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世界経済の構造変化と三つの謎

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世界経済の構造変化と三つの謎
ARCリ ポ ー ト
( R S ‐ 8 3 1)
禁複製・社内限り
世界経済の構造変化と三つの謎
経常収支不均衡、インフレ抑制、低金利
2005 年 の 世 界 経 済 を み る と 、経 済 の 構 造 変 化 を 物
語 る よ う な 三 つ の 謎 が 目 に つ く 。① 史 上 最 悪 の 経 常
赤字を記録するなかでのドル高の進展、②原油価格
上昇にもかかわらず抑制されるインフレ、③米国の
度重なる短期金利の引上げにもかかわらず安定す
る長期金利である。
この謎の背景にある市場のグローバル化と今後
の不安要因について考えた。
2 0 0 5 年 12 月
東 京 都 千 代 田 区 内 幸 町 1-1-1( 帝 国 ホ テ ル タ ワ ー )
電 話 (03)3507-2406 ㈹
このリポートの担 当
取締役 主席研究員 松 尾
隆
お問 い合 わせ先
03-3507-2406(代 )
E-mail [email protected]
注 :このリポートはARC会 員 会 社 および旭 化 成 グループ・分 社 ・持 株 会 社 を対 象 としております。内 容 の無 断 転 載 を禁 じます。
<本リポートのキーワード>
構造変化、経常収支不均衡、インフレ、低金利、グローバル化、需要不足、
原油価格高騰、ポジティブ・サプライショック、景気循環、資産価格
(注)本 リ ポ ー ト は 、 A R C ホ ー ム ペ ー ジ ( http://www.asahi-kasei.co.jp/
arc/index.html) か ら 検 索 で き ま す 。
このリポートの担当
取締役
主席研究員
お問い合わせ先
E-mail
A R C リ ホ ゚ ー ト (R S - 8 3 1 )2 0 0 5 年 12 月
松
尾
隆
03-3507-2406( 代 )
[email protected]
まとめ
◆
マイナスのインパクトにもかかわらず順調な世界経済と三つの謎
2005 年 の 世 界 経 済 は 、 原 油 価 格 高 騰 、 米 国 の 短 期 金 利 引 上 げ と い っ た マ イ ナ ス
のインパクトにもかかわらず、順調な拡大が続いている。そうしたなかで、世
界経済の構造変化を物語るような三つの謎が生じている。①経常赤字拡大下の
ドル高、②原油高下での物価安定、③世界的な長期金利の安定である。
◆
経常収支不均衡より世界的需要不足が問題
米国の経常赤字が史上最悪を記録するなかドル高が続いている。米国からは、
米国の経常赤字は世界的な需要不足から、余剰となった資金が米国に流入した
結果であり、メイド・イン・アメリカではないといった主張さえ聞かれる。確
かに、金融市場のグローバル化が進展し、市場が厚みを増した現在、程度の問
題は依然として残るものの、経常収支不均衡は世界経済の安定の条件ではなく
なってきたようだ。
◆
原油価格高騰にもかかわらず沈静化する消費者物価
原 油 価 格 は 、 過 去 20 年 間 平 均 の 20 ド ル /バ レ ル か ら み る と 、 3 倍 の 水 準 に 上 昇
している。それにもかかわらず先進国の消費者物価は2%程度の安定を保って
いる。旧ソ連・東欧、中国などの市場経済への参加、規制緩和による競争環境
の 整 備 、 IT 技 術 革 新 な ど ポ ジ テ ィ ブ ・ サ プ ラ イ シ ョ ッ ク と 金 融 政 策 へ の 信 頼 に
より、インフレ期待が封じ込められている結果だ。デフレ圧力が強い状況が続
いている。
◆
短期金利引上げにもかかわらず安定している長期金利
世界的な需要不足、インフレ抑制を受け長期金利が低位で安定的に推移してい
る 。米 国 で は 、04 年 6 月 か ら 短 期 金 利 を 12 回 に わ た っ て 引 き 上 げ て い る に も か
かわらず、長期金利はほとんど変動していない。しかも、名目成長率を大きく
下 回 っ て 4% 台 と な っ て い る 。 こ れ は 1960 年 代 以 来 の 現 象 で あ る 。 こ う し た な
か企業部門が貯蓄超過に転じ、代わって財政部門の資金需要が高まっている。
◆
構造変化が物語る金融システムの不安定化
三つの謎が物語るのは、金融、財・サービス両方の市場におけるグローバル化
の進展と米国の影響力の拡大である。今後、景気循環の主役が金融に移り不安
定化するだろう。
A R C リ ホ ゚ ー ト (R S - 8 3 1 )2 0 0 5 年 12 月
目
次
は じ め に : 世 界 経 済 3 つ の 謎 、 経 常 収 支 不 均 衡 、 イ ン フ レ 、 長 期 金 利 ··········· 1
1 . 経 常 収 支 赤 字 拡 大 下 の ド ル 高 : 世 界 的 な 貯 蓄 過 剰 ? ······················· 2
1-1
拡 大 す る 米 国 の 経 常 赤 字 ········································· 2
1-2
貯 蓄 過 剰 論 : 投 資 の 停 滞 と 新 興 国 の 貯 蓄 増 加 ······················· 3
1-3
貯 蓄 過 剰 論 が 意 味 す る こ と : 経 常 収 支 不 均 衡 よ り 需 要 不 足 が 問 題 ····· 5
1-4
米 国 の 経 常 赤 字 の 背 景 に あ る 二 つ の 問 題 : 住 宅 ブ ー ム 、 財 政 赤 字 ····· 6
1-5
貯 蓄 過 剰 論 が 物 語 る 構 造 変 化 : グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン の 進 展 ········· 7
2 . 原 油 価 格 の 高 騰 に も か か わ ら ず 沈 静 化 す る イ ン フ レ ······················· 8
2-1
3 倍 に 高 騰 す る 原 油 価 格 、 今 後 5 年 の 平 均 価 格 60 ド ル /バ レ ル ! ? ··· 8
2-2
驚 く ほ ど 落 ち 着 い て い る 消 費 者 物 価 ······························· 8
2-3
物価安定の要因:ポジティブ・サプライショックと
金 融 政 策 へ の 信 頼 ··············································· 9
3 . 短 期 金 利 の 引 上 げ に も か か わ ら ず 安 定 し て い る 長 期 金 利 ·················· 11
3-1
名 目 成 長 率 を 大 き く 下 回 る 長 期 金 利 : 歴 史 的 な 低 金 利 ·············· 11
3-2
企 業 部 門 の 資 金 余 剰 : 金 利 低 下 の も う 一 つ の 理 由 ·················· 12
3-3
低 金 利 が も た ら す 財 政 規 律 の 弛 緩 ································ 14
お わ り に : 構 造 変 化 と 金 融 シ ス テ ム の 不 安 定 化 ······························ 15
(1)ほ ぼ 限 界 に 達 し て い る 経 常 収 支 不 均 衡 ································· 15
(2)ポ ジ テ ィ ブ ・ サ プ ラ イ シ ョ ッ ク の 持 続 力 ······························· 15
(3)金 融 政 策 が も た ら す 資 産 市 場 発 の 景 気 循 環 ····························· 16
A R C リ ホ ゚ ー ト (R S - 8 3 1 )2 0 0 5 年 12 月
はじめに:世界経済 3 つの謎、経常収支不均衡、インフレ、長期金利
2005 年 の 世 界 経 済 は 、米 国 の 短 期 金 利 の 引 上 げ 、原 油 価 格 の 高 騰 と い っ た マ イ ナ ス の
インパクトにもかかわらず米国を中心に息の長い成長が続いている。米国の景気拡大期
間 は す で に 4 年 を 経 過 し て お り 、 日 本 も 02 年 1 月 の 前 回 景 気 の ボ ト ム か ら こ の 12 月 で
36 ヵ 月 の 長 期 拡 大 と な っ て い る 。 一 方 で 、 世 界 の 経 常 収 支 不 均 衡 ( 米 国 の 赤 字 、 日 本 、
中 国 、 OPEC の 黒 字 ) は 拡 大 し て お り 、 先 進 国 を 中 心 に 財 政 赤 字 も 巨 額 に な っ て い る 。
長期の景気拡大が続くと、世界経済は構造的な変化を遂げたという主張がでてくる。
た と え ば 、90 年 代 後 半 の 長 期 拡 大 期 に は 、IT に よ る 技 術 革 新 で 在 庫 管 理 等 が 進 み 景 気 循
環の波が小さくなり長期の景気拡大が可能だというニューエコノミー論がもてはやされ
た 。し か し 、こ の ニ ュ ー エ コ ノ ミ ー ブ ー ム は 、2000 年 の 株 価 の 暴 落( = IT バ ブ ル の 崩 壊 )
により厳しい景気後退を迎えることになった。
現在も、米国が巨額の対外赤字を続けているにもかかわらずドル高傾向が続いている
こと、原油価格の高騰にもかかわらず物価が相対的には落ち着いていること、米国の短
期金利の引上げにもかかわらず長期金利の安定が続いていることから、世界経済は構造
的な変化を遂げているのではないかという主張がある。一方で、こうした現象は一時的
な異常現象でいずれ通常の状態に戻る、たとえば、米国の対外赤字の拡大は維持不可能
だから、いずれはドル安による調整が不可避という伝統的な見方も根強い。
だ が 、 世 界 経 済 の 構 造 変 化 を 示 す 兆 候 は 多 い 。 グ リ ー ン ス パ ン FRB 議 長 も 今 年 2 月 、
原油価格が高騰し、財政赤字が拡大するなかで、長期金利が世界中で低下しているのは
謎 ( conundrum) だ と 語 っ て い る 。
本リポートでは、①米国の経常収支赤字の拡大にもかかわらずドル高となっている現
象、②原油価格の高騰にもかかわらず沈静化するインフレ、③短期金利の引上げにもか
かわらず安定している長期金利の三つの謎を取り上げ、世界経済の構造変化について考
えてみたい。
A R C リ ホ ゚ ー ト (R S - 8 3 1 )2 0 0 5 年 12 月
-1-
1.経常収支赤字拡大下のドル高:世界的な貯蓄過剰?
1-1
拡大する米国の経常赤字
米国の経常赤字が急拡大している。
1980 年 代 前 半 、レ ー ガ ン 政 権 下 で 米 国 の 赤 字 が 1,000 億 ド ル を 上 回 る こ と が 問 題 と さ
れ 、経 常 収 支 不 均 衡 を 是 正 す る た め に 為 替 レ ー ト 調 整 が 不 可 避 と さ れ た 。85 年 の プ ラ ザ
合意の結果、日本は大幅な円高に見舞われた。
(10億ドル)
1982
(円/ドル)
米国経常収支と円ドルレートの推移
1984
1986
1988
1990
1992
1994
1996
1998
2000
予測
2002
100
2004
2006
60
0
-100
100
-200
-300
140
-400
-500
180
経常収支(左目盛)
-600
-700
円/ドル(右目盛)
220
-800
-900
資 料 出 所 ) IMF
260
World Economic Outlook 2005.9
現 在 進 行 し て い る 米 国 の 経 常 収 支 の 赤 字 は 、当 時 と は 比 べ も の に な ら な い ほ ど 巨 額 だ 。
米 国 の 経 常 収 支 の 不 均 衡 を 是 正 す る た め に は 、 30~ 35% の ド ル の 切 り 下 げ が 必 要 と い わ
れ て い る 。 日 本 は 、 円 高 阻 止 、 デ フ レ 抑 制 の た め に 2003 年 ~ 04 年 に か け 巨 額 の 為 替 介
入( 約 35 兆 円 )を 行 っ て き た が 、円 高 の 流 れ を 変 え る こ と は で き な か っ た 。し か し 、04
年4月以降は、為替介入を停止しているにもかかわらず、円安ドル高が続いている。
米国は、中国に対しては為替レートの柔軟化によるさらなる人民元の切り上げを求め
ているが、日本に対する円高圧力はない。それどころか、当面は、日本はゼロ金利が継
続する一方、米国は短期金利の引き上げが続くとみられていることから、金利差により
日本からの資金流出が起こりさらなる円安が見込まれている。
A R C リ ホ ゚ ー ト (R S - 8 3 1 )2 0 0 5 年 12 月
-2-
注)
国民経済計算(GDP)は、
付加価値の
生産=分配(所得)=支出(最終需要)
の三つは等しいという三面等価の原則に基づいて計算が行われている。
最終需要=消費+投資+輸出−輸入
で表されるから
消費+投資+輸出−輸入=総所得(=総生産)となる。
消費+投資を右辺に移項すると
輸出−輸入=総所得−消費−投資となる
総所得−消費=貯蓄だから
輸出−輸入=貯蓄−投資
−3(資料)−
となる。
A R C リ ホ ゚ ー ト (R S - 8 3 1 )2 0 0 5 年 12 月
こ れ ま で の 常 識 で は 、経 常 赤 字 が 拡 大 す れ ば 、当 該 国 は 通 貨 切 下 げ や 緊 縮 財 政 に よ り 、
経常収支の均衡を回復しなければならないと考えられてきた。戦前の金本位制、戦後の
ブレトン・ウッズ体制、変動相場制も基本的には、経常収支を均衡させることが前提と
なっている。
米国は、対外債務の支払いを自国通貨で行える基軸通貨国という特権を有しているの
で、他国に比べれば経常収支を均衡させる圧力が弱いとしても、限度はあると考えられ
てきた。
しかし、最近では、米国の経常収支の不均衡は世界経済にとって、それほど大きな問
題 で は な い の で は な い か と い う 主 張 が 勢 い を 増 し て い る 。そ れ を 象 徴 す る の が 、次 期 FRB
議 長 に 指 名 さ れ た バ ー ナ ン キ FRB 理 事 ( 当 時 ) が 今 年 3 月 に 行 っ た 講 演 で 指 摘 し た 「 世
界 的 貯 蓄 過 剰 (global saving glut)」 論 で あ る 。
1-2
貯蓄過剰論:投資の停滞と新興国の貯蓄増加
バーナンキ氏は、3月バージニアのエコノミスト協会で行った「世界的な貯蓄過剰と
米 国 の 経 常 収 支 赤 字 (The Global Saving Glut and the U.S. Current Account Deficit)」
と い う 講 演 で 、「 米 国 の 経 常 収 支 赤 字 は 、世 界 的 な 貯 蓄 過 剰 か ら 資 金 が 世 界 中 で も っ と も
魅力的な米国に流入している結果であり、メイド・イン・アメリカではない」とした。
GDP 統 計 上 、「 輸 出 - 輸 入 = 貯 蓄 - 投 資 」 と い う 恒 等 式 が 成 り 立 つ ( 左 頁 注 参 照 )。
これは、対外収支バランスと国内の貯蓄投資バランスが等しいということを意味して
いる。通常は、輸出入バランスが注目されるが、米国のような巨大な経済の場合、輸出
入 は 経 済 活 動 の ご く 一 部 を み て い る だ け で あ り 、経 常 収 支 赤 字 の 真 の 原 因 を 考 え る に は 、
後者の貯蓄・投資バランスを見る方が良いとする。
バーナンキ氏は、上記式の右辺に着目し、米国の経常赤字は、このところ生じている
世界的な貯蓄過剰(先進国の年金基金、途上国の外貨準備、産油国の経常黒字など)の
結果、余剰資金が米国に流入し、米国内の投資が貯蓄を上回った結果であり、米国の過
剰消費、財政赤字が主要な原因ではない。各国が市場開放を進め、米国に代わって投資
をひきつけることが、米国の経常赤字を削減する最大の方策だと主張している。
A R C リ ホ ゚ ー ト (R S - 8 3 1 )2 0 0 5 年 12 月
-3-
最 近 の 世 界 全 体 の 貯 蓄 ・ 投 資 バ ラ ン ス の 動 向 を IMF の 統 計 で み る と 、 貯 蓄 、 投 資 比 率
は、わずかではあるが低下している(世界全体では貯蓄=投資が成立するはずだが、統
計 の 誤 差 の た め に 一 致 し て い な い )。 全 体 と し て の 貯 蓄 率 が 上 昇 し て い る わ け で は な い 。
しかし、国別の内訳をみると、米国だけが貯蓄が低下するなかで投資が上昇し、投資超
過 幅 が 拡 大 す る 一 方 、ド イ ツ 、日 本 、NIEs は 貯 蓄 の 低 下 を 上 回 っ て 投 資 が 減 少 し 、貯 蓄
超過幅が拡大している。新興国は通常、外資を導入し投資を行うことから投資が貯蓄を
上回るが、このところ、これらの国々でも貯蓄超過となっている。
確かに、世界の貯蓄・投資バランスからみると、米国以外の国で貯蓄超過幅が拡大し
ており、過剰な貯蓄を米国が吸収する形になっている。
世界の貯蓄・投資比率の推移(対GDP比)
世界
貯蓄
投資
先進国
貯蓄
投資
差
貯蓄
投資
差
貯蓄
投資
差
貯蓄
投資
差
貯蓄
投資
差
米国
ドイツ
日本
NIEs
1983-90 1991-98
22.8
22.0
23.8
22.7
22.2
22.8
-0.6
17.5
20.2
-2.7
23.9
20.9
3
32.5
29.7
2.8
34.6
28.3
6.3
新興国
21.7
22.0
-0.3
16.1
18.5
-2.4
21.3
22.3
-1.0
31.6
29.2
2.4
34.2
32.0
2.2
貯蓄
24.6
23.5
投資
26.0
26.0
差
-1.4
-2.5
アジア 貯蓄
25.7
31.4
投資
28.9
33.7
差
-3.2
-2.3
中東
貯蓄
18.4
20.7
投資
22.8
24.2
差
-4.4
-3.5
出所)IMF World Economic Outlook 2005.9
A R C リ ホ ゚ ー ト (R S - 8 3 1 )2 0 0 5 年 12 月
2001
21.4
21.6
2002
20.6
20.9
2003
20.9
21.1
単位:%
2004-(91~
2004 98平均)
21.5
-0.5
21.9
-0.8
20.6
20.9
-0.3
16.4
19.1
-2.7
19.6
19.5
0.1
27.9
25.8
2.1
29.9
25.3
4.6
19.3
19.9
-0.6
14.2
18.4
-4.2
19.4
17.2
2.2
26.8
24.0
2.8
30.0
24.5
5.5
19.2
19.9
-0.7
13.4
18.5
-5.1
19.3
17.2
2.1
27.1
23.9
3.2
31.6
24.4
7.2
19.5
20.6
-1.1
13.4
19.6
-6.2
21.0
17.2
3.8
27.6
23.9
3.7
33.0
26.0
7.0
-2.2
-1.4
24.7
24.3
0.4
32.5
30.8
1.7
25.7
21.3
4.4
25.9
24.8
1.1
34.7
31.8
2.9
24.5
21.8
2.7
27.7
25.9
1.8
37.0
33.7
3.3
28.1
22.4
5.7
29.3
26.9
2.4
38.3
35.4
2.9
33.1
22.4
10.7
5.8
0.9
-2.7
1.1
-0.3
-5.1
-4.0
-5.3
-1.2
-6.0
6.9
1.7
12.4
-1.8
-4-
1-3
貯蓄過剰論が意味すること:経常収支不均衡より需要不足が問題
経済学では、すべての家計が貯蓄を増加させようと消費を抑制すると、経済活動全体
が縮小し、結果としての貯蓄は増加しない現象を「節約のパラドックス」と呼ぶ。個々
の 家 計 の 合 理 的 な 判 断 が 、経 済 全 体 と し て は 合 理 的 な 結 果 を も た ら さ な い こ と か ら 、「 合
成の誤謬」とも呼ばれる。
バーナンキ氏の主張は、世界経済がこうした状況に陥りかねないところを、米国が需
要を創出し、その貯蓄を利用したことで、米国経済だけでなく世界経済の成長に貢献し
たとするものだ。つまり、世界経済にとって重要な問題は、世界的な需要不足であり、
米国の経常収支不均衡は、米国の国内政策だけで解決することはできないとしている。
では、米国の経常収支赤字は、今やそれほど大きな問題ではないのだろうか?
その鍵は、経常収支赤字の累積により米国の対外支払い能力に懸念が生じないか、今
後も海外から米国への資本流入が円滑に行われるか否かの二点に掛かっているといって
よいだろう。
米 国 は 、 今 や 世 界 最 大 の 対 外 純 債 務 国 に な っ て い る 。 名 目 ベ ー ス で 2.5 兆 ド ル の 純 債
務 と な っ て い る 。 米 国 と 途 上 国 の 累 積 債 務 の 違 い は 、 米 国 は 世 界 最 大 の 対 外 負 債 ( 11.5
兆 ド ル ) を 抱 え て い る と 同 時 に 、 世 界 最 大 の 対 外 資 産 ( 9.1 兆 ド ル ) を 抱 え て い る 国 だ
ということだ。この資産と負債の利払い等の収支である、現在の所得収支のバランスを
みると、米国は、純債務国になって以降も引き続き受け取り超過になっている。
米国の対外資産・負債残高と所得収支
(10億ドル)
(10億ドル)
-
所得収支(右目盛)
資料出所)米国商務省
A R C リ ホ ゚ ー ト (R S - 8 3 1 )2 0 0 5 年 12 月
資産
19
96
19
98
r
20
00
r
20
02
r
20
04
p
-6,000
19
94
40
20
19
92
-2,000
-4,000
19
90
80
60
19
88
100
2,000
0
19
86
4,000
19
84
140
120
19
82
8,000
6,000
19
80
180
160
19
78
200
12,000
10,000
19
76
14,000
負債
純資産
HP
-5-
また、米国は基軸通貨国であることから、債務はほとんどがドル建てになっている一
方、資産は外貨建てになっている。すなわち、ドル安になると、資産自体の内容に変化
が な く て も ド ル ベ ー ス で は 資 産 が 増 加 す る こ と に な る 。 負 債 は 資 産 の 約 1.3 倍 な の で 、
負 債 は 100% ド ル 建 て 、資 産 は 100% 外 貨 建 て と 仮 定 す れ ば ド ル が 3 割 減 価 す れ ば 資 産 と
負債はバランスする。つまり、米国にとっては、世界最大の債務国という点は、緩やか
なドル安を是認すれば、時間が解決する問題だと捉えられているといえよう。
米国への資金還流が順調に進むか否かは、米国が海外からみて投資、資金運用する場
として相応しいと見られているかに掛かっている。
この点では、世界で最も流動性の高い金融市場を擁している米国は十分にその資格を
有 し て い る 。日 本 や EU の 主 要 国 が 人 口 減 少 と い う 経 済 の 成 熟 の 壁 に 直 面 し て お り 、国 内
の 投 資 機 会 が 乏 し い の に 対 し 、 人 口 が 年 率 1% 弱 増 加 し て い る 米 国 の 成 長 ポ テ ン シ ャ ル
は そ の 分 だ け 高 い 。 対 米 輸 出 主 導 で 高 成 長 の 続 く 中 国 、 ASEAN は 、 社 会 保 障 制 度 の 未 整
備 、90 年 代 後 半 の 通 貨 危 機 の 経 験 な ど か ら 、所 得 増 は 貯 蓄 に 向 か っ て お り 、対 外 収 支 の
黒字基調は続こう。高止まりする原油価格も産油国の対外黒字を高水準に保つだろう。
1-4
米国の経常赤字の背景にある二つの問題:住宅ブーム、財政赤字
経常赤字が問題になるのは、米国に流入した資本が無駄使いされている場合だ。つま
り、赤字のさらなる拡大に歯止めがかかる分野に投資されているか否かである。その点
で懸念されるのが、このところの住宅ブームと財政赤字だ。
海外から流入した資金が企業の設備投資に投じられるのであれば、それは将来の成長
の原動力であり、借入金返済の元手になる。しかし、住宅投資の場合、家計の資産の増
加にはつながるが、将来の成長を約束するものではない。米国では、低金利下で住宅投
資ブームが起きている。税制上、3 軒目までは住宅ローンの利払いが所得控除されるこ
とから都市部、リゾートを中心に投資が過熱気味となっており、一部の地域ではバブル
の様相さえ呈している。値上がりした住宅を担保に住宅ローンの借り換え(増額)を行
い、その借り増した金額で耐久消費財の購入や消費支出を賄い、これが貯蓄率の低下を
招いている。住宅から生産分野へと投資を誘導することが必要となるだろう。
A R C リ ホ ゚ ー ト (R S - 8 3 1 )2 0 0 5 年 12 月
-6-
財 政 赤 字 の 拡 大 も 、米 国 経 済 の 将 来 の 成 長 に つ な が る 分 野 に 投 資 さ れ て い る か 疑 問 だ 。
ブ ッ シ ュ 政 権 は 09 年 度 ま で に 財 政 赤 字 を 半 減 さ せ る と 公 約 し て い る が 、ハ リ ケ ー ン や イ
ラク戦費問題もあり、公約達成が微妙な状況になっている。
こうした問題に転機がみえず、野放図な赤字の拡大が続くようなら、ドル安への急激
な変化という金融市場の混乱のリスクが高まることになろう。逆に、両方に落ち着きが
見られるなら、経常赤字下でのドル堅調という流れはしばらく続くのではないか。
1-5
貯蓄過剰論が物語る構造変化:グローバリゼーションの進展
米国の経常収支赤字拡大下でのドル高という現象からみえてくる新たな世界経済の姿
は、資金のグローバリゼーションの進展である。
2000 年 の IT バ ブ ル 崩 壊 、2001 年 の 9.11 同 時 多 発 テ ロ と い っ た 異 常 事 態 に 対 応 し 、世
界的に金融緩和が進められ、マネーの供給が増加した。デフレ懸念が高まったことも金
融緩和に拍車をかけた。また、中国を始めとする新興国の急速な成長も資本市場の拡充
をもたらした。
従 来 、貯 蓄 に は ホ ー ム・バ イ ア ス が あ り 、簡 単 に は 海 外 に 流 出 し な い と い わ れ て き た 。
貯蓄率が高い国は資金が余剰なことから金利が低く、貯蓄率が低い国では金利が高くな
る 現 象 で あ る 。し か し 、ユ ー ロ の 登 場 で ユ ー ロ 圏 の 資 本 市 場 が 一 本 化 し た こ と 、01 年 の
同時多発テロ以降の世界的低金利からリスク資産への選好が高まったこと、貯蓄の主体
が 家 計 か ら 企 業 へ と 移 り つ つ あ る こ と( 3.長 期 金 利 の 低 下 で 詳 述 )、金 融 面 で の 規 制 緩 和 、
技術革新などから、資本市場のグローバル化が進展し、財・サービスの貿易決済である
経常収支よりは資本の流れが為替レートを決定する力が大きくなってきたといえる。
次に、資金の流動性が高いなか、原油価格の高騰にもかかわらず消費者物価が安定し
ている点についてみてみたい。
A R C リ ホ ゚ ー ト (R S - 8 3 1 )2 0 0 5 年 12 月
-7-
2.原油価格の高騰にもかかわらず沈静化するインフレ
2-1
3 倍に高騰する原油価格、今後5年の平均価格 60 ドル/バレル!?
原 油 価 格 の 高 騰 が 止 ま ら な い 。こ の と こ ろ 一 旦 弱 含 ん で い る も の の 、8 月 に は ハ リ ケ ー
ン、カトリーナの米国南部上陸により、石油関連設備が被害をうけたことから、一時、
ニ ュ ー ヨ ー ク 市 場 で 取 引 さ れ て い る W T I 原 油 は 70.85 ド ル /バ レ ル を 記 録 し た 。同 月 に
は 月 間 平 均 で も 65 ド ル /バ レ ル と 史 上 最 高 値 を 更 新 し た 。
投資銀行ゴールドマン・サックスは、8 月のリポートで今後 5 年の平均価格を年初の
45 ド ル か ら 15 ド ル 引 き 上 げ 60 ド ル と し て い る 。 1980 年 の 第 二 次 オ イ ル シ ョ ッ ク 以 降 、
10~ 30 ド ル 、 平 均 す れ ば 約 20 ド ル で 推 移 し て い た 時 代 か ら 、 一 気 に 3 倍 の 水 準 に 高 騰
したことになる。
2-2
驚くほど落ち着いている消費者物価
原油価格が高騰している割には、日本に限らず、世界的にも消費者物価は驚くほど安
定 し て い る 。90 年 代 半 ば ま で は 、先 進 国 の 消 費 者 物 価 と 原 油 価 格 は 連 動 し て 動 い て い た
が 、 2000 年 代 に 入 る と 原 油 価 格 の 影 響 が 著 し く 低 下 し て い る 。
原油価格と物価上昇率の推移
(ドル/バレル)
(%)
70
60
14
先進国物価上昇率(右目盛)
原油価格(左目盛)
12
資 料 出 所 ) IMF
20
06
20
04
20
02
0
20
00
0
19
98
2
19
96
10
19
94
4
19
92
20
19
90
6
19
88
30
19
86
8
19
84
40
19
82
10
19
80
50
World Economic Outlook 2005.9
米 国 で は 9 月 の 消 費 者 物 価 上 昇 率 は 総 合 で 前 年 比 4.7% と な っ た が 、 変 動 の 大 き い 食
A R C リ ホ ゚ ー ト (R S - 8 3 1 )2 0 0 5 年 12 月
-8-
品 ・ エ ネ ル ギ ー を 除 い た ベ ー ス で は 2.0% に 過 ぎ な い 。 中 国 や E U の 消 費 者 物 価 ( 含 む
エ ネ ル ギ ー )も 2% 台 の 上 昇 率 に と ど ま っ て い る 。IMF の 9 月 の 世 界 経 済 予 測 で も 、2006
年 の 先 進 国 の 消 費 者 物 価 上 昇 率 は 、原 油 価 格 が 61.75 ド ル /バ レ ル で 2 % に 過 ぎ な い 。80
年 代 は 先 進 国 の コ ア の 消 費 者 物 価 上 昇 率 は 3~ 12% に ば ら つ い て い た が 、 最 近 は 0~ 3%
に収斂している。原油価格上昇にもかかわらずこれまでのところ原油価格上昇が封じ込
められている状況だ。
2-3
物価安定の要因:ポジティブ・サプライショックと金融政策への信頼
物価安定の要因としていくつかの理由があげられる。
まず先進国では以前に比べエネルギー原単位が低下し、原油価格上昇のインパクトが
低 下 し て い る( 中 国 の 場 合 は エ ネ ル ギ ー 価 格 を 統 制 し て い る )。日 本 の 今 年 の 原 油 輸 入 金
額 は 前 年 よ り 約 2 兆 円 ( GDP の 0.4% ) 増 加 す る 程 度 で あ る 。
次に、エネルギー価格上昇の波及効果が低下している。グローバル化、技術革新、規
制緩和の進展にともない市場競争が激化しており企業の価格決定力が低下、値上げが困
難な製品が増加している。また、途上国への工場移転により賃金上昇が抑制されている
ことがあげられる。
国 際 決 済 銀 行 ( BIS) の 年 次 報 告 で も 、 輸 入 物 価 ( 商 品 市 況 や 為 替 )、 需 給 ギ ャ ッ プ 、
単 位 労 働 コ ス ト が 1 % 変 化 し た 時 、 消 費 者 物 価 が ど の 程 度 変 化 し た の か 、 1971~ 89 年 、
90 年 ~ 2004 年 の 二 つ の 時 期 に 分 け て 分 析 し て い る 。
消費者物価と輸入物価・需給ギャップ・単位労働コストの相関の変化
輸入物価
需給ギャップ
単位労働コスト
1971-89
1990-2004 1971-89 1990-2004 1971-89 1990-2004
米国
0.25
0.10
0.11
0.07
0.76
0.28
日本
0.23
0.05
0.37
0.08
0.95
0.53
ドイツ
0.17
-0.03
0.10
0.09
0.47
0.19
フランス
0.27
-0.14
0.18
0.05
0.75
0.11
英国
0.29
0.01
0.10
0.28
0.71
0.56
注)各指標が1%変化した時の消費者物価の変化率(%)
資料出所)BIS 75th Annual Report 2005.7
この結果をみると、いずれの指標の消費者物価への影響は低下している。特に、輸入
物価、需給ギャップは消費者物価へはほとんど影響しなくなっている。これに対し低下
A R C リ ホ ゚ ー ト (R S - 8 3 1 )2 0 0 5 年 12 月
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したとはいえ単位労働コストの影響は大きい。つまり、今や消費者物価に影響している
のは国内の労働需給(=賃金)だけだといってもよい状況になっているわけだ。
BIS リ ポ ー ト で は 、 ポ ジ テ ィ ブ ・ サ プ ラ イ シ ョ ッ ク に よ り 物 価 の 安 定 が も た ら さ れ 、
それに各国中央銀行が適切に対応した結果、金融政策への信認が高まり、将来にわたっ
てインフレが抑制されるだろうという期待が世界的に形成されたことにより、このとこ
ろの物価の安定がもたらされたとしている。
ポジティブ・サプライショックとしては、市場経済のグローバル化によるロシア、旧
東欧、中国、インドなどからの膨大な労働力の参入、貿易自由化による輸入浸透度の上
昇 、規 制 緩 和 に よ る 競 争 環 境 の 整 備 、IT 技 術 に よ る 生 産 性 上 昇 、オ イ ル シ ョ ッ ク 以 降 の
インフレ抑制に成功した金融政策への信頼をあげている。
前の項で、経常収支不均衡よりは需要不足が現下の世界経済の課題でみたように、今
の世界経済は、原油など新規開発に時間がかかる一次産品を除く、多くの工業製品で供
給力が需要を上回るデフレ圧力の強い状況にあるといえる。
従来、インフレ、デフレは一国の貨幣現象であり、貨幣が過剰に供給されればインフ
レになるといわれてきた。しかし、現在の各国の状況をみると、ゼロ金利・量的緩和政
策をとる日本がその代表例だが、多くの工業製品、基礎資材などの個別価格はグローバ
ルな需給関係で決定され、個別価格の積み上げである一国の物価水準そのものも、必ず
しもその国の金融政策に大きくは左右されない状況が生じているようにみえる。
インフレが沈静化しているのは、世界的な供給力の拡大、財の市場のグローバル化が
これまでになく進んでいることを反映したものだろう。
次に、インフレ期待が抑制されていることから、短期金利の上昇にもかかわらず安定
する長期金利の状況をみてみたい。
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3.短期金利の引上げにもかかわらず安定している長期金利
3-1
名目成長率を大きく下回る長期金利:歴史的な低金利
インフレ期待が押さえ込まれていることから、長期金利の低位安定が続いている。
米 国 の 長 期 金 利 の 代 表 で あ る 10 年 物 国 債 の 利 回 り と 短 期 金 利 の 代 表 で あ る FF レ ー ト
の 推 移 を み る と 、 過 去 15 年 は ほ ぼ 連 動 し て 上 下 し て い た が 、 昨 年 6 月 か ら FF レ ー ト が
12 回 に わ た っ て 引 き 上 げ ら れ て い る( 1% → 4% )に も か か わ ら ず 、長 期 金 利 は 4~ 4.6%
程 度 と 驚 く ほ ど 安 定 し て い る 。 こ の 間 の 名 目 成 長 率 は 6% を 上 回 っ て お り 、 名 目 金 利 が
経済成長率大きく下回っている。
91 年 か ら の 推 移 を み る と 、 90 年 代 前 半 は 長 期 金 利 は 常 に 名 目 成 長 率 を 上 回 っ て お り 、
98 年 以 降 は 長 期 金 利 が 名 目 成 長 率 を 下 回 る 状 況 が し ば し ば 現 出 し て い る 。
米国の名目GDP、長短金利の推移
(%)
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
10年物国債↑
FFレート
資 料 出 所 ) 名 目 GDP: 米 国 商 務 省 、 金 利 : FRB
2005/1
2004/1
2003/1
2002/1
2001/1
1999/1
1998/1
1997/1
1996/1
1995/1
1994/1
1993/1
1992/1
1991/1
名目GDP
2000/1
FFレート→
名目GDP(前年比)
10年物国債
各 HP よ り 作 成
経 済 成 長 率 と 長 期 金 利 の 推 移 を さ ら に 長 期 で み る と 、 60 年 代 前 半 の 長 期 金 利 は 名 目
GDP ど こ ろ か 、 実 質 GDP を も 下 回 っ て い た 。 60 年 代 後 半 に な る と 次 第 に 物 価 上 昇 率 が 高
ま っ て き た こ と も あ り 長 期 金 利 が 上 昇 し 、 オ イ ル シ ョ ッ ク 以 降 は 名 目 GDP を 上 回 る 状 況
が 続 い て い た 。長 期 金 利 が 5 % 以 下 ま で 低 下 し て い る の は 実 に 60 年 代 以 来 の 歴 史 的 な 出
来事となっているわけだ。
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米国の長期金利と名目・実質GDPの推移
(%)
15
名目GDP(前年比)↓
10
10年物国債金利
5
実質GDP(前年比)→
0
-5
1962
1966
1970
1974
1978
10年物国債
資 料 出 所 ) 10 年 物 国 債 : FRB
3-2
1982
1986
1990
名目成長率
GDP: 米 国 商 務 省
1994
1998
2002
実質成長率
各 HP よ り 作 成
企業部門の資金余剰:金利低下のもう一つの理由
長期金利が歴史的な低金利を記録しているのは米国に限らず、先進国に共通な現象と
な っ て い る 。 11 月 半 ば 現 在 、 各 国 の 10 年 物 国 債 金 利 は 日 本 が 1.5% ( 1 年 前 1.5% 、 以
下 同 じ ) ユ ー ロ 3.4% ( 3.7% )、 米 国 4.5% ( 4.1% ) で あ る 。 原 油 価 格 が 高 騰 し て い る
なかで驚くほど安定している。
長期金利が低下している理由としては、前にみたように、世界的な資金余剰(=貯蓄
過剰)が生じていること、ポジティブ・サプライショックによりインフレのリスクが低
下していることが上げられる。
それに加え、伝統的に資金不足部門であった企業部門が世界的に資金余剰となってい
る こ と が あ げ ら れ る 。日 本 の 非 金 融 法 人 の 貯 蓄 投 資 バ ラ ン ス を み る と 、98 年 に 前 年 の 金
融 危 機 時 の 貸 し 渋 り か ら 貯 蓄 超 過 と な っ て 以 降 、01 年 か ら 経 常 的 に 貯 蓄 超 過 と な っ て お
り、その幅が拡大している。
企業部門の貯蓄超過は日本だけでなく、米国や欧州の大企業にも生じている。
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これに対し、家計部門の貯蓄率は日米とも低下が続いており、家計と企業が好対照と
なっている。
日本の家計と企業の貯蓄投資バランス
(対GDP比)
(%)
15
家計
10
貯
蓄
5
0
投
資
-5
企業
-10
-15
1985
1987
資料出所)内閣府
1989
1991
1993
1995
1997
1999
2001
2003
国 民 経 済 計 算 年 報 2005 年 版
本来、リスクをとって家計部門の貯蓄を利用して投資を行うのが企業部門の役割であ
る。これだけ金融が緩和し、金利も歴史的な低水準にあり、企業収益は逆に史上最高を
記録するなかで、企業部門の投資が貯蓄を下回り、貯蓄超過となっているのも、もう一
つの新たな謎であり、長期金利安定の原因といえよう。
企業の資金需要が弱いのは一時的な現象なのだろうか。
先進国の企業部門が積極的な投資に慎重な理由としていくつかの理由があげられてい
る。まず、米国を除く先進国は人口減少という経済の成熟局面を迎えており、インフラ
投資などに巨額の新規投資を必要とする資本集約的な重厚長大産業の投資ニーズが低下
している。半導体産業などは資本集約型産業となっているが、集積度の高まりから世界
的 な 寡 占 状 況 を 生 じ つ つ あ り 、投 資 の 広 が り に は 限 界 が あ る 。ま た 、IT 技 術 に よ る 投 資
財価格の趨勢的な下落も投資の節約に寄与している。キュッシュフロー重視や株式市場
の監視が強化(=コーポレート・ガバナンス)されていることも上場企業の行動をリス
ク回避的にしていると指摘されている。
企 業 が 新 規 投 資 よ り も 株 式 交 換 を 利 用 し た M&A に よ る 成 長 を 志 向 し て い る こ と も 資 金
需要にはマイナスとなっている。
中国など途上国でも、インフラ投資の需要が旺盛だが、今のところ高水準の国内貯蓄
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や外資の流入で賄われており、企業部門に新たな資金需要が見当たらないといいう状況
が続いている。
そ も そ も 、イ ン フ レ 期 待 が 低 下 し 、デ フ レ 圧 力 の 強 い 下 で は 、借 入 金 返 済 、投 資 抑 制 、
現金保有が企業行動の常識なのかもしれない。世界中の企業がキャッシュ・ポジション
を高めているのも先行きの金融不安に備えているのかもしれない。
3-3
低金利がもたらす財政規律の弛緩
企業部門に代わって資金需要が続くのは財政部門だ。
世界的な長期金利の安定は、財政規律にとって重大な問題をもたらす。財政赤字削減
のインセンティブが働きにくいことだ。
ク リ ン ト ン 政 権 下 の 米 国 は 、国 債 市 場 が 財 政 赤 字 の 監 視 役 と も い わ れ た 。こ れ に 対 し 、
現在のブッシュ政権下では軍事費等で財政赤字が拡大しているにもかかわらず、金利が
安定していることから、財政運営の規律が失われている。
日 本 で も 、90 年 代 後 半 か ら の 超 低 金 利 下 で 国 債 発 行 が 野 放 図 に 行 わ れ て い る こ と が 現
在の財政悪化をもたらしている。
もっとも、低金利が当面続き、名目成長率を下回る状況が続くのであれば、いったん
財政規律が回復され、赤字縮小が明らかになれば、財政再建が予想外に進展するメリッ
トもある。
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おわりに:構造変化と金融システムの不安定化
本リポートで取り上げた三つの謎、①米国の経常収支赤字の拡大にもかかわらず進む
ドル高、②原油価格高騰にかかわらず安定する先進国の物価、③短期金利の上昇にかか
わらず安定する長期金利、は一時的な現象というよりは、世界経済の構造変化を反映し
ているように思われる。すなわち、金融、財・サービス両方の市場におけるグローバル
化の進展とそのなかでの米国の影響力の増大である。
こ れ ま で の と こ ろ は 、グ ロ ー バ ル 化 の 進 展 に よ り 、2000 年 代 の 世 界 経 済 は 驚 く ほ ど 順
調に推移している。しかし、今後もこの安定が続くかは不透明だ。
現在の経常収支不均衡の拡大、ポジティブ・サプライショック、低金利の長期化は、
む し ろ 、将 来 の 不 安 定 化 の 種 な の か も し れ な い 。い ず れ の 項 目 も 永 続 す る も の で は な く 、
いずれ転機を迎える可能性があるからだ。
(1)ほぼ限界に達している経常収支不均衡
米国を取り巻く対外環境から考えると、ある程度の経常赤字は維持可能だとしても、
現 状 の 年 間 8,000 億 ド ル を 超 え る 赤 字 は ほ ぼ 限 界 に 達 し て い る の で は な い か 。
その象徴の一つが保護主義の高まりだ。赤字が続けば国内不況産業からは不公正貿易
の不満の声が高まる。赤字のファイナンスに米国の国債は買っても良いが、エネルギー
や国防関連の米国企業の買収は駄目で通じるのかといった、経済とは別次元の政治の問
題が登場している。また、海外からの信認を確保する上でも、経常赤字は、現状よりは
縮小することが望ましい。さもないと、いくら米国への投資が魅力的といっても、ドル
の信認につながる事態が生じる可能性が高まる。
(2)ポジティブ・サプライショックの持続力
ポジティブ・サプライショックがこれまでは物価の安定要因だったとしても、将来に
わたって継続するとは限らない。原油価格の高騰にみられるように、一次産品はすでに
需給が逼迫し価格が上昇している。今のところ一次産品価格の上昇は、生産・流通過程
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の合理化等により抑え込められているが、いつ広範なインフレに転化しないとも限らな
い。デフレに悩んでいた日本でも人手不足の分野が生じ、ようやくデフレ脱却のメドが
立ってきた。米国でも高学歴者を中心に人手不足から、単位労働コストの低下傾向に歯
止めがかかってきたようにみうけられる。
(3)金融政策がもたらす資産市場発の景気循環
インフレが抑制されていることから、物価が果たす金融政策のシグナルとしての機能
が低下している。一方で資産価格が上昇していることから、金融政策は資産価格にどの
程度配慮すべきかは、このところの中央銀行の大きなテーマになっている。
90 年 代 前 半 の 日 本 の バ ブ ル 潰 し は 、そ の 後 に 長 い 不 況 を も た ら し た 教 訓 か ら 、資 産 価
格を対象に金融政策を発動すべきという意見は少数派だ。しかし、低金利が長期化して
いることから、高い利回りを求めて株式市場、住宅など資産市場に資金が流入、値上が
り す る と と も に 、投 機 資 金 が 拡 大 し て い る こ と は 事 実 だ 。企 業 の M& A ブ ー ム も 、資 産 を
生む存在としての企業が投資対象となっているものだ。
従来、景気循環といえば、在庫や投資など実物経済の動きを反映したものだったが、
金融政策の動向によって、株式や住宅などの資産価格の上がり下がりが新たな景気循環
の主役として登場してきたといえる。
その点で、米国の短期金利の引上げがいつまで続くのか、それが、米国の住宅市場に
どのような影響を及ぼすのか、場合によっては、資産市場発の景気循環の出発点になる
かもしれない。
金 融 の 世 界 は 、様 々 な 技 術 革 新 に よ り 、リ ス ク 分 散 を 目 指 し て 次 々 に 新 商 品 が 登 場 し 、
複雑な取引のネットワークが出来上がっている。次の世界的な景気後退のきっかけは、
ほんのささいな現象が雪だるま式に大きくなっていくことによって、思いがけない危機
が生じることで発生するのかもしれない。そんな不確実性が高まっている。
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