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小水力発電(発電機)

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小水力発電(発電機)
小水力発電(発電機)
研究者
秋山
晟
戸田
雅己
指導者
村上
安達
紘基
隆太
研究の動機
小水力発電(マイクロ水力発電)とは、ダムや大規模な水源を必要とせず用水路や小河川を
利用した発電方法である。
日本の電力の割合は火力発電による電力が約 80%を占めているが、地球温暖化の原因となる
温室効果ガスを大量に排出する。一方水力発電によるエネルギーは再生可能であるとともに、
温室効果ガスを排出しないという利点がある。しかし、ダムの建設により周辺地域の水没、流
量や排砂量の減少、生態系に影響を及ぼすなどの問題がある。
木曽は水路や小河川が豊富な地域であるため、これらの課題を解決できる小水力発電に注目
した。
研究の目的
・コイルの巻き数や磁石の大きさを変化させ、 一般的なハブダイナモ の性能を超えるエアギャ
ップ発電機を製作すること。
・コイルの巻き数や磁石の大きさを変化させた時の電力を比較し 、より沢山の電力を生じさせ
る発電機の設計を考える こと。
発電の原理
発電機は電磁誘導の現象を利用したものである。
コイルを貫く磁場が時間とともに変化するとき、コイルに電流が流れ、起電力が生じる現象を、
電磁誘導といい、電磁誘導によって生じる起電力を誘導起電力、流れる電流を誘導電流という。
[電磁誘導の法則]
・
(レンツの法則)誘導起電力は、誘導電流の作る磁場が、コイルを貫く磁束の変化を妨げる
向きに生じる。
・(ファラデーの電磁誘導の法則) 誘導起電力の大きさは、「コイルの巻き数」と「コイルを貫
く磁束の単位時間あたりの変化量 」との積で決まる。
実験方法
[発電機の作成]
コイルの大きさや巻き数、磁石のサイズを変えることによって発電量が異なるので、 そ
れぞれ大きさが異なる3 つの発電機を製作した。
6-1
発電機の材料
・エナメル線(1号機:φ1mm)
・ベニヤ板
(2・3号機:φ0.3mm)
・ネオジム磁石
・シャフト
(1・2号機:φ5mm,t3mm)
(3号機:φ10mm,t2mm)
・アルミ板
・アルミワッシャー
・鉄板
・シャフトカラー
(t4mm)
(φ8mm)
これらの材料を用いてエアギャップ発電機を作成する。 シャフトとは発電機の軸となる
部分に用いられる。シャフトは発電機の軸となる部分で棒状のものである。アルミワッシ
ャーは、ドーナツ状のもので 薄く、シャフトに通せるようになっている。
シャフト
アルミワッシャー
① 治具作成
・コイルを巻くための道具である治具を釘とベニヤ板で作成する。
② コイル作成
・作成した治具を用いてコイルを手で巻く。
1号機のコイル
2号機のコイル
6-2
3号機のコイル
治具を用いてコイルで巻く様子
③ ローター作成
ローターとは磁石を鉄板とベニヤ板で固定したものである。ローターが回転することで
コイルを貫く磁束が変化し、誘導起電力が生じる。 作成方法を以下に示す。
・ベニヤ板と鉄板を丸く切り、ドリルで真ん中 にシャフトを通すための直径8㎜の
穴を開ける。
・円形のベニヤ板の外側に 、ドリルで磁石の直径と同じサイズの穴を開ける。
ローターの片面には鉄板を 接着剤で固定し、磁石が動かないようにした。
ローターの全体の様子
ローターの裏面
④ ステーター作成
ステーターとはコイルを含み回転しない部分である。ベニヤ板を丸く切り、 ドリルでシ
ャフトの直径8㎜よりも大きい穴を開けた。
(一号機・二号機は2㎝程度、三号機は4㎝程
度である。シャフトの直径よりも余裕を 持って穴を開けることによって、発電する際に、
軸であるシャフトが円滑に 回転できる。)
円形のステーターの外側にコイルを固定するための穴を開けた。
⑤ コイルの固定
作成したコイルをステーターの 穴に入れ、固定した。固定の方法は、一号機はボンド、
二号機は糸、三号機はガムテープを用いた。
6-3
1号機の固定の様子(ボンド)
2号機の固定の様子(糸)
3号機の固定の様子(ガムテープ)
ステーターの全体の様子
⑥ コイルの配線
回路に電流を流すため、固定されたコイルから出ている2本の銅線の 被覆をヤスリで剥
がす。
(先端から3㎝程度)次に、隣り合ったコイルの銅線をつなぐ。一カ所は、銅線をつ
ながず、実験で発電した際に、データが測定できるようにした。
⑦ 発電機の組み立て・完成
ステーターをローターではさむようにして、シャフ トに通す。2つのローターの間には、
アルミワッシャーを用いて、 ギャップ(空間)を作る。ギャップは、磁束の変化を、なる
べく大きくするために、向かい合っているローターの磁石同士がなるべく 近く、また付い
てしまわない位置にとれるような幅にした。この際に、 アルミワッシャーの枚数を変える
ことで、幅を調整した。 次に、シャフトに通した部品をシャフトカラー で固定し、発電機
の完成となる。ローターはシャフトが回転すると連動して回転するようにし、ステーター
はシャフトを回転させても、動かないようになっている
6-4
発電機(横)
発電機(正面)
シャフトカラー
製作した3つの発電機の仕様は次の通りである。
コイル
巻き数
コイル
個数
コイル
直径
(cm)
コイル穴
[縦/横]
(cm)
磁石
個数
1号機
60
9
3.4
1.0/1.5
12
6
13
21
2号機
200
12
2.5
0.7/1.0
12
6
13
21.5
3号機
350
18
4
1.5/2.0
18
6
30
40.5
ギャップ ステーター ローター
(mm) 直径(cm) 直径(cm)
[発電の方法]
10Ωの抵抗を含む回路につなぎ、 2 つの方法でローターを回転させ発電する。 回転数の測定
には、デジタルタコメーターを用い、抵抗・電流・電圧の測定には、デジタルマルチメーター
を用いた。実験の方法を以下の A,B,とする。
A: 組み立てた3つの発電機の性能を比較するため、200rpm までの回転数でそれぞれ発電さ
せ、電力を測定する。
B: コイルの巻き数による発電量の違いを比較するため、1~3号機のコイル一つを取り出し
て、一定の回転数、同じ磁石を用いてローターを回転させ、発生した電力を測定する。
6-5
データの測定の様子
実験の回路図
結果
(A)図1は 3 つの発電機をそれぞれ発電させ 得られたデータを比較したものである。2
号機に対して、3号機はコイルの巻き数が 1.75 倍、コイル と磁石の個数が 1.5 倍 、
コイルの穴のサイズが約 2 倍だが、 回転数(rpm)が 100 の時に、3号機は2号機の
電力の 28.9 倍になった。
電力比較
80
W(×10^-4)
図1
70
60
50
1号機
40
2号機
30
3号機
20
10
0
0
20
40
60
80 100 120
回転数(rpm)
140
160
180
200
(図1:発電機の電力)
6-6
(B)図 2 は各発電機から一つずつコイルを取りだし、 3 号機のステーター、ローターを用
いて発電させたデータを比較したものである。3 号機のコイルは 2 号機のコイルの 1.75
倍の巻き数である。回転数( rpm)が 100 の時、3 号機のコイルの電力は 2 号機のコイ
ルの電力の 18.75 倍になった。
同条件でのコイル一つあたりの電力比較
(W×10^-4)
60
図2
50
40
1号機
30
2号機
20
3号機
10
0
0
20
40
60
80 100 120
回転数(rpm)
140
160
180
200
(実験 B:コイル一つあたりの電力 )
コイル一つの電力がすべて全体の電力として足しあわされた場合 の発電機全体の電力と、
実際に測った発電機全体の電力を比較するため、 コイル一つあたりの電力から発電機全体
の理論上の電力を算出し た。図 3 は理論値と実測値と比較したものである。 理論値とはコ
イル一つの電力を、2号機なら12倍、3号機なら18倍 をして、それぞれの発電機の回
路に含まれる全てのコイルが、最大に利用され発電している時の値として求めた値である。
二・三号機共に、実測値が理論値の 10 分の 1 以下になった。
2号機・3号機 測定値-理論値(W×10^-4)
1200
図3
1000
2号機
測定値
2号機
理論値
3号機
測定値
3号機
理論値
800
600
400
200
0
0
20
40
60
80 100 120 140 160 180 200
回転数(rpm)
6-7
100rpm
W (×10^-4)
2号機-測定値 2号機-理論値 3号機-測定値 3号機-理論値
1
9.6
28.9
270
考察
実験結果は、想定値の10の1以下の電力であった。そこで、コイルの右巻き・左巻き
を考慮せずにステーターに配置した事が主な原因であると 考えた。
① 理想的なコイルの配置
・電磁誘導によってコイルに流れる誘導電流の流れる向きは、コイルに、磁石を近づける
ときと、遠ざけるときでは逆になる。また、コイルに近づける 、もしくは遠ざける磁石が、
N 極か S 極かでも逆になる。コイルも右巻き、左巻きという巻き方の違いによって、磁石
の同じ極を入れたときに流れる電流の方向が逆になる。 今回作成した、発電機のローター
には、磁石を N 極、S 極、N 極・・・というように交互に入れた。そのためステーターの
コイルは、隣り合うコイルが右巻き、左巻き、右巻き・・・のように配置すれば、 発電し
た時にすべてのコイルに同じタイミングで同じ方向の電流が流れると考えられる。
② 三号機のコイルの配置
作成した三号機のステーターに含まれるコイル
の巻き方を調べたところ、右 図のような状態に
なっていた。ステーターのコイルの配置が、発
電をする際に、最も理想的な右巻き、左巻き、
右巻き・・・というように、隣のコイルの巻き
方が、同じになっていない部分もあるが、左巻
きコイルが7つ、3つと続いてしまっている部
分があった。
ゆえに、18 個のコイルのうち、4 組 8 個が誘導起電力を相殺し合う。残り 10 個のコイル
で電力を得たとすると、100rpm で 15 mW になるはずである。実測値はこれの 19%であ
るから、コイルの左巻きと右巻きの配置以外に電力を小さくする原因がある 。
③ その他の原因
・磁場とコイルの運動方向が直角でない(ローターがステー ターに対して平行でない)ことに
より、磁束密度の変化速度が小さくなった。
・ステーター内で隣り合うコイルの穴の中心同士の角度がちょうど 20 度になっていない、コ
イルが左右対称でないことにより、一つのコイルで生じた誘導起電力の位相が揃わないため、
単純にコイルの数に比例して電力が大きくはならなかった。
6-8
結論
右の表は、回転数が 80rpm のと
きに生じる電力の比較をしたもので
ある。
80rpm
W
ハブダイナモ 3号機-実測値 3号機-理論値
1.16
0.0019
0.0175
・回転数 80 rpm のとき、ハブダイナモの 電力が 1.16 W であるのに対して、実際に組み
立てた発電機のよる電力(実測値)はその 1/550 の 1.9 mW である。
・回転数 80 rpm のとき、ハブダイナモの 電力が 1.16 W であるのに対して、1つのコイ
ルから生じる電力から予測される 電力(理論値)は 1/66 の 17.5 mW である。
以上の結果から、本実験で作成したエアギャップは、市販のハブダイナモの性能を超え
ることはできなかった。
・本実験の結果から、発電機を大きくしてコイルの巻き数・個数、磁石の大きさ・個数 を
増やすことによってより多くの電力が得られるということが言える。しかし サイズが大き
くなること、コストが増大することを考えると 発電機を単純に大きくするだけでは、 実用
化はできない。
今後の課題
・回転数 80rpm の時に、一般的なハブダイナモの性能である 1.18W を超えることができ
るように、巻き数が多く、穴が大きなコイルと、コイル穴に相当するサイズの磁石を用い 、
緻密な設計をし、4号機を製作する。
・発電に最も理想的である右巻き、左巻き、右巻き・・・というコイルの配置にしたとき
の電力は、今回は計算で求めているので、実際に測定し、計算で求めた値や、理論値と比
較する。
・コイル一個で発電したときに、単純にコイルの巻き数倍にならなかったことの原因を解
明する。
・今回の実験では、小水力発電としての発電機の使用を考えて、発電機を製作しなかった。
ローターが重いほど回転するのに必要な力は増加するため、水車を用いて発電することを
考え、発電機を軽量化させる。
謝辞
本実験は担当教員のほかに、以下の方々にご指導を頂きました。
・理科森田先生には、電動のこぎりを貸して頂き、ベニヤ板の切断をさせて頂きました。
ありがとうございました。
・インテリア科の諸先生方に、電動ドリルと自在鉤の使用をご指導頂きました。 ありがと
うございました。
参考文献
6-9
中村昌広 著
自分で作る自家発電
株式会社
総合科学出版
中村英二 著
高等学校物理
株式会社
第一学習社
千矢博道 著
これからやりたい人の小型水力発電入門
株式会社
パワー社
石田正 著
200W 水力発電装置を作ろう
株式会社
パワー社
6-10
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