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20 ロープ採材法による口腔液を用いた豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス
ロープ採材法による口腔液を用いた豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス モニタリング 中央家畜保健衛生所 会田恒彦 馬上 斉 村山和範 篠川有理 はじめに 矢部 静 樋口良平 中田 稔 フリーザーバックに回収した(図1)。なお、口腔 豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)は繁殖障害や 液は、フリーザーバックの上からロープを押さえ 呼吸障害を主徴とするウイルス性疾病で、国内に つつロープを引き出すことにより搾出した。得ら おける発生被害額は年間283億円と試算される[1 れた口腔液はチューブに分注し、-20℃以下で冷 0]などその被害は極めて大きい。PRRSウイルスを 凍保存した。 農場でコントロールするには、豚群の感染状況を 把握しつつ、免疫安定化や飼養環境改善など複合 的な対策を継続して行う必要があることから、定 口腔液の採材方法(ロープ採材法) 期的な検査によるPRRSモニタリングが重要となる ・綿ロープ(無漂白) [2]。 ・フリーザーバック 口腔液は唾液と粘膜浸出液の混合液で、抗体や 1 ◎ 用意するもの 床に付かないように垂らす 2 ・ハサミ ウイルスを含むことが知られている[4,7]。PRRS 4 3 ウイルスも口腔液から検出されることが知られて おり[5,9]、近年アメリカではPRRSモニタリング 入れ替わり咬む に口腔液を用いる方法が報告されている[3,6,8]。 20分後 回収 しかし、国内ではPRRSウイルスの検査には一般的 フリーザーバックに入れ冷蔵で輸送 に血清が用いられており、口腔液を用いた検査に 関する報告はこれまでない。このため、我々は口 図1 ロープを用いた豚口腔液の採材方法 腔液を用いたPRRSウイルスの検査方法について検 討したことから報告する。 IgG濃度測定:5群について口腔液および各群のプ ール血清IgG濃度をキット(ブタIgG定量キット, 材 料 エコス研究所)を用いて測定した。 県内のPRRS陽性の6農場と陰性の3農場におい 抗体検査:PRRSウイルス抗体の検出は間接蛍光抗 て、2∼7か月齢の肥育豚35群(497頭)の口腔液 体法(IFA)およびエライザ(PRRSエリーザキッ と同群180頭の血清を採材し検査に供した。 ト, IDEXX)によりそれぞれ行った。 血清を用いたIFAについては、各群3∼10頭分の 方 法 血清をプールし、常法(血清希釈:20倍、感作条 口腔液の採材:豚の口腔液を採材するため、①綿 件:37℃, 1時間、 二次抗体および感作条件:40 ロープ(注:必ず無漂白であること, 直径7mm程 倍 FITC-RABBIT ANTI-PORCINE IgG, invitrogen; 度)、②フリーザーバック、③ハサミを用意した。 37℃, 30分間)により行い、蛍光顕微鏡観察で ロープは複数本束ね、下端をほどいておき、豚房 特異蛍光を認めた場合に陽性と判定した。 の床上10㎝程度まで垂らすように長さを調節し、 口腔液を用いたIFAについては、遠心上清(3,0 柵などに確実に結紮した。そのまま放置すると豚 00回転, 5分間)原液をIFAプレートに加え、4℃ はロープを咬み始めるが、豚の入れ替わりと、口 で一晩静置し、20倍の二次抗体を用いて血清と同 腔液がロープに浸み込む時間を考慮して、20分間 様に判定した。 放置した。その後、ロープをハサミで切り取り、 血清を用いたエライザについては、個体別にマ ニュアルに従って行い、群に1頭でも陽性個体が エライザ抗体検査:血清については陽性が25群、 いた場合にその群を陽性群と判定することとし 陰性が10群と判定された。一方、口腔液は陽性が た。 24群、陰性が11群と判定され、35群中34群(97%) 口腔液を用いたエライザについては、口腔液原 について血清と判定が一致した。血清で5頭中2頭 液(遠心分離未実施)とそれぞれ4倍に希釈した指 (S/P比:0.55, 0.66)が陽性であった1群のみが、 示陽性および指示陰性血清をプレートに加え、4 口腔液のエライザおよびIFAでいずれも陰性とな ℃で一晩静置、以降はマニュアルに従って行った。 り、血清と判定が異なった。また、口腔液はエラ なお、判定については血清同様、S/P比0.4以上を イザとIFAの判定が完全に一致しており、血清に 陽性とした。 ついても同様であった(表1)。この他、PRRS陰性 遺伝子検査:PRRSウイルス特異遺伝子の検出は、 の3農場6群については、全ての抗体検査が陰性で、 各群のプール血清および口腔液の遠心上清から 偽陽性は認められなかった。なお、血清の平均 RNA抽出キット(High Pure Viral RNA Kit, Roch S/P比と口腔液のS/P比について相関は認められな e)を用いてウイルスRNAを抽出し、Open Reading かった。 Frame 7 領域を増幅する RT-nested PCR(PrimeS cript One Step RT-PCR Kit Ver.2, TaKaRa; Amp 表1 エライザおよびIFAの判定 liTaq Gold 360 Master Mix, Applied Biosystem エライザ s)を行った[1]。 IFA 判定 成 血清 口腔液 血清 口腔液 + 25 24 25 24 − 10 11 10 11 績 IgG濃度: 5群から得られた口腔液のIgG濃度は、 0.01∼0.03 mg/ml(平均0.018 mg/ml)であった。 一方、同群のプール血清のIgG濃度は8.40∼11.34 mg/ml(平均10.8 mg/ml)であった。 IFA抗体検査:血清を用いたIFAは陽性が25群、陰 遺伝子検査:血清と口腔液の両方からPRRSウイル 性が10群と判定された。一方、口腔液についても ス特異遺伝子が検出されたものが9群、いずれも 特異蛍光が観察され(図2)、陽性が24群、陰性が 陰性であったものが22群で、血清と口腔液の判定 11群と判定された。その結果、血清と口腔液の判 は35群中31群(89%)で一致した。また、血清のみ 定は35群中34群(97%)で一致した(表1)。 陽性が3群、口腔液のみ陽性が1群あったが、陽性 検体の多くは血清と口腔液のいずれも陽性であっ た(表2)。 表2 PRRSウイルス特異遺伝子の検出 口 腔 液 血清 島状に感染細胞の特異 蛍光が観察された。 図2 同一材料を血清と同様の条件で実施 すると蛍光は認められなかった。 口腔液のIFA + − + 9 3 − 1 22 農場別成績:各農場の血清と口腔液の検査成績を で、エライザで偽陽性が発生した際の確認検査も 比較し、口腔液を用いたPRRSのモニタリングの可 容易になったと考えられた。 能性について検討した。事例1では3か月齢で血清 豚群のPRRSウイルス感染状況を詳細に把握す および口腔液のPCRが陽性となり、4か月齢でいず るには、個体の血清を用いた検査が最適である。 れの抗体も陽転が認められた。事例2については、 しかし、口腔液を用いた検査についても、省力化 3か月齢で口腔液エライザは陰性であったが、PCR と低コスト化を両立しつつ、血清とほぼ同様に群 は血清と同様に陽性が確認され、4か月齢で抗体 の感染状況を判定することが可能であった。これ の陽転が認められた。また、事例3のPRRS陰性農 らのことから、今回の方法はPRRSのモニタリング 場では、口腔液は血清と同様にいずれの検査にお 方法として有効であると考えられた。 いても陰性で、偽陽性反応は認められなかった。 今後は、本法が生産現場に普及しPRRS対策の このように、口腔液を用いたPRRSのモニタリング 一助となるよう、実施農場数を増やし検討を重ね は血清とほぼ同様の判定が可能であった(図3)。 ていきたい。 事例1 陽転の確認 口腔液 血 清 月齢 謝 事例3 陰性農場 PCR エライザ PCR エライザ 2 − − − − 3 + − + − 4 − + + + 月齢 血清および 口腔液 PCR エライザ 6 − − 6 − − 本発表に際して多大なご助言を頂いた、スワイ ンエクステンション&コンサルティングの大竹先 生に深謝致します。 参考文献 事例2 陽転の確認 月齢 辞 血 清 口腔液 PCR エライザ PCR エライザ 3 + + + − 4 − + − + 7 + + − + [1]Chlistopher HJ, et al.:J Clin Microbiol, 33, 1730-1734(1995) [2](独)動物衛生研究所:PRRSコントロール 技術集(2009) [3]Kittawornrat A, et al.:Virus Res, 154, 図3 農場別検査成績 170-176(2010) [4]McKie A, et al.:Lancet Infect Dis, 2, 考 察 PRRSのコントロール対策の一つとして豚群の 定期的なモニタリングは重要とされているが、一 般的にその検査材料には血清が用いられている。 しかし、豚の採血は大きな労力を要し、時に危険 も伴うほか、個体数が多い場合は検査コストも増 加することなどの理由で定期的なモニタリングの 18-24(2002) [5]Prickett J, et al.:J Vet Diagn Ivest, 20, 156-163(2008) [6]Prickett J, et al.:J Swi Health and Prod uct, March and April, 86-91(2008) [7]Prickett J,Zimmerman J:Anim Health Res Rev, 11, 207-216(2010) 実施が困難な場合も想定される。そこで今回我々 [8]Ramirez A, et al.:Prev Vet Med, は、口腔液を用いたPRRSウイルス検査方法につい Available online (2011 Dec 9) て検討を行ったところ、抗体および遺伝子検査の 成績はいずれも血清を用いた成績と高い一致率で あることが確認された。口腔液の採材は簡単であ り、抗体検査の方法についても各県の家保施設で 従来から実施されているものを条件変更しただけ であるため、本法は容易に実施可能と思われた。 なお、口腔液を用いたIFAも実施可能としたこと [9]Wills RW, et al.:Vet Microbiol, 55, 231-240(1997) [10]山根逸郎ら:豚病会報, 55, 33-37(2009)