製品を多く生産することが出来る。熱分解や接触分解では分解しきれない重質成分がそ
れぞれコークス、タールという形で精製されるが、水素化分解の場合には原料投入に対し、
100%の軽質石油製品が得られる。その中でも特に、近年需給がタイトになりつつある軽
油を多く生産することができるのがこの水素分解装置の最大のメリットであると言ってよ
い。その反面、装置の建設コストや運転コストが熱分解や接触分解と比べて高いという難
点がある。
図 8-7
残油水素化分解
(出所)JX 日鉱日石エネルギー 石油便覧
水素化分解の原料は常圧残油ないしは減圧残油であり、原料油は装置の下部から、触媒
は装置の上部から投入され、反応炉内は高温高圧状態で水素、触媒、原料油の 3 者が沸騰
105
このような常圧残油をそのまま分解する FCC を RFCC と呼ぶ。
256
した状態で炉内を流動することで分解プロセスが進められる。その後、図中右上部の抜き
出し口で液体とガス、触媒が分離され、液体は精留塔に送られ、ナフサ、灯油、軽油流分
などに分留される。接触分解装置で生成されるナフサや軽油流分に比べて水素が添加され
た状態で分解されるので、炭素原子間での二重結合が少なくなり、軽油については着火性
の優れた(セタン価の高い)ものが精製される。
(4)改質
改質とは、高温・高圧の水素の気流中で触媒を使用し、常圧蒸留装置から生産された重
質のナフサを改質してオクタン価の高いガソリンの基材油を作るプロセスである。このガ
ソリン基材油はリフォーメート(改質)ナフサと呼ばれることがある。
改質には、大きく分けて、炭化水素の分子構造から水素を取り除くことで二重結合を増
やすことでオクタン価を改善する一般的な改質プロセスと、分子構造そのものを変えるこ
とでオクタン価を改善する異性化プロセスとがある。まず改質プロセスであるが、通常は
白金を原料とする触媒として利用し、一定の温度と圧力下において反応炉において脱水素
反応を起こさせる。この際、温度や圧力を上げるとよりオクタン価の高い芳香族炭化水素
が発生するが、その分副生ガスの発生も増加することで、ガソリン基材油自体の得率は低
下する。一方、温度や圧力を下げるとその反対に、精製される基材油のオクタン価や芳香
族の比率は低下するものの、基材油そのものの生産量は増加する。また温度や圧量を下げ
ることで触媒の寿命も増加する。このため、改質装置を運転する際には、製油所全体のガ
ソリン基材油のバランスや、副生される芳香族系炭化水素の需要・価格動向を見極めなが
ら運転条件を調整することが可能である。
一般的な改質装置は固定床式のもので、触媒の寿命が来たら一度プラントの稼働を止め
て触媒の再生(触媒表面のコークスの除去)を行う必要があるが、流動床式のものは、上
述の流動床式接触分解装置同様、一方では触媒を使った化学反応を行いつつも、他方では
触媒の再生を行うことで、触媒再生のためのプラント稼働の停止を回避し、プラントの稼
働率を上げることができる。
257
図 8-8 流動床式接触改質装置
(出所)JX 日鉱日石エネルギー 石油便覧
もう一つの異性化プロセスであるが、上述の接触改質装置が炭化水素から水素を取り除
くプロセスであるとすると、異性化は炭化水素における炭素分子の結合の仕方を直鎖型の
ものから分岐型のものへと変えることでオクタン価をあげるプロセスであるといえる。異
性化プロセスについても、改質同様、触媒を用いた化学反応によって実施する。
(5)脱硫
多くの場合、原油には硫黄が含まれているが、硫黄は燃焼すると亜硫酸ガスとなり大気
汚染の原因となるため、これを除去する必要がある。このプロセスを脱硫という。原油の
中でもインドネシアのミナス原油のような低硫黄原油はこのようなプロセスを経なくてよ
い分、一般的には価格が高くなる。
脱硫は水素を用いて硫黄化合物などを硫化水素に変えて除去する水素化精製プロセスが
一般的である。脱硫プロセスは、ナフサや、灯油、軽油、重油といった留分ごとに行われ
るが、プロセスは基本的には同様である。ただし、脱硫する原料油が重くなるにしたがっ
て硫黄分も多くなるため、その運転条件がより過酷なものとなる。特に重油にはナフサや
灯・軽油よりも脱硫されにくい成分が多く、また有機金属分も含まれているため、重油を
直接脱硫する場合には高温・高圧の運転条件となり、水素そのための消費量も多くなる。
このため装置の建設費や運転費も高くなる。これら燃料用途の石油製品以外に、潤滑油を
製造する過程でも水素化精製が行われている。一般的な軽質石油留分の脱硫プロセスを図
8-9 に示す。触媒の入った反応炉において、原料油と水素を反応させることで、硫黄分は
硫化水素となって除去され、さらに硫黄回収装置において純度の高い硫黄として回収され
る。
258
図 8-9
水素化脱硫装置
(出所)JX 日鉱日石エネルギー 石油便覧
なお脱硫の過程で発生した硫化水素は、薬剤等により純粋な硫黄として回収され、液体
ないしは固形で製品として出荷される。主な用途は化学肥料や化学製品の原料となる。
(6)その他の主な設備
製油所におけるその他の主な設備としては、まず製油所では精製プロセスで大量の水素
を使用するため水素を製造する装置がある。水素の原料は一般的には精製過程で副生する
ガス、LPG、ナフサなどであり、触媒を使ってこれら原料と水蒸気を反応させて水素を
製造する。これを水蒸気改質と呼ぶ。上記(4)で述べた改質プロセスにおいても、炭化
水素から水素が除去されるため、この水素を回収して製油所における脱硫や水素化分解の
プロセスに用いる場合もある。さらには、製油所によっては製油所近辺で採取される水か
ら水素を取り出す装置も設置されている場合がある。
以上の精製過程では最終製品になる前の幾つかの基材油が製造される。通常我々が消費
するガソリンや重油は、これらの基材油がブレンドされることで最終製品として製油所か
ら出荷される。このようなブレンドを行う方法としては、タンクブレンドとラインブレン
ドがある。タンクブレンドは、タンクに規定量の基材油や添加剤などを入れてタンクに設
置されているミキサーを回すことで行うもので、出荷はミキシング後、一定期間静置し、
そのタンク内部の製品が製品規格に適合したことを確認した後になされる。ラインブレン
ドは、数種類の材料油を配管内でブレンドし、配管内を乱流状態にして出荷する方法で、
ブレンドと同時に出荷が可能となる。この他には製油所から輸送するタンカーのハッチの
中でブレンドを行うハッチブレンドと呼ばれる手法もあり、タクシー向けの LPG などは、
プロパンとブタンを同一のハッチに積載し、航行中にブレンドをさせるという手法を用い
ることがある。
上記のような石油の精製プロセスを概説したが、、実際の製油所には数多くの装置があ
り、また精製過程での反応は非常に複雑なものとなる。このため、製油所の生産計画の場
259
面では、原油の品質や基材油の在庫状況、最終製品の出荷状況等をコンピューターに入力
して、最適化計算を何度も実施することで最も経済性の良い運転を実施することが心がけ
られている。
260
9.専門用語集
9-1 石油開発
日本語
英語
アップグレー
ディング
upgrading
説明
品質の悪い石油を品質の良い付加価値の高い石油に変え
る操作をいう。具体的には、(1) 石油精製において、残油
などの重質成分を分解して、中間三品などの付加価値の
高い製品にすること、 (2)オイルサンドから砂と分離され
たビチューメン などを 水素添加 などの方法 により 分解
し、窒素や重金属の除去などを行うことを指す。
アラビアン・ラ
Arabian Light crude oil
イト原油
サウジアラビアの代表的原油。生産量は約 500 万 B/D、
性状は中質高硫黄で、一時は OPEC のマーカー原油の役
割を果たした。
硫黄分
sulfur content
石油類に含まれる硫黄には遊離硫黄、硫化水素、メルカ
プタン、二硫化アルキル、各種の環状硫黄化合物などが
あり、これら硫黄の総量を硫黄分(全硫黄)と呼ぶ。硫
黄分の多い製品は、灯油では悪臭の原因に、重油では大
気汚染の原因となる。
一次回収
primary recovery
油層に対して外部から人工的なエネルギーを補給するこ
となく、油層のもつ自然のエネルギーのみによって坑底
に出てくる原油、ガスを採収すること。
integrated operation
石油産業は、石油の探鉱・開発・生産、すなわち石油開
発部門(上流部門あるいはアップストリーム)と精製・
輸送・販売(下流部門あるいはダウンストリーム)の 2 部
門に大別することができる。この 2 部門、すなわち石油
の開発から製品の輸送・販売までを一社で行っている場
合、これを一貫操業を行っているといい、そのような石
油会社を一貫操業石油会社(integrated oil company)と
いう。
single buoy mooring
海上においてタンカーを係留し、かつ積み揚げ荷役を行
うための施設でシー・バースの一方式である。鋼製円台
形の大型ブイを数本のアンカーで固定し、このブイの中
心に陸上の石油タンクからの海底パイプラインの末端が
接続されている。タンカーをこのブイに係留し、ブイを
中継として海底パイプラインと接続している浮沈式のホ
ースをタンカーの甲板上パイプラインに接続して荷役を
行う。
wet gas
天然ガスの主成分はパラフィン系炭化水素でメタンが最
も多いが、プロパン以上の高級炭化水素もある程度以上
含むと、常温常圧下で液体分を生じる。このようなガス
をウェットガスと呼ぶ。
liquefied natural gas
メタンを主成分とする天然ガスを、水分、硫黄化合物、
二酸化炭素などの不純物を除去した後、超低温に冷却、
液化したもの 。 LNG と略称 する 。 天然 ガス は約−
160 ℃で液化するが、液化すると気体の約 600 分の 1
の体積となり、輸送・貯蔵を行う上でのメリットがある。
一貫操業
一点係留ブイ
ウェットガス
液化天然ガス
261
エクイティ・オ
equity oil
イル
産 油 国政 府 の 石油 操業 会社 への 事 業参 加 が 始 ま っ た
1973 年 1 月以降よく使用されるようになった 用語で
あり、その石油利権のシェアに応じた取り分原油でシェ
ア・オイルとも呼ばれる。タックス・ペイド・コストす
なわち原価で得られる原油であり、事業参加により生じ
た産油国の取り分原油のうち産油国が石油操業会社に買
い戻させるバイバック・オイル(買い戻し原油)と対比
される用語である。
枝堀り
side tracking
今までに掘削した井戸の適当な深度から下の方を利用せ
ず、井戸をその深度のところから別の方向に向けて掘り
直すことをいう。地下では予期しないことが発生したり、
予想が外れることもある。例えば掘り管が切断されたり、
井戸が崩壊して掘り管がある深度から抑留されたり、ま
た井戸の中に遺棄されることもある。このような場合に
は、その遺棄されたものが邪魔になって先に掘り進むこ
とができない。またはケーシングが潰れてしまったり切
れたりして、先に進むことができないことも起こる。そ
のようなときリグを若干、移動して掘り直すには費用が
高くつくので、今までに掘削した井戸を少しでも生かし
て掘り直す方法が採用されることがしばしばある。これ
を枝掘りという。坑内のトラブルとは別に、ねらった深
度・方向に油・ガスがなかった場合、違う方向に向けて、
今までに掘った井戸の一部をそのまま利用して新しく掘
り直すこともこれに属する。
oil sand
高粘度の原油を含む砂岩層で、坑井によって容易にくみ
揚げることが可能な通常の原油と異なり、初期状態では
流動性のない高粘度のタール 状原油 を含む 砂岩層 のこ
と。その油の性状からタールサンドと呼ぶこともあり、
採取された原油は、粘性に応じてビチューメン、あるい
は超重質油と呼ばれる。カナダのアルバータ州で産出さ
れるものが有名。
オイルシェー
ル
oil shale
石油の根源物質とされるケロジェン(高分子の有機物)
を多量に含む細粒で、緻密な堆積岩の総称で、乾留によ
って油分を得ることができる。米国、ブラジル、中国等
に多く分布する。油頁岩(ゆけつがん)ともいう。
帯水層
aquifer
地層の分類の一種で利水可能な地下水が飽和している地
層。
operator
石油開発事業において操業を担当する会社。オペレータ
ーは、物理探鉱、掘削、設備建設等の技術検討や作業を
進める上で、各種の専門会社をサブコントラクターとし
て起用し、統率・管理を担う。事業計画(作業計画と予
算)は、オペレーターが原案を作成の上、パートナー会
議の合議制で決定し、産油国機関の承認を受ける。
回収率
recovery factor
累計生産量の原始埋蔵量に対する比率をいい、通常百分
率で表す。回収率は採収率とも呼ばれるが、油・ガス層
の排油機構によって左右されるとともに、採取方法によ
っても著しい影響を受ける。
開発移行宣言
declaration of development
石油開発において、鉱区取得後石油の有無を探査し、幸
いにも試掘に成功した場合、埋蔵量の推定、それに基づ
く開発計画の立案とプロジェクト採算性の評価を行い、
オイルサンド
オペレーター
(操業者)
262
開発へ移行する決定を行うことを開発移行宣言という。
宣言が行われるまでの期間を探鉱段階と呼び、それ以降
の油ガス田の建設を行うことにより、生産開始にこぎつ
けるまでを開発段階と呼ぶ。
確認埋蔵量
可採埋蔵量
ガス圧入法
ガス油比率
ガスリフト
カフジ油田
ガワール油田
proven reserves
地質的・工学的データに基づき、現在の経済条件及び操
業条件の下で、将来にわたり合理的な確実性をもって回
収 すること が可能 である原 油・天 然ガスの 数量
(estimated quantities)のこと。確認埋蔵量に分類され
るためには、市場及び経済性のある採取・処理・出荷手
段が既に存在するか、あるいは、近い将来に実現するこ
とが確実であることが条件となっており、石油・ガス業
界で用いられる埋蔵量の定義の中でも保守的な数値とし
て広く認識されている。米国証券取引委員会規則の定義
による確認埋蔵量は、既存の坑井及び施設を利用して回
収することができる確認開発埋蔵量(proved developed)
と将来掘削される坑井及び施設を利用して回収すること
ができる確認未開発埋蔵量(proved undeveloped)の二
つに区分されている。
recoverable reserves
埋蔵量は原始埋蔵量と可採埋蔵量とに大別される。可採
埋蔵量とは、油・ガス田を実際に開発している場合、適
切な技術・経済条件において、今後採収可能な油・ガス
の量を指す。
gas injection
油層内にガスを圧入して油層内の圧力の維持をはかり、
原油の採収率を向上させる方法で、通常、原油に付随し
て生産された天然ガスを用いる。この方法には採収され
たガスが利用できること、ガスは水よりも圧入性が良い
といった利点があるが、ガスの粘度が小さいため掃攻効
率は水攻法に劣る。
gas oil ratio
油・ガス生産において、ガスと油の産出量の容積比を呼
ぶ。単位は、ガス量及び油量を標準状態に換算する。こ
の比率は単に地表に生産されるガスと油との容積比であ
り、その値は生産の経過に伴って変化するが、その変化
のパターンは排油機構の型によって異なる。
gas lift
人工採油法の一つであり、高圧ガスをある深度において
坑井内に放出し、坑内液体の見かけの比重を軽くし、か
つガスの膨張上昇エネルギーによって液体を地上にくみ
上げる採油法。
Khafji oil field
サウジアラビア とクウェート との間 に設定 されていた
「中立地帯」(現在の分割地帯)のラスアル・カフジ沖合
約 40km 、アラビア湾陸棚(水深 30m )に位置する油
田。日本のアラビア石油 (株) によって 1960 年に発見
され、1961 年に生産が開始された。南に隣接するサファ
ニヤ油田の開発が進むにつれて、本油田とサファニヤ油
田とは一連のものであることが判明したため、両者を合
わせて「サファニヤ・カフジ油田」と呼ぶことがある。
Ghawar oil field
サウジアラビア東部、首都リヤドの東方約 200km 、ア
ラビア湾(ペルシャ湾)岸から約 80km 内陸の砂漠に位
置する世界最大の油田。アラムコ社(サウジアラムコの
前身)により 1948 年に発見され、1951 年に生産が開
始された。生産された油は、北隣のアブカイク油田の集
263
油基地に送られて処理され、「アラビアン・ライト原油」
としてラスタヌラ港から出荷される。
基礎設計作業
究極可採埋蔵
量
共同操業協定
掘削泥水
ケーシング
ケロジェン
限界油田
FEED(Front End
Engineering Design)
概念設計・FS の後に行われる基本設計 のことを意味し、
EPC(設計・調達・工事)の前のこの段階で、設計を通して
技術的課題や概略費用 などを 検討するのが 一般的 であ
る。
ultimate recoverable
reserves
地球上に存在し、究極的に回収可能と考えられる資源量
を指す。具体的には、油・ガス田を実際に開発している
場合、適切な技術・経済条件において、今後採収可能な
油・ガスの量に、その計算時点までの累計生産量を合わ
せたものを指す。
Joint Operating Agreement
(JOA)
石油、ガス、その他の鉱物の共同所有の鉱区(またはリ
ース)における作業の実施に関する二つ以上の共同鉱業
権所有者間の協定をいう。この協定の当事者は作業にか
かわる費用を負担し、生産物からの収益に対して持分を
有するという間柄にあるが、この協定はそのような当事
者間の権益の関係について取り決めるものではなく、当
該鉱区内 での操業の手段に関して取 り決めるものであ
る。通常、当事者の中からオペレーターを決めて、オペ
レーターとノン・オペレーターとの操業上の権利義務関
係を規定し、また計画の一部に不合意の当事者がある場
合のリスク条項の規定を含む。
drilling mud
掘削および改修作業中に、坑井内を循環する流体のこと
をいう。泥水の機能には、(1) 坑底やビットの周辺から掘
りくずを除去し、掘りくずを地上に上げる、(2) ビット、
ドリルを冷却し、潤滑性を与える、(3) 地下の圧力を抑え
ることにより、噴出を防止する、(4) 薄くて強じんな不浸
透性の泥壁を作る、(5) 循環を停止しても掘りくずが泥水
中を沈降しないように保持する、などがある。泥水は、
水をベースにしたものと、油をベースにしたものの 2 種
類に大別される。一般によく使用されるのは水をベース
とした泥水であり、水−ベントナイト懸濁液を主体とし
たものに、坑井条件に合うように、分散剤、加重剤、ポ
リマー類、塩類、潤滑剤などの調泥剤を加えて調整する。
casing
掘削の進行に伴って、掘られたままで地層が露出してい
る坑井(裸坑という)に内枠をつけることをケーシング
といい、近代削井方法では、ケーシング材料として丈夫
な鋼管(ケーシング・パイプ)が使用される
kerogen
堆積岩(たいせきがん)、特に泥質堆積物中に含まれる有機
溶媒に溶けない有機物。炭素、水素、窒素、硫黄などか
ら成る高分子化合物で、化学構造は不定。石油の有機成
因説において主要な石油炭化水素根源物質と見なされて
いる。
marginal field
海洋石油開発の進展に伴い広く用いられるようになった
用語であり、必ずしも明確な定義はないが、一般に、発
見された可採埋蔵量がそれほど大きくなく、開発の経済
的リスクが高い油田をマージナル(限界)油田と呼んで
いる。可採埋蔵量の大きさも基準があるわけではなく、
油田の置かれている自然環境条件、水深、油田の性質、
近隣における商業油田やパイプライン施設の有無、利権
264
契約の条件など多くの要素の影響を受ける。限界油田の
開発ではプラットフォームの建設のような初期投資の大
きい恒久的生産設備は経済的に引き合わないこと、また、
油田寿命も比較的短いことから、浮遊式生産システムの
ような移動可能なシステムが使われることが多い。
検層
logging
検層とは、掘削された坑井により交差した地層の物理的
特性、坑井あるいはケーシングの幾何学的特性(孔径、
方位・傾斜等)、油層の流れの挙動等を深度毎に記録した
ものである。測定結果は細長い紙に深度に対して記録さ
れ、これがログ(log)と呼ばれる
原始埋蔵量
initial in place
埋蔵量は、原始埋蔵量と可採埋蔵量とに大別される。原
始埋蔵量とは、生産開始以前に存在していた油層、ガス
層内の原油・ガスの総量を指す。
減退率
decline rate
油・ガス田の生産が継続されると、油層圧の低下又は水・
油比、ガス・油比の上昇などによって、個々の坑井ある
いは、油・ガス田全体の生産レートは漸次減退していく
割合を指す。
コア
core
様々な調査を目的として掘削中の坑井において地下の地
層から採取される円柱状の岩石サンプル。通常、コア掘
りにより採取される。
鉱区
acreage
鉱業権者がその権利によって鉱物の探鉱や採掘を行い得
る一定の土地の区域を指す。
孔隙率
porosity
孔隙率(こうげきりつ)は油・ガスを含む貯留岩の物理
的因子の一つであって、原油やガスの埋蔵量算定の要素
となる。孔隙率は岩石の孔隙容積と全容積の比率で表示
され、次の二つがある。(1) 絶対孔隙率:岩石中の連通の
ない孔隙を含めたもの。(2) 有効孔隙率:岩石中の連通の
ある孔隙のみを対象としたもの。原油やガスの生産面か
らは有効孔隙率が重要視され、普通石油鉱業でいう孔隙
率とはこれを指す。
抗井仕上げ
well completion
坑井の掘削終了後、石油・ガスを生産するために必要と
なる生産関連装置の設置作業を指す。
構造性ガス
原油の生産に伴って生産される随伴ガスではなく、ガス
structured (non-associated ) 井戸から気体のみの形で生産される天然ガス。非随伴ガ
gas
スともいう。埋蔵量および生産量ともに、非随伴ガスは
世界の天然ガス資源の大半を占めている。
高流動点原油
high pour point crude oil
原油をその流動点により分類したときに、流動点の特に
高い原油を高流動点原油という。インドネシアのミナス
原油、中国の大慶原油などがこれにあたる。
coal bed methane
石炭の生成過程で生じ、地下の石炭層(またはその近傍
の地層)中に貯留されたメタン。CBM と略される。従来、
炭鉱の坑道内に漏出し、爆発事故の原因の一つとして厄
介者扱いされてきたが、近年、一部の炭田地帯でボーリ
ングにより資源として採掘されている。すでに米国(ニ
ューメキシコ州、モンタナ州、ワイオミング州など)で
は、商業生産が行われ、非在来型ガスとしてタイトサン
ドガスに次いで、重要な位置を占めている。その他カナ
コールベッド
メタン
265
ダ(ブリティッシュ・コロンビア州)
、ロシア、中国、オ
ーストラリア、ウクライナ、インド、英国などで、実際
の採掘または採掘のためのスタディが実施されている。
国営石油会社
国内供給義務
national oil company
国が出資し、経営ないし管理する石油会社をいう。特に
1960 年の OPEC の創設と 70 年代に入ってからの産油国
における石油利権への事業参加の実現に伴い、開発途上
国における国営石油会社の設立が相次いだが、これらは
旧来の外国石油会社による石油開発利権並びに国内石油
製品市場の支配を排除して、石油資源に対する国家主権
を実現することが動機となっている。現実の独占の程度
は各国の政策思想と現実的条件とによってさまざまであ
る。
domestic marketing
obligation: DMO
世界のほとんどの国は石油の安定供給を確保するため、
自国内で生産された石油を国内需要充足に優先的に供給
することを義務付けており、この義務の履行は法制によ
る場合と政策によって行われる場合とがある。英国、パ
キスタンなどでは、法律でこれを定めている。石油輸出
国であっても 法律または外国石油会社 との 契約におい
て、国内需要量と国内生産量との関係で国内供給義務を
定めている。
コスト・オイル cost oil
石油生産会社、または産油国の国有石油会社が開発権の
保有者として生産コスト(操業費)、所得税、ロイヤルテ
ィを含む課税後原価(タックス・ペイド・コスト)で取
得する原油を意味する。産油国による石油事業の国有化
以前(1972 年以前)は、石油利権を持つ外国石油会社は
全生産原油をコスト・オイルとして取得していたが、現
在は、産油国の国営石油会社が開発権の一部または全部
を保有する形になっており、これらの国営会社の取得原
油は開発権を共有している外国石油会社に売り戻すか、
または直接市場 に産油国国営会社 によって 売り出 され
る。外国石油会社が契約に基づいてなんらかの開発利権
(探鉱・開発サービス契約や PS 契約に基づくものを含
む)の持分を保有している場合には、その持分に相当す
る生産原油がその石油会社にとってのコスト・オイルで
あり、産油国政府(国有石油会社)の持分に相当する原
油については、産油国にとってのコスト・オイルとなる。
根源岩
source rock
商業的採掘の対象となるような量の石油炭化水素を発生
する能力をもつ有機物に富む堆積岩で、暗灰色泥岩およ
び頁岩(けつがん)などの細粒砕屑岩(さいりゅうさい
せつがん)や炭酸塩岩がこれにあたる。堆積有機物のな
かでもその主体であるケロジェンが、特に重要な石油炭
化水素根源物質であるとされることから、炭化水素生成
のポテンシャル の高いケロジェン を 多量に 含む根源岩
で、既に熟成領域に達しているものが一般に良好な根源
岩といえる。
condensate
ガス田から液体分として採取される原油の一種で、地下
では気体状で存在しているが、地上で採取する際、凝縮
する液体(油)をコンデンセート油、または単にコンデ
ンセートと呼び、原油として、または化学原料として利
用される。コンデンセートを伴うガス田をガス・コンデ
ンセート田と呼ぶ
コンデンセー
ト
266
service company
サービス会社とは、実際に鉱区権益を取得したり、実際
の石油生産や販売行ったりするのではなく 、石油 の探
鉱・開発作業における特定の分野の専門的な技術を提供
する会社である。1990 年代の油価下落時に石油メジャー
各社は自社の技術開発部門の縮小を余儀なくされたが、
サービス会社はその間隙を縫って地道に開発を継続し、
現在では石油メジャーを上回る高度な技術を有する、世
界の上流開発事業においてなくてはならない不可欠な存
在となっている。具体的な例としては地層の検査作業を
行う Schlumberger (仏・米)や各種坑井作業に専門性
を持つ Halliburton(米国)などがいる。
service contract
産油国が自国地下資源に対する主権と地下資源開発に関
する排他的権利を留保しつつ、外国石油会社に石油資源
の探鉱、開発を請け負わせ、その対価として生産量ある
いは利益額に応じて報酬を与えるという形の石油探鉱・
開発契約。探鉱、開発に要する資金と、探鉱リスクは外
国石油会社が負担する。
sign bonus
石油・ガス開発権を与える契約において、特定の状況あ
るいは条件を満たした場合に、権利享受者から権利付与
者に支払うこととされている一時金。契約にその条件お
よび金額が明示される。
South Pars gas field
イラン全体の非随伴ガス埋蔵量の約 7 割を有するガス田
である。28 の段階(Phase)に分けて開発が推進されてお
り、2008 年 5 月、
フェーズ 13 の開発を計画していた Shell
と Repsol は、イランのウラン濃縮活動を巡る国際的な緊
張が高まる中で、この投資を当面見合わせることを決定
した。2008 年 7 月、フェーズ 11 の開発を行う予定であ
った Total も同様の意思決定をおこなった。その後 2009
年 6 月、中国の CNPC が、Total が開発を行う予定であ
ったフェーズ 11 の開発契約を NIOC との間で締結した。
またフェーズ 13 についても、2010 年 7 月に、IDRO、
NIDC、IOEC(いずれもイラン国営の会社)が開発契約
を受注しており、Total、Shell などは同ガス田の開発権益
を失った。
ザクム油田
Zakum oil field
アラブ首長国連邦 の首都アブダビの北西方約 80km の
アラビア湾(ペルシャ湾)陸棚(水深 12 ∼ 18m )に
位置する同国最大の油田。ADMA 社によって 1963 年に
発見され、1967 年に下部油層からの生産が、また 1982
年末に上部油層からの本格生産が開始された。下部油層
と上部油層とはあたかも別々の油田であるかのように別
個に開発されたことから、それぞれ下部ザクム(ロワー
ザクム)油田、上部ザクム(アッパーザクム)油田と呼
ばれることがある 。操業会社は、前者が ADMA-OPCO
社、後者が ZADCO 社である。生産された原油は、下部
油層からのものはダス島へ、下部油層からのものはジル
ク島へ、それぞれ海底パイプラインで送られ、処理・出
荷される。日本のジャパン石油開発(株)が上下両油田
に 12 %の権益を持つ。
サブマーシブ
ル・ポンプ
submersible pump
採油ポンプの代表的なものの一つで、小型の電動モータ
ー付き多段タービン・ポンプをチュービングの下端に設
サービス会社
サービス契約
サインボーナ
ス
サウスパルス
ガス田
267
置して採油する方法。汲み上げ能力が大きく、地上設備
も場所をとらないことから、海上油田での適用例が多い。
サモトロール
油田
サワーガス
Samotrol oil field
西シベリア低地オビ河中流の河畔で 1965 年に発見され
たソ連最大の油田。油層は白亜紀のメギオン層、ヴァル
トウスク層、アリムスク層に含まれる多数の砂岩層で、
深さは 1,610 ∼ 2,150m 。原油性状は、浅部の AV1 油
層で比重 27.3°API 、硫黄分 1.1 %、深部の BV 16 油層
で比重 36.9°API 、硫黄分 0.8 %。産油量は 1981 年の
約 3 百万 b/d をピークとして減退の傾向にあり、近年
産油量は公表されなくなった。
sour gas
天然ガス(随伴ガス、原油処理時に分離されるガス、オ
イルサンドの処理工程や石油精製工程発生するガスを含
む)のうち、硫黄化合物(多くの場合硫化水素 H2S)を
高濃度で含むもの。悪臭、強い毒性、腐食性を有する。
サワーガスは脱硫処理するのが普通だが、過去には焼却
処理されることもあった。サワーガスを扱う現場では、
厳重な保安対策が必要である。
サワー原油(高
sour crude oil
硫黄原油)
原油中に硫黄化合物が 1.0%以上含まれている原油をい
う。ほとんどの中東原油は高硫黄原油に分類されている。
3 次回収
tertiary recovery
油層から原油を採収する方法の分類には従来から一次、
二次、三次という、それぞれ物理的意味合いの異なる回
収法が適用される段階の時系列的表現が使われてきた。
三次回収法は、二次回収後に適用される回収法であり、
ケミカル攻法や熱攻法などがある。最近では、排油機構
や流体の置換機構に対する理解が深まり、油田開発時に
おいてどの原理の採取法をいつの時点で適用すれば総合
的な経済性の最も高い生産計画が得られるかが検討され
るようになっている。
3D seismic study
地震探鉱の 2 次元震探では、側線上の反射のみを受振す
るが、本来地層から届いた反射は四方八方に向いている
ため、3 次元震探では観測点を面的に密に配置すること
により、それらの反射を網羅することが出来る。これに
より、複雑な地質構造を立体的に把握することができる。
R/P
ある年の年末の埋蔵量(reserves:R)を、その年の年間
生産量(production:P)で除した数値を、その油田また
はその地域の可採年数または R/P という。その生産量
で、今後毎年生産していった場合、何年生産が継続でき
るかを示す指標で、石油開発業界ではしばしば使われる
用語である。
試掘
test drilling
石油の探鉱において、油層の存否並びにその位置および
広がりは、坑井を掘って油層に掘り当てないと認知でき
ない。まだ知られていない油層を探し当てるために坑井
を掘ることを試掘という。これにより新たに発見された
油層の広がりなどを確かめ、油層の全体像を把握するた
めの坑井掘削も探鉱のうちであり、このような目的の坑
井を探掘井といい、試掘井と探掘井とを総括して探鉱井
と呼ぶ。
シェールオイ
shale oil
孔隙率、浸透率の小さい貯留層から生産される石油「タ
3 次元震探
残存可採年数
268
ル
イトオイル」の一種。シェール(頁岩)から生産される
液体炭化水素であり、原油程度の比重をもつものもあれ
ば、LPG 程度の軽さのもの(NGL)も含まれる。
shale gas
泥岩の一種である頁岩の中に含まれる天然ガス。採掘が
困難とされ、放置されていたが、高圧の水で頁岩に亀裂
を入れて採取する技術(水圧破砕)などが確立され、2000
年代に入って北米で商業生産が本格化し、2010 年には米
国のガス生産量の 23%を占めるに至った。
resource nationalism
自国に存在する資源を自国で管理・開発しようという動
き。資源ナショナリズムは、資源保有国の天然資源に対
する権利を認めた国連宣言(1960 年代)に基づいている。
資源ナショナリズムの高まりは、その資源国に進出して
いる国際石油企業への課税強化、資源ホスト国の取り分
積み増しなどで、資源・エネルギー価格のさらなる上昇
を引き起こす要因となる危険性がある。
資源の呪い
resource curse
資源の豊富さに反比例して工業化や経済発展が遅れる現
象を指す経済用語 である。 豊富さの 逆説 (paradox of
plenty)ともいう。一般に資源を豊富に有する国家は、そ
の富を糧に経済活動を活発化させ、成長すると考えられ
ている。しかし、資源の豊富な国家が必ずしもそのよう
な結果に至っている訳ではなく、むしろ発展途上である
場合が多い。このような傾向に陥らないように、資源国
ではそれを回避する政策が取られている。例えば、カザ
フスタンでは国富ファンドを設立し、資源から得た富を
積極的に投資に回し資源に依存しない収入源としてい
る。
自主開発原油
self developed oil
わが国の資本により海外で開発された原油で、準国産原
油ともいう。
seismic study
人工的に起こした弾性波を利用して地下構造を調べる技
術で、物理探査の一つである。物理的性質の違う地層が
重なっていると、その境界面で弾性波は光と同じように
屈折・反射現象を起こす弾性波の入射角が屈折率との関
係で定まる臨界角になったとき、屈折波は地層境界面に
沿って伝播し、再び臨界角で射出する屈折波を出し続け
る。この現象を利用して地下構造を調べる方法を折法地
震探査という。一方、境界面で反射する波を利用するも
のを反射法地震探査という。
自噴
natural flowing
油・ガス田の生産の初期においては一般に地下の貯留層
の圧力が高く、この自然の圧力のみで油・ガスは地表に
噴出してくる。このような状態を自噴という。油・ガス
の生産が進むと貯留層の圧力が減退し、あるいは地層水
の産出が多くなり自噴の力は弱くなって、やがて自噴は
停止するので、ガス・リフト採油やポンプ採油などの人
工採油法を実施して、生産の回復を図る必要がある。自
噴期間の長さは貯留層の排油機構によって異なり、一般
的には、油膨張押し型で短く、ガス・キャップ押しや水
押し型では長い。
水攻法
water flooding
油層に水を圧入することで人工的に排油エネルギーを付
シェールガス
資源ナショナ
リズム
地震探鉱
269
与して生産レートを維持し、究極採収率を向上させる方
法をいう。この方法を適用する概念としては、(1) 一次採
取によりかなりの油が産出されたあと、油層内の孔隙中
に残留している油を水によって押し出すこと、(2) 原油の
産出に伴う油層圧降下を防ぎ油層圧力を維持すること、
の二つの考え方に分けられる。水攻法は前者の概念によ
り、枯渇油田からの生産を増加させる目的で適用され始
めたが、最近では、油層圧を沸点圧より高く維持し、生
産レートを高く保ちながら採収率向上を目指す後者の概
念で、生産開始後の比較的初期から適用されることが多
い。
蒸気圧入法
深海油田
水圧破砕攻法
浸透率
steam injection
油層に熱エネルギーを与えることにより、原油の粘度を
下げて採収率を増加させる方法の中で、地上で発生させ
た熱エネルギーを水蒸気の形で油層に圧入する方法を指
す。オイルサンド・オイル、重質油といった粘度の高い
原油の採収に適用されることが多い。
deepwater oil field
深海とは、海洋学では一般に 2000 メートル以深の所を指
すが、石油開発においては 200 メートル以深の油田を指
す。また石油価格の高騰が海洋油田開発に拍車を掛けて
いる。特にその中でも、ブラジルのリオデジャネイロか
ら南南東へ約 300 キロにある「プレサル」と呼ばれるも
のは、超深海にあり「超深海油田」と呼ばれる。
hydro-fracturing method
坑井内に高い圧力を加えて採収層に割れ目(フラクチャ
ー)を作り、その中に砂などの支持材を充填することに
よりその閉塞を防ぎ、採収層内に非常に浸透性の高いチ
ャンネル(油・ガスの通り道)を形成することによって、
生産性障害からの回復および低浸透率層の流動性改善を
図り、生産能力を向上させることを目的とした坑井刺激
法の一つである。水圧破砕法ともいう。割れ目は地上か
ら坑井内を通して高粘性流体を圧入することによって生
成されるが、地層内の垂直および水平方向の応力分布の
関係から、一般に深度がごく浅い所では水平方向に生成
されやすく、油・ガス層の多くが存在する深い深度では
垂直な割れ目が生成されやすい。フラクチャリングの効
果を高めるためには、圧入流体および割れ目を保持する
支持材の選定が極めて重要である。圧入流体は水ベース、
油ベース、エマルジョンの各種のタイプが用いられるが、
十分な割れ目を作りかつ支持材を運搬し得る大きな粘度
を持つことが必要であり、いろいろな薬品を混入するこ
とにより、所定の性状を作り出している。支持材として
は一般に砂が用いられるが、割れ目の閉そく圧に十分耐
える強度を持ち、その部分の浸透率を高く保つため、球
状かつ粒径がそろっていることが要求される。
permeability
岩石など多孔質物体の物理的性質の一つで多孔質物体内
における流体の流れやすさを表現する用語。通常、浸透
率といえばこの絶対浸透率を指すが、浸透率にはほかに
有効浸透率と相対浸透率と呼ばれるものがある。原油・
天然ガス貯留岩の孔隙内は地層水、原油、ガスなど多相
共存状態にあるが、このように多孔質物体内に 2 種類以
上の流体が存在して流動しているときに、それぞれの流
体に対する浸透率をその流体の有効浸透率といい、この
270
有効浸透率と絶対浸透率の比を相対浸透率と呼ぶ。
probable reserves
試掘井や探掘井、評価井の掘削により存在が確認された
資源量を確認埋蔵量と呼ぶが、その確認埋蔵の周辺に存
在が予測される資源量を推定埋蔵量と呼ぶ。
随伴ガス
associated gas
油田から原油に伴って生産されるガス。地下に存在する
原油にはガスが溶解しており、地上に汲み上げられて圧
力が下がると、その溶解ガスが遊離して油田ガスとして
生産される。
水平掘削
horizontal drilling
垂直に掘り始めた坑井を徐々に曲げていき、最終的に水
平になるまで傾斜させて掘削される坑井の掘削。
スウィート原
油(低硫黄原
油)
sweet oil
原油には硫黄化合物が含まれており、その硫黄化合物の
含有量が少ない原油を指す。一般には、その比率が 1%
を下回る原油を指す。
スタビライザ
ー
stabilizer
油田の生産施設を構成する装置の一つで、油井から流出
した流体をセパレーターにかけてガスを分離した液体分
のうち、特に蒸発しやすい軽質留分を取り除き、原油の
貯蔵安定性を増す装置。
生産井
production well
石油又はガスを採収するための坑井で、主な生産する流
体の種類により、油井、ガス井、ガス・コンデンセート
井に分けられる。
生産物分与契
約
production sharing
agreement
一社又は複数の石油・天然ガス開発会社がコントラクタ
ーとして、産油国政府や国営石油会社から探鉱・開発の
ための作業を自身のコスト負担で請負い、コストの回収
分及び報酬を生産物で受け取ることを内容とする契約で
ある。探鉱・開発作業の結果、石油・天然ガスの生産に
至った場合、コントラクターは負担した探鉱・開発コス
トを生産物 の一部より回収し、さらに 残余の生産物(原
油・ガス)については、一定の配分比率に応じて産油国又
は国営石油会社とコントラクターの間で配分する。
政府取り分
government take
産出された石油・ガスの価額のうちから産油国政府が受
け取る価額をいい、契約形態、税制などにかかわりなく
使われる言葉。
oil major
石油の採掘、輸送、精製、販売までの一環した事業を世
界で幅広く展開している国際石油会社のこと。エクソン、
モービル(両者は 1999 年合併)、テキサコ、スタンダード・
カリフォルニア(1984 年シェプロンに改名)、ガルフ(1984
年スタンダード・カリフォルニアに吸収合併)の米国系 5
社と BP(ブリティッシュ・ペトロリアム、現 BP アコモ)、
シェル(ロイヤル・ダッチ・シェル)の計 7 社を指して「セ
ブン・シスターズ」と呼ばれたこともあった。
anticline structure
褶曲(しゅうきょく)している地層の波状部の山にあた
る部分で、地表の露出部では背斜の中心部に向かうほど
層序的に下位の(または古い)地層が出ている背斜の垂
直的に最も高い点を背斜冠(crest)、両側の斜面に当たる
部分を背斜翼(wing)(背斜脚ということもある)、一方
の背斜翼から他方の背斜翼に移る部分を背斜頂(apex)、
推定埋蔵量
石油メジャー
背斜構造
271
背斜頂を通り、両側の翼を二等分する面を背斜軸面(axial
plane)、この面と個々の地層との交線を背斜軸(axis)と
いう。背斜に集油、集ガスが行われるという学説を背斜
説、背斜によって形成されるトラップは背斜トラップと
呼ばれる。
セブン・シスタ
seven sisters
ーズ
第二次大戦後、世界の石油市場において絶大な影響力を
有していた石油会社 7 社のこと。Exxon, Mobil, Texaco,
Socal, Gulf、Royal Dutch Shell、BP を指す用語として使
用された。
セメンチング
cementing
ケーシングの内部あるいは外側にセメントを放置するこ
と を い う 。 プ ラ イ マ リ ー ・ セ メ ン チ ン グ ( primary
cementing)はケーシングが降入されたすぐ後にその外側
の部分に施されるセメンチングをいう。
全酸価
total acid number
試料 1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水
酸化カリウムの mg 数のこと。TAN(Total Acid Number)
という単位を用いて表現される。
early production
本格的な生産が始まるまで、一時的に原油の生産を早期
に行うことを指す。生産プラットフォームの建設や海底
パイプラインの敷設などを行う必要がなく、初期投資額
が小さくなること、また開発の意思決定から生産開始ま
での期間の短縮化が可能となることから、プロジェクト
の経済性が高まる。
extended reach well
水平方向に遠くはなれた対象に向かって掘削することを
目的とした坑井。大偏距坑井は、一般に水平偏距と垂直
深度の比が 2 以上の坑井と定義される。英国のウイッ
チ・ファームを始めサハリンなどで 10 km を超える偏距
の大偏距坑井が既に何本か掘削されている。
sedimentary basin
ある期間沈降の傾向を持続し、その間にかなりの厚さの
堆積物が累積した地域。そこに発達する堆積物の種類、
量、規模、および堆積盆地のタイプ(外孤盆地、内孤盆
地、前縁タイプ、リフト型盆地など)などがその堆積盆
地の石油ポテンシャルを評価する際の基本的な要素とな
る。
tight oil
タイトオイルとは、孔隙率・浸透率が共に低い岩石から
の中・軽質油のことで現在大幅な増産が見られている。
埋蔵場所としては、米国北部モンタナ州とノースダコタ
州にまたがる Bakken, Three Forks 構造が有名である。
タイトサンド
ガス
tight sand gas
浸透率が低い砂岩に含まれる天然ガス。非在来型天然ガ
スの一種。タイトサンドとは浸透率が1md(ミリダルシ
ー)より低い砂岩を指す。そのため生産性が低く、また、
一般に地層深度が深いため、掘削費用がかさむなどの理
由により、従来商業生産が進まなかったが、米国政府が
80 年代から非在来ガスへの奨励策を始めたこともあり、
経済性が増し、特に 2000 年代に入ってから急速に商業化
が進んだ。
探鉱井
exploration well
石油・ガスを生産することを目的として掘られる採鉱井
あるいは開発井に対する用語で、油・ガス層の所在を探
早期生産
大偏距井
堆積盆地
タイトオイル
272
し、あるいは発見した油・ガス層の状況を調べることを
目的として掘られる坑井をいう。探鉱井は、新たな油・
ガス層を発見することを目的とする試掘井と、発見され
た油・ガス層の広がりやその諸特性の分布状況を知るこ
とを目的とする探掘井とに大別される
チュービング
超過利潤税
超重質油
貯留岩
貯留層シミュ
レーション
tubing
油・ガス層から油・ガスを地上まで導くために、プロダ
クション・ケーシング内に設置される小口径パイプ。パ
イプの材質としては、プラスチック、鋼鉄、ステンレス
鋼、ニッケル 合金鋼などがあり 、口径としては 3/4 ∼
51/2in までのものがある。同一口径チュービングでも数
種の強度(主としてチュービングの肉厚と材料の化学組
成による)のものが存在し、API により規格化されてい
る。
Windfall tax
一般的には、企業収益が適正利潤を超えたときにその超
過分を税収として吸収しようとして設けられるのが超過
利潤税であるが、原油生産者については、二度にわたる
石油危機に伴う原油価格高騰や、原油価格規制撤廃に伴
う価格上昇などにより、原油生産者にとって予定外の超
過利潤が発生したとして、それを税収として吸収するた
めに設けられている。原油に関する超過利潤税の形態は
各国で異なっている。
ultra heavy oil
超重質油の定義は国や機関によって一律ではないが、世
界石油会議 W PC(W orld Petroleum Congress)の定義
に従うと、API 比重が 10 度以下で、粘性が 10,000 セ
ンチポイズ(Cp)以下のものを超重質油、10,000 Cp 以
上のものを天然ビチューメンと呼んでいる。
reservoir rock
多孔質で浸透性のある岩石で、その孔隙が流体あるいは
気体によって満たされているもの。貯留岩になり得る多
孔質、浸透性の岩石は砂岩、炭酸塩岩が主であるが、わ
が国では火山砕屑岩(かざんさいさつがん)、火山岩の貯
留岩が知られており、また世界的にみると、まれではあ
るが深成岩、変成岩の貯留岩も知られている。
reservoir simulation
油層・ガス層をモデル化し、その生産挙動および生産・
圧入に伴う貯留層内の圧力、飽和率などの変化の様子を、
実験あるいは計算によって解析し予測する手法をいう。
油層シミュレーションを行うには、実際の油層・ガス層
と近似した油層モデルが用いられる。当初の油層モデル
は、多孔質媒体内の流体現象を別の物理現象で近似する
物理モデル(電気回路模型など)が中心であった。現在
では、デジタル・コンピューターの発達に伴い、現象を
数式化しその数値解を計算機により求める数値モデルが
主流となっている。すなわち、地質データ、コア試験デ
ータ、坑底試料分析データ(PVT データ)など必要なデ
ータを入力することにより、油層をモデル化できるさま
ざまな汎用プログラム(シミュレーター)が開発されて
いる。
テイク・オア・
take or pay
ペイ
LNG 契約における引取下限数量を定めた条項。テイク・
オア・ペイ条項とは、LNG 買主による 引き取り数量が
LNG 契約書中 に規定する数量に買主固有の理由で不足
273
した場合、LNG 買主は実際には LNG を引き取らないも
のの、その分の品物代を金銭にて支払わなければならな
いとする規定である。LNG におけるテイク・オア・ペイ
の商慣行は、初期投資が大きく転売等が困難な LNG 売
買における事情を鑑み、LNG プロジェクトを確実に立ち
上げ・維持していくために取り入れられている。なお、
テイク・オア・ペイ条項に抵触する数量は、年間契約数
量から下方削減許容量(DQT)を差し引いた数量とする
のが一般的とされる。
mud logging
ビットで掘削され、泥水によって地表に回収された地層
の掘りくず(カッティング)を調査・分析して得た情報
を記録することである。
データレビュ
ー
data review
鉱区取得を検討している石油会社が、対象鉱区の石油埋
蔵ポテンシャルについて、産油国政府や権益保有者が提
供するデータを基に行う事前調査のこと。ここでは地質
ポテンシャルの検討に加え、事業リスクの評価、さらに
は探鉱・開発・生産という各作業から石油販売にいたる
全体計画を想定し、経済性評価を行う。その結果、事業
性ありと判断され、相手方の同意が得られれば、直接交
渉や入札などのアプローチに進み、鉱区契約の条件交渉
がスタートすることになる。
デューデリジ
ェンス
due diligence
上流資産の取引に際して、投資対象となる資産の価値・
収益力・リスクなどを経営・財務・法務・環境などの観
点から詳細に調査・分析すること。
natural gas liquid
天然ガス液と訳されるが、コンデンセートあるいは天然
ガソリンとも称される。一般に天然ガス系のものをいう
が、油田系を含めて NGL と総称する。天然ガスには常
温・常圧下で液体である炭化水素を含むことが多く、こ
れをセパレータ でガスと液体に分離 した液体が一般に
NGL と称せられ、C 3∼C 8 炭化水素の混合物からなる。
油田系 NGL は油井からの随伴ガス(油田ガス)からガス
分を分離した残りの液体分であり、性状は軽質ナフサと
ほぼ同等である。
独立系石油会
社
independent oil company
国際大手石油会社(メジャー)以外の石油会社を総称す
る用語として使われてきた。1920 年代に米国でこの用語
が広く使われ始めた頃には、大手石油会社の支配から独
立して事業を営む石油会社の意味で用いられた。その後
「国際石油カルテル」による 8 社寡占体制が確立されて
から、前述のような用語法が定着した。一般的には、米
国の上位 50 位圏内の中堅一貫操業石油会社を指すこと
が多い。例えば、Occidental、Hess、Devon などである。
近年、これらのなかで、事業の規模がメジャーの域に達
しているものについては、特にセミ・メジャーあるいは
マイナー・メジャーなどの呼び方がされる一方、より下
位の十分な一貫操業体制にないものについては、単に中
小開発会社、あるいは中小精製業者と呼ぶことも多い。
したがって、確定した概念規定があるわけでなく、
「通称」
にとどまる。
ドライガス
dry gas
天然ガスの中でもメタンが多く、液体分を生じないガス。
泥水検層
天然ガス液
(NGL)
274
トラップ構造
二次回収
2 次元震探
ノースフィー
ルドガス田
trap structure
元来は罠という意味であるが、石油地質学においては、
多孔質、浸透性のある岩石中を移動してきた石油・天然
ガスを集積し、貯留させるような、石油・天然ガスの上
方移動を妨げる地質条件のある場所をいう。
secondary recovery
油層およびそれを含む貯留岩中の流体が元来保有する自
然の排油エネルギーを利用した一次採収法による生産が
減退した後、水や天然ガスを油層に圧入することにより、
人工的に排油エネルギーを与え、採収率の増加を図る方
法。二次採取法は生産が進み、油層圧力が低下した状態
において水を圧入し、油層圧力を回復させるとともに油
の産出量を増加させる水攻法(water flood)と、生産開
始時から、または開始後の比較的早い段階に流体を圧入
し始め、油層圧を高く維持しながら生産レートも高く保
つ こ と を 目 的 に し た 油 層 圧 維 持 法 ( pressure
maintenance)とに分けられる。後者の場合の圧入流体と
して水や天然ガスが使われる。
2D seismic study
地震探鉱で、地表あるいは海上で人工的に発生させた地
震波を地球内部に伝播させ、地下の地層境界や岩相境界
から反射してくる様子を記録する方法。設定した側線に
沿って地質断面図が得られ、地下の地質構造が把握でき
る。
North Field gas field
カタール(カタール半島)北部沖合のアラビア湾(ペル
シャ湾)陸棚に位置する世界屈指の大ガス田。1971 年に
シェル社によって発見された。長年手つかずのままだっ
たが、1988 年に開発が始まり、国内需要(工業育成およ
びドゥハン油田油層へのガス圧入)ならびに液化天然ガ
ス輸出用として生産が行われている。カタール半島北端
のラスラファンには、液化天然ガス・プラントがあり、
1997 年に日本向け LNG(液化天然ガス)輸出が開始さ
れた。ノースドーム・ガス田ともいう。
ノン・オペレー
ター(非操業
non operator
者)
石油・ガスの探鉱・開発に関する石油契約において、契
約当事者が複数の場合、当事者間で共同操業協定を締結
し、作業遂行に必要となるすべての事項について合意し
ておく必要がある。その際、実際の石油作業を実施・管
理する当事者をオペレーター(operator)、オペレーター
以外の当事者をノン・オペレーターと呼ぶ。
排油機構
drive mechanism
石油が地表に生産される過程は、石油が油層内を流動し
て坑井に排出される過程(排油)と、坑井内を流れ地表
に達する過程(リフティング)の二つに分けて考えるこ
とができる。このうち前者にあたる油層内において油を
坑井に向かって持続的に流動させる仕組みを排油機構と
いう。
abandonment
井戸が衰退して、これ以上商業的に採取できなくなった
とき、あるいは何かのトラブルで井戸が破壊され改修で
きなくなったときに、その井戸を廃棄することをいう。
また試掘井の場合はたとえ石油、ガスなどがあっても、
その井戸は廃坑されることがある。廃坑するには何段階
かの作業があるが、まず初めにケーシング・パイプを井
戸からできるだけ回収する。廃坑作業は極めて重要な作
廃坑
275
業であるので、多くの国では廃坑するにあたって関係機
関などの認可を必要とし、その方法についてもいろいろ
な基準を定めている。
exclusive economic zone
排他的経済水域は、領海の外側に領海の基線から測って
200 海里までの距離内に設定される水域である。沿岸国
は、排他的経済水域において、(1) 上部水域、海底および
その下の生物・非生物資源の探査、開発、保存および管
理のための主権的権利、並びにこの水域の経済的な探査
と開発のための他の活動に関する主権的権利、(2) 人工
島、設備および構築物の設置と利用、海洋の科学的調査
並びに海洋環境の保護と保全について条約で定める管轄
権、(3) 条約に定める他の権利、を行使する。
buy back contract
サービス契約の一種で、石油会社は探鉱・開発作業を行
い、生産開始後の一定期間で、投下資本、金利、報酬見
合いの金額(実際には等価の原油)を受け取る権利を持
つ契約。
ハバート・カー
ブ
Hubbert curve
M.K.ハバート(M. King Hubbert)が 1956 年 3 月 8 日に
米国石油学会で発表した論文上の予測モデルの中に現れ
ている曲線。このモデルでは米国のアラスカ・ハワイを
除く 48 州の石油生産量が 1966 年と 1971 年の間頂点を
達し、そしてそれ以降止むを得ず減少に転じるとされて
いた。1956 年当時米国は世界一の石油生産国であり、そ
の結論に対してほとんどの専門家や石油会社が極めて否
定的であったが、ハバートの予測通り米国の石油生産量
は 1971 年にピークを迎えた。後にハバート・ピーク理論
と呼ばれたこのモデルとそれに関連した多くの変化形モ
デルは、いわゆるピークオイル理論を説明する際に多く
用いられている。
ピークオイル
論
peak oil theory
歴史的な油価高騰や上流投資面での制約要因が顕在化す
る中で、近いうちに世界の石油生産がピークを迎えるの
ではないかとする理論。
ピーク生産
peak production
埋蔵量に基づく将来の生産予測は、プロジェクトの経済
性を評価する重要なファクターであり、生産開始からピ
ーク生産に達するまでの立ち上がり期間、生産が最大と
なるピーク生産期間、及び、減退を迎える減退期間の3
期間に分けて検討される。
非在来型石油
unconventional oil
従来からの石油資源以外から生産される石油の総称。非
在来型石油の代表的なものとして、オイルサンド油、オ
リノコヘビーオイル、オイルシェール油がある。
unconventional natural gas
通常の油田・ガス田以外から生産される天然ガス。すで
に一部では商業生産が行われているもの(タイトサンド
ガス、炭層メタン、バイオマスガス、シェールガス)お
よび今後商業生産が期されるもの(メタンハイドレート、
地球深層ガスなど)を含む。
bitumen
ビチューメン(瀝青)あるいはアスファルトという言葉
は、国により異なった意味に用いられる。英国、ドイツ
では、道路舗装に使用する涯青(れきせい)物質をビチ
ューメンと称し、米国等ではアスファルトという。瀝青
排他的経済水
域
バイバック契
約
非在来型天然
ガス
ビチューメン
276
の定義は、天然または人工の如何を問わず、二硫化炭素
に完全に溶解する炭化水素およびその誘導体より成る、
気体、液体、固体の有機物質の総称。
ビット
bit
坑井掘削において坑底部で岩石を破壊するための坑内機
器。ドリル・ストリングの先端に取り付けて、回転と荷
重をかけることによって岩石を破壊する。
評価井
appraisal well
既に石油・ガスが発見された地質構造における油・ガス
層の広がりや油・ガス層の諸特性を確認するために掘ら
れる坑井。
ファームアウ
ト
farm-out
石油、天然ガスの探鉱・開発権を有するものが、その権
利の一部(ときには全部)を普通、坑井掘削など特定の
義務の遂行を前提条件として、共同操業者以外のものに
譲渡することをいう。
ファームイン
farm-in
ファームアウトに応じて、権益を譲り受けること。
force majeure
当事者の一切の注意や防止努力にもかかわらず、外部か
ら発生して当事者の義務遂行を阻害する事実。このよう
な事態により義務が遂行できなかった場合は、義務不緩
行の責任を免れると解される。契約には一般にこのこと
を明示した不可抗力条項が書き込まれる。石油利権契約
のような重要な契約には何が不可抗力であるかを列記す
るのが普通である。
geophysical exploration
地球の内部構造 あるいは 地下資源を 直接触 れることな
く、それらの物理的な性質を手がかりとして間接的に探
鉱する技術の総称で、石油鉱業だけでなく、金属鉱山、
土木建築、地震工学、地球惑星物理などの分野で利用さ
れている。掘削作業など対象物に直接触れて計測する場
合の費用に比べ、安価で広域を調査することができる。
石油鉱業では地震探査、重力探査、磁気探鉱が主として
用いられているが、坑井内検層、遠隔探知(リモートセ
ンシング)も物理探鉱の分野に入れられる。
フラクチャー
fracture
原油・天然ガスは貯留岩の孔隙内に存在するが、砂岩層
の砂粒間の孔隙とは異なり、岩体の割れ目をなしている
孔隙部分をフラクチャーという。このフラクチャーは浸
透率が特に良い部分で、天然に貯留岩内に存在する場合
もあれば、坑井近傍の浸透率を増大させるため坑井刺激
法により人工的に発生させる場合もある。フラクチャー
が原油・天然ガスの主な貯留部分であったり、流体の主
な流路となっている油層(ガス層)は天然フラクチャー
油層(ガス層)と呼ばれ、貯留岩内の流体の産出挙動が
特異なため、通常の油層(ガス層)と区別する。
プラットフォ
ーム
platform
海洋において生産もしくは掘削および生産の両方の作業
を実施するための土台となる海洋構造物類を海洋プラッ
トフォームと称する。
Burgan oil field
クウェートの首都クウェート市のすぐ南に位置する同国
最大、世界でも屈指の大油田。KOC 社(当時)により
1938 年に発見され、1946 年に生産が開始された。現在
の操業会社は、国営油会社 KPC の上流部門である KOC
不可抗力
物理探鉱
ブルガン油田
277
社。原油性状は、比重 31.5°API、硫黄分 2 %。
フレアガス
プレイ
プレソルト油
田
プロスペクト
プロフィット
オイル
米国石油協会
(API)
flare gas
集油所、原油生産施設、ガス処理施設、天然ガス液化・
貯蔵基地、製油所などで、製品として出荷するか自家燃
料として使用する以外の余剰ガスを指す。原油、ガスの
生産操業で発生した余剰ガスまたは廃ガスは、そのまま
大気中に放散すると危険であり、特に硫化水素のような
有毒ガスを含むこともあるので、生産・処理施設から十
分安全な距離に設置したフレア・スタックに導き、焼却
処理する。通常は、燃焼ガスが大気中に十分拡散するよ
うに、高い塔を設置する。
geological play
地質用語で、単に同一地域(例えばメキシコ湾)にある
複数の構造を地質学的年代、構造形態、堆積環境などで
ひとまとめにした地質層準(例えばジュラ層)でさすこ
とがある。また、事業の熟度を示すために段階的に幾つ
かに区分けした場合、データが十分に得られてない地質
構造を指すこともある。その中でも特に play は、地質評
価の初期段階にあり、油が胚胎しているかどうかも分か
らない状態(high risk)を指す。
pre-salt oil field
ブラジルに存在する岩塩層下の油田を指し、2011 年に大
きな埋蔵量が確信されている。ペトロブラスは1月、サ
ントス海盆のカリオカ・ノルデステ油田で、API 比重が
26 度以上の軽質油油田の埋蔵を確認し、7月には 3 社連
合(ペトロブラス/レプソル・シノペック/スタットオイル)
が、リオ州北部カンポス沖(リオの海岸から 190 キロ沖
合いで海底 2708 メートル)のプレソルト油田における最
大規模の良質な油田の発見がなされた。石油埋蔵量は今
回掘削された 6 油田で合計 35 億バレルと推測されてい
る。
prospect
石油・ガスに関する数多くの契約で使われる用語で、文
脈によって定義の広狭がある。一般には、地下に石油・
ガス貯留の可能性が見込まれ、試掘の対象となりうる地
質的は構造あるいはそうした有望構造が賦存すると見ら
れる地域をプロスペクトと呼ぶ場合が多い。あるいは動
詞として使われる場合は、そうした有望構造を探鉱する
意味で用いられる。
profit oil
生産物分与契約では、探鉱の結果、商業規模の石油の発
見があった場合、生産物から現物で投下資金を回収する
が、通常、実費相当分はコスト原油として先取りするこ
とができ、コスト回収後の原油を産油国と外国石油会社
間で分けあう。プロフィットオイルとは、このコスト回
収後の原油を指す。
American Petroleum
Institute
米国石油産業 の共通の権益を促進することを 目的 とし
1919 年に設立された米国の中心的な石油業界団体であ
り、その研究成果、各種の作業規準、工業規格はいまや
世界的な影響力を持っている。米国、カナダ、メキシコ
の主要石油会社約 300 社の法人会員、7,000 人の個人会
員を擁し、その本拠をワシントンに置いている。その主
な活動は (1) 各種規格・規準の設定普及、(2) 石油技術
の研究・開発、(3) 石油事業に関する国家的関心事項に対
278
する政府との協力、(4) 各種情報 サービス、(5) 保健衛
生・環境保全・保安対策、などと多岐にわたっている。
United States Geological
Survey(USGS)
アメリカ合衆国内務省傘下の研究機関。本部はバージニ
ア州レストン (Reston) 。研究部門は生物学・地質学・
地理学・水文学の 4 部門に分かれている。アメリカ領内
を中心に全世界において、緑化や天然資源などを調査し
ており、地形図・地質図の製作や地震・火山の観測を行
っている。
頁岩
shale
剥離性(はくりせい)の顕著な泥質砕屑岩(でいしつさ
いせつがん)。剥離面は一般に葉理および層理面に平行に
発達する。組成的には、主として粘土鉱物から成る粘土
岩ないしシルト径の砕屑粒子を主体とするシルト岩に対
応するが、頁岩の大部分はシルト岩質である。石油ガス
を精製する根源がんとなることがある。
ボイルオフガ
ス
boil-off gas
低温 LP ガスや LNG のような低温液体を輸送・貯蔵す
る場合に、外部からの自然入熱などにより気化するガス。
帽岩
cap rock
石油鉱床において、油層またはガス層の上を覆って石油
の上方への移動を阻止している不浸透性の岩石。泥岩、
頁岩(けつがん)、緻密な石灰岩の類が普通であるが、岩
塩、硬石膏(こうせっこう)、ベントナイト質凝灰岩など
のこともある。
暴噴予防装置
boil off preventer(BOP)
坑井掘削中または坑井仕上げ作業中に、暴噴の兆候があ
ったときに、坑井を密閉し噴出防止作業を行うために、
坑口の上に取り付ける装置。
ホテリング理
論
Hotelling theory
ハロルド・ホテリングが 1931 年に発表した枯渇性資源の
供給理論で、当初は注目されなかったが、オイルショッ
クの時代に一躍脚光を浴びる事となった。今では「資源
経済学の祖」とも呼ばれている。ホテリング理論は、枯
渇性資源の生産者の挙動を理論化するもので、
「枯渇性資
源の価格は利子率と共に上昇する」というのが、理論の
骨子である。
埋蔵量置換率
reserves replacement ratio
(RRR)
一般投資家が、石油やガスの開発及び生産会社の業績を
評価するために用いる単位の一つであり、年間に自社の
埋蔵率の何パーセント を新たに追加 できたかを示 す指
標。
マコンド油田
Macondo oil field
2010年 4 月に発生したメキシコ湾岸原油流出事故の油田
として有名になった。メキシコ湾ルイジアナ州南東 52 マ
イル沖合いにあり、BP が利権を保有し操業していた。
水飽和率
water saturation
水飽和率は岩石中の孔隙容積を 1 とした場合、その中に
含まれる地層水の量を比率で表したものである。空隙の
残りの容積(1 −水飽和率)は石油・ガスで充填されて
いると想定されている。
無機成因説
無機成因説は、惑星が誕生する際には必ず大量の炭化水
Theory of inorganic origin of 素が含まれ、炭化水素は地球の内核で放射線の作用によ
petroleum
り発生する。この炭化水素が惑星内部の高圧・高熱を受
けて変質することで石油が生まれ、炭化水素は岩石より
米国地質調査
所
279
も軽いので地上を目指して浮上してくるというものであ
る。その根拠としては「石油の分布が生物の分布と明ら
かに異なる」
「化石燃料では考えられないほどの超深度か
ら原油がみつかる」
「石油の組成が多くの地域でおおむね
同一である」
「ヘリウム、ウラン、水銀、ガリウム、ゲル
マニウムなど、生物起源では説明できない成分が含まれ
ている」などが挙げられる。
methane hydrate
天然ガスの成分であるメタンが水と結合し、水和物とな
ってできたシャーベット状の個体結晶で、日本周辺でも、
三重県沖から静岡県沖にまたがる広範な海域や新潟県の
沖合において、水深 800∼1,000m の深い海底の地下にか
なりの賦存量が確認されている。メタンハイドレートの
開発に関する研究推進体制としては、経済産業省(資源
エネルギー庁)の検討委員会が策定した基本計画に基づ
き結成された「メタンハイドレート資源開発研究コンソ
ーシアム」によって、国の機関を中心に研究(フェーズ
Ⅰ)が進められている。
モンテカルロ
法
Monte Carlo simulation
自然的・経済的現象の予測を行うにあたり、当該現象の
モデルを作り、そのなかの変数にあり得るべき値を与え
て結果を導き出す手法をシミュレーションという。モン
テカルロ・シミュレーションは、モデルのなかに、実数
値が確率的に分布する変数が含まれているときに用いら
れるシミュレーション手法であって、その特徴は、乱数
をピックアップするという試行を繰り返すことによって
確率的事象をシミュレートするという点にある。
有機成因説
石油・天然ガスの精製に係る主流の学説。百万年以上の
長期間にわたって厚い土砂の堆積層に埋没した生物遺骸
が高温と高圧によって油母 (kerogen) という物質に変
わり、次いで液体やガスの炭化水素へと変化する。これ
らは岩盤内の隙間を移動し、貯留層と呼ばれる多孔質岩
石に捕捉されて、油田を形成する。この由来から、石炭
Theory of organic petroleum とともに化石燃料とも呼ばれる。有機成因論の根拠とし
origination
て石油中に含まれるバイオマーカーの存在がある。 葉緑
素に由来するポルフィリンや、コレステロールに由来す
るステラン、あるいは、酵素の関与しない化学反応では
生成が困難な光学活性をもつ有機化合物などが石油に含
まれるバイオマーカーとして知られている。これら石油
の大部分は油母の熱分解によって生成していると考えら
れている。
メタンハイド
レート
油層圧
reservoir pressure
油層内の流体の持つ圧力。油層圧は坑井生産能力や採収
率と密接な関係にあるため、油・ガス田の開発移行決定
時の油層評価においても、生産開始後の油層管理におい
ても特に重要な要因である。一般に、ある油層から油・
ガスの生産を行うと油層圧は徐々に低下していく。その
程度は次の要素によって影響される。(1) 油層の排油機
構、(2) 埋蔵量規模、(3) 油層流体の性状、特に油の沸点
圧、(4) 貯留岩の性状、(5) 各坑井からの生産量。油層圧
を把握するためには 坑底圧測定 を行 うことが必須 であ
り、測定結果に必要な補正を施した後、解析を行う。
予想埋蔵量
possible reserves
地質学的に存在が予想される最大資源量。確認埋蔵量、
280
推定埋蔵量、予想埋蔵量と合わせて 3P とも呼ばれる。資
源量の推定は、探鉱・開発の進展により、データが増え
るに従い確実性を増す。
ライザー
利権契約
リース
リグ
ロイヤルティ
riser
海洋掘削や海洋生産において海底から海面上の設備まで
流体が通れるパイプ。海洋掘削に浮遊式海洋掘削装置を
使用する場合、海底坑口装置と掘削装置をつなぎ、泥水
を循環させるパイプをマリン・ライザーと呼ぶ。
concession agreement
産油国政府・国営石油会社等から契約または認可により
鉱業権(日本における鉱業権並びに海外におけるパーミ
ット、ライセンスまたはリースを含む。)が石油会社に直
接付与される契約。石油会社は自ら投資してそこから得
られる石油・ガスの処分権を持ち、売上からロイヤリテ
ィ、税金等の形で産油国へ還元する。
lease
英米のコモン・ロー(慣習法)では、土地の所有権はそ
の地下に及ぶとしているので、地下の鉱物はその直上の
土地所有者に帰属し、したがってその鉱物を採掘する権
利も土地所有権という私権に依拠する。このため、自ら
これを採掘する 資本も技術も備えていない 土地所有者
が、資本や技術や意思を有する石油事業者にその採掘を
ゆだねるのは、私契約によることになり、この契約がリ
ース契約といわれるものである。英米法の国のうち英国
とオーストラリアは、第一次世界大戦後に欧州大陸諸国
と同様に、地下の鉱物は土地の所有に関係なく国に属す
ることに切り替えたので、現在このシステムを維持して
いる国は米国とカナダである。米国とカナダには、私有
地のほかに広大な連邦有地および州有地があり、これら
の政府はそれぞれの保有地を石油・ガスのリースに付す
るための手続について成文法規を定めているが、そのリ
ース契約の内容についてはコモン・ローに従っている。
rig
石油、天然ガスを探し、採取するために掘削を行うため
の装置。この装置は主に四つの要素から成り立つ。(1) 動
力の発生とその伝達機構、(2) ドリル・ストリング、ケー
シング、チュービングなどの重量物をつり上げ、つり下
げる機構、(3) 穴を掘るためにビットを回転させる機構、
(4) 掘り屑くずを取り除き、坑内を安全に保つための循環
機構。
royalty
土地所有者またはその他の鉱物権原所有者(例えば国ま
たは地方政府)がリース契約締結または鉱業権付与に際
し、生産費用を負担せずに、生産物に対し留保する持分
(シェア)をいう。この意味でのロイヤルティは「地主
のロイヤルティ(landowner's royalty)」と呼ばれること
もある。通常、生産物中の持分比率は 1/8 であるが、そ
れを超えることもあり、あるいは、生産量が増加するに
つれてこの比率が増大することもある。ロイヤルティは
現物で支払われる(ロイヤルティ所有者に石油またはガ
スの生産量の一定割合に対する権利が発生する)ことも
あり、現金で支払われる(ロイヤルティ所有者持分の市
場価値または特別に設定された価額をベースとする)こ
ともある。
281
road show
産油国が鉱区入札を行う前に、石油会社などに対し、入
札の概要などを説明する説明会。産油国の国内で行われ
る場合もあれば、ロンドンなど外資石油会社が集まりや
すい海外の都市で行われることもある。
API 度
API gravity
API 度は API 比重ともいい、API が制定した比重表示方
法(ボーメ度)である。これは石油類の比重について欧
米諸国では広く用いられている。API 比重の測定には、
欧米では API 度浮秤を用い、ASTM D1298 などに試験
方法の規定がある。しかし、日本工業規格 (JIS)では
K2249( 原油および 石油製品 の比重試験方法並 びに 比
重・質量・容積換算表)に参考として換算表が付いてい
て、必要なら比重 15/4 ℃から API 比重を求めることが
できるようになっている。
BOEMRE
Bureau of Ocean Energy
Management, Regulation
and Enforcement
米国の連邦機関で、大陸棚の海洋エネルギーと鉱物資源
の安全で環境的に責任ある発展を監視することを目的と
している。米国のエネルギー資源の開発を、問題なく責
任を持って拡大させることが役割である。
carbon injection
EOR(石油増産回収)目的で油層へ二酸化炭素を注入す
ること。原油生産に伴い、二酸化炭素の一部は随伴ガス
に含まれるが、この二酸化炭素は随伴ガスから分離・回
収され、圧縮されて再度油田に注入される。天然の二酸
化炭素が油田の近くで多量に入手可能な米国テキサス州
西部油田地帯では本方法がすでに実用化されている。
engineering, procurement,
and construction contract
プロジェクトファイナンスによる資金で事業会社が事業
施設を建設する場合、事業会社は①事業施設の設計、エ
ンジニアリング②設備機械の調達③事業施設の建設、試
運転の業務を一括して発注するが、その時の契約を指す。
契約金額と完成期日が明記され、性能保証をしなければ
ならない EPC 契約は、コントラクターに大きな責任とリ
スクを移転することになる。
East Siberia Pacific Oil
Pipeline crude oil
東シベリア地域における石油開発を考える上で、欠かせ
な い イン フラ が東 シベ リア 太平 洋 石油 パイ プラ イ ン
(East Siberia-Pacific Oil Pipeline: ESPO)である。ESPO
は 2004 年 12 月に建設が開始され、5 年の歳月を経て
2009 年 12 月にタイシェットからスコボロディノまでの
第 1 フェーズが完成した。パイプラインの建設と併せて
その終点となるコズミノにおいては、既に輸出港の建設
が完成しており、ここから輸出される原油を ESPO 原油
と命名している。
floating LNG
広義には洋上における LNG の液化設備および再ガス化
設備全般を差す。狭義には洋上にて液化・
貯蔵・
出荷を行
う LNG-FPSO ( floating production, storage and
off-loading system)を差すこともある。LNG-FPSO では、
LNG 貯蔵能力を有する船もしくはバージ上で、海洋ガス
田から生産された天然ガスの不純物除去および液化を行
い LNG を生産・貯蔵し、輸送用の LNG 船へ LNG を出荷
する。陸上に液化プラントを建設する場合と比較して、
海洋ガス田から陸上までの海底パイプライン敷設を削減
できることや、沿岸部の開発を伴わないため環境負荷を
ロードショー
CO 攻法
EPC 契約
ESPO 原油
FLNG
282
低 減 でき るこ と 、 ガス 田開 発 と は 異 な る国 や 地 域 で
LNG-FPSO を建造して現地へ曳航できるため労働者確
保が比較的容易であること等の利点を有する。
FPSO
FS(経済性評
価)
GTL
LP ガス
SAGD 法
海上浮体式石油・ガス生産、貯蔵、出荷設備のこと。石
油タンカーを改造し洋上で石油・ガスを採掘、石油、コ
floating production, storage, ンデンセート、LP ガス、天然ガスなどの分離処理を行い、
and offloading
貯蔵し、直接輸送用タンカーへの積出しを行う設備。生
産規模は小規模だが可動式であり、小規模油田・ガス田
の開発に適している。
feasibility study
新規事業などのプロジェクトについて、事業化の可能性
を調査すること。実行可能性、採算性などを調査する。
FS、F/S とも呼ばれる。調査・検討する内容は、事業の
外部要因として政治、法制、規制、経済、技術動向、自
然環境、社会環境といったマクロ環境、業界の動向、市
場調査、競合状況も含まれる。また、技術開発や販売計
画、投資対効果、採算性、資金調達などの財務面も含め
て調査する。フィージビリティ・スタディの期間はプロ
ジェクトの規模や特性による。数週間から数ヶ月で終わ
る場合が多いが、革新的な技術開発も含めた検討の場合
は数年にもわたる。
gas to liquid
GTL とは、広義には、間接法と呼ばれる工程で、メタン
ガスをまず改質して合成ガス(一酸炭素 CO と水素 H2)
とし、これを出発点として、メタノール、エタノールな
どのアルコール類、ジメチルエーテル(DME)、さらには
炭素数 5 個以上の炭化水素であるオレフィンを製造する
法の全体を指す。一方、狭義の GTL とは、天然ガスを合
成ガスに転換し、FT 法を用いて灯軽油等に転換するプロ
セス、技術を指す。
liquefied petroleum gas
原油や天然ガスの採掘に伴って、または石油精製の過程
において得られるガスで、プロパン、ブタンを主成分と
した炭化水素の化合物を液化したもの。LP ガス(LPG)
とは、Liquefied(液化した)Petroleum(石油)Gas(ガ
ス)の頭文字をとった液化石油ガスの略称。石油中のガ
スは常温常圧では気体であるが、加圧、冷却することに
より容易に液化する。冷却して液化する温度はプロパン
−42 ℃、ブタン−0.5 ℃であり、常温で加圧して液化す
る圧力はプロパン 0.8 メガパスカル、ブタン 0.2 メガ
パスカル である 。LP ガスは 液化すると 気体時体積 の
250 分の 1 となり、大量輸送が容易という特徴を有して
いる。
Steam-Assisted Gravity
Drainage method
地層内に水蒸気を圧入して、超重質油の流動性を増し、
重力で回収する方法の一つ。カナダでのオイルサンド開
発手法である in-situ 法のうち 、坑井から水蒸気を圧入
し、熱によりビチューンの粘性を下げ流動化させて坑井
より回収する方法を地層内水蒸気圧入法という。この方
法 には CSS ( Cycle Steam Stimulation) 法と SAGD
(Steam Assisted Gravity Drainage)法の 2 つがあるが、
70%という究極回収率が見込め、商業開発の新機軸とな
るのが SAGD 法である。
283
284
9-2 石油貿易
日本語
英語
説明
CIF
cargo, Insurance, and Freight
FOB(本船渡し)に対し、商品価格のほか運賃および保険
料込みの仕向け先揚げ地着価格のこと。リスク負担は
FOB と同様、積地における本船積み込み時点で買主側に
移転する。
アジアプレミア
ム
Asia premium
中東の産油国が欧米アジア 3 市場に原油を輸出する時、
アジア向け価格が欧米の価格よりも割高になっているこ
と。
Last In First Out (LIFO)
在庫の評価方法の1つ。最も近い時期に入荷した原料価
格を、製品を製造するときの原価として計算する方法。例
えば、石油会社で原油価格が高騰した場合には、高い原
油価格で製造コストの原材料の価格を決めてしまうので、
原油購入コストの変動を販売価格にすぐに反映しやすくな
る。
AFRA Max
「AFRA」とは Average Freight Rate Assessment の略
で、1954 年 4 月からロンドン・タンカー・ブローカーが作成
しているタンカーの運賃指数。現在では 8∼12 万載貨重
量トン程度のタンカーを広くアフラマックスタンカーと呼んで
いる。
ARAMCO
(Saudi Arabian Oil Company:
Saudi Aramco)
サウジアラビア国内の全ての石油部門を管理するサウジ
アラビア政府 100%出資の国営石油会社。1988 年 11
月にサウジアラビア政府は、アラムコ社(米国のメジャー系
石油会社 4 社が株主となりサウジ国内の石油生産、販売
を携わる会社)を国有化し、その資産を管理、運営する受
け皿会社として国営石油公社サウジアラムコ(Saudi
Arabian Oil Company)を設立した。
primary energy
石炭、石油、天然ガス、薪、水力、原子力、風力、潮流、地
熱、太陽エネルギーなど自然から直接採取されるエネル
ギー。これに対し、石炭、石油などの一次エネルギーを使
用して作る火力発電による電力などを二次エネルギーとい
う。
井戸元価格
wellhead price
原油または天然ガスの、坑井元またはその代替である集
油・集ガス所における価格。原油または天然ガスの価格
は、一般的には積出港における積出価格またはパイプラ
イン入口価格で表される。それぞれの地点が坑井元から
離れている場合には、それぞれの建値地点と井戸元との
間の輸送コストを差し引いたものを井戸元価格とする。
インタンク価格
in-tank price
元売会社などが、運送業者などが所有するタンクに直接
納入する際の価格。
インボイス
invoice
請求書のこと。輸出入を行うときに使用し、約定品の出荷
案内書、物品明細書、価格計算書、代金請求書を兼ねた
商用書類で売主が買主宛に作成する。
浮き屋根式タン
floating roof tank
屋根が貯蔵物液面に浮いており、液面とともに上下するタ
後入れ先出し
法
アフラマックス
アラムコ
一次エネルギ
ー
285
ク
ンクであり、フローティング・ルーフ・タンクとも呼ばれてい
る。屋根が固定式の円錐屋根(式)タンクに比べ、貯蔵油
の蒸発損失を少なくし、蒸気相をなくして安全性を保つか
ら、原油、ガソリンなどの揮発性石油類の貯蔵に多く用い
られる。
storage and working loss
原油ないしは石油製品の輸送取引において、蒸発やタン
ク・
タンカーのハッチ内部への付着などによって発生する
損失量。
運賃指数
freight Index
タンカーの運賃を決定する際に用いられる価格指標。原油
タンカーの場合にはロンドンのタンカー・ブローカーである
London Tanker Brokers Panelが行うアセスメントがよく用
いられる。
沿海船
coastal vessel
本州、四国、九州、北海道その他船舶安全法施行地域に
おける特定の島から 20 海里以内の区域を沿海区域とい
い、この区域内で就航する船舶を沿海船という。
oil fence
石油類などが、河川、湖沼、海などの水面上に漏洩・流出
した場合に、その拡散を防止する目的で、流出油などの周
囲の水面に展張するフロート付きのフェンス。使用方法に
より、浮沈式オイル・フェンスと可搬式オイル・フェンスの 2
種類に大別される。
黄金株
golden share
合併・買収への拒否権を持つ特別な株式。通常は一株だ
け発行される。自由な資本移動を妨げるという弊害がある
ため欧州連合(EU)は加盟国に黄金株の撤廃を求めてい
る。
汚染者負担の
原則
polluter pays principle
企業や開発者などの環境汚染者が環境破壊や健康被害
が起こらないよう汚染防止に伴う費用を負担し、必要な対
策を講じるべきであるとする考え方。
オリノコタール
Orinoco tar
南米ペネズエラのオリノコ河流域に帯状(オリノコベルト)
に埋蔵されている膨大な量の超重質油(へビーオイル、
API 比重 8∼10 程度)のこと。オイルサンドとして分類され
る場合もある。通常の原油と異なり流動性が乏しいため、
特殊な方法で回収しなければならない。
外航船
ocean-going tanker
外国航路に就航する船舶。
Marine Pollution Prevention
Law
海洋汚染や海上災害を防止するため、1970 年に公布され
た法律。国土交通省と環境省の共管法令である。マルポ
ール条約などの国際的な取り決めに対応し、船舶などか
ら海に油や有害液体物質、廃棄物、排出ガスを排出・放出
することや、それらを焼却することなどを規制。廃油の適正
処理や汚染の防除、海上火災の防止などに関する措置を
定めている。
mooring
船を桟橋やブイにつなぐこと。船を稼働させても採算が採
れず、船員を下船させて運航を中止するほうが有利である
と判断される場合や、船腹過剰で運ぶ貨物がない場合な
どに、天候や気象の影響が少ない安全な場所に船を碇泊
させ、一時的に稼働を中断して市況の回復を待つこと。
受払いロス
オイルフェンス
海洋汚染防止
法
係船
286
term contract
原油や石油製品などを特定の期間内に特定の数量を購
入する契約。中東産原油の場合には、4 月起こしの一年
間の契約を毎年更新するスタイルをとる。(⇒ターム契約と
同義)
基準運賃
standard freight rate
特定の港から特定の港までのタンカーの輸送コストの基
準を定めたもの。外交タンカーの場合には London Tanker
Brokers Panel が毎年年初から設定するレートが用いられ
る。
業転
resale
業者間転売の略。元売や商社が系列外で販売すること。
緊急融通制度
Emergency Sharing System
国際エネルギー機関加盟国全体で、7%の原油供給が途
絶ないしは途絶すると予測される時に加盟国によってなさ
れる備蓄原油の放出を指す。
Cushing
オクラホマ州の原油パイプライン集積地。NYMEX におけ
る軽質低硫黄原油(W TI 原油)の引渡し場所に設定されて
おり、その原油在庫の大小が W TI 価格の水準にも大きく
影響する。
clean tanker
クリーン・プロダクト(clean product、原油を精製して得ら
れる石油製品の中で比較的沸点の低い、軽油やガソリン
など)を運送する船舶。クリーン・プロダクトの荷動きは需
要や立地条件により多種多様なため、品質保持を考えて
クリーンタンカーの構造は、貨物区画、艤装品(ぎそうひ
ん)が多く、相互に影響を受けないよう使用材料も厳選し
ている。したがって、他船種に比較して規模が小さい一
方、船価は高い。
検尺
measurement
原油や石油製品の数量を計測すること。陸上タンクなどの
液量測定は、鋼尺テープを用いてあらかじめ決められた測
深孔(検尺孔)から液深を測定し断面積を乗じるのが原則
であるが、税関の認定を受けた液面計または流量計を利
用することもある。船舶については基本的に、陸上油槽と
同様である。油井などの掘削においては、坑底に達した掘
り管(ドリル・ストリング)を引き上げながらその全長を検尺
テープで測定して坑井掘削深度を確定する。
航海用船
spot charter
原油タンカーや石油製品タンカーを一航海だけスポット的
に用船すること。
公式販売価格
(OSP)
official selling price
⇒OSP
固定屋根式タ
ンク
corned roof tank
浮き屋根式タンクとは異なり、石油タンクの中でも屋根の
部分が固定されているタンク。軽油や重油のように揮発性
が低い製品の貯蔵用として用いられる。
サウジアラビア
CP 価格
contract price
サウジアラビアの国営石油会社であるサウジアラムコ社
が顧客に対して通知する LPG の販売価格。基本的には原
油価格と熱量等価の数字となるとされているが、その時々
の LPG 需給状況によって上下することもある。
サルファー・
プ
レミアム
sulfur premium
主として低硫黄原油の高硫黄原油に対する価格差のこと
を言う。原油中の硫黄分が低ければ精製工程において脱
期間契約
クッシング
クリーンタンカ
ー
287
硫プロセスの必要性が少なくなるため、低硫黄原油は一
般的に国際原油市場において割高な値段で売買される。
shipper's usance
銀行信用によらず、輸出者が直接輸入者に対して期限付
き為替手形の発行、引き受け方式により、代金支払い猶
予の便宜を供与すること。実体は、輸入代金の後払いな
ので、輸出者が資金と与信リスクを負担する。
指標原油
marker crude oil
原油価格の価格付けの基準となる原油のこと。米国市場
であれば、W TI 原油、欧州市場であれば Brent 原油、アジ
ア市場であれば Dubai 原油ないしは Oman 原油が用いら
れる。個別の原油価格はこれらの指標原油価格に対して
プラス・マイナス何ドルという形で売買されることが多い。
仕向地制約
destination limit
中東から輸入されるほとんどの原油に付される積荷原油
の仕向地の制約条項。ドバイ原油やオマーン原油には仕
向地の制約がない。
heavy-light differential
重質原油と軽質原油の価格差。重軽格差の動向は、重い
原油を分解する高度化装置の経済性を大きく左右するた
め、製油所の運転計画や将来の設備投資の決定を行う際
にはよく参照される指標となる。
dead weight tonnage
満載喫水まで貨物を積んだ場合に船が押しのけた水の重
量(満載排水量)と船の自重(軽貨重量)との差をメトリック
トンあるいはロングトンで表した重量。実際に、積み得る貨
物の最大重量で貨物、船用品、燃料、潤滑油、清水その
他の合計。貨物船やタンカーの大きさを表すのに使われ
る。
refining-at-home policy
国内で消費する石油製品は国内で精製すべきという考え
方。第二次大戦後の日本の石油産業においては広く普及
してきた考え方。その主な理由は、次の通り。①石油は各
石油製品を個別に小型のタンカーで輸送するよりは、大型
の原油タンカーで輸送したほうが割安となる。②国内で精
製能力を有しておいた方が、原油供給源を分散化すること
が出来るため、エネルギー安全保障に資する。③国内で
の需要変動に対してより柔軟に対応できる。国内での製
品規格の変更がより容易である。
letter of credit (L/C)
輸入者の取引銀行が輸入者の依頼により自己の信用を
提供して、輸出者が輸入者宛に振り出した手形の引き受
け、支払いを保証した保証状。これにより、輸出者並びに
輸入者は、取引に伴う危険を回避することができる。
super majors
1990 年代末から活発化した欧米石油大手間の相次ぐ合
併によって誕生した石油会社のこと。一般に、ExxonMobil
(米国)、BP(英国)、Shell(英国・オランダ)、Chevron(米
国)の 4 社を指す。
spot contract
長期契約以外の契約で、原油の場合、タンカー1 隻分など
の 1 回限りの原油購入契約をいい、石油会社が産油国や
メジャーから期間を決めて購入するターム原油以外での
調達。
スポット契約による調達は、主に需給バランス上、最
適な生産を行うために必要な原油の購入として位置付け
られる。スポット市場では、売手と買手が日々変化する各
シッパーズユー
ザンス
重軽格差
重量トン数
消費地精製方
式
信用状ベース
取引
スーパーメジャ
ーズ
スポット契約
288
原油の市場での評価(プレミアム/ディスカウント)をもと
に交渉し、原油売買が行われている。
生産地精製方
式
-
国内で消費する石油製品を生産地で精製して輸送する方
式。
ターム契約
term contract
3 ヵ月または 6 ヵ月以上の長期購入契約の原油取引を指
し、国内への原油調達の大勢を占める。
当初は産油国な
どの公式販売価格によって価格決定がされていたが、ス
ポット価格をベースに価格決定がされる仕組みへと移行し
ている。
タンカー・ワー
ルド・スケール
tanker world scale
⇒ワールド・
スケール
tanker freight
スポット航海用船におけるタンカー運賃は、主に運賃指標
として W orld Scale を用いて決められることが一般的であ
る。具体的には、各航路に適用される基準運賃(フラットレ
ート:Flat Rate、ドル/メトリックトン )に、輸送される貨物
の重量(メトリックトン)、および航海用船契約で合意された
運賃率を乗じて運賃が算出される。この基準運賃は英国
および英国のワールドスケール協会が算定しているもの
で、1969 年に初めて刊行された。その後算定方式が数度
見直されたが、1989 年 1 月 1 日より適用された算定方式
が 2009 年現在まで有効となっている(為替レートや港費、
燃料価格等の変動を考慮し、年 1 回改訂されている)。 ま
た、運賃率は、船主と荷主が、基準運賃に対し、その何%
にするかを合意する値であり、タンカー需給バランス(タン
カー市況)等の要因が加味された結果である。運賃率
50%で合意した場合は、基準運賃の 50%がメトリックトン
当たりの運賃となり、WS50 と表記される。
タンカー運賃
チョークポイント choke point
地政学上で戦略的に重要となる場所で,目的達成のため
に兵力等がどうしても通過しなければならず,その通行路
が狭い等の環境にあって,わずかの兵力や妨害によって
容易に阻止されやすい状況にあるところのことをいう.具
体的には,重要な輸送路や交通路上の渓谷,橋梁,海峡
などがこれにあたる。
ドバイ原油
Dubai crude
アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで生産される原油。API
比重 31.0 度、硫黄分 2.04%、生産量は 20∼30 万 b/d。
ドバイ原油とオマーン原油のスポット価格月間平均は極東
市場向け中東原油の価格指標として使われている。
トン税
tonnage tax
外国貿易船が入港する際、その純トン数を課税標準として
課される国税。
coastal tanker
船で国内の港から港へ貨物を運ぶ輸送手段を内航海運と
いい、従事する船舶を内航船という。内航海運は、道路混
雑や騒音、環境問題などの物流をめぐる諸問題に適合し
た輸送方法であることから「環境にやさしい輸送機関」とし
て期待が高まっている。
内航船
内航タンカー運
賃協定
-
内航タンカー運賃協定(昭和49年∼)は、対象貨物が季
節、天候状況等により輸送量の変動を受けやすく、また荷
主がその優越的地位を利用し、値下げ圧力をかけやすい
289
と考えられたことから、一定の運賃水準を確保するための
独占禁止法適用除外協定として締結されてきた。これらの
運賃協定の対象となる船舶は船腹量ベース約4割を占め
るまでになり、運賃水準の安定に寄与してきた。しかしな
がら、規制緩和の一環として独占禁止法適用除外協定に
ついては原則廃止の観点から見直すこととされ、平成9年
3月の閣議決定に基づき、利用者の利便の増進内航タン
カー運賃協定は平成11年3月に廃止された。
direct-burning
電力業界などで主として原油や NGL をそのままボイラー
燃料として使用することをいう。原油は重油に比べ、硫黄
分が少なく環境対策上有効であり、かつ低価格であったた
め電力業界に発電用燃料として 1962 年(昭和 37 年)
から一定の数量に限り使用を認められてきた。原油の生
焚きは、重油の代替燃料として考えられるため国内石油
製品需給バランスと密接な関係をもっている。
delivery order
海運業界において、船が揚地に到着したとき、船主が本船
船長に対して、荷受人へ貨物を引き渡すことを指示する書
類を荷渡指図書(delivery order, D/O )という。D/O は、
原則として船主が荷受人より、船荷証券(bill of lading,
B/L )を回収したあとに発行される。しかし、なんらかの事
情で船荷証券が荷受人に届いていない場合は、船主は後
日 B/L が必ず入手されると信用できる場合にかぎり、荷
受人より保証状(letter of guarantee)を取り付け、D/O を
発行することが商習慣として行われている。
ネットバック価
格
net back price
特定原油の市場価値を評価するために、その原油の製品
得率および製品の市場価格から逆算して得た評価値。ネ
ットバック価値の算出にあたって製品得率 (α) や製品価
格 (P) 、精製コストなどに関するデータは多岐にわたって
いるので、その使用目的によって適切なデータを選択する
ことが重要なポイントとなる。Petroleum Intelligence
W eekly などの石油情報誌では原油価格(スポット価格 /
GSP)の先行指標的な意味あいでこれが使われる場合が
多いが、それはネットバック価値の算出に使われる製品ス
ポット市場の価格が先行指標的な性質を備えているため
である。他の用法としては、新規に生産を開始する原油の
井戸元価格を決定するために利用される場合がある。な
お、PIW 誌はネットバックの算出について次に挙げるデー
タを採用している。(1) 製品価格:代表的スポット市場価
格、(2) 製品得率:典型的な限界得率。米国メキシコ湾岸
での得率は upgrading を考慮したものとなっている。(3)
精製コストなど:通油量によって変動する費用部分のみを
含め、減価償却費および販売コストは含めない。(4) 輸送
費・保険料:適当な規模のタンカーをスポット市場で一航海
だけチャーターする費用(W orldscale 協会のフラット・レ
ートに AFRA 指数を乗じて算出)。なお原油のロスおよび
自家消費分については、その価値をゼロと見なし、当該数
量分だけ製品生産量が減少するとの扱いをしている。
バーター
barter
元売会社間で、同量同価格で石油製品を売買する取引。
互いの流通を合理化するために製品を融通しあう取引。
バイパス・パイ
bypass pipeline
チョークポイントの航行を回避するために建設されたパイ
生焚き
荷渡指図
290
プライン
バスケット価格
プライン。スエズ運河に並行して建設された SUMED
Pipeline が有名。
OPEC 加盟国の主要輸出原油13 油種のスポット価格を、
生産量及び主要市場での輸出量に応じて重み付けをした
平均値。13 油種:Saharan Blend(アルジェリア)、Minas
(インドネシア)、Iran Heavy(イラン)、Basra Light(イラ
ク)、Kuwait Export(クウェート)、Es Sider(リビア)、
Bonny Light(ナイジェリア)、Qatar Marine(カタール)、
Arab Light(サウジアラビア)、Murban(UAE)、BCF17(ベ
ネズエラ)、Girassol(アンゴラ)、Oriente(エクアドル)。
basket price
はね返り金融
-
貿易(輸入)金融用語。輸入資金円融資のこと。輸入者
は、輸入貨物を販売して代金を回収するまでの間、通常、
外貨による輸入ユーザンスを受けるが、航海日数の関係
や、生産加工から製品販売までに長期間要する場合等に
は、輸入ユーザンス期間内(輸入外貨決済期限)に回収で
きない場合がある。そのような場合、輸入者は銀行から円
融資を受けて当初のユーザンス手形を決済する。これを
「はね返り金融」といい、これに対応する金利をハネ金利と
いう。借り入れ金利は当該輸入財の限界コストを形成す
る。
バラスト
ballast
船舶が貨物を積まずに航海する場合に、船舶の喫水を深
くすることにより、安定性を増加し、推進器を十分に水中に
沈下させるために積む加重物体をいう。船の喫水(脚)を
作ることから、脚荷(あしに)とも呼ばれる。一般貨物船の
バラストとしては固体重量物(砂、れき)などを使用する場
合もあるが、タンカーや鉱石船などでは海水を使用し、天
候に合わせて任意に調整できる。大型タンカーには専用
のバラスト・タンクが設けられており、貨油管および貨油ポ
ンプからなる貨油管系とバラスト注排水のための管系とは
完全に分離されているため、バラスト専用タンクへの注排
水は荷役中でも可能である。大型タンカーでもバラスト専
用タンクのみでは喫水が十分とれない船もあり、このよう
な船は荷揚げ後の貨油タンクにバラストを注水する。小型
タンカーではバラスト専用タンクを備えている例は少なく、
荷揚げ後の貨油タンクにバラストを注水する場合が多い。
これらの場合はバラスト水には油が混在し、バラストを海
中に排出する際に油濁を起こす原因となる。1983 年 10
月 2 日に、MARPOL 73/78 条約が発効し、その内容は
「海洋汚染および海上災害の防止に関する法律」に盛り込
まれ、バラスト水の排出による油濁を防止するために、こ
れら条約あるいは法律ではバラストの注排水について船
舶の大きさと建造時期などにより、構造、設備要件および
取扱いが厳重に規制されている。
バンカー
bunker
外航船等に用いられる高硫黄高粘度の重油。
bill of lading, B/L
船長が積み地において荷送人から荷物を受け取った旨の
証書で、揚げ地で荷受人が船側からその荷物の引き渡し
を請求する際に必要とされる証券である。船荷証券は有
価証券としての性格をもち、その所持者は、これをもって
運送中の荷物の転売もしくは担保として金融を受けること
ができる。船荷証券には荷物の詳細、荷送人、荷受人、運
船荷証券
291
賃の支払方法等が記載される。
Platts window
米国のエネルギー情報提供会社である Platts 社が運営す
る原油や石油製品の売買端末での取引時間帯のこと。こ
の時間帯における売買取引の結果が同社の価格アセスメ
ントに用いられる。
Brent 原油
Brent crude
英領北海で産出される原油。単一の油田で生産されるの
ではなく、Brent、Thistle、南・北 Cormant、Hutton など 9
油田からの原油のブレンド。WTI原油、ドバイ原油とならび
国際石油市況の指標となっている。
平水船
barge
湖沼、河川、港湾内など波の穏やかな水域を平水といい、
この区域のみを航行する船舶を平水船という。平水船は、
船舶安全法の構造規則が緩和されている。
保税
bond
外国から輸入した貨物が関税の支払い手続きが未了で、
賦課が延期されている状態。
保税重油
bonded fuel oil
一般に外国貿易船に使用される船舶用燃料。関税法上、
輸入貨物を加工して再輸出する場合には、関税はかから
ないが、そのための作業(保税作業)は、普通の作業と別
に行わなければならない。従って、再輸出用の免税重油
(保税重油、ボンド重油)も、国内用の重油とは別に製造、
保管される。
保税タンク
bonded tank
通関を行う前の原油や石油製品等を一時的に保管してお
くことができるタンク。
前尺
measurement before loading /
discharging
タンクやタンカーのハッチなどにおいて荷役を行う前の数
量を測定しておく作業
MARPOL Treaty
船舶の運航や事故などによる海洋汚染の包括的な防止を
目的とした条約のこと。正式名称では「1973 年の船舶によ
る汚染の防止のための国際条約に関する 1978 年の議定
書」といわれることもある。また、「マルポール 73/78 条約」
と表記されることもある。1967 年のトーリーキャニオン号
の座礁による原油流出事故などを背景に、船舶による汚
染の防止のための国際条約の必要性が認識されるように
なり 1978 年に採択された。その後、1983 年から国際的に
発効され、日本も 1983 年の 6 月に加入している。1973 年
に国際海事機関(IMO)で採択された「船舶による汚染防止
のための国際条約(マルポール条約)」は、オイルや化学物
質、梱包された有害物質、汚水や廃棄物などによる汚染
などを考慮していたが、技術面の問題から未発行のまま
にされていた。1978 年に開かれた IMO のタンカーの安全
と汚染防止に係る会議において、度重なるタンカー事故や
座礁などによる海洋汚染を背景に、以前採択されていた
条約と統合させるかたちで現在の条約が採択されている。
現在の条約では、油類、バラ積み有害液体物質、梱包さ
れて輸送される有害物質、汚水や廃物などの全てが規制
対象となっている。その後何度か改訂され内容の強化・整
備が進められている。例えば、2005 年に発行されたマル
ポール条約Ⅵ改訂では「船舶からの大気汚染防止のため
の規則」が盛り込まれている
プラッツ・ウィン
ドウ
マルポール条
約
292
輸入ユーザン
ス
import usance
貿易取引における輸出者振出の手形の支払い猶予期間。
輸入者が原油代金決済の支払い猶予を受ける輸入ユー
ザンスとしては、輸出者から代金支払い猶予を受けるシッ
パーズユーザンスと、シッパーズユーザンス期間満了に伴
い、輸出者に対する代金支払いのために銀行から外貨建
ての借り入れを受ける金融取引(banker's acceptance、
リファイナンス、本邦ローンなど)がある。
リム
RIM
リム情報開発株式会社(1984 年創立、本社中央区)が提
供する価格情報サービスのこと
レイタイム
lay-time
航海用船において船舶が積み揚げ地で荷役に要する停
泊時間。通常、用船契約書に、レイタイムの算定の方法、
除外事項および許容時間が明記されている。
retroactive pricing
産油国が原油の船積み月の翌月に事後的かつ一方的に
通知する価格決定方式。UAE、オマーン、カタールの極東
向け原油価格がこの方式で決定される。遡及価格決定方
式ともいう。
loading arm
タンカーから 原油や石油製品を荷役するための設備。海
外から輸入した石油を揚荷する際に、陸側から船側へ配
管を接続し、その配管を用いて陸側タンクへ受入を実施す
るが、このときに用いる配管をローディング・アームと呼
ぶ。
World Scale
英国(ロンドン)と米国(ニューヨーク)にあるワールドスケ
ール協会が算定している指標。正式名称は、「New
W orldwide Tanker Nominal Freight Scale」。実際の運賃
率は、ワールドスケール協会が公表するフラット・レート
(flat rate)という名目運賃率のパーセンテージによって表
示される(例えば、W S70 はフラット・レートの 70%を意味す
る)。従って、タンカー運賃は、輸送される貨物の重量にフ
ラット・レート及びワールド・スケール・レートを乗じて算出さ
れる。
bill for collection(B/C)trade
輸出者がインボイス(請求書)、B/L (Bill of Lading 船荷証
券)等を添付して組んだ取立為替手形が輸出地、輸入地
の銀行を経由して輸入者に呈示され、輸入者が手形支払
いを行ったときに、銀行間の送金により代金決済を行う決
済方法。
電信送金(TT)
決済
telegraphic transfer
インボイスと船積書類は銀行を経由せず、輸出者から輸
入者へ直接送付され、契約支払期日がくると、輸入者は輸
出者に対し電信で送金する方法。従って輸出者は、契約
支払期日がくるまでは代金を資金化する手段をもたない。
APPI
Asia Pacific Price Index
アジア産原油に関して広く用いられている価格指数。それ
ぞれの市場に参加している原油生産者、精製業者、トレー
ダーのグループにより決定される。
CLC 条約
International Convention on
Civil Liability for Oil Pollution
Damage
油濁汚染損害の民事責任に関する国際条約の略称。船
主の無過失責任、責任限度額、強制保険付保を定めてい
る。
CRISTAL
Contract Regarding an Interim
タンカーの油濁責任に関する追加補償制度に関する契約
レトロアクティブ
方式
ローディング・
アーム
ワールドスケー
ル
取立ベース取
引
293
Supplement to Tanker Liability
for Oil Pollution
のこと。クリスタルと呼ぶ。
CTS
central terminal system
超大型タンカーで積地から石油基地まで大量に安く原油を
運び、そこから各港に合うような中・小型船で運ぶ、いわゆ
る石油基地による中継輸送方式。原油輸入価格の中で占
める輸送コストを低減するため船型を大型化してそのフレ
ート・メリットを極限まで追求する一方、船型大型化に伴う
受入港湾施設整備のための投資を分散することなく集中
的に行って、可能な限り経済的な投資を図ろうとするも
の。この方式はヨーロッパのように小型製油所が分散して
存在しているところでは特に有効である。日本にも JX グル
ープによる喜入 CTS や沖縄金武湾の CTS 等がある。
DD 原油
direct deal crude
消費国の石油会社が、産油国の国営石油会社から直接
購入する原油。日本における原油調達はこの方法による
ものが大部分を占める。
DOE
Department of Energy
米国エネルギー省の略称。
294
9-3 先物市場
日本語
英語
説明
over the counter trade
売り方と買い方とが互いに売買の相手方を選び、一人の売り方
と一人の買い方とが協議して売買をし、その売買の当事者が受
け渡しの責を負う売買方法。単に「あいたい」とも言う。
アウト・オブ・ザ・
マネー
out-of-the-money
オプションの買方にとって権利行使が出来ない状態。現時点で
権利行使 するとマイナスのキャッシュフローが生ずるために損
失が発生してしまうオプションの状態のときを言う。コール・オプ
ションの場合は先物相場が権利行使価格より低い状態、プット・
オプションの場合は先物相場が権利行使価格 より高い状態を
示し、いずれもその時点におけるプレミアムは安くなる。 逆に権
利行使した場合、買方に利益が生ずるのをイン・ザ・マネー、損
益ゼロの状態をアット・
ザ・
マネーと言う。
アット・
ザ・
マネ
ー
at the money
権利行使価格と先物価格が等しい状態。
アメリカン・オプ
ション
American option
権利行使期限内 な らばいつでも権利行使 できるオプ ション取
引。現在アメリカで一般的に先物オプション取引として行なわれ
ている。
一枚
contract unit
取引所における売り買いの最小の取引単位。
in the money
オプション取引においてストライクプライス(権利行使価格)と実
勢価格との差がどのような状態にあるかによってイン・ザ・マネ
ーとアウ ト・オブ・ザ・マネーとに 分かれる。権利行使した場合、
買い手に利益が生ずるのがイン・ザ・マネー。コール・オプション
の場合実勢価格が行使価格を上回っている状態を指す。
受け渡し
delivery
取引所 において売買取引をした売買約定について、約定の履
行期日 に売り方は約定品 を、買い方は約定代金を提供して売
買取引を決済すること。商品市場における受け渡しは必ず取引
所を経由して行ない、かつその受け渡しに関する事務は取引所
自らが行なわなければならない。受け渡しの方法等については
取引所の業務規定において定めることになっている。
売り玉
short account
先物取引 で売ったものを買い戻していないので取引所の帳簿
に 残っている売りの約定、またはその売約定の数量のこと、ま
たは売り注文のこと。
売り越し
net short
売り建玉と買い建玉との両方の建玉がある会員がいる場合、そ
の会員の建玉を売買相殺して売り玉が多いこと。
short interest
先物市場において新たに売りつけること。従って前に買い約定
があ ってこれを転売して決済するために売りつけるものはこれ
には入らない。また「売り建玉」の略で取引所の帳簿に買戻しを
しない未決済のものとして残っている売り約定のことを言う。
seller
プレミアムを受け取ることによりオプションが権利行使された 場
合に、その権利行使価格に より当該先物市場で買い方の実行
に 応 じ る 義 務 を負 う 者 。 売 り 手 ま た は オ プ シ ョ ン ・ ラ イ タ ー
(option writer)あるいはグランター(grantor)とも呼ばれる。
相対売買
イン・ザ・マネー
売り建
売り手
295
オプション取引
option trade
選択権売買取引といわれ、先物市場を原市場とする当該先物
契約を将来の特定の期間中(または将来の特定の日)に当該
商品等の特定数量、特定の価格(権利行使価格)で売り付ける
権利(プットという)または買い付ける権利(コールという)を売買
の対象とする取引で、売り方が買い方に権利を与え、その対価
として買い方が売り方にプレミアムを支払う取引。オプション取
引の買い手は権利行使、転売および放棄の 3 つの選択権(オプ
ション)を有する。相場の先行きに強気であれば、買付ける権利
(コール)を買うか、売り付ける権利(プット)を売る。逆に先行き
に弱気ならば買付ける権利(コール)を売るか、売り付ける権利
(プット)を買う。
終値
settlement price
午前と午後の最後の立会の出来値段のことで、普通単に終値
といった場合には午後立会の最終出来値段を指す。
買い越し
net long
売り建玉と買い建玉との両方の建玉がある会員がいる場合、そ
の会員の建玉を売買相殺して買い玉が多いこと。
買い手
buyer
プレミアムを支払うことにより、 オプション取引の有効期限内で
あれば任意の日にその権利行使価格で当該先物市場において
建玉を持つ権利を有する者をいう。taker、holder、owner とも呼
ばれる。
買い持ち
buy and hold
買い付けたまま、まだ売らないでいること。すなわち買い玉を手
持ちしていること。または現物を手持ちしていること。
空売り
short selilng
実物を持たず、または実物を手当てする準備無しに売ること。
空買い
short buying
実物を引き取る意思無しに買うこと。
期月
contract month
限月のこと。
期先・期先物
deferred futures
先物取引で受渡期日の先になる限月の先物のこと、たとえば 6
ヶ月の限月制を採用している取引所における 5 ヶ月または 6 ヶ
月後に受渡期日が到来する売買約定のこと。「期近(きぢか)」、
「期近物(きぢかもの)」の反対語。
期近・期近物
near futures
先物取引において、受渡期日が早く到来する売買約定。
back spread
当月より中限、中限より先限の相場の高いのが普通で、これを
「順ザヤ」と言い、 その逆に 当月より中限、中限より先限の相場
の安いことを「逆ザヤ」と言う。また逆ザヤが順ザヤになることを
「逆ザヤ訂正」と言う。
逆鞘
逆相場
-
高くなると予想されていた相場が下がることまたは上げていた
相場が下がること。
玉
contract
①取引所において売買取引された売買契約の約定、または
②商品取引員に対してなされた客の売買注文の約定のことで
「建玉(たてぎょく)」または「売買玉(ばいばいぎょく)」の略称とし
ても用いられる。
気配
quote
一般に気配値(けはいね)の略語として取引所で約定値段が出
来ないときのノミナ ル相場(nominal price)をいうことが多い。
「売り気配(asked)」とか「買い気配(bid)」とも用いる。
限月
contract month
先物取引に おける売買約定 を最終的に 決済しなければならな
296
い月のことを言い「期限の月」の略称で「期月(きげつ)」とも言
う。
calendar spread
transaction
同じ先物の異なる限月の間の値鞘(スプレッド)を稼ぐ取引。 通
常、期先限月の方が期近限月より相場変動が大きいという性質
に 目をつけたもので、仮に 相場上昇を予想すれば期先限月を
買って期近限月を売る。 予想が外れたとしても損失は限定され
る。限月間スプレッドそのものを売買する取引もある。
限月売買
Futures based on
calendar month
限月制による先物取引、すなわち月末ごとに受渡期限を設け、
定められた最長受渡期限 の範囲内で、あ る月末を受渡日とす
る売買約定を結び、その期限がきたら現物の受け渡しをするか
または期限までに転売、買戻しを自由に行ない得る売買方法。
現物
actuals
実物すなわち空売りや空買いの対象となる架空の商品ではなく
現存の商品のこと、 または現物取引 もしくは現物取引 の相場
(直物価格、スポット価格)のこと。
現物市場
actuals market
実需に基づく取引が、売買双方の直接の契約によって行われ、
指定期日に原則として現物の受渡しが行われる。この価格が直
物価格(スポット価格)となる。
権利行使
exercise
オプションの買い手がその権利を実行すること。取引対象によ
って現物が受け渡されるか差金決済される。
権利行使価格
exercise price
オプションの基礎となる先物契約または商品が売り手から買い
手へと引き渡されるときの価格で、オプション契約において特
定される価格のこと。strike price とも言う。
abandon
買い方が取引最終日 までに反対売買または権利行使の申告
を行なわなかった建玉は期限切れとなって権利が消滅するこ
と。すなわち権利放棄によりオプションの買方の損失は既に支
払ったプレミアム(対価)の範囲に限定されることを意味し、オプ
ション取引の特質をなしている。
コール・オプショ
ン
call option
基礎商品を取引期間内に 権利行使価格で「買い付ける権利」
を売買する取引。買方はプレミアムを支払うことによって当該オ
プション取引の満期日までの任意の日に当該オプション取引の
権利行使価格 をもって当該先物建玉 を買い付ける権利 を持
ち、売り方はプレミアムを受け取ることにより上記条件で当該先
物を売り付ける義務を負う取引。
裁定取引
arbitrage
本来同じ価格の商品が違う値段に なっていた場合、高い方を
売り、安い方を買うことによって値鞘を稼ぐ手法。
先売り・先買い
short / long
先物取引市場で売ることまたは期先物を売ることを「先売り」と
言い、先物取引市場で買いまたは期先物を買うことを「先買い」
と言う。
先高
contango
相場が将来高い方に向う勢いにあること、または当限、中限に
比較して先限の相場の方が高いこと。
furures / forward
受渡期日の遠いもののこと、すなわち 3 限月制のときは最も先
の限月(先限)のことをいい、6 限月制のときは最後の 2 ヶ月の
ものを、9 限月制のときは最後の 3 ヶ月のもののことを言う。ま
た、「先物取引」のことを単に「先物」とも言う。
限月間スプレッ
ド
権利放棄
先物
297
futures
商品取引所法 に 基づく「先物取引」いわゆる商品先物取引 の
範囲は、同法の平成 2 年の改正により大幅に拡大され、従来
からの先物取引である
①「現物先物取引」と呼ばれる取引、即ち将来の一定の時期に
おいて商品およ びその対価の授受を約する売買取引であ っ
て、当該商品の現物の受渡しもしくは建玉の転売または買戻し
による差金の授受によって結了する取引のほか、
②「現金決済取引」と呼ばれる当該商品の現在と将来の一定
の時期との価格差に基づいて算出される金銭の授受によって
取引を結了する現物の受渡しを伴わない取引及び、
③「指数先物取引 」と呼ばれる 所定の商品指数(複数の商品
(物品)の価格水準を総合的に表した数値)の現在と将来の一
定の時期との数値の差に基づいて算出される金銭の授受によ
って結了する取引と、更に
④「オプション取引」と呼ばれる上記 3 種類の先物取引を成立
させることが出来る権利(オプション)の売買(権利の付与また
は取得)に係る取引が追加され、4 種類の先物取引が法定され
ている。
先物約定・先約
定
futures contract
現物取引に おいて先物の売買契約を結ぶことで、 単に「先約
(さきやく)」とも言い、契約の条件に よって「値極先約定(ねぎ
めさきやくじょう)」と「成行先約定(なりゆきさきやくじょう)」とが
ある。
先安
backwardation
相場が将来安くなる勢いにあることまたは先物の相場が中物、
期近物の相場よりも安いこと。
先渡契約・先渡
取引
forward
予め定めた将来時点に予め定めた価格である資産を受け渡
すあるいは売買する契約。先渡取引は信頼のおける当事者間
の慣習的取引に留まっているが、先物市場は先渡取引の欠点
を克服し代替する形で発展した。即ち先物契約の内容は先渡
契約と基本的に同一であるが先渡契約が当事者間において相
対で価格、数量、受渡日などの条件を交わすのに対し、先物契
約は通常標準化されており、定型で取引所において不特定多
数の参加者間で取引される。
先渡取引では実在する証券、商品など現物を定められた将
来の時点に 受け渡すことが義務とされるが、先物取引では実
在しない架空の証券や商品でも対象とすることが出来る。
先渡取引では受渡日において現物と交換に先渡価格全額を支
払うことによって決済されるが、先物取引では契約は受渡日以
前でも市場において自由に売買できるので反対売買に よって
差金で決済することが出来る。
先渡取引では受渡日になってはじめて現金の支払いが行な
われるので債務不履行の危険があ るが先物取引では決済時
に おける債務不履行 を避ける目的で証拠金(margin)の事前
積み立てを要求している。先物価格は時々刻々変化するので
全ての契約について毎日値洗い(marking to market)が行な
われ、損失が生じて顧客から預託された勘定残高が証拠金を
下回った場合には顧客は証拠金の積み増し要請を受ける。
差金
difference
売り約定の価格と買い約定の価格の差すなわち、売買差金の
こと。約定差金、帳入差金の略称。
差金決済
making difference
現物の受渡しをせず、もっぱら反対売買による差金の授受によ
り決済すること。先物取引では将来の一定時期(限月)に おい
先物取引
298
て受渡しを行なうことを前提として売買が行なわれるものの、売
買約定後の相場の値動きを見て、当初の売買の決済期日を待
たずにいつでも反対売買(買い建ての場合は転売、売り建ての
場合は買い戻し)をして、その差額だけを決済できる。
指値・指値注文
limit price
売買注文を出すとき値段を指定することもしくはその指定値段
のこと。指値注文または指値による売り物または買い物。
鞘
spread
相場の変動による売り値と買い値との開きまたは同一時刻に
おける銘柄間、限月間、または場所間の値段の開き。
鞘取り
spread trading
相場の変動、地域差、時間差等に よる売り値と買い値の間の
開きを利用してその間の差益を取ることを目的として行なう売
買戦法。
鞘寄せ
narrowing spread
サヤがだんだん小さくなること即ち隔地間、銘柄間、または限
月間の値開きが縮まること。
ザラバ式
continuous session
競売買による値段を決定する方法の一つで多数の売り方と買
い方が互いに 値段を競い、値段と数量とが合致した者が個々
に相対で売買を成立させる方法。
time value
オプション満期日までの経過時間に係わる価値で、プレミアム
から本質的価値を控除した価値に等しい。タイム・バリューはそ
のオプションがアット・ザ・マネーの時最大となり、また満期日ま
での期間が長いほど増大し、満期日が近づくに つれ急速に 減
少する。
システム売買方
式
system trading
取引所が設置する電子計算機を利用して取引を行なう売買方
式で、取引所のホストコンピューターと会員会社の端末(売買
注文入力装置)はオンライン化されており、売買注文は店頭入
力されるので板寄せ式、ザラバ式ともに商品取引員の市場代
表者が立会上に集合することを要しない。
市中相場
over the counter
取引所以外の取引においてつけられた相場のことをいい「場外
相場」「店頭相場」とも言う。
実行価格
strike price
オプション取引における権利行使価格。
mercantile exchange
商品または商品指数に ついて先物取引を行なうために必要な
市場を開設することを主たる目的として商品取引所法に基づい
て設立された会員組織の法人で、営利の目的をもって営業を
営んではならないこととされている。商品取引所の先物取引は
① 迅速、確実な大量取引機能
② 公正な先物価格指標の形成機能
③ 価格の平準化機能
④ 価格変動に対するヘッジ機能
投機市場としての機能 等を有している。
ストップ・
ストップ値
limit price
取引所では相場が極端に上下し市場が混乱することを防止す
るため、相場の値動きの幅を制限(値幅制限)しているが、その
場合の制限に達したことをストップ、その相場(値段)をストップ
値と言い、上限の制限値段に 達したときを「ストップ高」、下限
の制限値段に達したときを「ストップ安」と言う。
スペキュレーシ
ョン
speculation
株価や金利のように将来値の不確定さから生じるリスクを積極
的に消滅させるのがヘッジング(ヘッジ)であるのに対し、将来
時間的価値
商品取引所
299
の利益を狙ってリスクを積極的に とるのがスペキュレーションと
される。
clearance trade
売買を約定した物件の受渡期限に 現物の受渡しにより決済す
ることも出来、また受渡期限までに これを転売しまたは買い戻
した場合には売買差金を授受して決済を行なうことも出来る取
引。「差金決済取引」とも言う。
総取組高
open interest
取引所は、その日の最終立会後の取引員別の建玉数を限月
別に公表するが、同一商品の同一限月の売りと買いは同数で
あり、この組み合っている枚数(売り買い合計の 1/2)を取組高
と言い、前限月合計の取組高を総取組高と言う。
立会
open outcry
取引所で売買両方の場立ちが集まって売買取引をすること。そ
の場所を「立会場(たちあいば)」と言う。
立会時間
market hours
立会の行なわれる時刻を言い、午前中の立会時間を前場、午
後は後場と呼ばれ、それぞれ一節、二節というように 区分され
節ごとの立会開始時刻が定められている。
立会値段
selling price
取引所の立会時間中 に 売買約定が成立した値段で「出来値
(できね)」とも言う。単一約定値段に よる売買約定を行なう取
引所においては商品及び限月の異なるごとに一つの立会値段
が、また複数約定値段による売買約定 を行なう取引所に おい
ては売買約定ごとに一つの立会値段がある。
建玉
open contract
取引所において売買取引された売買約定によるもので決済未
了のも のを言い、売り約定 のも のを「 売り 建玉 」ま た は「売り
玉」、買い約定のものを「買い建玉」または「買い玉」と言う。
建て値
contract price
取引所における売買約定値段。
単一約定値段
uniform contract price
競売買により売買取引を行なう場合に、一本の値段でその立
会中の売買約定を成立させるその値段を言い、その決定の方
法は板寄せ法と板寄せザラバ折衷法とがある。
出来高
traded amount
市場において成立した売買約定の数量のことを言い、売買高と
は異なる。売り 100 枚、買い 100 枚の場合には売買高は 200
枚となるが出来高は 100 枚となる。
出来値
selling price
売買約定の成立値段。
手仕舞い
liquidation
建玉を転売、買戻しをして決済し、売買関係から離脱すること
を言い「仕舞い(しまい)」「仕舞う(しまう)」とも言う。
デリバティブ
derivatives
通 貨 、 再 建 、 株 式 、 商 品 な ど の 本 源 的 資 産 ( underlying
assets)に 対して、その価格変動を対象とした取引契約を派生
商品(デリバティブ)という。 代表的な派生商品としては先物取
引(特定価格で将来売買を行なう契約)、オプション取引(特定
価格で将来売買を行なう権利の取引)などが挙げられる。
転売、買いもど
し
liquidation sale /
covering
買い約定を反対に売って売買約定関係を解消することを「転売
(てんばい)」と言い、売り約定を反対に買って売買約定関係を
解消することを「買いもどし」と言う。
当業者
commercial
上場商品の売買、売買の媒介、取り次ぎ、生産、加工などを業
としている関連業者の総称。
清算取引.
300
当限
current month
先物取引に おいて受渡月 となった限月のこと。「当期」「当(と
う)」または「当物(とうもの)」とも言う。
当用買い
spot purchase
商品市場において思惑のためではなく当面の需要を満たすた
めに小口の買い物をすること。その買い物またはその買い物を
する手筋のことを「当用口(とうようぐち)」と言う。
特定取引
specified trade
現物先物取引における当業者等のベーシス取引及びコール取
引。主務省が告示する証拠金の料率(金額)についても「特定
の取引」に係るものとして低減措置が講じられている。
特別担保金
special margin
取引所が法令に基づき定款の定めるところにより商品市場に
おける取引の責務の不履行(違約)による会員の損失の補填
に充てるために会員から預託させる担保金。
listed option
取引所の契約市場 で取引されるオプション取引。 それぞれ対
象とされる先物契約または現物商品ごとに、また行使価格、権
利行使可能期日、プットかコールかの別によって区別される。
これに対して店頭オプション(over the counter option)は取引
所に上場されていないオプション取引を言い、金額、権利行使
価格、満期日、そしてそれぞれに対応するプレミアムが通常は
ブローカーを仲介に個別に設定されるオプション取引である。
取引証拠金
margin
取引所が取引の履行を担保するために取引所における取引の
当事者(会員及び商品取引員)に、その売り建玉と買い建玉に
ついて預託させるもので次の 4 種類がある。
①取引本証拠金
取引ごとに買い建玉と売り建玉について業務規定に定める
ところに従い必ず 預託させるもので「本証拠金」「本証」とも言
う。
②取引定時増証拠金(とりひきていじまししょうこきん)
当月限の取引に対するもので業務規定に定める日に残存す
る建玉およびその日以後の当月限の新規建玉 に ついて必ず
預託させるものをいい「定時増証拠金 」「定増(ていまし)」とも
言う。
③取引臨時増証拠金(とりひきりんじまししょうこきん)
相場が著しく変動する恐れがあると認められるとき等、臨時
に一部または全部の限月の建玉について売り、買いの一方ま
たは双方に対し預託させるもので「臨時増証拠金」「臨増(りん
まし)」とも言う。
④取引割増証拠金
売りと買いの建玉を差し引いた残りが取引所の理事会で定
めた数量を超える場合に、 取引所の理事会等の決議により、
その超えた数量の建玉に ついて預託させるもので、特定の限
月だけの場合と全限月の場合とがあり「割増証拠金」とも言う。
成行・成行注文
development at the
market / order at the
market
予め売買の値段を定めないで銘柄、限月および数量だけを指
定して行なう売買の注文。成行注文による売買を「成行売買」、
成行注文による買いを「成行買い」、売りを「成行売り」と言い、
成行注文による売買約定を「成行約定」と言う。
値洗い
martk to the market
取引所では事務の処理上、多数の約定値段をある一定の値段
に引き直すこととしているが、この場合に生ずる差金(約定差
金または帳入差金)を計算すること。
値幅制限
limits / maximum price
fluctuation
需給事情の変化や急激な先行き見通しの修正等により相場が
暴騰暴落することを防ぐため、1 営業日のうちの値動きについ
取引所オプショ
ン
301
て前日終値に 5%ないし 10%の率を乗じて得た金額もしくは一
定金額あるいは両方を併用した金額を前日終値に加えた(また
は減じた)値段(制限値段)を上回る(または下回る)値段で取
引させない制度。
納会
closing session
納会相場
-
最終日の立会。当限月の最後の立会を「当限納会(とうぎりの
うかい)」、年末最終営業日の最後の立会を「大納会」「
年末納
会」
と言う。
納会が近づくと現物の受渡希望者の多少によって相場が大き
く上がるか多きく下がる場合の相場。
残玉
open interest
未決済の売買約定のこと。「建玉(たてぎょく)」とも言う。
売買高
traded volume
取引所における売りの数量と買いの数量の合計数量を言い、
出来高とは異なる。すなわち売り 100 枚、買い 100 枚の場合に
は出来高は 100 枚となるが売買高は 200 枚となる。
始値
opening quotation
前場または後場の立会が始まった最初の値段すなわち寄付き
値段。
反対売買
reversing trade
取引所で買い玉を転売し、または売り玉を買い戻すこと。
引合い
inquiry
売買につき注文を出すにあたっての問合せ。
引き締まる
tightening
保ち合いまたは下げ気味であった相場が少し上がること。
引け
closing
「大引け」の略で、前場もしくは後場の最終立会または最終立
会の相場。立会いが終了することを「引ける」、大引けの値段を
「引け相場」「引け値」と言う。
引け値
closing price
最終約定値段の俗称。「終値」に同じ。
trade by standard
商品取引所の取引において、一定の標準品を定め売買約定は
その標準品に ついて行い、受渡しは標準品と受渡品の格付け
に よる格差(値開き)に より値段を計算して代用品で受渡しが
出来る取引方法で「格付取引」とも言う。
premium
オプションの価格(対価)。オプション取引の際に買方が「売り
付け、買い付けの権利」を取得するために売方に支払う時価の
こと。プレミアムは本質的価値 と時間的価値 とから構成され、
取引所で売り手と買い手による競争売買によって形成される。
通常のマーケットの変動率(ボラティリティ:volatility)が大きい
ほどプレミアムは大きくなり、更に 満期日までの時間が長いほ
ど変動の潜在的可能性は高いと考えられることからプレミアム
は大きくなる。
basis
先物価格と現物価格との差。先物価格が現物価格を上回る状
態をプレミアム、逆に現物価格が先物価格を上回る状態をディ
スカウントと言う。
basis trading
市中において売り方(例えば紡績会社)と買い方(例えば商社)
とが現物の売買取引を行なうにあ たって、取引所の先物取引
を利用する取引。この取引は通常の売買取引 とは異なり売り
方と買い方の双方が予め取引所で約定する場合の値段との格
差(ベーシス)を定めた上で、それぞれ異なった時期に 好む 価
格(売りと買いとが異なった価格)で同一の商品取引員に委託
して取引所を通じて売買取引 を行い、その取引所に おける売
標準品取引
プレミアム
ベーシス
ベーシス取引
302
買取引の差額は取引の差金で調整し、更に上記の格差額を加
減して決済するもの。なお、委託を受けた商品取引員は通常は
売買双方を売り方の名義における委託玉として処理している。
volatility
対象商品が所定の期間内に 確率的に どの程度変動するかを
示す値。一般的に対象商品の 1 日の価格変化の標準偏差(年
率換算)で表される。「価格変動率」ともいう。基礎商品の過去
の変動の標準偏差から求めたヒストリカル・ボラティリティと、
現
在の市場のオプション価格から逆算するインプライド・ボラティ
リティがある。
本質的価値
intrinsic value
先物値段と権利行使価格 との差額。「内在的価値」ともいい、
保有しているオプションが利益を生む 状態に あるとき、そのオ
プションは本質的価値をもつという。すなわちコール・オプション
の場合、当該先物限月価格 が権利行使価格 を上回っている
か、プットオプションの場合では当該先物限月価格が権利行使
価格を下回っている場合にはその差額を言う。
コールの本質的価値=先物値段−権利行使価格
プットの本質的価値=権利行使価格−先物値段
満期日
expiration date
オプション契約が満期になる期日、オプションを実行(行使)す
ることが出来る最後の日。
未済高
open interest
まだ受渡しまたは転売、
買戻しによる決済の終わらない建玉の
数。「
取組高」
または「未決済玉数」とも言う。
持ち
position
買い約定の建玉(転売未済のもの)を持っていることで、「買い
持ち」とも言い「売り持ち」の反対、 また商品の現物を手許に持
っていること。
保ち合い、持ち
合い
steady market
相場の動きが殆ど動かないかまたは動いても非常に小幅な動
きであること。このような相場の状態を「保合相場(もちあいそう
ば)」と言う。
約定
contract
市場で会員がした売買契約。その契約による売買値段を「
約定
値段」
、 売買契約の数量を「約定数量」、約定数量に約定値段
を乗じて計算したものを「
約定代金」
または「約定金高」と言う。
European option
決済日に おいてのみ権利行使可能なオプション。権利行使の
意思表示は期限内のいつでも出来るが、
実際の行使は満期日
になる点でアメリカン・
オプションとは異なる。
呼値
nominal quotation
取引所で売買取引をして値段を約定する際に取引物件の値決
めの対象 となる数量 の単位で売買単位であ る「枚」 とは異な
る。 また、その単位に ついて高台で呼び上げる値段の刻みの
幅を「呼値の単位」と言う。
寄付き
opening trade
取引所における前場または後場の立会のうちの最初の取引の
ことで単に「寄り」とも言う。
利食い
profit taking
利が乗った売り玉を買い戻し(利食い買い)または買い玉を転
売(利食い売り)して差益を収めること。
straddling
同一の客が商品取引員に 対し同一商品、同一限月の売り玉と
買い玉とを建てておくこと。これは建玉が一時的に損失計算と
なっても投げ(損勘定となった買い建玉に 見切りをつけて転売
して決済すること)や踏み(売り玉を損して買い戻すこと)によっ
て退かなくても良いように売り玉と買い玉の両方を建て、一方
ボラティリティー
ヨーロピアン・オ
プション
両建
303
の損失を食い止め適当と思うときに一方の建玉を外して残った
玉より利益を得ようとする売買戦法として行なわれる。また、同
一商品取引員が取引所に 対して同一商品、
同一限月の売り玉
と買い玉とを建てておくこと。
abandon
-
オプションの買い手がオプションの不行使を選択する行為・権
利の放棄。
actuals
-
商品先物契約に おける商品と区別する意味で、実在する現物
の商品のこと、実物商品、現物。
allowances
-
先物契約に おける特定の基準等級または基準地域の標準品
に対して、
等級または地域のより低い(より高い)商品について
認められる割引(割増)を言う格差。
American
option
-
権利行使期限内 ならばいつでも権利行使 できるオプション取
引。現在アメリカで一般的に先物オプション取引として行なわれ
ている取引。
appreciation
-
価値(価格)の増大、騰貴。
arbitrage
-
相場の値鞘(価格差)を利用して利益を得るために、あ る市場
における現物または先物の売付けに対して、これと同時に同一
または異なる市場において行なわれる同種または他の現物も
しくは先物の買付け、 裁定取引、鞘取り売買、鞘稼ぎ売買。 現
物と先物による裁定取引の場合には hedging(ヘッジング、ヘ
ッジ取引)と言い、先物のみによる場合には spreading(スプレ
ッド取引)と呼ばれる。arbitrage は広い概念であり、その中に
は spread、straddle の方法が含まれる。
arbitration
-
取引所の会員間で、または会員と顧客との間でなされる紛争
解決の手続を言う仲裁。
backwardation
-
先物価格が期先限月に 向かうにつれ次第に低くなっている市
場の状態、逆鞘。順鞘(contango)の反対。
-
ある商品の実物または現物価格とその商品と同一または関連
する商品の先物相場との価格差。ベーシスは通常期近限月に
つき算定されるが、時期、商品形態、品質および地域の違いを
意味することもあ る。(→short the basis ベーシス売り、long
the basis ベーシス買い)
basis price
-
オプションを権利行使する際の価格とすることについて、オプシ
ョンの売り手と買い手が合意した価格。ベーシス価格は通常オ
プションの売付時に おける限月の商品の現市場価格であ る。
striking price(権利行使価格)とも呼ばれる。
basis risk
-
先物価格と現物価格が理論どおりに動かないことから、現物と
先物とを組み合わせたり、現物の代わりに先物を用いたポジシ
ョンに生じる価格リスク。
bear
-
相場の下落を期待する者、 弱気筋。強気筋の反対。報道記事
についても、それがより低い相場をもたらすと予期されるもので
あれば、それは弱材料といわれる。
bear market
-
相場が下落しつつある市場、弱気市場
bear spread
-
①価格の下落を回避する目的で、同一または関連する商品の
basis
304
2 つの先物契約を同時に売買すること。農産物では期近物を売
り、それよりも期先物を買うことによって行なわれる。また、 貴
金属市場が逆鞘市場から順鞘市場に転換すると予想される場
合にもこうした取引方法が行なわれる。
②満期日を同じくするオプションでより権利行使価格の高いオプ
ションを買付け、同時により権利行使価格の低いオプションを売
付ける戦略のこと。これはプットおよびコールの双方で用いるこ
とができる。弱気型スプレッド。
-
周囲の状況が下値を指向しているとき「弱い(bearish)」状態に
あると言われる。もし高値が保証されるような状態にあれば、そ
の状態は「強い(bullish)」と言われる。
-
指値に より特定量の商品を買付ける旨の申し出、 指値買付け
の申し出、買い唱え値。また、条件の適合する売り手と約定を
成立させることが出来なかったときの買い唱え値のこと。offer
(オファー、指値売付の申し出)の反対。
-
商品を売買しまたはその委託を受ける業務を営む者から構成
された取引所または団体で、法人格の有無を問わない(米国
商品取引所法第 2 条(a))、商品取引所。米国では Board of
Trade が商品取引所を表わす正式な用語。
Board of Trade
Clearing
Corporation
(CBOT)
-
CBOT において成立したすべての取引を保証人として清算し、
全ての利益を貸方に 記入し、
全ての損失を徴収するために、
日々、全清算会員会社の勘定(口座)を調整し、市場動向の変
更により清算会員会社の証拠金の設定、 修正を行なう独立の
会 社 組 織 、 清 算 会 社 。 clearing corporation と も い う 。
(→clearing house、清算機関)
borrowing
-
期近物の買いと同時に期先物を売付けること。
broker
-
①委託者の売買注文の執行に対して手数料の支払いを受ける
者。
②floor broker(フロアーブローカー、場内仲立人)の意味で用
いられる場合には、取引所の立会場で委託者の注文を実際に
執行する者。
③account executives(受託口座管理人)、associated person
(商品取引関係者)、registered representatives(登録外務員)
または customer’s man(外務員、セールスマン)の意味で用い
られる場合には FCM(商品取引員、先物取次業者、先物手数
料商人)の事務所で委託者からの注文を取り扱う者。
④futures commission merchant (FCM)。
bulge
-
急激な価格の上昇、暴騰、急騰。(→break(暴落))
bull
-
相場の上昇を期待する者、強気筋。報道記事も、それがより高
い相場をもたらすことを予示するものであれば、それは強材料
といわれる。bear(弱気筋)の反対。
bull market
-
相場が上昇しつつある市場、強気市場。
-
強気型スプレッド
①価格の上昇から利益を得るために、 同一または関連する商
品の 2 つの先物契約を同時に売買すること。農産物では期近
物を買い、それよりも期先物を売ることによって行なわれる。ま
た貴金属市場が順鞘市場から逆鞘市場へと転換すると予想さ
bearish、bullish
bid
Board of Trade
bull spread
305
れる場合にこうした取引方法が行なわれる。
②満期日を同じくするオプションで、より権利行使価格 の低い
オプションを買付け、同時により権利行使価格の高いオプショ
ンを売付ける戦略のこと。
-
基礎となる商品と、
その商品に対して大量に売付けられたコー
ルの組み合わせによるヘッジ。大量に売付けられたオプション
と均衡を保つに十分なより高い権利行使価格のコールを買付
けることにより責任の上昇を限定する。この取引戦略は商品の
価格に対する売付けられたオプションの権利行使価格の関係
に応じて、弱気でも強気でもない取引戦略から比較的強気な取
引戦略にもなる。
-
①期近とこれより期先の 1 単位を買付けると同時に、ちょうど 2
つの限月の中間の 2 単位を売付けること。これは持越費用か
ら生ずる潜在的損益を控除するゆえに極めてリスクの低いスプ
レッドとなる。
②オプションではプットとコールの双方に用いられる。権利行使
価格の低いオプションと高いオプションを買付け、ちょうど権利
行使価格が中間のオプション 2 単位を売付けること。これらの
オプションは同一限月でなければならない。
-
オプション取引の買付選択権
①opening call or closing call( 寄付または大引コール)
取引所が指定する時間帯に各先渡契約 および先物契約の価
格(約定値段)が競争売買(セリ)によって決定される
②buyer’s call(買い方コール)
一般に綿花取引において用いられる用語で、ある商品の特定
等級の特定量の買付けを将来の特定限月の約定価格よりも一
定額の上値または下値で行なうこと。この場合、買い方は一定
の期間内であ れば売り方の計算で買付けるか、または買い方
が値決めを希望する時期を売り方に指示することによって価格
を決定することが出来る。
③seller’s call(売り方コール)
売り方が各決定の時期を決定する権利を持っていること以外
は buyer’s call と同じ。
④商品の買付けまたは買い約定に参加する権利を買方に与え
ているオプション契約、コール・オプション(買付選択権)。
-
オプションの買い手はオプションの満期までに権利行使価格で
基礎となる先物契約または現物商品を買う権利(義務を伴わな
い)を与えられた契約。オプションの買い手は当該オプションの
売り手に対してプレミアムを支払う。コール・オプションは価格
の上昇を見込んで買付けられる。
cash and carry
-
先渡し約定のプレミアムが直物より高く、概して高金利を含め
かなりゆっくりした持越費用を反映している順鞘の場合に 用い
られる投資戦略の1つ。商品の供給量が多い場合に は、順鞘
は銀行の資金運用が活発に なるまで拡大してゆく。資金は現
物商品の買付と同時に経費を控除後、
現行の金融市場よりも
利回りの良い先渡し契約の売付に投資される。
cash
commodity
-
現物商品、商品先物契約と区別する意味で現実に実在する商
品 を言 い 、 現 物 市場 を通 じ て 取 得 さ れる 商 品。 時 に spot
commodity(現物商品)または actuals(現物)とも呼ばれる。
cash contract
-
現物契約、 現物契約を直物でまたは先渡しで売買する双務契
butterfly hedge
butterfly spread
call
call option
306
約。
cash forward
sale
-
現物先渡売買、延取引。後日商品の受渡しを行なうとする現物
商品の売買。deferred delivery(繰延引渡し、延取引、先限)お
よ び forward sale ( 現 物 先 渡 売 買 、 延 取 引 ) と も 言 う 。
(→forward contracting、現物先渡契約、延取引)
cash market
-
現物市場、 商品 の直物 の受渡しと代金 の払込 を要する市場
(→spot、直物、forward contract →現物先渡契約、延取引)
cash price
-
現物価格、 慣例的な流通経路を経て受渡しされる実際の現物
または実物商品の市場価格。LME では spot price(現物価格)
と言う。
cash
settlement
-
現金決済、 一般に 指数をベースとした先物契約に関する取引
方法で、商品または金融証券の受渡しを特定する契約とは異
なり、最終取引日における指数の実価に基づき現金決済する
こと。
cash trading
-
実物取引、現物取引。先物取引と区別して用いられる。
CBOE
-
シカゴ・オプション取引所。
Chicago Board of Options Exchange の略。
Certificate of
deposit(CD)
-
譲渡性定期預金証書 、証書上に特定の満期日が示された譲
渡性のある定期預金。
CFTC
-
商品先物取引委員会。
Commodity Futures Trading Commission の略。
churning
-
過当売買、過当取引、攪乱的過当な売買。委託者の最良の利
益を無視して、ブローカーの利益獲得を許すような過当な取引
活動。
clear
-
清算。清算期間が全ての取引の記録を保管し、清算会員のた
めに日々の値洗いをもとに証拠金の出入額を清算する行為。
clearances
-
①特定期日(清算日)に 特定の港または複数の港に 移動した
船積み商品量。
②清算会社の業務では、清算された取引のこと。
clearing house
-
清算機関。商品取引所と連携する独立の機関、取引所の立会
場で行なわれた売買取引は清算機関 を通じて決済されること
に なる。この機関はまた取引所の受渡手続きの適切な管理と
取引上の適切な資金運用を保証する責任を負う。
CME
-
シカゴ・マーカンタイル取引所。
Chicago Mercantile Exchangeの略。
combination
-
権利行使価格と満期日が異なるプットの買い(または売り)とコ
ールの買い(または売り)を組み合せる投資戦略。
commercials
-
当業者、当業筋。現物の穀物その他の商品を販売または加工
する会社。現物取扱業者。
-
委託手数料。契約の売買に際し、ブローカーが委託者に対して
請求する手数料。従来この手数料は契約の清算時に徴収され
ていたが、契約成立時にその半分を請求するようになりつつあ
る。
commission
307
-
未決済約定数、 取組高。一定時点に おいてまだ反対売買によ
る決済または現物の受渡しによる決済が行なわれていない、
現存する取引約定(契約)の数。
-
商品、 または商業に 用いることの出来る生産物 。狭義に は公
認の取引所で取引される生産物を言う。
-
商品先物取引委員会。合衆国の大統領直属の独立行政機関
で、 先物取引 を監視 する こ とを目的 として いる。 1974 年 の
CFTC 法(1975 年 4 月 21 日発効)により設立され、上院の承
認を得て大統領が任命する委員長 1 名と委員 4 名から構成さ
れる。
-
順鞘、相場が期近限月より期先限月の方へと順次高くなってい
る市場の状態。順鞘は生産物の供給に変化が無い場合、また
は期近で余剰の場合、もしくは先行供給不測の場合に生ずる。
通常順鞘の規模は限月期間中 の持越費用 を超えることは無
い 。 forwardation と も 呼 ば れ る ( →cash and carry 、
backwardation、逆鞘)
-
収斂現象。 現物価格と先物価格は限月が接近するに ともなっ
て一致する(即ちベーシスは 0 に接近する)傾向にあることを意
味する用語。narrowing of the basis(ベーシスの接近)とも言
う。
cost of carry
-
資金調達上 の用語。一般に借入・貸出双方 に用いられる。 持
越費用。マイナ スの持越費用(negative carry)とは資金調達
費用(短期利率 )が金融商品の現行利回りを上回る場合をい
い、プラスの持越費用(positive carry)とは資金調達費用(短
期利率)が金融商品の現行利回りを下回る場合をいう。
(→carrying charge、持越費用)
cross-hedge
-
先物契約の基礎となる現物商品をヘッジするために、 同じよう
に価格が動く異なる先物契約を用いる事。たとえば魚肉をヘッ
ジするために大豆粕先物契約を用いる。
-
クロス取引、バイカイ、付け合せ売買。ある委託者の買い注文
と他の委託者の売り注文を相殺し、 または非競争的に 付け合
せることで、商品取引所法、CFTC 規則および先物取引市場の
規則が定める要件を満たした場合に のみ許される取引。相手
方と通牒して付け合わせ売買の形をとるものは仮装売買として
違法となる。
-
当月限、当限。当月の間に 期日が到来し、受渡可能な先物契
約。spot month(スポット月、当月限、直物限月)とも呼ばれる。
customer
margin
-
委託者証拠金。契約の義務履行を保証するために先物契約に
おいては売買当事者に 対して、またオプション契約においては
売り方に対して要求され、 先物取引会社に 預託される保証金
のこと。FCM は委託者証拠金の口座(勘定)を監視する義務を
負う。また、performance bond margin(契約保証証拠金)のこ
とも言う。(→clearing margin、清算証拠金)
daily trading
limit
-
日々の取引制限、日々取引所が定める契約ごとの最大価格変
動幅。
dealer
-
現物市場において自己勘定で取引する個人または法人。LME
のディーラーは合衆国の取引所のブローカーと同一の役割を
commitment
(open interest)
commodity
Commodity
Futures
Trading
Commission
(CFTC)
contango
convergence
cross trading
current delivery
308
果たす。
-
現物商品の売付選択権 または買付選択権 のことをいうが、こ
のオプションは取引所の規則にもとづいて設定またはこれに準
拠したものではない。契約義務履行はオプションの出し手(売り
手)にかかっている。
default
-
債務不履行、契約不履行。取引所規則に よって要求されてい
る先物契約の不履行。たとえば証拠金の追加請求に対する支
払いの不履行、または実物商品の受渡し(引渡し、受取り)の
不履行。連邦農業貸付金制度の下では、政府貸付金を返済し
ていないとする決定。返済の代わりに生産者は担保としていた
生産物を引き渡す。 先物市場では、先物契約の当事者の一方
が契約に基づいて要求される現物商品の引渡しまたは受取り
のいずれかについての理論的不履行。
deposit
-
預託金。委託者のブローカーが未決済の約定につき要求する
最初の出費。これは当該約定が清算された時点で委託者に返
還される。
differentials
-
格差。先物契約における特定の基準等級または基準地域の標
準品に対して、 等級または地域の低い(高い)商品について認
められる割引(割増)。allowances(格差)とも呼ばれる。
discount
-
割引、下鞘。低い等級の商品の受渡しにつき減ずることの出来
る金額。時として、 同一の先物契約で異なる限月間の値開き
(価格差)をいう場合がある。たとえば 5 月の先物相場より低い
7 月の先物相場という意味で July is at a discount to May(7
月限は 5 月限に対し下鞘)と使われる。先物相場より低い現物
の穀物相場にも用いられる。
distant delivery
-
期先、 期先物 。 期限到来 のよ り遠い 限月のこ と( →deferred
delivery、繰延引渡、延取引、先限)
-
exchange for physicals:現物との取替え
ある者が現物を買い先物を売り、別の者が現物を売り先物を買うというような 2 当事者間の取引。先物契約を現物契約と交
換したいと欲している 2 人のヘッジャーが通常用いる取引方
法。EFP は先物の買いと売りと同時に、同じ 2 当事者が先物と
同量の実物商品を売買するという 4 つの取引から成る。このよ
うな取引手法は先物市場がまだ開いていない場合に先物契約
をヘッジするために現物市場を利用する際にしばしば用いられ
る。
elasticity
-
弾力性。商品の供給、需要及び価格の相互作用を説明する商
品の特性。価格の変動が消費の増減をもたらす場合にはその
商品は需要の弾力性があり、価格の変動が消費にほとんどま
たは全く影響を与えない場合には、その商品の需要は非弾力
的であるという。価格の変動が商品の生産に増減をもたらす場
合には商品には供給弾力性があり、商品の供給が価格の変動
と連動しない場合には、供給は非弾力的であるという。
erratic
-
乱調、 乱高下。市場の動きが荒く、上下に 素早く変わり、その
方向が不規則であるような状態。
evening up
-
約定整理。 現在市場に存在している約定を相殺するための売
買。(→covering 買戻し、手仕舞い、liquidating 清算)
dealer option
EFP
309
F.A.Q.
-
平均中等品、平均見本品、標準見本品。
Fair Average Quality の略。
FCM
-
商品取引員、先物取次業者。
futures commission merchantの略。
FIA
-
先物取引業協会
Futures Industry Association の略。
flat
-
利含み、無利息。利息の発生しない取引。
-
不可抗力。契約の一方の当事者が人間の力を超える出来事を
理由に契約を履行しないことを認めた供給契約条項。そのよう
な出来事は生産国でのストライキによる輸出の遅れとは区別さ
れる。
forward
contract
(or contracting)
-
現物先渡契約、 延取引。商品の販売流通の分野を含めて、多
くの業界に共通の現物取引で、売買当事者が将来の一定の日
に特定の品質および数量の商品の受渡しを行うことに合意す
る取引。契約価格は前もって合意されるかあるいは受渡し時に
決定されるということを合意しておく。現物先渡契約は個人的な
交渉に より成立する。futures contracts(先物契約 )とは異な
る。
forward months
-
期先限月、先渡契約。現在取引が行われている先物契約のう
ち、より 遅いま た はより 遠い 時期に 受渡 しが行われる も の。
deferred contracts(先渡契約、延取引)を意味することもある。
fungibility
-
代替性、交換性、 互換性。同一の商品および限月に ついての
先物契約は、品質、数量、受渡し期日および受渡し場所につい
ての標準的特定要件に代替性を持たせている。
-
先物取引。組織化された取引所において、当該取引所の定め
る条件に 従い、将来のある時点に受渡しを行う商品の売買契
約。または、先物取引所における将来の受渡しを条件とする商
品売買につき手仕舞いの出来る定型化(規格化)された契約を
指す。
futures contract
-
先物契約。先物取引所の会員間の競争売買により成立する契
約で、各限月の指定された期間中に、指定の場所で一定の品
質・等級・
数量の商品を受渡しすることを約する、法的に安全確
実な契約のこと。なお、受渡し時期の到来以前に反対売買によ
る決済も出来る。
haircut
-
評価算定。資産が必要資本に適合しているかどうかの決定に
おける一定資産価値の減価率。担保または本証拠金として預
託された資産価値の算定。
heating oil
-
暖房油。家庭暖房用留出燃料油である No.2 燃料油と同義。
-
現物商品を保有している、または保有しようと計画している者
で、現物市場で現物商品を売買する前の商品コストの変動に
関心をもっている個人または法人。ヘッジャーは現物商品と同
一または類似の商品の先物契約を買付ける(売付ける)ことに
よって、現物のコスト価格の変化に 対処し、後日、先物取引と
同量かつ同種類の先物契約を売付け(買付け)ることによって
当該契約を相殺する。
force majeure
futures
hedger
310
hedging
-
ヘッジ取引。現物市場で保有している約定が逆の(不利な)相
場変動によって生ずる財務的損失のリスクを最小限にくいとめ
るために、先物市場でこれと反対の約定を保有すること。 また
将来生ずるであ ろう現物取引 の一時的な代用手段 として行う
先物の買いまたは売りを言う。(→selling (or short) hedge売り
つなぎ、purchasing (or long) hedge 買いつなぎ)
high
-
高値。特定の先物契約がその取引日において記録した最高価
格。
implicit volatility
-
内在的ボラティリティー。オプションの評価モデルに オプション
の市場価格を代入して逆算されるボラティリティーのこと。
IPE
-
ロンドン国際石油取引所。
International Petroleum Exchange of London Limitedの略。
-
先行指標。将来の経済の状態を暗示する指標。先行指標には
平均生産労働週、生産労働者の解雇率、インフレ調整後の消
費者物資の新注文、新商品の出荷速度、純事業成立率、生産
設備契約、 手持ちの在庫量の変化、 原料価格の変化、株価、
総流動資産の変化、通貨供給量の変化が含まれる。
-
取引の対象品の額面よりも小額の預託金、保証金または証拠
金を用いる売買。商品先物市場は通常、契約の額面 90%のレ
バレージを与えられており、約 10%の預託金を要求している。
これにより比較的小額の資本で大きな商品投資を管理すること
が可能となる。イギリスでは gearing の語が用いられる。
-
値幅制限、 ストップ高・ストップ安。立会時間帯(米国ではザラ
バのため一日)の中で許容される、前日の終値から計算された
最大限度の値上げ幅または値下げ幅。(→price limit 値幅制
限)
limit price
-
制限価格。契約市場の規則で定められた、立会時間帯内にお
ける先物契約の価格の値動きの最大許容限度。
( →limit up or down 値 幅 制 限 、 ス ト ッ プ 高 ・ ス ト ッ プ 安 、
maximum price fluctuation 値幅制限、価格の変動の最大限
度)
limits
-
制限、値幅制限(→position limit 約定制限、price limit 値幅制
限、variable limit 変動制限)
-
流動性のある市場、小浮動の市場状況。わずかな価格差で大
量の取引を行おうとする多数の買い手と売り手が存在するた
めに売買が容易に成立し得る市場の状況。売買が極めて小幅
な相場変動によって行われうる市場の状況。
liquidation
-
手仕舞い、清算。ロングの先物契約を相殺または手仕舞うため
の取引をすること。この用語はショートの先物契約の手仕舞い
を示すこともあるが、covering(手仕舞買戻し)を意味すること
が多い。未決済の約定数(建玉)が減少しつつある市場の状態
を言う。(→evening up 約定整理、offset 相殺)
LME
-
ロンドン金属取引所
London Metal Exchangeの略。
long
-
買い方、買約定。先物契約を買う者のこと。short(ショート、 売
り方、売約定)の逆。在庫商品を所有する者のこと。商品の受
leading
indicators
leverage
limit (up or
down)
liquid market
311
渡しを行うべき義務を負うことになる約定のこと。
-
買いつなぎ。現物価格の上昇による被害を避けるために先物
を買うこと。(→purchasing hedge買いつなぎ)
-
価格操作、相場操縦。相場を人為的に 変動させ、または相場
の変動 を妨害する非合法 の取引活動。 corner(買占め)、rig
(買占めに よる相場操縦)、bang(売り崩し、売り叩き)、wash
sale(仮装売買)、cross trade(クロス取引、バイカイ、付け合せ
売買)、accommodation trade(なれ合い売買)など複雑な取
引操作を行うことがある。
-
証拠金。未決済の先物約定の損失に 対する保証をブローカー
または清算機関に与えるために、顧客からブローカーにまたは
ブローカーから清算会社に預託された金銭または保証金。 証
拠金は買入れの支払いの一部ではない。(→clearing margin
清算証拠金、customer margin 委託者証拠金)。証拠金は内
容に応じて更に 4 種類に分類されている。
・initial margin(当初証拠金=委託本証拠金、基本証拠金)
買建玉または売建玉を問わず、先物契約が建てられるときに
FCM によって約定ごとに請求される証拠金の合計額。
・original margin(当初証拠金=売買本証拠金、基本証拠金)
とは清算機関によって清算会員に請求される基本証拠金を。
・maintenance margin(維持証拠金、追加証拠金)
全期間を通じて預託に つき維持されるべき金額。先物約定に
係わる委託者債権(持分=純預かり)が、不利益な相場変動に
よって基準以下に下落した場合に、FCM は委託者債権を元通
りにさせるために証拠金の追加請求をしなければならない。
・minimum margin(最少証拠金)
先物約定の成立における最小限の証拠金額をいう。この最少
額はその取引商品ごとに 個々の取引所が定めるが、FCM は
独自の危険評価に基づいて、これよりも高額の当初証拠金の
預託を要求することが出来る。
・variation margin(変動証拠金)
当初証拠金とは異なり、その額は日々変化する。
margin call
-
証拠金請求、追証請求。FCM が委託者に対して委託証拠金の
預託金を取引所の規定に基づいて要求される預託必要最低額
まで追加納入 させるために請求すること。 清算機関が清算会
員に 対して売買証拠金(清算証拠金 )を清算機関の規則に 基
づいて要求される預託必要最低額まで追加納入させるために
請求すること。
mark to the
market
-
値洗い。毎日の立会終了時 においてなされる証拠金勘定(口
座)への貸し方または借り方の記帳。これにより売買当事者は
契約不履行の可能性から保護される。
maturity
-
満期、各限月の決済期限到来時期。先物契約の決済を現物の
受渡しによって行うことの出来る時期(期間)。商品先物契約の
第 1 通知日と最終取引日までの期間。
maximum price
fluctuation
-
値幅制限、価格変動の最大限度。立会時間内において前日の
終値から変動し得る最大の値動き幅。(→limit up or down 値
幅制限、ストップ高・
ストップ安、price limit 値幅制限)
momentum
-
テクニカル分析において特定の期間内に生ずる価格の相対的
変 動 。 しば し ば 価 格変 動 の 速 さ で 表示 さ れ、 ま た relative
long hedge
manipulation
margin
312
strength(相対的強さ)の語で示される。
moving
average
-
移動平均。テクニカルアナリシスにおいては値動きの方向を決
定または予測するために最近の期間内における価格を平均化
する方法。一定の期間内における価格を加算し、それを日数で
除することによって求められる。
narrow market
-
膠着状態、値動き鈍化の市場の状況。価格変動の幅が上下と
もに小さく、膠着状態となっている様子。thin market(薄商い状
態)とは異なる。
net position
-
差引建玉。あ る口座(勘定)に つき保有 しているロング(買建
玉)とショート(売建玉)の未決済約定の差。FCM が清算機関
に対して保有している約定の差。
NFA
-
全米先物協会
National Futures Association の略。
No.2 Fuel Oi
-
No.2 燃料油、家庭暖房用留出燃料油のこと。
nominal price
-
名目価格または名目相場、気配値、気配相場。実際の取引が
無い期間内において算定して付けられる先物の価格。 通常買
い 唱 え 値 と 売 り 唱 え 値 と の 平 均 値 が 採 ら れ る 。 nominal
quotation とも呼ぶ。
NYMEX
-
ニューヨーク・マーカンタイル取引所
New York Mercantile Exchange の略。
offer
-
指値売付けの申し出。一定の価格(指値)で進んで売ろうとす
る意思表示。bid(ビッド、指値買付けの申し出、買い唱え値)の
反対。
-
相殺。同一限月の同一数量の売約定によって先物契約の買い
を手仕舞いすること。または同一限月の同一数量の買約定に
よって先物契約の売りを手仕舞うこと。(→cover 手仕舞い、買
戻し、evening up 建玉整理、仕切商い、liquidation 手仕舞い、
清算)
差引買建玉または差引売建玉を確定する目的で、全ての買建
玉と全ての売建玉を突き合わせ。同一数量の約定部分を対当
させること。ある委託者の買い注文と他の委託者の売り注文を
非競争的に 対当させること。 実際に は商品取引所法 、CFTC
(商品先物取引委員会)規則および先物取引市場に 定める要
件に基づいて実行されるときのみ許される。(→cross trading
クロス取引、バイカイ、付け合せ売買)
-
未決済約定、建玉。買付けまたは売付けの取引が行われ、 未
だ反対売買(転売または買い戻し)または現物の受渡しによっ
て決済されずに 残っている約定(売買取引)。複数形の open
contracts は通常、 取組高 (未決済約定取組総数 )を指す。
(→open interest 未決済約定総数、取組高)
open interest
-
未決済約定総数、取組高。取引の成立後、反対売買または現
物の受渡しに よる決済が行われていない、あ る限月のまたは
ある市場の先物契約の総数。各未決済約定は買い手と売り手
がいるが、未決済約定の数量の計算に 際してはどちらかの一
方の当事者のみについてカウントされる。
open order
-
無条件注文。委託者がその注文を明示的に 取消すまで、 また
offset
open contract
313
は先物 契約 が満期 とな る ま で有 効な 注文 をいう 。 ( →GTC
order 当分用い注文)
-
公開呼び声。商品取引所のピットまたはリングでの取引の際の
公式の競争売買方式。 全ての先物取引は取引所外取引 を除
いて、口頭によるビッドとオファーによって行われる。
-
当初証拠金 =売買本証拠金 、基本証拠金 。清算機関の規則
によって清算会員会社に請求される売買証拠金の当初預託金
を意味する。これは取引所の規定によって委託者に請求される
委託本証拠金または預託保証金と同義。
-
内在的価値の無いオプションの呼び方。コール・オプションの場
合は権利行使価格が基礎となる先物価格より高い時にアウ ト・
オブ・ザ・マネーとなり、プット・オプションの場合には権利行使
価格が基礎となる先物価格よりも低い時に アウ ト・オブ・ザ・マ
ネーとなる。(→intrinsic value 内在的価値)
over the
counter
option
-
店頭オプション。取引所オプションに対し、上場されていないオ
プション取引。金額、権利行使価格、満期日、そしてそれぞれ
に対応するプレミアムは通常ブローカーを介して個別に設定さ
れる。
own account
-
自己玉、自己の計算による取引勘定(約定)。FCM が自らの会
社の責任において保有する約定のことで house account( 自社
玉)とも言う。
par
-
標準価格。標準的な受渡場所または当該約定値段をもって受
渡しを行い得るという契約を象徴する商品の品質を対象とする
値段。 代替供用の多種多様な品質に対して格差(格下げまた
は格上げ)を付する基礎となる基本水準点 としての役割 をす
る。
physicals
-
現物。(→actuals 実物商品)
-
約定制限、建玉制限。1 個人が保有しまたは支配している 1 商
品の各限月または全限月合計の差引建玉の買約定または売
約定のいずれかにつき、取引所または CFTC が定めた約定数
の最高限度。trading limits(取引制限、約定制限、建玉制限)
とも言う。
-
建玉保有者。契約の売買を行い、かつ一定期間に わたって買
約定または売約定を保有する先物トレーダー。通常 1 取引時
間帯(1 営業日)に先物契約を新規に建てて手仕舞ってしまう
day trader(デイ・トレーダー)と区別される。
-
割増し、上鞘。より優良な品質の商品の買入れに際して取引所
規則が認める割増金額。ある限月の先物が他の限月より高い
値段で売買されていること。たとえば July is at a premium
over May.(7 月限は 5 月限より上鞘)と言う。外国為替における
ように現物価格が先物価格より高いことを言う。オプション契約
の売買に つき、オプションの買い手が売り手に支払う金銭のこ
と(→option premium オプション・プレミアム)
-
値幅制限。 前日の終値を基準として立会時間帯に上下し得る
先物またはオプションの最大の値動き幅で各取引所に よって
定められている。limit(制限、値幅制限)とも言う。(→variable
price limit 変動値幅制限)
open outcry
original margin
out-of-the-mon
ey
position limit
position trader
premium
price limit
314
purchase price
-
買入価格、仕入価格。商品オプションにあっては取引に参加し
ている者によって支払われるプレミアム、売買手数料その他直
接・間接の諸費用が全て含まれている実際の原価。一般的に
は商品買付け価格のこと。
put call parity
-
同一権利行使価格で同一限月のヨーロピアン型のプットとコー
ルとの間に成立しなければならない理論的関係。
put option
-
オプションの買い手はオプションの売り手に対して基礎となる先
物契約または現物商品を権利行使日 に またはそれ以前に 権
利行使価格で売る権利(義務を伴わない)を主張し得るオプシ
ョン契約。プットオプションは価格の下降が予想されるときに買
付けられる。
quotation
-
現物商品または先物商品の価格。
range (price)
-
ある一定の取引時間帯、取引週間、月間、契約存続期間など
の間に記録された商品の最高価格と最低価格の差、値幅。
rate of return
-
収益率。CFTC が毎月顧客持分に全ての新規約定を加算し、
全ての注文の取り消しを控除した上でその月の純損益(手数
料およびその他の費用を控除)で除して算出した毎月の収益
率。
risk-aversion
-
リスク回避。リスクを減少させること、または一定の選択肢の中
から最もリスクの少ない方法を選ぶこと。
risk preference
-
危険選好。投資家が危険を選択すること。
risk/reward
ratio
-
危険/報酬比。損失の蓋然性と利益の蓋然性の関係を示す比
率。この比率は取引の選択または選別の際の根拠としてしばし
ば用いられる。
roll over
-
乗り換え。他の限月の約定を保有していて、それとの両建てに
しているある限月の約定を別の限月へと移し替える特別な取
引行為。これは両建ての限月のうち買約定か売約定のどちら
でも出来る。この用語はまた先物ヘッジ玉を移し替えることや
約定をより期先の限月へと移転することにも用いられる。
SEC
-
証券取引委員会(米国)
Securities and Exchange Commission の略。
settlement
(or settling
price)
-
清算価格、基準値段、入値段。帳清算機関が各限月に つき清
算会員間の全ての取引を清算する場合、および全ての勘定を
値洗いする場合に用いる毎日の基準値段。この価格は当日の
終値を基準にして決定される。清算価格は証拠金の追加請求
および受渡のための受渡価格、翌日の値幅制限を決定するた
めに用いられる。また、この用語は正規の取引で手仕舞いされ
ない約定(建玉)を一様なものにする(そのために値洗いする)
ために取引所によって設定された基準値段のことをも言う。
settlement date
-
(→forward contract 現物先渡契約、延取引)
-
売り方、売り約定、売建玉。未決済先物約定(建玉)の売り手の
側。先物市場での差引建玉が買約定を超える売り約定を有す
るトレーダーのこと。 オプション契約を売ること。(→long ロン
グ、買い方、買約定)
short
315
SIMEX
-
シ ン ガ ポ ー ル 国 際 通 貨 取 引 所 。 Singapore International
monetary Exchange の略。
slack market
-
閑散な市況、緩慢な市況。活気が乏しく価格もたるんでいる市
況の状況。quiet market とも言う。
speculator
-
投機家。ヘッジ取引以外の目的、即ち期待通りの値動きによっ
て利益を獲得することを目的として商品先物およびオプション
取引を行う者。市場価格のリスクを引き受け、先物市場に流動
性と資金を提供する。
spot market
-
スポット市場、直物市場 。現物または直物取引が行われる市
場。
spot month
-
スポット月、当月限、直物限月。先物取引における最初の受渡
月。(→current delivery 当月限、当限、nearby delivery month
期近限月)
spot price
-
直物価格。一定の時間(時刻)および一定の場所で売買が行
われる実物の商品の価格。cash price(現物価格)と同義。
-
値開き、値鞘、 鞘取り。価格変動の相関関係によってもたらさ
れる好機を利用して、鞘を稼ぎ利益を得ようとして行う取引の
組み合わせ。すなわち同一商品のある限月の買いとこれに対
する他の限月の売り、ある商品(たとえば大豆)のあ る限月の
買いと経済的に関連する他の商品(たとえば大豆に 対する大
豆油・
大豆粕)の同一限月の売り、またある市場のある商品の
買いと他の市場で のその商品の売り を組み合わせる 取引方
法。
代表的なものとしては
vertical spread(ヴァーティカル・
スプレッド)
horizontal spread(ホリゾンタル・スプレッド)
butterfly spread(バタフライ・スプレッド)
sandwich spread(サンドイッチ・
スプレッド)
box spread(ボックス・
スプレッド)がある。
スプレッドはまた同一商品のあ る限月の相場と他の限月の相
場との間の開差(値開き)のことを指す場合もある。
spreading
-
スプレッド取引。約定の相殺による利益を期待して 2 つの関連
市場に おいて同時売買を行うこと。たとえば、同一商品のある
限月の先物 の買いと他の限月の先物の売りを組み合せるこ
と。同一商品の同一限月の先物の買いと売りを別の先物市場
で行うこと、あ る商品の買いとこれと同一限月ではあるが経済
的に関連する他の商品の先物の売りを組み合せることを言う。
squeeze
-
玉締め。市場のその他諸々の関連から見て、その真価を大きく
上回るような高い価格でなければ、売り約定を買い戻すことが
できないような状態。
straddle
-
値開き、値鞘。spread(スプレッド)と同義。
strike price
-
コール・オプションまたはプット・オプションの基礎となる先物契
約の買付けまたは売付け価格のこと。exercise price(権利行
使価格)と同義。(→basis price ベーシス価格)
striking price
(exercise price
or contract
-
権利行使価格、契約価格。オプションの基礎となる先物契約ま
たは商品が売り手から買い手へと受渡しされるときの価格で、
オプション契約において特定されている価格のこと。
spread
316
price)
surplus
-
過剰商品量、収入超過。現在ないし将来予期される必要量を
超えて手持ちしている商品、即ち超過保有量。
swap
-
ある証券と他の証券とを交換すること。通常 2 つの類似の債権
(たとえば満期利回り、安全性)の間で行われる。
swing
-
上下動、動きの幅。特定の時間内における価格の上下動。
-
乗り換え、同時売買 。あ る商品のあ る限月の約定を相殺する
(手仕舞いする)と同時に同一の商品で他の限月に同一数量
の約定を建てること。ヘッジャーがこれを行なう場合には、この
取引方法は rolling forward(期先への乗り換え)と言う。
(→spread スプレッド、値開き、値鞘)
-
同時売買。あ る商品のある限月の約定を清算すると同時に、
同一の商品で他の限月に 同一数量の約定を建てること。ヘッ
ジャーがこれを行なう場合に は、 このような取引方法はヘッジ
の rolling forward(期先への乗り換え)と言う。
-
技術的分析。価格変動のパターン、変動率、および出来高・未
決済約定総数の推移等を吟味して、先物取引市場と商品価格
の今後の傾向について分析する方法。fundamental analysis
(ファンダメンタル・アナリシス)に対する概念。
technical
position
-
技術的市場状況、内部要因。市場の内部状態を示す用語で、
市場が売物薄または過剰売りとなっているような時、技術的市
場状況は強いといわれる。逆に急騰の後、市場が明らかに過
剰買いとなっているような時、技術的市場状況は弱いと言う。
time spread
-
権利行使価格を同じくするオプションで、
期近のオプションを売
り、
これよりも期先のオプションを買うこと。 この方法はプットお
よびコールの双方において用いられる。
-
時間的価値。権利行使までの期間中に基礎となる先物価格が
変動し、
これによってオプションの価値が増大すると予想して、
オプションの買い手がオプションを買付けるために支払おうとす
る金額。一般にオプション・
プレミアムは時間的価値および内在
的価値の合計額である。オプション・
プレミアムのうちオプション
の内在的価値 を上回る部分(金額)は時間的価値 に当たる。
intrinsic value(付帯価値)とも言う。
trading limit
-
取引制限、約定制限、値幅制限。
①個人が 1 取引日に売買し得る先物商品の最大限度量。
②CFTC 規則または取引所規定に基づき、個人が保有するこ
とを許容する建玉の最大限度
(→position limit 約定制限)
③1 日の取引に おいて、これ以上または以下は許容されない
価格の騰落。
trading volume
-
出来高。ある一定期間(通常は 1 日)に売買された先物やオプ
ション契約の総量。
-
垂直スプレッド。同一限月で権利行使価格が異なるプット・オプ
ションの売りと買い、またはコール・オプションの売りと買いを組
み合わせた取引方法。bull spread(ブル・スプレッド、強気型ス
プレッド)と bear spread(ベアー・スプレッド、弱気型スプレッド)
switch
switching
technical
analysis
time value
vertical spread
317
に分けられる。ヴァーティカルと呼ばれる理由は、オプションの
組み合わせが新聞紙上の相場表示上、
垂直の組み合わせとな
ることに由来する。
volume of trade
-
出来高。一定期間内に 成立した取引の数量。取引された枚数
を用いて表わすか、またはブッシェルといった物的単位の合計
において表示される。
yield
-
利回り。①投資に対する年間収益を%で表示したもの。②収率
または単位面積あたりの収穫量
yield to
maturity
-
最終利回り、満期利回り。買入価格と満期時の価格との差を平
均化することにより、増加または減少させた直接利回りのこと。
参考文献
石油公団編『石油用語辞典』
(ペトロビジネスサービス、1986 年)
石油天然ガス・金属鉱物資源機構『石油・天然ガス用語辞典』(電子版)
http://oilgas-info.jogmec.go.jp/dicsearch.pl
国際石油開発帝石株式会社『天然ガス・石油用語集』(電子版)
http://www.inpex.co.jp/glossary.html
JX 日鉱日石エネルギー『石油便覧』(電子版)
http://www.noe.jx-group.co.jp/binran/index.html
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