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無線LAN通信品質制御技術の概要

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無線LAN通信品質制御技術の概要
無線LAN
無線LANの通信品質向上を実現するQoS制御技術
通信品質制御
機能ソフトウェア
無線LAN通信品質制御技術の概要
おがさわら
まもる
うめうち
まこと
小笠原 守 /梅内 誠
かわむら
けんいち
み や の
と
も
こ
河村 憲一 /宮野 とも子
おおつき
マルチメディア系アプリケーション(音声・映像ほか)の普及に伴い,今
し ん や
な が た
け ん ご
大槻 信也 /永田 健悟
後は無線LANでも同様にサポートすることが重要になってきます.本稿では,
ひらぐり
IEEE802.11e-EDCA方式をベースにして,通信品質の向上化・安定化を実現
平栗 健史
たけふみ
する「無線LAN通信品質制御技術(機能ソフトウェア)
」の概要について紹
NTTアクセスサービスシステム研究所
介します.
無線LANでの快適な通信の実現を
目指して
最近では,ホームやオフィスなどの
至る所で無線LANが利用されていま
す.また外出先では,PC等によるワ
公衆スポット∼オフィス∼ホームまでPC
イヤレスブロードバンドアクセスが「公
等の端末1台により,無線LANアク
衆無線LANサービス」として利用可能
セスを介したインターネット接続など
になっています.これらのサービス利用
が利用できます.Webアクセスなどの
イメージの全体像を図1に例示します.
ベストエフォート型通信においては,従
公衆スポットゾーン
カフェ・レストランなど
空港
:移動
ホテル
列車内
プラットフォーム
無線LANアクセスポイント
IPネットワーク
無線LANアクセスポイント
オフィスゾーン
無線LANアクセスポイント
ホームゾーン
SOHO内
オフィス内
家庭内
SOHO: Small Office/Home Office
図1 無線LANが活用されているサービス概観(例)
40
NTT技術ジャーナル 2007.8
ユビキタス性の追求
特
集
■周波数利用状況
来型の無線LANで十分に利用可能で
ます. さらに, 高 速 ハンドオーバ
したが,今後のマルチメディア系通信
(802.11r)やメッシュネットワーク
IEEE802.11b/gの無線LANでは
(音声や映像など)を無線LANアクセ
(802.11s)の規格化作業も図られて
2.4 GHz帯を,IEEE802.11aの無線
スによってもサポートしていくためには,
おり,無線LANのより一層の高機能
LANでは5GHz帯を使用しています.
より安定的な通信品質を実現する必要
化が進められている状況です.
2.4 GHz帯は,ISM(Industry Sci-
があります.NTTアクセスサービスシ
加えて,一般的に利用されている無
ence Medical)バンドとして自由に
ステム研究所では,無線LANの品質
線LANデバイス〔アクセスポイント
使用可能な帯域であり,さまざまな機
制御標準規格である「IEEE802.11e-
(AP: Access Point)や無線LAN端
器が同じ周波数を使用しています.例
EDCA( Enhanced Distributed
末(STA: Station)〕間の相互接続
えば,電子レンジやBluetoothがあり
Channel Access)方式」 をベース
性を確保するために,Wi-Fiアライアン
ます.一方,5GHz帯は,2.4 GHz帯
に,主に公衆無線LANサービスへの適
スでは,IEEE802.11規格に則った認
ISMバンドに対して比較的にクリアな
用を想定して,さらなる通信品質の向
証テストを実施しています.例えば,
バンドですが,レーダ等との干渉を避
上化・安定化を実現するための無線
前記の802.11e中のEDCA方式に関
け る た め に 屋 内 利 用 〔 5.2 GHz帯
LAN通信品質制御技術の研究開発に
する認証規格は,「Wi-Fi Multime-
(5.150-5.250 GHz)および5.3 GHz
取り組んでいます. 本稿では,従来の
dia規格(WMM規格)」と呼ばれて
帯(5.250-5.350 GHz)〕に限定され
無線LANにおける通信品質上の課題
います. これによりI E E E 8 0 2 . 1 1 e -
ています.また,2007年1月には5.6
およびその改善技術について述べると
EDCAをベースとしたWMM規格の無
GHz帯(5.470-5.725 GHz)の屋内
ともに,開発を行った無線LAN通信
線LANデバイス間では,製造メーカが
外利用が制度化されています.今後
品質制御用ソフトウェアについて紹介
異なっても優先制御通信を行うことが
は,この周波数帯の無線LANも屋外
します.
可能になります.
利用を中心に拡がってくるものと思わ
(1)
れます.
無線LAN技術の動向
■標準化技術の一般動向
無線LANの標準化動向の概観を図
IEEE802.11無線LANの規格
2に示します.無線LANの標準規格
は,IEEE802.11で規格化されており,
現在では802.11b/g規格や802.11a
規格が広く一般的に「無線LAN」と
Wi-Fi
相互接続性の確保
高速化
の流れ
802.11b
(2.4 GHz帯)
802.11a(5GHz帯),
802.11g(2.4 GHz帯)
802.11n
(2.4 &5GHz帯)
最大実効速度
5∼6 Mbit/s程度
最大実効速度
25∼30 Mbit/s程度
最大実効速度
100 M bit/s超
▲
して利用されています.802.11g/aの
無線伝送速度は最大54 Mbit/sです
が,最近ではより高速な伝送速度を実
現在
◆高速化: 802.11a/g から 802.11nへの移行が始まりつつある
◆高機能化: セキュリティ,QoSに加え,高速ハンドオーバ メッシュ等の新技術が標準化されつつある
標準化作業が
進行中
現 するための規 格 化 作 業 ( I E E E
802.11n:100 Mbit/s超のスループッ
ト)が進められています.また,従来
高機能化
の流れ
802.11i
(セキュリティ)
802.11e
(QoS)
の無線LAN規格はベストエフォート型
802.11r
(高速ハンドオーバ)
802.11s
(メッシュネットワーク)
通 信 を前 提 にしていたのに対 して,
8 0 2 . 1 1 e では8 0 2 . 1 1 M A C 層 のサブ
図2 無線LAN標準化動向の概観
セットとして品質制御規格を定めてい
NTT技術ジャーナル 2007.8
41
無線LANの通信品質向上を実現するQoS制御技術
なお,5.3 GHz帯および5.6 GHz帯
では,レーダとの干渉を避けるための
が定めた優先度連携制御が実現可能
rier Sense Multiple Access with
になります.
Collision Avoidance) は各 端 末 に
動的周波数選択機能(DFS: Dynam-
なお,802.11e-EDCA規格の詳細
よる自律分散制御ですので,基地局に
ic Frequency Selection),および送
については, 本 特 集 『 無 線 L A N の
よる集中制御に比べ品質管理が困難
信電力制御機能(TPC: Transmitter
EDCAパラメータ動的更新技術』の中
であるという問題もあります.
Power Control)を備える条件が規
で解説します.
定されています.無線LANの周波数割
無線LANシステムの代表的な利用
構成例として,シングル形態とマルチ
無線LANにおける課題
り当て状況を図3に示します.
■EDCA規格の特徴
ホップ形態の2つを示します(図4).
無線LANの通信品質は有線の通信
基本的なシングル形態の場合,有線
と違い,無線特有の問題があります.
ネットワークと接続される無線LAN
層を拡張した優先制御機能で,4つ
まず,電波を利用しての通信は有線に
APはその配下に収容されるSTAと通
の優先度を定めるアクセスカテゴリー
比べ外的要因からの品質劣化が大き
信を行います.無線LAN上での接続
(AC: Access Category)を持ってい
く,伝送特性が変動します.特に2.4
STAの通信品質(遅延やパケットロ
ます.このACには,音声や映像など
GHz帯無線LAN(IEEE 802.11b/g)
ス)を確保するためには,各方式の無
のマルチメディアアプリケーションをサ
では,ISMバンドを使用していますの
線LANの最大無線帯域を超えないよ
ポートするための2つの優先度に加え
でさまざまな機器が同じ周波数を使用
うにAPにて品質制御を実施する必要
て,従来のベストエフォートなどをサ
しており,周囲の機器からの干渉が大
があります.具体的には,従来の無線
ポートするための2つの優先度が定め
きく,無線LANの使用できる帯域を圧
LAN方式に対して,次のような問題を
られています.無線LANと有線ネット
迫します.また無線LANは有線に比べ
解決する必要があります.
ワークとを接続して全体ネットワーク
てフレーム誤りによる再送が生じる確
EDCA規格においては,標準的な
を構成する場合において,例えば有線
率が高く,適応変調方式を使用して
EDCAパラメータを用いる場合,高優
側 の8 つの優 先 度 情 報 ( UP: User
いるため,一定量のトラヒックに使用
先度トラヒックどうしの衝突により通
Priority)を無線LANの4つの優先
する無線帯域幅(無線占有時間)が
信品質が極端に劣化するという問題が
度情報(AC)とにマッピングを行う
電波環境によって動的に変動するとい
あります.また,EDCAには受付制御
ことにより,有線ネットワークから無
う特徴もあります.さらに,無線LAN
が定義されていますがオプション規格
線LANネットワークにわたって運用者
の通信方式であるCSMA/CA(Car-
となっており,かつAPの受付判断基準
802.11e-EDCA方式は802.11MAC
2.4 GHz帯
(ISM帯)
<周波数帯>
2 400
2 497
5.2 GHz帯
5 150
5.6 GHz帯*2
5.3 GHz帯*2
5 250
5 350
5 470
5 725 周波数(MHz)
<利用範囲>
屋内外利用
屋内限定利用
屋内外利用
<チャネル数>
4チャネル*1
8チャネル
11チャネル
*1:チャネルが重ならない最大数
*2:DFS機能が必須.TPC機能の具備条件あり
図3 無線LAN(2.4 GHz帯・5GHz帯)の周波数割り当て
42
NTT技術ジャーナル 2007.8
特
集
マルチホップ形態
シングル形態
n 段ホップ
AP
fy
fx
有線
ネットワーク
fn
f1
f2
STAs
…
STAs
STA2
STA1
図4 無線LANシステムの接続構成例
は実装依存になっているため,無線帯
キャストアプリケーションが有線ネット
ためのソフトウェア開発を行いました.
域以上のトラヒックの接続制限機能を
ワークで利用されることが多くなって
主な開発実装機能の概要を表2に示
用いて一定通信品質を確保するために
きましたが,従来の無線LAN技術では
します.基本的な特徴として,STAの
はその詳細実装が必要になってきます.
一定通信品質の確保は困難でした.こ
通信品質管理制御をAPにおいて実施
さらに,受付済みSTAの通信中トラ
のため, マルチキャスト配 信 を無 線
する技術になります.STAは,一般市
ヒックの過多により,他の通信中STA
LAN上でもサポート可能な技術が必要
販品のIEEE802.11e-EDCA/WMM
に対して品質劣化を及ぼす可能性があ
になってくるものと考えられます.
規格に準拠していれば対応可能です.
ります.
以上述べたように,マルチメディア
物理レイヤとしては,802.11b/gおよ
マルチホップ形態の場合には,AP
系アプリケーション通信(音声や映像な
び802.11a規格に対応しており,さら
間どうしは無線で接続され,有線ネッ
ど)を無線LANにてサポートするため
にMAC拡張機能であるIEEE802.11
トワークから離れた場所のSTAを配線
にはさまざまな技術が必要となります.
e-EDCA/WMM規格に表2に記載の
敷設工事が不要で収容できるため,容
易にエリア拡張が実現できるというメ
リットがあります.しかしながら,多
無線LAN通信品質制御技術および
その実装開発
オリジナル開発技術を加えて,無線
LAN通信品質の向上化・安定化を図
っています.これらの開発技術の適用
段ホップ先のAPに収容されるSTAの
前 述 の無 線 L A N 技 術 の課 題 を解
通信品質は,AP区間ですべてのトラ
決・克服し,より高い通信品質を実現
ヒックが重畳され,かつ同等に扱われ
するための無線LAN通信品質制御技
るために一層通信品質が劣化してしま
術の実現に取り組んでいます.従来の
本特集『無線LANのEDCAパラメー
うという問題点があります.
無線LAN技術における課題と解決技
タ動的更新技術』『無線LAN におけ
術との関係を表1にまとめて示します.
る受付制御技術およびトラヒック制御
また,これらの解決技術を実現する
技術』
『マルチホップネットワークにお
さらに最近では,マルチキャストス
トリーミング映像配信のようなマルチ
によって,より高品質な無線LAN通信
が実現できるようになります.
各々の実現技術の詳細については,
NTT技術ジャーナル 2007.8
43
無線LANの通信品質向上を実現するQoS制御技術
表1 現状の技術課題とその解決技術
要 件
課 題
従来無線 LAN 方式または
EDCA 方式との関係
現状技術の問題点
解決技術
音声や映像などのリアルタ 高優先度トラヒックが過多の場合,当該トラ
標準 EDCA 方式における
EDCA パラメータ動的
イム性トラヒックは,送信 ヒックどうしの衝突が頻発して通信品質が大
特性改善
更新技術
機会を高優先で獲得可能
きく劣化
通信品質の確保
所要通信帯域の事前予約
通信中帯域の保護
IEEE802.11e 標準の中で,
AP における受付判断基準は実装依存であり
受付制御シーケンスが規
規定外
定(オプション)
受付制御技術
通信中 STA のトラヒック増加変動等に伴い,
トラヒック制御技術
すべての STA の通信品質が劣化
(規定なし)
マルチホップで接続される各エリアの STA ト
マルチホップ帯域制御
ラヒックが AP 間リンクに重畳されることに
技術
より,高優先度トラヒックの品質劣化が発生
マ ル チ ホ ッ プ ネットワーク全体の無線
ネットワークへ リソースを考慮した通信 (規定なし)
の対応
品質の確保
・比較的大きな映像配信容量を一定品質で確
特定アプリケー マルチキャスト配信の安 (マルチキャストに対する
保することが困難
マルチキャスト優先制
ションへの対応 定した通信品質の実現
品質規定なし)
・省電力モード STA の在圏時には,さらに 御技術
通信品質の劣化が発生
表2 開発ソフトウェアの機能概要
主な項目
開発機能概要
適用方式
IEEE802.11b/g および 802.11a
適用品質規格
IEEE802.11e/WMM 準拠
+品質制御拡張技術
品
質
制
御
拡
張
技
術
EDCA パラメータ動的更新制御
アクセスパラメータの動的更新機能
受付制御
① TSPEC に基づく受付制御
②観測量に基づく受付制御
トラヒック制御
① AC 単位疎通制御機能
② STA 単位疎通制御機能
マルチホップ帯域制御
無線リンク使用リソースに基づくエリア内
受付制御機能
マルチキャスト優先制御
マルチキャストの無線 LAN 帯域制御機能
(後列左から)小笠原 守/ 梅内
誠/
大槻 信也/ 平栗 健史
(前列左から)永田 健悟/ 河村 憲一/
宮野 とも子
無線LANデバイスは,家庭やオフィスな
どのあらゆるケースで利用されており,今
後もいろいろなサービスアプリケーションに
て活用されていくでしょう.利用シーンを
踏まえながら無線LANの幅広い活用を想定
した技術開発を今後とも推進していきます.
TSPEC: Traffic SPECification
◆問い合わせ先
ける基地局間リソースを考慮した端末
受付制御技術』『無線LANにおけるマ
ルチキャスト優先制御技術』で紹介し
ます.
44
NTT技術ジャーナル 2007.8
■参考文献
(1)“IEEE Std.802.11e-2005,”Nov. 2005.
NTTアクセスサービスシステム研究所
第三推進プロジェクト
TEL 046-859-3378
FAX 046-859-4311
E-mail [email protected]
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