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No. 65 2012 <解説> 溶液内化学種の電子状態や

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No. 65 2012 <解説> 溶液内化学種の電子状態や
No. 65
2012
<解説>
溶液内化学種の電子状態や反応に関する量子化学計算
京都大学大学院工学研究科 佐藤啓文
量子化学は、量子力学に基づいて分子・原子の性質を調べる理論群であり、化学反応はもとより分
子のあらゆる性質を記述できる基本的なツールである。計算機とプログラムパッケージの整備に伴
って、溶液内化学過程に対しても極めて有用なアプローチとなりつつある。本稿では我々が開発・
展開している方法を含めて、こうした手法の概要を紹介する。
1.はじめに
おきたい。化学反応はもちろん、ソルバトクロミ
本会においては、量子化学・量子化学計算は比
ズムなど、電子・振動スペクトル、NMR 化学シ
較的マイナーな存在ではないだろうか。気相中、
フト、あるいは pH に至るまで、物質のあらゆる
すなわち、孤立分子系の性質や化学反応を調べる
性質は原理的には基本法則に則って統一的に理
上で、ab initio molecular orbital (MO)法に代表
解できるはずであり、それは現実にかなり可能と
される量子化学的手法の有用性は今日広く認め
なって来ている。とは言え、溶液はクラスターを
られている。特に最近では安価で高速なコンピュ
含む孤立分子系に比較して圧倒的に複雑であり、
ーターや優れた商用プログラムパッケージ(ソフ
大分事情が異なる。溶液内化学種をターゲットと
トウェア)の普及などにより手軽に計算が可能と
する量子化学理論は現在でも開発が続けられて
なり、実験結果との比較・検討も日常的になって
おり、今なお発展段階にある。
きている。測定・分析機器と同等の役割を担うよ
プログラムパッケージの普及でいわば「ブラッ
うになって来ている、とも言えよう。
「非経験的」
クボックス化」が進み、少なからず誤解もあるよ
と称される現代における量子化学計算は、恣意
うに思うのだが、理論化学、特に新規理論の開発
的・経験的なパラメータが不要で、少数の基本方
は、キーボードを打てば答えが出てくるようなイ
程式にのみ依拠しているために、正しく用いれば
メージとはほど遠い。熟考と議論の末に式を絞り
全く未知の物質であってもその性質を知ること
出し、数万行(以上)にもおよぶプログラムコー
ができる点が大きな特長である。
ドの作成に至るまで極めて地味で手間のかかる
溶液を理解する上でも量子化学・量子化学計算
行程である。特に殆どの実験研究者にとっては新
が極めて有用なツールとなりうる点を強調して
しく開発された方法に触れる機会もなく、全く無
溶液化学研究会ニュース No. 65, 2012
関係と感じる方も多いだろう。しかしこうした中
もおよぶ溶媒分子。これらを扱うには二つの観点
から近い将来に誰もが使えるような方法が生ま
が必要である。すなわち、化学反応・過程の起こ
れて来る。加えて、新しい理論手法は新しい可能
る個別の分子の特性と、系全体の分子集団として
性と斬新な視点を生み出す。
の特性である。前者は疑いなく量子化学によって
2.量子化学で分かること
記述されている。一方、後者は統計力学の必要性
本題に入る前に簡単に量子化学のおさらいを
を示唆している。注意しなければならないのは、
しておく。分子の電子ハミルトニアンを H 0 、電
これらが互いに独立ではないことである。溶媒分
子波動関数を Ψとすれば、そのエネルギー E は
子が溶質分子に近づいてくれば、それが作り出す
E = Ψ H0 Ψ
静電場は溶質分子の電子状態を変化し分極させ
る。また、分極した溶質分子はより多くの溶媒分
と与えられる。 H 0 は分子を構成する全ての原子
子を引き寄せることになる。これらは決して無視
の核座標の組 {R1,R 2 ,L} さえあれば規定される
できず、極性溶媒が作る静電場は通常 eV オーダ
ので、この下で電子の E と Ψを決定すればよい。
ーにもおよぶ大きな寄与となる。当然ながら化学
さらに最小の E を与えるような核座標の組
現象そのものを決定づける上で本質的な役割を
{R1,R2,L}が得られれば、それが分子の平衡構造
果たし、溶媒効果は反応のプロファイルを変え、
となる。エネルギーは座標の組によって決まる複
時にはその成否さえも支配する。言い換えると、
雑な超曲面を構成し、その停留点は安定構造や反
現実の化学過程を的確に理解していくためには、
応の遷移状態構造に対応する。分子のあらゆる物
着目している分子のみではなく、それが置かれて
性・観測量は原理的には E と Ψを基に計算できる。 いる環境—事実上無限数の分子からなる—をも
例えば E の原子核座標に関する二階微分
含めた包括的な視座が必要である。
∂2 E
∂Ri∂R j
い ら れ て い る の は PCM ( Polarizable
は 3 N×3 N(N は原子数)の正方行列となり、原
Continuum Model)法である[1]。このモデルで
子質量を考慮して対角化すると、固有値・固有ベ
は溶液全体を比誘電率εの連続体と見なし、適当
クトルとして分子振動の基準振動数と、対応する
な空孔(cavity)を作って溶質分子を入れる。周
基準モードが得られる。また波動関数から赤外吸
囲の誘電体は溶質分子の電子状態に応じて分極
収スペクトルの強度も計算できる。もちろん計算
するので、通常の量子化学計算の電子ハミルトニ
レベルにも依存するが、現在汎用化されている方
アン( H 0 )に周囲からの効果、すなわち溶媒和
法で定量的な議論が十分可能な場合も多い。結合
効果( V )を取り入れた新しい電子ハミルトニア
溶媒和された分子を扱う上で、現在最も広く用
長や結合角など、分子の幾何構造を決定する上で、 ン( H 0 +V )を解く。こうして得られた波動関
量子化学計算が非常に大きな役割を果たしてい
数は、溶媒和効果によって分極しており、気相中
るのはその好例であろう。
のそれとは異なっている。Gaussian 03 など汎用
3.溶液を扱うために
プログラムパッケージにも実装され、現在もっと
注目している溶質分子(反応中心)とそれを取
も手軽に使える方法である。しかし、溶媒を連続
り囲み、時々刻々と様子を変える事実上無限個に
体として取り扱うために水素結合で代表される
溶液化学研究会ニュース No. 65, 2012
ような特異的な分子間相互作用は考慮できない。
MD 法では多数の粒子をニュートン力学に則って
そもそも溶質分子には高精度の量子化学手法を
運動させ、統計平均を計算していく。
「模擬実験」
用いる一方で、隣接する溶媒は古典的電磁気学に
と呼ばれる通り、計算機の中で多数の粒子からな
従う連続体として扱うのだから、理論レベルの懸
る系を模している。しかし統計力学を直接用いる
隔は小さくない。それにも関わらず使われ続けて
ことが出来れば違ったアプローチが可能となる。
いるのは、比較的簡便で計算量が少ない上に、標
詳細は教科書[4]に譲るが、こうした考え方は前世
準的にプログラムパッケージに内蔵されている
紀初頭には意識されており、RISM (reference
パラメータ(空孔の半径など)の完成度が高く、
interaction site model)もその流れをくむ一つで
計算結果が実験をよく再現できるからだろう。
ある。すなわち、液体の構造を特徴づける対相関
これに対して近年普及しつつあるのは、量子化
関数(動径分布関数)を、溶質−溶媒間の相互作
学に分子シミュレーションを組み合わせた方法
用から直接計算する。この解析的な取り扱いは単
論である。これは以下の二つに大別される。一つ
に計算を高速化するだけでなく、現象の体系的な
は、溶質分子(中心)のみを量子化学的に取扱い、
理解や系統的な近似の改善を進める上でも大変
周辺を囲む溶媒分子には計算負荷の小さい方法
有用である。もちろん、自由エネルギーやエント
(典型的には力場と呼ばれる古典力学的記述)を
ロピーなどの熱力学量も求めた相関関数から簡
用いる、いわゆるハイブリッド法である。
単に計算することができる。
QM/MM 法や ONIOM 法などがこの範疇に入る。
RISM は分子シミュレーションと同等に位置づ
もう一つは、溶液系全体を量子化学的手法(DFT
けられ、量子化学計算と組み合わせることで
等)で丸ごと扱ってしまい、その原子核の運動に
QM/MM 法 と 同 等 な 方 法 と な る 。 こ れ が
ついては分子動力学法(MD 法)のように時間発
RISM-SCF(self-consistent field)法である。最近、
展させる方法である(Car-Parrinello 法等)
。い
同法は横川大輔氏(現名古屋大学)らによって電
ずれの方法においても、分子一つ一つを時系列に
子分布の広がりを直接考慮できるように
沿って追跡していくので、水素結合のように連続
RISM-SCF-SEDD (spatial electron density
誘電体モデルでは得られない詳細な情報が得ら
distribution)法に拡張され[5]、従来よりも適用で
れる。一方で、各ステップで量子化学的計算を行
きる系が大幅に拡大した。 同法は、分子レベル
う必要があるので計算量は莫大になり、現在の計
の溶媒和構造変化や溶液中における自由エネル
算機環境下でも適切な統計平均を得る事は容易
ギー変化も簡単に評価でき、溶液内化学過程を追
でない。特に自由エネルギーやエントロピーなど
跡・解析する上で大変強力な手法である。もちろ
反応や平衡を特徴付ける熱力学量の計算は通常
ん溶質分子の電子状態(波動関数)も得られるの
困難を伴う。最近では、松林伸幸氏(京都大学)
で、前述の QM/MM 法などと比肩、凌駕する方
らが開発し、高橋英明氏(現東北大学)らと
法である。しかもそれほど多くの計算量を必要と
QM/MM 法への展開を進めているエネルギー表
しないことも大きな特長である。特に元来計算量
示法など画期的な方法も提案されている[2,3]。
の多い量子化学計算と組み合わせる上で、この点
第三の方法として位置づけられているのが、液
は非常に重要であり、QM/MM 法では難しい高精
体の積分方程式理論に基づく理論群である。
度の量子化学理論と組み合わせも可能である。他
溶液化学研究会ニュース No. 65, 2012
の液体の積分方程式理論と組み合わせることで、
るかもしれないが、現実的な、日常の化学現象を
3D-RISM-SCF 法や、MOZ-SCF 法などの理論も
理解する上では避けられない「複雑化」である。
提案されている。最近では世界中の複数の研究グ
ここまで拡張することで、従来とは質的に異なる
ループで開発・研究が進みつつある。詳細は吉田
情報を引き出し、多くの化学現象を包括的・統一
紀生氏による最近の解説[6]などを参照されたい。
的に取り扱うことが初めて可能となったことを
こうした方法はいずれも、量子化学と統計力学
改めて強調しておきたい。一方、理論の複雑化・
のハイブリッド法であり、双方の性質をそのまま
精密化や計算の大規模化は今後も益々進んで行
継承している点は大きな特長である。上述のよう
くと思われる。計算の高精度化は勿論重要である
に標準的な量子化学計算を用いることで幅広い
が、理論化学は物事の本質をいかにシンプルに、
分子物性・観測量を計算できるが、溶媒和効果の
スマートに描き出し、複雑な現象に対する見通し
下でこれら全ての物理量の計算が原理的に可能
を立てられるかが、信条であろう。現象と向き合
である(但し、そのための定式化やプログラム作
っての化学である。しかし、残念なことに、計算
成が必要)
。また標準的な液体の積分方程式理論
で得られた数値データが実験結果と合致して見
の側から考えれば、量子力学的な効果を組み入れ
えるか否かだけで、いわば表層的に理論の価値を
た方法と見なすこともできる。組み合わせによっ
測られることも未だ少なくない。それぞれの理論
て新しい視点が生み出される、と言えよう。紙面
の限界や得手不得手をよく見極めた上での正し
の都合上、具体的な応用例については原著論文に
い利用が大前提ではあるが、量子化学・計算化学
譲るが、水溶液や電解質、イオン液体に至るまで
が、溶液内化学過程を理解する上で、真の意味で
様々な溶液環境下での化学反応や化学過程を量
有用なツールとして益々幅広く使われるように
子化学計算によって解析・理解することが可能と
なることを期待したい。
なっている[7]。
参考文献
4.今後の課題
[1]
今日、幅広い化学分野において、量子化学計算
B.
Mennucci
and
R.
Cammi,
Eds,
Continuum Solvation Models in Chemical
は欠く事のできない存在となってきており、計算
Physics, Wiley, Chichester, 2007.
結果を併載する実験論文は増加する一方である。
[2] H. Takahashi, N. Matubayasi, M. Nakahara,
現実の殆どの実験は溶液内過程を扱っているこ
and T. Nitta, J. Chem. Phys. 121, 3989 (2004).
とから、こうした計算においても溶媒和効果を考
[3] 松林伸幸, 溶液化学研究会ニュース, 64, (2011).
慮することが一般的になっている。これまでは、
[4] F. Hirata Ed, Molecular Theory of Solvation,
どちらかと言えば副次的に考えられがちだった
Kluwer/Springer, 2004.
溶液の重要性が再認識され、溶液化学の分野が担
[5] D. Yokogawa, H. Sato and S. Sakaki, J.
う役割も益々大きくなっていくだろう。量子化学
Chem. Phys. 126, 244504 (2007); idem J. Chem.
計算は、その橋渡しとして大きな役割を果たすも
Phys. 131, 214504 (2009).
のと期待される。
[6] 吉田紀生, アンサンブル, 14, 12 (2012).
量子化学と統計力学の融合は、一見複雑に思え
[7] 佐藤啓文, シミュレーション, 30, 207 (2012).
溶液化学研究会ニュース No. 65, 2012
<トピックス>
J-PARC の中性子散乱測定装置
山形大学理学部物質生命化学科
亀田恭男
世界最高性能を誇る大強度陽子加速器研究施設(J-PARC)の建設が遂に完了し、強力なパルス中性
子源を利用した中性子散乱実験施設(物質・生命科学研究施設
MLF)が稼働を開始した。既に多数
の中性子分光器が共同利用を開始して、新しい研究テーマによる課題申請を受け付けている。中性
子回折は溶液の構造を原子レベルで調べることができる強力な実験手段であり、溶液化学の様々な
研究領域において今後の大きな発展に寄与できると期待される。本稿では、筆者が最近体験した
J-PARC の中性子分光器による実験の実際について紹介する。
1.はじめに
子炉あるいは加速器等大規模な施設で作り出さ
中性子回折は、試料に中性子を当てて散乱され
れるので、中性子回折の研究の進展は、実験施設
た中性子を観測する実験手段である。溶液の構造
の充実および利用者に対するサポート体制の強
を明らかにするためには、溶液を構成するすべて
化と密接な関係がある。最高のデータを取得する
の化学種について部分分布関数を求める必要が
には、最強の中性子源の利用が重要である。
ある。X線は電子により散乱されるが中性子は原
子核により散乱されるので、X線回折が苦手な軽
元素に関する情報を得られるという利点を持つ。
3.パルス中性子の利用
中性子回折は、実験に用いる中性子源の種類に
さらに、同じ元素でも同位体が異なれば、中性子
応じて大きく2種類に分かれる。原子炉から連続
の散乱能率(干渉性散乱長)が異なるという性質を
的に出てくる中性子をモノクロメータを使って
積極的に利用した、同位体置換法を用いれば溶液
単色化して用いる方法は、X線回折と同様に検出
中の特定の原子周囲の構造のみを抽出できる。中
器を動かして、散乱角に対する中性子の計数を測
性子回折は非常に切れ味のよい構造解析手段で
定する。一方、パルス中性子の実験では、加速し
あるといえる。
た陽子ビームを重金属ターゲットにぶつけて、核
2.中性子回折の溶液化学への応用
破砕反応で出てくるいろいろな波長の中性子(白
中性子散乱はもともと原子核物理学の研究手
色中性子)を使う。加速器の中では陽子は塊とし
法として始まったが、物理学 → 金属工学・材料
て加速されるので、ターゲットから出てくる中性
工学を経て、遂に化学の分野でも使われるように
子もパルス状になる。パルス中性子回折では、検
なってきた。同位体置換法を用いて、Ni2+および
出器は決まった散乱角に固定されており、検出器
Cl-の水和構造(および水分子の配向)を求めた研究
に入ってきた中性子の波長は中性子の飛行時間
として Bristol 大学の J. E. Enderby 等による 1977
を測定することにより決定する。
年の論文[1] が有名であるが、筆頭著者の A. K.
従来、中性子発生用ターゲットにはタングステ
Soper も含めて当時研究を行ったのは物理学者で
ンやタンタル等の金属が使われ、水冷による冷却
あった。中性子回折に必要な中性子は、研究用原
溶液化学研究会ニュース No.65, 2012
が採用されてきた。J-PARC では設計最大出力が
1MW であり、金属ターゲットの巨大な発熱が問
題となる。J-PARC では重金属ターゲットとして
液体水銀が採用された。水銀を循環、冷却させる
ことにより、核破砕反応に伴う発熱に対処してい
る[2]。
4.NOVA 分光器[3]
J-PARC MLF の 21 番ビームライン(BL21)に設
図1 NOVA 分光器
置されている全散乱分光器である。検出器システ
ムは多数の 3He1次元位置敏感検出器から成り、
5.iMATERIA 分光器[4]
優れた分解能と高い計数効率を両立すべく設計
iMATERIA は粉末結晶試料の構造解析を行うた
された。検出器は 2θ=150°、90°、45°、20°および
めに「茨城県」により設計・建設された分光器で
10°以下の小角バンクに配置されている。
各バンク
あるが、液体・非晶質試料の測定にも適した性能
には多数の1次元位置敏感検出器(PSD)が並ん
を有している。iMATERIA は NOVA の隣りのビー
でおり、PSD のピクセル毎に入ってきた中性子の
ムライン(BL20)に設置されており、遮蔽体は明る
飛行時間が記録される。
い黄緑色をしている。遮蔽体上部には茨城県のシ
室温測定用の標準試料セルはバナジウム製の
円筒セル(内径 6 mm)であり、施設より支給さ
ンボルマークである「サザエ(巻貝)」が描かれて
いる(図2)
。
れる。液体試料の場合はインジウムシールにより
密閉した状態で実験を行う。NOVA には自動サン
プルチェンジャーが装備されており、10 試料を一
度に扱うことができる。測定時間は、試料の内容
や実験の目的により異なるが、重水素化した溶液
試料で約 4 時間程である。試料の測定に加えて、
標準バナジウム試料(直径 6 mm)、空セルおよびバ
ックグラウンドも測定しておくと良い。
図2 iMATERIA 分光器
NOVA の本体は、巨大なコンクリート製の遮蔽
体の中に収められており、試料の交換作業以外は
iMATRIA の検出器は 2θ = 150°、90°、35°、25°
装置の後方にあるコンソールから操作を行う。
および 15°バンクに設置されている。室温測定用
NOVA の遮蔽体は鮮やかな赤紫色をしている(図
の試料セルは NOVA と共通である。iMATERIA に
1)
。
装備されている自動サンプルチェンジャーは高
性能ロボットであり、測定試料を専用のケースに
入れておくだけで所定の測定位置に安全にロー
ディングしてくれる(図3)
。
溶液化学研究会ニュース No.65, 2012
乱等々の各種補正、バナジウムの散乱データを使
った規格化を行った後、マージされ1本の構造因
子となる。
重水素等の軽い元素を多く含む試料の場合、非
弾性散乱効果が顕著になるため、高散乱角(2θ=
150°および 90°)検出器バンクのデータは単純に合
計しない方が良い。重水(D2O)のデータを解析し
図3 iMATERIA 分光器の試料ローディング用ロ
た経験によれば、NOVA の場合は、2θ<45°バン
ボット
ク、iMATERIA の場合は 2θ<35°バンクのデータ
のみを使った方が良い結果が得られるようであ
iMATERIA の制御コンソールは装置側方、
る[5]。ユーザーがデータ解析を行うために必要な
NOVA の制御コンソールが入っている工事現場
データ解析プログラムは NOVA 用が最近完成し
用プレハブに似た建物の2階部分にある。
た。iMATERIA のデータも、データ読み込み部分
測定時間は NOVA とほぼ同じで、現在(2012 年
6 月)の加速器出力(約 200 kW)であれば 4~6 時
間の積算で良好な統計精度のデータが得られる。
6.データ解析と問題点
を少し手直しすれば解析可能であると思われる。
7.今後の展望
J-PARC の中性子散乱実験施設の設計出力は
1MW である。現在の出力は 200kW なので、フル
NOVA、iMATERIA ともに、検出器のピクセル
出力の運転が可能になれば、測定時間は1試料 1
に入射した中性子1発毎に飛行時間を記録して
時間以下となるであろう。4~5 時間の測定時間を
いる。総データ量は莫大で、1試料あたり数 G バ
かければ、前人未到の素晴らしい統計精度の散乱
イトに達する。データ解析のためには、検出器バ
データが手に入る。従来の中性子回折実験では不
ンク毎にあるいは特定の散乱角 2θ の検出器ピク
可能であると考えられてきた新しい研究テーマ
セルの集合毎に測定データを足し合わせ、中性子
に挑戦できるようになるであろう。
の飛行時間に対する中性子カウント数というヒ
J-PARC では一般の研究者による実験課題申請
ストグラムに直す必要がある。この処理は、分光
を年に2回募集している。現在のところ、NOVA
器に付属するコンピュータで行ってもらう。この
や iMATERIA で液体や溶液の実験を行おうとす
ヒストグラム作成には結構時間がかかる(1試料
る研究者は比較的少数である。溶液化学の新しい
あたり数十分から数時間!)。また、長時間の積算
未来のために皆さんも実験申請をしてみません
を行い、多くのカウント数を得るほどヒストグラ
か?
ム処理に時間がかかるところがやや問題である
あれば喜んで協力いたします。
と感じた。
データ解析を行う上で何か困ったことが
J-PARC MLF には NOVA、iMATERIA 等の全散
NOVA、iMATERIA ともに、いろいろな散乱角
乱分光器の他に、試料の非弾性散乱スペクトルを
に配置された検出器により、異なる Q(散乱ベク
観測するための分光器も複数台設置されている
トルの大きさ、Q = 4πsinθ/λ)範囲の散乱データが
[6]。特に溶液試料の場合、測定データは取れるが
得られる。得られた散乱データは、吸収、多重散
そのデータが意味している物理的な内容は謎に
溶液化学研究会ニュース No.65, 2012
満ちていることが多い(ようである)。溶液化学
者の新規参入が期待されている研究分野である
ことは疑いないと思われる。
参考文献
[1] A. K. Soper, G. W. Neilson, J. E. Enderby, R. A.
Howe, J. Phys. C: Solid State Phys., 10, 1793(1977).
[2] http://j-parc.jp/MatLife/en/facilities/target.html
[3]http://j-parc.jp/researcher/MatLife/ja/instrumentatio
n/images/BL21.png
[4]http://j-parc.jp/researcher/MatLife/ja/instrumentatio
n/images/BL20.png
[5] MLF Annual Report 2010, J-PARC11-03, (KEK
Progress Report 2011-4), Material and Life
Science Division, J-PARC Center, (2011) pp.
91-93.
[6]http://j-parc.jp/researcher/MatLife/ja/instrumentatio
n/ns_spec.html
溶液化学研究会ニュース No.65, 2012
<研究室めぐり東西南北>
ーなどの熱力学量が測定され、古くからその不均
一混合性が指摘されてきていました。しかし、こ
佐賀大学大学院 工学系研究科
高椋利幸,梅木辰也
の不均一混合を直接観測する研究が発展したの
は最近のことです。
高椋は、福岡大学の山口敏男先生や分子研名誉
佐賀大学は、佐賀市の南西部に位置する本庄キ
教授の西
信之先生とともに広角 X 線散乱
ャンパスにある理工学部、農学部、経済学部、文
(LAXS)法や液滴を断熱膨張させて急速凍結され
化教育学部、北西部の鍋島キャンパスにある医学
た溶媒クラスターの質量分布から、エタノールな
部と附属病院から成ります。8 階建ての理工学部
どの各種アルコール[1-3]や有機溶媒分子[4-8]が
9 号館 7 階にある研究室の南向きの窓からは、一
水混合溶液中で形成する溶媒クラスターの構造
面黄金色になる麦秋、緑色の稲穂が揺れる夏、そ
を決定しました。特に、アセトニトリル-水混合
して、稲刈りの秋、熱気球が優雅に浮かぶ初冬と
溶液の構造に関する成果は多くの論文に引用さ
いうように四季の移り変わりを感じさせてくれ
れています(Fig. 1)[8]。これらの研究では、H 原子
る風景が広がっています。さらに、遠くには 1 日
に比べて D 原子の中性子散乱長が大きいことを
4 往復の東京便が離着陸する佐賀空港、晴れ渡っ
利用した H/D 同位体置換を用いた小角中性子散
た日には、水銀を薄く引いたような有明海の向こ
乱(SANS)法により、重水と有機溶媒分子との間に
うに雲仙普賢岳を見ることができます。高椋は佐
強いコントラストをつけて溶媒クラスターの形
賀大学に着任して今年の 11 月で 15 年となり、梅
成をクリアーに観測することに成功しました。多
木は、昨年 4 月に東日本大震災直後の産総研東北
くの混合溶液中でナノサイズの有機溶媒クラス
センターから佐賀大学に着任しました。現在では、 ターと水クラスターが共存するミクロ相分離が
高椋と梅木の 2 人体制での研究室を運営しており
起こっていることを明らかにし、組成比による両
ます。
者の構造転移が熱力学量の異常性(極小・極大値)
ここでは、高椋がこれまで行ってきた二成分溶
の原因であることを明らかにしました。
液の混合状態、二成分混合溶液の相分離や溶質分
子に対する選択的溶媒和、イオン液体の構造に関
する研究、梅木が行っている超強塩基アルコール
溶液の混合状態、機能性イオン液体の溶液構造解
明に関する研究ついてご紹介いたします。
1. 二成分混合溶液
1.1 混合状態のメゾスコピックな観測
多くの化学反応や分離抽出において、単一溶媒
よりも 2 種類以上の液体からなる混合溶媒が用い
られています。物理化学的には、2 種類の液体の
Fig. 2 Structure of acetonitrile cluster determined by
LAXS method [8].
混合については部分モル体積や混合エンタルピ
溶液化学研究会ニュース No.65, 2012
1.2 混合溶液の選択的溶媒和と相平衡
HFIP が水溶液中でクラスターを形成することを
水溶性有機溶媒-水混合溶液の溶媒和特性を 2
示しました[12,13]。しかし、フッ化アルコール-
つの面から研究しています。1 つは電解質イオン
水混合溶液における有機分子の溶媒和に関する
に対する選択的水和が引き起こす相分離です。ア
研究はほとんどなく、タンパク質分子の 2 次構造
セトニトリル水[9,10]や 1,4-ジオキサン水混合
強化や分離がどのように促進されるかは未知の
溶液[11]に電解質を添加することで、イオンの水
部分が多く残されています。そこで、炭素鎖やア
和殻周りに水クラスターが形成されます。さらに、 ルキル基疎水部をもつジオール[14]やアミド分子
電解質濃度が増加するとクラスターが発達し相
[15,16]に対する HFIP 分子の選択的溶媒和を解明
分離に至る過程を SANS 法で観測しました。この
しています。この研究では、SANS や 1H, 13C NMR
研究においては、興味深い現象として、塩化アル
による実験的な手法に加えて、MD 法で溶媒和構
カリ添加による相分離の起こりやすさは、水和エ
造をシミュレーションしています。その結果、Fig.
ンタルピーの大きさとは一致せず、NaCl  KCl 
2 に示すように、アミド NMP 分子のカルボニル
LiCl の順番に起こることを見出しました[9]。この
基やアミノ基には水分子が水素結合しているの
メカニズムの解明には、永年取り組んできました
に対して、疎水部には HFIP 分子が CF3 基を向け
が、最近、本学の総合分析実験センターに導入さ
て選択的溶媒和殻を形成することがわかりまし
れた 400 MHz NMR 分光器を用いて、7Li および
た。実際に、前述の NMR 分光器を用いて 1H{19F}
23
Na の緩和速度測定から陽イオンの水和構造を
HOESY 測定を行うことで、疎水部-CF3 基相互作
考察することができるようになり、Li+Clのイオ
用が存在することが明らかになってきました。フ
ン対形成が影響していることが解明されました。
ッ化アルコール分子がつくる疎水的な溶媒和環
もう 1 つは、各種アルコール-水混合溶液中で
境がタンパク質分子の 2 次構造強化や分離に寄与
のジオールやアミドなどに対する選択的溶媒和
です。特に、フッ化アルコールであるトリフルオ
ロエタノール(TFE)やヘキサフルオロイソプロパ
していることがわかってきました。
NMP
ノール(HFIP)の溶質分子に対する疎水的相互作用
に注目しています。アルコールの添加による水溶
液中でのタンパク質分子の 2 次構造強化は、脂肪
族アルコールよりもフッ化アルコールの方が強
いことが知られています。また、高速液体クロマ
トグラフィー(HPLC)によるペプチドやタンパク
質の分離において、フッ化アルコール-水混合溶
液を溶離液とすると高い分離効率を示します。こ
れらには、フッ化アルコール-水混合溶液中でフ
ッ化アルコールクラスターと水クラスターが形
成されることが寄与していると考えられていま
Fig. 2 The hydrophobic moieties of NMP are widely
solvated by HFIP (carbon: blue dots; fluorine: yellow
clouds) in HFIPwater mixtures, while the carbonyl
and amino groups are hydrogen-bonded by water
(oxygen: red clouds) [15].
1.3 超強塩基アルコール溶液の混合状態
近年、CO2 化学吸収液として超強塩基 1,8-ジア
ザビシクロ[5,4,0]ウンデカ-7-エン(DBU)とアルコ
す。実際に、我々の SANS 実験の結果は、TFE や
溶液化学研究会ニュース No.65, 2012
ールからなる混合溶液が有望視されています
りの溶媒和構造解明への取り組みも始めていま
(Scheme 1)。
す。
N
N
+
N
DBU
ROH
+
ROCO2-
CO2
N2 or heat
N+
H
DBUH+ROCO2-
Scheme 1 Reversible reaction of CO2 with DBUalcohol (ROH).
2. イオン液体
2.1 分子性液体中での会合体形成
イオン液体は、100 C 以下で液体状態の電解質
です。通常、有機陽イオンと電荷密度の低い陰イ
梅木は、
DBU と種々のアルコールからなる化学
オンから形成されています。高い電気伝導度、無
吸収液の CO2 吸収・放散量について調べ、(1) 低
視できる蒸気圧、難燃性といった特徴をもつこと
い CO2 吸収量を示す DBU-2-methyl-2-propanol 溶
から、リチウム電池の安全な電解液として注目を
液(tBuOH)を除いて、DBU-アルコール溶液の
あびています。しかし、高粘性という欠点があり、
CO2 吸収量は DBU-水溶液に比べて大きいこと、
イオン液体単体で溶媒として用いることは難し
(2) DBU-アルコール系においてDBUはCO2 とほ
いところもあります。したがって、できるだけ少
ぼ化学量論的(CO2/DBU = ~1.2)に反応すること、
量の分子性液体と混合することも適用範囲を広
(3) DBU-アルコール溶液の CO2 吸収量はアルコ
げる方策の 1 つです。我々は、イミダゾリウム系
ールのアルキル鎖長にほとんど依存しないこと、
イオン液体 Cnmim+TFSAや Cnmim+NO3 (n はアル
(4) DBU-アルコール溶液の CO2 放散量はアルコ
キル鎖長)と水、メタノール、ベンゼン系溶媒との
ールのアルキル鎖長に強く依存し、60 °C の放散
混合を研究しています。
量はアルキル鎖長が長くなるにつれ増加するこ
メタノール分子は、イミダゾリウム環と陰イオ
とを報告しました。このような CO2 吸収・放散に
ンが形成する極性ドメインに入り込み、水素結合
おける特徴は、その溶液構造や吸収形態(分子構
によりクラスターを形成することが明らかにな
造)の違いを反映したものと考えられ、高性能な
りました[17]。実際に、SANS 法によりメタノー
CO2 化学吸収液を創製するためにはそれら微視的
ルクラスターを含んだ極性ドメインとアルキル
物性を明らかにすることが重要です。そこで、
鎖による非極性ドメインとによる濃度ゆらぎを
我々は、産総研東北センターの金久保光央主任研
観測することができました。
究員や牧野貴至研究員と共同で、DBU-アルコー
一方、ベンゼン分子はイミダゾリウム環とカチ
ル系の溶液構造解明に NMR などの手法を用いて
オン-相互作用し、極性ドメインにスタックす
取り組んでいます。これまでに、アルコール水酸
ることが、NMR 法によるイミダゾリウム環水素
基と DBU 分子内 C=N-C の N 原子の間に強い相互
および炭素原子の電子密度変化や ATR-IR 法によ
作用が存在することを明らかにしました。DBU-
るベンゼン分子の C-H 面外変角振動および LAXS
tBuOH 系においても他のアルコール系と同様の
法から示唆されました[18]。スタック構造のモデ
強い分子間相互作用があったことから、嵩高い
ルを Fig. 3 に示します。イミダゾリウム環に対す
tert-ブチル基による CO2 の反応障害が DBU-
るベンゼン分子の相互作用が飽和すると、ベンゼ
tBuOH 系における低い CO2 吸収性をもたらして
ン分子はアルキル鎖が形成する非極性ドメイン
いると考えています。現在、DBUH+や ROCO2周
溶液化学研究会ニュース No.65, 2012
とは強く相互作用せず、その周りにベンゼンクラ
18 Å
スターを形成します。すなわち、イミダゾリウム
環-ベンゼンクラスターと非極性ドメインを介
したベンゼンクラスターによる濃度ゆらぎを生
じます。これが、この系が UCST を示す原因と考
えられます。つまり、温度低下にともないベンゼ
ンクラスターが発達して相分離に至ります。
TFSA
Fig. 4 Structure model of C12mim+NO3 micelle [19].
2.2 機能性イオン液体の溶液構造解明
i) 酢酸イオンやアミノ酸アニオンなどカルボキ
3.8 Å
7.5 Å
シレート基を化学吸収機能としてアニオンに付
与した機能性イオン液体の開発が進められてい
ます。しかし、それら CO2 化学吸収基を有するイ
オン液体はどれも高粘性で、それらイオン液体を
Fig. 3 Structure model of C12mim+TFSA benzene
cluster [18].
ところが、トルエンとイオン液体との混合の不
均一性はベンゼンよりも低く、さらに、トリフル
オロトルエンは、イオン液体と均一に混合します。
これらの結果には、置換基サイズによるカチオン
-相互作用の弱化が寄与していると考えられま
す。また、1H{19F} HOESY 測定によりイミダゾリ
ウムアルキル鎖とトリフルオロメチル基との相
互作用が確認されており、両者の分散力もトリフ
ルオロトルエン系の均一混合の要因であると考
えています。
TFSAよりも電荷密度の高い硝酸イオンを陰イ
オンとした C12mim+NO3は水に良く溶けます。
C12mim+NO3-D2O 溶液の SANS スペクトルは、
約 46 個の C12mim+NO3が平均半径 18 Å のミセル
を形成することを示しました(Fig. 4) [19]。
単体で CO2 化学吸収液として用いることは難し
いと考えています。そこで、本研究室では、カル
ボキシレート基とは異なる CO2 化学吸収基を有
する低粘性なイオン液体の創製を最終目的とし
て、現在は CO2 化学吸収基の探索と、低粘性化の
設計指針を得るためのイオン液体の構造解明に
取り組んでいます。
ii) イオン液体は前述のように Li+二次電池など
蓄電池用の電解液媒体として有用で、それら電解
液中では TFSAなどのアミド系アニオンが Li+と
相互作用して多座配位することが知られていま
す。一方のイオン液体構成カチオンは溶液中に数
mol/dm3 存在するにも関わらず、Li+と直接的な相
互作用をもたないと考えられているためアニオ
ンに関する研究とは対照的に注目されておらず、
Li+伝導におけるカチオンの役割はほとんど明ら
かになっていません。そこで、我々は、イオン液
体構成カチオンによる Li+伝導性の向上を目的と
溶液化学研究会ニュース No.65, 2012
して、性質の異なるジアゾ系カチオンからなるイ
[9] T. Takamuku, Y. Noguchi, E. Yoshikawa, T.
オン液体の開発と、その Li+溶媒和構造解明に取
Kawaguchi, M. Matsugami, and T. Otomo, J. Mol.
り組んでいます。
Liquids, 131/132, 131-138 (2007).
これら機能性イオン液体の溶液構造解明を
[10] T. Takamuku, A. Yamaguchi, D. Matsuo, M.
NMR などの手法を使って進めています。この機
Tabata, M. Kumamoto, J. Nishimoto, K. Yoshida, T.
能性イオン液体に関する取り組みは始めたばか
Yamaguchi, M. Nagao, T. Otomo, and T. Adachi, J.
りですので、ご指導ご鞭撻の程宜しくお願い致し
Phys. Chem. B, 105, 6236-6245 (2001).
ます。
[11] T. Takamuku, A. Yamaguchi, D. Matsuo, M.
Tabata, T. Yamaguchi, T. Otomo, and T. Adachi, J.
参考文献
Phys. Chem. B, 105, 10101-10110 (2001).
[1] T. Takamuku, K. Saisho, S. Nozawa, and T.
[12] T. Takamuku, T. Kumai, K. Yoshida, T. Otomo,
Yamaguchi, J. Mol. Liquids, 119, 133-146 (2005).
and T. Yamaguchi, J. Phys. Chem. A, 109, 7667-7676
[2] T. Takamuku, H. Maruyama, K. Watanabe, and T.
(2005).
Yamaguchi, J. Solution Chem., 33, 641-660 (2004).
[13] K. Yoshida, T. Yamaguchi, T. Adachi, T. Otomo,
[3] T. Takamuku, T. Yamaguchi, M. Asato, M.
D. Matsuo, T. Takamuku, and N. Nishi, J. Chem. Phys.,
Matsumoto, and N. Nishi, Z. Naturforsch., 55a,
119, 6132-6142 (2003).
513-525 (2000).
[14] T. Takamuku, M. Tanaka, T. Sako, T. Shimomura,
[4] T. Takamuku, Y. Kyoshoin, H. Noguchi, S. Kusano,
K. Fujii, R. Kanzaki, and M. Takeuchi, J. Phys. Chem.
and T. Yamaguchi, J. Phys. Chem. B, 111, 9270-9280
B, 114, 4252-4260 (2010).
(2007).
[15] T. Takamuku, H. Wada, C. Kawatoko, T.
[5] M. Matsugami, T. Takamuku, T. Otomo, and T.
Shimomura, R. Kanzaki, and M. Takeuchi, Phys.
Yamaguchi, J. Phys. Chem. B, 110, 12372-12379
Chem. Chem. Phys., 14, 8335-8347 (2012).
(2006).
[16] T. Takamuku, T. Shimomura, M. Tachikawa, and
[6] T. Takamuku, A. Nakamizo, M. Tabata, K. Yoshida,
R.
T. Yamaguchi, and T. Otomo, J. Mol. Liquids, 103/104,
11222-11232 (2011).
143-159 (2003).
[17] T. Shimomura, K. Fujii, and T. Takamuku, Phys.
[7] T. Takamuku, A. Yamaguchi, M. Tabata, N. Nishi,
Chem. Chem. Phys., 12, 12316-12324 (2010).
K. Yoshida, H. Wakita, and T. Yamaguchi,
[18] T. Shimomura, T. Takamuku, and T. Yamaguchi, J.
J. Mol. Liquids, 83, 163-177 (1999).
Phys. Chem. B, 115, 8518-8527 (2011).
[8] T. Takamuku, M. Tabata, M. Kumamoto, A.
[19] T. Takamuku, T. Shimomura, K. Sadakane, M.
Yamaguchi, J. Nishimoto, H. Wakita, and T.
Koga, and H. Seto, Phys. Chem. Chem. Phys., (2012)
Yamaguchi, J. Phys. Chem. B, 102, 8880-8888 (1998).
accepted.
Kanzaki,
Phys.
Chem.
Chem.
Phys.,
13,
溶液化学研究会ニュース No.65, 2012
<訃報>
この度、2012 年 5 月 22 日、伊吹和泰先生(同志
社大学理工学部)が逝去されました。ここに謹んで
哀悼の意を表します。以下に伊吹和泰先生の略歴、
業績、思い出等を紹介させていただきます。
伊吹 和泰 先生 (享年 50 歳)
(略歴)
1984 年 3 月 立命館大学理工学部化学科 卒業
1989 年 3 月 京都大学大学院理学研究科化学専
攻博士後期課程 修了(理学博士取得)
1991 年 4 月 京都工芸繊維大学 教務職員
1993 年 4 月 同志社大学工学部 専任講師
1996 年 4 月 同志社大学工学部 助教授
2003 年 4 月 同志社大学工学部 教授
伊吹先生がお亡くなりになった前日に、いつも
この間 2006 年 4 月〜2007 年 3 月 Université
通り学食で昼食をともにしたものにとっては、い
Bordeaux(Prof. R. A. Bopp)に留学
まだに伊吹先生が急逝されたということを受け
(主な業績)
入れることができません。先生は溶液中のイオン
1. Dielectric friction theory of the viscosity of
の運動に関する研究や拡散律速反応の初期過程
electrolyte solutions, J. Chem. Phys., 85, 7312
に関する研究を中心にして数多くの業績を上げ
(1986).
てこられました。これから益々頑張って頂こうと
2. Fokker-Planck-Kramers equation treatment
思っていた矢先で、実に残念でなりません。学生
of dynamics of diffusion-controlled reaction
達にはやさしく接しておられましたが、理論派で、
using continuous velocity distribution in three
先の見通しが立つ鋭い感覚をもった先生でした。
dimensions, J. Chem. Phys., 119, 7054 (2003).
ご存知のように、溶液化学研究会では運営委員を
3. Electric conductivities in high-temperature
務められ、また、第 28 回(2005 年)溶液化学シ
ethanol along the liquid-vapor coexistence
ンポジウムでは、実行委員として見事な采配を振
curve. I. NaBr, KBr, and CsBr, J. Chem. Phys.,
るって頂きました。お酒もワインも大好きでした
132, 114501 1-10 (2010).
が、音楽をこよなく愛し、社会人から成る RAM
4.
Temperature
effect
on
the
rotational
吹奏楽団の指揮者として直前までタクトを振っ
corrrelation time of water in formamide- and
ておられました。みんなから愛された伊吹先生、
N,N-dimethylformamide-water mixtures, Bull.
心からご冥福をお祈り申し上げます。
Chem. Soc. Jpn., 85, 189 (2012).
(上野正勝,同志社大学名誉教授)
溶液化学研究会ニュース No.65, 2012
<第 35 回溶液化学シンポジウムのご案内>
会期:2012 年 11 月 12 日(月)–14 日(水)
会場:早稲田大学西早稲田キャンパス 63 号館
主催:溶液化学研究会
共催:日本化学会、日本分析化学会、日本高圧力学会、電気化学会溶液化学懇談会
討論主題
「溶液の物性と構造、溶液内の分子間相互作用と分子構造、生体分子と水、イオン液体、溶液反応などの
溶液に関する諸問題」
プレシンポジウム
日時:2012 年 11 月 11 日(日) 午後
場所:早稲田大学西早稲田キャンパス 55 号館 N 棟大会議室
・発表申込締切
8 月 27 日(月)必着
・予稿原稿締切
10 月 1 日(月)必着
・参加登録予約申込締切
10 月 12 日(金)
・発表形式 口頭発表(質疑を含めて 20 分)・ポスター発表
・ポスター賞
35 歳以下の PD および学生のポスター発表講演者を対象にポスター賞を選考します。
対象者は講演申込時に申し出て下さい。
・参加登録費 一般 5,000 円(当日 6,000 円)
、学生 3,000 円
・懇親会
11 月 13 日(火)18:30 から、早稲田大学西早稲田キャンパス 1F「馬車道」。
会費 一般 6,000 円(当日 7,000 円)、学生 3,000 円。
溶液化学研究会ニュース No.65, 2012
<溶液化学研究会
2011 年度収支決算書>
1) 収入の部
前年度繰越金
利息
394,228 円
78 円
溶液化学研究会年会費(振込手数料差し引き分)
336,040 円
第 34 回溶液化学研究会事務局より寄付 32,735 円
個人会員からの寄附 8,000 円
--------------------------------------------合計
771,081 円
2) 支出の部
通信費(ニュースレター、会員名簿送付料)
レンタルサーバー等契約料
13,840 円
9,430 円
WWW 管理費(2010 年 10 月~2011 年 3 月分および 2011 年 4 月~9 月分として) 120,000 円
消耗品費(文具)
2,510 円
第 34 回溶液化学シンポジウム経費 31,316 円
事務補佐謝金
50,000 円
振込手数料 1,445 円
次年度繰越金
542,540 円
-----------------------------------------------合計
771,081 円
以上
※年会費 2,000 円のお支払いをお願いいたします。ご請求書とお振込用紙を今年度の名簿をお送りいた
します際に同封させていただきます。尚、過年度におきまして年会費が未納の会員の方には、
請求書にその旨を記載させていただいておりますので、今年度分と併せてお振込みくださいますよう、
どうぞよろしくお願い申し上げます。
発行所: 溶液化学研究会
http://www.solnchem.jp/
〒606-8502
京都市左京区北白川追分町
京都大学大学院理学研究科化学専攻
光物理化学研究室内
溶液化学研究会事務局
Tel: 075-753-4026 Fax: 075-753-4000
e-mail: [email protected]
溶液化学研究会ニュース No.65, 2012
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