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石油系燃料を用いた定置式燃料電池システムの課題

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石油系燃料を用いた定置式燃料電池システムの課題
01 調査 4-5
石油系燃料を用いた定置式燃料電池システムの課題
(財)石油産業活性化センター技術業務部 高橋 成宜
出光興産(株)ホームエネルギー部 遠藤 博之
1.調査の背景・目的
1.調査の背景・目的
燃料電池の中で近年特に注目されている固体高分子形燃料電池(PEFC)は小型化お
よび低コスト化が可能であり、小規模用途への適用が見込まれることから、家庭用や自動
車用に開発が進められている。PEFCが家庭用、自動車用に実用化されれば、エネルギ
ー消費量の増加傾向が続くと考えられる民生・運輸部門のエネルギー効率向上(省エネ)
が画期的に進むことになり、CO2対策にとって非常にインパクトの大きな技術である。
家庭用(定置式)燃料電池の燃料としては、本年1月に「燃料電池実用化戦略研究会」に
てまとめられた報告書ではインフラの観点から、都市ガス、LPガス、灯油に事実上限定
されており、議論の余地は少ないと述べられている。また、自動車用には水素、メタノー
ル、LPガス、ガソリン等の燃料が検討されており、究極の燃料としては水素という認識
で国、業界等は一致しているが、当面の燃料としては議論が分かれている。これに関して
も「燃料電池実用化戦略研究会」の報告書では近未来は既存のガソリンの燃料供給インフラ
が活用できる「クリーン・ガソリン」が国民経済的にも利点があるとしている。
このように民生、運輸部門とも石油系燃料が燃料電池の燃料の一つとして注目されてお
り、石油業界にとっても影響が大きく、また業界としても十分検討し、積極的に開発、普
及を支援していく必要があると考えている。
しかしながら、PEFCはまだ技術開発途上であり、将来の動向についてはまだ、不確
定な部分も多い。本調査ではPEFCの技術開発要素のうち、水素製造(燃料改質)、及び
システム化の技術開発を中心に定置式、自動車用の燃料電池の最新の技術開発動向、技術
的課題を整理する。本調査ではこれらを分析することにより、今後の技術開発課題、開発
の方向性を検討する一助とすることを目的としている。
このために、
「燃料電池のシステム開発に関する調査」を(財)日本自動車研究所に、
「石
油系燃料を用いた定置式燃料電池システムの課題に関する調査」を出光興産(株)にそれ
ぞれ委託調査を行った。本発表会ではこのうち「石油系燃料を用いた定置式燃料電池シス
テムの課題に関する調査」について以下に詳細を発表する。
2.調査の内容・結果
2.調査の内容・結果・成果
・結果・成果
2.1 燃料と燃料供給
(1)燃料
家庭・業務用の燃料電池向けの燃料として天然ガス、LPガス、灯油といった従来燃
料の改質技術が検討されている。特に、小型のオンサイト型燃料電池として、プロセス
面の環境性、省スペース性、それに応じた燃料選択と最適方法の開発が必要と考える。
新燃料油(合成系燃料、バイオフューエル、リサイクル系燃料)の中ではアルコール
系などは吸湿性のためやや不安定である。また、動物油系、一部のリサイクル系は硫黄
濃度が高く、燃料電池への適用には向いていない。なお、従来の石油系燃料とはアルコ
ール系を除いて混合性は良好であり、混合燃料としての活用も可能である。新燃料油の
中で、コスト的には合成系燃料(GTL燃料)が優位にある。リサイクル系燃料は運搬
回収のコストが高いなど課題も多い。
(2)燃料供給
石油系燃料の燃料電池への供給は、都市ガス、LPガスに比べると燃料の供給面、品
質面の管理に関する課題がある。この点は燃料供給事業者側からの支援が必要である。
特に現状の灯油供給に関するシステム技術(燃料配送の効率化システムや燃料の消費状
況・残量管理システムなど)の燃料電池への応用が必要になる。IT技術の活用を視野
に入れた燃料電池メーカーと燃料供給事業者側の連携が重要になる。
2.2 国内メーカーの開発状況と課題
(1)開発状況全般
国内で定置式(家庭・業務用)燃料電池システムの開発を行っている電機メーカー等の
ヒアリング調査を中心に燃料電池システムの電気関係、安全監視システム、熱利用関係及
び運転制御システムについて開発状況を調査し、今後の課題について検討した。
国内メーカーでは、いずれも開発のし易さ等の観点から最初は都市ガス(天然ガス)を
燃料とする固体高分子形燃料電池(PEFC)に取組んでいる。都市ガスでの開発の目処
がついてから、各社の戦略により、LPガスや灯油等の他の燃料によるPEFCを開発し
て行く様子が見られた。
(2)電気関係の開発課題
a.系統連系の課題
燃料電池開発メーカーは系統連系の有無はどちらでも可能なように機器開発を進めて
いる。但し、系統連系した場合の逆潮流の有無については各メーカー共に逆潮流無しで開
発を進めている。
系統連系機器については、殆どのメーカーは太陽光発電システムの技術と機器が転用で
きるとしており、一部のメーカーでは太陽光発電に比べて電圧が低い燃料電池の特性に適
合する系統連系用インバータを開発している。
系統連系は系統連系ガイドラインに適合する連系システムが必要とされており、現状の
連系システムコストはおよそ70∼100万円程度となっている。
ハード面のコストダウンにあたっては量産化によるコストダウンのみならず、規制緩和
によるガイドラインの簡素化による系統連系機器のコスト削減も今後の課題である。
b.インバータの課題
インバータに関しては効率(現状は90%以下)向上、コストダウンが課題である。
燃料電池ではセルからインバータへの入力電圧が太陽光発電に比べて30∼50V程
度と低く、インバータでの昇圧を何段にも分けて行うので効率が低下する問題がある。
インバータの効率を向上させる方法として燃料電池のセル電圧を上げる事が考えられ
るが、セル枚数を増やすことにより電圧が上げられる一方、セル枚数が増えるとコストア
ップの要因にもなる。従って、燃料電池セル電圧を上げることとインバータ効率を上げる
ことの両面からの開発が必要とされる。
(3)安全監視システムの開発課題
燃料電池では燃料供給系又は改質系からのガス漏れに対しての燃料遮断がまず考えら
れており、信頼性のある燃料遮断弁やシステムが必要不可欠である。特に家庭用の1kW
機では燃料遮断弁の小型化が必要であり、開発課題となっている。ガス漏れ、温度異常及
び電気系統の異常では燃料電池システムの停止が必須であり、より高い信頼性が要求され
る。
重要な監視ポイントとしては改質器の出口の温度が考えられている。これは改質器の
温度で改質系の運転状態(水素濃度や一酸化炭素濃度や異常反応の有無)を推定するこ
とができると考えられているからである。各社の開発目標としては、基準化の動きを見
ながらではあるが燃料電池本体では概ね改質系で2点、スタックで1,2点の監視ポイ
ントに集約化したいとしているメーカーが多く、監視ポイント(センサー設置ポイント)
の削減によるコストダウンなどが今後の課題である。
。
各種センサー類の課題では燃料流量計の小型化と信頼性向上が課題として考えられて
いる。又、燃料調節弁の小型化も課題と考えているメーカーもある。センサー類や調節弁
類は燃料電池メーカーで自ら開発するのは困難と考えられ、専門メーカー等による開発が
望まれている。
(4)熱利用の開発課題
定置式燃料電池の排熱回収効率は約30∼40%を目標と考えられており、各メーカー
共に排熱の有効利用方法が大きな課題と捉えている。特にPEFCシステムの排熱回収温
度は60℃程度の低温であり、この有効利用が課題である。各メーカー全て排熱利用方法
としては先ず給湯利用で一致しており、給湯利用の課題としては、高効率で低コストな熱
交換システムや追焚き機能付きの貯湯槽の開発が考えられている。特に燃料電池を家庭用、
業務用に導入する場合、既設の給湯機との併用や燃料電池システムの追焚き機能付きの貯
湯槽に置き換えるなどの最適な組み合わせ方法が必要とされる。又、貯湯槽システムは安
価で熱損失の少ない高性能形の開発も期待されている。
暖房利用の面では床暖房システムへの熱源として有望と考えられている。これは床暖房
のお湯の入口温度が60℃なので現状の固体高分子形の低温熱と一致するためである。
一方、ラジエータータイプの暖房ではお湯の入口温度が80℃程度を必要とされる場合
もあり、やや温度不足となる可能性もあり、燃料電池向けのラジェーターの開発も課題と
して考えられる。
(5)運転制御システムの開発課題
燃料電池の制御システムとしてはリン酸形のパッケージ化された商品で実用レベルの
システムが開発されている。リン酸形は100∼200kWクラスが殆どであり電気事業
法に基づく遠隔監視の必要性からディーゼルエンジンコージェネレーションシステム等
の運転監視制御の機能を基に、燃料電池各要素のセンシング技術、シーケンサー等による
コントロール技術により、運転制御を確立している。
これに対し、定置式小型固体高分子型燃料電池に求められる制御システムの課題とし
ては、家庭・業務用の市場で簡便な操作による全自動制御化が挙げられる。メーカーで
は電気機器との連動管理による高効率運転、エネルギー消費管理などのシステム開発が
検討されている。負荷変動による部分負荷運転や安全システムによる出力制御・停止、
スケジューリング機能やサイクル運転制御等を、簡便なパネル上の操作のみで自立的に
制御することが求められる。また、故障予防の観点から、管理データによる自己診断機
能も併せ持つ必要がある。
今後、IT技術の活用も含めたシステム開発が図られるものと考える。また、一括メ
ンテナンス、遠隔監視システムなども検討されている。上記も含めて、燃料電池を開発
している電機メーカー、システムメーカーと我々石油業界との連携も必要になってくる
と考える。
2.3 海外の開発状況と課題
(1)各メーカーの動向
海外における定置式燃料電池の開発においては、燃料として主に天然ガス、LPガス
が用いられている。定置式燃料電池の開発については欧州より米国が先行している。ベ
ンチャー企業を中心に開発が進んでおり、早いところでは2002年のプレコマーシャ
ル機発売を目指している。米国の場合、定置用燃料電池をまず送電線の来ていないよう
な地方の分散型電源として設置することを狙っている。このようなところでは送電線を
敷くコストや古くなった送電線を更新するためのコストに比べると現状の燃料電池本体
のコストにおいてもペイすると考えており、そのために米国の定置用燃料電池は系統と
は連系しない単独設置ができるタイプが主に開発されている。従って、家庭用燃料電池
の容量は、系統連系することが前提である日本では1kWが標準的サイズであるのに対
し、米国では3∼7kWと大きくなっている。また、このようなところに設置する場合
には日本のように電気と共に熱も利用するコージェネレーション化を行わないとペイし
ないと言うこともないため、まずは電気のみ使用するモノジェネレーションタイプで実
用化をもくろんでいる模様である。
このような状況から見ると、定置用燃料電池の実用化は日本より2∼3年早いものと思
われる。実際、GE Micro Gen(Plug Power)社のように来年には年間2万∼2万5千台の量
産が可能な組立工場を設置する計画であると言うメーカーもある。
各メーカーの開発機の仕様を以下にまとめる。
GE Micro Gen(Plug Power)社製 Home Gen 7000 RU-1 ユニットの仕様
仕様項目
設計定格
連続出力
30分定格
最小出力
出力容量(kW)
条件
電圧・周波数
2kW出力時
7kW出力時
発電効率(LHV)
相数
使用燃料ガス種
燃料ガス供給圧 mmAq
騒音値 dB(A) 機側1m
補給水量
電圧変動率
系統電源、燃料電池電源自動切り替え
電圧過渡特性
系統連系
温水取り出し機能
外形寸法 高さ×長さ×幅 mm
重量
試作機仕様
2kW
7kW
8.5kW以上
0.5KW
外気温 25℃
高度 150m以下
力率 1.0
120/240V 交流
60Hz
32%以上(開発目標値34%)
24%以上(開発目標値27%)
単相3線式
天然ガス
100以上
73以下(開発目標値70以下)
2.3L/kWh以下
±5%
自動転換機あり
転換速度 100msec 以下
GBEMA曲線
系統連系での運転可
独立運転は条件付きで可
なし
約1500×1950×820
約1000kg
H Power 社製家庭用燃料電池RCUの仕様
項目
燃料種
電圧・周波数
出力容量
補給水量
設置場所
騒音値 dB(A) 機側1m
作動可能温度
メンテナンス時間
外形寸法 高さ×長さ×幅 mm
仕様
天然ガスまたはプロパン
100/120/240V 交流
50または60Hz
4.5kW(連続)
10kW(15分間)
0.75Gal/h以下
屋外設置に適する
65以下
−40℃∼60℃
ルーチン 9千時間毎
メジャーメンテ 26千&44千時間
1200×1500×900
Nuvera Fuel Cells 社製1kWプロトタイプ機の仕様
項目
容積
重量
出力
電圧
バックアップバッテリー
起動時間
ターンダウン比
発電効率(LHV)
総合効率(LHV)
熱利用
運転温度
排熱温度
作動温度レンジ
燃料
燃料硫黄分
燃料供給圧力
メンテナンス間隔
騒音
仕様
160L
100kg
1kW(連続)
AC120V/240V 60Hz
AC100V/230V 50Hz
鉛蓄電池
10分
5:1
35%
75%
85℃ 温水
70℃
105℃
−18℃ − 50℃
LPG
128ppm(エチルメルカプタン)
1.4bar
9,000時間(ルーチン)
40,000時間(主要コンポーネント)
20年(耐用年数)
60dba @3feet
(2)改質技術の動向
米国では燃料として主に天然ガスとLPガスを想定しており、灯油などの石油系燃料
を用いることは殆ど検討されていない。しかしながら、自動車向けにガソリン改質技
術の検討は活発に行われている。始動性、負荷応答性に優れるオートサーマルリフォ
ーミング(ATR)の採用を検討しているところが殆どである。
a.Exxon Mobil 社
該社は General Motors(GM)、トヨタと共同で燃料電池自動車向けにガソリン改質の
検討を行っている。石油系燃料の改質については、大型装置であれば、製油所の水素製造
装置で既に確立されており、LPGから残油まであらゆる種類の燃料で水素製造が可能で
ある。しかし、それを自動車用に応用することはハードルが高く、コンパクト化や始動時
間の短縮、負荷応答性など、解決されなければならない問題は多いと見ている。
石油系燃料を改質するシステムの中ではCO変成プロセスが最も容量が大きな部分で
あり、これをコンパクト化することが、技術的に最も重要である。
改質にはATRを用いているが、燃料の脱硫はATRの下流で、気相にて(H2Sの形
で酸化亜鉛に吸着させる)行った方が、液相で脱硫を行うより容易であると考え、後者の
方式を採用している。
b.Nuvera Fuel Cells 社
該社では、プロパンからガソリン、灯軽油、エタノール等が改質可能な Multi-Fuel
Processor を開発中である。燃料の用途としては、プロパンは米国の地方での家庭用、灯
油は日本の家庭用、軽油は工業用、軍事用として使用することを狙っている。また、エタ
ノールは再生可能エネルギーであると言う位置付けで検討している。
ガソリン改質については、1997年に50kW級のプロセッサーを開発した。当時は
部分酸化改質であったが、現在のシステムはATRである。自動車用燃料改質器のコスト、
エミッション、出力密度、負荷応答性、始動時間、エネルギー効率などの項目毎に、DO
Eのプロジェクトでの2004年の目標値と現状のレベルを比較すると、エミッション、
エネルギー効率、負荷応答性は2004年の目標値をクリアしており、他の項目も概ね2
000年の中間目標値はクリアしている。但し、始動時間だけは2004年の目標値30
秒に対して、現状レベルはまだ2分以上である。
該社では、ガソリンオンボード改質器を搭載した燃料電池自動車のフリートテストを2
005∼2006年頃に実施することができると考えている。
2.4 今後の課題と開発の方向性
定置式燃料電池向けの燃料としては都市ガスを始め、種々検討されているが、なかでも
石油系燃料は取扱いが容易であり、貯蔵性にも優れているので地域を選ばずに供給するこ
とが可能であり、おおいに期待されるものである。
石油系燃料電池システムの今後の開発の方向性として、
STEP1:供給体制が整備されており、取扱いや入手が容易、安価、安全性が確認
済みである従来の石油系燃料(特に灯油)を用いた燃料電池システムの
開発、普及を図る。
STEP2:クリーン燃料である新燃料油の燃料電池への適用検討を製造、供給面も
含めて検討し、長期的な目標である再生可能燃料による燃料電池システ
ムの普及を推進する。
といったステップで開発を進めるのが現実的と考えられる。
さらに、石油系燃料を用いる場合には燃料供給面で都市ガス、LPガスに比べると検討
すべき点もあり、石油産業にとっての課題である。具体的には燃料の消費量(残量)管理、
配送管理により、需要家への安定供給を図るとともに、品質面での管理も燃料電池システ
ムにとっては必要である。燃料電池メーカーにとってもIT技術を活用したエネルギー管
理や家電製品との情報管理などが検討課題になっており、上記も含めて、石油業界と連携
をとって進める必要があると考える。
また、燃料電池の周辺技術(電気関連、熱利用など)にも課題が多く、特に熱利用技術
などの分野でも燃料電池の開発を行っている電機メーカーと給湯機などの熱利用機器メー
カー、石油業界との連携が重要になってくる。 以上
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