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米国連邦政府の農業予算と議会予算過程

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米国連邦政府の農業予算と議会予算過程
米国連邦政府の農業予算と議会予算過程
東京経済大学経済学部教授
手塚
眞
はじめに ····························································31
1
米国連邦政府の農業予算 ··········································31
1)省庁別予算と機能別予算:支出実績概観
2)農場サービス局:諸勘定
2
農産物信用公社資金勘定 ··········································37
1)計画と資金手当:債務負担、予算権限、支出、および相殺収入
2)農産物信用公社と農産物融資
3
議会予算過程:2006 会計年度予算 ··································51
1)裁量的経費と義務的経費
2)予算決議、委員会への資金配分、およびスコアキーピング
3)歳出予算
4)調整措置
-29-
米国連邦政府の農業予算と議会予算過程
はじめに
現在の世界的な農政改革の動向は、従来の消費者負担型から納税者負担型の農政への移
行として特徴づけられるようにみえる。米国農政はすでに 1960 年代から、輸出部門として
の農業の競争力を強化する必要もあり、納税者負担型の農政への移行を開始していた。そ
の結果、米国農業政策は財政面からの制約を強く受けやすい体質を持つようになっている。
とりわけ、2000 年前後の一時的な連邦財政収支黒字局面から、再び赤字局面を迎えている
現在、そして次期農業法の本格的な審議が開始されようとしている現在、農業政策と予算
の関連を明確に認識しておくことは、米国農業政策に関してより確かな見通しを得るため
に、重要なことであると思われる。
ただし、本稿の記述は、米国農業予算の現状説明と分析に限定されており、歴史的な経
緯等については必要最小限の言及にとどめてある。より詳細な背景と歴史的な文脈を提供
するものとして、1990 年代半ばの米国農業予算と議会予算過程に関しては、手塚眞「米国
農業政策と議会予算過程:1996 年農業法の事例」
『東京経大学会誌』203 号(1997 年 7 月)、
1980 年代の事例に関しては、手塚眞『米国農業政策形成の周辺:アメリカ農業・政治・世
界市場』
(御茶の水書房、1988 年)の第三章「農業政策と予算」を参照していただければ幸
いである。
1 米国連邦政府の農業予算
1)省庁別予算と機能別予算:支出実績概観
米国連邦政府の「農業予算」の一つの意味は、省庁別の「農務省」予算である。米国農
務省予算は 2005 年度支出実績で見ると 852.84 億ドルである。852.84 億ドルの支出実績を
部局別にみると、支出が最大の部局は 498.28 億ドルの食料栄養局(Food and Nutrition
Service)であり、農務省支出全体の 6 割弱を占める。第二位は 212.47 億ドルの農場サービ
ス局(Farm Service Agency)であり、全体の約 25%をしめている。したがって、農務省支出
の 8 割強は食料栄養局と農場サービス局の 2 局によってしめられている。
予算管理局が一般向けに公開している予算データベース(Budget of the United States
Government: Public Budget Database, Fiscal Year 2007、http://www.gpoaccess.gov/
usbudget/fy07/db.html)は 1962 年から 2007 年までのデータを、
(組織改変等がある場合に
は)現行部局組織に編成しなおして提供している。このデータに基づき、農務省の部局別
支出実績の歴史的な変化を示したのが、図1である。この図から、食料栄養局が農務省予
算の過半を占める状況は、
(農産物価格が低落した数年を除くと)1990 年代以降ほぼ常態化
-31-
しているが、1960 年代には農場サービス局が農務省予算の過半をしめていたことがわかる。
すなわち、支出規模から見る限り、農務省の重心は「農業・農場」から「食料・栄養」に
移動している。
図1 農務省部局別支出実績割合
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
2005
2001
1997
1993
1989
1985
1981
1977
1974
1970
1966
1962
その他
森林局
食料栄養局
農場サービス局
リスク管理局
資料)OMB, Public Budget Database, Fiscal Year 2007.
米国政府の予算は政府の省庁や部局別に示されるだけでなく、機能別にも示される。機
能別分類では、国のどのような必要を満たすためにその予算資源が用いられるのかを、目
的別に分類している。分類は 3 桁の数字でしめされ、3 桁目が 0 の数字は大分類を、3 桁目
が 0 以外の数字は小分類を示す。例えば、機能分類番号 350 は大分類の「農業」であり、
351 は小分類の「農場所得安定」、352 は「農業研究・サービス」である。
米国農務省の機能別支出実績の歴史的変化を、上述した予算管理局データに基づき示し
たのが、図2である。図から明らかなように、1960 年代には農務省予算の過半をしめてい
た機能別の「農業(350)」の割合は、今日では 3 割弱まで低下してきている。そして、現在
の農務省予算において過半を占める機能は、
「所得保障(600)」である。農務省の「所得保障」
には小分類として「住宅支援(604)」と「食料栄養支援(605)」が含まれている。☆☆
-32-
図2 農務省機能別支出実績割合
100%
90%
80%
70%
その他
所得保障
農業
自然資源環境
国際関係
60%
50%
40%
30%
20%
2005
2001
1997
1993
1989
1985
1981
1977
1974
1970
1966
0%
1962
10%
資料)OMB, Public Budget Database, Fiscal Year 2007.
次に、農務省における部局別支出と機能別支出の関連を見てみよう。表1に示すように、
農務省予算は極めて多様な機能別予算を含んでいる。まず、部局別でみて最大の支出実績
を持つ食料栄養局は、機能別では 1 種類の小分類「食料栄養支援(605)」の支出があるだけ
である。ただし、「食料栄養支援」支出は、他の部局、すなわち農業マーケティング局
(Agricultural Marketing Service)によっても行われている。また、部局別でみて 2 番目の
支出実績を持つ農場サービス局は、「保全および土地管理(302)」と「農場所得安定(351)」
の二つの小分類を持っている。ただし、「保全および土地管理」の支出は森林局によっても
行われており、また「農場所得安定」の支出はリスク管理局(Risk Management Agency)、
自然資源保全局(Natural Resources Conservation Service)、そして海外農務局(Foreign
Agricultural Service)などによっても行われている。
2005 会計年度農務省支出実績は、連邦政府全体の 3.4%を占め、機能別農業支出実績は
1.1%を占めている。また、連邦政府の機能別農業支出のほとんどは農務省によるものであ
るが、農務省以外の Farm Credit Administration などの政府機関においても、機能別農業
支出あるいは収入が発生する。
-33-
表 1 部局別支出と機能別支出のマトリクス、2005 会計年度支出実績
151
271
301
302
303
304
351
352
371
451
452
554
604
908
部局別合計
Office of the Secretary
32
32
Executive Operations
244
244
Office of Civil Rights
16
16
164
176
Departmental Administration
12
Office of Communications
8
8
Office of the Inspector General
76
76
Office of the General Counsel
36
36
Economic Research Service
74
74
National Agricultural Statistics Service
127
127
Agricultural Research Service
Cooperative State Research, Education, and Extension Service
5
Animal and Plant Health Inspection Service
-34-
Food Safety and Inspection Service
1268
1268
1108
1113
1130
1130
3
Grain Inspection, Packers and Stockyards Administration
38
Agricultural Marketing Service
217
Risk Management Agency
Farm Service Agency
1851
Natural Resources Conservation Service
8
21
808
38
1069
2950
2950
19396
21247
1062
1091
1063
Rural Housing Service
1063
-534
Rural Business — Cooperative Service
923
10
Rural Utilities Service
Foreign Agricultural Service
811
852
Rural Development
-1335
957
92
389
18
28
-201
-1536
133
1182
Food and Nutrition Service
49828
Forest Service
49828
5039
offsetting and proprietary receipts
機能別合計
605
-153
957
-1480
21
5039
-546
-50
6344
-50
12
-924
-155
-279
22581
4519
-813
-105
10
775
808
923
50680
-3
-2215
-3
85284
151: International development and humanitarian assistance
凡例
271: Energy supply
301: Water resources
302: Conservation and land management
303: Recreational resources
304: Pollution control and abatement
資 料 ) Budget of the United
351: Farm income stabilization
States Government: Analytical
352: Agricultural research and services
Perspectives, Fiscal Year 2007.
371: Mortgage credit
451: Community development
452: Area and regional development
554: Consumer and occupational health and safety
604: Housing assistance
605: Food and nutrition assistance
908: Other interest
2)農場サービス局:諸勘定
農務省における機能別農業支出の過半は、上述したように、農場サービス局によるもの
である。以下では農場サービス局の予算を勘定(account)単位で検討する。
農場サービス局にはいくつかの予算勘定があるが、大別して、連邦資金勘定(federal fund
accounts)と信託資金勘定(trust fund account)に分けられる。信託資金勘定とは、法律によ
り信託資金勘定として設けられ、資金の使途が特定プログラムに限定された資金勘定であ
る。これに対して、連邦資金勘定とは信託基金勘定以外のすべての勘定である。連邦資金
勘定は、一般および特別資金勘定(General and special funds)、信用勘定(Credit accounts)、
そして、公的事業資金勘定(Public enterprise funds)に分類される(表2)。
-35-
表2
農場サービス局諸勘定
連邦資金勘定
2005 年度支出実績(百万ドル)
一般および特別資金勘定
Salaries and expenses:
985
State mediation grants:
4
Tree assistance program:
1
Agricultural conservation program:
0
Emergency conservation program:
57
Grassroots source water protection program:
0
公的事業資金勘定
Commodity Credit Corporation fund
20,657
信用勘定
Agricultural credit insurance fund program account:
609
Agricultural credit insurance fund liquidating account:
-595
Commodity Credit Corporation export loans program account:
Commodity Credit Corporation guaranteed loans liquidating account:
379
-1,764
Farm storage facility loans program account:
15
Emergency boll weevil loan program account:
0
信託勘定
Tobacco trust fund:
899
農場サービス局においては、「タバコ信託資金 Tobacco trust fund」が唯一の信託勘定で
ある。「2004 年米国雇用創出法(American Jobs Creation Act of 2004, P.L.108-57)」は、
2005 作物年度以降のタバコ計画を廃止し、その見返りに、タバコ生産者と割当所有者に対
して補償金(割当所有者にはポンド当たり 7 ドル、生産者に対してはポンド当たり 3 ドル)
を支払うことを規定した。この補償金はタバコ製造業者と輸入業者に対する賦課金により
まかなわれ、10 年間にわたり、101.4 億ドルの支払いが見込まれている。同信託資金勘定
はこの資金をあつかうために設けられている。タバコ信託資金勘定の 2005 会計年度実績に
は、8.99 億ドルの賦課金収入が記録され、タバコ補償金支払い計画コストの農産物信用公
社勘定(後述)への支払いとして同額が記録されている。
信用勘定は、「1990 年連邦信用改革法(Federal Credit Reform Act of 1990)」により、
1991 会計年度から設けられた勘定である。信用勘定が設けられる以前は、連邦政府予算に
おける直接融資や融資保証は、現金主義会計にもとづき記録されており、政府にとっての
実際のコストを把握することが困難であった。信用勘定にはいくつかの種類があるが、
-36-
Program Account では融資や保証に伴い発生する「補助金費用(Subsidy Cost)」や行政事務
費用が記録される。実際に貸出金が支払われたり保証が履行されると、Program Account
から Financing Account へ「補助金費用」相当分が支払われ、この支払いは「支出(Outlay)」
として扱われる。農場サービス局の信用勘定には、農業信用保険計画、農産物信用公社輸
出信用計画、農場貯蔵施設融資計画などが含まれる。
公的事業資金勘定は、主として民間部門との間で企業的な活動を行うための回転基金
(revolving fund)であり、財やサービスの提供への対価として受け取る収入によって支出
がまかなわれるタイプの勘定である。原理的には(「企業的活動」が真に企業的であれば)、
このタイプの勘定は毎年の歳出予算を必要とはしない。一般および特別資金勘定は、その
他の連邦資金勘定である。
農場サービス局の公的事業資金勘定としては、「農産物信用公社(Commodity Credit
Corporation)」資金勘定がある。2005 会計年度における農産物信用公社資金勘定の支出実
績額は 206.57 億ドルであるから、同年度の農場サービス局の支出実績 212.47 億ドルのほ
とんどは、同公社の勘定における支出でしめられていることがわかる。同公社資金勘定に
ついて一定の理解をもつことは、米国連邦政府の農業予算、特に、農産物諸計画にかかわ
る予算とその執行を理解するために必須のことなので、以下では章をあらためて、説明を
する。
2 農産物信用公社資金勘定
1)計画と資金手当:債務負担、予算権限、支出、および相殺収入
農産物信用公社の諸活動を予算面から見てみよう。大統領の 2007 会計年度予算書の付録
(Appendix)で、農産物信用公社資金勘定の「計画と資金手当(Program and Financing)」
を見ると、最初に「Identification code 12-4336-0-3-999」が示されている。最初の 2 桁が、
財務省の付与する政府機関コードで農務省は「12」である。次の 4 桁は勘定記号で、すべ
ての勘定に政府機関ごとの個別のコード番号が与えられている。7 桁目は行政府の議会に対
する予算提案の性質ないしタイミングにかかわるコードであり、「0」は通常予算提案であ
り、追加予算提案や新規に授権法の制定が必要になる提案等は別のコード番号が付与され
る。8 桁目は資金タイプで、
「3」は「公的事業資金」である。最後の 3 桁は予算の機能別分
類である。農産物信用公社資金勘定の機能別分類コードが「999」である理由は、複数の機
能分類が同勘定に含まれているためである。具体的には、
「保全および土地管理(302)」と「農
場所得安定(351)」が含まれている(表3
計画別債務負担額)。
-37-
表3
計画別債務負担額
次に計画・活動ごとの債務
負担金額(Obligations)が、
2005 年度実績、2006 年度見
込み、そして 2007 年度見込
み、として 3 年度にわたり示
されている。2005 会計年度実
績額で見ると、農産物購入や
関連在庫取引で 50.2 億ドル、
貯蔵・輸送等で 2.4 億ドル、
市場アクセス計画で 1.4 億ド
ル。そして、農産物別の債務
負担額としては飼料穀物が
88.1 億ドル、小麦が 11.8 億
ドル、米が 4.4 億ドル、綿花
が 32.8 億ドル、酪農計画が
0.1 億ドル、タバコ計画が 9.4
億ドル、落花生計画が 2.7 億
ドル等である。このほかに、
保全留保計画(CRP)の 17.9
億ドルがあり、また、2005
年度の大きな項目として、作
物災害計画の 24.0 億ドルが
あった。これらに加えて、財
務省への利子支払いとして
3.8 億ドルがあった。その他
の項目を加えて、
「価格・所得
支持および関連計画」の債務
負担の小計金額が 268.3 億ド
ルとなっている。同勘定はさ
らに、他の勘定等からの相殺収入により支払われる諸計画(reimbursable programs)の債務
負担額の小計、139.5 億ドルを含んでいる。これらの諸計画は、農産物を担保とした融資
(Commodity loans)126.2 億ドル、食料援助諸計画の農産物コスト(PL480 commodities
procured)7.0 億ドル、食料援助計画船賃(PL480 ocean transportation)6.3 億ドルである。
二つの小計を足したものが、この勘定の新規債務負担額合計、407.8 億ドルである。
-38-
表4
債務負担のために使える予算資源
その次に示されるのは、債務負担
のために使える予算資源である(表
4)。ここでは上記の債務負担額を実
際に負担する根拠となる予算資源が
示される。政府が債務負担を行う場
合の法的な根拠となるのは、
「予算権
限(budget authority)」である。予算
権限とは、法律により与えられる連邦政府の権限で、それにより、即時のあるいは将来の
連邦政府の資金の流出・支出(outlays)を結果する債務を負担することができる。予算権
限は前会計年度から繰り越されるものもあるし、次年度へ繰り越されるものもある。2005
年度の実績をみると、新規の予算権限 387.2 億ドルにその他の予算資源が加わり、同会計
年度に使える予算権限は 417.5 億ドルであったことがわかる。このうち、407.8 億ドルで新
規債務を負担したわけだから、残りの 9.6 億ドルが次年度に繰り越されている。
法律により与えられる予算権限にはいくつかの種類がある。基本的な種類としては、(1)
歳出予算権限(appropriations)、(2)借入権限(borrowing authority)、(3)契約権限(contract
authority)、そして、(4)相殺収入使用権限(authority to obligate and expend offsetting
receipts and collections)がある。歳出予算権限以外の予算権限は、すでに他の法律により
与えられているため、毎年の歳出予算法によりあらためて与えられる必要は無い。
表5
種類別予算権限
表5は、上述した種類別に新規予
算権限を示している。また、その予
算権限が裁量的か義務的か(次章を
参照)も示している。歳出予算権限
は、最も一般的には毎年の歳出予算
法(appropriation acts)により与え
られる権限であり、この権限にもと
づき、ある期間において、法で規定
された目的のために政府機関は債
務を負担することが可能となる。た
だし、すでに借入権限や契約権限に
もとづいて発生した債務を清算す
るような歳出予算権限は、新たな予
算権限としてはカウントされない。
-39-
農産物信用公社においては、すでに借入権限等によりおこなった支出のうち、融資返済や
在庫販売等によっても回収し得ない「損失」の確定部分(農産物信用公社の「実現純損失(net
realized loss)」とよばれる)を補填するための歳出予算権限が与えられる。2005 年度の実
績では 122.8 億ドルであり、2007 年度予算では 197.4 億ドルが見込まれている。この 197.4
億ドルという金額は、大統領予算において示されている 2006 年度農産物信用公社実現純損
失の見込み額である(Appendix の 110 ページ)。この予算権限により、農産物信用公社は財務
省から借り入れていた資金を返済するので、これにより(直接的には)新たな支出にむすびつく
債務負担をおこなうことはできない。なお、この点に関しては本章の第 2 節で再びふれる。
借入権限とは、資金を借り入れ、それによって債務を負担することが出来る権限である。
農産物信用公社は、現行法の下では借入残高 300 億ドルを上限として財務省等からの借り
入れをおこなう権限を有している。このような権限の付与は、公社の活動が「事業的」な
ものであることを前提としている。公社の「事業的」な活動としては、例えば、市場から
農産物を買い入れて再びそれを第三者に販売したり、農産物を担保として融資をおこなう
ことがあるが、そのような活動は利益を生むことも、また損失を発生することもありうる。
しかし、現実には、今日の公社の活動の多くは、生産者に対する直接支払いのように、一
方的な支出だけをともなうものの割合が非常に高くなっている。
2005 年度における実績を見ると、公社は借入権限にもとづき 435.1 億ドルの予算権限を
使用している(借入残高の上限は 300 億ドルであるが、歳出予算などから借入を返済する
ことで新たな借入が可能となる。2005 年度末における財務省からの借入残高は 191.7 億ド
ルであった)。このほかに、農産物信用公社の重要な予算権限として相殺徴収金(offsetting
collections)使用権限がある。2005 会計年度の実績では、様々な活動に伴う現金の収入 142.7
億ドル等を使うことができた(より詳細な内訳が表8に示されている)。相殺徴収金使用権限
にもとづき、財務省へ 191.8 億ドルの返済をおこない、借入残高を減らすことによって、
あらたな借り入れを可能にしている。最終的に、2005 年度に新たな債務負担を行うために
使った予算権限は 387.2 億ドルであった。これは表4における新規の予算権限 387.2 億ド
ルと一致している。
表6
債務負担残高
表6は、年度末の債務負
担残高を示している。2005
年度実績で見ると、年度始
めに前年度からの債務負担
の繰越(実際の支出がまだ
行われていない分)が 43.9
億ドルあり、当該年度の新
-40-
たな債務負担が 407.8 億ドルあって、当該年度に最終的な支出が行われた金額は 349.8 億
ドルであった。その他の調整を加えて、年度末における債務負担残高は 71.7 億ドルで、こ
の金額が次年度に繰り越された。
表7
粗支出
表7は、粗支出(gross
outlays)を示している。ま
た、その支出が義務的な予
算権限に基づいていたか、
あるいは裁量的な予算権限
に基づいていたのかの区別を示している。2005 年度の実績をみると、農産物信用公社の支
出はすべて義務的予算権限にもとづくもので、新規の予算権限から 290.9 億ドルが支出さ
れ、前年度から繰り越された予算権限から 59.0 億ドルが支出された。結果として、2005
会計年度に農産物信用公社資金勘定から合計 349.8 億ドル(表6の当該年度支出額と一致
している)の支出が行われた。ただし、この金額はグロスの金額であり、最終的な支出額
は、次に述べる相殺徴収金を控除した金額になる。
表8
相殺徴収金
表8は、相殺徴収金
(offsetting collections)の
内訳を示している。特別
活動に対する販売(sales
to special activities)とし
て 7.0 億ドルの収入が計
上されているが、これは
表3の「他の勘定から支
払いを受けることが出来
る諸計画」にある食料援
助計画の農産物として販
売し、他勘定から支払わ
れた農産物代金である。
さらに、食料援助計画の
ための前払い金として 14.4 億ドル、タバコ信託基金から 9.0 億ドル、等が他勘定から繰り
入れられてきている。しかしながら、農産物信用公社資金勘定における最も大きな相殺徴
収金は政府内部の勘定間における資金の移転ではない。同公社の事業的活動にともなう民
間からの受け取り金額として、2005 年度の実績で、融資返済 70.9 億ドル、農産物証券回収
-41-
額(後述の理由で、証券販売額と同じ)36.3 億ドル、輸出信用販売計画にともなう返済 2.4
億ドル等が記録されている。
政府の「事業的な活動」にともなう収入や政府内部の勘定間の資金の移動には、以上で
ふれた相殺徴収金とは異なった扱いをうけるもの、すなわち相殺受取金(offsetting
receipts)があるので、ここで簡単にふれる。農産物信用公社の相殺徴収金の場合、金額は
同公社勘定に記録され、同じ勘定から支出されている。例えば、融資返済の 70.9 億ドルは
同公社勘定に記録され、再び農産物融資を含む同公社勘定の支出となってゆく。融資にと
もなう予算権限や支出は、同公社勘定のグロスの数字にはそのすべてが含まれるが、同公
社の最終的な予算権限および支出からは融資返済分が控除されている。
こ れ に 対 し て 相 殺 受 取 金 は 、 そ れ が 支 出 さ れ る 勘 定 と は 別 の 「 受 取 勘 定 (receipt
accounts)」に記録される。農務省における例を挙げれば、森林局の木材販売代金は「全国
森林資金(National Forest Fund)」と呼ばれる受取勘定に記録されている。様々な例外はあ
るが、一般に、相殺徴収金は毎年の歳出予算により与えられなくても使用することが出来
るのに対して、相殺受取金を使用するためには、毎年の歳出予算であらためて与えられる
必要がある。ただし、異なるレベルにおいてではあっても、どちらもグロスの予算権限と
支出から控除されるため、相殺徴収金と相殺受取金は「マイナスの予算権限」と定義され
ている。
表9
純予算権限および支出
最後に、相殺分を差し引いたネットの予算権限ならびに支出が、表9に示される。
2)農産物信用公社と農産物融資
(1)
農産物融資
農産物信用公社予算の理解をしばしば困難にしているのは、農産物を担保とする融資活
動(以下、「農産物融資(commodity loans)」とよぶ)、特に「償還請求権のない融資
(non-recourse loans)」に関連して発生する資産の取得や現金ならびに証券の流れである。
また、一連の資金の流れの結果、農産物信用公社に発生する損失の処理である。以下では、
2005 会計年度実績において、農産物信用公社資金勘定のなかで農産物融資がどのように記
録されているのか(あるいは、いないのか)、また、相殺徴収金としてしめされる融資返済と
農産物証券受け取りが、実際、どのような活動にともなう「収入」であるのかを検討して
-42-
みよう。
償還請求権の無い農産物融資は、現行法の下では販売支援融資(Marketing Assistance
Loan)と呼ばれているが、その原型はすでに 1930 年代のニューディール農政期にある。農
務省は、生産者が収穫時における低価格の不利益をうけることなく、しかも現金の必要が
まかなえるように、収穫した農産物を担保として、期間 9 ヶ月の利子付き融資を提供した。
さらに、融資期間の終了時においても農産物の市場価格が回復しない場合には、生産者は
担保の農産物を農務省に引き渡すこと(forfeiture)で融資の返済が完全に免除された。
(すな
わち、市場価格が低迷する場合でも、生産者は融資を受けた金額で農産物を農務省に売り
渡すことができた。)これによって、農務省は農産物価格下落時には在庫を積み増して、市
場価格を融資単価(ある農産物の単位当たりの融資額)の近辺で支持することになった(した
がって、「価格支持融資(price support loans)」ともよばれた)
。
しかし、現行法の下における販売支援融資は、かつてのような価格支持機能はもはや持
ってはいない。その理由は、市場価格が融資単価を下回る場合には、その市場価格(実際に
は、米と綿花に関しては「調整国際価格(adjusted world price)」、その他の農産物に関して
は「郡掲示価格(posted county price)」)での返済を認めているからである。これによって、
農務省は価格下落時においても多量の在庫をかかえこむことがなくなった。
(このような農
産物融資の変質は、1980 年代半ばから、様々な形態をとって進行したが、本稿とは直接的
には関係の無い歴史的な問題であるので、関心のある方は、手塚眞「米国農業政策と償還
請求権のない融資:2002 年農業法における融資単価の含意」
『東京経大学会誌』239 号(2004
年 3 月)を参照していただければ幸いである)
。この点を最も単純な形で示すことの出来る
データは、農産物信用公社が所有する農産物在庫総額の時系列データである(図3)。1980
年代半ばに極めて高い水準に達した公社所有の農産物在庫は、その後急激に減少し、90 年
代末の農産物価格下落局面においても大きな変化は見られなくなっている。
-43-
図3 12月末における農産物信用公社所有農産物総額
16000
14000
百
万
ドル
百万ドル
12000
10000
8000
6000
4000
2000
20
04
20
02
20
00
19
98
19
96
19
94
19
92
19
90
19
88
19
86
19
84
19
82
19
80
0
資料)USDA, Agricultural Statistics 各年次。
市場価格の支持機能を無効化したとは言っても、農産物融資が生産者に対する利益の提
供をやめたわけではない。ただ、政策的に引き上げられた市場価格という形で、かつては
消費者の負担によって生産者に与えられていた利益が、現在では納税者によって負担され
ているということである。それでは、その納税者が負担するコストがどのようなものかを
見ていこう。
現行の販売支援融資の下で、生産者は以下の 4 つの方法のいずれかで利益を得ることが
出来る。
①販売融資利得(marketing loan gains):上述したように、生産者が融資として受けとる
金額よりも、
「調整国際価格」あるいは「郡掲示価格」にもとづき返済する金額が少ない場
合、その差額は「販売融資利得」と呼ばれる。
②融資不足払い(loan deficiency payments):厳密には融資による利益ではなく、融資を
放棄することにより与えられる利益である。販売支援融資をうける代わりに、ある時点の
融資単価と返済単価(すなわち「調整国際価格」あるいは「郡掲示価格」)の差額が支払わ
れる。
③農産物証券交換利得(gains from the certificate exchange process):生産者は販売支援
融資を受け取り、返済は農産物証券でおこなう。融資額と返済額の差額が生産者の利益に
なる。基本的に①と同じであるが、返済を現金ではなく、農務省が発行し生産者が現金で
購入する証券でおこなう。
④担保引渡し利得(forfeiture gains):生産者が融資として受け取る金額よりも、農務省に
引き渡された担保農産物の市場価格の方が低ければ、差額は生産者の担保引渡し利得である。
-44-
表10は販売支援融資の実績額と、上述の①、③、あるいは④の方法による返済額を種
類別に示している(②は融資としては記録されない)。また、生産者が得た利益を種類別に示
している。ただし、④によって公社に生じた -未確定の- 損失(生産者の利益)は示していな
い。
表10
販売支援融資実績額、種類別返済額、および生産者利得
1999
2000
2001
2002
(単位:100 万ドル)
会計年度(実績)
1998
2003
2004
2005
販売支援融資
7,189 8,358 9,692 8,267 10,131 10,718 9,150 12,619
販売支援融資消却
現金返済
現金返済帳消し分
証券返済
担保引渡し
販売支援融資消却合計
6,061 6,902 6,323 5,078
157
988 1,688
5,675
6,412 7,904
6,819
721
642
190
114
318
0
0
635 2,250
3,749
3,868
903
5,149
66
203
334 1,085
164
150
25
978
6,284 8,093 8,980 9,134 10,230 10,620 8,946 13,264
生産者利得
融資不足払い
478 3,360 6,419 5,293
販売融資利得
157
農産物証券交換利得 1)
生産者利得合計
988 1,688
5,345
693
461
3856
721
642
190
114
318
0
0
160
360
2,000
998
268
1520
635
4348
8267
6374
7987
1881
843
5694
資料)農務省農場サービス局の Commodity Estimates Books 各年度。最新版は Commodity Estimates Books: FY 2007
Mid-Session Review, July 2006 を利用した。また、古い年度に関しては、同局の History of Budgetary
Expenditures of the Commodity Credit Corporation から算出した。
注1)証券返済による融資消却額(Certificate exchange costs)から証券売上収入(Certificate exchange proceeds)を差し
引いてもとめている。
大統領予算書付録では、相殺徴収金として融資返済が 70.9 億ドル(表8)とあるが、これ
は表10の現金返済分だけを含んでいる。表10の証券返済分は、予算書付録では農産物
証券回収として記録されている。これは生産者が返済金に相当する証券を現金で購入し、
同時にその証券を農務省に渡すことで担保の農産物をひきだしたことを意味している。こ
こで注意すべきことは、予算書に記録されているのは現金と、現金に相当するとみなされ
る証券の流れであって、農産物信用公社がどれだけの「損失」を発生させ、それが生産者
の「利得」として移転されたかは、記録されていないということである。この点は後に「(3)
支出、損失、および歳出予算権限」で再び触れる。
表10からも明らかなように、証券による返済は 2000 会計年度から始まり、2005 会計
年度の実績では融資の返済の 4 割が証券によるものとなっている。この農産物証券にかか
-45-
わる諸問題を次に検討する。
(2)
農産物証券と支払い制限
農産物証券(commodity certificates)は、米国の農業政策においてはしばしば用いられ
る支払い手段である。近年では、1980 年代に最も大規模に用いられた。1985 年農業法(Food
Security Act of 1985, P.L. 99-198 ) が 授 権 し た 一 般 農 産 物 証 券 (generic commodity
certificates)は、ドル表示の額面価値を有しており、証券の受取人は、①証券を売却あるい
は譲渡する;②証券で償還請求権のない融資を返却する(証券と担保農産物の交換);ある
いは③発行後5ヶ月を経過した時点で、証券を農務省において換金する、ことが選択でき
た。また、二次的な証券の取得者が証券を、農務省の保有する在庫農産物と交換すること
もできた。この証券は、しばしば、PIK(Payment-in-Kind) certificates と呼ばれるように、
それに先立つ数年度に実施された「現物支払い計画(Payment-in-Kind)」を受け継ぎ、拡大
したものとみなしうる計画であった。そして、その計画の主要な目的の一つは、膨大な政
府所有在庫の処理にあった。
1990 年代後半の農産物価格下落の局面において、生産者への支援の拡大をせまられた行
政府と議会は一連の「緊急農業支援」立法をほぼ毎年成立させていった。そのなかで、2000
会計年度の農務省歳出予算法(P.L. 106-78)のセクション 812 は、農産物と交換しうる証券の
発行を行うことを農務長官に対して許可した。農務省は 2000 年 2 月に、1998-2002 年産作
物に対する農産物証券発行の詳細を発表した(FSA Notice LP-1723)が、1980 年代の農産物
証券よりも遥かに限定された目的と用途を持つものであった。すなわち、今回の農産物証
券は販売支援融資の融資残高を持つものだけが、その融資を返済する目的に限って使用す
ることができた。2002 年農業法の下でも、農産物証券発行の権限は継続された。
2000 年以降の農産物証券が 1980 年代のそれと最も異なる点は、現在の証券が政府所有
の農産物在庫の処理を目的としていないということである。というよりも、図3からも明
らかなように、90 年代以降の米国農政においては、一般に、政府が在庫を積み増して市場
価格を支持することは行われておらず、したがって、証券と交換すべき政府所有の農産物
在庫は存在しない。価格下落時には、たしかに農産物融資の残高が上昇し、販売融資利得
が発生し、さらに融資不足払いが増大する。しかし、結果的には農産物はすべて民間で所
有されることになる。にもかかわらず、さらに農産物証券による農産物融資の返済という
方式が導入された最大の理由は、
「支払い制限(payment limitations)」の存在である。すな
わち、一般に現物で支払われたり農産物証券との交換により得られた利得は、今日にいた
るまで、支払い制限の適用外となっている。
-46-
米国農業政策における支払い制限は、1960 年代以来の長い論争の歴史を持っている。
1960 年代以降、米国の農業政策は直接支払いの比重を高め、次第に納税者負担型に移行し
ていった。その過程で、従来(消費者が直接負担するため)「目に見えなかった」利益の配分
が、(納税者が負担する)補助金の配分として、はっきりと「目に見える」ものに変わってき
た。そして、少数の大規模で極めて裕福な農場に政府の多額の小切手が与えられ、多くの
中小規模の「家族農場」には十分な利益が与えられていない、といった批判が政治的にも
無視し得ないものとなっていった(1960 年代末以降の支払い制限に関する議論については、
手塚眞「米国農業政策と農業構造」
『東京経大学会誌』191 号(1995 年 3 月)を参照してい
ただければ幸いである)
。
1970 年農業法は初めて一人当たりの直接支払額に上限を設けた。その後、支払い制限は
様々な支払いに対しても設定されるようになり、販売融資利得や融資不足払いに対しても
制限が設けられて現在に至っている。30 年以上の歴史のある支払い制限ではあるが、この
問題に関する議論は絶えることなく続けられている。最近では、2002 年農業法により「支
払い制限の適用に関する委員会(Commission on the Application of Payment Limitations
for Agriculture)」が設置され、同委員会の報告書(Report of the Commission on the
Application of Payment Limitations for Agriculture, August 2003)が公表されている。ま
た、ブッシュ政権は、2006 年度および 2007 年度の予算要求において、支払い制限を強化
することを議会に対して要求している。この問題の経済的背景は、2006 年 2 月の Economic
Report of the President の第 8 章においても論じられている。
このように長い歴史を持つ「支払い制限」をめぐる議論において全く変化が見られない
のは、その「地政学」である。一般に、支払い制限を求める声は「北」からおこり、「南」
によって阻止される。その理由は、表11をみれば明らかである。表11は、2001 年産作
物の販売支援融資を農産物証券によって返済することで得られた利益を、地域別に集計し
てみたものである。
上述したように、農産物証券を用いて得た利益は、一人当たりの「支払い制限」に含ま
れないために、大規模な農場は一般に農産物証券を使って販売支援融資を返済する。そし
て、支払い制限の強化により失われる利益は南部において圧倒的に大きいのである。農産
物証券交換利得の三分の一はデルタ諸州のものであり、東南部や南平原諸州の割合も高い。
それに対して、コーンベルトは全体のうちの 5%弱を占めるにすぎない。
このような地域的な利害の相違は、同時に、農産物間の利害の相違でもある。表12は、
農産物ごとの農産物融資の証券による返済であり、証券返済のほとんどは綿花と米によっ
て占められていることを示している。
-47-
表11 農産物証券交換利得、2001 年産作物
地域 注)
金額(ドル)
割合(%)
資料)Report of the Commission on the Application of
東北
570,903
0.0
Payment Limitations for Agriculture, August 2003, p.51.
五大湖
170,805
0.0
の州別データを地域別に集計した。
原データは USDA Farm
83,647,460
4.9
Service Agency.
5,260,937
0.3
注)地域分類は農務省経済調査局でしばしば用いられる 10
アパラチア
221,617,281
13.0
地域分類を用いた。ハワイとアラスカは含まれていない。
東南
247,924,290
14.6
Northeast:
デルタ
572,217,515
33.7
Maryland, Massachusetts, New Hampshire, New
南平原
315,488,191
18.6
Jersey, New York, Pennsylvania, Rhode Island,
63,447,959
3.7
188,807,724
11.1
Lake States: Michigan, Minnesota, Wisconsin.
1,699,153,065
100.0
Corn Belt: Illinois, Indiana, Iowa, Missouri,
コーンベルト
北平原
山岳
太平洋
全米合計
Connecticut,
Delaware,
Maine,
Vermont.
Ohio.
Northern Plains: Kansas, Nebraska, North Dakota, South Dakota.
Appalachian: Kentucky, North Carolina, Tennessee, Virginia, West Virginia.
Southeast: Alabama, Florida, Georgia, South Carolina.
Delta: Arkansas, Louisiana, Mississippi.
Southern Plains: Oklahoma, Texas.
Mountain: Arizona, Colorado, Idaho, Montana, Nevada, New Mexico, Utah, Wyoming.
Pacific: California, Oregon, Washington.
表12
農産物ごとの農産物証券返済
会計年度
(単位:100万ドル)
2000
2001
2002
2003
2004
2005
綿花
253
1,786
3,207
3,206
569
4,464
米
195
336
428
647
317
447
油糧種子
36
186
68
0
2
27
飼料穀物
93
121
43
8
13
183
小麦
58
16
3
1
0
1
落花生
0
0
0
6
0
26
乾燥豆、扁豆
0
0
0
0
1
1
蜂蜜
0
4
0
0
0
0
合計
635
2,449
3,749
3,868
902
5,149
綿花の割合
40%
73%
86%
83%
63%
87%
米の割合
31%
14%
11%
17%
35%
9%
資料)農務省農場サービス局の Commodity Estimates Books: FY 2007 Mid-Session Review, July 2006, Output 18A
-48-
(3) 支出、損失、および歳出予算権限
生産者に対する直接支払いなどの一方的な支出の場合とは異なり、農産物融資の場合、
現金の流失である支出と最終的な損失は必ずしも一致しない。また、ある年度におけるネ
ットの支出が必ずしも損失と一致するわけでもない。ただし、明示的には記録されていな
くても、農産物融資はほとんどの場合、損失を発生する(より正確に言えば、生産者に所
得移転をおこなうために、意図的に損失を発生させている)。そして、事業的な活動を前提
とする回転資金勘定においてそのような損失の累積を放置すれば、やがて事業活動はおこ
なえなくなる。このため、上述したように、毎年の歳出予算法は、農産物信用公社資金勘
定が抱えている損失を補填している。
農産物信用公社資金勘定に関しての、大統領の議会に対する要求は、大統領予算書付録
の同公社資金勘定の冒頭に歳出予算法の法文案として示されている。2007 年度については、
当該会計年度に関し、農産物信用公社の実現純損失(net realized loss)を支払うのに必要な
不定額の資金(such sums as may be necessary)を要求するものである。この法文案は 2006
会計年度の農業歳出予算法と同一である。ただし、毎年の歳出予算法が農産物信用公社の
実現純損失の支払いに対して不定額歳出予算(indefinite appropriation)を与えるようにな
ったのは 1988 会計年度以降であり、それ以前には毎年の歳出予算法によって特定の金額が
決定されていた。
不定額の歳出予算とはいっても、大統領予算書にはその金額が明示されている。すなわ
ち、2007 年度予算では 197.4 億ドルであり、この金額は 2006 年度農産物信用公社実現純
損失の見込み額である。この予算権限により、農産物信用公社は財務省から借り入れてい
た資金を返済するので、これにより(直接的には)新たな支出にむすびつく債務負担をおこな
うことはできない。また、たとえ歳出予算法がこれ以下の特定の金額を与えたとしても、
それは農産物信用公社の財務省に対する債務の返済を先送りするだけである。
表13は 2005 会計年度(実績)における農産物信用公社の実現純損失の内訳を示している。
農産物信用公社の実現純損失は、①在庫損失、②現金支払い、そして、③その他、に分け
られている。
「在庫損失」に含まれるのは、農産物証券と「交換された」農産物にかかわる損失分(農
産物融資金額から農産物証券売上収入を差し引いたもの)、そして、在庫農産物の売買差損
である。2005 会計年度実績では、在庫損失は 25.8 億ドルである。
「現金支払い」には様々な直接支払いが含まれる。大きな割合を占めるのは、2002 年農
業法の「固定支払い(Direct Payments)」の 52.6 億ドル、価格下落時の追加的固定支払いで
ある「価格変動対応支払い(Counter Cyclical Payments)」の 52.3 億ドル、融資不足払いの
38.1 億ドル、作物災害支払いの 24.5 億ドル、保全留保計画支払いの 18.2 億ドルなどであ
-49-
り、合計金額は 204.9 億ドルであった。
表13
実現純損失
(単位:千ドル)
「その他」に含まれるのは、販売支援融
資の現金返済帳消し分や支払利子のほか、
様々な他勘定への移転金額である。大きな
ものとしては農務省の自然資源保全サー
ビスへの移転の 20.3 億ドルや動植物衛生
検査局への 1.7 億ドルがある。この「その
他」の分類の合計金額は 23.6 億ドルである。
以上、三分類の合計で、2005 会計年度の
農産物信用公社実現純損失は、254.3 億ド
ルになる。2006 会計年度には、農務省歳出
予算法の不定額歳出予算にもとづき、この
金額が農産物信用公社資金勘定の損失を
補填するために与えられている。
損失と支出の関係について言えば、現金
支払いの損失額と支出額は基本的には同
一であるはずだが、支出が記録される時点
と損失が記録される時点が異なるなどの
理由から、一致しない場合がある。
また、販売支援融資にかかわる損失に関
して言えば、支出データのみでは捕捉でき
ない生産者への所得移転規模を、より明確
にすることができる。
損失データを検討することは、さらに、
勘定間の資金移動をつうじて、農務省の
様々な計画に対する「財源」としての役割
を農産物信用公社が果たしている事実を
明らかにすることが出来る。
資料)農務省農場サービス局の Commodity Estimates
Books: FY 2007, Output 03.
-50-
3.議会予算過程:2006 会計年度予算
第 1 章および第 2 章では、2007 会計年度の大統領予算書を手がかりとして、連邦政府の
農業予算、とりわけ農産物信用公社の諸計画とその資金手当てにかかわる諸事実を検討し
てきた。以下では、大統領予算書が議会に提出された後の、議会予算過程の主要な段階に
そって、農業予算にかかわる諸決定の実態を見ていく。なお、データと情報の制約上、ま
た、調整措置(reconciliation)の事例をあつかう必要上、2006 会計年度の議会予算過程を具
体事例としている。
最初に、議会予算過程の法的・制度的な枠組みについて簡単に触れる。基本的に分権的
な組織である米国議会が、全体としての財政収支や予算を審議するための制度的枠組みは、
1970 年代以前には存在しなかった。1974 年に議会予算法(Congressional Budget and
Impoundment Control Act of 1974, P.L.93-344)が制定され、現在までつづく予算決議(本章
第 2 節)を中心とする議会の予算審議の大枠が設定された。ただし、議会の予算過程は決し
て固定したものでも、安定したものでもない。1970 年代の予算決議は 1980 年代のそれと
は異なり、1980 年代の財政調整法は 1990 年代のそれとは異なる。
とりわけ、1990 年代末から 2000 年代初にかけての財政収支の黒字化は、それまで均衡
予算へむけての「赤字削減」を主要な存在根拠としていた議会予算過程にとって、大きな
挑戦であった。財政健全化にとって一定の役割を果たしたと一般に評価されることの多い
「予算エンフォースメント法(Budget Enforcement Act = BEA, 1990 年包括予算調整法の
タイトル 13、P.L.101-508)」、とりわけ同法により導入された、多年度にわたる裁量的経費
の上限設定と、義務的経費における「Pay-As-You-Go 規則(義務的経費を増加される立法は、
他の義務的経費の削減か歳入の増加措置によって相殺されなければならない)」は、2003 年
度以降の延長が行われなかったことで、現在は失効している。
ブッシュ政権は議会に対して BEA の諸規則の一部を復活することを要求しており、議会
にも同様の動きがあるが、現在までのところ、予算過程改革の今後の方向は明確になって
いない。
1)裁量的経費 (discretionary spending)と義務的経費 (mandatory spending)
議会の予算過程を検討する上で重要な点の一つは、裁量的経費と義務的経費の区別であ
る。両者は、議会の異なった委員会が所管し、また、異なった仕方でコントロールされて
いる。
裁量的経費とは、大統領予算書の定義によれば、「歳出予算法(appropriations acts)に
-51-
よって与えられる予算資源(ただし、義務的経費プログラムへ与えられる資金を除く)」で
ある。ある裁量的プログラムの経費を削減するためには、毎年制定される歳出予算法にお
いてそのプログラムに与えられる歳出予算権限を単に減らすだけでよい。
いささか紛らわしい点は(大統領予算書の定義にも触れられているように)、歳出予算法
には、裁量的経費以外にも義務的プログラムの経費が含まれる場合があることである。一
般的に言えば、義務的経費は、たとえ歳出予算法で予算権限額を減らしたとしても、プロ
グラム自体を規定している授権法(authorizing acts)においてプログラムの内容に変更を
加えない限り実際の予算削減にはならない。
しかし、現実の義務的経費と歳出予算法の関係はそれほど単純ではない。この点に関し
て は 、 William C. Fey and Michelle D. Rodgers, Appropriations for Mandatory
Expenditures. Harvard Law School Federal Budget Policy Seminar Briefing Paper No.
17 (Draft), last updated: May 11, 2006、が大変参考になり、メディケイドや食料スタンプ
などの具体的な事例に即し、その意義と多様な形式を明らかにしている。例えば、食料ス
タンプなどは名目的には義務的経費とされるが、実際には歳出予算法と授権法が複雑に重
な り 会 っ た 境 界 的 事 例 の 一 つ で あ る 。 2006 会 計 年 度 大 統 領 予 算 書 の Analytical
Perspectives (pp.422-425.)においても、国防省のある経費をどのように分類するかに関し
て詳細な議論が展開されている。ただし、この問題に関する神学的議論の泥沼には、これ
以上立ち入らない。
義務的経費とは、大統領予算書の定義によれば、「歳出予算法以外の法律によりコントロ
ールされる経費、および食料スタンプ計画のための経費」である。Budget Enforcement Act
は同じ概念を表すために「直接経費(direct spending)」という用語を用いているが、一般
には義務的経費という言葉が使われている。義務的経費は毎年の歳出予算による決定が無
くても、すでに制定されている授権法に基づいて、その授権法が定める有資格者に対して、
定められたフォーミュラ等にしたがい支払いがおこなわれる。
すなわち、裁量的経費と義務的経費の本質的な違いは(少なくとも大統領予算書の定義か
らは)、経費を比較的自由に統制し得るか否かといったことでは必ずしもない。そうではな
くて、議会予算過程において、何(どの法律)によって、誰(どの委員会)によってその経費が
コントロールされるかということである。裁量的経費は毎年の歳出予算法とそれを本会議
に提出する歳出委員会によって、義務的経費は授権法とそれを本会議に提出する授権委員
会によってコントロールされる。
2006 会計年度大統領予算書に示された区分に従えば、連邦政府の 2005 年度総支出(見込
-52-
み)額のうち、義務的経費が 54%、裁量的経費が 38%(補正歳出予算分を除く)、利子支払い
が 7%である。また、農務省予算に限定すれば、義務的経費が 69%、裁量的経費が 31%で
ある。
まず、裁量的経費を所管する両院の歳出委員会(The House and Senate Committees on
Appropriations)に関していえば、委員会はいくつかの小委員会により構成され、各小委員
会がその所管の歳出予算法案を準備する。上下両院の小委員会構成は異なり、その所管領
域も一致しない場合があるが、農業小委員会に関しては両院の小委員会の所管領域は一致
している。なお、9.11 後に国土安全保障省が設置された(2003 年)ことを一つの契機として、
それまで両院でそれぞれに 13 あった小委員会が再編整理されている(表14)。
表14
両院の歳出小委員会
資料)Sandy Streeter, The Congressional Appropriations Process: An Introduction, CRS Report for
Congress 97-684 GOV, Updated September 8, 2006. p.3.
連邦政府の諸機関を設置したり、諸計画に権限を与える立法を所管する授権委員会
(authorizing committees)に関しても、両院の委員会構成はしばしば一致しないが、農業に
関しては、下院に農業委員会(Agriculture Committee) 、上院には農業栄養森林委員会
(Agriculture, Nutrition and Forestry Committee)が設けられている。
-53-
2) 予算決議、委員会への資金配分、およびスコアキーピング
大統領の予算書が提出された後(2月の第一月曜日が提出期限とされている)、議会は予算
決議(budget resolution)の採択へ向けた活動を開始する。予算決議は、1974 年の議会予算
法によって導入された「議会による予算」である。形式的には「賛同決議(Concurrent
Resolution)」と呼ばれるもので、上下両院でそれぞれ可決される必要があるが、大統領の
署名を必要とせず、したがって法律としての効力も持たない。賛同決議は、一般には、上
下両院のそれぞれの規則の制定や、休会時期の決定、両院の意見表明などの手段として用
いられる。
現行法の下で、議会予算決議は①新規予算権限および支出の合計額、②連邦歳入の合計
額、③財政収支額、④機能分類ごとの新規予算権限および支出額、⑤政府債務残高、そし
て、⑥社会保障計画の収支、を少なくとも 5 会計年度にわたって示すことが求められてい
る。また、予算決議は予算過程そのものの規則を改定することもできる。議会はこれによ
って、その後の歳出予算法、歳入法、国債残高制限立法、財政調整法、そして、その他の
予算関連立法のための大枠と指針を定めている。
しかしながら、1998 会計年度からの 4 年度にわたる連邦財政収支の黒字は、従来の議会
予算過程への反動や見直し、あるいは新たな役割の模索を呼び起こした。その結果、議会
は 1998 年(1999 会計年度)、2002 年(2003 会計年度)、そして 2004 年(2005 会計年度)の予
算決議を採択することができなかった(両院は「みなし予算決議(deeming resolution)」に
よって、その後の予算関連立法をおこなった)
。
(1)
2006 会計年度予算決議採択過程
大統領予算の議会提出後、予算決議の準備は両院の予算委員会が中心となって進める。
予算委員会の公聴会が開催される一方、議会予算局(Congressional Budget Office)は経済お
よび予算に関する情報と分析を提供する。
2006 会計年度予算に関して言えば、議会予算局(, http://www.cbo.gov/)は 2005 年 1 月に
予算および経済見通し(The Budget and Economic Outlook)を、2 月に予算代替案(Budget
Options)を、3 月に大統領予算提案の議会予算局分析(An Analysis of the President’s
Budgetary Proposals for Fiscal Year 2006)を公表している。さらに、8 月に予算および経
済見通しの改訂 (The Budget and Economic Outlook: An Update)が公表されている。
また、他の委員会は予算委員会に対して各委員会所管のプログラムの適切な支出あるい
は収入レベルに関する「見解と見込み(views and estimates)」を提出する(大統領予算書提
出後 6 週間以内)。たとえば、下院農業委員会は、委員長(Bob Goodlatte)および少数党筆頭
-54-
議員(Collin C. Peterson)の連名で、2005 年 2 月 15 日付の書簡を下院予算委員会委員長(Jim
Nussle)に出している。ただし、内容は簡単なもので、2007 年に農業法の改正が行われるの
で、それまでは現行政策を維持したい(すなわち、義務的経費の削減は考えていない)という
意向を伝えている。
予算決議の草案は、これら公聴会、議会予算局、そして他の諸委員会からの情報や意見
に基づき作成される。委員会における法案修正作業(「マークアップ(markup)」と呼ばれる)
の後、上下両院の予算委員会はそれぞれの2006会計年度予算決議案を2005年3月上旬に可
決している。
それぞれの予算決議案 (下院決議案はH.Con.Res. 95, H. Rept. 109-17; 上院決議案は
S.Con. Res. 18, 報告書は無し。ただし、代わりに委員会プリントS.Prt. 109-18がある) は
両院の予算委員会により本会議に提出され、下院においては3月17日に、219-214で可決さ
れ、上院でも同日、51-49で可決された。下院では、いくつかの代替決議案(amendments in
the nature of substitute)が否決された後、委員会決議案が可決された。上院では、48の修
正提案が採択、25の修正案が否決ないし撤回された後、委員会決議案が可決された。両院
の本会議における委員会提出決議案に対する修正案の種類の違いや、採択修正案の数の大
きな違いは、主として、採用されている議事進行規則の違いに起因している。
ただし、両院の予算委員会の予算決議案はそれぞれの内容が異なっているから、その後、
両院協議会において両院の合意を形成する必要がある。両院協議会における合意形成に重
要な役割を果たすのは、通常、両院の政党指導部(House and Senate Leadership)である。
政党指導部というのは明示的な規定はないが、両院の院内総務(leader)や院内幹事(whip)を
含む、議会運営を担う中核的なグループである。両院の政党指導部は 2006 会計年度予算決
議に関して 4 月の末に合意に達し、両院協議会は 2005 年 4 月 28 日に両院協議会報告書
(H.Rept. 109-62)を両院に送った。両院協議会報告書は全体として承認するか否決するかし
なければならない。上下両院の本会議は同日中に同報告書を承認した。
(2)
2006 会計年度予算決議の内容
最終的に両院で採択された 2006 会計年度予算決議 (H.Con.Res. 95, H.Rept. 109-62) は、
2006 会計年度の予算権限総額を 2 兆 5,600 億ドルに、総歳入額を 2 兆 1,900 億ドルに設定
した。また、2006 会計年度の裁量的経費に 8,430 億ドルの上限を設定した。さらに、調整
指示(reconciliation instructions)では、1998 会計年度以来 8 年ぶりに、授権委員会に対し
て義務的経費の削減(5 ヵ年で 347 億ドルの削減)が要求された。調整過程に関しては、本章
の第 4 節で再び触れる。
-55-
両院協議会の合意をとりまとめた報告書は、以下の 5 つのタイトルからなっている。
TITLE I.RECOMMENDED LEVELS AND AMOUNTS (タイトルⅠ
勧告の水準と金
額)
「Sec. 101. RECOMMENDED LEVELS AND AMOUNTS」では、2005 会計年度から 2010
会計年度の年度ごとの歳入額、歳入削減額、新規予算権限額、支出額、財政収支額、政府
債務残高、民間保有政府債務額が示される。2005 年度は現会計年度に関する修正額であり、
予算決議の対象となる期間は 2006 年度から 2010 年度までの 5 ヵ年である。
「SEC. 102. SOCIAL SECURITY」では、上院の予算過程において必要となる、社会保障
関係の収支が示される。
「SEC. 103. MAJOR FUNCTIONAL CATEGORIES」では、第 1 章でふれた連邦予算の
機能分類ごとに、各会計年度の新規予算権限額と支出額が示される。
農業(350)に関しては、以下のとおり(表15、年度は会計年度。)
表15
(単位:百万ドル)
予算決議における機能別農業予算
機能分類「農業(350)」
2005
2006
2007
2008
2009
2010
予算権限
30,151
29,420
27,130
25,274
25,631
25,357
支出
28,550
28,476
25,948
24,225
24,738
24,627
TITLE II.RECONCILIATION AND REPORT SUBMISSIONS (タイトルⅡ
調整と報
告の提出)
下院(Sec. 201)と上院(Sec. 202)のそれぞれの複数の委員会に対する調整指示と、予算委員
会への報告期限が示されている。調整指示は、①義務的経費の削減、②歳入変更、そして、
③法定政府債務残高限度額の引き上げ、の立法提案の提出を要求するものである。
義務的歳出削減指示の合計金額は、2006 年度から 2010 年度の期間で 346.58 億ドルであ
る。下院農業委員会に対する指示は、2006 会計年度の支出を 1.73 億ドル、2006 年度から
2010 年度の期間で支出を 30 億ドル削減するような、その所管の法律の変更を、9 月 16 日
までに下院予算委員会に報告することをもとめている。上院農業委員会に対する指示も同
じ内容であり、9 月 16 日までに上院予算委員会に報告することをもとめている。
歳入変更に関する指示は、下院歳入委員会および上院財政委員会に対するもので、2006
会計年度の歳入は 110 億ドルを超えない金額を、2006 年度から 2010 年度の期間の歳入は
700 億ドルを超えない金額を削減するような法律の変更案を、予算委員会に報告することを
もとめている。
-56-
法定政府債務残高限度額の引き上げに関する指示も、やはり下院歳入委員会および上院
財政委員会に対するもので、残高限度を 7,810 億ドル引き上げる法律の変更案を予算委員
会に報告することをもとめている。
TITLE III.RESERVE FUNDS (留保資金)
予算決議における留保資金(Reserve Funds)というのは、予算委員会がその実際の資金配
分における意向を、各委員会に対して強く要求するための一つのメカニズムであると言え
る。本来ならば、予算決議は資金配分の大枠を決めるだけで、委員会がどのような内容の
立法を行うかを拘束するものではない。しかしながら、留保資金に関しては、特定の条件
つきの資金として留保されており、各委員会がそのような内容の立法を行う限りにおいて
その資金の使用を予算委員会委員長によって認められる。
留保資金はまた、資金的な裏づけの無い形でも用いられる場合(“deficit neutral” reserve
funds と呼ばれる)がある。すなわち、予算委員会はある一定の政策を支持することを表明
するが、条件付きの資金が留保されているわけではなく、単に他のプログラムの削減によ
り当該計画の資金手当てが期待されるだけである。
2006 会計年度予算決議では、留保資金が 10 セクションにわたり規定されているが、農
業委員会にかかわるものはない。
TITLE IV.BUDGET ENFORCEMENT (予算のエンフォースメント)
このタイトルにおいては、予算審議過程に関する議会の様々な規則が定められている(こ
れら以外にも、議会予算法などで定められている規則がある)。これらの規則のうちいくつ
かのものは、それが順守されない場合には、いずれかの議員が議事規則違反を指摘するこ
と(point of order)により、議事を差し止めることができる。ただし、この予算決議では、上
院のみが議事規則違反となる事項を規定している。
いくつかの例を挙げれば、同タイトルのセクション 401(b)では、予算決議で認められた
ものを除き、当該年度以降の年度の歳出権限付与(advance appropriation)をおこなう法案
や修正案の上院での審議を禁じている。また、セクション 404(c)は、同セクションで 2007
会計年度および 2008 会計年度に関して定められた裁量的経費の予算権限額と支出額を超え
る法案や修正案の上院における審議を禁じている。ただし、これらの審議規則違反は、上
院議員の五分の三(60 名)の投票により、免除が可能である。
TITLE V.SENSE OF THE SENATE (上院の意見)
このタイトルにおいては、上院の様々な「意見」が表明されている。例えば、特定選挙
-57-
区等におけるプロジェクトのために指定された資金(earmarks)の異常な増加を効果的に抑
制するような方策を定めるべきである、といった「意見」である。
(3)
委員会への資金配分
予算決議において示された新規予算権限・支出の総額や、機能分類ごとの新規予算権限
額・支出額などは、それ自体では、その後の議会予算過程の具体的な枠組みを提供するこ
とはできない。なぜならば、議会予算過程における実際の立法作業は、個々の委員会によ
って行われるからである。したがって、これらの総額を 1974 年議会予算法の規定(302(a)
allocations)に基づき、各委員会に配分することが必要となる。
委員会への総額の(最初の)配分は、両院協議会報告書(原文の pp.86-89)に示されている。
両院では委員会構成やその所管領域が必ずしも一致していないため、配分も異なっている。
下院の配分の具体例を示せば、以下のとおりである(表16、及び表17)。
表16
表17
(下院歳出委員会への配分、単位:百万ドル)
(下院の農業委員会への配分、単位:百万ドル)
配分は、歳出委員会に対しては 2006 会計年度に限られ、他の授権委員会に対しては予算
決議の対象となる 2006-2010 会計年度に関して行われている。
歳出委員会に配分された資金は、さらに個々の所管領域に関する歳出予算法案の準備を
おこなう小委員会ごとに再配分される( この再配分は歳出委員会によって行われ、302(b)
-58-
allocations と呼ばれる)。下院歳出委員会の例を示せば、以下のとおりである。(表18)。
表18
下院歳出委員会の各小委員会に対する最初の 302(b)配分
単位:百万ドル
資料)U.S. Congress, House Committee on Appropriations, Report on the Suballocation to Budget Allocations for
Fiscal Year 2006, 109th Cong., 1st sess. (Washington: GPO, 2005), pp. 2-3.
注 a)下院歳出委員会においては、本章第 1 節で述べたように、立法府歳出予算は小委員会でなく、本委員会の所管と
なっている。また、若干の留保分もここに含まれる。
(4)
スコアキーピング(scorekeeping)
予算決議で示された様々な総額や、その後の各委員会への資金配分、あるいは授権委員
-59-
会に対する歳出削減の調整指示等が、実際の議会予算過程においてどのように順守され、
あるいは順守されていないかを常時監視することは、両院の予算委員会の任務である。予
算委員会がこの任務を果たすための実務は、主として、議会予算局により行われる(歳入に
関する予測は、両院税制委員会(Joint Committee on Taxation)がおこなう)。
スコアキーピングの一般的な意味は、会計検査院(Government Accountability Office)に
よれば、「審理中の法案の予算上の影響を推計し、それを予算決議等の基準額や法で定めら
れた限度額と比較するプロセス」である。通常、個々の法案等の予算上の影響を評価する
ことをスコアリング、様々な法案等の集計的・累積的な影響の評価をスコアキーピングと
呼んでいるようである。
裁量的経費のスコアキーピングは比較的単純である。ほとんどの歳出予算は特定金額の
予算権限として与えているため、推計が必要になるのは、その予算権限の結果発生する(多
年度にわたる場合もある)支出(outlay)である。支出の推計は、一般に、勘定ごとの実績にも
とづく「支出率(spendout rates)」を算出しておこなわれる。
これに対し、義務的経費や歳入に関するスコアキーピングは、はるかに複雑である。な
ぜならば、一般に、義務的経費や歳入を規定する法律には特定の金額が定められているわ
けではなく、法律の規定自体は同一であっても、諸条件の変化によって義務的経費の金額
や歳入の金額は変化しうるからである。例えば、2002 年農業法で規定されている義務的経
費には、固定支払いのような将来にわたって金額の確定したものばかりでなく、融資不足
払いや価格変動支払いのように、その時々の農産物の価格や生産量によって大きく変動す
る経費も含まれている。
さらに、裁量的経費の予算上の影響は当該会計年度の 1 年に限られるのに対し、義務的
経費や歳入を規定する法律の影響は多年度におよび、推計は予算決議の対象となる最低 5
ヵ年(場合により、それ以上)の期間にわたっておこなわなければならない。
議会は、義務的経費や歳入を規定する法律の変更や新規立法の影響を、議会予算局の「ベ
ースライン推計(baseline projection)」と比較することで評価している。ベースライン推計
というのは、現行法が継続された場合に予想される収支等にかかわる状況の将来像である
(なお、このような推計は当然、大統領予算においても行われているが、本稿では議会予算
局推計に限定して検討する)。このような推計を行うためには、当然、法律の定める諸事項
を勘案するだけではたりず、インフレ率等の一般的な経済予測(農産物計画の場合には、農
産物の価格や生産量の予測)を前提とすることになる。このようなベースライン推計は、連
邦政府の財政収支のような集計量に対して行われるばかりでなく、個々のプログラムや勘
-60-
定に関しても行われる。
ベースライン推計をおこなう際の、基本的な方針や前提に関する規則は、法律によって
規定されている(Section 257 of the Balanced Budget and Emergency Deficit Control Act
of 1985 (Title II of P.L. 99-177), 2 U.S.C.907)。ベースライン推計は、このように、特定の
前提と規則にしばられた推計であって、通常の経済予測とは異なる。その基本的な役割は、
将来の「予測」を行うということでは必ずしもなく、議会のおこなう様々な立法行為の将
来にわたる影響を評価する際の「基準」を提供するということである。
より具体的に述べれば、ある一定額の歳出削減が要求される場合、それは「基準」と比
較して、より少ない歳出が予測されるような法律の改正を行うことが要求されるというこ
とである。したがって、農産物計画の場合、天候等の理由で農産物価格が上昇し、結果的
に、歳出が予想を下回ったとしても、それは議会予算過程のスコアリングにおいては歳出
削減としてはカウントされない。特定の立法行為が歳出を削減すると議会予算局が推計す
る限りにおいて、歳出の削減としてカウントされる。
以下は、いくつかの農業プログラムのベースライン推計の具体例である。(表19)。
表19
2005 年 3 月の議会予算局ベースライン推計、農務省関連義務的経費
(単位:百万ドル)
資料) 議会予算局(ただし、議会調査局報告書、Agriculture and FY2006 Budget Reconciliation,
RS22086, Updated March 3, 2006. より引用。)
農業委員会が新規の立法行為を一切行わなかった場合でも、すでに現行法の下で、その
所管領域の上記プログラムに関して、表に示されたような経費を発生させると推計されて
いる。したがって、予算決議において農業委員会が 2006 会計年度の支出を 1.73 億ドル、
2006 年度から 2010 年度の期間で支出を 30 億ドル削減するように要求されているというこ
-61-
とは、表で示されたベースライン推計から削減額を差し引くような法律の改定を要求され
たことを意味している。この点は、以下の第 4 節で再び触れる。
なお、2006 年 3 月にも議会予算局は農産物信用公社資金の支出金額のベースラインを公
表しており、議会予算局のウェッブサイトから入手できるので、表20として示しておく。
表20
議会予算局の 2006 年 3 月農産物信用公社資金支出金額ベースライン推計
(単位:百万ドル)
資料)議会予算局
http://www.cbo.gov/budget/factsheets/2006b/ccc.pdf
3) 歳出予算
以下では、歳出委員会農業小委員会により準備され、最終的に議会を通過した 2006 会計
-62-
年度農業歳出予算法(Agriculture, Rural Development, Food and Drug Administration,
and Related Agencies Appropriations Act, 2006. P.L. 109-97.)について検討してみる。この
法律には、森林局を除く農務省、食品薬品局(Food and Drug Administration)、および商品
先物取引委員会(Commodity Futures Trading Commission)の歳出予算が含まれている。
本稿では同法成立までの経過の詳細を述べる余裕は無いので、最終的な歳出予算法の内
容に関して、注目すべきいくつかの点に焦点をあてて説明を加える。成立までの経過は、
表21で要約するとおりである。
表21
2006 会計年度農業歳出予算法成立経過
農業小委員会承認
下院
上院
法案・公法番号
報告書番号
歳出委員会承認
下院本会議 上院本会議
5月16日
(1)
6月21日
両院協議会報告書
下院
上院
通過
通過
合意
下院
上院
H.R.2744
H.R.2744
H.R.2744
H.R.2744
H.R.2744
H.R.2744
H.R.2744
H.Rept.109-102
S.Rept.109-92
318-63
81-18
10月28日
11月3日
投票
日付
両院協議会
6月2日
6月27日
大統領署名
P.L..109-97
H.Rept.109-255
408-18
97-2
6月8日
9月22日
9月26日
11月10日
302(b)配分と義務的経費の削減
農業歳出予算法に関しては、上述したように予算決議の 302(a)配分、および、その後の
302(b)配分により金額の上限が設定されている(ただし、最初の 302(b)配分額はその後、歳
出委員会内で配分しなおすことができる)。注目すべき点は、この歳出予算法においては、
義務的経費の削減がおこなわれ、その削減分が裁量的経費によって使用されていることで
ある。
義務的経費と裁量的経費の一般的説明として、義務的経費は授権法により、裁量的経費
は歳出予算法によりコントロールされると述べたが、実際には、歳出予算法による義務的
経費の削減も不可能ではない。以下では、2006 会計年度農業歳出予算法において、どのよ
うな形で義務的経費が削減されているかを、いくつかの具体例に即して見てみる。
歳出法によって授権法を直接的に修正することはできない。しかしながら、2006 会計年
度農業歳出予算法のタイトル VII「一般条項」には、義務的経費を削減する多くの条項が
存在する。一般的には、次のような法文によって義務的経費の削減がおこなわれている。
“None of the funds appropriated or otherwise made available by this or any other Act shall be
used to pay the salaries and expenses of personnel to carry out section [...] of Public Law [...] in
excess of $[...].”
-63-
すなわち、一定限度額を超えてある義務的経費プログラムを実施する場合には、それにと
もなう給与や人件費(これらは裁量的経費である)の使用が禁止されているのである。そして、
この実質的な制限の設定と、授権法により設定された授権上限額の差が「削減額」として
主張されている。
2006 会計年度農業歳出予算法による義務的経費のこのような削減は、保全関係経費、州
協同研究教育普及サービス局(Cooperative State Research, Education, and Extension
Service)関係経費、そして農村開発関係経費においておこなわれた。
保全関係経費の削減総額は下記の表22のように、約 6.4 億ドルになるが、その額は、2002
年農業法により認められた上限額(前年度からの繰越分も含む)との差額である。これに加え、
州協同研究教育普及サービス局のいくつかのプログラムにおいても、同様のかたちで、3 億
ドルの削減がおこなわれた。
表22
保全関係経費の削減
(単位:百万ドル)
資料) 議会調査局報告書、Agriculture and Related Agencies: FY2006 Appropriations. RL32904.
Updated January
27, 2006. p.15.
上記の表のように、保全関係経費の削減総額は約 6.4 億ドルになるが、その額は、2002
年農業法により認められた上限額(前年度からの繰越分も含む)との差額である。これに加え、
州協同研究教育普及サービス局のいくつかのプログラムにおいても、同様のかたちで、3 億
ドルの削減がおこなわれた。
-64-
さらに、農村開発関係経費では、表23以下の表で示すように、5.4 億ドルの削減がおこ
なわれた。いくつかの計画では義務的経費にかえて、裁量的経費を与えることにより「削
減」をおこなっている。
表23
農村開発関係経費の削減
(単位:百万ドル)
資料) 議会調査局報告書、Agriculture and Related Agencies: FY2006 Appropriations. RL32904.
Updated January
27, 2006. p.33.
これらの「削減」は、確かに 2002 年農業法で示された授権額の上限を下回っていたとい
う意味では義務的経費の削減ということができる。しかし、2005 年度の実績と比較すれば、
多くの場合、実質的な削減にはなっていない(増額している場合もある)ことに留意すべきで
ある。しかしながら、歳出委員会にとっては、このような義務的経費の削減を主張するこ
とは、委員会に配分されている金額枠を拡大できるというメリットを有している。すなわ
ち、最終的な農業歳出予算法は、議会予算過程において 1,001 億ドルの費用と推計されて
いるが、この費用の算出に当たっては 9 億ドルの削減分が差し引かれているため、実質的
には 1,010 億ドルの新規予算権限額を含んでいる(表24を参照) 。
-65-
表24
2006 会計年度農業歳出予算概要
(単位:百万ドル)
資料) 議会調査局報告書、Agriculture and Related Agencies: FY2006 Appropriations. RL32904.
Updated January 27, 2006. p.48.
(2)
補正(追加)予算(supplemental appropriations)
2005 年 11 月 10 日に、大統領の署名を得て農業歳出予算法は法律となった。しかし、2006
年度農業歳出予算は、その後の補正予算によって修正を加えられたので、以下では、その
補正予算について説明する。
一般に補正予算とは、通常の歳出予算法に追加して与えられる歳出予算を意味する。補
正予算は、本来は、翌年の通常の歳出予算まで待つことのできない、緊急の必要に対処す
るために組まれるものである。しかしながら、現行の予算過程の規則の下においては、そ
の「緊急性」の範囲は、かなり曖昧なものである。
補正予算が「緊急(emergency)」なものであるとであると指定されることで、その予算は
-66-
一般に通常の予算過程を縛る制限の外におかれる。この「緊急」な補正予算に関する(両院
で必ずしも同一ではない)取り扱い規則は、2006 会計年度予算決議(H.Con.Res. 95, H.Rept.
109-62)の SEC. 402. EMERGENCY LEGISLATION に定められている。
農業関連の 2006 会計年度補正予算は2件の法律によりおこなわれた。一つは「国防省、
およびメキシコ湾ハリケーンと流行性感冒法に対処するための緊急補正歳出予算法
(Department of Defense, Emergency Supplemental Appropriations to Address
Hurricanes in the Gulf of Mexico, and Pandemic Influenza Act, 2006. P.L. 109-148,
December 30, 2005)、そして、もう一つは「国防省、テロに対するグローバルな戦い、お
よ び ハ リ ケ ー ン 復 興 の た め の 緊 急 補 正 歳 出 予 算 法 (Emergency Supplemental
Appropriations Act for Defense, the Global War on Terror, and Hurricane Recovery, 2006.
P.L. 109-234, June 15, 2006)である。
P.L. 109-148 は、本来、2006 会計年度の国防省歳出予算法であるが、その Division B と
して、補正予算が付け加わっている。補正予算の内容は、農務省に対しては総額で 11.7 億
ドルを与えるものである。内訳は、4 億ドルが緊急森林保全、3 億ドルが緊急流域保護、2
億ドルが緊急土壌保全、1.2 億ドルが様々な農村開発関連計画、0.9 億ドルが農務省の鳥イ
ンフルエンザ対策などが含まれている。
前述したように、補正予算は予算決議の総額枠に必ずしも縛られないが、この補正予算
の資金手当てのためには、一定の相殺措置がとられている。すなわち、資金の一部は連邦
緊急事態管理庁(Federal Emergency Management Agency)からの資金の移転、政府全体の
裁量的経費の一律 1%削減、そして、大統領によるいくつかの勘定からの予算権限の取消し
(rescissions)によりまかなわれる。農務省の勘定から取り消される予算権限は 6,610 万ドル
である。
P.L. 109-234 は、基本的には P.L. 109-148 の補正の第二弾という内容である。2005 年の
ハリケーン・カトリーナおよびリタによる農業被害の支援に 6.3 億ドル、そして、海外食料
援助に 3.5 億ドルなど、農業関係の総額は 9.8 億ドルである。
4) 調整法(reconciliation act)
米国の農業支援の極めて大きな部分は、義務的経費によるものである。したがって、農
業政策と予算の関連を考える場合、基本的には裁量的経費をコントロールする歳出予算法
よりも、義務的経費をコントロールする授権法(現在では 2002 年農業法による諸規定が主
要な部分を占める)が、より重視されなければならない。そして、授権法と予算過程を結び
つける最も大きな仕組みが「調整(reconciliation)」である。
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1974 年議会予算法が制定された当初、
「調整」はオプショナルな措置でもあり、予算過程
において特に重視されるものではなかった。議会予算過程における「調整」の位置づけが
大きく変化したのは、1980 年代である。1980 年(1981 会計年度)に、はじめて歳出を削減
するための調整措置が実施され、その後、レーガン政権の下での財政政策、特に歳出削減
のための重要な手段となっていった。
当初、調整措置の利用は授権委員会の従来の権利を侵犯するものとして、少なからぬ批
判にさらされた。しかし、1980 年代に劇的に増大した連邦政府の財政赤字に対処するため
の方策として、調整措置は不可欠のものとして受け入れられるようになった。1981 会計年
度から 1988 会計年度にかけては毎年、歳出削減のための調整措置がとられた。
1990 年代になると、大統領と議会の間で多年度にわたる予算に関する合意が、予算エン
フォースメント法として制定された。予算エンフォースメント法の下では、本章の冒頭で
も触れたように、裁量的経費は多年度にわたる上限設定によって、義務的経費は
「Pay-As-You-Go 規則」によって、抑制された。ただし、両者とも 2003 年度以降の延長が
行われなかったことで、現在は失効している。
1990 年代末から 2000 年代初めにかけての財政収支の黒字化は、1980 年代以降もっぱら
歳出の削減手段として利用されてきた調整措置が、逆に、減税のための立法をおこなう手
段として利用される契機をあたえることになった。2001 年経済成長減税調整法(P.L.107-16)
や 2003 年雇用および成長減税調整法(P.L.108-27)などは、予算過程における調整措置とし
て成立した減税法であった。調整法は議会審議において特別の議事規則の下で審議され、
単純多数が確保されている状況下では、その成立を阻むことは困難である。したがって、
党派的に明確な対立が予想される減税法案を、共和党は調整法として成立させたのである。
2006 会計年度の予算決議における調整指示が重要な点は、それが、8 年ぶりに歳出削減
の指示を含んでいたということである。以下では、歳入変更および政府債務残高上限変更
にかかわる立法にはふれず、この歳出削減調整法と農業の関連に限り検討する。
本章第 2 節で述べたように、2006 会計年度の予算決議は、農業委員会に対して 2006 会
計年度の支出を 1.73 億ドル、2006 年度から 2010 年度の期間で支出を 30 億ドル削減する
ように指示していた。両院の農業委員会はそれぞれ、そのような歳出を削減することにな
ると議会予算局が推計するような法律の変更提案を、両院の予算委員会に提出した。予算
委員会は、他の委員会の同様の歳出削減提案とともに各院の歳出削減調整法案をとりまと
め、本会議に報告した。下院案は、2005 年赤字削減法(Deficit Reduction Act of 2005,
H.R.4241) 、 上 院 案 は 、 2005 年 赤 字 削 減 包 括 調 整 法 (Deficit Reduction Omnibus
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Reconciliation Act of 2005, S.1932)である。下院は下院案を 11 月 18 日に可決、上院は上
院案を 11 月 3 日に可決した。
両院協議会はその合意(S.1932, H.Rept. 109-362)を、2005 年 12 月 19 日に報告した。
S.1932 の法案名は、2005 年赤字削減法(Deficit Reduction Act of 2005)に変更された。同日、
下院本会議は両院協議会報告書を採択した。上院は、2005 年 12 月 21 日、両院協議会の合
意に含まれる「無関連事項(extraneous matter)」を削除した上で、同法案を下院に送った。
無関連条項の削除は、上院の調整法案審議ルールの 1 つである「バード(Byrd)規則」に基
づくものである。
2006 年 2 月 1 日、下院は上院の修正に同意し、同法案を大統領に送った。大統領は 2 月
8 日、これに署名し、公法 109-171 が成立した。なお、同法制定の最終過程において、明ら
かな事務的誤りがあり、上院は賛同決議(S.Con.Res 80)を採択し、大統領に送付された
S.1932 法案のバージョンが正しい最終法案であるとみなすものと決めた(いくつかの団体
が同法の合法性に関し司法の場で係争中のようであるが、極めて技術的な問題であるので、
これ以上は触れない)。
2005 年赤字削減法は、議会予算局のスコアーでは、2006 から 2010 会計年度の 5 ヵ年で
27 億ドルの農務省支出を削減すると推計されていた(表25)。
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表25
2005 年赤字削減法の農業予算削減額、議会予算局推計(単位:百万ドル)
資料) 議会予算局ウェッブサイト、(CONGRESSIONAL BUDGET OFFICE COST ESTIMATE, January 27, 2006)
S. 1932 Deficit Reduction Act of 2005 Conference agreement, as amended and passed by the Senate on
December 21, 2005.
上記のコスト推計は、個々のプログラムに関する議会予算局のスコアを集計したもので
ある。すべてのプログラムに関する詳細を検討する余裕は無いので、以下では農産物諸計
画(5 ヵ年で 7.36 億ドルの支出削減)についてのみ、内訳をみてみる(表26)。
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表26
2005 年赤字削減法の農産物諸計画予算削減額、議会予算局推計
資料) 議会予算局ウェッブサイト、(CONGRESSIONAL BUDGET OFFICE COST ESTIMATE, January 27, 2006)
S. 1932 Deficit Reduction Act of 2005 Conference agreement, as amended and passed by the Senate on
December 21, 2005.
農産物諸計画における削減は、具体的には 3 つのプログラムにおける内容変更によって
実現されている。ただし、そのうちの 1 つ(全国酪農品市場損失支払い計画=National Dairy
Market Loss Payments)は、支出の削減ではなく増加をもたらす内容変更である。
まず、全国酪農品市場損失支払い計画は、2006 から 2008 会計年度にかけて、議会予算
局のベースライン推計と比較して、それぞれ 4.3 億、5.2 億、そして 0.5 億ドルの支出を増
加させると推計されている。このような推計の理由は、2005 年赤字削減法が、2002 年農業
法において授権され 2005 年 9 月末日でその期限が切れる同計画を、さらに 2 年間延長した
からである。ベースライン推計では、2002 年農業法の規定どおりの期限で同計画は終了す
ることが前提となっているから、延長は支出の増加としてスコアーされる。なお、同法の 2
年間延長は、行政府の議会に対する予算提案においても要求されていた(農務省の推計では、
2 年間の延長の総コストは 12 億ドルである)。
農産物諸計画における最大の削減は、固定(直接)支払いの前払いの変更によって実現され
る。この「削減」が実際にどのようなものであるかを理解するためには、様々な支払いの
スケジュールについて知る必要がある。2002 年農業法は農務長官に対して、50%を上限と
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する固定支払いの前払いをおこなう権限を与えている。生産者は、作物の収穫に先立つ 12
月の 1 日から、翌年の、作物が収穫される年の 9 月の間、支払いを受け取ることができる。
農産物ごとの支払いスケジュールは以下のようなものである(表27)。
表27
農産物諸計画支払いスケジュール
資料)議会調査局報告書、Farm Commodity Programs: Direct Payments, Counter-Cyclical Payments, and Marketing
Loans. RL33271, March 1, 2006. p.18.
注)Adv. DP=前払いの固定(直接)支払い、CCP=価格変動対応支払い
2005 年赤字削減法は、2002 年農業法において定められた前払いの上限割合を、2006 年
産作物に関しては 40%に、そして 2007 年産作物に関しては 22%に、引き下げるように規
定している。ただし、同法が成立したのは 2006 年 2 月であったので、2006 年産作物の固
定支払いの前払いはすでにおこなわれており、40%の上限は実施されなかった。
しかしながら、12 月における前払い割合の引き下げは、10 月 6 日の最終支払い金額を増
加させるはずである。議会予算局のスコアで 2007 会計年度に 14.5 億ドルの支出削減が記
録されているのは、2006 年 12 月の前払いを 22%に引き下げられることによる削減分であ
る。米国会計年度は 10 月 1 日から始まるので、前払い割合の引き下げにともなう最終支払
いの増加分は、次年度(2008 年度)に先送りされる。それでは、何故 2008 会計年度にその分
の支出増加がスコアされないかといえば、その理由は、現行のスコアキーピングの規則の
下では、2008 年度以降も継続して前払い割合の引き下げがおこなわれることが推計のため
の前提とされるからである。
結局、前払い割合の引き下げにより実現される支出削減は、その初年度において記録さ
れ、その結果として生ずるはずの最終支払いの増加は、議会予算局の推計の全期間にわた
って先送りされ続けるのである。増加は、推計の地平線の外で起こるわけである。
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農産物諸計画におけるもう 1 つの支出削減は、綿花計画にかかわるものである。WTO に
おける裁定の結果、米国とブラジル間の綿花紛争は、ブラジルの主張がほぼ全面的に認め
られ、米国行政府も綿花計画の見直し、特に綿花ステップ2支払いの廃止を議会に対して
提案していた。2005 年歳出削減法は、この綿花ステップ2支払いの廃止を含んでいる。
議会予算局のベースラインでは、ステップ2計画の 2006-2015 年の費用は 12 億ドルと
推計されていたが、その廃止にともなう支出削減額は、それを下回っている(4.9 億ドル)。
その理由は、議会予算局によれば、支払いの廃止が需要や価格へ様々の影響を与えるから
である。例えば、議会予算局は綿花輸出が約 2.5%減少し、価格はポンドあたり 0.0075 ド
ルから 0.0200 ドル低下すると見込んでいる。この結果、同期間中の価格変動支払いは 4.84
億ドル増加すると予想されている。また、国際価格はわずかながら上昇し、その結果とし
て、綿花のマーケティング・ローンの費用は低下すると見られている。
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