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公立美術館における非有料展示空間の動向と利用実態に関する研究

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公立美術館における非有料展示空間の動向と利用実態に関する研究
公立美術館における非有料展示空間の動向と利用実態に関する研究
玉田 圭吾
1.研究の背景と目的
表 1 調査方法と調査対象
調査対象
建築雑誌「新建築」および「建築設計資料 13
49 102」から図面を収集した美術館連絡協議会
加盟の 79 館
空間構成の分析
アンケート①
上記 79 館に対して実施した。
回答が得られた 57 館(72.2%)
無料展示の実施状況
の把握
アンケート②
観察調査
O 美術館 (2015 年 12/10、12/13)
K 美術館 (2015 年 10/30∼11/1)
来館者の施設利用目的
・利用状況の把握
品をどのように保存・展示するかという作品と建築の
関係のみならず、利用者が鑑賞行動全体を通じてどの
ような体験をするかという、展示作品や展示空間と、
調査内容
資料調査
利用者との関わり方に重点を置いた美術館への関心が
13.7
14
高まりつつある。博物館法上の規定では、原則的に公
立美術館での入場料の徴収は認められていない注 1) た
12
0.61
0.59
10.7
め、美術館と利用者との関わり方については、一般に
0.52
面積(千㎡)
10
教育普及部門の充実化が中心的課題として取り組まれ
ている。あわせて、展示作品の多くは運営経費等の回
収の必要性から有料化され、特定のエリアによる展示
9.9
8
0.42
0.59
0.53
が行われている。一方、近年では従来の展示手法とは
2
異なるサイトスペシフィックな芸術作品への注目が高
0
0.6
0.5
8.8
8.4
6
0.4
0.3
4.1
3.9
4
1.8
0.8
0.5
1960
N=1
まっており、美術館で展示される芸術作品の中でも重
0.7
2.5
2.7
3.0
2.0
2.1
1980
N=26
1990
N=28
0.2
2.5
3.1
0.1
1.9
0
1970
N=9
2000
N=10
2010
N=3
割合 非有料展示空間 /(非有料展示空間+有料展示空間)
調査方法
近年、美術館の役割の多様化が進んでおり、美術作
平均 延床面積
要な位置を占めつつあるが、その多くが作品の性質上、
凡例
平均 非有料展示空間の面積
平均 有料展示空間の面積
平均 割合=非有料展示空間 /(非有料展示空間+有料展示空間)
非有料の展示空間に設置されている。このような状況
図 1 空間構成の変化
の中、これまでの建築計画の研究には、入場料の有無
ンケートを行うことで、非有料展示空間における作品
を踏まえてその空間構成を分析したものが少なく、非
展示の実施状況について把握する。また、それらの利
有料展示空間やそこでの利用者の行動、有料部分との
用実態を把握するために、非有料展示空間の作品展示
関係性については十分明らかになっていない。
の取組が顕著な O 美術館、K 美術館を対象に、来館者
そこで本研究では、公立美術館における非有料展示
へのアンケートおよび観察調査を行う。
空間に着目して、その空間構成の変遷や展示作品の状
2-3. 非有料展示空間の定義
況、利用実態の分析を通して有料の展示空間を含む美
調査対象の 79 館では、全館で有料の展示が行われ
術館全体への効果を明らかにすることで、今後の美術
ているため、本研究では「非有料展示空間」を、美術
館建築計画の新たな知見を得ることを目的とする。
館の敷地内で利用者がチケットの購入や入場料の支払
2.研究の方法
いなく立ち入り、観覧、利用することができる部分と
2-1. 調査対象
定義する。なお本研究の調査対象に事務室やバック
本研究では教育、学術及び文化の発展に寄与する社
ヤード部分は含まない。
会的な役割が求められる公立美術館 79 館を対象とす
3. 美術館の空間構成の変化
る。調査対象の選定には全国の公立美術館によって構
調査対象館(コンバージョンによる美術館 2 館を除
成される「美術館連絡協議会
文 1)
」の加盟館一覧(2015
く)の非有料展示空間の平均面積の年代ごとの推移を
年 10 月1日時点で全 141 館)を用い、該当する美術
見てみると、平均延床面積が前年に比べ大きく下がっ
館の図面情報は建築雑誌等
文 2)〜 5)
から収集した(表 1)。
ている 2010 年代を除くと 2000 年代まで増加傾向に有
2-2. 調査方法
り、1980 年代以降では有料展示空間よりも多くの面
本研究では、公立美術館の平面図を収集し、竣工年
積を占めている。また、利用者が立ち入る部分である
と諸室面積による空間構成の変化を分析することで近
非有料展示空間と有料展示空間の内、非有料展示空間
年の美術館建築の動向を把握し、調査対象館職員にア
が占める割合の平均は、1970 年代から増加傾向にあ
27-1
り、2000 年代に若干下がるも 1980 年代以降 5 割を超
1970 年代
場所 / 品目
回答館 8 館
回答数 N=30
1980 年代
絵画 彫刻 映像 写真 その他 合計 場所 / 品目
3.3
3.3
3.3
30.0 ホール等
20.0
え、2010 年代では 0.59 となっていることから、1980
ホール等
年代以降に非有料展示空間が多く設けられるように
廊下・階段
なっていることがうかがえる(図 1)。
屋外
4. 非有料展示空間における作品展示の実施状況
内庭
3.3
3.3
非有料展示空間における作品展示の実施場所と展示
品目を年代ごとに見てみると、全年代を通して彫刻の
3.3
23.3
6.7
合計
1990 年代
場所 / 品目
たホール等の彫刻作品が 2000 年代に 5.6%、2010 年代
ホール等
6.7
6.7
13.3
56.7
無料展示室、有料・無料を問わない展示室で様々な品
22.2
内庭
11.1
合計
なかった廊下、階段が合計 12.0% と多く使われている
2010 年代
場所 / 品目
んできている事がわかる(図 2)。
1.6
3.2
1.6
1.6
1.6
3.2
3.2
11.1
55.6
非有料展示空間での展示作品の管理状況を見てみる
と、作品の更新頻度については、更新を行っていない
割合が彫刻では合わせて 75.5% と高くなっているが、
これは彫刻が「作品の性質上更新できない」割合が
66.7% と高いためである。このため、特に彫刻に関し
また、触れることの可否に関しては、彫刻の「できる」
の割合が 30.7% と高く、彫刻の品目別の量が多いこと
2.2
1.1
3.2
1.1
14.0
45.2
10.8
7.5
合計
6.3
有料・無料
14.3 を問わない
展示室
6.3
4.8
無料展示室
有料・無料
を問わない
展示室
8.0
その他
8.0
合計
合計
%
12.0
4.0
8.0
8.0
4.0
4.0
44.0
8.0
11.1
5.6
5.6
33.3
5.4
12.9
22.6
%
16.7
5.6
5.6
5.6
5.6
50.0
5.6
16.7
5.6
5.6
0.0
5.6
5.6
22.2
50.0
20%
5%
5.6
割合=
0.0
22.2
%
各回答数
×100
総回答数
アンケート対象館概要
アンケート対象館数:79 館
非有料展示空間に作品を設置している館数
54 館 (94.7%)
32.0 非有料展示空間に作品を設置していない館数
8.0
3 館 ( 5.3%)
16.0
12.0
16.0
※数値は 2015 年 12 月時点のもの
%
作品の更新頻度
0
100%
3.0
絵画
33
12.1
彫刻
114
映像
19
10.5
写真
13
7.7
その他
50
24.2
39.4
8.8
66.7
31.6
4.4
10.5
26.3
46.2
4.0
24.0
4.0
N
彫刻
114
10.5
15.4
10.5
30.8
46.2
24.0
14.0
一年に一度以上
作品の性質上更新できない
一月に一度以上
一週間に一度以上
触ることの可否
33
4.4 4.4
11.4
更新できるが、していない
が設置しやすいものとなっていることがうかがえる。
絵画
15.2
6.1
数年に一度
合が高く、最も高い彫刻で 63.2% となっている(図 3)。
16.1
図 2 非有料展示空間での作品展示の実施場所と展示品目
凡例
また、写真撮影は触れることに比べて「できる」の割
6.5
回答館数:57 館 (72.2%)
8.0
4.0
20.0
19.4
回答館 7 館
回答数 N=18
絵画 彫刻 映像 写真 その他 合計
9.5 その他
22.2
8.6
5.4
11.1
11.1 無料展示室
4.0
も合わせて、利用者の行動の管理が難しくなりがちな
非有料展示空間において、触ることを許可できる彫刻
3.2
4.8
3.2
4.0
内庭
N
いるのは「1年に一度以上」である。
1.1
12.7 内庭
12.0
ては設計・設置段階での慎重な検討が求められると言
える。また、彫刻以外の品目では最も多くあげられて
2.2
回答館 4 館
回答数 N=25
凡例
絵画 彫刻 映像 写真 その他 合計
4.0
4.0
16.0 30%
ホール等
8.0
10%
4.0
12.0
廊下・階段
8.0
屋外
4-2. 展示作品の管理状況
3.2
5.4
%
1.6
1.6
その他
3.2
3.2 廊下・階段
1.6
有料・無料
を問わない
展示室
2.2
3.2
23.3
16.1
1.1
有料・無料
3.3 を問わない
展示室
22.2 屋外
1.6
無料展示室
作品が 33.3% と多く、2010 年代はこれまで利用が少
0.0
3.2
2.2
3.3 無料展示室
20.0 その他
6.7
6.7
3.2
屋外
ことが特徴的であり、近年はこれらの場所の利用が進
7.5
回答館 15 館
回答数 N=63
2000 年代
絵画 彫刻 映像 写真 その他 合計 場所 / 品目
3.2
3.2
1.6
12.7
6.3 27.0 ホール等
廊下・階段
があったためと考えられる。2000 年代は屋外の展示
3.3 内庭
3.3
に 8.0% と減少傾向にある。また、1980・1990 年代は
どと言った地域の創作活動の発表の場を用意する動き
14.0
3.3
有料・無料
を問わない
展示室
展示が多く行われているが、1970 年代に 20.0% だっ
目を展示する傾向があるが、これは市民ギャラリーな
33.3 屋外
3.3
その他
3.2
6.7 廊下・階段
無料展示室
4-1. 作品展示の実施場所と品目
回答館 20 館
回答数 N=93
絵画 彫刻 映像 写真 その他 合計
3.2
3.2
2.2
23.7
15.1
0
写真撮影の可否
100% 0
15.2
100%
39.4
84.8
30.7
14.0
21.2
63.2
55.3
39.4
9.6
27.2
5.3
5. 非有料展示空間の利用実態
5-1. 対象館の利用者の特徴
K 美術館、O 美術館の来館者アンケートの結果から、
非有料展示空間の利用実態を分析する。なお、ここで
の「作品」は全て常設されているものであり、
「展示会」
映像
19
写真
13
その他
50
凡例
26.3
68.4
15.4
100.0
10.0 22.0
21.1
68.0
24.0
31.6
38.5
18.0
47.4
46.2
58.0
触ることの可否
できる
一部はできる
できない
写真撮影の可否
できる
一部はできる
できない
図 3 非有料展示空間の作品の管理状況
の会期は図 4 に示した。
複数回来館している利用者が多いこと、市内在住の人
まず、回答者の特徴を見てみると、K 美術館は、初
物が 56.2%、目的を持って来館している者が 77.3%
来館者が 84.7%、県外在住の人物が 94.6%と多いこと
と多いことがわかる(図 5)。
に特徴がある。来館目的作品・施設がある利用者は
5-2-1. 作品・施設ごとの利用者数
58.6% だった。一方、O 美術館は、K 美術館に比べて
作品・施設別の利用率を見てみると、K 美術館では
27-2
非有料展示空間の「作品 4」が 84.7% と最も高い。ま
更新されたことを踏まえて来館する人が多いことを示
た、全体の 47.7% の利用者がこの作品を来館目的とし
していると考えられるが、どちらの場合も非有料展示
ており、この数値は著しく高い。この作品は総合案内
空間の作品が最も多く利用された(図 6)。
や有料展示空間の入口に隣接しており、美術館の中心
5-2-2. 非有料展示空間と有料展示空間の関係
的場所に設置されている。O 美術館では非有料展示空
それぞれの美術館で最も利用者の多かった非有料展
間の「作品 1」の利用率が 69.5% と最も高い。この作
示空間の作品と有料展示空間の展示会を同時利用した
品は有料部分で最も利用者の多い「展示会 a」の出入
利用者を抽出し、来館目的別に割合を示した。K 美術
口付近で、尚且つ美術館の出入口付近に設置されてい
館は、非有料展示空間目的の利用者が 50.0%と多く、
るため、特に利用者が増えやすい状況にある。しかし、
同時利用した利用者のうち、35.0% が非有料展示空間
来館目的は有料展示空間の展示会が「展示会 a」の
の作品によって増加した有料展示空間の利用者である
33.6%を筆頭に高くなっている。アンケート回答者の
と考えられる。一方、O 美術館では有料展示空間目的
特徴と合わせて分析すると、K 美術館では県外からの
の利用者が多く、62.8% の利用者が有料展示空間を目
利用者が多いため展示会の内容を吟味せず、常に設置
的に来館しており、これにより、非有料展示空間の作
されている「作品 4」を目的に来館する人が多く、O
品の利用者が 58.1%増加したと考えられる(図 7)。
美術館では過去に一度来館しているが展示会の内容が
5-2-2. 非有料展示空間のみの利用者の利用実態
0
20
50
非有料展示空間のみを利用した利用者に着目する
※地下階(BF)図面略
と、これらの利用者は、K 美術館に 24.3%、O 美術館
(m)
に 25.8% 存在した。利用者の多い作品は、K 美術館で
1F
3
A
9
7
5
c
展示会
B
b
4
2
6
a
1
作品
9
9
C
3
展示会
※2 階図面略
N
0
20
50
(m)
1F
6
b
3
建物
1
M2F
E D 7
9
10
5
ショップ A
3F
C
d
レストラン B
ライブラリ C
c
8
57.7
5.4
14.4 18.9 38.7
1.8
c 14.4 15.3 31.5
5.4 / 3.6 / 7.2
16.2
d
7.2
23.4
24.3 55.0
1
2.7
2 15.3 18.0 36.0
0.9 7.2
3 9.0 17.1
0.9
e 9.0 15.3 25.2
0 / 5.4 / 7.2
12.6
BF
0 / 5.4 / 7.2
12.6
BF
0 / 3.6 / 8.1
11.7
BF
3.6
47.7
33.3
4
0.9
5 18.9 15.3 35.1
5.4
15.3 12.6 33.3
6
5.4
16.2 13.5 35.1
7
8 9.9
B
2
26.1
b
A
a
4
F
作品
1
100
34.2
8.1
20.7
3.6
20.7
28.8
O 美術館
0%
N=128 人
a
展示会
b
c
d
1
2
3
4
作品
84.7
5
6
非有料展示空間
O 美術館
0%
a 9.9 21.6
9
8
d
K 美術館
N=111 人
有料展示空間
e
10
非有料展示空間
竣工年:2014 年
敷地面積:13517.74 ㎡
延床面積:17213.37 ㎡
調査日時
2015 年 12/10∼12/13
展示会会期
展示会 a
10/31∼2016/1/24
展示会 b
10/31∼2016/1/24
展示会 c
12/4∼2016/1/5
展示会 d
12/8∼12/13
a
d :展示会
1
8 :作品
A
F :施設
K 美術館
N
有料展示空間
竣工年:2004 年
敷地面積:26009.61 ㎡
延床面積:17363.71 ㎡
調査日時
2015 年 10/31∼11/1
展示会会期
展示会 a
5/26∼11/15
展示会 b
9/19∼2016/3/21
展示会 c
9/19∼2016/3/21
展示会 d
10/8∼11/8
展示会 e
9/19∼2016/1/17
BF 展示会 1・2・3
10/27∼11/1
a
e :展示会
1
10:作品
A
C :施設
7
8
建物
ショップ A
1F カフェ B
73.0
2F カフェ C
アトリエ D
18.9 47.7
15.3 50.5
8.1 / 7.2
29.7
14.4
2.7
20.7 15.3 38.7
0.9 / 0.9 / 1.8
3.6
0 / 5.4 / 2.7
8.1
体験学習室
E
研修室
F
6.3 / 7.0
46.9
0.8 / 1.6
30.5
32.8
3.9 / 6.3
32.8
43.0
7.0 / 7.8 / 5.5
20.3
7.8
44.5
17.2 69.5
0.8
8.6
25.0
34.4
0
6.3
23.4
29.7
0.8
5.5
17.2 23.4
0.8 / 8.6 / 3.9
13.3
0 2.3
11.7 14.1
4.7
14.8 11.731.3
2.3
29.7 9.4 41.4
1.6 / 3.9
14.1 19.5
6.3
26.6 9.4 42.2
0.8 / 7.8 / 0
8.6
5.5 / 4.7 / 5.5
15.6
1.6 / 1.6 / 0
3.1
0.8 / 0.8 / 0.8
2.3
0.8 / 0 / 0
0.8
100
33.6
凡例
:目的作品・施設として来館し利用
:他に目的が有り、それに合わせて利用
:無目的で来館し利用
a :図5、図6の番号と対応 BF は地下階 割合=利用者数 ÷ 全回答者数 (%)
図 6 作品・施設別の利用率と目的
図 4 対象館と調査概要
回答者総数
来館回数
K 美術館 :111 人
O 美術館:128 人
0
O 美術館
居住地
39.1
K 美術館
17.2
26.6
56.2
0
50
77.3
(%) N=43
(%)
①4.7
③14.0
③50.0
3∼5回
①35.0
6∼10 回
④16.7
②1.7
⑤27.9
⑥11.6
10 回以上
⑦16.3
市内在住
市外在住
県外在住
N=128 人
O 美術館
展示会 a と作品 1
同時利用対象
2回
N=128 人
N=111 人
22.7
1回
N=111 人
100%
41.4
58.6
N=128 人
100%
94.6
2.7 / 2.7
N=111 人
16.4
3.1
30.5
50
来館目的作品・施設の有無
O 美術館
9.9
3.6 /1.8
10.9
0
O 美術館
K 美術館
100%
84.7
N=60
凡例
50
K 美術館
同時利用対象
K 美術館
展示会 a と作品 4
⑥3.3
⑦45.0
⑤48.3
目的作品
・施設有り
④62.8
②58.1
①非有料展示空間により増加した有料展示空間の利用者 ⑤どちらも目的としていない利用者
凡例
目的作品
・施設無し
②有料展示空間により増加した非有料展示空間の利用者 ⑥他の作品・施設に目的がある利用者
③非有料展示空間目的の利用者
⑦目的を定めずに来館した利用者
④有料展示空間目的の利用者
図 5 来館者アンケート回答者の概要
図 7 有料展示空間とと非有料展示空間の同時利用者の目的
27-3
は「作品 4」に次いで「作品 8」が 81.5%となっており、
代、1990 年代に展示室、2000 年代に屋外、2010 年代
利用者全体での利用率に比べ 8.5% 増と最も多く利用
に廊下や階段を利用する傾向が現れていること、品目
率を伸ばした。「作品 8」は K 美術館の中心的な建物
としては展示室では様々で、他では彫刻が多いこと、
出入口への動線上に位置しており、このことが利用者
3)その彫刻作品については更新されない事が多く、
増加につながったと考えられる。また、同様に他の屋
設計・設置時の検討が重要なこと。また、利用実態の
外作品も利用率を伸ばしている。一方、屋内の作品や
調査から、4)来館者の目的となっているか否かに関
展示会はいずれも利用率が減少した。O 美術館では「作
わらず非有料展示空間の作品が多くの利用者を得てい
品 1」が 78.8%と最も高く、他の作品も利用率が増加
ること、5)非有料展示空間の作品目的の利用者によっ
しているものが多い中、唯一三階に展示されている「作
て有料展示空間の利用者増加が見込める場合があるこ
品 8」のみが 14.1%減と大きく下がった(図 8)。
と、6)非有料展示空間のみの利用者は全体の利用者
5-3. 美術館での来館者の行動
に比べ美術館の外庭や出入り口付近を利用する傾向が
各美術館の利用者を K 美術館で 10 組、O 美術館で
見られたこと、7)非有料展示空間の利用は来館目的
8 組抽出し、美術館敷地内での行動の追跡観察調査を
が有料展示空間にある場合はその後に行われ、ない場
行った。図 9 に代表的な例としてそれぞれで多くの非
合はその前後に行われる傾向があること。
有料展示空間を利用した例、多くの有料展示空間を利
謝辞
調査にあたり対象美術館の方々、並びに多数の来館者アンケートの回答者の方々に多大
なるご協力をいただきました。記して心より感謝いたします。
注釈
注1)公立美術館を含む公立博物館は博物館法第二十三条によると
「入館料その他博物館
資料の利用に対する対価を徴収してはならない。但し、博物館の維持運営のためにやむを
得ない事情のある場合は、必要な対価を徴収することができる。」と定められている。
参考文献
文1)美術館連絡協議会
(http://event.yomiuri.co.jp/jaam/)2015 年10月1日時点
文2)
『新建築』新建築社 出版 1960 年1月号〜 2015 年10月号
文3)
『建築設計資料13 美術館』建築思潮研究所 編 建築資料研究社 出版 1986 年 6月
文4)
『建築設計資料 49 美術館 2』建築思潮研究所 編 建築資料研究社 出版 1994 年12月
文5)
『建築設計資料102 美術館 3』建築思潮研究所 編 建築資料研究社 出版 2005 年 9月
用した例、どちらとも合わせて多く利用した例の 3 例
を挙げた。K 美術館では 10 組中、有料展示空間を利
用しなかった被験者は 4 組、O 美術館では 8 組中、有
料展示空間を利用しなかった被験者は 2 組だった。K
美術館では K- ⅲに見られるように有料展示空間の前
後に非有料展示空間の作品を鑑賞する例が 5 例と多く
見られた。一方、O 美術館では O- ⅱ、O- ⅲのように
K 美術館
N=27 人
有料展示空間の後に非有料展示空間の作品を鑑賞する
6. まとめ
作品
本研究によって以下のことが明らかになった。ま
ず、公立美術館の空間構成の分析から 1)1980 年代以
-18.5
-27.7
8.5
81.5
48.1
2F カフェ C
-20.2
アトリエ D
0
- 3.6
体験学習室
ライブラリ C 0
- 8.1
研修室
レストラン B
6.7
9.9
33.3
1.9
15.2
7.1
21.2
8.1
39.4
-14.1
27.3
10.8
- 2.8
39.4
- 2.5
6.1
5.6
21.2
6.0
9.1
E 3.0
F 0
-30
0
+30
割合=利用者数 ÷ 非有料展示空間のみの利用者数 (%)
での作品展示の実施状況から 2)作品展示は 1980 年
※
9.3
8.0
42.4
36.5
30.3
ショップ A
1F カフェ B
18.5
100
78.8
建物
0.4
1.4
51.9
25.9
ショップ A
割合が高まっていること。年代ごとの非有料展示空間
0.5
-16.6
作品
- 3.8
建物
降、利用者の立ち入る部分のうち、非有料展示空間の
- 5.2
- 0.6
0%
1
2
3
4
5
6
7
8
- 8.9
85.2
O 美術館
N=33 人
※
-10.4
非有料展示空間
非有料展示空間
に対する目的意識の有無が原因と考えられる(図 9)。
100
e
14.8
BF 7.4
BF 3.7
BF
11.1
4
5
18.5
6
14.8
7
7.4
8
9
10
展示会
例が 4 例と多かった。これは、利用者の有料展示空間
0%
0.7
- 0.8
-30
0
+30
※全利用者の場合の利用率との差
図 8 非有料展示空間のみを利用した利用者の利用実態
K 美術館
非有料展示
空間
対象
K-ⅰ:多くの非有料展示空間を利用
K-ⅱ:多くの有料展示空間を利用
23
敷地出入口
8 10 9 8 ト
9
屋外
ト 9
17
ト
8
建物出入口
ロ
屋内
有料展示空間(屋内)
4 A e
ニ ト
b 2
9 ト
建物出入口
イ
屋内
有料展示空間(屋内)
4
4
ハ A e ニ
a 1 a
ト 5 7 6
d
4
b 3 b
K-ⅰ
K-ⅱ
K-ⅲ
日時
2015.11.1( 日 ) 晴
2015.10.30( 金 ) 曇
2015.11.1( 日 ) 晴
被験者
夫婦と子
対象概要
非有料展示
空間
29
ト 10 8 9
屋外
c b a ト a 4
対象
敷地出入口
: 総利用箇所数
イ A
4 イ
K-ⅲ:有料展示空間、非有料展示空間合わせて多く利用
対象
親子(女2)
夫婦と子
集団規模 3人組
2人組
4人組
年齢
40 代と 60 代
30 代と 10 代未満
30 代と幼児
凡例
利用時間 1:10(15:45-16:55)
出る
1:17(15:45-17:02)
2:43(11:13-13:56)
非有料展示空間(屋外) (作品[8・9・10]、その他[ト:スツール・椅子・ソファ])
敷地・建物出入口
入る
有料展示空間 (展示会[a・b・c・d]
作品[1・2・3・4])
非有料展示空間(屋外) (作品[4・5・6・7]、展示会[e・f(BF)]、施設[A:ショップ B:レストラン C:ライブラリ]、その他[イ:案内・チケット販売・ (屋内)
荷物預かり ロ:シアター ハ:デザインギャラリー ニ:油圧エレベーター ホ:ロッカー ヘ:トイレ ト:スツール・椅子・ソファ])
O 美術館
O-ⅱ:多くの有料展示空間を利用
8
敷地出入口
12
建物出入口
屋内
有料展示空間(屋内)
敷地出入口
ト
a
O-ⅲ:有料展示空間、非有料展示空間合わせて多く利用
10
建物出入口
屋内
有料展示空間(屋内)
ニ
凡例
非有料
展示空間
対象
D ハ 1 A
ト C 7 A
c
有料展示空間(屋内)
4 ロ ト A 1
b
有料展示空間(屋内)
O-ⅰ
O-ⅱ
O-ⅲ
日時
2015.12.13( 日 ) 晴
2015.12.10( 木 ) 雨
2015.12.13( 日 ) 晴
被験者
夫婦と子
夫婦
女性集団
集団規模 3人組
2人組
5人組
年齢
20 代
20 代
40 代と 10 代
利用時間 0:47(11:12-11:59)
1:10(11:45-12:55)
2:57(11:34-14:31)
(作品[1・2・3・4・5・6・7・8]、施設[A:ショップ B:1F カフェ C:2F カフェ
D:アトリエ E:体験学習室 F:研修室]、その他[イ:インフォメーション ロ:協賛企業展示
ハ:ワークショップ資料展示 ニ:ロッカー ホ:トイレ ヘ:椅子・ソファ])
展示会[a・b・c・d]
図 9 美術館での来館者の行動
27-4
対象
対象概要
非有料
展示空間
O-ⅰ:多くの非有料展示空間を利用
対象
敷地・建物出入口
入る
出る
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