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諸外国の電炉業の経営動向や原材料・電力コストの動向

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諸外国の電炉業の経営動向や原材料・電力コストの動向
諸外国の電炉業の経営動向や原材料・電力コストの動向を踏まえた
我が国電炉業の競争力強化による省エネルギー対策調査事業
調査報告書
平成26年3月
みずほ情報総研株式会社
目 次
第1章
調査事業の背景と目的 ......................................................................................... 1
1.
調査の背景 ................................................................................................................... 1
2.
調査の目的 ................................................................................................................... 1
3.
調査の方法 ................................................................................................................... 1
第2章
国内電炉メーカーの現状分析 .............................................................................. 3
1.
国内電炉メーカーの概況 ............................................................................................. 3
2.
収益構造 .................................................................................................................... 12
3.
鉄スクラップの流通構造 ........................................................................................... 16
4.
人材 ............................................................................................................................ 17
5.
輸出入・海外展開状況............................................................................................... 21
第3章
原材料市場の動向について ................................................................................ 27
1.
国内鉄スクラップの需給・流通構造......................................................................... 27
2.
海外鉄スクラップの需給構造.................................................................................... 34
3.
鉄スクラップの価格動向 ........................................................................................... 41
4.
還元鉄など新たな鉄源の動向.................................................................................... 45
第4章
諸外国における電炉業の現状について .............................................................. 47
1.
世界における電炉業界の現状.................................................................................... 47
2.
韓国における電炉業界の現状.................................................................................... 49
3.
欧州における電炉業界の現状.................................................................................... 57
4.
米国における電炉業界の現状.................................................................................... 67
第5章
日本と海外電炉メーカーとの国際競争力比較 ................................................... 73
1.
製品と原材料のリスク・リターン分析 ..................................................................... 73
2.
その他影響を及ぼす要因の分析 ................................................................................ 78
3.
鉄スクラップ需要見通し ........................................................................................... 81
第6章
省エネルギー対策の動向について ..................................................................... 86
1.
電力料金の現状 ......................................................................................................... 86
2.
電力料金高騰に伴う各社の取組 ................................................................................ 88
第7章
国内電炉メーカーの競争力強化について .......................................................... 91
1.
我が国の電炉業界の SWOT 分析 .............................................................................. 91
2.
問題点の整理 ............................................................................................................. 94
3.
要因整理と対策 ......................................................................................................... 96
4.
競争力強化に向けて .................................................................................................. 98
参考資料 ............................................................................................................................. 101
1.
我が国の電炉業の競争力強化に向けた方向性に係る参考事例............................... 101
2.
中小企業の事業承継に係る課題等について ............................................................ 106
3.
電炉業の競争力強化に関する検討委員会委員一覧 ..................................................113
第1章 調査事業の背景と目的
1. 調査の背景
現在、我が国電炉業を取り巻く環境は非常に厳しい状況に直面している。国内市場の縮
小、電力コスト等の増加や国際的な競争の激化など、将来的な懸念がある中で諸外国に比
べて、電炉メーカーの大規模化が進んでおらず、過当競争状態にある。
特に、競争の激化に関しては、国内生産能力過剰の問題、設備の低稼働率の問題、原材
料価格の問題(鉄スクラップ価格の乱高下、製品価格へのコスト転嫁の難しさ等)、人材確
保・育成の問題、国内市場への輸入材流入懸念等の様々な課題がある。このような背景の
もと、現状の我が国電炉業の置かれている状況をあらためて把握するとともに、今後の我
が国電炉業の進むべき方向性について検討することが求められている。
2. 調査の目的
本調査では、上記のような状況を踏まえ、公開情報に基づいた文献調査により、諸外国
電炉業の経営動向や原材料市場の動向、電力コスト・原材料コストの低減による省エネル
ギー対策を検討しつつ、我が国電炉業の産業構造、サプライチェーン等に与える影響につ
いて調査を行う。
3. 調査の方法
A) 諸外国における電炉業の現状に関する調査
本調査では、諸外国(米国、韓国、欧州)における電炉業の経営動向、統合などの動向
について文献等により調査を行った。また、あわせて、我が国電炉業の現状についても文
献調査を行った。
なお、具体的には、下記の調査項目について、公開情報に基づく文献調査を行った。
【調査項目】

国内電炉メーカーの現状分析

諸外国における電炉業の現状

日本と海外電炉メーカーとの国際競争力比較
1
B) 鉄スクラップ、還元鉄等の原材料の流通構造、価格動向、省エネルギー対策など電力
コスト低減の取組等に関する調査
本調査では、世界の鉄鋼需給の変化、鉄スクラップの需給及び価格、諸外国での流通・
輸出、還元鉄などの新たな鉄源の動向等について、文献等により調査を行った。また、今
後電炉業の競争力を高めるために必要となる省エネルギー対策、電力コストの低減への取
組や生産等の効率化に向けた方策について、文献等により調査を行った。
さらに、上記の調査結果を踏まえつつ、鉄スクラップの将来的な流通、需給及び価格動
向、高炉メーカーと電炉メーカーの競合、補完関係について文献等の情報を踏まえ考察を
行った。
なお、具体的には、下記の調査項目について、公開情報に基づく文献調査を行った。
【調査項目】

原材料市場の動向

諸外国における電炉業の現状

日本と海外電炉メーカーとの国際競争力比較

省エネルギー対策の動向
C) 我が国の電炉メーカーの競争力強化のための今後の方向性の検討
上記調査を通じて収集・整理した情報に基づき、我が国の電炉業の効率化、企業体質強
化といった視点から、我が国の電炉メーカーの競争力強化のための今後の方向性について、
検討を行った。
D) 我が国電炉業の競争力強化策等に関する有識者との意見交換
本調査と並行して、有識者等による委員会を設置し、諸外国の電炉業の動向や将来的な
原材料確保、電力コストの低減などに係る動向などを踏まえ、我が国の電炉業の競争力強
化等について意見交換を行った。
下記に開催実績を示す。なお、意見交換に参画した有識者の一覧を参考資料に示す。
表 1-1
有識者との意見交換開催実績
名称
開催日時
第 1 回電炉業の競争力強化に関する検討委員会
平成 25 年 12 月 24 日(火)12:00~14:00
第 2 回電炉業の競争力強化に関する検討委員会
平成 26 年 1 月 28 日(火)13:00~15:00
第 3 回電炉業の競争力強化に関する検討委員会
平成 26 年 2 月 13 日(木)14:00~16:00
2
第2章 国内電炉メーカーの現状分析
本章では、国内電炉メーカーの現状分析として、①国内電炉メーカーの概況、②収益構
造、③流通構造、④人材、⑤輸出入・海外展開状況の 5 つの観点から、調査の結果を示す。
1. 国内電炉メーカーの概況
A) 日本国内の電炉による粗鋼生産
まず日本国内における炉別の粗鋼生産量の推移を図 2-1 に示す。全体で見れば、2007
年までの粗鋼生産量は増加傾向であったものの、リーマンショックがあった 2008 年以降
2009 年まで大きく粗鋼生産量を減らしている。その後、2010 年には一定程度、生産量は回
復するものの、2012 年に至ってもリーマンショック以前(2007 年)の水準までは回復して
いないのが現状である。
この中で電炉の粗鋼生産に着目すると、電炉による粗鋼生産の比率は、2008 年のリーマ
ンショック以前の 25%強の水準から、2008 年以降 2012 年に至るまでは、20~24%程度へ
と比率が低下している状況である。
140
電炉
転炉
電炉比率(右)
(百万トン)
(%)
35
120
30
100
25
80
20
60
15
40
10
20
5
0
0
2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
(年度)
(出所) 日本鉄鋼連盟資料より作成
図 2-1
日本の炉別粗鋼生産
3
次に、日本国内における電炉の粗鋼生産能力及び粗鋼生産量の推移について図 2-2 に示
す。電炉の粗鋼生産量については、前述のように、2007 年以前はわずかではあるが生産量
は増加傾向であった。しかしながら、2008 年のリーマンショック以降、生産量は減少して
おり、未だリーマンショック以前の水準までは回復に至っていない。
その一方で、電炉の粗鋼生産能力を見ると、緩やかではあるものの、およそ 4,000 万ト
ン前後で生産能力が増加している傾向にある。
この状況を電炉の設備稼働率の観点で見ると、リーマンショック以前は、70%台で推移
した稼働率は、リーマンショック以降、2009 年にはおよそ 50%と最も低くなり、2012 年
に至って 60%程度にとどまっている状況である。
50
(百万トン)
生産能力
生産量
稼働率(右)
45
(%)
100
90
40
80
35
70
30
60
25
50
20
40
15
30
10
20
5
10
0
0
2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
(年度)
(出所) 日本鉄鋼連盟資料より作成
図 2-2
電炉の生産能力と生産量
B) 普通鋼鋼材の特徴
普通鋼鋼材には、鉄筋棒鋼、H 形鋼、平鋼、一般形鋼、厚板、線材などがあり(図 2-3)
、
主に建設分野で使用されている。
4
(出所)普通鋼電炉工業会 Web サイトより
図 2-3
大分類
条鋼
section steel
(Long Product)
普
通 鋼板
鋼 sheet steel
鋼 (Flat Product)
材
鋼管
steel pipe
その他
分類
普通鋼電炉鋼材
用途
特徴
形鋼
shapes
棒鋼
bars
線材
wire rods
鋼矢板
sheet piles
軌条
rails
厚中板
plates
薄板
sheets
めっき鋼板
plated sheets
鍛接鋼管
butt-weided pipe
継目無鋼管
seamless pipe
鉄道車両用車輪
rail wheel
鋳鋼品
steel castings
鍛鋼品
steel forgings
断面の形で様々な名称がある
建築物の構造材
棒状の鋼材
(千トン)
鋼材生産量
うち高炉 うち電炉
6,502
29%
71%
土木・建築用の鉄筋材
10,807
1%
99%
細長い線状の鋼材
釘・ネジ・ワイヤロープ
2,032
59%
41%
組合せて土砂・水の流出入を防ぐ
土木工事の土止めの囲い
689
72%
28%
557
90%
10%
厚さ3ミリ以上の鋼板
-
鉄道用レール
造船・建築
13,731
89%
11%
厚さ3ミリ未満の鋼板で表面が美しい
自動車・電気機器
38,299
97%
3%
錆防止用に表面に皮膜を施した鋼板
自動車・電気機器・建築
1,855
100%
0%
溶接等で造られ大量生産が可能
ガス管・水道管
2,010
81%
19%
継ぎ目がなく耐久性に優れる
ボイラー・パイプライン
2,010
81%
19%
-
78
100%
0%
溶鋼を鋳型に流して作る製品
鉄道車両
鉄道車両用連結器
288
32%
68%
鋼塊を鍛錬して成形した製品
製鉄・製紙用ロール
668
12%
88%
(出所)鉄鋼流通情報より作成(数値は 2012 年度)
図 2-4
普通鋼鋼材の主な分類、特徴、用途
ここで、普通鋼鋼材の特徴や用途、鋼材生産量についての一覧を図 2-4 に示す。普通鋼
5
鋼材について、その鋼材生産量、及び高炉・電炉での生産割合に着目してみる。
一般に少量多品種である棒鋼、形鋼については、高炉での生産割合はそれぞれ 1%、29%
である。それに対して、電炉での生産割合はそれぞれ 99%、71%となっている。逆に、市
場規模が大きく、生産・販売のスケールメリットが効きやすい薄板、厚板については、高
炉での生産割合はそれぞれ 97%、89%であり、電炉での生産割合はそれぞれ 3%、11%とな
っている。
このように、少量多品種である棒鋼、形鋼については「電炉」での生産、市場規模が大
きく、生産・販売のスケールメリットが効きやすい薄板、厚板については、
「高炉」での生
産、と言った形で、市場における棲み分け構造が生まれていると見て取れる。
C) 形鋼の生産高、H 形鋼シェア
ここからは、主に電炉で生産を行っている棒鋼、形鋼について焦点を絞り、その生産高、
シェア等を見ていくこととする。まず、本節では形鋼、H 形鋼について扱うこととする。
そこで、形鋼の生産量の推移を図 2-5 に示す。
9
(百万トン)
中型
大型
H形鋼
8
7
6
5
4
3
2
1
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
0
(出所)日本鉄鋼連盟の資料より作成
図 2-5
形鋼の生産量
6
2009 年以降、形鋼の生産量は徐々に回復しつつある。しかしながら、2007 年以前には
800 万トン弱の生産量があったことと比べると、2012 年の生産量が 600 万トン弱であり、
生産量の回復は鈍い状況であると言える。
次に、2012 年度の H 形鋼の生産シェアを図 2-6 に示す。H 形鋼については、現在、国
内 8 社が生産をしている状況であり、その中で、新日鐵住金が 22.5%と最もシェアが高い。
続いて東京製鐵 22.4%、日鉄住金スチール 16.0%となっている。この 3 社で全体の約 6 割
のシェアを占めている。
なお、国内の全生産量のうち高炉である新日鐵住金と JFE スチールが 1/3 を生産し、2/3
を電炉がを生産している状況にある。
合同製鐵
4.0%
JFE条鋼
2.5%
トピー工業
7.5%
大和スチール
12.1%
新日鐵住金
22.5%
H形鋼
生産量
362.5万トン
JFEスチール
13.1%
東京製鐵
22.4%
日鉄住金ス
チール
16.0%
(出所) 鉄鋼新聞より作成
図 2-6
2012 年度 H 形鋼の生産シェア
D) 小形棒鋼の生産高、シェア
本節では小形棒鋼について扱うこととする。小形棒鋼の生産量の推移を図 2-7 に示す。
これを見ると、2006 年までは 1,200 万トン前後で推移しているのに対し、2008 年以降で
は生産量は大きく減少し、2012 年には約 900 万トンとなっている。
7
この背景には、2007 年度以降の住宅着工数の減少がある。2009 年度に住宅着工数が底打
ちし、それ以降増加傾向が見られることから、鉄筋の生産量も回復傾向にある。しかしな
がら、上述のとおり、生産量は 2012 年に約 900 万トンであり回復が鈍い状況である。
15
(百万トン)
(百万平方メートル)
その他用
鉄筋用
住宅着工(左)
12
40
32
2012
2011
2010
2009
2008
0
2007
0
2006
8
2005
3
2004
16
2003
6
2002
24
2001
9
(年度)
(注)住宅着工は、鉄筋コンクリートと鉄骨鉄筋コンクリートの合計
(出所) 国土交通省、日本鉄鋼連盟の資料より作成
図 2-7
小形棒鋼の生産量
共英製鋼
15.4%
その他
35.4%
小形棒鋼
生産量
904.4万トン
JFE条鋼
13.7%
東京鉄鋼
6.7%
中山鋼業
3.3%
伊藤製作所
5.4%
岸和田製鋼
合同製鉄
3.6% 大谷製鉄 朝日工業 城南製鋼所 4.9%
3.7%
3.8%
4.0%
(出所) 鉄鋼新聞より作成
図 2-8
2012 年度小形棒鋼の生産シェア
8
次に、2012 年度小形棒鋼の生産シェアを図 2-8 に示す。シェア上位を見ると、共英製
鋼の 15.4%、JFE 条鋼の 13.7%、東京鉄鋼の 6.7%となり、2012 年度の小形棒鋼のシェア
は上位 3 位までで 35.8%にとどまっている。現在、小形棒鋼を生産しているメーカーは 20
社以上ある。
このことから、H 形鋼のシェアと参入企業数と比べても、棒鋼メーカーが多数存在して
いる様子が伺える。
E) 小形棒鋼の生産と受注
上述のとおり、小形棒鋼は、主として電炉により生産されている。また、現状の日本に
おいては、棒鋼メーカーが各地域に多数存在している。そのため、本節では、小形棒鋼に
ついて、生産と受注等の観点から、さらに詳細に見ていくこととする。
まず、2012 年度小形棒鋼の地域別の受注・生産割合を図 2-9 に示す。これを見ると、
生産・受注ともに関東の割合が最も高く、それぞれ 39%、40%となっている。この地域に
ついては、ほぼ生産と受注の割合のバランスは取れている。
九州
北海道
5%
7%
中・四国
7%
東北
5%
4% 5%
13%
1%
関西
19%
外側:受注
内側:生産
21%
39%
40%
8%
9%
関東
13%
東海
4%
北陸
(出所) 日本鉄鋼連盟より作成
図 2-9
2012 年度小形棒鋼の地域別の受注・生産割合
9
一方で、北陸では生産が 9%、受注が 4%となっており、生産余剰が発生している状況で
ある。同様に、九州についても生産が 13%、受注が 7%となっており、大幅に生産の余剰が
発生している状況である。
逆に、中・四国では、生産が 1%、受注が 7%となっており、受注に比べて、同地域での
生産が不足している状況である。ただし、隣接地域である九州とあわせて、四・中国と九
州合計で見ると、生産と受注はバランスしていることが分かる。
2012 年度小形棒鋼の生産と受注のギャップを推計した結果を図 2-10 に示す。生産余剰
が発生している地域は、九州、北陸、関西であり、それぞれ約 50 万トン、約 40 万トン、
約 10 万トンである。逆に、不足が発生している地域は、中・四国、東海、関東、北海道で
あり、それぞれ約 50 万トン、約 40 万トン、約 10 万トン、約 2 万トンである。
このように地域別の需給ギャップの存在が確認される一方で、隣接地域である、中・四
国と九州、北陸・関西と東海・関東といった括りで見ると、小形棒鋼の生産と受注のバラ
ンスが見て取れる。製品コストに対して輸送コスト等が相応にかかることから、小形棒鋼
は基本「地産池消」といわれているが、隣接地域への流入も一部あるとみられる。
60
(万トン)
40
余
剰
20
0
-20
不
足
-40
九州
中・四国
関西
東海
北陸
関東
東北
北海道
-60
(注)日本鉄鋼連盟資料よりデータを補正して表示
(出所) 日本鉄鋼連盟資料より作成
図 2-10
2012 年度小形棒鋼の生産と受注のギャップの推計
10
F)
製品別と地域別の電炉メーカー
ここでは、日本の電炉メーカーについて、製品別と地域別にその概要を図 2-11 に示す。
まず、単一地域で、単一製品を生産・販売する電炉メーカーは 24 社ある。特に、単一地
域で棒鋼のみを扱う会社が一番多く、全部で 16 社ある。平鋼、型鋼、鋼板、鋼塊を扱う会
社がそれぞれ 4 社、2 社、1 社、1 社であることとは対照的である。
次に、複数地域にかけて単一商品を扱う会社には、伊藤製鐵所、東京鉄鋼がある。それ
ぞれ棒鋼を扱っている会社である。
単一地域で複数の商品を扱っている会社としては、トピー工業、北越メタル、中山製鋼
所があり、前者 2 社は棒鋼、型鋼を、後者は鋼板、広幅帯幅を扱っている。
最後に、複数地域で複数商品を扱っている会社は、大阪製鐵、共英製鋼をはじめとして
全部で 6 社ある。
このようにしてみると、単一地域、単一製品を扱う電炉メーカーが多く、特に、
「棒鋼」
を単一製品として扱っている会社が一番多い状況である。
単一地域、単一製品
単一地域、複数商品
会社名
地域
製品
会社名
地域
製品
清水製鐵
北海道
棒鋼
王子製鉄
群馬
平鋼
新北海鋼業
北海道
棒鋼
大三製鋼
東京
平鋼
三星金属工業
新潟
棒鋼
中央圧延
埼玉
平鋼
会社名
地域
製品
トピー工業
愛知
棒鋼、型鋼
北越メタル
新潟
棒鋼、型鋼
中山製鋼所
大阪
鋼板、広幅帯幅
大谷製鉄
富山
棒鋼
新関西製鐵
関東スチール
茨城
棒鋼
東京鋼鉄
栃木
型鋼
城南製鋼所
埼玉
棒鋼
ヤマトスチール
兵庫
型鋼
向山工場
埼玉
棒鋼
中部鋼鈑
愛知
鋼板
会社名
地域
朝日工業
埼玉
棒鋼
宇部スチール
山口
鋼塊
大阪製鐵
大阪、熊本
型鋼、棒鋼
千代田鋼鉄工業
東京
棒鋼
共英製鋼
愛知、山口
型鋼、棒鋼
三興製鋼
神奈川
棒鋼
合同製鐵
山口鋼業
岐阜
棒鋼
千葉、兵庫、
大阪
型鋼、棒鋼、
線材
岸和田製鋼
大阪
棒鋼
JFE条鋼
大阪
棒鋼
北海道、仙台、
茨城、埼玉、
兵庫、岡山
型鋼、棒鋼
中山鋼業
トーカイ
福岡
棒鋼
九州製鋼
福岡
棒鋼
拓南製鐵
沖縄
棒鋼
図 2-11
大阪
平鋼
複数地域、単一商品
複数地域、複数商品
製品
会社名
地域
製品
伊藤製鐵所
宮城、
茨城
棒鋼
日鉄住金
スチール
茨城、和歌山
型鋼、鋼矢
板
東京鉄鋼
青森、
栃木
棒鋼
東京製鐵
茨城、愛知、
岡山、香川、
福岡
型鋼、
広幅帯幅
製品別と地域別の電炉メーカーの概要
G) 普通鋼電炉メーカーの状況
普通鋼電炉メーカーとして、普通鋼電炉工業会に所属する会員企業数の推移について見
ると、同工業会が発足した 1966 年当時(当時の名称は「平電炉普通鋼協議会」)
、会員企業
数は 79 社であった。しかしながら、現在の会員数は 32 社に減少している状況である。な
お、普通鋼電炉メーカーの工場分布図を図 2-12 に示す。
また、普通鋼電炉メーカーの系列関係を図 2-13 に示す。これは電炉メーカーに関する
系列関係を示しており、大きく分けて高炉系のメーカーが 14 社、独立系のメーカーが 18
11
社となっている。独立系のメーカーが半数以上であり、その多くが非上場のメーカー(13
社)となっている。
(出所)普通電炉工業会 Web サイトより
図 2-12
普通鋼電炉メーカーの工場分布図
[65%]新北海 鋼業 (棒 ) [新日 鉄住金
[66.3%]大阪 製鐵 (棒 ・形 )
高
炉
14社
系
新 日鉄住 金系
20%]
[51.5%]王子 製鉄( 平)
[25%]九州製 鋼(棒)
[16.1%]合同 製鐵 (棒 ・線 ・形 )
[51.9%]三星金 属工業 (棒 )
[90%]トーカ イ(棒)
[100.0%]日鉄住 金スチ ール (鋼矢 板・形)
[42.5%]中山 鋼業 (棒 ) [共英 42.5%、合鐵 42.5% ]
[26.7%]共英 製鋼 (棒 ・形 )
[100.0%]関東ス チール (棒 )
13社
[新日 鉄住金 8%、合鐵 2% ]
[20.5%]トピ ー工業 (棒 ・形 ・平 )
[35.4%]北越 メタル (棒 ・線 ・形 )
普 通 鋼
[5.0%]中 山製鋼 所(厚中板 ・帯 )
電炉メーカー
[中山 製鋼所 より棒 線圧延 切り出 し、同 社出資 40%]
[60%]NS棒線 (棒線 )
32社
[ 5%]中部鋼 鈑(厚中板 )
JFE系
([39%]日 鐵商事 )
[100.0%]JFE条鋼 (棒 ・線 ・形 )
[2012年4月に JFE条 鋼、ダ イワス チール 、東北 スチー ル、豊 平製鋼 が合併 ]
1社
非 上場メ ーカー
独 立 系
18社
上 場メー カー
13社
伊 藤製鐵 所(棒)
岸 和田製 鋼(棒)
新 関西製 鐵(平)
山 口鋼業 (棒 )
三 興製鋼 (棒 )
城 南製鋼 所(棒)
5社
大 谷製鉄 (棒 )
拓 南製鉄 (棒 )
東 京製鉄 (棒 ・形 ・帯 ・厚板 )
大 和工業 (形 )
千 代田鋼 鉄工業 (棒 )
清 水鋼鉄 (棒 )
東 京鋼鐵 (形 )
大 三製鋼 (平 )
朝 日工業 (棒 )
東 京鐵鋼 (棒 )
中 央圧延 (平 )
向 山工場 (棒 )
図 2-13
普通鋼電炉メーカーの系列関係
2. 収益構造
ここでは、主たる電炉メーカーの製造原価を確認した後、財務状況を取り上げる。
12
A) 製造原価
主たる電炉メーカーについて、各社資料から 2012 年度の粗鋼生産 1 トン当たりの製造原
価を算出した結果を図 2-14 に示す。この結果を見ると材料費が最も多く 7 割を占める。
次いで電力費、人件費となっている。以下、電力料金、労務費、減価償却費を取り上げ、
材料費の大半をしめる鉄スクラップの動向は、第 3 章で取り上げる。
3.7 4.6 3.0
40.4
0
20
10
材料費
労務費
30
電力費
減価償却費
40
6.5
60
50
その他経費
(千円)
(出所) 各社公表資料より作成
※朝日工業、東京鉄鋼、合同製鐵、大阪製鐵、共英製鋼、北越メタル、東京鋼鉄、中部鋼鈑の平均
図 2-14
2012 年度の各社の粗鋼生産 1 トン当たり平均製造コスト
B) 電力料金
粗鋼生産 1 トン当たりの電気料金の推移を見た結果が図 2-15 となる。近年、国際資源
価格の高騰や、原発停止を受けて電力料金の値上がりが続いており、粗鋼生産 1 トン当た
りの電気料金は一貫して上昇傾向が見られている。
5
(千円/トン)
4
3
2
1
0
2007
2008
2009
2010
(年度)
2011
2012
(出所) 各社資料より作成
※朝日工業、東京鉄鋼、合同製鐵、大阪製鐵、共英製鋼、北越メタル、東京鋼鉄、中部鋼鈑の平均
図 2-15
電気料金(粗鋼生産 1 トン当たり)
13
C) 労務費、減価償却費
ここでは、原料以外の製造原価として、労務費、減価償却費に注目して、主たる電炉メ
ーカーの平均推移を追っていくことにする。
主たる電炉メーカーの労務費(粗鋼生産 1 トン当たり)の平均の推移を示すものが図
2-16 である。これを見ると、2009 年度は生産量の落ち込みにより 1 トンあたりの人件費
が増加したが、労務費の推移はおよそ 3 千円~4 千円を中心にほぼ横ばいに推移している。
5
(千円/トン)
4
3
2
1
0
2007
2008
2009
2010
(年度)
2011
2012
(出所) 各社公表資料より作成
労務費(粗鋼生産 1 トン当たり)
図 2-16
次に、主たる電炉メーカーの減価償却費(粗鋼生産 1 トン当たり)の平均の推移を示す
ものが図 2-17 である。これを見ると 2009 年には 3.5 千円程度となったものの概ね 2 千円
~3 千円強となっている。
4
(千円/トン)
3
2
1
0
2007
2008
2009
2010
(年度)
2011
2012
(出所) 各社公表資料より作成
図 2-17
減価償却費(粗鋼生産 1 トン当たり)
14
D) 普通鋼電炉メーカーの財務状況
財務状況の安定性を示すデットエクイティレシオと、収益性を示す営業利益率を見る。
主たる電炉メーカーの財務状況について、デットエクイティレシオの推移を示すものが
図 2-18 である。
東京製鐵
6.4(2003年度)
2
合同製鐵
共英製鋼
北越メタル
大阪製鐵
中部鋼鈑
1.8
1.6
東京製鐵
大和工業
東京鋼鐵
朝日工業
トピー工業
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
0
(出所)各社公表資料より作成
図 2-18
普通鋼電炉メーカーのデットエクイティレシオ
この結果を見ると、直近では、各社でデットエクイティレシオは 1 倍を下回っており、
安定的な財務基盤を保有している状況が分かる。
次に、営業利益率の推移を示すものが図 2-19 である。
これを見ると、各社で営業利益率は低下傾向が続いており、2009 年以降では、営業利益
率がマイナスに転じている電炉メーカーも出てきている。
15
35
(%)
合同製鐵
共英製鋼
北越メタル
大阪製鐵
中部鋼鈑
30
25
東京製鐵
大和工業
東京鋼鐵
朝日工業
トピー工業
20
15
10
5
0
-5
-10
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
-15
(出所)各社公表資料より作成
図 2-19
普通鋼電炉メーカーの営業利益率
以上のことから、電炉メーカーにおいては、直近では財務基盤は盤石な状況であるもの
の、その一方で営業利益率が低下し、マイナスに転じるメーカーが出てくるなど、収益環
境の悪化が確認される。電力料金などの製造コスト上昇等の外部環境の悪化に対し、価格
転嫁できていないことが、利益率低下のひとつの要因と考えられる。
3. 鉄スクラップの流通構造
電炉での製鋼における主たる原料は鉄スクラップである。ここでは、国内の鉄スクラッ
プの流通状況をまとめる。
まず、鉄スクラップの流通経路の概要を図 2-20 に示す。この図を見ると分かるとおり、
鉄スクラップは、大きく分けて「自家発生」と「市中スクラップ」の 2 つがあり、それぞ
れ異なる流通経路を経る。
「自家発生」は、製鋼メーカーにおいて、製鋼や加工の工程から出てくる鉄スクラップ
のことであり、製鋼の工程の中で再利用が図られるため、ほとんど市中に出ることはない。
一方、
「市中スクラップ」については、複数の関係者の手を経て、最終的に国内需要家、も
しくは海外に流通するものである。
「市中スクラップ」については、加工スクラップと老廃スクラップの 2 つがある。
16
加工スクラップは、自動車、機械、建設、造船等の製造業の生産段階で発生する鉄スク
ラップであり、切り板や打ちぬき屑、切削屑、切り粉などがある。この加工スクラップは、
回収業者により回収された後、鉄スクラップ加工処理がなされ、商社を通じて、国内需要
家に流通する。また、製造工場から直接、国内需要家に流通するものもある。いずれにし
ても、この加工スクラップは老廃スクラップに比べ、含有成分が分かる鉄スクラップであ
り、製鋼する際に使い勝手のよい鉄スクラップと位置付けられている。
老廃スクラップは、建物解体、橋梁解体、廃自動車、廃船舶等、鋼構造物が老朽化して
発生するものである。この老廃スクラップは、発生個所が様々であり、また発生形状もま
ちまちであるため、回収業者、解体業者により回収された後、鉄スクラップ加工処理がな
され、商社等を通じて国内需要家に流通することになる。
自家発生
ッ
市
中
ス
ク
ラ
プ
加工スクラップ
自動車
機械
建設
造船
老廃スクラップ
建物解体
橋梁解体
廃自動車
廃船舶
鉄スクラップ加工処理
回収業者
解体業者
総合商社
専業者
(直納・代納)
国内需要家
高炉
電炉
鋳物
ガス溶断
プレス加工
ギロチンシャー加工
シュレッダー加工
輸出
(出所) 鉄スクラップ協会等より作成
図 2-20
鉄スクラップの流通経路の概要
なお、鉄スクラップの売買に際しては、国内需要家である電炉メーカー等が価格(炉前
価格)を提示し、それに対して、鉄スクラップ業者がその時の市況を見ながら、鉄スクラ
ップを売却する(電炉メーカーに持ち込む)タイミングを決めることが多いとされる。
鉄スクラップについては、発生した地域内で売買がなされることが主であるものの、一
部地域外の国内需要家に流通することや、海外へ輸出されるものもある。
4. 人材
国内の電炉メーカーの現状を考える際に、人材という観点は重要である。そのため、鉄
鋼業全体を俯瞰しつつ、電炉メーカーの現状をまとめる。
17
A) 鉄鋼業の従業員数
まず、鉄鋼業の従業員数の推移を図 2-21 に示す。直近、高炉では 4 万 5 千人弱、電炉
では 2 万人程度であり、ともに従業員数はほぼ変わらずに推移している状況である。
しかしながら、電炉業においては、平日の昼間に比べて安い夜間の電力を使用した夜間
操業が基本であるため、夜間に働くことが前提となる。そのため、人材の確保が難しくな
っていると言われている。
(人)
高炉
電炉
60,000
50,000
40,000
30,000
20,000
10,000
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
0
(出所)経済産業省「鉄鋼・非鉄金属。金属製品統計年報」より作成
図 2-21
鉄鋼業従業員数
続いて、従業員一人当たりの年間粗鋼生産量の推移を示すものが図 2-22 である。これ
を見ると、2007 年以前においては、高炉では 2 トン/人程度、電炉では 1.5 トン/人程度
で推移していた。しかし、2008 年以降では両者、従業員一人当たりの年間粗鋼生産量は減
少し、2012 年においては多少回復したものの、それぞれ 1.7 トン/人程度、1.2 トン/人
程度となっており、2007 年以前の水準には回復していないのが現状である。
18
2.5
(トン/人)
高炉
電炉
2
1.5
1
0.5
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
0
(出所)経済産業省「鉄鋼・非鉄金属。金属製品統計年報」より作成
図 2-22
従業員一人当たりの年間粗鋼生産量
上記のように、電炉業全体における従業員数は、以前と比べてもほぼ変わらない状況で
ある。しかし、従業員一人当たりの年間粗鋼生産量は減少しており、産業としての生産効
率が低下している状況がうかがえる。
B) 鉄鋼業の労働者の年齢構成
電炉業において、直近では全体の従業員数はほぼ維持されている状況を見てきた。ここ
で、従業員の年齢構成がどのように変化しているかは、今後の電炉業のあり方を考える際
には非常に重要なポイントとなる。
そこで、電炉業を含む鉄鋼業全体の年齢別労働者数の変化を示すものが図 2-23 である。
2001 年時点では「45~59 歳」といった熟練労働者が非常に多い状況であったが、2011 年
には各年代でほぼフラットな労働者数へと変化している。
次に、製造業全体の労働者の年齢構成と、鉄鋼業における労働者の年齢構成とを比較し
たものが図 2-24 である。鉄鋼業では「55~59 歳」の労働者、
「~29 歳」の労働者が相対
的に多くなっている様子が見て取れる。
製造業全体と比べて、鉄鋼業は若手の割合が高く、業界として新しい取り組みにチャレ
ンジができる環境が形成されつつある。一方で、55~59 歳の熟練労働者が退職を迎える前
に、技術を若い労働者に伝えていく必要がある状況である。
19
45
(千人)
2011年
2001年
40
35
30
60歳~
55~59歳
50~54歳
45~49歳
40~44歳
35~39歳
30~34歳
25~29歳
~24歳
25
20
15
10
5
0
(出所)厚生労働省「平成 24 年賃金構造基本統計調査」より作成
図 2-23
16
鉄鋼業労働者の年齢別構成
(%)
14
12
10
8
6
産業
製造業
鉄鋼業
4
2
60歳~
55~59歳
50~54歳
45~49歳
40~44歳
35~39歳
30~34歳
25~29歳
~24歳
0
(出所)厚生労働省「平成 24 年賃金構造基本統計調査」より作成
図 2-24
鉄鋼業労働者の年齢別構成比(2011 年)
20
C) 建設業の労働力不足
労働力については、電炉製品の需要家側についても触れておく。建設業者における労働
者不足率について、長期的な状況、及び直近の状況を示したものが図 2-25 となる。
直近では、2011 年以降、鉄筋工を含む建設業の労働者が不足している状況に転じており、
鉄筋工の不足率は、高い時点では 6~8%に達することもある。この不足率の水準は、1980
年代後半のバブル経済期に匹敵するものである。
このような需要家側における鉄筋工の人材不足が、建設工事等の工期の遅れを生み出す
結果となり、それが鉄鋼消費にも影響を与えていると考えられる。つまり、鉄筋消費のボ
トルネックとして、需要家側の鉄筋工不足による建設工事等の工期遅れがあると考えられ
る。
2013/10
2013/7
2013/4
2013/1
2012/10
2012/7
2012/4
鉄筋工(土木)
鉄筋工(建築)
6職種計
2012/1
2010
1996
2008
-6
2006
-6
2004
-4
2002
-4
2000
-2
1998
-2
1994
0
1992
0
1990
2
1988
2
1986
4
1984
4
1982
6
1980
6
足許の動向(月次 2011年1月~2013年11月)
(%)
2011/10
8
2011/7
鉄筋工(土木)
鉄筋工(建築)
6職種計
2011/4
長期データ(年次 1980~2010年)
(%)
2011/1
8
(出所)国土交通省「建設労働需給調査結果」より作成
図 2-25
建設労働者過不足率の推移
5. 輸出入・海外展開状況
ここでは、電炉メーカーの製品に関する海外輸出入、また電炉メーカーの海外での事業
展開について取り上げる。
A) 普通鋼鋼材の輸出入比率
まずは、普通鋼鋼材に関して、2012 年度の日本からの輸出比率を図 2-26 に示す。
21
100
(%)
90
80
72.7
70
60.0
60
50.2
50
平均37.2
40
33.5
31.7
30
20
22.7
17.3
13.4
10
2.7
鋼管
亜鉛めっき鋼板
ブリキ
冷延薄板類
熱延薄板類
(鋼帯)
鋼板
線材
棒鋼
形鋼
0
(出所) 日本鉄鋼連盟資料より作成
図 2-26
主要普通鋼鋼材の輸出比率(2012 年度)
これを見ると、高炉の主力製品である熱延薄板類(鋼帯)、ブリキ、冷延薄板類では輸出
比率は高くなっており、それぞれ 72.7%、60.0%、50.2%となっている。逆に、輸出比率が
低いものとしては、電炉の主力製品である形鋼、棒鋼となっている。それぞれ輸出比率は
13.4%、2.7%となっており、極めて低い。特に、棒鋼の輸出比率の低さが目立つ。
次に、2012 年度の普通鋼鋼材の輸入比率を図 2-27 に示す。これを見ると、熱延薄板類
(鋼帯)
、冷延薄板類では輸入比率は高くなっており、それぞれ 28.1%、22.7%となってい
る。逆に、輸入比率が低いものは形鋼、棒鋼となっている。それぞれ 1.1%、0.4%となって
おり、極めて低い。特に、棒鋼は輸出比率同様に低い水準となっている
このように電炉の主力製品である棒鋼・形鋼については輸出入のウェィト低いことから、
国内市況は海外市況の影響を受けにくい状況になっている。
22
100
(%)
90
80
70
60
50
40
28.1
30
22.7
20
平均8.4
棒鋼
4.8
6.2
4.7
鋼管
0.4
形鋼
6.0
1.1
亜鉛めっき鋼板
10
ブリキ
11.7
冷延薄板類
熱延薄板類
(鋼帯)
鋼板
線材
0
(出所) 日本鉄鋼連盟より作成
図 2-27
主要普通鋼鋼材の輸入比率(2012 年度)
B) 電炉メーカーの海外戦略
ここでは日本の電炉メーカーの中で、海外戦略を推し進めている会社として、共英製鋼、
及び大和工業について取り上げる。
<共英製鋼の海外戦略>
共英製鋼では、ベトナムの北部、および南部の 2 拠点において海外戦略を展開している
(図 2-28)
。その 2 つの拠点とは、1994 年に設立したビナ・キョウエイ・スチール社(ベ
トナムの南部)と、2012 年に設立したキョウエイ・スチール・ベトナム社(KSVC 社)
(ベ
トナムの北部)である。
具体的な取組として、ベトナム南部では、ビナ・キョウエイ・スチール社において 1996
年には鉄筋棒鋼の生産販売(生産能力 約 24 万トン/年)を開始し、2010 年には生産能力
を年産 45 万トンに拡大している。その他にも、2011 年には、高付加価値製品である「ネ
ジ節鉄筋」の生産・販売開始、製鋼・圧延一貫ラインの増設の許可をベトナム政府より取
得等、様々な活動を行っている。さらに今後、2014 年には、新ラインの稼動により生産能
力が年産約 100 万トンに拡大する見込みである(図 2-29)
。
23
ベトナム北部では、2012 年にキョウエイ・スチール・ベトナム社を設立し、地元メーカ
ーから圧延ラインを買収、また新たな製鋼・圧延一貫ラインの建設を計画している(図
2-29)
。
図 2-28
ベトナムの製造拠点
年
ベトナム南部
ベトナム北部
1994
ビナ・キョウエイ・スチール社(VKS 社)
を設立
1996
鉄筋棒鋼の生産販売開始(生産能力年
産約24万トン)
2010
生産能力を年産45万トンに拡大
2011
高付加価値製品である「ネジ節鉄筋」の
生産・販売を開始
製鋼・圧延一貫ラインの増設の許可を
ベトナム政府より取得
2012
2014
(予定)
キョウエイ・スチール・ベトナム社(KSVC
社)を設立、地元メーカーの圧延ラインを
買収するとともに、新たに製鋼・圧延一貫
ラインの建設を計画
増設した新ラインの稼動により生産能力
は年産約100万トンに拡大
2016
(予定)
製鋼設備の建設着工
製鋼を先行して稼動させ、圧延は需要動
向に応じて決定。生産能力は年産30万ト
ン
(出所)各社公開資料より作成
図 2-29
共英製鋼の海外戦略の取組概要
24
<大和工業の海外戦略>
大和工業の海外戦略について、時系列に整理したものを図 2-30 に示す。まず、1987 年
に米国において、米国ニューコア社との合併による、ニューコア・ヤマト・スチールカン
パニーを設立したのを皮切りに、アジアでは、1992 年にタイにおいてザ・サイアム・セメ
ント社、三井物産、タイ国三井物産、住友商事との合併によるサイアム・ヤマト・スチー
ルカンパニーリミテッドを設立している。その後も、2002 年に韓国でヤマト・コリア・ス
チールコーポレーションを設立、2009 年にはバーレーンにおいてユナイテド・スチールカ
ンパニー(スルブ)BSC(c)を設立している。
このように大和工業では、米国、アジアではタイと韓国、中東ではバーレーンにおいて、
事業を展開している。
年
国
概要
1987
米国
米国ニューコア社との合弁によるニューコア・ヤマト・スチールカンパニーを設立
1992
タイ
ザ・サイアム・セメント社、三井物産㈱、タイ国三井物産㈱、住友商事㈱との合弁によるサイアム・
ヤマト・スチールカンパニーリミテッドを設立
2002
韓国
ヤマト・コリア・スチールコーポレーションを設立し、韓国企業「㈱韓宝釜山製鉄所」の営業を譲受
(2005年にワイケー・スチールコーポレーションに商号変更)
2007
タイ
サイアム・ヤマト・スチールカンパニーリミテッドの株式を追加取得し連結子会社化
2008
韓国
ワイケー・スチールコーポレーションによる少数株主からの自己株式取得により100%子会社化
2009
バーレーン
フーラス社との合弁によるユナイテッド・スチールカンパニー(スルブ)BSC(c)を設立
2010
タイ
サイアム・ヤマト・スチールカンパニーリミテッドにおいて第2工場稼働
(出所)各社公開資料より作成
図 2-30
事業名
大和工業の海外戦略の取組概要
主な関係会社
事業内容
鉄鋼事業
(日本)
ヤマトスチール㈱
H形鋼、溝形鋼、I形鋼、鋼矢板、縞H形鋼、造船用形鋼、エレベータガイドレ
ール、鋳鋼品、船舶製缶、重機械加工を製造・販売
鉄鋼事業
(韓国)
ワイケー・スチール
コーポレーション
棒鋼を製造・販売
鉄鋼事業
(タイ)
サイアム・ヤマト・
スチールカンパ
ニーリミテッド
H形鋼、溝形鋼、I形鋼、鋼矢板を製造・販売
軌道用品事業
大和軌道製造㈱
分岐器類、伸縮継目、NEWクロッシング、接着絶縁レール、脱線防止ガード、タイプ
レート類、ボルト類を加工・販売
その他
大和商事㈱
運送、医療廃棄物処理、不動産事業等
(出所)各社公開資料より作成
図 2-31
大和工業の事業内容
また、事業別に、大和工業の海外展開の状況を整理したものが図 2-31 である。これを
見ると、日本においては、ヤマトスチールを中心に H 形鋼、溝形鋼、I 形鋼、鋼矢板、縞 H
25
形鋼等を取り扱っている。韓国では、棒鋼の製造・販売を行っている。タイでは、H 形鋼、
溝形鋼、I 形鋼、鋼矢板の製造・販売を行っている。
ここで、大和工業の 2012 年度における、セグメント別連結売上高を整理すると図 2-32
となる。同社の売上げの 7 割以上が海外事業から得られている。
軌道用
その他
品
0.2%
4.2%
日本
23.8%
タイ
40.5%
大和工業
2012年度
連結売上高
1,589億円
韓国
31.3%
(出所)各社公開資料より作成
図 2-32
大和工業 12 年度
26
セグメント別連結売上高
第3章 原材料市場の動向について
本章では、原材料市場の動向について、①国内鉄スクラップの需給・流通構造、②海外
鉄スクラップの需給構造、③鉄スクラップの価格動向、④還元鉄など新たな鉄源の動向、
の 4 つの観点から調査の結果を示す。
1. 国内鉄スクラップの需給・流通構造
A) 国内鉄スクラップの需給の推移
まず、国内の鉄スクラップの供給量の推移を図 3-1 に示す。鉄スクラップの供給量全体
としては、概ね年間 40 百万トンから 50 百万トン程度で推移している。その中で、自家発
生による鉄スクラップの供給は、ほぼ 10 百万トン強で推移している。一方の国内市中発生
による鉄スクラップの供給量は、自家発生による鉄スクラップの供給量よりも多く、年ご
との変動幅は大きい。
70
(百万トン)
輸入
国内市中
自家発生
60
50
40
30
20
10
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
0
(年度)
(出所) 日本鉄源協会より作成
図 3-1
鉄スクラップの供給
次に、鉄スクラップの消費量の推移を図 3-2 に示す。消費量全体の傾向としては、40
百万トン強から多い時には 60 百万トンまで変動幅が大きい。その中で、最も消費量が多い
27
用途としては電炉鋼向けであり、続いて転炉鋼向けとなっている。
なお、鉄スクラップは発生品であることから供給量の調整が難しく、国内需要も変動す
る中で、輸出が調整弁となり需給バランスを保っている。
70
(百万トン)
輸出
その他
鋳物用
電炉鋼
転炉鋼
60
50
40
30
20
10
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
0
(年度)
(出所) 日本鉄源協会資料より作成
図 3-2
鉄スクラップの消費
なお、参考までに、2012 年度の日本の鉄スクラップ国内需給の内訳を図 3-3 に示す。
これを見ると、自家発生の多くは高炉メーカーからの発生であり、その他に電炉メーカー、
鋳物メーカーからほぼ同程度の発生がある。また、国内購入スクラップについては、その
76.9%が老廃スクラップであり、加工スクラップは 23.1%となっている。
なお、高炉メーカーの鉄スクラップ使用量は、自家発生で大半を賄える水準である(図
3-4)
。電炉メーカーは自家発生の他に、他から鉄スクラップを購入する必要がある。
28
供給
(国内41,064)
消費
(国内41,284)
高炉メーカー
8,665
転炉用
9,500
自家発生
13,352
電炉メーカー
2,374
鋳物メーカー
2,314
部門推計
(31,659)
自動車(69.4%)
機械(16.3%)
建設(6.6%)
その他(7.7%)
加工スクラップ
6,227
(23.1%)
自動車(11.1%)
建築(26.3%)
プ
電炉用
25,593
ッ
容器(4.7%)
老
廃
ス
ク
ラ
機械(27.9%)
国
内
購
入
ス
ク
ラ
プ
ッ
27,713
他製鋼工場 251
土木(17.3%)
20,842
(76.9%)
その他(12.7%)
老廃
4,520
その他
4,540
鋳物用他
5,486
その他 455
輸出
9,079
(出所) 日本鉄源協会資料より作成
図 3-3
15
日本の鉄スクラップ国内需給(2012 年度)
(百万トン)
消費
供給
過不足
10
5
0
-5
-10
-15
1995
2002
2006
2010
2012
(年度)
(出所) 日本鉄源協会資料より作成
図 3-4
高炉メーカーの供給(自家発生)と消費
29
B) 鉄スクラップの輸出入
日本における鉄スクラップの流入・流出の状況について示すものが図 3-5 である。鉄ス
クラップは、1990 年代を境にして、それまでは輸入超過であったものが、輸出超過に転じ
ている様子が分かる。1990 年代後半から 2011 年にかけて、年により増減が見られるもの
の、大勢としては、輸出が拡大してきた傾向が見て取れる。
6
(百万トン)
輸出
輸入
ネット
4
流入
2
0
-2
-4
流出
-6
-8
2011
2009
2007
2005
2003
2001
1999
1997
1995
1993
1991
1989
1987
1985
1983
1981
-10
(年度)
(出所) 日本鉄源協会資料より作成
図 3-5
鉄スクラップの輸出入
近年の鉄スクラップの輸出量増加の傾向に対し、その主たる輸出先である韓国、中国向
けの輸出量の推移を図 3-6 に示す。1990 年代後半以降、韓国、中国向けの輸出量が増加
しており、1995 年には 100 万トン未満であったものが、2011 年には 300 万トン前後にま
で増加している。
なお、日本からの鉄スクラップの輸出先として、現状では、韓国及び中国の 2 カ国で、
輸出量全体の 9 割ほどを占める状況となっている。
30
(百万トン)
6
輸出韓国
輸出中国
5
4
3
2
1
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
0
(年度)
(出所) 日本鉄源協会資料より作成
図 3-6
韓国、中国向けの鉄屑の輸出
C) 国内購入市中スクラップ
ここでは、国内購入の市中スクラップについて、購入量の推移を図 3-7 に示す。
(百万トン)
40
35
30
25
20
(内老廃スクラップ)
(内加工スクラップ)
輸出
国内購入量
15
10
5
2009
2007
2005
2003
2001
1999
1997
1995
1993
1991
1989
1987
1985
1983
1981
0
(年度)
(出所) 日本鉄源協会資料より作成
図 3-7
市中スクラップ購入量の推移
31
これを見ると、国内市中スクラップの購入量は、1980 年代当初の約 2,500 万トンから、
1980 年代後半には 3,500 万トンに達するなど増加が見られた。しかしながら、1990 年代以
降は、概ね横ばいで推移している。ただし、2008 年以降、購入量は減少している。
その一方で、鉄スクラップの輸出量は、1990 年代から増加している。そこで、市中スク
ラップ購入量に占める輸出の割合について見たものが図 3-8 となる。これを見ると、市中
スクラップ購入量に占める輸出の割合は増加傾向にある。
2000 年代後半には、一時的に 25%
を超えるところまで割合が高まったこともある。このような輸出割合の上昇を背景に、国
内の鉄スクラップ市況は海外市況の影響を受けやすくなってきている。
30
(%)
25
20
15
10
5
2009
2007
2005
2003
2001
1999
1997
1995
1993
1991
1989
1987
1985
1983
1981
0
(年度)
(出所) 日本鉄源協会資料より作成
図 3-8
市中スクラップ購入量に占める輸出の割合
D) 国内の鉄スクラップの地域別流通
鉄スクラップについて、国内の地域別の流通状況について見てみると図 3-9 となる。
域内における鉄スクラップの消費量は、関東が 6 百万トン弱で最も多く、近畿、東海等
と続く状況である。域外調達率は地域差がみられ、最も高い北陸で 30%強あるものの、最
大の消費地域である関東では 2.2%に留まっており、全体では 13.1%である。鉄スクラップ
は、基本的には地産地消といえるが、輸出に加え国内の地域間流通も見られる。他地域へ
の流出量については、関東、東海で多くなっており、逆に他地域からの流入量が多いのが、
近畿、中・四国となっている。
32
このことから、関東や東海から西(近畿、中・四国)への流通がうかがえる。
8
(百万トン)
(%)
35
-2
10
-4
5
-6
0
域内調達
他地域への流出量
域外調達率(右)
九州
15
中・四国
0
近畿
20
東海
2
北陸
25
関東
4
東北
30
北海道
6
他地域からの流入量
輸出
(出所) 日本鉄源協会資料より作成
図 3-9
鉄スクラップの地域別流通状況(2012 年)
33
2. 海外の鉄スクラップ需給構造
A) 世界の鉄スクラップ需給
世界の鉄スクラップ需給状況を図 3-10 に示す。まず、輸出側の状況を見ると、EU、北
米において輸出量が多く、それぞれおよそ 4,500 万トン強、3,000 万トン弱となっている。
なお、北米では、米国が主な輸出元となっている。EU については域内での輸出もあるが、
EU 域外への輸出については、トルコへの輸出が多くなっている。
次に、輸入側の状況を見ると、アジア(日本を除く)、EU で輸入量が多くなっており、
それぞれおよそ 4,000 万トン弱、3,000 万トン強となっている。アジア(日本を除く)の主
な輸入国は、韓国、中国、台湾となっている。また、他西欧の主な輸入元はトルコとなっ
ている。
以下で、主要な輸出国である米国、主要な輸入国である台湾、トルコ、中国、韓国にお
ける動向を見ていく。
(百万トン)
輸出
輸入
ネット
50
40
30
輸
入
20
10
0
-10
輸
出
-20
-30
-40
-50
アジア
(除く日本)
他西欧
南米
アフリカ
中東
オセアニア
CIS
日本
EU
北米
-60
(出所)WSA 資料より作成
図 3-10
鉄スクラップの需給
B) 米国の鉄スクラップ輸出
ここでは、米国における鉄スクラップの輸出の状況を整理する。まず、米国からの鉄ス
クラップ輸出量の推移を図 3-11 に示す。
34
これを見ると、米国の輸出量は、2000 年以降、ほぼ一貫して増加しており、その中でも
2000 年代半ば頃から、トルコ向けの鉄スクラップの輸出量が大きく拡大している。
2012 年における、米国からの鉄スクラップの輸出先の割合(図 3-12)に着目すれば、
トルコへの輸出以外には、台湾、中国、韓国などが主たる輸出先となっているのが現状で
ある。
30
(百万トン)
25
20
その他
韓国
中国
台湾
トルコ
15
10
5
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
0
(出所) 日本鉄源協会資料より作成
図 3-11
米国からの鉄スクラップ輸出の推移
トルコ
30%
その他
32%
台湾
16%
韓国
13%
中国
9%
(出所) 日本鉄源協会資料より作成
図 3-12
2012 年米国からの鉄スクラップの輸出先の割合
35
C) トルコの鉄スクラップ輸入
次に、図 3-13 に、トルコの鉄スクラップ輸入量の推移、国別変化(2002 年-2012 年)
を示す。
これを見ると、トルコの鉄スクラップ輸入量は、増加傾向が見られ、過去 10 年間(2002
年から 2012 年)で約 12.7 百万トン増加している。そして、この増加分の約 12.7 百万トン
のうち、半分近くの 5.8 百万トンを米国から調達している。米国の次に多い調達先である英
国と比べても、3 倍以上を米国から調達している様子が分かる。
トルコの鉄スクラップ輸入量の推移
(百万トン)
25
20
15
10
5
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
0
トルコの鉄スクラップ輸入量の国別変化(2002年-2012年)
7
6
5
4
3
2
1
0
(百万トン)
米国
英国
ロシア
オランダ ルーマニア
その他
(出所) 日本鉄源協会資料より作成
図 3-13
トルコの鉄スクラップ輸入量の推移、国別変化(2002 年-2012 年)
36
米国
28%
その他
34%
2012年
トルコ鉄スクラップ輸入
22.4百万t
英国
11%
ルーマニア
8%
オランダ
8%
ロシア
11%
(出所) 日本鉄源協会資料より作成
図 3-14
2012 年トルコスクラップ輸入元の割合
D) 台湾の鉄スクラップ輸入
台湾での用途別の鉄スクラップ消費量の推移を図 3-15 に示す。
14
(百万トン)
転炉向け
電炉向け
12
10
8
6
4
2
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
0
(出所) 日本鉄源協会資料より作成
図 3-15
台湾の鉄スクラップ消費量の推移
37
これを見ると 2000 年代中盤以降、台湾での鉄スクラップ消費量には、頭打ち感がある。
2012 年には、電炉向けでの鉄スクラップ消費量は約 10 百万トン、転炉向けでは約 1 百万
トンとなっている。
次に、2012 年における、台湾の国別の鉄スクラップの輸入割合を図 3-16 に示す。台湾
では主な輸入元は米国であり 63%を占める。その他には、香港は 7%、日本は 4%となって
いる。
その他
26%
2012年
台湾鉄スクラップ輸入
5.0百万t
日本
4%
米国
63%
香港
7%
(出所) 日本鉄源協会資料より作成
図 3-16
2012 年 台湾の国別の鉄スクラップ輸入
E) 中国の鉄スクラップ輸入
中国の鉄スクラップの消費量の推移を見ると(図 3-17)
、2001 年以降は増加基調である。
過去 10 年間(2001 年から 2011 年)においては、転炉向けの鉄スクラップの消費量は 3.4
倍、電炉向けの鉄スクラップの消費量は 1.9 倍に増加している。
次に、2012 年における中国の、国別の鉄スクラップ輸入について見てみると(図 3-18)
、
輸入元として日本が 61%を占める状態である。続いて米国であり、その割合は 22%となっ
ている。
このように中国では、日本と米国の 2 国から、輸入鉄スクラップの 8 割以上を調達して
いることが分かる。
38
90
(百万トン)
80
転炉向け
電炉向け
70
60
50
40
30
20
10
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
0
(出所) 日本鉄源協会資料より作成
図 3-17
中国の鉄スクラップ消費量の推移
その他
17%
アメリカ
22%
2012年
中国鉄スクラップ輸入
4.97百万t
日本
61%
(出所) 日本鉄源協会資料より作成
図 3-18
2012 年 中国の国別の鉄スクラップ輸入
39
F)
韓国の鉄スクラップ輸入
韓国の鉄スクラップの消費量の推移を見ると(図 3-19)
、2001 年以降は増加傾向が見ら
れる。2011 年には、電炉向けの鉄スクラップの消費量は約 25 百万トン、転炉向けの鉄ス
クラップの消費量は約 5 百万トンとなっている。
35
(百万トン)
転炉向け
電炉向け
30
25
20
15
10
5
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
0
(出所) 日本鉄源協会資料より作成
図 3-19
韓国の鉄スクラップ消費量の推移
その他
26%
2012年
韓国鉄スクラップ輸入
10.1百万t
日本
48%
米国
26%
(出所) 日本鉄源協会資料より作成
図 3-20
2012 年国別の韓国の鉄スクラップ輸入
40
韓国の国別の鉄スクラップ輸入について見てみると(図 3-20)、輸入元として日本が
48%を占める状態である。続いて、米国であり、その割合は 26%となっている。この傾向
は中国と同様である。
3. 鉄スクラップの価格動向
A) 日米の鉄スクラップの価格
日米の鉄スクラップの価格推移について図 3-21、図 3-22 に示す。これを見ると、全
体の推移としては、1990 年から 2004 年頃までの期間は価格の安定期であり、2005 年から
2008 年頃までは、いわゆるコモディティバブルの期間であった。
(USD)
700
米国
日本(ドル建て)
600
②コモディティ
バブル
①安定期
500
③現在
400
300
200
100
2012
2010
2008
2006
2004
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
0
(年)
(出所) 日本鉄源協会資料より作成
図 3-21
日米のスクラップ価格(1)
このような価格推移の中で、ドル建ての日本国内の鉄スクラップ価格と、米国の鉄スク
ラップ価格は連動していることが見て取れる。日本の鉄スクラップ市況は、日本からの鉄
スクラップ輸出量の増加により、国内需給だけでなく、国際的な鉄スクラップ市場の影響
も受けていると言える。
なお、国際的な鉄スクラップの指標として、週次で発表されている「米国コンポジット
41
価格(米国東部の 3 都市(ピッツバーグ、フィラデルフィア、シカゴ)の製鋼メーカー購
入価格)
」がある。その一方で、国内においては、東京製鐵が「国内鉄スクラップ購入価格
表」を毎営業日公表している。
東京製鐵の購入価格は、指標としての価格ではなく実際に取引可能な価格であること 1、
インターネットでも公表されるため情報の入手が容易であること、公表頻度が多いことな
ど、米国の指標に比べて、指標として優れている点も多い。そのため、国内外の市場参加
者が東京製鐵の購入価格に注目しており、この価格が米国市場に影響を与えることもあり、
国内外の市況が相互に影響を与えているといえる。
日本スクラップ価格(USD換算)
700
600
500
400
300
200
安定期(R2=0.518)
バブル(R2=0.915)
現在 (R2=0.766)
100
0
0
100
400
200
300
米国スクラップ価格(USD)
500
600
(出所) 日本鉄源協会資料より作成
図 3-22
日米のスクラップ価格(2)
B) 鉄スクラップの価格と需給
ここでは、日本における鉄スクラップの価格と需給について注目し、その取引の流れを
見てみることとする(図 3-23)
。
まず、鉄スクラップは発生品であり、予めどの程度、どの時期に入手できるか正確に想
定することはできないものである。そのため、鉄スクラップの売買は長期契約に向かず、
スポット取引が多い。通常、鉄スクラップが発生した際には、鉄スクラップ事業者により
回収され、加工がなされた後に、電炉メーカーに持ち込まれることになる。
1
米国コンポジット価格は、売買取引が成立した後に集計・表示した数値であり、当該価格が表示された
後に、その価格で取引できるわけではない。
42
一般的に、鉄スクラップの取引は、電炉メーカーが提示する鉄スクラップの買取価格で
行われる。一方で、鉄スクラップを持ち込むタイミングは、鉄スクラップ業者が決めるこ
とが出来る。
そのため、鉄スクラップ業者は、鉄スクラップ価格の相場が上昇局面にある場合には、
在庫として保有し、更なる価格上昇を待つ傾向がある。そのため、電炉メーカーにとって
は、鉄スクラップが集まりにくい状況が生まれる。
一方、海外市場との価格の比較から、国内の鉄スクラップ市況に頭打ち感が見られるよ
うになると、これまで様子をうかがっていた鉄スクラップ業者が、一斉に電炉メーカーに
在庫を持ち込むようになる。そして、それと同時に鉄スクラップ価格は頭打ちとなり、下
落に転じる。
そのため、電炉メーカーとしては、鉄スクラップ市況がピークに近い水準において、大
量に購入することとなる。したがって、実態として、鉄スクラップを調達する時期のみな
らず価格も偏っていると考えられる。
市況動向
スクラップ業者の動向
市況上昇
スクラップ業者は、スクラップ相場が上昇している時は在庫として保有。
↓
電炉メーカーは入荷する量が少ないため、値上へ
市況ピーク
海外市場との比較から、国内スクラップ市況に頭打ち感がみられたとき、鉄スクラップ業者
が一斉に鉄スクラップを電炉メーカーに持ち込む
↓
価格上昇頭打ち
市況下落
鉄スクラップ業者が、電炉メーカーにスクラップを更に持ち込む、量は徐々に減少
↓
スクラップ価格は下落
図 3-23
鉄スクラップの価格と需給
C) 鉄スクラップ価格とコモディティインデックス
次に、鉄スクラップ価格とコモディティインデックスとの関係を時系列で見た結果が図
3-24 となる。
43
600
(スクラップ USD)
(USD)
CRB指数
米スクラップ
鉄鋼石(中国輸入右)
500
400
300
250
③現在
①安定期
200
②コモディティ
バブル
300
150
200
100
100
50
2012
2010
2008
2006
2004
2002
2000
1998
1996
0
1994
0
(年)
(出所) IMF, Thomson Reuters, 鉄源協会等資料より作成
図 3-24
鉄スクラップ価格とコモディティインデックス
コモディティバブル期において、鉄スクラップの価格変動が拡大した。加えて、コモデ
ィティバブル期の後半以降、コモディティインデックスと鉄スクラップ価格の動きの連動
性が特に強まっている様子が分かる。更に、鉄鋼石においても、価格柔軟性が高まると、
鉄スクラップやコモディティインデックスとの価格連動性が高まっている。
44
4. 還元鉄など新たな鉄源の動向
国内の電炉では鉄源として鉄スクラップを使用しているが、地域によっては還元鉄も鉄
源として使用されることもある。還元鉄について以下で見ていく。
A) 還元鉄の生産
還元鉄は、鉄鉱石を天然ガスまたは石炭で直接還元するものであり、そもそも銑鉄、鉄
スクラップと比べると生産量は少ないのが実態である。そこで、世界における還元鉄の生
産について見たものが図 3-25 となる。
これを見ると、還元鉄の生産は、2003 年以降緩やかに増加傾向が見られる。そのうち生
産量が多い地域は、順にアジア、中東、北米、南米等となっている。なお、各地域におけ
る主な生産国は、アジアがインド、中東がイラン、北米がメキシコ、南米がベネズエラ、
C.I.S がロシア、アフリカがエジプトとなっている。
天然ガスなどの資源を採掘できる国において、天然ガスなどの還元剤により直接還元す
る製鉄法が用いられていると考えられる。
80
(百万トン)
70
60
その他
アフリカ
C.I.S
南米
北米
中東
アジア
50
40
30
20
10
0
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
(出所)WSA 資料より作成
図 3-25
還元鉄の地域別生産量
45
B) 米国における還元鉄の動き
上記のような世界の還元鉄生産の状況の中で、米国での動きを見てみると、シェールガ
スといった安価な天然ガスを還元剤として使用し、生産を行う動きも見られる。
例えば、神戸製鋼は、2013 年 7 月、100%子会社の Midrex Technologies, Inc.(以下ミ
ドレックス社)と Siemens Industry Inc.(以下、シーメンス社)のコンソーシアムにより、
Voestapline から、還元鉄プラントを受注している。その還元鉄プラントの場所は、米テキ
サス州であり、そのプラントの年産能力は 200 万トンと言われている。なお、ミドレック
ス社の還元鉄プラントによる生産量は約 60%を占める。
また、同コンソーシアムは、2012 年 8 月、ロシアの Lebedinsky GOK から年産能力 180
万トンの還元鉄プラントを受注している。
なお、ミドレックス社は、還元鉄生産が 2025~2030 年の間に約 2 億トン(現在の約 3
倍)を超えると予想している。
46
第4章 諸外国における電炉業の現状について
本章では、諸外国における電炉業の現状として、世界、米国、韓国、欧州に関する調査
結果を示す。
1. 世界における電炉業界の現状
A) 世界の電炉による粗鋼生産
まず世界全体における粗鋼生産の推移を図 4-1 に示す。粗鋼生産量全体については、
2009 年において多少の減少は見られたものの、2005 年から 2012 年の期間については、概
ね増加傾向にある。2005 年には 1,100 百万トン程度であったものが、2012 年には 1,500
百万トンにまで増加している。
一方、そのうち、電炉による粗鋼生産に着目すれば、2005 年から 2012 年において、多
少は増加しているものの、その増加は非常に緩やかなものである。その結果、2005 年時点
では 32%程度であった電炉比率が、2012 年には 30%を切るほどまでに低下している。
なお、高炉による粗鋼生産の増加は、主に中国の増産が要因となっている。
1800
(百万トン)
(%)
粗鋼生産
1600
内電炉
電炉比率
34
33
1400
32
1200
31
1000
30
800
29
600
28
400
27
200
0
26
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
(出所)WSA 資料より作成
図 4-1
世界の炉別粗鋼生産の推移
B) 世界の地域別の電炉による粗鋼生産
電炉による粗鋼生産の直近の地域別割合を見ると(図 4-2)
、アジア地域において全粗鋼
47
生産の半分近くを占めている。
オセアニア
0.3%
中国
16.1%
EU(27カ国)
15.6%
EU外欧州
6.6%
CIS
5.4%
アジア(除く
中国)
29.1%
北米
16.1%
中東
5.0%
南米
3.6%
アフリカ
2.3%
(出所)WSA 資料より作成
図 4-2
2012 年地域別の電炉粗鋼生産割合
次に、電炉による粗鋼生産について、地域別の状況を 2007 年から 2012 年の期間におい
て見たものが図 4-3 である。これを見ると、アジアでの電炉による粗鋼生産が増加してい
ることが分かる。特に、中国では 30 百万トン弱の生産増となった。
オセアニア
中国
アジア(除く中国)
中東
アフリカ
南米
北米
CIS
EU外欧州
EU(27カ国)
-20
(百万トン)
-10
0
10
20
30
(出所)WSA 資料より作成
図 4-3
電炉による粗鋼生産の変化(2007~2012 年)
また、2012 年の粗鋼生産に占める電炉の割合を地域別に見るたものが図 4-4 である。
48
中東、オセアニアにおいて、粗鋼生産に占める電炉の割合が高く、それぞれ約 90%、約 80%
となっている。
中国は電炉による粗鋼生産も増加しているが、高炉による粗鋼生産が中心であるため、
粗鋼生産に占める電炉の割合は低く 20%程度である。
オセアニア
中国
アジア(除く中国)
中東
アフリカ
南米
北米
CIS
EU外欧州
EU(27カ国)
(%)
0
20
40
60
80
100
(出所)WSA 資料より作成
図 4-4
2012 年の粗鋼生産に占める電炉の割合
2. 韓国における電炉業界の現状
A) 韓国の粗鋼生産
上記のような世界の粗鋼生産の状況を踏まえつつ、ここからは韓国の粗鋼生産の状況を
見ることとする。まず、図 4-5 に韓国の状況を示す。
これを見ると、粗鋼生産量全体では、2000 年から 2012 年の期間全般を見ると、右肩上
がりに増加している。その中で、2007 年以降、電炉比率は低下している。2007 年には約
46%程度の電炉比率であったものが、2012 年には約 38%まで低下しており、近年の韓国で
の粗鋼生産の増加は、高炉による生産が大きく寄与していると言える。
一方、設備の稼働率に着目すれば、直近では、高炉(BOF)の稼働率が 90%を上回って
おり、2000 年代中盤の平均水準まで回復している状況である。電炉(EAF)の稼働率につ
いては、直近では、80%を下回る水準にまで低迷しており、最も稼働率の高かった 2007 年
当時の約 90%から比べて 10 ポイントほども稼働率が低下している状況である。
49
韓国の粗鋼生産量
65
0
34
60
EAF
BOF
2000
EAFの割合(右)
Total
BOF
2012
36
2011
10
2010
70
2009
38
2008
20
2007
75
2006
40
2005
30
2004
80
(%)
2003
42
2012
40
2011
85
2010
44
2009
50
2008
90
2007
46
2006
60
2005
95
2004
48
2003
70
2002
100
2001
50
2002
(%)
2001
(million MT)
2000
80
稼働率
EAF
(出所)韓国鉄鋼協会資料より作成
図 4-5
韓国の粗鋼生産の概要
B) 韓国の製品別生産(全体)
韓国における製品別の生産量の経年変化を図 4-6 に示す。
製品別鉄鋼生産
(million MT)
80
70
60
50
Others
40
Casting & Forgings
Pipe & Tubes
30
Flat Products
20
Long Products
10
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
0
(出所)韓国鉄鋼協会資料より作成
図 4-6
製品別鉄鋼生産
製品全体の量は 2003 年以降 2012 年まで増加している。2003 年当時は約 50 百万トンで
50
あったものが、2012 年には約 70 百万トンに達している。
しかしながら、製品別に見ると状況は異なってくる。鋼板(Flat Products)の生産量は
増加している一方で、条鋼(Long Products)の生産量は横ばいの状況である。
C) 韓国の製品別生産(条鋼)
次に、製品の中で条鋼に着目する。条鋼の生産量の推移は図 4-7 のとおり、生産量全体
は 2003 年から 2012 年の期間でほぼ横ばいである。
この条鋼の中では、鉄筋(Reinforceing bar)が 46%(2012 年)を占めており、最も割
合が高い。この鉄筋生産にさらに着目すれば、2010 年以降若干の増加に転じているが、長
期的には緩やかな減少傾向が見られる。
25
(million MT)
Reinforcing bar
Sections
Rail
Bars
Wire Rod
20
15
10
5
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
0
(出所)韓国鉄鋼協会資料より作成
図 4-7
製品別生産(条鋼)
一方で、鉄筋の生産能力の推移を見てみると(図 4-8)
、2002 年から 2012 年の間で、
生産能力は増強されている様子が見て取れる。ただし、この期間において、稼働率は低下
傾向が見られ、2012 年には 70%程度の稼働率にまで低下している。
51
14
(million MT)
(%)
100
90
12
80
10
70
60
8
50
6
40
4
生産能力
鉄筋生産
稼働率(右)
2
30
20
10
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
0
2002
0
(出所)韓国鉄鋼協会資料より作成
図 4-8
鉄筋生産量・生産能力
D) 韓国の輸出入(鉄筋)
上記で触れた鉄筋について、ここでは輸出入の観点から状況を見ることにする(図 4-9)
。
すると、2011 年までは輸入よりも輸出の方が多い状況であった(最大で 20 万トン程度の
輸出超過)ものの、2012 年には、鉄筋の輸出の減少によって、純輸入に転じている(約 20
万トンの輸入超過)
。
この状況をより詳しく把握するために、2012 年の鉄筋の国別輸出入をみて見る(図
4-10)
。韓国では日本と中国からの輸入が多く、ともに約 25 万トン程度の輸入量となって
いる。逆に、韓国の最大の鉄筋輸出先は東南アジアであり、その中でシンガポールが最も
多い。
韓国では、このような輸出入の状況であるが、見掛消費に対して輸入は 5%程度である。
52
0.8
(million MT)
0.6
0.4
0.2
0.0
-0.2
-0.4
-0.6
-0.8
2009
2010
Export
Import
2011
2012
Trade balance
(出所)韓国鉄鋼協会資料より作成
図 4-9
0.3
鉄筋の輸出入量の推移
(million MT)
0.2
0.1
0.0
-0.1
Export
Import
Trade balance
-0.2
-0.3
Japan
China
South East
Asia
Other
(出所)韓国鉄鋼協会資料より作成
図 4-10
鉄筋の国別輸出入(2012 年)
53
E) 韓国電炉メーカーの生産商品
韓国における電炉メーカーとその生産商品について、2013 年 10 月時点の状況を整理す
ると図 4-11 のとおりとなる。
全 12 社ある中で、多くの電炉メーカーでは、棒鋼のみを生産している状況である。
なお、韓国の鉄筋棒鋼の市場については、Hyndai Steel(現代製鉄)が生産シェア 34%
を占めている。
粗鋼生産能力
(万トン/年)
棒鋼
Deahan Steel
145
Dongbu Steel
300
Dongkuk Steel
300
Hamyang Steel
10
Hankook Steel &Mill
70
○
Hwanyoung Steel Ind
80
○
952(電炉)
800(高炉)
○
130
○
80
○
Hyndai Steel
Korea Iron & Steel
Korea Steel & Shapes
POSCO
形鋼
厚板
薄板
鋼管
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
431(電炉)
2,950(高炉)
SeAH Besteel
245
○
YK Steel
120
○
○
○
○
(出所)Metal Bulletin Research、各社公表資料より作成
図 4-11
F)
韓国の主な電炉メーカー生産能力と主な製品( 2013 年 10 月)
韓国電炉メーカーの財務状況
上記のような製品を生産・販売している韓国電炉メーカーであるが、ここでは韓国電炉
メーカーの財務状況を整理する。韓国電炉メーカーのデットエクイティレシオを図 4-12
に示す。
これを見ると、
デットエクイティレシオが 1 倍を上回っているメーカーが半数近くあり、
直近数年間では、デットエクイティレシオは上昇基調となっている。
54
Daehan Steel
Dongkuk Steel Mill
Hyundai Steel
KISCO
Dongbu Steel
Korea Steel Shapes
Seah Besteel
Hankook Steel
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
(出所)DART より作成
図 4-12
(%)
韓国電炉メーカーのデットエクイティレシオ
Daehan Steel
Dongkuk Steel Mill
Hyundai Steel
KISCO
Dongbu Steel
Korea Steel Shapes
Seah Besteel
Hankook Steel
25
20
15
10
5
0
-5
2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
(出所)DART より作成
図 4-13
韓国電炉メーカーの営業利益率
55
次に、各社の営業利益率を見ると(図 4-13)
、営業利益率は低下傾向にあり、直近では、
多くの電炉メーカーにおいて営業利益率 2%以下となっている。
G) 韓国電炉メーカーの再編
韓国電炉メーカーの再編時の状況については、JETRO アジア経済研究所による「アジア
諸国の鉄鋼業 -発展と変容-」が参考になる。この文献によれば、韓国では 1997 年の通貨危
機を契機にして、産業全体が大きな損失を被った。その中で、多くの電炉メーカーも経営
悪化に苦しむことになり、いくつかのメーカーが淘汰され、そして業界の再編が進んだ。
その背景には、1995 年後半から韓国の景気は急激に冷え込み、鉄鋼需要も減少していた
状況がある。鉄鋼需要の落ち込みは、鋼材価格の低下を引き起こし、それまでに設備増設
競争を繰り広げていた韓国電炉メーカーを直撃し、電炉メーカーの経営悪化をもたらした。
翌年の 1996 年には、赤字に転落し、その後、赤字幅を拡大していったメーカーも多い。
そして、通貨危機が発生する 1997 年には、韓寶鉄鋼、三美特殊鋼、起亜特殊鋼が倒産す
ることになる。さらに続いて 1998 年には、韓国製鋼、江原産業の倒産が相次いだ。
なお、この時期には鉄鋼業以外の産業においても大型倒産が頻発し、外国金融機関が資
金を一斉に韓国から引き上げた。そのため、韓国政府が国際通貨基金(IMF)に緊急融資
を申し入れる事態となったのである。
この通貨危機後における韓国の鉄鋼業の再編において、現代グループが核となり、鉄鋼
メーカーの買収を行っていった。
社名
破綻時期
製品
再生手続き
再生経緯
丸永製鉄
1996年12月 鉄筋・形鋼
法的管理
2002年9月に韓国鉄鋼が買収
韓寶鉄鋼
1997年1月
鉄筋・熱延鋼板等 法的管理
2004年現代自動車グループが買収。
韓寶
1997年1月
形鋼
法的管理
2002年8月日本の大和工業が釜山製鋼所を
買収。YKスチールに改称。
三美特殊鋼
1997年3月
特殊鋼
法的整理
2000年12月現代グループが買収、BNGス
チールに改称。
起亜特殊鋼
1997年7月
特殊鋼
法的整理
2003年7月セアグループが買収、セベアス
チールに改称。
トンシン特鋼
1997年12月 PCM、カラー鋼板 和議→
等
法的管理
第一パイプ
1998年3月
鋼管
法的管理
不明。
トゥンヤン金
属
1998年4月
冷延狭幅鋼帯
法的管理
2002年5月にQCPファンドが買収、ナステッ
クに社名変更
韓国製鋼
1998年4月
鉄筋、ビレット
和議
2007年9月に韓国鋳鋼が買収。
2003年7月東国製鋼グループのユニオン
コーティングが器興工場を買収。
(出所)JETRO アジア経済研究所「アジア諸国の鉄鋼業 -発展と変容-」より作成
図 4-14
通貨危機前後に破綻した鉄鋼メーカー(1)
56
社名
製品
破綻時期
再生手続き
再生経緯
栄興鉄鋼
1998年6月
鉄筋
法的管理
2004年11月に韓国鉄鋼が買収
新湖スチール
1998年6月
鋼管
ワークアウト
→法的管理
2001年12月シンアングループが買収、ヒュスチー
ルに社名変更。
東洋鉄管
1998年6月
鋼管
ワークアウト
→法的管理
2001年東国実業(甲乙商事グループ)が買収。
江原産業
1998年7月
鉄筋、棒鋼
ワークアウト
2000年3月仁川製鉄(現代製鉄グループ)と合併。
美州製鋼
1998年12月
鋼管
ワークアウト
2003年3月DSP(旧東部スチール)のコンソシアム
が買収。
韓国金属工業
1999年2月
ステンレス冷延鋼帯
和議
正常化後、デジタルワールドと合併。
シンファン特殊鋼
2000年8月
冷延狭幅鋼帯
法廷管理
2003年東国産業が買収、テウォンスチールに社名
変更。
(出所)JETRO アジア経済研究所「アジア諸国の鉄鋼業 -発展と変容-」より作成
図 4-15
通貨危機前後に破綻した鉄鋼メーカー(2)
3. 欧州における電炉業界の現状
A) 欧州の電炉生産
欧州の電炉による粗鋼生産については、トルコの動向に注目すべきところがある。そこ
で、欧州の電炉による粗鋼生産を概観しつつ、トルコの状況に焦点を当てる。
まず、欧州の主たる国における 2012 年の炉別粗鋼生産の状況を示すと図 4-16 となる。
粗鋼生産全体で見ると、ドイツが最も多く、およそ 42 百万トンとなる。なお、ドイツは、
高炉による粗鋼生産が多い。
50
(百万トン)
(%)
高炉
電炉
電炉比率
45
100
90
40
15
30
10
20
5
10
0
0
イギリス
ルクセンブルク
20
ベルギー
50
ポーランド
25
フランス
60
スペイン
30
ドイツ
70
イタリア
80
35
トルコ
40
(出所)WSA 資料より作成
図 4-16
欧州の炉別粗鋼生産(2012 年)
57
また、電炉による粗鋼生産量に着目すると、トルコが最も多く、25 百万トン超の生産量
を誇っている。次いでイタリアが多く 15 百万トン超の生産となっている。
電炉比率を見ると、トルコは 70%程度となっており、粗鋼生産量上位 3 国(ドイツ、ト
ルコ、イタリア)の中では、電炉比率は最も高い。
次に、トルコの粗鋼生産の推移を見ると(図 4-17)、粗鋼生産量は 2006 年から 2012 年
の期間では増加傾向にある。また、電炉比率は同期間において 70%前半で推移している。
50
(百万トン)
(%)
BF
EAF
電炉比率
45
100
90
40
80
35
70
30
60
25
50
20
40
15
30
10
20
5
10
0
0
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
(出所)トルコ鉄鋼協会資料より作成
図 4-17
トルコの炉別粗鋼生産
B) トルコの鉄鋼生産・稼働率
トルコの電炉による粗鋼生産能力、及びその稼働率に着目する。2006 年から 2012 年ま
での推移を図 4-18 に示す。
58
50
生産能力
生産量
稼働率(右)
(百万トン)
45
(%)
100
90
40
80
35
70
30
60
25
50
20
40
15
30
10
20
5
10
0
0
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
(出所)トルコ鉄鋼協会資料より作成
図 4-18
トルコの電炉粗鋼生産量・稼働率
トルコの電炉での粗鋼生産能力は増加傾向にある。2006 年の時点でも 20 百万トン超で
あったものが、2012 年の時点では 40 百万トンに届きそうな水準にまで達している。しか
しながら、電炉の稼働率については、2012 年の時点で 70%程度となっており、リーマンシ
ョック前の水準である 80%前後にまでは回復していない。
15
生産能力
生産量
稼働率(右)
(百万トン)
(%)
100
12
80
9
60
6
40
3
20
0
0
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
(出所)トルコ鉄鋼協会資料より作成
図 4-19
(参考)トルコの高炉粗鋼生産量・稼働率
59
また、参考までに、トルコでの高炉による粗鋼生産量・稼働率の推移を図 4-19 に示す。
高炉についても、電炉と同様に、生産能力は増加傾向である。2006 年時点では 6 百万トン
程度であったものが、2012 年には約 10 百万トンにまで至っている。
高炉の稼働率については、2006 年以降緩やかに低下傾向が見られるが、概ね 80%程度の
稼働率を維持している状況である。
C) トルコの鉄鋼生産・見掛消費
ここまでに見てきたとおり、トルコにおける粗鋼生産は、電炉による生産が多くを占め
る。そのため、製品で言えば、生産量のうち条鋼(Long)が約 7 割を占める状況である。
その様子を示すものが図 4-20 である。
2012 年においては、全体で約 34 百万トンの生産のうち、条鋼の生産量は 25 百万トンに
達している状況である。
40
(百万トン)
Flat
Long
35
30
25
20
15
10
5
0
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
(出所)TISPA、ERDEMIR 資料より作成
図 4-20
トルコの製品別鉄鋼生産
一方で、見掛消費としては、鋼板(Flat)が半分近くを占めている。トルコにおける製品
別の見掛消費の推移を図 4-21 に示す。トルコでは、建設需要の増加を背景として、条鋼
の需要が増加しており、電炉にとっては追い風となっている。
60
40
(百万トン)
Flat
Long
35
30
25
20
15
10
5
0
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
(出所)TISPA、ERDEMIR 資料より作成
図 4-21
トルコ製品別見掛消費
製品の輸出入の観点では、図 4-22 を見るとトルコの状況が分かる。毎年およそ 5 百万
トン前後が輸出超過となっている。その背景には、トルコは地理的にも中東・EU・北アフ
リカに製品の輸送を行いやすく、また短期間での輸送が可能なことがあると考えられる。
25
(百万トン)
輸入
輸出
ネット
20
15
輸
出
10
5
0
-5
-10
-15
-20
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
-25
2003
輸
入
(出所)WSA 資料より作成
図 4-22
トルコの鉄鋼輸出入推移
61
20
(百万トン)
Tube
Flat
Long
Ingots and Semis
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
輸出
輸入
(出所)WSA 資料より作成
図 4-23
トルコ製品別輸出入(2012 年)
また、製品別に、輸出、輸入の内訳を見てみると、2012 年には図 4-23 のような状況と
なっている。輸出では条鋼(Long)が、輸入では鋼板(Flat)が最も割合が高くなっている。
トルコにおける鉄筋の需給状況を図 4-24 に示す。トルコでは鉄筋生産の半分が輸出向
けであり、国外需要も重要な市場となっている。
18
(百万トン)
輸入
16
14
輸出
12
10
8
生産
6
見掛消費
4
2
0
供給
需要
(出所)TISPA 等資料より作成
図 4-24
鉄筋需給(2011 年)
62
D) トルコの国別鉄鋼輸出入
トルコにおける製品の輸出先については、図 4-25 により把握できる。輸出先の大半は
中東向けであり、割合としては 44%に達している。次に EU に 11%、北アフリカに 12%の
割合で輸出を行っている。
その他
33%
中東
44%
EU
11%
北アフリカ
12%
(出所)TISPA 資料より作成
図 4-25
国別鉄鋼輸出(2012 年)
その他
5%
アジア
12%
EU
44%
CIS
39%
(出所)TISPA 資料より作成
図 4-26
国別鉄鋼輸入(2012 年)
63
次に、トルコにおける製品の輸入元については、図 4-26 により把握できる。最大の輸
出元は EU であり、割合としては 44%を占める。次に、CIS からが 39%となっており、こ
の 2 地域からの輸入で、輸入量の 8 割に達することになる。なお、アジアからは 12%であ
る。
E) トルコの電炉メーカーの生産能力
トルコにおける電炉メーカーを見てみると、図 4-27 にあるとおり約 20 社ある。その多
くが、棒鋼・線材を中心に生産している電炉メーカーである。
粗鋼(万トン)
製品
生産能力
生産量
48.5
32.2
75
29.6
○
Cemtas Celik Makina Sanayi ve Ticaret A.S.
17.2
11.4
○
Colakoglu Metaluji AS
300
260.4
○
Diler Demir Celik Endustri ve Ticaret AS
150
139.3
○
Asil Celik Sanayi ve Ticarat AS
Cebitas Demir Celik Endustrisi AS
Ede Demir Celik Pax. San. Ve Tic Ltd. STI
棒鋼
形鋼
○
○
○
78
26
○
200
99.5
○
Ekinciler Demir ve Celik San As
115
94.1
○
526.8
408.3
○
Izmir Demir Celik Sanayi AS
150
143.2
○
Kaptan Demir Celik Endustrisi ve Ticaret A.S.
135
127.4
○
○
Kroman Celik Sanayii A.S
250
137.6
○
○
○
○
粗鋼(万トン)
生産能力
生産量
鋼板
○
Ege Celik Endustrisi San ve Tic AS
Icdas Celik Enerji Tersane ve Ulasim Sanayi AS
線材
○
製品
棒鋼
MMK Metalurji SAN.TIC.
240
78.9
Nursan Metaluji Endustrisi A.S.
120
110.3
Ozkan Demir Celik Sanayi A.S.
70
52.7
Platinum Demir Celik San dev Tic. A.S.
20
12.2
○
Sider Dis Ticaret A.S
72
53.8
○
Sivas Demir Celik Isletmeleri A.S.
55
33.5
○
形鋼
線材
鋼板
○
○
○
Toscelik Profil ve Sac End. A.S.
200
156.3
○
Yazici Demir Celik San ve Tic AS
110
106.2
○
Yesilyurt Demir Cekme Sanayii ve Ticaret Ltd. STI.
100
62.5
○
Yolbulan-Bastug Metalurji SAN. A.S.
200
151.4
○
○
○
○
(出所)鉄源協会、TISPA 資料より作成
図 4-27
トルコの主な電炉メーカー生産能力と主な製品( 2012)
64
F)
トルコの生産コスト
トルコの電炉メーカーの生産コストの観点からは、電気料金の上昇が近年影響している
ものと考えられる。図 4-28 には、トルコの電炉メーカーのビレット 1 トン当たりの生産
コストの推移を示している。
これをみると 2007 年以降、燃料費が上昇している様子が見て取れ、電炉によるビレット
生産において、電気料金の上昇がコストに跳ね返っている。
140
(USD)
その他
輸送費(鉄スクラップ)
燃料費
120
100
80
60
40
20
0
2000
2002
2004
2006
2008
2010
2012
(出所)Steel consultant 資料より作成
図 4-28
トルコ電炉のビレット 1 トン当たりの生産コスト
そこで、トルコと欧州の工業用電気料金を比較した図 4-29 を見てみると、トルコの工
業用電気料金は、欧州における OECD の平均と同程度であると言える。そのため、欧州と
比べて、生産コストにおける電力料金の面では、競争力があるとはいえない。
このような状況の中、日本と同様にトルコの電炉メーカーにおいても、生産をオフピー
クに行うこと、自家発電を使用するなどの工夫により、生産コストの削減努力をしている
状況である(Steel Consultant の資料より)
。
65
1.6
(USD)
1.4
1.2
1
0.8
Turkey
OECD Europe
0.6
0.4
0.2
0
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
(出所)IEA 資料より作成
図 4-29
トルコと欧州の工業用電気料金
G) トルコの労働力コスト、輸送コストの比較
その他の生産・販売に必要となるコストとして、労働力コスト、輸送コストに関するト
ルコの状況を見てみる。
(出所)ISTAT、Eurostat 資料より
図 4-30
最低月給の比較(2013 年 10 月)
66
まず人件費について、欧州の代表的な国々での最低月給を比較したものが図 4-30 であ
る。これから分かるとおり、特にトルコについては、人件費が低い水準となっている。ベ
ルギー、オランダ、フランス、イギリスでは、2013 年 10 月時点ではあるが、最低月給は
1,500 ドル以上となっている一方で、トルコにおいては 500 ドル程度である。つまり、欧州
の主要国に比べて、トルコの人件費は 3 分の 1 以下となっており、電炉メーカーにとって
は優位性のある地域と言える。
(出所)ISTAT、 World Bank 資料より
図 4-31
国別の Logistic Performance Index 費用
また輸送コストについても、欧州の代表的な国々との比較を見たものが図 4-31 である。
輸出に関して言えば、海上輸送または航空輸送のコストは、トルコは 806 ドルであり、フ
ランスの 500 ドルと比べると高い状況にある。しかしながら、ロシアでは 2,000 ドル、ド
イツでは 1,500 ドル、イギリスでは 1,000 ドルとなるなど、これら欧州の各国と比べると
トルコの輸出に関する輸送コストは低いものであると言える。
また、輸入に関して、海上輸送または航空輸送のコストは、ロシア 3,162 ドル、イギリ
スで 1,225 ドル、フランス 1,500 ドル、ポーランド、1,500 ドル、ドイツ 1,500 ドルと比べ
て、トルコでは非常にコストが低く 250 ドルである。
スクラップの輸入コスト、製品の輸出コストの面でも、トルコは、電炉メーカーにとっ
ては優位性のある地域と言える。
4. 米国における電炉業界の現状
A) 米国の生産量
まず、米国における炉別粗鋼生産高と電炉比率について、時系列で状況を見たものが図
4-32 となる。粗鋼生産高については、2008 年以前はほぼ 100 百万トン程度で推移してい
67
た。2009 年には大きく落ち込み 80 百万トンを大きく下回る状況であったものの、2012 年
には 90 百万トン程度まで回復している。
一方、電炉比率に着目した場合には、2007 年までは右肩上がりに電炉比率は増加してお
り、2007 年の時点では 60%に迫るものであった。その後、2009 年には 50%を切るまで電
炉比率は低下したものの、直近の 2012 年には 2007 年時点とほぼ同等の電炉比率までに至
っている。
120
BOF
EAF
電炉比率(右)
(百万トン)
(%)
60
100
50
80
40
60
30
40
20
20
10
0
0
2003
2004
2005
2006
2007 2008
2009
2010
2011
2012
(出所)WSA 資料より作成
図 4-32
米国の炉別粗鋼生産高と電炉比率
また米国の代表的な電炉メーカーの状況を見てみる。具体的には、Nucor と Steel
Dynamics, Inc の製品の販売比率を見てみると図 4-33、図 4-34 となる。
Nucor では、鋼板(Sheets)が 32%ともっとも割合が高い。一方、Steel Dynamics, Inc
では、圧延鋼板(Flat-rolled)が 58%と最も多く、これのみで 50%以上の販売比率を有し
ている。その他には、構造用形鋼(Structual)が 16%を占める。
このように Nucor と Steel Dynamics, Inc といった米国の代表的な電炉メーカーでは、
多様な製品を生産・販売しており、付加価値のある製品を生産することで収益力を高めて
いることが分かる。
68
Other,
3%
Special
Shapes,
5%
Sheets, 32%
Downstream
products, 11%
Plate, 10%
Bar, 20%
Structual,
11%
(出所)WSA 資料より作成
図 4-33 Nucor の販売比率
Special
Shapes,
5%
Merchant Bar,
9%
SBQ/MBQ, 8%
Rail, 4%
Flat-rolled,
58%
Structural,
16%
(出所)WSA 資料より作成
図 4-34
Steel Dynamics, Inc の販売比率
69
B) 北米における条鋼のシェア
北米における製品として、条鋼に着目し、そのシェアを見ると図 4-35 となる。シェア
が最も高いのは Gerdau であり、36%を占めている。続いて Nucor が 31%、Steel Dynamics
が 10%、CMC が 10%となっている。この 4 社のシェアを合わせると、全体の 9 割近くを
占めることとなっている。
なお、Gerdau の主力製品は棒鋼、形鋼の条鋼類、Nucor や Steel Dynamics の主力製品
は鋼板類である。
Others, 12%
CMC, 10%
Gerdau, 36%
Steel
Dynamics,
10%
Nucor, 31%
(出所)CMC 社の 2013 年 10 月の IR 資料より作成
図 4-35
北米の条鋼シェア
C) 建設向け鋼材メーカー(米国 CMC 社の事業)
建設向けの棒鋼や形鋼などを製造している米国の電炉メーカーの例として、CMC 社を取
り上げ、その事業を見ることにする(図 4-36)
。
特徴的な点は、同社は製鋼のみに注力するのではなく、鉄スクラップの調達、鉄筋加工
も行っている。つまり、製品のバリューチェーンにおける川上、川下の双方に取り組む企
業である。川上と川下にも取り組むことで、収益性を高める狙いがあると考えられる。
70
(出所)各社公表資料より
図 4-36 Commercial Metals Company の事業
なお、CMC 社の他にも、川上まで取り組むメーカーがある。例えば、SDI 社は、スクラ
ップ調達会社である OmiSource 社を所有しており、同社の製鉄事業に必要となる鉄スクラ
ップについては、その 45%(2013 年)について OmiSource 社を通じて調達している。ま
た、Nucor 社では、子会社である David J.Joseph 社を通じて、鉄スクラップを調達してお
り、鉄筋については加工会社である Harris Steel 社も保有している。
D) 川下に進出している鉄鋼メーカー(米国 Timken 社の事業)
次に、米国の電炉メーカーである Timken 社を取り上げ、その事業を見ることにする。
この Timken 社は、2012 年に 50 億米ドルの売上を上げる企業であり、同社の鉄鋼部門は
その売上のうち 32%を占めている。
同社の鉄鋼部門では、高付加価値な棒鋼やシームレスパイプを生産している。そして、
この Timken 社の特徴は、製品のバリューチェーンの中で、川下に進出していることであ
る。同社の製品として、自動車、プラント、航空機などの幅広い業種に、ベアリングやパ
ワートランスミッション等を提供している。
71
Aerospace,
7%
Mobile
Industries,
34%
Process
Industries,
27%
Steel, 32%
(出所)各社公表資料
図 4-37 Timken の事業別売上
72
第5章 日本と海外電炉メーカーとの国際競争力比較
本章では、日本と海外電炉メーカーとの国際競争力比較として、①製品と原材料のリス
ク・リターン分析、②その他影響を及ぼす要因の分析、③鉄スクラップ需要見通しの 3 つ
の観点から調査の結果を示す。
1. 製品と原材料のリスク・リターン分析
A) 棒鋼と鉄スクラップ価格
収益構造に関して、ここでは製品である棒鋼と原料である鉄スクラップの価格差に着目
する。1990 年から現在に至るまでのそれらの状況を図 5-1 に示す。
まず 1990 年から 1994 年の時期を「バブル崩壊期」
、1994 年から 2004 年の時期を「低
迷期」
、2004 年から 2010 年の時期を「コモディティバブル期」、2010 年以降を「現在」と
定める。
まず、バブル崩壊期では、異形棒鋼の価格が 1992 年から 1994 年に急速に下がる一方、
鉄スクラップ価格は 20 千円弱で推移したことから、両者の値差が大きく縮小した時期とな
る。
120
(千円)
値差
100
異形棒鋼
鉄屑
80
60
②低迷期
40
③コモディティ
バブル
①バブル崩壊
④現在
20
2012
2010
2008
2006
2004
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
0
(年)
(出所) 日本鉄源協会より作成
図 5-1
棒鋼と鉄スクラップの価格推移
73
また、低迷期においては、バブル崩壊期で縮小した値差が、そのまま低位で推移した時
期である。具体的には値差が 20 千円程度で推移した時期である。
一方、2004 年からのコモディティバブル期においては、棒鋼の価格と鉄スクラップ価格
の上昇に伴い、値差は大きく拡大している。2008 年頃までは、概ね 30~40 千円の値差と
なっている。そして、特に 2008 年から 2009 年にかけては、一時、90 千円ほどまで値差が
拡大したことのある時期である。
その後の現在の期間は、値差は 20~30 千円程度で推移している。しかしながら、それ以
前の期間と比べて、価格の変動が大きい様子がうかがえる。
B) 値差(収益)と鉄スクラップ価格の標準偏差(リスク)
上記の棒鋼の価格と鉄スクラップの値差(収益)は同月の価格差を取ったものであり、
同月中に原材料の調達と製品販売を行うことを仮定している。しかし、鉄スクラップを在
庫として保有した場合など、調達と販売の時間差が生じる場合もある。調達と出荷の時期
が異なり、その間の鉄スクラップの価格変動が、電炉メーカーにとって収益が変動するリ
スクとなる。また、製品供給の長期契約をした場合、販売価格は変わらない一方、原材料
の調達価格が変動することで収益が変化する。従って、リターン(収益)に対するリスク
の大きさを示すものとして、鉄スクラップ価格の標準偏差を用いることとする。
棒鋼と鉄スクラップの値差を収益とみなして縦軸に表示し、鉄スクラップ価格の標準偏
差を横軸に表示し、グラフとしたものを図 5-2 に示す。バブル崩壊期から低迷期にかけて、
同じ程度のリスク(鉄スクラップ価格の標準偏差)であるにもかかわらず、値差(収益)
が低下したことで、リスク対比のリターンは悪化した。次に、低迷期からコモディティバ
ブル期にかけては、リスクは多少大きくなったものの、収益性も相応に大きくなった時期
である。
そして、コモディティバブル期から現在の期間(2010~2013 年)かけて、収益性も低下
した上にリスクも増大した。つまり、現在の棒鋼に係る事業環境が悪化していると言える。
74
①バブル崩壊(1991~1993年)
②低迷期(1994~2003年)
③コモディティバブル(2004~2009年)
④現在(2010~2013年)
60
90
80
値差(千円)
値差(千円)
50
100
40
30
70
60
50
40
20
30
2013年3月
①バブル崩壊(1991~1993年)
②低迷期(1994~2003年)
20
10
③コモディティバブル(2004~2009年)
④現在(2010~2013年)
10
0
0
0
1
2
3
4
5
鉄屑価格の標準偏差(千円)
6
0
7
5
10
15
鉄屑価格の標準偏差(千円)
20
(出所) 日本鉄源協会資料より作成
図 5-2
値差と鉄屑価格の標準偏差
また、棒鋼と鉄スクラップの値差(収益)を、鉄スクラップ価格の標準偏差(鉄スクラ
ップの在庫リスクや長期契約に伴う調達リスク)により除することで、リスク対比収益の
様子を見てみると図 5-3 となる。リスク対比の収益が、数字が大きいほど改善し、数字が
小さいほど悪化していることを示している。
バブル崩壊期から現在に至るまでの大きな傾向としては、リスク対比収益は年を経るご
とに悪化していると言える。
9
8
7
6
5
②安定期
①バブル崩壊
③コモディティ
バブル
④現在
4
3
2
1
2012年
2010年
2008年
2006年
2004年
2002年
2000年
1998年
1996年
1994年
1992年
1990年
0
(出所) 日本鉄源協会資料より作成
図 5-3
鉄筋生産のリスク対比のリターン(値差÷鉄スクラップ価格の標準偏差)
75
25
なお、足許では工事の遅れもリスクを拡大する要因となっており、その背景には、この
業界での独特な商習慣がある。関東地域においては、鉄筋の業者指定制度という商習慣が
存在する。これは、建設業者が鉄筋の加工・組立てを行う鉄筋加工業者を指定し、その鉄
筋加工業者に応じて鉄筋を提供する電炉メーカーも決まるという仕組みである。そのため、
建設業者が鉄筋加工業者を指定したときに、電炉メーカーも決まり、そして納品する鉄筋
価格も決まる。しかしながら、納品時期までの間に、鉄スクラップの価格は変動し、その
変動リスクについて鉄筋を生産する電炉メーカーが負うことになる。
足許においては、鉄スクラップ価格の変動幅は拡大する傾向にあることに加えて、建設
業者の工事の遅れ等により納品までの期間が延びることも多い。そのような状況もあって、
近年、電炉メーカーが負う鉄スクラップの価格変動リスクは一層増している。
C) 米国における値差(収益)と鉄スクラップ価格の標準偏差(リスク)
次に、日本の状況を米国と比較するために、米国における値差(収益)と鉄スクラップ
価格の標準偏差(リスク)について、同様に見ていくことにする。
まず、鉄筋と鉄スクラップの価格差について、2005 年から現在に至るまでの状況を図
5-4 に示す。
1200
(USD)
値差
鉄筋
鉄屑
1000
800
③コモディティバブル
④現在
600
400
200
0
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
(年)
(出所)日本鉄源協会資料、その他公開情報より作成
図 5-4
値差と鉄スクラップ価格
これを見ると 2008 年以前では、値差は 400 ドル弱で推移し、2008 年から 2009 年にか
76
けて一時的には 700 ドル程度まで値差が拡大している。その後、2010 年から現在にかけて
は、値差は 400 ドルほどで推移しており、これは 2008 年以前の値差と比べて多少大きくな
っている状況と言える。
このことから、米国の場合には過去に比べても、現在の状況として、値差は縮小してい
るものではないことが読み取れる。
次に、米国の鉄筋と鉄スクラップについて、その値差(収益)と鉄スクラップ価格の標
準偏差(リスク)の関係を把握する(図 5-5)。ここで米国においては、2005 年から 2009
年までの期間をコモディティバブル期とし、
2010 年から 2013 年までを現在の期間とする。
まず、商品バブル期と現在の期間を比べると、商品バブル期では一部、リスクが高くな
ったにもかかわらず、収益が相応に大きくなっていない状況も見られる。しかし、概ね両
期間において、リスク対比収益に変化は見られず、市場において妥当な価格形成がされて
いると言えよう。
③商品バブル(2005~2009年)
④現在(2010~2013年)
800
700
値差(USD)
600
500
400
300
200
100
0
0
100
50
鉄屑価格の標準偏差(USD)
150
200
(出所)日本鉄源協会資料、その他公開情報より作成
図 5-5
値差と鉄スクラップ価格の標準偏差
77
2. その他の影響を及ぼす要因の分析
A) 製品・需要・供給等の比較
ここでは、
「第 4 章 諸外国における電炉業の現状について」の結果を踏まえつつ、製品・
需要・供給・鉄スクラップ・エネルギー効率・電力料金・その他費用・財務体質・強み、
といった観点から、項目別に定性的な比較・整理を行う。その結果が図 5-6 である。以下
では、主たる項目について説明する。
まず、製品については、日本、韓国、トルコでは、主に鉄筋棒鋼を生産している。日本
では、需要が伸び悩んでいる上にメーカーが多数あり、シェアが分散している。韓国では、
需要は伸び悩んでいるものの、メーカーが 10 社程度と日本に比べて少ないため、トップが
1/3 のシェアを持っている。
一方、トルコでは電炉メーカーは 20 社以上あるが、鉄鋼需要全体が伸びている。また、
米国では条鋼類のシェアがトップ 3 社で 75%強と、メーカーの集約されている。また、建
設向け鋼材だけではなく、産業向けの鋼材も製造している。
次に、需要の観点からは、日本、韓国では需要が伸び悩む一方で、米国では需要が回復
しつつある。トルコでは、自国内の需要だけではなく、周辺の国・地域の需要を取り込ん
でいることから、増加基調が見られる。
日本
韓国
トルコ
製品
主に鉄筋棒鋼
主に鉄筋棒鋼
主に鉄筋棒鋼
建設向け鋼材だけで
なく、産業向け鋼材も
製造しており、高付加
価値製品も製造
需要
伸び悩み
伸び悩み
自国のみならず周辺
国を含めて増加基調
回復
供給
電炉稼働率60%程度
シェアトップでも10%
半ば
電炉稼働率70%程度
シェアトップは30%程
度
電炉稼働率70%程度
20社以上存在
トップ3社で75%強
(条鋼)
鉄スクラップ
―
―
―
子会社等を通じてスク
ラップ調達
エネルギー効率
高い
高い
電力料金
電力代への上昇圧力
が高まっている
産業用電力料金は他
国に比べて低水準
周辺国に比べて電力
料金は同等
産業用電力料金は他
国に比べて低水準
その他費用
(流通、人件費)
流通面では輸入に対
して参入障壁
―
周辺国に比べて、輸
送・人件費が安い
―
財務体質
負債比率は低い
負債比率が高い
―
―
強み
コスト面の競争力は弱
いが、流通が輸入の
参入障壁
コスト
コスト
製品の高付加価値化
と垂直統合
図 5-6
米国
高い
項目別の定性的な比較
78
供給の観点では、日本の電炉メーカーの稼働率が 60%程度であるのに対して、韓国では
稼働率は 70%程度、トルコでも稼働率 70%程度、米国ではトップ 3 社では 75%程度となっ
ており、日本の電炉メーカーの稼働率が低いことが分かる。
電力料金については、日本では上昇圧力が高まっている。一方、隣国である韓国、また
米国では、産業用電力料金は相対的に低水準である。トルコについては、周辺国と比べて
同程度であり、中立要因にとどまる。
強みについては、日本では上記でも述べたように、流通面での輸入材の参入障壁がある。
しかし、コスト競争力は低い状況である。韓国、トルコでは価格競争力がある。米国につ
いては、製品の高付加価値化の取組が進んでおり、川上、川下を取り込んだ、垂直統合的
なビジネスを志向している。
B) 鉄スクラップの調達
原材料の調達に関して、従来の流通構造を変えようとする動きもいくつか見られる。日
本の電炉メーカーの動きとしては、鉄スクラップ業者を完全子会社化することで、鉄スク
ラップの安定調達を試みようとする動きである。
具体的な例としては、伊藤製鐵所が挙げられる。2008 年に伊藤製鐵所により、鉄スクラ
ップ業者の伊藤寅松商店を完全子会社化した例である。当時、鉄スクラップ価格の高まり
を見越して、安定調達に向けて先手を打った取組であった。なお、伊藤寅松商店は都内お
よび宮城県にスクラップヤードを所有し、月間約 4 千トンの鉄スクラップを取り扱ってい
た。それは、当時の伊藤製鐵所の鉄スクラップ使用量の約 1 割に相当するものであった。
その他の取組としては、スクラップ回収・再供給のサイクル構築の取組事例がある。2013
年 8 月、東京製鉄とパナソニックが連携し、パナソニックの家電リサイクル工場からスク
ラップを回収し、鋼板に再加工した上で、その鋼板をパナソニックに提供する仕組みを構
築するとしている。この取組により、パナソニックでは、通常の鋼板の調達に比べて、原
材料調達費を最大で 3 割削減できるとしている。
この取組は、パナソニック子会社の家電リサイクル工場であるパナソニックエコテクノ
ロジーセンター(兵庫県加東市)により使用済み家電を回収し、東京製鉄の岡山工場に鉄
スクラップが引き渡され、同工場において鋼板に加工される。なお、パナソニックの家電
製品以外の鉄は使用しない取り決めであり、鉄スクラップの品質を一定に保つ試みである。
このリサイクルは当初は、月 50 トンの規模から開始し、2013 年度内を目処に、月 100
トンまで拡大するとされている。このリサイクルされた鉄は、住宅用建材に使用される予
定である。また、鉄スクラップの取引価格は両社間で決め、取引価格の見直し頻度は、基
本、半年に 1 度としている。
79
C) エネルギー効率の国際比較
次に、電炉メーカーのコストの点では、エネルギー効率も重要な要素となる。そこで、
海外との比較において、我が国のエネルギー効率の状況を見てみると図 5-7 となる。
120
115
113
114
100
100
韓国
100
日本
102
105
イタリア
105
105
中国
110
106
107
103
95
インド
ロシア
フランス
トルコ
ドイツ
米国
90
(出所)公益財団法人地球環境産業技術研究機構より作成
図 5-7
電炉のエネルギー効率比較(2010 年) 日本=100
これを見て分かるとおり、我が国は他国と比べて、エネルギー効率には世界的にも競争
力がある。具体的には、日本のエネルギー効率を 100 とした場合に、インド、ロシアはそ
れぞれ 114、113 である。ドイツ、米国においても、103、102 となっており、日本のエネ
ルギー効率の良さが見て取れる。
D) その他費用(流通、人件費)
トルコでは、流通コスト・人件費の水準が周辺国に比べて安いことが特徴である。その
ため、製品生産の際のコスト面での強みにつながっている。
日本では、流通・販売の経路を確保していることが重要であり、輸入材に対する参入障
壁となっている実態がある。つまり、日本の需要家の発注に対して、指定された時間に、
詳細に指定された加工製品を届けられる流通体制を整える必要がある。流通体制を持たな
い輸入製品では、現状では対応が難しいのが実態となっている。更に、配送直前の発注変
更に対応することも必要となるため、国内流通のためには、一定量の在庫を持つことも必
要となる。
80
E) 財務状況比較
最後に、収益構造の観点から、電炉メーカーの企業体質について、財務状況に着目して
比較する。日本と韓国の電炉メーカーの財務体質を比較したものが図 5-8 となる。
韓国
日本
15
営業利益率(%)
10
5
0
-5
-10
0
0.5
1
1.5
2
デットエクイティレシオ
2.5
3
(出所)DART、各社公表資料より作成
図 5-8
日本・韓国電炉メーカーの財務体質比較
営業利益率に関しては、日本の電炉メーカーでは、一部マイナスとなっている企業はあ
るものの、それ以外については、概ね韓国電炉メーカーとそれほど変わらない分散といえ
る。一方で、デットエクイティレシオに着目すると、日本の電炉メーカーは韓国の電炉メ
ーカーに比べて全体的に低くなっており、財務体質が安定している様子が見て取れる。
このことから、日本の電炉メーカーは韓国の電炉メーカーに比べて、営業利益率の観点
から見ると同水準だが、財務の安全性が高いといえる。
3. 鉄スクラップ需要見通し
A) 日本の鉄鋼蓄積量推計
長期的な視点として、日本における鉄鋼蓄積量について見たものが図 5-9、図 5-10 で
ある。前者の図は、1945 年から 2010 年までの累計鉄鋼蓄積量であり、1945 年頃は 100 百
万トン未満であったものが、1960 年頃から 2005 年頃まで急速に増加している。そして、
2010 年には、鉄鋼蓄積量は約 1,300 百万トンまで増加している。
ただし、2005 年から 2010 年の状況を見て分かるとおり、鉄鋼製品、鉄スクラップの輸
出増加等の影響を受け、足許の鉄鋼蓄積増分は小幅になっていることが見て取れる。なお、
81
2012 年度の老廃スクラップの発生量は、25.4 百万トンとなっている。
(百万トン)
1400
1200
1000
800
600
400
200
2010
2005
2000
1995
1990
1985
1980
1975
1970
1965
1960
1955
1950
1945
0
(出所) 鉄源協会より作成
図 5-9
50
累計鉄鋼蓄積量
(百万トン)
40
30
20
10
0
2010
2005
2000
1995
1990
1985
1980
1975
1970
1965
1960
1955
1950
1945
-10
(出所)鉄源協会より作成
図 5-10
鉄鋼蓄積増分
82
B) 鉄スクラップ回収
上記では、日本における鉄鋼蓄積量を見てきたが、そのうち、どの程度が鉄スクラップ
として回収されているかを示すものが図 5-11 である。1970 年代においては、3%前後で
推移していたものの、その後、徐々に低下し始め、2011 年頃には 2%程度となっている。
これは、住居・インフラの拡大に伴う鉄鋼蓄積量の増加により、回収率の低下へとつなが
ったとものと考えられらる。
3.5
(%)
3
2.5
2
1.5
1
0.5
2011
2006
2001
1996
1991
1986
1981
1976
1971
0
(出所) 鉄源協会より作成
図 5-11
日本の対蓄積量回収率
回収される老廃スクラップの内訳を図 5-12 に示す。回収元として最も多いのが建築部
門の 26.3%、次いで土木部門の 17.3%であり、建築と土木をあわせた建設部門で半数弱に
なる。建設部門の動向は鉄スクラップの回収に影響を与える要因となる。
今後、日本における老朽化したインフラ設備等の更新、オリンピックに向けた首都圏の
再開発等の鉄スクラップの回収を伴う開発が見込まれることから、鉄スクラップの回収率
は底堅い推移が予想される。
83
その他
12.7%
容器
4.7%
建築
26.3%
家事機
6.0%
電気機械
8.4%
産業機械
13.5%
土木
17.3%
自動車
11.1%
(出所) 鉄源協会より作成
図 5-12
老廃スクラップ部門別内訳(2012 年度)
C) 加工スクラップの発生動向
鉄スクラップについては、老廃スクラップと加工スクラップがあることは前述したが、
ここでは、加工スクラップの発生動向について見てみる。
加工スクラップの発生元の内訳を示すものが図 5-13 である。加工スクラップの 7 割近
くは、自動車部門から発生している。自動車向け鉄鋼生産の動向が加工スクラップの影響
に大きく影響を与えるといえる。
加工スクラップの発生量は、国内見掛消費との連動が確認される(図 5-14)
。日系の鉄
鋼需要家が国内生産から海外生産へと、生産シフトを今後更に進めた場合や、新興国の旺
盛な需要に対応するために輸出が増加すれば、国内見掛消費の減少につながり、国内での
加工スクラップの発生量は減少していく可能性もある。
84
電気機械
6.5%
家事機
0.3%
容器
1.3% 二次製品他
1.6%
産業機械
9.6%
建築
2.3%
土木
4.3%
自動車
69.4%
船舶
4.7%
(出所) 鉄源協会より作成
図 5-13
120
加工スクラップ発生内訳
(百万トン)
(百万トン)
12
100
10
80
8
60
6
40
4
見掛消費
加工スクラップ(右)
20
2011
2009
2007
2005
2003
2001
1999
1997
1995
1993
1991
1989
1987
1985
1983
0
1981
0
2
(出所) 鉄鋼連盟、鉄源協会より作成
図 5-14
加工スクラップと見掛消費
85
第6章 省エネルギー対策の動向について
本章では、省エネルギー対策の動向について、①電力料金の現状、②電力料金高騰に伴
う各社の取組の 2 つの観点から、調査の結果を示す。
1. 電力料金の現状
A) 電力料金の推移と国際比較
資源エネルギー庁「エネルギー白書」によれば、1994 年以降 2007 年までは、日本の電
力料金は低下基調にあった。しかしながら、それ以降、日本の電力料金は上昇に転じてい
る(図 6-1)
。
26
(円/kWh)
24
電灯
22
20
18
電灯・電力計
16
電力
14
12
94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11
(年度)
(出所)資源エネルギー庁「エネルギー白書」より作成
図 6-1
日本の電力料金推移
日本の電力料金推移として、直近では料金が上昇に転じた状況であるが、国際間での電
力料金の比較をすると、図 6-2 のような結果となる。
よく言われることであるが、日本の電力料金は、他国と比べると高い状況であり、その
中での電力料金の上昇となっている。具体的には、日本では 2009 年時点で約 16 米セント
/KWh、2011 年には約 18 米セント/KWh である。それに対して、2 番目に電気料金の高
い英国においてさえ、2009 年時点で約 13 米セント/KWh、2011 年には約 12 米セント/
86
KWh となっており、日本の電気料金が特に高いことが分かる。
2009年
2011年
20
電気料金 (米セント/kWh)
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
日本
韓国
米国
英国
(注)米国は税抜価格
(注)韓国データは 2009 年まで
(出所)IEA より作成
図 6-2
電力料金の国際比較
B) 電炉メーカーの電力使用状況
このような電力料金の推移や、国際間での電力料金の違いがある中、電力を大量に使用
する電炉メーカーは、電力コスト削減のために、電力料金が安い夜間電力を使用している。
なお、この夜間電力については、各電炉メーカーがそれぞれ電力会社と個別に契約してい
ることもあり、異なる料金体系となっている。
特殊鋼電炉
普通鋼電炉
年間総使用電力量
5,770百万kw/h
11,264百万kw/h
うち夜間分
3,485百万kw/h
9,675百万kw/h
60.4%
85.9%
夜間電力比率
(注)日本鉄鋼連盟のアンケート調査(特殊鋼電炉、普通鋼電炉 35 社)データは 2007 年度
(出所)鉄鋼連盟、日本経済新聞より作成
図 6-3
電炉メーカーの電力使用状況
87
C) 電力料金値上げによる普通鋼電炉業への影響
日本においては、足許の電力料金の上昇が、普通鋼電炉業では多大な負担増となってい
る。日本鉄鋼連盟では、電力料金の値上げにより普通鋼電炉業の経常利益の約 2.2 倍に相当
する、約 200 億円の負担増と試算している(図 6-4)
。
ただし、各地域の電力会社により、電力料金の値上げ幅は異なるため、電炉メーカーの
生産コストへの影響も地域によって異なる状況である。
電力会社
電気料金
上昇額
(円/kWh)
電気使用量
(億kWh)
負担増額
(億円)
東京電力
2.33
25
58
関西電力
2.39
27
65
九州電力
1.31
4
5
東北電力
2.21
15
33
四国電力
1.99
-
-
北海道電力
1.64
3
5
中部電力
1.39
12
16
85
181
累計
経常利益
(億円)
82
負担増額/
経常利益
2.2倍
(注1)電気料金上昇額は各電力会社が公表している「特別電力」のもの。中部電力は申請段階のもの。
(注2)電気使用量、経常利益は鉄鋼連盟調べ(いずれも 2012 年度実績)
(注3)普通鋼電炉業の範囲は、鉄鋼連盟に直接・間接に加盟している社の内、鉄鋼連盟で数値の把握が可能な社(東京電力管
内 10 社、関西電力管内8社、九州電力管内3社、東北電力管内 5 社、北海道電力管内 3 社、中部電力管内 3 社、重複を
除く合計で 25 社。四国電力管内は該当無し。)
(出所)日本鉄鋼連盟より作成
図 6-4
電力料金値上げによる普通鋼鉄鋼業への影響
2. 電力料金高騰に伴う各社の取組
A) 燃料費削減の方策
電力料金高騰に伴う取組として、燃料費削減の方策を取っているメーカーもある。
具体的な例としては、東京製鐵は、建材用H形鋼などを生産する同社九州工場(北九州市)
において、鉄鋼の加熱用燃料 2を重油から、価格の安い液化天然ガス(LNG)に切り替えて
いる。これにより、約 2 割の燃料費カットになるとしている。
2
鉄鋼の加熱用燃料とは、半製品を圧延しやすいように事前に加熱する工程で使う燃料のこと
88
上記以外にも、東京製鐵の宇都宮工場(宇都宮市)
、岡山工場(岡山県倉敷市)で LNG
への切り替えを行っている。また、田原工場(愛知県田原市)では液化石油ガス(LPG)
を使っている。
他電炉メーカーでは、東京鋼鉄の小山工場(栃木県小山市)では、加熱用燃料として LNG
を使用している。朝日工業でも埼玉工場(埼玉県神川町)で燃料転換を実施している。
B) 従来より低温で圧延
朝日工業では、鋼塊を鉄筋などに加工するときに、従来よりも低温で圧延する省エネ対
策を本格化し、コスト削減と二酸化炭素排出量の削減を同時に進める取組を行っている。
低温の鋼塊は延ばしにくく、それを補うためには、圧延能力を高める必要がある。同社
は、新たに圧延機を増設し圧延工程を拡充している。それにより、従来のセ氏 1,100 度か
ら、950 度を目標に温度を下げている。この温度引き下げに伴う燃料費節約等によりコスト
削減効果が得られるとしてる。
C) 電気炉ダストから、廃プラスチックを使い、還元鉄・亜鉛を回収
大阪製鐵では、廃プラスチック等を使った電炉ダスト処理装置を導入し、廃プラスチッ
クの中の炭素分や水素を使い、還元鉄と亜鉛を回収する仕組みを構築している。重油等の
化石燃料、鉄スクラップといった原料の価格上昇の中、資源を有効利用し、コスト削減に
つなげる取組である。
D) 医療廃棄物・産業廃棄物の環境リサイクル事業
共英製鋼では、同社の主要拠点の 1 つである山口事業所において、医療廃棄物・産業廃
棄物の環境リサイクル事業に取り組んでいる。この山口事業所にあるガス化炉は、放射性
廃棄物とポリ塩化ビフェニール(PCB)廃棄物以外の全ての産業廃棄物をリサイクルする
ことが出来る。
このリサイクルの過程で得られる鉄は、原料として電炉に投入される。また他金属は売
却され、さらに残りはガス化炉で処理される。その際に生成される高純度ガスは、圧延工
程の加熱炉の燃料として活用可能となっており、燃料費が高騰する昨今の状況の中で、生
成ガスを燃料として再利用できる効果は大きいとしている。
E) 圧延設備の増強
清水製鋼では、同社の最大の拠点である苫小牧製鉄所において、圧延設備を増強すると
同時に、省エネを可能とする設備投資を実施している。併せて、東京鉄鋼からの技術供与
により、高強度鉄筋の生産を行うとしている。
具体的には、圧延設備のモーターの出力を高めることにより、一部の鉄筋については、
加熱炉を通さずに加工が可能となる。強力なモーターを使用することになるため、電力使
89
用量は増加するものの、一方で、加熱炉で使用していた天然ガスを削減することが可能で
あり、全体的として、エネルギー利用料を削減することが可能となる取り組みである。
F)
大型電気炉による高効率化
大同特殊鋼では、主力の知多工場において、生産性を向上させるための新たな設備投資
を行ったことで、従来と比べて、エネルギー利用コストを 10%削減することが可能となっ
ている。
具体的な取組としては、150 トンの製鋼能力を有する大型電気炉を導入し、これを構造用
鋼の生産に専念させている。また、製鋼工場内の物流を良くするための設備配置があり、
それにより、次工程に入る待ち時間の短縮、余計な加熱を抑えることができる。
また、同工場では、生産能力増強とともに、特殊技術を使った戦略商品群も手がけてお
り、その品質・コスト競争力向上を図っている。
G) 取鍋のバーナーの切り替え
岸和田製鋼では、従来、取鍋に設置されている LNG バーナーを、酸素バーナーに取り替
えている。LNG などのエネルギー代が上昇していることに対応するための取組であり、バ
ーナーを切り替えることでエネルギー利用コストの圧縮を図っている。
同社の本社工場には 3 つの取鍋があるが、2013 年夏に、そのうち1つの LNG バーナー
を酸素バーナーに取り替えている。残り 2 つについても、経済産業省の補助金の認定を受
け、取り替えを行っている。
90
第7章 国内電炉メーカーの競争力強化について
本章では、ここまでの各種調査結果を踏まえ、我が国の電炉業界について SWOT 分析を
試みる。そして、そこから浮かび上がる問題点を整理し、その問題点の要因を詳細化する
とともに、その対応策を検討する。我が国の電炉業に関わる競争力強化に向けて、最後に、
今後の取るべき方向性について議論する。
1. 我が国の電炉業界の SWOT 分析
ここまでの各種調査結果を踏まえ、我が国の電炉業界について SWOT 分析を試みた結果
を図 7-1 に示す。
【エネルギーコスト】高いエネルギー効率
【原材料】スクラップは国内で調達できる
【製品】高炉とは製品の棲み分けができている
【事業戦略】技術・営業面の協力の動きが見られてい
る
【設備】需要家に応える供給体制
【事業】一部の電炉メーカーは、海外進出を行っており、
収益力を強化
【財務】良好なバランスシート
【エネルギーコスト】電気料金が上昇
【原材料】海外スクラップ市況が国内市況に与える影響大
【製品】製品の品質による差別化が難しい
【事業戦略】生産メーカは30社以上が乱立
【設備】市場拡大が見込みにくい中で、新規設備投資はで
きない
【事業】多くのメーカーは単一製品を限られた地域で販売し
ており、事業ポートフォリオの分散が出来ていない
【財務】収益は悪化
S(強み)
W(弱み)
【技術】建設工事の作業の簡略化ニーズはある
【技術】技能工・建設業従事者の減少がボトルネックとなり、
工事が進まない
【需要】長期的には鉄筋需要は減少の可能性
【需要】RC造からS造へのシフトの可能性
【需要】中国や韓国が余剰に転じて鋼材が輸入に転じる可
能性
【人材】労働人口(電炉業への就職希望者)の減少
【需要】一時的な需要回復
【需要】建材として価格・量・質のバランスが他の素材
より優位性を持ち、建設工法も確立されている
【需要】リサイクル業としては、必要とされている
【人材】経験豊富な人材だけでなく、若い人材も
T(脅威)
O(機会)
図 7-1
電炉業界の SWOT 分析の概要
まずはじめに、SWOT 分析において、強み(S)と弱み(W)
、機会(O)と脅威(T)は
表裏一体の関係にある。そこで、外部要因である機会(O)と脅威(O)についての分析結
果を述べる。その後、内部要因である強み(S)と弱み(W)について分析結果を述べる。
91
外部要因(機会・脅威)について分析
○需要について
まず、電炉業における製品(小形棒鋼・形鋼等)は、特に建築業においては建材として
欠かせない素材である。その性質、価格、生産量など様々な面から、電炉業における製品
(小形棒鋼・形鋼等)は、他の素材との代替は難しいものである。
また、電炉業における製品(小形棒鋼・形鋼等)は、鉄スクラップを主原料として生産
される製品でもある。その意味でも、鉄のリサイクル業として、電炉業は我が国において
必要な産業であることは間違いない。
そのような前提の中で、これまでの同市場では、鉄鋼需要はバブル崩壊以降減少傾向に
ある。しかし、景気の持ち直し、さらには 2020 年の東京オリンピック開催決定等により、
足許では若干であるが鉄鋼需要は回復し、減少傾向に一旦は歯止めがかかっている形とな
っている。
つまり、上記のような流れにより、今後数年間は鉄鋼需要の維持が見込まれるが、我が
国は人口減少局面に既に入っていることから、長期的には鉄鋼需要の減少が見込まれる。
また、建設構造が RC 造から S 造へシフトする動きも一部あり、鉄筋需要が抑制される
要因となっている。ただし、その構造の性質の面から、全てが置き換わるとは考えにくく、
現状においても限定的なものと言える。
また、海外からの製品輸入については、現状では国内流通の仕組み自体が大きな参入障
壁となり、輸入量は国内の需要全体に対して僅かな量にとどまっている。しかし、中国は
インフラ整備の急速な拡充を行っており、同時に鉄鋼使用量は増加している。今後、中国
の鉄鋼需給は、インフラ整備が一巡した後、余剰感が強まるとの見方もある。ただし、輸
入材の脅威は潜在的な可能性であり、現状では顕在化していない状況である。
○労働力について
最近までは就職氷河期であったこともあり、新卒採用はある程度できている。そのため、
若手の割合が増えてきている。ただし、短期的な課題としては、熟練労働者の定年退職が
進むため、いかに技術継承を実施するかが課題となっている。
また、少子高齢化が進み、人口減少局面を既に迎えている我が国においては、労働人口
も長期的に減少が予想されている。その中で、電炉業が夜間中心の操業を続けた場合、労
働市場において、電炉業に労働力が集まりにくい状況も想定される。これは長期的な電炉
業界のリスクと言える。
○技術について
昨今、上記の労働力の状況とも関連して、特に、技能工の減少、また建設業従事者など
需要家サイドの人材の減少により、工事に遅れが見られる。それらは、鉄筋の消費に関し
て、ボトルネックとなっている状況もある。加えて、人材不足等により建設工事の工期が
92
遅れることで、電炉メーカーの収益の安定性にも影響が出てくるとも考えられる。つまり、
工期の遅れが鉄筋の納期の遅れとなり、電炉メーカーにおいては、価格決定時期と製品納
品時期とが更に乖離することになるのである。納期の遅れにより製品・原材料の価格変動
リスクが増加するのである。
なお、このような納期の遅れを少しでも防止するために、ネジ節鉄筋などの新たな工法
導入により、工期の短期化を可能とするなど、様々な試みがなされている。
上記において、需要、労働力、技術の観点から、外部要因(機会・脅威)について見て
きた。需要は長期的に減少しており、足許は下げ止まっているが、将来的には減少が見込
まれる。労働力については、脅威は潜在的なものであり、顕在化するまでに時間がまだ残
されている状況であると言える。また、需要サイドの労働力不足が小棒消費のボトルネッ
クとなっているが、工法改善により緩和も期待できる状況といえる。
内部要因(強み・弱み)について分析
○エネルギーコストについて
我が国のエネルギー利用効率は、他国に比べても非常に高いものがあり、その点では優
位と言える。しかしながら、電力料金は現状でも高い上、さらに上昇圧力が高まっており、
製品生産コスト削減に係る様々な工夫や努力が求められている。
○鉄スクラップについて
電炉製品の主たる原料である鉄スクラップは、国内の需要については、国内で発生する
鉄スクラップで十分に賄える量となっている。しかしながら、鉄スクラップの輸出量の増
加により、海外市況が国内市況に与える影響も大きくなっており、国内需給が与える国内
市況への影響は相対的に弱まっている。
○製品について
我が国での製品供給は、高炉は自動車向けなど鋼板に力を入れている一方で、電炉製品
は建材が中心となり、生産する製品自体の棲み分けが出来ている状況である。しかしなが
ら、電炉の製品は、製品そのものの性質や特徴のみでは、各社が差別化することは難しい
製品である。
○設備について
現状でも、国内需要に対して保有生産能力は超過しており、稼働率が低迷している。今
後の需要面から見たとしても、長期的には今以上に需要の減少が見込まれる。そのため、
生産能力向上のみならず、生産性向上の設備投資も行い難いと考えられる。
93
また流通の面では、国内の需要家の要望に応えるための流通体制は既に構築されている。
この流通体制は、海外からの参入障壁となっていると言える。
○事業戦略について
我が国の電炉メーカーの一部が、国内の主力製品を海外生産している状況である。その
一方で、多数のメーカーが単一製品を生産し、国内の限られた地域に販売する形となって
いる。そのため、事業ポートフォリオの分散が出来ていない。
○財務について
財務面から我が国の電炉メーカーの状況をうかがうと、デットエクイティレシオは低く、
財務体質は安定している状態にある。しかし一方で、国内需要が減少する中で、増加傾向
にある電気料金・鉄スクラップ調達コスト等の原材料コストを製品価格に転嫁できていな
い状況にあるため、我が国の電炉メーカーでは、収益性が悪化している。
2. 問題点の整理
上記では、我が国の電炉業界について SWOT 分析を試み、外部要因(機会・脅威)
、内
部要因(強み・弱み)の観点から、状況を洗い出した。
以下では、我が国の電炉業界の問題点を抽出するために、時間軸、性質の観点から情報
を整理する。
A) 時間軸による整理
ここでは、我が国の電炉業界の問題点について時間軸をベースに整理する。各問題点に
ついて、現在顕在化しているもの、今後一段と悪化が見込まれるもの、現状ではまだ問題
となってはいないが潜在的に発生し得るものに分けて整理している(図 7-2)
。
まず、需要、技術、人材、原材料、エネルギー、製品、設備、事業、財務のそれぞれの
観点においていずれも、問題の大小はそれぞれであるが課題を抱えている。現状、需要の
減少は一服している。しかしながら、これまで需要が減少してきた中でも設備削減が進ま
なかったことにより、供給過剰の状態が続いている。それに加え、足許の更なる収益悪化
の主な要因として、原材料とエネルギーの価格上昇、建設の進捗状況の遅れによる納期遅
れ(技術の観点に関連)が大きな課題であり、今後一段と悪化が見込まれる。
原材料・エネルギーについては、更なるコスト削減を行っていくと同時に、その価格上
昇分を製品価格に転嫁することでの対応が必要である。
また、財務的な観点からの課題も大きい。現状では、各社収益性の悪化が目立っており、
今後の事業の継続性を考えると、収益性を改善するための取組が必要となる。
94
図 7-2
問題点の整理(時間軸)
B) 性質による整理
我が国の電炉業界における収益悪化の要因については、トレンドと循環といった 2 つの
視点に分解し、検討していくことが問題の整理に役立つと考えられる(図 7-3)
。
需要減少、電力料金上昇、
技能工・建設事業従事者の減少
トレンド
収
益
収
益
時間
収
益
サイクル
時間
スクラップ
市況下落
スクラップ
市況上昇
①振幅拡大
②下方圧力
時間
図 7-3
収益推移のイメージ
まずトレンドの観点からは、製品需要減少、電力料金の上昇、技能工・建設事業従事者
の減少などが、今後も長期的に続くと見込まれ、継続的な収益悪化の要因として挙げられ
る。
一方、サイクル要因は、鉄スクラップと製品の市況の変動により、収益に対して周期的
95
な影響を与えるものである。
3. 要因整理と対策
上記で見たトレンドの要因、サイクルの要因を軸に、もう一歩踏み込んだ要因の整理と
その対策を以下に示す。
A) 各要因の整理
○トレンド要因について:
需要減少、電力料金上昇、技能工・建築従事者の減少
これらの要因が長期的に続くことが見込まれ、電炉製品に対して価格の下方圧力が高ま
っている。国内の需要全体に対して、電炉メーカーの生産能力が超過しており、供給過多
であることが価格の低下圧力となっている。コスト上昇の転嫁が進まないのも、供給過多
が起因していると言えよう。加えて、供給する製品自体が汎用品(差別化が難しい)であ
ることもある。さらには、我が国電炉業における各メーカーの事業ポートフォリオが集中
していることから、主力事業の不振が企業業績の悪化に直接つながりやすい。
○サイクル要因について①: 価格転嫁の遅れ
電炉製品の主たる原料は鉄スクラップである。電炉メーカーは、基本的には国内で発生・
回収された鉄スクラップを利用し、製品を生産している。しかしながら、現状ではその鉄
スクラップの国内価格は、一定量を輸出しているため海外市況の影響も受け、大きく変動
するようになっている。
その一方で、現在の我が国における電炉製品は輸出入の割合が小さいため、価格は主に
国内要因で決まるものである。
このように電炉製品の原材料調達コストの変動と、製品価格の変動とが必ずしも一致し
ていない。そのため原材料調達コストの増加分を製品価格に転嫁するタイミングが遅れる
傾向となり、我が国電炉メーカーの収益性を圧迫することにつながっている。
○サイクル要因について②:受注と出荷(生産)の時間差
受注から出荷(生産)までの間に原材料と製品の市況が変動することで、収益が変化する。
特に最近では、技能工・建設事業従事者等の人材不足による鉄筋等の納期が遅れること(つ
まり、鉄スクラップの調達時期と製品販売時期との乖離の拡大)を背景に、受注と生産の
間が長くなり、市況の変化も大きくなりやすい。この場合、鉄スクラップ価格の上昇局面
では収益は減益となり、鉄スクラップの下落局面では、増益方向に働きやすくなる。
○サイクル要因について③:スクラップ調達に偏り(相場のピークから下落局面に調達)
鉄スクラップが発生した際には、鉄スクラップ事業者により回収され、加工がなされた
96
後に、電炉メーカーに持ち込まれることになる。
現状は、電炉メーカーが買値を提示し、鉄スクラップ業者が取引をするタイミングを決
めることが出来る。そのため、相場の上昇局面において、鉄スクラップ業者は在庫として
保有する傾向にあり、相場の上昇局面では約定に至り難い。鉄スクラップ価格の相場のピ
ークから下落局面かけて、鉄スクラップ業者が一斉に電炉メーカーに在庫を持ち込むよう
になる。そのため、電炉メーカーの鉄スクラップ調達は、時期のみならず価格も偏ってい
ると考えられる。
B) トレンド要因の対策
トレンド要因から発生している問題点について、需要に対する供給過多に対する対策は、
生産能力を削減することである。汎用品(差別化が難しい)
、事業ポートフォリオの集中へ
の対策としては、1つには、ネジ節鉄筋等による技術を軸とした高付加価値化が挙げられ
る。需要家側の建築工程を簡略化することや、作業時間を大幅に短縮することに役立つ製
品や工法を提案することが考えられ、これは国内メーカーとの差別化のみならず、海外メ
ーカーとの差別化にも資する取組である。
また、燃料費削減の取組もある。例えば、産業廃棄物処理等により副次的に得られるエ
ネルギーを再利用することで、電力の使用を抑えることができる。それにより、製造コス
トの削減につながり、最終的には製品の価格競争力に資することになる。
その他には、アライアンスを含めた業界の再編がある。原材料の共同調達、生産した製
品の共同販売等、複数のメーカーが共同で取り組むことにより、取扱量が大きく、また取
り扱い品目の拡大につながることから、調達コストの削減、製品売買交渉時の交渉力増大
に寄与するものと考えられる。そして、これら複数メーカーの協働をきっかけに、将来的
には、企業の合併等を進め、生産設備の集約、生産効率化の推進等も想定される。
海外への進出も 1 つの対策である。特に、現状では国内市場の限られた地域での事業で
あることから、輸出や海外に進出し事業を行うことで、海外需要の獲得が図られることに
なる。
C) サイクル要因の対策
サイクル要因から発生している問題点である、価格転嫁の遅れ、鉄スクラップ調達の偏
り(相場ピークから下落局面に調達)については、それぞれ次のような方向性が重要であ
る。
価格転嫁の遅れへの対応としては、今後の鉄スクラップ価格のボラティリティ拡大に対
して、そのリスクを飲み込めるだけの利益マージンをあらかじめ製品価格に転嫁すること
が必要となる。なお、現状では、海外製品の輸入に関して高い参入障壁(流通面)が存在
しており、輸入が少ない。このことは、海外製品による価格競争に巻き込まれないという
点で、国内電炉メーカーにとって有利な点といえる。
97
受注と出荷(生産)の時間差については、取引慣習の見直しが必要と考えられる。
鉄スクラップ調達の偏りへの対応としては、現状では電炉メーカーのみが買値を提示す
ることに問題がある。そのため、今後、鉄スクラップ業者による取引可能な売値も、取引
に先立ち提示する仕組みの導入が必要である。
4. 競争力強化に向けて
最後に、ここまでの 1.~3.の分析を踏まえ、
「①省エネによる競争力強化」、
「②製品の高
度化による競争力強化」、
「③アライアンス・統合による競争力強化」、「④海外展開による
競争力強化」
、
「⑤原材料の安定調達による競争力強化」の 5 つの観点から、我が国の電炉
業の競争力強化に向けた方向性を示す。
A) 省エネによる競争力強化 ~ コスト削減
我が国の電炉業におけるエネルギー利用効率は、世界的にも十分な競争力を持っている
と考えられる。さらに今後も、産業廃棄物の活用等の新たな工夫を加えていくことなど、
一層の効率化投資を行い燃料費の削減を進めることが、エネルギー利用の観点から競争力
強化に資する取組となる。
B) 製品の高度化による競争力強化 ~ 付加価値創造
これまで見てきたとおり、我が国の電炉業界、及び主たる需要家である建設業界では、
技能工が不足している。また、今後大きな不足が予想されている。このことを背景として、
現状でも工事の工期の遅れが生じている実態がある。
その中で、ゼネコンなどの需要家では工法の効率改善に対して確実なニーズがある。そ
こで、そのニーズに対応した各種提案を、電炉メーカーから行っていくことで、需要家に
対する付加価値創造が可能と考えられる。例えば、ネジ節鉄筋等の使用を推進することで、
ゼネコン等の工事は効率改善につながることになる。このように電炉メーカーでは、そう
した工夫を積極的に行うこともひとつの策であると考えられる。
C) アライアンス・統合による競争力強化 ~ 資産の効率化
現在の国内市場において、電炉製品は地域や製品によって、供給過多の状況となってお
り、生産コストの製品価格への転嫁が進まず、適切な価格形成が出来ていない状況となっ
ている。
こうした状況を踏まえ、我が国電炉メーカーにおいては、これまでも会社統合や共同販
売の実施など競争力強化に向けた取組みが行われてきている。今後についても、例えば、
高炉メーカーで見られたような主力メーカーによる経営統合のような手法もあれば、共同
販売会社の設立、技術提供等の業務提携の形成からスタートし、会社統合等に繋げていく
98
というような手法などの対応もあると考えられる。今後、電炉メーカー各社が、こうした
手法を用い、競争力強化に向けた積極的な取組を行うことが期待される。
また、製造にかかるエネルギーコストの問題については、電炉業界に限らず、我が国の
電力多消費型産業にとって、国際水準に比して高い電力料金は、今後中長期的に拡大が想
定される海外との競争において、大きな足枷となってしまう。そのため、電力の安定供給
とともに、国際的に競争力がある水準の電力料金であることが必要であり、国や電力会社
による電力料金引き下げに向けた努力が求められる。
現時点の電気料金体系における採算性から、電力料金の高い平日の昼間を避け、電力料
金が低い夜間を中心に生産を行っており、上工程の生産能力は余っている状況である。こ
のことから、競争力のある設備に生産を集約し、24 時間稼動を行い、稼働率を上げること
で、競争力を向上させることが期待される。そして、そのためには 24 時間稼動でも採算性
が合う電力料金体系に変更することが求められる。現在、電力料金の自由化により、柔軟
な料金体系の設定が可能であり、それに向けての工夫や努力も期待される。
上記の上工程の集約に伴い、上工程を持たない、または半製品の生産能力が弱い工場は、
近隣の工場から半製品を調達するという仕組みも必要となろう。その際、製造する製品を
絞るなど、適切な生産体制の再構築を行うことによる競争力強化も可能となろう。
加えて、昼間に設備の稼動を止めた場合、再稼動の際に電気炉を再加熱する必要がある
など、エネルギー効率が悪くなる。電気炉の 24 時間稼動が可能となれば、エネルギー効率
の観点からも改善が見込まれる。
D) 海外展開による競争力強化 ~ 事業ポートフォリオの分散
ひとつの方向性として、海外需要の取り込みを行い、事業ポートフォリオの分散を行う
ことも、競争力強化につながるものと考えられる。それにより、収益性の強化だけではな
く、収益の安定化も図られると期待される。
リスクを抑制するためにも、海外需要を取り込む第一歩として輸出からはじめ、一定の
需要が確認できた後に、現地生産を開始することが考えられる。需要家であるゼネコンの
海外進出に対応し、工期短縮・コスト削減となる競争力を持つソリューションを現地にお
いて提供することで、ゼネコンとともに海外需要を補足する方針も考えられる。
E) 製品販売及び原材料調達における競争力強化 ~ 収益の安定化
原材料調達コストの変動分を製品価格に転嫁するタイムラグが生じる傾向があり、電炉
メーカーの収益性変動につながっている。そのため、電炉メーカーの収益性を安定化させ
るためには、原料(鉄スクラップ)価格の変動を見越した上での適切な受注価格の設定を
含む契約形態に変更し、マージンを確保する必要がある。
一方で、鉄スクラップ業者に対するバーゲニングパワーの強化が必要となろう。現状で
は、鉄スクラップの流通において、電炉メーカーが価格提示をしているが、鉄スクラップ
99
業者が、取引のタイミングを決めることができる。更に、買い手である電炉メーカーが多
数存在するため、鉄スクラップ業者は取引先の選択肢を持つこととなる。このような観点
から、現状は鉄スクラップ業者が電炉メーカーに対して、バーゲニングパワーを持ってい
るといえよう。
電炉メーカーによる買値の提示のみの現状では、売値が提示されず、市場の価格発見機
能が乏しく、市況は需給に大きく影響されるため、歪んだ価格形成になりやすい。売値と
買値の両方が提示されることが、鉄スクラップ市場の公正・公平な価格形成に必要と考え
られ、電炉メーカーのバーゲニングパワー強化にもつながるものと考えられる。例えば、
鉄スクラップ事業者による売値の提示もあわせて行われる仕組みを構築することの他に、
電炉メーカー自らが出来る取組として、必要な鉄スクラップの一部を、子会社化した鉄ス
クラップ業者からの調達や、鉄スクラップ取引の長期契約により調達することで、鉄スク
ラップ業者が売値を提示することに近い効果が得られるだろう。
以上
100
参考資料
1. 我が国の電炉業の競争力強化に向けた方向性に係る参考事例
A) 「省エネによる競争力強化」に係る参考事例(再掲含む)
燃料費削減の方策
現状では、電炉業において電力使用量を大幅に減らすことは難しく、電力以外でのコス
ト削減が収益改善のカギとなっている。そのため具体的な例として、東京製鉄は、建材用 H
形鋼などを生産する同社九州工場(北九州市)において、鉄鋼の加熱用燃料 を重油から、
価格の安い液化天然ガス(LNG)に切り替えている。これにより、約 2 割の燃料費カット
になるとしている。
上記以外にも、東京製鉄の宇都宮工場(宇都宮市)、岡山工場(岡山県倉敷市)で LNG
への切り替えを行っている。また、田原工場(愛知県田原市)では液化石油ガス(LPG)
を使っている。
他電炉メーカーでは、東京鋼鉄の小山工場(栃木県小山市)では、加熱用燃料として LNG
を使用している。朝日工業でも埼玉工場(埼玉県神川町)で燃料転換を実施している。
従来より低温で圧延
朝日工業では、鋼塊を鉄筋などに加工するときに、従来よりも低温で圧延する省エネ対
策を本格化し、コスト削減と二酸化炭素排出量の削減を同時に進める取組をしている。
低温の鋼塊は延ばしにくく、それを補うために、圧延能力を高める必要がある。そのた
め同社は、新たに圧延機を増設し圧延工程を拡充している。それにより、従来のセ氏 1,100
度から、950 度を目標に温度を下げている。この温度引き下げによる燃料費の節約等により、
コスト削減効果が想定している。
電気炉ダストから、廃プラスチックを使い、還元鉄・亜鉛を回収
大阪製鐵では、廃プラスチック等を使った電炉ダスト処理装置を導入し、廃プラスチッ
クの中の炭素分や水素を使い、還元鉄と亜鉛を回収する仕組みを構築している。重油等の
化石燃料、鉄スクラップといった原料の価格上昇の中、資源を有効利用し、コスト削減に
つなげる取組である。
医療廃棄物・産業廃棄物の環境リサイクル事業
共英製鋼では、同社の主要拠点の 1 つである山口事業所において、医療廃棄物・産業廃
棄物の環境リサイクル事業に取り組んでいる。この山口事業所にあるガス化炉では、放射
性廃棄物とポリ塩化ビフェニール(PCB)廃棄物以外の全ての産業廃棄物をリサイクルす
101
ることが出来る。
このリサイクルの過程で得られる鉄は、原料として電炉に投入される。また他金属は売
却され、さらに残りはガス化炉で処理される。その際に生成される高純度ガスは、圧延工
程の加熱炉の燃料として活用可能となっており、燃料費が高騰する昨今の状況の中で、生
成ガスを燃料として再利用できる効果は大きいとしている。
圧延設備の増強
清水製鋼では、同社の最大の拠点である苫小牧製鉄所において、圧延設備を増強すると
同時に、省エネを可能とする設備投資を実施している。併せて、東京鉄鋼からの技術供与
により、高強度鉄筋の生産を行うとしている。
具体的には、圧延設備のモーターの出力を高めることにより、一部の鉄筋については、
加熱炉を通さずに加工が可能となる。強力なモーターを使用することになるため、電力使
用量は増加するものの、一方で、加熱炉で使用していた天然ガスを削減することが可能で
あり、全体的として、エネルギー利用料を削減することが可能となる取り組みである。
大型電気炉による高効率化
大同特殊鋼では、主力の知多工場において、生産性を向上させるための新たな設備投資
を行っている。この設備投資により、従来と比べて、エネルギー利用コストを 10%削減す
ることが可能となっている。
具体的な取組としては、150 トンの製鋼能力を有する大型電気炉を導入し、これを構造用
鋼の生産に専念させている。また、製鋼工場内の物流を良くするための設備配置があり、
それにより、次工程に入る待ち時間の短縮、余計な加熱を抑えることができる。
また、同工場では、生産能力増強とともに、特殊技術を使った戦略商品群も手がけてお
り、その品質・コスト競争力向上を図っている。
取鍋のバーナーの切り替え
岸和田製鋼では、取鍋に設置されている LNG バーナーを、酸素バーナーに取り替えてい
る。LNG などのエネルギー代が上昇していることに対応するための取組であり、バーナー
を切り替えることでエネルギー利用コストの圧縮を図っている。
同社の本社工場には 3 つの取鍋があるが、2013 年夏に、そのうち1つの LNG バーナー
を酸素バーナーに取り替えている。残り 2 つについても、経済産業省の補助金の認定を受
け、取り替えを行っている。
102
B) 「アライアンス・統合による競争力強化」に係る参考事例
技術供与の事例
東京鉄鋼では、高張力ねじふし棒鋼「ネジテツコン」の生産体制確立に係る技術につい
て、拓南製鉄(沖縄)
、新関西製鉄(関西)
、清水鉄鋼(北海道)に技術供与を行っている。
例えば、東京鉄鋼は、新関西製鉄との間で、高張力ねじふし棒鋼「ネジテツコン」の製
造委託(OEM)契約を締結しており、新関西製鉄星田工場で 2014 年 6 月からの生産の開
始を予定している。これにより、東京鉄鋼では、地区需要家への納期対応力の向上、サー
ビス機能充実、デリバリーコスト低減などが可能となるとしている。
営業協力の事例 1
東京鉄鋼と伊藤製鐵所は、鉄筋用小棒の共同販売会社の東北デーバー・スチールを 2007
年 4 月に設立している。東北 6 県を中心に、鉄筋用小棒を共同販売している。需要が減少
する中で、需要に見合う生産を徹底し、販売価格安定に注力している。
営業協力の事例 2
関東地区の細物主力電炉メーカーである三興製鋼と向山工場は、両社の販売部門を独立
させ、鉄筋コンクリート用棒鋼の共同販売会社であるウインファースト株式会社を平成 18
年 6 月に設立している。同社では、約 61 万トン(2012 年度)の異形棒鋼の販売実績を上
げており、最大需要地域である関東地区においてシェア 20%を占めるまでに至っている。
C) 「海外展開による競争力強化」に係る参考事例(再掲含む)
共英製鋼の海外展開事例
共英製鋼では、ベトナムの北部、および南部の 2 拠点において海外戦略を展開している。
その 2 つの拠点とは、1994 年に設立したビナ・キョウエイ・スチール社(ベトナムの南部)
と、2012 年に設立したキョウエイ・スチール・ベトナム社(KSVC 社)
(ベトナムの北部)
である。
具体的な取り組みとしては、ベトナム南部では、ビナ・キョウエイ・スチール社におい
て 1996 年には鉄筋棒鋼の生産販売(生産能力年約 24 万トン)を開始し、2010 年には生産
能力を年産 45 万トンに拡大している。その他にも、2011 年には、高付加価値製品である
「ネジ節鉄筋」の生産・販売開始、製鋼・圧延一貫ラインの増設の許可をベトナム政府よ
り取得等、様々な活動を行っている。さらに今後、2014 年には、新ラインの稼動により生
産能力が年産約 100 万トンに拡大する見込みである。
ベトナム北部では、2012 年にキョウエイ・スチール・ベトナム社を設立し、地元メーカ
ーから圧延ラインを買収、また新たな製鋼・圧延一貫ラインの建設を計画している。
103
大和工業の海外展開事例
大和工業では、1987 年に米国において、米国ニューコア社との合併によるニューコア・
ヤマト・スチールカンパニーを設立したのを皮切りに、アジアでは、1992 年にタイにおい
て、ザ・サイアム・セメント社、三井物産、タイ国三井物産、住友商事との合併によるサ
イアム・ヤマト・スチールカンパニーリミテッドを設立している。
その後も、2002 年に韓国でヤマト・コリア・スチールコーポレーションを設立、2009
年にはバーレーンにおいて、ユナイテド・スチールカンパニーを設立している。
このように、大和工業では、米国、アジアではタイと韓国、中東ではバーレーンにおい
て、事業を展開している。
D) 「原材料の安定調達による競争力強化」に係る参考事例(再掲含む)
原材料調達に係る従来の流通構造を変えようとする動きの事例
日本の電炉メーカーの動きとしては、鉄スクラップ業者を完全子会社化することで、鉄
スクラップの安定調達を試みようとする動きがある。
具体的な例としては、伊藤製鐵所が挙げられる。2008 年に伊藤製鐵所により、鉄スクラ
ップ業者の伊藤寅松商店を完全子会社化した例である。当時、鉄スクラップ価格の高まり
を見越して、安定調達に向けて先手を打った取組であった。なお、伊藤寅松商店は都内お
よび宮城県にスクラップヤードを所有し、月間約 4 千トンの鉄スクラップを取り扱ってい
たが、それは、当時の伊藤製鐵所の鉄スクラップ使用量の約 1 割に相当するものであった。
スクラップ回収・再供給のサイクル構築の取組事例
2013 年 8 月、東京製鉄とパナソニックが連携し、パナソニックの家電リサイクル工場か
らスクラップを回収し、鋼板に再加工した上で、その鋼板をパナソニックに提供する仕組
みを構築するとしている。この取組により、パナソニックでは、通常の鋼板の調達に比べ
て、原材料調達費を最大で 3 割削減できるとしている。
この取組は、パナソニック子会社の家電リサイクル工場であるパナソニックエコテクノ
ロジーセンター(兵庫県加東市)により使用済み家電を回収し、東京製鉄の岡山工場に鉄
スクラップが引き渡され、同工場において鋼板に加工される。なお、パナソニックの家電
製品以外の鉄は使用しない取り決めであり、鉄スクラップの品質を一定に保つ試みである。
このリサイクルは当初は、月 50 トンの規模から開始し、2013 年度内を目処に、月 100
トンまで拡大するとされている。このリサイクルされた鉄は、住宅用建材に使用される予
定である。また、鉄スクラップの取引価格は両社間で決め、取引価格の見直し頻度は、基
本、半年に 1 度としている。
104
バーゲニングパワーの強化:石油精製各社の取組み
我が国石油産業は燃費改善等により、構造的な供給過剰となっている。そのため、売り
手である石油元売各社に対して、買い手であるガソリンスタンド等のバイイングパワーが
強い。石油製品の取引に用いられる指標価格は、買い手の影響が強い。売り手である石油
元売各社は価格決定への影響力を高めるために、設備削減に取り組むと共に、報道によれ
ば 2014 年 4 月以降、石油元売各社自らが販売価格(売値)を提示する動きが見られる。
105
2. 中小企業の事業承継に係る課題等について
我が国の電炉業における直近の自主廃業、事業譲渡等
中長期的には主力の建設用鋼材の需要減少が見込まれる中で、我が国電炉メーカーは現
在 30 数社が事業活動を行っており、当該市場が過当競争に陥っていることは長年の課題と
して認識されている。また、主原料である鉄スクラップ価格の調達コストの上昇、電力料
金の上昇に伴う生産コスト増加等が進む中で、各電炉メーカーの事業環境も中長期的には
見通しを立てにくい状況になっている。
このような中で、2014 年 1 月~3 月の 3 ヶ月の間だけでも、3 社が自主廃業・事業譲渡
等を公表するなど、直近では、我が国の電炉業界に新たな動きも見え始めている。
例えば、道内向けに鉄筋などの棒鋼を製造している新北海鋼業は、道内の需要が大幅に
落ち込んだ上に、原料価格高騰・電力料金上昇により収益悪化に拍車がかかったことから、
2014 年 3 月末で廃業する見通しである。また、特徴ある異形平鋼を手掛けている大三製鋼
は、2014 年 2 月末で平鋼の製造・販売事業から撤退すると発表した。さらには、平鋼専業
電炉メーカーである中央圧延は、2014 年 3 月末で操業を休止し、平鋼事業から撤退するこ
とを決めている。生産設備の一部を、平鋼最大手である王子製鉄に譲渡する方向で検討し
ている。
上記のように直近で、我が国の電炉業界で自主廃業、事業譲渡等の動きが見られる。
ちなみに、以下では、参考までに我が国の中小企業の事業承継に係る課題等についてふ
れ、我が国での自主廃業、事業譲渡等を考える際の参考とする。
事業継承の形態
一般的には、中小企業の事業継承の形態として主に 3 つの形態が考えられる。
「①親族へ
の継承」
、
「②従業員等への継承」
、
「③第 3 者への事業譲渡」の 3 つである。ただし、第 3
者への事業譲渡は、最も発生頻度の低い事業継承の形態となっている。中小企業経営者へ
のアンケート調査結果 3でも、事業譲渡での事業継承を望むという回答は 16%程度、廃業は
2%未満にとどまっている 4。その背景には、事業譲渡による事業継承への心理的抵抗が理
由の 1 つとも言われている。
しかしながら、同アンケート結果からは、事業譲渡での事業継承に約 6 割の経営者が関
心は持っており、役員・従業員の雇用確保・処遇、会社の更なる発展等が主たる関心事と
なっている実態がある。
3 独立行政法人 中小企業基盤整備機「事業承継に係る親族外承継に関する研究」
(2008 年 3 月)
4 廃業は従業員の雇用や販売先・仕入先との取引の面で他者に重大な影響を与えるとともに、資産売却や税務面でのデ
メリットも生じる。
106
中小企業において事業譲渡での事業継承が進まない理由
中小企業において事業譲渡での事業継承が進まない理由 5としては、事業譲渡を検討する
入り口として、
「手法や手続きの理解や知識が乏しい」
(約 8 割)
、
「相手先企業の情報が少
ない。分からない」
(約 7 割)
、
「信頼できる相談相手や仲介機関がない」
(約 6 割)が主た
る要因となっており、親族や従業員への事業継承と比べて、第 3 者への事業譲渡の仕組み
の知識不足等が足かせとなっている様子がうかがえる。
「買い手企業を見つけることが
また、実際に事業譲渡を検討の過程での課題 6としては、
難しい」
、
「適正な売却価格の算定が難しい」
、
「役員・従業員から理解を得にくい」が主た
る課題となっている。さらに、実際に親族以外に事業を引き継ぐ際に、経営者の約 6 割程
度が課題を感じる中で、具体的には「借入金の個人保証の引継ぎが困難」
、
「後継者による
自社株式の買取が困難」
、
「後継者による事業用資産の買取が困難」等が主たる懸念事項と
なっている。
また一方で、中小企業において廃業を検討する経営者は、小規模事業者、中規模事業者
それぞれで、14%程度、1%程度のみにとどまっており、特に小規模事業者で廃業を検討す
る理由としては、半数以上において後継者がいないことを挙げている。それ以外の理由と
して、4 割が事業に将来性がない等を挙げている。
以上で見たように、中小企業の事業継承の形態としては、
「①親族への継承」
、
「②従業員
等への継承」
、
「③第 3 者への事業譲渡」の 3 つがあるが、
「③第 3 者への事業譲渡」の発生
頻度は少ないのが実態である。しかしながら、事業譲渡は事業承継対策となる他にも、例
えば上場企業等経営資源の豊富な企業のグループに加わることになれば、販路の拡大・円
滑な資金調達など、弱点を補うことができるメリットもある。その他にも、従業員の雇用
や取引先の仕事を確保し、また創業者の利潤を実現する有力な方法としてメリットもある。
そのため、中小企業経営者が必ずしも第 3 者への事業譲渡に無関心ではない実態を背景
に、具体的に第 3 者への事業譲渡を検討することの足かせとなっている各種事項の解消に
向けて、行政等のサポートも必要となってくるものと考えられる。
以下では、事業承継等の手続きについて紹介する。
【参考】事業継承の手続き概要の紹介
事業承継を円滑に進めるためには計画的に準備をすることが重要となる。事業承継の手
続きのステップとしては、大きく分けて「①事業承継計画の立案」と「②具体的対策の実
行」がある。
事業継承計画の立案
5 独立行政法人 中小企業基盤整備機「事業承継に係る親族外承継に関する研究」
(2008 年 3 月)
6 中小企業庁「中小企業の事業継承に関するアンケート調査」
(2012 年 11 月)
107
事業継承計画の立案に際しては、現状の把握、承継の方法・後継者の確定、事業承継計
画の作成といった流れに沿って進んでいくことになる。
<図:事業承継計画の立案の流れ>
事業承継計画の立案
現状の把握
承継の方法・
後継者の確定
①会社の現状(ヒト・モノ・カネ)
②経営者自身の資産等の現状
③後継者候補のリストアップ
事業承継計画
の作成
中長期の経営計画に、事業承
継の時期、具体的な対策を盛り
込んだもの
(出所)事業承継協議会 事業承継ガイドライン検討委員会
「事業承継ガイドライン(平成 18 年 6 月)
」より作成
<現状の把握>
まず、会社の現状把握を行うことが必要となる。具体的には、「①会社の現状(ヒト・モ
ノ・カネ)の把握」
、
「②経営者自身の資産等の現状把握」、
「③後継者候補のリストアップ」
を行うことが必要である。
会社の現状としては、会社の資産・負債の状況、損益、キャッシュフロー等の現状と将
来見込、会社の競争力の現状と将来見込、従業員の数、年齢等の現状等を正確に把握する
ことが求められる。
経営者自身の資産等としては、保有自社株式の現状、経営者名義の土地・建物の現状、
経営者の負債・個人保証の現状等を把握することが求められる。
後継者候補については、親族内に後継者候補がいるか、社内や取引先に後継者候補がい
るか、後継者候補の能力・適正はどうか、後継者候補の年齢・経歴・会社経営に対する意
欲はどうか、を確認する必要がある。
なお、この確認作業の時点で、相続時に予想される状況として、次のような点もあらか
じめ確認しておくことが大切である。法定相続人及び相互の人間関係・株式保有状況の確
認、相続財産の特定・相続税額の試算・納税方法の検討、従業員、取引先等の反応等であ
る。
<承継の方法・後継者の確定、および事業承継計画の作成>
上記を通じて、事業承継の方法、及び後継者を確定する。そして次に、具体的な事業承
108
継計画を作成することになる。その事業承継計画とは、中長期の経営計画に、事業承継の
時期、下記の観点での具体的な対策を盛り込んだ計画となる。
1.事業承継の概要 後継者の確定、承継方法、承継時期 等
2.事業の中長期目標 経営理念、事業の方向性、将来の数値目標 等
3.事業承継を円滑に行うための対策・実施時期、関係者の理解、後継者教育、株式・
財産の配分 等
参考までに、事業承継計画作成のための整理の一例を下図に示す。
<図:事業承継計画作成のための整理の一例>
(出所)中小企業庁「事業承継ガイドライン 20 問 20 答(平成 18 年 10 月)
」
109
具体的対策の実行
事業継承計画の立案後、具体的に対策を実行する際には、事業承継の方法に応じて留意
点等が異なる。具体的な事業承継の方法としては、
「①親族内承継」、
「②外部から雇い入れ
従業員への承継」
、
「③M&A」の 3 つがある。
<図:具体的な事業承継の方法(3 パターン)>
具体的対策の実行
親族内承継
or
外部から雇い
入れ従業員
への承継
or
M&A
(出所)事業承継協議会 事業承継ガイドライン検討委員会
「事業承継ガイドライン(平成 18 年 6 月)
」より作成
<親族内承継>
第一に、親族内に適切な後継者がいるかが重要な留意点となる。親族内承継を進めるに
際しては、会社の資産、経営状況等を明確化した上で、後継者候補と意思疎通を図ること
が重要な点となる。また、その他の点としては、適切な後継者教育を行うことも不可欠な
取組である。
第二に、複数の相続人がいる場合、相続紛争が発生する恐れもある。そのため、相続紛
争を回避しつつ、経営権を後継者に集中するかが留意点となる。その際には、「①贈与・遺
贈の活用」、
「②会社法の活用」を検討することも大切となる。
贈与・遺贈の活用とは、後継者以外の相続人の遺留分 7問題を解消するためのものであり、
「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(以下、
「経営承継円滑化法」
)の「遺
留分に関する民法の特例」
(以下、民法特例)を活用することを指す。この民法特例を活用
すると、後継者を含めた現経営者の推定相続人全員の合意の上で、現経営者から後継者に
贈与等された自社株式について、①遺留分算定基礎財産から除外(除外合意)、または②遺
留分算定基礎財産に算入する価額を合意時の時価に固定(固定合意)することができる。
これを活用し、①の除外合意をすると、後継者が現経営者から贈与等によって取得した
自社株式について、他の相続人は遺留分の主張ができなくなる。そのため、相続に伴って
7
本来、自分の財産は、誰に、どのようにあげるのも自由なはずであるが、民法では、遺族の生活の安定
や最低限度の相続人間の平等を確保するために、相続人(兄弟姉妹及びその子を除く。)に最低限の相続
の権利を保障している。これを遺留分という。
110
自社株式が分散することを防止できる。②の固定合意をすると、自社株式の価額が上昇し
ても遺留分の額に影響しないことから、後継者は相続時に想定外の遺留分の主張を受ける
ことがなくなる。なお、上記の詳細については、中小企業庁事業環境部財務課が相談・申
請等の窓口となっている。
また、会社法の活用とは、株式を相続した者に対して、会社から株式の売渡請求をでき
る旨定款を変更することである。なお、会社が株式を買い取るための資金については事業
承継に係る金融支援措置があり、会社、後継者である個人事業主・代表者個人が資金を必
要とする場合には、日本政策金融公庫、沖縄振興開発金融公庫が低利融資制度により支援
している。さらに、後継者以外の相続人に対して、議決権制限株式を取得させる旨遺言す
ることも留意点である。
第三には、事業承継に伴う贈与税・相続税を支払えるかが留意点となる。事業承継を検
討するものが、経営承継円滑化法の認定を受けた場合には贈与税・相続税の納税が猶予さ
れる。具体的には、相続税の納税猶予としては、現経営者の相続または遺贈により、その
親族である後継者が取得した自社株式の 80%部分の相続税の納税が猶予される。また、贈
与税の納税猶予としては、現経営者からの贈与により、その親族である後継者が取得した
自社株式に対応する贈与税の納税が猶予される。なお、この事業承継税制の前提となる経
済産業大臣の認定等については、各地域の経済産業局で相談・申請等が可能である。
<図:納税猶予制度の前提となる認定件数>
200
150
(件数)
153
133
100
67
50
63
73
64
68
29
0
平成21年度
平成22年度
平成23年度
相続税
贈与税
平成24年度
(出所)中小企業庁調べ
第四として、事業の後継者には、会社債務について、現経営者と同様に、個人保証や担
保提供を求められることがある。そのため、現経営者は事業承継に先立ち、可能な限り会
社債務の圧縮を図り、後継者の負担を軽減することが大切となる。なお、個人保証や担保
提供について疑問を感じた場合、弁護士等の専門家に相談することが有益である。
111
<外部から雇い入れ従業員への承継>
従業員等への承継については、会社の内外から広く候補者を求めることができるといっ
たメリットがあり、また特に社内で長期間勤務している従業員に承継する場合は、経営の
一体性を保ちやすいといったメリットがある。しかし一方で、後継者となる従業員等に、
現経営者が所有する株式等を買い取る資力があるかが課題となる。
この課題に対しては、上述の経営承継円滑化法の認定を受けた会社の代表者個人(後継
者)が、自社株式や事業用資産を買い取る場合、日本政策金融公庫・沖縄振興開発金融公
庫の低利融資制度を利用することが可能である。また、会社または個人事業主については、
信用保証協会の通常の保証枠とは別枠で保証が受けられる。
<M&A>
身近に後継者に適任な者がいない場合、広く候補者を外部に求めることにより、会社を
存続できるというメリットがある。また、現経営者が株式等の売却の利益を得ることがで
きることも大きなメリットである。しかし一方で、希望の条件(従業員の雇用、売却額等)
を満たす買い手を見つけることができるか、会社を購入しようとする第三者において現経
営者が所有する株式等を買い取る資力があるか、が課題として挙げられる。
希望の条件(従業員の雇用、売却額等)を満たす買い手を見つけることについては、全
国 47 都道府県に設置された「事業引継ぎ支援センター」において、売却の相手探し、交渉
の進め方、手続等について無料支援がなされている。
会社を購入しようとする第三者が現経営者が所有する株式等を買い取る資力を有してい
るかについては、上述の経営承継円滑化法の認定を受けた会社の代表者個人(後継者)が、
自社株式や事業用資産を買い取る場合、日本政策金融公庫・沖縄振興開発金融公庫の低利
融資制度を利用することが可能である。また、会社または個人事業主については、信用保
証協会の通常の保証枠とは別枠で保証が受けられる。
なお、上記で記載した事業承継税制(相続税・贈与税の軽減)は、現状では、後継者を
現経営者の親族に限定した場合のものであるが、平成 25 年度税制改正により、平成 27 年 1
月より親族外承継も対象となるようになる。現経営者から会社の株式を承継する際に、相
続税・贈与税の軽減(相続:80%分、贈与:100%分)が受けられるようになる。
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3. 電炉業の競争力強化に関する検討委員会委員一覧
電炉業の競争力強化に関する検討委員会
委員一覧
(座長)
栗川 勝俊
(委員)
宇佐見 達郎
庄野 俊治
高島 秀一郎
田矢 徹司
中山
松本
松本
龍太郎
好
裕司
宮澤
向山
渡辺
正明
敦
啓一
普通鋼電炉工業会 会長(合同製鐵株式会社 代表取締役社長)
株式会社メタルワン建材 代表取締役副社長
JFE条鋼株式会社 取締役専務執行役員
共英製鋼株式会社 代表取締役会長
株式会社経営共創基盤 パートナー 取締役
マネージングディレクター
西村あさひ法律事務所 弁護士
東京鐵鋼株式会社 取締役上席執行役員
野村證券株式会社 エクイティ・リサーチ部 メタル&マイ
ニング/エネルギー・チーム・ヘッド
三井物産スチール株式会社 常務執行役員(総合建材部門長)
株式会社向山工場 常務取締役
一般社団法人鉄リサイクル工業会 専務理事
(オブザーバー)
岡
弘
JFEスチール株式会社 専務執行役員
竹内 豊
新日鐵住金株式会社 執行役員
中島 正弘
普通鋼電炉工業会 事務局長
(五十音順、敬称略)
以上
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