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国際的な集団野外生活が青少年に与える
第22回世界スカウトジャンボリー(22WSJ)調査報告書 -国際的な集団野外生活が青少年に与える影響- 平成 24 年 3 月 10 日 「ジャンボリーに参加すれば国際性が高まる」とか「ジャンボリーはスカウトに良い影響を与える」 など、ジャンボリーの肯定的な側面が経験値によって良く取り上げられている。しかし、これまでのジ ャンボリーなどのスカウト事業における評価は、ともすればそれに関わる指導者の主観的な経験などに 頼る面があった。今回、ジャンボリーに一つのものさしを当てて客観的に評価することにより、あいま いな身体感覚を一定の基準によって数値化することで、多くの人がその感覚を共有することを目的に、 スウェーデンで開催された第 22 回世界スカウトジャンボリーにおいて、日本から参加したスカウトを 対象にアンケート調査を実施した。この調査結果に更に分析を加えることでスカウト運動の有用性を数 値で示すことが可能となり、事業全体の成果を定量的に示すことができた。そして、青少年にとってジ ャンボリーの教育的意義とその必要性を再認識する機会ともなった。 世界スカウトジャンボリー 世界スカウト機構が主催するボーイスカウトのキャンプ大会であり、全世界のボーイスカウトの最大行事である。4 年に 1 度開 催され、現在までに 22 回実施されている。2015(平成 27)年には日本で開催予定。略称は、名称が「世界スカウトジャンボリー」と なったことにより「WSJ」の略称が用いられている(例・「22WSJ」=第 22 回世界スカウトジャンボリー)。 スカウト スカウトとは、「先駆者」の事で、「自ら率先して幸福な人生を切り開き、社会の先頭に立とうとする少年」という意味を持っている。 世界スカウトジャンボリーに参加し、本調査の対象となった中学生及び高校生は、全員ボーイスカウトの団員であるため、「参加 スカウト」という表現を用いた。 <主な調査結果> 結果① 22WSJ への参加スカウトは、「生きる力」や「国際理解能力」が向上した ○「だれにでも話しかけることができる」、 「自分で問題点や課題を見つけることができる」等の「生き る力」について、参加スカウトの平均値が参加後に 4 ポイント向上し、参加前と参加後の間には有意 な差がみられた。 ○「新しい環境の中でも積極的にふるまえる」等の「国際理解能力」について、参加スカウトの平均値 が参加後に 1 ポイント向上し、参加前と参加後の間には有意な差がみられた。 結果② 22WSJ への参加スカウトは、身体的、精神的等の分野において成長がみられた ○世界スカウト機構において提示している 5 つの発達領域(身体的、知的、情緒的、社会的、精神的) という観点でみても※、事後に 5 つすべての分野において平均値が向上した。 ※本調査において用いた調査項目、「IKR 評定用紙(簡易版)」28 項目と「国際理解能力」8 項目の計 36 項目を数名で 判定し、世界スカウト機構が提示する個人の発達領域 5 つ(身体的、知的、情緒的、社会的、精神的)に区分した。 結果③ 22WSJ への参加スカウトは、「効果的な経験ができた」という満足度が高い ○「効果的な経験ができた」かについて、「とてもよくあてはまる」の「6」、あるいは次の段階の「5」 を選んだスカウトは合わせて 85.3%であった。 〒113-0033 東京都文京区本郷 1-34-3 http://www.scout.or.jp TEL03-5805-2568 国際部 〒151-0052 東京都渋谷区代々木神園町 3 番 1 号 http://www.niye.go.jp TEL03-6407-7742 青少年教育研究センター Research Report for 22nd World Scout Jamboree -Impact of Outdoor Group Activities in International Environment Gives to the Youth GenerationAs of 10 March, 2012 “Participating the World Scout Jamboree (the WSJ) will enhance one’s international ability.” “The WSJ will have a good influence on the scout members.” These are some examples of positive effects that people often have been talking about regarding the WSJ. However, we have to admit that when it comes to evaluating our projects such as Jamboree, we were relaying on personal experiences of the project leaders. Therefore, we considered The 22nd World Scout Jamboree as a good opportunity to evaluate the WSJ from an objective view and did research by giving out questionnaire to the scout members from Japan. This research was conducted in order for many people to share the sense of positive effects of the WSJ by showing vague feelings numerically under certain conditions. Furthermore, by analyzing the results, we were able to prove some benefits of the Scout movement and its accomplishments regarding the entire project in a quantitative manner. This research also turned out to be an opportunity to make us re-recognize the educational significance and the necessity of the WSJ for the young. <Important Results> Result①“Zest for living” and “Capacity for international understanding” were improved among the Scout members who participated in 22WSJ. ○ As for “Zest for living,” there was a significant difference between before and after participating 22WSJ; the mean of the category increased by 4 points after the event. ○ As for “Capacity for international understanding,” there was a significant difference between before and after participating 22WSJ; the mean of the category increased by 1 point after the event. Result② 22WSJ helped the growth in personal developing regions of the Scout members. ○ Concerning the means of 5 personal developing regions (physical, intellectual, emotional, social, and spiritual)*, the result suggested that all the regions were equally improved after the event compared to before the event. *The total of 36 survey items we used for this research – 28 items from IKR Evaluation form (simplified version) and 8 items from Capacity for international understanding - were evaluated by a few persons, and we classified them under 5 personal developing regions (physical, intellectual, emotional, social, and spiritual) that have been presented by the World Scout Organization. Result③ Scout members who participated 22WSJ “had an effective experience.” ○ In regard to a question whether a person “had an effective experience” or not, 85.3% of the Scout members chose either [6] of “Definitely yes” or [5]. 【Contact us】 Scout Association of Japan, 1-34-3, Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033 Japan Tel: +81-3-5805-2568 Fax: +81-3-5805-2908 E-Mail: [email protected] National Institution For Youth Education, 3-1,Yoyogi-Kamizonocho,Shibuya-ku,Tokyo 151-0052 Tel: +81-3-3467-7201 Fax: +81-3-6407-7689 E-Mail:[email protected] 本調査における世界スカウトジャンボリーの教育的意義 国立青少年教育振興機構 青少年教育研究センター センター長 岡島 成行 世界スカウトジャンボリーは現在までに 22 回を数える。 全世界のボーイスカウトの最大行事であり、 これまでに日本からも多くのスカウトが派遣されている。この事業は、国際的、大規模、長期野外生活、 といった教育的意義のある要素が含まれており、特に青少年期のスカウトに良い影響を及ぼしている。 しかしながら、これまで特に世界スカウトジャンボリーに関する教育効果が行われていなかった。この ため、本調査では教育効果の検証を実施し、さらに、得られた教育効果を多くの人に知らしめることを 目的とする。 1.子どもたちの意識の変容 主な調査結果として、「生きる力」や「国際理解能力」といった指標において、それぞれ事業後に得 点が向上した。その指標について細かくみていくと、「生きる力」を構成する指標として、「4.暑さや 寒さに負けない」、 「5.誰にでも話しかけることができる」 、 「6.花や風景などの美しいものに、感動で きる」、 「16.人の心の痛みが分かる」、 「17.自分で問題点や課題を見つけることができる」 、 「24.洗濯 機がなくても、手で洗濯ができる」等の項目において、事後に平均値が向上し、事前と事後の間に有意 な差がみられた。また、 「国際理解教育」を構成する指標としては、 「29.新しい環境の中でも積極的に ふるまえる」について、事後に平均値が向上し、事前と事後の間に有意な差がみられた。さらに、それ ら 7 項目については、 「とてもあてはまる」の「6」、あるいはその次の段階の「5」と回答した比率が事 後に 10%以上高まっており、参加した中学生、高校生が体験を経ることで自信がつくといった意識の変 容がみられたことがわかる。 2.スカウト運動が目指す「個人の発達領域」における変容 世界スカウト機構では、活動に際し、様々な指針を明確に示している。そのうちの一つに、 「身体的、 知的、情緒的、社会的、精神的」の 5 分野で個人の発達領域を区分したものがある。今回、指標として 用いた 36 項目を 5 分野にあてはめてみるとどうなるかを判定し、それぞれ平均値を算出した。平均値 はすべての分野において事後に向上し、有意差がみられた。さらに、その事前事後の平均値を用いて、 事前を基準とした事後の平均値の割合を示したところ、きれいな 5 角形を描いた。これは、結果をデフ ォルメした感も否めないが、本事業が、個人の発達領域にバランスよく何らかの影響を及ぼしたことを 示している。このことは、ボーイスカウトが目指す教育活動が、世界スカウトジャンボリーにおいて実 施できていることを示唆していると考えられる。 1 3.世界スカウトジャンボリーの要素 事後の調査票に「このジャンボリーであなた自身が得たものはなんですか?」という調査項目を用い、 自由記述の回答を得た。その回答を用い、どのような単語がどのくらい用いられているかを調べた。そ こから、類似している、関連がみられると捉えられるもの同士をグループにし、そのグループ名をつけ る、という試みをした。その結果、 「国際事業の特長-異なるものに接した影響-」、 「環境・設定条件・ 付加価値」、 「つながりとそこに至る手段-新しいもの、改めて実感したもの-」 、 「培ったこと、実感し たこと」、 「心技体-事業のねらい(BSのねらい)-」といったキーワードが導き出された。それらは、 参加した子どもたちからの言葉を集約したものであり、本事業が、子どもたちの意識の変容や満足度に 影響を及ぼし、今回の結果を示したと考えられる。 「効果的な経験ができたか」という質問に対しても高い満足度が得られており、他の調査結果と合わ せて、本事業の教育的意義が様々な視点から示されたと言えよう。また、その満足度において、学年別 に差がみられるものもあり、今後の事業展開の参考になる資料が得られた。特に平成 27(2015)年には 日本で世界スカウトジャンボリーの開催も控えていることから、そこへの指針とするとともに、普段の スカウト活動においても今回の結果が参考になると思われる。 2 Ⅰ 調査概要 1.目的 本調査は、「第 22 回世界スカウトジャンボリー(22WSJ)」日本派遣団の一員として、海外での集団 野外生活を体験した公益財団法人ボーイスカウト日本連盟の加盟員(以下、スカウト)を対象に、 「生 きる力」、 「国際理解」等の変容を調べることで、世界スカウトジャンボリーが参加スカウトに及ぼす 効果を測定し、提示するとともに、事業評価の意義について検討することを目的とする。 2.調査内容 (1)属性、スカウト経験、キャンプ経験、海外派遣経験(フェイスシート) (2)「IKR 評定用紙(簡易版)※1」を用いた「生きる力」に関する調査項目 (3) 「高校生を対象とした国際理解教育における評価規準の開発的研究※2」を参考にした「国際理解」 に関する調査項目 (4)事業実施上の満足度に関する調査項目 ※1「事業評価に使える!「生きる力」の測定・分析ツール」:国立青少年教育振興機構(2010) ※2「高校生を対象とした国際理解教育における評価基準の開発的研究」 :假屋園昭彦・鹿児島大学(2009) 3.調査方法 (1)調査対象:公益財団法人ボーイスカウト日本連盟が事業を実施する「第 22 回世界スカウトジャ ンボリー」派遣の派遣員 (内訳) 派遣スカウト 787 人 ※ただし分析には、中学生、高校生の結果のみ用いた。 (2)調査方法:派遣を通した事前・事後における質問紙調査 (3)調査期日:(分団により派遣実施期間が違うが、スカウトの派遣期間は同じ。) 〔事前調査〕平成 23 年 7 月 23 日(土)・24 日(日) 直前準備訓練開始時 〔事後調査〕平成 23 年 8 月 8 日(月)・ 9 日(火) 帰国便搭乗直前 (4)調査概要 調査時期 事前調査 事後調査 実施日 7/23・7/24 8/8・8/9 配布数 787 人 787 人 回収数 784 人 735 人 回収率 99.6% 93.4% 有効回答数(分析対象数) 689 人 (5)分析対象学年別内訳 区分 全体 全体(人) (%) 男性(人) (%) 女性(人) (%) 689 人 100% 533 人 100% 156 人 100% 中学生 2 年生 3 年生 1 年生 103 人 19.3% 40 人 25.6% 217 人 40.7% 66 人 42.3% 187 人 27.1% 36 人 6.8% 8人 5.1% 3 高校生 2 年生 502 人 72.9% 148 人 27.8% 32 人 20.5% 3 年生 29 人 5.4% 10 人 6.4% 4.執筆者 中野 充(新潟青陵大学・公益財団法人ボーイスカウト日本連盟評議員) 岡島成行(国立青少年教育振興機構青少年教育研究センター センター長) 中村織江(国立青少年教育振興機構青少年教育研究センター 研究員) 4 Ⅱ 事業概要(詳しくは、資料編を参照) 1.参加大会:第 22 回世界スカウトジャンボリー(22WSJ・22nd World Scout Jamboree) 2.派遣人員:合計 966 人<内訳>参加隊 22 こ隊 スカウト 787 人、指導者 87 人 国際サービスチーム(IST)64 人、派遣団本部(CMT)28 人 3.派遣先:スウェーデン スコーネ県クリスチャンスタード市郊外 リンカビィ地区 4.派遣団長・副団長:派遣団長 中野 まり(日本連盟理事) 副 団 長 村瀬 達明(日本連盟相談役)、中野 充(日本連盟評議員) 5.参加隊:22 こ隊(標準編成、各隊スカウト 36 人・指導者 4 人)各県連盟のスカウト人数に応じ、 地域を考慮して参加隊が編成された。 6.分団の編成:日本派遣団は、22 こ隊は、出発・帰国空港および人数を考慮し、4 つの分団を編成し た。分団は、派遣準備や出発から帰国までの移動グループとしての役割を果たした。 A 分団 成田空港発着 第 1 隊~第 6 隊 B 分団 成田空港発着 第 7 隊~第 12 隊 C 分団 中部空港発着 第 13 隊~第 17 隊 D 分団 関西空港発着 第 18 隊~第 22 隊 7.派遣期間:IST 平成 23 年 7 月 24 日(日)~8 月 11 日(木)19 日間 参加隊 A、B、C 分団 平成 23 年 7 月 25 日(月)~8 月 9 日(火)16 日間 D 分団 平成 23 年 7 月 26 日(火)~8 月 10 日(水)16 日間 8.大会期間:平成 23 年 7 月 28 日(木)~8 月 6 日(水) 8/6 8/7 8/8 出発 参加スカウト出発 文化フェスティバルデイ・アリーナイベント 8/5 閉会式 8/4 プログラム 8/3 プログラム(日本派遣団レセプション) T S I ) T S I ( 到着 5 8/2 プログラム 8/1 プログラム 7/31 プログラム 7/30 プログラム 7/29 プログラム開始 7/28 開会式 7/27 参加スカウト到着 7/26 トレーニング 国際サービスチーム 7/25 10 日間 T S I 参加隊 9.参加者数 世界スカウト機構(WOSM)加盟の 146 の国と地域 合計 40,061 人 10.参加資格 2011 年 7 月 27 日の時点で 14 歳から 17 歳までのスカウト、つまり 1993 年 7 月 25 日から 1997 年 7 月 27 日までに生まれたスカウトは第 22 回世界スカウトジャンボリーに参加する資格を持っている。参加 隊(ユニット)の構成はスカウト 36 人(参加隊)と成人指導者 4 人とし、9 人のスカウトからなる班(パ トロール)4 班で 1 こ隊を編成する。それぞれの班について 1 人の成人指導者がつかなければならない。 参加者の人数が足らず、1 こ隊を編成することができない場合、他の国からの班と構成して 1 こ隊を編 成する。 ガールスカウト・ガールガイド世界連盟(WAGGGS)のメンバーは、世界スカウト機構(WOSM)と WAGGGS の間で決められた条件に従い、各国スカウト連盟の派遣団の一部を構成するものとして第 22 回世界ス カウトジャンボリーに参加できる。 スカウトの参加年齢を超え、参加隊指導者以外で参加する場合は、ジャンボリーの運営を支える国際 サービスチームなど、スタッフとして参加することができる。 11.参加費 世界のあらゆる国から、より多くの参加者を得るために、また世界スカウト運動の連帯の強さを示す ために、ジャンボリー参加費は国のカテゴリごとに減額されている。カテゴリDの国々はスウェーデン クローネで 1 人 SEK6,500、カテゴリ C の国々の場合、その納入金額はカテゴリ D 各国の 25%引きとなり 1 人 SEK4,875、カテゴリ B 国の場合、カテゴリ D の 50%引きで 1 人 SEK3,250、カテゴリ A の国では、カ テゴリ D の 75%引きで 1 人 SEK1,625 であった。日本はカテゴリD国である。この参加費の減額制は、従 来の世界ジャンボリーで採用されたアプローチに準拠し、各国の一人あたりの国民総所得をベースとし て算出されている。 12.プログラム概要 今回の大会プログラムの根幹をなすのは、大会テーマあるシンプリー スカウティング(Simply Scouting)であった。今回の大会プログラムは大きく分けるとオンサイト(場内)プログラム、オフサ イト(場外)プログラム、スポンテニアス・アクティビティ(自由時間の活動) 、セレモニーが上げら れる。オンサイト(場内)プログラム、オフサイト(場外)プログラムのスケジュールは、モジュール 方式で構成されていた。参加スカウトは、モジュール化されたプログラムのすべてに参加できるよう配 慮がなされていた。モジュールの構成はサブキャンプごとに異なり、スカウトは隊または班単位で参加 していた。また、プログラムを参加・修了した後には、ビーズがもらうことができた。 (1)オンサイト(場内)プログラム プログラムの方向性は、過去数回のプログラムとは全く異なった。世界スカウト機構の定めた世界 スカウト行事ガイドラインに掲載されているプログラムをそのまま利用することが過去数回では多 かったが、今回の大会ではガイドラインをプログラムの一例と考え、プログラムが持つ教育的要素に 重点を置きスウェーデン独自のプログラムが提供された。教育要素は、Physical:身体的、Social: 6 社会的、Emotional:情緒的、Intellectual:知的、Spiritual:精神的の5つ。これは世界スカウト 機構の世界スカウト行事ガイドラインが定める教育目標の人間成長分野(Physical:身体的、 Intellectual:知的、Emotional:情緒的、Social:社会的、Spiritual:精神的)に近しく、これら の教育要素がモジュールに含まれるよう工夫されていた。オンサイトは、下記の「GDV」、「People」、 「Quest」、「Earth」、「Dream」の 5 つのプログラムが展開されていた。 ・GDV(地球開発村) 環境問題や社会問題など地球規模の問題について知識を高めることを目的とし、アクティビティを 通して、よりよい社会を創造するために必要な"Think Globally and Act Locally(グローバルに物 事を考ながらも、地域で活動を行うこと)"の考えたかを学び・体感するプログラムとなっていた。 平和や人権、持続可能性などといった 5 つの異なるテーマに沿って、国際連合、NGO/NPO、外国連盟 などにより開発教育が行われていた。 ・People(人々) アクティビティによる異文化体験を通して自分自身を見つめなおす機会を持つことを目的とし、ア クティビティを通じ世界中の文化を体感し、新しい知識を身につけられるプログラムとなっていた。 アクティビティでは、海外のスカウトと交流する機会が多く持たれていた。 ・Quest(探究) 班の仲間と力を合わせ、共通のゴールに向かって体を動かしたり、物事を考えたりすることで、他 者を理解する心や協調性を身につけることを目的とし、アクティビティの後、スカウトは自身の成長 を感じることができるプログラムとなっていた。アクティビティでは、北欧の海賊を体験するコーナ ーや森林の中の巨大迷路などがあった。 ・Earth(地球) 地球環境問題についてスカウトが考え、創造する機会を持つことを目的とし、水のろ過や風車の工 作などのアクティビティを通して、科学に関する知識・技術を身につけられるプログラムとなってい た。 ・Dream(夢) ジャンボリーの中で唯一の夜間プログラムであり、スカウトは暗い雑木林の中を歩く。主に精神的 成長をする機会を持つことを目的とし、自然や偉人の人生、空想の世界などを描くことにより、自分 の人生を見つめなおすプログラムとなっていた。 (2)オフサイト(場外)プログラム 場外プログラムは、スカウトの教育的要素よりも今回の大会テーマである「出会い」 「自然」 「連帯 感」の 3 つの要素が取り入れられていた。 オフサイトプログラムは、下記のキャンプ・イン・キャンプとハイク・イン・キャンプの 2 つが展 開され、この 2 つのどちらかに参加することができた。参加は、班単位とし各班に 1 人指導者が引率 7 した。 ・キャンプ・イン・キャンプ(CiC) 大会会場周辺のキャンプ場にスウェーデン、デンマーク、ノルウェーのスカウトたちが集まり、彼 らとともに 1 泊 2 日の短いキャンプを行う。キャンプを通じ、北欧の自然・文化・食事などを体感す ることができた。 ・ハイク・イン・キャンプ(HiC) 大会会場周辺に 15 このハイキングコースが用意され、海外のスカウトとチームを組みハイキング を行う。ハイキングを通じ、北欧の自然を感じながら異文化交流を体感することができる。 (3)スポンテニアス・アクティビティ(自由時間の活動) 派遣団が展開するパビリオンを含めた世界スカウトセンター、ジャンボリーフレンドシップアワー ド、信仰奨励、チボリ公園での遊具遊び、スポンサー企業によるプログラムなどが展開された。今回 のプログラムスケジュールは、一日 1 つのプログラム提供とされ、自由な時間が多く、スポンテニア ス・アクティビティが充実していた。 (4)セレモニー 開会式、閉会式、ミッドイベントである文化フェスティバルデイ、3 つのセレモニーが行われた。 教育的要素よりも大会テーマであるシンプリー スカウティング(Simply Scouting)と大会コンセプ トに重点を置いていた。その他に、スカウト(14 歳~17 歳)の「興味」に重点を置いて、コンサー トやアニメなどスカウトが楽しめるようなアップテンポで展開されていた。 (5)スカウト通信員・報道官 各派遣団から選出されたスカウトが「スカウト通信員」と「スカウト報道官」として、専門家の指 導を受けながら、大会期間中にジャンボリーの実体験をもとにジャンボリーメディアを通して情報を 発信していた。日本派遣団では、日本の通信員・報道官がレポートブログとして日本に向けて情報を 発信するなど、活発に活動していた。 8 Ⅲ 調査結果の概要 結果① 22WSJ への参加スカウトは、「生きる力」や「国際理解能力」が向上した ○「だれにでも話しかけることができる」、「自分で 問題点や課題を見つけることができる」等の「生き る力」について、参加スカウトの平均値が参加後に 4 ポイント向上し、参加前と参加後の間には有意な 差がみられた。 「生きる力」平均値の変容 ○「新しい環境の中でも積極的にふるまえる」等の 「国際理解能力」について、参加スカウトの平均値 が参加後に 1 ポイント向上し、参加前と参加後の間 には有意な差がみられた。 「国際理解能力」平均値の変容 結果②22WSJ への参加スカウトは、身体的、精神的等の分野において成長がみられた 身体的分野 精神的分野 知的分野 社会的分野 基準値(事前の値) ○世界スカウト機構において提 示している 5 つの発達領域(身体 的、知的、情緒的、社会的、精神 的)という観点でみても※、事後 に 5 つすべての分野において平 均値が向上した。 ※本調査において用いた調査項目、 「IKR 評定用紙(簡易版)」28 項目と「国 際理解能力」8 項目の計 36 項目を数名 で判定し、世界スカウト機構が提示す る個人の発達領域 5 つ(身体的、知的、 情緒的、社会的、精神的)に区分した。 情緒的分野 事後の値 平均値の向上度合い(「個人の発達領域」で区分) 9 結果③ 22WSJ への参加スカウトは、「効果的な経験ができた」という満足度が高い 3.2% 10.6% 0.5% まったくあては まらない 0% 21.1% とてもよくあて はまる 64.2% 「派遣全体を通して効果的な経験ができた」 ○参加したスカウトに 6 段階でジャンボリーに参加しての満足度をきいたところ、「効果的な経験がで きた」かについて、 「とてもよくあてはまる」の「6」、あるいは次の段階の「5」を選んだスカウトは 合わせて 85.3%であった。それに対し、「まったくあてはまらない」の「1」を選んだスカウトは 0% であった。 ○一部のプログラム等について、学年によって満足度に差がみられるものあった。 10 Ⅳ 調査結果 1.調査対象内訳 全体 全体 (%) 男性 (%) 女性 (%) 中学生 689 人 100% 533 人 100% 156 人 100% 高校生 187 人 27.1% 136 人 25.5% 51 人 32.7% 502 人 72.9% 397 人 74.5% 105 人 67.3% 2.調査対象のスカウト経験 本事業参加スカウトのスカウト経験について回答を依頼した結果を示す。 1.どの部門からはじめましたか 2.家族でスカウト経験のある人はいますか 3.団では月に何回活動していますか 4.今までの最長キャンプは何泊何日でしたか 5.今まで海外派遣の経験はありますか 11 3.事業を通しての変容 」28 項目 本事業が、派遣されたスカウトの「生きる力」1)に及ぼす影響を「IKR 評定用紙(簡易版) を用いて測定した。加えて、本事業が国際理解等にどのように影響を及ぼしているのか、「高校生を対 象とした国際理解教育における評価規準の開発的研究」2)を参考に、国際理解能力(外国への興味・親 近感など)についての 8 項目を用いた。 以上のことから、計 36 項目を用い、プログラムが始まる前を事前、プログラム終了時を事後として、 調査を行った。質問への回答は、 「とてもよくあてはまる」を「6」、 「まったくあてはまらない」を「1」 両端とし、6 段階で回答を依頼した。表 1、2 は各回答の比率を示したものである。 表1 カテゴリ 「生きる力」について各回答の比率各回答の比率 調査項目 1.いやなことは、いやとはっきり言える 非依存 15.小さな失敗をおそれない 11.自分からすすんで何でもやる 積極性 25.前向きに、物事を考えられる 5.だれにでも話しかけることができる 明朗性 心理的社会的能力 19.失敗しても、立ち直るのがはやい 交友・協 調 7.多くの人に好かれている 21.だれとでも仲よくできる 9.自分のことが大好きである 現実肯定 23.だれにでも、あいさつができる 視野・判 断 3.先を見通して、自分で計画が立てられる 17.自分で問題点や課題を見つけることができる 8.人の話しをきちんと聞くことができる 適応行動 22.その場にふさわしい行動ができる 14.自分かってな、わがままを言わない 徳育的能力 自己規制 28.お金やモノのむだ使いをしない 自然への 関心 6.花や風景などの美しいものに、感動できる 20.季節の変化を感じることができる 12 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 (%) とてもあてはまる← → まったくあてはまらない [5]か[6] 50.9 54.5 38.4 42.8 33.6 34.1 48.3 55.5 37.7 50.4 40.1 42.0 20.0 21.6 50.6 49.6 22.0 24.1 65.7 67.5 21.6 30.2 33.3 43.5 40.2 42.8 37.4 44.5 33.4 34.0 36.3 43.1 54.2 65.9 52.4 58.3 [3]か[4] 43.7 40.6 51.6 47.1 61.1 58.4 44.8 38.6 49.9 42.0 50.1 48.8 69.6 66.1 44.3 44.1 57.0 58.2 32.3 30.5 64.1 59.9 60.8 53.2 51.1 50.4 58.2 51.3 57.7 56.3 51.2 46.4 40.2 30.1 42.6 37.9 [1]か[2] 5.3 4.9 10.1 10.2 5.3 7.5 6.9 5.9 12.3 7.6 9.8 9.2 10.4 12.3 5.2 6.3 21.0 17.7 2.0 2.0 14.4 9.9 5.9 3.3 8.8 6.9 4.5 4.2 8.9 9.8 12.6 10.5 5.6 4.0 5.0 3.7 徳育的能力 まじめ勤 勉 12.いやがらずに、よく働く 26.自分に割り当てられた仕事は、しっかりとやる 2.人のために何かをしてあげるのが好きだ 思いやり 16.人の心の痛みがわかる 日常的行 動力 身体的能力 身体的耐 性 野外技 能・生活 13.早寝早起きである 27.からだを動かしても、疲れにくい 4.暑さや寒さに、まけない 18.とても痛いケガをしても、がまんできる 10.ナイフ・包丁などの刃物を、上手に使える 24.洗濯機がなくても、手で洗濯できる 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 事前 事後 34.2 35.3 61.3 62.9 50.0 55.7 43.5 66.6 21.3 21.8 32.2 38.1 36.3 50.5 32.9 38.1 32.7 40.1 60.2 73.9 59.3 56.6 37.6 35.4 46.4 41.8 51.2 31.8 51.1 53.0 53.2 50.9 52.3 41.6 53.6 50.7 59.8 52.5 35.5 23.9 6.5 8.0 1.2 1.7 3.6 2.6 5.3 1.6 27.6 25.1 14.7 10.9 11.4 7.9 13.5 11.2 7.5 7.3 4.3 2.3 「生きる力」について、 「とてもあてはまる」の「6」、あるいはその次の段階の「5」と回答した比率 が、事後に 10%以上高まった項目は、 「4.暑さや寒さに負けない」、「5.誰にでも話しかけることがで きる」、 「6.花や風景などの美しいものに、感動できる」、 「16.人の心の痛みがわかる」、「17.自分で 問題点や課題を見つけることができる」、 「24.洗濯機がなくても、手で洗濯ができる」の 6 項目であっ た。 表2 「国際理解」について各回答の比率 (%) とてもあてはまる ← → まったくあてはまらない 調査項目 事前事後 [5]か[6] [3]か[4] [1]か[2] 36.6 55.9 7.5 事前 29.新しい環境の中でも積極的にふるまえる 47.2 47.0 5.8 事後 39.2 51.7 9.1 事前 30.誰とでも気軽に話ができる 45.9 46.2 7.9 事後 48.7 47.7 3.6 事前 31.初めての環境にも自分からなじもうと努力する 54.3 41.5 4.2 事後 47.6 48.7 3.7 事前 32.新しい環境にも積極的に溶け込む努力ができる 53.2 41.8 5.0 事後 46.9 48.1 5.0 事前 33.日本人の友だちとのつきあいに自信がある 46.2 47.1 6.8 事後 60.4 36.7 2.9 事前 34.新しい出会いを楽しむことができる 66.6 31.8 1.6 事後 25.5 55.1 19.4 事前 35.自分に自信がある 28.9 53.5 17.6 事後 21.7 47.3 31.0 事前 36.自分は人前で緊張しない 26.5 47.3 26.2 事後 13 「国際理解」について、 「とてもあてはまる」の「6」、あるいはその次の段階の「5」と回答した比率 が、事後に 10%以上高まった項目は、 「29.新しい環境の中でも積極的にふるまえる」の 1 項目であっ た。 表 3 は、本調査で用いた 36 項目及びそれらが構成するカテゴリごとに、事前事後で平均値の比較を したものである。 表3 能力 生きる力 心理的社会的能力 非依存 「生きる力」及び「国際理解能力」について事前事後の比較 事前調査 事後調査 調査項目 M SD M SD 116.3 18.7 120.2 19.4 57.8 10.2 59.4 10.5 1.いやなことは、いやとはっ 4.4 1.1 4.5 1.1 きり言える 明朗性 有意確率 8.11 6.25 *** *** 2.44 * 4.1 1.3 4.2 1.3 1.86 - 4.1 1.0 4.1 1.1 10.56 - 4.4 1.2 4.6 1.2 3.86 *** 4.1 1.3 4.4 1.3 8.08 *** 4.1 1.3 4.2 1.3 1.43 - 7.多くの人に好かれている 3.7 1.1 3.7 1.1 0.52 - 21.だれとでも仲よくできる 4.4 1.2 4.4 1.2 0.37 - 9.自分のことが大好きである 3.5 1.3 3.6 1.3 2.49 ** 4.8 1.1 4.9 1.0 1.57 - 3.7 1.1 3.9 1.1 7.24 *** 4.1 1.1 4.3 1.0 5.99 *** 4.1 1.2 4.2 1.1 1.74 - 4.2 1.0 4.3 1.0 4.19 *** 34.6 5.8 35.6 6.0 5.77 *** 4.0 1.2 4.0 1.2 0.03 - 4.0 1.4 4.2 1.3 3.40 *** 4.5 1.2 4.8 1.1 7.60 *** 4.5 1.2 4.7 1.1 3.14 *** 12.いやがらずに、よく働く 4.1 1.1 4.1 1.2 -0.07 - 26.自分に割り当てられた仕 事は、しっかりとやる 4.7 1.0 4.8 1.0 0.66 - 15.小さな失敗をおそれない 積極性 t値 11.自分からすすんで何でも やる 25.前向きに、物事を考えら れる 5.だれにでも話しかけること ができる 19.失敗しても、立ち直るの がはやい 交友・協調 現実肯定 視野・判断 適応行動 23.だれにでも、あいさつが できる 3.先を見通して、自分で計画 が立てられる 17.自分で問題点や課題を 見つけることができる 8.人の話しをきちんと聞くこと ができる 22.その場にふさわしい行動 ができる 徳育的能力 自己規制 自然への関心 まじめ勤勉 14.自分かってな、わがまま を言わない 28.お金やモノのむだ使いを しない 6.花や風景などの美しいも のに、感動できる 20.季節の変化を感じること ができる 14 2.人のために何かをしてあ げるのが好きだ 4.5 1.0 4.6 1.0 3.37 *** 16.人の心の痛みがわかる 4.3 1.1 4.4 1.1 2.85 ** 23.9 5.0 25.3 4.7 9.44 *** 13.早寝早起きである 3.3 1.4 3.4 1.3 1.65 - 27.からだを動かしても、疲れ にくい 3.9 1.3 4.0 1.3 4.54 *** 4.暑さや寒さに、まけない 4.1 1.3 4.4 1.2 7.25 *** 3.9 1.3 4.1 1.3 4.68 *** 4.0 1.1 4.2 1.1 3.98 *** 4.7 1.2 5.1 1.0 7.96 *** 33.2 7.2 34.3 7.4 5.32 *** 29.新しい環境の中でも積極的にふるまえる 4.1 1.1 4.4 1.1 6.21 *** 30.誰とでも気軽に話ができる 4.2 1.2 4.3 1.2 3.85 *** 4.5 1.1 4.6 1.1 2.91 *** 4.4 1.1 4.6 1.1 3.53 *** 33.日本人の友だちとのつきあいに自信がある 4.4 1.1 4.3 1.2 -1.30 - 34.新しい出会いを楽しむことができる 4.8 1.1 4.9 1.1 3.68 *** 35.自分に自信がある 3.7 1.3 3.7 1.3 2.15 * 36.自分は人前で緊張しない 3.3 1.4 3.5 1.4 5.20 *** 思いやり 身体的能力 日常的行動力 身体的耐性 野外技能・生活 18.とても痛いケガをしても、 がまんできる 10.ナイフ・包丁などの刃物 を、上手に使える 24.洗濯機がなくても、手で 洗濯できる 国際理解能力 31.初めての環境にも自分からなじもうと努力す る 32.新しい環境にも積極的に溶け込む努力がで きる ***p<.001 **p<.01 *p<.05 平均値の比較から、「生きる力」、「国際理解能力」について、事業後に参加スカウトの意識が高くな ったり、「できるようになった」と感じたりすることが増えたと捉えられる。異文化体験、国際交流活 動、国際理解などに積極的に挑戦したことで自信を身に付け、異年齢との長期的な集団野営生活を通し て、思いやる心や協調性が育まれた同時に、問題点を把握し先を見通して自分で計画が立てられる力が つき、参加スカウトの生きる力が向上したと考えられる。また、国際理解に関する 8 項目を追加して調 査したが、その 8 項目を統計的に分析すると有意差が顕著だったものも存在した。これらの結果より、 本派遣事業の一定の教育効果を客観的に証明できたと考える。 ※「有意差」とは、平均点の差について t 検定といった統計的手法を用いて分析を行った結果、統計学など で、確かに差があり、それは偶然起こったものではないといえるかどうかを検討した結果の差のこと。今 回は有意水準を 5%に設定した。有意差の水準を 5%とは、各調査時期の平均点に差がないのに差があると間 違える確率が 5%ということである。 ※各項目で「とてもあてはまる」を 6 点、 「まったくあてはまらない」を1点として、それぞれ 1 点刻みで得 点化し、項目ごとに平均値、標準偏差、t値、有意確率(両側)を算出した。 15 4.スカウティングが定義する「発達分野別の方向性」 スカウティングの原理は青少年の発達に方向性を与えるものであるので、この原理はまたスカウティ ングが身体的、知的、情緒的、社会的、精神的な発達分野のそれぞれで青少年が達成するのを援助しよ うとしていることに反映されている。そこで、今回の調査を通じて、 「IKR 評定用紙(簡易版) 」28 項目 と「国際理解能力」8 項目それぞれの質問項目が、スカウティングにおける「個人の発達領域」ではど こにあてはまるのかを、数名で判定してみたところ、36 項目すべてが 5 つの発達領域のいずれかに含ま れた(表 4)。 表 4 スカウティングが定義する発達分野別の方向性 分野 身体的分野 知的分野 情緒的分野 能力 ・自分の行動と思考の過程を調和させる(精神運動性の技能)。 ・自分の体の成長、機能、健康に責任を持つ。 ・自分の肉体的限界を認める。 ・効果的な情報管理、創造的な思考、直感により、適切な方法で関心 のあることを追求し問題解決し、状況に適応する。 ・現象や出来事、アイディアなどの間にある形態、繋がり、関係を理 解する。 ・現実を他の視点から見る(たとえば、様々なものの見方を理解する こと、文化、宗教、性別に関わる立場を理解することなど)ための 理解力を発達させる。 ・自分の経験から意義を引き出す。 ・自分の決定や行動の結果を通して考えたり、自分の自由意思を持 ち続けるよう物事を自分で判断する。 ・感情や情緒に気づき、認め、表現し、日常生活の中でうまく扱う責 任を持つ。それによって、心の自由、心の平静、心の成熟といった 精神状態に到達し、それを維持する。 設問№ 4、13、27 3、10、11、 17、19、22、 24、28 36 9、15、16、 18、 30、33 社会的分野 精神的分野 ・人の言うことを聴き、自分自身を効果的に表現する。 ・他の人を同等の権利を持った別個の人間として受け入れる。 ・人間同士の相互依存や人間と自然界との相互依存を考慮する。 ・協力し、支援し、指導する。 ・社会で積極的かつ建設的な役割を担い、すべての人がより質の高 い生活が送れるよう貢献する。 ・偏見や差別を克服して本物の信頼関係と異文化を認める心を育て る。 ・自分自身の自由意思を超えて共通の規則を守る。 ・人間を超えた次元のものを認め、追求する。 ・自分の地域社会の精神的遺産を調べる。 ・他の世界的な宗教の教義、儀式、しきたりを理解する。 ・精神的な価値を自らの日常生活に組み入れ、より高度でより統一さ れた意識状態へ向けて全面的に発達するようにする。 1、2、5、7、 8、12、14、 21、23、25、 26 29、31、32、 34 6、20、 35 次に、上記発達分野別に得点の平均値を算出し、それを用いて平均値の比較をしたところ、すべての 分野において、事後に得点が向上し、その向上には有意差がみられた。 16 表 5 発達分野別平均値の比較 事前 事後 事後-事前 t値 有意確率 身体的分野 3.8 4.0 0.2 7.75 *** 知的分野 4.1 4.2 0.1 9.28 *** 情緒的分野 4.1 4.2 0.1 4.76 *** 社会的分野 4.4 4.5 0.1 5.77 *** 精神的分野 4.3 4.5 0.2 6.91 *** ***p<.001 4.6 4.4 4.2 身体的分野 知的分野 4.0 情緒的分野 社会的分野 3.8 精神的分野 3.6 3.4 事前 事後 図 1 発達分野別平均値の比較 そこで、それぞれの発達領域に含まれた項目の平均値について、事前を基準にして事後の平均値の向 上度合いを示すと、大きな五角形になり、事後にまんべんなくすべての分野において高まった。 身体的分野 精神的分野 知的分野 社会的分野 情緒的分野 基準値(事前の値) 事後の値 図 2 平均値の向上度合い(「個人の発達領域」で区分) 17 世界スカウトジャンボリーは世界スカウト行事ガイドラインに従って実施される。そのガイドライン には、そこで実施されるプログラムは、世界スカウト会議で採択された世界プログラム方針およびプロ グラム上の問題に対するその他の方針に準拠して策定されることになっている。世界プログラム方針で 定義する個人の 5 つの発達領域は、すべてが相互に密接な関係であり、補完し合って 1 つの全体形を作 っている。青少年プログラムの実施において、5 つの発達局面がすべて同等に注目され、特定の 1 つの 領域を強調するとかあまり強調しないといったことは避けなければスカウトプログラムとは言えない。 これがスカウト運動の特徴ということもできる。この分析により、今回の第 22 回世界スカウトジャン ボリーはスカウト教育の特徴を示したものと言える。 18 5.参加スカウトの自由記述から プログラム後の調査において、「このジャンボリーであなた自身が得たものは何ですか?」という質 問項目を設けた。そこで、得られた自由記述結果を用いて、どのような単語がどれだけ使われているか、 記述された単語の度数を調べた。そして、その度数をふまえつつ、類似している、関連がみられると思 われる単語をひとつのまとまりにし、そのまとまりごとに命名した。それぞれの単語の度数とそのまと まり、それに命名したものが①~⑤である。 ①国際事業の特長-異なるものに接した影響 自己、誇り、アイデンティティ 自分 103 日本 61 自信 23 日本人 15 誇り(ほこり) 9 世界、海外、異文化 世界 外国 海外 文化 国際 印象 89 84 34 34 7 違 広 他 異 狭 37 33 27 4 3 ②つながりとそこに至る手段-新しいつながりと改めて実感したつながり 友、仲間 きずな、つながり 友達 仲間 友情 友人 みんな 101 44 25 20 10 交流 絆(きずな) 出会い 関わり(かかわり) 連帯感 66 32 18 14 3 言語、コミュニケーション 英語 104 コミュニケーション 42 言葉 31 英語力 21 伝え 14 ③心技体-事業のねらい(BS のねらい) 心技体 体 心 技 技能 精神的 36 27 24 9 4 行動を起こす力 積極的・積極性 行動 協調性 笑顔 表現 58 40 7 7 4 ④培ったこと、実感したこと 前向きさ がんばる 目標 好き 次回 幸せ 23 6 5 5 4 糧となったもの(なるもの) 新 39 経験 36 思い出 20 体験 13 勉強 12 実感 大切 大切さ 視野 貴重 発見 19 強い気持ち 67 50 7 3 2 考え 勇気 考え方 挑戦 意思 39 21 16 4 3 ⑤環境・設定条件・付加価値 事業形態 キャンプ 生活 自然 食 テント 18 15 13 9 3 BS の独自性、得意分野 スカウト 77 隊 24 班 19 リーダー 13 班長 8 困難な状況 課題 大変 苦手 痛感 問題 楽しい雰囲気 6 楽し 4 ノリ 3 3 2 46 8 参加スカウトの自由記述から、命名したものをとりあげ、以下のような結果図にまとめた。 図は、「心技体」、「行動を起こす力」等が土台となり、そこに今回「培ったこと、実感したこと」が 積み重ねられたものを中心としている。そして、それを引き起こした「刺激」として、「国際事業の特 長-異なるものに接した影響-」、 「環境・設定条件・付加価値」、 「つながりとそこにいたる手段-新し いもの、改めて実感したもの-」がある、というストーリーを描き、本事業の特徴を示唆した。 国際事業の特長 -異なるものに接した影響- 培ったこと、実感したこと 自己、誇り、アイデンティティ 世界、海外、異文化 強い気持ち 印象 前向きさ 環境・設定条件・付加価値 実感 糧となったもの(なるもの) BSの独自性、得意分野 事業形態 困難な状況 楽しい雰囲気 つながりとそこに至る手段 -新しいもの、改めて実感したもの- 心技体 -事業のねらい(BSのねらい)- 言語、コミュニケーション 心技体 きずな、つながり 行動を起こす力 友、仲間 図 3 世界スカウトジャンボリーから得たもの(自由記述結果図) 20 6.事業実施上の満足度(学年による差が顕著な場合はクロス集計のグラフを含む) 本事業参加スカウトの満足度について設けた 12 項目の結果を示す。 1.派遣員募集要項はわかりやすかった 2.地区や県連の面接は応募して直ぐに行われた 3.内定通知が届くまでは早かった 4.隊別準備訓練は効果的だった 5.支給品は満足できるものだった 21 6.結団式と壮行会は満足できた 8.出発準備訓練は効果的だった 7.派遣に関する連絡は分かりやすかった 9.コペンハーゲン市内見学は満足できた 10.22WSJ大会は満足できた 22 11.飛行機での移動は満足できた 12.派遣全体を通して効果的な経験ができた 7.参考文献 1)「IKR 評定用紙(簡易版)」:国立青少年教育振興機構(2010)事業評価に使える!「生きる力」の測 定・分析ツール~アンケート用紙・分析ソフト付き~ 2)「高校生を対象とした国際理解教育における評価規準の開発的研究」:假屋園昭彦(2009)鹿児島大 3)「スカウティング:一つの教育システム」:世界スカウト機構(1998) 23