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もっと高く飛べるはず ‐すべての物事には理
信州大学教育学部附属長野小学校学校だより 途 上 連絡先 TEL 251-3350 平成 27年7月3日(金)No.4 FAX 251-3353 早いもので,気づけば夏休みまであと2週間あまり。6学年の谷浜鍛錬会や5学年の根子岳登山が 近づいてきました。夏本番はもう目の前です。 そのような中,昨日,畔上一康副校長先生による講話がありましたので紹介します。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ことわり もっと高く飛べるはず ‐すべての物事には理がある‐ 今日は梅雨の晴れ間となって,夏の太陽が顔を出しています。2週間後に行われる谷浜鍛錬会に 向けてプールで練習する6年生の「エンヤコラ」の掛け声が響いています。土手にはタチアオイの 花も咲き始め,本格的な夏の到来を感じます。 先日,昨年の秋にドローンを飛ばして撮影した映像を盛り込んで,附属長野小学校の紹介ビデオが できました。ドローンで撮影した映像を見てみましょう。(1分ほど映像を流す)この撮影に使った ドローンは,無人で飛行できる航空機の総称です。遠隔操作やコンピュータ制御によって飛行します。 このところ,個人でも購入できるようになり,話題になっています。人間は大昔から鳥のように大空を 自由に飛びたいという夢がありました。このドローンもそんな夢の一つの形です。少し前のこと, 5年2組の皆さんが竹とんぼ作りに挑戦していました。この竹とんぼは,江戸時代に平賀源内という 学者が作ったと言われていますが,実際はそれ以前に世界の様々なところで同じようなおもちゃが あったようです。竹という身近な材料で人の手の動きによって空を飛ぶ竹とんぼは,原始的ながら 優れたおもちゃです。スクリュー型の羽根が回転して飛ぶ仕組みは,基本的にはドローンと同じです。 私も大蔵先生から竹をもらって,何十年ぶりかで竹とんぼ作りに挑戦しま した。いくつか作ったのですが,これがその竹とんぼの一つです。飛ぶ様子は どうか,まず映像で見てみます。(飛ぶ映像:上に飛ばして天井で静止して 回り続ける様子と横に飛ぶ様子)それでは実際に飛ばしてみます。(体育館 のスピーカーの高さ:6mの高さまでとぶ)大蔵先生,感想はどうですか? (大蔵先生:自分が作ったのよりずっと飛んですごいと思いました)私は この竹とんぼを作る前に,どうすればよくとぶ竹とんぼを作ることができるか, これまでの一般的な形に囚われずに,設計してみました。まず空を飛ぶには, ことわり 地球の重力,つまり「重さのある物は落下する」という決まり事, 理 との 戦いがあります。重いと飛びにくいわけです。それには,竹という素材は 大変優れていて,繊維をうまく利用すればかなり細くても,また薄く削っても丈夫です。だからできる だけ軽く作ろうと思いました。そして,次は羽根の形を考えました。羽根の形で思い出したことが ありました。私が確か小学校の4年生の時でした。冬の間,雪遊びやスキー以外は家の中で過ごす ことが多くて,家の中で何か楽しめるものはないか考えて,紙でブーメランを作ったことがありました。 本で調べたわけでもなく,ともかく空き箱の紙を使ってブーメランを作って飛ばしてみました。当時の ことを思い出して,作ってみました。ここに同じ大きさと形の二つのブーメランがありますが,二つ 飛ばしてみます。まず紙をブーメランらしい形に切ったままのものです。 (飛ばす。戻ってこない)形はブーメランのようでも,手元に戻ってきません。 でもちょっと手を加えるとこうなります。(もう一つのブーメランを飛ばす。 手元に戻ってくる。子どもたちの歓声)この二つは何が違うのか。手元に 戻ってきたブーメランは横から見るとこのような形です。このような形の物が 空気の中を動くと,揚力という力が生まれます。羽根の上の空気の流れと 下の流れの速度の違いによって,物を押し上げる力,浮かぶ力が生まれます。 これが揚力です。しかし,この揚力が働くには条件が必要です。それは物が 動く速さ,速度が関係します。速度が速ければ速いほど大きな揚力を生み出し ます。だから,この戻ってくるブーメランもただ投げただけではうまく戻ってきません。掌に置いて, 指で弾くようにして飛ばしたのも,ブーメランの回転の速度を上げるためなのです。当時,小学校 4年生の私は,揚力という力があることは知らなかったけれど,何度も繰り返しやってみながら生み 出したブーメランの作り方や飛ばし方は,その理に適っていたということです。この揚力を生み出す 構造は,飛行機の翼にも生かされています。 さて,竹とんぼの話に戻りますが,この揚力を生み出す羽根にすれば,より 高く飛ぶ竹とんぼができるのではないか。そう考えたわけです。そして,まずは 材料の竹を見ました。そして,竹の幹の丸みを羽根に生かせば揚力が生まれると 考えました。また,羽根の形もプロペラの形に囚われずに,両側それぞれの 羽根の形を飛行機や鳥の羽の形に似せました。また,無駄なくできるだけ長く 回転し続けるために,両側の羽根の重さが同じになるようにバランスを確かめ ながら慎重に削り出しました。そして,もう一つ。羽根の回転ができるだけ長く 続くように,物理学の運動量保存の法則と遠心力が働くように,羽根の先に 竹とんぼ自体があまり重くならない程度の金属の鉛を埋め込みました。また 羽根を貫いている竹籤も,重くなく,でも手の動きが羽根の回転速度に生かされ,タンポポの綿毛の ように安定して飛ぶように,上の方は細く,下の方は回しやすく少し重くなるように太くしました。 そうしてできたのが,この竹とんぼです。つまり,この竹とんぼは,いくつもの自然の決まり事, 理を形にしたものなのです。でも,これは当然のこと,完璧な形ではなく,もっと高く飛ばすことが できるはずです。 人類で初めて動力飛行,空を飛ぶことに成功したのは,アメリカのライト 兄弟です。ライト兄弟は初めから成功したわけではなく,成功するまでに 3年以上もかかりました。この間,「空を飛びたい」という強い願いを 持って,失敗や実験を重ねながらやっと成功に辿り着きました。1903年 12月17日,今から100年以上も前のことです。ファーストフライトに 成功した後,学歴のないライト兄弟が大偉業を成し遂げたことが話題と なりました。ある新聞記者がライト兄弟に「大学の知識なんて発明には邪魔になるだけですね」という 質問をしました。その質問に弟のオービル・ライトは「もし大学の教育を受けていたら,私たちは もっと簡単に成功しただろう」と答えました。ライト兄弟は失敗を繰り返す中で,理を発見して, 飛行機を飛ばすことができました。でも,数学や物理学の知識があればもっと簡単にできたことを実感 したのでしょう。知識がなければ,どんなに願いをもってがんばっても,形にすることはできないと いうこと。知識を身に付け,物事の理を知ることの大切さを,ライト兄弟は身をもって感じたのでしょう。 すべての物事には成り立ちがあり,理がある。どんなに願っても,願うだけでは夢を叶えることは できない。人間は何千年も前から,願いを叶えるために,失敗を繰り返しながら,様々な理を発見し, 新らたなモノを生み出してきました。そうして生み出されたモノによって,私たちの生活は大変便利に なりました。便利になったことは間違いないことです。でも果たして人間の暮らしは本当に豊かに なっていると言えるのか。私は便利さと引き替えに,自分で考えること,自分で発見する機会が失われ, ときにモノに操られ,支配されている自分がいるような気がします。例えば,電子ゲーム。電子ゲームに 内蔵された電子頭脳は,恰もその中で遊んでいる感覚を感じさせてくれます。でもそれは開発した プログラマーによって既にプログラムされたものです。例え操作が上手で点数をたくさん取れたと しても,それはプログラマーが考えた世界の中のことです。そこには新たな理の発見はない。つまり, 遊んでいるようでいて,実はゲームに遊ばれているわけです。 かな たかがおもちゃの竹とんぼ。されど竹とんぼ。竹とんぼには竹とんぼの理がある。でも理に適わな ければ,竹とんぼは竹とんぼになれない。「もっと高く飛ばしたい」そんな願いを形にしていくとき, そこには自ずと理の発見がある。そして,その理の発見は,人真似の及ばぬ新たな形を生み出していく。 モノが豊かな今だからこそ,どうせ遊ぶなら,モノに遊ばれる人にはなりたくない。借り物でない 自分の頭と体で遊ぶ人にしか,物事の理は見えてこない。そう思います。今日の話は,これで終わりに します。 (平成 27 年 7 月 2 日 全校朝会 副校長講話)