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136KB - JICA
ISSN 1347-9156
JBICI
Working Paper
開発援助政策一貫性と武器移転の扱いについて
開発金融研究所
主任研究員
田町典子
NO. 19
2004 年 11 月
国際協力銀行 開発金融研究所
JBIC Institute (JBICI)
本 Working Paper は、国際協力銀行における調査
研究の成果を内部の執務参考に供するとともに一
般の方々にも紹介するために刊行するもので、本書
の内容は当行の公式見解ではありません。
開発金融研究所
開発援助政策一貫性と武器移転の扱いについて
2004 年 11 月
開発金融研究所
主任研究員
国際協力銀行
〒100−8144
田町典子
開発金融研究所
東京都千代田区大手町1丁目4番1号
電話:03-5218-9720
FAX:03-5218-9846
開発援助政策一貫性と武器移転の扱いについて
要
約
先進国が貧困国の開発に配慮しているかについて、各国の政策を網羅的に評価しようと
する試みが始まっている。米国のシンクタンク、世界開発センター(Centre for Global
Development: CGD)が試算・公表した政策一貫性指標(Commitment to Development
Index: CDI)は日本を DAC 最下位にランキングし、関係者を驚かせた。
政策一貫性の評価対象となる政策分野として安全保障政策も視野に入れられているが、
その評価項目として、途上国の治安に大きな影響のある武器輸出はまだ取り上げられてい
ない。主要ドナーの多くは武器輸出国である一方、日本は武器輸出を行っていない。日本
の武器輸出における自制は大きな機会費用を伴っていることでもあり、もっと評価されて
しかるべきであろう。
本稿では、世界の主要武器輸出国でもある主要ドナーの、途上国への武器移転動向につ
いて、クロスセクションの時系列データを用いて概観する。
Ⅰ. ドナーの安全保障政策
近年、開発と安全保障の関係が注目されている。ひとつには冷戦構造の崩壊後、地域紛
争が激化するなかで、平和構築の観点から、紛争復旧のための緊急援助から開発援助への
切れ目ない流れが重要視されるようになったこと、もうひとつには 9.11 以降、テロ対策と
しての貧困削減を目指す観点から、開発援助に安全保障の役割が課されるようになったこ
となどがあげられよう。
一方、開発援助政策としては、欧州ドナーを中心に、開発援助と外交政策を切り離し、
開発援助を貧困削減目的に特化させる方向性が打ち出されている。これは、政策評価を通
じて政府の効率性を検証しようとするガバナンス重視の観点から、政策目的と政策手段と
の関係を明確化しようとする流れと無縁でない。このような機能分割の方向と、安全保障
に開発を連携させる考え方とを整合させることは、必ずしも容易でない。
このようななかで、政府の効率性の観点から政策間の整合性が問われるようになった。
開発援助においては、ドナー間の協調が重視され、先進各国が貧困削減にむけて整合的な
政策を採用すべきとの価値観が形成されつつある。さらに、先進国が貧困国の開発に配慮
しているか、各国の政策を網羅的に評価しようとする試みが始まっている。このような試
みは、途上国の開発の観点からも意義がある。先進各国の広範な政策が本来の政策目的よ
りも貧困削減との整合を重視すべきとまではいえないにしても、網羅的に評価するため評
価対象となる政策のカバレッジを広げることは有用であろう。
米国のシンクタンク、世界開発センター(Centre for Global Development: CGD)は
2003 年、貧困国の開発の観点から DAC 諸国の政策の一貫性を測る指標 CDI(Commitment
1
to Development Index)を発表し[CGD,HP](1)、日本を最下位に位置付けたことで日本の
援助関係者を驚かせた。安全保障政策も評価対象の一分野とされ、その指標としては国連
PKO への派遣要員数のみがとりあげられている。データの制約はあろうが、先進国の安全
保障政策を貧困国の開発の観点から評価する指標が PKO の員数のみというのは、あまり
にバランスを欠くのではないか。例えばソフト面とハード面を捉えるとすれば外交的努力
が無視されているし、人的側面と物的側面を捉えるとすれば、PKO 等の要員派遣に対して
(2)、物的側面として武器供給などは無視できない要素であろう。
途上国はハイテク製品である武器を主に海外からの供給に依存している。途上国への武
器供給が開発に与える影響としては、まず、経済開発に充てられるべき資源が武器輸入代
金等に費やされることによる開発の遅れがあげられるが(3)、一方、武器保有が国内の治安
等に与える影響は、開発の有効性にも密接に関連してくる(4)。ただ、治安に影響する武器
保有量はストックであり、短期的には治安に貢献したにもかかわらず、長期的に見ると過
去に蓄積された武器が不安定化を拡大した例は少なくない(5)。
本稿では途上国への武器供給をとりあげて DAC 諸国の状況を概観し、指標への採用に
つき考察する。
Ⅱ. 武器移転のデータ
通常兵器の移転に関する情報源としては、国連通常兵器登録データ[UN,HP]、米国国務
省“World Military Expenditures and Arms Transfers”(WMEAT) [USDS,2002]、国際戦
略問題研究所(IISS)“The Military Balance” [IISS,2003]、ストックホルム国際平和研究所
(SIPRI)年報[SIPRI,2003]などがある。
武器移転のデータは、各国の軍事力をみる基礎データとして移転された武器の軍事的な
価値を示すものであって、受取側の負担額ではないので(6)、国内経済に対する負担を見る
CGD の CDI については、援助国の中でも、手法そのものについての疑問や、指標の改善の余地が大き
いとの見解も少なくない。なお、当該指標では 2003 年のみならず 2004 年でも、日本が最下位となっ
ている。
(2) PKO 等の開発への貢献としては、
ひとつには不安定な地域を直接的に安定化させる効果が期待できる。
貧困国の安定化への貢献をみるのであれば、必ずしも国連 PKO でなくても不安定な途上国地域への派
兵であって治安維持に貢献するのであれば対象としうる(CGD では国連 PKO のみ)。また、先進国が
PKO 等に提供する資源(資金、資材、知識等)が PKO に参加する途上国へ還元される効果も、途上国
の開発に貢献する可能性は高い。なお、国連 PKO については、外務省 HP に参加国及び派遣人数の内
訳(活動別)が掲載されている(www.mofa. go.jp/mofaj/gaiko/pko/pdfs /sanka.pdf)。
(3) 軍事援助の場合は短期的には開発資源に影響はないが、武器は導入後も運用、訓練、維持整備、補給
などにコストがかかり、援助の枠外でもコストが発生する。
(4) 軍事費の治安や人材・産業インフラ面等への効果は開発にも有用との見方もあり、軍事費が経済成長に
プラスかマイナスかについては明確な結論は出ていない。
(5) アフガニスタンの例でも明らかな通り、紛争当事者の保有する多くの武器のなかで、過去のある時点
で独裁政権に対抗するために供給されたものは少なくない。冷戦下の西側の開発援助には共産化に対抗
する意図があったので、不安定化が開発を阻害するとの視点を持つことは困難であった。有効な開発の
ためには緊急支援から開発援助まで切れ目なく連携させて安定化を図りつつ開発を進めることが重要
との観点が提供されたのは、冷戦後のアメリカ一極体制の下で、不安定そのものが安全保障への脅威と
捉えられるようになってからである。
(6) 便宜上、輸出、輸入という語が使用されている場合もあるが、贈与や借款によって移転された武器に
(1)
2
には不適切である(7)。外国製武器に依存する途上国については、移転された軍事能力を時
系列的にみることにより、治安等に影響のある武器保有状況を把握することができる。
これらの情報源のうち、供給国と受入国のクロスの時系列を毎年提供しているのは
SIPRI(8)のみである。国連データは、国連軍備登録制度(9)による各国提出の個票を公開した
もので、そのままでは使いにくい。WMEAT(10)は主要 6 カ国(米英仏独中露:DAC 加盟
22 カ国中では4カ国のみ)について、IISS(11)は一部の国について、クロスデータが掲載
されているが、時系列ではない。本稿では、DAC 加盟各国の安全保障政策を見るため、
WMEAT データ(対象品目のカバレッジは SIPRI より高く、金額の水準としても数倍)
は必要に応じて参照するにとどめ、基本的には SIPRI データ(時系列で DAC 各国のクロ
スデータを提供)を採用する。
SIPRI の武器移転データは、主要兵器(航空機、装甲車、火砲、レーダーシステム、ミ
サイル、艦船の6種)を対象としており、正規の政府以外への武器移転もカバーしている
(12)。武器取引には一物一価が成立しないので(13)、移転する武器に対してそれぞれの性能に
ついても、現物の引渡しの時点でその価値が計上されている。
例えば WMEAT データは、武器輸出額、武器輸入額、輸入に占める武器輸入の割合などが、世界銀行
の World Development Indicators を始め多くの文献に引用されている。しかしながら本書に掲載され
ているデータは、支払い金額ではなく、贈与や借款、バーター取引等を含む、実際に移転した武器の価
値を示す金額であることが原本には注記されている。従って、これらのマクロ経済データとの比較はあ
くまで目安でしかなく、国内経済に対する負担を見る指標としては厳密には不適切な指標と言わざるを
得ない(支払能力の低い貧しい国ほど武器の対価の支払いにおける贈与分が大きい可能性が高いことを
考えれば、なおさら妥当性を欠く)。
(8) SIPRI はインターネットでもデータを提供。また、用途を明示して申請すればさらに詳細なデータの
無償提供を受けられる。
(9) 国連軍備登録制度は 1991 年、国連総会の採択により設置、通常兵器(大量破壊兵器は除く意)の国際
的な移転を中心とする軍備の透明性や公開性を向上させ、それにより各国の信頼醸成、過度な軍備の蓄
積の防止等を図ることを目的としている。国連加盟国は毎年、戦車、装甲戦闘車両、大口径火砲システ
ム、戦闘用航空機、攻撃ヘリコプター、軍用艦艇、ミサイル・ミサイル発射装置の7カテゴリーの通常
兵器について、1 年間の移転数及びその輸出国、輸入国を提出することが義務づけられている(金額は
含まれていない)。さらに、軍備保有、国内生産による調達、関連する政策に関する情報等の提出も推
奨されている。現在 90 カ国以上が参加。なお中国は 1997 年以降、米国が台湾向け輸出を登録し始め
たことを不服としてボイコットしている(外務省ホームページによる)。
(10) WMEAT の武器移転データは、最大の武器輸出国である米国の武器取引にかかる行政情報をベースに
作成されている(米国以外の国についての推計方法は明らかにされていない)ので、信頼性も高く、各
国の軍事費や武器取引の情報源として引用されることが多い。通常兵器(戦術誘導ミサイル・ロケット、
軍用機、艦艇、装甲・非装甲戦闘車、通信・電子装置、火砲、小武器、弾薬、その他軍需品・軍需サービ
ス。部品、補給品、補修用品、建設、教育・訓練、修理などを含む。軍用・民生両用品でも軍用が主であ
ればカバーしている)の国際移転(非政府グループへの移転は含まない)を対象とし、現金払い、贈与、
借款、バーターによる取引、また特許料・ライセンス料も含むなどカバレッジは高い。供給国(米英仏
独中露の6カ国のみ)と受入国のクロスでは過去3年間の合計額が米ドル現在価格表示で提供されるの
で、他の経済指標等との関係(例えば歳出比や GNI 比など)を(あくまで目安としてだが)見ること
ができる。また、各国の供給額計、受取額計については、現在価格表時及び基準年価格表示の過去 10
年の時系列も提供されている。ただ、公表は 3 年毎であり、調査時から公表までのラグも長く
(1997~1999 年データが 2002 年に出版)、発表毎に推計されるので時系列として過去に溯って接続す
ることは保証されていない。
(11) IISS は会員向けには詳細なデータベースが提供されている模様だが、出版物への掲載は一部のみ。
(12) SIPRI のカバレッジは WMEAT よりもかなり低く、小火器までは対象としていない。非政府グループ
を含むといっても、SIPRI が対象とする主要装備を入手するのはかなり大規模な勢力に限られる。
(13) 武器取引は国家貿易が主なので、国際情勢や、武器を介した供給国と受取国の中長期的な関係に左右
され、同じ武器でも関係を強化したい国や支払能力のない国には、贈与や援助が上乗せされて安く提供
(7)
3
応じた標準価格(14)でウェイト付けした金額を算出し、米ドル基準年価格表示で提供される
(贈与であっても、あるいは開発費を大幅に上乗せされて割高になっていても、同じ兵器
であれば移転額としては一定にカウント)。国境を越えて移転する軍事能力を金額で評価
したものと考えてよい。なお、ライセンス生産分は、実物が国境を越えて動かないのでカ
ウントされない。実際に支払われる金額とは無関係に算出されるので、軍事費の負担を評
価する指標としては適切でなく、基準年価格表示なので他の経済指標などとの関係をみる
のにも向かないが、軍事能力の移動状況を国際的に比較するには適した指標である。十分
長いクロスの時系列が毎年、過去に溯って公表されるので、経年変化や累積値の評価にも
対応でき、分析には利用しやすい。
Ⅲ. DAC の武器移転動向
主要兵器の生産には高い技術が必要なので、先進国が途上国から兵器を大量に買い付け
るということはあまり考えられない。つまり、通常兵器の取引は主に、①先進国同士の取
引、②先進国から途上国への移転、のふたつと考えられる。すなわち、先進国は基本的に
は武器輸出国であり、少なくとも武器取引で大幅な供給超過になっている先進国は、途上
国にも相当量の武器を供給しているとみられる(15)。
SIPRI の武器移転データ(1990 年価格表示)でみると、1998-2002 年(最近)、1990-2002
年(冷戦後)、1980-2002 年(冷戦前後を通じて)のいずれの期間で見ても、DAC 加盟国
のうち通常兵器の純供給国(供給額>受取額)は、アメリカ、イギリス、フランス、ドイ
ツ、オランダ、イタリア、スウェーデンの7カ国となっている。これら7カ国はすべて、
供給総額でも上位 11 位以内に入っている(表1でも同様)。また、WMEAT(1997-1999
年計、現在価格表示)でみると、純供給国はアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、スウ
ェーデンの5カ国であり、SIPRI でみた7カ国とも一致している。また、いずれも供給総
額で上位6位以内に入っている。
武器の主な供給者は先進国であり、DAC はその中核である。図1によりその供給状況の
推移を見ると、DAC は、冷戦期には約5割、冷戦終結後は約7割、2000 年以降は若干下
がって約6割のシェアを占めている(16)(②参照)。前述の7カ国はそのなかで供給シェア
の 95%を占めている(⑤参照)。特に米国は、冷戦終結後は一時的に世界シェアの 6 割に
達し、最近時点で 3 割以下に低下しているものの、2000 年までは DAC 内約 5 割を維持し
されることが少なくない(特に冷戦期においてはこの傾向が強かったといえる)。このため、実際に支
払った金額を比較しても、獲得した武器の多寡(軍事能力)を把握したことにはならない。
(14) 当該兵器に通常付随して移転される施設やサービス、部品、消耗品など標準的なセットの標準的な価
格に性能改善や中古の別などを反映させた価格関数を使用。SIPRI はこれをトレンド指標と呼んでいる。
(15) 輸出超過でなくても途上国への武器輸出の割合が高い国もある(表1参照)
。
(16) 冷戦期の世界の武器供給は、DAC 諸国とそれ以外の国(西側と東側にほぼ対応)が拮抗していたが、
冷戦終結に向けた 1980 年代末からソ連の武器供給が急速に縮小し、これが 1990 年代の世界全体の武
器供給の縮小につながった。このため DAC 諸国のシェアは急拡大した。1990 年代後半には台湾要因(米
仏からの軍用機輸入)により武器供給は一時的に拡大したものの、その後は縮小した。2000 年代に入
ると、米国は減少を続けている一方、ロシアは外貨獲得を目指して急速な回復を示した。これにより世
界全体としても武器供給量はプラスに転じ、DAC のシェアも再び 6 割にまで戻している。
4
ていた(④参照)。
また、図2により DAC の武器供給先を相手国の所得階層別(17)に見ると、途上国向けよ
りも先進国向けの方が圧倒的に大きく(②参照)、受取国の所得が高い方がシェアが高い
ことがわかる(③参照)。すなわち、貧しい国では欧米製よりも比較的安価なロシア製や
中国製の武器受取が多いことがみてとれる。冷戦前後で途上国の武器受取は急減している
が、高位中所得国よりも低位中所得国の方が下げ幅が大きく、所得階層が低い方が低下速
度が急である(①参照)ことを考慮すると、ソ連から途上国への武器移転がソ連側の事情
に左右される部分が大きく、貧しい国ほどそれに依存する部分が大きかったのではないか
と推察される。また、途上国の武器受取総額は急減しているが、DAC からの受取は冷戦の
前後を通してほぼ一定を保っているため(②参照)(18)、シェアでみると DAC が急拡大し
た(③参照)。
なお、図3に DAC 主要武器輸出7カ国について武器供給の推移を示した(19)。
Ⅳ. DAC 各国の武器移転動向の評価
表 1 では、DAC 各国の過去 10 年間(20)の武器移転合計額を、受取国の所得階層グループ
別に集計した。途上国向け供給が多いのはアメリカ、イギリス、ドイツであり、低所得国
に絞るとドイツ、イギリス、フランスが多い。供給に占める途上国のシェアでみると、イ
ギリス、ドイツ、イタリア、スペイン、カナダ、ベルギー、スイスなどが高く、なかでも
低所得国向けシェアではイギリス、ドイツ、オランダが高い。高所得国(先進国)向けシ
ェアが高いのはスウェーデン、フランス(21)である。
世銀アトラス方式による 2000 年の一人当たり GNP をもとに分類。低所得国:755 米ドル以下、下
位中所得国:756 米ドル以上 2,995 米ドル以下、上位中所得国:2,996 米ドル以上 9,265 米ドル以下、
高所得国:9,266 米ドル以上。受取国の分類は[WB,2003]による。
(18) 高所得国の 1997-98 年のピークは、アメリカ・フランスから台湾への軍用機輸出による特殊要因。冷
戦後は基本的には武器市場は縮小したが、DAC の武器供給水準があまり低下しなかったのは、第一次
湾岸戦争後の武器のハイテク化とアジアの経済成長に伴う軍事費拡大によるところが大きい。
(19) 武器移転データは年毎の変動が大きいが、短期の変動に特徴的な要素を見て取ることもできる。例え
ば各国の移転額が突出した要因となる供給相手国をみると、フランスの 90 年代後半の台湾(高所得国)、
ドイツの 80 年代前半のアルゼンチン(高位中所得国)、90 年代前半のインドネシア(低所得国)、トル
コ(低位中所得国)、イギリスの 90 年代前半のサウジアラビア(高位中所得国)、オランダの 80 年代後
半はインドネシア、90 年代後半はエジプト(低位中所得国)、チリ(高位中所得国)、イタリアの 80 年
代前半はリビア(高位中所得国)、エクアドル(低位中所得国)、90 年代後半はマレイシア(高位中所
得国)、スウェーデンの 80 年代後半はインド(低所得国)、2000 年以降はシンガポール(高所得国)な
どとなっており、背景の国際情勢がうかがえる。
(20) 武器移転データは変動の大きなデータなので、傾向を見るにはある程度(少なくとも 3 年)の期間を
とって均して見る必要がある(例えば WMEAT データは 3 年毎に合計値で公表されている)。ここでは
保有状況を問題としているので、蓄積されている武器の流入時点をある程度の期間にわたって視野に入
れる必要がある。冷戦期にまで溯る必要があるのかもしれないが、ここでは、冷戦をはさんで武器供給
国の安全保障にかかる考え方(どこへ何を輸出すべきか、すべきでないか)が大きく変化したこと、第
一次湾岸戦争により武器のハイテク化が進み旧式の武器が陳腐化した(旧式の武器では役に立たないと
の認識が広まった)ことから、過去 10 年と設定した。
(21) フランスは冷戦後、先進国向けシェアが拡大したが、これは 90 年代後半の台湾への軍用機輸出によ
る。
(17)
5
貧困国の開発の観点からのごくシンプルな評価例として、途上国(あるいは低所得国)
への武器移転の規模と、途上国(あるいは低所得国)向けのシェアが大きい順にランキン
グした例を表 2 に示した。具体的な評価方法により若干の違いは出ようが、途上国への武
器移転の上位国としてはイギリス、ドイツ、オランダ、イタリアなど、下位国ではアイル
ランド、ルクセンブルグ、日本(22)などがあげられる。
Ⅴ. 結語
武器を途上国に供給する場合、一時的には治安の確保等を通じて開発環境を改善する可
能性もあるが、ガバナンスが中長期的に変化しうることを想定すれば、安定性へのリスク
は存在する。にもかかわらず、途上国の開発に対する政策一貫性の観点から先進国の政策
を検証するにあたって、安全保障政策を評価対象として視野に入れながら、途上国への武
器移転は取り上げられていない。主要ドナーの多くが武器輸出国である一方、日本は武器
輸出三原則により武器輸出を自制している。これは、結果として途上国の長期的な安定性
のリスクにも配慮する政策となっている一方、日本の安全保障コストを引き上げ(23)、有力
な外交手段を放棄する(24)というコストがかかってもいる(25)。この政策は国内では圧倒的な
支持を得ているものの、その機会費用は国際的にもきちんと評価されるべきあり、よりバ
ランスの取れた指標が作成されれば、それは容易に実現されるはずである。
参考文献
CGD (Centre for Global Development), “Ranking the Rich: The First Annual CGD/FP Commitment
to Development Index”, http://www.cgdev.org/rankingtherich2003 /home.html
IISS (The International Institute for Strategic Studies), 2003, The Military Balance 2003/2004,
Oxford University Press.
SIPRI (Stockholm International Peace Research Institute), 2003, SIPRI Yearbook 2003, Oxford
University Press, http://web.sipri.org/contents/armstrad
(22)
日本の武器輸出は、日米共同生産による武器部品の輸送にかかるもの等が計上されるので、厳密には
ゼロではない。
(23) 武器はハイテク製品であり技術上の陳腐化も早いため、莫大な研究開発投資が必要だが、市場は限ら
れている。冷戦後、西側の防衛産業の再編が国境を越えて進んだのは、研究開発投資を個別に賄える規
模の市場が存在しなくなったことを反映している。また、武器を実際に使用する機会は先進国ではそれ
ほど多くはないが、実戦で機能することを証明しなければ商品としての価値は低い。機能が実証された
武器は保有するだけで抑止力となるし、実戦での使用経験は新たな研究開発にもつながる。生産者にと
って不安定な途上国は、実証の機会としても有用な武器提供先といえる。
(24) 武器輸出は、代金受取の経済効果のほか、外交手段としても有用性が認識されている。特に主要装備
は、一旦導入されるとその国の軍備体系に組み込まれ、ある程度の期間にわたって使用することになる。
その間は教育・訓練、修理、部品や消耗品の供給など供給国と密接な関係を維持する必要が出てくるた
め、供給国と受取国との関係は長期的なものとなり、外交関係の確固とした基礎を形成する。実際、冷
戦期においては軍事援助による途上国の色分けが進んだ。
(25) 武器生産国の立場からいえば、武器の途上国への供給は、強力な外交手段であり、自国製武器の実証
の場であり、代金を受け取れるのであれば自国製武器の研究開発費負担軽減のための手段でもある。逆
に言えば、武器輸出を自制している日本は、有力な外交手段を最初から放棄し、自国の安全保障を割高
で実証もされない非常に非効率なものに甘んじさせていることになる。これが武器輸出自制の機会費用
である。
6
UN, “UN Register of Conventional Arms”, http://disarmament2.un.org/cab/register.html
USDS (U.S. Department of State), 2002, World Military Expenditures and Arms Transfers
1999-2000, Department of State Press.
WB (The World Bank), 2003, Global Development Finance 2003.
7
図1:武器供給の推移
百万ドル
①DAC/non-DAC
②DAC/non-DACのシェア
100%
45000
40000
non-DAC
DAC
35000
non-DAC
DAC
80%
30000
60%
25000
20000
40%
15000
20%
10000
5000
USA
Germany
Italy
Sweden
Russia+USSR
East Europe
40000
35000
30000
25000
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
年
④国別シェア
③国別
45000
1988
1986
1984
1980
2002年
2000
1998
1996
1994
1992
1990
1988
1986
1984
1982
1980
百万ドル
1982
0%
0
USA
Italy
Russia+USSR
France
UK
Netherlands
other DAC
China
others
France
Netherlands
China
Germany
Sweden
East Europe
UK
other DAC
others
100%
80%
20000
60%
15000
40%
10000
20%
5000
年
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
1988
1986
1984
1980
2002年
⑤DAC内国別シェア
百万ドル
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
USA
Germany
Italy
Sweden
30%
20%
10%
France
UK
Netherlands
other DAC
(出所) [SIPRI,2003]より作成。
8
年
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
1988
1986
1984
1982
0%
1980
2000
1998
1996
1994
1992
1990
1988
1986
1984
1982
1980
1982
0%
0
図2:DAC 諸国からの武器移転動向(受取国の所得階層別)
①総受取(受取国グループ別)
百万ドル
H
UM
LM
L
18000
16000
14000
12000
10000
8000
6000
4000
2000
0
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
1988
1986
1984
1982
1980
年
③DACのシェア(受取国グループ別)
②DACからの受取(受取国グループ別)
百万ドル
H
UM
LM
%
L
H
UM
LM
L
total
100.0
16000
90.0
14000
12000
80.0
70.0
10000
60.0
8000
50.0
40.0
6000
30.0
4000
20.0
2000
10.0
(注) L(低所得国):755 米ドル以下、LM(下位中所得国):756 米ドル以上 2,995 米ドル以下、UM(上位中所得国):
2,996 米ドル以上 9,265 米ドル以下、H(高所得国):9,266 米ドル以上。受取国の分類は[WB,2003]による。
(出所) [SIPRI,2003]より作成。
9
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
1988
1986
1984
1980
1982
0.0
2002年
2000
1998
1996
1994
1992
1990
1988
1986
1984
1982
1980
0
年
図3: DAC 主要各国からの武器移転動向(受取国グループ別)
百万米ドル
①アメリカ
UM LM L
H
②アメリカ(シェア)
others
H
UM
LM
L
others
100%
14000
12000
80%
10000
8000
60%
6000
40%
4000
20%
2000
0
③フランス
百万米ドル
H
UM
LM
L
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
1988
1986
1984
1982
1980
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
1988
1986
1984
1982
1980
0%
④フランス(シェア)
H
others
UM
LM
L
others
100%
4000
3500
80%
3000
2500
60%
2000
40%
1500
1000
20%
500
0
百万ドル
H
UM
⑤ドイツ
LM L
others
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
⑥ドイツ(シェア)
UM LM L others
H
3000
1988
1986
1984
1982
1980
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
1988
1986
1984
1982
1980
0%
100%
2500
80%
2000
60%
1500
2002
2000
1998
1998
1994
1992
1990
1988
1986
1984
1980
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
1988
⑦イギリス
UM LM L
1996
H
1996
百万米ドル
1986
0%
1984
0
1982
20%
1980
500
1982
40%
1000
⑧イギリス(シェア)
others
3000
100%
2500
80%
2000
H
UM
LM
L
others
60%
1500
10
2002
2000
1994
1992
1990
1988
1986
1984
1980
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
1988
1986
0%
1984
0
1982
20%
1980
500
1982
40%
1000
図3:DAC 主要各国からの武器移転動向(受取国グループ別)(続き)
⑨オランダ
百万ドル
H
UM
⑩オランダ(シェア)
LM
L
H
800
UM
LM
L
100%
700
80%
600
500
60%
400
40%
300
200
20%
100
0
H
UM
LM
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
⑫イタリア(シェア)
⑪イタリア
百万ドル
1988
1986
1984
1982
1980
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
1988
1986
1984
1982
1980
0%
H
L
UM
LM
L
100%
1800
1600
1400
1200
1000
800
600
400
200
0
80%
60%
40%
20%
1998
2000
2002
1998
2000
2002
1994
1992
1990
1988
1996
L
1996
LM
H
others
600
100%
500
80%
400
UM
LM
L
1992
UM
1990
H
1988
⑭スウェーデン(シェア)
⑬スウェーデン
百万ドル
1986
1984
1982
1980
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
1988
1986
1984
1982
1980
0%
others
60%
300
40%
200
20%
100
1994
1986
1984
1980
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
1988
1986
1984
1982
1980
1982
0%
0
(注) L(低所得国):755 米ドル以下、LM(下位中所得国):756 米ドル以上 2,995 米ドル以下、UM(上位中所得国):
2,996 米ドル以上 9,265 米ドル以下、H(高所得国):9,266 米ドル以上。受取国の分類は[WB,2003]による。
(出所) [SIPRI,2003]より作成。
11
表 1:DAC 諸国の武器移転動向(受取国グループ別、1993-2002 年計、1990 年価格)
(百万米ドル)
供給総額
世界
順位
供給総額
DAC 計
オーストラリア
オーストリア
ベルギー
カナダ
デンマーク
フィンランド
フランス
ドイツ
ギリシャ
アイルランド
イタリア
日本
ルクセンブルグ
オランダ
ニュージーランド
ノルウェー
ポルトガル
スペイン
スウェーデン
スイス
イギリス
198,142
143,781
731
199
689
1,947
483
94
14,661
12,456
99
0
3,397
61
0
3,610
16
764
1
1,426
1,756
633
12,226
88,532
18
32
19
10
22
39
3
4
37
83
9
44
8
56
17
73
14
11
21
5
1
供給額
−受取額
途上国向け供給額
計
シェア(%)
95,380
▲ 2,244
▲ 486
244
▲ 261
▲ 398
▲ 3,480
14,062
10,295
▲ 8,042
▲ 146
1,229
▲ 6,468
▲ 5
1,978
▲ 771
▲ 830
▲ 957
▲ 1,470
633
▲ 1,265
8,563
85,199
105,794
56,963
43
174
550
1,108
35
36
4,416
5,950
3
0
1,877
0
0
1,416
3
155
1
1,155
264
474
7,104
32,199
53.4
39.6
5.9
87.4
79.8
56.9
7.2
38.3
30.1
47.8
3.0
55.3
0.0
39.2
18.8
20.3
100.0
81.0
15.0
74.9
58.1
36.4
高位
中所得国
28,098
23,692
4
51
497
937
28
22
1,614
1,084
0
0
947
0
0
385
0
117
0
62
209
338
4,950
12,447
低位
中所得国
51,339
26,671
20
123
39
165
7
3
1,416
3,158
0
0
430
0
0
337
0
38
0
983
5
136
660
19,151
アメリカ
(注) 武器供給総額順位の DAC 以外の上位国は、2.ロシア、6.中国、7.ウクライナ、12.イスラエルなど。
日本の武器供給額については注記(22)を参照のこと。
(出所) [SIPRI,2003]より作成。
12
低所得国
26,357
6,600
19
0
14
6
0
11
1,386
1,708
3
0
500
0
0
694
3
0
1
110
50
0
1,494
601
表 2:DAC 諸国の武器移転動向ランキング例
途上国向け
オーストラリア
オーストリア
ベルギー
カナダ
デンマーク
フィンランド
フランス
ドイツ
ギリシャ
アイルランド
イタリア
日本
ルクセンブルグ
オランダ
ニュージーランド
ノルウェー
ポルトガル
スペイン
スウェーデン
スイス
イギリス
低所得国向け
途上国
貧困国
移転額
シェア
計
移転額①
シェア②
移転額③
シェア④
①+②
③+④
①+③
②+④
①∼④
14
12
9
8
16
15
4
3
17
20
5
20
20
6
17
13
19
7
11
10
2
1
18
2
4
7
17
11
13
9
19
20
8
20
20
10
15
14
1
3
16
5
6
12
9
16
10
12
16
11
3
1
13
16
6
16
16
4
13
16
15
7
8
16
2
5
12
16
13
15
16
7
8
5
10
16
4
16
16
2
3
16
1
9
11
16
6
14
16
12
16
13
15
16
9
5
1
13
16
4
16
16
1
6
16
6
6
10
16
3
10
11
14
8
10
18
12
4
1
16
20
6
20
20
5
16
15
19
7
8
12
1
3
17
8
7
13
19
8
11
6
16
20
2
20
20
2
8
17
1
2
15
11
2
14
16
12
8
10
19
11
6
2
17
20
4
20
20
3
15
17
8
5
12
14
1
7
7
4
8
18
13
11
3
19
20
4
20
20
10
16
14
12
2
14
8
1
アメリカ
4
(注) ①③は表1の途上国計及び低所得国向け供給額のランキング、②④は①③の供給総額に対する比率のランキング、
第5∼9項については、①∼④の順位値の平均値をランキングしたもの。
13
図4:DAC 諸国の武器移転動向比較(受取国グループ別)
①DAC諸国の武器移転動向
②DAC諸国の武器移転動向
(相手国グループ別、1993-2002年計、1990年価格)
(相手国グループ別シェア、1993-2002年計、1990年価格)
ルクセンブルグ
アイルランド
ポルトガル
ニュージーランド
日本
フィンランド
ギリシャ
オーストリア
デンマーク
スイス
ベルギー
オーストラリア
ノルウェー
スペイン
スウェーデン
カナダ
イタリア
オランダ
イギリス
ドイツ
フランス
アメリカ
0
20000
40000
60000
百万米ドル
100000
80000
高所得国
高位中所得国
低位中所得国
低所得国
0%
20%
40%
60%
80%
③DAC諸国の途上国への武器移転動向
④DAC諸国の途上国への武器移転動向
(相手国グループ別、1993-2002年計、1990年価格)
(相手途上国グループ別シェア、1993-2002年計、1990年価格)
ルクセンブ
アイルランド
日本
ポルトガル
ニュージーラ
ギリシャ
デンマーク
フィンランド
オーストラリ
ノルウェー
オーストリア
スウェーデン
スイス
ベルギー
カナダ
スペイン
オランダ
イタリア
フランス
ドイツ
イギリス
アメリカ
-2000
ルクセンブルグ
アイルランド
ポルトガル
ニュージーランド
日本
フィンランド
ギリシャ
オーストリア
デンマーク
スイス
ベルギー
オーストラリア
ノルウェー
スペイン
スウェーデン
カナダ
イタリア
オランダ
イギリス
ドイツ
フランス
アメリカ
高所得国
高位中所得国
低位中所得国
低所得国
ルクセンブ
アイルランド
日本
ポルトガル
ニュージーラ
ギリシャ
デンマーク
フィンランド
オーストラリ
ノルウェー
オーストリア
スウェーデン
スイス
ベルギー
カナダ
スペイン
オランダ
イタリア
フランス
ドイツ
イギリス
アメリカ
高位中所得国
低位中所得国
低所得国
高所得国
0
2000
4000
6000
百万米ドル
8000
100%
高位中所得国
低位中所得国
低所得国
0%
20%
40%
60%
80%
100%
⑤DAC諸国の低所得国への武器移転動向
(相手国グループ別、1993-2002年計、1990年価格)
ルクセンブ
アイルランド
日本
ポルトガル
ニュージーラ
ギリシャ
デンマーク
フィンランド
オーストラリ
ノルウェー
オーストリア
スウェーデン
スイス
ベルギー
カナダ
スペイン
オランダ
イタリア
フランス
ドイツ
イギリス
アメリカ
百万米ドル
0
500
1000
1500
2000
(注) L(低所得国):755 米ドル以下、LM(下位中所得国):756 米ドル以上 2,995 米ドル以下、UM(上位中所得国):
2,996 米ドル以上 9,265 米ドル以下、H(高所得国):9,266 米ドル以上。受取国の分類は[WB,2003]による。
(出所) [SIPRI,2003]より作成。
14
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