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SPRING 2008 - 医療関係者のための医薬品情報 第一三共 Medical
PP & harmacist atient 特 集 感染症 Special Talk 感染制御対策における薬剤師の挑戦 Case Study Report ・市立堺病院薬剤科の取り組み ・久留米大学病院薬剤部の取り組み P&P Communication ・長野赤十字病院薬剤部の取り組み ・チーム医療に不可欠なコミュニケーションとは? P&P Express ・PK-PD理論を用いた感染症対策 [P&P No.04]2008年4月8日発行(年4回発行) 発行:第一三共株式会社 東京都中央区日本橋本町3-5-1 〒103-8426 編集制作:株式会社協和企画 東京都港区新橋2-20-15 〒105-0004 ALL1T02600-0KK 2008年4月印刷 SPRING 2 0 0 8 Special Talk 特 集:感染症 耐性緑膿菌(MDRP)の拡がりにも、病院は危機感をもって対 と医師からよく質問される」と伺います。そのときに答えを出せる 応していると思います。感染制御のためには、耐性菌による感 よう勉強をしていただければ、と思います。 染症に対していかに素早く対応するかが重要です。院内感染を 木村 薬剤師は向学心のある人が多いのですが、中にはTDM 早い段階で把握して対応し、その効果を判定するなど、ICTが を苦手としている方もいて、TDMが薬剤師業務としてなかなか しっかり活動していけば、MRSAでもMDRPでも院内感染をか 普及しないという課題を抱えています。抗菌薬の適正使用のた なり制御できると考えます。 また、耐性菌については、カルバペネム系を中心とした抗菌 スペクトルの広い抗菌薬の適正使用を推進することが重要で、 Q2 抗菌薬のTDMに関与したことがありますか? 病院によって事情は異なると思いますが、抗菌薬の使用をある 1.0% 程度コントロールするためにもICTが必要です。 ■ある 木村 ICTが、院内の感染制御システムをマネジメントしてい ■ない かなければならないということですね。ICTと薬剤部が連携し、 一部の抗菌薬について使用を制限したり、届け出制を運用した 感染制御対策における薬剤師の挑戦 東京女子医科大学感染対策部感染症科 教授 戸塚 恭一 りする病院も増えてきています。 また耐性菌対策を考える上で、伝播も問題の1つであり、 MRSAの拡がりについては抗菌薬の使用制限よりも、伝播が 東京女子医科大学病院薬剤部 副薬剤部長 コントロールは、職員が標準予防策(スタンダード・プレコーシ ョン)を徹底できるような教育が重要ですし、耐性菌によって 木村 利美 ■ある ■ない 感染制御と感染症治療という2つのフィールドで力を発揮 療従事者の院内感染対策への意識は高くなっているといえます。 は職員が納得して実施できるように、時間をかけ啓発を続けて しようと、挑戦を続けている。感染制御チーム(infection 戸塚 いままでは、比較的大きな規模の病院でICTが設けら いくことが重要です。 control team:ICT)に参加する薬剤師もいるし、またPK-PD れてきましたが、最近では中小規模の病院にもICTを設置する 理論の臨床応用など時代のニーズにあったストラテジーを 動きが拡がってきています。今後、この傾向はさらに進むと考え 身につけ、病棟で抗菌薬の処方支援に務める薬剤師もいる。 ています。 抗菌薬の適正使用を支援する力が 期待される病棟薬剤師 そこでいま、抗菌薬の適正使用に最前線で取り組まれてい 木村 感染制御対策として、環境や感染経路の問題もありま 木村 アンケート調査では、抗菌薬の薬物血中濃度モニタリ るお二人に、薬剤師への期待と課題を伺った。 すが、より問題視されているのは耐性菌の拡がりといえます。 ング(therapeutic drug monitoring:TDM)とコンサルテーシ 戸塚 影響の大きい耐性菌は、やはりMRSAです。さらに多剤 ョンに関与している薬剤師は、それぞれ約4割となっていますが 最近の感染制御対策の現状 る感染制御や耐性菌対策などの病院全体にかかわる問題に取 (グラフQ2・Q3)、薬剤師は病棟で抗菌薬を用いた薬物療 あなたが、お勤めの病院のICTに 薬剤師は参加していますか? り組むことです。もう1つは、病棟で薬剤管理指導業務の一環と して抗菌薬に対する薬物治療の支援を行うことです。 近年、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)をはじめと する耐性菌の出現が大きな社会問題となり、ICTを設ける病院 が増えています。ICTには、薬剤師が参加していることが多く、 9.7% 8.7% 13.6% 68.0% にしたアンケート調査の結果によると、ICTが設けられている 36.9% 63.1% n=103 Q4 法にこれまで以上に介入していくべきではないか、と私は考えて います。実際に、多くの薬剤師が感染症治療にかかわるべきだ と感じています(グラフQ4)。 抗菌薬の投与にあたり、薬剤師はどのように かかわるべきだと思いますか? あてはまるものをすべてお選びください。 薬剤の選択から介入するべき 57.3% 58.3% ■参加している 戸塚 現在の抗菌薬の使用法や頻度などを考慮し、薬剤師 投与量の調節に関しては 積極的にかかわるべき ■参加していない が病棟業務の基本の1つとして抗菌薬を勉強していなければ、 ■ICTはないが 開設準備中/計画中 という認識をもっていることがうかがわれますね。いま医療の中 薬剤師はできる範囲で かかわるべき ■ICTがない/ 開設する予定もない 主に院内の感染症の発生動向調査(サーベイランス)や抗菌 薬の情報提供などを担っています。今回の病院薬剤師を対象 抗菌薬に関するコンサルテーション (TDMを除く) に 関与したことがありますか? に推進する必要があります。ただし、どこの病院でも同じだと 思いますが、職員教育によって成果を上げることは難しく、ICT Q1 Q3 伝播のルートや傾向が異なるので、感染経路別予防策を地道 病院は、回答者の81.6%に上っていますので(グラフQ1)、医 挙げることができます。1つはICTに参加して、院内感染に対す n=103 影響を及ぼしているのではないかと私は考えています。伝播の 抗菌薬の適正使用にかかわる薬剤師は、院内感染に対する 木村 まず、病院薬剤師の感染症へのアプローチとして、2つ 54.3% ■その他 44.7% n=103 では、抗菌薬の適正使用をコンサルテーションできる薬剤師 薬剤師は積極的に かかわる必要はない が必要とされています。ICTに参加できる薬剤師は人数が限ら その他 れるので、実際には病棟薬剤師が感染症治療にかかわって能 わからない 力を発揮していただきたいと思います。薬剤師から、 「病棟で、 n=103 40.8% 0% 1.9% 0% 0 20 40 60 80 100% 抗菌薬の選択や投与量の設定についてどのようにすればよいか、 【調査概要】調査企画・実施:株式会社協和企画 調査機関:株式会社マクロミル 調査手法:インターネット調査 回答者属性:病院薬剤師 実施日:2008年1月30日∼31日 01 P&P SPRING 2008 SPRING 2008 P&P 02 特 集:感染症 Special Talk 感染制御対策における薬剤師の挑戦 Kyoichi Totsuka 「こういう使い方はやめて行きましょう」と提案していけば、適 ぼうという、はっきりとした目標をもっている薬剤師が、臨床現場 正使用の推進につながります。 で医師と一緒に患者さんを診る機会があれば、多くのことを学 薬剤師は、PK-PD理論を熟知することはもちろんですが、ま ぶことができます。実践的な勉強をしてきた薬剤師は、さまざま ずはTDMから取り組むことがよいのではないでしょうか。薬剤 な場面でコンサルテーションに応じられるようになると思います。 師が感染症治療に積極的に関与したいと考えたとき、課題は 木村 小さい規模の病院ですと、薬剤師は臨床現場での勉強 「医師の理解」という回答が80.6%を占めていますが(グラフ がなかなかできませんし、また日常的に感染症の患者さんが少 Q5)、TDMによる科学的根拠をもってアプローチすることが、 ない病院もありますので、よい指導者のいる他施設での研修も 道を開くことにもつながるのではないかと思います。 重要になってくると思います。日本化学療法学会の認定薬剤師 戸塚 「医師の理解が課題になっている」という項目は、医師 制度にあたっては、研修制度も設けられているのですか? の教育の問題だと思います。日本の医学教育においては、感染 症診療について体系的に学ぶ機会が少ないのです。一方で、医 Toshimi Kimura 師には自分の診療科の感染症診療には慣れているという自負 戸塚 薬剤師が他施設の感染症の専門とする部署に行って、 感染対策や抗菌薬のコンサルテーション、患者さんへの説明な どの研修を受けることも、認定制度に組み込むことになってい めには、薬 物 動態(ph a r m a c o k i net ic s:P K )と薬力学 があります。薬剤師が提案しても医師に理解されないという状 論を主張するだけではなく、押したり引いたりコミュニケーショ ます。したがって、研修を受け入れる拠点を学会として整備する (pharmacodynamics:PD)を総合的に評価するPK-PD理論 況には、こういう背景があるのではないでしょうか。薬剤師は正 ンをとりながら医師と話をする力も必要ですね。 ことも必要です。1週間くらいの研修期間でも十分に学習できる に基づいてTDMを行うことが必要とされますので、薬剤師に TDMをもっと活用してもらいたいです。 戸塚 最近はPK-PD理論によって適正使用の理論的な背景 と思いますし、研修でモチベーションが刺激されることも今後 Q5 が明確になってきたため、科学的根拠に基づいて抗菌薬を使 薬剤師(薬剤部)が感染症治療に積極的にかかわる にあたって、課題となることは何だと思いますか? あてはまるものをすべてお選びください。 用するようになりました。内科系ではすでに7、8割の医師が 80.6% PK-PD理論に基づいて処方をするようにしていますし、TDMも 医師の理解 PK-PD理論に基づいて行われるなど、変わりつつあります。 薬剤師の病態・薬物療法に ついての知識不足 木村 抗菌薬のこれまでの用法・用量を見直す動きも出てきて 薬剤師の積極性 います。戸塚先生が理事長を務められている日本化学療法学 会では、いま、適正な用法・用量への見直しが行われていますね。 戸塚 最近のPK-PDの検討から、濃度依存性殺菌作用の強い 54.4% 院内のデータ管理などに 対するIT化の遅れ 28.2% 35.0% 病棟とICTとの連携 アミノグリコシド薬やキノロン薬ではPeak/AUC(area under the 海外情報の取得も含めて 情報整備の遅れ curve)、またはAUC/MIC(minimal inhibitory concentration) その他 が効果と関連し、時間依存性殺菌作用を示すβラクタムでは わからない Time above MICと効果が関連することがわかっています。また 74.8% 22.3% 4.9% 0 の活動によい影響となるでしょう。 木村 多くの薬剤師は、抗菌薬の選択や投与量の調節などに 木村 抗菌薬について勉強したいと希望している薬剤師は多 かかわるべきだと考えていますが、実は、知識不足を自覚する いので、学会で資格を取得できるということになると、資質向上 方も多いのです。薬剤師の支援のために何らかの教育制度が へのモチベーションも上がり、薬剤師全体のレベルアップにも 整備されないと、チーム医療で活躍できる薬剤師が育たないの つながると思います。 ではないかと危惧しています。 最近は、感染制御専門薬剤師のように、ある分野に特化し 日本病院薬剤師会では、院内感染制御の専門家を育成する た専門薬剤師が求められるようになってきていますが、感染症 ために、2006年に感染制御専門薬剤師の資格認定制度を設 は全診療科にかかわる疾患ですので、専門というよりはジェネ けました。グラフQ6にあるように、感染制御専門薬剤師の資 ラリストとしての資質を高める領域として、幅広い薬剤師を対象 格を取りたいと考える人は69%と多く、関心を集めています。た に教育の場が整備されることを期待します。そして、そういった だし、ICTに所属するなどの条件をクリアできるという回答は 薬剤師教育に、私もできる限り協力していきたいと思います。 3.9%と少ないのが現状です。ところで、感染制御とは別に、抗 菌薬を用いた薬物治療の専門家を育成しようと、日本化学療 0% n=103 抗菌薬適正使用のための実践的な薬剤師教育 20 40 60 80 100% 法学会で薬剤師の認定制度を準備されていますね。 半減期やPAE(post antibiotic effect)が長いバンコマイシン、 戸塚 日本化学療法学会では、抗菌薬の使い方などの基本的 アジスロマイシン、リネゾリドではAUC/MICが関連しています。 なことを薬剤師が学ぶ場を設けようという運びになり、現在、認 このような基礎的な検討を臨床に応用するために、日本化学 療法学会では2003年にPK-PD検討委員会を組織し、キノロン 系抗菌薬のレボフロキサシンをはじめ抗MRSA薬などについ ても用法・用量を変更しようと、要望書を厚生労働大臣宛に提 出しました。PK-PD解析は、抗菌薬の有効性を高めるだけでな く、副作用や耐性菌の発現を抑制するためにも重要です。 木村 PK-PD理論を実践に移し、薬物療法を評価していく時 代になってきたと思います。現状では、薬剤師が抗菌薬の選択 から積極的に処方設計に介入することはなかなか難しいですが、 不適正使用を是正していくことはできます。科学的根拠に基づ Q6 感染制御専門薬剤師の資格についてどう思いますか? ご自身のお気持ちに最も近いものを1つお選びください。 3.9% 1.9% 10.7% 7.8% 17.5% 10.7% 47.6% ■取りたいと思うし、条件を クリアできると思う ■取りたいと思うが感染対策 への関与や I CTメンバーの 資格が難しいと思う ■取りたいと思うが学会発表 の資格や論文作成が難しい と思う ■取りたいと思わない ■その他 ■わからない ■資格を知らない n=103 いて抗菌薬の投与日数や投与量、用法などを医師と協議して、 定薬剤師制度がほぼできあがりました。日本化学療法学会は 第25回日本TDM学会・学術大会 「PK-PDとゲノムに基づいたテーラーメイド医療」 会 長:戸塚 恭一(東京女子医科大学感染対策部感染症科) 会 期:2008年6月21日(土)∼22日(日) 会 場:タワーホール船堀(東京都江戸川区) 事務局:東京女子医科大学病院薬剤部 抗菌薬の使い方に精通している医師の集まりですから、教育に 適した人材が豊富です。そういう医師が薬剤師の教育に力を入 れていきたいということです。薬剤師による臨床の場での抗菌 薬のコンサルテーションや、TDMの実施を期待しています。 木村 臨床で抗菌薬にかかわるためには、感染症の関連学会 に参加したり、医師とディスカッションしたりしながら知識を身に つけていくことが大切です。薬剤師の世界から外に出て、幅広い 視点をもって専門性を磨かないといけないと、常に感じています。 戸塚 感染症の治療を学ぶ一番よい方法であり、また一番の 早道は、実際の臨床現場に入ることです。抗菌薬の使い方を学 ※Q5・Q6の調査概要は2ページグラフ下に記載 03 P&P SPRING 2008 WINTER 2008 P&P 04 感染制御対策における薬剤師の挑戦 Case Study Report 特 集:感染症 ∼市立堺病院薬剤科の取り組み∼ 【市立堺病院概要】大阪府堺市 病床数:493床 外来患者数:1,176/日 外来処方せん枚数:800枚/日 薬剤師数:22人 院内感染への対応 ―職員全体で感染予防対策を意識するために ■ ICDによる抗菌薬の許可制と薬剤師によるTDMの実施 果は、至適濃度を達成できた比率は実施群で70%、非実施群 同院では、ICT連絡薬剤が12薬剤ある(表)。抗菌薬の適 25%と大きな差がでた(図)。これによりTDM実施の有効性が 正使用を図るため、これらの薬剤を処方する際には主治医は 示され、現在では薬剤科によって100%の介入がなされている。 ICDに連絡し、口頭で使用許可を得なければならない。このと 「抗MRSA薬には、それぞれ特徴がありますから、それを考 き、許可が下りないことはあまりない。医師がほかの医師にコ 慮した処方設計が必要になります。たとえば、テイコプラニンは ンサルテーションを行うシステム自体が、不適切な抗菌薬使用 蛋白結合率が9割以上と高く、血清アルブミン値の影響を受け を抑制していると考えられる。 るため、患者さんのアルブミン値、体重などで調整した投与量 また、12薬剤のうち抗MRSA薬の3剤(バンコマイシン、テイ を算出するノモグラムを使っています」。 コプラニン、アルベカシン)はTDMが必要なためICDではなく、 現在、TDMは安井主査を含む4人の薬剤師がほかの業務と ICT薬剤師に連絡をすることになっている。 の兼任で担当している。 「この3剤に関しては医師から直接、ICT薬剤師である私に 薬剤科主査・ICTメンバー 安井 友佳子 連絡が入ります。培養結果が本当に原因菌を示しているのか、 ■ 院内感染の予防そして対応には、 あるいは鼻腔や尿道などに保菌状態(定着)になっており、実 日常からの職員の意識向上が欠かせない は別の菌が原因なのではないのかといったことについても話し ICTは、新規抗菌薬採用の際にも既存薬との比較や採用す 合います。場合によっては、適切な抗菌薬を推奨することもあり べきか否かなど、感染管理の視点から薬事小委員会にて意見 ます」。 を述べ検討をしている。 市立堺病院は、1993年にICTが発足し、現在は医師3名、そ 部門の最前線で感染予防策の実践を徹底、浸透させる活動を 上記3剤が処方された場合は、全例TDMが実施されている。 また同院の感染症対策委員会、薬事委員会と共同で、 「抗 のうち感染管理医師(infection control doctor:ICD)は 行っている。また、同院が実施している耐性菌のサーベイラン 同院では、2004年9月から薬剤科によるTDMが行われている 菌薬ガイドライン」を作成した。各疾患に担当医師および薬剤 1名、専任感染管理認定看護師(infection control nurse: ス、手術部位感染および血流感染サーベイランス、血液培養 が、開始当初は7割程度の実施率だった。そこで、開始1年目に 師を決め、作成過程では話し合いを繰り返してできあがったと ICN)1名、看護師2名、薬剤師1名、細菌検査技師1名、事務 陽性患者などの症例報告も受ける。提供された症例の治療内 TDMの実施効果を調べるために、MRSAにバンコマイシンを いう。ガイドラインの特徴としては、疾患別の分離菌、推奨薬 職員1名の9名で活動している。また各病棟、手術室、透析 容や検査結果をみて、ICTから主治医へのアドバイスなどが行 投与した症例に関して、薬剤科によるTDM非実施群(2003年 剤、さらに1日あたりの薬価も記載され、より有効で安価な抗菌 室、外来にはリンクナースが配置され、ICTとの協力体制が われる。 9月∼2004年8月までの23例)とTDM実施群(2004年9月∼ 薬を選択できるように配慮されている。 敷かれている。同院のICTの活動と、薬剤師が担っている仕 また、ICT・リンクナース合同会は定例で月1回行われ、リン 2005年8月までの37例)に分けて、治療期間中のバンコマイシ このように、院内感染予防に精力的に取り組んでいても、小 事を中心に、安井友佳子薬剤科主査にお話しいただいた。 クナースからは症例紹介、細菌検査室からは耐性菌などの報 ンのトラフ濃度を比較した。同院では、10∼15μg/mL、疾患に さなアウトブレイクが起こる可能性は常にあるのが現実といえ 告、薬剤師からは抗菌薬使用状況などが報告され、情報の共 よっては20μg/mLまでを至適トラフ濃度範囲としているが、結 る。そうした際の対応について伺った。 ■ ICTによる週1回の全病棟ラウンド、 有化が図られている。 「まず細菌検査室からICD、専任ICNに情報が入ります。専 月1回のICT・リンクナース合同会の開催 安井主査は、同院の院内感染対策の特徴について、 「まず、 当院の総合内科では診療の柱の1つとして、感染症を位置づけ ています。部長の藤本卓司先生は感染症教育にも熱心ですの で、感染症について学びたい研修医が自然と集まり、皆、グラ ム染色が行えるように指導されます。それは、グラム染色は約 10分程度で行え、そのパターンから臨床上重要な起因菌のほ とんどを推定することができるからです。その藤本先生が当院 のICTのICDを務めています。ICTは15年前に発足しており、 同時に抗菌薬の適正使用にも取り組んできました。1996年に は一部抗菌薬をICT連絡薬剤と決め、処方前にICDのコンサ ルテーションが義務づけられています」と話す。 同院のICTの活動としては、毎週火曜日の午後からICD1名、 専任ICN1名、看護師2名、薬剤師1名の5名で全10病棟をラウ ンドする。その際に、リンクナースから、ICT連絡薬剤が使われ ている患者さんに関する情報提供を受ける。リンクナースは各 05 P&P SPRING 2008 全 体 表 ICT連絡薬剤一覧 カルバペネム系 イミペネム/シラスタチン パニペネム/ベタミプロン メロペネム 3週間以上の治療群 10% 25% 薬剤科による TDM非実施群 53% 30% 大切で、たとえば、どこかの科でアウトブレイクがあれば、原因 シプロフロキサシン パズフロキサシン を一緒に考え、迅速にミニ学習会などを企画します。大切なの 3% 薬剤科による TDM実施群 は、職員全員が感染予防対策の重要性を常日頃から意識して 17% 27% 70% 超広域ペニシリン系 実践することだと思います」。 83% バンコマイシン テイコプラニン アルべカシン ムピロシン軟膏 リネゾリド 安井主査は、電子カルテの共有フォルダにICT連絡薬剤使 用患者のデータを絶えず入力し、リンクナースやほかのスタッフ と情報の共有化を図っている。 タゾバクタム/ピペラシリン 抗MRSA薬 該科の医師、病棟看護師数名と、ICN、ICDを交え、原因と対 策を話し合います。院内感染対策は職員全体の意識の向上が 60% 第4世代セフェム系 ニューキノロン系(注射) を指示し、標準予防対策、感染経路別対策が守られているか チェックし、一層強化します。数日のうちには、リンクナース、当 22% セフェピム 任ICNは当該病棟のリンクナース、看護師長と話し合い、対策 ■至適濃度 ■低濃度 ■未測定 至適濃度:10∼20μg/mL 低濃度:10μg/mL未満 安井友佳子, 藤本卓司:感染対策ICTジャーナル 2(2):219-222,2007. 図 バンコマイシンのトラフ濃度による検証 「ICTメンバーとして活動を始めて6年目、担当する病棟をも ち、TDMの実施も兼任し忙しい毎日だが、感染制御専門薬剤 師認定も申請中であり、責任あるこの仕事に取り組んでいきた い」と最後に抱負を語っていただいた。 SPRING 2008 P&P 06 感染制御対策における薬剤師の挑戦 Case Study Report 特 集:感染症 ∼久留米大学病院薬剤部の取り組み∼ 【久留米大学病院概要】福岡県久留米市 病床数:1,186床 外来患者数:1,930人/日 外来処方せん枚数:約1,000枚/日 薬剤師数:57人 指定抗菌薬届出制導入とクリニカルパスの見直し ―抗菌薬適正使用と薬剤耐性化防止に効果 薬剤部副部長 靍田 美恵子 副部長補佐・ICTメンバー 久保 裕子 主任薬剤師・CP委員会委員 有馬 千代子 薬剤師・ICTメンバー 酒井 義朗 与が行われる際にも薬剤部でチェックして感染制御部へ連絡 ■ 抗菌薬使用量の減少と薬剤耐性化の防止 し、適切でない使用の場合はICDから同様に指導が行われる。 以上の取り組みにより、指定抗菌薬届出制を導入した2003 指導内容はすべて、久保裕子副部長補佐、有馬主任薬剤師、 ∼2004年度にかけて抗菌薬使用量は約27%、金額にして約6 酒井義朗薬剤師が委員を担う感染対策委員会(毎月1回開 千万円減少した(図3)。MRSA保菌者・発症者数は年間約40 催)に報告し検討される。 人減少し、薬剤耐性化防止にも確実に効果が現われている。 今後の方向性について、久保副部長補佐は、 「深刻な病態 ■ MRSA感染症治療薬はTDM実施を促す の患者さんもいらして、治療に取り組む医師がいます。薬剤師と 指定抗菌薬の中でも、バンコマイシンなどのMRSA感染症 して何か力になりたいという気持ちでTDM解析情報提供など 治療薬の使用に関しては、有効治療域の確認と副作用防止の に取り組んでいきたい」と話す。有馬主任薬剤師は、 「将来的 ためにTDMの実施を促し、 「TDMデータ管理シート」 (図2) には地域の核となって感染制御ネットワークを形成すること、 の提出により解析を行っている。久保副部長補佐は、 「MRSA また、電子カルテ上で、指定抗菌薬使用届やTDMデータなど 感染症治療薬使用の患者さんをリストアップして、TDM実施の を管理するシステムの構築を目指したい」という。酒井薬剤師 有無を確認しています。未実施の場合、薬剤師から医師に連絡 は、 「薬の専門家として、消毒薬の適正使用や手洗いなどの標 することで、薬物血中濃度測定率が上昇しました」と話す。 準予防策についても薬剤部、そして院内全体で徹底し、新人や MRSA感染症治療薬を処方すると、処方オーダー画面に 学生に対する教育も進めていきたい」と話す。 「指定抗菌薬使用届を起票して下さい」、次いで「薬物血中 感染制御に対する薬剤師の積極的な取り組みに対して、福 久留米大学病院では2001年にICTおよびクリニカルパス 注射オーダリング端末上で、指定抗菌薬を処方すると処方 濃度を測定して下さい」と、2段階のメッセージが出るように工 岡県病院薬剤師会感染制御研修会世話人代表を務められて (clinical path:CP)委員会を発足し、2003年には抗菌薬 オーダー画面に、 「指定抗菌薬使用届を起票して下さい」とい 夫されている。さらに4月以降は、リネゾリドの使用を許可制に いる靍田美恵子薬剤部副部長に今後の抱負を伺った。 適正使用の観点から、約150種のCPのうち抗菌薬を含む うメッセージが現れ、起票を促す。主治医は指定抗菌薬使用 することが感染対策委員会で決定した。 「感染制御専門薬剤師の認定を受けるためには、3年以上 約70種について見直しを行った。さらに、 「指定抗菌薬届 届の処方する抗菌薬欄で使用薬剤にチェックを入れ、使用期 「リネゾリドを許可制としたのは、抗菌薬の過信と乱用を防 の感染制御に関する経験が必要です。スタッフには経験を積ん 出制」を導入して抗菌薬の使用をチェックし、細菌の薬剤 間や使用理由、推定される起炎菌などについて記入し、出力し ぐために、薬の必要性を処方医に再確認していただくためです。 で認定を取得し、専門性を活かした取り組みをしてほしい。当 耐性化を防止している。活動の中心となって取り組んでい て薬剤部に提出する。薬剤部では、指定抗菌薬使用届を提出 リネゾリドを処方すると、 『ICDの許可を得て下さい』というメ 院は大学病院ですし、福岡県筑後地区の中心的存在にならな る薬剤部のスタッフに、その概要を紹介していただいた。 していない医師に対して電話にて提出を呼びかけるが、これに ッセージが処方オーダー画面に現れます。薬剤部では、ICDが ければなりません。そのためには地域で同じ知識を共有できる より83∼84%だった提出率は、94∼95%に上昇した。 許可したことを確認しないと調剤することができません」また、 ように、情報を発信していきたいと考えています。責任は重大で ■ 指定抗菌薬届出制を導入し、適正使用を推進 指定抗菌薬は使用が不適切と判断されると、感染制御部の 「抗菌薬の使用は、常に状況をみながら変更や見直しを行って すが、スタッフに夢を託しています」。 有馬千代子主任薬剤師は、2003年に行われた抗菌薬を含 ICDから主治医に指導が行われる。また、14日間以上の長期投 いくことが大切です」と酒井薬剤師は話す。 む約70種のCPの見直しを、 「清潔手術、準清潔手術時の予防 的抗菌薬投与に関して、広域抗菌スペクトルを有する第3世代 使用量(×10 3本) セフェム系薬(複合セフェム系、オキサセフェム系含む)を、第 金額(×100万円) 350 250 1・2世代セフェム系薬に変更し、場合によっては起炎菌を想定 指定抗菌薬届出制導入 300 してペニシリン系薬の使用を勧めました。また、抗菌薬の使用 200 期間も婦人科病棟の一般開腹術を例にとると、術日から術後2 250 日目までと短縮しました」と、説明する。 150 ICTやCP委員会発足により、これまで主治医が主導権をもっ ていた抗菌薬の使用を、ICDや薬剤師、看護師、臨床検査技 100 正使用を推進するという流れに変わってきたという。 50 さらに同院では、2003年8月より指定抗菌薬を処方する医師 50 に、注射せんと一緒に「指定抗菌薬使用届」 (図1)を提出し 0 てもらう制度を導入した。その背景として、抗菌薬の使用が医 師ごとに異なること、また第3・4世代セフェム系薬の安易な使 07 P&P SPRING 2008 150 100 師などのメンバーが各々の立場で意見を出し合い、チームで適 用によるMRSA、MDRPなどの薬剤耐性菌対策が挙げられる。 200 図1 指定抗菌薬使用届(一部抜粋) 図2 TDMデータ管理シート 2002 2003 2004 年度 2005 2006 0 ■オキサゾリジノン系 ■ニューキノロン系 ■ホスホマイシン系 ■グリコペプチド系 ■クロラムフェニコール系 ■テトラサイクリン系 ■リンコマイシン系 ■マクロライド系 ■アミノ配糖体系 ■カルバペネム系 ■モノバクタム系 ■オキサセフェム系 ■セファマイシン系 ■第4世代セフェム系 ■第3世代セフェム系 ■第2世代セフェム系 ■第1世代セフェム系 ■ペニシリン系 使用金額 図3 抗菌薬使用量・使用金額の推移 SPRING 2008 P&P 08 特 集:感染症 P&P Communication Case Study Report ∼長野赤十字病院薬剤部の取り組み∼ 【長野赤十字病院概要】長野県長野市 病床数:700床 外来患者数:約1,500人/日 外来処方せん枚数:約700枚/日 薬剤師数:22人 患者さんが安心できる医療環境のために、 ICTによる院内ラウンドを実践 表 抗MRSA薬疾患別使用内訳年次推移 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 MRSA呼吸器疾患 37.9% 35.1% 38.1% 49.2% 50.6% 37.1% MRSA軟部組織感染 15.3% 10.7% 12.2% 13.9% 13.5% 21.2% MRSA敗血症 20.5% 6.0%* 4.8% 6.6% 7.4% 7.6% 予防的投与 3.7% 2.4% 8.8% 5.3% 4.7% 1.2% MRSA以外 22.6% 45.8% 36.1% 12.6% 23.6% 32.9% *:p=0.004(vs 前年度) 長野赤十字病院感染対策室 薬剤部製剤係長・感染制御専門薬剤師 堀 勝幸 ■ 他職種の仕事を手伝い、チーム医療を円滑に進める 薬剤師の視点から、どこに問題点があるのかを突き詰め、デ ICTは多職種によって構成されているため、スタッフ間の密 ータを収集し、それを情報として提供していく地道な活動が、 接なコミュニケーションや情報交換も大切だという。 前述の中心静脈カテーテルの問題を浮き彫りにし、抗MRSA 「さまざまな専門職が集まっているので、その専門性を尊重し 薬の使用を減少させた実績に結びついたのである。 ています。一方で、自分の専門の仕事だけをするのではなく、人 一方で、患者さんを直接ケアする医師や看護師とは違い、薬 的に不足している部分や、職種のはざまで担当が明確でない仕 剤師にとっては、なかなか患者さんの様子が見えにくいのが現 院内の充実した感染対策実践のためには、組織的な取り組 院内の血管内留置カテーテル管理の見直しに取り組み、管理 事などは、進んでお手伝いをするという意識が必要です」と、チ 実だという。そのため、問題発生時には、なるべく患者さんのベ みが必要とされる。そのため各病院では、感染対策委員会 方法を徹底指導した。その結果、翌年にはMRSA敗血症での ーム医療におけるチームワークの必要性を強調する。たとえば、 ッドサイドまで足を運ぶという。 の実務部門である感染対策室と、その実働部隊としてICT 抗MRSA薬の使用を大きく減少させることができた。その後は、 ICTに看護師が不在のときは、血液培養から陽性菌が出た患 「私たち医療従事者は患者さんが安心して医療を受けられ を組織し、活動を展開している。長野赤十字病院でも2000 抗MRSA薬使用の増加は見られていない(表)。 者さんたちのカテーテル関連のサーベイランスのリスト作りを る環境を、いかに整えるかを念頭に置いて動いています。薬剤 年にICTを、2004年に感染制御室(2006年に感染対策室 このように同院のICTは、たとえば多剤耐性菌が検出された したり、検査室の人手が足りない場合は、データの集計をする 師としても、たとえ目の前の仕事では患者さんの顔が見えなくて と名称変更)を設置した。病棟ラウンドを中心としたICT内 ときなど、必ず現場の状況を見に行き、どのような薬剤の使用、 など、堀係長がほかの領域をカバーすることもしばしばある。 も、その先の『患者さんのために』を願いながら仕事をしていく での薬剤師の活動と役割、そしてそれが、どのように患者さ 管理が行われているのかを、実際に自分たちの目で確認してお また、薬剤師の立場から、消毒薬や抗菌薬について推奨す ことがやりがいであり、目指すところです」。 んへと結びつくのかを堀勝幸薬剤部製剤係長に伺った。 り、それが大きな成果を挙げている。 る使用方法があっても、それを現場に適用するには無理がない 最後に堀係長から、患者さんへの気配りはICTの活動に必 かを考えなければ、ただの押しつけになってしまうという。 要な基本姿勢の1つであることをお話しいただいた。 ■ ICTラウンド評価表に基づいて、院内を徹底チェック 「いま、一番ベストな状態にするには何が必要かを考えたと 「病棟に行くときは、首からICTのタッグをかけたメンバー 同院の感染対策室は、感染制御専門薬剤師である堀係長と き、一旦はマニュアルを逸脱するような方法であっても、臨機応 が大勢で押しかけると、患者さんに何かあったのだろうかという 薬剤師1名、ICD4名、看護師3名(うち1名が専任のICN)、臨 変に、現場で実現可能なスタイルを見つけ出していくことも大切 不安を与えてしまいます。そのため、なるべく小人数で行くように 床検査技師2名(うち1名が感染制御認定臨床微生物検査技 です。それが延いては患者さんにとっても一番よいことだと思い したり、 『感染』などという物々しい言葉は使わないように注意 師)、事務職員1名の12名で構成されている。そのうち7名が ます」。 しています」。 ICTのメンバーとして活動している。 堀係長は、ICTの活動内容について、次のように説明される。 ■ 患者さんのベッドサイドに出向き、問題点を考える 「週1回を基本に院内を抜き打ちでラウンドし、 『ICTラウン 堀係長にICTにおける薬剤師の役割を、次のように語ってい ド評価表』 (図)に基づいて、 『一行為一手洗い』が遵守され ただいた。 ているか、消毒薬がマニュアル通りに正しく使われているか、廃 「抗菌薬や消毒薬の適正使用の推進と、医薬品の汚染防 棄物の処理は適正かなど、細かくチェックします。また、中心静 止、感染情報の提供などがあります。たとえば、当院では抗 脈カテーテルを挿入している患者さんの場合は、挿入部の状態 MRSA薬の届出制をとっていますが、医師に申し込み書を書い や、カテーテルやラインがマニュアル通りに管理されているかを てくださいと言うだけでは、なかなか書いてはくれません。そこで、 定期的に直接確認します」。 抗MRSA薬がどのような疾患に使われているか、集計したデー 2001年には、MRSA敗血症治療目的での抗MRSA薬の使 タを根拠として示していくことで、医師や看護師の信頼を得るこ 用が、全体使用量の約20%を占めており、これらの患者さんの とができ、やがて届け出制もうまく機能するようになりました 多くに中心静脈カテーテルが挿入されていたことから、ICTが 09 P&P SPRING 2008 図 ICTラウンド評価表 (写真)」。 写真 抗菌薬情報の医局掲示 抗菌薬使用について、現状の把握と意識をもってもらえるように、ピンクの用紙に はそれぞれの抗菌薬がどれくらい使用されているかデータが記載されている。 SPRING 2008 P&P 10 特 集:感染症 P&P Communication チーム医療に不可欠なコミュニケーションとは? 東京理科大学薬学部 健康心理学研究室 教授 後藤 惠子 を相手に伝える際、大別して3つの対応を取っています。 法です。この方法では問題が解決されないばかりか、いつま 1つは攻撃的な対応で、設問の(1)にあたります。攻撃的 でたっても相手の自主性は育まれないでしょう。攻撃的な対 な対応によって、ときには相手に自分の要求を受け入れても 応と非主張的な対応の中間に位置するのが、設問の(3)のよ らえるかもしれません。しかし、そのとき感じた嫌な思いは うなアサーションと呼ばれる対応です。相手を非難すること 後々まで残り、今後の人間関係に影を落とす可能性がありま なく、また正論ばかりを振りかざすのではなく、相手の意見 す。もう1つは非主張的な対応で、言うべきことを言わずに、 に耳を傾けながら患者さんにとっても、チームにとってもよ 自分が役割を肩代わりすることなどで問題をやり過ごす方 い方法を見出そうとするコミュニケーション手法です。 ✤ アサーションのための6つのアドバイス!✤ 「苦手な人がいる」、 「何を言っても反発される」、 「自分の 考えを相手に伝えるのが苦手」と感じている方は、以下のア ドバイスを参考にして下さい! Advice 1 本当の要求(期待)を自覚する。 「またか!」と腹を立てて、その感情を相手にぶつける前に、 少し客観的に状況を判断します。そして、自分の本当の要求 あなたはICTチームの薬剤師で、 ある日、消毒液の調製に注射器が使われているのを発見しました。 さて、あなたならどのように対応するでしょうか? 3つ例示してみました。 (1)担当看護師に、 「今後、消毒液の調製に注射筒は使わないように!」と厳しく言う。 (2)その場では指摘せずに、後日、ICTチームのカンファレンスで問題提議する。 (3)担当看護師の手が空いていれば、なぜ調製に注射筒を使うのかを尋ね、 注射器を取り違えて消毒液を投与された患者さんが亡くなった事件の話をし、 今後の対応策について話し合う。さらに後日、カンファレンスにおいても問題提議を行う。 <解説>(1)間違っていることが事実であっても、一方的な指摘に ぜ問題が起きたのか、どうすれば再発が防げるのかを話し合った上 対しては、人は無意識のうちにも抵抗感を抱くものです。「次回は で、それを全体に徹底させるための方策が必要となります。 (3)相 気をつけよう!」と前向きに対応してもらうには、どうしてその対応 手の状況や立場を重んじながら、対応策を一緒に講じることで問題 がよくないのか、理解してもらうとともに、伝え方にも工夫が必要と の再発を防ぐことができます。さらに、その対応策をもち帰ること なります。 (2)問題の再発防止は、その場での対応が重要です。な で、ほかでの問題発生を食い止めることが可能となります。 について考えてみます。 《本当の要求》院内感染の防止のために、面倒でもなんとか 表情や口調など、伝え方もアサーティブに。 言葉遣いだけが丁寧でも、表情や言葉の語気に憤りがあ れば、それが相手に伝わってしまいます。表情も話の内容に 合わせます。 Advice 4 主語を“私”にする。 「何度言ったらわかるのですか?」 「それなら勝手にしてく ださい」。こうした相手を責める言葉の多くは、 “あなた”が こうした習慣を定着させることが必要である。 主語になっています。主語を“私”に変えるだけで、攻撃性は そのためには相手と自分は何をしたらよいのか、落ち着いて 和らぎ、主張的になってきます。 少し考えてみましょう。 《本当の要求》自分の存在に注目してほしい。 真の医療人として、ほかのスタッフに認めてもらうためには、 どうあるべきかをさらに考えてみましょう。 《主語を“私”に変えた会話の例》「どこに問題があるのか、 一緒に話し合いましょう」「患者さんのために、できること をもう一度、一緒に考えましょう」 Advice 5 Advice 2 相手に認められようとせず、 相手の状況や専門性を尊重する。 自分に誠実であるために伝えることが大切。 自分の考えや意見を伝える際には、相手の状況や立場を重 相手に自分の立場を認めさせることが話し合いの目的とな んじて、都合を聞いたり、ねぎらったりすることから会話を始 ると、結果が出なければ落ちこむだけです。患者さんにとっ めます。専門職にはそれぞれの患者さんの見方、アプローチ て必要なことを伝えると考えれば、無用な肩の力が抜けます。 の仕方があります。お互いの専門性を尊重する姿勢が不可欠 です。 ✤ アサーティブに伝える✤ Advice 3 たとえば、余分な業務が1つ加わったと感じているのだろ うな、とあなたが感じたら……。 Advice 6 結論を急がず、幅広いアイデアを出し合い、 現実的な一致を見出す。 チーム医療においては、他職種の専門的な視点に基づく情 れないことを上手に断る」など、状況や相手によっては言い 《相手を尊重する会話の例》「いま少しお話ししたいのです ねばり強く話し合う姿勢も必要です。同じことを繰り返し 報が共有されてこそ、患者さんに対する問題の早期発見やフ づらく感じることも、率直に伝え合える関係づくりが求めら が、お時間大丈夫ですか?」 「お忙しいのに、1つ作業が増え 言うだけではなく、根拠のあるデータを提示したり、相手の ォローアップなどにつながり、チームとして一貫性のある対 れます。そのためには、相手に聞く耳をもってもらえるような てしまって大変なのはよくわかります。どのような工夫をす 言い分に耳を傾けたりすることで、自分のなすべきことも変 応が可能になります。また、チーム医療を有効に機能させる 伝え方の工夫が必要です。 れば効率よくミスを防ぐことができるか、一緒に考えません わってくるかもしれません。 「これしか答えがない」のではな ためには、 「ミスを指摘し、是正してもらう」、 「自分の見解を 自分と相手の両方の立場を大切にした自己主張の仕方を か?」 く、どうすれば理想に近づけられるのか、会話のキャッチボ 提言する」、 「わからないことを教えてもらう」、 「引き受けら アサーション(assertion)と呼びます。私たちは自分の考え 11 P&P SPRING 2008 ールをすることが大切です。 SPRING 2008 P&P 12 P&P Express vol.4 PK-PD理論を用いた感染症対策 愛知医科大学大学院医学研究科 感染制御学 教授 のsub-MIC効果によらないもの」と定義されている)を示 て、AUC/MIC値は28.5と最低目標AUC/MIC値30をやや 三鴨 廣繁 す抗菌薬ではCmax/MICやAUC/MICが、時間依存性殺菌 下回る数値となるが、1回200mg、1日2回の投与法では 作用でPAEが短い抗菌薬ではTime above MICが効果と 38.0、1回200mg、1日3回の投与法では57.0と高い値を示 相関していることが明らかにされた。また、時間依存性殺菌 す(表3)。 はじめに PK-PD解析の目的 1929年のFleming A.によるペニシリンの発見、1940年 PKとは薬物動態(生体内での抗菌薬の濃度の推移)、 作用でもPAEを示す抗菌薬では、AUC/MICが効果と相関 のFlorey H.W.とChain E.B.によるペニシリンの再発見以 PDとは薬力学(抗菌薬の作用)のことで、PK-PDとは薬物 していることが明らかにされている(図1、表1)。 降、多くの優れた抗菌薬が開発され、細菌感染症の治療は 動態と薬力学を組み合わせて、抗菌薬の有効性や安全性を たとえば、肺炎球菌による軽症∼中等症の感染症患者や 抗菌薬のPK-PD理論を活用すべき臨床状況としては、表 急速な進歩を遂げた。その一方で、薬剤耐性菌の増加や医 評価する考え方である。そして、抗菌薬の臨床効果が最大 免疫力低下がみられない感染症患者に対して、効果が期待 4に示したような状況が考えられる。 療技術の進歩に伴うコンプロマイズド・ホスト(易感染性宿 限得られるように、最適な用法・用量を設定するための指標 できるキノロン薬のAUC/MICターゲット値は、少なくとも また、表5に抗菌薬療法にPK-PD解析を取り入れたミラ 主)の増加などが原因となった、いわゆる難治性感染症が となるのがPK-PDである。 AUC/MIC>30およびCmax /MIC≧3と報告されてい ノ大学などの試み4)を示したが、PK-PD解析を臨床に取り 増加傾向になり、一部は社会問題にもなっている。特に、薬 抗菌薬のPK-PD理論の臨床応用には、①有効性を高め る2,3)。重症感染症や免疫力の低下がみられる感染症患者 入れることにより、優れた治療のアウトカムが得られること 剤耐性菌の問題は、耐性の高度化や市中病院への蔓延など、 る、②副作用を少なくする、ないしは防止する、③耐性菌の で は 、ター ゲット 値 は AU C/ M I C≧10 0 ∼12 5 および が報告されている。 その深刻度を増しつつある。 発現を抑制する、④費用対効果に優れた投与法を行う、な Cmax/MIC≧8∼10が示唆されている2)。表2に、各種キノ 薬剤耐性菌による感染症は、患者の予後を不良とし、入 どのメリットがある1)。抗菌薬のPK-PD理論に関しては、基 ロン薬の予測されるAUC/MIC値を示した。 院期間の延長、コスト増大の大きな要因の1つとなる。その 礎的研究は進展しているが、臨床研究に関しては現時点で たとえば、健常成人データを基に算出したAUC/MIC値 感染症の治療は、宿主病態レベルを考えた上で、治療を ため、薬剤耐性菌による感染症の予防対策の重要性が叫ば は報告が少ないため、今後、抗菌薬のPK-PD理論に関する と肺炎球菌に対するレボフロキサシンMIC値の関係につい 開始するが、その際に参考とするファクターの1つにブレイク れるようになってきた。特に、抗菌スペクトルの広域化や耐 臨床研究を進展させていく必要がある。 て、用法・用量 別にみると、現在 最も頻 用されている1回 ポイントがある。ブレイクポイントとは、薬剤感受性試験に 100mg、1日3回の投与法ではMIC値1μg/mLの菌株に対し より測定された抗菌薬のMICが有効(感性)か無効(耐性) 性菌をターゲットにした新規抗菌薬の開発(創薬)が停滞し ている現在、既存の抗菌薬の上手な使い方を考える「操薬」、 PK-PD理論を活用すべき臨床状況 PK-PDブレイクポイント PK-PDパラメータ 既存抗菌薬の適正使用が重要となっている。 種々の抗菌薬について効果と関連するPK-PDパラメータ 抗菌薬の適正使用にあたっては、個人防衛・集団防衛・社 が主に動物モデルを使用して検討され、PK-PDパラメータと 会防衛の各側面から考える必要があることは言うまでもな して、Time above MIC(minimal inhibitory concentration: いが、最も重要なものは個人防衛の側面である。この側面 最小発育阻止濃度)、Cmax(最高血中濃度)/MIC、AUC からの「操薬」の目的は、 「感染症を治癒させる」ことであ (area under the curve)/MICがあることが示された。 り 、そ の 具 体 的 方 策 の 1つ として、抗 菌 薬 の P K - P D 濃 度依存性殺菌作用やPAE(post antibiotic effect) (pharmacokinetics-pharmacodynamics)に関する (PAEとは、 「ある抗菌薬が微生物に短時間接触した後に、 研究の臨床応用が挙げられる。 薬剤がなくなっても持続してみられる増殖抑制効果で、薬剤 表1 PK-PDパラメータと種々の抗菌薬一覧 抗菌効果 PK-PDパラメータ 理想的な投与設計 抗菌薬 濃度依存性殺菌作用と長い持続効果 Cmax/MIC AUC/MIC 1回投与量を増量 キノロン系(レボフロキサシン、シタフロキサシンなど)、 アミノグリコシド系 時間依存性殺菌作用と短い持続効果 Time above MIC 投与回数を増加 ペニシリン系、セフェム系、モノバクタム系、 カルバペネム系、クリンダマイシン 時間依存性殺菌作用と長い持続効果 AUC/MIC 1回投与量を増量 マクロライド(クラリスロマイシン、アジスロマイシン)、 ストレプトグラミン、テトラサイクリン系、バンコマイシン、 リネゾリド 図1 PK-PDパラメータ Cmax(最高血中濃度) 表2 キノロン系薬のAUC/MIC Cmax/MIC (CmaxとMICの比) AUC 1日投与量の 合計(mg) AUC 蛋白結合率 (%) 遊離型AUC シプロフロキサシン※ 750 31.6* 30 22.1 抗菌薬の血中濃度 (体内に取り込まれた総薬物量を表す指標) AUC/MIC (AUCとMICの比) MIC Time above MIC (MICを超える濃度が維持される時間) 投与後時間 13 P&P SPRING 2008 フルオロキノロン系薬 T1/2(血中濃度半減期) MIC(μg/mL) 0.125 0.25 0.5 1 2 177 88 44 22 11 スパルフロキサシン 200 18.7 45 10.3 82 41 21 10 5 モキシフロキサシン 400 48 50 24 192 96 48 24 12 レボフロキサシン※ 500 47.5 31 32.8 262 131 66 33 16 レボフロキサシン※(細菌感染症患者) 500 72.5 31 50 400 200 100 50 25 ガチフロキサシン 400 34.4 20 27.5 220 110 55 28 14 ガチフロキサシン(細菌感染症患者) 400 51.3 20 41 328 164 82 41 21 シタフロキサシン(細菌感染症患者) 200 17.16 50 68.6 34.3 17.2 8.6 4.3 8.58 *AUC 0-12×2 AUC:健常人におけるAUC(1回経口投与) ※シプロフロキサシン、レボフロキサシンは海外用量のため、国内標準投与量に比べ1日投与量が高用量である。 SPRING 2008 P&P 14 P&P Express vol.4 PK-PD理論を用いた感染症対策 表3 肺炎球菌に対するレボフロキサシン(LVFX)の用法・用量別AUC/MIC(健常成人データ) トが算出されているのが大きな特徴である。しかし、疾患が であるため、目標とするT>MIC値を40∼50%とすると、パ 限られていること、投与量レベルが1回用量のみに限定され ニペネムを用いた場合には、1日2回投与でも十分に満足で ていること、その他の用量や投与間隔が加味されていない きる治療効果が得られるが、メロペネムを用いた場合には、 ことなどの問題もある。 1日3回投与しないと臨床的に満足できる治療効果に達しな LVFX MIC (μg/mL) AUC/MIC LVFX 100mg×3/日 AUC 28.5 AUC/MIC LVFX 200mg×2/日 AUC 38.0 AUC/MIC LVFX 200mg×3/日 AUC 57.0 parC & gyrA 二重変異 8 3.6 4.8 7.1 こうした背景を受け、新しいブレイクポイントとして、各種 いことが予測される(図2)5)。 4 7.1 9.5 14.3 14.3 19.0 28.5 薬剤の特性と、抗菌薬の用法・用量毎にブレイクポイントが この事実は、医療経済的側面、耐性菌出現抑制のための 一部の菌株で parC 一変異 2 1 28.5 38.0 57.0 設定されたPK-PDブレイクポイントが考え出されている 。 antibiotic pressure controlの重要性を考慮して、肺炎球 0.5 57.0 76.0 114.0 これは、効果と相関するPK-PDパラメータの目標値を達成 菌感染症に対してカルバペネム系薬を使用するのであれば、 できるMICをブレイクポイントとして設定したものであり、 パニペネムが最も理想的な薬剤である可能性があることを 効果予測を定量的に表現できるなど、より大きなメリットが 示している。しかし、実際の臨床では、肺炎球菌と嫌気性菌 ある。PK-PDブレイクポイントを算出することにより、日本 などの複数菌感染を来した症例が多いため、治療効果につ 国内で承認された投与量でのデータを出せたり、1日の投与 いて断定することはできないが、PK-PD理論に基づいた解 回数や点滴時間を考慮できるなどの特 徴がある。なお、 析が、医療経済的側面からの分析などに役立つことは十分 PK-PDブレイクポイント算出時には、薬剤の血中濃度はフ に理解できる。 標的変異 変異なし(野生株) 2) ■ AUC/MIC>30 第一三共研究所資料 表4 抗菌薬のPK-PD理論に基づいた 化学療法を活かす治療状況の1例 表5 抗菌薬療法にPK-PD解析を取り入れた ミラノ大学などの試み 重症感染症、 MICの高い原因菌による感染症 ■抗菌薬療法の個別化に向けたプログラム (2)集団防衛的側面 薬剤耐性菌の発現抑制を目指した 抗菌化学療法 2)通常の抗菌薬療法の開始 (3)社会防衛的側面 費用対効果に優れた抗菌化学療法 5)用量・用法を同定後の抗菌薬血中濃度の再測定 抗菌薬の適正使用について社会防衛の側面から考えると、 ■応用したPK-PDマーカー 費用対効果に優れた投与法を行うことは重要である。たと (1)個人防衛的側面 リー濃度で検討することが望ましい。 1)感染症患者からの起炎菌の同定とMICの測定 4)PK-PDマーカーに基づく用量と投与間隔の同定 キノロン系薬:Cmax/MIC≧10 えば、肺炎球菌感染症を注射用カルバペネム系抗菌薬によ β-ラクタム系薬:Cmax/MIC≧4 かつ %T>MIC≧70% り治療するにあたり、肺炎球菌による感染症の多くは重症 イントを下回れば有効(感性)、上回れば無効(耐性)と判 まず、通常の抗菌薬療法が開始され、あわせて当該抗菌薬の血中濃 断される。ブレイクポイントには、ある細菌が抗菌薬に対し 度測定、原因菌の単離およびMIC測定が実施される。 て耐性か感受性かを判定する細菌学的ブレイクポイントと、 同定され、その後血中濃度が再度確認される。 感染症の治療において、臨床的に有効かどうかの判断を行 う臨床的ブレイクポイントの2つの概念がある 。 1,2) このようにして得られたPK-PDデータに基づいて用量や投与間隔が トは、菌種別に抗菌薬の選択基準が表示されており、その 基準に合った菌種と抗菌薬の組み合わせについてブレイク ポイント が 設 定 さ れ て い る 。感 受 性 の 判 定 は 、通 常 、 感 性(s u s c e ptib l e:S)、中 間(inte r m e diate:I)、 PK-PD解析 実施群 PK-PD解析 非実施群 100 入院期間 (日数)* 無効症例数 (%) 死亡症例数 (%) 11 (7∼16) 39/223 (17.5%) 11 (4.9%) 16 (9∼23) 147/457 (31.9%) 46 (10.1%) *感染症と診断されてからの日数 Scaglione F:Int J Antimicrob Agents 19:349-353, 2002. 耐 性(resistant:R)で行われる。CLSIはWHOの標準検査 pharmacokinetics of levofloxacin. Chemotherapy 46(Suppl 1): 6-14, 2000. 4)Scaglione F : Can PK/PD be used in everyday clinical practice. Int J Antimicrob Agents 19 : 349-353, 2002. 5)三鴨廣繁, 中香お里, 渡邉邦友:肺炎球菌およびインフルエンザ菌による感染症に対する 各種カルバペネム薬のモンテカルロ・シミュレーションによる有効性評価. Jpn J Antibiotics 60(1):p47-57, 2007. 100 100 99.8 Monte Carlo Simulation on Crystal Ball 2000 2000回実行 肺炎球菌253株 100 100 99.6 97.9 97.9 90 89.2 95.6 92.1 85.9 80 84.1 74.7 70.5 70 66.9 69.4 60 58.2 50 55.6 50.3 51.8 42.6 41.8 40 37.2 法であり、世界的に汎用されていて、日本でも多くの検査室 薬の最高血中濃度」、 「血中濃度半減期」、 「組織移行性」 で採用されている。しかし、CLSIのブレイクポイントは、米 および、 「PAEの有無など抗菌薬の特性」、の4項目に、それ 国における用法・用量を基にブレイクポイントが設定されて ぞれ決められた数字が代入され、その 抗 菌 薬において、 いるため、米国との用法・用量が大きく異なる日本では、こ 80%以上の有効率が期待できるMICが感染症別に算出さ 10 の値がそのまま適応できるかどうかは疑問である。さらに、 れる。日本化学療法学会のブレイクポイントは、日本におけ 0 CLSIのブレイクポイントは、ブレイクポイント設定の具体的 る常用投与量および組織移行性などの基礎データを基に感 な計算式が示されていないなどの問題点もある。 染部位別にブレイクポイントが設定されており、CLSIのも 一方で、日本化学療法学会のブレイクポイントは、 「抗菌 のに比べて、日本の臨床により近いかたちでブレイクポイン 15 P&P SPRING 2008 pp. 2-123, ユニオンエース, 東京, 2007. 3)Nightingale CH, Grant EM, Quintiliani R: Pharmacodynamics and 図2 モンテカルロシミュレーション法を用いたカルバペネム系薬の適正使用の解析 %T>MIC達成確率 PK-PD解析実施に伴う治療成績の変化 細 菌 学 的 ブレイクポイントで あ る、C L S I( C l i n i c a l and Laboratory Standards Institute)のブレイクポイン ンエース, 東京, 2006. 2)三鴨廣繁:抗菌薬のPK/PDデータブック ∼投与レジメン選択の手引き∼ 注射薬編. 費用対効果を考慮した抗菌化学療法へのPK-PD理論の応用 3)抗菌薬の血中濃度測定 アミノグリコシド系薬:Cmax/MIC≧8 かを二分するカットオフ値のことを指し、MICがブレイクポ ◎文献 1)宮崎修一, 三鴨廣繁, 森田邦彦:日常診療に役立つ抗菌薬のPK/PD. pp. 3-62, ユニオ 29.8 30 22.9 20 27.5 21.7 10.4 31.7 16.9 13.9 4.7 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 %T>MIC ●メロペネム 500mg×2/日 ●イミペネム 500mg×2/日 ●ビアペネム 500mg×2/日 ●パニペネム 500mg×2/日 三鴨廣繁, 中香お里, 渡邉邦友:Jpn J Antibiotics 60(1):p47-57, 2007. SPRING 2008 P&P 16 シチュエーション別心理分析 ∼こんな時、こんなことをする人って?∼ 人の心の動きは、普段の何げないしぐさや行動、話し方などに、つい出てしまうものです。 さまざまなシチュエーションにおける人の行動や外見から、その時点での心理を読み解いてみましょう。 4 第 回 しぐさや癖から、心理を読み解く 監修 目白大学教授 渋谷 昌三 ●「髪の毛をよく触る」:依存心が強いタイプ ●「貧乏ゆすり」:欲求不満タイプ 幼児期は親が頭をなでてくれることで、心が落ち着いたり安心 まばたき同様、緊張状態や不安のサインとなるのが貧乏ゆすり 感を得たりします。自分で自分の体を触ることを自己親密行動と です。小刻みに足を動かすことで、小さな刺激が脳に伝わり、精神 いいますが、頭や髪の毛を触るというのは、親に頭をなでてもら 的な緊張を緩和する効果があります。頻繁に貧乏ゆすりをする人 う代償行為といえます。そこには、誰かに頼りたいという気持ち は、ストレスの強い状態にあり、物事が自分の思うようにいかない があり、依存心の強い人といえます。 ことに不満を抱いている、つまり欲求不満の状態にあるのです。 ●「唇を舐める」:甘えん坊タイプ ●「携帯電話を手放せない」:幼児タイプ 唇を常に舐めるのは、自己親密行動の1つで、乳幼児のときに 3∼4歳の幼児は、友達と遊んでいるように見えて、実はそれ 母親のおっぱいを吸って安心感を得ていた代償行為です。この癖 ぞれが好きなことをしている、 「並行遊び」をします。友達と一緒 がある人は、誰かにそばにいてほしい甘えん坊といえます。 なのに携帯電話を手放さず、メールを打っているような人は、この ●「まばたきが多い」:アグレッシブな野心家タイプ 並行遊びと同じ状況であるため、精神的に幼い人といえます。 心理学では、まばたきの回数が多いほど、緊張の度合いが強い とされています。したがって、アグレッシブな野心家タイプは、ま ばたきも多く、常に緊張状態にあるといえます。 渋谷 昌三(しぶや しょうぞう)/心理学者、目白大学教授、文学博士。非言語コミュニケーショ ンを基礎とした「空間行動学」の研究領域を確立。『外見だけで人を見抜く技術』(PHP研究 所)、 『人と人との快適距離』 (NHKブックス)など、著書多数。 第一三共医療用医薬品専用 お問い合わせダイヤル イ ヤ ク 東京都中央区日本橋本町三丁目5番1号 http://www.daiichisankyo.co.jp/ 17 P&P SPRING 2008 イ チ サ ン に 0120-189-132 は ダ イ キ ョ ウ 受付時間 8:45∼17:30(土・日、祝祭日及び当社休日を除く) FAX.03-6225-1922