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世界湖沼会議参加者の報告書(PDF形式)
第 13 回世界湖沼会議(中国湖北省武漢市国際会議展示センター) 参加報告 沼澤篤 11 月 1 日(日) 成田空港、上海空港を経て夕刻に武漢空港到着。ホテルチェックイン後、武漢市国際 会議展示センターで会場確認。受付で登録料 500 米ドルを支払い正式に参加登録、資 料類が詰まったコングレスバッグを受け取り、自分の発表スライドデータを会議事務 局の PC に入力。 11 月 2 日(月) 午前: 会場到着後、展示場で、揚子江や市内の多数の湖沼との関わりの歴史と水環境保全政 策の現状に関する武漢市の展示を見学。開会式出席。中国全国人民代表会議副議長に よる歓迎の挨拶があり、経済成長の一方で湖沼や河川の淡水資源の確保、水質保全と 生態系保護は重要な課題として認識していること、そのために法令の整備や調査研究 に取り組んでいること、この国際会議が中国と世界の水環境の改善に向けて貢献する ことを期待すると言及があった。 さらに国連環境計画(UNEP)代表のスタイナー氏、国際湖沼環境委員会(ILEC)濱中理事 長の挨拶に続き、湖北省知事と武漢市長が、持続可能な発展を目指し、中国の湖沼環 境の再生に向けて、美しい景観と良好な水質は共有の財産であるという認識のもと、 国民、研究者、行政府が協力していること、特に武漢市は揚子江の中流域にある水に 恵まれたモデル都市として努力していることが紹介された。 次いで日本環境省、嘉田滋賀県知事、中国環境保護部長、中国水利部長らが主催者挨 拶や歓迎挨拶の中で、世界の湖沼問題の現状、水事情の危機的状況、琵琶湖を重視す る滋賀県の姿勢と環境教育、世界湖沼会議の歴史、開催の意義などについて言及した。 その中で、周生賢中国環境保護部長(第 13 回世界湖沼会議委員長)は、これまでのア ンバランスを改善して経済成長と環境の両立をめざすこと、科学的アプローチの重視、 産業のあり方やライフスタイルの見直し、社会経済的システムの再構築、地域経済は 緑経済(グリーン・エコノミー)であるべきこと、古代黄河文明や隋時代以来営々と 建設されてきた巨大運河を引き合いに出しての「水と文明」論、水辺の文化的かつ哲 学的価値の再発見、中国伝統の自然への尊崇(リスペクト)の念などを重要な戦略的 目標や価値観として掲げていることを力強く語ったが、中国政府要人の学殖の豊かさ、 環境問題への認識の深さ、的確さ、格調高い演説に感銘を受けた。 午後: 中国科学院環境科学研究所、デンマーク、スイス、インド、アメリカの大学教授、著 名な研究者らの基調講演を聴講。さらに「地球温暖化と湖沼環境と生態系」の分科会 に出席し、口頭発表を聴講。休憩時間には水環境保全に関わる中国企業の展示コーナ ーを見学し、特に中国南西部で最も大きなゼネコンに急成長した企業グループの担当 者から、特にアオコ回収事業などの湖沼の富栄養化対策、堤防建設、ダムと水力発電 所建設など水環境に関る事業内容について英語で説明を受けた。また武漢市と長江(揚 子江)の関係の歴史を紹介するビデオコーナーでは、揚子江の水害と闘ってきた長い 歴史を学んだ。それによると現代の武漢市都市計画の中での水害対策は、氾濫源から の住宅や店舗の移転と広大な面積を占める河川敷の緑地公園化、強固な大堤防の築堤、 上流の三峡ダムの建設による流況調整であり、それによって市民生活と産業活動が安 定し、現在 900 万人を超える大都市に発展したことが映像で紹介されていた。 夕刻: 歓迎レセプション及びいばらき霞ヶ浦賞授賞式出席。ロシア、フィリピン、中国の研 究者と情報交換。特にフィリピン・ラグナ湖開発局(LLDA)上級研究員のアデリーナ・ サントス・ホルヘさんは、霞ヶ浦賞を 2 度授賞した旧知の方だが、今夏の 3 度にわた る台風被害(水害、地滑り)の状況について、ラグナ湖流出河川であるパシグ川の水 位が 13m上昇し、マニラ首都圏で多数の人命が失われ、多大の経済的損失があったと 話してくれた。また旧知の嘉田由紀子滋賀県知事、松井三郎京都大学名誉教授、北田 俊夫 NPO 法人琵琶湖豊穣の里理事長らに挨拶。その後ホテルに帰り、自室で翌日の発 表内容、予想される質問に対する応答に関して準備した。 11 月 3 日(火) 午前: 世界銀行の水問題専門家リントナー氏、ILEC 科学委員長で滋賀大学教授の中村氏、国 際水協会(IWA)のガーマン総裁らによる基調講演聴講。休憩時間に、中国国内の著 名な湖沼である太湖(南京市や無錫市の近く)、ジアン(氵に真)池(雲南省昆明市)、 洱海(エルハイ、雲南省大理市近く)、洞庭湖、巣湖などに関する展示コーナー見学。 「地球温暖化と湖沼環境」 「湖沼生態系と湿地保護」分科会出席。 午後: 「地球温暖化と湖沼環境」分科会出席。15:00 から「地球温暖化が霞ヶ浦の環境に与 える影響予測」のテーマで 20 分間、英語で口頭発表。中国の研究者らから、霞ヶ浦で のアオコ発生状況、透明度が低い理由、霞ヶ浦の湖水が水道水として供給される人口、 霞ヶ浦の水温変化について質問を受け、即答した。続く分科会では、滋賀県の大前氏 による「地球温暖化と琵琶湖への影響」、ロシアの研究者による「バイカル湖のプラン クトン相の変化と地球温暖化」 「トルコの潟湖の底生動物相と自然浄化作用」の発表を 聴講した。休憩時間に、ポスターセッションコーナーのポスター展示見学。 11 月 4 日(水) 午前: 分科会会場で、太湖など中国の湖沼の富栄養化の現状と対策について中国環境科学院 の金教授、アフリカの湖沼の現状と地球温暖化・気候変動に関するジンバブエ大学マ ガッツア教授、マレーシアのワン氏の湖沼の堆積物に関する研究成果の発表聴講。 午後: フィールド・トリップ(公式スケジュール)で参加者全員がバス移動。武漢市内の東 湖、月湖視察。武漢市は大小数百の湖沼がある水都で、中でも東湖は都市内の湖沼と しては中国最大。揚子江の氾濫源にある残存湖だが、湖畔は公園化されていた。水質 は霞ヶ浦と同程度と推察された。月湖の湖畔に音楽堂があり市民に親しまれていた。 夕刻: 会議参加者全員が夕食会&文化公演(公式スケジュール)に出席。文化公演は、屈原(三 国志時代の楚の詩人、最後は汨羅に身を投じた)の詩をモチーフにした躍動的かつ幽 玄な演出で、人の世の争いと悲しみ、命の源である水と生物がテーマであった。 11 月 5 日(木) 午前: 分科会会場で、中国科学院南京地理湖沼研究所の楊教授による「太湖の環境保護と総 合的流域管理」 、オハイオ州立大ミッチ教授による「米国やイラクなどの湿地帯の現状」 に関する発表を聴講。休憩時間の後、 「武漢宣言」案が中国語と英語で発表され、意見 交換された。さらに分科会で、滋賀大学の田中氏による琵琶湖の化学物質汚染の調査 結果、ウガンダのオケロ氏(いばらき霞ヶ浦賞受賞者)によるウガンダの湖沼でのア オコ毒の定量調査に関する結果について聴講した。 午後: 閉会式の冒頭、修正「武漢宣言」が改めて発表され採択。その中では、地球温暖化が 現実問題になってきたことから、湖沼の流域管理においても、その視点から地球規模 の協力体制づくりを促進すべきこと、総合的流域管理の考え方が国際、国内、地域 レベルで、経済、法令、科学、情報などの分野で取り入れられるべきこと、それには 大衆の参加や技術革新が重要であること、世界的な経済不況の中で湖沼環境保全への 財源確保に努力すべきことなどが盛り込まれた。国際湖沼環境委員会の科学委員らか ら今回の会議の内容について総括後、次回は米国テキサス州オースチンでの開催であ ることが発表された。 11 月 6 日(金)武漢空港、上海空港を経て、夕刻に成田空港到着。