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マルチフェロイックYMn2O5における強誘電相転移の前駆現象

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マルチフェロイックYMn2O5における強誘電相転移の前駆現象
Annual Report No.23 2009
マルチフェロイックYMn2O5における強誘電相転移の前駆現象
Precursor Phenomenon on Ferroelectric Transition in Multiferroic YMn2O5
A84106
派遣先 第11回エレクトロセラミックス国際会議(イギリス・マンチェスター)
期 間 平成20年8月31日~平成20年9月9日(10日間)
申請者 名古屋工業大学 助教 籠 宮 功
の強誘電性発現機構を明らかにするために、単
海外における研究活動状況
結晶X線回折を行った結果について報告した。
具体的には、Y M n 2 O 5 の強誘電相転移温度
研究目的
本研究では、マルチフェロイックYMn2O5強
(T C E =39K)より高い温度で単結晶X線回折
誘電相転移の原因となるMnイオンの相対変位
により精密構造解析を行うことで、Mnイオン
に関して前駆現象を調べることを目的とする。
の熱振動パラメータの温度変化を調べ、強誘
具体的には、強誘電相転移温度(T CE =39K)
電相転移の変位に関わる前駆現象の有無を検
より高い温度で単結晶X線回折により精密構
討した。これによれば、室温から相転移温度
造解析を行うことで、Mnイオンの熱振動パラ
に近づくにつれ、Mn 3+ イオンの異方性熱振動
メータの温度変化を調べた。
パラメータの主軸方向が、群論の議論から推
測できるMnイオンの変位と同じ方向に回転す
海外における研究活動報告
る。本研究結果は、マルチフェロイックス系
ELECTROCERAMICSは、電子セラミック
において、これまでに詳細が明らかになって
ス関連の研究に従事する研究者が世界各国か
いない誘電性と磁性との相関性の微視的な機
ら一斉に集まる大規模な国際会議である。今
構解明につながるものであり、新たなマルチ
回は、11回目としてイギリス・マンチェスター
フェロイック物質を見出す上で一つの有効な
大学で行われた。発表件数は、オーラル、ポ
開発設計指針となると考えている。
スター発表を含めて、580件以上である。発
以上の結果を報告することによって、マル
表内容は、誘電体、圧電体、などの電子セラ
チフェロイック材料を対象とする他の多くの
ミックス、S O F C関連の固体電解質等を中心
研究者に、より高性能なマルチフェロイック
に、その作製プロセスから特性評価など多岐
物質を開発する上で、物性物理学及び結晶対
にわたる。なお、以上の分野において、基礎
称性に基づいて設計指針を得ることが重要で
的な学術研究から、応用に近い研究開発まで
ある点を示すことができたと考えている。最
広範囲にわたることが本会議の特徴の一つで
近のこの分野の動向では、十分な学術的考慮
ある。
なしに、磁性イオンと強誘電性を示しやすい
本会議で、筆者は、最近注目を集めている
イオンから、新規マルチフェロイックス系の
マルチフェロイック材料の一つであるYMn2 O5
セラミックスを合成しようといった傾向が多
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The Murata Science Foundation
く見られる。本研究結果の公表によって、以
同研究に関して打ち合わせを行った。打ち合
上の従来のアプローチ法から脱却し、これま
わせ後は、マンチェスター大学のシンボルで
でにあまり着目されていなかった微視的機構
もあるWhitworth Building内のレストランで、
の立場から今後の新規マルチフェロイック系
食事をする機会に恵まれた。その折、Freer先
エレクトロセラミックスの研究開発が進行す
生より、マンチェスター大学がコンピュータ
ることを期待したい。
発祥の地であることをうかがった。落ち着き
本会議にて、他の研究者の発表を数多く聴
ある古き趣深い建物内で、筆者は、マンチェ
講して、マルチフェロイック系の研究が盛ん
スター大学の科学、工学の伝統に、ただ圧倒
であることを改めて認識した。さらなる本分
されるのみであった。
野の発展のために、筆者も、他の多くの海外
この派遣の研究成果等を発表した
の研究者と切磋琢磨し、微力ながら貢献して
いきたいと考えている。
著書、論文、報告書の書名・講演題目
講演題目及び提出論文題目
本会議終了後は、会議の実行委員長も務め
られたマンチェスター大学のFreer先生らと共
Precursor Phenomenon on Ferroelectric
Transition in Multiferroic YMn 2 O 5
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