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APMモダナイゼーションの取組み ~これからのSE
APMモダナイゼーションの取組み ∼これからのSE ∼ Approach to APM Modernization—Systems Engineers in Future ● 鎌倉潤一 ● 濱本勇人 ● 木村茂樹 あらまし これからのSEは,稼働中のシステムを運用・保守し,現場の変化に合わせてシステム を変化させ続けることが求められる。企業におけるICTの位置付けが変わったからである。 現在のICTに企業の経営層が期待することは,効率化,コスト削減に加え, 「競争力やビジ ネスの強化」である。企業におけるICTの位置付けが変わるにつれ,システムに携わるSE に対する要求も変化した。SEがこの要求に応えるには, 「変化を捉え」 「システムをスリム 化し,最適な状態に導き」 「システムの最適な状態を維持する」 ことの三つが重要である。 富士通は,この三つをAPM (Application management and Portfolio Management)モ ダナイゼーションの各技法で実現する。APMモダナイゼーション技法は, 「もったいない」 「モダナイ」 「持たない」 と表現された三つの方法で,レガシーシステムを最適化し,再レガ シー化を防止する技法である。この技法で,日々の運用・保守業務の中から改善の芽を作 り,正確な現状把握と最適な技術を組み合わせてスリム化した上で次期システムを構築で きる。さらに,構成管理を中心とした運用・保守プロセスで最適な状態を維持し,システ ムを進化させることができる。 本稿では, 「現場の変化に合わせてシステムを変化させ続ける」を実現するAPMモダナ イゼーションの取組みを中心に,これからのSE像について述べる。 Abstract Systems engineers (SEs) are now required to operate and maintain in-service systems and continue to change them according to changes in the field because the positioning of ICT in enterprises has changed. The management of enterprises expects the present ICT to not only improve efficiency and reduce costs but also strengthen competitiveness and improve business. Requirements for SEs engaged in systems have also changed. To meet these requirements, three things are important: to detect changes, streamline and optimize systems, and maintain their optimum state. Fujitsu realizes these through techniques of Application management and Portfolio Management (APM) modernization, which optimize legacy systems by three methods: mottainai (minimize waste), modanai (modernize) and motanai (outsource). Possible improvements to systems can be found in daily operation and maintenance, and the system can be streamlined by combining an accurate understanding of the actual state and optimum technology. A successor system can then be constructed based on these improvements. In addition, operation and maintenance processes that center on configuration management can be used to maintain the optimum state and allow the system to evolve. This paper describes an idea of how future SEs will be, mainly including approaches to APM modernization for realizing continuous change according to changes in the field. FUJITSU. 63, 2, p. 113-119(03, 2012) 113 APMモダナイゼーションの取組み ∼これからのSE ∼ ま え が き 企業におけるICTの位置付けが変わった。以前 は「手作業の効率化」や「コスト削減」が主な役 再びレガシー化することを防止する。 本稿では,モダナイゼーションの取組みをもと に,これからのSEが求められる資質を,実践に基 づく事例を踏まえ解説する。 割であったが,現在では「競争力やビジネスの強化」 変化を捉える (1) においても期待されている。 これを背景に,システムに携わるSEへの要求 変化を捉える「眼」として「鳥の目,虫の目, も変化している。従来のSEには,納期,品質お (2) が注目されている。富士通のAPMモダ 魚の目」 よびコストを満たす「システム開発」を求められ ナイゼーション技法ではそれを発展させ「虫の目, た。システムが稼働すると,SEは別システムの開 鳥の目,親の目」が重要と考える。元々,虫の目 発現場に異動する。まるでビルの建築を連想させ は,多角的に物事を見て問題を把握する。鳥の目は, る。これは,システム開発の品質管理や工程管理 広範囲にわたって俯 瞰し全体感を持って根本的な などを,建築業を参考に構築したからである。本 課題を発見する。魚の目は著書の中で,とろんと 来,ビルの完成後は,定期的な点検と必要な補修 して目が動かない様を自分の酔眼と見立てたとあ を行う。当然,建設業における保守工事にも工程 り,これから,興味を持って見入る視点と言える。 管理のルールがある。しかし,システムの保守に 富士通ではこの興味を持って見る視点を発展させ, ルールはなく,業務の変更など必要性が生じたタ 親の目とした。親の目は,親が子供を見守る目で イミングで不定期に実施し,その方法も現場の担 ある。子供の体調変化に敏感に気づく目で,なん 当者に任されている。その上,システム開発にお となく「いつもと違う」という,感覚的な変化も ける保守は必要最小限で,該当部分だけ修正する。 見落とさない目である。この「親の目」を持つた 定期的な修繕計画がないためシステムはレガシー めには,興味を持って熱心に物事を見る必要があ 化する。レガシー化は,汎用機システム特有の課 る。これらの目は,運用・保守を行い現場の変化 題と捉えがちであるが,オープンシステムも長期 を読み取るのに重要な視点である。 間稼働するケースが多くなり, 「オープンレガシー」 ● 虫の目 と呼ばれている。 これからのSEは,稼働中のシステムを運用・保 問題の本質を見極める手法は,品質管理の専門 書や,原因究明に関する研修などで体感できる。 守し,現場の変化に合わせシステムを変化させ続 富士通は,業務の円滑な運用をサポートするため けることを求められる。現場のニーズ,経営のニー に,技術,ビジネス,利用者,サービス提供者の ズの変化を捉え,柔軟に短期間でシステム化を実 四つの視点で「虫の目」を実現し根本原因を導く 現する。このためには,システムを変化に強い最 「そもそも分析」という技法を推奨する。この技法 適な状態に保つ必要がある。これらの実現には, の特徴は,「犯人探しをしない」「根本原因分析の 次の三つが重要である。 専門知識を必要としない」「根本原因を一つに絞ら (1)変化を捉える。 ない」の三つである。下記の「7つのそもそも」に (2)システムをスリム化し,最適な状態に導く。 従い,問いかけによる原因の発見を繰り返すこと (3)最適化した状態を維持する。 で,多角的に根本原因の要素を導く(虫の目で見る) 富 士 通 は, こ の 三 つ を 日 々 発 生 す る イ ン シ ことができる。 デ ン ト を 分 析 す る 手 法 と,APM(Application そもそも1:決めていない management and Portfolio Management)モダナ そもそも2:知らない イゼーションを中心とした各技法で解決する。日々 そもそも3:知っていたが実施しない 発生するインシデントから変化を捉え,その変化 そもそも4:決まりごとがおかしい をAPMモダナイゼーション技法は「もったいない」 そもそも5:決まりごとが古くなった 「モダナイ」「持たない」というキーワードと関連 した三つの手法で,レガシーシステムを最適化し, 114 そもそも6:訓練が足りない そもそも7:運用しにくい FUJITSU. 63, 2(03, 2012) APMモダナイゼーションの取組み ∼これからのSE ∼ (3) で分析し,傾向を把握したものである。 ● 鳥の目 (Information Technology Infrastructure ITIL®(注) 発生時間帯,業務ごとの発生時間帯,発生日付 Library)は,複数のインシデントが引き起こす未 に偏りがないかの三つの観点で分析した結果,イ 知の原因について,根本原因を解決するよう問題 ンシデントの集中に以下の傾向があることが分 の検出を推奨している。下記は,サービスデスク かった。 でインシデントを解決しても,その決定的な原因 ・発生時間帯:朝一番,午後前半,午後後半 を特定できず,類似インシデントが再発したケー ・業務ごとの発生時間帯:午後前半の業務 スの根本原因を特定する視点(鳥の目)の事例で ・発生日付:月末,週末の業務ピーク翌日 ある(図-1)。事例は,利用部門からの問合せや, この傾向から下記二つの傾向を導いた。 ミドルウェア,オペレーティングシステム,ハー ・業務のピーク時間帯に業務処理警告が多発する。 ドウェアからのメッセージなど複数のインシデン ・業務のピーク翌日にバッチ処理が異常終了する。 トをその種別にとらわれず発生時間と発生日の2軸 ● 親の目 「虫の目」「鳥の目」の起点は,日常の運用・保 (注) 守に携わる担当者の「いつもと違う」 「ほかと違う」 ITIL® is a registered trade mark of the Cabinet Office. 日付 火 水 木 金 月 火 水 木 金 月 火 水 木 金 月 火 水 木 金 水 木 金 月 火 水 木 金 月 火 水 木 金 月 火 火水 木水 金木 月金 火月 水火 木水 金木 土金 月月 火火 水水 木木 金金 月月 火火 水水 木木 金金 月月 火 水 金 日 月 火 水 木 金 月 火 水 木 金 月 火 水 木 金 月 火 時間帯 1/15 1/16 1/17 1/18 1/21 1/22 1/23 1/24 1/25 1/28 1/29 1/30 1/31 2/1 2/4 2/5 2/6 2/7 2/8 2/13 2/14 2/15 2/18 2/19 2/20 2/21 2/22 2/25 2/26 2/27 2/28 2/29 3/3 3/4 3/5 4/1 3/6 4/2 3/7 4/3 3/10 4/4 3/11 4/7 3/124/8 3/134/9 3/14 4/10 3/15 4/11 3/17 4/14 3/18 4/15 3/19 4/16 3/20 4/17 3/21 4/18 3/24 4/21 3/254/22 3/264/23 3/274/24 3/284/25 3/314/28 4/29 4/30 5/2 5/4 5/5 5/6 5/7 5/8 5/9 5/12 5/13 5/14 5/15 5/16 5/19 5/20 5/21 5/22 5/23 5/26 5/27 0:48 8:54 7:16 0:49 6:43 6:36 7:20 6:59 6:47 7:35 7:41 8:49 8:24 8:50 8:56 9:02*2 10:25 9:04 8:52 8:50 8:56 10:28 9:57 9:45 9:50 9:31 9:57 9:52 9:36 9:23 9:44 10:39 9:45 10:25 10:28 10:31 10:24 10:24 10:23 10:29 10:23 10:27 10:20 10:18 10:40 10:25 10:28 10:25 10:26 10:10 10:27 10 25 10:25 10:09 10:33 10:24 10:40 10:4810:40 10:3210:47 10:54 10:50 10:38 10:30 10:54 10:26 10:49 10:29*2 10:28 10:51 10:43 10:31 10:38 10:40 10:32 10:25 11:14 10:34 11:27 11:2011:03 10:48 10:54 11:06 11:01 11:01 11:04 10:39 11:16 10:59 11:15 11:02 11:13 11:06 11:25 11:12 11:28 11:40 10:59 12:06 11:58 11:35 11:26 11:35 11:44 11:41 11:22 11:44 11:2727 11:40 11:52 12:03 11:47 12:08 12:00 12:04 12:07 12:27 12:06 12:03 14:16 12:28 13:3013:26 14:33 13:45 13:30 13:41 12:29 13:55 13:48 13:50 13:52 13:50 13:48 13:54 13:57 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承し,保守するのは非効率的である。逆に,役立 違うことを「親の目」で捉え,エスカレーション つ資産を捨てることは損失である。既存資産の活 する,安全に止めるなどの対処を行い,更に「虫 用には,必要なもの(次期システムに役立つ資産) の目」「鳥の目」を駆使し根本原因を見つけ出す。 は残し,無駄なもの(不要資産)は捨て,足りな いもの(新サービス)は追加することが重要である。 システムをスリム化し,最適な状態に導く APMモダナイゼーション技法は,既存資産をスリ 環境の変化に柔軟,かつ短期間で対応しながら, ム化し,次期システムに継承する(図-3)。 正確な運用・保守を実践するには,現状把握と最 スリム化は,富士通の社内システム再構築時に 新のICTをベースに,現場ニーズを満たすことが重 実施した資産整理手法をリファレンスに,10種類 要である。次期システムを企画する際,構築のコ の見える化技術と6種類のスリム化に体系化した スト削減や工期短縮を狙い,既存システムの資産 を活用した構築を検討する案件は多い。しかし「ICT 資産が複雑で活用可否が不明」「構築したシステム が数年後に再びレガシー化する」「クラウド環境で 効率的に運用・保守したいが,現在の保守プロセ スと融合できない」など課題が多く,既存資産の 活用は難しい。APMモダナイゼーションは,利用 目的に適したアプリケーションの移行,運用・保 活用可否が不明 (表-1)。 表のスリム化の項目の特長は,下記のとおりで ある。 (1)アプリケーションのスリム化 未稼働資産削減や同一機能統合で,次期システ ムに役立つ資産だけを継承する。 (2)データベースのスリム化 DB統合によるライセンス削減,不要レコード削 陳腐化 見える化 管理が難しい INTARFRM 仮想化・クラウド アプリケーションのスリム化 既存資産の再生 効率的な運用・保守環境 アプリケーションの ムダ取り 業務資産の長期利用 最新技術の適用 環境構築の効率化 安全・安心な運用環境 モダナイ もったいない 持たない モダナイゼーションの三つの「M」 APMモダナイゼーション技法 ツール ノウハウ プロセス 図-2 APMモダナイゼーション技法の三つの「M」 116 FUJITSU. 63, 2(03, 2012) APMモダナイゼーションの取組み ∼これからのSE ∼ 最適配置 スリム化実施 目的達成に向けた施策に 基づいたスリム化の実施 クラウド スリム化後 スッ キリ 見える化 スリム化前 オンプレミス 必要なもの 追加 ゴチ ャ ゴチャ ゴチ ャ ゴチャ 新規 足りないもの 不要なもの 現行システム 廃棄 新しく追加 不要なものは捨てる 選別された状態 廃棄 図-3 スリム化の概念 表-1 スリム化の体系 見える化技術 ① アプリ ケーション スリム化 1 アプリケーション 2 データベース 3 インタフェース 4 運用・保守※ 5 保守案件※ 6 保守費用※ ② インタ フェース ③ 画面・ 帳票 ・人:システム ・システム内 ・システム間 ○ ④ 業務 仕分け ・SLA ○ ⑤ 業務稼働 情報 ・業務での 利用実態 ⑥ 構成情報 ⑦ データ ・OS ・文字コード ・プログラム ・データと プロダクト アプリケー ・ミドルウェア ションの 関係 ・ライセンス ○ ○ ⑨ アプリ ケーション 運用・保守 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ⑩ インシ デント ・トラブル ・運用・保守 ・問合せ ・依頼案件 プロセス ・保守費用 ○ ○ ○ ○ ⑧ ドキュ メント ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ※アプリケーション関連 除,および同一項目統合で業務データの無駄を軽 減する。 (3)インタフェースのスリム化 (6)保守費用のスリム化 (1)∼(5)のスリム化で次期システム稼働後の 保守費用を低減する。 不要な電文項目や冗長なシステム間連携,未使 富士通社内システムのスリム化実践では,当ア 用の画面や帳票を削減し,システム内に流れる情 プローチで平均60%超の最適化効果を見込んでい 報の複雑さを軽減する。 る(図-4)。 (4)アプリケーション運用・保守のスリム化 ● モダナイ プロセス整備やツール化で,属人化による対応 既存資産を活用する際,従来はマイグレーショ 内容のばらつきをなくし,運用・保守の品質向上 ンなどで単純移行する技法が一般的であった。し と効率化を実現する。 かし,単純移行したシステムは,技術のトレンド (5)アプリケーション保守案件のスリム化 障害,問合せ,改善要望などのインシデントを やビジネス環境が変わった数年後,陳腐化する宿 命にある。 ツールで一元管理,分析し,改善施策に適切な優 APMモダナイゼーションは, 次期システムの構築 先度を付けることで保守案件への対応効率を向上 にアプリケーションフレームワーク「INTARFRM」 する。 を採用し,陳腐化の課題を解決する。マイグレー FUJITSU. 63, 2(03, 2012) 117 APMモダナイゼーションの取組み ∼これからのSE ∼ 現状システム 2796画面 帳票 1092帳票 DB 13 751テーブル 339 552項目 スリム化期待効果 1663画面 41%の削減 391帳票 64%の削減 600テーブル 12 910項目 96%の削減 (新規画面135含む) スリム化 システム見える化 画面 新システム (チェック用160含む) アプリ ケーション 7576本 1703本 77%の削減 連携 インタ フェース 2045連携 845連携 59%の削減 図-4 スリム化の効果(富士通の社内実践から試算) ションの技術や経験を生かし,既存資産から必要 を含む広義の意味で用いている。構成管理を導入 な設計情報を抽出しINTARFRMのリポジトリに格 する上で重要な要素を以下に挙げる。 納する。数年後のプラットフォーム更改時も業務 (1)構成管理する要素を決める。 アプリケーションへの影響を極小にする。 (2)構成管理プロセスとツールを選定する。 ● 持たない (3)構成管理ベースラインを決める。 アプリケーション運用・保守の要員と各社独自 のプロセスを持たないことで,ICT投資の最適化を 図る。 (4)その後の変更と本番環境へのリリースを管理, 記録する。 (5)ある時点で変更とリリースの情報を吸収した 属人的な運用・保守のやり方は,「保守案件とア 構成管理ベースラインに変更する。 プリケーション改修箇所が結び付かない」「構成管 これらを実践するには,大量の構成管理要素を 理が徹底できずリリースミスやレベルダウンを繰 扱う必要から,ツールの導入は必須である。この り返す」など,コスト増の要因となる。 ツールの機能により構成管理プロセスに占める手 APMモダナイゼーションは,デューデリジェン ス(システムや運用・保守状況の調査)やトラン ジション(システムや運用・保守の移行)技法で, 作業の割合が決まる。手作業の最小化が,正確な 構成管理の要である。 ある企業ではフリーソフトウェアの構成管理 既存のアプリケーション運用・保守を標準化した ツールを導入しソースコードを管理したが,テス プロセスを備えた新体制に移管し最適化する。 ト工程でリリースミスやデグレードが多数発生し 最適化した状態を維持する た。これは導入したツールに,構成管理に必要な 「変更と本番環境へのリリース」を管理,記録する ICT資産をスリム化しても,その後の運用・保 機能がないため発生したトラブルである。この企 守でその状態を維持しなければ,同じ機能を備え 業は,テスト工程後半から,富士通のSIMPLIA/ る業務アプリケーションの乱立,複数バージョン SC-Manager(構成管理ツール)を導入し,トラブ の混在による同期ずれ,アプリケーション運用・ ル件数を削減することができた。 保守を実施する際の影響調査漏れの誘発など,再 構成管理の要素はドキュメントやアプリケー び業務システムが肥大化してしまう。スリムな状 (4) と ション以外にもある。ITILで「サービス資産」 態を維持するには,正確な構成管理が重要である。 記載されるように,サービス提供に必要なリソー ここで示す「構成管理」という用語は,ITILが定 ス,例えば「業務」 「アプリケーション」 「アプリケー 義する「サービス資産および構成管理」プロセス ション基盤」「インフラ」,また必要であれば「運 だけの狭義の意味ではなく,「サービス移行」全体 用要件」などもサービス提供に必要な「資産」で 118 FUJITSU. 63, 2(03, 2012) APMモダナイゼーションの取組み ∼これからのSE ∼ ある。これらの関連を有機的に関連付けて把握す れば,サービスに対する変更の影響を速やかに検 知できる。 (3)最適な状態を維持する力 構成管理を中心とした運用・保守プロセスを確 実に行い,システムを変化に強い最適な状態に保 このように,正確な構成管理プロセス,ツール のもとで,調査∼開発∼テストを行い,手戻りの 少ない,品質の高いサービス提供を実現する。 つ力。 従来のスキルに加え,この三つを持つSEが,企 業の競争力やビジネスの強化に欠かせない時代が きた。 む す び APMモダナイゼーション技法の実践には,運用・ 保守を行うことによって得られる情報をもとに現 参考文献 (1) 富士通:SIビジネス勉強会∼お客様のソーシングを 場の変化を捉え,システムを変化に追従させるた 支える富士通のSI ∼.2010年12月. めに以下のスキルが必要である。 http://pr.fujitsu.com/jp/ir/library/presentation/pdf/ 20101221j-01.pdf (1)変化を捉える眼 日々の運用・保守業務の中で変化を捉え,課題 を明確にし,改善の芽を作り出す力。 (2) 林 雄一郎:鳥の目 虫の目 魚の目.楽友舎,2003年. (3) 佐野 隆ほか:サービスマネジメント領域の強化. FUJITSU ,Vol.60,No.6,p.578-583(2009). (2)既存資産を最適化する力 正確な現状把握と最適な技術を組み合わせてス リム化した上で次期システムを構築する力。現場 は常に動いているため, 「考えて動く」ではなく, 「動 (4) OGC:ITIL V3 サービスデザイン.TSO,2007年. (5) 勝見 明:杉下右京に学ぶ「謎解きの発想術」.プレ ジデント社,2010年. (5) きながら考える」という「知的体育会系」 の行動力。 著者紹介 鎌倉潤一(かまくら じゅんいち) 木村茂樹(きむら しげき) クラウドアプリケーションセンター 所属 現在,APMサービス技術の開発および適 用に従事。 クラウドアプリケーションセンター APMコンピテンシー部 所属 現在,スリム化を中心に,APMモダナ イゼーションサービス for Cloudの企 画,開発,およびサービス適用(商談 支援,実施)に従事。 濱本勇人(はまもと はやと) クラウドアプリケーションセンター APMコンピテンシー部 所属 現在,アプリケーション運用・保守の 移管,プロセスの最適化,インシデント・ 問題管理での分析などのITILに準拠し た運用・保守プロセスのサービス企画, 開発,実践に従事。 FUJITSU. 63, 2(03, 2012) 119