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2011 . 特集

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2011 . 特集
I S S N 0914−3157
2011年 月5日発行
︵毎月1回5日発行︶
通巻 号
昭和 年7月 日第三種郵便物認可
ほんのしるべ
395
10
61
15
2011 .
10月号
特集
偉大なる酒飲
みに送る手紙
新山 喜嗣 『ソシアの錯覚
――可能世界と他者 』
東京都台東区
上野動物園近く不忍池を南西に進む
と、 旧 岩 崎 邸 庭 園 に た ど り 着 く。 大 河
ド ラ マ﹁ 龍 馬 伝 ﹂ で 脚 光 の 当 た っ た 岩
崎弥太郎の岩崎家本邸だった建物と庭
園 が、 現 在 は 都 立 公 園 に な っ て い る。
戦 後 は 一 時、 G H Q に 接 収 さ れ、 諜 報
機 関﹁ キ ャ ノ ン 機 関 ﹂ の 本 部 と な っ た
こともあった。
また、三代目久彌の代には近隣住民と
良好な関係にあり、関東大震災や東京空
襲の際には率先して被災者を受け入れ、
炊き出しをしたこともあったという。
洋 館、 大 広 間、 撞 球 室 の 三 棟 か ら な
る﹁ 旧 岩 崎 家 住 宅 ﹂ は 現 存 す る 最 古 の
コンドルの作品のひとつに数えられる。
邸 宅 建 築 の 中 で も 傑 作 と 言 わ れ、 国 の
重 要 文 化 財 に 指 定 さ れ て い る。 ま さ に
一見の価値ある歴史的建物である。
(表紙題字・陳舜臣)
旧岩崎邸庭園
46
10 月
十 月 に 入 る や い な や、 夕 方 の 冷 え
文学散歩
﹁書標﹂歳時記
月
著書を語る
○ ﹁ ソシアの錯覚 ――
可能世界と他者﹂
科
学
コ ン ピ ュ ー
学
学
医
タ
書
1
新山
喜嗣
2
書標・書評
﹃ アンダーワールドUSA﹄ほか
会
科
特集
偉大なる酒飲みに送る手紙
今月のおすすめ
然
4
込 み が き つ い 日 が 続 い て、 わ た し は
仕事部屋に早々とヒーターを出した。
冬 の 底 冷 え が 思 い や ら れ る。 冬 は 摺
社
自
人 文 科 学
文 学 ・ 文 芸
術
文 庫 ・ 新 書
芸
用
書
地 図 ・ 旅 行 書
実
童
書
語 学 ・ 辞 典
児
往復書簡をはじめませんか
書店員になって思うこと
版元探訪
インフォメーション
本屋うらばなし
﹁監督と呼ばれた男の現在﹂
※表示価格はすべて税込価格です。
−1−
り 足 で 近 づ い て き て い る。 ま も な く
窓 の 向 こ う も、 そ の 先 の 比 叡 山 も、
い や 京 都 じ ゅ う が、 血 の よ う な 深 紅
に染まる。
中山可穂著
﹃小説を書く猫﹄︵祥伝社︶より
24 23 21 19 17 14
6
25 23 22 20 18 16
31 30 28 26
10
46
474
著書を語る
﹃ソシアの錯覚
○
︱︱
新山
喜嗣
な 言 葉 に そ れ ほ ど 馴 染 ん で い る わ け で は な い。 た し か
に 精 神 科 医 は、 日 頃 か ら 患 者 が 語 る た く さ ん の 妄 想 や
幻 覚 に ま つ わ る 言 葉 を 耳 に し、 現 実 か ら か け 離 れ た 途
方もない陳述を聞き慣れている。しかし、
﹁ソシアの錯
覚﹂を呈した患者の訴えだけは、精神科医にとっても、
他の訴えとは水準を異にする格別な不思議さを放って
いるのである。
な ぜ そ う も 不 思 議 な の か。 そ れ は、 患 者 は 相 手 が 別
人 に な っ た と 主 張 す る 一 方 で、 相 手 の 見 か け や 性 格 か
ら始まる一切合切が何も以前と変わらないと述べるか
ら で あ る。 だ と す れ ば、 相 手 の い っ た い 何 が 以 前 と 別
のものに入れ替わったというのだろうか。
こ こ で、 患 者 の 訴 え を 聞 い た 周 囲 の 人 々 や 精 神 科 医
に は、 普 段 気 に も と め な か っ た 問 が 突 如 と し て 持 ち 上
が る。 そ れ は、 患 者 の 訴 え か ら 逆 説 的 に 引 き 寄 せ ら れ
て し ま う 問 で あ る。 つ ま り、 わ れ わ れ は 身 近 に い る 人
物 を 以 前 と 同 じ 人 物 で あ る と 信 じ て い る が、 同 じ と す
る 根 拠 は ど こ に あ る の か と い う 問、 さ ら に は、 そ の と
き何が同じとされているのだろうかという問である。
可能世界と他者﹄
――
世 の 中 に は、 起 こ り え な い よ う な こ と が あ る。 と り
わ け 次 の よ う な こ と は、 お よ そ 起 こ り え な い と 思 わ れ
る ――
昨 日 ま で の 夫 が 今 日 か ら 別 人 と 入 れ 替 わ る。 あ
るいは、昨日までの妻が今日から別人に入れ替わる。
しかし、﹁ソシアの錯覚﹂と呼ばれる現象では、そん
な こ と が、 こ と も あ ろ う に 自 分 自 身 に 起 こ っ て し ま う
の で あ る。 配 偶 者 だ け で は な い。 と き に は 両 親 が、 と
き に は 恋 人 が、 あ る 日 を 境 に 別 人 に 入 れ 替 わ る。 そ の
相手はもはや﹁にせもの﹂にすぎない。
﹁ソシアの錯覚﹂を呈した当人にとって、にせものと
暮 ら す 日 々 の 生 活 は お よ そ 耐 え ら れ る も の で な く、 そ
の つ ら さ を 周 囲 に 語 る。 に せ も の と さ れ た 相 手 に と っ
ても、にせもの呼ばわりは大きな驚きである。しかも﹁ど
こ も か し こ も 似 て い る け れ ど、 や っ ぱ り 別 人 だ ﹂ と い
う 当 人 の 言 葉 は あ ま り に 奇 妙 で あ り、 心 配 し た 周 囲 の
人 々 に 連 れ ら れ て、 わ れ わ れ 精 神 科 医 の も と を 訪 れ る
ことになる。
実 の と こ ろ、 こ の よ う な﹁ ソ シ ア の 錯 覚 ﹂ を 呈 し た
患 者 を 診 察 す る わ れ わ れ 精 神 科 医 も、 患 者 が 語 る 奇 妙
−2−
474
た と え ば、 小 さ な 子 供 が 成 長 し、 大 人 に な っ て 風 貌
や 性 格 が 全 く 変 わ っ た と し て も、 わ れ わ れ は そ の 大 人
を小さな頃と同じ人物だとすることにためらいはない。
どうしてだろうか。
い ま や、 わ れ わ れ に と っ て 日 常 生 活 の 中 で は 水 面 下
に深く沈潜していた問題が浮上する。それは、同一性、
個 体、 世 界 と い っ た、 古 く か ら 哲 学 の 中 で は 形 而 上 学
の名で呼ばれてきた問題群である。これらの問題群が、
﹁ソシアの錯覚﹂を呈した患者の登場とともに、われわ
れ の 前 に の っ ぴ き な ら な い 課 題 と し て あ ら わ に な る。
本 著﹃ ソ シ ア の 錯 覚 ――
可 能 世 界 と 他 者 ﹄ で は、 人 物
の 同 一 性 の 問 題 を 哲 学 者・ 永 井 均 の︿ 私 ﹀ 論 に 仮 託 し
つ つ 検 討 す る こ と か ら 出 発 し、 分 析 哲 学 の 可 能 世 界 意
味 論 の 視 点 か ら 他 者 の 問 題 が 議 論 さ れ る が、 そ こ か ら
見 え て く る も の は、 現 実 世 界 と 異 な る 可 能 世 界 に 住 む
もう一人の自分の姿である。
ひ ょ っ と す る と、 わ れ わ れ は あ ま り に 自 明 な こ と に
対 し て は、 た と え 疑 問 が あ っ て も 口 を 塞 ぐ す べ を、 小
さ な 子 供 の こ ろ か ら 会 得 し て い る の か も し れ な い。
ひ ょ っ と し て、 自 明 な こ と に 反 論 す る と、 常 に 周 囲 か
らの無理解や叱責がはね返ってくることを体で覚えて
きたからかもしれない。
も ち ろ ん、 人 類 の 長 い 歴 史 の 中 に は、 誰 に と っ て も
す こ ぶ る 自 明 な こ と を あ ら た め て 拾 い 出 し、 そ れ を 確
認 し た り、 あ る い は、 そ の 自 明 さ に 疑 義 を 挟 む 勇 敢 な
人 々 が い た こ と は ま ち が い な い。 古 来 よ り 様 々 な 哲 学
上のテーゼを世の中に発した哲学者達もその勇敢な
人々の中に入るだろう。
ただし、あまりに自明なことに疑義を挟むときには、
よ ほ ど の 注 意 が 必 要 で あ る。 周 囲 を 用 心 深 く 見 ま わ し
ながら、その疑義のための充分な理由を周到に準備し、
満 を 持 し て 言 葉 を 発 し な け れ ば な ら な い。 こ れ を お こ
た る と、 ま わ り に い る 親 切 な 人 々 が、 ま こ と に 慈 悲 深
い 同 情 心 を も っ て、 そ の 発 言 者 を わ れ わ れ 精 神 科 医 の
診察室に連れてくることになる。
﹁ソシアの錯覚﹂の患者は、用心深さを欠いていたの
だ。 と に か く 不 用 意 だ っ た の だ。 で も、 誰 が そ の 不 用
意を責められようか。患者にとっては、こともあろうに、
もっとも自分にとって大切な人が別人になったのであ
る。 そ れ を 周 囲 に 訴 え る の に、 何 の た め ら い も 準 備 も
なかったに違いないのだから。
『ソシアの錯覚
可能世界と他者』
春秋社・2,940 円
−3−
入る。まえがきにあるミシマ社 代 表 の三島
時 進 行 で 読 ん だ﹃ ト ー キ ョ ー ス ト レ ン
でもない、誠にあいまいな場所である。同
思います ! ﹂の一言の通り、都会でも田舎
一つの商店街で補っていたであろう品目を
理、宅急便などの配送業など、昔であれば
みならずおでんなどに代表される惣菜調
う商品の多様性である。食品・雑貨販売の
まず気付かされたのはコンビニで取り扱
で今回購入に至った。
﹃いま、地方で生きるということ﹄
ジャー﹄
︵集英社︶で東京の刺激の密度の濃
さんの、地方って﹁田舎ってわけじゃないと
ミシマ社・一七八五円
論⋮⋮きっとスカした本だろう、少し意地
働き方研究家を名乗る著者が書く地方
るという行為について姜尚中さんが﹁誰もが
さに圧倒されたけれども、東 京 タワーに上
き、それを承るコンビニ店員の方の苦労や
あれだけの空間で全て対応している事に驚
西村佳哲著
悪な気持ちで手に取った一冊だった。だの
季節ごとに頻繁にかわる商品に店員が翻
努力が作品中に随所散りばめられている。
また著者を囲むコンビニ定員の仲間、ご
弄される様も赤裸々に描かれていて面白い。
匿名で無個性になってしまう都会﹂では、全
めて確認し、安心すると言う。結局どこにい
来店するお客さまの人間模様もあえて感情
体を鳥瞰することで自分の居場所をあらた
ても人は迷い悩み自分の居場所を探すのだ
そのままに書かれており、一見すると著者
に読後、胸が熱くなり、予想はいい意味で
東北と九州に在住の八人を訪ねる旅行記
ろう。ならば魅力も欠点もあいまいな地方の
裏切られる。
かつインタビュー集のような本書。旅と会
方が、探しがいがあるのかもしれない。
︵尚︶
流﹂と言う事に改めて気づかされた。昨今
応のなかにも怒哀楽があり﹁人間同志の交
素なやりとりに思えるコンビニでの接客対
の思い入れや愚痴に読めなくもないが、簡
話を重ねながら、タイトルの問いに対して
ぱる出版・一四七〇円
希薄とされているコミュニケーションの場
和田靜香著
∼レジの裏から日本が見える∼﹄
﹃コンビニ店員は見たっ !
自問自答する著者。淡々とした旅の記録の
ようでいて、地方で実際に暮らす人の言葉
は意外にも、ちっとも﹁のんびりと自然体﹂
ではなく、ここで何かしたい、自分を認め
本作は著者がコンビニ店員として働いて
としてのコンビニの必要性もあるのだろう。
たい、認めてもらいたい、人の役に立ちた
い、という強い気負いに満ちている。その
感じた体験談や想いを綴った実録エッセイ
コンビニの裏側でどんな物が売れ、どんな
おそらく皆無であろう。ほぼ毎日利用する
コンビニに行ったことが無いという方は
最後に本書で使われているひらがなの字
ぎて食品を廃棄する際の葛藤が読み取れた。
おり日 常 とは違う販売の動向や、期限が過
いあさり行動﹂を販売側の目線から描かれて
本作の特徴として震災後に起こった﹁買
同年代のあがきが胸に響いた。本書は、自
である。
お客さまがいらっしゃるのか業種は違えど
る良質の自己啓発本だと思う。
分も何かしたい ! という気にさせてくれ
ネットも交 通 手 段 もある現代で、物に限れ
も同じ小売業として非常に興味があったの
私 自 身、 地 方 に 暮 ら し 始 め て は や 三 年、
ば地方でも手に入らないものは少ないと実
体が明朝体ではなく話し言葉風の字体で書
感している。というより、結 構 何 でも手に
−4−
か れ て い る。 す こ し 読 み に く く 感 じ た が、
︿ダウンロード違法化﹀が産み落とされて
も の と さ れ、 そ れ を 巡 る 利 害 対 立 の 挙 句、
れに対する﹁権利者﹂への補償金が当然の
と失敗。裏でうごめくFBI。
ための軍事侵攻﹁ピッグス湾事件﹂の勃発
リ カ に よ る キ ュ ー バ・ カ ス ト ロ 政 権 打 倒 の
て得た利益の方が大きいのではないか、と
りも、新たな需要、市場の創出・拡大によっ
たちにとって、海賊版により被った損害よ
延したという事実はある。だが、﹁権利者﹂
日本製コンテンツの海賊版がアジアに蔓
捜査官ドワイト・ホリーに加え、駆け出し
ベトナム戦争、キング牧師暗殺。
を 目 撃 す る。 ジ ョ ン・ F・ ケ ネ デ ィ 暗 殺、
メリカの暗部が表舞台へと展開されるさま
刑事ウェイン・テッドロー・ジュニアはア
︵直︶
これはレジ裏で交わされる日常会話を反映
させているのであろうと感じた。
ご存知だろうか? 著作権法違反の罰則
著者は言う。また、先進国のソフト会社が、
第二部﹃アメリカン・デス・トリップ﹄。
が、 現 在︵ 二 〇 〇 七 ∼︶﹁ 十 年 以 下 の 懲 役
経済成長に不可欠なビジネスソフトの違法
しまったのである︵二〇一〇年︶。
若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこ
探偵ドン・クラッチフィールドの三人がこ
歴史の墓標を通過したウェインとFBI
﹁ 権 利 者 ﹂ た ち の 思 惑 が 蠢 く 中、 日 本 で
に出版社品切れ︵二〇一一年九月時点︶の
ぐべきである。第一部の単行本文庫本とも
はっきり言って本作は第一部から読み継
は今、過去のCMも、
﹁キャンディ キャン
人文書院・二五二〇円
れを併科する﹂︵第一一九条︶であることを。
コピーの撲滅を訴えることは、現在の世界
れまでと同様、時代の目撃者、当事者となる。
﹃日本の著作権は
なぜこんなに厳しいのか﹄
刑事罰は窃盗と同レヴェルであり、罰金額
的な経済格差の維持・拡大に繋がるのでは
著作権に関わる厳罰化は二十一世紀に
︵フ︶
山田奨治著
も極めて高い︵法人に対しては三億円以下
ないか、とも。
第三部﹃アンダーワールドUSA﹄。
となる︶。
入って著しい。その﹁改正﹂を話し合う文
ディ﹂も、見ることができない。
ウェインやドワイトやフーヴァーやマフィ
きる。というより前作を読んでいなければ
作を読んだ方が圧倒的に作品世界に没入で
店員として大変遺憾ではありますが、前二
現在、このようなことを申し上げるのは書
化 審 議 会 著 作 権 分 科 会 の 大 半 が﹁ 権 利 者 ﹂
上・下﹄
文藝春秋・各一八九〇円
ジェイムズ・エルロイ著
﹃ アンダーワールドUSA
の 代 表 に 占 め ら れ、 そ の 結 果、﹁ 被 害 の 過
︵著作者=著作権者ではない事も重要︶側
大な見積もり﹂﹁強い保護だけ横並び﹂﹁権
利を主張しないと損をするかもという疑心
には本シリーズを強く薦めるとともに、出
そういうわけで、この冊子の読者の皆様
アが行ってきたことどもが分からない。
版社には第一部の重版を切に希望するもの
物語が始まったのは一九五八年。
FBI長官J ・エドガー・フーヴァーに
である。
第一部﹃アメリカン・タブロイド﹄。
よ り、 ア メ リ カ の 暗 黒 の 歴 史 が 動 き 出 す。
暗鬼﹂に満ちているところに、大きな問題
﹁私的使用のための複製﹂は著作権法成
ジョン・F・ケネディの大統領就任、アメ
があると著者は指摘する。
立 時 か ら の 利 用 者 の 権 利 で あ り、
﹁お目こ
︵道︶
ぼし﹂などでは決してない。ところが、そ
−5−
まわりにいるご常連の方々も同じく酩酊
ン タ ー で か な り 酔 っ ぱ ら っ て い ま し た。
そのとき私は行きつけの飲み屋のカウ
人を褒め、店を褒める、皆さんには酒飲
す。まわりの人を幸せにする。酒を褒め、
さんの飲み方は本当に素晴らしいんで
とって吉田さんはまさにそうです。吉田
か?﹂
みのお手本となる人はいらっしゃいます
されていました。
いつしか話題はいっしょに酒を飲んで
み た い 有 名 人 と い う も の に な り ま し た。
本当に酔っぱらっていたので、彼のロ
彼の言葉にこたえて私の﹁ドリンキン
レツも私の記憶もかなり怪しかったので
グ・リーダー﹂についても大いに語りた
﹁小雪とハイボール ! ﹂
﹁吉高由里子と
さまざまな世代の意見がひととおり出そ
かったのですが、その日はすでに宴もた
すが、言わんとしているのはこういうこ
ろい、ああでもない、こうでもない、やっ
けなわ。マスターの﹁すみません、もう
トリス ! ﹂﹁少女時代とマッコリ ! で
ぱり演歌だ、いやKポップだ、小柳ルミ
閉 店 の お 時 間 な ん で す ﹂ の 号 令 の も と、
とだったはずです。
子の若いころは最高だった、などと話が
みんなアルコールにしびれた頭を抱えて
も み ん な 成 人 し て い る の か な?﹂﹁ じ ゃ
四方八方にジャンプし、なにがなんだか
あ、 八 代 亜 紀 と ぬ る 燗 ! ﹂ な ど と い う
よく分からなくなってきたところで、こ
ン・リーダー﹄がいるように、酒飲みの
﹁ お し ゃ れ さ ん の 世 界 に﹃ フ ァ ッ シ ョ
含む︶も彼の話に耳を傾けはじめました。
その店に行きたくなってしまう番組です。
う に 幸 せ そ う に 飲 む。 見 て い る と 自 然 に
たすら飲む。とにかく楽しそうに美味しそ
心に、風 情 のある居 酒 屋 で吉田さんがひ
の方です。この番 組 では、東 京 下 町 を中
テレビ番 組﹁酒 場 放 浪 記 ﹂でおなじみ
の紹介をさせてください。
﹁ ド リ ン キ ン グ・ リ ー ダ ー﹂ 吉 田 類 さ ん
と こ ろ で、 ご 存 知 な い 読 者 の た め に、
それぞれの家路についたのでした。
﹁吉田類さんと居酒屋で一杯やってみ
んなことを言う方が現れました。
たいですなあ、楽しいだろうなあ﹂
さっきまで酔いにまかせて適 当 に言い
世界にも﹃ドリンキング・リーダー﹄と
たいことを言い放っていたメンバー︵私も
いうのがいるとおもうんです。わたしに
−6−
の番組を書籍化したものは特に人気です。
な方です。著作も何冊か出されていて先
イラストや俳句も手がけるなんとも風流
吉田さんは﹁酒場詩人﹂の異名を持ち、
なってしまいました。
後お話しする機会も得られないままに
またま居合わせただけでしたので、その
です。この発言をした方は長期出張でた
キ ン グ・ リ ー ダ ー﹂。﹁ 酒 飲 み の お 手 本 ﹂
おります。
酒飲みの方々に近づきたいとおもって
し れ ま せ ん が、 心 意 気 だ け で も 偉 大 な
がその日の店、その日の酒にちなんで一
いていく。そして歩きながら、吉田さん
も関わらずゆっくりと確かな足取りで歩
腰の後ろに組んで、かなり飲んでいるに
歩き方が素晴らしいとおもいます。手を
個人的には、店を出た後の吉田さんの
彼ら彼女らの楽しく、そしてときにハ
に、それらの本を取り出して読みます。
たいとき、その他もろもろいろんなとき
飲んでいるとき、二日酔いのとき、笑い
れからお酒を飲もうというとき、お酒を
やすいあたりに。酔っぱらったとき、こ
れています。しかも本棚の一番取り出し
す。そこには酒飲みの方々の本が収めら
に分類してまとめた本の群れがありま
実は私の自宅の本棚には、自分で勝手
ここに書いてしまおうかとおもいます。
そこで、そのとき話したかったことを
に作者の方へおもいを綴ってみることに
んでいる気持ちになって語りかけるよう
強く駆られました。そこでいっしょに飲
にお酒を飲んでみたい、というおもいに
したが、再読しているうちに、いっしょ
てみたいとおもいます。
方々のお酒にまつわる本を詳しく紹介し
き き れ ま せ ん が、 こ の 原 稿 で は 以 上 の
の高野秀行さん。他にもたくさんいて書
さん、画家の牧野伊三夫さん。辺境作家
さ ん。﹁ 古 典 酒 場 ﹂ 編 集 長 の 倉 嶋 紀 和 子
の二ノ宮知子さん。画文家の大田垣晴子
さんとも名のられております︶。﹃のだめ﹄
う。作家の明川哲也さん︵ドリアン助川
その顔ぶれを一部紹介してみましょ
︵﹃吉田類の酒場放浪記﹄一∼四、TB
句詠むのです。例えば、口数の少ない焼
チャメチャなお酒の飲み方には、嫌なこ
しました。手紙の形式で。最後までおつ
−7−
Sサービス・一四七〇∼一五七五円︶
とん屋の店主がいる店を訪れたときの
とを全て忘れさせてくれるくらいの力が
きあきいただければ幸いです。
明川哲也様
どんな風に書こうかいろいろと迷いま
句。﹁ 黙 々 と
炭火にたくす
あるじの
背﹂それにしても粋な方です。
あります。お酒を飲んだときと同じくら
最初にあなたにお伝えしておかなけれ
形式で文章を書いてみようとおもったの
ばならないことがあります。今回、手紙
本当に同じ飲み方をしてしまったら⋮⋮
だ か ら﹁ お 手 本 ﹂ に は で き な い か も
鳴をあげてしまうでしょう。
たぶん私の身体︵特に肝臓︶はすぐに悲
を 真 似 し て み た く も な り ま す。 た だ し、
いの効果効能があります。そして飲み方
て 離 れ な い 言 葉 が 残 り ま し た。﹁ ド リ ン
その後、私の頭のなかに、こびりつい
『吉田類の酒場放浪記』
間。さらに新聞紙上でも人生相談の回答
たと記憶しています。ラジオだけで五年
たとえば、ダーウィンの章。英国教会
ているうちに、あなたは疲弊して窒息し
が言葉を生業とし巧みな比喩を使う詩人
の権威主義から離れたダーウィンと、世
そうになってしまったのですね。他人の
であるからに違いありません。
たが、残念ながら現在はどちらも出版社
界中に分布し広がっていたバナナという
は、あなたの著作﹃食べる
七通の手紙﹄
︵三修社、後に文藝春秋で文庫化されまし
品切︶
の影響です。正直な話、
形式だけそっ
食べ物を﹁遊離﹂というキーワードでつ
ぼる、ポル・ポト、ダーウィン、青島幸
があって面白いです。宮澤賢治、川崎の
した。その顔ぶれが実に多彩でユーモア
方に宛てられた手紙形式のエッセイ集で
えたこの本は、さまざまな分野の七人の
食べるという人間の営みをテーマに据
もまたかなり変わった形式で書かれてい
一二六〇円︶という本について。この本
み 相 談 室 ﹄︵ 情 報 セ ン タ ー 出 版 局・
お 酒 の 話 題 に 戻 り ま し ょ う。﹃ が ぶ 呑
とごく自然な流れで読めてしまうのです。
うですが、あなたの手にかかってしまう
ないでみせました。一見、こじつけのよ
てしまった。
うのを許されない袋小路に追いつめられ
てしまったからこそ、他人に泣き言を言
なってしまった。多くの人から信頼を得
ど、 自 分 の 悩 み を 誰 に も 相 談 で き な く
人生相談を引き受ければ引き受けるほ
そんな風にして他人の悩みに答え続け
者をあなたは続けておられますね。
くりそのまま真似てしまいました。
男、兼高かおる、ビートニク詩人ギンズ
ました。
し か な い、 酒 に 助 け て も ら う し か な い。
で、結局こうなるわけです。もう飲む
本を私が購入したのは十年以上前。おそ
ます﹁相談者
明川哲也
↓
回答者
明 川 哲 也 ﹂。 自 分 の 悩 み に 自 分 で 答 え て
の悩みもたくさんありましたね。たとえ
みが寄せられていました。お酒について
この本にはあなた自身のさまざまな悩
しかも自分の悩みを肴にして。
しまっているのです。中島みゆきさん顔
表紙の著者名の欄にはこう記されてい
バーグそっくりの茅ヶ崎の釣り人。この
らく最もヘビーローテションで読み返し
ひとつの食べ物からはるか遠いところ
た一冊ではないかとおもわれます。
まで広がっていくあなたの連想の力がと
ばこんな相談。
談のラジオ番組、私も毎週聴いていまし
ただからこそ。かつて放送された悩み相
定したうえで、飲酒はスポーツだとおも
罪はありません、立派な人です﹂と全肯
﹁ 飲 ん だ く れ て は 後 悔 す る ば か り。 酒
負けのひとり上手です。
たよ。援助交際、いじめ、恋愛、同性愛、
えばいい、スポーツなんだから身体に悪
もちろんこんな芸当ができるのはあな
に か く 素 晴 ら し い で す。 た と え ば、﹁ ウ
食べ物と人物にどんなつながりがあると
﹁塩とポル・ポト﹂。並べられたこれらの
妊娠、受験など中高生のありとあらゆる
いはずがない、とまで言ってのけてしま
ニと宮澤賢治﹂、﹁バナナとダーウィン﹂、
読者はおもうでしょうか? あなたは驚
悩みがあなたのもとに寄せられていまし
これは豪快に一刀両断です。
﹁あなたに
バカにつける薬はありますか?﹂
くべき連想の力で見事に結び合わせてい
た。泣きながら電話をかけてくる人もい
こういった連想ができるのは、あなた
ましたね。
−8−
二ノ宮知子様
私がはじめて読んだあなたの作品は
のそんなところがすごく好きです。
心の底から悩みをぶちまけていたかと
います。私も信じることにいたしましょ
う。今夜も身体を鍛えに酒場へ行くこと
でごめんなさい︶。﹃のだめ﹄には酒宴の
﹃のだめカンタービレ﹄でした︵ミーハー
場面がよく描かれておりました。この酒
おもえば、お腹がよじれるくらい笑える
宴がとにかく激しい。常に修羅場と化し
話に転じる。気の合う友人とお酒を飲ん
でいる時、そうなることがよくあります
ているのです。ふだん大人しいひとがク
にします。
﹁また飲むの、身体は大丈夫?﹂
この本のなかであなたは、見ず知らず
よね。あなたの本を読んでいると、必ず
ダを巻いて絡みまくる。私も酒場でたび
と言われてもこれでへっちゃらです。
の人間が一同に会す酒場の美学について
それと似たような状態におちいってしま
ちなみにお酒以外の悩みもたくさん寄
らには、作者もきっと相当にお酒が大好
います。
せられていましたね。﹁死﹂﹁加齢﹂﹁欲望﹂
きなひとなのだろうとおもっていました。
も触れていました。いくつか引用させて
﹁酒場には百パーセントの安全はあり
など多くのひとが抱える普遍的なものも
ください。
ません。だからこそ私たちは酒場に吸い
あ れ ば、﹁ 足 の 指 毛 は な ん の た め に あ る
るのではないでしょうか。すべての正体
﹁酔いやときめきの本質は妖しさにあ
で大人しく飲んでろ、この根性なし﹂
ことの危うい平衡感覚。それが嫌なら家
なたは本当にすごいです。
ばっとそれらの悩みにこたえてしまうあ
ジ ョ ー ク を は さ ん で は 笑 い を 誘 い、 ず
もありました。きわどい妄想やブラック
ではないか﹂といったマニアックな悩み
の か ﹂﹁ セ ミ の 一 生 は あ ま り に も 儚 い の
い一冊です。
酒飲みのバイブルと言っても過言ではな
の﹃平成よっぱらい研究所
︵祥
完全版﹄
伝社コミック文庫・六〇〇円︶はまさに
はるかに超越していたようです。あなた
実際にはただの酒好きというレベルを
こんなにリアルなお酒の光景を描くか
たび同じような光景に出くわします。
﹁得体の知れない人間同士が共にいる
を明らかにしてしまえば、物語は逃げて
−9−
寄せられるのです﹂
い く だ け で す。︵ 中 略 ︶ だ と す れ ば も ち
『平成よっぱらい研究所
完全版』
ろんあなたも酒場では妖しくあるべきで
す。 小 脇 に エ ス ペ ラ ン ト 語 の 本 を 挟 む。
カミキリムシの話で一人盛り上がる。︵中
略︶そのようなちょっとした努力を惜し
なんだか冗談と本気がごちゃ混ぜに
まないようにしましょう﹂
なっていて、深いのか浅いのかよく分か
らなくなってきました。でも私はあなた
『がぶ呑み相談室』
あなたの暴 走 ぶりには本 当 にホレボレ
としてしまいました。酒 を 飲 む といろい
をたくさん読ませて下さい。
には気をつけて、これからも楽しい作品
を静かに通過していきました。
くさんの唾が鳴らすことの出来ないのど
とるに足らない、語るに値しない瑣末な
また同時に自分が犯した酒の過ちなど
まうあなたのプロ根性には敬服します。
ありました。それらを作品のネタにしてし
のイタズラではす ま な そ う な も の も多々
の 子 の 顔 に 落 書 き、 な ど な ど 酔 っ た 席 で
撃、テーブルにヘッドスライディング、女
バンククリエイティブ・一〇五〇円︶を
講座ビールでいただきます ! ﹄︵ソフト
ぜかあなたの﹃キリンビール大学超人気
歯にしみて飲めません。そんなときにな
か食べることができません。熱燗でさえ
歯が痛いんです。ゼリーと豆腐くらいし
完全に自業自得なのですが、今とても
いきなり自分の話ですみません。
大田垣晴子様
ごそうとしているのです。
することで、なんとか歯の痛みをやり過
べながらビールを飲む妄想をたくましく
たの文章と画を追い、美味しいものを食
んて言わないでください。今、私はあな
辛いんなら読まなければいいのに、な
ものだとおもい知らされました。お酒で
さらに妄想をふくらませるために、も
を味わえるようになりたいです。
− 10 −
ろな事件が起きていましたね。カップル襲
失ったものもたくさんあるとおもいます。
読みはじめてしまいました。
あなたの本に出てくる数々の料理。枝
実際、この作品には酔っぱらってなくし
た も の リ ス ト が 収 録 さ れ て い ま し た ね。
う一冊。﹃焼酎ぐるぐる﹄︵メディアファ
豆やおでんなどオーソドックスなものも
ど各国の料理も掲載されていて、ビール
財布はもちろん宝飾類やバッグなど、金
をぐびぐびやりながら、実に美味しそう
あれば、北欧、タイ、韓国、スペインな
でも大抵のことをあなたは﹁まあいっ
クトリー文庫・四九〇円︶です。九州の
額にするのは恐ろしいかもしれません。
か﹂で片付けることができる。ポジティ
蔵元をめぐる酒と食の旅。蔵元で働くひ
に触れながら、あなた自身もその味に酔
にあなたは食べます。ゆるやかなイラス
いつもなら﹁明日はこれを食べにいこ
いしれる。この本もまた激しく酒と食へ
ブシンキングとはまさにこれです。あな
う﹂などと勇ましく計画を立てるのです
の欲望をくすぐられてしまいます。
とびとのプロフィールや酒に対する考え
が、いまはそんなパワーはとてもありま
トと文章があなたのそんな幸福なひとと
せん。食べたいけど食べられない。満た
たの名言を引かせて下さい。
あって
わたしじゃないのよ﹂
この本が書かれたのはずいぶんと過去
されぬ欲望とはまさにこのことです。た
きを伝えてきます。
のことなので、今ではかなり落ち着かれ
まずは早く歯を治して、美味しいもの
ていることを願います。どうか飲み過ぎ
﹁まあ いっか だってよっぱらいだ
もん
きのうのわたしは
よっぱらいで
『キリンビール大学超人気講座
ビールでいただきます!』
倉嶋紀和子様
あなたの雑誌﹁古典酒場﹂︵三栄書房・
九 八 〇 円 ︶。 記 念 す べ き 第 十 号 の 特 集 は
﹁ 横 丁 酒 場 ﹂ で し た。 新 宿 の 思 い 出 横 丁
と吉祥寺のハモニカ横丁が大きく取り上
げられておりました。
案内役は、なんと吉田類さん。最高の
キャスティングです。ひとり横丁を闊歩
ページの上で躍動しています。胸につき
ゆけば、ドラマに逢える﹂という名言が
居 酒 屋 学 の 大 御 所 で あ る 太 田 和 彦 さ ん、
て い ま し た ね。 さ き ほ ど の 吉 田 類 さ ん、
この本には錚々たるメンバーが登場し
ですね。
刺 さ る 言 葉 で す。 確 か に そ う で す よ ね。
伊三夫さんなどなど。そんなゴールデン
﹁酒とつまみ﹂の大竹聡さん、画家の牧野
一〇五〇円︶は、おかげさまで多くの方
ん の﹃ 今 宵 も 酒 場 部 ﹄︵ 集 英 社・
に ご 購 入 い た だ け ま し た。﹁ 百 杯 会 特 別
編∼本を肴に語り合おう∼﹂と題された
このトーク企画ですが、秋田の地酒を味
わいながら、牧野さん、南蛇楼綾繁さん、
木村衣有子さんのお話に耳を傾けるとい
うものでした。ご来場いただいた皆さん
が楽しい夜を過ごされていたこととおも
います。
の胃袋ときたら。人間の小さな臓器にど
いやいや、それにしても、あなたの鉄
﹂ではたいへんお世話になり
Book Boat
ました。ありがとうございました。ご出
田 で 行 わ れ た ブ ッ ク イ ベ ン ト﹁ 秋 田
まずは御礼を申し上げます。七月に秋
牧野伊三夫様
報告。
席での会話を文章でまとめた一冊。週一
シーンをスケッチし、お店の様子やその
趣旨にぴったりでした。飲み屋でのワン
牧野さんのこの本はまさにイベントの
うすればこれほどの酒と食べ物が入るの
演いただいたイベント会場の片隅で私は
この本はお酒と飲み屋に詳しい鴨居岳
さんとの共著で書かれておりましたね。
− 11 −
す る 吉 田 さ ん の 写 真 と と も に、﹁ 横 丁 へ
迷路のように入り組んだ空間に一歩足を
メンバーと肩を並べていっしょに飲むこ
踏み入れた瞬間、なんとも言えない哀愁
とその背景にあるドラマを感じてしまう
す。今度東京に行ったときには、この本
とができるなんて。うらやましい限りで
この夏に刊行された﹃To ky o ぐび
をガイドにいろんなお店を回りますね。
のが横丁の魅力だとおもいます。
ぐ び ば く ば く 口 福 日 記 ﹄︵ 新 講 社・
か不思議でなりません。夜な夜な︵とき
本の出張販売をしておりました。牧野さ
一二六〇円︶も楽しく読ませていただき
には昼から︶酒場にくり出し、取材も兼
回、一年間続けられた﹁部活動﹂の活動
ねて豪快に飲み食べまくる。まさに天職
ました。
『今宵も酒場部』
『Tokyo ぐびぐび
ばくばく口福日記』
は焼鳥屋での正しい注文のタイミングに
んの﹁生活の柄﹂に決まり ! 素敵です、
場部のテーマソングについて︵高田渡さ
な魅力となっていました。あるときは酒
酒場で交わされるお二人の会話も大き
イスラム諸国。そこであなたは自らの身
ときでした。飲酒がタブーとされている
紀 行 ﹄︵ 扶 桑 社・ 一 六 八 〇 円 ︶ を 読 ん だ
そのことを確信したのは﹃イスラム飲酒
で な く お 酒 に も 注 が れ て い る ん で す ね。
高野さん、あなたの情熱は、幻獣だけ
でます。前日のスーフィ ―
教徒たちとの
酒宴が大量に映っていましたから。動か
られていたら。想像するだけで冷や汗が
れたものの、もし、その写真を警察に見
メのメモリーを交換していたから難を逃
ましたね。まさに紙一重。偶然、デジカ
ぬ証拠です。その写真も本のなかでは生
いっしょに歌いたい ! ︶、またあるとき
か さ れ て い て、 実 に 楽 し い 光 景 で し た。
ドブロク片手に乾杯する弾ける笑顔。楽
を危険にさらしてまで酒を探していま
器片手に歌うスーフィー教徒たち︵目線
ついて。ゆったりと交わされるトークが
内戦状態にあるアフガニスタンでの酒
入 り の 写 真 で し た が ⋮⋮︶。 生 命 が 躍 動
した。
探し。読んでいてハラハラしました。最
する瞬間です。
なんとも味わい深く、読んでいて酒場っ
初飲みに行こうとした店は爆破されてな
て本当に良いなあとしみじみと感じ入る
たお店も、とっても怪しいところでした
くなっているし、ようやく酒にありつけ
めて、赤道直下のコンゴまで行ってしま
せん。未確認生物﹁ムベンベ﹂を追い求
だ時の不思議な感動は今でも忘れられま
追 え ﹄︵ 集 英 社 文 庫・ 五 四 〇 円 ︶ を 読 ん
あなたのデビュー作﹃幻獣ムベンベを
カラオケスナックといったところでしょ
は想像がつかない場所でしたね。場末の
てようやく中に招き入れられる。外から
けのような小さな窓から顔が覗く。そし
そもお店なのかも謎。扉を叩くと郵便受
のお店かまったく見当がつかない。そも
た民家。看板も立っていなくてそこが何
まったきっかけが破天荒すぎます。ミャ
そもそもあなたがお酒にどっぷりは
− 12 −
一冊でした。
高野秀行様
う学生探検部の情熱。確かにその情熱が
うか。そんな場所で味わうビールと本物
ね。二メートルくらいの鉄の壁に囲まれ
今はどこを旅していらっしゃるので
注がれる方向は、常識から考えると、も
しょうか?
の す ご く 間 違 っ て い る か も し れ ま せ ん。
酒飲み人生のはじまりでしたよね。うっ
かりアヘン中毒になってしまったあなた
ン マ ー で ア ヘ ン 収 穫 の 仕 事 を し た の が、
は、禁断症状から抜け出すためにお酒を
の中華料理。皮肉でも逆説でもなく本当
法律で厳格に酒が禁止されているイラ
しかしながら、そのほとばしる情熱が巻
ンでは、危うく秘密警察に逮捕されかけ
に美味しそうでした。
きです。
と感動の連続でした。だからあなたが好
き起こす様々な出来事は、笑いとスリル
『イスラム飲酒紀行』
そんなあなたのお酒遍歴が掲載されて
段﹂なのではないでしょうか。あなたは
なたにとって酒はあくまでひとつの﹁手
これは私の勝手な憶測なのですが、あ
を苦労して探しておられました。
いるインタビューは何度も声に出して笑
のべつまくなしに飲み続けたそうですね。
うほど面白かったです。雑誌﹁酒とつま
い ま だ に 日 本 や 欧 米 で は、﹁ イ ス ラ
あとがきで次のように記しています。
ム=前近代的で非常識﹂とか﹁ムスリ
み
第十三号﹂でのことでした。あなた
の魅力はこの数ページのインタビューを
さて、話題をイスラムに戻しましょう。
義に篤い。
くで
融通がきき、冗談が好きで、信
︵﹃イスラム飲酒紀行﹄三〇七、三〇八頁︶
高野さん、あなたは、旅した地やそこ
で出会うひとびとの本来の姿を知るため
に、お酒を飲んでいたのではないでしょ
うか。
遠く離れた異国のことであればなおさら
読んだだけでも存分に伝わってきます。
私たちはふだんから言葉のレッテルを
です。実際に異国に足を踏み入れたとし
あ て は め て 何 か を 理 解 し よ う と し ま す。
いっぽう、それに反論する人も﹁イ
ム=過激で不寛容﹂といった偏見がま
スラムは本来寛容な宗教である﹂とか
ても、頭のなかに張り付いたレッテルは、
あなたはさまざまな旅先で、しかも普通
してまで酒を飲んでいるわけですが、な
簡単には外せません。ちょっとしたこと
かり通っている。
ぜ そ こ ま で し て 飲 む の で し ょ う か。﹃ イ
﹁貧しいものに対する喜捨の精神﹂と
の旅行者が行かない場所で、おのれを賭
スラム飲酒紀行﹄の帯にはこうあります、
かを生真面目な顔で説く。
浄とされている︶犬を押さえようとし
に、現地のひとびとと盃を酌み交わして
偏見とも小難しい話とも無縁になるため
で﹁やっぱりこの国のひとは∼だ﹂など
﹁ タ ブ ー を 暴 き た い わ け じ ゃ な い。 酒 が
て く れ る 通 り が か り の お じ さ ん と か、
いたのではないでしょうか。そうするこ
とため息混じりに予定調和を決め込むこ
こ の 本 を 一 読 し て ま ず お も っ た の は、
酔っぱらっていてもお釣りをきっちり
とで見えてきた現地のひとびとのリアル
実際はそんな難しい話じゃない。私
あなたはとても慎重に飲む場所を選んで
返してくれるチュニジアの田舎の人た
な姿。それがこの本に描き出されている
が出会ったのは、犬の写真を撮ろうと
いるということ。奥様と一緒にマレーシ
ち、自分は飲まないのに、私の酒探し
のだと、私は感じました。
れがあなたの真の心の叫びとはおもえま
ア の マ ラ ッ カ に 行 っ た 際 に は、﹁ 洋 風 の
を手伝ってくれたアフガニスタンやバ
飲みたいだけなんだ ! ﹂。しかし私はこ
バーやレストラン﹂がたくさんあり、飲
ングラデシュなどのホテルや単なる通
みであり、偉大な旅人です。
高野さん、あなたは本当に偉大な酒飲
あ な た は そ ん な レ ッ テ ル を 取 り 除 き、
もうとおもえばいくらでもそこで飲むこ
行人の人たちである。ムスリムの人た
ともしばしばです。
とができました。しかしあなたは﹁現地
ちは酒を飲む人も飲まない人も、気さ
す る と、 一 生 懸 命、︵ イ ス ラ ム で は 不
から隔絶されている﹂という理由でそれ
せんでした。
らには目もくれず、現地の人間がいる店
− 13 −
社 会 科 学
ショック・ドクトリン
上・下
ファイナル・クラッシュ
石角完爾著
ニ〇〇七年にヨーロッパで或る本が少
部数で自費出版された。その本の著者は
敏腕ファンドマネージャー。世界経済の
近未来を予測した内容だったが、サブプ
ラ イ ム ロ ー ン、 リ ー マ ン シ ョ ッ ク か ら、
今年のアメリカ国債のデフォルト危機ま
ナオミ・クライン著
で、予言はことごとく的中という衝撃の
一冊だった。入手することのできた一部
自 由 主 義 運 動 の 教 祖 的 存 在 ミ ル ト ン・
いまこそハイエクに学べ
のユダヤ人や金融関係者の間では非常に
フ リ ー ド マ ン と そ の 一 派 は、 あ る 社 会
が 政 変 や 自 然 災 害 な ど の﹁ 危 機 ﹂ に 見
﹁戦略﹂としての思想史
廃 ﹂ 自 由 貿 易 ﹂﹁ 社 会 支 出 の 削 減 ﹂ を 柱
界 各 国 が 危 機 の 後 に﹁ 民 営 化 ﹂﹁ 規 制 撤
ソ連崩壊、9・ 後のアメリカなど、世
は チ リ の ク ー デ タ ー か ら、 天 安 門 事 件、
そ れ を 世 界 各 地 で 実 践 し て き た。 著 者
経 済 政 策 を 導 入 す る チ ャ ン ス だ と 捉 え、
釈学的に読み解くことで形作られてい
い う。 し か し 著 者 は そ れ が 思 想 史 を 解
あ り、 全 体 像 を つ か む こ と が 難 し い と
立から微妙に外れてゆく思考様式﹂で
エ ク の 思 想 は﹁ 様 々 の レ ベ ル の 二 項 対
観 に 視 点 を 当 て た 入 門 書 で あ る。 ハ イ
想家、フリードリヒ・ハイエクの﹁自由﹂
本 書 は、 リ バ タ リ ア ン と い わ れ る 思
朝日新聞出版
に警告を発する。
の中身を紹介、そして日本経済の行く末
角完爾氏が、このたび満を持してその本
できたスウェーデン在住のユダヤ人、石
認知されていないのが現状。運よく入手
め、日本ではまったくといっていいほど
高評価なのだが、増刷もされなかったた
舞われ、人々が﹁ショック﹂状態に陥っ
と す る 自 由 市 場 主 義 へ と、 い か に 変 革
る こ と に 着 目 し、 結 論 に 至 る 思 考 の 過
仲正昌樹著
させられたかを広範囲に渡って検証し
程 を 辿 る こ と で、 ハ イ エ ク 思 想 の 特 徴
野村
進著
一九九〇年代までは﹁在日﹂といえば在
た と き こ そ が、 市 場 原 理 主 義 に 基 づ く
て い く。 本 書 に よ っ て、 自 由 と 民 主 主
日 韓 国・ 朝 鮮 人 のことを指したが、現在
一六八〇円
義という美名のもとに語られてきたも
と お も し ろ さ を 示 す。 巻 末 の ブ ッ ク ガ
では圧倒的に中国人の方が多い。
その反面、
日本人の反中・嫌 中 意 識 の高まりが近 年
島国チャイニーズ
の の 裏 に、 人 々 を 拷 問 に か け る に 等 し
イ ド も 読 み 応 え が あ る の で、 初 め の 一
二一〇〇円
い暴力的なショック療法が存在してい
春秋社
冊としてお勧めである。
各二六二五円
たことが明らかになる。
岩波書店
11
− 14 −
社会科学
は 指 摘。 な の に 不 当 な 差 別 は な か な か 無
接してみると人 柄 の良い人は多いと著 者
考えなければならない問題で、一人一人と
として日 本 で生活する中国人とは別 個 に
政 府 や中 国 共 産 党 のイメージと、一個人
本で暮らす中国人の実像をレポート。中国
の調 査 結 果 で報 告 されている。本 書 は日
的に総括したうえで、業界全体の今後を
それぞれの独自性を分析。終章では横断
の歴史、戦略、文化等を徹底的に調査し、
しい競争を強いられている。勝ち組企業
てきたなかで、いま小売業界は非常に厳
費が伸び悩み、ネット通販が勢いを増し
ける主要企業を研究した専門書。個人消
いった日本の小売業界の各ジャンルにお
した逸品。
︵一九七〇年︶という資料を巻末に収録
田 純 三 氏 の 著 し た﹃ 同 期 化 実 験 ﹄
が あ っ た。 そ の ル ー ツ と も い え る、 和
ステムには顧客への同期化という戦略
トヨタとは違う発展を遂げた日産のシ
に つ い て 本 格 的 に 研 究 し た 貴 重 な 一 冊。
い。 本 書 は 日 産 プ ロ ダ ク シ ョ ン ウ ェ イ
三四六五円
る。また、アメリカのアニメ業界の歴史
いながら業界の推移や特徴を分析してい
ニメ制作会社の公式発表データなどを扱
し、DVDなどの売上や上場しているア
や評論ではなく、アニメ業界全体を俯瞰
この本は、いわゆるアニメ作品の紹介
よるアニメ業界分析の続編。
アニメ制作会社経営経験のある著者に
増田弘道著
もっとわかるアニメビジネス
有斐閣
くならず︵マフィアのせいかもしれない
二八三五円
占う。
日本経済新聞出版社
が︶
、私たち日本人は彼らをもっと理解す
る気持ちを持たなければいけないのではと
考えさせられる一冊。章毎に様 々 な人 物
日産プロダクションウェイ
トヨタ生産方式は日本が世界に誇る
タイズ︵収益化︶できていない﹂という
メが海外でいくら人気を博しても﹁マネ
る。ここからたどり着くのは日本のアニ
から現状にも視野を広げて考察をしてい
あまりにも有名な生産管理システムだ
下川浩一・佐武弘章編
が、 も う 一 つ の 自 動 車 メ ー カ ー の 雄、
一八九〇円
大きな問題点である。
NTT出版
日産の生産管理については意外にもこ
れまでほとんど書物が刊行されていな
− 15 −
に焦点をあてているが、芥 川 賞 作 家 の楊
一六八〇円
逸氏をとりあげた章が特におすすめ。
講談社
日本の優秀小売企業の底力
セブンイレブン、ニトリ、ユニクロと
矢作敏行編著
社会科学
コンピュータ
IBM奇跡の
〝ワトソン〟プロジェクト
人工知能はクイズ王の夢をみる
スティーブン ベ・イカー著
IBMリサーチが開発した、人の言葉
という質疑応答シス
を理解する Watson
テムがある。このコンピュータは今年二
月、米クイズ番組﹁ Jeopardy﹂!に登場
してチャンピオンと対決し勝利した。人
工知能が人間に勝つという偉業を支えた
IBMリサーチの開発の物語。巻末には
一八九〇円
開発に携わった日本人研究員による解説
がある。
早川書房
Founders at Work
著
Jessica Livingston
三十三の企業創業者に設立時の話を
イ ン タ ビ ュ ー す る。 先 鋒 は We b の 決
済 シ ス テ ム PayPal
の共同創業者マック
レ
・ ブ チ ン。 今 と な っ て は す っ か り
ス
キネクトハッカーズマニュアル
西林
孝・小野憲史著
の書籍としては二冊目とな
KINECT
る本書は、二〇一一年七月にリリースさ
Kinect for Windows SDK
に対応した最新の書籍となる。著者の西
れたばかりの
頼 の お け る 内 容 で あ る こ と 間 違 い な し。
林氏は Kinect
勉強会や Kinect
ハッカソ
ンといったイベントの主催者であり、信
ラトルズ
二六〇四円
の入手方法や他書の紹介なども
Kinect
あり大変丁寧な作りになっている。
プ ロ グ ラ ミ ン グ は も ち ろ ん、
Kinect
大 企 業 と な っ た Apple
がジョブズと
ウォズニアックだけだった頃の話や
のジェ
Y Combinator
作者ポール ブ
Gmail
・ ックハイトの語り
も 気 に な る。 最 後 は 全 編 イ ン タ ビ ュ ー
アとして登場した
シカ リ
・ ビ ン グ ス ト ン。 読 み 応 え た っ
ぷりの一冊。
アスキー メ・ディアワークス
による
Unity
3D ゲーム開発入門
他著
Dave Gray
ソフトウェア開発における知の創造を
無料で使えるというのが魅力だ。本書は
やグラフィック作成などが簡単なことや
発のゲーム開発環境だ。ウェブへの公開
二九四〇円
最 大 限 に 引 き 出 す た め の 新 し い 方 法、
宮川義之・武藤太輔著
は現在
Unity
五十万人のユーザーを抱えるデンマーク
ゲームストーミング。プロジェクト内の
ゲームストーミング
やり取りに様々なアナログゲームを取り
オライリー・ジャパン
三五七〇円
話 題 の 技 術 Unity
の解説書第一弾とな
る。近々関連書も増えるだろう。
の﹁ プ ロ グ ラ ミ ン グ・ 環
CEDEC 2011
境部門﹂で最優秀賞を受賞した、この秋
入れる。監訳はフューチャーセンターな
二七三〇円
どで知られる野村恭彦氏。彼の活動にお
ける導入事例も紹介される。
オライリー・ジャパン
− 16 −
コンピュータ
えばあれも自然と触れ合う貴重な機会
る植物に手を出したりはしないが、今思
んだ思い出がある。今でこそ野生してい
やクワの実などを、休み時間に友達と摘
である。
う﹁hなしの量子力学﹂を提案するもの
その後の発展を分析しながら、著者の言
い﹂とまで言い切る量子論の成り立ちと
それらの木の実の知識を身につけてから
て食べればいいか。このハンドブックで
が生える。どれが食べられて、どうやっ
山野には、他にも色んな種類の木の実
る量子論はだがしかしトンデモ科学と全
文隆をして﹁鬼神語らず﹂などと表現す
に辟易する仁は数知れまい。大家・佐藤
できない。実際と理論を使い分ける手法
技術に応用されているがゆえに全否定も
自 然 科 学
﹃道具と機械の本﹄というタイトルな
道具と機械の本
新装版
デビッド・マコーレイ著
出掛ければ、より一層自然の恵みを享受
不確定を是としながらますます実際の
のに、なぜか表紙はマンモスだらけ。こ
だったように思う。
の表紙を一目見ただけでも心惹かれる。
アインシュタインも貢献と否定に揺
否定できるものでもない。
一四七〇円
することができるだろう。
れ、 多 く の 物 理 学 者 が そ の 揺 ら ぎ ゆ え
に 深 入 り を 避 け て き た 学 問 で あ る。 大
局どうなのよ﹂というグダグダ感もまた
一九九五円
− 17 −
そ し て 本 を 開 い て み れ ば、 ユ ー モ ア
にあふれた絵と語りかけてくるような
文一総合出版
学 で 学 習 を 強 要 す る だ け で な く、 そ も
解 説 が ぎ っ し り 詰 ま っ て い て、 ペ ー ジ
をめくるたびにこの本の虜になること
そもの立ち位置を整理するのは賢明で
否定できない。クラウドという言葉を初
ただし、あとがきにもあるように﹁結
あろう。
み ご た え も あ る。 大 人 も 子 ど も も、 機
青土社
人間は危うきに近寄るまい。
なったように思う。理系に縁のない文系
持つ魅力的だが胡散臭い印象は一層深く
煙に巻く気かと思ったように、量子論の
械好きも機械オンチもみな同じく楽し
七九八〇円
めて聞いたときに﹁電子の雲﹂のように
ようやく次のページに進めるような読
細 か く 描 か れ た 絵 の 隅 々 ま で 眺 め て、
図 鑑 と は い え、 文 章 を じ っ く り 読 み、
間違いなし。
量子力学は
世界を記述できるか
で は な い。﹁ 絶 対 に 分 か っ た 気 に さ せ な
本書は決して量子力学の入門書など
佐藤文隆著
める一冊。
岩波書店
美味しい木の実 ハンドブック
子どもの頃、校庭に生えていたザクロ
おくやまひさし著
自然科学
医
いのちを育む
学
書
日野原重明先生百歳記念出版書籍。現
日野原重明著
在も現役の医師として診療、教育、講演、
検討し、考え方をアドバイスする。モヤ
新潮社
ろうか。
一五七五円
身近な素材で練習できる、
スコープ挿入上達のポイント
1カ月で身につく !
ひとりで学ぶ
大腸内視鏡挿入法
モヤがスッキリに変わっていく。コミュ
二三一〇円
ニケーション能力をつけ、職場環境を働
きやすくしよう。
メディカ出版
救命
東日本大震災、医師たちの奮闘
える。人は生きがいを持ち日々の生活を
百歳を迎えた著者からのメッセージを伝
ちの手によって救われた命も少なくは
で、医師をはじめとした医療従事者た
すすべもなく多くの命が失われた一方
平洋沿岸部を襲った大津波により、為
めのトレーニング方法が、ボールペンや
ら構え方、内視鏡操作の感覚をつかむた
なりの鍛錬が必要だろう。
ようスムーズに内視鏡を挿入するのはか
画面だけを見て、患者に苦痛を与えない
あの曲がりくねった腸に、モニターの
仲道孝次著
充実させることが大切だという。人生を
ない。半年という時が経ち、当時の様
東 日 本 大 震 災 か ら 半 年。 東 北 地 方 太
海堂
尊監修
より良く生きるためのヒントが見えてく
子を伝える書籍が次々と出版されてい
執筆で多忙な日々を送っている。本書は
る。著者の一言一言が心を豊かにし、人
の回りで用意できる道具を使って紹介さ
バリウムコップ、ペットボトルなどの身
本書では、基本的な操作部の握り方か
生の道しるべになる。
る。そんな中の一冊であるが、被災し
一二六〇円
道 の り を 、や っ と 踏 み 出 し 始 め た 日 本 。
言葉で綴られている。復興という長い
体験した者でなければ語り得ない生の
いと思っている方にお勧めの一冊。
いて、これから内視鏡技術を身につけた
も、付属のDVDに一〇四本収録されて
著者のブログ掲載時に好評だった動画
れている。
看 護 師 は、 ス タ ッ フ 同 士 の コ ミ ュ ニ
今 、我 々 に 出 来 る こ と は 何 か 。 ま ず﹁ 知
の 医 師 た ち 自 身 に よ る 記 録 は、 壮 絶。
ケーションが重要である。本書は、職場
ること﹂そして﹁忘れないこと﹂それ
の方法
て命の可能性を信じ、戦い続けた九人
た当時者でありながら、その最前線に
中央法規出版
ナース必修
対人力を磨く
の人間関係で悩んでいる人に対人力の付
も、出来ることの一つなのではないだ
八四〇〇円
け方を解説する。イラストやマンガ入り
羊土社
でスタッフ同士の葛藤を具体例を挙げて
奥山美奈著
22
− 18 −
医学書
ム﹂を本質的な問題とし、哲学的に分析
間の行為形成において﹁規範﹂と﹁ゲー
従い社会生活を送っている。本書は、人
中山康雄著
子どもが自然に鬼ごっこ
などのゲームにいそしむ。人々は規範に
侶は陰間茶屋という、男娼が春を売って
しては直接的な規制が無かったため、僧
的関係を禁止していた。しかし男色に対
いた。戒律では僧侶に対して女性との性
仏の道にも愛欲と破戒の秘史が隠されて
藤巻一保著
戒律が厳しいはずの仏の
道。 し か し ひ と た び 歴 史 を ひ も と く と、
性愛の仏教史
する。サールの言語行為論や社会依存論
いた宿に通い、性欲を満たしていた。仏
社会の哲学入門
の問題点を突き、進展させんとするなど
教史の裏側を描いたスキャンダラスな一
規範とゲーム
専門家に訴える野心的な試みだが、丁寧
人 文 科 学
ジェフリー・A・コトラー/
かつ明解な論述で、論点も整理されてい
面白い本が出た。もう目次からクギ付
ダイニングテーブルのミイラ
セラピストが語る奇妙な臨床事例
ジョン・カールソン編者
二一〇〇円
マス・リテラシーの時代
学研パブリッシング
冊。仏の道にもタブー有り。
二九四〇円
て、学生の入門書としても読める。
勁草書房
阿蘭陀が通る
中でも特に絵画を中心に読みとき、日本
な文物がやりとりされた。本書ではその
長崎には多くの﹁阿蘭陀人﹂が訪れ、様々
同じではないと著者は言う。江戸時代の
人びとが実際に生きた歴史の﹁裏﹂とは
叙伝などに焦点を当て、これらの広まり
では重要視されなかった手紙・日記・自
である。著者は、従来のリテラシー研究
マス・コミュニケーション時代の幕開け
とする試み﹁万国郵便連合﹂が創設された。
流通させ、地球上の国々を結びつけよう
一八七五年、均一の郵便料金で手紙を
デイヴィド・ヴィンセント著
と ヨ ー ロ ッ パ の 交 流 の 姿 を 探 っ て い く。
の登場として論じた。下からの歴史を志向
をマス・リテラシー︵大衆の読み書き能力︶
公式な記録に残された歴史の﹁表﹂と
タイモン・スクリーチ著
絵画という﹁裏﹂の歴史を読むという著
掘り当てた。
新曜社
三九九〇円
したことで今まで見えてこなかった水脈を
者の試みは功を奏し、日欧出会いの現場
二九四〇円
が活き活きと立ち上がってくるようだ。
東京大学出版会
− 19 −
けである。そしてこの本の凄いところは、
面白いだけでなくて錚々たる面々である
ところ。あの人もこの人も、こんな面白
い患者さんに出会っていたかと、興味本
位で読んでいるうちにセラピーについて
三六七五円
の理解が深まる。テレビドラマの原作に
するのはどうだろうか。
福村出版
人文科学
文学・文芸
て い る が、 そ の 悩 み は ど れ も、 程 度 の
妻も娘も息子もそれぞれの悩みを控え
夫 ミ シ マ︵ 三 島 由 紀 夫 か ら か?︶ も
見せつけられたような気がした。
のだという当たり前のことをまざまざと
係の前に、人間と人間という関係がある
恋愛といってもやはり男と女という関
そしてなんといっても書名にも登場し
差 こ そ あ れ、 私 た ち が 抱 え る も の と 共
暗い一家が明るいアランに励まされ
らしいのだ。この人間ニキの恋愛を是非
測されるが、でも非常に人間的でかわい
できっと男の子にはもてないだろうと推
ている人気写真家のニキが素敵。すごく
通 し て い る。 だ か ら こ そ、 た だ 笑 え る
る の を 見 て 元 気 に な れ る の は、 一 家 に
だ け で な く、 感 情 移 入 し て 読 む こ と が
共 感 し て い る こ と で、 ま る で 私 た ち が
個性的で傲慢、おそらくその性格のせい
ジャン・トゥーレ著
浜辺貴絵訳
﹁もっとも暗いテーマを使って笑える
読んでいただきたい。
ようこそ、
自殺用品専門店へ
小説を書きたい﹂そんな思いで書かれた
励まされているように感じるからかも
できる。
この小説は、タイトルから想像するよう
一三六五円
一〇五匹の動物にまつわる詩歌をあつ
小池
光著
うたの動物記
河出書房新社
しれない。
武田ランダムハウスジャパン
一七八五円
なホラーやミステリーではなく、ブラッ
クユーモアたっぷりのコメディ小説であ
る。 お 店 に お 客 様 が 来 た 時 は、﹁ い ら っ
しゃいませ、マダム﹂の代わりに﹁お気
ま ぎ れ も な く 恋 愛 小 説 な の だ け れ ど、
や生態についてなど図鑑並みに詳しく紹
の動物に関するエッセイは、名前の由来
歌、詩が多数引用されている。それぞれ
めた本作。古典から現代に至る俳句、短
恋愛模様や恋愛によって引き起こされる
ニキの屈辱
様々な心情を味わうという王道な恋愛小
介されている。
の毒です、マダム﹂。帰る時は、﹁またど
説ではない。恋愛が描かれているのだか
山崎ナオコーラ著
ら、そういったことはもちろん描かれて
う ぞ ﹂ で は な く﹁ す て き な 最 期 を ﹂。 経
そ ん な 一 家 に 訪 れ た 未 曾 有 の 危 機 は、
いるのだが、それよりももっと人間の奥
営者の一家は超陰鬱でネガティブなテュ
無邪気で生きる喜びに満ちあふれた末っ
深 く に あ る 暗 い 部 分 が 顔 を 出 し て い て、
すること
ヴァッシュ家。なんと家訓は人生を悲観
子アランの誕生だった。今まで背を向け
恋愛小説によくありがちな甘い雰囲気は
日本経済新聞出版社 二八三五円
味を持つきっかけとしてオススメ。
ふだん詩歌に親しみのない方にも、興
ていた﹁幸せ﹂に彼らはどう向きあって
影を潜めている。
いくのかがユーモアたっぷりに描かれて
いく。
!
!
− 20 −
文学 ・ 文芸
文庫・新書
在 の 状 況 と 置 き 換 え て も 違 和 感 が な い。
なの? なんか怖い﹂という無駄な不安
考え方を知ることで﹁え? なんでタダ
さ ら に、﹁ 無 料 ビ ジ ネ ス ﹂ の 枠 組 み や
度から考えられておもしろい。
自然に対して傲慢になったのではないだ
私たちは過去から何も学ばず、反省せず、
ろうか?と思わせる。ちなみに弟子の中
七九八円
を減らすことができそうだ。
のか?
宇宙っていったい何からできている
土居
守・松原隆彦著
問.﹁ 無 限 に 広 が る 大 宇 宙 ﹂ と い う が、
宇宙のダークエネルギー
ちくま新書
谷 宇 吉 郎 に よ る と﹁ 天 災 は 忘 れ た 頃 に
やってくる﹂という彼の名言は、話のな
かにはしばしば登場したが文章になって
いま、すぐはじめる地頭力
はいないとのことである︵解説より︶。
五〇〇円
﹁ 結 論 か ら、 全 体 か ら、 単 純 に ﹂ こ の
吉本佳生著
無料ビジネスの時代
中公文庫
細谷
功著
三つが地頭力を鍛える要素らしい。
地頭とは自頭とも書くそうで、本来自
分の頭で考え、問題を解決し、さらに新
書かれたのが本書。わからないことは確
光文社新書
七九八円
と思っている人、お試しください。
!
!
− 21 −
しいことを創造する力のこと。ネット時
答.ほとんどが﹁ダークエネルギー﹂と
ようだ。
﹁ ダ ー ク マ タ ー﹂ で 構 成 さ れ て い る
お店でコーヒーを出すときに、
①一杯目は三百円、二杯目以降は無料。
代においては誰もがマウスのワンクリッ
クで知識や情報を得ることが出来る。で
のパターンがあるとしよう。ど ち ら も
②一杯目は無料、二杯目以降は三百円。
とにかくある﹂それが﹁ない﹂と、説明
く わ か ら な い。 で も、﹁ 正 体 不 明 だ が、
それはどんなものなのか? 正直、よ
全ては誰かの受け売りだった
もそれって、本当に得たことになるんだ
同じ﹁無料ビジネス﹂に思えるが、それぞ
ろうか
り。読んでいくと、いかに普段頭を使っ
かに多いが、逆に﹁ここまではわかった
できないからだ。その辺の経緯に関して
れの有利な点、不利な点は異なっている。
︵ダイヤモンド社︶が大ヒットした著者
のか
以前﹃スタバではグランデを買え ! ﹄
だけに、事例がとてもわかりやすい。出
七三五円
版業界に興味のある人には、ぜひ第七章
料ビジネスを念頭に置くと、立ち読みや
﹂とワクワクさせられることもた
寺田寅彦随筆選集
宙 の し く み が わ か っ た ら 何 の 得 な の?﹂
く さ ん あ る。 宇 宙 に 興 味 の あ る 人、﹁ 宇
地震雑感
津浪と人間
ただきたい。商売の手法の一つとして無
﹁電子書籍と無料ビジネス﹂をお読みい
が数冊発売となったうちの一冊である。
図書館の存在を今までとまったく違う角
東日本大震災の後、寺田寅彦の随筆選
千葉俊二・細川光洋編
だいわ文庫
ていないかを痛感させられる。
!?
関東大震災の折に書かれた文章は、現
文庫・新書
芸
術
も垣間見ることができる。
白水社
二七三〇円
﹁盗まれた世界の名画﹂美術館
ダークインスピレーション
シュールでダークな
イラスト&アートコレクション
舟越桂と、昨今の美術書は﹁ダーク﹂と
ヤン・シュヴァンクマイエル、諏訪敦、
ヴィクショナリー編
悪行はびこるこの世界で、手っ取り早
サイモン・フープト著
だけで不安になるのに、何故か惹き付け
世界の名だたる美術品を強奪し、売り
な ど、 様 々 な 分 野 の ア ー テ ィ ス ト に よ
﹁ シ ュ ー ル ﹂ が 華 盛 り。 醜 悪 で 見 て い る
さばく。その被害額は、麻薬・武器輸出
る、 二 〇 〇 点 以 上 の ダ ー ク ア ー ト を 収
は何だろうか?
絵画作品に限らず、美術品には﹁本物﹂
に次いで第三位にものぼり、地下社会に
め た 作 品 集。 吐 き 気 を 催 す ほ ど の 邪 悪
く巨額の金を手に入れられる犯罪行為と
に比べて、数え知れない程多くの﹁偽物﹂
おいては重要な一大産業として横行して
な 作 品 の 数 々 に、 良 識 あ る 大 人 は 瞬 く
レニー・ソールズベリー/
が 存 在 す る。﹁ 偽 物 ﹂ と 言 っ て も、 一 目
い る。 本 書 は 数 多 の 盗 難 事 件 に つ い て、
て調べ上げて記したノンフィクションで
者への取材や、事件の証拠品を数年かけ
ナリストである著者が、当時の事件関係
た実際の贋作詐欺事件について、ジャー
一九九〇年代にかけてロンドンで起こっ
は、市民や兵士によって沢山の美術品が
政権崩壊後、無法地帯となったイラクで
コレクターの蒐集目的の犯行。フセイン
オ ン 侵 略 戦 争 に よ る 略 奪。 転 売 目 的 や、
ケースは多種多様である。古くはナポレ
で迫っている。美術品の盗難といっても、
本 書 は、 あ な た の 眠 れ る 中 学 二 年 生 の
押 し 込 め て い た 何 か を 刺 激 す る も の。
ダ ー ク ア ー ト は、 人 の 深 層 心 理 に 潜 む
が ら も お ず お ず と ペ ー ジ を 開 く は ず。
本 に 手 を 伸 ば し、 周 囲 の 目 を 気 に し な
か ら 数 分 後、 あ な た は 再 び 投 げ 捨 て た
間 に 本 を 閉 じ る で し ょ う。 し か し そ れ
知れずの〝行方不明美術館〟を収録。西
グラフィック社
いです。
二六二五円
魂を燃え上がらせてくれること受け合
ある。
て美術史を書き換えてしまう程の贋作詐
洋美術史を一望できるような名品ばかり。
巻末には盗難の被害に遭い、未だ行方
欺事件を起こし、なぜ、美術界は彼らに
三三六〇円
これらが行方不明とはいたたまれない。
創元社
騙されてしまったのだろうか。なかなか
ジョン・マイアット。二人は、いかにし
詐欺師ジョン・ドゥリューと、贋作者
奪われた。
本 書 は、 イ ラ ス ト、 デ ザ イ ン、 写 真
で贋作だと分かってしまう様な稚拙なも
犯罪小説のごとく、その手口や動機にま
られて目が離せない。
本 書 は、 一 九 八 〇 年 代 後 半 か ら
のから精巧なものまでその出来も様々。
アリー・スジョ著
世紀最大の絵画詐欺事件
20
伺い知ることができない、美術界の裏側
− 22 −
芸術
最後の晩餐
実
用
書
地図・旅行書
作。ブーヴィエは当時にしても非力な車
は旅のバイブルとして知られている本
ピアの政治情勢も影を落とす。
による車椅子生活。さらに、祖国エチオ
じい。メキシコ五輪での途中棄権、事故
その生涯を知ることで、彼の勇姿はさら
の人生ではないかいもしれない。しかし、
必ずしも﹁哲人﹂のイメージそのまま
フィアット五〇〇に乗り込み、東欧、中
の中でぶつかり合う旅人と音楽、旅人と
東の諸国を巡る旅をする。閉鎖的な異郷
食物、善悪と聖俗の境界線。現地の社会
一八九〇円
お茶のある美しい暮らし
草思社
に美しさを増して思い出されるだろう。
わきまえているジャーナリストの視点
的な背景への理解を最低限のマナーと
と、行間に鮮やかな情景と奇天烈な人物
宇田川悟著
本書は、フランスの文化や料理に造詣
像を甦らせる画家の視点を併せ持つ著
をご存知の方もあるのではないだろう
の深い作家宇田川悟による、各界著名人
か。十五歳から江戸千家十世家元・川上
たちとの﹁食﹂にまつわる対談を一冊に
実はブーヴィエには、旅に出る明確な
宗 雪 に 指 示 し、 現 在 は 茶 の 湯 ワ ー ク
元・テレビアナウンサーとして、著書
深澤里奈著
動機がない。だからこそ、彼が訪れる土
者の書く文章は、一つ一つがとにかく新
けで興味深いが、それに劣らず各人から
地ごとの物語が、作品の動機︵モチーフ︶
鮮だ。
巧みに食の話をひき出す宇田川の話術も
シ ョ ッ プ﹁ tea journey
﹂を主宰する彼
まとめたもの。猪瀬直樹や田崎真也など、
また見事である。
として立ち現れるのだろう。見ることと
敷居が高く感じられる茶道だが、作法
を知らずとも、着物を持っていなくとも、
− 23 −
対談相手十六名の豪華な顔ぶれはそれだ
﹁日本の美食家の多くが通過儀礼のよう
読むことが好きな人には是非読んでいた
女の一冊。
にフランス料理の洗礼を受ける﹂と自身
だきたい傑作。
飯茶碗、茶筅、お抹茶があれば、いつで
葉 の 美 し い 秋、 窓 の 外 を 眺 め つ つ 一 服。
忙しい毎日を過ごされている方も、紅
も茶の湯を楽しめる、と彼女は提案する。
心落ちつくひとときを過ごしてみてはい
二七三〇円
が云うように、まさにフランス料理を知
英知出版
アベベ・ビキラ
ローマ五輪・東京五輪で史上初のマラ
ティム・ジェーダ著
ソン連覇を果たした﹁裸足の哲人﹂アベ
かがだろうか。
一五七五円
世界の使い方
ベの評伝。ゴール後の整理体操の逸話は
一五七五円
ニコラ・ブーヴィエ著
ワニブックス
一九六三年に刊行されて以来、欧米で
今なお有名だが、それ以降の人生は凄ま
晶文社
挙げる﹁最後の晩餐﹂の一品も興味深い。
ころであろうか。対談の終わりに各人の
り尽くした宇田川の面目躍如といったと
実用書/地図・旅行書
語学・辞典
一億人の英文法
取っていただきたい一冊。
ういった方面に携わる方にもぜひ手に
一二六〇円
や語順への意識はあっても前置詞など
ジャパンタイムズ
は す ぐ に 出 て こ な い、 と い う 人 も 多 い
の で は な い だ ろ う か。 し か し 英 作 文 や
TOEICなどの英語検定では必須項
なぜ﹁烏﹂という漢字は
﹁鳥﹂より1本足りないの?
目 で あ る 以 上、 英 語 上 達 へ 避 け て は 通
来を知ることでその個性・特徴を発見で
れ な い。 本 書 で は 前 置 詞 の 基 本 的 な 用
グ力に結びつけるための練習問題を通
きる本。
そ の 様 子 か ら、 処 刑 し た 人 の 首 を 晒 す
ロウを木に突き刺して木の上に晒した
例 え ば﹁ 梟︵ ふ く ろ う ︶﹂。 昔、 フ ク
タイトル通り身近な動植物の漢字の由
じて似た前置詞の微妙なニュアンスの
蓮実香佑著
英 語 を 話 す た め に 必 要 な の は﹁ ネ イ
違 い な ど を 解 説 し て い る。 特 に、 中・
法 を 簡 潔 に ま と め、 そ れ を ラ イ テ ィ ン
ティブの意識﹂という信念のもとに数々
大西泰斗・ポール・マクベイ著
の良書を世に送り出してきた大西・マク
上級者にお勧め。
一九九五円
こ と を﹁ 梟 首︵ き ょ う し ゅ︶﹂ と い い、
他﹁ さ か な へ ん ﹂﹁ く さ か ん む り ﹂﹁ む
成 り 立 ち に 由 来 し て い る と い う。 こ の
8月臨時増刊号
駄 な く う ま く ま と め て い て、 読 み や す
ど、 由 来 や 語 源 に つ い て 興 味 を も っ て
漢字を題材にした本は数多くあるけれ
い。 難 読、 読 め る け ど 書 け な い、 な ど
表 題 の と お り、 震 災 後 半 年 た っ た 今、
一二六〇円
いる方にお勧め。
デ ィ ア の メ ル ト ダ ウ ン︵ 崩 壊 ︶﹂ な ど メ
主婦の友社
海外メディアによる日本への視線をいく
ディアの在り方を中心に語っている。そ
連 ニ ュ ー ス ﹂﹁ 福 島 原 発 事 故 を め ぐ る メ
﹁第二次世界大戦終結以来最大の日本関
つ か の ト ピ ッ ク に 分 け て ま と め て い る。
エリック・ジョンストン著
しへん﹂などをそれぞれ一ページで無
3・ 大震災・福島原発を
海外メディアはどう報じたか
The Japan Times
NEWS DIGEST 2011
PHP研究所
ベイ両氏の代表作ともいうべき本。
ネイティブが単語を使うとき、文を作
る時どういった意識でそれを行っている
のか。学校で習う文法用語を極力使わず
に理解を深めていけるよう様々な工夫が
こらされている。またイメージを定着さ
せ る た め の イ ラ ス ト︵ 大 西 氏 ご 本 人
一八九〇円
の ! ︶が無駄がなくおもしろい。
ナガセ
前置詞がわかれば
英語はすらすら書ける !
石井隆之著
日 本 語 か ら 英 語 に 変 換 す る 際、 単 語
い文法項目は前置詞と冠詞といわれる。
英作文の時、日本人が一番間違えやす
11
− 24 −
語学・辞典
児
いもいもほりほり
童
書
帰 ろ う と し た 時、 お 隣 り さ ん と の 間 の
な の か 誰 も で て き ま せ ん。 し か た な く
家 の 女 の 子 に 会 い に 行 き ま す が、 留 守
り の さ っ こ ち ゃ ん。 さ っ そ く お 隣 り の
一 針 込 め る 想 い や 見 事 な 技 に、 思 わ ず
る職人やメアリーたちお針子らの一針
贅 沢 な 衣 装 の 数 々 や、 そ れ ら を 仕 立 て
時の貴族たちが身に纏っていた美しく
一六八〇円
ため息がこぼれてしまいます。
徳間書店
しげみにねこが入っていくのを目にし
ま す。 し げ み の 中 は 葉 っ ぱ の 屋 根 が か
い ま し た。 女 の 子 に 合 わ せ く る く る と
フランシス・ホジソン・バーネット作
小公女
ぶたの三兄弟が空を見上げていると
変 わ る 視 点 が お も し ろ い で す。 優 し い
高楼方子訳
ぶ さ り、 ま る で お う ち の よ う に な っ て
雲のかたちがやきいもに見えてきまし
色合いの中に漂う緊張感にも引きつけ
西村敏雄著
た。 そ こ で 三 匹 は ね ず み と い っ し ょ に
られます。
セレクト女子寄宿学園で特別寄宿生と
のセーラは学園の下働きとなりひどい
が ら、 お 話 が 終 わ る の が 残 念 な 程 ぐ い
翻訳者高楼方子のこだわりを感じな
− 25 −
七 歳 の セ ー ラ は、 資 産 家 の ひ と り 娘。
い も ほ り に で か け る こ と に し ま す。 軽
し て 扱 わ れ ま す。 セ ー ラ の 父 は 友 人 の
で お 話 作 り の 上 手 な セ ー ラ は、 心 は 貧
誘いでダイヤモンド鉱山開発に手を出
ケイト・ペニントン作
し く な り ま せ ん で し た。 そ し て、 ま た、
し 失 敗 し た 後 亡 く な り ま す。 そ れ か ら
柳井
薫訳
仕 立 て 職 人 の 娘 で、 刺 繍 が 得 意 な お
生活は急変化します。
エリザベス女王のお針子
針 子 で あ る 十 三 歳 の 少 女 メ ア リ ー は、
に し て し ま い、 事 件 に 巻 き 込 ま れ て い
二四一五円
き ま す。 十 六 世 紀 の イ ン グ ラ ン ド で の
福音館書店
ぐいと読者を引っぱってくれます。
い に エ リ ザ ベ ス 女 王 と 対 面 し ま す。 当
は命の危険に何度もさらされながらつ
り ま ぜ ら れ た 舞 台 で、 お 針 子 メ ア リ ー
宗教対立や実在した歴史上の人物が織
生 活 を し ま す。 け れ ど も、 想 像 力 豊 か
ある日エリザベス女王暗殺の陰謀を耳
裏切りの麗しきマント
一三六五円
快なリズムで進むストーリーが心地良
一五七五円
ポプラ社
いです。
講談社
のはらのおへや
新しいおうちに引っ越してきたばか
みやこしあきこ著
児童書
秋は、どんぐり屋を名乗ろうかと思います。
んぐりを拾って集めるのが好きでして、この
みを込めて、そう呼びたい︶
。私も落葉やど
葉 屋です﹂と答えた関口さん︵尊敬と親し
分けてもらったとき、職業を聞かれて﹁落
葉 しているお屋敷におじゃまして、落 葉 を
本屋のおじさん、関口さん。お店におじゃ
好きでたまらない本なのです。すてきな古
何 度 で も お 話 す る で し ょ う。 そ の く ら い、
お話したかわかりません。これからもまた
らも何度も何度も読み返すでしょう。何度
う何度読み返したかわかりません。これか
らっているような気持ちになるのです。も
もうすこししたら、この公園も色とりどり
また、星を撒いた街、のようでありました。
したまま、湿った土に散っていて、これも
木 の 大 き な 葉 っ ぱ が た く さ ん、 ま だ 青 々 と
の公園に行きました。大きなプラタナスの
この間の大雨の次の日、いつもの通り道
﹃昔日の客﹄には関口さんの本への愛情
本のたのしみでありよろこびであります。
ながってひろがっていくこと、それもまた、
こうして本からひとへ、ひとから本へ、つ
撒 い た 街 ﹄ も と っ て も す て き な 本 で し た。
んのお話に何度も出てくる上林暁の﹃星を
好きにならないはずがありません。関口さ
や ま な い、 大 好 き な お ふ た り の 好 き な 本、
く読むことができたのでした。本を愛して
さんからご紹介いただいて、それでようや
きっと好きになるよ、って。そのあと、N
台にいらしたときに、とってもいい本だよ、
に教えてくれたのは荻原魚雷さんです。仙
に な り ま す。﹃ 昔 日 の 客 ﹄ の こ と を は じ め
す。行きたい場所や過ごしたい時間や空間
あって、本だけじゃなくて、音楽もそうで
思い出すだけで気持ちに明かりが灯る本が
﹃昔日の客﹄のように、何度でも読みたい、
ま だ 前 の よ う に は 読 め ま せ ん。 そ れ で も、
かたがいます。私もそうでした。いまでも
ました。
を奏でているのだろうなぁって、そう思い
たかくてやさしくて、きっとすてきな音楽
したら、関口さんのことばのように、あっ
た。音楽を紡ぎ出す直人さんの手、握手を
れこれおうかがいして、うれしい時間でし
んが、店に来てくださったのです。お話あ
ありました。関口さんの息子さんの直人さ
きない代わりに、とってもうれしいことが
いまはもうお店におじゃますることがで
まして、お話を聞いてみたかったです。
本が好きです。本が好きなひとが好きで
す。本が好きなひとのする本の話が好きで
の 落 葉 の 絨 毯 を 敷 き 詰 め た よ う に な っ て、
が た っ ぷ り つ ま っ て い て、 ぱ ら り ぱ ら り、
や、会いたいひとがいっぱいいて、うまく
す。そして、好きなひとの好きな本を好き
かさかさ、音を立てて歩くようになるので
ページをめくっているうちに、関口さんの
島田さま
し ょ う ね。 そ う 考 え て、﹃ 昔 日 の 客 ﹄ の こ
お 店 に お じ ゃ ま し て、 お 話 を 聞 か せ て も
とを思い出しました。
のことからお話しますね。
こんにちは。今日は予告通り、﹃昔日の客﹄
この本の中でいちばん好きなのが、落 葉
震災の後、本が読めなくなった、という
ひろいのお話です。ほおの木がきれいに紅
− 26 −
第2回
り、本のちからを信じていて、それは島田
で、うーん、難しいです。それでもやっぱ
勝手な思い込みの押しつけの言い訳みたい
ながら本屋をしています。それもなんだか
すそわけでできたらいいなぁ、なんて思い
すが、そういうちからを、ちょっとでもお
し訳ないような気持ちになったりするので
役 に 立 つ よ う な こ と 何 も し て い な く て、 申
らになります。あれからずっと、だれかの
言えないけど、そういうものすべて、ちか
ため、長い手紙を書く時は、左手で巻紙を
した。句を思いつけば、それを葉書にした
に何回も郵便ポストに走ったのだと聞きま
めな人で、古本屋の店番をしながら、一日
が出てきます。関口良雄さんは本当に筆ま
客﹄の中にもまた、たくさんの葉書や手紙
佐藤さんが手紙に書いてくれた﹃昔日の
直された僕の手紙が同封されていました。
きました。先生からの返信には、赤ペンで
てくれました。僕はすぐに先生に手紙を書
まず最初に、手紙の書き方を僕たちに教え
大 学 の 時 の 恩 師 は、 学 問 よ り も 何 よ り も、
いと思うんですよ﹂
なかろうが、棚にいつまでも置いておきた
敬愛する作家の本達は、たとえ何年も売れ
の魂を扱う仕事なんだって。ですから私が
職業は、一冊の本に込められた作家、詩人
常々こう思っているんです。古本屋という
物の売買を生業としているんですが、私は
﹁ 古 本 屋 と い う の は、 確 か に 古 本 と い う
していた時代だったのだと思います。
と手紙が、あたたかな心とともに、行き来
こ と で、 前 を 見 つ め る こ と が で き た ﹂。 本
読まなくても、そのような本があると思う
い ま す。 関 口 さ ん は 作 家 を、 お 客 さ ん を、
昭和三十四年から五十一年の間に書かれて
﹃ 昔 日 の 客 ﹄ に 収 め ら れ て い る 随 筆 は、
ために、昔の本をひもときます。本の﹁ち
のは、そうした、魂を扱う仕事です。その
をはじめることはできます。僕がやりたい
ことはありませんが、また新しく、なにか
されています。失われたものは二度と返る
僕は関口さんのこの言葉に、日々、励ま
さんの本のおかげです。やっぱり、うまく
持ち、それを器用にクルクルと回しながら、
言えないけど。
ではではまた。たのしい秋になりますよ
家族を愛し、人生のすべてをかけて、本を、
から﹂をいつでも必要としています。
右手で筆を走らせたそうです。
荒川洋治先生が、新刊﹃昭和の読書﹄︵幻
文学を愛しました。古本屋として本を買い
うに。
戯書房︶において、﹁牧野も春本も、宿では、
取り、本を売るさまにも、あふれんばかり
◀復・島田◀◀
東 京 に い る 友 人 に 絵 葉 書 を 書 く。 昔 は こ う
して何かしら人は書いていたものだ。ひと
の愛情がのぞきます。僕は昭和五十一年生
葉書や手紙を書きます。ひとりでいる時間
たしかに、昔の小説では、人びとはよく
くは、本の恵みを感じとっている。たとえ
葉 を 借 り れ ば、﹁ 昭 和 期 を 過 ご し た 人 の 多
るだけです。荒川先生の前出の著書から言
接には知りません。本を通して、あこがれ
せん。
その気持ちはこの十五年くらい、変わりま
本 を も っ と も っ と 読 み た い と 思 う の で す。
す。 僕 は、 荒 川 先 生 の 著 作 を 読 む た び に、
今は、荒川先生の著作を読み返してしま
て、はじめて知りました。
は、 今 よ り、 も っ と、 誰 か の こ と を 思 い、
▶▶往・佐藤▶
り に な る と、 書 い て い た も の で あ る ﹂ と、
まれですから、そうした時代の空気を、直
往復書簡がこんなに楽しいものだなん
近松秋江の小説を紹介されていました。
考える時間であったのだと思います。僕の
− 27 −
読み終わらないうちに並行して他の本を
読み始めてしまうという悪い癖が加わっ
て、
﹃胎児の世界﹄は数ページを読みかけ
古 本 屋 で 購 入 し た も の で あ っ た た め、
たまま本棚へと仕舞われることとなる。
嬉しくなってしまうパターンは、自分の
そんな数々の出会いの中でも、特に私が
に て 眷 恋 の 一 冊 と 運 命 の 出 会 い、 等 々。
意外に面白くて一生涯の定番に、古本屋
幀買い、図書館で何となく借りてみたら
き合い方まで様々だ。店頭で一目見て装
様で、シチュエーションからその後の付
その逆の場合もある。本との出会いも同
ていても親友になれることや、若しくは
ちてしまう場合から、初めはいがみ合っ
ある。出会ったその瞬間、一目で恋に落
人との出会いの形には、様々なものが
ん だ 理 由 は、なんとなく訴えかけて く る
た。それでも、数ある本の中からそれを選
にそこまで興味を抱いていた訳ではなかっ
は、理系の分野ともいえる﹁胎児の世界﹂
畑 でせっせと知識を培 っ て い た 身 として
したことのない名前であった。また、文学
るが、恥ずかしながらその当時は全く耳に
著 作 は 定 番 として自分の中に定着してい
発 生 学 者 と して名高い三木先生の名前 と
理工書配属となりはや三年目、解剖学者・
在 の私は、ジュンク堂 書 店 の池袋店にて
今も版を重ねている中 公 新 書 である。現
出会った本は、三木成夫著﹃胎児の世界﹄、
手に取ってみた。
ろ難しくなく読める頃ではないかと再び
だ。思い出し、そこから二年後、そろそ
の本を持っていることを思い出したの
はすごい本じゃないか。ここで、私はこ
現在まで二八版刷りを重ねている。これ
は昭和五八年の初版であるが、そこから
も同じの中公新書。私が持っているもの
して、私はとても驚いた。深緑色の装幀
受けている際に棚に並んでいるのを発見
入社し、理工書フロアの案内を先輩から
勝手に思い込んでいた。しかし、書店に
としないが、東京大学の赤門の向かいあ
あれは確かおよそ六年前、場所は判然
のほか内容が難しかったのだ。全く遅々
読もうとは試みたのである。だが、思い
しい再会とはならなかったはずだ。実際、
いたのであれば、ここで語りたい素晴ら
− 28 −
﹃胎児の世界﹄はもう絶版した書籍だと
本棚で意外な再会を果たすというもの
ものがあったからだろうと思う。
たりにある古本屋であった。その時たま
として読み進まず、そこに、一冊の本を
しかし、購入した後、すぐに読了して
だ。ここで、紙面をお借りして、ある再
たま通りすがりに立ち寄っただけなの
会について語ってみたいと思う。
で、店の名前すら覚えていない。その時
『胎児の世界』
の卵が孵化していく様子を標本にしよ
き だ。 こ こ で は、 三 木 さ ん が ニ ワ ト リ
な か で も 第 二 部 の﹁ 胎 児 の 世 界 ﹂ が 好
そ れ ぞ れ 表 題 が つ け ら れ て い る。 私 は
帰 ﹂、﹁ 胎 児 の 世 界 ﹂、﹁ い の ち の 波 ﹂ と
に 三 部 構 成 に な っ て お り、﹁ 故 郷 へ の 回
に 感 心 し て し ま う の だ。 内 容 は 大 ま か
さ ん の 博 学 さ、 興 味 の 持 ち 方 の 面 白 さ
学 と 多 岐 な 分 野 の 学 問 に わ た り、 三 木
の だ け で な く、 脳 科 学・ 民 俗 学・ 言 語
識 は 専 門 の 解 剖 学・ 発 生 学 に 関 す る も
そ し て、 語 ら れ る う ち に 垣 間 見 え る 知
よ う に、 す ら す ら と 話 が 進 ん で い く。
が 巧 い。 ま る で 小 説 を 読 ん で い る か の
面 白 い と い う こ と だ っ た。 ま ず、 文 章
読 み 始 め た 感 想 は、 た だ ひ た す ら に
ああやはりと鳥肌が立ったのだった。︶
﹃ドグラ・マグラ﹄について触れており、
を 読 み 進 め て い く う ち に、 三 木 さ ん は
瞬 間 で あ っ た。︵ 実 際 に、﹃ 胎 児 の 世 界 ﹄
た。 ま さ に、 点 と 点 が 線 で つ な が っ た
より深くこの小説を理解できると感じ
で 記 し て い る こ と と 同 じ だ ! と 発 見 し、
の だ。 こ れ は 三 木 さ ん が﹃ 胎 児 の 世 界 ﹄
﹁胎児の夢﹂と題された論文が登場する
が 胎 児 に 伝 わ っ て い く の か を 記 し た、
う ち に、 い か に し て 祖 先 の 習 慣 や 心 理
う ち の 一 つ と さ れ て い る。 こ の 作 品 の
作 品 で、 日 本 文 学 に 於 け る 三 大 奇 書 の
さ れ た、 夢 野 久 作 の 代 表 作 と も い え る
出 し た。 こ の 小 説 は 一 九 三 五 年 に 刊 行
グ ラ・ マ グ ラ ﹄︵ 角 川 文 庫 な ど ︶ を 思 い
私 は ふ と 昔 に 読 ん だ 夢 野 久 作 著 の﹃ ド
手助けとなるような棚を書店に用意して
する。私は書店員として、その出会いの
うべくして出会う瞬間に現れてくれたり
の私の場合のように、実に都合良く出会
元に所有していられるものであり、今回
知識のように流動的ではなく、自分の手
は、例えばインターネットから得られる
﹁本﹂というかたちになっている知識
とっては新鮮なことであった。
な こ と で は な い か も し れ な い が、 私 に
る。本が好きな皆様方にとっては不思議
理工書によって小説の意味を再発見す
に 広 が っ て い く と こ ろ に も あ っ た の だ。
ものと繋がって、樹木が枝を伸ばすよう
く、そこで得た知識が他のところで得た
容を楽しんで完結することだけではな
そうだ、本を読む楽しみは、一冊の内
だった。
回帰﹂を促してくれる一冊となったの
一人の読書好きとして、まさしく﹁原点
﹃ 胎 児 の 世 界 ﹄ は、 書 店 員 と し て、 ま た
いかなければならないと、改めて考えた。
う と 悪 戦 苦 闘 す る 様 が 描 か れ て い る。
こ の 作 業 の 過 程 に て、 三 木 さ ん は ニ ワ
トリが胚からだんだんとヒヨコの形へ
と 変 化 し て い く 様 が、﹁ 古 生 代 の 終 わ り
の一億年をかけた脊椎動物の上陸のド
ラ マ ﹂ で あ る と 発 見 し、 確 信 し て い く。
こ れ は 人 間 の 胎 児 に も い え る こ と で、
ヒ ト の 形 に な っ て 行 く 際 に 胎 児 た ち は、
遥か昔に遡って生物の進化をやり直す
の で あ る。 こ の あ た り を 読 ん で い て、
『ドグラ・マグラ』
− 29 −
版元探訪
めこん
その一
出版社には、社員数数千人の大出版社
から一人の出版社まで、いろいろな形態
東南アジア専門の出版社だからこその
第四十二回講談社出版文化賞を受賞した
ヤカワ・ポケットミステリ﹂の新装丁で
これは、水戸部功さん。早川書房の﹁ハ
装丁も素敵ですね。
ベトナム人の本職のコックさんと、ベト
こだわりは、まず著者ですね。三人いて、
ナ ム 研 究 者 夫 妻 と い う 組 み 合 わ せ で す。
ばかりの、売れっ子なんですよ。
す。この方は菊地信義さんの弟子なので
最近でも何冊か手がけていただいてま
旦那の小高さんが研究者で、日本人とベ
す。菊地さんは基本的に弟子をとらない
トナム人のハーフ。その奥さんはベトナ
ム美人のホアさんで、日本でベトナム料
献重視とはまた一味違った新しいタイプ
定の監修もやっています。昔ながらの文
今の﹁めこん﹂のロゴも菊地さんが作っ
菊地信義さんと言えば、装丁もさながら、
のですが、水戸部さんだけは特別だとか。
え直したいと、小さな所帯で本を作る出
の研究者で、これから有名になっていく
小高さんは四十五歳と若いベトナム検
理教室を主宰しています。
版社を取材する企画をたてた。第一回は、
がある。出版という業態をシンプルに考
二十年ほど前のアジアの本ブームの頃か
たのですよね。どんなご縁なのですか?
さんが書いています。実際にベトナムに
についての気軽に読めるエッセイを小高
ん。そして、ベトナム食文化やその歴史
にもいかない。書店に行って、片っ端か
でも、全部を戸田さんにお願いするわけ
ト ム さ ん に 装 丁 を お 願 い し て い ま し た。
ま著者と仕事場が隣だった縁で、戸田ツ
会社が出来てからしばらくは、たまた
と思います。
行って食べた人が、作りたくなってほし
ら棚を見てみたんです。どの本がステキ
レシピはコックのナムさんと、ホアさ
ら、真摯に出版に取り組む﹁めこん﹂さ
んにおじゃまして桑原晨さんにお話を
伺った。
い。そう思って作りました。
そうしたら、気に入ったものは戸田さ
かな?と。
んを除くと殆どが菊地さんの作品。十冊
のうち、七冊は菊地さんだった。思い切っ
て、直接電話で依頼しました。二十年位
︵つづく︶
まず、最新刊を紹介してください。
桑原 晨
前かな。まだ、それが可能な時代でした。
めこん社長。海外青年協
力隊としてラオスに赴任
し た の ち、 一 九 七 八 年
(株)めこん創業設立。
﹃おいしいベトナム料理﹄︵二一〇〇円︶
です。
− 30 −
第1回
II N
N FF O
O RR M
MA
A TT II O
ON
N
MARUZEN& ジュンク堂書店 新静岡店 10月5日(水)グランドオープン決定!
TEL(054)
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− 31 −
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から、わかさスタジアム京都︵西京極球
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できなくなるのであれば、せめて野球を
れを告げることになりました。草野球が
一方、同じ女子でもサッカーは、W杯
だ女子プロ野球は認知されていません。
こうという姿勢は伝わりますが、まだま
に い る ︶。 選 手 と フ ァ ン で 盛 り 上 げ て 行
はいまだにサインも写真もお願いできず
六 年 ぶ り に 京 都 店 に 戻 っ て き ま し た。
が連日行われ、夏の休日はすべて観戦に
の試合があり、七月には高校野球の予選
ズンになれば毎週のように大学・社会人
たロンドン五輪のアジア予選も一位で突
バー﹂に沸いて各地で観客が急増し、ま
の 優 勝 で 脚 光 を 浴 び、﹁ な で し こ フ ィ ー
監督と呼ばれた男の
現在
場︶の近くに住むことにしました。シー
このたびの異動で唯一の心残りは草野球
捧げました︵私の日焼けの原因︶。
部下、肩書きや年齢に関係なく対等につ
ば、 み ん な﹁ 一 草 野 球 人 ﹂ で す。 上 司、
しくなれたことでした。グランドに立て
のない他の支店や外商部の人たちとも親
とは、普段働いていても、なかなか接点
をしたり。草野球をしていて良かったこ
ドを予約したり、対戦相手を探して試合
も、実質は世話係。練習のためのグラン
して率いていたからです。監督といって
した池袋・大宮合同チームを私が監督と
ば な し ﹂︵ 二 〇 〇 九 年 十 一 月 号 ︶ で 登 場
友紀選手に注目しているが、おくてな私
真を撮ったりする機会があります︵川端
試合後はサインをもらったり、一緒に写
見 劣 り し ま す が、 選 手 と の 距 離 が 近 く、
ロ野球に比べれば、スピードやパワーは
く見に行くようにしています。男子のプ
なりたいと思い、試合のある日はなるべ
野球誕生の経緯を知り、微力ながら力に
グ の 挑 戦 ﹄︵ 出 版 文 化 社 ︶ で、 女 子 プ ロ
な っ て い ま す。﹃ 日 本 女 子 プ ロ 野 球 リ ー
ストドリームス﹂のホームグランドに
トし、わかさスタジアム京都が﹁京都ア
また、昨年より女子プロ野球がスター
の﹁なでしこ力﹂にご期待ください。︵O︶
ていきたいと考えています。ジュンク堂
客様︶に支持されるチーム作りに邁進し
女性の力を引き出し、サポーター︵お
グを言うところから見習ってみます︵?︶
ことが多いです。私も、まずはオヤジギャ
性の多い職場である書店では参考になる
る﹁自分らしさを表現させる﹂など、女
で接する﹁横から目線﹂や指導理念であ
た。佐々木監督の、選手と同じ目の高さ
勝の頃には品薄になり、重版もされまし
し こ 力 ﹄︵ 講 談 社 ︶ が 注 目 さ れ、W 杯 優
パンを率いる佐々木則夫氏の著書﹃なで
│
│
異動により充実した草野球ライフに別
一〇〇一
五二一二
きあえる仲間に出会えました。
破し、注目されています。なでしこジャ
チームのことでした。以前の﹁本屋うら
TEL TEL
二〇一一年十月五日発行
﹁書
﹂ 第 号
ほんのしるべ
頒価五十円︵本体四十八円︶
標
編集・発行人
岡
充
孝
発 行 所
㈱ジュンク堂書店 〒
神戸市中央区三宮町一の六の十八
︵〇七八︶三九二
印 刷 所
︵〇七八︶五七五
㈱七
旺
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〒 神戸市長田区一番町二丁目一
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5日発行
通巻第 号
ほんのしるべ﹂ 昭和
2011年
﹁書標 10
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