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1/17 生理学講義ノート 循 環 Index 心臓の血液循環 ・・・・ 02 刺激伝達

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1/17 生理学講義ノート 循 環 Index 心臓の血液循環 ・・・・ 02 刺激伝達
生理学講義ノート
循 環
Index
心臓の血液循環
・・・・
02
刺激伝達系
・・・・
06
心電図と心周期
・・・・
06
心拍出量
・・・・
10
心拍数の調節
・・・・
11
血管・血圧
・・・・
12
問題
・・・・
15
1/17
循環器系 cardiovascular system
循環器系は血液 blood、心臓 heart、血管 vessels の3つに分けて考える。血液にどんな細胞があって各々どんな
役割で、という話は血液のページを見てください。残りの2つで心臓血管系 cardiovascular system を構成する。この
システムの理解のためには、動脈血 arterial blood と静脈血 venous blood があることさえわかっていればよい。
動脈血は肺でガス交換を行った後の血液で酸素に富む(ので、oxygenated blood)。 静脈血は抹消組織でガス交換
を行った後の血液で酸素が少ない (ので、deoxygenated blood)。
それではまず心臓から、キーワードを並べてみると下のリストのとおり。心臓は血液を循環させるポンプなので、その
構造と動かすメカニズムがわかればよい。
心臓の弁と血液の循環
心臓の解剖について簡単に復習。4がキーナンバー。4つの部屋 chamber がある(右房、左房、右室、左室: right
atrium, left atrium, right ventricle, left ventricle, RA, LA, RV, LV)。4つの弁がある (三尖弁、僧帽弁、肺動脈弁、大
動脈弁: tricuspid valve, mitral valve, pulmonary valve, aortic valve, TV, MV, PV, AV)。4つの血管がつながってる (大
静脈、肺動脈、肺静脈、大動脈:vena cava, pulmonary artery, pulmonary vein, aorta, VC, PA, PV, Ao)。これらの位置
関係について言葉で説明するとたいへん、次のページの図を自分で描けるようにしてください。心臓がこんな2色に
分かれてるわけじゃありません。青は静脈血の流れるところ、赤は動脈血の流れるところ。一番下の絵は、血流順に
血管を足していってる。英語の表記はうっとしいかもしれないけど、慣れると日本語よりよほど簡単。特に心臓がらみ
では略語がたくさん出て来る。
心臓の組織=心筋については省略します。何度もでてきますが、筋肉 muscle には3種類ある、骨格筋 skeletal
muscle、平滑筋 smooth muscle、そして心筋 cardiac muscle。この3つの違いは基本中の基本なので、丸暗記して
おくこと。以下の質問に答えられればよい。心筋は、随意筋か、不随意筋か?横紋筋か、そうでないか?多核か単
核か?運動神経支配か、自律神経支配か?平滑筋は・・(以下同じ)。骨格筋は・・(以下同じ)。
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これらの図が描ければ、心臓での血液循環はもうわかったも同然。心臓での血液循環は3つに分ける。体循環
systemic circulation、肺循環 pulmonary circulation、それに冠循環 coronary circulation。こう分けるのはもちろん機
能的に分かれてるからで、いろんな循環疾患の分類の基礎になる。例えば、心筋梗塞は冠循環系の疾患であり、エ
コノミー症候群 (肺梗塞) は肺循環系の疾患である。
体循環と肺循環は簡単だと思う。体循環は心臓と抹消組織の間、肺循環は心臓と肺の間。ガス交換は肺で行われ
る(静脈血は肺で動脈血になる)ので、肺動脈には静脈血が、肺静脈には動脈血が流れている。 体循環に血液を
駆出するのは左心室で、肺循環に血液を駆出するのは右心室。肺循環に比べると、体循環のほうが末梢抵抗が大
きい。そこに高圧で血液を駆出しなければならないから、左心室のほうが右心室よりも壁が厚い。
冠動脈 coronary artery は心筋を養う血管。右と左が大動脈の基始部からでて、左は途中で2つの枝に分かれる。
冠静脈も同じルートを帰ってきて、最後は右房に戻る。
先天性心奇形 congenital cardiac malformation/中隔欠損 septal defect
先天性心奇形には多くのタイプがありますが、最もありふれているのは中隔欠損 septal defect です。左右の心房を
隔てる壁が心房中隔 atrial septum で、これが完全に閉じていないのが心房中隔欠損 atrial septal defect。心室の
壁が心室中隔 ventricular septum で、こちらは心室中隔欠損 ventricular septal defect。ASD、VSD と省略して呼ぶ
こともあります。中隔欠損では圧の高い左心系から右心系に血液が流れて動脈血と静脈血が混じりあうことになる。
体循環と肺循環をつなぐシャントができてしまうわけです。欠損の大きさにより症状には幅があります。小さな欠損で
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は心雑音があるだけで全く無症状のこともある。大きな欠損で低酸素血症をきたすような場合は外科的な修復が必
要になる。
心弁膜症 cardiac valve diseases
弁は開閉する。その基本的な役割は、閉じるべき時に閉じて逆流を防ぐことです。それがうまくいかないのが閉鎖不
全症。もうひとつ、十分に開かないので出口が狭くなるという状態があってこちらは狭窄症。4 つ弁があってそれぞれ
に閉鎖不全症と狭窄症があるんだけど、頻度が高いのは僧帽弁閉鎖不全症 mitral valve insufficiency と大動脈弁
狭窄症 aortic valve stenosis の 2 つ。僧帽弁がうまく閉じないとどうなるでしょうか?左心室から大動脈へ駆出され
る(はずの)血液の一部が左心房に逆流することになる。これはそのまま心拍出量の低下=心不全の原因になりま
す。大動脈弁の狭窄では後負荷の増加から心拍出量の低下=心不全をきたすことになる。心拍出量、後負荷という
のはなんのことか、次のページで説明します。
虚血性心疾患 ishcemic heart disase
心筋の血流低下による疾患の総称で、動脈硬化による冠動脈の狭窄のために生じる。運動時には心筋の酸素需要
が増加するから血流を増やさなければならない。冠動脈の狭窄のため血流を増やすことができなくて労作時に胸痛
を生じるのが狭心症 angina pectoris (または、労作性狭心症)。冠動脈の狭窄が高度の場合、または完全に閉塞し
て血流が断たれてしまった場合にはその灌流域の心筋は壊死に陥る。これが心筋梗塞 myocardial infaraction。MI
と略して呼ぶことが多いですね、または頭に急性 acute をつけて AMI。心筋梗塞のときの胸痛は「死を予感させる」
痛みなんだそうです。
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刺激伝達系 conduction system
心臓のポンプとしての動きは、百聞は一見にしかず、なのでリンク「ビジュアル生理学」にあるアニメを見るように。
「心臓の機能」のところ。右房・左房の収縮にちょっと遅れて右室・左室が収縮するところ、弁の動きなどよくできたア
ニメです。このタイミングをコントロールしてるのが刺激伝達系 conduction system。刺激伝達系というと神経細胞か
らできてるように思うけど、実際はその機能に特化した心筋細胞からできてる(特殊心筋とも呼ばれる)。
刺激伝達系は次の図に示すように、洞房結節 sinoatrial node: SA node, 房室結節 atrioventricular node: AV node、
AV node から出るヒス束 (bundle of His)、ヒス束が二つに分かれて右脚と左脚からなる。右脚は RV をぐるっとまわり、
左脚は LV をぐるっとまわる。これから出て最後に心筋につながる細い繊維がプルキンエ繊維 (Purkinje fiber)。SA
node にはペースメーカーがある。これは特殊な心筋細胞で、静止膜電位をもたず、自動的に脱分極して活動電位
action potential を発生する。発生した興奮は瞬時に右房・左房全体に伝播し (propagate する、という)、AV node に
も至る。AV node ではちょっと遅れて興奮が発生し、これは残りの伝達系を伝播して右室・左室に至る。AV node でち
ょっと遅れるところが、右房・左房と右室・左室の収縮のタイミングをずらすミソ。
下の図の右側、膜電位のスキームで、上はペースメーカー細胞の自動的・周期的興奮を示している。これに少し遅
れて、心筋細胞の脱分極が始まる。心筋細胞の膜電位は、1.脱分極、2.プラトー、3.再分極の3つのフェーズを経る。
1.脱分極はソデイウムチャンネルの開口による。2.プラトーはポタシウム、カルシウムチャンネルの開口による。3.再
分極はポタシウムチャンネルの開口による。働くチャンネルは全て電位依存性である。
心電図と心周期 electrocardiogram & cardiac cycle
心筋の電気活動を体表面から記録したものが心電図 electrocardiogram: ECG。実際には胸部に 6 つの電極、さらに
四肢に4つの電極をつけて電位差を記録するのだけど、心周期の理解のためには心臓の真上でひとつの電極で記
録したものを考えればよい。ECG の基本的なパターンが次の図の P-QRS-T。P 波は心房筋の脱分極により生じる。
QRS 波 (QRS complex とも呼ぶ)は心室筋の脱分極により生じる。T 波は心室筋の再分極により生じる。
RA の P 波と、LA の P 波を分けることはできない。ほとんど同時に発生するから。同様に、RV の QRS complex と、LV
の QRS complex を分けることはできない。また、心房筋の再分極による波も生じているのだけど、QRS complex に重
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なって隠れている。
ECG はあくまで心筋の電気活動の記録であって、
刺激伝達系の(特殊心筋の)電気活動の記録では
ない。刺激伝達系の電位の変化を記録するには
心臓カテーテル検査が必要。
臨床では、ECG は簡便、低コスト、非侵襲的とよい
ことずくめの検査方法で、さらに情報量も多い。不
整脈 arrythmia の診断は ECG のみで可能。情報
量が多いことはしかし欠点でもあって、
interpretation には経験が必要。ECG の目的とそ
の結果の判読については病態検査学で勉強する
ように。ECG による不整脈の診断についてはこのサイト(ハート先生の心電図教室)がとてもよくまとまってる。動画も
多くてわかりやすい。是非眼を通してください。
以下、心臓のポンプとしての動きを時間経過で追ってみる。パラメーター (観測できる量)は、電位 (ECG) と圧と容
積と音。心房・心室内圧は心臓内にカテーテルを入れて測定する。LV の容積を正確に測定するのは難しいけれども、
カテーテルを入れて造影した画像から推定できるし、心エコー (超音波検査)のデータからも推定できる。音は心音
heart sounds、これは聴診器で聞ける。動いているのは心房・心室筋と弁。以下心臓の左側 (LA と LV)についてのみ
考えるけど、右側も同じ。
次の図で、P波と次の P 波の間は一回の心拍 stroke にかかる時間だから、安静時心拍数 HR: heart rate 75/min と
して 60/75 sec=0.8sec。この間、まず心房が収縮し、それに続いて心室が収縮し、拡張する。心房の弛緩は下の図
では省略してある。心室が収縮するフェーズを収縮期 systole、拡張するフェーズを拡張期 diastole と呼ぶ。収縮期、
拡張期ともに約 0.3sec。心周期 cardiac cycle という言葉は、この一連のフェーズをひっくるめていう場合に使う。
左から、P 波に続いて心房が収縮し、LA の圧が一過性に上がる。このとき、MV は開いている。
これに続いて QRS complex が発生し、心室が収縮し始めると同時に MV が閉じ(①) LV の圧が上り始める。これに
すこし遅れてAVが開き(②)、Ao の圧も上がり始める。MVが閉じてから AV が開くまで、LV は収縮しているのだけれ
ども血液が流出しないので容積は変わらない。それで、この間を等容性収縮期 isometric contraction と呼ぶ。
T 波に一致して心筋は再分極を開始し、LV の圧が下がり始め、AV が閉じる(③)。これに少し遅れて MV が開き(④)、
血液の流入が始まる。AV が閉じてから MV が開くまで、LV は弛緩しているのだけれども血液が流入しないので容積
は変わらない。それで、この間を等容性弛緩期 isometric dilation と呼ぶ。
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この図に LV の容積を書き込んでみると下の図。心房収縮とともに増加し、心室収縮期に低下、弛緩期に増加する。
収縮期の最初、等容性収縮期には、(等容性なので) 変化しない。弛緩期の最初、等容性弛緩期には、(等容性なの
で) 変化しない。最大容積と最小容積の差が、一回の収縮で LV から駆出される血液の量で、これを一回心拍出量
stroke volume: SV と呼ぶ。
次に心音 heart sounds を書き込んでみると下の図。心音は日本語ではドックン、英語では lubb-dupp (ラブダップ)。
lubb が S1、dubb が S2。心音は弁が閉じたときに生じる血液の乱流により発生する。S1 は MV の閉鎖により、S2 は
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Ao の閉鎖による。従って、S1 は等容性収縮期に一致して聴こえ、S2 は等容性弛緩期に一致して聴こえる。
以上、心周期に伴う圧、容積の変化、音の発生はなかなかややこしいですね、心静かにもういちど読んで、自分で絵
を描いてみること。弁が全て閉じていて容積の変わらないフェーズがあるところがポイント。なんでもいいんですが、
歯磨きのチューブがあるとして、出口を指でふさいだままぎゅっと押しておいて、ふさいだ指をぽんとはずす。そうす
ると、そうしない場合に比べて・・・・あとは皆さん考えてみるように。
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心拍出量 cardiac output
ポンプの性能は単位時間当たりにどれだけの液体を動かせるかによって決まる。心臓の場合、この数値が心拍出量
cardiac output:CO。CO=SVxHR、これは説明不要ですね。安静時には下のスキームに示すように 5 リットル/分ぐら
い。おとなの血液量がおおよそ 5 リットル前後だから、一分間で一巡することになる。運動時には CO の値は何倍にも
上がる。これをどこまで上げられるかを心予備能 cardiac reserve と呼び、運動選手、特にマラソンの選手で高い値
を示す。
SV を決めるファクターは、前負荷 preload、収縮性 contractility、後負荷 afterload の3つ。前後の負荷というのが
聞きなれない言葉だけど、ちょっとゴムが厚い風船を想像して下さい。これに水を入れてから手を離して収縮させると
すると、水をたくさん入れたほうがたくさん出る。これが前負荷。「ある範囲内では前負荷が大きいほうが SV も大き
い」 というのが Frank-Starling の法則。ある範囲内というのは、あまり入れすぎるとゴムが伸びきってしまって収縮
できなくなるから。次に収縮性はゴムの性質そのもので、強いほうが水はたくさん出る。後負荷というのは、水が出る
ときにかかる抵抗。風船の口の大きさと思ってよい。後負荷は小さいほど CO は大きい。
前負荷 preload は心臓に帰ってくる血液量で、静脈還流量 venous return と同一と考えてよい。皆さんは学校で朝
礼の時ふらふらっとなって気を失ったことはありませんか?これは起立性低血圧 orthostatic hypotension による失
神 syncope。このとき、失神してるひとを仰向けに寝かせて、足を挙げる。寝かせるのはなぜ?足を挙げるのはな
ぜ?
収縮性 contractility は心筋の収縮力で、これを増強させる効果を陽性変力作用 positive inotropic action といい、
逆に減弱させる効果を陰性変力作用 negative inotropic action という。強心薬ジギタリスおよびノルアドレナリン・ア
ドレナリンは陽性変力作用をもつ代表的薬物。カルシウムチャンネルブロッカーなどが陰性変力作用をもつ。
後負荷 は血管抵抗で、一般に高血圧のひとで高い。
心拍数の調節
次に HR の調節だが、これは神経性と内分泌性の調節を受ける。神経性の調節はもちろん自律神経により、その中
枢が延髄にある心臓中枢 cardiovascular center。下の図で、情動・ストレスなどの情報はより上位の中枢から心臓
中枢にはいる。自己受容器 proprioceptor は全身の間接に分布して運動(関節の位置など)をモニターしている。化
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学受容器 chemoreceptor は大動脈弓、総頚動脈分枝部にあって血液の酸素分圧、二酸化炭素分圧、pH などをモ
ニターしている。圧受容器も同じ部位にあって血圧をモニターしている。これらの受容器からのインプットは各々を支
配する感覚神経を介して心臓中枢に至る。心臓中枢からは、すこし上にある副交感神経の一次ニューロン=迷走神
経 (X) 核、および胸髄の交感神経の一次ニューロンにアウトプットがでて、各々を興奮させる。迷走神経は主に SA
node を支配しており、その興奮により、HR は減少する。交感神経は SA node に分布するとともに、心筋にも分布し
ている。その興奮により、HR は増加し、心筋の収縮性が増す。
HR を増やす効果を陽性変時作用 positive chronotropic action といい、逆に減らす効果を陰性変時作用 negative
chronotropic action という。
HR の内分泌性調節については、内分泌のページで出てきたので省略。ノルアドレナリン・アドレナリンを分泌して、
HR を増加させ、心筋の収縮性を増加させるのはなんという内分泌器官だったか、覚えてますか?腎臓の上にありま
したね。もうひとつ、エネルギーの産生と消費を増加させて、HR をふやすホルモンを産生する組織がのどのところに
あったような・・・。
心不全 cardiac failure
心不全 cardiac failure とは一義的には心拍出量が低下することであり、CO=SVxHR だから、SV が減少すると心不
全になる。わかりやすいところでは、外傷性出血に伴う心不全は前負荷(静脈還流量)の減少が原因である。急性心
筋梗塞による心不全は、心筋の収縮性の低下による。大動脈弁の狭窄(aortic stenosis) による心不全は後負荷の
増加による。エコノミー症候群による肺梗塞も後負荷の増加から心不全の原因になるが、この場合右心不全になる。
また、HR が下がることも心不全の原因になる。不整脈のなかに脈が速くなるもの(頻脈 tachycardia)と遅くなるもの
(徐脈 bradycardia)があるけど、徐脈のほうが危ない。
心不全の症状は、心拍出量が、どの程度までどのくらいの速度で低下するかで決まる。例えば心停止 cardiac arrest
による急性心不全のような極端な状況では、当然循環不全 circulatory failure (=血圧の低下)からショック状態に
陥る。そんなにひどくなくても、慢性心不全をきたすような軽度の低下では、心予備能が下がっているから「じっとして
れば大丈夫だけど、動くとしんどい」という状態になる。労作時の動悸、息切れ、です。誰だって階段を駆け上れば動
悸、息切れがするわけだけど、これがひどくなると思えばよい。「労作時の動悸、息切れ」が主症状となるのは心不全
だけではない。末梢組織への酸素供給能が低下するから、呼吸不全や貧血でもこれが主症状になる。
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血管 blood vessels
血管は動脈 artery と静脈 vein からなる。静脈には逆流を防ぐための弁があるけど、動脈にはない。酸素の供給
系として重要なのはもちろん動脈なので、以下動脈の話のみ。
動脈の基本構造は血液をいれる内側 (lumen) から、内皮 endothelium、内弾性板 internal elastic lamina、平滑筋
smooth muscle、外弾性板 external elastic lamina、外膜 external membrane。弾性板というのは聞きなれないことば
だけど、伸展するともとに戻る性質をもつレイヤーで、このおかげで大動脈の圧の変化が末梢の血管にまで伝わる
(脈拍:pulse)。これを構成する主要な蛋白質がエラスチン elastin。肉眼で見える太い動脈は全てこの基本構造を持
っていて、弾性動脈 elastic artery とも呼ばれる。
これより末梢へ行って細い動脈になると弾性板はなくなる。血管壁は内皮、平滑筋、外膜の3層で構成され、細動脈
arteriole と呼ばれる(アーテリオーレと読んでください)。交感神経の興奮などに反応してその径が変化するのは主
に arteriole で、血管抵抗を決める部分であることから抵抗動脈 resistance artery とも呼ばれる。
それより末梢の細い血管が毛細血管 capillary で、内皮細胞のみでできている。ここではその周囲の細胞とのガス、
栄養素その他の交換が行われるので、交換血管 exchange artery と呼ばれる。
血圧 blood pressure
上腕にマンシェットを巻いて強く締め、いったん上腕動脈の血流を止める。それからマンシェットを緩めっていって、最
初に血流の音が聞こえ出すときの圧が収縮期圧 systolic pressure または最高血圧で、それからさらに圧を下げて
いって音が聞こえなくなるときの圧が拡張期圧 diastolic pressure または最低血圧。収縮期圧と拡張期圧の差が脈
圧。収縮期圧と拡張期圧の間で音が聞こえるのは狭くなった血管を血液が通過するときに乱流を生じるから。このよ
うな上腕動脈の圧変化は、大動脈圧の変化がそのまま末梢に伝わったものと考えてよい。心周期の図を思い出して
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もらうと、各々収縮期圧、拡張期圧と呼ぶ理由がわかりますね。
血圧は、体液量、心拍出量、血管抵抗の3つのファクターで決まる。体液量は血液量と並行して動くので、血液量と
言い換えても良い。分かりやすいのは出血して血液量が減少して、血圧が低下すること。それ以外の体液量の減少
の原因として、発汗、下痢、嘔吐による喪失、大量の尿 (糖尿病など)がある。こうなると、ADH が分泌されて、RAA
system が動いて、というのはいいですね、内分泌のところで出てきました。
心拍出量の調節については前のページを見ること。
血管抵抗は、血管の内径、血液の粘性、そして血管の全長で決まる。血管の内径が変化する状況として分かりやす
いのは血管が収縮・弛緩することで、例えば交感神経が興奮すると血管が収縮して血圧が上がる (交感神経の興
奮は同時に心拍出量 CO を増やす)。血液の粘性は高いほど、流れにくいので抵抗は高い。例えばスモーカーは慢
性的な一酸化炭素中毒状態にあるので、多血症 (血液中のヘモグロビンが多い・赤血球が多い)になり、血液の粘
性が高い。最後に、血管の全長は身体の組織量=重さに比例する。肥満しているひとは一般的に血圧が高くなる。
血圧の調節は、例によって神経性と内分泌性。神経性調節については、心拍出量の神経性調節のメカニズムとほぼ
同じなので省略。前のページに出てきたスキームに、交感神経から血管にいたる経路を書き加えればよい。内分泌
性の調節についても、いろんなところで出てきているので省略。主役は、ADH、RAA pathway、そしてアドレナリン・ノ
ルアドレナリン。それ以外に心臓が分泌するホルモンがある。心房性 Na+ 利尿ペプチド atrial natriuretic peptide:
ANP は心房内圧の増加に反応して分泌されるホルモンである。標的組織は腎臓で、Na+、水の再吸収を抑制して尿
量を増加させ、体液量を減らす方向へ働く。
循環不全/ショック circulatory failure/shock
循環不全とは、血圧が低下して全身の組織に酸素を供給できない状態、です。心不全とちょっと似てるけど区別して
ください。心不全は心拍出量 cardiac output が低下すること、だったですね、循環不全は血圧が低下すること。心不
全は循環不全の原因のひとつです。急激に血圧が低下する状態が急性循環不全ですが、ショック状態と呼ぶほうが
一般的。
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血圧を決める3つのファクターを上のスキームでもう一度確認してください。循環不全の原因を並べてみると、出血性
ショックでは体液量が減少する。心筋梗塞、不整脈などによる心不全では心拍出量が低下する。アナフィラキシーシ
ョックというのは自律神経の薬理のところででてきたんだけど覚えてますか、I型アレルギー反応が急激におきるので、
血管が弛緩し血管抵抗が低下する。敗血症 sepsis というのは血液内で病原体(たいていはバクテリア)が増殖して
いる状態です。敗血症性ショック septic shock でも血管の弛緩から血管抵抗が低下する。
循環不全状態では血圧をもとに戻すために神経系、内分泌系が総動員される。上の血圧の調節のところと同じこと。
神経系の反応は自律神経の交感神経系のところを復習してください。内分泌系の反応の主役は ADH と RAA システ
ム、そして副腎髄質から分泌されるアドレナリン・ノルアドレナリン。こちらも各々のページを復習してください。
14/17
問 題
(1)
心臓の模式図を描け。4つの区画、4つの弁、4つの大血管を図示し、各々の名称を記入せよ。
(2) 心臓の血液循環について正しいのはどれか?
1.
2.
3.
4.
A. 1
B. 1, 2
C. 1, 3, 4
D. 1, 2, 3, 4
E. 3, 4
A. 1
B. 1, 2
C. 1, 3, 4
D. 1, 2, 3, 4
E. 3, 4
D. 1, 2, 3, 4
E. 3, 4
肺静脈には動脈血が流れる。
肺動脈には静脈血が流れる。
大静脈には動脈血が流れる。
大動脈には静脈血が流れる。
(3) 心筋について正しいのはどれか?
1.
2.
3.
4.
自律神経の支配下にある。
横紋筋である。
随意筋である。
体性運動神経の支配下にある。
(4) 心臓のポンプ機能を評価する指標として最も重要なものはどれか?
A
B
C
D
E
心拍出量
心拍数
血圧
一回心拍出量
脈圧
(5) 心臓の刺激伝達系を興奮が伝播する順序として正しいのはどれか?
A
B
C
D
SA
SA
SA
SA
node―AV node―His 束―プルキンエ線維―右脚・左脚―心筋
node―AV node―His 束―右脚・左脚―プルキンエ線維―心筋
node―His 束―AV node―プルキンエ線維―右脚・左脚―心筋
node―His 束―AV node―右脚・左脚―プルキンエ線維―心筋
(6) 心臓の刺激伝達系について正しいのはどれか?
1.
2.
3.
4.
A. 1
SA node にペースメーカー細胞が存在する。
SA node からの興奮は直接心房筋に伝播する。
SA node からの興奮は直接心室筋に伝播する。
神経細胞により構成される。
B. 1, 2
C. 1, 3, 4
(7) 心電図の模式図を描け。P, QRS, T の各々の位置を図示し、それぞれがどのような心筋の電気活動を反映して
いるかを記入せよ。
(8) 不整脈について正しいのはどれか?
1.
2.
3.
4.
A. 1
心房細動では P 波が消失する。
心房細動は AED による除細動の適応である。
心室細動では QRS 波が消失する。
心室細動は AED による除細動の適応である。
15/17
B. 1, 2
C. 1, 3, 4
D. 1, 2, 3, 4
E. 3, 4
(9) 下の図は、心周期に伴う左心系の圧の変化と左心室の容積の変化を模式的に示したものである。
A. ①〜④に対応する弁の動きを書け。
B. 一回心拍出量 (stroke volume: SV)はこの図のどの部分に
相当するか、記入せよ。
C. 心音 S1, S2 はどのフェーズに発生するか、記入せよ。
(10) 心不全は心拍出量が低下した状態である。心拍出量は一回心拍出量 (SV) と心拍数 (HR)の積で表わされる。
一回心拍出量は A. 前負荷 B. 心筋の収縮性 C. 後負荷 の 3 つの要素により決まる。以下の病態での心不
全は A-C のどの要素の変化によるものか?
1.
2.
3.
4.
急性心筋梗塞による心不全
外傷性出血による心不全
高血圧による心不全
肺梗塞による心不全
(11) 心機能の神経性調節について正しいのはどれか?
1.
2.
3.
4.
A. 1
交感神経の興奮により心拍数は増加する。
迷走神経の興奮により心拍数は低下する。
交感神経の興奮により心筋の収縮力は低下する。
迷走神経の興奮により心筋の収縮力は増加する。
B. 1, 2
C. 1, 3, 4
D. 1, 2, 3, 4
E. 3, 4
A. 1
B. 1, 2
C. 1, 3, 4
D. 1, 2, 3, 4
E. 3, 4
A. 1
B. 1, 2
C. 1, 3, 4
D. 1, 2, 3, 4
E. 3, 4
(12) 血圧を決定する因子として正しいのはどれか?
1.
2.
3.
4.
体液量
脈拍数
心拍出量
血管抵抗
(13) 血管抵抗を決定する因子として正しいのはどれか?
1.
2.
3.
4.
血管の内径
脈拍数
血液の粘性
体重
16/17
解答
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
10.
11.
12.
13.
省略
B
B
A
B
B
省略
C
省略
1. B 2. A 3. C 4. C (肺梗塞では右心不全になる)
B
D (脈拍数は心拍出量を決める要素のひとつなので、間接的に血圧に影響する)
C
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