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学校カウンセリング・リサーチ - Hi-HO

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学校カウンセリング・リサーチ - Hi-HO
岩手大学大学院教育学研究科
「学校カウンセリング特論」(講師
國分康孝先生)まとめ
その4
Ⅳ.学校カウンセリング・リサーチ( 2000.2.21.10:3 0-12 :00 )
<受講生の質問に答えて>
1.各理論,療法の特徴
(1)精神分析:クライエントに関する「なぜ?」を知りたいときには有効。無意識を意
識化させる理論体系だから。その手がかりとして,防衛機制,コンプレックス,リビドー
の発達がどの辺で止まっているか,エゴ,スーパーエゴ,エスのどの段階にとどまってい
るかなど。
(2)行動療法:「 なぜ?」を考えてわからないときに,とにかく目に見える症状を除去
するためのハウツーがあるのが便利。
(3)自己理論:どんなクライエントにも使える。あらゆるカウンセリングの基礎でもあ
る。クライエントとのリレーションづくりに最適だが,この方法だけでは治らないことも
多々ある。しかし,誰もが一度は通過しておくべき理論。
(4 )論理療法:簡便法として使いやすい 。50分とかの面接時間は学校ではとりにくい 。
廊下で立ち話なども可能。短時間で一件落着ということもあり得る。
(5)交流分析:集団を扱うときに,各個人のことを理解するのに便利。
(6)ゲシュタルト療法:構成的グループエンカウンターを進めるものには是非通過して
もらいたい。エクササイズの進め方など。
(7)特性・因子理論:テストを使うので進路指導の人が知っているといい。カウンセリ
ングではあまり使わないが,アセスメントとして使えるので,知っていると便利。
(8)実存主義:生い立ち,知能,意欲,全てに問題がないのに「死にたい」という人が
いる。生きる望みに関してなど思考に絡む問題に有効。現代は,カウンセリングの世界で
花形的存在にある。頼りになるものがない時代だから「自分こそが人生の主人公」という
哲学が受け入れられている。ニイルの著作集が参考になる。
2.カウンセリングを支える理論のカウンセリング心理学,臨床心理学等について,再度
説明を。
・精神分析理論は,臨床心理学の分野で使われると夢分析などを行う。しかし,カウンセ
リング心理学の分野では夢分析は行わない。抵抗や転移を理解する際の指標として理論を
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用いる。なぜなら,カウンセリング心理学の対象者は健常者であり,発達上のつまずきの
治療だから。
・臨床心理学は精神疾患の治療が守備範囲。特に神経症の治療が中心である。カウンセリ
ング心理学は発達につまずきのある健常者の治療が守備範囲である。つまり,カウンセリ
ング心理学は客層が広いということ。
・学校心理学とは,範囲が学校の問題に限られるので守備範囲が狭い。心理テストができ
る人がスクールサイコロジスト(学校心理士)として求められる。カウンセリングサイコ
ロジストは,保護者とも直接会うが,スクールサイコロジストは担任を通す。コンサルテ
ーション的なかかわりとして,影の参謀のような存在となる。
・ソーシャルワークはカウンセリング理論とあまり重ならない 。カウンセリングではなく ,
社会学の系統を引くため。ただし,指導しているうちにカウンセリング理論も必要になっ
てくる。アイデンティティは,特定の個人を治すよりも,個を取り巻く環境に働きかける
ことで形成されるという考え。ソーシャルワーカーは,問題解決に役に立つ,社会学の知
識を応用した専門家のこと。
・キャリア心理学は,カウンセリング理論の「本籍地」である。学問体系にカウンセリン
グ心理学の分野がない頃から,すでに存在していた。その当時は ,「職業指導(オケイジ
ョナル・ガイダンス )」と呼ばれた。この職業指導が,心理テスト,メンタルヘルス運動
と合流し,ガイダンスという領域を形成し,19 50 年代に ,「カウンセリング心理学」が成
立した。
・カウンセリング心理学が,心の問題にアプローチする際の「キング・オブ・キングス」
である。
・家族問題などはカウンセリング心理学の各論にあたり ,「家族心理学」と呼ばれること
もある。
・カウンセラーが精神疾患の治療まで踏み込むと,医療に対する越権行為となるが,家族
への踏み込みはOK。ただし,カウンセラーの技量が求められる。
<学校カウンセリングのリサーチについて>
プロのカウンセラーになるには,リサーチとティーチングができる必要がある。
1.リサーチとは何か
・事実を発見すること(facts finding )
・理論化すること (theorizing)
・リサーチ(研究)とは ,「記述(事実 )」→「説明」→ 「変容」の順に進めるものであ
る。
・「 記述(事実 )」の例:離婚が増えている,学級崩壊で英語と数学の教師が暴力を振る
われる場合が多いなど。
・「 説明」の例:「 なぜ?」という推論をする。英語の教師が暴力を振るわれるのは,生
徒のフラストレーションを高めるからではないか。若い年齢層の離婚率
が高いのは,社会的スキルが十分に育っていないからではないか。
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・「変容」の例:どうしたら問題を防いだり,解決したりできるのか,その方法を開発す
ること。
・推論の部分を説明するのに必要となるのが「理論」である。
・「事実」を確認し ,
「概念」を作り上げ,そして ,「理論」が構築される。
・一番大切なのは ,「事実」を確認するということ。
・「五感」で説明できるものを「現象」と呼ぶ。プロの人間は,事実を発見し,いろいろ
な事実から共通項を見いだし,それを概念(コンセプト)としてまとめる。さらにいくつ
かの概念を上手にまとめ上げることができれば ,それが理論になる 。理論とは ,つまり「 概
念の束」のことである。
・研究者のタイプには二通りある 。「自ら動き,体を張ってデータ収集する研究者 」,「理
屈だけでものを言う研究者 」。共に大事ではあるが,まずは事実を発見することが何より
も大事。アメリカの研究者は若いうちに,どんどん動いてデータを集めている。
2.リサーチはなぜ必要か?
・推論でものを言わないようにするためである。フィーリングでしか語れなくなってしま
うのは困る。カウンセラーとして,あるいは教師として,人の人生を扱う職業の人はフィ
ーリングだけではいけない。臨床的に事実に基づいてものを言うことが必要となる。
・残念ながら,複数あるカウンセリング理論でもまだ推論に頼っている部分が多い。
・実存主義的アプローチは思想を語っているので論証はできない。しかし,その思想によ
って立ち直る人もいるので,捨てきれない。プラグマティズム的考え方でもある。統計的
な事実分析をしないが,体験的によいと思うことをまとめておく必要はある。
・精神分析的アプローチは,多くの事例を持たない割には,少ない事例を一般化しすぎの
傾向があるのが弱点。
3.リサーチの手順
(1)トピックの選定
・何を研究するのかということ 。伸びる人はこの選び方が上手い 。人が喜ぶトピックとか,
公共性が高いトピックとか。今であれば ,「学級崩壊」などは誰もが飛びつくトピックだ
ろう。
(2)操作的定義
・例えば ,
「収入」という一語についても様々な意味がある。例えば ,「労働に対する給
付」とする。そして,これを測定可能なものに定義しなければならない。そこで ,「手取
りの月給」とか「年収」とか,具体的な定義付けをすることになる。研究の場合も,先行
研究を紐解き,自分なりに納得ができ,理由が説明できるものを操作的定義として位置づ
けるところが腕の見せ所 。「収入」の研究にしても ,「1日の手取り」にするか ,「年収」
で結果は大幅に違ってくる。いい論文というのは,どういう定義をしているかが明確であ
る 。「治る」という言葉の定義も難しい。実存主義的アプローチでは ,「赤面しながらも
話ができればOK 」,行動主義では「10回中,3回は話ができたらOK」というように
定義の仕方が異なる。
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(3)母集団
・結論を言うとき ,
「○○の○○ では」と言わないと,はったりになってしまう。適用
範囲をしっかりと明記することが大事。東京の小学校と言っても広すぎるので,山手線内
の学区の小学校とか。
(4)サンプリング
・統計処理をするときに,人数が多ければいいということにはならない。サンプルの構成
を考えなければならない。ある地域の調査をしようとデータを収集しても,金持ちの家ば
かりからデータを集めてしまったでは,代表性が乏しくなる。収集データに偏りが出ない
よう,ランダムサンプリングを工夫するとかが必要。
(5)測定具
・質問紙に使う尺度は既製の尺度でもかまわない。信頼性,妥当性が問題なければOK。
4件法が最近では増えつつある。
・自由記述法,面接チェック法などもある。
(6)分析
・結果の表記であり,論文の中で,ここは量的には少ない部分。
(7)考察
・例えば,結果のグラフから何が言えるのか。この部分が一番大切になる。コンピュータ
ーを使えば統計処理は誰でもできる。出てきた結果から何が言えるのか,ここが学識の問
われるところである。理論を知っていないと整理できないし,推論もできない。考察につ
いては,知っている限りの知識を動員してたっぷりと述べたいところである。
・自分のデータは何を物語っているのか。
・どんな問題を提起しているのか。
・この研究の改善点は何か 。(サンプルや技法の問題とか)
4.リサーチの種類
(1)統計処理を行うもの
・実態調査:事実を明らかにするリサーチ。友人調査,喫煙調査など。
・効果測定:エンカウンターの事前事後比較。
・プロセス調査:生徒の心の変化調査(黙っていた子が話すようになる経緯)
(2)統計処理を行わないもの
・事例研究:数名を追って,問題を提起する。臨床心理学はこの分野。フロイトなどは全
て,この方法。
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