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新・実学ジャーナル
食料 環境 健康 バイオマスエネルギー & 情報 No.102 新・実学ジャーナル 7+8 月号 Jul.+Aug.2013 研究装置紹介シリーズ③ オホーツク新食品誕生記 (17) 東京農大農学部植物園から(9) 学校法人 東京農業大学の沿革 榎本武揚と横井時敬 傘下に東京情報大学 創設者は、明治の英傑榎本武揚だ。明治政府で外 東京農業大学は、農学部、応用生物科学部、地域 相、文相、農商務相などの要職を歴任した榎本は、 環境科学部、国際食料情報学部、生物産業学部、短 明治24年(1891)、東京に「私立育英黌」を設立した。 期大学部の 6 学部21学科からなり、大学院は 2 研究 その農業科が東京農学校、東京高等農学校と名を替 科19専攻体制が整っている。世田谷、厚木、オホー えつつ、拡充の歴史を歩み、今日の東京農業大学と ツク(北海道・網走) の 3 キャンパスに学生・院生 なる。 ら約13,000人が学んでいる。 東京農学校時代の明治28年、評議員として参画し 学校法人東京農業大学の傘下に、東京情報大学 たのが、明治農学の第一人者横井時敬だった。「人 (千葉) がある。総合情報学部 1 学科、大学院 1 研 物を畑に還す」 「稲のことは稲にきけ、農業のこと 究科で、学生・院生は約1,900人。傘下には、他に は農民にきけ」と唱えて、 「実学」による教育の礎 併設校として農大一高/中等部、同二高、同三高/ を築き、東京農業大学の初代学長を務めた。本学の 附属中学がある。 「生みの親」は榎本、 「育ての親」は横井である。 学校法人東京農業大学戦略室 第12代学長に髙野克己教授 大澤貫寿現学長の任期満了(2013年 7 月 4 日)に伴う学長選挙が 6 月 4 日に行われ、副学長の髙野克己教授(応用生物科学部)が第12代の次 期学長に決まった。学長選には 3 氏が立候補し、 1 回目の投票を経て決 選投票で選出された。 学長就任は 7 月 5 日からで、任期は2017年 7 月 4 日までの 4 年間。東 京農大短期大学部学長を兼任する。 <新学長の略歴>たかの かつみ 1977年東京農大農学部農芸化学科を卒業。同大学院修士課程修了後、 本学助手に採用。1985年農学博士。1998年に同応用生物科学部生物応用 化学科教授。2008年同応用生物科学部長。2009年同大学・同短期大学部 副学長(現在に至る)。専門分野は、食品化学、食品製造学。1953年東 京都板橋区生まれ59歳。 東京農業大学歴代学長 初 代 横井 時敬(1911年∼1927年) 第 2 代 吉川 第 7 代 平林 忠(1971年∼1975年) 輝(1927年∼1939年) 第 8 代 鈴木 隆雄(1975年∼1987年) 第 3 代 佐藤 寛次(1939年∼1955年) 第 9 代 松田藤四郎(1987年∼1999年) 第 4 代 千葉 三郎(1955年∼1959年) 第10代 進士五十八(1999年∼2005年) 第 5 代 三浦肆玖楼(1959年∼1961年) 第11代 大澤 貫寿(2005年∼2013年) 第 6 代 内藤 敬(1961年∼1971年) 第12代 髙野 克己(2013年∼ ) 真夏のアスファルトから単離した 微細藻類が生産するユニークなタンパク質 東京農業大学応用生物科学部 准教授 川﨑信治 砂漠に生きる生物に学ぶ 「光は植物を枯らす最大の環境要因である」 。1997年 から 2 年間、筆者が博士研究員として所属した奈良先 端科学技術大学院大学の横田明穂教授から学んだキー ワードである。横田教授は当時、アフリカのボツワナ 砂漠で強光と乾燥ストレスにさらされてもたくましく 生きる野生スイカの不思議な能力に着眼し研究を開始 した時期であった。植物は自身の光利用能力を上回る 強い光の下で光合成を阻害する環境ストレス(乾燥や 高塩分など)に遭遇すると、O2を発生する葉緑体内 が過還元状態になり、活性酸素の生成が加速し、最終 的に枯死にいたる。野生スイカは一般植物と比較する と格別に強光下での乾燥ストレス耐性能力が優れてい た。葉内の全タンパク質を可視化する二次元電気泳動 解析の結果、ストレス付与後に顕著に発現するアミノ 酸合成に関与するタンパク質が検出され(図 1 A)、ス トレス耐性期に葉に高濃度のシトルリンを蓄積するこ とが判明した。シトルリンはスイカ果実から1930年に 発見されたアミノ酸である。その後の研究で横田教授 らはシトルリンが優れた活性酸素消去活性を持つこと を発見し、有能な機能性アミノ酸として現在のステー タスを確立するに至った。シトルリンの蓄積は野生ス イカでのみ報告されるユニークな環境ストレス代謝で あり、筆者は砂漠生物を用いた独創性の高い研究に感 銘を受けた。 1999年から筆者は植物ストレス分野のリーダーで あった米アリゾナ大学のハンス・ボナート教授の部屋 で研究員として勤務する機会を得た。アリゾナは 1 年 の360日が晴天という恵まれた砂漠環境である。強烈 な太陽光の下でも数百年間、直射日光を浴びて生き続 けるサグアロサボテン、数カ月間降雨がない砂漠で枯 れない謎の植物など、 2 年間の砂漠を探索する日々を 通じて神秘的な砂漠生物に出会えたことは、この上な い研究経験となった。 砂漠環境に生きる微細藻類の探索 強光プラス乾燥・塩分・低温・高温などの環境スト レスが混在した極限環境。高等植物の生存が不可能な 究極の砂漠環境にも光合成をする微生物はいるのであ ろうか。農大に奉職した2001年当時の興味であった。 アリゾナ大学の研究者の協力を得て2002年に砂漠の土 かわさき しんじ 1969年広島県生まれ 東京農業大学大学院農学研究 科農芸化学専攻博士前期課程 修了、東京大学農学生命科学 研究科応用生命化学専攻博士 後期課程修了。東京農業大学 応用生物科学部バイオサイエ ンス学科資源生物工学研究室 准教授 博士(農学) 専門分野:新奇な微生物の探 索、微生物の酸素ストレス応 答 主な研究テーマ:絶対嫌気性菌のO2感受性機構、光合 成微生物の極限環境ストレス耐性機構 主な著書:Lactic Acid Bacteria and Bifidobacteria (Chapter-6) .Horizon Press, United Kingdom。 A:野生スイカ B:微細藻類Ki-4株 ストレス付与前 ストレス付与前 強光+乾燥ストレス 日 強光+塩ストレス 日 図 1 A.野生スイカの葉内タンパク質Drip-1(丸枠) 。葉内に シトルリンが大量に蓄積する現象の発見につながった。 41:864-873(2001) B.Ki-4株の細胞内タンパク質。丸枠のタンパク質が、後に水 溶性のアスタキサンチン結合タンパク質AstaPと同定された。 を培養したところ、独立栄養で生育する緑のコロニー が出現し、最初の微細藻類単離株(Ari-3株)を得た。 2003年から当時 4 年生であった大越紀一君と日本国 内で砂漠類似環境を探し、強光下で生育可能な微細藻 類のスクリーニングを開始した。紀一君は最初に練習 で単離した株をKi-1株と命名してうれしがっていた が、そこら辺の土から単離した普通の藻類であったた め、残念ながら環境ストレスには弱かった。後に彼の 卒論として農大前の真夏のアスファルトから単離した Ki-4株( 図 2 )、新島の真夏の海岸砂浜から単離した Ki-7株は、現在の研究の礎となっている。 新・実学ジャーナル 2013.7+8 1 Ki-4株の採取地と顕微鏡画像 て解析したところ、強光ストレス付与細胞の抽出液が 橙色になる現象が見いだされた。橙色の色素は脂溶性 のカロテノイドと推定されたが、水に溶けていたので ある。以降、不思議な水溶性物質の解析に取り組ん だ。水口君らは橙色物質の精製に成功し、結合色素は カロテノイドの一種であるアスタキサンチン(図 3 B) 光学顕微鏡 と同定され、新奇なタンパク質と推定されたことから AstaPと命名した。 人参のβカロテン(図 3 B) 、トマトのリコピンなど、 電子顕微鏡 図 2 農大前の真夏のアスファルトから単離した真核の微細藻 類Ki-4株の顕微鏡写真。農大の電子顕微鏡室で詳細な表面構造 の撮影に成功した。 自然界で引き起こされる極限環境ストレスを実験室 で実現することを目的として2004年から堀谷かおるさ んや宮嶋良輔君が卒論研究を行った。寒天培地を切り 取り、空のシャーレへ移植することで、強光下で 1 週 間かけて徐々に乾燥する条件が確立された。砂漠や日 本の過酷な環境から学生と単離した微細藻類は現在70 株ほどになり、ほぼ全てが真核の微細藻類に分類され る。中でもKi-4株は特に環境ストレス耐性力が強く、 強光下の水分がゼロの環境で 6 カ月以上生存し( 図 3 A) 、かつ海水塩濃度の 2 倍程度の塩ストレス下で も生存した。クラミドモナスやクロレラなど一般の真 核微細藻類は本条件下では 1 週間以内に白色化し、枯 死する。遺伝子解析の結果、Ki-4株は2004年にLewis らにより報告された砂漠の真核藻類と近縁種であるこ とが判明し、日本にも砂漠類似環境があることを結果 的に証明するに至った。 橙色の水溶性タンパク質−AstaP 700種以上存在するカロテノイド研究の歴史は深く、 AstaPの新奇性を確認するために学生と多くの本や論 文を調査した。アスタキサンチンはエビやカニの甲羅、 フラミンゴの羽などに含まれる脂溶性のカロテノイド で、生物に鮮やかな色調を与え、かつ日光から皮膚細 胞を保護する役割がある。 アスタキサンチンはカロテノイドの中でも特に高い 抗酸化力を持つことから、化粧品や機能性食品に幅広 く利用されている。アスタキサンチンは上記の高等生 物には合成能力がなく、真核の微細藻類が細胞内に油 滴として蓄積するものがエサとして取り込まれ、食物 連鎖を通じて生物間を循環する。 水溶性のカロテノイド結合タンパク質は原核生物の ラン藻に分布することが知られていたが、アスタキサ ンチンを結合する報告例は無く、また真核の微細藻類 や高等植物には分布しないと考えられていた。 研究の結果、AstaPはKi-4株がストレス環境に遭遇 すると大量に合成され(図 1 B)、水溶液中で高い 1 重 項酸素消去活性を示し、100℃で 1 時間の熱処理後も 活性と水溶特性を失わない熱安定性を有していた。以 上の結果から、AstaPはKi-4株の細胞を強光と活性酸 素から保護する機能を持つタンパク質であることが推 定された。現在はアスタキサンチンを水溶性にし、か Ki-4株は一般の藻類と比較すると明らかに強い環 境ストレス抵抗性を示したが、数年間の研究を経て も抵抗性の原因解明には至らなかった。2007年から清 水宏文君、河野哲也君、三島直君らは二次元電気泳動 つ大量生産が可能で安定な機能性素材としてAstaPの 可能性を追求している。 Ki-4株はAstaP以外にもストレス応答性の機能未知 タンパク質を数多く発現することから、ストレス耐性 解析を行いストレス応答性の複数のタンパク質を検出 したが、タンパク質は化学修飾されており解析が困難 メカニズムの解明には、さらなる分子生物学的な解析 が必要である。今後も研究室で保有する微細藻類のユ ニークな極限環境ストレス耐性機構の解明を目指し だったことも一因としてあげられる。2010年から水口 佳祐君や佐藤大君らが中心となり大量に細胞を培養し A ストレス無し 強光+乾燥ストレス(水分 %) 回復(灌水) て、学生と共に研究を進めていきたい。 B C 精製タンパク質 βカロテン (黄色) 強光 カ月 カ月 日後 アスタキサンチン (オレンジ色) AstaP 54:1027-1040(2013) 図 3 A.Ki-4株を寒天培地上で培養し、強光+乾燥ストレスを付与した。ストレス耐性期間は細胞がオレンジ色に変色する。 B.βカロテンとアスタキサンチン。共に油であり、水に不溶である。C.精製後に超純水に溶けたアスタキサンチン結合タンパク質。 2 新・実学ジャーナル 2013.7+8 研究装置紹介シリーズ③ フレバーフレグランス香気成分高度抽出解析システム 香りの “秘密” を探り、視覚で捉える 研究装置を整備する目的と必要性 特定の香り成分を取り出す(分取)。数多くの成分の 分析には高い分離能が求められる。質量分析計(MS) 食の魅力を引き出し、機能性を高める重要な役割を 果たしている香料・フレバーや、化粧品などの暮らし を彩る製品(香粧品)づくりに欠かせない香料・フレ で香り成分の質量を測定し、既知情報を集約したライ ブラリーで検索することによって、どのような物質で あるか同定する。匂いの質、 強度を知ることも重要で、 グランス。東京農大オホーツクキャンパスの生物産業 学部食品香粧学科は、食と香りのサイエンスを先端技 化学的物質情報と合わせて人間の官能的な情報を得る ために「におい嗅ぎ装置」も備えている。 ところが、分析した香り成分が全て既知のものとは 限らない。当然、構造未知の新規化合物の場合もあ 術によって追求するとともに、暮らしを豊かにする食 品や香粧品の開発や、それらの効果についての研究を 行う。フレバー、フレグランスを取り扱う国内唯一の 学科の研究活動を進めていくうえで必要とされたのが ①試料からの効率的な芳香成分の抽出②高感度で再現 性の高い検出装置③香料成分を得意とするライブラ リー[注1] ──から成る「フレバーフレグランス香気成 分高度抽出解析システム」の構築だった。 高度化する分析化学 フレバーフレグランス香気成分高度抽出解析システ ムは<次頁上図=作成:食品香粧学科・妙田貴生准教 授>のように構成されている。 香りの正体は有機化合物という化学物質だが、リン ゴの香りには単一のリンゴの香りというものが存在す るものではなくリンゴの香りを構成する香気成分は 350種類くらいある。しかも、ただ混ぜ合わさってい るのではなく、350種類の香気成分の量比が定まって リンゴらしさを出している。バラ、緑茶、ワイン── どのような香りも何百もの香り成分で構成されている のだ。 香りを分析するにはまず、植物、食品から香り成分 [注2] を取り出さなければならない。超臨界流体 抽出装 置は、生物資源からの匂い成分の高度抽出に必要な機 器で、超臨界状態にある物質を用いて各種成分の抽出 を行う。通常、比較的温和な条件で超臨界流体にする ことが可能な二酸化炭素を溶媒に用いる。 抽出された芳香成分の分離・検出(定性=成分の同 定[注3]・定量=物質中に含まれている成分の量)に用 いるのが、ガスクロマトグラフ[注4] 質量分析システム (GC / MS=ガスクロマトグラフ結合型質量分析装 置)。 ガスクロマトグラフ(GC)で混合物を構成する成 分を大まかに分け(分画・分離)、さらに研究目的の る。そうした時に威力を発揮するのが核磁気共鳴装置 (NMR)。強力な磁場中にある原子核への電磁波の吸 収・放出を観測することで、新規成分の構造を決定す る。また、香気成分の形を見るための機器には旋光度 計[注5] も使われる。さらに、電子鼻センサーで大気中 に漂う香りを測定して官能評価結果と比較したりして 香りのプロファイル判定を行う。 いろいろな手段を使って調べていくことによって、 匂いを感じているだけでは分からなかった香り分子の 構造的な秘密が見えてくる。分析化学が機器の発展と ともに高度化していることは間違いない。 豊かな地域資源を食品・香粧品づくりに応用 道東・オホーツク地域は豊かな農産物と水産資源の 宝庫。食品香粧学科の香りの化学研究室では、香粧品 や機能性食品[注6] の素材となる新規資源の開発を目指 して、北方系植物の芳香成分や機能性成分の化学的研 究と機能性試験に取り組んでいる。 そのひとつが「ヤチヤナギの芳香成分と機能性に関 する研究」 。ヤチヤナギはヤマモモ科の落葉小低木で 枝葉に芳香がある。ヨーロッパではハーブとして古く から化粧品やビールの香りづけに利用されてきたが、 資源枯渇の恐れから利用されなくなった。北海道でも 十勝、湧別、網走などの湿原を中心に自生しているが、 個体数は減少している。 しかし、北海道立林業試験場が組織培養に成功し、 新たな北海道産資源としての利用が期待されるように なった。 「研究室で自生株と培養された栽培株の芳香 特性の比較と機能性評価を試みた結果、北海道産組織 培養由来のヤチヤナギも自生株同様の芳香を持ち、抗 酸化活性など有用な機能性を備えていることが明らか になった。 化粧品基材など、資源活用の可能性は広がっ 新・実学ジャーナル 2013.7+8 3 システム構成図 試 料 植物、動物、加工品など 気体、液体、固体 全てのタイプに対応 抽出 超臨界流体抽出装置 分離 定性 定量 多機能型機器に よる迅速な分析 GC/MSの機能を説明する西澤教授 超臨界流体抽出装置(SFE)=目的成分が含まれ る対象物に抽出媒体の超臨界流体を加え、溶解度 の差を利用して抽出操作を行う。天然物からの各 種フレバーなどの成分抽出、GCなどの分析用試 料の前処理にも使われる。2011年 3 月、香りの化 学研究室に設置。日本分光社製。約600万円。 ガスクロマト質量分析システム(GC/MS)=混 合物を気体(ガス)にし、クロマトグラフィー (GC)で分離した単一成分についてマススペク トル(MS)を測定し、成分の定性・定量を行う。 分子量などの情報を得ることで、化合物の特定が できる。2011年 3 月、香りの化学研究室に設置。 アジレント・テクノロジー社製。約3,600万円。 核磁気共鳴装置(NMR)=分離した成分の化学 構造を解析する装置。化合物に含まれている水素 や炭素の電子的な環境に関する情報が得られ、化 合物の構造決定、特定に用いる。2012年 3 月、香 りの化学研究室に設置。アジレント・テクノロジー 社製。約4,370万円。 ガスクロマト質量分析システム(GC/MS) (加熱脱着装置、 次元カラム、 におい嗅ぎポート、分取装置etc.) 未知成分解析 評価 香りが出現するのかは実際に組み立ててみなければ分 からない。イメージどおりの香りを組み立てる調香は 難しい作業だが、 「香りの化学研究室で香料の選択、 調香を行った。香りを創出し、香りのレシピを提供し た」 (藤森嶺教授) 。 食品香粧学科には、「香りの化学研究室」の他に開 発加工分野の「食の化学研究室」 、 食品安全分野の「応 用微生物学研究室」 、医香粧食分野の 「生物化学研究室」 があり、相互に連携して研究が進められている。機器 4 新・実学ジャーナル 2013.7+8 核磁気共鳴装置 (NMR) 大容量分取GC ている」 (西澤信教授)という。 また、 7 月には食品香粧学科と東京の企業とのコラ ボ商品第 1 号が生まれた。 「クリーム」 「洗顔料」 「化粧 品」 「パック」の 4 品。香気成分が混合してどのような の整備が研究の幅を広げているわけで、例えると▽北 海道産ワインの特徴香気▽ハッカの香気成分と照射光 の関係▽北海道の花・ハマナスの香気成分▽網走市の 木・カツラの芳香成分▽ホップの芳香成分▽乾燥ホタ + 解析 味覚 嗅覚 電子機器による 客観的官能評価 視覚 電子官能評価システム テの香気成分──に関する研究などに「フレバーフレ グランス香気成分高度抽出解析システム」が用いられ ている。 (学校法人東京農業大学参与 谷口 弘) ■用語 [注1]ライブラリー=国内外の主要な雑誌に掲載された、香気成分 に関する化合物情報や文献情報を収録したデータベース。 [注2]超臨界流体=物質は温度や圧力によって気体、液体、固体に 変化するが、臨界温度、臨界圧力を超えた領域(超臨界状態) の気体でも液体でもない流体。気体の拡散性と、液体の溶解 性を持つ。気体、液体、固体の三相が共存する状態が三重点。 原子力工学での「臨界状態」とは、全く意味を異にする。 [注3]同定=単離した化学物質が何であるかを決定すること。 [注4]ガスクロマトグラフ=気化しやすい化合物の同定・定量に用 いられる機器分析の手法である。芳香成分の分析には不可欠。 [注5]旋光度計=物質に直線偏光を通過させたとき、物質がその偏 光面を左右いずれかに回転させる性質を測定する機器。 [注6]機能性食品=体調を整える効果をもつとされる食品。栄養や 味ではなく、生体調節機能を強化している。食物繊維を入れ た飲料など。保健機能食品は、効能を表示することができる。 オホーツク新食品誕生記 (17) 北のペットスナック 東京農業大学生物産業学部教授 永島 俊夫 「食は安全安心でなければならない時代であり、これは人間だけに限ら ずペットの食事も同じ。飼い主はそのようなものを求めているはずだ」。 北見市留辺蘂にあるパン屋さんを経営するペット好きなご主人から、ペッ ト向けのお菓子の開発について協力してもらいたいという話がありまし た。 私は「ペットのことまでわからないし、そのようなことなら獣医さんに 安全安心な食材をペットにも! 高品質な地域資源の活用⑨ 北のペットスナック 相談してみたら」と言いましたが、なかなかそのような対応をしてくれる ところもないらしく、私も犬を飼っていることもあって協力することにし ました。 できるだけ北海道産の良質で、ペット(犬)の健康にもよさそうな原料 を用いて試作することになりました。パン屋さんの技術を生かし、基本的 には乾パンのようなものを考え配合を検討した結果、健康によさそうな ヤーコン、おから、鮭中骨、豆乳、フスマ、オリゴ糖などを配合して試作 を繰り返しました。試作するたびに私の研究室で一緒に食べて、硬さや味 などについて考え、残りは持ち帰り私の家の犬にも食べさせて反応を見な がら配合を決めました。 完成した製品は犬の大きさに合わせ、L、M、S、SSの 4 種類としました。 成分分析を行い、その成分表とともに次のような私のコメントなども表記 して販売されました。 『この製品は本当に犬好きな人たちが犬と一緒になっ て開発されたもので、品質のよい原材料を用い、栄養のバランスにも考慮 しています。また、表面の硬さと中のサクサクとした特有の食感は犬が好 むというだけでなく、歯の健康のためにもよいことが考えられます。成分 からもわかるようにカロリーも低いため、そのままおやつとして与えたり、 主食に混ぜたりすることもでき、いつでも安心して与えられる製品です。』 この「北のペットスナック」は発売後、日通商事(株)が大変興味を示 してくれて、通販をはじめとして宅配便を届ける際にチラシを一緒に配布 したり、女満別空港の同社が経営する売店でも販売してくれることになり ました。ペットを家に残して旅行に出た場合、いつもどうしているかと気 になるものです。そのようなとき、帰りの空港で北海道産原料を使ったこ のような土産物があれば、 「ペットにも買っていってあげよう」という気 持ちになると思います。当時、日本の空港で動物のための土産品を売って いるところはなかったと思います。私は大変うれしく、日本航空の機内誌 ながしま としお “SKYWARD”にも紹介するなどして応援していましたが、ペット向けの 製品は一般の土産物と一緒に並べることはできず、書籍のコーナーで販売 東京農業大学生物産業学部 食品香粧学科教授。学校法 人東京農業大学元理事。食 品製造学、発酵食品学。 著書(共著)『生物資源と その利用』 、 『食品保蔵・流 通技術ハンドブック』 、『日 本の伝統食品事典』など していました。あまり目につかない場所でもあったので販売数は伸びず、 大変残念なことに 1 年ほどで撤退してしまいました。今は北見市内の動物 病院やペットショップで販売しています。数はそれほど多く出ませんが、 この製品のファンが定着してきています。この「北のペットスナック」は 世田谷キャンパスの農大生協にも置いていますので、愛犬家の皆さん、ぜ ひ一度お試しください。 新・実学ジャーナル 2013.7+8 5 東京農大農学部植物園から(9) ムサ・ベルチナ H. Wendl. & Drude バショウ科 熱帯の果物で我々日本人になじみ深い物に バナナがあります。その関係からか各地の植 る関係からか「バナナ味のアケビ」といった 感じです。 物園に出かけてみると、必ずといっていいほ 実はこのバナナを神奈川県三浦半島先端部 どバナナが植栽されています。そして、バナ ナは家庭では栽培できない植物の代表のよう に住む卒業生のお宅に露地植えし、冬越しで きるか状況を観察してきました。冬には寒さ な気がします。今回紹介するバナナはインド のために地上部は枯れてしまいますが、翌春 原産の野生のバナナで、「ピンクバナナ」な には根茎から生長し始め草丈 1 mほどで開花 どの名前で鑑賞用バナナとして市場に流通し ています。本種の果軸は直立し下垂しません 結実することが分かりました。このことから、 が、小さなピンク色にバナナができます。そ して、野生種ですから当然ですが種子ができ ことが判明しました。小学校などの教材とし て利用できる可能性が考えられます。 ます。熟した果実を食べてみると、種子があ 新・実学ジャーナル 2013年 7 + 8 月合併号 No.102 2013年 7 月 1 日発行 編集・発行 学校法人東京農業大学戦略室 〒156 8502 東京都世田谷区桜丘 1 1 1 TEL.03 5477 2300 FAX.03 5477 2643 http://www.nodai.ac.jp/hojin/ 定期購読ご希望の方は上記までご連絡ください。 日本の暖かい地域では屋外で栽培可能である (東京農大農学部植物園 伊藤健) 2013 東京農大創立122年 学校法人 東京農業大学 東京情報大学 東京農業大学短期大学部 東京農業大学第一高等学校 東京農業大学第二高等学校 東京農業大学第三高等学校 東京農業大学第一高等学校中等部 東京農業大学第三高等学校附属中学校 8130701