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症 例 体外循環下感染ペースメーカリード摘出術を施行した3治験例
福岡医誌 98(8):329−331,2007 329 症 例 体外循環下感染ペースメーカリード摘出術を施行した3治験例 産業医科大学 心臓血管外科 西 村 陽 介,梶 原 隆 Successful Removal of Infected Pacemaker Leads under Extracorporeal Circulation in Three Cases Yosuke NISHIM URA and Takashi KAJIWARA Department of Cardiovascular Surgery, University of Occupational and Environmental Health, Kitakyushu, Japan Abstract We report three cases suffering from endocarditis caused by pacemaker lead infection. Because of the long interval beginning from implantation to surgical removal and the large vegetations on the leads,the entire pacemaker system was removed under extracorporeal circulation (ECC). Postoperative courses were uneventful and none of these patients have shown recurrent infection to date. The total removal of the pacemaker system using ECC support seems a safe and reliable procedure,provided that careful perioperative management is carried out. Key words:pacemaker, infection, extracorporeal circulation は じ め 2003年7月より 37度台の発熱出現.血液培養か に ら Staphylococcus epidermidis を検出し,心エ 経静脈的ペースメーカー(PM )においてリード コー検査にて右房内に9×16mm の腫瘤を認め 感染は比較的まれではあるが,治療に難渋するこ たため9月に入院となった.現在,慢性腎不全に とが多く重要な合併症の1つである.ひとたび て血液透析と抗リン脂質抗体症候群にてステロイ PM リード感染が起これば抗生剤のみでは治 ド治療を受けている. は 難しく,PM 全システムの除去が治療の基本とな 入 院 後 経 過:入 院 時 CRP 0.2mg/dl,白 血 球 る 8800/mm . cefazolin .直接牽引による抜去が試みられるが,不能 sodium 2 g /日 と 例には体外循環下に摘出術が行われる.今回我々 gentamicin sulfate 80mg/日投与し,血液培養は は PM リード感染に対して体外循環下摘出術を 一 時 陰 性 化 し た も の の,12月 に な り 再 度 S. 施行した3治験例を経験したので,その適応,手 epidermidis を検出し右房内の腫瘤は 19×23mm 術時期など治療上の問題点につき と増大しため 12月 17日手術施行した. 察を加えて報 告する. 手術所見:胸骨正中切開でアプローチし上下大静 症 例 脈脱血,上行大動脈送血による体外循環下に右房 を切開した.右房内でリードに約 20mm の茎をも 症例1)77歳,男性. つ径 10mm の疣贅と多数の顆粒状の付着物を認 現病歴:洞不全症候群にて 1985年に左鎖骨下静 めた.リードは右室肉柱に強固に 脈より DDD 型 PM 移植術を受け,1995年にリー 剥離摘出した.体外循環時間 102 ,大動脈 断 ド不全にて右鎖骨下静脈より再移植術受けた. 時間 57 . Correspondence to :Yosuke NISHIMURA Department of Cardiovascular Surgery, University of Occupational and Environmental Health, 1-1, Iseigaoka, Yahata-nishiku, Kitakyushu 807-8555, Japan 着し,鋭的に 症例2)68歳,男性. 現病歴:1973年に完全房室ブロックにて右鎖骨 下静脈より DDD 型 PM 移植術を受けた.2002年 西 330 村 陽 介・梶 原 隆 12月に右ポケット感染にて PM 本体摘出とリー 症例3)68歳,男性. ド部 切除,左鎖骨下静脈より PM 再移植術を受 現病歴:1997年7月完全房室ブロックにて左鎖 けた.その後も右ポケットに感染再発くり返し入 骨下静脈より DDD 型 PM 移植術受けた.2004年 院加療受けていた.2004年3月 39度の発熱認め 6月ポケット感染にて PM 本体の除去とリード たため入院となった. 部 入 院 経 過:血 液 培 養 に て Corynebacterium た.2006年6月より 39度の発熱あり血液培養に minitissimum 検出.白血球 11800/mm ,CRP 4.3 て Staphylococcus capitis 検出したため入院し mg/dl.ceftazidime 2g/日を2週間投与したが炎 た.残存心房リードが下大静脈に落ち込んでいた 症所見改善せず4月2日手術施行した. ためカテーテル的残存リード除去術を受け,clin- 手術所見:症例1と同様の体外循環下に手術施行 damycin 1200mg/日 と minocycline 200mg/日 した.右房内でリードに付着した脆弱な疣贅様組 投与にて軽快したため退院したが,9月になり再 織を多数認め可及的に切除した.31年目の心房 度発熱を認めたため再入院となった(Fig. 1). リードは 入院経過:入院時 白 血 球 9000/mm ,CRP 4.96 着強く,心房壁に欠損を生じ修復を要 した.体外循環時間 100 ,大動脈 断時間 37 . 切除,右鎖骨下静脈より PM 再移植術受け mg/dl,経食道エコー検査にて右室内に 10×11 mm の疣贅認めた(Fig. 2).clindamycin 1200 mg/日,minocycline 200mg/日にて白血球 8200/ mm ,CRP 1.02mg/dl に改善した後 12月8日手 術施行した. 手術所見:症例1と同様に手術施行した.右房, 右室内に疣贅様組織が多数付着していた.三尖弁 にも疣贅付着あり,弁組織とともに切除し三尖弁 を修復した.リードは上大静脈,右房,右室に強 固に 着し,これらを鋭的に剥離し除去した.体 外循環時間 140 ,大動脈 断時間 94 . 3症例とも手術時に新たに心筋リードを移植し た.また,全例摘出 PM リードより菌検出したた め術後6-8週間抗生剤投与した.術後は問題なく 経過し現在まで感染の再発は認められていない. Fig. 1 Preoperative Chest X-ray (case3). Three pacemaker leads, two functioning via the right subclavian vein and one nonfunctioning via the left subclavian vein. 察 経静脈的 PM の感染の 度は1-7%で,PM リード感染は1%未満と報告されているが,致死 率 は 33%と 高 率 で あ り 注 意 す べ き 合 併 症 で あ る .PM リード感染は抗生剤投与による保存 的治療では治 は難しく,PM 全システムの除去 が治療の基本となる .非開胸下での直接牽引 は PM 移植術後数ケ月以内なら可能であるが,1 年以上経過すると 着が強固となるため困難にな るとされている .リムーバルキットや,レー ザーシースなどによる摘出術の有効性についても 報告されているが,すべての症例に適応できるわ Fig. 2 Transesophagial echocardiography showing a 10×11mm vegetation stuck to the pacemaker lead in the right ventricle (case3) RA ; right atrium, RV ; right ventricle. けではなく,肺塞 や右房,三尖弁の損傷などの 合併症も報告されている . 非開胸下摘出術が不可能な症例に対しては体外 体外循環下感染リード摘出術の3治験例 循環下での摘出術の適応となる.三尖弁逆流など 他の外科的処置を要する症例や 10mm 以上の大 きな疣贅を有する症例なども適応と る えられてい .本症例ではすでに直接牽引が不能であ り,2例では 10mm 以上の疣贅を有していたこと より体外循環下摘出術の適応と えられた.3例 とも初回 PM 挿入より摘出術まで9年から 31年 と長期間経過していたため,リードの であり非開胸下での摘出は困難と 着は強固 えられた. 体外循環下摘出術は高齢者の MRSA 菌血症に 対する治験例も認められるが ,手術死亡は17%40%と良好とは言えない .原因としては敗血 症や肺炎など感染に関連したものが多く,体外循 環による感染の増悪が示唆されている .抗生剤 投与により感染の鎮静化をはかり,適切な時期に 手術を行うことが重要であるが ,抗生剤が無効 な症例もあり,その決定は必ずしも容易ではない. 今回の症例では,全例術前より抗生剤が投与され ていたが,症例1,2では2週間の投与でも炎症 所見の改善が認められないことや,疣贅の増大な どにより抗生剤が有効でないと判断し,手術に踏 み切った.また,症例3では解熱や炎症所見の改 善が認められ,抗生剤は有効と思われたが,炎症 所見は完全に陰性化せず,疣贅はわずかに縮小傾 向が認められたのみであったため,これ以上の効 果は期待できないと判断し手術を施行した.周術 期に十 な抗菌療法を行うとともに,手術時期を 逸することがないように厳重に感染を管理するこ とも肝要と えられた. PM リード感染の3症例に対し体外循環下除去 術を施行し良好な結果を得た.適切な手術時期と 注意深い周術期管理を行えば安全で確実な方法と えられた. 331 参 文 献 1) Chambers ST : Diagnosis and management of staphylococcal infections of pacemakers and cardiac defibrillators. Intern Med J 35: S63S71, 2005. 2) Klug D, Lacroix D, Savoye C, Goullard L, Grandmougen D, Hennequin JL, Kacet S and Lekieffre J : Systemic infection related to endocarditis on pacemaker leads. Clinical presentation and management Circculation 95: 2098-2107, 1997. 3) del Rio A, Anguera I, Miro JM , M ont L, Fowler Jr VG, Azqueta M and Mestres CA : Surgical treatment of pacemaker and defibrillator lead endocarditis: the impact of electrode lead extraction on outcome.Chest 124: 1451-1459, 2003. 4) 志水秀行,四津良平,上田敏彦,後藤哲哉,相馬 康宏,川田志明:感染ペースメーカーリードの 体外循環下摘除術 症例報告及び本邦報告例の 検討.日胸外会誌 42:160-165,1994. 5) Camus C, Leport C, Raffi F, Michelet C, Cartier F and Vilde JL : Sustained bacteremia in 26 patients with a permanent endocardial pacemaker: assessment of wire removal. 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