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8月号
J-NET21
人脈・知脈・運脈を幅広く活かす自主勉強会
8月号
2016年
8月
1日
発行人 大澤、関口、佐藤、佐々木
・ は じ め に
旧暦の八月一日は八朔です。八朔の「朔」は新月のことで、すなわち八月の新月の
日ということです。旧暦では一日が新月、十五日が満月でしたが、新月は真っ暗でわ
かりにくいので、満月からさかのぼって定めていました。そのため、一日を「朔」と
いいます。この日、茶の湯ではみな家元のところに集まります。八月はお稽古はお休
みですから、そのごあいさつとともに、暑い八月を凌いでください、と冷麦などを持
っていくのですね。お稽古は休むといっても、茶会はしますが、そこではいかに涼し
く感じてもらえるかに気を配ります。朝茶事は、文字通り明け方に行う茶事です。日
の出前の五時頃から、暑くなり始める八時ごろまでに行います。茶事は茶会と違っ
て、炭点前に始まり食事、休憩を挟んで濃茶、薄茶と続く正式なもので、四時間ほど
はかかるのですが、朝茶事は少し時間が短いのです。それもあって、全体にあっさり
と、淡々と進めていきます。全体に、ふんだんに水を使って、水を見せます。茶庭に
たっぷりと水を撒き、簾は水に濡らしておいて、風炉釜はできるだけ小さいものを選
んで火を感じさせないようにします。また、水指の蓋に蓮や芋などの葉っぱを使った
り、蓋置は青竹を使って爽やかに、お菓子は葛を使って見た目も食感も涼しげに、と
あらゆるところで涼しく感じられるように工夫するのです。涼しくするのではなく、
あくまでそう感じられるように。それが茶の湯の特徴です。もう一つ、早朝に始める
というのは、自然を行事に合わせるのではなく、行事を自然の流れに合わせるという
意味でもあります。
今月は今年の後半の目標を軌道に乗せる時期であります。皆さんの今年の初めに作
成した目標は達成されつつありますか、追い込み・変更は必要ないですか。季節は最
も過酷な暑さ・湿度との闘いの時期でもあります。心身の健康に気を付けて乗り切り
ましょう。このようなことを考えてJ-NET21を盛り上げていきますので、会員
皆様の協力・提案をどんどん出していただき、”J-NET21”を益々充実した内
容にするべく協力をお願い致します。
・ 共 通 勉 強 課 題
共通課題のテーマの発表会が5月に行われました。一年間の勉強・討議した内容が
反映された良い発表だったと思います。次回の共通課題の選定について議論をしまし
ょう。
1)ことば・文学の力:大澤 関口 佐々木 鈴木由郎 海老名 鈴石 大鶴 丸山 芦垣
2)防
災:佐藤 竹牟礼 岡部 石綿 石井 鈴木良男 井出 田中 小林
3)終
活:北川 遠藤 山形 長谷川新吾 長谷川淳 黒木 東 林 鳴川 櫻井
・ 前 勉 強 会 の 確 認 事 項
7月09日(土)~10日(日)236回”自然観察会”が行われました。勉強内
容を記載いたします。詳細内容は会員全員に配布しましたが、ご要求があれば世話役
に連絡下さい。
-7月09日(土)~10日(日)(第236回):
・勉 強 会 内 容 :1)全体連絡事項・検討事項
2)自然観察会会(立山アルペンルート散策)
3)懇親会
・勉 強 会 会 場 :黒四ダム・大観峰・室堂他(JR東京駅7:24出発)
・参
加
会
員 :大澤 関口 佐藤 鈴石 石井 竹牟礼 林
・次 回 勉 強 会 :平成28年8月20日(土)(第237回)
文京区シビックセンター障害学習室3C会議室
・ 勉 強 会 の 概 要
7月09日(土)~10日(日)に”自然観察会が行われ、概要を下記に記します。
一日目は宇奈月から鐘釣迄トロッコ列車で中国の墨彩画のような黒部峡谷を眺めなが
ら自然を満喫しました。鐘釣りでは河原の露店温泉、地元名物の地酒を味わい自然と
の一体感を体験しました。二日目は熊谷組が挑んだ「黒部の太陽」の坑道の破砕帯を
通過し観光放水で虹の架かる黒四ダム、大観峰からの鹿島槍~野口五郎岳のパノラマ
の絶景、その中を飛び交う岩燕、室堂での雷鳥の親子、雄山~剱岳のみくりが池に写
る逆さ連山、弥陀ヶ原の高層湿原・称名の滝などどれをとっても感動の連続でした。
山肌、室堂には残雪がかなりあり、青い空・山の緑・渓谷のエメラルドグリーン・ニ
ッコウキスゲの黄色など自分が壮大な絵の中にいるような錯覚さえ覚える大満足の自
然観察会でした。
・ ち ょ っ と 気 に な る 話
「運を天に任せない。どんなに苦しくても、神頼みにして諦めたりしない」につい
てお話しましょう。
佐藤研一郎は東京都で生まれた。父親は新交響楽団(現在のNHK交響楽団)でバ
イオリニストをしており、母親も自ら琴を弾くなど音楽好きだった。佐藤もその影響
を受けて六歳からピアノを習い、学生時代に毎日音楽コンクールに二度挑戦。しかし
二度とも優勝できなかったため、ピアニストになることを諦めたという。
だが、十年以上ピアノ一筋に生きてきたため、佐藤は人と接するのが苦手な青年に
なっていた。大学生にもかかわらず、挨拶さえまともにできないありさまだった。こ
れではいけないと考えた佐藤は、話し方教室へ通って他人との接し方を学んだとい
う。また、大学時代に小型抵抗器を考案して実用新案を取得。1954年に大学を卒
業すると、この小型抵抗器を製造・販売する東洋電具製作所を個人創業。大企業との
取引が増える中、1958年には株式会社に改組して代表取締役に就任した。
その後も順調に売り上げを伸ばしていた同社は、ICの製造に乗り出すことを決
定。ところが、1973年に発生した第一次石油ショックで業績が急激に落ち込み、
しかもICの開発費が膨らんだために倒産の危機に直面した。
薄氷を踏むような毎日が続いたが、五年かけてようやく窮地を脱出。1981年に
は社名をロームに変更し、その二年後には株式上場を果たした。
自ら音楽家を目指していた頃から、1991年に若手音楽家を育成するためにロー
ム・ミュージック・ファンデーションを設立。この財団の設立に際し、佐藤は私財の
大半を注ぎ込んだといわれる。
窮地に陥ったとき、「運を天に任せる」と言って逃げてしまう人がいる。だが、そ
んなことをして幸運が降りて来るわけではない。
人と接することが苦手だった佐藤は、そんな道は選ばなかった。資金調達のため毎
日のように銀行へ顔を出し、粘り強く交渉を続けた。運は天がもたらすものではな
く、自ら交渉や努力によってもたらすもの。「運を天に任せる」という言葉は「諦め
る」と同義で使ってはいけない。
出典:ビジネス哲学研究会「心を揺さぶる名経営者の言葉」PHP文庫
・ 遊 び の 種 :
「名山に咲く名花」:今月はイイデリンドウ(飯豊竜胆)。東北の名山、飯豊山の特
産種として知られる。ミヤマリンドウの変種と言われ大きく、山と渓谷社の『高山に
咲く花』には、ガク裂片の先は平開しないと書かれている。喜多方市経由で、川入
(かわいり)から地蔵岳を経て、三国岳に登るが、食料、寝袋、カメラ機材の荷重で
三国小屋泊まりとなった。しかし小屋の周囲は高山植物が豊富で、目指す飯豊山や大
日岳の夕焼け空が美しい。翌日は、種蒔山を経て、切合小屋に着く。小屋から草履塚
へ登り、飯豊山への最後の登りである。見事な高山植物が群落で広がり、撮影に時間
がいくらあっても足りない。そして最大の目的花イイデリンドウが迎えてくれた。初
めて訪れたときは、百名山時代ではなく、ひっそりした静かな山だった。
・ こ ん な テ - マ も あ り ま す ! !
今月は「遺伝子ビッグデータ~生命科学を飛躍させる巨大データベース」について
お話しましょう。
ビッグデータが生命科学においても流行語になってきている。遺伝情報の取得量が
爆発的に増えてきているからだ。それに伴い、ビッグデータをストックするデータベ
ースも改良が進められている。そこで、遺伝情報のビッグデータとその成り立ち、さ
らにビッグデータの解析・活用を支えるデータベースを取り上げたい。
DNAの遺伝情報を読み取る方法には20年以上の研究の歴史があり、1980年
に今や古典的と言われる方法を開発したウオルター・ギルバートとフレデリック・サ
ンガーがノーベル化学賞を受賞している。フレデリック・サンガーは、タンパク質の
アミノ酸配列の決定法を開発し、インスリンのアミノ酸配列を決定したことで58年
にもノーベル化学賞を受賞しており、2度のノーベル化学賞を受賞した唯一の人物で
ある。
1)ヒトゲノムの膨大な情報:
開発されたDNAの遺伝情報読み取り方法は、手動で行われ大変手間のかかるもの
であったが、87年に米国アプライドバイオシステムズ(ABI、現ライフテクノロ
ジーズ)が全自動で遺伝情報を読み取るDNAシーケンサーという装置の開発に成功
したおかげで、容易にDNAの遺伝情報を取得できるようになった。
そこで、90年にはDNAシーケンサーを用いてヒトのゲノム(全遺伝情報)を解
読するという国際プロジェクト、ヒトゲノム計画が提案されるにいたった。ヒトゲノ
ム計画では、世界中で手分けしてDNAの遺伝情報となるA(アデニン)、T(チミ
ン)、G(グアニン)、C(シトシン)の各塩基の配列を解読していった。世界各国
が協力して解読された塩基配列情報は膨大なものとなり、まさに、ビッグデータとな
った。
同時期には、クレイグ・ベンターが率いる米国セレラ・ジェノミクスもヒトゲノム
解読競争に参戦し、彼らは国際プロジェクトとは異なる戦略ではあったが、大量のD
NAシーケンサーを用いて遺伝情報のビッグデータを取得した。国際プロジェクトも
セレラもビッグデータからヒトゲノム解読に同着で成功し、2001年2月に、国際
プロジェクトは『ネイチャー』誌に、セレラは『サイエンス』誌において成果を発表
した。ヒトゲノム計画が進められていた時期はいわば、生命科学におけるビッグデー
タの創成期といえるだろう。この時期には、取得データの公開を定めるバミューダ原
則の制定、遺伝情報の集積・公開を担うデータベースの整備、ビッグデータ解析方法
の開発、バイオインフォマティシャンとよばれるデータサイエンティストの育成な
ど、現在の生命科学ビッグデータ時代を支えるさまざまな仕組みがつくられた。
なかでも、生命科学ビッグデータ時代におけるデータベースの役割に焦点を当てて
みたい。DNAの塩基配列情報は、日本DNAデータバンク、米国立生物工学情報セ
ンター、欧州バイオインフォマティック研究所の3組織からなる国際塩基配列データ
ベース協力体制が運営するデータベースに蓄積されており、発足当初の92年1月に
は1億塩基未満だった登録配列情報は、14年12月には1800億塩基を超える生
物の配列データが登録されている。
このようなビッグデータ・データベースが何の役に立つのかという問いに答えるの
は医療応用研究などに比べると難しいが、研究基盤として重要な役割を果たしている
ことは間違いない。
2)iPS細胞作製にも貢献:
例えば、00年に理化学研究所が中心となり設立した国際共同研究コンソーシアム
が研究開発・運営をしているFANTOM(ファントム)というデータベースだ。F
ANTOMは、さまざまな生物の組織や細胞内での遺伝子の働きに関するビッグデー
タ・データベースで、これを活用してRNA新大陸の発見、iPS細胞作製の際に使
われた四つの遺伝子(通称、山中因子)の発見などがなされた。
RNA新大陸とは、これまで役に立たないとされていた非遺伝子領域からもRNA
(リボ核酸)という物質がつくられており、非遺伝子領域も何かしらの役に立ってい
る可能性を突き止めた新発見のことで、林崎良英理化学研究所主任研究員が生命科学
界にもたらしたブレークスルーである。また、山中伸弥京都大学教授は、iPS細胞
作製に必要な候補遺伝子を絞る際にFANTOMを利用していた。万能細胞の一つで
あるマウスES(胚性幹)細胞の万能性維持に使われていて、万能性をもたなくなっ
た生後のマウス細胞では使われていない遺伝子を、両方の細胞のデータを比較してい
くことで見つけるという戦略をとった。
戦略自体はシンプルだが、さまざまなマウス細胞とそこに含まれる遺伝子に関する
ビッグデータがなければ成し遂げられなかったのは明らかだ。山中教授は最終的に2
4の候補遺伝子に絞り込むことに成功した。その後は実験により四つの遺伝子に絞ら
れたのだ。
FANTOMは、初代のFANTOM1からFANTOM5にまで進化をとげてい
る。05年2月には、遺伝子スイッチをONにする仕組みの詳細を解明した最新成果
が『サイエンス』誌に掲載され、データベースにそのデータが公開されるなど、今も
なお着実に進化し続けている。
ビッグデータは宝の山だが、それを扱いやすく提供するデータベースと林崎主任研
究員や山中教授といったデータサイエンティストの素養をもった研究者との出会いが
あって初めて価値が出てくるものだ。
また、生命科学におけるビッグデータは、研究室や研究所といった小さな単位から
生み出されるデータを集積してつくられるという特徴がある。。ビッグデータを生み
出す粒子加速器や望遠鏡といった大型装置自体の数が限られている素粒子物理学や天
文学とは決定的に違うところだ。
小規模データの集積によるビッグデータ構築という一見地味な研究開発が前述のよ
うなブレークスルーを支えていること、また、生命科学におけるビックデータ・デー
タベースにおいて日本が国際的地位を築きあげてきたことに大いに敬意を払いたい。
また、研究基盤は十分にあるので、第二の山中教授ともいえる、データサイエンティ
ストとしての能力も十分に有する研究者が生まれてくることにも大いに期待したいと
ころだ。
出展:「「エコノミスト」-(3月24日-2015)」毎日新聞社刊
・ 書
評
皆さんがお読みになった本で感動したり、役に立ちそうなど会員の皆さんに紹介
したい本があったらとして設けた欄です。ぜひ、皆さんも本欄に応募して下さい。
- 『 SuperFreakonomics 』 Steven D. Levitt & Stephen J. Dubner(Harperluxe):
「経済学の視点でおもしろい結論を見せてくれる本」
シカゴ大学にスティーブン・D・レヴィットという経済学の教授がいる。ハーバー
ド大学を卒業し、マサチューセッツ工科大学で博士号を取った秀才だ。レヴィットは
これまで数多くの論文を書いてきたが、その内容がおかしい。曰く『ドラッグ売人ギ
ャングの財務についての分析』(クオータリー・ジャーナル・オブ・エコノミックス
2000年)、『黒人が黒人特有の名前をつける理由と結果』(クオータリー・ジャ
ーナル・オブ・エコノミックス2004年)など、レヴィットは普通の経済学者とは
違った視点で世の中を見ているようだ。
☆
彼はお金の動きというものにはあまり関心がなく次のように語っている。
「経済のことはあまり知識がなく、数学もあまり得意ではない。計量経済学について
も多くの知識はない。もし、これから株の市場が上がるか下がるか、経済が拡大する
か縮小するか、デフレは良いか悪いかなど聞かれて、それに分かったような答を言え
ば嘘をつくことになる」
レヴィットは変わり種の経済学者と言えるが、アメリカの学術界も懐が深く、そん
なレヴィットにジョン・ベイツ・クラークメダルを贈っている。この賞は40歳以下
の最も優れたアメリカ人経済学者に贈られる賞だ。また、レヴィットは、特定のデー
タから資金洗浄をおこなう者やテロリストの居場所をつきとめるようCIA(中央情
報局)の依頼を受けたりもしている。
☆
そ の レ ヴ ィ ト が ジ ャ ー ナ リ ス ト の ス テ ィ ー ブ ン ・ J・ ダ ブ ナ ー と 共 著 に よ る 本 を 出
版 し た 。 タ イ ト ル は 『 SuperFreakonomics』 。 Freakonomicsと は Freak( 風 変 わ り ) と
い う 英 語 と Economics( 経 済 ) を 合 わ せ た 造 語 だ 。
こ の 『 SuperFreakonomics』 は 2 0 0 5 年 に 同 じ コ ン ビ で 出 版 さ れ た 『 Freakonomic
s』 の 続 編 と な る 。 日 本 で も 『 ヤ バ い 経 済 学 』 と い う 邦 題 で 翻 訳 さ れ て い る の で ご 存
知の方も多いだろう。
前作では「学校の教師と相撲力士の共通点」「白人至上主義の秘密結社クー・クラ
ックス・クランと不動産業者はどこが似ているか」「ドラッグ・ディーラーは何故母
親と暮らしているか」などの命題に経済学の手法で興味深い答えを出している。
☆
今 回 の 『 SuperFreakonomics』 で も レ ヴ ィ ッ ト と ダ ブ ナ ー は 面 白 い テ ー マ を 追 っ て
いる。まず「ストリートの娼婦とデパートに現れるサンタはどこが似ているか」とい
う命題。
本ではアメリカの歴史から、1890年代から1920年代の娼婦の収入を追って
いる。この時代娼婦はだいだい1週70ドルを稼いでいた。これを現在の価値に置き
換えてみると年収7万6000ドルとなる。また、高級娼婦の家として名を馳せたエ
ヴァリー・クラブに働く娼婦は1週400ドルを稼いでいたという。これはなんと今
の年収の43万ドルに値する。何故、セックスの価値がこれほど高かったかという
と、これは需要と供給の差にあった。当時、結婚の目的から外れセックスを許す女性
は非常に少なく、一方、男性のセックスの欲求は、まあ、現代と変わらないと言って
いいだろう。また、法律も娼婦だけを罰するもので、娼婦になることは社会的な将来
を捨て、捕まる危険も一手に引き受けることを意味していた。
その娼婦業界に価格破壊が訪れたのが60年代だった。社会的モラルの規制が緩く
なり、フリー・セックスが声高に叫ばれた時代だ。世間には無料でセックスを提供す
る女性が多くなり、需要と供給の差が縮まった。娼婦たちにとっては一般女性(無料
のセックス)という手強い競合相手が市場に出現したことになる。
もし娼婦業界が他の業界と変わらなければこの時、農家や工業界が政府に訴えを起
こしたように「娼婦保護法」を提唱し、一般女性からの無料セックスに歯止めをかけ
る法案の通過を政府に訴えたはずだと著者は言う。しかしそんなことは起こらず、需
要と供給のバランスは崩れ、現在ではシカゴ地区の統計によると娼婦との通常のセッ
クスの値段は約80ドルだという。
しかし、毎年7月初旬にその値段は一気に30%上昇する。その理由は、アメリカ
の独立記念日にあたる7月4日は人々が集まり、叔母の手作りのレモネードを飲むだ
けでは飽き足らない人々がセックスを求めて通りに出るからだ。
これが先ほどの「ストリートの娼婦とデパートに現れるサンタはどこが似ている
か」という命題の答えだ。答えはどちらもホリデイ・シーズンに需要が高まり、価値
が高まるというもの。
☆
また、「自爆テロリストは生命保険をかけたほうがいい理由」の命題では、何故
自爆テロリストが貧困の低所得層からではなく、ある程度の教育を受けた中産階級の
出身者たちなのかを探っている。その答えとして自爆テロリストは選挙の際に投票を
おこなう人々と同じ階層だと結論づけている。
そして国外に潜む自爆テロリストは「家を持たない」「金曜日にATMから週末用
のお金を引き出さない」「普通預金口座を持っていない」「モスリム系の名前であ
る」そして「生命保険をかけていない」などの特徴があるという。そのため、自分が
テロリストであることを見破られないためには名前を変え、家族に対する生命保険を
かけることは有効であるとしている。
☆
そのほかにも「酒酔い運転と、酔って徒歩での帰宅とはどちらが危険か」「子供の
生まれる月とその子供の将来の関係」「カンガルーを食べることで地球は救えるか」
などの命題に経済学の視点からの興味深い答えを出している。
☆
優れた経済学者とジャーナリストの鋭い分析と巧みな文章により社会や人間の違っ
た側面をみせてくれる、一般の人でも楽しめる本だ。
・ 編 集 後 記
-2020年の国立競技場はウッド(木材)を中心に建設されるという。現在、日本
では第二次世界大戦後に植林した人工林が伐採期を迎え、豊富な林産資源を生かす好
機にある。林野庁の「木づかい運動」、林業界の「ウッドファースト」宣言など、
「木」の活用を推進する動きがあるなかで、今、「木」にどう向き合うべきか。
・日本の山林をめぐる混迷:日本の地域創生は、日本の山を生かすかどうかにかかっ
ている。日本の山の死活は、日本人が木を使うかどうかにかかっている。それは、日
本人が昔のようにたくさん木を使って山の木の新陳代謝をうながすかどうかである。
日本列島は第二次世界大戦中にたくさん木を伐ってしまったので、戦後一千万ヘク
タールほどを植林した。つまり国土の三~四割が人工林になったのだ。ところが材木
を得るために植えたはずの森林があまり使われずに外材がどんどん日本に入ってきて
いる。結果、植えた木は立ち枯れ、線香林と言われる細い木になり、平野部にまでス
ギ花粉を撒き散らしている。また大雨が降ったら山崩れを引き起こし、利根川洪水の
ような大水害の原因にもなっている。山里の村や町も大きな収入源を失って衰退し、
あるいは分解していくだろう。おかしな話ではないか。このような現状を見て私は
「地方創生は山の問題で山は木の問題だろう」と思う。林業が正常に機能していれ
ば、つまりちゃんと木を伐って、その後に新しい苗を植えて、それをちゃんと管理し
ていけばうまくいくはずのものが、現状はそうなっていない。これは一体どういうこ
となのだろうか?
・「木の建築」再生に向けて:戦後せっかく一千万ヘクタールもの植林をしたのに、
その山林はいろいろの問題を抱えている。そして片や鉄やコンクリートの建築が増え
ている。もちろん日本は昔から木の家を大事にしてきた国だから今も住宅などには木
を使っているが、それもどんどん外材に変わってきている。また従来の木材ではなく
木質の工業製品も次々に出てきており、それに多く外材が使われていて「木の国の日
本」が、何が何だか訳のわからない状態になってきている。そうして片や地方はどん
どん衰微していっている。こういう状態をどう考えたらいいのか。そこで、改めて建
築に広く木を使う運動「ウッドファースト」を提唱したい。とりわけ人間の健康や都
市の環境などにたいして優れた貢献をする「木の良さ」を強く訴えたい。そのために
「火事に弱い、地震で倒れる、津波で流される、朽ち果てていく」などといった木の
持つ弱点を現代科学技術によって克服し、新しい生産技術を拓き、法整備を進め、大
小の産業を興し、流通過程を整備し、建築主と建築家の発憤を促し「木の建築」の再
生に貢献したいのである。縄文遺跡に見る数々の巨大木柱、諏訪大社の四本の御柱、
出雲大社の心御柱、出雲神宮の棟持柱、多くの神社のご神木、日本家屋の大黒柱など
は、神の降臨する依代であるが、同時に何千年もの長い間の日本人の生活空間の要で
あり、人々の心の支えであった。そういう日本建築における柱の持つ意味をこのさい
思い起こし、改めて木と日本文化の深さを知るとともにその現代化を考え、そうする
ことで山々とその里の活性化を図り、地方創生を、日本の明るい未来を期待したい。
J-NET21は皆が支える勉強会です!
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