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第4章 接遇・介助の方法

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第4章 接遇・介助の方法
第4章
接遇・介助の方法
駅に来たお客さまが情報を確認し、切符を購入し、改札口を通り、エレベーターや階
段等を利用してホームに上がり、乗車するという流れを想定し、職員がどのように対応
していくかとりまとめています。乗降に関連する記述では、鉄道だけではなくバスとタ
クシーにおける接遇・介助にも触れています。
本章は、1節から6節の構成となっています。
4.1 高齢のお客さまへの接遇・介助
お客さま一人一人に対応した「見守り」や声かけの方法を修得し、目的地までの
わかりやすい案内を心がけます。
4.2 車いすを使用しているお客さま、肢体の不自由なお客さまへの接遇・介助
車いすや歩行補助具の基本的な機能についても理解し、場所に応じた介助方法を
修得します。
4.3
視覚に障害があるお客さまへの接遇・介助
言葉による分かりやすい案内、移動の安全に関する介助、金銭授受の注意点等を
修得します。
4.4
聴覚、言語に障害のあるお客さまへの接遇・介助
お客さまとのコミュニケーションの基本を修得します。また、効果的な筆談方法
や簡単な手話を理解します。
4.5
知的障害、精神障害のあるお客さまへの接遇・介助
「ゆっくり」
「ていねいに」「くり返し」を心がけ、具体的な事例を示して対応を
修得します。
4.6
内部障害のあるお客さまへの接遇・介助
内部障害の疾患別の接遇・介助を修得します。
障害者割引制度
・自社の障害者割引制度の知識を身に付け、適切に応対します。
・障害者手帳等を見た時は、「ありがとうございます。」と笑顔で応対します。
31
4.1 高齢のお客さまへの接遇・介助
4.1 高齢のお客さまへの接遇・介助
接遇には介助するという直接的な接遇と「見守り」という間接的な接遇があります。ただ
手を出すばかりでなく、危なくないかどうか「見守る」とういうことも大切な接遇です。相
手に応じて、また場面に応じて活用してみましょう。
高齢のお客さまは、人混み、大規模な旅客施設、普段利用しない場所では、不安を感
じていることがあります。現在の居場所や、これからどこへ行ったらよいか分からなく
なり、混乱している場合もあります。積極的に声をかけるとともに、お客さまが落ち着
いてから、目的地までのわかりやすい案内が大切です。
高齢のお客さまへの対応では、様々な身体機能の低下や複合的な障害がある人も多い
ということを念頭におく必要があります。外見上健康そうでも、移動の際の、身体的、
精神的負担は大きく、公共交通を利用しての移動に不安を感じているお客さまが多いの
が実態です。
高齢の方が外出する事は、社会と交流するよい機会です。乗務員、駅員も社会との接
点の一部です。お客さまが不快な思いをしないように、心配りをして気持ちよく利用し
てもらいましょう。
32
4.1 高齢のお客さまへの接遇・介助
介助のポイント
●公共交通機関における困難な点
・加齢にともない、筋力の低下、機敏性の低下、順応性の低下等が顕著になり、
視力や聴力も低下するのが一般的です。
・転倒したり、つまづきやすくなり、骨が脆くなっているので大きなけがにつな
がる可能性があります。
・長い距離を歩いたり、素早く行動することが困難です。
・疾病等により、様々な複合障害をもっていることも珍しくなく、介助のニーズ
も人により様々です。
・交通施設においては、
「運賃表等の小さな文字が見えにくい」
「新しい券売機等
の操作がわかりにくい」「階段の上り下り、車両の乗降等は身体的負担が大き
い」等の困難があります。
●対応の基本的な心がまえ
・慌てさせないようにします。お年寄りのペースでゆっくりと対応できる気持ち
が大切です。
●旅客施設、車両へのご案内で注意する場所・介助の内容
・交通施設では
→階段の昇降や車両の乗降等で介助があると安心です。急がせたりせず、横
で軽く腕を支えるようにします。
→高齢のお客さまは遠慮しがちなので、ラッシュ時の人混み等危険な場面では、
こちらから積極的に介助を行います。
・乗り物では
→乗降時には急がせないようにします。特にバスでは着席してから発車する
こと等に注意します。
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4.1 高齢のお客さまへの接遇・介助
(1)高齢のお客さまの特徴
●
加齢にともない、筋力の低下、機敏性の低下、順応性の低下等が顕著になり、視
力や聴力も低下するのが一般的です。
●
若い人のように長い距離を歩いたり、素早く行動することが困難です。
●
疾病等により、様々な複合障害をもってい
ることも珍しくありません。したがって、
介助のニーズも人により様々です。
●
筋力の低下に伴い、からだ全体のバランス
能力が低下します。そのため、転倒したり、
つまづきやすくなり、大きなけがにつなが
る可能性があります。骨が脆くなっている
ので、転倒の防止は特に重要です。
歩く
歩行の特徴は、円背で前かがみの姿勢になり、バランスを取るため膝が曲がり、歩幅が
狭く、歩数が多くなります。一人で歩けますが、足が上がりにくいので、介助者は足もと
に転倒しやすい状況(段差・障害物)がないか確認します。
バランスを崩したり、危ない場合はすぐに手が出せるよう、2~3歩後ろを歩きます。
34
4.1 高齢のお客さまへの接遇・介助
(2)高齢のお客さまに対応する際の基本的な心がまえ
急がせたりすると、混乱したり、つまづいたり、思わぬ事故につながります。
決して慌てさせないことです。お年寄りのペースでゆっくりと対応できる気持
ちが大切です。
移動、コミュニケーションに時間がかかることが多いので、ゆとりを持って対
応します。
高齢のお客さまは、同じことを繰り返すことがありますが、いやな顔をせず、
ゆっくりお客さまの用件を聞く姿勢が大切です。
35
4.1 高齢のお客さまへの接遇・介助
(3)交通施設では
●
路線図、運賃表、時刻表等の小さな文字が見えにくい。
●
新しい券売機等の操作がわかりにくい。
●
階段の上り下り、車両の乗降等は、特に身体的負担が大きい。
階段の昇降や車両の乗降等で介助
があると安心です。急がせたりせず、
横で軽く腕を支えるようにすると、
安全に昇降できます。片麻痺等があ
る場合は、麻痺している側に立って
介助します。エスカレーターも、乗
り慣れていない場合は、付き添うと
安全です。その際は、体を斜め後ろ
からそっと支えて、声かけをして乗
り降りすると、タイミングよくでき
ます。
ラッシュ時の人混み、大きなターミナ
ル駅での乗り換え等は、高齢のお客さ
まを心理的に不安にさせます。現在の
居場所や、これからどこへ行ったらよ
いか分からなくなり、混乱している場
合もあります。積極的に声をかけると
ともに、お客さまが落ち着いてから、
目的地までのわかりやすい案内をこ
ころがけます。
積極的な介助で安全確保
高齢のお客さまは遠慮しがちなので、危険な場面では、こちらから
積極的に介助を行うことも必要です。介助を断られても、危険が予
知されているときは、横についていると万が一バランスを崩した際
にも手を差し延べることができ安全です。
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4.1 高齢のお客さまへの接遇・介助
(4)乗り物では
バス停では、高齢のお客さまが大きくまたがなくて済むように、また、転倒の
危険を少なくするためにも、可能な限り歩道に近づけて停車させます。
乗降時はやや時間がかかります。手すり等何かつかまるものがないと、ステッ
プ等の昇降が困難です。
乗降時に急がせたりすると思わぬ事故の原因になります。特にバスでは、着席
または手すりにつかまったことを確認して発車します。
タクシーでは、行き先をゆっくりと復唱して確認します。降車時は歩道の安全、
後方からの自転車やバイクの接近に注意し、安全を確認してドアをあけます。
洞察力をもって接遇・介助
認知症の方の外出も考えられますので、言動に特徴があった場合は、
時間帯や降りた場所等を覚えておくようにします(後でご家族の方等
が探しにこられることがあります)。
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4.2 車いす使用、肢体不自由のお客さまへの接遇・介助
4.2
車いすを使用しているお客さま、肢体の不自由なお客さまへの接遇・介助
車いすを使用している人を始め、肢体の不自由な人にとっては、ちょっとした
段差や坂道でも、移動の大きな妨げとなります。車いす以外にも肢体が不自由な
お客さまが使用する様々な歩行補助具(松葉杖、義足等)があります。こうした
器具を使用する人は、段差や垂直移動を伴う経路では困難を感じています。また、
健常者のように長い距離を歩いたり、段差やスロープを越えたり、迅速に移動し
たりすることは困難です。
車いすを使用しているお客さま、肢体の不自由なお客さまの障害の部位や程度
は様々で、障害のある部位によって歩行能力や介助方法が異なります。振動が伝
わるだけで痛みを感じたり、骨がもろくなっているお客さまもいます。介助する
ときは、まず、どのようにしたらよいのか尋ねます。杖等による歩行で疲労して
いるお客さま、高齢で足腰が弱っているお客さまには、必要ならばベンチ等、休
憩できる場所を案内するとよいでしょう。ただし、自分で移動できる人もたくさ
んいます。すべてに介助が必要と考えず、何が必要か、お客さまのニーズをよく
確認します。
※ここでは移動の困難が顕著な車いすのお客さまの介助を中心に解説しています。
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4.2 車いす使用、肢体不自由のお客さまへの接遇・介助
介助のポイント
●公共交通機関における困難な点
・階段、段差だけでなく、極端な人混み、狭い通路、急なスロープ、通路の傾斜
等の通過も困難です。
・車いすのお客さまは、視点が常に低い位置にあります。高い位置にあるものが
見づらかったり、手が届かないことがあります。
・杖歩行をしているお客さま、高齢のお客さまは、短い距離の移動でも疲労を感
じます。ベンチ等休憩する場所が見つけられず不便を感じています。
●車いすの取り扱いについて
・介助の方法及び触れたり、力がかかっても構わない部位等を確認します。お客
さまによっては、介助の仕方により、痛みを感じたり、姿勢が崩れて危険な場
合があります。必ず事前に介助方法を確認します。
・車いすには、可動部分や取り外し可能な部分があります。介助時に外れないか
あらかじめ確認します。
●初めて会った時の接し方
・何か困っている様子のときは、まずお客さまに声をかけ、介助が必要かどうか
尋ねます。
●旅客施設、車両へのご案内で注意する場所・介助の内容
・トイレ等へのご案内
→車いす対応トイレへご案内します。ない場合は簡易型多機能トイレへご案
内します。
・券売機、金銭の授受
→お客さまから切符購入等に関する介助の申し出があった時は、速やかに対
応します。
・エレベーター等垂直移動における介助
→エレベーター等の乗降を介助します。お客さまの手等が接触しないように
注意します。
・ホームでの介助、バス停、タクシー乗場での介助
→車両への乗降位置まで介助します。待機時は車いすが動き出さないように
するため、線路や道路に対して車いすを並行にし、必ずブレーキをかけます。
・乗降時の介助
→お客さまを介助して車両内へ乗り込みます。スロープ等を使用(タクシー
は移乗)します。
・車内での安全な場所と安全な固定
→車いすスペースまでお客さまを介助します。車いすのブレーキをかけ、バ
スでは固定装置を確実に装着します。
・駅等旅客施設での乗り換えの配慮
→駅間、事業者間等で事前の連絡をしておきます。
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4.2 車いす使用、肢体不自由のお客さまへの接遇・介助
(1)車いすの基礎知識
①車いすの種類と各部の名称(標準型)
手動車いす
1.ハンドグリップ:介助者用握り
2.バックレスト:背もたれ
3.大車輪(後輪)
4.ハンドリム:車輪を回すハンドル
5.ブレーキ(両側についています)
6.ティッピングレバー:介助者がキャスター上
げする時に足で踏み込んで使う
7.キャスター(前輪)
8.フットレスト:足を乗せる部分
9.レッグレスト:足が後ろに落ちないように支
える
10.シート:クッションを乗せて使う事が多い
11.スカートガード(がわあて)
:衣服が外に出
ないようにする
12.アームレスト(ひじかけ)
:取り外しできる
ものがある
重量はおよそ 15kg 前後ですが、新素材で軽量化が進んでいます。スポーツタイプはおよそ 10kg です。
電動車いす
1.ハンドグリップ:介助者用握り
2.バックレスト:背もたれ(ヘッドレスト
付きもあります)
3.クラッチレバー:電動、手動の切
替を行う
4.駆動輪(後輪)
5.バッテリー
6.自在輪(前輪)
7.フットレスト:足を乗せる部分
8.レッグパイプ
9.レッグレスト:足が後ろに落ちな
いように支える
10.シート:クッションをのせて使う
ことが多い
11.操作制御ボックス
12.アームレスト(ひじかけ):外れ
るものに注意
屋外ではおよそ 6km/h の速度で走行可能です。重量はおよそ 40kg~60kg 前後です(バッテリー含む)。
最近では、車輪にモーターを組み込んだ軽量タイプも普及しています。
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4.2 車いす使用、肢体不自由のお客さまへの接遇・介助
ハンドル形電動車いす
1
2
8
9
7
3
5
6
1.バックレスト:背もたれ
2.ハンドル
3.駆動輪(後輪)
4.バッテリー
5.自在輪(前輪)
6.フットレスト:足を乗せる部分
7.シート
8.操作制御ボックス
9.アームレスト(ひじかけ):外れ
るものに注意
4
■ハンドル形電動車いすの鉄軌道駅利用について
―交通バリアフリー技術規格調査研究委員会報告書の概要―
1.現在販売されているハンドル形電動車いすは、屋外利用を想定し公共交通機関の利用を想定して設
計されておらず、回転半径、重量等の制約から多くの鉄道駅では利用することが困難となっている。
2.ハンドル形電動車いすにより公共交通機関を円滑に利用するためには、
①移動円滑化基準や整備ガイドラインで想定する基本的寸法を満たす回転性能、
②小段差・溝の乗り越えのため介助者が持ち上げることを想定した取っ手、
③介助時や緊急時に介助者が手押しで誘導することができるよう操作しやすいクラッチ等が具備さ
れた機器開発が行われることが望ましい。
3.一方で、こうした機器の開発や普及には相当の期間を要することが想定される。それまでの間、公
共交通機関の利用を必要とし日常の移動用具としてハンドル形電動車いすを用いている肢体不自由
者が公共交通機関を利用できない状態が続くことは望ましくはない。
4.したがって、こうした者の移動を確保する観点から、公共交通機関の利用を想定した機器が開発さ
れるまでの間、鉄道の利用については以下の条件が考えられる。(なお、現行の鉄道事業者の取扱
を踏まえ条件を緩和することを妨げるものではない。)
①利用者の属性に関する条件として、補装具給付制度によりハンドル形電動車いすの給付を受け
ている者
②鉄道駅・車両の整備状況に関する条件として、エレベーターの設置等により段差が解消されワ
ンルートが確保されている鉄道駅(ただし、乗降経路、車両内部の狭隘等の空間制約による当
該駅の利用の可否は鉄道事業者が最終的に判断)
5.また、鉄道事業者において上記①に該当していることが容易に確認できるよう、ハンドル形電動車
いすの使用者においては補装具交付決定通知書を携帯し、駅係員等への提示を行うことにより、利
用が円滑にできるよう配慮する必要がある。
出典:国土交通省ホームページ(http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha03/01/010716_.html)
交通バリアフリー技術規格調査研究委員会報告書の全体版については、国土交通省ホームペー ジ
(http://www.mlit.go.jp/barrierfree/030910_.html)に掲載されています。
交通バリアフリー技術規格調査研究委員会は、国土交通省から委託を受けた社団法人交通バリアフリー協
議会の主催で開催され、有識者、消費者団体、公共交通事業者、医療福祉法人、各種団体、政府(国土交
通省、厚生労働省、警察庁)等で構成されています。
なお、らくらくおでかけネット・ホームページ(http://www.ecomo-rakuraku.jp/rakuraku/index/)に「ハ
ンドル形電動車いす利用可能駅情報」が掲載されています。
41
4.2 車いす使用、肢体不自由のお客さまへの接遇・介助
②手動車いす(標準型)のたたみ方・ひろげ方
たたみ方
両側のブレーキをかけ、フ
ットレストを上げます。
シートの中央を持上げます
(上に引き上げればいすは閉
じます)。
完全に折りたたみます。
手のひらでシートの両端を押し
広げます(上から押していけば
開きます)。
人が座ってからフットレスト
を下ろします。座る前に足
を乗せるといすが跳ね上が
り危険です。
ひろげ方
両側のブレーキをかけ、アーム
レストを持って少し外側に開き
ます。
このとき指を挟まれないように注意!
<参考:車いすの標準寸法(JIS)>
手動式、電動式(折り畳み時の寸法除く)とも同じ
1090mm
以下
320mm
以下
1200mm 以下
42
700mm 以下
4.2 車いす使用、肢体不自由のお客さまへの接遇・介助
③歩行補助具の種類
●
車いすのほかにも、歩行器や杖等肢体が不自由なお客さまが使用する様々な
歩行補助具があります。
●
手押し車等を使っている姿も街中でよく見かけます。
●
今後は、多様な歩行補助具等を使用して外出する人たちが、ますます増える
と考えられます。
主な杖の種類
松葉杖
T杖
多脚杖
エルボークラッチ
シルバーカーの一例
杖を使用した場合に必要な通路等の幅員
杖を使用している人は 70~90cm、松葉杖を使用している人は 90~
120cm、歩行器は約 80cm 程度の幅が必要とされています。
43
4.2 車いす使用、肢体不自由のお客さまへの接遇・介助
(2)初めて会った時の接し方
公共交通機関における困難な点
●
階段、段差だけでなく、極端な人混み、狭い通路、急なスロープ、通路の傾斜等
の通過も困難です。
●
車いすのお客さまは、視点が常に低い位置にあります。高い位置にあるものが見
づらかったり、手が届かないことがあります。例えば切符の購入等で不便を感
じています。また、座面が低いために人混みでは周囲の人のバッグ等が顔にあ
たることがあります。
●
杖歩行をしているお客さま、高齢のお客さまは、短い距離の移動でも疲労を感じ
ます。ベンチ等休憩する場所が見つけられず不便を感じています。
介助の申し出があったときは、速やかに応対します。
何か困っている様子のときは、まずお客さまに声をかけ、介助が必要かどうか尋ね
ます。
車いすを使用しているお客さまには、腰を
かがめる等して、お客さまの目の高さに合
わせて対応します。威圧感が減りコミュニ
ケーションが図りやすくなります。
「何かお困りですか?」
「何かお手伝いすることはありますか?」
車いすを使用しているお客さまの中には、複合した障害のある人もおり、言語障害等
を伴う場合は、コミュニケーションが難しいこともあります。わからないことはあい
まいにせず、ていねいに聞き返して確認します。
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4.2 車いす使用、肢体不自由のお客さまへの接遇・介助
(3)介助方法の基本(車いすを押して移動する)
①介助の前に確認しておくこと
●
介助の方法及び触れたり、力がかかっても構わない部位等を確認します。お
客さまによっては、介助の仕方により、痛みを感じたり、姿勢が崩れて危
険な場合があります。必ず事前に介助方法を確認します。
●
車いすには、可動部分や取り外し可能な部分があります。介助時に外れない
かあらかじめ確認します。車いすの外れやすい部分、持ってもよい部分に
ついて確認します。
ホームでの待機時、車内、エレベー
ター、エスカレーター利用時は、短
時間でも車いすのブレーキをかけま
す。
電動車いすは通常、お客さま自身が
操作するため、通路やスロープでは、
たいてい介助は不要です。(手動に
切り替えて介助者が押す場合もあり
ハンドグリップ、バックレスト、アーム
レスト、フットレスト、キャスター等は外
れる可能性があります。
ます。)
電動車いすを分解して固定する際には、ロープ等で固定して、破損等には注意
します。
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4.2 車いす使用、肢体不自由のお客さまへの接遇・介助
②車いすの押し方
動き出す前には必ず「動きます」
、「前に進みます」と声をかけ、周囲の状況に注
意して進みます。
止まる時、前進したあとに後退する時、曲がる必要がある時にも声をかけます。
お客さまは心構えができて安心です。
混雑時等人が多い時は、フットレストが他の人にあたらないように注意します。
少しでも車いすから離れる場合は、必ず両側のブレーキをかけます。車いすの横
に立ち、片手でハンドグリップを押えながら、もう片方の手でブレーキをかけま
す。お客さまが操作する場合はお任せします。
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4.2 車いす使用、肢体不自由のお客さまへの接遇・介助
③段差の越え方
段差を上がる
車いす前向き
段差はキャスターを上げて乗り越えます。
「段差なので前を少し持上げます」等、声をかけるとお客さまは安心できます。
キャスターの上げ方は、ティッピングレバーを踏み込んで、ハンドグリップを押
し下げ、膝と腰を軽く曲げてバランスを保つようにします。
キャスターが段を通過したら静かに下ろし、続いて、後輪をゆっくり押し上げま
す。
①キャスターを上げる → ②キャスターを段に乗せる → ③後輪をゆっくり押し上げる
段差を上がる
車いす後向き
※この方法は、より高い段差、2 段以上の連続した段を越える時に適して
います。
後輪から段を越える方法です。同じようにキャスターを上げます。後輪を先に段
差の角に当てて引き上げます。完全に段を通過したところで静かにキャスターを
下ろします。
①キャスターを上げる → ②後輪を段の角にあて、引き上げる → ③キャスターを下ろす
47
4.2 車いす使用、肢体不自由のお客さまへの接遇・介助
段差を下りる
車いす後向き
後輪から下りる方法が一般的です。まず後輪を下ろし、続いて後ろに引きます。
この時キャスターを上げた状態で保持し、段を完全に通過したらキャスターを静
かに下ろします。
①後輪を下ろす → ②キャスターを少し浮かせ、後ろに引く → ③キャスターを下ろす
(やや押し気味にするとゆっくり下ろせます)
段差を下りる
車いす前向き
前向きで段差を下りる場合も、まずキャスターを上げます。そのまま前進し、後
輪を段差の角に当てて静かに下ろします。段を完全に通過したらキャスターを静
かに下ろします。
①キャスターを上げる → ②後輪を段の角にあててゆっくり下ろす → ③キャスターを下ろす
(やや引き気味にするとゆっくり下ろせます)
お客さまが慣れている向きを伺って対応するとよいでしょう。
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4.2 車いす使用、肢体不自由のお客さまへの接遇・介助
④狭いところの通過
狭い通路やドアを通過する時は、車いすの左右に注意します。約 80cm の幅があ
れば標準的な車いすは通過することができます。
(3)トイレ等への案内
車いすに対応したトイレがある場合には案内します。
車いすに対応したトイレがない場合は、事情を説明して駅に隣接した商業施設等
の車いす対応トイレを案内します。
便房が広い簡易型多機能トイレを使用できる人もいますので、お客さまにうかが
って案内します。
その他主要施設へのご案内は、介助が必要か確認して対応します。
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4.2 車いす使用、肢体不自由のお客さまへの接遇・介助
(4)券売機、金銭の授受
●
車いすのお客さまにとって、券売機の設置位置が高かったり、フットレストが入
るスペース(蹴込みの奥行き)が十分でない等、使いにくい場合があります。
お客さまから切符の購入等に関する介助の申し出があったときは、どのような介
助が必要か確認して速やかに対応します。
乗車券等購入のときは、目的地を確認し、運賃を伝えます(割引を適用する場合
はその金額)。いったん現金を預かる場合は、受け取った金額をハッキリ述べ、
釣り銭があるときも同様に明瞭に伝えます。
松葉杖を使っている方や手の不自由なお客さまもいるので、釣り銭および切符を
落とさないようにゆっくりと手渡します。財布やバッグに入れるよう依頼された
ときはお手伝いします。
(5)垂直移動における介助
①エレベーターでの介助
車輪やお客さまの手がドアに当たらないように、車いすの左右スペースに十分注
意して乗り込みます。
エレベーター内は狭いので他の利用者にフットレスト等があたらないように注
意して乗り込みます。
降りる時は出口付近の安全を確認して降ります。
乗り降りする時にお客さまからの要望や、安全上の問題がない限り、前向きか、後ろ向き
かはその場に応じて対応します。また、周囲の混雑の状況やエレベーターの大きさによって
も柔軟に対応します。かご内に十分なスペースがなければ無理に転回する必要はありません。
50
4.2 車いす使用、肢体不自由のお客さまへの接遇・介助
②エスカレーター、階段昇降機での介助
エスカレーターでの介助は、ステップが平らになる車いす対応のエスカレーター
を使用します。安全で円滑な操作のために使い方に習熟しておくことが大切です。
(詳しくは各取り扱い説明書を参照して下さい。)
階段昇降機を使用する際は、取扱い方法に習熟し、安全な使用を徹底します。
参考:階段での介助
●
階段での車いすの介助は危険が多いので、階段以外に経路がない場合以外は
行わないようにします。
やむを得ず階段での介助を行う場合は、
少なくとも 4 人で対応します。
車いすにより仕様が異なるので、お客さ
まに持ってもよい部分を必ず確認しま
す。
車いすを持上げる場合(4 人)
前の 2 人はアームレストおよびフットレ
スト上部を持ちます。後ろの 2 人はハンド
グリップを持ちます。ただし、いずれの部
分も外れない事を確認してから持つよう
にして下さい。
介助する人たちと車いすのお客さまとのコミュニケーションを十分にとります。
ひとりがリーダーになり、声をかけ、4 人が同時に水平に持ち上げます。
51
4.2 車いす使用、肢体不自由のお客さまへの接遇・介助
(6)ホームでの介助、バス停、タクシー乗り場での介助
①ホーム
傾斜で車いすが動き出さないように注意!
ラッシュ時等混雑時には、フットレストが他のお客さまにあたらないように注意
します。
待機する時は、ホームが傾斜していることがあるので、線路に対して車いすを平
行にし、必ずブレーキをかけます。
②バス停、タクシー乗り場
歩道の幅が狭いところでは、ほかの通行人に十分注意して待機します。
歩道の傾斜により、車道にはみ出したりしないようにブレーキをかけます。
※歩道や車道には水はけをよくするために傾斜があります。
52
4.2 車いす使用、肢体不自由のお客さまへの接遇・介助
(7)乗降時の介助
① 鉄道
車いすの円滑な乗降のために特に配慮されたホームや車いすスペースのある車
両の定位置がある場合、お客さまに確認のうえ、その場所まで案内します。
乗車するドアの前で待機します。ドアに対して直角に、前向きで乗り込みます。
スロープ板等の乗降補助具がある場合は、使用法に従います。
電車が到着したら、段差越え、溝越えの要領で乗車します。この時、車内のほか
のお客さまにフットレスト等があたらないように注意します。
スロープでの乗車
段差が高い場合、ホームが曲がっていて溝の幅が一定でない場合は注意が必要
です。可能ならば別の、より安全な乗車口に移動します。
降車時は後ろ向きで行い、段差越え、溝越えの要領でキャスターが溝に落ちない
ように注意して降ります。
53
4.2 車いす使用、肢体不自由のお客さまへの接遇・介助
② バス
バスは歩道に対してできる限り接近し、平行に停車させます。
リフト付車両、ノンステップのスロ
ープ付車両の場合は、それぞれの使
用法に合わせて乗降を介助します。
・スロープ付のバスでは、スロープでの介助を参考に乗降します。
・乗車時:お客さまに声をかけ、押し戻されないように足を前後に踏ん張り、ゆっくりと
押します。車内の他のお客さまにフットレスト等があたらないように注意します。
・降車時:後ろ向きで降りるのが一般的です。後方、周囲の安全を確認して、お客さまに
声をかけてからゆっくりと後退します。降りたあとは歩道の傾斜で車いすが動かないよ
うに配慮します。
乗務員は、リフト、スロープ、車いす固定装置の操作に習熟していることが大切
です。
リフトやスロープが付いていない車両では、階段を昇降する時の要領で介助しま
す。乗務員、車いすの介助者、必要に応じて周囲の乗客の協力を得て行います。
54
4.2 車いす使用、肢体不自由のお客さまへの接遇・介助
③ タクシー
お客さまが手を挙げていたら(またはタクシー乗り場で見かけたら)、まず運転
席から降りて、介助者の有無に関わらず、お客さまが 1 人で移乗できるか確認し
ます。
1 人で移乗できる場合、または介助者
がいて車に移乗する場合は、車に乗
りやすい位置まで車いすを近づけま
す。
ドアを大きく開き、車いすを斜めに
近づけてブレーキを掛けます。
本人が座席に移乗したら、車いすを
たたみ(たたみ方参照)トランクま
たは後部座席に収納します。
車いすを持ち上げる時は、腰を落とし
て両足を開き、レッグパイプと、外側
の車輪のスポークをつかみます。腰へ
の負担を減らすために足の屈伸を利用
して持ち上げます。
障害のあるお客さまの中には、姿勢の安定しない人、骨粗鬆症の人もいます。運
転中は急ブレーキ、急ハンドル等を行わないよう注意します。
降車時は乗車時と同じ要領で、車いすを広げてブレーキをかけ、降車ドア近くに
置き、移乗してもらいます。
55
4.2 車いす使用、肢体不自由のお客さまへの接遇・介助
(8)車内での安全な場所と安全な固定
電車では車内の所定の位置(車いす用のスペース)、またはドア付近の座席の横
に寄せてブレーキをしっかりかけます。車いすスペースでは、進行方向に向いて
乗車し、手すりにつかまってもらうのが一般的です。
車いす乗車スペース
ドア
進行方向に対して前向きに乗車。
進行方向
バスでは所定の位置(座席を跳ね上げた車いす用のスペース)、もしくは一般座
席横の指定位置に、進行方向に向けて車いすを寄せます。車いすのブレーキを掛
け、備え付けの固定装置を確実に装着します。
(※固定装置の操作方法は事業者により異なるので、各取り扱い説明書を参照し
て下さい。)
固定する時に座席を跳ね上げる場合、座席を空けていただくお客さまに協力をお
願いします。
「恐れ入りますが、(車いすのお客さまが乗車いたします。)座席を収納しますの
でご協力お願いします。」
タクシーでは、姿勢が安定しないお客さまもいるので、必要に応じてシートベル
トを着用するようお願いします。
(9)駅での乗り換えの配慮
乗り換えの際は介助が連続するように、事業者間で事前の連絡をしておきます。
※3節の「視覚に障害のあるお客さまへの接遇・介助」の(10)も参照して下さい。
56
4.3 視覚に障害のあるお客さまへの接遇・介助
4.3 視覚に障害があるお客さまへの接遇・介助
視覚に障害のあるお客さまには、主として音声による情報案内が必要になりま
す。たとえば、経路の案内、施設内の案内等です。また、狭い通路、ホーム等で
の適切な誘導による安全確保等、移動の安全に関する介助も重要です。単独歩行
をしている視覚に障害のある人のうち、ホームからの転落経験のある人は 6 割と
も 7 割ともいわれています。過去に何度も転落を経験した人も少なくありません。
視覚障害には様々な種類や程度の違いがあります。視覚障害者というと、まっ
たく見えない全盲の方を想像しがちです。しかし、弱視(ロー・ビジョン)とい
って、光を感じたり物の輪郭等を判断できたり、矯正すれば黄色の視覚障害者誘
導ブロックを目印に外出できる人たちもいます。また、視野の一部に欠損があり、
周囲の情報を十分に視覚的に捉えることができない障害もあります。
「1 人で歩いているから切符も買えるはずだ」とか、逆に「視力に障害がある
から一部始終介助しなければならない」という断定は禁物です。お客さまのニー
ズ、状況に応じて必要な介助を提供するように心がけます。
※視覚障害による視野障害の例(イラストの配色は視野障害とは関係ありません。)
正常な視野
中心暗点
弱視ではっきりと見えない様子
周辺視野狭窄
57
視野欠損
4.3 視覚に障害のあるお客さまへの接遇・介助
盲導犬について
盲導犬は、特別な訓練を受けた犬で視覚障害者の目の代わりとなる役割を果たしていま
す。盲導犬は、ハーネスという専用の器具をつけ、使用者が左手にハーネスを持って一緒
に歩行します。トイレの訓練もされており、噛んだり吠えたりすることもありません。
介助のポイント
●公共交通機関における困難な点
・経路の案内、施設内の案内等、主として音声による情報案内が必要です。
・単独歩行をしている視覚に障害のある人のうち、ホームからの転落経験のある
人は 6 割とも 7 割ともいわれています。
●初めて会った時の接し方
・いきなり触れたり、手を引いたりしないようにします。
・まず、声をかけ、介助が必要かどうかお客さまの意向を確かめます。
・介助を断られても、危険がある時は積極的に声をかけ、状況を説明したうえで、
安全なところまでご案内します。
●旅客施設、車両へのご案内で注意する場所・介助の内容
○誘導方法の基本
・いきなり触れたり、手を引いたりしないようにします。
・まず、声をかけ、介助が必要かどうかお客さまの意向を確かめます。
・お客さまが白杖と荷物を持っている場合等、介助の方法を学習します。
○方角、場所、物の位置を案内する
・目的地へのご案内 →位置関係を示す方法等を用います。
・券売機へのご案内 →切符購入までの援助が必要か確認します。
・トイレへのご案内 →トイレの前まで案内し、中の構造を説明します。
・都合でその場を離れる場合 →必ず声かけしてから離れます。
○券売機、金銭の授受
→金額はハッキリと伝え、つり銭等はお客さまに確実に手渡します。
○移動の介助
→通路、狭い通路、改札口において、お客さまの歩く速さを考慮して誘導し
ます。
○垂直移動における介助
→お客さまの歩行能力に十分注意しながら、声かけしながら介助します。
○ホームでの介助
→転落事故防止のために配慮すべき点を学習します。困っている様子の人に
は積極的に声かけします。
○乗降時の介助
→電車、バス、タクシーの乗降時に配慮すべき点、声かけのポイントを学習
します。
○車内では
→車内での位置、車内トイレの位置のご案内、車内放送の留意点を学習しま
す。
○駅での乗り換えの配慮
→安全な移動の連続性が確保されるよう案内ルールを学習します。
58
4.3 視覚に障害のあるお客さまへの接遇・介助
(1)初めて会った時の接し方
留意点
●
いきなり触れたり、手を引いたりしない。
●
まず、声をかけ、介助が必要かどうかお客さまの意向を確かめます。
●
介助を断られても、危険がある時は積極的に声をかけ、状況を説明したうえ
で、安全なところまでご案内します。
①声をかける
白杖(図参照)を持っているお客さまを見か
けたとき、付き添いの人が見当たらなかった
り、安全面の配慮が必要であったり、また、
何かを探していたり、困っている様子の時は
声をかけます。お客さまが驚くので、いきな
り腕に触れたり、杖を引いたりしないように
します。盲導犬を同伴している場合も同じで
す。
いきなり触れたりせず、まず声を
かけましょう。
「駅員(乗務員)の○○です。どちらに行かれますか?」
「駅員(乗務員)の○○です。何かお手伝いしますか?」等、声をかけます。
直杖
折たたみ式
引き伸ばし式
グリップ
シャフト
チップ(石突き)
白杖の種類には、直杖、折たたみ式、引き伸ばし式があります。
59
4.3 視覚に障害のあるお客さまへの接遇・介助
②お客さまのニーズを把握する
単独での移動に慣れている視覚障害者のお客さまの中には、必ずしも介助を必
要としない場合があります。「誘導しなければ」と考えるのではなく、必ずお客
さまの必要とする介助を確認します。
(2)誘導方法の基本
お客さまが介助(誘導)を希望した場合、どのようにしたらよいか尋ねてから
介助を行います。一般的には、介助者が白杖を持っていない側の半歩前に立ち、
お客さまに腕をつかんでもらいます。
(イラスト)
誘導の基本姿勢
身体の向きは平行で
「よろしければ私の腕におつかまり下さい。どちら側がよろしいですか?」
60
4.3 視覚に障害のあるお客さまへの接遇・介助
お客さまと介助者に身長差がある場合は、肩に触れてもらう等臨機応変に対応
します。また、お客さまが白杖と荷物を持っている場合等、両手がふさがって
いるときは、介助する人が、お客さまの腕等に触れて誘導します。
(イラスト)
お客さまの両手がふさがっているとき
は、介助者が腕に触れるようにします。
お客さまの身長が高い時は、肩に
触れてもらう場合もあります。
盲導犬が同伴している場合は盲導犬の歩く幅も考慮します。盲導犬は仕事中で
す。ペットではないので、犬の体に触れたり、声をかけたり、餌を与えたりし
ないで下さい。また、ハーネスにも触れないで下さい。
盲導犬は、特別な訓練を受けた犬で視覚障害者の目の代わりとなる役割を果たし
ています。盲導犬は、ハーネスという専用の器具をつけ、使用者が左手にハーネ
スを持って一緒に歩行します。トイレの訓練もされており、噛んだり吠えたりす
ることもありません。
61
4.3 視覚に障害のあるお客さまへの接遇・介助
(3)方角、場所、物の位置を案内する
① 目的地(物)への案内の基本
目的地(物)までの距離と方向を具体的に示します。必要に応じて誘導します。
よくない説明
具体的でよい説明
(イラスト 2 点)
あいまいな指示代名詞では伝わりません。具体的な説明をこころがけます。
「まっすぐ20mほど進んで、売店の角を右に曲がります。」
「右に5m進むと電話があります。よろしければご案内します。」等。
×
悪い例:「あっちの方に行くと・・・」「そこにあります」等の表現は
使用しません。
62
4.3 視覚に障害のあるお客さまへの接遇・介助
クロックポジション
位置関係を示す方法
クロックポジション(時計の文字盤に見立てて方向や
場所を示す)で方向を示す方法があります。この方法に
慣れている人もいるので、確認のうえ対応します。お客
さまは常に 6 時の位置です。たとえば、右の方向なら 3
時、左なら 9 時になります。この方法は、一般的にはテ
ーブル上の料理等の位置を示す時に用いられます。
② 券売機への案内
券売機への案内は、切符の購入まで援助が必要か尋ね、必要があれば購入を手
伝います。金銭の取り扱い等詳しくは→(4)券売機、金銭の授受を参照。
③ トイレへの案内
トイレの前まで案内し、中の様子を伝えます。
介助者が同性ならば、必要に応じて中に入り、
便器や手洗いの位置を伝えます。
個室の場合は、洋式か和式か、ペーパーホル
ダーや水洗ペダルの位置等を知らせます。ま
た、荷物棚やコート用フック、ドアの施錠方
法を知らせます。
必要な装置の場所を知らせます。
介助者が同性でない場合は、必要に応じて周囲のお客さまの協力を求めて、案
内してもらいます。
きめこまかな配慮
お客さまは誘導されている立場上、トイレの利用が言い出しにくいものです。
介助する側の気配りが必要です。
男性用手洗いの小便器は、周辺タイルと便器の色のコントラストがないと、弱
視の方でも判別が困難です。必要ならば所定の位置を伝えるようにします。
63
4.3 視覚に障害のあるお客さまへの接遇・介助
④ 都合でその場を離れる場合
都合でその場を離れる時は黙って離れずに、必ず声をかけるようにします。戻
ったときも同様です。お客さまにお待ちいただくときは、通行の妨げにならな
い安全な場所で待機してもらいます。
「今、確認してきますのでここでお待ちください。」
「お待たせいたしました。」等。
誘導を終えて別れる際には、現在位置と方向についての説明を行ってから離れ
るようにします。
「今、駅の北口にいて、バスターミナルの方に向いています。誘導ブロックに沿
ってまっすぐに 50m 行くと山川団地行きのバス停です。右にいくと県立文化会
館方面です。」
「ここから○○鉄道にお乗り換えですので、○○鉄道の方にこの先のご案内をお
願いしてあります。最終下車駅もお伝えしてあります。お気を付けていってら
っしゃい。」等。
(4)券売機、金銭の授受
どんな困難がありますか?
●
経路の確認、運賃の確認が困難です。
●
券売機では、お金やカードを入れる位置がわからなかったり、行き先の選択、
他社線への乗り継ぎのためのボタンがわからない等困難があります。
●
タッチパネル式券売機では利用がいっそう難しくなります。
●
何か聞きたくても、尋ねられる係員を探すことができず不便です。
●
事業者により、券売機の形式、操作方法、テンキーの有無、ボタンやコイン
投入口の位置の違い等があり、困難が生じます。
64
4.3 視覚に障害のあるお客さまへの接遇・介助
① 券売機の使用法の案内
券売機の前には通常、係員がいることが少ないので、窓口からの目視等日常的
な気配りが必要です。
介助の申し出があったり、困っている様子の時はお手伝いします。目的地の確
認や金銭の授受は正確に行います。割引運賃を適用する場合はその金額をお伝
えします。
音声案内やテンキーによりお客さまが自分で切符の購入を希望された場合は、
そのような機能のある券売機の前に案内します。
パスカード(定期券、プリペイドカード等)等で、自動改札の利用を希望され
た場合は、自動改札機の前に案内します。
② 金銭授受の際の注意
金銭の授受は、間違いや不明朗な点があると不快感と不信感を残すことになり
ます。わかりやすく、はっきりとお客さまに伝えることが大切です。
受け取る時は、金額をはっきり言って
受け取ります。割引運賃の適用は事業
者ごとの取り決めにより対応します。
「○○から○○までの乗車券は、1,950
円です。」
「1,000 円札を 2 枚受け取りました。」
金額はハッキリと。釣り
銭等は、お客さまに確実
に手渡します。
釣り銭等を渡す時は、トレーの上等にそのまま置かず、お客さまが確認できる
ように金額を数えながらゆっくり手渡します。
「1,000 円札が 1 枚と、100 円玉 2 枚で、1,200 円のおつりです。」
※バス、タクシーの金銭の授受は乗降時の配慮事項を参照して下さい。
65
4.3 視覚に障害のあるお客さまへの接遇・介助
(5)移動の介助
① 通常の通路
どのように誘導したらよいかお客さまに尋ね、相手の歩く速さを考慮して誘導
します。誘導の基本は→(2)参照。
どのくらい歩くのか(距離で○○m)、段差や人混みの状況等あらかじめ伝える
とお客さまも心がまえができます。ただし障害物の情報や曲がる場所等は、あ
まり先の情報を伝えても、かえって不安になりますので、おおむね 10m先の情
報を伝えればよいでしょう。
白杖では腰の位置より高いものは探る事が
できません。誘導している時は、特に顔の
高さに突出している広告物や樹木等に十分
注意します。
誘導者と視覚に障害のあるお客さまの歩行
の軌跡は異なります。誘導されている時は
白杖を使わないことがあるので、足元の障
害物にも注意します。
頭上、足元の看板等の広告物、
ポール、植木等に注意します。
② 狭い通路での介助
狭い通路での誘導は、お客さまがつかまっている腕を背中のほうに回して、2
者が縦に重なるようにして歩きます。必ず「狭くなります」と声をかけます。
また、具体的に通路の幅を知らせることも効果的です。
66
4.3 視覚に障害のあるお客さまへの接遇・介助
縦に重なるようにして通過します。
混雑時の誘導は基本姿勢が維持しにくい場合がほとんどです。走ってきてぶつ
かる人もいます。頻繁に声をかけ、状況を知らせて安全を確保します。
混雑時は、人の流れに逆らわないようなコースを選び、人の波が一旦途切れて
から歩き出す、等の工夫も必要です。
障害物がある通路の誘導は、急に避けたりせずに、予め障害物があることを知
らせ「右に避けます」等、声をかけます。
③ 改札口での介助
割り引き運賃の適用等で係員のいる通路を通過するときは、狭い通路を通過す
るときの要領で対応します。
自動改札機を使用する場合は、お客さまの手を切符の挿入口に誘導します。お
客さまは、そのまま手を滑らせて切符をとることができます。お客さまが自動
改札機を通過した事を確認して、ひきつづき改札内での介助を行います。
67
4.3 視覚に障害のあるお客さまへの接遇・介助
(6)垂直移動における介助
① 階段・段差での介助
階段に直角に近づき、一時停止し、階段が
あることを知らせます。
「上ります(下りま
す)
」と声をかけてから歩き始めます。下り
の時は、踏み外すと転落の危険があるので、
特に慎重に誘導します。
階段にきたら一旦停止します。階段
があることを知らせます(上りか下り
か)。
お客さまの歩行能力に十分注意を払います。
可能ならば、段数や一段の高さを知らせる
とイメージがわきます。
介助者は常に一段先を歩くようにし、お客
さまが一段上がる(下がる)のを確認して
から、次の一段に進みます。慣れている人
お客さまの歩調を見て、一段一段確
実に上り(下り)ます。
はリズミカルに歩くことができますので、
お客さまの様子をよく見て誘導します。
階段が終わったら「終わりです」と伝え、
お客さまが最後の一段を上がった(下りた)
のを確認して一旦停止します。
階段が終わったら、そ の旨を告げ
て、一旦停止します。
手すりの使用を希望された場合、お客さま
の手を手すりに誘導します。すれ違う人や
階段の段数等周囲の状況を伝えるようにし
ます。
手すりに誘導する。周囲の状況を伝
える。
68
4.3 視覚に障害のあるお客さまへの接遇・介助
② エスカレーターでの介助
留意点
●
エスカレーターと階段が併設されている場合は、エスカレーターの利用に慣
れていないお客さまもいるので、どちらを利用するか本人の希望を確認する
必要があります。
エスカレーターに近づいたら、エスカレー
ターがあることを知らせます(上りか、下
りか)。
お客さまの手をベルトの上に置きます。そ
のまま足を進めて、床とエスカレーターの
ステップとの境目を検知して、タイミング
よくステップに乗ってもらいます。安全の
ため、ベルトにつかまってもらうようにし
ます。
安全のため、ベルトに確実に
つかまってもらいます。
(イラスト 2 点)
足のうらで床部とステップの境界を検知します。
介助者は一段後ろに乗ります。ただし、下りの場合は、転落防止のため必要に
応じて、一段前に乗る場合もあります。お客さまの意向を確認して下さい。
エスカレーターの終点が近づいたらお客さまに声をかけます。お客さまが、ベ
ルトの変化や足の裏で終点を検知して、降りるタイミングをはかるのが一般的
です。
「間もなく終点です。ご注意下さい。降りたら通路を左に進みます。」等。
69
4.3 視覚に障害のあるお客さまへの接遇・介助
③ エレベーターでの介助
エレベーターの出入口は、狭い通路の通行方法を参考に誘導します。必要に応
じてボタンの位置等を知らせます。
二方向貫通型(入口と出口が停止階によって異なる)エレベーターも一部で普
及しています。出入口が異なることにより、方向感覚を失わないようにお客さ
まに知らせます。
(7)ホームでの介助
どんな困難がありますか?
●
ホーム上では、ベンチ、柱、ごみ箱等障害物が多いので注意が必要です。ま
た、階段や売店の付近ではホームが狭く、人の流れが変わります。単独で
外出することに慣れている人でも緊張を強いられます過去に何度も転落を
経験した人も少なくありません。
●
視覚障害者誘導用ブロックの上に人が立っていたり、手荷物等が置かれてい
ると歩行の妨げになります。
ホーム上は転落事故の防止のため、もっとも安全上の配慮が必要な場所です。
狭い通路での通行方法を参考にします。困っている様子のお客さま(方向を見
失った時はじっとして周囲の音等を聞いていることが多い)を見かけたら、積
極的に声をかけましょう。
ホーム上で誘導する時は、通勤、通学の場合、所定の乗車位置を決めているこ
とが多いので、必ずお客さまに確認します。
移動するときは、周囲の状況を説明しなが
ら歩くと心がまえができて安心です。混雑
時、狭い場所の歩行→(5)②狭い通路の
通行方法を参照。
「いま、列車が到着したので、たいへん混み
合っています。少し待ってから歩き始めま
す。」
「階段の横を通りますので少し狭くなりま
す。」等。
70
ホーム上では、転落、障害物、
他の通行人に注意します。
4.3 視覚に障害のあるお客さまへの接遇・介助
(8)乗降時の介助
① 電車の乗降で配慮する点
どんな困難がありますか?
●
ホームと列車の間や列車の連結部への転落の不安があります。
●
乗り慣れていない路線や、いつもの定位置と異なる場合、足元や車内の状況
がわからず不安です。
● 「またいでください」というような具体性のない誘導方法だと、状況が的確
につかめず、足を踏み出せません。
お客さまの所定の乗車位置がある場合はその前まで行き待機します。乗車時は
ドア面に対して直角に向いて、一旦停止します。
お客さまの手を戸袋の外側の壁、または内部手すりに誘導します(白杖を持っ
た手で構いません)。これによりだいたいの距離感が得られます。
お客さまに腕をつかんでもらいながら、ホームの縁を足先で確かめてもらいま
す。この時、
「またいでください」等と言うのではなく、なるべく足元の情報を
具体的に伝えるようにします。
「ホームと電車の間が広く開いています」
「乗車口に 20cm ほどの高い段差があります」等。
ホームのへりと車両のすきまを確認。
手すりに手を添えて乗り込みます。
一般的には、単独移動しているお客さまは、降車時の介助の必要性はそれほど
高くありません。しかし、視覚に障害のあるお客さまが降車する際に困ってい
るのに気がついたら、安全に配慮して必要な介助を行います。
71
4.3 視覚に障害のあるお客さまへの接遇・介助
降車時は、ドア内側の手すりにつかまり、足でドアのへりを確認し、ホームに
降ります。この時、お客さまに乗車時と同じく足元の情報を伝えるようにしま
す。
下車駅、乗り換え駅との連携
乗り慣れた駅では介助を必要としないお客さまでも、いつもと違う駅で
下車したり、乗り換えたりすることがあります。そのようなときは、ホームの
状況や駅の構造に不案内なため、降車時から困難が生じます。乗車駅
で介助の申し出があった際に、「必要でしたら、下車駅(乗り換え駅)に
連絡しておきましょうか?」と確認し、お客さまが希望した場合は連絡す
るようにします。
② バスの乗降で配慮する点
白杖を持ったり、盲導犬を連れているお客さま(停留所で困っている様子のお
客さま)に気がついたら、乗務員は十分な配慮が必要です。
停留所に着いたら、車外スピーカーで行き先等を案内します。特に同じ停留所
に複数系統のバスが発着する場合は、配慮が必要です。
地域、路線および事業者により、前乗り、後乗り、乗降口の形状、ステップの
形状運賃の支払方等が異なります。困っている様子のお客さまを見かけたら、
車外スピーカー等を使って情報を伝えると安心できます。
「○○団地行きです。運賃は後払いです。後ろからご乗車する際に整理券をお取
り下さい。2 段のステップがありますのでご注意下さい。」等。
着席するか手すり、吊革につかまるよう案内し、確認の後、発車します。
72
4.3 視覚に障害のあるお客さまへの接遇・介助
降車場所にきたら必要に応じてお知らせします。
運賃の支払いや整理券の受け取りは、乗務員(または同伴者)が行えばスムー
ズですが、お客さまの意向を確認し、支払等を自分で行う場合には運賃を伝え、
手先を運賃投入口や整理券に誘導します。
「運賃は 300 円です。整理券と運賃はこちらへお願いします。」
お客さまの手を導きます。
③ タクシーの乗降で配慮する点
タクシー乗り場で、白杖を持っていたり盲
導犬を連れているお客さまを見かけたら、
乗務員は降車して積極的に声をかけます。
また、大きなタクシー乗り場では案内係が
配置されていますので、連携してお客さま
を案内します。
車の位置を知ってもらうために、お客さま
の手をドア上部に誘導します。ドアは、な
るべく大きく開きます。
頭部をぶつけないように、もう一方の手を
屋根の縁に触れてもらい、お尻から乗り込
むようにすると安全に乗車できます。
73
ドアおよび屋根の位置を確認して、
お尻から乗り込むようにする。
4.3 視覚に障害のあるお客さまへの接遇・介助
行き先は必ず復唱確認します。可能ならば、予定ルート、通過地点等を時々知
らせると、お客さまも安心できます。
全盲のお客さま、視力が極度に低下しているお客さまは、料金メーターの確認
ができません。金額をはっきりと伝え、レシートを必ず発行します。障害者割
引や福祉タクシー券の有無を確認して対応します。運賃の支払いは→(4)参
照。
降車時は、交通の往来に配慮した安全な位
置に車を停車させます。特に後方からの接
近者(車)に注意し、歩道付近の段差等の
状況を知らせます。
雨天時は、水溜まりのないところに停車さ
降車時は手をドアの上に置くようにしま
せる配慮が必要です。
降車準備が整ったら、お客さまから要請があった場合、歩道上の安全な場所に
誘導します。その際、現在地およびどの方向を向いているかを知らせます。
74
4.3 視覚に障害のあるお客さまへの接遇・介助
(9)車内では
① 車内での位置
長距離列車等指定席がある場合は、座席ま
で案内し(または車掌に引き継ぎ)
、できれ
ばトイレの位置関係等を知らせます。途中
駅や出発間際等、車掌への連絡に時間を要
する場合は、付近のお客さまに協力を求め、
座席に案内してもらいます。
座席に手を触れてもらいます。
空席がある場合は、本人の意向を確認して案内します。そのとき車両のどのあ
たりに座ったかを知らせると安心できます。空席がない場合は手すりや吊革の
位置を知らせます。
(※通勤電車では車内まで案内することは稀ですが、基本事項として知っておく
と役立ちます。)
バスの場合は降車ボタンの位置を知らせます。前乗りの場合、差し支えなけれ
ば、お客さまに事前に降りる停留所を確認しておくとよいでしょう。
② アナウンス
どんな困難がありますか?
●
視覚に障害のあるお客さまは、移動の際、音声情報を重要な手がかりとして
います。車内放送は貴重な情報源であり、聞き取りにくい時や間違っている
時は混乱します。
●
渋滞、事故、故障のとき等、案内が何もないまま乗り物が動かないときほど、
不安なことはありません。
75
4.3 視覚に障害のあるお客さまへの接遇・介助
行き先、駅名は、はっきりと適切な音量で
わかりやすく案内します。
事故時や渋滞時等、通常通り運行されてい
ない状況では、必要に応じて頻繁に案内す
るようにします。
「この先、渋滞しております。いましばらくご辛抱下さい。」等。
放送間違いに最大の注意を払う必要があります(特にバスのテープによる案内)
。
万が一間違えたときは、マイクで速やかに訂正の放送を行います。
(10)駅での乗り換えの配慮
留意点
●乗り換えを伴う移動や、行き慣れていない場所での移動は不安です。誘導され
る場合、改札を出たらおしまいではなく、安全な移動の連続性が確保されてい
る必要があります。
●鉄道の乗り換え、鉄道からバス、タクシーへの乗り換え等、視覚に障害のある
お客さまが不安を感じている境界領域の課題を解決する必要があります。
●複数の路線が乗り入れる乗り換え駅では、「次に利用する鉄道会社の改札口ま
で案内する」等、事業者同士でどの範囲まで案内するかのルールを決めている
ところもあります。
駅構内でなくても、バス停やタクシー乗り場が近い場合は、案内するようにし
ます。
76
4.4 聴覚・言語に障害のあるお客さまへの接遇・介助
4.4 聴覚・言語に障害のあるお客さまへの接遇・介助
聴覚障害は個人差が大きく、失聴した年齢、聴力レベル、教育歴、成育環境
等によりコミュニケーション障害や情報障害の程度が異なります。特に乳幼児
期に聞えないと話し言葉の修得が困難になるため、コミュニケーションが十分
に行えない場合があります。また、高齢になり耳が聞えにくくなっている方も
います。
公共交通機関を利用する際には、障害の程度によりますが、駅の案内放送、
発車ベル、車内放送等が聞えません。電光掲示板や何らかの視覚的な表示機器
がない駅や車内では、常に不便を感じています。事故、故障等の緊急時にも放
送が聞えないために、すぐに周囲の状況を把握する事ができず、不安を感じて
います。
聴覚や言語に障害のあるお客さまに接する時は、窓口や案内時におけるコミ
ュニケーションの取り方の基本を修得することが大切です。話しかける時の基
本、効果的な筆談の方法、簡単な手話等が中心になります。
77
4.4 聴覚・言語に障害のあるお客さまへの接遇・介助
介助のポイント
●公共交通機関における困難な点
・旅客施設内、ホーム、車内での案内放送が聞えない場合があります。
・ホーム等では列車の接近や発車合図に気がつかない場合があります。
・事故や故障で運休している時の情報がすぐに得られません。
●初めて会った時の接し方
・何らかの援助が必要な時は、一般的には係員に申し出てくるので、その時点で
対応します。
●旅客施設、車両へのご案内で注意する場所・介助の内容
○コミュニケーション方法の基本
・表情や身振りが良く見えるようにします。
・補聴器、口話によるコミュニケーションを図ります。
・言い方を変えてみる工夫をします。
・筆談によるコミュニケーションを図ります。
・手話によるコミュニケーションを図ります。
・路線図や運賃表等の視覚情報を活用したコミュニケーションを図ります。
○方角、場所、物の位置を案内する
→地図等を使用します。
○券売機、金銭の授受、改札口、窓口での対応
→金額に間違いがないように、料金表示が見えるようにします。
○駅構内、ホームでの案内
→事故や運休時の案内は、メモ用紙等で的確に情報を伝えます。
○車内での案内
→お客さまは電光掲示や車外の視覚情報を頼りにしています。
補聴器を使用しているお客さまへの適切な音量についても学習します。
78
4.4 聴覚・言語に障害のあるお客さまへの接遇・介助
(1)
初めて会った時の接し方
留意点
●
聴覚に障害のある人の場合、補聴器を使用している人を除いて、聞えないと
いうことが外見上はわかりにくいものです。また、補聴器も非常に小さな
ものなので、遠くからではわかりません。
●
聴覚に障害のある人の中には、聞えないために呼びかけても反応せず、知ら
ない人から見ると不自然な態度に映る場合があります。
●
聴覚、言語障害には様々な障害のレベルがあります。補聴器を用いて会話で
きる人もいますが、補聴器が補助的にしか機能していない場合もあります。
周囲の騒音等、状況によって聞えにくいことがあります。
●
聴覚障害等に起因した構音障害により、お客さまの話す言葉が聞き取りにく
いことがあります。
●
緊急時の情報伝達で配慮が必要。
聴覚に障害のあるお客さまは、何らかの援助が必要な時は、一般的には係員に
申し出てくるので、その時点で対応します。しかし、申し出がない時でも、お
客さまが明らかに困っている様子の時は、こちらから声をかけましょう。お客
さまの視界に入るようにして、お客さまの方を向いて、表情がわかるようにで
きるだけ2m以内に近づきます。
お客さまの視界に入るよう
にして声をかけます。
コミュニケーションの取り方には、補聴器、口話、身振り、筆談、手話等が考
えられます。これらの方法を、お客さまの状況に合わせて選択したり、組み合
わせてコミュニケーションをはかります。様々な場面での適切なコミュニケー
ションの取り方を修得することが大切です。
79
4.4 聴覚・言語に障害のあるお客さまへの接遇・介助
(2)
コミュニケーション方法の基本
―補聴器、口話、身振り、筆談、手話―
①表情や身振りがよく見えるように
コミュニケーションの際に、通常より時間がかかる場合もありますが、お客さ
まが何を必要としているのか、表情や身振り等にも注目してよく聞く姿勢が大
切です。
改札口や窓口(バスならば乗降口)で声をかけても、聞えないために通り過ぎ
てしまう場合があります。こちらの呼びかけを無視されたと考えず、必要なら
ばお客さまの見える範囲に出向いて声をかけます。また、早口にならないよう
に注意します。
大切なのは、こちらがはっきり話すこと、お客さまの言っていることを良く聞
くことです。言っていることがわからないときは、わかったふりや憶測にまか
せるのではなく、ていねいに聞き返して確認します。
「失礼ですが、もう一度お願いします。」
表情や身振りにも注目します。
80
4.4 聴覚・言語に障害のあるお客さまへの接遇・介助
発音や文法がわかりにくい時でも、意図が伝わるときは、こちらから復唱確認
して会話をリードします。
表情が読み取りにくいような状況、たとえば券売機横の窓口から声をかけたり、
マスクをしていたり、お客さまにとって逆光の状態で話すこと等は避けます。
(イラスト逆光)
会話は表情が見やすい場所で。
こちらの言っていることがうまく伝わらない場合があります。
「分からなかったら遠慮せず聞き返して下さい」 等声をかければ、お客さまは
リラックスして話すことができます。
81
4.4 聴覚・言語に障害のあるお客さまへの接遇・介助
②補聴器、口話によるコミュニケーション
聴覚に障害のあるお客さまの中には、補聴器で聞き取ることができる人、唇の
動きを見て会話できる人もいます。はっきりと話すことは大切ですが、おおげ
さに口をあけたり、極端にゆっくり話したりするとかえってわかりにくくなり
ます。
補聴器は万能?
通常の話し方であれば通じますが、ま
①複数の人と会話する場合
②講演会や芝居等、話し手が遠い場合
だ補聴器に慣れていない方、あくまで
③騒がしいところでの会話(駅構内等人が
も補助的に補聴器を使用している方
大勢あつまる所、テレビのついている場
等、十分に音声を聞き取れないことが
所、車内放送や音楽の流れている場所
あります。また、右のような条件で聞
こえにくいことがあります。
等)
④早口の人との会話
等
③言い方を変えてみる工夫
繰り返し説明してもお客さまに理解してもらえない時は、言い方を変え
てみる工夫も必要です。
「各駅停車が先に発車しますが、途中で急行列車に追い越されます。急
行のほうが 5 分速く到着します。」
理解が得られない場合
「次の急行に乗れば各駅停車より 5 分速く到着します。」
「急行が先に着きます」等。
82
4.4 聴覚・言語に障害のあるお客さまへの接遇・介助
④筆談によるコミュニケーション
どうしても口頭でコミュニケーション
できない場合、または正確さに万全を期
したい場合には、筆談による意思伝達方
法があります。
筆談をお願いする方法もあります。
筆談ができるようにメモ用紙とボールペン等を常備しておきます。簡潔に短い
文章で伝える工夫をします。ひらがなばかりで書くと、かえって読みにくくな
るので、お客さまの様子を見て、漢字を適切に使用します。縦書きよりも横書
きで短く区切って書く方が見やすく、伝わります。余計な修飾語は使わないよ
うにします。
(イラスト筆談の様子)
・筆談はわかりやすく要点を簡潔に。
・地図等による案内も理解を助けます。
全ての人が筆談できるわけではありません。聴覚や言語に障害のある人の中に
は、音声日本語の読み書きが十分にできない人もいます。筆談でよいかどうか
必ずお客さまに確認します。
83
4.4 聴覚・言語に障害のあるお客さまへの接遇・介助
⑤手話によるコミュニケーション
聴覚に障害のある人の重要なコミュニケーション手段の一つとして手話があ
ります。
「何かお困りですか」「わかりません」
「筆談でお願いできますか」等、
簡単かつ日常的に使う頻度の高い手話を修得する必要があります。→(7)参
照。
手話、補聴器、身振り、筆談等、お客さまが好む方法、または介助者が可能な
方法をいくつか組み合わせてコミュニケーションを図ることも大切です。
⑥視覚を活用したコミュニケーション
場所の案内等は、簡単に図解する方がわかりやすいことがあります。
路線図や運賃表等、使用頻度が高いと思われる情報は見やすく整理して、常に
お客さまに示すことができるようにしておきます。大きな文字のものを用意し
ておくと弱視の方にも役立ちます。
事前の問い合せへの対応
座席の予約や事前の問い合せ等、電話の際に発音がうまくできず、聞き取りにく
い場合があります。わからないことはあいまいにせず、ていねいに聞き返すこと
が大切です。
文字で伝達できる手段
ファクシミリ等文字で伝達できる手段を常備し、必要ならば利用するかどうかお
客さまに確認します。
「ご希望ならばファクシミリも用意しております。いかがなさいますか?」
84
4.4 聴覚・言語に障害のあるお客さまへの接遇・介助
(3)
方角、場所、物の位置を案内する
(券売機、乗り場、トイレ、公衆電話、売店等)
駅構内やよく尋ねられる駅周辺施設(バス停、タクシー乗り場、商業施設、公
共施設等)については、あらかじめわかりやすい地図等(地図と文字だけでな
くイラスト、ピクトグラム等を使用したもの)を用意すると役立ちます。
わかりやすい案内のために
今後は鉄道だけでなくバスにおいても、路線の乗り換え案内や周辺
施設を記入した路線図等を常備しておくと便利です。
(4)
券売機、金銭の授受、改札口、窓口での対応
券売機では基本的に問題はありませんが、機械のトラブル等で対応することが
あります。声をかけたのにお客さまが困っている様子ならば、外に出て対応し
ます。
(イラスト)
仕切ごしに話しかけられ
たり、口元が見えないと理
解が困難です。
お互いの表情が見えるように
聴覚や言語の障害を持つお客さまにとって、券売機横の小さな窓口や
仕切りをはさんで声をかけられると、表情が見えなかったり、聞えに
くかったりして十分なコミュニケーションをとることができません。
以下のような条件では聴覚に障害のあるお客さまは話を理解できま
せん。
①ガラス越しや仕切りの向こうから話しかけられた時
②下や横を向いていたり、マスクをしていて口元が見えない
85
4.4 聴覚・言語に障害のあるお客さまへの接遇・介助
金銭の授受に際しては、金額に間違いがないように、レジの数字を見えるよう
に提示したり、紙に書いて示します。また、釣り銭等は、わかりやすくお客さ
まの見ているところで数えて手渡します。
タクシーで行き先を告げる場合、自分の発音がちゃんと聞き取ってもらえたか
不安を感じています。ゆっくりとお客さまの言ったことを繰り返して確認して
下さい。
バスやタクシーでは運賃(表示器)、料金メーター等を示して運賃を申し受け
ます。タクシーの場合は必ずレシートを発行します。障害者割引や福祉タクシ
ー券の有無を確認して対応します。
(イラストタク運賃)
運賃をわかりやすく示します。
86
4.4 聴覚・言語に障害のあるお客さまへの接遇・介助
(5)
駅構内、ホームでの案内
どんな困難がありますか。
●
駅構内、ホームでの案内放送が聞えない場合があります。
●
ホームでは列車の接近や発車合図に気がつかない場合があります。
●
事故や故障で運休している時の情報がすぐに得られません。
(イラスト接近)
(イラストベル)
発車ベルが聞こえなかったり、列車の接近に気がつかないことがあります。
事故や運休に関するお知らせは、放送だけでなく、掲示も行うようにします。
掲示は大きくはっきり読める文字で、簡潔に表現します。
(イラスト車内放送)
車内や駅の構内放送も聞えません。
87
4.4 聴覚・言語に障害のあるお客さまへの接遇・介助
電光掲示や構内の掲示による事故や運休の案内を行う前には、音声以外の即時
的な情報が必要です。現状では設備的な対応が十分ではないので、聴覚に障害
のあるお客さまからの問い合わせがあった時は、メモ用紙等で的確に情報を伝
える方法が考えられます。
簡潔なメモでわかりやすく。
案内板や情報掲示板等は、常に見やすい状態にし、遮蔽物を置かないように注
意します。
長距離列車では、聴覚に障害のあるお客さまから申し出があった場合には停車
駅の案内、下車駅に近づいた時のお知らせ等必要な援助を行います。
通勤列車やバスでは、こちらから聴覚に障害があるお客さまに気がついて援助
することは困難ですが、運行に関する問い合せを受ける場合もあります。メモ
用紙とペン等を常備するようにします。
88
4.4 聴覚・言語に障害のあるお客さまへの接遇・介助
(6)
車内での案内
どんな困難がありますか。
●
車内の案内放送がわかりません。電光掲示装置がない場合、聴覚に障害のある
お客さまは、車窓から、駅名、停留所名、景色等を見て降りる場所を判断して
います。
●
補聴器を使用しているお客さまは、車内放送等の音量が小さいときだけでな
く、音が大きすぎても(拾った音を補聴器が拡大してしまうため)、聞き取り
にくくなります。また、周囲の雑音が大きい走行中の車内も聞き取りにくくな
ります。
●
事故等で車両が止まっても、放送だけでは何が起きたのかすぐに情報が得られ
ません。
電光掲示や車外の視覚情報が頼り。
駅名等の表示が汚れたり、物陰になっ
て見にくくなっていないか、日常的な点
検が必要です。
(イラスト車内)
車内放送の音量が常に適切か配慮が必
要です。
89
4.4 聴覚・言語に障害のあるお客さまへの接遇・介助
(7)
手話(これだけは覚えましょう)
※一般的な表現方法を紹介しています。
あいさつ
「おはようございます」
こめかみにあてた右拳を下ろした後、おじ
ぎする。
「こんにちは」
「こんばんは」
2指を伸ばした右手を、額の中央にあて
た後、おじぎする。
「ありがとうございます」
「さようなら」
左手の甲に直角にのせた右手を上に上げる。
手を振るしぐさをする。
「わかりました」
「よろしくお願いします」
握った手を鼻にあてる。
両手を目の前で交差させた後、おじ
ぎする。
右手を顔の中央から少し下に下ろしなが
ら、おじぎする。
「お待ち下さい」
右手を胸に当てて下ろす。
右手を顔の中央から少し下に下ろしなが
ら、おじぎする。
右手の甲をあごに当てる。
「もう一度お願いします」
あごの下から、閉じた右手の人差し指と親
指をパッと開いて、人差し指をたてる。
右手を顔の中央から少し下に下ろしなが
ら、おじぎする。
90
4.4 聴覚・言語に障害のあるお客さまへの接遇・介助
筆談の依頼
「筆談をお願いします」と文字で示す方法もありますが、筆談を依頼する手話を覚
えておくとお客さまも安心します。あいさつとあわせて、必要最小限の手話として必
要です。
「私(は)」
人差し指で、鼻もしくは胸を指す。
「手話(が)」
平行においた両手人差し指を回転させる。
「すみません」
右手で眉間をつまみ、右手を顔の中央から下ろす。
「書いて」
左の手のひらに、右手で上から下へ書く。
「が」
前方に向けた右掌を返す。
「わかりません」
右手で胸を 2 回払い上げる。
「用件を」
折り曲げた両手を同時に引き寄せる。
「下さい」
右手を顔の中央から下ろす。
91
あらかじめ依頼文を書いた用紙
を用意しておく方法もある。
4.5 知的障害・精神障害のあるお客さまへの接遇・介助
4.5 知的障害・精神障害のあるお客さまの接遇・介助
知的障害は一見したところ外見からはわかりにくい障害です。態度や言葉づかいに敏感
で、相手の言動がとても気になります。自分の障害のことを、人に知られたくないと思って
います。知的障害者が、日常生活に支障を生じる時、何らかの支援を必要とする場合があり
ます。日常使っている交通施設については問題ありませんが、初めて使う施設の場合は、困
難を生じ、同じ場所にずっと立っていたり、うろうろしている場合があります。
精神障害の症状については、病気の種類、薬の服用状況によって表れ方が異なります。ス
トレスに弱く、疲れやすく、頭痛のある人、幻聴、幻覚の現れる人もいます。
「統合失調症」の方は、きちんと治療を受け、服薬を継続していれば、もの静かで几帳面
で、非常に繊細な人たちが多いといわれています。
介助のポイント
a. 知的障害のあるお客さまの主な特徴
●一度にたくさんのことを言われると混乱する傾向があります。
●コミュニケーションに障害のある人は、困ったことが起きても、うまく自分から人に
助けを求めることができない人もいます。
●旅行や乗り物が好きな人が多く、列車やバスの最前列に座ったり、運転手に話しかけ
たり、バス等の降車ボタンを押すことが好きな人もいます。
●社会的なルールや常識が理解できにくいことがあり、列車やバスの車内で知らない人
に話しかけてしまったり、車内で奥に詰めたりしないことで他の利用者から誤解を招
く恐れのある人がいます。
●警戒心が弱く、犯罪被害にあいやすいのも特徴です。トイレ等で暴行や恐喝やいたず
らされることもあります。
b.精神障害のあるお客さまの主な特徴
●自分の病気のことを、人に知られたくないと思っている人が多いので、尊厳をもって
応対します。
●ひとり旅をする時や、新しいことを経験するときは、非常に緊張し、不安を感じやす
い傾向にあります。また、お腹が痛くなったり吐き気がするときがあるので、トイレ
の近くに座るようにしている人もいます。
●ごく一部に、「不注意」「多動性」「衝動性」の行動特徴があり、車内で座席にずっと
座っていることができない人もいます。
●以前に、駅員さんや運転手さんに不快な応対をされたことにより、それ以来、駅員さ
んや運転手さんを見ると怖くなる人もいます。
92
4.5 知的障害・精神障害のあるお客さまへの接遇・介助
(1)知的障害・精神障害のあるお客さまへ対応する際の基本的な心がまえ
「ゆっくり」「ていねいに」「くり返し」応対します。
「(障害者手帳を)ハッキリ見せてよ」等と強い口調で言うのではなく、「(障害者手
帳)もう1度見せていただけますか」とやさしく声をかけます。
「はい、どうぞ」と
言うことにより、安心します。
同じ質問を繰り返されても、いやな顔をせず、ゆっくりお客さまの用件を聞く姿勢、
ゆっくりやさしく心のゆとりを持ってお客さまの用件を聞く姿勢が大切です。
苦しそうにしているお客さまを見かけた時は、近くにあるいすに座らせて休ませた
り、必要に応じて「救護室」等で休ませたりします。
だれでも程度の差はあっても、精神的な不安を抱えているはずです。お客さまの気
持ちを理解し、そのつらさに共感することが大切です。
※
てんかんの発作やパニック等の症状が表れた時
【応対】
●てんかんの発作は、脳の電気的活動の異常のため意識が薄れたり、けいれんが起きてい
る状態なので、転倒等でケガをしないように保護し、周囲に危険物があれば遠ざけて、
安全に休ませてあげることが大切です。多くの場合は数分で意識が戻りますが、回復が
遅れるときは救急車を呼びます。
●パニックになったときお客さま自身はどうして良いかわからない状態です。一般の病気
なのか、
「パニック障害」によるものなのかの判断が必要になります。しばらく休めば
治る場合もありますので、安心して休養ができるように必要に応じて救護室に案内しま
す。
93
4.5 知的障害・精神障害のあるお客さまへの接遇・介助
(2)交通施設では
①切符の買い方がわからない時
【困っている状況】
自動券売機の形が変わっていたので、もじもじしたり、周りの人を見たりするの
で、周りの人は「変な人」と見ています。
【応対】
ゆっくり、目線を合わせて、簡単、明瞭に、
次に何をしたいのかを直接的に聞きます。
うまく自分から人に助けを伝えることがで
きない人には、
「どうしましたか?」と声を
かけるより、
「切符を買われるのですか?」
と次に何をしたいのかを具体的に聞く方が
答えやすくなります。
②特に知的障害のあるお客さまへの応対
初めての場所では迷うことが多い傾向にあり、移動、コミュニケーションに時間
がかかるお客さまが多いので、やさしくゆとりを持って応対します。
急がせたりすると混乱し、思わぬ事故につながります。慌てさせないことが大切
です。
迷っている人を見かけた場合、連絡先カードを見せてもらう等、「お名前は」「お
家は」と具体的に聞きます。
「誰と来たのですか?」という質問に対して誰という意味がわからず、「誰と来た
のですか?」と答える返事が返ってきます。これは、
「分かりません」
「教えて下さ
い」という意味です。お客さまがよく見せる反応のひとつです。
家族が心配している場合がありますから、普段見かけないお客さまがいた場合は、
お客さまの性別、年齢、服装等の特徴を記録しておくことが必要です。
94
4.5 知的障害・精神障害のあるお客さまへの接遇・介助
②-1列車やバス乗り場がわからない時(知的障害のあるお客さまの応対)
【困っている状況】
列車の発車ホームが変更になり、お客さまがホームでずっと立っていたり、うろ
うろして乗り場を探しています。
(事故等で普段乗車している急行の運転が中止されたり、遅れた場合、理解でき
ない人が多くいます。)
【応対】
何か困っている様子の時は、まず、お
客さまに笑顔で声をかけ、「どこから
来たのですか?」ではなく、「どこへ
行かれるのですか?」というように、
ゆっくり、目線を合わせて、簡単、明
瞭に、次に何をしたいのかを直接的に
聞きます。
くり返し説明してもお客さまに理解
してもらえない時は、言い方を変えて
みます。
「待っていてください」という言葉は、
時間の観念のない人には苦痛です。実
際に時計を見せる等して、発車時刻を
知らせることも有効です。
95
4.5 知的障害・精神障害のあるお客さまへの接遇・介助
②-2列車やバスを乗り過ごした時(知的障害のあるお客さまの応対)
【困っている状況】
旅行や乗り物が好きで、列車やバスを乗り継いで予定以外のコースをとってしま
う場合があります。乗車券や定期券の指定経路以外の経路に乗車してしまう場合も
あります。知らない駅に降りた時は、パニックを起こすこともあります。
【応対】
切符を持っていないお客さまにも、強い口調で尋ねたりせず、やさしく接します。
ゆっくり、目線を合わせて、簡単、明瞭に、次に何をしたいのかを直接的に聞きま
す。
列車を乗り過ごした人、迷っている人を
見かけた場合、連絡先カードを見せてもら
う等、「名前は」
「家は」と具体的に聞いて
あげます。
「誰と来たのですか?」という質問に対し
て誰という意味がわからず、「誰と来たの
ですか?」と答える返事が返ってきます。
これは、
「分かりません」
「教えて下さい」
という意味です。お客さまがよく見せる反
応のひとつで、オウム返しではありません。
家族が心配している場合がありますから、普段見かけないお客さまがいた場合は、
お客さまの性別、年齢、服装等の特徴を記録しておくことが必要です。
96
4.6 内部障害のあるお客さまへの接遇・介助
4.6
内部障害のあるお客さまの接遇・介助
内部障害とは心臓、腎臓、呼吸器、膀胱または直腸、小腸、ヒト免疫不全ウィルスに
よる免疫の機能障害を言います。その程度は、身辺の日常生活が極度に制限を受ける1
級から、社会での日常生活が著しく制約を受ける3級までとなっています。
普段は外見上わかりにくい障害です。
全体の半数以上が1級の障害者で、心臓疾患がもっとも多く、ついで腎臓疾患となってい
ます。特徴としては、他の障害に比べ年々増加しているのが大きな特徴です。
公共交通機関における困難な点
●長時間立っているのが困難な場合があります。
●長い距離を連続して歩くことや階段の昇降が困難な場合があります。
●心肺機能が低下している方もあります。
●携帯電話等の電波によるペースメーカーへの影響が懸念されます。
●障害の部位によっては、街中等空気の汚染されている場所に近づけないことや、酸素
ボンベの携行が必要な場合があります。
●膀胱・直腸等の機能障害排泄の問題があります。
●人工肛門、人工膀胱を造設している人をオストメイトと呼び、排泄物を溜めておく袋(パ
ウチ)を装着している方もいます。
介助のポイント
公共交通事業者の対応としては、通路や階段への手すりの設置、階段滑り止め、いす
の設置、乳児連れのために授乳室やおむつ交換のためのベビーベッドを設ける等、個々
のニーズに応じた施設・設備の設置が望まれます。
97
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