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ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会 「社会
CRDS-FY2016-WR-02
俯瞰ワークショップ報告書
ナノテクノロジー・材料分野
領域別分科会
「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
2016年2月24日(水) 開催
国立研究開発法人
俯瞰ワークショップ報告書
ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
i
エグゼクティブサマリー
本報告書は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)
が平成 28 年 2 月 24 日に開催した『俯瞰ワークショップ(WS)ナノテクノロジー・材料
分野 領域別分科会「社会インフラ ~持続的な維持管理への対応技術~」』に関するもの
である。
CRDS では、ナノテクノロジー・材料分野の俯瞰報告書を 2 年毎に発行しており、直
近では平成 27 年 4 月に「研究開発の俯瞰報告書 ナノテクノロジー・材料分野(2015 年)
」
(CRDS-FY2015-FR-05)を発行した。これに続く 2017 年版を検討するに当たり、材料設計・
制御、ELSI/EHS、社会インフラ、ナノエレクトロニクス、バイオナノテクノロジーの5
つの領域に焦点を当てた活動を行ってきた。今回、その一環として、ナノテクノロジー・
材料分野の視点で社会インフラを取り上げ、この領域における現状と課題の把握、注目さ
れる科学技術の動向、今後取り組むべき新たな科学技術などについての議論を深める目的
で、ワークショップを開催した。社会インフラの現状と課題、社会インフラ材料研究プロ
ジェクトの概要、鉄鋼材料の課題、接合とコーティングの課題、腐食・劣化の問題に関す
る話題提供と、これらを踏まえた社会インフラの持続的な維持管理の対応技術に関する総
合討論を行った。
ワークショップの冒頭、健全な社会インフラの維持管理を進めていく上で、構造材料、
接合・接着技術、コーティング・表面処理といった構造形成技術に関するものや、劣化・
腐食の機構解明、計測・点検・分析評価、劣化予測・余寿命予測、補修技術などナノテク
ノロジー・材料技術の視点で取り組むべき課題があると考え、社会インフラに関する俯瞰
図案を紹介した。
社会インフラの現状と課題では、インフラとして橋梁を取り上げ、高度成長期に作られ
た多くの橋梁の老朽化の進行、保守費用が増大し更新が困難になること、大多数を占める
市町村保有の橋の財政上および技術者不足などの課題などが示された。また、損傷箇所の
診断だけでなく、材料劣化や剛性低下などの直接的な計測などのインフラの検査技術を用
いて、適切に保全できる仕組みを考えていく必要があることが指摘された。
社会インフラ材料研究プロジェクトの概要においては、① SIP「インフラ維持管理 ・更
新・マネジメント技術」
、② SIP「革新的構造材料」
、③ NEDO プロジェクト「革新的新
構造材料等研究開発」の活動が紹介された。①ではコンクリート・インフラの診断と余寿
命予測、アセットマネジメント、および高耐久床版の開発が説明され、劣化機構の解明、
マルチスケール解析の重要性が示された。②では航空機エンジンの耐熱材料(合金、セラ
ミックス)の開発、航空機の複合材料(炭素繊維強化樹脂[CFRP]など)の開発と、計
算科学、データベース、インフォマティクスなど、実験以外のツールも融合して早期の材
料開発に結びつけるマテリアルズ・インテグレーションの取り組みが紹介された。③では
自動車を中心とした輸送機器の抜本的な軽量化、接合、材料(鋼、アルミ、チタン、マグ
ネシウム、炭素繊維及び CFRP)に関する研究開発の現状が説明され、目標値を上回るペー
スで開発が進んでいることが示された。
鉄鋼材料の課題では、鉄鋼材料の疲労、損傷、腐食などの劣化状況を監視するセンサデ
バイスの開発とセンサネットワークシステムの構築、劣化の数値モデリングとデータベー
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俯瞰ワークショップ報告書
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ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
スをうまく組み合わせて材料の時間依存の性能を短時間で予測するマテリアルズ・インテ
グレーション・システムが紹介された。
接合については、接合・溶接技術の問題点と課題、過去の事故の事例、将来ビジョンと
ロードマップ、SIP での取り組みなどが紹介された。また、溶接・接合技術は現状では特
殊工程であり、これを性能保証型の技術にするためには、シミュレーションをベースにし
たプロセス制御、溶接・接合部にダメージのない新たな技術開発の必要性が指摘された。
コーティングについては、従来の金属やセラミックスの粉末材料を溶かして基材に吹き
付ける溶射技術に加え、最近注目されている、溶かさずに粒子を吹きつけ成膜するコール
ドスプレー法が紹介された。また、エアロゾルデポジション法(AD 法)による常温固化
のメカニズムを利用したセラミックスのコーティングによる防食の可能性についても言及
された。
腐食・劣化の問題では、①金属材料の腐食寿命予測技術の現状と今後の課題、②非破壊
検査と余寿命診断の基礎と考え方、③放射光による腐食・劣化のマルチスケールその場観
察について紹介された。①については、実環境を反映した腐食促進試験を行う必要がある
こと、大気腐食の数値モデル化が非常に重要であることが示された。②については、
クリー
プ損傷の事例が紹介され、
「欠陥工学」としてきちんと考える必要があること、加速試験
法の中に動的な損傷の進展をダイナミックにモニタリングする技術やデータベースを作っ
ていく必要があることなどが示された。③について、固体/液体の界面、高速で起こる不
可逆な現象(破壊、相転移)
、マルチスケールでの不均質性(heterogeneity)の観測が重
要であり、これらが実材料、実プロセスの開発に結び付くことが示された。
総合討論では、上記の話題提供の内容を受けて、コンクリートの余寿命予測、市町村に
おけるインフラのアセットマネジメント、鉄鋼材料のさびの解析、防食と塗装・コーティ
ング、溶接と疲労、リサイクルなどについて議論した。ここでは、古いものと新しいもの
を一緒に扱うエンジニアリングが重要なこと、コンクリートは鋼や他の補強材をうまく使
う設計で対応できること、市町村ではインフラ維持の抜本的なシステムが必要なこと、腐
食は様々な腐食環境において数値モデルを作ることが重要なこと、海洋構造物の鋼の防食
には塗装と電気防食を併用することが有効であること、溶接部から入る疲労亀裂や腐食の
予測技術が重要なこと、経年劣化材の溶接技術の必要性、材料の履歴やデータベースの整
備が重要なこと、過積載など不確実なリスクへの対応が必要なこと、社会インフラにとっ
てもリサイクルの視点は非常に重要であること、などが指摘された。
これらの結果は、CRDS でさらに検討を加えて、2016 年度末に発行を予定している「研
究開発の俯瞰報告書 ナノテクノロジー・材料分野(2017 年)
」に反映させるとともに、
今後国として重点的に推進すべき研究領域、具体的な研究開発課題の検討に活用する予定
である。
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俯瞰ワークショップ報告書
ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
目 次
エグゼクティブサマリー………………………………………………………………………………ⅰ
1. ワークショップの趣旨説明 曽根 純一、馬場 寿夫(JST-CRDS) ……… 1
2. 社会インフラの現状と課題 渡邊 英一(京都大学) ………………………… 5
3. 社会インフラ材料研究プロジェクトの概要 ………………………………………………… 11
3.1 SIP「インフラ維持管理 ・更新・マネジメント技術」 前川 宏一(東京大学)………………………… 11
3.2 SIP「革新的構造材料」
竹村 誠洋(JST-SIP/CRDS)……………… 20
3.3 革新的新構造材料等研究開発の活動概要報告 兵藤 知明(新構造材料技術研究組合)……… 24
4. 鉄鋼材料の課題(疲労、クリープ、マルチスケールシミュレーション等)
榎 学(東京大学) …………………………… 31
5. 接合、コーティングの課題 …………………………………………………………………… 39
5.1 溶接・接合技術の現状および課題と今後の展望
廣瀬 明夫(大阪大学)………………………… 39
5.2 高機能コーティング技術の進展とインフラ応用の可能性 明渡 純(産業技術総合研究所)……………… 49
6. 腐食、劣化の問題 ……………………………………………………………………………… 57
6.1 金属材料の腐食寿命予測技術の現状と今後の課題∼表面処理、耐食材料∼ 藤田 栄(JFE テクノリサーチ) …………… 57
6.2 非破壊検査・余寿命評価 志波 光晴(物質・材料研究機構)…………… 65
6.3 放射光による腐食・劣化のマルチスケールその場観察
木村 正雄(高エネルギー加速器研究機構)… 74
7. 総合討論 ファシリテーター:竹村 誠洋(JST-CRDS) …………………… 83
付 録………………………………………………………………………………………………… 89
付録1 開催趣旨・プログラム………………………………………………………………… 89
付録2 参加者一覧……………………………………………………………………………… 92
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俯瞰ワークショップ報告書
ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
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曽根 純一、馬場 寿夫(科学技術振興機構 研究開発戦略センター)
これまでナノテクノロジー・材料分野の出口として、主にエレクトロニクス、情報通信、
環境・エネルギー、バイオ・ライフサイエンスの領域を想定し、俯瞰ではこれらとナノテ
1
ワークショップの趣旨説明
1. ワークショップの趣旨説明
クノロジー・材料分野との融合領域にフォーカスしてきた。一方、最近では国土強靭化の
観点から、様々な建造物を中心とした社会インフラの老朽化の問題がクローズアップされ
3
社会インフラ材料研究プロジェクトの概要
図 1-1 は 2015 年版のナノテクノロジー・材料分野の俯瞰図である。下から、科学、共
通基盤、物質・材料、デバイス・部素材、社会実装に関するものを記載している。ここで
は、
「社会インフラ」として、水、電力、交通、通信を取り上げている。
2
社会インフラの現状と課題
ており、ナノテクノロジー・材料分野の大きな出口の一つとして、社会インフラについて
もきちんと俯瞰する必要があると認識している。現在、内閣府のインフラおよび構造材料
関係の 2 つの SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)や、経産省の構造材料関係の
プロジェクトがあるが、この領域の研究開発がどのようになっているのか、また日本全体
の技術の底上げをしていく上で、アカデミアとこれらがどのように連携していく必要があ
るか、などについて議論し、情報を共有するとともに、様々な新しい課題や将来に向かっ
てやるべきことをクローズアップしていきたい。今回は俯瞰という視点ではあるが、これ
らを内閣府、文部科学省、経済産業省など政府に提言していくことが重要であり、このよ
うな点も含めて活発な議論をお願いしたい。
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︵疲労、クリープ、マルチスケールシミュレーション等︶
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鉄鋼材料の課題
図 1-1 ナノテクノロジー・材料分野の俯瞰図
俯瞰ワークショップ報告書
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ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
図 1-2 主要な研究開発領域
図 1-2 に示すように、この俯瞰図から重要な研究開発領域として 41 領域を特定して
いる。この 41 領域は俯瞰区分として、環境・エネルギー、健康・医療、社会インフラ、
ICT・エレクトロニクス、共通基盤に分類している。社会インフラ俯瞰区分に含まれる研
究開発領域を見ると、構造材料(金属)
、構造材料(複合材料)
、水処理、放射線物質除染・
減容化、高温超伝導(線材)、センシングデバイス・システムとなっており、必ずしも社
会インフラ関係の全てを含んでいるわけではない。今回は、この欠けているところを捕捉
したいと考えている。
高度成長期につくられた社会インフラの老朽化が一つの大きな社会問題として出てきて
いる。特に、老朽化した社会インフラの補修や補強に関するメンテナンス費用が増大する
ようになってきていることから、計画的な管理が求められている。これに関しては様々な
課題があるが、重要な課題の一つとして、使われている構造材料の現状を正確に把握し、
劣化の進行や寿命を予測する必要があると考えている。
もう一つは、2015 年版では、必ずしも大事なところを全部捉えているわけではないと
いうことである。41 領域の中の一部として構造材料(金属)および構造材料(複合材料)
が入っているが、
さらに構造材料(コンクリート)が必要だろうと考えている。また、コー
ティング技術や接合技術についても新たに把握しておく必要がある。センシングデバイス・
システムも重要である。今後の人手不足という問題に対しては検査ロボットも重要である。
さらに、高精度の検査技術、劣化予測技術も重要と認識している。劣化予測技術に関して
は、理論、シミュレーション、モデル、データベースが必要である。このように、ナノテ
クノロジー・材料に関わるところをもう少し深掘りしなければならない。
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ンフラ維持管理・更新・マネジメント技術」が始まる前に出されたものであり、この SIP
の基本になるような考え方を示したものである。図 1-3 にこの戦略プロポーザルの概略図
を示す。
1
ワークショップの趣旨説明
CRDS では社会インフラに関して、3 年ほど前にも管理システムとしてどんなものが必
要か検討し、戦略プロポーザル(CRDS-FY-2014-SP-02)を発行している。これは SIP「イ
2
社会インフラの現状と課題
社会の実現に向けた社会インフラ統合管理システムの研究 ‐ 」の概略図
ここでは、社会インフラの統合管理システムの構築の必要性を訴えている。インフラ構
築時のデータ、補修データ、使われている材料のデータ、検査データ、構造解析データ、
要がある。図の下部には構造材料、接合・接着技術、コーティング・表面処理といった構
造形成技術に関するものを挙げている。
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︵疲労、クリープ、マルチスケールシミュレーション等︶
これまでのヒアリングを基に、CRDS で社会インフラの全体像(俯瞰図)を示したの
が図 1-4 である。この図はまだ案の段階であり、今後これをブラッシュアップしていく必
4
鉄鋼材料の課題
て調べておく必要がある。
性能予測データなど、全体を統合したデータベースを作り、これを活用した維持管理をす
べきとの提言をしている。ただし、必要な技術の詳細については述べていない。例えば、
材料について何を研究開発すべきかといった具体的なことは述べていない。これらも含め
3
社会インフラ材料研究プロジェクトの概要
図 1-3 戦略プロポーザル「課題解決型研究開発の提言(2)‐ 強靭で持続可能な
俯瞰ワークショップ報告書
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ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
図 1-4 社会インフラの全体像(俯瞰図)
その上には、維持管理をしていくための点検・保守技術を挙げており、そこでは劣化・
腐食の機構解明、計測・点検・分析評価、劣化予測・余寿命予測、補修技術などが重要で
あり、それぞれに細かな研究内容があると考えている。俯瞰図のブラッシュアップに関し
ても総合討論で議論したい。
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渡邊 英一(京都大学/大阪地域計画研究所)
社会インフラの現状と課題に関して、私の専門である橋梁を中心に話す。
今は少子高齢化が進み、次世代の技術者の育成と伝統技術の継承が大きな問題となって
1
ワークショップの趣旨説明
2. 社会インフラの現状と課題
いる。建設分野においては、これまでの新設一途の状況が一変し、維持管理に注力するよ
うになっている。インフラを資産として捉え、工学だけではなく、経済学や経営学の考え
すべき」と発言されたことである。全てのものは最初は新しくても年月が経つと老朽化す
るものであり、インフラも例外ではない。ただし、インフラは普通の製品とは異なり、古
くなったら捨てるというわけにはいかないところが問題である。
鉄板を何枚か継ぎ合わせて鎖として使っていたのだが、その一部が破断し、ドミノ的に崩
渡ろうと大勢の群集が詰め掛けたことで重さに耐え切れずに崩壊した。前日に洪水が起
こっていたことも重なり、1000 ~ 2000 名の犠牲者が出たのである。これは木の老朽化
が原因であると言われている。
現代は、社会経済活動の高度化に伴って、生産・消費・廃棄の量的規模が飛躍的に増大
している状況であり、資源枯渇、環境破壊が進んでいるが、我が国の建設環境においても、
スクラップ・アンド・ビルドの時代からストック有効活用の時代へ大きく変革する必要が
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︵疲労、クリープ、マルチスケールシミュレーション等︶
アポリスで 2007 年に起こった落橋事故でも 1 ヶ所の破壊が橋全体の破壊に繋がっている。
橋梁事故は日本でも起こったことがある。1807 年 8 月 19 日、30 数年ぶりの深川八幡
の祭礼の際、永代橋という木橋の下を一橋家の船が通った後、通行止めが解除され、橋を
4
鉄鋼材料の課題
残念ながらシルバーブリッジでは 1 ヶ所の破壊が全体の破壊に繋がってしまった。ミネ
壊してしまった。アイバーは鍛造という手法で形成され熱処理が施されていたが、表面か
ら 1 センチ程度のところに硬いが脆弱な層が存在し、熱処理後の急激な冷却と収縮によっ
て針の穴ほどの亀裂があったと考えられている。40 回もの冬、夏を経験していくうちに、
温度の周期的変動による応力腐食によって崩壊したということである。我々、構造技術者
にとっては構造物をドミノ的に破壊させることは絶対にあってはならないことであるが、
3
社会インフラ材料研究プロジェクトの概要
今回、「社会インフラの現状と課題」というタイトルをつけたが、例えば阪神・淡路大
震災、福知山線脱線事故、スマトラ沖大地震、ミネアポリス橋梁崩壊事故、東日本大震災
など、大きな犠牲を払わないと失ったものの大きさがわからないということが我々の反省
点である。大都市の活動というものはインフラという生命維持装置に大きく依存している。
米国では、1967 年のシルバーブリッジの崩壊事故をきっかけにブリッジアセスメントに
力を入れ始めた。シルバーブリッジの崩壊事故の原因は応力腐食割れと言われている。応
力腐食割れとは、材料の感受性、環境の腐食性、引張応力の付加の 3 つの条件が相乗的
に関与したときに起こる脆化現象である。当時のシルバーブリッジはアイバーと呼ばれる
2
社会インフラの現状と課題
方を取り入れて計画的に運用すること、特にインフラのライフサイクルに視点を移すこと
が重要になっている。このように考えるきっかけとなったのは、以前、国交省のある検討
委員会で岡村甫氏が「道路を資産としてとらえ、道路構造物の状態を客観的に把握・評価し、
中長期的な資産の状態を予測するとともに、予算的制約の下で、
「いつ」「どのような」対
策を「どこ」に行うのが最適であるかを決定できる総合的なマネジメントシステムを構築
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ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
ある。構造物の長寿命化・延命化がますます重要な課題となっている。
新規投資額は確実に減少しており、平成 21 年度国土交通白書によると、2040 年まで
には新造はなくなる。つまり、新しい橋は作らなくなるということである。一方で、更新
投資や維持管理の投資は増大し、社会資本ストックは確実に増大すると予測されている。
図 2-1 日本の橋梁の現況
図 2-1 は日本の橋梁の現況について示したものである。日本の橋梁の中で長さが 15 メー
トル以上のものが全国に約 15 万橋程度あり、そのうち建設から 50 年以上経過したもの
が 6%、40 年~ 49 年のものが 14%、30 ~ 39 年のものが 26%ある。つまり、約半数の
ものが 30 年以上経過している。では、その 15 万程度の橋をどこが管理しているかと言
うと、半数以上が市町村となっている。後で詳しく述べるが、これは非常に重要な問題で
ある。
また、橋梁を材料で区別すると、鉄筋コンクリートの強度を上げたプレストレスト・コ
ンクリート(PC)でできている PC 橋と鋼橋で全体の 8 割程度になっている。
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ワークショップの趣旨説明
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社会インフラの現状と課題
図 2-2 急速に進む日本の橋梁の高齢化
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社会インフラ材料研究プロジェクトの概要
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鉄鋼材料の課題
図 2-3 維持管理・更新費の推計
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図 2-2 は日本の橋梁の高齢化について示したものである。1920 年代にアメリカでニュー
ディール政策が実施されてから、ほぼ 30 年遅れで日本では橋が次々に造られていった。
つまり、アメリカで起こったことが 30 年後に日本でも起こりうるということであり、こ
のことは我々の常識である。
図 2-3 は維持管理・更新費の推計を示す重要なデータであるが、先ほど述べたように、
2040 年頃には新設がなくなる。本当にそうなるかどうかはわからないが、維持管理費は
3 兆円で一定になり、維持管理・更新費は 2055 年頃には 7 兆円にまで増大する。これを
どう抑えていくかが課題である。
例えば、近畿地方では、2030 年までにほぼ 60%のものが老朽化、つまり架設後 50 年
以上が経過することになる。橋というものはだいたい 50 年くらい経つと崩落したり、い
ろいろな不具合が起こると考えられているため、警鐘を鳴らさないといけない。日本全体
を見ても、2026 年には一般道路の 15 メートル以上の橋梁の 47%が建設から 50 年経過
することになると言われている。
高速道路を見てみると、例えば首都高、阪神高速道路、NEXCO を比較すると、首都高
と阪神高速道路は大都市における高架道路、高架橋がメインになっているため、80%以
上が橋である。一方で、NEXCO では土盛りして作るものが 75%ある。つまり、首都高
や阪神高速と NEXCO は本質的に構造が異なっているため、維持管理の方法も変わって
くる。
図 2-4 昭和 52 ∼ 61 年の橋の取り替え理由の内訳
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ワークショップの趣旨説明
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社会インフラの現状と課題
図 2-5 平成 8 年の橋の取り替え理由の内訳
図 2-4(昭和 52 ~ 61 年)、図 2-5(平成 8 年)を比較してみると、年月を経るうちに
機能上の問題が大きくなっていることがわかる。材料の問題は科学技術の進歩によって少
なくなってきているとも言える。平成 18 年の調査では、材料に問題がある例は本当に少
なくなり、機能上の理由によって橋を架け替えることが多くなっている。材料的な要因で
破壊する理由のほとんどは鋼材の腐食であるが、その他には床版(路面)の損傷、
支承(橋
の両端の支えている部分)の破損・劣化、自動車荷重に伴う亀裂・破断・疲労などである。
3
社会インフラ材料研究プロジェクトの概要
図 2-4、2-5 はそれぞれ昭和 52 ~ 61 年、平成 8 年の橋の取り替え理由の内訳を示した
ものである。橋の寿命は物理的寿命と機能的寿命の 2 つに分けられる。物理的寿命とは
材料に問題があって取り替えるというものであり、例えば、構造上の欠陥、腐食などであ
る。機能的寿命とは、機能上の問題で取替えが必要になるというものであり、耐震性不良
や幅員狭小等機能上の問題などがある。
た、維持管理するための技術(維持管理・補修の技術、点検の技術、モニタリング技術な
ど)も重要である。
鋼材の場合には、溶接欠陥、応力集中、面外変形など、様々な問題が起こりうるが、重
要なことはどういう時点で補修するのか、事故が起こったらどういう対策をするのか(事
後保全)、そもそも事故が起こらないように長期的な視点で何を考えるべきなのか、とい
うこと(予防保全)が必要になる。つまり、事後保全と予防保全の両方が大切である。
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︵疲労、クリープ、マルチスケールシミュレーション等︶
耐久性の高い構造物を建設するということで、建設前の計画時、設計時、施工時それぞれ
の段階において、どうすれば長寿命が達成できるのかをよく考えることが重要である。ま
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鉄鋼材料の課題
では、長寿命化するにはどういう技術があるのか。長寿命化技術の一つの視点としては、
俯瞰ワークショップ報告書
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ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
性能(健全性、信頼性)というものは、残念ながら時間の経過とともに減少していくが、
それをどう抑えるのかということが重要であり、限界保全ラインに達する前に予防する
(予
防保全)わけであるが、千差万別の橋があり、確率的にばらつきが出てしまう。物理的寿
命と機能的寿命、さらに将来要求される機能を予測することは非常に難しい。また、幾ら
予防保全を徹底したとしても、むしろ経済的な面で新しく取り替えた方が良いということ
もありえる。
先ほど、橋の大半を市町村が管理していることが問題であるという話をしたが、市町村
における問題点は、定期点検をしようとしても、専門的な知見や技術力が不足している上
に、財政的に実施が困難なことである。また、土木技術者も不足していることが致命的な
問題である。
インフラの検査技術としてはセンシング技術がよく適用されているが、計測物理量とし
てはひずみや加速度が多いが、応力・反力、pH、温度に関する計測事例は少ない。また、
診断する損傷種別は局部変形や振動が大半であり、材料劣化や剛性低下などの直接的な計
測は少ない状況である。
今回は橋に限定して話をしたが、結論としては、人や物質の流れを阻害せず、常にイン
フラがはつらつと存在し、それを人々が享受するということが何より大切なことである。
インフラは国民の財産であって、空気のように自明で、社会を根底から支える極めて必要
なものであり、これを幾久しく大切にして保持しなければならない。過去の惨事を繰り返
さないように十二分に対策を練ることが必要で、そのための努力を惜しむべきではない。
【質疑応答】
Q:アメリカが 30 年進んでいるという話があったが、日本とアメリカとの違いは何かあ
るのか。日本独自の課題のようなものはあるのか。
A:アメリカとの大きな違いの一つは、やはり日本では大半を市町村が管理している点で
はないか。インフラの維持管理が放置されているところが多い。
Q:材料という視点では、使われる環境で劣化の程度は違ってくると思うが、日本におい
ては腐食の問題がアメリカと比べてシビアではないか。
A:腐食といっても、積雪、塩害など様々な原因が考えられるので、アメリカとの違いは
それほどないと思う。橋というものはそれぞれの特徴があり、ある場所で有効だとし
ても他の場所では有効ではないことが多々起こる。
Q:物理的寿命と機能的寿命という話があったが、これからの材料は、インフラに限らず、
良いものを作ればいいというものではなく、例えば、求められる寿命がきたら機能を
示さなくなるとか、リサイクルや取替えが容易にできるとかも含めた設計が必要では
ないか。例えば 2 年で買い換える携帯電話を 10 年も持たせる必要はない。そのよう
な発想は土木分野でも進んでいるのか。
A:建物であれば基本的に機能しなくなったら壊すということができるが、橋などのイン
フラは簡単に破棄することはできないので、うまく保全できる仕組みを考えていく必
要がある。
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ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
11
3.1 SIP「インフラ維持管理 ・更新・マネジメント技術」
前川 宏一(東京大学)
開するための技術の水平展開とパフォーマンスの高い維持管理の社会実装を図ることにあ
る。図 3-1-1 に示すように、予防保全体制の確立によるインフラの長寿命化とライフサイ
クルコストの最小化を図る。受け身の対処療法的な対応ではとてももたないので、ロボッ
ト、モニタリング、センシング、ビッグデータなどを活用し、材料開発を進めて、インフ
ラを管轄する事業者がシステムとして継続的にマネジメントできるような形で統合してい
2
社会インフラの現状と課題
このプロジェクトは 11 ある SIP のプロジェクトのうちの一つであり、その傘下にある
60 近くの個別課題に対し、255 の関連機関と約 1,500 人が直接的に関わっている。私は
この課題群の一つである「道路インフラマネジメントサイクルの展開と国内外への実装を
目指した統括的研究」を責任者として担当している。
このプロジェクトの出口は明確であり、インフラの維持管理マネジメントサイクルを展
1
ワークショップの趣旨説明
3. 社会インフラ材料研究プロジェクトの概要
くことがポイントになっている。全体は五つの研究グループから構成されている。
3
社会インフラ材料研究プロジェクトの概要
アセットマネジメント、および高耐久床版の開発について紹介する。道路系の社会インフ
ラはこれから向こう 20 年で更新が進められるが、これから更新するものは少なくとも 100
年は楽に機能が発揮されないと幾らお金があっても足りない。プロジェクトが始まって約 2
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︵疲労、クリープ、マルチスケールシミュレーション等︶
プロジェクトではこのように様々な課題があるが、ここでは図 3-1-2 に示すように、こ
のワークショップに関連の深いテーマであるコンクリート・インフラの診断と余寿命予測、
4
鉄鋼材料の課題
図 3-1-1 プロジェクトの概略図
俯瞰ワークショップ報告書
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ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
年が経過したが、東北復興道路で高耐久仕様の数橋が既に計画および建設されている。
図 3-1-2 ワークショップに関連の深いテーマ
橋梁インフラは異なった自然環境の下で維持管理される。実験室内の技術開発に基づく
提案等では SIP の出口戦略に合致しない。従来の施工法とも比較し、SIP で提案する橋
梁床版の設計施工、維持管理法を実装・実証することが求められている。40 メートルス
パンごとに新たな提案による橋梁インフラを実装して同じ自然環境と同じ交通負荷の下
で、明確な実証が可能となろう。今後、定期的にモニターを継続し、科学的にも技術的に
も真に納税者からの信頼を得るべく開発を進めていく。
次に、コンクリート床版のマネジメントについて紹介する。向こう半世紀にわたり社会
基盤施設を現状の水準に維持するとすれば、190 兆円が必要との試算が出されている。戦
後 50 年間、1,000 兆円近くが社会基盤の形成に投資がなされてきた。アメリカに比べると
一人当たりの額は半分以下であろう。次の 50 年間で初期投資の 2 割弱で維持管理してい
く算段である。このうち道路インフラが全体の 6 割を占める。次に大きいのは上下水道で
ある。橋梁は道路インフラの中でも 6~7 割を占め、橋梁に必要とされる資金の 8~9 割が交
通を直接受ける床版で消費されることになる。交通遮断することなく、床版を更新しなけ
ればならないという厳しい施工上の制約条件が課されていることに拠るものである。
図 3-1-3 は床版の典型的な破壊パターンである。床版の面外方向へのせん断破壊であり、
橋梁上面に水が滞留すると、セメント硬化体の脱落に伴う砂利化さらには粉泥して土砂化
することが知られている。さらに問題はアルカリ骨材反応であり、骨材中の珪酸がセメン
ト中のカリウムやナトリウムと反応して膨張する。これによってコンクリートに多方向に
ひび割れが導入される。1991 年にスパイクタイヤの使用が全面禁止となった。そのため、
冬場の交通事故対策として 1km 当たり年間何十トンという塩が凍結防止剤として散布さ
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ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
ばならない。二律背反のこの問題にどう折り合いをつけるか、特に東北地方、寒冷地にお
いて厳しい課題となっている。
1
ワークショップの趣旨説明
れ始めた。これがアルカリ骨材反応の促進につながった。道路管理者にとって、冬場のス
リップ事故防止と長期にわたる道路インフラの維持管理の両面に対して責任を負わなけれ
13
2
社会インフラの現状と課題
3
社会インフラ材料研究プロジェクトの概要
図 3-1-3 床版の典型的な破壊パターン
︵疲労、クリープ、マルチスケールシミュレーション等︶
4
鉄鋼材料の課題
図 3-1-4 余寿命の推定
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余寿命の推定について紹介する。図 3-1-4 に示すように、現状の把握(検査)が維持管
理の出発点である。PDCA(Plan, Do, Check, Action)マネジメントを回すためには、正
確な現状把握と将来予測が不可欠となる。過去の劣化状況の記録を生存時間解析で分析し、
日本の約 70 万橋の内、SIP で自然環境の厳しい東北の 5 万橋について分析を始めている。
また、首都高速および東名名神高速道路の過去の点検データも分析が始まった。これらの
高規格道路は日本全体の道路延長の 5% 以下であるが、交通量は日本全体の 40%近くに
及ぶと思われる。残りの大多数は自治体の管理下にある。社会実装を考えるうえで、ここ
がポイントである。
一方、過去の延長から未来が必ずしも推定できない対象もある。過積載の交通状況、凍
結剤散布、アルカリ骨材反応などであり、時代と共に変化している外的要因も考慮しなけ
ればならない。このため、材料科学、構造力学などの知見を駆使して、様々な問題に対処
することが必要である。点検結果に基づく将来予測、余寿命推定、リスク評価等を通じて、
事業者が意思決定をサポートするための情報を提供するのも、このプロジェクトの重要な
柱である。
図 3-1-5 微細空隙を有する複合材料と構造のプラットフォーム
図 3-1-5 に示すように、コンクリートおよびコンクリート構造の知見はマルチスケール
で整理し、スケールごとの知識の関連を抑えておくことが肝要となる。社会基盤施設は大
きなものではキロメートル程度に広がり、構成部材は数メートルから数十メートル規模と
なる。そこにミリメートル程度のクラックがあり、さらにその中に体積全体の 70 数%を
占める砂利(砂)
、それを結合しているセメント硬化体がある。セメント硬化体にはおよ
そ 3 水準の微細な空隙がある。配合にもよるが、最も小さい層間空隙は水分子と同程度
の 3 オングストローム(Å)で、空隙全体の 1 割程度の体積を占める。ゲル空隙は数ナ
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m)程度の寸法である。これらの空隙の体積や割合はコンクリートの配合で大きく異なる。
このような微細孔構造と空隙中の水分が、強度、クリープ、乾燥収縮、イオンの移動、ア
ルカリ骨材反応性、などのコンクリートの巨視的な特性(力学的特性と耐久性に関わる特
性の両者)を支配する。配合設計によってこれらの物性等をコントロールする。旧基準の
1
ワークショップの趣旨説明
ノメートル(nm)から 30nm 程度の空隙寸法を有し、コンクリート複合体の乾燥収縮と
中長期クリープ特性を支配する。さらにキャピラリー空隙が存在し、マイクロメートル
(μ
コンクリートではキャピラリー空隙が多く、
物質透過に対する抵抗性が低かった。一方で、
現在使用されている高強度コンクリートでは、ほとんどの空隙は寸法のより小さいゲル空
水の接触から高濃度のイオンが溶出して過飽和状態を経て結晶化し、これらが凝集して異
なる寸法の微細空隙構造を形成する。これを数量モデル化して、各々の空間に展開する物
レベルでは、例えば地震時の構造応答シミュレーションなども可能である。コンクリート
の養生方法を変えると、RC 建物の地震応答も変化する。主として乾燥収縮に伴う内部応
力や乾燥ひび割れの影響によるものである。地震時応答の制御に、養生方法の違いなども
考慮可能である。巨視的な構造の地震応答と、微視的なレベルでのセメント硬化体の保水
孔空隙を通じて水の移動が安定化し、熱力学的に平衡するのに約 100 年を要する。一方、
10 センチ程度のところはわずか 1 ~ 3 年で平衡に達する。構造全体で熱力学的に平衡収
束した部位と、まだ準平衡状態にとどまっているところが混在することになり、その差が
構造たわみに現れるからである。50 年前の橋梁設計では、このようなことは明示的には
考慮されていなかった。建設以後 10 年までは設計時の予想と測定結果がほぼ合致するも
のの、20 年、30 年経つと、解離が増加して設計予測を大きく上回ることとなった。
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︵疲労、クリープ、マルチスケールシミュレーション等︶
ない。長期にわたってたわみが増加し続ける原因が、マルチスケール解析等で最近解明さ
れた。上下フランジ厚さが異なり、乾燥収縮が停止する時期に大きな時間差が生じること
が原因であることが明らかになった。1 メートル程度の厚さのコンクリート部材では、細
4
鉄鋼材料の課題
の一つであった。図 3-1-6 に示す通り、3 年、30 年と経過しても、たわみの進行が収束し
状態とが相互に連関していることを直接的に扱え、かつ将来予測につなげることができる。
100 メートルを超える箱型断面 PC 上部工の長期たわみは、積年の課題で未解明な問題
3
社会インフラ材料研究プロジェクトの概要
理化学事象をナノオーダーからマイクロメートルまで積分し、これらを統計的に扱うこと
で、構造変化を予測することができる。凝縮水で空隙が満たされている領域が計算される
と、その部分がイオンの拡散移流の場となり、巨視的な物質移動抵抗性が算定される。凝
縮水で満たされていない空隙とその連結構造から、水蒸気や酸素、二酸化炭素の拡散経路
が算定される。これらを基に腐食、アルカリ骨材反応、乾燥収縮、ひび割れといったマク
ロな変化が計算されるのである。これらのミクロとマクロな現象が時間とともに変化する
様子を逐次計算できる点に、このプラットフォームの利点がある。さらに、セメント硬化
体が長期にわたって溶出する時間スケールまで計算すれば(千年以上)、放射性廃棄物の
地中処分における人工バリア性能の評価と設計に役に立つ。ミリメートルレベルの事象を
積分する際には、重み付残差法に基づく有限要素法を用いている。最終的にマルチスケー
ルにおいて 4 回の積分を繰り返す。
最後は 1 キロメートルサイズのインフラまで持っていって解析する。最も上位のマクロ
2
社会インフラの現状と課題
隙と層間空隙によって占められている。
これらの寸法の異なる空隙内で展開される種々の物理化学現象を総合して、構成材料と
構造の両者の機能と性能の将来予測を行うのがこのプラットフォームである。セメントと
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図 3-1-6 大型 PC 箱桁橋梁の百年に及ぶ長期たわみ
たわみが大きくなる事自体が問題ではない。設計時に推定してキャンバーを事前に付け
ることで対処できる(上に凸となる弓なりの形状にする)。過剰たわみは世界中で報告さ
れているが、日本ではたった 1 橋だけ、30 年から 40 年のたわみが設計時の予測と整合す
る橋梁がある。日本最初の 100 メートルを超えた橋梁の浦戸大橋である。当時の旧日本
道路公団のチーフエンジニアが当時の技術の限界を大凡評価したうえで、設計計算で算出
されたたわみ量の 3 倍を予測値として対応された。
水と疲労荷重の複合による劣化促進も考慮することが可能となりつつある。通過交通荷
重の下で、
床版上面のひび割れの開閉が繰り返される。
特に初期養生が不足してコンクリー
トの品質が十分でない場合には、より多くのひび割れが発生する。この状態で水が上面に
滞留すると(防水が不十分)、ひび割れが閉合するときにひび割れ中の水に圧力変動が発
生する。その圧力がキャピラリー空隙内の水に伝達される。キャピラリー空隙は骨材とセ
メント硬化体との境界付近に多く分布する。ここに圧力変動が繰り返し作用することで、
コンクリート複合体の一体性が失われていく。換言すれば、キャピラリー空隙の少ないコ
ンクリートを用いることで耐性を高めるべく開発を進めている。
前述のとおり、アルカリシリカ反応(ASR)が凍結防止剤の散布で加速され、1991 年
以後はコンクリート床版の劣化も現れてきた。東北地方は特に厳しい状況にある。一見し
て著しく構造性能も劣化していると見られがちだが、状況次第であることも実験と解析か
ら判明されつつある。図 3-1-7 の横軸は、過積載に対応した繰り返し回数、縦軸がたわみ
である。ASR の無い一般のコンクリート床版では、上面に滞留水があるとないとでは寿
命が 100 倍程度、異なることが知られている。一方、数値解析でアルカリ骨材反応を発
生させて綸荷重を作用させた結果、普通コンクリートよりも寿命が約 10 倍長くなる結果
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1
ワークショップの趣旨説明
を得た。さらに予想に反して、水の滞留があっても劣化の度合いが変わらないという結果
が得られた。
2
社会インフラの現状と課題
実験においても同じ結果が検証された。アルカリ骨材反応により床版には鋼材からの反
力としてコンクリートに常時応力が作用し応力振幅が小さくなる(プレストレスト効果)
。
また、ひび割れが曲げ圧縮力によって閉合しようとしても骨材周りにシリカゲルが存在す
るため、ひび割れは十分には閉合しきれない。そのため、そこに水が滞留していても圧力
上昇が抑制されることになるからである。アルカリ骨材反応による多数のひび割れがあっ
力でひび割れが導入されると、そこに腐食ゲルが流動することも考慮している。移動に伴
い圧力効果が期待できる。これらのミクロレベルでの現象を追跡しつつ、マクロな構造応
答が算定される。鉄筋等の鋼材腐食は静的耐荷力に及ぼす影響以上に、コンクリート部材
の疲労寿命を 10 分の 1 から 100 分の 1 程度にまで劣化させる厳しい事象である。
化学反応に起因する材料劣化と、外力に起因する材料損傷の蓄積が複合する状況におい
て、マルチスケール解析は強力なプラットフォームを与えることができる。インフラの機
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︵疲労、クリープ、マルチスケールシミュレーション等︶
鋼材の腐食も同様であり、鋼材の腐食によって形成される腐食ゲルの移動も考慮してい
る。腐食による鉄筋断面の欠損は部材の曲げ強度を低下させるが、むしろゲル生成に伴っ
てかぶりコンクリートが脱落することが深刻である。数値解析では腐食ゲルによる膨張圧
4
鉄鋼材料の課題
が必要である。たとえて言えば、糖尿病などの生活習慣病と同じである。
ても、構造性能までもが常に劣化しているわけでもない。適切な判断を行い不要で過大な
修繕や修理で資金を失わないようにすることで、維持管理費の削減に貢献できるものと考
えている。ただし、ひび割れを放置していると鉄筋腐食のリスクが高まるので、別途対応
3
社会インフラ材料研究プロジェクトの概要
図 3-1-7 ASR によるひび割れと構造寿命、水に対する構造感度の変化
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能において深刻なひび割れと慢性的な病態に関連するようなひび割れも、それぞれのリス
ク度から評価が可能となるので、これを点検あるいは非破壊でモニターする際の指針とも
なろう。
【質疑応答】
Q:マルチスケールの解析で、小さいところから全体ということだったが、モデルの個々
の精度が掛け合わさって精度が悪くなるような印象がある。そこの精度評価はどうし
ているのか。
A:精度をモデルの近いところですべて直接的に検証できるのが理想だが、実験技術の現
状で難しい問題も少なくない。今までの建設材料と構造の分析はおよそミリ、マイク
ロレベルにとどまっており、それ以上の分析は、より大きなレベルでの挙動の複数か
ら逆推定する方法をとってきた。アルカリシリカゲルが移動するといっても、実際に
どれだけのスピードで、どう移動して、どこを通過していくのかということが本当に
わかれば最も直接的な検証になるが、現時点では推定の範囲にある。但し、微細なレ
ベルでの計測自体が現実の姿を覆い隠すことも少なくないので、むしろ全体のフレー
ムをもって個別のモデルの精度を上げる方法論が機能している。状況証拠を系統的に
集めて、それで全体が大まかに挙動予測できるレベルで実装し、PDCA を回している。
この方法論は過去 30 年の地震被害に基づく動的非線形応答解析のレベルアップに有
効であった。個々のところをしっかりとしたものにするには、検証を地道に続けてい
くことが肝要と考えている。
Q:ナノレベルの現象が全部均一で起こっていないので、マクロレベルにするときにそれ
は問題になるのではないか。例えば、セメントだったらアルミナの界面だけでも様々
なものが出るため、計算していくときに表層だけでは個数が非常に少ないので、いか
に足し算していくのか難しいと思う。どのように重みをつけているのか、それは計算
パワーなり、手法なりで何とかできるものなのか、界面の現象がわかっていればバル
ク込みで全体のプロパティがミリレベルまで設計できるものなのか。
A:難しいご質問である。寸法を対数で見て平均化すると、ほぼ工学的な要求精度は確保
されるであろうという直感である。砂利、砂、セメントの粒子寸法の粒度分布や細孔
径分布、巨視的にいえば鉄筋コンクリートに展開するひび割れの間隔の分布などがお
よそ対数寸法で整理される。いわゆるギャップグレーディングとなっており、寸法の
対数で現象を大凡平均的に押さえて積分する方法でいけば、精度はおおよそ確保され
ると思われる。
Q:水が入って、イオンが動き、圧力の関係でキャピラリーに入っていくという物理現象
は非常に複雑だと思って聞いていた。そういう現象を全部計算の中に取りこんで、ナ
ノスケールからマルチスケールシミュレーションをすることはできるのか。
A:現在進行中である。本年の初夏に東北地方で橋梁が建設される予定であり、鋼桁とコ
ンクリート床版で構成される。高耐久を実現する材料設計を提案し、全橋で挙動解析
を行った。打設後から数年のスパンで初期性能と品質がポイントである。これに対し、
1 億自由度ぐらいで並列演算を行った。高炉スラグの含有率を上げ細孔構造を従来の
ものと比較して緻密化し、ひび割れリスク等を検討した。実施工から供用までモニター
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結果においても有効と考えている。自然環境下での実施工に過重の期待を置くと、品
質管理の上でリスクも高くなる。
Q:アセットマネジメントという考えが藤野プロジェクトの基本だと思うが、その辺につ
いて教えてほしい。
A:具体的な例でいうと、社会資本たる基盤施設の将来予測等に基づき、どのような技術
1
ワークショップの趣旨説明
を継続する予定である。構造設計と施工手順の工夫で高耐久化はもちろん可能である
が、日本の建設事情を勘案すると、私は上流側の材料設計で手を打つのが経済的にも
を適用し、かつ補修修繕予算をどう有効に配分するか、あるいは予算制約の中で最も
資産を有効に活用できるような管理プランを作ることなどと考えてもらえばよい。首
ば 10 年後に重大な損傷に繋がるが、今、手を打つと簡単かつ安く治せて長持ちが期
待できるものも少なくない。ライフサイクルコストを最小にするように資金を配分し、
維持管理のプログラムを作成し、自治体にまで実装することが出口戦略である。この
ためには、自治体の財務状況や管理する社会基盤の置かれている気候環境、職員構成
や地勢、地元の産業構造まで考慮にいれたプランにまで展開することが求められてい
る。
2
社会インフラの現状と課題
都高速では小さいものから大きなものまで 10 万カ所ぐらいの不具合に対処しなけれ
ばならない。一番ひどいところから修理するのがベストとは限らない。放っておけ
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社会インフラ材料研究プロジェクトの概要
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鉄鋼材料の課題
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3.2 SIP「革新的構造材料」
竹村 誠洋(JST-SIP/CRDS)
内閣府が昨年度にスタートした戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の 11 課
題の一つである「革新的構造材料」について概要を説明する。このプロジェクトでは、航
空機用材料の開発、特にエンジン用材料の開発を行っており、岸輝雄先生がプログラム
ディレクターを務めている。テーマの選定にあたり考慮したことの一つは、日本の工業材
料は国際的に産業競争力が強いので、これを維持し伸ばしていくことにある。もう一つは、
航空機産業は敗戦によってハンデキャップを負ったが、着実に伸びてきており、特に今後
の座席数 120 ~ 160 席の需要の大幅増加に対応することにある。このプロジェクトでは、
航空機用の材料開発を通して航空機産業を盛り上げていく狙いがある。
この SIP「革新的構造材料」は航空機用材料開発、経済産業省のプロジェクト「革新的
新構造材料等技術開発」は自動車用材料の軽量化を目標にしており、社会インフラという
テーマからはやや離れるが、この二つのプロジェクトは、2011 年にスタートした第 4 期
科学技術基本計画に示された構造材料の研究開発の強化に基づいて進められているもので
ある。また、文科省系では元素戦略に沿って、基礎基盤の研究の立場から構造材料研究を
推進している。
航空機エンジン用の対象材料には耐熱性が求められる。図 3-2-1 は対象材料を比強度と
(使用)環境温度でマッピングしたグラフである。航空機エンジンはガスタービンであり、
燃料を高い温度で燃やせば熱効率が高くなるため、耐熱性能の高い材料の開発が第一の軸
である。また、空を飛ぶことから軽いことも重要なため、比強度(強度を密度で割ったも
の)と温度の二軸で見ている。今回、紹介する材料開発は、ニッケル基合金、チタン合金、
炭化珪素系のセラミックス基複合材料向けの耐環境コーティング、チタンアルミ系金属間
化合物などである。
図 3-2-2 に開発する航空機エンジン用材料を示す。この図の中心のエンジンの絵におい
て、左端が空気の入り口であり、ファンの部分の材料としては (A) に示す樹脂・FRP が
使われる。CFRP は、機体の材料としてボーイング 787 などで一般に知られるようになっ
たものであるが、これをエンジンにも使おうということである。中央の空気圧縮機の部分
の材料は (B) に示すチタン系が中心になる。右端の燃焼器が温度が一番高いが、ここには
高圧のタービンがある。タービンの材料としては、(C) に示すようにディスク部分はニッ
ケル基合金、燃焼器直後の最も高温に曝されるブレード(翼)の部分は炭化珪素系のセラ
ミックス基複合材料を使う。セラミックスには高温に耐えられるだけでなく、耐酸化性も
求められる。炭化珪素なので、高温の水蒸気を含む燃焼ガスに酸化される可能性があり、
コーティングが重要になってくる。また、タービンの後段では、温度が低くなり、そこに
はチタンアルミを使っていくというのが全体の計画である。
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ワークショップの趣旨説明
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社会インフラの現状と課題
図 3-2-1 航空機エンジン用の対象材料の耐熱性
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鉄鋼材料の課題
図 3-2-2 開発する航空機エンジン用材料
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もう一つ、重要な研究開発として図 3-2-3 の (D) に示すマテリアルズインテグレーショ
ンがある。構造材料の研究開発は実用化までに時間がかかるので、そのスピードアップを
図る取り組みである。そのために、計算科学、データベース、インフォマティクスなど、
実験以外のツールも融合して駆使するのがマテリアルズインテグレーションである。この
関連では、アメリカのマテリアルズゲノムイニシアチブが有名であるが、世界的に見ても
急速に進んでいる分野である。
図 3-2-3 研究開発項目
樹脂・FRP についてはエンジン用ということで、ファン用材料としての耐衝撃性が求
められ、熱可塑性の樹脂を使うことが一つチャレンジになる。熱可塑性樹脂は一般用とし
てはすでにあるが、航空機用についてはこれまで国産の樹脂がなかったため、その技術を
確立することが目標になる。機体については、CFRP はまだ値段が高く、そのコスト削減
が求められる。オートクレーブという高圧の釜で成形することがコスト上昇の要因になっ
ているので、それを使わないで成形することがチャレンジになっている。さらに、航空機
用途から外れるが、透明の FRP や、植物由来のセルロースナノファイバーなど石油によ
らない CFRP の原料を作るプロジェクトも進んでいる。
耐熱合金・金属間化合物については、チタン系、ニッケル系、チタンアルミの三つにな
る。プロセス技術開発の主対象は鍛造である。これは昔からあるプロセスではあるが、か
なり精密な技術を要する。現在、航空機用の実部品を作るものとして 5 万トンのプレス
があるが、これを効率的に動かすために、今回のプロジェクトでは 1,500 トンの鍛造シミュ
レーターを導入している。様々なシミュレーションの結果を実部品の製造に生かす。また、
精密鋳造に代表されるような技術開発も行っている。
セラミックスコーティングでは、繊維およびマトリックスがともにシリコンカーバイト
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い、PVD と CVD を組み合わせたような形のプロセスで形成している。
マテリアルズインテグレーションは、プロセス、組織、プロパティ(特性)
、パフォー
マンスの四つの要素をうまく合わせて一気通貫でシミュレーションして寿命を予測するた
めに、組織予測システム、性能予測システム、特性空間分析システム、これら全てを統合
1
ワークショップの趣旨説明
のタービンブレードを基本にし、1,400℃までもつことを目標に材料開発を進めている。
酸化を防ぐための層はかなり複雑であり、イットリビウムダイシリケートという材料を用
する統合システムの 4 ユニットから構成されている。具体的に疲労、クリープ、水素脆化、
脆性破壊、アルミ強度などのパフォーマンスを想定した上で、四つの要素を一気通貫して
は九大の津崎先生が取り組んでいる。
全体としては、参画機関数が 71 機関あり、企業が 27、大学が 34、国研・非営利の機
関が 10 となっている。これは 5 年のプロジェクトであり、来年度に中間評価を行う予定
である。
材料系が独立して動いているが、将来的には統合システムのところで、セラミックス
系も高分子系も入れられるようにしたいと思っている。
Q:ISMA のプロジェクトは、競争テーマと協調テーマがある。競争というのは、例えば
3
社会インフラ材料研究プロジェクトの概要
【質疑応答】
Q:マテリアルズインテグレーションについては、CFRP、耐熱合金などそれぞれに対し
て別々の形で独立に走っているのか。
A:この領域全体としては、東大の小関先生が領域長を務めておられる。小関先生の拠点、
廣瀬先生の阪大の拠点と津崎先生の九大の拠点で金属系を扱っている。産総研の大
久保さんが率いて高エネ研の木村先生も所属しているところは計測であり、全体をカ
バーしている。セラミックスと高分子はもともと独立に提案・採択された個別テーマ
を再編成し、セラミックス系と高分子系に分けてやっている。今のところは 3 つの
2
社会インフラの現状と課題
システム開発されるように努力している。その他、溶接継手に特化したテーマには阪大の
廣瀬先生、先端計測技術の構造材料への適用には TIA(つくばイノベーションアリーナ)
のメンバー機関、チタン系、ニッケル系、セラミックス系のミクロ界面に着目した研究に
鉄鋼メーカーの場合は三者が別々に競争して、いわゆる秘密の壁を立ててやっている。
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︵疲労、クリープ、マルチスケールシミュレーション等︶
命はどのくらいに設定されているのか。
A:寿命という場合に重視している現象は、クリープと疲労である。したがって、マテリ
アルズインテグレーションでも、そこを重視している。また、航空機エンジンの場合
には、定期的にメンテが入り、部品の交換も行うので、寿命がきちんと把握できれば、
適切な交換や修理でエンジンの寿命を延ばせる。エアラインからは、メンテナンス性、
幾ら強くても修理できないものは困る、というような要望も出ている。
4
鉄鋼材料の課題
同じユニットの中では協調体制ができていると見ている。
Q:先ほどの前川先生のインフラの話では寿命が、50 年~ 100 年だったが、航空機の寿
協調というのは、例えば腐食や遅れ破壊であり、メーカーが一緒にやっている。SIP
の中では基本的に協調しているのか。
A:大半の場合は重工メーカーと素材メーカーなど、異業種企業の間で共同研究が行われ、
俯瞰ワークショップ報告書
24
ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
3.3 革新的新構造材料等研究開発の活動概要報告
兵藤 知明(新構造材料技術研究組合)
革新的新構造材料等研究開発の活動概要について報告する。内燃機関搭載の日本車の重
量と CO2 排出量の傾向を見ると、ガソリン車、ディーゼル車、ハイブリッド車いずれに
おいても、
車体が軽くなればなるほど CO2 排出量は減っていく。燃費も同様である。一方、
衝突安全設計、様々なものが自動化されモーターが増加しているために、車の重量は増え
る傾向にあるが、それは材料でカバーしている。図 3-3-1 に車体軽量化に向けたマルチマ
テリアル化の例を示すが、自動車の車体材料としては多種の材料が使われるようになって
きた。プリウスにおいても、屋根の部分や後ろの部分には既にアルミが使われ、マルチマ
テリアル化は現実問題となっている。
図 3-3-1 車体軽量化いに向けたマルチマテリアル化の例
図 3-3-2 ISMA で扱う材料別の開発技術
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俯瞰ワークショップ報告書
ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
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動車を中心とした輸送機器の抜本的な軽量化、接合、材料(鋼、アルミ、チタン、マグネ
シウム、炭素繊維及び炭素繊維強化樹脂[CFRP])に関する研究開発を行う。組合員は
36 企業、1 大学、1 研究開発法人、再委託先として 115 機関(主に大学と研究開発法人)
となっている。
本プロジェクトで扱う材料は、図 3-3-2 に掲げるように、1. 高強度の中高炭素鋼、2.
1
ワークショップの趣旨説明
「革新的新構造材料等研究開発」は、経済産業省系の未来開拓プロジェクトで、2013 年
度から 10 年間のプロジェクトである。2014 年から NEDO からの委託になっている。自
非鉄材料(アルミ、マグネシウム、チタン)
、3. 熱可塑性 CFRP、4. 接合である。これら
の材料は全て競争関係にある。例えば、CFRP のターゲットはアルミである。アルミは
その競争はある。競争と協調をいかにやっていくかが非常におもしろい。多様な材料を使
うことによって、接合、マルチマテリアルをどうするかという議論ができる。
2
社会インフラの現状と課題
鋼を駆逐しようと頑張っている。鋼の中には鉄鋼メーカー 3 社が入っているので、材料
の競争をテーマとして考えるならば、この 3 者は既に競争している。チタンの場合にも、
3
社会インフラ材料研究プロジェクトの概要
伸びと強度のバランスの図を描くと、一般的に強度が高くなれば伸びは小さくなることか
ら、いわゆるバナナカーブを描く。したがって、同じ強度であれば伸びを大きくすること、
あるいは伸びが同じであれば強度を上げていくことが研究開発の対象となる。
このため、鋼板についてはさらなる高強度かつ高延性材料を開発する。マグネシウムに
ついては難燃性素材、アルミについては大型押し出し素材と高強度化、チタンについては
高強度化と低コストプロセス、といったように非鉄についてはコストを下げることもプロ
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︵疲労、クリープ、マルチスケールシミュレーション等︶
プロジェクトの進めかたについて説明する。図 3-3-3 に示すように、金属材料について
4
鉄鋼材料の課題
図 3-3-3 材料技術開発の進め方
俯瞰ワークショップ報告書
26
ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
ジェクトの主な目標の一つになっている。複合材料については車体構造材部品への適用可
能性、特に熱可塑性の安価な CFRP の使用を目指す。接合については、溶ける接合と摩
擦接合があるが、これらを同種の材料同士(ハイテン、チタンなど)、異種の材料(アル
ミと CFRP など)の接合に利用することを目指している。
鋼については、世界最高性能の自動車用ハイテン鋼板を目指す。現在の材料は 590
MPa、780 MPa の材料であるが、それを 1.2 GPa、1.5 GPa という非常に硬くて強い材
料にする。590 MPa と比べて軽量化としては 30%、伸びとしては従来の強度の低い材料
と同じぐらいにしようとしている。残留オーステナイト組織を混在させて高強度の材料で
も伸びやすくする方法、粒界強化元素の粒界偏析を抑えて有害元素を無害化する方法、あ
るいはオーステナイトとマルテンサイトの二つの組織をうまく組み合わせ強度の出る組織
と加工に寄与する組織とをまぜて使う方法、などによって、中間目標である 1.2GPa、伸
び 15%は前倒しで達成している。現在は実装に向けての課題があり、腐食、遅れ破壊、
中性子線解析をやろうとして協調的な取り組みを進めている。来年度から本格研究に入る
ものや FS 研究を始めるものがある。
高強度・高靱性アルミニウム合金の開発については、現行材に比べて伸びやすい材料を
つくるということで、合金成分の最適化などを図っている。現在、製造工程を最適化して、
2015 年度目標である耐力 636 MPa、伸び 15%を既に達成している。
チタンについては、自動車よりはむしろ航空機の材料を意識しているが、精錬に高品質
のスポンジチタンを使って鋳造し、溶解を経て、分塊圧延と熱/冷間圧延にコストを下げ
られる製造プロセスを使って材料を作ろうとしている。
難燃性マグネシウム合金については、企業と大学が協調してやっている。これは電車の
屋根、横板、床などに使われるような材料であるが、押し出し材、難燃性のマグネシウム、
アルミとカルシウムとなどを混ぜたような合金から、押し出し成形によって作る。長いも
のも作れるところまできている。今後、接合の技術開発なども行い、来年度には大きな構
造体を造ろうと頑張っている。
自動車用途の CFRP について図 3-3-4 にまとめる。航空機に使われているような連続
繊維を使った CFRP であれば、高強度が得られるが、値段も非常に高い。一方、成形性
を良くしていくと強度が下がるので、どこで折り合いをつけて自動車に使うかの判断が非
常に難しい。本プロジェクトの中では、熱可塑性の CFRPP など低価格の材料を開発しよ
うとしている。
CFRP については、名古屋大学と東京大学が中心になった二つの拠点がある。名古屋大
学はポリアミド樹脂を使ってペレットとロービング、繊維をまぜて加熱し、3,500 トンの
高速プレス成形を行う。東大ではポリプロピレン樹脂を使い、
加熱してプレス成形をする。
名古屋大学の場合は人のサイズに近い大きさのフロアパネルを作っている。非常に大き
な材料であり、強度的には東大のほうが少し有利だと思うが、大きなものを造ることが一
つの特徴である。
東京大学は成形および接合の開発を行っており、
非常に強度の高いところを狙っている。
しかも、1 分以内の連続成形で、様々な形状の材料が製作できる。また、シミュレーショ
ンもやっている。リサイクル技術の開発も行っている。鋼は既に使い方が決まっていて、
捨てる方法も決まっているが、CFRP はこれからどうリサイクルするかも考える必要があ
る。
CRDS-FY2016-WR-02
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俯瞰ワークショップ報告書
ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
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1
ワークショップの趣旨説明
2
社会インフラの現状と課題
図 3-3-4 主として次世代自動車用途を目指す CFRP 材料
うのにどうすれば良いかを検討している。
接合は大きく分けて、摩擦でつける方法と溶かしてつける方法とがある。溶かしてつけ
る方法については、ハイテン系では、抵抗スポット溶接、アーク溶接、レーザー溶接など
のテーマでやっている。摩擦接合については、超ハイテン同士やチタン同士をつけるもの
と、アルミと樹脂(CFRP)
、鋼板と樹脂(CFRP)など異材接合を摩擦重ね接合でやろ
うとしている。その他に接着もあるが、接着については別に新たなテーマが立てられる予
は大体狙いどおりのものができ上がっている。マグネシウム合金についても強度 350MPa
達成など様々な成果がある。熱可塑性についても大型部品試作のための部品製造ラインも
造られた。接合については様々な接合装置を導入中であり、一通りのものができた状況に
ある。
本プロジェクトは、呉越同舟というところがある。その中でそれぞれの技術テーマ間
で競争しているところがあるが、3 テーマがあると 3 テーマが別々の方法で目標を達成し
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︵疲労、クリープ、マルチスケールシミュレーション等︶
本プロジェクトの現在までの進捗状況をまとめておく。鋼板については 1.2 GPa、伸び
15%を達成している。アルミについても強度 660 MPa、伸び 14%ができている。これら
4
鉄鋼材料の課題
定である。
CRDS-FY2016-WR-02
3
社会インフラ材料研究プロジェクトの概要
マルチマテリアル構造になると、当然、接合の作業が必要になる。同種材料の超ハイテ
ン鋼同士の接合や、異種材料の鋼板と非鉄金属、金属と CFRP の接合はどうすればよい
かという問題が出てくる。自動車生産では、接合技術として抵抗スポット溶接が多く使わ
れている。一部では、レーザーも使われている。プリウスの屋根と後ろの部分はアルミで
あるが、そこには摩擦攪拌点接合が使われている。それを高強度のハイテン鋼板などに使
俯瞰ワークショップ報告書
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ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
ているというところが非常に重要だと思う。つまり、3 社が一緒にやると一つの材料の技
術しかできないが、競争してやっているので 3 つの材料に対して技術ができる。一方で、
鋼板についても強度の低い材料と高い材料と様々であって、ある意味ではマルチマテリア
ルと言って良いかもしれない。これからは異種材料接合と接合部における腐食といったと
ころが非常に重要なポイントになってくると考えている。
【質疑応答】
Q:鋼板、アルミ、マグネシウム、チタン、CFRP は互いに競合するかと思うが、最終
的には一つの車の中で最適に構造化され、マルチマテリアルとして自動車ができてい
くと思う。最適構造をどうするか、考え方として何かあるのか。
A:プロジェクトは丸 2 年終わったところであり、これから後の 5 年間をどうするか議
論している。その一つに、マルチマテリアルを使って、実際にボディまでつくろうと
いう提案はある。しかし、高級車から大衆車まであるので、例えば熱可塑性の CFRP
がすぐに大衆車まで使われるかというと、製造能力の問題もある。また、将来のリサ
イクルをどうするという議論もあるので、その辺まで含めて考えると、なかなか難し
い質問である。
Q:ボディをつくるということになると、成形性も重要になる。考え方としては新しい材
料に対応した成形プロセス技術を開発するのか、それとも、基本は今の技術を使って、
それにアダプトできるように材料を変えていくか。
A:本プロジェクトで開発されている材料は既に 3 種類あるが、一方で、成形性を調べ
ているところであり、プロジェクトの中では加工性はやらないでおこうという話もあ
り、今後考える必要がある。私は鋼の担当なので鋼を代表して説明するが、高強度化
に伴って炭素量が高くなると加工性あるいは接合性が違ってくる可能性があるが、現
状のプレス成形をそのまま使える材料を目指しているのは事実である。このため、伸
びだけでないということを理解した上で、伸びも一つの指標としている。自動車メー
カーや加工メーカーが現状ですぐ使えるような材料でないとまずいと思っている。一
方で、ヨーロッパの加工会社は、ホットスタンプを行ってプレスするということを考
えている。このような考えもあるが、踏み込みにくい部分ではある。
Q:アルミ、チタン、マグネシウムではどうなのか。
A:チタンは高価であるので、個人的には自動車には使われにくいと思う。マグネシウム
は鉄道用だと思う。アルミは既に自動車に使われている。
Q:国全体の連携ということで伺いたい。昔、総合科学技術会議で第 2 期、第 3 期には
高強度材料というようなプロジェクトがあり、あの当時、経産省と文科省の類似のも
のを集めて議論するということで、岸さんをヘッドに立てて共同のシンポジウムを
やった。今回、二つのプロジェクトが紹介されたが、連携というのはどういう形でやっ
ているのか。
A:SIP については、主に航空機用のエンジンの耐熱性の部分の材料を扱っている。私ど
もは自動車のボディなので、鋼やアルミである。CFRP についても、自動車メーカー
あるいは自動車の加工メーカーが買ってくれるような、1,000 円/ kg 以下の非常に
安い熱可塑性の CFRP を狙っている。そういう意味では、すみ分けがついていると
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俯瞰ワークショップ報告書
ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
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の人には声がけをするし、SIP の人もこちらのプロジェクトの話は聞かれる。しかし、
実際のところはすみ分けがされているので、共同的な研究はしていないと思う。
A:航空機用材料は、実は SIP 以外にも幾つかの国家プロジェクトがあり、内閣府の主
導のもとで、関係各省(経産省、文科省、防衛省)が割と密接に議論を続けている。
1
ワークショップの趣旨説明
いうことになる。連携については、SIP のプログラムディレクターと ISMA の理事
長が同一人物なので、そこはしっかりと把握されていると思う。様々なところで SIP
もちろん、すみ分けもあり、逆にプロジェクトがある程度進んで、次のステージにい
くときには次の省(例えば経産省)のほうで別の形で発展形として使ってもらう、と
テマティックにやろうということで、国の方向性を示しているところである。さらに、
機能性材料についての開発プロジェクトが文科省、経産省で立ち上がっており、両省
ころに狙いがあるが、そちらへのアドバイスや、こういう点がそちらに使えるという
ようなものはあるか。
A:土木にしても橋梁にしても時間のスパンは確かに 50 年であるのに対し、自動車はた
かだか十数年、航空機はもう少し長いが、基本的な考え方は多分同じではないかと思
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︵疲労、クリープ、マルチスケールシミュレーション等︶
CRDS-FY2016-WR-02
4
鉄鋼材料の課題
違ってくるとは思うが、構造材料をやる限りにおいてはパフォーマンスやその寿命が
重要であり、これについては基本的には年数のスパンが違うだけで、基本的な考え方
は同じだと思っている。
う。構造材料をやる限り、パフォーマンスを抜きにしての話はできない。例えば橋梁
や土木ではクリープや疲労が重要になってくると思う。自動車材料はその部分は少し
3
社会インフラ材料研究プロジェクトの概要
だけではなく内閣府も入った形で定例的に会議などを持ち、お互いに協調できるとこ
ろや、共有すべきところを確認しながら、進めている状況である。
Q:今回の目標値は、強度と伸びというところだったが、10 年、20 年という長期的な単
位での評価にかかわるところは、このプロジェクトの中でやられているのか。
A:様々な中間目標を前倒しで達成しているので、パフォーマンスという観点から、例え
ば腐食、遅れ破壊(水素脆性)、などは協調して研究する予定である。一方で、薄板
材料などの疲労試験は、恐らくは各社が個別にしていると思う。各社が競争でやると
ころと、協調してみんなでやるところの線引きは難しく、開発材そのものを他社で実
験することはなかなかできない状況にはある。こういう試験法をやれば良いというと
ころは踏み込めるし、腐食試験についても踏み込めるが、自分たちの材料を他の人た
ちに渡してやるというところには少し無理がある。
Q:今回のワークショップはどちらかというと社会インフラという公共的なものというと
2
社会インフラの現状と課題
いった議論もしている。
A: SIP 構造材料と ISMA に関しては、岸先生が両方のリーダーを務めているというこ
とで、かなり連携がとれていると内閣府では考えている。また、材料開発を少しシス
俯瞰ワークショップ報告書
ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
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榎 学(東京大学)
様々な材料の信頼性や寿命を確保するための重要な技術の一つはセンシング技術であ
り、劣化寿命の予測に関しては非常に重要である。鉄鋼協会の研究会でワイヤレスセンサ
1
ワークショップの趣旨説明
4. 鉄鋼材料の課題(疲労、クリープ、マルチスケールシミュレーション等)
ネットワークの調査を行ったので、その内容について話す。また、鉄鋼材料の材料技術も
重要であり、SIP「革新的構造材料」のマテリアルズインテグレーションの中でやってい
る性能予測の内容について紹介する。
3
社会インフラ材料研究プロジェクトの概要
精度の良いセンサの作製、効率的なネットワークの配置、継続的なデータ転送など、様々
な技術的課題がある。
鉄鋼産業では、製鉄所のインフラの保持が重要な課題になっている。それで、鉄鋼協会
ではワイヤレスネットワークを使うことを検討した。ワイヤレスネットワークは 20 年程
度前から、DARPA の Smart Dust プロジェクト、総務省のユビキタスネットワークなど
で検討され、今でも様々なものがやられている。この特徴としては、電源を内蔵した自立
型で配線が不要、全面をカバーするメッシュネットワーク、小型化がある。このような特
徴を持つため、製鉄所の管理(工程の管理)などに利用可能と考えられ、注目されている。
2
社会インフラの現状と課題
ネットワークにつなげて、様々な社会のシステムや産業の構造を変えることが注目され
ている。物のインターネット(Internet of Things、IoT)では、データの解析、データの
有効利用、規格化などの問題がある。このためには、良好なセンシング技術が必要であり、
︵疲労、クリープ、マルチスケールシミュレーション等︶
4
鉄鋼材料の課題
図 4-1 面的監視のための計測ニーズ
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俯瞰ワークショップ報告書
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ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
図 4-1 に面的監視の例を紹介する。熱間圧延ラインに対し、多くのセンサを付けてそれ
らに配線を這わすのは非常に難しい。また、様々な使用環境の問題もある。そこで、図
4-1 の下の図にあるようにセンサを多く付け、これらをワイヤレス化して計測する方法が
考えられる。圧延機本体は構造材料であり、疲労や腐食が一番の課題になるため、開発す
べき技術としては疲労、腐食のセンサになる。これらのセンサを自立発電と組み合わせる
のが一つの方法だと思う。
ワイヤレスセンサネットワーク利用の他の例としては、作業者やロボットが動くところ
の監視があり、ここではネットワークで位置同定する技術も必要になる。研究会の中では、
疲労や腐食のセンサの他にも、安全を管理するという意味で、CO など有毒ガスのセンサ
についても検討した。
上工程の高精度化に対し、ワイヤレスを使うことも一つテーマに上がっていた。コーク
スや鉄鉱石、石灰石がどこにあるか、高炉の中では誰も見たことがないので、推定でやっ
ている。これらを実測することで、操業効率を上げたり、良いものをつくれるようにす
ることを目標に、ワイヤレスのセンサネットワークを研究テーマに挙げた。このように、
研究会でやった研究課題は、センサと電源の開発、位置同定技術であり、私のところと
NIMS の篠原先生、東北大の桑野先生などのチームで研究開発した。
図 4-2 センサデバイスの研究開発
センサデバイスの研究開発については、図 4-2 に示すように、疲労のセンサは私、腐食
のセンサは NIMS の篠原先生、有毒ガスのセンサは阪大の今中先生が分担して行ってい
る。疲労(損傷記憶)センサは犠牲試験片タイプのセンサであり、構造物に張り付けたセ
ンサ自体が劣化することによって、どういう力が何回加わったかなどの疲労の目安になる
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ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
センサを作り、市販の無線機と組み合わせることでワイヤレスのネットワークに載せるよ
うにしている。亀裂は目で見るだけではデータにならないので、電気的に電気抵抗として
捉えることができるようにしている。
1
ワークショップの趣旨説明
情報を得るものである。センサの中で亀裂が発生して、それを計測することによって構造
物にかかる繰り返しの負荷の条件を見つけようとするものである。実際に、図 4-3 に示す
33
2
社会インフラの現状と課題
3
社会インフラ材料研究プロジェクトの概要
図 4-3 損傷記憶スマートパッチ
︵疲労、クリープ、マルチスケールシミュレーション等︶
4
鉄鋼材料の課題
図 4-4 ACM 型腐食センサ
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ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
大気腐食モニタリング型(Atmospheric Corrosion Monitor、ACM)センサは、図 4-4
に示すように、電流を測ることによって腐食がどれだけあるか環境の効果を見るものであ
る。例えば、湿度や海塩量と電流の関係を求めておけば、後で電流を測るだけで、それが
どういう環境にあるかが評価できる。NIMS の篠原先生のところでは、
従来は鉄だけであっ
たが、今は各種の金属材料を変えたものを作っている。金属の種類でガルバニック系列が
異なり違う情報が得られるため、単に湿度だけではなくて、SOX や NOX などを区別す
る研究をしている。
これらのセンサ技術をワイヤレスに組み合わせて、最終的に大型の構造物や工場の中で
実際にどのようにデータを取れるか検討した。このとき、消費電力は非常に重要である。
短い時間であればバッテリーで大丈夫だが、2 年間計測するためにはバッテリーだけでは
だめであり、自立発電も必要になってくる。
各種の装置を組み合わせることにより、ワイヤレスネットワークで監視することを検討
し、実際に図 4-5 に示すようなネットワークシステムを作った。疲労と腐食の両方のセン
サで取得したデータをインターネットに送ることで、遠隔地の測定ができるシステムに
なっている。実際の現場に応用して試してみるために、つくば、奄美大島、宮古島の伊良
部大橋などにセンサを持って行って取り付けた。宮古島の伊良部大橋で腐食のモニタリン
グを行った実験については、日経新聞の電子版にも掲載された。
図 4-5 疲労・腐食の遠隔地モニタリング
もう一つの課題は発電デバイスである。各種の発電方法があるが、製鉄所で有望な方法
は熱電変換と振動である。ワイヤレスで飛ばすためには送信時で数十ミリワット程度の出
力が要るため、これらをうまく利用したい。製鉄所および橋には振動が豊富にあるため、
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魅力的である。
実際のプラントの中でどういう振動があるか、振動解析を行ってみると、多様な周波数
の振動および加速度があることがわかった。このため、加速度に合わせてデバイスを作れ
ば発電ができると考えた。極端な例として、ふるいがあるところでは周波数は低いが、非
1
ワークショップの趣旨説明
これを使えば発電できると考え、実際に可能かどうか検討した。このようなエネルギー・
ハーベスティングは、センサネットワークに応用でき、メンテナンスが不要ということで
常に大きな加速度が得られる。これをうまく利用すれば、有効な発電ができることになる。
実際に東北大の桑野先生のところでマイクロ振動発電デバイスを作ってもらった。周波数
移動する物体の中での位置推定技術は非常に重要になっていくため、無線 LAN の中で
どのように精度を上げるか検討している。何も物がなければ精度は良いが、製鉄所の中で
は様々な物があるので、その中でどのように精度を確保するかが課題になる。センサを高
炉の中に入れたときに、どこの位置にあるか模擬した実験を行った。高炉の中に物を入れ
るのは難しいので、残念ながら最終的な検証にはまだ至っていない。
2
社会インフラの現状と課題
に合わせてある程度の自立発電ができる設計をしている。特性についても、製鉄所の中で
実際に試験をした。
3
社会インフラ材料研究プロジェクトの概要
されている。疲労やクリープなど試験に長い時間がかかるものを、短時間で予測するのが
目標になっている。
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もう一つの話題である、マテリアルズインテグレーションの話に移る。
全体としては図 4-6 に示すようなシステムであり、材料組織の予測システム、性能予測
システム、特性空間情報をうまく利用した分析システムと、全体の統合システムから構成
4
鉄鋼材料の課題
図 4-6 マテリアルズインテグレーションシステム
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図 4-7 性能予測システムの開発
組織予測システムは溶接をターゲットにしている。様々な材料の中に起こる組織の形成
メカニズムについて、主にフェーズフィールドの手法を使って解析する研究である。私は
性能予測を担当しており、図 4-7 に示すように性能予測の物理モデルに基づいた各種のモ
ジュールを作成し、疲労、クリープの長時間の特性、水素脆化、脆性破壊の性能を予測す
ることを目標にしている。ただし、このような物理モデルだけではなく、これまでに蓄積
された多くのデータがあるので、このようなデータベースをうまく利用したシステムと組
み合わせることによって、より高精度に予測することを目指している。溶接に関して、ミ
クロな材料の組織、結晶組成の理論など各種のモデルを使ってシミュレーションし、それ
をマクロなものにつなげて、最終的に寿命予測するというスキームを考えている。
具体的には、溶接中に試験片にどういう残留応力が発生するか計算する。また、どうい
う応力がかかるかも計算する。これに加えて、亀裂の進展の結晶解析をし、ひずみも計算
して疲労に関係するようする。これにより、どこで亀裂が発生するかがわかるので、エネ
ルギーのクライテリアを使って、亀裂が発生するまでの寿命予測をする。さらに、亀裂が
発生してそれが伝搬し、破壊するまでの寿命を求めることも行っている。
クリープも非常に重要な性能であり、様々な損傷のメカニズムを考えて、応力、クリー
プの程度、それを予測するものも開発している。
水素脆性に関しては、水素の輸送と応力の関係を評価し、両方が関連する問題として解
き、応力が高いところで水素がどのようにたまるか計算している。
脆性破壊のモジュールでは、材料中に発生する MA と呼ばれる層が脆性破壊に関係し
ているので、それを評価する。最終的には普通のシャルピー試験(温度を下げていって衝
撃を与え、どこで壊れるかを測定)をするが、この測定結果と予想したエネルギーがどの
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物理モデルだけではなく、データベースを活用することで、ニューラルネットワーク、
ベイズ推定などを使った計算も行っている。これらは、
多様なデータが集まっているので、
様々な情報解析のツールを使ってパフォーマンスとの関係を調べる目的でやっている。実
験結果とニューラルネットワークでやった解析が、非常に相関関係が良いという結果も得
1
ワークショップの趣旨説明
程度合うかを検討しており、かなり予測が可能になってきている。
られている。
を使ったシステムを開発している。
Q:組織のデータとしてひずみの高いところが得られるので、そこから亀裂が進むとする
のか。
A:そのとおりである。そこはシーケンシャルにやる予定である。
A:今回は製鉄所の中の話であり、動物などの影響はそれほどないと思うので、今は想定
していない。しかし、これを実際に橋などに持っていくときには、そのようなことが
ありうるので、設置に関しては、そのようなことがない場所を選ぶことが必要になっ
てくると思う。
Q:疲労のモニタリングの話で、パッチを張っておくのは、パッチの亀裂を観測すること
でパッチを張りつけた本体の情報を得ると理解してよいか。
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︵疲労、クリープ、マルチスケールシミュレーション等︶
が、実際に設置したところ、中にクモが巣を張って卵を産んだりした。遠隔で見てい
ると、異常が起こったのか、別の要因のトラブルなのかわからない。このようなとこ
ろに対する取り組みは何かあるか。
4
鉄鋼材料の課題
代に火災報知機のセンシングを手伝ったことがある。試験環境の中では安定して動く
Q:インフラモニタリングの話についての質問である。屋外で使用する安定したセンシン
グ環境をどうやって実現するのか。実際の設置では、例えば虫や動物などがセンシン
グ環境に影響を与えると思うが、そういうものに対する対策をしているのか。学生時
3
社会インフラ材料研究プロジェクトの概要
【質疑応答】
Q:シミュレーションでは、結晶粒レベルまで含めて亀裂がどう伝搬するか計算している
ということだが、核形成はどのように起こるとしているのか。ランダムに起こると仮
定しているのか、それとも履歴によって自然にそういう部分が出てくるとしているの
か。
A:我々は材料の開発につなげたいと思っているが、材料を作るというのは組織を作るこ
とと同じであるため、組織がどうなるか予測しようとしている。
これは小関先生がやっ
ている。この結果から得られたデータ、組織の情報を利用して、性能にどう関係する
か私のところでやる。ただし、そこの連結はまだできておらず、並行してやっている。
疲労ということで、転位が動いていくのをシミュレーションし、ひずみが高いところ
から亀裂が発生するという仮定でやっている。
2
社会インフラの現状と課題
最後にまとめる。社会インフラの維持にはセンシング技術が重要であり、信号解析、状
態監視が必要である。また、ディープラーニングを含めた機械学習の技術は、これから重
要になってくる。マテリアルズインテグレーションの中では、物理モデルとデータベース
俯瞰ワークショップ報告書
38
ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
A:これは構造物自体の疲労を見るのではない。構造物が疲労するのは、そこに力がかか
るからであり、その力の状況、環境、力学条件を見ようとするセンサである。このセ
ンサを張っておけば、構造物が力を受けるとセンサも一緒にひずみを受けることにな
る。
Q:そこで観測されるのはパッチの全体の伸びではなく、実際にクラックが入った状況を
観測することになるのか。どういう物理パラメーターが変わるのか。
A:センサ自体にクラックが入るので、電流が流れる断面積が減って電気抵抗が変わる。
亀裂をモニタするのではないものも考えている。感度の良いもの、感度の悪いものな
ど様々なタイプが選べるようになる。
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5.1 溶接・接合技術の現状および課題と今後の展望
廣瀬 明夫(大阪大学)
5
接合、コーティングの課題
5. 接合、コーティングの課題
まず、溶接・接合技術の役割について述べる。溶接技術はもともと造船を中心にして発
展してきている。従来はリベット構造であったものが溶接構造になっている。継ぎ手効率、
造へ変化をしてきている。
船などの大きな海洋構造物、自動車、さらにはエレクトロニクスなど様々なものに溶接・
接合部が含まれている。したがって、溶接・接合技術は製造業のものづくりの基盤技術の
一つとして、重要な役割を果たしていると考えている。この一番の特徴は、溶接・接合部
は製品に組み込まれて、その一部になっていることである。したがって、構造物が受ける
力学的あるいは環境の影響は全て溶接部も同じように受ける。もし、溶接部に欠陥や、構
造物の母材に比べて劣化した部分があると、それが構造物全体の性能を決めてしまう。こ
のため、製品の特性を 100%発揮させるためには、溶接・接合部の性能確保というのが不
可欠であると考えている。
6
腐食、劣化の問題
水密性、継ぎ手の自由度の点で、リベットよりも溶接構造のほうがはるかに優れているた
め、造船の進展と相まって溶接技術も進歩してきた。橋梁関係もリベット構造から溶接構
7
総合討論
付
録
図 5-1-1 溶接・接合方法の分類
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溶接・接合技術の現状について紹介する。溶接・接合プロセスを整理すると、図 5-1-1
のようになる。様々な見方があるが、材料、母材を溶かして付ける融接法、圧力で界面を
付ける圧接法、低融点のろう材を入れて接合するろう接、に分けられる。いずれもある程
度の熱を与えて接合するが、どういう形で熱を与えるかによって、電気的エネルギー、化
学的エネルギー、力学的エネルギー、光エネルギーに分けられる。表の下部の三つはいず
れも金属的に二つの材料を繋ぐということで冶金的接合と言われる。これに対して、
リベッ
ト、ボルトは機械的接合、接着は化学的接合ということになる。
ここでは冶金的につなぐことに絞って話す。このプロセスとして一番ポピュラーなのは
アーク溶接である。これはアーク放電を利用した接合法である。アーク放電自身は 1800
年に発見されているが、これを溶接の熱源として利用するというのは 1865 年に開発され
た。電極と接合しようとする板の間で放電させて、そのエネルギーで材料を溶かして付け
る方法である。この技術は造船分野とともに発展しており、アーク溶接でブロック工法を
利用して船を造っている。現在ではロボットによる自動溶接システムが造船分野でも導入
されており、ほとんど人間の手をわずらわすことなく溶接ができるようになっている。こ
れ以外にも、例えば 9%ニッケル鋼という非常に溶接が難しい材料を使う LNG タンクに
関しても溶接法が開発されており、自動の TIG 溶接(タングステン・イナート・ガス溶接)
で組んでいくということもできている。
図 5-1-2 抵抗溶接:抵抗スポット溶接
電気的エネルギーのもう一つの代表的なものとして、抵抗溶接がある。図 5-1-2 に示す
ように、抵抗発熱で 2 枚の板の間をジュール発熱で溶かして付けていくという点付けの溶
接法である。これはロボットに搭載して、ラインにおける車の自動溶接に利用されている。
このようなスポット溶接の自動化によって自動車の量産が可能になっているとも言える。
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5
接合、コーティングの課題
6
腐食、劣化の問題
図 5-1-3 レーザー溶接の特徴
せてつないでいくという非常にユニークな接合法である。これはイギリスの TWI(The
Welding Institute)で開発され、特許(1991 年出願)があったが、日本で発展した。も
ともとは低融点のアルミニウムやマグネシウムを中心に行う接合法だったが、鉄鋼材料も
この方法で接合できるようになった。溶かさないということで、
溶接欠陥(凝固に伴う欠陥)
が発生しないことや、熱ひずみなど熱の影響を非常に低減できる特徴があることで、自動
車分野を初めとして、船や鉄道車両もこれで接合されるようになっている。
摩擦攪拌で接合されている実際の例としては、アルミニウム車体の電車の接合、H2 ロ
ケットの水素燃料タンクがある。また、橋梁においても、アルミニウム製橋梁の床版の接
合に摩擦攪拌が適用されている。造船分野でも、テクノスーパーライナーの上部構造デッ
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付
録
一番新しい接合法として、摩擦攪拌接合がある。これは図 5-1-4 に示すように、2 枚の
板の間にピンを刺して、ぐるぐると回転させて、溶かさないで両者を機械的に混ぜ合わ
7
総合討論
光エネルギーを使うものは、最近発展しているレーザー溶接である。パワー密度の高い
光を集光して、材料を溶かして付ける。図 5-1-3 はパワー密度の模式図である。レーザー
は電子ビーム溶接に匹敵する急峻なパワー密度を持っており、狭くて深い溶け込みが得ら
れる。このため、例えば 10mm 厚の軟鋼をワンパスで、非常に細い溶融域で接合できる。
溶かす領域が狭ければ熱影響や変形も抑制でき、注目されている接合方法である。また、
レンズで集合してミラーで振らすと、多点をほぼ同時に溶接できる。これはリモートレー
ザー溶接というものであるが、この方法では多関節ロボットでアーク溶接していくより、
はるかに早い時間で多点溶接ができる。
このため、焦点距離の長いレーザーを使ったリモー
トレーザー溶接も、自動車分野ではかなり使われるようになっている。
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42
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キ(アルミ製)が摩擦攪拌で接合される。このように、産業応用もかなり進んでいる。こ
のような軽合金だけでなく、高強度の鉄鋼材料についてもこの方法で接合できるように開
発が進められている。
図 5-1-4 摩擦攪拌接合
次に、溶接・接合分野の国内および海外の学術組織について紹介する。国内のアカデミッ
クとしては、溶接学会が主体となって研究が行われている。3,000 人弱の会員数で、8 つ
の常設研究委員会で溶接各分野の研究を進めている状況である。産業分野では溶接協会が
ある。こちらは研究もあるが、資格の認定、溶接管理技術者、溶接技能者の認定などが主
な業務である。溶接学会と溶接協会とが相まって、アカデミックな面と産業および技術者
教育の面の活動を行っている。軽金属の溶接に関しては、別途、軽金属溶接協会があり、
研究委員会や資格認定も行っている。これら三つの団体は、秋葉原の溶接会館という一つ
のビルの中に入っており、今後、協調して溶接分野の学術と、産業をリードしていくと考
えている。
国際的には溶接は組織化されており、International Institute of Welding(IIW)とい
う組織がある。各国の溶接関連の学協会は一国一組織ということが決まっていて、ここに
加盟しており、グローバルな研究開発と技術者教育を行っている。年 1 回、
アニュアルミー
ティング(年会)があり、現在加盟している 57 カ国が各国持ち回りで行う。ここには大
よそ 23 のテクニカルコミッティとワーキングユニットがあり、研究の部分以外に、ここ
で決めた規格を例えば ISO にすることも行われている。したがって、溶接関係の規格に
関しては、この IIW が影響力を発揮するので、非常に重要である。特に溶接構造物をグロー
バルにつくっていく上では、この組織の中で発言することが必要である。日本は年会に参
加する人数としては 1 番か 2 番目に多いので、非常にアクティブな貢献をしている。
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接合、コーティングの課題
6
腐食、劣化の問題
図 5-1-5 溶接・接合技術の問題点と課題
7
総合討論
溶接・接合技術の問題点と課題について紹介する。溶接・接合部というのは基本的には
図 5-1-5 に示すような溶接欠陥が生じる危険性がある。割れ、溶け込み不良などがあり、
このような外見的な欠陥がなくても材質劣化がある。溶融溶接では熱で溶かすので、溶接
部には溶融、凝固、ガス吸収、偏析がある。溶けていないところも、結晶粒粗大化、析出
物の溶解、再結晶などが起こり、母材に対して非常に大きな変化がある。しかも、それが
わずか数ミリから数センチぐらいの範囲で融点から室温まで変化するので、大きな組織変
化があり、ほとんどで材質劣化を生じる。これはエックス線や超音波で見つけられる欠陥
がなくても、材質的に劣化している冶金的な欠陥という言い方もできる。
り多く行われていて、その技量によって溶接の品質が左右されることがある。あってはな
らないことであるが、施工ミス、手抜きがあると、致命的な損傷をもたらす。このような
ことから、溶接は ISO では特殊工程と言われており、施工後の検査だけでは継ぎ手の性
能が保証できない。要するに、施工管理、工程管理をきちんとやらないと危険である。
溶接構造物では過去に大きな損傷による事故が多く起こっており、図 5-1-6 に事例を示
す。橋や船に全溶接構造が採用されたのは第二次世界大戦の前後であるが、当時は溶接部
で材質劣化が生じることがあまり認識されていなかったので、溶接部からの脆性破壊が起
こって橋が崩落したり、船が沈没したりした。一番有名なのはアメリカの全溶接規格輸送
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付
録
また、変形や残留応力が発生する。変形は目に見えるが、内部にある残留応力は目に見
えない。さらに、溶接すると一体構造になるので、溶接部が破壊するとその破壊が構造物
全体に伝搬する問題もある。自動溶接も発展しているが、まだ、技能者による溶接もかな
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船(リバティ船)であり、第二次世界大戦のときに 4,700 隻つくられ、その内の 1,200 隻(約
1/4)が船体の破損事故を起こした。これは冬季の低温による溶接部からの脆性破壊であっ
た。このときにシャルピー衝撃試験が開発され、材料の靭性評価というのが重要視される
ようになった。
これでかなり改善されたが、戦後も船の事故が起こっている。これは、溶接欠陥からの
脆性破壊であり、
ずさんな溶接をしたために欠陥が残留したことによる。特に問題なのは、
船体の構造部材ではない部分、例えば上部の構造物のような強度部材ではないところに対
し、ずさんな溶接したためにそこから亀裂が入り、それが船体にも伝搬したことである。
このような問題があるのが溶接構造の特徴である。
図 5-1-6 溶接構造物の破壊事例
海洋油田プラットフォームのアレキサンダーキーランド号も有名な事故であり、123 人
の方が亡くなられた。このプラットフォームのコラム(足)の溶接部から疲労破壊が起こ
り、脆性破壊で足が折れて転覆した。これは構造部の溶接の問題ではなく、足に穴をあけ
てハイドロホン(水中のマイクロホン)という測定装置を取りつける溶接をずさんにした
ことによる。ガス切断で切って、溶接不具合修正のガウジングもせずにそのまま付けて溶
接したために、そこに欠陥が残り、そこから脆性破壊が起こってコラム全体が折れてしま
い沈没した。構造部材ではない溶接部でも、注意せずに溶接すると、そこから起こる破壊
が材料全般に伝搬し、このような事故が起こる。
韓国の聖水大橋の場合も同様である。溶接不良が原因と言われている。また、阪神・淡
路大震災でも多くの建物が溶接部から脆性破壊したが、これも溶接の欠陥によるものが非
常に多かった。最近では、556 橋梁の耐震補強部材で溶接不良があった。これは溶接工程
不良、あるいは手抜き、技量不足などと言われているが、まだこのような溶接部での問題
が起こっているのが現状である。
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接合、コーティングの課題
6
腐食、劣化の問題
図 5-1-7 溶接・接合技術の将来ビジョン
7
総合討論
付
録
図 5-1-8 溶接・接合技術分類の夢ロードマップ
これからどうすれば良いか述べる。溶接学会で作成している溶接・接合技術の将来ビジョ
ンを図 5-1-7 に示す。溶接技術がものづくり立国日本を実現するための必須の技術である
ため、今後はこのような特殊工程から脱却するとしている。このために、溶接・接合科学
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の体系化と進化、さらに新しい材料も溶接していくというイノベーションが必要である。
体系化に関しては、四つのエネルギーを使って溶接しているので、エネルギーに関するエ
ネルギー加工学、材料と加工エネルギーとの相互作用を念頭にしたプロセス熱流体学、材
料が変化するので計測手法も含めたジョイニング・メタラジー、最終的にできた構造物の
破壊評価学・変形制御工学、というカテゴリーに分けることができると考えている。
図 5-1-8 は溶接学会が 2010 年に作成して学術会議に提出した夢ロードマップである。
今後 30 年間、溶接技術はどうあるべきかを示している。ファーストステップでは、単体
の材料だけでなく複数の材料をうまく接合して複合構造をつくるマルチマテリアル技術が
必要としている。また、特殊工程からの脱却ということでは、人間に頼らないフルデジタ
ル溶接、知能化ロボット溶接、溶融溶接でない FSW 接合などのスマート溶接が必要である。
さらに、各種の計測技術も必要である。次のステップとしては、ノベル・ジョイニング技
術が必要であり、検査フリー、性能保証型の溶接技術を最終目標としている。さらに先に
は、溶接部の劣化がない溶接・接合法となる。インテグレーションの意味は、完全な接合、
母材と同等かそれ以上の溶接部が実現できる接合手法の開発を目指すということである。
ファーストステップはたまたま ISMA のプロジェクトに対応しており、ノベル・ジョイ
ニングは SIP に対応している。このロードマップはこれらの国プロの前に作ったが、この
ような対応になっている。SIP では、まず溶融溶接を念頭において、アークやレーザーの
熱源のモデル化、加熱による溶融池形成、そこでできる溶接部の割れのような欠陥の生成
頻度、溶接部での組織分布などを予測し、最終的に継手全体の性能を予測するシミュレー
ション技術の開発を行っている。これができると、逆に所定の継手性能を得るために必要
なプロセス制御、熱源や組織分布がどうなれば最適であるかということを予測できるよう
になる。また、性能保証をするためにどういうプロセス条件でやれば良いかがわかるよう
になる。
図 5-1-9 SIP における溶接技術開発
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実験を委託し、その結果の報告やアドバイスを受けるようにし、このシミュレーションを
完成させて、これを 5 年後にはプラットフォームにインストールして、様々な企業に利
用してもらう計画である。
5
接合、コーティングの課題
これを実際に現場での溶接施工で使えるシミュレーション技術にしたいということで、
溶接学会の中に、産業界の各社に加わってもらって分科会を作った。ここに実継手の検証
以上の説明をまとめる。溶接・接合技術はものづくりの基盤技術である。製品の性能を
担保するためには溶接・接合部の性能確保が不可欠である。ただし、現状では特殊工程で
あることで、溶接後に非破壊検査をしても継手の劣化があり、性能は保証できない。これ
接合技術の開発が必要である。これらが我が国のものづくりにおける国際競争力の強化、
および安全・安心で持続可能な社会の実現につながる、と我々は考えている。
7
総合討論
【質疑応答】
Q:SIP におけるシミュレーションには、溶接現象が原子レベルでしっかり理解されて、
それに対して保証できるというところまで含めていると考えてよいか。
A:本来はそうである。究極的には第一原理計算のようなもので原子間の結合状態を知る
ことから入ることになるが、マクロ的に継手性能を求めるということでは、マルチス
ケールで全てできるまでは至っていない。原理原則までさかのぼるようなシミュレー
ションを小関先生のところでも考えておられると思うが、SIP は 5 年のプロジェクト
なので、まずは性能保証ができるシミュレーション、施工条件の決定に使えるシミュ
レーションをいち早く作りたいということで、当面の目標はそこに置いている。
Q:シミュレーションするときに一番難しい現象、一番厄介なものは何か。
A:熱源のモデル化、熱源を使って材料を溶かしてできる溶融池、ミグ溶接やマグ溶接で
6
腐食、劣化の問題
を性能保証型の技術にするためには、シミュレーションをベースにしたプロセス制御が必
要である。それと同時に、溶接・接合部にダメージのない新しいメカニズムによる溶接・
のワイヤを溶かして溶滴が母材に移っていく工程、開先面を埋める工程、など全てを
モデル化してシミュレーションすることが必要である。溶接条件を入れることで、溶
けた溶融池の形状、余盛り高さ、止端形状など全部を忠実にシミュレーションできな
いと実際に使えるものにならないが、これがポイントになると思っている。熱源と材
いうことも忠実に再現できず、ここが一番難しいポイントである。
Q:検査フリーの溶接に将来は持っていきたいというロードマップは印象深い。溶接の異
常性が本質的にどこからくると理解されているのか。急速加熱、急速冷却、ぬれ、熱
源の供給が局所的など様々なことがあると思うが、どうなのか。
A:その全てである。トータルとして溶接というのは成り立っているからである。非平衡、
非定常でものが起こるということである。平衡状態でないため予測が難しい。この
ため、タイムスケールがどれぐらいで、非平衡のどの状態で溶接ができ上がったのか、
非定常のどういう状態で溶接したかを的確に捉まえないと、どういうものになるのか
がわからないので、そこが一番難しい。それで、このプロジェクトの中では in-situ
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付
録
料との相互作用、例えばアーク放電が電極と材料との間で起こるが、その間の相互作
用がきちんとわかっていないと、どのような放電条件でどのように材料が溶けるかと
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計測ということで、レーザー超音波法で動的に溶接現象を捉まえようとしている。将
来的には装置をコンパクト化して全部の溶接トーチに取り付け、溶け方と凝固の仕方
を見ながら、フィードバックをかけるような溶接ができることを期待している。
Q:構造材料のマルチマテリアル化ということで、競合する材料が様々あるように、接合
技術に関しても溶接だけでなく、例えば接着とかの競合する技術があると思う。溶接
は非常に複雑な現象なので、もう少し簡単に接合できるようになれば、そちらが良い
という意見もあると思うが、これに関してはどうか。
A:おっしゃるとおりだと思う。私は溶接屋であるが、問題が非常に多いので、できれば
構造物をつくるのに溶接しない方が良いと思っている。ロードマップで最終的に書
いてある「完全接合」の捉え方は様々あるが、接合して母材と一緒の一体構造のよう
なものが実現できるというイメージを持っている。溶接しないでも形ができるという
ことができれば、すばらしいと思っている。しかし、接着がそれに値するかというと、
現状ではなかなか難しいと思っている。そうなると、プロセスの利害得失を考えてい
く必要がある。矛盾した言い方であるが、材質劣化のない接合法の開発という意味で
の脱溶接というのが究極の目的になる。
Q:摩擦攪拌が非常に注目されているということだが、原理的には熱を発生して溶かすこ
とではないのか。
A:これは溶かさないで、混ぜ合わせるものであり、攪拌というのはそういう意味である。
固体でもピンを入れて攪拌すると、摩擦熱で温度が上がって軟化する。ただし、融点
にまではいかないようにし、あめのような状態にする。熱ひずみなどの熱の影響は溶
融溶接よりは少ない。特にアルミの場合は、溶かすと割れたり中に気泡が入ったりす
る問題があるが、混ぜ合わせて接合すると、溶融溶接特有の欠陥が出ない。
Q:混ぜるということは異なる材料の接合では変なことになるのではないか。
A:異材接合もこの方法で進んでいる。それには工夫が要るが、完全にまぜないで界面だ
けをうまくこすり合わせて冶金的に接合するというやり方もある。混ぜても大丈夫な
ものもあるが、いろいろな工夫をする必要はある。
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明渡 純(産業技術総合研究所)
最近のインフラにも使われるコーティングの要素技術の進展と、そこに関係する私の仕
事を紹介する。インフラ関係でよく出てくるコーティング技術は、
溶射という技術であり、
5
接合、コーティングの課題
5.2 高機能コーティング技術の進展とインフラ応用の可能性
防錆に使われることが多い。最近の防錆で使われている溶射は、溶線式アーク溶射が一般
的になっている。これは、アルミ、亜鉛の複合金属の溶射により防錆する技術である。複
6
腐食、劣化の問題
合金属単体ではコーティングできないため、
様々な樹脂材料とのコンビネーションで、トー
タルコストでも見合うところで防錆効果を出そうとしている。
溶射は、アークプラズマのような高温のプラズマの中に粉末材料を投入して溶かし、そ
れを基材上に吹きつけ急速凝固させて皮膜を形成する方法である。材料としては、合金、
金属がよく使われており、セラミック溶射は材料を金属からセラミックに替えたものであ
る。セラミックと金属の場合では、形成される皮膜の状態はかなり違うが、防錆を考える
と、金属には様々な課題が残っており、セラミック溶射も防錆への展開の可能性があると
思っている。ただし、溶射セラミックス皮膜は、クラックが入ったりして緻密なものがつ
くれないという課題もまだ残っている。
7
総合討論
付
録
図 5-2-1 コールドスプレー(CS)法
溶射の溶かすという言葉の定義に外れるが、最近この溶射の分野では、図 5-2-1 に示す
ような、溶かさないで粒子を吹きつけ成膜するコールドスプレー法という技術が話題に
なっている。これは 1983 年頃にロシアの Papyrin と Alkimov が、飛行機のタービンに様々
なものを吸わせて破壊モードを調べているときに、ニッケルの粒子を吸わせるとタービン
のブレードがニッケルコートされたので特許をとり、後にアメリカに移ってサンディア国
立研究所の溶射グループと共同して、ガスダイナミックコールドスプレー法として世に送
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り出した技術である。このように、研究としては非常に古いが、実用化も含めた検討が始
まってきたのはごく最近である。アメリカでは、飛行機の構造部材のリペア/メンテナン
スにこれを適用するということが国家レベルで動いており、それに引きずられるように国
内の溶射関係者の間でもこの技術の研究者がかなりふえてきている。
摩擦攪拌接合(FSW)とよく似たようなところがあり、溶かすところまでもっていか
ないで粒子同士を接合させて皮膜をつくる技術である。溶かして空気中で凝固させると、
表面酸化が起こって、接合した粒の界面などが脆化したり、内部にポア、欠陥、クラック
が形成されたりする。これに対して、コールドスプレー法は、600℃程度のホットガスに、
金属材料を固体状態のまま投入し、溶融温度以下の温度で超音速ノズルから高速に噴射し
て基材に粒子を固体状態のまま衝突させるものである。金属粒子同士が接合していき、従
来の溶射よりも酸化層の少ない、あるいはクラックもポアも少ない緻密質な膜ができる。
これは、溶射の人たちにとっては、長年の溶射の概念を覆すようなインパクトのある手法
だった。
図 5-2-2 コールドスプレー装置と成膜事例
図 5-2-2 にコールドスプレー装置と、得られた金属コーティング膜を示す。ステンレス
のパイプの上にコールドスプレー法で ZnAl など金属コーティングの材料を厚さ 1cm 程
度吹き付けたものである。右中段は Al のパイプの上に Cu をコールドスプレーで付けて
いる例であり、溶射並みかそれ以上の成膜のスピードで、金属酸化を抑えて溶射皮膜より
も緻密な金属皮膜が形成できるので、コスト的に合えば防錆用途にも使える可能性が十分
にある。この写真を見ると、ピカピカ輝いて、分厚いところもきれいにエッジが立ってい
る。しかし、噴きつけただけで、このような状態になるのではない。実は、600℃ぐらい
の熱風の中で噴きつけるので、表面はかなり酸化しており、噴きつけたままでは表面がボ
ロボロになっている。このため、その後に機械加工で削って、このようなきれいなエッジ
が出た形にしている。
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てきたエアロゾルデポジション(AD)法と呼んでいる方法である。海外では減圧コール
ドスプレー法と呼ばれている。AD 法はまだメジャーな技術とはなっていないが、最近で
は、海外、特に韓国でキャッチアップが激しい。この方法はコールドスプレーよりもっと
コールドであり、本当の室温でセラミックスのコーティングができるという技術である。
5
接合、コーティングの課題
材料としては様々な金属材料、合金材料、ステンレス、鋼材、超合金に加え、最近では
酸化チタンとかアルミナなどのセラミックスが付くと言われている。図 5-2-3 は私がやっ
やり方は固体状態のセラミックスの粉末をガスに乗せて噴きつけることは同じであるが、
減圧下でやっていることが異なる。
6
腐食、劣化の問題
7
総合討論
図 5-2-3 エアロゾルデポジション(AD)法
付
録
図 5-2-4 常温衝撃固化現象
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減圧下でチャンバーの中に入れてやる必要があるため、大型の構造物に適用することを
考えると、この技術がインフラの用途に役に立つかどうか疑問を持たれると思う。ともか
く、減圧下で溶射やコールドスプレーに使われている微細なセラミックの粒子を大気に乗
せて、サンドブラストのようなイメージで基材に噴きつけるだけで、緻密な膜ができると
いう現象を見つけた。結晶構造はもとの結晶構造を維持している。このように固まる現象
を常温衝撃固化現象というが、常温で本当に純粋にセラミックスの粒子が固まって、緻密
な膜をつくるということがわかったのは、我々の研究が最初である。図 5-2-4 はα− Al2O3
について実際に得られた膜の画像である。α− Al2O3 の単結晶微粒子を空気に乗せて基材
の上に噴きつけただけで、厚さ 5 μ m 程度の非常に透明な散乱のない緻密なセラミック
ス膜ができる。もう一つ特徴的なのは、常温でも基材との間の密着力が非常に高いことで
ある。これは一般の溶射より圧倒的に高くて、その密着力のよさがコーティング技術とし
て実用感を持たせるところである。室温なので、ポリマー、プラスチックの上にも緻密な
セラミックスの膜を常温コーティングできるという特徴がある。CVD、スパッタ、PVD
などの方法でも、材料を原子・分子まで分解して、基板上で再結晶させ、無機膜を低温で
つける技術が長く研究されているが、超高真空が必要で、成膜のスピードが遅く、装置も
大がかりで高コストになる。これを考えると、AD 法はサンドブラストのイメージなので、
非常にシンプルに機能性の高い膜、品質の高い膜が得られるということで意義深い。
図 5-2-5 AD 法による大面積均一成膜と微細パターニング
この技術は半導体のエッチング装置の部材で実用化、事業化されている。半導体の製造
装置の中では、ウエハをプラズマでエッチングしていく過程で、
プラズマがエッチングチャ
ンバー内側の各部材をアタックして、ほんのわずかパーティクルが出る。パターンルール
が 20 nm を切った現状では、エッチング中に発生するこの微細なパーティクル(ごみ)が、
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AD 膜は数十 nm 以下の微細結晶の緻密な集合体組織なので、この様なことが可能だが、
エンドユーザーは、当初、この様な微粒子を焼かずに圧力だけで固めただけのコーティン
グで低発塵性が実現でき、実際に半導体装置に使えるとは思っても見なかった。自ら厳密
に評価して初めて信じるようになったと聞いている。
大面積化の開発にも取り組んでいる。図 5-2-5 はロール・ツー・ロールで大面積のコー
5
接合、コーティングの課題
チップの歩留まりにとって致命的になっており、このパーティクルの抑制(発塵の抑制)
や歩留まりに影響しないまで微細化できることが、AD が使われている理由となっている。
ティングをしたときの事例である。通常、セラミックス酸化物のコーティングは、PVD
や CVD のように原子分子まで分解して基板上で再結晶化させるため、良い結晶を得よう
膜質が場所によってばらつくということが起こる。AD 法は常温のプロセスなのでこのよ
うな問題はない。したがって、プロセス装置をスケールアップするときのハードルは思っ
たより低いという印象を持っている。このようなことから、
リチウムイオン電池、燃料電池、
色素増感太陽電池、パワーモジュールの部材づくりなどの応用開発にも取り組んでいる。
7
総合討論
AD 法の特徴を簡単にまとめる。他の技術とのベンチマークに関しては、膜の品質の点
では、基本的に多結晶膜しかできないので、CVD、スパッタなどに比べると品質は若干
劣るが、溶射に比べるとかなり良い。また、従来の薄膜法に比べて設備コストが安く、成
膜レートもかなり早い。低温(室温)プロセスで、高密着というのが大きな特徴で、様々
な基材に対し必要とされる膜厚と機能、生産性の兼ね合いで、コストがマッチするかを配
慮し、利用用途を開拓することになる。
6
腐食、劣化の問題
とするとどうしても基板上での材料のマイグレーション(移動)を促進する必要がある。
このため、高温あるいは中温で基板加熱する必要がある。基板加熱が不均一だと、膜厚や
付
録
図 5-2-6 セラミックス微粒子の常温固化メカニズム
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AD 法の成膜メカニズムについて紹介する。これまで、衝突したときに運動エネルギー
が表面で熱エネルギーに変わって、粒子や基材の接触面が溶けて接着するという理解がさ
れてきた。コールドスプレー法、AD 法以外にも固体粒子を噴きつけるコーティング技術
は過去にもあったが、全てこのような理解をしていた。金属が付くなら、セラミックでも
できるということで研究が行われたが、それは全部失敗した。金属よりもセラミックスは
融点が高いので、セラミックスを付けるためには、もっと運動エネルギーを上げて高速で
ぶつける必要があると考えた。この考えでやってみると、全てサンドブラストのようになっ
て膜は付かなかった。我々はファインな粒子を使って低速の条件でぶつけたら、膜が形成
できることを見つけたのである。運動エネルギー的に考えれば、コールドスプレーの方が
粒子が大きく、衝突速度も大きいため運動エネルギーも大きい。AD 法はそれよりも運動
エネルギーは小さいのに、金属もセラミックも付着できる。これは、
単純に運動エネルギー
が熱に変わって、表面が溶けてくっつくという解釈が成り立たないことを意味している。
実際、AD 法で衝突する速度は、200 ~ 300m/sec であり、いわゆる国内ジェット旅客機
の巡航速度程度である。この程度の速度では、表面の温度はセラミックが焼結するまで上
がらない。温度が上がらないのに緻密になるというのは、粒子自体が溶けるのではなく、
図 5-2-6 の右下の図に示すように、高圧の中で圧力が鍵になって、粒子が緻密化していっ
て固まっているのではないかと考えた。セラミックは通常の性質としては脆性材料である
が、粒子のサイズが小さくなってくると、圧縮破壊の物性が変わってくるのではないかと
考えた。
これを確かめるために、単結晶のα− Al2O3 の粒子をサファイアの単結晶基板の上に置い
て、上からダイヤモンドの足によって室温でゆっくり潰す実験を行った。電子顕微鏡で観
察した結果、塑性変形を示す現象を捉えることができた。噴きつける粉のサイズや、粉の
内部に含まれる欠陥の状態を制御すると、でき上がる膜の品質や付着強度の幅が広がった。
従来の溶射における注目するポイントは、いかに効率よく流動性の良い粉をつくって供
給するかという観点が多く、粉は溶かすため、粉そのものの機械物性には注力されていな
かった。ところが、溶かさない固体状態の粒子を吹きつけるコールドスプレー法や AD 法
の技術が出てくると、原料に使われる粉体の機械特性に関する知見が非常に重要であり、
これが実用化につなげるための鍵を握っていると考えている。
インフラ応用の防錆に関して、一般に、常温金属溶射法という呼び名で行われているも
のがあるが、AD 法とは異なるものである。ZnAl のワイヤーフレーム溶射では常温といっ
てもアークプラズマで Al とか Zn のワイヤーを溶かして液滴状態にし、スプレーして基
板上で冷却、固化してコーティングしている。実際の基板上での温度は 40℃~ 70℃であり、
常温金属溶射と言っているがそのままでは付かない。下地のならし方、付着強度を上げる
ための工夫(プライマーとしての下地処理の中に樹脂材料で凹凸を付加など)
、でき上がっ
た溶射膜自体は多くの穴があいているので何かの材料による封止などを行い、実用施工ま
で持っていっている。
このようなところに、酸化アルミニウム(アルミナ)のような化学的に安定なコーティ
ング材を緻密に付けることができれば、工程数を減らしたり、耐久年数を上げたりするこ
とができ、塩水による電食劣化というモードも違った考え方になってくる可能性がある。
不動態膜ができても、薄いとピンホールや亀裂が入り、そこから錆が成長することがある
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試験をやっても全くダメージがなかった。また、機械的な強度も耐磨耗性も高く、
コーティ
ングされたものはほんの少し圧痕が残る程度であり、断面を見ても AD 法のアルミナ膜は
全く削れていない。したがって、大型構造物に展開できる可能性はあると考えている。
5
接合、コーティングの課題
が、AD 膜を使うとカバーできる可能性がある。
実際に AD 膜で防錆テストをやった結果、アルミナコーティングされた部材は塩水噴霧
圧電材料を常温 AD 法でつけて、センサなど電気変換する素子としてつくることもでき
る。薄膜 MEMS 技術でやることもできるが、非常に高コストである。AD 法を用いると、
低コストに壁一面に薄い圧電膜を付けて、壁全体の振動をハーベストできる可能性もある。
溶射分野は様々な課題があるが、AD 法も溶射に近づける努力をしており、図 5-2-7 に
示すように、SIP のプロジェクトの中で AD 法の圧力主体の新しいコーティング技術と、
従来の溶射技術を組み合わせて AD の欠点である成膜のスピードが溶射に比べて遅いとい
うところを補いながら、実用用途を広げようという取り組みをしている。
6
腐食、劣化の問題
この技術もインフラに使える可能性があると考えている。
7
総合討論
付
録
図 5-2-7 SIP「革新的設計生産技術」におけるハイブリッド AD 法の取り組み
【質疑応答】
Q:運動エネルギーが熱エネルギーに変わるということではなく、ジェット流程度の速度
で良いということであれば、減圧にする必要はあるか。
A:将来的には必要ないと考えている。慣性モーメントの小さな微粒子が十分な速度で基
材に衝突し、高圧がかり潰れれば、常温衝撃固化現象は生じると理解しているので、
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小さい粒子を固めて大きい二次粒子にしてやれば質量が大きくなって大気の壁を打ち
破れると思う。コールドスプレーをやっていた人たちが、なぜセラミックコーティン
グに気付かなかったかというと、彼らも粒子だけ小さくはしたのだが、大気中で噴出
させていたためである。大気中で噴出させると、細かい粒子は分級装置と同じ原理で
衝突しない。ノズルから出たときは高速でも、搬送気流が基板に衝突するときに方向
を変えて減速し、高速な粒子が直接基板にぶつかることはなくなる。減圧にしたこと
で、小さい粒子まで十分な速度で基板にぶつけられるようになり、この現象を発見し
たという経緯があるので、これは工夫できると考えている。減圧が必要ないとなると、
応用範囲も広がる。
Q:粒径を細かくすることで、そのような効果が現れるという理解でよいか。
A:粒子 1 個 1 個の破壊されていくときの潰れ方だと考えている。正確にはまだ我々も
把握し切れていないところがあるが、粒子が小さくなると、潰れたときにできる新生
面同士が再結合を起こしやすい表面状態やジオメトリーが構成され、それよって結果
的に変形のようなことが起こっていると考えている。
Q:それはいわゆるナノ粒子効果みたいなものではないのか。
A:サイズが小さくなったことで起きているので、ナノ粒子効果と言えると思うが、一番
本質的なところは表面の電子温度だと思っている。普通は溶融接合という話になると、
熱平衡状態で全部ばらばらにすると考える。しかし、全部ばらばらにしないと接合が
起こらないかというと、私はそうではないと理解しており、要は距離をどれだけ近づ
けられるかが鍵になる。普通は、物質と物質の表面の距離を近づけ切れないため、溶
かして原子の結合も切ってやり、イオンの振動も大きくしてやり、付きやすくしている。
電子温度さえ高くして近づけられれば、くっ付くというのが私の本質的な理解である。
C:我々もナノ粒子を使った接合をやっており、ある粒径以下にすると焼結が非常に早く
進むことを見ている。極端に言うと、常温に近くても焼結結合ができるようなものを
開発しているが、そのようなメカニズムに近いようなことが起こっているのかと思う。
Q:金属とセラミックスの常温接合では、金属側を非常にクリーンにし新生面を出して
くっ付けるというのは理解したが、酸化物の新生面というのがよくわからなかった。
A:新生面の定義だと思う。Ar イオンビームなどでたたいてやる表面活性化接合法とい
うのを東大の須賀先生がマックス・プランクの時代からずっとやっておられたと思う。
ある程度、たたいてやると表面の原子は完全に結合が切れている状態になる。溶けて
いる状態にはなっていないが、非常に乱れた状態になっていて、電子も励起されて電
子温度が高い状態になる。その状態で、本当に原子 1 個ぐらいの距離まで近づくこ
とができると、そこで安定になろうとして化学結合が起こる可能性があると私は思っ
ている。逆に言えば、新生面だったらくっ付くというのももう一歩踏み込んで、物理
的理解をしたとき、どういう解釈になるのか前から思っているところでもある。電子
顕微鏡の中の接合観察もやられていて、観察している電子ビームで温められているの
ではないかなど諸説あるが、今でも正確には理解されていないと思う。ただし、現象
としては、このようなことが実際に起こっていると思う。
Q:原子レベルのシミュレーションの研究はあるのか。
A:10 年ぐらい前の国プロの中で、常温の限られた条件ではあるが、一部の酸化物材料
に対する第一原理計算で、距離を近づけるとくっ付くということは出ている。
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6.1 金属材料の腐食寿命予測技術の現状と今後の課題∼表面処理、耐食材料∼
藤田 栄(JFE テクノリサーチ)
5
接合、コーティングの課題
6. 腐食、劣化の問題
鉄鋼表面処理開発において腐食寿命試験法は重要な位置を占めている。表面処理鋼板が
自動車に適用されて数十年になるが、腐食試験法の開発が未熟であったために、材料開発
の課題について述べる。
最初に腐食寿命予測法について述べる。図 6-1-1 に示すように、寿命には物理的寿命、
機能的寿命、経済的寿命がある。ここでの話は「腐食」なので物理的寿命に分類される。
この物理的寿命を定量的に出すためにシミュレーションが必要になる。
6
腐食、劣化の問題
が紆余曲折(失敗)した。ここでは鉄鋼表面処理開発における腐食加速試験法の使い方の
間違いによる失敗学(教訓)の話をし、今後の金属材料の腐食寿命予測技術の現状と今後
7
総合討論
従来の腐食の寿命予測は、簡単に言うと二つに分類される。一つは図 6-1-2 の 1)に示
すように、実環境腐食劣化寿命のデータベースを集めてきて予測する方法である。国土交
通省などでよく行う手法であり、寿命予測法としては確実な方法である。しかし、評価対
象は既存材料、既存構造に限定され、長期間を必要とする。もう一つは 2)の促進環境に
おける腐食試験法によるものである。新しい材料や新しい構造が出てくる場合に、腐食試
験法を使う。実環境との相関性を検討して、実環境相関性のよい試験法が開発されてきて
いるが、促進するということは実環境とは異なった環境での腐食環境とすることことであ
るので、促進性、実環境再現性が重要である。
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付
録
図 6-1-1 寿命の定義
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図 6-1-2 腐食寿命の予測方法
今後やるべきことは、3)の数値モデルによる寿命予測技術であると考えている。現在の数
値計算技術は様々な腐食反応の素過程を計算できるようになってきた。そのため、様々な腐
食反応プロセスを数値モデル化し計算でできるのではないかというのが私の提案である。
図 6-1-3 腐食促進試験法の使用目的
腐食促進試験法の使用目的を図 6-1-3 に示す。腐食試験は使用目的により二つに分類さ
れる。その一つは製品出荷試験、受入試験などの品質試験である。品質試験は短期間に
結果を得る必要があるため促進性が重要となる。塩水噴霧試験法(JIS Z2371:2015)は
5mass% NaCl 水溶液を試験表面に噴霧する非常に単純な試験法であり、製品出荷試験、
受入試験などの品質試験として様々な産業分野で広く使用されている。塩水噴霧試験は試
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もう一つの試験法目的は腐食現象の再現試験である。実際の現象を再現してその腐食機
構などを解明し、寿命評価するために使用される。本来品質管理として用いるべき試験法
が後者の性能試験として用いられると、材料開発は迷路に入る。前者では短期間に品質を
評価するために、促進性が重要となる。一方、後者では実環境での腐食機構を再現するた
5
接合、コーティングの課題
験法が複雑でなく比較的再現性が良い試験法であることから、広く金属材料の品質試験と
して使われてきた。
めに、実環境を出来る限り変えないように配慮する必要がある。活性化エネルギーが変化
しない反応であれば、アレニウスの式(Arrhenius equation)で絶対温度の逆数と反応速
初期(1980 年代)の表面処理鋼板の開発は主に塩水噴霧試験により行われていた。塩
水噴霧試験は実際の大気腐食とは全く相関がないことを材料開発者は薄々理解していたと
思う。しかし短期間に開発することが優先されて実環境再現性が後回しになってしまった。
その結果、実環境と縁もゆかりもない表面処理鋼板が数多く開発された。本来はある品質
管理試験にすぎないものを、短期間開発を優先して促進性の高い試験法により材料の性能
保証に使ってしまった。この経済的損失は莫大であった。
腐食試験法の使用目的や正しい概念をきちんと我々の中で理解をして、実環境を再現し
た試験法を開発し、それを元に新材料を社会に出すことが実際には効率的な材料開発につ
ながる。
6
腐食、劣化の問題
度との関係から促進性を求めることが出来るが、実際の腐食現象は温度以外に酸素、複数
のイオン因子が複雑に関係しており、促進試験により定量的に寿命評価をすることは難し
い。
7
総合討論
付
録
図 6-1-4 材料規格試験と実環境耐久性とが逆転する例
塩水噴霧試験(salt water spray test: SST)について実例を紹介する。図 6-1-4 は、塗
装の下に亜鉛めっきしたもの(青丸)としないもの(赤丸)を、塩水噴霧試験にかけたと
き(左図)と沖縄の塩害実環境下に置いたとき(右図)のブリスター(気泡状のふくらみ)
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の大きさを時間に対してプロットしたものである。右図では亜鉛めっきをしたもの
(赤丸)
は、しないもの(青丸)に比べ耐食性がよくなっている。ところが、左図の塩水噴霧試験
(SST)だと、亜鉛めっきしたものはぼろぼろになるというまるっきり逆の現象が生じた。
これは SST と実環境とで耐食性の機構がまるっきり違うからである。
そこで、世界の自動車メーカーはそれぞれ独自の複合サイクル腐食試験を開発した。現
在でも腐食試験法は世界で 100 以上は存在する。図 6-1-5 に腐食試験法の課題を示す。図
6-1-5 の縦軸は、腐食の進行の度合いを表す。赤、青、緑という材料があったとき、A 社
の試験では赤が一番腐食しないので赤を、B 社の試験では緑を、C 社の試験では青の材料
を選択するということが起きた。
図 6-1-5 防錆鋼板の開発における腐食試験法の課題
各自動車メーカーの試験法に併せて表面処理鋼板も多種多様に開発された。今では、図
6-1-6 の左図の溶融亜鉛めっき鋼板(欧米自動車メーカー)と合金化溶融亜鉛めっき鋼板(国
内自動車メーカー)に集約された。
世界における大気腐食のシミュレーションソフトの活動について図 6-1-7 にまとめる。
日本の場合は、民間が一部先行しているだけである。JFE スチールの水野氏は米国のバー
ジニア大学で航空材料の粒界腐食を数値モデルで予測した。元住友金属の岡田氏は電位分
布論で亜鉛系と鉄との電位分布のシミュレーションを確立した。鉄鋼協会でも腐食数値モ
デルフォーラムを立ち上げて議論を行っている程度である。これが日本の現状である。
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接合、コーティングの課題
6
腐食、劣化の問題
図 6-1-6 実用化されてきた自動車用表面処理鋼板
7
総合討論
アメリカは先行している。OLI という会社が電気化学の理論や各種データを全て入れ
た腐食のシミュレーションプログラムを開発し、濃厚溶液の電気化学も全て扱えるように
なっている。ただし、このプログラムはブラックボックスになっていて、これが正しいか
どうかのチェックはできない。日本においても、データベース、溶液から界面の電気化学、
様々な状態図まで含めて、このような取り組みを国ベースでやるべきだと思う。
ヨーロッパにおいては、フィランドで熱力学の通常の溶液系だと思われるものや、ス
ウェーデンの王立大学で状態図もつくれる耐久腐食のデータベースがつくられており、か
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録
図 6-1-7 世界における腐食シミュレーションソフト(例)
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なり進んできている。アジアにはまだないが、少し勉強し始めるとあっという間に追い抜
けるであろう。
図 6-1-8 に示すような大気腐食の数値モデルは、金属、金属腐食生成物、水膜とのバラ
ンスをとるような平衡状態を考えてつくれる。相対湿度というのは大気中の水のアクティ
ビティであるが、この水のアクティビティによる平衡状態の水膜が気体と腐食生成物との
間でバランスをとる。これを使うと状態図ができる。これは OLI もまだ手をつけていない。
図 6-1-8 大気腐食の数値モデル
図 6-1-9 実環境を反映した腐食試験法 ∼ ISO6539-2013 ∼
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塩化物の濃度を数水準変えて、実際に近い環境になるようにしている。実環境の腐食現象
を非常に良く再現している試験法である。すなわち、性能を評価するための試験法として
非常に適切な試験法であると言える。大気環境での各素過程モデルの境界条件が最も重要
であるが、これを使うことにより、比較的短期間に実環境での腐食の数値モデルを理論的、
5
接合、コーティングの課題
図 6-1-9 に ISO6539-2013 における促進試験法を示す。この試験法は、現実に合わせる
ように促進率はあまり上げずに、絶対湿度一定で地球が 1 日に 3 回転する繰り返し条件で、
実験的に再現、評価していくことができると考えている。
6
腐食、劣化の問題
7
総合討論
図 6-1-10 大気腐食の数値モデル化(案)
図 6-1-10 は大気腐食の数値モデル化の案である。環境側モデル、腐食生成物・腐食速
度モデル、速度論をやったうえで基礎モデルをつくる。データベースは特殊解となるので、
重要である。この特殊解が基礎モデルの一般解の上に乗るかどうかチェックする。この作
業を幾つか繰り返して最終的な一般解に持っていく。
ブラックボックスの鍵をつくって他に流出しないようにするなどの方法があると思う。
インフラ設備の余寿命、寿命推定はこれからますます重要となっていくであろう。従来
構造、材料は過去のデータベース(ビッグデータ)の構築で定量的に確実に評価できるよ
うになっていく。建造費用との関係が係わってくるので、構造物に保険をかける時代が来
るであろう。そのときにこれらの数値モデルは保険会社にとって重要になる。アメリカで
はリスクあるものをつくったときには、必ず保険屋がいる。日本にもそのような時代が来
る。我が国のインフラ整備投資を効率的に行うためにも腐食の数値モデル化は非常に重要
である。国ベースで取り組むプロジェクトである。
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録
数値モデルのソフト部分はブラックボックスにできるので、国ベースでつくる場合は、
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【質疑応答】
Q:最後の数値の予測では、平衡状態から始めて化学反応を入れるという話だったが、そ
こに材料の組織などの因子は入らないのか。
A:入れられる。アメリカのグループは実際に入れている。実験により合金の化学組成と
の相関モデルを一般化し、任意の合金構成の全面腐食、局部腐食までやるということ
だが、その担当者によると、そこはブラックボックスだということである。
Q:日本にそういうデータベースはあるのか。
A:データベースというと、辞書みたいに様々なデータを集めて作るが、各社はオープン
にしない。例えば、得られたデータの初期費用を完全に負担してデータベースに入れ
させる、というのであれば出すと思う。ここはやり方によると思う。企業は膨大なデー
タを持っているので、出してもらうための仕組みづくりが必要であるが、一企業では
できない。
Q:表面処理自体も様々な種類がある。多様な金属組織もあり、しかも腐食環境も様々あ
る中で、どうやって実際にデータベースにするのか。パラメーターが多くあるように
思う。
A:大気腐食のある程度の目安は、この試験法でできると思っている。これは 2 年前に
ISO で企画した。あまり促進はしないが、絶対湿度を一定にして繰り返しをするだ
けでできる。材料によって環境に対する係数が違うが、腐食を出すために塩化物付着
量を 1 万倍変えてその挙動を見つける。我々は海洋国なので、塩化物がほとんどで
あり、これである程度見られる。今は ISO になっており、JIS 化に向けて動いている。
このような試験で、ある程度腐食の特徴は見える。
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志波 光晴(物質・材料研究機構)
はじめに非破壊検査と余寿命診断の基礎について述べ、つぎに非破壊検査にあたっての
検査の対象、およびそれをどう見るかという「クライテリア」について述べる。また、こ
5
接合、コーティングの課題
6.2 非破壊検査・余寿命評価
の考え方に基づいて、具体的に私が実施した溶接継ぎ手の HAZ(heat affected zone、溶
接熱影響部)のクリープについての非破壊による余寿命評価の考え方を一例として話す。
7
総合討論
でバルク成形を行い、それを組み立て工程で表面処理を行ったり、加工・切断・塑性加工
を行ったり、接合・溶接・ボルト締結を行ったりして組み立てる。このときの品質管理の
問題としては、製造工程のばらつきがそれぞれプロセスで出てくること、組み立て工程を
経ていく中でさまざまな欠陥が発生してくること、加工や熱処理を受けることによって材
質そのものが変質することである。
したがって、同じ素材を使った材料であっても、加工プロセス工程が違うと、最終製品
の材質が違ってくる。これは、劣化という長時間側で見たときに、寿命の違いとして出て
くる。このため、製造工程、組み立て、素材というところではかなり工程管理がしっかり
なされている。しかし、溶接のように素材と組み立て加工を一緒にやっているようなとこ
ろや、コンクリートの打設などのような特殊工程と呼ばれているもの、管理がきちんとで
きていないもの、定量化できていないもの、フィードバックできていないものは、工程の
ばらつきが大きくなって寿命もばらつく。したがって、劣化損傷といわれているもののか
なりの部分は、施工時における管理が不十分だった可能性が高い。
6
腐食、劣化の問題
最後に、今後の研究課題として、工程や寿命管理の非破壊検査法としての欠陥工学という
アプローチ、および、合理的な構造実証実験・開発法としてのオンラインモニタリングに
ついて述べる。
基礎的な話として、工業材料の特徴と製造工程について紹介する。工業材料は量産され
る材料であり、原料を化学結合することによってバルク化、素材化を行う。連続やバッチ
付
録
図 6-2-1 非破壊検査と余寿命診断の基礎 −初期欠陥と劣化−
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なぜ、このようなことが言えるのか、簡単な破壊力学をベースとした考え方で説明する。
図 6-2-1 は一本の亀裂による破壊の例である。図のような亀裂があったとする。亀裂が進
展している前のところに応力がかかると、亀裂が進展していく。亀裂が進展する先端のと
ころで応力が集中し、塑性変形や材料組織中に転位、双晶、変態等が起きることによって、
先端に新たな変質相が出てくる。もちろん、応力腐食割れのような、化学的な反応による
腐食も起こり、この中が壊れていく。図の緑色の部分の状態がどうなっているかによって
亀裂の進展状況が変わってくる。図 6-2-1 右のグラフの横軸は、応力 / 時間 / 繰り返し数
であるが、これは寿命と考えて欲しい。縦軸は亀裂の長さと考えて欲しい。最初にこのよ
うな初期欠陥が亀裂としてあると、Type I(材料が健全なもの)はある一定時間がたつと
壊れる。しかし、Type III、IV のように、亀裂の先端に劣化やさまざまな損傷、材料の
脆化が起こってくると、亀裂進展速度は早くなるので、健全なものに比べて寿命は短くな
る。これが、亀裂進展の観点から見たときの寿命の考え方であるが、もう一つの寿命があ
る。それは、亀裂が伸びる前にじわじわと材質が変化していって、亀裂核生成が起きる場
合である。劣化損傷過程と言われるもののほとんどは亀裂核生成である。亀裂核生成が主
亀裂の進展前のどこで起きるかによって、寿命が変わってくる。この部分を押さえない限
り、余寿命評価はできない。現在の余寿命評価というものは、亀裂進展の評価がほとんど
である。トータルの寿命を評価するときには、この材質の変化の部分を見ないと、評価で
きない。
図 6-2-2 非破壊検査と余寿命診断の基礎 −非破壊材料信頼性評価−
図 6-2-2 は現在行われている構造材料の信頼性保証の流れである。まず、出荷検査や耐
圧試験等を行って、製造時の初期欠陥を検出し、スクリーニングして出荷する。使われて
いる環境の中では、いわゆる時間依存型破壊(疲労やクリープ、応力腐食)が起きるので、
使用中の損傷の発生を検出したら、亀裂の進展状況ともとの材料の破壊靱性値等の特性か
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材料そのものが変型してくるようなもの)ならば組織を観察することにより評価する。こ
れが現状で行われている非破壊の評価である。
5
接合、コーティングの課題
ら判断して余寿命が評価される。そのときに使われるのが非破壊検査や状態監視である。
このような測定量をもとに、亀裂進展型ならば破壊力学を使い、材料劣化型(クリープ等、
6
腐食、劣化の問題
7
総合討論
図 6-2-3 非破壊測定の原理と手法
図 6-2-3 に示すように、非破壊の測定方法には、弾性波を使うものと電磁気を使うも
のの 2 種類に大別できる。弾性波は力学特性である弾性や非弾性特性と関連を持つので、
弾性率や強度など力学特性に何らかのつながりを持っている。一方、電磁気特性は、力学
的性質と直接対応しないが、間接的に力学特性に関係する電磁気特性の変化と相関関係を
持っており、これを使って評価している。したがって、ターゲットとする現象と電磁気的
特性の変化の相関をもう一段とらないと評価はできない。そのときに重要なことは、欠陥
や損傷の評価にどのような現象が関係するのかを知っておくことである。
歴史的に見ると、鋼構造物の非破壊検査とクライテリアの考え方で、破壊力学的な検査
を測ることによって寿命評価が行われている。この方法は、損傷機構が変わると使えない
ので、そのまま社会インフラのように材料の異なる大型構造物に適用することは難しい面
がある。
さらに難しいのはコンクリート構造物である。コンクリート構造物はモルタルに骨材を
加え、さらに鉄筋を入れた複合材料となっているので、一本の亀裂が進展していく従来の
破壊力学の考え方で評価できるものではなく、複数の亀裂が発生し、合体して進展してい
くような累積損傷過程を考えなければならない。累積損傷過程で発生している損傷の評価
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録
法が出てくる。この中においては、蒸気機関のボイラー事故における鋼構造物から発展し
て、最初は材料力学による評価、次に破壊力学による亀裂の長さをもとにした評価が行わ
れるようになってくる。現在の化学プラントにおいては、疲労亀裂を対象に、亀裂の長さ
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については、損傷力学がある。損傷力学では、硬さやダメージゾーンを測定して損傷量を
求めようとするが、非破壊的に測定する手法が未確立である。
コンクリートのような複合材料の非破壊検査の課題は、対象とする欠陥が単一の亀裂で
はないことにどう対処するかである。材料の個々の欠陥を検出できたとしても、複合材料
特有の累積損傷機構に対応した合理的な合否判定基準がないため、
「測定」できても「検査」
できない。累積損傷機構に対応した合理的な判定基準をつくり、それをもとにして測定法
を決めなければならないという課題がある。
もう一つの信頼性保証としては信頼性工学がある。信頼性工学では、(1) 機械、エレク
トロニクス、システムあるいはシステムの部品の試験データや故障に関するデータ、(2)
システムの供用年数の期待値や期待故障率、
故障から故障までの時間間隔の期待値の予測、
(3) 構造物を多くの部位・部材から構成されている一つのシステムとし、各要素の状態(供
用中の故障寿命分布、信頼度関数、故障率)をデータ化、などをもとに確率統計を用い、
関連するさまざまなばらつきや不確実性を考慮して評価する。
構造物の安全性に関しては、
信頼性理論や安全性理論というアプローチが行われている。
複合材料構造物の健全性評価では、耐力や荷重のばらつきを簡便な形で構造計算のなか
に取り入れた荷重-耐力係数設計法が使われる。コンクリートの耐力も多くのサンプリン
グデータをとり、それを分布関数として求めて、最弱の部位の決定論ではなくて、統計的
な最弱の損傷推定を行う。物が壊れるときには必ず一番弱いところで壊れるが、それを確
定論的には言えないので、確率的に損傷を推定せざるを得ない。これは、金属のように亀
裂を検出して調べ、寿命を推定するのとは異なるアプローチである。
もう一方で、機械診断法がある。機械診断は検査のクライテリアを力学的に設定できな
い場合に使われる傾向診断である。定期的に測定を行って、測定量の変化値から異常値を
設定して判定する。機械診断は、破壊力学的検査法や信頼性評価手法とは異なり、時系列
変化や事後応答の変化量に基づく評価である。オンラインモニタリングで行われているの
はほとんどがこの方法である。したがって、非破壊検査の方法と、オンラインモニタリン
グで用いられている評価法にはおのずと違いが出てくる。
オンラインモニタリングで成功している例は民間航空機のジェットエンジンである。エ
ンジン本体に設置した圧力、温度、振動等の複数のセンサーのデータを全世界に設置した
無線基地局ネットワークを通じてデータセンターで収集、そのデータを見てどういう傾向
を持っているか、
パラメーターの相関がどうなっているかについてビッグデータ解析をし、
さらにデータマイニング解析を行って、シビアな事故が発生する可能性があるかないか、
メンテナンスの時期をどこに設定するかということの評価が行われている。この方法は傾
向診断であるので、データの蓄積がないと評価できない。
力学モデルやクライテリアがはっきりしているものについては、その量を測定すればよ
いが、どう壊れるかわからないものについては、クライテリアを自分で設定していかなけ
ればならない。それがビッグデータ解析や相関解析になる。データの蓄積なしには複雑な
現象の評価はできないということが、非破壊検査と余寿命診断の抱えている大きな課題で
あり、このことを理解して欲しい。
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5
接合、コーティングの課題
6
腐食、劣化の問題
図 6-2-4 クリープ損傷と非破壊損傷検出法
7
総合討論
しかし、実際に対象とする材料はこれまで述べたものとはかなり違うという話をしたい。
それが図 6-2-4 に示す「クリープ損傷と非破壊検査法」の問題である。以前に火力プラン
トの余寿命診断を行い、その中でクリープの寿命診断を研究したことがある。火力プラン
ト機器においては、上のグラフに示すように、使っているうちにクリープが起き、ひずみ
が増えてくる。結晶組織が長い時間かかって伸びて、析出物が生じ、クリープボイドが生
じ、
クラックが発生するという破壊進展過程が見られる。各ステージで最適な検査法を使っ
て評価し、あとどのくらい使えるかを判断するということが行われてきた。
クリープ損傷には、二つの大きな変化がある。一つは熱時効といって、材料を高温にずっ
と置くと、軟化、析出、粒の粗大化が起き、材料組織そのものが変わっていく変化である。
もう一つは、高温で応力がかかることによって引っ張られ、組成変形や粒の性状変化、ボ
イドの発生、クラックの発生が起こる。したがって、応力が原因のもの、熱履歴及び熱時
そのときに注目したのが図 6-2-5 に示す電磁気特性である。強磁性材は、磁区の境界で
ある磁壁が磁界とともに動いていく磁壁移動という性質をもつ。磁壁移動は、析出物や転
位があると邪魔される。この邪魔していく過程が BH 曲線のヒステリシスの変化として
出てくる。交流を用いて励磁し、検出波形を時間領域と周波数領域で見て、ヒステリシス
損の違いや、第 3 高調波の基本波に対する強度比で定量的に評価できる。熱時効によっ
て非破壊で測った電磁気特性の変化と、
クリープ損傷材の電磁気特性の変化の差をとって、
差分から SID(stress induced damage ratio、応力誘起損傷比)を求めることができる。
一例として、HAZ(heat affected zone、溶接熱影響部)と母材の SID の測定値は大
きく異なり、ある時間から急激に落ちてくるが、応力として 39MPa をかけた場合と
54MPa をかけた場合とで大きくパターンが違ってくる。母材と熱影響部も違う。実は
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効によるものと、これの相乗効果によって出てくるものがあり、使われる温度、応力によっ
てパターンが変わってくる。これをどう評価すればよいかが問題になる。
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PWHT(post-weld heat treatment、溶接後の熱処理)の温度によって組織が変わってい
れば、初期値も異なる。当然、硬さも違うが、こういう違いが初期材の段階にある。この
初期材の違いは、損傷によって変わってくる値とほぼ同程度であるため、損傷による変
化が初期ばらつきに埋もれてしまって見えない。電磁気特性の熱時効をとると、母材と
HAZ は、長時間経過すると、一方は上がって、一方は下がってくるように、材料によっ
て変化の様子が違う。
図 6-2-5 交流磁化法の原理
図 6-2-6 応力誘起損傷マスターカーブによるクリープボイド検出
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son-Miller parameter、ラーソンミラーパラメータ、[LMP=T(C + logt); T は絶対温度
(K)
,t は破断時間(h)
,C は材料定数 ~20])である。このプロットだと、異なる負荷応
力や溶接後熱処理温度に対しても 1 本の曲線に乗る。この条件は供用条件に入っている。
したがって、供用条件での破壊機構が同じなら、ある一定の損傷パターンをとるので、供
5
接合、コーティングの課題
このような初期の違いをマスターデータとしてとっておき、このデータからクリープ
データを差し引いたマスターカーブを図 6-2-6 に示す。縦軸は SID、横軸は LMP(Lar-
用時の材料の初期状態をしっかり押さえて評価すれば寿命は評価できる。
6
腐食、劣化の問題
7
総合討論
図 6-2-7 クリープ余寿命評価法のまとめ
クリープ余寿命評価のまとめを図 6-2-7 に示す。破壊のメカニズムに関しては、クリー
プ損傷の場合は熱時効の組織・材質変化と応力による損傷とが出てくるので、余寿命はク
リープの測定量から熱時効測定量を引いてやると出てくる。測定方法としては、磁壁移動
で、材料ごとにマスターカーブをつくり、マスターカーブで評価せざるを得ない。もう少
しデータベース等が整えば、理論解析できるようになってくると思う。
以上をまとめると、工程・寿命管理の非破壊検査としては、品質工学では、ばらつきの
低減のためにさまざまなアプローチが行われている。「欠陥工学」としてきちんと考える
必要がある。工業材料の中においては、工程において特有の欠陥が出てくる。その欠陥に
応じた特有の破壊進展機構があるので、材質がどのように変わっていくのか、欠陥との相
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付
録
という電磁気学応答を用いることができる。時間領域の曲線からヒステリシス損を用いる
か、周波数領域での高調波比を用いる。ここでは、測定時のばらつきを考慮して高感度で
材質を測る方法を開発する必要がある。最初のクライテリアとして設定できる式がないの
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72
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互作用がどうなっているかを評価しなければならない。組織がどうなっているかだけでは
なく、その組織が負荷時にどう変形するのか、亀裂がどう進んでいくのか、動的な破壊の
進展を評価する必要がある。つまり、加速試験法の中に動的な損傷の進展をダイナミック
にモニタリングする技術を持ち、データベースをつくっていく必要がある。
合理的な構造物の開発実験法としてのオンラインモニタリングが求められる。実際に新
しい材料や設備が市場で使われるためには、規制機関での様々な検査を通って、信頼性を
確立して初めて使えるようになる。このプロセスを経ると、それだけで 10 年以上かかっ
てしまうので、すぐ市場に投入できず、新しい技術はほとんど市場に出てこられない。こ
のため、不安定破壊を防止するようなオンラインモニタリングを行うことで、実際の現場
で試験運用していきながら失敗の蓄積ができるというようなモニタリング法を開発してい
く必要がある。失敗を蓄積していくことで、製品の信頼性を確保していくようなやり方を
しないと、絶対にデータの蓄積はできない。こういうことを可能にするための規制緩和を
していく必要がある。このように、失敗の蓄積から寿命を保証する非破壊検査法をやらな
いと、データも蓄積できないし手法も開発できない、というのが私の提案である。
【質疑応答】
Q:損傷評価における確定論と確率論があったが、破壊にいくときには必ず場が入る。場
の解析とか、空間統計学などの進化はどうなっているのか。
A:最新の分析技術、電顕技術、EDX 等の進展で、材料組織の結晶方位や、その中でど
こに亀裂が出てくるかなどがわかってきた。そういう意味では、欠陥および破壊のイ
ニシエーションはミクロスコピックな様々な場とのインタラクションで起きていると
いうことが、ある程度わかってきた。このような情報を入れて、最弱となる組織の状
態や最弱となる構成がどうなっているか押さえることができれば、逆に品質管理を
行ってそれを除くようなプロセスをやることで、寿命の保証のプロセシングが可能に
なると思っている。
Q:オンラインモニタリングのときに、どこでそれが起きるかフィードバックできるよう
なものを、ビッグデータの中からうまく引き出す方法がわからない。
A:例えば、電磁気プローブを使って材料をスキャニングすると、材質の電磁気特性のば
らつきが出てくる。これがどういう組織に対応しているか、空間分布が画像化でわかっ
てくると、例えば、ある組織のところがいつも長時間クリープのときの起点になって
いるというようなことがデータとして得られる。計測技術と画像処理技術も含めた
様々な技術の進歩によって、わかるようになってきている。
Q:今の質問に関係するが、これは試験片レベルでやられた結果ではないかと思う。実際
には大型の構造物で場を調べるとしたら、スキャンするしかないが、それはとても大
変で難しいと思う。ローカルな測定しかできないのに、我々はグローバルな評価をし
ないといけないので、とても難しいと思う。一方で、個々のメカニズムをきちんと考
えないと全体がわからないので、ローカルな計測もやらないといけない。これらは大
変難しいのではないか。
A:発電プラントの主構造における溶接線については重要部位ということで、製造時には
放射線検査や磁粉探傷試験などで溶接部全域のデータをとっており、許容欠陥寸法以
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るのは、そのような検査をしていなかったところであることが、化学プラントでも出
てきている。どこまで最初に検査すると良いのか、正にグローバルなものとローカ
ルなものをどのようにミックスしていくのかを考え、計測手法、評価手法を確立し
なければいけない。アコースティック・エミッション (AE) のように、広い面積にわ
たってローカルの変化を捉えられる手法をもう少しブラッシュアップしていきながら、
データを蓄積し、精度を上げていくしかないと思う。
Q:クリープ損傷を電磁気法すなわち BH カーブの変化で見ていく方法は、鋼鉄のよう
最近は計測技術の進歩によって S/N が向上したので、基本の信号に対して− 80dB ぐ
らいまでは測れるが、− 60dB から− 80dB あたりに組織の微小な変化がある。
Q:私の理解だと、応力損傷は最初の組み立て工程のときの劣化などのばらつきがそこに
入ってくる。それが差し引くことで一本の曲線に乗ってしまうというのは、どういう
ふうに理解したらよいのか。
A:塑性加工を行うと塑性域が残るが、通常は熱処理をかけて残留応力をとる。しかし、
うまくとれていないときには、そこから壊れたりすることがある。塑性域が残ってい
るところや、補修後の熱処理がないところが壊れてくる。このため、製造プロセスの
中で、管理をどこまできちんとしているかが、実は後の寿命に効いてくる。
6
腐食、劣化の問題
な磁性体でない場合には難しいのではないか。
A:渦電流で見ている。そのような材質の変化などは、線形ではなく非線形の場合が多い。
5
接合、コーティングの課題
内になるよう非破壊検査を行い、供用時には超音波探傷で亀裂長さを測っている。し
かし、それ以外のところは検査を行なっていないので、20 年、40 年使って壊れてい
7
総合討論
付
録
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6.3「放射光による腐食・劣化のマルチスケールその場観察」
木村 正雄(高エネルギー加速器研究機構)
最初に放射光について簡単に触れ、その後に三つの提案について紹介する。提案 1 は
固体/液体界面の観察、提案 2 は破壊/相転移のダイナミクス、提案 3 は結晶方位と化
学状態の 3 次元での追跡である。これらのサイエンスをやることが、実材料、実プロセ
スに結び付くというのが私の信念である。
図 6-3-1 マテリアルズ・サイエンス・テトラへドロン
図 6-3-1 は、いわゆるマテリアルズ・サイエンス・テトラへドロン(Materials Science
Tetrahedron)である。これは、1974 年当時のアメリカが次の 10 年間をどうやっていく
か考えるために、MIT の Morris Cohen 等を集めて議論し、70 のレポートを出したが、そ
の結論の一つである。材料について重要なのは、Process、Performance、Property の 3P
であり、それを決めているのが Structure であるということである。最近は、Environment に対する負荷も含めて、この 5 つの視点で材料を見る必要があると言われている。
最初に紹介するのは耐候性鋼である。大気腐食という Performance を考えるときに、
例えば添加元素を加えるという Process があり、具体的には電気化学的なイオン拡散と
いった Property、物質的には材料があるが、その 3 つを決めているのは実は Structure
であった。Structure は簡単にはわからないので、放射光を使ったその場観察をやること
で、これらが結びついたという事例を紹介する。
電子を光のスピード程度に加速すると、その接線方向に通常の X 線装置の 1 億倍(108 倍)
から 1016 倍程度の非常に強い X 線が出る。この強い X 線が放射光であり、この X 線を用
いると、ガスの中、溶液の中、液膜を通した中の界面なども見ることができ、また非常に
強いので短時間で見ることができる特徴である。「するめを見ても生きたイカは想像でき
ない」が、放射光を使うと生きたイカが見られる。様々なエネルギーが見えるので特定元
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とによって、反応のダイナミクスをナノ、ピコ秒の時間で追いかけられ、生きたまま見る
ことができ、電子状態や精密構造の解析ができる。
5
接合、コーティングの課題
素の情報が得られる、平行性があるので構造の精度が高いなどの利点がある。問題点とし
ては、使える機関が国に数カ所しかないので、利用が限られることである。これを使うこ
最初の提案である固体/液体界面の観察について紹介する。インドのデリーに、手を回
して後ろで触れられたら幸せになるという信仰の対象の鉄の柱がある。この鉄は約 1600
年間屋外に立ったままであるが、錆びていない。この鉄の柱は信仰の対象なので、破壊で
きないこともあるが、なぜさびないかということはわかっていない。腐食という身近な現
ぼろになってしまう。腐食による社会インフラの損失は、直接的なものだけでも GNP の
3 ~ 4%になり、間接的なコストを含めると膨大になる。身近な腐食現象もわからないこ
とだらけであるが、これは見えないからであり、見たらわかるのではないか。
6
腐食、劣化の問題
象も、意外にもわかっていないことが多い。
鋼を塩水に浸けると 1 週間程度でさびてしまう。9 年間、海岸に置いておくだけでぼろ
7
総合討論
図 6-3-2 腐食を調べる2つのアプローチ
アプローチである。もう一つ重要なものは、下段に示すように、溶け出した鉄が水溶液中
でどのような構造になって、さびという生成物を作っていくかという、コロイド化学的ア
プローチである。この辺をきちんと見ないと腐食はわからないのではないかと思い、放射
光を使って大気腐食の研究を行ってきた。
図 6-3-3 に実験装置を示す。詳細は省くが、真ん中に反応セルがある。朝になったら結
露してぬれて、昼間は乾き、夜になったらまた結露してぬれる、といった実際の湿潤・乾
燥のサイクルを起こす仕掛けを作った。また、電気化学的ポテンシャルを制御する仕掛け、
塩水や SOx など様々な環境からのガスの溶け込みを模擬する仕掛けなどを使って、各種
の測定法や検出器を用いて観測した。
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付
録
腐食を調べるときには、図 6-3-2 に示すような 2 つのアプローチがある。一つは図の上
段のように、電位が変わると A で金属が溶け出して B にさびができるという電気化学的
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図 6-3-3 湿潤・乾燥のサイクルで腐食を調べる実験装置
この研究の結果、以下のようなことが明らかになった。図 6-3-4 の右図は鉄の従来のさ
びの原子構造であり、赤が Fe、青が O、小さい青紫が H である。それに対して、Ni を
入れ改善した左図のものでは、Fe2NiO4 構造のさびができる。黄色が Ni である。鉄を塩
水に濡らすと、表面の H+ が O についてプラスに帯電する。ここに緑の Cl −イオンが近づ
いてくることになることを、放射光のその場観察によりを見つけた。これが昼になって乾
き、夜になって濡れると、表面に形成した HCl により pH が下がってさらに腐食が進行
する。このような悪いサイクルが回って、何年か経つとぼろぼろになる。一方、左図のよ
うに Ni を入れると、表面の O がマイナスに帯電するので、Cl −イオンではなく Na+ イオ
ンが来るが、この場合は PH は下がらないので腐食しない。Ni を入れるだけで、このよ
うなことが起こることがわかった。化学計算でも明らかにし、実際にさびの表面電位を測
定して同じことがわかった。
図 6-3-4 鉄のさび形成の反応
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接合、コーティングの課題
6
腐食、劣化の問題
図 6-3-5 さびの断面の濃度マップ
実際にこれは実用化されており、上段の図のように 9 年経ってもほとんどさびていない。
一方、下段の従来の鋼では、9 年後に全面がさびになっていた。
7
総合討論
図 6-3-5 は鋼の実際のさびの断面の濃度マップである。Steel と書かれた部分が鉄で、
その上がさび層である。下段は従来のさびであり、ピンクの破線で囲った部分が Cl 濃度
が高い層である。詳細に見ると、Cl −イオンが界面近くに多く存在している。これに対し、
図の上段に示すように Ni を加えると、界面に Cl −イオンはなく、界面から離れたところ
に押しやられている。これは実際に 9 年間、暴露した結果である。要するに、自然の力
でイオンの透過性が異なるようなさび、いわゆる「良いさび」Fe2NiO4 ができたのである。
付
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図 6-3-6 Ni 添加鋼と従来鋼の橋メンテナンスコストと腐食量予測の比較
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図 6-3-6 の上図は、横軸に年数、縦軸に橋のコストをとったものである。100 年経った
ときには、Ni 添加鋼 NiA-WS(赤線)はほとんど腐食しないので最初のイニシャルコス
トだけであるが、従来の鋼 WS(緑線)では何年か経つと、橋を造り直した方が安いよう
になってしまう。新日鉄(当時)の紀平氏が環境を指定して 0 年~ 100 年の腐食量を予
測するソフトを開発した。その結果が下段のグラフである。先に述べた放射光で解明した
メカニズムは、初期数年の初期値を決める因子に直結する。
以上のように、固液界面の理解が鋼の腐食メカニズムの理解にとても重要である。こう
した固液界面の観察は、コンクリートの耐候性の理解にも非常に重要だと考えている。放
射光で観察したコンクリートの組織はマルチスケールでの不均質性があるが、それを考慮
した上での固液界面の観察を行うことにより、その制御につながる情報を得られると期待
できる。ここで紹介したのは、大気腐食の例だけであるので、もっと広範な材料に適応す
るためには、解析技術を高度化しないといけない。それをやっていく価値があるというの
が一つ目の提案である。
図 6-3-7 破壊観測に必要な空間分解能と時間分解能
二つ目の提案は、破壊と相転移のダイナミクスである。図 6-3-7 はある現象を測定する
のに必要な時間スケールと空間スケールを描いたものである。例えば、変形というのは、
空間スケールではナノメートルから大きなサイズまであり、時間も秒から、分、時、日、
月、年、100 年、1000 年のように広範に跨る現象である。しかし、破壊の先端を見ると、
破壊は音速で進行する非常に早い現象なので、マイクロ秒、ナノ秒で非常に細かいスケー
ルで見ないといけないことがわかる。このようなダイナミクスは、生物学、磁性、物性な
どでは既にやられており、構造材料においてもやる必要があると考え、着手している。
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俯瞰ワークショップ報告書
ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
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接合、コーティングの課題
6
腐食、劣化の問題
図 6-3-8 XAFS とレーザーを用いたダイナミクス測定
7
総合討論
図 6-3-8 に XAFS とレーザーを用いたダイナミクス測定の例を示す。放射光(X 線)が
パルス状に出てくるので、そのパルスに同期するようにレーザーを当てて分光すること
により、高速(ナノ秒)で追いかける実験をしている。破壊の 3 ナノ秒後、10 ナノ秒後、
30 ナノ秒後、100 ナノ秒後にどのような現象が起こるかを、ショットで見ている。同様
の研究をアメリカでもやっているようで、競争中である。
亀裂が起きたときに、この先がどうなっていくか追いかけるというのが夢である。もし、
このような高速現象が捉えられるようになると、鉄鋼のアルファ、ガンマの変態とともに
析出が起こるときに、どっちが先に起こるか、どういうタイミングで起こるかがわかるよ
うになる。これは、金属化学のパラダイム変化を起こすのではないかと考えている。
このように、二つ目の提案は高速でダイナミクスを追いかけることである。ただし、シ
ステマティックにやっていくためには、まだ研究すべき事柄が多くある。特にやりたいの
は、不可逆反応である。例えば、光励起反応はナノ秒ではなく、自由電子レーザーを用い
それらにもつながるというのが二つ目の提案である。
最後は結晶方位と化学状態の三次元観察であり、場を可視化することである。CT のよ
うに X 線を当てて二次元検出器で追いかけると、様々な結晶方位の回折が出るので、こ
れを解析すると、三次元の結晶粒方位分布を非破壊で見ることができる。電子線を使った
EBSD(Electron Back Scatter Diffraction Patterns)を使うと精密にわかるが、薄膜や
表面だけしかわからない。それに対し、X 線を使うと三次元を非破壊で見ることができる。
現状での技術では分解能は数十μ m から 100 μ m 程度であるが、サブμ m か~数μ m
で何とかできるようしたい。
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付
録
てピコ秒で行われている。しかし、この場合は繰り返して起こるという現象に限られる。
これに対し、破壊は一度起きたら二度とは起こらないので、このような不可逆反応を追い
かけることが重要である。構造材の劣化、電池の劣化など不可逆の反応は非常に多いので、
俯瞰ワークショップ報告書
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ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
三次元の化学状態のマッピングに関しては、SIP でシステムを研究しており、来年には
装置を導入できる予定である。化学状態と結晶方位を合わせることによって、亀裂の進展
を見たいと考えている。この三つ目の提案は、マルチスケールの不均質性、結晶方位と化
学状態を見たいということであるが、それがわかると亀裂や反応の進展パスがわかるので、
マテリアルズインテグレーションに展開できると思っている。
図 6-3-9 社会インフラ材料研究の新たな切り口の3つの提案
話をまとめる。図 6-3-9 に示すように、これからの社会インフラ材料の研究で重要な視
点として 3 つの観測を考えている。一つ目が固体/液体の界面、二つ目が高速で起こる
不可逆な現象(破壊とか相転移)
、三つ目はマルチスケールでの不均質性 (heterogeneity)
である。化学構造については SIP で実現しつつあるので、結晶方位と合わせてやってい
きたい。こられによって新しいサイエンスが生まれ、そのサイエンスを利用して実プロセ
スに展開できると考えている。
【質疑応答】
Q:三つ目に二次元だけではなく三次元の様々なことがわかるという話があったが、得
られた知見を利用してシミュレーションしようと思うと、三次元のシミュレーション
は大変で、できれば二次元でやりたい。得られた知見で、二次元と三次元で何か違い、
三次元でないとだめというものは何かあるのか。
A:ご指摘の点はもっともなご質問であり、よく指摘される。三次元での観察は、多額の
お金と労力がかかり試料も限定されるケースが多く、本当に三次元で意味があるター
ゲットに絞って取り組むべきである。要するに、断面を切って平均したものでは現象
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か、また結晶でもある特定方位の面だけでできるか現象を理解できない場合には三次
元観察は不可欠となる。但し、実用材の評価には、材料の階層構造に応じた観察技術
が必要であり(例えば 1 メートルの視野で 50 ナノメートルの分解能は不可能なので)
、
そうしたマルチスケールの三次元観察により、新たな材料理解が進むと考える。
Q:2 番目の破壊の話に関連し、マグネシウム合金の変型過程で緊急変型が起こる材料に
5
接合、コーティングの課題
を正しく理解できないケース、つまり、異方性が予測できないようなケースである。
例えば、CFRP である断面とそれと 90 度異なる断面を見て、二次元でも再現できる
ついて、高速度カメラとアコースティックエミッションを使って計測していた。アコー
スティックエミッションでトリガーをかけて高速度カメラで写真を撮るときに、500
7
総合討論
変型がサブμ s のオーダーで起きるということを、様々な方法で確かめられているの
を、非常に心強く思った。
A:確かに一つの方法ではなく、オーダー感が合うというのは非常に重要だと思う。教科
書に音速と書いてあるが、本当だと思う。
Q:相転移が見られるというのは、非常に重要だと思う。相変化記録材料の相転移は実際
に 30ns で起きており、その現象を捉えている。時間分解はどの程度までいけるのか。
A:繰り返せるものについては、ns はできており、ps までできるようになっている。可
逆的な反応であれば、例えばレーザーを使って繰り返して積算することにより、ps,
fs まで可能である。その一方、実材料では腐食、破壊、劣化や拡散を伴う現象など等、
一度限りの不可逆な現象の本質に迫る必要性がある場合が多い。さらにこれらの現象
を時間的だけでなく、空間的にも追いかけたいが、まだできていない。今後、マテリ
アルズインテグレーションやビッグデータの数理解析などの手法と連携して、こうし
た研究を進めていきたい。
6
腐食、劣化の問題
万フレームでやっていた。そうすると、緊急変形が 0.2 μ s、1 フレームで起こるこ
とがわかった。今の話だと 100ns で起きる現象を見つけたという話だった。破壊や
付
録
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ファシリテータ:竹村 誠洋(JST-CRDS)
◆コンクリートの余寿命予測
・新しく造るものについては、プロセスが把握できていれば、寿命がどれくらいか把握で
5
接合、コーティングの課題
7. 総合討論
きるが、造られた状態がわからないものでは、何か損傷が見つかったとして、どのくら
いもつか予測するのは非常に難しい。それを見るには健康診断的なモニタリングしかな
データがあれば、それを基に余寿命が出てくる可能性はあるが、見当たらない。
・これから造るものについてと寿命と、今あるものの余寿命を分けないでほしい。例えば、
新幹線では東京駅から上野間は上下 2 段になっており、30 ~ 40 年前につくったものの
7
総合討論
上に新しいものを乗せている。古いものと新しいものを一緒に扱うエンジニアリングが
大事である。
・材料単体で考えるよりも、構造全体で考えて最適化を図っていくように、寿命を考える
ことから、材料に対する要求が出てくる。
・この 10 年間でコンクリート材料は変化している。この 10 年間で、1 年当たりにつくる
橋は 50 倍になっているが、エンジニアは 2.2 倍しか増えておらず、品質保証のシステ
ムが間に合わず、溶接する人の技量もひどくなった。大都市のインフラの 70%~ 80%
がこのよになっており、その現実の中でどう手を打っていくかが重要である。
・コンクリート単体で使えるものはほとんどない。ほとんどは鉄筋や鋼材が入っている。
鋼で守られていると、ひどい品質でも十分に機能を発揮する。コンクリートの 8 割~ 9
割は砂利で、それをセメントでくっつけている。そこにほんのわずかでも鋼を巻いてや
6
腐食、劣化の問題
い。
・金属の場合は、金属組織観察のバックデータが豊富にあるので、析出物が出ているかど
うかで判断できた。コンクリート系の材料でもこれに相当する組織の測定法やバック
ると、新幹線の柱 1 本当たり 600 トン程度背負うのは何のこともない。
・鋼や他の補強材をうまく使うことにより設計で対応できるので、コンクリートだけ見て
評価するのは非常に難しい。
・鋼を腐食から守るために、高アルカリの材料が鉄筋の周りにあるというのが非常に重要
なポイントである。ひび割れが入って悪いのは、そこから酸素や塩化物が入って鋼(金
も怖くはない。
・インフラでモニターが重要と言っているが、要するに生活習慣病であり、放っておいた
ら、数十年後に鋼がさびてしまうということである。
・都市再生としては合成構造が大きいポイントになる。高層マンションは全部が鋼とコン
クリートの合成である。鋼 1 本で数百トン、数千トンの力を地震時に耐えるのは厳し
いので、その分だけコンクリートを中に入れてやればよい。上の方は中空にしておけば
軽くなる。このような形で再生していくとお金をかけなくてもできる。
・コンクリートの構造物については誤解されている。地震時は別として、例えば 1 メー
トルぐらいの桁があったときに、力学的に使われているのは上から 3 ~ 4 センチである。
ただし、下側にあるコンクリートも大事であり、アルカリ環境で 100 年間もたせるた
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付
録
属)を悪くするからである。もし金属が悪くならなければ、ひび割れが何センチ入って
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ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
めに鉄をアルカリ環境のコンクリートで巻いている構造になっている。
・道路の床版は 15 センチしかないので、上から 3 センチがなくなるときつい。ただし、
コンクリートの強度が半分や 3 分の 1 に落ちても、強度を保つのに 4 ~ 5 センチが余
計に使われるだけで、構造的には全く問題ない。
◆市町村におけるインフラのアセットマネジメント
・全国にある市町村が所有するインフラは基本的には手をつけられていない。都道府県が
積極的に働きかけている場合は良いが、そうでない場合は手つかずの状況にある。これ
を打開しないといけないが、残念ながら、そこには予算が無く、技術者もいない。
・全国レベルでは技術は開発されているのでこれらを見習えばよいが、
市町村は動かない。
例えば、劣化現象は基本的には非線形であり、おおよそ放物線状に性能は低下していく。
この場合は、曲線が描けるように労力をかけ根気強くプロットしていく必要があるが、
それができていない。
・青森県は別格である。インフラを維持する抜本的なシステムを提案し、知事がリーダー
シップをとって、全国の自治体で最初のシステムをつくった。これは単にアセットマネ
ジメントだけではなく、しっかりしたデータベースを作った。
青森県は県が主導権を持っ
ており、三つの 30 万の都市(弘前、青森、八戸)と他の市町村も全部掌握している。
・土木業者はインフラの維持管理で儲かったらいけないので、労力に合った賃金が得られ
ない。このため、優先してインフラの維持に協力しようという気持ちにはなれない。し
かも、2030 年頃から新設は実質的にほぼなくなり、維持管理だけではやっていけない
ため、鋼橋を造る会社はなくなると考えられ、大手の業者にとっても切実な問題になる。
◆鉄鋼材料のさびの解析
・鉄鋼鋼材関係では、さびを見ていきながら状況判断することになる。
・問題があるという警鐘を鳴らすときや、この材料が良いということを科学的根拠を持っ
て示すことは、今はアカウンタビリティとして求められる。
・時代が変わり設計思想や環境が変わったときには、設計を変える必要があるということ
を伝承することが重要である。
・耐候性鋼はどこでも使えるということだったが、様々なところで問題を起こした。土木
の先生からは、海の近くで調べてみたらだめだった、と文句を言われた。また、ペンキ
屋には、耐候性鋼を扱うと中途半端に安定化してブラストでとれにくくなり 3 倍時間
がかかるので困る、と言われた。国際的には腐食環境を 6 段階に分けているが、それ
ぞれの環境で適材適所の材料があり、それぞれの場合にメカニズムがある。
・これから必要なのは、それぞれ場合についてサイエンスをきちんとやっていくことであ
る。エンドユーザーに保証できるものをこれからやっていく必要がある。
・必要なのは、それぞれのカテゴリーの中での数値モデルを作ることであり、メカニズム
を土木屋と鉄屋とが一緒にやらないとだめである。
・腐食予測の提案は SIP だけではなくて、今後の社会インフラの国策として生かしてい
くのが良い。腐食の問題は非常に難しいので、世界的に見ても手がついておらず、今か
ら日本でやれば、優位性を生かせる。
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ものがある。もう一つは設計に生かすというセンシングである。これは 4 ~ 5 段階に
簡素化して設計図に載せるようにする。
5
接合、コーティングの課題
・センシングに関して、二つの大事な使い方がある。一つは数値モデルに向けたセンシン
グのバックグラウンドのデータを、連続的に精度良く様々な塩化物に対してとっていく
◆防食と塗装・コーティング
・鋼の場合は無塗装で使うより、塗装したり表面処理したりする。
・コンクリート鋼板のさびを抑えるということができれば、それだけでもかなり意味があ
でずっと苦しんでいる。入れ替えるわけにいかないが、改善には二つの方法がある。一
つは電気防食である。電気防食の耐久性が 2 倍上がってコストが半分になったら、全
7
総合討論
部がこの方法に移ると言われている。
・もう一つはコーティングである。空気と水の遮断をしてしまえば良い。アルカリ骨材反
応も同じで、栄養分に当たる水が来なければ腐食は進まないという理由である。
コーティ
ングしたもので今までで最長なのは、東北本線の仙台の手前にある橋梁であり、ひどく
なった状態で使われて、26 年目になる。この橋梁が 50 年間もつのであれば、9 割程度
の問題は解決できると思う。
・今までのコーティングがだめな理由の一つは、鋼もコンクリートも変形することにある。
重たいものが通過することもあり、コーティングも一緒に動いて常に変形している。ま
た、紫外線、雨、温度変化もある中で、それまでの加速試験ではカバーし切れなかった。
・もう一つは施工性である。実は 1m2 では 100%うまくいくものが、1 キロメートルの範
6
腐食、劣化の問題
る。
・コンクリートの問題で、海砂とコーティングの問題について説明する。西日本、特に瀬
戸内海側では、今でも海砂はかなり使われており、JR 西日本の山陽新幹線はこの問題
囲での質の保証はできなかった。このため、広いところでできる施工性、変形に追随す
る柔軟性、材料としての強さの 3 点が可能になれば、海砂の問題は解決できる。
・例えば、海洋構造物の場合は塗装と電気防食を併用する。コンクリートの場合に、電流
を流しすぎると外側のアノードは酸性化する。この問題を抱えているので、余り電流は
流せない。また、海洋構造物に塗装するエポキシ鉄筋をやったとき、すばらしい成果が
出た。これらをうまく併用するとお金のかからないメンテナンス技術になる。
・システムとしての耐久性を考える必要がある。社会に一番近いところにあるものとして、
タフさが求められる。
付
録
◆溶接と疲労
・きちんと溶接されていないと欠陥があり、普通はそこから疲労亀裂が入り、腐食がだん
だん進んでいく。このため、溶接部から入る疲労亀裂とか腐食の予測技術が必要である。
既設の古い溶接部での点検は難しい部分がある。
・補修技術として、既設のものに対して溶接補修をすることがある。場合によっては経年
劣化したものに対して溶接をすることが必要な場合もあり、問題が起こってくる。この
ため、補修溶接というのは非常に重要なテーマになっている。
・使い古したものに対して溶接性の評価をする必要があるが、
非常に高いハードルがある。
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ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
・パッチ当てというのもある。例えばクラックが入ったところを削って、肉盛りのような
形で入れたり、亀裂の上にパッチ当てたりする。そのときに溶接は新しい材料と古い材
料との異材接合のようになる。この場合、古い材料は経年劣化した状態で熱影響を受け
ることになる。また、古い鋼材は固溶元素が多いので、熱影響部のある部分が非常に脆
化して問題が起こってくることがある。このような知識がなく補修溶接してしまうと、
溶接したことによってかえってそこが壊れたりする。このため、経年劣化材の溶接技術
というのも、今後はインフラ系材料の延命に関する大事なテーマである。
・素性を知らないで溶接するというのは、本当は非常に危険である。今後は材料や化学成
分などのデータベースを残しておくことが大事である。
・履歴の話に関して、物質・材料研究機構で長くやっているクリープ試験を紹介する。ク
リープ試験を 40 年間やって切れた材料がある。40 年を超えているものもまだ 12 本あ
るが、これは含まれるモリブデンの量が違っていた。これらは全部、履歴に対応するい
わゆるミルシートが残っていた。切れた材料と切れていない材料は JIS では同じであ
るが、当時は JIS 規定になかったモリブデンが一方では多かったのである。このために、
寿命がそこまで伸びたという非常に特殊な例ではあるが、履歴やデータベースをいかに
整備していくかが非常に重要である。
・鋼については、例えば自動車の材料でも 10 年前の材料と今とでは随分違っているので、
同じで鋼ではないと言ったほうが良い。鉄筋も同じようなことが言える。
・疲労の問題は今では鉄道ではほとんどなく、実は道路で問題になっている。道路系の橋
が疲労で問題になっている一番の原因は、いわゆる過積載にある。過積載がなかった
ら、多少悪い施工であったところで、これほどひどくはならない。鉄道の場合は荷重を
100%コントロールできる。危なかったら通さないということもできる。そこが道路と
鉄道というインフラの決定的な違いになる。
・これから道路を新設・更新するときには、誰が入ってくるかわからないという不確定な
リスクに対してどう設計し、どう材料を考えるかが重要である。
◆リサイクル
・構造材料を考えるときにはリサイクルは重要である。マルチマテリアルになったときに
どのようにばらばらにするのか、CFRP をどのように半製品に戻すかといったことがあ
る。
・社会インフラでもリサイクルは非常に重要なポイントである。北欧のストックホルムの
町のインフラは、今や新設のものの 89%はストックホルム内で調達されている。使っ
ている鉄筋コンクリートは 100 年前に使ったコンクリートのリサイクルである。この
ため、町で追加投入するものは全体の 10%もないという状況になっている。
・セメントは産業廃棄物を原料にしているので、それ自体がリサイクルになっている。こ
のため、インフラはコンクリートも含めてかなり大量にあるので、リサイクルとうまく
つなげていかないといずれは破綻する。
・土木の場合にも鉄はリサイクルが可能ということでやってきているが、それが産業とし
てだんだん回らなくなってきているところに問題である。うまくやれば、土木の世界で
もリサイクルは可能である。
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料のさびの解析、防食と塗装・コーティング、溶接と疲労、リサイクルなどに関して議論
を行った。その結果、以下のような方向性が示され、図 7-1 に示す俯瞰図に修正した。
・古いものと新しいものを一緒に扱うエンジニアリングが重要
・コンクリートは鋼や他の補強材をうまく使う設計で対応可能
・市町村ではインフラ維持の抜本的なシステムが必要
5
接合、コーティングの課題
まとめ
コンクリートの余寿命予測、市町村におけるインフラのアセットマネジメント、鉄鋼材
87
・腐食は様々な腐食環境において数値モデルを作ることが重要
・材料の履歴やデータベースの整備が重要
・過積載など不確実なリスクへの対応が必要
・社会インフラにとってもリサイクルの視点は非常に重要
6
腐食、劣化の問題
・海洋構造物の鋼の防食には塗装と電気防食を併用することが有効
・溶接部から入る疲労亀裂や腐食の予測技術が重要
・経年劣化材の溶接技術が必要
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総合討論
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付
録
図 7-1 社会インフラの俯瞰図
俯瞰ワークショップ報告書
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5
接合、コーティングの課題
付 録
付録 1:開催趣旨・プログラム
開催趣旨
ナノテクノロジー・材料分野は物理学、化学、生物学を横断し、原子分子レベルでの観
測や構造形成・機能発現などを通して、物質科学や材料技術、デバイス技術などを進展さ
せ、さらには異分野の融合を促進しつつ進化する技術分野です。このため、新しい科学技
では今春、ナノテクノロジー・材料分野における世界各国の国家計画、投資戦略、研究ポ
テンシャル、技術進化そして企業化動向、重要な研究開発領域を含むナノテクノロジー分
野全体の俯瞰の結果を記載した俯瞰報告書(CRDS-FY2015-FR-05)を発行しました。こ
EHS、社会インフラ、ナノエレクトロニクスの 4 つの領域、来年度上期にはバイオナノ
テクノロジーの 1 領域の調査を行い、それぞれでワークショップを開催することを計画
しています。さらに来年度中にナノテク・材料分野全体の将来を展望するための全体会議
の開催を予定しています。これらワークショップの第 3 回目として、
「社会インフラ ~
持続的な維持管理への対応技術~」を取り上げます。社会インフラは日々の生活に無くて
はならないものですが、高度成長期に作られた道路、トンネル、橋梁などの老朽化が進み、
これらの持続的な維持管理に向けた取組が急務になっています。インフラの劣化状況の把
握、劣化部分の修理・補修、交換などが必要になりますが、これらを効率的に行うために
は、使っている構造材料の特性の把握、実際の環境に即した劣化や寿命の予測、精度が高
い計測・検査方法、耐久性の高い接合・接着技術、腐食を確実に防ぐコーティング・表面
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付
録
ただくことを念頭に置いています。今年度は材料設計・制御、ナノテクノロジーの ELSI/
7
総合討論
の俯瞰報告書は、CRDS が政策立案コミュニティおよび研究開発コミュニティとの継続
的な対話を通じて把握した研究開発の大きな流れを、研究開発戦略立案の基礎資料とする
ことを目的として、CRDS の視点からまとめたものになりますが、作成の過程では、内
外の多くの専門家との議論や分析が土台となります。各分野における研究開発の方向性や
主要な研究開発領域、さらに国際的なわが国のポジションを把握するのに役立つものとし
て、また、複数分野にまたがる新しい切り口からの研究開発戦略を立案することにも役立
つことを期待しています。当該分野の動向を深く知りたいと考える政策決定者、行政官、
企業人、大学・独法関係者、また、研究者にとっても、自身の専門分野を超えた範囲の状
況を知る上で有益な資料となることを期待して発行しています。
既発行済のナノテクノロジー・材料分野の俯瞰報告書では、41 の重要領域について研
究開発状況や国際比較を取り纏めていますが、さらなる調査・検討が必要な領域や、基盤
的な技術のために複数の領域に分かれた記述となり、その領域全体について今後国として
どうすべきか、まだ十分に把握・検討できていないものもあります。このため、さらに調
査が必要な 5 つの領域に注目し、今年度から来年度にかけてナノテクノロジー・材料分野
の俯瞰をさらに充実させます。これらの結果は、2016 年度に発行する俯瞰報告書に反映
する予定であり、CRDS における戦略立案および各界における施策立案等に活用してい
6
腐食、劣化の問題
術や新たな産業の創出ばかりでなく、グローバル課題の解決あるいは 「 社会的期待 」 に迅
速に応える「課題解決型」を支える科学技術基盤の一つとして位置づけられます。CRDS
俯瞰ワークショップ報告書
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ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
処理技術などの開発が必要になっています。
今回の俯瞰ワークショップは、ナノテクノロジー・材料分野の視点で社会インフラを取
り上げ、この領域における現状と課題の把握、注目される科学技術の動向、今後取り組む
べき新たな科学技術などについての議論を深める目的で開催いたします。
プログラム(敬称略)
開催日時:2016 年 2 月 24 日(水)10:00 ~ 17:45
開催会場:TKP 市ヶ谷カンファレンスセンター 7 階カンファレンスルーム 7C
司会 馬場 寿夫(JST-CRDS)
10:00 ~ 10:05 開会挨拶 曽根 純一(JST-CRDS)
10:05 ~ 10:30 ワークショップの趣旨説明 馬場 寿夫(JST-CRDS)
10:30 ~ 11:00 「社会インフラの現状と課題」 渡邊 英一(京都大学)
11:00 ~ 12:00 社会インフラ材料研究プロジェクトの概要(各発表 15 分 + 議論 5 分)
11:00 ~ 11:20 SIP「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」
前川 宏一(東京大学)
11:20 ~ 11:40 SIP「革新的構造材料」 竹村 誠洋(JST-SIP/CRDS)
11:40 ~ 12:00 「革新的新構造材料等研究開発の活動概要報告」
兵藤 知明(新構造材料技術研究組合)
13:00 ~ 13:30 話題提供 1:社会インフラにおける構造材料の課題
(各発表 20 分 + 議論 10 分)
13:00 ~ 13:30 「鉄鋼材料の課題(疲労、クリープ、マルチスケール
シミュレーション等)」
榎 学(東京大学)
13:30 ~ 14:30 話題提供 2:接合、コーティングの課題 (各発表 20 分 + 議論 10 分)
13:30 ~ 14:00 「溶接・接合技術の現状および課題と今後の展望」
廣瀬 明夫(大阪大学)
14:00 ~ 14:30 「高機能コーティング技術の進展とインフラ応用の可能性」
明渡 純(産業技術総合研究所)
14:40 ~ 16:10 話題提供 3:腐食、劣化の問題 (各発表 20 分 + 議論 10 分)
14:40 ~ 15:10 「金属材料の腐食寿命予測技術の現状と今後の課題
~表面処理、耐食材料~」 藤田 栄(JFE テクノリサーチ)
15:10 ~ 15:40 「非破壊検査・余寿命評価」
志波 光晴(物質・材料研究機構)
15:40 ~ 16:10 「放射光による腐食・劣化のマルチスケールその場観察」
木村 正雄(高エネルギー加速器研究機構)
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ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
1.腐食や劣化を遅らせる材料技術、接合技術、コーティング技術
2.早期発見できる検査技術、分析評価技術、信頼性評価技術
3.劣化/余寿命予測技術、シミュレーション技術
4.今後取り組むべき新たな科学技術、人材育成
17:40 ~ 17:45 閉会 曽根 純一(JST-CRDS)
5
接合、コーティングの課題
16:20 ~ 17:40 総合討論 ファシリテーター: 竹村 誠洋(JST-CRDS)
論点
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6
腐食、劣化の問題
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総合討論
付
録
CRDS-FY2016-WR-02
国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
俯瞰ワークショップ報告書
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ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
付録 2:参加者一覧
招聘識者
・明渡 純 産業技術総合研究所 先進コーティング技術研究センター 研究センター長
・榎 学 東京大学大学院 工学系研究科マテリアル工学専攻 教授
・木村 正雄 高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 教授
・志波 光晴 物質・材料研究機構 環境・エネルギー材料部門 グループリーダー
・廣瀬 明夫 大阪大学大学院 工学研究科マテリアル生産科学専攻 教授
・藤田 栄 JFE テクノリサーチ(株) ソリューション本部(西日本)
シニアフェロー
・兵藤 知明 新構造材料技術研究組合(ISMA) 上席主任研究員
・前川 宏一 東京大学 大学院工学系研究科 社会基盤学専攻 教授
・渡邊 英一 京都大学 名誉教授、大阪地域計画研究所 理事長
JST-CRDS ナノテクノロジー・材料ユニット
・曽根 純一 上席フェロー
・永野 智己 フェロー・ユニットリーダー
・荒岡 礼 フェロー
・河村 誠一郎 フェロー・エキスパート
・佐藤 勝昭 フェロー
・末村 耕二 フェロー
・中山 智弘 フェロー・エキスパート
・馬場 寿夫 フェロー
・宮下 哲 フェロー
・清水 敏美 特任フェロー、産業技術総合研究所 フェロー
・竹村 誠洋 特任フェロー、JST イノベーション拠点推進部 技術主幹
・田中 一宜 特任フェロー、産業技術総合研究所 名誉リサーチャー
関係府省・機関等
・守屋 直文 内閣府総合科学技術・イノベーション会議事務局 共通基盤技術グループ ナノテクノロジー・材料担当 政策企画調査官
・中山 裕章 内閣府 総合科学技術・イノベーション会議事務局 参事官付(国家基盤技術グループ)上席政策調査員 ・吉川 毅 文部科学省 科学技術・学術政策局 研究開発基盤課 課長補佐
・小川 博嗣 経済産業省産業技術環境局研究開発課 研究開発専門職
・今井 祐介 経済産業省
・橋本 就吾 新エネルギー・産業技術総合開発機構 技術戦略研究センター ナノテクノロジー・材料ユニット 研究員
・川喜多磨美子 物質・材料研究機構 調査分析室 主任エンジニア
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俯瞰ワークショップ報告書
ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
JST
・川原 隆幸 産学連携展開部 研究支援グループ 技術移転プランナー/
イノベーション推進マネージャー
・丹羽 洋 産学連携展開部 研究支援グループ 技術移転プランナー
5
接合、コーティングの課題
・宮田 明 ナノテクノロジービジネス推進協議会 事務局次長
・佐藤 順一 公益社団法人日本工学会 会長
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腐食、劣化の問題
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総合討論
付
録
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国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
■ワークショップ企画・報告書編纂メンバー■
曽根 純一 上席フェロー
荒岡 礼 フェロー
河村 誠一郎 フェロー/エキスパート
佐藤 勝昭 フェロー
末村 耕二 フェロー
永野 智己 フェロー
中山 智弘 フェロー/エキスパート
馬場 寿夫 フェロー
宮下 哲 フェロー
伊藤 聡 特任フェロー
魚崎 浩平 特任フェロー
河田 聡 特任フェロー
清水 敏美 特任フェロー
竹村 誠洋 特任フェロー
田中 一宜 特任フェロー
田中 秀治 特任フェロー
馬場 嘉信 特任フェロー
村井 眞二 特任フェロー
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俯瞰ワークショップ報告書
ナノテクノロジー・材料分野
領域別分科会
「社会インフラ ∼持続的な維持管理への対応技術∼」
平成 28 年 7 月
ISBN 978-4-88890-521-3
国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター ナノテクノロジー・材料ユニット
Nanotechnology/Materials Unit, Center for Research and
Development Strategy,
Japan Science and Technology Agency
〒 102-0076 東京都千代田区五番町 7 電 話 03-5214-7481
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ISBN 978-4-88890-521-3
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